最近の調査によると、AppleのHomePodは、ホームハブとして市場が倍増している米国内のスマートスピーカーの市場シェアで、AmazonとGoogleから大きく引き離された3位となっている。シェアは、5%にも満たない。そして、そのフラグシップのパーソナルアシスタントSiriも、理解力と精度においてGoogleに遅れをとっていると見なされてきた。しかしAppleは、さらにAIを強化し、次世代の製品の中心に据えることを目指していることがうかがえる。そしてその動きは、買収によって加速されているように見える。
The Informationによれば、Appleはサンフランシスコを拠点とするスタートアップ、Silk Labsを密かに買収したようだ。同社は、ホームハブとモバイル両用の、AIベースのパーソナルアシスタント技術を開発している。
Silkのプラットフォームには、他のアシスタント技術とは異なる、2つの注目に値する部分がある。1つは、時間の経過とともにユーザーのことを(聴覚と視覚の両方を使って)よりよく学習し、振る舞いを修正すること。もう1つは、デバイス単独で動作するように設計されていることだ。つまり、「常時オン」のスピーカーがいつもユーザーに聞き耳を立て、デバイス内で何か処理しているというプライバシー上の心配や、クラウドとネットワーク技術による制約を受けるといった懸念を払拭できる。
Appleは、まだ取材に応じていないが、少なくとも何人かのSilk Labsの従業員が既にAppleで働いているようだ(LinkedInによれば、Silk Labの9人のエンジニアリング系の社員がそれに含まれている)。
つまり、まだこれが完全な会社の買収なのか、人的な買収なのかははっきりしない。もし、新たな情報が得られれば、この記事をアップデートするつもりだ。しかしそのチームを(そしてその技術を)導入するということは、Appleがすでに市場に出回っているようなものとは異なった製品の開発に注力することに関心があり、それを必要としていることを物語っている。
Silk Labsは、Mozillaの元CTOで、結局うまくいかなかったFirefox OSの生みの親、Andreas Galと、Qualcomm出身のMichael Vinesの両氏によって、2016年2月に創立された。ちなみにVinesは、その後2018年の6月、ブロックチェーンのスタートアップ、Solanaに主席エンジニアとして転職している。
Silk Labsの最初の製品は、もともとソフトウェアとハードウェアを統合したものとして計画された。そして、Kickstarterからほぼ16万5000ドルを調達して、Senseというスマートスピーカーを製造し、発売する予定だった。Senseは、接続された家庭用の機器をコントロールし、ユーザーの質問に答え、内蔵されたカメラによって室内を監視し、人間とその行動を認識して学習できることになっていた。
しかし、そのわずか4ヵ月後、Silk LabsはSenseのハードウェアを切り捨て、Silkと呼ばれるソフトウェアに集中することを発表した。それは複数のOEMから、各社のデバイス上でSilkを稼働させることはできないか、という問い合わせを受けていると、Silk Labsが表明した直後のことだった(そして同社はKickstarter以外からも、約400万ドルを調達した)。
Silkには、そうしたOEMに対して、すでに市場に出回っている数多くのデバイスから差別化するため手法を提供する潜在能力はあったのだ。GoogleやAmazonのような製品に加えて、マイクロソフトのCortanaを利用するデバイスなど、そうしたアシスタント機能を搭載したスピーカーはいくつもある。
Silk Labsがハードウェア開発を中止すると発表したとき、一部の商業的なパートナーシップに関して、いくつかの話し合いが進行中だとしていた。また同時に、IoTデバイスを使ったコミュニケーション機能を開発するために、Silkプラットフォームの基本的なバージョンをオープンソースにすることも発表された。
Silk Labsは、そうしたパートナーの名前は明かさなかったが、会社を買収して廃業してしまうことが、技術を1社で独占するための1つの方法であったことは確かだ。
Silk Labsが構築してきたものを、これからAppleの製品、特に同社のスマートスピーカー、HomePodと結合することは魅惑的だ。
具体的に言えば、ユーザーについて学び、インターネットがダウンしていても機能し、ユーザーのプライバシーを保護する。そして特に重要なのは、常時接続された生活において、他のすべてのものを操作するための要となる、より賢いエンジンを提供できることだ。
それは、現在の市場リーダーから、はっきりと差別化できる機能セットを実現するために、おあつらえ向きだろう。特に、最近ますます重要視されるようになったプライバシーを考慮すればなおさらだ。
しかし、現在Appleが取り組んでいるハードウェアやサービスの領域を考慮すると、Silkチームと、その知的財産が、より広範囲のインパクトを持っている可能性を見ることができる。
Appleは、AIに関しては迷走してきた。2011年に音声アシスタントSiriをiPhone 4Sに初めて導入した際は、まだ他に先んじていた。それから長い間、数少ないえり抜きのテクノロジー企業がAIの有能な人材を独占していると人々が嘆くとき、常にAmazonとGoogle(Microsoftはそうでもないが)が引き合いに出された。そうした企業は、他の会社が製品を開発することを検討したり、より大きな規模での開発に関わろうとする余地を、ほとんど残していないというのだ。
さらに最近では、Alexaを搭載した数種類のデバイスを擁するAmazonや、Googleのような会社は、AI技術をコアとし、さらにメインのユーザーインターフェイスとしても採用したコンシューマー向け製品において、完全に他を出し抜いたようだ。Siriは、と言えば、うっかりTouch Barに触れたり、古いモデルのiPhoneのホームボタンを押してしまった場合に起動すると、うっとうしく感じることさえある。
しかし、こともあろうにAppleが、この分野で進むべき道を見失ってしまったと考えるのは、やはり完全に間違っている。この世界最大の会社は、いつも手の内を見せずに密かに行動することで知られているのだ。
実際、いよいよ真剣に取り組み始め、やり方を考え直そうとしている兆候も、いくつかある。
数ヶ月前に、元Google社員のJohn Giannandreaの下でAIチームを再編成した。そのプロセスの中で、若干の才能ある人物を失ったものの、それより重要なことに、SiriとCore MLのチームが、開発ツールからマッピングまで、社内の異なるプロジェクトにも協力して取り組める仕組みができつつある。
Appleは、過去数年間で、大小さまざまな買収を何十と繰り返してきた。それは、拡張現実、画像認識、そしてバックエンドでのビッグデータ処理など、複数の異なる領域で使えるAIエンジンの開発を目指して、有能な人材や知的財産を獲得するために他ならない。さらに、他にもイギリスのVocalIQなどのスタートアップを買収した。ユーザーとのやりとりから「学習」できる、ボイスインターフェイスを専門とする会社だ。
確かにAppleは、iPhoneの販売台数の低減に直面し始めた(単価は高くなっているので収益は減っていないが)。これは新しいデバイスに注力し、さらにその上で動くサービスをより重要視する必要があることを意味するはずだ。サービスはいくらでも拡張し、拡大させることができる。それによって定常的な収益を得ることもできる。それが、Appleがサービスへのさらなる投資にシフトすべき、2つの大きな理由だ。
AIのネットワークが、iPhoneだけでなく、コンピュータ、Apple Watch、Apple製のスマートスピーカー=HomePod、Apple Music、ヘルスケアアプリ、そしてあなたのデジタルライフ全体を支配することが期待されている。
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(翻訳:Fumihiko Shibata)