ローンチから14か月が経ち、FacebookはSnapchat Storiesに酷似した同社のストーリーズ機能のDAU(デイリーアクティブユーザー数)がようやく1億5000万人に達したと発表した。そしてストーリーズから収益を生み出すための次のステップとして、同社はアメリカ・メキシコ・ブラジルの3か国で、現地時間の5月17日からストーリーズへの広告掲載をスタートさせた。
ストーリーズ広告は5〜15秒程度の動画で、ユーザーはスキップすることもできる。クリックスルーやコールトゥアクションは今のところ備わっていないが、Facebookは向こう数か月のうちにこういった機能も盛り込む計画だという。広告主はInstagramストーリーズに展開している広告を簡単にFacebookへと移植できる上、ニュースフィードの広告にマッチした枠と文章を追加して自動的にストーリーズ広告化することもできる。さらにFacebookはストーリーズ広告の費用対効果を示すため、今後さらなる指標を追加していく予定とのこと。
広告主はInstagramストーリーズに展開する広告を簡単にFacebookへと移植できる(上図左)上、ニュースフィードの広告に枠線と文章を追加して自動的にストーリーズ広告化することもできる(上図右)。
先月、Facebook CPOのChris Coxが2019年中にはストーリーズがフィードを追い抜き、Facebookの情報発信チャンネルとしては最大になると語っていたことから、同社は生き残りのためにもストーリーズ広告の価値を今後高めていかなければならない。CEOのマーク・ザッカーバーグも「ストーリーズ広告をニュースフィード広告と同じレベルにまで引き上げていかなければならない。情報共有の場がストーリーズへと移行するなか、これが上手くいかなければ、ビジネスに大きな影響が出るだろう」と自分たちへの警告ともとれる発言を残している。Facebookのストーリーズ機能については、Instagramのストーリーズ機能とオーバーラップしていることや、やたらと目立つ見た目から批判もあるが、Facebookはこの短時間で消える動画フォーマットからの撤退は考えていないようだ。また同社は膨大なユーザー情報を保有していることから、現在Snapchatに注ぎ込まれている広告主の予算が、今後Facebookへと流れていく可能性もある。
ストーリーテラーをめぐる戦い
筆者が最初に疑問に感じたのは、Facebookがどのようにストーリーズ機能のDAUを割り出しているかという点だ。その答えは、Facebookのアプリかサイトでストーリー動画を見たユーザーの数だった。つまりInstagramやFacebook Messengerのストーリー動画をFacebook上にクロス投稿したユーザーの数は含まれていないため、これは良心的な算出方法だと言える。さらにこの数字は、InstagramにはじまりFacebookにも導入され、ニュースフィードのトップに固定されることになったストーリー動画の力を物語っている(大きなプレビュータイルのテストもすでに始まっている)。
背景知識として、主要サービスにおける類似機能のデイリーユーザー数および月間ユーザー数は以下の通りだ(ユーザー数の多いものから順に掲載)。
- WhatsApp Status:月間ユーザー数15億人、デイリーユーザー数4億5000万人(2018年5月時点)
- Instagram Stories:月間ユーザー数8億人、デイリーユーザー数3億人(2017年11月時点)
- Snapchat(アプリ全体):デイリーユーザー数1億9100万人(2018年5月時点)
- Facebook Stories:月間ユーザー数22億人、デイリーユーザー数1億5000万人(2018年5月時点)
- Messenger Day/Stories:月間ユーザー数13億人、デイリーユーザー数7000万人(2017年9月時点)
Instagramでもストーリーズ機能のDAUが1億5000万人に達した段階で広告掲載がスタートしたが、Instagramはストーリーズ機能のローンチから5か月でこれだけユーザー数を伸ばしたのに対し、Facebookは同じレベルに達するまでに14か月かかった。
今後Facebookがさらにエンゲージメントを高めるためのカギは、ストーリーズ機能の海外展開だ。Snapchatは4年ものあいだ海外市場をないがしろにし続け、最近になってようやく本格的にAndroidアプリのテコ入れを開始した。他方WhatsAppは、Snapがアメリカのティーン層に注力するスキを狙い、世界中の若者にアピールした結果、ストーリーズ機能のユーザー数でトップに躍り出た。そしてFacebookは、母国語以外のキーボードを使うユーザーのための音声投稿機能や、スマートフォンの容量に限りがあるユーザーでも写真や動画を保管できるクラウドストレージ機能など、インドをはじめとする新興市場を想定してストーリーズ機能の開発を進めている。
Facebookストーリーズには、360度カメラがなくても360度写真が撮れる「paint with the lens(レンズでペイント)」インターフェースが搭載されている。
2017年1月のテスト、そして2017年3月のローンチ以後も、Facebookはストーリーズ機能に次々と手を加えながら、他サービスとの差別化やユーザーの取り込みを図ってきた。その結果、現在ユーザーはFacebookが提供するアプリからのクロス投稿やデスクトップ向けのインターフェース、Boomerangのような動画フォーマット、さらに3次元空間に落書きできる機能や、特定の場所でARコンテンツを呼び出すためのQRコードや画像といったAR機能も利用できる。
ちなみに公式にはアナウンスされていない隠れ機能がひとつある。Facebookストーリーズのカメラを使うと、360度カメラがなくても360度画像が撮影できるのだ。周囲の環境をカメラのレンズで”描く”ようなクールなインターフェースで、一回ですべてを上手く撮影しなければいけないパノラマ写真とは違い、撮り逃がしたスペースがあれば後からそこを埋めることもできる。
打倒Snapの次はマネタイズ
上記のようなFacebookの取り組みがようやく実を結び始めたようだ。2018年第1四半期のSnapchatのDAU伸び率は過去最低の2.13%に落ち込んだ一方、Facebookは3.42%の伸び率を記録。さらに3月にはSnapchatのアクティブユーザー数は純減していた。
これはFacebookがストーリーズ機能に広告を掲載すべきだというサインなのかもしれない。実質的にSnapchatを打ち破り、競合と呼べるようなサービスが存在しないため、Facebookは余裕を持ってストーリーズ広告をローンチできるだろう。そして皮肉なことに、Snapchatは第1四半期の収益目標を達成できず、3億8500万ドルの赤字を記録して以降、広告売上の拡大にやっきになっている。
「Instagramのストーリー広告は顧客に大きな価値を提供しており、Facebookでも同じことができると考えている。とは言っても、私たちの最優先事項はユーザーエクスペリエンスを損なわないことだ」とFacebookのプロダクト・マネージャーZoheb Hajiyaniは言う。ストーリーズ広告のテストには何社もの企業(企業名は非公開)が参加するようだが、Facebook自体もOculusの広告をストーリー動画として展開するとのこと。
すでにFacebookやInstagramの広告サービスを利用している企業であれば、簡単にFacebookのストーリーズ広告へ移行できる上、リーチできるユーザーの総数も増えるため、ティーン層を狙わない限りはわざわざSnapchatで広告を打つインセンティブは生まれないかもしれない。そう考えると、すでにニュースフィードはいっぱいで、サイドバーへの広告掲載もとりやめたFacebookにしてみれば、ストーリー広告こそが広告スペースの問題への解決策となり得る。つまりストーリーズ機能が広告在庫の増加につながり、Facebook上でのマーケティング活動が促進される可能性もあるということだ。
ストーリーズ機能は避けて通れない道だった。2013年10月にSnapchatが初めて導入して以降、Facebookが同機能の脅威に気づくまでには約3年を要した。しかしFacebookはプライドを捨て、Instagramに導入した類似機能でSnapchatの後を追うことで、この新しいビジュアル・コミュニケーションのスタイルに順応していったのだ。デスクトップからモバイルへの変化で遅れをとったFacebookは、失敗から学びソーシャルメディア界における支配的な地位を維持したと見ることもできる。
ストーリーズ機能の詳細については、以下の記事を参照してほしい。
Stories are about to surpass feed sharing. Now what?
[原文へ]
(翻訳:Atsushi Yukutake)