ユニコーンの投げ売りがそろそろ始まる?

スタートアップとマーケットの週刊ニュースレター、The TechCrunch Exchangeへようこそ。

今日はいろいろなことをお話しする。コーヒーを入れて、落ち着いて、一緒に楽しもう。

投げ売りか?

Amplitude(アンプリチュード)が直接上場し、取引を開始して、2021年第4四半期の決算を発表したときには壁にぶつかっていたことを覚えているだろうか?2022年初頭に資産価値を減じたのは、上場しているハイテク企業の中で同社だけではなかったが、その再評価の規模は際立っていた。現在、Instacart(インスタカート)が非公開市場で似たような事態に陥っている。

多くの非公開企業は、新入社員の入社意欲と既存社員の定着意欲を高めるために、株価の評価方法を見直すべきなのだろうか。おそらくは。GGVのJeff Richards(ジェフ・リチャーズ)氏は、金曜日(米国時間3月25日)に議論の種を投稿した

未上場企業の評価は上がるだけで、上下することはありえないと考えるのは不合理です。未上場期間が長い企業は、相関関係を正規化する必要があります……。

その通りだ。市場を避けては通れない。再度ベンチャーキャピタルから調達して再評価を目にするまでは、現実を先送りすることができる。もちろんだ。しかし、もし潤沢な資金を持つ後期ステージのユニコーンだったとしたら、新たな資金の調達なしに、どうやって市場価値を把握すればよいのだろうか?

もしInstacartがこのトレンドの始まりなら、スタートアップの評価額は、本当にもう一度、横ばいになる可能性がある。

新しい住処を見つけたTechnori

ささいなことだが、私はシカゴの学校に通っていたので、駆け出しジャーナリストの頃はシカゴのテック業界に出入りしていた。そのため、地域のイベントに出向き、現状を把握することに努めていた。私がJustyn Howard(ジャスティン・ハワード)氏と出会ったのは、現在は公開企業になったSprout Social(スプラウト・ソーシャル)がスタートアップだった頃で、街で開催されたUberのローンチディナーに参加したときだった(そこで初めてTechCrunchの記者に出会い、後に初の就職に協力してもらえた)。

当時はTechnori(テクノリ)というコミュニティ活動が立ち上がりつつある時期で、コミュニティの手によって地域の技術力をアピールするイベントが開催されていた。楽しかった。

その後、Technoriは、ポッドキャストやピッチイベントなどを擁する、一種のメディア業態へと進化し、エクイティクラウドファンディングによるスタートアップの資金調達を支援するようになった。CEOのScott Kitun(スコット・キトゥン)氏がそのポッドキャストに私を呼んでくれたことがきっかけとなって、再び交流が始まった。そして今、Technoriは、オンラインプラットフォームで資金調達を行うスタートアップを、審査・評価するサービスのKingsCrowd(キングスクラウド)に売却され、再び私たちの取材範囲に入った。Technoriがコミュニティ仲間の資金調達を支援するプラットフォームとして進化してきたことを考えると、今回の提携は合理的だと思う。

この取引は全額株式で行われたとキトゥン氏は語る。KingsCrowdもメディア戦略も持っているので、両社には少なからず重なる部分がある。

キトゥン氏はThe Exchangeとのインタビューで、TechnorとKingsCrowdの提携により、エクイティクラウドファンディングを希望するスタートアップの審査が、彼の直感ではなく、よりデータに基づいたものになるため、期待していると述べている。この2社がやがて資金調達の仕組みを通じてスタートアップ市場により多くの資金をを送り込むことができるかどうか、そして、そのうちのどれだけがシカゴに定着するかを見守る必要がある。

ちょっと視野を広げて、Public(パブリック)が最近Otis(オーティス)を買収したことを思い出して欲しい。プラットフォームに投資の多様性を追加するのがその狙いだ。TechnoriとKingsCrowdの取引も同様のものとみなすことができる。両社も新しい投資のための手段の1つを普通の人の手に渡したいと考えているからだ。

キトゥン氏は、別会社であるSongFinch(ソングフィンチ)の共同創業者でもあるので、彼の名前を聞くことがこれで最後にはならないだろう。

Expertsプログラムの変更

今週、私はTechCrunchでの役割が変わり、フルタイムのレポーターからTechCrunch+の編集長になった。The Exchangeのサイト投稿やニュースレターを長く読んでくださっている方は、ここ数年の私の仕事の多くが有料記事だったことをご存知だと思う。個人的な執筆を完全に止めるわけではないが、TechCrunch+のチームを積極的に拡大していく予定だ。まだ会員でない方は、ぜひご入会を(米国在住の方なら、申し込み時に優待コード『EICEXCHANGE』を入れていただくと25%オフとなる)。2022年はとんでもない年になりそうだ。

数年間実施してきた「Experts」プログラムの終了を含め、いくつかの変更を行う。このスタートアップ向けサービス企業を活動別に(たとえばSEOとか)データベース化する取り組みは、創業者を支援したいという私たちの志の一部だった。しかし今後は、単にベンダー候補のリストを作るよりも、市場のさまざまな事業者から知見を引き出すことに重点を置いた取り組みに進化させていくつもりだ。

とはいえ、こうすることで少しばかりブドウの木に実を残すことになる。そこで、Expertsの最後のエントリー業者に関するメモをここに記そう。Growthcurve(グロースカーブ)が、これまでの形式でご紹介する最後の企業だ。その旧来の形式の中で、人々が推薦を書き込んでくれた。ANNA Money(アンナ・マネー)のMariam Danielova(マリアム・ダニエロバ)氏は、Growthcurveについて「信頼性が高く、結果を重視し、データを重視する」と書いている。これは、グロースマーケティングチームに期待できるすべてだ。

TechCrunch+のこれまでの記事を整理し、古いインタビューファイルなどを読み返しながら学んだことは、SEOの重要性がまだまだ残っているということだ。私が以前解析したGrowthcurve創業者Mulenga Agley(ムレンガ・アグレー)氏のメモに書かれていたが、私たちが住む新しいiOS 14の世界では、これがもっと重要になるのだろうか?(現在の最新はiOS 15)もしそうなら、Google(グーグル)へのイジメだろう。

以上のような変化はあるものの、The ExchangeのAnna Heim(アンナ・ハイム)記者が、外部の専門家を起用したハウツー記事を担当することに変わりはない。ただ、2022年は少し違う様子となるだろう。過去に取り上げたみなさん、そしてリストの最後のエントリーとなったGrowthcurveに感謝する。

さあ未来へ!

画像クレジット:Nigel Sussman

原文へ

(文:Alex Wilhelm、翻訳:sako)

Web3のデジタルIDスタートアップ、Unstoppable Domainsが約1211億円のユニコーン評価額で資金調達を交渉中

ブロックチェーンのネーミングシステムプロバイダーとして人気のUnstoppable Domainsが、10億ドル(約1211億円)の評価額で資金調達ラウンドを実施する交渉をまとめていると、この件に詳しい3人の関係者がTechCrunchに語った。

同スタートアップは、Draper Associates、Coinbase Ventures、Protocol Labs、Naval Ravikantを含む多くの新規および既存投資家と、新たな資金調達ラウンドで約6000万ドル(約72億6300万円)を調達すべく交渉していると、検討中かつ非公開であるため匿名を希望した情報筋は語った。

このラウンドはまだクローズしていないので条件が変わる可能性がある、と彼らは注意を促している。同社は米国時間3月22日にはコメントを控えた。

Unstoppable Domainsは、人々が暗号のためのユーザー名を作成し、分散型デジタルIDを構築するためのサービスを提供している。同社は、特定のTLDを持つドメインを5ドル(約605円)という低価格で販売しており、これまでに210万以上のドメインを登録する手助けをしてきたと、そのウェブサイトで述べている。提供する人気のTLDには、.crypto、.coin、.bitcoin、.x、.888、.nft、.daoなどがある。

Amazon(アマゾン)のAWS、Uber(ウーバー)、Slack(スラック)などの企業で働いたメンバーを含むUnstoppable Domainsは、分散化された各ドメイン名をEthereumブロックチェーン上のNFTとして鋳造し、オーナーにより広範なコントロールと所有権を与えている。

ドメイン名を持つことで、ユーザーは無意味に長いウォレットアドレスを友人や企業とわざわざ共有する煩わしさから解放される。

Unstoppable Domainsはまた、OpenSea(オープンシー)、Coinbase Wallet(コインベースウォレット)、Rainbow Wallet、Chainlink、Brave browser、ETHMailなど140以上のアプリケーションと統合されている。90以上のDAppsが、EthereumとPolygonのためのシングルサインオンサービスである同社の製品「Login with Unstoppable」をサポートしており、暗号コミュニティを苦しめる経験の1つに対処している。

投資家へのピッチデッキで、同スタートアップは「分散WebのCoinbase」を構築しようとしていると述べた。その幅広いサービスのおかげで現在では、ENS、Solana Bonfida、Tezos、Handshakeと競合している。

同社は24万人以上の顧客を集め、2021年は5300万ドル(約64億1800万円)の収益を計上したと、2人の情報筋が語っている。また、利益も出ているという。TechCrunchが入手したピッチデッキによると、同社は2022年、企業と提携して自社のTLDを立ち上げる予定だという。

画像クレジット:Unstoppable Domains

原文へ

(文:Manish Singh、翻訳:Den Nakano)

インド国税庁がユニコーン企業「Infra.Market」を捜査、偽装購入や使途不明金などを摘発

インド国税庁は、プネーとターネー拠点のユニコーンスタートアップInfra.Market(インフラ・ドット・マーケット)による偽装購入の事実を示す大量の証拠を発見、差し押さえ、2940万ドル(約35億円)以上の追加所得を暴いたことを、異例ともいえるスタートアップに対する捜査の結果公表した。

Infra.Marketは、Tiger Global(タイガー・グローバル)、Nexus Venture Partners(ネクサス・ベンチャー・パートナーズ)、およびAccel(アクセル)が出資している時価総額25億ドル(約2981億円)スタートアップで、建設会社や不動産会社の プロジェクトのための材料調達や物流を支援している。同社は巨額の使途不明金と所得分散によって、総額40億ルピー(約62兆円)以上の所得隠しを行っていたと、米国時間3月20日の報道資料で当局が語った。

税務当局に指摘を受けた同社幹部らは、宣誓下で一連の犯行手口を認め、複数の税申告年度にわたって22億4000万ルピー(約35兆円)以上の追加所得があったことを明らかにし、その結果追徴税の支払いを求められていると当局が発表した。

Infra.Marketの共同創業者でCEOのSouvik Sengupta(ソウビク・セングプタ)氏は、コメントを求めたTechCrunchのテキストメッセージに返信していない。

同スタートアップは、新たな調達ラウンドを評価額40億ドル(約4766億円)で完了予定であることを、インドの報道機関、Entrackr(エントラッカー)が2021年11月に報じた

現在も捜査を続けている税務当局は、ムンバイとターネー拠点の複数のダミー会社によるインド独自の送金システムであるハワラネットワークも見つけており、これらの企業が書類上にのみ存在し、所得分散の目的で設立されていることを突き止めた。

予備的分析によると、これらのダミー会社による所得隠しの総額は150億ルピー(約235億円)を超えるという。これまでに100万ルピー(約157万円)の使途不明金と220万ルピー(約344万円)相当の宝石類が差し押さえられている、と当局は語った。

画像クレジット:DIBYANGSHU SARKAR / AFP / Getty Images

原文へ

(文:Manish Singh、翻訳:Nob Takahashi / facebook

バーチャルイベントで急成長したユニコーンHopinが「持続可能な成長」を理由に12%の人員削減

複数の情報筋によると、パンデミックの中で急速に規模を拡大したことでしばしば称賛されるバーチャルイベントプラットフォームのHopin(ホピン)が、スタッフの12%に当たる138名のフルタイム従業員と、一部の契約社員を削減したとのこと。TechCrunchに対しリストラを認めたHopinの広報担当者は、影響を受けた従業員には、3カ月分の報酬、健康保険、およびラップトップを支給することも確認している。また、株式の権利確定条件となっている1年間の対象勤務期間を取り除き、人材紹介会社のRiseSmart(ライズスマート)を利用して就職活動を支援するとのこと。

「前例のない成長といくつかの買収を経て、当社はより効率的で持続的な成長のための目標に沿って組織を再編します」と同社はTechCrunchへの声明で述べている。「チームメイトと別れるのは簡単なことではありませんが、彼らがHopinに与えてくれたインパクトに深く感謝しています」とも。

TechCrunchが入手したスクリーンショットによると、HopinのCEOであるJohnny Boufarha(ジョニー・ブファラート)氏は、同社のSlackにこの組織再編に関する声明を投稿している。

同氏は「当社は必要な財務規律と組織的な厳密さを確保しつつ、より効率的になることを約束します」と記している。また、今回のリストラは、急速な成長と買収に伴い「ビジネスに忍び寄るオーバーラップや重複を解決するため」と指摘している。注目すべきは、HopinはStreamYardを2億5000万ドル(約290億円)で買収したのを含め、2021年だけで5社を買収していることだ。

この声明は、Hopinが56億5000万ドル(約6548億円)の評価額で4億ドル(約464億円)の資金調達を完了したわずか11カ月前とは異なるトーンを示している。当時、ブファラート氏はTechCrunchに対し、彼の会社は「2022年には運用面でIPOの準備を整えていくつもりだ」と述べていた。ベンチャー支援を受けたこのスタートアップは、Crunchbaseによると、Tiger Global(タイガー・グローバル)、Andreessen Horowitz(a16z、アンドリーセン・ホロウィッツ)、General Catalyst(ゼネラル・カタリスト)、Accel(アクセル)、Slack Fund(スラック・ファンド)、Coatue(コートゥ)、Salesforce Ventures(セールスフォースベンチャーズ)などのトップ投資家から、2年間で最大10億ドル(約1159億円)の既知のベンチャーキャピタルを集めている。

このユニコーン企業でリストラが行われているというニュースを最初に報じたレポーターのGergely Orosz(ゲルゲリー・オロッシュ)氏は、記事の中で「Hopinの最大の問題は、パンデミック時の需要に目を奪われ、アフターコロナの世界への準備ができていなかったことだ」と指摘している。

パンデミックで増幅された需要に追いつくために、スタートアップが急成長を求めて規律を失ったというよく似たストーリーは、ここ数週間で他の業界にも波及している。

Peloton(ペロトン)は、この「得やすいものは失いやすい」トレンドを最も顕著に示しており、今週、2800人の雇用を削減し、CEOのJohn Foley(ジョン・フォーリー)氏を会社の指揮から外した。この動きは、フィットネス機器メーカーであるPelotonが、消費者からの需要の低迷により、トレッドミルやバイク製品の生産を停止せざるを得なくなったことを受けての措置だ。

画像クレジット:AndreyPopov / Getty Images

原文へ

(文:Natasha Mascarenhas、翻訳:Aya Nakazato)

ブロックチェーン分析ツール「Dune Analytics」がCoatue主導で約80億円調達、従業員16名でユニコーンに

暗号批判者の多くは、Web3分野はミームマネーに支えられていると主張する。それらの人々にとって、Coatue(コーチュー)がブロックチェーンスタートアップの6942万ドル(約80億円)のシリーズBをリードしたニュースは、あまり驚くことではないだろう。

今回投資を受けたのは、ノルウェーの暗号分析プラットフォームであるDune Analytics(ドゥーンアナリティクス)。同スタートアップの評価額は10億ドル(約1152億円)に達した。このクラウドソースデータプラットフォームは、暗号の世界の動きを分析するダッシュボードとして、より好まれるものに成長した。Multicoin CapitalとDragonfly Capitalも、従業員16名のこのスタートアップの資金調達ラウンドに参加した。

ブロックチェーンには膨大な量のトランザクションデータが蓄積されており、Duneのようなプラットフォームは、投資家がそのデータからより多くの洞察を得られるように、Ethereum(イーサリアム)、Polygon(ポリゴン)、Optimism(オプティミズム)、Binance Smart Chain(BSC、バイナンススマートチェーン)、xDAIの各ブロックチェーンの動きを分析しようとしている。

Duneの創業者たちは、ラウンドを発表するブログ記事で「暗号データには膨大な情報が含まれていますが、インセンティブのある有能なアナリストと優れたツールがなければ、この情報は表面に出てこないままです」と述べている。「今回の資金調達により、我々は暗号データをよりアクセスしやすいものにするという当社のミッションをさらに強化し、100万人のDuneウィザード(Web3データアナリスト)をWeb3にもたらすことを約束します」。

Coatueの今回の投資は、2021年8月に実施されたDune Analyticsの800万ドル(約9億2000万円)のシリーズAに続くものだ。

関連記事:分散型「マーベル」のようなNFTメディア帝国を目指すPixel Vault、約115億円の資金を調達

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

原文へ

(文:Lucas Matney、翻訳:Aya Nakazato)

EdTechユニコーンGoStudentが英Seneca LearningとスペインのTus Media Groupを買収

欧州のEdTechユニコーンGoStudent(ゴースチューデント)は、英国のSeneca Learning(セネカ・ラーニング)とスペインのTus Media Group(タス・メディア・グループ)を買収し、これまでこのドイツのユニコーンが手をつけていなかった分野にも進出している。Senecaはアルゴリズム学習コンテンツを提供し、Tus Mediaはオープンな家庭教師マーケットプレイスを運営している。買収の条件は明らかにされていない。

買収された両社は、現在のリーダーシップチームのもと、確立されたブランド名で引き続き独立して事業を継続する。CrunchBaseによると、2016年に立ち上げられたSeneca Learningは、これまでベンチャーキャピタルの支援を受けてこなかった。Tus Mediaも、個人所有の企業で、バルセロナを拠点とする投資家Redarbor(レダーバー)から不特定多数の支援を受けてきたのみだ。

今回の動きは、GoStudentがシリーズD資金調達で3億ユーロ(約388億円)を調達した1カ月後に行われ、GoStudentが2021年にオーストリアのオールインワン学校通信ソリューションであるFox Education(フォックス・エデュケーション)を買収したことに続くものである。

Seneca Learningは、英国で「フリーミアム」の宿題と復習のプラットフォームで、700万人の生徒が利用している。子どもたちは、KS2、KS3、GCSE & A-Levelのコースから選ぶことができる。

GoStudentのCEO兼共同創設者であるFelix Ohswald(フェリックス・オースワルド)氏は「英国はGoStudentの中核地域の1つであり、市場のリーダーとなることを目指しています。お客様のニーズに耳を傾け、当社のコアサービスにコンテンツプラットフォームを加えることは、当社にとって重要な戦略的ステップであり、学習提供のさらなる充実とポートフォリオの多様化を可能にします」と述べている。

Seneca Learningの共同創業者兼CEOであるStephen Wilks(スティーブン・ウィルクス)は「フェリックスとGoStudentチームと協力することで、Senecaの無料コンテンツと個別学習体験を、世界中のさまざまな国の数百万人以上の学生に届けることができるようになります。チームは、英国での成功を基に、より多くの子どもたちがすばらしい無料教育を受けられるよう、当社の製品を世界的に展開することに興奮しています」。と述べている。

2011年に設立されたTus Mediaは、400万人の生徒にサービスを提供する家庭教師のためのオープンマーケットプレイスを提供しており、スペインだけでなく、ヨーロッパやラテンアメリカのいくつかの国で教師が働いている。

Tus Media Groupの創設者兼CEOであるAlbert Clemente(アルベルト・クレメンテ)氏は「GoStudentの買収により、Tus Mediaとそのすべてのブランドを新しい市場でさらに拡大し、より地理的に大きな範囲に拡大することができるようになりました」。と述べている。

GoStudentのCOO兼共同創業者であるGregor Müller(グレゴール・ミュラー)氏は「アルベルト・クレメンテは、私たちがこれまでに出会った中で最も情熱的で熱心な教育分野の起業家の1人です。彼とパートナーとして協力し、互いに学び合うことで、世界No.1の学校に一歩近づくことができるでしょう」。とコメントしている。

Tus Mediaの元投資家であるRedarborの創業者兼CEO、David González Castro(ダビド・ゴンサレス・カストロ)氏は、次のようにコメントしている。「2018年、私たちはTus Mediaの20%、後に30%の参加権を取得しました。GoStudentによる買収後、私たちは株式保有を離脱することになります。アルベルト・クレメンテとのコラボレーションと価値創造で達成したすべての成功を非常に誇りに思っています」。

GoStudentは現在、およそ30億ユーロ(約3879億8300万円)の評価額を持っている。フェリックス・オースワルドCEOとグレゴール・ミュラーCOOにより2016年にウィーンで設立され、会員制モデルを用いて小中高生に有料のマンツーマン、ビデオベースの授業を提供している。Prosus Ventures(プロサス・ベンチャーズ)やSoftBank Vision Fund 2(ソフトバンク・ビジョン・ファンド2)などの投資家から5億9000万ユーロ(約763億2100万円)の資金を調達している。

オースワルド氏は「この2社は、GoStudentにとって非常に相性の良い会社です。Senecaは、非常に優れたコンテンツ企業を築き上げました。彼らは、英国の学校のカリキュラムに合わせてカスタマイズしたコンテンツを作成し、何千人もの教師と何百万人もの子どもたちが利用していますが、これは私たちが持っていないものです。私たちは過去に一度もコンテンツを作ったことがありません。そのため、彼らは私たちに欠けているコンテンツの要素をもたらし、私たちは相乗効果を築きながら、彼らがより多くの国でビジネスを拡大するのを助けたいと思っています」と電話で述べた。

さらに「Tus Mediaの側では、彼らはすばらしいSEOを駆使した会社を作りました。だから、彼らのマーケットプレイスで発生するトラフィックはすべて、マーケティング費用をかけずにSEOでもたらされるのです。これは、私たちが過去に達成できなかったことです。彼らと一緒になれば、私たちも学ぶこともできますし、彼らがより早くスケールアップできるよう支援することもできるのです」。とも話してくれた。

画像クレジット:GoStudent

原文へ

(文:Mike Butcher、翻訳:Akihito Mizukoshi)

EdTechユニコーンGoStudentが英Seneca LearningとスペインのTus Media Groupを買収

欧州のEdTechユニコーンGoStudent(ゴースチューデント)は、英国のSeneca Learning(セネカ・ラーニング)とスペインのTus Media Group(タス・メディア・グループ)を買収し、これまでこのドイツのユニコーンが手をつけていなかった分野にも進出している。Senecaはアルゴリズム学習コンテンツを提供し、Tus Mediaはオープンな家庭教師マーケットプレイスを運営している。買収の条件は明らかにされていない。

買収された両社は、現在のリーダーシップチームのもと、確立されたブランド名で引き続き独立して事業を継続する。CrunchBaseによると、2016年に立ち上げられたSeneca Learningは、これまでベンチャーキャピタルの支援を受けてこなかった。Tus Mediaも、個人所有の企業で、バルセロナを拠点とする投資家Redarbor(レダーバー)から不特定多数の支援を受けてきたのみだ。

今回の動きは、GoStudentがシリーズD資金調達で3億ユーロ(約388億円)を調達した1カ月後に行われ、GoStudentが2021年にオーストリアのオールインワン学校通信ソリューションであるFox Education(フォックス・エデュケーション)を買収したことに続くものである。

Seneca Learningは、英国で「フリーミアム」の宿題と復習のプラットフォームで、700万人の生徒が利用している。子どもたちは、KS2、KS3、GCSE & A-Levelのコースから選ぶことができる。

GoStudentのCEO兼共同創設者であるFelix Ohswald(フェリックス・オースワルド)氏は「英国はGoStudentの中核地域の1つであり、市場のリーダーとなることを目指しています。お客様のニーズに耳を傾け、当社のコアサービスにコンテンツプラットフォームを加えることは、当社にとって重要な戦略的ステップであり、学習提供のさらなる充実とポートフォリオの多様化を可能にします」と述べている。

Seneca Learningの共同創業者兼CEOであるStephen Wilks(スティーブン・ウィルクス)は「フェリックスとGoStudentチームと協力することで、Senecaの無料コンテンツと個別学習体験を、世界中のさまざまな国の数百万人以上の学生に届けることができるようになります。チームは、英国での成功を基に、より多くの子どもたちがすばらしい無料教育を受けられるよう、当社の製品を世界的に展開することに興奮しています」。と述べている。

2011年に設立されたTus Mediaは、400万人の生徒にサービスを提供する家庭教師のためのオープンマーケットプレイスを提供しており、スペインだけでなく、ヨーロッパやラテンアメリカのいくつかの国で教師が働いている。

Tus Media Groupの創設者兼CEOであるAlbert Clemente(アルベルト・クレメンテ)氏は「GoStudentの買収により、Tus Mediaとそのすべてのブランドを新しい市場でさらに拡大し、より地理的に大きな範囲に拡大することができるようになりました」。と述べている。

GoStudentのCOO兼共同創業者であるGregor Müller(グレゴール・ミュラー)氏は「アルベルト・クレメンテは、私たちがこれまでに出会った中で最も情熱的で熱心な教育分野の起業家の1人です。彼とパートナーとして協力し、互いに学び合うことで、世界No.1の学校に一歩近づくことができるでしょう」。とコメントしている。

Tus Mediaの元投資家であるRedarborの創業者兼CEO、David González Castro(ダビド・ゴンサレス・カストロ)氏は、次のようにコメントしている。「2018年、私たちはTus Mediaの20%、後に30%の参加権を取得しました。GoStudentによる買収後、私たちは株式保有を離脱することになります。アルベルト・クレメンテとのコラボレーションと価値創造で達成したすべての成功を非常に誇りに思っています」。

GoStudentは現在、およそ30億ユーロ(約3879億8300万円)の評価額を持っている。フェリックス・オースワルドCEOとグレゴール・ミュラーCOOにより2016年にウィーンで設立され、会員制モデルを用いて小中高生に有料のマンツーマン、ビデオベースの授業を提供している。Prosus Ventures(プロサス・ベンチャーズ)やSoftBank Vision Fund 2(ソフトバンク・ビジョン・ファンド2)などの投資家から5億9000万ユーロ(約763億2100万円)の資金を調達している。

オースワルド氏は「この2社は、GoStudentにとって非常に相性の良い会社です。Senecaは、非常に優れたコンテンツ企業を築き上げました。彼らは、英国の学校のカリキュラムに合わせてカスタマイズしたコンテンツを作成し、何千人もの教師と何百万人もの子どもたちが利用していますが、これは私たちが持っていないものです。私たちは過去に一度もコンテンツを作ったことがありません。そのため、彼らは私たちに欠けているコンテンツの要素をもたらし、私たちは相乗効果を築きながら、彼らがより多くの国でビジネスを拡大するのを助けたいと思っています」と電話で述べた。

さらに「Tus Mediaの側では、彼らはすばらしいSEOを駆使した会社を作りました。だから、彼らのマーケットプレイスで発生するトラフィックはすべて、マーケティング費用をかけずにSEOでもたらされるのです。これは、私たちが過去に達成できなかったことです。彼らと一緒になれば、私たちも学ぶこともできますし、彼らがより早くスケールアップできるよう支援することもできるのです」。とも話してくれた。

画像クレジット:GoStudent

原文へ

(文:Mike Butcher、翻訳:Akihito Mizukoshi)

仏政府が発表したフランス最大のスタートアップ企業リスト

毎年、フランス政府と政府が支援するイニシアチブのLa French Techは「Next40」と「French Tech 120」という2つのスタートアップランキングを発表している。これらのリストに載っているスタートアップは、それぞれフランスに拠点を置く業績の良いトップ40とトップ120のスタートアップであるとされている。

フランス政府がこれらのリストを作成するのは今回で3回目である。French Tech 120に含まれる120のスタートアップのうち、84社が2022年もこのインデックスに残っている。そのうち36社は初めてリストに登場することとなった。

そのうち2社は2021年のNext40に入っていたが、2022年は株式公開のため登場しない。OVHcloud(OVHクラウド)Believe(ビリーブ)だ。

以下が2022年のFrench Tech 120となる。赤いロゴはNext40の一部だ。

画像クレジット:La French Tech

Next40に選ばれるには、2つの方法がある。

  • 過去3年間に1億ユーロ(約129億2500万円)以上の資金を調達している、または会社の評価額が10億ドル(約1146億5800万円)以上に達しているユニコーン企業であること。
  • 過去3年間の売上高が500万ユーロ(約6億4600万円)以上で、前年比成長率が30%以上であること。

French Tech 120の残りの80社のスタートアップについては以下だ。

  • うち40社は、過去3年間の資金調達ラウンドで2000万ユーロ(約25億8400万円)以上を調達している。
  • うち40社は、年間売上高と成長率に基づき選出されている。

もちろん、これらのインデックスは、イノベーション分野で活躍するフランスの民間企業に限定されている。French Tech 120については、行政区ごとに最低でも2社のスタートアップが選出されている。

2021年は、世界中で技術資金調達の超大型年となったが、それはフランスでも同様だ。「今日、Next40に入るには少なくとも5000万ユーロ(約64億5900万円)を調達しなければならない」と、フランスのデジタル担当大臣Cédric O(セドリック・オ)氏は記者会見で述べた。2017年、フランスのスタートアップは合わせて25億ユーロ(約3229億2400万円)を調達した。2021年には120億ユーロ(約1兆5500億円)近くを調達している。

資金調達ラウンドに加え、彼はフランスのテックエコシステムにおける他の面の功績も挙げた。例えば、2021年には10億ユーロ(約1291億8500万円)を超えるIPOが2件あり、これは過去25年間と同数の10億ユーロ(約1291億8500万円)を超えるIPOがあったことになる。

また、統合も行われている。ここ数週間では、Doctolib(ドクトリーブ)がTanker(タンカー)を買収し、Luko(ルコ)もドイツの競合Coya(コヤ)を買収したが、Frichti(フリッチ)はベルリンのスタートアップGorillas(ゴリラズ)に買収された

「Next40とFrench Tech 120が何であるか、みなさんに思い出していただきたかったのです。多くの人が、これはランキングだと考えています。もちろん、ランキングであり、その一員であることを誇りに思ってください」と、La French Techのディレクター、Clara Chappaz(クララ・チャパズ)氏はいう。

「しかし、ランキングの要素に加え、サポートプログラムでもあるのです。今日のフレンチテックのミッションには、スタートアップのマネージャーとして活動しているメンバーが数名います。彼らは、Back Market(バック・マーケット)のようなスタートアップや、ここにあるすべての企業をサポートし、あらゆる種類の問題に関して行政とのやり取りを円滑にしてくれます」とも述べている。

60もの行政機関にフレンチテックの担当者がいるのだ。彼らは外国人従業員のビザ取得、認証や特許の取得、行政への製品売り込みなど、スタートアップを支援してくれる。

しかし、1つだけ目立つことがある。過去の年と同様、フランス政府は、多様性と包括性(ダイバーシティ&インクルージョン)に関して、テック系スタートアップはもっと努力すべきと考えているということだ。

French Tech 120の女性創業者は7名から14名になったが「エコシステムにおける女性の登用に関しては、もっとやらなければならない」とセドリック・オ氏は述べている。

また、大統領選挙が近いこともあり、セドリック・オ氏は、過去5年間にスタートアップを手助けした政策変更をいくつか挙げている。

「富裕税(ISF)改革、フラットタックス、労働市場改革、Tibiイニシアチブ、ストックオプション(BSPCE)改革、フレンチテックビザがなければ、今日のフレンチテックはありません」と同氏は述べている。

2021年フランス政府は「Green20」というグリーンテック分野のスタートアップに特化したプログラムも発表した。グリーンテックスタートアップにとって、多くの資金を調達し、多くの収益を上げるには通常より時間がかかることが多いからだ。フランス政府は、今回の記者会見でこのプログラムについて言及しなかった。

26社のスタートアップがユニコーンの地位を獲得し、フランスのテック・エコシステムは最近特に好調だ。しかし、一歩引いて考えてみると、2021年、世界中のユニコーンの数は569から959に急増した。

この2つの指標は、テック産業が経済全体においてますます重要性を増していること、そしてそれがグローバルな競争になっていることを証明している。フランスのスタートアップの中には、それぞれの垂直方向で欧州や世界のリーダーになるための正しい道のりを歩んでいる企業もある。そして、誰がローカルな成功をグローバルな成功に変えていくのか、興味深いところだ。

画像クレジット:経済産業省・財務省・復興庁

原文へ

(文:Romain Dillet、翻訳:Akihito Mizukoshi)

ユニコーン以上の価値があるWorkplaceにスピンアウトして欲しいVCと、それを手放したくないフェイスブック

Workplace(ワークプレイス)とは、もともとFacebook(フェイスブック)が従業員同士のコミュニケーションの場として作ったアプリである。友人や家族と楽しむためのものとして定着したFacebookと実質的に同じこのツールは、現在700万人以上のユーザーに利用されており、企業の社内コミュニケーションを支援するアプリとして地位を確立している。そして今、この人気を背景にWorkplaceには別の意味での注目が集まっているようだ。

Meta(メタ)に社名を変更する前、Facebookが企業投資家から「Workplaceをスピンオフして、スタートアップとしてバックアップさせて欲しい」という提案を受けていたという事実が浮上した。関係者によれば、この取引によってWorkplaceが独立していたら、少なくとも10億ドル(約1138億ドル)の「ユニコーン」として評価されていたとのことである。

情報源によるとこの話は進まなかったようだが、それは主にFacebook(現在はMeta)がWorkplaceを「戦略的資産」と見なしたからだという。MetaがFacebookやInstagram(インスタグラム)などのプラットフォーム上の広告から得ている数十億ドル(数千億円)に近い売上を、Workplaceが上げているわけではない。しかし、Metaの多様な側面を市場に強調するためには、Workplaceが重要なのだという。規制当局にとって、Facebook / Metaはあまりにも強力すぎるソーシャルネットワークなのであるのに対し、企業組織にとってFacebookは広告を販売する以外にもまだ多くのポテンシャルを秘めている存在なのである。

情報源によると「WorkplaceはFacebook(およびMeta)を大人っぽくみせてくれる」のだという。

MetaとWorkplaceの広報担当者はこの記事へのコメントを控え、何も伝えることはないと述べている。

どの投資家が関係していたかは明らかにされていないが、ある関係者によるとその企業投資家とは、資本注入を目的とした後期の成長ラウンド投資に重点を置く、エンタープライズに特化した投資家だという。

スピンアウトしたWorkplaceに出資しようという彼らのアプローチは、2021年レイトステージの投資家やプライベートエクイティの投資家らが成熟した大規模なテック企業を買収するために活動を活発化させていた時期(今もそうだが)と重なっている。Thoma Bravo(トーマス・ブラボー)は2021年、350億ドル(約3兆9840億円)を調達してこの分野でより多くの買収機会を得ようとしていたと報じられている(そしてそのためにさまざまな投資や買収を行ってきた)。2021年のプライベートエクイティによる買収総額は約800億ドル(約9兆円)に達し、2020年に比べて140%以上増加しているとBloomberg(ブルームバーグ)は推定している。

このペースは2022年も衰えそうにない。その中には、あまり主要ではなく収益性の悪い、どちらかといえば低迷中の資産を合理化してより多くの資本を回収しようと、大手テクノロジー企業に対して事業のスピンアウトを持ちかけるPE企業もある。ちょうど今日、Francisco Partners(フランシスコ・パートナーズ)はIBM(アイビーエム)のWatson Health(ワトソン・ヘルス)事業を約10億ドル(約1138億ドル)で買収することを発表した

SaaS展開の足がかりを構築

Metaの場合、Workplaceをスピンアウトさせるためには、2つの面での展開が必要となる。

企業面では同社の解体を求める声が上がっている。2022年1月初め、米連邦取引委員会(FTC)がWhatsApp(ワッツアップ)とInstagramの売却を求める訴訟の継続を裁判所が認めた他、報道によるとVR部門が反トラスト法違反ではないかという別の調査も行われているという。一部の投資家や株主にとってこの状況はチャンスだが、Metaにとってはあらゆる資産の保持を正当化するための検討が必要になってくるだろう。

Workplaceはこの数カ月間、重要な岐路に立たされていた。

多くの人材が離職したのである。その中には、1月BREX(ブレックス)のチーフプロダクトオフィサーに就任したKarandeep Anand(カランディープ・アナンド)氏や、ロンドンのベンチャー企業Felix Capital(フェリックス・キャピタル)のパートナーに就任したJulien Codorniou(ジュリアン・コドルニウ)氏というトップ2人の幹部も含まれている。その他多くの人たちも、新たな旅路をスタートさせるため同社のビルを去っていった。

これはMetaのPRの失敗が原因なのではなく、むしろごく自然な現象なのだと私は聞いている。これまでここにいたのはWorkplaceを一から作り上げるために集められた人々だ。同社の製品が成熟し、より明確な焦点を持った今こそ、新たな人員が入社して次のステージに取り組むのに適切な時期であるのだという(私の個人的な意見だが、Workplaceの新リーダーであるUjjwal Singh[ウジワル・シン]氏は、今のWorkplaceを率いるのにふさわしい人物だと感じている)。

しかしそれとはに、Metaが常に世論からバッシングを受けていることで従業員が疲弊しているのではないかという報道もある。Workplaceもこれは人ごとではない。以前Workplaceは最大手のレストランチェーンと大きな契約を結んだと私たちは理解しているのだが、その顧客は昨秋、穏やかでないニュースの数々と「評判の問題」を理由にその発表を控えるよう求めてきたという。

「他のSaaS企業ではありえないことだ」とある人物はいう。

これはWorkplaceを親会社から切り離すための良い理由となったはずだし、スピンアウトへの一歩ともなりえただろうが、Metaはそうは感じていないようだ。

Workplaceは製品として展開された当初から、実は大きな変化を遂げている。

もともとFacebookの「仕事版」として設立されたWorkplace。Facebookの従業員がすでにFacebookを使ってプライベートなグループでコミュニケーションをとっていたのを発展させたもので、Slack(スラック)やその他の職場向けチャットアプリの台頭に対抗する形で登場した。何十億もの人々がすでにFacebookを利用しているのだから、 当然Workplaceに優位性があるだろうというのが同社の当時の考えである。異なる種類のユーザーをターゲットにした新サービスを導入し、広告収益ではなく有料化という異なるビジネスモデルを採用することで、同社にとって新たなビジネスの可能性の扉を開いたのだ。

時とともにWorkplaceの焦点が変わろうとも、この戦略が変わることはほとんどない。もともとWorkplaceは、SlackやTeamsに対抗するためにナレッジワーカーを対象とした他の職場生産性向上ツールとの統合を数多く導入していたのだが、時が経つにつれ、Workplaceは主にモバイルで雇用主とコミュニケーションをとるデスクレスワーカーに支持されるようになったのである。つまり、ナレッジワーカーとデスクレスワーカーの両方に対応するコミュニケーションアプリになることがWorkplaceのスイートスポットとなったのだ。

「Teams、Slack 、Workplaceのどれかを選んでもらうのではなく、両方持っていてもいいのではないかと気づいたのです。他の会社はナレッジワーカーのためのリアルタイムのメッセージングコミュニケーションを扱って、Workplaceはそうではないサービスをすべての人のために提供すれば良いのです」と関係者は振り返る。

そして、これが現在の Workplace の戦略の指針となっている。最近では、Microsoft Teams(マイクロソフトチームス)の機能をプラットフォームに統合して補完を行っている他、先に、同社はWhatsAppとの新たな統合を発表した。これはすでに最前線のチームに人気があるのだが、今後はWorkplaceでのコミュニケーションのため、より正式なインターフェースとなるようだ。また、MetaのVR事業とPortal(ポータル)との統合やサービス提供も予定されているという。

同社が最新のユーザー数を公表するのは2022年の後半になる予定だが、ある関係者によるとWorkplaceのユーザー数は現在1000万人近くに達しており、Walmart(ウォルマート)やAstra Zeneca(アストラゼネカ)など世界最大級の企業もその顧客リストに含まれているという。

Workplaceはこれまでに独立型製品として販売されていたこともあるが「今後独立型のアプリケーションとして販売されることはないと思います」と関係者は話している。

その代わりに、例えばビジネスメッセージングとWorkplaceを組み合わせて販売したり、Facebookのログイン機能と組み合わせて販売したりと、Metaにはさまざまな可能性が広がっている(CRMのスタートアップであるKustomer買収の背景には、このような企業への幅広い売り込みがあると思われるが、この買収はまだ完了していない)。

Workplaceを手放す準備などもっての他で、Metaはより大きなSaaSビジネスを構成する足がかりとしてWorkplaceを位置づけているようだ。果たしてMetaは独立会社のように、そのチャンスを逃さずに動けるだろうか。それができなければVCが舞台のそでで出番を待っているのである。

画像クレジット:Workplace

原文へ

(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)

家賃支払いなどでクレジットスコアを構築し「人種間の貧富の差を埋める」フィンテックEsusuが150億円調達しユニコーンに

1億人超の米国人が、毎月の家計で最も大きな支出である家賃に月平均1100ドル(約13万円)、合計で年1兆4000億ドル(約161兆円)以上を費やしている。しかし、報告によると、そのうちの9割の人は家賃を期限どおりに支払ってもクレジット(信用)を得られていない。

さらに踏み込んで見ると、消費者金融保護局の2020年のレポートによると、米国では4500万人超がクレジットスコアを持っていない。この層の多くは、経歴や人種によって経済的に疎外されている。

移民やマイノリティにクレジット構築のための家賃支払い報告やデータソリューションを提供するフィンテックのEsusu(エスス)は米国時間1月27日、シリーズBラウンドで1億3000万ドル(約150億円)を調達したと発表した。

このラウンドで創業4年のEsusuの評価額は10億ドル(約1150億円)に達し、米国で、そして世界的にも数少ない黒人経営ユニコーンの1社になった。ソフトバンク・ビジョン・ファンド2が同ラウンドをリードし、Jones Feliciano Family Office、Lauder Zinterhofer Family Office、シュスターマン財団、ソフトバンク・オポチュニティ・ファンド、Related Companies、Wilshire Lane Capitalが参加した。

移民やアフリカ系米国人は、他の人に比べてクレジットスコアが低いか、そもそもクレジットスコアを持っていない。また、彼らは高利貸しに直面する機会が多く、これにより経済的不安の連鎖に陥っていることが多い。そのため、富を築くのに強力なクレジットスコアを必要としながらも、クレジットを築くための足がかりを持っていない。

Esusuの共同創業者で共同CEOであるナイジェリア生まれの米国人Abbey Wemimo(アビー・ウェミモ)氏とインド系米国人のSamir Goel(サミール・ゴエル)氏は移民家庭で育ち、この金融的排除を身をもって体験した。2人はこの疎外されたグループのクレジットスコアを構築し、家賃支払いを通じて「データ活用による人種間の貧富の差を埋める」ために2018年にEsusuを立ち上げた。

ニューヨークに本社を置く同社は、不動産オーナーや住宅プロバイダーと提携し、全米集合住宅協会(NHMC)のリストにある大手家主の35%と連携している。パートナーには、Goldman Sachs、Related Companies、Starwood Capital Group、Winn Residentialなどがいる。

Esusuは賃借人のクレジットスコアを強化するために、プラットフォームに登録した賃借人の期日までの支払データを取得し、3大信用情報機関(Equifax、TransUnion、Experian)に報告する。これにより、賃借人は時間をかけてクレジットスコアを向上させることができ、不動産オーナーは退去勧告を軽減できる。

Esusuは、不動産管理者とオーナーに3500ドル(約40万円)のセットアップ料と1住居あたり毎月2ドル(約230円)を請求する。一方、賃借人は、年間契約料として50ドル(約5760円)を支払い、家賃支払いデータを信用情報機関に報告する。

Esusuは前年比600%で成長していると創業者2人はTechCrunchに語った。現在、250万戸超の住宅が同社のサービスを利用していて、総リース量(GLV)は米全体で30億ドル(約3460億円)以上だ。同社が半年前に報告した200万戸、総リース量24億ドル(約2765億円)超から増加している。

Esusuが2020年4月に自社プラットフォームで調査を実施したところ、パンデミックの影響により62%のユーザーが家賃を期限内に支払えないことが判明し、同社は家賃救済ファンドを立ち上げた。クラウドファンディングや非営利のインパクト投資ファンドを通じて50万ドル(約5800万円)近くを調達した。

それから2年経った現在もこのプログラムは続いていて、Esusuはその規模を拡大し、何千人もの賃借人を自宅にとどめている。このプログラムには、貸借対照表に17億ドル以上(約1960億円)を計上するほどのパートナーが集まっていると創業者らは語った。

ウェミモ氏とゴエル氏は声明で「私たちは、データを使って人種間の貧富の差を埋め、この国の低・中所得世帯により公平な金融機会を創出するというビジョンを持ってEsusuを設立しました」と述べた。「クレジットスコアを取得し向上させることで、個人、家族、コミュニティが長期的な経済的目標を達成できるようにしつつ、経済的アイデンティティを強化しています」。

Esusuは、チームの拡大(正確には従業員を3倍に増やす)「製品イノベーションによる成長の加速、市場で最も包括的な金融ヘルスプラットフォームの構築」のために調達した資金を使用する計画だ。

2021年7月の1000万ドル(約11億円)のシリーズAラウンドのリードインベスターであるMotley Fool Venturesは今回の新ラウンドで再投資した。その他の既存投資家であるConcrete Rose Capital、The Equity Alliance、Impact America Fund、Next Play Ventures、Serena Ventures、Sinai Ventures、TypeOne Venturesも参加した。Esusuの累計調達額は1億4400万ドル(約165億円)超となった。

今回の資金調達でEsusuは、ユニコーンのステータスを獲得している世界900社超の中で、黒人が主導・所有するスタートアップという切望されている小さなグループに加わる。このグループには、評価額30億ドル(約3460億円)の米国のスケジュールアプリCalendly、英国拠点のフィンテックで50億ドル(約5760億円)と評価されたZepz、評価額12億ドル(約1380億円)のデジタル保険スタートアップMarshmallow、そしてアフリカのフィンテックFlutterwave(評価額10億ドル、1150億円)、Chipper Cash(同20億ドル、2300億円)、Interswitch(同10億ドル)などが含まれる。

原文へ

(文:Tage Kene-Okafor、翻訳:Nariko Mizoguchi

アジアのHRテックプラットフォームDarwinboxがTCV主導で約81.9億円調達、ユニコーンに

投資家が「アジアのSaaS化」と呼ぶトレンドを、人事テックプラットフォームDarwinbox(ダーウィンボックス)がリードする中、同社は新たに7200万ドル(約81億9400万円)の資金調達ラウンドで評価額を3倍以上に引き上げ、ユニコーンになった。

Technology Crossover Ventures (テクノロジー・クロスオーバー・ベンチャーズ/TCV) は、Netflix(ネットフリックス)、Meta(メタ)、Spotify(スポティファイ)、Airbnb(エアービーアンドビー)などの企業を支援することで知られる投資家で、ハイデラバードを拠点とするこのスタートアップのシリーズD資金7200万ドルをリードした。

Lightspeed Venture Partners(ライトスピード・ベンチャー・パートナーズ)、Sequoia Capital India(セコイア・キャピタル・インド)、Salesforce Ventures(セールスフォース・ベンチャーズ)、3One4 Capital(スリーワンフォー・キャピタル)、Endiya Partners(エンディヤ・パートナーズ)、SCB 10Xなどの既存投資家もこのラウンドに参加し、Darwinboxの調達額は過去最高の1億1000万ドル(約125億円)を超え、10億ドル(約1137億円)を超える価値を持つことになったと、創業6年の同スタートアップは述べている。

Darwinboxは、クラウドベースの人材管理プラットフォームを運営している。このスタートアップの名を冠したプラットフォームは、従業員の「採用から退職まで」のサイクルニーズ全体を管理する。Starbucks(スターバックス)、Domino’s(ドミノピザ)、最近デカコーン化したSwiggy(スウィギー)、Tokopedia(トコペディア)、Zilingo(ジリンゴ)、Kotak(コタック)など数百の企業が、新入社員の入社手続きや業績、退職率の把握、継続的なフィードバックループの確立のためにこのプラットフォームを利用している。

今回の資金調達は、Darwinboxが力強い成長を遂げた1年に続くものだ。共同設立者のChaitanya Peddi(チャイタニア・ペディ)氏は、TechCrunchのインタビューで、世界中の企業が従業員と連携し、従業員にサービスを提供するツールを探すのに奔走したパンデミックがDarwinboxの成長を加速させたと語っている。

同スタートアップによると、2021年の収益は2倍になり、全体の収益の約20%を占める東南アジア地域では3倍に成長したという。

チャイタニア・ペディ氏、ジャヤント・パレティ氏、ロヒト・チェンナマネニ氏の3人(写真左から)は、2015年末にDarwinboxを共同設立した。(画像クレジット:Darwinbox)

このスタートアップは、社員同士がつながりを保つためのソーシャルネットワークや、電話からすばやく音声コマンドで休暇申請やミーティングの設定を行うAIアシスタントなど、フルスタックのサービスを提供しており、Gartner(ガートナー)のエンタープライズ向けクラウドHCMのマジック・クアドラントにアジアのスタートアップとして唯一取り上げられるなど、その地位を確立している。

Darwinboxの顧客の3分の1は、以前はOracle(オラクル)やSAP、Workday(ワークデイ)などの定評あるプラットフォームを利用していた人々であることも、この幅広いサービスによって説明できるかもしれない。

TCVのジェネラルパートナーであるGopi Vaddi(ゴピ・ヴァディ)氏は「我々は、非常に共鳴的な製品で大規模な産業を根本から変革しようとしている、先見性のある創業者を後ろで投資できることにとても興奮します」と、声明の中で述べている。

「また、非常にインパクトがあり、急速に進化するHRテクノロジーの分野でまさにそれを実践している優れたチームを支援し、グローバルHCMリーダーへの道をともに歩んでいけることをうれしく思っています」。と語る。

Lightspeed Venture PartnersのパートナーであるDev Khare(デヴ・カレ)氏は、Darwinboxは、アジアから世界へ向けて構築しているスタートアップのコホートの一部であるという。「私は、アジアのSaaS化を強く信じています。アジア向けのSaaS企業の市場には引き合いが増えており、5年前に観察したものとは大きく変わっています」と、同氏は2019年にLinkedInに投稿している。

「なぜアジア向けSaaSがカテゴリーとして存在する必要すらあるのか、疑問に思われるかもしれません。なぜ米国や欧州のベンダーがここで支配し続けることができないのでしょうか?私の考えでは、これらの欧米のベンダーは実際に支配したことはなく、市場のトップをかすめただけなのです。インドやアジアで実際に起こっていることは、パッケージ・アプリケーションのユーザーではなかった企業や、テクノロジーを利用するユーザーではなかった従業員(ブルーカラー労働者など)が、紙ベースのマニュアルプロセスからSaaSへと直接飛び越え始めているということです」と彼は書いている。

Darwinboxは、今回の資金をチームの拡大とグローバル展開のさらなる推進に充てる予定だ。また、製品ラインナップを拡充し、企業が自社の人事テックエコシステムにプラグアンドプレイできるような補助的なサービスやソリューションを多数追加することも目指している。

同社は、他のスタートアップとの合併や買収によって、これらの製品のいくつかを追加することも視野に入れていると、ペディ氏は述べている。

画像クレジット:Darwinbox

原文へ

(文:Manish Singh、翻訳:Akihito Mizukoshi)

フランスでは1月だけで5社のユニコーン誕生、その5社目は企業支出管理プラットフォームSpendesk

フィンテックのスタートアップSpendeskがシリーズCラウンドのエクステンションを発表した。Tiger Globalが1億1400万ドル(約130億8800万円)を投資する。今回の資金調達ラウンドを受けて、同社は評価額が11億4000万ドル(約1308億7200万円)に達したと述べた。

つまり、Spendeskはフランスのテックエコシステムにおけるユニコーンの仲間入りをしたわけだ。フランスではここ数カ月、資金調達のニュースが加速している。2022年1月だけで、スタートアップ5社がユニコーンのステータスに到達したと発表した。PayFitAnkorstoreQontoExotec、そしてこのSpendeskだ。

整備品のスマートフォンや電子機器を販売するeコマースマーケットプレイスのBack Marketも大型の資金調達ラウンドを実施し、評価額は57億ドル(約6540億円)となった。

Spendeskに話を戻そう。同社はオールインワンの企業支出管理プラットフォームをヨーロッパの中規模企業向けに提供している。もともとはオンライン決済用のバーチャルカードを手がけていたが、企業の支出に関するあらゆる事柄を扱えるようにプロダクトを拡張した。

Spendeskを利用している顧客は従業員用の物理カードを注文できる。従業員はこのプラットフォームで未処理の請求書の支払い、経費報告書の提出、予算管理、支出報告書の作成ができる。Spendeskは1つのサービスであらゆることをできるようにすることで、会計や承認全般をシンプルにし、自由にお金を動かせるようにしたいと考えている。

Spendeskは同社プラットフォームを「7in1の支出管理ソリューション」と定義している。つまりSpendeskは従業員用のデビットカードを注文するだけのプロダクトではないということだ。

共同創業者でCEOのRodolphe Ardant(ロドルフ・アルダン)氏は筆者に対し「我々は最初からこのゴールを考えていました。このプラットフォーム、この運用システムで、支出を管理できるようにしたかったのです。プロダクトに取り組み始めた時点で、それぞれのユースケースを考えてそれに合うワークフローを設計しました」と述べた。

特に、Spendeskはきちんとした社内プロセスの確立に役立つ。チームの予算を決め、高額支出の際の複雑な承認ワークフローを構築し、VAT差し引きのような面倒なタスクを自動化できる。

「我々は中規模のクライアントをターゲットにしています。従業員数が50〜1000人の企業です。これより大規模な企業も小規模な企業も、少数ながらクライアントになっています」とアルダン氏はいう。

現在、同社には3500社のクライアントがいる。そのおよそ半数はフランスの企業で、それ以外の大半はドイツと英国の企業だ。2021年だけで、クライアントはSpendeskを通じて30億ユーロ(約3930億円)の支払いを処理した。

Spendeskは財務スタックの中心となる位置づけであるため、一方では銀行、もう一方ではERPプロダクトというように、他の財務ツールと完全に連携する必要がある。

同社は現在、XeroやDatevなどヨーロッパの企業でよく使われている会計ツールの多くに対応している。取引のバッチを書き出して、SageやCegidなどの会計ソフトウェアソリューションに読み込むこともできる。

Spendeskは銀行口座との統合の自動化にも取り組んでいる。これは複数の銀行口座がある企業には特に便利だ。例えばドイツの業者に支払いをする際に、ドイツの銀行口座とSpendeskアカウントの間の振替を自動で実行するルールを設定するといったことが考えられる。

画像クレジット:Spendesk

ヨーロッパにおける支出管理

ヨーロッパにおける支出管理ソリューションはSpendeskだけではない。最近47億ドル(約5381億5000万円)の評価額に達したPleoや、2021年に1億8000万ドル(約206億1000万円)を調達して豊富な資金を有するSoldoなどの競合がある、

米国でも同様に、BrexRampなどの企業が高い評価額に達している。ただしSpendeskは自社が米国のスタートアップと同じ位置づけであるとは考えていない。

アルダン氏は筆者に対し「米国市場では支出管理業界と呼ぶようなものではありません。コーポレートカード業界です。BrexやRampなどのプレイヤーは自社を決済手段と位置づけています。ヨーロッパの企業文化はクレジットではなく引き落としの文化です。我々は決済手段ではなくプロセスを提供しています」と述べた。

プロダクトの位置づけに若干の違いがあるため、ヨーロッパの支出管理スアートアップが米国に進出して成功するか、その逆はどうか、興味を持って見ていきたい。

ビジネスモデルについても、Spendeskは自社を継続サブスクリプションのSaaS企業であると考えている。同社は売上の具体的な数字を共有していない。アルダン氏はSpendeskの売上について「毎年、2倍以上になっている」とだけ述べた。

今回の資金調達ラウンドで、Spendeskは今後2年間で従業員数を3倍にする計画だ。2023年末までに従業員数を1000人にすることを予定している。

画像クレジット:Spendesk

原文へ

(文:Romain Dillet、翻訳:Kaori Koyama)

ソフトウェア販売の未来を加速させるTackleがシリーズCで114億円調達、ユニコーンの仲間入り

アイダホ州に拠点を置くスタートアップで、AWSのようなクラウドマーケットプレイスでソフトウェア企業の販売を支援するTackle.io(タックル・アイ・オー)は米国時間12月21日、シリーズCで1億ドル(約114億円)を調達したとを発表した。CoatueAndreessen Horowitzが共同でラウンドをリードし、Bessemer Venture Partnersも参加した。

Tackleの調達総額は1億4800万ドル(約169億円)に達した。今回のシリーズCで12億5000万ドル(約1425億円)と評価され、ユニコーンになった。報道関係者に送った文書で、その数字は、わずか9カ月前に3500万ドル(約40億円)を調達したシリーズBにおける非公表の評価額から「大幅に上昇」したと説明されている。

Tackleによると、新しい資金は製品ロードマップの遂行加速、GTM(Go to Market)チームの拡大、グローバルリーチの拡大、イノベーションの継続に使う予定だという。かなり長いリストだが、1億ドル(約114億円)あれば可能かもしれない。

だが、リストは少し漠然とした感じがするため、Tackleが何に取り組んでいるのか、より深く掘り下げてみたい。

筆者の同僚であるRon Miller(ロン・ミラー)が2020年3月に報じたところでは、同社は、よくあるように、起業家のかゆいところに手が届く会社としてスタートしたという。Tackleの共同創業者でCTOのDillon Woods(ディロン・ウッズ)氏が以前勤めた複数の会社で気づいたのは、AWSのマーケットプレイスに製品を投入するためには、2名のエンジニアを専属にしても数カ月かかり、しかも毎回似たようなタスクの集合になるということだ。

Tackleは、独立系ソフトウェアベンダー(ISV)が、Amazon(アマゾン)のAWS、Microsoft(マイクロソフト)のAzure、Google Cloud Platform、IBM傘下のRed Hatといった主要なクラウドマーケットプレイスに載るためのソリューションを考え出し、これを解決した。

あなたはまだ気づいていないかもしれないが「クラウドマーケットプレイスはソフトウェアを売るための単なるチャネルの1つではなく、唯一のチャネルになりつつある」と、a16zのMartin Casado(マーチン・カサド)氏は2020年3月に書いている。同氏は、a16zがTackleのシリーズBラウンドをリードしたときに同社の取締役会に参加した。a16zはこのスタートアップをカテゴリーリーダーとして見ている。「Tackleは、企業がクラウドを通じてソフトウェアを販売することを可能にするリーディングプレイヤーです」と同氏は話す。

カサド氏は当時、Tackleの顧客数は200社以上だと述べていた。その数は、現在350社に増えているという。この中にはAppDynamics、Auth0、CrowdStrike、Dell、Gitlab、HashiCorp、Looker、McAfee、NewRelic、Okta、PagerDuty、Talend、VMwareといった会社がある。

顧客はスタートアップから成熟した企業まで多岐にわたるが、共通しているのは、ソフトウェアを作っているということだ。では、なぜ彼らは「ゼロエンジニアリング」ソリューションを使って、マーケットプレイスの統合を構築・維持するのだろうか。Tackleによれば「ソフトウェア会社はソフトウェアを売るためにソフトウェアを作る必要はない」ためだ。ソフトウェア会社の人的資源は別のところに使った方が良いというわけだ。

Tackleの顧客であるローコードプラットフォームOutSystemsの、Robson Grieve(ロブソン・グリーブ)氏はこう話した。「Tackle Platformは、マーケットプレイスの活用をプロダクトやエンジニアリングチームにとって邪魔なものではなく、ビジネス上の意思決定にしてくれます」。

このビジネス上の意思決定、つまりクラウドマーケットプレイス経由の販売は、ますます一般的になりつつある。

Bessemerは「State of the Cloud 2021」レポートの中で、ニューノーマルの下でGTMを行う企業にとって、クラウドマーケットプレイスの採用はベスト3に入る施策だと強調する。ベンチャーキャピタルである同社は、シードラウンドからTackleに投資している。2020年に725万ドル(約8億3000万円)のシリーズAラウンドをリードし、その際にパートナーのMichael Droesch(マイケル・ドローシュ)氏が取締役に就任した。

知り得る限り、Tackleに投資していない同業のベンチャーキャピタルのBattery Venturesも、その見解を支持している。Battery Venturesは「State of the Open Cloud 2020」レポートの中で、新しいクラウドマーケットプレイスを活用して顧客を発見し、開拓することを業務上のベストプラクティスとして挙げている。

TackleのState of the Cloud Marketplaces Reportで、67%の調査対象者が、2022年に市場参入の手段としてのマーケットプレイスにさらに投資する予定だと答えた。また、このレポートは、クラウドマーケットプレイスでの取り扱い金額が2023年末までに100億ドル(約1兆1400億円)を、2025年末までに500億ドル(約5兆7000億円)を超えると予測している。

クラウドマーケットプレイス台頭の背景には複数の要因があるが、要は、B2B販売がB2C販売のようになりつつあるということだ。「Tackleは、クラウドマーケットプレイスとデジタル販売への移行を加速する、あらゆる販売者を支援する最適なポジションにいると確信しています」とCoatueのゼネラルパートナーであるDavid Schneider(デービッド・シュナイダー)氏は述べた。同氏は、今回のラウンドの後、オブザーバーとしてTackleの取締役会に参加する。

もちろん、Tackleの収益についてもっと知りたいところだが、同社は2021年にARR(年間経常収益)を倍増させたとしか述べていない。「Tackleにとって2021年はとてつもない年でした」とCEOのJohn Jahnke(ジョン・ジャンケ)氏は語った。2022年にはいよいよ「爆発的な成長が期待できる」という。

確実に成長するといえるのは、同社のチームだ。2021年、従業員は56人から160人に増え、2022年には倍増させる計画だ。

画像クレジット:Tackle

原文へ

(文:Anna Heim、翻訳:Nariko Mizoguchi

中南米のeコマースアグリゲーターMeramaが創業わずか1年でユニコーンに

最近、中南米のeコマースアグリゲーターへの投資が絶好調だ。

中南米でデジタルブランドの買収、立ち上げを行っているMerama(メラマ)は、シリーズBをリードしたAdvent InternationalとSoftbankから6000万ドル(約68億円)の追加投資を受け、設立後わずか1年で評価額12億ドル(約1361億円)を達成した。そしてこのわずか1日前には、中南米eコマースアグリゲーターのQuinio(キノ)が30社を買収するために、初の資金調達で2000万ドル(約22億7000万円)を獲得した。

今回の追加投資は、9月に発表され、メキシコ・ブラジル拠点企業の評価額を8億5000万ドル(約964億円)へと押し上げた2億2500万ドル(約255億2000万円)のシリーズBラウンドに続くものだ。当時同社はこれを「中南米で実施された史上最大のシリーズBラウンド」と豪語した。

TechCrunchが初めてMeramaを紹介したのは2021年4月で、負債と株式合わせて1億6000万ドル(約181億4000万円)をシードおよびシリーズAラウンドで獲得して、eコマースアグリゲーターの世界に飛び込んだ。同社の調達総額は4億4500万ドル(約504億7000万円)で、うち3億4500万ドル(約391億2000万円)が株式、1億ドル(約113億4000万円)が負債による。

同社の共同ファウンダーは次の5人で、CEOのSujay Tyle(スジャイ・タイル)氏は、Frontier Car Groupの共同ファウンダーで元CEO。Felipe Delgado(フェリップ・デルガド)氏はBeetmann Energyの元CEO、Oliver Scialom(オリバー・シャロム)氏はPetsyの共同ファウンダーで元CEO、Renato Andrade(レナト・アンドレード)氏はMcKinseyの元アソシエートパートナー、Guilherme Nosralla(ギルハーム・ノスララ)氏はWildlife Studiosの元グロース責任者だった。

「中南米は世界最速で成長しているeコマース市場ですが、ブランドはほとんと生まれたばかりか存在しない状態です」とタイル氏はいう。「今後5年のうちに、中南米に数十億ドル(数千億円)規模のブランドが複数誕生するとMeramaは確信しています」。

現在。Meramaには180人以上の従業員がいて、メキシコ、ブラジル、チリ、コロンビア、およびペルーにわたり20のブランドを抱えている。2021年は2億5000万ドル(約283億6000万円)以上の商品を販売する見込みで「キャッシュフローは大幅な黒字」になる見込みだとタイル氏は語った。

同社の有力ブランドには、エレクトロニクス会社のRedlemon(レドルモン)、チリのベイビー用品販売会社、Bebesit(ベベシット)などがある。現在850億ドル(約9兆6417億円)の中南米eコマース市場は急成長中であり、2023年には1162億ドル(約13兆1818億円)に達すると予測されている。

デジタルブランドの買収以外に、同社は独自ブランドも立ち上げている他、ブランドが中南米全体で成長するのを手助けするオートメーションとスケーラビリティーのツールも開発している。また、ブランド管理とサプライチェーン自動化のために自社開発している基礎技術を収益化する計画もある。

最新の調達資金は、同社のアルゼンチン、米国への進出を可能にするものだ。Meramaは、Mandaeの元CTO、Danilo Ferrira(ダニロ・フェレイラ)氏をCTOに、MercadoLibreの元マーケットプレイス担当ディレクター、Ignacio Nart(イグナシオ・ナート)氏をブライベート・レーベル担当上級副社長に迎えて幹部チームを強化した。

全体的に見てeコマースアグリゲーターは、過去数年の間に世界中で勢いを増しており、最近では成功した企業が数十億ドルのベンチャーキャピタルマネーを獲得している。前述したQuinoに加えて、今週北京拠点のNebula Brands(ネビュラ・ブランズ)が5000万ドル(約56億7000万円)を調達した。

それ以前には、ヘルスケアブランドに特化した Gravitiq(グラビティック)の参入やHeyday(ヘイデー)の5億5500万ドル(約629億4000万円)のシリーズCがあった。アグリゲーターのビッグネームでは、Amazon(アマゾン)アグリゲーターのThrasio(スラシオ)が10月に10億ドル(約1143億1000万円)の資金調達を発表し、Perch(パーチ)は5月に7億750万ドルの巨額の資金を獲得した。

ThrasioとPerchとは異なり「中南米は成長ストーリーの舞台なので、Meramはごく少数のブランドに絞り、スケーリングと拡張に焦点を当てています」とタイル氏は説明した。ゴールは主要なeコマースカテゴリーそれぞれにカテゴリーリーダーを1つ持つことで、何百というブランドを集約することではありません」。

新たな資金は「中南米初の消費者直販ブランドのためのインキュベーター」と同社がいうMerama Labs(メラマ・ラボ)の設立にも充てられる。この社内インキュベーターは、新たなD2Cブランドをファッション、化粧品、サプリメント、飲料などの部門に創設する。これは複数のカテゴリーでデジタルD2Cブランドを育成し立ち上げるための新しいグロースチャンネルだ。

「当社はインフルエンサーと協力してブランドを作っていきます」とタイル氏は付け加えた。

画像クレジット:Merama

原文へ

(文:Christine Hall、翻訳:Nob Takahashi / facebook

ソフトバンク出資のユニコーンPicsArtがR&D企業DeepCraftを買収、AI・動画編集機能の強化狙って

ソフトバンクが出資しているデジタルクリエイションプラットフォームで、2021年8月にユニコーン企業の仲間入りを果たしたPicsArt(ピクスアート)は、米国時間12月2日、R&D企業であるDeepCraftを買収することを発表した。今回の買収は、現金と株式の組み合わせで、7桁(数百万ドル、数億円)規模の金額とのことだが、正確な条件は公表されていない。

PicsArtは現在、コンシューマーとプロ両方に向けて、写真やビデオ編集をより楽しく、親しみやすいものにするためのさまざまなデジタル制作・編集ツールを提供している。PicsArtは、DeepCraftが持つAI技術分野の人材と、同社のコンピュータービジョンおよび機械学習(ML)における画期的な技術が、PicsArtのAI技術を強化し、近年のPicsArtのサービスにおける動画作成の成長をサポートするものと考えている。また、チームは、PicsArtのAI研究開発部門であるPAIR(PicsArt AI Research)にシニアレベルのリソースを追加して補完するのにも役立つとしている。

アルメニアに拠点を置くDeepCraftは動画・画像処理に特化した企業で、2017年に設立された。ちなみに、PicsArtは同国初のユニコーンだ。DeepCraftの共同創業者であるArmen Abroyan(アルメン・アブロヤン)CEOとVardges Hovhannisyan(ヴァルジス・ホフハニシャン)CTOは、AIと機械学習に20年以上を費やしており、その専門性は地元コミュニティでよく知られている。アブロヤン氏はこれまで、アルメニア共和国ハイテク産業省の副大臣、RedKiteのリードAIアーキテクト、Synopsys(シノプシス)のシニアソフトウェア開発者などを歴任してきた。一方、ホフハニシャン氏は、Synopsysで13年間、シニアR&Dエンジニアとして活躍した。

DeepCraftでは、Krisp、PatriotOne、さらにはアルメニア政府など、多くのクライアントと契約ベースで仕事をしていた。これらの仕事は終了し、チームはエレバンにあるPicsArtのオフィスで仕事を始めることになる。今回の買収により、DeepCraftの機械学習および映像分野のシニアエンジニア8名が、PicsArtに正社員として入社する。

PicsArtは、2018年にEFEKT(旧D’efekt)を買収して動画市場に参入し、近年、利用者が急増している。特に、動画を利用するソーシャルメディアのクリエイターやECショップに同社のアプリが採用されている。2021年、PicsArtのアプリで編集された動画は1億8千万本を超え、前年比で70%増となっている。現在、数千種類のエフェクトと数十種類の動画編集ツールを提供しており、AIやクラウド技術の進化に合わせてこのラインナップを増やしていく予定だという。

PicsArtは、DeepCraftのスキルセットと技術的な専門知識が、2022年に重要な焦点となるであろう動画のサポートを前進させるのにどう役立つかに特に関心を寄せている。

ただし、PicsArtは、今回の買収でDeepCraftから特定のIPを取得するわけではない、と同社はTechCrunchに語っている。

PicsArtは、DeepCraftとはさまざまな技術開発で協力関係にあったため、今回の買収に先立ち、すでに関係を築いていた。

PicsArtの共同設立者兼CTOであるArtavazd Mehrabyan(アルタバズド・メフラビヤン)氏はこう述べている。「DeepCraftはユニークで高度な技術を持つエンジニアのチームであり、当社はすでに1年以上彼らと協力して当社のコア技術を構築してきました。当社の動画機能を進化させるためにさらなる投資を行うにあたり、DeepCraftのチームが動画の未来を築く上で重要な役割を果たすことを確信しています」。

DeepCraftとの取引は、8月に同社がソフトバンク・ビジョン・ファンド2(SVF2)主導で1億3000万ドル(約146億9000万円)のシリーズCラウンドを調達して以来、PicsArtにとって初の買収となる。そのラウンドにより、同社は2019年に約6億ドル(約678億円)だった評価額からユニコーンの地位に引き上げられた。

画像クレジット:PicsArt

原文へ

(文:Sarah Perez、翻訳:Aya Nakazato)

【コラム】ユニコーンを多数輩出、高い潜在能力を持つイスラエルのテックが抱える問題

人口がEUの50分の1ほどしかないイスラエルで、EUと同じくらいの数のユニコーンが誕生しているのは一見すばらしいことだ。奇妙に思えるかもしれないが、このギャップはさらに広がる可能性がある。実際、奇妙なことだ。

テック系エコシステムは弾み車のようなものだ。創業者が会社を売却したり上場したりすると、エコシステムに資金が流れ込むが、これには3つの形がある。1つはいうまでもなく、資本家からの流動性の注入だ。

2つ目の効果は新しい投資家の創造だ。新しく富裕層になった創業者たち(および従業員たち)は最初に家を買ってから、スタートアップへの投資を開始するという話には一理ある。3つ目は、ベンチャー資金は以前にイノベーションを成功させた人材に集まる。これは一種のハロー効果で、イスラエルにもサンフランシスコと同様明白に存在する。

こうしたことは、Google(グーグル)、Uber(ウーバー)、Twitter(ツイッター)などの初期の社員で、投資家や創業者になった人たちに起こった。イスラエルでも同じようなことが起こっている。ただし、イスラエルでは、そうした社員が、自分たちに富をもたらした創業者たちよりもうまくやれると確信していることをはっきりと態度に表すことも珍しくない。

Monday.comやSentinelOneなど、イスラエルのサクセスストーリーとなっている企業で創業10人目の社員になることは、ウーバーやインスタグラムで創業15人目の社員になるようなものだ。ハロー効果という点でも、ウーバーやインスタグラムほどはないものの、確かにある。このように社員から創業者になる人たちには、投資家が求めているスキルとバックグラウンドがある。また、イスラエル人独特の図太さも強みだ。

イスラエルに100ものユニコーン企業(評価額10億ドル[約1128億6000万円]以上の多くはテック系の株式非公開企業)が誕生している理由もそこにある。人口ではイスラエルよりも圧倒的に多い欧州だがユニコーン企業は125社しかない。イスラエルのこの成功は奥が深いので説明が必要だろう。

起業家にとっては、欧州のビジネス文化はイスラエルに比べてリスク回避的だ。過去の成功に基づいて評価するからだ。EUの大半の国では、もっと簡単に確実にもうける方法はいくらでもあるが、イスラエルでは、古い考え方にあまり縛られていないため、テック系起業家への道は魅力的だった。

こうしたパラダイムは、真の平和というものを経験したことがなく、大部分が移民とその子どもたちで構成されているまとまりのない社会には適していた。イスラエル人の冒険精神、そしてそれに通じるイノベーションや起業家精神の根本にはこうした要因がある。それに加えて、警備産業や軍事産業によって推進されたテクノロジーもある。これは、戦争、解体後のソビエト連邦からの移民の大量流入などによってもたらされた。

新しい要因としては、新型コロナウイルス感染症がある。イスラエルは、早期にワクチン接種を行ったことと、外部のテック分野(おそらく労働人口の10分の1を占める)がリモートワークに適していたため、パンデミックから何とか強く抜け出すことができた。また、パンデミック期間中、イスラエルには大量のVC資金が流入した。

こうしたことが最高のタイミングで起こっている。イスラエルの企業は、サイバー、フィンテック、SaaSなどの分野ですでに自分より格上の企業と張り合っており、フードテック、アグリテック、宇宙テクノロジー、そしてもちろんワクチンなどの分野でも大きな可能性を示している。

しかし、この辺りから見通しが少し怪しくなってくる。大きな障害がこうしたイスラエルの潜在能力の実現を阻害している可能性がある。

表面上は、イスラエルは産業に供給できる十分な労働力を備えているように見える。実際、このデータが示している通り、この国には1万人ごとに135人の科学者とエンジニアがいる。これは先進諸国中で一番の数字だ。しかし、急成長中のテック分野の需要に応えるにはそれでも足りない。

Israel Innovation Authority and Start-Up Nation Central発行の2020 High-Tech Human Capital Reportによると、テック企業の60%が人材の確保に苦労しており、イスラエル国内には現在、1万3000件のテック関連求人があるという。最近のさまざまな調査で慢性的なエンジニア不足が報告されている。9月現在で、1万4000人のエンジニアの求人があるという。

エンジニア不足のせいでエンジニアの賃金が上がっており、イスラエルのエンジニアの賃金は先進諸国中で最も高くなっている。こうした状況の中、リモートワークの時代にあって、企業側はウクライナやルーマニアなどから労働力を調達している。これは「スタートアップ国家」という特製ソースの瓶詰めを続けるにはあまり良い兆候ではない。

悪い方向に進んでいることは他にもある。イスラエルの学生の国際テストにおける数学、科学、国語の成績が他国と比較して急低下しているのだ。政治的大変動が主な原因だが、後続政権は、数学をまったく教えないことが多い宗教色の非常に強い学校の制限なしの成長を許している。

これは、超伝統派の急速な拡大という広範な問題と関係している。超伝統派では、男性の半分はフルタイムで宗教の研究を行い(残りの半分の多くは膨大な宗教関係の業務をこなしている)、女子は1人平均7人以上の子どもを育てることに専心する。テック経済に相応の寄与をしていないもう1つのセクターとして、イスラエルのアラブ系市民がある。アラブ人コミュニティは伝統的に権限が低く資金不足のコミュニティで、犯罪率も高い。

すぐに思いつくアプローチとして、超伝統的ユダヤ人とイスラエルのアラブ系市民を統合して、より広範なイスラエルを形成し、あらゆる道具を与えるようにすることだろう。イスラエルのアラブ系市民の街と学校の資金不足はなくし(2021年から少しずつ始まっており、アラブ系政党が新連合に参加している)、政府はアラブ系コミュニティで蔓延する犯罪を厳しく取り締まるよう警察に命令する必要がある。数学や科学を教えない学校に対しては資金の提供を拒否すべきだろう(これは超伝統派を統合するために必要な多くのステップの1つだ)。

イスラエル政府は官民協力体制のイニシアチブを取って(過去に有望なスタートアップを生み出し資金を提供したときと同じアプローチ)、教育システムの改善を推し進める必要がある。目標は同じで、経済を加速することだ。イスラエルはアイアンドームを建設し反対派に対処したときと同じ活力で教育問題に取り組む必要がある。

考えられる取り組みとして、STEM(科学、テクノロジー、エンジニアリング、数学)教育の改善がある。具体的には、教師の待遇改善、親による教育への積極介入の制限、さらには、Fullstack Academyや外部のコーディング専門学校などの外部プログラムに奨励金を給付してイスラエル国内に学校を設立する、Wixなどのテック大手と協力してシリコンバレースタイルのキャンパスで自国の人材を育成するといったことが考えられる。

学生にコーディングやプログラミングを教えることを早期に始めてもらうようにすれば、研究開発や認知分野を重視している軍の部門にも役立つ上、新しい人口グループに求人対象が広がり、テック分野の新しい社員が生まれることになるだろう。

これらはどれも簡単ではないが、現状に満足していては高い代償を払うことになる。何もしないで最善を望むのは、ただ何もしないよりなお悪い。それでは、不可思議な運命によってイスラエルに授けられた途方もない才能を無駄にしてしまうことになる。

画像クレジット:matejmo / Getty Images

原文へ

(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)

自動運転ユニコーンMomentaがシリーズCに約567億円を追加、中国AD分野では今年最大のラウンドに

MomentaのCEOであるCao Xudong(カオ・シュドン)氏とGM China社長のJulian Blissett(ジュリアン・ブリセット)氏(画像クレジット:Momenta)

9月にGeneral Motors(GM、ゼネラルモーターズ)から3億ドル(約340億円)の投資を受けた中国発の自動運転ソリューションプロバイダーであるMomentaは、中国時間11月7日、シリーズC追加ラウンドで5億ドル(約567億円)を調達したと発表した。

この新たな資金調達により、同スタートアップのシリーズCの総額は10億ドル(約1134億円)を超えた。Momentaは、GMなどの自動車メーカーやBosch(ボッシュ)などのTier1サプライヤーに先進運転支援システム(ADAS)を提供する一方で、真の無人運転、すなわちレベル4走行の研究開発を行うという、同社が言うところの二足のわらじ戦略をとっている。

このスタートアップには、中国の国有企業であるSAIC Motor(上海汽車集団)、GM、トヨタ、メルセデス・ベンツ、Boschなど、ヘビー級の戦略的投資家が集まっている。機関投資家としては、シンガポールの政府系ファンドであるTemasek(テマセク)や、Jack Ma(ジャック・マー)氏のYunfeng Capital(云锋基金)などが名を連ねている。

Momentaは、自動車メーカーとの提携により、自社でロボタクシーを開発するという資金のかかるルートを選択した他社との差別化を図っている。その代わりに同社は、自社のソリューションを搭載した量産車のネットワークからデータを得ることを重要視している。Pony.ai(小馬智行)とWeRide(ウィーライド、文遠知行)は最も近いライバルだが、彼らも多額の資金を調達している。

GMとの提携の場合、Momentaのソリューションは、コンシューマーグレードのミリ波レーダーと高精細カメラを組み合わせたもので、米国ではなく中国で販売されるGMの車両に搭載される。Momentaは最近、ドイツのパートナー企業との関係強化のために初の海外オフィスをシュトゥットガルトに開設したが、これはMomentaの技術が自国の市場以外にも広がっていく可能性を示唆している。

画像クレジット:

原文へ

(文:Rita Liao、翻訳:Aya Nakazato)

【コラム】政策立案者や法学者は「ユニコーン恐怖症」を払拭する必要がある

かつて、成功をおさめ一定の成熟点に到達したスタートアップは「一般に公開」され、株式を一般投資家に売り、国の証券取引所に上場し、国家による証券規制の下で「上場企業」としての特権と義務を引き受けるのが常だった。

しかし時代は変わってきている。成功をおさめたスタートアップは今日、株式を上場せずとも大きく成長することが可能だ。少し前まで、民間企業で10億ドル(約1100億円)以上の評価が付けられ「ユニコーン」企業と呼ばれるにふさわしいスタートアップは稀だった。ところが今や800を超す企業がこの基準を満たしている。

法学者はこの事態を憂慮しており、学術論文の中で次のように指摘している。すなわち、ユニコーン企業が上場企業を管轄する制度や規制による制約を受けていないがために、投資家、社員、消費者、また社会全体に害を与えるリスクのある違法行為を起こしやすいのだと。

解決策として提案されているのは、当然のことながら、制度や規制による抑止力をユニコーン企業にも適用する、ということだ。具体的にいうと、学者たちは強制的 IPOs大幅に拡大された 開示義務、ユニコーン企業株の流通市場取引を大幅に増加させるための規制の変更、ユニコーン企業社員に対する 内部告発者保護の拡大、そして大規模な非公開企業に対する 証券取引委員会 による管理強化を提案している。

これらの提案は、学術界の外からも支持を得るようになっている。この動きを支持するリーダーの1人が、最近SECの企業財務部門のディレクターに使命されたところだ。近く大きな変化が起こるかもしれない。

「ユニコーン恐怖症」というタイトルの新たな論文 の中で、私は突然支配的になった、ユニコーン企業は危険な存在であり、大胆な証券規制を新たに設けることによって「飼いならす」必要がある、というこの見解に異議を唱えている。私は主に3つの反対意見を挙げた。

まず、 ユニコーン企業に上場企業のステータスを押し付けるのは有益でないだけでなく、実際には問題を悪化させる可能性があるということ。「マーケティングマイオピア」あるいは「株式市場短期主義」に関する数多くの学術文献によると、上場企業 のマネージャーこそ、過度のレバレッジやリスクを取り、法を遵守するための十分な投資をせず、製品の品質と安全性を犠牲にし、研究開発費やその他の企業投資を削減し、環境を悪化させ、会計詐欺やその他の不正に関与することに対する危険なインセンティブを持っている。

こうしたさまざまな恐ろしい結果を生み出す危険なインセンティブは、ユニコーン企業ではなく上場企業に影響を及ぼしている一連の市場、制度、文化、規制の特徴に起因していると言われている。これには、短期的な株式パフォーマンスに関連付けられた役員報酬、四半期収益予測の実現にむけた圧力(別名「四半期資本主義」)、そしてヘッジファンド活動家からの絶え間ない攻撃の脅威(そしてこの脅威は時に現実になる場合もある)が含まれる。これらの文献が正しい限り、提案されたユニコーン企業改革は、彼らに、危険とされる一連のインセンティブから別のインセンティブへと乗り換えることを強制するだけだろう。

第二に、新しいユニコーン企業規制の支持者は、言葉による巧みなごまかしに支持の根拠を置いている。これらの規制の提唱者は、その論文の中で、ユニコーン企業が独特の危険をもたらすことを示すために「悪名高い」ユニコーン企業、特にUberとTheranosのエピソードと事例研究を中心的に取り上げているのだ。しかも論文の著者は、彼らが提案する改革がこれらの企業によって引き起こされた重大な害をどのように軽減するかをほとんど、あるいはまったく示さないのである。これは、私の論文で詳細に示しているように、非常に疑わしい提案と言わざるをえない。

Theranosについて考えてみよう。Theranosの創設者兼CEOであるElizabeth Holmes(エリザベス・ホームズ)氏は現在、刑事詐欺で裁判にかけられており、有罪判決を受けた場合、連邦刑務所で最大20年の刑に処せられる可能性がある。提案された証券規制のいずれかがこの事例にプラスの違いをもたらした可能性はあっただろうか?ホームズ氏らがメディア、医師、患者、規制当局、投資家、ビジネスパートナー、さらには自らの取締役会まで、広い範囲で嘘をついたという申し立てを聞くと、証券を一部追加して開示しなければならないからといって彼らがもっと正直に振る舞ったとは考えがたい。

空売り筋やマーケットアナリストが潜在的な詐欺を嗅ぎ分けられるようユニコーン株の取引を強化する提案に関してだが、彼らはWalgreensのようなTheranosの上場企業パートナーでショートポジションをとったり、LabCorpやQuest DiagnosticsのようなTheranosの上場競合他社でロングポジションをとったりすることで、間接的にTheranosと対戦する能力とインセンティブをすでに持っていた。しかし、彼らはそうしなかった。同様に内部告発者の保護やこの領域でのSECによる管理を強化するという提案が違いを生む可能性は低いだろう。

最後に、この改革案は有益な結果をもたらすというよりむしろ害を及ぼすリスクがある。成功をおさめたユニコーン企業は今日、投資家、マネジャーだけでなく、社員、消費者、社会全体に利益をもたらしている。彼らがそのように利益をもたらすことができているのは、現行の規制の特質のためであるのだが、現在この特質が窮地に追い込まれている。多くの論文が提案するように現在の体制を変更してしまうと、これらのメリットが危険にさらされるのであり、利益よりも害を及ぼす可能性があるわけである。

近年大きな社会的利益を生み出したModernaについて考えてみよう。2018年12月に上場されるまで、Modernaは市場に1つも製品を出していない(第三相臨床試験中の製品さえない)、秘密主義で、物議を醸しがちな、誇大に宣伝されたバイオテックユニコーン企業だった。さらにModernaは、査読を受けた科学論文もほとんど発表しておらず、高位にある科学研究員の離職率が高いこと、自社のポテンシャルについて度を超えた主張をしがちなCEOがいること、そして有害な職場環境で知られる企業だった。

これらの新たな証券規制案がModernaの「企業としての成長期」に適用されていたとしたら、Modernaの成長が著しく阻害されたであろうと考えられる。事実Modernaは、COVID-19ワクチンをあれほど早く開発することはできなかっただろう。私たちがコロナウイルスパンデミックに対して講じた対策の一部は、ユニコーン企業に対する現行の証券規制アプローチの恩恵を受けているのだ。

Modernaから得られたこの教訓は、気候変動と戦うために証券規制を利用しようとする取り組みとも関連性がある。最近のある報告によると、現在43のユニコーン企業が「気候テック」分野で、世界的気候変動を軽減または対応するための製品やサービスを開発している。これらの企業はリスクを抱えている。彼らのテクノロジーは失敗するかもしれない。おそらくそのほとんどは成功しないだろう。この43社の中には、すでに立場を確立した企業(競争の脅威を排除するためには何でもしかねない強力なインセンティブを持っている)に挑戦しているユニコーン企業もある。また定着した消費者の好みや行動を変えようとがんばっているユニコーン企業もあるだろう。さらに彼らは管轄区域内外で大きく異る不安定な規制環境に直面してもいる。

他のユニコーン企業と同様、要求のきつい、無責任で救世主気取りの、強力な権限を持った創設者CEOが社を率いていることもあるだろう。彼らの中心的投資家が、製品の基礎となる科学を十分理解していない、基本的情報へのアクセスを拒否されている、天文学的結果を達成するためにリスクを取るよう企業に圧力をかける、そんな性質を持っていることもあるだろう。

しかし、これらの企業が気候変動による混乱に対処する上で、社会の重要なリソースになる可能性もある。政策立案者や学者は気候変動への対応に証券規制をどのように利用できるか検討している最中であるが、彼らには、ユニコーン企業に対する規制が果たすであろう潜在的重要性をゆめ見落とさないようにしてもらいたい。

編集部注:本稿の執筆者Alexander I. Platt(アレクサンダー・I・プラット)氏はカンザス大学ロースクールの准教授。

画像クレジット:Karolina Noring / Getty Images

原文へ

(文:Alexander I. Platt、翻訳:Dragonfly)

ソフトバンクも支援するFlock Freightが運送・貨物業界で新たなユニコーンに

新型コロナウイルスの影響による混乱などが、サプライチェーンのボトルネック問題を浮き彫りにしたこともあり、国際的な運送・貨物業界はかつてないほどの注目を集めている。トラック輸送の物流企業であるFlock Freight(フロック・フレイト)は、世界的なサプライチェーンの危機を解決することはできないが、商品をより早く、より無駄を減らして目的地に届けることには貢献できるはずだ。

同社はシリーズC資金調達を終えてから1年も経たないうちに、SoftBank Vision Fund 2(ソフトバンク・ビジョン・ファンド2)が主導するシリーズD投資ラウンドで2億1500万ドル(約245億円)を調達し、10億ドル(約1140億円)を超える評価額を得て、業界で最も新しいユニコーンとなった。

Flock Freightは「FlockDirect(フロックダイレクト)」と呼ばれるソフトウェアを活用した「シェアード・トラックロード(共有トラック積荷)」サービスを開発している会社だ。これはつまり、同じ方向に向かう荷物を集めて運ぶ、荷主のための相乗りサービスと考えればいいだろう。これによって荷主は、配送の途中で荷物をターミナルやハブで移動させるロスが減らせる。同社は確率的な価格決定アルゴリズムを用いて、同じ方向に向かう複数の荷主から中型貨物をプールする。

Flock Freighによると、このサービスは顧客と運送業者の双方にメリットがあるという。顧客は、積み降ろしの繰り返しや実際には必要のないトレーラーのスペースのために支払うコストを回避でき、運送業者は、自社のトラックの積載を満杯にすることができる。Flock Freightは、40フィート(約12.2メートル)、3万6000ポンド(約1万6330キログラム)以下の貨物を対象とした「プリベート」プログラムという段階的な割引プログラムを用意しており、荷主はさらにコストを削減することができる。

削減できるのはお金だけではない。Flock Freightによると、従来のハブ&スポーク方式輸送に比べて、二酸化炭素の排出量を40%も削減することができるという。同社の試算では、これまでに1万5000トン以上の排出ガスを削減したとのこと。

カリフォルニア州サンディエゴで設立されてから6年が経過したこのスタートアップ企業は、今回調達した資金を事業の拡大と雇用に使うことを目指しており、特にシカゴでは2021年中に新オフィスを開設する予定だ。

ソフトバンクは、Flock Freightの初期から投資しており、2020年の1億1350万ドル(約129億3000万円)を調達したシリーズCラウンドを主導した。今回のシリーズDラウンドでは、この日本の企業に加えて、新たな少数株主としてSusquehanna Private Equity Investments(サスケハナ・プライベート・エクイティ・インベストメンツ)とEden Global Partners(エデン・グローバル・パートナーズ)が参加。また、既存投資家であるSignalFire(シグナルファイア)、GLP Capital Partners(GLPキャピタル・パートナーズ)、Alphabet(アルファベット)傘下のベンチャーファンドであるGVも参加した。

関連記事:運送業者の積荷共有を手配するFlock Freightが119億円調達、ソフトバンクやボルボらが出資

画像クレジット:Shutterstock under a Shutterstock license.

原文へ

(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

【コラム】金利が上昇するとスタートアップブームは下火になるのか?答えはノー(少なくとも大きな影響はない)

Storm Ventures(ストームベンチャーズ)の前パートナーで現在はプライバシー関連企業SkyFlow(スカイフロー)のCEOである投資家兼企業家のAnshu Sharm(アンシュ・シャルマ)氏がツイッターで、利子率とテクノロジー評価の関係について質問している

お世辞は無視していただきたい。シャルマ氏はジェフと私を引っかけて彼の質問に答えさせようとしているだけだ。こうして記事にしているのだから、その企みは成功したわけだが。

シャルマ氏はテクノロジーサイクルと資本の流れ、そのどちらにも豊富な経験がある人なので、上の質問を一般的な質問と考えてはいけない。彼はもっと深い話がしたいのだ。そこで、利子率とテック企業の評価額について深く探ってみよう。

履歴

スタートアップが必要なだけ資金を調達できる(調達資金総額は史上最高に達している)理由の1つとして、今日の低金利がある。

今は世界的に利子率が低い。つまりお金の価値が低いのだ。お金の価値が低いということは、あまりコストをかけずに資金を調達できるということだ。例えばCoinbase(コインベース)は現時点で負債によって20億ドル(約2244億円)を調達しており、2回分割返済となっている。1回めの返済期限は2028年で利子率は3.375%、2回めは2031年で利子率は3.625%だ。コインベースは、投資側の低利子率のおかげで目標調達額を15億ドル(約1683億円)から20億ドルに引き上げた。お金の価値が低いので、コインベースは、低リスクで高利子率の投資先を見つけることができない投資家から何回にも渡って資金を調達している。

お金が価値が低いということは、ファンドを形成してお金を貸し付けても多くの利益を期待できないということだ。このため現在の債権利回りは極めて低い。これはコインベースなどの企業にとっては有利だが、高利回りを求めるキャピタル・プールにとっては不利だ。こうしてだぶついた資本が、ベンチャーキャピタル市場など他の領域でより高い収益率を求めて、投資先を探している。資金が豊富にあるため、VCは従来よりも大規模なファンドを形成し短期間で資金を調達できる。また、これまで見られなかった投資家たちがスタートアップ市場に参入できるようになっている。

昨今のユニコーンブームは、このような調達コストの安い資金を前提としている部分がかなり大きい。

しかし、何事も永久には続かない。米国政府は市場刺激策としての債権購入量の削減開始を準備している。結果として、FF金利の目標範囲が上がり米国内の資金調達コストが上昇しており、一部の資産が輝きを失い始めるという予想もある。

資金調達コストが上がれば、資本家は貸付によってより多くの利益を生むことができるため、ベンチャー投資はリスク / リワード比という点であまり魅力的ではなくなる。あくまで理論上はそうだ。と同時に、株価も変わってくる。最低レベルの利子率により、投資家たちは、成長志向の会社の株を買い占めるようになる。そうした会社のほうが評価が高くなるため、同額の投資を低成長の会社に対して行うよりも有利になるからだ。

こうした傾向が2020年夏に最高潮に達した頃、多くの業界が新型コロナウイルス感染症の早期感染防止のため大打撃を受けたが、ソフトウェア関連株は、企業収益の増大という見地から依然として高利回りを追求する方法を提供していた。これは、定期クーポンの支払いではなく市場価格の向上によって支払われるものだ。

悪くない。

非常に広い意味では、利子率の上昇によって、競合資産分配の魅力が増し、ベンチャーキャピタルファンドへの資本の注入があまり魅力的でなくなるはずだ。また、利子率が上昇すると、成長による評価価値の向上に基づいて公開株を取引する魅力が薄れる。成長企業株以外の株が再度注目されるようになるからだ。

上記の議論の後半部分は技術的に説明できる。以下にシャルマ氏のツイッターのスレッドから一部を引用する。

しかし、シャルマ氏は上記のような答えを求めているのではない。そうではなく、従来的な考え方に疑問を抱いているのだ。本当にそうなのだろうか、と彼は問いかける。Amazon(アマゾン)やSalesforce(セールスフォース)といったテック関連株は利子率が上昇すると本当に価値が下がるのだろうか、と。シャルマ氏の見方では、ソフトウェアやeコマースのTAM(獲得可能な最大市場規模)が拡大したために、上記2社の価値が以前よりも上昇したわけだが、資本調達コストが上がったからといって、その上昇分が消えてなくなることなどあるだろうか。

ここで議論を行うには、絶対額ではなくベーシスポイントで考える必要がある。利子率はゆっくり変化する。お金の価値を急に変化させるような政府が存在するとは思えない。変化は徐々に、かつ慎重にやってくる。

地合いが変わって関連資産の価格が変動したり、構造的な変革よりも極端な結果に終わる場合はともかく、利子率が上昇し始めたときに今日の市場の基本的なダイナミクスが大きく変わると思うべきではない。もう少し簡単にいうと、連邦目標金利が25ベーシス・ポイント変わったくらいでは、規則的かつ急速にさらなる上昇が予想されないかぎり、大した意味はない。

アマゾンとセールスフォースの価値は、お金の価値が徐々に上がり始めても、おそらく大きく変動しないはずだ。利子率が5%に達するとアマゾンの時価総額は他の資産の価値との関連でおそらく低下するだろう。だが、それはセールスフォース等の価値低下需要というより、どちらかというと相対的な変化だ。

シャルマ氏は基本的なケースについては納得している。彼はソフトウェア関連株を買っている。しかし、彼の質問は良い点を突いており、よく検討してみる価値がある。ソフトウェアの価値とソフトウェア投資ブームを実現している基本的な要因が本当に変化したら、ソフトウェア企業の時価総額にどのくらい迅速に反映されるのだろうか(別の言い方をすると、成長志向型収益を他の資産や現金と比較したときの相対的な価値とSaaSへの資金注入を促進している要因が変化した場合、そうした要因の変化はどのくらい迅速に結果に反映されるのだろうか)。

お金の価値に対する初期の増分変化によってテック関連企業の評価総額が劇的に変化すると考えている人たちは、そうした変化を大げさに受け取っているのではないかと思う。

現在のスタートアップブームとその継続可能性について、The Exchangeが数週間前に次のような記事を掲載した理由もそこにある。

大規模な経済圏で資本の再分配が起こる可能性よりも、ある程度確実に言えると思うのは、現在のスタートアップブームを終わらせるにはかなり大きな衝撃が必要になるということだ。製品需要とファンド形成への関心の組み合わせは投資の意思決定を促す最強の組み合わせだ。収益を追い求める資本と資本を必要とする高成長企業というまさに最高の組み合わせだ。

また、この記事のために話を聞いた多くの投資家たちは、創業者と投資先であるスタートアップの質について強気だった。市場の需要と資本が存在していたというだけでなく、資本の助けを借りて市場の需要に答えるために構築されているものが、少なくともスタートアップに対して数百万ドル(数億円)から数億ドル(数百億円)の小切手を切る投資家たちの観点からすると、極めて質が高いのだ。

すべてのビジネスサイクルは循環する。上昇したものはいつかは下降する。スタートアップ関連株やテック関連株をより広範に買い求める動きは元通りというわけにはいかず、少し弱くなる可能性が高いだろう。もちろん、何か新しいテクノロジーが登場すれば、話は別だ。

画像クレジット:Getty Images

原文へ

(文:Alex Wilhelm、翻訳:Dragonfly)