米Huluがオンデマンドサービス月額料金を10月8日から約110円値上げ

2020年のLive TVサービス値上げに続き、Hulu(フールー)は今、再度の値上げを準備中だ。10月8日からオンデマンドプランのHulu、Hulu with No Adsの価格を上げる。しかし2つのLive TVプランで月額10ドル(約1100円)を超える前回の値上げと違って、今回の値上げ幅はわずか1ドル(約110円)だ。

つまり広告が入るバージョンは月額5.99ドル(約660円)から6.99ドル(約770円)に、Hulu with No Adsは月額11.99ドル(約1320円)から12.99ドル(約1430円)にアップする。この新料金は既存会員と新規会員のどちらにも適用される。10月の値上げは同社のLive TVサービスや、HuluがDisney+とセットになっているプランには影響しない(Disneyは2019年にComcastの持分を買収してHuluを完全子会社化した)。

今日ではHuluはDisney+とESPN+とともに月額13.99ドル(約1540円)で提供されている。HuluのライブTVのマーケットに含まれていない人にとって、Hulu独立サービスの価格でのわずかな変動ではセットサービスが魅力的なものに映るかもしれない。

Huluのオンデマンドサービスは同社の会員数の大部分を占めている。2021年8月に発表されたDisneyの会計年度第3四半期決算では、Huluのオンデマンドのビデオサブスクの会員数は前年同期比22%増の3910万人に達した。その一方でLive TVサービス(オンデマンドサービスを含む)の会員数はわずか同9%増の370万人にとどまった。合計でHuluの会員数は同21%増の4280万人だった。

関連記事:Disney+の第3四半期の契約者数は予想を上回る1億1600万人、アジア市場が下支え

しかしながらこの数字はDisney+よりも緩やかな成長だ。Disney+の会員数は2020年第3四半期の5770万人から、2021年第3四半期には1億1600万人へと大幅に増加し、前年比成長率は100%を超えた。

Disney+のESPN+を含め、同社の消費者直接取引事業の会員数は第3四半期末までに計1億7400万人近くになった。

しかし、Huluは会員数でDisney+の後を追っているが、ユーザー1人あたりの月間事業収入(ARPU)ではDisney+を上回っている。

第3四半期にARPUは、Disney+ Hotstar会員との混合割合が前年同期よりも増えたために、4.62ドル(約510円)から4.16ドル(約460円)へと減少した、とDisneyは述べた。一方、HuluのオンデマンドサービスのARPUは11.39ドル(約1260円)から13.15ドル(約1450円)へ増加し、Live TV サービス(+SVOD)は68.11ドル(約7510円)から84.09ドル(約9270円)へと成長した。

Huluのオンデマンド事業には、使用権が与えられたコンテンツと、新作品「Nine Perfect Strangers」「Only Murders in the Building」「Vacation Friends」のようなオリジナルのプログラムが含まれる。同社はまた、9月1日に何千ものHotstar Specialsとボリウッドのヒット作品を加えたばかりだ。

関連記事
米HuluでライブTVにバイアコムCBSとの契約合意で14の新チャンネル追加
米Huluがみんなで一緒に楽しむ共同視聴機能Watch Partyを正式にローンチ
Huluが米国でのLive TVサービス料金をさらに約18%値上げ、12月18日から
画像クレジット:Hulu

原文へ

(文:Sarah Perez、翻訳:Nariko Mizoguchi

米連邦取引委員会がスパイウェアSpyFoneを禁止措置に、ハッキングされた被害者に通知するよう命令

米連邦取引委員会(FTC)は全会一致でスパイウェアメーカーのSpyFone(スパイフォン)を禁止し、同社のCEOであるScott Zuckerman(スコット・ズッカーマン)氏を監視産業から追放することを決めた。この種の命令は初で、同社が多くの人のモバイルデータを収集してインターネット上に放置していたことを受けての措置だ。

SpyFoneは「隠されたデバイスを通じたハックで密かに人々の身体の動き、電話使用、オンライン活動に関するデータを集めて共有」し、スパイウェア購入者が「デバイスのライブの位置情報を確認したり、デバイスユーザーの電子メールやビデオチャットを閲覧できるようにしていた」とFTCは述べている。

SpyFoneは、ペアレンタルコントロールを装ってマーケティング活動し、往々にして既婚者がパートナーをスパイするのに使う、数多くのいわゆる「ストーカーウェア」アプリと呼ばれるものの1つだ。スパイウェアは、誰かのスマホに密かにインストールされることで機能する。多くの場合、許可なくメッセージや写真、ウェブ閲覧履歴、リアルタイムの位置情報を得るために使われる。FTCはまた、SpyFoneが被害者にさらなるセキュリティリスクを与えたと非難した。SpyFoneはスマホの「根幹」レベルで作動し、これによりSpyFoneがデバイスのOSの立ち入り禁止部分にアクセスできるからだ。SpyFoneのプレミアム版にはキーロガー(キー入力監視プログラム)や「ライブスクリーン視聴」が含まれていた、ともFTCは指摘する。

関連記事:すべてを監視するストーカーウェア「KidsGuard」から個人データが大量に漏洩

FTCは、SpyFoneの「基本的なセキュリティの欠如」がそうした被害者のデータを流出させた、と述べた。スパイウェアが被害者2000人超のスマホから収集していたデータを垂れ流していた安全でないAmazonのクラウドストレージサーバーのためだ。SpyFoneは調査のためにサイバーセキュリティ会社、法執行当局と協業したと述べたが、FTCはそうした事実はないと述べている。

実際には、禁止措置でSpyFonとCEOのズッカーマン氏は「監視アプリ、サービス、事業の提供、販促、販売、広告」が禁じられることを意味し、同社の事業運営を難しいものにしている。しかしFTCコミッショナーのRohit Chopra(ロヒト・チョプラ)氏は別途出した声明文で、ストーカーウェアメーカーは米国のコンピューターハッキングと盗聴の法律に基づいて刑事罰を受けるべきだと述べた。

FTCはまた「不法に」集めたデータすべてを削除するようSpyFoneに命じ、SpyFoneのアプリが密かにデバイスにインストールされていたことを初めて被害者に伝える。

声明文で、FTCの消費者保護責任者のSamuel Levine(サミュエル・レヴィーン)氏は「今回のケースは、監視ベースの事業が我々の安全やセキュリティにとって大きな脅威になるという重要なリマインダーです」と述べている。

ストーカーウェアを検知して対抗し、また啓発する企業のグループであるEFFは、FTCの措置を賞賛した。EFFは2年前にCoalition Against Stalkerware(対ストーカーウェア同盟)を立ち上げている。「FTCはいまこの産業に注意を向けていて、ストーカーウェアの被害者は規制当局が自分たちの懸念を真剣に受け取り始めているという事実に慰めを見出すことができます」とEFFのEva Galperin(エヴァ・ガルペリン)氏とBill Budington(ビル・バディントン)氏はブログ投稿で述べた。

ストーカーウェアメーカーに対するFTCの禁止措置は今回が2例目だ。FTCは2019年に、Retina-Xが何回かハックされ、最終的に業務を停止した後に同社と和解した。

過去、mSpy、Mobistealth、Flexispyなどいくつかのストーカーウェアメーカーがハックされるか、うっかり自らのシステムを露出した。また別のストーカーウェアメーカーであるClevGuardはハックされた何千人という被害者のスマホのデータを野ざらしのクラウドのサーバーに置いていた。

もしあなた、あるいはあなたが知っている人が助けを求めているなら、National Domestic Violence(全国家庭内暴力)ホットライン (1-800-799-7233) が24時間無料で内々のサポートを家庭内虐待・暴力の被害者に提供している。緊急事態であれば911に通報を。

この記事を読んで思うところがあったり、筆者に伝えたいことがあれば、SignalかWhatsAppを使って+1 646-755-8849まで、あるいは電子メールzack.whittaker@techcrunch.comで連絡して欲しい。

関連記事
スパイウェア「Pegasus」が政府批判を行う女性ジャーナリストのスマホから写真を盗むために使われた疑惑が浮上
45カ国と契約を結ぶNSOのスパイウェアによるハッキングと現実世界における暴力の関連性がマッピングで明らかに
MicrosoftやGoogle、CiscoなどがWhatsAppスパイウェア訴訟でイスラエルのNSOに抗議
画像クレジット:Jake Olimb / Getty Images

原文へ

(文:Zack Whittaker、翻訳:Nariko Mizoguchi

中国当局が米国在住のウイグル人をハッキングしているとFBIが警告、一般にも捜査協力求める

FBIは、中国政府が直接訪問とデジタル戦略両方の手法を使って、米国在住のウイグル人イスラム教徒を脅迫し、口を封じ、嫌がらせ行為を行っていると警告を発している。

中国政府は、中国の新疆ウイグル自治区に住むウイグル人やその他の主にイスラム教徒の民族に対する扱いについて、長年にわたり人権侵害を指摘されてきた。国連の人権委員会によると、これまで100万人以上のウイグル人が収容所に拘留されており、その他多くのウイグル人が国家に支援されたサイバー攻撃によって標的にされ、ハッキングされているという。中国はこの主張を繰り返し否定している。

関連記事:iPhoneハッキングは中国政府によるウイグルのムスリム攻撃の疑い

ここ数カ月、中国政府は、米国をはじめとする西側民主主義諸国に拠点を置く海外の政府批判者を封じ込めるための活動をますます積極的に行っている。これらの取り組みが、FBIの目に留まった。

FBIは非機密の公報の中で、中国政府関係者が「transnational repression(トランスナショナルリプレッション、国境を越えた抑圧)」を行っていると警告している。これは、外国政府が国境を越えて、物理的、デジタル的な手段でディアスポラや亡命コミュニティのメンバーを脅したり、口止めすることを指す言葉だ。米国在住のウイグル人をはじめ、チベット人、法輪功修練者、台湾・香港の活動家など、中国人難民や反体制派の人々に中国政府への服従を強要しようとしているという。

「従わなかった場合の脅しとしては、米国在住者の家族や友人の中国国内での拘束、中国国内の資産の差し押さえ、継続的なデジタルおよび対面での嫌がらせ、中国政府による強制送還の試み、コンピュータのハッキングやデジタル攻撃、オンラインID乗っ取りなどが日常的に行われています」とFBIは警告している。

この公報は、ビデオサーベイランスニュースサイト「IPVM」が報じた。

FBIは、米国在住の個人がハラスメントに直面している4つの事例を取り上げた。2021年6月の1件では、中国政府は、米国政府が出資するニュースサービス「Radio Free Asia」で中国とウイグル人への抑圧について報道を続けたことへの報復として、米国在住のウイグル人ジャーナリスト6人の家族数十人を拘禁した。公報によると、2019年から2021年3月にかけて、中国当局はWeChat(ウィーチャット)を使って米国在住のウイグル人に電話したりメールを送り、ウイグル人の虐待について公に議論することを禁じたという。この人物の家族複数人はその後、新疆ウイグル自治区の収容所に拘束された。

「中国政府は、米国政府が2020年、新疆における中国の人権と民主主義の侵害に対抗するため、中国政府関係者を制裁し、公的・外交的なメッセージを増やしたにもかかわらず、このような活動を続けています」とFBIは述べている。「このような国境を越えた抑圧活動は、米国の法律や個人の権利を侵害するものです」とも。

FBIは、米国の法執行機関職員および一般市民に対し、中国政府による嫌がらせの疑いがある事件を報告するよう求めている。

関連記事
今も米国の自治体は中国共産党に関連する監視技術を購入している
顔認証の使用禁止措置や論争にもかかわらず同スタートアップには巨額の資金が注がれている
画像クレジット:Greg Baker / AFP / Getty Images

原文へ

(文:Carly Page、翻訳:Aya Nakazato)

Twitterが有料サブスク「Super Follows」を米国で開始、数週間内にグローバル展開

Twitter(ツイッター)は6月から申し込みを受け付けていたプレミアムなサブスクSuper Followsの提供を米国時間9月1日に開始した。

2月に発表していたこの機能では、ユーザーはお気に入りのアカウントを月額料金を払って購読し、特別なコンテンツにアクセスできるようになる。さまざまなソーシャルプラットフォームで収益化のオプションが増えつつあるが、クリエイターにとってはそこにまた1つツールが加わった格好だ。

関連記事
ツイッターがクリエイターのための収益化ツール「Super Follows」「Ticketed Spaces」を導入
Twitterが同社初となる有料クリエイターサブスク機能「スーパーフォロー」発表、サービスの構造が劇的に変わる可能性

このサービスを利用できるアカウントは、Super Followsサブスクの月額料金を2.99ドル(約330円)、4.99ドル(約550円)、9.99ドル(約1100円)から選んで課金できる。この価格は有料ニュースレターとほぼ同程度だ。クリエイターは一部のツイートを有料購読者だけに公開することができ、その一方で通常のツイートで無料フォロワーにもリーチし続けられる。

画像クレジット:Twitter

有料の購読者には特別のSuper Followerバッジが付けられ、ツイートの海の中で無料フォロワーとは区別される。バッジはリプライに表示され、Super Followerはサポートすることを選んだアカウントと直接やり取りできるようになる。Super Followsを利用しているアカウントは、プロフィールページにSuper Follows専用ボタンが表示される。

Super Followsは誰でも使えるわけではない。当面、申し込み制となっていてウェイトリストがある。申し込みはアプリのサイドバーにある収益化オプションから行える。ただし、フォロワー1000人超を抱え、過去1カ月に25回超のツイートをしている米国拠点のユーザーのみが申し込める。

米国とカナダ拠点のiOS Twitterユーザーは9月1日から一部のアカウントをSuper Followできるようになり、今後数週間以内にグローバルのユーザーにも提供される。クリエイターの側では、Super Followsは差し当たってiOSでのみ利用可能だが、Androidとデスクトップも「間もなく」サポートされる。

Super Followの収入は標準的なものとなるが、Apple(アップル)やGoogle(グーグル)がアプリ内購入手数料として30%を徴収するとTwitterは話す。Twitterは、Super Followsを通じた売り上げに対し、最初の5万ドル(約550万円)までは手数料として3%を徴収する。これから活動を始めようとしているアカウント、あるいは有料のTwitter機能を他のクリエイター収入を補完する方法として活用している人にとって思いやりのある設定だ。売り上げが5万ドルを超えると、Twitterの取り分は20%になる。

Twitterにとって、Super Followsは一般提供につなげる初の収益化実験ではない。同社は5月、Cash Appや他の決済プラットフォームの統合を通じてアカウントが1度限りの支払いを受けられるTip Jarを導入した。テストは差し当たって「クリエイター、ジャーナリスト、専門家、非営利団体」などの対象アカウントに限定して行われている。

8月22日の週には、6月に有料のオーディオルーム機能に申し込んだユーザー向けにTicketed Spacesを導入した。Ticketed SpacesでのTwitterの手数料はSuper Followsと同じ設定で、ユーザーは高機能なチケット発行機能であるTicketed Spacesで1〜999ドル(約110〜11万円)の間で課金できる。

長期間のプロダクト停滞を経て、Super FollowsはTwitterの一連の動きの最新のものとなる。しかし同社はこの12カ月、失敗したFleetsのリリースと提供停止から、導入の兆しが見られる多くの人が何年もの間求めていたいじめ防止機能のようなものに至るまで、忙しくしていた。

ユーザーがプレミアムなコンテンツを提供して課金できるようにすることは、Twitterにとってかなり大きな変化だ。物いう株主がCEOのJack Dorsey(ジャック・ドーシー)氏を追放すると脅すまで、同社はほぼ動かなかった。また、コンテンツ制作でユーザーが稼げるようにするツールを多くのプラットフォームが加えるのにともない、熱が高まっているクリエイター分野への参入もTwitterにとっては大きな動きであり、クリエイターが継続して利用しそのプロセスで収入を生み出せるよう維持することが理想だ。

関連記事
ツイッターが有料の「チケット制スペース」展開をiOSで開始
最後のフリートを急げ!ツイッターの消滅型ストーリー機能がもうすぐ終了
画像クレジット:Twitter

原文へ

(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Nariko Mizoguchi

アップルが「デジタル免許証」をサポートする最初の2州を確保するも、プライバシーに関する疑問は残る

人々のお財布をデジタル化するというApple(アップル)の計画は、徐々に形になってきている。最初は飛行機の搭乗券や会場のチケットだったものが、後にクレジットカード地下鉄の乗車券学生証などに広がった。同社が次にデジタル化することを目指しているのは運転免許証や州発行の身分証明書で、年内に予定されているiOS 15のアップデートでサポートする予定だ。

関連記事
iPhoneやApple Watchでベイエリアの公共交通機関支払いが可能に
アップルは非接触型の学生証の導入をさらに多くの大学に拡大
iOS 15ではさらにセキュリティとプライバシー保護機能が充実

しかし、そのためには州政府の協力が必要だ。というのも、米国で運転免許証やその他の身分証明書を発行しているのは州政府であり、州ごとに身分証明書の発行方法は異なるからだ。Appleは米国時間9月1日、デジタル運転免許証や州発行の身分証明書を導入するために、これまでにアリゾナ州とジョージア州の2つの州との提携を確保したと発表した。

コネチカット州、アイオワ州、ケンタッキー州、メリーランド州、オクラホマ州、ユタ州がこれに続く見込みだが、展開のスケジュールは明かされていない。

Appleは2021年6月に、デジタル免許証とデジタルIDのサポートを開始すると発表した。また、米国内を飛行機で移動する際に必要なのは州発行のIDのみであることから、運輸保安局(TSA)はいくつかの空港でiPhoneからのデジタル免許証の受付を開始する最初の機関となる、とも述べた。TSAのチェックポイントでは、デジタルウォレットをIDリーダーにタップして提示することができるようになる。Appleによれば、この機能は安全で、携帯電話を係員に渡したりロックを解除する必要はないという。

デジタル免許証とIDのデータはiPhoneに保存されるが、運転免許証は参加州による照合が必要だ。何百万人ものドライバーや旅行者をサポートしつつ、偽IDの混入を防ぐためには、それが大規模かつ迅速に行われなければならない。

免許証や身分証明書のデジタル化の目的は、特定の問題を解決することではなく、利便性だ。しかし、この動きはプライバシー専門家からは信頼を得られていない。彼らは、Appleがこの技術をどのように構築し、それにより最終的に何を得るのかについて、透明性に欠けていると嘆いている。

Appleは、デジタルID技術がどのように機能するのか、また、iPhoneにデジタル免許証を登録するプロセスの一環として州政府がどのようなデータを取得するのかについて、まだ多くを語っていない。また、同社は自撮り写真を撮影してユーザーを認証するという、未発表の新しいセキュリティ認証機能にも取り組んでいるが、これは他人が勝手に免許証を使用するのを防ぐためらしい。これらのシステムに本質的な問題や欠陥があるというわけではないが、Appleが今後答えるべき、プライバシーに関する疑問が多くある。

しかし、米国内のデジタル免許証やIDの断片的な状況は、Appleの参入をもってしても、一夜にして見通しが良くなるということはないだろう。MuckRockによる最近の公文書開示請求では、Appleは2019年の時点で、カリフォルニア州やイリノイ州を含むいくつかの州とiPhoneにデジタル免許証やIDを導入することについて接触していたことがわかったが、現在はどちらの州もAppleから発表されていない。

ウィスコンシン州サウスカロライナ州ロードアイランド州は、WWDCで発表されたまさにその日にAppleのデジタル免許証計画を知ったため、導入はさらに遅れると思われる。

関連記事:また批判を浴びるアップルの児童虐待検出技術
画像クレジット:Apple / supplied

原文へ

(文:Zack Whittaker、翻訳:Aya Nakazato

波紋を呼んだアルツハイマー病治療薬「Aduhelm」への承認を皮切りに、米FDAの迅速承認経路への保健福祉省による審査開始

米国保健福祉省の監察総監室(HHS-OIG)は米国時間8月4日、米食品医薬品局(FDA)の迅速承認プロセスについての調査を開始すると発表した。Biogen(バイオジェン)が開発したアルツハイマー病治療薬「Aduhelm(アデュヘルム)」に対する承認が物議を醸してから、わずか2カ月後のこの事態である。

この審査では、FDAの迅速承認経路(既存の治療法がない重篤な疾患の治療薬が、サロゲートエンドポイントと呼ばれる一定の中間ベンチマークを達成すれば承認される経路)に焦点が当てられる予定だ。こういった薬剤は臨床的に有用であると考えられていても、その有用性が実際に証明されていない状態での承認となり、承認後には第Ⅳ相試験で臨床効果を実証する必要がある。

アルツハイマー病治療薬として2003年以来初めて承認され、大きな議論を呼んだAduhelmは、この経路によって承認された。そしてこの承認に対するHHS-OIGの審査プロセスが動き出したことが、監察総監室の8月4日の発表で明らかになったというわけだ。

関連記事:大論争の末、2003年以来初のアルツハイマー病治療薬を米食品医薬品局が承認

発表文には次のように記されている。「FDA内での科学的論争、諮問委員会による承認反対票、FDAと業界間の不適切な密接関係への疑惑、FDAによる迅速承認経路の使用などの理由により、FDAによるAduhelmの承認に対する懸念が生じています」。

「こういった懸念に対応し、FDAが迅速承認経路をどのように実施しているのかについて評価を行なっていきます」。

FDAはこの経路によるAduhlemの承認決定について防衛的な構えを見せているが、この薬の有効性やそもそもどのようにして承認されたのかという経緯については大きな反感が持たれている。

「Aducanumab(アデュカヌマブ)」としても知られるAduhelmは、脳内のアミロイド斑(脳細胞間のコミュニケーションを阻害する粘着性化合物)を減少させることができると実証されている。しかし、アミロイド斑を減らすことでアルツハイマー病の最も悪質な症状である認知機能の低下を実際に遅らせることができるかどうかは不明であり、実際に患者がこれによるメリットをどの程度得ることができるのかについては疑問が残っている

2019年3月、この薬に対する2種の第Ⅲ相臨床試験が実施されたが、独立監査委員会がこの薬が患者の認知機能の低下率を改善していないと判断したため中断されている。しかし、Biogenが10月に行った別の分析では異なる結果が得られており、1つの第Ⅲ相臨床試験では認知機能の低下の改善が見られなかったが、もう1つの試験では最高用量を投与された患者にわずかな効果が見られている。

2020年11月、FDAの独立諮問委員会はこの薬への承認支持を拒否。しかし2021年6月、この薬はどういうわけだか承認されたのである。

Aduhelmが承認されたことで、製薬業界ではFDAがバイオマーカーに基づいた承認を拡大するのではないかという楽観的な見解が広がった。しかし、このような楽観的な見方は科学コミュニティの大方の意見とは違っていた。

承認に反対していた独立諮問委員会の3名の委員が、抗議のために辞任するという事態に発展。またデータに一貫性がないとして、マウントサイナイ医科大学やクリーブランド・クリニックなどの主要な病院システムが、この薬を処方しない意図を表明したのだ。

Aduhelmの承認を巡っては、承認に至るまでのFDAとBiogenの関係性が特に密接であったのではないかとの疑惑が議論の中心となっている。STATが最初に報じたところによると、Biogenは規制当局を説得するための「Project Onyx」と呼ばれる社内活動を開始し、最終的には一部のFDA職員が外部の専門家の前で同社との共同プレゼンテーションを行うなど、薬の承認に対して積極的な役割を果たしている。

FDA長官代理のJanet Woodcock(ジャネット・ウッドコック)氏は、7月9日の書簡でHHS-OIGに対し、BiogenとFDAの関係性を調査するための外部調査を行うよう求めた。

「メーカーと当局の審査担当者との間で生じたやりとりが、FDAの方針や手順と矛盾していなかったかどうかを判断するには、独立した機関による評価が最善の方法であると考えています」と同氏はTwitterに書き込んでいる。

HHS-OIGによる今回の調査は、Aduhlemの問題に端を発しているものの、今回のレビューはAduhlem(あるいは他の医薬品)の科学的根拠を検証することに重点を置いておらず、むしろFDAがどのようにして、いつ、製薬会社に迅速承認を行うのかを評価するための、迅速承認に関する全体的な監査を行うためのものである。

HHS-OIGは今度、FDAと外部関係者間のやりとり、方針や手続きを検討し、FDAがそれらの手続きを遵守しているかどうかを調査。またAduhelmのレビュープロセスを対象とするだけでなく、他の医薬品の承認に対しても、この経路がどのように使用されてきたかを調査する予定だ。

また、ウッドコック氏はTwitterでの声明内で、FDAはHHS-OIGのレビューに対して「完全に協力する」と伝えている。

「HHS OIGが実行可能な項目を特定して何らかの提言を行った場合、FDAはそれを迅速に検討し、最善策を決定します」と同氏。

また、アルツハイマーの治療薬を開発している他の企業にとっても、この経路は魅力的な選択肢となっているため、今後の動きは治療薬の行先に大きな影響を与える可能性がある。

例えばEli Lilly(イーライリリー)は「Donanemab(ドナネマブ)」というアルツハイマー病治療薬を開発しており、この薬がアミロイドなどのバイオマーカーを低下させ、患者の改善につながることを示す第II相試験の結果を発表している。しかしこの結果の大部分は個々の患者の治療結果ではなく、アルツハイマー病のバイオマーカーに対する薬の有効性を示すものとなっている。

Eli Lillyのシニアバイスプレジデント兼チーフ・サイエンティフィック・メディカル・オフィサーのDaniel M. Skovronsky(ダニエル・M・スコブロンスキー)氏は、先に行われた第2四半期の決算説明会で、FDAによるAduhelmの承認は「政策の転換を反映し、米国におけるアルツハイマー病治療薬の承認に新たな道筋をつけるものである」と述べ、同社が年内にはFDAの迅速承認経路を利用してDonanemabの承認を申請する意向であることを明らかにした。

これは、これから正にHHS-OIGが調査を行おうとしている経路そのものである。

しかしすぐに結果が出るわけではない。「政策の転換」を利用しようとする将来のアルツハイマー病治療薬メーカーに今回のニュースがどのような影響を与えるかは不明である。この報告書は2023年に発表される予定だ。

関連記事
HACARUSと東京大学がアルツハイマー病やパーキンソン病の治療法開発を目指すAI創薬研究を開始
開発期間も費用も短縮させるAI創薬プラットフォームのInsilico Medicine、大正製薬も協業
AI創薬のMOLCUREが総額8億円調達、製薬企業との共同創薬パイプライン開発やグローバルを主戦場とした事業展開を加速
画像クレジット:Grandbrothers / Getty Images

原文へ

(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)

米国政府によるITオープンソースソフトウェア採用への取り組み

編集部注:著者のVenky Adivi(ベンキー・アディビー)氏は、Ubuntu(ウブントゥ)の配布元であるCanonical(カノニカル)の戦略獲得および提案マネジメントディレクター

ーーー

近年、民間企業たちは、オープンソースのソフトウェアや開発手法を選び、プロプライエタリソフトウェア利用を避けている。それには理由がある。オープンソースを採用することで、新しいコードを書く代わりに、自由に利用できるコンポーネントを使うことができるので、コストと開発時間を削減できる。これにより、新しいアプリケーションを迅速に展開することが可能になり、ベンダーロックインを排除することができる。

しかし、米国連邦政府によるオープンソースの採用はそれほどは進んで来なかった。何百万人もの人々にサービスを提供し膨大な量の機密データの管理責任を担うために、多くの政府機関が大規模なレガシーITインフラならびにシステムを採用しているという事実が、変革への取り組みを難しいものとしてきたのだ。米国政府は毎年莫大なIT投資を行っているが、各省庁は基本的に独自の組織として活動しているため、意思決定はたとえば大手銀行などとは比較にならないほど分散して行われている。

近年、政府はよりオープンな方向に向かっていくつかの動きを見せているものの、連邦政府のITシステムのためのオープンソースの話は、現実というよりも可能性の話であることが多かった。

しかし、この状況は変わりつつあり、政府もオープンソース採用への転換点を迎えつつあることを示す兆候をいくつかみてとることができる。デジタルに精通した市民に対してサービスを提供できるアプリケーションの作成コストは上昇し続けているが、各省庁にとって、納税者からの税金を節約しながらサービスを向上させる方法を見つけるための予算は限られている。

経済的な観点からもオープンソースの役割は大きくなっているが、他にもさまざまなメリットがある。オープンソースソフトウェアは、ソースコードが公開されているため、開発チーム以外の人による継続的なレビューが行われ、ソフトウェアの信頼性やセキュリティの向上が図られる他、コードを共有して他の機関で再利用することも容易となる。

以下では、米国政府がますますオープンソースに向かっていることを示す5つの兆候を紹介する。

オープンソースイノベーションのための専用リソースの拡充

政府機関によるオープンソースへの取り組みを支援するために、2つの取り組みが行われている。

米連邦政府一般調達局(GSA、General Services Administration)の中に設けられた18Fは、他の政府機関がデジタルサービスを構築する際のコンサルティングを行っているが、熱心なオープンソース支援者でもある。その活動の中には、連邦選挙委員会(FEC、Federal Election Commission)のデータにアクセスするための新しいアプリケーションの開発や、GSAの委託業者採用プロセスを改善するためのソフトウェアも含まれている。

18F(その名称の由来はGSA本部の住所である1800 F St.を略したもの)は、民間企業におけるオープンソースの勃興と勢いに拍車をかけている草の根的な精神を反映している。同グループのウェブサイトには「私たちが作成したコードは、パブリックドメインとして一般に公開されています」と記載されている。

今から5年前の8月に、オバマ政権は新しい連邦ソースコードポリシーを導入した。それはすべての機関に対して、オープンソースのアプローチを採用し、ソースコード資産を生み出し、書かれたコードの少なくとも20%をオープンソースとして公開することを求めるものだった。また政権はCode.govも立ち上げて、他の省庁がすでに使用しているオープンソースソリューションを各省庁が探せるようにした。

しかし、その結果は玉石混交である。Code.govの追跡調査によれば、ほとんどの省庁が連邦政府の方針に沿った対応をしているものの、多くの省庁では実装上の課題が残されている。また、Code.govのスタッフが行ったレポートによれば、オープンソースを他の機関よりも積極的に取り入れている機関もあるという。

それでも、Code.govによれば、連邦政府におけるオープンソースの成長は、当初の予想よりもはるかに進んでいるという。

新政権からの働きかけ

2021年3月初旬にバイデン大統領が署名した、1兆9000億ドル(約208兆7000億円)のパンデミック対策法案の「米国救済計画法(American Rescue Plan)」には、連邦政府の新規技術プロジェクトに資金を提供するために、GSAから「技術革新基金(Technology Modernization Fund)」として90億ドル(約9883億8000万円)が計上されていた。1月にホワイトハウスは、たとえば最近のSolarWinds(ソーラーウインズ)事件のような情報漏えいに対処するために、連邦政府のITインフラをアップグレードすることを「待ったなしの国家安全保障上の緊急課題」であると発表した

これらの取り組みの多くが、オープンソースソフトウェアを基盤にすると考えてよいだろう。なぜならホワイトハウスのテクノロジーディレクターであるDavid Recordon(デビッド・レコードン)氏は、長年にわたってオープンソースの支持者であり、かつてはFacebookのオープンソースプロジェクトを率いていたことがあるからだ。

スキル環境の変化

キャリアの大半をレガシーシステムとともに過ごしてきた連邦政府のIT職員が退職し始めたが、その後継者はオープンソースの世界で育ち、それに慣れ親しんだ若い世代だ。

Linux Foundation(リナックス財団)の調査によれば、民間企業の採用担当者の約81%が、オープンソースの人材を採用することが優先事項であり、資格を持つプロフェッショナルを求める傾向がこれまで以上に強くなっていると回答している。オープンソースの普及を支える人材の必要性を認識している公共部門が、この傾向を反映するようになってきているのは間違いない。

ベンダーのより強力な役割

適切な商用オープンソースベンダーと提携することで、政府機関はインフラコストを削減し、アプリケーションをより効率的に管理することができる。例えば、FISMA(Federal Security Modernization Act、連邦情報セキュリティマネジメント法)、FIPS(Federal Information Processing Standards、連邦情報処理標準)、FedRamp(Federal Risk and Authorization Management Program、米国連邦リスク承認管理プログラム)などのポリシーで定められたセキュリティ要件への対応は、ベンダーが大きく先行しており、コンプライアンスへの対応も容易になっている。

さらに、ベンダーの中には強力なインフラ自動化ツールや手厚いサポートパッケージを提供しているところもあるため、連邦政府機関がオープンソース戦略を加速する際に単独で対応する必要はない。UbuntuのようなLinuxディストリビューションは、ノートブック/ デスクトップからクラウド、そしてエッジに至るまで、パブリッククラウド、コンテナ、物理 / 仮想インフラストラクチャに対して一貫した開発者体験を提供している。

これにより、アプリケーション開発は、24時間365日の電話およびウェブサポートを含む十分なサポート体制を得られるようになっており、ウェブポータル、ナレッジベース、または電話を介して世界クラスの企業サポートチームにアクセスすることができる。

パンデミック効果

新型コロナウイルスによって在宅勤務者の増加や市民のオンラインサービスへの要求が増大したことで、連邦政府の大部分がデジタルゲームの向上を迫られている。オープンソースを使うことで、レガシーアプリケーションをクラウドに移行したり、新しいアプリケーションをより迅速に開発したり、ITインフラを急速に変化する需要に適応させることができる。

こうした兆候が示しているように、連邦政府はオープンソースの採用に向けて、単なる話題から実際の行動へと急速に移行しようとしている。

勝者は誰かって?もちろん全員だ!

関連記事



画像クレジット:Getty Images (Matt Anderson Photographyよりライセンス許諾)

原文へ

(文:Venky Adivi、翻訳:sako)

ポルシェがオンラインマーケットプレイスに米国内の新車在庫を登録

Porsche Cars North America(PCNA、北米ポルシェ)は、米国内の全商品をオンラインマーケットプレイスに追加した。消費者の要望と業界のデジタルコマースへのシフトに対応する動きだ。

2020年5月に同社のオンラインマーケットプレイスであるPorsche Finder(ポルシェ・ファインダー)が公開された時、顧客はこのツールを使って中古車と認定中古車しか検索できなかった。同プラットフォームでは消費者が、車両モデル、年式、価格、パッケージ、カラーなどで検索できるが、このほど米国内193のディーラーの新車在庫がすべて登録された。

システムを開発したのは子会社のPorsche Digital(ポルシェ・デジタル)とPCNAで、ユーザーが下取り価格の見積りをとったり、Porsche Financial Services(ポルシャ・フィナンシャル・サービス)が提供するリースとローンを比較する支払い計算機などの機能もある。

顧客が製品を検索できるオンラインプラットフォームは新しいものではない。顧客の買い物志向がオンラインにシフト(新型コロナウイルス感染症パンデミック中に加速したトレンド)するにつれ、デジタルプラットフォームは企業にとって不可欠なツールになった。

しかしポルシェのような伝統的自動車メーカーは、顧客からの要望とディーラーネットワークとのバランスを取る必要があった。Porscheには、Tesla(テスラ)や新規参入のLucid Group(ルシッド・グループ)、Rivian(リビアン)のような直販モデルがない。

「ディーラーネットワークは今も当社が行うことすべての中心にあります」とPCNAのプレジデント兼CEOであるKjell Gruner(クジェル・グリューナー)氏は最近のインタビューで語った。「ディーラーでは非常に人間的な対応を心がけています。相手の目を見て、ボディランゲージを読み取ります。そして、もちろん、私たちの製品は非常に物理的です」。

Porsche Finder Toolには、全193ディーラーが参加しているが、大勢の中にはデジタルコマースへのシフトに警戒的な人たちもいることをグリューナー氏は認めている。

「いつの世にも、人より革新的な人たちもいれば、慎重な人たちもいます」と彼は言った。「新型コロナは、人々がデジタルを受け入れ、これらのツールを自身のために役立てる意識を喚起しました」。

関連記事
ポルシェのアプローチの正しさを納得させるフルEVワゴン、パワーと実用性を備えた新型Taycan Cross Turismo
ポルシェが電気自動車Taycanをサブスクプログラムに追加
ポルシェがスポーツカー用高性能バッテリーを製造へ、Customcellsとの合弁で
画像クレジット:Porsche

原文へ

(文:Kirsten Korosec、翻訳:Nob Takahashi / facebook

米テック大企業トップがホワイトハウスで会合、サイバーセキュリティ強化で巨額拠出を約束

テック大企業のApple(アップル)、Google(グーグル)、Microsoft(マイクロソフト)は、Joe Biden(ジョー・バイデン)大統領との会合に出席し、米国のサイバーセキュリティ強化で巨額の拠出を約束した。

金融や教育の分野からの出席者も含まれた今回の会合は、重要なインフラやいくつかの政府機関に対する有名なサイバー攻撃を受けて開かれた。サーバー攻撃ではサイバーセキュリティのスキルギャップがあることが明るみに出た。CyberSeekのデータによると、現在米国ではサイバーセキュリティに関連する約50万人の求人があり、それらはまだ埋まっていない。

「我々の重要なインフラの大半は民間セクターによって所有・運営されていて、連邦政府だけでこの問題に対処できません」とバイデン大統領は会合の冒頭に述べた。「今日みなさんにお集まりいただいたのは、あなた方がサイバーセキュリティについての水準を引き上げるパワー、能力、そして責任を有していると考えているからです」。

増加傾向にあるサイバー攻撃に対する戦いで米国をサポートするために、テック大企業はサイバーセキュリティ防衛を強化し、スキルを持つサイバーセキュリティ労働者を訓練するために多額を投資することを約束した。

ホワイトハウスによると、Appleは多要素認証の「浸透」とセキュリティ訓練を促進するために米国内の9000超のサプライヤーと協業すること、そして引き続きテクノロジーサプライチェーン全体でセキュリティ改善を促進するために新しいプログラムを設けることを約束した。

Googleはゼロトラストプログラムを拡大し、ソフトウェアサプライチェーンを安全なものにするために、そしてオープンソースのセキュリティを強化するために今後5年間で100億ドル(約1兆1000億円)超を投資すると述べた。検索と広告の大手である同社はまた、ITサポートやデータ分析、そしてデータプライバシーとセキュリティを含む最も需要の高いスキルの習得といった分野で米国人10万人を訓練することも約束した。

「強固なサイバーセキュリティは最終的には実行する人がいるかどうかに左右されます」とGoogleのグローバル問題責任者、Kent Walker(ケント・ウォーカー)氏は述べた。「中でも、サイバーセキュリティソリューションをデザインして実行することができる、あるいはサイバーセキュリティリスクとプロトコルの啓発を促進することができるデジタルスキルを持つ人が必要とされています」。

そしてMicrosoftはデザインでサイバーセキュリティを統合し「高度なセキュリティソリューション」を提供するために200億ドル(約2兆2000億円)を拠出すると述べた。また、キュリティ保護のアップグレードで連邦政府や州政府、地域の行政をサポートすべく、テクニカルサービスにただちに1億5000万ドル(約165億円)をあて、サイバーセキュリティ訓練で地方の大学や非営利組織との提携を拡大する、と発表した。

Amazonのクラウドコンピューティング部門であるAmazon Web Services (AWS)やIBMも会合に出席した。AWSはセキュリティ啓発トレーニングを一般も利用できるようにし、全AWS顧客に多要素認証デバイスを整備すると明らかにした。IBMは今後5年間で15万人にサイバーセキュリティスキル訓練を提供すると述べた。

多くの人がテック大企業の約束を歓迎し、Nominet CyberのマネージングディレクターDavid Carroll(デイビッド・キャロル)氏はTechCrunchに対し、これらの最新の取り組みは「強力な前例」となり「本気で戦う」ことを示していると話した。その一方で、サイバーセキュリティ業界の一部の人は懐疑的な目を向けた。

発表を受けて、一部の情報セキュリティのベテランは、米国が埋めようとしているサイバーセキュリティ職の求人の多くは給与面や福利厚生面で遅れをとっている、と指摘した。

「50万件のサイバーセキュリティの求人があり、ほぼ同じだけ、あるいはそれを上回る人が職を求めています」とテクノロジー分野の女性をサポートする財団TechSecChixの創業者、Khalilah Scott(カリラ・スコット)氏はツイートした。「理に適うようにしましょう」。

画像クレジット:Drew Angerer / Getty Images

原文へ

(文:Carly Page、翻訳:Nariko Mizoguchi

【コラム】Apple Cardをめぐる米国の法執行はどのように間違ったのか

編集部注:本稿の著者Liz O’Sullivan(リズ・オサリバン)氏は、企業のモデルリスクとアルゴリズムのガバナンスを自動化するプラットフォームParityのCEO。また、Surveillance Technology Oversight ProjectやCampaign to Stop Killer Robotsに対して、人工知能に関するアドバイスを行っている。

ーーー

アルゴリズム正義の支持者たちは、UHGApple Cardのような企業に対する法的調査によって、いわゆる「裁判の日々」を迎え始めている。Apple Card訴訟は、定量化可能な公正性という新たな分野において、現在の反差別法が科学的研究の急速なペースに追いついていないことを示す好例である。

Appleとその引受会社が公正貸付違反を犯していないと判断されたのは確かかもしれないが、今回の判決は、あらゆる規制区域で機械学習を利用している企業に対する警鐘となり得る、明確な警告を提示した。経営陣がアルゴリズムによる公正さをもっと真剣に受け止め始めない限り、彼らの前途は法的な問題と評判の低下に満ちたものになるだろう。

関連記事:Apple Cardプログラムは公正貸付法に違反していないとNY州金融サービス局が報告

Apple Cardに何が起きたのか

2019年後半、スタートアップのリーダーでありソーシャルメディアで著名なDavid Heinemeier Hansson(デイヴィッド・ハインマイヤー・ハンソン)氏は、Twitter上で重要な問題を提起し、大きな反響と称賛を巻き起こした。「いいね!」やリツイートが5万件近くある中、同氏はAppleと引受パートナーのGoldman Sachs(ゴールドマン・サックス)に対し、同じ金銭的能力を持つ同氏と同氏の妻に付与される信用限度額が異なる理由を説明するよう求めた。アルゴリズムの公正性のフィールドに立つ多くの関係者にとって、私たちが提唱する問題がメインストリームになるのを目にすることが重大な分岐点となり、結果的にニューヨーク州金融サービス局(DFS)からの照会に結実した。

DFSが2021年3月に、ゴールドマンの引受アルゴリズムについて、1974年に制定された女性やマイノリティを差別融資から保護する厳格な金融アクセス規則に違反していないと結論づけたことは、一見したところ、信用引受会社にとって心強く思えるものかもしれない。活動家にとっては残念な結果だが、財務部門のデータチームと密接に協力している私たちにとっては驚く結果ではなかった。

金融機関向けのアルゴリズムアプリケーションの中には、試行のリスクが利益をはるかに上回るものがあり、信用引受もその1つだ。貸付の公正性に関する法律は(古いものであれば)明確かつ厳格に施行されるため、ゴールドマンが無罪となることは予測できた。

とはいえ、ゴールドマンのアルゴリズムが、現在市場に出回っている他のすべての信用スコアリングおよび引受のアルゴリズムと同様、差別化していることは疑いの余地がない。また、仮に研究者がこうした主張を検証するために必要なモデルやデータへのアクセスを許可されたとしても、これらのアルゴリズムが崩壊することはないだろう。私がこれを知っているのは、ゴールドマンのアルゴリズムを検証するための方法論をニューヨーク州DFSが部分的に公開したからであり、ご想像の通り、その監査は、今日の最新のアルゴリズム監査人によって保持されている標準には遠く及ばないものだった。

DFSは(現行法の下で)Apple Cardの公正性をどのように評価したか

DFSは、Appleのアルゴリズムが「公正」であることの証明として、ゴールドマン・サックスが申請者の性別や配偶者の有無などの「禁止された特性」を利用していたかどうかを最初に検討した。これはゴールドマンにとってパスするのは容易だった。人種、性別、婚姻状況をモデルの入力に含めていないからだ。しかし、いくつかのモデル特性が、保護されたクラスの「プロキシ」として機能し得ることは、何年も前から知られている。

50年間の判例に基づくDFSの方法論では、この問題を検討したかについて言及されていないが、検討されなかったことは推測できる。もしそうであれば、信用スコアと人種との間に強い相関関係があることがすぐに判明するはずだ。それに関連して、一部の州では損害保険への利用を禁止することを検討している。プロキシ特性は最近になって研究の焦点になったばかりであるが、科学がいかにして規制を凌駕してきたかを示す第1の例を提供するものだ。

保護された特性がない場合、DFSは、内容は類似しているが、異なる保護クラスのユーザーに属する信用プロファイルを調査した。不正確な感じがするが、申請書で性別を「フリップ(反転)」させた場合に信用供与の決定にどのような影響があるかを明らかにしようとした。男性申請者の女性バージョンも同じ扱いになるかということだ。

直感的には、これは「公正」を定義する1つの方法のように思える。機械学習の公正性の分野には「フリップテスト」と呼ばれる概念がある。これは「個人の公正性」と呼ばれる概念の多くの尺度の中の1つであり、まさにそのように聞こえる。筆者は、AI専門の大手法律事務所bnh.aiの主任研究員であるPatrick Hall(パトリック・ホール)氏に、公正貸付の事例を調査する上で最も一般的な分析について尋ねた。DFSがApple Cardを監査するのに使用した方法を参照して、同氏はそれを基本回帰、または「フリップテストの1970年代バージョン」と表現し、不十分な法律について第2の例を提示した。

アルゴリズム的公正性のための新しい語彙

Soron Barocas(ソロン・バロカス)氏の独創的な論文「Big Data’s Disparate Impact」が2016年に発表されて以来、研究者たちは哲学の核となる概念を数学的な用語で定義することに熱心に取り組んできた。いくつかのカンファレンスが開催され、最も注目すべきAIイベントで新たな公正性の道筋が示された。この分野は高度成長期にあり、現在のところ法律が追いついていない状況だ。しかし、サイバーセキュリティ業界に起きたように、この法的猶予は永遠には続かないだろう。

公正な貸付を管理する法律は公民権運動から生まれたもので、制定以来50年以上の間にあまり進展が見られなかったことを考えると、DFSの軟式監査は容認できるかもしれない。法律上の前例は、機械学習の公正性に関する研究が本格的に始まるずっと前のものだ。もしDFSが、Apple Cardの公正性を評価するという課題に適切に対処できるように装備されていれば、過去5年間に花開いたアルゴリズム評価のための堅牢な語彙を使用することができただろう。

例えばDFSの報告書は、Joy Buolamwini(ジョイ・ブオラムウィニ)氏、Timnit Gebru(ティムニット・ゲブル)氏、Deb Raji(デブ・ラジ)氏による、2018年に発表された調査の中の有名な規準「equalized odds」の測定については触れていない。同氏らの論文 Gender Shades」では、顔認識アルゴリズムが明るい肌の被験者よりも暗い女性の顔で間違った推測をすることが多いことを証明しており、この推論はコンピュータービジョンだけでなく、予測に関するさまざまなアプリケーションにも当てはまる。

均等オッズは、Appleのアルゴリズムに対して問うべきものだろう。どのくらいの頻度で信用力を正確に予測しているか。どれくらいの頻度で間違った推測をしているか。性別、人種、あるいは障害ステータスの異なる人々の間でこれらのエラー率に違いがあるか。ホール氏によると、これらの測定は重要だが、法制度を完全に体系化するには新しすぎるという。

もしゴールドマンが、現実世界の女性申請者を常に過小評価していたり、黒人の申請者に対して実際に適用されるべきものよりも高い金利を設定していたりすることが判明すれば、こうした十分なサービスを受けていない人々が、全国規模でどのような悪影響を受けるかは想像に難くない。

金融サービスのCatch-22(落とし穴)

最新の監査人であれば、判例によって指示された方法では、マイノリティのカテゴリー内でのセクション間の組み合わせに対する公正性の微妙な差異を捉えることができないことを認識している。この問題は、機械学習モデルの複雑さによってさらに深刻化している。例えば、あなたが黒人で、女性で、妊娠している場合、あなたが信用を得る可能性は、それぞれの包括的な保護されたカテゴリーの結果の平均を下回るかもしれない。

マイノリティのサンプル数は定義上セット内のより少ない数であることを考えると、これらの過小評価されたグループは、その独自性に特別な注意を払わない限り、システムの全体的な監査から利益を享受することはないだろう。このことから、最新の監査人は、各グループの個人の人口動態を明確に把握した上で結果を測定できる「認知による公正性」アプローチを採用する傾向にある。

しかし「Catch-22(落とし穴)」が存在する。金融サービスやその他の厳格に規制された分野では、監査人は最初から機密情報を収集することができないため「認知による公正性」を利用できないことが多い。この法的制約の目的は、貸し手が差別されないようにすることにあった。運命の残酷なねじれの中で、これはアルゴリズムによる差別を覆い隠し、私たちに法的不備の第3の例を与える。

この情報を収集できないという事実は、モデルが十分なサービスを受けていないグループをどのように扱っているのかを知る上で障害となっている。それがなければ、私たちは実際的に真実であることを証明できないだろう。例えば、専業主婦は両方の配偶者の名前ですべてのクレジットベースの購入を実行するわけではないため、より薄い信用ファイルを確実に持っている。マイノリティのグループは、ギグワーカー、チップを受け取る労働者、または現金ベースの業界に属する傾向が極めて高く、マジョリティにはそれほど一般的ではないことが証明されているような所得プロファイルの共通性がもたらされることが考えられる。

重要な点として、申請者の信用ファイルにおけるこれらの相違は、必ずしも真の財務責任や信用力につながるものではない。信用力を正確に予測するには、その方法(例えば信用スコア)がどのようにブレークダウンするのかを把握する必要があるだろう。

AIを使用する企業にとってこれは何を意味するのか

Appleの例で言えば、同社が時代遅れの法律で守られている差別に対抗するために、信用ポリシーの帰結的なアップデートを行ったという話に希望に満ちたエピローグを挙げる価値がある。AppleのCEOであるTim Cook(ティム・クック)氏は声明の中で「業界が信用スコアを計算する方法に公正性が欠けている」ことを即座に強調した。

関連記事:アップルが配偶者とティーンエージャーのための「Apple Card Family」発表、ジェンダー差別疑惑を払拭

新しいポリシーでは、配偶者や親が信用ファイルを結合して、信用ファイルが弱い方が強い方の恩恵を受けられるようにしている。これは、世界に構造的に存在する差別を実際に減らす可能性のある措置を先を見越して考えている企業のすばらしい例だ。Appleはポリシーを改訂するにあたり、今回の調査の結果として導入されるかもしれない規制に先んじた。

これはAppleにとって戦略的に有利な点と言える。なぜなら、ニューヨーク州DFSはこの分野を支配する現行の法律が不十分であることに徹底的に言及しており、規制のアップデートは多くの人が考えているよりも間近かもしれないからだ。金融サービス監督官Linda A.Lacewell(リンダ・A・レイスウェル)氏の言葉を借りれば「現在の形での信用スコアリングの利用と、融資における差別を禁止する法律や規制は、強化と近代化を必要としている」。規制当局と協働した筆者の経験では、これは今日の当局が極めて熱心に追求していることだ。

米国の規制当局が、自動化と数学における平等に向けた堅牢な語彙を活用して、AIを統制する法律の改善に取り組んでいることは間違いない。連邦準備制度、OCC(通貨監督庁)、CFPB(消費者金融保護局)、FTC(連邦取引委員会)、連邦議会は、ペースが遅くとも、アルゴリズムによる差別に対処することに意欲的である。

その一方で、アルゴリズムによる差別が横行していると信じるに足る十分な理由が存在する。その主なるものとして、業界がここ数年、学術界の言葉を取り入れるのに消極的だったことが挙げられる。企業がこの新しい公正性の分野を活用できず、ある意味で保証されている予測的差別を根絶できないことに対する言い訳の余地はほとんどない。EUは、今後2年以内に採択される予定のAIに特化した法案に同意している。

機械学習の公正性の分野は急速に成熟しており、毎年のように新しい手法が生み出され、無数のツールがそれを助けている。この分野は今になってようやく、ある程度の自動化によってこれを規定できる段階に達しつつある。標準化団体は、米国の法律の採択が遅れている場合でも、これらの問題の頻度と深刻さの低減に向けたガイダンスを提供し、積極的に関与している。

アルゴリズムによる識別が意図的であるかどうかは、違法性を有する。そのため、医療、住宅、雇用、金融サービス、教育、または政府に関連するアプリケーションで高度な分析を使用している場合、誰もが知らずにこれらの法律に違反している可能性がある。

センシティブな状況下でのAIの無数のアプリケーションについて、より明確な規制ガイダンスが提供されるまでの間、業界はどのような公正性の定義が最善かを自力で判断する必要がある。

画像クレジット:SOPA Images / Getty Images

原文へ

(文:Liz O’Sullivan、翻訳:Dragonfly)

米国の第2四半期PC販売台数は17%増もパンデミック需要反動で伸びは鈍化

Canalysは8月25日、米国の第2四半期のPC販売台数を発表した。販売台数は前年同期比17%増と極めて好調だった一方で、伸びはパンデミックによって74%増を記録した前四半期から大きく鈍化した。おそらく、原因はあちこちで報道されている世界的なチップ不足だ。

HPがマーケットシェア21.9%で第2四半期連続でトップの座を維持し、販売台数は前年同期に比べて20%超増えた。Appleが変わらず第2位で、マーケットシェアは20.6%だった。ただ、同社の成長率がマイナス2.8%に落ち込んだのは注目に値する。

関連記事:米国の2021年第1四半期のPC出荷台数は73%増、Chromebookが好調

Dellがマーケットシェア15.6%で第3位となり、Lenovoが12.4%で続いた。前年同期からの成長率に目を向けると、Samsungが50%超と最も高い成長をみせたがマーケットシェアはわずか8%強にとどまった。

画像クレジット:Canalys

Canalysの調査アナリストBrian Lynch(ブライアン・リンチ)氏は、2020年から2021年にかけてこの部門で目にしてきたパンデミック由来の成長が今後も続き、経済のリバウンドが続くのにともなって消費者の買い替えの兆しが見えてくる、と楽観的だ。

「商業部門と教育部門が爆発的に伸び、かなりの買い替え需要を引き起こしています。米国経済はパンデミック問題から立ち直り、零細企業も復活しています。これはPCの購入につながります」とリンチ氏は声明で述べた。

合計で3680万台が販売され、伸び率はノートブックが27%増、デスクトップは23%増、タブレットは停滞気味で実際には1%減だった。この前年割れについてCanalysは教育マーケットがタブレットから移ったこと、多くの人が家に留まることを余儀なくされたときにタブレットを購入し、すぐには買い替えないことを挙げた。

にもかかわらず、タブレット部門でAppleはシェア45%と確固たる地位を築いている。その一方でAmazonがシェア22%で第2位の好位置につけ、Samsungが同18%で続いている。

どこかの時点で多くの人が対面学習やオフィスでの業務に戻るにしても、学校や企業の多くがハイブリッド式、あるいは完全リモートのアプローチすら取り続けるのは明らかで、これはPC産業にとって良い兆候であり、チップ不足が最終的に緩和すれば特にそうだろう。

画像クレジット:Ibrahim Sahin / EyeEm / Getty Images

原文へ

(文:Ron Miller、翻訳:Nariko Mizoguchi

Spotifyのポッドキャストサブスクを米国の全クリエイターが利用可能に

米国時間8月24日、Spotifyはポッドキャストのサブスクリプションを米国の全ポッドキャストクリエイターに公開した。このサービスはテストとして2021年4月に少数のクリエイターを対象に開始されていた。大手から個人まですべてのクリエイターがSpotifyのポッドキャスト制作ツールであるAnchorを利用して特定のエピソードをサブスク利用者限定コンテンツに指定し、Spotifyや他のプラットフォームで配信できる。Spotifyによれば、サービス開始以降、100以上のポッドキャストがサブスクを利用しているという。同社はこのサービスを広く公開することにともない、早期に利用したクリエイターからのフィードバックに基づいて、価格と機能に関していくつか重要な変更を加えている

関連記事:Spotifyが米国で有料ポッドキャスト開始、2年間クリエイターの取り分は100%

これまでクリエイターは月額2.99ドル、4.99ドル、7.99ドル(約330円、550円、880円)のいずれかの価格を選ぶようになっていた。クリエイターは自分のオーディエンスにとって最適と思われる価格を選ぶことができた。

しかしクリエイターがもっと柔軟な価格設定を望んでいることがわかり、価格を20通りから選べるようになった。最低価格は0.49ドル(約55円)で、そこから徐々に上がっていって最高価格は150ドル(約1万6500円)だ。

画像クレジット:Spotify

Spotifyは調査の結果、クリエイターは価格を完全に自由に設定するよりも最初にある程度設定されている方を望むことがわかったと説明している。そのため、現在はクリエイターが価格を自由に入力するようにはなっていない。今後はテストの結果が良かった3通りの価格として0.99ドル、4.99ドル、9.99ドル(約110円、550円、1100円)が先頭に表示され、その下に17通りの価格が表示される。SpotifyはTechCrunchに対し、先頭の3通りのうち4.99ドル(約550円)が最もパフォーマンスが良かったと述べた。

価格設定と、別のポッドキャストアプリを使いたいリスナーが利用できるプライベートRSSフィードへのアクセスに加え、ポッドキャストクリエイターはサブスク利用者の連絡先アドレスのリストをダウンロードできるようになる。クリエイターはサブスク利用者に追加のベネフィットを提供してエンゲージメントを高められるとSpotifyは説明している。クリエイターが自分の顧客との直接的なつながりを構築するチャンスを失うとなれば、有料サブスクのようなサービスを利用するつもりがなかったクリエイターにも訴求するかもしれない。

画像クレジット:Spotify

有料ポッドキャストを提供しているのはSpotifyだけではない。Appleも2021年4月にポッドキャストのサブスクプラットフォームを発表した。しかし今のところ、Spotifyの方がクリエイターに有利だ。Appleは1年目はポッドキャストの売上の30%を徴収し、2年目には15%になる。これは他のサブスクアプリと同様だ。一方のSpotifyは、今後2年間はこのプログラムを無料に据え置く。つまりクリエイターは2023年まで売上の100%を受け取れる。その後はサブスクの売上のたった5%を徴収する計画だ。

関連記事:アップルがポッドキャストの有料定額サービス開始を発表、米国では番組あたり約53円から

マーケットプレイスモデルに参入する第一歩にあたり、Appleの独占的な振る舞いを厳しく批判するSpotifyが手数料をこれほど小さなパーセンテージにしたことは注目に値する。Spotifyは長年、AppleがSpotifyのサブスクビジネスから手数料を取るのは競争を阻害する行為だと主張してきた。AppleはApple MusicのサブスクによってSpotifyのビジネス上のライバルになっており、今度はポッドキャストのサブスクでもライバルになる。

現在、Spotifyはサブスクベースのポッドキャストを多数配信している。NPRのような大手から、Betches U Up?、Cultivating H.E.R. Space、Mindful in Minutesといった独立系クリエイターまでさまざまだ(NPRはAppleの有料ポッドキャストサービスでも配信されている)。Spotifyで配信するクリエイターは他のプラットフォームを利用してもよい。プライベートRSSフィードを自分の顧客と共有し、Appleのポッドキャストなど他のプラットフォームに配信できる。

Appleのサブスクサービスが出だしでつまづいていることに対してクリエイターの不満の声が高まる中で、Spotifyはサブスクをクリエイターに広く公開することにした。The Vergeの記事には、バグや紛らわしいユーザーインターフェイス、相互運用性の問題などに対するクリエイターの不満が書かれている。これに対してSpotifyは、ポッドキャストのサブスクに関心を持つクリエイターから「数千件」の登録があったと述べている。

Spotifyは米国以外にも利用を広げるとしている。2021年9月15日には米国以外のリスナーもサブスク専用コンテンツを聴けるようになる。その後すぐにクリエイターもポッドキャストのサブスクを利用できるようになる予定だ。

関連記事
音声プラットフォーム「Voicy」でリスナーから音声配信者への直接課金が月間1000万円を突破
Apple Podcastランキング1位「歴史を面白く学ぶコテンラジオ」を運営するCOTENが8400万円を調達
フェイスブックが音声SNS「Live Audio Rooms」とポッドキャスト向け新サービスの提供を米国で開始
画像クレジット:stockcam / Getty Images

原文へ

(文:Sarah Perez、翻訳:Kaori Koyama)

インテルと米国防総省が米国内のチップ製造エコシステムを支援する契約を締結

Intel(インテル)は、米国防総省と米国内の商用チップ製造エコシステムを支援する契約を締結した。このチップメーカーは、米国内における半導体サプライチェーンを強化することを目的とした「RAMP-C(Rapid Assured Microelectronics Prototypes – Commercial)」と呼ばれるプログラムの第一段階を主導する。

このプログラムを主導することになるのは、インテルが最近起ち上げたIntel Foundry Services(インテル・ファウンドリー・サービス)部門だ。

RAMP-Cの一環として、インテルはIBM、Cadence(ケイデンス)、Synopsys(シノプシス)などの企業と提携し、国内の商用ファウンドリーエコシステムを構築する。インテルによれば、このプログラムは、国防総省のシステムで必要とされるカスタム集積回路や、商用製品を作るためのものだという。

「RAMP-Cプログラムにより、商用ファウンドリーの顧客と国防総省の両方が、インテルの最先端プロセス技術への多額の投資を活用できるようになります」と、インテル ファウンドリー・サービスのRandhir Thakur(ランディール・タクール)社長は声明で述べている。「当社の顧客や、IBM、ケイデンス、シノプシスなどのエコシステム・パートナーとともに、私たちは国内の半導体サプライチェーンを強化し、米国が研究開発と高度製造業の両面で、リーダーシップを維持できるよう支援していきます」。

インテルは最近、約200億ドル(約2兆2000億円)を投じてアリゾナ州に2つの新工場を建設する計画を発表した。その目的は、同社が米国内におけるファウンドリー顧客の主要な供給者となることだ。同社はこれらの新工場が、製品の需要拡大を支えることになると述べている。

国防総省とインテルの提携が発表されたのは、新型コロナウイルス流行とその世界的なサプライチェーンへの影響などにより、世界的な半導体不足が続いている中でのことだ。インテルは、他のハイテク企業や自動車メーカーとともに、この問題の解決策についてホワイトハウスと継続的に協議している。インテルのPat Gelsinger(パット・ゲルシンガー)CEOは2021年7月に、Biden(バイデン)政権の高官と会い、チップ工場の増設計画について話し合い、補助金の獲得を訴えた。

関連記事:Google、Intel、Dell、GMなどテックと自動車業界のCEOたちが世界的なチップ供給不足問題で米政府と討議

ゲルシンガー氏は、今回のRAMP-Cに関する声明の中で「2020年で学んだ最も重要な教訓の1つは、半導体の戦略的重要性と、米国にとって強力な国内半導体産業を持つことの価値です」と述べている。

「2021年初めにインテル・ファウンドリー・サービスを起ち上げたとき、米国政府を含むより多くのパートナーに当社の能力を提供する機会が得られることを、私たちは大変喜びました。RAMP-Cのようなプログラムを通じて、その可能性を実現できるのが非常に楽しみです」と、ゲルシンガー氏は続けた。

1月にCEOに就任したゲルシンガー氏は、このチップメーカーの経営を立て直し、チップの製造と販売に関する新しい戦略を追求することを目指している。数カ月前、インテルはチップ製造業者のGlobalFoundries(グローバルファウンドリーズ)を300億ドル(約3兆3000億円)で買収する交渉を行っていると噂されたが、今のところ、その方面に関するニュースはない。

関連記事:Intelが3.3兆円でチップメーカーGlobalFoundries買収を交渉中との噂画像クレジット:SOPA Images / Getty Images

原文へ

(文:Aisha Malik、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

ギグワーカーを非従業員とするカリフォルニアの条例Prop 22を高裁が憲法違反と判決

UberやLyftなどギグワーカーを軸とする企業に米国時間8月20日の夜遅くショックが訪れた。高等裁判所の判事が、2020年に成立してギグワーカーの雇用ステータスに対する論争の多かったAB-5法を、否定する目的で成立させたカリフォルニア州第22条令(Prop 22)は州の憲法に違反していると裁定した。

関連記事:ギグワーカーの権利を護る法案がカリフォルニア州上院を通過

オークランドやバークリーなどイーストベイの多くをカバーするアラミダ郡の高裁判事Frank Roesch(フランク・ローシュ)氏は「その法(Prop 22)が、将来の議会がギグワーカーの雇用ステータスを定義する力を制限する」と裁定した。この訴訟は2021年1月にService Employees International Union(SEIU)(サービス業被雇用者国際組合)が起こし、同様の訴訟がフォルニア州最高裁で却下されてから下級審へ回されたものだ。

この法廷の決定はほぼ確実に控訴されるであろうし、今後の法的議論が当然あるだろう。

しかしSEIUのカリフォルニア州評議会の議長Bob Schoonover(ボブ・スクーノーバー)氏は、声明で次のように述べている。「ローシュ判事によるProp 22を無効とする本日の裁定は極めて明確である。ギグ業界が金で買った住民投票は憲法違反であり、したがって施行不可能である。2年にわたりドライバーたちは、民主主義は金で買えないと言い続けてきた。そして本日の判決は、彼らが正しかったことを示している」。

高裁の判決は、UberやDoorDashのようにギグワーカーに大きく依存している企業と、労働者を代表する組合や活動家との間の戦いの、勝ちと敗けの長い々々列の最新のひとコマにすぎない。その議論の中心にあるのは、フリーランサーと従業員との法的な区別であり、それぞれのワーカーに対して企業はどの程度の福利厚生の責任を負うか、という点だ。

その区別がビッグビジネスになっている。UberやLyftなどの企業は2020年Prop 22を勝ち取るために、総額で2億ドル(約220億円)あまりを費消した。カリフォルニアの有権者はその条例を、ほぼ59%対41%で通過させたが、それはギグワーカープラットフォームの大勝利と多くの人びとが受け止めている。

しかしこのような戦いはシリコンバレーの本拠地である州だけの現象ではない。2021年初めに英国では、Uberが従業員の位置づけをめぐる法廷闘争で負けて、その数万人のドライバーが労働者と見なされた。そしてその判決により彼らには、それまで保証されなかった多様な福利厚生が提供された。

画像クレジット:ejs9 / Getty Images / Getty Images

原文へ

(文:Danny Crichton、翻訳:Hiroshi Iwatani)

【コラム】自由とプライバシーの保有格差、デジタルフロンティアにおける不平等の拡大

プライバシーは感情的な側面がある。不快なデータエクスペリエンスにさらされて脆弱性や無力感を感じたとき、私たちは往々にしてプライバシーの価値を最大限に高めるものだ。しかし裁判所の視点では、感情は必ずしも、プライバシーの法的体系における構造的変化につながるような損害あるいは理由をなすものとはみなされない。

米国が切実に必要としているプライバシーの改善を促進するには、拡大するプライバシーの格差と、それがより広範な社会的不平等に及ぼす影響について、実質的な視点を持つ必要があるかもしれない。

Appleのリーダーたちは2020年に、App Tracking Transparency(ATT)に関するアップデート計画を発表した。端的にいうと、iOSユーザーは、アプリが他社のアプリやウェブサイトを横断して自分の行動を追跡するのを拒否することが可能になる。このアップデートにより、iOSユーザーの実に4分の3が、アプリ間トラッキングからオプトアウトしている。

ターゲティング広告の個別プロフィール作成に利用できるデータが少なくなることから、iOSユーザー向けのターゲティング広告は、広告代理店にとって効果的かつ魅力的なものとは映らなくなってきている。その結果として、広告主がiOS端末に費やす広告費は3分の1程度減少していることが、最近の調査で明らかになった。

広告主らはその資金をAndroidシステムの広告に振り向けている。AndroidはモバイルOSの市場シェアの42.06%余りを占めており、一方iOSは57.62%だ。

こうした動きが生み出すプライバシーの格差は、漠然とした不快感を超えたところにある、感情的、評判的、経済的などの実質的な害のリスクを徐々に高めていくだろう。多くのテック企業がいうように、プライバシーが私たち全員に等しく帰属するのであれば、なぜそれほどのコストが費やされているのか。あるユーザーベースがプライバシー保護措置を講じると、企業は単純に、最も抵抗の少ない道に沿って、法的または技術的なリソースがより少ない人々に向けてデータプラクティスを方向転換するのだ。

単なる広告以上のもの

Android広告への投資が増えるにつれて、広告テクニックはより巧妙になるか、少なくともより積極的になることが予想される。カリフォルニア州のCCPAのような関連法の下で、ユーザーのオプトアウトの法的権利を遵守する限りにおいては、企業がターゲティング広告を行うことは違法ではない。

これは2つの差し迫った問題を提起している。第1に、カリフォルニア州を除くすべての州の住民には現在、そのようなオプトアウト権がない。第2に、ターゲティング広告をオプトアウトする権利が一部のユーザーに供与されていることは、ターゲティング広告に害あるいは少なくともリスクがあることを強く示唆している。そして実際にそうしたことはあり得るのだ。

ターゲティング広告では、第三者がユーザーの行動に基づいてユーザーのプロフィールを舞台裏で構築し、維持する。フィットネスの習慣や購買パターンなど、アプリのアクティビティに関するデータを収集することで、ユーザーの生活の微妙な側面に対するさらなる推測につながる可能性がある。

この時点で、ユーザーの表現は、ユーザーが共有することに同意していないデータを含有する(正しく推測されているかどうかに関係なく)、規制が不十分なデータシステム内に存在することになる。(ユーザーはカリフォルニア州居住者ではなく、米国内の他の場所に居住しているものと想定)

さらに、ターゲティング広告は、ユーザーの詳細なプロフィールを構築する上で、住居取得や雇用の機会における差別待遇を生む可能性があり、場合によっては連邦法に違反することもあることが調査で明らかになっている。また、個人の自律性を阻害し、ユーザーが望まない場合でも、購入の選択肢を先取りして狭めてしまうこともある。その一方で、ターゲティング広告は、ニッチな組織や草の根組織が関心のあるオーディエンスと直接つながるのを支援することができる。ターゲティング広告に対するスタンスがどのようなものであっても、根本的な問題となるのは、対象となるかどうかについてユーザーが発言権を持たない場合だ。

ターゲティング広告は大規模で活況を呈するプラクティスだが、ユーザーのデータを尊重することを優先していない広範なビジネス活動網の中のプラクティスとしては唯一のものだ。米国の多くの地域ではこうした行為は違法ではないが、法律ではなく、自らのポケットブックを使用することで、データの軽視を回避することができる。

高級品としてのプライバシー

著名なテック企業各社、特にAppleは、プライバシーは人権であると宣言しているが、これはビジネスの観点において完全に理に適っている。米国連邦政府がすべての消費者のプライバシー権を成文化していない現状では、民間企業による果敢なプライバシー保護のコミットメントはかなり魅力的に聞こえる。

政府がプライバシー基準を設定しなくても、少なくとも筆者の携帯電話メーカーはそうするだろう。企業が自社のデータをどのように利用しているかを理解していると回答した米国人はわずか6%にとどまっているにしても、広範なプライバシー対策を講じているのは企業である。

しかし、プライバシーを人権だと宣言する企業が、一部の人にしか手が届かない製品を作っているとしたら、それは私たちの人権について何を物語っているだろうか?Apple製品は、競合他社の製品に比べて、より裕福で教育水準の高い消費者に偏っている。これは、フィードバックループが確立され、持てる者と持たざる者との間のプライバシー格差がますます悪化するという厄介な未来を投影している。プライバシー保護を得るためのリソースがより少ない人は、ターゲティング広告のような複雑なプラクティスに付随する技術的および法的な課題に対処するためのリソースがより限定されてしまう可能性がある。

これについて、プライバシーとアフォーダビリティを巡ってAppleとの確執を抱えるFacebookの側に立つものだと解釈しないようにしていただけたらと思う(最近明るみに出たシステムアクセス制御の問題を参照)。筆者の考えでは、その戦いにおいてどちらの側も勝ってはいない。

私たちには、誰もが手にすることができる、有意義なプライバシー保護を受ける権利がある。実際、その表現を重要な論点へと転換するならば、どの企業も自社製品から除外するべきではない、尊重すべきプライバシー保護を受ける権利を、私たちは有している。プライバシーの意義に重きを置き、プライバシーの広範な適用を確保するという、両方の側面を満たす「both/and(両方 / および)」アプローチがなされるべきである。

私たちが進むべき次なるステップ

先を見据えると、プライバシーの進歩には2つの鍵となる領域がある。プライバシーに関する法制化と開発者のためのプライバシーツールである。筆者はここで再び、both/andアプローチを提唱する。私たちは、テック企業というよりも、消費者のために信頼できるプライバシー基準を設定する立法者を必要としている。また、開発者がプロダクトレベルでプライバシーを実装しない理由(財務的、ロジスティクス的、またはその他の理由)を持たない、広範な適用を確保できる開発者ツールも必要だ。

プライバシーの法制化に関しては、政策の専門家がすでにいくつかの優れた論点を提起していると思う。そこで、筆者が気に入ったいくつかの最近の記事へのリンクを紹介しよう。

Future of Privacy ForumのStacey Gray(ステイシー・グレイ)氏と彼女のチームは、連邦プライバシー法と、州法の新たな寄せ集めとの相互作用に関する、良質のブログシリーズを公開している。

Joe Jerome(ジョー・ジェローム)氏は、2021年の州レベルのプライバシー状況と、すべての米国人のための広範なプライバシー保護への道筋について見事な要約を発表した。重要なポイントとして、プライバシー規制の有効性は、個人と企業の間でいかにうまく調和するかにかかっていることが挙げられている。これは、規制がビジネスに優しいものであるべきだということではなく、企業は明確なプライバシー基準を参照できるようにして、日々の人々のデータを自信を持って、敬意を払って処理できるようにすべきだということを示している。

プライバシーツールに関しては、すべての開発者に対してプライバシーツールへの容易なアクセスとアフォーダビリティを確保することで、プライバシー基準を満たすための弁解をテクノロジーに一切残さないことになる。例としてアクセス制御の問題を考えてみよう。エンジニアは、すでに機密性の高い個人情報が蓄積されている複雑なデータエコシステムにおいて、多様なデータにどの担当者とエンドユーザーがアクセスできるかを手動で制御しようとする。

そこでの課題は2つある。まず、すでに取り返しの難しい状況にある。技術的負債が急速に蓄積される中、プライバシーはソフトウェア開発の外に置かれている。エンジニアには、本番稼働前に、微妙なアクセス制御などのプライバシー機能を構築できるツールが必要だ。

このことは第2の課題につながっている。エンジニアが技術的負債をすべて克服し、コードレベルで構造的なプライバシーの改善を行うことができたとしても、どのような標準や広く適用可能なツールが使用できる状態にあるだろうか?

Future of Privacy Forumによる2021年6月のレポートが明らかにしているように、プライバシー技術には一貫した定義が切実に求められており、それは信頼できるプライバシーツールを広く採用するために必要なものだ。より一貫した定義と、プライバシーのための広く適用可能な開発者ツールという、技術的なトランスフォーメーションは、XYZブランドの技術に限られない全体的な技術としてユーザーによる自身のデータ制御に寄与する方法の、実質的な改善に結びつく。

私たちには、このゲームに関わっていない機関によって設定されたプライバシー規則が必要だ。規制だけでは現代のプライバシーの危険から私たちを守ることはできないが、有望な解決策には欠かせない要素である。

規制と並行して、すべてのソフトウェアエンジニアリングチームは、すぐに適用可能なプライバシーツールを持つべきである。土木技術者が橋を建設しても、一部の人々にとっては安全ではない可能性がある。橋の安全性は、横断するすべての人のために機能しなければならない。デジタル領域内外の格差を拡大させないようにする上で、データインフラストラクチャについても同じことが言えるだろう。

編集部注:本稿の執筆者のCillian Kieran(シリアン・キエラン)は、ニューヨークを拠点とするプライバシー企業EthycaのCEO兼共同設立者。

関連記事
【コラム】消費者の同意を取り付けるためだけのプライバシー通知をやめませんか?
【コラム】プログラマティック広告における広告詐欺と消費者プライバシー乱用との戦い方
画像クレジット:PM Images / Getty Images

原文へ

(文:Cillian Kieran、翻訳:Dragonfly)

米国政府がグーグルに要求した令状の4分の1がジオフェンスに関するもの

Google(グーグル)が初めて、これまでに当局から受け取ったジオフェンス令状の数を公表し、以前から議論が多いこの令状の発行頻度などがわかるようになった。

その数字は米国時間8月19日に公表され、Googleが2018年以降の各四半期に数千件のジオフェンス令状を受け取ったことを明かしている。それは、Googleが受け取る米国の令状の約1/4を占めることもある。そのデータによると、ジオフェンス令状の大半は地方や州の当局が入手しており、国の法執行機関はこのテクノロジー大手が従ったすべてのジオフェンス令状のわずか4%を占めるにすぎない。

データによると、Googleは2018年に982件のジオフェンス令状、2019年には8396件、2020年には1万1554件を受け取った。しかしこれらの数字は受け取った令状の総数をざっと示すだけで、個々の要求の詳細はなく、またあまりにも広範な要求を断った例についても記述がない。Googleの広報担当は、この件についてコメントしなかった。

数十にも及ぶ人権団体がこの数字の公表をロビー活動によって求め、その活動のまとめ役だったSurveillance Technology Oversight Project(STOP)の事務局長Albert Fox Cahn(アルバート・フォックス・カーン)氏は、Googleが数字を公表したことを称賛している。

カーン氏は「ジオフェンス令状はその適用範囲の広さが憲法違反に相当し、侵害的であり、私たちとしてはそれが完全に違法と見なされる日まで活動を続けたい」と述べている。

ジオフェンス令状は、犯罪が行われたときに現場近くにいて関心を持っていた人びとを探そうとするので「リバースロケーション」令状(reverse-location warrants)とも呼ばれる。逮捕状などと同じく警察は、裁判所にGoogleにリバースロケーショを命じることを求める。Googleにはその広告事業の運用のために膨大な量の位置データがあり、令状に従って、ある地点から半径数百フィート以内にいた人の情報を警察に渡して、容疑者候補の特定を助ける。

Googleは長いアダ、これらの数字の公開を避けてきた。その理由の一端は、ジオフェンス令状がGoogleだけの案件であるためだ。法執行機関は以前からGoogleのSensorvaultと呼ばれるデータベースにユーザーの大量の位置データがあることを知っており、The The New York Timesが2019年にそのことを初めて明かしている

Sensorvaultには世界中の少なくとも数億台のデバイスの詳細な位置データがあると言われており、それらは、ユーザーがAndroidデバイスを使っていて位置データを有効にしている場合に収集される。あるいはGoogleマップやGoogleフォトといったGoogleのサービスを使っていてもよい。Google検索の結果ページでもOKだ。2018年のAssociated Press(AP)の報道では、ユーザーが自分の位置履歴を「停止」にしていても、Googleはそのユーザーの位置を取得できる。

しかし批評家たちは、当局はGoogleに、同じ地理的領域内にいる者全員のデータを渡すよう強要するから、ジオフェンス令状は憲法違反と主張してきた。

しかも、その令状によって完全に罪のない人でも罠にかけてしまうからだ。

TechCrunchは2021年初めに、ミネアポリス警察がジオフェンス令状を使って、2020年警察がGeorge Floyd(ジョージ・フロイド)氏を殺害したときに騒動を起こした人物を特定しようとしたと報じた。現場で撮影し抗議活動を記録しようとしていた1人が、暴力に近い場所にいたとして警察に位置データを要求された。NBC Newsの報道によると、フロリダ州ゲインズビルの住民が、その情報を住居侵入事件を捜査していた警察にGoogleによって渡されていたが、その時間にはフィットネスをしていたことがスマホに残っていたため無罪を証明できた。

関連記事:ミネアポリス警察がGoogleにジョージ・フロイド氏抗議行動者特定のため個人データを要求

裁判所はまだ、ジオフェンス令状の合法性について広く審議していないが、一部の州はそれを禁ずる州法を準備している。ニューヨーク州の州議が2020年、ジオフェンス令状を禁止する法案を提出した。それは、ミネアポリスであったように、警察が抗議活動への参加者をターゲットにするためにそれを利用するかもしれないという危惧からだ。

そのときの法案作成を手伝ったカーン氏は、今回公表されたデータにより「この技術を違法化しようとする議員たちの動きが活発になるだろう」と述べている。

「はっきりさせておきたい。ジオフェンス令状の数はゼロ件であるべきなのだ」と彼は言っている。

関連記事:ミネアポリス警察がGoogleにジョージ・フロイド氏抗議行動者特定のため個人データを要求

画像クレジット:TechCrunch/file photo

原文へ

(文:Zack Whittaker、翻訳:Hiroshi Iwatani)

ユーザーの声紋と顔紋を収集するTikTokの危険な計画に上院議員が「待った」

ユーザーの生体データを収集するTikTok(ティックトック)の計画は、米国議員らの懸念を呼びおこし、収集する情報の詳細とデータの利用計画を正確に公表するよう要求されている。

2021年8月初めにTikTok CEO Shou Zi Chew(周受資)氏宛に送ったレターで、上院議員のAmy Klobuchar(エイミー・クロブシャー)氏(民主党・ミネソタ州選出)とJohn Thune(ジョン・スーン)氏(共和党・サウスダコタ州選出)は「ユーザーが投稿したビデオ・コンテンツから身体的、行動的特徴を含む生体データを自動的に収集」を可能にするTikTokによる最近のプライバシーポリシー変更に不安を感じていることを訴えた。

TechCrunchは2021年6月、新プライバシーポリシーの詳細を最初に報じた。その時TikTokは「顔紋(Faceprint)と声紋(Voiceprint)」を収集するために法律で「必要な認可」を取得しようとしていると語ったが、それが連邦法なのか州法なのかその両方なのかは説明しなかった(米国で生体プライバシー法があるのはイリノイ州、ワシントン州、カリフォルニア州、テキサス州、ニューヨーク州などごくわずかな州のみ)。

関連記事:TikTokが米国ユーザーの「顔写真や声紋」を含む生体情報の収集を表明

クロブシャー氏とスーン氏のレターはTikTokに対し「顔紋」と「声紋」の内容と、このデータがどのように使用され、いつまで保持されるのかを明確に説明するよう要求している。さらに両上院議員は、18歳未満のユーザーのデータを集めるのか、収集した生体データに基づきユーザーに関して何らかの推測を行うのかを問い、データをアクセスできる全サードパーティーのリストを提出するよう求めた。

「新型コロナウイルスのパンデミックで増加したオンライン活動によって、消費者のプライバシー保護の必要性は増大しています」とレターに書かれている。「これはTikTokのアクティブユーザーの32%以上を占め、友だちや大切な人とのやり取りやエンターテインメントやをTikTokなどのオンラインアプリケーションに頼っている子どもたちやティーンエージャーにとっては特にそうです」。

TikTokは議員らの質問に答えるために8月25日まで猶予を与えられている。TikTokの広報担当者はすぐにはコメントしなかった。

TikTokの過度なデータ収集計画が監視対象になったのはこれが初めてではない。2021年2月、TikTokがユーザーの生体データを違法に収集してサードパーティーに提供したと主張する集団訴訟で同社は9200万ドル(約100億9000万円)の示談金を支払った。これ以前にTikTokは、アプリが未成年のデータを収集するためには親の許可を必要とする児童オンライン保護法(COPPA)に違反したことで2019年にFTC(連邦取引委員会)から570万ドル(約6億3000万円)の罰金を課された

関連記事
米国の国会議員が掌紋データの今後の扱い方などでアマゾンに質問状
VUの本人確認技術が普及すれば運転免許証や指紋の提示が不要になる
ニューヨーク市で生体情報プライバシー法が発効、データの販売・共有を禁止
画像クレジット:Greg Baker / Getty Images

原文へ

(文:Carly Page、翻訳:Nob Takahashi / facebook

バイデン大統領のEV販売目標達成に向けて、自動車メーカーが政府の投資拡大を要請

Joe Biden(ジョー・バイデン)大統領は、2030年までに米国の新車販売台数の半分を低エミッションまたはゼロエミッション車にするという意欲的な新目標を発表するが、この計画について、ビッグ3の自動車メーカーは、政府による多額の支援が必要であるとしながらも、一定の支持を表明している。

General Motors(ゼネラルモーターズ)、Ford(フォード)、Stellantis(ステランティス、旧Fiat Chrysler)の3社は現地時間8月5日に共同声明を発表し、10年後までに新車販売台数に占める電気自動車の割合を40~50%にするという「共通の目標」を掲げた。ただし、この目標は「ビルド・バック・ベター(より良い復興)プランで政府が約束した一連の電化政策が適切に展開される場合にのみ達成できる」と注記されている。

具体的な投資としては、消費者へのインセンティブ、米国全土の「十分な量」のEV充電ネットワーク、研究開発への資金提供、製造・サプライチェーンへのインセンティブなどが挙げられている。

現地時間8月5日に大統領令として発表される予定のバイデン大統領の目標は、拘束力はなく、完全に自主的なものだ。この目標には、バッテリー、水素燃料電池、プラグインハイブリッドを搭載した車両が含まれる。

ホワイトハウスで開催される新しい目標に関するイベントには、自動車メーカー3社の幹部と全米自動車労働組合の代表者が出席。Elon Musk(イーロン・マスク)CEOのツイートによると、テスラは招待されなかったようだ。

ホワイトハウスが同日発表したファクトシートによると、バイデン大統領は、トランプ大統領の任期中に緩和された2026年までの乗用車および中・大型車の新しい燃費基準も強化する。この新基準は、米国運輸省と米国環境保護庁の管轄下で策定されるが、自動車メーカーにとっては驚きではない。この新基準は、すでにバイデン大統領の、いわゆる「Day One Agenda(初日のアジェンダ)」に含まれており、気候変動への取り組みの基礎となっている。

新基準は、2020年カリフォルニア州で可決された、自動車メーカー5社(BMW AG、Ford、本田技研工業、Volkswagen AG、Volvo AB)の連合体と協力して決定された基準を参考にしていると思われる。これらの自動車メーカーは8月5日、ホワイトハウスの排出量削減計画を支持するとした別の声明を発表したが、ビッグ3と同様、排出量削減目標を達成するためには、米国政府による「大胆な行動」が必要であるとしている。

2030年への道のり

Edmunds(エドモンズ)のインサイト担当エグゼクティブディレクターであるJessica Caldwell(ジェシカ・コールドウェル)氏は、声明の中で、バイデン大統領の拘束力のない命令は象徴的なものに過ぎないが、目標は達成可能であると述べ、自動車業界のリーダーたちは、誰が大統領であろうと、電化に関しては「以前から『壁に書かれた文字(不吉な警告の意味)』を見てきた」と続ける。

製品開発のリードタイムが比較的長いこともあり、大手自動車メーカーの多くが、少なくともこの10年の半ばまでは、EV(電気自動車)やAV(自動運転車)に数十億ドル(数千億円)規模の投資を行うことをすでに発表している。General MotorsFordは2025年までにそれぞれ350億ドル(3兆8000億円)、300億ドル(約3兆3000億円)の投資を発表しており、Stellantisも同様の発表を行っていることはいうまでもない。フォルクスワーゲンはバッテリーの研究開発に数十億ドル(数千億円)を投じており、さらにVolvo Cars(ボルボ・カーズ)は2030年までに全車を電気自動車に移行するとしている。

関連記事
GMが3.8兆円をEV開発へ投資、従来の計画に8850億円上乗せ
フォードが電動化への投資を3.3兆円に引き上げ自社バッテリー研究開発を加速、30年までにEV比率40%に
多国籍自動車会社ステランティスが2025年までに約3.9兆円を電気自動車に投資
Volvoが2030年までにEVへ全面移行、販売もオンラインに

これらの膨大な数字は、自動車メーカー各社の販売目標に沿ったもので、ほぼバイデン大統領の目標と一致している。

一方で、燃費規制については、これまで自動車メーカーの反応は芳しくなかった。General Motors、Stellantis(当時はFiat Chrysler)、トヨタ自動車の3社は、カリフォルニア州が独自の排ガス規制を設定する権限を剥奪しようとするトランプ大統領時代の訴訟を支持していたが、各社とも最終的には180度方針転換し、バイデン大統領は2021年、独自の基準を導入できることとなった。

本質的には、バイデン大統領の発表は気候変動と同様に地政学的な意味合いが強い。彼もまた、電気自動車に関しては「不吉な警告」を見ているのだ。バイデン政権は、ファクトシートの中で、電気自動車や電気自動車用バッテリーの材料について「中国が世界のサプライチェーンを支配しつつある」と指摘し「(中国を筆頭とする)各国は、電気自動車の販売目標を明確に設定することで、部品・材料から最終組立に至る製造部門に民間投資を呼び込む存在となっている」と述べている。

国際エネルギー機関(IEA)によると、米国では2020年、2016年の3倍の電気自動車が登録されたものの、電気自動車の市場シェアではヨーロッパや中国に後れをとっている。

このニュースにはさまざまな反応があり、その中には政権側にもっと断固とした行動を求める環境保護団体もある。Ceres(セレス)の交通部門シニアディレクターCarol Lee Rawn(キャロル・リー・ローン)氏は、将来的な規制は、二酸化炭素排出量を60%削減し、2035年までに電気自動車の販売を100%にするという「明確な軌道」を目指すべきという声明を出している。

現地時間8月5日にホワイトハウスでバイデン大統領と同席する全米自動車労働組合は、Ray Curry(レイ・カリー)会長が声明を出し「(同組合は)厳しい期限やパーセンテージではなく、米国の中産階級の心と魂を支えてきた賃金と福利厚生を維持することに焦点を当てている」と述べた。

画像クレジット:Getty Images

原文へ

(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Dragonfly)

ドライバー監視システム需要を喚起する米国の新しい飲酒運転規制条項

2702ページに及ぶ10億ドル(約1106億4000万円)規模のインフラストラクチャ構築法案に、ドライバーがビールを2、3杯飲んだかどうかを検知するテクノロジーを新車に組み込むことを義務付ける条項が新しく追加され、ドライバー監視テクノロジーの開発に取り組んでいるメーカーにとって追い風となる可能性がある。

2021年に導入されたReduce Impaired Driving for Everyone Actと呼ばれる超党派の法律に追加されたこの条項により、米国運輸省は、各自動車メーカーに対して、テクノロジー安全基準を3年以内に確立するよう指示することになる。これを受け各メーカーは、その後2年以内に、同基準に従って、飲酒運転の検知 / 予防テクノロジーを実装することになる(ロイター通信社の記事による)。

この条項には、どのようなテクノロジーを組み込むことが求められるのかまでは明記されていないが、業界の専門筋によると、カメラベースのドライバー監視システム(DMS)を開発しているメーカーが最も有利になるという。DMSシステムはすでに自動車業界では成熟した技術であり、自動運転開発の副産物として生まれたものだ。自動車業界は将来的に死亡事故を大幅に減らす方法として自動運転車の開発に取り組んでいるが、提唱者や規制当局は、この技術には、飲酒運転や不注意運転など、存在する問題を解決する方法として利用する余地があると唱えている。

「今週上院で起こったことは、カメラベースのリアルタイムソリューションへの道を開く可能性を秘めています。今回の新条項の追加で、米国の自動車メーカーは初めて、飲酒によって人体に生じる生理的な変化をリアルタイムで監視する技術を保有し、それを要求されることになります」とSeeing Machinesの科学イノベーション最高責任者のMike Lenné(マイク・レンネ)博士はTechCrunchのインタビューに答えて語った。「飲酒後は、人が周囲の環境をスキャンする方法、目が刺激に反応する方法が信頼できるレベルで明らかに変化します。警察が飲酒の疑いのあるドライバーに「指の動きを追わせる」テストを実施しているのもそのせいです」。

こうしたシステムには、ドライバーの動きを監視して機能障害を検知し、検知されたら車の動きを予防 / 制限するタイプ、BAC(血中アルコール濃度)が法的上限値以上に達しているかどうかを調べ、必要なら運転を強制的に禁止するタイプ、両者を組み合わせたタイプがある。

近年登場した飲酒運転ソリューションはカメラを使ったものだけではない。

Automotive Coalition for Traffic SafetyとNational Highway Traffic Safety Administration(NHTSA)が共同で開発したDriver Alcohol Detection System for Safety(DADSS)プログラムでは、呼気または接触ベースのアプローチを使ってBACレベルを決定する方法を提唱している。接触ベースのアプローチでは、ドライバーの指先に赤外線を当てることで皮膚の表面を介してBACを計測する。DADSSによると、呼気ベースのアプローチは2024年までに、接触ベースのアプローチは2025年までクルマに搭載可能となる予定だ。

レンネ氏によると、BACレベルは上昇するまでに数分かかる可能性があるため、呼気や接触ベースのアプローチよりもカメラベースのアプローチのほうがはるかに精度が高いという。理論的には数杯飲み干した直後に運転しても、数値に現れるまでに数分はかかる。あるいは、運転中にアルコールが分解されてしまう可能性もある。それに、BAC検知では、薬物による運転能力の低下はまったく検出できない。

欧州と米国の比較

欧州では、カメラベースのDMSアプローチを使った飲酒運転検知テクノロジーを搭載するよう各自動車メーカーを促す動きがすでに始まっている。しかし、米国では、この種のテクノロジーに関する議論の大半は、ごく最近まで、運転支援およびレベル2以上の自動運転のためのDMSに重点が置かれていた(Society of Automotive Engineersによると、レベル2の自動運転とは、ステアリングや加速などの機能は組み込まれているが、ドライバーも運転に参加している必要があるというレベルである)。

DMS分野は、GMやフォードなどがハンズフリーの高度なドライバー支援システムを実装するなど、近年成長を遂げているが、上記の条項により、この成長が加速される可能性がある。

「組み込みという観点からすると、今回のテクノロジーは、現在OEM各社が、カメラベースのDMSで不注意運転や居眠り運転を防止するために行っていることとほどんど変わりありません。チップに新たな機能を提供するアルゴリズムが追加されるだけです」とレンネ氏はいう。

今すぐ使えるテクノロジー

「自動運転を実現するテクノロジーの開発にはすでに数十億ドル(数千億円)が費やされていますが、まだ実現には程遠い状態です」とMothers Against Drunk Driving(MADD、飲酒運転根絶を目指す母親の会)の政府業務担当最高責任者のStephanie Manning(ステファニー・マニング)氏はTechCrunchのインタビューに答えて語った。「しかし、その過程で、自動車メーカーは命を救うという意味で今すぐに使えるたくさんのテクノロジーを開発しました。この法案が通過すれば、救われる人命の数という点で米国国家道路交通安全局(NHTSA)がこれまでに行った最大の安全性規則が制定されることになります。今が絶好のタイミングです。これ以上待ったり、策定を遅らせたりすれば、それだけ死者の数が増えるだけです」。

このテクノロジーが市場に出るのはそれほど先ではない、とレンネ氏はいい、その点を認識している。Seeing Machinesは、GMのハンズフリー高度ドライバー支援システムSuper Cruiseで使用されているDMSを提供している。Super CruiseはCadillac(キャデラック)の1つのモデルのみで採用されていたが、機能拡張されてGMの製品ラインに組み込まれ、今ではキャデラックCT6、CT4、CT5、エスカレード、シボレー・ボルトでも採用されている。Seeing Machineのテクノロジーは、メルセデスベンツのSクラスおよびEQSセダンでも使用されている。

「これが規制化されれば、トップダウンで需要が生まれることになるため、この市場への参入企業が増えると予想されます」とレンネ氏はいう。「消費者の需要があるからではなく、すべてのクルマが一律にこうした安全性機能を備える必要が生じるため、市場規模は劇的に拡大し、ビジネスチャンスも広がります」。

IndustryARCによると、世界のDMS市場は、2021年から複合年間成長率9.8%で成長し、2026年までには21億ドル(約2323億円)を超えると予想される。こうしたインフラストラクチャ法案による規制によって生じるトップダウンの需要によって確実に需要は増大するものの、それによって問題の解決が容易になるわけではない。

「人の頭の中で起こっている反応を査定しようとするわけですから、30メートル前方にあるモノを見る前向きのレーダーとはまったく異なります」と同氏はいう。「ある人が安全に運転できるかどうかを判断しようとするわけですから、極めて難しい技術的な問題です。当社は創業21年になります。Smart Eye(スマートアイ)は創業10年以上になります。市場規模は急激に拡大しているものの、新規参入組にとってはハードルの高い難題です」。

新規参入組は、Seeing Machinesやスマートアイ(スウェーデンのコンピュータービジョン企業で業界筋によるとフォードと提携しているというが、フォードはこの点について明言を避けている)などの実績のある大手サプライヤーとの競争に直面することになる。IndustryARCは、他にも、Faurecia、Aptiv PLC、Bosch、Denso、Continental AGといったこの分野の主要プレイヤーの名前を挙げている。その一方で、イスラエル本拠のCipia(旧称Eyesight Technology)、スウェーデン本拠のTobii Techといった新興企業も市場への参入を図っている。

市場の成長余地

市場に参入する企業が増えるとテクノロジーの進歩が加速する。スマートアイが最近、感情検知スタートアップAffectiva(アフェクティバ)を7350万ドル(約80億円)で買収した事実は、将来、乗用車に搭載されるDMSがどのような形になるのかを示唆している。現在DMSが対象としているのは、不注意運転、居眠り運転、飲酒運転のみだが、数年以内に、薬物による身体機能障害、(アルツハイマーなどの)認識機能障害、さらには(あおり運転などの)ロードレイジも対象になると考えられる。

関連記事:ドライバーモニタリングのSmart Eyeが感情検知ソフトウェアAffectivaを約80億円で買収

アイトラッカーテクノロジー企業Tobii(トビー)は、先ごろ、DMS市場への参入を宣言した。DMS分野は、まず欧州、そして米国で法改正が行われる中、ここ数年、同社が研究を進めてきた分野だ。

トビーは、自動車分野へは新規参入組だが、アイトラッキング分野には2001から存在しており、マーケティング、科学研究、バーチャルリアリティ、ゲームなどの業界で事業を展開してきた。トビーの部門CEOであるAnand Srivatsa(アナンド・スリーヴァッサ)氏はTechCrunchに次のように語った。「最も難しいのは、目の形の異なるさまざまな民族を含め、さまざまな人口層にまたがって規模を拡大していくことです。当社は、自動車業界での経験はほとんどありませんが、こうした多様な需要に対応するという点では有利だと思います」。

「当社は創業以来の長い経験を経て、コンポーネントレベルからエンドソフトウェアまで、すべてをカバーする完全なソリューションの実現に必要な要素を備えています。当社の他の業務でこうした要素をこなしてきたからです」とスリーヴァッサ氏はいう。「自動車業界の当社の一部のパートナー企業は、この点をトビー独自の能力とみなしてくれています。例えば当社は独自のasix(モーションセンサー)やセンサーを作成しているため、アイトラッキングに必要なコンピューターについて説明することができます。当社はエンドユーザーソフトウェアも自社開発しているため、スタックの各構成部分が他に及ぼす影響や制約についても把握しており、それらを操作してより革新的なソリューションを実現することもできます。私はそれこそがこの分野で極めて重要な点になるのではないかと思っています。つまり、ソリューションの総コストを削減しながら、すべての車種に効率的にスケールさせるにはどうすればよいか、という点です」。

スリーヴァッサ氏はまた、アイトラッキングによって生成されるバイオメトリクスまたは生理的なシグナルは他の分野に応用する余地があることも指摘する。こうしたシグナルを使えば、外の道路の状況や車内で発生していることに基づいて情報を再構成し、ドライバーが道路状況に意識を集中できるようにシステムを最適化できる。

「私が理想としているのは、前方衝突警告、死角警告、車線逸脱警告などによって最も必要としているときにドライバーを支援してくれるテクノロジーです。つまり、ドライバーが独り善がりになったり、疲れたり、注意散漫になっていないかを察知し、そのときの状況に応じてシステムの動作、警告のタイミングなどを調整してくれる、そんなテクノロジーです」と Consumer Reportsの車両インターフェイス試験プログラムマネージャー兼車両接続 / 自動化担当責任者のKelly Funkhouser(ケリー・ファンクハウザー)氏はTechCrunchのインタビューに答えて語った。「と同時に、ドライバーが集中しているときに邪魔をしたり、うるさく言ってイライラさせたりしないテクノロジーにしたいと思っています。例えば歩道の歩行者に接触しないように意識的にレーンからはみ出して走行することはよくありますから」。

レンネ氏によると、車内で起こっていることを察知してドライバーの好みに合わせた快適な運転体験を提供するドライバー監視システムには大きな可能性があるという。

「こうしたシステムを作るには、より良い運転体験が描けることが何より重要です」と同氏はいう。「そうでなければ、消費者に受け入れられない危険を犯すことになります」。

既存のADAS(先進運転支援システム)の進歩

各自動車メーカーは、長年、飲酒運転テクノロジーに関していろいろと話題を提供してきた。2007年には、日産が飲酒運転コンセプトカーを発表した。これはアルコール臭センサー、表情監視、運転操作などによってドライバーの異常を検知するものだ。

同じ年、トヨタも同様のシステムを発表し、2009年までに搭載するとした。最近では、ボルボが2019年に、ドライバーが飲酒運転または不注意運転をしていないかを監視し、必要に応じてシグナルを送信して運転に介入できるようカメラとセンサーを搭載すると発表したが、このテクノロジーはボルボSPA2のハンズフリー運転アキテクチャー用に設計されたもので、まだリリースされていない。要するに、飲酒運転の防止と検知を義務付ける法律が制定されていない現状では、メーカーは、システムの構築に必要な大半の構成ブロックはすでに用意できているものの、実装のゴーサインを出すまでには至っていないということだ。

マニング氏は、これは安全機能を搭載するなら、何らかの見返りが欲しいというメーカー側の思惑があるからだと考えている。

「メーカー側は公道で最新テクノロジーを搭載した自社の車両をテストしたいが、飲酒運転の撲滅に金と時間とエネルギーを使いたくないのです。それは自分たちの責任ではないと感じているからです。彼らはこうしたルール作りには否定的なのです」と同氏はいう。「彼らはこのルール作りの過程で我々と必死で戦うつもりだということが十分に予測できます」。

GMやフォードの広報担当のコメントは得られなかったが、DADSSプログラムについてNHTSAと協力しているAlliance for Automotive Innovationの社長兼CEO John Bozzella(ジョン・ボゼラ)氏は「自動車業界は、路上の安全を脅かす飲酒運転の脅威に対応するための国と民間企業によるあらゆる取り組みを支援することに尽力しています」と答えた。

「我々は、連邦規制の選択肢としてNHTSAにすべての潜在的なテクノロジーの評価権限を与え、Motor Vehicle Safety Actに従って特定のテクノロジーが乗用車向けの規格を満たしているかどうかを十分な情報に基づいて判断できるようにする、議会指導者やその他の利害関係者による法律制定の取り組みを評価しています」。

関連記事:GMがアップグレードした自動運転支援システムSuper Cruiseを2022年に6車種に搭載へ
画像クレジット:Volvo Car Group

原文へ

(文:Rebecca Bellan、翻訳:Dragonfly)

大企業並みのセキュリティをクラウドで安価に提供、Blumiraが約11億円調達

米国アナーバー出身のサイバーセキュリティ企業であるBlumiraは米国時間8月18日、シリーズAラウンドで1030万ドル(約11億円)の資金を調達したと発表した。同社はこの資金を利用して、提供するプロダクトの種類の拡大、従業員を80名に拡大、サービスプロバイダーとのパートナーシッププログラムの拡充を進める。

2018年に設立のBlumiraは、中規模企業でも大企業並みのサイバーセキュリティを実装できるクラウドベースのプロダクトを提供している。Blumiraのプロダクトは中規模企業による利用に特化し、提供価格も比較的安価となっており、従来のSIEM(Security Information and Event Management)業界の常識を覆してきた。Blumiraによれば、同社のプロダクトを利用することで、大企業並みのセキュリティをすばやく導入することが可能だという。

今回の資金調達により、同社の累計調達金額は1290万ドル(約14億円)に達した。今回のシリーズAでは、新規投資家のMercuryがリードインベスターを務め、同社のマネージングディレクターであるAziz Gilani氏がBlumiraの取締役に加わった。その他、Ten Eleven Ventures、法人エンジェル投資家、M25、Array Ventures、Duo Securityの共同創業者でエンジェル投資を行うJon Oberheide氏などが本ラウンドに参加している。

Blumiraの共同創業者兼CEOのSteve Fuller氏は、「今回の資金調達により、セキュリティ業界を民主化するという私たちのビジョンの実現が加速しました」と話す。「私たちは設立から数年でこの業界に素晴らしいモメンタムを生み出しました。世界的な投資家のみなさまからの支援を受けられたことを嬉しく思うとともに、今後もあらゆるサイズの企業に対し、シンプルで、自動化され、安価で、簡単に導入できるセキュリティを提供していきます」。

[原文へ]