TechCrunch Tokyo 2021 スタートアップバトル優勝は、ゲノム編集で食糧危機を救うリージョナルフィッシュ

12月3日、スタートアップとテクノロジーの祭典「TechCrunch Tokyo 2021」はすべてのプログラムを終え、閉幕した。イベントの最後を飾ったのは、2日間にわたって開催された設立3年以内のスタートアップによるピッチバトル「スタートアップバトル」の表彰式だ。スタートアップバトル初日では、書類選考を勝ち抜いた20社がステージ上でピッチを行い、決勝に進む6社が選ばれた。そしてイベント2日目となる12月3日、スタートアップバトル最終審査員の前で決勝進出企業のピッチが行われた。

2日間に渡る激闘を勝ち抜いたのは、リージョナルフィッシュだ。同社は、DNAを狙って壊しその自然の回復力で自然な変異を起こす「欠失型ゲノム編集」により、超高速の品種改良とスマート陸上養殖を組み合わせた次世代水産養殖システムの研究、およびゲノム編集により生み出された「22世紀鯛」の販売を行うスタートアップだ。22世紀鯛は、一般的な品種よりも少ない飼料で育ち、可食部が約1.2〜1.6倍に増え、通常より14%飼料効率が高いという特徴がある。同社はこの技術を用い、より良質で効率的なタンパク質源を確保することで、タンパク質の需要が供給を上回る「タンパク質クライシス」という大きな課題に立ち向かう。

クレジット:https://regional.fish/

TechCrunch Tokyoのスタートアップバトルでは、2018年優勝のムスカに続き、テクノロジーの力で食糧問題という大きな課題を解決しようとするスタートアップが最優秀賞を獲得することとなった。リージョナルフィッシュ代表取締役の梅川忠典氏は表彰を受け、「私たちのような1次産業を扱うスタートアップでも、スタートアップバトルのようなピッチバトルに勝てるということを示せて嬉しい」と述べた。

なお、最優秀賞を除く各特別賞の受賞企業は以下の通り。

最終審査員の千葉功太郎氏は表彰式で、「ここ数年の中ではじめて、5名の審査員全員が1位に指名した。めずらしいことだ。審査の決め手は、世界の食糧問題の解決やESGに真っ向勝負している点、そして、より重要なのは、『美味しさ』という点を損なわずに世界を変えようとしている点だ」と総評した。

写真左より、最終審査員の千葉氏、リージョナルフィッシュ代表の梅川氏

TechCrunch Japanではスタートアップバトルに出場した有望なスタートアップの今後を追っていくつもりなので、ぜひ注目いただきたい。

GVA TECH、登記事項証明書をオンラインで取得できる「GVA 登記簿取得」をリリース

GVA TECH、登記事項証明書をオンラインで取得できる「GVA 登記簿取得」をリリース

リーガルテックサービスの開発・運営を行うGVA TECHは12月3日、オンラインで登記事項証明書(履歴事項全部証明書・現在事項全部証明書・代表者事項証明書)および登記情報PDFファイルを取得できる「GVA 登記簿取得」をリリースした。

GVA 登記簿取得では、メールアドレスとパスワードで会員登録を行い、登記事項証明書を取得したい企業を検索し、クレジットカード決済をするだけで、24時間365日、自分の好きなタイミングで簡単に登記事項証明書の取得請求が行える。GVA TECH、登記事項証明書をオンラインで取得できる「GVA 登記簿取得」をリリース

企業間で新たに取引をする際やオフィス移転をして入居をする際になど、企業の実態を証明するために登記事項証明書(主に履歴事項全部証明書)の提出を求められることがある。この登記事項証明書を取得する方法としては、「最寄りの法務局に取りに行く」「返信用封筒を送付し法務局から郵送で送ってもらう」「法務省『登記・供託オンライン申請システム』を活用する」の3つの方法が一般的だ。

ただ昨今では、「コロナ禍で密になるのを避けたいため、法務局に行きたくない」「24時間365日、自分の好きなタイミングで登記事項証明書を取得したい」「年に数回あるかの作業のために、専用のソフトウエアをインストールするのが手間」といった声があるという。

実際にGVA TECHで提供しているオンライン商業登記支援サービス「GVA 法人登記」の利用者5000社に「今後GVA 法人登記に期待する機能」のアンケートを取ったところ、49.7%が「登記簿謄本(履歴事項全部証明書)の交付請求機能」を求めていることがわかったそうだ(回答者数は457件)。

決算開示業務を「最短・最適ルート」に導く「Uniforce」(β版)を手がけるstart-up studioが1億円のシード調達

決算開示業務を「最短・最適ルート」に導く「Uniforce」(β版)を手がけるstart-up studioが1億円のシード調達

決算開示業務のDX化を目指すサービス「Uniforce -決算開示業務ナビゲーション-」(β版)を手がけるstart-up studioは12月3日、第三者割当増資による1億円の資金調達を発表した。引受先は、イーストベンチャーズ3号投資事業有限責任組合、成田修造氏(クラウドワークス)、野口圭登氏(Brave group)、ほか個人投資家。2022年度の本格的な事業成長に向け、採用活動・開発体制の強化する。決算開示業務を「最短・最適ルート」に導く「Uniforce」(β版)を手がけるstart-up studioが1億円のシード調達

Uniforce -決算開示業務ナビゲーション-は、決算開示業務を「最短・最適ルート」へと導くというコンセプトの基、業務全体を見渡しながら正しい順序でナビゲーションし、細かなタスクの抜け漏れを防ぎ、スムーズで快適な業務を遂行できるDXソリューションサービス(2022年3月末日まで全機能を無料で試用可能)。経験豊富な公認会計士を中心とした、決算開示業務のスペシャリストのノウハウを集結して設計した最も効率的な業務(決算開示業務)フローで、これまで以上の正確性とスムーズな業務を実現するとしている。

バックオフィスを中心とした決算開示業務に携わる方にとって、決算開示業務における複雑さ・非効率さ・情報の網羅性や非対称性といった課題や属人化リスクに関する課題の解決策になるという。決算開示業務を「最短・最適ルート」に導く「Uniforce」(β版)を手がけるstart-up studioが1億円のシード調達

同社は、決算開示業務のスペシャリストとテクノロジーの力を融合させた新たなサービスとしており、先に挙げた課題を根本から解決し業界全体のDX化を牽引していくため、資金調達に至ったとしている。

宇宙ステーションの運用ギャップ回避のためにNASAがBlue Origin、Nanoracks、Northrop Grummanと450億円以上の契約を締結

NASAは、2030年までに国際宇宙ステーション(ISS)を商用ステーションに置き換える予定であることを公式に(かつ静かに)認めてからわずか2日後に、今度は民間ステーションの計画のさらなる推進のために、3社と4億ドル(約450億円)以上の契約を結んだ。

NASAと商用低軌道(LEO)目的地プログラムの下で契約を結んだ3社は以下のとおりだ。

  • Nanoracks(ナノラックス)、1億6000万ドル(約180億5000万円)
  • Blue Origin(ブルーオリジン)、1億3000万ドル(約146億7000万円)
  • Northrop Grumman(ノースロップ・グラマン)、1億2560万ドル(約141億7000万円)

NASA商用宇宙飛行のディレクターであるPhil McAlister(フィル・マカリスター)氏は米国時間12月2日に、NASAは合計11件の提案書を受けとったと語った。彼は、選択された3つの提案には、多様な技術的概念と、ロジスティックならびに打ち上げロケットのオプションが提供されていると付け加えた。「この多様性は、NASAの戦略の成功の可能性を高めるだけでなく、高度なイノベーションにもつながります。それは、宇宙に対するほとんどの商用の取り組みの中で重要なのです」と彼はいう。

3社はすでに、提案に関わるいくつかの詳細を発表している。Blue Originは、そのステーションコンセプトを「Orbital Reef(オービタル・リーフ)」と呼び、Boeing(ボーイング)やSierra Space(シエラ・スペース)、その他と共同で設計している。チームは、2027年にステーションを打ち上げたいと述べている。一方Nanoracksは、親会社のVoyager Space(ボイジャースペース)ならびに航空宇宙業界の雄Lockheed Martin(ロッキード・マーティン)と共同で開発中のステーションを「Starlab(スターラボ)」と呼んでいる。Northropはステーションの提案に派手な名前を付けていなかったが、Dynetics(ダイネティクス)と協力して、Cygnus(シグナス)宇宙船をベースにしたモジュラー設計を提供しようとしている。

関連記事
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NASAがISSの廃止と新しいステーションの導入の間にギャップがないようにしようとしている中で、今回の重要な契約は2フェーズプロセスの最初のフェーズに相当する。NASAは、議会ならびに最近の監察総監室の報告書の両方で、LEOにおける経済的繁栄の全体的な成功は、このギャップを回避することにかかっていると繰り返し強調してきた。

関連記事:NASA、2030年までに国際宇宙ステーションを民間に置き換える意図を詳述

画像クレジット:Blue Origin

NASAは報告書の中で「ISSが廃止された後に、低軌道(LEO)に居住可能な商用目的地がない場合、NASAは、月と火星への長期にわたる人間の探査ミッションに必要な、微小重力健康研究と技術実証を実施できなくなり、それらのミッションのリスクが高まったり遅延したりするだろう」と述べている。

この潜在的なシナリオを回避するために、NASAは、1つ以上の商用LEO「目的地」(ステーションと呼ばれることもある)を2028年までに運用可能にすることを提案した。これによって2030年に引退する予定のISSと2年間の並行運用期間が生じる。その報告書はそのタイムラインを達成できる可能性についての疑問は投げかけているものの、今回の3社とNASAの幹部はそれぞれ、ステーションの運用ギャップを回避できることに自信を持っていた。

「商用貨物便が打ち上げられてから10年経った今でも、人びとは商用航路の堅牢性とアイデアと柔軟性に疑問を抱いています」とNanoracks CEOのJeffrey Manber(ジェフリー・マンバー)氏は述べている。「確かに、今後の課題は残っています、【略】しかし私たちには堅牢性があり、一緒に取り組んでいるプロバイダーが多数います。これは、リスクの軽減を進め、商用航路に複数のプロバイダーを配置するためのまさに正しい方法なのです」。

この最初の一連の契約は、2025年まで続くと予想される設計や作業を各企業が遂行するのに役立つだろう。

NASAは、2026年の開始を目標とするプログラムの第2フェーズでは、このグループの企業または他の参加企業から人間が使用するステーションを1つ以上認定し、最終的には軌道上サービスを購入しステーションを利用する多くの顧客の1つになる予定だ。NASAは声明の中で、これにより、人間を再び月に送り、最終的には有人宇宙飛行を火星に送り込むことを目的とするArtemis(アルテミス)計画に集中できるようになると述べている。

今回のフェーズにいないことで目立っているのはAxiom Space(アキソム・スペース)だ、同社はISSに取り付けるためのモジュール(自社のステーションとして自己軌道を回り分離する)を打ち上げるための別契約を獲得しているが、今回のプログラムには参加しなかったことを明かしている。

もちろん、大きな問題は、これらのステーションの最終コストがどれだけになるか、そしてNASAが最終的に全体のコストのどれ位を支払うかということだ。マカリスター氏は、NASAが「入札の方々がこれらの活動への財政的貢献を最大化することを奨励しています」と述べ、現在NASA以外の投資が約60%を占め、NASAの貢献は40%未満であると述べた。しかし、3社とNASAは、ステーションの設計、立ち上げ、運用にどれだけの資本の投下が必要なのかと予想しているのかという点はあまり語ろうとしなかった。

画像クレジット:Nanoracks

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(文: Aria Alamalhodaei、翻訳:sako)

水中でゲルが膨らむ速度の温度による変化の法則を東京大学が解明、アインシュタインによるブラウン運動の理論が糸口に

水中でゲルが膨らむ速度の温度による変化の法則を東京大学が解明、アインシュタインによるブラウン運動の理論が糸口に

東京大学は11月30日、乾燥ワカメや紙おむつの吸水材などのゲルが吸水して膨らむ速度の温度による変化を決める物理法則を、世界で初めて解明したことを発表した。この発見には、アインシュタインが提案したブラウン運動の理論が糸口になった。

大量の水を含むことができる固形物であるゲルは、長いひも状の高分子(ポリマー)のネットワークでできている。乾燥ワカメやゼリーなどの食品のほか、紙おむつの吸水材や、ソフトコンタクトレンズなどの医療分野にも広く使われている。また光や温度によって水を出し入れして縮んだり膨らんだりできるゲルもあり、それらはバイオセンサーや薬物送達キャリアーなどに利用されている。そのため、ゲルが膨らむ速度を決める物理法則の研究がこれまでも多く行われてきたが、温度による速度の変化に関しては、影響し合う要素が多く、それぞれが異なる温度変化をするなどの問題のために解明されていなかった。

東京大学大学院工学系研究科の酒井崇匡教授らからなる研究グループは、様々なネットワークを持つゲルの膨らむ速度の温度変化を「世界最高水準の精度」で測定し、明確な物理法則を解明した。水中でゲルが膨らむ速度の温度による変化の法則を東京大学が解明、アインシュタインによるブラウン運動の理論が糸口に

水中でゲルが膨らむ速度の温度による変化の法則を東京大学が解明、アインシュタインによるブラウン運動の理論が糸口に

ゲルの弾性率(固さ)とゲルの拡散係数(膨らむ速度)の温度変化の類似性。異なる高分子ネットワークを持つ4種類のゲルの結果となっている(各シンボルが測定データを表し、直線はデータを直線で近似したもの)。左図:ゲルの弾性率の温度変化を直線で近似すると、「温度軸上の1点で交わる」という性質がある。このとき、温度ゼロの切片が「負のエネルギー弾性」の大きさを表す。右図:ゲルの拡散係数(黒丸)の温度変化を直線で近似すると、「1点で交わる」が、温度軸上ではない。拡散係数を浸透圧に由来する成分(赤丸)と弾性率に由来する成分(青四角)に分離すると、弾性率に由来する成分は「温度軸上の1点で交わる」。つまり、弾性率に由来する成分は、負のエネルギー弾性と形式的に同一の法則に従う。ただし、拡散係数には水の粘度が大きな影響を及ぼすために、1点で交わる温度は、両者で大きく異なる

しかし、測定だけでわかったわけではない。解明の糸口となったのは、水中の微粒子の不規則な熱運動としてアインシュタインが提案したブラウン運動だった。ゲルの吸水も、高分子ネットワークの不規則な熱運動によって起こる。そこでアインシュタインの数式から着想を得て、実験結果を解析したところ、先に同研究グループがゲルの弾性率に関する定説を覆して提案した「負のエネルギー弾性」と形式的に同一なシンプルな法則が見出された。それは、「主として水の粘度の温度変化に由来する新しい非平衡系の法則」だという。

今回の研究により、ゲルの膨らむ速度の温度変化は「従来の想定よりもかなり大きい」ことが実証された。ゲルは食品や医療の分野で様々な温度で利用されるため、この法則の発見は、ゲルが利用されるすべての産業分野で大きく貢献することが期待される。

リンク管理のBitlyがQRコード業界リーダーの独Egoditorを買収

リンク管理企業のBitlyが米国時間12月1日、ドイツに拠点を置くQRコード企業でフラッグシップ製品のQR Code Generatorで知られるEgoditor GmbHを買収すると発表した。

買収の条件は公表されていないが、BitlyのCEOであるToby Gabriner(トビー・ガブリナー)氏は現金と株式の取引であることを明かし、買収が完了すると有料版顧客は32万5000社、アクティブユーザーは500万人以上、従業員は180人、年間経常収益は7500万ドル(約84億6000万円)を超える企業になると述べた。

これはBitlyにとって初の買収で、組織が顧客や人々と関わりデジタル体験でつながりを持つことに貢献するグローバルなSaaS企業を目指すという同社の目標に沿うものだ。

Bitlyは買収と同時に、リンク管理、QRコード、リンクインバイオのリソースをオールインワンで提供するCustomer Connectionsプラットフォームも発表した。Bitlyはここ数年、短縮リンクからさまざまなツールへの進化に関心を移してきた。

Bitlyのトビー・ガブリナーCEO(画像クレジット:Bitly)

BitlyがQRコードのソフトウェアを自前で開発するか買収するかをじっくり検討する中で、Egoditorが第一候補にあがった。Egoditorは10年以上にわたってQRコードの世界をリードしてきたことに加え、Bitlyとの間に顧客や機能性の共通点が多く、この両社が1つになるのは自然な成り行きだったとガブリナー氏は補足した。

同氏は「市場の発展にともない、Bitlyの自然な進化としてこのような道をたどり始めました。当社がQRコード機能の提供を始めたところ相当数のお客様に利用され、お客様が望む機能であると確信を深めました」と説明する。

ドイツのビーレフェルトに本社を置くEgoditorは、QRコードのデザイン、利用、管理、分析をするエンド・ツー・エンドのツールを提供している。2009年にNils Engelking(ニルス・エンゲルキン)氏とNils Drescher(ニルス・ドレッシャー)氏が創業し、190カ国以上の1000万人を超えるユーザーに活用されている。同社の顧客にはスターバックス、Zalando、救世軍などがある。

QRコード自体は新しいものではなく1990年代ごろから存在する。人々はQRコード読み取りアプリをダウンロードしなくなったが、Snapなどは最近、QRコードをクールにしようと試みている。ガブリナー氏は、GoogleとAppleがスマートフォンのカメラでQRコードを読み取れるようにしてから改めて使われるようになったという。そしてコロナ禍の時代となった。

ガブリナー氏はTechCrunchに対し次のように述べた。「利用者が企業と非接触でやり取りする手段が注目され、行動が変容しました。レストランでメニューを見ることから不動産業や小売業、NPO、歯科医に至るまで、あらゆるところにユースケースが爆発的に広がりました。ユースケースの広がりは始まったばかりで、毎週のように新しいことが出てきます」。

ガブリナー氏によれば、Bitlyは現在Egoditorのチームを統合している途中で、全員が合流するという。また新規採用も進めているとのことだ。ドイツと米国のオフィスで、50のポジションに人材を求めている。

同氏は、これは単なる買収ではなく2社が「急速に成長する」ストーリーで、両社の組み合わせはその成長を後押しすると考えている。この1年半でBitlyのカスタマーベースは170%以上成長し、リンクインバイオ機能は数週間前に発表したばかりで現在はプライベートベータだ。

「当社を次のレベルに引き上げる買収として、とても喜んでいます。新しいプロダクトやソリューションを今後提供する基盤を得て、当社は1つのプロダクトから複数のプロダクトへと移行します。エンジンを全開にして成長のストーリーをこれから加速していきます」とガブリナー氏は語る。

画像クレジット:Nutthaseth Vanchaichana / Getty Images

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(文:Christine Hall、翻訳:Kaori Koyama)

Polestarが新型電動SUVをチラ見せ、今後3年間で販売台数10倍増を目指す

かつてのモータースポーツにおける活躍から、電気自動車メーカーとなった現在まで、スウェーデンのPolestar(ポールスター)は長い道のりを歩んできた。だが、Thomas Ingenlath(トーマス・インゲラート)CEOによると、Volvo(ボルボ)からスピンオフした同社はまだ、始まったばかりだという。

インゲンラート氏は、同社の経営陣とともに、米国時間12月2日にニューヨークで行われたプレゼンテーションで、ポールスターの3年計画を発表した。その中では、野心的な販売目標とともに、次の電気自動車が少しだけ披露された。

「クルマとは非常に感情的なものです」という言葉で、インゲンラート氏はメディアに向けて語り始めた。

2021年12月のイベントでティーザーが公開された新型電気自動車「Polestar 3」(画像クレジット:Polestar)

その核となる計画は、2024年までに3つの新型車を発売するとともに、欧州とアジア太平洋地域の新しい市場に進出することで、販売台数を約29万台に拡大するというものだ。そしてこの拡大の基盤となるのが、デザイン、サステイナビリティ、イノベーション、カスタマーエンゲージメントというポールスター独自のコアバリューである。

今回のプレゼンテーションでは、特にサステナビリティ(持続可能性)が強調され、2030年までにカーボンニュートラルな自動車を生産するというポールスターのミッションが再確認された。そのためには、リサイクル素材の使用から、サプライチェーンレベルにおけるビジネスの変更まで、大小さまざまな持続可能への取り組みが必要になる。

今後発表される新型車「Polestar 3(ポールスター3)」と「Polestar 4(ポールスター4)」については、我々はまだほとんど何も知らされていない。それでもインゲンラート氏は、生産に向けて動き出していると主張し、EV愛好家を魅惑するPolestar 3のティーザー画像も公開した。このオールエレクトリックSUVは米国のサウスカロライナ州チャールストンで製造される予定だ。

関連記事:ボルボの高級EVブランドPolestarが初のフル電動SUV「Polestar 3」を米国で生産へ

Polestar 3は、気候変動に配慮したやり方で生産が行われるとともに、LiDAR開発企業であるLuminar(ルミナー)製のハードウェアとNVIDIA(エヌビディア)製のプロセッサを搭載し、高速道路での自動運転を可能にする先進運転支援システムを搭載することになっているが、発売当初はこの機能を使用することはできないようだ。

2022年に発売されるPolestar 3について、我々はほとんど知らされていないが、2023年に登場予定というPolestar 4についてはさらに不明だ。今回のプレゼンテーションで公開されたティーザー画像によると、Polestar 4は3よりコンパクトなプレミアムスポーツSUV「クーペ」として作られるモデルであり、後方がより傾斜したファストバック型のプロフィールを持つとされているが、それ以上の情報はない。

ポールスターは、3と4の価格帯のベンチマークとして、それぞれPorsche(ポルシェ)の「Cayenne(カイエン)」と「Macan(マカン)」の名前を挙げている。このことから、両車が目指すラグジュアリーとパフォーマンスのレベルにおいても、これらの競合車が基準となっていることが推察される。

興味深いことに、現時点で最もよくわかっているクルマは、最も遠い存在であるはずの「Polestar 5(ポールスター5)」だ。

ポールスターは先日、コンセプトカーの「Precept(プリセプト)」が、5番目のポールスター車となる4ドアのラグジュアリースポーツGTとして市販化されることを正式に発表した。現状でプリセプトはある意味、ポールスターの未来を物理的に宣言するものであり、今後発表になる2台のSUVにも影響を与えることになるだろう。

関連記事:Polestarが次世代EVセダン「プリセプト」改め「Polestar 5」は2024年に市場投入と発表

3年間で販売台数を2万9000台から29万台に飛躍させることは、ポールスターの存在感が増すというだけでなく、大変厳しい話にも聞こえるが、インゲンラート氏は心配していない。「これから先のポールスターは、すべてが成長するためにあります」と、同氏は語った。

すでに生産が開始されているというPolestar 3については、近いうちにより詳しい発表があるだろう。

画像クレジット:Alex Kalogiannis

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(文:Alex Kalogiannis、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

GMが新型シボレー・ボルトEVの生産を2022年1月末まで延期、リコール修理を優先

General Motors(GM、ゼネラル・モーターズ)は、ミシガン州にある同社のオリオン組立工場での新型Chevrolet Bolt(シボレー・ボルト)EVの生産を「2022年1月24日の週まで」延期すると、米国時間12月2日のTechCrunchへの電子メールで明らかにした。2021年初めにバッテリー内での発火の可能性があるとしてリコールされた数万台のChevrolet Boltについては「バッテリーモジュールの交換作業に引き続き注力する」と述べている。

同工場は8月23日から操業を停止しており、GMは新型Boltの生産時期を何度も延期してきた。

同社は10月、リコール対象の電気自動車Chevrolet Boltの交換用バッテリーモジュールのディーラーへの出荷を開始した。GMの広報担当は、出荷または交換されたモジュールの数について、具体的な情報は公表していないと述べた。

「当社は引き続き修理を強化しており、可能な限り迅速に修理を完了させることに注力しています」と広報担当は電子メールで述べた。「実際、BOLT EVの組立を行うオリオン組立工場の従業員には、リコールの修理を優先するために1月まで工場を閉鎖することを通知しました」。

5月には、当初、数件の火災が報告されてリコールとなった2017年から2019年のBoltに、火災を防止する新しいソフトウェアを追加する予定だった。このソフトウェアが有効でなかったため、Chevyは7月にリコールを発表した。そして新しい年式のBoltが発火し、8月にすべてのBolt EVをリコールした。ChevyのBoltバッテリーを製造しているLG Chem(LG化学)は、このリコールにかかった費用約20億ドル(約2260億円)を支払うことに合意した

GMは10月の投資家説明会で、2020年代末までに収益を倍増させ、EV市場シェアをTesla(テスラ)から奪うと述べた。GMは以前、2025年までに30種の新EVをリリースすることを約束したが、今のところ同社がスケジュールを発表しているのは、2021年末までに納車予定のGMCのHummer EVピックアップ、2023年発売予定のHummer EV SUV、そして2022年初めまでに市場に投入される予定のCadillac Lyricだけだ。

画像クレジット:General Motors

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Nariko Mizoguchi

ソフトバンク出資のユニコーンPicsArtがR&D企業DeepCraftを買収、AI・動画編集機能の強化狙って

ソフトバンクが出資しているデジタルクリエイションプラットフォームで、2021年8月にユニコーン企業の仲間入りを果たしたPicsArt(ピクスアート)は、米国時間12月2日、R&D企業であるDeepCraftを買収することを発表した。今回の買収は、現金と株式の組み合わせで、7桁(数百万ドル、数億円)規模の金額とのことだが、正確な条件は公表されていない。

PicsArtは現在、コンシューマーとプロ両方に向けて、写真やビデオ編集をより楽しく、親しみやすいものにするためのさまざまなデジタル制作・編集ツールを提供している。PicsArtは、DeepCraftが持つAI技術分野の人材と、同社のコンピュータービジョンおよび機械学習(ML)における画期的な技術が、PicsArtのAI技術を強化し、近年のPicsArtのサービスにおける動画作成の成長をサポートするものと考えている。また、チームは、PicsArtのAI研究開発部門であるPAIR(PicsArt AI Research)にシニアレベルのリソースを追加して補完するのにも役立つとしている。

アルメニアに拠点を置くDeepCraftは動画・画像処理に特化した企業で、2017年に設立された。ちなみに、PicsArtは同国初のユニコーンだ。DeepCraftの共同創業者であるArmen Abroyan(アルメン・アブロヤン)CEOとVardges Hovhannisyan(ヴァルジス・ホフハニシャン)CTOは、AIと機械学習に20年以上を費やしており、その専門性は地元コミュニティでよく知られている。アブロヤン氏はこれまで、アルメニア共和国ハイテク産業省の副大臣、RedKiteのリードAIアーキテクト、Synopsys(シノプシス)のシニアソフトウェア開発者などを歴任してきた。一方、ホフハニシャン氏は、Synopsysで13年間、シニアR&Dエンジニアとして活躍した。

DeepCraftでは、Krisp、PatriotOne、さらにはアルメニア政府など、多くのクライアントと契約ベースで仕事をしていた。これらの仕事は終了し、チームはエレバンにあるPicsArtのオフィスで仕事を始めることになる。今回の買収により、DeepCraftの機械学習および映像分野のシニアエンジニア8名が、PicsArtに正社員として入社する。

PicsArtは、2018年にEFEKT(旧D’efekt)を買収して動画市場に参入し、近年、利用者が急増している。特に、動画を利用するソーシャルメディアのクリエイターやECショップに同社のアプリが採用されている。2021年、PicsArtのアプリで編集された動画は1億8千万本を超え、前年比で70%増となっている。現在、数千種類のエフェクトと数十種類の動画編集ツールを提供しており、AIやクラウド技術の進化に合わせてこのラインナップを増やしていく予定だという。

PicsArtは、DeepCraftのスキルセットと技術的な専門知識が、2022年に重要な焦点となるであろう動画のサポートを前進させるのにどう役立つかに特に関心を寄せている。

ただし、PicsArtは、今回の買収でDeepCraftから特定のIPを取得するわけではない、と同社はTechCrunchに語っている。

PicsArtは、DeepCraftとはさまざまな技術開発で協力関係にあったため、今回の買収に先立ち、すでに関係を築いていた。

PicsArtの共同設立者兼CTOであるArtavazd Mehrabyan(アルタバズド・メフラビヤン)氏はこう述べている。「DeepCraftはユニークで高度な技術を持つエンジニアのチームであり、当社はすでに1年以上彼らと協力して当社のコア技術を構築してきました。当社の動画機能を進化させるためにさらなる投資を行うにあたり、DeepCraftのチームが動画の未来を築く上で重要な役割を果たすことを確信しています」。

DeepCraftとの取引は、8月に同社がソフトバンク・ビジョン・ファンド2(SVF2)主導で1億3000万ドル(約146億9000万円)のシリーズCラウンドを調達して以来、PicsArtにとって初の買収となる。そのラウンドにより、同社は2019年に約6億ドル(約678億円)だった評価額からユニコーンの地位に引き上げられた。

画像クレジット:PicsArt

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(文:Sarah Perez、翻訳:Aya Nakazato)

AWSがコミュニティが主導する新Q&Aサービス「re:Post」を発表

AWSが2021年のre:Inventカンファレンスで、コミュニティが運営していくQ&Aサービス「re:Post」を発表した。この、技術的な障壁を取り除くことを目的とするサービスは、AWS Free Tier(AWS無料利用枠)に含まれ、AWSの顧客やパートナーや従業員が維持し運用する。

「AWS re:PostはAWSが管理するQ&Aであり、以前のAWS Forumsに代わって、AWSに関する技術的疑問や質問に対し、クラウドソースでエキスパートが評価した答えを提供する。コミュニティのメンバーは良い答えを提供したり、他のユーザーからの答えに対して議論することによって、評判点を稼ぎ「コミュニティエキスパート」のステータスを得ていく。それにより、すべてのAWSサービスで利用できる公開的知識が継続的に拡大していく」とブログで述べられている。

画像クレジット:AWS

同社によると、顧客は、AWSを使ってアプリケーションを作っている際、AWSのサービスやベストプラクティスに関する疑問を抱いたら、re:Postがそのための理想的なリソースになるだろうという。また顧客が、AWSの資格認定に備えるなどのために勉強しているときも助けてくれる。さらにre:Postは、顧客のチームがAWS上の設計やオペレーションに関して議論しているときにも役に立つ。しかもAWSに関する専門的知識や技能をコミュニティにシェアしていけば、あなた自身の評価も高まるとのこと。

re:Postは、内容を閲覧するだけなら登録は不要だ。登録した人は、プロフィールを作り、質問や答えを投稿して他の人たちとコミュニケーションをとることができる。プロフィールを作るとユーザーは自分のAWS証明をCredly(のバッジ)にリンクしてAWSの特定の技術やサービスへの関心を表現できる。AWS re:Postは新しい質問を自動的に、その内容や分野に適したコミュニティエキスパートに共有する。

画像クレジット:Ron Miller

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(文:Aisha Malik、翻訳:Hiroshi Iwatani)

中国の配車サービス大手Didiがニューヨーク証券取引所の上場廃止へ

中国の配車サービス大手Didi(滴滴出行)は米国時間12月3日朝、ニューヨーク証券取引所の上場を廃止し、代わりに香港での上場を申請する手続きを開始したことを、Weibo(微博)への投稿で発表した

この決定は、中国政府が安全保障上の懸念からDidiに米国での上場廃止を要請したとBloombergが報じてから数日後のことだ。その際、TechCrunchはDidiにコメントを求めようとしたが、連絡が取れなかった。

上場廃止の動きは驚くべきことではない。ソフトバンクが支援するモビリティ企業Didiは、7月の超大型IPOの前に、データ処理の安全性を中国政府に保証できなかったことから、規制面で大きな圧力を受けていた。

ここ数カ月、中国はユーザーのプライバシー保護を強化したり、国境を越えたデータ転送を制限したりするなど、多くの新しいデータ規制を導入してきた。Didiの幹部は以前、同社がデータを中国国内に保存しており「他の多くの米国上場の中国企業」と同様に、米国にデータを渡したことは「絶対にあり得ない」と述べていた。

Didiの時価総額は現在376億ドル(約4兆2540億円)だ。同社の株式は、デビュー時には1株あたり15ドル(約1700円)を超えていたが、12月2日時点では7.8ドル(約880円)まで大きく落ち込んでいる。

画像クレジット:STR/AFP / Getty Images

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(文:Rita Liao、翻訳:Nariko Mizoguchi

アマゾンが地理的に複雑な環境をクラウドにつなぐ「AWS Cloud WAN」を発表

クラウドへ移行しようとする企業はあらゆる課題に直面する。地理的に複雑で広く分散している企業は、ネットワークの管理がいっそう困難だ。この問題を解決するために、Amazon(アマゾン)はAWS Cloud WANを発表し、AWSにソフトウェアで定義された広域ネットワーキングをもたらす。

Amazonの最高技術責任者であるWerner Vogels(ワーナー・ボーゲルズ)氏は、同社の提供サービスが増えるにつれ、全世界ネットワークを管理する複雑性が高まってきたことを説明した。「当社の一連のコンポーネントをもってしても、グローバルネットワークを構築して何百というオフィスをクラウドにつなげることは未だに大きなチャレンジです」とボーゲルズ氏が米国時間12月2日午前にラスベガスのAWS re:Inventで話した。

ボーゲルズ氏は、AWSユーザーのためにどうやって問題を解決できるか検討し始めた時のことを話した。「そこで私たちは、非常に広く分散したネットワークをクラウドに繋ぐために必要なあらゆる重労働を、どうすればお客様に乗り越えてもらえるかを考え始めました。そして本日、AWS Cloud WANを発表できることを大変喜んでいます。AWSを使って広域ネットワークを構築し、グローバル・トラフィックの管理、監視を行うことができます」。

使いたいリージョンを選び、繋ぎたいオフィスや施設を選択する。「一度定義すれば、すべてのリモートユーザーとサイトとデータセンターが自動的に地理的に最も近い設備にVPN経由または直接接続され、巨大なAWSバックボーンを使って数分のうちに、高信頼性、高可用性なソフトウェア定義広域ネットワークをAWSインフラの上で動かすことができます」と彼は言った。

この新機能のプレビュー版は、世界の複数のリージョンで利用できる。

画像クレジット:Amazon

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(文:Ron Miller、翻訳:Nob Takahashi / facebook

アマゾンが地理的に複雑な環境をクラウドにつなぐ「AWS Cloud WAN」を発表

クラウドへ移行しようとする企業はあらゆる課題に直面する。地理的に複雑で広く分散している企業は、ネットワークの管理がいっそう困難だ。この問題を解決するために、Amazon(アマゾン)はAWS Cloud WANを発表し、AWSにソフトウェアで定義された広域ネットワーキングをもたらす。

Amazonの最高技術責任者であるWerner Vogels(ワーナー・ボーゲルズ)氏は、同社の提供サービスが増えるにつれ、全世界ネットワークを管理する複雑性が高まってきたことを説明した。「当社の一連のコンポーネントをもってしても、グローバルネットワークを構築して何百というオフィスをクラウドにつなげることは未だに大きなチャレンジです」とボーゲルズ氏が米国時間12月2日午前にラスベガスのAWS re:Inventで話した。

ボーゲルズ氏は、AWSユーザーのためにどうやって問題を解決できるか検討し始めた時のことを話した。「そこで私たちは、非常に広く分散したネットワークをクラウドに繋ぐために必要なあらゆる重労働を、どうすればお客様に乗り越えてもらえるかを考え始めました。そして本日、AWS Cloud WANを発表できることを大変喜んでいます。AWSを使って広域ネットワークを構築し、グローバル・トラフィックの管理、監視を行うことができます」。

使いたいリージョンを選び、繋ぎたいオフィスや施設を選択する。「一度定義すれば、すべてのリモートユーザーとサイトとデータセンターが自動的に地理的に最も近い設備にVPN経由または直接接続され、巨大なAWSバックボーンを使って数分のうちに、高信頼性、高可用性なソフトウェア定義広域ネットワークをAWSインフラの上で動かすことができます」と彼は言った。

この新機能のプレビュー版は、世界の複数のリージョンで利用できる。

画像クレジット:Amazon

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(文:Ron Miller、翻訳:Nob Takahashi / facebook

話題の金属有機構造体(MOF)とは何か?使い勝手良すぎるからこその問題と素材ベンチャーの壁

今、注目を集める素材がある。京都大学高等研究院特別教授の北川進氏が発表したPCP(Porous Coordination Polymer、多孔性配位高分子)あるいはMOF(Metal-Organic Framework、金属有機構造体)と呼ばれるものだ。京都大学系スタートアップのAtomisは、MOFを中心技術に据え、その開発・活用を進めている。同社CEOの浅利大介氏が、MOFで何ができるのか。なぜ注目されているのか。何が課題なのか。理系科目が苦手な人にもわかるように説明する。

MOFとは何か?

MOFとは、多孔性材料の1つだ。多孔性材料とは、多数の小さな穴の空いている材料。液体や気体から、触媒や物質を除去・分離する際に広く使われる。

多孔性配位高分子(PCP/MOF)とは(画像提クレジット:Atomis)

人間が紀元前から活用している多孔性材料には、現在も水の浄化や脱臭など、多様な用途で使われている活性炭がある。18世紀にゼオライトという多孔性材料が発見され、20世紀から活用されるようになり、石油産業で必要不可欠となった。

多孔性材料の歴史(画像クレジット:Atomis)

「活性炭もゼオライトも、歴史ある多孔性材料ですが、その需要は現在でも伸び続けています」と浅利氏は話す。

1997年になると、京都大学高等研究院の北川進特別教授がPCPを発表する。これは、金属イオンと有機物を三次元的に組み合わせて作る素材で、ジャングルジムのような構造を持つ。

浅利氏は「北川先生の研究のポイントは、『これだけ穴がたくさん空いた構造物には、いろいろおもしろい用途が考えられる』ということです。そのため、この新しい素材をPCP(Porous Coordination Polymer、多孔性配位高分子)という名前で発表しています。一方で、同じ素材の研究をしているカリフォルニア大学バークレー校のオマール・ヤギー教授は、『この構造そのものが興味深い』という点を強調しています。そのため、同じものをMOF(Metal-Organic Framework、金属有機構造体)という名前で発表しています」という(つまりPCPもMOFも同じ構造物のことだ)。

MOFの特徴1:自由に設計できる

浅利氏によると、MOFの特徴は主に3つある。その1つが「自由に設計可能」な点だ。

「MOFは有機物同士を金属イオンでつなぎ合わせた構造物です。つなぎ目にあたる無機物の種類を変えることで、穴の形や大きさ、数を自由自在に設計・デザインすることができます」と浅利氏。

画像クレジット:Atomis

この自由度の高さは、どう画期的で、これまでの多孔性材料と何が違うだろうか。

「これまでの多孔性材料では、穴の形状や大きさ、数を人間の意のままに操作できませんでした。活性炭であれば、どの種類の木を使うのか、どうやって焼くのかなどの工夫を行うことで穴の形や大きさ、数を希望のものに近づけることが限界でした。しかし、MOFの場合、それらをきっちり人間の希望に合わせて設計できるのです。さらに、これまでの多孔性材料は、無機化合物でした。無機化合物は元素で素材が決まり、単一の無機物でしか組み立てることができず、構造も自動的に決まってしまいます。MOFはさまざまな有機物を金属イオンで結合するものなので、素材の特性も構造も自由自在なのです」と浅利氏は答える。

さらに、MOFは、構造の結合部ではない柱の部分に特徴を加えることもでき「CO2が付着やすい穴を作る」といったことも可能だという。このような構造物を作れば、空気中のCO2を回収することに活用できる。また、柱の部分を水と親和性の良いものにすれば、大気中から水を吸収するものを作ることができる。

MOFの特徴2:機能の多様性、MOFの特徴3:柔軟な多孔性

このように、MOFではサイズ、穴の大きさ、穴の特徴、形状などを自由自在に操れるため、その機能も幅広く考えることができる。これが2つ目の特徴だ。物質の分離、貯蔵、隔離、配列、触媒としての利用など、可能性は広がるばかりだ。

「当社も実際、食品、医薬品、電機、半導体、環境、電池、自動車、建材、宇宙開発などの企業からお声がけいただくことが多いです」と浅利氏。

そして3つ目の特徴が「柔軟な多孔性」だ。

「これまでの多孔性材料は、柔軟性に欠ける硬いものばかりでした。卵の殻をイメージするとわかりやすいかもしれません。そのため、使っているうちに潰れてしまうこともありましたし、穴を活用するにしても、物質が穴を出入りするような物しか作れませんでした。ですが、MOFは柔軟に結合しています。そのため、押せば穴が潰れるものの、放せば穴が元通りになるような、スポンジのような柔軟性が実現しています。

MOF関連企業は世界に23社

MOFは注目を集める素材だが、扱っている企業は多くはない。

「私の把握している範囲では、これまでに24社のMOF企業が誕生しました。ですが、MOFの実用化例はまだ少ない状況です。製品化にまでこぎつけられたのは米国のNuMat Technologies、英国のMOF Technologies、そして日本の当社のみです」と浅利氏は語る。

世界のMOF関連企業(画像クレジット:Atomis)

浅利氏によると、10年ほど前であればMOFを1kg生産するのには数百~数千万円かかったという。その後研究が進み、大企業でも活用を検討できる水準にまでコストが下がり、実用化への期待が高まっている。MOFはCO2回収に関して定評があり、特に最近では環境の側面からの期待が大きいという。

とはいえ、これらの企業が激しく競争しているかというと、そうでもないと浅利氏は見ている。

「これらの企業の中には、大学の研究者が研究費を得るために起業したものも含まれています。そうした企業はMOFのビジネス化や実用化を追求していません。実際にMOFでビジネスをしようとしているのはこの中でも一部です」と浅利氏は説明した。

素材ベンチャーの壁

浅利氏は「当社はMOFを扱う素材ベンチャーです。そして素材ベンチャーには特有のビジネスの壁があります」と話す。

素材ベンチャーは新しい素材を開発し、大手企業に売り込みに行く。必然的に新素材は既存の素材と競争することになる。大手企業からすれば、既存の素材でビジネスが回っているため、あえて積極的に新素材を検討するモチベーションは生まれにくく「試してはみるけれど、既存の素材より劣るところがあれば、新素材を活用しない」という流れになりやすい。

また、素材ベンチャーは新素材を作るところに集中するあまり、素材の用途を提案するところまで手が回らないことも多い。その結果「こんな素材を作りました。活用方法は各社で考えてください」というビジネスモデルになりがちだという。

浅利氏は「これではビジネスが安定しにくいのです。いうなれば素材ベンチャーの壁ですね」と説明する。

そのため、Atomisでは新素材を開発する「マテリアル事業」と、独自に新素材を用いた用途開発を行う「環境・エネルギー事業」の2本柱で素材ベンチャーの壁を打破しようとしている。

「マテリアル事業だけで投資家にアピールしても、結局『誰がその素材を使うのですか?』と切り返されます。『我々が、こうやってこの素材を使います』という答えが環境・エネルギー事業なのです。投資を受けるには、素材の用途まで視野に入れることが重要です」と浅利氏。

「量産」も壁

とはいえ、壁はこれだけではない。「誰が素材を生産するのか」も大きな問題だ。

浅利氏によると、製造業の企業で新素材の活用に熱心なところは少なくなく、企業から大学の研究所に声がかかることはよくあるという。

「ここで問題になるのが、一度に生産できる量です。例えばMOFは、大学の研究所で一度に生産できるのは、数mg〜1g程度です。しかし、素材の生産コストを計算するには、最低限一度に数キログラム程度の生産量が必要です。そこで、誰かが量産体制を構築しなければいけません。ユーザー企業の選択肢は2つあります。自社で量産方法を編み出すか、諦めるかです」と浅利氏。

ここで諦めるユーザー企業もあるが、量産を検討する企業もある。ただし、最終的に量産に漕ぎ着ける企業は多くはない。そこでAtomisは量産体制構築もサポートする。だが、量産そのものは行わない。

浅利氏は「素材ベンチャーは、自社の素材を使ってもらって初めてビジネスが成り立ちます。だからこそ、素材の製法を外に出したがらない。その結果、大量生産まで行おうと考えてしまいがちです。しかし、大量生産には一定の規模の生産設備、品質管理体制、品質管理のための多数の人材、規制対応など、幅広いリソースが必要になります。そしてこのリソースこそ、多くのベンチャー企業が持ち合わせていないものです。一方でユーザー企業は大企業が多い。大企業にとって品質と信頼は重要なものです。そんな大企業が、ベンチャー企業が大量生産した素材を使用できるのか。実際は難しい。そこで、当社は量産体制構築のサポートまでを行い、ライセンスを与えることで大企業に量産を任せることにしています」と話す。

MOFの使い方

ここまでMOFとは何か、素材ベンチャーはどんな課題を抱えているのかを見てきた。では、MOFは実際にどのように使われているのだろうか。

次世代高圧ガスCubiTan(画像クレジット:Atomis)

Atomisでは、MOFを使って次世代高圧ガス容器CubiTanを開発した。従来の高圧ガス容器は直径25cmの底に高さ150cm、重さ50kgで、ここ100年ほどイノベーションが起きておらず、同様の容器が使い続けられてきた。CubiTanはMOFの穴にガスを整列して並べることで効率的にガスを収納している。その結果、27cm×27cm×34cmのほぼ立方体型の容器となっている。さらに重さは8kg。軽量化にも成功した。さらに、CubiTanでは、IoTを活用してガスがどこにどれだけあるのかを把握することができ、遠隔管理できる。CubiTanは今後本格ビジネス化予定だ。

MOFはガスなど気体の分離・収納に活用できる素材として注目されているが、用途はそれだけではない。

「これまで気体を整列させられる素材がなかったので、気体を操作するためのソリューションとしてのMOFの側面が目立ちますが、気体でなくてもMOFは使えます。MOFの穴や枠の大きさは自由自在に変えることができるので、その穴や枠に収まるものであれば基本的になんでもその中に入れたり、通したりできます」と浅利氏。

例えば、特定の物質をのMOF枠の中に整列させてからMOFの枠を焼いてしまえば、その物質を自由に整形できる。MOFは一種の型としても活用できるのだ。

浅利氏は「ナノレベル、オングストロームレベルでものを並べられるので、例えばこれまでにない半導体を作ることも可能です」という。

「使い勝手良すぎ」問題

このように使い勝手の良いMOFだが、それゆえの課題もある。MOFは多様な物質をつなぎ合わせることができるため、いくらでも新しいものを作ることができる。これまでに発表されたMOFは10万種類ほどある。

「多くの場合、新素材といえば用途が限られているため、生産性を高めるための試行錯誤がすぐに始まり、深まっていきます。ですが、MOFはさまざまな構造を作れるため、多様なMOFの開発が進んだ一方で、開発したMOFの実用化や生産性を高める試行錯誤がそれほど進みませんでした」と浅利氏は説明する。

また、生産コストを下げる場合、限られた種類のMOFを多く生産すると単価が下がり、コストも下がる。しかし、MOFそのものの種類が増えてしまっては、需要もさまざまなMOFに分散してしまい、コストを下げにくくなる。

また、MOFは柱となる有機配位子というものを変えることで種類や特性を変えていくことができるが「有機配位子を変える」というプロセスにもお金がかかる。

浅利氏は「オーダーメードがMOFの強みですが、それゆえにコストが下がりにくいのです。MOFが競う相手は活性炭やゼオライトなどの既存の多孔性材料です。MOFの価格はこれまで1kgで100~1000万円程度でしたが、活性炭は1kgで数百円程度です。MOFのコストが1kgあたり1万円程度まで落とせれば社会実装が進むでしょう」と話す。

MOFの現実的なコストの下げ方

コストが下がりにくいMOFだが、下げるための道筋はあるのだろうか。

「戦略は主に2つです。1つは『少量のMOFを使えば性能が上がる』例を作っていくことです。例えば、フッ素樹脂コーティングでは少しMOFを添加することで耐久性が大幅に向上します。少量のMOFでも効果が示せるような使い方であれば高額なMOFを使っても十分ペイできます。もう1つは『圧倒的に高付加価値のMOFを開発する』ことです。例えば、エネルギー業界などで水素の需要が高まっています。水素だけを吸着するMOFを開発できれば、競合する素材は今のところないので、圧倒的な需要を得られる可能性があります。また、CO2をメタノールに変えて回収できるMOFを開発できれば、大きな需要を見込めます。メタノールはプラスチックも作れますし、燃料にもなるからです。このアプローチで需要を掴むことができれば、生産コストも下げていくことができるでしょう」と浅利氏は考えている。

実際、Atomisでは、上記の水素を吸着するMOFと、CO2をメタノールに変換するMOFを開発中だという。

MOFの実用化、活用拡大には、量産体制の構築、生産コストの低減、使用用途の提案など、多くの壁がある。しかし、エネルギーや環境分野を始め、多数の分野での活用が期待される、今後が楽しみな注目素材だ。

アメリカン・エキスプレスがOpyと提携、米国で初めてサードパーティー製BNPL(後払い販売)サービス提供へ

クレジットカード会社はこぞって「後払い販売(BNPL、buy now, pay later)」への参入を進めようとしている。American Express(アメリカン・エクスプレス、mAmex)は米国時間12月2日、オーストラリアのフィンテックOpenpay(オープンペイ)の米国法人であるOpy(オパイ)と提携して、米国の全カードメンバーがヘルスケアおよび自動車関連の指定商品を分割払いで購入できるようにする。

この提携は、American Expressにとって米国で初めてのサードパーティーBNPL契約だと、同社広報担当者がTechCruncにメールで伝えた。Amexは、対象セクターの売り手開拓を支援する。

Opyはこのソリューションを、従来型BNPLモデルの改善バージョンだと説明し、「buy now, pay smarter(今買って、賢く支払う)」と称している。Opyは利用者に最大2万ドル(約226万円)を一度に貸し出し、最大24カ月の支払いプランを固定金利で提供する。これはAffirm(アファーム)やKlarna(クラーナ)などの企業が提供する短期分割払いとは異なっている。

American Expressは、独自のBNPLサービスを「Pay it Plan it」プログラムの名称で2017年から100ドル(約1万1300円)以上の買い物を対象にすでに提供中で、金利はやはり固定だ。Opyとの提携によって、Amexは高額の買い物を長期にわたって支払う選択肢を望む顧客に答えることができるだろうと、Opy U.S.のCEOであるBrian Shniderman(ブライアン・シュナイダーマン)氏がTechCrunchに話した。

「大きい買い物、すなわちこれは当社が特化している1000ドル(約11万3100円)から2万ドル(226万2700円)のモノを買う時、60日というのは十分な支払期間ではありません」と同氏は語った。

9.99%以下の低い金利を可能にしているのは、ターゲットが財務に明るい顧客からなる非常に特別な層だからだ、とシュナイダーマン氏はいう。顧客の平均年齢は40歳で、ちなみに他のBMPLプロバイダーの平均的顧客は20代だと彼は付け加えた。ヘルスケアと自動車部門だけでなく、Opyは住宅修繕と教育的資格獲得のための融資も行っているが、これらはAmexとの提携には含まれていない。

「当社のサービスは予測可能で透明性があります。他の後払い決済サービスを見ると、延べ払い利息や、支払いできなかった時の未払い利息があります。0%利息のはずが、融資期間全体に非常に高い利息がかかっているかのように再計算されます」と話すスナイダーマン氏は、元の職場であるDeloitte(デロイット)でAmexと密に協力した経験がある。

Amexの主要なライバルたちも最近BNPLに進出を果たし、Stripe(ストライプ)やSquare(スクエア)などの決済会社に対抗しようとしている。Mastercard(マスターカード)は、独自のMastercard Installmentsサービスをこの秋に提供開始し、その後すぐに、Visa(ビザ)もKlarna(クラーナ)とのブランド提携を発表した。

編集部注:Mary Ann Azevedo(メリー・アン・アゼベド)氏が本稿に協力した。

画像クレジット:Omar Marques/SOPA Images/LightRocket / Getty Images(Image has been modified)

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(文:Anita Ramaswamy、翻訳:Nob Takahashi / facebook

米FTCがNVIDIAによるArm買収を競争阻害で提訴

NVIDIAによるArm買収計画が、大きな障害にぶつかった。連邦取引委員会(FTC)は、その400億ドル(約4兆5231億円)の取引がデータセンターや車載コンピューターなど複数の技術分野で競争を「阻害」するとして、合併を阻止するために訴えた。FTCによると、ArmはNVIDIAとライバルたちとの競争を育む「重要なインプット」であり、合併はNVIDIAに、競合他社を「弱体化」させる手段を与えることになると指摘している。

FTCはさらに、NVIDIAがArmのライセンシーの機密情報にアクセスすることを懸念している。またこの合併は、NVIDIAの事業目標に敵対するような技術を開発する意欲を損なうだろう、と委員たちはいう。この行政審判は2022年8月9日に始まる予定だ。

同社は、何も心配していないようだ。NVIDIAはこの訴訟を、FTCのプロセスの「次のステップ」と呼び、買収を肯定する主張を繰り返している。それによると、買収はArmの製品計画を「加速」し、競争を増大し、しかもチップのアーキテクチャの設計者のオープンライセンシングモデルは依然として保護される。その声明の全文は本記事の下部にある。

勇ましい主張だが、FTCからの訴訟はNVIDIAにとって大きな問題だ。同委員会が訴訟に踏み切るのは、企業が法律に違反していると見なした場合であり、しかも一定の譲歩では不十分な場合だ。しかも今回は、これよりも前の2021年10月に、買収に関する調査をEC(欧州委員会)が発動している。NVIDIAは、この買収を懸念している大国の規制当局からの疑問に直面しており、彼らはこのような答えで納得しないだろう。

現状では、NVIDIAの競合他社も満足していない。報道によると、QualcommはFTCなどとの対話でArmの取引に反対し、NVIDIAが設計のライセンスを拒否するかもしれない、という懸念を表明している。またAppleやMediaTek、Samsungなどの大物もArmに依存しているため、市場の残りの部分が賛成に回ることも考えづらい。少なくともこの裁判で、NVIDIAが最初2022年を目標とした組合の閉鎖が遅れることになりそうだ。

FTCプロセスの次のステップに進むにあたり、我々は、この取引が業界に利益をもたらし、競争を促進するものであることを示す努力を続けていきます。NVIDIAは、Armの研究開発に投資し、ロードマップを加速させ、競争を促進し、すべてのArmのライセンシーに多くの機会を与え、Armのエコシステムを拡大する方法で、Armの提供製品を拡大していきます。NVIDIAは、Armのオープンなライセンスモデルを維持し、現在および将来のすべてのライセンシーがそのIPを利用できるようにすることを約束します。

編集部注:この記事の初出はEngadget。執筆者のJon FingasはEngadgetの寄稿ライター。

画像クレジット:Omar Marques/SOPA Images/LightRocket/Getty Images

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(文:Jon Fingas、翻訳:Hiroshi Iwatani)

乗客とドライバーが安心感が得られるようにUberが乗車中の音声録音などの安全機能を米国で導入

Uber(ウーバー)は、アプリにいくつかの新しい安全機能を追加する。乗客にシートベルト着用を促す音声リマインダー、乗客またはドライバーが乗車中に音声を録音できる機能、予期せぬルート変更や最終目的地前での停車を検知する機能などだ。今回のアップデートは、乗客とドライバーの双方がより安心感を得られるようにするためのものとのことだ。

Uberの道路安全公共政策マネージャーであるKristin Smith(クリスティン・スミス)氏は、TechCrunchに次のように話した。「多くの人が、特に短い乗車では後部座席でいつもシートベルトを締めていないことを認めており、それはドライバーにとって不快な状況を作り出す可能性があります。音声による注意喚起を行うことで、すべての座席で毎回シートベルトを着用する必要があるというメッセージを強化できると考えています。この機能は、過去数年にわたって実施してきたシートベルト着用啓発キャンペーンに基づいています。当社は、GHSA(州知事高速道路安全協会)と提携して 『Make It Click』キャンペーンを実施し、乗客やドライバーにシートベルト着用の重要性を啓発してきました」。

同社の広報担当によると、シートベルト機能は12月末から一部のユーザーに提供され、2022年初めには全国拡大される予定だ。また、この音声による警告のきっかけは、違反切符の支払い責任を負うドライバーからのフィードバックだという。運転開始時にドライバーの携帯電話からシートベルト着用を促す音声が流れるとともに、乗客の携帯電話にはプッシュ通知が送られる。

音声録音機能は中南米で約2年前から展開されているもので、米国では来週からカンザスシティ、ルイビル、ローリー・ダーラムで試験的に導入される。ドライバーと乗客は、地図画面上の盾のアイコンをタップし「Record Audio」を選んで音声録音を選択することができる。ドライバーがこの機能を選択した場合、乗客は移動開始前にアプリ内で通知を受け取る。

同社によると、音声ファイルは暗号化されて乗客またはドライバーのデバイスに保存され、Uberを含め、誰も録音を聞くことはできない。ユーザーがUberに安全報告書を提出する際には、その報告書に音声ファイルを添付することができ、訓練を受けたUberの安全担当者が、何が起こったのか、次に何をすべきかを判断するための証拠として、録音を復号して確認する。

最後に、Uberは12月2日からRideCheckを全米で強化する。RideCheckは、同社が2019年に追加した機能で、ドライバーのスマートフォンのGPSデータとセンサーを使って、旅行中に起こりうる衝突や異常に長い停車を検知するものだ。現在、RideCheckは、最終目的地に着く前に移動が予期せず終了した場合や、ドライバーがコースを外れた場合を検知するようにもなっている。

システムが問題の可能性を検出すると、乗客とドライバーの両方にRideCheckの通知が届き、アプリを通じて問題がないことをUberに知らせたり、緊急ボタンを押したり、問題を報告するなどの対応を促す。

この夏、カリフォルニア州のいくつかの法律事務所が数十人の原告女性に代わって、米国の複数の州でドライバーによる性的暴行を受けたとしてUberを提訴した。Bloomberg Lawによると、UberLyft(リフト)の両社は、長年にわたりドライバーによる乗客への暴行の訴えに直面してきたが、両社は一貫して責任を否定してきたため、これらの訴訟は任意解雇または和解に終わっている。

関連記事:Uberが昨年の性的暴力事例2936件を公表

前述のカリフォルニア州で訴訟を起こした法律事務所によると、Uberに対する新たな訴えの多くは過失に基づくもので、Uberがドライバーによる性的暴行の危険性を認識していたにもかかわらず、合理的な防止策を講じていなかったと主張している。一部の法律事務所は、Uberはカリフォルニア州の法律で輸送会社として分類されているため、乗客に対しなおさら注意義務を負っているとして「一般運輸事業者」の過失を主張している。また、Uberの製品である乗客とドライバーをつなぐアプリベースのプラットフォームが乗客の安全を確保できていないとして、製造物責任を主張しているケースもある。

今回の新しい安全機能、特に音声記録とRideCheckの更新は、訴訟の真っ只中にある配車サービス大手のUberが、自らの基盤を守るために行ったものかもしれない。Uberは、自社に対するクレームについてはコメントせず、代わりに、音声録音機能は2019年から中南米の14カ国に存在しており、リオデジャネイロで調査した乗客とドライバーの70%が、この機能のおかげでUberを利用する際に安全だと感じたと回答したことを指摘している。

また、2019年には、Uberは安全透明性に関する報告書を発表し、その中で2017年と2018年に同社のプラットフォーム上で約6000件の性的暴行の報告を受けていたことを明らかにし、炎上した。この報告書は、カリフォルニア公益事業委員会(CPUC)の調査につながり、後にCPUCは、ドライバーや性的暴行を受けた乗客に関するデータの引き渡しを拒否したとして、Uberに15万ドル(約1700万円)の罰金を科した(Uberはまた、カリフォルニア州における身体的・性的暴力への対応に使われる900万ドル=約10億円=をCPUCに支払うことにも合意した)。CPUCが特に求めていたのは、暴行の日時と場所を含む事件の詳細で、これはUberのGPS機能や、乗車時間の短縮に関する報告といったこれらの新しい安全機能が提供できる可能性のある情報だ。

Uberの広報担当者はTechCrunchに対し、RideCheckの機能強化を促したものは特にないと述べている。

「技術的な準備が整い、乗客が戻ってきているため、機能を追加する状況になっただけです」と話した。

画像クレジット:Uber

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Nariko Mizoguchi

小型宇宙機メーカーPhase Fourが次世代プラズマスラスターを発表、約85%の性能向上を実現

宇宙スタートアップ企業のPhase Four(フェーズ・フォー)は、次世代の高周波プラズマ推進システム「Maxwell(マックスウェル)」を、2022年の上半期に発売する予定だ。同社によれば、このシステムは軌道上における宇宙船の操縦性をより広範囲に向上させるための重要な性能改善が施されているという。

一般的に、真空の宇宙空間で衛星を動かす場合、推力と「比推力(ISP)」という2つの重要な性能指標が重視される。比推力とは、単位重量の推進剤あたりどれだけの推力を得られるかというシステムの効率を示す指標だ。

これらのトレードオフは、小型宇宙機メーカーにとって特に重要だ。推力が大きいシステムでは、大量の燃料を搭載する必要があり、ミニ冷蔵庫程度の大きさの衛星ではコストがかかり過ぎる。しかし、特に衛星がライドシェアミッションで宇宙に向かい、自力で最終軌道に到達しなければならない場合には、ISPの高い推進技術が理想的というわけでもない。従来の電気式スラスターは、比推力を最大化すると推力が犠牲になることが多く、スラスタの効率は高くても、移動に数カ月かかることさえある。

Phase FourのMaxwellスラスターは、このトレードオフを解消し、顧客が比較的高い推力モードまたは高いISPで運用できるようにしたと、CTOのUmair Siddiqui(ウマイール・スィディキ)氏は説明する。つまり、必要に応じて高速な移動を行うことも、推進剤を節約するために高ISPモードにすることもできるということだ。

同社はこれらの革新技術を最初の製品である「Maxwell Block 1(マックスウェル・ブロックワン)」スラスターに導入した。Maxwellスラスターの新型となる「Maxwell Block 2(マックスウェル・ブロックツー)」は、これらの指標において約85%の性能向上を実現している。「これは重要なことです」と、スィディキ氏はいう。「ISPや推力が85%向上するということは、推進剤の使用量や軌道上での移動時間が大幅に減ることを意味します」。

Phase FourのMaxwellスラスターには、他にもいくつかの革新的な技術が見られる。ホール効果型と呼ばれる従来のプラズマスラスターは、製造が困難な陰極材料を用いて推力を発生させる。また、システムが大きく重くなるため、多くの顧客にとって理想的とはいえなかった。これらの問題を解決するために、Phase Fourのスラスターは、陰極と陽極ではなく、高周波のプラズマ源を使って推力を発生させる。そのため、より小型で製造が容易であり、キセノンやクリプトンなどの高価なホール効果型スラスターの推進剤だけでなく、あらゆる気体の推進剤に対応できる。

Block 2では、Block 1で初めて達成した4カ月以内の生産を維持することを目指している。このような短納期が可能になるのは、製品のモジュラーデザインに一因がある。Maxwellエンジンでは、(少なくとも考え方としては)自動車産業を参考にした「シャシー」という方式を採用している。「同じ生産ラインを使ったままで、次世代の開発に対応できることが、この製品には求められています」と、スィディキ氏は述べている。「これは最初から生産性を考えたプラズマスラスターです」。

2015年に設立されたPhase Fourは、これまでに10台のMaxwell Block 1システムを顧客に納入している。2021年の夏、同社はNew Science Ventures LLC(ニュー・サイエンス・ベンチャーズ)が主導するシリーズBで2600万ドル(約29億円)の資金を調達した。

画像クレジット:Phase Four

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

視覚障がいを持つ人のモビリティを強化するためスマート杖のWeWALKと提携したMoovit

世界的に人気の旅行計画アプリを提供するMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)プロバイダーであるインテル傘下のMoovit(ムーヴィット)は、視覚障がい者がより安全かつ効率的に目的地に到達できるようにするために、スマート杖の会社WeWALK(ウィーウォーク)と提携した。

WeWALKの研究開発責任者Jean Marc Feghali(ジャン・マルク・フェガリ)氏によると、WeWALKのアプリは、MoovitのTransit APIと統合される予定だ。このAPIは、視覚障がい者が公共交通機関を安全に利用できるようにするために、地域の交通機関の公式情報とクラウドソースの情報を組み合わせて、各旅程に最適なルートを導き出す。

今回の提携は、共有する電動スクーターや自転車をアプリ内に表示するための、Lime(ライム)、Bird(バード)、そして最近ではSuperpedestrian(スーパーペデストリアン)などのマイクロモビリティ企業とMoovitとの統合に続くものだ。また、Moovitは、交通不便地域の利用者のためのオンデマンド交通サービスや、自律走行型送迎サービスを提供するためにインテルのMobileye(モービルアイ)と提携するなど、新たなビジネスユニットを立ち上げている。

現在3400都市で展開しているMoovitは、あらゆる場所で、あらゆる人にサービスを提供しようとしているようで、その中にはもちろん視覚障がい者も含まれるべきだ。障がい者コミュニティ向けの交通技術は決して多くはないが、いくつかの有用なイノベーションが生まれ始めている。例えば、本田技研工業のインキュベーション企業であるAshirase(あしらせ)は、最近、WeWALKの杖に似た靴の中のナビゲーションシステムを発表した

杖自体は、シャフトを介してアナログ的に地上の障害物を検知することができるが、杖に取り付けられたスマートデバイスは、超音波センサーを用いて上半身の障害物を検知する。また、杖に内蔵された振動モーターによる触覚フィードバックにより、さまざまな距離の障害物を警告する。

「WeWALKは、バス停への道案内など、さらに多くのことができます」とフェガリ氏は、TechCrunchの取材に対し述べた。「Bluetoothを介して、スマート杖は、WeWALKスマートフォンアプリに接続します。このアプリは、最も包括的で利用しやすい視覚障がい者向けナビゲーションアプリの1つだと考えています。当社のアプリは、Moovitサービスと、当社が独自に開発したナビゲーションエンジンとアプリのインターフェースを統合して、徒歩や公共交通機関のナビゲーションや都市探索機能を提供します」。

ユーザーがアプリに目的地を入れてルートを選択すると、スマート杖は音声ガイドとロービジョンマッピングによってユーザーの旅を段階的に案内し、交通機関の停留所を指示したり、次の交通機関の車両が到着したことを知らせたりする。また、乗車時や目的の停留所に到着した際には通知されるため、利用者は自分が正しい停留所にいることや、降りるタイミングを知ることができる。

ユーザーにとっての一番の利点は、片手で携帯電話を持ち、もう片方の手で杖を持つ必要がないことだ。スマート杖の柄の部分にはアプリと接続されたタッチパッドが内蔵されており、ジェスチャーを使ってスマホを操作しながら、現在地の確認、交通機関の時刻表や近くの交通機関の停留所の確認、目的地までの移動などができる。

「例えば、ユーザーがインペリアル・カレッジ・ロンドンに向かう際には、スマート杖がルートの選択肢をアナウンスし、各段階に応じてユーザーを案内します」とフェガリ氏は述べた。「歩きの場合、WeWALKはバッキンガム・パレス・ロードを12時の方向に50m進み、3時の方向に右折してステーション・ロードに入りますとアナウンスします。地下鉄の駅では、WeWALKが電車の到着時に乗るべき電車を通知し、降りる必要がある前にユーザーに知らせます」。

今回の提携は、金曜日の国際障がい者デーに合わせたもので、視覚障がい者が雇用や教育、社会活動の機会を得るために、より自律的で自由な移動ができるようになることを期待している。

「目の不自由な方は、これまでにないほど自立した生活を送ることができているが、公共交通機関を利用して移動することはまだ困難で、圧倒されることもあります」Moovitのチーフグロース&マーケティングオフィサーYovav Meydad(ヨバフ・メイダッド)氏はコメントしている。「今回の提携により、移動手段の障壁を取り除き、人々に安心感を与え、より多くの機会にアクセスできるようになることを目指します」。

画像クレジット:Moovit

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Yuta Kaminishi)

トロントのVFXスタートアップMARZが約5.9億円を調達し、AI技術ソリューションを開発へ

テクノロジーとビジュアルエフェクト(VFX)のスタートアップであるMonsters Aliens Robots Zombies(モンスター・エイリアン・ロボット・ゾンビ – MARZ)は、シリーズA資金として530万ドル(約5億9800万円)を調達した。この投資は、Round13 Captial(ラウンド13・キャピタル)が主導し、Rhino Ventures(ライノ・ベンチャーズ)とHarlo Equity Partners(ハーロ・エクイティ・パートナーズ)が参加した。MARZは今回の資金調達を、中核となるVFX事業の成長と、「 VFX用AI」技術ソリューションの開発を加速させるために使用する予定だ。

トロントを拠点とするこのスタジオは2018年に立ち上げられ、ストリーミング戦争に拍車をかけたVFXのキャパシティ不足や、それに伴うオンデマンドコンテンツの爆発的な増加、加入者数の増加を促進する上でのVFXの重要性など、エンターテインメント業界が直面するいくつかの課題に対処することを目的としたAIソリューションを開発している。

MARZの共同創業者兼共同社長のJonathan Bronfman(ジョナサン・ブロンフマン)氏は、TechCrunchにメールで「今回の資金は、現在開発中の2つのAI製品を含む 『VFX用AI』ソリューションの研究開発を加速するために使用します。これに伴い、資金はそれぞれ当社の研究、エンジニアリング、製品組織における主要な人材の採用に充てられます。また、この資金は、当社のハードウェア能力とインフラストラクチャの成長にも使用され、AIの研究開発を有意義に短縮するとともに、当社の両AI製品のキャパシティ効率を向上させるのに役立ちます」と述べている。

ブロンフマン氏は、資金の大半を独自のAIソリューションの開発に充てる一方で、従来のVFXサービス事業の成長を加速させるための資金でもあり、MARZのAI事業との相乗効果が期待できると述べている。

同社は、立ち上げから3年間で、Marvel(マーベル)の 『ワンダビジョン』、HBOの 『ウォッチメン』、Netflix(ネットフリックス)の『アンブレラ・アカデミー』、Apple TV+の 『インベージョン』など、88のプロジェクトを手がけてきた。MARZは、1年目に13件、2年目に21件、3年目に54件のプロジェクトを完了した。

MARZは、2019年に45人だった従業員が現在194人にまで増え、今後1年間でチームを300人にまで増やす予定だ。現在の従業員のうち、4分の1以上が機械学習や人工知能に注力している。MARZはトロントを拠点としているが、バンクーバー、ウィニペグ、モントリオール、マドリッド、ロサンゼルス、メルボルン、ロンドン、モスクワ、ムンバイ、メキシコシティなど、世界の各都市に拠点を置く分散型の従業員を擁するリモートファーストの企業だ。

「私たちの使命は、VFXを一般化させることであり、そうすることで、世界中のクリエイターが可能な限り野心的なビデオコンテンツを制作できるようにすることです。それが、ストリーミングサービスやハリウッドスタジオ、ゲームスタジオ、メタバース開発者、あるいはソーシャルメディアのコンテンツにVFXを統合したいと考えている才能ある新進気鋭のクリエイターであっても同様です」とブロンフマン氏は綴っている。

同社は、VFXとゲーム技術の両方に統合された、自動化されたAI駆動の製品群を作る予定だ。ハリウッドに対しては、MARZの製品でより野心的なコンテンツを作成できるようにすることを目指している。最終消費者のような他の市場について、MARZのソリューションは、VFXを史上初めてアクセス可能なものにすることを目指している、とブロンフマン氏は述べている。

Round13 CapitalのパートナーであるBrahm Klar(ブラーム・クリア)氏は、「MARZは、業界で最も急速に成長しているVFXスタジオのひとつであり、テクノロジーを活用して、最高の製品を記録的なタイムラインで提供することで定評があります。カナダで最も成功している投資家たちと一緒にMARZと提携することで、我々はチームと密接に協力して、これまでのような同社の並外れた成功を築くことができるのです。」と述べている。

画像クレジット:MARZ

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(文:Aisha Malik、翻訳:Akihito Mizukoshi)