行ったことのない都市でも環境に対応し走れる自律配送車向けAIの英Wayve、約229億円調達

アレックス・ケンダルCEO(画像クレジット:Wayve)

英国の自律走行車スタートアップ「Wayve」は、同社の技術をスケールアップし、商用フリートとのパートナーシップを拡大するために、シリーズBラウンドで2億ドル(約229億円)の資金を調達した。Wayveは、ロボデリバリーや物流の分野で主要なプレイヤーとなることを目指している。

同社は、これまでに総額2億5800万ドル(約296億円)の資金を調達している。この技術は、車両の周囲に設置された汎用ビデオカメラと車載AI駆動ソフトウェアに大きく依存しており、そのため4Gや5Gネットワークへの依存度が低くなり、環境への高い応答性を実現している。

今回のラウンドは、既存投資家であるEclipse Venturesがリードした。その他に参加した投資家には、D1 Capital Partners、Baillie Gifford、Moore Strategic Ventures、Linse Capitalのほか、Microsoft(マイクロソフト)とVirgin(ヴァージン)、アーリーステージ投資家であるCompoundとBaldton Capitalが含まれている。また、戦略的投資家であるOcado Groupや、Sir Richard Branson(リチャード・ブランソン)氏、Rosemary Leith(ローズマリー・リース)氏、Linda Levinson(リンダ・レビンソン)氏、David Richter(デイビット・リクター)氏、Pieter Abbeel(ピーテル・アッベル)氏、Yann LeCun(ヤン・ルカン)氏などのエンジェル投資家も参加している。

WayveのAlex Kendall(アレックス・ケンダル)CEOによると、Wayveのテスト車両は、ロンドンだけでなく、これまでに行ったことのない都市での走行に成功したという。英国の道路は一般的に中世のレイアウトになっているため、これは並大抵のことではない。

英国のオンライン食料品会社Ocadoは、Wayveに1360万ドル(約15億6000万円)を出資して自律走行による配送実験を開始しており、英国の大手スーパーマーケットチェーンAsdaもWayveに出資している。

Wayveによると、同社のAV2.0技術はフリートオペレーター向けに特別に設計されており、カメラファーストのアプローチと、Wayveの他のパートナーフリートから提供される運転データから継続的に学習する内蔵AIを組み合わせている。これにより、交通情報や道路地図、複雑なセンサー群など、車外のデータから多くの入力を必要とするいわゆる「AV1.0」よりも、よりスケーラブルなAVプラットフォームになるとWayveは考えている。

Eclipse VenturesのパートナーであるSeth Winterroth(セス・ウィンターロス)氏は、次のように述べている。「業界が従来のロボティクスで自動運転を解決しようと奮闘している中で、AV2.0は、商業フリート事業者が自動運転をより早く導入できるような、スケーラブルなドライビングインテリジェンスを構築するための正しい道筋であることがますます明らかになってきています」。

TechCrunchの取材に対し、ケンダル氏はこう付け加えた。「今回の資金調達は、当社がコア技術の実証から、スケールアップして商業的に展開する権利を得たという市場からのシグナルだと思います。我々が事業を開始した2017年は、自律走行車のハイプサイクルのピーク時で、すでに何十億ドル(何千億円)もの投資が行われていました。誰もが1年先の話だと思っていたのです」。

「そして、何兆ドル(何百兆円)規模のテック巨人たちに対抗するために、逆張りスタートアップを作っていくことは、少しクレイジーだったかもしれません。しかし(技術を)裏づける実例のおかげで、次のレベルのスケールに移行することができました。それは、複数の都市でテストを行えるということです。ロンドンでシステムのトレーニングを行い、マンチェスター、コベントリー、リーズ、リバプールなど、英国全土で展開したことに加え、多くの商業パートナーや、すばらしい人材をチームに引きつけることができました」。

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(文:Mike Butcher、翻訳:Aya Nakazato)

英内務省、エンドツーエンド暗号化反対に世論を誘導するためのネガティブキャン広告キャンペーンを計画

Stephen Hird / reuters

Stephen Hird / reuters

英内務省が、エンドツーエンド暗号化反対に世論を誘導するための広告キャンペーンを計画していると伝えられています。

Metaは2021年11月、InstagramとMessengerのエンドツーエンド暗号化を2023年まで延期すると発表しました。プライバシー保護の観点からみれば実装が待ち遠しい機能ですが、一部政府や法執行機関にとっては、通信の内容を確認できなくなり、児童虐待などの犯罪の傾向を把握できなくなるとの指摘も出ています。

英内務省は、まさにこの指摘の立場をとっており、内務書の広報担当者は米メディアRolling Stoneに「エンドツーエンドの暗号化が子どもたちの安全を守る能力に影響を与えるという懸念を共有する多くの団体をまとめるために、(広告代理店の)M&C Saatchi社と契約しました」と語っています。政府はこのキャンペーンのために53万4000ポンド(約8400万円)を割り当てているとのことです。

Rolling Stoneが入手したという資料によると、このキャンペーンには一般市民の不安を煽るような要素が含まれる可能性があるとのこと。たとえば、ガラスの箱の中に大人と子どもが入り、ガラスが徐々に黒くなっていくという演出も含まれています。また、SNSを活用し、両親にFacebookなどの企業に連絡するよう呼びかけるような内容になっているとのことです。

プライバシーの擁護派はこのキャンペーンを「脅迫」と呼び、すでに対抗キャンペーンを計画しているとも伝えられています。国際的非営利組織Internet SocietyのRobin Wilton氏は、「強力な暗号化がなければ、子どもたちはこれまで以上にオンラインで無防備になります。暗号化は個人の安全と国家の安全を守るものであり、政府が提案しているものはすべての人を危険にさらすものです」と語っています。

(Source:Rolling StoneEngadget日本版より転載)

ブラウザベースの契約書プラットフォームを提供するJuroが約26.4億円を調達

ロンドンを拠点とするリーガルテックのスタートアップ「Juro」が、ブラウザベースの契約書自動化プラットフォームのためにシリーズBで2300万ドル(約26億4000万円)を調達した。2016年の創業以来、同社の調達金額は合計で3150万ドル(約36億1600万円)となった。

シリーズBを主導したのはEight Roadsで、これまでに投資していたUnion Square Ventures、Point Nine Capital、Seedcamp、Wise(旧TransferWise)共同創業者のTaavet Hinrikus(ターベット・ヒンリクス)氏も参加した。

Eight RoadsのパートナーであるAlston Zecha(アルストン・ゼシャ)氏がJuroの経営陣に加わる。

Juroによれば、同社の年間経常収益は対前年比で3倍になった。今回のラウンドでの評価額は発表していないが、同社は5倍以上になったとしている。

顧客の数はついに明らかにした。Deliveroo、Cazoo、Trustpilot、TheRealRealなど約6000社がJuroのプラットフォームを利用し、顧客は85カ国以上にわたっているという。

Juroの共同創業者でCEOのRichard Mabey(リチャード・メイビー)氏は「現在、我々はユニコーンの評価額となっている20社以上のスケールアップ企業と取引をしています。こうした企業は膨大な量の契約を扱うことが多く、その状況を我々はしっかりと支援しています。しかしReach plcのような歴史のあるエンタープライズもJuroを全面的に採用することが増えているので、我々は2022年にエンタープライズの需要にさらに応えていきます」と述べた。

Juroは契約におけるWordやPDFのようなレガシーなツールの使用を破壊しようとしている。単にファイルがあちこち動き回るクラウドベースのワークフローを構築するのではなく、専用のブラウザベースの契約締結プラットフォームを提供している。

メイビー氏はTechCrunchに対し「我々は、契約には静的なファイルが必要だという考え方に挑戦しています。契約書をWordではなく専用に構築したブラウザネイティブのエディタで扱うことにより、これを実現しています」と語った。

同氏はさらに「このエディタは高度にモジュール化され、企業の技術スタックにシームレスに統合されます。2021年は25万件の契約が処理され、場合によっては魔法のようにすばらしいものです(当社のNPSは72です)」と述べた。

「開発者がGitHubを使ったりデザイナーがFigmaを使ったりして共同作業をするのと同様に、Juroでは契約書の作成から署名までブラウザで処理できます。こうした意味で、我々の主なライバルはMicrosoft Wordであると考えています」とメイビー氏はいう。

同社は今回調達した資金で米国とヨーロッパの市場を拡大し、プロダクトに投資し、今後の拡大を支える役員を迎える予定だ。

Juroのオフィスはロンドンとラトビアのリガにあり「リモートハブ」も増えていることから、すべての拠点で増員しているところだという。

メイビー氏は、マーケティング担当VPとエンジニアリング担当VPを優先的に雇用したいと述べた。

同氏は「Juroの中心である強みは契約書の作成であり、ここにさらに力を入れていきます。我々は契約専用に設計されたブラウザネイティブのエディタを備える唯一のプラットフォームです。この部分を進化させ、エディタとの統合も開発していきます(例えばCRMシステムなど)。このようにして、お客様にとっては契約書の作成、承認、検討、署名、管理が1つに統一されたエクスペリエンスとなります」。

JuroのシリーズBに関する発表の中でEight Roadsのゼシャ氏は次のようにコメントした。「Juro以前には、契約を自動化し、クライアントのワークフローとフリクションなく統合できるオールインワンのプラットフォームは存在しませんでした。Juroはヨーロッパで顕著に成長している企業の法務、営業、人事などの部門で使われており、その中にはEight Roadsのポートフォリオに含まれる企業も多くあります。顧客満足度で市場をリードし、スケールアップ企業の従業員満足度も最高レベルです。我々はリチャード、Pavel(訳注:共同創業者のPavel Kovalevich[パベル・コバレビッチ]氏)、Juroのチームと連携できることをうれしく思います」。

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Kaori Koyama)

英アマゾン、「英国で発行されたVisaカードの取り扱いを停止する」との脅迫を撤回

Amazon(アマゾン)は、決済手数料をめぐる論争で、英国でのVisa(ビザ)カード決済のサポートを終了すると公に脅していたが、撤回したようだ。

同社は現地時間1月17日、Amazon.co.ukのユーザーに電子メールを送り、1月19日に予定されていた「見込まれる変更」が、同日から実施されないことを知らせた。

ただ、AmazonとVisaが手数料について持続的な条件に達したかどうかはまだ明らかではない。

「Amazon.co.ukでのVisaクレジットカードの使用に関して予定されていた変更は、1月19日には行われなくなりました。当社は、顧客がAmazon.co.ukでVisaクレジットカードを使い続けられるような潜在的な解決策について、Visaと緊密に連携を取っています」と、Amazonは英国のユーザーに宛てた電子メールに書いている。

「Visaクレジットカードに関連する何らかの変更を行う場合は事前にお知らせします」と続け「それまでは、Visaクレジットカード、デビットカード、Mastercard、American Express、Eurocardを現在同様に使い続けることができます」と付け加えた。

AmazonとVisaにコメントを求めたところ、この動きを認めたが、それ以上の詳細については説明しなかった。

Amazonは、今のところ何も変わらないというユーザーへの簡潔な声明以上のコメントを却下した。

Visaの広報担当者も「潜在的な解決策」が実際に何を意味するのかについては詳しく説明しなかった。「Amazonの顧客は、我々が合意に達するために緊密に協力している間、1月19日以降もAmazon.co.ukでVisaカードを使用できます」と記した声明の中で、手数料に関する交渉が続いていることを暗に示している。

2021年末にAmazonは英国のユーザーへの電子メールで、Visaのクレジットカード決済に課す高い決済手数料を理由にVisa決済のサポートを終了し、Amazon.co.ukでの買い物の支払いに代替手段を用意するよう警告していた。

関連記事:英Amazonで1月19日から英国発行Visaクレジットカードが使えなくなる

その際の大量の電子メール送信というやり方は、Amazonが自社の市場パワーを利用してVisaからより良い条件を引き出そうとしたように思われた。

それが功を奏してVisaにクレジットカード手数料を引き下げさせることができたのか、それともAmazonが英国の買い物客に大きな混乱をもたらす瀬戸際から一歩下がることにしたのかは不明だ。

後者であれば、Amazonはすでに、Visaベースの支払い方法に依存する英国のユーザーに、近い将来、同社のサイトで買い物を続けられるかどうか、数カ月にわたって不安を与えていたことになる。

Visaは2021年11月に、Amazonが「将来的に消費者の選択肢を制限すると脅している」ことを残念に思うと述べ「消費者の選択肢が制限されて得をする人はいない」とも主張していた。

Visaは当時、Visaカード保有者が英国で発行されたVisaクレジットカードを引き続きAmazonのウェブサイトで使用できるよう、解決に向けてAmazonとともに取り組んでいると述べていた。

それから数カ月経ったが、Amazonが英国発行のVisaカードの利用を停止する期限が迫っている中でも交渉は続いているようだ。

Amazon.co.ukでのVisa決済の手数料上昇は、英国のEU離脱と関連している。ブレグジットにより、英国と欧州経済領域 / EU間の取引で課される手数料の上限が撤廃されたからだ。

しかし、この問題はおそらく、Amazonが英国のビジネスをどのように構築しているかという点にも関わっている。同社は、英国の顧客にEU拠点の法人を通じて請求し、英国のウェブサイトを通じて計上した収益をルクセンブルグの欧州本社に移しているためだ。

City AMの2021年8月のレポートによると、Amazonはこの企業構造によって、かなり高額な英国の税金の支払いを免れることができたという。しかし、同じ「利益移転」構造によって、AmazonはVisa「税金」をかなり多く負担しているようだ(というか、負担してきた……)。

画像クレジット:David Ryder/Stringer / Getty Images

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi

ミレニアル世代やZ世代を惹きつけたいインスタ風アプリSupernovaはSNS大手の「倫理的オルタナティブ」になれるか

Supernova(スーパーノヴァ)は新しいアプリで、Apple(アップル)とAndroid(アンドロイド)のアプリストアで公開されており、広告収入の大部分を慈善事業に寄付している。Instagram(インスタグラム)とFacebook(フェイスブック)の新しい「倫理的オルタナティブ」と謳う同アプリに、チャンスはあるだろうか?

Facebookがパノプティコン(一望監視施設)のような刑務所になり、米国政府の権力を覆そうとするプライベートグループに参加することを軽々しく提案するのを何年も見てきたか、あるいはInstagramをドゥームスクローリング(ネット上で悲観的なニュースや情報を読み続けること)して、自身や10代の子どもたちのメンタルヘルスが徐々に損なわれていくのを経験した後であれば、多くの人々は、より高潔な原則を持つ代替のソーシャルメディアプラットフォームに大きな満足を覚えるだろう。こうした代替のいくつかは何年にもわたって現れたり消えたり(RIP Path)しているが、Zuckerberg(ザッカーバーグ)氏の悪徳のような支配から大衆を遠ざけることに成功した者はいない。

おそらく人々は忘れてしまっているかもしれない。Facebook(その延長線上でInstagram)がこれほど大きい唯一の理由は、広告収入がこうした無料サービスを支えているからだということを。もし広告主が、十分に魅力的なアプリでソーシャルメディアの群衆を取り込むことができる他の場所を持っていれば、FacebookとInstagramはある程度プレッシャーを感じ始めるだろう。少なくとも、理論上はそうなっている。

広告業界を知り尽くしている英国の起業家が、ミレニアル世代やZ世代にアピールするために設計された独自のソリューションを使って、これらの大手企業に対抗しようと計画している。これらの世代は一般的に、前世代よりもはるかに大義を支援したいという欲求に導かれている。

Supernovaの創業者でCEOのDominic O’Meara(ドミニク・オメーラ)氏(画像クレジット:Supernova)

Supernovaの創業者でCEOのDominic O’Meara(ドミニク・オメーラ)氏は、かつてSaatchi(サーチ)に在籍した広告の第1人者で、英国アカデミー賞の受賞歴もあり、同スタートアップを主に自己資金で運営している。同氏は次のように語っている。「ASICS(アシックス)のようなスポンサーやMQのような慈善団体は、このアプリに備わる、ユーザーの安全を中心に据えた包括的なソーシャルネットワークという要素を評価して、今回のローンチに参加することを選んでいます。Supernovaが補完するのはまさにそこに存在するギャップであり、私たちは今後数カ月から数年のうちにこのギャップを縮小し、社会に成果を還元するソーシャルネットワークとなることを目指しています」。

「私たちの技術とアクセシビリティは、ソーシャルメディアと広告の力を使って世界がお互いに心から助け合うこと、そしてそれらの行動がどこでどのように役に立っているのかを常に透過的かつ正確に見ることを可能にします」と同氏は付け加えた。

Supernovaはこれを、同社のプラットフォーム上で有害性を防止することにより実現しようとしており(その方法については後述)、ユーザーが「安全かつセキュアであり、友人たちとの前向きで、刺激的で、人生を肯定するようなインタラクションを持つことを推奨されていると感じることができ【略】ヘイト、人種差別、ホモフォビア(同性愛嫌悪)、極端な政治思想などを目の当たりにすることのない場所を作ろうとしている」。

ビジネスモデルはシンプルである。同社は広告収入の60%を世界の慈善事業に寄付し、寄付金は気候変動、動物福祉、緊急事態の対応、健康と福祉、ホームレス支援、人権、メンタルヘルス、海洋清掃の各項目について、会員の希望に応じて配分される。どの要因が最も多くの資金を得るかは、ユーザーによって決定される。

Supernovaによると、世界のソーシャルメディア広告市場の1%以上を獲得できれば、年間6億ポンド(約925億円)を慈善団体に寄付することになるという。対照的に、FacebookとInstagramからの相当額は510億ポンド(約7兆9000億円)となる。しかし当然ながら、その現金は現在すべてザック氏の金庫に入っている。

FacebookやInstagramがヘイトスピーチを禁止していることはよく知られているが、もちろん、実際に行われることはほとんどないことも私たちはわかっている。Supernovaはまず最初に、自社のコミュニティ基準に基づいて「100%人間によるモデレーション」を行うとしており、さらにはユーザー向けに完全な憲章を約束している。

Supernovaアプリ(画像クレジット:Supernova)

どのようなアプリなのだろうか?

Instagramとの類似点はすぐにわかるだろう。ユーザーはコメントやメッセージングとともに写真やビデオを共有できる。ユーザーはフォローすることもフォローされることも可能である(1つか2つのバグが残っており、筆者のプロフィールは選択していないユーザーを自動的にフォローしているようだ)。

ユーザーはアカウントに対して、非公開、検索、フォロー、不要なユーザーのブロックなど、私たちが慣れ親しんできたソーシャルメディアツールのほとんどを設定することもできる。

ここで異なるのは、基礎となる仕組みである。

まず、ユーザーは自身のプロフィールで、Supernovaが広告パートナーから調達した資金を使って支援したい慈善分野を指定できる。

次に、ユーザーにナルシシズムを誘発することなく「Like」が慈善事業の広告収入の一部を得るための票のような働きをする。ユーザーの投稿に「Like」がついた場合、彼らが選んだ慈善団体は寄付として「Supernova Action Fund(Supernova活動基金)」のより大きな部分を得ることになる。

Superlikeや「Supernova」を獲得した投稿は、通常の「Like」の10倍の票を獲得する。ただし1つ難点がある。Supernovaを提供するには、まずユーザーが十分な「Karma Point」を獲得しなければならない。おそらくこれは、エンゲージメントを促進するためであろう。

今のところ、世界的なスポーツブランドであるASICSがSupernovaのスポンサーとなり、メンタルヘルスの慈善団体MQ Mental Health(MQメンタルヘルス)が最初に選ばれた慈善事業となっている。

また、Instagram(というよりFacebookのようなもの)とは異なり、Supernovaにはユーザーがグループに集まることのできる「グループ」機能がある。

オメーラ氏によると、Supernovaへの投資は「友人、家族」による資金調達ラウンドで100万ポンド(約1億5000万円)を超えており、2022年前半には機関投資家からのさらなる資金調達を予定しているという。

人間によるモデレーションについてオメーラ氏に尋ねたところ、次のように回答してくれた。「英国に拠点を置く訓練を受けたチームで、24時間体制で私たちが管理するシフト制を採用しています。彼らは若くて聡明な人材であり、主にコンピュータサイエンスの大学院や学部出身者です。会社の成長に合わせて社内で育成することで、チームが最初からコミュニティに親近感と共感を持てるようにしています」。ただし、同社の規模拡大に伴い、機械学習の支援を受けることになるだろうと同氏は言い添えた。

「Supernovaは、AIによって他のプラットフォーム上で活発に宣伝されている、有害で急進的なコンテンツから解放されます。その結果、Supernovaが万人向けではなく、熟慮される存在になることは間違いありません」とオメーラ氏は語っている。

Instagramでは禁止されていることで知られる乳首は同プラットフォーム上で許可されるのだろうか。

「すべては、投稿の内容や性質、投稿内のテーマによって異なりますが、コミュニティ基準に準拠しているかどうかは確実にチェックされます。違反した場合は削除されます」と同氏。

もし女性が母乳育児について説明しているのなら、それは許されるだろうかと筆者は尋ねた。

「その意図が明らかに有益であり、主題の真の側面を扱っている限りは、おそらくそうなるでしょう。もしその意図や内容が、その主題や私たちのコミュニティに対して、私たちの考えでは失礼であるか、有害であるか、あるいは否定的であるならば、コミュニティ基準や憲章を侵害することになり、削除されるでしょう」と同氏は回答した。

広告主にとってのメリットは何であろうか?

オメーラ氏は次のように語っている。「正しいことをしている『新時代』のソーシャルメディアの一部であることは、ブランドに害を与える可能性のある古い有害な秩序の一部であることとは対照的に、彼らのブランド(PR)にとってすばらしい価値があります。Deloitte(デロイト)によると、ミレニアル世代の80%は、他人の利益を自分の利益よりも優先するブランドからのみ購入したいと考えています。大手広告主は、ソーシャルメディアの現状に辟易しているようです。私は昨日、100億ドル(約1兆円)を超えるグローバル予算を投じている広告主に会い、そのことを明確に伝えられました」。

「当社のプロダクトは完全にスケーラブルで、ミレニアル世代のわずか1%にリーチすれば、毎日4000万人にスポンサー広告を届けられるでしょう。広告主たちが『量より質』を求めている今、これで十分です。1000社以上の広告主による42億ドル(約4822億円)規模のFacebookのボイコットは、その初期の兆候であり、今も消え去ってはいません。代替のオファーは今のところ提供されていません。そこにSupernovaが登場したのです」と同氏は付け加えた。

Supernovaが生き残れるのか、それともDavid Beckham(デイビッド・ベッカム)氏がローンチし、痕跡を残さず沈んだストリーミングソーシャルメディアアプリ、MyEyeになるのかはまだわからない。

タフで物議を醸す話題がこれまでほとんど登場してこなかった、一種の「バニラ(ありきたりな)」ソーシャルネットワークであるだけで、ユーザーを惹きつけるのに十分かどうかという疑問が残る。そして、潜在的に偏った人間によってコンテンツがモデレートされた場合、Supernovaはその決定を好まない人々から訴えられることになるのだろうか?

しかし、少なくとも今回の初公開からは、Supernovaは好調なスタートを切ったようだ。

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(文:Mike Butcher、翻訳:Dragonfly)

英国でMeta集団訴訟、競争法違反で約3520億円求める

Facebook / Meta(フェイスブック / メタ)が数年にわたり英国でソーシャルネットワークでの支配力を乱用していたとして、強力な訴訟ファンドの支援を受けた競争法の専門家が、同社に対し競争法違反で数十億ドルの集団訴訟を起こす。原告側が勝訴すれば、Facebookは31億ドル(約3520億円)の損害賠償金を英国ユーザーに支払わなければならなくなる。

集団訴訟は、Facebookの親会社であるMetaを相手取っていて、現地時間1月12日にロンドンにある英国の競争審判所に訴状が提出された。

この訴訟では、4400万人の英国のユーザーが2015年から2019年の間にデータを搾取され、Facebookはそうしたユーザーに賠償金を支払うべきだと主張するという異例のアプローチを取っている。Facebookの支配により、事実上、他に実行可能なソーシャルプラットフォームがなかったユーザーの個人データやプライベートデータをFacebookはすべて奪い、その見返りとしてユーザーが得たのは、実質的に友人や家族に赤ちゃんや子猫の写真を投稿できることだけだったと主張している。

ライザ・ロブダール・ゴームセン博士

この訴訟は、国際競争法の専門家であるLiza Lovdahl Gormsen(ライザ・ロブダール・ゴームセン)博士(写真上)が主導している。ロブダール・ゴームセン氏は、Facebookの市場支配について英国議会で意見を述べ、それに関する法的な学術論文も執筆した。

ロブダール・ゴームセン氏の訴えは、Facebook(最近Metaに社名変更した)が英国のFacebookユーザーに対して「不当な価格」を設定したという考えに基づいている。

Facebookにアクセスを許可するために設定された「価格」は、英国ユーザーの非常に貴重な個人データの放棄であり、その見返りとして、Facebookが巨額の収益を上げる一方で、ユーザーは単にFacebookのソーシャルネットワークプラットフォームへの「無料」アクセスを得ただけで、金銭的補償はなかった。

この主張で重要なのは、Facebookがユーザーのデータを自社プラットフォームに閉じ込めることによってだけでなく、Facebookピクセルで他のウェブサイトでもユーザー追跡し、ユーザーに関する深い「ソーシャルグラフ」データを生成することによって英国ユーザーを「囲い込んだ」ということだ。

ユーザープロフィールがCambridge Analytica(ケンブリッジ・アナリティカ)スキャンダルのような論争の中で何度も再浮上し、その市場利用を実証したことがロブダール・ゴームセン氏の主張を支えている。

ロブダール・ゴームセン氏の弁護士であるQuinn Emanuel Urquhart & Sullivan(クイン・エマニュエル・アークハート&サリバン)法律事務所は、Metaに書面でこの主張を通知している。ロブダール・ゴームセン氏は、影響を受ける人々、すなわち2015年10月1日から2019年12月31日の間に少なくとも1回はFacebookを利用した英国に居住するすべての人の代表を務める。

この「オプトアウト」集団訴訟は、Metaに対するこの種のものとしてはイングランドおよびウェールズでは初だ。オプトアウト訴訟であるため、Facebookの400万人の英国ユーザーは、損害賠償を求めるために積極的に訴訟に参加する必要はなく、訴訟からオプトアウトすることを選ばない限り、訴訟に加わることになる。

この訴訟に対する資金援助は、世界最大の訴訟資金提供者の1つであるInsworth(インスワース)が行っている。Quinn EmanuelとInnsworthは、過去にこの種の消費者集団訴訟を起こした実績がある。

Metaに関してはより広い背景があり、同社は米国での消費者集団訴訟、世界中での規制措置にも直面している。米連邦取引委員会(FTC)が起こした反トラスト訴訟ではInstagram(インスタグラム)とWhatsApp(ワッツアップ)のプラットフォームから分離される可能性がある。

ロブダール・ゴームセン氏は声明の中で、次のように述べている。「登場してからの17年で、Facebookは英国で友人や家族と確実に1カ所でつながることができる唯一のソーシャルネットワークとなりました。しかし、Facebookには暗い面がありました。市場支配力を乱用し、英国の人々に不当な利用規約を課し、個人情報を搾取していました。私は、Facebookにデータを搾取された4400万人の英国人のために、数十億ポンド(数千億円)の損害賠償を確保すべく、この裁判を起こします」。

筆者はロブダール・ゴームセン氏と電話で話したが、その際、Twitter(ツイッター)やMyspace(マイスペース)のような他のソーシャルネットワークが利用可能だったとFacebookは主張することができるかどうか尋ねた。

「TwitterやSnapchat(スナップチャット)などでは、人々は家族や友人と同じようにつながることができないと思います。Facebookはかなりユニークなやり方をしています」。

今回の訴訟は、Facebookピクセルが他のウェブサイトにも遍在していることにも基づいている。それがこの訴訟でどのような意味を持つのか、筆者は尋ねた。

「自分がFacebookのユーザーだと想像してください。自分のデータがFacebook.comで利用されることは承知しているかもしれません。しかし、ピクセルは、あなたがサードパーティのウェブサイトを利用するときに意味を持ちます。そのサードパーティのウェブサイトはもちろんFacebookとは何の関係もありません。つまり、Facebookは、あなたが実際にサインアップしたという以上に、ずっとたくさんのあなたのデータポイントを作り出しているのです」とロブダール・ゴームセン氏は述べた。

ユーザーは設定の奥深いところでFacebookのプラットフォームから自分自身を削除することは可能だが、実際には、ユーザーの大多数は削除方法がわからず、それが可能であることさえ知らない、と同氏は主張している。

ロブダール・ゴームセン氏は、英国国際比較法研究所(BIICL)の上級研究員、競争法フォーラムのディレクター、国際競争ネットワークの非政府顧問、Journal of Antitrust Enforcement(OUP)の諮問委員会の委員を務めている。

TechCrunchはFacebookにコメントを求めたが、記事公開時点では回答はなかった。

画像クレジット:Dr Liza Lovdahl Gormsen

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(文:Mike Butcher、翻訳:Nariko Mizoguchi

子どもにデジタルスキルを教えるKodlandが約10.4億円調達、オンラインのコーディングスクールを拡張

ロンドンに拠点を置くKodlandは、2018年に起業して子どもにコンピュータプログラミングなどのデジタルスキルを対面で教えるコースを提供し、2020年前半からはオンライン教育にシフトした。同社はシリーズAラウンドで900万ドル(約10億4000万円)を調達し、これから市場を拡大していく。

このラウンドはRedseed Venturesが主導し、他にBaring Vostok、Kismet、Flyer One Ventures、ニューヨークに拠点を置くI2BFのパートナーであるAlexander Nevinsky(アレクサンダー・ネビンスキー)氏が参加した。

Kodlandが提供する6〜17歳向けのリモートコースは現在、英国、アイルランド、米国、カナダ、独立国家共同体地域、マレーシア、インドネシア、アルゼンチンで利用できる。同社はそれぞれの地域に応じてローカライズしたコンテンツを提供している(同社のユーザーはおよそ40カ国に広がっている)。同社によれば、これまでにおよそ1万6000人が有料コースに申し込んだ。

Kodlandは新たに調達した資金でオンラインコースの対象地域をさらに広げていく。

同社のコースはグループ学習またはプロジェクト学習で、コーディングやウェブサイト構築、ゲーム制作、アニメーション、ビデオ編集といったデジタルスキルを、従来のクラスルーム形式のレッスンよりも楽しくインタラクティブに教える。同社プラットフォームが提供するオンライン教育は、自己学習ではなく講師が指導する。

Kodlandによれば、同社プラットフォームには約1000人の講師がいて、市場によって雇用している場合もあればギグワーカーの場合もある。通常は、生徒15人に対して講師が1人つく。ただし個人指導も提供している。

同社は、学校に対してツールやリソースを販売するのではなく、デジタルスキルの課外学習に集中しているという。その方が学校教育の複雑な導入要件に対応する必要がなく、グローバルに拡大しやすいからだ。

また、クリエイターエコノミーに関して「Out of the Box」という独自のアクセラレータを設けている。これは優秀な生徒の目を「現実の」プロダクトに向けさせ、デジタルの成果物を収益化できるように特別に支援するものだ。

今回のラウンドで、Kodlandのこれまでの調達金額合計は1100万ドル(約12億7000万円)となった。同社は今回調達した資金を使い、今後2年間でコースの対応言語をさらに8言語増やして市場を拡大する計画だ。プロダクト開発にも資金を投入するという。

同社はTechCrunchに対し「2022年中に現在の英国やアイルランド以外にも英語圏の国に拡大し、スペイン語圏や東南アジアの国々にも拡大します」と説明した。

資金の一部はアクセラレータプログラムに使われる。

Kodlandは生徒たちから「大きなトラクション」を得て「最大級の成長を確実に遂げている」ことを背景に、今回のシリーズAを実施した。同社は2021年第3四半期に前年同期比6.5倍の売上を達成した。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大で、EdTechは全般に急成長した。外出や人に会うことが制限されたため、画面を見る時間が増えたからだ。保護者が在宅で仕事をしている間に手頃な価格で子どもに使わせることのできるツールを求める需要があることはいうまでもない。

しかしそれは、競争が激化しているということでもある。

ソフトバンクのような大手投資家が教育分野に多額の資金を投じEdTechのユニコーン各社も活発M&Aをしている。コホート方式の学習プラットフォームも同様にEdTechとクリエイターエコノミーをつなごうとすることで投資を集めてきた。

子どもに関連するところでは、この分野の大手には以前からRobloxがある。Robloxはソーシャルゲームを活用して、プログラミング学習と収益化の可能性に対して子どもたちに興味を持たせようとしている。

しかし、講師が指導するクラスで子どもたちにSTEMのスキルを教えるというKodlandの構造とやり方は、拡大を続けるEdTechの世界で認められるようになるかもしれない。

同社は「国際的な子ども向けオンラインデジタルスキルスクール」として質の高い教育コンテンツという概念を保護者に売り込んでいる。4つのクラス(「モジュール」と呼ばれる)のセットは110ユーロ(約1万4000円)、全32クラスのコースは660ユーロ(約8万6000円)だ。

シリーズAに関する発表の中でRedseedマネージングパートナーのEugene Belov(ユージン・ベロフ)氏は次のようにコメントした。「従来の教育機関にとって現在の急激なテクノロジーの進歩についていくのは難しいことです。そのため供給(若年層のスキルや能力)と人材に対する需要(現代の職場で求められる要件)とのギャップがしばしば発生しています。(共同創業者の)Alexander Nosulich(アレクサンダー・ノスリッチ)氏とOleg Kheyfets(オレグ・カイフェッツ)氏は、これまでの学校教育では手付かずになることが多いにもかかわらず現在のデジタルの世界では不可欠になりつつあるスキルを生徒たちに教えることで、このギャップを埋めようと熱心に取り組んでいます。成果重視のユニークなプログラムは現代の子どもたちに強くアピールしています。我々はKodlandのジャーニーを支援できることをたいへん喜んでいます」。

補足資料の中でFlyer One VenturesゼネラルパートナーのVital Laptenok(バイタル・ラプテノク)氏は次のように述べた。「教育分野には現在、独占的な存在がありません。そのため多くのプレイヤーが市場に参入し、増加する教育サービスの需要に応えようとしています。顧客のリアルなニーズを理解しているプレイヤーが成長し、市場の流れを決めるでしょう。Kodlandのチームは子どもたちにとって実用的な知識と機会にしっかりと的を絞り、インタラクティブな職業教育をしています」。

画像クレジット:Kodland

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Kaori Koyama)

無駄な在庫が激減、ファッション業界向けのキャンセル待ちと予約注文のプラットフォーム英Purple Dotが4.6億円調達

ファッション業界は予測が難しいため、ファッションブランドは製品の需要を当てずっぽうで見積もることが少なくない。需要の予測が外れれば無駄な在庫を抱えることになる。衣服は最終的に焼却処分されることが多く、環境に影響を与える。英スタートアップのPurple Dotは、eコマースの「キャンセル待ちと予約注文」プラットフォームで、ファッションブランドは注文を受けた分だけを製造できるので結果として無駄が減る。

Purple Dotは、米国を拠点とするUnusual Venturesが主導したアーリーステージのラウンドで400万ドル(約4億6000万円)を調達した。以前に投資していたConnect VenturesとMoxxie Ventures、そしてIndeedの共同創業者であるPaul Forster(ポール・フォースター)氏のファミリーオフィスも参加した。

2019年に起業家のMadeline Parra(マデリーン・パーラ)氏とJohn Talbott(ジョン・タルボット)氏がPurple Dotを創業した。Purple Dotはeコマース企業が「売上を最大化するやり方で在庫を早く販売し、ブランドロイヤルティを構築し、需要のデータを早期に得る」プラットフォームだと同社は説明する。同社のキャンセル待ちソリューションを利用すれば、在庫を倉庫に入れる前に販売できる。同社はこうしたことが可能な、市場で唯一のソリューションであるとしている。

Purple Dotの共同創業者でCEOのマデリーン・パーラ氏は次のように述べた。「早い段階での販売は、ブランドが売上を獲得する上でまったく新しい世界を開きます。販売用の在庫を倉庫に置く必要があるというのがこれまでの考え方やテクノロジーでした。しかしPurple Dotを利用すると、販売と出荷を非同期にできるため常に販売できます。これは我々のブランドパートナーにとって驚きの瞬間です。早期販売の戦略を成功させるには、適切なカスタマーエクスペリエンスと社内運用を実現する専用のアプローチが必要です」。

Unusual Venturesの投資家であるRachel Star(レイチェル・スター)氏は次のように述べた。「Purple Dotは単なるeコマース支援ではありません。サプライチェーンの管理とブランドの販売方法を変革しつつあります。予約注文とキャンセル待ちがオンラインショッピングのこれからの形になると我々は考えています」。

画像クレジット:Purple Dotのマデリーン・パーラ氏(CEO)とジョン・タルボット氏(CTO)

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(文:Mike Butcher、翻訳:Kaori Koyama)

テック起業家がジョンソン英首相をパロディ肖像画NFTで風刺、収益をホームレス支援チャリティに寄付

NFT市場はクレイジーなものとなったが、NFTが莫大な価値を持つようになっても、猿やパンクのポン引き画像以外にも、NFTを使ってできることは増えてきている。

例えば、マンションがNFTとしてオークションにかけられるのも我々は見てきた。

関連記事:キエフのアパートが収集可能なNFTとして初オークション、ブロックチェーンスタートアップPropyが企画

そして最近は、慈善団体がこの熱狂状態からメリットを得て、新しいオーディエンスを惹きつけつつ、透明性のある方法で資金を調達しようとしている。

Binance(バイナンス)でも、Binanceチャリティ財団が設立したオープンプラットフォーム「NFT for Good」を立ち上げ、人々が自分のアートやクリエイティビティを社会的・人道的な問題を対象としたオークションに変換できるようにした。

NFTが資金調達のプロセスをゲーム化していることが、こうしたプロジェクトが成功している理由の一つだ。

同時に、暗号アートは、ダダイズムや風刺のリアリズム領域に入りつつある。2017年7月のICOで、最初の30分で3万ドル(約342万円)を調達したFUCKというイーサリアムのトークンを覚えているだろうか?今では、現在260.774イーサまたは104万ドル(約1億2000万円)の値がついている、NFTとしての世界で最もリッチな線(文字通り赤インクで描かれた線)がある。

NFTアートと風刺の世界は、NFTプラットフォームOpenSeaで公開されたばかりの新プロジェクト「Non Fungible Tories – The Boris Drop」でも融合している。

これは、英国のBoris Johnson(ボリス・ジョンソン)首相を描いた8ビットパロディ肖像画のセットで、収益の52%(悪名高いBrexit、EU離脱投票の過半数と同じ割合)を、ホームレスを支援する英国の慈善団体に寄付するというものだ。

NFTシリーズでは、自らを「Pfeffel, a punk artist」と名乗るアーティスト(英国を拠点とするテック企業の創業者であることが、TechCrunchによって確認されている)が、ジョンソン英首相の最も有名な言葉を風刺している。

Pfeffel氏は「a clown, an oaf, a wager of culture war, and a pound-shop Churchill(道化師、愚か者、文化戦争の賭け人、1ポンドショップ[訳註:100円ショップのような意味合い]チャーチル)」へのトリビュートとして、ジョンソン氏の「Watermelon smile(スイカの微笑み)」「Letterbox(レターボックス)」、そしてジャーナリストの質問に答えずに冷蔵庫に隠れた瞬間などの名言をもとに、一連のNFTを作成した。

また、英国でパンデミックのロックダウンの最中に、No.10(官邸)でパーティーを開きチーズやワインをふるまっていたという、最新の論争も風刺している。この「2ビットの政治家の8ビット画像」はすべて初版となる。

Pfeffel氏は、クリスマスシーズンに英国の路上で生活するホームレスの人々を支援する慈善団体「Crisis at Christmas」に、NTFオークションの利益を寄付することを約束した。

確かにNFTのアーティストにとって、ジョンソン氏のネタはいくらでもある。

​​ジョンソン氏は、新型コロナウイルスのパンデミックに関して「fuck business(ビジネスなんてクソ食らえ)」や「let the body pile up(死体を山積みにしてしまえ)」というような言葉を使ったことで有名になり、「配慮と良心のない」政治家としての評価が高まっている。また、英国の援助予算を削減し、同国は彼の任期中に欧州で最も新型コロナによる死亡率が高くなり、G7の中で最も深刻な経済不振に陥っている。

Pfeffel氏はTechCrunchに語った。「悪魔を懲らしめる方法のひとつは、彼を笑うことです。私のアートはジョンソン氏を笑い飛ばします。これらのNFTが、死体が山積みになっているのにパーティーを楽しんでいるように見える政府から忘れ去られた路上の人々の苦しみを、何らかの形で和らげる手助けになることを期待しています」。

オークションは、英国時間12月21日正午(日本時間12月21日午後9時)に開始され、大晦日の正午に終了する。

オークションの最新情報は、こちらのTwitterでご覧いただける

画像クレジット:Non Fungible Tories – The Boris Drop

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(文:Mike Butcher、翻訳:Aya Nakazato)

英独禁監視当局がマイクロソフトのNuance買収を調査中

2021年初めに発表された、Microsoft(マイクロソフト)による197億ドル(約2兆2380億円)での音声テキスト化企業Nuance Communicationsの買収は、英国の活発な反トラスト監視当局の注意を引いてきた。そして当局は12月13日、提案されている取引に懸念すべき理由があるかどうかを評価するために第1段階の調査を行っていると発表した

関連記事:マイクロソフトが過去2番目規模で文字起こし大手Nuance Communications買収、ヘルスケア分野のクラウドを強化

競争市場局(CMA)が第1段階の調査を開始するかどうかの決定は追って行われる予定だ。

現在のところ、規制当局がこの決定を下すまでの期間は示されていないが、CMAが利害関係者にコメントを求める協議期間は2022年1月10日までとなっている。

買収案に対する独占禁止法上の監視は何カ月にもわたることがあり、少なくとも取引完了に大きな遅れをきたす可能性がある。

CMAはこの件に関する声明の中で「取引が実行された場合、2002年企業法の合併規定に基づく関連する合併状況の創出につながるかどうか、またその可能性があるかどうかを検討しており、もしそうであれば、その状況の創出が英国の商品またはサービスの市場における競争の実質的な低下につながることが予想されるかどうかを検討している」と述べている。

Microsoftは、4月にNuance買収を発表した際に、ヘルスケア分野でのプレゼンスを強化するために音声テキスト化企業を買収すると述べていた。ヘルスケア分野では、Nuanceが多くの臨床医支援製品を開発している(遠隔診療の記録のためのテック、臨床文書作成のための音声認識ツール、AIを活用した放射線診断レポートなど)。

反トラスト規制当局は、今回の買収計画をさらに精査する必要があると判断した場合、第1段階の調査を開始する。その後、まだ懸念すべき理由があると判断した場合、より詳細な第2段階の調査を開始する可能性がある。

また、いずれかの段階で、懸念される競争上の問題がないと判断し、買収を許可することもあり得る。

逆に、懸念がある場合には、買収を実行する前に救済措置が必要と判断したり、買収停止を命じたりする可能性もある。

Nuance買収計画に対するCMAの予備調査について、Microsoftにコメントを求めている。

Amazon(アマゾン)、Apple(アップル)、Google(グーグル)、Microsoft、さらにはFacebook(フェイスブック)などのテック大手は何年もの間、健康状態の追跡やモニタリングなどを行うツールの開発に関心を示してきたが、デリケートな分野への進出は、重要分野のデジタル化が進む中で、企業の支配力や市場力をさらに強めることになるのではないかという懸念がある。

一方、英国では、プラットフォームの力を考慮して国内の競争法を再編成しているところで、「競争促進」の体制を導入し、大企業の市場支配力から中小のイノベーターを保護したいとしている。

競争監視委員会は、CMA内部に設置される新しい部署Digital Markets Unitにハイテク企業を監督する権限を与える法案に先立ち、M&A活動やその他の主要な動き(Googleの戦略的な「プライバシーサンドボックス」計画など)を引き続き監視している。

関連記事:英国でテック大企業を監視する新部署「DMU」発足、デジタル分野の競争を促進

最近では、CMAはMeta(元Facebook)に対し、アニメーションGIFプラットフォームGiphyの買収を取り消すよう命令した。これは、これまでハイテク大手のM&Aに異議が唱えられることがほとんどなかったことを考えると、競争監視において注目すべき出来事だ。CMAは、プラットフォームの力と野心に挑戦する最前線にいることを強調している(命令によって面倒な取引破棄が必要な場合もある)。

画像クレジット:Jeenah Moon/Bloomberg via Getty Images / Getty Images

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi

Rent the Runwayを進化させた英国のファッションレンタル・シェア「HURR」が約6.1億円調達

「Rent the Runway」スタイルの英国のファッションレンタルマーケットプレイス「HURR」は現地時間12月10日、欧州のVCであるOctopus Venturesが主導するシードラウンドで540万ドル(約6億1000万円)を調達したと発表した。今ラウンドにはAscensionやD4 Venturesなども参加した。

2019年にローンチしたHURRは、ピアツーピアのファッションレンタル、ファッションアウトレットとの直接提携、(英高級百貨店セルフリッジズのレンタルサービス)Selfridges Rentalなどの小売店とのホワイトレーベルサービスを組み合わせたハイブリッドなビジネスモデルを展開している。また、Selfridges London(セルフリッジズ・ロンドン)に実店舗を持ち、世界的なフリマアプリDEPOP(ディポップ)との提携も行っている。

HURRの創業者兼CEOであるVictoria Prew(ヴィクトリア・プリュー)氏は、次のようにコメントしている。「私は、オーナーシップを共有するのが大好きなミレニアル世代の一員です。私たちは皆、AirbnbやUber(ウーバー)のような破壊的な技術を駆使したビジネスの台頭を目の当たりにしてきましたが、家やクルマをそうしてレンタルできるのであれば、ワードローブを貸し借りすることもできるはずです」。

Octopus Venturesのコンシューマー部門投資家であるMatt Chandler(マット・チャンドラー)氏は、次のように述べている。「HURRは、新しいオーナーシップモデルへの移行を利用して、より気候に優しいファッション業界への移行を先導できる絶好の立場にあります」。

画像クレジット:HURR

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(文:Mike Butcher、翻訳:Aya Nakazato)

フェイスブックがエンド・ツー・エンド暗号化の全面導入を「2023年中まで」延期

Facebook(フェイスブック)改めMeta(メタ)が、エンド・ツー・エンド暗号化を同社の全サービスに全面展開することを「2023年中まで」延期する。このことは、同社の安全部門のグローバル責任者であるAntigone Davis(アンティゴン・デイビス)氏が英国のTelegraph(テレグラフ)紙に寄稿した論説記事によって明らかになった。

Facebook傘下のWhatsApp(ワッツアップ)には、すでに2016年からエンド・ツー・エンド暗号化が全面的に導入されているが、ユーザーがメッセージデータを暗号化する鍵をユーザーのみに持たせるこの機能は、同社の他の多くのサービスではまだ提供されていない。つまり、エンド・ツー・エンド暗号化が提供されていないそれらのサービスでは、メッセージデータを公権力に提供するよう召喚されたり令状が発行されたりする可能性があるということだ。

しかし、Facebook創業者のMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏は、Cambridge Analytica(ケンブリッジ・アナリティカ)のデータ不正利用スキャンダルを受けて、2019年にはすでに「プライバシー重視のプラットフォームへと転換させる」取り組みの一環としてエンド・ツー・エンド暗号化を同社の全サービスに全面導入する計画であることを発表した。

ザッカーバーグ氏は当時、エンド・ツー・エンド暗号化の全面導入の完了時期について具体的な日程には言及しなかったが、Facebookは2021年初めに、2022年中には全面導入が完了する予定であると示唆していた。

それがこの度、同社は、2023年中の「いずれかの時点」まで完了する予定はないと発表した。明らかに先送りされているようだ。

デイビス氏によると、今回の延期は、子どもの安全に関わる捜査を支援するために情報を法執行機関に提供する能力を同社が保持できるようにして、安全性を確保しながらエンド・ツー・エンド暗号化を実装することに時間をかけたいと同社が希望しているためだという。

デイビス氏は次のように語る。「当社でもそうだが、ユーザーのメッセージにアクセスできない状態で、テック企業が虐待問題に立ち向かい続けることと法執行機関の重要な任務をサポートし続けることをどのように両立できるのかという点については、今も議論が続いている。プライバシーと安全性のどちらかを選ばなければならないような状態にしてはいけないと当社は考えている。だからこそ当社は、適切な方法でこの技術を導入するために、強力な安全対策を計画に盛り込み、プライバシー分野や安全分野の専門家、市民社会、政府と協力している」。さらに、同社は「プロアクティブな検知テクノロジー」を使用して不審なアクティビティを特定することに加え、ユーザーのコントロール権限を強化し、問題を報告する能力をユーザーに付与する予定だと同氏はいう。

Facebookが2年以上前に「全サービスへのエンド・ツー・エンド暗号化導入」計画を公に発表してからこれまで、英国を含む西側諸国の政府は、最高レベルの暗号化を全サービスに全面導入する計画を延期または断念するよう同社に対して強い圧力をかけ続けている。

英国政府はこの点で特に、Facebookに対して苦言を呈してきた。内務大臣のPriti Patel(プリティ・パテル)氏は、Facebookのエンド・ツー・エンド暗号化拡大計画は、オンラインの児童虐待を防止する努力を阻害するものになると、公の場で(繰り返し)警告し 、同社を、児童性的虐待コンテンツ(CSAM)の制作と配信を防ぐ闘いにおける無責任な悪役であるとみなした。

したがって、Metaが今回、英国政府ご贔屓の新聞に論説記事を寄稿したのは偶然ではなかったのだ。

Telegraph紙に寄稿された前述の論説記事の中で、デイビス氏は「エンド・ツー・エンド暗号化を展開するにあたり、当社は、市民の安全を確保する活動に協力しつつも、暗号化されていないデータの組み合わせを用いて各種アプリ、アカウント情報、ユーザーからの報告をプライバシーが保護された安全な状態に保つ」と述べ「この取り組みにより、すでに、子どもの安全を担当する当局機関に対し、WhatsAppから極めて重要な情報を報告することができている」と同氏は付け加える。

デイビス氏はさらに、Meta / Facebookは過去の事例をいくつも調査した結果「エンド・ツー・エンド暗号化をサービスに導入した場合でも、重要な情報を当局機関に報告することができていた」との結論に達したと述べ「完璧なシステムなど存在しないが、この調査結果は、当社が犯罪防止と法執行機関への協力を継続できることを示している」と付け加えた。

ところで、Facebookのサービスにおいてすべてのコミュニケーションがエンド・ツー・エンドで暗号化された場合に、同社は一体どのようにして、ユーザーに関するデータを当局機関に渡すことができるのだろうか。

Facebook / Metaがそのソーシャルメディア帝国において、ユーザーのアクティビティに関する手がかりを集めている方法の詳細をユーザーが正確に知ることはできない。しかし、1つ言えることとしてFacebookはWhatsAppのメッセージ / コミュニケーションの内容がエンド・ツー・エンドで暗号化されるようにしているが、メタデータはエンド・ツー・エンドで暗号化されていないということだ(そしてメタデータからだけでも、かなり多くの情報を得ることができる)。

Facebookはまた、例えば、2016年に議論を呼んだプライバシーUターンのように、WhatsAppユーザーの携帯電話番号データをFacebookとリンクさせるなど、アカウントとそのアクティビティを同社のソーシャルメディア帝国全体で定期的にリンクさせている。これにより、Facebookのアカウントを持っている、あるいは以前に持っていたユーザーの(公開されている)ソーシャルメディアアクティビティが、WhatsAppならではの、より制限された範囲内でのアクティビティ(1対1のコミュニケーションや、エンド・ツー・エンド暗号化された非公開チャンネルでのグループチャット)とリンクされる。

このようにしてFacebookは、その巨大な規模(およびこれまでにプロファイリングしてきたユーザーの情報)を利用して、たとえWhatsAppのメッセージ / コミュニケーションの内容自体がエンド・ツー・エンドで暗号化されていたとしても、Facebook / Metaが提供する全サービス(そのほとんどがまだエンド・ツー・エンド暗号化されていない)において、誰と話しているのか、誰とつながっているのか、何を好きか、何をしたか、といったことに基づいて、WhatAppユーザーのソーシャルグラフや関心事を具体的に把握できる。

(このことを、デイビス氏は前述の論説記事で次のように表現している。「エンド・ツー・エンド暗号化を展開するにあたり、当社は、市民の安全を確保する活動に協力しつつも、暗号化されていないデータの組み合わせを用いて各種アプリ、アカウント情報、ユーザーからの報告をプライバシーが保護された安全な状態に保つ。この取り組みにより、すでに、子どもの安全を担当する当局機関に対し、WhatsAppから極めて重要な情報を報告することができている」)。

Facebookは2021年の秋口に、WhatsAppが透明性に関する義務を遂行しなかったとして欧州連合から多額の罰金を科せられた。WhatsAppがユーザーデータの使用目的と、WhatsApp-Facebook間においてそのデータを処理する方法について、ユーザーに適切に通知していなかったことが、DPAの調べによって明らかになったためだ。

関連記事:WhatsAppに欧州のGDPR違反で約294億円の制裁金、ユーザー・非ユーザーに対する透明性の向上も命令

FacebookはGDPRの制裁金に関して控訴中だが、米国時間11月22日に、欧州の規制当局からの求めに応じて、欧州のWhatsAppユーザー向けのプライバシーポリシーの文言を少し変更することを発表した。しかし、同社によると、ユーザーデータの処理方法については、まだ何の変更も加えていないとのことだ。

さて、エンド・ツー・エンド暗号化そのものに話を戻すと、2021年10月、Facebookの内部告発者であるFrances Haugen(フランセス・ハウゲン)氏が、同社によるエンド・ツー・エンド暗号化テクノロジーの応用に関して懸念を表明した。このテクノロジーはオープンソースではなく、専有テクノロジーであるため、ユーザーはFacebook / Metaのセキュリティ方針を信じなければならず、同テクノロジーのコードが本当にそのセキュリティ方針を順守しているかどうか、独立した第三者が検証する術がない、というのが同氏の主張だ。

ハウゲン氏はさらに、Facebookがエンド・ツー・エンド暗号化をどのように解釈しているのかを社外の者が知る方法がないことも指摘し、同社がエンド・ツー・エンド暗号化の使用を拡大しようとしていることについて「Facebookが本当は何をするつもりなのかまったくわからない」と述べて懸念を表明した。

「これが何を意味するのか、人々のプライバシーが本当に保護されるのか、私たちにはわかりません」と英国議会の議員たちに語ったハウゲン氏は、さらに次のように警告した。「これは非常に繊細な問題で、文脈も異なります。私が気に入っているオープンソースのエンド・ツー・エンド暗号化製品には、14歳の子どもがアクセスしているディレクトリや、バンコクのウイグル族コミュニティを見つけるためのディレクトリはありません。Facebookでは、社会的に弱い立場にある人々を標的にすることが、この上なく簡単にできてしまいます。そして、国家政府がそれを行っているのです」。

ハウゲン氏は、エンド・ツー・エンド暗号化の支持については慎重に言葉を選んで発言し、エンド・ツー・エンド暗号化テクノロジーは、外部の専門家がそのコードや方針を厳正に調査できるオープンソースで対応することが望ましいと述べた。

しかし、Facebookの場合は、エンド・ツー・エンド暗号化の実装がオープンソースではなく、誰も検証できないため、規制当局による監視が必要だとハウゲン氏は提案した。ユーザーのプライバシーをどの程度確保するか(したがって、政府当局などによる潜在的に有害な監視からの保護をどの程度確保するか)、という点についてFacebookが誤解を招く指針を打ち出さないようにするためだ。

「私たちはプライバシーを保護し、危害の発生を防ぐ」という見出しの下で書かれた前述のデイビス氏の論説記事は、Metaが「外部の専門家と引き続き協力し、虐待と闘うための効果的な方法を構築していく」ことを誓う言葉で締めくくられており、英国議会の議員をなだめることによって、Facebookが一挙両得を狙っているように感じられる。

「Facebookはこの取り組みを適切な方法で進めるために時間をかけており、当社のすべてのメッセージングサービスでエンド・ツー・エンド暗号化を標準機能として導入することが、2023年中のある時点までに完了する予定はない」とデイビス氏は付け加え「Facebookはユーザーのプライベートなコミュニケーションを保護し、オンラインサービスを使用する人々の安全を守る」という、具体性のない宣伝文句をまた1つ発して記事を締めくくった。

英国政府は間違いなく、Facebookが今回、規制に配慮を示しながら非常に厄介な問題に関する記事を公に発表したことについて、喜ばしく思うだろう。しかし、同社が、パテル内相などからの長期にわたる圧力を受けて、エンド・ツー・エンド暗号化の延期の理由を「適切に導入するため」だと発表したことは「では、非常にセンシティブなプライバシーに関する問題という文脈において、その『適切』とは何を意味するのか」という懸念を強めるだけだろう。

もちろん、デジタル権利の擁護活動家やセキュリティの専門家を含むより大きなコミュニティも、今後のMetaの動向を注意深く見守っていくだろう。

英国政府は最近、児童性的虐待コンテンツ(CSAM)の検知または報告、作成阻止を目的として、エンド・ツー・エンド暗号化サービスにも応用できる可能性があるスキャニング/フィルタリング技術を開発する5つのプロジェクトに、およそ50万ポンド(約7700万円)の税金を投じた。「代替ソリューション」(プラットフォームにエンド・ツー・エンド暗号化を実装する代わりに、スキャニング / フィルタリング技術を暗号化システムに組み込むことによってCSAMの検知 / 摘発を行う)を開発することによって、革新的な方法で「テクノロジーにおける安全性」を確保するよう閣僚たちが求めたためだ。

したがって、英国政府は(ちなみに現在、オンライン安全法案の制定に向けても動いている)、子どもの安全に関する懸念を政治的な圧力として利用して、暗号化されたコンテンツを、エンド・ツー・エンド暗号化の方針のいかんに関わらず、ユーザーのデバイス上でスキャンすることを可能にするスパイウエアを実装するようプラットフォームに働きかける計画のようだ。

そのようにして埋め込まれたスキャンシステムが(閣僚たちの主張とは相容れないものの)堅牢な暗号化の安全性にバックドアを作ることになれば、それが今後数カ月あるいは数年のうちに厳密な調査と議論の対象になることは間違いない。

ここで参考にできるのがApple(アップル)の例だ。Appleは最近、コンテンツがiCloudのストレージサービスにアップロードされる前に、そのコンテンツがCSAMかどうかを検知するシステムをモバイルOSに追加することを発表した。

Appleは当初「当社は、子どもの安全とユーザーのプライバシーを両立させるテクノロジーをすでに開発している」と述べて、予防的な措置を講じることについて強気な姿勢を見せていた。

しかし、プライバシーやセキュリティの専門家から懸念事項が山のように寄せられ、加えて、そのように一度は確立されたシステムが(著作権下のコンテンツをスキャンしたいという市場の要求だとか、独裁政権下の国にいる反政府勢力を標的にしたいという敵対国家からの要求に応えているうちに)いや応なく「フィーチャークリープ」に直面する警告も発せられた。これを受けてAppleは1カ月もたたないうちに前言を撤回し、同システムの導入を延期することを表明した。

Appleがオンデバイスのスキャナーを復活させるかどうか、また、いつ復活させるのか、現時点では不明である。

AppleはiPhoneのメーカーとして、プライバシー重視の企業であるという評判(と非常に高収益の事業)を築いてきたが、Facebookの広告帝国は「利益のために監視する」という、Appleとは正反対の野獣である。したがって、全権力を握る支配者である創業者が、組織的に行ったプライバシー侵害に関する一連のスキャンダルを取り仕切った、Facebookという巨大なソーシャルメディアの野獣が、自社の製品にスパイウエアを埋め込むようにという政治的な圧力を長期にわたって受けた結果、現状を維持することになれば、それは自身のDNAを否定することになるだろう。

そう考えると、同社が最近、社名をMetaに変更したことは、それよりはるかに浅薄な行動だったように思えてくる。

画像クレジット:Justin Sullivan / Getty Images

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

燃料補給なしで地球の裏側まで飛行する水素エンジン搭載機を設計者は目指す

カーボンフリーの輸送手段を開発する上で、最も困難なものの1つが飛行機だ。電気飛行機の実用化には、バッテリーの高性能化と軽量化が必要となる。また、水素を動力に利用する飛行も可能であり、ある研究グループは、そんな航空機がどんな形になるかを描いてみせた。

Aerospace Technology Institute(ATI)が英国政府の事業として行っているFlyZeroプロジェクトは、液体水素を動力とする中型航空機のコンセプトを発表した。乗客279名のその飛行機は、ロンドン-サンフランシスコ間やロンドン-オークランド(ニュージーランド)間を燃料補給の必要なく、ノンストップでフライトする。翼長54mでターボファンエンジンを2基搭載、「速度と快適性は現在の航空機と同じ」だが、炭素排出量がゼロだ。

ATIによると、このコンセプト機は胴体後部に低温燃料タンクがあり、水素をマイナス250度で保存する。胴体前方の2つの小さな「チーク」タンク(側面タンク)が、燃料使用時に機のバランスを保つ。

しかし、商用水素飛行機が実用化されるまでには、まだあと数年はかかる。燃料補給のためのインフラはないが、水素は高価であり、ケロシン系の燃料に比べて機上での保存は難しい。しかし、このタイプの飛行機は、決して夢で終わるものではない。

ATIの予想によると、2030年代の半ばには効率の良い水素飛行機が現在の飛行機よりも経済的な選択肢になる。それは他の産業でも水素の採用が増えるからだ。需要が増え、価格は下がる。

FlyZeroプロジェクトは2022年初頭に詳細を公表する計画だ。それには地域航空用のナローボディ機とミッドサイズ(中型機)、経済的および市場的見通し、必要とされる技術のロードマップ、持続可能性の評価、などについてのものだ。。

編集者注:本記事の初出はEndgadget。執筆者のKris HoltはEngadgetの寄稿ライター。

画像クレジット:Aerospace Technology Institute

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(文:Kris Holt、翻訳:Hiroshi Iwatani)

男性のポルノ断ちもサポート、あらゆるデジタル依存症を克服するツールを英Remojoが開発

男性のセクシャルヘルスをテーマにしたスタートアップが数年前から活発な動きを見せている。初期のテックビジネスには、勃起不全などの健康問題を治療するための医薬品への(より簡単な)アクセスを提供することを目的とするものや(例えばRoman)、抜け毛を減らしたり性欲を高めたりすることを謳ったホルモン検査やオーダーメイドのビタミン剤を提供するものもあった(Manualなど)。時間の経過とともにより広範な遠隔医療が提供されるようになり(Ro)、そして最近では、男性のメンタルヘルスにも関心が向けられるようになった。

関連記事:包括的メンズヘルスケア「Manual」が米国と欧州の投資家から33.1億円のシリーズAを調達

この展開を長い間待ち望んでいた人も少なくないのではないだろうか。

ここ英国は今、起業活動におけるちょっとしたホットスポットとなっているようだ。例えば9月の記事では英国を拠点とするMojoのシードラウンドを紹介した。同社は男性の性的ウェルビーイングのためのサブスクリプションサービスを提供しており、勃起不全の解決策として錠剤ではなくセラピーを提案している。

また、男性専用ではないが、英国のPaired(ペアード)はアプリを通したカップルセラピーを提供している。

さて、今回はMojoと同じ年(2019年)に設立され、男性の性的幸福とセルフケアに対するホリスティックなアプローチを提供している英国拠点のサブスクリプションサービスをご紹介したい。似たような名前が付けられたRemojoは、性の健康に関する悩みを抱える男性をサポートするための技術ツールやアプリ内プログラムを提供しているが、まず同社が最初に着目したのは「ポルノの放棄」である。

Remojoのウェブサイトを見てみると、ポルノをやめることで時間の節約や注意力の向上を期待できるだけでなく、個人的な人間関係が改善され、さらには勃起不全などの健康問題が解決する可能性があるなどさまざまなメリットが説明されている。同社には急成長中の男性のセクシャル・ウェルビーイング分野と一致するところがかなりあるようだ。

価格の違い(RemojoのサブスクリプションプランはMojoよりも安い)を除けば、まず最初の違いはどう男性に関心を持たせるかというところである。

勃起不全に悩む男性よりもポルノを消費する男性の方が多いのは当然だろう。しかし、Remojoのターゲットは、ポルノを見ていて、かつポルノをやめたいと思っている男性だ。しかし単独創業者であるJack Jenkins(ジャック・ジェンキンス)氏は、このサブスクリプションサービスがポルノ依存症男性のためだけのものではないと強調している。

むしろ同氏によると、単純な自己啓発を目的とする人(自分の内側をよりコントロールできるようになりたいと感じている人)から、ポルノ消費の習慣が日々の生活(や人間関係)の妨げになっていると感じている人の他、宗教的信念を持っていて、たとえめったにポルノを使用しないとしてもポルノを使用することに恥じらいを感じており、求められる精神的基準に沿って生活できるようにするための助けを求めている人まで、さまざまな理由でポルノ消費をやめたいと思っている人に対応できるよう設計されているという。

ジェンキンス氏によると、Remojoの主要ユーザーには、キリスト教徒、イスラム教徒、ヒンズー教徒がおり、宗教的理想を実現するための支援を求めている人々が多い。彼らが置かれている環境では通常話すことがタブーとなっている問題について取り組むため、偏見のないサポートコミュニティを求めている場合もあるという。

Remojoによると、同社のサブスクリプションプログラム(1カ月4.99ドル、約580円。3カ月間または1年間のプランに申し込むとそれ以下になる)には毎月約5万人が登録しており、世界中(少なくともインターネットへのアクセスが容易な場所)からユーザーが集まっているというから、ポルノの消費が非常に普遍的な問題であるということがよくわかる。

現在、Remojoにとって最大の市場は米国、英国、ブラジル、インド。アプリ内のコンテンツは英語のため、英語圏の他の市場でも成長しているとジェンキンス氏は説明する。同社の典型的なユーザーは16~35歳の男性で「いつでもポルノにアクセスできる環境で育った」デジタルネイティブだといえる。

このような支持を受け、当然のことながら投資家も放ってはおかない。

ジェンキンス氏によると、同社は過去12カ月間に160万ポンド(約2億5000万円)のプレシード資金を、元Techstars Berlin(テックスターズ・ベルリン)のマネージングディレクターでAngel Invest(エンジェル・インべスト)CEOのJens Lapinski(ジェンズ・ラピンスキ)氏、同じくTechstars BerlinおよびAngel InvestのJag Singh(ジャグ・シン)氏をはじめとする多数の事業家エンジェルの他、銀行・金融業界のエンジェルや(匿名の)創業者などから調達したという。

ジェンキンス氏によると、同社は現在シリーズAの調達を進めており、500万ポンド(約7億7000万円)から600万ポンド(約9億2000万円)を目標に「1月までに」ラウンドを終える予定だという(おそらくシードをスキップして、Aに直行するだろうと同氏は話している)。

Remojoのウェブサイトには、ポルノをやめるための「90 day reboot」というものがあるが、これは同社で最も人気のある契約プランだという。

同社の技術が本当に有効ならば、3カ月ごとにユーザーが大きく入れ替わることになるだろう。しかしオンラインポルノには粘着性があり、簡単にアクセスできるため、再発の危険性が高く、ブロッカーツールが役立つ可能性が高いとジェンキンス氏は主張する。そのため男性にポルノをやめさせるというミッションが成功することによっておき得る、収入の激減を心配することはなさそうだ。

同社はより広範で継続的な、実用性と魅力を兼ね備えたコースもアプリ内で提供しており、ポルノの消費に関連している(あるいは悪影響を受けている)可能性のある男性の性的健康と幸福におけるさまざまな側面をサポートしている(ただし、やめたら改善が続くとは限らない)。

当初、自ら資金を調達して事業を立ち上げたジェンキンス氏。創成期にはユーザーがスマートフォン上でコンテンツをカスタムブロックして、ポルノソースへのアクセスを遮断できるMVPを発表した。

現在同ソフトウェアは、Android、iOS、Windows、macOSに対応しており、クロスデバイスで利用が可能だ。オンラインポルノへのアクセスに文字通りバリアを設ける単純なアダルトコンテンツブロッカーだけでなく、前述の行動変容コース、CBTテクニック、幅広いサポートコミュニティなど多くの機能が盛り込まれている。

今後はAIを用いてポルノコンテンツの識別を行い、ソフトウェアのブロック/フィルタリング機能を強化しようとジェンキンス氏は計画しており、コンピュータービジョンとオーディオを使用してポルノ視聴を進行中に検知し、ソフトウェアがリアルタイムに介入できるようなモデルの開発に取り組んでいる。

現在は、カスタムメイドのブロック機能とサポートリソースがミックスされたアプリになっている。

「いくつかの要素を組み合わせたハイブリッドになっています。習慣形成や習慣破壊に関する研究を行い、その分野で得られた知見や原理を利用しています。アプリ内コンテンツディレクターであるNoah Church(ノア・チャーチ)は、ポルノ依存症から抜け出すためのコーチングを7年間にわたって行ってきました。彼はYouTubeチャンネルを持っており、長年そこで講座やコーチングを行っています」とジェンキンス氏はTechCrunchに語っている。

「弊社のアプリの基礎構造の1つは『選択モデル』です。これは、英国のポルノ・セックス依存症研究の第1人者であるPaula Hall(ポーラ・ホール)博士が開発した回復モデルです」。

Remojoはプログラムから得られるユーザーの実用的な洞察、他のユーザーによる匿名のサポートコミュニティへのアクセス、ユーザーが進展を確認したり、コミットメントやアカウンタビリティを維持したりするためのツール(アカウンタビリティ・パートナーやインストールPINプロテクションなど)も行動変容のミックスに組み込んでいる。

ユーザーを完璧に「Reboot(再起動)」させてしまうことからこのプログラムは開始する。つまりポルノの消費を持続的に控える期間である(ここでRemojoのブロックツールとアカウンタビリティー機能が重要な役割を果たす)。マインドフルネス、運動、(ポルノとは無縁の)趣味への参加など、ポルノを放棄したことで空いた穴を埋めるための、代替習慣を身につけるための時間を確保させることがここでの狙いである。

ジェンキンス氏によると、マインドセットや思考パターンを変えること、そして男性の自己啓発が主な目的であるため、コースの内容には、習慣の変更、依存症の回復、性機能障害の克服(Mojoとの重複)などの関連分野が含まれているという。

今後は、デートに関してやパートナーとの関係・性生活の改善など、より幅広い分野をカバーするコースの他、特定の宗教的信条に合わせたアドバイスを提供するコースなども予定している。

「また、より困難な状況にある人には、心の穴を埋めるためにポルノのようなものを必要としないよう、より充実した生活を送れるようにするための支援をしています」。

ポルノ利用者の中には、利用に関連するより深い心理的問題を抱えている人もいるかもしれないが(幼少期の虐待など)、ポルノの消費自体には「便利な存在」だということ以上の深い意味はないのではないかとジェンキンス氏は主張している。つまり、消費を心理学的に分析することは必ずしも必要ではないという考えである。

そのため同アプリは人を判断することを避け、男性が自分の時間と注意力をコントロールできるようにサポートすることに重点を置いている。そしてそのついでに、注意を散漫させるポルノ業界を批判している。

「ポルノの使用は、必ずしも深い心理的問題によって引き起こされるものではありません。ただ非常に刺激的で、非常に強迫的な物質であり、人々の基本的な進化の欲求を利用して乗っ取ってしまうものなのです。そのため人々はただそこにあるから、そしてとても魅力的だからという理由で、純粋にポルノを見てしまうのです」と同氏は話す。

「これは世界中で共通した問題です。世界中の35歳以下の男性なら、宗教への信仰深さを問わずほとんどの人が直面しています。非常に大きな問題のため、すべてを一括りにすることはできません」と、オンラインポルノの魔力について説明する。「1日に3時間から7時間も見てしまうような深刻な依存症の人もいれば、イスラム教徒で月に1度しか見ないにもかかわらず、イスラム教では許容されていないため彼にとっては大問題です。それが自尊心に影響を与え、神との関係を絶ってしまうようなことさえあります」。

「非常に広い範囲にわたった問題であるため一般化するのはとても困難です。ユーザーの人生がいかに変化したかについて、さまざまな話やコメント、評価を聞くことが私やチームにとっての最大の喜びです」。

より広い観点から見てみると、オンラインでのポルノ視聴は、英国政府も10年以上前から関心を寄せている問題である。ネット上の不適切なコンテンツに簡単にアクセスできてしまうことで、子どもたちに悪影響が及ぶのではないかという懸念から、閣僚たちは現在大規模なオンライン安全法を施行している。

関連記事:英国が子どものためのオンライン安全法案の草案を発表

同様に、幼い頃から無限のポルノにさらされている男性は、後にさまざまな性的ウェルビーイングの問題を抱えることになると同社は考えている(月に5万人の男性がユーザーになるというのだから、あながち間違いではないのだろう)。

英国政府が以前、アダルトサイトへのアクセスに年齢認証を義務付けようとしたことがあったのだが、セキュリティやプライバシーへの懸念、年齢チェックを課したり規制したりすることの実現性をめぐる反発を受け、2019年に挫折した。

自分専用のポルノブロッカーとポルノ断ちのサポートコミュニティ(有料)によって男性が自らポルノをやめることができれば、話はずっと簡単だ。

ジェンキンス氏は自身がポルノをやめようと決心した際、アプリを使った支援ツールを思いついた。特にポルノへの依存があったわけではないが「より良い生活と自身を生きるための、より意識的な選択」として決意したのである。

辞めるためのサポートを探していた際、あるサブレディットで100万人以上のユーザーが同じようなサポートを求めていたことを知り、同氏はそこからこの問題の大きさとビジネスチャンスの可能性を感じ始めた。

「ポルノを完全に自分の生活から遮断するため、スマホやパソコンのコンテンツをブロックしたり、フィルタリングしたりできるガードレールのようなものを探したのですが、あまりいいものがありませんでした」と同氏は振り返る。「私は起業家精神があるため、この問題をもっと掘り下げようと思ったのです。同じようなことをしたいと思っている人や、このように感じている人は私だけではないはずだと思い、Reddit(レディット)でポルノ断ちやポルノ中毒について、あるいはポルノに関する問題や生活への影響について積極的に話している人たちにDMで連絡を取り始めました」。

「彼らにインタビューを始めたところ、Redditでどれだけ多くの人がこの話をしているかに驚かされました。約130万人もの人々が、ポルノをやめることに特化したサブレディットに参加しているのです。彼らはとても熱心に私に話をしてくれましたし、彼らがどれほど強く解決策を求めているのかを知りました」。

「最初のユーザーディスカバリーを行った後、すぐに(2019年12月に)作業を開始しました。私がこれまでに持っていたどんなに良いアイデアでも、これほどのレベルの同意を得られたことはありませんでした」。

「最初はブロッキングが目標でしたが、次第に人々が直面している問題を理解するようになりました。実際に人々の行動を変える手助けをするにはどうしたらいいのか、また習慣や中毒を断ち切るには、行動や考え方を変えるべきなのではないかということが理解できるようになりました。つまりブロッキングだけでは不十分なのです」。

勃起不全の治療をきっかけに、男性に対してより幅広い治療(ポルノ依存症のサポートを含む)を提供したいと考えているMojoと同様に、Remojoもまた、そのツールをより広範囲へと広げたいと考えている。ポルノ用に開発しているアプリベースのフレームワークを、オンラインギャンブルやソーシャルメディア、コンピュータゲームの依存症など「誰も本気で取り組んでいない、現代的な行動的デジタル依存症や強迫観念」にも適用できるようにしたいとジェンキンス氏は意気込んでいる。

「弊社のフレームワークを使って、ギャンブルや衝動的なゲームプレイをやめたり、ソーシャルメディアを減らしたりするための支援をしていきたいと思っています。これらは別々のブランドになりますが、同じ技術、同じフレームワークを使って人々をより良い習慣に導いたり、完全にそれらを断ったりすることができるでしょう。枠組みはまったく変えずアプリ内のコースを変えるだけです。アプリ内のコースを変更するだけで、その他のシステムに関しては、習慣や行動に変化をもたらしたり、デジタル依存症を克服したりするために何が有効かという点ではまったく同じです」。

つまりひょっとすると、Remojoはそのうち女性をターゲットとしたプロダクトを作る可能性もあるということだ。

(それにしても「ポルノをやめる」と「Facebookをやめる」が同列に語られるというのは、ソーシャルメディアに対する考え方がいかにネガティブなものになっているのかを物語っている)

同社のもう1つの開発計画には、独自のカスタムOSの開発がある。本質的にミニマルなOSで、自分の注意を引こうとするデジタル界のあれこれを、ユーザー自身がコントロールできるようにするためのものである。

「アンドロイドのスマホやデスクトップ機器向けにカスタムOSを構築したい」と語る同氏は、近日中に予定されているシリーズAの資金の一部を使ってその作業を開始し、最終的には「デジタルミニマリスト向けに、デジタルウェルネスコントロールをすべてOSに組み込んだ携帯電話を発売する」ことを目標としているという。しかしそれはまだ先の話になりそうだ。

シリーズAにより資金が潤沢になると予想される今後1年間の計画として、メッセージ性を高めていくことも重要だ。

ポルノ消費に関するより多くの人々の考え方を変えるために「世界的な会話を始めていきたい」とジェンキンス氏はいう。ポルノをやめるという考えが、お酒を飲まないとかタバコを吸わないという考え方と同じように「ありきたり」でごく普通なことになるように働きかけていきたいと同氏は考えている。

「まずシリーズAで実現したいのは、このテーマに対するタブーをなくすことです。お酒を飲まない、タバコを吸わない、肉を食べない、といったことと同じように、普通に広く受け入れられるようにしたいと考えています。このライフスタイルの選択を、メインストリームの話題や選択肢として受け入れられるようにするのです」。

画像クレジット:Remojo

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

GDPRコンプライアンスを自動化する英Soverenが約7.4億円のシード資金を得て脱ステルス

ロンドンを拠点とし、プライバシーリスクの検出を自動化して企業のGDPR(EU一般データ保護規則)およびCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)への準拠を支援するスタートアップSoverenは、650万ドル(約7億4000万円)のシード資金を得て、ステルス状態から脱却した。

同社は、組織のインフラ内のリアルタイムのデータフローを分析して個人データを発見し、プライバシーリスクを検出することで、CTOやCISOがプライバシーギャップを認識して対処することを容易にする。Soverenによると、全世界でおよそ1千万社の企業が、プライバシーインシデントの検出と解決を怠ったために、GDPRやその他の規制上の義務に違反するリスクを抱えているという。

Soverenの創業者兼共同CEOであるPeter Fedchenkov(ピーター・フェドチェンコフ)氏は、TechCrunchにこう語った。「セキュリティソフトウェアは、セキュリティ上の脅威にはうまく対処できますが、プライバシー上の課題への対処には限定的な影響しか与えません。これは、簡単に隔離できる他の機密データとは異なり、個人データは実際に日々の業務の中でアクセスされ、使用され、共有されるようにできているためです。当社は、プライバシーは新しいセキュリティであると信じています。なぜなら、同じように自動化された継続的な保護対策が必要だからです」。

フェドチェンコフ氏は、Soverenのアイデアは、EC分野での個人的な経験から生まれたという。「今日、データ保護とプライバシーのコンプライアンスがいかに手作業で複雑であるかを目の当たりにしました。時間もお金も労力も、必要以上にかかっています」。

Sovernはこれまでに、北米および欧州において、ソフトウェア、eコマース、旅行、フィンテック、ヘルスケアなどの分野で、10社のライトハウスカスタマーを確保している。

今回の投資ラウンドは、Northzoneの参加を得てFirstminute Capitalが主導し、Airbnb(エアビーアンドビー)やMulesoft(ミュールソフト)などから11人のユニコーン創業者、Sir Richard Branson(サー・リチャード・ブランソン)の家族ファンド、Palo Alto Networks(パロアルトネットワークス)の会長CEOであるNikesh Arora(ニケシュ・アローラ)氏をはじめとするひと握りのグローバルCEOが参加した。

フェドチェンコフ氏によると、Soverenはまず、この資金を使って製品チームを拡大し、セールスとマーケティングに投資する予定だという。「マーケティング面ではまだ何もしていないので、それを強化したいと考えています」と同氏はTechCrunchに語っている。

画像クレジット:Bortonia / Getty Images

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(文:Carly Page、翻訳:Aya Nakazato)

【コラム】誕生から10年、ソーシャルメディアなども活用するデジタル外交は次のフェーズに

英国レバノン大使 Tom Fletcher(トム・フレッチャー)氏は、外交にデジタル技術を持ち込んだ最初の大使の1人だ。10年が経った今、同氏が「テクノ外交」の最初の波で、うまくいった点といかなかった点を振り返り、今後のデジタル外交について考える。

外交はかつては、外交儀礼、決まり文句、地図と男によって支配されていた世界であった。しかし、あらゆる産業や技能職がそうであるように、外交もデジタル技術によって大きく様変わりしている。

多くの専門職では、目立った効果の大半は道具に現れる。外交でも、外交キット、通信手段(外部と内部)、作業スピードなどがすべて向上した。しかし、これも他の専門職と同様、本当の効果は明白な形ではなく、文化面に現れる。力関係の変化を認識することでもたらされる謙虚さ、新しいツールによって実現される敏捷性、より包括的になることでもたらされる効率性、今まで閉じられていた世界に対する国民の理解が向上することによってもたらされる透明性などだ。

10年前の秋、私は英国のレバノン大使に任命された。私は当時36歳で、大使としては若かった。アラブの春で中東では若者がいきり立っており、私はテクノロジーの変化によって政治と人々の関係が様変わりするのだろうかと考えていた。私は、新しい試みを始めた(これはその後、Twiplomacy(ツイッター外交)などといういくらかのぎこちない呼ばれ方を経て、最終的に「digital diplomacy(デジタル外交)」と呼ばれることになる)。10年を経て、デジタル外交は3つのフェーズを経験し、今4つ目のフェーズの入り口に立っている。多くのことが達成された。しかし、さらに多くの庶民的なスキルを政治に活用しようとするなら、これまでの試みで何が成功し何が失敗したのかを考える必要がある。

第2フェーズはすばらしい新世界だった。Hillary Clinton(ヒラリー・クリントン)国務長官が進めた21世紀の国政術プログラムにより、このフェーズでは、米国国務省は、外交に通信および接続のための新しいツールを使う方法について、期待と楽観に満ちていた。そうしたツールを純粋に受け入れ適応していった当時の外交官にとって、それはワクワクするような時代だった。国によって定められたルールは緩いものだった。私はある大臣にこう言われたことがある。「君が何をやろうと私はまったく構わない。英国のメディアに漏れなければね」。我々の多くは、逮捕されるまで突き進むことが許された。たくさんの過ちを犯した。リスクも犯した。私が、頻繁にツイートしていたスマートフォンは、私の行動を追跡するためにテロリストに利用されていた。

しかし、この時期は、人々とつながり、かかわり、いくらかの謙虚さを見せたいという気持ちで人々を驚かせることができた時期でもあった。ソーシャルメディアによって社会が開かれ、本物のエージェンシーと自由が促進されることを想像するのは可能であるように思われた。ある英国の大使はLSDをやり過ぎて、中東で最も強力な武器はスマートフォンだと示唆したことさえある。これに関しては今のところ、間違っていたようだが。

第2フェーズは、デジタル外交の制度化、組織化だ。我々は古い皇帝と新しい皇帝の間の広範な対話が行える構造を作り始めた。テクノロジーのめまぐるしい変化のスピードが地政学に与える影響を懸念した私は、英国政府を去り、この取り組みが緊急を要することを論証しようと試みた。2017年の私の国連での報告の後、国連はテック大手と政府が互いにすれ違うのではなく話し合うための取り組みを始めた。国連のハイレベル委員会とグローバルテック委員会は、ザッカーバーグ氏を議会や議会の委員会に召喚する代わりに、世界の政治、経済、社会に変革をもたらそうとする者と名目上依然としてそれらを統括している者との間の意思疎通を図る純粋で効果的な試みだった。私は「The Naked Diplomat」で、各国が「テック大使」を任命することを提案した。デンマークは実際にこれに取り組み、テック企業に国と真の対話を進めるよう促して、成功している。

この間、各国の外務省は、他のどのテクノロジーよりもソーシャルメディアにいち早く適応した。2011年にTwitterのアカウントを開設していた英国大使は4人だけだったが、数年以内に、4人を除く全員がTwitterのアカウントを開設し、中にはエジプト大使John Casson(ジョン・キャッソン)氏のように100万人を超えるフォロワーを獲得した者もいた。大使たちには影響を評価する方法があまりないため、ソーシャルメディアを試してみたいという強い気持ちがあった。私は、大使が出席する20以上の会議でスピーチをして、同僚の大使たちにソーシャルメディアを試すことで、大使の人間的な面を見せて(単に情報を伝達するのではなく)市民と関わりを持つよう促した。彼らにはよく次のようにアドバイスした。「ソーシャルメディアというのは想像し得る最大の外交レセプションのようなものだ。部屋の隅で黙っていたり、部屋中に響くような声で怒鳴ってはならない」と。もちろん、さまざまなリスクはあった。だが、最大のリスクは市民と対話できる場に参加しないことだった。

多くの大使たちがこのアプローチを採用し始めたが、外務省は、コミュニケーションにおける敏捷さと機密保持という新たなトレードオフに直面していた。私は2016年の外務省のレビューで、機密保持より敏捷さを取ることを勧めた。おそらくKim Darroch(キム・ダロック)卿(優れた駐米大使だったが、Trump(トランプ)前大統領に関して本国に伝えた電文が漏洩し辞任に追い込まれた)は同意しなかっただろう。しかし、我々は今や、この敏捷なコミュニケーション機能に依存しているのだ。

この2年間の外交は、ZoomとWhatsAppなしでは考えられなかっただろう。首脳たちが直接会見するのをできる限り避けるためにあらゆる手段を尽くす立場である外交官は、ビデオ会議が真剣な選択肢となるや、いち早く導入を決めた。パンデミックによってサミットやコンファレンスのオンライン開催が推進され、大量のCO2が削減されると同時に、明らかな悪影響もほとんどなかった。

第3フェーズは第2フェーズと重なる部分もあるが、帝国の逆襲だ。独裁政権がデジタルテクノロジーを使って自由を抑圧する新しい方法を見出したのだ。トランプ氏はTwitterを利用して、外国嫌い、偏見、暴動に火を付ける一方で、国内ではよりクリエイティブにテクノロジーを活用して、潜在的な協力者の称賛を得ようとしたり、外交上の敵対勢力を抑え込んだりした。一方ロシアのVladimir Putin(ウラジミール・プーチン)はインターネットを民主主義に対抗する武器として利用し、荒らし行為を連発した。Twitterモブにより、複雑な外交上の立場の微妙なニュアンスを伝えることは難しくなった。ましてや、ソーシャルメディアを使って妥協をはかったり、合意に達するなど不可能だった。分裂を誘うクリックバイトが置かれ、中立的立場が維持されることはなかった。政府はサイバー空間が新しい戦場であることを認識し、防衛という立場からサイバー空間を考えるようになった。

一方テック大手は成長し、場合によっては、政府よりもパワフルで保守的な組織と化した。私は2013年に、半分冗談で、Googleに国家安全保障会議への加入を依頼すべきではという声を上げたことがある。今となってはGoogleはなぜわざわざそんな面倒なことをする必要があるのかと聞いてくるかもしれない。テック大手は成長し力を誇示しながら、密かに人材を確保し、政府から税金だけでなく人的資本も奪っていった。その象徴的な、そしておそらく不可避的な例として、デンマーク最初のテック大使はMicrosoftに、英国自由民主党の党首はFacebookに引き抜かれた。法律的な軍拡競争が激しくなる中、EUがデータや扇動的行為を巡ってテック大手と大きな衝突を繰り返したことで、テック大手といっしょにより多くの問題を解決していけると純粋に信じていたすばらしい新世界フェーズの理想とは程遠い状態となった。

現在はどのような段階にあるのだろうか。私は今、テクノロジーと外交に関してはどちらかというと現実主義者だが、楽観的な側面も失ってはいない。私たちはまだ、持続可能な開発目標を含め、いっしょに難題に立ち向かっていける。ただし、それには、政府が自分だけではできないことについて、もっと正直になる必要がある。テック企業は、動きが遅くぎこちないことが多い政府ともっと寛大な気持ちで付き合う必要がある。そして、どこでテクノロジー自体が問題の一部となってしまったのかを正直に見直す必要がある。

とはいえ、外交は引き続きテクノロジーを使って効率化を推進できる。ニューヨーク大学にある私の研究グループは、外交官が空気を読むためのウェアラブルテクノロジー、外交記録の保存作業を改善するDiplopedia、世論に対する理解を深めるための感情マイニングの合理的かつ透過的な利用などに取り組んでいる。私は、国民が戦争の問題を厳しく監視するほど、政府の政策は平和志向的になるという仮説を支持している。おそらく外交で最もワクワクする分野は、外交を集合心理学およびソーシャルメディアの最先端テクノロジーと組み合わせて、国家同士ではなく社会同士の和解、および国家とその過去との和解を実現できる可能性があることだろう。

デジタル外交の次のフェーズでは、大いなる和解プロセスにも取り組む必要がある。すなわち、地球、テック大手、若者と高齢者、移住者と受け入れ側コミュニティ、そして最終的にはテクノロジー自体との和解である。私は、これらすべての和解においてより良い結果をもたらすために、デジタル外交が役立つと考えている。

最後に、デジタル外交の次のフェーズでは、外交官は、専門技能職としての基本に立ち返ることになるだろう。共感と感情的知性などの必須の外交スキルを備えた市民外交官を育成するための取り組みをもっと強化していく必要がある。その意味で教育は外交の上流にあるものだ。これは私がいろいろな場所で提案してきたことだが、このオンラインの世界での自由を守るためのグローバルなルールを書き直すには、昔ながらの紙と鉛筆を使った取り組みが必要になる。大使館という閉鎖的な空間から抜け出して、つながるために派遣された使節団としての本来のミッションに立ち返る必要がある。Edward Murrow(エド・マロー)は、決して自動化されるのことのない何物にも替えがたい外交スキルとしての人間的なつながりを「究極の3フィート(last three feet)」と呼んだ。我々が必要としているのは、今でも究極の3フィートを実行できる外交官だ。

この課題はワクワクもするが、急を要する。外交が存在しないなら発明する必要がある。だが、今は外交を再発明する必要がある。それは外交官だけに任せておけない極めて重大な問題だ。

編集部注:本稿の執筆者、CMGのTom Fletcher(トム・フレッチャー)氏は、オックスフォード大学ハートフォード・カレッジの校長。元英国大使で、3人の首相の外交政策アドバイザーを務め、ニューヨーク大学の客員教授でもある。

画像クレジット:Achim Sass / Getty Images

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(文:Tom Fletcher、翻訳:Dragonfly)

Safariのプライバシー保護を迂回したトラッキングに対する損害補償を求める英国の集団訴訟上訴審でグーグルが勝訴

Google(グーグル)は英国最高裁で集団訴訟形式のプライバシー訴訟上訴審で勝訴した。もし敗訴していたら、最大30億ポンド(約4602億円)の罰金が課せられるところだった。

この長期に渡る訴訟は老練の消費者権限活動家Richard Lloyd(リチャード・ロイド)氏が起こしたものだ。同氏は2017年以来、グーグルがApple(アップル)のSafariのプライバシー保護設定を回避して、2011~2012年の間にSafariブラウザーのiPhoneユーザーのプイバシー設定を上書きしていたとして、400万人を超えると推定される英国のiPhoneユーザーのプライバシー侵害に対する補償を求めて集団訴訟裁判を戦ってきた。

ロイド氏の訴訟はプライバシー被害の損害賠償を求めて起こされたものだが、より広い意味では、データ保護違反の損害賠償を求めて英国で代表訴訟を起こせるようにしたいと考えてのことだ。英国の法律では一般に集団訴訟を起こすための体制が確立されていない。

2018年、高等法院はこの訴訟の審理停止を言い渡したが、翌2019年、控訴院はその判決を覆し、審理の継続を許可した。

しかし、今回、最高裁判決では、全会一致で、高等法院の見解は基本的に覆され、集団訴訟は停止された。

最高裁判事は、賠償を請求するには損害 / 損失を被っている必要があり、個人ベースでの損害 / 損失を証明する必要性を省略することはできないという考え方を示した。つまり、代表集団の個々人の個人データの「コントロールの喪失」について、ロイド氏の訴訟で要求されてきたように一律に補償を行うことはできないということだ。

「こうした事項を証明できなければ、損害請求によって賠償金を獲得することはできない」と最高裁は自身の判決について記述している。

この判決はトラッキング業界に対する集団訴訟を起こすことができるようにしたいという英国運動家の望みに大きな打撃を与えた。

グーグルがこの訴訟に負けていたら、プライバシー違反に対するより多くの代表訴訟への門戸が開いていたことだろう。しかし、グーグル勝訴したことで、近年、商業訴訟資金提供者を惹き付けてきた、データマイニングテック大手を相手取った英国の集団訴訟の動きに水を差すことになるだろう。

関連記事:オラクルとセールスフォースのCookie追跡がGDPR違反の集団訴訟に発展

今回の判決を受けてBLMという法律事務所は次のように書いている。「今回の結果は、大量のデータを処理したり、個人データの利用にビジネスモデルの基盤を置いているグーグルやその他の企業(およびそうした企業の株主や保険業者)にとってうれしい知らせとなるでしょう」。

別のLinklaters LLPという法律事務所は、この判決を「データ漏洩領域における損害で新しいオプトアウト体制を作り上げようとしてきた原告の法律事務所や資金提供者には大きな痛手」と評している。

「判決後にたくさんの似たような訴訟が起こると期待していましたが、それも消えてなくなりました」とLinklatersの紛争解決パートナーHarriet Ellis(ハリエット・エリス)氏は付け加えた。「原告の法律事務所は今回の判決を慎重に見直して、それでもまだオプトアウト集団訴訟を戦える可能性が残されていないか調べていますが、かなり難しいようです」。

TechCrunchは前回ロイド氏の代理人を引き受けた法律事務所Mishcon de Reya(ミシュコンデレイヤ)に連絡し、コメントを求めた。同事務所によると、この件に関しては前回ロイド氏の代理人を務めたものの、最高裁訴訟では代理人の務めを果たしていなかったという。

同事務所のデータ実務責任者Adam Rose(アダム・ローズ)氏は次のように付け加えた。「被告が勝訴したものの、今回の判決でデータ保護違反の補償請求が終わりを告げると判断するのは時期尚早だと思います」。

「最高裁はグーグル側の主張を支持したものの、この判決は主に、現在は廃止された1998年データ保護法のもとでこうした訴訟を起こす法的メカニズムに関して判断を下したもので、データ保護法の包括的な権利と原則を否定するものではありません。つまり、まだ説得力ある議論を行う余地は間違いなく残されています。とりわけ、新しい英国GDPRの枠組みのもとでは、特定の集団訴訟の審理が認められていますし、データ保護法違反で補償が適切と認められるケースはあると思います」とローズ氏はいい、次のように付け加えた。「今回の判決でバトンは議会と情報コミッショナーに渡された形になります」。

「議会では、データ保護法のもとでオプトアウト訴訟をより簡単に起こせるようにするには法律が必要だということになるかもしれません。情報コミッショナーの立場からすると、故意かつ大規模なデータ保護法違反に対する断固たる強制行動と、データ主体に対して効果的な司法救済を与えることが早急に必要とされています。これは英国GDPRと現行のデータ保護フレームワークで約束されていることです」。

グーグルは今回の最高裁判決を受けて、裁判の詳細に関する考察は避け、次のようにコメントするだけに留めている。

この訴訟は、10年前に起こり当時当社が対処した出来事に関連するものです。人々はオンライン上でも安全かつセキュアでいたいと思っています。我々が人々のプライバシーを尊重し保護する製品とインフラストラクチャを構築することを長年重視してきたのもそうした理由からです。

グーグルの広報担当はtechUK事業者団体によって出された声明も提示した。同団体は、今回の訴訟でグーグル支持の立場で仲裁に入り、今回の判決について次のようにコメントしている。「今回の上訴が棄却されていたら、膨大なデータを操作するデータコントローラー企業に対して思惑的にいやがらせで訴訟を起こす扉が開かれることになり、民間企業、公的機関の双方に広範な影響が出ていたでしょう」。

techUKはさらに次のように続ける。「我々は代表訴訟に反対するものではありませんが、訴訟を起こすのであれば、まず、データ侵害の結果として個人に損害がもたらされたかどうかを明確にする必要があります。補償請求はその後です」。

ただし、最高裁の判事は「オプトイン」(オプトアウトではない)訴訟の裁判費用について、1人当たりの補償額が数百ポンド(数万円)にしかならない場合、裁判に持ち込むメリットがまったくなくなってしまう(ロイド訴訟では提示額は1人あたり750ポンドだった)と指摘している。というのは、原告1人あたりの裁判費用が補償額を容易に上回ってしまう可能性があるからだ、と指摘している。

はっきりいうと、techUKは、ほぼすべてのデータ侵害に対して代表訴訟を起こすことに反対の立場をとっている。

一方、英国のデータ保護監視機関は、データマイニングアドテック産業に対する法執行についてはまったく消極的だ。2019年以来、ICO(プライバシー監視機関)が違法トラッキングのまん延について警告しているにもかかわらずだ。

英国政府は現在、国内のデータ保護体制の弱体化対策に取り組んでいる

このように、英国の法律に記載されている平均的な英国市民のプライバシーの権利は、今かなりあいまいになっている。

米国では、グーグルは10年前、SafariのCookieトラッキング問題についてFTCと同意し、Safariのプライバシー設定を迂回して消費者にターゲット広告を配信したことについて、2012年に2250万ドルの罰金を支払うことに合意した(ただし、不正行為については認めなかった)。

人権グループも、今回の最高裁判決を受けて、政府に集団的回復の法制化求めた。

Open Rights Groupの事務局長Jim Killock(ジム・キロック)氏は次のように語った。「市民が大規模なデータ侵害に対して、家を手放すリスクを負うことも、情報保護監督機関のみに依存することもなく、回復を求める手段があってしかるべきです」。

ICOはすべてのケースに対応できるわけではなく、ときには、対応を渋ることもあります。我々は2年間にわたって、ICOが違法行為を認めているアドテック業界に対する対策を待ち続けてきました。しかし、対策が実施される様子はありません」。

「このようなケースで法廷費用を支払うために家を手放すリスクを負うのはまったく不合理です。しかし、集団訴訟ができなければ、残された道はそれしかありません。多くの場合、テック大手相手にデータ保護を実施するのは極めて困難です」。

「政府は約束を守り、GDPRのもとでの集団訴訟の実施を検討すべきです。しかし、政府は2月に、ロイドvs.グーグル訴訟で既存のルールのもとでも回復は可能であることが示されたという理由で、集団訴訟の実施を明確に拒否しました」。

画像クレジット:Chesnot/Getty Images / Getty Images

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

英国のメンタルヘルス企業iesoが10年間も蓄積した患者セラピスト間のテキストを武器に約60.9億円調達

英国を拠点とするデジタルセラピー企業ieso(イエソ)は、米国時間11月23日に5300万ドル(約60億9600万円)のシリーズBラウンドを発表した。このラウンドは、より直感的な自律型テキストセラピーを実現するという、まったく新しい方向に進むために同社が必要とする資金だ。

つまり、何千時間もの現実世界でのセラピーに基づいて訓練されたAIが、チャットでパーソナライズされたセッションを提供できるということだ。

iesoは10年ほど前から、英国の国民健康保険サービスを通じて、テキストのみのセラピーサービス(片方は人間のセラピストが担当)を行ってきた。同社のCEOであるNigel Pitchford(ナイジェル・ピッチフォード)氏は、これまでに約8万人の患者にテキストベースのセラピーを提供してきたが、積極的にセラピーを受けている人は6000人だとTechCrunchに語った。これまでのセラピー時間は合計で46万時間にもなるという。

ピッチフォード氏は「今晩、我々のネットワークを介して、400時間の治療を行う予定です」と述べている。

今回の資金調達は、Morningside(モーニングサイド)が主導し、Sony Innovation Fund(ソニー・イノベーション・ファンド)が参加した。また、既存の投資家であるIP Group(IPグループ)、Molten Ventures(モルテン・ベンチャーズ)、Ananda Impact Ventures(アナンダ・インパクト・ベンチャーズ)も参加している。

iesoは最終的に、人間ベースのセラピストシステムから、スケールアップした自律的なシステムへと発展させることを目指している。AIベースのチャットセラピーというアイデアは、この分野では特別なものではないが(これを追求している他の企業についても紹介している)、iesoのアプローチの背景にあるデータは、同社が秘密のソースと考えているものだ。

iesoの「圧倒的な強み」は、ピッチフォード氏が「トランスクリプト・オブ・ケア」と呼ぶ、患者とセラピストの間で交わされた10年間の現実のテキストベースの会話だ。このデータセットは、患者の臨床結果に関するリアルタイムのデータとセットになっており、同社はそれらのチャット内容と合わせて収集している。

Morningsideの投資パートナーであるStephen Bruso(スティーブン・ブルーソ)氏は「iesoは、テキストセラピーのデータセットで、この分野で最もすばらしいデータ資産を構築してきました」と述べている。このデータセットは、投資家としての彼にとっては最も魅力的なiesoの一面であり「前例のない」ものだと述べている。

このデータセットは、ある治療上の会話や技術が、患者の改善にどのように結びついているか(あるいは結びついていないか)を追跡するために使用されている。そして、同社がそのデータを利用して洞察を得ることができたという証拠もある。例えば、同社は2019年に9万時間のセラピーを分析した論文を「JAMA Psychiatry」ジャーナルに発表した。この論文では「将来の計画を立てる」といったセラピーの側面や、特定の認知行動療法の手法が、患者の改善につながることを発見した。

同社のグループ・チーフ・サイエンス&ストラテジー・オフィサーであるAndy Blackwell(アンディ・ブラックウェル)氏は「データでは1時間のセラピーのうち28分は、患者の転帰に『直接影響を与える』会話やエクササイズが含まれていることが示唆された」と述べている。

また、直感に反しているかもしれないが、この論文では、治療上の共感が患者の転帰にマイナスの影響を与えることがわかったという。しかし、他の研究では、セラピストが自分のことを理解してくれていると感じたとき、患者はより良い結果を得ることができるとも言われている。ブラックウェル氏は、この共感に関する発見を、共感は他の治療技術と一緒に用いるべきだという証拠だと解釈した。

ピッチフォード氏は最終的に、このデータセットとJAMAの論文で行われたような分析は、AIベースのセラピストがどのようにトレーニングされ、パーソナライズされるかを示すロードマップであると捉えている。

「つまり、私たちは、最高のセラピストが何をしているのかを非常に大きなスケールで研究し、それを再構築することで、世界中で大きな問題となっている、人間による心理療法を受けることができない人々に治療を届けることができるのです」とピッチフォード氏は述べている。

このようなデータセットをもってしても、iesoはますます混み合った領域での活動を強いられているようだ。第3四半期のSilicon Valley Bank(シリコンバレー・バンク)のトレンドレポートによると、メンタルヘルス関連のスタートアップ企業への資金提供は、2021年に30億ドル(約3400億円)を突破すると予想されている。つまり、従来のセラピーに関連する問題に注目している人が、今たくさんいるということだ。

ブルーソ氏は、iesoを、少なくとも自社のデータセットを使って実際の健康状態を示すことができる、数少ないメンタルヘルス企業の1つだと考えている。

「私たちは、実世界のデータに基づいて構築されたiesoのデジタル製品と、これらの製品を既存のユーザーベースで試用して初日から成果データを得ることができる同社の能力との間に、ユニークな相乗効果があると信じています。最終的には、個人の健康と社会的な成果の両方に測定可能な影響を示すことができる製品が、この分野で生き残ることができるでしょう」と述べている。

ブラックウェル氏は、この分野がいかに混み合っているかを認識しており、実際、消費者にとってこれは問題だと考えている。iesoのリーダーたちは、これらのアプリは、自助努力か、マインドフルネス、または軽度のメンタルヘルス診断を受けている患者のためにデザインされていることが多いと見ている。

iesoも、軽度のメンタルヘルスの苦悩を抱える人々を治療することができるものの、同社は中等度から重度の診断にも焦点を当てている。彼の言葉を借りれば、ただの「ウェルネス・ソリューション」ではなく、より集中的なケアを必要とするグループにも利用できるのだ。

このような観点から、自傷行為に対する安全対策を特に強化する必要がある。ブラックウェル氏によると、同社の人間ベースのセラピーモデルには、英国最大級のメンタルヘルスプロバイダーとして10年間かけて磨いてきたリスクエスカレーションプロトコルが導入されている。将来的には、それらのプログラムを自律型セラピー製品に組み込むことを計画している。

今のところ、同氏は、より困難な規制の道を想定していない。それは、より高いレベルのメンタルヘルス診断を扱うことを考えているからだ。

「良い点は、市場に投入する際に利用できる前例や前提条件があることです。しかし、重要なのは、実証的に安全で効果的な製品を作ることです」と述べている。

同社はすでに大量のデータを収集しているため、通常の臨床試験よりも「何倍も早く」有効性と安全性に関する知見を得ることができると、ブラックウェル氏は主張している。

iesoは今後、今回のラウンドを利用して、AIベースのセラピー部門を構築し、米国での知名度を強化する予定だ。チームは来年までに約200人に拡大する予定で、今後2年間での市場投入を目指す。

画像クレジット:Feodora Chiosea / Getty Images

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(文:Emma Betuel、翻訳:Akihito Mizukoshi)

英国のメンタルヘルス企業iesoが10年間も蓄積した患者セラピスト間のテキストを武器に約60.9億円調達

英国を拠点とするデジタルセラピー企業ieso(イエソ)は、米国時間11月23日に5300万ドル(約60億9600万円)のシリーズBラウンドを発表した。このラウンドは、より直感的な自律型テキストセラピーを実現するという、まったく新しい方向に進むために同社が必要とする資金だ。

つまり、何千時間もの現実世界でのセラピーに基づいて訓練されたAIが、チャットでパーソナライズされたセッションを提供できるということだ。

iesoは10年ほど前から、英国の国民健康保険サービスを通じて、テキストのみのセラピーサービス(片方は人間のセラピストが担当)を行ってきた。同社のCEOであるNigel Pitchford(ナイジェル・ピッチフォード)氏は、これまでに約8万人の患者にテキストベースのセラピーを提供してきたが、積極的にセラピーを受けている人は6000人だとTechCrunchに語った。これまでのセラピー時間は合計で46万時間にもなるという。

ピッチフォード氏は「今晩、我々のネットワークを介して、400時間の治療を行う予定です」と述べている。

今回の資金調達は、Morningside(モーニングサイド)が主導し、Sony Innovation Fund(ソニー・イノベーション・ファンド)が参加した。また、既存の投資家であるIP Group(IPグループ)、Molten Ventures(モルテン・ベンチャーズ)、Ananda Impact Ventures(アナンダ・インパクト・ベンチャーズ)も参加している。

iesoは最終的に、人間ベースのセラピストシステムから、スケールアップした自律的なシステムへと発展させることを目指している。AIベースのチャットセラピーというアイデアは、この分野では特別なものではないが(これを追求している他の企業についても紹介している)、iesoのアプローチの背景にあるデータは、同社が秘密のソースと考えているものだ。

iesoの「圧倒的な強み」は、ピッチフォード氏が「トランスクリプト・オブ・ケア」と呼ぶ、患者とセラピストの間で交わされた10年間の現実のテキストベースの会話だ。このデータセットは、患者の臨床結果に関するリアルタイムのデータとセットになっており、同社はそれらのチャット内容と合わせて収集している。

Morningsideの投資パートナーであるStephen Bruso(スティーブン・ブルーソ)氏は「iesoは、テキストセラピーのデータセットで、この分野で最もすばらしいデータ資産を構築してきました」と述べている。このデータセットは、投資家としての彼にとっては最も魅力的なiesoの一面であり「前例のない」ものだと述べている。

このデータセットは、ある治療上の会話や技術が、患者の改善にどのように結びついているか(あるいは結びついていないか)を追跡するために使用されている。そして、同社がそのデータを利用して洞察を得ることができたという証拠もある。例えば、同社は2019年に9万時間のセラピーを分析した論文を「JAMA Psychiatry」ジャーナルに発表した。この論文では「将来の計画を立てる」といったセラピーの側面や、特定の認知行動療法の手法が、患者の改善につながることを発見した。

同社のグループ・チーフ・サイエンス&ストラテジー・オフィサーであるAndy Blackwell(アンディ・ブラックウェル)氏は「データでは1時間のセラピーのうち28分は、患者の転帰に『直接影響を与える』会話やエクササイズが含まれていることが示唆された」と述べている。

また、直感に反しているかもしれないが、この論文では、治療上の共感が患者の転帰にマイナスの影響を与えることがわかったという。しかし、他の研究では、セラピストが自分のことを理解してくれていると感じたとき、患者はより良い結果を得ることができるとも言われている。ブラックウェル氏は、この共感に関する発見を、共感は他の治療技術と一緒に用いるべきだという証拠だと解釈した。

ピッチフォード氏は最終的に、このデータセットとJAMAの論文で行われたような分析は、AIベースのセラピストがどのようにトレーニングされ、パーソナライズされるかを示すロードマップであると捉えている。

「つまり、私たちは、最高のセラピストが何をしているのかを非常に大きなスケールで研究し、それを再構築することで、世界中で大きな問題となっている、人間による心理療法を受けることができない人々に治療を届けることができるのです」とピッチフォード氏は述べている。

このようなデータセットをもってしても、iesoはますます混み合った領域での活動を強いられているようだ。第3四半期のSilicon Valley Bank(シリコンバレー・バンク)のトレンドレポートによると、メンタルヘルス関連のスタートアップ企業への資金提供は、2021年に30億ドル(約3400億円)を突破すると予想されている。つまり、従来のセラピーに関連する問題に注目している人が、今たくさんいるということだ。

ブルーソ氏は、iesoを、少なくとも自社のデータセットを使って実際の健康状態を示すことができる、数少ないメンタルヘルス企業の1つだと考えている。

「私たちは、実世界のデータに基づいて構築されたiesoのデジタル製品と、これらの製品を既存のユーザーベースで試用して初日から成果データを得ることができる同社の能力との間に、ユニークな相乗効果があると信じています。最終的には、個人の健康と社会的な成果の両方に測定可能な影響を示すことができる製品が、この分野で生き残ることができるでしょう」と述べている。

ブラックウェル氏は、この分野がいかに混み合っているかを認識しており、実際、消費者にとってこれは問題だと考えている。iesoのリーダーたちは、これらのアプリは、自助努力か、マインドフルネス、または軽度のメンタルヘルス診断を受けている患者のためにデザインされていることが多いと見ている。

iesoも、軽度のメンタルヘルスの苦悩を抱える人々を治療することができるものの、同社は中等度から重度の診断にも焦点を当てている。彼の言葉を借りれば、ただの「ウェルネス・ソリューション」ではなく、より集中的なケアを必要とするグループにも利用できるのだ。

このような観点から、自傷行為に対する安全対策を特に強化する必要がある。ブラックウェル氏によると、同社の人間ベースのセラピーモデルには、英国最大級のメンタルヘルスプロバイダーとして10年間かけて磨いてきたリスクエスカレーションプロトコルが導入されている。将来的には、それらのプログラムを自律型セラピー製品に組み込むことを計画している。

今のところ、同氏は、より困難な規制の道を想定していない。それは、より高いレベルのメンタルヘルス診断を扱うことを考えているからだ。

「良い点は、市場に投入する際に利用できる前例や前提条件があることです。しかし、重要なのは、実証的に安全で効果的な製品を作ることです」と述べている。

同社はすでに大量のデータを収集しているため、通常の臨床試験よりも「何倍も早く」有効性と安全性に関する知見を得ることができると、ブラックウェル氏は主張している。

iesoは今後、今回のラウンドを利用して、AIベースのセラピー部門を構築し、米国での知名度を強化する予定だ。チームは来年までに約200人に拡大する予定で、今後2年間での市場投入を目指す。

画像クレジット:Feodora Chiosea / Getty Images

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(文:Emma Betuel、翻訳:Akihito Mizukoshi)

ゲームにおけるアクセシビリティは課題でありチャンスだという英国のレポート

ゲームのコミュニティ、開発者、パブリッシャーが、アクセシビリティをビジネスと楽しみの重要な部分と考え始めている。しかし先はまだ長い。英国における障がい者ゲーマーのニーズと習慣のレポートは、世界中の多くのゲーマーがプレイや購入などゲームを楽しむ際にいつも困難に直面することを示唆している。

障がい者支援組織のScopeが実施したアンケート調査についてゲームメディアのEurogamerにVivek Gohil(ビベック・ゴーヒル)氏が寄稿したところによると、1326人(障がい者812人、障がい者でない人514人)がゲームの世界で直面する問題について回答した。

回答者の3分の2がゲームに関する障壁に直面し、最も多い障壁は支援技術に対応していない、あるいは手頃な価格で利用できないということだった。アクセシビリティのオプションがないためにゲームを購入しなかった、あるいはアクセシビリティが欠如しているゲームを購入したがゲームをプレイ(または返品)できなかったと回答した人が多かった。

興味深い点として、障がいのあるゲーマーはゲーム内アイテムを購入したりeスポーツを観戦するなど、さまざまなプラットフォームに関わる傾向がかなり強い。ゴーヒル氏が指摘しているように、英国内だけでも1400万人ほどの障がい者が多くの可処分所得を有している。その中にはアクティブなゲーマーが多数いて、経済効果が望める人々だ。それにもかかわらず、ゲーム内広告のターゲットにしたりゲームに登場したりする層であるとはほとんど考えられていない。

アクセシビリティのオプションを備えればあらゆる人にとってより良いゲームになると認識する大手開発企業が増えて、こうした状況は変化しつつあるようだ。「ラチェット&クランク」「The Last of Us Part II」「Forza Horizon 5」などの新作人気タイトルは、色覚特性からゲームプレイのスピードダウン、きめ細かい難易度設定などに幅広く対応している。

中小企業が多様なニーズに応える支援デバイスを製造するようになって、ハードウェアも向上しつつある。MicrosoftのXbox Adaptive Controllerはこれまでのコントローラを使えない人たちの間で大ヒットとなった。

Microsoftは最近、スペシャルオリンピックスとの共催でインクルージョンを重視したeスポーツのトーナメントも開催した

関連記事:Xboxとスペシャルオリンピックスが知的障がい者のためのeスポーツイベントを初開催

しかしすべきことはまだたくさんあり、それはエンジニアリングや開発にはとどまらない。ゲーム内チャットは特に問題がないときでも有害であることは周知の通りだが、障がい者がチャットに参加するとひどい状況になることがScopeの調査で明らかになった。「オンラインでの障がいに対するネガティブな態度への対応にもっと取り組むこと」は優先事項として最も多い回答だった。ゲーム内で障がい者がもっと正確に、また頻繁に登場することと、支援技術がもっと手頃な価格になることも重要であるとの回答も多かった。

ゲームの世界でのアクセシビリティの向上が必要であることは明らかだが、その評価は難しい。このため、こうした研究は極めて有用だ。レポートの全文はこちらから読むことができる。

画像クレジット:aurielaki / Getty Images

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Kaori Koyama)