Atlassianが自身のエコシステムに投資する52.5億円のベンチャーファンドを立ち上げ

Atlassian(アトラシアン)は米国時間6月16日、Atlassian Ventures(アトラシアン・ベンチャーズ)の立ち上げを発表した。これは、Atlassianのエコシステム全体の中で製品を開発しているスタートアップや、ある程度確立された企業に対しても投資するための、新しい5000万ドル(約52億5000万円)のファンドだ。

Atlassianの経営企画責任者であるChris Hecht(クリス・ヘクト)氏は「ますます多くの顧客が当社のクラウド製品に移行する中で、私たちは顧客のエクスペリエンスを向上させ、すべてのユースケースを満たす、クラウドベースのアプリの堅牢なエコシステムを育成することを通して、顧客のビジネスをサポートすることをお約束します」と本日の発表の中に書いている。「私たちは、マーケットプレイスですでに利用可能な4200本以上のアプリと、提供済みのSlack、Zendesk、GitHubといった人気の高いツールとの統合をとても誇りに思っています。しかし、そうした栄光に浸っている場合ではありません。Atlassian Venturesは、お客様がイノベーションの次の波を加速し、現在と将来の両方でご自身の仕事を管理するために必要となさる、最高のツールと統合に対する継続的な投資を促進して行きます」。

今回のファンドは三方向からのアプローチを採っている。まず同社のクラウド製品向けの製品を開発する初期段階のスタートアップに投資する。同社のクラウド製品向けの製品には、Jira、Confluence、BitbucketTrelloなどが含まれている。

しかし、現在ビジネスの拡大に取り組んでいる既存の企業にも投資を行う。ファンドの規模を考えれば、こうした投資を行うにはほかのVCとパートナーを組むことも当然あるだろう。ヘクト氏はこの例として、Zoom、Slack、InVision、process.st、Split.ioに対するAtlassianの既存の投資を挙げている。

これらの2つのグループに加えてファンドは、クラウドサービスを強化したり、将来の仕事をサポートする新しい製品を作成したりするAtlassian Partner Programのメンバーに対しても投資を進める。

この文脈では、Atlassianが最近そのエコシステムの中でいくつかの企業を買収したことも注目に値する。例えば、Automation for Jiraを開発するCode Barrel(コードバレル)、Mindville(マインドビル)Halp(ハルプ)などだ。

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(翻訳:sako)

a16zが十分な支援を受けていない創業者に投資する2.4億円のファンド創設へ

Andreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ=a16z)は米国6月3日のブログ投稿で、過小評価され、十分な支援を受けていない創業者らに投資するファンドを立ち上げると発表した。

a16zが6カ月にわたり準備してきたTalent x Opportunity(TxO)ファンドは、同社のパートナーらからの220万ドル(約2億4000万円)の寄付でスタートする。TxOは初年度にシードステージのスタートアップ数社に投資し、将来的には規模を拡大する予定だ。

「当社は、人生でファストトラックにアクセスできなかったが大きな可能性を秘めている起業家を探している。プロダクトは非技術的なものでも技術的なものでも構わない。起業家は十分な支援を受けていないコミュニティ出身である必要がある(あらゆる出自を歓迎する)。理想的には、ニッチな市場を対象とする事業で、興味深いモデルを持っており、見込みと可能性を示す力が多少あることが望ましい」と同社は投稿した

a16zはTxOの目標について「まだ見出されていない人を対象としたアクセラレータのようなもので、目指す成果はVCの資金を獲得すること」だと述べ、起業家にネットワークとトレーニングプログラムを提供するという。同社はスタートアップの後続ラウンドに投資するかどうかについてはコメントしなかった。

a16zは全ファンドで120億ドル(約1兆3000億円)の運用資産を有しているため、220万ドル(約2億4000万円)のファンドは金額面では画期的ではない。ただし、TxOの投資方針は注目に値するものだ。

同社は寄付をベースとしたファンドから企業へ出資する。収益は将来の起業家に資金を提供するためファンドに残す。

TxOの立ち上げは、ミネアポリスの警察によるGeorge Floyd(ジョージ・フロイド)氏の殺害と、それに続く先週の全国的な抗議活動に対する警察の暴力に続く形となる。

抗議から数日経ち、ベンチャーキャピタルコミュニティからBlack Lives Matter(黒人の命も大切だ)運動への支援の動きが相次いだ(未訳記事)。ソフトバンクは、ポートフォリオ企業で最近人種差別に関わる論争(未訳記事)を抱えていたが、今週、有色人種の創業者に投資する1億ドル(約110億円)の「オポチュニティー・グロース・ファンド(未訳記事)を立ち上げた。

さまざまな起業家に日々投資している黒人の起業家や投資家は、他人からの反応の洪水に疑念を抱いている。ベンチャーキャピタル業界は不平等に直面しても変化が遅いからだ。

無数の黒人男性や女性が死んで始めてテクノロジー業界が多様性ある起業家への投資方法を変えるのでは遅いと多くの人が言う。新たな動きが増えているが、善意というよりは日和見的に見える。

ベンチャーキャピタル業界全体が、基本的に2つのことを行う必要がある。人を雇うこと、投資を通じて資金を供給することだ。

「難しいことではない。黒人の創業者に投資してほしい。すべての黒人創業者に投資する必要はない。自分の仮説や『基準』を維持したまま投資対象の黒人創業者を探すことは可能だ」。Backstage Capital(バックステージキャピタル)のArlan Hamilton(アーラン・ハミルトン)氏は米国6月2日、TechCrunchに対しそう書いた。「必要なら、私には130のポートフォリオ企業があるし、雇うべき黒人投資家の厳選リストをお見せできる」。

黒人の創業者が率いる企業をターゲットとするプレシード投資ファンドについてブレーンストーミングしている企業もある。計画段階のため早すぎるとして匿名を希望したある企業は、同社のファンドは歴史的黒人大学(HBCU)出身経営者の企業に注力すると述べた。

a16z自身は対象企業をどう探すのか明らかにしなかったが、ブログ記事で「過去6カ月間を、シリコンバレーでは見られないような隠れた天才創業者の探索に費やした」と語った。

ソーシング戦略は、多様性のある起業家に投資するというファンドの目標を達成するために不可欠だ。ベンチャーキャピタルのネットワークは主に男性と白人で構成されているため、特別なパイプラインが必要だ。HBCUからソーシングするのか。才能を見出すために黒人のためのテックカンファレンスに参加するのか。Cleo Capital、Backstage Capital、Precursor Ventures、Harlem Capitalなどの黒人が主導するファンドと共同投資するのか。

これらの質問への答えは、a16zが小切手に限らず創業者をどのようにサポートできるかを理解する上で不可欠だ。

TxOファンドは、a16zに5年間在籍したNaithan Jones(ネイサン・ジョーンズ)氏が主導する。ジョーンズ氏は、シードステージのスタートアップであるAgLocal(アグローカル)を経営していた。同氏は、同社に投資していたAndreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロヴィッツ)のパートナーであるBen Horowitz(ベン・ホロヴィッツ)氏に引き抜かれた。2017年のブログ投稿(Midium記事)でジョーンズ氏は会話の様子を詳しく語っている。

「ベンは、私がa16zポートフォリオ企業の1つで働くか、それともa16z自体で働くことに興味があるかを知りたがっていた。驚いた。彼らが電話で採用の打診をしてくるなんて思いもよらなかった。 私の会社が倒産に向かっている頃に、彼らは私のことを見聞きするようになった。a16zやそのネットワークで私のスキルと才能が役に立つと思ったようだ。彼らは私の本質を調べた。『黒人で、大学の学位がなく、アウトサイダー』であることには関心がなかった。彼らが見ていたのはネイサン・ジョーンズという私自身だった」。

a16zは以前、黒人起業家に資金を提供すべく金銭面で献身的な努力をしてきた。同社は2018年、Cultural Leadership Fund(CLF)を設立した。規模未公開のこのファンドは、WillとJada Smith、Chance the Rapper、Kevin Durant、Nasir Jones、Shellye Archambeauなどの限られた人数の著名なパートナーによって創設された。CLFは、アフリカ系アメリカ人のテック分野への進出支援を行う非営利団体に、年間のマネジメントフィーをすべて寄付している。

TxOファンドはCLFとは異なりLPにリターンを分配しない。リターンはすべてファンドに戻され再投資される。

画像クレジット:Malte Mueller / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi

大規模VCファンドが小粒のラウンドに参加するという2020年の逆説

1月17日に、最近、VCがどれほど疲弊しているかについて書いた。ディールの数が多すぎること、1ディールあたりにかける時間が少なすぎること、同じ出資案件を巡る他のVCとの果てしなく激しい競争などについて触れた。

友人の創業者は、昨晩、「過去1年間に90人以上の投資家から次のラウンドへの参加申し込みを受け取った」と筆者に打ち明けた。彼は資金調達なんて始めてもいない。「僕はいくつかメールを見逃したかもしれない」と表情を変えずに言った。そもそも見逃さない方がおかしい。

そうした熱狂的ともいえる動きが、2020年のベンチャーキャピタル業界の機軸となる次のパラドックスへと導く。すなわち、大規模ファンドがアーリーステージで少額の小切手を切る。

大規模ファンドは投資機会として大きなラウンドを必要とするから、これはパラドックスだといえる。10億ドル(約1100億円)のファンドが、マネジメントフィーを差し引いた残りを、100万ドル(約1億1000万円)の小切手800枚に換えてシード投資に充てる、といったことはできない(できないことはないが、煩雑な上、管理不能になる)。通常のパターンはそうではなく、ファンドの規模が大きくなると、マネージングパートナーらが資金を効率的に投資できるよう、レイターステージのラウンドにどんどんシフトする。2億ドル(約220億円)のファンドが1件800万ドル(約8億8000万円)の資金を複数のシリーズAラウンドに投資していたとする。これが10億ドル(約1100億円)のファンドになれば、複数のシリーズBやCラウンドに1件4000万ドル(約44億円)で投資するようになる。

これはこれで論理的だが、現実世界のロジックはもう少し複雑だ。ポイントは、どのファンドも巨額の資金を集めつつあるということだ。

全米ベンチャーキャピタル協会が先に発表したぶ厚いレポートが明らかにしたように、2019年は多くの点で大規模ファンドの年だったと言える(ソフトバンクのファンドが資金調達しなかったにも関わらず)。ただ「メガファンド」(5億ドル=約550億円以上の規模と定義)に関して言えば、2019年に立ち上げられたファンド数は2018年を下回った。

あらゆるレイターステージのファンドは、レイターステージのディールを求めているが、単純にそんなにたくさんのディールはない。確かに、すばらしい企業やリターンの機会はそこら中に転がっているが、キャップテーブルに載せてもらおうと画策しているファンドは数十とあるし、バリュエーションは投資家が競争から抜け出すアピールポイントの1つにすぎない。

これは、多くの点でPlaid(プレイド)の物語そのものだ。Plaidはフィンテック関連のAPI開発会社で、Crunchbaseによると、2018年後半にIndexとKleinerからシリーズCで2億5000万ドル(約275億円)を調達した。その後、Visaが53億ドル(約5800億円)で買収することを発表した。複数のVCの情報筋によると、「誰も」がシリーズCに注目していたという(その「誰も」が疲弊していたに違いない)。

シリーズCラウンドで「ノー」と言った1人のベンチャーキャピタリストが先日、「2019年のバリュエーションは信じ難いほど高かった」と筆者に打ち明けた。同社は2018年に数千万ドル台後半(数十億円台後半)の売上を計上していた。筆者もそう聞いていた。シリーズCのバリュエーションとして報じられた26億5000万ドル(約2920億円)と合わせると、売上高マルチプルは30〜50倍あたりになるということだ。同社が今後ユーザーの口座データへのアクセスを確保するために、銀行と戦っていかなければならないことを考えれば、これは非常に割高だ。

ForbesのJeff Kauflin(ジェフ・カウフリン)氏によると、2019年の売上高は今や数億ドル台前半(数百億円台前半)の数字になった。つまり、Visaも同様に高いマルチプルでPlaidを買収した可能性が高い。KleinerとIndexの投資は1年ほどで2倍になったが、だからといってIRR(内部収益率、投資の利回りの指標)に関してとやかく言われる筋合いはない(特にグロース投資においてはそうだ)。だが、相手がVisaでなければ、そしてイグジットのタイミングがこれほど良い結果をもたらす錬金術のようなものでなければ、すべては違った展開になっていたかもしれない。

高いバリュエーションよりもさらに悪いのは、こうしたレイターステージのラウンドが非常に独占的かつ排他的になる可能性があることだ。聞きおよぶ限り、PlaidのシリーズCラウンドは、かなりオープンなプロセスだったようだ。そのため、多くの企業がディールを検討でき、アーリーインベスターと創業者の希薄化を抑えながらバリュエーションを引き上げることができた。だが、プロセスがこう進むとは限らない。

早いラウンドで投資したファンドが、続くラウンドでも投資しようとする傾向がある。シリーズAで500万ドル(約5億5000万円)を投入した投資家が、5000万ドル(約55億円)をシリーズBで、さらに2億5000万ドル(約275億円)をシリーズCでも投入したいと考える。結局、彼らには資金があり、すでに会社を知っていてCEOとの関係も構築済みだから、資金調達のプロセスで時間を浪費するのを避けることができる。

そのため、最近、多くのディールで、レイターステージのキャップテーブルから新規投資家が実質的に締め出されている。なぜなら、キャップテーブルの周りにはすでに多くのファンドがよだれを垂らして座り込み、賭け金を増やそうと狙っているからだ。

ここにパラドックスが現れる。レイターラウンドに参加するには、すでにキャップテーブルに載っている必要がある。つまり、アーリーステージのより小規模ラウンドに参加しなければならない。突如、グロース投資家がスタートアップの資金調達での参加の選択肢を得るために、シードを含むアーリーステージのラウンドにまで参加することになるわけだ。

あるベンチャーキャピタリストが先週筆者にこう説明した(以下、言い換えしている)。「昨今、妙なのは、シードラウンドにSequoiaのようなファンドが登場しても、バリュエーションや契約条件などには見向きもしないことだ。すべてはレイターステージのラウンドのためだ」。明らかに少々誇張されているとは思う。ただ、大規模ファンドにとって100万ドル(約1億1000万円)の小切手というのは、四捨五入で生じる誤差くらいの金額でしかない。本当のリターンはその先のメガラウンドにある。

では、シードファンドは消滅してしまうのか。それは違う。しかし競合他社が文字通りどうでもいい投資であると考えたり、あるいは投資をマーケティング費用や次回以降のラウンドへの参加費として捉えるなら、バランスの取れた、リスクを加味したポートフォリオを構築することは難しい。一方、創業者にとっては、正しいベンチャーキャピタルを選べるならば、今も本当にすばらしい時代だと言える。

画像クレジットHalfdark / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi

元ミクシィ代表朝倉氏ら創業のシニフィアンが200億円の新ファンド、経営知見の提供で上場後の成長にも伴走へ

シニフィアンで共同代表を務める3人。左から村上誠典氏、小林賢治氏、朝倉祐介氏

「以前から『上場以降のスタートアップの持続的な成長』について課題を感じていた。一定数のスタートアップが上場後に苦戦して伸び悩んでしまっているの状況であり、スタートアップが新産業を創出する原動力として成長し続けるためには上場後こそが重要。自分たちのコンセプトは、そのフェーズを目前に控えた企業に対して上場前から経営知見と資本を提供し、上場後も伴走すること」

そう話すのは元ミクシィ代表取締役社長で、現シニフィアン共同代表の朝倉祐介氏だ。

同社は朝倉氏、村上誠典氏、小林賢治氏の3人が2017年に創業。村上氏はゴールドマン・サックスの投資銀行部門で14年間に渡って様々な上場企業のファイナンス業務に携わってきた人物で、小林氏も前職のディー・エヌ・エーで取締役・執行役員として事業部門からコーポレートまで幅広い領域を統括した経験を持つ。

これまでも資本業務提携という形でFOLIOオープンロジVISITS Technologiesニューラルポケットなどに出資し、資本と共に経営のナレッジを提供してきたシニフィアン。今回新たなファンドを組成してその取り組みを一層加速させていくようだ。

同社は6月26日、200億円規模の新ファンド「THE FUND」を組成したことを明らかにした。

THE FUNDの主な投資対象はレイターステージのスタートアップで、朝倉氏いわく「バリュエーションが100億円を超えるような企業に対して、数十億円単位の出資をする想定」。上場後の継続的な成長に伴走することが大きなコンセプトのため「上場後も一定程度株式を持ち続け、関与し続けることを最初から織り込んでいる」(朝倉氏)のが一般的なVCとの違いだという。

1社あたりに十数億〜数十億円の出資をするため、投資先は数社に限定する見込み。バイアウトファンドなどとも異なり、あくまでマイノリティ出資に留まる。

また今回のファンドではみずほフィナンシャルグループがパートナーとして参画同グループがLPとして出資するほか、みずほキャピタルが共同GPを担う。シニフィアンによる経営面のサポートに加え、みずほフィナンシャルグループの顧客ネットワークやリソースを出資先に提供することで、事業成長を後押しする計画だ。

「上場前のセットアップ」が上場後の成長のカギ

シニフィアンでは2017年の創業期から「上場後のスタートアップの継続的な成長が日本の産業やスタートアップエコシステムの発展に繋がる」と考え、上場前や上場間もない成長企業の経営支援に取り組んできた。

事業の軸は大きく2つ。未上場のスタートアップを資本業務提携を通じてサポートする「産業金融事業」と、出資ではなくフィーを受け取る形で様々な企業に知見を提供する「アドバイザリー事業」だ。

後者については未上場企業から上場企業までクライアントの幅は広く、時価総額1000億円規模の上場企業のIR戦略策定に携わることもあるという。

「この2年間は自分たちなりにプロダクトマーケットフィット(PMF)を図ってきた。当初から今回のようなファンドを想定していたわけではなく、『上場企業を直接支援した方がいいのでは』ということで上場株をメインにすることも考えた。ただ上場前に整備しておいた方が効果的な打ち手も多いため、上場後の成長に向けたセットアップを上場前からサポートするのが1番いいという結論に至った」(朝倉氏)

日本国内では近年スタートアップへの投資が盛り上がっていて、2018年にはその投資額が約4000億円にまで拡大している。これは朝倉氏自身が大学時代に友人たちと共同創業したネイキッドテクノロジーに復帰し、代表を務めていた2010年前後と比べると約6倍に近い規模だ。

スタートアップにより多くの資金が集まるとともに、マザーズの新規上場企業数もここ数年は毎年50件前後まで増えてきている。こちらも2009年が4件、2010年が6件、2011年が11件だったことを踏まえると状況が大きく変わっていることがわかるだろう。

経営知見の不足で上場後に苦戦するスタートアップが多い

一方で上場を果たす企業自体は増えているものの「『新産業を創出した』という段階に到達する手前で事業に行き詰ってしまい、停滞してしまっている企業が少なからず存在する」というのが朝倉氏の見解だ。

「昨年マザーズに上場した企業のIPO時における時価総額の中央値(公募価格ベース)は50億円を下回っている。そこから1000億円規模まで成長するのは簡単なことではない。今の日本は未上場企業の段階においてはVCやエンジェルが増え、サポートが手厚くなってきた。また1000億円を超えるような企業、東証一部に上がるような企業には機関投資家が出資して経営にガバナンスが効く。ただその間を支援する仕組みが抜け落ちているのが1つの課題だ」(朝倉氏)

THE FUNDではそこに位置するようなスタートアップに上場前から参画し、時価総額が1000億円クラスになるまでを伴走する。すでにPMFを達成してプロダクトはある程度軌道に乗り始めているものの、経営体制としては未完成な部分があるチームを支えるのが主な役割だ。

「PMFの図り方やユーザー数を増やす手立てについては、自分たちよりも上手いVCやエンジェルがたくさんいる。その一方で上場企業の経営に携わり、成長・停滞の両局面を自ら経験してきたことがある支援者は限られている。自分たちの特徴であり得意領域はまさにその部分。自らの体験談や知見を提供し、スタートアップが上場後もスムーズにグロースするサポートをしたい」(朝倉氏)

その点では、既存のVCと競合するというよりは補完的な役割を担えると考えているそうで、朝倉氏の言葉を借りれば「VCやエンジェルが先発ピッチャーだとすれば、自分たちは中継ぎエースのような存在」をイメージしているとのこと。

なお一部ではレイターステージよりも少し手前の段階のスタートアップへフォロワー投資家として出資するプログラムも予定しているという。

IPOを跨いでスタートアップの事業創出を支援する

朝倉氏の話では特定の技術や領域に絞って投資をすることはないが、経営知見の提供を1番のバリューと考えているため「経営のレバーが効きずらい領域」はメインの対象にはならないとのこと。

またシニフィアンとして「スタートアップは社会の課題を解決する原動力であり、その経営支援を通じて共に社会課題の解決に繋がる事業を創出すること」「その事業を伸ばし、後世に続く産業として確立すること」を重要視していることから、経営者や経営チーム、トランスフォーメーションの余地(非連続なジャンプができる可能性)に加えて事業や社会性などを考慮して投資先を検討する予定だ。

IPOを跨いで投資先を支援するというスタイルは一般的なVCと思想やリスクテイクの考え方が異なり、VCへLP出資する企業などからは「(上場後は)早く売った方がパフォーマンスがいい」「長く持ち続けて良かった例をあまり見たことがない」のような意見もあったそう。同様にスタートアップ側も色々な捉え方があるだろう。

シニフィアンももちろん慈善事業としてやるわけではなく、朝倉氏は「ファンドとしてやる以上、当然ファンドとしてのパフォーマンスを求められる。後世に引き継ぐ新産業創出というミッションとの両立を目指す」方針だという。

とはいえ、上場後のスタートアップが次のステージへと駆け上がっていく上で「世の中にかけている機能があり、それは自分たちにとってのオポチュニティでもある。既存VCとは別のアプローチでそこを補完していく」(朝倉氏)ことには一定の価値があるというのがシニフィアンの考え。すでに1号案件の話も進み始めている状況のようだ。

「(現在はピーク時より落ち着いているが)ZOZOが公開時約200億円の時価総額から上場後も成長を続けて時価総額1兆円を突破する企業になったように、大きな可能性を秘めた企業もある。一方でマネジメントの経験や知見不足が原因で、余計に時間がかかってしまっているケースも少なくない。そこをしっかりサポートし、あらかじめ補填することで、次のステージに上がる期間を短縮できるのではないか。日本のスタートアップから産業になるものを創出することに少しでも貢献していきたい」(朝倉氏)

一橋大出身の起業家を支援する如水ベンチャーズが1号ファンドを設立

左から如水ベンチャーズ パートナー 郡裕一氏、フィル・カンパニー創業者 高橋 信彰氏、ストライク代表取締役社長 荒井邦彦氏、如水ベンチャーズパートナー 赤松典昭氏

如水ベンチャーズは6月10日、一橋大学生および同大卒業生の起業家を支援する1号ファンドを設立したことを明らかにした。

まずは1億円規模のファンドとして運用を開始し、創業者・役員に一橋大学生、卒業生が含まれるスタートアップに対して1社あたり500~3000万円を出資する。

一橋大出身者には各業界で活躍する起業家や経営者も多いが、業界・世代をまたいだ繋がりやOBOGの経営者が若手起業家を支援する仕組みなどが十分に整っている状況ではなく、結果として先輩が後輩をサポートしたくても個人レベルでは限界があったという。そこで生まれたのが、一橋大学出身者から集めた資金を後輩起業家のスタートアップに投資する如水ベンチャーズだ。

特徴は資金だけでなく、バラエティ豊かなOBOGの支援者やパートナーによる実践的なメンタリング、事業開発サポートを提供すること。以前紹介した東大創業者の会応援ファンドと近しい部分も多いが、如水ベンチャーズでは「一橋大学出身の起業家たちにとってOBOGとのネットワークが強固であるコミュニティの形成が重要だと思っており、そこに注力していきたい」という思いがあり、リアルイベントの開催にも力を入れていくそうだ。

今回の1号ファンドにはストライク代表取締役社長の荒井邦彦氏やフィル・カンパニー創業者の高橋信彰氏、ことでんグループ代表の真鍋康正氏を含む複数名の個人投資家が出資者として名を連ねる。冒頭でも触れた通りファンドサイズは1億円からのスタートとなるが、今後も出資者の追加とともに増額を予定しているという。

また出資者とは別にレアジョブ創業者の加藤智久氏やfreee代表取締役の佐々木大輔氏など、先輩起業家や各ジャンルのプロフェッショナルが支援者として参画する(以下は支援者の一部)。

  • 相川光生氏(KMアドバイザーズ代表取締役 公認会計士)
  • 伊藤彰浩氏(アクリー 創業者 /ウィステリア代表取締役)
  • 岡田奈津子氏(カスタマーサクセスコンサルタント)
  • 小椋一宏氏(HENNGE代表取締役)
  • 加藤智久氏(レアジョブ創業者)
  • 加藤広晃氏(ポート取締役 / 加藤公認会計士事務所 所長)
  • 佐々木大輔氏(freee代表取締役)
  • 佐藤有紀氏(創・佐藤法律事務所 弁護士 / ニューヨーク弁護士)
  • 寺島有紀氏(寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 / 社会保険労務士)
  • 冨田和成氏(ZUU 代表取締役)
  • 成田博之氏(SEESAW 取締役)

ちなみに如水ベンチャーズのパートナーを務める赤松典昭氏と郡裕一氏も一橋大学のOBだ。

赤松氏はフューチャーベンチャーキャピタルで執行役員管理部長なども務めた後、2018年にFinTechスタートアップのカンムにジョイン。郡氏もウェブマーケティングツールなどを手がけるエフ・コードを経て、自身で創業したOtsumuでの事業開発やアクセラレータ支援を担い、SaaSとAIに特化したVCファンドを立ち上げるなど、両者ともにVCやスタートアップでの現場経験がある。

出資額は非公開ながら、すでに1号案件として弁護士保険を提供するフェリクス少額短期保険へと出資済み。6月13日には起業家やこれから起業を目指す一橋大学生・卒業生・教員とOBサポーターを繋ぐ如水アントレプレナーサミットを開催する予定だ。

ディー・エヌ・エーが約100億円の新ファンド設立へ

ディー・エヌ・エーは5月10日、本日開催の取締役会において新たなファンドを設立することを決議したと発表した。

設立時期は今夏の予定で、出資総額は約100億円を想定しているとのこと。ジェネラルパートナー(無限責任組合員)はディー・エヌ・エーが新たに設立する子会社と、同社から独立した立場の個人複数名を組合員とする有限責任事業組合が担う計画。子会社の代表者は南場智子氏が務める。

投資対象は主に(1)ディー・エヌ・エーの社員をはじめとする社内外の独立起業支援、(2)スタートアップ企業に対する投資(プレシードからその後のフォローオンまで)の2つが軸だ。

ディー・エヌ・エーの2019年3月期決算説明会資料より抜粋

早稲田大学が総額20億円規模の公式ファンド設立へ——ウエルインベストメント、Beyond Nextと提携

早稲田大学は10月30日、同大学の研究成果を活用するスタートアップへの出資を目的とした総額20億円規模のファンド組成を目指し、ウエルインベストメントおよびBeyond Next Venturesの2社と提携契約を締結したことを発表した。契約締結日は10月29日。ファンドが設立されれば、早稲田大学にとっては初の公式なベンチャーファンドとなる。

同大学では、教員や学生が設立したスタートアップに対し、これまで早稲田大学インキュベーションセンターなどを通じて、コンサルタントによる経営相談や施設の提供などの支援を行ってきた。

今回の提携により、ウエルインベストメント、Beyond Next Venturesの両社は、早稲田大学の技術シーズを活用したスタートアップの育成強化に向け、シード、アーリーステージの企業に投資するベンチャーキャピタルファンドを2018年内にも設立する予定だ。

また、早稲田大学と両社では、スタートアップ創出のための各種支援プログラムの企画運営や、事業化可能な研究シーズの発掘、ハンズオン支援などの施策も行っていく。

Beyond Next Venturesは、10月22日に2号ファンドを設立したばかり。同社代表取締役社長の伊藤毅氏は「1号ファンドでは、東京大学協創プラットフォーム開発のLP出資を受けているが、ファンドとして特定の大学色を付ける考えはない」と東大・早大以外の各大学との連携も進める考えを示している。一方で「早稲田大学の公認アクセラレーターとして、今まで以上にシーズの発掘を行い、支援したい」とも述べている。

「メルカリ創業者の山田進太郎氏をはじめ、早稲田大学出身でITベンチャーを創業した人はたくさんいるが、大学発の技術シーズ、特に研究室発の技術はビジネスとして理解されにくく、アカデミアに埋もれているものも多い。技術シーズをビジネス側の人が『面白い』と思ってもらえるようなプランに作り替えて示していくのも、アクセラレーターとしての仕事だ」(伊藤氏)

Beyond Next Venturesでは、早大発のスタートアップに対し、ファンドによる起業後のエクイティ資金の提供のほかに、技術シーズの発表会の運営、同社が運営するアクセラレーションプログラム「BRAVE」への参加促進を通じて、メンタリングや事業化を支援するために必要な人材の提案、ビジネスプランのブラッシュアップなど、実践的なサポートも提供していくとしている。

なお、Beyond Next Venturesは同じ10月30日、三井不動産およびライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(LINK-J)と連携して、東京・日本橋にライフサイエンス領域のスタートアップが利用できるシェア型ウェットラボ「Beyond BioLAB TOKYO」を2019年2月に開設することも明らかにしている。シェアラボ開設の経緯やアクセラレーターとしての思いについて伊藤氏に詳しく聞いたので、近日中にご紹介したい。

Beyond Nextが2号ファンド設立、大学・研究機関発シードに加えカーブアウト投資も視野に

独立系ベンチャーキャピタルのBeyond Next Venturesは10月22日、同社にとって2つめとなる基幹ファンド、BNV2号ファンド(Beyond Next Ventures2号投資事業有限責任組合)を組成したことを明らかにした。設立日は10月1日。設立時点では、第一生命保険、みずほ証券、三菱UFJ銀行、損害保険ジャパン日本興亜、三井住友銀行の5社が出資に参加する。調達金額は非公開だが、総額約55億円となった1号ファンドより大きい規模となるという。

Beyond Next Ventures代表取締役社長の伊藤毅氏は、2014年に大手VCのジャフコを退職し、同社を創業。大学/研究機関発の技術系ベンチャーへの投資を行うVCとして、2015年2月に1号ファンド(Beyond Next Ventures1号投資事業有限責任組合)を立ち上げ、2016年にクローズした。

1号ファンドでは、これまでに技術系スタートアップ23社に投資を実施。その投資対象は、ライフサイエンス、ヘルスケア、ロボットなどの先端分野だ。TechCrunch Japanで取り上げたところだと、例えば、キュア・アップサスメドといった医療機器としてのアプリ開発スタートアップや、手術支援ロボットベンチャーのリバーフィールド、ハイテク衣料のXenomaなどがある。

また同社は、2016年8月に複数の大手事業会社とともに、アクセラレーションプログラム「BRAVE」をスタート。実用化・事業家を目指す技術シーズを対象に、知識やノウハウと人的ネットワークを提供する事業化支援にも取り組む。2017年4月には社会人が働きながら事業化を目指す「Innovation Leaders Program(イノベーションリーダーズプログラム)」の提供も開始した。2018年からは、東京都からの委託を受け、創薬系スタートアップの起業や成長を支援するアクセラレーションプログラム「Blockbuster TOKYO(ブロックバスタートーキョー)」も運営している。

Beyond Next Venturesでは、2号ファンドでも引き続き、大学・研究機関の持つ優れた技術シーズを基にした、シードステージのスタートアップを対象に投資・支援活動を行っていくという。さらに企業が持つ有望技術を独立して事業化させる、カーブアウト投資なども実行していく構えだ。

TechCrunch Japanでは、代表の伊藤氏に2号ファンド設立についてコメントを確認中。追って掲載する予定だ。

資金に加えて採用も支援——ビズリーチがファンド開始、投資第1号は電話営業解析AIのRevComm

転職サイト「ビズリーチ」をはじめとした人材サービスを展開するビズリーチは10月11日、創業期のスタートアップを資金面・採用面から支援する「ビズリーチ 創業者ファンド(以下、創業者ファンド)」の立ち上げを発表した。この“ファンド”は投資組合として設立されたものではなく、同社の事業として企業へ直接投資する形。また投資第1号案件として、セールステック領域でAIを活用したサービスを提供するRevComm(レブコム)へ出資したことも明らかになった。

創業期の原体験をスタートアップコミュニティに還元

2017年版の中小企業白書によれば、起業家が創業初期・成長初期の課題として第1に挙げるのは、資金調達に関するもの。また、人材採用に関する課題も大きくのしかかっているという。

ビズリーチは、2009年の創業以来、転職サイトをはじめとしたサービスでスタートアップを含む企業の採用活動をサポートしてきた一方、自らもスタートアップとして人材採用に苦心した経験を持つ。これらの経験を創業期・成長初期のスタートアップ支援に生かすべく、資金と採用の両面をサポートするために立ち上げられたのが創業者ファンドだ。

ビズリーチ代表取締役社長の南壮一郎氏は「創業10年目の節目に、これまでを振り返る機会も多いのだが、正直、一番苦しかったことといえば、最初はひとりぼっちのところから、経営チームを組成するところだった。勉強会に参加したり、知り合いのつてをたどったりして、何とか人を探すところから始まった」と語る。

その後、創業期の原体験を元に何かスタートアップコミュニティに還元できないか、と考えるようになった南氏。海外で、投資家も含めたさまざまな人に会う機会が増えて感じたのは「シリコンバレーのVCの投資実績は、金銭だけでなく、補完的価値をどれだけ提供できて、出資先とどう向き合うかで見られている」ということだった。

「彼らはファンドの中に、創業期の経営者チーム組成のための採用支援を行う、プロのリクルーターを従業員として在籍させている。自分が創業当時なら受けたかった支援だ」(南氏)

こうした金銭面だけでない、事業への貢献・支援が世界中、特に米国のVCで広がっている、と南氏は言う。だが日本では、スタートアップと向き合い、事業にも踏み込んだ積極的なサポートはまだまだ浸透していない。そこで「自らの本業を、スタートアップ支援に生かせるのでは」と考え始めたのが、2017年秋のことだった。

「自分の創業期と違い、ビズリーチやキャリトレといった、企業からの声かけを待っている人材が何十万人も登録しているプラットフォームが、今はある。それに創業者としての考え方や、人材の採用テクニックも知っている。プラットフォームと採用活動のノウハウとを、資金と合わせて“投資”することができるのではないかと考え、1年ぐらい前から構想していた」(南氏)

そして構想だけではなく何らかの形で実現したい、そのためにプロトタイプとなるケースで実験できないか、と思っていた南氏に、ちょうど起業についての相談を持ちかけたのが、学生時代からの知り合いで、投資第1号案件となるRevCommを創業したばかりの會田武史氏だったそうだ。

會田氏の相談を受けて、南氏はまず「テクノロジードリブンのプロダクトを出そうとしているのに、エンジニアがいない。このままでは事業が立ち上がらないのではないか」と感じたという。そこで採用ノウハウと自社サービスを資金とともに提供する、というファンドの構想を會田氏に伝え、「モデルケースとしてサポートしていいなら、出資も含めて支援する」と申し入れた。

それからは「資金+付加価値を提供する、新しい日本のモデルケースとなる投資事業を一緒につくってきた」(南氏)というビズリーチとRevComm。ビズリーチの支援もあって、RevCommは3人のエンジニアを創業チームとして採用することに成功。2月には、プロダクト「MiiTel(ミーテル)」のプロトタイプを、6月にはクローズドベータ版をリリースした。

電話営業の可視化で生産性を向上させるMiiTel

RevCommは2017年7月、企業の生産性向上をフィロソフィーに掲げ、會田氏により設立された。會田氏は三菱商事の出身。商社マンとしていろいろな国の人と仕事をする中で、「日本の生産性はG7各国のうち最下位とされているが、果たしてこれは本当なのか」と疑問を持つに至る。「日本人のレベルは低くない。生産性=効率×能率としたら、日本人は教育水準も高く、能率は担保されているはず。では効率はどうか、と考えたときに、高いコミュニケーションコストに行き当たる」(會田氏)

「日本では『何を言ったか』ではなく『誰が誰に言ったか』『どう言ったか』に焦点が当たるようなコミュニケーションが多い。テクノロジーの力でコミュニケーションのあり方を変えたい」というのが會田氏の考えだ。

セールスやマーケティング畑が長い會田氏は、「マーケティングの世界は、かなりデータドリブンになってきているが、セールスはいまだに属人的。現状では気合いと根性で、とにかく数打ちゃ当たるという労働集約的な世界だからこそ、テクノロジーの力で生産性は大きく向上できる」と話す。

特に電話営業の分野では、営業と顧客が会話した内容が他の人には可視化されず、それが効率よく成果につながるものかどうかを知るすべがなく「ブラックボックス化」しやすい。そこで、AIによる音声解析を用いて電話営業を可視化しよう、と開発されたのが、AI搭載型クラウドIP電話サービスのMiiTelだ。

MiiTelはSalesforceと連携したIP電話で、営業トークの内容を録音し、ログを取得。AIでトークの音声を分析し、担当者自らが課題を確認してセルフコーチングできる。

會田氏も、自社プロダクトを営業する際にMiiTelを使ってみたところ、「話す・聞くの割合では、話す時間が長く、相手の話の途中で話をかぶせてしまう“発話かぶり”も多かった」とのこと。クセが可視化されたことで、意識して改善したところ、アポイント成立率や成約率が実際に向上したそうだ。「これなら、営業担当者自身のエンゲージメントも上がり、生産性が向上すると実感した」と會田氏は話している。

2月のプロトタイプからビズリーチでもテストを兼ねて活用されていたMiiTelは、6月リリースのクローズドベータ版がすでに有料で30社に利用されており、本日、正式版がリリースとなる。利用料金は月額4980円/ID。10 ID以下の場合は導入費用が8万9000円、11 ID以上では導入費は無料だ。

「5年後には、MiiTelの1万社への導入を目指す」という會田氏は、「生産性を向上するサービスを提供することで、(経営分析に必要な)ビッグデータを集め、将来的には経営判断を行うAIプラットフォームを開発したい」と話している。

資金+側面の支援で「アイデア」を「事業立ち上げ」へつなぐ

創業者ファンドでは「経営チーム組成のための採用ノウハウ・テクニックの提供」「転職サイトのビズリーチ、キャリトレのサービス1年間無償提供」「資金援助+調達ノウハウ、投資家ネットワークの紹介」「経営チームによるメンタリング」「プロダクトのプロトタイプのテスト利用とフィードバック」を出資先企業への支援内容としている。

対象企業は、企業の生産性向上をテクノロジーで促すSaaS型のB2B事業や、AI、ブロックチェーンなどの最新技術を活用した事業を営むスタートアップ。南氏は「ビズリーチの『働き方、経営の未来を支える』という理念に沿った事業を行うシード期の企業を対象とする。資金の他に採用ノウハウ・テクニックや自社サービスを“投資”することで、創業期の経営チーム組成を支援していく」と述べる。

會田氏は創業者ファンドについて、こう語る。「創業期は金も時間も足りない中で、マインドセットやスキルセットが合致したメンバー選びが重要になる。だが、ふつうに採用サービスを利用するとお金がかかる。ビズリーチのダイレクトリクルーティング機能を使い、『カジュアルでいいので会ってみませんか』と声をかけられたのは、非常に良かった」

南氏によれば、會田氏は「ビズリーチの登録データを何人も見て、数百人という相手に会っている」という。「創業前の企業でも興味を持つ人が、これだけいるのかと驚いた。スタートアップがキャリア選択の可能性のひとつになった。起業家もパッションさえあれば、データベースがあって、そこを探せば人材が見つかる、という状況になっている」(南氏)

南氏は「アイデアだけはある、というのが創業者でよくあるパターン。事業立ち上げまで支援できれば、それが自分が恩恵を受けてきた、スタートアップコミュニティへの恩返しになるのではないか」と考えている。

「スタートアップはやっぱり人。創業期は特にそうだ。自分の創業した時には人材のデータベースがなかったが、データベースからスタートアップ採用人材の情報が集められるというのは、衝撃的。これは起業家の諸先輩方を含め、みんなでつくってきたエコシステムだ。採用候補者が話を聞いてくれる、努力すれば見つかる、というところまでは来ている。創業者ファンドの支援によって、事業立ち上げの確度も上げていきたい」(南氏)

写真左から:ビズリーチ代表取締役社長 南壮一郎氏、RevComm代表取締役 會田武史氏

メッセージング企業のLINEが暗号通貨に特化したファンドを立ち上げ

メッセージング企業のLineは暗号通貨の世界への深入りを続けており、今回は1000万ドルの投資ファンドの立ち上げを発表した

このファンドを運用するのはLineの韓国にあるブロックチェーン子会社Unblock Corporationで、ここはブロックチェーン関連の研究調査や教育などのサービスを担当している。ファンドはUnblock Venturesと呼ばれ、最初の資本プールは1000万ドルだが、Lineによると今後徐々に増加するだろう、という。

同社によるとこのファンドは主に初期段階のスタートアップへの投資を対象とするが、それ以上の詳細は提供されていない。

Lineは東京とニューヨーク証券取引所で上場している。このファンドにより同社は、暗号通貨に特化した投資ビークルを作った最初の上場企業になる。その目的は、“暗号通貨とブロックチェーン技術の開発と採用を推進するため”、という。

Lineによると、そのメッセージングアプリのユーザーは2億に近くて、とりわけ日本、台湾、タイ、そしてインドネシアで人気がある。同社は、決済、ソーシャルゲーム、ライドシェア、フードデリバリーなど、そのほかのインターネットサービスも提供している。

今回のファンド創設は、先月のBitBox取引所の開設に次ぐ同社の今年二度目の、暗号通貨関連の大きな動きだ。それはまだアメリカや日本を対象にしないが、Lineは今後、メッセージングサービスなどそのほかの機能との緊密な結びつきを作っていきたいようだ。

今年は1月にBitcoinが記録的高値の2万ドル近くまで上がり、Ethereumなども上げたが、その後多くの暗号通貨が深刻に落ち込んでいる。にもかかわらずの、Lineの今回のファンド立ち上げだ。今週はEthereumが300ドル以下まで下がって、初めての大きな危機を経験した。Bitcoinは長年乱高下を経験しているが、1月の価格はまるでゲームが大きくレベルアップしたみたいだった。

注記: 筆者は、少量の暗号通貨を保有している。それは勉強のためには十分な量だが、自分の人生を左右するほどの量ではない。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

独立系VCのSpiral Ventures Japanが総額70億円の1号ファンド組成を完了

ベンチャーキャピタル(VC)のSpiral Ventures Japanは1月29日、1号ファンドの最終募集を締め切り、総額70億円で組成を完了したことを発表した。日本企業のみを投資対象とする独立系VCが組成した1号ファンドとしては、過去最大規模の金額となる。

1号ファンドの主な出資者は、アシックス・ベンチャーズ、セイノーホールディングス、T8、図書印刷、森トラストなどの事業会社、国内証券会社や海外ヘッジファンドなどの大手金融機関と中小企業基盤整備機構。TMT(テクノロジー、メディア、テレコム)セクター以外の大企業の出資が多いのも特徴だ。

Spiral Venturesグループは、IMJ傘下で投資活動を行うVC子会社として2012年に設立された。2013年、IMJがカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)のグループ会社となってからは、CCCグループ傘下で投資活動を継続しながら、拠点をシンガポールに移し、東南アジア向けのファンド運営を開始。その後、2015年に新たに国内拠点を設立し、日本向けファンドの運営を開始。その後、事業拡大にともないCCCグループから独立し、2017年からはSpiral Venturesとして投資活動を行っている。

1号ファンドの投資領域は、テクノロジーの活用により既存産業が抱える課題を解決し、付加価値向上を図る「業界変革型ビジネス」と、先端的なテクノロジーやビジネスモデルで新たな産業を創出する「新産業創出型ビジネス」の2つが対象。

既に投資を行った例では、オープンロジ(物流業務プラットフォーム)や、エネチェンジ(電力自由化ビジネスなど)ビズリーチ(転職サービス)などが業界変革型、ナーブ(VR内見)Z-Works(IoT介護支援システム)フューチャースタンダード(AIによる映像解析システム)などが新産業創出型に当たる。

投資ステージとしては、アーリー〜レイターステージまでのスタートアップを対象としており、これまでにアーリー・ミドルを中心に19件(合計約21億円)の投資を実行している。アーリーステージで5000万円から3億円程度、レイターステージでは5億円程度の出資を行うという。

Spiral Ventures Japanでは、1号ファンドの運営を通じて「日本のスタートアップエコシステムの発展に貢献する」とコメント。またグループの連携を生かし、日本のスタートアップのアジア展開にも協力するという。アジア展開の際のリサーチ協力、営業・アライアンス先の紹介などで支援を行っていく。

Spiral Ventures Japanのメンバー。右から3番目が代表パートナーの奥野友和氏。

SaaS/Fintechに特化した「マネーフォワードファンド」立ち上げ——メルカリ、ウォンテッドリーに続き

2017年7月にメルカリが立ち上げた「メルカリファンド」に続き、ウォンテッドリーが「Wantedly AI/Robot Fund」を立ち上げたと今日報じたばかりだが、今度はFintechスタートアップの雄、マネーフォワードがファンドをスタートしたとのニュースが入ってきた。

1月15日、マネーフォワードはSaaS/Fintech領域に特化した「マネーフォワードファンド」の立ち上げを発表した。マネーフォワードファンドは、対象領域でビジネスを展開する企業への出資、事業拡大に必要なノウハウ共有、送客やAPIなどのサービス連携、パートナーとのネットワークを活用した協業支援などを行うことを目的とした、投資プロジェクト。メルカリ、ウォンテッドリーと同様に「ファンド」と呼称してはいるものの、子会社設立やファンドの組成を伴わない、出資プロジェクトとしての位置づけだ。

マネーフォワードは、2015年12月にお金のデザイン、2017年10月にはCAMPFIREおよびLIFULL Social Funding、そして2018年1月にBASEと、これまでに4社との資本業務提携の実施を発表している。

今回のファンド開始の発表と同時にマネーフォワードは、インドネシアでクラウド型の会計ソフト「Sleekr Accounting」とHRサービス「Sleekr HR」を提供するSLEEKRグループへの出資を、前述の4社に加えたファンドプロジェクトの取り組みとして新たに発表。マネーフォワードが海外企業へ出資するのは、これが初めてとなる。

マネーフォワードでは、今後も同ファンドを通じて、国内外でシナジーが期待できるSaaS/Fintech企業との出資を含めた提携を進めていく考えだ。

ますます病的になっているインターネットの解毒を探求するEvolve Foundationが$100Mのファンドを創立

このところ悪いニュースばかりのようだが、しかし良いニュースもある。非営利団体Evolve Foundationが、テクノロジー隆盛の影で全世界的に広がっている孤独や生きがい喪失、不安や恐怖、怒りなどとたたかうためのファンドConscious Accelerator〔仮訳: 気づきの加速〕に1億ドルを調達した。

Matrix Partners Chinaの協同ファウンダーBo Shaoがこのファンドをリードし、世界の問題に対する人びとの意識を高めるようなテクノロジーを目指す起業家を、掘り出し、育成していく。

“ものすごくお金持ちの人がたくさんいるけど、彼らの多くは大きな不安にかられ意気消沈しているんだ”、と彼は語る。彼によれば、その大きな原因のひとつが現在のテクノロジーの使われ方、とくにソーシャルメディアのネットワークだ。

“多くの人に‘いいね!’される投稿をしなければならないという強迫が、不安を惹き起こす”、と彼は言う。“そして自分の投稿に、罠のように囚われてしまう。投稿して10分も経つと、何人‘いいね!’したか、コメントがいくつあったか、気になってくる。一種の、中毒症状だ”。

それをいちばん気にするのがティーンだ、と彼は指摘する。それは今では精神症状の一種とみなされ、Social Media Anxiety Disorder(SMAD)(ソーシャルメディア不安障害)という名前までついている。〔参考

“ソーシャルメディアは新しい砂糖や新しい喫煙だ”、とShaoは語る。

彼がソーシャルメディアと絶縁したのは2013年の9月だが、彼はこれまでの10年間、自分やほかの人たちの生き方をもっと良くするための方法を探求してきた。

彼の新しいファンドはMediumの記事で発表され、社会的善の最大化、テクノロジーがもたらしている問題への解を見つけることを目的とする。投資家への良いリターンが得られるものに投資するだけが、目的ではない。

Shaoは、自分がこれまで数十億ドル企業の著名なVCの一員として仕事をしてきた経歴を活かして、人びとの不安をなくし、多くの人がもっとしっかりとした人生を送れるようにするためのテクノロジーを見つけていきたい、という。

Conscious Acceleratorはすでに、瞑想アプリInside Timerに投資している。また、子どものメディア耐性や、混乱した社会への耐性を増進するための子育てアプリも企画している。

また、二人のUC Berkeley(カリフォルニア大学バークリー校)の学生が始めた、ロシアのボットや、政治的に悪質なTwitterのボットを見つけるプロジェクトにも、投資してよいと考えている。Twitterは最近、これらの問題に対する内部的無策ぶりが、批判されている。

“問題意識のある起業家に利用してもらうことが、このファンドの目的だ”、とShaoは語る。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

1000億ドルでは足りない、SoftbankがVision Fundの続編続々編を計画中

Softbankが最初の最大1000億ドル規模のVision Fundの後続となるファンドの調達を準備しているようだ。今日、Nikkeiの取材に応じたCEO Masayoshi Sonはこう述べている: “Vision Fundは最初のステップにすぎない。10兆円(880億ドル)では全然足りない。積極的にもっと大きくしていきたい。Vision Funds 2, 3, 4などを2〜3年ごとに設立していきたい”。

Vision Fund 1が発表されたのは2016年10月で、その最初のクローズ(930億ドル)は今年の5月だった。投資の主対象は人工知能と物のインターネット(Internet of Things, IoT)だ。

Sonによると、このファンドの背後には‘人工超知能’の到来が迫っていると彼は確信しているので、急いでいるのだ、という。“それがやってくることは確実だと本当に信じているので、それが急ぐ理由だ。大急ぎでキャッシュをかき集め、投資していきたい”、と2月に語っている。

その巨額な後続ファンドの調達先がどこになるのか、まだ明らかではないが、最初のVision FundのバックにいたのはApple, Qualcomm, Foxconn, アラブ首長国連邦の国家資産ファンド, サウジアラビアの公的投資ファンドなどだ。

次のVision Fundの投資家に関してSoftbankのスポークスマンはこう述べた: “Mr. Sonは彼の投資戦略観について一般的なお話しかしていない。具体的な計画に関するお話はまだない”。

NikkeiへのコメントでSonは、ファンドのサイズに関する予想や、次の10年間における主な投資対象について述べている。

“ファンドの設立能力を10兆円から20兆円、さらに100兆円へと大きくしていける仕組みを今作っている”。そして全体としてそのファンドは、“10年間で少なくとも1000社に投資しているだろう”。

Nikkeiによると、Vision Fundsの主な投資ターゲットはユニコーンである。まだ上場していないが推定時価総額が10億ドルを超えるスタートアップだ。

また、一件の投資案件の規模は、最大で約8億8800万ドル(≒1000億円)である。

本誌TechCrunchは、最初のVision Fundのこれまでの投資先企業のリストを作成している。

また本誌TechCrunchは、Uber-Softbankの契約が“ほぼ確実に”来週締結される、と報じた〔未訳〕。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

独立系VCのANRIが総額60億円規模の新ファンド、シードステージとハイテク領域に注力

ANRIパートナーの佐俣アンリ氏(左)と鮫島昌弘氏(右)

YouTuberの支援やマネジメントを手がけるUUUMが8月30日に東証マザーズ市場に上場し、買い注文殺到で取引が成立せずに初日を終えたことが話題になったが、そんなUUUMにもシード期(創業期)から出資しているのが独立系ベンチャーキャピタルのANRIだ。そのANRIが第3号となる総額60億円規模のファンドを立ち上げる。

新ファンドの名称は「ANRI 3号投資事業有限責任組合」。LP(Limited Partner)としてミクシィやグリー、アドウェイズ、VOYAGE GROUP(いずれも2号までに出資している)、ヤフーといったネット企業に加えて、中小機構、みずほ銀行、西武信用金庫などが出資。現時点で約50億円を集めており、最終的に60億円規模までファンドを拡大する予定だ。すでに3号ファンドからの投資もスタートしており、これまで14社に対して投資を完了している。

シードステージのスタートアップに注力

UUUMのほかにも、クラウドワークスやペロリ、コネヒト、コインチェック(当時の社名はレジュプレス)、U-NOTEといったイグジット済み企業のほか、ラクスル、コイニー、スマートドライブ、CLUE、ハコスコなどに対してシードステージから投資を行ってきたANRI。新ファンドでも引き続き、シード、アーリーステージのスタートアップに対する投資に注力するという。

「60億円もあればミドル、レイターステージの投資もやると思われるが、あくまでシードに特化する。シードマネーというのはまだまだ足りない。歯を食いしばって投資をしているシードVCというのは少ない」(ANRIパートナーの佐俣アンリ氏)。大規模な独立系VCやCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)、大学系VCなどがこの数年で立ち上がってスタートアップに流れる資金は全体としては増加しているが、その一方でイグジットまで時間がかかり、成功確率で言えば低くなるシードステージの投資についてはより一層の資金が必要だと語る。

シード投資とは言え、投資額については最大5億円(フォロー投資含む)までを想定しているという。「『シード投資は500万円』と誰が決めたわけでもない。たとえばイグジットした起業家がもう一度起業にチャレンジしたいとなった時などには、『1億円投資する』と言えるようにしたい」(佐俣氏)

本郷に拠点、ハイテク領域の支援も

またシード投資とあわせて強調するのが、大学や学術機関発のハイテク系スタートアップへの投資だ。元UTEC(東京大学エッジキャピタル)で、自身も東京大学の大学院で電波天文学を修めた研究畑出身の鮫島昌弘氏が昨年からパートナーとしてファンドに参画。これまで拠点としていた東京・渋谷に加えて、東京大学のある本郷にも拠点を立ち上げて、大学発のハイテクスタートアップへの投資やインキュベーションを進めている。今後は20代を対象としたアソシエイトの採用も検討しているという。

「Y Combinatorも数年前からバイオ領域への投資を進めているが、最近では日本でも宇宙やバイオといった領域での投資を進めているファンドがある。米国ではハイテクノロジーとインターネットが結びついてきている。日本では今までこれが分断されていたが、いよいよ(結びつく時期が)来る」(佐俣氏)

「ハイテク領域にもまだまだシードマネーが足りない。それはPOC(Proof of Concept:概念の実証)を越えるまでの研究は、あくまで公的な研究費などで行っていたから。『ここから1000万円あれば(実用化まで)いけるのに……』という事例は多い」(鮫島氏)

とはいえウェブサービスなどとは違い、ハイテク領域はピボットが難しい領域。倒産率だって高くなる。これについてはANRIでも想定しており、「基本的には死屍累々の領域。(リスクをとって)挑戦するための投資をしていくことをファンドの設計に組み込んでいる」(佐俣氏)としている。

さらに弁護士や弁理士、クラウド会計サービスなどと連携。シード期では社内に持ちにくいバックオフィス機能や法務などを支援していくほか、投資家が起業家予備軍の人材に対してビジネスプランを提案するインキュベーションプロジェクトなども展開する予定だとしている。

95%のVCが目標未達――投資エコシステムの現在とこれから

【編集部注】執筆者のTomer Deanはテルアビブを拠点に活動する連続起業家で、Bllushの共同ファウンダー兼CEO。

最近、イスラエルの有名ベンチャー投資家と話す機会があった。最初はシード資金の調達を考えている私のスタートアップについて話していたが、そのうちベンチャーキャピタル(VC)についてのマクロな話や、いかにVCという仕組みが機能していないかということに話題が移っていった。

「95%のVCが儲かっていない」と彼は言い放ち、しばらく経ってからようやく、私はこの言葉の意味を理解した。

正確に言うと、95%のVCは、彼らにとっての投資家(リミテッドパートナー=LP)が負うリスクや手数料、非流動性に見合ったリターンをあげられていないのだ。

いったい誰が儲けているのか?

3倍のリターン(1億ドルのファンドであれば3億ドルのリターン)を生み出すVCファンドであれば、「ベンチャー投資のリターン」をあげている妥当な投資対象として認められる。下の円グラフは、どのくらいの割合のVCがこの基準に達しているかを示している。実際はグラフが示す通り、緑でハイライトされたほんのわずかな数のVCしか基準を満たせていないのだ。残りの95%は収支がとんとん、もしくは赤字を出している(インフレを考慮に入れるのもお忘れなく)。

出典: Money Talks, Gil Ben-Artzy

この事実はなかなか受け入れがたいが、実際に数字を確認してみると納得がいく。本記事では、ほかの業界にいる人からは理想化されがちなVCの世界で起きている、この理解しがたい現象を解き明かしていきたい。それでは、早速はじめよう。

前提条件

まずは、成功と失敗の定義と前提条件を確認してみよう。

成功=年率12%のリターン

VCの資金源であるLPは、銀行や政府系機関、年金ファンドをはじめとする従来の投資家であることが多い。彼らからすると、株式や不動産のように手数料が安く、流動性があって、年率7〜8%のリターンが”安全に”得られる他のオプションへの投資に比べ、5000万ドルをスタートアップファンドに投じるというのは”リスキー”に映る。リターンが12%であればリスクをとる価値も生まれてくるが、それ以下だと彼らはリスクに見合った投資だとは考えなくなる。

つまり…

運用期間が10年のファンドであれば、出資額の3倍のリターンが必要

VCには年率12%のリターンが必要というのは既に示した通りだ。そして、ほとんどのファンドに関し、積極的に投資を行うのは3〜5年間だが、運用期間は10年に設定されている。調査を見るかぎり、最近は12〜14年程度の運用期間が一般的なようだが、VCにチャンスをあげるためにも今回は10年のままにしておこう。年12%のリターンは、複利の力によってどんどん大きくなる。計算式は以下の通りだ。

パレートの法則も忘れないでほしい。リターンの80%は、全体の20%にあたるスタートアップから生まれる。

現実問題として、スタートアップの経営は難しく、損益分岐点に到達するのさえ大変なことだ。利益を生み出すのも難しいし、毎年利益を伸ばしていくとなるともっと大変だ。10社のスタートアップがあったとしても、後述の通り大成長してエグジットを果たし、VCにリターンをもたらすのは、そのうちたった1、2社だ(残りのスタートアップの中からも少額でエグジットを果たす企業が出るかもしれないが、全体のリターンに対する影響はあまりない)。

それでは計算に入っていこう

10社のスタートアップと運用期間10年で資金を3倍にしなければならないファンドを思い浮かべてみてほしい。ファンドの規模は1億ドルで、それぞれのスタートアップに合計1000万ドルずつ投資しながら、最終的には3億ドルのリターンを狙っているとする。さらに、VCはシリーズAから投資に加わりシリーズBにも参加したため、各企業の株式の25%を非参加型優先株で保有しているとしよう。

以下では、10社あるスタートアップの10年後の姿を変化させながら、それぞれの違いを見ていきたい。

全てのスタートアップが「そこそこ」うまくいって5000万ドルでエグジットした場合

緑色の棒がエグジットの規模、紫色の棒がVCの持つ25%分の株を売却したときの金額を表している。

10社全てが5000万ドルでエグジットした場合、VCのリターンは1社あたり1250万ドルで、総額は10×1250万ドル=1億2500万ドルとなる。目標は3億ドルだったのでこれでは足りない。もっとうまくいった場合を考えてみよう。

半分はそのままで、もう半分のエグジット額が上昇した場合

次の例では、5社が5000万ドルでエグジット(1社あたりのリターンは1250万ドル)し、残りの5社は1億ドルでエグジットを果たしたとしよう。ファウンダーたちは一夜にして百万長者になり、彼らの写真は新聞にも掲載されるだろう。しかしVCの状況は違う。この場合のリターンは、(5×1250万ドル)+(5×2500万ドル)=1億8750万ドルとなり、まだ3億ドルには届きそうもない。

おおかたは「平均的」な成績で、1社だけ大成功した場合

先程の例とほぼ同じ状況で、1社だけがスター企業になった場合を考えてみよう。上の例では1億ドルで売却されたこのスタートアップが、今回は5億ドルでエグジットしたとする。5社のエグジット額は依然として5000万ドルで、4社が1億ドル、最後の1社が5億ドルだ。するとVCのリターンは、(5×1250万ドル)+(4×2500万ドル)+(1×1億2500万ドル)=2億8750万ドルになる。もう少しで目標達成だ!

もう次は何がくるかおわかりだろう。ユニコーン企業の登場だ!

十分な利益をあげるには、爆発的な成長を遂げた企業が1社必要になる。10社のうち9社が5000万ドル、1社が10億ドルで売れればいい感じだ。(9×1250万ドル)+(1×2億5000万ドル)=3億6250万ドルでついに目標達成! これでみんながハッピーになれる。

しかし、このシナリオは本当に起こり得るのだろうか? 本当に10社全てが無事エグジットできるのか? 100%のエグジット率はさすがにありえないだろう。もっと現実的なシナリオは、10社中5社が完全な失敗に終わり、3社が小〜中規模のエグジットを果たし(上記の通り全体的なリターンへの影響は軽微)、1社か2社がユニコーン企業として10億ドル以上の規模でエグジットするくらいだろう。

現実的なケース

5社が潰れ、3社が2500万ドル、1社が2億ドル、そしてスーパースター的な存在の1社が10億ドルでエグジットしたとする。

そうするとリターンは、(5×0ドル)+(3×600万ドル)+(1×5000万ドル)+(1×2億5000万ドル)=3億1800万ドルとなる。

試行錯誤の結果、ようやく現実的なシナリオで目標を達成できた。しかし、各ファンドのポートフォリオに、少なくとも1社のユニコーン企業が含まれているという前提は妥当なのだろうか? 恐らく現実は異なるだろう。どうやらほとんどのVCの状況は、私たちが議論してきた「現実的なケース」よりも悪く、上位5%(4分の1にも達しない!)というほんの一握りの優れたVCだけが上記のような状況にあるようだ。さらに、もしもファンドの規模が時折見かけるような10億ドルといったスケールだとすると、さらに数字は悪化し、3倍のリターンを達成できる確率も低くなる。

では、どのVCもうまくやっているように見えるのは何故なのか?

「うまくやっている」の定義にもよるが、3倍のリターンを実現できないでいる残りの95%は、投資活動ではなく手数料で全てを賄っているのだ。ほとんどのVCは、投資家から受け取る手数料(ファンド額の2%)を主要な収入源としており、それだけで十分やっていける(1億ドル規模のファンドであれば、年間手数料は200万ドルになる)。

つまり、もしも投資成績が芳しくなくても(ほとんどの場合そうなのだが)、彼らの収入は手数料によって保証されているということだ。もし手数料だけでは十分じゃないとしても、投資先の企業が1社でもエグジットを果たせば、彼らには利益の20%がボーナスとして入ってくる。うまくいったときは全員がハッピーだが、うまくいかなくてもVCには最低ラインが保証されているのだ。起業家の私にもそんな保証があればいいのだが。

まだ望みはある

ファンドとして許容範囲のリターンを得るためには、次なるUber、Facebook、Airbnbを見つける以外に方法がないという事実を、私はまだ受け入れられないでいる。もしもこれが現実なのであれば、ユニコーンになれそうなスタートアップ以外には、VCが投資しなくなってしまう。5億ドル以下の水準でのエグジットを求めている「普通の」企業が入り込む余地はないということだ。少なくともVCにとっては。

数字だけを見ると、無謀なゴールを掲げているファウンダーしか成功をおさめられないような気がしてくる。VCも自分たちの生き残りに必死で、なんとか次のファンドに繋げようとしていることを考えるとなおさらだ。泣き目を見るだけのLPのことは、もはや触れるまでもない。彼らこそが、手数料を払って自分のお金をリスクに晒し、10年後(実際に現金化するには15年かかるが)の運用終了時に気が落ち込むようなリターンを受け取ることになる人たちなのだ。

これ以外に何か方法はないのだろうか? 前提について考え直してみれば、何かわかるかもしれない。前提は以下のように考え直すことができるし、むしろそうあるべきなのだ。

    • なぜ運用期間は10年なのか。6年ではダメなのか? 運用期間を10年から6年に短縮すれば、求められるリターンも3倍よりは現実的な2倍に下がる。VCも目標額が3億ドルから2億ドルに下がることで、プレッシャーがかなり軽減されるだろう。以前よりも短い期間でどうやっていけばいいのだろうか? シリーズA企業を10社探しだすのに1〜2年、投資先の成長に4〜5年にかけ、投資直後から常にM&Aを勧めるようにしてはどうだろうか。しかし、VCは投資先のエグジットを完全にコントロールできるわけではなく、(UberやAirbnbのように)ファウンダーが主導権を握っているため、この方法で現金化が早まるというのは考えづらい。
    • 従来の投資家のことは忘れて、”クラウド”に移行する。きっと、12%ものリターンを約束しなくても資金を調達できるはずだ。何百社ものスタートアップに分散投資して、年率8%のリターンを安定的に出している10億ドル超の規模のファンドがあったとしたら、興味を持つ投資家はいないのだろうか? 目標年率が12%から8%に下がれば、求められるリターンも3分の1減る。さらに、寛容な投資関連法(Jobs Act)によって、今後さらにP2Pネットワークやクラウドファンディングの仕組みを利用する投資家が増えてくるだろう。これが8%の年率と合わされば、投資家の顔ぶれにもきっと違いが出てくるはずだ。この程度のリターンであれば、株を購入して保管するだけでいいと言う人もいるかもしれない。しかし、普通の株式投資では、ベンチャー投資独特の「ディスラプションによる興奮」の瞬間を味わえないのだ。
    • もっと多くのスタートアップに少額投資する。今日の前提として、VCは全ラウンドを合計して20〜25%の株式と引き換えにスタートアップに投資するのだが、もちろんVCにはそれだけの資金力がある。そしてエグジットのことを考え、彼らは1社1社に大きく賭けるのだ。そこで、例えばシード投資の数を増やして、10社それぞれに1000万ドルずつ投資するのではなく、50社に100万ドルずつ投資してはどうだろうか。そして、その3分の1にシリーズAで300万ドルずつ投資し、約1億ドルの投資に対して各スタートアップの株式の10%を受け取るとする。シリーズAをクローズした企業の半分が1億ドルでエグジットすれば、VCのリターンは1億2000万ドル(8社x1億ドルx0.15%=1億2000万ドル)となるという計算だ。
    • 方向性を合わせる。VCとLPの利害関係は一致していない。現状のスタンダードだと、VCは「2%+20%」の原則に沿って報酬を受け取っている。つまりVCの収益は、ファンドの規模の2%に設定されている手数料(給与のようなもの)と、エグジット額の20%のボーナスから成り立っているのだ。そのため、VCが十分なリターンを生み出すのに”失敗”したとしても、彼らの給与は保証されている。その一方で、LPはVCが素晴らしい成績を残さないと(稀にしか起きないが)リターンを得られない。結果として、両者の方向性にズレが生じてきてしまうのだ。古くさい「2%+20%」ルールから脱却し、もっとVCとLPが一丸となれるような報酬体系を築いていかなければならない。VCにも自分たちの食い扶持を稼がせなければいけないということだ。
    • VCをもっと厳しく選ぶ。VCにとっては耳の痛い話かもしれないが、巷にいるVCの多くは廃業するべきだ。パフォーマンスの低いファンドには、追加資金が集まらないようにしなければならない。今の状態だと、その負担がLPにかかってしまっている。LPもLPで、単にリターン率(IRR)をチェックするだけでなく、パブリック・マーケット・エクイバレント(PME)から、各ファンドと市場全体のパフォーマンスを比較しなければいけない。例えば、あるファンドの2014年のIRRが13%だったとして、同じ年の市場全体のリターンが14%だったとすると、そのファンドは高パフォーマンスだったと言えるのか? もちろん言えない。LPはもっと頭を使って実際のリターンをチェックしながら、先が見込めないファンドに何度も追加投資するようなことがあってはならない。

以上をまとめると、ベンチャーキャピタルとは大変なビジネスだということだ。LPはベンチャー投資のリスクや手数料、流動性の低さに見合うだけのリターンを得られないでいる。また、起業家は高評価額でエグジットを果たすために、自分の会社をスケールさせるのに苦しんでいる。経験の浅いファウンダーが、事業をゼロから立ち上げ、10億ドル規模まで成長させるための方法を知っているわけがない。だからこそ、企業が成長する過程ではさまざまな変化があるのだろう。そしてVCも約束したリターンを生み出すのに苦戦しており、実際には一握りのVCしか投資家の期待に応えられていない。

しかし、VCだけがある種の保証で守られている。運用成績がパッとしなくても、彼らの給与は手数料でカバーされるのだ。さらにフィードバックサイクルが長いため、ネガティブな情報が業界全体に広がる前に、もう何個かファンドを組成できて(VCが収入源を獲得できて)しまう。

その一方で、LPと起業家にはセーフティネットが準備されていない。私たちの生死は投資のリターンにかかっている。つまり、VCではなくLPと起業家こそがリスクを背負っている主体なのだ。

参考情報:

以下の皆さまに感謝致します。

この記事を書き上げるにあたり、とてもためになるアドバイスやフィードバックをくれたGil Ben-Artzy。記事の校正をしてくれたDiane Mulcahy(Kauffman Foundationのプライベート・エクイティ部門ディレクター)。VC業界の基礎を網羅したZell Entrepreneurship Programで、何時間にもおよぶ授業を通じてVCについて教えてくださったLiat AaronsonとAyal Shenhav博士。そして、記事を形にするのを手伝ってくれたTechCrunchのJonathan Shieber。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

5年以内に“ドローン前提社会”がやってくる――千葉功太郎氏が新ファンドを立ち上げたワケ

Drone Fundの千葉功太郎氏

コロプラ元代表取締役副社長であり、個人投資家として活動を続けていた千葉功太郎氏。同氏がドローンスタートアップに特化した投資活動を開始する。ドローンスタートアップに特化した投資ファンド「Drone Fund(ファンドの正式名称は「千葉道場ドローン部1号投資事業有限責任組合」以下、ドローンファンド)」を6月1日に立ち上げた。

ファンド規模は約10億円。Mistletoe代表取締役社長兼CEOの孫泰蔵氏ほか、著名投資家複数人が出資する。千葉氏は経営者、投資家として活動するかたわらで、140時間以上のドローンの飛行経験を積み、個人で20台以上のドローンを保有。国土交通省の全国包括飛行許可(改正航空法の制限を超えて人口集中地区などでドローンの飛行が可能)を取得しているという、いわばドローンのスペシャリスト。ドローンファンドではそんな千葉氏に加えて、ORSO代表取締役社長の坂本義親氏、日本マイクロソフト業務執行役員の西脇資哲氏、クリエイティブホープ代表取締役会長の大前創希氏、アスラテック ロボットエバンジェリストの今井大介氏、慶應義塾大学メディア研究学科特任講師の高橋伸太郎氏、執筆・IT批評家の尾原和啓氏というドローンに精通した6人が投資先企業を支援する。また、リバネスと提携し、同社がネットワーク化する研究者・町工場とのプロダクト開発についても視野に入れていく。

ドローンファンドの立ち上げに先立ち、5月30日には会見を開催。合計11社のドローンスタートアップへの出資(1社非公開)を発表した。各社の概要は以下の通り。

Dron ë motion(ドローンエモーション):ドローンを使った観光PR空撮、パイロット養成
アイ・ロボティクス:ドローン技術の市場調査やインテグレーション、高度常駐型ドローンの研究開発
ドローン・ジャパン:稲作に特化したドローン農業リモートセンシングサービス
ドローンデパートメント:ドローン専門の人材派遣・紹介・ダイレクトリクルーティング事業
CLUE:産業用ドローン自動運転・遠隔制御ソリューション提供
エアリアルラボ:ドローン技術の市場調査、インテグレーション、有人ホバーバイクの開発
かもめや:ドローンを使った陸・海・空の無人物流プラットフォームおよびドローン開発
FPV Robotics:ドローン協議会の企画・運営、パイロット養成
Drone IP Lab:ドローンファンド投資企業先の特許の共同出願・管理・販売等
yodayoda:非GPS環境下でのドローンの自己位置推定技術を開発

 

Drone Fundの投資企業と領域

ドローン市場、「ネットバブルの頃と似た雰囲気」がある

日本での法整備(改正航空法)以前から個人でドローンに注目しており、事業者以外では珍しいドローンパイロットの資格を取得した千葉氏。母校の慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(以下、SFC)で、OBとしてドローンの授業を受け持つことに。「もともと、ゲームの授業で学校側から打診があったのですが、時代の流れ的にドローンだろう、と。そう思い、学校に提案したら、ドローンについて教えることになったんです」(千葉氏)。その授業は結果的に盛況だったようで、大きな話題になったという。

こうした成果が認められ、今度は大学と民間企業が連携し、“ドローン前提社会”実現に向けて共同研究を行う「慶應義塾大学SFC研究所 ドローン社会共創コンソーシアム」の立ち上げメンバーに加わることを打診され、これを快諾。ドローンが当たり前のように空を飛び、万人に受け入れられている“ドローン前提社会”の実現に向け、インターネットに安定して接続する方法の確立や、法の整備に取り組んでいるそうだ。

千葉氏がドローンで撮影した写真

「個人的には、インターネットに接続されたドローンが当たり前のように空を飛んで、モノを運んだり、監視をしたり、それをクラウドで管理できる『ドローン前提社会』が5年以内に実現すると思っています。この2年でドローンの面白さや可能性に気づけましたし、何より社会的認知が広がり、いよいよ産業として伸びる芽が出てきた、と感じています」(千葉氏)

当初ドローンといえば、首相官邸に墜落するといった報道が先行したこともあって、規制の対象となり、ネガティブなイメージがないわけではなかった。しかし、千葉氏によればこの2年間で規制ではなく利活用に注目が集まり始め、ドローン事業を手がけるスタートアップも増えてきているという。

国内のドローンサービス市場の成長予測

「インターネットで例えるなら、1999年くらい。個人的にはインターネットバブル前夜のようなイメージが、今のドローン産業にはあります。(インターネットと)同じように社会のインフラになるもの。これまで活用されていなかった、日常生活と密着している地上150メートル以内の空域をドローンなら上手く活用できる。IoTデバイスが、インターネット上のパケットのように飛び交う。今は『荒唐無稽じゃないか』と言われるかも知れませんが、ドローンでいろんなビジネスが立ち上がる予感がしています。ドローンは社会の隅から隅まで入り込んでくでしょう。だからこそ今全力で突っ込んでいるのです」(千葉氏)

また、千葉氏は日本というマーケットが持つ可能性にも着目しているそうだ。今はまだ、中国やフランスに比べてドローンの活用が進んでいない“ドローン後進国”の日本だが、これまでにものづくり大国として築き上げてきたハードウェア、ソフトウェア両方の技術力がある。これを統合的にプロデュースしていくことができれば、日本にもチャンスがあると語る。

インターネット産業と同じくらい大きくなるかもしれない。ドローン産業の可能性に魅せられたからこそ、千葉氏はこのタイミングでドローンスタートアップに特化したファンドを立ち上げ、投資活動を開始したというわけだ。現在のドローン市場は、ドローンメーカーDJIを中心に、中国がシェア8割強と言われている状況。対して日本のシェアは基礎技術こそあるモノの、1割にも満たない状況。千葉氏は会見でもドローンスタートアップのハード、ソフトを連携させ、いわば1つの「日本ドローン株式会社」として、日本発世界に挑戦していくと語っていた。

スタートアップと投資家をつなぐ役割に

すでに11社への投資を発表しているドローンファンド。投資先に対しては、千葉氏のエンジェル投資先の起業家限定コミュニティ「千葉道場」のノウハウを活用し、ドローンスタートアップの起業家に資金調達の方法や経営の手法など、会社を大きくしていくためのメソッドを教えていくそうだ。

実際、ドローンファンドの投資先メンバーは、研究職出身だったり、ラジコン関係のメーカーだったり、軍事関連だったりと、いわゆる「テック業界」とは異なる畑の出身者が多い。そのため、資金調達し、レバレッジをかけるという手法について知らないことも多いのだという。「ドローン産業を育てていくためには、インターネット企業が培ってきたメソッドを伝えていく必要があると思っています。そうしなければ、『素晴らしいけれど小さな会社』で終わってしまう可能性がありますし、何より産業が成長していかない」(千葉氏)

また、千葉氏は「ドローン産業には興味があるけれど、個別に投資をするのはちょっとリスクがある。そんな投資家とスタートアップをうまくつなげる役目も果たせらばいいな、と思っています」とも語る。同ファンドはスタートアップと投資家をつなぐ、橋渡しのような役割を担っていくことも想定している。

また、ソフト、ハードと多岐にわたる技術を開発するには、ネットサービス以上に知財管理の重要性が増してくる。そこで投資先でもあるDrone IP Labを通じて投資先の特許を共同で出願したり、特許の管理・売買をすることで、スタートアップ単体では実現できないIP戦略を実現していく。

最後に千葉氏がドローンで撮影した動画をリンクしておく。記事で紹介した写真とあわせて、まずはドローンを使って何が実現できるのか、想像してみてほしい。

スタートトゥディが子会社を立ち上げ、東南アジアでの投資を強化

日本でファッションEC大手に上り詰めたスタートトゥディが次に狙うのは東南アジア市場のようだ。ファッションECサイト「ZOZOTOWN」やコーディネートアプリ「WEARを運営するスタートトゥデイは本日、ケイマン諸島に拠点を置くSTV FUND, LPに出資し、特定子会社としたことを発表した。STV FUND, LPは海外のファッション関連企業に投資するファンドで、スタートトゥデイは1000万米ドルを上限に出資する。

今回の出資は新興国のファッション領域における事業会社との連携強化を図る取り組みの一環で、このファンドを通して、主に東南アジア地域で機動的にファッションEC関連企業に出資や支援を提供していく計画だという。

スタートトゥディはこれまでも海外のファッション関連サービスに投資を行ってきた。20163月には、アメリカでハイブランドのファッションアイテムの買い取りサービスを展開する「Material WrldとマレーシアのファッションECプラットフォーム 「FashionValet.com」に出資している。

京都のハードウェア・アクセラレーター「Makers Boot Camp」の運営元、20億円規模のIoTファンドを組成へ

ハードウェア・スタートアップはプロダクトを作るだけでなく試作や量産、物流まで考える必要があるため、ウェブだけで完結するサービスより立ち上げが難しい。そうしたハードウェア・スタートアップを支援する施設やプログラムはいくつかあるが、京都に拠点を置くDarma Tech Labsもハードウェアに特化したアクセラレータープログラム「Makers Boot Camp」を提供している。3月7日、Darma Tech Labsはさらに一歩進んだスタートアップ支援を提供するため、IoTスタートアップを対象とする20億円規模のファンド組成を目指すという。このファンドには京都銀行がアンカーLPとして5億円出資することが決定している。Darma Tech Labsによると、ファンドの最終的なクローズ時期は2017年12月を予定していて、すでに15億円ほどの出資の見通しが立っているという。

「Makers Boot Camp」は、Darma Tech Labsおよび、機械金属関連の中小企業10社が共同で立ち上げた京都試作ネットが協力して運営しているアクセラレーター・プログラムだ。Darma Tech Labsでは特に、ハードウェアスタートアップにとって課題となる試作から量産化の部分に焦点を当てたサポートを提供している。「Makers Boot Camp」は、電子マネーの残高を表示するケース「Coban」や壁掛け窓に風景動画を表示するデジタルデバイス「ATMOPH」などが含む国内外10社以上の試作支援を行ってきた。今回のファンド組成はアクセラレータープログラムに加え、ファンドから投資を実施することで、さらなるスタートアップの成長支援を提供することを目的としている。

Darma Tech Labsは2015年8月に創業した。代表取締役を務めるのは、SunBridge Global Ventures Inc.でマネージャーを務める牧野成将氏だ。ディレクターで共同創立者の竹田正俊氏は、プロダクトの試作サービスなどを提供するクロスエフェクトの代表取締役でもある。そしてもう1人の共同創立者は、企業向けの食事指導を提供するヘルスケアアプリを提供するハカルスの代表取締役を務める藤原健真氏だ。ハカルスは昨年渋谷で開催した「TechCrunch Tokyo 2016」のスタートアップバトルにも出場している。

牧野氏はファンド組成について、「このファンドを通じて、世界中からハードウェア/IoTスタートアップを京都/日本に呼び込むような流れを作り、「京都をモノづくりベンチャーの都」にすると共に、日本全体にとっても新しい産業創出やイノベーション創出に寄与出来たらと思っております」とコメントしている。また、ファンドの投資分野は、今のところIoT全般としているが、将来的にはロボティクスやヘルスケア分野などにも注力していきたいと話す。

今回のファンド組成に伴い、フューチャーベンチャーキャピタルで最高投資責任者を務めた木村美都氏と公認会計士の桑原学がマネージング・ディレクターがDarma Tech Labsに参画すると発表した。また、ニューヨークを拠点を置くものづくり系アクセラレーター「FabFoundry」のCEO関信浩氏は取締役に就任するという。

[追記 3/8 14:00] ファンドの組成状況と牧野氏のコメントを追記しました。

ヨーロッパ史上最高額 ー Rocket Internetが10億ドルのファンドを組成

money-cash

Rocket Internet自分たちの事業や投資先企業を黒字化できないでいるため、将来的には資金を調達しづらくなるのではないかと考えている人がいるとしたら、考え直した方が良い。今週、ベルリンに拠点を置くRocket Internetが、これまでにヨーロッパのVCがテック系ファンドとして調達した中で最高額だと同社が言う、10億ドルのファンドを組成したと発表した

Rocket Internet Capital Partnersファンドと呼ばれるこのファンドでは、アーリー・レイターどちらのステージにある企業へも投資を行っていく予定で、これはRocket Internet自体の方向性の転換も示唆している。

Rocket Internetは、他の企業が作り上げたビジネスモデルを利用した(”クローン”という言い方をされているのを聞いたことがあるかもしれない)世界中のEC企業の成長をサポートするインキュベーターとして知られており、今回組成したファンドでは既存の投資先企業のほか、新しいスタートアップへも投資を行っていく予定だ。

今月に入ってからRocket Internetは、ロンドン発のソーシャルレンディングスタートアップであるFunding Circleの1億ドルのラウンドに参加していた。担当者によれば、同社はRocket Internet Capital Partners(RICP)を通じた投資を既に1年以上行っている。

「RICPは、2016年1月に第一号ファンドのクロージングをむかえて以降、いくつかの企業へ投資してきました。このファンドでは、マーケットプレイスやEC、フィンテック、ソフトウェア、旅行といった分野に集中して投資を行っています。投資先には、Rocket Internetの傘下にある企業もそうでない企業も含まれています」と担当者は話す。

現在どんな企業がRICPのポートフォリオに含まれていて、今後どんな企業を狙っていくのかということについて彼女は話してくれなかったが、一部の情報は既に公に知られている。最近の話で言えばFunding Circle以外にも、RICPはリクルートサービスUShiftのシードラウンドに参加し、Rocket Internet傘下のオンラインファション企業を統括するGlobal Fashion Groupへは3億6500万ドルという大金をつぎ込んでいたほか(ファッションもRocket Internetの問題のある事業のひとつで、結果的にこのラウンドもダウンラウンドとなった)、エンタープライズ向けにケータリングサービスを提供しているCaterWingsの小規模ラウンドにも参加していた。

これまでにも、投資先企業や上場企業であるRocket Internet自体の財政状況が問題になったことはあったが、投資家は今でも長期的にはそれなりのリターンが見込めると考えているようだ。いくつかの企業が大ヒットすれば状況は大きく好転する可能性があり、実際にRocket InternetはこれまでにもGrouponやeBayなどに対して、巨額の売却を行ってきた。

今回のファンドの組成にあたり、Rocket Internetは全体の14%にあたる1億4000万ドルを投じ、残りの資金は「金融機関や年金機構、資産管理会社、基金、個人の高所得者といった世界中のさまざまな投資家」から集められた。

「10億ドルの壁を越えたということが、RICPが提供する魅力的な投資チャンスに熱意を感じている一流投資家の強い興味を表しています」とRocket Internet CEOのOliver Samwerは声明の中で語った。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter