AIを利用するヘルスケアの実践や研究を支援するマイクロソフトのAI for Health事業

Microsoft(マイクロソフト)とグローバルな健康という話題になると、Gates Foundation(ゲイツ財団)を連想する人が多いだろう。しかし同社自身もかなり頑張っているのだ。そんな頑張りの最新の例と言えるAI for Healthは、同社のAI for Good事業から生まれた5年間4000万ドル(約43億円)の補助助成事業で、世界中の恵まれない人びとの健康をAIを利用して改善しようとしている。

この新しい企画は、疾病の発見にAIを利用するなど、医療AIの分野の研究や、その適切な用途を知るためのグローバルな健康調査、そしてアルゴリズムの実用化によるアクセスの向上を目標にしている。

同社のJohn Kahan(ジョン・カハン)氏はブログで 「AI for Healthは、Microsoft Healthcareというより大きな活動を補完する人道主義的な企画だ。マイクロソフトの優秀なデータサイエンティストたちが、各地の非営利団体や研究所などとコラボレーションしていく。それにより後者は、トップクラスのAIツールとクラウドコンピューティング、そして選ばれた者が手にする助成金にアクセスする」と書いている。

同氏が指摘するのは、現在のヘルスケアの分布の非平等性だ。一部の国ではいくつかの疾病や死因がほぼ根絶されているのに、ほかの国ではそれらが猛威を揮っている。AIが問題そのものを解決するわけではないが、AIならではの補助的な仕事があるはずだ。

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その例として同氏は、何百万人もの患者が失明のリスクを抱えている糖尿病網膜症のAIによる効果的なスクリーニングシステムを挙げた。村の住民たちがモバイルアプリと検査用アタッチメントを使う方が、専門の眼科医に来てもらうよりずっと楽だ。

技術者たちがそんな技術を見つけて、それを実際に利用できるようにすることが、AI for Healthの目標だ。しかしAIのエキスパートの多くはもっと一般的なテクノロジー企業やテクノロジー業界で有利な仕事を見つけているので、彼らに社会福祉的な方面に来てもらうには費用がかかる。そこで、マイクロソフトのキャッシュが物を言う。

この事業が自分の利益になりそうなところとのパートナーシップもある。例えば、 乳児突然死症候群やハンセン病、上述の糖尿病網膜症、結核、産婦死亡。そしてもちろん、永遠の敵であるがんなどの研究用装備品を求めている研究機関などだ。

この4000万ドルの助成事業は、同社の他の類似事業と違って一般からは応募できない。非営利団体や研究機関に直接資金が行くだけだ。とはいえ、そんな団体や組織にいる人ならレドモンドに良い協力者を見つけられるかもしれない。

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

合成データでMLを訓練し機械学習へのエントリーを容易にするRealityEngines

元Googleの役員たちが作ったAIと機械学習のスタートアップであるRealityEngines.AIが米国時間1月28日、ステルスを脱して最初の製品を発表した。

同社が2019年に525万ドル(約5億7300万円)のシードラウンドを発表したとき、CEOのBindu Reddy(ビンドゥ・レディ)氏はミッションについて、機械学習を企業にとってやさしくすると言うだけで、詳しい話は何もなかった。しかし今日チームは、エンタープライズにおけるMLの標準的なユースケースに伴う問題を解決する一連のツールをローンチして、サービスの具体的な内容を明らかにした。それらの問題とは、ユーザーチャーン(中途解約)の予測、不正の検出、営業の見込み客予測、セキュリティの脅威の検出、クラウド支出の最適化などだ。これらにあてはまらない問題には、もっと一般的な予測モデルサービスが提供される。

RealiyEnginesの前は、レディ氏はGoogleでGoogle Appsのプロダクトのトップを、AWSでは業種別AIのゼネラルマネージャーを務めた。共同創業者のArvind Sundararajan(アービンド・スンダララジャン)氏はかつてGoogleとUberに在籍し、Siddartha Naidu(シッダールタ・ナイドゥ)氏はGoogleでBigQueryを作った。同社の投資家は元Google会長Eric Schmidt(エリック・シュミット)氏、Ram Shriram(ラム・シュリラム)氏、Khosla Ventures、そしてPaul Buchheit氏(ポール・ブッフハイト)だ。

レディ氏によると、これら一連の製品を支える基本的な考え方は、企業に機械学習への容易なエントリーを提供することだ。企業自体にデータサイエンティストがいなくてもよい。

人材以外の企業にとっての問題は、ネットワークを有効に訓練するために必要な大量のデータが、往々にして存在しないことだ。AIを試してみたいという企業は多くても、この問題が前途に転がっている巨大な落石のような障害になっていた。RealityEnginesはこの問題を、本物そっくりの合成データを作ることによって解決。それで企業の既存のデータを補うことができる。その合成データがある場合は、ない場合に比べてモデルの精度が15%以上アップするそうだ。

レディ氏は次のように主張する。「敵対的生成ネットワーク(Generative Adversarial Networks、GANS)の最も強力な使い方は、ディープフェイクを作ることだった。ディープフェイクは、部分的に手を加えたビデオや画像で誤った情報を広めることが極めて容易であることを世間に知らしめたから、大衆の心にも訴えた。しかしGANSは、生産的な善用もできる。たとえば合成データセットを作って元のデータと合わせれば、企業に大量の訓練用データがなくても、堅牢なAIモデルを作れる」。

RealityEnginesの現在の社員は約20名で、その多くはML/AI専門の研究者または技術者だ。

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

ドイツのプロサッカーリーグがAWSと組んでファン体験の向上を目指す

ドイツのサッカーのトップリーグであるBundesliga(ブンデスリーガ)は米国時間1月24日、ゲーム中のファン体験をもっと面白くするためにAWSとパートナーして人工知能を利用すると発表した。

ブンデスリーガなどを運営する上位団体ドイツフットボールリーグ(DFL)のデジタルスポーツ担当執行副社長であるAndreas Heyden(アンドレアス・ヘイデン)氏によると、これはファンがゲームの放送を見ているだけか、それともオンラインの対話性があるかによって異なるかたちになる。

ヘイデン氏は「ファンがもっとエキサイトするようにテクノロジーを使いこなしたい。ファンの参加性(エンゲージ)が増すことによって、ファン体験のレベルを上げ、放送では適切なタイミングで適切なデータを見せ、アプリやWebでは体験を個人化したい」と語る。

それには個人化されたコンテンツを届けることも含まれる。同氏は「今の時代は一般的に、人々の注意力や関心が長続きしないから、ユーザーがアプリを開いたときの最初のメッセージは、その時のコンテキスト(状況)とその特定のユーザーに最も合ったメッセージでなければならない」と説明する。

ファンにリアルタイムで高度な統計データを見せたり、あるいは応援しているチームにとって重要な瞬間にゴールの可能性を予言してもいい。ヘイデン氏によると、それは数字でストーリーを語ることであり、事後データの報道ではないという。

同氏はさらに「テクノロジーを利用して、テクノロジーがなければ不可能だったストーリーを語りたい。人間の記者ならシュートが入る確率を当てることはできないが、AWSならできる」と続ける。

Amazon(アマゾン)のCTOであるWerner Vogels(ヴェルナー・フォーゲルス)氏によると、AWSのプラットホーム上で機械学習などの技術を利用して観戦体験の質を上げ、若いファン層を引きつけることはどんなスポーツにも有効だ。フォーゲルス氏は「次世代のファンが参加性のある熱心なファンに育つためには、ありとあらゆる手段による拡張ファン体験が必須だ」と語る。

同氏によると、テクノロジーがない時代にはそんな体験は不可能だった。「10年前には不可能だったが、今では機械学習を初めAWSが提供している先進的な技術と、それらの急ピッチな成長進化により、スポーツファンにリアルタイムで新しい体験を届けることができる」とフォーゲルス氏。

ブンデスリーガは単なるサッカーリーグではない。売上ベースでは世界第2位のプロサッカーリーグであり、スタジアムへの観客動員数では世界一だ。DFLとAWSの関係は2015年に始まり、そのときヘイデン氏がリーグのオペレーションをAWS上のクラウドへ移行した。本日の発表は、そこからの流れだ。

同氏によると、ほかのクラウド企業でなくAWSを使うことにしたのは偶然ではない。サッカーの大ファンであるフォーゲルス氏はハイデン氏の長年の知己だ。AWSはDFLに入る前から10年以上使っている。本日の発表は、そんな長い関係の延長線上にある。

関連記事:AWS is sick of waiting for your company to move to the cloud(AWSはあなたの会社がクラウドに移行しないことにしびれを切らしている、未訳)

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

Cortexならデータ科学者でも機械学習モデルをクラウドで簡単にデプロイできる

実用的な機械学習モデルを作ることも大切だが、それを現実に利用できるようにすることも重要だ。Cortex Labs(コーテックス・ラボズ)は、その最後の段階を、データ科学者たちに提供するためのオープンソース・ツールを提供するアーリーステージのスタートアップだ。

同社の創設者は、バークレーの学生だったころ、機械学習モデルを開発する際に問題となるのは、それをデプロイする手段がないことだと気がついた。当時からオープンソースのツールは山ほどあったが、データ科学者はインフラストラクチャーの専門家ではない。

CEOのOmer Spillinger(オマー・スプリンガー)氏によれば、彼自身、CTOのDavid Eliahu(デイビッド・エリアフー)氏、エンジニアリング責任者のVishal Bollu(ビシャル・ボルー)氏、そして事業成長責任者のCaleb Kaiser(ケイレブ・カイザー)氏からなる創設チーム全員が、インフラストラクチャーをよく理解しているという。

この4人の創設者が行ったのは、オープンソースのツール一式を揃え、AWSサービスでそれらを結合させ、簡単にモデルをデプロイできる手段を提供することだった。「私たちはTensorFlow、Kubernetes、Dockerといったオープンソースツールを、CloudWatch、EKS(Amazon仕様のKubernetes)、S3などのAWSサービスで結合して、モデルをデプロイしたい開発者に、基本的にひとつのAPIを提供します」とスプリンガー氏は説明していた。

データ科学者たちが、書き出したモデルのファイルをS3のクラウドストレージにアップロードするようになったと彼は話す。「それを私たちは引き出し、コンテナ化して、裏でKubernetesにデプロイします。ワークロードのスケールは自動的に調整され、大量の演算が必要なときはGPUに切り替えが可能です。私たちはロゴをストリーミングして、(モデルを)ウェブで公開します。それに関連するセキュリティー管理を我々がお手伝いします。そんな感じです」と彼は言う。

 Amazon SageMakerに似ていることを彼も認めているが、同社は、すべての主要なクラウドに対応させることを長期目標にしている。SageMakerは、当然のことながらAmazonのクラウドでしか使えない。それに対してCortexは、事実上すべてのクラウドで使える。実際、この点において、最も多い機能上の要求が、Google Cloudへの対応だとスプリンガー氏は言う。またロードマップには、Microsoft Azureへの対応もあると彼は話していた。

Cortexの創設者たちは、2018年にEngineering Capitalから調達したシードラウンドの88万8888ドル(約9700万円)のおかげで、製品化までの間、なんとか生き延びてきた。この半端な数字が気になる方のために説明しておくと、ひとつには、スプリンガー氏の誕生日が8月8日であるという内輪のジョークから、もうひとつは、評価額が有効になるのがこの数字だったという理由からだ。

現在、同社はオープンソースのツールを提供し、開発者とデータ科学者のコミュニティづくりを進めている。ゆくゆくは、クラスターの管理をしたくない企業のためにクラウドサービスを構築して収益化を計る考えだが、それはずっと先のことだとスプリンガー氏は話していた。

画像クレジット:Usis / Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

人権侵害の懸念をよそにロンドン警視庁がNEC製の顔認証を導入 

そのリスクに照準を合わせたAI規制計画の一環として、EUの議員たちは個人の権利を守るために顔認証を一時的に使用禁止することを検討している。そうした中、ロンドン警視庁は1月24日、プライバシーの敵となるテクノロジーの配備を開始した。英国の首都でライブの顔認証の運用を始めた。

今回の導入は、ロンドン警視庁とサウスウェールズ警察による複数年の試験を経たものとなる。

議論を呼んでいるテクノロジーの使用は「重罪犯がいそうだと情報機関が考える特定の場所」をターゲットとしている、とロンドン警視庁は話す。

「捜索されている個人、重大な事件を起こして指名手配されている人物の画像からなる専用の『ウォッチリスト』が使われる」と付け加えた。

また、カメラには「明確に標識が付けられ」、運用に専従する警官がこうした取り組みに関するリーフレットを配布する、とも述べた。

「配備にあたって、カメラは通行人をスキャンするためにごく限られた場所にフォーカスする」と書いている。「独立したシステムであるこのテクノロジーは、CCTV(監視カメラ)やボディカメラ、ANPR(自動車ナンバー自動読取装置)などのいかなる画像システムともリンクしていない」

この生体認証システムは、日本のIT・エレクトロニクス大手であるNECが納入した。

プレスリリースで、警視正のNick Ephgrave(ニック・エファグレイブ)氏は、議論が残るテックの使用に際して、バランスが取れたアプローチをとっている、と主張した。

「我々はみな、安全な街に住んで働きたい。社会は当然のことながら犯罪を防止するために、広く利用可能なテクノロジーの使用を期待している。同時に人々のプライバシーと人権の保護を確かなものにするため、我々は正しいセーフガードと透明性を確保しなければならない。我々の注意深く熟慮されたライブ顔認証の配備はバランスがとれていると確信している」と述べた。

ロンドンでは近年、暴力犯罪が増加している。2019年の殺人事件発生率は過去10年で最も高かった。

暴力犯罪の増加は警察サービスの削減と関連しているが、新しい保守党政権は先にトーリー党政権が定めた警察サービス削減を取り消すことを公約していた。

ロンドン警視庁は、重大な暴力や銃剣犯罪、児童の性的搾取などを含む深刻な犯罪との戦いにAIを活用したテックが役立ち、「弱者の保護を手伝う」ことを望んでいる、と話す。

しかし顔認証システムで、例えばAIアルゴリズムを洗練させるために利用されるデータセット内にある偏見のような要因によって人種差別が起こりやすくなることを考えると、ロンドン警視庁の主張はかなりの皮肉だ。

実際、警察による顔認証の使用が、すでに不平等や差別という不当なリスクに直面している弱者グループにさらなる害を及ぼすかもしれないという懸念がある。

にもかかわらず、ロンドン警視庁のPRではAIテックに潜む偏見のリスクについて言及していない。

その代わりに、警官をアシストする「追加のツール」としてテクノロジーをしのばせるために、苦痛を生み出している。

「これはテクノロジーが従来の警務に取って代わるというものではない。単純に警官に対して『そこにいる人物は捜索している人かもしれない』と『すばやく』暗示するシステムだ。行動をとるかどうかは常に警官が判断する」と付け加えた。

新たなテックツールの使用は小規模で始まるかもしれないが、ソフトウェア開発の歴史は、それがいかに拡大していきやすいかを示している。

ターゲットを絞った小規模な立ち上げは、少しずつ導入することによって大きな議論を呼び起こしている人権に敵対するテクノロジー(別名、忍びよる監視)を広く社会に受け入れてもらうための準備となっている。

他方で、先週リークされたAI規制のためのEU提案ドラフトには、公共スペースにおける顔認証の一時的な禁止が盛り込まれていて、使用禁止は「個人の人権を守る」だろうと書かれている。しかし、そうした包括的な方策が、たとえ一時的にせよ、賛同を得られるかはまだ不透明だ。

英国の人権グループは、顔認証に対する懸念を無視するロンドン警視庁の決定に警鐘を鳴らす。

Libertyは、最初の試験中に委託したレポートの結論を無視するものだと非難した。レポートではロンドン警視庁が人権への影響を考慮しなかったと結論づけている。

また、顔認証の使用は鍵となる法的必要条件に合致していないとも指摘している。

「人権法では、個人の権利を妨げるものは、法律に従い、正当な目的があり、『民主社会で必要なもの』と定めている」とレポートには書かれていて、ロンドン警視庁の顔認証技術の初期の実験は法に反して行われた可能性がある、とほのめかしている。

公共スペースでの顔認証を阻止するためのLibertyの請願にはすでに2万1000もの署名が集まっている。

顔認証をめぐる法的枠組みと法施行について先週議論した、デジタル権と規制を専門とするUCLの講師Michael Veale(マイケル・ヴィール)博士は、EUのデータ保護フレームワークであるGDPRは、例外を制定することなく監視目的での私企業による顔認証を禁じている、とTechCrunchに話した。

英国の男性はウェールズ警察による初期の顔認証実験で訴訟を起こした。人権をめぐり第1審では敗訴したものの、上訴を検討している。ロンドン警視庁のケースでは企業(NEC)がサービスを警察に提供しているが、訴訟は警察のテック使用に関係するものだ。

画像クレジット: Steffi Loos/Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi

グーグルのピチャイ氏CEOはAIの危険性から目をそらして欲しいと思っている

Alphabet(アルファベット)とGoogle(グーグル)のCEOであるSundar Pichai(サンダー・ピチャイ)氏もまた大手テック企業のキーパーソンとして、公にはAIの規制を求めているが、同時に議員に対しては、AI技術で可能になることを極力制限しない緩めのフレームワーク導入を働きかけている。

ピチャイ氏は1月20日のFinancial Timesの論説で、「人工知能を規制すべき」という目を引く見出しで呼びかけた。しかし、同氏が論説で暗に示したのは、技術者が普通にビジネスを続けられず、また万人に影響を及ぼす規模でAIが利用できないなら、人類にとってのリスクがかえって高まってしまうということだ。グーグルのトップは次のように主張した。「AIは数十億人の生活をより良くする力を秘めている。最大のリスクはそれが達成できないことだと思う」。だから、人類にとって実際には最も安全な選択肢として「厳しい制限はしない」という枠組みを求めている。

また論説では、AIの負の側面については軽視している。そうした負の側面がもたらす影よりも、AIが解き放つ利点の方が大きいと同氏は示唆する。単純に「潜在的な負の影響」を技術進歩に必要かつ避けられないコストとして描いている。

顔認識などの非常にリスクの高い技術の使用が民主主義社会で本当に許されるのかについては正面から問わずに、むしろリスクのレベルを管理することが重要だと指摘している。

「内燃機関は、人々が自分の住む地域の外へ旅行することを可能にしたが、多くの事故を引き起こすことにもなった」とピチャイ氏は述べ、歴史を急に引っ張り出して自説を擁護しているが、燃焼機関のために発生する甚大な気候コストと存続の脅威に直面している数え切れないほどの地球上の絶滅危惧種については無視している。

「インターネットは誰とでもつながり、どこからでも情報を入手することを可能にしたが、誤った情報が広まりやすくもなった」と同氏は続ける。「ここから得られる教訓は、うまくいかない可能性があるとすれば何か、よく考えておく必要があるということだ」。

「よく考えておく」の意味は、テクノロジー産業が「副次的損害」(目的を果たすためにはやむを得ない損害)だと解釈する事態を覚悟するということだ(偽情報やFacebookの場合、副次的損害というのは民主主義という肉をターゲット広告というミンチ機に投入することのようだ)。

一方、ピチャイ氏のAIリスクの議論でまったく触れていないことがある。それは独占するパワーが集中することだ。人工知能は独占集中のパワーを極めて巧みに強化する。

これなどは面白い。

もちろん、近年、研究部門全体のブランドを「Google AI」に変更したり、以前、軍事兵器テクノロジーへAIを利用するプロジェクトに関して一部の従業員から非難されたりした大手テック企業であれば、可能な限り緩く抽象的なAI「規制」を設定するよう議員にロビー活動を行ったとしても驚くにあたらない。

ゼロ規制よりも、使える馬鹿が作った法律のほうが優れている。彼らは「イノベーションかプライバシーか」といった二者択一の、業界主導の誤った論理に騙される。

ピチャイ氏の論説による介入のタイミングは戦略的だ。米国の議員らは大手テック企業が求める「イノベーションに優しい」ルールに迎合しているように見える。そんなルールの下でなら、大手テック企業のビジネスはやりやすくなる。今月ホワイトハウスのCTOであるMichael Kratsios(マイケル・クラトシオス)氏はBloomberg(ブルームバーグ)の論説で、「AIのイノベーションと成長を不必要に妨げるような、負担が重く先制攻撃的で厳重なルール」に強く反対した。

一方、新しい欧州委員会は、AIと大手テック企業の両方についてより強固な方針を打ち出した。

同委員会のUrsula von der Leyen(ウルズラ・フォン・デア・ライエン)大統領は、テクノロジーの変化に対応することを政策上の優先事項に掲げ、大手テック企業を規制していく方針を明らかにした。また、就任後最初の100日以内に「人工知能の人間的および倫理的意味合いに関する欧州の協調的アプローチ」を発表することを約束した。同氏は2019年12月1日に就任したため、期限は迫りつつある。

先週リークされた汎EU AI規制に関する欧州委員会提案の草案を読むと、比較的軽いタッチのアプローチに傾いていることがわかる(ただし、欧州における軽いタッチは、トランプ大統領のホワイトハウスに比べかなり関与や介入の度合いが強いことは明らかだ)。ただし規制案によると、公共の場での顔認識技術の使用を一時的に禁止するという考えが浮上している。

規制案は、一時的使用禁止によって「個人の権利が特に技術の不正使用の可能性から保護」されると予想されるものの、これは「技術の開発と普及を妨げる可能性のある広範囲にわたる措置」であるため、既存のEU法の規定(EUのデータ保護フレームワークであるGDPRなど)を適用したり、現行の製品安全および責任に関する法律に必要な修正を加えるなどの対応が望ましいとしている。

委員会がAIの規制に乗り出すにあたり、どちらの方向に進むのかまだはっきりしないが、軽いタッチのバージョンであっても、ピチャイ氏が望むよりはるかに面倒になることが予想される。

論説で同氏は「分別ある規制」と表現するものを求めている。「分別ある規制には、特にリスクの高い分野で想定される悪影響と社会的機会のバランスを取る均衡的アプローチが必要になる」

「社会的機会」が意味するところは、AIが実際に利用される分野に厳しい法的制限が課されても、Googleがスパイしている豊富な「ビジネスチャンス」が頓挫することはないということだ。Googleは健康から輸送まであらゆる業種やセクターで、AIの利用を推進してサービスの質を高め、莫大な規模の収益を狙っていると考えられる。

「さまざまなセクターでニーズに応じた実装を可能にしつつ、幅広いガイダンスを提供する規制が実現可能なはずだ」。ピチャイ氏は守るべき「原則」と適用後の「レビュー」に関して優先順位を設定することにより、AIというスパイスの流れを維持しようとしている。

FTの編集者がテクノロジーのイメージで説明するよう試みているにもかかわらず、論説は顔認識について、「悪用」の懸念にごく短く触れるにとどめている。ここでピチャイ氏は再び、その性質上極端に権利に敵対する技術に関する議論として再構成しようとしている。

もちろんこれは、顔が公共のスペースを通るたびに、ブラックボックスマシンがIDをアルゴリズムで推測できるといった固有のリスクを意図的にわかりにくくしている。

こんなシナリオの下ではプライバシー保護は望めない。テクノロジーの用途によっても異なるが、他にも多くの権利が危険にさらされる。そのため、実際には、顔認識の使用には個人的および社会的リスクが伴う。

しかし、ピチャイ氏は議員に瞬きさせようとしている。同氏は、そのようなテクノロジーがもたらす強力な固有のリスクに議員が目を向けることを望んでいない。議員に注目してほしいのは「悪意」があり「負の側面」を持つAIの使用例や、「本当に懸念」すべき「悪影響」があるケースだけだ。

だから同氏は「原則や規制に基づきAIを利用するアプローチ」を再び強調する。とりわけ、AIの利用が許される規制に重点を置く。

ここで技術者が最も恐れるのは、人工知能が絶対に利用できないケースを規定するルールだ。

倫理と原則は、ある程度変更可能な概念だ。大手テック企業は、PRとして、自分たちに都合の良い倫理や原則を主張することに慣れている。自前の「ガードレール」を自分自身のAIの運用に適用したりする(だがもちろん、有効な法的拘束力はない)。

同時に、Googleのようなデータマイニング大手は、データ保護に関する既存のEUルールの下でも十分戦える。たとえば、ユーザーインターフェイスに、クリックやスワイプによって気づかずに権利を放棄してしまうような紛らわしいパターンを埋め込んでおくなどの手段がある。

だが、ある特定種類のAIの利用を禁止すると、ゲームのルールが変わる。それは市民社会が運転席に座ることになるからだ。

先見の明のある規制当局が、特定の「危険な」AIの利用について少なくとも一時停止する内容を含む法律を求めている。顔認識技術や、Googleが以前取り組んでいた無人機ベースの自律兵器などがその例だ。

そして禁止措置ということになれば、プラットフォームの巨人たちが自分たちの意向にあわせて単純に曲げることは極めて難しいはずだ。

画像クレジット:Andrew Harrer / Bloomberg / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi

Google CloudがルフトハンザとSabreを顧客に獲得、クラウドネットワーク構築に協力

Google Cloudのユーザー獲得戦略は、特定のエンタープライズ、ビジネス分野に集中するというものだ。ハードウェア、エネルギー、金融、小売業などがこれまで主要なターゲットで、ヘルスケアにも注力しているが最近やや足踏みしている印象だ。EpicはGoogle Cloudに移行する計画を進めないことを発表した

そんな中、Google Cloudは旅行業という新たなバーティカルで有力なクライアントを2社獲得したことを発表した。収益において世界最大の航空会社、ルフトハンザ・グループと航空会社、ホテル、旅行代理店などをネットワークしてサービスを提供するSabreがそれぞれGoogle Cloudに加わった。

Sabreと10年契約を結び、Google Cloud上にネットワークを構築することになった。 航空会社を始め旅行関係の多数の企業がSabreに参加しているが、これまで同社のネットワークはレガシーシステムだった。Sabreは情報インフラの現代化に取り組んでおり、Googleとの10年間の提携はこの努力の一環となる。GoogleとSabreは協力して「既存システムを改善し効率化するのと同時に新たなサービスを開発、追加する。参加航空会社、旅行代理店、旅行者に新しいマーケットプレイスを提供」していくという。AIをはじめとしたGoogle Cloundの最新テクノロジーを利用することでトラベル・ビジネスを一新するような各種ツールの利用が可能になるという。

「航空機のチケットが取れない」というシステム障害に見舞われることもあるが、ほとんどの場合、これはSabreのコンピューターがダウンしたためだ。「むやみにダウンしない」ようになるだけでも、われわれ消費者にとっては大きな改善だ。

GoogleのCEO、Sunder Pichai(サンダー・ピチャイ)氏は「Googleはユーザーを支援するツールを開発している。我々のミッションはのほとんどは、ユーザーである企業がそれぞれの使命を果たせるようにすることだ。Sabreが旅行の未来を築くためにGoogleをパートナーに選んでくれたことは、非常にうれしい。旅行者は高い利便性、選択の自由、コストパフォーマンスを求めている。我々のクラウドとAIテクノロジーによるコンピューティングは、Sabreの価値実現を助けるものだ」と述べた。

広汎なサービスを提供するという点においては、Googleとルフトハンザドイツ航空との提携も同様だ。ルフトハンザはドイツのフラグキャリアだが、グループにはオーストリア航空、スイス航空、ユーロウイングスはじめ多数の子会社があり、他の航空会社に技術サービスを提供する企業も多数持っている。

【略】

ルフトハンザ・グループが戦略的パートナーにGoogleを選んだ目的は「オペレーションの最適化を図る」ためだという。Googleではルフトハンザ向け専任のチームを作ってこれを実現していく。Googlはルフトハンザの航空機運用のためのツールを開発し、クラウドで運用する。こうしたツールはビジネスを効率化するだけでなく、悪天候や空路の混雜、社員のストライキ(この頃多発しているようだ)などの障害が発生した場合、取るべき手段をAIテクノロジーが提案してくれるという。

画像:Sina Schuldt/picture alliance / Getty Images

また、デルタ航空もこれに似たAI利用の支援システムを開発し2020年のCESで発表した

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滑川海彦@Facebook

Google Calendarというコロンブスの卵に目をつけたClockwiseのAIアシスタント

スタートアップ企業は、職場のコラボレーションを一層充実させるために、さまざまなサブスクリプションサービスを有料で使っている。しかし、Slackのブームが本当に本物だとしても、もっと圧倒的な真実は、会議漬けで1日の仕事が台なしになることが多いということだ。時間管理のソフトウェアやシステム手帳のようなアプリはすべて個人の努力に依存しているが、でも1日に数時間も会議があれば、個人にコントロールできることには限界がある。

しかしAccelが投資しているClockwiseのCEOであるMatt Martin(マット・マーティン)氏によれば、個々の社員のスケジュールはチーム全体というレンズを通して見るべきであり、そして会議は「集中時間」を最大化するよう運営すべきだ。集中時間(Focus Time)とは、彼の定義では少なくとも2時間の邪魔の入らない時間ブロック(時間の塊)のことだ。

Clockwiseはすでに、LyftやAsana、Strava、Twitterなどが顧客だ。同社は、最初はプロダクトを無料で提供して顧客を広げようとしている。資金は二度のラウンドで1300万ドル(約14億3000万円)あまりを調達した。投資家はAccel、Greylock、そしてSlack Fundだ。

Googleカレンダーに統合される同社のソフトウェアは、人々をグループ化して彼らに合わせて会議の日程や時間を移動し調整するが、そのClockwise Calendar Assistantの最新のアップデートでは一部の困難な作業を自動化できるようになった。

カレンダーのこのような集団的管理はともすれば不平のタネになりがちだ。それを防ぐためのClockwiseの工夫はテスターたちに好評だった。

職種によって、例えばエンジニアは仕事に邪魔の入らない時間が長いことを好む。そこでClockwiseは、週にどれぐらいの集中時間が必要か指定できるようにした。また個人的カレンダーの要素も加えて、これだけは動かせないという私用の時間も指定できる。また会議の場所が会社の外のときは、そこまでの往復時間を考慮に入れる。

そのように動かせない会議もあるし、別の時間にオフサイトの人びとに頼る場合もある。役員の出席を必要とする会議は、彼らのスケジュールを優先する。柔軟性を必要としない会議もあるが、チーム会議の軋轢を自動的に解決できれば、ただ待ってるだけの30分という無駄な時間の発生を防げる。

今回のClockwise Calendar Assistantのアップデートでは、ClockwiseはSlackとの互換性を向上させた。ユーザーが指定した集中時間には、自動的に「do-not-disturb」にチェックが入る。そしてSlackのステータスには、その人が今参加している会議を入れられる。

メールやチャットを車輪のように再発明したアプリが多い中で、カレンダーという平凡なものを利用するClockwiseの着眼点は面白い。「豪華な」カレンダーと言われるGoogleカレンダーの需要は増えているが、そのユーザー数に見合った開発努力はまだ乏しい。その点でもClockwiseは興味深いが、今後は後続がどんどん出てくると考えられる。

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

アップルがエッジAIのXnor.aiを約220億円で買収か

2017年に、非営利団体のAllen Institute for AI(Ai2)からスピンオフしたXnor.aiが、約2億ドル(約220億円)でApple(アップル)に買収された。同社に近い筋が、今朝のGeekWireの記事を確証した。

アップルは、このような非公表の買収に関するかねてからの常套句でその記事を確認した。「アップルはときどき、小さなテクノロジー企業を買収しており、一般的にその目的や計画は明かしていない」。念のため、コメントを求めてみたが無駄だった。

Xnor.aiは、機械学習のアルゴリズムを高度に効率的にするプロセスの開発から始まった。 高度に効率的とは、そこらのもっとも低性能なハードウェアでも動くという意味だ。例えば、ごくわずかな電力しか使わないセキュリティカメラの組み込み電子回路などだ。そんなハードウェアでもXnorのアルゴリズムを使えば、オブジェクトの認識のような通常は強力なプロセッサーやクラウドへの接続を必要とするタスクをやってのける。

関連記事:エッジコンピューティングを再定義するXnorのクラッカーサイズの太陽電池式AIハードウェア

CEOのAli Farhadi氏と彼の創業チームはAi2で同社を作り、同団体がインキュベーター事業を公式に立ち上げる直前に独立した。そして2017年の前半には270万ドル、2018年には1200万ドルを、いずれもシアトルのMadrona Venture Groupがリードするラウンドで調達し、その後もアメリカ籍の企業として着実に成長した。

情報筋によると、2億ドルという買収価額はあくまでも概算だが、仮に最終額がその半分だったとしてもMadronaとそのほかの投資家にとっては大きなリターンだ。

同社は、Appleのシアトルのオフィスへ引っ越すようだ。GeekWireが悪天候下で撮ったXnor.aiのオフィスの写真からは、引っ越しがすでに始まっていることが伺われる。Ai2は、Farhadi氏が同団体にもはやいないことを確認し、しかしワシントン大学の教授職にはとどまる、と言った。

Appleのこれまでのエッジコンピューティングへの取り組み方を見れば、この買収は完璧に理にかなっている。機械学習のワークフローをさまざまな状況で実行できるために、専用のチップまで作ったAppleは明らかに、顔認識や自然言語処理、拡張現実などのタスクを、iPhoneなどのデバイスの上でクラウドに依存せずにやらせるつもりだ。それはプライバシーよりも、パフォーマンスが目的だ。

特に同社のカメラのソフトウェアは、撮像と画像処理の両方で機械学習のアルゴリズムを広範囲に利用している。その計算集約的なタスクは、Xnorの効率化技術によってかなり軽くなるだろう。結局のところ、写真の未来はコードにあるのだから。そして短時間かつ省電力で多くのコードを実行できれば、さらにもっと高度なことができる。

関連記事:コードが写真の未来を創る

また、アップルはHomePodでスマートホームの分野にも踏み込んでおり、応用範囲が非常に広いXnorの技術の未来をアップルのような巨大企業に関して正しく予測するのは本当に難しい。

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

デルタ航空はAIを悪天候時の運用に役立てる

米国時間1月7日、デルタ航空はCESでの初の講演で、天候が荒れて安全な運航が難しくなった場合にAIを活用してスマートな決定を下すのに役立てる新たなシステムを発表した。同社は旅客航空業界では初めて、運用の全面的なデジタルシミュレーションを構築し、この新しいシステムで特定の状況において乗客の混乱を最小限に抑えるのに最適な方法を提示する。

画像:Alex Tai/SOPA Images/LightRocket / Getty Images

最高の条件のときでも航空会社を運営するロジスティクスがおそろしく複雑であることは言うまでもない。悪天候になれば航空会社のスタッフは、機材を交換してスケジュールを守る方法を見つけ、連邦航空局の規定勤務時間内で搭乗できる乗務員を確保し、乗客が乗り継ぎできるようにしなくてはならない。

デルタ航空オペレーションおよびカスタマーセンター担当シニアバイスプレジデントのErik Snell(エリック・スネル)氏は次のように語った。「お客様は、天候が良くても悪くても目的地まで安全に時間通りに到着できることを期待している。そこで我々は裏側で動いている多くのツールに機械学習プラットフォームを導入して、最も厳しい条件であってもデルタ航空の8万人以上のスタッフがさらに素早く効果的に問題を解決できるようにしている」。

ユナイテッド航空は最近、ConnectionSaverというツールを発表した。これは問題が発生した際にすべての乗客が乗り継ぎできるように飛行機を数分間ゲートに止めておく判断を地上スタッフが適切に下せるよう支援するツールだ。しかしデルタ航空の新しいツールは運用全体をモデリングすることでさらに一歩先へ行っている。

デルタ航空によれば、新しいプラットフォームは今年の春にオンラインになり、現在のAIシステムがたいがいそうであるように、現実のデータを取り込むことで時間をかけて賢くなっていく。デルタ航空の運用シミュレーションが組み込まれているので、どのような決定がより良い結果になったかを後から検討するツールも利用できるようになる。

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(翻訳:Kaori Koyama)

CES 2020のGoogle発表は昨年同様、スマートアシスタント中心

CESが開幕した。Googleのスマートアシスタントもニュースを伝えるのにおおいそがしだ。そのGoogleは、2020年もやはり目立っていた。2019年のように遊園地をまるごと作るほどの派手な登場ではなかったものの、ラスベガス・コンベンション・センターの正面に巨大な2階建てのブースを設けており、ご覧のとおりすべり台もついている。

2019年と同様に、2020年もGoogleがCESで力を入れているのはAI利用のスマート音声デバイス、つまりGoogleアシスタントまわりだった。

それでは新しいプロダクトをみていこう。

  • ウェブページ読み上げ: 重要な記事を読まねばならないが、一日中スマートフォンとにらめっこしているヒマはないということがよくある。Androidデバイスのユーザーは「OK Google、このページを読み上げて」と命じることができるようになる。アシスタントはたちどころにニューラルネットワークで自然な音声を生成し、人間のような自然さで記事を読み上げてくれる。ページに無数に散らばっている「なんとかで共有」や「トップに戻る」といったボタンにわずらわされることはない。Googleによれば、やがてアシスタントは読んでいる箇所をハイライトし、自動的に表示のスクロールもするようになるという。ただしこの機能が実装されるのは読み上げ機能より後になるかもしれない。
        • 動作の予約: 1回限りの操作を予約できるようになる。「OK Google、午後6時に明かりを点けて」などと命じることができるとのことだが、、今までこれができなったのが驚きという気もする。
        • ふせん: ポストイットに何かメモして、手帳や冷蔵庫などの頻繁に目にする場所に貼ることは誰もやっているだろう。Googleはこれをスマートディスプレイでもできるようにする。「OK Google、 『荷造りを忘れるな』とメモを貼って」などと命じると、ロックスクリーンにそのメモがずっと表示される。

        • 短縮ダイヤル: こちらはベビーシッター向けにポストイットに重要な電話番号を書いて冷蔵庫に貼っておく、といった作業の代用を目指している。 スマートディスプレイに電話番号を登録し、ロックスクリーンに表示させておくことができる。誰でも番号をタップし、あるいは音声コマンドでその番号に電話ができる。
        • 通訳モード: 2019年のCESで発表された通訳モードだが、いよいよスマートディスプレイでも利用できるようになる。スマートディスプレイの前に2人の人物がそれぞれ異なった言語で話すとスマートアシスタントが音声で通訳してくれる。Googleは多くの企業がこの機能を利用するようになると期待しており、事実、HSBC銀行やその他の機関が利用を始めている。ラスベガス、サンフランシスコ、ロサンゼルス、日本、カタールにあるいくつかのホテルが利用を始めたということだ。我々もAmerican Airlinesの例を紹介している。こちらは英・西・中・日・独・韓・仏語を話すNestをラウンジで稼働させるためトレーニング中だ。
        • おっと、それからプライバシーだが、 Googleアシスタントは「OK Google」、「Hey Google」などのセンテンスで始まるコマンド類を除いて言われたことを一切記憶しないことになっているが、テレビから聞こえてくる会話などがアシスタントの録音機能を起動してしまうケースがたまにある。なにか会話していて突然アシスタントに「すみません、お役に立てそうもありません」と言われて驚いたことがある読者もいるだろう。これは会話中の何かがアシスタントの注意を引いたものだ。何か録音されていると感じたら「OK Google、今言ったことは忘れて」などと命じればよい(音声コマンドでアクティビティを削除する方法はこちら)。
        • 以上、いずれも便利そうな機能だが、Googleはロールアウトの正確なタイミングを発表しておらず、「近く」使えるようになるという。

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          滑川海彦@Facebook

「アレクサ、ガソリン代払って」コマンドが米国の1万カ所以上のGSで利用可能に

車にガソリンを入れるのは、それほど難しいことではない。しかしAmazon(アマゾン)は、ボイスコマンドを利用することで、それがもっと簡単になると考えている。ガソリンスタンドの計量器の横に車を止めたら、「アレクサ、ガソリン代払って」と言えばいいのだ。米国時間の1月7日、Amazonは、ExxonMobil(エクソンモービル)、Fiserv(ファイサーブ)と連名で、音声指示によるガソリン給油について発表した。今年の後半には、米国の1万1500以上のExxon(エクソン)とモービル(Mobile)のガソリンスタンドで利用可能になる。

Amazonによると、Alexa(アレクサ)を利用してガソリン代を支払う機能は、まずはAlexa対応の車、Echo AutoやAlexa対応のモバイルデバイスを持っている顧客から利用可能になるという。

顧客は計量器の横に着いたら「アレクサ、ガソリン代払って」と言うだけで使い始めることができる。するとAlexaは、ガソリンスタンドの位置と計量器の番号を確認する。

支払い自体は、Amazon Payを使って処理される。その支払情報も、顧客の通常のAmazonアカウントに保存される。Fiservの電子商取引の技術によって、ガソリンの計量器を稼働させ、安全な支払いが実行されるよう、トークンの生成も円滑に進行する。

このような、Alexaを利用した給油体験が、支払カードを計量器に直接セットするより、大幅に早くて簡単かどうかは定かではない。どちらかと言うと、ちょっと回りくどいような感じもする。しかし、これは便利だと感じる人もいるだろう。計量器が認証されて給油可能になるまで、車の外で処理の進行を待つ代わり、車の中に居ることができるのだから。

特に寒い冬の日には、ありがたいものに感じられるかもしれない。また、女性など、計量器の横に一人でいるのが心配だという人には歓迎されるだろう。夜間やよく知らない場所など、安心できないような状況でガソリンを入れる場合には特にそうかもしれない。

「私たちは、ガソリンスタンドに新しいテクノロジーと、素晴らしい体験をもたらすことにワクワクしています」と、エクソンモービルの米国燃料マーケティングマネージャーであるEric Carmichael(エリック・カーマイケル)氏は声明で述べた。「私たちは、消費者をあっと言わせるような、使いやすさと安全性を両立させるテクノロジーを開発し、探求してまいります」。

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

富士山麓にスマートシティー、トヨタが野心的プロジェクトを発表!

トヨタ自動車は世界中でロボティクス、新素材、人工知能、自動運転車、代替エネルギーの開発を続けてきたが、さらに野心的なプロジェクトを明らかにした。富士山麓に170万平方メートルにもおよぶ新テクノロジーの実証都市を建設するという。このスマートシティーの住民は、自動運転シャトルやロボットを含むトヨタが開発している最新のテクノロジーを利用して暮らすことになる。

ラスベガスにおけるCES 2020の開幕を控えて1月6日の月曜に開催されたプレスイベントに登壇した豊田章男社長は「都市の建設は2021年に開始される」と述べた。設計はデンマークの世界的建築家、Bjarke Ingels(ビャルケ・インゲルス)氏が率いるBIG(Bjnarke Ingels Group)だ。インゲルス・グループはニューヨークの2 ワールドトレードセンター(工事中断中)やデンマークのレゴハウス、Googleのマウンテンビューとロンドン本社などの著名なビルの設計を手がけている。

トヨタの幹部によれば、この実験都市は豊田章男社長が情熱を傾けているプロジェクトだというが、それはプレスイベントの壇上からも伝わってきた。

豊田社長は「これは私の『フィールド・オブ・ドリームズ』だ。『それを造れば人は来る』」と有名な映画に託して希望を語った。

「科学的に制御された現実に人が暮らす環境で、オートノミーやMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)、ロボティクス、スマートホーム、人工知能など人々をつなげる最新テクノロジーを研究者やエンジニアが自由に開発し、テストできるところを想像して欲しい」と豊田社長は力説した。

つながる都市(Woven City)と呼ばれるこのスマートシティーは、窒素利用の燃料電池をエネルギー源とするという。

この都市の住居はインハウスのロボティクス、高度なセンサーを備えたAIデバイスが装備されて生活を助ける。住居の各種ニーズに応えるだけでなく、健康チェック機能も持つという。

この町ではカムリもプリウスも運転する必要がない。メインストリートの走行を許されるのはゼロ・エミッションの完全自動走行車だけだという。人や物資の輸送にはトヨタが開発中のe-Paletteが利用される。

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滑川海彦@Facebook

“PriceTech”の空が駐車場の料金最適化に向け、NTTル・パルクと実証実験開始

ホテルの料金設定サービス「MagicPrice」を提供するは1月7日、駐車場開発・運営のNTTル・パルクとコインパーキングの料金最適化の実証実験を開始し、ダイナミックプライシング導入に向けた検討を始めることを明らかにした。

空は「あらゆる価格を最適化し、売り手も買い手も嬉しい世界を作る」をミッションとして、ダイナミックプライシングに関するサービスを提供するスタートアップ。2016年には、ホテル・旅館業を対象にしたダイナミックプライシング(動的に変動するリアルタイムな適正価格による値付け)の支援サービスとして、MagicPriceを提供開始している。

MagicPriceでは、ホテルが客室料金を検討する際に必要な予約状況などのデータを自動収集・分析し、AIが適切な販売価格を提案。ホテルの担当者は簡単な操作で客室料金設定ができ、旅行予約サイトへの料金反映も自動で行える。

NTTル・パルクとの実証実験でも、競合企業のWebサイトなどからデータを自動収集・分析して、AIが適切な駐車料金を提示する。実験は首都圏を中心とした約400カ所のコインパーキングで実施予定。従来は月1回程度だった料金変更のタイミングを週1回へ変更して、より柔軟に値付けを行っていく。看板の表示料金については、当初は担当者が人力で張り替えるそうだが、今後デジタルサイネージにより、遠隔・リアルタイムでの料金変更も目指すという。

今回の実証実験は、昨年9月、NTT東日本アクセラレータープログラム「LIGHTnIC」第3期企業に空が採択されたことをきっかけに、スタートした取り組みだとのこと。空では昨年11月にも、電通と共同でリテール業界でも実証実験参加企業を募っており、今後、他業種・他業界にもプライシングサービスを展開していく考えだ。

タイピングのクセで個人特定する技術を開発するTypingDNAが約7.6億円調達

ルーマニアのブカレストで4年前に創業され、最近ニューヨークのブルックリンに本社を移したTypingDNAが、ある面白い技術で700万ドル(約7億5600万円)の資金を調達しようとしている。それは、ラップトップやモバイルデバイス上のタイピングの特徴からその人を当てるAI技術だ。

資金調達の申請書類によると、同社は2018年の後半にTechstars NYCの育成事業を卒業して、130万ユーロのシード資金を獲得している。これまでの同社の資金調達総額は525万ドルに達する。

タイピングのバイオメトリックスは、各キーの押されたときと離されたときの詳細なタイミング情報からキーボードを叩いている人を特定する。特に新しい技術ではなく、2年前のPCWorldの記事によると、研究は20年前にさかのぼるそうだ。あまり正確でないので、個人を認証する方法としては普及しなかったとも書いてある。しかしTypingDNAは、同社のタイピングパターン認識技術の精度は99%から99.9%の間だと自信を見せる。

同社をこれまで支援してきたGapMinder Venture Partnersは、アムステルダムのベンチャー企業だ。SECへの提出書類によると、今度の新しいラウンドはGradient Venturesが支える。ここはGoogleのAI専門のベンチャーグループで3年前に誕生した。

TypingDNAが11か月前にシードラウンドを調達したときには、同社はその資金を技術の改良と、金融とエンタープライズ方面への市場拡大に使う、と言っていた。そこで今同社は、アイデンティティ(本人特定)と詐欺の防止に力を入れている企業とのパートナーシップを増やそうとしている。

同社のサイトによると、教育機関との連携にも力を入れていて、研究や宿題の身代わり提出を防ぐために同社の技術が使われるようだ。

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(翻訳:iwatani、a.k.a.hiwa

数々の予兆からシステムの問題を予知・防止するInsightFinderが約2.2億円調達

米国ノースカロライナのInsightFinderは、大学での15年の研究成果に基づいてシステムのモニタリングに機械学習を利用し、一般的によくある問題を自動的に見つけて修復する。米国時間12月31日に同社は、200万ドル(約2億1700万円)のシードラウンドを発表した。

ノースカロライナ州ダラム拠点のVCであるIDEA Fund Partnersがラウンドをリードし、Eight Roads VenturesとAcadia Woods Partnersが参加した。創業者であるノースカロライナ州立大学の 教授のHelen Gu(ヘレン・グー)氏は、これまで15年にわたってこの問題を研究し、2015年に同社をローンチした。

グー氏はまた、元Distil Networksの共同創業者でCEOのRami Essaid(ラミ・エッサイド)氏をCOOとして招聘したことを発表した。2019年に自分の会社を売ったエッサイド氏は、彼の新しい会社であるInsightFinderでプロアクティブなアプローチでアプリケーションとインフラストラクチャのモニタリングを行うと発表している。

同氏は「これらの問題には繰り返して何度も起きる性質があり、起きるときにはその兆候がある。われわれは人工知能を利用してそれを予測し、先回りして抑える」と語る。彼によると、それはテクノロジーのプロアクティブな使い方であり、現在のソフトウェアにおいては、問題のほぼ半分が、それらが問題になる以前に防止できるという。

モニタリングといえばSplunkやNew Relic、Datadogなどの名前が思い浮かぶが、しかしエッサイド氏によると、それらのプロダクトは企業のテクノロジースタックの一部分に固執し、それに対しInsightFinderはそのようなソリューションの1枚上の層(レイヤ)として働いて、ノイズにすぎないアラートを減らし、複数のアラートがあるときには問題の根源を突き止め、できるかぎり問題解決を自動化する。

エッサイド氏は「システムが発している大量の信号(兆候、予兆)を見て、それらから実際に起きている問題を判定するやり方は、我々が初めてだろう。アラートを減らして(アラートが出る前に)問題の早期発見を助けるだけでなく、すべてのデータを処理して人工知能により予測と予防を行う。そこまでやるモニタリング企業は、まだほかにないだろう」と語る。

現在の顧客はInsightFinderのソフトウェアをオンプレミスでインストールしているが、2020年にはSaaSバージョンを作って、より多くの顧客が利用できるようにするのが同社の計画だ。

同社は2015年にローンチし、今回の投資の前には米国科学財団の助成金を二度受けている。エッサイド氏によると、同社の製品は現在10社の大企業が利用しているが、まだ本格的な営業やマーケティング活動はやっていない。資金は、その活動に使う予定だ。

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

AIによる分散システム「Ray」を開発するAnyscaleが22億円超を調達

オープンソースは今や現代のソフトウェアの重要な要素だ。米国時間12月1日、新たなスタートアップがステルスを脱してオープンソースの新しい分野を商機にしようとしている。人工知能や複雑な科学計算など大規模なコンピューティングのプロジェクトで近年多く利用されている、分散アプリケーション環境の構築と管理という分野だ。

カリフォルニア大学バークレー校で分散プログラミングのフレームワークProject Rayを作ったRobert Nishihara(ロバート・ニシハラ)氏とPhilipp Moritz(フィリップ・モリッツ)氏、Ion Stoica(イオン、ストイカ)氏、そして教授のMichael I. Jordan(マイケル・I・ジョーダン)氏らのチームが今回創業したAnyscaleは、このほどAndreessen HorowitzがリードするシリーズAのラウンドで2060万ドル(約22億5500万円)を調達した。これには、NEA、Intel Capital、Ant Financial、Amplify Partners、11.2 Capital、そしてThe House Fundが参加した。

同社はこの資金を使って、初めての商用製品を作るつもりだ。その詳細はまだ明かされないが、一般化した言い方としては、コンピューティングのプロジェクトを1台のラップトップからマシンのクラスターへと容易にスケールアウトできる仕組み、そしてプロジェクトを管理するための一連のライブラリやアプリケーションが含まれるようだ。ローンチは来年を予定している。

ストイカ氏はインタビューで「現状ではRayをアプリケーション構築のスタンダードにすることに注力している。Rayのためのツールやランタイムプラットホームを作ることになるだろう。つまり、Anyscaleのその新しいプロダクトを利用すれば、Rayのアプリケーションを安全にハイパフォーマンスで動かせるというわけだ」と語る。

今回の投資の一部は、企業の戦略的投資でもある。たとえばIntel(インテル)は、AmazonやMicrosoft、Ant Financialなどと並んで自社のコンピューティングプロジェクトのためにRayを使ってきた大企業のひとつだ。

インテルのIT部門のエンタープライズ&プラットフォームグループでCTOを務めるMoty Fania(モティ・ファニア)氏は声明で「IntelのIT部門はRayを利用してPythonのワークロードをコードをほとんど書き換えずに大規模化している。Intelの生産と検査の工程に実装してわかったのは、個人化されたチップテストを作るために使うハイパーパラメータ選択のテクニックとオートモデリングの工程でRayがスピードとスケールを増大してくれることだ。それによって、コストを下げ、工程の容量と質を上げることができた」とコメントしている。

Rayのユーザーリストにはそうそうたる企業が名を連ねているが、でもAnyscaleの目的は何だろうか?ストイカ氏とニシハラ氏の説明では、Rayを実装するためのもっとシンプルで容易な方法を作ることが目的だ。それによってRayを、Amazonのような世界的企業でなく、もっと技術力の弱いほどほどの企業でも使えるようにしたい。

「エキスパートのエンジニアがいない企業では、それがとても重要なことだ」とストイカ氏は語る。Anyscaleが解決する問題は、未来の大規模で複雑なコンピューティングには必ずつきまとう。コンピューティングによる解を求める問題が目白押しで並んでいるが、その中には1台の大型計算機では扱えないものがある。たとえばAnyscaleが挙げるIDCの推計によると、2025年に生成され処理されるデータ量は175ZB(ゼタバイト、1ZB=1兆TB)に達する。

これだけのスケールでも、未来の量子コンピューターには平気かもしれないが、現在の現実的なオプションとしては、分散コンピューティングが妥当なソリューションだ。Rayは分散コンピューティング環境を実装するために用いるスタンダードとして考案されたが、でもそれ自身が技術的に相当高度で、使いこなせる人は限られている。

ニシハラ氏はこ「あなたが生物学者でも、シンプルなプログラムを書いて大きなスケールでそれを動かすことはできるだろう。でもそれがうまくいくためには、生物学の専門知識だけでなく、コンピューティングの専門知識も要る。そしてそれが、越えがたい高い障壁になる」と説明する。

AnyscaleやRayを作った人々は、過去にこれら以外にも優れた業績があり、今の大規模分散コンピューティングの問題解決にとって彼らは適任だ。例えばストイカ氏はDatabricksやConvivaの共同創業者であり、Apache Sparkの最初のデベロッパーの一人でもある。

Andreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)の共同創業者Ben Horowitz(ベン・ホロウィッツ)氏はインタビューで、「IonでDatabricksを扱い、それで縁ができた」と語る。Ionはバークレー校で生まれるプロジェクトに頻繁に投資していた。そしてRayとAnyscaleは、現在のコンピューティングのニーズによく応えていると感じた。「Rayはオープンソースである点が非常に魅力的だったが、それが解決しようとしている問題が重要だった」と彼は述べている。

「ムーアの法則は終わったとみんな嘆いているが、重要なのは人工知能のアプリケーションにとってはそんなの関係ないという点だ。必要とするコンピューティングパワーがますます増大しているから、今や一つのマシンの性能を云々する時代ではない。みんなが分散コンピューティングをマスターしなければならないが、でも今それが得意なのはGoogleぐらいで、ほかのみんなにとって分散コンピューティングは難しい。我々は、この問題の解を求めていたのだ」。

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(翻訳:iwatani、a.k.a.hiwa

1万円以下・WiFi設定だけで導入できるスモールビジネス向けAIカメラ「ManaCam」

「もういくつ寝ると」と年末の声が聞こえてくると楽しみなのが、お正月。そして年明け早々、毎年ラスベガスで開催されるテックプロダクトの見本市、CESの出展内容だ。特に「Eureka Park」には今年も、世界中から1200を超えるスタートアップのプロダクトが集まる予定。日本からも、JETROが事務局を務めるJ-Startupパビリオンで、29社の出展が決まっている。

展示されるプロトタイプの中から、今日はFutuRocket(フューチャーロケット)が開発中のAIカメラ「ManaCam」を紹介したい。ManaCamは、エッジコンピューティングにより、設置された空間内の顧客数、利用者数の自動集計を行うAIカメラだ。これだけ聞くと、特に目新しさを感じられないかもしれないが、ManaCamは「1万円以下で導入できる」「WiFiの設定を行うだけで利用できるようになる」という特徴を持ち、スモールビジネス向けに特化したプロダクトだ。

ManaCamは、アタッチメントを使えば電球ソケットからも給電が可能。天井の照明などを電力源として利用でき、配線のための手間や工事は不要だ。

ManaCamを設置すると、以降の利用者数推移レポートはクラウドを通してWebサイトで見ることができるようになる。FutuRocketはカメラの販売ではなく、このクラウドによるレポート機能を少額の月額課金で提供していくことで収益とすることを目指している。なお、当初はレポート機能も無償で提供される予定だ。

開発中の「ManaCam」プロトタイプ

AIカメラ導入はこれまで、大規模の企業や行政機関など、ある程度予算を持つ機関に限られてきた。FutuRocketが目指すのは、「誰でもリアルの世界で、手軽に利用者数の集計ができる」ようにすること。デジタルでは、小さなEC事業者でもページビュー分析などが当たり前になってきているが、これをリアルな空間に持ち込もうという試みだ。

ManaCamは、小売店などスモールビジネス事業者による来店者数把握のほか、コワーキングスペースやオフィスの会議室、イベントスペース、展示会のブースなどでの来場者数把握といった利用が想定されている。

CESでの展示の後、1月下旬から、FutuRocket社が採択されたYOXO Accelerator(よくぞアクセラレーター)プログラムにより横浜市でManaCamの実証実験が行われる。また渋谷区のコミュニティスペースEdgeOfでも実証実験を行うということだ。

FutuRocket創業者でCEOの美谷広海氏は、ものづくりスタートアップとして尖ったプロダクトを生み続けてきたCerevoで、2015年1月からSenior VP、Global Sales & Marketing担当を務めていた。FutuRocketは2017年8月の設立だ。

FutuRocketでは、ManaCamのほか、トイレットペーパーの残量がモニタリングできるスマートIoTトイレットペーパーホルダー「KamiR(カミアール)」などのプロダクトも開発されている。KamiRは、北九州でIoTアクセラレータプログラムにTOTO社によって採択されたことをきっかけに開発されたプロダクト。こちらも神戸市のスタートアップ提案型実証実験事業「Urban Innovation KOBE『+P』」に採択され、1月下旬から神戸市で実証実験が行われることになっている。

スマートIoTトイレットペーパーホルダー「KamiR」

AI OCR技術開発のAI insideが東証マザーズ上場、公開価格3600円で初値は1万2600円

文字認識(光学式文字読み取り)のAIを開発しているAI insideは12月25日、東証マザーズ市場に上場した。主幹事証券会社は野村証券で、発行済み354万株、公募30万株、売り出し20万株、オーバーアロットメント7万5000株。オーバーアロットメントとは、当初の募集・売出予定株数を超える需要があった場合に実施される株式の販売方法。主幹事証券会社が対象会社の株主から一時的に株式を借り、売出予定株数を超える株式を、募集・売出しと同じ条件で追加販売すること。

同社株の公開価格3600円。売り買いのバランスが取れずに上場日の12月25日には値が付かなかったが、12月26日の10時37分ごろに公開価格より9000円高い1万2600円を付けた。12月26日10時50分時点の最高値は10時49分に付けた1万4600円で、時価総額は492億7700万円。現在、株価は1万4300円前後で推移している。スタートアップのIPOとしては久しぶりの大幅な値上がりだ。なお上場によって調達した資金は、サーバー購入費、サーバー維持関連費のほか、人材採用などに使われる予定だ。

AI insideは、2015年8月設立のスタートアップ。手書き文字認識率99.91%のAI-OCRのサービス「DX Suite」を提供しており、アクティブな法人ユーザーは400社。金融機関やクレジットカード会社、通信会社、印刷会社など幅広い業種で導入されている。

同社の主な既存株主の比率は、AI insideの代表取締役社長でCEOの渡久地択氏が56.77%、アクサ生命保険が7.10%、東京大学エッジキャピタル(UTEC4号投資事業有限責任組合)が6.27%、レオパレス21が5.68%、AI inside取締役会長の中沖勝明氏が4.20%、日本郵政キャピタルが4.17%。

直近の業績は、2019年3月を決算期とする2018年度(2017年4月〜2018年3月)は、売上高2億7900万円、営業損失3億1100万円、経常損失3億1100万円 、当期純損失は3億4000万円。2019年度(2018年4月〜2019年3月)は、売上高4億4500万円、営業損失1億8100万円、経常損失1億8200万円 、当期純損失は1億8300万円。2020年度(2019年4月〜2020年3月)の予想は、売上高13億3500万円、営業利益2億1100万円、経常利益1億9300万円、当時純利益1億7500万円。

関連記事:手書き文字認識率99.91%のAI-OCRで紙業務を効率化するAI insideが5.3億円を調達

2020年はAI利用の対話型音声広告がブレーク、Instreamaticに注目

テクノロジー界ではAlexaとGoogle Homeデバイスが登場して音声時代が本格的にスタートしたと見られている。2020年には検索の半分がスマートアシスタントなどを利用した音声になると推定されている。若い世代ほど音声検索を使う、ある調査ではティーンエージャーの55%が毎日音声検索を利用していることを考えればこのトレンドは進行する一方だ。

TechchCrunchでは2年前に「2022年までに米国だけでもスマートアシスタントの普及は世帯の55%に達する」というレポートを紹介した。このことは音声によるオンラインショッピングのマーケットの爆発的に成長することを意味している。音声アシスタントとスマートスピーカーの普及は向こう数年で音声経由の消費額を20倍にすると予測されている。スマートデバイスは家庭だけでなく自動車にも搭載されるようになると見られており、これがさらに追い風になるだろう。

音楽からドラマ、映画、ポッドキャストまでデジタル・メディア全体がストリーミング化していることもあり、 オーディオは巨大なブルーオーシャンだ。しかしブランドはこのトレンドに追いつくために苦闘している。それはオーディオで収益化する方法を発見するのが困難なためだ。

こうした中、東欧の音楽ストリーミングのパイオニアであるZvukの共同創業者の1人は、世界中の音楽ストリーミングサービスがどれひとつとして黒字化を達成できていないことに着目した。ユーザーが有料のサブスクリプションへ移行する率は低すぎ、広告主もストリーミングのユーザー体験を悪化させ、現実の購入行動に結びつけるのが難しい音声広告にさほど期待していないからだ。

そこで元Zvukのチームは米国サンフランシスコでInstreamatic(インストリーマティック)をスタートさせた。このスタートアップはスユーザーがトリーミングに挿入される音声広告と音声で会話できる機能を提供する。AIを利用した音声レスポンス機能により音声広告がおなじみのAlexaのように反応するようになるのだ。

 

これまでの音声広告は、伝統的なテレビ、ラジオのCMと同様、一方通行でありデジタル化のメリットが生かせていなかった。しかし双方向AI広告によって消費者と自然に対話できるようになれば効果は大きいだろう。Instreamaticのようなテクノロジーを利用するブランド、パブリッシャーはユーザーの行動履歴から推測して関連性が高いと思われる音声広告を挿入し、エンゲージメントの内容を処理、分析することができる。

またユーザーからの反応を受け取ることができるため、ブランドの広告戦略のオプションが増える。たとえばユーザーが広告に対して「興味ない。この広告は聞きたくない」などのネガティブな反応を返してきたとき、ブランドはこのユーザーに対する広告挿入を一切ストップすることもできるし、コミュニケーション戦略を変更してまったく新しい広告、ないし別製品の広告を挿入してみることもできる。Instreamaticはユーザーの反応を理解し、その後の広告を事前に検討されたシナリオに沿ってカスタマイズすることが可能だ。

スマート音声広告のライバル、AdsWizzはユーザーが挿入された音声広告に興味を持った場合、スマートフォンを振って意思を伝えることができる。最近の調査によると、この場合の反応率は3.95%だった。

これに対してInstreamaticの音声対話方式は興味ない広告をスキップさせ、興味ある広告には詳細を尋ねるなどより自然なユーザー体験を与えることができる。調査によれば13.2%という高いエンゲージメント率を得られたという。

ビジネスモデルとしては、音声広告から売上が発生した場合、広告主はパブリッシャーに対して一定のコミッションを支払うというものだ。Instreamaticはパブリッシャーから売上に比例するライセンス料を得る。

Instreamaticは、現在インド最大の音楽ストリーミング・サービスであるGaanaとパートナー契約を結んでいる。GaanaはInstreamaticのテクノロジーをプラットフォームの一部に組み込む予定だ。Instreamaticは米国のオーディオストリーミングプラットフォームのTriton Digitalとも契約している。Instreamaticは今後、PandoraJacapps、 Airkast、SurferNETWORKなどのストリーミングサービス各社にテクノロジーを提供していく。

パートナーを通じて、同社は米国に1億2000万人、ヨーロッパに3000万人、アジアに1億5000万人のアクティブユーザーを持つという。

Instreamaticは現在サンフランシスコとロンドンにオフィスがあり、モスクワにエンジニアリング・チームを置いている。CEOで共同創業者のStas Tushinskiy(スタス・ツシンスキー)氏はInstreamaticを開設するために米国に移ってくる以前、ロシアにおけるデジタル音声広告のパイオニアだった。同社の共同創業者で国際ビジネス開発の責任者であるSimon Dunlop(サイモン・ダンロップ)氏は、Bookmateと呼ばれるサブスクリプションベースの読書プラットフォームの創業者であり Zvukの共同創業者でもある。

画像:Getty Images

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(翻訳:滑川海彦@Facebook