世界中どこでも10cm単位の精度で正確な位置情報を提供するPoint One Navigationの技術

現在販売されている新型車で通勤している人なら、いわゆる「ピンポン現象」というものを経験したことがあるかもしれない。これは先進運転支援システムを搭載したクルマが、車線の中央を維持することができず、その位置を見つけるまで何度も往復してしまう現象だ。

この問題は、クルマが本来いるはずの場所にいない場合に発生する。Point One Navigation(ポイント・ワン・ナビゲーション)は、2016年にこのような問題を解決する技術を発表して注目を浴びた。サンフランシスコを拠点とするこのスタートアップ企業は、都市部のエアタクシーやドローンから、ADAS搭載車や自動運転車、さらにはスクーターや農機具まで、移動するあらゆる車両 / 機体に適用可能な、正確な位置情報を得るためのAPIを開発した。

「位置把握は、ロボット工学において解決しなければならない柱の1つです」と、CEO兼共同設立者のAaron Nathan(アーロン・ネイサン)氏は、最近のインタビューで語っている。「畑で雑草を刈り取るロボットを作ろうとしている企業でも、高速道路を走る自動運転車を作ろうとしている企業でも、エンジニアたちのチームは、それがどこにいるのかを把握するために苦心しています。ならば、我々がこの問題を解決し、すべてのユースケースに全般的に対応できるようにすれば、私たちの顧客はアプリケーションに集中できるようになるのではないか、と私たちは考えました」。

具体的には、Point Oneの技術は拡張された全地球航法衛星システム(GNSS)、コンピュータービジョン、センサーフュージョンをAPIに統合したものだ。これはつまり、ドローン製造会社やロボット工学スタートアップ企業、トラック運送会社などが、APIを通じて自社の車両や機体がどこにいるのかを、10cm単位で知ることができるということだ。Point Oneは10月に開催された自動運転車のイベントで、サンダーヒル・レースウェイ・パークのコースを逆走する自律走行車を使って、その技術を披露した。

2020年に出荷が始まった同社の製品は、交通機関だけでなく、家電製品などの他の産業にも、幅広く応用できると見た多くの投資家から注目を集めている。Point Oneは最近、UP.Partners(UPパートナーズ)が主導したシリーズAラウンドで、1000万ドル(約11億3000万円)の資金を調達した。このラウンドには、BOLT(ボルト)、IA Ventures(IAベンチャーズ)、Ludlow Ventures(ラドロー・ベンチャーズ)などの既存投資家も参加した。

既存のテクノロジーにも、ネイサン氏の表現によれば「部分的な位置情報サービス」を提供するものはある。それは広大な農地でロボットがいる場所を教えてくれるかもしれないが、ある地域では使えても他の地域では使えないかもしれない。Point Oneは、世界のどこでも、10cm単位の精度で顧客に位置情報を提供することができる。

約1年前に出荷が始まったPoint Oneの製品は現在、名前が明かされていない2つの自動車メーカーで量産されている。このような自動車向けアプリケーションでは、最近の新型車にはすでに必要なハードウェアが搭載されているため、Point Oneはこの技術をソフトウェア製品として展開することができる。他の顧客、例えばスクーター会社などでは、車両にチップセットを搭載する必要があるかもしれない。

Point Oneは当初、レベル2の先進運転支援システムに適用するなど、自動車分野に集中していた。20名の従業員を抱えるようになった現在、同社はマイクロモビリティをはじめとする新しい分野への拡大に力を入れている。農業分野の顧客とも生産契約を結んでおり「スマートな」トラクターや、ドローン配送の分野にも取り組んでいる。

同社はまた、ネイサン氏が「エマージングデベロッパー」と呼ぶ、まだ完全には開発されていない製品に携わる人々もターゲットにしている。

「問題は、これらの市場に迅速に拡大していくためには、どうすればよいかということです。Point Oneがこの問題を解決することができる、だから自分たちで無理なことをやらなくても済むのだと、皆に気づいてもらわなければなりません」と、ネイサン氏は語る。

画像クレジット:Point One Navigation

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(文:Kirsten Korosec、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

サイバーエージェントAI Lab・大阪大学・東急ハンズが操作者4名ロボット20体による自律・遠隔ハイブリット接客の実証実験

サイバーエージェントAI Lab・大阪大学・東急ハンズが操作者4名・ロボット20体による自律・遠隔ハイブリット接客の実証実験サイバーエージェントは11月4日、同社研究開発組織AI Lab、大阪大学大学院基礎工学研究科東急ハンズと共同で、東急ハンズ心斎橋店(大阪市中央区)にて、操作者4名が遠隔対話ロボット20体による接客を行い、店舗における顧客満足度を向上できるかを検証すると発表した。実証実験は、2021年11月18日から11月29日まで行われる。調査結果については、2022年2月以降に発表の場を設ける予定。

これは、内閣府が主導するムーンショット型研究開発事業の一環である「ロボットによる次世代サービスの実現」をテーマにした実証プロジェクトの第3弾。第1弾と第2弾では、市役所でのコミュニケーション活性や空港での顧客体験創出の検証を行っており、今回は東急ハンズ心斎橋店において、遠隔対話ロボットによる「多接点での迅速な質問対応」「きっかけの提供」が、顧客の満足度や新しい体験価値につながるかどうかが検証される。つまり、「商品の場所がわからない」とか「おすすめの商品を知りたい」といった顧客の「困った!」に迅速に対応できるかが調査される。

具体的な調査内容は次の4つ。

  1. 複数体のロボットを4人のオペレーターが操作することで、顧客に対し迅速な質問対応ときっかけの提供をどれだけ遂行できるか
  2. 複数体のロボットを4人のオペレーターが操作することで、顧客の満足度を高めることができるか
  3. 東急ハンズのスタッフではないオペレーター4人によるロボット接客が、東急ハンズの熟練スタッフに比べてどの程度パフォーマンスを発揮できるか
  4. 複数体のロボットを4人のオペレーターが操作する際に生じる利点や課題

自動化農業Iron Oxが従来の温室で使える移動・モニタリングロボットを発表

米国時間11月2日、Iron Oxはハウス栽培をアシストする移動式ロボットGroveを発表した。同社はベイエリアの屋内農業のアグリテック企業だが、この移動ロボットは最大450kgの荷物を持ち上げて運ぶことができるという。

Iron Oxでの主な積み荷は、180cm四方の屋内水耕栽培用のモジュールだ。そのモジュールをマシンのところに持って行き成長をチェックし、さらに、その他のケアや収穫の工程へ運ぶ。システムはLiDAR(ライダー)を搭載し、前方用と上方用のカメラが栽培スペースを上手にナビゲートする。

CEOのBrandon Alexander(ブランドン・アレクサンダー)氏は、プレスリリースで次のように述べている。「私たちはテクノロジーを利用して土地と水とエネルギーの使用量を減らし、増加する未来の人口を養おうとしています。短期的な目標は、農業系に対する気候変動の影響を抑えることです。そのための努力は、地球上の農産物生産部門がカーボンネガティブになるまで続けます」。

このロボットは、屋内農業への関心が高まり、スタートアップたちがもっと持続可能な方法で爆発的な人口増を養える農業を探している時期に登場した。この分野では垂直栽培が最もバズっているキーワードだが、Iron Oxのソリューションはより従来的な温室が対象となっている。ただし、最初から全面的な自動化を目指している。

カリフォルニアに本社のあるIron Oxは最近、テキサスに5万平方メートルの屋内農場を立ち上げた。2021年9月に同社は5300万ドル(約60億4000万円)のシリーズCを調達し、調達総額が9800万ドル(約111億6000万円)になっている。

画像クレジット:Iron OX

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(文:Brian Heater、翻訳:Hiroshi Iwatani)

フェイスブックの研究者がロボットに触覚を与える皮膚と指先を開発

Facebook AI Research(フェイスブックAIリサーチ)によると、次世代のロボットは「感じる」性能がより向上するという。ここでいう「感じる」とは、もちろん、感情という意味ではない。感触のことだ。AIとロボット研究においては比較的新しいこの分野を前進させるため、同社とそのパートナーは、安価で耐久性があり、信頼できる基本的な触覚を提供する新しい種類の電子皮膚と指先を、我々の機械の友人たちのために作り上げた。

なぜFacebookがロボットの皮膚を研究しているのかという疑問は、AI責任者のYann LeCun(ヤン・ルカン)氏が新しいプロジェクトを紹介するメディアコールで真っ先に取り上げたことで明らかだろう。

おもしろいことに、ルカン氏は「会社がロボット工学に取り組む理由はないようだ」とZuckerberg(ザッカーバーグ)氏が指摘したことから始まったと振り返った。ルカン氏はこれを挑戦と捉えて、ロボット工学に取り組み始めたらしい。しかし、やがて明確な答えが浮かび上がってきた。Facebookがインテリジェントなエージェントを提供するビジネスを展開するのであれば(自尊心のあるテクノロジー企業であれば、そうするのではないだろうか?)、そのエージェントは、カメラやマイクで捉えられる情報を超えた世界を認識する必要がある。

触覚は、それが猫の絵なのか犬の絵なのか、あるいは部屋の中で誰が話しているのかを判断するのにはあまり役に立たないが、ロボットやAIが現実世界と交流しようとするならば、それ以上のものが必要になる。

「私たちはピクセルや外見を認識することに関しては得意になってきました」と、FAIRの研究員であるRoberto Calandra(ロベルト・カランドラ)氏はいう。「しかし、世界を認識するには、それだけでは不十分です。そのためには物体を物理的に認識できるようになる必要があります」。

カメラやマイクは安価で、そのデータを効率的に処理するツールもたくさんあるが、触覚に関しては同じようなわけにはいかない。高度な圧力センサーは一般消費者向けには普及していないため、有用なものは研究室や業務用に留まっている。

2020年にオープンソースとして公開されたDIGIT(ディジット)は、パッドに向けられた小さなカメラを使って、タッチしているアイテムの詳細な画像を生成する。トップ画像はこの「指先」自体が写っているが、これは非常に敏感で、下の画像で見られるように、さまざまな物に触れて詳細なマップを作成することができる。

画像クレジット:Facebook

この「ReSkin(リスキン)」プロジェクトの起源は2009年にさかのぼる。TechCrunchでは、2014年に「GelSight(ゲルサイト)」と呼ばれるMITのプロジェクトについて紹介し、2020年にも再び記事にした。この会社はスピンアウトし、現在は我々が記事で紹介したこの触覚アプローチにおける製造パートナーとなっている。基本的にその仕組みは、柔らかいゲル表面に磁性粒子を浮遊させ、その下にある磁力計で粒子の変位を感知し、その動きを引き起こしている圧力の正確なフォースマップにこれを変換するというものだ。

GelSightタイプのシステムの利点は、磁力計が組み込まれたチップやロジックボードなどのハードな部分と、磁気粒子を埋め込んだ柔軟なパッドであるソフトな部分が、完全に分離されていることである。つまり、表面は汚れたり傷ついたりしても簡単に交換でき、繊細な部分はその下に安全に隠しておくことができるというわけだ。

ReSkinの場合は、任意の形状にチップを多数接続し、その上に磁性エラストマーの板を敷き、各々の信号を統合することで、全体から触覚情報を得ることができるというものだ。較正が必要なので、それほど単純というわけではないが、数平方インチというスケールを超えて動作を可能にする他の人工皮膚システムに比べれば、はるかに単純とも言える。

下の画像のように、小さな犬用の靴に組み込むこともできる。

足に圧力を感知するパッドを付けた犬と、そこら読み取った数値のアニメーション画像(画像クレジット:Facebook)

このような感圧面を備えていれば、ロボットなどの機器は、物体や障害物の存在をより簡単に感知することができる。その際、例えば、その方向に力を加える関節の摩擦の増加に頼る必要はない。これによって介護ロボットは、より優しく敏感に触覚を検知できるようになる可能性がある。介護ロボットが普及していない理由の1つは、触覚を検知できないため、人やモノを押しつぶすことが絶対にないと信頼できないからだ。

この分野におけるFacebookの仕事は、新しいアイデアではなく、効果的なアプローチをより使いやすく、手頃な価格で提供することである。ソフトウェアのフレームワークは公開されており、デバイスもかなり安価に購入できるものばかりなので、他の研究者もこの分野に参入しやすくなるだろう。

画像クレジット:Facebook

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

東京の宇宙ベンチャーGITAIが国際宇宙ステーション内で自律型ロボットアームの技術実証に成功

東京の宇宙ベンチャー企業であるGITAI Japan(ギタイジャパン)は、日本時間の2021年10月13日から10月17日にかけて、国際宇宙ステーション(ISS)内で行われた自律型ロボットアームの技術実証に成功した。これは、同社が宇宙でサービスとしてのロボット技術を提供する準備に向けた重要なマイルストーンとなる。

「GITAI宇宙用自律ロボットS1」と呼ばれるこのロボットアームは今回、ケーブルやスイッチの操作と、構造物やパネルの組み立てという2つの作業を行った。これらの作業は、一般的にクルーが行う作業だが、宇宙におけるさまざまな活動で汎用的に使用することができる。今回の実証が成功したことで、NASAはGITAIロボットの「技術成熟度(Technology readiness levels、TRL)」をTRL7に引き上げた。TRLは全部で9段階まであり、GITAIがロボットを商業化するには、すべてのTRLを満たすことが重要になる。

この技術実証は、宇宙企業であるNanoracks(ナノラックス)の「Bishop(ビショップ)」エアロック内で行われた。Bishopエアロックは、ステーションの外装に取り付けられた世界初(かつ唯一)の商用エアロック・モジュールだ。Nanoracksは今回、打ち上げ機会の提供、軌道上での運用管理、データのダウンリンクも担当。同社は先週、Voyager Space(ボイジャー・スペース)およびLockheed Martin(ロッキード・マーティン)と共同で完全民間の商業宇宙ステーションを起ち上げる計画を発表している。

関連記事:民間宇宙ステーション「Starlab」は地球低軌道経済の到来を予感させる

GITAI宇宙用自律ロボットS1は、8月末に実施された23回目の商業補給サービスミッションで、SpaceX(スペースX)の「Cargo Dragon(カーゴ・ドラゴン)」カプセルに搭載されて軌道へ輸送された。日本のスタートアップ企業であるGITAIは、軌道上での宇宙船の整備や建設・製造作業など、宇宙における一般的な作業を行うためのロボットを開発している。次のステップは、ISSの外で、GITAIロボットの試験を行うことだ。

「今回の実証の成功は、GITAIロボットが、汎用性があり、器用で、比較的安全(人間の生命を脅かすリスクが少ない)で、安価な労働力を求める宇宙機関や商業宇宙企業のソリューションになり得ることを証明するものです」と、NASAは技術実証の最新情報を更新し「このオプションの提供は、宇宙の商業化という目標達成を促進させることになります」と述べている。

しかし、GITAIは単にロボットアームを作ることだけを目指しているわけではない。同社の長期的なビジョンでは、ロボットは月や火星の表面にスペースコロニーを建設するための重要なツールになると考えている。このようなロボットによる労働力は、地球外の環境で人間が生存できるようになるのを加速させるために役立つ可能性が高い。2021年3月、同社は総額18億円のシリーズB資金調達を完了し、2023年に予定されている軌道上船外技術実証に向け、人件費と開発費に投じている。

先週行われた技術実証の映像はこちら

画像クレジット:Gitai

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

スイッチエデュケーションが佼成学園と高校「情報Ⅰ」向けmicro:bit用教材を開発、2022年3月販売へ

スイッチエデュケーションが佼成学園と高校「情報Ⅰ」向けmicro:bit用教材を開発、2022年3月販売へ

スイッチサイエンスの子会社として科学技術分野の教育・教材開発・販売・出版などを行うスイッチエデュケーションは10月21日、教育向けマイコンボード「micro:bit」(マイクロビット)を使った車型ロボット教材を、佼成学園と共同で開発していることを発表した。佼成学園の「情報の科学」授業に試験的に導入し、教材の最終調整を行った後、高校での「情報」必修化に合わせ、2022年3月中の発売を目指している。

同製品は、micro:bitを搭載した車型のロボットで、高校の「情報Ⅰ」の学習に対応している。別売りのセンサーやサーボモーターなどのオプションパーツが追加可能。授業で使える説明書が付属する。暫定価格は税込4980円(micro:bitは別売)。

佼成学園では、これを使って以下のカリキュラムを実施している。

佼成学園で導入中のカリキュラム

  • 題材として、飲食店で今後普及するであろう「配膳ロボット」を設定
  • 配膳システムに必要な機能(店内を周回する、指定されたテーブルにモノを運ぶなど)を課題として設定
  • 実際にレストランのミニチュア模型内で動かし、設計した通りに動作するか確認する
  • 課題を1つずつクリアしていくことによりプログラミング的思考を身に着ける
  • micro:bitのプログラミングにはMicroPython(Python 3の一種)を利用

上の動画では、オプションパーツのラインセンサーとサーボモーターを使用している。下の写真はラインセンサーとサーボモーターを装備したもの。

完全自動運転、フライングカー、ロボットポニー。XPeng 2021 Tech Dayトップハイライト

中国のスマート電気自動車メーカーであるXPeng(小鵬汽車、シャオペン)は、未来のモビリティエコシステムの構築を見据えた一連のイノベーションを発表した。

XPengの会長でCEOのHe Xiaopeng(小鵬何、シャオペン・フー)氏は、中国時間10月24日(日曜日)に北京で開催された2021 Tech Dayにおいて「より効率的で安全、かつカーボンニュートラルなモビリティソリューションの探求は、スマートEVをはるかに越えて、当社の長期的な競争優位性の礎となります」と述べた。「お客さまのために、最先端のモビリティ技術を量産モデルに搭載することを目指しています」。

シャオペン氏は、同社の先進運転支援システム(ADAS)の最新バージョン 、スーパーチャージャー・ネットワーク 、HT Aero(HTエアロ)との共同開発による次世代飛行自動車、そして 子ども用ロボットポニーについて詳しく説明した。

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街乗り用にデザインされるXpilot 3.5

「シティ・ナビゲーション・ガイデッド・パイロット(NGP)」を搭載するXpilot 3.5

XPengは、2022年前半に一部の都市で次世代ADASをドライバーに提供する予定だ。Xpilot 3.5は「シティ・ナビゲーション・ガイデッド・パイロット(NGP)」を搭載するが、XpengのP5ファミリーセダンのみで利用できる予定だ。P5ファミリーセダンには、都市レベルのNGPには必須の、LiDAR(ライダー)、ミリ波レーダー、複数のターゲットを認識・分類・位置付けできる3D視覚認識ネットワークが搭載される。

これに対して、XpengのP7セダンのドライバーに提供されたXpilotの現行バージョンである3.0は、高速道路レベルのNGPに対応し、Xpengは距離にして約1200万キロメートル分のデータを収集している。

Xpilot 3.5には、高度な予測機能を備えた戦略的プランニングモジュールが搭載され、ルール駆動型とデータ駆動型のAIを組み合わせて、静止物や路上の弱者の回避、任意の速度での車線変更などの、都市型シナリオに対応できるという。

XPengの完全自動運転へのアプローチは、Tesla(テスラ)と同様にレベル2の自動運転(ADASシステム)を経て、レベル5に到達することを目指している(SAE International[米国自動車技術者協会]は、レベル2の自動運転を、アダプティブ・クルーズ・コントロールやブレーキ・サポートなどのサポート機能を中心としたものとしている。そしてレベル5の自動運転とは、あらゆる状況下でどこでも運転ができるシステムと説明されている)。テスラは2021年9月、顧客がFSDベータ(Full Self-Driving Beta)ソフトウェアの利用を要求できるソフトウェアアップデートをリリースした。FSDには、自動車線変更、駐車場への進入・退出、オートステアリングなどの機能が含まれているものの、現在のところ街中ではまだ利用できない。テスラは、この機能をいつ都市で使えるようにするかについては明らかにしていない。同機能は視覚とニューラルネットワーク処理のみを利用する

XPengの自動運転担当副社長であるXinzhou Wu(吳新宙、ウー・シンジョウ)氏は、イベントの中で「人間と機械の共同運転機能は、当面の間、重要なものであり続けるでしょう」と述べた。「私たちの 使命は、高度な運転支援から完全な自動運転へと段階的に移行することであり、まずすべての運転シナリオを完全に洗い出すという明確なロードマップを持っています。クローズドループでのデータ操作、ソフトウェアの反復開発、量産性など、すべてを自社で開発していることで、私たちは安全性を大幅に向上し、業界のロングテール問題を解決するための最先端を走ることができているのです」。

テスラがFSDソフトウェアを有料化したように、XPengもXpilotを有料化した。XPengはバージョン3.5の価格を明らかにしなかったが、XPengの広報担当者は、バージョン3.0は現在2万人民元(約35万5400円)で買い切るか、または年間サブスクリプションで支払うことができるとTechCrunchに語った。

関連記事:Tesla sues former employees, Zoox for alleged trade secret theft

Xpilot 4.0でフルシナリオのポイントツーポイントADASを実現

XPengが2023年前半に展開を予定しているXpilot 4.0は、完全な自律性を目指すレースでの優位をもたらすことになるだろう。この計画でXPengは、クルマを起動してから駐車するまで、ならびにその間のすべての場面のフルシナリオの、アシスト付きスマートドライビング体験を提供する最初の企業となることを目指していいる。

このバージョンのXpilotは多大な計算能力を必要とするため、XPengはバージョン4.0のためのハードウェア・アップグレードを開発している。同社はその声明の中で「508 TOPS ECUの計算能力を、2つのOrin-X自動運転システム・オン・ザ・チップ(SOC)ユニットでサポートしています。800万画素のフロントビュー双眼カメラと290万画素のサイドビューカメラ(これらで前後左右をカバー)、そして高度に統合された拡張可能なドメインコントローラーを搭載しています」と述べている。

XPengは、Xpilot 4.0の市場投入準備を行う中で来年末までに、高速道路でのNGP走行距離7500万マイル分、市街地でのNGP走行距離2200万マイル分のデータ収集、さらに自動駐車機能であるValet Parking Assist(VPA)の普及率90%を目指している。

XPengはまた、これらのADASを量産する際の安全性の重要性を強調し、スマートドライビングはその1つの側面に過ぎないとした。スタートアップは、ユーザーインターフェイスとオペレーティングシステムのアップグレードを発表した。Xmart OS 4.0は、車の周囲の環境を3Dで表現し、詳細な表示を行うことを約束した。XPengは、ドライバーがよりスムーズに運転できるように、独自の音声アシスタントのバージョン2.0も提供しようとしている。

最後に、テスラがFSDベータ版ソフトウェアをテストしたいドライバーのために安全性スコアを公開すると同時に、新しい保険のために大量のデータを取得したように、XPengはXpilotを起動する前にドライバーがXpilotの限界を理解できるようにするための安全性テストを公開している。ドライバーにはスマートドライビングスコアが表示されるが、XPengはその正確な提供時期を明らかにしていない。

5分で最大200kmの走行が可能になるスーパーチャージャー

もしXPengが未来のスマートモビリティーのエコシステムを作りたいのであれば、そのための電力が必要だ。XPengは、すでに中国全土で1648カ所の無料充電ステーションと439カ所のブランド充電ステーションを展開しているが、今回のTech Dayでは、800Vの高電圧を持つシリコンカーバイド製の量産型充電プラットフォームをベースにした次世代の「X-Power」スーパーチャージャーを生産する計画を明らかにした。

X-Powerチャージャーは、わずか5分でEVが200kmまで走行できるだけの電力を供給することができ、1台のスーパーチャージャーで平均30台の車両を同時に充電することができるとXPengはいう。またXPengは、軽量の480kWの高電圧スーパーチャージャーバッテリーを導入する予定だ。このバッテリーは車両と一緒に納品されるためオーナーは初回の充電にそれを使うことができる。このスーパーチャージングネットワークをサポートするために、XPengは電池と移動式車両の形の充電設備を立ち上げるという。

XPengは、この新しい充電技術がいつ市場に出るかについては明言していない。

地上走行もできるフライングカー

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XPengはこのイベントで、世界トップの、低高度有人フライングカーメーカーになるという新たな目標を明らかにした。そして、第6世代のフライングカーの計画を発表した。しかし、これはただのフライングカーではない。路上も走行できるようになるのだ。

イベント中に上映されたビデオでは、Xpeng P7よりもさらにセクシーなクルマが、折り畳み式のローター機構によって普通の車からフライングカーに変身するという映像が示されていた。XPengによれば、この低高度フライングカーの重量はP7の50%になり、道路走行用のステアリングホイールと飛行モード用のシングルレバーを備えているという。

また、この新型フライングカーには、周囲の環境や天候を十分に評価し、離陸前に安全性の評価を行うことができる高度な環境認識システムが搭載されるという。システムは収集したデータを運行目的に照らし合わせて評価し、安全な離着陸を確保し、飛行中は高度な知覚と飛行制御アルゴリズムを用いて障害物を回避する。

XPengの関連会社であるアーバンエアモビリティ(UAM、都市型飛行移動)企業のHT Aeroが開発しているこの新しい装置は、早ければ2024年には量産が開始される予定だ。最終的なデザインは来年中に決定される予定だが、シャオペン氏によれば100万人民元(約1780万円)以下のコストを目指しているという。

先週XPengは、HT Aeroの5億ドル(約567億8000万円)のシリーズA資金調達を主導した。HT AeroはXPengのために他のUAM機も製造しており、直近ではXPengの第5世代のフライングカーである2人乗りのXPeng X2を製造している。XPengの広報担当者がTechCrunchに語ったところによれば、第6世代のフライングカーはX2同様の、たとえばオフィスから空港への移動などの、飛行時間が30分以内の都市部での利用が想定されているという。XPengの狙いは消費者に直接販売することで、低高度飛行規制がどのように変化して、そのかなり早い市場投入戦略に対応するのかが注目される。同社は、2024年までに民間用のフライングカーを量産するために、規制当局とどのように協力していくかについては、詳しく述べていない。

ロボットポニーに乗ってスマートモビリティへの道へ

XPengは2021年9月、子どもが乗って遊ぶことのできるポニー(子馬)型ロボットを発表した。人間の感情を察知することができる明敏な四足動物となることが理想だ。XPengはTech Dayにおいて、このポニーのようなスマートロボットが、自動車よりもはるかに複雑な自律性の課題に対応できる、統合スマートモビリティシステムのインテリジェントなプラットフォームになると考えていることを詳しく説明した。

Xpengのロボットポニーにおやつを積み込む女性。Xpengの2021年Tech Dayで発表されたビデオより

そして、それは子どもだけのものではない。XPengはプレゼンテーションの中で、このかわいいポニーのロボットが、オフィスでスナックやその他の小包を配達するのに使えることを示すビデオを上映した(そして同じビデオの中で、XPengは同じ仮想オフィスの中をうろうろしている別のロボットをからかい気味に描いていた。それはXiaomの不気味なロボット犬にどことなく似ていた)。

このロボットは、多様な環境と複数のターゲットを認識するように訓練され、3Dでルートプランニングを行い、顔、体、声紋によってユーザーを認識することができるようになるとXPengはいう。また、動的音響マッピング、バイオニック聴覚、バイオニック嗅覚、さらには足裏や指紋によるタッチや皮膚のセンシングによるバイオニック触覚体験などの技術を実験している、XPengのロボットは、360度カメラモジュールとLiDARセンシングシステムに加えて、物体認識と音場認識技術を備えており、やり取りする環境の最も正確なモデルを得ることができる。

XPengの広報担当者がTechCrunchに語ったところによると、このロボットポニーの市場投入までのスケジュールはまだ決まっていないものの、開発段階のプロトタイプはあるという。

声明の中で同社は「より高度なターゲット認識と環境との正確なインタラクション、より複雑な地形での移動を可能にする3Dルートプランニング、そして強化されたバイオニックな感覚を利用することで、XPengはスマートモビリティの未来のために、より広いモビリティ、より高度な自律的プランニング、そしてより強力なマンマシンインタラクションをサポートする、より大きなアプリケーションシナリオを実現します」という。

画像クレジット:Xpeng

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:sako)

ソシオネクストが深層学習を用いたSLAM処理を大幅に高速化、画像認識による自律制御がエッジ機器でも可能に

ソシオネクストが深層学習を用いたSLAM処理を大幅に高速化、画像認識による自律制御がエッジ機器でも可能に

SoC(システム・オン・チップ)の設計開発を行うソシオネクストは10月12日、自動運転車やロボットなど自律制御を行う装置に欠かせないSLAM(自己位置推定と環境地図作成を同時に行う)処理に必要な時間を、従来技術の約1/60に短縮できる手法を開発したことを発表した。これは、東北大学大学院情報科学研究科システム情報科学専攻、岡谷貴之教授の研究ブループとの共同研究によるもの。

SLAMは、自動車などではLiDAR(ライダー:レーザーで画像検出と測距を行うシステム)を用いたものと、カメラ映像で行うVisual SLAMとに大別される。Visual SLAMは、安価なカメラで行えることと、画像処理技術が発達したことから応用が広がっている。さらに深層学習を使った画像認識技術の発展もこれを手伝っている。

しかし、深層学習による画像処理では、画像から抽出された3次元点群と観測データをすり合わせて画像の正確な3次元復元を行うバンドル調整(BA。Bundle Adjustment)という、膨大な計算処理が必要となる。そのため、エッジ機器のようなCPU処理能力に制約のある環境では、Visual SLAMは難しかった。

そこでソシオネクストの研究チームは、「グラフネットワーク(Graph Network。GN)を用いた推論による近似計算手法」を提案。これにより従来方式(g2o)と比較して「計算量を抑えた推論処理」が可能となり、処理時間は1/60となった。

ソシオネクストが深層学習を用いたSLAM処理を大幅に高速化、画像認識による自律制御がエッジ機器でも可能に

計算量が減ったことで、CPUの負担や、それにともなうシステムの消費電力も抑えられる。そのため小さなエッジ機器でも高度なVisual SLAM処理が可能となり、応用の範囲が大きく広がる。ソシオネクストでは、この新しい推論手法による処理効率の向上を、画像認識以外の新しい顧客アプリケーションへの応用も検討すると話している。

さつまいも「紅天使」のポテトかいつかの選別ラインで活躍、ロビットのAI外観検査ソリューションTES RAY for food & agri

ロビットのAI外観検査ソリューションTES RAY for food & agriがさつまいも専門大手ポテトかいつか選別ラインで本格稼働

ロボット・精密機器・ソフトウェアの開発販売を行うロビットは10月12日、AI外観検査ソリューション「TESRAY for food & agri」が、さつまいも専門大手「ポテトかいつか」に導入され、選別ラインで本格稼働を開始したことを発表した。

AI外観検査ソリューション「TESRAY」は、独自のハードウェア技術とAI技術を活用した画像処理アルゴリズムにより、外観検査を自動化するシステム。製造業をはじめ、幅広い産業に対応できるほか、食品や農作物分野への導入も拡大している。食品分野の選別工程に必要となるAI・撮像・ロボティクスといった技術を自社ですべて保有しており、「高精度の異常検出を瞬時に行い、インラインで全数検査を実現」できるという。

ポテトかいつかは、オリジナルブランド芋の「紅天使」(ベニテンシ)を生産するさつまいも専門の食品企業。約600軒の農家から仕入れたさつまいもの貯蔵・選別・加工・出荷を行っている。選別においては、さつまいもの傷、カビ、虫食いなどの外観不良の検出と、大きさや形などを加味した等級付けも行われる。外観不良の検査項目は大変に多く、これまで手作業に頼ってきたが、生産量の増加に人手が追いつかない状態が続いていた。

AIによる外観検査不検出例。左から皮むけ、くびれ、腐敗

AIによる外観検査不検出例。左から皮むけ、くびれ、腐敗

TESRAYソリューションにより、さつまいもに最適化したラインを専用設計で開発したところ、洗浄後の搬送・計量・撮像・AIによる選別判定・選別までが自動化できた。また、多面撮像機構によるさつまいもの全周囲検査、すべての外観不良項目の検査も実現された。これにより、品質の安定化に加え、従業員の負担軽減による人材の定着化も実現できたとのことだ。

さつまいも「紅天使」のポテトかいつか選別ラインで活躍、ロビットのAI外観検査ソリューションTES RAY for food & agri

TESRAYソリューションの装置画像。左はコンベアへの搬送の様子。右が装置の撮像部

さつまいも「紅天使」のポテトかいつか選別ラインで活躍、ロビットのAI外観検査ソリューションTES RAY for food & agri

画像左は選別風景と判定結果。右は多面撮像の様子

本田技研工業がeVTOL、アバターロボット、宇宙技術に向けた計画を発表

本田技研工業は9月下旬、電動垂直離着陸機(eVTOL)、二足歩行ロボット、宇宙技術などの新規事業分野におけるイノベーション計画を発表した。

本田技研工業(HMC)のイノベーション部門である株式会社本田技術研究所(Honda R&D)が中心となり「モビリティの可能性を3次元、さらには時間や空間の制約を受けない4次元、そして最終的には宇宙へと広げて、人々に新たな価値をもたらすテクノロジーへの既成概念にとらわれない研究」を行なっていくという。

まるでSF小説のような話である。こういったイノベーション計画は結局うまく行かずに終わることも多々あるが、説明会で同社は過去73年間にわたって開発し続けてきた燃焼、電動化、制御、ロボティクスなどのコア技術が、これまでのモビリティニーズと大きく異なる未来の目的に適応し、いかに進化を遂げることができるかを論証したのである。

ハイブリッドeVTOLとそれに対応するモビリティ・エコシステム

画像クレジット:本田技研工業株式会社

eVTOLとヘリコプターの違いは、前者がバッテリーからの電力で駆動する独立したモーターを持つ複数のプロペラを備えているのに対し、後者は巨大で騒がしいローターを上部に備えていることである。つまりeVTOLは通常、より安全で静か、そしてクリーンであることになる。

世界中で開発されているeVTOLのほとんどがオール電化であるのに対し、HMCは「自社の電動化技術を活用し、ガスタービンハイブリッドのパワーユニットを搭載したHonda eVTOLを開発する」ことを目標としている。この分野での技術開発を進めていくという計画意図は4月の記者会見で初めて発表されたが、その中でHMCは2050年までに製品を100%EVにするという目標も掲げている。

HMCのコーポレートコミュニケーション担当マネージャーであるMarcos Frommer(マルコス・フロマー)氏はプレスブリーフィングの中で、全電動式のeVTOLは質量あたりのバッテリー容量の関係で航続距離が非常に短いため、新型車両のほとんどのユースケースが都市間移動やシャトル便などの近距離飛行に限られると説明している。2024年までの商業化計画を発表したばかりのJoby Aviation(ジョビー・アビエーション)でさえ、これまでで最も長いeVTOLのテスト飛行は1回の充電で約150マイル(約241km)だったという。

「当社の市場調査結果によると、eVTOL機での移動における最大のニーズは、航続距離が250マイル(約402km)程度の長距離の都市間移動です」とフロマー氏。「自動車の電動化もあって、ホンダはリチウムイオン電池の研究開発に力を入れています。しかし、現在のリチウムイオン電池をベースに進歩しても、容量あたりのエネルギー密度は今後20年間で数倍程度にしかならないと予想されています。そのため、さらなる軽量化が求められる空のモビリティでは電池だけで長距離を実現するのは難しいと考えています」。

フロマー氏によると、将来的にバッテリーがさらに進化すれば、HMCはガスタービン発電機を取り外してeVTOLをオール電化にすることも可能だという。

ホンダはコアテクノロジーを活用しながら新分野へ取り組み、挑み続けている(画像クレジット:本田技研工業株式会社)

同社はeVTOLを核に、地上のモビリティ製品と連携した新しい「モビリティ・エコシステム」を構築したいと考えているという。同社の説明会ではアニメーションを使った次の例が発表された。ケープコッドに住むビジネスエグゼクティブが、1つのアプリを使ってハイブリッドeVTOLを予約。ニューヨークのオフィスまでは空路でわずか2時間の距離だ。このアプリはホンダの自律走行車に接続されており、離陸のためのモビリティーハブに向かう間には今日の天気を教えてくれるだろう。着陸すると自律走行のシャトルがビッグアップルで待機していて、オフィスに連れて行ってくれる。仕事が終わり、悠々と帰宅すれば、家族と一緒に自宅のテラスでディナーを楽しむことができるだろう。

「モデルベース・システム・エンジニアリング(MBSE)の手法を用いて、従来のものづくり企業から、システムやサービスの設計・商品化も行う新しい企業へと変革するために挑んでいます。予約システムのインフラ、航空管制、運航、自動車などの既存のモビリティー製品など、さまざまな要素からなる1つの大きなシステムを完成させてこそ、お客様に新たな価値をお届けすることができるのです。これらの要素をすべて弊社だけでまかなうことは不可能であり、多くの企業や政府機関とのコラボレーションが必要になるでしょう」とフロマー氏は話している。

HMCは2023年に試作機による技術検証を行い、2025年にハイブリッド実証機の飛行試験を行うことを予定している。商業化の判断はそれからだ。HMCがそこから進み続けることを決めた場合、2030年までに認証を取得し、その次の10年でローンチできるようにしたいと考えている。同社がTechCrunchに話してくれたところによると、商業化が実現した場合、一度に4人以上の乗客を乗せることができるeVTOLの価格は民間旅客機のビジネスクラスよりも低くなることが予想されている。

「商用化の可能性については、まだ詳細を議論中です。しかし、すべてのお客様が民間旅客機のビジネスクラスよりも安い価格で当社のeVTOL機を利用できるようになるよう努力しています」とフロマー氏は話している。2040年までにはeVTOLが日常化するとHMCは予想しており、それまでに市場規模は約2690億ドル(29兆8800億円)になると予測している。

ホンダのロボット「Asimo」で時空を超えた世界へ

ホンダのアバター・ロボット・レンダリングは、医師が遠隔で患者を助けることを可能にする(画像クレジット:本田技研工業株式会社)

ユーザーが実際にその場にいなくてもタスクを実行したり物事を体験したりできるという、第二の自分を持つことを可能にする、ホンダによるアバターロボットコンセプトの「Asimo」。ユーザーはVRヘッドセットと、手の動きを正確に反映させることができる触覚グローブを装着することで、アバターを接続して遠隔操作することができる。

「私たちはこれを、2Dや3Dのモビリティを超え、時間と空間を超越した4Dモビリティと位置づけています」とフロマー氏。

Asimoは、世界で通用するような外科医がいない発展途上国では高いニーズを得るであろう遠隔手術や、人が住めない場所や人が到達するのが困難な場所にアバター版の人間を送る宇宙探査などの用途を想定している。

「アバターロボット実現の核となるのが、弊社の強みであるロボット技術を活かして開発された多指ロボットハンドと、ホンダ独自のAI支援の遠隔操作機能です。多指ハンドを使って人間用に設計されたツールを使いこなすことができ、AIによってサポートされた直感的なユーザー操作に基づいて複雑な作業を迅速かつ正確に行うことができるアバターロボットを目指しました」と同社は話している。

トヨタ自動車にもテレプレゼンスでコントロールできる同様の二足歩行アバターロボットT-HR3があり、テスラも最近人型ロボットの計画を発表している(テスラのロボットは遠隔操作技術をベースにはしていないようだが)。もしホンダがAsimoの計画を進めるならば、操作を容易にするためにも、ロボットの学習のためにも、遠隔操作の利用は理に適っている。ロボットに動作を直接行わせるというのは、ロボットを訓練する上で最良の方法なのかもしれない。

同社は2030年代にはAsimoを実用化したいと考えており、2024年3月期末までにテストを実施したいと考えている。

宇宙技術の研究・開発を強化する

循環型の再生可能エネルギーシステム(画像クレジット:本田技研工業株式会社)

同社はさらに宇宙技術分野、特に月面開発の研究開発を加速する計画も発表した。その中で少し触れたのが、同社が以前発表した循環型再生可能エネルギーシステムだ。6月、本田技術研究所と宇宙航空研究開発機構はこのシステムの共同事業化調査を発表した。月面上の基地や惑星探査機に酸素、水素、電気を供給し、人間が長期間にわたって宇宙で生活できるようにすることを目的としたシステムについてである。このシステムは、ホンダの既存の燃料電池技術と高差圧水電解技術を活用したものだという。

同社は宇宙飛行士が宇宙に飛び出す際のリスクを最小限にするために、月面で遠隔操作のロボットを使うこと、さらには地球からバーチャルで月を探索できるようにするということも検討している。月面用ロボットには、アバターロボットで開発中の多指ハンド技術や、AI支援の遠隔操作技術に加え、ホンダが衝突被害軽減のために使用しているトルク制御技術が搭載される予定だ。

同社はまた、再利用可能なロケットの製造に向けて、流体や燃焼、誘導、制御などのコア技術を役立てたいと考えている。

「このようなロケットを使って低軌道の小型衛星を打ち上げることができれば、コネクテッドサービスをはじめとするさまざまなサービスにコア技術を進化させることが期待できます」とフロマー氏はいう。「これらのサービスはすべて、ホンダの技術と互換性を持つことになるでしょう」。

フロマー氏によると、同社はロケット製造を夢見る「若いエンジニア」たちに、2019年末に研究開発を開始する許可を与えたという。ホンダは宇宙に関するいずれの取り組みについても、それ以上の具体的な内容を明らかにしていない。

画像クレジット: Honda Motor Company

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Dragonfly)

千葉大学が制御装置のいらないロボットアーム向け無線電力伝送システムを開発

千葉大学が制御装置のいらないロボットアーム向け無線電力伝送システムを開発

千葉大学は10月5日、ロボットアーム向けの無線電力伝送システムの開発に成功したことを発表した。負荷に関わりなく一定電圧を伝送できるため、特別な制御装置を必要とせず、システムを単純化できる可能性がある。

千葉大学大学院工学研究院の関屋大雄教授国際電気通信基礎技術研究所波動工学研究所、埼玉大学の大平昌敬准教授からなる研究チームは、ロボット用の2ホップ(中継器を2つ介する)、2出力の無線電力伝送システムを開発した。無線電力伝送は、コイルを介して無線で電力を供給し、電池を充電したり、モーターやセンサーを動かしたりするもの。基本原理は、スマートフォンのワイヤレス充電と同じだ。

ロボットの関節部分にこれを使用することで、電力線がねじれたり摩耗して断線するといった心配がなくなる。特に近年は、1つの送電装置から複数の機器に電力を供給できる多出力システムや、中継器(ホップ)を介して遠くまで電力を伝送できる多ホップシステムの研究が進んでいるが、そうしたシステムの運用には、負荷に応じて出力を調整するなどの制御が必要となり、その制御用の情報も無線でやりとりすることになるため、伝送遅延などの性能低下やシステムの複雑化が問題になっている。

そこで研究チームは、制御装置を使うことなく、モーターやセンサーの負荷の変動に対して常に一定の電力を供給する「負荷非依存動作」の設計論を構築した。この設計論は、低周波数から高周波帯域に適用できるため、高い汎用性を有するという。実際に、2ホップ2出力で、6.78MHz(免許なしで利用できる高周波帯域ながら電力伝送の設計が難しいとされるISM帯に属する)の無線電力伝送システムを設計し実験を行ったところ、負荷が変わっても一定の出力を保ち、高効率を維持できることが確認された。

この研究により、負荷変動に対して制御システムが不要になる可能性が示された。設計の簡素化とコストダウンが見込まれ、無線電力伝送システムの社会実装の加速が期待される。「あらゆる制御を不要とする制御レス無線電力伝送システム実現に向けた第一歩」だと研究チームは考えているという。

この研究は、総務省の委託研究「ミリ波帯におけるロボット等のワイヤフリー化に向けた無線制御技術の研究開発」により実施された。

最大287万通りのカスタムサラダを自動供給する調理ロボをCRISPとTechMagicが共同開発、2022年7月末の店舗導入目指す

最大287万通りのカスタムサラダを自動供給する調理ロボをCRISPとTechMagicが共同開発、2022年7月末の店舗導入を目指す

カスタムサラダレストランCRISP SALAD WORKSを展開するCRISPは10月4日、食産業向けのロボットやソフトウェアを提供するTechMagicと共同で、最大287万通りのカスタムサラダを作る調理ロボットの開発と実装を目指した契約の締結を発表した。現在は、すでに開発に必要な初期技術検証を完了しており、2022年7月末の店舗導入を目指している。

このロボットは、TechMagicが開発し、CRISPの店舗でサラダ調理工程を「1人単位で自動化」するというもの。このロボットがもたらすのは次の3つ。

  • モバイルオーダーとの連携:モバイルオーダーアプリや、店頭に置かれたキャッシュレス・セルフレジ「CRISP KIOSK」と連動して最大287万通りのカスタムサラダを調理する
  • トッピングの計量と供給の自動化
    レメインレタス・チキン・ナッツ・チーズなど、27種類の不定型なトッピングを自動計量し、サラダボウルの準備から盛り付けまで、ベルトコンベア上で作業を行う。サラダボウルをパートナー(スタッフ)が受け取るまでの一連の動作を自動化
  • 安定した品質とスピード:2022年7月末の導入時には、CRISP SALAD WORKS麻布鳥居坂店にて、1時間あたり60食の提供スピードを目標にしている

最大287万通りのカスタムサラダを自動供給する調理ロボをCRISPとTechMagicが共同開発、2022年7月末の店舗導入を目指すこうした自動化により、スタッフをより創造性の高いLTV(顧客生涯価値)を高める接客に振り向け、そこに「時間と意識を集中」させるとしている。これは、CRISPの目指す「新しいレストラン体験」に通ずるものだ。また、深刻な人手不足に悩む食産業での、単純作業の自動化により貴重な人材を有効活用し、新たな食インフラを創造するというTechMagicの理念にも通じるものとなる。最大287万通りのカスタムサラダを自動供給する調理ロボをCRISPとTechMagicが共同開発、2022年7月末の店舗導入を目指す

TechMagicは、「テクノロジーによる持続可能な食インフラを創る」をミッションとして、2018年2月に設立。食を取り巻く企業が直面する人手不足を解消し、生産性の高い社会を実現するために、ハードウェアとソフトウェア両方の技術を高度に融合した各種プロダクトの企画、設計、製造、販売、保守を行っている。

2014年7月設立のCRISPは「レストラン体験を再定義することで、あらゆる場所でリアルなつながりをつくる」をビジョンに掲げ、CRISP SALAD WORKSの展開を通じて、テクノロジーで顧客体験を最大化し、非連続な成長と高い収益率を実現する新しい外食企業「コネクティッド・レストラン」を作ることを目指している。

ホンダが「空飛ぶハイブリッドカー」「アバターロボ」「月面循環エネルギーシステム」「再使用型小型ロケット」など挑戦

ホンダが「空飛ぶハイブリッドカー」「アバターロボ」「月面循環エネルギーシステム」「再使用型小型ロケット」など新領域に挑戦

Avatar / 20th Century Studios

ホンダが「新しい事業領域に関する説明会」を開催し、都市間や都市内移動用の「Honda eVTOL(電動垂直離着陸機)」や、時間や空間の制約に縛られず、バーチャルな能力拡張を実現する「Hondaアバターロボット」の開発に取り組んでいくと発表しました。また、月面で使用することを想定した燃料電池式発電システムの開発も行うとしています。

ホンダはeVTOLにはEVやPHEVで培ったリチウムイオン電池に加えガスタービン式ハイブリッドパワーユニットを搭載し、電池だけでは足りない航続距離を確保します。もちろんこの計画はまだごく初期の段階なので、実機が登場するには10年ほどの歳月がかかると予想されます。ホンダは2030年代に試作機、開発機を制作し、2040年代の商業化を目指しています。

次世代の交通であるeVTOL分野には、スタートアップから既存自動車メーカーまで多くの企業が参入しています。たとえばNASAと提携するJobyは実物大のモックアップに近い試作機をすでにテスト的に飛行させています。また、VTOLではないもののスロバキアのKlein Visionは今年、空陸両用車「AirCar」の35分間の有人飛行を成功させています。ただ、まだ乗客を乗せての商業飛行を行うには機体の安全性や信頼性、搭乗可能人数、航続距離、そして既存の法規制といったさまざまなハードルがあり、それらをひとつひとつ解決潰していかねばなりません。先行する企業に遅れての参入はホンダにとってハンデかもしれませんが、ホンダにはすでに小型ジェット機の開発実績・技術があり、それをeVTOLにも応用できると考えられます。

一方「Hondaアバターロボット」については多指ハンドと独自のAIサポート遠隔操縦機能を組み合わせたものになり、利用者はわざわざ遠隔地に出向くことなく、VRヘッドセットとグローブを通じてアバターロボットの視覚と触覚を借りて作業ができるようになるとのこと。たとえば、多指ハンドを通じて人が使う道具を使いこなし、AIサポートによって複雑な作業も直感的な操作で正確に行えることを目指すとしています。

このロボットはASIMOをベースに改良を加えたものになるとしており、2024年第1四半期末までに技術実証実験を行う計画。そのための第一歩としてはASIMOの手をもっと小さくしつつ、物を掴む力を向上させるための開発を行うとのこと。

さらにもうひとつ、ホンダは宇宙開発にもその守備範囲を拡げようとしています。「燃焼・誘導制御技術、燃料電池技術、ロボティクス技術といったHondaならではのコア技術」を活かし、月面で利用可能な循環型再生可能エネルギーシステムの構築を検討しています。

このシステムでは、太陽光など再生可能エネルギーとして得た電力を使って、液体の水を電気分解し、水素と酸素を生成します。これを燃料電池で使用して発電すると同時に月面の居住施設に酸素とロケットの燃料にもなる水素を供給します。

ホンダが「空飛ぶハイブリッドカー」「アバターロボ」「月面循環エネルギーシステム」「再使用型小型ロケット」など新領域に挑戦

©JAXA/Honda

ほかにも、ホンダは若手技術者の発案をきっかけとした小型ロケットの開発にも取り組むことを明らかにしました。これは地球低軌道への小型人工衛星の打上げを目標とするとのことです。JAXA/Honda

(Source:HondaEngadget日本版より転載)

経済産業省が中学高校のデジタル関連部活の活性化に向け支援を検討開始、パソコン・プログラミング・ロボット・AIなど

経済産業省が中学・高校のデジタル関連部活の活性化に向け支援を検討開始、パソコン部・プログラミング部・ロボット部・AI部など経済産業省は9月29日、デジタル技術に精通した人材を育てるため、中学校と高校のパソコン部、プログラミング部、ロボット部、AI部などのデジタル関連の部活動を活性化・高度化させ、生徒のデジタルスキルの向上をはかる目的で、産業界を中心としたデジタル関連部活の支援のあり方を検討すると発表した。

経済産業省は、10月に「デジタル関連部活支援の在り方に関する検討会」を設置し、教育界、産業界の有識者、デジタル庁、総務省、文部科学省、文化庁などが参加して論議を進め、2021年度内に提言を取りまとめる予定としている。

中学高校では、デジタル技術に高い関心と能力を有する生徒たちが集まっているものの、顧問の教師にプログラミングはじめ専門知識や経験がないことが多く、そのために活動は限定的となり、十分な指導ができないのが現状とされている。一方、産業界には、CSR(社会的責任)の意識の高まりや、将来の日本の競争力を見据える立場から、中学高校のデジタル関連部活を支援したいという意欲がある。2020年に経済産業省が発表した「中学・高等学校等の IT 関連部活への支援に関する調査研究」報告書によれば、調査対象となった企業の約半数が、そうした支援を行いたいと答えた。また、「教育委員会や学校と産業界をつなぐ仕組みを作ってほしい」という声も産業界から出ているとのことだ。

10月5日に第1回検討会が開かれ、12月、3月にもそれぞれ開催される予定。第1回の傍聴予約はこちらから委員の名簿はこちらで公開されている。

経済産業省が中学・高校のデジタル関連部活の活性化に向け支援を検討開始、パソコン部・プログラミング部・ロボット部・AI部など

経済産業省が中学・高校のデジタル関連部活の活性化に向け支援を検討開始、パソコン部・プログラミング部・ロボット部・AI部など

産業界に対するアンケート結果(「中学・高等学校等の IT 関連部活への支援に関する調査研究」報告書)

アマゾンはなぜ家庭用ロボット「Astro」を作ったのか

iRobotのCEOはかつて筆者にいたずらっぽくこう言った。「掃除機のセールスマンになって初めて私はロボット技術者として成功した」と。いいセリフだし、ロボット業界の根本的な真実をさらけだしてもいる。ロボットは難しく、家庭用ロボットはさまざまな意味でさらに難しいのだ。

ルンバなどのロボット掃除機が収めた大成功を超える術を誰も解き明かしていないのは、挑戦していないからではない。これまで、主にAnkiJiboなどスタートアップに分類される企業が取り組んできたし、珍しい例外としてはBoschが作ったKuriもある。ところが米国時間9月28日、Amazon(アマゾン)がこの問題に莫大なリソースを投入していることを明らかにした。

画像クレジット:Amazon

単にリソースを投入しているというだけではない。Amazonは同社初のロボット「Astro」を発表した。この製品はAmazonのDay One Editionプログラムの1つとして市場に第一歩を踏み出す。以前に同社はKickstarterやIndiegogoのように顧客が予約注文に投票できるこのプログラムを活用していた。新しいロボットには、アニメ「宇宙家族ジェットソン」の犬、The White Stripesのデビューアルバムに収録されている曲、ヒューストンのプロ野球チームと同じ名前が付けられ、2021年中に限定発売される。Day One Editionプログラムで発売された製品には小型プリンタやスマート鳩時計などがあったが、Astroはこのプログラムの中では飛び抜けて野心的なデバイスだ。999ドル(約11万円)と、このプログラムの中では最も高価でもある。

関連記事:アマゾンが予約注文で新しいAlexaデバイスの人気投票を実施、ラインナップにはスマート鳩時計も

ただしこの価格は早期購入者に限られる。Amazonの報道資料には以下のように書かれている。

Astroの価格は1,449.99ドル(約16万円)ですが、Day 1 Editionsプログラムの一環として999.99ドル(約11万円)の早期購入価格で提供します。Ring Protect Proの6カ月間無料試用が付属します。

画像クレジット:Brian Heater

発売時点のこのロボットには、主に3つの機能がある。

  1. ホームセキュリティ
  2. 大切な人の見守り
  3. 家でのAlexa体験のモバイルバージョン

Amazonはおよそ4年前からロボットに取り組み始め、社内のさまざまな部門を活用して完全に実現可能なホームロボットを開発した。

AmazonのバイスプレジデントであるCharlie Tritschler(チャーリー・トリッシュラー)氏はTechCrunchに対し「AI、コンピュータビジョン、処理能力について話し合い、そこで挙がったトピックの1つがロボットでした。消費者が利用できるようにするためにロボットはどう変化しているのでしょうか。我々にはもちろんフルフィルメントセンターでロボットを利用してきた経験は大いにありますが、家にいる消費者に利便性や安心を提供するために何ができるかを考えたのです。そこから考え始め、最終的には『ねえ、これから5年後か10年後に家にロボットがいないと思う人がいる?』ということになりました」と語った。

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2012年にKiva Systemsを買収したことから始まったAmazon Roboticsが、コンシューマチームのアイデアに共鳴した。しかしAmazonのそれまでのロボット技術は業務用で、最短の時間で荷物を配送することに主眼が置かれている。最終的に同社はAstroのコンポーネントをゼロから作らざるを得なかった。その中には最も注目すべきものとして、家の中のマップを作り移動するために使われるSLAM(Simultaneous Localization And Mapping、自己位置推定と環境地図作成の同時実行)システムがある。

SLAMシステムは複雑な仕事を引き受けているだけでなく(これはiRobotが10年間かけて改良してきたことだ)、現在Amazonが有しているロボットテクノロジーをも考えると、筆者はこれには特に驚いた。Amazonは2019年に完全自律型倉庫用カートのスタートアップであるCanvasを買収した。しかしAmazonはこの新しいSLAMシステムはゼロから開発したもので、ロボット関連スタートアップの買収を検討したものの最終的にはAstroを作るための買収はしなかったと主張している。ただし、Ringのセキュリティ監視や、Alexaとホーム関連テクノロジーといった社内の技術は、Amazonのスマートアシスタントとなるこのロボットに組み込まれている。

画像クレジット:Brian Heater

筆者は発表の前週にAstroに触れる機会があり、このロボットはちょっと二重人格っぽいと感じた。このロボットのメインの人格は、R2-D2やBB-8、Wall-Eのようなものと表現するのが最も適切だ。顔は、実際には画面、あるいはタブレットと言えるもので、太い小文字のo(オー)が2つ並んでいるような極限までシンプルな目が表示されている。この目が時折まばたいたり動いたりするが、Ankiがピクサーやドリームワークスのアニメーターだった人材を雇って作ったCozmoほど表情豊かではない。

ときどき電子音が鳴って、前述したスター・ウォーズのR2-D2やBB-8をさらに思い起こさせる。ロボットに「Astro」と呼びかけることができるが、もっと直接的に会話をしたいときはどこかの段階で音声アシスタントでおなじみの「Alexa」と話しかける必要がある。

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Astroの10インチタッチスクリーンの顔はちょっとした人格を表現することに加え、標準的なEcho Showのディスプレイとしても機能するので、動画を見たりビデオ通話をしたりスマートホームのコントロールをしたりすることができる。画面は自動で動くが、見やすいように手で60度傾けられる。この画面はAmazonの新しい顔認証であるVisual IDにも対応し、Astroは相手に合わせたやりとりをする。

スピーカーも2つ搭載されている。ロボット自体は驚くほど静かだ(ロボット掃除機ではないですからね)。Amazonが筆者に語ったところによると、実は家の中を動いていることがわかるように電気自動車のような音を付ける必要があったという。ただし車輪の向きを変えて方向転換をするときにはサーボ音が鳴る。

後方のスペースには4.4ポンド(約2キロ)まで物を積むことができる(オプションのカップホルダーがある)。内部にはUSB-Cポートがあり、携帯の充電に使える。Astro自体はルンバのようなドックを使用し、バッテリーが空の状態から1時間未満でフル充電される。

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当然のことながら、多数のセンサーが搭載されている。例えば土台部分には近接センサーがある。カメラは2つ組み込まれている。顔である画面のベゼルには5メガピクセルのRGBカメラがあり、もう1つは驚くこと間違いなしだが頭の上から飛び出してくる。飛び出してくる方の12メガピクセルのRGBと赤外線のカメラは、ライブストリーミングのためのものだ。このカメラの土台は伸縮式で4フィート(約120センチ)の高さまで伸び、ロボットが周囲をよく見るための潜望鏡のような役割を果たす。

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筆者はロボットや制作チームと1時間ほど一緒に過ごした結果、このチームが作ったものにかなり心をひかれた。もちろんどれほどの人がこれを所有することに関心を持つかはまったく別の問題だ。AmazonはAstroを「数千の」家庭でテストし、曲がり角で止まってしまうなどの不具合を解決したという。Day Oneプログラムはパブリックベータというよりは製品に対する顧客の関心を測定する手段だ。

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トリッシュラー氏は次のように述べている。「私は、これは我々が取り組んでいるロボットシリーズの第1号だと思っています。これは招待制のみのプログラムです。家庭などいろいろな場所での難しさはあると思いますが、Astroを手に入れた人々がすばらしい体験をしてくれるよう願っています。長期的に消費者向けロボットを考えると、もちろんさまざまな価格帯や機能があり、その1つとしてわかりやすく主力となる製品が欲しいところです。しかしAstroは、我々が価値を作り出そうと開発当初から取り組んできたことを再確認し、我々のしてきたことが消費者にとって意味があると確かめる出発点としては良いものだと思います。2021年中にこの製品の出荷を開始し、フィードバックが寄せられることに期待しています」。

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(文:Brian Heater、翻訳:Kaori Koyama)

慶應が通信エラーフリーのプラスチック光ファイバー開発、データセンター通信の次世代標準PAM4伝送を誤り訂正なしで成功

慶應が通信エラーフリーのプラスチック光ファイバー開発、データセンター通信の次世代標準PAM4による通信に誤り訂正なしで成功

慶応義塾大学の慶応フォトニクス・リサーチ・インスティテュート(KPRI)小池康博教授らの研究グループは、通信エラーをほとんど発現しないプラスチック光ファイバー(エラーフリーPOF)を開発したことを発表した。100m以内の短距離通信において、データセンター通信の次世代標準となるPAM4(4値パルス振幅変調)方式による毎秒53ギガビットの信号の伝送を、誤り修正機能を使うことなくエラーフリーで実現した。

光ファイバーは、通信速度が上がるにつれ、光の拡散やノイズの影響が大きくなり、誤データを補正する誤り訂正機能や波形成型回路が必要となることから、それによる消費電力の増大や通信の遅延が問題になっている。大量の高速通信が求められるデータセンターなどでは、電線に比べて格段に低損失なガラス光ファイバーが使われているのだが、光ファイバーには光伝送固有のノイズや問題が存在し、PAM4導入のネックになっている。通常、デジタル通信は0と1の2値で行われるが、PAM4では0、1、10、11の4値で行うため、通信速度が格段に高くなる代わりにノイズの影響を受けやすくなるのだ。

光ファイバーにはガラスとプラスチックの2種類がある。プラスチック光ファイバーは、安価で柔軟性が高く、信号強度がガラス光ファイバーよりも高いという利点がある一方で、光通信で問題となる光の散乱はガラスのほうが低く、特に長距離通信ではガラスが優れている。しかしKPRIでは、かねてより「屈折率分布型プラスチック光ファイバー」を提案しており、それをさらに進めて「内部にミクロ不均一構造を形成し、前方光散乱を介して効果的なモード結合を誘起する」ことによりノイズや歪みを大幅に低減した。そうして、高速性と低雑音性を兼ね備えたエラーフリーPOFが誕生した。

エラーフリーPOFは、通信の遅延、発熱、コスト上昇の原因となる補正回路がいらなくなるばかりか、データセンターの省電力化、自動運転車や作業用医療用ロボット、さらには8Kなどの大容量映像データ伝送に欠かせないリアルタイム通信が実現し、「次世代情報産業を支えるコアテクノロジーになる」とKPRIは話している。
慶應が通信エラーフリーのプラスチック光ファイバー開発、データセンター通信の次世代標準PAM4による通信に誤り訂正なしで成功

高度医療ロボのリバーフィールドが30億円調達、執刀医にリアルタイムで力覚を伝える空気圧駆動手術支援ロボの上市加速

高度医療ロボのリバーフィールドが約30億円調達、執刀医にリアルタイムで力覚を伝える空気圧精密駆動手術支援ロボの上市加速

高度医療ロボット各種の開発を手がけるリバーフィールドは9月10日、第三者割当増資による総額約30億円の資金調達を発表した。引受先は、東レエンジニアリング、第一生命保険、MEDIPAL Innovation投資事業有限責任組合(SBIインベストメント)をはじめ、事業会社、ベンチャーキャピタルなど。調達した資金により、同社独自の空気圧精密制御技術を用いた手術支援ロボットの上市を加速させる。

執刀医に鉗子先端にかかる力をリアルタイムで伝える力覚提示が可能な手術支援ロボットの上市を2023年1月に予定。またその他、次世代内視鏡把持ロボット、眼科用ロボットを2022年中に順次上市していく計画としている。

2014年5月設立のリバーフィールドは、大学で培ってきた技術を活かした医療ロボットを開発している大学発スタートアップ。東京大学大学院 情報理工学系研究科教授の川嶋健嗣氏が創業者代表および会長、また東京工業大学准教授の只野耕太郎氏が代表取締役社長を務めている。

同社は、2003年から東京工業大学において手術支援ロボットの研究をスタート。当時、低侵襲外科手術支援用ロボットは優れたシステムである一方、操作を視覚に頼っており、触った感覚が操作者に伝わらないとの声が挙がっていたことから、空気圧システムによる精密駆動技術を手術支援ロボットに適用することでニーズに応えられると考えたという。

その後、先に挙げた力覚フィードバック実現のニーズと、研究室で有していた空気圧の計測制御技術のシーズを合わせ、空気圧駆動の手術支援ロボットを研究試作として完成させた。これらの研究成果を研究として終わらせず、社会・医療現場に実際に役立てたいとの思いから同社を起業したという。

ユニティとアールティが「UnityとROSで学ぶ移動ロボット入門 UI作成編」を開発、10月より無料公開予定

ユニティとアールティが「UnityとROSで学ぶ移動ロボット入門 UI作成編」を開発、10月より無料公開予定リアルタイム3Dプラットフォーム「Unity」を展開するユニティ・テクノロジーズ・ジャパン、ロボット分野の技術開発と高度人材育成を行うアールティは9月9日、ロボット入門者向け教材「UnityとROSで学ぶ移動ロボット入門 UI作成編」を開発したと発表した。「Unity」上でROS(ロボット・オペレーティングシステム)対応ロボットの操作性を高めることを目的としたもの。ユニティの産業向けサイトUnity for Industryにおいて、2021年10月上旬に無料公開する予定。

この教材では、UnityからROS対応ロボットへの指令の出し方や、ロボットに搭載された各種センサーの値やロボットの状態の可視化の方法などが学べ、ロボット操作用のUI開発の足がかりになる。入門用としてわかりやすい解説を行うために、アールティが培ってきたエンジニア教育教材や研修のノウハウなどが活かされているとのことだ。学習後は、Unity Asset Storeなどで公開されているアセットを使って、オリジナルのUI制作にも活用できるという。

教材中のシミュレーションでは、アールティが開発し製造・販売しているRaspberry Pi搭載の左右独立二輪方式小型移動プラットフォームロボット「Raspberry Pi Mouse」のデータが使われている。将来は、この実機の操作が行える教材も公開される予定。

Unityは、ゲームなどのリアルタイム3Dコンテンツの開発運用に広く使われているが、製造業やロボット産業でも活用されている。ロボット開発のためのシミュレーションでは、リアルな周辺環境やロボットの動きが求められるが、Unityは、そうしたリアリティある環境が特徴となっている。

同社は、これまでにもUnity Robotics Hubを通じて、ROSとUnityを接続するための各種のパッケージやサンプルをオープンソースソフトウェアとして提供することで、ロボット開発の効率化に取り組んできたという。

今回この教材を通して、「ハードウェアになじみの薄かったソフトウェアエンジニアにはハードウェアを身近に感じてもらえることを、ハードウェアエンジニアにはUnityによる可視化やUIの広がりを体験し、より使いやすいインターフェイスをロボットに装備できるようになることを期待しています」とユニティ・テクノロジーズ・ジャパンは話している。

UnityとROSで学ぶ移動ロボット入門 UI作成編は、一般公開に先立ち、2021年9月16日に東京都墨田区で開催されるROS開発者会議「ROSCon JP 2021」のアールティ出展ブースにおいて、開発画面の一部が公開される予定(チケット販売は終了)。

ロボット学者・石黒浩教授が大阪大学発スタートアップ「AVITA」を設立し5.2億円の資金調達

ロボット学者・石黒浩教授が大阪大学発スタートアップ「AVITA」を設立し5.2億円の資金調達

ロボット学者として知られる石黒浩教授は9月7日、大阪大学発スタートアップとして「AVITA株式会社」を設立するとともに、5.2億円の資金調達を実施したと発表した。引受先は、大阪ガス、サイバーエージェント、塩野義製薬、凸版印刷、フジキン。各社と事業連携を行いながら、アバターの社会実装に取り組む。ロボット学者・石黒浩教授が大阪大学発スタートアップ「AVITA」を設立し5.2億円の資金調達

大阪大学大学院基礎工学研究科の石黒浩教授は、20年以上に渡り、人と関わるロボットやアバターを研究・開発してきた。今回、これまでの研究成果と、石黒教授がプロジェクトマネージャーを務めるムーンショット型研究開発制度、テーマ事業プロデューサーを務める大阪・関西万博などの様々なプロジェクト、また企業との連携によって新たに生み出す研究成果を社会に実装するための新会社としてAVITAを設立した。

AVITAは、「Virtualize the Real World」というビジョンのもと、アバター技術によって人々の可能性を拡張するという。人は、複数の自分(働く自分、家庭の自分、友達との自分など)で活動しており、アバターを用いれば、その自分を実世界でさらに多様に拡張し、状況や目的に応じた様々な自分として自由に活動できるとしている。このことを、アバターを用いた実世界の仮想化と多重化(virtualize the real world)と呼ぶという。

AVITAは、大学発スタートアップとして実世界の仮想化と多重化により、人々を解放する新たな世界を創造するとしている。

GITAI Japanの宇宙用汎用作業ロボットアームがSpaceXのロケットでISSに到着、10月に汎用作業遂行技術実証を開始予定

GITAI Japanは8月31日、宇宙用汎用作業ロボットGITAI(ギタイ)を載せたSpaceXロケットの打ち上げが成功し、国際宇宙ステーション(ISS)に到着したことを発表した。このロボットは、2021年10月頃からISSで汎用作業遂行技術実証を開始する予定。

アメリカ現地時間8月29日、SpaceXのFalcon 9ロケットによって打ち上げられたDragon宇宙船の23回目の商用フライト(CRS-23ミッション)にて、GITAI Japanの宇宙用ロボットアーム「S1」がISSに送り込まれた。この実証実験は、民間宇宙利用を促進するアメリカの宇宙サービス企業Nanoracks(ナノラックス)と共同で、同社がISSに設置した商用エアロックモジュール「ビショップ」内にて実施される。

このモジュールにロボットアーム「S1」を設置し、スイッチやケーブルの操作といった船内作業と、宇宙用パネル組み立てといった宇宙組み立て作業を行う。作業は、自律制御と、ヒューストンのNanoracks管制室からの遠隔操作との両方が試される(動画は、GITAI社内で撮影した、S1による宇宙組み立て作業模擬タスクの実施状況)。

GIATAI Japanは、「宇宙に安価で安全な作業手段を提供する」ことを目指す宇宙ロボットスタートアップ。2016年7月に設立し、宇宙ステーションの船外作業、衛星の寿命延長や宇宙デブリの除去といった軌道上サービスのためのドッキング・寿命延長・修理・メンテナンス作業、月面探査および基地開発作業を行うロボットの開発を行っている。

現在は、今回の実証実験に使用されるS1、宇宙船の内外や月面基地開発などに使用する汎用作業ロボット「G1」、宇宙のロボットを地上から操作するためのロボット操縦システム「H1」の開発に加えて、新たに月面作業用ロボットローバーの開発にも着手した。

「2040年には世界的な宇宙ロケット開発企業と対等なパートナーとして、月や火星に都市を建設したり宇宙コロニーを建設する安価で安全な労働力を提供しています」とGITAI Japanは将来を語っている。ロケット開発企業は輸送手段を提供し輸送コストを下げるのに対し、GITAI Japanは「作業手段」を提供し、作業コストを下げるとのことだ。