投資家はメタバースのキラーアプリを必死で探す、3DソーシャルネットワークアプリBUDが約17.3億円調達

投資家たちはメタバースの次なるキラーアプリを見つけようと必死だ。ユーザーが3Dのコンテンツをカスタマイズして他の人と交流できるアプリのBUDが米国時間2月13日、シリーズA+ラウンドで1500万ドル(約17億3100万円)を調達したと発表した

「どうぶつの森」を思わせるかわいらしいキャラクターが登場するBUDは2021年11月に公開されたばかりだ。調査会社のApp Annieによれば、アプリ公開から数週間で米国など数カ国においてAndroidのソーシャルアプリカテゴリーでトップ10に入ったが、その後は100位台に沈んでいる。

勢いは落ちたが、この新しいアプリに対する中国の積極的な投資家の動きは止まらなかった。「予定オーバー」であるシリーズA+ラウンドを主導したのはQiming Ventures Partnersで、Source Code Capital、GGV Capital、Sky9 Capitalも参加した。シリーズAの調達金額は明らかにされていない。新たに調達した資金は製品の研究開発と国際市場でのユーザー獲得に充てるとBUDは述べている。

SnapのエンジニアだったShawn Lin(ショーン・リン)氏とRisa Feng(リサ・フォン)氏が共同で2019年にBUDを創業し、従業員数100人の企業へと成長させてきた。2022年末までに従業員数を200人にし、グローバルの本社を暗号資産ハブとして台頭するシンガポールに開設することを目指している。

BUDのセールスポイントの1つは、テクニカルな知識がなくてもドラッグ&ドロップで簡単に3Dワールドをカスタマイズできることだ。この点が、人気のクリエイター向けメタバースアプリで韓国インターネット複合企業Naver傘下のZepetoとは異なる。中国では最近、Zheliという新しい3DアバターソーシャルプラットフォームがApp Storeの無料ソーシャルアプリカテゴリーでトップになった。

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BUDやRoblox、Zepetoなどはエンドユーザーがメタバースを体験できるアプリだが、メタバースを単なるバズワードではなく現実のものにするためのインフラを開発している起業家も多い。分散型決済システムを開発している人もいれば、クリエイター向けツールを作っている人もいる。後者の例としては、3Dグラフィックス開発者向け共同作業プラットフォームで最近シリーズAで5000万ドル(約57億7000万円)を調達したTachi Graphicsがある。

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画像クレジット:App Storeのスクリーンショット

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(文:Rita Liao、翻訳:Kaori Koyama)

インドがGarenaのゲーム「 Free Fire」など新たに54の中国関連アプリを禁止

インドは、Tencent(テンセント)の「Xriver」、Garena(ガレナ)の「Free Fire」、NetEase(ネットイース)の「Onmyoji Arena」と「Astracraft」、さらに中国との関連が明らかな50のアプリを禁止した。過去1年半にわたって続いている国家安全保障を理由とした同様の禁止措置の最新の動きだ。

新たに禁止されたアプリの中には「Sweet Selfie HD」「Beauty Camera」「Viva Video Editor」「AppLock」「Dual Space Lite」などが含まれる。これらは、長期にわたる国境紛争をめぐってインドと中国の間で地政学的緊張が高まる中、インド政府が2020年半ばから禁止している中国関連の300以上のアプリの多くのクローンまたはリブランディングしたものだ。

この問題に詳しい人物によると、インドの電子工学・通信技術省は、2000年に制定されたIT法69a条に基づいてこの命令を出したという。

Google(グーグル)の広報担当者は声明の中で、この命令を認め、同社はこれに従っていると述べた。

「IT法第69A条に基づいて下された暫定命令を受け、確立されたプロセスに従って、影響を受ける開発者に通知し、インドのPlay Storeで利用可能なままになっているアプリへのアクセスを一時的にブロックしました」と、Googleの広報担当者は現地時間2月14日に述べた。

画像クレジット:Jakub Porzycki / NurPhoto via Getty Images

Garenaの「Free Fire – Illuminate」は、すでにインドのGoogle Play StoreとApple(アップル)のApp Storeから削除されたが、今回削除の対象となったものの中で最も人気のアプリのようだ。

分析会社App Annie(アップアニー)がTechCrunchに提供したデータによると、東南アジアの大手ゲーム会社Sea(シー)が所有するこのバトルロイヤルゲームの1月の全世界の月間アクティブユーザーは7500万人で、うち4000万人超がインドのユーザーだった。また、SeaはTencentを最大の投資家に数え、インドでソーシャルコマースShopeeのテストもひっそりと行っている。

禁止令のニュースは、インドのGarenaのチームにとって驚きだった。同社は、ゲームをさらに宣伝し、インドでより多くのユーザーや著名なゲーマーを引きつけるために、トーナメント組織との契約を獲得しようとしていたと、この問題に詳しい人物はTechCrunchに語った。Seaはこの展開についてすぐにコメントを出さなかった。

インドにおける一連のアプリ禁止は2020年6月下旬に始まった。世界第2位のインターネット市場であるインドは、国家安全保障上の懸念から「TikTok」、Alibaba(アリババ)の「UC Browser」、Tencentの「WeChat」など中国と関連する数十のアプリを禁止した

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インド政府は、こうした発表の中で中国について明確に言及したことはなく、2月14日の動きについても公式な声明は発表していない。インド政府はこれまでの禁止措置のほとんどで、アプリがユーザーのデータを収集、採掘、プロファイルする方法は、インドの国家安全保障と防衛にリスクをもたらす、と述べてきた。

過去1年半で、インド政府は人気タイトル「PUBG」を含む300以上の中国関連アプリを禁止してきた。「PUBG」がインドでGoogle Play StoreとAppleのAppStoreに何らかのかたちで復帰したことがわかっている唯一のアプリであることに変わりはない。

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他にもいくつかの企業やアプリ運営会社がインド政府の懸念に対応しようとしたが、インド政府は2021年初めに対応が不十分と判断し、決定を留保した

アプリのダウンロード数による市場規模、データ期間:2021年(画像・データクレジット:App Annie)

インドは、アプリのインストール数で世界的に見ても圧倒的に大きな市場だ。App Annieによると、2021年にインドは250億回以上のダウンロードを記録した。

米国の大手企業はもちろん、中国や韓国など他の国の企業も、次の大きな成長地域を求めて、過去10年間にインドに積極的に注力してきた。それに比べ、中国で事業を展開しているインド企業はほんの一握りにすぎない。

インドが「TikTok」の禁止令を撤回することを拒否した後「TikTok」の親会社ByteDance(バイトダンス)はインドの従業員の大部分を解雇し、TechCrunchが報じたように最近では同国でのEdtech事業を停止した

「TikTok」がインドで禁止されたことで、いくつかの地元のスタートアップが短編動画アプリを立ち上げて人気を集め、10億ドル(約1155億円)超の資金を調達した。しかしこれは「TikTok」が他のいくつかの海外市場に深く進出したため、ByteDanceの収益にはあまり影響がなかった。インドのソーシャルネットワーク「ShareChat」とオンデマンドストリーミングサービス「MX Player」は2月10日、同国の短編動画アプリを統合すると発表した。これは9億ドル(約1039億円)規模の取引だ。

画像クレジット:Getty Images

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(文:Manish Singh、翻訳:Nariko Mizoguchi

CruiseとWaymoを追う中国の自律走行車企業AutoXがサンフランシスコでテスト開始へ

米国とお膝元の中国の両方で事業展開する自律走行車企業AutoX(オートエックス)は、最大のライバル企業が商用化に向け忍び寄っているサンフランシスコに進出する。

2016年からサンノゼ広域圏で車両のテストを行ってきたAutoXは、ロボタクシー事業を開始し、サンフランシスコにオペレーションセンターを建設する計画を明らかにした。このセンターでは、車両のハウジング、メンテナンス、充電のほか、車両が現地で収集したデータの処理、センサーのキャリブレーションなどを行う予定だ。Professor Xとも呼ばれる、AutoXのCEOであるJianxiong Xiao(ジアンション・シャオ)博士によると、同社はサンフランシスコのローカルチームを構築するために採用を行っているとのことだ。

AutoXはまず、同社の最新の第5世代AVプラットフォームと冗長ドライブバイワイヤシステムを搭載したハイブリッド車のFiat Chrysler Pacifica(フィアット・クライスラー・パシフィカ)を用いて、人間の安全オペレーターが運転席に乗り込んでのテストを始める予定だ。同社はすでに、カリフォルニア州自動車局(DMV)から、人間の安全オペレーターが乗り込んでの試験が可能な「ドライバー付き試験許可証」と、人間の安全オペレーターなしで試験が可能な「ドライバーレス試験許可証」の両方を取得している。しかし、AutoXのドライバーレス試験許可は第3世代の車両に対するものであり、またエリアがサンノゼに厳しく限定されているため、同社はサンフランシスコの最新システムを使ったドライバーレス試験も行うために、DMVにその許可の拡大をリクエストする必要がある。

Dongfeng Motor(東風汽車)の支援を受けているAutoXは、サンフランシスコでのテストのためにいつドライバーなしにする予定かは明言しなかったが、サンノゼでのドライバーレステストは継続すると述べた。

AutoXは、Cruise(クルーズ)やWaymo(ウェイモ)といった企業が実際に商業運転を開始している中で、サンフランシスコに進出する。Cruise、WaymoどちらもDMVから車両配備の許可を得ており、自律走行車を使った運行で課金することができる。Cruiseはまだ、ロボットタクシーサービスの料金を請求する前に、カリフォルニア州公益事業委員会から最終的な許可を得る必要があるが、General Motors(ゼネラルモーターズ)傘下の同社は、ドライバーレスの配車サービスを一般向けに開始する際に、投資家のソフトバンクから13億5000万ドル(約1564億円)を追加で調達したばかりだ。

DMVが2日に発表した年次離脱報告書によると、Waymoは2021年にカリフォルニア州の公道で230万マイル(約370万キロメートル)の自律走行を行っており、これは競合他社を大きく上回っている。そして、Cruiseが人間のセーフティドライバーの有無にかかわらず、約90万マイル(約144万キロメートル)を走行して2位だった。

同データによると、安全オペレーター付きで約5万マイル(約8万キロメートル)しか走行していないAutoXは、自社車両のドライバーレステストを一切報告していない。とはいえ、AV開発企業は、プライベートコースやクローズドコースで行ったテストを報告する必要はない。

AutoXはカリフォルニア州に車両44台を保有しているとのことだ。DMVのデータによると、2021年にAutoXの自律走行テストに使用されたのは全車両のうちわずか6台だった。同社は、新型コロナウイルス感染症の影響でテストの規模を縮小したことが原因だとしているが、2022年は再び強化する。

また、AutoXは中国でも大規模な事業拡大を図っており、1000台のロボタクシーを広州、上海、北京、深センの各都市に配備しているという。同社はロボタクシーの乗車回数は公表していない。

AutoXは、計算プラットフォームや各種センサーを含むフルスタックハードウェアの自社開発能力を頻繁にアピールしている。このような技術の開発に加え、サンフランシスコでの事業拡大や中国でのロボタクシーの増車などを考えると、相当な額の資金が必要になる。

同社が最後に公に発表した資金調達は2019年のシリーズAで、この投資によりAutoXの総調達額は1億6000万ドル(約185億円)となった。参考までに、AutoXの中国における競合他社のほぼすべてが2021年に資金調達を行っている。Momenta(モメンタ)は12億ドル(約1390億円)、Pony.ai(ポニーエーアイ)は11億ドル(約1274億円)を調達し、WeRide(ウィーライド)は5カ月の間に6億ドル(695億円)超を、比較的若い企業のDeeproute.ai(ディープルートエーアイ)は2021年9月時点で3億5千万ドル(約405億円)を調達している。

AutoXがなぜ少ない資金でこれだけの事業を行えるのかという疑問に対して、シャオ氏はTechCrunchに、確かに今後数カ月のうちに資金を調達しようとしているが、これまでの投資家からの支援に加え、ロボタクシーサービスに対する中国の巨大市場に頼っていると語った。

画像クレジット:AutoX

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Nariko Mizoguchi

中国生まれの音声ネットワーキングアプリ「Tiya」、国際的な事業展開を進めるべくシンガポールに本社を設立

TikTok(ティックトック)は、おそらく中国から生まれた最も成功したアプリであり、国際市場への印象的な進出を果たしている。しかし、中国で開発されたより小規模なエンターテインメントアプリにも、海外で事業を展開しているものが数多くある。

Tiya(ティヤ)もその1つだ。中国のポッドキャスティングプラットフォームであるLizhi(リーチ)から生まれたこのアプリは、音声ベースのリアルタイムなネットワーク体験を提供する。その名前に聞き覚えがあるかもしれない。そう、TiyaはよくClubhouse(クラブハウス)と比較されているのだ。そして、そのClubhouseが2021年流行したおかげで、2021年春にLizhiの株価は急上昇した。

しかし、Tiyaの背後にあるアイデアは、Clubhouseの隆盛(と没落)よりも先行していた。2019年にローンチしたこのアプリは、Clubhouseとはかなり違った人々を魅了しており、その多くは一緒にゲームをしながらチャットをするために利用している。2013年に設立された親会社のLizhiは、早くから音声コンテンツにインタラクティブな機能を取り入れ、リスナーがクリエイターにメッセージを送ったり、バーチャルギフトを購入したりできるようにした。バーチャルアイテムを販売するというビジネスモデルは、すぐに収益の柱となった

Tiyaはこの3年間、デビューした米国で着実に人気を博してきたが、さらに海外展開を進めようとしている。同社は現地時間2月7日、シンガポールの中央ビジネス地区に、Yahoo(ヤフー)やGoldman Sachs(ゴールドマン・サックス)などの大手企業と並び、1万平方フィート(約930平方メートル)の本社を設立したことを発表した。

このオフィスの開設にともない、早ければ2022年の第1四半期にはシンガポールで同アプリのダウンロードが可能になる予定だ。Tiyaは全世界で約2000万件のダウンロードを記録しているものの、そのうちアクティブユーザーがどれほどいるかは明らかにされていない。

中国のテック企業が、国際的な事業展開を進める中で、海外に拠点を置くことは自然な流れだ。例えば、TikTokは世界的に普及が進むにつれて、中国国外での運営体制を大幅に強化し始めた。TikTokは、ユーザーのデータをシンガポールに保存しているというが、これは西側の規制当局がデータセキュリティへの懸念を強めているためだ。中国の新しいデータセキュリティ法では、企業が海外にデータを移動する方法についても規制を厳しくしているため、企業にとっては国内外のデータを分離することが得策となる。

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Tiyaのシンガポール本社には、ビッグデータ、人事、ユーザーリサーチ、管理、運営などの機能を担当する部署が置かれ「技術プラットフォームと製品開発計画」を支援するチームになると、同社は今回の発表で述べている。同社は、2022年末までにこの都市国家で「完全に運用可能なチーム」を持つことを目指しており「最新バージョンのアプリを世界各地で順次展開する」計画を立てているという。採用活動の一環としては、南洋理工大学とパートナーシップを結び、新卒者を募集する。

Tiyaの会長であり、Lizhiの創業者でもあるMarco Laii(マルコ・ライ)氏は「Tiyaをシンガポールに導入し、世界に通用する才能を持った現地のチームと協力することで、我々はこの地域でより大きな成功を収めることができると確信しています」と語っている。

画像クレジット:The Tiya app. Photo:App Store

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(文:Rita Liao、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

Bilibiliコンテンツモデレーター過労死疑惑で中国テック業界の長時間労働文化の議論が再燃

中国で先週、オンラインコンテンツのモデレーターが急死したことで、インターネット時代に生まれた職業の労苦に焦点が当たっている。

中国の動画配信サイト「Bilibili(ビリビリ、哔哩哔哩)」でコンテンツを監視していた25歳の男性が、春節(旧正月)中の2月5日に突然亡くなった。この件に詳しい人物から情報を得たというWeibo(ウェイボー、微博)ユーザーの投稿によると、春節の連休中、午前9時から午後9時までの12時間シフトで働いた後のことだったとされている。

この投稿は数時間のうちに何万回も閲覧され、中国のテック業界に蔓延する長時間労働文化に対して、ネット上で新たな抗議の波を引き起こした。

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2009年のサービス開始以来、Bilibiliはサブカルチャーのためのニッチな安息地から、2021年9月時点で月間アクティブユーザー数(MAU)2億7千万人を誇る人気動画共有サイトへと変貌を遂げた。

コミュニティが拡大しているということは、それだけ審査すべき動画が増えているということでもある。中国の広大なネット検閲体制の背後には、WeChat(ウィーチャット、微信)、TikTok(ティックトック)、Weiboなどのコンテンツプラットフォームに雇用されている大勢のモデレーターが存在する。これらのモデレーターは、しばしばコンピュータの前で長時間作業し「違法・有害な」ユーザーの投稿にフラグを立てて削除する。その過酷な労働条件から、インターネット時代の「生産ライン」とも呼ばれている。また、工場での仕事と同様に、一日中コンテンツをパージする作業は、労働者の健康を損なうことにつながる。

過労死疑惑に対してBilibiliは、従業員が亡くなる前の1週間、彼は1日8時間、週5日という標準的な労働時間で働いており、同社は法律に基づいて休日出勤した彼の給与を3倍にしていたと主張している。

「彼が担当していたコンテンツセキュリティモデレーションの仕事は、24時間体制の特別な業務です。他の公共サービスと同様に、コンテンツセキュリティは旧正月であっても止めることはできません」と同社は声明で述べた。

もちろん、このような説明では激昂した世論を鎮めることはできない。「悲劇を繰り返さない」ために、Bilibiliは、コンテンツ監査チームの健康状態を「積極的に改善する」と述べている。そのために、2022年中に1000人のモデレーターを追加して「平均的な仕事量を減らす」とともに、同部門のスタッフに「強化された健康チェック」を導入する予定だという。

Bilibili従業員の死について最初に投稿したWeiboユーザーは、動画配信大手である同社の弁護士から手紙を受け取ったと投稿している。スクリーンネームを「Wang Luobei」とするこのユーザーは、Weiboで500万人近いフォロワーを抱えている。Bilibiliは、この弁護士の手紙についてのTechCrunchの問い合わせには応じていない。

画像クレジット:Gao Yuwen / VCG / Getty Images

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(文:Rita Liao、翻訳:Aya Nakazato)

オープンソースの3Dコンテンツコラボプラットフォーム、中国Taichi GraphicsがシリーズAで約57.7億円を調達

共同創業者のユアンミン・フー氏とイー・クアン氏(画像クレジット:Taichi Graphics)

長年、中国のオープンソースソフトウェアは開発者から注目されるだけで、リターンを求める投資家からの理解はなかなか得られなかった。しかしついに、欧米のような動きが現れつつある。

資金調達を果たした中国の最新オープンソースプロジェクトが、Taichi Graphics(タイチグラフィックス)だ。同社は創業10カ月のスタートアップで、3Dコンテンツを簡単に制作できるようにすることを目指している。同社は、3Dグラフィックスの制作、共有、リモートでの共同作業をするクラウドベースのプラットフォームで「3DコンテンツのためのFigma(フィグマ)」と表現する「Taitopia」を運営している。このプラットフォームの基盤は同社のオープンソースのプログラミング言語「Taichi」で、3Dビジュアルグラフィックスのような空間的にスパースなデータ構造に対してパフォーマンスの高いコンピューティングを可能にしている。

Taichi GraphicsはSource Code Capital、GGV Capital、BAI Capitalが主導するシリーズAで5000万ドル(約57億7000万円)を調達した。このラウンドには以前に投資したSequoia Capital Chinaも参加した。TechCrunchは同社の事業や評価額について問い合わせている。

Taichi Graphicsの3Dコンテンツプラットフォーム「Taitopia」を利用して、クリエイターはリモートで共同作業ができる(Taichi Graphicsのデモビデオから撮影したスクリーンショット)

同社は、米国で学んだり働いたりしてから中国に戻った中国人が創業したオープンソースソフトウェア企業の1つだ。このような創業者たちは中国市場にフォーカスするというよりは、米中双方での経験を活かして最初から世界のユーザーに向けたプロダクトを作っている。クラウドネイティブのイベントストリーミングプラットフォームで2021年にシリーズBで2300万ドル(約26億5400万円)を調達したStreamNative(ストリームネイティブ)は、Twitterの元従業員が創業し中国と米国の両方で事業を運営している。非構造化データ分析スタートアップのZilliz(ジリズ)も同様の経緯をたどっている

Taichi Graphicsを創業したのは、MITでコンピュータサイエンスの博士号を取得したYuanming Hu(ユアンミン・フー)氏と、Googleに在籍していたYe Kuang(イー・クアン)氏だ。同社は世界の開発者コミュニティで徐々に関心を集めてきた。同社のプロジェクトはGitHubで2021年現在、1万7700個のスターを獲得し、これは2020年の1万2700個からの増加であると同社は説明している。2021年までに10数カ国、152人の開発者がTaichi Graphicsにコントリビュートした。

2019年にTaichiを紹介した論文の中で、フー氏と共同執筆者は3Dコンテンツのコンピューティングにドメイン特化言語が必要である理由を次のように説明している。

3Dビジュアルコンピューティングのデータは空間的にスパースであることが少なくありません。このようなスパース性を利用するために、階層的なスパースデータ構造が開発されてきました。マルチレベルのスパースボクセルグリッド、パーティクル、3Dハッシュテーブルなどです。しかしこのようなハイパフォーマンスなスパースデータ構造の開発や利用は、本質的に複雑でオーバーヘッドであるため難しいものです。我々は、このようなデータ構造に対して効率よくオーサリング、アクセス、メンテナンスをする新しいデータ指向プログラミング言語のTaichiを提案します。

Taishi Graphicsのツールはこれまでに物理的なシミュレーション、AR、AI、ロボティクス、映画やゲームの特殊効果に使用されている。

同社は新たに調達した資金でこの並列プログラミング言語の影響力を強化し、デジタルコンテンツのクリエイター向けツールを開発する計画だ。また、研究開発、プロダクト開発、収益化、戦略、デザインの人材採用も継続する。

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(文:Rita Liao、翻訳:Kaori Koyama)

米議会下院、対中競争力維持に向け半導体不足対策に約6兆円織り込んだ法案を可決―上院との妥協案を模索へ

米議会下院が対中競争力維持に向け半導体不足対策に約6兆円織り込んだ法案を可決、上院との妥協案を模索へ

Lim Huey Teng / Reuters

米議会下院は2022年度アメリカ競争法を可決しました。この法案には世界的な不足が続く自動車やコンピューター向けの半導体不足を脱するため、また中国に対する半導体製造面での優位性を維持するため520億ドルにのぼる補助金を計上し、さらに研究開発のために3000億ドルという巨額の予算を設定しています。

ナンシー・ペロシ下院議長は「サプライチェーンの面で米国の自給自足を実現し他国への依存をなくすことが法案の目的」だと述べました。最終的に法案が成立すれば、技術的・産業的優位に立ちつつある中国に米国が対抗するための包括的な試みになるはずです。

下院での可決により、この法案は上院との間で妥協案を模索する交渉に入ることになっています。ただ、このままでは予算が最終的に承認されるかどうかはわかりません。下院は民主党がやや優勢だったため法案が通ったものの、共和党はたとえばこの法案でに織り込まれた、発展途上国を支援するためにパリ協定で設立された緑の気候基金(Green Climate Fund)への拠出金80億ドルをはじめとして気候変動への対処に余分な条項が多すぎると主張しています。またこの法案では中国の責任を追及するのに不十分とも述べています。

交渉は早くて数週間、時間がかかれば数か月になると予想され、ジーナ・ライモンド商務長官は「数日の遅れが寄り大きな遅れになり、それは国内国家安全保障上のリスクを増加させるだろう」として交渉の迅速な決着を求めました。またバイデン大統領もこの法案が「重要なものである」と述べ「米国には待っている余裕はない」ています。大統領が法案に署名して法律として成立させるには、上下院の摺り合わせによって両院を通過しなければなりません。

今回の法案に対する投票は、北京冬季オリンピックの開会式の数時間後、議会で中国でのオリンピック開催を決めた国際オリンピック委員会に対する批判が出ているなか行われました。人権団体は以前から中国の人権に対する姿勢を批判していますが、中国はその主張を否定しています。

また今回の可決に対する自動車業界の反応としては、たとえばフォードの最高政策責任者兼法務顧問のスティーブン・クローリー氏はこの法案が成立すれば「フォードが世界的な半導体不足による生産の制約を緩和し、製造ラインの稼働を維持し、顧客が求めるエキサイティングな機能を備えたコネクテッドカーや電気自動車を提供するために役立つ」とコメント、フォード、GM、ステランティスを代表する米自動車政策協議会も上下院の「意見の相違を迅速に解決」することを議会に求めました。

一方、IT産業ではインテルが先月、オハイオ州に200億ドルを投じて半導体製造工場を建設すると発表しており、その際にこの法案から業界に追加支援があれば、今後10年間で新工場に1000億ドル規模の投資を行う可能性があるとしていました。またこの法案では、ほかにアップルや台湾TSMCのアリゾナ工場など、半導体製造施設の新設(すでに着工したものを含む)のために390億ドル(約4兆5000億円)の補助金を盛り込んでいます。

(Source:New York Times。Coverage:Automotive NewsEngadget日本版より転載)

半導体産業は台湾にとって「切り札」にも「アキレス腱」にもなる

TechCrunch Global Affairs Projectは、テックセクターと世界の政治がますます関係を深めていっている様子を調査した。

2021年10月上旬の4日間にわたって、約150機の中国軍用機が台湾の領空を侵犯し、台湾と米国からの批判を招いた。このように台湾海峡で緊張が高まる中、台湾の祭英文総統は米国軍は台湾兵士と台湾国内で軍事演習を行っていると発表した。これに対し中国の外務省は、台湾の独立を支援すれば軍事衝突をもたらすだけだと警告した。10月末、米国国務長官Antony Blinken(アントニー・J・ブリンケン)氏が中国外相Wang Yi(王毅)と会見して、台湾地域での現状変更の動きを控えるよう要請したまさにその日に、さらに8機の中国軍用機(うち6機はJ-16戦闘機)が台湾の領空を侵犯した。

1979年、米国は、中華民国(台湾)が中国本土、つまり中華人民共和国の一部であることを承認した。このときから中台関係の変遷が始まり、現在の状態に至る。中国は長期にわたって台湾併合を望んでおり(中国は台湾をならずもの国家と考えている)、軍事侵攻によって強制併合する可能性を決して除外していないが、米国が台湾を軍事的に防衛するかどうかについて戦略的にあいまいな態度をとってきたため、台湾併合を阻止されてきた形になっている。そして近年、台湾が半導体産業で重要な役割を果たすようになってきたため、状況はさらに複雑化の度を増している。

世界の半導体産業における台湾の重要性

台北本拠の調査会社TrendForce(トレンドフォース)によると、台湾の半導体受託製造業者は、2020年時点で、世界のファウンドリ市場の63%のシェアを獲得しているという。詳細を見ると、世界最大の受託チップ製造業者Taiwan Semiconductor Manufacturing Company(TSMC)だけで世界のファウンドリ市場の54%のシェアを確保している。さらに最近のデータによると、Fab 14B P7で停電が発生し製造がストップしたにもかかわらず、TSMCは依然として、2021年の第2四半期で世界のファウンドリ市場の約53%を占めている。

台湾のファウンドリ(TSMCを含む)はほとんどのチップを製造しているが、それに加えて、携帯電話から戦闘機まで、すべてのハイテク機器に内蔵されている世界最先端のチップも製造している。実際、TSMCは世界の最先端チップの92%を製造しており、台湾の半導体業界は間違いなく世界で最も重要視されている。

そして、当然、米国と中国の両国も台湾製の半導体に依存している。日経の記事によると、TSMCは、F-35ジェット戦闘機に使用されているコンピューターチップ、Xilinx(ザイリンクス)などの米国兵器サプライヤ向けの高性能チップ、DoD(国防総省)承認の軍用チップなども製造している。米軍が台湾製のチップにどの程度依存しているのかは不明だが、米国政府がTSMCに対して米国軍用チップの製造工場を米国本土に移転するよう圧力をかけていることからも台湾製チップの重要さの程度が窺える。

米国の各種産業も台湾製半導体に依存している。iPhone 12、MacBook Air、MacBook Proといった各種製品で使用されているAppleの5ナノプロセッサチップを提供しているのはTSMC一社のみだと考えられている。iPhone 13やiPad miniなどのAppleの最新ガジェット内蔵のA15 BionicチップもTSMC製だ。TSMCの顧客はもちろんAppleだけではない。Qualcomm(クアルコム)、NVIDIA(エヌビディア)、AMD、Intel(インテル)といった米国の大手企業もTSMCの顧客だ。

中国も外国製チップに依存しており、2020年現在、約3000億ドル(約34兆円)相当を輸入している。当然、台湾は最大の輸入元だ。中国は外国製チップへの依存度を縮小すべく努力を重ねているが、その需要を国内のみで賄えるようになるのはまだまだ先の話だ。中国の最先端半導体メーカーSemiconductor Manufacturing International Corporation(SMIC)の製造プロセスは、TSMCより数世代遅れている。SMICは現在7ナノ製造プロセスのテスト段階に入ったところだが、TSMCはすでに3ナノ製造プロセスまで進んでいる。

このため、中国の企業は台湾製チップに頼らざるを得ない。例えば中国の先進テック企業Huawei(ファーウェイ)は、2020年現在、TSMCの2番目の大手顧客であり、5ナノと7ナノのプロセッサの大半をTSMCに依存している考えられている。具体的な数字を挙げると、ファーウェイはTSMCの2021年の総収益の12%を占めている。

軍事衝突という形をとらない戦い

2022年前半に起こったことを見るだけで、半導体業界がいかに脆弱かが分かる。比較的落ち着いていた時期でも、停電の影響もあって、TSMCは世界シェアを1.6%失い、継続中の半導体不足に拍車をかけることになった。地政学的な要因による半導体生産量の低下ははるかに大きなものになるだろう。

最悪のシナリオはいうまでもなく、台湾海峡での軍事衝突だ。軍事衝突が起これば、半導体チップのサプライチェーンは完全に分断されてしまう。だが、他にも考えられるシナリオはある。台湾はよく分かっているが、中国に大量にチップを輸出することで、台湾の経済成長は促進されるものの、中国の技術発展も支援していることになる。台湾が、例えば米国との自由貿易協定に署名するなどして、中国への輸出依存度を減らすべく具体的な対策を講じるなら、中国への半導体チップの輸出を打ち切ってしまう可能性がある。

これは中国にとっては耐えられないシナリオだ。考えてみて欲しい。TSMCがトランプ政権の厳しい対中禁輸措置に応えてファーウェイからの新規注文を拒絶して以来、ファーウェイは5ナノ製造プロセスを使用したハイエンドのKirin 9000チップセットの製造を停止せざるを得なくなった。こうしてハイエンドチップが不足すると、ファーウェイはまもなく、5G対応のスマートフォンの製造を継続できなくなるだろう、とある社員はいう

台湾製のチップがまったく入ってこなくなると、中国のテック産業全体の継続的な成長に疑問が生じることになる。そうなると、中国は激怒するだけでなく、国内の安定も脅かされるため、中国政府に台湾武力侵攻の強い動機を与えることになるだろう。

逆に、米国に台湾製チップが入ってこなくなるシナリオも考えられる。「平和的な併合」のシナリオ(武力侵攻なしで台湾が中国に統合されるシナリオ)が実現すれば、台湾のファウンドリは中国政府の支配下に入ることになり、米国にとって戦略的な問題が生じる。中国政府はファウンドリに対してチップの輸出を禁止したり、輸出量を制限するよう要請できる。そうなると、米国は、米軍の最先端の軍事機器のモバイル化に必要なチップが手に入らなくなる。

TSMCが米国企業に対するチップの輸出を停止または制限すると、米国企業は現在のファーウェイのような状況に陥る可能性が高い(中国では「使用できるチップがない」という意味の「无芯可用」という新しいフレーズが登場している)。米国が台湾に侵攻して中国と台湾を再分割する可能性は低いものの、報復として制裁措置を課すなどの対抗手段を検討するかもしれない。そうなれば米中間の緊張がさらに高まることになる。

いうまでもなく、こうしたシナリオが現実化すればグローバルなサプライチェーンは分断され、全世界に深刻な状況を招くことになる。

台湾の半導体産業は国を守る盾か、それともアキレス腱か

台湾は間違いなく、半導体業界における支配的な地位と、それが米国と中国に対する影響力を与えている現在の状況を享受しているが、米中両国は現状に大いに不満を抱いており、両国とも自国に有利な状況になるようさまざまな手段を講じている。たとえば米国は、米国内にチップ製造工場を建設するようTSMCに要請している。一方中国は、TSMCから100人以上のベテラン技術者やマネージャーを引き抜いて、最先端のチップ製造を自国で行うという目標に向けて取り組みを強化している。

これは台湾の将来にとって決して好ましいことではない。台湾が海外での半導体生産量を増やすと、台湾に対する国際的な注目は弱まるかもしれない。が、同時に米国が台湾を軍事的に保護する動機も弱まってしまう。サプライチェーンが広域に分散するほど、中国が台湾を軍事力で併合するための主要な障害が軽減されることにもなる。台湾にとってこれは、難しいが、存続に関わる問題だ。

こうした不確実な要因はあるものの、台湾の地位は少なくとも短期的には安泰のようだ。米中両国の競争相手の製造プロセスはまだ数年は遅れている状態であるし、彼らが追いついてきたとしても、工場は稼働するまでに数年の計画と投資が必要になることはよく知られている。現状に何らかの変化がない限り、米中両国とも、少なくとも短期的には、台湾製チップなしでやっていけるとは考えられない。今確実に言えることは、米中両国は、対台湾戦略において、従来にも増して台湾の半導体産業の役割を考慮する必要があるということだ。

編集部注:本稿の執筆者Ciel Qi(シエル・チー)氏は、Rhodium Groupの中国プラクティスのリサーチアシスタントで、ジョージタウン大学のセキュリティ研究プログラム(テクノロジーとセキュリティ専攻)の修士課程に在籍している。また、ハーバード大学神学部で宗教、倫理、政治学の修士号を取得している。

画像クレジット:Evgeny Gromov / Getty Image

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(文:Ciel Qi、翻訳:Dragonfly)

テクノロジーへの取り締まりが、今後の米国・中国間の競争の運命を握る

TechCrunch Global Affairs Projectは、テックセクターと世界の政治がますます関係を深めていっている様子を調査した。

今、テクノロジー大手は苦境に立たされている。野心的なテクノロジー企業はかつて、中国で比較的独立して活動できる数少ない企業の1つだった。以前、Alibaba(アリババ)のJack Ma(ジャック・マー)氏やDidi(ディディ)のJean Liu(ジーン・リュー)氏のようなテックリーダーは、ダボス会議で主役級の存在感を放つ、中国イノベーションの世界的なシンボルとなっていた。しかし今は違う。

2020年マー氏が中国の規制当局を批判する発言をした後、Alibabaの記録的なIPOは延期され、また同氏は数カ月間、事実上「行方不明」となっていた。Tencent(テンセント)は反トラスト法違反で多額の罰金を科せられている。2020年以降、両社はそれぞれの企業価値の約20%を失い、その総額は3000億ドル(約35兆円)以上に達している。Didiの株価は中国のアプリストアからの削除命令を受けた後、40%も下落している。最近では中国の規制当局がEdTechやゲーム業界に新たな規制を課し、さらには暗号資産を全面的に禁止している。

米国テクノロジー業界の重鎮らは自由を手にしているようにも見えるが、実際は彼らや彼らのビジネスも政府の監視下に置かれている。Lina Khan(リナ・カーン)氏、Tim Wu(ティム・ウー)氏、Jonathan Kanter(ジョナサン・カンター)氏といった反トラスト法を擁護する有力者たちがいずれもバイデン政権で要職に就いており、また米国議会ではプライバシーや年齢制限など、テクノロジー企業を規制する新たな法案が検討されている。

北京でもワシントンでも(そして何年もテクノロジー企業と戦ってきたブリュッセルでも)「大手テクノロジー企業はあまりにも強力になりすぎて責任を取れなくなっている」というコンセンサスがますます明確になってきている。政府はイデオロギーの違いを超えて、公共の利益の名のもとに何らかのコントロールを行わなければならないと考えている。今、創業者、経営者、投資家にとって、政治的リスクがかつてないほど高まっているわけだ。

しかし、表面的には似たような取り締まりに見えても、両国の反トラスト法戦略の意味するところはこれ以上ないほど相違している。中国では、反トラスト法の取締りは与党である共産党の指揮棒に運命が委ねられている。しかし米国の反トラスト法のムーブメントは一様ではない。

米国がまだ始めたばかりのことに対して中国は断固たる行動を取っている。しかし、データプライバシーや子どものスクリーンタイムの制限を謳う中国政府の取り組みは、その真の目的である政治的・経済的な完全支配のための布石にすぎない。事実上独立した市民社会が存在しない中国では、テクノロジー産業は共産党以外に権力を持つことができる数少ない場所の1つとなっていた。しかしこれまで以上に抑圧的な習近平政権では、このような独立した力の源が受け入れられることはない(香港を参照)。党の方針に従わなければ中国国家の強大さに直面するぞというメッセージは明確である。

さらに、中国はパワーの拡大を目指している。中国はかねてより次世代技術の支配を目指しており「China Standards 2035」プロジェクトの一環として、5GやAI、再生可能エネルギー、先進製造業など、数多くの重要な産業や分野の標準化の設定を積極的に進めている。これを実現するための主要戦略として、中国は国際的な基準設定団体を水面化に支配しようと試みていたのだが、北京はこれらのテクノロジーを開発する企業をコントロールすることも同様に重要であると気づいたのである。Huawei(ファーウェイ)、Xiaomi(シャオミ)、TikTok(ティックトック)の3社は、欧米の政治家が懸念しているような積極的なスパイ活動は行っていないかもしれないが、彼らの利用が広がれば広まるほど、中国の規格が世界のデフォルトになっていくことになる。

関連記事:国際的な技術標準での優位性を狙う中国の次の計画

ジャック・マー氏の運命と中国の5GリーダーであるHuaweiの創業者一族の運命を対比してみるといい。Huaweiは中国のテクノロジーを世界の多くの国でデフォルトの5Gキットとすることに成功。これにより中国の技術的信頼性が高まり、いくらマー氏が共産党員でもこの功績の比較にはならない。Huaweiは当然北京との親密さを売りにしており、Huaweiを選ぶことは中国への信任投票の代名詞となっているが、その分のリスク存在する。米国は、Huaweiと中国の治安機関との関係を懸念して同社に対する反対運動を実施。その結果、Huaweiが米国の対イラン制裁に違反したとして、同社創業者の娘でCFOのMeng Wanzhou(孟晩舟)氏がカナダで逮捕されるに至ったのである。

しかし、忠誠心が報われないわけではない。北京は2人のカナダ人を逮捕し、彼らの拘留を利用して晩舟氏の釈放に向けた取引を成功させた。例えHuaweiが以前は北京に忠誠を誓っていなかったとしても、今は確実に誓っているだろう。中国の他のテクノロジー大手にとっての教訓になったのではないだろうか。

中国の弾圧により投資は冷え込み、人材は浪費され、恐らく中国の強力なテクノロジー部門を築いてきた起業家精神も失われたことだろう。しかし、権力を振るってテクノロジー企業を屈服させることには間違いなく成功している。

北京が国益のためにテクノロジー大手を弾圧する一方で、米国が自国のテクノロジー大手を取り締まっている理由は一体何なのだろうか?米国の独禁法取締官はテクノロジーパワーの肥大化を懸念しているかもしれないが、より競争力のある部門がどうあるべきかという戦略的ビジョンを持っているとは信じ難い。米国の大手テクノロジー企業はその規模が米国の競争力に不可欠であるという主張をすることがあるが、彼らも政府も、自分たちが「アメリカンパワー」の作用因子であるとは考えていない。実際、米国議会がテクノロジー企業と中国のどちらをより敵視しているのか、判断に迷うほどである。

反トラスト法を支持する人々は、Google(グーグル)やApple(アップル)といった企業を解体するか、少なくとも規制することで全体的な競争力が高まり、それが政治や米国のテクノロジー分野に広く利益をもたらすと信じている。AmazonからAWSを、 Facebook(フェイスブック)からInstagram(インスタグラム)を切り離すことで、消費者にはメリットがもたらされるかもしれないが、これがテクノロジーに関する米国の優位性を維持することにどうつながるだろうか?それはまったく不明である。

これまでの米国におけるハンズオフ型の資本主義システムは、オープンでフラット、民主的であり、世界の歴史上最高のイノベーターを生み出してきた。同産業は政府が支援する研究の恩恵を受けてきたが、政府との関係の「おかげ」ではなく、むしろ政府との関係があったにもかかわらず、成功を遂げることができたのだ。米国企業が世界的に信頼されているのは(ほぼ)そのためであり、政権の動向に左右されることなく、法の支配を遵守することが知られているからなのである。

テクノロジーにおける米国と中国間の競争は、この前提を根底に検証されなければならない。政府から独立して運営されている分散型かつ非協調的な産業が、超大国によって編成された一産業に対して優位性を維持できるのか?

筆者はそれでも米国の(そして同盟国の)イノベーションは、これまで通り成功し続けると楽観視している。開放性は創意工夫を生むのである。米国の研究とスタートアップはどの国にも劣っておらず、そして競争に適切に焦点を当てることで、発展が到来するのである。

しかしだからといって、少なくとも限定的な国家戦略がまったく不必要というわけではない。米国に中国のような産業政策が必要だと言っているわけではない。結局のところ、中国のトップダウンモデルは壮大な無駄を生み出し、それが何十年にもわたって中国経済を圧迫することになる可能性があるのだ。企業を強制的に壊してしまうような露骨なやり方では、かえって害になることが多いだろう。

その代わりに米国の議員たちは、反トラスト法に関するヨーロッパの見解に賛同しつつある今、大西洋をまたいだグローバルな競争基準の賢明なフレームワークを開発すべきだ。新設されたU.S.-EU Trade and Technology Council(米欧通商技術評議会)とQuad(日米豪印戦略対話)のテクノロジーワーキンググループが協力を促進し、フェアプレーを維持する善意の民主的テクノロジーブロックを作るための基礎を築くべきなのである。

商業的なアウトカムに影響を与えることなく、政府が支援を行うというこのような中間的な方法には前例がある(冷戦時代に生まれたシリコンバレーの例など)。米国のテクノロジー産業の起業家精神を阻害することなく、ガードレールを提供するためにはこの方法が最適だ。

議会や行政がテクノロジー競争をどう扱うかを検討する際、現在の弊害を是正するだけではなく、米国のテクノロジーそのものの未来を描くことを念頭に置くべきである。なんと言っても米国経済のリーダーシップがかかっているのだから。

編集部注:本稿の執筆者Scott Bade(スコット・ベイド)はTechCrunch Global Affairs Projectの特別シリーズエディターで、外交問題についての定期的な寄稿者。Mike Bloomberg(マイク・ブルームバーグ)の元スピーチライターで、「More Human:Designing a World Where People Come First」の共著者でもある。

画像クレジット:Anson_iStock / Getty Images

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(文:Scott Bade、翻訳:Dragonfly)

テスラが車内カラオケ用のマイクを発売(今のところ中国でのみ)

Tesla(テスラ)は新しいアクセサリーとして、車内カラオケ用のマイクを発売した。「TeslaMic(テスラマイク)」は当面、中国でのみ販売される。中国の旧正月にあわせてロールアウトされたソフトウェアアップデートでは、インフォテインメントシステムに「Leishi KTV」というカラオケプラットフォームが追加された。

Teslaによると、このマイクはインフォテインメントシステムと自動的にペアリングされるという。TeslaMicは2個入りセットになっているので、デート中にどこかに駐車してデュエットソングを歌いたいと思ったときに役立つかもしれない。セットの価格は約188ドル(約2万1600円)だが、1時間もたたずに売り切れたとのことで、車内シンガーになりたい多くの人たちは、Teslaストアページの読み込みに失敗している。

Weibo(ウェイボー、微博)の投稿(YouTubeにもミラー配信されている)では、TeslaMicとカラオケシステムが実際に動作している様子が紹介されている。Elektrekが指摘するように、Leishi KTVのインターフェースとカタログを採用することで、Teslaは2019年に導入した「Caraoke」機能を発展させているが、その機能では選曲がより限定的だった。

Teslaが中国以外の国でTeslaMicを販売するかどうかはまだわからないが、米国に登場した場合はもしかしたらDogecoin(ドージコイン)で買えるようになるかもしれない。それが実現するまでは、クルマのオーディオシステムに接続できる公式の「Carpool Karaoke(カープールカラオケ)」マイクがある(ただし、自分でバッキングトラックと歌詞を表示するディスプレイを用意する必要がある)。

編集部注:本稿の初出はEngadget。著者Kris Holt(クリス・ホルト)氏は、Engadgetの寄稿ライター。

画像クレジット:Tesla

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(文:Kris Holt、翻訳:Aya Nakazato)

【コラム】技術支配をめぐる世界的な衝突が激化、敵対国はルール・制限・終わりがない戦略的競争とスパイ活動を展開している

国家の支援を受けた企業スパイ活動に関しては、一見無関係に見える行動を、無作為なもの、重要でないもの、あるいは意味のないものであると一蹴しがちである。

次のことを考えてみて欲しい。中国は、AI、バイオテクノロジー、自動運転車、量子コンピューティング、半導体への数十億ドル(数千億円)規模の投資でシリコンバレーを席巻している。これらの領域の基礎研究開発に巨額の資金を投じているのである。米国に本拠を置く大学の教授たちが中国の研究機関とのつながりを隠しているのではないかという懸念が高まっており、2021年12月にはハーバード大学の教授が連邦法違反で有罪判決を受けたばかりである。

また、これらのセクターに属するテクノロジーCEOの多くが認識しているように、中国とつながりのある企業は、国民、ネットワーク、システムに不正アクセスをしようと絶え間ない活動を続けている。悪意のある行為者たちは、大小を問わず企業に侵入し、エマージングテクノロジー(将来実用化が期待される先端技術)の進歩に関する情報を入手するために、非従来型の情報収集活動を組み込んだ混合オペレーションを採用している。

中国が軍事部門と民間部門を問わず、テクノロジーセクター全体の支配権を獲得しようと世代的な取り組みを行っていることを理解すると、パズルのピースが適切な位置に配置され始める。

今日、私たちの敵対国は、ルールのない、制限のない、終わりのない戦略的競争とスパイ活動という、致命的で深刻なゲームを展開している。近年中国は、自国の戦略目標を推進する目的で、外国の技術とそれに従事する科学者、技術者、企業を分析し、標的にし、獲得するグローバルなシステムを構築してきた。

米国と西側諸国は、この脅威にようやく気づき始めたところである。米国家防諜安全保障センター(National Counterintelligence and Security Center、NCSC)は最近になって「中国は、米国やその他の国々から技術やノウハウを得る目的で、さまざまな合法的、準合法的、違法な方法を用いている」ことを認めている。

一方、米連邦捜査局(Federal Bureau of Investigation、FBI)は、10時間に1件の割合で中国政府の行動に関する捜査に着手していると報告している。カナダ政府は、政府の資金が敵対的な研究開発プログラムを支援していないことを確認する目的で、すべての科学者へのスクリーニングの実施を義務づける方針である。そして日本は先ごろ、経済スパイ活動に対するサプライチェーン、知的財産、重要インフラの安全性の確保を視野に入れ、内閣レベルのポストである経済安全保障担当大臣を新設した。

NATOでさえ最近、この戦いに介入し、同盟国に中国からの投資を阻止するよう呼びかけており、同盟の設立条約には回復力のある「重要なインフラと産業」が謳われていると指摘した。これは歴史的な宣言といえよう。今日の地政学的な戦いにおいて、企業は好むと好まざるとにかかわらず、その最前線に置かれている。

これを受けて、ワシントン、ブリュッセル、東京は、中国のアーリーステージのテック系スタートアップ、特に「エマージング」や「フロンティア」領域の技術を開発するスタートアップのアクセス制限に対する取り組みを徐々に強化する公算が大きい。これはテック系スタートアップやベンチャーファンドの資金調達にも影響を与えるであろう。米国政府はすでに、FIRRMAおよび2018年輸出管理改革法(Export Control Reform Act of 2018)の形で、米国の技術への中国によるアクセスを阻止または取り消す手段を導入している。規制当局はこれらのツールを本格的に用いて、アーリーステージのテック企業への投資、M&A、技術移転を見直す予定である。

しかし、これでは十分とはいえない。自由世界の政府と企業は、脅威に対抗するために、積極的、持続的、かつ効果的な措置を講じなければならない。

最初のステップは、西側諸国政府がこの難題に立ち向かい、産業を戦場として認識することである。そうすることで、企業の取締役会の考え方の変化が促進されるであろう。過去10年間、多くの米国企業が、欧米の価値観を前進させる上で、名目上の利害関係でグローバル精神を採用してきた経緯がある。

次のステップでは、この競争に勝つために不可欠な戦略的産業とエマージングテクノロジーについて、政府が定義する必要がある。米国商務省(U.S. Department of Commerce、DOC)は、2018年輸出管理改革法で、この方向に一歩踏み出した。企業に同様のことを要求することは、重要なノウハウや知的財産が敵対国に拡散することのない統一された官民ブロックを確保する上で、不可欠である。研究開発のための資金を増やし、パブリックセクターを含む市場を創出することは、企業が負担する短期的なコストを相殺することにつながるであろう。

最後に、米国が欧州とアジアの同盟国の参加を促し、投資審査と輸出管理のための統一的な法的枠組みを構築しない限り、既存の、そして今後予定されている法的、政策的処方箋はすべて無意味なものとなる。これは米国にとって真のリーダーシップを発揮する機会であり、難局に際してうまく対処し、自由世界を結集させなければならない。

結果的に、この地政学的な対立は、一部のITエグゼクティブ、スタートアップ創業者、ベンチャーキャピタリストの間にフラストレーションを生み出すことになる。これは、戦略的競争が、あるレベルでは、人、資本、アイデアの自由な流れというテック世界のモットーに反するからである。

しかし、こうしたアイデアを生み出したのは、西洋の価値観と法の支配である。それらは、私たちの継続的な利益のためだけではなく、将来の世代のためにも、私たちが保護するに値するものであるといえよう。

編集部注:本稿の執筆者Greg Levesque(グレッグ・レベスク)氏とEric Levesque(エリック・レベスク)氏はともに企業が技術、人材、サプライチェーンを地政学的脅威から守るための実用的なデータを提供するStriderの共同設立者。

画像クレジット:David Sacks / Getty Images

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(文:Greg Levesque、Eric Levesque、翻訳:Dragonfly)

アップル、iPhoneの販売台数がサプライチェーンの不足を克服し過去最高に

全世界的なパンデミックが始まった直後にガイダンスをやめていたAppleが、四半期の売上高で過去最大の売上を記録したことには、笑顔になるべき理由がたくさんある。パンデミックの不確実性とサプライチェーンの制約に直面しても、ハードウェアの巨人は投資家の予想を上回り、売上高が11%増加した。

iPadの売上が予想を下回り、前年同期比14%減となったことを除けば、ハードウェア部門は全体的にバラ色だった。iPhoneは、2021年9月下旬に発売されたiPhone 13シリーズに続き、堅調な伸びを示した。スマートフォンの売上は716億3000万ドル(約8兆2710億円)で、前年同期の656億ドル(約7兆5740億円)から9%増加している。

世界的なサプライチェーンのボトルネックとチップ不足を考慮すると、この結果はより顕著になる。Tim Cook(ティム・クック)氏は決算説明会で、サプライチェーンの問題は今後、緩和される見込みであると言及している。

「過去最高となった当四半期の業績は、これまでで最も革新的な製品およびサービスのラインアップによって実現された。接続することがかつてないほど重要な時代に、世界中のお客さまから反響があったことをうれしく思います」とCEOはいう。さらに彼は、Appleが現在進めているカーボンニュートラルへの取り組みについても言及した。

このニュースは、私たちが以前から知っていたことを確認するものだ。Appleのスマートフォンが大ヒットしたこの四半期は、主に最近の中国における成功のおかげだ。Counterpoint Researchの発表によると、Appleは世界最大のスマートフォン市場である中国でシェア1位を獲得している(Vivo、Oppo、Honor、Xiaomiなどがそれぞれ2位から5位であることを考えると、これは小さな成果ではない)。

一方、Huawei(ファーウェイ)は、制裁措置により重要な技術へのアクセスが遮断されているため、自国でも苦戦が続いている。

2021年1月初め、Canalysは、他のメーカーもサプライチェーンのボトルネックやチップ不足に悩まされ続けている中、Appleは世界第1位に躍り出たと指摘している。同社は、特定の市場における需要に対応するのに苦労していた前四半期に比べて、大幅な伸びを示した。

サプライチェーンの制約により、一部の市場において需要を満たすことが困難な状況が続いていることは事実だが、こうした状況は、サプライヤー間の影響力が弱い中小メーカーに対して過度に影響を与える傾向がある。

上述したようにiPadが目標を下回った一方で、Macの売上高は前年比25%増の108億5000万ドル(約1兆2550億円)を記録した。これは主にiMacとMacBook Proのここ数年で最も有意義なアップデートを含む、M1モデルのリフレッシュが主な要因だ。Apple WatchやAirPodsなどを含むウェアラブル、ホーム、アクセサリーは147億ドル(約1兆7000億円)に成長し、サービス部門は195億2000万ドル(約2兆2570億円)を記録している。

画像クレジット:Apple

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(文:Brian Heater、翻訳:Katsuyuki Yasui)

Baiduの電気自動車ブランドJiduが約460億円調達、4月の北京モーターショーで初のコンセプトカー「ロボカー」発表

かつては長い開発サイクルを要する産業だった自動車産業は、中国のハイテク企業によって大きく変貌しつつある。現在、中国から生まれる新しい電気自動車ブランドには、とてもついていけない。Baidu(バイドゥ、百度)と中国の自動車メーカーGeely(ジーリー、吉利)がわずか1年前に設立した電気自動車メーカーJiduは現地時間1月26日、シリーズAラウンドで4億ドル(約460億円)近くを調達したと発表した

関連記事:中国の検索大手BaiduがEV製造ベンチャー設立へ

Baiduと、Volvo(ボルボ)を傘下に持つGeelyの出資によるこの新たな資金注入は、Jiduが2021年3月にクローズした3億ドル(約340億円)の創業資本を後押しするものだ。今回の資金により、Jiduは研究開発と量産を加速させ、4月の北京モーターショーで初のコンセプトカー「ロボカー」(同社は自動車ではなく、自動車用ロボットと分類)を発表できるようになる。ロボカーの量産モデルは2023年に発売される予定だ。

JiduのCEOである Xia Yiping(シャ・イーピン)氏は以前、APAC(アジア太平洋)地域におけるFiat Chryslerのコネクテッドカー部門を率い、2018年にMeituanが買収した中国の自転車シェアリングのパイオニアであるMobikeを共同創業した。

Jiduの前進速度は注目に値するが、その技術の実行可能性を疑問視する懐疑論者を容易に引きつける可能性がある。このスピーディーなサイクルは、量産車で個々のハードウェア部品をテストするのではなく、模擬プロトタイプを使ってスマートコックピットと自律走行システムを開発するという戦略のおかげだと、Jiduは説明している

同社は、わずか9カ月という短期間で、都市部や高速道路でのレベル4(ほとんどの状況で人間の手を介さない自律走行)機能の安全性と信頼性を「テストし、証明した」と述べた。

このEVスタートアップは、競合するNio(ニオ)が得意とするブランディングとファンコミュニティにもかなり注力している。12月には、オンラインやオフラインのイベントでクルマについてオタクになる「Jidu Union」への参加者を募集し始めた

今後、Jiduは自律走行、スマートコックピット、スマート製造などの関連技術に特化した人材を採用・育成していく予定だ。

画像クレジット:Teaser of Jidu’s concept robocar

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(文:Rita Liao、翻訳:Nariko Mizoguchi

2021年に急成長した中国のロボタクシー(専門用語と美辞麗句が溢れるリリースから実際のところを解析)

自動運転車を手がける中国のスタートアップは、自社の自律走行車両への乗客を獲得するため、軍拡競争を繰り広げている。数週間ごとに、また1つの大手企業が新しいパイロットプログラムや小規模サービスを開始するための認可を得たというニュースが届く。

これらのプレスリリースは、規制に関する専門用語や、企業の発展を誇示するための美辞麗句が多く、わかりにくい。そこで、中国の主要なロボタクシー事業者であるAutoX(オートX、裹動智駕)、Baidu(バイドゥ、百度)、Deeproute.ai(ディープルートAI、元戎啓行)、DiDi(ディディ、滴滴出行)、Momenta(モメンタ)、Pony.ai(ポニーAI、小馬智行)、WeRide(ウィーライド、文遠知行)の2021年の進捗状況をこの投稿にまとめ、それぞれの発表から実際にどのようなことがわかるのかを解析した。

中国では多くの大手企業が以前から有人車両(保安運転手が乗車する自動運転車)や無人車両の試験運行を行っているため、この投稿では、定期的に行なわれている一般向けサービスに焦点を当てる。これらの企業は、ロボタクシーに関わるコスト、安全性、規制を調整しながら、自動運転トラック、貨物運搬車、市バスなど、より早く規模を拡大できる分野にも乗り出している。とはいえ、やはり長期的にはロボタクシー分野に重点を置いていくことに変わりはない。

中国の自動運転区域について留意すべき点

本題に入る前に、中国の自動運転車事業に特有の状況をいくつか取り上げる。

  • 中国国内の道路事情は場所により大きく異なる可能性がある。例えば、深圳郊外の工業団地で自動運転車の試験走行を行う場合、都市部にある繁華街の蛇行する道路で行うよりも道路状況はずっと楽である。
  • 自動運転車に関する規制は、それぞれの省で異なる可能性に加え、同じ都市であっても地区によって異なる場合がある。ある都市において完全無人の自動運転走行試験を行う承認を得た企業が、必ずしも他の企業より技術的に進んでいるとは限らない。単に、連携する地元の規制当局が自動運転に対して進歩的な姿勢を有しているからだという場合もある。
  • スマート交通を成長戦略として掲げている地方行政もある。当然、自動運転車を手がけるスタートアップの支援にも熱心だ。国や都市レベルの規制が制定されるよりずっと前に、当局がその管轄区域内で無人運転の試験を行うことを非公式に承認する場合もある。
  • 行政支援は、税制優遇措置、有利な土地利用の機会や安価なオフィススペースの提供などの形で現れることもある。これが、中国の主要な自動運転車のスタートアップが、深圳、広州、上海、蘇州などの十分な資金力のある都市に集中している理由の1つだ。
  • 中国の地方行政は、自動運転のような新技術の開発に拍車をかけるため、たびたび実証区を設置する。こうした取り組みにより、企業は成熟産業を規制する通常の制約を受けることなく、試験を行うことができる。
  • 今日現在、中国のどの都市も無人ロボタクシーの許可を出していない。この許可が下りればサンフランシスコで Waymo(ウェイモ)やCruise(クルーズ)が行っているように、自動運転車が保安運転手なしで一般市民を輸送することが可能になる。

AutoX

深圳に本社を置き、カリフォルニアに研究開発センターを持つAutoXは、プリンストン大学の元教授、肖健雄氏により、2016年に設立された。出資者には、Alibaba(アリババ、阿里巴巴集团)、MediaTek(メディアテック、聯發科技)、中国国営自動車メーカーSAIC(サイク、上海汽車集団)などが名を連ねる。

深圳のAutoXのロボタクシー(画像クレジット:AutoX、2021年)

事業状況

2020年8月、AutoXは上海の嘉定区で、有人運転ロボタクシーの一般向けサービスを開始した。利用者はAlibabaのナビゲーションマップ「Amap(エーマップ、高徳地図)」を通じて配車予約ができる。AutoXによると、中国の大手配車サービスプラットフォームでロボタクシーのサービスが利用可能になったのはこれが「初めて」だという。

上海郊外の嘉定区には、上海汽車集団、Volkswagon(フォルクスワーゲン)、NIO(ニーオ、上海蔚来汽車)、トヨタ自動車、Baidu、DiDi、Delphi(デルファイ)といった大手自動車メーカーやOEMがオフィスを構えている。2020年の発表によると、AutoXは100台の「自動運転車」を市内の公道で走らせる契約を上海政府と結んだ。

2021年1月、AutoXは「スマートシティ」として生まれ変わりつつある深圳の工業地帯、坪山区で無人ロボタクシーのサービスを開始した。11月には、同社はこのプログラムが168平方キロメートルの坪山区全域をカバーしたと発表した。これはマンハッタンの約3倍の広さに相当する。

ちょうど1カ月前、AutoXは深圳の公道に25台の無人自動運転車を配備し「試験走行」を実施した。中国の自動車ニュースブログは、AutoXが地元の交通規制当局の許可を得ずにこれを進めたと報じている。一方、同社はTechCrunchに対し「政府の支援」を得たと語った。当時、我々は関連部門と連絡を取ることはできなかった。

AutoXによると、同社は合わせて「数百台」のロボタクシーを路上で走行させているという。

関連記事:自動運転ユニコーンAutoXが中国初のロボタクシーのテストを深センでスタート

米国での試験走行

2021年11月現在、AutoXはカリフォルニア州で無人および有人車両の試験走行を許可されている。

OEMパートナー

AutoXは、ホンダFiat Chrysler(フィアット・クライスラー)と共同で、中国でのロボタクシーの開発を進めている。

Baidu Apollo Go

「Apollo Go(アポロ・ゴー)」は、2000年に設立された北京のインターネット企業である検索エンジン大手Baiduの自動運転車プロジェクトである。Baiduは  2015年末、多くの競合するスタートアップが誕生したのとほぼ同時期に、自動運転車部門を始動させた。

Baidu「Apollo Go」のロボタクシーサービス(画像クレジット:Baidu、2021年)

事業状況

2021年11月、Apollo Goは北京の中国における「初の商用自動運転車実証区」で、有料でのロボタクシーサービスの提供が認められた。

Apollo Goにとって公道での「初の商用展開」となった67台の車両では、乗車した保安運転手が監視を行った。このサービスはApollo Goのアプリから配車が可能で、毎日午前7時から午後10時まで運行が実施された。

Apollo Goは、中国の「初の商用ロボタクシー実証区」に参加できたが、対価を目的とした乗車提供はBaiduのこのサービスが初めてではなかった(ネタバレ:以下のWeRide.aiの項を参照)。とはいえ、このイベントにはかなりの象徴的な重要性があった。60平方キロメートルに及ぶこの実証区は、亦荘郊外における国家レベルの経済プロジェクトである北京経済技術開発区の区域内に位置している。このイベントで、ロボタクシー事業者が乗客のデータを活用し、サービス価格を設定する方法について規定する規制の枠組みが導入されたのだ。首都におけるこのような動きは、中国全土のモデルとなる可能性がある。

亦荘が推進しているのは、ロボタクシーだけでない。「コネクテッドカー実証区」はその他のタイプの自動運転車にも対応している。2021年、JD.com(JDドットコム、京東商城)やMeituan(メイトゥアン、美団)を含む多くの大手テック企業が、実証区での無人配送用ミニバンの試験走行を開始した。

Apollo Goの無料版は、広州、長沙、滄州の一部地域で一般公開されており、現在は上海で早期テスターを募集している

米国での試験走行

2021年11月現在、Apollo Goはカリフォルニア州で無人および有人車両の試験走行を許可されている。

OEMパートナー

Apollo Goのロボタクシー車両は、国営メーカーFAW(第一汽車集団)のHongqi(ホンチー、紅旗)電気自動車(EV)スタートアップのWM Motor(WMモーター、威馬汽車)、国営メーカーGAC(広州汽車集団)のEVブランド「Aion(アイオン)」、国営メーカーBAIC(北京汽車集団)のEV新ブランド「ARCFOX(アークフォックス)」から提供されている。

Deeproute.ai

深圳に拠点を置くディープルートは、設立からわずか2年の企業としてはかなりの進展を遂げている。2019年、創業者の周光氏は、自動運転車ベンチャーのRoadstar.ai(ロードスター・エーアイ、星行科技)を会社の内紛により辞したのち、ディープルートを設立した。この若い起業家は、すぐに新しい試みへの支持を集めた。2021年9月、ディープルートはAlibabaや中国の自動車メーカーGeely(ジーリー、吉利汽車)などの出資者から、シリーズBラウンドで3億ドル(約340億円)もの資金を調達した

Deeprouteのロボタクシーサービス(画像クレジット:Deeproute.ai、2021年)

事業状況

7月、ディープルートは本社に近い深圳の繁華街、福田区の公道に、20台の有人ロボタクシーを配備した。同本社は香港、深圳両行政が設立した  技術協力区の区域内にある。

同社が4月に深圳の交通規制当局から許可を得て開始したロボタクシーサービスは、現在のところ無料で一般利用できる。TechCrunchに語ったところによると、将来的には有料化する予定だという。

2021年3月、中国国営メーカーの東風汽車集団と共同開発したディープルートのロボタクシーが、武漢で一般向けに無料乗車の提供を開始した。中国中部の都市武漢も、中国の自動運転車分野のパイオニアを目指す候補地の1つだ。

米国での試験走行

2021年11月現在、ディープルートはカリフォルニア州で有人自動運転車両の試験走行を許可されている。

OEMパートナー

ディープルートと東風汽車は、2022年までに200台以上のロボタクシーを配備することを予定している。

DiDi

配車サービス大手のDiDiは、2019年に自動運転車の子会社を設立し、新会社のために5億ドル(約570億円)を迅速に調達している(当時業界で唯一最大の資金調達ラウンドだった)。これにもかかわらず、ロボタクシー開発の動きは予想より静かだった。

DiDiが他の問題に気を取られていたとしても、無理はない。2021年、米国で上場した直後、同社は中国の規制当局から徹底的なデータ調査を受けている。この中国配車サービス大手は12月、ニューヨーク証券取引所から上場廃止となることを発表した

DiDiのロボタクシーサービス(画像クレジット:DiDi、2020年)

事業状況

DiDiのロボタクシーは、2020年6月に上海の一部地域で乗車サービスを開始した。同社は、2020年末までにロボタクシーサービスを北京と深圳に拡大し、2021年には中国国外にもこの事業を展開すると述べていたが、その進捗状況はいまだ更新されていない。同社はまた、2030年までに配車サービスプラットフォームを通じて100万台以上の「自動運転車」を運用するという野心的な目標も掲げている

米国での試験走行

2021年11月現在、DiDiはカリフォルニア州で有人自動運転車両の試験走行を許可されている。

OEMパートナー

2021年4月、DiDiはジーリー傘下のVolvo(ボルボ)から同社の海外向けロボタクシー車両の提供を受けると発表した

Momenta

レベル4の完全自動走行技術にのみ注力するロボタクシー事業者が多いなか、創業5年のMomentaは、自動車メーカー向けに先進運転支援システム(ADAS)の売り込みも行っている。このアプローチにより短期的な収入が得られる他、手頃なコストでアルゴリズムの学習用データを蓄積することができる。一方、同社が実際の無人運転技術に十分なリソースを投入しているかどうかについては、業界関係者から疑問の声が上がっている。

Momentaと上海汽車集団が共同開発したロボタクシー(画像クレジット:Deeproute.ai、2021年)

それでも、蘇州に拠点を置くMomentaは、中国で最も資金提供を受けている自動運転車のスタートアップの1つとなっている。General Motors(ゼネラルモーターズ)、Daimler(ダイムラー)、Bosch(ボッシュ)、トヨタ自動車、中国国営自動車メーカー上海汽車集団から、二―オの創業者ウィリアム・リー氏が監督するファンド、Nio Capital(二―オキャピタル)まで、名だたる出資者から合わせて12億ドル(約1370億円)を調達しているのだ。

同業他社の多くが、研究開発部隊の設置や試験走行を米国で行っている一方、Momentaは国際展開の拠点としてドイツを選んだ。2021年、同社は出資者であるダイムラーの本拠地、シュトゥットガルトにオフィスを開設した。

事業状況

2021年12月、Momentaと上海汽車集団は、上海の一部地域で無料のロボタクシーサービスを開始した。利用者は毎日午前8時から午後10時まで、上海汽車集団のアプリを通じて有人運転のロボタクシーを呼び出すことができる。このプログラムでは「20台の車両を用いて将来的な商用利用のための試験と検証を行っている」とMomentaは述べている。同プログラムは、今後数カ月のうちに蘇州と深圳で展開される予定だ。

Momentaは、上海に隣接する豊かな都市、蘇州の政府から多大な支援を得ている。国務院国有資産監督管理委員会(SASAC)蘇州支部と合弁事業を実施し、同市でのロボタクシー展開を「スケールアップ」させる。SASACは、100社あまりの大規模国有企業を監督する、中国の強力な政府機関である。

OEMパートナー

Momentaはロボタクシーの車両に関して上海汽車集団と協業している。両社は2022年までに中国全土に200台の車両を配備することを目標に掲げた

Pony.ai

Pony.aiは、中国で最も評判の高い自動運転車の専門家たちを輩出してきた、Baiduの自動運転車部門のベテラン2人により、2016年に設立された。広州とカリフォルニアにオフィスを構える同社は、トヨタ自動車の支援を受け、これまでに10億ドル(約1140億円)以上を調達している。

PonyのLexusのロボタクシー(画像クレジット:Pony.ai、2021年)

事業状況

Baiduと同様に、Pony.aiも2021年11月、北京のスマートカー実証区で有料のロボタクシーサービス事業を実施するための承認を得た。「PonyPilot+」と呼ばれるこのサービスは、これまで同エリア内で無料の乗車サービスを行っていた。

「PonyPilot+」は、2021年7月、上海の自動車産業の中心地である嘉定区で始動した。6月には、広州で既存のロボタクシーに加え、完全無人の自動運転車を配備している

米国での試験走行

11月、カリフォルニア州車両管理局は、フリーモントで起きた衝突事故の報告を受け、無人自動運転の試験許可を一時停止にするとPony.aiに通知した。Pony.aiが規制当局から許可を得てから6カ月後の決定だった。カリフォルニア州での同社の有人自動運転の試験許可には影響がなかった。

OEMパートナー

トヨタ自動車の「Lexus(レクサス)」、Hyundai(ヒュンダイ)の他、中国のBYD(ビーワイディー、比亚迪汽车)や「アイオン」など、複数のメーカーの車両をPony.aiのロボタクシーとして利用している。

WeRide.ai

WeRide.aiとPony.aiは多くのルーツを共有している。どちらも広州とカリフォルニアに拠点があり、創業者はBaiduの自動運転車チーム出身者だ。WeRide.aiは2017年に設立され、2021年だけで6億ドル(約686億円)以上を調達した。国営メーカーの広州汽車集団やルノー・日産・三菱アライアンスなどが出資者に名を連ねる。

東風汽車が提供するWeRideのロボタクシー(画像クレジット:WeRide、2021年)

東風汽車が提供するWeRideのロボタクシー/写真:WeRide2021年)

事業状況

2019年11月、WeRide.aiの有人運転ロボタクシーは、広州の144平方キロメートルのエリアで一般乗車を開始した。このサービスは、中国南部で最大のタクシー会社である国営の白雲タクシー会社(白雲出租汽車公司)と連携して実施している。

北京でのBaiduやポニーの有料サービスに先駆けて、WeRide.aiはサービス開始当初から、広州のタクシー料金に相当する金額を乗車料として受け取ってきた。

これは、競合同士が自社プログラムに中国で「初」という称号を得るため躍起になるという、よくある状況の例だ。このような主張そのものは有効だが、よく見極める必要がある。ある業界関係者によると「北京の方が政策を先導する上での影響力はある」が、企業にとっては有料ロボタクシーサービスを実施する場所が北京であろうと広州であろうと、その差は「それほど大きくない」という。

「北京でも広州でも、その都市が友好的な政策をとっていれば、それは良いニュースです。つまりは、ロボタクシー企業は実運用のための試験ができればいいのです」と、同関係者は語った。

WeRide.aiは、武漢でも有人運転のロボタクシーサービスを実施している。

米国での試験走行

2021年11月現在、WeRide.aiはカリフォルニア州で無人および有人車両の試験走行を許可されている。

OEMパートナー

WeRide.aiとその戦略的投資家である広州汽車集団が12月に発表したところによると、今後数年で「数万台」のロボタクシーを配備する予定であるという。

画像クレジット:Traffic jam during sunset / Getty Images

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(文:Rita Liao、翻訳:Dragonfly)

ヨーロッパは量子システムの開発をめぐる競争で大国に伍することできるだろうか?

TechCrunch Global Affairs Projectは、テックセクターと世界の政治がますます関係を深めていっている様子を調査した。

量子情報科学はテックセクターの研究分野において長いこと低迷を続けてきた。しかし、近年の進歩はこの分野が地政学的に重要な役割を担っていることを示している。現在、数カ国が独自の量子システムの開発を強力に推進しており、量子をめぐる競争は新たな「宇宙開発」といった様相を呈している。

米国と中国が開発競争の先頭を行く中、ヨーロッパの国々はなんとか遅れを取り戻さねば、というプレッシャーを感じており、いくつかの国々、そしてEU自体も大いに力をいれてこの領域への投資を推進している。しかしヨーロッパのこうした努力は、米国と中国という2つの技術大国に太刀打ちするには、遅きに失したということはないだろうか?また断片的でありすぎるということはないだろうか?

米国と中国:量子システムの開発、そしてそれを超えた競争

量子コンピューティングは、もつれや重ね合わせといった量子物理学(つまり、原子と亜原子スケールでの物理学)の直感に反する性質を利用しようとするもので、量子コンピューターはレーザーあるいは電場と磁場を使用して粒子(イオン、電子、光子)の状態を操作する。

量子システムの開発で最も抜きん出ているのは米国と中国で、どちらも量子「超越性」(従来のコンピューターでは何百万年もかかるような数学的問題を解く能力)を達成したと主張している。

中国は2015年以降、量子システムの開発を進めているが、これはEdward Snowden(エドワード・スノーデン)氏が米国の諜報活動について暴露し、米国の諜報活動の範囲に関する不安が広がった時期と重なっている。中国では米国の諜報能力に危機感を抱き、量子通信への取り組みを強化した。中国が量子研究にどれだけの研究費を費やしているかについて、さまざまな推測がなされていて定かではないが、同国が量子通信、量子暗号、ハードウェア、ソフトウェアにおける特許を最も多く持つ国であるということははっきりしている。中国が量子コンピューターに対する取り組みを始めたのは比較的最近のことだが、その動きはすばやい。中国科学技術大学(USTC)の研究者らが2020年12月、そして2021年6月にも「量子超越性」を達成したと、信用に足る発表を行っているのだ。

米国では、中国が2016年に衛星による量子通信技術を持つことを実証したことを受け、量子技術で中国にリードを許しかねないということに気がついた。そこで、Donald Trump(ドナルド・トランプ)前大統領は2018年、12億ドル(約1370億円)を投じてNational Quantum Initiative(国家量子プロジェクト)を開始した。そして、これがおそらく最も重要なことだが、大手テック企業が独自の量子研究に莫大な研究費を注ぎ込み始めた。1990年代に2量子ビットの初代コンピューターを発表したIBMは、現在量子コンピュータ「Quantum System One」を輸出している。Googleは、IBMに比べるとこの分野では新参であるものの、2019年に超伝導体をベースにした53量子ビットの量子プロセッサーで量子超越性を達成したと発表している。

量子技術開発がもたらす地政学的影響

中国、米国、そして他の諸国を開発競争に駆り立てているのは、量子コンピューティングに遅れをとった場合に生じるサイバーセキュリティ、技術、経済的リスクへの恐れである。

まず、完全な機能を発揮できる状態になった量子コンピューターを使えば、悪意を持つ人物が現在使用されている公開暗号キーを破ることが可能だ。従来のコンピューターが2048ビットのRSA暗号化キー(オンラインでの支払いを安全に行うために使用されている)を解読するのに300兆年かかるのに対し、安定した4000量子ビットを備えた量子コンピューターなら理論上、わずか10秒で解読することができる。このようなテクノロジーが10年を待たずして実現する可能性があるのだ。

第2に、ヨーロッ諸政府は、米国と中国の量子システムの開発競争に巻き込まれることで被る被害を恐れている。その最たるものが、量子テクノロジーが輸出規制の対象になることである。これらは同盟諸国間で調整されるだろう。米国は、冷戦時代、ロシアの手にコンピューター技術が渡るのを恐れてフランスへの最新のコンピューター機器の輸出を禁止した。このことを、ヨーロッパ諸国は記憶している。この輸出禁止を受け、フランスでは国内でスーパーコンピューター業界を育成し支援することになった。

今日、米国と提携するヨーロッパ側のパートナーは、テクノロジーにまつわる冷戦の中で、第三の国々を通じた重要なテクノロジーへのアクセスや第三の国々とのテクノロジーの取り引きに苦労するようになるのではないかと懸念している。米国は、規制品目を拡大するだけでなく、ますます多くの中国企業を「企業リスト」に加え(2021年4月の中国スーパーコンピューティングセンターなど)、それらの企業へのテクノロジーの輸出を、米国以外の企業からの輸出も含め阻む構えだ。そして規制がかけられたテクノロジーが増えるなか、ヨーロッパの企業は自社の国際バリューチェーンが被っている財政上の影響を感じている。近い将来、量子コンピューターを作動させるのに必要なテクノロジー(低温保持装置など)が規制下に置かれる可能性もある

しかし中国に対する懸念もある。中国は、知的財産権や学術面での自由の問題など、諸国の技術開発に対し別の種類のリスクをもたらしており、また中国は経済的強制に精通した国である。

第3のリスクは、経済上のリスクである。量子コンピューティングのような世の中を作り変えてしまうような破壊力を持ったテクノロジーは業界に巨大な影響をもたらすだろう。「量子超越性」の実証は、科学ショーを通した一種の力の見せあいだが、ほとんどの政府、研究所、スタートアップが達成しようと取り組んでいるのは実は「量子優位性」(従来のコンピューターを実用面で上回るメリットを提供できるよう、コンピューティング能力を上げること)である。

量子コンピューティングは、複雑なシュミレーション、最適化、ディープラーニングなどでのさまざまな使い道があると考えられ、今後の数十年で大きな利益をもたらすビジネスになる可能性が高い。何社かの量子スタートアップがすでに上場され、これに伴い量子への投資フィーバーが起きつつある。ヨーロッパは21世紀の重要な領域でビジネスを成り立たせることができなくなることを恐れている。

ヨーロッパの準備体制はどうか?

ヨーロッパは、世界的量子競争においては、その他の多くのデジタルテクノロジーとは異なり、好位置に付けている。

英国、ドイツ、フランス、オランダ、オーストリア、スイスは大規模な量子研究能力を持ち、スタートアップのエコシステムも発達している。これらの国々の政府やEUは量子コンピューティングのハードウェアやソフトウェア、および量子暗号に多額の投資を行っている。実際に英国では、米国や中国よりずっと早い2013年に、National Quantum Technologies Program(国家量子テクノロジープログラム)を立ち上げている。2021年現在、ドイツとフランスは量子研究および開発への公共投資でそれぞれ約20億ユーロ(約2600億円)と18億ユーロ(約2340億円)を投じるなど、米国に追随する形となっている。Amazonは、フランスのハードウェアスタートアップAlice & Bobが開発した自己修正量子ビットテクノロジーに基づいた量子コンピューターを開発してさえいる。

では、ヨーロッパが米国や中国を本当の意味で脅かす立場になるのを妨げているものはなんだろうか?

ヨーロッパの問題として1つ挙げられるのは、 スタートアップの出現を促すのではなく、それらを保持することである。最も有望なヨーロッパのスタートアップは、ベンチャー資金が不十分なことから、ヨーロッパ大陸では伸びない傾向がある。ヨーロッパのAIの成功話には注意が必要だ。多くの人は、最も有望な英国のスタートアップであるDeepMindをGoogle(Alphabet)がいかに買収したかを覚えているだろう。これと同じことが、資金を求めてカリフォルニアに移った英国の大手スタートアップであるPsiQuantumで繰り返されている。

このリスクを解消するために、ヨーロッパ諸国政府やEUはヨーロッパの「技術的主権」を打ち立てることを目標に新興の破壊的創造性を備えたテクノロジーに関するいくつかのプロジェクトを立ち上げた。しかし、ヨーロッパはヨーロッパが生み出したテクノロジーを導入しているだろうか?ヨーロッパの調達規則は米国の「バイ・アメリカン法」と比較して、ヨーロッパのサプライヤーに必ずしも優位に働くわけではない。現在EU加盟国は、ドイツが最近IBMマシンを導入したように、より高度な、あるいは安価なオプションが存在する場合、ヨーロッパのプロバイダーを利用することに乗り気ではない。こうしたあり方は現在ブリュッセルで交渉が続いている、公的調達市場の開放性に相互主義の原則を導入するための新しい法案、International Procurement Instrument(国際調達法)が可決されれば、変わるかもしれない。

政府だけでなく、民間企業も、どのように投資し、どこと提携し、どのようにテクノロジーの導入を行っていくかの選択を通し、今後の量子業界を形作っていく上で、重要な役割を担うだろう。1960年代、70年代にIBMシステムを選択するという決定をしたことが、その後の世界的コンピューティング市場の形成に長期的な影響を及ぼした。量子コンピューティングにおいて同様の選択をすることは、今後何十年にもわたってその領域を形作ることになる可能性があるのだ。

現在、ヨーロッパは、ヨーロッパに世界的なテックファームがほとんどないことについて不満に思っているが、これは早い段階でテクノロジーをサポートし導入することが重要であることを示している。ヨーロッパが今後量子をめぐって米国や中国に対抗していくためには現在の勢いを維持するだけではなく、増強して行かなければならないのだ。

編集部注:本稿の執筆者Alice Pannier(アリス・パニエ)氏はフランス国際関係研究所(IFRI)の研究員で、Geopolitics of Techプログラムを担当。最新の報告書は、欧州における量子コンピューティングについて考察したもの。また、欧州の防衛・安全保障に関する2冊の本と多数の論文を執筆している。

画像クレジット:Olemedia / Getty Images(Image has been modified)

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(文:Alice Pannier、翻訳:Dragonfly)

インド太平洋に注目が集まる中、欧州-大西洋で急成長する技術同盟が形成される

TechCrunch Global Affairs Projectは、テックセクターと世界の政治がますます関係を深めていっている様子を調査した。

2021年9月29日から30日にかけて、ピッツバーグの製鉄所を改造したシードアクセラレーター施設で、バイデン政権の閣僚3名とEUの高官2名が集まり、米欧貿易・技術協議会(TTC)を設立した。TTCが定着すれば、インド太平洋のQuadに対する欧州・大西洋の応答となるかもしれない。これは発展途上の技術同盟であり、新しい民主的な技術協定の構成要素となるだろう。

政治中心のワシントンで技術と外交の結びつきを見ると、すべての注目がインド太平洋、特に中国に向けられているように見える。しかし、データ、ソフトウェア、ハードウェアの分野では、米欧関係も同様に、あるいはそれ以上に重要な技術回廊であり続けている。ちなみに、欧州・大西洋間のデータ転送量は、米国・アジア間のデータ転送量よりも55%多い。

TTCの設立により、欧州大西洋のパートナーシップは、この巨大な民主的デジタル回廊を活用するための戦略的な場を得た。特に米国、中国、EUの3つが主役となっている世界的な技術の地政学競争を考慮するとなおさらだ。

17ページにわたるピッツバーグTTCの声明には、今後の作業のためのロードマップと、技術基準、安全なサプライチェーン、データガバナンス、海外直接投資(FDI)の審査、グリーンテクノロジー、人権侵害におけるテクノロジーの悪用、開放経済などの重要な問題に取り組む一連のワーキンググループの概要が記されている。中国という言葉は一度も出てこなかったが、共同声明には「非市場経済」「軍民融合」「権威主義の政府」による「社会的スコアリング」の使用など、中国を表す言葉がふんだんに盛り込まれている。

3つの分野が際立っている。第一に、米国とEUは技術標準に対するアプローチを再考中だ。中国では「三流の企業が製品を作り、二流の企業が技術を作り、一流の企業が規格を作る」という言葉が流行っている。中国政府は9月に「標準化戦略」を発表した。これは中国の技術標準の国際化、規格の採用促進、規格開発における民間企業の取り組みの強化に焦点を置くものだ。

米国とEUは、どのようにして標準が地政学的な目的に利用されうるのかに注目している。米国とEUは、中国共産党と親しい企業が国際標準化機構(ISO)や国際電気通信連合(ITU)のような規格設定機関を植民地化してしまったことで、民間企業に標準を設定させるというモデルが地に落ちたという認識を深めている。このような中国の世界における攻撃的な動きを受けて、米国の技術標準担当機関であるNIST(アメリカ国立標準技術研究所)とEU当局との対話が復活した。両者はTTCを利用して、民間企業との連携を含めた標準化戦略を調整したいと考えている。

第二に、新型コロナウイルス感染症による混乱と米中の技術的緊張により、欧州・大西洋の技術サプライチェーンの脆弱性が明らかになった。特に半導体においては、エンティティリストによる制限、チップ王である台湾のTSMCが不安定な状況である影響を受けていた。世界のチップ製造における米国のシェアは、1990年の37%から2020年には12%にまで縮小している。また、EUでは1990年の44%から現在は8%と、さらに劇的に減少している。ワシントンとブリュッセルは、この傾向を変えようと尽力している。米国議会は先に、520億ドル(約5兆9639億円)規模のCHIPS法を可決したが、来るべき欧州半導体法では、930億ユーロ(約1兆2067億円)規模のHorizon Europe基金、EUの7500億ユーロ(約97兆3017億円)規模の新型コロナウイルス感染症復興基金、および各国の半導体産業の協調的な取り組みを活用できる。

関連記事:【コラム】米国によるテックの「中国排除」は利益より害の方が大きい

しかし、これまでは産業政策が競合するのではないかという懸念があったかもしれないが、欧州委員会のマルグレーテ・ベスタガー副委員長と米国商務長官のジーナ・レモンド氏は、ピッツバーグで技術面での「補助金競争を避けたい」点を強調した。実際、TTCが「中長期的」に「半導体に関する専用トラック」を設けていることは、ハイエンド半導体の生産における協力という、より野心的な共同アジェンダのための滑走路となる。すべての状況を勘案すると、両当局は調和するべきであり、ピッツバーグの声明では本件が「バランスのとれた、双方にとって同等の関心事」であることが強調されている。欧州最大の未開発地域のプロジェクトである「メガファブ」プロジェクトを核とした欧米のコンソーシアムの実現を想像するのは難しいことではない。

第三に、Huawei(ファーウェイ)の5G機器に対する規制、リトアニアでのXiaomi(シャオミ)の電話検閲機能に関する新たな事実、Tencent(テンセント)のような欧州各地での企業の買い占めなどを受け、双方は重要な技術の海外流出をどのように管理するかを厳しく検討している。輸出規制、FDIの審査、信頼できるベンダーなど、すべての要素が検討されている。これまでEUと米国は、核、化学、生物などの伝統的な分野に加え、サイバー分野でもデュアルユース品(軍事転用可能品)の輸出規制を実施してきた。

しかし最近の発展により、デジタル空間を管理する上で、特に投資審査や信頼できるベンダーについての新たな課題が生まれている。規制当局は、民主的なデータ空間をどのようにして維持し、AI、半導体、5G、ゲーム、AR/VR技術、そしておそらくはデジタルサービスやスマートフォンなどの分野における研究やIPをいかに保護するかについても悩まされている。産業安全保障局(BIS)や対米外国投資委員会(CFIUS)などの米国の機関にとっては、EU加盟国が審査や市場アクセス制限の機能を拡大していく中で、欧州の機関と情報を共有するチャンネルを作ることがますます重要になってくるだろう。

これが成功すれば、TTCは、米国とEUがテクノロジー企業を管理する世界的なルールブックを作成する装置となる可能性がある。近年、EUはデジタル技術の規制を単独で行わざるを得ないと感じ、データ保護、コンテンツの調整、オンラインプラットフォームの市場力などの分野で主導権を握っている。

ワシントンの一部の人々は、米国が意味のある規制を行わない中での欧州の努力を評価しているが(ワシントンは、トランプ政権下では技術外交政策にまったく関与しておらず、オバマ政権下ではビッグテックに捕われていたと認識されている)、このいわゆる「ブリュッセル効果」は、特にデータフローとデジタル独占禁止法の将来に関して緊張を生んでいる。

2020年の裁判所のGDPRに基づく判決により、欧州の個人情報を米国に持ち込むための主要な「パスポート」であるプライバシーシールドが無効になったため、大西洋間の自由なデータの流れは無視されたままだ。反トラストの面では、Meta(Facebook)、Amazon、Google、Appleなどの大手企業が、オンラインプラットフォームの市場支配を規制するEUの法律を緩和させようと激しく争っている。バイデン政権自体は、まだ明確な立場を決めていない。

さらに広く見れば、欧州の多くの人々は、パートナーとしての米国に懐疑的だ。スノーデン事件(欧州の指導者に対するNSAの広範なハッキングを公表した)、トランプ大統領の2016年の選挙、ケンブリッジ・アナリティカ事件、そして最近ではフェイスブック内部文書が、地政学的なものだけでなく、デジタル的なものも含めて、欧州と大西洋の関係を疎遠なものにしている。最近のドイツ外交問題評議会の調査では、クラウドコンピューティングでは92.7%、AIでは79.8%、ハイパフォーマンスコンピューティングでは54.1%のヨーロッパ人が米国企業に過度に依存していると考えていた。欧州関係者の54%は、米中の技術的対立の中で独立性を保ちたいと考えているのに対し、46%は米国に近づきたいと考えていた。

一方で、欧州の二大勢力であるフランスとドイツがTTCに力を貸すのかという問題がある。近年、フランスとドイツが「技術的主権」という考え方を支持していることから、欧州の大国がTTCの成功にどれだけ尽力するのかが疑問視されている。

欧米の関係は、石炭と鉄鋼の産業時代に築かれたものだが、半導体とAIのデジタル時代になった今、TTCは世界中で台頭する技術権威主義に欧州大西洋同盟が立ち向かえるようにするための橋渡し役だ。両者ともそれをわかっている。それが最も悩ましいことなのかもしれない。

編集部注:本稿の執筆者Tyson Barker(タイソン・バーカー)氏はドイツ外交問題評議会(DGAP)のテクノロジー&グローバル・アフェアーズ・プログラムの責任者。以前はAspen Germanyに勤務し、副所長兼フェローとして、同研究所のデジタルおよび大西洋横断プログラムを担当した。それ以前は、米国務省の欧州・ユーラシア局でシニアアドバイザーを務めるなど、数多くの役職を歴任している。

画像クレジット:metamorworks / Getty Images(Image has been modified)

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(文:Tyson Barker、翻訳:Dragonfly)

ByteDanceが戦略投資チームを再編し中国テック業界がパニック、政府の規制強化への対策か

中国のテック業界にとって、何と目まぐるしい日だったのだろう。TikTok(ティクトック)の親会社ByteDance(バイトダンス)が戦略投資チームを解散し、他社への投資によって積極的に拡大してきた他のインターネット大手に憂慮するようなメッセージを送った。

ByteDanceは2022年初めに「事業のニーズ」を見直し「最重要ではない分野への投資を減らす」ことを決定したと、同社の広報担当者は声明で述べた。

しかし、ByteDanceは外部投資を全面的に中止するのではなく、投資チームを「再編」し「事業の成長をサポートするためにさまざまな事業ラインに統合する」予定だ。

言い換えると、中国のスタートアップデータベース「IT Juzi」によると、これまでに169社に出資した(一部の案件は非公開)戦略投資チームの一部のメンバーは他の事業部門に配置され、そこで投資を継続することになる。

この「再編」は、それでもやはり業界にパニックを引き起こした。ロイター通信は情報筋の話として、中国のサイバー部門を管理する規制当局が「インターネット巨大企業」に投資や資金調達を行う前に承認を得ることを義務づける新たなガイドラインを起草したと報じた。また、一部の中国メディアも同様の規則案を報じた。

ロイターの情報筋によると「巨大企業」とは、ユーザー数が1億人以上、または収益が100億元(約1800億円)以上のインターネットプラットフォームを指すという。これが本当なら、この規則によりTencent(テンセント)から、Alibaba(アリババ)、Pinduoduo(ピンデュオデュオ)、JD.com(JDドットコム)、Baidu(バイドゥ)まで、中国のインターネット大手の多くが、投資活動で監視下に置かれることになる。特にTencentは「中国のソフトバンク」と呼ばれるほど、投資先が豊富なことで有名だ。

驚くべきことに、中国のサイバー分野を管理する規制当局は「インターネット企業のIPO、投資、資金調達に関して噂されているガイドラインは事実ではない」と発表している。さらに当局は「法律に基づき、関連するデマを広げた者を調査し、責任を追及する」とのことだ。

ByteDanceのチーム再編の動機は、確かに外部投資と内部事業の間でより多くの相乗効果を生み出すためかもしれない。確かなことはまだわからない。しかし、インターネット界の寵児に対する中国の独占禁止の措置は、終わりには程遠いようだ。

Tencentは最近、最も重要な盟友である中国のオンライン小売企業JD.comとシンガポールのビデオゲームとeコマース複合企業Seaのかなりの株式を売却した。売却の原因として独占禁止の圧力は挙げられなかったが、中国が最大のインターネット・プラットフォームの独占パワーを鈍らせ続けているとの憶測が飛び交っている。プラットフォームのいくつかは、反競争規則違反でさまざまな額の罰金を受けたが、投資ゲームの停止はより大きな結果をもたらすだろう。問題は、次にくるのはどの企業か、ということだ。

関連記事:Tencentは投資を続けつつも緊密な提携企業の株式を売却、中国政府のご機嫌とりか

画像クレジット:SOPA Images / Getty Images

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(文:Rita Liao、翻訳:Nariko Mizoguchi

Shopifyと中国JD.comがクロスボーダー販売業者の取り込みで提携

世界最大のeコマース企業2社が手を組む。中国の大手オンライン小売JD.com(JDドットコム)は、世界のブランドが中国の膨大な輸入品に対する需要を開拓し、また中国の販売業者の海外販売を支援することを目的に、オタワに拠点を置くShopify(ショッピファイ)と戦略的パートナーシップを結んだ。

このニュースは、中国のクロスボーダーeコマースコミュニティで注目を集めている。提携により、JDとShopifyの同盟はまずAlibaba(アリババ)と直接競合することになる。JDの宿敵は大きな輸入事業を抱え、取り扱うブランドは直近では世界3万5000にのぼる。2021年は6000超のブランドがAlibaba経由で中国に進出した。

JDは何年も前から中国に商品を輸入しているが、既存のブランドオンボーディングプロセスは1年もかかることがある。JDは物流に多額を投資してきたため、しばしば中国のAmazon(アマゾン)と呼ばれているが、Shopifyを採用しているブランドが最短4週間でJDの5億人のアクティブバイヤーに販売を開始できる高速トラックを構築する予定だ。プラットフォームでは、販売者側の準備を整えるのに自動翻訳や価格交渉などのツールを使い、まずは米国と中国を結ぶ貨物航空便で商品を輸送する。

JDは、ブランドの中国でのマーケティングと販売を支援することだけを意図しているわけではない。同社はShopifyのストアオーナー向けに、JD Sourcingと呼ばれるサプライヤーソーシングサービスも展開している。販売者はJD Sourcingを通じて商品のリクエストを出し、JDがその商品の在庫を確認すると、商品を倉庫から取り寄せ、Shopifyストアに掲載し、ドロップシッピングで消費者に送る準備を整える。

今回の提携のもう1つの目的は、Shopifyの消費者直販ソリューションを通じて中国製品を海外に届けることだが、これは非常に競争の激しい分野だ。Amazonは、中国の輸出業者のためのゲートウェイとして自らを成長させ、中国内でスタッフを雇用して販売業者の精査と管理を行っている。同社が最近行った偽レビューの取り締まりは中国のeコマース業界に衝撃を与えたが、同社はその市場支配力のおかげで、輸出業者にとって非常に魅力的なチャネルであることに変わりはない。

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より厳しいプラットフォーム規約に対応するため、多くのAmazon出品者は商品デザインやブランディングにますます投資するようになっている。また、Amazonのロールアップと呼ばれるブランドアグリゲーターからの買収オファーを受けることを選択する販売者もいる。

JDとShopifyのコラボレーションは、中国の輸出業者に新しい選択肢を提供する可能性がある。Shopifyは長い間、ブランドを拡大したい人のためのオプションだったが、自動化にはより多くの仕事がともない、販売者はマーケティングと物流により手をかけなければならない。

JDはShopifyとの提携を通じて「欧米市場の消費者に訴求する中国のブランドや販売者のためのアクセスとコンプライアンスを簡素化」し「Shopify を通じてDTCチャンネルを立ち上げる」ことをサポートすると約束している。クロスボーダーの配送はJDが担当する。

このeコマース大手2社は、Shopifyが商品の幅を提供し、JDが広範なグローバル倉庫と配送インフラを提供するというように、互いにうまく補完し合っているようにみえる。注目すべき提携だ。

画像クレジット:composite by TechCrunch

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(文:Rita Liao、翻訳:Nariko MIzoguchi

中国デジタル人民元「e-CNY」ウォレットアプリの個人ユーザー数が2億6千万人超に、五輪に向け実証実験を加速

中国で今、インストール数が急増しているアプリの1つが、中央銀行のデジタル人民元ウォレットだ。中国人民銀行(中央銀行)の金融市場担当責任者であるZou Lan(ゾウ・ラン)氏は、中国時間1月18日のプレスイベントで、人口の約5分の1に相当する2億6100万人の個人ユーザーが「e-CNY」ウォレットをセットアップし、875億元(約1兆5780億円)相当の取引が行われていると述べた

中国では過去2年間にわたり、深圳を含む10の主要都市でデジタル人民元の実証実験を行ってきた。人々は当初、抽選に参加して初期ユーザーになるための申請をする必要があった。そして2022年1月4日、中銀は実証実験を加速させる明確なサインとして、e-CNYウォレットを中国国内のiOSおよびAndroidストアで利用できるようにした。

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デジタル人民元は、中国で禁止されている暗号資産の一種では決してない。中央銀行は、ビットコインなどは変動性が高く、投機的で本質的な価値を持たないと判断し、暗号資産がマネーロンダリング(資金洗浄)の道具になる可能性を指摘している。

e-CNYは、異なる結果を目指している。中央銀行が発行するe-CNYは、中国で流通している現金通貨(M0)の法定デジタル版であり、規制当局はNFC技術を用いてインターネットがなくてもデジタル人民元の決済ができるようにすることを意図している。

2021年、中央銀行のe-CNY研究開発ワーキンググループが発表した研究論文によると、デジタル人民元の目的は以下のとおりだ。

  • 中央銀行が国民に提供する現金の形態を多様化し、国民のデジタルキャッシュに対する需要を満たし、金融包摂を支援する。
  • リテール決済サービスの公正な競争、効率性、安全性を支援する。
  • 国際的なイニシアティブに足並みをそろえ、国境を越えた決済の改善を模索する。

e-CNYウォレットは現在、中国のアプリストアでダウンロード可能だが、実際に登録してアカウントを補充し、Alibaba(アリババ)での買い物やDidi(ディディ)の乗車料金の支払いなど、800万件の「試験シナリオ」でデジタル通貨を使うことができるのは、試験的に導入された都市と冬季オリンピックの会場にいるユーザーだけだ。

現金をe-CNYに交換するには、Tencent(テンセント)が出資するWeBankやAnt(アント)が出資するMyBankなどのデジタルバンクを含む、中銀がデジタル通貨の運用・流通を認可した商業銀行のいずれかから資金を移動させる必要がある。

中国の人気決済サービスとの関係について、中央銀行は報告書の中で、e-CNYはWeChat Pay(ウィーチャットペイ、微信支付)やAlipay(アリペイ、支付宝)に取って代わるものではなく「補完」するものであると述べている。例えば、小額の取引では、e-CNYは物理的な現金と同じように匿名性をサポートすることができる。また別の例では、地方政府から市町村に送られる多額の資金をe-CNYで支払うことで、デジタル通貨の追跡機能を利用して汚職を防止することもできるという。

しかし結局のところ、e-CNYが本格的なアクティブユーザー基盤を獲得するには、ユーザーエクスペリエンスの面で大手民間決済企業に対抗する必要がある。

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(文:Rita Liao、翻訳:Aya Nakazato)

中国のAIチップデザイン企業Moffett AIがシリーズAラウンドで「数十億円」を調達

中国では半導体技術の独立性を高めることが求められており、それにともない投資家たちはさまざまな種類のチップスタートアップを追い求めている。深圳のファブレスチップデザイン企業であるMoffett AIは、新たにシリーズAの出資を受けた。同社は正確な金額を公表せず「数千万ドル(数十億円)」とだけ述べている。

このラウンドは、CoStone CapitalGreater Bay Area Homeland Development Fundが主導した。後者のファンドは、中国が香港、マカオ、深圳、および広東省南部のいくつかの都市を統合する壮大なプロジェクトであるGBA(大湾区)経済圏のスタートアップを支援するために設立された金融ビークルだ。

シリーズAラウンドに参加した他の投資家には、Co-PowerGrand China Capital、深圳市政府が「次のHuawei(ファーウェイ)、Tencent(テンセント)、DJIを探し出す」ために設立した戦略的ファンドであるShenzhen Angel Fund of Funds(FOF)が含まれる。2020年3月に実施されたMoffettの前回のラウンドは、1億元(約1600万ドル、約18億円)でクローズされた。

自律走行車からビデオストリーミングのレコメンデーションまで、人工知能は私たちのデジタルライフに欠かせないものとなっている。AI機能の需要が急増しているため、コンピューティングパフォーマンスに負担がかかり、MoffettやFoxconnが出資するKneron(クネロン)のようなAIアクセラレーションを提供する企業が切望されるようになっている。

Moffettは、ニューラルネットワークモデルから冗長情報を取り除き、最終的に処理の高速化につなげるプロセスである「スパース化」と呼ばれる技術を用いて、同社のAIチップを差別化することを約束している。同スタートアップは新たな資金を、同社のスパース技術を利用するパートナーやクライアントの「エコシステム」の拡大と、TSMCが製造する最初のチップ「Antoum」の量産に充てる予定だ。

同社は、このチップのスパース率は32倍で、その処理能力は「国際的なフラグシップ製品」の5~10倍になると主張している。

Moffettは深圳に本社を置き、北京、上海、そして2018年に設立されたシリコンバレーのオフィスにも研究開発チームを置いている。このスタートアップは、カーネギーメロン大学のAI研究者や、Intel(インテル)、Qualcomm(クアルコム)、Marvel(マーベル)、Oracle(オラクル)などに所属していた半導体のベテランたちによって運営されている。

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画像クレジット:Moffett AI

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(文:Rita Liao、翻訳:Aya Nakazato)