Apple、Siri SDKとEchoライクなホームアシスタントを準備中

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Appleは、デベロッパーがSiriを大幅に使いやすくするSDKを準備中だ ― そして、その強化されたアシスタントはAmazonのEchoライクな固定ハブデバイスを駆動する。The Informationの報道は、われわれが過去数週間聞いてきた情報と一致する。6月のWWDCで、製品そのものでなくても、発表は見られるだろう。

Siriは、残念ながら順調に老いているとは言えない。4~5年前には魅力的だった機能も今や精彩を欠き、ライバルサービスはこの有名バーチャルアシスタントを様々な形で追い越している。もちろん、Siriの開発者たちは何年も前から改善に取り組んできた:つい数週間前にDisrupt NYで、Vivが発表された。

AppleのSiriエコシステム支配へのこだわりは、スムーズなスタートと失敗の少なさを保証したが、彼女の利便性を大きく損ってきた。Appleが契約を結んだサービスを誰もが使いたいわけではなく、もちろん、人気の新アプリが出てきてもSiriとつながる可能性は低い。

Siri SDKは全デベロッパーに公開され(本来のAppleらしさから、厳しい制約はあるに違いないが)、必要十分なバーチャルアシスタントを、便利で強力なものにする道を開くだろう。そして、AppleがHomeKitで家庭への参入を進める中、万能音声認識ハブの追加は、自然の成り行きだろう。

Appleがこの分野で狙うのはおそらくハイエンドで、Apple TVのような低価格で最小限の製品ではないだろう。新しいデバイスは、Echoより価格はかなり高く ― 私の予想は300ドル ― 、Appleユーザーにとって重要な要素 ― デザインとサービスの統合 ― が改善される可能性が高い。

スピーカーは品質をウリにすることが予想され、デザインは、スローなパン満載のビデオでJony Iveが紹介するに違いない。そして、いかにAppleが[モノのインターネットのパートナー覧のスライド]と密に協力してきたかを聞くことになる。もちろん、iTuneやメール、iCloudストレージ等ともシームレスに動作する。

AmazonとGoogleの本性についても、Appleは無駄口を挟むかもしれない。一つは、あなたに物を売りたがる会社、もう一つはあなたの動きをすべて知りたがる会社。そしてもちろん、Appleはあなたの家を居心地よくしたいだけだ。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

Uber、ピッツバーグでの自動走行車テスト中を正式に認める

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Uberは、ペンシルベニア州ピッツバーグで自動走行車のテストを行っていることを、ようやく認めた。Pittsburgh Tribuneが伝えた。

Uberの無人走行車への意欲はよく知られており、同社がピッツバーグ拠点の最新テクノロジーセンターを一年以上に作ったことからも明らかだが、正式にテストを認めたのは初めてだ。

実際UberのJohn Baresは、Tribune-Reviewの記者を同社のFord Fusionハイブリッドに乗せ、経路の一部を自動走行したという。

会社はブログ記事にもこのことを書いている。

Baresは、Uberの無人走行車にとってピッツバーグは最適の環境であり、それは雪や雨が多く、道路基盤は時代遅れだからだと言った。

要するに、もしUberがここでできるなら、どこへ行ってもできる、ということだ。

複数のカメラとレーザーおよびセンサーを通じて、Uberの自動走行車はあらゆる方向を最長100メートルまで見ることができる。これまでのところ、一般車との衝突は起きていない。

Uberは、Google、Lyft、Volvo、Fordら少数の企業と共に、ロビー団体、Self-Driving Coalition for Safer Streetsに参加しており、政府が無人走行車を普及させ、しかし安全を第一に考える法案を早く作るよう活動している。

国家道路交通安全局は、早ければ7月にも自動走行車のための法案を準備できると言った。

それでもUberはこの分野では比較的新参者であり、例えばGoogleはカリフォルニア州の公道で2009年から自動走行車をテストしている。

Baresは、5/18に見せたデモは初期段階であることを認めているので、ドライバーのいないUberを呼びだせるのはまだ先のことになるだろう。

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ノーベル賞を獲得した困難な実験をAIが各種パラメータを自力で最適化しつつ自分でやれるようになった

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【抄訳】
オーストラリアの物理学者たちが、たぶん連日の徹夜仕事から解放されたいためだと思うが、物理の実験をほとんど監視不要で自動的に行い、ときには人力よりも上手に行うAIを作った。このようなシステムによって今後、人間研究者は面倒な手作業等から解放され、より高度な問題や研究の設計に集中できるようになるかもしれない。

このAIが行った実験は、超低温のガスBose-Einstein condensate(ボース=アインシュタイン凝縮)を作ることで、そのプロセスで2001年に三人の物理学者がノーベル賞を授与された。この実験は、一定方向のレーザー照射により原子の集団を静止に近い状態にし、さまざまな興味深い効果を作り出す。

オーストラリア国立大学(Australian National University, ANU)のチームは、少量のガスを1マイクロケルビンにまで冷却した。これは、絶対零度よりも100万分の1度高い温度である。そしてそれを、AIのコントロール下に置く。AIはレーザーの当て方を自分で考え、そのほかのパラメータも、原子をもっとも低温に冷却できるためにコントロールし、その温度を数百ナノケルビンまで下げる(1ナノケルビンは10億分の1度)。それを数十回繰り返すことによって、もっとも効率的なやり方を見つけ出す。

“レーザーのパワーの上げ下げやそのほかの操作など、人間が従来、試行錯誤でやっていたことを、このロボットがやってくれる”、とANUの共同指導研究員Paul Wigleyがニューズリリースで言っている。“マシンは実験のやり方を1時間足らずで覚えたが、それはわれわれの想定外だった。今後は、人間が考えもしなかったような複雑なやり方を編み出して、さらに低温下での実験を行い、測定の精度を上げてくれるだろう”。

Co-lead researchers Paul Wigley (left) and Michael Hush.

共同指導研究員Paul Wigley(左)とMichael Hush

ボース=アインシュタイン凝縮には、奇妙ですばらしい特性があり、エネルギーの変動に対する極端な感受性が、そのほかの実験や測定の役に立っている。しかしその極端な感受性のため、作成と維持もきわめて困難である。AIは多くのパラメータを一度にモニタし、プロセスを素早く調節する。そのやり方は人間に理解できないかもしれないが、いずれにしても効果的なのだ。

その結果、凝縮をより早く、より多様な条件下で、より大量に作り出せる。しかもAIは、食べないし寝ないし休暇も取らない。言い換えると、人間物理学者よりコスパが大幅に高い。彼らの研究論文は、今日(米国時間5/16)発行のScientific Reportsに載っている。

【後略】

参考記事。〕

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CTやレントゲン画像からの症状検出を人間医師/技術者より正確に行う機械学習ソフトウェアBehold.ai

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Jeet Rautのお母さんは、乳がんの完治を告げられた。でも、それは誤診で、再び治療が必要になった。

今では良くなっているけど、その誤診で彼女の命が奪われたこともありえる。そこでRaut は、体の中の、医療を要する異状を見つけるための、もっと良い方法を作ろう、と思い立った。

彼と、協同ファウンダーのPeter Wakahiu Njengaが作ったBehold.aiは、がんの早期発見を助け、診断における人的エラーを最小化する。

“Behold.aiの基本的なねらいは、効率を高めること”、とRautは、TechCrunch Disrupt NY 2016のStartup Battlefieldで述べた。

イギリスのオンライン医学誌BMJ(British Medical Journal)によると、合衆国では人間の死因の第三位が医療過誤だ。しかもX線による体のスキャンは、年々より多く行われるようになっている。その回数は2012年以降三倍に増え、 患者1000人あたり149回のCTスキャンが行われている。画像の中の、小さな異状が見過ごされる危険性も、当然増えている。

“今の医師は多くのデータを利用できるようになっているが、そのためにレントゲン技師が読むべき画像の量も膨大だ”、とRautは問題を指摘する。

そこでRautとNjengaは高度な機械学習の技術を利用して、同じことをプログラムがもっと上手に速くできるようにした。

二人ともコロンビア大学卒だが、Njengaはその後UC Berkeleyで学び、Facebookで機械学習のソフトウェアエンジニアとして働いた。Rautはイリノイ大、スタンフォード大と進み、後者のComputers and Cognition Labで長寿について研究した。

Behold.aiを支えているのは、二人のこれまでの研究歴だ。たとえば数百人もの健康な肺と健康でない肺のレントゲン写真を、機械学習のソフトウェアに読ませる。そうやって問題を見つけられるよう訓練し、さらに時間をかけて改良していく。

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それは、人間の医師やレントゲン技師に比べて、どれぐらい優秀か? Rautは、彼らのアルゴリズムが100%正確ではない、と認める。感触としては、精度は85%ぐらいだそうだ。

“最初は現状の精度を維持しながら医師の効率をアップすることをねらっていたが、でも徐々に、医師の診断の精度をアップする方が重要、と思うようになった”、と彼は語る。

信頼、という問題もある。病院には官僚主義の塊のようなところがあり、なかなか新しい技術を採用してくれない。しかし今Rautは、いくつかの大きな病院に、今後のパートナーシップを働きかけている。

Behold.aiにとっては、IBMのWatsonやそのほかの、医療への進出をねらっているAIプロダクトがコンペティターだ。またもちろん、FDAの認可を得ることも課題だ(IBMは議会にもWatsonの医療利用とその認可を働きかけている)。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

人工知能の暴走を抑える「人工天使」が必要だ

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編集部注: Jarno M. Koponen氏はデザイナーであり人文科学社でもある。またメディア関連のスタートアップであるRandomの共同ファウンダーでもある。新しい「人間中心」のデジタルエクスペリエンスを模索している。

インターネット上のさまざまなことがアルゴリズムにより処理されるようになった。しかしどうやら「人間のため」という視点が欠落しつつあるようにも見える。実現したところで何のメリットもないような「ソリューション」が提示されることすらあるように思うのだ。

アルゴリズムにより表現される自己の危うさ

デジタルデバイスは、ポケットに入るものになり、そして身に付けるものとなって、さらには身体と一体化するようにまで進化してきている。わたしたちがオンラインで触れるものも、アルゴリズムにより決定されている面もある。近いうちには家庭や車の中に存在する現実のモノすらも変えることになりそうだ。

アルゴリズムが進化して「パーソナライズ」ということが言われるようになり、私たち自身がアルゴリズムに組み込まれることとなった。加えて、そもそも「パーソナライズ」という言葉も矛盾しているように思える。「パーソナライズ」がアルゴリズムにより行われるおかげで、私たちは「自分で」(パーソナルに)パーソナライズすることができないのだ。また、アルゴリズム的に認識されている私たちの姿を変更することも、自由に行うことはできない。これは今現在だけの問題というわけでなく、そもそも「パーソナライズ」ということが、そうした方向で実現されつつあるのだ。

「パーソナライズ」を行うアルゴリズムに、「パーソナライズ」される側から関わることはできない。「パーソナライズ」の仕組みは完全にオープンなものではなく、わかりやすいものでもない。何がどのように影響するのかがよくわからない。どのような現象を把握して、判断指標としてどの程度の重み付けをされるのかがまったく見えないのだ。自分自身の行動も、またアルゴリズムにより把握されている自分自身さえも、自分では理解できない「データの塊」として存在するようになる。

「パーソナライズ」のアルゴリズム自体が、個人の判断に影響し、ひいては行動も影響を及ぼす。「パーソナライズ」のためのアルゴリズムが存在するのは、他のだれかが、ある人物の思考ないし行動様式を理解するためだ。今、必要なものも、あるいは将来必要になるものも、アルゴリズムにより判断されて(誰か他のひとの立場から)提示されることとなる。

「パーソナライズ」のアルゴリズムは、完全に「ニュートラル」の立場にあるわけではない。もちろんだからといって、「誰かによる支配」を直ちに招くというものでもない。しかし「パーソナライズ」のアルゴリズムは(たいていの場合)誰か他の人のものの見方から生まれたものだ。アルゴリズムを生んだ人のものにくらべ、「パーソナライズ」して利用する人のものの見方が軽んじられることはあり得る。ここから自らの考えを反映しない「パーソナライズ」が生まれたり、別の人の考えを押し付けてくるような現象に戸惑ったりすることもあるわけだ。

「パーソナライズ」はごく一面的な判断に基づいて、あるいは特定の一面を必要以上に強調して為されることがある。アルゴリズムにより生み出される「アルゴリズム的自己」(algorithmic self)は細かく分断されているのだ。たとえばAmazonとOkCupidにおける自分は別の興味をもつ人物となっているだろう。これによりアルゴリズム側の行う、どのような人なのかの判断も異なるものとなる。このように、場合場合に応じて特定の一面だけをとりあげて解釈することで、「パーソナライズ」を行う世界においては、人間はかなり「一般化」され、かつ「単純化」される。把握できた人間像と不一致であり、また現在の人間像の解釈にやく立たずなデータは捨て去られる。「必要」だと判断して集めたデータがあまりに薄っぺらいものであったような場合は、アルゴリズム側で「似た人」と判断する人物のデータを流用して補正したりする。すなわち「アルゴリズム的自己」は、統一的な深みなど持たず、特定の条件に定まった反応をする、いわば成長前のフランケンシュタインのようなものとなっているのだ。

しかも、そうして生まれた「アルゴリズム的自己」が、自らのコントロールを離れてうろつき回るような状況となりつつある。デジタル環境において私たちの代理人となるような存在は消え去りつつあるのだ。すなわちデジタル界には「私たち」はいなくなり、それであるにも関わらずその「アルゴリズム的自己」に基づいてさまざまな「パーソナライズ」したサービスや情報が提供されることとなってしまっている。このような状況は変える必要があるのではなかろうか。

「アルゴリズム的自己」は、器官を寄せ集めただけの「デジタル・フランケンシュタイン」のようなもの

人工「天使」を待望する

いろいろと言ってはきたが、果たして「パーソナライズ」のアルゴリズムが明らかになれば問題は解決するのだろうか。あるいはアルゴリズムがわかったところで、さほど役に立たない話なのだろうか。

きっと有効性は低いのだと思う。私たちのために働いてくれる人工存在を生み出す方が良さそうだ。新しい概念であり決まった用語もないので「人工天使」(algorithmic angels)とでもしておこう。困ったときには助けてくれるし、いつも私たちを守ってくれ、トラブルに巻き込まれたりしないように配慮してくれる存在だ。

もちろん不器用そうなクリッパーのことではないし、微妙なことになると「わかりません」を連発するSiriでもない。IBMのWatsonでもなく、もちろん悪意を持っているHALでもあり得ない。私たちのことを学習して、ともかく私たちを守ろうとする存在を想定しているのだ。デジタル世界の「アルゴリズム的自己」のいたらない点を補正してくれる存在であることが期待される。具体的な働きをイメージしてみよう。

「人工天使」は理由なく自由を制限するような動きに対抗してくれる。「パーソナライズ」にあたっての行き過ぎた個人情報提供を見張り、場合によっては情報提供を無効化する。不必要に情報を集めまくるサービスに対抗する術を与えてくれる。

別の選択肢を示し、物事の他の見方を示してくれる。私たちは偏見をもったり、あるいは一面的な常識に囚われてしまうことがある。それがために、アルゴリズムの提示する「事実」をそのまま受け入れてしまいがちになる。そのようなときに「人工天使」が登場し、妄執を戒めてくれる。新しい世界を開き、独善的な振る舞いを改める機会を得ることができる。情報を取り入れる新しいやり方が示され、新鮮で新しい気づきをもたらしてくれるのだ。

無用な調査の対象から外してくれる。「人工天使」のおかげで、実名と匿名を適切に使い分けることができるようになる。利用するサービスに応じて、適切な設定を行ったプロファイル情報を利用してくれる。もちろん、これは「人工天使」に任せっきりにするのではなく、自分でさまざまな設定を使い分けることもできる。

自分に関するデータの扱いを、主体的に決定できるようになる。人工天使のおかげで、自分に関するデータの流れを主体的に制御できるようになるわけだ。自身の詳細な情報に誰がアクセスできるのかを決めたりすることができるようになる。必要なときには、従来のやり方ではばらばらにされて存在していた「アルゴリズム的自己」をまとめて活用することもできるようになる。もちろんデータの安全性は担保され、データの取り扱いはあくまでも所有者の主体的意志にひょり決せられることとなる。自分のどのような情報をネット上に流し、どういった情報を削除するかを自分の意志で決められるようになるわけだ。

人工天使はデバイスや環境間の違いも吸収してケアしてくれる。自身の情報は、望んだように提供/制限されるようになり、必要としないマーケティング行動のためのデータとはならない。そのために、たとえばウェアラブルなどから収集する情報についても適切に扱ってくれる。

こうした機能をもつ「天使」の存在のおかげで、リアル/バーチャルの違いなく、統合的かつ主体的に提供する自己情報に基づいて生活できるようになるというわけだ。

もちろんときにはこの「人工天使」機能をオフにしたくなることもあるだろう。天使なき世界がどのようなものであるのか、いつでも見てみることができる。

「人工天使」が無敵の人工知能である必要はない。別の表現を使うのなら、人間ほど賢い必要はない。デジタル社会の進化にともなって広がるネットワークワールドでのふるまいについてスマートであれば、それで事足りるのだ。多くの人が創造する「人工知能」とは、求められるものが異なることになるだろう。私たちは人間の立場で考え、評価し、選択する。「人工天使」は「機械」風に考え、そこで得られる知見をすべて人間のために使ってくれれば良いのだ。

「アルゴリズム的自己」の出現シーンが拡大し、そうした「自己」が活躍する分野の重要性は増してくることだろう。そのようなときには、今までよりもさらに自己情報の管理を丁寧に行うことが求められる。自律的存在であり続けるために、アルゴリズムで動作する守護天使が求められる時代となりつつあるのだ。そうした存在なしには、とてもさまざまな「アルゴリズム的自己」を活躍させることなどできなくなる。

「人工知能」の行き過ぎが危惧されることも増えてきた。「人工天使」を生み出すことにより、意外に簡単にバランスがとれる話なのかもしれない。

(訳注:本稿は昨年4月にTechCrunchサイトに掲載されました。訳出を見送っていましたが、最近の状況との絡みで面白そうだと判断して訳出いたしました)

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(翻訳:Maeda, H

大統領候補は誰がいい? IBMのWatson Electionsがあなたの気分に基づいて決めてくれる

ここまでの大統領選レースに悲しみ、怒り、喜び、混乱しているあなた。もし、誰に投票すべきか本当に迷っているなら、IBMが教えてくれるかもしれない。あなたの気分に応じて。

Watson Electionsは、IBMのスーパーコンピューターにとって驚くほど稀政治関連アプリケーションの一つで、あたなの気に一番合った候補者を選んでくれる。今日(米国時間5/8) ニューヨークのブルックリンで行われたTechCrunch Disruptハッカソンのステージでデビューを飾った。

もしあなたが今、怒ってむかついているなら、ドナルド・トランプがいいだろう。怒りがやや少なく、ただ悲しいだけなら、バーナー・サンダースがぴったりだ。

もちろん、今が本当に幸せな人にも、トランプは期待に答えてくれる。

Watson Electionsは、自然言語処理を利用して、各候補者が報道で語った言葉に基づいて彼らの全体的ムードを判断する。例えば、ヒラリー・クリントンはあらゆる感情表現が低く、これは彼女の中立的な言葉のためだ。

IBMの研究者、Nikos AnerousisとJinho Hwangのふたりは、ハッカソンで徹夜した後にこのアプリケーションを完成させた。

彼らは、あといくつかアプリに機能を追加したいと私に言った。その一つは、候補者が嘘をついているかどうか。あるいは、有権者の感情に基づいて、最終的に誰が当選するかを予測すること。

アプリが有効かどうかを確認するためには、まだ多くの仕事が残っている。なにしろ、一晩でひねりだされたプログラムだ。

「こうしたモデルに必要なのは、正確なトレーニングセットだ。結果を検証し、何が正しいかを確認する必要がある」とAnerousisは言った。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

この超キュートな昆虫ロボットたちは、協力して階段を登る

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みんなで力を合わせれば、なんでもできる ― そして誰も落ちこぼれない。それがこの “VelociRaACH” という小さなロボットたちが与えてくれた教訓だ。

名前は、Velocity Robotic Automous Crawling Hexapod[高速自立這いまわり6脚類ロボット]の略で、これがすべてを説明している。作ったのはカリフォルニア大バークレー校のBiomimetics Millisystems Labのロボティック研究者たちで、ここでは他にも数多くの自然に触発された機械や材料が作られている。

小さな昆虫ロボットたちは特に新しいものではないが、その協調行動は新しい。研究者のCarlos Casarezは、オーストラリアのジャンピングアントというアリの行動に興味をかき立てられた。そのアリは2匹以上が協力して困難な地形を進んでいた。アリにできるなら、小さな6脚ロボットにだって!

ロボットは、2匹でペアを組ませて自分たちより大きい障害物を乗り越えさせることにした。障害物は1匹だけでは越えられない。VelociRoACHたちには、決められた作業や一連の「プリミティブ」がプログラムされている。

まず、先頭ボットが障害物によじ登り、前足を上に置く。後発ボットは磁石で先頭ボットに近付き、押し上げる。次に先頭ボットは前進し、後発ボットも大暴れしながら追いかける。そして磁石を切り離し、2匹は再び進み始める。

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動きはビデオで全部見ることができ、全体のプロセスはこれまで見たロボットの中で一番キュートだ。

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この実験は学術目的だけではない。このような小さくて安価なロボットは、例えば災害地に何十、何百体も配備することが可能なので、このテクニックが(あるいは3体以上の協調も)、がれき等の障害物の中を進むのに役立つかもしれない。適切なセンサーを使えば、建物や地点を協力して識別することもできるだろう。そして、ターミネーター風の恐ろしい応用を考えるのも難しくない。

現時点で、彼らの協調行動はまだ少々危っかしい ― ビデオに映っているのは何度も試みた中の成功例だけだ。それぞれの「プリミティブ」はほぼ半分が失敗に終るが、それはロボットがごく基本的なものだからだ。

「将来は、ロボット間の位置確認を含めたクローズドループ・フィードバック制御や、接続接触センサー、各ロボットのIMU、モータートルク情報等を加えて、協調ステップクライミングの信頼性を改善するつもりだ」と、CasarezがIEEE Spectrumに話した。彼は、10台以上のロボットチェーンや、地上ボットと空中ボットの協調の可能性にも触れた ― これはETH Zurichが既に検討している

マルチボット・クライミング技術の詳細に関する論文は、今月ストックホルムで行われるICRA 2016で発表される。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

これは実用的:Googleの次の自動走行車はクライスラーのミニバンだ

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Googleの自動走行車には好きな要素がたくさんあるが、子供のいる家では、サッカーゲームの送り迎えに使える車が必須だ。Googleが自動車メーカーとの初の直接提携で、広々とした新しいミニバン、Pacificaを自動化しようとしているのはそのためだろう。

この車は燃費が優れている(ハイブリッド車である)だけではなく、家族全員が乗るスペースを持つ! しかし、Googleにとってさらに重要なのは、これまでプロジェクトでテストしてきたものとは全く異なるタイプの車であることだ。

「このミニバンのデザインは、ハンズフリーのスライディングドア等、利用者が乗り降りしやすい大型の車をテストする機会をわれわれに与えるものだ」と同プロジェクトのGoogle+ページの記事に書かれている。

もちろん出発的から目的地まで人を運ぶことが、Google自動走行車の主たる目的だが、異なるアプローチが必要になる様々な利用場面も同社が想定していることは明らかだ。

例えば、自動走行車は障害のある人や高齢車にとって極めて有用だが、アクセシビリティー ― 車椅子の乗り降り、視覚障害者のインターフェース等 ― の問題がすぐに浮上する。Padificaのような大型のプラットフォームは、こうした問題の探究にはより実用的な実験台になるだろう。

Fiat Chrysler Automobilesから、約100台の車がGoogleのセンサー装置塔載のために用意される。現在は、同社のカリフォルニアテストコースでのみ試験が行われている。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

AIが訓練結果に基づいてベートーヴェン(EUのテーマ曲)をビートルズふうに演奏

人工知能が“歓喜の歌”をEDMふう、ブラジルギターふう、そしてビートルズの“ペニーレーン”ふうに演奏したら、こうなる。

パリのSony Computer Science Laboratoryが、欧州連合(EU)のテーマソングの編曲に挑戦した。彼らは機械学習の最大エントロピー原理に基づいてコンピュータに、さまざまなタイプの音楽のもっとも目立つ特徴を認識することを教えた。そしてチームはそのAIに、ベートーヴェンのクラシック中のクラシック“歓喜の歌”のパターンを、現代的に演奏するよう命じた。

下のビデオで、リーダーのサイエンティストが、そのやり方を説明している:

SonyのCSLは、彼らのプログラムが、AIが人の心に残るオリジナル曲を作れるようになるための第一歩だ、と信じている。ラジオからコンピュータが作ったような曲ばかり聞こえてくるようになったら、あと数年でサイバートーヴェン(cyBerthoven)が登場するだろう。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

AI革命は人間性回復のための契機となるか?

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編集部注:本稿執筆はAidan Cunniffe。氏はDropsourceの共同ファウンダー兼CEOを務めている。

1万年前、職業には3種類しかなかった。すなわち狩猟、採集、そして育児だ。

そこから、職業の種類は大幅に増えていった。種類が増えるだけではなく、どんどん細分化されもした。

人類の進化と、それから引き起こされたイノベーションの結果として現状がもたらされたと言えよう。人類が進化するに連れ、人類が望むもの(ないし必要とするもの)も変化していったのだ(もちろん望みを実現するための手法なども変化していった)。

当初は人類も「生きる」ことを最優先に行動することが必須だった。しかし徐々に「生きる」こと以外にさまざまなニーズに注力できる状況となり(そのような状況を自ら生み出し)、そのような中から仕事についてもさまざまなものが生まれてきたのだった。生きることに直結する行動から離れ、そして繁栄を手に入れたのだった。20世紀になって、人類は空を飛んだり、月に到達したり、あるいはデジタル革命などを引き起こすこととなった。もしも人類が知の最前線を探るような余力をもたなければ、そうしたことも起こりえなかったに違いない。

そして私たちは、また新しい時代を迎える、いわば革命前にあるように思われる。AIの真価により、ロボットがさまざまな仕事を担う時代になって、人間でなければ不可能だろうと思われていた仕事もロボットのものとなりつつある。

ある意味で、「人間の領域」に対する侵犯は既に始まっているのだ。

90年代には「不可能」とされていたAIの進出

未来がいったいどのようなものになるのかについて、実は現在の様子を見ることでうかがい知ることができる。人間にかわり、AIが任される仕事範囲が大いに広がってきているのだ。

キーワードは流行りの「深層学習」で、これによりAIは分析・判断面でも人間を凌駕しつつある。X.aiなどの企業は、組立ラインのみならず管理業務においてもAIを活用しつつある。また、よく例に出されることではあるが、ジャーナリズム業界においても革命がおきつつあり、AIによって記事が執筆されるような事態となっている。

ロジックに基づいて行うことのできる仕事について、AIは既に人間に近いクオリティを示すまでになっている様子だ。さらにAIは利口になってきていて、できる仕事も増やしつつある。担いうる職種はほとんど全分野におよびつつあると言っても過言ではない。たとえば会計業務から運輸系サービスにも進出しており、また情報技術分野でももちろん能力を発揮しつつあり、セキュリティ分野での有効性が証明されつつある。

AI革命は、はやければ15年のうちにやってくる。

ただ、AIにもまだ今後の課題として残されている分野もある。すなわち「創造性」が必要となる場面で、これについてはまだまだであるのが現状だ。

人間が行う作業を大きくふたつにわければ、創造性を必要とする分野と、そこで生み出されたものを実現する(実装する)分野にわけることができるだろう。私たちは「創造性」を使ってモノやストラテジーなどさまざまなアイデアを生み出す。そしてそれらを「実現」するわけだ。「実現」という場合、何か物理的なモノを作ることもあれば、プログラムを書いたり、あるいはサプライチェーンを構築したりということがある。いずれにせよ「創造」した物事を「実現」しているわけだ。

その「創造性の実現」のために「テクノロジー」を用いる。かように「テクノロジー」の活用範囲は「実装」面にあり、まだまだ「創造」の面では活用できないケースが多い。

人間の領分

AIの進化は、人間社会における「仕事」の性質も変えることになりそうだ。仕事とはすなわち「創造性」を必要とするものとなるだろう。あるいは「創造性」はさほど必要としないものの「人間性」が求められるものも仕事として存続しそうだ。

「仕事」がそのような変化を被るなかで、「教育」の意味も変わってくるに違いない。たとえば「テスト」も暗記する能力を問うものは減り、創造性を問うものとなっていくことだろう。人間に求められるのは、コンピューターに担えないことであるからだ。

進化するコンピューターないしAIの中で、「人間」が求められるのはどのような分野だろうか。

遠い将来のことはわからないものの、近未来までの範囲では、人間によるクリエイティビティを必要とする分野はまだまだ多いように思える。

エンターテインメント:AIは人類のためにパンを焼くことはできても、サーカス的娯楽を提供するようになるのはまだ当分さきの話だろう。映画やテレビ、ビデオゲームの分野はまさに人間が活躍する分野として存在している。さらにVRという新しい分野も生まれ、これまで以上に人気を集める技術として発展する可能性をもっている。ひとたび体験すれば決してやめたくなくなる没入型の世界を提供する。

サービス業界:実際のサービスはコンピューターが提供することになるにせよ、「人間」の存在が求められる分野もある。いわば人間がAIの「外交大使」的な役割を果たすわけだ。家庭や職場でAIテクノロジーを使うことの利便性や安全性を伝えることが、まず最初の重要任務となる。

コンピューターの教育係:サービス業界の「大使」的役割にも似ている面もあるかもしれないが、こちらは特定の業務に精通し、かつコンピューターが業務を行えるようにするトレーナーの役割をも担う。たとえばコンピューターに壁塗りの作業やエンジンの修理を行わせるような場合、何をどのように行うのかについて教えてやる必要がある。AIを相手に行うとなれば、動物の飼育員のような機微が必要となる。

ビジネス開拓:AIは現在のビジネスの様子を大きく変えることになるだろう。製造管理やマーケティングないしセールスはAIの仕事となり、起業家としての役割が増していくこととなる。ビジネスの運用主体が企業ではなく、個人の手に渡るケースが多くなるだろう。

現在のところ、何かモノを作りたいような場合は3Dプリンターを使って設計から製造までを自分自身で行えるようになった。ただ、販路拡大となると人力に頼る面が大きいのだ。AIが発展することで、製造管理を行いつつ輸送管理も行い、そして適切なマーケットキャンペーンを実施して、それら一切にかかわる財務管理などもAIにて行うことができるようになるだろう。

大企業が(たとえば潤沢な広告宣伝費などを使って)得ていた優位性などは消え失せていくこととなる。AIアシスタントは広告やブランドなどに関係なく、たとえ作り手が12歳の女の子であったとしても、そのプロダクトがニーズに応じたものであればレコメンドしてくるということになるだろう。

新しいエコノミーの誕生

AIの普及により仕事がなくなった人のすべてが、異なる分野における仕事を行うことができるというわけではないだろう。多くの仕事が永遠に失われてしまうという話もある。それにともなって家計収入は大幅に減ってしまうことともなるだろう。

機械による作業はたいていの場合、人間によるものよりも安上がりになるはずだ。労働単価は下がり、収入はこの面からも低下する。ただし生産にかかる費用も低下するわけで、モノやサービスの値段も下がることになる。すなわち職を失っても生活水準がむしろ向上するような社会に繋がっていくだろうという考えも広く見られるようになってきている。

新しい仕組みへの移行は迅速に成し遂げられるものと思われる。産業革命には1世紀を要したが、AI革命はこの15年のうちに世界中に広がっていく可能性がある。AI革命の障害となるのは、コンピューターに自分の存在を脅かされるのではないかと考える人々の気持ちだろう。

AI革命は、技術の進化により必然的にもたらされるというわけでもないかもしれない。政治や文化的にもAIの進出を受け入れるようになって、はじめて実現するのかもしれない。そうした変化を受け入れる気持ちが人々の中に育てば、きっと人間性の本質たる創造性を存分に発揮できる未来が訪れるのではないかと期待している。

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(翻訳:Maeda, H

MIT、自動走行車をゴム製アヒルで実験

duckietown

自動走行車は、ほとんど魔法のようだ。自動車テクノロジー、コンピュータビジョン、人工知能、その他様々な最先端技術の要素を備えている。では、そのしくみを理解しようとしたら、どこからスタートすべきだろうか? MITは…ゴム製アヒルを使うことに決めた。

人を殺したり、重傷を負わせたり、その他弁護士の悪夢を生む様々な能力を持つ本物の3トン車両を学生の手に委ねるのは、少々行きすぎだ。それを回避し、それでも学生のイマジネーションに火をつけるべく、MITのコンピュータ科学・人工知能研究所(”CSAIL”)は、Duckietownを作った。50体のゴム製アヒルたちがモデル都市の中で自動的に相互にやりとりし、道路標識や道路表示に沿って完璧な調和をとりながら進んでいく。

Oh to be a student again; this looks like too much fun.

もう一度学生に戻りたい!これは楽しすぎる。

この第一級のプロジェクトは野心的だ。無人タクシー(もちろんゴム製アヒル用)の一団を作ったのだ。課題:1台のオンボードカメラだけを用い、事前にプログラムされた周辺マップは使わない。みなさんがどう思うか知らないが、私にとっては筆舌に尽し難い楽しさであり、もう学校にいないことが悔まれてならない。

一貫して正確なシステムを作るために、学生たちは工学的判断とトレードオフの課題を突きつけられた。例えば、洗練されたアルゴリズムと安いハードウェアにするか、それとも単純なアルゴリズムと信頼性の高いハードウェアにするか、どちらが正しい判断か。

プロジェクトは一回限りではない。CSAILは、これを数多くの野心的プロジェクとの足がかりにしたいと考えている。

「このようなツールは、研究者が物作りをするための共通なプラットフォームと言語を作るに役立つ」と、Liam Paullは言う。同氏はAndrea Censiと共にこの新しいコースを率いている。「これでコンピュータ科学者が、自動走行車を現実世界にもたらすために働きやすくなることを望んでいる」。

そして、ゴム製アヒルたちにとっても、より安全な輸送手段を。

下のビデオで実際の動きをご覧あれ。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

DeepMindがプロ棋士に勝利する時代におけるAIの成長段階とは?

South Korean professional Go player Lee Sedol reviews the match after finishing the second match of the Google DeepMind Challenge Match against Google's artificial intelligence program, AlphaGo in Seoul, South Korea, Thursday, March 10, 2016. The human Go champion said he was left "speechless" after his second straight loss to Google's Go-playing machine on Thursday in a highly-anticipated human versus machine face-off. (AP Photo/Lee Jin-man)

編集部注:本稿はOlapicのCTO兼共同ファウンダーのLuis Sanzによる寄稿。

1997年のこと。アメリカではバックストリート・ボーイズが大ヒットとなったアルバムをリリースした。市場ではマイクロソフトが評価されており、評価額は過去最高の2610億ドルとなっていた。IBMのDeep Blueは世界最高位であったガルリ・カスパロフを下し、世界チャンピオンの称号を得た。

人類がコンピューターに敗れたのはこれが最初というわけではにが、しかしIBMが成果を世に喧伝して世界中で繰り返し報じられることで、「コンピューターの勝利」が大いに騒がれることとなった。この頃からAIの可能性が「現実的」なものとして語られるようになったのだった。技術の進化を喜ぶ声もあったし、またロボットが人類を凌駕する危険性を主張する声も多く出てきた。そして、当時意識された「未来」が「現在」となり、なるほどさまざまな技術が進化した。

GoogleのDeepMindは、大方の予想に反して囲碁界のレジェンドである李世ドルをやぶるまでになった。囲碁は19路x19路の盤を用いて行う。それもあってチェスよりも相当に複雑なゲームとなっている。このゲームで人間(プロ)に勝つのは相当先の話だと思われていたのだった。チェスでは「すべてを計算する」というコンピューター的なアプローチが有効だったが、囲碁では無限ともいえるバリエーションがあり、人間に打ち勝つのは相当に大変なことだと思われていたのだ。

DeepMindと李世ドルの対戦をみて、いよいよ真のAI時代が到来したのだと言う人もいる。世間にはDeepBlueがカスパロフに勝利した20年前と同じような熱狂があるようだ。しかし、木を見て森を見ない議論が繰り返されているようにも見える。コンピューターは確かに大きく進化している。しかし社会生活に大きな変化をもたらす「自律的」AIの実現はまだまだ先の話だ。

コンピューターが進化することで人間の生活がますます便利になっているというよりも、コンピューターが人間を凌駕するとか駆逐するというような話の方が注目を集めやすい意味はある。Deep BlueやDeepMindの成果は確かにAIの進化を物語るものではある。しかしチェスや囲碁での勝利がすなわち、AIが人間に対して有意にたったということを意味するのではない。AIがIA(知能拡張:Intelligence augmentation)の面でどのように人類をサポートすることができるようになったのかという点に注目することの方が、AI評価の面でははるかに有意義なことなのだと思う。

たとえばDeep Blueの話だ。カスパロフがDeep Blueに負けたことにより、プロフェッショナルなチェスプレイヤーたちがチェスの研究にコンピューターを使うようになった。実はカスパロフ自身は以前から自身のチェス研究にコンピューターを活用していた。コンピューターを拒否するのではなく利用することで、自身の生み出す戦略思考を強化していくことができることに気づいていたのだ。

チェス界で受け入れられたコンピューターは、他の分野でも広く受け入れられるようになった。人力では扱い切れないデータに対処できるようになり、さまざまな面に進化がもたらされつつある。カスパロフは一般社会や、あるいはチェスのライバルたちよりもはるかにはやくコンピューターの有効性に目を向けていた。それが彼をしてながらくチェスチャンピオンの座に君臨させた一員でもあったのだ。

AIは急速に発達しつつあるものの、現在のところはまだ「人間レベル」を実現する目処はたっていない。

特定分野で力を発揮するようになったAIは現在、さまざまな分野で実用的に使用されるようになっている。ただし最終的な判断は、人間の行う「総合的見地」からの「状況判断」によって行われることが多い。AIが自律的に事業を運営したり、あるいはさまざまな分野で同時に有能さを発揮するアシスタントとして利用することができるようになるのは、まだまだ先の話であるように思われる。そのような中でAIは、知能拡張(IA)ツールとして実用に供されているのだ。

クイズ番組の「ジェパディ!」で活躍したIBMのワトソンは、最も有名なAIだと言えるかもしれない。しかしワトソンはトリビアクイズに対応できるということよりも、たとえば医療面において、はるかに重要な役割を担っているのだ。医者の診療を助け、多くの命を救っている。医療分野でのIAツールとして活用され、医者の能力を高めることに寄与しているのだ。

たとえば医療分野においては写真の果たす役割が非常に大きい。しかし画像には数多くの情報が含まれ、そこから重要な兆候を引き出すのは医者にとっても難しい作業となりがちだ。ここで活用されるのがワトソンで、膨大な量の医療画像から医師の判断に役立つ重要な特徴を抽出して知らせることができるのだ。

さらに、患者からの質問に対して正確で本人にぴったりの回答を行うために、リアルタイムで数多くのセラピーデータなどを検索して活用することもできるようになっている。

現状のデジタルアシスタントは、AIが生活の質を高め得ることの証明となっているように思う。コンピューターが知性を持つ(コンピューター・インテリジェンス)の最高の可能性のひとつだろう。真のAI技術が育つ前段階としての知能拡張(IA)技術は、現在の技術レベルでの最高の到達点ということもできる。たとえばAppleのSiriは楽曲を認識したり、提供する情報を取捨選択するのに機械学習の技術を使っているあたりではAIであるといえば。ただ自ら何かを決定して行うようなことはできない。情報を探すときにSiriはなかなか便利に使うことができる。しかしそのような場合、最終的に働いているのは人間側の知能であるのだ。

FacebookのMは、そもそもの最初から知能拡張(IA)を狙って構築されたものと言うこともできそうだ。Mは情報を検索するためのツール以上の機能を持っている。しかしMの提供情報の調整には数多くの人手がかかっているようなのだ。知能拡張ツールとしての能力を発揮するため、AIの能力のみに依存するのではなく、Facebook社員の力も借りて対処しているという話だ。

自動運転についてもAIの活躍が期待されている。コンピューターの視覚能力が向上し、自動車運転の一部自動化ないし完全自動化が視野に入ってきている。ただし、コンピューターを使う技術が大幅に向上しているのは間違いないところながら、AIの操縦する自動車に完全な信頼をおく人は未だ少ないようだ。そのような中、テスラなどは知能拡張(IA)の活用を進めようとしている様子。テスラの開発した自動運転においては、AIが速度や車間距離を適切に保ってくれたり、あるいは走行レーンを正しくトレースしてくれる。しかし車線変更の決定などは人間の側で行うようになっているし、コンピューターの行う運転動作をいつでも人間側が奪取できるようにもなっている。

AIの進化が著しいことは誰もが認めるところだ。しかし現在のところはまだ「人間レベル」を実現する目処はたっていない。

AIには確かに大きな可能性がある。しかしチェスのチャンピオンをやぶったり、ジェパディ!や囲碁の世界で驚くようなことを成し遂げるコンピューターが、「人類の未来」を具体的に見せてくれるわけではない。いつの日か、真のAIがもたらしてくれるであろう変化を感じさせてくれるほどの能力は、まだ持っていないのだ。真のAIが活躍する社会になれば、仕事も人類の手から奪われてしまうケースが増えていくことだろう。現在のところ、AIのレベルは人類の能力をアシストするレベルにあるといえる。私たちは、まだAIの活躍を単純に喜んで良い段階にいるのだと思う。

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(翻訳:Maeda, H

AI不信が強まる中、望まれるのは人類−機械のコラボレーション

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編集部注:本稿はRobert Daleによる。氏はArria NLGのCTO兼チーフ・ストラテジー・サイエンティストを務めている。

AIが進化するにつれ、人類の滅亡の日が近づいているのではないかという話をきくことが増えてきた。

ビル・ゲイツ、イーロン・マスクあるいはスティーブン・ホーキングたちも人工知能の進化に対しては警告を発しており、楽観的進化論者のレイ・カーツワイル(Ray Kurzweil)などはおされ気味であるのが現状だ。またスウェーデンの哲学者であるニック・ボストロム(Nick Bostrom)もAIがもたらす恐怖についての思考実験を行なっている。もちろん、そのような勢力が力を得ていることには理由はある。

たとえばキューブリックの「2001年宇宙の旅」では、人工知能のHALが宇宙船のドアを開けることを拒否していた。映画が登場して50年を迎えた現在、そのような状況もあり得るように思える時代となった。私たちは、自動化された軍事ドローンが殺害相手を自律的に判断したり、あるいは自動運転車が子供をはねるべきか、あるいは路傍の木に衝突していくべきかを主体的に判断するような世界で生きているのだ。

しかし実は、AIがすなわち人類に敵対するものだと考える必然性はない。人類とAIが補完的な存在である可能性はあるし、私はそのように考えている。

結論からいえば、機械(AI)が人類のような「スマートさ」を身につけることはないと考える。もちろんチェスをプレイする人工知能もあれば、「ジェパディ!」で活躍するものもある。あるいはまだまだ先だろうと思われていた囲碁界でもAIが躍進しつつある。しかし、人間の「スマート」さは、そうした面にのみあるのではないということが通説的に扱われて久しい。

ダニエル・ゴールドマンが「こころの知能指数」(EQ)の概念を提唱したのは20年前のことだ。EQについて簡明にかつ誰もが認める形で定義するのは難しい。そもそも「知能」と呼んでよいものなのかどうかについても議論がある。しかしEQ(ないしEI)が知能なのかどうかが問題なのではない。人間が持ち、しかし機械が持ち得ないものがあるということが大切なポイントなのだ。人類の考え方や振る舞い方は、機械とは大幅に異なったものになるのだ。

古典派の経済学者たちなら、私たち人類がもっぱら「合理的」に判断して行動すると考えたくなることだろう。しかし行動経済学は、私たちの行動には経済的合理性には沿わないところがあることを示し、また合理性自体も後付的なものであることが多いことを明らかにした。

結局、機械のインテリジェンスと人間のインテリジェンスは別物であると思うのだ。その両者に同じ「知性」という語をあててしまっては、単に混乱を招くだけであると思う。AIについては「賢くなった」というように、人間と共通するような評価をすべきではないと思うのだ。「賢い」という言葉の意味がわかりにくくなってしまうとも思う。

もちろん、機械にできることが増えつつあることを否定するものではない。駆使するロジックも飛躍的な発達をとげている。複雑な状況にも対応できるようになってきているし、また変化の多い状況にも適切に対処することができるようになってきている。しかし、われわれ人類とは、多くの情報を用いて物事を合理的に解決するというためだけに存在するのではない。異なる強みを持つ両者は、競合的にではなく共生的に存在していくべきだ。

たとえば個人的にはNLG(自然言語生成)を使ったレポート生成システムなどを運用している。数多くのデータを入力すると、そこからデータを分析した文書を生成するものだ。しかし文書生成アルゴリズムは人間と同じようには動作しない。

自然言語生成アルゴリズムを実際に使うにあたっては、人間と協業することで双方にとってベストの結果を生み出すことができる。たとえば人間の側で読者層を把握し、その対象に適したニュアンスを採用した書き方を心がける。そして機械の側は人間のみで作業していたならば膨大な時間がかかり、かつもしかすると見過ごされてしまうような分析を行なって情報を細かくかつ正確に提示することができるのだ。

他にも人間と機械のコラボレーションが期待される分野がたくさんある。たとえばアドバンスト・チェス(Advanced ChessないしCentaur Chess)もそのひとつだ。温暖化や地政学の話などにも有力とされている。機械が処理しやすい形にできるものについては、積極的に機械の助けを得るようにしていけば良いのだ。ただし、少なくとも近未来の範囲では、人間の介入が必要となる。

我々は機械ではない。もちろん機械もまた人類とは「異なる」存在だ。私たちは協働してコトにあたるべきなのだ。機械の側に「協働」の意識はないかもしれないが、それはまた人類の強みを示すものと理解すれば良いのだと思う。

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(翻訳:Maeda, H

Magic Ponyは既存データからニューラルネットワークで全く新しい画像をリアルタイムで生成する

2016-04-15-magicpony
The source image on the left was used to generate the one on the right.

(左側がオリジナルのしっくいが剥がれてかけたレンガ壁の画像。右側はニューラルネットワークを用いて新たに生成された画像)

イギリスのスタートアップは畳み込みニューラルネットワーク(convolutional neural network=CNN)を利用したユニークなソフトウェアを開発した。機能はAdobeの画像ソフトのコピースタンプや修復ブラシに似ているが、画像の隙間を単純に既存画像で埋めるのではなく、まったく新しい画像データを生成する点が異なる。

新しい画像は既存画像よりサイズが大きくなり、描写も詳細になる。そう聞いただけではにわかに信じがたい。まるで魔法のような機能だ。おそらくそれがこのスタートアップがMagic Ponyと名乗る理由なのだろう。

このスタートアップは半ステルス状態からわずかに脱したところだ。 Magic Ponyの開発者はシステムに同一の画像やビデオを異なる精細度で供給し、両者の差異を学習させたという。MIT Tech ReviewにMagic Ponyのテクノロジーの最初の成果が掲載されている。

われわれは人間の顔がどのようなものであるかよく知っている。そこで荒い画像からでも顔の細部を補うことができる。Magic Ponyの人工知能はこれと同様本来はどのような情報が含まれていたはずであるかをピクセルごとに推測する。この外挿法によって画像の細部が補われる。

たとえば、ひどくブレたビデオ画像を、元画像を推測することによって見やすい画像に置き換える。システムは画像が「本来どのようなものであったか」を判断できるので、どんなにひどくノイズが混入していても、それらを取り除いて文字なら文字を正確に復元できる。ピクセルのパターンが人間の顔を示していればシステムは人間の顔のあるべき状態に基いてシャープネスを高め、見やすくする。

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クリックすると拡大されるので画像を比較しやすくなる。

当面きわめて有望な応用は、クライアント側で標準的なGPUだけを使って低品質なストリーミング・ビデオをリアルタイムで高品質に改善するようなアプリだろう。各種の高機能なビデオ・フィルターは市場に出回っているものの人工知能を高度に利用したMagic Ponyのテクノロジーはそれらを大きく上回る可能性がある。

画質の改良に加えて、Magic Ponyのシステムはそれまで存在しなかった新しい画像を生成することもできる。システムは輪郭線の検出といった低レベルの機能だけでなく、画像の全体的構造や何を意味しているかといった高レベルの認識も可能だ。人工知能はこれに基いて、既存の画像に統計的に類似した画像やオリジナル画像を拡大した画像を創りだすことができる。

記事のトップのしっくいとレンガ壁の画像をもう一度見ていただきたい。右側の画像は高い精度で同じ壁の異なった箇所を描写しているように見える。しっくいやレンガの色彩、質感はきわめて自然だ。システムは左側のオリジナル画像からしっくいやレンガが描写される規則を発見し、それらを用いてより大きい画像を創り出している。

ゲームや対話的CGビデオで、少数のテクスチャー・データからユーザーのコマンドや登場キャラクターの動きに応じてダイナミックにリアルな画像が生成されるところが想像できる。角を曲がった先の建物の蔦がはった壁面や鞘から抜かれた剣のきらめきといったディテールは現在の技術ではオンデマンドでは描写できない。もちろんMagic Ponyのテクノロジーを用いても依然として目視によるチェックとアルゴリズムの調整は必要だろう。 しかしアーティストや技術者がここ長年追求しきたリアルな描写のレベルが長足の進歩を遂げる可能性が十分にある。(画像:John Carmackと Mark Johnson)

Magic Ponyは金額は不明だが、Chris Mairs、Tom Wright、Xen Mateganなど数多くのエンジェル投資家からシート資金を調達している。また2015年のEntrepreneur Firstプログラムの参加メンバーでもある。テクノロジーに早期にアクセス可能となるパートナー契約について共同ファウンダーのRob Bishopは「申し込みを多数受けている」と確認した。ただしパートナー名は明かされていない。

6月にラスベガスで開催が予定されているコンピューター・ビジョンのカンファレンス、CVPRでMagic Ponyのニューラルネットワーク・テクノロジーとその応用についてさらに詳しく知る機会があるはずだ。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

Facebook、ビデオに映っている友達を自動的にタグ付け可能へ

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Facebookは、画像認識への人工知能システムの利用を大きく進めているが、これをビデオにも持ち込もうとしている。今日(米国時間4/13)サンフランシスコのF8カンファレンスで、ビデオに映っている人たちを自動的にタグ付けするしくみを開発中であることを発表した。

Facebookの機械学習担当ディレクター、Joaquin Quiñonero Candelaは今日の基調講演で、ユーザーが自分にシェアされたどのビデオからでも人物を探せるようにする考えであると話した。例えば、友達とライブビデオに出ている時に、別の友達がビデオに立ち寄って短い会話を交わしたとする。通常その瞬間を探しだすのは困難なので、非常に刹那的な体験となるだろう。

近々Facebookは、この瞬間を自動的にインデクス化して、友達の名前を検索するだけで見つけられるようにする。そうなれば友達が立ち寄った瞬間の場面に飛ぶことができる。

Facebookはビデオの自動キャプションにも取り込んでおり、静止画像で物体を検出するのに使用している画像認識技術をビデオで利用することも考えられる。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

IT技術で巨匠のスタイルを分析し、レンブラントの偽物を3Dプリントする

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歴史上の偉大な画家のスタイルを真似するプログラムを作ろうとする試みは、高慢であり失敗する運命にあるが、その特質は、テクノロジーの最先端にいる男女にとってネコにとってのマタタビのようなものだ ― そしてそれにかける努力の成果は目覚ましく説得力がある。しかし、果たしてそれは芸術なのか?(イエス。間違いなく芸術だ)。

The Next Rembrandtと呼ばれるそのプロジェクトは、INGとMicrosoftがスポンサーとなり、オランダのデルフト工科大学といくつかの美術館が協力して行われた。

もし、この複雑にすぎるサイトから読み取ることかできれば、美術史家と画像分析の専門家なくしてはなしえない、非常にクールで学際的な仕事が見られるだろう。

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レンブラント・ファン・レインの全作品から、色、服装、話題、年齢層、構成その他あらゆる有用なデータを分析した。研究者らは、殆どの白人男性が、黒いスーツ、白いシャツと口ひげという17世紀の出で立ちであることを発見した。データが多いほど良い結果が出ることが多く、この場合はよく見かける光景だったため似たような肖像を比較することが容易だった。

次に、人物と作品について個々の特徴を詳細に分析する ― 彼はどんな顔面形状を好んだのか? 見る人からの角度は?個々の線はどう描かれ、線の集合はどのように構成されているのか?

こうしたデータを元に、システムは新たな部品を作り、組み合わせて数世紀前の人々にとって心地よい顔や姿を完成させていく ― 残念ながら技術的な詳細は明らかにされていない。もっと詳しく知りたいところだが、まずはこのビデオで開発者の声を聞いてみよう。

作品は特殊な3Dプリンターを使って、その時代の絵画に合った質感やひび割れを再現しながら物理的平面上に呼び起こされる。。

この興味深いテクノロジーの芸術への応用についての計画は何も語られていないが、情報が入り次第お伝えする予定だ。

経験ある美術史家はこの量産品と本物のレンブラントを区別できるのか? それはほぼ間違いないが、重要なのはそこではない。これまで主観的な言葉でしか表せないと思われていたデータ(光の質や表現のニュアンスを定量化することは難しい)を整理してシステム化し、合成絵画を作成できるようになったことには十分な価値があり、一つできたからには比較的容易に何十種類もできるかもしれない。

もちろん、このシステムは複数人物の絵や風景、印象派、ラファエル前派や立体派のほぼあらゆる作品でつまづくだろう ― ダダやイエローイズムの議論はここでは置くことにする(とはいえ、畳み込みニューラルネットワークの幻覚的かつ深遠な夢は、コンピューターが世界を魅力する独自の表現を持つことを示唆している)。

いずれにせよ、このプロジェクトは、数年のうちに汎用美術模造マシンを開発するための強力な基盤となるだろう。その時は美意識に関する難問を突きつけられることを覚悟しておかれたい。

何ともすばらしい(そして少し高尚な)話ではないか? 18ヵ月の作業に関わった全員に心から拍手を送りたい。この仕事が、「本物」の作品を取り込み、保存するための技術も発展させたことを願っている。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

ロボット革命ないしAI革命ののちに現れる経済システムとは?

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編集部注:本稿の執筆はゾルタン・イシュトヴァン(Zoltan Istvan)

自ら立ち上げた「トランスヒューマニスト党(Transhumanist Party)」より2016年の大統領選挙にも名乗りをあげている。

これまでにも「The First International Beauty Contest Judged By Robots」、「人工知能に『憎悪』をプログラミングする正当性と倫理的な問題」などを寄稿してもらっている。

経済の専門家たちは、いよいよロボットによって90%の仕事が奪われるような事態について真剣に考えざるを得なくなりつつあるようだ。20年ほど前には誰も真面目には考えなかった事態が現実になりつつある。そしてそのような現実の中、果たして「資本主義」が生き残るのかどうかという問題も議論の俎上にのぼりつつある。今の段階で正解など誰にもわかるまい。しかし誰もがこの問題に取り組まざるを得ないような状況になっているのだ。エコノミスト以外の人々も、果たしてどのような未来を望ましいと考えるのかについて、態度表明を迫られるようになってきている。

米・ロ間の冷戦がアメリカの勝利に終わり、ほとんどの人は資本主義こそが経済発展およびデモクラシー維持のために最善の(ないしは最もましな)システムなのだと考えるようになった。以来、資本主義のメリットを疑うものはほとんどいないという状況になった。グローバリゼーションの世の中となり、全世界の富が増大していくようにもなり、ますますその傾向は押し進められることとなった。ちなみにベルリンの壁が崩壊した1989年には、世の中にビリオネア(資産が10億ドルを超える人)は198人しかいなかった。それが2016年には、なんと1826人に増加している。

ただし、富裕層が増える中でも2007年からは世界金融危機を迎え、より細やかな経済政策が必要とされているのではないかとも考えられるようになった。さらに21世紀のパラダイム・シフトがおこりつつあり、「仕事」が賃金の安い他の国に移ってしまうのではなく、まるっきり消滅してしまうような事態が発生しつつあることに、経済学者たちは注目し始めている。その原因と考えられているのは、ロボット(およびソフトウェア)だ。

当初はこの事態についてあまり深刻に考える人はほとんどいなかった。エコノミストや企業も、新しいテクノロジーの勃興は時代の流れであり、その中から金の稼ぎ方などが変化して、新たな経済(および仕事)拡大に繋がると考えていたのだ。しかし昨年辺りから転換点を迎えたのではないかという声が大きくなってきた。10年以内に、もしかすると5年程度のうちに、数千万の仕事が失われてしまうのではないかという人が現れてきたのだ。世界金融危機当時に多くの人が仕事を失ったが、それをはるかに上回るペースで、仕事自体が消えてしまうという話だ。

たとえば既に、無人トラックで荷物の配送を行おうとしている国々もある。アメリカでもトラック運転に従事する人は多く、無人トラックが行き渡れば350万人が職を失うこととなる。人手を必要としない乗り物がハイウェイを自在に移動して配送業務を行うようになったとき、それで失われた仕事の代わりを見つけることはできるのだろうか。

失われると予想される仕事は車の運転のみではない。ウェイター、銀行の出納業務、図書館員など、数多くの仕事が失われると予想する人もいる。そうした仕事に人の手は必要なくなってしまうというのだ。

アメリカンドリーム的成功を夢見る経済活動の今後

資本主義とはそもそも「競争」を前提とするものだ。仕事がなくなるのも、他者との競争に敗れたせいだとみる人もいるだろう。しかし訪れつつある競争は、これまでのものとは異なる。すなわち職自体が消えてしまうこととなり、いったん敗れた人は二度と自分の仕事を取り戻すことはできなくなるのだ。ドライバーやウェイターとして仕事をしてきた人は、競争により仕事を取り戻すことも不可能で、他の仕事を見つけざるを得なくなる。職を見つけられず生活保護を受けるようになる人も多くなるに違いない。あるいは、仕事を求めた暴動が発生するというようなこともあるだろう。

そしてこの混乱は、過去のものよりも大きな広がりを見せることになるかもしれない。問題が「貧者」のみのものではないからだ。20年もたてば、かなりの人の仕事が存在を脅かされることとなる。たとえば私の妻は大学で19年間学んで産婦人科医となった。返済すべき奨学金もまだ10万ドルほど残っている。しかしロボットが進化して、出産を手伝ったり、あるいは子宮頸癌の治療なども人間より上手に行えるようになることはあり得る。税理業務などを行なっている人も、ソフトウェアに仕事を奪われることになりそうだ。記事などを書くのもニュースアグリゲーションプログラムなどの方が正確に記述できるようになる可能性がある。

結局のところ、大統領すら含む全員が、機械に仕事を奪われる可能性を持つのだ。そして無職無収入の身となってしまうのだ。

そのような時代を迎えるにあたって、私たちは仕事なしでも幸せに過ごすためのシステムについて考えるべきなのかもしれない。そのシステムが「資本主義」というシステムでないことはあまりにも明らかだ。

新たに登場するシステムが、人類および社会を幸せにするようなものでなければならないことは言うまでもない。個人的にはベーシックインカムに興味がある。ロボットに仕事を明け渡しつつも、人間社会が困窮して行かないための方策であると感じているのだ。しかしロボット革命後の世界に、そのような社会が実現するのだとも想像しにくい。

働くことはすべてロボットに任せる共産的社会を考えた人も多い。テクノロジーが働き、私たちはただ自分たちの欲望充足を考えれば良いという世界が訪れるとするものだ。しかし、共産主義的社会がうまくいくと考える人は少ない(資本主義社会の中で、何度か起業してきた私自身もその一員だ)。

ただし、私たちは21世紀になって、個々人が社会と密接に、より緊密に繋がるといった状況を招きつつある。21世紀になって生まれたイノベーションの多くが、個人を「ソーシャル」に結びつけるものだったとも言えるだろう。私たちはこれまでとは比較にならないくらいにテクノロジーに依存するようになった。そんな中、仕事も機械に任せる時代が訪れるというのは必然であるのかもしれない。他者に迷惑をかけない限りは社会の中に温かく迎え入れられ、そして寸暇を惜しんで稼ぐ必要もなくなりつつあるとは言える。

そうした状況が進めば、「金」(money)すら今世紀を生き残るのは難しいのではないかと考えてしまう。万物と交換し得る地位は、より効率的な機械やソフトウェア、あるいは技術を活用するナレッジのみに認められるようになるのかもしれない。「技術的特異点」が訪れ、人類は常に人工知能と繋がり続ける状況となり、情報の中を漂う存在となる。そのような未来が2075年よりは前に訪れるだろうと予測する人も多いようだ。

それほど将来の話をするのではなく、話を2016年の現在に戻してみよう。経済システムがどのように変容していくにせよ、この25年間にもたらされるものは、これまで誰も想像し得なかったものであるに違いない。巨人たるカール・マルクスも、あるいはアダム・スミスも、疲れ知らずに働き続けるロボットの存在など考慮に入れていなかった。世界にマイクロプロセッサーが溢れ、あらゆる情報が0と1で処理を行うコンピュータによって扱われるようになるなど、誰も考えていなかったのだ。

これからの経済的パラダイムが、どのような変化を被るかについては「何もわかっていない」と考える方が良かろう。これまではとにかく経済を回し続け、そして豊かな人生を送るアメリカン・ドリームの実現に価値をおく人が多かった。しかし、これまで多くの人に認められてきた価値すら変質し、人生はよりシンプルなものへと変わっていくのかもしれない。そういうライフスタイルを実現する全く新しい経済システムが、今後の世の中には育っていくことになるのだろう。時代は、そうした変革に向けて着々と準備を整えつつあるようにも見える。

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(翻訳:Maeda, H

このニューラルネットワークは、白黒写真に正しい色の「幻覚」を起こさせる

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機械が支配する未来は、歴史から白黒写真を排除してしまうかもしれない。必要なのは、バークレーのコンピュータ科学者、Richard Zhangの作ったこのシステムだけだ。魂のないシリコンの感性があらゆるモノクロ写真に色の「幻覚」を起こさせる

このシステムは、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)と呼ばれる、画像認識の一種を利用して、人間の脳の下位レベルの視覚システムを模倣することによってパターンを認識し対象を分類する。おそらくGoogleのDeepDreamが、最もよく知られた例の一つだ。数百万枚の ― ありとあらゆる種類の ― 画像を観察することによって訓練されたZhangのCNNシステムは、白黒写真に写った物体を認識し、そうあるべきと考えられる色をつける。

例えは、草地には様々な特徴がある ― 質感、画像間に共通する場所、近くによく見られる特定の物、等。そして、草地は一般に緑色、だろう?そこでシステムはそこが草地であると見なすと、その部分を緑色に塗る。同じことが、ある種の蝶や建築資材、特定の犬種の鼻、等についても行われる。

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Zhangの着色プロセスを、他のシステムおよび元のカラー写真のいくつか(右)と比較している

システムを説明した論文でZhangは、この認識および色割り当てのプロセスを「幻覚化」と呼んでおり、実際その名の通りだ。本当はそこにないものを見ているのだから。実は人間が何かに色をつけるのと非常によく似たことを行っている。われわれは、見た物の形や模様を以前見た物と比較して、最も適したクレヨン(あるいは16進数)を選び出す。

当然結果はまちまち(AIシステムの結果はそれが多い)であり、アンゼル・アダムスの写真をカラー化するアイデアを私は受けつけないが(トーマス・キンケードやアンリ・カルティエ=ブレッソンも同様にいただけない)、実際、これは成功していると言わざるを得ない。Zhangらはシステムの有効性を検証するために、モノクロ写真のカラー版を2種類見せて選ばせた。元のカラー写真と、ニューラルネットワークの成果だ。20%の人々が後者を選び、それは大きな数字に思えないかもしれないが、これまでのカラー化の取り組みよりも、良い結果だった。

論文には技術情報が満載されているが、システムがいつどうやって失敗したか、最も納得いくもの、いかなかったものは何か、等の興味深い事例が数多く載っている。読んでみて(他の参照文献も)週末にコンピュータービジョン専門家の友達と話す新ネタを仕込むのもいいだろう。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

MicrosoftのAIボットTayがTwitterに復帰、再びスパムの大洪水、そしてまた眠らされる

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MicrosoftのAIボット”Tay”は、インターネットによって人種差別主義者にさせられたために黙らされてしまったが、今日(米国時間3/29)Twitterに短時間戻り、スパムの熱弁を続行したが、すぐにまた沈黙した。

TayはMicrosoft Technology and ResearchとBingのチームが、会話による理解を研究するために作り、人間との対話から学ぶ能力がある、とされていた。しかしインターネットはご存知のとおりの現状だから、Tayはそこから大量の不適切な言葉を学び、そしてMicrosoftは、“調整”のためにしばらく眠らせておこう、と判断した。

ところが、すでにロボトミーを受けてしまったTayは、問題を自分の性質の一部にしてしまったようだ。Twitterのアカウントは彼女の21万5000人のフォロワーのタイムラインで満たされ、それはその呪わしい10分間に、毎秒7つのツイートがあったことに相当する。そのためいくつかのメッセージにより、”You are too fast, please take a rest…”(速すぎるよ、休んでください)というTwitterギャグが生まれた。

Screenshot 2016-03-30 15.04.48

Microsoftもこの暴発を見たらしくて、すぐにTayを再び黙らせ、そのAIのTwitterアカウントを非公開にした。今後は、承認がないかぎり誰もフォロワーになれない。そうなるとツイートの埋め込みもできないから、この記事ではスクリーンショットで我慢していただこう。

AIの黙示録(終末的破局)は、このように始まるのかな…

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

Google曰く:囲碁チャンピオンを破ることで、人工知能が「人間に見えない答を見つけられる」ことを示した

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Googleが開発した人工知能(AI)が最強の囲碁プレーヤーを破った歴史的瞬間については数多く語られている。

囲碁はその膨大な打ち手の可能性から、AIにとって究極のテストの一つと見られている。「一回のゲームには、1,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000 種類の可能な打ち手がある ― これは宇宙の原子の数よりも多く、チェスのグーゴル(10の100乗)倍以上である」と、Googleは今年1月に言った

対局のシリーズ ― AlphaGoが4勝1敗で制した ― を見逃がした人や、何がそんなにすごいのかがわからない人たちのために、その一般的重要性についてGoogleがブログで説明している

もはや単なるゲームとはかけ離れている。AlphaGoを開発したGoogle傘下の会社、DeepMindのCEO・共同ファウンダー、Demis HassabisはこのAIの進歩について、人間に馴じみのない、あるいは不可能な方法で問題を解くためにAIを利用できることの証明であると語った。

この体験から2つの重要なことを学んだ。まず、このテストはAIが他の問題を解く可能性を示す良い前兆である。AlphaGoはあらゆることを「グローバル」に見る能力を持っている ― そして人間が行わないよう訓練を受けてきた、あるいは考慮すらしなかった答を見つける能力を。これは、AlphaGoのような技術を使えば、他の分野でも、人間が必ずしも見出せない答を見つけられるという大きな可能性だ。

さらにHassabisは、人間対機械と称されているこの対決が、実際には人間対人間のテストであることを指摘した。なぜなら、AlphaGo自身が生き物だからだという。

AlphaGoは実際には人間の業績だ。[囲碁世界チャンピンでAlphaGoの対戦相手の]イ・セドルとAlphaGoチームは、互いに相手が新しいアイデアやチャンスや解決方法を生みだすことを強いた ― それは長い目で見れば全員の利益になるものだ。

DeepMindのCEOは、自らの1勝を重要な出来事だと言うイ棋士の才気に敬意を表すとともに、成し逐げた進歩にかかわらず、人工知能の未来について地に足をつけて考えている。

「人間にできる幅広い知的作業をこなす柔軟性を学習できる機械 ―真の人工汎用知能の証明 ― までにはほど遠い」とHassabisは言った。

祝福が終った今、DeepMindはいつものつらい勉強に戻らなくてはならないようだ。先週の出来事は、DeepMindに何が出来るかに光を当て広く認知させるものであり、囲碁というゲームに限らず、今後DeepMindの将来のプロジェクトへの関心を高めることは間違いない。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook