英政府が国家安全保障と競争に関する懸念でNVIDIAのArm買収に対するより詳細な調査を開始

チップメーカーのNVIDIA(エヌビディア)が英国のチップ設計会社Arm(アーム)を400億ドル(約4兆5820億円)で買収する計画について、英政府は競争市場庁(CMA)に詳細な調査を行うよう指示し、英国の競争規制当局による綿密な調査が行われることになった。

英デジタル長官Nadie Dorries(ナディン・ドリーズ)氏は、競争および国家安全保障上の懸念を理由に、第2段階の調査を実施するようCMAに書面で指示したことを現地時間11月16日に発表した。

英政府は8月にCMAの予備調査の詳細を発表していた。調査では、この買収がデータセンター、IoT(モノのインターネット)、自動車分野、ゲームアプリケーションの市場における「実質的な競争の低下」につながる可能性があるとして、買収にともなう多くの競争上の懸念を指摘していた。

11月16日に公開されたCMAの第1段階報告書は、競争上の理由からより詳細な調査を推奨しているが、国家安全保障上の問題については判断を下していない。

2021年4月、英政府は国家安全保障上の理由で介入通知を出し、CMAに対してより詳細な調査が必要かどうかを判断するために、この取引の影響に関する報告書を作成するよう求めた。

ドリース氏は11月16日、国家安全保障上の利益は依然として「関連性がある」とし「さらなる調査の対象とすべきである」と述べた。

2002年に制定された企業法に基づき、デジタル長官は、国家安全保障上の問題を含むいくつかの公益上の考慮事項に基づいて、合併に介入するための準司法的な決定を下すことができる法的権限を有している。

ドリース氏は声明の中で次のように述べている。「NVIDIAが提案しているArmの買収に関する競争市場庁の『フェーズ1』報告書を慎重に検討し、さらに詳細な『フェーズ2』調査を行うよう要請することにしました。Armは、世界のテクノロジー・サプライチェーンの中で特異な地位にあり、この取引の影響を十分に考慮しなければなりません。CMAは今後、競争および国家安全保障上の観点から私に報告し、次のステップに関するアドバイスを提供します」。

「繁栄するテック部門に対する政府のコミットメントは揺るぎないものであり、外国からの投資を歓迎しますが、今回の取引の影響を十分に検討することは正しいことです」とドリース氏は付け加えた。

第2段階の調査への言及についてNVIDIAにコメントを求めている。

CMAは第2段階の調査を行い、その結果を政府に報告するまでに24週間(8週間の延長の可能性あり)を与えられる。つまり、少なくとも、NVIDIAによるARM買収は、取引の承認を得るまでにさらに数カ月の遅延が生じることになる。

デジタル長官は、国家安全保障上および(または)競争上の理由から、買収に関連して「不利な公益認定」を行うかどうかの決定を下すことになる。

国家安全保障の問題に関する最終的な判断は、英国の国務長官が行う。国務長官は、CMAの最終報告書を受け取ってから30日以内に判断を下す。

ドリース氏は、公共の利益に反する介入理由がないと判断した場合、CMAに案件を差し戻すが、CMAは競争上の理由で反対の助言をする可能性があり、また(あるいは)懸念を解消するために案件に条件を課すことができる。

つまり、国家安全保障上の理由と競争上の理由の両方、あるいはどちらか一方の理由で買収が阻止される可能性があり、承認にはかなりの障壁がある。

しかし、最終的に両方の懸念が解消され承認される可能性もある(CMAの第1段階の調査で重大な懸念が示されたため、競争面で懸念がなくなる可能性は低いと思われる)。

また、救済措置(特定の懸念に対処するための条件や制限)付きで取引が承認される可能性もある。

高まる懸念

NVIDIAによるArm買収計画は、英国内ではすぐに反対の声が上がり、Armの共同設立者の1人は、NVIDIAに買収されないように「ARMを救う」キャンペーンを始めた

世界的なチップ不足により、半導体分野におけるサプライチェーンの安定性への懸念が強まっている(ただし、Armは自社でチップを製造するのではなく、IPの開発やライセンス供与を行っている)。EUは最近、半導体供給に関する地域主権の強化を目的とした半導体法を制定する計画を発表した

欧州連合(EU)も10月末に独自の詳細な調査を発表するなどNVIDIAとArmの取引を直接調査しており、NVIDIAがArmを買収するための新たな障害となっている。

欧州委員会は、CMAの第1段階の調査と同様の見解を示し、NVIDIAとArmの合併に関する予備的分析では、多くの競争上の懸念があると述べた。

「欧州委員会は、合併した企業が、NVIDIAのライバル企業によるArmの技術へのアクセスを制限する能力と動機を持つことになり、提案されている取引が価格の上昇や選択肢の減少につながることを懸念しています」とEUの幹部は先月述べた。「ArmとNVIDIAは直接競合していませんが、ArmのIPは、たとえばデータセンター、自動車、IoTなど、NVIDIAと競合する製品の重要なインプットとなっています」と、競争担当のMargrethe Vestager(マルグレーテ・べステアー)氏は声明で述べた。

「我々の分析によると、NVIDIAによるArmの買収は、ArmのIPへのアクセスを制限または低下させ、半導体が使用されている多くの市場に歪んだ影響を与える可能性があります。我々の調査は、欧州で活動する企業が、最先端の半導体製品を競争力のある価格で生産するために必要な技術への効果的なアクセスを継続できるようにすることを目的としています」。

EUは2022年3月15日までにこの買収を認めるかどうか判断する。

10月のロイター通信の報道によると、欧州委員会はEUの綿密な調査を回避しようとするNVIDIAが先に提示した譲歩案に揺るがなかったという。

画像クレジット:Omar Marques/SOPA Images/LightRocket / Getty Images

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi

アップル、Apple Store従業員の所持品チェックをめぐる集団訴訟で約34億円の和解金を提示

2020年、カリフォルニア州最高裁判所は、Apple(アップル)が従業員に対して、強制的なバッグやiPhoneの検査を並んで待つ間、報酬を支払わなかったことは法律違反であると判決を下した。現在、Appleは訴訟を解決するために3000万ドル(約34億2000万円)の支払いを申し出ており、従業員側の弁護士はこれを受け入れるよう原告団に促しているとApple Insiderが報じた。Courthouse Newsが閲覧した和解案の中で、原告側の弁護士であるLee Shalov(リー・シャロフ)氏は「8年近くに及ぶ長い戦いとなった訴訟の末に成立した今回の和解は、逆転を許さない重要なものです」と書いている。

従業員が訴訟を起こしたのは2013年のことで、Apple製品や企業秘密を盗んでいないか持ち物を点検される間、賃金が支払われなかったと訴えていた。従業員たちは、5分から20分のプロセスの間もAppleの「管理下」にあったと考えており、それゆえに補償されるべきだとしていた。これに対してAppleは、従業員はバッグやiPhoneを職場に持ち込まないことも選択できたため、検査のプロセスを避けることができたと主張した。

地裁ではAppleが勝訴したが、控訴審はカリフォルニア州最高裁に持ち込まれた。そこでは裁判官は、Appleの従業員は「退勤の際に検査を待っている間も、検査中も、明らかにAppleの管理下にあった」と判決を下した。裁判所は、職場にバッグを持ち込むことは従業員の利便性であり、特に、従業員は必ずしも私物のiPhoneを職場に持ち込む必要はないと考えていたというAppleの主張を退けた。

裁判官はこう述べた。「iPhoneを自社の従業員にとって不要なものとする同社の姿勢は、iPhoneが他の人々にとっては『日々の生活に統合された、不可欠な一部』であるとする同社の姿勢と真っ向から対立するものです」。記述の中で裁判所は、2017年のTim Cook(ティム・クック)CEOのインタビューに言及し、同氏がiPhoneは「これなしで家を出ようとは思わないほど、私たちの生活に溶け込んで限りなく一体化しているものです」と述べていたことを指摘した。

この和解案は、原告団の承認を得る必要がある。この訴訟に関与したカリフォルニア州の約1万2000人の現在および過去のApple Store従業員は、最大で約1200ドル(約13万7000円)の和解金を受け取ることになる。

編集部注:本稿の初出はEngadget。著者Steve Dent(スティーブ・デント)氏は、Engadgetのアソシエイトエディター。

画像クレジット:Iain Masterton / Getty Images

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(文:Steve Dent、翻訳:Aya Nakazato)

【コラム】ビッグテックはビジネスが苦手なのか?中小の知的財産権を侵害する大手

Google(グーグル)は2021年8月、Sonos(ソノス)との法廷闘争で大きな敗北を喫し、米国際貿易委員会の判事はグーグルがSonosのオーディオ技術特許5件を侵害したと判断した。この判決が支持されれば、Googleは数億ドル(数百億円)を支払うことになり、PixelスマートフォンからNestスピーカーに至るまで、あらゆるものを取り込むことが禁止されるかもしれない。

これは些細な展開ではない。ビッグテックがより規模の小さい企業から知的財産を盗むのを阻止しようとする一連の訴訟や苦情の最新事例である。

ここ数年、ビッグテック企業が小規模なライバル企業の知的財産権を侵害するケースが増えている。こうした小規模な企業は反撃を開始しており、今やビッグテック企業は裁判所から命じられる数百億ドル(数兆円)の損害賠償と訴訟費用に直面する可能性がある。

もしビッグテックの幹部たちが無謀な侵害を続けるなら、彼らの会社は取り返しのつかない財政的、評判上の損害を受けることになる。競合他社の知的財産を盗むことはもはや単に非倫理的なだけではない。それはビジネス上の決定があまりにも悲惨なほど近視眼的であり、経営者の株主に対する受託者責任の侵害にあたることはほぼ間違いない。

長い間、Apple(アップル)のような巨大テクノロジー企業は、対抗する資金力や法的な武器を持たない小規模な競合他社を自由に餌食にすることができると考えていた。だが、もはやそうではない。

小規模企業は訴訟にコストをかける価値があると判断し、大きな勝利を収めている。この1年間に行われた3つ訴訟だけでも、陪審は小規模企業に10億ドル(約1133億円)以上の賠償金を認めている。8月にAppleは4G技術を侵害したとしてPanOptis(パンオプティス)に3億ドル(約340億円)を支払うよう命じられた。また2020年には、VPNの特許を保有するVirnetX(バーネットX)に10億ドルの損害賠償を支払うよう裁判所から命じられている。

Appleだけではない。2020年10月、連邦裁判所はCisco(シスコ)に対し、サイバーセキュリティとソフトウェアを手がけるCentripetal Networks(セントリペタル・ネットワークス)に20億ドル(約2266億円)近くを支払うよう命じた。この裁判の判事は、Ciscoの行為を「典型的な侵害を超えた意図的な不正行為の悪質な事例」と呼んだ。

知的財産権の盗用は、ビッグテックの収益に大きな影響を与える可能性がある。これらの企業は数千億ドル(数十兆円)、場合によっては数兆ドル(数百兆円)の時価総額を誇っているが、裁判所が命令した巨額の支払いを積み上げるのは好ましいことではない。

例えば、Ciscoのペイアウトは年間売上の4%を占めている。Appleは最近、さらに10億ドルの損害賠償を支払うことなく、日本企業と和解した。また、英国の裁判所で特許侵害に対する70億ドル(約7921億円)の支払いを受け入れる代わりに、(強要されれば)英国市場から撤退する可能性があると警告した。

しかし大企業が知的財産権の盗用による罰金を免れることができたとしても、その結果としての評判へのダメージは相当なものになる。

米議会の委員会は、反トラスト法違反やプライバシー侵害に関する公聴会のために、幹部を定期的に議場に引き入れている。消費者はますますFacebook(フェイスブック)、Google、Apple、Amazon(アマゾン)を嫌悪するようになっている、あるいはもっと深刻だ。もし政治家や顧客が、これらの企業の利益が継続的な特許侵害にかかっていることを知れば、企業の評判は打撃を受けるであろう。

結局のところ、ビッグテックの経営陣は株主に対して法的な受託者責任を負っている。特許裁判にともなうリスクに目をつぶっている経営陣、つまり自分たちの会社を莫大な法的リスクや評判リスクにさらしている経営陣は、最終的には彼らの道徳的に疑問のある決定が株価に反映されていることに気づくだろう。

一方、株主、一般社員、その他の利害関係者は、経営陣の責任を問うべきである。最大の機関投資家の利益のためにも、Appleなどに圧力をかけて係争中の訴訟を解決させ、小規模ベンダーとライセンス契約を締結させることが必要だ。

ビッグテックが知的財産法の範囲内で活動を開始すれば、セクター全体を持続的な成功に導くであろう。

ペルーの経済学者Hernando de Soto(エルナンド・デ・ソト)氏が著書「The Mystery of Capital」で指摘しているように、社会の経済的繁栄は知的財産権を含む財産権の保護と保全に大きく依存している。

財産権の保護が強い社会は、人々が自分のアイデアに投資することを奨励する。逆に、財産権の保護が弱い社会はそのような投資を抑制し、イノベーションも抑制される。

米国のテクノロジーセクターも例外ではない。消費者と株主は、規模の大小を問わず、企業の繁栄を望むべきだ。より小規模な企業では、入力ソフトウェア、アプリケーション、ハードウェアを開発しており、最終的には消費者向け製品になることが多い。

しかし、大企業が小さな企業を虐げ、お金を払わずに最高のアイデアを略奪すると、小さな企業はイノベーションへのインセンティブを失ってしまう。

ビッグテックは特許の盗用をやめる時を迎えている。

編集部注:本稿の執筆者Andrew Langer(アンドリュー・ランガー)氏はInstitute for Libertyのプレジデント。

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(文:Andrew Langer、翻訳:Dragonfly)

環境保護主義のダークサイド、書評「The Ministry for the Future」

Kim Stanley Robinson(キム・スタンリー・ロビンソン)による小説「The Ministry for the Future」は、環境テロリストを称える話ではない。実際、全体にわたってこのテーマを上手く回避しているのだが「未来省」とそれを率いるリーダーシップの今後数十年にわたる活動を描いた本書の中心には、地球を平和で持続可能な未来へと移行させるための要となるダークサイドが描かれている。

飛行機への妨害工作や貨物船の沈没といった出来事が、ニュースの解説として、時には登場人物同士の会話の中で何気なく語られるという、プロットドリヴンの小説としては奇妙な設定である。余談話や噂話で登場する「Children of Kali」と呼ばれるグループは、富裕層の資本家階級に炭素排出量ゼロ世界に向けて屈服させるために、よりダークで暴力的な手法を用いている。

Kim Stanley Robinson / The Ministry for the Future。Hachette 2020年 576ページ(画像クレジット:Hachette Book Group, Inc.)

気候危機が深刻化するにつれ、環境テロリズムというトピックは近年作家からの注目を集め続けている。2019年のピューリッツァー賞フィクション部門を受賞した「The Overstory(オーバーストーリー)」の著者Richard Powers(リチャード・パワーズ)は、5人の異なるキャラクターが最終的に集結し、地球を救うために暴力行為を行い、その影響と向き合っていく様子を描いている。

9.11同時多発テロの後はタブーとなっていた暗いテーマである。とは言っても別に目新しいものではない。1997年に発売されて以来、Square(スクウェア)の主要製品であり続けているファイナルファンタジーVIIは、環境テロリスト集団が魔晄を搾取する神羅カンパニーの陰謀から地球を救おうとする物語である。

しかし、ロビンソンは暴力的な革命がもたらす倫理的問題や、理論的には地球と人間を愛しているにもかかわらず、それらの存在を殺すことが救いになると信じている人々の複雑な感情を描くことはしていない。その代わりに、炭素ゼロの未来に到達するための課題を探求し、途中暴力はそれとなく登場するものの、最終的には人類がそこに到達できることを発見するという広大で思慮に富んだ作品を書きあげている。

スペキュレイティブ・フィクションの作品として「The Ministry for the Future」にはまるで百科事典レベルの思索がふんだんに盛り込まれている。経済学で使われる基準貸付利率から、ブロックチェーン、氷河の動き、中央銀行にまつわる政治、官僚主義の科学、スイスの統治制度、地球のアルベドなど、あらゆることについての議論が展開されている。これはむしろ何十年にもわたる目まぐるしい構想に包まれた非常に包括的な政策メモであり、現実の政策メモよりもはるかに優れたナラティブと言っても言い過ぎではない。

しかしこの小説を読んでいると「仕事とはほとんどが退屈であり、その狭間に純然たる恐怖を経験するものである」という外交関係をはじめとする職業に関する古い格言を思い出す。忘れがたい未来の光景を、深い感情移入と熱意をもって描き出している同作品。冒頭のインドを襲った熱波のシーンは辛辣で痛ましく、いつまでも記憶に残り続ける。ロビンソンは自然のシーンの描写をすると真の腕前を発揮し、南極、スイスアルプス、飛行船からの眺めなどの描写は特に味わい深い。

しかしそれはこの本の4分の1程度に過ぎない。ロビンソンはパリ協定の実施を任務とするある機関の活動を、一般読者にとって魅力的なストーリーに押し上げて推進力のある物語にするという無謀な挑戦をしているのだ。この作品には起伏があり、また未来の超国家的な政府機関とその官僚主義的な動きを描いたMalka Older(マルカ・オールダー)のCentenal Cycleを彷彿とさせるシーンもちらほらと見られる。

オールダーのシリーズにはわかりやすい悪役がいたが、ロビンソンは悪役という存在を用いらないストーリーで挑んでいる。悪役は私たち全員であり、資本主義とシステムであり、惰性と無気力である。政治的官僚の惰性との戦いのカ所に興味を持てるかどうかは、読者が大学院で公共政策を学んだか否かに大きく左右されるだろう。私は学んだ立場だが、それでも全体を掴むのは非常に難しかった。

しかし、気候変動のメカニズムや経済に関する600ページ近い談話があっても、この本に書かれていないことがロビンソンの作品の最も興味深い要素なのである。時には1ページという短い時間で国全体の政治が変わってしまう。ダボス会議に参加し、おそらくChildren of Kaliたちに強制的に監禁されて地球の死と前向きな道筋に関するビデオを見させられた資本家たちが、突然心変わりする。もちろん同作品はスペキュレイティブ・フィクションなのだが「もしもこれが起こったら」という要素が極端に強いのである。もしも中国が突然、開放的で民主化された公平な国になったら?もしもインドが現代のヒンズー教を否定して再生可能な有機農法の社会に戻っていたら?もしも資本家らがすべてを手放したら?

この本には、基本的には人間の行動や特に復讐心についてのストーリーが描かれていない。確かに環境テロリスト集団はドローンを使って公海に散らばる貨物船を沈め、炭素を排出する飛行機を空から撃ち落とすことに成功し、世界中の銀行をハッキングして石油マネーを破壊している。しかし被害を受けた人たちは誰かそれに反応しただろうか?皮肉なことに、Children of Kaliはインドでの熱波の後に結成されたのだから、復讐という言葉は確かに著者の頭の中にあるはずだ。

ロビンソンは良からぬ可能性を明確にし、読者に別の道を示そうと考えているのだろう。しかし当然、その可能性の実現というのはいつだって文字通り実行可能なのである。実行しようと考える人間に打ち勝つことは通常非常に難しいため、問題は実際にその道をどのように打ち破るのかということである。このように、この小説はスペキュレイティブ・フィクションというよりもファンタジーであり、特にジュネーブに集まる政治家がいつか何かを変えてくれるのではと願う世界情勢に敏感な観察者にとっては、一種の現実逃避なのである。

人間の行動に関する洞察がない分、ストーリーはあっという間に迷走する。2020年に出版された「The Ministry for the Future」はこれからの数十年をテーマにしており、中国がこれからの気候変動の議論を変えていくための要になるということが1つのポイントになっている。その過程で、香港が自由と民主主義の砦のような存在になっていく。

小説の終盤ではどのようにして自由を勝ち取ったのかという分析がなされている。「私たち香港人は法の支配のために戦ってきた。1997年から2047年までの間、私たちはずっと戦ってきたのである」。どう戦ってきたのか。「何年もかけて何が有効かを見極め、方法を磨き上げてきた。暴力が成功に導いたことはなく、数字こそが有効だったのだ。私たちが長年そうしてきたのと同様に、帝国主義に対抗するための秘訣を探している方のためにお教えしたい。全人口、あるいはできるだけ多くの人口による非暴力の抵抗。これが有効なのである」。

この本が出版されるのと同時に(編集や出版には通常時間がかかる)、香港の抵抗運動は完全に崩壊した。過去数年間に行われたさまざまな運動抗議には何十万人もの人々が参加したが、信じられないほど短期間で本土政府に完全に取り込まれてしまった。新聞は閉鎖されウェブサイトはブロックされ博物館大学文化施設は奪われてしまった。数字では解決されなかったのだ。非暴力による抵抗は香港中の主催者らによって次々と実行されたが、それでも彼らは完全に敗退したのである。

この本の中核ともいえる不可思議な世界に話を戻そう。私たちは期待すべきポジティブな変化を求めているにも関わらず、この未来の歴史は世界を導くために暴力を厭わない過激なグループに依存しているのである。ロビンソンはユートピアを求めており、またごく自然なユートピアは私たちの手の届くところにあると感じているものの、本文ではそこへの道のりを見つけられていない。「政権は銃口から生まれる」とは有名な言葉だが、これは香港が最近学び直した概念であり、環境問題の議論ではますます一般的になっている。未来省は過去の世界の省庁が使ってきた方策を再利用しているだけであり、それは誰も望んでいない荒廃なのである。

画像クレジット:Michael Endler / EyeEm / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

【コラム】米国によるテックの「中国排除」は利益より害の方が大きい

地政学的な意味よりも、成長のほうをはるかに重視するテクノロジー分野では、米中間の「分離」を推進することは、回避できない脅威をもたらす。分離という概念があいまいであるため、その危険性は増すばかりだ。

米国の中国不信、とりわけテクノロジー分野における不信は今に始まったことではない。10年ほど前のオバマ政権時代に、議会は、Huawei(ファーウェイ)とZTEを米国の通信市場から締め出す処置を取った。

しかし、ジョージ・W・ブッシュとバラク・オバマ政権時代には、中国との対話が広く推進され、2大経済大国で妥協点が見いだされた。中国がグローバル経済のリーダーとして台頭し、米国の重要な貿易相手として地位が高まると(1989年には米国輸入総額における対中国貿易量は2.5%だったが、2017年には21.6%とピークに達した)、中国を米国主導のグローバル貿易システムに組み込もうとする動きが出てきた。2005年には、国務副長官Robert Zoellick(ロバート・ゼーリック)氏が、グローバルな貿易システムへの中国の参入を受け入れることによって、このシステムは機能し続けるという仮定の下で「責任あるステークホルダー」としての中国という考えを提唱した。

その少し前、米国は中国の世界貿易機関(World Trade Organization)への2001年加盟に同意した。この時期は転換点として見られることが多いようだが、実際には単なる通過点に過ぎなかった。その年、米国の総輸入額に占める中国の割当はすでに9.0%に達していた。さらに、中国製品の輸入額の増大は、アジア貿易のリバランスに大きな影響を与えた。1989年から2017年の間に、米国総輸入額に占めるアジア諸国(中国も含む)の割当は42.3%から45.2%に増大したに過ぎなかったのだから。中国の相対的な成長は日本やマレーシアなどの国々のシェアを奪う結果となり、アジアにおける勢力バランスが書き換えられた。この変化は、標準的な貿易会計処理によって誇張もされた。中国で完成し、中国の付加価値を10%しか含まない製品でも、貿易統計では100%中国製とみなされるからだ。

製造国がどこであれ、重要なのは十分に成熟したアジアのサプライチェーンに中国が主要プレイヤーとして組み込まれたということだ。しかし、関係は深まっていたが経済システムがまったく異なるため、米中間の隔たりは蓄積していった。トランプ政権下では、新たな貿易障壁のほうが優先され,、対話は後回しにされた。米国が中国からの輸入品に数千億ドル(数十兆円)の関税を課すると、中国側も米国製品の関税を引き上げて対抗した。トランプ政権の関税政策は当初、最終的な政治目標を達成するための一時的な手段とみなされていたが、トランプ政権内部には、2国間の貿易量が減少することに価値を見いだしていた有力な政策立案者もいた。

トランプ政権で国家安全保障顧問代理を務めたMatthew Pottinger(マシュー・ポティンガー)氏は後に次のように書いている。「主要な米国機関、とりわけ財務およびテクノロジー関連の各機関は、数十年に渡る『深い関係性』(つまり、何よりもまず経済協力と貿易を優先する対中政策)によって自己破壊的な習慣に陥ってしまったのです」。そして、そこから抜け出すには「ハイテク分野で主導権を握るという中国の野心をくじくために」大胆な策を取るべきだとしている。バイデン政権は最近、長期に渡る検証の結果、トランプ政権の関税政策を維持すると発表し、議会はテクノロジー面での脱依存を支援するイニシアチブへの資金供給を後押ししている。中国への依存、とりわけテクノロジー面での依存を減らそうとするこうした動きは、広い意味で中国との「分離」になると考えられる。

米中間の分離を求める新たな声が強まっている現状を見ると、分離という言葉は明確に定義されていると思うかもしれない。だが、少し考えてみれば、この言葉は明確さに欠けることが分かる。もちろん、上記の関税障壁によって米中間の貿易量は減少する方向へと向かうだろうが、そもそもこの政策の着地点はどこなのだろう。

分離とは、米国が海外からの、および海外への直接投資を控えるということなのか。米国債の購入などポートフォリオ投資も禁止するのか。米国は中国企業によって製造された最終製品の輸入を回避するべきという意味なのか。中国で生産活動をしている欧州の企業についてはどうするのか。中国国外で製造しているものの、中国製の部品を使用している欧州や米国の企業はどうするのか。あるいは、中国市場で販売しているため、おそらく、中国の影響を受けていると思われる企業についてはどうするのか。

米中2大経済大国間の広範に渡る経済関係を考えてみれば、この2大国を完全に切り離すことなど不可能だということがわかる。中国を排除しようとしても、おそらく、勢力関係のリバランスが起こるだけで、中国がサプライチェーンから消えることなどありえない。これは、EU各国などグローバルな経済大国が、中国との分離など、たとえ漠然であっても考えてないことからも、間違いのないところだ。

このように米中の分離というものの性質が漠然としていることは、テクノロジー分野にとってとりわけ大きな脅威となっている。数十年に渡って、規模の経済性を活かし、製造コストを下げることを追い求めた結果、テクノロジー分野では製品のグローバルな製造が高度に統合されていった。特に、半導体など、最近登場した競争の熾烈な分野では、大規模な投資を事前に行う必要がある。そのため、急激なルール変更の影響を特に受けやすい。政策立案者たちは、サプライチェーンの中断という困難な時期に(分離という)疑わしい概念に実体を与えようと躍起になっている状況だ。議会が提案しているいくつかの法案のように、そうした分野に膨大な補助金を支給するという政策は魅力的に思えるが、日本などの国が同じように自国の企業に補助金を支給して対抗してくると、その効果は失われる。

米国が上記の質問に対して過激な答えを返し、中国との分離について絶対主義的な立場を取れば、米国は自国の技術力を損ない、グローバルな部品調達競争への参戦を自ら拒否し、他国に力を与えることになるだろう。現時点で政治的に実行可能な唯一の代替策として考えられるのは、米国が穏健な立場をとり、中立的な立場を模索するというものだ。そうなると、ルールは常に進化し予測不能となる可能性が高い。

いずれにしても、米中分離の支持者たちはこうした動きは非生産的であると気づくことになるだろう。その結果、戦略的政策に関する懸念を解決するどころか、米国のテクノロジー分野でのリーダーシップの翳りが真っ先にもたらされることになるだろう。

編集部注:本稿の執筆者Phil Levy(フィル・レビー)博士は、Flexportのチーフエコノミスト。それ以前は、ホワイトハウスや国務省で国際経済政策を担当していた。

画像クレジット:xPACIFICA / Getty Images

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(文:Phil Levy、翻訳:Dragonfly)

アップルが中小企業向けデバイス管理ソリューション「Apple Business Essentials」ベータ版を発表

多くの中小企業にとって、従業員のApple(アップル)製デバイスを管理し、常にアップデートされた状態を維持することは大きな課題となっている。そうした企業には高度なIT部門が存在しないことも多いため、デバイスが故障したり、ユーザーが質問したいことがあっても、Appleのコンシューマー向けサポートツールを使って自分たちで解決しなければならないことが多い。

この問題を認識したAppleは、2020年にFleetsmithを買収し、米国時間11月10日、従業員数500人以下の企業を対象としたデバイス管理ソリューション「Apple Business Essentials」のベータ版を発表した。

Appleのエンタープライズおよびエデュケーションマーケティング担当VPであるSusan Prescott(スーザン・プレスコット)氏によると、Appleはこれらの顧客企業がスタッフのApple製デバイスを導入、サポート、アップデートし、従業員が退職する際にはオフボーディングすることを支援したいと考えている。

「この製品は、デバイスのライフサイクル全体にわたってApple製デバイスを管理するために設計されており、3つのコア部分で構成されています。デバイス管理、ストレージ、そしてサポートを1つのサブスクリプションで提供します」とプレスコット氏は説明する。

管理コンポーネントは、Fleetsmithの買収とApple Device Enrollment Program(DEP)の組み合わせで構成されている。中小企業でも大企業と同様のツールを利用することができ、デバイス管理を強化し、従業員がログインしたらすぐに使えるようにすることが可能になる。

企業がサービスにサインアップすると、管理者はユーザーとグループを作成することができる。ユーザーはグループに所属し、管理者はグループごとに、サポートするデバイスの数やストレージ容量などの設定を行うことができる。また、各企業やグループには、そのグループに適したアプリの基本セットを含めることができる。

画像クレジット:Apple

注目すべきは、従業員が自分のデバイスを持ち込むことができ、サポートされているデバイスにサインインすると、会社がそれらの従業員の仕事用プロファイルを設定してくれることだ。そうすれば、仕事の成果物だけがバックアップされ、万が一、社員が会社を辞めた場合には、仕事の成果物だけが削除され、個人的なものはそのまま残され、雇用主がアクセスできないようになる。

また、個人所有、職場所有にかかわらず、このソリューションは、最新のシステムアップデートを維持することで、セキュリティを維持することができる。さらに、管理者は、MacのFileVaultによるフルディスク暗号化や、Apple製デバイスの紛失・盗難時にデバイスをロックするアクティベーションロックなどのセキュリティ設定を実施することができる。

ストレージにはiCloudを採用しているが、企業はDropbox(ドロップボックス)のようなサードパーティのストレージプロバイダーに自由に接続することができる。サポート要素には、Apple Business Essentialsを実行するIT部門と、Appleに関する質問がある従業員の両方に対するヘルプデスクサービスが含まれる。この部分は、ビジネスレベルサポート部門となる「AppleCare+ for Business Essentials」を通じて提供される。AppleCare+ for Business Essentialsではプランによって、問題報告から4時間以内のプライオリティーオンサイトサービスも含まれる。出張サービスは、Appleのパートナーが運営する。なお、AppleCare+ for Business Essentialsは無料ベータ版には含まれておらず、2022年春に提供開始予定とのこと。

Lopez Researchの創業者で主席アナリストのMaribel Lopez(マリベル・ロペス)氏は、このサービスは中小企業にとって、基本的にビジネス要件を満たすように設計されていないアップルのコンシューマーサポートチャネルを利用する必要がなくなることから、魅力的なものになるだろうと述べている。

「中小企業は、管理とサポートから事実上取り残されていました。重いMDM(モバイルデバイスマネジメント)は自分たちには向いていないと考え企業も多かったでしょうし、ジーニアスバーには、あらゆるビジネス、特に中小企業が必要とするリアルタイムのサポートが欠けていました。Fleetsmithは、よりユーザーフレンドリーで、モバイルに適したデバイス管理の方法だと考えられていました。また、ユーザー中心主義とデバイス中心主義の対立もその一因です」と同氏はいう。

IDCのデバイス&コンシューマーリサーチグループのアナリストであるTom Mainelli(トム・マイネリ)氏は「この新しいプログラムによって、中小企業はこれまで大企業にしか提供されていなかった一連のサービスを利用できるようになり、価格が妥当である限り、Appleにお金を払ってでもこれらのサービスを提供したいと考えるようになるでしょう」と語る。

「Appleが中小企業に焦点を当てていることは、非常に理にかなっています。企業の顧客は、すでにApple製品を管理するためのシステムを持っているかと思いますが、中小企業では必ずしも専任のIT担当者がいるとは限りません。つまり、雇用者が提供するデバイスと従業員が購入するデバイスが混在している場合は特に、すべてを管理するのは非常に困難です」。

「Appleは、さまざまなレベルのサービスを提供していることや、中小企業がそれらを必要とする理由について、ある程度の教育を行う必要があるでしょう。しかし、多くの経営者は、Appleにお金を払ってこれらの課題を解決してもらうことを喜んで受け入れるのではないでしょうか」と同氏。

ベータ版は無料で利用できるが、デバイス管理とストレージのコンポーネントについては、選択された構成に応じて、ユーザーごとに月単位で課金される。また、サポートに関しては、ユーザーごとに追加料金が発生するが、その部分は2022年春に予定されている同サービスの一般提供開始まで利用できないとのこと。

画像クレジット:Brian Heater

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(文:Ron Miller、翻訳:Aya Nakazato)

アップルの取締役会にジョンソン・エンド・ジョンソンのCEOが参加

Apple(アップル)は、Johnson & Johnson(ジョンソン・エンド・ジョンソン)の会長兼CEOであるAlex Gorsky(アレックス・ゴルスキー)氏が同社の取締役会に加わったことを発表した。ゴルスキー氏は、2022年1月に予定されているJohnson & JohnsonのCEOとしての退任に先立ち、Appleの取締役に就任した。また、Appleがヘルステックにより注力している時期とも一致する。

Appleは、何年もの間iOSやWatchOSに健康に特化した機能を数多く投入するなど、健康とウェルネス分野への野望を公にしてきた。ゴルスキー氏をガバナンスチームの一員として起用したことは驚くべきことではない。

AppleのTim Cook(ティム・クック)CEOは、プレスリリースの中でこう述べた。「アレックス(・ゴルスキー)は、長年にわたりヘルスケア分野で先見性を発揮し、その卓越した洞察力、経験、テクノロジーへの情熱を、人々の生活を改善し、より健康的なコミュニティを構築するために注いできました。彼のリーダーシップと専門知識から、私たち全員が恩恵を受けることになるでしょう」。

ゴルスキー氏は、1988年にJohnson & Johnsonに入社し、2012年にCEOに就任した。Appleは、同氏は在任中イノベーションとテクノロジーを重要な優先事項とし、医薬品、医療機器、コンシューマーヘルス分野の未来を形作るための投資を行ってきたと述べている。

ゴルスキー氏はプレスリリースで、次のように述べている。「テクノロジーには人々の生活を向上させ、より健康的なコミュニティを生み出す可能性があるというAppleの信念を、ずっと共有してきました。Appleの取締役会に加わり、私たちの生活を助け、向上させるために絶えず革新を続けている価値主導の企業の一員となることを光栄に思います」。

画像クレジット:Steven Ferdman / Getty Images

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(文:Aisha Malik、翻訳:Aya Nakazato)

イーロン・マスク氏が株売却の是非をツイッター投票で問う、背景には迫り来る多額の税金支払い

Tesla(テスラ)のElon Musk(イーロン・マスク)CEOが、6280万人のソーシャルメディアのフォロワーに対して、自身が保有する自社株の10%を売却することを支持するかどうかを尋ねたところ、米国時間11月8日月曜日の朝、テスラの株価は4.5%下落した。もっとも、いずれにせよマスク氏がまとまった量のテスラ株を売却する可能性は高い。

マスク氏の問いかけには、全投票数の約58%に相当する約350万人が賛成票を投じた。同氏はその後のツイートで「この投票結果がどちらに転んでもそれに従う」と述べている。彼の言葉を信じるならば、それは将来的に大量の株式売却が行われることを意味する。

最近、含み益が租税回避の手段になると言われていますが、私はテスラ株の10%を売却しようかと思っています。

これを支持しますか?

だが、このツイートは単なる芝居にしか見えない。マスク氏はすでに他の公式声明でテスラ株の大量売却を示唆していたからだ。9月にテクノロジー系ジャーナリストのKara Swisher(カーラ・スウィッシャー)と対談した際、マスク氏は自身が保有するテスラのストックオプションの大部分が、来年8月に期限切れとなることを認めている。「来年初めに失効するストックオプションをたくさん持っているので、第4四半期には大量のオプションを売却することになるだろう」と、マスク氏は語っていた。

2012年に役員報酬の一環として付与されたストックオプションにかかる税金も控えている(マスク氏は、テスラから給与を受け取っていないと頻繁に発言している)。2012年に1株あたり6.24ドル(約700円)で付与された株の譲渡益には所得税が掛かるわけだが、テスラの株価は現在1200ドル(約13万5000円)を超えている。オプションを行使した場合、150億ドル(約1兆7000億円)以上の税金が課せられることになる。

今回のツイート投票が、一時的に株価を押し下げる以上の影響をもたらすかどうかは不明だが、マスク氏のソーシャルメディア上における悪ふざけは、かつて株主との間で困った事態を引き起こしたことがある。2021年3月、マスク氏はテスラの投資家から、彼の「気まぐれなツイート」が、米国証券取引委員会との和解案に違反しているとして訴訟を起こされた。この和解案では、テスラの取締役会がマスク氏のソーシャルメディア活動を監視しなければならないことになっていた。

この時の訴状で引用されたツイートの中には、2020年5月にマスク氏が投稿した「Tesla stock is too high IMO.(私の意見を言わせてもらうと、テスラの株価は高すぎると思う)」というものもあった。

画像クレジット:HANNIBAL HANSCHKE/POOL/AFP / Getty Images

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

米商務省への半導体データ提供、韓国サムスン・SKが11月8日の期限までに提出

韓国のSamsung Electronics(サムスン電子)SK Hynix(SKハイニックス)が、一部の半導体データを米国政府に開示すると、韓国企画財政部(財務省に相当)が発表した。

企画財政部が米国時間7日に発表した声明によると、韓国に拠点を置くチップメーカー各社は、内部データを米国に引き渡す「任意提出」を準備しているという。

しかしロイターの報道によると、SamsungとSK Hynixは、ワシントンにデータを提出するにあたり、企業秘密を守るために機密情報は提供しないとのこと。地元メディアも、世界の2大メモリーチップメーカーである両社は米当局に「部分的に従う」と報じている

米商務省は9月23日、世界の半導体メーカーおよび自動車メーカーに対し、チップの在庫、販売、注文、顧客情報などのサプライチェーンに関するアンケート調査を「任意で」実施した。提出期限は11月8日だ。

Gina Raimondo(ジーナ・ライモンド)商務長官は、9月にロイターとのインタビューでこう述べていた。「我々は、彼らがデータを提供することを要求する他のツールを持っています。そのようなことにならないことを願っています」。しかし、企業が自主的な要請に応じなかった場合、「必要であれば、要求します」とも。

ライモンド氏は、自主的な情報提供の目的は、世界的な半導体不足の中で、グローバルサプライチェーンのボトルネックを特定し、課題を予測するための透明性を高めることにあると述べている。

世界的なチップ不足は、自動車、コンピューター、携帯電話、家電などの複数の分野に被害を及ぼしている。4月には、チップ不足の解決策を議論するために、グローバルなハイテク企業や自動車メーカーの幹部がホワイトハウスで会議を行った。

匿名の業界情報筋によると、半導体メーカーにとっては、この要求に従う以外の選択肢はないようだ。

経済財務省の声明によれば、韓国のチップメーカー各社は、データ提出問題について韓国政府と協議したという。

韓国企画財政部は、同国政府は米国との半導体サプライチェーンのパートナーシップを強化し、11月8日の期限後も米国側との緊密なコミュニケーションを継続するとしている。

10月には、世界最大の半導体製造ファウンドリであるTaiwan Semiconductor Manufacturing(台湾積体電路製造、TSMC)が、顧客の詳細情報を含まない回答をすでに米国に提出したと発表した。

SamsungとSK Hynixにコメントを求めたが、回答は得られなかった。

画像クレジット:Torsak Thammachote / Shutterstock

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(文:Kate Park、翻訳:Aya Nakazato)

ナイキのアスリート革新方法「ナイキスポーツリサーチラボ」とは

アマチュアスポーツ向け映像分析ツールのSPLYZAが約2.5億円調達、SPLYZA Teamsの機能追加や新製品開発・マーケ強化

8年前、Nike(ナイキ)はナイキスポーツリサーチラボ(NSRL)を拡張することを決意した。その当時、NSRLは本社の向かいにあるミアハムビルディングに入っていた。

現在NSRLは当時の5倍の規模となり、新設のレブロン・ジェームズ・イノベーションセンターの最上階で研究を行っている。このセンターは非常に広く、そのためアスリート、研究者、イノベーターたちが私たちの日々着用する製品の開発を共同で行うことを可能にしている。

研究者は、サッカーのスター選手であるMegan Rapinoe(ミーガン・ラピノー)氏や、世界最速のマラソンランナーであるEliud Kipchoge(エリウド・キプチョゲ)氏について、両足のミリ単位の違いから足が地面につくたびにどれくらいの力が地面に伝えられているかまで、あらゆることを研究しガイドラインを作成する。そしてクリエーターがそれを元にパフォーマンスを強化することの可能なアパレルや靴をデザインする。アスリートはナイキの科学者のサポートを受けながらトレーニングし、自分自身や自分の身体についてより深く知ることで、パファーマンスの向上に役立てている。

しかし、NSRLはただ単に世界のエリートアスリートのためだけに研究を行っているのではない。NSRLは、街の公園のコンクリートコートでバスケットボールをしている人や、一般のランナー、ナイキの「最もタフなアスリート」フィルムで強調されているような、妊婦や新しく親になった人向けの研究も行っているのだ。

ナイキのエクスプロア・チームスポーツ・リサーチラボ副所長のMatt Nurse(マット・ナース)氏は、ナイキが他社に先駆けてより深い理解をより速く追求しようとすることはたびたびあるという。

「ビックデータといった科学や、機械学習およびAIを使用した観察を通し、よいパフォーマンスを引き出すためのさまざまな新案を見出そうとしています」。

ナース氏によると、ラボを訪れる人の80%から85%はさまざまな体の特徴を持つ、多様なバックグラウンドの一般アスリートだという。ナイキは、この新しい環境で何千人もの人をラボに迎え入れる計画で、これを通し新しい知見を得、開発の速度を高めようとしている。

ナイキは最近、メディアの人々を招待し、ナイキ製品の開発のためにアスリート、研究者、イノベータが一丸となって取り組んでいる様子を取材者自身に体験してもらう取り組みを行った。

レブロン・ジェームズ・イノベーションセンターの入り口(画像クレジット:Rae Witte )

75万平方フィートのレブロン・ジェームス・イノベーションセンターの入り口は、データとデザインを活用してイノベーションを生み出そうという、ナイキが約10年に渡って行ってきた取り組みの方向性を伝えるものとなっている。

レブロン・ジェームズはプロとして通算3万ポイントを達成したわけだが、彼が打ったすべてのシュートがどの位置からのものだったのかを示すマークが、ゴール前のつややかなコンクリートフロアの上に記されている。シュートが決まった場合には金色の点、はずれた場合にはただの円になっている。特別なシュートにはやや大きめの文字入りのマーカーがついているが、そこには彼の最初のシュートと、2万ポイント目のシュートも含まれている。

メインフロアの上は、アパレル、シューズのプロトタイプが置かれていて、デザイナーやクリエイターがロボットや3Dプリンターを使って仕事をするスペースになっており、ニット、ファブリック、刺繍セクションもある。また、ナイキの共同創設者であるPhil Knight(フィル・ナイト)氏が陸上競技会場へ出向くのに使用したトラベルトレーラーであるウィネベーゴの複製すらある。ナイト氏は、アスリートからフィードバックを得ようと競技会場でナイキの最も初期の靴を配ったのだ。

8万4000平方フィートのNSRLは建物の最上階を占め、そこで研究者とアスリートがともにナイキの靴や服を開発する。NSRLには、フルサイズのNBA企画のバスケットボールコート、200メートルの陸上トラック、人工気候室、人工芝のフィールドが設けられている。これらのエリアには、フォースプレート92個、モーションキャプチャカメラ400台、プロトタイピングマシン80台が置かれている。

ナース氏が豪華な体重計と表現するフォースプレートが、トラックや人工芝やバスケットボールコートの下に配置されている。通常の体重計は乗ると1つの数値を示すだけだが、フォースプレートは、垂直の動きだけでなく、横や前後の3次元の力のかかり方を1秒間に数万回測定可能という。

例えば、ランナーがトラック上にいる場合、足が地面に着地しそして蹴り出す力を測定することができる。

NSRLには余剰スペースがあり、そのため流動的で制限の少ないゲームプレイと動きの測定が可能である。

「ここでの目標の1つは、アスリートがフルスピード、フルモーションで持続的にプレイできるようにすることです。規模の小さな施設だと決められた動きしかできず、それ以上の研究ができないことがあります。私たちの施設では、アスリートに自由に動いてプレイしてもらうことができます」とナース氏はいう。

ラボでのテスト

ここにあるすべてのツールをどのように使用して制御された実験を行い、観察のためのビックデータを収集するかを研究者に知らせるためには「量、行動、反応」の三角形の3つの柱を理解する必要があるとナース氏はいう。「私たちが量、行動、反応を把握することができれば、プロトタイプから情報を得ることができます。これが問題解決のいとぐちになると思います」。

ラボの見学ツアーで、私たちはナイキがアスリートのためにデザインしたのと同じ、バスケットボールコート、陸上トラック、人工芝、そしてトレッドミルなどでのテストを体験した。

まず全身スキャンを行って、どのナイキアパレルが最適かを決定し、形態学的な身体サイズの追跡と骨格筋および筋肉の非対称性の調査、足と足首の3次元スキャン、裸足歩行圧テスト、といったベースラインデータの収集を行ったあと、応用パフォーマンスイノベーショントレッドミルの上を走った。私は快適に感じるジョギングスピードを選び2、3分走るように指示をされたのだが、その間、研究者は分析のためにそれを記録した。

研究者は、アスリートの走り方が跳ねすぎてはいないか、つま先で走っているか、前傾姿勢になりすぎていないかなど、フォームについての観察結果を知らせてくれる。

また、研究者は機能的なアドバイスもしてくれる。例えば、前傾姿勢になりすぎているランナーはより効率よく走るために、臀筋またはハムストリングスを強化する必要がある、といった具合である。

研究者は、生体力学的な知識と、製品やアスリートを理解するためのアルゴリズム開発を通じて、このテストをベースラインデータと組み合わせ、より速く走ることができるか、より長時間走ることができるか、そして体へのストレスのかかり具合が少ないかどうかなど、最も効率のよいパフォーマンスをするための靴についてアドバイスをしてくれる。

トラック

トラックは、人工芝のフィールドとバスケットボールコートを囲む形で配置されている。トラックには長時間のランニングや、スタートといったより個別化したテストに使用することのできるフォースプレートやモーションキャプチャカメラが装備されている。ledラビットまたはペーサーにより実験にさらにもう1つの制御がかけられ、また屋外を走るシュミレーションのために100メートルのコンクリートストリップが設けられている。

トラックでは、二足の靴をテストすることができた。そのうちの1足、Infinity Reactsは足の保護と身体へのストレスの軽減、安定性を重視した靴である。私はこの靴を履き、ナイキランクラブの平均ランナーのマイルペースである11分37秒より速く、そしてマラソンを2時間未満で走るエリウド・キプチョゲ氏よりだいぶ遅いのだが、自分が快適に感じられる速度で(1日中トラックを回転している緑に光るLEDペーサーがペースを知らせてくれる)トラックを周回することができた。

しかし、エリートランナー用の紐靴、ZoomX Invincibleを履いて1周しようとした時、私たちはそのクッションシステム(誇張されたフォームとエアシステムソール内にカーボンプレートを備えた超軽量のシステム)が私の足に合わないことを発見した。

私の足の幅は狭く、足首は以前怪我をしたことがある上フレキシブル(あるいはゆるいまたは弱いと私は考えている)である。ランニングフォームは適切であることがわかったものの、私がランナー向きではないことは認める。クッションシステム構造は一部のランナーには最高に効率がよいのだろうが、私には合わず、走りが非常に不安定になってしまった。

ナイキスポーツリサーチラボのトラックを走るアスリート(画像クレジット:Nike)

これが幅広くアスリートを調査する必要がある理由である。キプチョゲ氏のようなランナーを研究することは信じられないほど貴重なことである。というのも彼は非常に効率のよい体をしていてマラソンを完走するのに5時間も必要としないため、それほど長時間走ったことがないのだ。しかし、世界の平均マラソンランナーの所要時間は4時間20分から4時間40分の間である。

この広範囲に渡るデータ収集により、複数の靴を通じて靴の革新を行うことができ、それによってナイキが、エリートマラソンランナーか一般のジョガーかに関わらず、どのランナーにも合う靴を開発することが可能になっている。

人工芝

人工芝の研究を行うターフラボはNSRLで最大のデータキャプチャ量を誇り、ナイキによると、そのデータ量は世界最大かもしれないとのことだ。人工芝の下にはフォースプレートが装備され、ゲームでの動きやより制御された実験のモニターが行われている。研究者は異なるスピードで異なる方向へ動きながら、他のプレイヤー、人工芝、クリーツ、ボールに関与している最大22人のプレイヤー(実際にサッカーのゲームをした場合にフィールドにいる人数である)のデータを集めることができる。また人工芝はターゲットを投影することのできるスクリーンを備えており、シュートやパスの正確性を記録することができるようになっている。

ナイキはサッカーシューズでは2つの部分に特に力を入れているのが、それらは機能的に非常に異なっている。ソール部分は移動のための推力が必要であり、一方上部はドリブル、パス、キックのための動きが重要になってくる。

ナイキスポーツリサーチラボでのゴールのシュートのシミュレーション(画像クレジット:Nike)

フィールドの周囲には200台のカメラが設置され、サブミリメーターの動きをキャプチャしており、ターフの下には15台のフォースプレートが配置されている。制御された環境でアスリートの動きを計測することで、研究者はパフォーマンスのための、そして保護のための極めて小さな変化を突き止める事ができ、そうした発見の多くは野球、フットボール、ラグビーなどの他のフィールドスポーツに適用される。

サッカーのテスト中、私はゴールを狙う動きのシミュレーションを行った。これにはあたかもディフェンダーをタックルしているかのようなシャトルランや、ディフェンダーの周りを走ること、ゴール内にあるスクリーンに投影されたターゲットにシュートをする、といったことが含まれていた。

このシミュレーションでは、私がカットバックした際の力、定められたルート全体でのタイミングや俊敏性、ターゲットが投影された瞬間の私の意思決定のタイミング、ボールがターゲットに対してどれだけ正確にあたっているかがキャプチャされた。

このテストの結果はアスリートの体格、彼らにどれほどの爆発力があるか、そして彼らがフォースプレートをどれだけ速く押し出すことができるかを物語る。シューズの推力に加え、力が彼らの動きのスピードに変換される。推力が不十分な場合、同じレベルの力では速度は遅くなる。

推力に優れてはいるが、靴の上部の作りのために、足を包み込む性能に乏しい靴の場合、靴の中で足が滑ってしまう。靴が地面と効率よく作用している一方、足そのものは効率よく作用していないからである。

対照的に、上部が足を包み込む性能に優れていても推力に乏しい場合は、靴は足にはフィットするものの、地面の上で滑ってしまう。こうしたデータにより靴に修正を加えることができるようになっている。

バスケットボールコート

近くのバスケットボールコートの下にもフォースプレートが設置されていて、バスケットボールプレイヤーのために、同様のデータをキャプチャしている。

プレイヤーはモーションキャプチャカメラに取り囲まれ、心拍数やコートでの動きの速度を追跡するセンサーを身につけている。センサーで追跡された数値は、壁にある大きなスクリーンにリアルタイムで投影されている。これらに加え、フープの下に4Kカメラを備えたフォースプレートがあり、スニーカーのソールがフロアとどのように相互作用するかを記録することができる。

スニーカーの剛性あるいはソールの厚みに応じ、靴によってスピードがどの程度影響を受けるのかを、データを追跡するモーションセンサーと組み合わせて追跡し、センサーが動き全体を通してアスリートの心拍数を追跡している間、ソールが床とどのように接触しているかをすべて観察および確認することができる仕組みだ。

フープ内に設置されている別のカメラは、フープ内を通過するボールの位置を記録する。これらのシュートから収集されたデータは、フープを通過するより一貫した効率的なシュートを生み出すにはどういった機能調整が必要かを示してくれる。

  1. Basketball-at-the-Nike-Sport-Research-Lab1

    (画像クレジット:Nike)
  2. Basketball-2

    (画像クレジット:Nike)
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    (画像クレジット:Nike)
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    (画像クレジット:Nike)

 

人工気候室

着用者による水分管理のニーズの違いを理解することで、デザイナーは、より機能的な服を作るガイドラインを得ることができる。私たちは暑い気候室と寒い気候室の2つの気候室を見学した。この気候室は、気温を-20度から50度以上に、湿度を10%から90%まで、そして風速を調節できる。また、太陽光線の出方と一致する2種類の電球を使用して、太陽の放射熱をシミュレートすることができるようになっている。

気候室はこうした精度で設定できるため、私たちが訪れた日は、ホットタンクが摂氏34度、湿度70%と、この夏にオリンピックが開催された8月6日の東京とまったく同じ気候に設定されていた。この温度と湿度のために、スタッフやアスリートの中には、熱性疲労で手当を受けなければならない人々もいた。

気候室を活用することで、ナイキは、アパレルデザインまたは機能のゾーニングのどういった違いが衣服の通気性に最大の影響を与えるのかを評価することができる。

人は汗をかくことで体温の調節をすることができるので、高温の気候室はアスリートの発汗反応とそれらが性、年齢、体の大きさでどう異なるのかを研究するのに使用されている。

スタッフは、私たちにヴェイパーマッチメンズサッカージャージを示し、ニットを変化させ最も発汗が多い部分へゾーニングしたことを示した。その様子はここの三枚目の画像で確認することができる。

逆に、ナイキNSRLトランスフォームジャケットは、屋外でのランニングに必要なさまざまな温度管理に対応したものになっている。袖は取り外してジャケットの裏にある収納場所に収めることができる他、ダウンの中綿を取り外すことが可能。このため、外へ出た直後から体が温まるまでの体温の変化に対応できるようになっている。研究により、ランナーの一日の走行距離の平均は5キロで、体温調節が最も必要になるのは、スタートから2.5〜3キロのあたりであることがわかった。そこを超えると体温は一定になり、それは5キロ以上走るランナーにも当てはまる。

最後になるが、なんとここには汗をかくサーマルマネキンがあり、人体にストレスをかけることなくゾーニング機能をテストすることができる。気候を調節できる部屋と決して疲労しないサーマルマネキンがあるため、デザインチームは多くの仕事をこなすことができるのだ。

クールダウン

私たちは、スポーツの世界において「精神的強さ」という言葉をよく耳にする。それらがパフォーマンスに影響を及ぼすとあって、ナイキがアスリートの心理を理解しようとしているのは理に適っている。

NSRLのラボでは、マッサージや鍼の他、身体が休養と維持のために必要とするものを利用できるが、彼らの研究はそういった身体的ニーズをはるかに超えたもので、被験者の精神状態をも研究対象としている。

メンタルヘルスは、メディアにおいてエリートアスリートについてのディスカッションのトピックになっている。Naomi Osaka(大阪なおみ)氏が記者会見を回避したり、 Simone Biles(シモーネ・ヴァイルス)氏が2020年の夏のオリンピックの体操女子総合決勝に欠場する必要性について公にするなどがその例である。

ベースライン測定を行う前に、私は認知評価を受けたのだが、これをもとに、一日の最後に学んだことを振り返った。驚くべきことに(おそらくそのように意図されているのだろうが)、その評価は、スポーツにおけるアスリートにも、人間として日々の行動にも簡単に変換して考えることができるものだった。

チームは、確実性よりも不確実性がずっと大きい場合がある、ということを指摘しつつ、意思決定についてや、アスリートが、失点を防ぐ、またはリスクを回避するという立場から意思決定を行いやすい傾向があるのかどうかを、さまざまな結果をもとに議論した。

これらの知見は、他のテストがフォームや機能の推奨事項を提供するのと同様に、認知の推奨事項にも適用できる。彼らはより良いアパレルや靴を作ろうとしているだけでなく、アスリートの能力のあらゆる側面を促進することに取り組んでいる。

例えば、コントロールの必要に悩んでいるアスリートは、結果そのものよりも、その結果を将来の成功やさらには成功へのプロセスに役立てる事ができる、という事実にもっと目を向ければよい。同様に、スポーツ心理学者は、ある一瞬やシュートの失敗といったことにいつまでもとらわれるのではなく、将来に向けたポジティブな結果を想像したり視覚化することを推奨している。

最終的に、この新しいレブロンジェームズイノベーションセンターは、ナイキのアパレルや靴のイノベーションを促進するとともに、アスリートの心身の健全性やパフォーマンスの向上といったことをサポートしていくだろう。

ここでは、問題解決に向け一面的なアプローチを取るのではなく、すべてに対しチームが一丸となってより大きなチャンスという側面からアプローチしている。このセンターの持つ可能性はすばらしいものがあり、今後ここからどのような製品が生み出されるのかが大変楽しみである。

レブロンジェームズイノベーションセンター(画像クレジット:Nike)

画像クレジット:Nike

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(文:Rae Witte、翻訳:Dragonfly)

アニマルクエストが「ペット領域ベンチャー カオスマップ 2021年11月版」を公開

LINEを使い愛犬・愛猫とのトーク体験を楽しめるwaneco talkがMakuakeで提供開始
  1. アニマルクエストが「ペット領域ベンチャー カオスマップ 2021年11月版」を公開

保護犬保護猫の支援が行えるアプリ「アニマルクエスト」(Android版iOS版)を運営するペット領域スタートアップ「アニマルクエスト」は11月4日、ペットテックをはじめペット領域サービスをまとめた「ペット領域ベンチャー カオスマップ 2021年11月版」を公開した。

市場カテゴリーは、アプリ、EC、里親マッチング、HR、保険、シッターマッチング、メディア・検索、メディカル・獣医師向け、フード、ペット用品、IoT・ロボット、バイオ、その他サービスの13カテゴリーとなっている。同社は、2020年2月に国内初のペット領域スタートアップのカオスマップを公開したが、その後コロナ禍もあり、市場に変化が起きているという。国内のペット飼育頭数は減少傾向にあるものの、ペットが家族化する中で、ペット市場は堅調に推移している。そこで、「国内のペットテックやマッチングサービスの市場構造や独自性を改めて分析」したとのことだ。

同カオスマップ掲載の選定基準は「2000年1月1日以降に設立した株式会社のペット系サービス」「国内で展開するサービス」となっている。また掲載したロゴは、法人・組織のものではなく、サービスのロゴを利用している。アニマルクエストは同マップについて、「市場の全体構造とトレンドの変化を理解するために活用されることを期待します」と話している。

同社運営の「アニマルクエスト」アプリは、ペット用消耗品のギフトや投げ銭で保護犬や保護猫の支援ができるサービス。冬には、買い物をすると他の動物たちを救済することにもなる「社会貢献型ペット用品ECサイト」の公開も予定している。

ソフトバンクが支援するインドの物流企業Delhiveryが約1130億円のIPOを申請

インドの物流スタートアップ企業であるDelhivery(デリバリー)は、新規株式公開で約9億9800万ドル(約1133億円)の資金調達を目指していると、現地の規制当局とのやりとりの中で述べており、世界第2位のインターネット市場で、他の多くのテックスタートアップ企業とともに公開市場を模索している。

10年の歴史を持つこのスタートアップは、6億6900万ドル(約759億円)相当の新株式を発行する予定で、残りの資金は既存の株式を購入するために利用されると、同社は申請書(PDF)で述べている

インドの新聞Economic Timesが今週初めに報じたところによると、4カ月前に30億ドル(約3400億円)以上の評価を受けていたこのスタートアップは、公開市場で60億ドル(約6800億円)以上の評価額での上場を目指しているという。

関連記事:インド物流市場システムのデジタル化を進める最大手DelhiveryがIPOに向け約304億円調達

SoftBank(ソフトバンク)、Tiger Global Management(タイガー・グローバル・マネジメント)、Times Internet(タイムズ・インターネット)、The Carlyle Group(カーライル・グループ)、Steadview Capital(ステッドビュー・キャピタル)、Addition(アディション)に支援されたDelhiveryは、フードデリバリー企業としてスタートしたが、その後、インドの2300以上の都市と1万7500以上の郵便番号を対象とした物流サービス一式にシフトした。

データインテリジェンスプラットフォームであるTracxn(トラックスン)によると、グルガオンに本社を置く同社は、これまでに13億7000万ドル(約1556億円)の資金を調達している。2021年3月に終了した会計年度では、5億1400万ドル(約583億円)の売上に対して5600万ドル(約63億6100万円)の損失を計上した。

2021年度のDelhiveryの業績(DelhiveryがIPO申請時に共有したもの)

同社は、貨物交換プラットフォームを通じて物流市場の需要と供給のシステムをデジタル化しようとしている数少ないスタートアップの1つだ。

このプラットフォームは、道路輸送ソリューションを提供し、荷主、代理人、トラック運送者を結びつけるものだ。仲買人の役割を軽減し、Delhiveryにとって最も人気のある輸送手段であるトラック輸送などの資産をより効率的にし、24時間体制のオペレーションを保証するものだと同社は述べている。

このようなデジタル化は、国民経済を長年にわたって低迷させてきたインドの物流業界の非効率性に対処するために非常に重要だ。Bernstein(バーンスタイン)のアナリストは、インドの物流市場に関する先月のレポートで、需要と供給の計画と予測が不十分なため、輸送コスト、盗難、損害、遅延が増加すると報告している。

Delhiveryは、これまでに10億件以上の注文を配送しており、同社のウェブサイトによると「インド最大のeコマース企業や大手企業すべて」と取引しており、1万社以上の顧客と取引しているという。最終目的地までの配送に関して、同社の配送者は、2平方キロメートルを超えないエリアを割り当てられ、1日に数回の配送を行うことで時間を節約している。

インドの物流市場のTAM(獲得可能な最大市場規模)は2000億ドル(約22兆7200億円)を超えると、Bernsteinのアナリストは2021年初めに顧客向けのレポートで書いている。同スタートアップは2020年末、パンデミックの中でオンラインで買い物をする人が増え、増大する注文需要に対応するため、2年以内に4000万ドル(約45億4500万円)以上の投資を行い、運送車両規模をする計画であると述べた。

画像クレジット:Nasir Kachroo / NurPhoto / Getty Images

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(文:Manish Singh、翻訳:Akihito Mizukoshi)

LiDAR使った上空からの地理調査で478のマヤ文明の遺構を発見、紀元前1200年頃から紀元前後のオルメカ文明との共通点も

LiDAR使った上空からの地理調査で478のマヤ文明の遺構を発見、紀元前1200年頃から紀元前後のオルメカ文明との共通点も

メキシコ国立統計地理情報院(Instituto Nacional de Estadistica y Geografia)などによる、LiDARを使った上空からの地理調査で、メキシコ南部に数百ものマヤ文明およびオルメカ文明の祭祀場の遺跡が発見されました。アリゾナ大学の考古学者 猪俣健 氏らが、メキシコ湾の中のカンペチェ湾に沿ったオルメカの中心地とグアテマラ国境のすぐ北にあるマヤ西部低地にまたがるこの地域を調査したところ、478もの祭祀場の輪郭がみつかったとのこと。

今回の調査では、マヤ文明が、紀元前1500年~紀元前400年頃までメキシコ南部の海岸線に栄えていたオルメカ人から文化的なアイデアを受け継いでいた可能性があることがわかりました。発見された祭祀場の遺跡は、その建物の配置の特徴からメキシコとグアテマラの国境付近にあったアグアダ・フェニックス遺跡と同時期の紀元前1100年~紀元前400年頃に作られたとみられます。

またこの祭祀場遺跡には、最古のオルメカ文明として知られるメキシコ・タバスコ州のサン・ロレンソ遺跡の祭祀場跡とも配置に共通点があることがわかりました。猪俣氏は、この点について「サン・ロレンソが後にマヤにも受け継がれたいくつかのアイデアのもととして重要であることを物語っている」と述べました。これはつまり、マヤ族がオルメカ族から儀式の概念や宗教的な基板を受け継いでいた可能性が考えられるということです。

もちろんふたつの文明には相違点があります。たとえばサン・ロレンソの遺跡の壁には遺跡の建設を指揮した当時の支配者の絵が彫られているのに対して、アグアダ・フェニックスの方にはそれがありません。それはたまたまなのかもしれませんが、もしかするとマヤ遺跡のほうが、平等な人々の協力と努力によって建設された可能性が推測されるとのこと。猪俣氏は「当時は定住型の生活に移行していた時期で、階層的な組織があまりない地域が多かったのではないか」と述べています。

近年、メキシコ、グアテマラ、ベリーズの国境地帯にまたがるマヤ文明があった一帯で、無数の灌漑用水路や道路、要塞などの遺構が発見されるようになりました。その理由は、LiDARによって上空から広範囲を一気に調べる方法が活用されるようになったため。LiDARの赤外線レーザー光は地表を覆うように茂る木々の葉を透過して地面を3Dスキャンできるため、調査団が森に足を踏み入れずともそこに隠れている古代文明の特徴を発見することができます。

ヒューストン大学のNational Center of Airborne Laser Mapping(NCALM)の技術者で、今回の研究の共著者でもあるファン・カルロス・フェルナンデス=ディアス氏は、LiDARの利点は古代文明による建物や道路、農地、灌漑用水などを3次元の俯瞰図にして見ることができ、世界の多くの地域で森林に覆い隠されているかつての風景やインフラを発見できるところです」と述べています。

自動運転車も使うLiDARセンサー技術でマヤの巨大都市を発見。グアテマラの森林に6万もの構造物

(Source:Nature Human BehavierEngadget日本版より転載)

【コラム】政策立案者や法学者は「ユニコーン恐怖症」を払拭する必要がある

かつて、成功をおさめ一定の成熟点に到達したスタートアップは「一般に公開」され、株式を一般投資家に売り、国の証券取引所に上場し、国家による証券規制の下で「上場企業」としての特権と義務を引き受けるのが常だった。

しかし時代は変わってきている。成功をおさめたスタートアップは今日、株式を上場せずとも大きく成長することが可能だ。少し前まで、民間企業で10億ドル(約1100億円)以上の評価が付けられ「ユニコーン」企業と呼ばれるにふさわしいスタートアップは稀だった。ところが今や800を超す企業がこの基準を満たしている。

法学者はこの事態を憂慮しており、学術論文の中で次のように指摘している。すなわち、ユニコーン企業が上場企業を管轄する制度や規制による制約を受けていないがために、投資家、社員、消費者、また社会全体に害を与えるリスクのある違法行為を起こしやすいのだと。

解決策として提案されているのは、当然のことながら、制度や規制による抑止力をユニコーン企業にも適用する、ということだ。具体的にいうと、学者たちは強制的 IPOs大幅に拡大された 開示義務、ユニコーン企業株の流通市場取引を大幅に増加させるための規制の変更、ユニコーン企業社員に対する 内部告発者保護の拡大、そして大規模な非公開企業に対する 証券取引委員会 による管理強化を提案している。

これらの提案は、学術界の外からも支持を得るようになっている。この動きを支持するリーダーの1人が、最近SECの企業財務部門のディレクターに使命されたところだ。近く大きな変化が起こるかもしれない。

「ユニコーン恐怖症」というタイトルの新たな論文 の中で、私は突然支配的になった、ユニコーン企業は危険な存在であり、大胆な証券規制を新たに設けることによって「飼いならす」必要がある、というこの見解に異議を唱えている。私は主に3つの反対意見を挙げた。

まず、 ユニコーン企業に上場企業のステータスを押し付けるのは有益でないだけでなく、実際には問題を悪化させる可能性があるということ。「マーケティングマイオピア」あるいは「株式市場短期主義」に関する数多くの学術文献によると、上場企業 のマネージャーこそ、過度のレバレッジやリスクを取り、法を遵守するための十分な投資をせず、製品の品質と安全性を犠牲にし、研究開発費やその他の企業投資を削減し、環境を悪化させ、会計詐欺やその他の不正に関与することに対する危険なインセンティブを持っている。

こうしたさまざまな恐ろしい結果を生み出す危険なインセンティブは、ユニコーン企業ではなく上場企業に影響を及ぼしている一連の市場、制度、文化、規制の特徴に起因していると言われている。これには、短期的な株式パフォーマンスに関連付けられた役員報酬、四半期収益予測の実現にむけた圧力(別名「四半期資本主義」)、そしてヘッジファンド活動家からの絶え間ない攻撃の脅威(そしてこの脅威は時に現実になる場合もある)が含まれる。これらの文献が正しい限り、提案されたユニコーン企業改革は、彼らに、危険とされる一連のインセンティブから別のインセンティブへと乗り換えることを強制するだけだろう。

第二に、新しいユニコーン企業規制の支持者は、言葉による巧みなごまかしに支持の根拠を置いている。これらの規制の提唱者は、その論文の中で、ユニコーン企業が独特の危険をもたらすことを示すために「悪名高い」ユニコーン企業、特にUberとTheranosのエピソードと事例研究を中心的に取り上げているのだ。しかも論文の著者は、彼らが提案する改革がこれらの企業によって引き起こされた重大な害をどのように軽減するかをほとんど、あるいはまったく示さないのである。これは、私の論文で詳細に示しているように、非常に疑わしい提案と言わざるをえない。

Theranosについて考えてみよう。Theranosの創設者兼CEOであるElizabeth Holmes(エリザベス・ホームズ)氏は現在、刑事詐欺で裁判にかけられており、有罪判決を受けた場合、連邦刑務所で最大20年の刑に処せられる可能性がある。提案された証券規制のいずれかがこの事例にプラスの違いをもたらした可能性はあっただろうか?ホームズ氏らがメディア、医師、患者、規制当局、投資家、ビジネスパートナー、さらには自らの取締役会まで、広い範囲で嘘をついたという申し立てを聞くと、証券を一部追加して開示しなければならないからといって彼らがもっと正直に振る舞ったとは考えがたい。

空売り筋やマーケットアナリストが潜在的な詐欺を嗅ぎ分けられるようユニコーン株の取引を強化する提案に関してだが、彼らはWalgreensのようなTheranosの上場企業パートナーでショートポジションをとったり、LabCorpやQuest DiagnosticsのようなTheranosの上場競合他社でロングポジションをとったりすることで、間接的にTheranosと対戦する能力とインセンティブをすでに持っていた。しかし、彼らはそうしなかった。同様に内部告発者の保護やこの領域でのSECによる管理を強化するという提案が違いを生む可能性は低いだろう。

最後に、この改革案は有益な結果をもたらすというよりむしろ害を及ぼすリスクがある。成功をおさめたユニコーン企業は今日、投資家、マネジャーだけでなく、社員、消費者、社会全体に利益をもたらしている。彼らがそのように利益をもたらすことができているのは、現行の規制の特質のためであるのだが、現在この特質が窮地に追い込まれている。多くの論文が提案するように現在の体制を変更してしまうと、これらのメリットが危険にさらされるのであり、利益よりも害を及ぼす可能性があるわけである。

近年大きな社会的利益を生み出したModernaについて考えてみよう。2018年12月に上場されるまで、Modernaは市場に1つも製品を出していない(第三相臨床試験中の製品さえない)、秘密主義で、物議を醸しがちな、誇大に宣伝されたバイオテックユニコーン企業だった。さらにModernaは、査読を受けた科学論文もほとんど発表しておらず、高位にある科学研究員の離職率が高いこと、自社のポテンシャルについて度を超えた主張をしがちなCEOがいること、そして有害な職場環境で知られる企業だった。

これらの新たな証券規制案がModernaの「企業としての成長期」に適用されていたとしたら、Modernaの成長が著しく阻害されたであろうと考えられる。事実Modernaは、COVID-19ワクチンをあれほど早く開発することはできなかっただろう。私たちがコロナウイルスパンデミックに対して講じた対策の一部は、ユニコーン企業に対する現行の証券規制アプローチの恩恵を受けているのだ。

Modernaから得られたこの教訓は、気候変動と戦うために証券規制を利用しようとする取り組みとも関連性がある。最近のある報告によると、現在43のユニコーン企業が「気候テック」分野で、世界的気候変動を軽減または対応するための製品やサービスを開発している。これらの企業はリスクを抱えている。彼らのテクノロジーは失敗するかもしれない。おそらくそのほとんどは成功しないだろう。この43社の中には、すでに立場を確立した企業(競争の脅威を排除するためには何でもしかねない強力なインセンティブを持っている)に挑戦しているユニコーン企業もある。また定着した消費者の好みや行動を変えようとがんばっているユニコーン企業もあるだろう。さらに彼らは管轄区域内外で大きく異る不安定な規制環境に直面してもいる。

他のユニコーン企業と同様、要求のきつい、無責任で救世主気取りの、強力な権限を持った創設者CEOが社を率いていることもあるだろう。彼らの中心的投資家が、製品の基礎となる科学を十分理解していない、基本的情報へのアクセスを拒否されている、天文学的結果を達成するためにリスクを取るよう企業に圧力をかける、そんな性質を持っていることもあるだろう。

しかし、これらの企業が気候変動による混乱に対処する上で、社会の重要なリソースになる可能性もある。政策立案者や学者は気候変動への対応に証券規制をどのように利用できるか検討している最中であるが、彼らには、ユニコーン企業に対する規制が果たすであろう潜在的重要性をゆめ見落とさないようにしてもらいたい。

編集部注:本稿の執筆者Alexander I. Platt(アレクサンダー・I・プラット)氏はカンザス大学ロースクールの准教授。

画像クレジット:Karolina Noring / Getty Images

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(文:Alexander I. Platt、翻訳:Dragonfly)

需要に対する工場の対応力向上のため金属加工の製造サプライチェーン見直すFractory

新型コロナウイルスのパンデミックで甚大な被害を受けた製造業界。しかし最近、その活気を取り戻す兆しがいくつか見えてきた。その1つは、変動する経済やウイルスの感染拡大など不安定な要素によって需要が上下するなか、需要に対する工場の対応力を高めるべく、新たに取り組みが進められている点だ。柔軟なカスタム製造で新たに頭角を現しつつあるスタートアップ企業のFractory(フラクトリー)は、2021年9月初旬、シリーズAで900万ドル(約9億8900万円)の資金調達をしたことを発表し、その傾向を改めて際立たせる結果となった。

この資金調達は、初期成長やポストプロダクション、ハイテクのスタートアップなどに注力する欧州の投資会社、OTB Ventures(OTBベンチャーズ)主導で進められた他、既存の投資会社であるTrind Ventures(トリンド・ベンチャーズ)Superhero Capital(スーパーヒーロー・キャピタル)United Angels VC(ユナイテッド・エンジェルズVC)Startup Wise Guys(スタートアップ・ワイズ・ガイズ)、そしてVerve Ventures(ヴェルヴェ・ベンチャーズ)もこの調達に参加した。

Fractoryはエストニアで設立され、現在は英国・マンチェスターを拠点とする会社だ。従来、国内の製造業向けの強力なハブとして存在し、顧客と緊密な協力体制を築いてきた。そのFractoryが、カスタムの金属加工品を必要とする顧客がより簡単にアップロードや発注ができるよう、そして工場側もそれらのリクエストに応じて新規の顧客や仕事を獲得できるように、プラットフォームを構築したのだ。

FractoryのシリーズAは、当社のテクノロジーを引き続き展開し、さらに多くのパートナーをエコシステムに取り込む目的で用いられる。

現在までに、Fractoryは2万4000人もの顧客を獲得し、何百もの製造業者や金属関連会社と連携してきた。合計すると、250万個以上もの金属部品の製造を支援してきたことになる。

ここで整理しておくと、Fractory自体は製造業者ではなく、同社にはそのプロセスに参入する計画もない。業種はエンタープライズ向けソフトウェアであり、製造(現在は金属加工)を担当できる会社向けにマーケットプレイスを提供し、金属加工品を必要とする会社とやり取りしている。インテリジェントなツールを活用して必要な加工品を特定し、該当の加工品を製造できる専門の製造業者にその潜在的な仕事を紹介するというわけだ。

Fractoryが解決しようとしている課題は、多くの業界のそれと同じである。さまざまな供給や需要が発生し、変動が多く、一般的に仕事の調達方法が非効率なケースだ。

Fractoryの創設者兼CEOのMartin Vares(マーティン・ヴァレス)氏は、筆者に対し、金属部品を必要とする企業は1つの工場を得意客にする傾向があるようだと話す。だが、これはつまり、その工場が仕事に対応できない場合は企業が自力で他の工場を探さないといけないということだ。時間がかかるうえ、費用も重なるプロセスとなる。

「製造業は非常に断片化した市場で、製品の製造方法も幅広くあるため、その2つの要素が複雑に絡まり合っているんです」ヴァレス氏は続ける。「昔は、何かをアウトソーシングするには何通ものメールを複数の工場に送る必要がありました。とはいえ、30社ものサプライヤーに個別に送ることは到底できません。そこで、ワンストップのショップを立ち上げたのです」。

一方で、工場はダウンタイムを最小化するため、仕事の工程を改善できないか常に模索している。工場としては、仕事がない時間帯に作業員を雇ったり、稼働していない機械のコストを払ったりする事態を避けたいのだ。

「アップタイムの平均キャパシティは50%ですね」とヴァレス氏は、Fractoryのプラットフォームにおける金属加工施設(さらには業界全般の施設)についてこのように述べている。「使用中の機械よりも、待機中の機械の方がずっと多いんです。そこで、余剰キャパシティの問題を何としても解決し、市場の機能性を高めて無駄を削減したいと考えています。工場の効率性を高めること、これが持続可能性にもつながるのです」。

Fractoryのアプローチは、顧客をプロセスに取り込むスタイルだ。現在、これらの顧客は一般的に建築業界をはじめ、造船、航空宇宙、自動車といった重機産業に多く存在し、これらの顧客に、必要な製品を規定したCADファイルをアップロードしてもらっている。これらのファイルは製造業者が集まるネットワークに送信され、そこで仕事の入札と引き受けが行われる。フリーランス向けマーケットプレイスの製造業版といったようなものだ。その後、これらの仕事のうちおよそ30%は完全に自動で進められ、残りの70%については、仕事の見積書や製造過程、配達などのアプローチに関してFractoryが関与する形で顧客にアドバイスを行っている。ヴァレス氏によると、今後はさらにテクノロジーを搭載し、自動化できる割合を増やしていくとのことだ。RPAへの投資を拡大するだけでなく、顧客の希望や最適な実行方法をより良く把握するためのコンピュータビジョンについても投資を拡大する。

現在、Fractoryのプラットフォームは、CNC加工などの仕事を含め、レーザー切断サービスや金属の曲げ加工のサービスについて発注の支援を行っている。次の目標は、産業向けの3D印刷に対応することだ。石細工やチップ製造など、他の素材についても検討を進める。

「製造業は、ある意味では最新化がいつまでたっても進まない業界ですが、それも驚くことではありません。設備が重く、コストも高いため「壊れるまで修理はするな(触らぬ神に祟りなし)」というモットーは通常この業界では通用しないからです。そのため、せめて従来からある設備をより効率的に運用しようと、よりインテリジェントなソフトウェアを構築している企業が、ある程度基盤を固めることができているのです。米国で生まれた大手企業のXometry(ゾメトリー)は、同じくカスタム部品を必要とする企業と製造業者の架け橋を築いた企業ですが、そのXometryは2021年初めに株式を公開し、今では時価総額が30億ドル(約3,292億円)以上にのぼっています。他にも、Hubs(ハブズ)(現在はProtolabsによって買収)やQimtek(キムテック)などが競合として存在します」。

Fractoryが売り込んでいるセールスポイントは、一般的に顧客の地域に根差した製造業者を重視することで、仕事における流通の側面を低減させ、炭素排出量を抑えられるよう取り組んでいる点だ。ただし、会社の成長に応じて当社がこのコミットメントに遵守しつづけるのかどうか、そうであればどのようにそれを実現するのかは今後に注目だ。

現在のところ、投資会社はFractoryのアプローチとその急速な成長を証拠に、これからも業界に影響を及ぼすだろうと見込んでいる。

「Fractoryは、他の製造環境では見られないエンタープライズ向けのソフトウェアプラットフォームを生み出しました。急速に顧客を獲得している事実から、Fractoryが製造サプライチェーンにもたらす価値は明らかに実証されています。これは、イノベーション対応できるエコシステムを自動化し、デジタル化するテクノロジーです」Marcin Hejka(マルチン・ヘイカ)氏は声明でこのように述べている。「私たちはすばらしい製品と才能あふれるソフトウェアエンジニアのみなさんに投資しました。彼らは、製品開発に全力を注ぎ、圧倒的なスピードで国際的に成長しつづけています」。

画像クレジット:Fractory

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)

外国に高級別荘を共同所有する方法を提供するメキシコのKocomo

メキシコのカボ・サン・ルーカスのヴィラ・アキマリナ(画像クレジット:Kocomo)

別荘が欲しくない、などという人がいるだろうか?

そんな人はいないだろう。

Kocomoはメキシコシティーに拠点を置くスタートアップで、別荘を所有するという人々の夢を実現する手助けをしたいと望んでいる。そして、その目標を達成するために、株の発行と借り入れによって、それぞれ600万ドル(約6億6000万円)と5000万ドル(約55億1500万円)の資金調達を終えたところだ。

同社は国境をまたいだ形での高級別荘の共同所有を、従来のタイムシェアを超えた形で実現しようとしている。つまりコロンビア人、英国人、メキシコ人、米国人、パナマ人の血を引くKocomoの創設者は、人々が高級別荘の部分的権利を購入、所有、販売できる市場を形成することで、従来の別荘の所有権のあり方を覆したいと考えている。さらに簡単に言えば、Kocomoが目指すのは、世界中のより多くの人々が別荘を所有するという夢をかなえられるようにすることである。

同社は2021年設立され、5月から人目につかない形で動いてきた。そして、最近、ウェイティングリストから「選別」された顧客グループにサービス提供するために、ウェブサイトのベータ版を立ち上げた。

KocomoのCEO兼共同創設者であるMartin Schrimpff(マーティン・シュリンプフ)氏は「まずは、メキシコ、カリブ海、コスタリカで別荘を購入したいと考えている米国人とカナダ人に焦点を当てます。それから最終的にはヨーロッパでも同じことをする予定です」。と語った。

AllVPおよびVine Venturesは、Picus Capital、Fontes(QED、FJ Labs and Clocktower Technology Ventures)、およびStarwood Capital Groupの会長であるBarry Sternlicht(バリー・スターンリヒト)氏のファミリーオフィスであるJAWSの参加を含む株式による資金調達を共同で主導した。Architect Capitaは債務投資を行った。

興味深いのは、ラテンアメリカの4つのユニコーン企業の創設者である、LoftのMate Pencz(メイト・ペンツ)氏およびFlorian Hagenbuch(フロリアン・ハーゲンブッフ)氏、CornershopのOskar Hjertonsson (オスカー・ヘルトンソン)氏、KavakのCarlos Garcia(カルロス・ガルシア)氏、CreditasのSergio Furio(セルジオ・フリオ)氏が株式ラウンドに投資していることだ。

新型コロナウイルスのパンデミックで多くの人が彼らの生活と仕事へのスタンスを再考したのは疑いがない。

シュリンプフ氏の場合、友人や家族ともっと多くの時間を過ごすことが最優先事項となり、別荘を探すという計画を進めることになった。しかし、探し当てた選択肢を見て同氏は失望を感じた。

「1年に数週間しか使わない別荘を丸ごと購入し、しかもそれを自分で管理しなくてはならないのは、お金の無駄ですし、ストレスがかかり、時代遅れのやり方だと思いました」と同氏は述べる。「さらに、メキシコのビーチで私の予算内で購入できる素敵な別荘を見つけるのは不可能でした」。

Airbnbはクオリティに一貫性がなく、プロフェッショナルな管理に欠けると感じられたため、これを毎年借りるのもよい選択肢とは言えないと同氏は感じた。

そこで、この不満を現在の共同創設者と話し合ったところ、Kocomoのアイデアが生まれたというわけである。

左からKocomoの共同創設者Tom Baldwin(トム・ボールドウィン)氏、Martin Schrimpff(マーティン・シュリンプフ)、Graciela Arango(グラシエラ・アランゴ)氏、Brian Requarth(ブライアン・リカース)氏は写真にいない(画像クレジット:Kocomo)

同スタートアップのモデルは、米国に拠点を持つPacasoと呼ばれる初期ステージのプロップテックと似ている。

シュリンプフ氏の見解では、この2つのモデルの最大の違いは、Pacasoが所有者の住んでいるところからクルマで1、2時間で行ける別荘市場に注力している点である。

「Kocomoは、所有者の住んでいるところから、2、3時間のフライトが必要な国境をまたいだところにある別荘に力を入れています」とシュリンプフ氏は述べた。また同氏によると、Kocomoは国境をまたいだ取引を行っていることから、より複雑な問題に対処しているとのことである。

Pacasoとのもう1つの大きな違いは、Kocomo が所有者に「彼らの滞在権を貸し出す」オプションを提供している点である。

NetJetsが共同所有権方式で人々がプライベートな空の旅を楽しめるようにしているのと同じように、Kocomoは、別荘に共同所有モデルを適用しようとしている、と同氏は語った。

「私たちのプラットフォームを使用すると、複数の人が高級別荘を所有して楽しみ、煩わしい問題なしに、すべての費用を所有者間で分担することができます」。とCFOで共同創設者のボールドウィン氏は述べる。「私たちはこれを海外に家を所有する賢いやり方、と呼んでいます。一年のうち数週間滞在するために家を一軒買うのは苦労の割には得るものがないような感じがするかもしれませんが、借りるためにお金を払うのはもったいないですし、それは出費であって資産とは言えません」。

共同創設者でCPOのアランゴ氏は、Kocomoは別荘の取得と所有にともなうすべての法的および事務処理を管理すると述べた。例えば、Kocomoは別荘をLLCを通して購入し、適切な共同所有者を見つけて精査し、共同所有者間で公平に使用時間を分配し、将来に渡って別荘の管理と維持に必要なすべてのサービスを行う。それだけではなく、水道やガスなどのユーティリティー、造園、予防的保守さえも行うのだ。

画像クレジット:Kocomo

タイムシェアのコンセプトと異なる点の1つは、参加者がそこで過ごす権利を持っているというだけでなく、実際に不動産の一部を所有しているという点である。そのため、もしその資産価値が上がれば、所有者の投資価値も高まる。

同社には現在9人の社員がいるが、株式による資金の一部を用いて、特に、セールス、マーケティング、エンジニアリングの分野に重点を置いて従業員数を引き上げることを計画している。また当然プラットフォームを強化するためのテクノロジーへの投資も計画している。借り入れによる資金は、ロスカボス、プンタミタ、トゥルムなど国際線のある空港に近い、メキシコの「人気のある」地域の高級別荘を20軒ほど取得するのに使用される。

同社はその次に、コスタリカやカリブ海など、米国からの直行便がある他の地域にサービスを拡大することを計画している。また同社はスキー場、地中海のビーチエリア、パリ、ロンドン、マドリッド、ベルリンなどの文化の中心地に「大きな可能性」があると考えていて、将来的にはそういった地域へも進出したいと考えている。

またボールドウィン氏によると、Kocomoは同社のプラットフォームで不動産の所有権を購入する顧客に融資ができるよう、提携可能な金融機関を特定し、現在その提携関係を最終決定する話し合いが大詰めだとのことである。

「ステルスモードから抜け出した多くのスタートアップはセールスを0から高い数字へと急激に伸ばすことに力を入れるようですが、私たちがまず力点を置いているのは、Kocomoの共同所有者を0人から10人にすることです。当社はB2C企業ですが、チケットサイズは20万ドル(約2000万円)を超えているため、セールスサイクルはB2Bスタートアップに近いのです」。とシュリンプフ氏は述べた。

興味深いことに、Kocomoにまず関心を示しているのはほとんどが、技術コミュニティの人々である。これは驚くにはあたらない。Pacasoの場合も同様の傾向が見られた。

「これは私たちのモデルに適合するものです。彼らは職業柄時間の自由がきくことが多く、リモートで仕事をすることもできますし、また新しいモデルを試すということへの抵抗も少ないでしょう。このモデルが別荘の所有者になるための賢明な方法であると彼らが感じる場合は特にです」。とシュリンプフ氏。

AllVPのAntonia Rojas(アントニア・ロジャス)氏は、消費者が仕事や家族、自由な時間にどのような優先順位を付けるか、そのやり方はコロナ後の世界では大きく変わるのであり、Kocomoはそうした変化を利用した不動産所有権の「進化モデル」を実現するためにテクノロジーを活用していると述べた。

同社には優秀な人材が揃っていることも印象的だ。シュリンプフ氏は、現在Naspersが所有および管理しているグローバル決済ビジネスPayUを設立し、その後売却している。ボールドウィン氏は、過去8年間、メキシコとブラジルでベンチャーキャピタルおよびプライベートエクイティ投資家として過ごした元ゴールドマンサックスの銀行家である。アランゴ氏はハーバードビジネススクールを卒業し、シリコンバレーのIDEOで働いていた。共同創設者兼社外取締役のリカース氏は、不動産求人会社Vivarealを設立した経験を持つ。

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(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Dragonfly)

今後、あらゆるものが指数関数的に変化する時代になる。書評「The Exponential Age」

危険ですので、シートベルトをお締めください!

生物、医学、宇宙船、製造業、ソフトウェアといった分野の進歩は、社会、経済、政治の根本を変えつつある。この流れを見るに、ここ数十年に渡る変化の速度が、今後は加速していく一方だと思われる。TechCrunchでは、こうしたイノベーションを日々取り上げてお伝えしているが、資金調達の発表やスタートアップの製品発売といった華々しい話題から少し離れて、これらの変化が結局何に繋がるのかを落ち着いて考えてみる機会はめったにない。

幸いなことに、ロンドンを拠点に活動するライター兼起業家のAzeem Azhar(アズーム・アズハー)氏はこの変化ついて一家言を持っている。彼は最近 「The Exponential Age: How Accelerating Technology is Transforming Business, Politics and Society(指数関数的時代:加速するテクノロジーがどのようにビジネス、政治、社会を変革しているか)」という本を発表し、また長期にわたってニュースレター Exponential Viewやポッドキャストで意見を述べてきた。私は最近、アズハー氏をライブディスカッションにお招きして彼の著作やTwitter Space世界の意味するところについて、遺伝子工学から、データプライバシー法、グローバル経済の再局在化まで、様々な観点を織り交ぜて語りあった。1時間に及ぶ私たちの会話のハイライトを以下にまとめた。

このインタビューは編集、要約されている。

Danny Crichton:ニュースレター、Exponential Viewを書き始めたきっかけはなんだったのですか?

Azeem Azhar:6年前に私の会社が買収されたのを機にこのニュースレターを始めました。Twitter Spaceには多くの創設者がいて、中には買収のプロセスを経験した人もいることと思いますが、買収というのは、他人の服を着た自分を見るというような違和感のある経験でした。慣れ親しんだ感じはするけれども、実際にはそうではないし、それは自分自身というわけではありません。そこで、その気持ちを伝えようと数人の友人に向けてニュースレターを書き始めたのです。1996年からインターネット上でニュースレターを書いてきましたから、そういった形で意見を発信するのは、私にとってしっくりくる方法だったのです。

画像クレジット: Diversion Books

当時、驚くべきテクノロジーがある一方、何かが期待どおりに機能していないという奇妙な感覚がありました。こうした背景があって、多くの創設者が感じたように、ニュースレターは人々の求めていたものと合致したのだと思います。ニュースレターを書き始めてみると、それは私の生活の大きな部分を占めるようになりました。私は多くの時間を割いてテクノロジーについてや、テクノロジーと私たちの社会を取り巻く政治理論や経済理論についても読むようになりました。そして、その結果、私たちは今、多くのチャンスに溢れてはいるもののそれと同時に多くの危険も内在する、歴史の本当に特別な時代に差し掛かっていると考えるに至りました。これが結実したのが、拙書「The Exponential Age(指数関数的時代)」です。

あなたは、シリコン、ゲノミクス、バッテリー、カスタム製造の台頭について語っていますが、人類の歴史から考えると、これらはすべて比較的新しい部類のテクノロジーだと思います。どうして「指数関数的時代」が今始まったのだと思いますか?

これらのテクノロジーが世に出始める時点では、これらはとても高価です。これらは凄い勢いで向上していますが、それでも依然として高価であり、もっと廉価になり広く普及するには時間がかかります。一度これらが補完的産業すべてに普及し始めると、今度はその経済圏や社会に暮らす残りの人々のためにもより広くこれらのテクノロジーを現実のものとする必要が出てきます。

1960年代後半にチップが登場しましたが、何十億という人々がコンピューターにアクセスできるようになったのは、iPhoneが出荷され、スマートフォンが登場して以降のことでした。これは再生可能エネルギーが従来の化石燃料と競合するようになった時期とほぼ重なります。

私はこれを利子を計算する際の複利法的な現象と考えています。指数関数的なテクノロジーの向上により、物事はとても地味なスタートから始まって、翌年の増分が本当に意味のあるものになるまで、数年分、あるいは数十年分の利益を積み上げる必要があります。

指数関数的時代に突入したと言えるのは、2013年から2016年あたりだと言えると思います。2012年時点においては、世界の大企業の多くは、自動車メーカー、石油会社、電力会社など、前時代の企業でした。しかし2016年になると、世界最大の企業といえば、TencentsやApplesになりました。2012年にリアルタイムでスーパーコンピューターにアクセスしていたのは、どれだけの人がスマートフォンを持っているかで考えると、世界人口の半数以下でした。しかし2016年にはこの割合が逆転しています。

私たちがこうした新しいテクノロジーを手に入れた一方、テクノロジーを通して実現可能なことと、社会が対処する準備ができているものとの間に、あなたが言うところの「指数関数的ギャップ」があるようにも思います。その点についてはいかがですか?

テクノロジーがすばらしい可能性を提供し、そしてそれなしでは私たちの現在はない、というのがここでの課題です。しかし、テクノロジーと社会的規範は互いに密接に関連しています。

テクノロジーの変化速度が法律や規制当局といった社会制度の変化速度の範囲内にある時は、それで問題はありません。しかし、テクノロジーがその範囲を超えるポイントに到達した時、実は私はここ2,3年でそのような状態になったと考えているのですが、テクノロジーの変化速度は大変なものになります。幼稚園や小学校でやったことがあるかもしれませんが、これは二人三脚のレースにちょっと似ているかもしれません。あなたと組んだ相手があなたよりずっと早く走るので、あなたはおいていかれるような感覚を覚えるのです。

テクノロジーは信じられない速度で適応し発展していますが、社会制度はもともと非常にゆっくりと変化する性質のものです。社会制度が非常に速く変化したとしたら、それは制度ではなく、一時的な流行といったものに過ぎないでしょう。問題は、私たちのほとんどにとって、毎日の生活が、好むと好まざるとに関わらず、こうした日々の習慣や習わし、そして正式な規制や制度上の規則や法律に縛られているということなのです。

ここでは、テクノロジーそのものはそれほど問題ではありません。問題は指数関数的キャップがあることであり、もしそれがきちんと対処されなければ、社会のある種の快適な機能を侵食し始めるでしょう。

あなたはご自身の本の中で、フランス人歴史家、Fernand Braudel(フェルナン・ブローデル)氏に言及されています。ブローデル氏は、様々なことを書いていますが、いくつかの著書の中で、中世の生活の驚くべき規則性を示しています。この時代に生まれた人々は、60~70年の人生を生きる中で、社会的にも文化的にも、政治的にも経済的にも特に変化らしい変化を経験しません。この世に生まれ、農場で働き、そこで働き続け、引退するわけですが、一生を通しなんら変わるものはないのです。

指数関数的時代においては、すべてが常に変化してしているわけですが、人はどのように認知的負荷に対処すべきか、私はそこに興味があります。

この負荷はとても大きいです。

TechCrunchは、ここで起こっていることをある意味確認できる存在です。例を挙げましょう。この本を書いている間に、私はUiPathと呼ばれるルーマニアの自動化ソフトウェア関連の会社について言及しました。最初に下書き原稿を書いた時点でのUiPathの評価額は10億ドルで、同社がそこへ至るスピードは大変早いものがありました。数週間後、私はその最初の原稿にコメントをもらったのですが、その時までにUiPathの評価額は70億ドルに達していました。さらに最終原稿を編集者に渡した時には評価額が100ドルになっていたので、文章中の数字を直さなくてはなりませんでした。そして、その原稿が出版される直前には、私は編集者にいそぎ電話をして「UiPathがNasdaqで350億ドルの評価額で上場されたので、今すぐ数字を直さなくてはなりません」と伝えなければなりませんでした。これが、私の言う認知的負荷をよく言い表している例です。

現在はこうした指数関数的変化に対応するだけの心や脳の構えがないため、私自身この負荷と格闘していますし、世間の多くの人々も、認知的負荷を背負っています。私たちは今までUiPathsやUbers、DoorDashesといった信じられない速さで急成長する企業に出会うことがありませんでした。ブローデル氏が指摘しているように、私たちが見てきた変化は非常に直線的で多くが周期的な理解可能なものでした。ですから、私たちは、自らがここ30年から40年かけて生み出してきた技術的環境によく順応できていないのです。

あなたは、指数関数的な技術の向上について多く語っておられますが、裏を返すと、急激に向上すると考えられたテクノロジーで実際には向上しなかったものもたくさんあります。テクノロジーの成長の限界について、あなたがどう考えておられるのか、またそれがあなたの理論にどういった意味をもたらしているのか教えて下さい。

問題は、基本的な学習率に役立つ組み合わせ可能なコアテクノロジーがどこにあるかということだと思います。 つまり、そうしたテクノロジーは、他のテクノロジーと組み合わせて統合できるため、非常に強力なものになる傾向があるのです。モジュール化でき分散化可能なテクノロジーは、学習効果が非常に顕著なテクノロジーである傾向があります。

例えて言うなら、私たちは水力発電ダムや大型航空機がそうした効果を発揮するとは期待しないでしょう。なぜならそれらが非常に複雑に絡まりあったもので成り立っているためです。

私が関心を持っていることの一つは、これらの基本的なテクノロジーの価格がゼロ向かって下がり始めると、どういったことが起こるかです。私たちは新しいMacBook Proを手にするのに2000ドル(約23万円)払うわけですから、こういうと変に聞こえるかもしれませんが、私たちが生まれた頃と比較すると、コンピューターの現在の価格は実質ゼロのようなものです。 そしてこれにより、私たちは、それを巡ってあらゆる可能性が生み出されているのを目にすることができます。再生可能エネルギーからエネルギーを作り出す能力、タンパク質工学または遺伝子工学を通して生物圏を操作する能力、3Dプリンティングテクノロジーでものを作り出す能力…こういったもののコストがゼロになった時、どんな事が起こるでしょうか?

あなたはご自身の本の中で、産業社会の中でグロバリゼーションが起きたけれども、指数関数的時代には、新型コロナウイルスの関係もあって「再局在化」が起きている、ということを論じておられます。生産の世界でこのような動きが起きているのはなぜなのか、興味があります。

私たちが話題にしているテクノロジーの多くは、巨大なサプライチェーンに依存しないタイプのテクノロジーです。風力発電、分散型屋上太陽光発電、電気自動車内のバッテリーをネットワーク化することによって生み出された仮想グリッドスケールバッテリーなどは、地球を半周するほどの距離を輸送して数百万バレルの石油を持ってこなくても生産することができます。

こうした動きは、南オーストラリアなどで起きています。そこでは分散型太陽光エネルギーにより石炭が使われなくなりつつあります。また、Bowery Farmingに代表される高集約型の垂直型都市農業のようなテクノロジーもあります。これは、都市や街のど真ん中の高い建物に区切られた畑を高く積み上げて農作物を生産し近隣に提供するもので、農作物をサプライチェーンに合わせて最適化する必要がありません。地元で再生可能エネルギーを使って農作物を育てるのです。

人工の肉を供給する細胞農業もあります。これも牛を育てるための土地を必要としませんし、地元型の農業になり得ます。3Dプリンティングも同じで、何キロも離れた工場は不要であり、その場でものを作ることができます。これらにより、グローバルチェーンへの依存度を減らしつつ、地元でより多くのことを行うポテンシャルが生み出されます。

これが局在化にはずみをつける推進力の1つですが、もう1つ第二の推進力があります。それは国家間のデジタル空間における競争です。私がこの本を書いて以降、Cyberspace Administration of China (CAC、中国サイバースペース管理局) は、強力な措置を講じて国内のインターネット業界を管理していますし、また、ヨーロッパのGDPRよりずっと厳格なデータプライバシー法を新たに導入したのも興味深い動きです。中国のデータプライバシー法の背後にある重要なレンズの一つは、テクノロジーの統治権です。

ですから、テクノロジーに関しては、グルーバルサプライチェーンにそれほど依存せず局所的な生産や消費を可能にするテクノロジーと、テクノロジーの主権を確保するための動きという二つの対になった動きがあり、これがグロバリゼーションに向けた政治家の論理を巻き戻し、地域でもっと多くの物事を行うという論理を生み出し始めているのです。

画像クレジット:Pramote Polyamate / Getty Images

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(文:Danny Crichton、翻訳:Dragonfly)

【コラム】自分の価値観を自ら立ち上げたスタートアップの社風に織り込むための3つのアドバイス

「模範を示してリードする」というフレーズは聞いたことがあるだろう。しかし「価値観を持ってリードする」というフレーズは聞いたことがあるだろうか?

私は常に私の価値感を指針として用いつつ、模範を示して会社をリードしてきた。しかし、私自身が最初の会社を立ち上げるまでは、それらの価値観を会社に根付かせることの重要性を完全には理解していなかった。

「誠実さ」「個人」「影響力」「革新性」は私の意思決定と社員の行動を日々推進する「4つの価値観」である。これらは単に本社の壁や、リモート社員のマウスパッドに書かれている言葉というだけでなく、社員全員が実際に実行して血の通ったものにすべき価値観である。これらの4つの価値観は過去2年にわたり、私や家族、会社の責任者たちを導いてくれる指針として、ますますその重要性を増している。

多くの企業が「職場に戻る」(仕事は中断したわけではないので「仕事に戻る」ではない)計画を立てているが、私たちは、ただ単に以前の状態に戻るべきではない。そうではなく、価値観を羅針盤として、みなの成功につながる何事かを再設計することをお薦めしたい。こうすることで、社員たちは単にこの厳しい時期を乗り切ることができるだけでなく、職場で十分に能力を発揮できるようになると思うのだ。

私の経験でいうと、価値観でリードするということは、最良のリーダーシップのとり方であり、この目標を達成するためには3つの方法がある。

旧弊な職場のヒエラルキーを排除する

あなたはキャリアのどこかの時点で(卒業直後かもしれないし、卒業から数年後かもしれないし、その中間かもしれない)、下位レベルの社員を敬意に欠ける態度で扱うのが「あたりまえ」の会社を経験したのではないだろうか。「下積み」を是とするようなこうしたタイプの会社は、これらの下位レベルの社員に単調な辛い仕事をあてがう傾向が高く、結局彼らは燃え尽きて会社を離れてしまう。

あるいは、彼らがなんとかマネージメントレベルのポジションに這い上がることができた場合、彼らは新しく入ってきた社員を低く見ているためにこのサイクルが続き、健全な文化は損なわれていくことになる。

これは正しいやり方とはいえないだろう。

リーダーとして、職場に受容性、サポート、協調性、チームワークを望むなら、あなたは、今すぐにも前例を示すべきだ。つまり、職階に付随するヒエラルキーを除去し、 役職に関係なく功績に基づいて社員を評価する会社であることを明確にするのである。会社全体があなたの価値観に基づき、使命を実現するために団結する1つのチームである。このような社風を確立して全員が会社の行く末に責任を持つようになれば、誰も他の社員を粗末に扱うことはなくなるだろう。

象牙の塔的な考えにとらわれないようにしよう

私は働くようになってすぐ、可能な限りオフィスを誰かと共有するようにした。オフィスは、家具や窓からの景色も含め、人々から見栄えのよいすてきな空間と思われないものにするよう心がけた。現在はCEOであるが、社員の中には私のオフィスをクローゼットと呼ぶものもいる。しかし、仕事を成し遂げるには十分なオフィスである。

このような単純なシグナルは強力なメッセージとなる。そして、シグナルは一貫していなければならない。リムジンに乗らず、安い車を借りる。ファーストクラスに乗らずエコノミークラスに乗る。ささいなことに聞こえるかも知れないが、CEOが遭遇する最大の落とし穴の1つは、象牙の塔的考え方に陥ることだ。

経験を通して社員を知るための努力をしよう。「現場に足を運ぶマネージメント」戦略を実行しよう。一日中オフィスに座っているのを避け、部屋から出て社員の様子を見て回ろう。彼らの机に立ち寄り、話しかけよう。ランチは休憩室で取り、新人研修にも顔を出そう。

まだ物理的にオフィスに戻っていない場合はどうすればよいだろう?その場合は、SlackチャンネルやZoomミーティングを行おう。私は社員のベービーシャワー(赤ちゃん出産前の前祝パーティー)に、Zoomで突撃をしかけたことがある。参加者のお祝いの言葉に耳を傾けることができ、私にとっても彼らにとってもよい一日になった。職場にいて、そこを人間味のある空間にしよう。こうした努力は必ず報われるものだ。

職場慣行に配慮し一貫性を保つ

社風は会社のトップによる影響が大きい。あなたが思い描く社風は、あなたが社員に実行するようにと要求する慣習を彼らが納得して受け入れる場合にのみ、実現するものだ。より重要なのは、これらの取り組みや慣行を自ら全力で行わなければ、堅実な文化を育むことができないということだ。

例えば、私の会社 SailPointでは2020年、Free2Focusと呼ばれる新たな取り組みを行った。これは、1週間に2度、Free2Focusの時間帯に会議を、数時間を入れないようすることで、Zoom疲れを防ぐだけでなく、散歩するなり、子どもの勉強を助けるなり、カメラを少しの時間切るなり、個人にあった方法で一息ついてもらうための取り組みである。

1週間のうち一息つける時間を社員に取って欲しいと思うなら、私自身も同じことをする必要があると私は気づいた、つまり、Free2Focusの時間帯にはミーティングを入れず、1日中メールを送り続けるのをやめ、社員が必要な休憩を取っているからといって批判するのをやめるということである。私はほとんどの場合、社員が自分の時間に自分なりのやり方で仕事を達成していると信じている。こうして信用すれば、社員の業績は確実に上がるのだ。

CEOであるということは、ビジョン、製品、アイディアを築く以上のことが求められる。それは、士気や尊厳を損なうことのなく相互の目標を達成するために、価値観を持って人々を導くということである。仕事に付随するさまざまなことに気を取られるのは簡単なことだが、自分自身と自らの価値観を全社に浸透させる努力をしなければ、結局自分のためにならないし、会社のためにもならない。

これは一夜にして成し遂げられることではない。しかし、最も小さなことが、最も大きな影響力を持つものであることも多いということを覚えておこう。あなたがリーダーなら、模範を示してリードしよう。これこそ、年月を経ても長続きするチームを構築する唯一の方法なのである。

編集部注:本稿の執筆者Mark McClain(マーク・マクレーン)氏はクラウド・エンタープライズ・セキュリティのリーダーであるSailPointの創業者兼CEO。

画像クレジット:Getty Images under a Dimitri Otis license.

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(文:Mark McClain、翻訳:Dragonfly)

透明性が高く持続可能なサプライチェーンを作るためにPortcastが約3.5億円調達

Portcastの創業者であるシャ・リンシャオ博士とニディ・グプタ氏(画像クレジット:Portcast)

多くの製造業者や運送業者にとって、物流管理は未だに手作業ばかりのプロセスである。電話やオンライン照会での出荷追跡に、エクセルのスプレッドシートへのデータ入力。自社を「次世代の物流運営システム」と称するPortcast(ポートキャスト)は、無数の情報源からデータを集め、リアルタイムで出荷物を追跡するだけでなく大きな天候の変化、潮流やパンデック関連の問題など何がその進行に影響を与えるか予測することにより、プロセスを効率化する。

同社は2021年9月上旬、Imperial Venture Fund(インペリアル・ベンチャー・ファンド)を通じたNewtown Partners(ニュートン・パートナーズ)率いるプレシリーズA 資金調達で320万ドル(約3億5000万円)を集めたと発表した。参加したのはWavemaker Partners(ウェーブメーカー・パートナーズ)、TMV、Innoport(イノポート)、SGInnovate(SGイノベート)。シンガポールに拠点を置くPortcastは、アジアとヨーロッパの顧客にサービスを提供し、調達資金の一部はさらなる市場への拡大に充てる。

共同創設者のNidhi Gupta(ニディ・グプタ)とLingxiao Xia(シャ・リンシャオ)博士は、シンガポールのEntrepreneur First(アントレプレナー・ファースト)で出会った。Portcastを立ち上げる前、最高経営責任者  のグプタ氏はDHLのアジア全域でリーダー職に就いてきた。その間に、彼女は物流部門の「非効率は実際にはこの分野において何かを作り出す機会である」ことに気づいた。機械学習の博士号を持ち、製品開発とクラウドコンピューティングの背景を有するシャ博士は「すばらしく補完的に合っていた」ことから、現在Portcastの最高技術責任者を務めている。

Portcastは、外洋貨物船を使用した世界の取引額の90%以上、航空貨物の35%を追跡し、3万本の通商路への需要を予測できるという。情報源は船の場所、進行速度と方向、向かっている港、風速、波高を示す衛星データなどの地理空間データなどがある。また、Portcastは経済様式(例えば、Brexit(ブレグジット)の英国中の港への影響、世界中のワクチン接種の開始により航空機や船の定員がどれくらい変わるか)、台風など気象事項、スエズ運河が航路をふさいだ時のような混乱にも目を向ける。

他には大規模な船会社や運送業者を含む顧客の独占的な取引データなどのデータ源がある。

「私達の挑戦は、いかにこのすべてのデータに同じ言語をしゃべらせるかです」。グプタ氏はTechCrunchに話した。「このデータはさまざまな頻度、詳細度で入ってくるため、いかにそれを組み合わせて機械がそれを理解、解釈し始めるようにするか」。

Portcastの主な解決策は、現在リアルタイムで輸送コンテナを追跡するIntelligent Container Visibility(インテリジェント・コンテナ・ビジビリティ)と、予約形態を追跡するForecasting and Demand Management(フォーキャスティング・アンド・デマンド・マネジメント)の2つである。Portcastはコンテナの追跡にIoTを利用しない。1つ1つに装置を取り付けると桁違いの費用がかかるからである。しかしハイブリッドな解決策のためにIoTプロバイダと連携している。例えば、追跡装置を1つのコンテナに設置し、その後そのデータを使用して残りの出荷物の管理に役立てているのである。

このスタートアップ企業の目標は、企業が運営効率を向上させるのに役立つ予測を行い、手作業のプロセスへの依存を減らすことである。「毎週何百個もの貨物が到着する物流業者がいます。そこでは毎日手作業でそれを確認しているのです。情報はエクセルシートに入力され、それに基づいて下流業務の計画を立てます」。と、グプタ氏はいう。

しかし新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックは「緊急のデジタル化ニーズ」を生み出し「それはサプライチェーンを費用関数から時間通りに製品を入手することの中核へと形を変えました。そのため私達はいくつかの大規模な製造業者や運送業者と連携しています」。と、彼女は付け加えた。例えば、ヨーロッパのある食品および飲料会社は台北に輸送したが、通常は輸送に70日かかる。しかし到着まで3カ月以上もかかった。Portcastはさまざまな港や船を渡り歩く積荷を追跡し、顧客が遅延の原因を理解するのを助けた。

「中断が起きそうな時を予測するだけでなく、ピンポイントで、台風や積み替えが発生しそうだからX日遅れると伝えます。そうすればトラックや倉庫チームに何台のコンテナが到着するか知らせられるため力になれるのです」。と、グプタ氏はいう。「これにより港費、コンテナの延滞料金、手作業でさまざまな会社のウェブサイトを確認しサプライチェーンに何が起こったかを見つけ出そうとするのに要する時間を削減することができます」。

Portcastがサプライチェーンの可視性を正したい他の物流テックスタートアップ企業より勝る点は、船が通常複数の港を通り、熱帯暴風雨や台風などの気象事象を頻繁に回避しなければならないアジア太平洋地域で発売したことにある。シンガポールとマレーシア間(例えば)の航海を短くするためにPortcastが開発した技術は、アジアとヨーロッパ、またはアジアと米国などを結ぶ大陸間航路にも適用される。

「当社の技術は世界規模で、この市場の他のプレイヤーとの競争力を持ちます」。とグプタ氏は語った。「他に当社を差別化しているのは、製造業者とだけでなく、船会社、物流会社、貨物航空会社とも提携し、それによりネットワーク効果を作り出している点です。海上運送と航空運送で起きていることは非常に強い相乗効果があり、それを基に私達はその業界の型を理解することができ、当社のプラットフォームに移ってくる他社のためのレバレッジを生んでいる。

Portcastには予測型AIから処方型AIを含むよう移行する計画がある。現在、このプラットフォームは企業に遅延の原因を伝えることができているが、処方型AIは自動提案を行うこともできる。例えば、顧客にどの港が速いか、中断を回避するのに役立つ他の船や輸送方法、どうやって対応量を最適化するかを伝えることができる。

また、同社は年末までにOrder Visiblity(オーダー・ビジビリティ)を発売することも計画している。これは特定の品目を入れたコンテナを追跡する機能である。疲弊したサプライチェーンにより多くのさまざまな製品の消費者価格は上昇している。企業が特定のSKUをリアルタイムで追跡できるようにすることで、Portcastは物がもっと早く届くのを助けるだけでなく、各輸送で排出されるCO2量も可視化させることができる。

「カーボンオフセットやカーボントレードは、自分が実際にいくら支出しているか可視化できる場合にのみ生じます。そこに私達は関与することができます」とグプタ氏はいう。「例えば、早く到着すれば、船会社が船を減速させバンカー重油のような燃料費用を節約する機会となり、膨大な費用節約となるだけでなく、CO2排出量も削減することになります」。

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(文:Catherine Shu、翻訳:Dragonfly)

インドのアグリテック大手DeHaatが約131億円調達、世界第2の生産量を誇るインド農業に注目が集まる

インドの農家にオンラインで総合的な農業サービスを提供するDeHaatが、インドのアグリテックスタートアップとしてはこれまでで最大となる資金調達ラウンドで1億1500万ドル(約131億円)を調達した。インドでは年間1兆ドル(約113兆8350億円)の小売支出のうち、その3分の2を農産物が占める。


創業10年のスタートアップのシリーズD投資ラウンドは、SofinaとLightrockが共同でリードした。他に、Temasekと現存の投資家であるProsus Ventures、RTP Global、Sequoia Capital India、そしてFMOがこのラウンドに参加した。これで同社のこれまでの資金調達総額は1億6100万ドル(約183億2000万円)になるが、この内1億5700万ドル(約178億7000万円)はここ30カ月のうちに調達している。

DeHaatはヒンドゥー語で「村」という意味で、同社はインドやその他の国の農家が直面する3つの大きな問題である「運転資金」「種子や肥料など農業資材の安定入手」「収穫物の安定市場」を解決しようとしている。インドの農家の収穫量のわずか3分の1しか大市場には届けられていない。

グルグラムとパトナーに本社を置く同社は、農業資材の販売と、機関投資家、そしてバイヤーの三者の役割を1つのブランドに集約し、また3000ほどの零細企業家に集荷や配達のサービスを提供している。

同社は、農家と積極的な関わりを持ちながらヘルプラインを提供し、また社名と同名のAndroidアプリを複数言語対応で提供している。

SofinaのプリンシパルYana Kachurina(ヤナ・カチュリナ)氏は「総合サービスというユニークな特徴とフィジカル、デジタル両方の市場開拓努力で、同社はインド農業における重要なプレイヤーに育つ路線に確実乗っていると私たちは確信している」と述べている。

DeHaatによると同社は、ビハール州とウッタル・プラデーシュ州、ジャールカンド州、オリッサ州の65万人以上の農家にサービスを提供し、また同社のプラットフォーム上では850あまりのユニークなアグリビジネスを提供している。

同社の共同創業者でCEOのShashank Kumar(シャシャンク・クマール)氏はTechCrunchインタビューに対して、同社は今回の新たな資金は「インドの主要な農業クラスターすべて」に同社サービスを拡大するために投入すると語った。

彼によると、DeHaatはここ7カ月間で5倍に成長した。

これまでほとんど無視されていたインド農業に最近では多くのスタートアップや大手テクノロジー企業が群がり、中国に次ぐ世界第2の生産量を誇る果物や野菜の、多様な市場化方式を探求している。世界4大会計事務所の1つであるEYは、インドのアグリテック産業には2025年の売上が約240億ドル(約2兆7311億円)に達するポテンシャルがある、としている。

Amazonは最近、農家が作物を決めるために役立つリアルタイムのアドバイスと情報を提供し始めている。またMicrosoftは、100の村と協働してAIをデプロイし、プラットフォームの構築を目指している。

CEOのクマール氏は「私たちのチームは850名を超える深い専門知識のあるプロフェッショナルの大部隊になりました。彼らの専門分野は成長、戦略、サプライチェーン、農業科学と多岐にわたっています」という。人材募集はまだまだこれからも続く。

画像クレジット:DeHaat

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(文:Manish Singh、翻訳:Hiroshi Iwatani)