【コラム】ソーシャルメディアとマッチングアプリが抱える深刻な身元確認問題

ソーシャルメディアとマッチングアプリはそろそろ、自分たちが蒔いてきた種を刈り取り、各プラットフォームから詐欺、偽装、デマ情報を一掃すべきだ。

その誕生当初、ソーシャルメディアやマッチングアプリは、インターネットの世界の小さな一角を占めるにすぎず、ユーザーはわずかひと握りだった。それが今では、Facebook(フェイスブック)やTwitter(ツイッター)が、選挙に影響を及ぼしたり、ワクチン接種の促進を後押しまたは阻害したり、市場を動かしたりするほどに巨大な存在になっている。

また、何百万もの人々が「生涯の」伴侶と出会うためにTinder(ティンダー)やBumble(バンブル)などのマッチングアプリを利用しており、そのユーザー数はFacebookやTwitterに迫る勢いだ。

しかし、お祭り騒ぎはここまでだ。信用や安全よりも利益が優先されてきた結果、なりすまし犯罪やオンライン詐欺が入り込む隙が作り出されてしまった。

今や、BumbleやTinderで友達が「キャットフィッシング(なりすましロマンス詐欺)」に遭ったという話も、家族の誰かがTwitterやFacebookでオンライン詐欺の被害を受けたという話も、日常茶飯事である。悪意のあるネット犯罪者が個人情報を盗んで、あるいはなりすましの個人情報を新たに作って、詐欺を行ったり、政治的または商業的な利益のために偽情報を拡散したり、ヘイトスピーチを広めたりした、というニュースは毎日、耳に入ってくる。

ほとんどの業界では、ユーザーによるなりすまし詐欺の実害を被るのは当事者である企業だけで済む。しかし、マッチングアプリやソーシャルメディアのプラットフォームで信用が崩壊すると、その被害はユーザーと社会全体に及ぶ。そして、個人に及ぶ金銭的、心理的、時には身体的な被害は「リアルな」ものだ。

このような詐欺事件の増加を食い止める、あるいは撲滅する責任を果たしてきたのは誰だろうか。何らかの措置を講じてきたと主張するプラットフォームもあるが、各プラットフォームがその責任を果たしてこなかったことは明白だ。

Facebookは、2020年10月から12月の期間に、13億件の偽アカウントを摘発したが、これは十分というには程遠い数だ。実際のところ、ソーシャルメディアやマッチングアプリは現在、最低限の詐欺防止策しか講じていない。簡単なAIと人間のモデレーターは確かに有用だが、膨大な数のユーザーには到底追い付かない。

Facebookによると、3万5000人のモデレーターが同プラットフォームのコンテンツをチェックしているという。確かに大勢だ。しかし、概算すると1人のモデレーターが8万2000件のアカウントを担当していることになる。さらに、ディープフェイクの使用や合成ID詐欺犯罪の手法の巧妙化など、悪意のあるネット犯罪者は手口を日ごとに進化させているだけではなく、その規模も広げつづけている。経験豊富なユーザーでさえもそのような詐欺行為に引っかかってしまうほどだ。

ソーシャルメディアやマッチングアプリのプラットフォームは、この問題と闘う点で腰が思いと批判されてきた。しかし、実際のところどのように闘えるのだろうか。

なりすましロマンス詐欺の被害は深刻

次のような場面を想像するのは難しくない。マッチングアプリで誰かと出会って連絡を取り始める。その相手がいう内容や質問してくる内容に、怪しさは感じられない。その関係が「リアル」だと感じ始め、親しみを覚え始める。その感情は気づかないうちにエスカレートして、警戒心は完全に解け、危険信号に対して鈍感になり、やがて恋愛感情に発展する。

このようにして新たに出会った特別な人とあなたは、ついに直接会う計画を立てる。するとその相手は、会うために旅行するお金がないという。そこであなたはその人を信じて、愛情を込めて送金するのだが、間もなくその人からの連絡が一切途絶えてしまう。

なりすましロマンス詐欺事件の中には、被害が最小限にとどまり自然に解決するものもあるが、上記のように金銭の搾取や犯罪行為につながる事例もある。米国連邦取引委員会によると、ロマンス詐欺の被害額は2020年に過去最高の3億400万ドル(約348億8000万円)を記録したという。

しかし、これは過少に報告されている結果の数字であり、実際の被害額はこれよりはるかに大きい可能性が高く「グレーゾーン」やネット物乞いを含めるとさらに膨れ上がるだろう。それなのに、ほとんどのマッチングアプリは身元を確認する術を提供していない。Tinderなど一部の人気マッチングアプリは、身元確認機能をオプションとして提供しているが、他のマッチングアプリはその類いのものを一切提供していない。ユーザー獲得の妨げになるようなことはしたくないのだろう。

しかし、オプションとして身元確認機能を追加しても、単に上っ面をなでるような効果しかない。マッチングアプリ各社は、匿名IDや偽IDを使ったユーザーの加入を防ぐために、もっと対策を講じる必要がある。また、そのようなユーザーが社会と他ユーザーに及ぼす被害の重大さを考えると、マッチングアプリ各社が防止策を講じることを、私たちが社会として要求すべきだ。

身元確認はソーシャルメディアにおいて両刃の剣

ロマンス詐欺はなにもマッチングアプリに限ったことではない。実際のところ、ロマンス詐欺の3分の1はソーシャルメディアから始まる。しかし、ソーシャルネットワークサービスにおいて身元確認を行うべき理由は他にもたくさんある。ユーザーは、自分が本物のOprah Winfrey(オプラ・ウィンフリー)やAriana Grande(アリアナ・グランデ)のアカウントを見ているのか、それともパロディアカウントを見ているのかを知りたいと思うかもしれない。オプラ・ウィンフリーやアリアナ・グランデ本人たちも、本物のアカウントとパロディアカウントとの違いがはっきり分かるようにして欲しいと思うだろう。

別の重要な点は、ソーシャルネットワーク各社は身元確認を行うことによってネット荒らしの加害者を抑制すべきだという世論が高まっていることだ。英国では、同国のリアリティー番組人気タレントKatie Price(ケイティー・プライス)が主導して始まった「#TrackaTroll(#トロール行為を取り締まる)」運動が勢いを増している。プライスがHarvey’s Law(ハーヴェイ法)の制定を求めて英国議会に提出した嘆願書には、およそ70万人が署名した。ハーヴェイとは、匿名の加害者からひどいネット荒らしの被害を受けてきた、彼女の息子の名前だ。

しかし、ソーシャルネットワークを利用する際の身元確認を義務化することについては、強く反対する意見も多い。身元確認を行うと、家庭内暴力から逃げている人や、政治的な反対勢力を見つけ出して危害を加えようとする抑圧的な政権下の国にいる反体制派の身を危険にさらすことになる、というのが主な反対理由だ。さらに、政治やワクチンに関する偽情報を拡散しようとする多くの人々は、自身の存在を顕示して、自分の意見に耳を傾ける人を集め、自分が何者なのかを世の中に認知させたいと考えているため、身元確認を行っても彼らを抑止することはできないだろう。

現在、FacebookとTwitterは、正規アカウントに青い認証済みバッジを表示させる制度に「認証申請」プロセスを導入しているが、確実な措置というには程遠い。Twitterは最近、「認証申請」プログラムを一時的に停止させた。いくつもの偽アカウントを正規アカウントとして誤認証してしまったためだ

Facebookはもっと進んだ措置を講じてきた。かなり前から、特定の場合、例えばユーザーが自分のアカウントからロックアウトされたときなどに、身元確認を行ってきた。また、投稿されたコンテンツの性質、言葉遣い、画像に応じて、投稿者のブロック、認証の一時停止、人間のモデレーターによるレビューを行っている。

身元確認とプライバシー保護を両立させることの難しさ

悪意のあるネット犯罪者がマッチングアプリやソーシャルメディアで偽のIDを作って詐欺行為を働いたり、他の人に危害を加えたりすると、それらのプラットフォームに対する社会の信頼は損なわれ、プラットフォームの収益にも悪影響が及ぶ。ソーシャルメディアのプラットフォーム各社は今、ユーザー数を最大限まで伸ばすことと、ユーザーのプライバシーを保護することを両立させるために、あるいは、より厳しくなる規制とユーザーからの信頼失墜に直面して、日々格闘している。

盗難やハッキングによる個人情報の悪用を防ぐことは非常に重要である。もしTwitterやFacebookで誰かが自分になりすましてヘイトスピーチを拡散させたらどうなるだろう。自分はまったく関与していないのに、職を失うかもしれないし、もっと深刻な被害を受ける可能性もある。

ソーシャルメディアプラットフォーム各社は、ユーザーと自社のブランドを守るためにどのような選択をするのだろうか。これまで、プラットフォーム各社の決断は、テクノロジーよりも、ポリシーや利益の保護を中心として下されてきた。プライバシーに関する懸念に向き合って信頼を築くための対策と、利益確保の必要性とのバランスを取ることは、彼らが解決すべき戦略上の大きなジレンマだ。いずれにしても、ユーザーにとって安全な場所を作り出す義務はプラットフォーム各社にある。

ソーシャルメディアやマッチングアプリのプラットフォームは、ユーザーを詐欺や悪意のあるネット犯罪者から守るために、もっと大きな責任を担うべきだ。

編集部注:本稿の執筆者Rick Song(リック・ソング)氏はPersonaの共同設立者兼CEO。

画像クレジット:Andriy Onufriyenko / Getty Images

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(文:Rick Song、翻訳:Dragonfly)

【コラム】ソーシャルメディアの人々をWeb3へと誘う5つのNFTトレンド

Twitter(ツイッター)に対する批判が高まる中、大半のテック創業者とVCたちは、Web 2.0かWeb3のどちらかを支持している。

Web3の支持者は、Web3がインターネットの未来であり、今後数年でブロックチェーンベースの製品がWeb 2.0に完全に取って代わると信じている。

Web 2.0の断固たる支持者は、Web3は利益を出すことを目論むさまざまな暗号技術によって祭り上げられた誇大広告に過ぎず、ブロックチェーン技術の応用範囲は基本的に限られていると主張している。

筆者は、Web 2.0アプリを10年以上に渡って構築し、やはり10年以上に渡って暗号技術に投資してきた創業者として、最もおもしろいビジネスチャンスは、Web 2.0とWeb3の交差部分に存在すると思っている。

ブロックチェーンの消費者市場における真の潜在性は、Web 2.0とWeb3の併合によって解き放たれる。

エネルギー、人材、リソースがWeb3に注入され、インターネット初期が思い起こされるのはワクワクする。インターネット初期の状況を思い出すくらいシリコンバレーに長くいる人たちにとって、現在の状況と当時の状況の類似性は否定できない。

しかし今回は、成長率が非常に高い。Web3の専門家はこの事実をWeb3がインターネットの未来であり、Web 2.0はまもなく消滅するという議論を支える事実として指摘している。

しかし、インターネットの初期と現在とでは、1つ重要な違いがある。Web 1.0より前は、インターネットは存在していなかった。我々はみんなアナログの生活を送っていた。普及当初のインターネットは比較的退屈な存在と戦っていた。フリーポルノ、チャットルーム、ゲーム、音楽、eメール、動画などだ。指先を動かすだけで世界の情報が手に入るようになった。土曜日にわざわざ大ヒット映画を観に行くこともなくなった。決してフェアな戦いではなかった。

自分では絶対に履かないとわかっているスニーカーを2000ドル(約23万円)で買ってしまった。このスニーカーはNFTとしてのみ存在するため、履けないのだ。狂気の沙汰かもしれないが、昔親指が痛くなるヒールにお金を使っていたのと大差ないような気がする。

Web3は新しい段階に入ってきている。現代人は強く惹き付けられるデジタル製品に夢中になっている。平均的な消費者がTikTok(ティックトック)をスクロールするのを止めないのは、分散化の時代の先触れとなりたいからでも、クリエーターエコノミーを支援したいからでも、インフレーションを抑制したいと考えているからでもない。彼らはそんなことはどうでもよいのだ。それに彼らは、BAYC(Bored Ape Yacht Club)CryptoPunksを買うお金もない。

平均的なインターネットユーザーが気にしているのは、ソーシャルメディアで自分がどのように見えているかである。これが橋渡し役となる。そして、この橋渡し役の鍵となるのがNFTである。

ソーシャルメディアのオーディエンスをまとめてWeb3に移行させる5つのNFTトレンドを以下に示す。

NFTの検証

懐疑的な人は、NFTは右クリックするだけで基盤となるファイルを保存できるため、間抜けだという。しかし、これは一時的な問題だ。近い将来、すべての大手ソーシャルプラットフォームはNFT検証を実装するだろう。これにより、ウォレットを接続して、自分のプロファイルの検証済NFTを表示できるようになる。と同時に、指紋テクノロジーによって、各プラットフォームは、盗まれたファイルを容易に検出し、削除できるようになる。

TikTokユーザーが自分の投稿で一意の検証済NFTを表示して使用できるようになると、ゲームは完全に様変わりすることになる。というのは、NFTを購入して配信することのソーシャル的な価値が急激に向上するからだ。

サイドチェーン

Polygon(ポリゴン)などのサイドチェーンが普及してくると、NFTの価格は下がってくる。輸送費がかからないため、開発者はNFTにより高い対話性と構成可能性を組み込むことができ、その結果、本質的にNFTのソーシャル性を高めることができる。

ポケモンGOをブロックチェーン上で運用して、各ポケモンが交換したり売ったりできるNFTになっている状況を想像してみて欲しい。獲得した各ポケモンは独自の特徴を備えており、さまざまな場所で課題をクリアすることでポケモンを独自に進化させることができる。ポケモンのレベルが向上すると、そのパワーがオンチェーンでアップデートされる。ゲームを進めていくと、暗号化トークンを獲得できる。このトークンはゲームの外の世界でも価値を持っている。

音楽

2021年のNFTブームでは主に視覚的なアートが中心だったが、次の段階では、音楽が対象になる。音楽NFTは最終的にはアートよりもずっと大規模なものになると思われる。収集するものが物理的なアートであれNFTであれ、コレクターの行為を促す強い欲求は同じだ。つまり、自身の芸術的センスを相手に表現したいという欲求、個人グループを問わず自身のアイデンティティを表現したいという欲求、そして場合によっては利益を上げたいという欲求だ。

初期のNFTブームには少なからず投機的な動機があったものの、自己表現とアイデンティティを取り巻く衝動こそがアート収集を促すより基本的な原動力であると思う。そして、人が自身の特徴やアイデンティティを表現する方法として最も普及している方法の1つとして音楽がある。

TikTokミュージック動画を始めて以来、ミュージックトラックはTikTok上で共有される動画の主要コンポーネントになっている。だが、現在使用できるミュージックはごく一般的なものだ。みんな同じ曲を使うことしかできない。

お気に入りのアーティストが60秒の音楽トラックをNFTとして数量限定でリリースするようになったらどうだろう。あなたはその1つを購入して、クールなTikTokを作る。これが口コミでまたたく間に広がる。数百万人の人たちが突如としてその曲を使って独自のTikTokを作りたいと考えるようになる。しかし、使える数は100コピーだけ。あなたには毎日、その曲を購入したいというオファーがくる。販売するか手元に置いておくかはあなた次第。

ファッション

Web 2.0時代幕開けの頃、筆者は20代だったが、自分の収入をすべてファッションに使っていたものだ。おしゃれなジーンズ、かかとの高いヒール、サングラス、ハンドバッグ。良いものを身に付けたいという欲求は飽くことを知らなかった。

しかし、この10年でソーシャルな活動の大半がオンラインにシフトし、筆者のファッション支出も減少した。最近本当に欲しいものといえば、エクセサイズ関連商品を除けば、カラフルなZoomのトップくらいだ。おしゃれな洋服を購入する楽しみはすっかり薄れてしまった。

ところが先日、筆者は自分でも驚くようなことをしてしまった。自分では絶対に履かないとわかっているスニーカーを2000ドルで買ってしまったのだ。このスニーカーはNFTとしてのみ存在するため、履けないのだ。暗号資産の泥沼にはまり込んだことない人に、このような買い物をする理由を説明するのは難しいが、ほとんど狂気の沙汰であることは自分でもわかっている。だけど、昔親指が痛くなるヒールにお金を使っていたのと大差ないとは思うのだが。

ソーシャルメディアのオーディエンスがデジタル版の自己を着飾るために使うデジタル製品に大金を使う時代がやってきたようだ。既存の代表的なNFTといえば大半がゲームやアバター関連だが、大量のオーディエンスに変革をもたらす魅力的な使用例としてARフィルターがある。

Kim Kardashian(キム・カーダシアン)がカスタムのARフィルターをリリースしたらどうだろう。フェイスリフト、リップフィルター、メークアップ、ヘアスタイル、衣服、宝石などだ。どれもキム独自のものだ。これらを購入すれば、あなただけがそのフィルターで自分のTikTok動画を飾ることができる。飽きたら転売すればよい。キム、あなたのホワイトリストに私を追加してくれる?

ダイナミックなアバター

はいはい、わかってますよ。プロフィール画像を気味の悪い類人猿に変えるなんて何を考えているのかわからない、ですよね。実は私もBored Ape(ボアード・エイプ)のデジタルアートを持っている。ただし、自分のプロフィール画像に使う気にはならならず、代わりにWorld of Women(ワールドオブウーマン)の画像を使っている。どうして仕事用の顔写真の代わりに自分になんとなく似ているアルゴリズムで生成された漫画の画像を使うのかって?楽しいからだ。それに写真ではなかなか表現できない私の性格の一面を表すことができる。

ただ、私のプロフィール画像はちょっと古くさい感じになってしまった。少し動く画像だったらよかったのに。

ダイナミックさ、パーソナライゼーション、動きがNFTアバターにも取り入れられるようになってきた。セルフィーを撮ると、AIが理想のあなたに近いユニークなカスタムの3Dアバターを生成してくれる。Bitmojiに似ているが、もっと良い。人物の表情やポーズ、衣服、アクセサリーを更新することもできるし、人物を踊らせることもできる。キーボードを打つだけで自分の声でしゃべらせることもできる。これを使えば、自分の印象をうまく伝えているという実感が持てる魅力的なTikTokの投稿を簡単に作れるだろう。演技力や撮影のスキルを磨くための時間は最小限で済み、その分、自分の伝えたいメッセージの作成に時間を費やすことができる。

ダイナミックなアバターはソーシャルメディア上での自己表現を民主化する機会になるだろう。その結果、より多くのクリエーターたちが自身を表現できるようになるだろう。

Facebook(フェイスブック)が登場した当初は、ばかげていると思ったが、楽しかった。数日おきにログオンすると、親友の誕生日を知らせてくれたりするし、友人の派手なプロフィール画像につっこみを入れたりしていたものだ。その後、フィード、モバイル写真とアルゴリズム、インタグラムモデル、ラテ、完全にフィルターされた生活がやってくる。その過程で、楽しさは薄れソーシャル奴隷のようになってしまう。ほとんど知らない人たちの気分の悪くなる記事をスクロールして読んでは、お返しとばかりに醜悪な投稿をする。こんなはずじゃなかったのに。

Zuckerberg(ザッカーバーグ)氏がMeta(メタ)についてのビジョンを語ったとき、みんな軽蔑の目で見ている感じだった。「ソーシャルメディアで私達の生活を台無しにした上に、今度は残された最後の物理的なつながりまで消滅させて、Matrix(マトリックス)に出てくる植物人間のようにしてしまうつもりか」と誰もが叫びたい気持ちだった。

とはいえ、賛否両論はあると思うが、私達はすでにメタバースの世界へと歩みを進めており、それは止められない。生活のバーチャル化は進む一方だ。Web3では、バーチャル世界での豊かな経験が実現される。これが空虚感の少ない、少しは人間らしいものであってくれることを願うばかりだ。

NFTおよびWeb3がもたらすあらゆるものによって、人との交流が昔のように楽しいものになるような仮想現実が創造されることを楽しみにしたいと思う。

編集部注:本稿の執筆者Prerna Gupta(プレーナ・グプタ)氏は、HookedやSmuleといったモバイルエンターテイメントアプリを立ち上げ、10億人以上の人々にリーチしてきた。現在、NFT領域でステルスプロジェクトに取り組んでいる。

画像クレジット:Iryna+ mago / Getty Images

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(文:Prerna Gupta、翻訳:Dragonfly)

【コラム】ソーシャルメディアの人々をWeb3へと誘う5つのNFTトレンド

Twitter(ツイッター)に対する批判が高まる中、大半のテック創業者とVCたちは、Web 2.0かWeb3のどちらかを支持している。

Web3の支持者は、Web3がインターネットの未来であり、今後数年でブロックチェーンベースの製品がWeb 2.0に完全に取って代わると信じている。

Web 2.0の断固たる支持者は、Web3は利益を出すことを目論むさまざまな暗号技術によって祭り上げられた誇大広告に過ぎず、ブロックチェーン技術の応用範囲は基本的に限られていると主張している。

筆者は、Web 2.0アプリを10年以上に渡って構築し、やはり10年以上に渡って暗号技術に投資してきた創業者として、最もおもしろいビジネスチャンスは、Web 2.0とWeb3の交差部分に存在すると思っている。

ブロックチェーンの消費者市場における真の潜在性は、Web 2.0とWeb3の併合によって解き放たれる。

エネルギー、人材、リソースがWeb3に注入され、インターネット初期が思い起こされるのはワクワクする。インターネット初期の状況を思い出すくらいシリコンバレーに長くいる人たちにとって、現在の状況と当時の状況の類似性は否定できない。

しかし今回は、成長率が非常に高い。Web3の専門家はこの事実をWeb3がインターネットの未来であり、Web 2.0はまもなく消滅するという議論を支える事実として指摘している。

しかし、インターネットの初期と現在とでは、1つ重要な違いがある。Web 1.0より前は、インターネットは存在していなかった。我々はみんなアナログの生活を送っていた。普及当初のインターネットは比較的退屈な存在と戦っていた。フリーポルノ、チャットルーム、ゲーム、音楽、eメール、動画などだ。指先を動かすだけで世界の情報が手に入るようになった。土曜日にわざわざ大ヒット映画を観に行くこともなくなった。決してフェアな戦いではなかった。

自分では絶対に履かないとわかっているスニーカーを2000ドル(約23万円)で買ってしまった。このスニーカーはNFTとしてのみ存在するため、履けないのだ。狂気の沙汰かもしれないが、昔親指が痛くなるヒールにお金を使っていたのと大差ないような気がする。

Web3は新しい段階に入ってきている。現代人は強く惹き付けられるデジタル製品に夢中になっている。平均的な消費者がTikTok(ティックトック)をスクロールするのを止めないのは、分散化の時代の先触れとなりたいからでも、クリエーターエコノミーを支援したいからでも、インフレーションを抑制したいと考えているからでもない。彼らはそんなことはどうでもよいのだ。それに彼らは、BAYC(Bored Ape Yacht Club)CryptoPunksを買うお金もない。

平均的なインターネットユーザーが気にしているのは、ソーシャルメディアで自分がどのように見えているかである。これが橋渡し役となる。そして、この橋渡し役の鍵となるのがNFTである。

ソーシャルメディアのオーディエンスをまとめてWeb3に移行させる5つのNFTトレンドを以下に示す。

NFTの検証

懐疑的な人は、NFTは右クリックするだけで基盤となるファイルを保存できるため、間抜けだという。しかし、これは一時的な問題だ。近い将来、すべての大手ソーシャルプラットフォームはNFT検証を実装するだろう。これにより、ウォレットを接続して、自分のプロファイルの検証済NFTを表示できるようになる。と同時に、指紋テクノロジーによって、各プラットフォームは、盗まれたファイルを容易に検出し、削除できるようになる。

TikTokユーザーが自分の投稿で一意の検証済NFTを表示して使用できるようになると、ゲームは完全に様変わりすることになる。というのは、NFTを購入して配信することのソーシャル的な価値が急激に向上するからだ。

サイドチェーン

Polygon(ポリゴン)などのサイドチェーンが普及してくると、NFTの価格は下がってくる。輸送費がかからないため、開発者はNFTにより高い対話性と構成可能性を組み込むことができ、その結果、本質的にNFTのソーシャル性を高めることができる。

ポケモンGOをブロックチェーン上で運用して、各ポケモンが交換したり売ったりできるNFTになっている状況を想像してみて欲しい。獲得した各ポケモンは独自の特徴を備えており、さまざまな場所で課題をクリアすることでポケモンを独自に進化させることができる。ポケモンのレベルが向上すると、そのパワーがオンチェーンでアップデートされる。ゲームを進めていくと、暗号化トークンを獲得できる。このトークンはゲームの外の世界でも価値を持っている。

音楽

2021年のNFTブームでは主に視覚的なアートが中心だったが、次の段階では、音楽が対象になる。音楽NFTは最終的にはアートよりもずっと大規模なものになると思われる。収集するものが物理的なアートであれNFTであれ、コレクターの行為を促す強い欲求は同じだ。つまり、自身の芸術的センスを相手に表現したいという欲求、個人グループを問わず自身のアイデンティティを表現したいという欲求、そして場合によっては利益を上げたいという欲求だ。

初期のNFTブームには少なからず投機的な動機があったものの、自己表現とアイデンティティを取り巻く衝動こそがアート収集を促すより基本的な原動力であると思う。そして、人が自身の特徴やアイデンティティを表現する方法として最も普及している方法の1つとして音楽がある。

TikTokミュージック動画を始めて以来、ミュージックトラックはTikTok上で共有される動画の主要コンポーネントになっている。だが、現在使用できるミュージックはごく一般的なものだ。みんな同じ曲を使うことしかできない。

お気に入りのアーティストが60秒の音楽トラックをNFTとして数量限定でリリースするようになったらどうだろう。あなたはその1つを購入して、クールなTikTokを作る。これが口コミでまたたく間に広がる。数百万人の人たちが突如としてその曲を使って独自のTikTokを作りたいと考えるようになる。しかし、使える数は100コピーだけ。あなたには毎日、その曲を購入したいというオファーがくる。販売するか手元に置いておくかはあなた次第。

ファッション

Web 2.0時代幕開けの頃、筆者は20代だったが、自分の収入をすべてファッションに使っていたものだ。おしゃれなジーンズ、かかとの高いヒール、サングラス、ハンドバッグ。良いものを身に付けたいという欲求は飽くことを知らなかった。

しかし、この10年でソーシャルな活動の大半がオンラインにシフトし、筆者のファッション支出も減少した。最近本当に欲しいものといえば、エクセサイズ関連商品を除けば、カラフルなZoomのトップくらいだ。おしゃれな洋服を購入する楽しみはすっかり薄れてしまった。

ところが先日、筆者は自分でも驚くようなことをしてしまった。自分では絶対に履かないとわかっているスニーカーを2000ドルで買ってしまったのだ。このスニーカーはNFTとしてのみ存在するため、履けないのだ。暗号資産の泥沼にはまり込んだことない人に、このような買い物をする理由を説明するのは難しいが、ほとんど狂気の沙汰であることは自分でもわかっている。だけど、昔親指が痛くなるヒールにお金を使っていたのと大差ないとは思うのだが。

ソーシャルメディアのオーディエンスがデジタル版の自己を着飾るために使うデジタル製品に大金を使う時代がやってきたようだ。既存の代表的なNFTといえば大半がゲームやアバター関連だが、大量のオーディエンスに変革をもたらす魅力的な使用例としてARフィルターがある。

Kim Kardashian(キム・カーダシアン)がカスタムのARフィルターをリリースしたらどうだろう。フェイスリフト、リップフィルター、メークアップ、ヘアスタイル、衣服、宝石などだ。どれもキム独自のものだ。これらを購入すれば、あなただけがそのフィルターで自分のTikTok動画を飾ることができる。飽きたら転売すればよい。キム、あなたのホワイトリストに私を追加してくれる?

ダイナミックなアバター

はいはい、わかってますよ。プロフィール画像を気味の悪い類人猿に変えるなんて何を考えているのかわからない、ですよね。実は私もBored Ape(ボアード・エイプ)のデジタルアートを持っている。ただし、自分のプロフィール画像に使う気にはならならず、代わりにWorld of Women(ワールドオブウーマン)の画像を使っている。どうして仕事用の顔写真の代わりに自分になんとなく似ているアルゴリズムで生成された漫画の画像を使うのかって?楽しいからだ。それに写真ではなかなか表現できない私の性格の一面を表すことができる。

ただ、私のプロフィール画像はちょっと古くさい感じになってしまった。少し動く画像だったらよかったのに。

ダイナミックさ、パーソナライゼーション、動きがNFTアバターにも取り入れられるようになってきた。セルフィーを撮ると、AIが理想のあなたに近いユニークなカスタムの3Dアバターを生成してくれる。Bitmojiに似ているが、もっと良い。人物の表情やポーズ、衣服、アクセサリーを更新することもできるし、人物を踊らせることもできる。キーボードを打つだけで自分の声でしゃべらせることもできる。これを使えば、自分の印象をうまく伝えているという実感が持てる魅力的なTikTokの投稿を簡単に作れるだろう。演技力や撮影のスキルを磨くための時間は最小限で済み、その分、自分の伝えたいメッセージの作成に時間を費やすことができる。

ダイナミックなアバターはソーシャルメディア上での自己表現を民主化する機会になるだろう。その結果、より多くのクリエーターたちが自身を表現できるようになるだろう。

Facebook(フェイスブック)が登場した当初は、ばかげていると思ったが、楽しかった。数日おきにログオンすると、親友の誕生日を知らせてくれたりするし、友人の派手なプロフィール画像につっこみを入れたりしていたものだ。その後、フィード、モバイル写真とアルゴリズム、インタグラムモデル、ラテ、完全にフィルターされた生活がやってくる。その過程で、楽しさは薄れソーシャル奴隷のようになってしまう。ほとんど知らない人たちの気分の悪くなる記事をスクロールして読んでは、お返しとばかりに醜悪な投稿をする。こんなはずじゃなかったのに。

Zuckerberg(ザッカーバーグ)氏がMeta(メタ)についてのビジョンを語ったとき、みんな軽蔑の目で見ている感じだった。「ソーシャルメディアで私達の生活を台無しにした上に、今度は残された最後の物理的なつながりまで消滅させて、Matrix(マトリックス)に出てくる植物人間のようにしてしまうつもりか」と誰もが叫びたい気持ちだった。

とはいえ、賛否両論はあると思うが、私達はすでにメタバースの世界へと歩みを進めており、それは止められない。生活のバーチャル化は進む一方だ。Web3では、バーチャル世界での豊かな経験が実現される。これが空虚感の少ない、少しは人間らしいものであってくれることを願うばかりだ。

NFTおよびWeb3がもたらすあらゆるものによって、人との交流が昔のように楽しいものになるような仮想現実が創造されることを楽しみにしたいと思う。

編集部注:本稿の執筆者Prerna Gupta(プレーナ・グプタ)氏は、HookedやSmuleといったモバイルエンターテイメントアプリを立ち上げ、10億人以上の人々にリーチしてきた。現在、NFT領域でステルスプロジェクトに取り組んでいる。

画像クレジット:Iryna+ mago / Getty Images

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(文:Prerna Gupta、翻訳:Dragonfly)

【コラム】快適なメタバースの実現に欠かせないバーチャルライフの基本的構成要素

Meta(メタ)のミッションは、仕事、ソーシャルメディア、ゲームなどの異なる環境をシームレスに接続し、人々が仮想空間で実質的に生活して働くことができるようにすることだ。

これは明らかに、私たちのネットワークに重大かつ持続的な影響を与えるだろう。単に不具合なく絶えず接続されている必要があるというだけではなく、完全に没入型のコンテンツを4Kや8Kでシームレスに、低遅延かつ最小のラグでストリーミングすることが求められているのだ。

再起動、OSやアプリケーションのロード時間、ネットワークの混雑など、我々がシームレスな仮想環境にいると感じられなくなるような、あらゆる要素に気を散らされることなく、ある体験から別の体験へと移ることができなければならない。

これらを実現することを考えると、バーチャルライフとは火星に移住するのと同じくらい難しいことのように思える。

しかし、新しいバーチャルワールドへの旅を、摩擦のないものにすることは可能だ。そのためには、バーチャルライフに必要な基本的な構成要素を、確実に積み上げる必要がある。

今の私たちには、メタバースを快適に住める場所にして、バーチャルな自分たちが単に生存できるだけでなく繁栄できる場所にするチャンスがあるのだ。

帯域幅が重要

メタバースを大規模に展開するには、多くの帯域幅が必要だ。水が生命体の構成要素であるように、帯域幅なしに我々がメタバースで機能することはできない。メタバースでは、膨大な帯域幅をむさぼるアプリケーションのさまざまな要求に応えることができる高性能な接続性が必要だ。

そのような帯域幅が広く普及し、かつ手頃な価格で利用できなければならない。今のところ十分なサービスを受けていない、あるいは接続されていないコミュニティをサポートするためには、そのことが必要だ。仮想世界のビジョンは、誰もが平等に創造と探求の機会を得られることが中核として語られることが多い。しかし、メタバースでそれを実現するためには、まず現実の世界での接続性を確保する必要がある。

低遅延は空気のように必須

帯域幅は1つの重要な要件だが、相手のアバターが反応するまで数秒、あるいはそれ以上の時間がかかるようでは、メタライフは一気に苛立たしい不快な場所になってしまう。我々はすでに、スポーツのライブストリーミングやオンラインゲームで遅延にイライラすることがあるが、仮想世界に完全に没入しようとすると、この問題はさらに悪化する。

リアルタイムな反応が求められるネットワークでは、通信の遅延を減らし、信頼性を向上させるエッジコンピューティングのような技術がますます重要になってくるだろう。

仮想ハードウェア:メタバースのインフラストラクチャ

誰もが経験したことがあるはずだ。ハードウェアが壊れ、それを修理しなければならない。その間、我々はそのハードウェアによる機能がなくても、生き延びられるようになる必要がある。しかし、メタバースではこのようなことは起こり得ない。あるいは少なくとも、起こるべきではない。なぜなら、メタバースで必要とされる機能の多くは、仮想化された機能を利用するようになるべきだからだ。

インフラストラクチャ機能は、仮想マシンやコンテナコンセプトで展開し、アプリと同様、ネットワーク上で大規模かつリアルタイムに展開できるようにすることが鍵となるだろう。ルーティングやスイッチングといった従来のネットワーク機能は、完全に仮想化する必要がある。これらの機能は、簡単にアップデート、アップグレード、パッチ適用、デプロイできることが求められる。

ソフトウェア・インテリジェンス:メタバースの首長

私たちがメタバースで迅速かつシームレスに活動できるようにするためには、メタバースがソフトウェアで定義されていなければならない。それは、地方の自治体や議会が、道路の補修やゴミの撤去、交通の流れの制御をリアルタイムで行えるようにすることと同じだ。これらは一般的に、我々が知らないうちに現実の生活の中で行われていることで、それが機能しなくなってはじめて、何が起こったのかと思うような事々だ。

プログラム可能なソフトウェアの能力によって機能する自動化とAIは、ネットワークの展開を高速化し、よりアクセスしやすく、適応性の高いものにするための鍵を握る。

適応性の高い仮想プログラマブルネットワークは、物理的なトラックロールを必要とせず、障害を特定して自己回復することができる。また、計算能力、ストレージ、帯域幅などのリソースを、メタバース内の十分に活用されていないエリアから引き出して、一時的に他の部分の活動を活発化させたり、必要に応じて自動的に元に戻すこともできる。

今後数年間、私たちはメタバースについての話をたくさん耳にすることになるだろう。しかし、いかなるユースケースの革新も、必要なネットワークの革新なしには実現しない。ソフトウェアで制御された、大容量かつ低遅延の接続性を提供する適応型ネットワークは、将来のメタバースにとって、現在のクラウドアプリケーション以上に重要な基盤となるだろう。

かつてFacebookとして知られていたアーティストが、人を温かく迎えるメタバースを構築するための構成要素はすでに存在している。そして、メタバースの出現を利用しようとする技術開発者たちの中で期待される技術革新の高まりにより、このようなテクノロジーが進化し続けることで、Metaはますます多くの世界構築ツールを手に入れることになる。

つまり、 バーチャルユニバースを構築することは簡単ではないが、適切なネットワークインフラへの投資と技術革新によって、現実に近づけることは確かに可能なのだ。

編集部注:本稿を執筆者Steve Alexander(スティーブ・アレクサンダー)は、ネットワークシステムとソフトウェアを提供するCiena(シエナ)のSVP兼CTO。同社は世界中のオペレーターやコンテンツプロバイダーと提携している。

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(文:Steve Alexander、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

【コラム】高まるアクセシビリティへの意識、それは行動につながっているのだろうか?

ほぼ2年にわたり、世界中の人々が世界との関わり方を大きく変えてきた。それは多くの人々に日々の行動を変えさせた。残念なことに、これらの変化の一部によって、多くの人が当たり前に思っている日常業務が、アクセシビリティやアコモデーションを必要とする人にとって気が遠くなるような困難なものになってしまうことがある。

ハリス世論調査では、米国の成人の半数以上がパンデミックのためにオンライン活動を増やしていることが明らかになっている。障がいのある人の場合、その数字は60%になる。

オンライン活動が増えたからといって、誰もが目標を達成できるわけではない。では、この危機はアクセシビリティにどのようなインパクトを与えているのだろうか。アクセシビリティの重要性について、組織は最終的にメッセージを受け取っているのだろうか?

増加傾向にあるアクセシビリティへの意識

近年、どこを見てもアクセシビリティや障がいのある人についての何かがあるように感じられるのではないだろうか。大手テック企業のテレビ広告の多くは、障がいのある人々やアクセスしやすいテクノロジーを取り上げている。

Apple(アップル)ではネットワークテレビの最初のプライムタイム広告の始まりを告げ、Microsoft(マイクロソフト)は米国最大の試合中に広告を出している。Google(グーグル)の広告では、耳の不自由な男性が、自分のPixel(ピクセル)スマートフォンでLive Caption(ライブキャプション)を使って初めて息子に電話をかける様子が描かれている。またAmazon(アマゾン)の広告には、聴覚に障がいのある従業員Brendan(ブレンダン)氏の職場や家での姿が映し出されている。

アクセシビリティへの意識が高まっているのは明らかだ。2021年5月の「Global Accessibility Awareness Day(グローバル・アクセシビリティ・アウェアネス・デー)」に敬意を表し、Apple、Google、Microsoftは自社プロダクトのアクセシビリティに関する多数のアップデートとリソースを発表した。DAGERSystem(デーガーシステム)は、近くリリース予定のAccessible Games Database(アクセシブルゲーム・データベース)を公開した。これによりゲーマーは、プラットフォームごとにアクセシブルゲームを検索し、聴覚、視覚、色、微細運動のカテゴリー別にアクセシビリティをフィルターできるようになる。

テック企業がアクセシビリティについて語り、それをプロモーションし、マーケティング予算の一部にしているのはすばらしいことだ。しかし、それについて語ることと行動を起こすことの間には違いがある。語ることでウェブサイトのアクセス性が向上するわけではない。それには行動が必要である。

最近のForrester(フォレスター)サーベイでは、10社中8社がデジタルアクセシビリティに取り組んでいることが示された。では、実際に何か変化は起こっているのだろうか。人々は障壁なしにウェブサイトを利用することができているだろうか?

インターネット利用率の上昇はアクセシビリティを向上させたか

これは、2021年のState of Accessibility Report(SOAR、アクセシビリティの状況レポート)で明らかにされた疑問である。SOARの目的は、企業や業界全体のアクセシビリティの現状を評価することにある。アクセシビリティが改善された点や、作業が必要な部分を見つけるためのツールとなっている。

同レポートはこれまで、Alexa(アレクサ)のトップ100ウェブサイトのアクセシビリティの状態を分析することで、アクセシビリティの指標を得てきた。このレポートでは、販売数ではなく、最も人気のあるデジタルプロダクトに焦点を当てている。ほとんどの場合、変化は上位から始まる。上位で状況が改善すれば、残りは後に続く。

80/20ルールとしても知られるパレートの法則がここで適用される。デジタルプロダクトの上位20%でトラフィックの約80%に到達する。

興味深いのは、Alexaのトップ100は2021年に31の新しいウェブサイトをリストしているが、それらは2019年や2020年にはトップ100に入っていなかったことだ。2019年にAlexa 100のリストに掲載されたウェブサイトの中で、2021年のリストに掲載されたのはわずか60%であった。

こうした変化や現在のAlexaトップ100ウェブサイトをレビューすることで、パンデミックによってオンライン行動がどのように変化したかが容易に見て取れる。上位のウェブサイトには、ファイル転送やコラボレーションツール、配送サービス、Zoom(ズーム)やSlack(スラック)などのコミュニケーションツールなど、多くの生産性アプリが含まれていた。

ビデオプラットフォームに関していえば、特にクローズドキャプションが導入された地域において、パンデミックがアクセシビリティに大きなインパクトをもたらしたことは明らかであろう。2020年4月の時点で、Skype(スカイプ)以外のビデオプラットフォームには自動キャプションが組み込まれていなかった。残念ながら、Skypeのキャプションは最高の品質とはいえなかった。

Google Meetには、2020年5月までにキャプションが追加された。この時点でZoomは、自動キャプションのベータテストを行っていた。だが当初は有料アカウントにのみ展開していた。嘆願書の提出を受け、Zoomは無料アカウントでの提供に同意した。そうなるまでに約8カ月を要している。

6月頃には、Microsoft TeamsのiOSアプリで、Teamsのネットワーク上にいないユーザーが無料でキャプションを付けて利用できるようになった。これは良いスタートだが、ビデオプラットフォームのアクセシビリティにはキャプション以上のものが求められる。マウスなしでナビゲートできる必要がある。キャプションに加えて、プラットフォームはトランスクリプトを提供する必要がある。スクリーンリーダーや更新可能な点字デバイスと互換性があるのは、キャプションではなくトランスクリプトになる。

Alexaのトップ100ウェブサイトのテスト結果は以下の通りである。

  • テストしたウェブサイトのうち、スクリーンリーダーがアクセシブルであるのは62%で、2020年の40%から増加した
  • すべてのページが、有効なドキュメント「lang」属性を持つことに対して合格となった
  • テストしたウェブサイトのうち、入力フィールドのラベルにエラーがあったのはわずか11%だった
  • 最も一般的なエラーはARIAの使用であった
  • 2番目に多いエラーは、カラーコントラストであった

要約すると、Alexaのトップ100ウェブサイトのスクリーンリーダーのテストでは、2019年と2020年のテストよりも大幅な改善が見られた。

モバイルアプリはどうだろうか?ある調査では、モバイルインターネットに費やされる4時間について、回答者の88%がその時間をモバイルアプリに費やすと答えている。アプリの利用率が高く、アクセシビリティコミュニティがアプリのアクセシビリティに関心を持っていることから、SOARは今回初めてモバイルアプリをテストした。Web Content Accessibility Guidelines(WCAG、ウェブコンテンツ・アクセシビリティガイドライン)2.1では、モバイルデバイスのアクセシビリティに関する10の成功基準が追加されている。

モバイル分析では、iOSとAndroid向けの無料アプリのトップ20と、両OS向けの有料アプリのトップ20に注目している。最大の驚きは、無料アプリの方が有料アプリよりはるかにアクセシブルであったことだ。

無料アプリの主要機能のアクセシビリティをテストしたところ、iOSアプリの80%、Androidアプリの65%が合格した。有料アプリの主要機能のアクセシビリティに関しては、合格したのはiOSアプリでわずか10%、Androidアプリで40%であった。

なぜ格差があるのか?Statista(スタティスタ)によると、93%以上がAndroidとiOSデバイスの両方で無料アプリを使用しており、無料アプリのユーザー数は有料アプリをはるかに上回っている。プロダクトの利用者が増えれば増えるほど、利用者がアクセシビリティに関する要望やフィードバックを行う可能性が高くなる。また、無料アプリを提供している企業の多くは、アクセシビリティを最優先事項としている大手テック企業である。

私たちができること

デジタルアクセシビリティが進歩しているのはとても喜ばしいことだが、企業は軌道を維持する必要がある。そのための最も効果的な方法の1つは、アクセシビリティに対するトップダウンのアプローチを採用することである。それを企業文化の一部にしていくのである。

アクセシビリティ優先の文化をひと晩で構築するということはなく、数カ月で構築することもない。時間が必要となる。どんな小さな一歩も進歩である。重要な点は、どんなに小さくても最初の一歩を踏み出すことだ。それは、画像に代替テキストを追加することを社内の全員に指導するようなシンプルなものかもしれない。あるいは、適切な見出しの使い方について、ということも考えられよう。

マッスルメモリーになるには相当な練習が必要となる。あるものを制覇したら、次のものに移る。SOAR 2021によると、多くの企業が代替テキストと見出しを習得し始めているという。しかし、彼らはカラーコントラストとARIAに苦戦している。おそらくそれが次のステップになるだろう。

アクセシブルなプロダクトを生み出すには、障がいのある人たちがそのプロセス全体に関わる必要がある。そう、実用最小限のプロダクトを構築する前に。さらに良いのは、障がいのある人を雇用することで、常に専門家の手が届くようにすることだ。

アクセシビリティの格差が大きい理由は、教育と訓練の不足にある。企業はプロダクト開発チームだけではなく、すべての人を訓練する必要がある。開発チームはアクセシブルなウェブサイトを作ることができるが、マーケティング担当者がキャプションなしでビデオを投稿したり、グラフィックデザイナーがコントラストの悪い画像を作成したり、営業担当者がアクセシブルでないPDFファイルを公開したりすると、その苦労はすべて水の泡になる。

アクセシビリティはすべての人の責務といえよう。

編集部注:本稿の執筆者Joe Devon(ジョー・デボン)氏は、アクセシブルな体験を構築するデジタル・エージェンシーであるDiamondの共同設立者。また、Global Accessibility Awareness Dayの共同設立者であり、GAAD Foundationの議長も務めている。

画像クレジット:twomeows / Getty Images

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(文:Joe Devon、翻訳:Dragonfly)

【コラム】米国で増えている暗号資産市長

Bitcoin(ビットコイン)をはじめとする暗号資産の価格は、2021年に急騰した。パンデミックの時代、この分野では暗号資産で大富豪になったという話もよく聞く。

暗号資産といえば、元々は民間セクターの話である。ビットコインやその他の暗号資産プロジェクトは、非中央集権的で政府の金融政策の影響を受けない変更不能なデジタル通貨を作ることを意図して始まったものだ。

しかし、この市場の価値が2兆ドル(約230兆円)を超えた近年、公的機関も暗号資産に注目するようになった。初期の規制を導入した国、全面的に禁止した国、大規模な導入を行った国など、対応も国によってさまざまである。

自国の不換紙幣を印刷する国家政府と地方自治体とでは、暗号資産に対する見方は大きく異なり、最近では、暗号資産をこの新しい産業が持つ技術的、財政的、経済的発展の可能性を活用する機会と見る都市も増えている。

確かに、市役所でビットコイン、ブロックチェーン、NFT(非代替性トークン)といった言葉を聞くことはあまりない。しかし、マイアミ、タンパ、ニューヨーク、ジャクソン(テネシー州)などの4都市ではこれらの言葉を耳にすることも増えてきた。というのも、市長が自身の給与の一部をビットコインで受け取ることに合意するなど、暗号資産の分野に参入するためのきっかけを示したからだ。

都市のイノベーションに関する多くのストーリーがそうであるように、このストーリーも1人の市長が話題を先導し、他の市長たちに挑戦状を叩きつけることから始まる。今回のケースでは、マイアミ市長のFrancis Suarez(フランシス・スアレス)氏が、次の給料をビットコインで受け取るとツイートしたことに対抗して、次期ニューヨーク市長のEric Adams(エリック・アダムス)氏が複数回の給料をビットコインで受け取ると発言している。

スアレス氏は次のように話す。「教育は、暗号資産にまつわる恐怖や誤解を払拭するための最良の方法であり、アダムス市長と私の発言の根本は教育を狙ったものです。私たちが真っ先に水に飛び込む姿を見れば、おそらく他の人々も自信を持って水に足をつけることができるでしょう」。

1人目の市長は注目すべきで、2人目の市長はその模倣だろう。しかし、3人以上の市長がビットコインの勢いに乗るのであれば、これは明らかにトレンドといえる。

ジャクソンは人口約7万人。Scott Conger(スコット・コンガー)市長は、同市が選出した市長の中では最も若い部類に入るが、この友好的な挑戦に参加し、給与をビットコインで受け取ると発言した。コンガー氏とスアレス氏は、これについてツイッターでやりとりをしている。コンガー氏はジャクソンという小さな都市で、暗号資産分野のイノベーションを起こしてきた。

これに負けじとフロリダ州の別の市長も参入してきた。タンパの Jane Castor(ジェーン・キャスター)市長は、コンガー氏のツイートからわずか数日後、タンパで開催された暗号資産カンファレンスで、給料をビットコインで受け取ることを発表したのだ。最近、新興技術都市のトップに選ばれたタンパは、フロリダ州内の技術系雇用の25%を占め、暗号資産という新興分野と親和性が高い。

コンガー氏は、スアレス氏の行動は大都市だけに当てはまるものではなく、あらゆる規模のコミュニティで通用すると指摘する。彼は、大都市で起きているテクノロジーや暗号資産に関する興味深い出来事を観察し、それがジャクソンのような(小さな)都市にはどのように反映されるかを考え、(優れた市長なら当然だが)ジャクソンの経済発展の可能性に目を向けた。

彼は次のように話す。「マイアミや大都市に限定される必要はありません」「ジャクソンにはそのチャンスがあります。ジャクソンは、テネシー州で家庭にギガビットの光ファイバーを導入した最初の都市です。新しい技術をいち早く取り入れるのは当然でしょう?」。

ジャクソンでは超高速のインターネットサービスが普及しており、ハイテク企業の獲得競争に大きく貢献している。コンガー氏は、この結果としてジャクソンに暗号資産や分散型金融(DeFi)の企業が増えるはずだ、と考える。

「場所は存分にあります」とコンガー氏。小売業界が縮小し、既存の企業が使用する物理的な空間が減る中、彼はチャンスを見出している。「DeFi、暗号、技術系の企業が生まれれば、彼らには事業を行う場所が必要になります」。

この小さなコミュニティの利点を強調し、コンガー氏は次のように付け加える。「人口7万人の都市で十分なのに、なぜ数百万人の都市に行く必要があるのでしょうか」。

経済発展を重視する姿勢は、4人の市長だけでなく、暗号資産の世界を知ることとなった他の地域のリーダーたちも共通していて、彼らはそれぞれの都市で雇用の未来について考えている。マイアミでは、暗号資産分野における市長の取り組みの中核にそれが見て取れる。

スアレス氏は次のように話す。「マイアミは共通のテーマの上に成り立っています。マイアミに来る人たちは、自国の政府に取り残されたり、さらにひどいケースでは迫害されたりすることに嫌気がさし、より良い生活を求めてここに来ています。そしてお返しにとこの街をもっと良いものにしてくれます」「マイアミムーブメントは、質の良い、高収入の仕事をこの街にもたらしています。私は、マイアミの将来を見据え、次世代のリーダーたちをこの街から輩出したいと考えています」。

人材の誘致と定着に力を入れているのは、国内の多くの都市でも同じである。マイアミは、テクノロジー、金融、(そしてこの記事で紹介するようにその両方が融合した)暗号資産といったあらゆる分野を成長させることを目指している。

「マイアミムーブメントは、パンデミックなどの数々の要因で人々がマイアミに集まったことに起因するものですが、成長中の金融やテック部門への支援は何十年も前から行っています 」とスアレス氏。「多くの人が思っているほど『突発的』なものではありません。この街にイノベーションと成長を呼び込むことは、すべてのマイアミの住人にとって大きな利益となります」。

金融の分野で長年の優位性を持ち、テック部門も引き続き強化されているニューヨークのような都市が、暗号資産の分野で何ができるかは想像することしかできない。同様に、何年も前から成長を続けるタンパも、テック系の人材を惹きつける力と経済的なポテンシャルがますます高まっている。暗号資産分野が成熟するにつれて、興味深い違いが見えてくるかもしれない。

メタバースで重要なポジションを取る最初の都市は?最初に自治体のNFTを導入する都市は?このデジタル分野の成長に取り組む市長たちのリーダーシップが現場レベルで発揮されれば、その答えはすぐに出るはずだ。

編集部注:本稿の執筆者Brooks Rainwater(ブルックス・レインウォーター)氏は、Center for City Solutions and Applied Research at the National League of Citiesのディレクター。

画像クレジット:Alexander Spatari / Getty Images

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(文:Brooks Rainwater、翻訳:Dragonfly)

【コラム】CES 2022で、メタバースはメタバースをメタバースした

CESを前にして、CES 2012のトップテックを振り返る記事を書いた。10年前のバズワードを思い出すなど、その執筆はさまざまな理由から興味深いものとなった。

その年は、LTEとUltrabookが上位だった。一方は広く長く普及しているが、もう一方はそれほどでもなかった。つまり、その年のCESでの話題の大きさは、その寿命を表すものではない。2012年半ばには、Ultrabookの死が本格的に語られ始めていた。

2022年のCESでは、会場に人の気配はなかったが、見たところ数メートルも歩けばメタバースに行き当たりそうな雰囲気だった。FacebookがMetaにブランド名を変えてから2カ月ほど、CESのような展示会では、企業は良い製品と同じくらい良いフックに投資している。それは理解できる。例えば、Samsung(サムスン)やHyundai(ヒュンダイ)といった企業でなければ、目立つことは難しい。

中小企業の具体的な話は割愛する。Twitterのスレッドでは前述のメタにかなり精通したものだった。正直なところ、私は、スタートアップがその輝きを少しでも得ることを期待しており、それを台無しにしたくない(「Goart Metaverse」という言葉は、私が地球上で最後の瞬間を迎え、脳内にDMTが出るまで、私の精神に入り込んでいくものだ)。

CESが始まる前に、メタバースとは何であるかを知らなかった人にとって、今回のショーはあまり良いものではなかったが、メタバースには間抜けな顔のミー文字とVR機器がおそらく含まれているという事実だけは確かだ。そして、このワードをタイプしている今、おそらくメタバースの説明としてはこれ以上ないほど適切だということもわかった。

画像クレジット:Hyundai

Hyundai(現代自動車)は、CES 2022で、ロボティクスとメタバースを通じて「『人間の可能性を広げる』新たなメタモビリティコンセプトのビジョンを共有する」という同社のプレスリリースを受け取ったことが、私を突き動かしたのかもしれない。あるいは、Boston DynamicsのSpotが火星で奇妙なメタバース人形たちと一緒に過ごしている映像が添付されていたせいかもしれない。実際の火星に実際のロボットを送り込むという、SFの枠を超えた映像が、メタバースを軸に展開されているのはシュールだった。

Hyundaiのコンセプトは、メタバース的な交流のためにBoston Dynamicsのような先進的なロボットを、現実世界のアバターとして機能させるという、何とも興味深いものではないが、自動車会社である同社でさえ、このコンセプトを将来性を託しているかを物語っている。一方、Samsungは、本物が登場するまでのその場しのぎのメタバース(betaverse?)を提供した。そこは同社プロダクトの「バーチャルショーケース」となっていて、少なくともラスベガスに出向いてメタバースを実際に見せてもらうという皮肉を回避できた。

Samsungは次のように述べている

念願のライフスタイルテレビ、生活を豊かにする家電製品、スタイリッシュな最新スマートフォンが手に入りました。では、それらの革新的な製品を使って、自宅を飾ることができるとしたらどうでしょう?

これは興味深いシナリオであり、メタバースが稼働し始めれば現実のものとなる。Samsungは、メタバースでさまざまなイノベーションを起こしており、CES 2022に興味を持った人たちがオンラインでこのイベントを体験できるオプションを用意しました。

メタバースに対して強気な人たちの間では、混乱が起こっているのだろう。美容ブランドからウェアラブルまで、あらゆるところで。「メタバース」というコンセプトにまつわるこれほどの興奮を目の当たりにすると、希望に満ちた気持ちになると同時に、ダメなメタバースも現れ始めていることもいらだたしい。メタバースが確立する前に、メタバースがすべての意味を失ってしまわないだろうか。あなたのメタバースは、私のメタバースと同じくらい良いものだ。

画像クレジット:Samsung

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(文:Brian Heater、翻訳:Katsuyuki Yasui)

【コラム】パンデミックで再び変化したCESを振り返る、テックの進化に合わせて家電ショーの進化も必要だ

CES開催までの数週間、私たちは難しい決断を迫られた。年末年始の旅行シーズンに向けて、オミクロンの感染者が全米で急増したため、飛行機をキャンセルして戦略を練り直したのだ。そのため、年末の数週間は混乱した。しかし、CESが毎年第1週に開催され続ける限り、ハードウェアに関する記事を生業とする私たちは、今後どちらにしても年末年始にあまり休みを取ることはできないだろう。

確かに、数字を見てこの決断に至ったのは我々だけではない。Engadget、The Verge、PCMag、CNETなど、2022年はリスクに見合うリターンが得られないと判断した企業が続々と登場した。決して簡単な選択ではなかった。CESの仕事は大変で、ストレスが多く、時には悲惨なこともあるため、私たちもよく不満を漏らす。しかし、CESは長い間、その年のトレンドを直接見て、触ることができる貴重な機会なのだ。

それは、近い将来やってくるコンシューマー向けテクノロジーと空想的なSFが混在する魅力的なイベントで、エウレカパークのスクラムの中で業界のリーダーと会ったり、スタートアップと交流したりする機会でもある。風邪やインフルエンザにかかるかもしれないし、スーツケースいっぱいに洗濯物や業界グッズ(コミック業界の友人たちは、愛情を込めて「the con crud(コン・クラッド)」と呼んでいる)を詰め込んで持ち帰ることになるだろうが、それは真冬のコンベンションセンターに大勢の人が詰め込まれた結果だ。

もちろん、パンデミック時には、費用対効果の分析が大きく変わる。現在までに、米国内だけで5700万人の感染者が報告され、83万1000人が死亡している。そしてもちろん、後者の数字だけを見ていると、新型コロナウイルスが人体に与える永続的な影響などは考慮されていない。また、休暇を利用した旅行が感染者の総数に与える影響も、まだ十分に見えていないようだ。結局のところ、私たちにとって意味のある決断はただ1つ、CESをリモートで取材し、再び取材することだったのだ。

CESに参加することを選んだ人たちを恨むつもりはない(確かに、比較的参加者の少ない展示会について記録することが、どれほど魅力的なのかを考えていた)。 パンデミックも3年目になり、このウイルスが何であるか、どのように広がるかについて、前回CESが直接開催された2020年1月よりもはるかによくわかるようになった。今はワクチンやブースターもある。ショーの運営団体であるCTAは、義務づけやマスクのルールなどを規定した。しかし、私たちだけで決断したわけではなかった。

参加を見送ったメディアに加え、多くの大手企業が訴訟に参加した。その不完全なリストには、GM(ゼネラルモーターズ)、Google(グーグル)、Lenovo(レノボ)、Intel(インテル)、T-Mobile(Tモバイル)、AT&T、Meta(メタ)、Twitter(ツイッター)、Amazon(アマゾン)、Microsoft(マイクロソフト)、Peloton(ペロトン)、TikTok(ティックトック)、Mercedes(メルセデス)、BMW、Velodyne(ベロダイン)、IBM、Proctor & Gamble(プロクター・アンド・ギャンブル)、OnePlus(ワンプラス)、Pinterest(ピンタレスト)などが含まれている。数週間にわたり、CESから発信される主要なニュースは、有名企業の辞退についてだった。テクノロジーカンファレンスの凱旋となるはずだったCTAが、このような報道を期待していたわけではないことは、ほぼ明らかだろう。

CTAの会長であるGary Shapiro(ゲーリー・シャピロ)氏は、クリスマスの日にLas Vegas Review-Journal紙に「CESはラスベガスで継続されるだろうし、継続しなければならない」という見出しで、激しい論説を寄稿した。もちろん、シャピロ氏のいう「go on(継続)」とは、直接会うという意味である。イノベーションは我々の未来に必要であり、そのイノベーションを促進するために対面式のCESが必要である、という一線を引いたのである。シャピロ氏は、CESの辞退者を「事件や有名企業のレンズを通してしか語れないマスコミや評論家の太鼓持ち」と一蹴し、直接参加しないことを選んだ人たちに同情を示した後、対面式のイベントを中止する考えを「恐怖の中で生きること」と同等だと表現した。

CTAのような組織はコンシューマー向けテクノロジーにとって重要であり、CESのようなショーはその存続のために必要である、という現実的な議論も可能だったはずだ。しかし、この論説は、CESのようなイベントに対して、ありえないほど高いハードルを設定した。バーチャルカンファレンス全盛の時代にCESは必要なのか、という疑問はすでにあっただろうし、このような論説で語られるような、人生を変えるような期待を抱かせることができなかったことは、その疑問をさらに深めるにすぎない。

実は、テクノロジーというものは、ほとんどが反復的なものだ。CESのようなイベントでは、少なくとも理論上、市場に出ることを前提とした製品に焦点が当てられるので、なおさらそうだ。つまり、毎年目にする製品のほとんどは、少し速くなったプロセッサーや、少し解像度が高くなったスクリーンなのだ。私は長い間この業界を取材してきたが、毎年革命に期待していると、失望する人生を送ることになると断言できる。

これは、私たち全員が本質的に認識していることだが、多くの流行語(「メタバース」という言葉を目にするたびに、会場のホール1から出られるかどうか試してみて欲しい)やHyundai(現代自動車)のような空想的なSFのプレゼンテーションによって見えなくなってしまっているのだ。最終日に向けて、私は午前中、このショーで「人生を変える」と思えるような何かを最後に見たのはいつだっただろうと考えていた。しかし、今のところ、そのようなものは見つかっていない。

結局のところ、CESが始まると同時に、出展を見合わせた企業の話題が実際のCESのニュースより多くなるのではという懸念は払拭された。CESを取材するメディアは、多くの場合、遠隔地からではあるが、CESを取材した。これまで多くのCESに直接参加してきた身としては不思議な体験だったが、2021年のオールバーチャルショーで予習していたことでもある。

しかし、その結果はやはり賛否両論なものだった。ありがたいことに、オンライン版のショーは、2021年よりも混乱が少なかった。プレスカンファレンスは、プラットフォーム上でより見やすくなった。しかし「真の発見」という点ではまだ問題があり、それがオンラインに移行したときに結局不足している点だ。突然、エウレカパークでおもしろいスタートアップに出くわす機会が、底なしの受信トレイに投げ込まれるただのメールへと姿を変えてしまうのだ。

これは、私がCTAに同意する点だ。私たちが対面式のイベントから完全に離れた場合、プラットフォームを持たないスタートアップ企業が最終的に最も多くを失うことになってしまうのだ。そのため、私も、直接会って話をする必要性を感じている人たちに確実に共感することができる。それに、デポジット代やホテル代、飛行機代は、GMやGoogleよりも、新しいスタートアップ企業の収益に大きな影響を与えるという事実もある。

その数週間の間に、私は、スタートアップ企業から、彼らもまた出席しないことを選択したというメールを何通も受け取った。また、参加する企業からも発表を延期するというメッセージが届いた。製品が発表されても、それをカバーする人がいなければ、それは本当に発表と言えるのだろうか?1年で最も忙しい週に製品を発表することに疑問を持つ人は多く、その疑問は、それをカバーする人がいないとなると、さらに顕著になる。このようなことから、従来はCES後の数週間が不作であったのが、2022年はそうでもなくなりそうな気がしている。

CESの真実は、常に進化しているということだ。間近で見るのは難しいが、一歩下がって見ると、そのマクロなトレンドがはっきりと浮かび上がってくる。CES 2012の最大のニュースを振り返ることは、そうしたトレンドを追う上で興味深い訓練となった。中でも、モバイル中心の展示会から脱却し、自動車関連の展示が大きな比重を占めるようになったことが大きな特徴だ。今やショーのかなりの部分を占めている。

CTAの細則には「世界的なテクノロジーイベントの正式名称は『CES』です。このイベントを指すのに、『Consumer Electronics Show』や『International CES』は使わないでください」と記されている。このように、Consumer Electronics AssociationからConsumer Technology Associationへの変更も、このショーがそれまでの枠を超えて成長しようとしていることを明確に示している。そして、正直なところ、その試みは成功していたと言っていい。

13年前、私は「CES 2009、来場者数22%減」という記事を書いた(この記事は長くなってしまったが)。その2012年の回顧録で述べたように、その年のショーは最高の参加者数だった。この成長はその後数年間続き、2019年にピークを迎えることになる。

以前にもCESは死んだと宣言した人がいる。実際、彼らは何度もそう言ってきた。しかし、CESを成長させ続けるということは、進化し続けるということであり、ショーのあり方に関する期待の変化に対応することでもあるのだ。2022年、私は友人や同僚に会うことができなかった。エウレカパークのホールを歩いたり、コンベンションセンターの向かいにある、金曜と土曜に女優のPia Zadora(ピア・ザドラ)がショーを行う暗い小さなイタリアンレストランで食事をしたり(ラスベガスは実に不思議なところだ)することもできなかった。

しかし、今週は毎晩10時(東部標準時)には家でベッドに入れているのも嫌じゃなかった。また、2022年のショーに直接参加しなかったことで、私たちや他のサイトの取材が必ずしもうまくいかなかったと言えるかどうかもわからない。これまで述べてきたように、私のCESの楽しみ方は他の参加者とは違う。もし、このパンデミックが終息したら、またいつか行ってみたいと思っている。しかし、1月初旬の寒い冬の日に、ミラージュでiPhoneケースを見ている自分がいないとしても、それについてもそれほど怒ることはきっとないだろう。

画像クレジット:Alex Wong / Getty Images

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(文:Brian Heater、翻訳:Akihito Mizukoshi)

【コラム】AI時代の「データの産業革命」:創始者たちが間違っていたこと

2010年2月、The Economist(エコノミスト)は「Data, data everywhere」というレポートを公開した。当時は、そのデータのランドスケープが実際にはどれだけ単純なものであったか、ほとんどわかっていなかった。つまり、相対的に見て、2022年に目を向けるときに直面するデータの現実を考えた場合である。

このEconomistのレポートの中で筆者は、ビッグデータをめぐる興奮から始まり、現在のデータ駆動型AIの時代に続いている「データの産業革命」に社会が突入しつつあることについて語った。この分野の多くの向きが、この革命によってより多くのシグナルを持つノイズを抑えた標準化がもたらされると期待していた。だがその代わりに、ノイズは増え、一方でシグナルはより強力になっている。つまり私たちは、ビジネス上の成果が大きくなるポテンシャルを有しながら、より困難なデータの問題を抱えているのである。

また、人工知能にも大きな進歩が見られている。それは現在のデータ世界にとって何を意味するのだろうか。私たちがいた場所を振り返ってみよう。

Economistの記事が掲載された当時、筆者はカリフォルニア大学バークレー校を離れ、同大学と共同でIntel Research(インテル・リサーチ)の研究所を運営していた。私たちは当時、今でいう「モノのインターネット(IoT)」に全面的にフォーカスしていた。

当時私たちが話していたのは、建物や自然、壁の塗料など、あらゆるものに埋め込まれた、相互に接続された小さなセンサーのネットワークについてであった。物理的な世界を計測しその現実をデータとして捉えることができるというビジョンがあり、そのビジョンに向けて理論を探求し、装置やシステムを構築していた。

私たちは将来に目を向けていた。しかし当時、データに関する一般的な熱狂のほとんどは、ウェブと検索エンジンの台頭を中心に展開していた。誰もが「ドキュメント」という形で大量のデジタル情報にアクセスできることを話題にしていた。ドキュメントとは、人間が生成し、人間が消費するコンテンツのことを意味する。

水平線の向こうに見えたのは、さらに大きな機械生成データの波だった。これは、筆者が「データの産業化」と呼んだものの1つの側面であり、データは機械駆動でスタンプアウト(型に合わせて生成)されるため、ボリュームが大幅に増加していくだろうと考えていた。そして、それは確かに起こった。

筆者が想定していた「データの産業革命」の第2の側面は、標準化の出現である。簡単に言えば、機械が生成しているものは毎回同じ形式で生成されるため、無数のソースからのデータを理解して結合することで、よりゆるやかな増幅過程を実現でるはずだ。

標準化の先例は古典的な産業革命であり、すべての関係者が交通機関や船舶のような共有リソースやプロダクト仕様を標準化するインセンティブが存在した。それはこの新しいデータ産業革命にも当てはまるように思われ、経済やその他の影響力がデータの標準化を推進するだろうと考えられた。

そのようなことはまったく起こらなかった。

実際、逆のことが起こった。「データの浪費」が大幅に増加した。これはログファイルの形式で計算量が指数関数的に増大した結果であり、標準化されたデータはわずかな増加に留まった。

そのため、統一された機械指向のデータではなく、さまざまなデータやデータ型が膨大な量となり、データガバナンスが低下した。

データの浪費や機械生成データに加えて、データを敵対的に利用するようになり始めた。これはデータに関与する人々が、その利用に対して多くの異なるインセンティブを持っていたためである。

ソーシャルメディアのデータと「フェイクニュース」に関する最近の話題を考えてみよう。21世紀初頭においては、個人だけでなく、大衆にリーチしようとしているブランドや政治的利益のために、デジタル情報をバイラルにすることの巨大な実験がなされた。

今日では、そのコンテンツの多くは実際には機械で生成されているものの、人間の消費と行動パターンに合わせたものだ。何年も前の純真な「人による、人のための」情報通信ネットワークとは対照的である。

要するに、今日のデータ生産産業は途方もなく大規模であるが、標準的なデータ表現に合わせて調整されておらず、10年余り前に筆者がこうした予測を立てたときに期待していたものではない。

イノベーションの状況:AI対人間のインプット

この10年ほどで明らかに大きく進歩したのが人工知能だ。私たちがアクセスし、処理し、モデルに取り込むことができるこの莫大なデータは、数年のうちにAIをSFから現実に変えた。

しかしAIは、ビジネスデータ処理の領域では期待していたほど有用ではない。少なくとも今のところはそうだ。自然言語処理のようなAI技術と構造化データの間には、驚くほどのずれが依然として存在する。いくらかの進展があったとしても、ほとんどの場合、データと通信して多くの成果が返ってくることは期待できない。Google(グーグル)で定量的な質問をして、テーブルやチャートが返ってくることもあるが、それは適切な質問をする場合に限られる。

AIの進歩は、スプレッドシートやログファイルなどの定量的で構造化されたデータ(IoTデータを含めて)とは、まだ大きく分離されている。結局のところ、私たちが普段データベースに入れているような従来型のデータは、画像検索や単純な自然言語による質問応答のような消費者向けアプリケーションよりも、AIで解読するのがはるかに困難であるということだ。

例えば、Alexa(アレクサ)やSiri(シリ)にデータのクリーニングを頼んでみよう。おもしろいが、あまり役に立たない。

AIの一般的なアプリケーションは、まだ従来のデータ産業には投影されていないが、努力不足のためではない。大学や企業の優秀な人材の多くは、従来の記録指向のデータ統合問題の難解な部分を打破できていない。

しかし、完全自動化はこの業界を巧妙に回避している。その理由の1つは、人間がデータから何を得たいのかを前もって特定するのが難しいことにある。もし「これが、この700個のテーブルを使って私があなたにしてもらいたいことです」と伝え、明確な目標を達成することができれば、アルゴリズムがそのタスクを代行してくれるかもしれない。しかし実際にはそうはならない。代わりに、人々は700個のテーブルを見て、そこに何があるのだろうと思い、探り始める。何度も探し回って初めて、これらのテーブルに何が起こって欲しいのかのてがかりを得ることになるだろう。

データを利用する方法のスペースは非常に大きく、成功の度合いを示す指標は実に多様であるため、探し回ることは創造的な仕事の域を出ない。最適化アルゴリズムにデータを渡して、最適な結果を見つけることはできないのだ。

AIによる完全自動化を待つのではなく、人間はAIからできる限り多くの助力を得るべきである。だが実際的には、ある程度の作用を保持し、何が有用か、あるいは有用でないかを特定した上で、次のステップを特定の方向に向けるべきであろう。それには視覚化と、AIからのフィードバックの束が必要だ。

データのインパクトを把握し、データの分散を制御する

もっとも、AIが本当に力を発揮している分野の1つは、コンテンツの推薦である。結果的にコンピューターは、コンテンツをターゲットにして広めるのに恐ろしいほど効果的なのだ。いやはや、私たちはデータとAIの側面に関するインセンティブとインパクトを過小評価していたのだろうか。

当時、データとそのAIへの利用に関する倫理的な懸念は、主にプライバシーに関するものだった。人々が予約した本のデジタル記録を公共図書館が持つべきかどうかについての大きな議論を覚えている。同様に、食料品のポイントカードプログラムについても論議があった。買い物客は、食料品チェーンがいつどんな食べ物を買ったかを把握して、それに付随するアイテムについて自分たちをターゲットにすることを望まなかった。

その考え方は大きく変わった。現在、10代の若者たちは、購入した食品のブランド以上に、ソーシャルメディア上ではるかに多くの個人情報を共有している。

デジタルプライバシーが良い状態にあるとは言い難いが、今日のデータ問題の中で最悪なものではないことは間違いない。例えば、政府の資金援助を受けた俳優たちが、データを使って私たちの社会的議論に混乱を加えようとしているという問題がある。20年前はこういったものが現れるのを目にすることはほとんどなかった。何が間違った方向に向かっているのかという倫理的な問いについて、大きな意識があったようには思えない。

この要素は、私たちのデータ利用の進化における次の、そして現在進行中のものにつながる。政府と善意の立法の役割はどういったものになるだろうか。ツールがどのように使われるかを予測しなければ、賢明に管理し制限する方法を知ることは難しい。今日の私たちは、データに関するコントロールやインセンティブ、そしてデータがどのように公表されるのかを理解する必要があるように思われるが、テクノロジーは社会がリスクや保護を理解するよりも早く変化している。控えめに言っても、それは不安を感じさせる。

さて、予想は的を得ていたのだろうか?

教授としては合格点を与えたいと思うが、Aにはしたくない。私たちが想像していたよりもはるかに多くのデータが利用可能になっている。その結果、AIと機械学習、そしてアナリティクスが驚くほど進歩したが、多くのタスクではまだ表面的なものにすぎず、他のタスクにおいては旋風を巻き起こしている。次の10年、20年がこのような問題に何をもたらすのか、そして何を振り返るのか、興味深いところである。

編集部注:執筆者のJoe Hellerstein(ジョー・ヘラースタイン)はTrifactaの共同設立者兼最高戦略責任者で、カリフォルニア大学バークレー校コンピューターサイエンスのJim Gray Chair。

画像クレジット:MR Cole Photographer / Getty Images

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(文:Joe Hellerstein、翻訳:Dragonfly)

【コラム】DEIプログラムが機能していない理由

企業はしばらく前から、DEI(Diversity:多様性、Equity:公平性、Inclusion:包括性)を備えた職場環境の確立に努めてきたが、一昨年からの一連の出来事は、インパクトのあるDEIの取り組みにおいて大半の組織がいかに未熟であるかを浮き彫りにした。

新型コロナウイルス感染症の影響で米国全体の失業動向が大幅に悪化した後、Center on Budget and Policy Priorities(予算・政策優先度センター)は2021年10月、黒人とラテンアメリカ系の労働者が白人労働者に比べて大幅に低い雇用回復率に直面していることを報告した。2021年8月の失業率は、白人労働者の4.5%に対し、黒人労働者は8.8%、ラテンアメリカ系労働者は6.4%であった。

この回復率は民族性に限定されない。2021年中の女性の失業率は男性よりもはるかに高かった。Oxfam International(オックスファム・インターナショナル)の報告によると、パンデミックにより世界中の女性が少なくとも8000億ドル(約91兆円)の収入を失っているという。この数字は衝撃的であり、過小評価されているグループに対してより持続可能で包括的な労働環境を提供するという観点において、全面的に大規模な変革が必要であることが示されている。

成功するDEIは、文化的に多様なワークフォースを実現することに留まらず、ビジネスの成功にとって必要不可欠な要素になっている。2020年にMcKinsey(マッキンゼー)は、多様性に富む企業が多様性に欠ける企業を収益性で上回る公算がこれまで以上に高まっていることを確認し、DEIが企業の業績に重大な影響を与えていることを裏付けた。

しかし、進展は遅い。その理由は何であろうか。企業は、多様な労働文化を支えるための公平で包括的な構造を整備することなく、多様性を優先している。実際のところ、真に多様ななワークフォースを生み出すには、すべての従業員をサポートする公平で包括的なイニシアティブにコミットすることが前提となる。いかにチームが多様であっても、公正なプログラムと包括的な環境を提供しなければ、DEIの取り組みはうまく機能しない。

企業はアプローチを再考し、多様性の前に公平性と包括性を置くように優先順位を再設定して、DEIではなくEIDの取り組みを構築する必要がある。

なぜ公平性が優先されるのか

筆者は黒人女性として、採用やチーム作り、また現在のセキュリティテクノロジー企業での多様性への取り組みの主導など、従業員体験に注力するキャリアを過ごしてきた経験から、職場における人種差別意識や不公平な扱いがどのようなものかを直接知っている。企業は、多様ななワークフォースを支えるための基本的な方針やプログラムを用意せずに、自分たちの組織に筆者を招き入れ、多様性を高めようとしてきた。

自分のような人々に機会を見出そうといくら手を尽くしても、彼らが成功するために必要なリソースと環境の提供なくしては、それは決して十分なものとはなり得なかった。差別に関する苦情はしばしば却下され、支援要請は黙殺された。入社したばかりで将来に期待していた新入社員は、すぐに職場環境に幻滅してしまう。こうした失敗において欠落していた共通項は、多様性の欠如ではなく、公平性を重視していなかったことだ。

従業員体験チームと多様性リーダーの両方にとって、公平と平等を区別することが重要になる。DEIのイニシアティブに公平性を組み込むためには、各人がそれぞれの役割に異なる一連のニーズを持っていることを認識する必要がある。平等とは、すべての人に同じ資源を与えることを意味するが、公平性の概念は、個々の従業員が同僚と同じレベルの成功を収めることができるように、それぞれのニーズに合った資源と機会を与えることに帰結する。

企業がDEIへのアプローチ方法を再構築する上でまず問うべきことは、多様な人材の育成と維持につながる、公平で包括的な基盤をどのように構築するかである。

賃金格差の解消

報酬分析を実施することは、公平性を受け入れ、すべての従業員が同じ雇用機会と給与にアクセスできるようにするための第一歩となる。歴史的に見て、賃金と機会の公平性は過小評価グループには得難いものとなっており、ほとんどのDEIイニシアティブで大きな障害になっている。最近まで、多くの企業は報酬分析さえ行っておらず、いうまでもなく、組織全体にわたる給料レンジや賃金水準の透明性も提供していなかった。

組織の進捗状況を追跡し、弱点を特定するために、総合的な分析を毎年実施すべきである。報酬分析を適切に実施することで、人種、性別、年齢にわたって、組織の賃金の公平性を明らかにできる。

真に公平なシステムは、民族や性別に関係なく、公正な賃金を提供する。これは、企業が依然として苦戦している領域である。PayScale(ペイスケール)が2年前に実施した調査では、白人の男性が1ドル(約114円)稼ぐのに対して、黒人の男性は87セント(約99円)、ラテンアメリカ系の男性は91セント(約104円)であった。男女間の賃金格差はさらに大きく、2021年の女性の収入は男性の84%だった。Pew Research(ピュー・リサーチ)によると「2020年に男性が稼いだのと同じ収入を得るには、女性は42日間余分に働く必要がある」という。

黒人や有色人種は白人と同等の賃金を、女性は男性と同等の賃金を得られるように、賃金格差をなくすことが第一の目標になる。

それは人材の不足ではない、ビジョンの欠如である

筆者がDEIについてよく耳にする抵抗材料の1つは、企業は多様性の向上に努めているが、多様な人材を見つけることができない、というものだ。多くの場合、その主張は人材の不足に言及し、特にテクノロジー業界、つまり技術的能力によって定義される役割に向けられている。しかし、人材不足は誤った前提であり、実際に起きていることは雇用側のビジョンの欠如である。

企業は早い段階で採用活動を誤った基準に集中させ、経験年数や特定のスキルセットを過度に重視している。このアプローチは、多様な人材の採用に効果を発揮しない。過小評価グループの多くは、特定のスキルを習得するための十分なトレーニングや役割の継続につながる機会を与えられていないのである。

レジリエンス(回復力)、クリエイティビティ(創造性)、アンビション(野心)といった適切な特性を有する候補者は、その仕事を行うために必要な技術的能力を短期間で習得する鋭敏性を備えていると考えられる。企業は、独自の経験と生得的な強みがその人を価値ある候補者にしていることを理解し、経験年数を超えて目を向けられるような採用活動を意識的に行う必要がある。

もちろん、これが空いている役割のすべてに当てはまるわけではないと思うが、トレーニングや学習の機会のための道筋があるなら、チームは「完璧な」候補者という考えに広がりを持たせることで、多様性の目標に向けて本格的な前進を遂げることができるだろう。

ERGが鍵となる理由

インパクトのある変革を始める前に、組織の既存の文化と、そこに存在するギャップを明確に理解しておく必要がある。報酬分析は重要なステップではあるが、もう1つの鍵となる取り組みは、従業員リソースグループ(ERG:employee resource group)を通じて自社の人材をサポートするシステムを構築することだ。

あらゆる属性に基づいたERGが存在し得る。女性、黒人、ラテンアメリカ系の従業員、LGBTQの従業員など、これらはほんの数例にすぎない。そしてERGにより、組織全体に多大な支援をもたらすことが期待できる。

成功するERGは、包括性イニシアティブのバックボーンとして機能し、仲間意識を生み出し、従業員に安全で快適な空間を提供して、その体験を共有できる環境を実現する。ERGは、組織内の過小評価グループへの充実した奉仕に貢献するだけでなく、他の文化や人生経験に対するリーダーシップの認識を高めることにも寄与する。

仲間意識を醸成し、個人的な問題やデリケートな問題に関する堅牢な対話の場を提供することを目標とするならば、ERGは不可欠である。彼らは包括性を奨励するとともに、従業員の定着率を劇的に高めることができる。効果的なERGを通じて、従業員のニーズに対する組織の認識はより明確になり、従業員の士気、生産性、職務満足度の向上に役立つイニシアティブに基づいた組織行動が発展していく。

従業員が自分の仕事についてどう感じているかを知りたいなら、彼らに尋ねよう

DEIの取り組みにおけるギャップを見つけることは、企業の規模にかかわらず難しい課題である。よく言われるように、自分が知らないことは自分では分からない。ここでは、従業員調査が大きな違いをもたらすと考えられる。より効果的なDEIプログラムの構築と、従業員体験の成果の向上に役立つ、実質的なデータを発掘できるだろう。

毎月、四半期ごと、あるいは年次の従業員調査を実施することで、従業員満足度に関する深い洞察が得られる。組織の特定のレベルで認識されていないギャップが明らかになり、問題をはらむ事柄への対処を可能にし、DEIの取り組みを拡充させる新しいプロセスの創出につながっていく。

社内調査は非常に有益なツールであり、従業員のモチベーションを高める洞察力のあるデータを提供してくれる。結果を追跡し、進捗を測定し、ベースラインを評価することは、あらゆる大規模プロジェクトに不可欠な要素であるが、労働文化と永続的なDEI構造へのシフトを目指す場合には特に重要だ。

もちろん、リーダーシップからの賛同がなければ、このいずれもうまく機能しない。総合的なDEIソリューションを導入する前に、あるいは積極的な変革に真剣にコミットする準備が整っている場合はEIDを導入する前に、組織の経営幹部が参画している必要がある。真に公平で、包括的で、多様な組織を構築するために、ビジネスリーダーは、これらのイニシアティブが自分たちにとって何を意味するのか、また、これらのイニシアティブを組織にどのように反映させたいのかを明確に示すべきである。

リーダーシップのサポートを得たら、公平な賃金と雇用機会から始めて、持続可能なDEIプログラムの活性化を図る。そこから、安全で快適な空間の構築に着手し、人々が自分らしさを表現できる環境を整える。包括的な作業環境により、従業員は独自の人生経験と多様なバックグラウンドを組織に持ち込むことができ、ひいては、より幅広いオーディエンスとつながるための企業の展望と能力が広がりを見せていく。これらの取り組みが揺るぎなく定着した後は、多様な従業員を惹きつけるのみならず、高い定着率を維持する雇用戦略を展開していくことができるであろう。

成功するEIDプログラムを作り上げることは、家の建築に似ている。装飾を加える前に、まず、頑丈な基礎と壁を用意することが必要である。

編集部注:Candice Bristow(キャンディス・ブリストー)は、Expel Inc.のEIDおよび採用担当ディレクター。

画像クレジット:melitas / Getty Images

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(文:Candice Bristow、翻訳:Dragonfly)

【コラム】Web3こそが関心や大きな注目が価値を生むアテンションエコノミーの欠陥を修復できる

不均衡なクリエイターエコノミーや貧弱なセキュリティ、一元的な管理や不満を持つコミュニティなど、Web 2.0の欠陥はここ数カ月間で明らかになった。

まず、Facebookの元プロダクトマネージャーであるFrances Haugen(フランシス・ハウゲン)は2021年10月に、当ソーシャルメディアの巨人は「安全性よりも利益を優先している」と議会で証言した。そしてそれを合図にしたかのように、Facebookの中央集権的なサービスが世界中でダウンした。この障害は非常に広範囲におよび、Facebook自身がサーバーにアクセスすることさえできなかった。

そんな中、不満を抱いた匿名のハッカーが、Amazonが運営する人気ストリーミングサービス「Twitch」の膨大な内部データを公開した。このハッカーは、ソースコードやトップクリエイターの報酬情報とともに、Twitchコミュニティを「オンライン動画ストリーミングの分野におけるさらなる破壊と競争の促進」を企てる「嫌な毒の巣窟」と呼び、改善を呼びかけた。

これらのプラットフォームが成長し、普及し、収益を上げているにもかかわらず、旧態依然とした人々が多くのことを取り違えたことは明らかだ。ネットワーク効果、大規模なスケール、勝者総取りの経済性を重視した中央集権型のWeb 2.0は、もはや社会のためにはならない。

今こそ変化を起こす時だろう。Web3の起業家として、より協調的・創造的でユーザー中心のインターネットを育むオープンなインフラを構築するにあたって、前世代のテクノロジーの根本的な欠陥を解決するのは私たちの役目だ。

Web3がどのように現在のデジタルエコノミーの最も顕著な問題点を解決できるのかを説明しよう。

セキュリティやデータ管理の不備

Twitchは、背景をAmazonの創業者である億万長者Jeff Bezos(ジェフ・ベゾス)の写真に置き換えるなどのいたずらに悩まされ続けている。これらのセキュリティ問題は元従業員からの報告にもあったように、常在していたようだ。

中央集権的な組織と共有しているデータはすべて危険にさらされていることがわかってきた。銀行、小売業者、SNSプラットフォームからの個人情報の流出が何年も続いていることからも、インターネット上のものは何であれ、真の意味でのプライバシーを保てるとは考えられない。

Web3は暗号プリミティブに基づいて構築されており、多くの場合オープンソースコードを採用しているため、誰でもコードをレビューすることでプロジェクトに貢献することができる。これによりユーザーのセキュリティが向上し、透明性が競争力につながる。これは、単にプライバシーに基づいているだけではなく、実際にユーザーの価値を守ることにつながる。セキュリティ研究者の@samczsunは、0x、Livepeer、Kyber、Nexus Mutual、Aragon、Curveなどのプロトコルに潜在するエクスプロイトを特定し、失われた可能性のあった価値を数十億ドル(数千億円)分救済した。

相互運用可能な規格の意味するところは、ERC-721ベースのNFTは多数の異なるフロントエンドアプリケーションで取引や閲覧ができ、ERC-20トークンは注目と価値を得るために競い合う金融商品のエコシステム全体にアクセスできるということだ。これにより、プラットフォームにとってはリスクが上がり、セキュリティ侵害があった場合にユーザーの流出につながる可能性がある。

有害性とプラットフォームの説明責任

Twitchのハッカーたちは、違法で不道徳な行為を行ったが、ある点では正しかったと言える。ストリーミングプラットフォームの有害性は増しており、大規模なハイテク企業は問題の大きさに見合った対応をするのに苦労している。だがWeb 2.0の世界では、ストリーマーには実行可能な代替手段がない。YouTubeやFacebook Liveに移行することはできても、それはまた別の有害なアテンション・エコノミーのプラットフォームに置き換えるだけのことになる。

これらの現実は、クリエイターがこれまで以上に力を持つ環境を受けた結果だ。ファンは好きなクリエイターを好きなプラットフォームでフォローし、それがクリエイターに大きな影響力を与える。有害性から逃れるためには、クリエーターはクローズド・プラットフォームから出て、コミュニティとの直接的な関係を通じて自分の運命をコントロールするためのWeb3ツールが必要だ。

またWeb3は、ユーザーとプラットフォーム間の力関係を再調整し、ユーザーは自分のデータをコントロールできるようになる。Spruceのようなデータ管理プラットフォームが提供する相互運用性とポータビリティのおかげで、Web3プラットフォームによってユーザーは簡単に「退場による意思表示」を行い、別のプラットフォームに移行できるようになる。

ConfluxやMoralisのような企業によって、ブロックチェーンや規格を超えた規模拡大が容易になったため、競合他社は機会があればいつでも迅速に行動を起こすことができる。例えば、NFTの取引プラットフォームであるOpenSeaが、どのNFTが取り上げられるかを知った上でインサイダー取引を行っていた可能性があることがユーザーに発覚した際には、Artionのような代替プラットフォームが登場し、NFT市場で認識されている不満の一部を解消した。このような市場の動きに対する迅速な反応は、規模の大きさと閉鎖的なアクセスに依存して新規参入を阻む従来のWeb2.0のエコシステムには存在しないものだ。

しかし、Web3.0はユーザーとの直接的な関係をはるかに超えている。これらのプラットフォームはユーザーが所有し、コミュニティが主体となっているため、コミュニティが自ら節度ある行動をとるような動機付けがなされている。動画配信のケースでは、大切なメンバーを他所に追いやるようなヘイト・レイドを望むコミュニティはないだろう。

Web2.0の世界では、ユーザーはプラットフォームが行動を起こすのを待たなくてはならない。Web3では、ユーザーは内蔵されたガバナンスとモデレーションのメカニズムを通じて行動することができる。Mirrorのブログプラットフォームでは、毎週誰が記事を書いて公開するかをユーザーが投票で決めている。Web3 indexでは、掲載されているプロジェクトが後続のプロジェクトの追加や削除を管理し、エコシステムの健全な成長を確実にしている。

Facebookの内部告発者は、Facebookには2層構造の司法制度があり、有名人は一般ユーザーとは異なる扱いを受けていることも明らかにした。一般のアカウントが利用規約に違反するとペナルティを受けることがあるが、多くのフォロワーを持つアカウントは同じ行為をしても逃げられる可能性がある。

Web3ではこの点も修正され、ブロックチェーンの不変性のおかげで透明性が高まり、検閲にも耐えられるようになった。意思決定はSnapshotのようなツールを使ってオープンに行われ、より広範なコミュニティによって推進される。ガバナンスはブロックチェーン上で行われ、誰もが見ることができる。裏取引や二層構造の司法制度はない(もちろん、投票でそう決められた場合は別だが)。すべてコミュニティ主導で行われるため、方向性や透明性のレベルに納得がいかない場合は、参加者は簡単に去ることができる。

不均衡なクリエイターエコノミー

Twitchのリークにより、トップパフォーマーと一般のクリエイターの支払い額に大きな格差があることが明らかになった。このようなダイナミクスは、プラットフォームと一部のクリエイターのみの間でインセンティブの合意を形成する。少数のクリエイターが収益の大半を占めるようになると、プラットフォームは最も重要なインフルエンサーに注目を集めるようになる。

Web3のパラダイムは、アクセスを民主化し、クリエイターとファンの間のサイロを解消することで、このようなインセンティブのズレを解消する。NFT、デジタルペイメント、トークン、クラウドファンディングといったWeb3のクリエイター向けマネタイズメカニズムは、クリエイターに優しいやり方で条件を平等にする。glass.xyzのようなプラットフォームを利用しているアーティストたちは、魅力的なライブストリームとともにNFTによって、Web 2.0モデルで販売するよりもはるかに優れた方法でコンテンツを収益化できることを発見した。

Web3では、ユーザーは自分のプラットフォームを所有することができ、多くの場合トークンによって調整される。ユーザーはプラットフォームの成長によって直接利益を得られるため、例えばモデレーションのような重要なサービスを提供する動機にもなる。

また、ユーザーはファントークンを購入することで、お気に入りのクリエイターにさらにコミットし、情熱を共有することで、健全なファンコミュニティを育むポジティブなフィードバックループを構築することができる。Rally、Socios(Chiliz上に構築)、Rollなどのプラットフォームは、クリエイターが自分の評判、権威、創造性を仲介者なしで直接収益化できるツールを提供する。これによりクリエーターがプラットフォームとなることで、インセンティブがさらに合致に近づく。クリエイターは関与のルールを定義することができ、利害関係のない第三者に干渉されずに、健全なコミュニティの維持に必要なことを行うことができる。

インターネットのアップグレードは、社会にとって良いこと

社会構造や経済構造の多くが民間企業数社が管理するインフラに依存していることは、間違いなく有害である。また、そのような企業が説明責任を果たさず、変革を約束しても注目が集まらなければ道半ばで終わってしまうようでは、ダメージはさらに大きくなる。

しかしWeb 2.0を完全に排除することはそれほど重要ではなく、社会が切実に必要としているインターネットのアップグレードを行うことが重要なのだ。Web 2.0のツール自体は非常に大きなポジティブなインパクトを持っているが、そこにはトレードオフもある。Web 2.0の構造的な誘引により、責任を負わない柔軟性に欠けるビッグテックによる独占が起こった。Web3は、先行するWeb 2.0の良い点を取り入れ、すべてのユーザーの間でエコノミーとインセンティブを調整することで、インターネットを進化させ、広告モデルの悪影響を回避できる。

文化とコントロールという点では、中央集権的なクローズド・プラットフォームよりも分散型サービスの方が圧倒的に有利だ。Web3は、データのポータビリティと相互運用性によってユーザーに力を与え、自己管理型のコミュニティをサポートするような動機を中心に置き直すことで、コミュニティを育成するためのまったく新しい方法を提案している。

ハウゲンは正しい。「Facebookを解体することが重要なのではありません。進むべき道は、透明性とガバナンスです」。私たちは皆、より良いものを得られるべきだ。そして、透明性とコミュニティのガバナンスを優先するサービス、プラットフォーム、製品こそが、次のデジタル経済の時代に繁栄するだろう。

画像クレジット:Peter Dazeley / Getty Images

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(文:Doug Petkanics、翻訳:Dragonfly)

【コラム】ファクトチェックのスタートアップをの構築で学んだこと

2016年の米大統領選の余波を受けて、筆者はオンライン上のフェイクニュースの惨害に対処できるプロダクトの開発に着手した。最初の仮説は単純だった。偽の主張や疑わしい主張を自動的にハイライトし、それに対して最高品質のコンテクストに基づく事実を提案する半自動のファクトチェックアルゴリズムを構築する。私たちの論旨は、おそらくユートピア的であるとしても、明確であった。テクノロジーの推進力により、人々が真実、事実、統計、データを求めて意思決定を行うようになれば、誇張ではなく、理性と合理性を備えたオンラインの議論を構築することができるはずだ。

5年にわたる努力の末、Factmata(ファクトマタ)は一定の成功を収めた。しかし、この分野が真に成長するためには、経済面から技術面に至るまで、まだ克服しなければならない多くの障壁がある。

鍵となる課題

私たちはすぐに、自動化されたファクトチェックが極めて難しい研究課題であることを認識した。最初の課題は、チェックする事実そのものを定義することであった。次に、特定の主張の正確性を評価するために、最新の事実データベースをどのように構築し、維持するかについて検討した。例えば、よく使われているWikidata(ウィキデータ)の知識ベースは明らかな選択肢であったが、急速に変化する出来事に関する主張をチェックするには更新が遅すぎる側面がある。

また、営利目的のファクトチェック企業であることが障害になっていることも判明した。ほとんどのジャーナリズムやファクトチェックのネットワークは非営利であり、ソーシャルメディアプラットフォームはバイアスの告発を避けるために非営利団体との連携を好む。

これらの要因の枠を超えたところに、何が「良い」かを評価できるビジネスを構築すること自体が本質的に複雑で微妙であるという問題がある。定義については議論が絶えない。例を挙げると、人々が「フェイクニュース」と呼ぶものがしばしば極端な党派間対立であることが判明し、人々が「偽情報」と称するものが実際には反対意見による見解であったりする。

したがって、ビジネスの観点からは、何を「悪い」(有害、不道徳、脅威的または憎悪的)と判断するかということの方がはるかに容易であると私たちは結論づけた。具体的には「グレーエリア」の有害なテキストを検出することにした。これは、プラットフォームから削除すべきかどうかわからないが、追加のコンテクストが必要なコンテンツだ。これを達成するために、コメント、投稿、ニュース記事の有害性を、党派間対立性、論争性、客観性、憎悪性など15のシグナルのレベルで評価するAPIを構築した。

そして、関連する企業の問題についてオンラインで展開されるすべての主張を追跡することに価値があることを認識した。そのため当社のAPIを超えて、ブランドのプロダクト、政府の方針、新型コロナウイルス感染症のワクチンなど、あらゆるトピックで展開する噂や「ナラティブ」を追跡するSaaSプラットフォームを構築した。

複雑に聞こえるかもしれない。実際にそうだからだ。私たちが学んだ最大の教訓の1つは、この領域において100万ドル(約1億1400万円)のシード資金がいかに少ないかということだった。有効性が確認されたヘイトスピーチや虚偽の主張に関するデータを訓練することは通常のラベリング作業とは異なる。それには、主題に関する専門知識と正確な検討が必要であり、いずれも安価なものではない。

実際、複数のブラウザ拡張機能、ウェブサイトのデモ、データラベリングプラットフォーム、ソーシャルニュースコメントプラットフォーム、AI出力のリアルタイムダッシュボードなど、必要としていたツールを構築することは、複数の新しいスタートアップを同時に構築するようなものだった。

さらに事態を複雑にしていたのは、プロダクトと市場の適合性を見つけるのが非常に困難な道のりだったことだ。長年の構築の後、Factmataはブランドの安全性とブランドの評判にシフトした。当社のテクノロジーは、広告インベントリのクリーンアップに目を向けているオンライン広告プラットフォーム、評判管理と最適化を求めているブランド、コンテンツモデレーションを必要としている小規模プラットフォームに提供されている。このビジネスモデルに到達するまでには長い時間がかかったが、2020年ようやく複数の顧客からトライアルや契約の申し込みが毎月寄せられるようになった。2022年半ばまでに経常収益100万ドルを達成するという目標に向かって前進している。

やるべきこと

私たちが辿った道のりは、メディア領域で社会的にインパクトのあるビジネスを構築する上で、多くの障壁があることを示している。バイラル性と注目度がオンライン広告、検索エンジン、ニュースフィードの指標である限り、変化は難しいだろう。また、小規模な企業では、それを単独で行うことは難しい。規制面と財政面の両方の支援が必要になる。

規制当局は、強力な法律の制定に踏み切る必要がある。Facebook(フェイスブック)とTwitter(ツイッター)は大きな前進を遂げたが、オンライン広告システムは大幅に後れを取っており、新興プラットフォームには異なる形での進化を促すインセンティブがない。今のところ、企業が違法ではない発言をプラットフォームから排除するようなインセンティブはない。評判上のダメージやユーザーの離脱を恐れるだけでは十分ではないのだ。言論の自由を最も熱心に支持する向きでさえ、筆者も同様であるが、金銭的なインセンティブや禁止を設ける必要性を認識している。そうすることで、プラットフォームは実際に行動を起こし、有害なコンテンツを減らし、エコシステムの健全性を促進するためにお金を使い始めるようになるだろう。

代替案にはどのようなものがあるだろうか?悪質なコンテンツは常に存在するが、より良質なコンテンツを促進するシステムを作り出すことは可能である。

欠点はあるかもしれないが、大きな役割が期待できるのはアルゴリズムだ。オンラインコンテンツの「善良さ」すなわち品質を自動的に評価するポテンシャルを有している。こうした「品質スコア」は、広告ベースとはまったく異なる、社会に有益なコンテンツのプロモーション(およびその支払い)を行う新しいソーシャルメディアプラットフォームを生み出すための基盤となる可能性を秘めている。

問題のスコープを考えると、これらの新しいスコアリングアルゴリズムを構築するには膨大なリソースが必要だ。最も革新的なスタートアップでさえ、数億ドル(数百億円)とは言わないまでも、数千万ドル(数十億円)の資金調達がなければ厳しいだろう。複数の企業や非営利団体が参加して、ユーザーのニュースフィードに埋め込むことのできる多様なバージョンを提供する必要がある。

政府が支援できる方法はいくつかある。まず「品質」に関するルールを定義する必要があるだろう。この問題を解決しようとしている企業が、独自の方針を打ち出すことは期待できない。

また政府も資金を提供すべきである。政府が資金援助をすることで、これらの企業は達成すべき目標が骨抜きにされるのを回避できる。さらに、企業が自社のテクノロジーを世間の目に触れやすいものにするよう促し、欠陥やバイアスに関する透明性を生み出すことにもつながる。これらのテクノロジーは、無料で利用可能な形で一般向けにリリースされるよう奨励され、最終的には公共の利益のために提供される可能性もある。

最後に、私たちは新興テクノロジーを取り入れていく必要がある。コンテンツモデレーションを効果的かつ持続的に行うために必要な深層テクノロジーに真剣に投資するという点で、プラットフォームは積極的な歩みを見せてきた。広告業界も、4年が経過した頃から、FactmataやGlobal Disinformation Index(グローバル・ディスインフォメーション・インデックス)、Newsguard(ニュースガード)などの新しいブランド安全アルゴリズムの採用を進めている。

当初は懐疑的であったが、筆者は暗号資産とトークンの経済学のポテンシャルについても楽観的に見ている。資金調達の新たな方法を提示し、質の高いファクトチェック型メディアの普及、大規模な配信に貢献することが考えられる。例えば、トークン化されたシステムの「エキスパート」により、ラベリングに多額の先行投資を必要とする企業の手を借りることなく、主張をファクトチェックし、AIコンテンツモデレーションシステムのデータラベリングを効率的に拡張することが可能になるかもしれない。

ファクトベースの世界の技術的な構成要素として、Factmataに掲げた当初のビジョンが実現するかどうかはわからない。しかし、私たちがそれに挑戦したことを誇りに思うとともに、現在進行中の誤報や偽情報との戦いにおいて、他の人々がより健全な方向性を示すことに、私たちの経験が役立つことを期待している。

編集部注:本稿の執筆者Dhruv Ghulati(ドルヴ・グラティ)氏は、オンラインの誤情報に取り組む最初のグローバルスタートアップの1つFactmataの創設者で、自動ファクトチェックを研究する最初の機械学習科学者の1人。London School of EconomicsとUniversity College Londonで経済学とコンピューターサイエンスの学位を取得している。

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(文:Dhruv Ghulati、翻訳:Dragonfly)

技術系スタートアップが在宅勤務のソフトウェア開発者を大切に扱うための5つのヒント

先に迎えた世界メンタルヘルスデーを目前に控え、私はテック業界がいかに精神的に良好な状態を保つのが難しい場所であるかを考えていた。特に、前例のない状況でのリモートワークは、困難な状況をさらに悪化させる可能性がある。10年以上にわたってテクノロジー業界でリモートワークをしてきた者として、今回はペースの速い技術系スタートアップ企業がソフトウェア開発の人材を大切に扱うためのヒントを紹介したい。

最高の状態でのソフトウェア開発は、創造的な試みとなる。開発者が質の高い仕事をするためには、ある程度の快適さが必要だ。退屈な作業、騒がしいオフィス、あまりに多い会議などは、生産性が最高の状態であっても影響を及ぼす。

しかし、健康はもっと基本的なものであり、ニーズの階層の中でもほぼ最下層に位置するもので、これには精神的な健康も含まれる。ソフトウェア開発者が仕事をするためには、脳の状態が良好でなければならない。物事がうまくいかないとき、本当の問題を知らなくても、同僚のコードを見ればわかることもある。

リモートで働くスタートアップチームの分散により、健康維持はより困難になっている。リモートで働いていると、チームのウェルビーイングをサポートするためのオフィスの機能が欠落してしまう。無料のフルーツやコーヒー、ビーズソファだけでなく、同僚がつらい思いをしていても気づきにくいこともある。同僚と同じ場所にいないと、誰が遅刻や早退するのか、あるいはやや活力がない感じがするのかを見分けるのが難しくなる。

また、井戸端会議がない場合、同僚がうまくやっているかどうかを確認するのが難しくなる。しかし、もし誰かのことが気になっていて、その人に聞くべきかどうか悩んでいるのであれば、私は常に連絡を取るようにアドバイスする。リモートチームにおいては、コミュニケーションを増やす必要がある。メンタルヘルスに関しては、誰かが1人で限界に達してしまうよりも、言葉を発して、その人が元気であること、何も心配する必要はなかったと知るほうがいい。

自主性を重んじる

私は10年以上にわたり、大企業から中小企業でも、さらには自分のフリーランスのコンサルタントでも、自分の意思でリモートワークを行ってきた。私が在宅勤務で最も重視しているのは、柔軟性だ。特に、ソフトウェア開発者としてメーカーのスケジュールに合わせて仕事をする場合には、柔軟性が重要になる。

私は、最高の仕事をより多く実現するために、一連のライフハックを発見した。例えば、早い時間にオフィスで仕事を始めた後、午前11時にジムでトレーニングをしたり、その日の最後のミーティングの前に夕食をオーブンに入れたりするのだ。このように、仕事と並行して「生活」を送ることができるのは、特に苦しいとき、自分自身の幸福感を高めるのに有効だ。

ダニエル・ピンクの著書『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』では、自律、成長、目的がモチベーションの主な原動力であることを取り上げている。ソフトウェア開発の仕事を成功させるには、モチベーション、承認、自信が重要だ。自分のスキルを使ってより大きな目標に向かって貢献する権限を与えられることは、非常にやりがいのあることであり、通常仕事の選択や優先順位の決定において自由度が高いスタートアップ企業の開発者にとっては、非常に満足のいくことだろう。

しかし、Haystackの調査によると、開発者の83%に燃え尽き症候群が報告されている。そのため、ソフトウェア開発者には現実的な期待を設定するよう注意して欲しい。物理的なオフィスがない場合、適切な時間に帰宅させるのは難しいので、そのような期待は慎重に設定する必要がある。特に、勤務時間がフレキシブルで、大きなプロジェクトを任されやすい場合には慎重になるべきだ。

教育は社員を大切にしているということ

開発者は生涯学習者だ。業界の変化が非常に速いため、開発者はそうならざるを得ない。彼らは常に自分自身、知識、スキルに投資している。

雇用者は、開発者を個人としても投資することができる。企業によっては手厚いトレーニング予算や休暇を提供するところもある。私はかつて小さなソフトウェア会社で働いていた。そこでは学習のための予算は提供されていなかったが、月に1日、学習のための日を予約することができ、そこで教科書を読んだり、新しいテーマについて誰かに1時間のチュートリアルを頼んだりすることができた。会社にとっては大したコストではなかったが、私の成功を願ってくれているように感じた。

働く自由

開発者に金銭的な報酬を与えても、モチベーションの向上にはつながらない。しかし時間を与え、開発者を信じて時間を直接的なプロダクトエンジニアリングの仕事以外に使ってもらうことは、大きな効果が得られる可能性がある。

Googleは、社員の時間の20%を「おもしろいと思ったことに使っていい」というアプローチをとったことで有名だ。それによって便利な製品も生まれたが、重要なのは開発者が仕事に関わっていると感じ、信頼されているということだ。Atlassianも同様のことを行っていることで有名だ。全社員が24時間、自分の好きなプロジェクトに取り組み、他の方法では決して出てこなかったかもしれない驚くべき革新や改善を生み出している。

多くの開発者は、自分の時間の多くをオープンソースプロジェクトに費やしている。このことを他の職業の人に説明しようと何度か試みたことがあるが、ハッカー文化は不可解だということが分かった。

しかし、開発者はこの世界に強く共感し、91%の開発者がオープンソースが自分の将来の道だと答えている。開発者にオープンソースへの貢献を許可することで、彼らはより自分たちが大事にされていると感じることができる。このようなオープンソースコミュニティは、開発者の社会的ネットワークやサポートネットワーク、さらにはアイデンティティの重要な一部となり、開発者のより広い意味での幸福のために欠かせないものとなる。

オープンソースの教訓

現代の職場では、他人がプロジェクトに参加できるという点でオープンソースから学ぶことがたくさんある。オープンソースのプロジェクトは真のリモートワークフローが機能している合理的なモデルとなっている。

ソフトウェアの世界の基礎的な構成要素のいくつかは、メーリングリストやIRCチャンネルでしかお互いを知ることができなかった人々によって作られたものだ。ソフトウェアは作られたが、おそらくそれ以上に重要なのは、強力なコネクションが作られたことだ。

今日のリモートソフトウェアチームは、自らの選択によるものであれ、状況によるものであれ、より優れたツールを利用することができる。ソース管理ツールやコラボレーションツールは、今やメーリングリスト以上のものであり、テキストチャット、オーディオコール、ビデオコールで常に連絡を取り合うことができる。画面共有やVSCode Live Shareのようなツールを使って、遠隔地でプログラムを組み合わせることも可能だ。

しかし、このような接続性の高さは、ストレスや通知疲れの原因となりうる。ソフトウェア開発者はそれぞれが異なる存在であり、ある人の作業スタイルが他の人のそれとまったく同じとはならないことを忘れてはならない。オープンソースのプロジェクトでは、全員の時間を尊重し、特定の時間に誰かがいるということをあまり期待せず、むしろ想定した時間枠内で作業を進める。

高度な技術を要する仕事をしているリモートチームでは、思考時間が長くなるようなミーティングをできるだけ少なくしたり、Slackのメッセージに期待される返信の時間を決めておくと、落ち着いた仕事環境の提供につながる。

ワークライフバランス

新型コロナウイルス感染症の影響で毎日の通勤ができなくなったとき、多くの人は作業環境が理想的ではなくなった。ソファやキッチンテーブルに座って、しかも家族が近くにいるという状況は、当然ながら多くの人にとって困難であり、燃え尽き症候群の増加が広く報告されている。

たとえ開発者が以前から自宅で仕事をしていたとしても、モニターのアップグレードや予備の電源、あるいは新しいキーボードが必要かどうかをチェックするのは良いことだ。現在、多くの企業が在宅勤務の予算を提供しているが、開発者が必要とするツールの確保は少しの予算でできる。

職場で一緒に交流する時間を持つ。恥ずかしいチームビルディングは過去のものとなっていることを願うが、簡単なオンラインゲームで場を明るくすることは可能だ。会社にEAP(従業員支援プログラム)がある場合は、従業員全員がプログラムについてと、アクセス方法を知っていることを確認したい。また、マネージャーには、彼らのチームメンバーだけでなく、マネージャーのためのプログラムもあることを伝えておくとよい。

メンタルヘルスに関して言えば、スタートアップは難しい場所かもしれない。スタートアップ企業はペースが速く、頻繁に変化があり、いくつもの仕事をこなさなければならない。私からの最良のアドバイスは、お互いに気を配ることだ。それは、上司が部下を気遣うだけではなく、私たち全員が他人を気遣い、自分自身を大切にすることで、少しでも貢献することができる。

燃え尽きる時は、その前に兆候が出ている。私たちは、仕事を長期的に持続させ、健康的な生活と並行して行う方法を見つけなければならない。「言うは易し行うは難し」ですが、多忙なスタートアップ企業は、従業員が重要な存在であることを再認識してもらうための時間を取らなくてはならない。

あなたやあなたの知り合いが、うつ病に悩まされていたり、自傷行為や自殺を考えたことがある場合、全米自殺防止ライフライン(1-800-273-8255)では、24時間年中無休で無料サポートを提供しています。また、専門家向けのベストプラクティスや、予防や危機的状況に役立つリソースも提供しています。

編集部注:Lorna Mitchell(ローナ・ミッチェル)氏は、最高のオープンソーステクノロジーとクラウドインフラを組み合わせたソフトウェア企業Aivenのデベロッパーリレーションズ担当責任者。

画像クレジット:Carol Yepes / Getty Images

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(文:Lorna Mitchell、翻訳:Dragonfly)

【コラム】「セキュリティ・バイ・デザインの時代がやってきた

近年、サイバー犯罪者の手口はますます巧妙になっている。最新のトレンドや世間の関心が高い問題を悪用してマルウェアを拡散し、無防備なユーザーから個人情報を盗むのである。

お気に入りのテレビ番組に関するアプリであろうと、新型コロナ関連の政府の健康情報であろうと、荷物の不在配達の追跡であろうと結果はどれも同じで、結局はデバイスを感染させて詐欺や盗難を行うのだ。

ごく一般的な種類のマルウェアからデバイスを保護するためには、日頃からの基本的なサイバーセキュリティ衛生が鍵となる。しかし、非常に巧妙なサイバー攻撃を防ぐためには、テクノロジーにあらかじめ組み込まれたセキュリティが欠かせないのである。

シークレットサービスは大統領を守ることで有名だが、彼らの別の主要任務には米国の金融インフラと決済システムを保護し、米国の偽造通貨、銀行・金融機関詐欺、不正資金操作、ID窃盗、アクセス機器詐欺、サイバー犯罪など、幅広い金融・電子犯罪から経済の健全性を維持するというものがある。

モバイル機器が広く普及した現在、国土安全保障省(DHS)が推奨しているように「ユーザーはアプリのサイドロードや未承認アプリストアの使用を避けるべきであり、企業もデバイス上で禁止すべき」なのである。

サイバー犯罪者にとって今回のパンデミックは実に好都合であったと話すのは連邦捜査局のPaul Abbate(ポール・アベイト)副局長だ。「社会のテクノロジー依存から利益を得る機会を利用して、インターネット犯罪が盛んになった」のである。

FBIのインターネット犯罪苦情センターに寄せられた苦情は、2020年には79万1790件を記録し、前年の約2倍、前年比で過去最大の伸びを記録している。特に陰湿な例としては、ワクチン予約のためのアプリをダウンロードするよう促すテキストメッセージが送られるというもので、そのユーザーの連絡先にあるすべてのデバイスにマルウェアを送り、個人データや銀行情報を盗み出すというものがあった。

2021年初め、英国の国家サイバーセキュリティセンター(NCSC、National Cyber Security Centre)は、パンデミック時に多発した不在配達の荷物の追跡リンクを装った新種のマルウェアについて注意を呼びかけた。このリンクは、FluBotと呼ばれるマルウェアアプリケーションをダウンロードさせ、ユーザーの銀行口座やその他の金融口座の詳細を危険にさらすのである。サイバーセキュリティの研究者によると「悪意のあるSMSメッセージ(FluBot)の量は、1時間あたり数万件に上ることがある」という。さらにハッカーたちは大ヒットテレビ番組「イカゲーム」の人気に乗じて、同番組に関連するアプリに隠されたマルウェアを使ってモバイル機器を狙うというサイバー犯罪の新風を巻き起こしてさえいるようだ。

モバイル端末は今やインターネットの主要なアクセスポイントとなっており、2020年の米国におけるウェブサイトアクセス数の61%はモバイル端末によるものである。これは2019年に多数派に転じたばかりの傾向だが、すでに確固たる事実として確立されている。これを反映するかのようにモバイル端末へのサイバー攻撃が増加し、FBIに寄せられたフィッシングやスミッシング攻撃(悪意のあるリンクが貼られたメールやSMSテキストメッセージ)の苦情は2020年には倍以上に増え、2019年の11万4702件から2020年は24万1342件となっている。

ある調査によると、年末商戦を迎えるにあたり、買い物客の55%以上が少なくとも1回はモバイル端末で買い物をすると言われており、端末の所有者が攻撃から身を守るための予防策を講じることが不可欠だと言える。

NCSCが推奨する対策は、頻繁にデバイスのバックアップを取る、ウイルス検出ソフトウェアを使用する「メーカーが推奨するアプリストアからのみ新しいアプリをインストールする」などのごく基本的な保護策だ。DHSの指針も同様だが、加えてOS、アプリ、その他のソフトウェアを定期的に更新することの他、ユーザーと企業が多要素認証を採用することなどの勧告も含まれている。

サイバー衛生のシンプルな推奨事項を実行することで攻撃に対する防御の層を形成し、モバイル機器への不正アクセスの脅威を劇的に減少させることができる。しかし、このようなユーザーの行動が重要かつ効果的であるのと同時に、サイバー犯罪者は人間の心理や行動を利用した高度な技術を駆使してユーザーを欺き、デバイスに侵入するのである。

ソーシャルエンジニアリング攻撃と呼ばれるこの種の攻撃は、人間同士の交流や社会的スキルを利用してユーザーを騙し、攻撃者がデバイスやシステムにアクセスできるようにするだけでなく、時にはオプションのセキュリティ保護をユーザー自らに無効化させてしまうことさえある。FluBot、偽の予防接種サイト、悪意のある「イカゲーム」アプリなどの攻撃は、すべてソーシャルエンジニアリングの一例だ。

DHSのサイバーセキュリティ・インフラストラクチャ・セキュリティ庁(CISA、Cybersecurity and Infrastructure Security Agency)によると、モバイル機器の所有者は、テキストメッセージを通じたソーシャルエンジニアリング攻撃に対してより脆弱である可能性があるという。モバイル機器は「メール、音声、テキストメッセージ、ウェブブラウザの機能を統合しているため、操作された悪質行為の犠牲になる可能性が高くなる」のである。

2021年初めに開催されたホワイトハウスのサイバーセキュリティサミットでは、不正アクセスから保護するための、サイバー衛生に留まらない方法が話し合われた。「今後、テクノロジーの安全性はデフォルトとして構築されていく必要があります。我々は皆、安全な技術を購入していることを確信できなければならないのです」とホワイトハウスの高官は述べている

セキュリティ・バイ・デザインのモバイル機器は、サイバー衛生管理をあらかじめデバイスに組み込み、セキュリティの方程式から人間の心理を排除するのである。シートベルトやエアバッグも当初は自動車購入者のオプションとして始まったが、今ではすべての自動車に必須の安全装備となっているのである。

多要素認証や公式アプリストア以外からのアプリのダウンロード禁止など、基本的なサイバー衛生管理は、設計上システムに組み込むことが可能である。このような保護機能が最初から組み込まれているモバイル端末であれば、端末所有者が人気番組に興味を持ったりパンデミックを心配したりしたとしても、ソーシャルエンジニアリング攻撃に対して脆弱になることはないだろう。

確かに市民は、サイバーセキュリティ機関が推奨する基本的なサイバー衛生に従うべきである。しかし、作り手が高度なソーシャルエンジニアリング攻撃を回避し、技術の設計に高度なセキュリティ保護を組み込むことが必要不可欠なのではないだろうか。

画像クレジット:Andriy Onufriyenko / Getty Images

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(文:Mark Sullivan、翻訳:Dragonfly)

【コラム】クリエイターエコノミーとクリエイターテックが実現する大きなビジネス

クリエイターエコノミーという言葉を聞いたことがある人は少なくないはずだ。もはや新しい概念ではないし、それが何かをよく知っている人もいるだろう。しかし、その名が示す通り、クリエイターエコノミーにはクリエイターが必要だ。

私たちがクリエイターエコノミーと呼んでいるものは、本質として2つのグループを内包している。1つは、主に独立したクリエイターで構成された、大規模で分散化された非定形のグループで、何らかの方法でデジタル空間に接続されているものだ。ミュージシャン、ビジュアルアーティスト、映像クリエイター、グラフィックデザイナー、ブロガー、インフルエンサーなどがこれに含まれる。そしてもう1つは、こうしたクリエイション(創造)を可能にするツールを提供する企業やプラットフォーム(クリエイターテック)で、その延長線上には、配信や収益化も含まれる。

当然のことながら、クリエイターエコノミーのビジネスは基本的にデジタル上で行われ、ハイテクの領域にある。これにより、組織に属さないクリエイターが従前よりも簡単に自分の作品で収益を上げることができるようになった。

これが、長期にわたり栄華を極めてきたスーパースターモデルの崩壊のきっかけにもなっている、というのは驚くべきことだろうか。スーパースターモデルとは、一部の著名なスター集団によるコンテンツをユーザーが視聴するという、昔ながらのエンターテインメントビジネスの手法である。何十年にも及ぶスーパースターモデルのもとで、サブカルチャーが繁栄していなかったわけではない……実際繁栄していたのだが、大きな収益を上げることは難しかった。

クリエイターエコノミーとクリエイターテックは、どちらかというと自然に発生したものだ。当初はバイラリティ(SNSなどであっという間に人気が爆発すること)や新しいソーシャルメディアチャネルを通じたオーディエンスのアクセスで実現したシフト(変化)だったが、今やクリエイターテック自体が独自の世界を構築している。そのため、スーパースターモデルからのシフトを継続できるかどうかが、クリエイターテックの存続の鍵となっている。

スーパースターモデルに風穴を開ける

Netflix(ネットフリックス)は、7月16日の株主総会で「TikTokは『驚異的な』成長を遂げている」として、真のライバルであることを認めた。NetflixがTikTokの競争力を最初に認めたのは、2020年、TikTokに対応すべく「Fast Laughs(ファストラフス、短いおもしろ動画)」を立ち上げたときだったと考える人もいるかもしれない。Fast LaughsはTikTokのコンセプトを借用して、Netflixのコメディーラインナップから抜粋した短いクリップを提供する動画フィードである。

Netflixが長い間スーパースターを利用してきたのは紛うことなき事実である。Zac Efron(ザック・エフロン)は世界中を旅し、Paris Hilton(パリス・ヒルトン)は料理をし、有名なコメディアンは1つ以上のスペシャル番組を持ち、オリジナルの映画やシリーズでは、ほんの数例挙げるだけでもTimothée Chalamet(ティモシー・シャラメ)、Jane Fonda(ジェーン・フォンダ)、Sandra Oh(サンドラ・オー)、Anthony Hopkins(アンソニー・ホプキンス)などが活躍している。古き良き時代の姿だ。

一方、TikTokにおける最大のスターは、いわゆる「スター」ではなく、たまたまおもしろくて、賢くて、痛烈で、アルゴリズムの運と自分の創造性だけで視聴者を集めたごく一般の人々である。たとえ有名でなくても、多くのクリエイターがニッチなフィールドを見つけ、熱心なファンを獲得している。彼らは(オーディエンスの)貴重な注目と視聴率を奪う新しいプレイヤーだ。

クリエイターエコノミーには「テントポール」の作品が存在しない。テントポールとは、そのスタジオ自体の経営を左右するほどの大ヒットを記録する作品を意味する用語である。ほとんどのアルバムは制作費を回収できない(メジャーレーベルでも同様だ)。そこにAdele(アデル)が現れてレコードを発表し、回収できなかったレコードの代金を支払い、多少の収益をもたらす。

これはクリエイターエコノミーには当てはまらない。確かにTikTokでもKhaby Lame(カベンネ・ラメ)のようなタイプのスターが生まれている。彼は、複雑すぎるライフハックに対しておもしろおかしく苛立ちを表現することで世界的に有名となり、今ではMeta(メタ)の宣伝をしている

しかし、カベンネ・ラメのフォロワーが、彼の最新の動画を観るためだけにアプリを開く(そして視聴後はアプリを閉じる)ことはない(そうさせないようにアルゴリズムが設計されているのだが、それはまた別の話だ)。フォロワーたちはこれらの有名人だけでなく、小規模なクリエイターも数多くフォローしており、彼らが鑑賞する動画の大半は、世界的に有名ではないクリエイターが作ったものであることが統計的に明らかになっている。

小規模クリエイターがニッチなフィールドで成功を収め、熱心なファンを獲得し、すべてが変わりつつある現在、クリエイターテックもリアルタイムでそのニーズに応えるために進化している。クリエイターの幸福(ウェルフェア)を重視し、その維持を最優先すべき時が来た。

良い倫理観=良いビジネス

クリエイターの報酬を単に倫理的な問題としてとらえるのは簡単だが、すでに語りつくされた議論である。もちろんアーティストは自分の作品にふさわしい報酬を得るべきだ。では、別の視点から考えてみよう。

クリエイターエコノミーにおけるテックプラットフォームや企業が活動を存続するためには、小規模クリエイターへの公正な報酬をビジネスモデルの中核とすることが重要である。クリエイターをプラットフォームに呼び込み、定着させて、プラットフォームへの需要を喚起するのである。

これは現実的な解法でもある。今は90年代ではないし、大きなイベントも存在しない。クリエイターテックにとってはクリエイターの数こそが重要である。プラットフォームの需要を支えているのは多くの小さなクリエイターたちだ。

クリエイターテックは、小規模クリエイターの支援に全力で取り組むべきである。彼らを支援し、適正な報酬を提供し、クリエイターをスポンサーやパトロンと結びつけるプラットフォームを継続的に改良していかなければ、スーパースターモデルに対する(クリエイターエコノミーの)進化はすべて無駄になってしまい、クリエイターテックは自らの首を絞めてしまうことになる。

クリエイターの利益よりも(プラットフォームを提供する企業の)株主の利益の方が大きいというビジネスモデルは、特に視聴者の需要と支払い意欲が高い状況において、望ましいものではなく、持続可能性も損なっている。コンテンツクリエイターが更新を中断すると罰せられるようなアルゴリズムは馬鹿げており、廃止すべきだ。クリエイターエコノミーモデルとそれを利用する企業は、根底から見直しを行うべき時である。

クリエイターテックは、クリエイターのパトロネージュ(支援者)としての役割を受け入れ、革新し続けなければならない。すでに特定のクリエイターのニーズに対応して、場合によってはブランドとクリエイターを結びつけて収益性の高いパートナーシップを実現する、競争の激しいパトロンサービスの市場を作り出そうとしているクリエイターテックも存在する。

Substack(サブスタック)は、フリーランスライターのためのプラットフォームを進化させようとしている。Patreon(パトレオン)はあらゆるタイプのコンテンツクリエイターに使ってもらえると自称しているが、公式な手段ではない。今後は最も多くの報酬、知名度、チャンス、そして最も使いやすいサービスを提供するプラットフォームが勝利することになるだろう。

ライセンス、配信、ブロックチェーン認証などの面で進化を続けることは、クリエイターのウェルフェアにとっても、これらの進化を実現する企業にとってもメリットがある。アートオークションのプラットフォームが従来型のギャラリーの枠を超えてユーザーに利用してもらうにはどうするべきだろうか。デジタル音楽、映像、画像のライセンシング(ライセンスを供与して利益を得る行為)は加速し、映像コンテンツクリエイター、フォトグラファー、ソングライターなどのクリエイターエコノミーの中で重要な役割を果たしている。

冷静に考えれば、収益を上げる過程で誰かが搾取される必要はないのだ。

小規模クリエイターへの投資は経済的にもメリットがある

個人がクリエイターになる時代、クリエイターテックが負うクリエイターに対する責任は、自己保身のためだけでなく、倫理的にも重要である(繰り返しになるが、クリエイターテックは小規模クリエイターのエコシステムが充実していなければ成立しない)。スーパースターエコノミーは、プラットフォームやメディアに散在する熱心なファンを持つ独立したクリエイターが支えるエコノミーに道を譲ろうとしている。

活発なクリエイターエコノミーには、まずクリエイター自身の健全な成長が必要である。熱心なファンは意外なところからボトムアップで生まれるので、オーディエンスがコンテンツに簡単にアクセスできることが必要だ。クリエイターテックの成功は、クリエイター自身の成功と切り離せない関係にあるのだから、クリエイターテックはクリエイターを搾取してはならない。

テック産業は、自分たちの命運をユーザー(クリエイター)の命運と結びつけて考えない悪い癖がある。純粋なビジネスの観点からも、倫理的な観点からも、クリエイターテックはこの間違いを犯してはならない。

編集部注:Ira Belsky(イラ・ベルスキー)氏は、Artlistの共同設立者兼共同CEO。

画像クレジット:Stephen Zeigler / Getty Images

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(文:Ira Belsky、翻訳:Dragonfly)

【コラム】10年前のCES 2012を振り返る「Ultrabook、Noka Windows、全家庭に3Dプリンターを!」

家電製品(consumer electronics)は時間の経過を図る「ものさし」としてはよろしくない。そして、正直にいってConsumer Electronics Show(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)はさらによくない。これまで私がCESに行った回数はゆうに2桁に達しているが、だいたいが同じような体験だった。1週間続くニュースとピカピカのガジェットの山。トレーラーやプレスセンター、ホテルの部屋、コンベンションセンター会場などからは、ときとして非現実的なその年のトレンドを決めようとするニュースが飛び込んでくる。

ラスベガス・コンベンションセンターと数多くの博覧会会場とホテルのスイートルームは、善意と計画的陳腐化の亡霊で溢れかえる。それはこの業界の特質だ。今や日常となったデバイスのいくつかは、過去10年にCESでデビューしたものだが、ほとんどの場合、デバイスは現れては消える、そもそも店の陳列棚にたどりつけばの話だが。

CES 2022は奇妙なイベントになりそうだ。その理由はフロアで起ころうとしているどんなことでもなく、世界的にやむを得ない状況によるものだ(ただし、聞くところによるとBackstreet Boys[バックストリート・ボーイズ]のメンバーの1人は自宅のボクシング器具を見せびらかすために登場するらしい)。新型コロナウイルス感染症が蔓延する前の対面カンファレンスの意義を問う声はもちろんある。もっとも、いつだってCESは例外的であり、それはハードウェアが発表されるのと同じ部屋にいることの重要性によるものだ。

関連記事:CES 2022会場出展を断念する企業が続出、オミクロン株感染拡大受け

2020年のパンデミックるによるイベント中止をかろうじて逃れたCES 2021は、オールバーチャルの未来を予見するためのリハーサルだった。その結果はといえば、中途半端なものだった。それに対して、CES 2012にそんな問題は一切なかった。その前数年間の(世界同時不況による)わずかな落ち込みの後、その年の参加者は史上最多の15万3000人を記録した。成長はその後数年間ラスベガスを席巻し続け、2019年には18万2000人と再びピークを迎えた、と主催者であるCTA(全米民生技術協会)は述べている。

2012年のCESは、もはや存在しない形の携帯電話ショーのようだった。Mobile World Congress(モバイル・ワールド・コングレス)を翌月に控え、多くの大物企業はApple(アップル)にならって主力製品を自分たちの時間に発表するようになった結果、CESはかつてのような携帯電話の中心地ではなくなった。しかし、その後の10年間、その空間は別の分野の製品によってすぐに埋められた。中でも最も目立っているのが自動車で、今やショーの中心となっている。

Sprint Corporationの通信機器8T8Rの無線ユニットに接続されたカラーコードケーブル。1つの基地局の8基の受信機と8基の送信機を組み合わせて、SprintのLTE TDD 2.5 GHz回線の性能を向上させる。2014年8月13日水曜日、イリノイ州シカゴのビルの屋上にて。Sprintは7月に6年ぶりの四半期黒字を報告し、予測以上の契約者を獲得してアナリストの売上予測を上回った(画像クレジット:Daniel Acker/Bloomberg via Getty Images)

LTEはCES 2012会場のいたるところにあり、数年前の5G襲来のようだった。CNETは「4G騒動」とまで見出しに書いた。SprintがラスベガスのショーでWimax(ワイマックス)をデモしてから5年、会社はLTEの世界に踏み込む準備を整えた。Sony Xperia S(ソニー・エクスペリアS)が見出しを飾り、初代iPhoneがBlackBerryの時代の終焉の幕開けを運命づけた5年後、Motorola(モトローラ)はDroid 4(ドロイド4)で勇敢にも物理的キーボードを復活させた。

画像クレジット:TechCrunch

しかし、実際のところこのショーは、発表された2種類のLTE対応Windows携帯端末のうちの1台のものだった。HTC Titan II(HTCタイタン2)は、次世代ワイヤレステクノロジーを同OSで採用した最初のデバイスだったが、4.3インチAMOLED(アクティブマトリクス有機EL)ディスプレイ、8メガピクセル背面カメラ、512MB RAMと人目を引くデザインで参加者の興味をかきたてたのはNokia Lumia 900(ノキア・ルミア900)だった。

その1年前、Nokiaの歯に衣着せぬCEOだったStephen Elop(スティーブン・イロップ)氏は、会社の苦悩を氷の海に取り残されて燃え上がる船になぞらえた。Microsoft(マイクロソフト)との提携はNokiaの決断だった。1年後、Nokiaはモバイル部門をMicrosoftに売却した。

QWERTYキーボードにしがみつこうとしたDroid 4の勇気(結局運は尽きたとしても)に似て、Sony(ソニー)のbloggie(ブロギー)は、スタンドアロン型ブロギングカムコーダーの最後のあがきだった。それはCisco(シスコ)が、2009年に当時絶大な人気だったポケットカムコーダーを5億900万ドル(約509億円)で買収したFlip Video(フリップ・ビデオ)事業から撤退してから1年後のことだった。死んでいくカテゴリーの最後の燃えさしを「どうにでもなれ」とばかりに拾うのはSonyに任せた。

画像クレジット:TechCrunch

そして、あのUltrabook(ウルトラブック)があった。このカテゴリーの時代があったとすれば、それはラスベガスでの5日間だった。その年の半ばまでに、カテゴリーの終焉に関する話題はすでに始まっていた。Intel(インテル)が命名し、Copmutex 2011(コンピュテックス2011)で発表されたそのカテゴリーは、最新の薄くて軽い分類だったが、実際のところPCメーカーそれぞれによるMacBook Air対抗の試みだった。

Intelはそのカテゴリーに厳格なガイダンスを設け、薄さ、軽さ、バッテリー寿命などに焦点を当てた。結局、法外なコストと絶え間なく変わるゴールとスペックに加え、スマートフォンとタブレットの台頭によってUltrabookの運命は尽きた。

画像クレジット:TechCrunch

CES 2012では、デスクトップ3Dプリンティングは未来であり、MakerBot(メーカーボット)はその中心だった。ニューヨーク市拠点でオープンソースプロジェクト、RepRap(レップラップ)のスピンアウトだった同社は、ショーの場を利用してReplicator(リプリケーター)を発表した。前機種のThing-O-Matic(シング・オー・マチック)を飛躍的に改善したシステムは、Star Trek(スター・トレック)に由来する名前を擁し、すべての家庭に3Dプリンターをという夢に向かう大きな一歩を感じさせた。

価格、技術的限界、そしてFormlabs(フォームラブス)などのライバルのより高度なテクノロジーの到来によって、この分野の多くの企業が財を失い、結果的にかなりの規模のテック・ハイプ・バブルを明確に示すことになった。1年後、MakerBotは3Dプリンティングの巨人、Stratasys(ストラタシス)に買収された。同社は教育市場向けの3Dテクノロジーに焦点を合わせていた。

いつものことだが、CESはコンセプトであり続ける運命と思われる多数のコンセプトをもたらす。Samsung(サムスン)のSmart Window(スマート・ウィンドウ)も当然のごとくその1つだった。透明な窓型ディスプレイにタッチスクリーンを備えたデバイスは、誰もがあらゆるものを巨大スクリーンにしたがっていると思われた時代に多くの参加者の目を引いたが、CESブースの飾り以上にはなることはなかったようだ。付け加えておくと、それ以来同社は社内インキュベーター「C-Lab」の一環として、人工スマートウィンドウに投資している。なぜなら、繰り返しになるが、消費者エレクトロニクスはこと前進に関する限り、異様なほど繰り返しの多い業界だからだ。

10年がすぎ、CES 2012は成功よりも失敗に見えるかもしれない。たしかに、最も騒がれた製品は、後々最もダメージを受けている。すべての家庭に3Dプリンターもスマート・ウィンドウもまだない。でも、そうだ、LTEはちょっとした成功だろう。

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(文:Brian Heater、翻訳:Nob Takahashi / facebook

【コラム】暗号通貨は送金の代替手段か、それとも付加的なものなのか?

ビットコインが誕生して以来、世界中の政府が暗号資産の導入、規制、さらには禁止を検討してきた。それ以来、暗号資産のエコシステムは、(何度も)月へ行ったり戻ったりしているロケット船のようなものだった。現在では、これまで以上に多くの人々がこのロケットに乗り込んでいるようだ。

また、このパンデミックの結果、あらゆる産業でデジタルプラットフォームへの大規模なシフトが見られた。世界の政治指導者たちも、自国の経済を同じ方向に向かわせるために、これに追随する措置をとっている。

最も新しい例としては、エルサルバドルがある。この国は、法定通貨としてビットコインを採用した最初の国になったことで話題になった(この動きはその後、市民から抗議を受けることとなった)。最初の発表で、同国の大統領は暗号資産を送金手段の競合として直接結びつけ、これによりエルサルバドルの低所得世帯が送金で受け取る金額が「毎年数十億ドル(数千億円)相当」増加すると言及した。

国境を越えた決済の流れの効果的な存在になるために、デジタル資産は、国境を越えたユースケースにかかわらず、すでにその導入能力を弱めている生来の課題を克服しなければならない。

個人が故郷の家族やコミュニティを支援するためにお金を送る行為である「送金」は、多くの国にとってGDPの重要な構成要素となっている。実際、世界銀行によると、2020年の世界の送金総額はおよそ7000億ドル(約80兆円)で、そのうち5400億ドル(約62兆円)は低・中所得国に送られたと記録されている。エルサルバドルはそのうちの60億ドル(約6890万円)近くを受け取った。一方、暗号資産は現在、世界の国境を越えた送金量の1%未満と推定されている。

では、暗号資産は送金手段の代替として有効なのだろうか?答えは、ノーだ。少なくともまだ現在のところは。

各サービスに対する需要は市場特有の話であり、リアルタイムでのデジタルと現金の払い出しオプションがあるにもかかわらず、受取人が依然として現金の方を選択することは珍しくない。送金を受け取る個人の多くは、商品やサービスの代金をデジタルで支払う能力がほとんどないため、これは驚くべきことではないだろう。その代わりに、彼らはMoneyGram(マネーグラム)のネットワークにある小売店や銀行などの実店舗を利用して、必要な資金を調達しているのだ。

デジタル通貨は確かに付加的な要素であり、暗号資産は間違いなく今後数年間で影響を与えていくことだろう。しかし、それには時間がかかり、メインストリームとして採用され、現金に依存し続ける何百万もの家庭が現金を置き換えるには、いくつかの逆風が吹いている。

まず1つに、正直言って、暗号資産を現地通貨と交換する際の複雑さを考慮すると、暗号資産による送金は、現状では現金よりも安く、速く、簡単な代替手段とは言えない。

エルサルバドルの場合、送金は同国のGDPの約4分の1を占め、約36万世帯が恩恵を受けている。暗号資産の売買は、送金プラットフォームを介した送金・受入よりもはるかに複雑なプロセスであることがわかっている。これらの世帯のすべてが、このまったく新しい決済システムをすぐに学び、適応する可能性は極めて低いだろう。

さらに、暗号資産で商品やサービスを購入するには、ほぼすべての状況で、デジタル資産を現地通貨に戻す必要がある。これは、日々の生活に必要な資金を迅速に入手するために送金を頼りにしている何百万人もの人々にとっては大変なことだ。

最近の顧客調査によると、送金者は主に食料(73%)、医療(59%)、住居(54%)など、生存と幸福のための基本的な費用をまかなうために送金していることがわかった。暗号資産は、このような多くの人々が即時性を求めて依存する生命線となるには、まだ早いのだ。暗号資産はほとんどの地域通貨と比較して特に変動しやすいため、20ドルがそのまま20ドルとして届くことを頼りにしている人たちの安全な避難所として頼りきることはできないのだ。ビットコインの価格推移を見れば一目瞭然だ。

最後に、米国を含め、多くの国がまだ暗号資産の取引 / 支払いに法的な道筋を認めていない、あるいは提供していない。大げさにいえば、2022年の年末年始のプレゼントはビットコインで支払うことになるかのように盛り上がっているが、通路の反対側には反対のアプローチを取っている国が何十とある。

国境を越えた決済の流れを効果的にするために、デジタル資産は、実用性の欠如、取引所の費用、複雑さ、変動性、地域通貨へのオン / オフランプの制限など、国境を越えた使用事例にかかわらず、すでにその採用能力を弱めている生来の課題を克服しなければならない。

暗号や暗号資産やデジタル通貨は、最終的には国境を越えた決済を効率化するのに役立つと私は信じている。個人的にも、投資として暗号資産を「保有」し、この業界の一翼を担うことは、とても楽しいことだ。しかし、多くの新技術がそうであるように、デジタル資産が世界的な送金の標準になるには、まだそれなりの障害が残っているのも事実だ。

開示:MoneyGramはステラとのパートナーシップに着手し、ステラネットワークに接続されたデジタルウォレットがMoneyGramのグローバルリテールプラットフォームにアクセスできるようになりました。

編集部注:本稿の執筆者Alex Holmes(アレックス・ホームズ)氏は、デジタルP2P決済の進化におけるグローバルリーダーであるMoneyGram Internationalの会長兼CEO。

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(文:Alex Holmes、翻訳:Akihito Mizukoshi)

【コラム】2人のFBI捜査官が私の家にきた、米国における法的要求と報道の自由について

2020年8月、予告なしに2人のFBI捜査官が私の家の玄関先にやってきて、前年に掲載したTechCrunchの記事について質問したいと言ってきた。

記事の内容は、あるハッカーがグアテマラのメキシコ大使館のサーバーから、ビザや外交官パスポートを含む数千件の書類を持ち出したというものだった。そのハッカーによると、脆弱なサーバーについてメキシコ当局に連絡したが無視されたため、大使館のファイルへのリンクをツイートしたという。「返事がない場合は公開する」とハッカーは言っていた。

関連記事:ハッカーがメキシコ大使館の文書を大量にネット公開

私は取材時の常套手段として、ニューヨークのメキシコ領事館にコメントを求めた。広報担当者によると、メキシコ政府はこの問題を「非常に深刻」に受け止めているとのことだった。私たちは記事を公開し、それで終わったように思えた。

1年後、FBIが私の家のドアをノックしてきた。終わったというのは間違いだったようだ。私は捜査官との会話を断り、ドアを閉めた。

私たちが記事を発表した後、メキシコ政府は外交ルートを通じて米国司法省にハッキングの調査あるいはハッカーの特定への協力を依頼した。私がそのハッカーと接触したことで、メキシコ政府は私を関係者としたに違いない。それで1年後に訪問してきたのだろう。

訪問の1カ月後、メキシコ政府はFBIに対し書面による質問リストを提出し、私たちに回答を求めてきたが、その多くはすでに記事の中で回答されているものだった。私たちの司法省への回答は、すでに発表した内容以上のものではなかった。

報道者に対する法的要求は珍しいことではない。メディア業界で働く上での職業病と考える人もいる。要求は脅しの形で行われることも多く、ほとんどの場合、ジャーナリストや報道機関に記事の撤回を迫り、場合によっては記事の公開前に中止させる。特にサイバーセキュリティを扱うジャーナリストは明るく元気な見出しではあまり知られておらず、企業や政府は自らのセキュリティ対策の不備を恥ずかしい見出しで報じられるのを避けようとするため、法的な脅迫を受ける傾向がある。

例えば、米国ミズーリ州のMike Parson(マイク・パーソン)知事とSt. Louis Post-Dispatch(セントルイス・ポスト・ディスパッチ)紙との間で最近起きた対立を見て欲しい。知事は、この新聞社の記者が州の教育局のウェブサイトに何千もの社会保障番号が掲載されているのを発見した後、違法なハッキングを行ったと訴えた。この記者は、社会保障番号が流出した3人に確認を取った上で、州にセキュリティの不備を速やかに報告し、データが削除されるまで記事の公開を保留していた。

パーソン知事は、この報道が州のハッキング法に違反しているとし、法執行機関と州検察官に同紙の調査を命じ「州に恥をかかせようとしている」と主張した。これに対し法律家や議員、さらにはパーソンの所属する政党のメンバーまでもが、倫理的にまったく問題のない行為であると認められた新聞社を非難した知事を嘲笑した。パーソンは、自身の政治活動委員会が費用を負担した動画の中でまたもや非難し、いくつかの誤った主張をした他、新聞社を「フェイクニュース」呼ばわりした。2021年11月初め、教育局は、最終的に62万人以上の州の教育者に影響を与えた過失について謝罪した。

違法性や不適切性の主張は、悪意のあるハッカーに悪用される前に流出した個人情報やセキュリティ上の欠陥を発見して公開するセキュリティ研究者に対して広く用いられる戦術だ。独立系ジャーナリストと同様に、セキュリティ研究者も単独で活動していることが多く、たとえ彼らの活動が完全に合法的であり、将来起こりうる最悪のセキュリティ事故を防ぐのに役立ったとしても、彼らは裁判の高額な訴訟費用を恐れて法的な脅しに応じるしかない。彼らに経験豊富で意欲的なメディア法務チームがついているとは限らない。

関連記事:オープンソース版の登場に対してWhat3Wordsがセキュリティ研究者に法的警告を送付

これまでにも不当な法的要求を断ったことはあったが、仕事をしているだけで連邦捜査官が玄関先にやってくるというのは、私にとっては初めての経験だ。違法行為があったとは聞いていないが、もし私がメキシコの地を踏んだ場合、メキシコがどのような見解を示すかわからないのは不安だ。

しかし、最もダメージが大きいのは、紙面に載らない法的な脅しや要求だ。法的な要求には本来、口封じの効果がある。時には成功することもある。ジャーナリズムにはリスクがつきものであり、報道局が常に勝つとは限らない。法的な脅しは、放置すると仕事をすることが法的に有害となるため、セキュリティ研究とジャーナリズムの両方に対する萎縮効果がある。これは、世界の情報量の減少、そして時には安全性の低下にもつながる。

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(文:Zack Whittaker、翻訳:Dragonfly)

【コラム】屋上レンタル、米国の不動産所有者は5Gキャリアと手を結ぶべきだ

5Gインフラを敷設する動きが活発になり各社の競争が激しくなるに連れ、レストラン、ホテル、住居用建物、さらには病院や教会の屋上までもがインフラ敷設場所として注目されている。5Gテクノロジーを人口密度の高い地域に確立したいと考えるテレコミュニケーション会社にとって、こうした屋上は急速に重要な不動産ターゲットとなりつつある。

事実、次世代のワイヤレス展開から得られるリース収入は、今後5年間で、米国内のリース収入の大きな部分を占めると考えられており、不動産所有者や事業主にとって大きなチャンスとなる。

バイデン政権は、5Gインフラの拡大を国の主要課題として位置付けている。1.2兆ドル(約137兆円)のインフラ投資法では、農村部やサービスが十分行き届いていない地域でも高速回線を利用できるようにするための財源として650億ドル(約7兆4000億円) が確保されている。5Gは他のワイヤレステクノロジーと比べて高速で大容量のデータを処理できるが、カバーできる範囲は最大で 約1500フィート(約457メートル)と、ぐっと狭い。

5G テクノロジーは、次世代ワイヤレスネットワークとしてはアンテナが短いため、既存の建物の屋上に敷設するのに非常に適している。

大手ワイヤレス通信プロバイダーに加え、5Gの展開競争には新たにケーブル会社やビックテック企業も含まれている。これらの企業は、5Gマクロおよびスモールセルサイトを配備するために、合わせて2750億ドル(約31兆円)を投資すると予測されている。必要な量の配備を効果的かつ効率的に行う唯一の方法は、既存の建物を利用することである。言い換えれば、5G競争を乗り切るには、屋上配備戦略の採用が鍵になるのだ。

歴史的に言って、ワイヤレス通信市場は不動産所有者やその他の事業主にとっては厳しい市場だった。ワイヤレスキャリアとタワー企業が長期契約を結んでおり、不動産所有者にとって有利とはいえない状況になっていたのだ。

多くの地域では、新しいタワーを立てることに強い反対の声があり、さらに建設、ゾーニング、許可プロセスには時間がかかる。しかし、5G テクノロジーは、次世代ワイヤレスネットワークとしてはアンテナが短く、既存の建物の屋上に敷設するのに非常に適している。現在5Gキャリアにとって、ワイヤレスに関する不動産要件を満たすには、タワー企業より大手不動産業者のほうが、迅速に効率よくソリューションを提供してくれる相手となっている。

屋上配備戦略は、5Gキャリアにとっても不動産所有者にとっても互いにメリットがある。キャリアは使用量の多い地域でできる限り迅速にインフラを配備するという目的を達成することが可能であり、一方不動産所有者は、屋上からリース料を得、すでに所有する不動産を新たな方法で収益化するという経済的利益を得ることができる。

不動産所有者の経常利益に与える影響と、30年リースで生み出されるであろう利益は相当なものであり、不動産所有者は資本へアクセスしやすくなる。さらに不動産所有者は、5Gキャリアに屋上を貸すことで使用料を得ることができるだけでなく、高速回線への接続という意味で、テナントにより質の高いサービスを提供することもできる。

5G展開競争で問題になっている事柄

米国にとって、競争に遅れを取らず国際的な競争力を保つためにも5Gインフラの展開は非常に重要である。5Gは高速での接続、キャパシティの増加、ゼロ遅延をもたらすが、5Gにより期待されるのは、自動運転車や遠隔医療の拡大、製造や農業の効率化、サプライチェーン管理の改善まで、さまざまな事業サービスを可能にするイノベーションの推進である。

これらのイノベーションから生み出される利益すべてを考慮すると、5Gは2025年までに米国のGDPのうち、1兆5000億ドル(約170兆円)以上をもたらすと予測される。

またバイデン政権は、5Gテクノロジーとユニバーサルブロードバンドを、地方に暮らす人々に経済的な平等もたらす手段と考えている。政策声明によると、農村部では都市部と比較して信頼のおけるインターネットの利用が10分の1に限られているとのことである。

最近バイデン大統領が署名したインフラ投資法においては、大統領も国会も農村部におけるブロードバンドインフラへの投資を優先し、十分サービスが提供されていない地域でのインターネットへのアクセスを拡大し、デジタル上の分断を是正したい考えだ。このため、農村部の不動産所有者は5Gインフラの展開からより多くの利益を得ることができるだろう。

強力な5Gネットワークを米国内に確立するには時間がかかるだろう。5Gプロバイダーやワイヤレスキャリアと手を結ぶ不動産所有者は、5Gテクノロジーのサイバーセキュリティにまつわる考慮事項について、しっかり情報提供を受け、それを理解しなければならない(これらの考慮事項が、提携の足かせになると考える必要はない)。というのも不動産所有者は5Gインフラを自身の不動産に配備し、そこからのワイヤレスネットワークを入居者に提供することになるからである。

最近2,300人以上のリスク管理者および他の責任者を対象にAonが行った調査では、サイバーリスクは現在のそして将来予想される世界的リスクの第一位として位置付けられた。5Gが普及し接続性が高まることは確実である。つまり、サイバーセキュリティ業界は機械学習や人工知能を改善しそれを広く活用し防御を強化する必要があるのである。

また最近では、不動産業界におけるサイバーセキュリティ強化を促進するためのガイダンスやフレームワークを提供する Building Cyber Securityといった組織も立ち上げられている。

不動産所有者が効率よく屋上を収益化し5G競争に参画するには、政府や民間企業が5G敷設要件の審査をタイムリーに行うことも含め、引き続き迅速な5Gインフラの配備に向け協力して作業を進めていく必要がある。

これに加えて、州や地域レベルでも、5Gアンテナの敷設に関するゾーニングや認可プロセスを改善する作業をもっと進める必要がある。多くの州議会がすでに州民の利益になる5G戦略を策定するための法案を検討中であり、これにより、不動産所有者にも新たな機会が提供されることが見込まれる。

5Gの競争を促進するためは、より多くの政策や技術的な作業が必要だが、不動産所有者が利益を手にする機会は、目の前に手に取れる形で存在している。新型コロナウイルス感染症によって経済的打撃を受けたレストラン経営者やホテル業者が立ち直ろうとする中、屋上の収益化は、店を閉じるしか選択肢がなかった状態との違いを生み出すことになるだろう。

編集部注:本稿の執筆者James Trainor(ジェームズ・トレーナー)氏は、FBIのサイバー部門の元アシスタントディレクターで、Aonのシニアバイスプレジデント。Rick Varnell(リック・ヴァーネル)氏とMatt Davis(マット・デイビス)氏は、いずれも5G LLCの創設者であり、プリンシパル・パートナー。

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(文:James Trainor、Rick Varnell、Matt Davis、翻訳:Dragonfly)

【コラム】米国のスマート道路への投資は好景気への道を開くだろう

米国の交通システムが直面している課題は数多く、年々悪化している。米国の道路への需要が高まるにつれて、安全性、効率性、持続可能性の問題も増大している。

歴史的な1兆ドル(約114兆円)規模のInfrastructure Investment and Jobs Act(インフラ投資・雇用法)は、数十年間で最大かつ広範囲に及ぶインフラパッケージの1つであり、この国の投資ニーズに対する巨額の頭金となって、すべての州で数千もの重要なプロジェクトの鍵を握ることになる。しかし、公的資金だけでは、特に5年間に配分される場合、人口や都市、そして道路を毎日走る車両の新たなニーズに対応するには不十分である。

例えば、老朽化し荒廃した高速道路、橋、道路の補修に1000億ドル(約11兆円)が割り当てられている。残念なことに、米国は長年にわたり道路の財源を不足させてきたため、公共道路の43%が劣悪あるいは並以下の状態に置かれており、その結果、道路補修の必要額として4350億ドル(約49兆円)の未処理分が生じている。道路の修理に特化した公的資金をもってしても、私たちは依然として必要とされるレベルに達していない。

交通インフラ産業は歴史的にリスク回避の傾向があり、公共交通機関の資金の利用可能性によって制限されてきた。しかし、今日に至るまで私たちすべてが依存してきている初期のテクノロジーネットワークの歴史的な例がいくつかあり、それらは国民経済に劇的なインパクトをもたらしている。これらのプロジェクトは、公共投資によって促進され、地元の公共事業機関による地域での実施を必要とし、大部分は民間組織によって提供され、維持されてきた。

初期の自動車を支えるために舗装道路が導入されたのは、100年と少し前のことである。州間高速道路網は、Dwight D. Eisenhower(ドワイト・D・アイゼンハワー)大統領が1956年のFederal Aid Highway Act(連邦補助高速道路法)に署名して以来「史上最大の公共事業」として知られている。毎日の移動、商業、文化の手段となっている。

この記事をコンピューターやタブレット、スマートフォンの画面で読むには、全国的な電力網やケーブル、携帯電話ネットワークの恩恵が欠かせない。私たちがより多くの生活をテクノロジーに依存し、信頼し、そして放棄するようになるにつれ、交通機関の研究者やスマートインフラのプロバイダーの多くが、安全性、効率性、持続可能性を向上させる創造的な新しい方法を取り入れている。

米国には国を横断する400万マイル(約644万キロメートル)余りの公道が存在する。スマート道路は、次世代の車両、人、都市のインフラを変革するための、わかりやすくアクセスしやすいソリューションである。古いテクノロジーを改良するために新しいテクノロジーを発明するという頻度は非常に高くなっている。道路をネットワーク化することは、テクノロジーを可能にするソリューションの1つである。

道路をデータと通信のプラットフォームに変えることで、オンライン小売業者がインターネットのトラフィックから得るのと同じレベルで、実店舗が車両向けのインサイトを捕捉するために使用できるような匿名性の高いデータが収集されるようになる。オンライン小売業者には、顧客の人口統計、ショッピングおよび購買習慣、市場動向、そしてトラフィックパターンについての情報がもたらされている。インターネットのインフラとサービスにより、トラフィックデータが自動的かつ受動的に収集されるのである。

これに対し、実店舗は基本的に顧客ベースについて何も把握していない。起業家は数百万ドル(数億円)を現地経済に投資するが、その前に何カ月もかけて場所を見つけて調整し、在庫を確保し、人員を配置する。こうした一連の作業を経て、1つの取引が成立する。道路から収集された匿名データは、事業主がオペレーションを改善し、従来の小売業者がオンライン小売業者との競争力を維持するのに役立つだろう。

このようなスマートインフラサービスを活用すれば、道路はその新しいケイパビリティからのキャッシュフローに依存することで、自己資金を得ることができる。携帯電話やインターネットのインフラ市場が概ね自立しているのと同様の構図である。これは、一部の公道において持続可能な財源と自己資金調達が実現可能になることを意味しており、都市は限られた予算を道路から他のコミュニティのニーズに振り向けることができる。

ブロードバンドアクセスのための650億ドル(約7兆4200億円)のインフラ計画は、農村地域や低所得世帯、部族コミュニティのためのインターネットサービスを改善することを目的としている。この計画には、電気自動車の充電ステーションに75億ドル(約8560億円)が割り当てられており、気候変動を抑え、石油への依存度を減らすために電気自動車の普及を加速させることを目指している。

スマート道路が、5GワイヤレスアクセスやワイヤレスEV充電など、当初からソフトウェアアップグレードが可能なように設計されたケイパビリティのメニューを提供するなら、わが国の道路網は進化するテクノロジーに歩調を合わせることができるだろう。道路はすでに農村地域に整備されているので、新たに基地局を建設する必要はない。ワイヤレスEV充電機能を道路に組み込むことで、ガソリンスタンドのように充電ステーションを設置する必要はなくなる。実際、EVの所有者やドライバーは、道路を離れて充電に接続しなくても済むようになる。

こうした道路を介して提供される商用サービスの利用料金、すなわちネットワーク事業者が支払う通信サービス、自動車所有者が支払うEV充電やナビゲーション、あるいはそれらを利用する事業者が支払うデータサービスなどの利用料金を評価することで、スマート道路はこれらの新たなケイパビリティから得られるキャッシュフローに基づいて、自らの費用を支払うことが可能になる。

スマート道路導入の主な課題は、公金ではリスクをとることはできないし、とるべきではないというマインドセットにパブリックオーナーが陥っていることである。歴史的に公的資金はリスク資本であり、そしてこれらのオポチュニティにおける最初の資金でもある。私たちはこのリスクフリーのマインドセットからパブリックオーナーを脱却させ、公共機関がインフラを通じて経済発展を可能にすることはできないし、そうすべきではないという考えに立ち向かう必要がある。

大規模な経済開発を可能にするインフラ整備のオポチュニティに公共投資を投入することにより、私たちは100年前に舗装道路を、60年前に州間道路を建設した。したがって、それはすでに検証されているアプローチであり、米国人が毎日使用している顕著な実証ポイントもいくつか存在している。これらは新しい方法ではない。私たちが何度も行ってきた古いやり方であり、社会の新たなニーズに応じてアップデートされる形でパッケージ化されているものだ。

もう1つの課題は、いかに長期にわたる公共事業を市場活動と比較するかである。公共機関が道路工事許可証を発行するのに18カ月かかるが、ソフトウェアとハードウェアの世代全体が通り過ぎるのを見ることはできても、1つのショベルも地面を打つことはない。公共事業の速度が遅いということは、私たちがはるかに先を見なければならないことを意味する。短期的な目標はプロジェクトが設計段階を終える前になくなってしまうため、焦点を合わせることができない。公共事業の範囲、規模、速度(またはその欠如)は、私たちが非常に長い計画対象期間を設定しなければならないことを意味する。

わが国の道路への投資は、繁栄する経済を成長させる鍵であり、国の将来にとって不可欠である。各都市は現在、都市化への対応、交通流量の合理化、汚染の削減、安全性の向上という重圧に直面している。

スマート道路のテクノロジーは、都市計画者や政府がこれらの課題に正面から対処することに貢献する。交通管理から歩行者や車両の安全性、環境モニタリングに至るまで、モノのインターネット(IoT)は道路をよりインテリジェントに、効率的に、そして適切に管理できるようにする。

インフラ投資・雇用法は、わが国のインフラの現状に取り組むための第一歩である。この投資がどのように使われるかが変化をもたらす。もしそれが単に近年のやり方であるというだけの理由で、老朽化したプロセスに一時しのぎの解決策を適用するために配布されるならば、そのお金は急速に使い果たされ、意味のある改善もないまますぐに忘れられてしまうだろう。

だが、この投資を革新的なインフラプロジェクトの頭金として使ったとしたらどうだろう。その場合私たちには、より強固な未来に向かって前進し、新しいテクノロジーを容易かつ迅速に統合できる、一貫性のある有意義なアップグレードの適切なケイデンスを構築するオポチュニティが用意されている。

編集部注:本稿の執筆者はTim Sylvester(ティム・シルベスター)氏は建設業界で20年の経験を持つ電気・コンピュータエンジニアで、Integrated Roadwaysの創設者兼CEO。

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(文:Tim Sylvester、翻訳:Dragonfly)