Blockstreamの「ビットコイン衛星」が双方向通信をサポート、日本や中国もサービス地域に

ビットコイン関連技術にフォーカスするカナダのスタートアップ企業Blockstream社のサービス「Blockstream Satellite」がサービス内容を大幅に拡充、双方向通信に対応するとともに、アジア太平洋地域がサービス対象となった。新たに導入した対話型サービスによりトランザクション送信、つまりビットコイン支払いに対応した。またサービス地域として新たにアジア太平洋地域を追加し、日本、韓国、中国、オーストラリア、インドなどが新たにサービス対応地域に含まれるようになる。利用に必要なのはパソコン、専用ソフトウェア、USBレシーバ、小型のパラボラアンテナだけだ。

Blockstream社のSCO(Chief Strategy Officer)であるSamson Mow氏は記者に対して「大きな進歩だ。世界のどこでも、誰でも検閲を受けないブロードキャスト(ビットコインのネットワークへのトランザクション送信)が可能となる。面白い利用方法が登場するだろう」とコメントした。発表文では「山頂でも砂漠でも、晴天でコンピュータと低コストのTV用パラボラアンテナがあれば利用できる」と説明している。またBlockstream社CEOのAdam Back氏は「ビットコインのインフラの次の段階を指し示すもの。世界人口の90%がアクセス可能となった」と発表文中でコメントしている。

ビットコインの分断耐性、可用性、耐検閲性を高める

Blockstream Satelliteとは静止軌道上にある通信衛星の回線をBlockstream社が借り受けて展開するサービスで、地球上のどこからでもビットコインにアクセスできる世界を実現する狙いがある。例えば国家によるインターネットの大規模監視や遮断、大停電や自然災害によるインフラ機能不全などの状態に陥ったとしても、衛星通信を利用してビットコインのブロックチェーンの同期を続けることができる。しかも誰にも許可を得る必要はなく、誰からも監視されずに、である。

Blockstream Satelliteの最初のサービスは2017年8月に発表された。最初の段階のサービスは受信専用で、なおかつ南北アメリカ、ヨーロッパ、アフリカが対象でアジア太平洋地域はサービス範囲外だった。この段階では受信専用だったので、ブロックチェーン上の入金確認には利用できたが、ビットコインによる支払いのためには衛星電話のような別の手段を併用する必要があった。それでも、世界中のほとんどの地域でビットコインのブロックチェーンを同期できる点で大きな意味があるサービスだったといえる。例えばこのサービスの存在により、災害やインターネット遮断によりビットコインのブロックチェーンが分断されてしまうリスクが減り、ブロックチェーンネットワークの可用性を高める効果があった。

今回のサービス拡充では、ブロックチェーンの同期だけでなくビットコイン支払い(トランザクションの送信)にも利用可能となり、アジア太平洋地域が含まれるようになった。これはビットコインのネットワークの耐検閲性がより高まることを意味する。

Blockstream社は、さらにビットコインのレイヤー2(第2層)で高頻度少額決済を実現する技術Lightning Networkを使うことで衛星通信で送信するデータ量を1Kバイト程度まで減らすことができると語る。さらに通信の秘匿性を高めるOnion-Routing技術を併用することで、匿名性を保ったままビットコインを利用可能となる。サービス提供者であるBlockstream社を含めて誰にも送信者、送信者、メッセージ内容を秘匿することができるとしている。例えば国家による監視や弾圧が続く国の人々でも国の監視の影響を受けずにビットコインを自由に使えるようになる。今回のBlockstream Satelliteのサービス拡充は、ビットコインの出自である「サイファーパンク」の価値観を形にしたものといえるだろう。

LayerXと日本マイクロソフトがブロックチェーン分野で協業へ、導入コンサルから実装までをサポート

ブロックチェーン関連事業を展開するLayerX(レイヤーエックス)と日本マイクロソフトは11月30日、ブロックチェーン分野において協業を開始することを明らかにした。まずは共同で企業へのブロックチェーン導入コンサルティングや開発支援などのサポートを行う計画だ。

日本マイクロソフトではMicrosoft Azureベースのブロックチェーンプラットフォームの提供や、エンタープライズ市場におけるブロックチェーン導入企業の開拓を支援。一方のLayerXはブロックチェーン技術を導入するためのコンサルティングや設計、開発など技術面のサポートを担当する。

近頃はTechCrunch Japanでもブロックチェーンに関連するニュースやコラムを紹介する機会が増えてきたけれど、企業のブロックチェーン技術の活用や導入に対する関心度も徐々に高まってきている。

そのニーズに応えるべく日本マイクロソフトでは2016年よりMicrosoft Azure上でブロックチェーンインフラの構築支援をするBaaS (Blockchain as a Service)の提供をスタート。NasdaqのNasdaq Financial Framework (NFF)など、すでに国内外で多くの利用実績がある。

一方のLayerXはGunosyとAnypayのジョイントベンチャーとして8月に設立されたスタートアップだ。同社の代表取締役社長を務めるのはGunosy創業者でもある福島良典氏。ブロックチェーン領域に特化して複数の事業を展開し、ブロックチェーン技術の研究やシステムの開発、導入コンサルティングなどを手がけてきた。

今回の協業は国内でブロックチェーン技術の社会実装が加速している状況を踏まえた取り組み。日本マイクロソフトのインフラ基盤とLayerXの技術開発力を掛け合わせることで、企業がブロックチェーン技術を導入する際のプロセスをトータルでサポートする。

「(ブロックチェーンを)どのような領域でどのように活用したらいいか分からない」という企業も多い中で、顧客の事業ドメインやサービスの特性を考慮してブロックチェーンに向いている領域を見つけるところから、BaaSを活用した開発の技術支援まで行う予定だ。

これに限らず、今後両社ではブロックチェーン技術の普及に向けた施策を検討していく方針。「様々な業種でのブロックチェーン技術の実装を推進することで、人々の生活や働き方のトランスフォーメーション実現に向けて取り組みます」としている。

コインチェック、イーサリアムやネムなど3通貨の入金・購入を再開

コインチェックは10月12日、仮想通貨イーサリアム(ETH)、ネム(XEM)、リスク(LSK)の3通貨について入金と購入を再開した。本日よりサービス再開となる。「外部専門家による協力を受け技術的な安全性の確認が完了」したためとコインチェックはコメントしている。なかでも特に、XEMに関してはコインチェックの仮想通貨流出事件で実際に流出した通貨にあたるため、今回のサービス再開は大きな進歩と言える。

同社は10月30日に新規口座開設と4種類の仮想通貨(BTC、BCH、LTC、ETC)の入金と、3種類の仮想通貨(BCH、LTC、ETC)の購入を再開している。同社がこれまでに再開してきた各取扱仮想通貨のサービス・機能は以下の通り。

このほか、コインチェックは現在、XRPとFCTの入金・購入、レバレッジ新規建取引、Coincheck Payment、Coincheck でんきのサービス再開準備を整えているところだ。

ブロックチェーンアプリとユーザー繋ぐ“ポータル”へ、ブラウザ連動型ウォレット開発のスマートアプリが資金調達

昨年頃から、TechCrunchの記事内でも「Dapps」というキーワードが登場する機会が増えてきた。

Dappsとはブロックチェーンを利用した分散型アプリケーションのことで、仔猫を育成・売買する「CryptoKitties」やモンスターを捕獲したり交換して楽しむ「Etheremon」といったゲームが有名どころ。もちろんゲームに限った話ではなく、たとえばLINEは自社のトークンエコノミー構想の中でQ&Aやグルメレビュー、未来予想など5つのDappsサービスを開発中であることを発表している。

今回紹介したいのは、そんなDappsとユーザーの距離を繋ぐ“ブラウザ連動型ウォレット”を開発するスマートアプリだ。同社は10月31日、セレスを引受先とした第三者割当増資により5000万円を調達したことを明らかにした。

なおセレスとは業務提携も締結。「くりぷ豚」(セレスとグラッドスリーが共同運営)においてメディアパートナーシップ連携を結んでいる。

スマホからDappsにアクセスできるブラウザ連動型ウォレット

スマートアプリが開発している「GO! WALLET」はイーサリアムに特化したブラウザ連動型ウォレット。従来はPCブラウザを通じて利用していたイーサリアム上で動くゲームやDappsアプリに、スマホからアクセスできるブラウザ機能を備える。

現時点ではCryptoKittiesやEtheremon、くりぷ豚を含むゲームのほか、複数の分散型取引所やDappsに関する情報を扱ったメディアなどが掲載。ユーザーはGO! WALLETアプリ内のブラウザ上から各種Dappsを楽しめる。

ウォレットとしては個人情報を登録せず匿名で利用できる点がひとつの特徴。利用のハードルを下げる一方でセキュリティ面を考慮して、ウォレットの秘密鍵はサーバーにも格納されず、スマホ端末アプリ内のみに保存される仕組みを採用した。

「GO! WALLET」のブラウザからアクセスできるDappsと、ブラウザから「くりぷ豚」を起動した際の画面

ブラウザ機能を持つウォレットアプリ自体はすでに出始めてはいるが、GO! WALLETでは多様なコンテンツを紹介する機能やブラウザの操作性を磨きつつも、それに留まらない仕組みを加えていく計画のようだ。

「コンテンツを紹介するブラウザ機能だけではなく、昔でいうiモードのようなプラットフォームをブロックチェーンベースのアプリケーションの世界で実現したいと思っている。その取っ掛かりとして最初に作ったのがウォレットアプリ。このアプリを引き続きブラッシュアップしながらも、連動したさまざまなサービスを作っていく」(スマートアプリ代表取締役社長CEOの佐藤崇氏)

Dappsの成功事例を作る

佐藤氏はモバイルサービスの黎明期だった2003年にビットレイティングス(その後アクセルマークに吸収合併)を創業。モバイル検索サービス「froute.jp」を含む複数のサービスに関わってきた人物だ。同社を離れた後にモブキャストに参画し、取締役としてプラットフォーム事業を推進。2015年にスマートアプリを立ち上げている。

同年6月にEast Ventures、山田進太郎氏、藪考樹氏などから3450万円を調達。最初の事業としてスマホ向けのアプリを紹介するメディア「AppCube」をリリースした。佐藤氏いわく「将来的にはサードパーティのアプリストアを目指したサービス」だったが、AppleやGoogleの公式ストアの機能強化が進み、デベロッパーやエンドユーザーからも強いニーズがなかったため2016年に撤退。そこから試行錯誤を続けていたという。

そんな佐藤氏がブロックチェーンに着目したのは2017年のこと。ブロックチェーンベースでアプリが作れることに関心を持ったことに加え、かつてモバイル業界で一緒にチャレンジしていた知人たちが相次いでこの領域に参戦したこともきっかけとなった。

「その中でWebとブロックチェーンを繋ぐ仕組みをベースとしたサービスを作るのがいいのではと考えた。PCでは『MetaMask』がすでに存在し、これと連動したサービスが出てきているけれど、当時スマホでやってるところはほとんどなくて。企画の整備を始めていた頃にCryptoKittiesが登場したこともあり、このマーケットはやっぱりくると感じてリソースを集中した」(佐藤氏)

ローンチを間近に控えた頃には同様の特徴を持つ「Trust Wallet」がBainanceに買収されるというニュースが話題になったりもしたが、まだまだプレイヤーは少なく、そもそもDappsの数自体が少ない状況。まずはDappsの市場を作りたいという思いで10月にGO! WALLETのiOS版をローンチした。

今回セレスとタッグを組むことに至ったのも、そのような背景の中で「自社単体でやっていてはなかなかスピード感が出ないと感じた」ため相談しにいったことがきっかけだ。

「サービス自体を洗練させて、GO! WALLET上でいろんなアプリケーションが展開できるようなデベロッパーを増やしていく必要がある。そのためにはどんどん送客していって、きちんとマネタイズできた成功事例を作っていかないと市場は大きくならない」(佐藤氏)

ユーザーとコンテンツを繋ぐポータルへ

今回佐藤氏に話を聞いていて興味深かったのが、現在のDapps市場がガラケーが主流だった初期のモバイルインターネット領域に似た状況だと表現していたことだ。

「当時は勝手サイト(非公式サイト)でサービスを作っていると、『砂漠に草を植えて何やっているの』と言われるような時代。多くの企業は着メロのコンテンツなどを作り、iMenuを通じて配信するのが主流だった。ただそこから少しずつ(勝手サイトを作る)コンテンツプロバイダーが登場することでマーケットが拡大していった」(佐藤氏)

これは黎明期のソーシャルゲーム業界にも似ていて、現在のDappsについてもまさに市場が拡大する大きなうねりの過程にあるのではないかと言う。

今後スマートアプリではパートナープログラムを通じて引き続きメディアやDappsデベロッパーとの連携を深めていくほか、ユーザーが今以上にカジュアルにDappsを使えるような取り組みや機能改善を行っていく方針。一例としてユーザーにトークンやアイテムを配布する仕組みも検討するという。

「(Dapps市場においては)まだまだユーザーとコンテンツが繋がる仕組みが足りない。ウォレットとしては安全性ももちろん大事ではあるが、いろいろなコンテンツを遊べるとか、操作性が優れているなどそちら側にフォーカスすることで、新たな市場が切り開けるのではないかと考えている」(佐藤氏)

コインチェック、新規口座開設と一部通貨の入金・購入を再開

コインチェックは10月30日、2018年1月に発生した仮想通貨流出事故の影響でこれまで停止していた新規口座の開設、および一部仮想通貨の入金・購入を再開すると発表した。仮想通貨の入金再開対象となる通貨は、BTC、ETC、LTC、BCH。購入再開の対象通貨は、ETC、LTC、BCHとなる(BTCの売買はもともと停止対象外だった)。

今回の一部サービス開始により、コインチェックにおいて現時点で利用できるサービスは、新規口座開設、仮想通貨の入金・購入(BTC、ETC、LTC、BCHに限る)、仮想通貨の出金・売却(全取扱通貨)、日本円の入出金、レバレッジ取引における決済と証拠金の入金、Coincheck貸仮想通貨サービス(全取扱通貨)となる。

なお、コインチェックは仮想通貨ETH、XEM、LSK、XRP、FCTの入金・購入や、ビットコイン決済サービスの「Coincheck Payment」などの各種サービスについて、「引き続き安全性の確認を行い、準備が整い次第、順次再開してまいります」とコメントしている。

HTCがブロックチェーンフォーンのアーリーアクセスをデベロッパーや暗号家に提供、興味深い‘分散セキュリティ’技術

何か月も前から話題になっていたHTCのブロックチェーンフォーンが、ついにやってきた。今日(米国時間10/22)ベルリンで行われた暗号通貨に関するカンファレンスで同社は、Exodus 1の初期的バージョンを、限られた量ではあるがこの製品の同社の公式サイトより、“世界中の暗号研究家とデベロッパーに提供する”、と発表した。

“初期的バージョン”と断っているのは、最終的な製品ではない、ということだ。12月発売とされているが、現状は数か月前の漠然とした状態からあまり変わっていない。でも、信ずる者は救われる、と言うし、この製品にものすごく好奇心のある方なら、一台手に入れることはできる。当然支払いは、BitcoinまたはEthereumだ。

このフォーンの画像はまだ乏しいが、でもこのデバイスはHTCの最新の旗艦機であるU12と共通のデザインを多く使ってるようだ。たとえば背面は、半透明のガラスだ。まあ、それはたぶん、良いことだ。こういう新奇なデバイスは、独自の技術を強調したいあまり、デザインなどはおろそかにされがちだ。でもここでは少なくとも、しっかりとした、まともなスマートフォンが基本にあることだけは、確かなようだ。

フォーン本体はAndroidだが、暗号通貨の鍵などを保存しなければならないから、セキュリティを強化している。今後はもちろん、あらゆるデータをこのフォーンが保存しなければならない。それに関しては、失ったデータに分散的にアクセスするという、おもしろいファンクションを内蔵している。

HTCは、あなたのフォーンが紛失または盗まれたり、あなたが鍵を忘れたときのために、ユニークなSocial Key Recovery(ソーシャルな鍵回復)メカニズムを開発した。それは、ハードウェア上で失われた鍵を回復する容易で安全な方法だ。また、そのおかげで、鍵をHTC自身がどこかの中央的な場所に、たとえ一時的たりとも、保存することが確実になくなる。鍵に対するいかなる権利も、常時あなたご自身がそのすべてを維持する。HTCはあなたに、いくつかの信頼できるコンタクトを選ばせ、そのそれぞれが鍵管理アプリをダウンロードする必要がある。するとあなたのシードワードは秘密の共有アルゴリズムによって分割され、その信頼されたコンタクトへ送られる。そして必要なときには、あなたのファンドへのアクセスを成功裡に再獲得できる。

当面HTCは、この事業で技術のパイロットを行なう。そして、小さなコアグループのユーザーからのフィードバックを入手する。スマートフォン市場で苦戦している同社にとって、これが今後の主力デバイスになることは、想像しづらいけどね。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

Originのブロックチェーンによるマーケットプレース、UberやAirbnbのような中間搾取をなくせるか

【抄訳】
共有経済は、UberやAirbnbのような媒介者による、大量の労働収益の共有〔中間搾取〕に終わっている。そこで3800万ドルの投資を得たOriginは、次に主流になるべき二者間マーケットプレースはブロックチェーン上に分散化し、運転者と乗客や、ホストとゲストなどが直接結びつくことによって、20%以上もの高額な手数料を不要にすべきだ、と考えている。そのため今日(米国時間10/11)Originは、Ethereumのメインネット上にその分散マーケットプレースのプロトコルを立ち上げ、それにより、ユーザーとベンダーをスマートコントラクトで結びつける中央集権的な企業を不要にしようとしている。

“今のマーケットプレースは、利益をメンバーに分配していない。利益はファウンダーとベンチャーキャピタリストの方に溜まっていく”、とOriginの協同ファウンダーMatt Liuは語る。彼は、YouTubeの三人目のプロダクトマネージャだった。“このような非集権的マーケットプレースを構築することによって、マーケットプレースをpeer-to-corporate-monopoly-to-peer(ピア・ツー・独占企業・ツー・ピア)ではなく、本当のpeer-to-peer(ピア・ツー・ピア)にしたい”。

Originのマーケットプレースを利用するユーザーには、そのプロトコルを使うためのトークンが発行され、早期の利用者にはインセンティブを提供して、マーケットプレースの‘販売促進’とする。

Originの社内マーケットプレースDApp

今日ベータでオープンしたメインネットでは、Originが独自のベーシックな分散化アプリを提供し、それはブロックチェーン上のCraigslist(三行広告、classified adの大手)のように運用される。ユーザーはプロフィールを作って自分のEhereumウォレットに、MetaMaskのようなサービスから接続する。そして製品やサービスのリストを閲覧して互いにメッセージを交わし、手数料不要でスマートコントラクトによる商談を締結する。レビューや苦情などは、Originの仲裁人に送る。

デベロッパーは、Originのプロトコルを利用して自分自身のマーケットプレース…犬の散歩、家の掃除、ライドシェア、などなど…を構築できる。その場合、手数料を徴収してもよい。Originによると、それでもブロックチェーンの利用により、手数料は相当安くできるはず、という。

【後略】

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

スポーツ選手やチームをブロックチェーン応用の投げ銭で応援するEngateが正式ローンチ、競技場でキャンペーンを展開

エンゲートは、スポーツ選手やチームを、ブロックチェーン上で発行したデジタルの「投げ銭」で応援するサービス「Engate(エンゲート)」(関連記事)をこの10月20日より開始する。まずWebアプリケーションの形態から開始する。スマートフォンアプリ版も追って投入する方向だ。スポーツ選手、スポーツチームにとって「ファンの応援と資金」はとても重要だ。Engateが目指すビジネスは、選手やチームを応援するファンの応援の可視化、コミュニティ形成、そして投げ銭という形での収入を選手とチームにもたらすことだ。

サービス開始にあたり、複数のプロスポーツの試合の場でキャンペーンを展開する。キャンペーン対象となる試合当日、競技場への来場者にURLを配布、そのURL経由で新規ユーザーアカウントを作ると100ポイントを付与する。100ポイントの範囲でギフトの投げ銭(「ギフティング」と呼んでいる)の体験を無料でしてもらう。もっと応援したければ、クレジットカードでポイントを購入してもらう仕組みだ。

キャンペーン対象の最初のゲームは、10月20、21日開催の横浜ビー・コルセアーズ(バスケットボール)の滋賀レイクスターズ戦である。会場は横浜国際プール。続いて、野球の徳島インディゴソックス、女子サッカーのINAC神戸レオネッサ、サッカーの湘南ベルマーレ、ハンドボールの琉球コラソン、フットサルのフウガドールすみだ、以上の各チームの試合でのキャンペーンを予定する。さらに「サッカーの横浜マリノスでのサービス活用ももほぼ本決まり」(同社)とのことだ。

サッカーJ1リーグ所属の湘南ベルマーレの運営会社で代表取締役を務める水谷尚人氏は、「1990年代には、我々のチーム名はベルマーレ平塚だった。親会社が撤退し、地域の人々に支えられた。そのような経験から収入源には常に気を配っている」と話し、「我々とサポーター(ファン)の距離をもっと近くしていきたい」とサービス参加への狙いを話す。

記者会見の会場には、前出の湘南ベルマーレ水谷氏をはじめ、計5チームの経営者が出席した。横浜ビー・コルセアーズ(バスケットボール)代表取締役CEOの岡本尚博氏、徳島インディゴソックス(野球)運営のパブリック・ベースボールクラブ徳島 代表取締役社長の南啓介氏、フウガドールすみだ(フットサル)運営の風雅プロモーション代表取締役社長 安藤弘之氏、琉球コラソン(ハンドボール)代表取締役/CEOの水野裕矢氏である。

各チームとも、ファンとチームを結ぶ新サービスへの期待を口々に語った。目を引いたのは「異なる競技のチームと知見を共有したい」というコメントが目立ったことだ。エンゲートの城戸幸一郎CEOは、「日本のスポーツファンは一つのスポーツのファン、野球ファンやサッカーファンのような人たちが多い。仕事で目にした欧州では、2種類以上の競技のファンであることは普通だった。今後は、サッカーのファンがハンドボールの面白さに気がついたり、野球ファンがバスケットボールも見始めたり、ファンが環流するよう仕掛けていきたい」と抱負を語る。

サービス設計では、「投げ銭」としてデジタルなギフトを送るだけでなく、スポーツチームからファンへのお返し(リワード)も重要な役割を果たす。例えば選手との食事会、始球式へのファンの起用、記念グッズなどの検討を進めている。

収益モデルはレベニューシェアだ。利用者が購入するデジタルなギフトの売上げを、エンゲートと各スポーツチームで分配する。「スポーツ以外のギフティングサービスに比べても大きな割合をチームに分配する予定だ」(城戸CEO)としている。

3種のブロックチェーン技術を比較検討しNEMを選択

記者会見の場では、サービスが利用するブロックチェーン技術についても説明があった。エンゲートは、ブロックチェーン技術に関するセミナー事業も展開していることもあり、ビットコイン、Ethereum、NEMと複数のブロックチェーン技術のリサーチを行ったと語る。

今回のサービスでは、ポイントを表現するトークン発行の基盤技術として仮想通貨NEMのパブリックブロックチェーンを採用した。その理由として、エンゲートBlockchain PRの藤田綾子氏は「ビットコイン、Ethereumのトークンはアプリケーションにより発行する。NEMのトークン(モザイク)はブロックチェーンの核となるプロトコルそのものが発行するので安全性が高く、またAPIから利用でき簡単だ。またEthereumに比べ手数料が約1/40で安いという特徴もある」と説明。「安全、簡単、安いという理由でNEMを選択した」(藤田氏)。

Engateのポイントはパブリックブロックチェーン上のトークン(NEMのモザイク)を使ってはいるが、サービスの外部では価値を持たない設計とした。「仮想通貨と異なり、サービス外で価値がなければ盗難などの恐れも少ない」(藤田氏)。

ここまでの話を聞けば、ブロックチェーンを使わなくても似たサービスは実現できそうに思える。だが、パブリックブロックチェーンならではの特徴がいくつかある。一つは、ある種の公共財といえるパブリックブロックチェーンを上手に活用することでシステム構築コストを抑えられる可能性があること。もう一つは、ブロックチェーン上の記録は誰でも読み出せる記録として永続的に残ることだ。Engateのサービスが使われる度に、改ざんがほぼ不可能なパブリックブロックチェーン上にファンと選手、チームの応援の記録が刻まれる。「ファンの思い、『熱量』が恒久的にデータとして残る。このデータの上の多様なサービス展開も考えている」(藤田氏)と同社は思いを語っている。

大変残念だが、心配することを止めてブロックチェーンを愛することを学ばなければならないだろう

変なタイトルだ。皆さんには謝りたい。分かっている。「ブロックチェーン」と耳にすると、皆さんはすぐに「胡散臭い成金手法」だとか「魔法のイカサマインターネットマネーのバブル」だとか、「はた迷惑な自由至上主義者」だと思うことだろう。そしてブロックチェーン信奉者の1人が、なぜそれが重要なのか、なぜ新しい財閥を形成すること以上に世界を変えるのかを説明しようとしても、「いやいや、単にデータベースを使えば良いだけじゃ?」と考えることだろう。無理もない。

そう考えても間違いではない。少なくとも先進諸国では、既に銀行やクレジットカードによって扱われているものの中で、Bitcoinの方がよりよく安全に処理されるというものは多くはない。その他の大部分の暗号通貨は、(基本的に世界カジノの賭博行為に使われるものや、真に秘密で匿名こと以外はBitcoin同様であるものを除けば)基本的に規制を受けない世界的な株式市場の中の、ペニー株(投機性の高い安価で不安定な株)に過ぎないのだ。それらは技術的には素晴らしいものだが、全体概念の一般的な運用に対して、より高い信頼性を提供するものではない。

Ethereumはもっと興味深い。その「世界コンピューター」概念は受け容れるのに苦労するような代物だ。それは世界中に分散する何千ものノードに分散する許可不要の仮想マシン上で、コードを実行しデータを保存するという概念である。だが前述した株式市場やカジノに加えて、ときどきCryptoFadに使われる以外には殆ど使われることはない。そしてもし人びとがそれを本当に使いたいと思ったとしても、スケールしないために使うことはできないだろう。

全て(現在は)正しい。そして私が、ブロックチェーンが世界を支配すると言おうとしているのではないということは急いで強調させて欲しい。私は、ブロックチェーンは新しいインターネットではなく、新しいLinuxである(一部の専門家が使うもの)という立場をとっている。私は利便性や使いやすさからではなく、技術と政治的思惑によって、数パーセント以上の人たちが直接使うようになると考えるのは、楽観的な予想だと考えている。

しかし私は、代替物の存在がとても重要だと考えている。なぜなら主流のインターネット、すなわち 旧来のインターネットと特に旧来のソーシャルメディアは2つの罪によって汚染されているからだ。

1つは広告主導のメディアであるということである。これはそれ自身が不気味な存在だ。ユーザー追跡、ブラウザのフィンガープリンティング、広告リターゲティング、OutbrainやTaboolaなどのクリックベイトファーム、モバイルブラウザをクラッシュさせたり実際に見たいコンテンツの邪魔をする広告、そしてテレビコマーシャルが控え目なものに思えてくるような、自動再生広告などを私たちにもたらしている。しかし、それはソーシャルメディアにとって破滅的なものだ。なぜならそれはより多くの関わりを求めさせるからだ。そのことによって怒りやフェイクニュース、そして相手が誰であろうとも「あちら側」を敵とみなす行為がより激しくなる ―― そうした行為はより深い関わりへと繋がり、詰まるところより多くの広告収入へとつながるからだ。ソーシャルメディアの経営幹部が何を言おうとも、ビジネスモデルが広告によって動かされている限り、より多くの金、より高い利益、目標達成、そしてボーナスを獲得しようとするブラックホールが、彼らを引きずっていくことを止めることはできない。

もう1つは、メトカーフの法則や、その他の勝者総取り効果からもわかるように、単純な事実として、もし本当の最初から意識的に設計しない限り、技術というものは中央集権的になってしまう傾向があるということだ。このことによって、Facebookのバグが5000万人の人びとのアカウントを危機に晒し、多くの場合にはTinderやSpotify、その他のサードパーティのアカウントも道連れにしたことは、必然的に起こり得る状況だったのだ。なにしろFacebookはインターネットの中央集権的アイデンティティパワーとなるまでに成長していたのだから。こうした被害者の人たちは何ができただろう?どんな代替手段に切り替えることができるのだろう?もし彼らが非常に動揺し、強く決意したなら、もしかしたら別のものに切り替えられるかもしれない…他の、同じように中央集権化され、同様に広告で支えられているアイデンティティ提供業者に。だが切り替えても、それを信頼してはならない。

だからこそ、誰かの許可を得ることが不要である分散型の、広告で運営されておらず、中央集権的な大手企業が支配していない代替案が存在することが重要なのだ。そして、読者はきっとこんな話は聞きたくないと思うが、ブロックチェーンを何らかの手段、形式、方法として含むことのない、新しいファイナンスモデルを伴った分散型ネットワークを想像することは極めて困難になりつつある。これは私たち皆が、秘密鍵でいっぱいの 「ウォレット」を保持して、携帯電話やラップトップ上でブロックチェーンノードを実行しなければならないということを意味しているわけではない。最も興味深い分散化の動き(特にBlockstackなど)の中には、ブロックチェーンを非常に巧妙に用いているために、その存在に気が付くことが難しいものもある。それでも、内部ではブロックチェーンは必要不可欠なものなのだ。

だから、脊髄反射的な嫌悪感はぜひ乗り越えて欲しい。操作された市場や、狂気のカジノのさらに先を見て欲しいのだ。真に新しいアイデア(特にそのアイデアがお金に関係している場合)を最初に受け入れて擁護する少数派たちが、いびつにイカれた奴らである傾向が高いことは事実だ。だからといってアイデアそのものがイカれたものであるということではないのだ。人工的な金や、即席成金化計画よりも面白いことがここにはある。そして私は決してそれが主流になることはないと考えているものの、あらゆる大騒動(sturm und drang)とバカバカしい詐欺の向こうに、純粋に技術的、政治的、金融的、そして社会的に興味深い、代替ムーブメントが生まれつつあるのだと信じている。注意深く観察し、もう一度考えてみよう。

(訳注:この記事の原題は”I’m very sorry, but you’re going to have to learn to love the blockchain.”というものである。このタイトルが昔の映画”Dr. Strangelove or: How I Learned to Stop Worrying and Love the Bomb”(邦題:博士の異常な愛情 または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか)のもじりであることは、冒頭の写真(映画のシーン)からも明らかである)

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(翻訳:sako)

インターネットの基盤を築いた先人達のように、ブロックチェーンの土台を作るーーchaintopeが1.1億円を調達

chaintopeのメンバー。前列右から3人目が代表取締役CEOの正田英樹氏

「インターネットだってかつてはめちゃくちゃ遅かったし、拡張性もなくて使い物になるかわからなかった」ーーブロックチェーンの基盤技術を研究開発するchaintope代表取締役CEOの正田英樹氏はそう語る。

メディアなどで取り上げられるブロックチェーン関連のスタートアップは、その技術を何らかの領域に用いた“アプリケーション”を作っているところが多いが、chaintopeが開発しているのはその前提となるコアな技術。特にパブリックなブロックチェーンにおける“プロトコル”レイヤーの技術開発に取り組んでいる。

目指しているのは、ブロックチェーンを活用した自立分散型のビジネスモデルを作りやすくするための基盤を作ること。いわば「ブロックチェーンのインフラ」を作ることと言えるかもしれない。

今でこそ当たり前の存在になっているインターネットも、90年代から業界の先人達が研究開発を重ね、整えてきた基盤があるからこそ成り立っている。正田氏いわく、それを支えてきたのは「大学のネットワークや研究者のネットワーク」の存在。chaintopeがブロックチェーンの領域でやろうとしていることも、まさにこれと同じようなことだ。

同社は10月5日、ベンチャーキャピタルのANRIからシリーズAラウンドで約1.1億円を調達したことを明らかにした。chaintopeではブロックチェーン領域で大学のネットワークと技術者のコミュニティを広げていきながら、ブロックチェーンの基盤技術の開発を進め、その技術を応用したビジネスモデルの実証実験を国内外で加速させる計画だ。

今の技術では限られたモデルチェンジしかできない

冒頭から長々と説明してしまったけれど、改めてchaintopeが取り組んでいることを紹介したい。

まず前提にあるのが、今現在のパブリックブロックチェーンの技術では実際の社会システムに組み込む際の課題が多く、限られたモデルチェンジしかできないということだ。

「今はパブリックなチェーンをいろいろな業界に当てはめていこうと思うと、スケーラビリティやプライバシー、セキュリティなど技術サイドがネックになってしまう。まずはそこを解決するための技術が必要だ」(正田氏)

たとえば一定時間内で処理できるトランザクションの量が限られるという「スケーラビリティ」の問題に対しては、ブロックチェーンの“セカンドレイヤー”における新しい技術(ビットコインのLightning NetworkやイーサリアムのPlasmaなど、オフチェーンやサイドチェーンといった技術)の開発・検証が活発になってきている。

同社ではこのような暗号通貨やブロックチェーン領域の研究に数年前から着手。現在はブロックチェーン関連の2つのコア技術の開発に力を入れている。

1つ目が新たなコンセプトのブロックチェーン。これはパブリックな環境下で不特定多数の参加者が想定されるが、既存の技術では実際のビジネスに組み込むのは難しいというニーズに応えるためのものになる。想定しているのは、不動産の資産管理やトレーサビリティ、P2Pの電力売買、投票、国際送金といったシーンだ。

そして2つ目がバブリックチェーンをベースにしたセカンドレイヤーの技術。こちらは非中央集権的でパブリックな使い方をしつつも、一定のコミュニティ内で利用し、取引の高速化や手数料低減のニーズが強い場面で活躍する。地域通貨やP2Pのマイクロペイメント、それを用いた関連サービスなどでの利用を想定しているそうだ。

国境を超えて大学や技術者のネットワークを広げる

これらの技術をベースに各業界の企業や自治体と実証実験に取り組み、サービス化に向けたシステム開発を行うというのがその次のステップ。これまでも投票システムや資金貸借市場での応用(東京短資)、デジタル通貨(近鉄ハルカスコイン)や不動産連携コイン(シノケンコイン)、働き方改革(サーキュレーション)や地方創生など、さまざまなジャンルで実証実験を重ねてきた。

特に今進めているのが、各国の有力な大学との連携だ。つい先日も取締役CTOの安⼟茂亨氏がインド工科大学ハイデラバード校にてブロックチェーンの特別講座を実施。これに限らず大学とタッグを組んでアカデミックサイドから研究開発に取り組み、プロトタイプのようなものを作る。

並行してハッカソンなども積極的に行い、国境を超えて技術者のネットワークを広げていく構想だ。アーリーステージで乗ってくれるような企業も巻き込みながら、モデル化を目指していくという。

「インターネットでもアカデミックな領域から新しい技術が生まれてきた。ブロックチェーンの場合は大学のネットワークと技術者コミュニティが重要な役割を担うので、ここを盛り上げながら世界的なネットワークを作っていきたい」(正田氏)

最初にモデルを実装する国についても日本に限定しない。むしろまだ基本的なインフラも十分に整っていないようなASEANの国で実証実験を進め、それを軸に日本に逆輸入するような計画もあるようだ。実際、現時点ではまだ公開できないそうだが、海外では実証実験がかなり進んでいる領域もあるという。

取締役CTOの安⼟茂亨氏がインド工科大学で講義をした際の様子

今のインターネットも先人たちが築いた基盤の上で成り立っている

chaintopeは普段TechCrunhで紹介しているスタートアップとは若干毛色が異なる企業かもしれない。もともと母体となっているのは正田氏が1999年に福岡の飯塚市で創業したハウインターナショナル(創業時の社名はHeart at Work)。2015年頃からブロックチェーンの研究開発に取り組み始め、同領域に特化するべく立ち上げたのがchaintopeだ。

「昔から福岡県内でハッカソンや技術者向けのコミュニティイベントをやっていて、仲間内で『ブロックチェーンのテクノロジーはこれまで実現できなかったようなシステムを構築できるポテンシャルがあるのではないか』と話したのがきっかけで研究開発を始めた」(正田氏)

最初のプロジェクトは近畿大学の山崎重一郎氏らとともに開発したP2P型の投票システム。門司港で開催された唐揚げ選手権やラーメン選手権の投票にブロックチェーン技術を用いたところ、フクオカRuby大賞で優秀賞を受賞。そこから問い合わせなどもあり、分野を広げて勉強会や実証実験を実施してきた。

chaintopeには「ブロックチェーン・プログラミング 仮想通貨入門」の著者としても知られる開発者の安⼟氏のほか、CER(Chief Ethereum Researcher)の中城元臣氏など、暗号通貨やブロックチェーン領域に詳しい技術者が集まっている。その多くは昔から同じコミュニティ内で交流があったメンバー達だ。

「今は当たり前のようにスマホアプリが普及しているが、それも1995年頃から先人達が土台を作ってくれてきたからこそ。今度は自分たちがブロックチェーンにおいて、自立分散型のアプリケーションを作りやすくするための土台を作りたい。アプリケーションレイヤーではなくプロトコルレイヤーから始めることに対して、上の世代の人たちも共感して応援してくれていて、エンジニア達も本気で燃えている」(正田氏)

この1年で業界は大きく変わるからこそ、資金調達で開発加速へ

正田氏自身も、chaintopeやブロックチェーンに対しては強い思い入れがある。インターネットが日本で立ち上がり始めた約20年前頃、正田氏は24歳で飯塚にて起業した。

「学生の時にモザイクが出てきたけれど、当時はすごく遅くて。今みたいに手元でどんどん動画を見る時代が来るなんてイメージできなかった。『これからインターネットがないと生活が困るようになる』なんて言う人もいたけど、ほんとかなと」(正田氏)

当時は渋谷などで同世代の若手起業家が活躍するのを新聞などで目にしていたそう。その後Javaで着うたや着メロサイトのバックボーンとなる技術を作るなど躍進したが、技術的には評価されたものの表にでることはなく「ある種“第一次のインターネット革命”には出遅れてしまった形になった」(正田氏)と言う。

それから約20年、昔からよく知った仲間を中心に技術者が集まり、インターネット以来の発明とも言われるブロックチェーンの領域においては「今の所、かなり先頭の方で走れていると思っている」と自信を持っている。

「昔であれば最初にシリコンバレーで新しい技術が生まれて、それが時間をおいて東京、地方へと広がっていたイメージだった。でもブロックチェーンは世界同時。世界中がヨーイドンで課題解決に向けて新しい技術を作っている。おそらく3年後には状況も大きく変わっているはずで、特にこの1年が重要。だからこそ調達した資金も基にコア技術の開発を加速させるとともに、アカデミアや技術者との連携を加速させ、世界的なネットワークを構築しながら次のモデルを作っていきたい」(正田氏)

仮想通貨税金計算サービスのクリプタクト、ジャフコ、マネーフォワードらから3.3億円を調達

仮想通貨投資家向けの税金計算および資産管理サービスを提供するクリプタクトが、3.3億円の資金調達を発表した。ジャフコ、マネーフォワード、D4V投資事業有限責任組合、ベンチャーラボ、SV-FINTECH1号投資事業有限責任組合、スマートキャピタルらを引受先とする第三者割当増資を実施する。

同社は合わせてマネーフォワードとの業務提携を発表した。まず、セミナー開催など仮想通貨分野の情報提供に取り組む。将来的には、マネーフォワードのサービスから、クリプタクトの仮想通貨投資家向け機能を活用するなどの連携も考えているとのことだ。

調達した資金の使途として、(1) マーケット成長のための情報発信、(2) 新たな仮想通貨投資家向けサービスを含めたワンストップの投資家支援プラットフォームの提供、(3) 人材採用を挙げている。

クリプタクトは、ゴールドマン・サックス出身で金融分野のエンジニアおよび投資家の経歴を持つアズムデ・アミン氏が代表取締役となり設立。2017年12月に最初のサービスとして仮想通貨投資家向けの無償の税金計算サービス「tax@cryptact」を公開した。2018年2月には税理士向けの有償サービス「taxpro@cryptact」(関連記事)を、同3月には仮想通貨のポートフォリオ管理機能サービス 「portfolio@cryptact」(発表資料)をそれぞれ開始。これらを統合して仮想通貨投資家向けのプラットフォーム「grid@cryptact」を提供する。今後は、仮想通貨の情報収集、分析、投資実施までワンストップで行えるプラットフォームの構築を目指すとしている。

クリプタクトのサービスの利用者は、現在約3万人。一方、日本で仮想通貨投資を行っている利用者は350万人とみられている。「そのほぼすべてのユーザーが税金計算サービスtax@cryptactについてはターゲットになる」(クリプタクト)。その理由は、日本の仮想通貨の税制が煩雑なため、税金計算にはツールが必須となるためだ。

今の日本の税制では、仮想通貨の取引ごとに法定通貨建てで実現損益を計算して申告することが求められる。そのため仮想通貨投資家の税金計算の負担は非常に大きい。クリプタクトによれば、「単一の取引所で円建での売買しか取引せず、かつ取引件数が手計算で行えるほど少ない場合を除けば、税金計算ツールの利用は欠かせない」としている。事実上、仮想通貨取引を行っているほぼすべてのユーザーにとって税金計算ツールが欠かせないとの見解だ。

今回同時に発表したマネーフォワードとの提携は、短期的にはセミナーなど情報発信から始める形だが、将来的にはマネーフォワードのサービス内で、クリプタクトの仮想通貨の資産管理や税金計算ができる方向を目指しているとのことだ。

「マネーフォワードとの連携では、仮想通貨の業界をより成熟・健全化していくために協力してく。例えば納税に関するサポートは業界のさらなる健全化につながる」とクリプタクトは説明する。

今、日本の仮想通貨を取り巻く状況は厳しい。その背景には、仮想通貨の大量盗難事件、仮想通貨交換業者に対する相次ぐ行政処分、そして2017年末の価格のピーク時と比べて相場が大幅に下落していることなどがある。規制強化にともない仮想通貨交換業のライセンスのハードルは高くなり、ライセンスを前提としたビジネスを考えていたスタートアップ企業は計画の見直しを迫られている。このような状況のもとで、税金計算など仮想通貨投資家を支援するツールの整備が進むことは、仮想通貨市場の健全化という観点で見ても、また仮想通貨の税制の煩雑さに悩む個々の利用者にとっても良いニュースといえるだろう。

ブロックチェーンでチケット転売防止、京大発スタートアップLCNEMの「Ticket Peer to Peer」

京都のスタートアップ企業であるLCNEMは、パブリックブロックチェーンを応用した転売防止機能を備えるチケット発行管理のサービス「Ticket Peer to Peer」を公開した(発表資料)。パブリックブロックチェーンの機能を、送金やゲームなどではなく、チケットの管理に使う。その仕組みはシンプルだが賢く、新しい。

最大の特徴である転売防止の仕組みについは後述することにして、概要を先に説明しておく。「Ticket Peer to Peer」はイベントのチケットの発行が行えるサービスで、仮想通貨NEMのパブリックブロックチェーンをバックエンドとするSaaS型クラウドサービスとして作られている。イベント会場などでQRコード読み取りによりチケットを検札する仕組みも備えている。

収益モデルは利用料モデルだ。発行するチケット1枚あたり50円をサービス側に支払う。支払い方法はPayPalだ。動作するブラウザはChrome、Edge、Operaとのこと。

チケットを発行するには、申し込み手続きなどは特に必要なく、Webサイト上の最小限の操作だけで完結する。サービスへのサインインにはGoogleアカウントを使うため、Googleアカウントの所有者であれば(つまり、多くのインターネットユーザーは)最小限のクリック数で使い始めることができる。イベント主催者のWebサイトにコードを埋め込む形で利用する。Webサイトへの埋め込み方のドキュメントも公開している。

Ticket Peer to Peerは、この2018年10月21日開催のイベント「BlockChainJam2018」の受付ページですでに使われている。LCNEMの木村優氏(代表取締役兼CTO)は「誰でもオープンに使ってもらいたい」と話す。

ユーザーの導線という意味では、イベント主催者のWebサイト内で申し込みを完結でき、ページ遷移が発生しない点もメリットだ。

改ざんできないブロックチェーンの特徴を転売防止に応用

今回のサービスTicket Peer to Peerの最大の特徴は、NEMのパブリックブロックチェーンを応用した転売防止の仕組みだ。以下に説明する。

まず、ブロックチェーン上の「アドレス」がそれぞれ1枚のチケットの役割を果たす。発行するチケットごとにユニークなアドレスを発行する形となる。

ブロックチェーンの機能により、各アドレスごとにブロックチェーン上のトランザクション(送金処理に相当する)を受け取っているか否かが分かる。受け取っていないチケットは「有効」、受け取ったチケットは「無効」とする。例えば、イベント会場でQRコード読み取りによりチケットを検札すると、その時点でチケットのアドレスにトランザクションが送られて「無効」になる。

同様に、もしチケットが転売されているのを誰かが発見した場合、NEMブロックチェーン上でトランザクションをそのチケットのアドレスに送信することにより(これは、NEMウォレットがあれば誰でも行える操作である)、チケットを無効化できる。つまり、チケット転売の通報と無効化を同時に行える。さらに、「誰が通報して無効化したのか」もブロックチェーン上に改ざんできない形で、つまり異論が出ない形で記録される。

ここで、転売の第一発見者に対してブロックチェーン上で報酬を送金することにより、通報のインセンティブとすることができる。それぞれのチケットの最初の通報者に限り報酬を送ることができるので、通報に関する不正や異議は発生しにくい仕組みとなっている。なお、通報者に対してどのような報酬をいくら送るのかはサービスの範囲外で、イベント主催者側の裁量となる。

通報のインセンティブとして送金できる報酬の形態は仮想通貨NEMのモザイク(トークン)ということになる。例えば、仮想通貨NEMのトークンXEM(ゼム)を送ることもできるし、日本円と連動する「LCNEMステーブルコイン」(内容は後述する)を送ることもできる。

LCNMEは、京都大学経済学部の現役の学生である木村優氏が2018年3月に設立したスタートアップ企業。今までに、Googleアカウントを持っていればきわめて簡単に使い始めることができる仮想通貨NEMのウォレットアプリ「LCNEM Wallet」や、日本円や米ドルなどと価格が連動しNEMウォレットで送受金できる「LCNEMステーブルコイン」とユニークなプロダクトを作ってきた。

LCNEMステーブルコインの法的な扱いだが、金融庁への法令適用事前確認手続き(ノーアクションレター)により、パブリックブロックチェーンを使ってはいるが法的には仮想通貨ではなく「前払式支払手段」であることが確定している。つまり、今や取得が非常に困難となった仮想通貨交換業のライセンスなしに発行することができるわけだ。

LCNEMは政治メディア×トークンエコノミーを目指すPoliPoliとも業務提携し、技術面での支援を行っている。PoliPoliも、やはり現役の慶應義塾大学の学生が起業したスタートアップである。

現役学生が作ったLCNMEのサービス群は、現段階ではUIがやや無愛想に見えるものの、発想のシンプルさ、賢さ、新しさが目を引く。ブロックチェーンの「ネイティブ世代」が作ったサービスの今後に期待したい。

ブロックチェーンでハッカーから電力網を保護する、Xageのセキュリティ自動化ツール

ブロックチェーンを利用して、インフラをよりセキュアなものすることを目指すXageが、ユーティリティ(電気、ガス、水道など)やその他の重要なインフラを保護するための、新しいポリシー管理ツールを発表した。

XageのCEO、Duncan Greatwoodによれば、この製品は製品ポートフォリオのニーズの一部を満たすためのものであるが、同時に顧客が電力網を(特に敵対国からの)ハッキングから保護するために、国土安全保障省(DHS:Department of Homeland Security)によって策定された新しい規制を、遵守することを助けるようにデザインされているという。

Greatwoodは、これまでは政府はコアネットワーク資産だけを心配していたのだが、時間が経つにつれて、ハッカーたちが、ユーティリティネットワークのセンサーや電圧制御装置といった端点を攻撃する技術に注力していることが明らかになってきたという。

今年のはじめにニューヨークタイムズは、ロシアのハッカーたちが米国の電力網を標的にしていたことを報じた。このことが、DHSがパスワードローテションやリモートアクセス制御を扱う方法のアップグレードを、優先的に推進している大きな理由だ。

これは大掛かりな問題だ。なぜなら1つのユーティリティ施設は1万から2万のサブステーションを持ち、それぞれが数百のコンポーネントを内蔵している可能性があるからだ。来年、新しいDHS規制が発効することを受けて、企業はそれをどのように実現するのかを、今考え始める必要がある。

「これから来年末までの間に、ユーティリティたちは、システムを自動化する方法を実現しなければなりません」とGreatwoodは説明する。Xageは、米国政府の新しい規制に準拠するようにポリシーを設定し、それが改ざんされていないことを保証するために、ブロックチェーンに適用する方法を提供する。

Xage Policy Manager. 画像提供:Xage

問題の一部は、エンドユーザーたちが、ラップトップ、タブレット、そしてスマートフォンなどの、ネットワークにアクセスするためのデバイスを持っていることだ。Xageのポリシー管理ツールは、誰がどのデバイスでシステムにアクセスできるかを明確に定義し、ハッカーをブロックすることを助ける。

「私たちのデータポリシー管理の一部は、誰がどのデバイスからのアクセスを許可されているのかを定義することです。すべてのラップトップがネットワークに接続できるわけではありません」と彼は言う。それが正しいマシンだと認められるためには、正しく承認されたMACアドレスを持ち、承認されたフィンガープリントと証明書がインストールされ、適切な部署からアクセスされることが要求される。

ブロックチェーンは、悪者がシステムに侵入した場合(またはしようとする時)に、ネットワーク全体に対して自由に移動することができないようにする。「もし何か悪いことが起きた場合には、その部分が局所化されます。ブロックチェーン内に悪い行動をとるノードがある場合、それは検知され、そのセクタをロックダウンすることができるのです。このことによって、その悪いソフトウェアをグリッドや地域を越えて全体に広げることが難しくなるのです」と彼は言った。

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(翻訳:sako)

写真提供: xuanhuongho / Getty Images

世界銀行がオーストラリアの銀行とパートナーして初のブロックチェーン上の債券を立ち上げ

世界銀行がオーストラリアのCommonwealth Bank of Australia(CBA)と共に、初のブロックチェーン上の債券を発行することになった。

この1億1000万オーストラリアドル(8700万USドル)のbond-i(ブロックチェーンによって運用される新しい債務証券)は、分散台帳技術を使って作られ、割り当てられ、送金(振替)され、そして管理される、初めての債券だ。なお、bond-iという名前は、オーストラリアの有名なビーチ、Bondi Beachから取られたに違いない!(銀行家は意外とジョークが好きである)。

この投資は、オーストラリアの金融にとっては小さな一歩だが、世界中のブロックチェーンにとっては大きな跳躍だ(でもないか)。

このブロックチェーンボンドの投資家は、CBA, First State Super, NSW Treasury Corporation, Northern Trust, QBE, SAFA, Treasury Corporation of Victoriaなどだ。それはまるで、オーストラリアの公的金融機関のごった煮のようだが、その意味は大きい。オーストラリアのフィンテックコミュニティはかねてから強力だし、そしてブロックチェーンは、これらの金融機関が探究に向けて関心を持っていたテーマだからだ。

世界銀行の声明によると、これは同行がブロックチェーンに関して行っていくであろう多くの実験の、ひとつである。6月に世界銀行はBlockchain Innovation Labを立ち上げて、その技術を検討してきた。

世界銀行の財務部長Arunma Otehはこう言っている: “公的機関やファンドマネージャー、政府機関、および銀行から寄せられた幅広い関心にとりわけ感銘を受けている。私たちは疑いもなく、コンセプトの現実化に成功した。なぜならば、これらの質の高い投資家たちが、テクノロジーを資本市場のイノベーションに利用することの意義を、理解されたからである”。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

ブロックチェーンを使用するIoTデバイスの開発が簡単にできる組み込みボードElkrem

スマートフォンをArduinoのボードに接続するツール1Sheeldを作った連中が、さらにおもしろいものを作った。彼らの新製品Elkremは、ブロックチェーンのIoTデバイスを作るためのスマートキットで、彼らはこのプロジェクトのためにEndure CapitalとConsensysから25万ドルを調達した。

ファウンダーのAmr SalehとIslam MustafaはTechCrunch Disrupt 2013で1Sheeldを発表し、その後120か国で数万台を売った。そして今度の彼らの製品は、完全にブロックチェーンがベースだ。

[Bitcoinを使用するキャンディーの自販機]

Salehは説明する: “Elkremは、ブロックチェーンハードウェアを開発するためのボードだ。ブロックチェーンのデベロッパーはハードウェア開発の詳しい知識がなくても、これを使って、ハードウェアのプロトタイプをDapps(分散型アプリケーション)に容易に統合できる。また電気工学のエンジニアやハードウェアのデベロッパーが、ブロックチェーンの詳しい知識がなくても、自分のハードウェアプロジェクトにブロックチェーンを接続できる。どちらもスマートコントラクトでアクチュエータをトリガでき、またセンサーのデータをスマートコントラクトへログできる”。

ボードはArduinoに似ていて、二つのプロセッサーとストレージとWi-Fiがある。プロセッサーのひとつはLinuxの彼ら独自の変種が走り、Ethereumや, IPFS, Swarm, Whisper, Bitcoin, Status.imなどへインタフェイスする。他方のプロセッサーは、もっぱらユーザーに対応する。

Salehは曰く、“うちの強みは、速い開発と速いプロトタイピング、そして速い市場投入だ。このボードがあれば、プライベートで分散型のIoTメッセージをピアツーピアの通信で送れる”。

つまり、このボードがあれば、ブロックチェーンを使うハードウェアの開発が簡単になる。Koynというライブラリを使って、Bitcoinによる決済をわずか1行のコードで処理でき、彼らはすでにサンプルプロジェクトとして、Bitcoin対応のキャンディーマシンや、Bitcoinで料金を払える電源コンセントなどを作っている。このボードは、年内にKickstarterにも登場する予定だ。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

パブリック・ファイナンスについて考える

もしあなたが特定の年齢であるとしたら、地方債の購入や債券の購入方法など考えたこともないかもしれない。それらを思いついたことがあったとしても、そうしたプロセスは意図的に漠然としたものとなっている。

とはいえ、スタートアップ、投資先を探している個人、インフラを再構築しようとしている自治体にとって、それらは現状を刷新するのに大きな機会となるかもしれない。

まず第一に、債券購入は検討に値するだけの理由がある。昨年後半、トランプ政権は、納税者の財産税や地方・国の所得税の控除額に1万ドルという上限を設けた。さまざまな税金の支払いをしなければならないほとんどの納税者は、他の新税制により何らかの形で恩恵を受けている。しかし、それらが非常にいいというわけではない。そこで地方債の出番だ。というのも、地方債による利子収入に課される税金をみると、連邦税が免除されるからだ(住んでいる州が発行した地方債なら州税も免除される)。

では、さほど税金に苦しんでいない人ではどうか。1つ言えるのは、債券というのは非常に安全な投資であるということだ。すごく魅力的というわけではない。本当だ(通常、利率は1桁だ)。しかし低いデフォルト率という特徴も持つ。州や市、郡といった自治体の債務は通常、国が保証していて、債券の満期時には満額が支払われる。事実、地方債のデフォルト率は過去10年間で0.3%以下とかなり低い。加えて、いやそれ以上に意味があるのが、地方債は住民にとって住んでいるコミュニティを手助けする手段となることだ。例えば、カリフォルニア州オークランドの住民は2016年、古くなった道路の改修や手ごろ価格の住宅の建設などを行うための6億ドルの債券を承認した。

ここまで読んだあなたは、そうした投資機会がどこにあるのか、その際にテックがどんな役割を果たすのかと思うだろう。具体的に、地方債マーケットで動いているお金で考えてみよう。Morningstar Directによると、昨年は地方債ファンドと上場投資信託へ340億ドルもの流入があった。こうした商品以外でも、投資家向けのポートフォリオに幅を持たせるためにたくさんの債券を組み合わせたパッケージなどの動きも活発だった。

ファイナンシャルサービスディスラプターと同様、ここで言えるのは、大きな金融機関が提供するような商品がたくさん出回り始めているが、より低コストになってきていることだ。

また、現状よりもたくさんの債券を発行する余地がある。今年はじめNew York Timesが報じたように、2008年の金融危機以降、地方債の発行は少ない。さらに、トランプ政権の新たな税法は“期限前借り換え問題”と呼ばれる要素を排除している。この問題に関し、Timesは地方債のような種のファイナンスは市場の15%を占める、としている。つまり、供給を強いるような環境にあり、需要もある。

今のところ、パブリック・ファイナンスに関心を持つスタートアップはそう多くない。おそらく、地方債マーケットを21世紀にもたらすことに焦点をあてているスタートアップは1社、Neighborlyだけだ。設立6年、ベイエリアを拠点とする債券ブローカーとしてはかなり革新的なスタートアップだ。2017年には、同社のテックのおかげで、マサチューセッツ州ケンブリッジ市は200万ドルの“ミニ債”を発行できた。このミニ債で、住民は通常より少額の債券に適用される非課税の利子を稼ぐことができた。また、仲介人なしにさまざまなプロジェクトに直接投資することができた(明らかにこれは成功例で、ケンブリッジ市は今年はじめ2回目のミニ債を発行した)。

年初にNeighborlyはカリフォルニア州バークレー市に“イニシャル・コミュニティ・オファリング”と名付けたICO(Initial coin offering)を提案した。これは、バークレー市の資金不足プロジェクトに投資してもらう代わりに暗号通貨トークンを発行するというものだートークンは地方債により保護される(債券保有者はデジタルコインか現金で元金を受け取ることができる)。この試みはまだ進行形だが、もしうまくいけば他都市にとってもロードマップとなるはずだ。

この分野でNeighborlyがこの先も先駆者でい続けられるのか、それとも新規参入社がその位置を奪うのかはまだ見えないが、長年、政治戦略家だったインベスターBradley Tuskが我々に今後の可能性についてヒントをくれた。以下にTuskとの会話の一部を紹介する。TuskはNeighborlyのインベスターではなく、最近同社へのアドバイスを始めていることを記しておく。長さの関係上、以下の会話は編集されている。

TC:あなたは地方債マーケットは破綻していると考えている。それはなぜか。

BT:我々には今、片手で動かせるシステムがある。政府は国債を発行でき、人々がそれを支払う。つまり、プロジェクトを立ち上げ、人々はそれに伴う返金を受け取れる。それが仕組みの基本だ。しかし非常に曖昧で、閉ざされたシステムでもある。他の閉ざされた産業をテックがどうにかディスラプトし、変革をもたらし、そして効率的で透明なものにしたのと同じように、同様のことをパブリック・ファイナンスに活用しない手はない。

[キャリア初期]私はLehman Brothersで働いた。彼らは私をどこに配置してよいかわからず、パブリック・ファイナンスを割り当てた。その部門で働いていた人たちは率直で、世界経済を破綻させたような人々ではなかった。しかし実のところ彼らは効率的に多くの金を稼ぎ、納税者としてはトップランクだった。そうした額は、[銀行の]契約査定コストに組み込まれていた。今では必要ないものだろう。

TC:現在、債券はブローカーを通じて入手できる。あなたの目にはブローカーは課金しすぎだと映っている。しかし途中をスキップして“イニシャル・コミュニティ・オファリング”やブロックチェーンテクノロジーに直に移行するのが正しい道なのか。それは人々をおののかせることになるかもしれない。

BT:ブロックチェーンは暗号という点で誤解されているように思う。究極的には、ブロックチェーンはつなぐためのより良いシステムで、台帳でポイントAからポイントBへとデータを移すのにより効率的な手法だ。ディストリビュートされた多くの異なる場所で作業が行えるので、より安全で、ハッキングもされにくい。それは配管作業だ。要するにインフラなのだ。だからこそ、複雑で部分やパーツを伴う移送を、より簡単に素早く行うことができるレベルに持っていける。かつて我々が行なっていたことをインターネットがいかに素早く行えるようにしたかということと大差はない。電子メールは、手紙を書くより早い。テキストは電子メールよりも早い。

[あなたの質問に答えると]Neighborlyが成し遂げようとしていることは、ブロックチェーンに完全に頼るというものではない。[Neighborlyの創業者でCEOのJase. Wilsonが]最初にこのアイデアを思いついた時、Neighborlyが現在のような形で存在していたとは思えない。言いたいのは、現在のパブリック・ファイナンスは高価なもので、しかも明瞭でなく、特に民主的でもないということだ。一方で、[債券の金がどこに行くべきかについての]判断で影響を受ける人々がそうした問題を認識していないという事実もある。それこそが、Neighborlyや他の企業が指摘しようとしている、マーケットプレイスにおける真の非効率性だ。ブロックチェーンはそれをより効率的にするのを手助けするだけでいい。

TC:Neighborlyはプラットフォームユーザーが利用可能な債券をすでに作っているのか、それとも新たな債券商品を作ろうとしているのか。

BT:どちらもだ。プロセスに参加して債券を発行することもできるし、コミュニティが幅広く所有する債券を発行したいと考えている地方自治体と共同で作業することもできる。

TC:Neighborlyのようなスタートアップに協力するよう政府を説得するというチャレンジについてはどうか。この点について特に考えるところ、改善すべきことはあるか。

BT:いま、非常に大きな問題を抱えている。その問題というのは、そうしたスタートアップは政府に国債を発行するよう、あるいはそうしたプロセスに参加するようアドバイスしている。それらの企業の多くは候補者にお金を提供することを禁じられているにもかかわらず、だ。彼らは非常に用心深く身を隠している。そして彼らは予算を組むオフィスの中堅どころと関係を築いている。

これは、Uberがタクシー業界を、Airbnbがホテル業界を相手に競争を展開しているように、戦わなければならないカルテルだ。ある意味、戦うのが難しいカルテルといえる。というのも、かなり不透明だからだ。誰も、予算のプロセスが内部でどうなっているのか実のところを知らない。ゆえに、大きくかつ静か、そして最もパワフルなカルテルとも言え、かなり大きな戦いだ。Neighborlyはそれを受けて立つと考えている。

TC:先例はあるか。

BT:[ほとんどない]1社がうまくいけば、15社がその後に続くだろう。最初の会社というのは開拓の重荷を背負い、あらゆる戦いに挑まなければならない。おそらくそれが今起こっていることだ。マーケットが開かれたとき、人々はお金の活用法があると認識し、さらなる参入が予想される。しかし今現在、作業の多くを行なっていると私が認識しているのは1社のみだ。

パブリック・ファイナンス部門というのは債務を発行し引き受ける人と協働するのが得意だ。そしてどちらというとNeighborlyはパブリック・ファイナンス部門がゲームをしなくてもいいような世界で事業を行う。しかしそこにはある程度、政治の現実も介在する。

イメージクレジット: Bryce Durbin / TechCrunch

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(翻訳:Mizoguchi)

ベネズエラが暗号通貨を発行して通常通貨と連結、ブロックチェーンの専門家は詐欺と呼ぶ

ハイパーインフレやそのほかの経済問題と格闘しているベネズエラが、前例のない思い切った手段に出た。同国の通貨を大幅に減価して名前を変えただけでなく、国が発行する暗号通貨Petroに連結した。後者は原油価格に応じて変動するが、この措置が何をもたらすのか、まだ誰も知らない。

Petroは今年の初めから、プライベートのバイヤー、次いで一般バイヤーに段階的に提供され、外国政府や、おそらく一部のプライベートバイヤから30億ドルを調達した。トランプ大統領は、アメリカの関与を禁じた

それは原油価格を反映する流動資産と想定され、もちろんシステムを大まかに説明するホワイトペーパーもあるが、そこに技術的詳細は欠けている。議会は国が発行する暗号通貨を憲法違反とし、ブロックチェーンの専門家たちはそれを詐欺と呼び、またロシアの陰謀説も捨てきれないようだ。Bloombergはマドゥーロ大統領の談話などを含む良質なまとめ記事を載せている。

マドゥーロ大統領の政権が作り出したこの企画は、同国の通貨の信用と安定性に寄与することが目的のようだ。強かったボリバルは、最近の10年間でその価値を90%以上失い、sovereign bolivarと改名され、インフレ前の価値に人為的に戻された。つまり2012年に100ボリバルだった食パンは先週10万ボリバル、理論的にはそれが100に戻るのだ。実際にそうなるのかは、わからないし、ブラックマーケットのインフレ率はもっと大きいだろう。これも、結果を誰も知らない。

なお、ぼくは経済学者ではないし、そうなるつもりもない。でも、国の法定通貨が国が発行する暗号通貨に連結されたのはこれが初めてであり、その意味ではブロックチェーンの世界における歴史的瞬間だ。これは国際社会にとって、いろんな意味でおもしろいが、今回のベネズエラのやり方はとうてい、理想的なやり方とは言えない。

実際には、おもしろいとは名ばかりで、ベネズエラの多くの人びとにとって原油価格と結びついた暗号通貨よりも欲しいのは、瓶入りの水や、赤ちゃんのおむつ、そしてこの国から出るための列車の切符だ。今後の結果は、どんな結果であれ教訓的だと思うが、路上にあふれているのは人道的危機であることを、忘れないようにしよう。ここでも、助けになるのは寄付だ

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

ブロックチェーンを破壊するハッカーの手口をシミュレーションしてデベロッパーの事前対策を可能にするIncentivai

暗号通貨のプロジェクトは、人間がそのブロックチェーンを悪用すると破綻する。しかも分散デジタル経済が実際に動き出し、コインが離陸すると、それらを統治するスマートコントラクトの修復は難しい。あくまでも、デベロッパーによる事前対策が必要である。そこで、今日(米国時間8/17)ステルスを脱したIncentivaiは、その人工知能によるシミュレーションで、セキュリティホールを調べるだけでなく、ブロックチェーンのコミュニティを構成している人間たちの貪欲や非論理性にメスを入れる。暗号通貨分野のデベロッパーはIncentivaiのサービスを利用して、自分たちのシステムが動き出す前に、その欠陥を修復できる。

Incentivaiの単独のファウンダーPiotr Grudzieńはこう言う: “スマートコントラクトのコードをチェックする方法はいろいろあるが、新たに作った経済が期待通りに動くことを確認する方法はない。そこで私が考えたのは、機械学習のエージェントを利用するシミュレーションを作り、それが人間のように振る舞うことによって、システムの未来の振る舞いを予見する方法だ”。

Incentivaiは来週Y Combinatorを卒業するが、すでに数社の顧客がいる。顧客(ユーザー)は、Incentivaiの有料サービスにより自分たちのプロジェクトを監査してレポートを作るか、または自分でそのAIによるシミュレーションツールをホストしてSaaSのように利用する。同社がチェックしたブロックチェーンのデプロイは数か月後になるが、そのとき同社はすでに、そのプロダクトの有意義性を実証するための、いくつかのケーススタディーをリリースしているだろう。

Grudzieńは説明する: “理論的にあるいは論理としては、一定の条件下ではこれこれがユーザーにとって最適の戦略だ、と言うことはできる。しかしユーザーは、合理的でも理性的でもない。モデルを作ることが困難な、予想外の行動がたくさんある”。Incentivaiはそれらの理不尽な取引戦略を探求して、デベロッパーがそれらを想像しようと努力して髪をかきむしらなくてもよいようにする。

人間という未知数から暗号通貨を守る

ブロックチェーンの世界には巻き戻しボタンがない。この分散技術の不可変かつ不可逆的な性質が、良かれ悪しかれ、一度でもそれを使ったことのある投資家を遠ざける。ユーザーが偽りの請求をしたり、贈賄によりそれらを認めさせようとしたり、システムを食い物にする行動を取ったりすることを、デベロッパーが予見しなければ、彼らは攻撃を阻止できないだろう。しかし、正しくてオープンエンドな〔固定しない〕(AIに対する)インセンティブがあれば…これが社名の由来だが…AIエージェントはなるべく多くの収益を得るために自分にできることをすべてやってみて、プロジェクトのアーキテクチャにあるコンセプトの欠陥を明らかにするだろう。

Grudzieńはさらに説明する: “この〔すべてをやってみるという〕やり方は、DeepMindがAlphaGoでやったものと同じで、さまざまな戦略をテストするのだ”。彼はケンブリッジの修士課程でAIの技能を究め、その後Microsoftで自然言語処理の研究を担当した。

Incentivaiの仕組みはこうだ。まず、デベロッパーは、ブロックチェーンの上で保険を売るなどの、自分がテストしたいスマートコントラクトを書く。IncentivaiはそのAIエージェントに、何を最適化するのかを告げ、彼らが取りうるすべての可能なアクションを羅列する。エージェントの役柄はさまざまで、大金を手にしたいと思っているハッカーだったり、嘘をばらまく詐欺師だったり、コインの機能性を無視してその価格の最大化だけに関心のある投機家だったりする。

そしてIncentivaiはこれらのエージェントにさらに手を加え、彼らを、ある程度リスク忌避型だったり、ブロックチェーンのシステム全体を混乱させることに関心があったり、といったタイプにする。それから、それらのエージェントをモニターして、システムをどう変えればよいかというインサイトを得る。

たとえば、トークンの不均一な分布がパンプ・アンド・ダンプ(pump and dump, 偽情報メールによる価格操作詐欺)を招く、とIncentivaiが学習したら、デベロッパーはトークンを均一に分割して、初期のユーザーには少なめにする。あるいはIncentivaiは、認められるべき支払請求をユーザーが票決する保険製品は、投票者が偽の請求を偽と立証するために支払う債権価格を上げて、詐欺師から収賄しても投票者の利益にならないようにする必要があることを、学ぶかもしれない。

Grudzieńは、自分のスタートアップIncentivaiについても予測をしている。彼の考えによると、分散アプリケーションの利用が上昇すれば、彼のセキュリティサービスのやり方を真似るスタートアップが続出するだろう。彼によると、すでに一部のスタートアップは、トークンエンジニアリングの監査や、インセンティブの設計、コンサルタント活動などをやっているが、ケーススタディーを作る機能的シミュレーションプロダクトは誰もやっていない。彼曰く、“この業界が成熟するに伴い、そういうシミュレーションを必要とする、ますます複雑な経済システムが登場するだろう”。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

AnyPay、株式配当のように“収益を分配するトークン”の発行システムを開発中

割り勘アプリ「paymo」などを提供するAnyPayは8月10日、グループ会社でシンガポールに籍をおくAnyPay Pte.Ltd.にて収益分配型のトークン発行システムを開発中であることを発表した。2018年中にもシンガポールと日本でリリースされる予定だ。

株式ではなく、仮想通貨を発行することによって資金を調達するICOは、新しい資金調達手法として徐々に市民権を獲得しつつある。coindeskによる統計を見ると、2018年7月末時点におけるICOによる累計資金調達額は世界全体で200億ドル(約2兆2000億円)を超え、特に2017年から急速に普及してきたことが分かる。

写真: coindesk

しかし、その一方で、日本を含む各国ではこの新しい資金調達手法に適用する法律や規制が十分に整備されていないのも事実だ。そのために、ICOによる資金調達を断念する企業も多い。

そんななか、仮想通貨を利用した新しい資金調達手法として近年注目を浴びているのが、金融商品関連法令にもとづく金融商品としてトークンを発行して資金調達を行うSTO(Security Token Offering)だ。通常、ICOでは仮想通貨を発行する企業のサービスなどで利用できるトークンを発行することが一般的。これらのトークンは「ユーティリティトークン」と呼ばれる一方で、STOによって発行するトークンは、企業の所有権や配当など取引可能な資産によって裏付けられた「セキュリティトークン」と呼ばれる。

金融商品関連法令に則ったかたちでトークンを発行するためには、発行するトークンが金融商品であると認められなければならない。規制が不十分という環境のなか、仮想通貨による資金調達を実現するためには、株式などの金融商品に近い性質をもつセキュリティトークンはこの点で有利となる。

そのような背景もあり、STOによる資金調達を計画する企業が増えてきてはいるものの、実施に先立って調査すべき法的要件や必要書類は多岐に渡り、経験がない企業がイチからSTOを実施するのは非常に困難であることも事実だ。

そこでAnyPayは、これまで展開してきたICOコンサルティング事業で培った知見を利用し、企業がより簡単にSTOを実施できるようなシステムを開発中だ。AnyPayはコンサルティング事業を通して、これまでに「数社」の企業を相手にICO実施のサポートを行ってきた。そのなかには、STOによって合計約1800万ドルを調達した企業もあるという(ただし、この例はインド企業)。

開発中のトークン発行システムの詳細はまだ明らかにはなっていないものの、同システムでは「トークン発行機能、STOを実施したあとの配当配布やIRを円滑に進めるためのツール」が利用可能になるという。

なお、AnyPayは同システムの運営において、Gunosyやインキュベイトファンドなど事業会社やVCとの協業パートナーシップを交わしたことも併せて発表している。これらのパートナーが担う役割について、ICOコンサルティング事業の責任者である山田悠太郎氏は、「事業会社のパートナーとは、ブロックチェーンの仕組みを活かしていかにセキュアで透明性のある全体の仕組みを作っていくかなど(システムの開発面で)協業を進める。パートナーシップに参加する各ファンドとは、彼らの投資先企業のバリューアップをSTOによってお手伝いすることで、ファンドとAnyPayの両社にメリットのある協業ができると考えている」と話した。

エンタープライズ市場に臨むブロックチェーン――仮想通貨以外の可能性

現在ブロックチェーンには過度な期待が寄せられているため、同テクノロジーを真剣に取り合えないでいる人は多い。しかしそのコアとなるデジタル台帳テクノロジー自体には、ビジネスにおける信頼性の考え方を大きく変える力が秘められている。とは言え、まだブロックチェーンは黎明期にあり、エンタープライズ市場で受け入れられるにはまだ欠けているものがたくさんある。

いずれにしろ、SAPやIBM、Oracle、Microsoft、Amazonなどエンタープライズ市場の主要企業は、顧客にブロックチェーン関連の何かしらのサービスを提供しようとしている。

まだブロックチェーンに対する興味は流動的とは言え、2017年7月にイギリスのJuniper Researchが400社もの大企業を対象に行った調査によれば、回答者の6割が「すでにブロックチェーンの実装を進めているか、積極的にその可能性を模索している」と答えたとされている。

過去12〜18か月のあいだにさらなる盛り上がりを見せているブロックチェーンだが、エンタープライズ市場で生き残る上で、どんなプラットフォームにとっても欠かせないと言えるベースのシステムは未だ整備されていない。確かに一部の企業やオープンソースコミュニティはすでにその可能性を認め、ブロックチェーンベースのプロダクトの開発を進めている。しかしまだ課題は山積みだ。

普及への障害

ブロックチェーンにはさまざまなユースケースが考えられるが、未だにブロックチェーンと仮想通貨を切り離して考えられない人もいるようだ。NASA在職中にOpenStackの開発に寄与し、現在はPivotalでCould Foundryのヘッドを務めるJoshua McKentyもこの問題を重く受け止めており、これがエンタープライズ向けテクノロジーとしてのブロックチェーンの普及を妨げる要因になりうると考えている。

彼によれば、現在のビットコインとブロックチェーンの関係は、90年代末のNapsterとP2Pテクノロジーの関係に似ているのだという。NapsterがP2Pネットワークを利用し、MP3ファイルを簡単に(そして違法に)共有できる環境を作ったため、P2Pネットワーク自体にも悪いイメージがついてしまい、企業は10年ものあいだ手を出せないでいたと彼は考えているのだ。

「当時、Napster(とP2P)に関する話をポジティブな方向に持っていくことはできなかった。ビットコインもブロックチェーンに同じような影響をおよぼしている。ビットコインの呪縛から抜け出し、(ブロックチェーンの)有用性を見出すにはある程度の時間がかかるだろう」とMcKentyは話す。

Photo by Spencer Platt/Newsmakers – Getty Images

Deloitteが7か国に住む1000人以上を対象に行った最近の調査では、特にアメリカ以外の国々で上記の考えが浸透していることがわかった。「ブロックチェーンは『お金のためのデータベース』であり、金融以外の分野ではそこまで役に立たないという意見に、アメリカ在住者は全体の18%しか同意しなかったのに対し、フランスとイギリスでは回答者の61%が同意した」とレポートには記されている。

Hu-manityのファウンダーでCEOのRichie Etwaruは、著書『Blockchain: Trust Companies』の中で、これは信頼性の問題だと主張する。つまり企業は信頼に基づいて事業を展開することに慣れていないというのだ。実際に彼は著書の中で、契約システムは信頼がないからこそ成り立っていると論じている。

「(ブロックチェーンをエンタープライズ市場で普及させる上での)障害の根源は、これまで数々のビジネスモデルを大企業向けに設計したり、変更したりしてきた人たちが、信頼や透明性を二の次に考えていたということ。今後は信頼や透明性に関する考え方を幹部レベルで統一させ、積極的にこのような問題に取り組んでいくことが成功のカギになるだろう」とEtwaruは説明する。

新しいテクノロジーの不確実性

もともとブロックチェーンはビットコイン(仮想通貨)の所有権を追跡するためのシステムとして開発され、未だにほとんどのケースにおいて、同じ目的を果たすために使われている。しかし改ざん耐性があり信頼できる記録方法自体は、通貨以外にも何かしらの価値があるものを追跡し、ルールを施行する上で便利だ。たとえばpo.etはコンテンツの所有権を記録するためにブロックチェーンを活用しようとしており、Hu-manityはデータの所有権IMB TrustChainコンソーシアムは、採掘地から店頭までのダイアモンドの流通経路の記録にブロックチェーンを使おうとしている。

Photo: LeoWolfert/Getty Images

ボットの信頼性をトラックするBotChainと呼ばれるブロックチェーンの開発に関わっていたTallaのCEO Rob Mayは、良いユースケースを見つけられるかどうかが最終的にそのテクノロジーの成否に関わると語る。「ブロックチェーンにはさまざまなユースケースが考えられるが、ほとんどの人は全体をひとまとめにして考えているか、個別のユースケースを十分に理解できていない」

彼によれば、多くの企業はブロックチェーンの利点――May自身の定義によると、改ざん耐性、信頼性、トークン化――を理解できていないという。金融業界ではトークン化に注目が集まっており、これが仮想通貨とブロックチェーンの混同の一因でもある。

「今のところ、企業はブロックチェーンの真の利点を理解しておらず、的はずれなことにブロックチェーンを活用しようとしている。たとえばスマートコントラクトの実用化にはまだ時間がかかる。スピードが要されるものにブロックチェーンを使おうとしている企業もいるが、これも時期尚早と言える」

最後にMayは、改ざん耐性と信頼、トークン化の3つが必要ないのであれば、ブロックチェーン以外のアプローチを検討した方が良いと語った。

ユーザー認証の重要性

他のネットワーク同様、ブロックチェーンネットワークにおいても、ユーザーの識別はテクノロジーのコアにある。というのも、誰かとコミュニケーションをとる際に、相手が誰なのかわかっていなければコミュニケーションは成り立たないからだ。Accentureでシニアアナリストを務めるCharles Francisは、しばらくのあいだ、ブロックチェーンの大部分はプライベートな状態であり続けるが、将来的に異なるブロックチェーン間でのやりとりが発生するとすれば、徐々にユーザー認証の重要性が高まっていくだろうと話す。

Photo: NicoElNino/Getty Images

「まずブロックチェーン間の接続は個別に手動で設定され、自分が管理するネットワークは非公開にすることで、すぐに悪意のあるユーザーを割り出せるようになるだろう」と彼は話す。しかしプライベートネットワークを飛び出し、パブリックな環境に移行するためには、ユーザーが自分の身元を証明できるようなシステムが必要になると彼は考えているのだ。

IBMフェローで、ブロックチェーン担当VPのJerry Cuomoも、将来的には複数のネットワークが存在し、相互にやりとりできるようなシステムが必要になってくるだろうと語る。「あるひとつのブロックチェーンネットワークがすべてを支配するようにはならない。これはかなり自信を持って言える。となると、複数のネットワークをまとめるような仕組みが必要になる」と彼は言う。「さらにすべて(のネットワーク)でユーザーのアイデンティティが必要なため、認証の仕組みは共通していた方が良い。あるネットワーク上での私のアイデンティティは、別のネットワークでも同じじゃないと不便だ」

Etwaruに言わせれば、これも信頼性の問題であり、信頼できるアイデンティティがその解決策になるのだという。「革新的なブロックチェーンのユースケースでは、ネットワーク参加者の一部だけでなく、全体がもっと信頼でき、透明性のある方法でやりとりできるような仕組みが必要だ」と彼は話す。

一般普及に向けて

上記のように議論が進む中、ブロックチェーンは徐々にエンタープライズ市場で普及しつつある。TallaのMayが言うように、まだ解決しなければならない課題は残っているが、それは同時に、大きなチャンスが眠っているということを意味する。「相手が一社ではなくネットワークの場合、何か問題が起きたときに責任の所在がどこにあるのかという疑問が生まれてくる。おそらく今後、Linuxに対するRed Hatのようなブロックチェーン企業がたくさん生まれるだろう。企業がどのように(ブロックチェーン)ネットワークを活用するかを検討するためには、外部からの助言やより良いフレームワークが必要になってくる。というのもイーサリアムは従来の意味での“プロダクト”の範疇にはないのだ」と彼は言う。

SAPのプロダクト&イノベーション担当SVPで、デジタルカスタマーイニシアティブのヘッドを務めるGil Perezは、すでに意義のあるプロジェクトを開発中の企業が存在すると語る。「ただ何かやりたいという漠然とした段階を過ぎ、私たちは大規模な実装やパイロットプロジェクトにも携わっている。製薬業界におけるプロジェクトでは10億件以上もの決済を処理した」

事実、SAPは計65社とさまざまなプロジェクトに取り組んでおり、各プロジェクトの進捗状況もそれぞれだ。Perezによれば、一般普及に向けた次のステップとしては、サプライチェーンのように複数の企業が関係し、モノと書類が複数の国と人の手を介するような状況にも対応できる仕組みづくりが必要になるという。

Photo: allanswart

さらに彼は“良い”データの重要性を強調する。というのも、改ざんできないシステムに“悪い”データが記録されてしまうと、後々それ自体が大きな問題になってしまうのだ。これを防ぐためには、関係者が共通のシステムを使ってデータを入力し、記録される情報に全員が同意しなければならず、まだそれを実現するシステムは市場には存在しない。

Mayはブロックチェーンがビジネスのあり方を変え、現状のような寄せ集めのベンダー管理手法が標準化されることになると考えている。

「ブロックチェーンがある今、もしもある規格が誕生し、すべてのアプリケーションが集まるマーケットプレースが作られたらどうなるだろうか? ディベロッパーは、(あるアプリケーションの)アドオンを一旦開発すれば、同じ規格をサポートする(類似)アプリケーションでもそのアドオンが機能し、さらに巨大なマーケットプレースにそのアドオンを掲載できるようになるだろう。では、どうすればマーケットプレースをひとつにまとめられるのか? ここにブロックチェーンとトークンを活用すればいいのだ。そうすれば、分散性とインセンティブを確立でき、正しいルールが施行されれば、本当にこれが実現できるかもしれない。そうすればかなりの影響があるだろう」と彼は話す。

どんな新規テクノロジーに関しても言えることだが、規模が大きくなるにつれて、ツールや関連テクノロジーの数も増えていく。ブロックチェーンについて言えば、未だ私たちはそのツールや関連テクノロジーを模索している段階にある。そしてブロックチェーンが一般に普及するためには、もっとしっかりとしたインフラが必要になるだろう。しかしこれらの課題が解決すれば、Mayが言うようにブロックチェーンは世界を大きく変えるかもしれない。

Image Credits: Shana Novak / Getty Images

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(翻訳:Atsushi Yukutake