【編集部注】著者のひとりであるNir Eyal氏は、書籍Hooked: How to Build Habit-Forming Products並びにプロダクトの心理学に関するブログの著者。もうひとりの著者であるLakshmi Mani氏は、Tradecraft.社のプロダクトデザイナーである 。
今後数年間のうちには、会話がソフトウェアに新たな命を吹き込むだろう – 特に夥しい数の知識労働者が毎日渋々使っている退屈なエンタープライズツールに。私たちがメッセージングに対して既に馴染みがあるため、会話型ユーザインタフェース(CUIs)はうまくいくだろう。最も技術的に複雑な会話さえ、会話として示されるとSMSを受信するような感覚で捉えることができる。
旧来のやり方のソフトウェアに比べて、会話型ユーザインタフェースは3つの利点を持っていて、私たちはこうした経験が広く伝わることにより、世間にある数え切れないオンラインサービスに刺激を与え、その再設計を促すだろうと考えている。会話型インターフェイスの可能性について説明するために、私たちはGoogle Analytics(もっとも広く使われていてかつ嫌われてもいるエンタープライズソフトウェアのひとつ)が会話型ではどのような見かけになるかの思考実験を行ってみた。
結局それは一体何のためにあるのか?
再設計に飛び込む前に、いくつかの基本的な問題を考慮しておくことが重要だ。エンタープライズソフトウェアとは何のためにあるのか?そしてユーザーのためにどのような仕事をするのか?
基本的には、エンタープライズソフトウェアとは、ユーザーが以下のような質問に対する答えを1つ以上見つけることを助けてくれるものである:
- 重要なのは何か?(関連情報の抽出)
- 次に何をすべきか?(意思決定を支援)
- どのようにすればいいのか?(アクションをガイド)
まあこんなところだろう!全てのエンタープライズ・ソフトウェアがこの3つすべてを行うわけではないが、少なくともどれか1つは行う筈だ。Google Analyticsの場合には、ソフトウェアは1番目の質問に答えるために、情報を引き出すことに注力している。一方意思決定に支援に関しては軽く、そして次のアクションに対しては(ユーザーがGoogleアドを買うことを助けてくれること以外は)あまり助けにはならない。
興味深いことに、会話型インターフェイスは、私たちが今日使っているソフトウェアツールよりも上記の3つの質問のすべてに、より上手く答えてくれるのだ。
重要なのは何か?(関連情報の抽出)
現在のソフトウェアに見られるドロップダウンメニューやテーブル、関数やボタンなどを使って操作を行う代わりに、未来の会話型インターフェイスは、平易な言葉(英語)を使ってメッセージをやり取りすることが可能になる。会話型インターフェースを介して質問するだけで、ユーザーは探している関連情報を手にすることができる。
しかし利用者が自分の欲しいものを知らない場合にはどうなるのだろう?データの中に潜む貴重な洞察に関してはどうか?
Google Analyticsのような旧来のインターフェースを備えた現在のソフトウェアの場合には、アラートが画面の右上に現れて、(良くて)ユーザーを煩わせ、(悪ければ)無視される結果になる。Google Analyticsを開くと、データが満載の威圧的なチャートやグラフが目に飛び込んでくるが、そこから得られる洞察は少ない。これは一体何を意味しているのだろうか?ユーザーは危機的状況にあるのか?それとも全ては正常なのか?
今日の多くのエンタープライズソフトウェアと同様に、Google Analyticsにはチャートやグラフが氾濫している。
こうしたものの代わりに会話型インタフェースを使用することで、Google Analyticsは、重要な情報が無視されず、よりわかりやすいものになるだろう。たとえば、下に示したモックアップでは、ユーザーに異変を通知している。ユーザのウェブサイトへの訪問者数にスパイク(急激な上昇)があったのだ。これはGoogle Analyticsのダッシュボードに表示されているものと同じ情報だが、ユーザーにはとても異なる効果をもたらす。
会話型インターフェイスは、ダッシュボードと同じ情報を提示することが可能だが、はるかに強力な効果を持つ。
現在のダッシュボードは、データを送り出した後はユーザーが残りをやってくれるものと期待している。しかし、将来の会話型インターフェイスはまず洞察を提示し、必要ならばそれをデータで裏付けるのだ。ここではGoogle Analyticsの新しい顔であるChristinaが、会話を進めるためにユーザーを質問で促す様子に着目して欲しい。Christinaはボット、もしくは人間とボットのハイブリッドの可能性があるが、目的が達成される限りユーザーには関係がない。
次に何をすべきか?(意思決定を支援)
友人2人でコーヒーを飲んでいるときに、そのうちの1人がさらなる会話へ向けて、もう1人の関心事を推し量ろうと、適当な話題を振ることがある。おそらくは、子供達の最近の様子を尋ねたり、ビジネスの調子や、少しばかりの噂話。私たちは話す価値のあるものを見つけるために関心のアタリをつけるのだ。もし相手が何か他のことについて話をしたいと思っている場合に、頑固に一つだけの話題にこだわるのは、失礼というものだ。しかしそれは、現代のソフトウェアのやり方そのものなのだ。そいつは私たちの関心のない話題でこちらをうんざりさせ続ける。なぜなら、良い友人と違って、それは学ぶということをしないからなのだ。
しかし会話型インターフェイスは、普通のダッシュボードができないことをすることができる。それは傾聴し学習するのだ。提示された情報の離散的な断片に対するユーザの反応に注目することによって、ソフトウェアは、洞察が価値のあるものであったかどうかを記憶する。もしユーザーが提示した情報についての会話を継続した場合、システムはその重要性を学習し、将来似たような状況が起きたときには懸念を伝えてくる。しかし、もしソフトウェアが何も言ってこないならば、そいつは素晴らしい、アプリケーションにはとっては通知の節約であり、ユーザーの貴重な1日にとっては割り込みが1つ少なくなるということだ。
伝統的なダッシュボードとは異なり、会話型インターフェイスは、より適切な情報を提示することで多く使われるようになり更に洗練されていく。その結果より強力な意思決定支援ツールになるのだ。この概念は「stored value(蓄積価値)」と呼ばれ、習慣性のあるプロダクト(habit-forming products)を構築するための鍵なのである(Hook Modelを参照のこと )。
また、会話型インターフェイスは全員の体験を向上させるために、他のユーザーからも学ぶこともできる。例えば、ChristinaがRedditからのトラフィックスパイクが来ていると指摘するとき、彼女は単に事実を提示しているだけでなく、考慮すべき選択肢も同時に提示する。インテリジェントな選択肢を提供するため、Googleは他のユーザーの振る舞いを利用して、次のステップの最高の選択肢を提示することができる筈である。
この例では、アシスタントはRedditを効率的に利用する方法を学習するためのリソースを提案している、そこで行なわれている会話への参加を促し(ここまでが1番目の会話)、また当サイトにとどまるユーザーの数を増やすために、サイトの高い直帰率(バウンスレート)を改善する提案も行っている(2番目の会話で提案しても良いかを聞き、3番目の会話で実際の提案を行っている)。
ユーザーが、次に何をすべきかを知ることを手助けすることには、大変な価値がある。次の行うべきアクションが容易であればあるほど、ユーザーがそれを行う可能性は高くなる。会話型インターフェースは次の最善手を容易に提示する、これによってユーザーが次に何をすべきかを探したり悩んだりする時間を節約することが可能になる。ユーザーとの過去の会話や他のユーザーのアクションからの情報を組み合わせることで、新しいインターフェースは「次に何をすべきか?」の問いに答えるためのよりよい意思決定支援ツールを提供する。
どのようにすればいいのか?(アクションをガイド)
さて、ソフトウェアは重要なものをピックアップし、ユーザーが判断すべきオプションも提示した。いよいよ、ユーザーの行いたいアクションを助ける番だ。残念なことに、実際に現在のソフトウェアでタスクを完成させようとすると、異なる画面やサイト上のソリューションのごった煮を上手にナビゲートしていく必要がある。会話型インターフェイスにはこうした煩わしさをすべて取り除ける可能性がある。
例えば、上の例題では、ユーザーがChristinaにサイトの高い直帰率改善に対する助言を求めると、彼女はRedditからの訪問者を歓迎するカスタムランディングページを作成することを提案している。そのようなページをセットアップすることは、経験者にとっては子供騙しのようなものだが、初心者にとっては価値を上回る苦労となるかもしれない。
ありがたいことに、会話型インターフェイスは、様々な方法を使って背後で仕事を終わらせてしまうことが可能だ。アシスタントは、アップグレードされたサービスを提供し、社内の専門知識を招集したり外部のベンダーを組み込むことができる。ユーザーが新しいソフトウェアの使い方に慣れることを待つ代わりに、アシスタントは既にやり方を知っている人やボットに仕事を任せるのだ。重要な点は、ユーザーが使い方を自分でなんとかマスターする(多くの人がやりたがらない)ことを要求する現在のエンタープライズソフトウェアと違い、会話型アシスタントは最も困難の少ないパスを見つけることによって仕事を完成させることができるということだ。
ここでも、会話型インターフェイスは、サイトに変更が行われるたびに価値を蓄積していく。各ページが構築あるいは試行されるたびに、Google Analyticsはサイトオーナーの目標とこれまでの結果を更に学習する。そのことによって改善の提案が容易になり、やがて自身も必要不可欠なサービスとなっていくのである。
ダッシュボードに永遠の別れを!
様々な職場調査によれば、私たちは1日のうち20から30パーセントを情報の検索に費やしていることが明らかになった。扱いにくいエンタープライズソフトウェアを突き回す時間と労力が少しでも減るだけでも、全体としては無視できないほどの配当がもたらされることだろう。
すべてのユースケースに対して理想的だとは言わないが、会話型インターフェイスには、現状のエンタープライズソフトウェアを上回る利便性がある。基本的に、重要なのは何か?次に何をすべきか?どのようにすればいいのか?という問いかけに答えようとするいずれの場合でも、より優れた働きをしてくれるのだ。
こうした、よりユーザーフレンドリーなインターフェースを採用することで、将来のソフトウェアには、企業に蔓延するダッシュボード疲れを癒すチャンスが与えられる。また単に新しいツールを習得する時間がない人にとって利用可能な、ソリューションの提供を約束するものだ。
エンタープライズソフトウェアの未来は、複雑なダッシュボードと退屈なビッグデータの塊ではない。仕事を楽しくする良くデザインされたインターフェイスこそが来るべきものである。ソフトウェアは良い友人のようでなければならない – 求めよ、さらば与えられん。
このエッセイの初期の版を読んでくれたAriel Jalali、Shane Mac、Amir ShevatそしてMatthew Wooに感謝する。
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(翻訳:Sako)