IBMが排出量データ分析Enviziを買収、企業のサステナビリティ活動を支援

IBM(アイビーエム)は米国時間1月11日朝、オーストラリアのスタートアップEnvizi(エンビジ)を買収し、サプライチェーンの上下で環境への影響を測定するためのESG(環境、持続可能性、ガバナンス)製品パッケージに追加すると発表した。

両社は買収条件を公開しなかったが、IBMはEnvizi買収によって、顧客の環境面でのサステナビリティの取り組みを測定、管理、最適化するためのプラットフォームを手に入れた。つまり、2016年にWatson Healthを構築していたときと同じように、環境問題でデータ中心のアプローチをとっている。Watson Healthについては、同社が現在売却しようとしている、と報じられている。

企業は知見を推進するためのデータを必要としており、それがEnviziによって自社にもたらされるものだとIBM AIアプリケーションのゼネラルマネージャーであるKareem Yusuf(カリーム・ユースフ)氏は話す。

「Enviziのソフトウェアは、企業が事業活動全般にわたって排出データを分析・理解するための信頼できる唯一のソースを提供し、企業がより持続可能な事業とサプライチェーンを構築するのを支援するためのIBMの成長中のAI技術という武器を劇的に加速させます」とユースフ氏は声明で述べた。

EnviziのCEOで共同創業者のDavid Solsky(デイビッド・ソルスキー)氏は、今回の買収をIBMのグローバルプレゼンスを活用することで会社を拡大する方法と見ている。これは、はるかに大きな会社に飲み込まれる会社の典型的な主張だ。「今日という日は、1つの時代の終わりでもなければ、新しい時代の始まりでもありません。むしろ、前例のない速度で規模を拡大し、顧客がサステナビリティへのコミットメントに向けて前進するのをグローバルに支援することを可能にする構造への移行です」と、ソルスキー氏は買収を発表したブログ投稿に書いている。

IBMはEnviziを、IBM Environmental Intelligence Suite、IBM Maximo資産管理ソリューション、IBM Sterlingサプライチェーンソリューションを含む既存の製品パッケージに追加するAI駆動型ソフトウェアと見なしている。後者は、サプライチェーンに沿ったソーシングとトレーサビリティのためにIBMブロックチェーンを使用しており、安全性やトレーサビリティを向上させる可能性がある。

注目すべきは、同社がAIを活用したソリューションを追求し続けているにもかかわらず、今回は6年前のヘルスケア構想のように、ESGの取り組みにWatsonという名称を付けなかったことだ。おそらくIBMは、Watsonブランドが輝きを失ったと判断し、社内のすべてのAI駆動型ソリューションにその名称を付けることから脱却したのだろう。

同社は、2030年までに温室効果ガスの排出量を正味ゼロにすることを目指しているため、同じソフトウェアツールを社内で使用して、自社のサステナビリティの取り組みを推進するとしている。

画像クレジット:Bloomberg / Getty Images

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(文:Ron Miller、翻訳:Nariko Mizoguchi

時代遅れなビルの暖房システムをスマートに変えコスト削減、9カ月で元がとれるRunwise

米国では、温室効果ガスの約13%が商業ビルや住居用建物から排出されている。なぜなのかと首をかしげたくなるかもしれない。典型的なニューヨークのビルを見学すると、レンガで覆われた巨大なビルの地下深くにある技術は、まるで1960年代にタイムスリップしたかのように見え、その上ひどい匂いがすることに気づくだろう。Runwiseはすでに4000棟以上のビルに導入されているが、米国時間12月21日、さらに多くのビルに同社の技術を導入するために1100万ドル(約12億6000万円)を調達したと発表した。この会社は、家主のコストを削減し、その過程で地球をいくらか救うという、双方にメリットのあるWin-Winアプローチを実現している。

Runwiseのセールスポイントは、センサーではなくON/OFFスイッチやタイマーで作動することが多い古い技術があるところに、建物が必要以上に暖房されないようにするための十分な技術を加えるということだ。同社は、10年の電池寿命を持つ電池で動作するワイヤレスセンサーと、ビルのボイラーや暖房を管理するコントローラーコンピュータを開発した。平均して約9カ月で、暖房費の削減という形で導入費用を回収できるという。

Runwiseの共同設立者兼COOであるLee Hoffman(リー・ホフマン)氏はこう説明する。「5、6年前は誰も環境のことなど気にしていませんでしたが、私たちは『だが、将来的に大きなインパクトがあるんだよ!』と言っていました。でも彼らは収益について尋ねてきて、それについては会話が始まるのです。当社の長期的なビジョンは、建物の運営を改善すれば、世界中のほとんどの都市の二酸化炭素排出量と経済性を変えることができるということです。米国には1200万棟のビルがあり、当社は現在そのうち4000棟に入っていまが、すべてのビルに導入できない理由はありません」。

同社は10年前からブートストラッピングしており、目覚ましい成果を上げている。同社の技術は、Related、Blackstone、Lefrak、Equity Residential、Douglas Elliman、Fairsteadなど、米国で最大級の不動産事業者が所有するビルですでに利用されている。Runwiseは、同社の技術を導入した約4000棟のビルに、30万人以上の人々が住み、働いているとしている。Runwiseは、会社を超成長期に突入させる時期だと判断し、Initialized CapitalSusa VenturesNotation Capitalから1100万ドル(約12億6000万円)を調達した。今ラウンドにはNextView Venturesと複数のエンジェルも参加した。

「ニューヨークにあるほとんどのビルは、1960年代から70年代に設計された、ひと握りの企業が製造した制御装置で動いていますが、米国各地や世界のほとんどのビルもそうです。真新しいバンク・オブ・アメリカの高層ガラスタワーに入ると、そこには派手なデジタル表示のコントロールボックスがありますが、それは文字通り1960年代や70年代の同じコントロールの中にあるのと一緒です」とホフマン氏は説明しながら、信じられないでしょう、とでもいうように弾みがつく。「屋外リセットと呼ばれるもので、基本的にはExcelの表を使っています。暖房時間が何分なら暖房を入れる。外気温がこれくらいなら、これをやる。建物の中で何が起こっているのかは把握していません。すべてがハードコードされているのです。完全に狂っています。そして、これがほとんどすべての建物で、何百万ドル(何億円)ものエネルギー消費をコントロールしているのです」。

画像クレジット:Runwise

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Aya Nakazato)

cove.toolは炭素排出の少ない建築物の設計を支援するSaaS企業、ロバート・ダウニー・Jr.のFootPrint Coalitionも支援

建築物をより持続可能なものにするためのテクノロジーは数多く存在するが、その機能を設計に組み込むことは、いうほど簡単ではない。

cove.tool(コーブ・ツール)は、設計段階から確実に建築物を持続可能にすることを目指すスタートアップ企業だ。2021年には同社のソフトウェアによって、設計・建設の専門家がTesla(テスラ)の5倍の炭素を削減できるようになったと主張している。アトランタを拠点とする同社は、Coatue(コーチュー)が主導するシリーズBラウンドで3000万ドル(約34億円)を調達した。

今回のラウンドには、Robert Downey Jr.(ロバート・ダウニー・ジュニア)氏のFootPrint Coalition(フットプリント・コーリション)が、既存投資家のMucker Capital(マッカー・キャピタル)、Urban Us(アーバン・アス)、Knoll Ventures(ノル・ベンチャーズ)とともに参加した。

CEO兼共同創業者のSandeep Ahuja(サンディープ・アフジャ)氏によると、今回のラウンドはプリエンプティブラウンドで、同社の調達総額は3650万ドル(約41億5000万円)に達したという。評価額について同氏は明らかにしなかったものの、2020年11月に570万ドル(約6億5000万円)を調達した時から「10倍」になったと述べている。

B2B(企業間取引)のSaaS(サービスとしてのソフトウェア)企業であるcove.toolは、建築家や建設業者がプロジェクトの詳細や土地を入力すると、採光、空調システム、太陽光発電、材料などの最適化方法を提案してくれる機能を備えている。cove.toolは機械学習を活用し、建築家、エンジニア、建設業者が、建築コストを削減しながら建築物のパフォーマンスを幅広く測定する方法を提供する。

「当社が存在する理由は、建築環境における二酸化炭素の排出量を削減するためです。なぜなら、二酸化炭素排出量の約40%は建築によるものだからです」と、アフジャ氏はTechCrunchに語った。「cove.toolの全体的な目標は、材料の選択と建築のシミュレーションのプロセスをよりシンプルにして、低炭素であるだけでなく、コスト的にも最適な代替材料を選べるようにすることです」。

cove.toolは、2017年8月にソフトウェアのベータ版の提供を開始した。現在では、倉庫からデータセンター、オフィスビルに至るまで、2万5000件以上のプロジェクトがcove.toolのソフトウェアを使って建設されている。同社のソフトウェアには、建設業者、建築家、エンジニア、建築製品メーカーなど、30カ国で1万5000人以上のユーザーがいる。その中には、HDR、AECOM(エイコム)、Skanska(スカンスカ)、Stora Enso(ストラ・エンソ)といった企業が含まれる。

「cove.toolは、合理的な自動分析を行うことで、建設業者、建築家、エンジニア、建築製品メーカーがデータに基づいた設計を行えるように支援し、気候変動との戦いの中で建築物を持続可能かつ効率的なものにしています」と、アフジャ氏は述べている。

驚くべきことに、cove.toolは2021年、2850万トンの炭素をオフセットしたという。これは、4億5000万本の木を10年間にわたって植え、育てることに相当する。同社は新たな資本を活用し、製品群の拡大や、現在60名のチームの増員、建築・エンジニアリング・建設業界へ炭素削減分析の提供などを計画している。

アフジャ氏によると、同社の主な競合相手は、同様の作業を手作業で行っているコンサルタントだという。

「当社の差別化要因は、データへのアクセスを民主化し、かつては2〜4週間かかっていたことを30分でできるようにしたことです」と、同氏は付け加えた。

この会社はまだ利益を出していないものの、アフジャ氏によれば事業規模の拡大をやめれば利益を出せる可能性があるという。

「今後数カ月のうちに、当社の製品群をさらに拡大し、AECエコシステム全体の統合を提供することで、パフォーマンスデータをさらに利用しやすくしていきます。当社では、炭素問題はデータ問題であると考えています」と、アフジャ氏はTechCrunchに語った。「APIフレームワークを使用することによって、建築物のデータを分析する作業を大幅に簡素化し、そのデータを建築・設計プロセスの多くの専門家と共有することができ、最終的にはシームレスな協業を可能にして、プロジェクトの成果を向上させることができます」。

同社では、米国、カナダ、英国、オーストラリア、EUでの販売・マーケティング活動を強化していくことも計画している。

FootPrint Coalitionの創設者であるロバート・ダウニー・Jr氏は、建築物の建設と運営が世界の温室効果ガス排出量の40%を占めると指摘する。

「エネルギー効率、設計、材料選択の透明性を組み合わせることで、cove.toolはこの大きな問題に取り組んでいます」と、同氏はメールに書いている。「これは、機械学習と理念的なリーダーシップを用いて、文字通りより良い未来を築く、スケーラブルなビジネスの最高の例です」。

Coatue社のパートナーであるDavid Cahn(デイビッド・チャン)氏によれば、持続可能な建設は現代の最も重要な環境課題の1つであると、同氏の会社は考えているという。

「cove.toolのソフトウェアによるアプローチは、建築をより簡単かつクリーンにする可能性を持っています」と、チャン氏はメールで述べている。

画像クレジット:Cove.tool

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(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

脱炭素対応に追われる大企業にCO2マネジメントを提供する仏SweepがシリーズAで約25億円を調達

企業の二酸化炭素排出量を測定するエンタープライズSaaSは今ホットな分野だ。つい最近、PlanetlyはOneTrustに非公開の条件で買収された。また、Plan A、Watershed、Emitwiseなど、この分野には多くのスタートアップが参入しており、それぞれが独自のアプローチで市場を開拓している。

FTSE500レベルの大企業を対象としたカーボンマネジメント事業を展開しているフランスのSweepは、業界をリードすることを目指し、シリーズAで2200万ドル(約25億円)を調達した。同業他社と比較しても最大級の規模となる今回のラウンドは、英国のBaldton Capitalが主導し、New Wave、La Famiglia、2050が参加した。Sweepは設立から1年足らずで、総額2700万ドル(約30億7000万円)の資金を調達したことになる。

Sweepは、明らかに満たされていないニーズに応えようとしている。11月、BCGは、90%以上の企業が排出量を正確かつ定期的に測定していないと報告した。ESGとカーボンが企業の課題として取り上げられるにつれ、企業は解決策を求めて奔走しており、特に今後のサステナブルレポーティング規制を考慮している。

Sweepの共同設立者兼CEOであるRachel Delacour(レイチェル・デラクール)氏はこう述べている。「当社のエンタープライズグレードのツールは、カーボンデータの収集、セキュリティ、分析をシームレスかつ自動化し、企業がカーボンフットプリントの削減とグローバルなネットゼロ活動への貢献に集中できるようにします」。

Sweepの取締役会に加わった、Balderton CapitalのマネージングパートナーであるBernard Liautaud(ベルナール・リアトー)氏はこう述べている。「Sweepのミッションとビジョンは、我々が掲げる『持続可能な未来への目標』と完全に一致しています。市場を調査したとき、Sweepのチームの強さと、製品の思慮深さと成熟度に非常に感銘を受けました」。

正式なB CorpとなったSweepは、英国内閣府の「Tech for Our Planet」プログラムでCOP26でのプレゼンテーションに選ばれた数少ない企業の1つだ。

またSweepは、フランスの投資銀行であるBpifranceと協力して、同行が投資している2つの企業(通信事業者のOrangeとEdTech企業のOpenclassrooms)のフットプリントを測定した。

デラクール氏は、Zendeskが4500万ドル(約51億円)で買収したBIME Analyticsの共同設立者でもある。TechCrunchの取材に対し、彼女はこう語った。「カーボンはネットワークの問題です。正しいデータを追跡・分析するだけでなく、製造材料を選択するパートナーから、夜間に機械の電源を切るスタッフまで、企業のフットプリントに貢献するすべてのステークホルダーと関わる必要があります。気候変動に関する目標を達成するためには、スコープ3に該当するものも含め、企業の炭素排出量を構成するすべての活動を継続的に追跡する必要があります。ネットワークが大きくなればなるほど、影響も大きくなります。だからこそ私たちは、バリューチェーン上のすべてのステークホルダーをつなぎ、協力して効率的に削減活動を行えるようにSweepを構築しました」。

画像クレジット:Sweep team

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(文:Mike Butcher、翻訳:Aya Nakazato)

お手頃な新技術でクリーンな水素製造を目指すDibiGasが約4.2億円調達

多くの産業プロセスの中心である水素は、将来主要なエネルギーエコシステムに組み込まれる可能性を有している。しかしながら、水素を分離・貯蔵するプロセスは、エネルギーロスが多く、コストも高い。今回シードラウンドで360万ドル(約4億2000万円)を調達したDiviGas(デヴィガス)は、既存の方法を凌駕する新しい技術でクリーンな水素製造ビジネスを実現し、新たなグリーン経済を推し進めようとしている。

一般的に、水素はクリーンで非常に便利な元素と考えられているが、その製造には多くの「クリーンではない」産業プロセスが関わっている。例えば、石油精製やプラスチック製造の過程ではさまざまな炭化水素や混合ガス、化学物質が排出され、そういった排出物から水素を分離するためにはさらなる処理とエネルギーが必要である。

化学反応よりもクリーンでシンプルな方法として、水素分離膜やフィルターを使って、水素ガスや二酸化炭素ガスを他の物質から分離する方法がある。しかしながら、これらの分離膜やフィルターは高温では機能せず、低圧で分離して得られたガスの一部は再加圧する必要があり(コストがかかる)、分離膜自体も一般的な酸性ガスの存在下では急速に劣化する。

水素製造産業はとてつもなく大きいが、現在のところ高価でエネルギー消費の多い選択肢と、安価で限定的な選択肢しかない。シンガポールにあるSOSV(エスオーエスブイ)のインキュベーターであるHAXでお互いを知ることとなったDiviGasの創業者2人は、このような弱点を持たない第3の選択肢を提供しようとしている。

同社はオングストローム(ナノメートルの10分の1)スケールの新しい「中空糸高分子膜」を設計したと主張する。原子サイズ(1オングストローム程度)のフィルターを設計したという意味ではない。このサイズの機能的特徴が、望ましい高度に分離された結果を生み出すことができるのだ。この場合は、ガスにわずかに異なる圧力をかけることで水素ガスと二酸化炭素ガスを分け(ダイバート)、分離(アイソレーション)することができる。

画像クレジット:DiviGas

同社の水素分離膜技術では、膨大な数の繊維を束ねてチューブを作り、そこにガスを送り込むだけ。化学反応は必要としない。他の分離膜とは異なり、この新しい分離膜は150度以下の高温でも機能する。硫黄と塩素の混合ガスに含まれる一般的な酸性化合物にも耐性があり、腐食性の高い、処理されていないガスを劣化することなく処理できる。また、分離された物質の純度に影響する選択性、対応できる圧力に影響する透過性という基本的な性能では、従来の分離膜と同等以上の性能を持つ。

DiviGasの技術は既存の分離膜技術と原理的には同じなので、最小限の作業でDiviGasの水素分離膜を導入できる。また、同社の水素分離膜で使用する繊維の製造は簡単ではないが、ことさらに特殊なものではなく、既存のプロセスが多く利用されている。共同創業者かつCTO(最高技術責任者)であり、新素材の生みの親でもあるAli Naderi(アリ・ナデリ)氏が説明するように、新素材はさまざまな最先端の技術革新の成果であり、その結果として製造も難しくない。

ナデリ氏はメールで次のように説明する。「二層構造の中空糸膜の開発では、経済性を確保するために、選択層(=外層)に使用する高価な機能性材料をできるだけ少なくして、機械的支持層(=内層)には市販されている安価なポリマーを使用しました。この膜は、標準的な紡糸ラインをカスタマイズして使うことで、同程度の価格で商業的に製造することができます」。

画像クレジット:DiviGas

共同創業者でCEOのAndre Lorenceau(アンドレ・ロレンソー)氏によると、よりシンプルでクリーンな水素と二酸化炭素の製造が可能であろうという同社の見通しは、業界関係者から非常に高い評価を受けているという。

「この製品を数千万個提供できるのはいつごろか、という問い合わせがきています。今回の資金調達ラウンドは、問い合わせに応えるためのものです」とロレンソー氏。

今回の資金は、メルボルンにパイロットスケールの工場を建設するために使用され、工場は2022年3月には稼働を開始する予定である。現在のところ、デモ用のユニット(分離膜に使用する繊維の束)を1つ作るのに数カ月かかっているが、クライアントによっては数百、数千のユニットを定期的に必要とするケースも想定される。1週間で製造できるようになれば、より大規模なデモを行ったり、小さな施設で実際に運用したりすることが可能になる。そうすれば、実際の注文を確保して、さらにその収益を本格的な製造プロセスに充当できるようになるだろう。

「今は(従来の分離膜の)2〜3倍の価格ですが、クライアントは気にしていません」とロレンソー氏(数量が増えれば価格は下がるだろう)。「『私が知っている技術、私が知っている製造工程、それをこの価格で提供してくれるなら最高だ』といってくれます。まだ販売していないのに、そういってくれるクライアントが大勢います」。

競合他社が動きの遅い企業や停滞しているスタートアップ企業ばかりなので、クライアントがせっつくのはそのせいだろう、とロレンソー氏は続ける。

「製材の大企業では専門の部署があり、(水素製造技術の)改善を行っていますが、時代遅れです。次世代のソフトウェア技術を構築するのがコンピュータサイエンスの旧態依然の博士たちではないのと同じ理由です。常に次世代の「ヘンなもの」にチャレンジする必要があります」「(停滞している)スタートアップも、目まぐるしく移り変わるベンチャーキャピタルの世界に慣れていない研究者たちです。優れた研究成果があっても、製造しようとすると手のひらサイズのものを作るのに10億ドル(約1100億円)もかかります。「製造可能性を考慮して……」と口ではいいますが、まったく考慮していません。だから私たちはこのようなスタートアップや大企業を追い抜くことができるのです」。

今回の360万ドルのラウンドは、Energy Revolution Ventures(エナジーレボリューションベンチャーズ)とドイツの工業用フィルターメーカーであるMann + Hummel(マンウントフンメル)が共同で主導した。ラウンドには、Entrepreneur First(アントレプレナーファースト)、Union Square Ventures(ユニオンスクエアベンチャーズ)のAlbert Wenger(アルベルト・ウェンガー)氏、SOSV/HAX、Amasia VC(アメイジアブイシー)、Volta Energy Technologies(ボルタエナジーテクノロジーズ)、Climate Capital(クライメイトキャピタル)の他、数名の個人投資家が参加した。

画像クレジット:Shutterstock

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

独Sono Motorsが上場、ソーラー電気自動車Sionを2023年までに市場へ投入

Sono Motors(ソノ・モーターズ)は、すべての電気自動車に太陽光発電で電力を供給したいと考えている。そのアイデアは9年前にミュンヘンの地下室で、起業家精神に富んだ18歳の若者2人が、化石燃料への社会の依存に対するソリューションを思いつくまま打ち出し始めたことに端を発する。Sono Motorsの共同創業者であるJona Christians(ジョナ・クリスチャン)氏とLaurin Hahn(ローリン・ハーン)氏は、自動車にはあまり乗り気ではなかったものの、輸送機関がどれほど化石燃料の燃焼に貢献しているかを認識しており、そこから始めるのが良いと考えた。

「私たちはあらゆる車両に太陽光発電を統合するというビジョンを思いつき、それには何が必要かと考えました」とハーン氏はTechCrunchに語った。

彼らは、再生可能エネルギーが輸送時の排出ガス問題の解決に役立つことを証明するために、ソーラー電気自動車の試作品の製造に着手し、2015年までに実用モデルを完成させた。翌年、クリスチャン氏とハーン氏はクリエイティブディレクターのNavina Pernsteiner(ナヴィナ・ペルンシュタイナー)氏を招き、共同で事業を立ち上げ、Sono Motorsを会社とブランドとして確立した。

米国時間2021年11月17日、Sono Motorsの親会社であるSono Group(ソノ・グループ)が上場した。IPO価格が15ドル(約1730円)に設定された後、NASDAQで20.06ドル(約2314円)で取引を開始したが、取引終了前に38.74(約4469円)ドルの高値をつけた。

Sono Motorsの市場への道は2つある。同社は、同社初のソーラー電気自動車であるSion(サイオン)の1万6000台の先行予約を平均3000ドル(約34万6000円)の頭金で確保した。5ドアの小型でファミリー向けのハッチバックは2万8700ドル(約331万円)で、2023年前半までに消費者に届ける予定だ。Sonoはさらに、複数の企業と協力して同社のソーラー技術を他の車両に統合しようとしている。2021年の初めに、同社は自社のソーラーボディパネル技術を他社にライセンス供与することを発表し、電動自動運転シャトルバス会社EasyMile(イージーマイル)を最初の顧客に選んだ。

関連記事:Sono Motorsがソーラーカー技術を自動運転シャトルバスのEasyMileにライセンス供与

Sion

Sionの航続距離は190マイル(約306km)で、中国のBYD(比亜迪)が供給する54kwHのリン酸鉄リチウム(LFP)バッテリーを使用する。この電池は環境と倫理に大きなインパクトを及ぼす金属であるマンガン、ニッケル、コバルトを使用していないため、よりサステナブルだと考えられている。Sionは壁のボックスを介して充電できるが、Sonoによると、太陽が輝いているときはいつでもバッテリーにエネルギーを供給するため、毎日の通勤のほとんどをまかなうことができるという。

「例えばドイツでは、通勤圏の平均は1日10マイル(約16km)です」とクリスチャン氏はTechCrunchに語ってくれた。「当社独自の技術により、太陽光発電だけで週平均112(約70マイル)走行できます。これは毎日の通勤の大半をカバーしているので、それほど頻繁に充電する必要がありません。同じサイズのバッテリーを搭載しながらも太陽光を統合していない他の電気自動車と比べて、航続距離は4倍になります。だからこそ、この技術はEVを大衆化する大きなポテンシャルを秘めていると考えています」。

同社によると、アルミニウム製フレームは248個以上のセルを統合したソーラーパネルで覆われており、車には双方向充電機能が搭載されている。これにより、消費者はバッテリーに蓄えられたエネルギーを使って、壁のボックスを介して自宅や他の電子機器に電力を供給できるようになる。この機能は、相乗りやカーシェアリングと併せて、デジタルキーとしても機能するSonoアプリによって実現される予定だ。

このクルマの予約注文のほとんどは、発売が予定されている欧州からのものだ。受注の90%はドイツまたは「ドイツ語圏」からで、残りの10%は製造拠点となるオランダ、スペイン、フランス、イタリア、スウェーデンなどからの受注だ。Sonoは旧Saabの工場で生産するため、National Electric Vehicle Sweden(ナショナル・エレクトリック・ビークル・スウェーデン、NEVS)と提携した。クリスチャン氏の話では、この工場は年間4万3000台の生産能力を有し、7年間で約26万台が生産される予定になっている。

「ワンベース」車両プラットフォーム

他の多くの自動車メーカー(GM、Arrival)と同様、Sonoも「ワンベース」の車両プラットフォームを開発中で、その上に将来のモデルを構築したいと考えている。Sionを皮切りに、同社はクロスオーバー乗用車やラストワンマイル配送用の貨物バンの製造も検討している。

「パワートレイン、シャーシ、サーマルユニット、一部の電子機器などのモジュラーシステムをSionで使用予定」とSonoは米証券取引委員会(SEC)への提出書類に記載している。「これらのモジュラーシステムは、改造なしに、または軽微な改造のみで他の車種にも使用することができる」。

太陽光技術の統合とライセンス

Sonoの太陽光技術は、他の車両への統合と、バス、トラック、ラストマイル車両などのさまざまな車両アーキテクチャのライセンス供与の両方を可能にするように設計されている。同社によると、すでに試作サンプルを顧客に発送しており、戦略的ユースケースの検証に向けて10件を上回る予備的合意書や商事契約書を締結済みだという。

「特に輸送および物流業界は、総所有コストに非常に重点を置いており、太陽光発電の統合でランニングコストを大幅に削減できる」とSECへの提出書類には書かれている。「当社の専有技術を保護するために、いくつかの特許を取得している。さらに、これらの特許、多数の異なるポリマー材料のテスト、そしてパワーエレクトロニクス、特にMCUなどの完全な太陽電池集積化用の複数の関連コンポーネントの使用により、関連する競合他社であると考えられる企業に先駆けて、最大4年間の高度な開発を進めている」。

このMCUとはSonoの「maximum power point tracker central unit(最大電力ポイント追跡中央ユニット」のことで、同社によると、太陽電池がエクステリアのさまざまな場所に設置されていることに起因する不均一な日光暴露の問題を解決する。

Sonoはまた、2030年に販売される車両の半数以上がソーラー改良に適しており、そのうちの3分の1がソーラー統合に適していると考えている。近年、太陽光発電の価格が低下し、太陽電池の効率が向上しており、EVの航続距離にインパクトを与える可能性がある。

「また、電気自動車の販売台数が急増していること、そして充電ステーションの伸びが比較的鈍化していることが、電気自動車の大規模導入のボトルネックになっている」と同社は提出書類に書いている。「今後数年のうちにも、個人が充電できないような場所に住んでいる人たちは、適切な充電オプションを見つけられるかどうかが不透明であることから、電気自動車を購入することに消極的になると私たちは考えている」。

Sono Motorsは納品できるだろうか?

生産をNEVSにアウトソーシングすることは、車を効率的かつスケーラブルに生産するためのSonoの戦略における、同社が称する「重要な差別化要因」の1つである。差別化には次のようなものが含まれている。他の企業はB2C販売のみであるが(同社は)従来型の店舗を排除している、アルミ製のスペースフレームを採用しているためスチールプレス加工が不要、ソーラーパネルであるため塗装作業が不要。しかし、NEVSは頼りにするには慎重を要する。この会社は中国企業のEvergrande(恒大集団)が所有しているが、同社は880億ドル(約10兆円)の負債を抱えており、世界的な金融危機の脅威にさらされている

「NEVSは2019年から当社の生産パートナーを務め、それ以来緊密な交流を続けており、現在もその状態が続いています」とクリスチャン氏。「Sionの生産は現在のところリストラの影響を受けていません。2022年のプレシリーズ生産と2023年前半に予定されているSionシリーズ生産の設備準備は計画通りに進んでいます」。

Sono Motorsは念のため、いくつかのバックアップ計画を立てている。プランAではNEVSでSionの製造を継続する予定だが、他の欧州の委託製造業者のキャパシティを利用するなど、代替シナリオと選択肢を模索しているとクリスチャン氏は話す。

それでも、NEVSは新しいオーナーを探しており、最終的にはSonoにとっては問題ないかもしれない。しかしこのスタートアップは生産を遅らせる余裕はないだろう。2018年、Sonoは2019年までに顧客に出荷する予定だった予約注文が7000件あったが、これらの注文は2021年まで延期された。Sonoがすぐに納品とスケーリングを開始しなければ、単なる評判の問題以上の問題に直面することになる。

予約注文1件当たり3000ドルで、Sonoは約4800万ドル(約55億円)を銀行に保有している。しかし、それだけではSionを生産することはできず、Sonoはすでに現金獲得を切望している。SECに提出された書類によると、同社の上半期の損失は約2900万ドル(約33億円)で、純損失は累積赤字1億2300万ドル(約142億円)となった。同社は「少なくとも当社がSionの資材輸送を開始し、当社のソーラー技術の収益化を含む事業規模を大幅に拡大するまでは、予測可能な将来においても引き続き損失を発生させ、外部からの資金調達に依存することになる」と述べている。

幸いなことに、今回のIPOは同社にとって、Sionを製品化するための良い緩衝材となった。同社は上場により1億5000万ドル(約173億円)を調達した。この資金は、一連のコンポーネントから作られる次のプロトタイプ世代に焦点を当てたSionの開発にも使われる予定だ。

画像クレジット:Sono Motors

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Dragonfly)

燃料補給なしで地球の裏側まで飛行する水素エンジン搭載機を設計者は目指す

カーボンフリーの輸送手段を開発する上で、最も困難なものの1つが飛行機だ。電気飛行機の実用化には、バッテリーの高性能化と軽量化が必要となる。また、水素を動力に利用する飛行も可能であり、ある研究グループは、そんな航空機がどんな形になるかを描いてみせた。

Aerospace Technology Institute(ATI)が英国政府の事業として行っているFlyZeroプロジェクトは、液体水素を動力とする中型航空機のコンセプトを発表した。乗客279名のその飛行機は、ロンドン-サンフランシスコ間やロンドン-オークランド(ニュージーランド)間を燃料補給の必要なく、ノンストップでフライトする。翼長54mでターボファンエンジンを2基搭載、「速度と快適性は現在の航空機と同じ」だが、炭素排出量がゼロだ。

ATIによると、このコンセプト機は胴体後部に低温燃料タンクがあり、水素をマイナス250度で保存する。胴体前方の2つの小さな「チーク」タンク(側面タンク)が、燃料使用時に機のバランスを保つ。

しかし、商用水素飛行機が実用化されるまでには、まだあと数年はかかる。燃料補給のためのインフラはないが、水素は高価であり、ケロシン系の燃料に比べて機上での保存は難しい。しかし、このタイプの飛行機は、決して夢で終わるものではない。

ATIの予想によると、2030年代の半ばには効率の良い水素飛行機が現在の飛行機よりも経済的な選択肢になる。それは他の産業でも水素の採用が増えるからだ。需要が増え、価格は下がる。

FlyZeroプロジェクトは2022年初頭に詳細を公表する計画だ。それには地域航空用のナローボディ機とミッドサイズ(中型機)、経済的および市場的見通し、必要とされる技術のロードマップ、持続可能性の評価、などについてのものだ。。

編集者注:本記事の初出はEndgadget。執筆者のKris HoltはEngadgetの寄稿ライター。

画像クレジット:Aerospace Technology Institute

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(文:Kris Holt、翻訳:Hiroshi Iwatani)

Energy Domeは太陽エネルギーの貯蔵に二酸化炭素を利用する

長時間にわたるエネルギー貯蔵は厄介だ。だが多くのバッテリー技術は「EVをさらに数百マイル走らせるために、バッテリーをどれだけ速く充電できるか」に焦点を当ててきた。急速充電は、月が夜空をゆっくりと散歩している12時間に使う電力を、昼の12時間で太陽から得ようとすることとは根本的に異なる問題だ。

米国時間11月30日、Energy Dome(エナジードーム)は、拠点を置くイタリアのサルデーニャ島での実証プロジェクトで、世界初の商用CO2(二酸化炭素)バッテリーを設置するために、1100万ドル(約12億5000万円)のシリーズA資金調達を行ったことを発表した。

同社によれば、CO2バッテリーの最適な充電 / 放電サイクルは4〜24時間であり、日次および日中のサイクルに最適だという。また、これは現在急成長している市場セグメントであり、既存のバッテリー技術が十分にカバーできていなことも指摘している。具体的には、太陽光発電の余力がある日中にCO2バッテリーを充電しておいて、電力需要が太陽光の供給量を上回る夕方や夜間のピーク時に放電することを想定している。なぜなら──まあ当たり前過ぎてわざわざ書くのもはばかられるが──夜は太陽が出ていないからなのだ。

同社は、市販のコンポーネントを使用して構築されているそのCO2バッテリーが、75〜80%の充放電効率を達成していると主張している。しかし、おそらくもっと興味深いのは、バッテリーの動作寿命がおそそ25年程度になると予測されていることだ。他の電力貯蔵ソリューションの事情をよく知っている人なら、ほとんどのソリューションの動作性能が、10年を超える頃には大幅に低下し始めることに気がついているだろう。同社は、製品のライフサイクルコスト全体を考慮した場合、エネルギーを貯蔵するコストが、同じサイズのリチウムイオン電池で貯蔵するコストの約半分になると予測している。

この技術は非常に優れており、同社はCO2をガスから液体に、そしてまたガスに戻す閉ループサイクルで利用する。ソリューションの一部となる、ガス状のCO2を充填した膨張可能なガス容器部品にちなんで、会社は「ドーム」と命名されている。

充電時には、システムは電力網から電力を引き込む。この電力を用いてドームからCO2を引き出して圧縮するコンプレッサーを駆動し、熱を発生させるのだ。この熱は蓄熱装置に蓄えられる。次に、CO2は圧力下で液化され、環境と同じ温度で液体CO2容器に保管され、充電側サイクルが完了する。放電時には、このサイクルが逆になる。液体のCO2を気化させ、蓄熱装置から熱を回収し、高温のCO2をタービンへ送り込んで発電機を駆動する。電気はグリッドに戻され、CO2は大気に放出されることなくドームを再膨張させ、次の充電サイクルに使われる準備が整えられる。このシステムの貯蔵容量は最大200MWhだ。

今回のラウンドはディープテックVCの360 Capitalが主導し、他の多くの投資家が投資ラウンドに参加した。その中には、インパクト投資アプローチを採用する大手銀行バークレイズの一部門であるBarclays’ Sustainable Impact Capital プログラム、ジュネーブを拠点とするマルチファミリーオフィスのNovum Capital Partners、そしてRMIとNew EnergyNexusによって設立されたグローバルな気候テクノロジースタートアップアクセラレーターのThird Derivativeが含まれている。

画像クレジット:Energy Dome

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:sako)

微生物を活用した最先端のバイオテックソリューションPluton Bioscienceが7.4億円調達

現在、我々が生物学と農業の分野で直面している問題の多くは、実は以前、人間ではないある生物体が経験していたものである。自然界のどこかには、科学者や生物工学者が再現するのに悪戦苦闘しているプロセスを、自然かつ効率的に実行してしまう微生物が存在している。Pluton Biosciences(プルトンバイオサイエンス)は、そうした微生物またはそれに類する生命体を見つける方法を開発したという。同社はすでに、アンチモスキート(蚊の駆除)および二酸化炭素隔離の手法をデモしており、その他のデモも準備中である。

地球上には、動物および植物の体内外、および土中に、科学でも解明されていないバクテリアやその他の微生物が存在している。人間が培養して制御できるようになった乳酸菌や大腸菌といったひと握りの微生物は革新的な変化をもたらし、さまざまな新しい食品が生まれ、さまざまな発見がなされ、産業プロセスが実現された。そうした微生物は、人類にとって極めて有益ではあるが、ほとんど無限に存在する微生物種のわずか一握りに過ぎない。

「微生物は1兆種類存在しており、人類が利用しているのはわずか数個に過ぎません」とPlutonの創業者兼CEOであるBarry Goldman(バリー・ゴールドマン)氏はいう。ゴールドマン氏は、Monsanto(モンサント)で約20年間、この未知の微生物たちを利用する方法を考えていた。「私たちは地球上の生物の計り知れないほどの多種多様性を利用して大きな問題を解決しようと試みています。自然に答えを見つけてもらおうというわけです」。

もちろん、地球が保有しているこうした未開拓の知的財産を何とか見つけ出して活用することを考えたのはゴールドマン氏が最初ではない。実際、Plutonのアプローチは驚くほど保守的なものだ。基本的には、微生物が大量に含まれている土やその他の媒体を一握り持ち帰って、何かおもしろいことが行われていないか調べるというものだ。

なんとも曖昧なやり方だと思われたかもしれない。実際にその通りだ。だが、体系的に行えば、土は膨大な微生物の供給源となるのだ。しかし、問題は、文字通り土を掘り起こして次のペニシリンを見つけ出そうとしていた頃は「その中から単一の生命体を特定したり、シーケンス解析(同定)することは決してできませんでした」とゴールドマン氏は説明する。1立方センチの土の中で微生物が抗生物質を生成したり、窒素固定を行ったり、インシュリン生成効果を発揮していることはわかっていた。そうした作用は計測できたからだ。だが、それらの微生物を分離するツールはなかった。

この微生物を分離するという次の段階は、研究者たちが数十年前に放置してしまい、まったく進んでいなかった。Plutonはその壁を突破したのだという。

「中核となる技術は、個別に生育させる方法はわかっていないが、その作用をテストすることはできる有機体の小集団を形成するというものです」とCEOのSteve Slater(スティーブ・スレーター)氏はいう。「この方法で、現在培養も、そしてもちろんシーケンス解析もできていない微生物の99.999%を生育させることが可能です」。

ゴールドマン氏とスレーター氏がこのプラットフォームの具体的な内容について話したがらないのは理解できるが、彼らの初期の成功は、このアプローチの有効性を証明しており、660万ドル(約7億4000万円)のシードラウンドが実施されたことから、投資家たちも納得していることが伺われる(PlutonはIlluminaのアクセラレーターが選択したスタートアップの成功ケースの1つだ)。

「鍵は、二酸化炭素の隔離、害虫や菌の殺傷など、関心のある表現型(遺伝子型の一部が目に見えるかたちで現れる生物組織の特質)をすべて選び出す方法を知ることです。そうすれば、その特定の作用を持つ有機体または遺伝子のセットをすぐに特定できます」とスレーター氏は説明する。独自のプロセスにより、彼らはこの分離プロセスを実行し、関心のある生命体のシーケンス解析を実行できる。

この「微生物マイニングエンジン」の有効性を証明するため、彼らは、蚊に効く天然の殺虫剤を探すことにしたという。蚊はもちろん、多くの地域で重大な驚異となっている。「蚊を殺す作用のある同定されていない新しい微生物を見つけることができるかと自問してみました。それは可能でした。しかも実に単純でした。実際数カ月で見つけることができました。バリーの家の裏庭で採取した土から見つかったのです」。

このような発見が創業者の極めて身近な所に眠っているのは驚くべきことだと思う人は、微生物の生物多様性の程度を過小評価しているかもしれない。これは、我々があまり注意を払わないような「驚くべき科学的事実」の1つであり、ショベル一杯の土には、何億兆の未知の有機体や百万の種が含まれているといったことは、よく耳にする話だ。私達はそうしたことを理解して「そう、生命はどこにでも存在する。すごいことだ」と思う。

耐抗生物質バクテリアの生物膜。棒状バクテリアと球状バクテリア。大腸菌、シュードモナス菌、ヒト(型)結核菌、クレブシエラ菌、黄色ブドウ球菌、MRSA。3Dイラストレーション(画像クレジット:Dr_Microbe/Getty Images)

だが、これらは、ゲノムがわずかに異なるだけの生命体ではない。バクテリアなどの微生物は驚くほど多様性に富み迅速に変化する。そうして、我々が存在することさえ知らなかった多様性の隙間をあっという間に埋めることで、植物の果糖製造の過程で捨てられた微粒子を食べたり、表面下のちょっとした暖かみや腐食有機物を利用して生き延びる方法を見つける。こうしたさまざまな生命体はいずれも、人類の食糧生産、薬品製造、農業などを一変させる可能性のある新しい化学経路を独自に発達させている可能性が高い。

Plutonが心配しているのは農業だ。農業分野は、他の分野と同様、CO2排出量を削減する方法を探している(動機はいくつもある)。PlutonはBayer AGと提携して土壌添加剤の開発に取り組んでいる。これが成功すれば、すでに存在する可能性が高い有機微生物の作用を単純に増幅させるだけで、さまざまなことを成し遂げられる可能性がある。

Plutonは次のように説明する。「私たちの概念実証研究によれば、微生物を適切に組み合わせて、種まきと収穫時にスプレー散布すれば、0.4ヘクタールの農地で年あたり約2トンのCO2を空中から除去できます。同時に、土中の栄養分も補給できます」。

蚊の駆除剤も商用化可能だ。また、害虫が耐性を獲得してしまっている現在市場に出ている殺虫剤よりも効果的な天然由来の殺虫剤も実現できる。

同じ方向性で製品開発に取り組んでいる企業は他にもある。Pivot Biosciences(ピボットバイオサイエンス)は、基本的に土中の微生物に肥料を作らせるために膨大な資金を調達した。Hexagon Bio(ヘキサゴンバイオ)も薬品の開発に使える自然に存在する微分子を特定するという同じような提案を行い資金を調達した。つまり、自然の金庫からは次々に財産が盗まれているが、財産が枯渇することはない。

「これが投資家に説明するのが最も難しい点です」とゴールドマン氏はいう。「1兆種というとてつもない多様性規模をどうすればわかってもらえるでしょうか」。

それでもPlutonは、シードラウンドで660万ドル調達したことからもわかるように、ある程度成功を収めているようだ。シードラウンドはオークランドのBetter Ventures(ベターベンチャーズ)が主導し、Grantham Foundation(グランサムファウンデーション)、Fall Line Capital(フォールラインキャピタル)、First In Ventures(ファーストインベンチャーズ)、Wing Venture Capital(ウイングベンチャーキャピタル)、およびYield Lab Institute(イールドラボインスティチュート)が参加した。今回調達した資金で、Plutonは、パートタイムから正規雇用への移行、ラボの設置などを実施して正規の会社として運営を開始できるはずだ。ゴールドマン氏の裏庭の生物多様性から抜け出すこと(実験施設の拡充)も考えているかもしれない。

画像クレジット:TEK IMAGE/SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

衣服の素材イノベーション企業Allbirdsが新規上場、次代を制する企業を見極める鍵は「持続可能性」

Allbirds(オールバーズ)は米国時間11月3日、NASDAQに新規上場し、それにふさわしいティッカーを選んだ。「BIRD」だ。

天然ウールを使用した控えめなデザインの(そして大変履き心地の良い)靴から始まったAllbirdsだが、現在は単なるアパレル企業ではない。今や衣服の製造方法に革新をもたらす素材イノベーション企業となっている。素材をオープンソース化して他者に提供することで業界に変化をもたらし、それによって持続可能性を実践する業界の旗手だ。

ファッション業界では、毎年21億トンもの二酸化炭素を大気中に排出している。これは、現在米国で使用されているすべての自動車から排出される量の2倍に相当する。現在、私たちが身体に身につけているもののほとんどは合成樹脂でできている。その合成樹脂は、化石燃料である石油から作られる。

この状況は変える必要がある。そしてそれは変わるだろう。

Allbirdsは、単に顧客に服を着せるだけではない。人々が自分の子どもたちも自分がしてきたような生活を楽しめるようにする可能性に貢献できるように、しかもそれを製品の快適さ、スタイル、性能を通じて、気持ちよく行えるようにすることで、人々が賛同するだけでなく、人々に愛されるブランドを作ろうとしている。

このようなビジョンやイノベーションは、Allbirdsだけのものではない。例えばTesla(テスラ)の仕事は、単にドライバーをある場所から別の場所に移動させるだけではなく、Impossible Meats(インポッシブル・ミート)の仕事は、空腹の客に食事を提供するだけではない。これらの企業の仕事は、我々の住む地球が数十年後も確実に生き残るだけでなく繁栄できるようにすることであり、同時に消費者がライフスタイルの質を落とさずに、積極的にそれに参加できる選択肢を提供することでもあるのだ。

持続可能性に取り組む企業が次世代をリードする

「サステイナブル(持続可能)」になることの重要性は認識されているものの、「サステイナビリティ(持続可能性)」を実現するためには何年もの時間が必要になる。このような一般的な見方は、レースが始まってから単に追いつくことが、どれほど難しいかを過小評価している。逆に起業家にとっては、社会に世代を超えて影響を与える「目的ネイティブ」な企業を構築する大きなチャンスとなる。従業員や投資家にとっても同様だ。

持続可能性というテーマは、消費財に限らず、あらゆるビジネスに当てはまる。ある日突然、町外れにある小さなサステイナブル・テクノロジーの会社に、巨額の資金提供が行われたというニュース(大手ベンチャーキャピタルはすべて、少なくとも1社の代替食肉会社を投資先に入れている)や、大企業のESG(環境・社会・企業統治)責任についてのニュースを見つけることは珍しくない。

The Economistによると、2021年に投資家が「エネルギー移行(エネルギーや輸送から産業、農業まで、あらゆるものを脱炭素化すること)」に注ぎ込む金額は5000億ドル(約57兆円)を超え、2010年の2倍になるという。地球の脱炭素化に必要な投資額は30兆ドル(約3400兆円)以上と推定されており、人々は炭素排出量のネットゼロを目指すレースに参加する企業に投資できる貴重な機会を得ている。気候変動は投資家にとって、今世紀最大の追い風だ。

EV(企業事業価値) / NTM(今後12カ月)の収益が、約16倍というテスラのような企業の現在の評価は、収益の7倍から10倍の間で取引されている他の自動車メーカーや、フォワード収益の約10倍で取引されているBeyond Meat(ビヨンド・ミート)と比較すると、非常に高額であるという認識がある。

このようなビジネスに投資するには、単に「持続可能」という変化だけでなく、長期的に劇的な変化があり、そこでは持続可能な活動をすべての意思決定の中心に据えることができる企業が長期的な勝者となると信じる必要がある。

今、会社を設立するのであれば、それは「目的ネイティブ」でなければならない。こうした企業にとって、現在の採用率と成長率は、この優位性のおかげで、同業他社よりも長く継続することが可能であり、おそらく実際にそうなるだろう。サステイナブル・ファーストの企業は、次世代の勝者となる可能性が最も高いのだ。

Allbirdsは次のNike(ナイキ)のような企業となり、数十年にわたって最大25%という成長率を記録できるだろうか?私にはわからないが、他のどのアーリーステージの挑戦者よりも、その可能性が高いことは確かだ。持続可能性がCO2を噛み砕く前に、世界が自分自身を食べてしまわないことを祈ろう。

TDM Growth Partners(TDMグロース・パートナーズ)は、Allbirdsに出資している。

編集部注:本稿を執筆したEd Cowanは、国際的投資会社TDM Growth Partnersの投資チームメンバー。

画像クレジット:Spencer Platt / Getty Images

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(文:Ed Cowan、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

CO2排出量算出・可視化クラウドのゼロボードが三菱UFJ銀行と協業、金融機関向けCO2データインフラ機能拡充など目指す

CO2排出量算出・可視化クラウドサービス「zeroboard」を開発・提供するゼロボードは11月5日、カーボンニュートラルの実現に向け、三菱UFJ銀行との協業について基本合意したことを発表した。三菱UFJ銀行の持つネットワークや総合金融グループとしての知見と、ゼロボードのクラウドサービスや辰炭素経営に関するノウハウをかけ合わせ、企業の脱炭素経営を後押しするソリューションを提供する。

具体的には、以下のような取り組みを進める。

  • 三菱UFJ銀行の顧客企業へzeroboardの提供
  • zeroboardのCO2排出量データ・サプライチェーンデータに基づく三菱UFJ銀行による金融ソリューションの開発・検討
  • 金融機関含めその他事業者までも含めたオープンかつインクルーシブ(包括的)なパートナシップの発展およびソリューションプラットフォームの共同開発・提供
  • アジアを中心としたグローバル製造業サプライチェーンのCO2排出量可視化・削減支援
  • CO2排出量以外の社会インパクト評価手法・可視化手段、ソリューション提供分野での初期検討

zeroboardは、企業活動により排出されたCO2量を算出したうえで、温室効果ガス(GreenHouse Gas)の排出量の算定と報告に関する国際基準「GHGプロトコル」における対象範囲区分(Scope1~3)を可視化できるクラウドサービス。Scope1は「自社の事業活動における直接的なCO2排出」、Scope2が「他社から供給された電気、熱・蒸気の使用により発生する間接的なCO2排出」。またScope3は「上記以外の事業活動に関わるサプライチェーンのCO2排出」を示す。

zeroboardでは、「サプライチェーンでの排出量や商品ごとのCO2排出量の算出」「CO2排出量の削減管理やコスト対効果のシミュレーション機能」「TCFDなどの国際的な開示形式に加え、国内既存環境法令にも対応するアウトプット」「専門的な知識を必要としないユーザーフレンドリーな操作性」などの機能を備えているという。

【コラム】スタートアップが口にするマーケティング策としての「インパクト」に投資家が惑わされないようにするための3つのサイン

2021年の初めに出されたEUの報告書によれば、42%の企業が自社の持続可能性のレベルを誇張していることがわかった。このような「グリーンウォッシュ」があまりにも横行するようになったため、ある団体が企業の真の環境負荷を計算し、誤解を招くようなマーケティングを避けるためのプラットフォームを立ち上げたほどだ。


現在、世界的なインパクト投資市場の規模は7150億ドル(約81兆5100億円)と言われており、成長を続けている。しかし、良いことをしているビジネスに資金を投入しようと躍起になっているベンチャーキャピタル、エンジェル、セレブリティたちは、十分なデューデリジェンスを行っていない。

創業者の中には、トレンドに乗って投資家の注目を集めるために、インパクトと自分を結びつける者もいる。自分のことを「インパクトプレナー」(impactpreneur)と呼ぶ者がいるのはそれが理由だ。

インパクトを与えることと、マーケティングのためにストーリーを押し出すこととは紙一重の差であるため、スタートアップの真正性を見誤ると投資家は資金と評判を失うことになる。多数のスタートアップ企業と仕事をする中で、私はスタートアップ企業が本当に変革を起こそうとしているのではなく、単にインパクトを利用して世間の注目を集めようとしているだけのことを示す3つの兆候を見出した。

インパクト指標を記録・追跡していない

もし企業が、自分たちが重視していると主張しているインパクトを測定していなければ、それは赤信号だ。本当にインパクトを与えようとしているスタートアップ企業なら、自分たちの目標は何か、どうやってそこに到達するのか、そしてその過程でどのような指標をモニターするのかを明確に定義している。

私の立ち上げたFounder Institute(ファウンダー・インスティテュート)では、スタートアップ企業がインパクトのステップを段階的に追跡するのに役立ついくつかの「インパクトKPI」を定義している。

例えば成功した女性創業者の数を増やすことを目的とした女性主導のアクセラレータープログラムなら、月ごと、年ごとの女性参加者数、事業を立ち上げた参加者数、それらの事業がどれだけの資金を得たかなどの評価指標を設けることができる。一夜にしてインパクトを生み出すことはできないものの、道筋を細分化することで、企業はインパクトへの道筋を切り拓き、改善していくことにコミットしていることを示せる。

また、そうしたインパクト指標を追跡することで、企業は公表しているインパクトに対して十分な説明責任を果たすことができる。実際の指標が悪くても公表を行う企業は、何が悪かったのかを深く追求し、状況を改善するための計画を立てていく姿勢を持つことが多い。

そのすばらしい例の1つが、2020年チームの多様性に関する目標を達成できなかったことを認める報告書を発表した、Duke Energy,(デューク・エナジー)だ。この指標を改善するために、同社は新たにチーフ・ダイバーシティ&インクルージョン・オフィサー(多様性並びに包含性担当責任者)を採用し、サービスを提供するコミュニティ内の平等性を推進するために400万ドル(約4億6000万円)を投じた。

私たち投資家はまた、スタートアップ企業が主張していることを実践しているのかどうかを見極めるために、そうした指標が企業全体に浸透しているかどうかを確認しなければならない。例えばより多くの人が教育を受けられるようにしたいと主張している企業なら、創業者は社内の研修プログラム、提供コース、開発計画、展開などに関する指標を提供することができるはずだ。

もし企業がこうした情報を持っていないとしたら、それはその会社のインパクトが外面的な目標のみを対象としていて、社内のオペレーションに組み込まれていないことの表れかもしれない。

CMOがインパクト戦略の責任者である

インパクトの責任は、最終的にはCEOの肩にかかっているはずだ。これは当たり前のように聞こえるかもしれないが、もしインパクトに関する会話や報告をする中心人物がマーケティング最高責任者(CMO)であるとしたら、それは極めて問題だ。

インパクトがマーケティングの立場だけから考えられていた場合、思いつきのインパクトやお手軽なインパクトが生み出されてしまう可能性は高い。インパクト戦略の直接的な成果ではなく短期的な成果を振り返って成功に満足しがちだからだ。例えばあるスタートアップ企業は、2020年にカーボン排出量を10%削減したと主張しているが、実際にはパンデミックの際に業務を停止したことによる減少だった。

同様に、スタートアップのインパクト目標があまりにも良すぎるように見える場合、それはたいてい見掛け倒しなのだ。マーケティング部門は世間に打って出ようとする際に大きく語りがちだ(Theranos[セラノス]のことを思い出そう)。しかし、インパクトを与えるためには、企業は月を目指す前に地に足をつけて行動しなければならない。

例えばExxonMobil(エクソンモービル)は、実験的に開発した藻類バイオ燃料を、輸送時の二酸化炭素排出量を削減する手段として宣伝した。だが消費者は、同社が二酸化炭素排出量を実質ゼロにできていないことを指摘した上で「よりセクシーな」インパクトのある代替品を求めた。

進捗ではなく予想である

創業者が資金調達をする際に、最も破壊的な側面を強調するのは当然のことだ。いわく、貧困をなくし、格差をなくし、気候変動の影響を減らすことができるなどなど。このような約束は投資家を驚かすかもしれないが、実現手段を担保したものでなければならない。

投資家なら誰でも、スタートアップのピッチデッキに書かれた財務予測のなかに盛り込まれた楽観的な気分を見て取ることができる。重要なのは数字ではなく、その背後にあるプロセスだ。インパクトの場合もまったく同じだ。

もしスタートアップを描き出すものが、インパクト目標の未来の数字だけならば、投資家は警戒すべきだ。数字よりも実現手段の方がはるかに多くを語ってくれる。

例えば、GSKは2030年までにネット・ゼロ・カーボンになるという野心的な計画を発表しているが、再生可能な電力、電気自動車、グリーンケミストリーへの切り替えといった主要な活動の内訳をみることで、同社が実際にそのインパクトに向かって動いているかどうかを確認できる。たとえトータル・ネット・ゼロに到達していなくても、意思は明確であり、やがて前進はしていくだろう──たとえペースは遅くとも。

Theranosの事例から学んだことがあるとすれば、企業が資金調達の際に、インパクトの魅力の嗅ぎ分けに敏感になったということだ。投資家が、真のインパクトとマーケティング上の策略とを見分けることができれば、自分自身を守ることができるだけでなく、その投資資金を実際に変化起こせる場所に投入することができる。

編集部注:著者のJonathan Greechan(ジョナサン・グリーチャン)は、世界最大のプレシードアクセラレーターであるFounder InstituteのCEOで共同創業者。

画像クレジット: alexkar08 / Getty Images

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(文:Jonathan Greechan、翻訳:sako)

食品廃棄物を利用して持続可能な軟木を堅木のように扱えるようにするKebonyが約40億円調達

これはごくシンプルなことだ。針葉樹(軟材)は「持続可能」な森林で、広葉樹(硬材)よりも早く成長する。広葉樹は、アマゾンのような生物多様性に富んだ原生林に多く見られる。つまり、もし軟材を硬材のように使うことができれば、より持続可能な建築用木材を入手できるだけでなく、広葉樹の森林を破壊から守ることができる。さらに、温室効果ガスの排出量も大幅に削減できる。


これが、Kebonyが開発した製品の背景にある理由だ。Kebonyは、自らを「木材改質技術会社」と位置付け、Jolt CapitalとLightrockが主導して、3000万ユーロ(約39億8000万円)の資金調達を実施した。その木材特性をコントロールする方法はとても興味深いものだ。

Kebonyは、持続可能な方法で伐採された木材に、サトウキビやトウモロコシなどの食品製造過程で発生する廃棄物を加えている。これにより、熱帯広葉樹の挙動や特性を実際に反映した、長持ちする特性を木材に与えることができるという。

もちろん、建設業界がよりグリーンな建設資材を求めている中で、このような素材を使用することは非常に理に適っているし、熱帯林の伐採を減らすことにもつながる。

Kebonyは、この処理によってパイン材のような木材を「貴重な熱帯広葉樹に匹敵し、場合によってはそれを上回る」特徴を持つ木材に変えることができるとしている。また、このプロセスは、木材防腐剤を含浸させる従来の木材処理よりも優れているという。

Kebonyの資金調達は、Jolt CapitalとLightrockがリードした。Jolt CapitalとLightrockは、以前からの株主であるGoran、MVP、FPIM、PMV、Investinorとともに参加し、後者2社は引き続き取締役会に参加する。

Kebonyのコア市場は欧州と米国で、今後も拡大を計画している。欧州の木材市場は、住宅・非住宅建築業界で30億ユーロ(約3980億円)規模の市場となっている。

KebonyのNorman Willemsen(ノーマン・ウィレムセン)CEOは次のように述べている。「Kebonyは市場で最も美しくエコロジカルな木材を生産しており、環境に優しく費用対効果の高い優れた品質を誇っています」。

Kebonyの創業者たち。ノーマン・ウィレムセンCEOとThomas Vanholme(トーマス・ヴァンホルム)CFO(画像クレジット:Kebony)

Jolt CapitalのマネージングパートナーであるAntoine Trannoy(アントワーヌ・トランノワ)氏は次のようにコメントしている。「Jolt Capitalでは、特許技術を活用して持続可能な製品を提供するマテリアルサイエンス企業に強い関心を持っています。ウッドテックにおける20年以上の研究開発と、栽培された針葉樹にハードな熱帯広葉樹の望ましい特性を与える実証済みのプロセスを持つKebonyは、そのうちの1つです」。

LightrockのパートナーであるKevin Bone(ケビン・ボーン)氏は、こう付け加えた。「Kebonyは、脱炭素社会に向けた競争の中で、木材改質技術のリーダーになるという野心を持っており、絶好の立場にあります」。

Kebonyによると、2021年上半期の売上高は2020年の同時期と比べて23%の成長を遂げ、EBITDAも大きくプラスとなっているという。

ウィレムセン氏は次のように説明してくれた。「私たちが実際に行っているのは、木材に含浸させてオートクレーブに入れることです。これにより、木材構造の細胞壁が恒久的に変化し、恒久的に変化した特性が得られ、実質的に木材の寿命を延ばすことができるのです」。

それは何よりだが、スケーラビリティはどれほどのものなのか、と尋ねてみた。

「実際、非常にスケーラブルです。現在、2つのオペレーションが稼動しています。さらにスケールアップするための基本的な青写真を持っています」。

コンクリートやスチールなどの伝統的な素材と比較して、カーボンフットプリントは「大幅に削減されます」と同氏は語った。「立方メートルあたりのCO2排出量は約350キロです。例えば、スチールや従来の広葉樹と比較すると、それらは約1万キロです。つまり、他の素材に比べて非常にわずかです」。

画像クレジット:Kristian Alveo / Kebony

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(文:Mike Butcher、翻訳:Aya Nakazato)

物流・輸送業向け「炭素測定・除去」APIを開発するPledgeが約5億円調達

気候変動の危機が迫る中、多くの企業が自らの役割を果たしたいと考えている。しかし、顧客に「今回の配送にともなうCO2排出量をオフセットしてください」とお願いするのは、たいていの場合、木の実を割るのにハンマーを使うようなものだ。カーボンオフセット関する透明性はほとんどない。さらに、中小企業は高品質のカーボンクレジットにアクセスしたいが、同時に製品、サービス、取引レベルでの影響も計算したい。そして、非常に不正確な「スキーム」ではなく、カーボンクレジットを小さい単位で購入できるといいと考えている。

Pledge(プレッジ)は、貨物輸送、配車サービス、旅行、ラストマイルデリバリーなどの業界を対象としたスタートアップで、顧客の取引に関わるカーボンオフセットを提示することができる。

Pledgeは、Visionaries Clubがリードするシードラウンドで450万ドル(約5億円1300万円)を調達した。Chris Sacca(クリス・サッカ)氏のLowercarbon CapitalとGuillaume Pousaz(ギヨーム・プサ氏、Checkout.comの創業者でCEO)の投資ビークルであるZinal Growthも参加した。Pledgeは、これまでクローズドベータ版として運営されてきた。

同社は、Revolut(レボリュート)の草創期の従業員であるDavid de Picciotto(デビッド・デ・ピチョット)氏とThomas Lucas(トーマス・ルーカス)氏、Freetradeの共同創業者で元CTOのAndré Mohamed(アンドレ・モハメド)氏が創業した。まず物流業と輸送業を対象にスタートする。同社によると、企業はPledge APIを組み込めば、カーボンニュートラル達成に向け、出荷、乗車、配送、旅行にともなう排出量を測定・軽減することができるようになるという。このプラットフォームは、分析や洞察に加え、時間をかけて排出量を削減するために推奨する方法を顧客に提示することを目指す。

Pledgeによると、同社の排出量計算方法は、GHGプロトコル、GLECフレームワーク、ICAOの手法などのグローバルスタンダードだけでなく、ISO基準にも準拠しているという。

重要な点として、Pledgeのプラットフォームでは、個人投資家が株式の一部を購入するように、企業は炭素クレジットの一部を購入することができ、また、ETFのように異なる方法論や地域を含むバランスのとれたポートフォリオにアクセスできる、と同社は話す。

Pledgeの共同創業者でCEOのデビッド・デ・ピチョット氏は次のように説明する。「現在、どのような規模の企業も利用できる、自社の排出量を把握・削減するための簡単で拡張可能な方法は存在しません。従来のCO2測定やオフセットのソリューションは、コストが高く、導入が難しいため、限られた大企業だけが利用できます。私たちがPledgeを立ち上げたのは、どのような企業でも、高品質で検証済みの気候変動対策製品を、可能な限り簡単かつ迅速に導入できるようにするためです」。

Visionaries Clubの共同創業者でパートナーのRobert Lacherは次のように語る。「Pledgeは、あらゆる企業が環境への影響を測定・軽減するためのアプリケーションを立ち上げる際に必要とする導管を開発しています。金融インフラプロバイダーが続々と登場し、あらゆる企業がフィンテックになれるようになったのと同様、Pledgeは関連するツールとその基盤となるソフトウェアインフラを提供し、気候変動対策を実現する会社となります」。

Lowercarbon CapitalのパートナーであるClay Dumas(クレイ・デュマ)氏はこう付け加える。「炭素除去の規模を拡大する際の最大のボトルネックは、供給と需要を結びつけることです。Pledgeのチームは、世界のトップレベルの金融商品開発で学んだことを応用し、ユーロやドル、ポンドを使って、空から炭素を吸い取ることに取り組んでいます」。

ピチョット氏は、大手プライベートエクイティファームでESGチームに所属していたとき、LP(主に年金基金)から、投資先企業のESG、特に気候に関するKPIの透明性や報告を求める声が増えるのを目の当たりにした。同氏は、報告・計算を合理化し、高品質のカーボンクレジットにアクセスして、社内外のステークホルダーにさらなる透明性とツールを提供する方法があるはずだと考えた。

「炭素市場が構築されたメカニズムを調べれば調べるほど、金融サービス業界との類似性が見えてきました。我々は、FreetradeやRevolutのような業界をリードする企業を設立や、設立支援の経験により、気候変動の流れを変えるユニークな切り口を提供できるのではないかと考え、調査を開始しました」とピチョット氏は述べた。

画像クレジット:Pledge / Pledge founders

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(文:Mike Butcher、翻訳:Nariko Mizoguchi

MITの研究室から生まれたVia Separations、ろ過技術で製造業の脱炭素に貢献

Via Separations(ヴィア・セパレーションズ)は、MITの材料科学エンジニアのカップルが立ち上げたスタートアップ企業だ。彼らは製造プロセスに必要なエネルギー量を削減する方法を考え出し、結果として炭素排出量、エネルギー使用量、コストを削減することに成功した。米国時間10月21日、同社はシリーズB投資ラウンドを実施し、3800万ドル(約43億円)を調達したことを発表した。

今回のラウンドは、二酸化炭素の排出量を削減するための投資に注力しているNGP ETPが主導し、2040 Foundation(2040ファウンデーション)の他、既存投資家のThe Engine(ジ・エンジン)、Safar Partners(サファー・パートナーズ)、Prime Impact Fund(プライム・インパクト・ファンド)、Embark Ventures(エンバーク・ベンチャーズ)、Massachusetts Clean Energy Center(マサチューセッツ・クリーン・エナジー・センター)が参加した。

CEO兼共同設立者のShreya Dave(シュレヤ・デイヴ)氏によれば、この会社は製造工程で炭素を削減することによって、消費者がより環境に配慮した商品を購入できるようにするための手助けをしたいのだという。

「基本的に私たちのビジョンは、サプライチェーンのインフラを脱炭素化できれば、消費者が欲しいものと地球に良いことをする方法のどちらかを選択しなければならない、ということがなくなるというものです」と、同氏は筆者に語った。

Viaのソリューションは、製造工程の途中で輸送用コンテナに設置され、生産される製品のろ過システムとして機能する。デイヴ氏は、ろ過プロセスの仕組みを、パスタの鍋に例えて説明した。「熱を加えて水を沸騰させた鍋の中に入れるのではなく、ストレーナー(こし器)を通すのです。圧力をかけてパスタストレーナーのようなフィルターを通過させるわけです」。

それにはいくつかの利点があるとデイヴ氏はいう。まず、熱の代わりに電気を使うので、必要なエネルギー量が減る。熱を使うプロセスに比べて、90%ものエネルギーを削減できるという。さらに、このプロセスでは電気を使用するため、再生可能エネルギーから電気を得ることができれば、プロセスの電化とエネルギー効率の向上の両方が実現できる。

複雑なソリューションを構築している初期のスタートアップ企業として、Viaは当面、50億ドル(約5700億円)規模のパルプ製紙業界に集中することに決めたが、この技術は、石油化学、食品・飲料、医薬品など、他の業界にも広く応用できる可能性がある。

同社はこれまでに3件のパイロットプロジェクトを進めているが、最終的にはこのソリューションをサービスとして提供することを目標としている。これを導入する顧客企業は、資本コスト全体を削減することができ、メンテナンスの負担を顧客自身ではなくViaに押し付けることができる。また、同社ではソフトウェアによるモニタリングソリューションも構築しており、製品を監視することで、顧客が最大限の効果を得られるように支援し、メンテナンスの問題を早期に発見できるようにしている。

Viaは2017年にMITからスピンアウトした。現在の社員数は23名で、年内に30名に達することを目標としている。デイヴ氏は、多様性のある創業チームとして、共同創業者でCTOのBrent Keller(ブレント・ケラー)氏とともに、多様性のある社員の集団を作りたいと語っている。

「採用するすべての職種に多様な候補者がいるというのが私の哲学です。しかし、リソースに制約があるという現実もあります。ですから、私たちは最も広い視野が得られるように、リソースを配分するよう努めています」と、デイヴ氏はいう。それは、経験よりも可能性を重視した採用を意味するということかもしれない。彼女によれば、同社では採用時に厳格なアンチバイアス教育も実施しているという。

このスタートアップのアイデアは、デイヴ氏とケラー氏がMITの大学院生時代に、現在同社の主任研究員を務めているJeffrey Grossman(ジェフリー・グロスマン)教授のもとで行っていた研究がルーツになっている。

「共同設立者と私は水のろ過膜の研究をしており、水から塩を取り除くプロセスを、より安く、より良く、より速くする方法を検討していました。その結果、私たちが発明したものは、水にはあまり応用できないものの、水以外のものを原料とする化学品製造には大きな可能性があることがわかりました」と、デイヴ氏は述べている。

会社を立ち上げたとき、彼らは最終的に、温室効果ガスの観点からより影響力の大きい工業製品の製造に焦点を移すことにした。これは創業者たちが特に重要視している点である。

画像クレジット:Via Separations

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(文:Ron Miller、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

【コラム】ESG目標達成の鍵を握るのは取締役会やCEOではなく技術チームのリーダー

スタートアップ企業のCTO(最高技術責任者)や技術チームのリーダーは、会社創立のその瞬間からESG(Environmental[環境]・Social[社会]・Governance[企業統治])を重要事項として扱う必要がある。なぜなら、投資家が、ESGを重視するスタートアップ企業を優先的に評価して、持続可能性を重視した投資を行う傾向が高まっているからだ。

あらゆる業界にこの傾向があるのはなぜだろうか?答えは簡単だ。消費者が、持続可能性を重視しない企業を支持しなくなっているからである。IBMの調査によると、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、消費者の持続可能性(サステナビリティ)への関心と、持続可能な未来のために自身が支出することを許容する意識が高まったという。また、米国がパリ協定に復帰し、最近では気候関連への取り組みに関する大統領令が出されるなど、気候変動に対する米国政府の動きも活発化している。

ここ数年、長期的なサステナビリティ目標を設定する企業が増えているが、CEOやCSO(最高サステナビリティ責任者)が設定する目標は、往々にして長期的かつ野心的なものだ。ESGプログラムの短期的、中期的な実施は運営チームや技術チームに委ねられている。

CTOは、計画プロセスにおいて重要な役割を担っており、組織がESG目標を飛躍的に向上させるための秘密兵器となり得る。ここからは、CTOと技術チームのリーダーがサステナビリティを実現し、倫理的にポジティブなインパクトをもたらすためにすぐにできることをいくつか紹介する。

環境負荷を軽減する

企業のデジタル化が進み、より多くの消費者がデバイスやクラウドサービスを利用するようになった現在、データセンターが消費するエネルギーは増加し続けている。実際、データセンターの電力使用量は全世界の電力使用量の推定1%を占めているといわれているが、International Data Corporation(インターナショナル・データ・コーポレーション)の予測によると、クラウドコンピューティングを継続的に導入することで、2021年から2024年にかけて10億トン以上の二酸化炭素の排出を防ぐことができるという。

コンピューティングワークロードの効率化を図る。まず、コンピューティング、電力消費、化石燃料による温室効果ガス排出の関連性を理解することが重要だ。アプリやコンピューティングワークロードの効率化を図ることで、コストとエネルギー消費を軽減し、ワークロードの二酸化炭素排出量が削減することができる。クラウドでは、コンピューティングインスタンスの自動スケーリングや適正サイズの推奨などのツールを利用して、需要に対してクラウドVM(バーチャルマシン)を過剰に実行したり、オーバープロビジョニングしたりしないようにすることに加え、このようなスケーリング作業の多くを自動的に行うサーバーレスコンピューティングに移行することも検討の余地がある。

コンピューティングワークロードを二酸化炭素排出原単位(Carbon Intensity、一定量の生産物をつくる過程で排出する二酸化炭素排出量)の低いリージョンに配置する。これまでクラウドのリージョンを選択する際には、コストやエンドユーザーに対する遅延などの要素が重視されていた。しかし現在は、二酸化炭素排出量も考慮すべき要素の1つである。リージョンのコンピューティング能力が同程度でも、二酸化炭素排出量は異なることが多い(他の地域よりも二酸化炭素排出量の少ないネルギー生産が可能な地域は、二酸化炭素排出原単位が低くなる)。

そのため、一般的に、二酸化炭素排出原単位の低いクラウドリージョンを選択することは、最も簡単で効果のあるステップである。クラウドインフラのスタートアップ企業、Infracost(インフラコスト)の共同創業者かつCTOのAlistair Scott(アリスター・スコット)氏は、次のように強調する。「クラウドプロバイダーは正しいことを行い、無駄を省きたいと考えるエンジニアを支援できると思います。重要なのは、ワークフローの情報を提供することです。そうすれば、インフラプロビジョニングの担当者は、デプロイする前に、二酸化炭素排出量への影響と、コストやデータレイテンシーなどの要素を比較検討することができます」。

もう1つのステップは、Cloud Carbon Footprintのようなオープンソースソフトウェアを使って、特定のワークロードのカーボンフットプリントを推定することである(このプロジェクトにはThoughtWorksが協賛している)。Etsy(エッツィー)も、クラウドの使用情報に基づいてエネルギー消費量を推定できるCloud Jewelsという同様のツールをオープンソースで提供していて、Etsy自体もこれを利用して「2025年までにエネルギー強度を25%削減する」という目標に向けた自社の進捗状況を把握している。

社会的インパクトを作り出す

CTOや技術チームのリーダーは、環境への影響を軽減するだけでなく、社会的にも直接的で意義のある、大きなインパクトをもたらすことができる。

製品の設計に社会的な利益を盛り込む:CTOや技術系の創業者であれば、製品ロードマップで社会的利益を優先させることができる。例えばフィンテック分野のCTOは、十分な金融サービスを受けられない人々が借り入れをする機会を拡大するための製品機能を盛り込むことができるが、LoanWell(ローンウェル)のようなスタートアップ企業は、主に金融システムから排除されている人々が資本を利用できるようにして、ローン組成プロセスをより効率的かつ公平にしようとしている。

製品デザインの検討にあたっては、有益で効果的なデザインにすると同時に、サステナビリティも検討する必要がある。サステナビリティと社会的インパクトを製品イノベーションの中核として捉えれば、社会的な利益に沿うかたちで差別化を図ることができる。例えばパッケージレスソリューションの先駆者であるLush(ラッシュ)は、スマートフォンのカメラとAIを利用して商品情報を見ることができるバーチャルパッケージアプリ「Lush Lens」で、美容業界で過剰に使用されている(プラスチック)パッケージに取り組んでいる。同社のプレスリリースによると、Lush Lensは200万回の利用を達成したという。

社会的な弊害を避けるためには、企業は責任あるAIプラクティスという文化を持つ必要がある:機械学習と人工知能は、製品やおすすめコンテンツの表示、さらにはスパムフィルタリング、トレンド予測、その他「スマート」な行動に至るまで、高度でパーソナライズされたデジタルエクスペリエンスの中心となり、誰もが慣れ親しむものとなった。

そのため、責任あるAIプラクティスに取り組み、機械学習や人工知能がもたらす利益をユーザー全体で実現すると同時に、不慮の事故を回避することが重要である。まずは、責任を持ってAIを利用するための明確な原則を定め、その原則をプロセスや手順に反映させることから始めよう。コードレビュー、自動テスト、UXデザインを考えるのと同じように、責任あるAIプラクティスのレビューを考えてみよう。技術系の創業者や技術チームのリーダーは、こういったプロセスを確立することができる。

企業統治へのインパクト

企業統治の推進には、取締役会やCEOだけではなく、CTOも重要な役割を担っている。

多様性、包括性を備えた技術チームを構築する:多様性のあるチームが、1人の意思決定者よりも優れた意思決定を行う確率は87%である。また、Gartner(ガートナー)の調査では、多様性のある職場では、パフォーマンスが12%向上し、離職率が20%軽減するという結果が出ている。

技術チームの中で、多様性、包括性、平等性の重要性をしっかりと示すことが重要であるが、この取り組みにデータを活用する、というのも1つの方法である。性別、人種、民族などの属性情報を収集する自主的な社内プログラムを確立できれば、このデータは、多様性のギャップを特定し、改善点を測定するためのベースラインとなる。さらに、これらの改善点を、目標と主要な成果(objectives and key results、OKR)など、従業員の評価プロセスに組み込むことも検討し、HR部門だけでなく、全社で全員が責任を担うようにする。

これらは、CTOや技術チームのリーダーが企業のESG推進に貢献する方法を示すほんの一例である。まずは、会社設立と同時に、技術チームのリーダーとして何らかのインパクトをもたらすことができるたくさんの方法を認識することが重要だ。

編集部注:本稿の執筆者Jeff Sternberg(ジェフ・スターンバーグ)氏は、Google CloudのOffice of the CTO(OCTO)のテクニカルディレクター。

画像クレジット:Maki Nakamura / Getty Images

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(文:Jeff Sternberg、翻訳:Dragonfly)

炭素市場Agreenaは農家が環境再生型農業に切り替える経済的インセンティブを提供する

ヨーロッパの温室効果ガス排出量の24%は農業が占めているが、これは過去数十年間に行われてきた集約的な「工業型」農法と、肉の消費の増加によるところが大きい。しかし、新しいアプローチが農業界に旋風を巻き起こしている。「環境再生型農業(リジェネラティブ農業)」とは、劣化した土壌を自然に戻し、野生生物を増やし、地球を破壊する二酸化炭素を蓄えるというもので、文字通り土壌を炭素吸収源として利用する。

森林地帯を作り、泥炭地を復元することで、炭素を吸収すると同時に、ミツバチの授粉などに欠かせない自然多様性の減少を食い止めることができる。さらに、再生農業は、環境やCO2排出に焦点を当てた古い政府の補助金制度や、工業的な農業からの脱却にもつながる。

Agreenaはデンマークのスタートアップで、環境再生型農業に移行した農家が生み出す炭素クレジットを発行、証明、販売している。

2021年夏に設立されたばかりの同社は、このたびGiant Venturesとデンマーク政府のDanish Green Future Fundがリードし、470万ドル(約5億3000万円)のシード資金を調達した。また、欧州の多くの農家も参加している。

Agreenaのプラットフォームは、農家に「CO2e-certificate」を発行し、農家と購入希望者の間で販売することで、農家が従来の耕作地から再生農法に切り替えるための経済的なインセンティブを提供するという。

その仕組みとは?農家は自分の畑を登録し、再生農法に移行するためのアドバイスを受ける。そして、その変化をAgreenaが衛星画像と土壌の検証によって監視する。その後、農家はCO2e-certificateを単独で、またはAgreenaのマーケットプレイスを通じて、農家からカーボンオフセットを購入したい企業に販売することができる。買い手は、Agreenaのプラットフォームを介して、スポンサーしたCO2削減をフィールドレベルで追跡する。

AgreenaのCEOであるSimon Haldrup(サイモン・ハードルップ)氏は次のように述べている。「当社のチームは、カーボンサイエンティスト、ソフトウェア開発者、商業的グロースハッカーを含む30人のプロフェッショナルで構成されています。農業は、歴史的に誇り高い農業国であるデンマークに深く根ざしているため、会社はここで生まれましたが、私たちはヨーロッパ全体で規模を拡大しており、今後はグローバルに展開していく予定です」。Agreenaは、ハードルップ氏、Julie Koch Fahler(ジュリー・コッホ・ファーラー)氏、Ida Boesen(アイダ・ボエセン)氏によって設立された。

Agreenaは、初年度に5万ヘクタール以上の契約を締結し、発行されたカーボンオフセット証書の20%以上を事前に販売したという。

Agreenaには、いくつかの競合が存在する。農業分野のボランタリー炭素市場には、米国のスケールアップ企業Indigo(米国のユニコーン)、Nori(米国&ブロックチェーン特化)、英国・フランスを拠点とするSoil Capitalなどがある。しかし、Agreenaは、垂直統合されたカーボンプラットフォームが重要な差別化要因だとしている。

Giant Venturesの共同設立者兼マネージングパートナーであるCameron McLain(キャメロン・マクレーン)氏は、次のように述べた。「Agreenaの農業カーボンオフセットに対する垂直統合型のアプローチは、業界のニュアンスや農家にとってのインセンティブに共感的なもので、大きな期待を抱いています。また、Agreenaは、まだ誰も解いていない農業分野でのオンラインB2Bコマースを促進する有力なインターネット市場になれると信じています」。

画像クレジット:Agreena

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(文:Mike Butcher、翻訳:Aya Nakazato)

千葉大学が2050年の脱炭素を目指す全国自治体に向けて「カーボンニュートラルシミュレーター」を無料公開

千葉大学が2050年の脱炭素を目指す全国自治体に向けて市町村ごとの「カーボンニュートラルシミュレーター」を無料公開

千葉大学は、日本の基礎自治体が2050年までの脱炭素計画を立てやすくするサポートツールとして、「カーボンニュートラルシミュレーター」を公開した。現在の人口、世帯数、就業者数の推移から2050年の状況を予測し、脱炭素実現には電気自動車やネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH。net Zero Energy House)などの比率、再生可能エネルギーの導入をどう調整すればよいかを教えてくれる。千葉大学大学院社会科学研究院 倉阪秀史教授を中心とする研究チームの開発によるもの。誰にでも使えるようExcelファイルで作られていて、無料でダウンロードが可能

全国1741の市区町村の自治体コードを入力すると、その自治体の現状から推測した、何もしなかった場合の2050年の二酸化炭素排出量が示される。また、現在の人口の推移から推測した2050年の人口も示される。そこに、2050年の自動車の削減率、ZEH、ネット・ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB。エネルギーを消費するより生み出すほうが多い建物)、電気自動車や再生可能エネルギーの導入率などを加味すると、2050年時点での全体の削減量がわかる。人口を含めたこれらの要素を調整することで、達成までの計画が立てられるというものだ。

また、2050年までの「総投資額」、「総省エネ額」(節約分)、「再生可能エネルギー販売額」、「差し引き金額」が表示されるので、脱炭素に必要な予算もわかる。

開発者の倉阪教授は、2050年の脱酸素宣言を行った214の自治体について、同じ条件を入力してその達成状況を調べたところ、35.5%にあたる76自治体が脱炭素を達成できたという。ただし、達成率には地域によって差があり、北海道や東北など広大な土地のある地域では再生可能エネルギーが豊富なため達成率が高い傾向にあった。また、人口が多い都会のある自治体は、どこも達成できなかった。そのため脱炭素達成には、豊かな再生可能エネルギー源を持つ地方と都会との連携が必要になると倉阪教授は話している。

Google Cloudがクラウド使用による二酸化炭素排出量を表示する機能を提供へ

Google Cloudは米国時間10月12日、ユーザーにカスタムの二酸化炭素排出量レポートを提供する新しい(そして無料の)機能を発表した。このレポートでは、クラウドの利用によって発生する二酸化炭素の排出量を詳しく説明する。

Google Cloudは以前から、2030年までに二酸化炭素をまったく排出しないエネルギーで稼働させたいと述べてきた。すでにエネルギー使用を再生可能エネルギーの購入とマッチングさせている。しかし、Google Cloudに限らず、今日では実質的にほぼすべての企業が、二酸化炭素排出量の目標を達成する方法を検討している。クラウドコンピューティングの役割を定量化することは非常に困難だが、ここでは企業が社内外でクラウドを利用する際の環境への影響を簡単に報告できるようにすることを目指している。

画像クレジット:Google

「顧客は、このデータを報告だけでなく、内部監査や二酸化炭素削減の取り組みに活用することができます。HSBC、L’Oreal、Atosなどの顧客と協力して構築した二酸化炭素排出量レポートは、顧客が気候変動に関する目標を達成できるよう、新たなレベルの透明性を提供します」と、CTOオフィスでGoogle Cloudの持続可能性のためのデータおよびテクノロジー戦略をリードするJenn Bennett(ジェン・ベネット)氏は話す。「顧客は、プロジェクトごと、製品ごと、地域ごとのクラウドの二酸化炭素排出量を長期的に監視することができ、ITチームやデベロッパーに二酸化炭素排出量の削減に役立つ指標を提供することができます。デジタルインフラの排出量は、実際には環境フットプリントの一部に過ぎませんが、各社が掲げる二酸化炭素削減目標に対する進捗状況を測定するためには、二酸化炭素排出量の計算が必要です」と語る。

画像クレジット:Google

ベネット氏が指摘したように、企業が正確な報告を行うことができれば、自然な流れとして、気候変動への影響を軽減するための提案を行うことが次のステップになる。具体的には、Google Cloudの「Unattended Project Recommender」に二酸化炭素推定値を追加したり「Active Assist Recommender」に持続可能性への影響のカテゴリーを追加したりすることになる。

画像クレジット:Westend61 / Getty Images

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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Nariko Mizoguchi

乗組員の変更管理、海賊などの潜在的なリスクの予測などを提供する海事情報プラットフォーム「Greywing」が資金調達

シンガポールを拠点とするGreywing(グレイウイング)は、船舶運航会社をはじめとする海事産業の人々が重要な意思決定を行う際の役に立つために、2019年に設立された。同社が提供する製品には、乗組員の変更管理、海賊などの潜在的なリスクの予測報告、新型コロナウイルスの影響による渡航制限の更新などのツールが含まれている。

米国時間10月7日、Greywingは250万ドル(約2億8000万円)のシード資金調達と併せて、船舶運航会社が乗組員の交代によって生じる二酸化炭素排出量を監視するための新しいソリューションを発表した。参加した投資家は、Flexport(フレックスポート)、Transmedia Capital(トランスメディア・キャピタル)、Signal Ventures(シグナル・ベンチャーズ)、Motion Ventures(モーション・ベンチャーズ)、Rebel Ventures(レベル・ベンチャーズ)、Entrepreneur First(アントレプレナー・ファースト)そしてY Combinator(Yコンビネーター)など。GreywingはY Combinatorの2021年冬のバッチに参加していた。

今回よりGreywingの提供するプラットフォームは、船舶運航会社が乗組員の変更にともなう潜在的な二酸化炭素排出量を事前に見積もることができるようになった。

この炭素排出量計算ツールは、乗組員の現在地、母港、経路変更の可能性などのデータを取り込み、ウェイポイントが入力されると、乗組員が利用可能な定期航空便を調べ上げる。それらの航空便情報には、そのフライトで排出されるCO2の量が料金とともにリストアップされるので、船舶運航会社は運航コストに大きな影響を与えることなく、総排出量を削減できる航空便を手配することができる。

最高経営責任者(CEO)のNick Clarke(ニック・クラーク)氏は、世界のCO2排出量の3%が船舶によるものであり、そのうち約3分の1が「スコープ3」と呼ばれる、乗組員の交代など船舶の燃料消費以外の要因によるカーボンフットプリントであると、メールで説明している。多くの船舶運航会社は、道義上の理由から炭素排出量の削減に取り組んでいるが、国際海事機関が設定した2030年および2050年の脱炭素化目標に適応する必要にも迫られている。

Greywingは、この炭素排出量測定ツールを導入する3カ月前にも、船舶運航会社が乗組員の検査、検疫、その他の新型コロナウイルス関連規制を管理するための「Crew Change(クルー・チェンジ)」というツールを発表している。

Greywingは、クラーク氏と最高技術責任者のHrishi Olickel(ヒリシ・オリケル)氏が、シンガポールのEntrepreneurs Firstで出会い、2019年に設立した。オリケル氏がTechCrunchにメールで語った話によると、同氏のバックグラウンドはパラメトリック保険やロボット工学だったので、共同創業者候補をマッチングするこのプログラムに参加する前は「海事産業についてほとんど何も知らなかった」という。

Greywing創業者のNick Clarke氏とヒリシ・オリケル氏(画像クレジット:Greywing)

「私がGreywingのミッションに惹かれたのは、ニックと、海事産業がデジタル化の瀬戸際にある極めて重要な産業であり、私たちが変化をもたらすことができると気づいたからです」と、オリケル氏は語る。

Greywingは、船舶運航会社が航海の準備をする際に必要な作業量を減らすために構築された。このプラットフォームは、民間および公共のソースからデータを収集し、ユーザーフレンドリーで航行に適したレポートに変換する(このプラットフォームはモバイル向けに設計さている)。

「私たちのオペレーティングシステムが登場する以前は、これらの重要な詳細情報を別々のチャネルから入手し、電子メール、初歩的な船舶追跡システム、人事業務のERP(企業資源計画)、電話、あるいはExcelのスプレッドシートまで、多くの手段を利用して意思決定を行っていました」と、クラークは語る。「想像されるとおり、これらのデータポイントをすべて整理して、実用的なインテリジェンスに変えることは困難です」。特に、1つの間違った判断が、コストや環境への影響、乗組員の危険につながる場合はなおさら難しい。

Greywingの目的は「この業界で現在行われている無益な情報報告から、リアルタイムの意思決定、さらには予測的な警告へと移行させること」であり、そのために二酸化炭素排出量と乗組員交代を管理するツールを構築したと、オリケル氏は述べている。

Greywingは今回調達した資金によって、より多くの海事データソースを活用し、アルゴリズムの複雑さをさらに高めて、より自動化の進んだインテリジェントな船舶管理システムを開発することができる。

「今回の資金調達は、Greywingのソリューションを海運業界に普及させるために役立ち、それによって私たちは、他の方法では手がつけられない世界の二酸化炭素排出量の1%に取り組むことができます」と、クラークは語る。「私たちはすでに、世界の商業船隊の3.5%に相当する2000隻以上の船舶に当社のソリューションを導入することに取り組んでいます。これにより、23万トン以上の炭素を地球の大気から減らすことができます。これは、7隻の船舶を海から排除することに相当します」。

画像クレジット:Suriyapong Thongsawang / Getty Images

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(文:Catherine Shu、翻訳:Hirokazu Kusakabe)