短命に終わったGoogle Bookbot(グーグル・ブックボット)を開発したチームが、後継ロボットを復活させようとしている。BookbotはGoogleのインキュベーター制度であるArea 120(エリア120)で開発されていた実験的プロダクトだった。Googleはグループの収益性を改善するため赤字のプロジェクトを多数閉鎖した。このため開発を行っていたエンジニアはスピンオフして独自に宅配ロボットの開発を始めた。
2019年創立のステルススタートアップであるCartken(カートケン)が開発したのは歩道を進む宅配ロボットだ。同社共同創業者にはBookbotを開発したエンジニアに加えて、現在Googleショッピングとして提供されているサービスの運営責任者だったロジスティックス専門家も加わった。
Area 120は有名なGoogle Xプログラムなど、ムーンショットと呼ばれる野心的事業に比べれば地味だったが、小人数のチームが短期間で新しいプロダクトを開発する場所として作られた。2016年からArea 120ではクラウドソースの乗り換えアプリ、教育向けビデオプラットフォーム、スモールビジネス向けバーチャル顧客サポート、絵文字利用ゲームなど10数件のアプリやサービスが生まれている。
BookbotはArea120から最初に生まれたプロダクトで、2018年に自立的に作動する電動6輪車の開発を始めた。2018年後半、地元のマウンテンビューではGoogleと協力して配送プログラムの実験を開始することとした。Area120のBookbotは2019年の2月から週1回マウンテンビュー市図書館で書籍の処理を行った。
書籍運搬に加えてBookbotはAmazon(アマゾン)やStarship Technologiesなどの同様の各種配送業務ができた。下の写真がこのGoogle Bookbotだが、高さ82センチで各種のセンセーを備え、自立作動に加えて必要な場合は人間による遠隔操縦も可能だった。積載重量は22キロ、歩道を最大時速7.2キロ程度で進むことができた。
Google Bookbot(写真:Google)
ユーザーが図書館のウェブサイトから本を返却したいと知らせるとBookbotはユーザーの家まで自立走行し、家に到着するとチャットで着いたと知らせることができた。ユーザーがBookbotの荷物棚の蓋を開き、本を入れるとロボットは図書館に戻りそこで図書館の職員が内容をチェックした。
Googleの開発チームのリーダー、Christian Bersch(クリスチャン・バーシュ)氏が、当時、SilconValley.comの語ったところによると、パイロットプログラムは9カ月続くはずだった。「我々はこのロボットが現実の環境でどのように動くのか確かめているところだ。どんな問題があるるかをチェックした」ということだった。
マウンテンビュー市の図書館システムの責任者、Tracy Gray(トレイシー・グレイ)氏がTechCrunch に語ったところによると、Bookbotが歩道に姿を現したとき人々は大喜びしたと言う 。「(Bookbotを)見た人はみんなクールだと思ってカメラを取り出して写し始めた。これという事故もなかったし、技術的な問題もなければいたずらで壊されるというようなこともなかった」という。
最大の問題はユーザーの反応でもなく技術的な課題でもなく、Googleそのものだった。Bookbotの実験は当初の9カ月の予定を大幅に下回った。パイロットプログラムは6月の終わりにあっけなく幕を閉じた。4カ月も経っていなかった。Bookbotロボットがマウンテンビュー市で実際に稼働したのはわずか12日に過ぎなかった。ロボットは100回近く走行し、36人のユーザーにサービスを提供したという。
Bookbotは図書館システムにとってもユーザーにとっても大変役に立っていにも関わらず、グレイ氏はArea 120がなぜBookbotプロジェクトを中止したのか、まったく理由を告げられなかった。今もGoogleこの件についてコメントしようとしない。
しかしBookbotプロジェクトが葬られたたのはGoogleの戦略変更の時期と一致していた。Bookbotが放棄される1月前、Googleはオンライン・マーケットプレイスと宅配サービスのGoogle ExpressをGoogle Shoppingに統合した。つまりリテール分野ではAmazonやWalmart(ウォルマート)のような巨人に対抗できないことを認めたわけだ。リテール分野への熱意が薄れるにつれ、Googleはロボット配送システムに対する興味も失った。
しかしこれがBookbotの最期ではなかった。 Linkedinの記録をチェックすると、Bookbotプロジェクトが棚上げされた翌月の7月にバーシュ氏はJake Stelman(ジェイク・ステルマン)氏をはじめとするArea 120でロボットを開発していたエンジニアとともにGoogleを去ったことがわかる。10月にははCartkenが創立された。チームには、Amazon、Google Expressでリテールビジネスのマネージャーを務めていたRyan Quinlan(ライアン・クィンラン)氏も加わった。
Cartkenの運営は現在でもステルスモードであり、Googleと同様に同社はこの記事へのコメントは避けている。しかし同社は韓国のシリコンバレー視察団に対し「AI利用により自動走行可能な宅配ロボットを開発した」と語っている。
Cartkenのサイトには「自動走行宅配ロボットを低価格で提供できる」とあり、初期バージョンは商品の戸口ヘの配送、いわゆる「ラストワンマイル」をターゲットにしたものだ。ステルス企業らしく、一部しか写っていないが、マットブラックのBookbotタイプの車輪移動ロボットには蓋があり前後にライトが装備されているようだ。
今のところGoogle、CartkenともにGoogleがスタートアップを支援しているのか、Area 120由来のテクノロジーが利用されているのかなどについて明らかにしていない。
GoogleはWaymo(ウェイモ)のように自動走行車メーカーをグループ内の企業として独立させている一方、Googleの自動走行プロジェクトの元責任者Chris Urmson(クリス・アー、ムソン)氏らがGoogleを離れて立ち上げたAurora(オーロラ)は今や25億ドル(約2746億円)に評価される企業となっている。ソフトバンクが支援する宅配ロボットのNuroは先週、公道を走行することを許可されて注目を集めているが、これもGoogleのエンジニア2人が創立した会社だ。
ただしGoogleから独立したチームがすべて順調というわけではない。2016年にGoogleを離れて独自の自動走行ロボットによるロジスティクスの改革を目指したAnthony Levandowski(アンソニー・レバンドフスキー)氏は創立したOttoをUberに買収させたものの、企業秘密をめぐる歴史的な法律紛争に巻き込まれ現在も訴訟が続いている。
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(翻訳:滑川海彦@Facebook)