EVや蓄電システムに搭載したままバッテリーの状態や劣化度合をシミュレートできるTWAICEの分析ツール

すべてのバッテリーは時間とともに劣化していく。電気自動車メーカーや車両運行管理会社にとって、それがいつ、どのくらい劣化するのかを知ることは重要であり、収益に関わる鍵にもなる。

しかし、バッテリーの健康状態を把握することは、大がかりで高額な検査を行わなければ意外と難しく、車両に搭載された状態では不可能な場合も少なくない。ドイツのバッテリー分析ソフトウェア企業であるTWAICE(トワイス)は、2018年の創業以来、この問題に取り組んできた。同社は米国時間5月19日、シカゴに拠点を置くEnergize Ventures(エナジャイズ・ベンチャーズ)が主導したシリーズBラウンドで、2600万ドル(約28億3000万円)を調達したことを発表した。主にモビリティやエネルギー貯蔵の分野で活躍する同社は、これで資金調達総額が4500万ドル(約49億円)に達したことになる。

TWAICEの開発や運営面について共同設立者のStephan Rohr(ステファン・ロア)氏にインタビューした際「私たちは、バッテリーシステムのライフサイクル全体を本当にカバーできるバッテリー分析プラットフォームを構築することに焦点を当ててTWAICEを起ち上げました」と語った。この会社は、実際にバッテリーが車両やエネルギー貯蔵システムに搭載されている状態で、開発や設計を行うために適したツールを提供している。Audi(アウディ)やDaimler(ダイムラー)、インドのHero Motors(ヒーロー・モーターズ)などが同社の顧客だ。

今回の資金調達により、TWAICEは欧州での事業展開を拡大し、さらに米国進出の可能性も探っていくという。また、製造会社だけでなく、物流や旅客輸送業者との連携なども含め、同社の分析プラットフォームをもとに、さらに多くのユースケースを構築したいと考えている。

同社の革新的な技術の1つに「デジタルツイン」という概念がある。これはTWAICEのクラウドプラットフォーム上で動作するバッテリーシステムのシミュレーションモデルで、バッテリーの熱特性や電気的挙動、劣化などのパラメーターを連続的に更新していくことによって、実際のバッテリーの状態がこの「デジタルな双子」に反映されるというものだ。つまり、EVバスを運行している企業は、それぞれの車両のバッテリーパックの状態を、このデジタルツインを通してモニターすることができる。

「バッテリーシステムの現在の健康状態をモニターするだけでなく、将来のシミュレーションや予測も可能になります」と、ロア氏はいう。

TWAICEはまた、バッテリーが自動車やエネルギー貯蔵システムに搭載される前の段階にもソリューションを提供している。「バッテリーの設計エンジニアは、当社のシミュレー ションを利用することで、充電戦略,放電深度,異なる電池化学の評価などのテスト作業を軽減することができます」と、ロア氏は説明する。

TWAICEのソフトウェアの主な使用例の1つは、保証追跡や安全性リスクに関するものだ。同社のバッテリー分析を利用することで、製造メーカーはバッテリーがセルやモジュールなどのどこで故障したのかを正確に把握することができ、将来の保証請求に対して過去のデータに基づく貴重なデータを得ることができる。TWAICEの営業担当責任者を務めるLennart Hinrichs(レッナールト・ヒンリクス)氏は、製造メーカーにとって保証は大きなリスクであると説明する。その理由の1つは、バッテリーが非常に複雑で、車両に搭載されてしまうと、状態を理解することが非常に難しいからだという。

しかし、バッテリーの寿命を把握することは、消費者にとっても有益だ。ドイツの試験・認証機関であるTÜV Rheinlandは、民間市場におけるEVの中古車販売に関してTWAICEと提携し、中古車市場のEVが搭載するバッテリーの標準的な評価プロセスの確立を目指している。

EVの車載バッテリーが長期的な使用を経て本来の用途に適さない状態にまで劣化した後、自動車メーカーはTWAICEのソフトウェアを使って、バッテリーシステムの健康状態と残りの寿命を評価し、例えばエネルギー貯蔵などのセカンドライフに再利用するか、あるいはそのままリサイクルに回すべきかを判断することができる。

2020年3月に行われたTWAICEの前回の資金調達ラウンドでは、アーリーステージ専門ベンチャーキャピタルのCreandum(クリーンダム)が主導し、既存の投資家であるUVC Partners(UVCパートナーズ)、Cherry Ventures(チェリー・ベンチャーズ)、Speedinvest(スピードインベスト)が追加投資を行った。

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

フォードと韓国SK Innovationが米国でのEVバッテリー量産に向け合弁会社BlueOvalSKを発表

Ford Motor Company(フォード・モーター・カンパニー)と韓国・ソウルに本社を置くSK Innovation(SKイノベーション)は米国時間5月20日、電気自動車用のバッテリーを米国内で製造する合弁法人を設立する了解覚書(MOU)を締結したと発表した。この合弁会社はBlueOvalSK(ブルーオーバルSK)と呼ばれ、2020年代半ばから年間約60GWhを生産する予定。今回のMOUは、Fordが電池生産能力を垂直的に発展させようとしている最新の兆候だ。

Fordの最高製品プラットフォームおよびオペレーション責任者であるHau Thai-Tang(ハウ・タイ・タン)氏は、20日に次のように述べた。「当初はMustang Mach-E(マスタング・マッハE)だけだったので、電池を供給元から購入するのが最も効率的だと考えていましたが、普及率が上がっていき、アーリーアダプタからアーリーマジョリティへと移行していくにつれて、このレベルの投資を正当化するのに十分な(生産)量を確保できるようになり、このパートナーシップを追求することになりました」。

FordのLisa Drake(リサ・ドレイク)COOは、20日に記者団に対し、所有構造は今後検討されていくと述べた。60GWhの生産能力は、おそらく2つの製造拠点にまたがることになると思われるが、北米の工場の場所を含め、両社はまだその計画を決定していないとドレイク氏は付け加えた。60GWhは、およそ60万台のEVを製造するのに十分なバッテリ容量に相当すると、タイ・タン氏は述べた。

Fordはここ数カ月、バッテリセルを大規模に製造する垂直統合型の能力を構築するために前進してきた。2021年4月、ミシガン州ディアボーンに本社を置く同社は、ミシガン州にバッテリー技術開発センターを開設することを発表した。また、BMWと共同で、ソリッドステート式バッテリ(全固体電池)開発企業であるSolid Power(ソリッドパワー)の1億3000万ドル(約141億5000万円)のシリーズBラウンドをリードした。

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しかしFordはこれまで、電池の自社生産にはあまり積極的ではなかった。タイ・タン氏は「当社の製品計画は大きく変わりました」と述べている。

このニュースは、フォードが同社の象徴的な車であり、米国で最も売れているトラックのEVバージョンとなる「F-150 Lightning(F-150 ライトニング)」を発表してから24時間も経っていないタイミングで届いた。ライトニングは、フォードが過去1年間にデビューさせた3台のEVのうちの1台で、2025年までに220億ドル(約2兆4000億円)をEVに投資するという同社の計画の礎となるものだ。

SK Innovationは、すでにジョージア州で26億ドル(約2830億円)を投じて2カ所のEV用バッテリー工場を建設中だ。そのうち1工場はすでにバッテリーを生産しており、もう1つの工場は2023年に操業を開始する予定。また、フォルクスワーゲン社を顧客として、テネシー州にも別の工場を建設中だ。FordとSK Innovationの関係は長年にわたっており、前者は2018年にSK Innovationをライトニングのバッテリーサプライヤーに選定していた。

最近では、ライバル企業であるLG Energy Solution(LGエナジーソリューション)との企業秘密に関する紛争をめぐり、2021年4月に18億ドル(約1960億円)の和解が成立した。これは、SK Innovationがジョージア州での事業を停止することになりかねなかった2年間の紛争の末の和解だ。

韓国の2つのコングロマリットは、それぞれの自動車メーカーパートナーとともに、米国のバッテリー製造に数十億ドルを投資している。LG Energyは、GMとの合弁会社であるUltium Cells LLCのもと、オハイオ州とテネシー州に製造施設を建設している。

「スケールが意味を成すようになりました」とドレイク氏はいう。「動き出すには絶好のタイミングです」。

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Aya Nakazato)

テスラがカナダ企業の特許を使い安価で環境に優しい新バッテリーを開発中

Elon Musk(イーロン・マスク)氏は2020年9月にTesla(テスラ)のBattery Dayのステージに立ったとき、リチウムイオンバッテリーの価格を半分にすると約束し、ニッケル金属電極を作る際の汚れた、そして複雑な過程を最初から作り直すことで価格を抑制できると主張した。

「溝を掘って、溝を埋め、そしてまた溝を掘ってと、とてつもなく複雑です」と同氏はイベントで述べた。「それで我々は全体のバリューチェーンに目をやり、どうやってこれを可能な限りシンプルにできるのか、と言いました」。

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最もシンプルなルートにはカナダの小さなバッテリースタートアップ、あるいは少なくとも同社の特許出願が含まれているようだ。

公開記録によると、Battery Dayの2週間前、Teslaはトロント近くに拠点を置く小さな会社Springpower International(スプリングパワー・インターナショナル)から数多くの特許出願を計3ドル(約330円)で購入した。

それらの特許出願の1つは、Teslaの上級副社長Drew Baglino(ドリュー・バッリーノ)氏がBattery Dayにカリフォルニア州フリーモントにある同社工場に設けられたステージで描写したものに似ている、イノベーティブなプロセスの詳細をつづっている。特許出願の購入は、特許そのものが最終的に2021年1月認められたとき、特許にはSpringpowerの記載はなく、Teslaに発行されたことを意味する。

電気自動車バッテリー向けの電極製造は従来、かなりの量の汚染水を生み出す。電極材料1トンを製造するのに、アンモニアや金属粒子、有毒な化学物質を含む4000ガロンもの汚染水が出る。Springpowerのプロセスは費用のかかる水処理を排除し、賢くも薬液を再循環させる

バッリーノ氏のプレゼンテーションでも、水を再利用し、排水を作らない手法が述べられた。事業費の75%以上の抑制に加え、同氏は次のように述べた。「当社はまた、同じプロセスをリサイクルされた電気自動車とグリッドストレージバッテリーから出る金属粉の消費に持ってくることができます」。

TeslaはSpringpowerの知的財産以上のものを獲得したようだ。Battery Dayの1週間前に、Springpower Internationalのウェブサイトは1つのホールディングページに変わった。それから数カ月して、何人かのSpringpowerの研究者は彼らのLinkdInプロフィールを変えた。それからするに彼らは現在、Teslaで働いているようだ

Springpower InternationalのCEOであるMichael Wang(マイケル・ワン)氏はコメントの求めに応じず、同社の電話交換台へのコールにも応答がなかった。同氏のLinkedInのページには現在、Teslaのスタッフ(バッリーノ氏含む)からの何十ものアップデートが表示されている。

電話で連絡をとったSpringpower Internationalの上級役員はTeslaによる買収を認めも否定もしなかったが、TechCrunchにTeslaの広報チームを案内した(Teslaは広報担当者を置いておらず、同社に送ったメールに返事はなかった)。

Springpower Internationalは、部分的には中国のバッテリー会社Highpower Internationalによって、Springpowerの子会社の研究部門として2010年3月に深圳で創業された。しかしHighpowerは6カ月もせずして、Springpower Internationalのテクノロジーが商業化から程遠いと判断して10万ドル(約1090万円)の投資を取り消してSpringpower Internationalと手を切った。

カナダ政府が出資したプログラムの「客員起業家」であるJames Sbrolla(ジェームズ・スブローラ)氏が、創業されて間もなかったSpringpower Internationalを指導するために介入した。同氏は同社が少額の補助金を、そして最終的に2018年に340万カナダドル(約3億円)の持続可能テクノロジー賞を獲得するのを手伝った。しかし同氏は2020年後半以降、Springpower Internationalの誰とも連絡をとっていないとTechCrunchに語った。

スブローラ氏は同社が買収されたかもしれないと聞いても驚かなかった。

「スマートな人たちのグループです。それについて疑う余地はありません」と同氏は話した。「Springpowerのもののようなテクノロジーは環境への負荷の削減で大きなメリットがあります。そして大企業を引きつけることでずっと早く、そしてより簡単にスケール拡大できます」。

ありそうなことだが、Springpower InternationalがTeslaによって買収されたのなら、2019年に同じように密かに買収された別のカナダのバッテリー会社Hibarを含む12社ほどの企業の仲間入りをしたことになる。

マスク氏はリチウムイオンバッテリーの専門的な部分に関しては長らく国境の北に目を向けてきた。2015年にTeslaはカナダ・ノバスコシア州にあるダルハウジー大学の主任バッテリー研究者で教授のJeff Dahn(ジェフ・ダーン)氏と5年間の独占的パートナーシップを結んだ。ダーン氏の名は同社の数多くのバッテリー特許に掲載されており、2021年1月に同社はダーン氏とのパートナーシップをさらに5年間更新した。

マスク氏は自社バッテリー生産を実現し、現在のサプライヤー(パナソニック、LG化学、 CATL)への依存を小さくしようと取り組んでいる。「いま当社はこのプロセスを手にしていて、独自の電極の設備を北米に建てようとしています」とバッリーノ氏はBattery Dayで述べた。

マスク氏はTeslaの新しいバッテリーテクノロジーの複合的なメリットによって2万5000ドル(約270万円)の車両が実現するかもしれない、と付け加えたが、あまりに多くをすぐには期待しないよう警告した。「こうしたアドバンテージを実現させ始めるのにおそらく1年から18カ月、完全に実現するのに3年ほどかかるでしょう」。

おそらくそれまでにSpringpower Internationalの役割はもう少し明らかになるだろう。

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(文:Mark Harris、翻訳:Nariko Mizoguchi

フォードとBMWが全固体電池のSolid Powerに142.2億円を投入

BMWグループならびにFord Motor Company(フォード・モーター・カンパニー)向けの、20アンペア時(Ah)の全固体電池セルを両手に持つSolid Power(ソリッド・パワー)の製造エンジニア。この全固体電池セルはコロラドにあるSolid Powerの試作ラインで製造された。

固体電池(SSB)システムは、長い間、電池技術の次のブレークスルーだと考えられてきたもので、複数のスタートアップが最初の製品化を競い合っている。自動車メーカーたちが、この技術に対するトップ投資家群の一角を占めている。各社とも電気自動車(EV)をより安全に、より速く、そして航続距離を拡大するための突破口を求めている。

そんな中、Ford Motor CompanyとBMWグループが、電池テクノロジー企業Solid Powerへ資金を投入した。

コロラド州ルイスビルを本社とする、SSB開発のSolid Powerは、米国時間5月3日に、その最新のラウンドとなる1億3000万ドル(約142億2000万円)のシリーズBが、FordとBMWによって主導されたと発表した。このことは、その2社がSSBが将来の輸送を支えるものだと考えていることを示している。今回の投資で、FordとBMWは対等な株式所有者となり、両社代表者はSolid Power の取締役会に参加する。

また今回のラウンドで、Solid Powerは米国エネルギー省のアルゴンヌ国立研究所からスピンアウトしたベンチャーキャピタルのVolta Energy Technologies(ボルタエナジー・テクノロジーズ)からも追加投資を受けた。

固体電池という名前は電解溶液を使わないことに由来している(Mark Harris記者が年頭のExtra Crunch記事で説明している)。通常の電解溶液は、可燃性で過熱の危険があるため、一般的にSSBは比較的安全だと考えられている。ライバルである電解溶液を使うリチウムイオン電池と比べたときのSSBの真の価値は、そのエネルギー密度だ。Solid Powerは、同社の電池は、既存の充電式電池に比べて50~100%エネルギー密度を向上させるとできるという。理論的には、よりエネルギー密度の高い電池を搭載した電気自動車は、1回の充電でより長い距離を移動することができる。

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この最新の投資ラウンドは、Solid Powerが自社史上最大のアンペア時間(Ah)出力を持つ電池セルを生産するために、製造力を強化するのに役立つ。FordならびにBMWとの個別の共同開発契約に基いて、同社は2022年以降、テストよ車両統合のために100Ahのセルの納入を開始する予定だ。

これまで同社は、2Ahと20Ahの出力を持つセルを製造してきた。Solid Powerはその声明の中で、2020年後半にFordとBMWによって、2Ahバッテリーセル「数百個」が検証されたと語っている。一方、同社は現在、標準リチウムイオン用の機器を使い、20Ahの固体電池をパイロットベースで生産している。

Solid Powerの広報担当者Will McKenna(ウィル・マッケナ)氏はTechCrunchに対して、9×20センチ22層で構成されてる20Ahパイロットセルとは対照的に、100Ahセルは、より大きな底面積とさらに多くの層を持つことになると語った(「レイヤー」とはカソードの数を指していると、マッケナ氏は説明した。20 Ahセルの中には22枚のカソードと22枚のアノードがあり、それぞれの間に全固体電解質セパレータが挟まれていて、すべてが単一のセルの中ににまとめられている)。

Solid Powerの製造法とは異なり、従来のリチウムイオン電池では、製造プロセスで電解質の充填と循環を行う必要がある。Solid Power によると、一般的なGWh規模のリチウムイオン製造施設における設備投資の5%から30%が、そうした追加工程に投入されている。

Solid Powerが自動車メーカーからの投資を受けたのは、今回が初めてではない。2018年に行われた2000万ドル(約21億9000万円)のシリーズAでは、BMWやFordの他、Samsung(サムスン)、Hyundai(ヒュンダイ)、Volta(ボルタ)などからの資本金を集めた。同社は、OEMたちの注目を集めている新しい企業群の1つなのだ。他の注目すべき例としては、Volkswagen(フォルクスワーゲン)が支援するQuantumscape(クアンタムスケープ)とGeneral Motors(ゼネラルモーターズ)によるSESへの資金投入がある。

Fordは自身でも先進的な電池技術を研究していて、1億8500万ドル(約202億円)で電池R&Dラボを開設する予定であることを先週発表している

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画像クレジット:Solid Power

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:sako)

水素燃料電池飛行機へのZeroAviaの野望は技術的な課題が残るが大志は今なお空のように高い

2020年9月、ZeroAvia(ゼロアビア)の6人乗り航空機が英国クランフィールド空港から離陸して8分間の飛行を終えた時、同社は、商用サイズの航空機で史上初の水素燃料電池飛行を行うという「非常に大きな偉業」を成し遂げたと断言した。

この航空機はPiper Malibu(パイパーマリブ)プロペラ機を改造して作られており、同社によると、水素を燃料とする航空機の中では世界最大のものである。「水素燃料電池を使用して飛行する実験的な航空機はいくつかあったが、この機体の大きさからすると、完全にゼロエミッションの航空機に有償旅客を乗せる時代が目前に迫っている」と、ゼロアビアのCEOであるVal Miftakhov(ヴァル・ミフタコフ)氏は付け加えた。

しかし、水素を燃料としているといっても、実際にはどのような状況なのだろうか。乗客の搭乗はどの程度現実味を帯びているのだろうか。

ミフタコフ氏は飛行直後の記者会見で「今回の構成では、動力をすべて水素から供給しているわけではなく、バッテリーと水素燃料電池を組み合わせている。しかし、水素だけで飛行することも可能な組み合わせ方だ」と述べた。

ミフタコフ氏のコメントはすべてを物語っているわけではない。TechCrunchの調査では、今回の画期的なフライトに必要な動力の大半がバッテリーから供給されたこと、そしてゼロアビアの長距離飛行や新しい航空機で今後もバッテリーが大きな役割を果たすことがわかった。また、マリブは技術的には辛うじて旅客機と言えるかもしれないが、大型の水素タンクやその他の機器を収容するために、5つの座席のうち4席を撤去しなければならなかったのも事実だ。

ゼロアビアは、ピックアップトラックでの航空機部品のテストから始めたが、4年も経たないうちに英国政府の支援を得るまでになり、Jeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏やBill Gates(ビル・ゲイツ)氏、そして先週にはBritish Airways(ブリティッシュエアウェイズ)などからも投資を呼び込んだ。現在の問題は、ゼロアビアが主張している軌道を進み続け、本当に航空業界を変革できるかどうかだ。

離陸

航空機が排出する炭素の量は、現在、人類の炭素排出量の2.5%を占めているが、2050年までには地球のカーボンバジェット(炭素予算)の4分の1にまで拡大する可能性がある。バイオ燃料は、その生産によって木や食用作物が消費し尽くされる可能性があり、バッテリーは重すぎるため短距離飛行にしか使用できない。それに対し、水素は太陽光や風力を使用して生成でき、大きな動力を生み出すことができる。

燃料電池は水素と空気中の酸素を効率的に反応させて結合させるもので、生成されるのは電気、熱、水だけである。ただし、既存の航空機に燃料電池をすぐに搭載できるかというと、話はそう単純ではない。燃料電池は重くて複雑であり、水素には大型の貯蔵庫が必要だ。このようにスタートアップが解決しなければならない技術的な課題は多い。

ロシア生まれのミフタコフ氏は、1997年に物理学博士号の取得を目指して勉強するために渡米した。いくつかの会社を設立して、Google(グーグル)で勤務した後、2012年に、BMW 3シリーズ用の電気変換キットを製造するeMotorWerks(EMW、eモーターワークス)を設立した。

しかし2013年、BMWは同社の商標を侵害しているとしてEMWを非難した。ミフタコフ氏はEMWのロゴとマーケティング資料を変更すること、そしてBMWとの提携を示唆しないことに同意した。ミフタコフ氏はまた、BMWオーナーからの需要が落ち込んでいることにも気づいていた。

EMWはその後、充電器とスマートエネルギー管理プラットフォームの提供にビジネスの軸を移した。この新しい方向性はうまくいき、2017年にはイタリアのエネルギー会社Enel(エネル)がEMWを推定1億5000万ドル(約162億円)で買収した。しかしミフタコフ氏はここでも法的問題に直面した。

EMWのVPであるGeorge Betak(ジョージ・ベタック)氏はミフタコフ氏に対して2件の民事訴訟を起こし、ミフタコフ氏が特許からベタック氏の名前を除外したり、報酬を渡さなかったり、さらにベタック氏が自分の知的財産権をEMWに譲渡したように見せかけるために文書を偽造したりした、などと主張した。後にベタック氏は請求を一部取り下げ、2020年夏にこの訴訟は穏便な和解に至った。

2017年にEMWを売却してから数週間後、ミフタコフ氏は「ゼロエミッション航空」という目標を掲げ、カリフォルニア州サンカルロスでゼロアビアを法人化した。ミフタコフ氏は、既存の航空機の電気化への関心がBMWのドライバーよりも高い航空業界に期待していた。

第1段階:バッテリー

ゼロアビアが初めて公の場に登場したのは、2018年10月、サンノゼの南西80キロメートルにあるホリスター空港だった。ミフタコフ氏は、1969年型エルカミーノの荷台にプロペラ、電気モーター、バッテリーを据え付け、電気を動力として75ノット(時速140キロメートル)まで加速させた。

12月にゼロアビアは6人乗りのプロペラ機であるPiper PA-46 Matrix(パイパーPA-64マトリックス)を購入した。このプロペラ機は後に英国で使用することになる航空機と非常によく似ている。ミフタコフ氏のチームは、モーターと約75キロワット時のリチウムイオンバッテリーをこれに搭載した。このバッテリーは、テスラのエントリーレベルのモデルYとほぼ同じ性能である。

2019年2月、FAAがゼロアビアに実験的耐空証明書を発行した2日後、電気だけを動力とするパイパーが初飛行に成功した。また、4月中旬には最高速度と最大出力で飛行していた。これで水素にアップグレードする準備は整った。

輸入記録によると、3月にゼロアビアは炭素繊維製水素タンクをドイツから取り寄せている。マトリックスの左翼にタンクを搭載した写真が1枚存在するが、ゼロアビアは飛行している動画を公開したことがない。何か不具合が起こっていたのだ。

ゼロアビアのR&Dディレクターが、パイパーオーナー向けのフォーラムに次のようなメッセージを投稿したのは7月のことだ。「大事に扱ってきたマトリックスの翼が破損しました。損傷が激しく、交換しなければなりません。すぐにでも部品取り用に販売される『適切な航空機』をご存知の方はいませんか」。

ミフタコフ氏は、今までこの損傷について明言してこなかったが、今回、ゼロアビアが航空機に手を加えている最中にこの損傷が発生したことを認めた。この損傷の後、その航空機は飛行しておらず、ゼロアビアはシリコンバレーにおけるスタートアップとしての活動を終えようとしていた。

英国に移る

ミフタコフ氏は、ゼロアビアの米国での飛行テストを中断し、英国に目を向けた。英国のBoris Johnson(ボリス・ジョンソン)首相が「新たなグリーン産業革命」に期待しているからだ。

2019年9月、英国政府が支援する企業であるAerospace Technology Institute(航空宇宙技術研究所)(ATI)は、ゼロアビアが主導するプロジェクト「HyFlyer(ハイフライヤー)」に268万ポンド(約4億100万円)を出資した。ミフタコフ氏は、水素燃料電池を搭載し、飛行可能距離が450キロメートルを超えるパイパーを1年以内に完成させると約束した。出資金は、燃料電池メーカーのIntelligent Energy(インテリジェントエナジー)および水素燃料供給技術を提供するEuropean Marine Energy Centre(EMEC、ヨーロッパ海洋エネルギーセンター)との間で分配されることになっていた。

当時EMECの水素マネージャーだったRichard Ainsworth(リチャード・エインズワース)氏は「ゼロアビアは、電動パワートレインを航空機に組み込むというコンセプトをすでに実現しており、電力はバッテリーではなく水素で供給したいと考えていた。それがハイフライヤープロジェクトの中核となる目的だった」と述べている。

ATIのCEOであるGary Elliott(ゲイリー・エリオット)氏はTechCrunchに対し、ATIにとって「本当に重要」だったのは、ゼロアビアがバッテリーシステムではなく燃料電池を採用していたことだと述べ「成功の可能性を最大限に高めるには、投資を広く印象づける必要がある」と語った。

ゼロアビアはクランフィールドを拠点とし、2020年2月に、損傷したマトリックスと似た6人乗りのPiper Malibu(パイパーマリブ)を購入した。同社は6月までにマリブにバッテリーを取り付けて飛行したが、政府は安心材料をさらに求めていた。TechCrunchが情報公開請求によって入手したメールに対し、ある政府関係者は「ATIの懸念を確認し、それに対して我々ができることを検討したいと考えている」と書いた。

インテリジェントエナジーのCTOであるChris Dudfield(クリス・ダッドフィールド)氏はTechCrunchに対し、ハイフライヤープログラムは順調に進んでいるが、同社の大型燃料電池が飛行機に搭載されるのは何年も先のことであり、同氏はゼロアビアの飛行機を見たことさえもないと語った。

ゼロアビアは、インテリジェントエナジーとの提携により、英国政府から資金を確保しやすくなったが、マリブの動力の確保は進まず、燃料電池の供給会社を早急に見つける必要があった。

第2段階:燃料電池

ゼロアビアは8月、政府関係者に「現在、水素燃料による初の飛行に向けて準備を進めている」と文書で伝え、国務長官を招待した。

ミフタコフ氏によると、ゼロアビアのデモ飛行では、航空機としては過去最大となる250キロワットの水素燃料電池パワートレインが使用された。これはパイパーが通常使用している内燃機関と匹敵する出力であり、飛行において出力を最も必要とする段階(離陸)においても十分な余力が残る数値である。

ゼロアビアは燃料電池の供給会社を明かしておらず、250キロワットのうちどの程度が燃料電池から供給されたのかも詳しく説明していない。

しかし、デモ飛行の翌日、PowerCell(パワーセル)というスウェーデンの企業が、プレスリリースで、同社のMS-100燃料電池が「パワートレインに不可欠な部品」だったことを発表した。

MS-100の最大出力はわずか100キロワットであり、残りの150キロワットの供給源は不明である。つまり、離陸に必要な電力の大部分は、パイパーのバッテリーから供給されたとしか考えられない。

ミフタコフ氏は、TechCrunchのインタビューにおいて、9月のフライトではパイパーが燃料電池だけで離陸できなかったことを認めた。同氏によると、飛行機のバッテリーはデモ飛行中ずっと使用されていた可能性が高く「航空機に予備的な余力」を供給した。

燃料電池車でも、バッテリーを使用して、出力変化を安定させたり一時的に出力を高めたりするものは多い。しかし、いくつかのメーカーは、動力源について高い透明性を持たせている。飛行機に関していうと、離陸時にバッテリーを利用する上での問題点の1つは、離陸時に使用したバッテリーを着陸まで積載し続けなければならないことだ。

Universal Hydrogen(ユニバーサルハイドロジェン)は、別の航空機向けに2000キロワットの燃料電池パワートレインを共同開発している企業である。同社のCEO、Paul Eremenko(ポール・エレメンコ)氏は「水素燃料電池航空機の基本的な課題は重量だ。バッテリーはフルスロットル時のみに使用されるものであり、これをいかに小さくするかが軽量化の鍵になる」と述べている。

2月、ゼロアビアのVPであるSergey Kiselev(セルゲイ・キセレフ)氏は、バッテリーを完全になくすことが同社の目標だと語った。また、Royal Aeronautical Society(王立航空協会)に対し「離陸時の余力を確保するためにバッテリーを利用することは可能だ。しかし、航空機に複数の種類の駆動力や動力貯蔵システムを使用するとなると、認証の取得が著しく困難になるだろう」と話した。

今回、ゼロアビアは、出力の大部分をバッテリーから供給することで、投資家や英国政府から注目を集めたデモ飛行を成功させることができた。しかし、これにより、有償顧客を乗せた初飛行が遅くなる可能性がある。

排熱の問題

熱を排出する装置がなければ、燃料電池は通常、過熱を防ぐために空冷または水冷の複雑なシステムが必要になる。

「これこそが鍵となる知的財産であり、単に燃料電池とモーターを購入して接続するだけではうまくいかない理由なのです」とエレメンコ氏はいう。

ケルンにあるGerman Aerospace Center(ドイツ航空宇宙センター)では、2012年から水素燃料電池航空機を飛ばしている。特注設計された現在の航空機HY4は、4人の乗客を載せて最大で720キロメートル飛行できる。65キロワットの燃料電池には、冷却用の通風を確保するために、空気力学的に最適化された大きな流路を利用した水冷システムが搭載されている(写真を参照)。

画像クレジット:DLR

100キロワットの同様のシステムでは、通常、HY4のものより長く、3割ほど大きい冷却用インテークが必要になるが、ゼロアビアのパイパーマリブには追加の冷却用インテークがまったくない。

「離陸時の対気速度や巡航速度に対して、開口部が小さすぎるように見えます」というのは、ゼロアビアと共通する取引企業があることを理由に匿名でコメントを述べた航空燃料電池エンジニアである。

「熱交換器の配置や設定を試す必要はありましたが、熱を処理するために航空機の形状を再設計する必要はありませんでした」とミフタコフ氏は反論した。また同氏は、飛行中に燃料電池は85〜100キロワットの出力を供給していたと主張した。

ゼロアビアは、TechCrunchのインタビューに答えた後、パイパーの燃料電池が地上試験中に最大70キロワットの出力を供給している様子を示すビデオを公開した。地上試験中の70キロワットは、飛行中であればさらに高出力になる。

もちろん長距離飛行での実証は必要だが、ゼロアビアは、他のエンジニアを何年も悩ませてきた排熱問題を解決したのかもしれない。

次の飛行機:規模と性能の拡大

9月には、Robert Courts(ロバート・コート)航空大臣がクランフィールドでデモ飛行を見学し、飛行後に「ここ数十年間の航空業界で最も歴史的な瞬間の1つであり、ゼロアビアの大きな成果だ」と語った。タイム誌は、2020年の最大の発明の1つとしてゼロアビアの技術を挙げた。

ハイフライヤーの長距離飛行はまだこれからだというのに、12月、英国政府はハイフライヤー2を発表した。これは1230万ポンド(約18億4000万円)のプロジェクトであり、ゼロアビアが大型の航空機に600キロワットの水素電気パワートレインを提供するというものだ。ゼロアビアは、19人乗りの飛行機を2023年に商業化することで合意している(現在は2024年に変更されている)。

同日、ゼロアビアは2130万ドル(約23億円)のシリーズAの投資家陣営を発表した。これには、Bill Gates(ビル・ゲイツ)氏のBreakthrough Ventures Fund(ブレイクスルーベンチャーズファンド)、Jeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏のAmazon Climate Pledge Fund(アマゾン気候誓約基金)、Ecosystem Integrity Fund(エコシステムインテグリティファンド)、Horizon Ventures(ホライゾンベンチャーズ)、Shell Ventures(シェルベンチャーズ)、Summa Equity(スマエクイティ)が参加している。3月下旬には、これらの投資家からさらに2340万ドル(約25億3000万円)の資金を調達することを発表した。これにはAmazonは参加していないが、英国航空が参加している。

ミフタコフ氏によると、マリブはこれまで約10回のテスト飛行を終えているが、新型コロナウイルス感染症のため、英国での長距離飛行は2021年後半に延期されたという。また、ハイフライヤー2については、当初はバッテリーと燃料電池を半分ずつ使用する予定だが「認定取得可能な最終飛行形態では、600キロワットすべてを燃料電池でまかなう」とのことだ。

19人乗りの航空機から始まり、2026年には50人乗り、2030年には100人乗りと、約束した航空機を完成させることが、ゼロアビアにとって厳しい挑戦となることは間違いない。

水素燃料電池トラックの公開デモを誇張し、株価の暴落やSECによる調査を招いたスタートアップであるNikola(ニコラ)のせいで、水素燃料電池にはいまだに胡散臭いイメージがある。ゼロアビアのような野心的なスタートアップにとって最良の選択肢は、投資家や、持続可能な空の旅の可能性に期待している人たちの期待を弱めることになっても、現在の技術と今後の課題について透明性を高めることだ。

ポール・エレメンコ氏は「ゼロアビアの成功を切に願っている。我々のビジネスモデルは非常に相補的であり、力を合わせれば、水素航空機を実現するためのバリューチェーンを築くことができると考えている」と述べている。

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(文:Mark Harris、翻訳:Dragonfly)

フォードが約200億円かけてEV向けバッテリーセル開発ラボを新設

Ford Motor Company(フォード・モーター・カンパニー)はバッテリーセルとバッテリーを開発して製造するために1億8500万ドル(約201億円)のR&Dバッテリーラボを設置する。おそらく自社でバッテリーセルをつくることに向けた最初のステップだ。またラボの設置は、同社がバッテリーで走る電気自動車への移行において、もはや賭けではないという、消費者や他の自動車メーカーに向けた別のシグナルだ。

同社の幹部は、Fordがいつバッテリー製造をスケール展開するのか、タイムラインを示すのは却下したが、同社がこの施設をそうした未来の基礎を築くためのものとする意向であるのは明らかだ。

ミシガン州の南東に立地するFord Ion Parkでは、従業員150人超がバッテリーテクノロジー開発や研究、製造に取り組む予定だ。施設の面積は約20万平方フィート(約1万8580平方メートル)で、2022年末に開所する。同施設は近くのミシガン州アレンパークにある同社のバッテリーベンチマークテストラボのサポートを受ける。アレンパークのラボではすでにバッテリーセル製造と化学をテストしている。また、周辺ではディアボーンに同社の製品開発センターが、ロスビルにバッテリーセル組立と電動モーターのプラントがある。

新設する施設は、電動システムエンジニアリング担当ディレクターを務めるAnand Sankaran(アナンド・サンカラン)氏が率いる。サンカラン氏は施設について、次世代のリチウムイオンとソリッドステートのバッテリーを含む「ラボスケールとパイロットスケールのセル組立」のための「学習実験室」と形容した。

Fordは段階に分けてのBEV(Battery Electric Vehicle、二次電池式電気自動車)への移行を考えている、と同社のプロダクトプラットフォームオペレーション責任者のHau Thai-Tang(ハウ・タイ-タン)氏は説明した。BEVがアーリーアダプターに購入される最初の段階では、Fordは外部のサプライヤーパートナーと取り組んでいる。同社は現在、さらに多くのプロダクトをマーケットに投入し、BEVがマーケットシェアを拡大する第2段階に備えている。「第2段階に向けた次のトランジションの準備では、我々はFordが最終的に垂直統合へ向けたフレキシビリティと選択を持てるようにしたいと考えています」とタイ−タン氏は話した。

「電動革命をリードするための当社の計画は明らかに、当社がバッテリーエネルギーの密度における達成進捗具合とコストに左右されます」と同氏は4月27日に記者団に述べた。

「Ford Ion Parkチームの結成は、Fordが垂直統合して将来バッテリーを製造することにおける成功要因です」とも話した。「すばらしい走行距離、低コスト、高い品質を備えた大容量のバッテリーセルの供給と展開をうまくコントロールするのに役立ちます」。

これはバッテリーセルの米国内製造にとって大きな後押しとなりそうだ。バッテリーセル製造は現在、パナソニック(Teslaの主なサプライヤー)や、韓国拠点のLG化学、Fordの現在のバッテリーサプライヤーであるSK Innovationなどアジアの企業に独占されている。経営陣は、グローバルパンデミックと半導体不足によって、国内で管理されたサプライチェーンを持つことの重要性が浮き彫りになった、と述べた。

「バッテリーに関しては、かなり資本集約的な事業となることはわかっています。世界トップのサプライヤーは売上高の大きな部分をR&Dにあて、バッテリープラントを建設して動かすのに必要な資本的支出はかなりの額です。ですので、これを踏まえると、Ford専用の施設を持つために必要なスケールとボリュームは大きな考慮事項です。このトランジションの進行をどれくらい強気にとらえているかについてこれまで語ってきました。我々はいま、どこかの地点で垂直統合がすばらしいレベルであることを楽しむために十分なスケールがある、という地点にいます」とタイ-タン氏は述べた。

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nariko Mizoguchi

電動スクーターの台湾Gogoroが世界最大規模のインド二輪メーカーHero MotoCorpと提携

Gogoro(ゴゴロ)の交換・再充電可能なバッテリーで動く電動スクーターは現在、同社のホームマーケットである台湾の月間販売の約4分の1を占めている。しかし共同創業者でCEOのHorace Luke(ホレイス・ルーク)氏が頻繁に聞かれる質問の1つが、Gogoroがいつ他国でスクーターを展開するのか、というものだ。

「私はいつも『準備してます、準備してます、準備してます』と言ってきました」とTechCrunchに語った。そしてGogoroは現地時間4月21日、世界最大の二輪車メーカーの1社で、本社を置くインドでマーケットリーダーであるHero MotoCorpとの戦略的提携を発表することでその質問に答えた。

GogoroとHero MotoCorpの提携にはインドにおけるバッテリー交換ネットワークを構築する合弁会社の設立が含まれる。Hero MotoCorpはまた、Gogoroのテクノロジーをベースとする電動二輪車をHero MotoCorpブランドで立ち上げる。これはHero MotoCorpにとって初の電動車両となる(この提携はHero Electricとではない。Hero ElectricはHero MotoCorpの創業者の親戚が運営している別会社だ)。

提携では、Hero MotoCorpの他のマーケットに拡大する前にまずインドにフォーカスする(同社は世界40マーケットで事業を展開している)。初の車両がどのようなものになるのか、立ち上げ都市、価格など詳細は今後発表されるが、ルーク氏はGogoroとMotoCorpが「かなり急速に準備中」だと述べた。

ルーク氏は戦略的提携を、エネルギー効率のい車両を生産したい企業にとってのターンキーソリューションとして、バッテリー交換とスマートモビリティプラットフォームになるというGogoroの目標の認証だと表現した。

「当社は、いつかHeroのような大手企業を誘うことができると期待してテクノロジー、能力、ビジネスモデルをデザインしました」とルーク氏は語った。

最初のGogoroスマートスクーターは2015年に立ち上げられた。以来、提携企業が電動スクーターを自前のブランドで生産できるようヤマハ、PGO、A-Motorなどのメーカーと提携を結んだが、Gogoroの海外展開はかなり遅々としたものだった。例えば韓国での納車すでに廃止となった欧州のシェアリングサービスCoupとの提携などだ。米国での初の製品展開はスクーターではなく、電動自転車Eeyoだった。

GogoroとMotoCorpは1年以上協議してきた。ルーク氏は戦略的提携を同社がこれまでに結んだ契約の中で最も重要なものの1つだとした。

「大きな変化を起こすために、我々は本当に大規模な採用を必要としています。軽量のパーソナルモビリティを発進させるために、台湾は当社にとってテクノロジーを開発して改良し、プラグをつなげて充電するのではなく交換して乗車するテクノロジーが可能であることを世界に示すための最高のパイロットマーケットでした」とルーク氏は話した。

しかしインドは明らかに、地理的、そして人口という点でも台湾よりかなり大きなマーケットだ。インド政府は補助金プログラムで電動車両を推進したいと考えており、人々にとって同国の燃料コストの高さもガソリンから電気へと切り替えるインセンティブとなっている。しかしながら、多くの消費者にとって大きな障害は「航続距離の心配」、つまり1回のフル充電でどのくらい長く走行できるかについての懸念だ。

だからこそGogoroとMotoCorpの交換ステーション合弁会社は重要だ。台湾ではGogoroは37万5000人超のライダーを抱え、バッテリー交換・充電ステーション2000カ所で1日あたり26万5000回のバッテリー交換が行われる。この割合は鍵を握るセールスポイントだ。というのも、ライダーはGogoroのスマホアプリを通じてすばやく近くの交換ステーションを探し出せる。

Gogoroのバッテリー交換ステーションの1つ

Gogoroのバッテリーと充電ステーションはGogoroのネットワーククラウドサービスにつながっていて、バッテリーの状態を監視し、いかに早くバッテリーが充電されるかを管理している。これにより、バッテリーは長持ちする。立ち上げ後の6年間でスマートバッテリーをまだ1つもリタイアさせていない、とルーク氏は話した。Gogoroネットワークのデータはまた、どこにステーションを設置すべきかも示す。インドではGogoroとMotoCorpは人口密度の高いエリアでまず事業を開始し、その需要に基づいてステーションを加える。台湾のネットワークで取ったアプローチに似ている。

インドの後、GogoroとMotoCorpは他のマーケットへの進出も計画しており、Gogoroの海外展開を一層促進する。

「この提携で本当に重要なことは、二輪マーケットにおけるMotoCorpの影響力、そして新興マーケットにおける二輪マーケットの重要性です」とルー氏は話した。

報道機関向けのリリースの中で、MotoCorpの会長兼CEOのPawan Munjal(パーワン・ムンジャル)博士は戦略的提携は研究の延長であり、開発によってすでに電動車両のポートフォリオが作られつつある、と述べた。

「二輪におけるHeroのリーダーシップ、グローバル展開、イノベーションの原動力、そして台湾と世界で過去数年にわたって展開されてきた交換ビジネスモデルにおけるGogoroのリーダーシップを持ち寄り、今日は我々の旅におけるもう1つの大きなマイルストーンです」とムンジャル氏は付け加えた。

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タグ:GogoroHero MotoCorp台湾インドバッテリー電動バイク

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(文:Catherine Shu、翻訳:Nariko Mizoguchi

GMが高性能なリチウム金属バッテリー開発SESの約150億円資金調達をリード

General Motors(ゼネラルモーターズ)は、リチウム金属電池デベロッパーSESの1億3900万ドル(約150億円)の資金調達をリードすることで、大手車メーカーが繰り広げているさらに高性能な電気自動車向けバッテリーの開発競争に加わる。

VolkswagenにはQuantumScapeがあり、FordはSolidPowerに投資し(Hyundai、BMWとともに)、そして今、米国と欧州で最も大きな自動車メーカーであるGMがSESに賭ける。

「当社はR&D開発を超えています」とSESのCEOであるHu Qichao(フー・チーチャオ)氏はTechCrunchとのインタビューで述べた。「この資金調達の主な目的は1つには主要材料である陽極と陰極のリチウム金属電解液の改良を図ることです。2つめに、現在のセルの大きさをiPhoneのバッテリーサイズから車で使えるものへと改善することです」。

そして3つめの要素もあるとフー氏は話した。それは、同社のセルのパフォーマンスを監視・管理するアルゴリズムの能力を高めることだ。「これは当社、そしてOEMパートナーが気にかけていることです」とフー氏は説明した。

GMからの投資は、GMとの6年近くにわたる協業の集大成だと同氏は述べた。「当社は2015年にGMとの協業を始めました。今後3年間で我々は標準の自動化承認プロセスに取り組みます。『Dサンプル』を通じて『A』サンプルから『B』サンプルへと移行するものです」。SESの車載バッテリーの商業化前の最終テスト段階だ。

一方、米国のEV販売で首位を走るTeslaはバッテリーをよりパワフルで効率的なものにするためにバッテリーのフォームファクターに目を向けていて、使っている化学はさほど違わないとフー氏は話した。全固体電池は、バッテリーをよりパワフルでリサイクルしやすく、潜在的に一層安定したものにするバッテリーテクノロジーにおける段階的な変化を示している。

Mark Harris(マーク・ハリス)氏は2021年初めにTechCrunchで次のように述べている

多くの種のSSB(全固体電池)がありますが、 それらはすべてバッテリーの陽極と陰極の間で動く電子(電気)のための液体電解質を欠いています。リチウムイオンバッテリーの液体電解質は電極の構成物質、バッテリーの形やサイズを制限します。液体電解質は通常は可燃性であるため、リチウムイオンバッテリーは熱で暴走しやすく、爆発さえします。SSBはさほど可燃性ではなく、より多くのエネルギーをためて早く動かすために、金属電極や複雑な内部デザインを使うことができます。これにより高パワー、そして急速充電対応となります。

SESの取り組みは、GMからだけではなくバッテリーパック大手SK Innovation、シンガポール拠点の政府系投資会社Temasek、半導体メーカーApplied Materialsのベンチャーキャピタル部門Applied Ventures、中国大手自動車メーカーShanghai Auto、投資会社Vertexなど以前の投資家の注意も引きつけた。

「GMは急速にバッテリーセルのコストを下げ、エネルギー密度を改善しています。SESのテクノロジーとの取り組みは、低コストで走行距離を延ばしたい顧客により良いEVパフォーマンスを提供する、驚くほどの潜在的可能性を秘めています。GMや他企業による今回の投資によってSESは取り組みを加速させ、事業を拡大することができます」とGMエグゼクティブバイスプレジデントでGM Venturesのテクノロジー担当最高責任者兼プレジデントのMatt Tsien(マット・ツィン)氏は述べた。

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タグ:General MotorsSES資金調達バッテリー電気自動車

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Nariko Mizoguchi

GMとLG化学の2つめのEVバッテリー工場は2023年後半開所予定

GM(ゼネラル・モーターズ)とLG Chem(LG化学)は米国時間4月16日、米国で2つめとなるバッテリーセル工場を設置する計画を発表した。23億ドル(約2500億円)をかけてテネシー州スプリングヒルに建設し、GMが2020年代半ばまでに立ち上げる計画の電気自動車(EV)30モデルに搭載するセルを生産する。

GMの既存のスプリングヒル工場の隣に設置されるプラントの建設は間もなく始まる、と同社の会長兼CEOのMary Barra(メアリー・バーラ)氏は記者会見で述べた。バッテリー工場は2023年後半に完成し、1300人を新規雇用する。

フル操業するようになれば、ジョイントベンチャーの2つのバッテリー工場の生産能力は70GWhを超える。これはネバダ州にあるTesla(テスラ)のギガファクトリーの2倍だとLG化学エネルギーソリューションのCEOであるJong Hyun Kim(キム・ジョンヒョン)氏は指摘した。ネバダ州スパークスにあるTeslaの工場は部分的にパナソニックとの提携によるもので、生産能力は35GWhだ。

GMのEVへのシフトの基礎となるのはUltiumプラットフォームと、スプリングヒル工場で作られる予定のUltiumリチウムイオンバッテリーだ。これらの新しいバッテリーはレアアースのコバルトの使用が少なく、現在のGMのバッテリーよりもエネルギー密度が高くて小型であるために効率のいい共通セルデザインとなる、とバーラ氏は話した。

「この多用途性は、幅広い車種により多くのバッテリーパワーを搭載し、顧客に良い価格で提供できることを意味します。何百万という顧客がEVを所有できるようサポートするEVテクノロジーにおける真の革命であり、暮らしや世界を変えます」。

GMは少なくとも10年間、リチウムイオンとエレクトロニクスのサプライヤーとしてLG化学を使ってきた。両社は2009年から協業を始めた。GMがChevy Bolt EVを開発して発表した際に両社の関係は深まった。2019年にGMとLG化学はバッテリーセルを大量生産するために合弁企業を立ち上げ、GMはEVへと軸を移し始めた。当時、両社は新しい合弁会社に最大23億ドルを投資し、オハイオ州北東部のローズタウンエリアにある製造工場敷地にバッテリーセル組立プラントを設置し、1100人超を新規雇用すると述べていた。

ローズタウンのUltium Cells LLCバッテリーセル工場製造施設の鉄骨工事は2020年7月に始まった。同工場は300万平方フィート(約27万8700平方メートル)の広さがあり、Ultiumバッテリーセルとパックを大量生産する。ローズタウン工場の年間生産能力は30GWhだ。

GMの基礎を成す電動アーキテクチャとともにローズタウン工場で生産されるバッテリーは、Cadillac、Buick、Chevrolet、GMCブランド、そして2020年1月に発表された自動走行シャトルCruise Originなど幅広いプロダクトで使用される。Cadillac Lyriq EVと、今秋発表され、2021年第4四半期に生産が始まる全電動のGMC HummerはUltiumバッテリーシステムを搭載する。GMはLyriqを2021年8月6日にバーチャルイベントで発表する計画だ。

「Ultium」と呼ばれるこのモジュラーアーキテクチャ(バッテリーと同じ名称だ)は19種のバッテリーとドライブユニットのコンフィギュレーション、容量50kWh〜200kWhの400〜800Vのパック、そして前輪・後輪・四輪駆動のコンフィギュレーションに対応する。新しいモジュラーアーキテクチャの核心は新工場で製造される大判ポーチのバッテリーセルとなる。

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タグ:GMLG化学工場電気自動車バッテリーUltium

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(文:Kirsten Korosec、翻訳:Nariko Mizoguchi

バナジウムイオン電池開発の韓国Standard Energyがソフトバンクから約9.7億円調達

バナジウムイオン電池を開発しているStandard Energyは、SoftBank Ventures Asia(ソフトバンク ・ベンチャー・アジア、SBVA)の出資により890万ドル(約9億7000万円)のシリーズCを調達したと発表した。韓国を拠点とする同社は、リチウムイオン電池と比較して発火の危険性が少ないことや、バナジウムの調達が容易であることなどを利点として挙げている。特に後者は、電気自動車メーカーがリチウムイオン電池の不足に直面していることから、重要なセールスポイントとなる。

しかし、Standard EnergyのCEOであるBu Gi Kim(キム・ブギ)氏は「リチウムイオン電池の代替ではなく、お互いに補完し合う関係にある」と述べている。バナジウムイオン電池は、高エネルギー、高性能、安全性を備えているが、リチウムイオン電池ほどコンパクトではない。

リチウムイオン電池はEVやスマートフォンなどのコンシューマデバイスのような、移動が必要なハードウエアには今後も使用されるだろうが、バナジウムイオン電池は、風力・太陽光発電所やEVの超高速充電ステーションなど「定置型」の顧客に適している(キム氏によると、Standard Energyは近々、ソウルの超高速充電ステーションに同社の電池を出荷する予定だという)。

韓国科学技術院(Korea Advanced Institute of Science and Technology、KAIST)とマサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者たちによって2013年に設立されたStandard Energyは、これまでに総額2250万ドル(約24億5000万円)を調達している。同社の主な潜在顧客の1つはエネルギー貯蔵システム(ESS)分野で、同社によるとESSS市場は、今後5年間で現在の80億ドル(約8714億円)から350億ドル(約3兆8123億円)への成長が見込まれているという。

「リチウムイオンの不安定な電池性能のために、多くの再生可能エネルギープロジェクトが各地でスローダウン、あるいは中断されています。VIB(バナジウムイオン電池)は、リチウムイオンのようにコンパクトにすることはできません。しかし、再生可能エネルギー発電所を含むESSプロジェクトやソリューションでは、当社の製品をシステムに組み込むスペースが十分にあります」とキム氏はいう。

Standard Energyは実験室、認証された電池性能試験場、実際の運用を含めて、すでに合計100万時間以上の電池試験を行っている。キム氏は、この性能データによりバナジウムイオン電池の採用を検討する顧客を説得できる、と同社は確信していると述べた。

SoftBank Ventures AsiaのシニアパートナーであるDaniel Kang(ダニエル・カン)氏は、プレスリリースの中でこう述べた。「既存のESS市場は、急速に拡大する需要と、製品の安全性や効率性の問題により、インバランス状態にありました。Standard Energyは、革新的な素材と大規模な製造能力をともなう設計技術により、世界のESS市場に新たな基準をもたらすと期待されています」。

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(文:Catherine Shu、翻訳:Aya Nakazato)

バッテリーのリサイクルと製造を商業化するBattery Resourcersが約22億円調達

輸送市場の電動化が進むにつれ、メーカーは今後10年間に道路から湧き出てくる何万トンもの使用済みバッテリーの処分方法に頭を悩ませ始めている。

Battery Resourcers(バッテリー・リソーサーズ)は、一見簡単そうなソリューションを提唱している。リサイクルだ。しかしこの会社はそこで終わらない。リサイクルした材料をニッケルマンガンコバルト・カソード(陰極)にしてバッテリー製造メーカーに売り戻す「閉じたループ」を開発した。さらに、アノード(陽極)に使われているグラファイトを回収・精製してバッテリーグレードにするプロセスも開発している。

Battery Resourcersのビジネスモデルは新たなラウンドへの投資家の注目を集め、2000万ドル(約22億円)のシリーズBラウンドをOrbia Venturesのリードで完了し、At One Ventures、TDK Ventures、TRUMPF Venture、Doral Energy-Tech Venturtes、およびInMotion Venturesも出資した。Battery Resourcers CEOのMike O’Kronley(マイク・オクロンリー)氏は今回の企業評価額を明らかにしていない。

カソード、アノードと電解槽はバッテリー構造の主要構成品であり、オクロンリー氏はTechCrunchに、このリサイクル・製造プロセスが他のリサイクル業者との差別化要因だと語った。

「私たちがこの業界で革命を起こそうとしているいうとき、それは私たちがやっているのはカソード活物質を作ることだという意味であり、他の多くのリサイクル業者がやっているようなバッテリーの金属を回収するだけではありません」と彼はいう。「私たちはこれらの材料を回収し、まったく新しいカソード活物質を作るとともに、グラファイト活物質の回収と精製も行っています。2種類の活物質はバッテリー製造メーカーに売られて新しいバッテリーに使われます」。

「他のリサイクル業者は金属の回収だけに集中しています。それは銅であり、アルミニウムであり、ニッケルであり、コバルトです。彼らはこれらの金属を汎用品としてそれを必要としているどんな業界にでも売っています」と同氏は付け加えた。「だからバッテリーに戻ることも戻らないこともあります」。

このアプローチによって、バッテリー業界は発掘金属への依存を減らせる可能性がある。今後高まるだけだと予想されている依存性だ。2020年12月に発表された研究によると、EV普及の速さとバッテリー科学の進歩の程度によっては、コバルトの需要は17倍、ニッケルは28倍になるかもしれない。

これまで同社は、マサチューセッツ州ウースターのデモンストレーション規模の施設で運営してきたが、ミシガン州ノバイの施設へと拡大し、分析試験と材料特性解析を行っている。2か所合わせて同社は年間15トンのカソード材料を製造する能力を持つ。今回の資金調達は、商業規模施設の開発に役立てられ、Battery Resourcersは声明で、年間1万トンのバッテリーを処理できるように能力を強化すると言った。これはEV約2万台分に相当する。

この独自のリサイクルプロセスのもう1つの特徴は、旧型新型両方のEVのバッテリーを処理して、現在のバッテリーで使われている最新タイプのカソードを作れることだ。「つまり、Chevy Voltの10年前のバッテリーから取り出した金属を再構成して、現在使われているハイニッケル・カソード活物質を作ることができます」と広報担当者がTechCrunchに説明した。

Battery Resourcersはすでに自動車メーカーや家電メーカーから問い合わせを受けている、とオクロンリー氏は語ったが、それ以上の詳細は明かさなかった。しかし、Jaguar Land Roverのベンチャーキャピタル部門であるInMotion Venturesは声明で、今回のラウンドへの参加は「重要な意味のある投資」であると語った。

「Battery Resourcers独自のエンド・ツー・エンド・リサイクリング・プロセスは、Jaguar Land Roverの2039年までにネットゼロカーボン企業になる旅を手助けするものです」とInMotionのマネージングディレクターであるSebastian Peck(セバスチャン・ペック)氏は語った。

Battery Resourcersは2015年にマサチューセッツ州のウースター工科大学からスピンアウトした後に設立された。同社は以前、全米科学財団、およびGeneral Motors、Ford Motor Company、Fiat Chrysler Automobilesのジョイントベンチャーである米国先進バッテリー協会の支援を受けていた。

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nob Takahashi / facebook

電気自動車RivianがSamsung SDIとバッテリーセル供給で提携

Amazon(アマゾン)が支援し2021年後半の市場投入を目指している電気自動車メーカーのRivianは、バッテリーセルのサプライヤーとしてSamsung SDIと提携したことを米国時間4月12日に発表した。

両社は買収金額や期間を明らかにしていないが、Rivianが同日に発表した声明の中で、Samsung SDIとは「車両開発プロセス全体を通じて」協力してきたと述べている。

Rivianは同社が「アドベンチャー・ビークル」と呼ぶ「R1T」ピックアップと「R1S」SUVは、極端な温度や耐久性の必要なユースケースに対応できるバッテリーモジュールとバッテリーパックが必要だと指摘した。

Samsung SDIはすでに他の自動車メーカーにバッテリーセルを供給している。2019年、同社はBMWグループと32億ドル(約3500億円)で10年間の供給契約を結んだ。

RivianのRj Scaringe(R・J・スカーリンジ)CEOは声明の中で「Samsung SDIのバッテリーセルの性能と信頼性を、私達のエネルギー密度の高いモジュールとパックの設計と組み合わせることに興奮しています。Samsung SDIのイノベーションとバッテリー材料の責任ある調達能力は、私達のビジョンとよく一致しています」と述べている。

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タグ:RivianバッテリーSamsung SDI電気自動車

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:塚本直樹 / Twitter

NASAが自律型軌道離脱システムや金星でも使えるバッテリーの研究に補助金

NASA(米航空宇宙局)のSBIRプログラム(中小企業技術革新研究プログラム)は定期的に将来有望な中小企業や研究プログラムに補助金を出している。そしてその補助金が交付されたリストを調べるのは常に興味深い。今回のリストから、特に説得力のあるもの、あるいは宇宙業界のミッションと産業にとって新たな方向を示している1ダースほどの企業と提案を紹介しよう。

残念なことに、現在提供できるのは下記のような短い説明だけだ。補助金対象となった企業や提案は往々にしていくつかの方程式やナプキンの裏に描いた図の他に提示するものがないほど初期段階にある。しかしNASAは目にすると将来有望な取り組みがわかる(SBIR補助金の申し込み方法についてはこちらに案内がある)。

自律型軌道離脱システム

Martian Sky TechnologiesはDecluttering of Earth Orbit to Repurpose for Bespoke Innovative Technologies(DEORBIT)で補助金を獲得している。これは低軌道のための自律的クラッター除去システム構築する取り組みだ。ある決まった量をモニターしながら侵入してきたものを除去し、建設や他のクラフトの占有のためにエリアを開けておくためのものだ。

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超音波の積層造形

3Dプリント、溶接、そして「軌道上サービス、組み立て、製造(OSAM)の新興分野にとって重要なものについて、さまざまなかたちの提案が数多くある。筆者が興味深いと思ったものの1つは、超音波を使っていた。筆者にはそれが奇妙に思えた。というのも明らかに宇宙では超音波が作用するための大気がないからだ(彼らもそれを考えたと想像する)。しかしこの種の反直感的なアプローチは真に新たなアプローチにつながり得る。

ロボットが互いを見守る

OSAMにはおそらく複数のロボットプラットフォームの調整が含まれ、それは地上においても十分難しいものだ。TRAClabsは有用な他のロボットの視点を提供できるところでなくても自律的にロボットを動かすことで「知覚フィードバックを高め、オペレーターの認知負荷を減らす」ための方法に取り組んでいる。シンプルなアイデアで、人間が行う傾向にある方法に適する。もしあなたが実際のタスクを行う人でなければ、あなたは邪魔にならないよう何が起きているかを目にするのに最適の場所に自動的に移動する。

3Dプリントされたホール効果スラスター

ホール効果スラスターは、特定のタイプの宇宙での操作でかなり有用となり得る電気推進の高効率なフォームだ。しかしそれらは特にパワフルではなく、既存の製造テクニックで大きなものを作るのは難しいようだ。Elementum 3Dは新たな積層造形テクニックと、好きなだけ大きなものを作ることを可能にするコバルト鉄の原料を開発することでそれを達成しようとしている。

金星でも使えるバッテリー

金星は魅力的なところだ。しかしその表面は地球で作られた機械にとっては極めて敵対的だ。鍛えられたPerseveranceのような火星ローバーですら数分でダメになり、華氏800度(摂氏426度)では数秒しかもたない。ダメになる数多くの理由のうち1つは機械で使われるバッテリーがオーバーヒートを起こし、おそらく爆発するということだ。TalosTechとデラウェア大学は大気中二酸化炭素を反応材として使うことで高温でも作動する珍しいタイプのバッテリーを手がけている。

ニューロモーフィック低SWaP無線

あなたが宇宙に行くときは重量と体積が重要で、宇宙に行ってからは電力が重要となる。だからこそ、既存のシステムをコンパクトで軽量、電力(低SWaP)代替のものに切り替える動きが常にある。Intellisenseは着信信号を並べ替えて管理するという部分を簡素化・縮小するためにニューロモーフィック(たとえば空想科学的な方法ではなく頭脳のような)コンピューティングを使って無線に取り組んでいる。1グラムでも軽くすることは宇宙船の設計者がどこでも取り組めることであり、パフォーマンスの向上を図れるところでもある。

LiDARで宇宙を安全なものに

AstroboticはNASAの今後数年の惑星間ミッションにおいて頻繁に目にする社名となりつつある。同社の研究部門は、宇宙船とローバーのような車両をLiDARを使ってより賢く安全なものにすべく取り組んでいる。同社の提案の1つが、評価と修理の目的でスパースシーン(例えば広大な宇宙に対して1つの衛星を他の衛星からスキャンするなど)の1つの小さな物体の画像にピンポイントでフォーカスするLiDARシステムだ。もう1つの提案には、惑星の表面上の障害物を特定するのにLiDARと従来の画像手法の両方に適用する深層学習テクニックが含まれる。これに従事しているチームは現在、2023年の月面着陸を目指しているVIPERウォーターハンティングローバーにも取り組んでいる。

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宇宙ファームのモニタリング

Bloomfieldは農業の自動モニタリングを行っているが、軌道上あるいは火星の表面での植物栽培は地上で行うものとやや異なる。同社は、微小重力といった特殊な状況で植物がどのように成長するのかを観察してきた小さな実験ファームのようなControlled Environment Agriculture(環境抑制農業)の拡大を願っている。植物の状態を絶えずモニターするのにマルチスペクトル画像と深層学習分析を使う計画で、宇宙飛行士は毎日ノートに「葉25が大きくなった」などと記録する必要はない。

レゴリスブロック

アルテミス計画(NASAの有人月探査)は月に「滞在する」ために行くというものだが、どうやって滞在するかはまだはっきりとわかっていない。研究者らは必要なものすべてを月に持ち込むことなしにロケットに燃料を補給して打ち上げる方法、そして月面ロケット打ち上げパッドを文字通りブロック1つ1つで建設するExploration Architectureを研究している。この研究は月の粉塵あるいはレゴリス(堆積物)を溶かし、必要なところに置けるよう焼いてブロックにする統合システムを提案している。これを実行するか、地球のブロックを持ち込むかになるが、後者の方はいい選択肢ではない。

その他いくつかの企業や研究機関もレゴリス関連の建設とハンドリングを提案した。これはいくつかあるテーマの1つで、テーマの一部は追求するにはあまりにも小さいものだ。

他にはエウロパ(木製の第2衛星)のような氷の世界を探検するためのテクノロジーというテーマもあった。金星のほぼ逆の氷の惑星は多くの点で「通常の」ローバーにとって致命的で、パワー、センシング、横断のためのアプローチで必要とされる条件が異なる。

NASAは新たなトレンドにオープンで、衛星や宇宙船においてもそうだ。こうした新たな技術の一群の管理は多くの作業を伴い、もしそうした新技術が1つの分散型マシンとして機能するとしたら(これは一般的な考えだ)、しっかりとしたコンピューティングアーキテクチャの支えが必要となる。多くの企業がこれを達成しようと取り組んでいる。

NASAの最新SBIR補助金リストの残り、そしてテクノロジートランスファープログラムのセレクションもこちらの専用サイトで閲覧できる。もし政府の補助金獲得に興味があるのなら、こちらの記事も読んで欲しい。

カテゴリー:宇宙
タグ:NASA補助金金星火星アルテミス計画バッテリーLiDAR

画像クレジット:Space Perspective

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Nariko Mizoguchi

リサイクルのRedwood MaterialsがProterraと提携しEV用バッテリーの原材料を持続可能なかたちで供給

この数年間で、電気自動車(EV)用バッテリー市場の廃棄物削減を目的とした企業が数多く現れた。なかでもその代表格がRedwood Materials(レッドウッド・マテリアルズ)だ。2017年にTesla(テスラ)の共同創設者J.B.Straubel(J・B・ストラウベルストラウベル)氏によって北米最大のリチウムイオンバッテリーのリサイクル企業を目指して創設されて以来、急速な拡大を遂げてきた。このほど同社は、商用EVのメーカーProterra(プロテラ)と手を組み、米国内のバッテリーのサプライチェーンを強化することで協力し合うことになった。

Redwoodと他の自動車メーカーとの提携が公表されたのは、これが初めてだ。

契約に従いProterraは、すべてのバッテリーをネバダ州カーソンシティーにあるRedwoodのリサイクル施設に送ることになる。両社は2021年1月にこの提携に合意したが、協議はそのリサイクル工程を詳しく知りたいとProterraがRedwoodに話を持ちかけた2020年夏から続いていた。その中でProterraは、Redwoodのネバダのリサイクル施設に足を運び、Proterraのバッテリーパックの処理が可能かどうかを確かめた。

「実に順調にいきました」とProterraのCTOであるDustin Grace(ダスティン・グレース)氏はTechCrunchに話した。グレース氏は、Teslaのストラウベル氏のもとで9年間働いていた人物だ。「その作業を見て最高に興奮しました。そこから、供給の本契約に向けて作業を開始したのです」。

提携関係を結んでからProterraは、およそ11.8トンのリサイクル用バッテリー素材をネバダに送り込んでいるが、これは将来の供給ペースを示すものではない。全体としてRedwoodは、1日60トン、年間2万トンのバッテリーを受け入れることができる。

Proterraの車両を動かすバッテリーは、車両の寿命が尽きるまで使えるように設計されているのだが、同社では6年後のバッテリーを交換を約束するリースプログラムも提供している。その時点でバッテリーには80〜90パーセントの充電容量が残されており、まだまだ十分に使える状態にある。この容量を活用するためProterraは、ネバダに送る前に、バッテリーに第二の人生を送らせる計画を立てている。例えばProterraの充電設備のための固定型蓄電システムでの利用だ。

「まずは、Proterraの再製造エンジニアリングチームがバッテリーの評価を行います。第二の人生が送れる状態だと認められると、そのための施設で利用されます。評価が低ければ、リサイクルに回されます」とグレース氏は話す。

耐用寿命を迎えたとき初めて、バッテリーはRedwoodに送られ、廃棄物処理によって価値ある原材料に再生される。商用EVの市場は2025年までに、年間の全売上げの50パーセントに達するとの予測もあり、膨大な数のバッテリーの再処理が必要となる。

このニュースは、Redwoodが電動バイクのメーカーSpecialized(スペシャライズド)とバッテリーのリサイクル契約を交わしたことを発表してから、わずか数週間後に届いた。Redwoodはすでに、Nevada Tesla Gigafactory(ネバダ・テスラ・ギガファクトリー)でパナソニックが行っているバッテリー生産による廃棄物の処理に加え、Amazon(アマゾン)ともEV用バッテリーやその他の廃棄物の処理でも合意している。こうした企業間提携を通じて、Redwoodは、原材料をメーカーに戻す循環型のバッテリー・サプライチェーンを構築しようとしている。同社はまた、一般消費者向け製品の電子部品やバッテリーの処理も受け入れており、利用者はRedwoodのウェブサイトにある住所に郵送できることになっている。

関連記事:リチウムイオン電池のリサイクルに挑戦するRedwood Materialsが古いスマホなどの受け入れ開始

今回の提携は、両社とも大規模で長期的な事業を考えている証拠だ。Redwoodの広報担当者はTechCrunch宛の声明で「EVバッテリーの完全閉ループのリサイクリングのためのソリューション開発」に注力すると話していた。つまり、コバルト、リチウム、銅などの原材料の供給源を、採鉱から、本当の意味での持続可能な、長期的に利用できるリサイクルに移行させるということだ。またストラウベル氏はかつて、Redwoodを世界最大のバッテリー原料メーカーにするという野望を公言していたこもある。

関連記事:アマゾンとパナソニックが注目するバッテリーリサイクルスタートアップRedwood Materials

米国内で調達できる、バッテリーに使用可能なグレードの原材料が増えれば、Proterraは、やがてはバッテリーセル製造の分野に拡大する機会を得るだろう。

「まだ始まったばかりですが、私たちはこの市場の大きくなった未来の姿に目標を定めていきます。それこそが、今このパートナーシップが存在する最大の意義だからです」とグレース氏。「我々の観点では、Proterra向けのセルの国内生産は、今後数年にわたる私たちのロードマップにおいて、実に重要な部分を担います。北米でバッテリーに使えるグレードの原材料を生成するというアイデアは、米国内でバッテリーを生産するというコンセプトの拡大に直接寄与します。そのため、今これを始めることが、近い将来のセルの国内生産計画を間違いなく支えることになると思っています」。

カテゴリー:EnviroTech
タグ:Redwood Materialsバッテリーリサイクル電気自動車

画像クレジット:PRNewsFoto/Proterra

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:金井哲夫)

次世代のEV充電ネットワーク構築を目指すSparkCharge

米国時間2月23日、モバイル充電バッテリー会社のSparkChargeは、AllStateとのパートナーシップ契約を発表した。これにより、同社が提供するサービスは車両サービスにまで拡大され、電気自動車の充電を次世代ギグエコノミーにおける同社の中核ビジネスにするという目標に向けてさらに前進する。

モバイル車両充電器を開発、設計、商品化した同社は、Shark Tank(シャーク・タンク、米国のテレビ番組)で、投資家のMark Cuban(マーク・キューバン)氏らが率いる500万ドル(約5億5000万円)の資金調達ラウンドで新しいモバイル充電デバイス、Roadie(ローディー)を商品化する。

SparkChargeが開発した120kWの急速充電器は、AllStateとノースカロライナ州ダーラムの車両サービススタートアップであるSpiffyを含むパートナーのネットワークを通じて、オンデマンドで提供される。顧客はローディーを使って、50~100マイル(約80〜160km)ごとに車両を充電することができる。ローディーは、SparkChargeの創設者であるJoshua Aviv(ジョシュア・アビブ)氏が構想中のより広範な充電ネットワークの中軸となる。

「アプリだけで、いつ、どこで、どれだけの充電が必要かを連絡し、料金を支払い、充電サービスを受けることができます」とアビブ氏は話す。

現在のところ、AllStateとSparkChargeの間の契約は、シカゴ、ロサンゼルス、サンフランシスコ、サンディエゴの4つの都市を対象としており、AllState(保険サービスおよびロードサイドアシスタンスサービスを提供)は約20台のポータブル充電器を発注している。

SpiffyやAllStateなどの企業を介したビジネスは、市場に参入する1つの方法ではあるものの、アビブ氏は個人事業主が顧客にオンデマンド充電サービスを提供できるようにしたいと考えている。

アビブ氏によると、オンデマンドの充電料金は1マイル(約1.6km)あたり約50セント(約54円)で、10ドル(約1080円)あれば十分に充電できる。

「私たちは根本的にまったく新しい充電ネットワークを構築しようとしています」とアビブ氏は話す。「急場をしのぐだけのネットワークではなく、常時利用可能で、従来の充電器よりも優れた高速なネットワークの構築です。許可や建設は必要ありません。顧客は充電ユニットを箱から取り出し、車に接続し、ボタンを押して充電を開始します。SparkChargeのサービスでは、すべての駐車場、すべての場所が充電ステーションになります。これは、従来のサービスよりもはるかに優れたネットワークです」。

この充電サービスを顧客に提供したい事業主は、機器代として月額約450ドル(約5万円)を支払う。するとバッテリーと必要な機器が提供され、SparkChargeのオンデマンドEV充電ビジネスを開始することができる。

「このビジネスは、誰もがEV所有者にサービスを提供できるように設計されています」とアビブ氏はいう。

マサチューセッツ州サマービルを拠点とするSparkChargeは、電気自動車の充電インフラストラクチャの現状に対するアビブ氏自身の情熱と欲求不満から生まれた。

充電インフラの欠如が、電気自動車の普及に向けて克服しなければならない主要な障害の1つだということは、ウォールストリートジャーナルの記事の通りである。

2020年9月と10月にアドボカシー団体Plug In America(プラグイン・アメリカ)が実施した調査によると、3500人の電気自動車ドライバーの半数以上が公共充電に問題があると回答している。テスラオーナー以外のドライバーにとってはさらに深刻な問題である。

Elon Musk(イーロン・マスク)氏が(何千人もの従業員と数多くのイノベーターや会社創立者とともに)作り上げたEVについて、何が真実であれ、テスラが、ほぼ適切な量の充電インフラストラクチャを備えて顧客をサポートすることに重点を置いて、多大な利益を得ていることは事実である。他の自動車メーカー、小売業者、独立充電サービスプロバイダーはやっと追いつき始めたに過ぎない。

Shellのような石油メジャーから、ディーゼル排気ガス不正問題の解決の一環として電気自動車の充電ネットワークを構築するために20億ドルを費やしたフォルクスワーゲンのような自動車メーカーに至るまで、さまざまな企業がネットワークを構築したり、準備を進めたりしている。

関連記事:Shellが2025年までにEV充電ステーションを50万カ所に設置

2013年にシボレーボルトを購入して以来、電気自動車に乗り続けているアビブ氏にとって、問題は明らかだった。同氏はシラキュース大学の学生だった2014年にSparkChargeを立ち上げるが、大学の指導教官は、過去に環境保護庁の理事を務めており、電気自動車の熱烈な支持者であった。

アビブ氏は大学卒業後もポータブル充電ステーションの開発に取り組み続け、さらに流通および販売のプラットフォームとサービスプロバイダーのネットワークを構築した。これがSparkChargeのルーツである。

当初、同社はロサンゼルスのクリーンテック・インキュベーターなどのグループや、Techstars Boston、Techstars、Steve Case(スティーブ・ケース)氏のRise of the Restファンド、ケース氏の投資会社であるRevolution、PEAK6 Investments、Buffalo、ニューヨークを拠点とするアクセラレーターである43North、Mark Cuban(マーク・キューバン)氏のような投資家の支援を受けていた。

「現在利用できる充電インフラには多くの欠陥があることがわかりました」とアビブ氏は話す。この欠陥には、充電インフラを維持するためのダウンタイム、充電ネットワークの拡大にかかる時間、充電器のメンテナンスやサポートの不足などが含まれる。

「これらの充電サービスを進展させようという大きな動きがあります」と同氏。「電気自動車がインフラストラクチャのバックアップなしに街中を走るのは望ましくありません。これから競争が始まるとは思いますが、充電スタンドではなく、オンデマンドで充電を受けることができるのであれば、SparkChargeを使用してEVを運転したいという消費者はもっと増えるだろうと考えています」。

カテゴリー:モビリティ
タグ:SparkChargeバッテリー充電ステーション電気自動車

画像クレジット:Westend61 / Getty Images

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Dragonfly)

1000億円超を調達しながら失敗に終わったEVのバッテリー交換ビジネスを復活させるAmple

今をさかのぼること13年とわずか、当時世界で最も力のあるソフトウェア企業の1つだったSAPでCEOへの道を歩んでいたShai Agassi(シャイ・アガシ)氏は、それまで専門的なキャリアを積み重ねてきた会社を離れ、Better Place(ベター・プレイス)というビジネスを始めた。

そのスタートアップは、勃興期の電気自動車市場に革命を起こし、電気自動車のバッテリー切れという恐怖を過去のものにするはずだった。消耗したバッテリーを充電されたばかりのものに交換する、自動化された電池交換ステーションのネットワークというのが同社のうたい文句だった。

アガシ氏の会社は、世界でもトップレベルのベンチャーキャピタルやグロースエクイティファームから約10億ドル(現在約1080億円。当時としては相当な額)を調達することになっていた。だが、2013年に会社は清算され、クリーンテック投資が受けた最初の波による多数の犠牲者の1つとなった。

今になって、シリアルアントレプレナーであるJohn de Souza(ジョン・デ・ソウザ)氏とKhaled Hassounah(ハレド・ハッソウナ)氏が、Ample(アンプル)というスタートアップによってバッテリー交換のビジネスモデルを復活させようとしている。彼らの提唱するアプローチは、電気自動車の定着によってはるかに大きな市場が出現しつつある今、Better Placeでは決して対応できなかった問題のいくつかを解決するものだ。

Statista(スタティスタ)のデータによれば、2013年に22万台しかなかった電気自動車が、2019年には480万台を数えるまでに増加した。

Ampleはすでに、投資家から約7000万ドル(約76億1366万円)を実際に調達している。投資家には、Shell Ventures(シェル・ベンチャーズ)、スペインのエネルギー企業Repsol(レプソル)に加えて、Moore Strategic Ventures(ムーア・ストラテジック・ベンチャーズ)も名を連ねている。ムーア・ストラテジック・ベンチャーズは数十億ドル(数千億円)規模のヘッジファンドであるMoore Capital Management(ムーア・キャピタル・マネジメント)の創設者であるLouis M. Bacon(ルイ・M・ベーコン)が個人で所有するベンチャーファームだ。調達した額には、2018年に報告された3400万ドル(約36億5670万)の投資、および日本のエネルギー・金属企業であるENEOSホールディングスから最近調達した資金を含め、その後のラウンドでの投資も含まれる。

Better Placeのビジネスとの類似について、ソウザ氏は「Better Placeへの投資案件に関わったためトラウマになってしまった、という人がたくさんいましたよ」と話した。「関わっていなかった人も、その件について調べた後は決して近寄らないようにしていました」。

AmpleとBetter Placeの違いは、バッテリーパックのモジュール化と、Ampleの技術を利用する自動車メーカーとの関係がバッテリーパックのモジュール化によって変化することにある。

Ampleの共同創設者兼CEOであるハッソウナ氏は「私たちのアプローチは、バッテリーをモジュール化してからバッテリーの構造部品であるアダプタープレートを用意し、アダプタープレートとバッテリーの形状、ボルト仕様、ソフトウェアインターフェースを共通にすることです。Ampleが提供するのは、これまでと同様のバッテリーシステムですが、タイヤ交換と同じようにAmpleのバッテリーシステムは交換可能なのです」と述べた。「実質的に、私たちが提供するのはプレートであって、クルマなどには変更を加えません。今や、固定式のバッテリーシステムを搭載するか、Ampleの交換可能なバッテリープレートを搭載するかという選択肢があるのです。当社はOEMと提携し、重要なユースケースを実現するために交換可能なバッテリーな開発しています。車の側はまったく変更しなくてもAmpleのバッテリープレートは搭載できます」。

Ampleは現在、5社のOEMと共同開発を進めており、すでに9モデルの車を使ってバッテリー交換のアプローチを検証した。それらのOEM企業の1社には、Better Placeとのつながりもある。

AmpleがUber(ウーバー)とのパートナーシップについて発表したことから、同社が日産のリーフにも関わっていることは明白になっている。ただし、Ampleの創設者たちは、OEMとの関係についてコメントを控えている。

Ampleが日産とつながっていることは明らかだ。日産は2021年初めにUberとのゼロエミッション・モビリティに関する提携成立について発表している一方、AmpleによればUberはAmpleがベイエリアの数カ所に設けるロボット充電ステーションを利用する最初の企業でもある。日産との協力関係は、同社のもう1つの部門であるルノーとBetter Placeとのパートナーシップを彷彿とさせる。失敗に終わった以前のバッテリー交換スタートアップにとって、それは最大の取引になったのである。

Ampleによれば、ある施設に充電設備を設けるのに、わずか数週間しかかからないという。また、料金システムは1マイルあたりに供給されたエネルギーに対して料金を徴収するというものだ。「ガソリンより10~20%安くなる経済性を達成しています。営業初日から利益が上がります」とハッソウナ氏は述べた。

Ampleにとって、Uberが最初のステップになる。Ampleはまとまった数の車両を持つ組織を重視し、名前は非公表ながら複数の公共団体とも、車両群をAmpleのシステムに加入させるよう交渉中だ。ハッソウナ氏によれば、まだUberのドライバーだけだとはいえ、Ampleは現在までにすでに何千回ものバッテリー交換を実施しているという。

ハッソウナ氏によると、車両には従来の充電施設でも充電が可能だ。同社の請求システムでは、同社が提供したエネルギーと、他の充電口から供給されたエネルギーを区別できるのだという。

「これまでのユースケースの場合、ライドシェアでは個人ドライバーが料金を支払っていました」とソウザ氏はいう。Ampleでは、2021年これから配置される5つの車両群について、車両群の管理者や所有者が充電料金を払うようになることを期待している。

Ampleのインスピレーションの源の1つとなっているのが、ハッソウナ氏が以前One Laptop per Child(ワン・ラップトップ・パー・チャイルド)というNPOで働いていた頃の経験だ。そこでは、子どもたちの間でノートパソコンがどのように使われているのか思い込みを考え直さざるをえなかったという。

「最初はキーボードとディスプレイの問題に取り組んでいましたが、すぐに課題は子どもたちが置かれている環境にあるということを実感するようになり、インフラ構築の枠組みを開発するようになりました」とハッソウナ氏は述べた。

問題だったのは、当初ノートパソコンを供給する仕組みを設計した時点で、子どもたちの家にはノートパソコン用の電源がないことを考慮に入れていなかったことだった。そこで、バッテリー交換用の充電ユニットを開発したのだ。子どもたちはその日の授業でノートパソコンを使い、家に持ち帰り、充電が必要になればバッテリーを交換できるようになった。

「企業が所有する車両群にはこれと同じソリューションが必要です」とソウザ氏は述べた。とはいえ、個人でクルマを所有している人にもメリットがあるという。「自動車のバッテリーは徐々に劣化していくため、所有者はこのようなサービスがあれば、クルマにフレッシュなバッテリーを搭載できます。また、時がたつにつれて、バッテリーで走行可能な距離も伸びるでしょう」。

ハッソウナ氏によれば、現時点ではOEMからAmpleにバッテリー未搭載の自動車が届き、Ampleが自社の充電システムをそこに取り付けるかたちになっている。それでも、Ampleのシステムを利用する車両の数が1000台を超える中で同社が期待しているのは、Ampleから自動車メーカーにバッテリープレートを送り、メーカーサイドでAmpleが独自のバッテリーパックを取り付けるようになることだ。

Ampleが現時点で対応しているのはレベル1とレベル2の充電だけであり、同社と提携する自動車メーカーにも急速充電オプションを提供していない。おそらく、そうしたオプションを提供することは自社のビジネスの首を絞めることになり、Ampleのバッテリー交換技術の必要性を排除してしまう可能性すらあるからだろう。

現在問題となっているのは、車両への充電にかかる時間だ。高速充電でも満タンまで20~30分かかるが、この数字は技術の進歩とともに下がっていくだろう。Ampleの創設者たちは、たとえ自社のバッテリー交換技術よりも高速充電の方が優れた選択肢として進化することがあるとしても、自分たちのビジネスを電気自動車の普及を早めるための補足的な段階だとみなしている。

「10億台のクルマを動かそうとすれば、あらゆるものが必要になります。それだけたくさんのクルマを走らせる必要があるのです」とハッソウナ氏は述べた。「問題を解決するために、あらゆるソリューションが必要だと思います。バッテリー交換技術を車両群に応用する場合、必要なのは充電スピードではなく、料金面でガソリンに対抗することです。今のところ、高速充電を誰にでも利用できるようにすることは現実的ではありません。5分間でバッテリーに充電できるかどうかは問題ではないのです。それだけの電力を供給できる充電システムの構築コストが、割に合わないのです」。

Ampleの創設者2人は、充電にとどまらず、グリッド電力市場にもチャンスを見いだしている。

「電力のピークシフトは経済に組み込まれています。この点でも私たちが役に立てると思います」とソウザ氏は述べた。「これをグリッド蓄電池として使うのです。私たちは需要に応じた電気料金システムに対応できますし、グリッドに電力を供給するようにという連邦指令もありますから、エネルギーを戻すことでグリッド電力の安定に貢献できます。Ampleの充電ステーションの数はまだ大きな効果を上げられるほど多くはありませんが、2021年事業を拡大すれば、貢献できるようになるでしょう」。

ハッソウナ氏によると、同社の蓄電容量は1時間あたり数十メガワットで運用されている。

「このちょっとした蓄電池を使って、交換ステーションの発展を促進できるでしょう」とソウザ氏は述べた。「ステーションの設置に驚くほど巨額の投資は必要ありません。これまでとは別の資金調達方法も活用しながら、複数の方法でバッテリーの資金を調達できると思います」。

Ampleの共同創設者、ジョン・ソウザ氏とハレド・ハッソウナ氏(画像クレジット:Ample)

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タグ:Ample電気自動車バッテリー資金調達日産Uber

画像クレジット:Ample

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Dragonfly)

Lucid Motorsが中古EV用バッテリーをエネルギー貯蔵システムに再利用へ

Lucid Motors(ルシード・モータース)はラグジュアリーな電気自動車(EV)のバッテリーを2つの用途で使えるようデザインした。商業用顧客と住宅用顧客向けのエネルギー貯蔵システムをすでに実験している同社は電気自動車から出る中古バッテリーを再利用する方法にも目を向けている。

Lucidの初のEVであるラグジュアリーなセダンLucid Airは2021年下半期まで発売されないため、Lucidが数多くの中古バッテリーの処理に取り組まなければならないのは何年も先だ。それでも同社は、まだ展開されていないエネルギー貯蔵事業で中古バッテリーにどのように第2の役割を与えるかすでに計画している。

Lucidによると、同社の車両を動かすバッテリーモジュールはエネルギー貯蔵で使われる予定のものとまったく同じであるため「第2の役割」に適している。同社はすでに300kWhの設置型バッテリー貯蔵システムのプロトタイプをエンジニアリングラボに建設した、と同社の主任エンジニアでプロダクト担当上級副社長のEric Bach(エリック・バッハ)氏はTechCrunchに語った。そのシステムのバッテリーは新しいものだが、それらを中古バッテリーと交換することを妨げるような「テクニカル上の制限」はない、と同氏は述べた。同社のCEO兼CTOのPeter Rawlinson(ピーター・ローリンソン)氏は以前、Tesla(テスラ)が新しいバッテリーを使っているようなエネルギー貯蔵システムをゆくゆくは構築する計画だと述べていた一方、同社がプロダクト向けの第2の役割への応用について言及したのは今回が初めてだ。

バッテリーは通常、一度EVから取り出されると充電容量は約70%となる。つまり、もう10年ほど活用できる可能性があることを意味する。General Motors(ゼネラルモーターズ)やFord Motor(フォード・モーター)、Audi AG(アウディAG)などの自動車メーカーは、残っている価値を引き出す目的で第2の活用パイロットプロジェクトをすでに開始した。

バッハ氏はLucid MotorsのEVで使われるバッテリーを、活用できる期間の終わりに達した後に専門のサービスセンターを通じて、あるいは顧客が車両を新しいものに交換するときに回収すると説明した。バッテリーが戻ってくると、バッテリーパックからモジュールを回収して品質チェックを行う。同社の車両はそれぞれバッテリーパックからモジュールレベルに至るまでのデータを提供するビルトインセンサーを搭載していて、各モジュールの状態を判断するのに使えるとバッハ氏は話した。物理的テストを終えると、モジュールは出荷される製品に配置されることになる。

貯蔵システムには部品が追加される。家庭向けシステムではDCからACへのインバーター、冷却システム、安全スイッチが含まれる。実際のバッテリーはLucidのプロダクトと一貫性がある。

Lucidは再利用のバッテリーを家庭と産業での応用にどのように振り分けるか決めていない。

「個人的には産業向け応用でのモジュール活用がより適していて、簡単だと思います。鍵となるメトリックはkWhあたりの価格ですから」とバッハ氏は話した。

Lucidの車両がクルマの解体業者に持ち込まれた場合、バッテリーパックをLucidに返す解体業者にインセンティブを与えるかもしれない、とバッハ氏は説明した。たとえそうならなくても、EVバッテリーの原材料の価格は上昇し続けているため、解体業者がバッテリーパックを企業やリサイクル業者に販売する事業を展開することは大いにあり得る。

まだプロダクトがなく、販売も少量から中量が予想される現時点で、Lucidは材料リサイクルそのものには着手していない。当面、同社はリサイクル事業を韓国のLG化学のようなバッテリーサプライヤーに委ねる。

「長期的には我々はまだスタート地点に立ったばかりです。数年のうちにバッテリー製造と、該当するエネルギー貯蔵デバイスを作るのに必要なすべてのもののフルバリューチェーンを計画することが想像できます」とバッハ氏は話した。「ですので、将来はボリュームが増えるにつれ必ず理に適います。より多くのサプライチェーンを含めて原材料を回収する持続可能な方法にすることにチャレンジする必要があります」。

LucidはLucid Airにピンポイントでフォーカスしており、家庭用バッテリーシステムを一般の人が目にするのは数年先かもしれないとバッハ氏は述べた。それまでLucid Airには双方向充電能力が搭載される。これにより顧客はクルマから家に給電できる。

「本質的にそれは今後展開される初の家庭バッテリーシステムです」と同氏は話した。

人的に、そして資金的にどれくらいのリソースをLucidがエネルギー貯蔵事業に注ごうとしているかは不透明だ。そうした詳細は同社の正式上場後まで乏しいままだろう。同社は2021年3月に特別買収目的会社であるChurchill Capital IV Corp.との合併を通じて上場会社となることで合意したと発表した。白紙小切手会社と電気自動車スタートアップとのこの手の取引としては最大とされている。

関連記事:EVのLucid MotorsがSPAC合併で上場へ、2021年下期に北米でLucid Airの販売開始

サウジアラビアの政府系投資ファンドが引き続き最大株主となる合併会社の株式価値は117億5000万ドル(約1兆2827億円)となる。PIPE(上場企業の私募増資)取引の価格は1株あたり15ドル(約1640円)で、仮の株式価値は240億ドル(約2兆6170億円)が見込まれる。

調達する資金はLucid AirとSUVのマーケット展開、ならびにアリゾナ州にある工場の拡張に使われる、とローリンソン氏は以前TechCrunchに語った。同社は生産能力を年36万5000台とするために今後数年にわたり3段階に分けて工場を拡張する計画だ。7億ドル(約764億円)かけた第1段階は2020年末に完了し、年間生産能力は3万台だ。

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タグ:Lucid MotorsLucid Air電気自動車バッテリー

画像クレジット:Lucid Motors

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nariko Mizoguchi

フォルクスワーゲンが240GWhのバッテリー生産能力を2030年までに欧州で実現

Volkswagen AG(フォルクスワーゲンAG)は世界最大の電気自動車メーカーとしての地位を確立するために、2030年までに欧州で40GWhのバッテリーセル生産工場を6カ所運用する計画を発表した。

これを達成するためにVolkswagenはスウェーデンの電池メーカーであるNorthvoltに10年間で140億ドル(約1兆5300億円)規模の発注を行ったが、これは計画中の6カ所の工場のうちの1つにすぎない。2025年にはドイツの第2工場でも生産を開始する予定だ。

関連記事:EV用バッテリーメーカーNorthvoltがフォルクスワーゲンから1.53兆円の大型契約を獲得

Volkswagenはまた、中国、欧州、米国の充電インフラへの本格的な投資も発表した。欧州ではパートナーであるIONITYとともに急速充電ネットワークを1万8000ステーションに、中国では合弁会社であるCAMS New Energy Technologyを通じて1万7000カ所の充電ポイントに、そして米国では急速充電ステーションを3500に増やすことを目指している。

Volkswagen初となるバッテリー関連のイベントは、Tesla(テスラ)のBattery Dayを記念して行われたものだが、その中には、コストを最大50%削減する斬新的なバッテリーの化学研究も含まれていた。このバッテリーセルは同社が2010年代半ばに予想されている固体電池セルへの移行への道を開くものでもある。Volkswagenは固体電池メーカーのQuantumScapeに多額の投資を行っている。

関連記事:未来のテスラ車のバッテリーは車体と一体構造で剛性、効率、安全性、コストを改善

Volkswagenの新しい 「Unified Premium Battery」 プラットフォームは2023年に発売され、同社のEV車両の80%で使用される予定だ。この新しいバッテリーを最初に搭載した最初のモデルであるAudi Artemisは、2024年に発売される予定となっている。

Volkswagenの大型トラックおよびバスのブランドであるScania ABも、EVシェアの拡大を計画している。水素燃料電池を選択した他の主要なトラックメーカーとは異なり「大型輸送部門の電動化は間違いなく可能である」と同社の代表者らは述べた。

バッテリーの寿命についてVWは、Hydrometallury(ハイドロメタリー)と呼ばれるプロセスにより、バッテリーを最大95%までリサイクルできると述べている。

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タグ:VW電気自動車資金調達バッテリー欧州充電ステーション

画像クレジット:Volkswagen

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:塚本直樹 / Twitter

EV用バッテリーメーカーNorthvoltがフォルクスワーゲンから1.53兆円の大型契約を獲得

2019年にGoldman Sachs(ゴールドマンサックス)とVolkswagen(フォルクスワーゲン、VW)がリードしたラウンドで10億ドル(約1090億円)を調達したスウェーデンのバッテリーメーカーNorthvolt(ノースボルト)は、今後10年にわたるバッテリー製造でVWと140億ドル(約1兆5300億円)の契約を結んだ。

今回の巨額契約により、VWが進める電気自動車(EV)への転換のためのバッテリーをどこから調達するのかという疑問がいくらか解けた。VWは2025年までにEV生産能力を150万台に引き上げる計画だ。

契約では、Northvoltが欧州のVWグループ向けの主要な電池サプライヤーとなるばかりでなく、VWはNorthvoltの株式を追加取得する。

提携の一環として、Northvoltのスウェーデンにあるギガファクトリーは拡張され、またVWは欧州中に電池工場を建設する計画であるため、NorthvoltはSalzgitter(ザルツギッター)の合弁事業株をVWに売却することにも同意した、と両社は明らかにした。

NorthvoltとVWの合意により、Northvoltが10億ドルを調達して以来、同社はこの2年で270億ドル(約2兆9460億円)の契約を獲得したことになる。

「Volkswagenは主要投資家で顧客、パートナーです。VWが急速にEVを展開するのにともない、当社は引き続き地球上で最も環境に優しいバッテリーをVWに提供するという目標に懸命に取り組みます」とNorthvoltの共同創業者でCEOのPeter Carlsson(ピーター・カールソン)氏は声明で述べた。

Northvoltの他のパートナーや顧客にはABB、BMW Group、Scania、Siemen、Vattenfall、Vestasなどがいる。これら企業は欧州最大のメーカーでもある。

2019年にNorthvoltは、電池製造能力が16GWhに達すると見込まれ、2030年までにおおよそ130億ドル(約1兆4180億円)分のバッテリーを販売すると述べた。これは、VWとの契約が拡張されたプロダクト生産ラインのかなりの部分を占めることを意味する。

元Tesla幹部のカールソン氏が立ち上げたNorthvoltのバッテリー事業は欧州連合をSamsung(サムスン)、LG Chem(LG化学)、CATLといったアジア最大のバッテリーメーカーと直接競わせようという意図だった。

Northvoltが10億ドルの投資ラウンドを発表したとき、カールソン氏は2030年のEV販売目標を達成するためにはNorthvoltが150GWhの製造能力にする必要があると述べていた。

スウェーデンにある製造プラントは、大手財務パートナーであるVWとGoldman Sachsに加えて、部分的にはスウェーデンの年金ファンド会社AMF、Folksam、IKEA関連のIMAS Foundationによる支援のおかげで、製造能力は少なくとも32GWhを達成すると予想されている。

Northvoltはここ数カ月忙しかった。2021年3月初めに同社はシリコンバレー拠点のスタートアップCubergの買収を発表している。

この買収でNorthvoltは米国での足がかりを得て高度技術センターを設置した。

また、業界の救世主とされている最新の電池化学、リチウムメタル電池へのきっかけも買収で得ている。

Cubergは、液体電解質にリチウムメタルアノードを組み合わせている、同社がいうところの次世代バッテリーを商業展開するために2015年にスタンフォード大学からスピンアウトした。同社の顧客にはBoeing、BETA Technologies、Ampaire、VoltAeroなどがあり、Boeing HorizonX Ventures、Activate.org、カリフォルニア州エネルギー委員会、米エネルギー省、スタンフォード大学TomKat Centerから支援を受けている。

Cubergのバッテリーは、電動航空機使用向けにデザインされた同程度のリチウムイオン電池に比べて航続距離と容量を70%増やす。声明によると、CubergとNorthvoltは自動車メーカー顧客のあらゆる要件を満たしつつ、2025年に1000Wh/L超のバッテリーを産業化するという野心を持って、このテクノロジーをNorthvoltの自動車・産業プラダクトのポートフォリオに加えられることを願っている。

「Cubergのチームはワールドクラスのテクノロジーを開発する並外れた能力、実証済みの結果、無駄のない効率的な組織での傑出した顧客ベースを示してきました」とカールソン氏は述べた。「こうした強みをNorthvoltの能力、そしてテクノロジーと組み合わせることで、次世代電池のためにコストをさらに下げつつパフォーマンスと安全性の両方を大幅に改善できます。完全EVへのシフトを加速させ、主要自動車メーカーのニーズに応える上でこれは重要です」。

カテゴリー:モビリティ
タグ:NorthvoltVW電気自動車資金調達バッテリー

画像クレジット:Volkswagen

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Nariko Mizoguchi

ソフトバンクらが次世代電池研究開発においてリチウム金属負極を用いた質量エネルギー密度450Wh/kg級の実証に成功

ソフトバンクとEnpower Greentechが次世代電池開発に向けた質量エネルギー密度450Wh/kg級電池の実証に成功

開発した要素技術を用いた電池の試作品

ソフトバンクと米スタートアップEnpower Greentechは3月15日、次世代電池の研究開発において、リチウム金属負極を用いた質量エネルギー密度450Wh/kg級電池の実証に成功したと発表した。また、リチウム金属電池の長寿命化の要素技術の開発成功も明らかにした。

両社は、IoT機器や携帯電話基地局などでの活用を想定した、質量エネルギー密度(Wh/kg)が高く、また軽量かつ容量が大きい次世代電池を見据えた材料技術の共同研究を行う契約を2020年3月に締結し、4月から共同研究開発を実施。また今回開発した要素技術には、リチウム金属表面にデンドライトの発生を抑制する極薄(10nm以下)コーティング膜技術や、高い電池電圧と高いクーロン効率(充放電効率)を両立した電解液などもあるという。

デンドライトは、電池の充放電を繰り返した際に生じるリチウム金属の針状結晶のこと。これが成長し続けると、正極と負極の短絡を引き起こし、発火などの原因となる。クーロン効率(充放電効率)は充電時の充電容量に対する放電時の放電容量の比。クーロン効率が高いほど充電容量を無駄なく放電に使用でき、寿命が長い電池となる。

リチウム金属負極は負極材料として注目される一方、短期間で電池容量が減少するという課題を抱えていた

現在、デバイスの進化から電池の高容量化が望まれているものの、既存の電池材料(黒鉛など)では達成は厳しく、リチウム金属負極などの次世代材料が求められているという。

ただしリチウム金属電池の課題として、リチウム金属負極と電解液の反応に由来するサイクル寿命の短さが挙げられる。充放電に伴うデンドライトの発生によって、短期間で電池容量が減少するという課題があったという。リチウム金属は還元力が強く電解液が分解されてしまい、リチウム金属表面に不均一な不動態被膜が形成されることで、短絡の原因にもなるデンドライト生成を促してしまう。

ソフトバンクが次世代電池の研究開発・早期実用化の推進に向け「ソフトバンク次世代電池Lab.」を設立

そこで、ソフトバンクとEnpower Greentechは、デンドライトの発生抑制技術のひとつ「リチウム金属表面の無機コーティング技術」に注目。

リチウム金属表面を例えばイオン伝導材料などでコーティングすることで電解液との直接接触を遮断。安定した固体電解質界面(SEI)膜を形成するというアプローチを実施したそうだ。

リチウム金属負極と電解液の反応を抑制するためには、リチウム金属表面への電解液の接触を減らし、電解液の分解を抑制する必要がある。先に挙げたイオン伝導材料などをコーティングすることで、電解液がリチウム金属表面に接触することを防ぎ、リチウムイオンを均一に拡散させることを可能にする。これにより、デンドライトの発生を抑制し、リチウム金属電池の長寿命化が期待できるとした。

ソフトバンクが次世代電池の研究開発・早期実用化の推進に向け「ソフトバンク次世代電池Lab.」を設立

また今回、無機物を極薄(10nm以下)でコーティングしたリチウム金属電極を用いて、コイン型リチウム対称セル(ラボ測定用電池)で連続500時間経過しても、非常に低い過電圧を維持し続けている充放電データを得られたという。今後この技術を450Wh/kg級電池に適用し、電池のさらなる長寿命化を目指す(実験データなどの詳細。PDF)。

  1. ソフトバンクとEnpower Greentechが次世代電池開発に向けた質量エネルギー密度450Wh/kg級電池の実証に成功

  2. ソフトバンクとEnpower Greentechが次世代電池開発に向けた質量エネルギー密度450Wh/kg級電池の実証に成功

ソーラーパネル搭載の成層圏通信プラットフォームの長時間駆動への道筋

今回、共同開発に成功した材料技術を用いることで達成が期待できる質量エネルギー密度450Wh/kg級電池は、現在のリチウムイオン電池に比べ、質量エネルギー密度が約2倍となるという。この電池は、さまざまなIoT機器や携帯電話基地局だけでなく、ソフトバンク子会社HAPSモバイルが地上約20kmの成層圏で飛行させる、ソーラーパネル搭載の成層圏通信プラットフォーム(HAPS)向け無人航空機「Sunglider」への装用による長時間駆動も期待できるとしている。

Enpower Greentechは、全固体電池を含む次世代電池の研究開発と事業化に取り組んでいる米国のスタートアップ企業。日本においては、東京工業大学発スタートアップEnpower Japan(エンパワージャパン)として研究拠点を構えている。同社は、2015年から高容量電極材料や固体電解質材料などの材料技術開発に着手しているという。さらに2017年10月からは、テキサス大学オースティン校教授であり、ノーベル化学賞を受賞したJohn B. Goodenough(ジョン・B・グッドイナフ)教授の研究グループと全固体電池用材料技術の共同研究を実施している。

世界中の様々な次世代電池の評価・検証を行う施設「ソフトバンク次世代電池Lab.」

また同日ソフトバンクは、質量エネルギー密度(Wh/kg)が高く軽量で安全な次世代電池の研究開発および早期実用化の推進に向けて、世界中の様々な次世代電池の評価・検証を行う施設「ソフトバンク次世代電池Lab.」(ソフトバンク次世代電池ラボ)を、2021年6月に設立すると発表した。

ソフトバンク次世代電池Lab.は、環境試験器の世界トップメーカーであり、安全性・環境評価に優れた設備・ノウハウがあるエスペックの「バッテリー安全認証センター」内に設立。

今後は充放電設備の増強、モジュール・電池パックの大型評価設備の導入や、安全性試験・低温低気圧など、地上から上空までの特殊な環境試験においてエスペックと連携することを検討している。

「ソフトバンク次世代電池Lab.」のあるエスペック宇都宮テクノコンプレックス「バッテリー安全認証センター」外観

現在ソフトバンクは、質量エネルギー密度が高く軽量で安全な次世代電池について、IoT機器などの既存のデバイスやHAPS(High Altitude Platform Station、成層圏通信プラットフォーム)をはじめとする次世代通信システムなどへの導入を見据え、研究開発を推進している。また、SDGs(持続可能な開発目標)の観点からも、高性能な電池が必要不可欠と考えているという。

次世代電池の開発については、世界のさまざまな電池メーカーが技術検証を実施しているものの、メーカーごとに技術評価環境・検証基準が異なり、同一環境下での性能差の分析・技術課題の特定が難しいという課題がある。ソフトバンクは、これらの課題を解決し、次世代電池の早期実現のため、ソフトバンク次世代電池Lab.を設立する。

今後ラボにおいて、世界中のメーカーのセルを同一環境下で評価・比較することで、性能差の分析・技術課題の早期特定を実現する。また各メーカーに検証結果をフィードバックすることで、次世代電池の開発加速を目指すという。

さらに同ラボでは、共同研究先と開発した要素技術の検証も行う予定。検証により得られたノウハウを参画メーカーと共有することで、次世代電池開発のベースアップに貢献する。すでに世界中の電池メーカー15社の次世代電池の検証を予定しており、今後さらに開発パートナーを拡大していく。

これらの活動を通しソフトバンク次世代電池Lab.は、次世代電池の開発促進を支援するプラットフォームになることを目指す。

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カテゴリー:ハードウェア
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