ビッグデータ解析のPalantirが約590億円を調達、最終調達額は1000億円超に

ときおり議論の的になるが常に秘密主義のビッグデータ・アナリティクス企業であるPalantirは政府機関や大企業を顧客として、安全保障情報(未訳記事)、ヘルス情報(未訳記事)、そのほか機密性の高い情報処理を事業としている。ビジネスとしてはこの秋にも株式上場を目指していると報じられている(Bloomberg記事)。しかし当面は非公開企業としての資金調達にも力を入れているようだ。

Palatirはこのほど4年ぶりとにSEC(米証券取引委員会)にフォームD(登録義務の免除規定のための書類)を提出した。この報告書によれば、同社は10億ドル(約1075億円)近く、正確には9億6109万9010ドル(約1030億円)を調達中であり、このうち5億4972万7437ドル(約590億円)をすでに調達したという。つまり今後4億1137万1573ドル(約442億円)を集める計画だという。

6月のReuters(ロイター)の記事によれば、Palantirは提携先2社からの戦略的投資を受けている。ひとつは日本の保険会社であるSOMPOホールディングスからの5億ドル(約537億円)、もう1件は日本のテクノロジー企業である富士通からの5000万ドル(約53億円)だ。これは合計5億5000万ドル(約591億円)となるため、フォームDで調達済みとされている5.5億ドルがこれに当たるようだ。

フォームDによれば投資家からすでに58件のオファーを受けており、Palantirは調達予定の10億ドルのうちすでに調達した5.5億ドル以外の部分に対しても投資コミットメントを確保しているわけだ。ただし資金調達ラウンドはまだ締め切られていない。

Palantirに今回のフォームDに関してコメントを求めたが「これは当社が直接売却する予定の株式であり、既発行株の二次的取引ではない」と述べるに留まった。今回の資金調達ラウンドはフォームDの説明では上場計画に遅延が生じているためなのか単に上場を補完するだけなのか明らかではない。

また報告書はPalantirが4年ぶりに10億ドル以上30億ドル以下の資金調達を図っているというCNBCの2019年9月の報道を裏付けるものらしい。その報道ではPalantirは会社評価額として4年前の200億ドルを260億ドルにアップすることを目標としていると指摘していた。 6月のロイターの報道では二次市場の取引に基づく会社評価は100億ドルから140億ドルの間だとしていた。

PitchBook調べでは、Palantirは現在までに108以上の投資家から少なくとも33億ドルの資金を調達している。PitchBookのデータ(一部は有料記事)ではPalantirはこれ以前に金額は不明だが非公開で何度か資金調達ラウンドを実行しているという。

Palantirの評価額は4年前の200億ドルが最後だが、その後、さらに高い評価額に向かうことを示唆するいくつかのポイントがあった。新型コロナウイルスによるパンデミックで株式の新規上場はほぼ停止したものの、再び動きが見られるようになっている。またPalantir自身の事業活動も活発化の兆候を示している。

Bloombergによれば、同社は4月に投資家向けブリーフィングを発表し「今年の収入予想は10億ドルに達し、2019年から38%増加して損益分岐点に達する」と予想している。これはPeter Thiel(ピーター・ティール)氏などが16年前に同社を設立して以来初めてのことだ。他の共同創業者には Nathan Gettings(ネイサン・ゲッティングス)氏、Joe Lonsdale(ジョー・ロンズデール)氏、Stephen Cohen(スティーブン・コーエン)氏、現在のCEOを務めるAlex Karp(アレックス・カープ)氏だ。

なお、Bloombergの記事にはPalantirがなぜ投資家にブリーフィングを行ったかは説明されていないので、上場を控えての広報だったのか、今回の資金調達あるいは別の理由だったのか不明だ。またPalantirはは新型コロナウイルスによるパンデミックに関するニュースにもたびたび登場している。

具体的には、英国ではコンソーシアムの一部としてNHSと共同(未訳記事)で新型コロナウイルスデータベースの開発)、米国では連邦政府の新型コロナウイル追跡システム(Daily Beast記事)やCDCとの共同プロジェクト(Forbes記事)など、主要市場で大規模なビジネスを獲得していることが報じられている。こうしたプロジェクトはPalantirのほかのビジネス(未訳記事)同様、準備と実施に多額の先行投資を必要とすることが予想される。 こうした事情が現在資金を調達している理由の1つかもしれない。

画像:Jason Alden/Bloomberg / Getty Images 画像編集済

原文へ

(翻訳:滑川海彦@Facebook

好調の外国語eラーニングサービス「Duolingo」が10億円超を調達した理由

SEC(米証券取引委員会)への提出書類によれば、外国語のeラーニングを提供するユニコーン企業(10億ドル企業)であるDuolingo(デュオリンゴ)は2020年4月初めにベンチャーキャピタルのGeneral Atlanticから1000万ドル(約10億7000万円)の資金を調達している。好調を伝えられるオンライン言語学習プラットフォームとしては、ほぼ3年ぶりの外部投資の受け入れとなった。これにともないGeneral AtlanticはDuolingoに取締役の席を1名分確保した。

Duolingoの最近の会社評価額は15億ドル(約1605億3000万円)だったが、「今回のラウンドにより評価が増加した」と述べている。ただし具体的な額についてはコメントを避けた。

General AtlanticはOpenClassroomsRuangguruUnacademyなど世界で多数エドテック企業に投資している。Duolingoは「General Atlanticのグローバルなプラットフォーム、アジアでのオンライン教育の経験は、特にこの地域におけるDuolingoの英語試験を拡大する計画に大いに役立ち、同社の成長を加速させる」と述べた。

Duolingoは2019年12月に15億ドルの会社評価額で3000万ドル(約32億1000万円)を調達している。こうした資金調達の数カ月後にそれより小さい額の資金調達を行うのは異例だ。 過去の例をみると、そうした資金調達は次のようないくつかの理由で起きている。1つは後の投資が同じ資金調達ラウンドの一部だった場合だ。もう1つの可能性はなんらかの理由で企業がさらに現金を必要とする事情があり、単にそれを調達した場合だ。あるいは新しいラウンドでも多額の資金を調達しようとしたそれができなかった場合もある。

ではDuolingoはどれだったのか?

Duolingoは、新しい投資家を獲得したかったが、多額の資金は必要なかったため1000万ドルとなったとしている。同社はキャッシュフローには余裕があると述べている。

過去数週間で、Duolingoは子供たちが読み書きを教えるアプリをリリースした。このDuolingo Plusの有料サブスクリプションは100万を超え、収入は通年換算で1億4000万ドル(約149億8000万円)となったとしている。また同社は最近、最初の最高財務責任者と顧問弁護士を採用した。

DuolingoはTechCrunchの取材に対して次にようにコメントしている。

「我々のビジネスはとても急速に成長しており、資金も十分以上にある。自己資本を拡大するために資金調達を行う必要性は少なかった。しかし、我々は2019年にGeneral Atlanticとの提携関係を強化してきた」。

他方でGeneral AtlanticのマネージングディレクターのTanzeen Syed(タンジーン・サイード)氏は「Duolingoは外国語学習では市場リーダーだ。急速な成長を維持しながら事業は利益を上げており、ビジネスモデルも効果的だ」と述べている。

もう1つの興味深い事実は、1000万ドルの調達と同時に二次市場における発行済株式の売買があったことだ。こうした取引は株主が持ち株を売却したり、会社が自社株買いを実施した場合などに起きる。

Duolingoの場合は、General Atlanticの所有率を押し上げるために既存投資家が持ち株の一部を同社に売却した。General Atlanticはこの取引の詳細を明かすことを避けている。

この情報に照らしてみると、常に大量の英語学習者を抱える有望市場であるアジア地域へのDuolingoの進出をGeneral Atlantiは歓迎しており、他の投資家は株式売却によって負担を減らしたようだ。

つまり公開株式市場が厳しさを増し、未公開株の市場も事実上停止している状況でDuolingoの既存投資家の一部は株式の現金化を図ったのだろう。現在、スタートアップが未公開のまま留まる期間がこれまで以上に長期化しているため、二次市場における取引はまったく普通のことになっている。

二次市場における売却は既存株主が投資先企業の方向性に対して懸念を抱いていることを示す場合ももちろんある。

しかしDuolingoはこの分野の世界制覇という大きな目標に向けて全力で前進しており、金庫にキャッシュを加え、取締役会にこの提携先の代表も加えた。

画像クレジット:Bryce Durbin

原文へ

(翻訳:滑川海彦@Facebook

VCがいま新規事業に出資することはないが、1カ月後には何かが変わるかもしれない

法律事務所のFenwick & Westは米国時間4月9日、ベンチャーキャピタル業界の最新動向を把握するために、Eniac Ventures創設者でジェネラルパートナーのHadley Harris(ハドリー・ハリス)氏、Primary Venturesの共同創設者でジェネラルパートナーのBrad Svrluga(ブラッド・スヴルーガ)氏、GreycroftのパートナーEllie Wheeler(エリー・ウィーラー)氏の3人とバーチャル座談会を開催した。いずれもニューヨークで活動する投資家である。

彼らは皆、新型コロナウィルスによるロックダウンの影響を受けているが、個々の状況は当然ながら三者三様である。しかし、仕事の話になると全員が口をそろえて「現在の状況でVCが新規事業に出資することはない、ということを起業家たちに認識してほしい」と言う。

プライベートでは、ウィーラー氏は第一子の出産を控えており、ハリス氏は奥さんとのランチを毎日楽しんでいる。スヴルーガ氏は「こんなに毎日連続して子どもたちと食事をしたのは本当に久しぶりだ。もう10年以上こんなことはなかった」と話す(彼は今の状況をご褒美だと思っている)。

仕事面では、プライベートとは反対に苦戦を強いられており、3人ともこの数週間忙殺されている。どのスタートアップが一番危ういか、この状況でも救済する価値のあるスタートアップはどれか、予想外のビジネスチャンスに恵まれる可能性のあるスタートアップはどれかといったことを検討し、それぞれのケースに対応する方法を考える必要があるからだ。

あまりにも忙しすぎて、いま初めて出資を募ってきた起業家がいたとしても、誰も小切手を切る余裕などないだろう。実際にハリス氏は、この危機の中でも起業家たちの売り込みに対して門戸を開いていると話す投資家たちに対して異議を唱える。「多くのVCがこの状況の中でも出資の申し込みを受け付けていると話していることは知っている。しかし私は、Twitterでもかなりズバッと発言したように、今のような状況で出資を続けられるなんていうのはほとんどデタラメだし、起業家たちに間違ったメッセージを送ることになると思う」とハリス氏は語る。

「現時点でVC業界には新規投資案件を扱うための余力はまったくない。既存の投資先企業に対してやるべきことが山積みだからだ。余力がないことが今一番の足かせだ。資金の問題ではない」。

余力が回復したらどうなるのだろうか?そうなっても、直接会社に出向くことなくオンラインのみで起業家とやり取りすることが、出資判断において的確、正常、あるいは有効な方法だと考えているVCなどないという点は覚えておかねばならない。

「豊富な実績を持つ一部のアクセラレータやシードファンドが多数のスタートアップに対して、何らかの方法や形で短期的にリモートでの出資判断を行っている例はあるが、直接会ったことがない人物に対する出資を検討するなど、賢い方法とは思えない」とウィーラー氏は言う。

「出資先の調査で最初に行うことはいつも決まっている。何も難しいことではない。スタートアップのチームと会い、その会社に出向き、こちらのチームにも会ってもらう。これをオンラインでやるのは無理がある。正式な場あるいは仕事外のカジュアルな場で一緒に時間を過ごすことから得られる情報をオンラインで得られるとはとても思えない。そこをわかっていない人が多い。現在の状況が長引くほど、その点を認識する必要がある」とウィーラー氏。

いずれにしても、今の状況で何をVCに売り込めばいいのか。3人とも、新型コロナウィルスによって一変した世界とあまり関連のない分野にはほとんど興味がない。「例えば、今は実店舗ビジネスについて新しいアイデアを提案する時期ではない」とハリス氏は言う。ウィーラー氏は別の視点から、この数週間で多くの人が「分散型チームとリモートワークは思っていたよりも実行可能かつ持続可能である」と気づいたようだと指摘し、Greycroftは引き続きこうした環境を実現するソフトウェアに注目していることを示唆した。

Primary Venturesも、よりシームレスなリモートワークを実現するソフトウェアに注目しているとスヴルーガ氏は言う。在宅勤務については「当社の18人の社員でしばらく行ってみたら自然に受け入れられた」と同氏。

必然的な流れとして、3人はダウンサイジングについて、この座談会のモデレータであるEvan Bienstock(エヴァン・ビエンストック)氏から質問を受けた。この質問については3人とも一様に、スタートアップが今すぐにランウェイを引き伸ばすには、ダウンサイジングはほぼ不可避だと指摘した。「最悪だよ。今、人々は職を失っている。(新しい事業を育てるのに最適な環境だった)60日前と同じ組織でチームの運営を続けるなんて不可能だ」とスヴルーガ氏。

3人はまた、人員削減を余儀なくされている管理部門に対するアドバイスについても話し合った。そこでは、2回目を行わずに済むように最初の人員削減で思い切って切るべきだという意見で一致した。

一緒にやってきた人たちを誰も好んで切りたいとは思わないが、「『しまった。人員カットをやり過ぎた』と言ったCEOに会ったことは今までに一度もない」と、自身も二度の不景気を経験したことのあるスヴルーガ氏は言う。彼の知っているCEOの「少なくとも30%」は、企業文化も守りながら事業を保護できる状態まで人員削減を行えていないと認めたという。

「二度目の人員カットはもっと大変になる。大なたを振るうことになるのは二度目のレイオフだ」とウィーラー氏は付け加えた。

今後については、3人とも「既存の投資先がレイオフ、バーンレート、ランウェイ予測に関する業務がひと段落したら、起業家の新しいアイデアを受け入れられるようになるだろう。それに加えて、新しい経済対策をスタートアップが最大限に活用できるようにサポートしていく」と答えた。

それがどのくらい先になるのかについては、「1カ月後にはこの混乱も少し落ち着いているかもしれない」とウィーラー氏とスヴルーガ氏は指摘する。「起業家たちも、4週間くらいあれば自分たちが抱えているさまざまな問題点を調整するために必要な時間を確保できるはずだ」。

ハリス氏も同じ意見だ。「少しずつやっていくことになるだろう。来週どうなるかはわからないが、1か月経ったらぜひ連絡して欲しい。新規出資を再開できる状態かどうか伝えるよ」。

画像クレジット:Getty Images

新型コロナウイルス 関連アップデート

[原文へ]

(翻訳: Dragonfly)

ピーター・ティール氏のFounders Fundが新ファンドで3000億円超を集める

ベストセラーとなった「ゼロ・トゥ・ワン」の著者としても知られるPeter Thiel(ピーター・ティール)氏が率いるベンチャーキャピタルのFounders Fundが2件、30億ドル(約3300億円)の出資を確保したことをTechCrunchは確認した。同ファンドのジェネラル・パートナーはティール氏に加えて、Keith Rabois(キース・ラボワ)氏、 Brian Singerman(ブライアン・シンガーマン)氏の3名だという。

今回のFounders Fundの資金調達についてx最初に報じたのはAxiosだった。Founders Fundでは2016年にFounders Fund VIで13億ドル(約1440億円)を確保した後、昨年12月に12億ドル(1330億円)のFounders Fund VIIをクローズさせた。 今週月曜に同社の最初のグロースファンド15億ドル(約1670億円)がクローズされたことを広報担当者が確認した。 同時に同社のパートナー陣からも3億ドルの出資確約があったので、今回の資金調達の合計は30億ドルとなった。

ラボア氏とティール氏という辣腕のPayPalマフィア(PayPalの元従業員と創業者のグループ)が再度協力することになってから新たなファンドが準備されていることは、昨年10月にWall Street Journalが報じていた

このファンドが次々に資金調達に成功しているのは、得た資金を素早く投資するする能力を証拠立てるものだと関係者は見ている。特に2019年にラボワ氏が参加してからFounders Fundの調達額は一挙に増えたという。

しかし資金調達の決め手は高い利益率だろう。2011年以来、Founders Fundは1ドルの投資を4.60ドルに増やしてきたとWall Street Journalは報じている(AirbnbとStripe Inc.への投資成功が大きく寄与している)。この運用成績はベンチャーキャピタル業界平均の2.11倍を大きく上回るのだ。一方、3回目のファンドの運用成績も3.80ドルとなり、平均を0.75ドル上回っている。

Founders Fundの投資決定プロセスは他のベンチャーキャピタルとはかなり異なっており、ケースバイケースで機動性が高い。昨年、TechchCrunchが行ったイベントでFoundes FundのパートナーであるCyan Banister(サイアン・バニスター)氏は以下のように説明している。

投資の意思決定の方法は投資額によって異なる。バニスター氏によれば「(スタートアップへの投資)ステージに応じて話し合う必要があるパートナーの人数は変わってくる。1人でいいこともあるし3、4人のこともある。ごく初期のステージで、投資額も小さければ大勢のパートナーに会う必要はない。投資額が大きくなればジェネラル・パートナー全員の審査が必要だ。Brian Singerman(ブライアン・シンガーマン)氏やKeith Rabois(キース・ラボア)氏のような投資業務のトップに会わねばならず、エンジェル投資の場合よりは手間がかかる」という。ピーター・ティール氏自身が投資の意思決定にどの程度関与しているかを尋ねると、バニスター氏は「ある額以上になると常に関与する」と述べた。正確な額については「多額といっておきましょう」と笑った。

AxiosのDan Primack(ダン・プリマック)氏の記事によれば、今回のグロースファンドの投資額は1件1億ドル以上だろうという。150万ドル以下の投資案件については2人のパートナーが合意すればすぐに可能、150万ドルを超える場合は最低一人のパートナーとジェネラル・パートナー、500万ドルを超える投資についてはパートナー1名、ジェネラル・パートナー2名の同意が必要だ。1000万ドルを超える投資では2人のパートナーとティール氏、シンガーマン氏、ラボワ氏すべての同意が必要だという。

ジェネラル・パートナーの同意が必要な投資案件ではスタートアップの創業者は1人以上のジェネラル・パートナーに直接あるいはリモートで投資すべき理由をプレゼンしなければならない。

原文へ

(翻訳:滑川海彦@Facebook

建築現場の3DデジタイズロボットがStartup Battlefieldベルリンの最優秀賞を獲得

ベルリンで開催されたTechCrunch Disrupのスタートアップ・バトルフィールドの参加者は当初14チームあった。2日間にわたる激烈な競争を勝ち抜いて勝者が決定した。

Startup Battlefieldの登壇者はすべて我々が慎重に選定した優秀なスタートアップばかりだ。チームはベンチャーキャピタリスト、テクノロジー界のリーダー、著名ジャーナリストを含む審査員グループの前で公開プレゼンを行い、Disrupt杯の名誉と5万ドル(約550万円)の賞金獲得を目指した。

1日目のプレゼンの後、TechCrunchの編集部は審査員の評価メモをベースに数時間わたって討議し、GmeliusHawa DawaInovatScaled RoboticsStableの5チームを最終候補とした。

選ばれたチームは2日目に最終決定を決定を行う審査員の前でプレゼンを行った。パネルのメンバーは、Accel PartnersのAndrei Brasoveanu (アンドレイ・ブラソヴェアヌ)氏、 Sequoia CapitalnのAndrew Reed (アンドリュー・リード)氏、ソフトバンクビジョンファンドのCarolina Brochado(カロライナ・ブロチャド)氏、Generation Investment ManagementのLila Preston
リラ・プレストン)氏の各氏にTechCrunchのMike Butcher(マイク・ブッチャー)記者が加わった。

優勝:Scaled Robotics


Scaled Roboticsが開発したのは、建設現場の詳細な3D画像を自動的に取得するロボットだ。処理は高速で極めて精密な測定を行うことができる。例えば、設置された梁材の位置が設計と1、2センチずれているだけで判別できるという。建設現場の責任者はロボットのソフトウェアを利用してどのような部材がどのフロアのどの位置に設置されているか、ほぼリアルタイムで詳細にチェックできる。また設置が許容誤差の範囲内にあるかも判別できる。また廃棄物の堆積などが作業の安全を脅かしていないかチェックできる。下は作動中のロボットのビデオだ。関連記事はこちら

準優勝:Stable

Stableは農産物等の購入者を価格変動から守る保険を自動車保険なみの手軽さで提供するサービスだ。コカ・コーラのような巨大企業からスムージーを販売するローカルビジネスまで、世界の関係者は農産物に加えてパッケージやエネルギー関連プロダクトまで多数のアイテムに保険をかけることができるStableについては別記事で詳しく紹介している。

原文へ

(翻訳:滑川海彦@Facebook

ソフトバンクはWeWorkを「壊れたので買わざるを得なかった」

ソフトバンクグループやWeWork、WeWorkの共同創業者である元CEOのアダム・ニューマンについてはすでに大量の記事が書かれている。それでもまだいろいろわからない点が多い。

WeWorkが上場を申請し、そして撤回してからの大騒動はあまりに込み入っているので、多くの読者は見出しをちらりと見ただけで記事の中身を読む気が失せたかもしれない。

それでもこれほどマスコミの評判になっているのはニューマンの奇矯さがほとんどマンガの悪漢レベルに達していたからだ。突飛な振る舞いでは(Twitterの)ジャック・ドーシー以上、学生寮の大学生ぽさが抜けない点では(Snapchatの)エヴァン・スピーゲル以上、「世界を変える」という幻想を振りまいた点では(Theranosの)エリザベス・ホームズ以上だった。上場のS-1申請書を提出する前からWeWorkは批判者にこと欠かなかった。

それでも有名ベンチャーキャピタルのトップは創業者を応援するという立場を取っていた。ニューマン氏には、世界最大のベンチャーファンドのパートナーたちを自分の意に従わせ、追従させるカリスマ性があったのだろう。

だが今やWeWorkはベンチャーキャピタルが後期段階のスタートアップに対して行う投資方法そのものに対する疑問の例となっており、追従どころではなくなっている。WeWorkの問題が本格的に露わになり始めたタイミングで185億ドル(約2兆円)にものぼる2回目の投資を行ったソフトバンクは最も大きなトラブルを抱えこんだ。

資金供給し続けていたソフトバンクは、WeWorkという大穴が空けばその投資は期待を大幅に下回る運用成績となる。シリコンバレーの投資家の多くは直感で巨額の資金を動かしたりしない冷静で伝統的な投資家を望んでいる。しかしソフトバンクのファンドから供給される資金が命綱となっているユニコーン(10億ドル級スタートアップ)は多い。こうした企業はソフトバンクからの資金が途絶えれば干上がってしまう危険に直面している。

ソフトバンクはすでに投入してしまった資金がサンクコスト(回収ができなくなった投資費用)となり、ポーカーゲームでいえば手持ち資金を全額賭ける「オールイン」をするしかない状態だ。現在ソフトバンクに残された道は、ニューマンなしでWeWorkを再建する以外ない。ニューマンを作り出したのはソフトバンクだったが、今度はニューマンを追い払った後で大惨事を大成功に一変させるための方法を探っているところだ。

原文へ

(翻訳:滑川海彦@Facebook

WeWorkのクラッシュはベンチャーキャリズムが機能している証拠だ

WeWorkをめぐる波乱から我々は何を学ぶべきだろうか?

WeWorkはつい最近までシリコンバレーを代表する急成長スタートアップであり、ここ数年ベンチャー投資家の熱い視線を集めてきた。WeWorkの創業者/CEOは有力メディアのカバーストーリーにたびたび取り上げられ、TechCrunch Disruptを含めてテクノロジーカンファレンスではキーノートに登壇していた。ピーク時に同社の評価額は数百億ドルになった。衛星軌道に入ってGoogleやFacebookと肩を並べる世界的巨大企業になる日も近いかという勢いだった。

ところが文字どおり数日でWeWorkはクラッシュした。

創業者/CEOは事実上解任され、会社評価額75%以上暴落した。大量レイオフも間近だという。当然ながら外部投資家、社員含めて株主の損害は莫大だ。

キャピタリズム、ベンチャーキャリズムにとっては手痛い敗北であり、特に孫正義氏のソフトバンクは大きなダメージを受けただろう。WeWorkにはこれというファンダメンタルズ(基盤)が存在しなかったにも関わらずソフトバンクは同社を偏愛し、投資しすぎ、関与しすぎた。

では最初の疑問に戻ろう。WeWorkのクラッシュからわれわれは何が学べただろうか?ひと言でいえばゼロだ。別に何も学ぶものはない。

ベンチャーキャリズムというのは本質的にハイリスクなギャンブルだ。的中すれば途方もないリターンを手にすることができる。個別企業にせよベンチャーキャピタルのポートフォリオ全体にせよ、評価額の算定にはこのリスクがあらかじめ組み込まれている。ベンチャーキャピタリストは投資、つまりスタートアップの株式を買うにあたって、その会社のリスク要因を推計するだけでなく、ポートフォリオの収益が最大化されるよう全体の組み立てを考えねばならない。

WeWorkの場合、外部資金の大きな部分はソフトバンク・ビジョン・ファンドから出ていた。ソフトバンクはファンドへの大口出資者と争ってまで、WeWorkに繰り返し出資してきたが、その結果はごらんのとおりとなった。

しかしそれが賭けというものだ。

ベンチャーキャピタルの投資のほとんどは失敗に終わる。投資額の一部を失うこともあれば全額をすってしまうこともある。

しかしときおり大当たりを引き当てる。孫氏は中国の無名の通販会社に2000万ドルを投じた。今やソフトバンクが持つAlibaba(アリババ)の株式には1000億ドルの価がある。今年、ソフトバンクが数年前に110億ドルでアリババ株の一部を売却したことが明ららかになったが、それを別にしての話だ。

これがベンチャーキャピタルの数式だ。つまり 1110億÷2000万は5550倍だ。世界中のどんな金融資産を探しても1ドルが数千ドルに化けるような仕組みは存在しない。

WeWorkの失敗はこの数式の基本を変えるものではない。ビジョン・ファンドはオンデマンドで犬の散歩やケアを提供するスタートアップであるWagに3億ドルを投じたものの会社は苦境にある

そもそもどんな投資ポートフォリオであろうと損失は発生する。ベンチャー企業では利益に先立ってまず損失が発生するというJカーブ理論は健在であり、これに当てはまる実例は多い。

それにWeWorkは破たんしたわけではない。手持ち資金は残っているし再建は可能だろう。将来、史上最大の利益をもたらすスタートアップになる可能性もないとはいえない。もちろん清算まっしぐらということだってありえる。ビジョン・ファンドにとっての収支はどうなるだろうか?考慮すべき要因が無数にあり、それはら週、月、年単位で変化していく。

確実なことを予測するには早すぎる。私の見るところ、ビジョン・ファンドが野心を達成できるかどうか判斷するにはあと5年はかかると思う。

念のために断っておくが、私はベンチャーキャリズムを特に擁護しているのではなく、キャピタリズム全般を擁護しようとしている。

左派経済学者のMatt Stoller(マット・ストーラー)氏はWeWorkなどの巨大テクノロジー企業を偽の資本主義の典型と呼んでいる。つまりバズワード、トレンド、創業伝説、でっち上げのグラフなどによって中身のない成長を演出し、ベンチャーキャリズムが独占企業を作り出して競争を封殺するものだというのだ。

しかしこの説は資本主義と資本主義的投資の本質について完全に誤っていると思う。ベンチャーキャピタルが支援していようといまいと、創立の日から利益を上げられる企業など例外中の例外だ。ハイテク企業に限ったことではない。レストランを開業するにはまず店の賃貸契約を結び、設備を購入しなければならない。実際に客が店にやってくるようになるのははるか後だ。ソフトウェア企業も同じことだ。ユーザーが料金を払うようになる前にまずソフトウェアを書かねばならない。

投資はアイデアとその実現の間に架け渡される橋だ。

問題はスタートアップはどのくらいの期間、赤字を出し続けられるかだ。10年、20年前は企業が上場したければ黒字でなければならなかった。これは不合理だ。いったいなぜ上場という特定の時点を選んで成長を減速させるようなキャッシュフローの調整をする必要があるのか?黒字化のタイミングとしては上場前がいいこともあるだろうし、上場後が適していることもあるだろう。

この数年、少なからぬ投資家がキャッシュフローよりも成長速度に重点を置くようになっている。スタートアップが利益を出し始めるまでに数年待つことも珍しくない。言い換えれば、投資家は以前よりはるかに長期的な視点で物事を考えるようになっている。重要なのは最終的に目指すゴールだ。

WeWorkを黒字化する方法はある。最近新たに得た拠点を閉鎖し、大都市圏の物件だけに集中すれば短期間でキャッシュフロー・ポジティブを達成することは可能だろう。もちろんVビジョン・ファンドもこれは十分承知していると思う。しかし世界のオフィス供給を制覇する可能性があるというのに、なぜ目先の利益のために小さく固まらねばならないのか?

我々は大胆な賭けを応援すべきであり、足をひっぱるべきではない。もちろんWeWorkも結局は大失敗に終わる可能性はある。しかしたとえそうなっても「資本主義は機能しない」ということを意味しはしない。実際、その逆だ。キャピタリズム、特にベンチャーキャピタリズムは以前ににも増して未来に、つまり将来の成長に賭ける仕組みとなっているのだ。

画像:Getty Images

原文へ

(翻訳:滑川海彦@Facebook

ベンチャーキャピタルはなぜ大型化に向かうのか?

(編集部)この記事の筆者はNGP Capitalのマネージング・パートナーPaul Asel氏。同氏はテクノロジー分野の投資家として25年以上の経験がある。

SoftBankとAndreesen Horowitz(a16z)の両社は最近ベンチャーキャピタルの投資規模を拡大するような発表を行っている。Reutersの記事によれば、SoftBank関係者はVision Fundの上場を検討していると述べたという。実現すればベンチャーキャピタルとして初の株式公開となる。 一方、Andreesen Horowitzはアーリー・ステージ向けの7.5億ドルとグロース・ステージ向け20億ドルの2つのファンドの組成を発表した

A16zは過去1年半でバイオと暗号通貨に特化したファンドなどなど一連のファンドを組成しており、総額は35億ドルだ。ファンドにはAndreesen Horowitzに加えてGGVLightspeedSequoia などの著名ベンチャーキャピタルが加わっている。これらのVCは投資先のステージ、地域、専門分野などに応じたファンドを組成してきた。ここ1年半でSequoiaは9つのファンドを組成し、総額は90億ドルに近い。Lightspeedは4つのファンドで合計30億ドル、GGVも4つのファンドで18億ドルをコミットしている。

こうした大型ファンドが多数生まれていることはベンチャーキャピタルの大きく地図を塗り替えるものだ。ベンチャーキャピタルはもはや毎週月曜の朝に何人かのパートナーが小さなテーブルを囲んで次はどの会社に投資すべきか議論するようなコテージ・インダストリーではなくなった。

以前のベンチャーキャピタリストはいってみれば歯科クリニックのような個人営業に近かった。ベンチャーキャピタルはいまや人事、広報、金融、法務、営業などの部門を擁する大企業となり、社内にはバイオ、ロボット、暗号など各投資分野の専門家の大群を抱えている。SoftBank、Sequoia、GGVなどはほんの数名のパートナーでスタートしたが、現在はまたたくまに数百人のチームに成長した。

スタートアップへの投資は本質的にローカルビジネスだ

投資銀行の発達の歴史はベンチャーキャピタルの今後を占う上で役立つだろう。有力な投資銀行や非上場企業に投資するプライベート・エクイティ・ファームは何十年もの間結束は固いが小さな産業分野だった。それが投資規模の拡大によって一般的な企業の構造を備えるようになった。メリル・リンチは1914年に株式ブローカーとしてスタートした。当初は閉鎖的な投資銀行業界への新参者という扱いを受けた。当時はゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー、リーマン、クーン・ローブなどの古参投資銀行が市場を支配して高い利益率を誇っていたが、株式市場から潤沢な資金が流入するにつれてメリル・リンチなどの新しい投資銀行が追い上げていった。

やがて投資銀行業界にM&Aの波が押し寄せ、それまでのパートナーシップに代わって近代的大企業の枠組みが主流となる。1854年創立のリーマンは1977年にクーン・ローブを買収し、次に1984年に自身がアメリカン・エキスプレスに買収された。リーマンの投資銀行業務はシアソン・ハットン・リーマンに移管され、1994年にリーマン・ブラザーズ・ホールディングスとしてニューヨーク証券取引所に上場される。投資銀行の大型上場ではモルガン・スタンレーが1993年に、ゴールドマン・サックスが1999年にそれぞれ実現している。

プライベート・エクイティ・ファームもすぐにこのトレンドに続いた。投資銀行同様、当初は小規模なパートナーシップで出発したが、活発なM&Aを支えるために貪欲に資金を求めていた。この資金需要を満たすには上場して株式市場から調達するのが近道だった。現在プライベート・エクイティ・ファームのトップ5社はすべて上場企業だ。ポートフォリオ2500億ドルのApollo Global Managementは2004年に、4700億ドルのBlackstoneは2007年に上場しており、Carlyle、KKR、Aresもすぐに続いた。

長らくベンチャーキャピタルは投資銀行とプライベート・エクイティ・ファームに訪れた巨大化とM&Aの波から隔離されていた。 スタートアップへの投資は本質的に相手をよく知っていなければならないローカルビジネスだ。テクノロジーの革新は歴史的にみて「早いもの勝ち」だ。MicrosoftOracleの例をみても、こうしたリーダー企業の資金効率は非常に高かった。多くの場合、上場以前の資金調達は総額で2000万ドル以下に過ぎなかった。ベンチャー企業は本質的にリスクが高く、不安定なビジネスだ。利益は企業ごとに大きく異なり、失敗の率も高く波も大きい。

イノベーションにはますます金がかかり、起業家はVCにますます多くを求めるようになった

しかし投資銀行やプライベート・エクイティ・ファーム同様、ベンチャーキャピタルも資金量が勝負となってきた。イノベーションを起こすには金がかかる。起業家も投資家もビジネスの着実な成長より一発勝負の革命を求めるようになる。既存のライバルの脅威を退けるためにはいわば衛星軌道に入れる地球脱出速度が求められる。スタートアップは次第に成長するにつれて有力な既存大企業と競争を強いられる。起業家としては資本効率の高い「リーン・スタートアップ」がトレンドだが、ベンチャーキャピタル側からみるとスタートアップをサポートするためのサービスづくりは決してリーンではない。特に財務、法務、マーケティングなど成長を加速するために必須の部門に人材を確保するには多額の資本を必要とする。現在大手ベンチャーキャピタルでは直接投資に携わるスタッフよりもサポート部門の人員のほうが多くなっている。

ベンチャーキャピタルは多様化、分断化が著しい業界だ。シリコンバレーだけでも200社以上のベンチャーキャピタルがひしめきあっている。これまでテクノロジーのイノベーションとは無縁と思われていたような地域、国々に数百のベンチャーキャピタルが生まれている。しかしベンチャーキャピタルへの需要が高まるにつれ、大量の資金を動かせる大型ベンチャーキャピタルが有利になる。今後10年程度で群小ベンチャーキャピタルの統合が進むのは間違いない。

大型化するベンチャーキャピタルの攻勢に耐えて一部の業種に特化したブティック型の投資銀行やプライベート・エクイティも生き残っている。同様に小規模なエンジェル投資、シード投資もSoftBank式の組織的な投資方式に対抗している。特定のテクノロジーや特定の地域、またそこで活動する起業家を熟知したベンチャーキャピタルは継続的に高いリターンを得ている。しかしながら、資本の集中度合が強まっているのが現実のトレンドだ。周辺には能力の高いエンジェル投資家、シード投資家が残るとしてもベンチャーキャピタル業界は投資銀行と同様、最終的には少数の巨大なグローバル企業が寡占するる世界になるだろう。

原文へ

滑川海彦@Facebook

Makeの親会社がスタッフ全員レイオフ、運営停止の悲劇

人気のDIY工作雑誌MAKEの発行元でテクノロジーとアートのカンファレンス、Maker Faireを主催してきたMaker Mediaの経済的問題が深刻化し、運営の停止を余儀なくされた。22人のスタッフは全員レイオフされ、事業はすべてストップした。TechCrunchが聞いていたMaker Mediaの困難な財政状態はファウンダーでCEOのデイル・ドハティ氏によって確認された。

創立以来15年にわたってMAKEはわかりやすいステップバイステップの解説で多彩なサイエンス工作を紹介することで大人にも子供にも根強い人気を得てきた。MAKEの読者を中心としてコミュニティーも発展した。2006年以降、Maker Faireは直営、ライセンスも含め40カ国で毎年200回以上が開催されてきた。会場には美しく不思議なインスタレーションが置かれて来場者のインスピレーションを誘っていた。

ドハティCEOはTechCrunchに対し「Maker Media Inc.は運営を停止した。22名の従業員は全員会社を去る。私はこの会社を15年前に創立したが、以来ビジネスは苦闘の連続だった。印刷媒体はもはや有力なビジネスではなかったが、それでもかろうじて運営を続けることができた。イベントの企業スポンサーの脱落が大きかった」と語った。実際、Microsoft、Autodeskは今年、Maker Faireのフラグシップイベントであるベイエリアでの開催のスポンサーに加わらなかった。

それでもドハティ氏はなんらかの形でMakerブランドを残そうと努力している。例えばMAKEのオンラインアーカイブを残し、サードパーティーにブランドをライセンスしたりできないかと方法を探っているという。これを可能にするため、Maker Mediaは通常の倒産手続きでなく、債務を債権者に一括譲渡する手続きによろうとしている。

ドハティ氏は「Makerコミュニティーが示したサポートに言い表せないほど感激している」と語った。現在、世界で進行中のMaker Faireイベントはそのまま続行されるという。ドハティ氏はOculusの共同ファウンダー、パーマー・ラッキーが出資の可能性に興味を示していると語った。またGoFundMeページもスタートしている。

これはヒドイ。友だちと私はMaker Mediaを助けたい。私はMaker Faireが大好きだ。文字通どおり創刊号からずっとMAKEの愛読者だった!―パーマー・ラッキー

CEOによれば、2016年のレイオフ以後、同社が直面してきた経済的苦難をスタッフはよく理解していたという。SF Chronicleによれば、この3月にはさらに8人がレイオフされた。未取得の有給休暇ぶんを含めて未払分給与は支払われたものの、退職金やこのような場合に通例の2週間ぶんの給与は支払われなかった。

ドハティ氏によれば「この会社はベンチャーキャピタルの投資を受けてスタートしたが、機会を十分に活かせなかった」という。MakerはObvious Ventures、Raine Ventures、Floodgateから1000万ドルの資金を調達したが、「投資家を十分満足させることができなかった。ミッションとしては強い支持を受けているが、ビジネスとして失敗だった。NPOの体制を取ったほうがよかったかもしれない。われわれのプロジェクトでいちばん成功したのは教育関係だった」とドハティ氏はいう。

Maker Mediaに対するコミュニティーの支持は以前として熱烈だ。ドハティ氏によれば、雨天だったにもかかわらず先週のビッグイベント「Bay Area Maker Faire」の入場者は目標を達成していた。MAKE誌には12万5000人の定期購読者があり、YouTubeチャンネルの登録者も100万人を超していた。しかし家賃や製作コストの高騰、またコンテンツが無料のオンラインDIYプロジェクトで直接収入源にならないことなどが経営を圧迫していた。

再生に向けての努力が今後どうなるか不明だが、Maker Mediaはある世代の人々とその家族にテクノロジーとアートのインスピレーションを与え続けてきたことは間違いない。【略】

「Maker Mediaは多くの人々の役に立つことができたと思うが、今日のビジネス環境では私は十分な成果を挙げられなかった」とドハティ氏は結論した。現在のところMaker Mediaは辺土で冷凍状態となっている。

原文へ

(翻訳:滑川海彦@Facebook

ソフトバンクが中南米に5500億円超を投じる根拠

この記事はCrunchBase NewsMary Ann Azevedoの寄稿だ。

日本のソフトバンクが中南米に50億ドル(約5557億円)を投資すると発表したことを受けて、TechCrunchはラテンアメリカのベンチャー事情に詳しいLAVCA(Latin American Venture Capital Association)の専門家に背景を尋ねた。その結果、この地域にソフトバンクが巨額の投資を行う理由が納得できた(実はTechchCrunchは2017年にもラテンアメリカへの関心が高まっているという記事を掲載している)。

まず数字を見ていこう。中南米のスタートアップに対するベンチャー投資は昨年に比べても大きく増えている。LAVCAのデータによれば、2016年に5億ドルだった2017年には11.4億ドルへと2倍以上に増えた。2018年の数字まだ集計が終わっていないが、LAVCAでは15億ドル以上になるものと予測している。

貸付と投資を合計すると数字はさらに大きくなる。LAVCAでは中南米での合計額は2016年に23億ドルだったものが.2017年で43億ドルになったと考えている。

LAVCAのベンチャーキャピタル担当ディレクター、Julie Ruvolo氏はCrunchbase News対して、「ソフトバンクのファンド組成はこの1、2年のトレンドに沿ったものだ」として次のように述べた。

ここしばらく、外の世界のグローバル・プレイヤーがラテンアメリカに投資する傾向は高まっている。また以前はほとんどなかった1億ドル級の大型資金調達ラウンドが現れてきたのも注目すべき傾向だ。

もうひとつ、投資された資金が向かう先もおおむね予想通りだった。 2017年と2018年上半期ベンチャー投資では各ステージ合計してやはりブラジルが総額の73%を占めていた(201件のスタートアップに14億ドル)。投資件数の2位はメキシコで82のスタートアップが1億5400万ドルを集めている。ただし金額ではコロンビアのほうが多く、23件で1億8800万ドルだった。

以下には最近で目立った大型案件をリストしてみた。

件数でも金額でもフィンテックがベンチャーキャピタル投資の最大のジャンルだった。この市場にも何社かのユニコーンが現れている。ブラジルのライドシェア・スタートアップ、99、コロンビアのRappi、ブラジルのオンライン学習システム、Arco Educação、ブラジルのフィンテック、Stone Pagamentosが企業評価額10億ドルを突破した。

中南米ではこうした活発なイノベーションとそれに対する投資が行われている。こうした情勢にソフトバンクが参加して利益を上げようと考えるのは自然だ。

LAVCAによる資金調達データに含まれる数字はサードパーティーの機関投資家、専門ベンチャーキャピタル、そのリミテッドパートナーによるもので他のタイプ資金調達、ソフトバンクのファンドや国営ファンド、私企業などからの投資は含まれていない。

原文へ

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

SoftBankとアブダビMubadala、新ファンド組成でさらに関係緊密化

日本のテクノロジー・コングロマリット、SoftBankとアブダビの国営ファンド、Mubadalaの関係は以前から密接かつ入り組んだものだったが、これがさらに強化されるようだ。

Financial Timesによれば、 Mubadalaがヨーロッパのスタートアップを支援するために立ち上げた4億ドルのファンドの半額についてSoftBankが出資にコミットしたという。

ベンチャーに投資に関心を持つ読者なら2017年にSoftBankが組成した巨大なVision FundにMubadalaが150億ドルの出資をコミットしたことを思い出すかもしれない。その直後、 Mubadalaはサンフランシスコにオフィスを開設し、同時に初期段階のスタートアップに投資する目的の4億ドルのファンドを組成した。SoftBankはこのファンドにも出資している。

この協力関係は合理的と見られていた。少なくとも理論的には、MubadalaのファンドはSoftBankが通常気付くくより早くシリコンバレーのスタートアップ業界で何が起きているかについて知り、その情報をSoftBankに提供できるはずだ。この動きはまた、MubadalaがVision Fundに投資した資金の動きを監視するにも好都合だ。

しかし今回の欧州向け新ファンドはいくつかの懸念を招いている。Finacial Timesは新ファンドが組成されたタイミングを「異例」と書いている。これはSoftBankの負債が1540億ドルに上る現状を指している。またFTの情報源は新ファンドは「SoftBankのテクノロジー投資が増大することによってMubadalaのVision Fundへの影響力も増大する仕組みであることをはっきりさせた」と述べている。

そうではあってもSoftBankにはアブダビとの関係をますます深める以外選択肢はなかったようだ。SoftBankの孫正義CEOは、今月これに先立って、「Vision Fundは990億ドルの資金のうち500億ドルをすでに投資している」と述べた。現在までの投資ペースからすると(先週には10億ドルをたった1社に投じている)、残る資金は2020年末までもたないことになる。

一方その一方で、Vision Fundに450億ドルをコミットして最大の投資家となっているサウジアラビアとSoftBankとの関係がかつてのように良好なものであるかどうかは明らかでない。SoftBankはVison Fund 2においてもサウジに最大の投資家となることを期待していた

昨年の10月3日にBloombergの記者がサウジのモハメド・ビン・サルマン皇太子(通称MBS)にインタビューしたとき、MBSは「Vision Fundにさらに450億ドルをコミットする用意がある」と述べていた。しかしインタビューの5日前にサウジ国籍の反体制派活動家、ジャマル・カショーギがイスタンブールのサウジ領事館に入ったのを最後に消息を断っていた。この後、カショーギの失踪とMBSの関与に国際的な注目が集中することになる。ビジネスリーダーの多くはサウジが10月中旬にリヤドで開催を予定していたカンファレンスへの参加をキャンセルした。孫正義CEOもその1人だったが、ファンドへの影響を考えたのか、イベンドの前日にリヤドを訪問して密かにMBSと会談している。

このキャンセルがMBSを怒らせたかどうかは不明だ。 その後CIAがカショーギの殺害を命じたのがMBSだと結論したこと、またこれに伴って国際的な非難がサウジに向けられたこと、などがSoftBankの資金集めにどんな影響を与えたかも分かっていない。

孫CEOは「さらにサウジから資金を得るつもりがあるかどうか?」という問題に答えることを避けた

その頃、SoftBankはMubadalaと協力してヨーロッパのスタートアップに500万ドルから3000万ドルの投資をするためのファンドを組成しようとしていると報じられた。

前述のサンフランシスコ・チームの役割と同様、新ファンドはVision Fundの資金をヨーロッパに流すパイプの役割を果たし、Mubadalaのチームが有望なポートフォリオを発見することが期待されている。

Mubadalaのヨーロッパ・ファンドはロンドン・オフィスをベースとして運営されるはずだ。Vision Fundは現在ロンドンに本社を置いておりサンフランシスコにもオフィスがある。近く上海、北京、香港にもおフォスをオープンさせる予定だ。

原文へ

滑川海彦@Facebook Google+

テクノロジー・スタートアップは景気後退に備えよ――今やるべきことはこれだ

流れが変わる速さには驚かされる。数ヶ月前にわれわれはテクノロジー・ブームの真っ只中にいて、この好景気は永遠に続くようにみえた。 いまやリセッションを予告すると考えられる逆イールドカーブが現れ、市場は全面的に弱気だ。Google Trendsを開けばまさにこの“recession”という単語の検索回数が2008年から9年にかけての金融危機年以来最大となっている。世界の専門家がほぼ全員一致で近く景気後退があると予測している。

(Bloomberg記事) Lux Parnersのパートナー、Bilal Zuberiは「ある程度の景気後退が起きるのは100%確実だと考えている。大きな調整局面となるだろう」と述べ、スタートアップに対してコストカット、財務報告の厳密化の徹底(もしまだやっていないなら)を勧め、さらに今のうちに資金調達を行うべきだとしている。Zuberiはまた「キャッシュを十分に確保しておかねばならない。これは準備不足のライバルが会社や資産を売りに出す場合があり得るからだ」と述べている。

ではその景気後退はいつ起きるのだろうか? もちろん正確なことを予測するすべはないが、専門家は2019年下期から2020年上期あたりだろうと言っている。悲観的な筋(大勢のCEOを含む)はもっと早いと考えている。ではこの景気後退がテクノロジー分野に与える影響は? いい質問だ。

実はテクノロジー分野はバブル破裂に強い。景気のダウンから利益を得ることさえある。2008年の経済危機でも悲観的専門家は「テクノロジー産業の反映は終焉迎える」と警告した。スマートマネーの代表、Sequoia CapitalでさえR.I.P. Good Times(良き時代よ、安らかに眠れ)という長いスライドを作って運命の暗転を警告した。しかしこの予言が失敗に終わったことは誰もが覚えている。

一方、「ソフトウェアが世界を食い尽くす」現在、すべての産業はソフトウェア産業になりつつあるので景気後退はこのシフトを加速する」という理論がある。こうした過激なディスラプトによって苦しめられる個人の数を考えると無条件に喜ぶことはためらわれる。しかし一部の起業家はこのプロセスから利益を得るし、長期的かつマクロの観点からはこうした展開はあり得る。景気後退は隕石の衝突のようなもので、それが恐竜を滅ぼし、身軽な哺乳類―ソフトウェア企業―の繁栄をもたらすかもしれない。

仮にこうした理論が事実であっても、多数の個別企業が激しく揺さぶられることは間違いない。起業家は支出を抑えることが至上命題となる。長期的には大きな価値を生む可能性があるが、短期的には利益を生まないプロジェクトはまっさきにコストカットの対象になるだろう。消費者は財布の紐を固く締めるようになるだろうし、アプリを購入したり広告をクリックしたりする回数は現象するだろう。誰もが万一に備えてキャッシュを後生大事と抱え込み、リスクの大きい投資をしなくなるだろう。

大きな打撃となるのは、資金の流れが細るということより、マインドセットが後ろ向きになることだ。SF作家のブルース・スターリングは住宅抵当証券の破綻に始まった2008年の金融危機について、「興味ある点は、物理的存在にはまったく何の変化もなかったのに、われわれは突然希望の世界から絶望の世界に投げ込まれたことだ」と観察している。予想される景気後退も、理論的にはハイテク産業には大きな悪影響を与えないかもしれない。考えられないことだが、仮にGDPが10%減少するといった事態になっても、軍閥とミュータントが跳梁するマッドマックスの荒野が出現するわけではない。しかしわれわれは成長する世界にあまりに深く慣らされているため、単なるスタグネーションでも大災害のように感じられるかもしれない。

なすべきことは明らかだ。景気後退は間違いなく起きる。これには災害とチャンスの両面がある。その割合は個人や企業の置かれた状況によっても、またその備えによっても異なる。背伸びをしてはならない。(必要以上の)借金をしてはならない。パニックに陥ってはならない。なるほど新しいプロジェクトをスタートさせたり会社をピボットしたりするには適さない時期を迎えるかもしれない。しかし、好むと好まざるとによらず、「世界を食い尽くす」ソフトウェア産業は産業構造の食物連鎖の最上位にいる。隕石の衝突は避けられないだろうが、明るい側面も存在する。われわれは自他の利益のためにできるだけの努力をすべきだろう。

画像:Pixabay (opens in a new window) under a CC0 (opens in a new window) license.

原文へ

滑川海彦@Facebook Google+

Beyond Nextが名古屋大・他4大学の公認ファンド運営へ、医師起業家ファンドも設立

独立系アクセラレーターBeyond Next Ventures(以下、BNV)は12月6日、名古屋大学ほか東海地区の5つの大学発スタートアップへ投資を行う、大学公式ファンド「名古屋大学・東海地区大学広域ベンチャー2号ファンド(仮称・以下、東海広域5大学ファンド)」の運営事業者として選定されたことを発表した。

BNVではまた、12月3日に同社のFacebookページ上で、医師起業家への出資を行う「アントレドクターファンド」への取り組みについても明らかにしている。

BNVは2014年の設立後、大学発の研究開発型ベンチャーを対象としてBNV1号ファンドを立ち上げ、2016年にクローズ。ファンド総額は55億円を超える規模となった。また今年の10月には1号ファンドを超える規模のBNV2号ファンドを設立。BNV2号ファンドでは「医療・ライフサイエンス領域へ重点的に支援を行う」としている。

BNVのアカデミア、そして医療・ライフサイエンスへの最近の取り組みについて、同社代表取締役社長の伊藤毅氏に聞いた。

大学発シーズを起業前から成長まで一貫して支援

写真右から名古屋大学総長 松尾清一氏、Beyond Next Ventures代表取締役社長 伊藤毅氏

2019年春に設立が予定されている東海広域5大学ファンドは、東海地区産学連携大学コンソーシアムに参画する名古屋大学、名古屋工業大学、豊橋技術科学大学、岐阜大学、三重大学の5大学発スタートアップへの投資を目的とするものだ。

5大学では、2016年にも日本ベンチャーキャピタルを運営事業者として、名古屋大学・東海地区大学広域ベンチャー1号投資事業有限責任組合(名大ファンド)を設立。名大ファンドの組成が25億円規模で完了したことから、新規ファンドの設立を準備し、今年8月から運営事業者の公募を行っていた。

BNVは、BNV1号ファンドで研究シーズの事業化経験も多数ある。名古屋大学発スタートアップでは、電子ビーム発生装置・素子の開発・販売を手がけるPhotoelectron Soul や、新品種創出プラットフォーム技術を持つアグリバイオベンチャーのグランドグリーンといった企業へ、創業期から出資や事業化支援を行ってきた。

またBNVでは、2016年8月に複数の大手事業会社とアクセラレーションプログラム「BRAVE」をスタートし、実用化・事業化を目指す技術シーズに対して、知識やノウハウ、人的ネットワークを提供している。

伊藤氏は「アカデミアの技術シーズに対する起業前からの支援やアクセラレーションプログラムを持つことが評価されたのではないか」と、今回ファンド運営者として選定された背景について話している。

BNVは、早稲田大学発スタートアップへの出資を目的とした、総額20億円規模の大学公式ファンド組成に関しても、ウエルインベストメントとともに大学と提携して支援を行うことが決まっている(関連記事)。

「これまで培ってきたアカデミアシーズの事業化ノウハウの知見や経験を広く社会に還元するために、複数の大学の公認のアクセラレーターとして事業化支援を行っていく」というBNV。「東海5大学の特許取得件数は合計すると京都大学と同じぐらいある」と伊藤氏は述べ、最大20億円規模で東海広域5大学ファンドの組成と、5大学発スタートアップへの起業準備や事業化支援、出資・成長支援まで、一貫したサポートが可能な体制構築を進めるとしている。

医師起業家ファンドは「医療変革のためのメッセージ」

BNV1号ファンドの投資先企業は、「社長かつ医師」が創業した医療・ライフサイエンス領域スタートアップが約3分の1を占める。キュア・アップサスメドといった医師起業家が創業したスタートアップについて、伊藤氏は「新しい医療・ライフサイエンス分野のプロダクト開発を、スピード感と柔軟性を持って実施できる。臨床医療だけでは救えない患者も救うことが期待できる」と語る。

そうした考えのもと、BNVがスタートした取り組みが「アントレドクターファンド」、医師起業家スタートアップを対象とした投資ファンドだ。

伊藤氏は「医療の現場は、閉鎖的で外部が入りにくい構造もあり、なかなか効率化されてこなかった。医療費増大が問題になる中で、新しい医療機器を使った治療法の確立や、そもそも病気になりにくくするための予防的アプローチなどの担い手は、比較的若いドクター起業家であると僕は信じている」と語っている。

「それを僕はBNV1号ファンドでの投資で実感した。病院やクリニックに新しい治療方法や医療を効率化するプロダクトが浸透するためには、治験をはじめとしたデータが求められる。国の承認にしても、現場の医療関係者を説得するにしても、データとエビデンスがすべてだ。それをきちんと取って説得できる会社でなければ、病院やドクターに評価してもらえない」(伊藤氏)

ヘリオス、メドピア、ドクターシーラボなど、医師起業家が創業し、株式上場を果たした企業の事例も出ていることから「若手の医師起業家は少しずつ増えている」と伊藤氏。「そのチャレンジを後押ししたい」と話している。

ところでBNVでは、2018年から東京都の委託を受け、創薬系スタートアップの起業や成長を支援するアクセラレーションプログラム「Blockbuster TOKYO(ブロックバスタートーキョー)」を運営。BNV2号ファンド設立時にも「特に、医療・ライフサイエンス領域に注力する」とコメントしており、2019年2月には、東京・日本橋にシェア型ウェットラボ「Beyond BioLAB TOKYO」の開設も予定している。

こうして見ると、この領域への支援は、BNVでは既に十分に手当てが進んでいるのではないかと思えるのだが、さらにアントレドクターファンドという形でフィーチャーした理由について、伊藤氏は「社会へのメッセージでもある」と説明する。

「増大する医療費や非効率な医療現場といった課題は、破綻を迎えつつある日本の医療の実情を見れば、今こそ真剣に取り組むべき。これを世の中に知ってもらうために、あえて強調している。僕たちにしてみれば、秘密にしておけばほかの投資家とも競争にならないので、その方がいいのだけれど、あえて『おいしい投資分野があるよ』と教えることで、他者からも医師起業家への投資機会を得たい。そのための明確なメッセージだ」(伊藤氏)

また「ドクターで、起業に少しでも関心があるという人たちに、臨床医師という道だけでなく、起業家としての道もあると知らせることも、アントレドクターファンドの目的」と伊藤氏は言う。

「効率化で医療現場がよくなれば、医師・医療関係者の長時間労働問題の解決にもつながり、よい医療を受けることができる患者さんにもベネフィットがある。もちろん医療費にも大きなインパクトがあるはず。アントレドクターファンドの取り組みを、医療変革のためのメッセージとして届けたい」(伊藤氏)

アントレドクターファンドの規模は10億〜20億円を予定している。第1号投資案件として投資を受けたのは、人工知能技術を活用してインフルエンザの高精度・早期診断に対応した検査法を開発する医療スタートアップ、アイリスだ。アイリスは2017年11月に救急科専門医であり、医療スタートアップのメドレー執行役員も務めていた沖山翔氏が創業した。出資金額は非公開だが、伊藤氏は「BNVがリードインベスターとして、積極的に支援していく」と話している。

テクノロジー株の急落でトップ4社、1兆ドルを失う――ダウ、S&Pが大幅下げ

絶好調を誇っていたテクノロジー企業の株価の下落が止まらない。昨日(米国時間11/20)、ダウ・ジョーンズ工業株平均とS&P 500は急落し、2018年の上昇をほとんど帳消しにした。Facebook、Apple、Amazon、NetfixといういわゆるFAANの4社の時価総額は合計で1兆ドルを失っている

一般向けプロダクトやサービスを提供してきた値がさ株、FacebookAmazonAppleAlphabetNetflixの下げがダウ平均やS&P 500などのインデックスを下落させる大きな原因となっている。

この株価急落には連邦準備制度の利上げが大きく影響している。投資家はテクノロジー企業の成長性に賭けるよりもっと安定した資金の運用に目を向け始めた。同時に、多くのテクノロジー企業が上場後10年ないし20年以上経過しており、以前のような株価の急上昇は期待できないのではないかという懸念も広がっている。

加えてアメリカの経済見通し全般が必ずしもバラ色でないという背景がある。戸建て住宅統計はいつも景気の先行指標となってきたが、これも下落傾向が続いている。逆に集合住宅の動向は上向きだ。

こうした状況はスタートアップにとってもベンチャー投資家にとっても理想的とはいえない。

事実、2019年に予定されていた株式上場にも影響が出始めている。来年は後期の大型スタートアップが株式市場に次々にデビューするビッグイヤーになると期待されていた。これらの上場は投資家に再投資の資金をもたらし、過去10年同様、今後も巨額の資金がハイテク・スタートアップに流れ込むという主張の裏付けになると考えられていた。

だが、現在の市況からするとそうなる可能性が高いが、株式上場のチャンスがなくなれば、投資家はスタートアップに対して小切手を書くことをためらうようになるだろう。

つまり多くのスタートアップが現在のような高いバーンレート(資本消費率)を維持できなくなる。また上場企業についても株価下落は資金調達コストの上昇を意味するので企業買収や新規事業などに対する大型投資を冷え込ませることになりそうだ。この面でもスタートアップのエグジット(現金化)の道が狭くなる。

全体としてテクノロジー業界は不安定な状況に置かれることになった。しばらく続いてきたテクノロジー・ブームも一区切りつけることになるかもしれない。

画像:Michael Nagle/Bloomberg (opens in a new window) / Getty Images

原文へ

滑川海彦@Facebook Google+

メアリー・ミーカーら、12.5億ドルの独自ファンド組成へ――「インターネットの女王」がトップの新VC誕生間近

インターネットの現状を網羅的に紹介するレポートを毎年発表して「インターネットの女王」とも呼ばれてきた著名投資家のメアリー・ミーカーが8年間パートナーを務めてきたKleiner Perkinsを去って独自のファンドの組成を目指すという。9月のBusiness Insiderの記事によれば、メアリー・ミーカーのデビュー・ファンドは12.5億ドルの規模となる。

TechCrunchはメアリー・ミーカーにさらに詳しい情報を求めている。

Recodeの記事でメアリー・ミーカーは3人のKleiner Perkinsの同僚と共に後期ステージのスタートアップ向けの新しいベンチャーキャピタルを創立すると語っている。メアリー・ミーカーと行動を共にするのは、2014年にKleiner Perkinsにジェネラル・パートナーとして加わったMood Rowghani、 2016年にジェネラルパートナーとして加わったNoah Knauf、18年前からシニア・パートナーを務めるJuliet de Baubignyだ。

Recodeによれば、これらのパートナーはKleiner Perkins (以前のKPCB)との方針の相違が深まるにつれ、独自のグロース・ファンドを組成することを検討するようになったようだ。

Kleiner Perkinsにとっては、少なくとも短期的にはメアリー・ミーカーらの離脱は痛手となるだろう。Kleiner PerkinsはSocial CapitalのMamoon Hamid、Index VenturesのIlya Fushmanら著名な投資家を迎えてアーリー・ステージの投資を強化中だが、メアリー・ミーカーが去れば経営陣に女性が一人もいなくなる。

メアリー・ミーカーがde BaubignyらとKleiner Perkinsを去ることを発表する数ヶ月前、Kleiner Perkisでバイオテクノロジー投資担当のジェネラル・パートナーを務めてきたBeth Seidenbergが同社を去って独自のファンドを組成している

さらに同社でこの5年以上、ヘルスケア・スタートアップへの投資を担当していたLynne Chou-O’Keefeがやはり 独自ファンドの組成に成功したことをわれわれは報じた。SEC( 証券取引委員会)への提出書類によれば新しいベンチャーキャピタルはDefine Venturesという名称で、投資家からすでに5000万ドルの出資確約を得ているという。

ベンチャー・キャピタルのすべてが経営陣に女性を擁するわけではないものの、これらの女性投資家の離脱によってKleinerでは男性優位の傾向が目立つ結果となった。2012年には元パートナーのEllen Paoによって女性差別があるとして訴えられたことがある。この訴えは棄却されたものの、裁判で明らかになった事実からKleiner Perkinsに対する批判が高まった。

メアリー・ミーカーはKleiner Perkinsに加わる前はMorgan Stanleyに19年勤務し、グローバル・テクノロジー・リサーチ部門の責任者となっていた。Paoの訴訟ではKleiner側を弁護してベンチャーキャピタル業界で女性が働くには最良の場所と述べている。Kleiner Perkinsでもっとも有名なベンチャー投資家で、自らメアリー・ミーカーをスカウトしたJohn Doerrは2016年に日々の業務を引退している

メアリー・ミーカーと同士が目標とする12.5億ドル以上の資金確保に成功するなら(実際、現在の資金市場を考えれば成功する可能性が高い)、女性が責任者を務めるベンチャーキャピタルとして最大のものになる。

もちろんメアリー・ミーカーらにとってこのクラスのファンドを組成するのは初めての経験ではない。Kleinerは2016年に1億ドルのグロース・ファンドを組成しており、長年パートナーを務めてきたメアリー・ミーカー、Rowghani、Knauf、Ted Schleinがファンドの組成を指導していた。

Kleinerの最近アーリー・ステージ・ファンドは2016年の7回目のファンドで4億ドルの出資確約を得ている。

〔日本版〕写真は左からKnauf, de Baubigny、ミーカー、Rowghani

原文へ

滑川海彦@Facebook Google+

今年のクリスマスはこのダサいトレーディングカードだけでいい

冗談です。お願いだからこのシリコンバレーのベンチャーキャピタリストをあしらったトレーディングカードをクリスマスにプレゼント〈しない〉でほしい。でも、もし今あなたがVC——あるいはVC志願者——のためにプレゼントを探しているなら、1セット贈ると喜ばれるかもしれない。

  1. image03

  2. image04

  3. Mary-Meeker

そう。彼らは実在している! VCトレーディングカードのシリーズを販売するのはTouchBaseで、そこにはY Combinatorの共同ファウンダーPaul Graham、Andreessen Horowitzの共同ファウンダーMarc Andreessen、Kleiner PerkinsのパートナーMary Meeker、Benchmarkの代表パートナーBill Gurleyらがフィーチャーされている。

誰か、MeekerはKleinerを離れて独自のファンドを始めようとしている、とTouchBaseに教えてあげるといいかもしれない。

カード5枚セットの価格は60ドル。それぞれのセットには後期ステージVC、エンジェル、シード投資家のほかアドバイザーのカードが1~2枚入っていると同社は言っている。

TouchBaseは他に誰のカードがあるか公表していないので、知るためには1~2パックあるいは3パック買う必要があるかもしれない。

VCカードは今月中に発売される。

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi / facebook

女性起業家が調達した資金は米国VCのわずか2.2%(今年も)

女性起業家に公平な活躍の場を与えようとする数々の努力にもかかわらず、2018年に米国女性が設立したスタートアップの調達金額はベンチャー資金全体のわずか2.2%だった。

この数字に見覚えがあるかもしれない。PitchBookによると、これは昨年、女性ファウンダー単独あるいは女性のみのチームのスタートアップが調達した資金の割合とまったく同じだ。

この数字は、女性起業家や支援者たちがこの長きにわたる問題の解決を試みる際の一種のスローガンとして使われている。女性起業家が調達する民間資本は男性起業家と比べて著しく少ない。いくつかの新しい試みや、All Raiseのような専門組織が、メンターによる指導プログラムによってこの問題を解決しようとしているが、変化を達成するだけのリソースを追加するためには1年以上必要なのは明らかだ。

現在ベンチャーキャピタル会社の意思決定者に女性の占める割合は10%以下であり、米国VC会社の74%には女性投資家が一人もいない。こうした数字が変わり始めるまで、資金調達のギャップが縮まる見込みは小さい。

良いニュースもある。2018年を2ヶ月残した時点で、女性たちが調達したVC資金の額は過去最高を記録している。過去10ヶ月間に女性が起業したスタートアップは計391件、23億ドルの調達契約を完了し、2017年の20億ドルを超えた。男女混合チームによる今年の資金調達も132億ドル、1346件で、昨年の127億ドルより増えている。

一方米国スタートアップ全体では2018年に967億ドルを調達しており、年内に1000億ドルを超えるペースだ。女性が起業した会社はそのわずか2.2%しか調達していない。男女混合チームの数字は12.8%で前年の約10.4%より増えている。

昨年米国のスタートアップは9000件以上の案件で総額820億ドルを調達し、ベンチャー業界にとって今年同様に印象的な年だった。

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi / facebook

早稲田大学が総額20億円規模の公式ファンド設立へ——ウエルインベストメント、Beyond Nextと提携

早稲田大学は10月30日、同大学の研究成果を活用するスタートアップへの出資を目的とした総額20億円規模のファンド組成を目指し、ウエルインベストメントおよびBeyond Next Venturesの2社と提携契約を締結したことを発表した。契約締結日は10月29日。ファンドが設立されれば、早稲田大学にとっては初の公式なベンチャーファンドとなる。

同大学では、教員や学生が設立したスタートアップに対し、これまで早稲田大学インキュベーションセンターなどを通じて、コンサルタントによる経営相談や施設の提供などの支援を行ってきた。

今回の提携により、ウエルインベストメント、Beyond Next Venturesの両社は、早稲田大学の技術シーズを活用したスタートアップの育成強化に向け、シード、アーリーステージの企業に投資するベンチャーキャピタルファンドを2018年内にも設立する予定だ。

また、早稲田大学と両社では、スタートアップ創出のための各種支援プログラムの企画運営や、事業化可能な研究シーズの発掘、ハンズオン支援などの施策も行っていく。

Beyond Next Venturesは、10月22日に2号ファンドを設立したばかり。同社代表取締役社長の伊藤毅氏は「1号ファンドでは、東京大学協創プラットフォーム開発のLP出資を受けているが、ファンドとして特定の大学色を付ける考えはない」と東大・早大以外の各大学との連携も進める考えを示している。一方で「早稲田大学の公認アクセラレーターとして、今まで以上にシーズの発掘を行い、支援したい」とも述べている。

「メルカリ創業者の山田進太郎氏をはじめ、早稲田大学出身でITベンチャーを創業した人はたくさんいるが、大学発の技術シーズ、特に研究室発の技術はビジネスとして理解されにくく、アカデミアに埋もれているものも多い。技術シーズをビジネス側の人が『面白い』と思ってもらえるようなプランに作り替えて示していくのも、アクセラレーターとしての仕事だ」(伊藤氏)

Beyond Next Venturesでは、早大発のスタートアップに対し、ファンドによる起業後のエクイティ資金の提供のほかに、技術シーズの発表会の運営、同社が運営するアクセラレーションプログラム「BRAVE」への参加促進を通じて、メンタリングや事業化を支援するために必要な人材の提案、ビジネスプランのブラッシュアップなど、実践的なサポートも提供していくとしている。

なお、Beyond Next Venturesは同じ10月30日、三井不動産およびライフサイエンス・イノベーション・ネットワーク・ジャパン(LINK-J)と連携して、東京・日本橋にライフサイエンス領域のスタートアップが利用できるシェア型ウェットラボ「Beyond BioLAB TOKYO」を2019年2月に開設することも明らかにしている。シェアラボ開設の経緯やアクセラレーターとしての思いについて伊藤氏に詳しく聞いたので、近日中にご紹介したい。

TikTokのByteDanceが世界最大のスタートアップに――Uberを抜く会社評価額で資金調達完了

オンライン広告ネットワークやTikTokなどのサービスを運営する中国のByteDanceがUberを抜いて会社評価額で世界最大のスタートアップとなった。

ForbesBloombergは同社が750億ドルの会社評価額で30億ドルの資金調達を完了したと報じている。TechCrunchの取材に対し、事情に通じた情報源はこの報道が事実であると確認し、会社評価額はプレマネー、つまり資金調達を実施する前の評価額だと述べた。つまり今回のラウンドで得た30億ドルを加えるとByteDanceの評価額は780億ドルとなる。これは配車サービスの巨人、Uberの直近の会社評価額720億ドルを抜くものだ。ただUberはf評価額1200億ドルで来年上場するものとみられる。.

ByteDance にコメントを求めたが回答は得られていない。

TechCrunchはByteDanceがアメリカのベンチャーキャピタルKKR、General Atlanticに加えて日本のSoftBankと新たな資金調達ラウンドに関して協議していることを8月に報じている。 BloombergはこのラウンドでSoftBankが18億ドル程度を出資し、その一部でセカンダリーマーケットで既存の投資家の株式を買取ると報じた。この記事はラウンドは完了しておらず新たな投資家の参加によって資金調達総額がさらに跳ね上がる可能性を指摘していた。

ByteDanceは多様なデジタルメディアを運営しているが、中でも有名なプラットフォームは 今日头条(今日頭條、Toutiao)だろう。これはAIを活用したニュース・サービスで1億2000万のユーザーがおり、中国最大級のダウンロードを集めたアプリとなっている。またByteDanceが運営するYouTube的な短編ビデオ共有サイト、TikTokはライバルの動画サイト、Music.lyと統合された。ByteDanceはMusica.lyを昨年 10億ドルで買収していた。

TikTokが人気があるのは中国だけではない。TikTok-Music.lyの統合は世界的な動画共有プラットフォームとなることを目指す戦略の一環だ。ByteDanceは今日頭條方式のサービスを世界で展開している。ただし、中国内のサービスと国際的サービスの間に慎重に障壁が設けられており、
TikTok(月間5億ユーザー)とその中国版の抖音(Douyin、月間3億ユーザー)はまったく別のサービスとして運営されている。これは主として検閲の影響を考慮したものだ。

ByteDanceはBATと呼ばれるBaidu、Alibaba、Tencentなどの先発企業を押しのけて中国のインターネットでトップクラスの地位を築くという離れ業に成功した。しかしアメリカのテクノロジー企業もByteDanceの動向には注目している。「模倣は最高の賛辞」といいう言葉があるがGoogleは中国向けにo今日頭條に似たニュースアプリを開発中だ(検閲に対応する点が議論を呼んでいる)。一方、TechCrunchはFacebookはTikTokクローンを準備していると報じた。

ただしByteDanceにとってすべてが順風満帆ではない。中国政府はオンラインメディアに対しても厳しい検閲を行っており、メディアやアプリストアが一時停止される制裁を受けている。これにともない同社のメディア審査チームは6000人から1万人に急増した。しかしこうした逆風も一時的な傷みだろうし、政府から厳しい視線が注がれるのも同社の影響力の重要性を物語っていると考えるべきだろう。

〔日本版〕11月15日、16日に渋谷ヒカリエで開催されるTechCrunch Tokyo 2018TikTok日本法人の西田副社長が登壇する。

原文へ

滑川海彦@Facebook Google+

カショーギ事件はシリコンバレーの一つの時代の終焉か――SoftBank新ファンドの行方も不透明

事件の進展の速さは驚くばかりだ。きっかり1週間前、われわれはWashington Postのコラムニストがトルコで失踪した事件でサウジアラビアの資金が汚染されたのではないかと疑う記事を掲載した。しかしジャマル・カショーギがイスタンブールのサウジ領事館で消息を絶ったことに関して、シリコンバレーの取材先はほぼ全員が実名でコメントすることを拒否した。

いくつかのソースからオフレコで聞いたところでは、サウジの資金に利害関係をもつ人々は同国と、特にムハマド・ビン・サルマン皇太子との関係の安定を望んでおり、ことを荒立てたがっていないということだった。曰く、確実は証拠はない、成り行きを見守っている。シリコンバレーに投資しながら一方で自国民を拷問するような体制だと思うならナイーブすぎる。資金の出処が清浄であることを望んでチャンスを逃すくらいならサウジの資金を入れて会社を成長させることを選ぶ、等々だ。

たしかにシリコンバレーの企業はこれまでも多くのスキャンダルを乗り切ってきた。多くの人々を憤慨させるような事件が起きても、すぐ同種の事件が起きて前の失敗は忘れられるのが通例だった。1週間前にはトルコのサウジ領事館でサウジ国民のジャーナリストが消えた件もマスコミはすぐに忘れるだろうと思われていた。

しかしカショーギ事件は忘れられるどこころかその反対の道をたどった。事件はあまりにグロテクスであることが伝えられ、これを無視していることは誰にもできなくなった。トルコ政府高官は今朝、New York Timesに対して殺害現場における録音の内容を明らかにした。それによればカショーギは領事館に入るやいなやサウジの情報機関員に拘束され、拷問された。機関員はカショーギを殴打し、指を切り落とした。その後、首をはね、遺体を切断した。このトルコ政府高官によれば、遺体切断のために法医学専門の医師が同行しており、機関員たちはこの作業の間ヘッドフォンで音楽を聞いていたという。

それでもまだトランプ大統領はシリコンバレーにMBSとして知られているサルマン皇太子を「非難は不当だ」と擁護した。一方、何十億ドルものサウジ資金をテクノロジーその他の企業に流してきた日本の巨大コングロマリット、Softbankは考え直し始めた。Financial Timesによれば、SoftbankのCOO、マルセロ・クラウレはこの問題に関連して初めて口を開き、SoftBankのVision Fund 2号について「何も決まっていない」と述べた。SoftBankは930億ドルの2号ファンドを立ち上げる予定で、サルマン皇太子と関連企業がその半額程度を出資する計画だった。

クラウレは「どいうことになるのか、事件の展開を注視している」と付け加えた。

Softbankにせよ他のサウジ資金の受け手にせよ、事件の展開には驚く他なかっただろう。2週間前にはシリコンバレーでは誰一人名前すら知らなかったコラムニストの失踪が長く続いたシリコンバレーのサウジブームの終焉をもたらすかもしれない。

こういえばあり得ないことのように聞こえるだろうが、そうではない。実は最近数年間シリコンバレーに流れこんでいた資金のきわめて大きな部分がサウジアラビアからのものだった。この資金によりスタートアップのファウンダーも投資家も潤沢な見返りを得ていた。実際、オフレコで聞いたところによれば、シリコンバレーのすれからしのビジネスピープルはサルマン皇太子の魅力に惹きつけられたわけではなく別の思惑からサウジ資金を歓迎していたのだという。つまりこの仕組みであればテクノロジー・ブームの反動が来て市場が崩壊しても、損をするのはサウジだというのだ。

一方でサウジ資金は無数のスタートアップに無数の資金調達ラウンドのチャンスを与えてきた。またラウンドの規模も年々増大していた。ベンチャーキャピタリストが扱う金額も巨大になっていた。これによりベンチャーキャピタルから出資を受ける企業が株式を上場するまでの期間も伸びた。簡単にいえば、サウジ資金はベンチャー・エコシステム全体を根本的に変えた。

こうした巨額の資金の出どころが消えれば――そして、そうなる可能性が高いが――スタートアップは別の金主を探さねばならない。上場して市場から資金を募る企業もあるだろうが、資金調達に失敗して消えていく企業もあるだろう。

この事件は一つの時代の終わりを意味する可能性がある。一人の男が結婚許可証を求めて領事館に入ったのがすべての始まりだったことを考えると皮肉という他ない。

画像:Bloomberg / Getty Images

原文へ

滑川海彦@Facebook Google+