中国の新興EVメーカーXpengが海外進出、ノルウェーを足がかりに多くの欧州市場を目指す

Nio(ニオ)と同様に、中国の電気自動車メーカーXpeng(シャオペン)も海外展開を開始した。しかし、ノルウェーで派手なキャンペーンを展開したライバルとは異なり、Xpengは2021年10月にスカンジナビアの国で静かにスタートした。

同社はノルウェーで、SUVの「G3」とセダンの「P7」の出荷を開始した。2022年にさらに多くの欧州市場に参入することを目指していると、同社の広報担当者はTechCrunchに語った。

Xpengが海外展開を控えめにしているのは、おそらく11月18日発表した最初の「国際的」モデルであるSUVの「G9」の発売を待っていたからだろう。

「G9は、国際市場と中国市場の両方に向けて一から構想を練って開発された当社初のモデルであり、当社の最も洗練されたデザインを世界中の顧客にお届けします」と、同社の共同創業者で社長のHenry Xia(ヘンリー・シャ)氏は11月19日の自動車展示会で述べた。

このSUVは、Xpengの4番目の生産モデルであり、同社の最新の先進運転支援システム(ADAS)を搭載した初のモデルとなる。Xpilot 4.0と呼ばれるこのADASは、2021年10月のTech DayでXpengが説明したように、都市部での運転を想定して作られている。Xpilot 4.0を乗用車に搭載するのは野心的であり、完全な自律走行に近づくために「車両の始動から駐車まで」を支援することを目的としている。

Xpilot 4.0のコンピューティングパワーは、2つのNVIDIA Orin-Xシステムオンザチップユニットで構成されている。そのハードウェアには、カメラ、ライダー、ミリ波レーダー、3D視覚認識ネットワークが組み込まれている。

言い換えると、G9にはセンサーが何層にも重なっていることになる。しかし、Xpengはそれらを目立たないようにしている。例えば、デュアルライダーユニットはヘッドライトに組み込まれている。従来、ライダーは量産車には高価なものだったが、Xpengや業界関係者はセンサー技術を手頃な価格にすべく取り組んでいる。

この件に詳しい人物によると、G9が中国で発売されるのは2022年の第3四半期で、そのため欧州の顧客がSUVを試すことができるのは2023年以降になりそうだ。

一方、Xpengは、高度な自律走行乗用車を国際展開できるようにするために多くの課題を抱えている。同社は、ターゲットとする市場で充電ネットワークを構築する必要があるが、このプロセスは新型コロナウイルス感染症で中断されがちだ。また、Xpilotは高精細な地図に頼っているため、おそらく中国国内のナビゲーション会社との連携が必要になる。

また、Xpengはスマートカーの安全性について、各国政府から疑問を投げかけられるかもしれない。自動車の自動運転に対する各国政府の姿勢は異なり、Tesla(テスラ)のADASが絡んだ衝突事故の件で、この技術が準備万端かどうか懐疑的な見方が強まった。

Xpengはこの点に関していくつかの準備をしている。例えば、ドライバーにXpilotを起動させる前に、ドライバーをテストして安全性のスコアを与えることにしている。また、車両に搭載されたモニタリングシステムがドライバーの審査を行い、ドライバーが無責任な行動をしていると判断した場合には、Xpilotへのアクセスを取り消すこともある。

その他の仕様

G9は、Xpengの「スーパーチャージャー」に対応している。このスーパーチャージャーは800Vの高電圧の量産型SiC(シリコンカーバイド)で、5分もかからず最大200km走行分を充電することができる。

また、G9には故障カ所を特定できる「故障検知」システムが搭載されている。そして、システムは在庫があるサービスセンターを表示するとともに、修理時間と費用の見積もりも案内する。

最後に、G9にはギガビット・イーサネット通信アーキテクチャが採用されていて、より高いレベルの自律走行、スマート・コックピット、OTAアップグレードのために「通信とサポートを向上」している。

画像クレジット:Xpeng’s G3

原文へ

(文:Rita Liao、翻訳:Nariko Mizoguchi

EU最高裁顧問がドイツの大規模データ保持法は違法と指摘

国民のデータを(曖昧かつ包括的な「セキュリティ」目的のために)保持したい欧州加盟国政府の欲求と、無差別な大規模監視はEU法の基本原則(プロポーショナリティー、プライバシー尊重など)と相容れないとする主張を繰り返し、基本的権利の擁護を続けるEUの最高司法機関である欧州司法裁判所(CJEU)との戦いは、大規模データ保持に関する国内法令に対する辛辣な法的批判を再度呼び込んだ。

今回矢面に立たされたのはドイツのデータ保持法で、CJEUは、ISP(インターネット・サービス提供者)のSpaceNet(スペースネット)とTelekom Deutchland(テレコム・ドイチュラント)が提起した顧客の通信トラフィックデータを保持する義務に異議を唱える複数の訴訟に続いて裁定する。

判決はまだ出ていないが、現地時間11月18日、CJEU顧問から影響力のある意見として、トラフィックおよび位置データの概略的で無差別な保持は、例外的(国家安全に対する脅威に関連するもの)にのみ認められるものであり、データは永続的に保持されてはならないという見解が示された。

EU司法裁判所のManuel Campos Sánchez-Bordona(マヌエル・カンボス・サンチェス-ボルドナ)法務官の意見を発表したプレスリリースで裁判所は、同法務官は「言及されたどの論点に対する答えも、すでに同裁判所の判例法に含まれているか、そこから容易に推測できると考えています」と述べ、ドイツ法の「極めて広範囲のトラフィックおよび位置データを対象とする」「概略的で無差別な保持義務」は、データを一括収集するものであり、対象を絞った方法(特定の国家安全保障目的など)ではないことから、保管に課せられた制限時間内にEU法と合致させることはできない、とする司法官の見解を明確に提示した。

同司法官は、無差別な一括収集は個人データの漏洩あるいは不正アクセスなど「深刻なリスク」を生むと指摘している。そして、市民のプライベートな家族生活と個人データ保護の基本的権利に対する「重大な干渉」をもたらすと繰り返した。

この見解に法的拘束力はないものの、CJEUの裁定はアドバイザーに合わせられる傾向にある。ただし、この訴訟の最終裁決が下されるのはまだ数カ月先のことだ。

CJEUは、類似の事例を1年前に裁定している。複数のデジタル権利団体が、英国およびフランス法に基づいて行われた国の大規模データ収集および保持に対して異議を申し立てた訴訟で、当時裁判所は限定的なデータ収集および一時的な保持のみが許されるという裁定を下した。

(しかしPoliticoによると、その後フランスは判決の回避方法を探っている。同紙は去る3月に、政府は最高裁判所に裁定に従わないよう要求したと報じた。)

2014年の画期的判決でCJEUは、圏内でデータ保持規則を調和させることを目的とした2006年のEU司令を却下し、この制度は市民の権利に対する過度の介入を構成すると裁定した。それなら加盟国はこれまでにそのメッセージを受け取っているはずだと思うだろう。

しかし、この法的衝突が一段落する見込みはなさそうだ。とりわけ、各国政府の間で汎EUデータ保持法を復活させようとする新たな動きがあることを示す漏洩した討議資料Netzpolitik(ネッツポリティック)が入手し、この夏に報道してたことを踏まえると。

画像クレジット:Vicente Méndez / Getty Images

原文へ

(文:Natasha Lomas、翻訳:Nob Takahashi / facebook

フェイスブックの広告ツールが特定の個人をターゲティングできることを研究者グループが発表

スペインとオーストラリアの学者とコンピュータ-科学者のチームによって執筆された最新の研究論文で、Facebook(フェイスブック)のプラットフォームがユーザーに割り当てる関心事項について十分に認識していれば、Facebookのターゲットツール使用して、特定の個人のみに排他的に広告を配信できることが実証された。

「Unique on Facebook:Formulation and Evidence of (Nano)targeting Individual Users with non-PII Data(Facebook上での一意性:非個人データによる個人ユーザーのナノターゲティングの定式化と証拠)」と題するこの論文では、Facebookのプラットフォームによってユーザーに割り当てられた趣味・関心事に基づいて、ユーザーを一意に識別できる可能性を示すメトリックを定義する「データ駆動モデル」が説明されている。

研究者たちは、Facebookのアドマネージャーツールを使用して、意図した特定のFacebookユーザーのみに届くように多数の広告をターゲット配信することができることを実証した。

この研究では、Facebookの広告ターゲットツールが有害な目的に利用される可能性について、新たな疑問を投げかけている。さらには、Facebookがユーザーについて収集している情報を使用して個人を特定できる、つまり、ユーザーの趣味や関心のみに基づいてFacebook上の膨大なユーザーから1人を選び出すことができるという状況を踏まえ、Facebookの個人データ処理帝国の合法性についても疑問を呈している。

この研究結果により、行動ターゲティング広告の禁止または段階的廃止を求める議員に対する圧力が強まる可能性がある。行動ターゲティング広告は、個人的にも社会的にも害を及ぼす可能性があるため、何年にも渡って非難の対象になってきた。少なくとも今回の論文によって、こうした侵襲的なツールの使用方法について確固とした抑制と均衡を求める声が高まりそうだ。

また、この研究では、こうした独立系の研究機関でもアルゴリズムを利用したアドテックを調査できることの重要性も浮き彫りになっており、研究者のアクセスを遮断しないように求める対Facebookの圧力も強まるに違いない。

Facebookの関心は個人データ

「私たちのモデルで検証した結果、Facebookによってあるユーザーに割り当てられた関心事集合のうち4つの大変珍しい関心事または22のランダムな関心事によって90%以上の可能性でそのユーザーをFacebook上で一意に特定できることが明らかになりました」とマドリード大学Carlos III、オーストラリアのGraz University of Technology(グラーツ工科大学)、スペインのIT企業GTD System & Software Engineering(GTDシステム&ソフトウェアエンジニアリング)の研究者は書いている。これにより、1つの重要な事実がわかる。つまり、Facebookが認識している珍しい関心事または多くの関心事を持つ個人は、Facebook上で、数十億人という膨大なユーザーの中からでも容易に特定できるということだ。

「この論文は、私たちの知るかぎりでは、世界規模のユーザーベースを考慮した上で個人の一意性について調査した最初の研究です」と彼らは続け、28億人のアクティブなユーザーに対するデータマイニングというFacebook固有のスケールについて言及した(注:Facebookはユーザー以外の情報も処理している。つまり、Facebook上でアクティブなインターネットユーザーよりもさらに広範なスケールの人たちにリーチしている)。

研究者たちは、今回の論文は「Facebookの広告プラットフォームを体系的に悪用してインターネット上の非個人識別情報データに基づくナノターゲティングを実装できる可能性」について最初の証拠を提示するものであることを示唆している。

Facebookの広告プラットフォームが、1対1で相手を巧みに操るためのパイプの役割を果たしていることについては早くから論争が繰り広げられてきた。例えば2019年のDaily Dotの記事には、性生活に不満を抱えている夫に、妻やガールフレンドを心理的に操作するサービスを販売していたSpinner(スピナー)という会社の例が紹介されている。挑発的で無意識に相手を操作する広告がターゲットのFacebookやインスタグラムのフィードにポップアップ表示されるというものだ。

今回の研究論文では、2017年に起こった英国の政治生命に関する事例にも言及している。労働党の選挙運動の最高責任者がFacebookのカスタムオーディエンス広告ターゲティングツールを利用して、党首のJeremy Corbyn(ジェレミー・コービン)氏をだますことに成功したのだ。ただし、このケースでは、ターゲットになったのはコービン氏だけではなかった。彼の同僚や彼と同じ考えの数人のジャーナリストにも広告が送られた。

今回の研究チームは、Facebookのアドマネージャーツールを利用すれば、特定の1人のFacebookユーザーに広告を送ることができることを実証している。彼らはこのプロセスを「ナノターゲティング」と呼んでいる(現在のアドテックで「標準的」な「インターネットベース」の広告をユーザーグループに送るマイクロターゲティングとは異なる)。

「本稿では、21のFacebook広告キャンペーンによって実験を実施することで、広告主がユーザーの関心事を十分に認識していれば、Facebook広告プラットフォームを体系的に悪用して特定のユーザーに排他的に広告を配信できることを論文の3人の執筆者が証明する」と論文には書かれており、この論文は「ターゲットユーザーの関心事のランダム集合を認識するだけで、Facebook上に1対1のナノターゲティングを体系的に実装できる」という「最初の経験的証拠」を提示するものだとしている。

彼らが分析に使用した関心事データは、彼らが作成し、2017年1月以前にユーザーによってインストールされたブラウザ拡張機能を介して、2390人のFacebookユーザーから収集されたものだ。

この拡張機能はData Valuation Tool for Facebook Users(Facebookユーザー向けのデータ評価ツール)と呼ばれ、各ユーザーのFacebook広告設定ページを解析して、ユーザーに割り当てられた趣味や関心を収集すると同時に、Facebookのブラウジング中にそのユーザーに配信される広告によってFacebookにもたらされる利益のリアルタイムの推測値を計算する。

関心事データは2017年以前に収集されたものの、Facebookの広告プラットフォームを介して1対1のターゲティングが可能かどうかをテストする研究者たちの実験は2020年実施された。

「具体的には、この論文の3人の執筆者たちをターゲットとするナノターゲティング広告キャペーンを設定しました」と彼らはテスト結果について説明する。「私たちは、Facebookが各ターゲット執筆者に割り当てた関心事のリストから5、7、9、12、18、20、22個をランダムに選択したものを使用して各執筆者向けにオーディエンスを作成することで、データ駆動型モデルが実際に機能するかどうかをテストしました」。

「2020年の10月から11月の間に合計21回の広告キャンペーンを実施して、ナノターゲティングが現在実現可能であることを実証しました。実験でモデルの実施結果を評価したところ、攻撃者があるユーザーについて18個以上のランダムな関心事を認識していれば、そのユーザーに対して非常に高い確率でナノターゲティングを実行できることが分かりました。実験で18個以上の関心事を使用した9つのうち8つの広告キャンペーンで、当該ユーザーのナノターゲティングに成功しました」。

したがって、Facebookに18個以上のあなたの関心事が登録されている場合、あなたを巧みに操ることを目論んでいる人物にとって、それらの関心事は極めて興味深いものになる。

ナノターゲティングは止められない

1対1のターゲティングを防ぐ1つの方法として、Facebookが最小オーディエンスサイズに厳しい制限を課す方法が考えられる。

今回の論文によると、Facebookは、キャンペーンのオーディエンスサイズが1000人を超える(以前は21人以上だったが2018年にFacebookが制限値を上げた)可能性がある場合、アドキャンペーンマネージャーツールを使用して「Potential Reach(潜在的リーチ)」値を広告主に提示しているという。

しかし、Facebookは、実際には、この潜在的リーチよりも少ないユーザーをターゲットとするキャンペーンを広告主が実施することを禁止していない。ただ、メーッセージがリーチする人の数が極めて少ないことを広告主に知らせないだけだ。

研究者たちは、複数のキャンペーンで、1人のFacebookユーザーに無事広告が届いたことによってこの事実を実証することができた。その結果、広告のオーディエンスサイズはFacebookの広告レポート生成ツールによって生成されたデータを参照したものであること(「Facebookにより1人のユーザーだけにリーチしたことが報告された」)、ウェブサーバー上にユーザーが広告をクリックすることによってのみ生成されるログ記録が存在することによって確認された。さらには、ナノターゲティングの対象ユーザーに広告とそれに付随する「この広告が表示されている理由」オプションのスナップショットを取得してもらった。このオプションの値は、ナノターゲティングに成功したケースのターゲティングパラメーターに一致していたという。

実験結果のサマリーには次のように追記されている。「本実験から得られた主な結論は次のとおりである。(i)攻撃者がターゲットユーザーから18個以上の関心事を推測できる場合、Facebook上の特定の1人のユーザーをナノターゲティングできる可能性は非常に高い。(ii)ナノターゲティングは非常に低コストで実現できる。(iii)本実験によると、ナノターゲット広告の3分の2は有効キャンペーン期間中7時間以内にターゲットユーザーに配信されると予想される」。

ナノターゲティングの防止対策について議論されているこの論文の別のセクションでは、Facebookが課しているとされるオーディエンスサイズの制限は「まったくの無効であることが判明した」と主張しており、20人というオーディエンスサイズ制限は「現在適用されていない」と断言している。

また、Facebookがカスタムオーディエンス(広告主がPIIをアップロードできる別のターゲティングツール)に適用しているという100人制限の回避策も提示されている。

以下論文より抜粋する。

広告主による極めて少数のオーディエンスをターゲットとする広告の配信を防ぐためにFacebookが実装している最も重要な対策は、オーディエンスを形成するユーザーの最小数に制限を課すというものだ。しかし、この制限はまったくの無効であることが判明した。本論文の結果に動機付けられたFacebookは、アドキャンペーンマネージャーを使用して20人を下回るサイズのオーディエンスを設定することを禁止した。我々の調査では、この制限は現在適用されていない。その一方でFacebookは、最小カスタムオーディエンスサイズを100人とする制限を課している。セクション7.2.2で説明するとおり、この制限を回避して、カスタムオーディエンスを使用してナノターゲティングによる広告キャンペーンを実装するさまざまな方法が文献で紹介されている。

この論文では、全体を通して、インターネットベースのデータを「非個人識別情報(non-PII:Personally Identifiable Information)」と呼んでいるが、このような枠組みは欧州の法律のもとでは無意味であることを忘れてはならない。欧州では、一般データ保護規則(GDPR)のもとで、個人データについて非常に広い見方をしているからだ。

PIIという言葉は米国でのほうがより一般的だ。米国では、欧州のGDPRに相当する包括的な(連邦)プライバシー法というものがないからだ。

アドテック企業もPIIという言葉を使いたがる。ただし、それはずっと限定されたカテゴリでの話だ。アドテック企業が実際に処理するすべてのデータ(個人を識別およびプロファイリングして広告を配信するために使用できるデータ)という意味ではない。

GDPRのもとでは、個人データとは個人の名前やメールアドレス(つまり、PII)などの明白な識別子だけでではなく、個人を特定するために間接的に使用できる情報(居場所や関心事など)も含まれる。

以下に、GDPR(第4(1)項)の関連部分を抜粋する(強調部分はTechCrunchによる)。

「個人データ」とは、識別されている、または識別可能な自然人(データ主体)に関する任意の情報を指す。識別可能な自然人とは、特に、名前、識別番号、場所データ、オンライン識別子などの識別子、またはその人の身体的、生理的、遺伝的、精神的、経済的、文化的なアイデンティティに固有の1つ以上の要素を参照することで、直接または間接に識別可能な自然人のことである。

他の研究でも数十年に渡って繰り返し示されていることだが、個人は、クレジットカードメタデータNetflixの視聴習慣など、わずかな「非個人識別情報」があれば再特定できる。

膨大な数の人たちをプロファイリングし広告のターゲットにするFacebookは、継続的かつ広範囲にインターネットユーザーの行動をマイニングして関心事ベースのシグナル(つまり、個人データ)を収集し、個人プロファイリングを行って各個人に合わせた広告を配信する。そのFacebook帝国が、世界中のほとんど誰でも巧みに操作できる(ただし、相手について十分な知識があり、その相手がFacebookのアカウントを持っていることが条件)可能性のある攻撃ベクトルを作り出したとしても何も驚くには当たらない。

しかし、それが法的に問題のないことであるとは限らない。

実際、人々の個人データを処理して広告ターゲティングを行ってもよいというFacebookの主張の法的根拠は、EUで長年に渡って問題とされてきた。

広告ターゲティングの法的根拠

Facebookは以前、ユーザーは自身の個人データが広告ターゲティングに使われることについて同意していると主張していた。しかし、Facebookは、行動ターゲティングのためにプロファイリングされることを承諾するのか、ただ友人や家族とつながりたいだけなのかのどちらかをユーザーに選択してもらう際に、見返りを求めず、具体的で、明確な情報に基づいて選択できるようにしていない(ちなみに、見返りを求めず、具体的で、明確な情報に基づく同意というのは、同意についてのGDPRの基本的なスタンスだ)。

Facebookを使うには、自分の情報が広告ターゲティングに使用されることを承諾する必要がある。これは、EUのプライバシー運動家が「同意の強制」と呼ぶものだ。つまり、同意ではなく、強制だ。

しかし、2018年5月のGDPR施行以来、Facebookが合法的にヨーロッパ人の情報を処理できるのは欧州のユーザーが広告の受信についてFacebookと契約している状態だからだ、という主張に切り替えたようだ。

FacebookのEU規制当局として主導的立場にあるアイルランドのデータ保護委員会(DPC)によって今週始めに公開された仮決定では、こうした暗黙の主張変更は透明性に欠けるとして、Facebookに対し、3600万ドル(約40億9500万円)の罰金を課す提案をしている。

DPCは、Facebookの広告契約の主張には問題があるとは考えていないようだが、欧州の他の規制当局は問題があると考えており、アイルランドの仮決定に意義を唱える可能性が高い。この件に関するFacebookのGDPRに対する不満をめぐる規制当局側の調査は今後も続き、当分は終わりそうもない。

仮にFacebookがEUの法律を回避しているという最終判断が下った場合、Facebookはユーザーに対し、ユーザーの情報を広告ターゲティングに使用できるかどうかについて見返りを求めない選択肢をユーザーに与えることを強制されることになる。そうなると、Facebook帝国に存在の根幹に関わるような風穴をあけることになる。というのも、この研究でも強調しているとおり、(ターゲティング広告に利用せずに)保管しているだけの関心事データでも個人データになるからだ。

それでも、Facebookは、問題など存在しないと主張するいつもの常套手段を使っている。

今回の研究に対して回答した声明の中で、Facebookの広報担当はこの論文を「当社の広告システムの動作原理についての理解が間違っている」として一蹴している。

Facebookの声明では、この研究者たちの結論の核心部分から注意をそらして、彼らの研究結果の重要さを矮小化しようとしている。以下に、広報担当の言明を示す。

この研究は当社の広告システムの動作原理を間違って把握しています。広告ターゲティングに使用する特定の人に関連付けられた関心事のリストは、その人がそのリストを共有することを選択しないかぎり、広告主が見ることはできません。このリスト、つまり広告を見た人を特定する具体的な詳細情報がなければ、この研究者たちの手法を使って広告主が当社のルールを破ろうとしても無駄です。

Facebookからの反論に答えて、論文の執筆者の1人であるAngel Cuevas(アンヘル・クエバス)氏は、同社の議論を「残念だ」と表現し、問題がないなどと主張するのではなく、ナノターゲティングのリスクを防止するためのより強力な対策を実装すべきだとしている。

この論文では、ナノターゲティングにともなう数多くの有害なリスクが指摘されている。例えば心理的説得、ユーザーの操縦、脅迫などだ。

「驚くのは、ナノターゲティングが実現可能であり、対策は広告主がユーザーの関心事を推測できないと仮定することくらいしかないことをFacebook自身が暗黙に認識していることです」とクエバス氏はいう。

「広告主がユーザーの関心事を推測する方法はいくらでもあります。この論文でも、(ユーザーからは研究目的で行うという明示的な同意を得た上で)ブラウザのプラグインを使って実際に試してみました。それだけではありません。関心事の他にも、(今回の研究では試しませんでしたが)年齢、性別、都市、郵便番号などのパラメーターもあります」。

「これは残念なことです。Facebookのようなテック大手は、広告主がFacebookプラットフォームでのオーディエンスサイズを決めるために後で使用できるようユーザーの関心事を推測することなどできないという前提に頼らずとも、もっと強力な対応策を実現できるはずです」。

例えば2018年のCambridge AnalyticaによるFacebookデータの悪用スキャンダルを覚えているだろうか。Facebookのプラットフォームにアクセスした開発者が、クイズアプリを使って、気づかれることも同意を得ることもなく、数百万人のユーザーのデータを抽出することができたという事件だ。

つまり、クエバス氏のいうとおり、広告主 / 攻撃者 / エージェントが同じような不透明でずるいやり方を実装してFacebookユーザーの関心事データを取得し、特定の個人を巧みに操ることは決して難しくない。

論文の注には、ナノターゲティングの実験を行った数日後、テスト用キャンペーンに使用したアカウントがFacebookによって何の説明もなく閉鎖されたと記載されている。

Facebookからは(アカウントが閉鎖された理由も含め)論文に記載した具体的な質問に対する回答はなかった。だが、もしFacebookがナノターゲティングの問題を認識していたから閉鎖したのであれば、なぜそもそも特定の1人のユーザーをターゲットとする広告の配信を防ぐことができなかったのだろうか。

訴訟の増加

この研究結果は、Facebookの事業にどの程度広範囲な影響を及ぼすだろうか。

あるプライバシー研究者の話によると、この研究はもちろん訴訟に役立つという。欧州では、特にFacebook(広くはアドテック全般)に対するEU規制当局のプライバシー保護対策が遅々として進んでいないため、訴訟の数が増えている。

また別の研究者は、今回の研究結果は、Facebookが、個人データは処理していないと見せかけておきながら、実はユーザーの体系的な再特定化を大規模に行っていることを浮き彫りにしていると指摘する。つまり、Facebookは膨大な数のユーザーの膨大なデータを蓄積しており、個人情報の処理に制限を設ける程度の範囲の狭い法的規制など事実上回避できてしまうことを示唆している。

このため、行動ターゲティング広告がもたらす害を抑える有意義な制限を課そうとする規制当局は、Facebook独自のアルゴリズムが同社が保持する膨大なデータ内を検索して、その中からユーザーの代理人に相当するパラメーターを探し出して利用するという方法に気づく必要がある。また、同じような論法でFacebookのアルゴリズムによる処理は法的な制限を回避する可能性がある(例えばFacebookが慎重に扱うべき関心事の推測の問題で使った戦術)ことも認識しておく必要がある。

別のプライバシーウォッチャーで独立系の研究者でコンサルタントのDr Lukasz Olejnik(ウカシュ・オレジニク)博士は、今回の研究を驚くべきものだとし、過去10年間で最も重要なプライバシー研究結果のトップ10に入る内容だと説明する。

「28億人から1人を特定するのはとてつもないことです。Facebookプラットフォームは、そのようなマイクロターゲティングが行えないようにする予防策を講じていると主張しているにもかかわらず、です。この論文は、過去10年間で最も重要なプライバシー研究結果のトップ10に入ります」と語る。

「関心事は個人データに含まれるとするGDPR第4(1)項の意味する関心事によってユーザーを特定することができるようです。ただし、こうした処理をどのようにして大規模に実行するのかは明確に示されていませんが(ナノターゲティングのテストは3人のユーザーに対してのみ実行された点を指摘して)」。

オレジニク氏は、この研究はターゲティング広告が個人データ、そして「おそらくGDPR第9項の意味における特殊なカテゴリのデータにも」基づいて行われていることを示していると指摘する。

「これはつまり、適切な保護対策が行われていないかぎり、ユーザーの明示的な同意が必要であることを意味します。しかし、論文の内容から、私たちは、そうした対策は存在しているとしても不十分だという結論に達しました」と同氏は付け加えた。

今回の研究はFacebookがGDPR違反を犯していることを示していると思うかという質問に対し、オレジニク氏は「DPAは調査を行うべきです。その点は疑問の余地がありません」と話す。「技術的には難しい案件かもしれませんが、立件は2日もあればできるはずです」。

我々はこの研究結果をFacebookの欧州DPAで主導的立場にあるアイルランドDPCに知らせ、GDPR違反があるかどうかを判定するための調査を行うかどうか聞いてみたが、本記事の執筆時点では回答がなかった。

マイクロターゲティングの法的禁止に向けて

この論文によってマイクロターゲティングの法的禁止を肯定する論拠が補強されるかという質問に対し、オレジニク氏は、歯止めをかけることは「前進ではある」が、問題はその方法だと答えた。

「全面禁止にする場合、現在の業界および政治環境の対応準備ができているかどうかは分かりません。とはいえ、少なくとも、技術的な防止策は求めるべきです」と同氏はいう。「(Facebookによれば)すでに防止策は講じているということですが、(ナノターゲティングの件については)防止策は存在しないも同然のようです」。

オレジニク氏は、グーグルのプライバシーサンドボックス案に組み込まれているアイデアを一部利用すればすぐに変化が起こる可能性があると提案する。しかし、同案はアドテック各社が競争監視につながるとして不満を表明したため頓挫してしまっている。

マイクロターゲティングの禁止についてクエバス氏に意見を聞くと、次のように答えてくれた。「私の個人的な立場から言わせていただくと、我々はプライバシー保護のリスクと経済(求人、イノベーションなど)とのトレーオフについて理解する必要があるということです。私たちの研究によると、アドテック業界は、個人識別情報(メール、電話、住所など)について考えるだけでは不十分であり、オーディエンスの範囲を特定する(絞り込む)方法についてより厳しい対策を実装する必要があることは明らかです。

「その上で申し上げますが、私どもはマイクロターゲティング(少なくとも数万人規模のユーザーにオーディエンスを限定できる能力と考えます)を禁止することには反対です。マイクロターゲティングには重要な市場が存在しており、そこでは多くの仕事が生まれています。また、必ずしも悪いこととは限らない興味深いことが行われている極めて革新的な分野でもあります。ですから、マイクロターゲティングの潜在能力をある程度制限してユーザーのプライバシーを保護するというのが私どもの立場です」。

「プライバシーの分野で未だに解決されていない疑問は同意だと思います」と同氏はいう。「研究コミュニティとアドテックエコシステムは、(理想的には協力して)十分な説明を行った上での同意をユーザーから得るための効率的なソリューションを作成するために取り組みを進める必要があります」。

大局的な話をすると、欧州では、AI駆動形ツールの法的要件がおぼろげに見え始めたところだ。

EUでは2021年初めに提案された人工知能の高リスクの応用を規制する法律が施行される予定だ。この法律では「人の意識を超えて作用する行動を大きくねじ曲げるためのサブリミナル技術で、その人または別の人に心理的または身体的な害を及ぼすかその可能性のある技術」を展開するAIシステムの全面禁止が提案されている。

そのため、Facebookのアドツールが脅迫や個人の心理的操作に利用されないようにするための適切な保護策を同社がまだ実施していない場合、FacebookのプラットフォームがEUの将来のAI規制のもとで禁止に直面するのかどうかを推測してみるのは少なくとも興味深い。

とはいえ、現時点では、Facebookのターゲティング帝国にとっては、相変わらずもうかるビジネスである。

クエバス氏にFacebookプラットフォームに対する今後の研究計画について尋ねると「次の研究で是非やりたいのは、関心事と他の人口統計情報を組み合わせることでナノターゲティングが『より容易になる』のかどうかという調査です」。

「というのは、広告主がユーザーの年齢、性別、都市(または郵便番号)といくつかの関心事を組み合わせてユーザーに対してナノターゲティングを実行できる可能性が非常に高いからです」と同氏はいう。「こうしたパラメーターをいくつ組み合わせる必要があるのかを知りたいのです。年齢、性別、住所と数個の関心事をユーザーから推測するほうが、数十の関心事を推測するよちもはるかに簡単です」。

このナノターゲティングの論文は2021年12月のACM Internet Measurement Conferenceでのプレゼンテーションとして受理されている。

画像クレジット:NurPhoto / Getty Images

原文へ

(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

ユーロポールが2019年のランサムウェア攻撃を実行したサイバー犯罪者たちを拘束

Europol(ユーロポール、欧州刑事警察機構)とそのパートナーである各国の法執行機関は、2019年以降、71カ国で1800以上の被害を出した一連のランサムウェア攻撃の背後にある組織的なサイバー犯罪者のネットワークを壊滅させた。

ユーロポールは2年間の調査を経て、12人の個人を「ターゲットとした」家宅捜索を、先週ウクライナとスイスで行ったと、10月29日に発表した。同機関は、これらの個人が逮捕または起訴されたかどうかについては言及しておらず、我々の詳細な情報提供の要請にもまだ応じていない。

名前が明かされていないこれらの個人は「大企業を特に標的にして、そのビジネスを事実上停止させることで知られている」と、ユーロポールは述べている。この組織が使用したランサムウェアの1つは「LockerGoga(ロッカーゴーガ)」で、2019年3月にノルウェーのアルミニウム生産企業であるNorsk Hydro(ノルスク・ハイドロ)への攻撃で使用されたものと同じ種類だ。このサイバー攻撃により、2大陸にまたがる同社の工場は約1週間の生産停止を余儀なくされ、5000万ドル(約57億円)以上の損害を被った。

ノルウェーの国家犯罪捜査機関Kripos(クリポ)は別のプレスリリースで、今回の捜査対象となった個人がNorsk Hydroへの攻撃に責任があることを確認したと述べている。

ユーロポールによると、このサイバー犯罪者たちは、ランサムウェア「MegaCortex(メガコーテックス)」や「Dharma(ダルマ)」の他「TrickBot(トリックボット)」などのマルウェアや「Cobalt Strike(コバルトストライク)」や「PowerShell Empire(パワーシェルエンパイア)」などの侵入後ツールを使って、検知されないようにさらなるアクセスを得ようとしていたという。「犯罪者たちは、侵入したシステムに気づかれないよう潜伏し、時には数カ月間かけてITネットワークのさらなる弱点を探り、それからランサムウェアを展開して感染を収益化する」と、ユーロポールは述べている。

ユーロポールは、今回の捜索で5万2000ドル(約600万円)の現金と5台の高級車を押収したと述べているが、この犯罪組織が犯行によってどのくらいの金額を得たのかは不明だ。

「これらの容疑者のほとんどは、異なる管轄区域で注目を集めている複数の事件で捜査されているため、価値の高いターゲットと考えられている」と、ユーロポールは述べている。「ターゲットとなった容疑者たちは、これらの専門的で高度に組織化された犯罪組織で、それぞれ異なる役割を担っていた」とのことだ。

ユーロポールは、支払われた身代金をロンダリング(資金洗浄)していた疑いのある人物が多数いると付け加えた。「彼らは、Bitcoin(ビットコイン)で支払われた身代金をミキシングサービスを通じて洗浄し、それから不正に得た利益を現金化していた」と、ユーロポールは述べている。

ユーロポールによると、今回の作戦にはノルウェー、フランス、英国、スイス、ドイツ、ウクライナ、オランダ、米国の法執行機関が参加し、10月26日には50人以上の外国人捜査官が、サイバー犯罪者を目標としてウクライナに派遣されていた。

画像クレジット:Getty Images

原文へ

(文:Carly Page、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

中小企業向けHRプラットフォームPersonioが約306億円調達、人事業務プロセスの自動化にも進出

この20カ月間でHRテクノロジーはスポットライトを浴びてきた。新型コロナウイルス(COVID-19)で私たちの働き方が変わったことで、仕事環境において人を管理する方法も変わらなければならなかったからだ。米国時間10月11日、中小企業に特化してこの問題に対処する方法を提供し大きなビジネスを構築してきた、ミュンヘンを拠点とするスタートアップ企業であるPersonio(ペルソニオ)が、同社のサービスに対する強い需要を受け、次のステップに向けて2億7000万ドル(約306億円)の資金調達を発表した。今回のシリーズEにより、Personioの評価額は63億ドル(約7140億円)に跳ね上がり、現在ヨーロッパで最も価値のある人事関連のスタートアップ企業の1つとなっている。

今回の資金調達は、Greenoaks Capital Partners(グリーンオークス・キャピタル・パートナーズ)が主導し、新たな投資家であるAltimeter Capital(アルティメット・キャピタル)とAlkeon(アルキオン)も参加している。このラウンドには、Index Ventures(インデックス・ベンチャーズ)、Accel(アクセル)、Meritech(メリテック)、Lightspeed(ライトスピード)、Northzone(ノースゾーン)、Global Founders Capital(グローバル・ファウンダーズ・キャピタル)など、以前からの支援者も参加している。IndexとMeritechは、2021年1月に行われたばかりの同社の前回のラウンドを主導した。当時のシリーズDラウンドの評価額は17億ドル(約1920億円)で、10カ月で3.7倍に成長したことになり、Personioの成長の速さを物語っている。

関連記事:中小企業にHRプラットフォームを提供する独Personioが約130億円調達

Personioは現在、ヨーロッパの中小企業(通常、従業員数10~2000人)を対象に、採用・入社手続き、給与計算、欠勤管理などの主要な人事機能をオールインワンのプラットフォームで提供している。1月の時点では3000社だった顧客数は、現在5000社に達している。Personioは、今後もさまざまなツールを拡充していく一方で、CEOのHanno Renner(ハンノ・レナー)氏が「ピープルワークフローオートメーション(人事業務プロセスの自動化)」と表現する分野にも進出していく予定だ。

基本的にこれは、Personio以外のアプリケーションで行う人事関連の作業において、人事情報を自動入力したり、それらのアプリケーション内でアクションを起こしたりすることで、手作業では時間がかかっていた作業をスピードアップすることを目的としている。例えば、雇用契約書の作成・発行や、入社や退職時に特定のアプリへのアクセス権を切り替えるといったことが可能だ。

Personioのプラットフォームが、企業が大規模で多面的なプラットフォームを用意するのと同じように、中小企業のニーズに合わせて連携する一連のHRツールであり「中小企業のためのWorkday」と捉えられるとすれば、同社が現在追加している自動化ツールは、中小企業向けのUiPath(ユーパス)やServiceNow(サービスナウ)に対する答えだと捉えられるかもしれない。つまり、機械学習やロボティック・プロセス・オートメーションなどの技術を使って、人事関連のタスクに関わる忙しい反復業務を取り除くことができる。

「12ヵ月間取り組んできましたが、今では5000人のお客様にプロダクトをそのまま使っていただいて、そこから学んでいます」とレナー氏はインタビューで答えている。この問題の核心は、異なる領域にあるソフトウェアをより迅速に連携させることにある。例えば、内定者に契約書を発行する必要があるときに、ここで時間をかけてその内定者が別の会社で契約するようなことにならないに、また、解雇された従業員が会社のITシステムに侵入できるようなことがないようにする必要がある。「人事プロセスは人事部だけではありません。人事プロセスは人事にとどまらず、他の機能や部門にも影響を与えます。遅延は時間を無駄にするだけでなく、有害な結果をもたらす可能性があるのです」。

Personioはこれまで、中小企業向けの製品を開発することで、中小企業という収益性の高い顧客層を開拓してきた新興企業グループの一員であることをアピールしてきた。中小企業は、ヨーロッパだけでも2500万社以上あり、全企業の99%以上を占めている。しかし、中小企業はさまざまな業種や関心事によって細分化されており、IT予算も非常に少なかったり、もしくはまったくなかったりするため、見過ごされがちだ。

人事の世界では、それがさらに深刻な状態だったとレナー氏はいう。ほとんどの中小企業は、人事関連のデータをエクセルのスプレッドシートや、ただの紙で管理していたりする。「私たちが日々目にするのは、中小企業の70%が何らかのHRソリューションを持っていないという状況です」と彼はいう。

しかし、デジタルトランスフォーメーションが中小企業を完全に見過ごしていたわけではなく、先進的な中小企業は販売、財務、CRMソフトウェアを徐々に導入していきている。そしてその流れが人事に関する考え方にも「波及」してきていると彼はいう。

Personioは、このことが顧客に自動化を売り込む際にも役立つと考えている。一般的な中小企業では、平均して約40種類のアプリを使用しており、その多くが人事システムからのデータを必要としていると同社は推定している。Personioは、これらのアプリケーションに連動性を提供することで、これらのアプリケーションの動作を高速化することができると考えている。

同社にはまだまだ多くの成長余地が残っている。Personioが対象としている中小企業(従業員数10〜2000人)の数は170万社であり、これはまだ市場のごく一部に過ぎないからだ。

つまり、新しい自動化製品が軌道に乗るかどうかにかかわらず、Personioにはまだ成長の可能性が高いということであり、同社が必要とする前に都合よく調達された今回の資金は役に立つだろう。新技術の導入により、将来的には人事部門以外の中小企業にも自動化サービスを提供できる可能性が出てきたため、今回の評価額の大幅な上昇は、中小企業に人事部門を進出させるための大きなチャンスであると同時に、その多様化にも関係していると考えられる。

「小規模企業は欧州経済を支える存在ですが、従来の企業では長い間、十分なサービスを受けられず、見過ごされてきました。Personioは、従業員のライフサイクル全体にわたって人事業務プロセスを簡素化し、大手企業がもっていた機能を広く普及させ、生産性を一段階向上させてくれました」とGreenoaks(グリーンオークス)の創業者兼マネージングパートナーであるNeil Mehta(ニール・メータ)氏は語っている。「私たちは、世界有数のプライベート・テクノロジー企業の多くとパートナー関係にあることを幸運に思っていますが、Personioのチームは、まだ彼らのミッションに着手したばかりだと確信しています。「人事業務プロセス自動化」のカテゴリーを立ち上げることで、ヨーロッパ中の企業にさらに多くの価値を提供することができるでしょう。私たちは、Personioのスリリングなステージに参加できることを誇りに思うとともに、今後も末永くパートナーであり続けたいと思っています」。

長期的には株式公開も視野に入れているが、ここで強調したいのは、その「長期的には」の部分だ。Personioは現在5億ドル(約560億円)の資金を調達しているが、レナー氏は次のステップを考えるのは少なくとも18〜24ヵ月後だと述べている。「公開を急いでいるわけではありません」と彼は語っている。

画像クレジット:metamorworks / Getty Images

原文へ

(文:Ingrid Lunden、Akihito Mizukoshi)

欧州議会が生体認証による遠隔監視の禁止を支持

欧州議会は、生体認証による大規模な監視を全面的に禁止することについて賛成の立場を採択した。

顔認証などのAIを使った遠隔監視技術は、プライバシーのように自由や基本的な権利に大きく関わる問題だが、欧州ではすでに公共の場での使用が浸透している。

「プライバシーと人間の尊厳」を尊重するため、欧州議会は公共の場での個人の自動認識を恒久的に禁止することを可決すべきで、市民が監視されるのは犯罪の疑いがある場合のみだとした。

また、欧州議会は、民間の顔認証データベースの使用を禁止するよう求めた。米国のスタートアップ企業であるClearviewが開発した、物議を醸しているAIシステムがその例だ(これも欧州の一部の警察がすでに利用している)。欧州議会は、行動データに基づく予測的な取り締まりも非合法化すべきだとしている。

加えて欧州議会は、市民の行動や性格に基づいて信頼性を評価するソーシャルスコアリングシステムも禁止したいと考えている。

欧州連合(EU)執行部は4月、高いリスクをともなう人工知能技術の利用を規制する法案を発表した。この法案には、ソーシャルスコアリングの禁止や、公共の場での生体認証による遠隔監視の原則禁止が含まれていた。

しかし、市民社会、欧州データ保護会議、欧州データ保護監督官、および多くの欧州議会議員は直ちに、欧州委員会の提案が十分に行き届いていないと警告した

関連記事:欧州議会議員グループが公共の場での生体認証監視を禁止するAI規制を求める

欧州議会全体としても、基本的権利に対する保護措置の強化を望んでいることが明らかになった。

現地時間10月5日夜に採択された決議で欧州議会議員は、市民の自由・司法・内務委員会の「刑法における人工知能」に関する報告書に377対248で賛成し、人工知能法の詳細を詰める今後のEU機関間の交渉で欧州議会が何を受け入れるかについて、強いシグナルを送った。

生体認証による遠隔監視に関する関連パラグラフでは、欧州委員会に次のことを求めた。

立法および非立法の手段により、また、必要ならば侵害訴訟により、法の執行を目的とした顔画像を含む生体データの処理で、公共の場での大量監視につながるようなものを禁止することを求める。さらに欧州委員会に対し、公共の場での無差別な大量監視につながる可能性のある生体データの研究や展開、プログラムへの資金提供を禁止するよう求める。

この決議は、アルゴリズムによる偏見にも目を向け、AIによる差別を防ぐために、特に法執行機関において、あるいは国境を越える場面で、人間による監督と強力な法的権限を求めた。

最終的な判断を下すのは常に人間のオペレーターでなければならず、AIを搭載したシステムに監視されている対象者は救済措置を受けることができなければならない、と欧州議会議員は合意した。

また、欧州議会議員は、AIベースの識別システムを使用する際に基本的権利が守られるよう求めた。AIベースの識別システムは、少数民族、LGBTI、高齢者、女性の誤認識が高いことが指摘されている。そして、アルゴリズムが備えるべき要件として、透明性、追跡可能性、十分な文書化が必要だとした。

公的機関に対しては、可能な限り透明性を高めるために、オープンソースのソフトウェアを使用するよう求めた。

さらに欧州議会議員は、EUから資金提供を受け、物議を醸している研究プロジェクトにも狙いを定めた。顔の表情を分析して「スマートな」嘘発見器を開発するという「iBorderCtrl」プロジェクトは中止すべきだと主張した。

関連記事:欧州司法裁判所で異議申立てされた「オーウェル的」AIうそ発見器プロジェクト

報告者のPetar Vitanov(ペーター・ビタノフ)氏(ベルギー、社会民主進歩同盟)は声明で次のように述べた。「基本的権利は無条件に与えられるものです。今回初めて、法の執行を目的とした顔認証システムの導入を一時停止することを要求します。この技術は効果的ではなく、しばしば差別的な結果をもたらすことが証明されているためです。私たちは、AIを利用した予測的な取り締まりや、大量の監視につながる生体情報の処理には明確に反対します。これは、すべての欧州市民にとって大きな勝利です」。

TechCrunchは欧州委員会に対し、今回の投票についてコメントを求めたところだ。

同議会の決議は、司法判断を補助するAIの禁止も求めている。これも、自動化がすでに適用されている大きな議論を呼ぶ分野だ。自動化により、刑事司法制度における偏見が体系的に固定・拡大される危険性がある。

世界的な人権慈善団体であるFair Trialsは、今回の採択を「テクノロジー時代の基本的権利と無差別のための画期的な結果」と歓迎している。

画像クレジット:Getty Images

原文へ

(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi

第一生命が欧州スタートアップとイノベーションを模索、その具体的な内容とは?

Dai-ichi Life International (Europe) Limited でHead of London Innovation Labを務める伊豆淳氏

少子高齢化が止まらない日本。あらゆる業界で国内マーケット縮小への対策が迫られている。生命保険事業を営む第一生命は2017年にイノベーション専門組織を設置、2018年に東京とシリコンバレーにラボ組織を設置するなど、テクノロジーの活用とグローバルなパートナーシップ構築に注力している。同社の取り組みをDai-ichi Life International (Europe) Limited でHead of London Innovation Labを務める伊豆淳氏、同London Innovation LabでInnovation Managerを努める米本兼也氏が語った。

本記事は、イントラリンク主催「第一生命がヨーロッパに目を向ける理由 〜現地スタッフが語る欧州スタートアップエコシステムの特徴とポテンシャル〜」のセッション内容を編集・再構成したものとなる。

ーーー

欧州という保険市場

伊豆氏によると、現在、保険業界はGDPの成長鈍化や人口減少などの外部環境踏まえて課題に対応すべき状況にあるという。また、スマートフォンユーザーが増え続けており、こうしたトレンドも取り込んでいく必要があるという。

「欧州と日本は似たような人口構成を持っていて、社会環境も類似しています。高齢化や、それにともなう医療費負担の増加など、日本と同じような課題を持っています」と伊豆氏。

ここで日本と世界の保険市場を見てみると、実は日本が米国、英国に次ぐ3番目の市場規模を持つ保険大国であることがわかる。しかし、欧州を1つの市場とみなすと、その市場規模は日本よりも大きい。

伊豆氏は「統計の取り方にはいろいろあり、こちらの統計では中国が含まれていないのですが、仮に中国が入ってきても日本が上位に入ってくることに変わりはありません」と補足する。

いずれにしても、欧州という市場は大きい。欧州の保険事業プレイヤーを見ても、ドイツのアリアンツ、フランスのアクサ、イギリスのアビバ、イタリアのゼネラリなど、大規模でグローバルな企業が目に入る。

欧州インシュアテック動向

こうした大規模保険事業プレイヤーはイノベーションにも注力している。

伊豆氏は「彼らはGAFAMと連携し、ラボを設立し、インキュベーター、アクセラレーターを立ち上げるなど、活発な活動を見せています」という。

大手はこのような動きを見せているが、スタートアップはどうだろうか。

伊豆氏は「欧州のインシュアテック企業は豊かな状況にあります」と話す。

欧州のインシュアテック企業の評価額は230億ユーロ(約3兆円)となっている。また、欧州インシュアテックへの投資額は右肩上がりで、2021年には42億ユーロ(約5409億円)の投資が見込まれる。一方の日本は、インシュアテックだけでないスタートアップ全般への投資額(2020年)が37億ユーロ(約4765億円)だ。インシュアテックに限定するとこれよりも投資額が低いことがわかる。

では、インシュアテックに関わるスタートアップと既存の保険会社は競合するのだろうか。

伊豆氏は「保険会社は保険の製造、販売、管理と、保険に関わるすべての機能を持っています。インシュアテックスタートアップでこうした『全機能』を備えているところは多くありません。彼らはむしろ、従業員の福利厚生、健康サポートや請求管理、自営業、中小企業向け保険など、保険会社のパーツの機能に特化して優位性を発揮しようとしています」と考えている。

最新欧州インシュアテック事例

こうした動向を受けて、保険の提供方法にも変化が訪れている。

例えば、パラメトリック保険。この形の保険では、気温、雨、風速などの潜在的な損失に関連するパラメータを契約書に明記し、保険会社が天気などのデータを監視し、データが損失発生の閾値に達したら自動的に保険が支払われる。

組み込み型保険というものもある。これは、例えばスキーを楽しみたい顧客が、スキー場のチケットをオンラインで購入する際、追加の保険の注文の有無をオンライン決済の中で顧客に確認することで、保険をプッシュするものだ。

また、AIの活用も見逃せない。自動請求サポート、カスタマーサポートのためのチャットボット、掛け金のダイナミック・プライシングなどを行うためのデータ分析、写真による請求処理など、保険のさまざまなプロセスの中でAIの活用が進んでいる。

その他にも、ブロックチェーンの活用や、テレメディシン(遠隔医療)など、インシュアテック企業のテクノロジー活用は枚挙にいとまがない。

伊豆氏は「当社は欧州で有望なスタートアップとのイノベーションを模索していますが、こういった状況で欧州のエコシステムにいきなり入るということは現実的ではありません。当社は現地のアクセラレーターにアプローチしたり、業界団体に参加したり、欧州のスタートアップと繋がりのあるコンサルティング企業のサポートを得たり、欧州スタートアップに投資するなどして、徐々にエコシステムに入るようにしています」と語る。

第一生命が欧州スタートアップとパートナーシップを構築する方法

米本氏は、保険事業で海外展開する難しさを指摘する。

Dai-ichi Life International (Europe) Limited London Innovation LabでInnovation Managerを務める米本兼也氏

「国が変われば商習慣が変わります。ですが、保険の場合、国の福利厚生とも関わるサービスですので、ある国で展開したサービスを他の国でそのまま横展開することができません。同じことは技術でも言えます。欧州で良い技術を持つスタートアップを見つけても、その技術が日本でそのまま活用できるかは別問題です。欧州のスタートアップを日本に紹介するときには、その技術が日本でどう役立つのか、勝ち筋を見据えてから紹介するようにしています。また、技術をサービスに反映するときにはできるだけスモールスタートして、撤退する必要が出てきたらすぐ撤退できるようにしておくことも大事です」と米本氏。

また同氏は欧州でコラボレーションするスタートアップを見つけ出し、日本の第一生命につなげる役割を果たしているが「ビジネス部門への気遣い」の重要性も訴える。

「私のいるイノベーション部門だけではイノベーションはできません。イノベーションを起こすためには、現業を持つビジネス部門の力が不可欠です。ですが、彼らには、今、この瞬間走らせているビジネスがあります。そのため、彼らに大きな負担をかけることは避けながら、新しい技術を導入することで得られる効果をアピールし、興味を持ってもらうように努めています」と米本氏は語る。

また、同氏は海外スタートアップとの連携で不可欠な英語に関しても言及した。

米本氏によると「問い合わせなどのコミュニケーションが英語だ」というところで日本側が構えてしまうこともあるという。

米本氏は「そういうときには、英語の翻訳や資料作りなども対応してくれるコンサルティング会社さんにプロジェクトの初期から入ってもらうなどして、日本側の負担や心の壁を小さくしていく工夫が必要ですね」と締めくくった。

ついにヨーロッパが携帯電話の充電器を共通化するための法律を制定、共通の充電ポートはUSB-Cに

スマートフォンやタブレットなどの家電製品の充電ポートの標準化に向けて、EUの議員がようやく動き出した。今回発表されたこの提案が採用されれば、カメラ、ヘッドフォン、ポータブルスピーカー、携帯型ゲーム機などの機器に共通の充電ポートとして、USB-Cが採用されることになる。

スマートウォッチやフィットネスバンドのような小型の家電製品は、そのサイズや使用形態などの理由から除外されている。

また、この委員会の計画では、地域の議員が携帯電話の充電器の販売を分離して、自動的に同梱されないようにすることが望まれている。

また、急速充電の規格も統一され、機器メーカーは、必要な電力や急速充電に対応しているかどうかなど「充電性能に関する関連情報」をユーザーに提供する義務を負うことになる。

欧州委員会は「これにより、消費者は既存の充電器が新しい機器の要件を満たしているかどうかを確認したり、互換性のある充電器を選択したりすることが容易になります」と指摘し、さらに一連の措置によって、消費者が新しい充電器を購入する回数を減らし、不必要な充電器の購入にかかっている年間2億5000万ユーロ(約323億9000万円)を節約することができると述べている。

欧州委員会はこの提案の発表の中で、欧州委員会が10年以上にわたって推し進めてきた「自主的なアプローチ」、すなわち覚書のような推奨を通じて電子機器業界に共通の基準を実現させようとする試みが、求められている基準を実現できておらず、たとえば携帯電話の充電器にはいまだに3つの異なるタイプが存在していることを述べている。

より広い目的としては、家電製品から発生する廃棄物の一部を削減することで、世界の廃棄物の山に意味のある変化をもたらすことが目指されている。たとえば欧州委員会は、消費者が携帯電話の充電器を平均3個所有しており、そのうち2個を定期的に使用していると指摘している。それゆえ、機器メーカーが毎回新しい充電器を用意する必要はないのだ。

また、同委員会は、廃棄される未使用の充電器は、年間約1万1000トンの電子廃棄物に相当すると推定していることを付け加えた。

もちろん、現在携帯電話市場に出回っている非標準的な充電器の1つは、iPhoneメーカーであるApple(アップル)のものだ。Appleはこれまで、自社の機器に標準的なポートを搭載させようとする圧力に抵抗してきたが、汎EU法によって世界共通の充電器を強制的に導入することができれば、巨大企業はついに独自のLightning(ライトニング)ポートを放棄せざるを得なくなるだろう。

Appleは長年にわたり、デバイスに標準的なポートを採用する代わりに、間違いなく幅広く莫大な利益を生むアクセサリービジネスを展開してきた。例えば、iPhoneの3.5mmヘッドフォンジャックを削除するなど、標準的なポートを削除することさえあったのだ。つまり、Appleのデバイスのユーザーは、より多くの標準的なポートにアクセスしたい場合には、ドングルを購入しなければならず、将来的にさらに多くの廃棄物が発生することになる。

EUの立法案が、Appleのドングルを使った組み込み型の汎用的な回避策を実際に禁止するかどうかは、まだはっきりしない(私たちは欧州委員会に質問してみた)。

欧州委員会のデジタル戦略担当EVPであるMargrethe Vestager(マルグレーテ・ベステアー)氏は、欧州委員会の提案について次のようなコメントを述べている。「欧州の消費者は、互換性のない充電器が引き出しに溜まっていくことにずっと不満を感じていました。産業界には独自の解決策を提案するための時間を十分に与えてきましたが、今は共通の充電器に向けた立法措置をとる時期に来ています。これは、消費者と環境にとって大切な勝利であり、私たちのグリーンとデジタルの目標に沿ったものです」。

欧州連合(EU)のThierry Breton(ティエリー・ブルトン)域内市場担当委員は、呼応する声明の中で次のように付け加えている「私たちの最も重要な電子機器のすべてに電力を供給しているのが充電器です。機器が増えれば増えるほど、互換性のない、あるいは必要のない充電器がどんどん売られていきます。私たちはそれに終止符を打ちます。私たちの提案により、欧州の消費者は1つの充電器ですべての携帯電子機器を使用できるようになるでしょう。これは利便性の向上と廃棄物の削減のための重要なステップとなります」。

なお、この提案が法律として成立するためには、EUの他の機関である欧州議会と欧州理事会がこの提案を支持する必要がある。欧州議会は、欧州委員会が共通の充電基準を実現できていないことに以前から不満を表明しており、2020年はこの問題への厳しい対応を求める投票が圧倒的に多かった。そのため欧州議会議員がこの問題に関する汎EU法の制定に熱心なのだろう。

とはいえ、一朝一夕に激変するわけではない。欧州委員会は、過去の法制化の適用データから、24カ月間の移行期間を提案しているので、たとえ議会と理事会がこの計画に迅速に合意したとしても、機器メーカーが遵守しなければならなくなるには、何年もかかることになる。

欧州委員会の広報は、これまで産業界にこの問題に関して10年以上の圧力をかけてはきたものの、計画されている法改正に適応するための「十分な時間」を与えたいとしている。

欧州委員会が求める共通の充電器ソリューションを欧州で実現するためには、さらなるステップが必要である。外部電源の相互運用性を確保するためのさらなる調整が必要とされているからだ。立法者によると、こちらの問題はエコデザイン規則の見直しによって対処されるという。この規則は、共通充電器ポート要件と同時に発効することを目指して、2021年後半の開始が予定されている。

後者の提案に関するFAQの中で、欧州委員会は、この問題で立法上の難問に取り組むのになぜこれほど時間がかかったのかという自らの疑問に答えているが、当初は業界が関与することを期待して、より「野心的な」自主的アプローチを継続しようとしていたと書いている。しかし、業界が提案した案は「不十分」であり、共通の充電ソリューションを提供することはできなかったと述べている。

世界が気候変動マイクロプラスチック汚染などの環境問題への取り組みを進める上で、立法者たちが「実際の立法の必要性」を学んだことは重要な教訓となるだろう。

関連記事
地球温暖化がいよいよ「赤信号」、国連IPCCが報告書で警告
欧州の法律家が携帯電話やノートパソコンを「修理する権利」を提案

画像クレジット:Getty Images under a iStock / Getty Images Plus license

原文へ

(文:Natasha Lomas、翻訳:sako)

【コラム】東欧のスタートアップは見過ごされ、過小評価されている?

ロシア語圏や東欧のテクノロジー系の起業家は、世界で最も技術力が高い人たちだと言われている。

例えば、Coursera(コルセラ)が発表した「2020 Global Skills Index(2020年グローバルスキル指標)」では、60カ国6500万人の学習者の中で、ロシアの学習者がテクノロジーとデータサイエンスの分野で最も高い能力を持っていることがわかった。また、起業家精神のレベルも高く、今なお成長を続けている。

彼らの技術的な能力や起業家としての才能に加えて、1つ疑問が残る。彼らは投資対象になりうるのか?

推定では、英国、欧州、米国などにおける主要な拠点で活動するロシア語圏および東欧の起業家は、すでに1万7000人ほどいると言われている。

多くの人が知らないだけで、成功した事例に、Telegram(テレグラム)、Revolut(レボリュート)、TradingView(トレーディングビュー)、PandaDoc(パンダドック)、Preply(プリプリ)などの有名企業がある。2019年だけでも、ロシア語圏の起業家が設立した企業は、合わせて125億ドル(約1兆3760億円)以上で米国の企業に売却された。最も主要な案件としては、Veeam(ヴィーム)のInsight Partners(インサイト・パートナーズ)への50億ドル(約5500億円)の売却、MagicLab(マジックラボ)の米投資運用会社Blackstone(ブラックストーン)への30億ドル(約3300億円)の売却、DXC Technology(DTXテクノロジー)のLuxoft(ルクソフト)の20億ドル(約2200億円)の買収などが挙げられる。

関連記事:スイスのデータ管理企業Veeamを投資会社のInsight Partnersが約5500億円で買収

Leta(レタ)の私たちのファンドは、2017年のBright Box HK(ブライト・ボックス HK)のZurich Insurance Group(チューリッヒ・インシュアランス・グループ)への売却や、WeWork(ウィーウォーク)によるセールス&マーケティングプラットフォームUnomy(ウノミー)の買収など、国際的な企業に買収されたスタートアップを支援してきた。

このような実績と成功にもかかわらず、東欧の起業家は、自国で活動していても、投資家に見落とされ、過小評価されていると思う。

ロシアの伝統というスティグマ

その理由は、文化的な違いの認識、理解、信頼、自信の欠如、そして悲しいことに、ロシアや東欧のネガティブなステレオタイプに煽られてのリスク回避など、数え切れないほど挙げられる。実際、多くの起業家は「西洋」の同業者と同じ土俵に立つために、自分の伝統や経歴をわざわざ控えめにしているほどだ。

最近、当社のアナリストが行った調査によると、ロシア語圏や東欧圏の起業家のかなりの割合が、投資家を惹きつけることができず、シード資金の調達に成功していないということがわかった。

また、シード資金、シリーズA、シリーズBの資金調達に成功した場合でも、米国の同業他社に比べて平均65%、英国やEUの起業家に比べて40%以上少ない資金調達額となっているという。従業員1人当たりの資金調達額は、米国と英国の平均よりも2倍近く少なく、買収案件の発生比率は、米国とEUの企業がそれぞれ17%と20%であるのに対し、これらの企業は約5%だ。

では、これらの企業は成功率が低い、あるいは成長特性が異なると考えてよいのだろうか?

いや、そのようなことはない。私たちの分析対象となった起業家や企業は、成長と投資家への利益還元という点で、十分な力を発揮している。同業他社と比較しても、特にシードやシリーズAの段階で力強い成長を遂げており、資金燃焼率も低く、投資をリターンにつなげる効率性も高い。

チャンスの宝庫

いくつかの成功事例があるにもかかわらず、東欧のスタートアップ企業の多くはまだ見過ごされ、過小評価されていると思う。投資家にとっては、これは未開拓の大きなチャンスだ。

私自身がIT起業家であり、幸運にも自分の財布からお金を出すことができる立場にあるので、自分が成功したように他の人が成功するのを手助けし、その過程で非常にエキサイティングな企業や型破りな技術を世に送り出すことが私の使命だと考えている。

私たちは、より多くの安心感と説得力を必要としている他の投資家と協力して、この重要でエキサイティングな未開拓分野の市場をよりよく理解し、導いていきたいと考えている。自分たちの分析と自分たちのファンドのパフォーマンスから、投資家に魅力的なリターンを提供できると確信している。

編集部注:本稿の執筆者Alexander Chachava(アレクサンダー・チャチャバ)は、シリアルアントレプレナー、投資家、テクノロジー関連の投資会社であるLETA Capitalのマネージングパートナー。

画像クレジット:Juanmonino / Getty Images

原文へ

(文:Alexander Chachava、翻訳:Akihito Mizukoshi)

WhatsAppに欧州のGDPR違反で約294億円の制裁金、ユーザー・非ユーザーに対する透明性の向上も命令

長らく待たれていたが、ついにFacebookは、大々的に報じられていた欧州のデータ保護体制からの批判を感じ始めている。2021年9月初旬、アイルランドのデータ保護委員会(DPC)が、WhatsAppに2億2500万ユーロ(約294億円)の制裁金を科すことを発表した。

Facebook傘下の同メッセージングアプリは、欧州連合(EU)のデータ統括者であるアイルランドのDPCによって2018年12月から調査を受けている。その数カ月前には、WhatsAppのユーザーデータ処理方法をめぐって最初の苦情が申し立てられていた。同社のユーザーデータ処理方法は、欧州の一般データ保護規則(GDPR)の適用が2018年5月に開始されている。

関連記事:GDPR施行、「同意の強制」でさっそくFacebookとGoogleに対し初の提訴

WhatsAppに関する具体的な苦情がいくつも寄せられたにもかかわらず、2021年9月初旬に決定が下されたDPCによる調査は「自発的」な調査として知られているものであった。つまり、規制当局が調査自体のパラメータを選定し、WhatsAppの「透明性」に関する義務を監査することを選択したものだ。

GDPRの重要な原則の1つは、個人のデータを処理する事業体はその個人の情報がどのように使用されるかについて、その個人に対して明確でオープンかつ正直でなければならない、ということにある。

この度のDPCの決定(266ページに及ぶ)は、WhatsAppがGDPRで要求されている基準を満たしていなかったと結論づけている。

この調査では、WhatsAppが同サービスのユーザーと非ユーザーの両方に対する透明性に関する義務を果たしているかどうかが検討された(例えばWhatsAppは、ユーザーが他人の個人情報を含む電話帳を取り込むことに同意すれば、非ユーザーの電話番号をアップロードすることができる)。また、親会社のFacebookとのデータ共有に関してプラットフォームが提供する透明性にも注目していた(2016年にプライバシーUターンが発表された当時、大きな議論を呼んだが、GDPRの適用前だった)。

要約すると、DPCはWhatsAppによる一連の透明性侵害を発見した。GDPRの第5条1項(a)号、第12条、第13条、第14条に及ぶものである。

多額の制裁金を科すことに加えて、当局はWhatsAppに対し、ユーザーと非ユーザーに提供する透明性のレベルを向上させるために多くの措置を講じるよう命じている。このテック大手には、指示されたすべての変更を行うために3カ月の期限が与えられた。

WhatsAppはDPCの決定に対する声明の中で、調査結果に異議を唱え、この制裁金を「まったく不相応」と表現するとともに、控訴する意向を示し、次のように記している。

WhatsAppは、安全でプライベートなサービスを提供することに尽力しています。当社は提供する情報の透明性と包括性の確保に努めており、今後も継続的に取り組んでいきます。当社が2018年に人々に提供した透明性に関するこの度の決定には同意できず、制裁金はまったく不相応なものです。当社はこの決定に控訴する意向です。

最終的な決定が下されたDPC調査の範囲は、WhatsAppの透明性に関する義務への考慮に限定されていたことを強調しておきたい。

規制当局は、明示的に、広範囲の苦情について調査してこなかった。それはFacebookのデータマイニング帝国に対して3年以上も前から提起されているもので、そもそもWhatsAppが人々の情報を処理していると主張する法的根拠に関するものである。

したがって、DPCはGDPR施行のペースとアプローチの両方について批判を受け続けることになるだろう。

実際、今日に至るまで、アイルランドの規制当局は「ビッグテック」に対処するための国境を越えた大規模な訴訟において、わずか1つの決定しか下していなかった。Twitterに対して行われたもので、2020年の12月に遡るが、歴史的なセキュリティ侵害をめぐりこのソーシャルネットワークに55万ドル(約6045万円)の制裁金を科したというものだった。

これとは対照的に、WhatsAppの最初のGDPR罰則はかなり大きく、EUの規制当局がGDPRのはるかに深刻な侵害だと考えていることを反映している。

透明性は規制の主要原則の1つである。そして、セキュリティ侵害はずさんな慣行を示しているかもしれない一方で、アドテック帝国が大きな利益を上げるためにそのデータに依存する人々に対する、組織的な不透明さは、むしろ意図的なものに見える。確かに、それは間違いなくビジネスモデル全体のことである。

そして、少なくとも欧州においては、そのような企業は、人々のデータを利用して何をしているのかについて最前線に立たされることになるだろう。

GDPRは機能しているだろうか?

WhatsAppの決定は、GDPRが最も重要なところで効果的に機能しているかどうかについての議論を再燃させるだろう。世界で最も強力な、そしてもちろんインターネット企業でもある各社に対して。

EUの代表的なデータ保護規制では、越境事案の決定には影響を受ける全規制当局(27の加盟国)の同意が必要である。そのためGDPRの「ワンストップショップ」メカニズムは、主規制当局を介して苦情や調査を集めることにより、越境企業の規制上の義務を合理化しようとしているが(通常は企業がEU内に主要な法的根拠を持っている場合)、今回のWhatsApp事案で起きたように、主監督当局の結論(および提案された制裁)に対して異議を申し立てることができる。

アイルランドは当初、WhatsAppに対して5000万ユーロ(約65億円)という、はるかに少額の制裁金を科すことを提案していたが、他のEU規制当局がさまざまな局面でこの決定案に異議を唱えた。その結果、欧州データ保護会議(EDPB)が最終的に介入し、多様な論争を解決するための拘束力のある決定を下さなければならなかった(EDPBはこの夏に施行された)。

DPCはその(確かにかなり痛みをともなう)共同作業を通じて、WhatsAppに科される制裁金の額を引き上げるよう求められた。Twitterの決定草案で何が起きたかを反映して、DPCは当初、より軽微な制裁金を提案していたのだった。

EUの巨大なデータ保護機関の間の紛争を解決するには、明らかな時間的コストがかかる。DPCは12月にWhatsAppの決定草案を他のDPAに提出して審査を求めていたので、WhatsAppの不可逆的ハッシュ化などに関するすべての紛争を徹底的に洗い出すのに半年以上かかっている。その決定と結論に「修正」が加えられているという事実は、たとえ共同で合意していなくても、少なくともEDPBに押し切られた合意を経て到達しているのであれば、プロセスが遅くて不安定ではあるが機能していることを示している。少なくとも技術的な意味においては。

それでも、アイルランドのデータ保護機関は、GDPRに関する苦情や調査の処理における大きな役割について批判を受け続けるだろう。DPCが、どの問題を(ケースの選択や構成によって)詳細に調査し、どの問題を完全に排除すべきか(調査を開始していない問題や、単に取り下げられたり無視されたりしている苦情)を、本質的に選り好みしていると非難する声もある。最も声高な批判者たちは、DPCが依然として、EU全体におけるデータ保護権の効果的な実施の大きなボトルネックになっていると主張している。

この批判に関連した結論は、Facebookのようなテック大手は、欧州のプライバシー規則に違反するためのかなりのフリーパスをまだ得ている、というものである。

しかし、2億2500万ユーロの制裁金がFacebookのビジネス帝国の駐車違反切符に相当するものであることは事実だとしても、そのようなアドテック大手が人々の情報を処理する方法を変更するよう命じられたことは、少なくとも問題のあるビジネスモデルを大幅に改善するポテンシャルを秘めている。

とはいえ、このような広範な命令が期待される効果をもたらしているかどうかを判断するには、やはり時間を要することになるであろう。

欧州の長年のプライバシー活動家Max Schrems(マックス・シュレムス)氏によって設立されたプライバシー擁護団体noybは、この度のDPCのWhatsAppの決定に反応した声明で次のように述べている。「アイルランドの規制当局によるこの初の決定を歓迎します。しかし、DPCには2018年以来、年間約1万件の苦情が寄せられていますが、今回が初めての大きな制裁措置です。DPCはまた、当初は5000万ユーロの制裁金を科すことを提案しており、他の欧州データ保護当局によって2億2500万ユーロへの移行を余儀なくされました。それでもFacebookグループの売上高の0.08%にすぎません。GDPRは売上高の最大4%の制裁金を想定しています。このことは、DPCが依然として極めて機能不全に陥っていることを示しています」。

シュレムス氏はさらに、同氏とnoybは、DPCの前で保留中の訴訟をいくつか抱えており、その中にはWhatsAppも含まれていることを指摘した。

さらなる発言の中で同氏らは、DPCが他のEUのDPAによって強化を余儀なくされた制裁措置を筋の通った形で擁護するのかについて、また上訴プロセスの長さについての懸念を表明した。

「WhatsAppは確かに決定を不服として控訴するでしょう。アイルランドの裁判所のシステムにおいて、これは制裁金が実際に支払われるまでに何年もかかることを意味します。私たちのケースでは、DPCは事実上の基礎固めを行うことよりも、見出しに関心があるように私たちはしばしば感じていました。DPCが実際にこの決定を守るかどうかを見るのは、非常に興味深いことです。なぜなら、DPCは基本的に欧州のカウンターパートによって今回の決定を下さざるを得なかったからです。私はDPCが単純にこの訴訟に多くのリソースを割くことをしないか、アイルランドにおいてWhatsAppと「和解」することを想像することができます。私たちは、DPCが確実にこの決定に従って進めていることを確認するために、この件を注意深く監視していきます」。

【更新】別の反応声明で、Facebook傘下のWhatsAppに対して苦情を申し立てている欧州の消費者保護団体BEUCは、この決定を「遅すぎた」と評している。

デジタルポリシーのチームリーダーであるDavid Martin(デビッド・マーティン)氏は次のように付け加えた。「今回のことは、Facebookとその子会社に対して、データ保護に関するEUの規則を破ることは重大な結果をもたらすという重要なメッセージを送っています。また、アイルランドのデータ保護当局がEUのカウンターパートによってさらに厳格なスタンスを取ることを余儀なくされたことから、欧州データ保護委員会がGDPRの施行に果たした決定的な役割も今回示されました。私たちは、消費者当局がこの決定に留意し、BEUCがWhatsAppに対して起こしている、規約やプライバシーポリシーの最近の変更を受け入れるよう同社がユーザーに不当な圧力をかけたことに関する別の苦情について、速やかな対応がなされることを願っています」。

関連記事:フェイスブックのEU米国間データ転送問題の決着が近い

画像クレジット:Justin Sullivan / Getty Images

原文へ

(文:Natasha Lomas、翻訳:Dragonfly)

フェイスブックのスマートサングラス、撮影を知らせるLEDライトが非常に「小さい」と欧州当局が懸念

Facebook(フェイスブック)を監督する欧州のプライバシー当局は、同社が現在販売している「スマート」Ray-Banサングラスについて懸念を示している。このサングラスには口頭での合図で写真やショートビデオを取ることができるカメラが搭載されている。

アイルランドのデータ保護委員会(DPC)は現地時間9月17日、ユーザーがビデオを撮るときに光るサングラス搭載のLEDインディケーターライトが、サングラスをかけている人に撮影されていることを他の人に知らせる効果的な方法であることを証明するようFacebookに求めた。

関連記事:フェイスブックがレイバンと共同でスマートサングラス「Ray-Ban Stories」発売、約3.3万円から

イタリアのプライバシー当局GaranteはすでにFacebookのスマートグラスを疑問視しているが、Facebookが欧州本部を置いているアイルランドは同社を監督する当局として並外れた役割を担っている。

Facebookは1年前、AR(拡張現実)スマートメガネ製作に向けた道のりにおける「次のステップ」と表現したものを発表した。その際、初期製品にはARは搭載されないと述べたが、高級メガネ大手Luxottica(ルクソティカ)との複数年にわたる提携を発表した。「スマート」メガネに次第に機能を増やしていくことを意図していたようだ。

関連記事:FacebookがARが日常生活になるスマートグラスを2021年に発売、Ray-BanブランドのLuxotticaともコラボ

FacebookのRay-Banブランドの第1弾の商品は9月初旬に発売された。一見、ほぼ普通のサングラスのようだが、5MPのカメラ2つをフロント部分に備え、ユーザーはこれらを使って目にしているものののビデオを撮って、Viewという新しいFacebookアプリにアップロードできる(サングラスはフレーム内部にスピーカーも搭載し、ユーザーは音楽を聴いたりコールを取ったりもできる)。

このサングラスのフロント部分にはLEDライトもある。これはビデオを撮影しているときに光る。しかし、DPCが「とても小さい」インディケーターと呼ぶものは、人々に自分が撮影されているリスクを警告するのには不十分なメカニズムであることを欧州の当局は懸念している。

Facebookはこのサングラスが引き起こしうるプライバシーのリスクを評価するための包括的な実地テストを行ったことを示していない、とも付け加えた。

「スマートフォンを含む多くのデバイスが第三者を撮影できることは受け入れられている一方で、通常カメラやスマホは撮影しているときにデバイスそのものが目に見え、ゆえに撮影されている人にその事実を知らせています。メガネでは、撮影中にとても小さなインディケーターライトが光るだけです。インディケーターLEDライトが撮影を周囲に知らせる有効な方法であることを確認するために、包括的な実地テストがFacebookあるいはRay-Banによって行われたことをDPCとGaranteに証明していません」とDPCは述べている。

Facebookの主要EUデータ保護当局は続けて、同社に「LEDインディケーターライトが目的にかなうものであることを実証し、この新しい消費者向け製品があまり目立たない撮影を引き起こすかもしれないことを大衆に警告するための情報キャンペーンを展開する」ことを求めている、と話す。

質問するためにFacebookに連絡を取った。

同社の広報担当はTechCrunchに次のように語った。「新テクノロジーについて、そしてそれがどのように機能するか、人々が疑問を抱えていることを当社は承知しており、また当社がこの会話の一部に入っていることは重要です。この新テクノロジーがどのようなものなのか、そしてコントロールについて人々が理解できるよう、 当社の主要監視当局であるアイルランドのDPCを含め、当局パートナーと協業します」。

同社はまた、スマートサングラスの発売に先立ってDPCとやり取りしたと主張し、また今後もやり取りを続けると述べた。加えて、サングラスにはオフのスイッチもあると指摘した。

アイルランドの当局は、発売前にスマートサングラスのデータ保護コンプライアンスに関してFacebookから概要説明があったことを認めたが、副委員長のGraham Doyle(グラハム・ドイル)氏はプロダクトの機能についての相談はなかった、と述べた。

「夏にデータ保護要件コンプライアンスについての概要説明と詳細の提供がありましたが、製品の開発についての相談はありませんでした(Facebookが我々のところにきたときにはデザインと機能の開発はすでに終わっていました)、とドイル氏は述べた。

「メガネのオペレーションと実地テストに対処するために、他のDPA、我々自身、そしてGaranteと情報、特に懸念について共有しました」。

スマートサングラスは9月初旬に発売された。米国での価格は299ドル(約3万3000円)だ。現在アイルランドとイタリア、そして英国でも販売していることをFacebookは明らかにした。

ここ数年、同社は規制当局の懸念を受けて、欧州でのプロダクト立ち上げを一部を延期してきた(あるいは中止したりした)。ここには顔のタグ付け機能が含まれる(これは後に別の形で再導入された)。

同社の欧州でのデートサービス展開も9カ月以上ずれ込み、DPCによる介入後に一部を変更して導入された。

また、Facebook所有のメッセージプラットフォームWhatsApp(ワッツアップ)が欧州でFacebookとデータ共有することにも制限がかけられている。こちらも規制当局介入の結果だ。欧州では多量のデータがまだWhatsAppからFacebookへと流れているが縮小してはいて、Facebookに対する数多くのプライバシーに関する苦情は欧州で調査中だ。これらの調査の結果はまだ出ていない

2021年9月初めにアイルランドのDPCは(欧州のGDPR法のもとで)Facebookに対する初の制裁を発表し、利用者への十分な説明を怠ったとしてWhatsAppに2億6700万ドル(約290億円)の罰金を科した。しかしDPCはFacebookや同社の傘下企業に対する複数の苦情についてはまだ調査を続けている。

2021年1月にアイルランド当局は、Facebookの欧州から米国へのデータ移送に対する2013年の苦情を「速やかに」解決することに同意してもいる。こちらもまだ結論は出ていない

原文へ

(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi

EUが半導体の自給体制の構築を目指す法律を制定へ

欧州連合(EU)は域内の半導体サプライチェーンを自給の強固なものにすべく、法制化という手段に出る。

欧州委員会の委員長は現地時間9月15日、来たる「European Chips Act(欧州半導体法)」を連合演説で予告した。委員長の​​Ursula von der Leyen(ウルズラ・フォン・デア・ライエン)氏は、半導体製造の自主権を得ることはEUの包括的デジタル戦略の鍵を握ると訴えた。

フォン・デア・ライエン氏は、クルマから電車、スマートフォン、他の家電に至るまで、データ処理を半導体に頼っているさまざまな種の製品の生産抑制につながった世界的な半導体不足について警鐘を鳴らした。半導体が不足する事態となって、この分野における欧州の能力に対する議員の懸念は募っている。

「半導体なしではデジタルは成り立ちません」と同氏は指摘した。「こうして話している間、増大する需要にもかかわらず、全生産ラインはすでに減速しています」。

「しかし世界需要が爆発的に高まった一方で、デザインから製造能力に至るまでバリューチェーン全体での欧州のシェアは縮小してきました。我々はアジアで生産される最先端の半導体に頼っています。ですので、これは我々の競争力の問題にとどまるものではありません。テックの自主権の問題なのです。そこに注力しましょう」。

欧州半導体法は欧州の半導体研究、デザイン、テスト能力をリンクさせるのが目的だとフォン・デア・ライエン氏は話し、EUの自給能力を高めるためにこの分野へのEUと国家による投資の「協調」を求めている。

「目的は、最先端の欧州の半導体エコシステムを共同でつくることで、ここには生産も含まれています。供給を保証し、画期的な欧州テックのための新しいマーケットを掘り起こします」と同氏は付け加えた。

同氏は、欧州の半導体保有量を補強するという試みは「困難な仕事」との考えを表しつつ、20年前のガリレオ衛星測位システムで成し遂げたミッションになぞらえた。

「今日、欧州の衛星は世界で20億台超のスマホに測位システムを提供しています。我々は世界のリーダーなのです。今回は半導体ですが、再び大胆に取り組みましょう」。

その後、EU地域政策委員会のThierry Breton(ティエリー・ブルトン)氏が法制化計画の詳細を補強し、欧州委員会は加盟国の取り組みを「理解しやすい」汎EU半導体戦略に統合し「単一市場を細分化する国の助成金に走ることを回避するための」フレームワークを構築したいと考えている、と述べた。

目的は「欧州の利益を守り、グローバルで地政学的に欧州の地位を確固たるものにする環境をつくること」だ、と付け加えた。

ブルトン氏によると、半導体法は3つの要素で構成される。まず、ベルギーのIMEC、フランスのLETI/CEA、ドイツのフラウンホーファー研究機構といった機関による取り組みをベースに構築する半導体研究戦略だ。

「既存の研究パートナーシップをもとに、技術を強化し、我々の戦略的利益を維持しつつ、研究の野心を次のレベルにもっていく戦略をデザインする必要があります」とブルトン氏は説明する。

2つめの要素は欧州の半導体生産能力を高めるための集合的な計画で構成される。

計画されている法制化は半導体サプライチェーンの監視と、デザイン、生産、梱包、設備、サプライヤー(ウェーハ製造者など)のレジリエンスのサポートを目的とする。

最終目標は、最も高度でエネルギー効率の高い半導体を大量生産できる欧州の「メガファブ(大規模工場)」の開発を支えることだ。

しかしながら、EUが必要とするすべての半導体を生産できる未来を想定しているわけではない。

欧州半導体法の3つめの要素は、国際協力・提携のためのフレームワークを提示することだ。

「欧州だけですべてを生産するという考えではありません。欧州での生産を盛んなものにするのに加えて、我々は1つの国や地域への過度な依存を減らすためにサプライチェーンを多様化する戦略を描く必要があります」とブルトン氏は続けた。「そしてEUがグローバルでトップの外国投資先であり続けることを目指し、特にハイエンドなテクノロジーの生産能力を高めるのに役立つ外国投資を歓迎する一方で、欧州半導体法を通じて我々は欧州の供給保証を保つために適切な条件を整えます」。

「米国は現在、特定の研究センターに資金を提供し、高度な生産工場を開所するのをサポートするための米国半導体法のもとで巨額の投資を議論しています。目的は明確で、米国の半導体サプライチェーンのレジリエンスを強化することです」と同氏は付け加えた。

「台湾は半導体製造における優位性を確保するという立場です。中国もまた、技術移転を回避するための輸出規制によって制約を受けている中で、テクノロジーギャップを埋めようとしています。欧州は遅れを取ることはできず、またそのつもりもありません」。

9月15日に発表された文書に加えて、半導体法はフォン・デア・ライエン氏率いる欧州委員会がすでに提示している他のデジタル面での取り組みをベースとする、とEUは述べた。その取り組みとは、インターネット大企業「監視」の力を持つようにし、プラットフォームの説明責任を増やすこと(デジタルマーケット法とデジタルサービス法)、ハイリスクのAI応用を規制すること(人工知能法)、オンラインの誤情報を取り締まること(行動規範の強化を通じて)、地域のデジタルインフラとスキルへの投資を増やすことなどだ。

関連記事:欧州がリスクベースのAI規制を提案、AIに対する信頼と理解の醸成を目指す

画像クレジット:Torsak Thammachote / Shutterstock

原文へ

(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi

オランダ裁判所がUberドライバーは従業員と判断、Uberは控訴の意向

Uber(ウーバー)がドライバーの雇用ステータスをめぐる欧州での裁判でまたも敗訴した。オランダのアムステルダム裁判所は、Uberドライバーは自営の請負業者ではなく従業員であるとの判断を示した。

アムステルダム裁判所はまた、ドライバーにはオランダの既存の労働協約が適用されるとの見解も示した。この労働協約はタクシードライバーに関係するもので、賃金要件を定め、傷病手当などの福利厚生をカバーしていて、この協約を満たすためにUberがコストの増大に直面することを意味している(一部のケースでは過去にさかのぼってドライバーに給与を払う責任が生じるかもしれない)。

裁判所はUberに費用の5万ユーロ(約650万円)の支払いも命じた。

配車サービス大手のUberは、アムステルダムで4000人のドライバーを同社プラットフォームに抱える。

乗客とタクシーサービス提供者を結びつけるテクノロジープラットフォームにすぎず、ドライバーは「書面上」自営業者だというUberの慣習的な主張をアムステルダム裁判所は却下した。

裁判官は、ドライバーによって提供されるサービスの性質と、ドライバーがどのように働き、稼ぐのかについてUberがアプリとアルゴリズムを通じてコントロールしている点を強調した。

欧州の最高裁判所は2017年に、Uberは輸送サービス事業者であり、地域の運送法を遵守しなければならない、と裁定した。なので、あなたが今回デジャブ感に陥るのはもっともだろう。

関連記事:ヨーロッパのUberに打撃、EUの最上級審が交通サービスだと裁定

オランダでの訴訟は2020年に全国労働組合センターFNVがおこし、6月末に審問が始まった。

9月13日の声明文で、FNVのバイスプレジデント、Zakaria Boufangacha(ザカリア・ボウファンガチャ)氏は次のように述べた。「判決には我々が何年もの間主張してきたことが書かれています。Uberは雇用主であり、ドライバーは従業員です。ですので、Uberはタクシー業界の労働協約に従わなければなりません。また、こうした種の事業運営は不法であり、ゆえに法律が強制されなければならないという国際司法裁判所へのメッセージでもあります」。

Uberには今回の判決に対するコメントを求めている。記事執筆時点で返事はなかったが、ロイターによると、Uberは控訴する意向であり「オランダでドライバーを雇用する計画はない」と述べた。

【更新】Uberは控訴することを認め、広報担当は「控訴によってアプリを使うドライバーへの影響はありません」としている。

Uberの欧州北部事業を担当するゼネラルマネジャーであるMaurits Schönfeld(マウリッツ・ショーンフェルド)氏は次のように述べた。「ドライバーの圧倒的多数が独立事業者であることを望んでいて、今回の判決に失望しています。ドライバーは、働くかどうか、いつ、どこで働くかを選ぶ自由を手放したくはありません。ドライバーの利益のために当社は控訴し、その間、引き続きオランダでのプラットフォーム労働を改善させます」。

Uberは英国で、何年にもわたる雇用分類をめぐる一連の裁判で敗訴してきた。そして2021年2月、最高裁判所で同社の敗訴が確定した。

判決を受け、英国ではドライバーを労働者として待遇するとUberは述べたが、論争は続いている(労働時間の定義などをめぐって)。5月に同社は、英国の労働組合を認めると初めて述べた。

関連記事
Uberは最高裁判所の判決を受けて英国のドライバーを「労働者」待遇にすると発表
EUがギグワークを「より良質」なものにする方法を探し始める

しかしながら欧州のあちこちでUberは雇用訴訟を続けていて、プラットフォーム労働の規制緩和を求めて欧州連合の議員らにロビー活動を行っている

プラットフォーム労働を改善する方法を見つけたい、とEUは述べている。ただ、汎EU「改革」がどのようなものになるかはまだ判然としていない。

欧州委員会はプラットフォーム労働の代表者に質問してきた。

「ロビー活動に巨額を投じていること、EUレベルでさらに多くのリソースを投入していることは明白で、デジタル労働プラットフォームは明らかに懸念されるものです。Uberももちろん含まれますが、こうした企業はプラットフォーム労働に関する政策への影響を及ぼすためにロビー活動しているグループへの新たな基金の設置で協力しています」とアムステルダム大学でデータ権を研究しているJill Toh(ジル・トー)氏は判決後にTechCrunchに語った。

「Uberはカリフォルニア州でのProp 22キャンペーンで巧みに法律を修正し、欧州では他の企業とともに同じことをしようと企てています。プラットフォーム労働者規則に関係する2つの協議で委員会はテック企業とだけ話していて、労働組合や他のプラットフォーム労働の代表者と会合を持っていません」。

「こうしたことは非常に問題があり、ECの協議がプラットフォーム労働について方向を示す結果になれば特に懸念されるものです。全体としては、勝訴は労働者にとって重要ですが、欧州委員会に及ぼす企業パワーや影響力、こうした判決への公的執行の欠如の問題は残っています」とトー氏は付け加えた。

【更新】欧州委員会の広報担当はTechCrunchに対し、デジタル労働プラットフォームを通じて働いている人のための労働条件をどのように改善するかについての第2ステージの協議はまだ継続中(9月15日まで)だと述べた。

「協議の結果次第で委員会は2021年末までに提案を進める意向です」と広報担当は付け加えた。

「協議第2ステージの目的は、欧州でのデジタル労働プラットフォームの持続可能な成長をサポートしつつ、プラットフォームを通じて働いている人々がどのようにしてまともな労働条件を確保するか、ソーシャルパートナーの意見を集めることです。こうした意味で、ソーシャルパートナーは、雇用ステータス分類の促進や、労働と社会保護の権利へのアクセスといった分野で、EUレベルのイニシアチブとなる可能性のある内容について意見を求められます」。

広報担当者はまた、欧州委員会が加盟国での動きを注視しており、加盟国の分析作業を考慮している、とも付け加えた。画像クレジット:JOSH EDELSON/AFP / Getty Images

原文へ

(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi

世界中の環境テックベンチャー対象の助成プログラムを英Founders FactoryとスロバキアのG-Forceが展開

英国のテックアクセラレーターFounders Factory(ファウンダーズファクトリー)はFounders Factory Sustainability Seedプログラムの立ち上げで欧州の同業と力を合わせる。スロバキアのブラチスラヴァに拠点を置きつつ広範に活動しているG-Force​(GはGreenからとっている)との提携のもとに立ち上げたプログラムは気候テックのスタートアップへの投資と振興を目的としている。

プログラムは世界の温室効果ガス排出を削減し、循環型経済への移行を加速させ、持続可能な住宅供給や製造のソリューションを生み出し、また気候に優しいモビリティ、食糧生産、二酸化炭素・メタン回収・貯留に対応できるスタートアップの起業家に​投資する。

主にブラチスラヴァ以外で活動しているG-Forceとともに展開するこのプログラムは、遠隔と対面のサポートを織り交ぜた「ハイブリッド」方式で展開される。世界の環境テックベンチャーがプログラムに申し込んで参加できるように、との意図だ。

Sustainability SeedプログラムでFounders FactoryのパートナーとなるG-Forceは財務面で、Boris Zelený氏(ボリス・ゼレニー、AVASTに14億ドル[1540億円]で売却されたAVGを創業した人物だ)、Startup GrindのMarian Gazdik(マリアン・ガズディク)氏、そしてアーリーステージ投資家のPeter Külloi(ピーター・キューロイ)氏やMiklós Kóbor(ミクローシュ・コーボー)氏を含む多数の東欧の投資家によって支えられている。

プログラムに選ばれたスタートアップは最大15万ユーロ(約2000万円)のシード投資、Founders Factoryチームによる6カ月のサポート、潜在的な顧客やパートナー、法人、投資家への紹介を受けられる。

Founders FactoryのCEOであるHenry Lane Fox(ヘンリー・レーン・フォックス)氏は次のように述べた。「起業家が創造を得意とするディスラプトを促進することで、すべての人にとってより良い、そしてより持続可能な未来を形成することができます。G-Forceとの提携で、Founders Factory Sustainability Seedプログラムは世界にポジティブな影響を与えるベンチャーの育成とサポートを約束する主要プレシードプログラムになります」。

G-Forceの共同創業パートナーであるMarian Gazdik(マリアン・ガズディク)氏は「Founders Factory Sustainability Seedプログラムとの提携での我々の野望は、G-Forceを欧州の中心を拠点とする世界クラスの持続可能なイノベーションハブにすることです」と述べた。

アイデアを進展させて、レーン・フォックス氏は「これまでは1つの法人パートナーと組み合わせるのが当社のモデルでしたが、この特異なケースではエンジェル投資家のグループをまとめて紹介し、純粋な金融投資家との取引にすることができます。これは実際にこの特異な部門にうまく合うと考えています。我々はまた、そうした企業がプログラムを最大限活用できるよう、早い段階でより多くの資金を提供します」と筆者に語った。

ガズディク氏は、英国ではなく欧州を拠点とすることでEUの助成プログラムを利用することができる、とも付け加えた。

関連記事
EU「2030年の温室効果ガス55%削減」が21年遅延・2051年まで未達との調査報告、挽回には約470兆円の投資必要との試算も
スタートアップが日本のエネルギーセクターに入れないワケ
クリス・サッカ氏の気候変動対策ファンド「Lowercarbon Capital」が880億円を集める
画像クレジット:G-Force team

原文へ

(文:Mike Butcher、翻訳:Nariko Mizoguchi

欧州でAmazon流のフルフィルメントと物流をeコマース企業に提供するByrdが約21億円調達

新型コロナウイルスをきっかけに始まったオンラインショッピングの盛り上がりは衰える気配がなく、ヨーロッパのeコマースは2021年30%の成長が見込まれている。このような需要に対応するため、欧州でインフラを構築して販売業者の受注や配送をサポートし、Amazonに代わるフルフィルメントサービスを提供しているスタートアップ企業が、事業拡大のための資金調達を発表した。

倉庫や物流業務を管理するソフトウェアを構築したり、オンラインストアの商品の保管、集配作業をサポートするサービスを行ったりしているByrdは、シリーズBとして1600万ユーロ(約20億9200万円)を調達した。すでに活動している5カ国に加え、東欧、北欧、南欧の5つの市場に拡大するために使用する予定だ。2016年にオーストリアのウィーンで設立されたByrdは英国、ドイツ、オランダ、フランスにも進出し、合わせて約15のフルフィルメントセンターと200の顧客を抱えており、その中にはDurex、Freeletics、Scholl、Your Superfoodsなど、ヘルス&ウェルネス、消費財、化粧品、ファッションなどのD2Cブランドが含まれている。

銀行大手のSantanderから2020年スピンアウトしたフィンテック / eコマース関連の戦略的ベンチャーキャピタルであるMouro Capitalが今回のラウンドをリードし、Speedinvest、Verve Ventures、Rider Global、VentureFriendsも参加した。Byrdは評価額を公表していないが、現在までで約2,600万ユーロ(約33億9900万円)を調達している。

Byrdが狙っている市場機会は成長しつつあり、規模だけでなく、小売業者の需要やフルフィルメントパートナーに求めるものも大きくなってきている。

eコマースは見かけによらず複雑なビジネスである。見かけによらずというのは、私たちが消費者として実際に目にするのは、欲しい商品を適切な価格で見つけることができ、クリックしてあまり面倒な手続きなしに購入し、理想的にはすぐに手元に届くという機能だけだからだ。

しかし、これらのことを可能にするためには裏方で多くのステップが必要で、そのほとんどが複雑であり、通常、一般的な小規模小売業者のコアコンピタンスではない。そのような業者はたとえ人々が欲しがっていると思われる製品を知っていても、それをどうやって届けるかがわからないのだ。そのようなステップには、マーケティング、決済、ユーザーインターフェースのデザイン、パーソナライゼーション、製造、その他のサプライチェーン、そして注文商品を顧客に届けるための物流やフルフィルメントなどがある。eコマースがより大きなチャネルへと成長していく中、これらのサプライチェーンに含まれるすべての部門がかつてないほど大きな可能性を秘めている。

一般的に、小売企業はこれらのサービスを提供するために第三者のテクノロジー企業を利用するが、ここでByrdが、企業の物流とフルフィルメントを扱う外注パートナーとして登場する。Byrdは、小売企業がフルフィルメント業務全体をByrdに委ねることができるよう、一連のAPIを構築している。

これには商品の受け取り、保管、集荷を行うByrdの倉庫との連携や、企業の販売ネットワークとの連携が含まれる。販売ネットワークには、企業のオンラインストアだけでなく、Amazonやその他のマーケットプレイスで商品が販売されている場合も含まれる。注文が入り商品を集荷して発送する際には、Byrdが自社の技術を駆使して、UPS、DHL、Amazon、postNLなどのさまざまな運送会社のネットワークを活用し、商品を購入者に届けるための最も安くて簡単な方法を見つけ出す。

このような事業を行っているのはByrdだけではない。Byrdと競合する他の独立系企業(最大手の1つであるShipBobは、先に10億ドル(約1101億2800万円)の評価額で2億ドル(約220億2520万円)の大型ラウンドを実施した)と並んで君臨しているのがAmazonだ。巨大eコマース企業であるAmazonは、(FBAによる)フルフィルメントだけでなく、オンラインストアでの視認性やマーケティングなど、さまざまなサービスを提供しており、売り手にとってのワンストップショップのような存在となっている。

Byrdの共同設立者兼CCOであるPetra Dobrocka(ペトラ・ドボロッカ)は、インタビューで次のように述べている。「Amazonは一般的に大きな市場シェアを占めているため、多くの販売店は、たとえ主に顧客獲得のためのチャネルとして使用するのであっても、Amazonを使わないというわけにはいきません」。

しかし問題は、Amazonのオプションや他の第三者プロバイダーの中には、パーソナライゼーションにそれほど対応していないものもあるということだ。実際、eコマースが成熟し、厳しい競争にさらされるようになると、eコマース事業者は自分たちが優位に立ち、他社と差をつけるための方法を模索するようになる。この問題についてもByrdが登場し、パッケージをカスタマイズすることで、実際にはByrdが提供するサービスであっても、顧客が直接サービスを体験できるようにしたり、持続可能な配送方法などのオプションも提供している。

これによりスタートアップ企業のスケールアップの速度が遅くなる可能性もあるが、サービスは品質の高いオプションとして提供されている。このことは、品質管理がまったく不十分であったり、市場の中で明確なアイデンティティが欠如していたりする場合には重要な意味を持つ。とりわけスケールアップを続けている場合はそうである。

「私たちはAmazonの代替サービスともいえますが、まったく違うものでもあります。当社の販売者は、ブランドを重視し、お客様にトータルな体験を提供したいと考えています。また、この点を評価してくださる小規模のお客様もいらっしゃいます」とドボロッカは語る。確かに、中小企業は大企業に比べるとサービスレベルを下げられてしまうことがよくあり、小規模な小売業者でも大企業のように扱ってくれるフルフィルメントサービスがあることはプラスだ。

これは、小売業者がよりはっきりとしたオンライン販売での存在感を出し、パーソナライゼーションを構築するのをサポートするテクノロジー企業が次々と登場しているという大きなトレンドの一環でもある。(2021年6月に資金調達を発表したオンラインストア・デザイン・プラットフォームのShogunも、このトレンドに乗ったスタートアップ企業の一例だ)。

これらすべての結果として、Byrdは非常に大きな成長を遂げ、収益は1年前に比べて300%増加し、月に数十万個の小包を取り扱うようになったという。

ByrdはB2Cを中心としたビジネスを展開しているが、それに近い領域であるB2BでもByrdは活躍できると考えており、ドボロッカによれば、今後数カ月のうちにB2Bビジネスもオンラインで登場する予定だ。また、次にどの国でフルフィルメントを構築するかは明らかにしていないが、Mouroの関与を考えると、スペインが次の国の1つになるのではないかと思われる。

Mouro CapitalのゼネラルパートナーであるManuel Silva Martínez(マニュエル・シルバ・マルティネス)は以下のように声明で述べている。「特に新型コロナウイルスの影響で、柔軟なデジタルeコマースフルフィルメントソリューションの必要性が高まっている中、ByrdのシリーズBの資金調達を主導できたことをうれしく思います。Byrdのエンド・ツー・エンドの能力、持続可能性への注力、そして有名ブランドの顧客は、競合他社とは一線を画しており、今回の投資による地理的拡大がもたらす成功を期待しています」。

画像クレジット:chain45154 / Getty Images

原文へ

(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)

Googleはニュース発行者の著作権をめぐる仏当局の罰金を不当として控訴

Googleは、フランスの競争当局(日本の公正取引委員会に相当)から7月に課せられた5億ドルあまりの罰金に控訴をしている。

その罰金は、コンテンツの再利用に関してニュースの発行者に使用料を支払う件における、アドテック巨人(Google)のやり方に関連している。

Google Franceの副社長でカントリーマネージャーであるSebastien Missoffe氏は今日の声明で、その罰金は「不釣り合いな」性格のものであり、ニュースの発行者と契約し、改定された著作権規則に準拠しようとしているGoogleの「努力」に照らして正当化できない、と主張している。しかしそれは、弁護の声明としては相当ひどいものだ。

Missoffe氏は次のように付言している: 「2020年の4月から8月までの交渉に基づいてフランスの公正取引委員会が行った決定に、われわれは控訴する。われわれは、いくつかの法的要素に同意しないし、その罰金は、合意を求め新たな法に準拠しようとするわれわれの努力に対して不釣り合いである」。「にもかかわらずわれわれは、関連する権利を認め、この事案の解決のために献身し、取引の正常化に努めていく所存である。これには、オファーを1200社の発行者に拡大することと、われわれの契約の諸側面を明確にし、またフランス公正取引委員会の7月の決定で求められているよりも多くのデータを共有することが含まれている」。

関連記事: フランスがグーグルに650億円の罰金、記事使用料交渉で命令に従わず

さかのぼって2019年に、欧州連合は、ニュース記事のリード文を著作権の対象に含めるする改定デジタル著作権法に合意した。その部分はGoogle Newsのようなニューズアグリゲーターが何年も前から毎日のように削り取って表示していた断片記事である。

EUの加盟国はアップデートされた全EUの改革を自国の法律に転置しなければならない。それを最初にやったのが、フランスだった。

また、改定法をGoogleに強制する件でも、フランスの競争当局が先陣を切り、昨年、このテクノロジーの巨人に対して発行者と交渉するよう命じた。そして発行者がGoogleの交渉態度に不平を言ったとき、超弩級の罰金を課した。

今夏に罰金を発表するときフランスの競争委員会は、このテクノロジー巨人が別の罰金や課金義務などの発生を避けるために、ローカルな発行者に対してグローバルに運用しているニュースライセンスプロダクトを一律に課そうとしていると非難した。EUとフランスの法律では、そういう発行者とも、個別に交渉すべきことが定められている。

Googleの手口に対する当局の不平不満のリストは膨大である。これに関し、本誌の初期の記事はここにある。だから、今度の控訴も、どこまでが単なる時間稼ぎなのか、よく分からないのだ。

ロイターによると、仏競争委員会は、控訴で罰金が一時棚上げになることはないし、すでに(7月に)発せられている期限が変更されることもない、と言っている。それによると、Googleがオファーの改定や発行者への必要な情報の提供に費やせる時間枠は、7月の時点で2か月しか残されていない。そのときまでにすべての要件を満たさなければ、日額90万ユーロの罰金が新たに発生する。その締切は、あと2週間後だ。

Googleは、控訴を発表したことによって発行者の心をそっちに集中させ、どんな代案でも受け入れる気持ちにさせる、と踏んでいるのかもしれない(そのための対象発行者の1200社への拡大か)。控訴の訴状にある「契約の諸側面を明らかにし」と「もっと多くのデータを共有し」などはすべて、Googleが仏当局から厳しくお尻ペンペンされた領域だ。

(文:Natasha Lomas、翻訳:Hiroshi Iwatani)
画像クレジット: Chesnot/Getty Images/Getty Images

[原文へ]

フェイスブックが「2Africa」海底ケーブルネットワークをさらに4つの地域へ拡張

Facebook(フェイスブック)は米国時間8月16日、アフリカ大陸および中東地域をカバーする「最も包括的」な海底ケーブルを、さらに4つの地域へ拡張すると発表した。

Facebookは、China Mobile International(チャイナ・モバイル・インターナショナル)、MTN GlobalConnect(MTNグローバルコネクト)、Orange(オレンジ)、STC(サウジ・テレコム)、Telecom Egypt(テレコム・エジプト)、Vodafone(ボーダフォン)、WIOCCからなる「2Africa」コンソーシアムと共同でこれを行う。

新たに加わる地域はセーシェル、コモロ諸島、アンゴラ、ナイジェリア南東部だ。最近発表されたカナリア諸島に続き、これらの国々へ新たに海底ケーブルが拡張されることになる。

Facebookは2020年、この2Africaプロジェクトで3万7000kmのケーブルを敷設すると発表した。これらのケーブルは、エジプトを経由してヨーロッパと、サウジアラビアを経由して中東と、そしてアフリカ16カ国21カ所の陸揚局を相互接続する。

関係者は当時、2Africaプロジェクトは2023年か2024年初めには完成するだろうと語っていた。このシステムが稼働すれば、現在アフリカで提供されているすべての海底ケーブルの総容量を超えるサービスが提供できるようになるという。

画像クレジット:2Africa

コンソーシアムから発行されたFacebookの新たな声明によると、計画は依然として2023年後半の稼働を予定しているとのこと。2Africaプロジェクトはいくらか進展しており、海底ルートの調査活動の大部分が完了していると、コンソーシアムは述べている。エジプト海と地中海の接続もほぼ完了していると、声明には書かれている。今回発表された新区間の海洋調査も、2021年末までに完了する予定だという。

コンソーシアムは、新支線の敷設にNokia(ノキア)のASN(アルカテル・サブマリン・ネットワークス)を選定。これによって2Africaの陸揚局は26カ国35カ所となる。

「Facebookによる2Africaへの多額の投資は、南アフリカ、ウガンダ、ナイジェリア、コンゴ民主共和国におけるインフラ投資など、私たちがこれまでに行ってきたいくつかの投資の上に成り立っているものです。新型コロナウイルスの感染拡大は、世界中の何十億もの人々が仕事や学校、大切な人とのつながりを保つためにインターネットに依存し、接続性の重要性を浮き彫りにしました」と、Facebookの広報担当者は、同社によるアフリカへの継続的な投資について述べている。

「2Africaは、アフリカ大陸全体の接続インフラを前進させる重要な要素であるだけでなく、経済回復の重要な時期に行われる大規模な投資にもなります。ますます多くの人々がインターネットに依存するようになる中、常に大事な人やものと確実につながるために、海底ケーブルは不可欠な要素です。Facebookが海底ケーブルに投資するのは、当社の製品を利用する人々により良い体験を提供するためですが、当社の投資はすべての人にコスト効率の良いインターネットを提供することになります」。

関連記事
グーグルが米国とアルゼンチンを結ぶ新海底ケーブル「Firmina」発表、電力供給能力で前進
米欧を結ぶグーグルの新海底ケーブル「Dunant」が稼働開始、通信容量250テラビット/秒
Googleがシンガポールとオーストラリアを結ぶ海底ケーブルに投資

カテゴリー:ネットサービス
タグ:Facebookアフリカ中東海底ケーブルヨーロッパ

画像クレジット:ANDER GILLENEA / AFP / Getty Images

原文へ

(文:Tage Kene-Okafor、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

物議を醸すWhatsAppのポリシー変更、今度はEUの消費者法違反の疑いで

Facebookは、WhatsAppのユーザーにポリシーのアップデートを5月15日まで受け入れなければアプリが使えなくなるなど、議論の多い利用規約変更を認めるよう強制していることで、EUの消費者保護法の複数の違反で告訴されている。

EUの消費者保護総括部局であるBureau Européen des Unions de Consommateurs(BEUC、欧州消費者機構)は現地時間7月12日、その8つの会員組織とともに、欧州委員会(EC)と、ヨーロッパの消費者保護機関のネットワークに訴追状を提出したと発表した

同機関のプレスリリースでは「この訴追状は、WhatsAppのポリシーのアップデートを受け入れるようユーザーに迫る、度重なる、執拗で強圧的な通知に対する初めての対応である」と述べられている。

「通知の内容と性質、タイミング、頻度はユーザーをいわれなき圧力の下に置き、彼らの選択の自由を毀損している。したがってそれらは、EUの不公正な商習慣に関する指示に違反している」。

最初に表示されるWhatsAppの新しいポリシーを受け入れる必要性に関する通知は、何度も繰り返されるため、サービスの利用を妨害することになると告げたが、後に同社はその厳しい締め切りを撤回した

それでも同アプリは、アップデートの受け入れを迫ってユーザーを困らせ続けた。受け入れない、というオプションはなく、ユーザーはそのプロンプトを閉じることはできるが、再度、再々度のポップアップを停止することはできない。

BEUCの訴追状は、次のように続いている。「さらに本訴追状は新しい利用規約の不透明性と、WhatsAppが、変更の性質を平易にわかりやすく説明できていないことを強調している。WhatsAppの変更が自分のプライバシーに何をもたらすのかを、消費者が明確に理解することが不可能であり、特に自分の個人データがFacebookやその他の企業の手に渡ることに関し記述が不明確である。このような曖昧さがEUの消費者法への違反を招いているのであり、企業は本来この法に従って、明確で透明な契約条項と商業的コミュニケーションを提示しなければならない」。

同機関が指摘しているのは、WhatsAppのポリシーのアップデートが依然としてヨーロッパのプライバシー規制当局から精査されていることだ。それ(まだ捜査中であること)が、同機関の主張によると、ポリシーをユーザーに押し付けるFacebookの強引なやり方が極めて不適切である理由の1つだ。

この消費者法に基づく訴追状は、BEUCが関与しているもう1つのプライバシー問題、EUのデータ保護当局(DPAs)が捜査しているものとは別だが、彼らに対しても捜査を早めるよう促している。「私たちはヨーロッパの消費者当局のネットワークとデータ保護当局のネットワークの両者に対して、これらの問題に関する密接な協力を促したい」。

BEUCは、WhatsAppのサービス規約に対する懸念を詳述した報告書を作成し、そこでは特に、新しいポリシーの「不透明性」を強く攻撃している。

WhatsAppは未だに、削除した部分と追加した部分に関して極めて曖昧である。結局のところ、何が新しくて何が修正されたのかをユーザーが明確に理解することは、ほとんど不可能である。新しいポリシーのこのような不透明性は、EUの不公正な契約規約に関する指示(Unfair Contract Terms Directive、UCTD)の5条に違反し、またEUの不公正な商習慣に関する指示(Unfair Commercial Practices Directive、UCPD)の5条と6条に照らして、それは誤解を招き不公正な慣行である。

WhatsAppの広報担当者はこのような消費者訴追状に対するコメントとして、次のように述べた。

BEUCの行為は、弊社のサービス規約のアップデートの目的と効果に対する誤解に基づいています。弊社の最近のアップデートは、WhatsApp上の企業に多くの人がメッセージングする際のオプションを説明しており、弊社のデータの集め方と使い方に関するさらなる透明性を提供するものです。このアップデートは、弊社のデータをFacebookと共有する能力を拡張するものではなく、世界のどこにいても、ユーザーが友だちや家族とやり取りするメッセージのプライバシーには何ら影響が及ぶものではありません。このアップデートをBEUCに説明し、多く人にとっての意味を明らかにする機会を歓迎したい。

BEUCの訴追状に対するコメントを欧州委員会(EC)に対しても求めたので、得られ次第この記事をアップデートしよう。

【更新】ECの職員は、次のように述べている。

本日、EUの消費者権への複数の侵犯によりWhatsAppに対して訴追状を提出したヨーロッパ消費者機関(BEUC)からの、警報を受け取りました。

欧州委員会はBEUCと各国の消費者機関から数週間後に提出されるすべての要素を細心に検討し、この件に関するさらなる捜査の必要性と、その結果としての共同消費者保護(Consumer Protection Cooperation、CPC)の規制が予見しているような協調行為の可能性を評価します。

協調行為はCPCのネットワークが定期的に行なうもので、その目的はこの単一市場において消費者の権利を一貫して強制していくことです。

私たちは、すべての企業が、EUではEUのデータ保護のルールに適合するサービスを提供することを期待しています。

GDPRの下では、ルールの監督と強制は各国のデータ保護当局が担当します。そして必要な協力はEuropean Data Protection Boardから提供されます。

欧州委員会は、この問題を密接に追尾していきます。

このWhatsAppポリシーアップデート問題は、以前からEUとヨーロッパ各国が着目しているため、今回の苦情提出は最新の反感表明にすぎない。例えば1月にはイタリアでプライバシーに関する警告が出され、その後の5月にドイツで緊急措置が取られた。それはハンブルグのデータ保護当局が、WhatsAppのユーザーデータの処理を禁じたことがきっかけだ。

関連記事:ドイツ当局がFacebookに対し物議を醸している「WhatsApp」の利用規約を適用しないよう命令

2021年初めには、EUでFacebookのデータ規制を指揮しているアイルランドのデータ保護委員会が、サービス規約の変更は当地域のユーザーに影響を及ぼさないとするFacebookの確約を了承したような雰囲気があった。

しかし、ドイツのデータ保護当局は不満だった。そしてハンブルグはGDPRの緊急時対応を持ち出し、それはアイルランドという一地域の問題ではなく、国をまたぐ訴えであり懸念であると主張した。

そういう緊急措置は期限が3カ月だ。そこでEuropean Data Protection Board(EDPB)は本日、緊急措置に関するハンブルグのデータ保護当局のリクエストを総会で議論すると確認した。総会での決定によっては、ハンブルグのデータ保護当局の介入が、今後も長続きすることになる。

一方では、ヨーロッパの規制当局が力を合わせてプラットフォームの強大な力に対抗しよう、という気運も芽生えている。たとえば各国の競争促進当局とプライバシー規制当局は共同で仕事をしていこうとしている。つまり国によって法律が異なっていても、独禁やデータ保護の専門知識や能力は個々のサイロに封じ込められるべきではない、という考え方だ。個々にサイロ状態であれば、リスクが行政の執行を邪魔し、インターネットのユーザーにとって衝突し相矛盾する結果を生むだろう。

強力なプラットフォームを鎖につなぐだけでなく、そのパワーを規制するために力を合わせるという考え方は、大西洋の両岸で理解されつつある。

関連記事:バイデン氏がビッグテックの「悪質な合併」阻止目指す大統領令に署名、過去のM&Aにも異議の可能性

カテゴリー:ネットサービス
タグ:FacebookWhatsAppEUヨーロッパBEUCプライバシー個人情報

画像クレジット:Brent Lewin/Bloomberg/Getty Images

原文へ

(文:Natasha Lomas、翻訳:Hiroshi Iwatani)

ボルボ、ダイムラー、トレイトンが約660億円を投じて全欧的な電気トラックの充電ネットワーク構築

Volvo GroupとDaimler Truck、およびVolkswagenの大型トラック別会社Traton Groupが米国時間7月5日に、電動の大型トラックとバス用高性能充電ステーションの全ヨーロッパ的ネットワークを作るための、法的拘束力のない協定を発表した。このニュースは、最初にロイターが報じた

ヨーロッパの大手自動車メーカー3社は、5億ユーロ(約658億1000万円)を投じて、戦略的に重要な地点やハイウェイの近くに1700カ所の充電ポイントを構築し運用する。協定の締結は年内とされており、2022年に運用を開始する。また将来的にはこの合弁事業のパートナーを増やして、充電ポイントの大幅増を狙っている。

このベンチャー事業は、2050年までにカーボンニュートラルな貨物輸送を実現するというEUの目標を実現する端緒となるものだ。個人や運輸企業でEV化が遅れている大きな理由の1つが、充電インフラャが未整備であることだ。そのインフラを作ることによって3社は、自社製の電気トラックやバスの売上増を狙っている。

Daimler TruckのCEOであるMartin Daum(マルティン・ダウム)氏は、声明で次のように述べている。「2050年までに、気候の中立性を実現することはヨーロッパのトラックメーカーの共同の目標です。その鍵を握るのは、業界が一致協力して正しいインフラを作り、路上にCO2ニュートラルなトラックを送り出すことです。私たちは、Volvo GroupやTRATON GROUPとともに全欧的な高性能充電ネットワークを構築します。開拓者としての第一歩を踏み出すことに、とてもエキサイトしています」。

VolvoとDaimlerのパートナーシップには前例がある。2021年5月に、互いに競合する両社は長距離トラック用の水素燃料電池の共同開発でチームを組み、開発コストの低減と生産量のアップを狙っている。この最新のベンチャーも、業界の気候関連の問題を大企業が共同で解決していく動きの1つだ。

関連記事:ボルボとダイムラートラックが長距離トラック向け水素燃料電池生産で提携、合弁会社Cellcentric設立

ヨーロッパの自動車産業の業界団体ACEAは、2030年までに最大5万基の高性能充電ポイントを、という目標を掲げている。TratonのCEOであるMatthias Gruendler(マティアス・グリュンドル)氏はロイターの記事で、ヨーロッパのインフラを完全にEV対応にするためには100億ユーロ(約1兆3162億円)が必要、と述べている。

Volvoが発表した声明によると、今回のベンチャー事業は、自動車メーカーや政府機関など自動車産業と関連のある者全員へ向けての、気候の目標に達するために必要な迅速な事業拡大とそのためのアクションを呼びかけるものだ。

この充電ステーションには特定のブランド名は表記されず、EV群を運用する者なら誰でも、ヨーロッパの長距離輸送で義務化されている45分間の休憩時間中の高速充電と、夜間充電の両方を利用できる。

この合弁事業は独自の社名でアムステルダムに本社が置かれる。株式を3社が同量保有するが、他の製品分野では互いの競合が続く。

関連記事:VWのTratonグループが中国TuSimpleと自動運転トラック開発で提携、スウェーデンで実証実験へ

カテゴリー:モビリティ
タグ:VolvoDaimlerTraton電気自動車トラックバスカーボンニュートラル充電ステーションヨーロッパ

画像クレジット:Volvo Group

原文へ

(文:Rebecca Bellan、翻訳:Hiroshi Iwatani)

EUが新型コロナ「デジタル証明書」を本格運用、ワクチン接種や検査陰性を証明

共通のクレデンシャルで個人の新型コロナウイルス関係のステータスを認証する、欧州連合(EU)のデジタル証明書システムの運用が予定通り現地時間7月1日に始まった。

欧州委員会によると、ほぼすべてのEU加盟国がデジタル証明書を発行・認証することができるようになり、欧州経済域のひと握りの国だけがまだ保留中だとウェブサイトにはある。

多くの国がこれより前に証明書発行を開始した。当局は6週間の移行期間を認めている。

欧州委員会は、2億件超の証明書がすでに発行された、と述べた。

証明書発行の案が公になり始めた2021年1月以来、いくつかの名称が浮上した「EUデジタル新型コロナ証明書」は、標準化され世界的にも受け入れられる証明書を提供することで欧州域内における国境をまたぐ移動を促進するのが狙いだ。

EU市民は、証明書がなくても自由に移動する権利をまだ有しているが、共通のクレデンシャルの導入は、証明書保持者に対し隔離といった新型コロナ関連の規制を免除するなど、域内での移動を促進するのに役立つ。

証明書は、承認された新型コロナのワクチンを接種したEU加盟国内の市民、以前新型コロナに感染した人(ゆえに抗体を持っている人)、あるいは最近の新型コロナ検査で陰性だった人に発行される。

「デジタル」証明書と呼ばれているが、紙バージョンの発行も可能だ。デジタル版と同じく、スキャンできるQRコードが記載される。なので旅行しやすいよう証明書を携帯するためにモバイルデバイスを持っている必要はない。

証明書は無料で発行される。

欧州委員会は以前、デジタル証明書の認証プロセスで個人情報が「交換されたり保持されたり」することはない、と述べていた。認証のためのシグネチャーキーは国レベルのサーバーに保存され、証明書がスキャンされたときに一元化されたゲートウェーを介してアクセスされるだけだ。

デジタル証明書に関するEU規則では、加盟国は公衆衛生を守るために「必要かつ見合っている」ステップでない限り、追加の移動規制を証明書保持者に適用することを控えなければならない、と規定している。

規則は1年で失効する。

EUデジタル新型コロナ証明書システムについての詳しい情報はここで確認できる。

関連記事:EUの新型コロナワクチン「デジタルパス」が稼働、ドイツなど7カ国が先行導入

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:EU新型コロナウイルスワクチンヨーロッパ

原文へ

(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi