現代自動車、メタバースにボストンダイナミクスのロボット「Spot」を送り込む

現代自動車(Hyundai)がロボット開発に壮大な野心を抱いていることは確かだ。これまで現代自動車は積極的に資金を投入していて、特にロボットのパイオニアであるBoston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)の買収には10億ドル(約1160億円)以上を費やした。

今週開催される同社のCESにおけるプレゼンテーションでは、予想どおり、ロボットが中心的な役割を果たしている。2021年12月、現代自動車は、4輪モジュラーモビリティプラットフォームのスニークプレビューをMobile Eccentric Droid(モバイル・エキセントリック・ドロイド)という形で公開した。そして米国時間1月4日は、新しい「メタモビリティ」コンセプトに基づいて、将来に向けたより幅広い計画を発表した。

現代自動車は今後、その戦略についてより多くの情報を公開する予定であり、私たちは実際にどのようなものになるのかを知るために、何人かの幹部に話を聞くことを予定している。とりあえず、今回は「Expanding Human Reach」(人間の手の届く範囲を拡大する)という表題のもとに、バーチャルリアリティのメタバースにおけるモビリティとロボティクスの役割を模索するという大枠のアイデアが提示された。この早期の段階では、宣伝用コンセプトと実用性を切り離すのは難しいが、主な要素は、VRインタラクションの世界でハードウェアに現実世界へのプロキシのような役割を果たさせることようだ。

画像クレジット:現代自動車

現段階では、ずっとVRアプリケーションの根本的な問題となっていた、タンジビリティー(可触知性、実際に触った感覚を得ること)の欠如に関係する大きな成果がありそうだと言っておこう。現代自動車グループのChang Song(チャン・ソン)社長はこう語る。

「メタモビリティ」の考え方は、空間、時間、距離がすべて無意味なものになるというものです。ロボットをメタバースに接続することで、私たちは現実世界と仮想現実の間を自由に行き来できるようになります。メタバースが提供する「そこにいる」ような没入型の体験からさらに一歩進んで、ロボットが人間の身体感覚の延長となりメタモビリティによって日常生活を再構築し、豊かにすることができるようになります。

近い将来には、このような技術を利用して遠隔操作で製造ロボットを制御することが十分考えられる。これは、トヨタが以前から取り組んでいる「T-HR3」というシステム探求しているものだ。現代自動車によると、Microsoft Cloud for Manufacturing(マイクロソフト・クラウド・フォー・マニュファクチャリング)は、このような遠隔操作のためのゲートウェイとして利用することが可能で、このような実用的な機能を果たすシステムを想像するのは難しくないという。

画像クレジット:現代自動車

他のアプリケーションは、まだ先のことになる。現代自動車のプレスリリースによると「例えばユーザーが外出先からメタバース上の自宅のデジタルツインにアクセスすることで、アバターロボットを使って韓国にいるペットに餌をあげたり、抱きしめたりすることができるようになります。これにより、ユーザーはVRを通じて現実世界の体験を楽しむことができます」とのことだ。

このような考えは現時点ではほとんど概念的なもののようだが、現代自動車は今週開催されるCESで、最終的にはどのように見えるかのデモを提供している。新型コロナウイルスが急増する中で、TechCrunchだけでなく多くの人たちがバーチャルで展示会に参加していることを考えると、少なくとも将来的にリモートオペレーションがどのように役立つかを想像するのは簡単だ。

無生物や移動にロボットを導入する

現代自動車は、CESですべての時間をメタバースに費やしたわけではない。また「New Mobility of Things」(ニューモビリティオブシングス、モノの新しい移動方式)と題して、ロボットを使って大小の無生物を自律的に移動させるコンセプトを紹介した。

この「New Mobility of Things」のコンセプトのもとに発表されたのが「Plug & Drive」(プラグアンドドライブ、PnD)という製品だ。この一輪ユニットには、インテリジェントなステアリング、ブレーキ、インホイール電気駆動機構、サスペンションのハードウェアに加えて、物体を検知して周囲を移動するためのLiDARとカメラのセンサーが搭載されている。

このPnDモジュールは、例えばオフィスのテーブルのようなものに取り付けられるようになっている。ユーザーは、こうしたテーブルに対して自分の近くに移動するように命令したり、オフィスでより多くのスペースを必要とする特定の時間にそのテーブルを移動するようにスケジュールすることができる。

現代自動車の副社長でロボット研究所長のDong Jin Hyun(ドン・ジン・ヒョン)氏は「PnDモジュールは、人間のニーズに合わせて適応・拡張が可能です。というのも、これからの世界では、あなたがモノを動かすのではなく、モノがあなたの周りを動き回るようになるからです」と語る。「PnDは、通常は動かない無生物をモバイル化します。この能力があるからこそ、実質的にあらゆる空間を変えることができるのです。必要に応じて空間を構成することができます」。

現代自動車は、待っているバスへ人を運ぶためのパーソナルトランスポートシステムなど、PnDのさまざまな応用例を紹介した。4つの5.5インチ(約14センチ)PnDモジュールを搭載したこのポッドは、そのままこの「マザーシャトル」に合体する。

画像クレジット:現代自動車

理論的には、バスが止まると、(中に座っている人間を乗せた)ポッドが目的地までの最後の移動を行うことになる。

現代自動車がビデオで紹介したアイデアは、高齢の女性がポッドに乗り込んで待っているバスに移動する前に、1台のPnDが杖を彼女に届けるというもので、高齢者を直接ターゲットにしている。しかし、もしこれが仮に実現したとすれば、車道に1人乗りの大きな車を大量に増やすことなく、ファーストマイルとラストマイルの公共交通機関を提供するために使用することができる。

また現代自動車は「Drive & Lift」(ドライブアンドリフト、DnL)と呼ばれる、モノを持ち上げるためのモジュールも披露した。現代自動車は、DnLをそのMobED(Mobile Eccentric Droid)というロボットと組み合わせた。DnLはModEDの各ホイールに取り付けられており、上下に持ち上げることができ、ロボットが段差やスピードバンプなどの低い障害物上を移動しても水平を保つことができる。

画像クレジット:Hyundai

原文へ

(文:Brian Heater、翻訳:sako)

Labrador Systems、高齢者や不自由がある人を助ける支援ロボットの手を2023年までに家庭へ

CES 2020の会場で、Labrador Systemsの共同創業者でCEOのMike Dooley(マイク・ドゥーリー)氏は、「今年は(展示会で)偽物のロボットが少なくなっていると思う」と話していた。ここ数年、CESではロボットを目新しいものとしてではなく、本格的なホームデバイスとして扱い始めている。当時、同社はスイートルームを借りて、後に「Retriever」と呼ばれることになるシステムの初期バージョンを展示していた。

2021年初め、初のバーチャルCESの開催後、同社は一部のユーザーにプロトタイプの配布を始めた。この度の展示会では、その初期テストの成果を、体験談動画という形で見ることができる。Retrieverは、私が2年前に見たものをより洗練させたものだが、基本的には同じ原理で動作する。高齢者や移動に不自由のある人を支援するロボットバーカートのようなものだ。

画像クレジット:Labrador Systems

高齢化が進む日本では、ロボットによる高齢者介護が大きなビジネスになっていることは、この業界を見てきた人なら知っているだろう。しかし、米国ではそれほどでもないようだが、それに続く企業が出始めている。Retrieverは、このように人々を支援するために目的を持ってロボットを製造している米国の企業としては、私がこれまで見た中で最も良い例の1つだ。自立した生活を送れるが、ロボットハンドを追加することで恩恵を受けることができる人々を主な対象としている。

ドゥーリー氏は、ニュースに関連したリリースで「私たちの社会には、十分なサービスを受けていない人がたくさんいます。痛みや他の健康上の問題で、自分自身が動けなくなると、たとえ短い距離でも、自立や生活の質、健康全般に大きな影響を与える可能性があります。Retrieverは、そのギャップの一部を物理的に埋め、個人がより活動的になり、より多くのことを自分で行えるようにすることを目的としています」と述べている。

画像クレジット:Labrador Systems

このシステムは最大25ポンド(約11.3kg)まで運ぶことが可能で、洗濯物や食事といった家の中にある荷物を運ぶのに使用できる。カウンターや棚、同社が提供を予定しているという特注の冷蔵庫などから、カートの上に物を移動できる開閉式のトレイシステムを搭載している。その下には、食品や薬などの収納スペースと、携帯電話を充電するためのポートがある。

本システムはAlexaによる音声コントロールにも対応している。SOSV/HAX、iRobot、全米科学財団とともに、Amazon Alexa Fundが同スタートアップの支援者の1つだ。次のベータテスト期間を経て、Labradorは2023年後半までに、機能に応じてさまざまな価格帯で商用販売を開始する計画だ。アーリーアダプターはRetrieverを1500ドル(約17万4000円)で購入することができ、月額サービス料は資金調達次第で99〜149ドル(約1万1500〜1万7300円)になる。

また、Labrador Systemsは、Alexa FundとiRobot Venturesが共同リードする310万ドル(約3億6000万円)のシードラウンドも発表している。この資金は、エンジニアリングの人員増強と生産の加速に充てられる予定だ。

Alexa FundのPaul Bernard(ポール・バーナード)氏は、このニュースに関連した声明の中で、「Labradorは、高齢で移動に困難を抱える人々に支援を提供することの意味について、最先端の技術を進歩させています。彼らは、私たちの社会における重要な問題に取り組んでおり、消費者向けロボット工学における数十年の経験を生かし、人々がより良い生活を送るための力を与える製品を提供しています」と述べた。

画像クレジット:Labrador Systems

原文へ

(文:Brian Heater、翻訳:Katsuyuki Yasui)

指を「はむはむ」噛ってくれるユカイ工学のかわいいぬいぐるみ型ロボ

CESのシーズンには、少なくとも2台の風変わりなロボットが登場しなくてはならない。しっぽクッション「Qoobo」のメーカーであるユカイ工学は、ユーザーの指先をかじるソフトロボットを公開した。この「ちょっと気持ちいい感覚」が、ユーザーの1日を明るくしてくれることを同社は、期待している。

甘噛みハムハム(Amagami Ham Ham)は「Hamgorithm」と呼ばれるアルゴリズムによって、20種類のかじり方のパターンから1つを選択するため、ロボットの口に指を突っ込んだときに何を感じるかはわからない。ユカイ工学は、赤ちゃんやペットが自分の指を齧る感触を再現するために「Tasting Ham」「Massaging Ham」「Suction Ham」などのパターンをデザインした。

画像クレジット:Yukai Corporation

株式会社りぶはあとのぬいぐるみ「ねむねむ」シリーズのキャラクターをベースに、ユカイ工学はロボットの外側をつくった。指でムシャムシャ食べるモデルは、三毛猫と柴犬の2種類を用意される予定だ。

「ほとんどの人はかじる感覚が好きですが、子どもやペットにそれを止めることを教える必要があることを知っています。そうしないと、最終的には、子どもや動物が強い力で噛むようになるからです」と、2021年初めに行われたハッカソンでこのロボットを生み出したユカイ工学のCMOである冨永翼氏はいう。「甘噛みハムハムは、『噛る』という禁断の快楽を『追求するか、しないか』という難問から人類を解放するロボットなのです」。

価格は未定だが、ユカイ工学とりぶはあとは2022年春にクラウドファンディングを実施する予定だという。それまで、CESに足を運ぶ人は、会場で甘噛みハムハムをチェックし、ユカイ工学のブースから少し柔らかな指になって帰ることができるかもしれない。

ユカイ工学がCESで発表する他のデバイスの中に、Bocco Emoがある。同社は、オリジナルのロボットBoccoをスマートな医療機器として機能するようにアップデートした。ユカイ工学によれば、日本の病院では、パルスオキシメーターや体温計などのセンサーを接続して患者のバイタルをモニターし、看護師に患者の状態を通知するために使用されているという。

また、試験運用期間中は、患者家族への連絡にも利用された。さらには看護師が来るのを待つ間、効果音や表情、ジェスチャーで、患者とコミュニケーションをとることも可能だ。

編集部注:本稿の初出はEngadget。執筆者のKris HoltEngadgetの寄稿ライター。

画像クレジット:Yukai Engineering

原文へ

(文:Kris Holt、翻訳:Katsuyuki Yasui)

夕食はロボットにお任せ、レストランロボットと風変わりなドロイド

私は2022年初めのCESに向けて計画を進めてきたが、おそらく今週中には白紙に戻りそうだ。呆れるほど多数の紫外線消毒ロボットの売り込みがなくなることに奇妙な寂しさも感じるものの、一方では最新変異株(オミクロン)の急増の中で、ショーに直接参加することの是非を検討していたのだ。最終的には、今回はラスベガスに参加しないことにしたが、数週間以内にはお伝えすることがたくさん出てくると思う。

ほぼ2年前のCESとそれに続く私たちのロボットセッションが、私が直接参加した最後のイベントであったことに気づいて、とても奇妙な心持ちがしている。ロボットセッションをオーガナイズして、TechCrunchのCESへの取り組みを主導する役割を果たしてきた私は、これらの決定を軽く考えることはとてもできない。

そして、特にロボットの評価に関しては、直接会議に参加することにはまだ個人的なメリットがあると感じている。Zoom(ズーム)を通してロボットの見栄えを良くしようとしても限界があるからだ。

どちらかといえば、こうしたことすべてが、ロボットシステムの本格的な採用が、非常に近くて同時にまだ遠いものだということを痛感させる。ちなみに私は、来年のCESに向けて、本当に多数のロボットの売り込みを受けたと言っても構わない。今回のショーは、来年の動き全体を占うものになるようにデザインされている。それらは、消費者向けから産業用途まで、そしてその間のすべてのものをも幅広く含んでいる。

パンデミックが業界の興奮と投資を加速させたことは間違いないが、実際の導入スピードはカテゴリーによって大きく異なる。年末の他の記事でこれまで見てきた2つの例は、かなり進んでいる。これまでの製品と同様に、倉庫ならびにフルフィルメントのロボットは現在とても現実的なものだ。最近オンラインで何かを購入したのなら、ロボットがラインのどこかの時点で製品の入手を手伝ってくれた可能性がかなり大きい。

配達ロボットはさらに難しい。たくさんのパイロットプロジェクトが存在しているが、住んでいる地域によっては(特に大学キャンパスの近くにいる場合には)、そのうちの1台が自分向けの出前でなくても近くを走っているのを見たことがあるかもしれない。一般に、歩道は倉庫よりも管理されていない場所であり、規制上の煩雑な手続きを経て世に出す必要があるため、資金調達の成否にかかわらず、明日の朝ロボットで歩道が溢れかえっているようなことはないだろう。

今週は、そうしたロボットが配達しているかどうかはともかく、対象となる食べ物を、実際に作っているのは誰なのか、あるいは「何」なのかについて話したいと思う。

画像クレジット:Paul Marotta / Getty Images for TechCrunch

細かい話に入る前に、iRobot(アイロボット)の共同創業者でCEOのColin Angle(コリン・アングル)に、過去1年間のロボット業界を振り返り、来年の予測をしてもらえるようお願いした。

2021年のロボット / AI / 自動化のトレンドを定義したのは何でしたか?2021年には、倉庫の自動化、自動運転技術、そしてもちろん排泄物検出がブレークスルーをもたらしました。2021年は、自動化への大規模な投資が功を奏し、2020年をほぼ超えたオンラインショッピングの驚異的な増加が、目覚ましい年となりました。中米をターゲットにした自動運転トラックのテレビコマーシャルを実際に見ました。これは本当に起こっていることなのでしょうか?そして私は、ロボットの真空掃除機にまつわる汚くてめったに議論されない課題の1つが、手頃な価格で信頼性の高い視覚的物体認識の出現によって、過去のものになったと言えることを誇りに思っています。2021年はロボットにとって変革の年だったといっても過言ではないでしょう。

2022年はこれらのカテゴリーで何が起きるのでしょう?2022年に入ってからは、人々が待ち望んでいたスマートホームの本当の進歩を目にできたらと思います。現在のバージョンのスマートホームでは、複雑過ぎますし、使いやすさが貧弱過ぎます。しかし、経験を最優先するエコシステムを生み出し、能力とシステムのシンプルさにも優れ、成長を始めることができるツールが登場しつつあります。そこで私は、2022年が、一般の人々の間で業界が加速し続ける年になるだけでなく、私たちの日常生活へのロボットの思慮深い統合に重要な前進が見られる年になることを期待しています。非常に多くの面で勢いが増しているのを見られるのはエキサイティングです!

さて、私の長年の輝かしいキャリアの中では最も不快な話題転換ではあるが、排泄物の検出から食事の準備に話題を移すことにしよう(会社が「読者が減ったのは何故だ」と聞いてきたときのためにここにメモとして残しておく)。

Los Angeles Timesのテストキッチンで2009年3月11日に撮影された、レンガのオーブンから取り出されたマルゲリータピザの画像(写真クレジット:Anne Cusack/Los Angeles Times via Getty Images)

この1年はロボットによる食品調理にとって大きな年だった。パンデミックが発生する前は、この分野に関与した著名なスタートアップは極めて稀だった。特にZume Robotics(ズームロボティックス)などを含む一部の企業は、業界から去っていった。しかし、ロボット分野対するベンチャーキャピタルの大規模な流入に伴って、レストランビジネスの自動化が進んでいる。その主な2つ理由は、この2年で骨身に沁みて理解できているはずだ。第一に、米国では人材が大幅に不足しているということ。第二に、ロボットは病気になることはなく、人びとを病気にすることもないということだ。

もし私が、食品ロボットの現状を4ワードで要約しなければならないとすると、次のようになる。

  • ピザ
  • ボウル(日本でいうどんぶり物)
  • ファーストフード(1ワードにまとめてズルをした)
  • キオスク(売店)

画像クレジット:Picnic

最初の2つがリストの一番上にあるのは同じ理由だ。食品を自動化する場合には、人気があって、比較的均一なものである必要がある。もちろん、さまざまなトッピングはあるものの、ロボットにとっては、ピザを作ることは、生地、ソース、チーズ、トッピング、調理、繰り返しといった、かなり簡単な経験なのだ。Picnic(ピクニック)やXRobotics(エックスロボティックス)のような企業は、Zumeが中断したものを引き継ごうとしている。

関連記事:XRoboticsはピザロボットの夢を諦めず正式発表に漕ぎ着ける、1時間で最大150枚、20種類以上のトッピングに対応

画像クレジット:Spyce

ボウルはピザ同様の領域を埋める。それらは近年人気が高まっていて、かなり基本的なテンプレートが確立している。サラダやキノア(食用の実)などのトッピングやベースのバリエーションがあるとしても原理はかなり単純だ。したがって、カリフォルニアを拠点とするファストカジュアルサラダチェーンのSweetgreens(スイートグリーンス)が、MITのスピンアウトであるSpyce(スパイス)を買収して、先の8月に登場したことはおそらく驚くようなことではない。この動きは、2月にサラダ製造ロボット会社Chowbotics(チャウボティックス)を買収したDoorDash(ドアダッシュ)による類似の買収に続いたものだ。

Miso(ミソ)は現在ファーストフードレースをリードしていて、数多くの大きなパートナーシップが発表されている。同社のハンバーガーフリッピング(パテ焼)ならびにフライクッキング(揚げ物)ロボットは、まだ人間のキッチンスタッフを完全に置き換えることはできないものの、世代を重ねるにつれて、ますます能力を高めている。

画像クレジット: Nommi

一方、キオスクは、主に人間を作業工程から外すように設計されている。この解決策は、前述の労働力不足のおかげで、ますます勢いを増している。システムと人間の相互作用は、主に材料投入、メンテナンス、および注文に限定されている。しかし、適切な技術があれば、Nommi(ノミー)のようにボタンを押すだけで簡単に新鮮な食材を調理することができる。たとえば最近行われたNommiとC3との提携では、Iron Chef(料理の鉄人)の森本正治氏の料理が、24時間年中無休の調理マシンに採用されている。

関連記事:ハンバーガーをひっくり返すロボット「Flippy」の能力が向上、調理前後の作業を追加

今週は、クリスマスということもあり、ニュースの流れは多少ゆっくりとしている。とはいえ私たちは、Hyundai(ヒョンデ、現代自動車)がCESのために何を準備しているのかを垣間見ることができた。Hyundaiは、Boston Dynamics(ボストンダイナミクス)の買収を含め、ロボットへの取り組みを実際に倍増させている。新しいMobile Eccentric Droid(MobED、モバイルエキセントリックドロイド)は、あらゆる意味でプラットフォームだ。それは文字通りのもので、中央に台になる部分を備えた四輪移動装置だ。また、電話会議から荷物の配達、スマートな乳母車まで、さまざまな機能を収容することができる。

画像クレジット:Hyundai

その安定化技術について、Hyundaiは次のようにいう。

偏心機構による姿勢制御システムは、地表状態に応じて各車輪の高さを調整することで、体の姿勢も安定させます。MobEDの12インチ空気タイヤは、さらに衝撃や振動を吸収するのに役立ちます。

一方、Tiger Globalはその派手な支出を続けている。今週同社は、カリフォルニア州パサデナを拠点とするElementary(エレメンタリー)のために3000万ドル(約34億3000万円)のシリーズBを主導した。Fika Ventures、Fathom Capital、Riot VC、Toyota Venturesも参加したこのラウンドによって、このマシンビジョンスタートアップの総資本は4750万ドル(約54億3000万円)になった。創業者のArye Barnehama(アーリエ・バーナハマ)CEOはTechCrunchに次のように語った。

製造業と物流は、パンデミックの前にすでに始まっていて、パンデミックの最中に大幅に増加した大規模な人手不足を経験しています。企業が、高価で見つけるのが難しいエンジニアリング人材に頼らずに、自動化を続けようとする中で、ノーコードAIソリューションを提供できる私たちのビジネスは拡大してきました。

インドを拠点とするロジスティクスロボティクス企業Unbox Roboticsの700万ドルのシリーズAラウンドは、3one4 Capitalによって主導された。Sixth Sense VenturesとRedstart Labsもラウンドに参加し、SOSVを含む多くの既存の投資家も参加した。同社によれば、調達した資金は採用、技術開発、そして新しい領域への拡大に向けられるとのことだ。

画像クレジット:Getty Images

原文へ

(文: Brian Heater、翻訳:sako)

スタンフォード大学のヤモリに着想を得たロボットハンドが、ゆで卵や果物を(つぶさずに)掴む

スタンフォード大学は、ヤモリに着想を得たロボットハンドを開発し、長年かけて大きく進化させてきた。今年5月には、この「ヤモリグリッパー」の1つのバージョンが国際宇宙ステーションにも送り込まれ、デブリの収集や衛星の修理などの作業を行う能力がテストされた。

米国時間12月15日の「Science Robotics(サイエンス・ロボティクス)」に掲載された論文で、同大学の研究者たちは、この技術の地球向け応用例として、潰れやすい物体を掴むという能力を実証している。

硬いロボットハンドにとって、このような作業は長年の課題であり、柔らかいロボットグリッパーなど、これまで様々なソリューションが生み出されてきた。

今回発表された「FarmHand(農場労働者)」は、人間の手の器用さとヤモリのユニークな把持能力の両方からヒントを得た4本指のグリッパーだ。後者に関して、スタンフォード大学は、その吸着力のある手足の表面では「分子の外側にある電子の位置の微妙な違いから生じる弱い分子間力であるファンデルワールス力という微小なはためきを介して、強い保持力を生み出している」と述べている。

同大学のチームでは、この問題を「エアルームトマト問題」と呼んでいる。一般的なグリッパーは、同じような大きさの硬い物体を次々と拾い上げる反復作業に適しているが、今回のテストで、FarmHandはブドウの房、ゆで卵、バスケットボール、皿などを掴み上げることに成功した。

「ロボットの手が握力把持と精密把持をするのなら、その間にあるすべてのことができるということを示しているわけです」と、「生物模倣と器用なマニピュレーションに関する研究室」の卒業生であるWilson Ruotolo(ウィルソン・ルオトロ)氏は語る。「私たちが取り組みたかったのは、器用さと強さを同時に兼ね備えたマニピュレーター(ロボットハンド)をどうやって作るか、ということです」。

関連記事:

カテゴリー:
タグ:

画像クレジット:Stanford University
原文へ
(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

現代自動車のモバイル・エキセントリック・ドロイドは奇抜なロボットプラットフォーム

私はHyundai(ヒョンデ)を褒めようとしている。この会社は一風変わったロボットを作っていて、非常にハマっている。通常の自動車生産に加えて、自動車の巨人はウォーキングカーロボットドローンからよくわからないものまでいろいろ開発している。

関連記事
ヒュンダイがドローンで運べる荷物運搬用小型「ウォーキングカー」ロボットを発表
現代自動車がソフトバンクからBoston Dynamicsの支配権取得を完了「歩くクルマ」に向け前進

結局のところ、ロボティックの実験という観点から見て、Boston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)は悪くないところに着地したといえるだろう。

画像クレジット:Hyundai

そして今度は、Mobile Eccentric Droid(MobED、モバイル・エキセントリック・ドロイド)だ。この4輪のセグウェイ風装置は、厳密な意味でプラットフォームだ。つまり、広範囲の異なるアプリケーションに開放されているだけでなく、文字どおり、上にモノを置くことができる。いうなれば、さまざまな環境のためにデザインされたモバイル台車であり、この上で自立型あるいは制御されたロボティック応用装置を構築できる。

同社がCES(このシステムが展示される予定)に先だって公開した色鮮やかなYouTubeビデオから判断するに、考えられる用途として、荷物配達、小さな子どもの移動、遠隔会議などがありそうだ。MobEDのその他の応用例としては、歩行が困難な人たちの移動手段も考えられる。

「MobEDプラットフォームは、既存の室内用ガイドあるいはサービスロボットの限界を克服するとともに、プラットフォームの可動性を劇的に向上することで、都市における有用性を最大限に高めるために開発しました」とHyundai Motor Group(現在自動車グループ)ロボティクスラボ責任者のDong Jin Hyun(ドン・ジンヒョン)氏はリリースで語った。「私たちは、MobEDの潜在ユーザーが、この種のテクノロジーのニーズと利用をどのように拡大していくかを見守っていきます」。

画像クレジット:Hyundai

システムの重量は50kgで最大30km/hで移動することができる。内蔵バッテリーは約4時間使用できる、とHyundaiは推定している。名称の「エキセントリック(奇抜な)」はシステムの制御メカニズムに由来している。

Hyundaiは次のように述べている。

このエキセントリックメカニズムに基づく姿勢制御システムは、地面の状態に応じてそれぞれの車輪の高さを調節することによって車体の姿勢も安定させます。MobEDの12インチ空気入タイヤが、バウンドや振動の吸収にさらに役立ちます。

同システム、およびその他のHyundaiロボットについては、2022年1月のCESで続報する予定だ。

画像クレジット:Hyundai

原文へ

(文:Brian Heater、翻訳:Nob Takahashi / facebook

倉庫用ロボットのスタートアップForwardXがシリーズCで約35億円調達

倉庫内に設置されたForwardXのAMRロボット

北京に本社を置き、自律移動型ロボット(AMR)を製造するForwardX Robotics(フォワードX・ロボティクス)は、世界的な事業拡大を目指し、シリーズC資金調達ラウンドの最初のトランシェをクローズしたことを米国時間12月14日に発表した。

同社の最高執行責任者(COO)であるYaxin Guan(ヤクシン・グァン)は、TechCrunchのインタビューの中で、投資家が中国の倉庫業や製造業のロボットメーカーに声をかけている時期に、同社はシリーズCラウンドの残りの資金を調達していると述べた。

今回の新たな投資により、Oracle(オラクル)の元副社長であるNicolas Chee(ニコラス・チー)氏が2016年に同社を設立して以来、ForwardXの調達総額は約1億ドル(約113億円)に達した。同社は、資金調達後の評価額や、シリーズC全体でいくらかき集める予定なのかについては明らかにしていない。

C1ラウンドは、中国の保険会社であるTaikang Life Insurance(泰康人寿)が主導し、Qualcomm Ventures(クアルコム・ベンチャーズ)と、業界のアップグレードに焦点を当てた中国のアーリーステージの投資会社であるStarlight Capital(スターライト・キャピタル)が参加した。

2014年、Qalcommは、インターネット、eコマース、半導体、健康、教育などのモバイル技術を推進する中国のスタートアップ企業に1億5000万ドル(約170億円)を出資することを発表している。

ForwardXは現在、別の大手サプライヤーのチップを使用しているが、チップメーカーの大手が参加することで「5G技術のリーダーと協力して、スマート倉庫や製造プロジェクトでの5Gの使用をさらに進めることができる」と同社は述べている。

今回の資金調達により、中国のスタートアップ企業は、研究開発のタイムラインを加速し、米国などの「主要市場」での展開能力を高め、新しい市場での販売を拡大する計画だ。

現在、同社の収益の大部分は中国からのもので、eコマース大手のJD.com(JDドットコム)や、DHLと提携している物流大手のSF Supply Chain China(SFサプライ・チェーン・チャイナ)が主な顧客となっている。グァン氏によると、このロボットメーカーはこれまでに、JD.comの倉庫で500万件以上のピッキングを行ってきたという。

他の中国のロボットベンチャー企業と同様に、ForwardXも海外市場への進出を着実に進めている。すでに東京にオフィスを開設し、米国支社の設立を予定している他、2022年にはヨーロッパへの進出も計画している。

つまり、Locus Robotics(ローカス・ロボティクス)や6 River Systems(6リバー・システムズ)などの米国企業を狙っているのだ。競合するために、同社のソリューションは「競争力のあるハードウェアコストと、そのソリューションにおける1人当たりに必要なロボット数」により、競合他社よりも少ない初期投資で済むと主張している。同社のロボットは、1台あたり最大1200kgの荷物を運ぶことができる。

ForwardXは、AMRソリューションを販売するだけでなく、自動車送迎のプラットフォームがドライバーの生産性を最適化するために使用しているアルゴリズムのように、ロボットが倉庫内をどのように歩き回るかを決定できるフリート管理システムも売りにしている。

LiDARとディープラーニングを搭載したロボットのおかげで、作業員は歩き回るよりもピッキングに時間を割くことができ、新入社員は倉庫内のどこに何があるかを覚える必要がなくなるとグァン氏は説明してくれた。

中国のハイテク企業は、海外で規制当局の監視を受けることが多くなっている。「ビジネスの観点」から見ると、同氏は米中関係の悪化が同社の米国進出の足かせになるとは考えていない。

「米国では人手がさらに少なくなっているので、物流の顧客が米国で必要としているのはロボットなのです」と語った。

原文へ

(文:Rita Liao、翻訳:Akihito Mizukoshi)

ソニーが整地・不整地を安全かつ効率的に移動できる6輪ロボを開発、清水建設と建設現場で共同実証実験

ソニーが整地・不整地を安全かつ効率的に移動できる6輪ロボを開発、清水建設と建設現場で共同実証実験

ソニーは、アクチュエーターを備えた6本の脚それぞれに車輪を配した、6輪ロボットを発表した。平地では車輪で走行し、階段などの段差では脚移動と車輪移動を併用する。そのため、整地と不整地が混在する場所でも、安全かつ効率的に移動が可能となる。ソニーグループの研究開発組織であるR&Dセンターが開発した。

このロボットには、ソニーがロボット関連の国際学会「IROS 2021」で発表した4脚歩行ロボットの設計思想が継承されている。作動中・停止中の脚部にかかる負荷を分散することで、最大20kgの重量物を、高いエネルギー効率で運搬できるほか、静止時は自重を支えるために必要なエネルギー消費量も削減できるという。ソニーが整地・不整地を安全かつ効率的に移動できる6輪ロボを開発、清水建設と建設現場で共同実証実験

脚の間接部にかかる力は、ソニー独自の全身協調制御システムにより柔軟に制御され、不安定な路面でも動作を安定させられる。また外部から力を受けたときは、衝撃を最小限に抑えるための自律的な回避行動がとれる。さらに、移動時に瞬間的な大電流が必要になった場合に、電気二重層キャパシタ(EDLC)がピーク電流に対応するため、バッテリーを小さく抑えることができ、機体が小型化できた。ソニーでは、さらなる小型化を進めると話している。このロボットは、清水建設と共同で、工事現場での実証実験が行われる。期間は2021年11月から2022年6月(予定)。

同実証実験は、清水建設が施工中の虎ノ門・麻布台プロジェクト(虎ノ門・麻布台地区第一種市街地再開発事業) A街区のタワービルにおいて、ソニーの移動ロボットの検証機を動作させるというもの。従来は管理者が行っていた施工現場の巡回・監視業務、工事の出来高確認検査業務などの代替を想定し、歩行性能、監視(撮影)性能、操作性能を検証する。

仕様

  • サイズ:
    全高720〜1220mm(500mmの可変ストローク)
    全長912mm
    全幅672mm
    総重量(バッテリーを含む):89kg
  • 可搬重量:最大20kg
  • 移動速度:最大1.7m/s
  • 移動可能段差:最大30cm
  • 連続稼動時間:約4時間(動作パターンにより変動)
  • 自由度:
    駆動軸16軸(直動6軸、Hip回転6軸、駆動輪4軸)
    受動軸2軸(独自開発シングルオムニホイール)

【コラム】私たちが自律型ロボットを設計できなくても、ロボットが自らを設計できるかもしれない

Elon Musk(イーロン・マスク)氏が先に発表した、人間型で「人間レベルの手」と特徴的に楽観的な納期を備えたTesla Bot(テスラ・ボット)は、当然のことながらそれなりの批判を集めている。

関連記事:テスラはロボット「Tesla Bot」を開発中、2022年完成予定

このロボットは最終的に、単独で食料品店に行くなどの用事をこなすことができるようになるとマスク氏は述べている。Boston Dynamics(ボストン・ダイナミクス)は、これまでで最も高度なヒューマノイドロボットを開発中だが、Atlas(アトラス)プラットフォームへの取り組みに10年以上を費やしてきた。Atlasは、何千万人ものYouTube視聴者の前で走ったり、ジャンプしたり、踊ったりするなど、目覚ましい進歩を遂げているものの、同社はこのロボットが複雑なタスクを自律的に実行するにはまだ長い道のりがあることを即座に認めている。

ロボットの進化のポテンシャル、そして果されていない約束に関する最も良い例の1つが、2010年にPLOS Biology(プロス・バイオロジー)誌に発表された研究である。この研究の執筆者たちは、モーターとセンサーを搭載した物理的なロボットを使って(単なるシミュレーションではなく)、衝突のないナビゲーション、ホーミング、捕食者と被食者間の共進化など、いくつかの進化モデルとフィットネス目標を実行した。

彼らは結論の中で「これらのロボットによる実験的進化の例は突然変異、組み換え、自然選択による進化の力を証明している。すべての場合において、ロボットはそのゲノムにランダムな値があるために、最初は完全に非協調的な行動を示した」と記している。

要約すると、この研究は「広範囲の環境条件下で効率的な行動の進化を促進するには、数百世代にわたるランダムな突然変異と選択的複製が必要にして十分である」と結論づけている。

この非常に多くの世代にわたる進化の必要性は、Alphabet(アルファベット)が最近リリースした、Google(グーグル)のオフィスの清掃作業を行う100台を超えるEveryday Robot(エブリデイ・ロボット)のプロトタイプに示されている。そのぎこちなく、たどたどしい動きは、依然として進歩途上の域を出ない

「進歩」対「完全」

マスク氏がロボティクスのフィールドで競争に勝つことは実際にあり得るかもしれないが、ロボット自身の助けが必要になるだろう。進化的コンピューター分野の多くの専門家によれば、一定のフィードバックや学習ループを必要とする複雑なタスクを実行できるロボットは、人間が自ら直接設計するには複雑すぎるという。それよりむしろ、ロボットによる開発と設計の未来は、特定の結果に最も役立つ機能をロボットが選定する「進化」の産物になる可能性を秘めている。

進化的ロボティクスはSFのように聞こえるが、新しいコンセプトではない。1950年代初頭でさえ、Alan Turing(アラン・チューリング)氏が、インテリジェントな機械の創造は人間の設計者には複雑すぎるだろうと考え、より良い方法はそのプロセスに「突然変異」と選択的複製を導入することかもしれないと仮定していた。もちろん、進化的ロボティクスの背景にあるアイデアはかなり前から形になっていたが、そのコンセプトを実行に移すために必要なツールが利用できるようになったのは最近のことにすぎない。

現代史上初めて、私たちは進化的ロボティクスを促進する上で必要なあらゆるビルディングブロックを手にしている。3Dプリンティングを使った迅速なプロトタイピングと物理的な複製、学習と訓練のためのニューラルネットワーク、改善されたバッテリー寿命と安価な材料などだ。

例えば、NASAはすでに人工進化技術を使って衛星用アンテナを開発している。それ以上にエキサイティングなのは、バーモント大学とタフツ大学のクリエイターが2020年に「xenobot(ゼノボット)」を発表したことだ。これは「進化的ロボティクスの技術を使ったコンピューターシミュレーションで初めて設計された小さな生物機械」である。

この自己修復型の生物機械はカエルの幹細胞を使って作られたもので、ペイロードを動かしたり押したりする能力を示している。この「ナノロボット」は、いつの日か血流に注入されて薬を運ぶことに使えるようになると考えられている。

しかし、これらすべてのブレークスルーが存在するとしても、物理的ロボットの進化的反復は依然として時間を要するものであり、その理由の一部は、それにともなうリスクに起因している。食料品を買いに行くような作業でさえ、信じられないほど複雑で、クルマが往来する道路を横断してしまうようなロボットのさまざまなミスが人間を危険にさらしかねない。

多くの可能性

マスク氏が既存のTesla(テスラ)車を単なる車輪付きロボットだとするのは間違ってはいないが、あまりにも単純化しすぎている。Teslaは1つのタスクに特化しており、直接的な監督なしでは複雑な世界をナビゲートする自己学習はできない。同氏はスーパーコンピューターを自由に使えるようにし、すでに高度なロボットと驚異的なAI専門家チームを手に入れているかもしれないが、独立して人前に出ることのできるヒューマノイドロボットの実現はまだ遠い先のことだろう。

自力で動けるロボットを作るためには、ロボットが突然変異を起こし、2つの異なる親の最も望ましい特性を組み合わせていく、数百「世代」の進化が必要となるであろう。

有用な現実世界のアプリケーションを空想するなら、セキュリティと偵察のラインに沿って想定してみよう。安全検査やコードコンプライアンスの構築、消防支援、さらには捜索救助支援なども考えらえる。

2021年6月、フロリダ州サーフサイドのビーチフロントにあるコンドミニアムの塔が崩壊し、100人近い命が奪われた。ドローンの大群が有用であることを示す好例は、建物の建築とコード検査かもしれない。老朽化したマンションの最上階から最下部、内部、外部まで、センサーやカメラを使って防水性の問題、コンクリートのはく離やひび割れ、沈下などの問題をチェックする、より定期的で頻度の高い検査を行うことができる。これは、人間のエンジニアチームの何分の1かのコストで実現可能である。

他にも、警備や医療支援など、イベントに役立つアプリケーションがある。ヒューストンのアストロワールドの悲劇を思い出して欲しい。10万人規模のイベントでは、人間の警備員が広大で混雑した地帯をカバーするのは難しいことが多い。ドローンやロボットの群れは、セキュリティ上の問題や闘争、発作を起こしている人あるいはその他の医療上の緊急事態を監視したり、自動体外式除細動器のような医療機器を人間のスタッフよりもはるかに迅速に運んだりするといった点で、極めて有用である。

なぜドローンは群れを成し、1機ではないのか。多くの理由があるが、主としてレジリエンスと冗長性が挙げられる。1機のドローンが故障しても、オペレーションは途切れることなく継続する。これは「ミッション」を中断できない高リスクの状況で特に有用である。

より良いロボットの創造

「進化的ロボティクス」という用語は、有機的な進化から学んだプロセスを非有機的なデバイスに複製することを意味しているため、少し誤解を招きやすい。より良い記述子は「人為的進化」あるいは「具現化進化」かもしれない。ロボットが進化しているというよりも、プロセスそのものが進化を生み出しているのである。

同じアプローチは、2つ以上の親由来の突然変異とそれに続く組み換えの両方を介して「子孫」を生成するニューラルネットワークと進化アルゴリズムを装備可能な、任意のエンティティに適用することができる。実際、進化には物理的な形さえ必要ない。これらと同様のプロセスをスーパーコンピューターの内部に配置して、大規模な問題を解決することもできる。進化のより良い理解は、私たちが何を成し遂げるのに役立つだろうか?

1つは、自律的な現実世界のインタラクションである。進化的ロボティクスは、複雑かつ自律的な現実世界でのインタラクションを可能にする唯一の方法だ。そのようなロボットの利点は列挙するには長すぎるが、ユースケースは、ロボット消防士、捜索救助ロボットから、核廃棄物浄化ロボットや在宅介護ロボットなどにまで及ぶ可能性がある。

私たちはまた、有機的進化についてもさらに理解を深めることができる。進化についてのより微細な知識は、推し量るのが難しいほど幅広いアプリケーションを生み出す可能性がある。病気の治療や免疫の確立、寿命の延長、生態系へのインパクトの軽減など、地球上の未来をより正確に把握するための最善の方法について、信じられないほどの洞察を得られるかもしれない。

生命の起源を知る手がかりを得る可能性も秘めている。人工的な進化を研究し、習得することにより、他の惑星で生命が形成され進化し得るあらゆる方法について理解を深めることができるだろう。科学の専門家の多くは、宇宙の他の場所に生命が存在する可能性は低いとしているが、進化に関するより深い理解と、ミクロスケールで大進化を再現する能力は、地球外生命の探索の指針となることは間違いない。

もろ刃の剣

最後に太陽系の探査について考えてみよう。完全に自動化され、自己複製し、進化するロボットがあれば、これまでの想定をはるかに超える距離で、宇宙の奥深くまで無人ミッションを送ることが可能になる。これらのロボットは、着地した惑星に適応し、コンポーネントを再利用し、環境に応じて進化し、最終的にはデータや子孫を地球に送り返すことができるかもしれない。

ロボットが街を歩き回るというアイデアが「ターミネーター」のようなロボットの蜂起のイメージを想起させるのであれば学習、再生、環境観察、進化が可能なロボットが現実からまだ遠いという事実に慰めを得ることができる。

むしろ、複雑な現実世界のインタラクションが可能で真に自律的なロボットを習得する上での最大の難点は、人間のワークフォースが必然的に移動することだ。マスク氏は、この問題の解決策はベーシックインカムの普及であり、将来の仕事は完全に任意だと考えている。

同意できそうにない。人間は仕事と創造から自尊心と価値を得ており、それを取り除くことは、潜在的な経済的影響に加えて、広範囲にわたる心理的インパクトが生じる可能性がある。これは複雑な問題だが、進化的ロボティクスは、最大の成果の1つとなり得るとともに、人類が直面しなければならない最大の課題にもなり得るだろう。

編集部注:本稿の執筆者Gideon Kimbrell(ギデオン・キンブレル)氏は、InListの共同設立者兼CEO。

画像クレジット:NanoStockk / Getty Images

原文へ

(文:Gideon Kimbrell、翻訳:Dragonfly)

ウォルマート提携のロボット企業SymboticがソフトバンクSPAC経由で株式公開へ

Walmart(ウォルマート)は、Amazon(アマゾン)のオンライン支配に対抗するためにあらゆる優位性を追求し、ロボティクス分野で浮き沈みを繰り返してきた。巨大な小売企業のWalmartは2021年7月、マサチューセッツ州を拠点とするオートメーション企業Symbotic(シンボティック)と契約を結び、同社との関係をさらに強化した。この新しい契約は、2017年に初めて試験的に実施された、Walmartの25の地域配送センターにロボットを導入するという提携を拡大した。

関連記事:ウォルマートが25の配送センターにSymboticのロボットを導入

完成までには「数年」を要する予定のこの提携は、Albertsons(アルバートソンズ)やC&S Wholesale Grocers(C&Sホールセールグローサーズ)とのパートナーシップに続くものだ。Symboticによると、現在導入しているのは「16州とカナダの8つの州の1400超の店舗」で、これはおそらく配送センターの影響を直接受ける場所を指している。同社の自律型ロボットシステムは、既存の倉庫構造を増強する。当然のことながら、同社は現在も続くサプライチェーンの問題に影響を与える方法にも積極的に取り組んでいる。

同社は米国時間12月13日、SoftBank Investment Advisers(ソフトバンク・インベストメント・アドバイザーズ)のSVF Investment Corp.3との合併により、SPAC経由で株式公開する計画を発表した。この取引により、Symboticのプロフォーマの株式価値は約55億ドル(約6250億円)となり、ソフトバンクからの2億ドル(約230億円)を含む7億2500万ドル(約820億円)の総資金を調達することができる。また、ソフトバンクにとっては、ロボットへの投資が非常に実り多い年として2021年を締めくくるものになる。

CEOのRick Cohen(リック・コーエン)氏は、リリースの中で次のように述べている。「ソフトバンクは、最先端の人工知能やロボティクスのイノベーターに投資してきたすばらしい経験を持っています。彼らとの提携は、当社の可能性を最大限に実現するための新たな洞察力、関係性、資本を提供してくれるでしょう。ソフトバンクとともに、Symboticがサプライチェーンの近代化において強力かつ長期的な力を発揮し、すべての人に利益をもたらすことを確信しています」。

想定どおり2022年上半期に取引が完了すれば、Walmartはロボット・AI企業の9%を所有することになる。Amazon Robotics(アマゾン・ロボティクス)の基盤となったKiva Systems(キヴァ・システムズ)のような企業の全面的な買収とまではいかないが、ロボットを使ったフルフィルメントセンターへの取り組みは将来に向けて不可欠なステップだとWalmartが判断したことは明らかだ。

画像クレジット:Symbotic

原文へ

(文:Brian Heater、翻訳:Nariko Mizoguchi

German Bionicが第5世代のパワースーツ「Cray X」を発表、持ち上げと歩行の両方を支援可能に

German Bionic(ジャーマン・バイオニック)は2020年末、Samsung Catalyst Fund(サムスン・カタリスト・ファンド)が共同主導したシリーズAラウンドで2000万ドル(約22億7000万円)を調達したことを発表した。サムスンが独自にロボティクス外骨格技術を披露していることを考えると、この提携は不思議に思えた。筆者は数年前のCESで、サムスンの「GEMS(Gait Enhancing and Motivation System、歩行の強化と動機付けシステム)」を試したことがあるが、機能は限られているものの、歩行補助には十分な効果があった。

関連記事
力仕事をサポートする外骨格テクノロジーのGerman Bionicがサムスン主導で20.7億円調達
Samsungの障害者用外骨格製品を試着して歩いてみた

もちろん、サムスンのロボティックスに対する野望をどれだけ真剣に受け止めればいいのか、全面的に明らかになっているわけではない。これまでのところ、同社の製品は主にショーのために作られているように見える。その一方で、German Bionicは以前からこの分野に取り組んできた。実際に同社はその外骨格パワースーツ「Cray X(クレイ・エックス)」の第5世代を発表したばかりで、数週間後に開催される来年のCESで展示されることになっている。

2022年初頭より出荷開始が予定されているこのシステムは、Hardware-as-a-Service(サービスとしてのハードウェア)のサブスクリプションモデルとして提供される。料金は月額499ドル(5万7000円)から。とはいえ、家の中で家具を動かすためにこのシステムを借りる人はいないだろう。

画像クレジット:German Bionic

この新モデルでは、1回の持ち上げ時に最大約30㎏の支援が可能だ。さらに、歩行支援機能も追加されている。これはCray Xシリーズ初のことであり、通常は別々の装置に分かれている支援機能が組み合わされている。これにより、第5世代のCray Xは「荷物をaからbに移動させる際に、脚を前方に優しく押し出すことで、荷物の持ち上げと歩行の両方を行う作業者の早期疲労を軽減し、エネルギーレベルを維持することができます」と、同社では述べている。

新モデルのCray XはIP54の防塵・防滴性能を備え、継続的なサポートのためにホットスワップ可能なバッテリーが新たに採用された。この分野ではGerman Bionicだけでなく、大小さまざまな企業が、人間とロボット作業者の境界線を曖昧にするために、肉体的に過酷な労働を機械的に支援する仕組みに取り組んでいる。しかし、German Bionicは、Ikea(イケア)やBMWをはじめとする企業からの多大な支持を受けている。

画像クレジット:German Bionic

原文へ

(文:Brian Heater、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

肉体労働を支える、ロボティクススタートアップFJDynamicsが約79億円調達

DJIの元チーフサイエンティストであるWu Di(ウー・ディ)氏が設立したFJDynamicsが、過酷な環境下で働く人々にロボティクステクノロジーを提供するという目標を推進すべく、シリーズBラウンドで7000万ドル(約79億円)を調達した。

同社の農業用ロボットの特徴を尋ねたところ、ウー氏は広報担当者が冷や汗をかきそうな答えを返してきた。「当社のテクノロジーはさほど特別なものではありません」。多大な労力のかかる産業のために、便利かつ安価なロボットを作ることが同社のビジョンだと同氏は話す。

「最先端のAIアルゴリズムを持っていても、業界での経験がないためにその技術が生産ラインや農場で活用できなければ、人々にとって何のメリットもありません」と同氏。

ウー氏がFJDynamicsを始める前に携わっていたテクノロジーは、あらゆる意味で最先端のものだった。ドローン大手のDJIではチーフサイエンティストを務め、そこで同氏は2017年にスウェーデンのフォーマットカメラメーカーであるVictor Hasselblad ABの買収を監督している。中国に戻る前の10年間をスウェーデンで過ごしており、その間にドメインスペシフィック・プロセッサーデザインの博士号を取得。また、ファブレス半導体メーカーのCoresonic ABで副社長、スウェーデンの高級スポーツカーメーカーKoenigsegg ABでディレクターを務めた経歴を持つ。

「これだけの一流技術を目の当たりにした後で、FJDynamicsをハイテク企業と呼ぶのはおこがましい」と語る創業者。色あせたチェックのシャツに細縁の眼鏡という姿で取材に応じてくれた。

私たちが座っていたのは数台のデスクが置かれた仮設のミーティングルームだ。オープンプランのオフィスが可動式の壁で仕切られている。テクノロジーの中心地である深圳にある同社は急速に事業を拡大しており、従業員も1000人に近づいている。

FJDynamicsの 創業者兼CEOのウー・ディ氏

2019年、ウー氏はDJIを離れ、FJDynamicsを創設した。同社は当初より農業用ロボットに焦点を当て、無人の芝刈り機や果樹園の噴霧器、飼料押し出し機などのツールを作っているが、徐々に建設業や製造業など、肉体労働に大きく依存するその他の分野にも進出している。

北京が国内の伝統産業のデジタル化を推進する中、FJDynamicsのような中国企業は投資家から熱い視線を浴びており、FJDynamicsにもTencentや国有自動車メーカーのDongfeng Asset Managementなどの有力な投資家が名を連ねている。DJIは初期の段階で同社に出資していたものの、その後株式を売却している。

関連記事:アグリテック企業FJ DynamicsにTencentが投資

同社は今回のシリーズBラウンドにおける単独投資家名を明かしておらず、中国の大手インターネット企業であるとのみ伝えている。今回の資金調達により、同社は「農業、施設管理、建設、園芸などの分野で、ロボットによる自動化テクノロジーを成長させるとともに、60カ国以上で提供している同社のESG製品の需要拡大をサポートする」ことができると話している。

これまでに多くの技術系の人材が、自分の会社を立ち上げたり他のスタートアッププロジェクトに移籍したりするためにDJIを離れている。ポータブルバッテリーメーカーのEcoFlow、ヘアドライヤーのZuvi、電動歯ブラシブランドのEvoweraなどはその代表的な例である。ウー氏は世界最大のドローン企業であるDJIの名誉あるポジションを去った理由として「高級品」を作ることへの違和感を挙げている。

「ロボティクステクノロジーは、多くの企業によってドローンや自律走行車に活用されていますが、 地球上の大多数の人はその恩恵を受けていません」。

「農業、建設業、園芸業といった分野の労働条件は肉体的に厳しく、このような仕事をしている人はまだ大勢います。ロボティクステクノロジーを使って彼らの労働環境をいかに改善するかということが問題であり、また単にロボットに置き換えるということでは解決しません」と創業者は話している。

買収したスウェーデンの農業会社SveaverkenのロゴがプリントされたFJDynamicsの牛用フィードプッシャー

FJDynamicsの人気製品の1つに自動フィードプッシャーがある。高品質な牛乳を生産するためには1日に約10回の給餌が必要となり、そのためには24時間体制でスタッフを配置する必要がある。例えば500頭の牛を飼っている牧場なら牧草を与える人が交代制で3人ほど必要になるが、貧しい国ではそれほど多くのスタッフを配置することができず、寒い季節でも1日中牛の世話をすることになる。

FJDynamicsは農家の仕事を少しでも楽にしたいと考えている。1台約2万ユーロ(約255万円)のビジョンガイド式フィーダーは、1日に最大500頭の牛に餌を与えることができる。2019年、同社は110年の歴史を持つスウェーデンの農業会社Sveaverkenを買収しており、これがFJDynamicsの飼料押し出しロボットの実用化に貢献した。

「当社のお客様とは、テクノロジーについてお話ししたことがありません。農家の人々は、作物の収穫量を向上させるのに役立つかどうかという点により関心があるのです。農家さんは皆、経済家なんです」。

「テクノロジーを手の届きやすい価格で」というビジョンを掲げているため、利益率は「控えめ」で、そのため経営陣は運用コストに対して慎重だ。

現在、売上の約40%が中国以外の約60カ国で展開されている同社。海外に進出する中国企業の多くは「中国」と名の付くものへの反感を恐れてその出自に対して用心深くなっているのだが、ウー氏はより積極的なアプローチをとっている。

「10年間ヨーロッパに住んでいようと、自分のアイデンティティを変えることはできません。そんなことは重要ではなく、中国人でも米国人でもスウェーデン人でも、顧客の利益となる優れた製品を作り続けていれば、ユーザーは必ずい続けてくれるのです」。

特に企業のグローバル展開においては、データのコンプライアンスが重要な鍵となる。FJDynamicsはハードウェアとソフトウェアを提供し、現地のパートナーがデータを使った「システム」の展開を支援する。中国国外ではMicrosoft Azureが主なクラウドパートナーとなっており、それにより「GDPRなどのデータプライバシー要件を満たしながら、弾力的な展開が可能に」なっているという。

「データを欲しないというのが我々の企業文化です」とウー氏。

高度なプロセッサーを必要とするスマートフォンやドローンとは異なり、FJDynamicsの製品には中国で手に入る比較的シンプルなチップが使用されているため、昨今のサプライチェーンの混乱の影響を受けにくいと創業者は考えている。

現在は最先端のテクノロジーを開発しているわけではないが、自身の知識を伝える方法を模索しているウー氏。農業ロボットを開発する合間に、深圳の南方科技大学で講義を受け持つこともある。

「私は製品(FJDynamics)と教育という2つのことにフォーカスしながら、シンプルな生活を営んでいます。さまざまなことを目にしてきましたが、人はお金で変わることはできず、また幸せになることもできません。シンプルな目標を持つことが重要で、そういったシンプルな目標の達成が人を幸せにしてくれるのです」。

画像クレジット:FJDynamics

原文へ

(文:Rita Liao、翻訳:Dragonfly)

Uberからスピンアウトした歩道走行ロボットServe Roboticsが約15億円獲得

Uber(ウーバー)傘下のPostmates(ポストメイツ)から3月にスピンアウトした自動運転によるサイドウォークデリバリー(宅配)会社のServe Robotics(サーブ・ロボティクス)が、拡張シードラウンドを1300万ドル(約15億円)で完了した。得た資金で、成長に向け歩道走行ロボットを増産し、新たな顧客層や地域への拡大計画を加速する。

関連記事:Uberが配達ロボット事業を独立会社Serve Roboticsとしてスピンアウト

「当社の目標は、今後2~3年のうちに、米国の主要都市すべてにロボットを配備することです」と、Serveの共同創業者でCEOのAli Kashani(アリ・カシャニ)氏はTechCrunchに語った。

今回のラウンドには、Uberが戦略的投資家として参加した。また、Delivery Heroが出資するDX Ventures、セブン-イレブンのコーポレートベンチャー部門である7-Ventures、Wavemaker Partners傘下で、フードオートメーションのベンチャースタジオであるWavemaker Labsも参加した。本ラウンドは、Serveが3月に実施したシードラウンドを拡大したもので、ベンチャーキャピタルのNeoやWestern Technology Investmentなどの既存投資家に加え、起業家や、エンジェル投資家のScott Banister(スコット・バニスター)氏も参加した。

Serveは2018年から、ロサンゼルスの複数の地域でPostmatesの顧客に配達を行ってきた。その頃同社は、まだ「Postmates X」という社名で、配達プラットフォームPostmatesのロボット部門だった。2020年に商用サービスを開始した。同社のロボットは、ロサンゼルスとサンフランシスコの100以上の加盟店から、非接触型の配達を数万件実施したという。同社は11月の発表で、2022年初めからLAでUber Eats(ウーバーイーツ)の顧客に対し、オンデマンドのロボット配達サービスを提供すると明らかにした。

カシャニ氏は、シリーズAラウンドの前に新たな戦略的投資家を迎えることは意味のあることで、参加した投資家の顔ぶれに同社の2022年の動きに関するヒントが隠されていると述べた。

「Uber Eatsの顧客やPostmatesの顧客以外にも浸透しつつあります。2022年はLAで営業地域を拡大するとともに、新たな都市にも進出する予定です」とカシャニ氏は話す。「セブン-イレブンとDelivery Heroが出資しました。彼らとのコラボレーションについて今後ご紹介できると思います。他にも数多くのパートナーと協議中であり、準備が整い次第お伝えします」。

コンビニ大手のセブン-イレブンは、自動運転による配送に馴染みがある。同社は最近、Nuroと共同で、Nuroの自動運転車を使った商業配送の小規模試験を開始した。また、韓国のセブン-イレブンの運営会社が、同国のスタートアップNeubilityが開発した歩道走行ロボットの実験を開始した。2016年には、セブン-イレブンはネバダ州リノで、ドローン企業Flirteyと共同で自動運転配送の実験を行った。Delivery Heroも過去に歩道走行ロボットの実験を行った。2018年にはStarship Technologiesを起用して、デリバリー会社Foodoraの顧客にサービスを提供した

関連記事:セブン-イレブンとNuroがカリフォルニアで自律走行による配送サービスを試験的に開始

「Serve Roboticsは、米国の主要都市に自動運転による配送をもたらし、最先端の自動技術でロボット分野をリードしています」と、DX VenturesのパートナーBrendon Blacker(ブレンドン・ブラッカー)氏は声明で述べた。「この革命的な技術は、配送の未来を再構築する可能性を秘めています。私たちはアリ氏のビジョンと彼が集めたワールドクラスのチームに投資します」。

カシャリ氏によると、シードラウンドの完了以外にも、Serveは自主性の向上についてのニュースをいくつか予定しているが、具体的な内容には触れないという。Segwayのロボットプラットフォームを自社の将来の車両に採用する契約を締結したばかりのCocoのように、自動運転のためには人間の関与が重要だと主張する競合他社もある。一方Serveは、可能な限りリモートパイロットを方程式から排除することを目指している。

「私たちのロボットは、ほとんどの場合、自動運転モードで独立して動くことができます」とカシャニ氏はいう。「このことは、安全性と経済性に非常に重要な意味を持ち、当社の車両を商業運用できる理由の1つでもあります」。

人間が関与すると、海外のリモートオペレーターを使ったとしても、経済的にはうまくいかないとカシャニ氏はいう。ただし同氏は、人間に頼ることが合理的ではないケースは、1対1の関係、つまり1人の人間が1台のロボットをモニターするということを1つ1つ行う場合だけだと認めた。CoCoと同様、Serveの問題は、街中に配置した複数のロボットを、1人の人間がモニターするというところまで自律性を高めるにはどうすればよいかということだ。

「ロボットには、ネットワークが切断されたときや誰かがミスをしそうになったときに、自分自身を安全に保つためのオンボード機能が必要です」とカシャニ氏は話す。「ロボットが道路を横断するときなどは、ロボットを見守っていただきたいのです。それは単に、安全の観点から、そういう時に人間とクルマが関わるからです。ロボットが理解できない場合、人間にバトンタッチすることもあれば、そうでないこともあります。通常は、ロボットが自分で状況を把握しようと試み、それができなければ人間が介入します。そうするのは、1つには時間がかかるからです。時間に追われていると、待ちたくないですからね」。

歩道走行ロボットによる配達は、業界としての盛り上がりと、最も洗練された技術と最良の市場戦略を持つ企業間の競争が始まったばかりだ。今回の資金調達と、それにともなうパートナー企業の登場により、Serveはすでに規模拡大に向けて準備を整えつつある。

「セブン-イレブンは私たちと協業できるコンビニエンスストアの代表であり、Delivery Heroは私たちが協業できる配送プラットフォームだといえます」と、Serveの広報部長であるAduke Thelwell(アデューク・テルウェル)氏はTechCrunchに話した。「私たちは、レストランチェーンとの提携、将来的には医療品の配送、薬、アルコール、大麻なども視野に入れています。このように、私たちはさまざまな分野でパートナーシップを築いています」。

画像クレジット:Serve Robotics

原文へ

(文:Rebecca Bellan、翻訳:Nariko Mizoguchi

川崎重工、無人VTOL機K-RACERと配送ロボットの連携による完全無人物資輸送の概念実証に成功

川崎重工、無人VTOL機K-RACERと配送ロボットの連携による完全無人物資輸送の概念実証に成功

川崎重工は11月29日、無人VTOL機「K-RACER」と配送ロボットを連携させた無人物資輸送の概念実証に成功したと発表した。無人VTOL機に配送ロボットを搭載して飛行して、着陸後に配送ロボットが目的地へ荷物を届ける一連の作業を実施し、人の手を介さない完全無人による荷物の配送を確認できた。

K-RACERは、2020年に飛行試験を行った機体を改修し、100kgのペイロードを実現したもの。カワサキモータース「Ninja H2R」のスーパーチャージャー付きエンジンを搭載している。無人VTOL機は今後、長野県伊那市から委託を受けて実施する「無人VTOL機による物資輸送プラットフォーム構築事業」でも使用する予定という。

配送ロボットは、無人VTOL機に搭載可能で、荒れた路面や段差のある道路でも走行できるように開発された電動車両。

概念実証は、以下の流れで行われた。川崎重工、無人VTOL機K-RACERと配送ロボットの連携による完全無人物資輸送の概念実証に成功

  1. 手動積み込み:有人での配送ロボットへの積み込み
  2. ロボ自動乗り込み:配送ロボットが自動走行で駐機中の無人VTOL機へ接近し、自動で乗り込む
  3. 自動離陸:無人VTOL機が配送ロボットの乗り込み後に自動で離陸
  4. 自動飛行:無人VTOL機があらかじめ定められた経路を自動で飛行
  5. 自動着陸:無人VTOL機があらかじめ定められた着陸地点に自動で着陸
  6. ロボ自動離脱:無人VTOL機が着陸後、配送ロボットが自動で無人VTOL機から離脱し、配送目的地へ自動走行
  7. 手動取り出し:配送ロボットが自動走行で配送目的地へ到達後、有人で荷物を取り出し

川崎重工では今後、物流業界の労働者不足、道路状況や地形に左右されない物資輸送、山小屋や離島などへの安定した物資輸送のためのシステム開発といった社会課題の解決に貢献したいと話している。

北海道大学が水中を泳ぐ1ミリ以下の分子ロボットの創出に成功、光をエネルギー源に屈曲運動で自立遊泳

北海道大学、水中を泳ぐ1ミリ以下の微小な分子ロボットの創出に成功

北海道大学は11月29日、動物のように体を動かして水中を泳ぐ、大きさが1mm以下という微小な分子ロボットを作り出すことに成功したと発表した。変形を繰り返す、水中を泳ぐという分子ロボットの2つの大きな課題を克服した、世界初の研究成果とのこと。北海道大学、水中を泳ぐ1ミリ以下の微小な分子ロボットの創出に成功

北海道大学大学院理学研究院の景山義之助教らの研究グループが今回作り出したのは、青色の光をエネルギー源として体を動かし、体の一部をヒレのように使って水中を泳ぐという分子ロボット。化学的に合成した分子「アゾベンゼン」とオレイン酸を混合した結晶からできている。大きさは、縦が数十µm(マイクロメートル)、横が数百µm、高さが1µm(1µmは、0.001mm)。同グループは、2016年、すでに「「屈曲を自ずから繰り返す分子ロボット」を発表している。今回の課題はそれを「泳がせる」ことだった。

分子ロボットのサイズの世界では、人が泳ぐときとはまったく異なる力が作用する。いちばんの要素は水の粘性。人間のように体重を活かして勢いをつけて進むことができない。体を動かして移動できても、元の形に戻すと、位置も元の場所に戻ってしまう。ボートをこぐときに、オールを水中から出さずに前後に動かしているようなものだと研究グループでは表現している。そのため、微小なものは屈伸運動では泳げないというのが定説になっていた。

同グループは、遊泳方向を決める因子、遊泳速度と遊泳距離を決める因子について力学計算を行った。その結果、分子ロボットの上下運動が制約される平面状の狭い空間なら泳げることが示された。今回作られた分子ロボットには、ヒレが前にある「犬かき型」とヒレが後ろにある「バタ足型」の2種類がある。遊泳速度は、秒速10µmほど(1秒間に体長の1/10ほど進む)。速いものでは秒速15µm(時速500mに相当)と、定説を覆す結果となった。北海道大学、水中を泳ぐ1ミリ以下の微小な分子ロボットの創出に成功北海道大学、水中を泳ぐ1ミリ以下の微小な分子ロボットの創出に成功

今回の成果は、血管などの狭い空間を移動できる自動運転型分子ロボットの開発につながるほか、小さな生命体の狭い空間での動き方に関する理解が深まる可能性もあるということだ。

セグウェイがCocoとの提携で歩道走行型ロボットによる配達に初進出

Segway(セグウェイ)は歩道を走行する配達ロボットに将来性を見出し、この急成長中の業界の主要メーカーとなるべく準備を進めている。

同社は、マイクロモビリティシェアリングのほぼすべての主要事業者に電動スクーターを供給しているが、ロサンゼルスに拠点を置く配達ロボットのスタートアップCoco(ココ)と提携し、部分的に自動化された、遠隔操作で操縦される歩道用ロボット1000台を製作する。Cocoは、2022年第1四半期に、ロサンゼルスおよび米国の他の2都市でロボットを展開する予定だ。

Coco Oneと命名したロボットの導入は、Cocoがビジネスモデルを実証するために最初に製作した「車輪付きの箱」である100台のCoco Zeroに続くものだ。同社の車両担当SVP、Sahil Sharma(サヒル・シャルマ)氏によると、同社はさらに1200台の車両を発注しており、これはまだ保留中の契約だが2022年5月または6月までに導入できる見込みだ。

Segwayは何年も前からロボティクスの研究開発を行っており、2016年には専門部門を設立した。同社がロボットLoomoを発表したのも同じ年で、基本的にはスクーターのベースに、IntelのRealSense RGB-Dカメラ、音声認識、自動運転機能を備えた小さなロボットヘッドを搭載している。

今回のCocoとの提携は、Segwayが「ロボティックモバイルプラットフォーム」を大規模に展開して配送する初めての試みだ。Segwayのグローバル事業開発担当副社長のTony Ho(トニー・ホー)氏は、今回の提携はロボットによる配達分野への長期的なシフトを示唆するものでもある、と話す。

「これは、我々のパートナーシップの始まりにすぎません」とホー氏はTechCrunchに語った。「私たちはプロダクト面にとどまり、Cocoはオペレーターになります。これは、マイクロモビリティの分野で、当社が車両やハードウェアを提供し、オペレーターが市やスタッフとの関係や運営全体を担うのと似ています。今は、2017年のスクーターの時のように、業界全体が盛り上がっている状態です。これは土地の奪い合いです」。

Segwayのeスクーターとeバイクの事業は好調で、車両について学んだこととサプライチェーンのリソースを共有することで、ロボティクスの成長を拡大するためのレバレッジになるとホー氏は話す。

「Cocoは非常に若い企業であり、自分たちが得意とすることに集中し、サプライチェーンの拡張をSegwayに委託するという賢い選択をしました」とホー氏は指摘し、Cocoとのパートナーシップは独占的なものではないと述べた。「我々はこの件に非常に真剣に取り組んでおり、迅速に事業拡大できる勝ち馬を支援するのが当社の戦略です」。

自律型配達ロボットの市場規模は、2027年までに世界で2億3659万ドル(約267億円)に達すると予想されており、最近ではそのパイの一部を支配しようとするさまざまなプレイヤーが登場している。歩道走行分野で競合するStarship Technologies(スターシップ・テクノロジーズ)は資金として総額1億200万ドル(約115億円)を調達し、Kiwibot(キウィボット)は最近、大学のキャンパスでの展開を拡大した。そして、車道で活動するNuro(ニューロ)は6億ドル(約678億円)を調達しセブン-イレブンとの提携を発表したばかりだ。Cocoは8月に3600万ドル(約40億円)のシリーズA資金を調達して累計調達額は4300万ドル(約48億円)となり、調達した資金の一部はSegwayの車両に使用した。

関連記事
自動運転ロボのStarship Technologiesが17.7億円調達、今夏までに100の大学で事業展開へ
セブン-イレブンとNuroがカリフォルニアで自律走行による配送サービスを試験的に開始
ロボット配達スタートアップCocoが年内に従業員数と事業展開地域の拡大を計画

Segwayは、歩道走行ロボットが特にラッシュアワー時の人口密度の高い都市部において、ファーストマイルとラストマイルの配達を実現する最も効率的な方法となると期待しているという。

「製品の観点からいえば、よりシンプルなデザインは、オペレーションの信頼性を高め、故障を減らし、初期の設備投資を抑えることができます」とホー氏は話す。「パンデミックによる労働力不足は、ロボットの普及に拍車をかけました。また、動きが遅く、積載量の少ない車両は、歩道を歩く歩行者にも優しいため、都市部では歓迎されています」。

ロボット配達のスタートアップの多くは実際にはまだ自律型ではなく、Cocoも例外ではない。カメラ、GPS、コンピュータなどを搭載した同社の車両は遠隔操作で操縦されるが、基本的な自律走行機能は備えている。例えば、直線走行が可能で、障害物があれば停止することができる。これにより、1人のパイロットが同時に複数の配達を監視したり、横断歩道のような厄介な場所では操作を引き受けたりすることができる。

Cocoの共同創業者でCEOのZach Rash(ザック・ラッシュ)氏はTechCrunchに対し「私たちは、非常にビジネス優先のアプローチをとっています」と述べ、完全な自律性の実現を待っていては市場参入が遅れるだけだと指摘した。「多くの人がL4やL5、90%の自律性について話しています。私たちは、この地域で一定量の配達を行うために、何人のパイロットが必要なのかを本当に理解したいと思っています。『自動運転車をいかにシンプルにするか』ではなく、『私たちのビジネスにとって何が理にかなうのか』『それをサポートするためにどのような技術を構築すべきか』を一から考えて構築しました。パイロットは我々のオペレーションの中心であり、今後も中心であり続けるでしょう。だからこそ、彼らを中心に製品を構築し、可能な限り効率化を図っていきます」。

Cocoのシステムは、さまざまなルートから収集したデータを使い、その情報をもとに自動運転ソフトウェア内の機械学習アルゴリズムをトレーニングする。しかし、大規模なフリートを持つことの本当の利点は、コミュニティのより多くのエリアをマッピングし、ロボットにとってより速く、より簡単なルートを見つけることができることだとラッシュ氏は話す。

「私たちは配達の1秒1秒を大切にしているので、最も効率的なルートを作るために街をマッピングし、接続性、歩道のインフラ、歩行者の通行量、車の通行量を考慮しています。フリート全体から多くのことを学んでいます。これは自律走行に限ったことではありません。私たちは、可能な限り効率的に街をナビゲートできるように、これらの情報をすべて収集しています」。

画像クレジット:Coco

原文へ

(文:Rebecca Bellan、翻訳:Nariko Mizoguchi

AWSが新しいロボットフリート管理支援プログラム、ロボティクスアクセラレーターを開始

AWSのフラッグシップカンファレンス「re:Invent」の開幕にあたり、クラウドコンピューティングの巨人である同社は米国時間11月29日、大規模なロボットフリートの共同作業を支援するアプリケーションを構築するための新サービス「AWS IoT RoboRunner(IoTロボランナー)」を発表した。この新サービスは、Amazon(アマゾン)が自社の倉庫で利用しているようなロボットフリートを運用するために必要な、作業およびフリート管理アプリケーションを構築するためのインフラを提供することを目指している。

また、同社は新しいロボティクスアクセラレータープログラムを発表した。

RoboRunnerは、さまざまなメーカーのロボットと統合するアプリケーションの構築や、アプリケーションのライフサイクルの管理を支援する。AWSは、現在、異なるベンダーのロボットを単一のシステムに統合することは困難であり、企業はロボットを管理するために多くのサイロを抱えていると論じている。

画像クレジット:AWS

RoboRunnerは開発者に対して、フリート全体の集中的なデータリポジトリを提供するとともに、特定の施設内のすべての目的地をモデル化するためのレジストリや、これらのロボットが実行するすべてのタスクを記録するためのレジストリを提供する。

このサービスがターゲットとしているのは、無人搬送車、移動ロボット、ロボットアームなどのフリートを運用している大規模な産業企業だ。

RoboRunnerに加えて、AWSはMassRobotics(マスロボティクス)と共同で、新しいロボティクススタートアップ・アクセラレーター「AWS Robotics Startup Accelerator」を発表した。

AWSのCTOであるWerner Vogels(ワーナー・ヴォゲルス)氏は、29日の発表で次のように述べた。「今日、成功している商業用ロボット企業は数えるほどしかありませんが、これにはいくつかの大きな理由があります。第一に、実世界の環境はダイナミックで予測不可能であるため、適切なニッチ分野と適切な能力を組み合わせることが難しく、ロボット製品市場に適合する企業を見つけることがなかなかできません。第二に、高度な自律性と知能を備えたロボットを作るには、多分野にわたるスキルが必要であり、そのようなスキルを持った人材の確保は困難です。第三に、ロボティクスは資本集約的であり、センサーやアクチュエーター、機械的なハードウェアがすでに市販されている場合でも、多額の先行投資が必要となります」。

この新しいプログラムは、アーリーステージのスタートアップ企業(売上高1000万ドル / 約11億4000万円未満、調達額1億ドル / 約114億円未満)を対象としている。選ばれた企業は、ロボティクスのエキスパートによる専門的なトレーニングやメンターシップを受けられる他、最大1万ドル(約114万円)のAWSクレジットを獲得できる。

画像クレジット:Westend61 / Getty Images

原文へ

(文:Frederic Lardinois、翻訳:Aya Nakazato)

Preferred Networks、自律移動ロボットの開発・販売を行うPreferred Roboticsを設立し20億円調達

Preferred Networks、自律移動ロボットの開発・販売を行うPreferred Roboticsを設立し20億円を調達

アマノのロボット床洗浄機「EGrobo」(イージーロボ)

深層学習とロボティクスのスタートアップPreferred Networks(プリファードネットワークス。PFN)は11月26日、自律移動ロボットの研究、開発、製造、販売を専門に行うPreferred Robotics(プリファードロボティクス。PFRobotics)の、会社分割による設立を発表した。またPFRoboticsは、普通株式を新規に発行し、そのすべてをアマノに割り当てることで20億円の資金調達を実施する。

「すべての人にロボットを」の実現を目指すPFNは、ロボット事業を迅速に展開できる最適な組織作り、適切なパートナーとの協業の推進、資金需要への柔軟な対応を加速する目的で、ロボット部門をPFRoboticsとして独立させた。

精密機器メーカーのアマノとのパートナーシップにより、アマノの顧客基盤、営業力、サポート力を活かして早期にロボット製品の販売体制を整えると同時に、業務用清掃ロボットを共同開発するという。アマノは、AIを活用したロバスト性の高いSLAM技術を採用し、自律移動性能を高めた次世代型業務用清掃ロボットをPFRoboticsと共同で開発し、両社で年間1000台以上の販売を狙うとしている。

2022年中には、PFRoboticsが単独で開発を進めている、さまざまな分野向けの自律移動ロボットも発売を開始するとのこと。

PFNは、今後もロボット関連基礎技術の開発と既存パートナーとの関連事業は継続し、「あらゆる場面でロボットが活躍する未来の実現を目指します」と話している。

【インタビュー】CMUロボティクス研究所の新ディレクターが語るロボット研究の未来

カーネギーメロン大学のロボティクス研究所では、2年間にわたって暫定的にポストを担ったSrinivasa Narasimhan(スリニヴァサ・ナラシマン)教授が退任し、この度6人目となるディレクター、Matthew Johnson-Roberson(マシュー・ジョンソン=ロバーソン)氏が着任した。2005年にカーネギーメロン大学コンピュータサイエンス学部を卒業した同氏は、ミシガン大学の海軍建築・海洋工学部および電気工学・コンピュータサイエンス部の准教授を経て同ポジションに就任することとなった。

関連記事:フォードがロボティクス研究でミシガン大学に研究者やエンジニアら100人を配置

ジョンソン=ロバーソン氏はUM Ford Center for Autonomous Vehicles(ミシガン大学自動運転車Fordセンター)の共同ディレクターも務めており、今回はそのオフィスから新しい役職における今後の計画や、ロボット研究の将来像について語ってくれた。

TC:今はミシガンでFord(フォード)関連に取り組んでいる最中なのですか?

MJR:そうですね。数人の生徒とともにロボット関連の研究をして楽しんでいますよ。

TC:そこでの主な取り組みは何でしょうか。

とても多くのことを進めています。Fordのための長期的で既成概念にとらわれない研究です。Argo(アルゴ)のように、できれば半年から3年以内に道路を走れるようになる予定のものを対象に多くの研究を行っています。道路を走れるようになるのが5年から10年先のようなものに対しても長く取り組んでいます。新タイプの奇妙なセンサーから人間の予測や安全性の保証まで、あらゆることに非実際的なアプローチをとることができるのが大学の良いところです。

TC:Fordとミシガン大学がとっているような連携システムは、多くの大学にとっての手本のような存在になるのだと感じます。特にCMU(カーネギーメロン大学)のような大学には、裕福な資金提供者との長い歴史があります。こういったパートナーシップは今後大学研究のモデルになっていくとお考えですか?

これは、過去20年間にわたってロボット工学が通り抜けてきた変革を反映しています。90年代、00年代に開発された技術の多くが成熟して商用製品として展開されるようになり、多くの産業の未来に大きな変化をもたらしています。企業と大学が徐々に関係を持ち始めるようになったというのは、自然な流れだと思います。ピッツバーグという街を見ても、天然資源や鉄鋼を中心とした重工業からの転換が進んでいますが、この転換はさらに加速するでしょう。

関係性を継続し、新しい関係を築いていくことが私の目標の1つです。産業界だけでなく政府や政策など、これからのロボット工学に関連するあらゆることを考慮し、そうした関係を築いて研究所ですでに行われている技術的な仕事の強みを生かしていきたいと思っています。これは私が特に楽しみにしていることです。

TC:ピッツバーグでは地元スタートアップ企業が数多く存在する一方で、Google(グーグル)のような大企業も研究や法廷を学んだ卒業生の近くに進出してきています。このような関係をさらに深めるため、CMUはどう取り組んでいるのでしょうか。

CMUのある教授と共同するためにWaymo(ウェイモ)のオフィスを開設しています。このような関係は、教員とだけでなく学生に対しても見られます。高度な訓練を受けた新しい従業員こそがこういった企業の生命線です。採用活動で優位に立ち、人々が来たいと思うような文化を築くためにできることは、これらの企業にとって大きな利点となります。また、企業が共同研究を行ったり、研究のスポンサーになったりして、新しいプロジェクトを開発したり、入学してくる学生との新しい関係を築いたりしています。大学の最もすばらしい点は、毎年世界で最も賢い人々が新たに入ってきてくれるという点です。

TC:大学という幅広い文脈の中で、これらのスタートアップ企業の成長を支援するというのはあなたのタスクの1つとお考えですか。

そうですね。私自身、スタートアップを立ち上げる機会がありましたし、知識に大きなギャップがあることを知りました。非常に賢く、世界に対して大きな野心を持っている学生が大勢いるため、彼らがそれを実現できるように支援する方法を考えることが私の役割だと思っています。今あなたが強調したのもスタートアップですし、エコシステムという言葉がよく聞かれます。その地域に他のスタートアップ企業があるということもありますが、それに加えて一緒に何かをしたり、何かを作ったりする気の合う仲間を見つけることができるコミュニティがあるということです。

TC:現在ミシガン大学にいらっしゃるので、デトロイトで起きている変革を目の当たりにしていると思います。スタートアップコミュニティの育成という点でデトロイトはピッツバーグほど進んでいないかもしれませんが、そこには多くのチャンスがあります。CMUが惹きつけた人材を維持するために、学校はどういった役割を果たせるでしょうか?

いくつかのことがあります。近年ますます重要だと感じることの1つは、まずチャンスがそこにあることを認識するということです。ロボット産業のスピードと規模は、私たちの誰もが予想できないほどの速さで加速しています。そのために重要なのは、そのことを認め、じっとしていようとしないことです。業界は変化し、ロボットを取り巻くエコシステムが変化し、またこれらの企業を取り巻く規模やスケールも変化しています。これを実現するための方法をともに考えていきたいのです。

TC:ロボット工学は歴史的に最もインクルーシブな分野ではありません。その中でCMUはどのような役割を果たしていけるでしょうか? CMUのようなところに入学する多くの人は、入学する前からロボット工学に慣れ親しんでいる人たちなのではないでしょうか。

今回私はCMUにいる間に2つのことを残したいと思っています。1つ目は機会を増やし、参加者の幅を広げ、各分野における多様性を高めるということです。そして2つ目はもっと重要なことだと思います。大学は若い人たちの心を形成するのに適した場所です。私がロボット工学に多様性と包括性を持たせるための変革を起こすためには、第一級のロボット研究機関にいるということ以上に効果的な方法はありません。次世代のロボット工学者の誕生の場にいるということなのですから。

TC:あなたはCMUに入学した当初、ロボット工学を専攻していたわけではないので、良い例ですね。

まったくその通りです。さらにもう一歩踏み込むと、CMUに入学したとき私はとても苦労しました。みんなが自分よりも賢いという場所に足を踏み入れたのは初めてのことでした。それこそがあの場所の特別なところだと思います。何があってもロボット工学を辞めることにはなりませんでした。それは当時も今も、あの場所にいる人々のおかげだと私は思います。

TC:最近のロボット工学において最も楽しみにしていることは何ですか?

世界各地で展開されている大規模なロボット工学分野のシステムは、現在まさに変曲点に来ています。いつか、米国や世界のどこにいても、窓の外を見ればロボットが何か役に立つことをしているという状況になって欲しいと思っています。今の世界はそうではありません。工場の現場などに行けばロボットを見ることができますし、もしかしたらロボット掃除機を持っているかもしれませんが、私は窓の外を見るとロボットがいるというレベルにしたいと思っています。

画像クレジット:CMU

原文へ

(文:Brian Heater、翻訳:Dragonfly)

ロボットとAIが「空中庭園」の設計と建設をサポート、チューリッヒ工科大学による実験プロジェクト

建築や建設は、常に技術や素材のトレンドの最先端を静かに進んできた。チューリッヒ工科大学のような著名な工科大学で、AIやロボットを使った新しいアプローチのプロジェクトに取り組んでいても何ら不思議ではない。そこで行われている設計と建設を自動化する実験は、10年後に住宅やオフィスがどのように作られるかを示している。

このプロジェクトで作られているのは、古代都市バビロンの伝説的な建造物にヒントを得た「空中庭園」、つまり巨大なプランターの彫刻物だ(ちなみに、バビロン遺跡の有名な「イシュタル門」を発掘・盗掘したロバート・コールドウェイは私の祖先である)。

2019年に始まった「Semiramis(セミラミス)」(伝説的なバビロンの女王にちなんで名づけられた)は、人間とAIのデザイナーによるコラボレーションだ。もちろん全体的なアイデアは、プロジェクトの生みの親である建築学教授のFabio Gramazio(ファビオ・グラマジオ)氏とMatthias Kohler(マティアス・コーラー)氏のクリエイティブな頭脳から生まれたものだ。しかし、そのデザインは、大きさ、水やりの必要性、建造の様式などの基本的な要件を、コンピューターモデルと機械学習アルゴリズムに入力することで生み出された。

例えば、デザインの過程で、チームはこの20メートルを超える建造物を構成する大きな「ポッド」の位置を微調整したり、表面を構成するパネルのレイアウトを変更したりすることがある。そうすると、彼らが作成したソフトウェアは、その変更に合わせて全体の位置関係や他のパネルの形状を即座に調整し、自重に安全に耐えられることを確認する。

セミラミス空中庭園のCGによる完成予想図(画像クレジット:Gramazio Kohler Research)

もちろん、建築業界ではすでに多くの自動化されたプロセスが取り入れられているが、このプロジェクトでは、最終的なコントロールをAIに任せるという点でにおいて、これまでの限界を押し広げる試みだ。何といっても重要なのは、全体が崩壊しないように建築的なスペルチェックをAIにやらせるのではなく、人間とAIによる真のコラボレーションを実現するということである。

「コンピューターモデルを使うことで、従来の設計プロセスを逆に辿ることができ、プロジェクトの設計範囲をすべて探求することが可能になります。その結果、今までに見たこともない、しばしば驚くような形状が生まれるのです」と、コーラー氏はチューリッヒ工科大学ニュースの記事で述べている

最終的な設計に到達すると、建設はもう1つの人間と自動化の混成チームによって行われる。4本のロボットアームが一心不乱に作動して、複数の重い部品(1つのポッドには数十個の部品がある)を固定し、人間がそれらを結合するための樹脂を塗布する。この手法は、数年前に同じチームが使用した、ロボットを自動化されたアシスタントとして使用するやり方よりも一歩進んだものだ。

関連記事:大工ロボットと一緒に家を建てよう

セミラミスはこのワークショップで製作された後、最終的にはTech Cluster Zug(テッククラスター・ツーク)に向けて1個ずつ輸送される。2022年の春には完全に組み立てられ、土や種を受け入れる準備ができるはずなので、近くに行かれる際には是非、立ち寄ってみてはいかがだろうか。

画像クレジット:ETH Zurich

原文へ

(文:Devin Coldewey、翻訳:Hirokazu Kusakabe)