女性とノンバイナリーの創業を支援するFFAが同じ目的と起源を持つMonarqを吸収し活動を強化

女性とノンバイナリーの起業家のためのアクセラレーター、Ready Set Raiseを運営するシアトルのFemale Founders Alliance(女性創業者同盟、FFA)が、同じ目標と起源を持つニューヨークのインキュベーター、Monarqを買収した。後者が前者に統合されるが、必要に迫られての合併ではなく、幸せなコラボレーションのようだ。

Monarqは3年前の2017年にIrene Ryabaya(アイリーン・リヤバヤ)氏とDiana Murakhovskaya(ダイアナ・ムラホフスカヤ)氏が創立し、これまで32社が卒業した。FFAはその半数を自分の事業の第2陣として受け入れてきたが、第3陣が2020年に始まる。TechCrunchは2019年11月に、同社が150万ドル(約1億6000万円)のシード資金を調達した際、卒業生のGive InKindを取材した。

関連記事: 人助けプラットフォームGive InKindがプレシード投資で1.6億円調達

FFAのCEO、Leslie Feinzaig(レスリー・ファインザイグ)氏は「MonarqとFFAには共通のスポンサーがいて、数年前にお互いを紹介してくれた。それ以来ずっと関係を保ち、支え合っている。2020年はDianaとIrenaの副業が始まる。Dianaは2000万ドル(約22億円)のVC資金を調達し、Irenaのスタートアップ、WarmIntroは開始直後からかなりの顧客が会員登録している。それはFFAにとっても戦略的な意義があり、全国展開で連帯し、イーストコーストの投資家とメンターのネットワークを強化することができる」とTechCrunchに説明してくれた。

リヤバヤ氏とムラホフスカヤ氏の2人はそれぞれ、The Artemis FundとWarmIntroにフォーカスし、MonarqのアクセラレーターはReady Set Raiseブランドの一部になる。この併合で女性とノンバイナリーのための全国最大のネットワークができあがり、それは参加者の強みにもなる。

これをスタートアップ業界の特殊な部分の整理統合と捉えることもできるが、ファインザイグ氏によると、事業そのものは活況を呈している。

「女性のリーダーシップを求める市場は確実に成長しており、求人をはじめ多くの機会が作られている。最近、違ってきたのは、それが福祉や慈善のような理念ではなく、良好なビジネスであるという認識があることだ」と彼女はいう。

起業家や創業者におけるジェンダーの平等公平性という目標とスローガンは、そのリーチが伸びれば伸びるほど達成の可能性も大きい。規模が大きくなったことによって、すでに良質な両社のポートフォリオも、さらに良い結果を実現できるだろう。

画像クレジット: Li-Anne Diasのライセンスによる

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都市問題に挑戦するスタートアップを育てるアクセラレーターが7社を選定

世界の都市問題を解決するスタートアップを育てることを目的とするアクセラレーターUrban-Xが、その第6次の育成グループとして7社を選んだ。

BMWのMini事業部の設計部門とVCのUrban.USをパートナーとして、7社は各15万ドルの資金を受け取り、Urban-Xの20週間の育成事業に参加する。その途上でBMWの技術者やデザイナー、ソフトウェアデベロッパー、ポリシーや営業の専門家、そしてマーケティングの指導者たちとの接触がある。

今回選ばれたスタートアップは、以下のとおり:

  • 3AM Innovations:緊急時におけるファーストレスポンダー(初動救援要員)のための捜索ツールを提供する
  • Cove.Tool:ビルの設計の初期段階においてパフォーマンスのモデリングを自動化するツールキットを提供する
  • Evolve Energy:リアルタイムの料金計算やコネクテッドホームデバイス、再生可能エネルギーなどを利用して家庭のエネルギー費用を節減する
  • Food For All:レストランの今後廃棄されそうな食材を回収して一食4ドルの食事を作る
  • OurHub:公共のスペースを利用するアウトドアレクリエーションによるアウトドアエクササイズのネットワーク
  • Pi Variables:交通整理のソフトウェアサービス
  • Varuna:水質監視サービス

Miniは3年前に、そのイノベーションとブランド戦略の一環としてUrban-Xを立ち上げた。支援対象となるスタートアップは主に、モビリティや効率的なエネルギー利用、都市のインフラストラクチャ、住宅、食料廃棄などに関連したサービスだ。

これまでに同アクセラレーターを卒業したスタートアップは44社、その85%がその後新たな資金調達を行っている。

Urban-XのマネージングディレクターMicah Kotch氏は「都市と新興のテクノロジー企業は最大の都市問題を解決して行く上での強力なパートナーだ。今回の第6次育成グループについても、彼らのソリューションを、都市生活にインパクトを与えているさまざまな産業に向けてスケールしていきたい」とコメントした。

画像クレジット: Walter Bibikow

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Y CombinatorのSam Altman社長が会長へ、後継者の計画はなし

シリコンバレーの多産なアクセラレーターY Combinatorの、著名な社長Sam Altman氏(写真中央)が社長を退いたことを、同社が米国時間3月8日に公開したブログ記事が共有している。

Altman氏は会長職へ移行し、YCの他のパートナーたちが昇格して彼の日常業務を引き受けるとAxiosが報じている。情報筋によると、Altman氏の後継者を立てるは予定はない。YCの中核的な事業は目下、CEOのMichael Seibel氏が率いている。彼は2013年に非常勤のパートナーとしてYCに加わり、20016年にトップの座に着いた。

このニュースが流れた今同社は、一連の変革の真っ最中だ。しかももうすぐ、3月18日と19日にはサンフランシスコで、200あまりの企業から成る最新のバッチのデモが行われる。上述のブログ記事でYCは、本誌TechCrunchが今週初めに報じた本社のサンフランシスコ移転の件をはじめ、変化の一部について詳説している。

それによると、「YCをその都市〔サンフランシスコ〕へ移すことを検討しており、目下スペースを探している。最近の5年間で新しいスタートアップたちの重心が明らかに変わり、マウンテンビューのスペースに愛着はあるものの、そこに固執するロジスティクス上のトレードオフにそれだけの価値があるかを再考している。とりわけ、バレーは社員の通勤が難しい。また、ベイエリアの同窓生たちに近い場所にいたいのだが、その圧倒的多くがサンフランシスコで生活し仕事をしている」。

本社を北へ移すだけでなく、最近のYCは参加者が大幅に増えているので、次のデモデーではステージを2つ使う。そして、ポートフォリオ企業への初期投資の額も増やす

Altman氏は2011年にパートナーとしてYCに加わり、2014年に社長に指名された。今後の彼は、調査研究企業OpenAIの共同会長職など、他の努力に傾注する。AltmanはYCの共同ファウンダーPaul Graham氏を継ぐ、同社2代目の社長だった。Graham氏は今、YCのアドバイザーだ。

関連記事: The Silicon Valley exodus continues主要VCの脱シリコンバレー傾向(未訳)

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海を護る非営利アクセラレーターOcean Solutions Acceleratorが最初の育成候補5社を選定

今年の初めにSustainable Oceans Alliance(SOA)は、自然保護に的を絞ったアクセラレーターを立ち上げる、と発表した。そしてそのアクセラレーターOcean Solutions Acceleratorがこのほど、支援する最初のスタートアップ5社を発表した。それらはとっても多様で国際的なので、そのどれかに誰もが積極的な関心を持てるだろう。

NPOのSOAは、謎の暗号通貨億万長者が管理する謎のファンド、Pineapple Fundから資金をもらっているので、アクセラレーターとしての十分な活動もできるはずだ。

今度選ばれた5社は、最初に得られた投資により、この夏ベイエリアで8週間を過ごし、企業の経営など、いろんな人たちからいろんなことを勉強する。つまり投資するだけでなく、彼らに、企業として長続きしてほしいからだ。

募集要項では、ファウンダーの年齢が35歳以下となっていた。自然保護の世界に、若い血を導入したいからだ。選ばれた5社の名前とロゴは、これらだ(下図):

●ロンドンのSafetyNetは、漁網に取り付ける発光デバイスを作っている。それは設定により、寄り付く魚種を特定できる。大量の望まざる魚種を捕獲して廃棄する、という巨大な無駄を防ぐ。

●カリフォルニア大学バークリー校出身のCalWaveは、波力発電の試験と改良を繰り返している。昨年、エネルギー省の巨額な助成金をもらった。今はプロトタイプから大規模インストールによる実機テストへの、移行の段階だ。

Loliwareの食べられるコップ。

Loliwareは、海藻でストローやコップを作った。還元性が良いので、ユーザーが自分で堆肥などへ還元できる。食べて、あなたの胃へ還元してもよい。飲み物を入れると一日しかもたないが、捨てたら約2か月で完全に分解する。あるいは、そのまま食べてもよい。ニューヨーク出身の彼らはShark Tank(マネーの虎のアメリカぱくり版)に出演して、実際にカメラの前で食べたそうだ。Amazonで買えるし、食べた人によると、けっこうおいしいそうだ。

●メキシコのクリアカンのEtacは情報が乏しいが、SOAのプレスリリースによると、“エネルギーや環境目的の機能性ナノ素材を設計製造している。それらはたとえば、石油流出や工場廃液などを浄化できる”そうだ。これは、すごそうだ。

●そして、いまどき、ブロックチェーンなしで済ませられるアクセラレーターはいない。シドニーのBlockcycleは、産廃リサイクルのマーケットプレースを作ろうとしている。単純に埋め立てに向かうよりはリサイクルして再利用した方が経済性が良い、という。なお、今回のスタートアップ募集では、Pineapple Fundからの投資のあと、ブロックチェーン関連の応募が増えたそうだ。

以上5社は、9月11日に行われるイベント(一種のお祭り)でプレゼンを行う。ちょうどその日は、カリフォルニア州知事Jerry Brownの「グローバル気候アクションサミット」がサンフランシスコで行われる。そして10月には、バリで行われるOur Ocean Youth Summitで再度プレゼンを行う。

SOAのファウンダーでCEOのDaniela Fernandezはこう述べている: “イノベーションを促進し私たちの惑星の健康を維持するために、新しい大胆なアプローチが必要なとき、これらの海洋起業家たちは希望のかがり火である。これらのすばらしいスタートアップたちを支援することによって、若者たちが環境の危機を自分たちが直面している問題として捉え、気候や海を害するのではなく、市場がこれらの大勢に逆らう運動から利益を得るよう、発想を転換していくことを期待したい”。

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CVはダイバーシティーとインクルージョンを諦めるのか

今週、Backstage CapitalのArlan Hamiltonに話を聞くために会いに行った。彼女の目覚ましい出世物語は、今ではすっかり有名になった。Backstageのサイトに書かれている人物紹介のページから引用すると、彼女は「ホームレスだったころに、ベンチャーキャピタルを一から立ち上げた」とある。いろいろと面白いことを話してくれたが、まずはここから始めよう。2019年、彼女はダイバーシティー(多様性)やインクルージョン(包含性)については語らなくなるだろうというものだ。

こう聞いて、おやっと思った人は多いはずだ。彼女は過小評価されてきたマイノリティーに的を絞って資金を提供してきたからだ。その理由を、私が要点を理解して言い換えるならばこうなる。ダイバーシティーとインクルージョンは、技術系企業において人的資源となってきたが、大企業にとっては現状を守るための隠れ蓑になっており、改善を目指してはいるわけではない。

これには同意せざるを得ない。企業は、ダイバーシティーとインクルージョン(D&I)イベントや講演を開催したり、D&I副社長を雇ったり、「ダイバーシティー訓練」(これには効果がないばかりか、裏目に出ることも少なくないと多くの証拠が示している)を行ったりしている。彼らはダイバーシティーについて語る。彼らはダイバーシティーをパワポのスライドの中に加える。しかし、実際に彼らは何をしているのか? 私はNassim Talebの有名な宣言を思い出した。「何を考えているかは言わなくていい。ただポートフォリオを見せなさい

ではポートフォリオを見てみよう。Fortuneが報じたPitchBookの調査結果によれば、2017年に女性ばかりのチームがVCを受けた割合は2.2パーセント。これは2013年と変わらず、2014年に比べると明らかに低い。男性ばかりのチームは79パーセントがVC投資を獲得している。企業が「ダイバーシティーとインクルージョン」について、前例のないほどの大量のリップサービスをしていた間のことだ。

投資金額ではなく、投資件数という面で見れば、女性が率いるチームへのVC投資は、わずかながら上昇傾向にある。2007には2.42パーセントだったものが、2017年には4.44パーセントになっている。しかし、このペースで行けば、10パーセントの大台に乗るのは……2045年だ。さあ祝おう! その他の少数派の仲間たちに関するデータを探し出すのは、大変に難しい。それは、彼らへの投資状況が、ある程度の速度をもって改善されている証拠がゼロであることを示しているように見える。

しかし、大企業のダイバーシティーに関する統計データはある。再び、2014年と2017年とを比べてみよう。前回と同じ、前代未聞のリップサービスの時代だ。Googleは「黒人2パーセント、ヒスパニック4パーセント、2つ以上の種族4パーセント」から、「黒人2パーセント、ヒスパニック4パーセント、2つ以上の人種4パーセント」に改善された。これは進歩と言える。Facebookはどうだろう。2014年の技術者の割合は、ヒスパニック3パーセント、2つ以上の人種2パーセント、黒人1パーセント」だったが、2017年には、この数字は、どうも言いにくいのだが、変わっていない。

いろいろな不平がある。それはパイプラインの問題であって、文化的な問題ではないということ(MeTooムーブメントは、パイプラインがその入口から大企業のCEOまでの間がすべて汚染されていると、もっと悲痛に訴えるべきだった)。技術業界では、性別や人種で人を選ぶことは、いわゆる理想郷的能力主義に違反するということ(能力主義は、ほとんど意識することなく、システムとして始まり、そういう人たちを選んできた)。他より秀でたいと考える企業には、敷居を下げる余裕がないこと(中でももっとも下劣な不平として「ダイバーシティーがクソなハードルを上げてる!」というCindy Gallopの言葉がある。技術業界は、他の業界と同じく。平凡な白人で満員なのだ)。

なんとも異常な世界だ。彼らのポートフォリオを見ても、ベンチャーキャピタルは、意識するしないに関わらず、悪意のあるなしに関わらず、冷酷で人を馬鹿にした賭に出ることがある。ときとして、いや頻繁に、(比較的)普通の白人に賭けるのだ。同じ投資を受けられたはずの、より才能があり能力も優れた少数派よりも、白人のほうがシステムとして優位だと思うからだ。

これは、民主主義よりも君主制を選ぶようなものだ。たしかにかつては、それが機能していた。個人としての支配者は、平凡で、理論に依存するが、生まれたときから人を支配することを教えられ、権力の使い方を心得ている。だから彼らは頭角を現しやすく、才能はあるかも知れないが、無知な大衆の意志によってその地位に就く。

おそらくVCも同じだろう。ある程度、たぶん無意識に、白人のほうが彼らが最重要視する文化システムからの恩恵を多く得ていて、社会的な自信(傲慢性)があり、ネットワークが広く、生まれたときから積み重ねてきたさまざまな優位性を持っていると、彼らは考えている。外から来た少数派は、たとえ根性があって、ヤル気があって、頭が切れたとしても、同じ優位性を持っていないため、白人に賭けることになる。

君主制ではそれがうまく作用しなかったとお気づきの人もるだろう。私も、たとえばスタンフォードを卒業した白人男性やハーバードを中退した白人男性などの「パターン認識」で同様の宿命を予測した(アメリカの一流大学の不平等について話を広げるつもりはない。社会的な階層構造を保つための「縁故入学」制度はじつにあからさまだが)。

しばらくの間、そうしたやり方はVCにとって都合がよかった。なぜなら、
a)技術業界全体は、インターネット革命とスマートフォン革命という2つの潮流によって盛り上がっているため、業界の支配者からの強力な支援を受けて、たとえば独占的なシェアを誇る写真共有アプリなどで大成功を収める人間が登場することが見えていたからであり、
b)新しい技術系企業を立ち上げた白人男性たちは、今でもアウトサイダーとして活動しているからだ。

何か新しいことをやろうとすれば、アウトサイダーでいるのがよい。オリジナリティーが発揮できる。立ち直りも早い。ほとんどの人間は群れたがるが、特別な才能のある人間は、なんらかの方法で主流の社会から離れている。信じるか信じないかは別として、かつて、技術系ナードはアウトサイダーだった。少なくとも、アウトサイダーでいることの恩恵を受けていた。

それは、控えめに言っても、もう通じない。今や、主流のビジネススクールを卒業し、体制に順応した人たちが群を作り、自らをギークと称し、技術系スタートアップを立ち上げようとしている。彼らもわかっているが、どこでも同じようなことをしている。ほとんどの人間が同じ形式に載っかっている。リーンスタートアップ、MVP、シードファンディング、アクセラレーターなどなど。皮肉なことに、彼らはみな、リーンスタートアップの時代が終わりかけているときに、これを行っている。私が以前問題提起したことだが、この2年間ばかりVCに資金を提供してきた世界的なハードウエア革命による豊かな鉱脈が、もうほとんど枯渇しているのだ。

すべての人が、同じ方式でもって、同じ消えゆく資金を追い求めているとすれば、本当の報酬は、明らかに別の場所にある。どこか他に、まだ掘られていない補助的な鉱脈がある。しかしそれは、別の方法を使わなければ掘ることができない。別の人生体験からの情報に基づく別の市場、別の価値、別のネットワーク、別の考え方だ。私の友人がこんな賢言を書いていた。「違うことが常により良いとは限らないが、より良いものは常に違うものだ」。これは、今すぐにでも、あの手この手を使ってVCが採り入れるべき教訓だ。

 

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(翻訳:Tetsuo Kanai)

バイオ専門のアクセラレーターIndieBioが初めてのデモデー、14社が勢揃い

[筆者: Neesha A. Tambe]
【抄訳】
今日(米国時間4/17)の午後2時から、本誌TechCrunchはIndieBioのデモデーをお届けする。

IndieBioは、バイオテク企業にフォーカスする生後4か月のアクセラレーターだ。初期段階の企業にメンター(mentor, 指導者, 個人指導)がつき、バイオセーフティーlevel 1と2のラボを利用でき、業界のエキスパートからのアドバイスと25万ドルの資金が得られる。

2018年度の14社は、ノンオピオイド鎮痛投薬管理や、合成木材の生成、そしてAIを利用する抗生物質耐性の抑止など、さまざまだ。

彼らのデモを、ご覧いただこう:

Antibiotic Adjuvant: AIを利用して抗生物質耐性をモニタし減衰する意思決定支援ソフトウェア。

BeeFlow: 農作物の受粉用の利口で強い蜂を開発中。収穫量を最大90%上げ、蜂の人口減を抑える。

Dahlia Biosciences: 研究や診断用の多重化イン・シトゥー単細胞RNA分析ツールの次世代型を作る。

Jointech Labs: 高品質な脂肪移植、脂肪由来の幹細胞、および細胞治療を安全低価格で提供。

Lingrove: 自然界にある繊維や樹脂から、外観や性質は高級木材のようでカーボンネガティブな合成木材を作る。

MezoMax: 骨折治癒の高速化、骨粗鬆症の治療の改善、高齢者の骨の強化を、新しいグルコン酸カルシウム立体異性体により実現する。

Neurocarrus: 慢性の痛みに対する、効果が長時間なノンオピオイド鎮痛剤。オピオイドのような習慣性や副作用がない。

Nivien Therapeutics: 化学治療と免疫治療の両方を強化する初めての低分子医薬。15例のがんで効果を実証。

Nuro: 手術やICU、介護、リハビリなどのあとで無力化している患者にコミュニケーション能力を持たせる。

Onconetics Pharmaceuticals: 腫瘍の細胞に対する遺伝子治療。遺伝子スイッチがアポプトーシスを誘起してがん細胞を殺す。

sRNAlytics: 新しいバイオインフォマティクスにより小さなRNAバイオマーカーをエラーフリーで見つける。ハンチントン病で概念実証を行った。

Sun Genomics: 各個人に合わせたプロバイオティクスにより腸内細菌の健全な状態を取り戻す。そのために消化管の細密なプロファイルを作成する。

Terramino Foods: シーフードの中でも、菌類や藻類の健康効果を強調した食品を作る。

Vetherapy: 猫、犬、馬などの新しい幹細胞治療を開発。傷の早期治癒や、自己免疫の治療、炎症の治療などで効果を実証。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

Steve Wozniakが教育プラットホームWoz Uでテクノロジー布教者として第二の人生をスタート

Appleの協同ファウンダーとしてSteve Jobsと共に世界を変えたSteve Wozniakが今日(米国時間10/13)、Waz Uというものの創立を発表した。

リリースによるとWoz Uは、学生とその学生を雇用することになる企業両方のための学習プラットホームだ。Woz Uはアリゾナで立ち上がるが、今後はオンラインだけでなく物理的な学習拠点を全世界30以上の都市で展開したい、としている。

最初のカリキュラムは、コンピューターのサポートのスペシャリストとソフトウェアデベロッパーの育成を目的とする。今後はデータサイエンスやモバイルアプリケーション、サイバーセキュリティなどにもカリキュラムを広げていく。

Woz Uの構想は、教育のプラットホームであると同時に、テクノロジー企業のための求人〜教育訓練〜雇用のプラットホームでもあることだ。後者のために企業には、カスタム化されたオンサイトのプログラムと、会員制のカリキュラムを提供する。さらにK-12の児童生徒も対象にして、学区単位のSTEAM教育*プログラムにより人材を育成/発見し、テクノロジー方面のキャリアを育てていく。〔*: STEAM; Science, Technology, Engineering, Arts, Mathematics〕

さらに今後のWoz Uはアクセラレータ事業も導入し、テクノロジー方面の優秀な人材を起業の段階にまで育てていく。

発表声明でWozはこう言っている:

目標は、学生を長年の学費ローン返済で苦しめることなく、雇用に結びつくデジタルスキルを習得させることにある。人びとが往々にしてテクノロジー方面のキャリアの選択を避けるのは、自分にはできないと思い込むからだ。しかしそれは、誰にでもできる。ここでは、誰にでもできることを証明したい。私の全人生は、テクノロジーによってより良い世界を築くことに捧げられてきた。そのためにつねに、教育を尊敬してきた。そしてこれからはWoz Uで、新たなスタートをきりたい。それが今、やっと始まったのだ。

Woz Uは、自分にはテクノロジーのどの分野が向いているかを知るためのアプリを提供する。それによって、自分のカリキュラムを決めればよい。

料金については、まだ発表がない。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

VRイベントプラットフォームが面白い、IBM BlueHubのデモデイで5社がピッチ

日本IBMが国内スタートアップ企業を支援するインキュベーション・プログラムとして展開している「IBM BlueHub(ブルーハブ)」の第2期採択企業5社が3月16日、渋谷のイベントスペース「dots」で投資家など業界関係者を前にピッチを行った。IBM BlueHubは2014年9月から始まったプログラムで、ビッグデータやIoT領域のスタートアップ企業が多めというのが特徴。今回第2期は51社から5社が選定されたという。以下、5社の概要を紹介しよう。

Fictbox(VRライブプラットフォーム)

FictboxはVRライブプラットフォーム「Cluster」を開発している。もうみんな忘れたかもしれないけど、セカンドライフのようないわゆる「メタバース」系のサービスだ。オンラインの仮想空間にログインすれば、そこは現実社会とは別世界というやつだ。その別世界にVR装着で潜入して大人数でオンラインイベントを行うというのがClusterだ。イベントならリアルでやれ、という社交性の高いパーティー系人材に対して加藤直人CEOは「引きこもりでもイベントには行きたいんです。ただ玄関から出るのがめんどくさいんです」とClusterの意義を説明する。

ClusterでVRヘッドギアを装着すると仮想のイベント空間に入ることができる。VRであればデバイスは選ばないし、PCからも接続自体は可能だ。バーチャルなイベント会場には動画やスライドを共有する巨大画面があって発表者がいるイベント形式になっている。Twitter経由でログインした各参加者は顔アイコン付きで表示される。今のところ音声は発表者からオーディエンス方向のみ伝わり、参加者同士は吹き出しに出るテキストチャットと、Ustreamなどにある共有タイムランでテキストでコミュニケーションする。

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特徴は同時接続数が1000程度でも重くならないこと。3月上旬に実験的に200人でライトニングトーク大会を実施したところ盛況で、大手出版社や芸能プロ、映像制作やゲーム制作会社からの問い合わせが増えているという。特に声優系のイベントなんかは非常に相性が良さそうだと引き合いがあるという(顔が見えなくていいしね)。また4月にはUnityが開催する3000人規模のイベントでClusterでの同時開催が決定したそうだ。そして、なんと、このUnityの仮想イベントにはOculus Rift創業者である、あのPalmer Luckeyが参加表明しているというから、だいぶアツい。加藤CEOは今後、決済機能やイベント会場のカスタマイズ機能、ブースでの物販機能などを実装していきたいと話していて、法人向けカスタマイズなどでマネタイズできるのでは、と話している。主催者は場所の確保やコストがネックでイベントが開催できないようなケースでClusterが利用できる。

ちなみに、Clusterはサーバー側と各種クライアント(Oculus Rift / GearVR / Windows / Mac / iOS / Android)のソフトウェアを開発しているが、技術指向が強い。たとえ「VRでイベント」というモデルが他社にコピーされたとしても、MQTTと動画ストリーミング、画像配信CDNなど複数プロトコルを組わせたClusterの実装の作りこみは、どんなに早くても1年程度はかかるだろうと自信を見せる。MQTTといえばIBMが2013年にオープン化したものでIoT時代の軽量プロトコルとして注目を集めている。従来のMMORPGが同時接続数が200程度であったのに対してClusterで最大1000接続とスケールできたのは、1対N接続において不要なデータの送受信を行わないMQTTのPubSub方式という効率的な方式を採用していることも関係しているそうだ。MQTTを作ったIBMのインキュベーションプログラムに参加していることもあって、FictboxはMQTTエバンジェリストから直接アドバイスを受けたりしているそうだ。

Residence(ビザ申請業務関連スタートアップ)

ペルー出身のアルベルト岡村氏が2015年に創業した「Residence」は、ビザ申請にまつわるサービスで在日外国人を助けるサービスを展開いている。ビザの知識がなかったがために友人が強制送還された経験があったことから、大学卒業後に自ら品川の東京入国管理局で受付窓口の現場責任者として働いた経験があるという。現在はエンジニアと行政書士の4名体制でサービスを展開している。「お役所の書類は難しいが、日本語ではなく、Residenceは自分の言語で入力できる」。Skypeで本人確認をして指定書類を集めさえすれば、代理申請やビザの受け取りをしてくれて、家にいて郵送だけでビザ申請手続きが済む。従来、行政書士に依頼すると10万円かかったものがResidenceでは3000円と安いそう。現在顧客は個人が500人、法人向けが29社となっている。ビザ申請サービスを提供しているResidenceだが、今後はビザ取得で得た情報を元にサービス展開をして収益をあげることを考えているという。具体的にはResidenceには婚姻歴、住所、口座残高、犯罪歴、学歴、犯罪率、親族、納税額などの情報があるので、不動産業者向けの住民紹介や、与信の構築、日本から海外へのビザ発給関連サービスが考えられるという。5月からは新サービスとして法人向けに人材マッチングも始める。岡村氏は、すでに現在日本で生まれる新生児の27人に1人が外国籍であり、6年後には「若くて働き盛りの30人に1人が外国人」という統計値を引用し、このデモグラフィックのインフラとなるようなビジネスを目指していると話した。

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テクニコル(ウェアラブルデバイスxメンタルヘルス)

テクニコルは、ハードウェア非依存で心拍パターンから人間の心理状態を分析するアルゴリズムを開発している。利用するウェアラブルデバイスはメーカーを選ばないし、最近はスマホのカメラで心拍が分かるものがあって、それも利用可能という。競合製品との違いは、ストレス計測だけではなく、学業や仕事に集中している「良い状態」も把握できること。状態判定には個々人の基準値をまず計測することで、そこからの変位をみるそうだ。この基準値データの取得には3分ほどかかるという。

トライミール(オートバイのヘルメット向けIoT)

トライミールはオートバイに後付けでアタッチするデバイスを作っている。現在のアルファ版のものではLCOS(Liquid crystal on sillicon)と呼ばれる超小型の透明ディスプレイを使ってGPS情報を地図に表示するアプリを表示するようになっている。BMWやSkullyは一体型のスマートヘルメットを作っているが、こうしたものに比べると後付型は売価で5万円程度と安くなるという。今後の予定としては夏にクラウドファンディング、秋に販売開始を目指すという。また、ツーリング仲間で音声通話ができる機能を2017年に、ARを2018年に提供したいと話している。

笑農和(スマート水田)

「子どもの頃に手伝わされて農業が大嫌いだった」という笑農和(えのわ)創業者の下村豪徳氏が取り組むのは水田で使われる潅水のための水門開閉のスマート化。水管理というのは非常に手間のかかる作業だそう。人不足もあって1人あたりが見る作付面積が増えていることから、開閉すべき水門が広範囲にわたるようになり、数も増えているという。「軽トラで回って1日6時間くらいかけて水門を開け閉めしています」(下村氏)。笑農和が開発したpaditchは現在アルファ版ながら、水位や水温、栄養素の状態などを調べて水門を遠隔で開閉できるデバイスだ。これを1つの田んぼあたり4.5カ月で1万8000円というリースモデルで運用する計画。作付面積15ha以上の水田だけでも全国に56万枚の水門があるといい、3年目には利益が出るモデルだと下村氏はソロバンを弾いている。

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スタートアップ支援プログラムで沿線と活性化ねらう東急電鉄、その期待と不安

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東京急行電鉄(東急電鉄)がIMJ インベストメントパートナーズ(IMJ IP)とともにスタートアップ向けのアクセラレーションプログラム「東急アクセラレートプログラム(TAP)」を開始する。プログラムを開始するという内容は6月1日に発表されていたが、6月18日に東京・渋谷のヒカリエで開催されたキックオフイベントにてその詳細が発表された。

東急電鉄のリソースを使ったテストマーケが可能に

プログラムでは、設立から約5年以内のアーリーステージのスタートアップを対象に、東急電鉄沿線でのビジネス展開に向けた支援をする。今回は「交通」「不動産」「生活サービス」の3領域のBtoCおよびBtoBtoCモデルのサービスやプロダクトを募集する。

応募は7月1日から8月28日までオンラインで行う。その中から30社程度を選抜して9月末から10月にかけて面談を実施し、10社程度まで候補を絞る。その約10社に対して東急電鉄社員らとのディスカッションなどを行う3週間のブラッシュアップ期間を設け、11月11日に最終審査会を実施。ここで最優秀賞、優秀賞の2社を決める予定だ。なお最優秀賞には109万円(「とうきゅう」とかけている)、優秀賞には42万8000円(同じく「しぶや」とかけている)の賞金が与えられる。

最優秀賞、優秀賞に選ばれた2社は、東急のリソースを使ってサービスやプロダクトのテストマーケティングを2015年12月から2016年3月まで実施できる。具体的には東急の車両内の中吊りや駅貼りのプロモーション協力、駅や商業施設の貸し出し、法人紹介による営業協力といった内容だ。テストマーケティングの結果をもとに、今後の継続的な連携を検討する。なお審査で重視するのは新規性や独創性、東急との親和性、収益性など。

スタートアップとの協業で沿線の新規ビジネスを生み出す

東急電鉄 都市創造本部 開発事業部 事業計画部 課長補佐でTAP運営統括の加藤由将氏が説明したところによると、東急がこれまで大企業間のオープンイノベーションを通じて新しいワークスタイルやライフスタイルを発信。持続的に成長する街を創るとして、企業や大学と「クリエイティブシティコンソーシアム」を立ち上げ、東京・二子玉川で2010年から実証実験を続けてきたという。

今後その取り組みを二子玉川と渋谷、自由が丘を結んだエリア(同社は「プラチナトライアングル」と呼んでいる。人口82万人、消費支出推計1.2兆円のエリアだ)に拡大するが、「変化の多いマーケットでの新規事業にはリーンスタートアップの事業開発手法が適しているが、大企業では組織規模や構造上の理由もあって導入が難しい」(加藤氏)と説明。そこでスタートアップとの共創の道を模索した結果スタートしたのがこのプログラムだ。

渋谷周辺と言えば、数多くのスタートアップがオフィスを構えるだけでなく、ベンチャーキャピタルやコワーキングスペースも多いエリア。しかし加藤氏は「ベンチャーを支援環境は充実しているが、0から1のアイデアを形にするところに集中している。(1から100の成長という意味で)苗に水を与える人たちは少ない」と説明。今回のプログラムでその「1から100」の支援をしたいとアピールした。

スタートアップは「下請け」か

加藤氏は「特定エリアを持つコングロマリット企業が取り組むプログラムは日本初。海外でも他にないのではないか」と語る。確かに僕も今まで聞いたことはなかった。

だが僕は少し説明に違和感を感じた。ミーティングの最後にあった懇親会で話した複数人の参加者も同じような感想だったようで、彼らの言葉をそのまま用いると「東急沿線の新規ビジネスを作るための下請けとしてスタートアップを募集しているみたい」というような印象を持ってしまったのだ。

もちろん企業が行うプログラムなのだから本業とのシナジーを求めるのは当然のことだ。でも今回のキックオフイベント「自分たちがやりたいこと」の説明に寄りすぎて、どんなスタートアップを求めているのか、自分たちにどこまで熱意があるのかといった内容がイマイチよく理解できなかった。イベントでの質疑の様子も以下にまとめておく。

Q:東急のユーザーに関するデータをプログラムで提供することはあるのか
A:テストマーケティングが決まった際にNDAを結んでもらって提供する

Q:求められる新規性とはどういったものか
A:他の沿線にあっても東急沿線にないもの。もしくは他の沿線にもないもの。例えばドローンでも、タクシーでも

Q:学生による参加は可能か
A:歓迎する。ただしアーリーステージを対象にしており、プロトタイプが必要

Q:そもそもなぜ2社しか支援しないのか
A:プログラム自体が初めてで、回らなくなった場合ベンチャーに致命的な迷惑をかけることになりかねない。来年再来年とやっていきたいのでまずはこの規模でやる

Q:テストマーケティングのために追加開発が必要な場合の資金を提供するのか
A:サービス開発にお金を出すのは寄付になるためできない。現状のままで応募するか、融資や出資を受けて開発して欲しい

Q:募集するアーリーステージの定義について
A:業種業態によって変わるが、プロトタイプを持っているということ

Q:プログラム参加者への出資はあるのか
A:今回のプログラムの主目的は沿線に新しいサービスを提供すること。出資は当初からは考えていない。まずは業務提携し、今後関係を増したいというのであれば

僕もこれまでいくつか企業によるアクセラレーションプログラムの話を聞いてきたけれど、どちらかというと企業側は「やれる範囲でやることはやるので、どんどん飛び込んできて欲しい」というメッセージを積極的に出している印象が強かった。KDDI 代表取締役社長の田中孝司氏は「プログラムは赤字でも、志の高いエンジニアを応援したい」なんて言っていたし、NTTドコモ・ベンチャーズでも副社長の秋元信行氏が「われわれを使い倒せる起業家と出会いたい」なんて言っていた。

また今回東急電鉄と組んでプログラムを運営するIMJ IPは、親会社であるカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)とともにアクセラレーションプログラム「T-Venture Program」を展開している。このプログラムでも10社以上のスタートアップが採択され、出資やサービス連携について具体的な話が進んでいるという事例も聞いている。そういう事例を見ると、もっと思いを語ってくれてもいいんじゃないだろうかと感じたのだ。

「できない」となることはない、要望をぶつけて欲しい

不安なことも書いたが、渋谷や自由が丘、二子玉川エリアの鉄道や施設を利用できるチャンスがあるというのはスタートアップにとっては非常に魅力的な話だと思うし、加藤氏のチームがここ1年ほどスタートアップ関連イベントに参加して、積極的に環境を理解しようと活動していたのも知っている。実際、このチームのメンバーはTechCrunchのイベントにも参加してくれており、「東急電鉄がスタートアップと組んでどういうことをしたい」という話をいろいろ聞いたことがある。

またイベントの進行を務めたIMJ IP 日本支店長&インキュベーションマネージャーの岡洋氏も「第三者的に言うと、こういうプログラムは一緒に作り上げる気概が大事。(条件について)こう書いているからといって『できない』となることはないと思っている。皆さんの熱意があって、それが東急電鉄とやれば伸びるのであればやらない理由はない。資金面など要望を言って頂ければ我々でジャッジするので、どんどん思いをぶつけてほしい」と語っていた。興味がある人はまず、7月1日以降にエントリーしてみてはいかがだろうか。

イスラエルは日本のスタートアップ企業にとって世界へのゲートウェイになるか?

これまで何度かTechCrunch Japanで報じているが、サムライインキュベートの創業者でCEOの榊原健太郎氏が、イスラエルと日本をブリッジするまた別の枠組みを作って動き出したようだ。

サムライが今日発表したのは、現地テルアビブのアクセラレーター「StartupEast」への投資と協業だ。まず6月に東京でイベントを行い、イスラエルを始めとする各国のスタートアップ関係者を日本へ紹介する。そして「Startup adVenture Bootcamp」と呼ぶ、3週間をテルアビブで過ごすアクセラレータープログラムの日本のスタートアップからの受け付けを開始する。3週間のプログラムには、ワークショップやネットワーキングイベントを通じた現地スタートアップ界の成功者との交流や、担当分野ごとのメンターによる英語圏でのテストマーケティング、投資家の前でのピッチを行うデモデイなどが含まれているそうだ。ちなみに、これは公式発表としては第1号のイスラエル投資案件だが、榊原氏によれば未公表の投資案件はすでに10社以上になっているそうだ。

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なんでイスラエルなのか? なにをやってるのか?

日本から見るとイスラエルは距離的にも心理的にも遠い。飛行機だと韓国経由でテルアビブまで15時間、いつもドンパチやっていて、人気のダウンロードアプリナンバーワンは「ミサイル警報アプリ」というような土地柄だ。ヨーロッパの一部のようでもあり、アジアの一部でもあるとイスラエル人はいうが、それは日本で言えば三重県のような感じではないのか。「近畿じゃねぇ。中部でもねぇ」と言われる三重県民には申し訳ないが、つまりイスラエルもアジアと文化的近縁性が薄いように思う。

なのだけど、イスラエルこそ、日本のスタートアップ企業にとって、世界へ繋がるゲートウェイになれるのだ、と、榊原氏が投資とパートナーシップを決めたStartupEastの創業者でパートナーを務めるアモス・アブナー氏(Amos Avner)はSkypeインタビューでTechCrunch Japanに、そう語った。

startupeast01「日本企業がアメリカに直接行ってビジネスをやってもいいのですが、たぶんすごく難しい。例えば、日本の大手通信キャリアのCEOがシリコンバレーに行っても、面会を断られることがあったと言います。人的ネットワークを使った正しい紹介がないと入っていくのが難しいのです」(アブナー氏)

ここだけ聞くと、なぜか間に入ってきて紹介料を取るいかがわしい「紹介ビジネス」っぽくも聞こえるが、この言葉の裏には、これまでイスラエルが培ってきた米国をハブとする世界とのビジネスネットワークへの自信があるようだ。

「イスラエルは人口800万人の小さな国ですが、オープンな社会です。国内市場が小さいので輸出に頼らざるを得ません。だからイスラエルでは英語教育は小さなときからやっていて、みんなバイリンガルだし、それが成功への鍵だと理解しています。日本同様にアメリカから大きな影響を受けています。アメリカはグローバリゼーションの中心ですしね。テルアビブは西洋化していて、街を歩けば目につくブランドも物品もアメリカから入ってきています。イスラエル人はアメリカへ旅行もするし、仕事という意味でも移住者が多いんです。シリコンバレーだけでも5万人のイスラエル人が働いていてます」

総人口800万のうち5万人がシリコンバレーで働いているというのは、かなりの割合だ。これを日本の人口1億2000万人にして考えると、約75万人の日本人がシリコンバレーにいておかしくないという計算になるけど、もちろんシリコンバレーに日本人はそんなにいない。

アブナー氏によれば、西洋文化との親和性の高さとオープンさを生かして、アジアでいえばシンガポール的なハブになることを目指しているようだ。

「例えばスリランカは、ずっと内戦状態でしたが、一方でリゾートでも有名で、観光業で国家イメージを作るのに成功しています。イスラエルもビジネスやスタートアップのハブとして確立していきたいんです。すでにヨーロッパやアメリカ方面へのコネクションはできていますが、アジアは、まだこれからです。これは別にイスラエルが良い国だからおいでよって話じゃないんです。イスラエルはアジアの一部で、中国や韓国、日本にとって自然な、世界に通じるゲートウェイ、足がかりとなれるという話です」

StartupEastは2013年創業の、イスラエルとアジアを結ぶという、ちょっと特異な立ち位置のアクセラレーターだ。これまでイスラエルはもちろん、韓国やシンガポールのスタートアップ企業を合計15社ほど「Startup adVenture Bootcamp」という3週間のアクセラレータープログラムに受け入れてきた。現在も次の7社が決定しているという。アジア圏の起業家にとってはイスラエルと、その向こう側への世界へのハブという位置付けだが、逆方向のベクトルとして、アジア圏へ進出したいイスラエルを始めとするスタートアップ企業へのマーケティング支援や提携提案なども行うという。StartupEastは6月に、4社のイスラエル企業と1社のシンガポール企業を引き連れて東京で初めてのイベントを行うそうだ。サムライインキュベートがStartupEastと提携した背景には、イスラエル発のスタートアップ企業のアジア進出をゲートウェイでごっそり押さえたいということがあるようだ。この辺は先行者メリットがありそうだし、アブナー氏も先駆者としての榊原氏を高く評価している。「なぜサムライと組んだかといえば、それは彼らが先駆者であり起業家で、自分たちと同じマインドセットを持っていると思ったからです。テルアビブで日本人や日本企業のプレゼンスがないわけではありません。楽天の人たちはいたし、ソニーも来てるし、医療関係でインキュベーターを買収したりというのがありました。でも、今回のような取り組みではオレがやるぞ、という人物が必要です。ケン(榊原氏)は大きなリスクを取ってきたし、ユニークな存在です」。

StartupEastは、シンガポール、韓国には提携パートナーがいて、今回日本を追加。今後は中国でもローカルの提携パートナーを探すのだという。

スタートアップハブとして実績を伸ばすテルアビブ

イスラエルといえば、シリコンバレーやロンドンと並んでスタートアップ先進地域として名を馳せている。

例えば、Economistがまとめた各種データによれば、1人当たりのベンチャーキャピタル投資額ではダントツの世界1で170ドル。2位のアメリカに対しても75ドルと2倍以上の差を付けている。PwCがまとめたレポート(PDF)でも、イスラエルのスタートアップ企業のM&AとIPOによるエグジットの総額は2012年が56億ドル、2013年が76億ドル、2014年が149億ドルと年々急速に伸びている様子が分かる。バイアウトによる早すぎるエグジットの多さが逆に懸念されていたようだが、2014年にはIPO件数が18件と前年の3件から大幅に増加している。TechCrunchも頻繁に伝えているが、イスラエル発のスタートアップとしては、Googleが10億ドル以上で買収したWazeや、Appleが3億ドル以上で買収したPrimeSense楽天が9億ドルで買収したViberなどが思い浮かぶ。最近だとDropboxがオフィス統合のために買収したCloudOnというのもイスラエルだ。

これまで買収する側としては、アメリカのテックジャイアントが多かったが、イスラエルのスタートアップに注目するのは、もはやアメリカだけではなく、中国からもどっと資金が流れこんでいるようだ。たとえば、2015年1月にはイスラエルのVCであるSingulariteamがTencentやRenrenから1億ドル以上の資金を集めてファンドを組成したり、同様にイスラエルVCのCarmel VenturesがBaiduなどから2億ドル近くの資金を集めて4号ファンドを組成したというニュースもあった。TechCrunchではイスラエルがエグジット大国となりつつあって、中国企業がイスラエルのスタートアップに接近していると伝えしている。

テルアビブで生まれ育ったというアブナー氏によれば、韓国や中国からイスラエルへは良く人が来ていて、LGエレクトロニクスあたりがイスラエルのスタートアップを買収する例も出ているそうだ。一方、サムライの榊原氏が帰国時に日本企業をまわった印象では、「上場企業の製造メーカーやIT企業の社長と話をしても、皆さんイスラエルのことをご存じない」という状況という。そういう意味でも日本とイスラエルを繋ぐことには、人的交流による情報流通という役割もありそうだ。

StartupEastでは、すでにイスラエル=アジアの人的ネットワークによって、協業の事例が出てきているが、アブナー氏は「今後3、4年でもっと日本とイスラエルのジョイント・ベンチャーが出てくるのでは」と話している。

未来のヒット製品があるかも! 500 Startupsデモデーから本誌お気に入り4つを紹介

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今年もこの時期がやってきた ― われわれは今マウンテンビュー市のスタートアップアクセラレーター500 Startupsのデモデー会場にいる。

今日(米国時間5/12)30の会社が、自分たちの製品とビジネスモデルを投資家と報道陣に売り込み、売上、対象市場、成長について魅力的なデータを見せた。中でも、いくつかの会社の口上がわれわれの琴線に触れた。

われわれを唸らせた以下の4組(発表順)を紹介する。

Alfred 500 Startups demo dayAlfred ― 古いAndroid端末を、Dropcamスタイルのどこかれでもアクセスできるホームセキュリティーカメラとして再利用する。初年度に100万台の端末がサービスに参加し、文字通り何トンもの電子部品がゴミになるのを防いだ。彼らのアプリは、ユーザーにとって毎日の習慣にもなり、家のネコや子供や留守宅を1日平均10回チェックしている。

Raur 500 Startups demo dayRaur ― 人気番組のフィードをを自分のライブや録音コンテンツと組み合わせて、スマートフォンのアプリ1つだけでポッドキャスティングサービスを作れる。この組み合わせによるアプローチは、今すぐ楽しめるコンテンツたくさんあるだけでなく、将来はオーディオのためのPerisocpeやMeerkatになり得ることを意味している。

GridCure 500 Startups demo dayGridCure ― スマート電力グリッドの分析システム。彼らの主張によると、電力会社は何十億ドルもまけて家庭や会社にスマートメーターを設置したが、大量のデータを活用するためのソフトウェアを作っていない。GridCureを使えば、電力会社はどこの電力を再配置すべきか(全体のエネルギー損失を減らす)を調べたり、「盗電」を示す不自然な動きを検知することができる。

Yellowdig 500 Startups demo dayYellowdig ― 「学校現場のSlack」(チャットアプリ)。90年代かと思われる寄せ集めのバックエンドソフトウェアと誰もチェックしない大学のEメールを置き換える。これまでに7000人の学生によるテストを終え、2016年までに100校の大学で使われることを目標としている。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

米西海岸と急接近、中国深圳や香港、台湾に根付くハードウェアスタートアップの今

編集部注:この原稿は土橋克寿氏(@dobatty )による寄稿である。土橋氏は海外ハードウェアスタートアップに特化したブログ「Build Something!」を書いており、現在は東アジアや北米を主軸に活動している。

米西海岸のハードウェアスタートアップにとって、中華圏都市は身近な存在となっている。シリコンバレーのスタートアップエコシステムと結びつく形で、中国深圳や香港、台湾などが興隆しており、ハードウェア特化のインキューベーターも続々と出てきている。各都市にはそれぞれ異なる良さがあり、中華圏のスタートアップコミュニティといっても欧米人が多い。彼らはその違いを感じ取った上で、自らが最適と選んだ地へ足を運んでいる。

深圳の電気店が集約しているモール内の様子

独特のエコシステムを形成する深圳

香港の中心街から電車で40分ほど北上した所に位置する中国都市・深圳。名立たる電機メーカーの発注をこなす巨大工場から、試作や量産の相談がすぐにできる中小規模の製造工場、マニアックな部品を扱う売店まで集積しており、高い利便性を誇る。現在の深圳では、数個、数十個、数百個、数千個と幅広い単位での発注が可能だが、以前はこれが叶わなかった。

ハードウェアに特化したアクセラレータプログラム「HAXLR8R」ファウンダーのCyril Ebersweilerは「5年前に『これを1000個作ってほしい』とお願いしても断られていましたが、今日では問題ありません。現地のハードウェアスタートアップにとって深圳が本当に好都合なのは、プロトタイプ製作が迅速にできるからです。モノによっては24時間以内、しかも非常に安く。これらの変化がスタートアップにとって重要です」と話す。

HAXLR8RファウンダーのCyril Ebersweiler氏

HAXLR8Rのプログラム全体は111日間で構成されており、メンターの指導内容は創案・製造・梱包・戦略・流通・財務など、多岐に及ぶ。参加者は6割アメリカ、2割ヨーロッパ、2割アジアで構成されており、中国出身者は意外と少ない。要因の一つとして、深圳にはテンセントなどの巨大企業が本拠を構えており、優秀なエンジニアを高額給与で大勢雇い入れていることが影響している。その一方で、深圳に住むエンジニアたちは、スタートアップへ正式参加する代わりに、平日夜や週末に技術的サポートを行うことが多い。

「大企業の仕事だけでは物足りないのでしょう。深圳のスタートアップのエコシステムは、北京などと比べるとまだ発展途上ですが、深圳は他都市とは異なる、新たなエコシステムを形成する可能性を持っています。ハードウェアに携わる日本の皆さんには、是非もっと深圳へ足を運んでもらいたいです。恐れることはありません」

深圳視察研修を組み込むSFインキュベーター

HAXLR8Rは深圳を本拠としており、プログラムの最後にはサンフランシスコで製品発表を行う。一方、それとは逆アプローチのインキュベーターも存在する。ハードウェアのリスク縮小を目標とした4カ月のプログラムを提供するHighway1だ。サンフランシスコを本拠としており、参加希望者の合格率が7%という狭き門である。Highway1は各業界の有識者で構成されたメンターと共に、プロトタイピングプロセスやビジネスについてのブートキャンプを行い、参加者のプロダクト・ブランド・戦略がより強固になるよう手助けしている。

Highway1 VPのBrady Forrest氏

Highway1を運営するのは、世界的に製造・物流を手掛けているサプライチェーンマネジメント企業PCH Internationalだ。そのため、参加者はプログラム中に入居する施設で工作機械を自由に使えるだけでなく、Appleなどを顧客に抱えてきたPCHのノウハウも活用できる。

4カ月のプログラムには、深圳の工場を2週間巡る視察研修が含まれている。その思いについて、Highway1 VPのBrady Forrestは「中国の製造の現場について、サンフランシスコのスタートアップにもよく知ってもらいたい」と話す。滞在中、プログラム参加者は多くの工場を訪れる。直接メカニックと話し合うことで、プロダクトや製造プロセスについての助言を受けられる。そこでの議論が気に入り、視察研修の後半には製造パートナーを変更するチームも出るほどだ。

香港で醸成されるスタートアップコミュニティ

深圳のすぐ隣に位置する香港を本拠に選んだハードウェアスタートアップも少なくない。香港のスタートアップコミュニティStartupsHK共同ファウンダーであり、3Dプリンターを開発するMakibleファウンダーでもあるJonathan Bufordは、その魅力についてこう語った。

「私は2000年から14年間、香港に滞在しています。もし起業家が深圳で全てをまかなおうとしたら、中国の様々な規則を遵守する必要があります。顧客とのコミュニケーションやファイナンス面においても、余分なコストが掛かるでしょう。対して、香港では税金が安く済む上、ビジネスを行うためのプロセスが簡略化されています」

StartupsHK共同ファウンダーでMakibleファウンダーでもあるJonathan Buford氏

Ambi Labsも香港に魅力を感じたハードウェアスタートアップの一つだ。彼らは快適な気温へ自動調整するエアコン制御器「Ambi Climate」を開発しており、アジア最大級テックカンファレンス ECHELON 2014 でPeople’s Choice Awardを受賞した。8月末頃には、Kickstarterでのキャンペーン掲載も予定している。Ambi Labs CEOのJulian Leeは「香港には中国のサプライヤーをよく知り尽くし、国際基準に則って動ける人材が多く、世界各地への販路構築にも役立つ」と話す。実際、同社はまだ少人数だが、イギリス、シンガポール、アメリカ、スイス、カナダ、日本の出身者で構成されている。

Ambi Labs CEOのJulian Lee氏(右)

昨今、ハードウェア特化型インキュベーターに参加するスタートアップが増えているが、Ambi Labsはその道を選択していない。同社の場合、時間をかけてハードウェアと機械学習技術を融合させつつ、大量のデータを集めていく必要があった。アジア市場を調査したり、コンセプトを繰り返し考え直すことに9カ月、さらにそこからデータ分析やモデルタイプ製作に15カ月掛けている。

「この2年があったからこそ、私たちはAmbi Climateを納得した水準で世に送り出せました。ハードウェアインキュベーターが一般的に要求する約3ヶ月という時間フレームに縛られていれば実現できなかったでしょう。インキュベーターから受けられる製造面でのサポートは、ここ香港のスタートアップコミュニティからの助言で十分でした」

長期ビジネスを支える台湾のサプライチェーン

数カ月という比較的短期間で構成されがちなハードウェアインキュベーターのプログラムに疑問を抱き、1年以上の長期支援に対応するところも出てきた。クラウドファンディングサービスや製造業アドバイザリープラットフォームを提供する台湾のHWTrekである。ドイツやシリコンバレーに拠点を持ち、参加者の5割がアメリカ、3割がヨーロッパ、 2割が台湾で構成されている。

HWTrekはサービス開始当初から80名以上のデジタルデバイス専門家と連携してきた。製造やコスト管理、資材調達、流通問題に関するアドバイスを行い、限られた期間・予算内で良い製品を作るサポートを行う。HWTrekを運営するTMI台灣創意工場社CEOのLucas Wangは「ハードウェアは長期ビジネスであり、スケジュールも思い通り進行しません。そんな中、台湾にはハイレベルなサプライチェーン・マネジメントがあり、モノを作ることに関して本当に便利な場所だ」という。

HWTrekを運営するTMI台灣創意工場社CEOのLucas Wang氏

同社はこのほど、アイデアを製品化し、効果的に市場まで繋ぐプロジェクトマネジメントツール「HWTrek Project Development Hub」を公開した。Foxconnなどの大手EMS企業との直接的なチャネルを活かし、国際的なハードウェアメーカーコミュニティの繋ぎ手を目指す。

「例えば、アップルストアのようなお店で自らの製品を販売したいと望んだら、彼らは非常に多くの審査プロセスを課すでしょう。その時、世界的に知られた工場で製造している事実は信頼関係を強くします。名が通っていない工場で製造した場合、一定の品質を保てるか、リコールを生じないかと心配され、審査が難航するでしょう。つまり、世界的な製造工場と関わることは、販売面でも非常に役立つのです」

今回は深圳、香港、台湾と駆け足で紹介してきた。各都市のコミュニティが形成されていく中で、ハードウェアスタートアップにとっては様々な選択肢が生まれてきている。日本のスタートアップにもハードウェアを組み合わせたものが増えているので、この辺りは注目しておいた方がいいだろう。


テルアビブやロンドンに続いて東京で拠点設置の可能性は? Microsoft Venturesに聞いた

Microsoft Venturesは現在、世界6拠点でアクセラレータープログラムを走らせている。ロンドン、パリ、北京、バンガロール、テルアビブ、ベルリンの各都市だ。元々「BizSpark」という名称でスタートアップ向け支援をしてきたし、2年前からはテルアビブにはMicrosoft Acceleratorを開始していたMicrosoftが、技術やビジネス面でスタートアップ向けの支援をするために2013年に新たなブランディングで開始したのがMicrosoft Venturesだ。

アクセラレータープログラムは3カ月から4カ月、3人のMicrosoftの社員を入れて運営する。1度に10社から20社を一気に顧客開発やマーケ面で支援する。Microsoft Ventures自体は、対象とするスタートアップの幅は広くて、シード期から始まってシリーズA、Bと成長するスタートアップのライフサイクル全体を支援する。その範囲は技術支援のほか、資金提供やユーザー獲得、大企業とのパイプ作りまで幅広い。申請するには、最低限チームに技術者と戦略面の人がいること、しっかりしたビジョンがあること。Microsoftの技術を使っている必要はないそうだ。

このプログラムの発表時には上に上げた6拠点のうち、5拠点の名前があり、そのほかに拡大予定の都市として、ベルリン、モスクワ、リオデジャネイロの名前があがっていた。

では、東京でアクセラレータープログラムを開始する可能性はないのだろうか?

自社イベントのために来日中だったMicrosoft Venturesプリンシパルのアヤ・ズーク氏(Aya Zook)に聞いたのだが、「その地域のスタートアップがどういう状況かを見極めて決める」ということだ。実はズーク氏は、直前に札幌で行われていたInfinity Ventures Summit 2014 Spring(IVS)にも参加しており、日本のスタートアップシーンの成熟度を視察に来たという。「国境なきイノベーションと呼んでいるんですが、シリコンバレーに来ないと成功できないよという時代じゃないですよね」。

「その地域のスタートアップシーンが、ライフサイクルの辺りなのかというのを見ています。これから伸びるのではないかというところに入るのが、いちばんわれわれのバリューを出せる。たとえばインドなんかだと、2年前に始めた頃は、今のように、まだ外部から人が入っていませんでした」

「日本にはエンジニアのタレントが豊富。人材も資金も技術もあって、非常に成熟しています。札幌のイベントに行ってビックリしました。メンターもいる、VCもいる、後進を育てる姿勢の経営者もいる。じゃあ何が足りないのか? ポテンシャルが高すぎて、よく分かりません。ほかの都市と、あまりにも違うのですね。たとえばバンガロールだと、2年でこのぐらい行けるというのが分かりましたが、東京が今どういう段階にあって、何年でどうなるというのは分からない。アメリカだとシアトルがそうですが、リソースが豊富だと起業したりしないのかもしれませんね。そうやって成熟している一方、カルチャー面が追いついてないように思います。スタートアップ企業というのはコケてもいいんだ、というカルチャーが浸透していません」

シアトルはMicrosoftのお膝元。アマゾン本社や、大きなグーグルの拠点もあり、IT企業に勤める人の数は多いが、シリコンバレーのように起業家密度が高くない。

Microsoft Venturesでは、各都市で支援するにあたって地域のカラーを引き出すということを意識しているそうだ。「たとえばベルリンだと、金融やファッション、デザインが強い。そういう会社が集まってくる」

では、東京は?

「ロボティクスとAIが進んでいるような印象を受けている。人間が、この先コンピューターとどうかかわっていくのか、ということを日本人はすごく良く考えていると思う」

アヤ・ズーク氏は、実は父親がアメリカ人、母親が日本人で、日本語はほぼネイティブ。日本とアメリカの両方を見ているズーク氏にとって、日本はどう見えているのだろうか?

「日本はグローバルに何かを発信する実績がありますよね。技術面でも文化面でも、この規模の民族が与えた影響って、ほかにいないのでは。スタートアップという手段を使って、また世界をあっと言わせるようなものが出てくると信じています。リスクを恐れず頑張ってほしいと思います」


ポール・グレアム、「Y Combinatorの37社の買収額、評価額は4000万ドル以上」とツイート―全511社の総額は115億ドル

Y Combinatorの共同ファウンダー、ポール・グレアムはそのスタートアップの評価額について興味ある数字をツイートした。グレアムによれば、Y Combinatorはこれまでに511のスタートアップに投資してきたが、そのうち37社は4000万ドル以上ですでに買収されたか、あるいは4000万ドル以上の評価額を受けているという。「511社の買収額ないし評価額の合計は115億ドルに上る」とグレアムは自身の Hacker Newsに書いている。

このツイートを読んでまず気になったのはその37社とはどれとどれだろうということだった。グレアムによればRap Geniusはリストに含まれているそうだ。また買収金額や資金調達ラウンドでの評価額が公表されているYCの卒業生もたくさんある。

FacebookはParseを最近8500万ドルで買収したし、Dropboxの評価額は40億ドルと報じられている。HerokuはSalesforceに2億ドル以上で買収された。Airbnbの評価額は25億ドル、Looptの買収額は4300万ドル、 ZyngaのOMGPOPの買収額は1億8000万ドルなどと伝えられる。Cloudkickの買収額は5000万ドル、 AutoDeskのSocialCamの買収額は6000万ドルだったという。

この他に4000万ドル以上のリストに乗っている可能性が高いのは、Stripe、Weebly、Optimizely、Justin.TV、Xobni、Scribd、Hipmunk、Disqusなどだ。

2011年にGrahamは 「YC出身スタートアップのうち25社が買収され、そのうちの5社の買収額が1000万ドル以上だった」と書いた。しかしその記事によると、残りのすべてのスタートアップの価値の合計はトップ5社の買収額の合計より大きいということだった。昨年、YCは380社目のスタートアップをローンチした。YC出身スタートアップが調達したベンチャー資金の総額は10億ドル、平均すると270万ドルとなる。その後、資金調達総額は15億ドルに更新された。New York Timesは最近の記事でY Combinatorのスタートアップの平均価値は2240万ドルだと報じている。

今日のグレアムの発表は興味深い。 単なる評価額にとどまらず、ここ数年以内にY Combinator出身スタートアップからは1社ないし2社の株式上場がありそうだ。読者が4000万ドル以上の価値があると知っているYCスタートアップがあったらコメント欄で知らせていただきたい。

〔日本版〕 Yコンビネーター シリコンバレー最強のスタートアップ養成スクール(滑川海彦・高橋信夫共訳)が日経BPから出版されている。 『プラネット・グーグル』などで知られるベテラン・ジャーナリストのランダル・ストロスがY Combinatorに半年常駐し、内部からYCを詳細にレポートしたノンフィクションだ。スタートアップ側だけでなく、ポール・グレアム、妻のジェシカ・リビングストン、「モリス・ワーム」で有名なロバート・モリスらパートナー側の人間像も詳しく書き込まれており、「スタートアップを成功させるシリコンバレー文化」がバーチャル体験できる。機会があれば手に取ってご覧いただきたい。

[原文へ]


(翻訳:滑川海彦 Facebook Google+


Y Combinator、元Groupon CEOのAndrew Masonら一挙に5人のパートタイム・パートナーを追加

Y Combinatorのポール・グレアムがブログで多数の新しいパートナーが参加したことを発表した。

まずフルタイムのパートナーが1人増えた。WufooのKevin Haleだ。それからパートタイムのパートナーとして、SocialcamのMichel Seibel、HipmunkのSteve Huffman、imeemとApp.netのDalton Caldwell、 元GrouponのAndrew Mason、TalkBinのQasar Younisが新たにY Combinatorに加わった。

Harj Taggarは新しいスタートアップを起業するためにフルタイム・パートナーを辞める(短期的には世界を見て歩くのだそうだ)。ただしグレアムによればTaggarはパートタイムのパートナーとしては留まるという。

YCは2年前にパートタイム・パートナーを採用し始めた。これでフルタイム・パートナーが10人、パートタイム・パートナーが9人となった。これまでのパートタイム・パートナー同様、今回選ばれたパートタイム・パートナーも大部分がYCの卒業生だ。例外はMasonとCaldwellだが、CaldwellはこれまでにYCで何度も講演している。 Masonは最近GrouponのCEOをクビになったばかりだ。

これでYCはパートタイム・パートナーの数を一挙にに2倍に増やした。グレアムは「Haleの参加でパートナー中のデザイナーが2人になった。これはスタートアップにおけるデザインの重要性が増しているからでもあるが、参加してもらった理由を率直に言えば、やはり彼らが非常に優秀だからだ」と書いている。

アップデート: Masonも自分のブログに記事を書き、YCに参加したことに加えて、サンフランシスコに引っ越して新しい会社を起業しようとしていることを明らかにした。

私はGrouponのようなシンプルなアイディアを思いつき、それが何百万もの人々の生活に影響を与えるところまで見届けることができたのを大変に幸運だったと思っている。残念ながらGrouponを去ることになったが、一方ではまた新しいことを始めるチャンスを与えられたともいえる。この数年温めていたアイディアがたくさんある。この秋には新会社を作ってその中でもお気に入りのアイディアを実地に移そうと思っている。

〔日本版:ベテラン・ジャーナリストがY Combinatorに長期滞在して内幕を最大漏らさず記録したノンフィクションYコンビネーター シリコンバレー最強のスタートアップ養成スクール(ランダル・ストロス著、滑川海彦・高橋信夫共訳、日経BP)に上記のSeibel、Taggarも登場する。Taggarはイギリス生まれのインド系でオックスフォードの法学部を卒業した後YCに参加して起業家となった異色の経歴。Taggarのイギリスとシリコンバレーの文化の比較は日本人にも非常に興味深い。〕

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(翻訳:滑川海彦 Facebook Google+


エンタープライズ向けアクセラレーターのAlchemist、第2回クラスの 9組が発表

今私はAlchemist Acceleratorグループの第2回クラス9チームによる発表を聞くために、カリフォルニア州サンタクララにあるCitrix本社に来ている。これは選りすぐりのB2Bスタートアップのためのアクセラレーターだ。

Alchemistグループは、ベンチャー支援による新しい取り組みで、シード段階のエンタープライズ・スタートアップの開発支援に集中している。支援者は、Cisco Systems、Draper Fisher Jurvertson、Khosla Ventures、SAP Ventures、およびUS Venture Partner。同グループのルーツはサンフランシスコのハーバードクラブで、アイビー・リーグ等の名門校出身の技術系ファウンダーや学生を対象にしている。

今日発表する9社は以下の通り。

  • Tylr Mobile:エンタープライズ向けモバイル業務プラットフォームで、メール等の使い慣れたツールを、ビジネスに必要なデータやプロセスと連携させる。
  • Sourcery:食品ビジネスの発注、調達を簡単にする。旧来のエンタープライズシステムを、ユーザーフレントリーなソフトウェアやクラウド、モバイルベースのアプリで置き換え、食品業界を21世紀に導く。
  • Eduora:エンドユーザーに焦点を絞った学習管理システム。様々な学習アプリを統一したインターフェースで使える企業内学習向製品を開発。
  • Zipongo:パーソナライズされた食事メニューを提供し、ヘルシーな食品を買うと特典がある。
  • Chronon:JVMのあらゆる実行状態をフライトデータレコーダーのように記録する。従来のログファイルは不要。
  • MightyHive:消費者マーケティングの自動化。エンタープライズ規模でのみ利用できるデータを使ったクロスチャンネル広告の自動化、最適化、および測定を行う。
  • Purple:モバイル顧客エンゲージメント・プラットフォーム。AppleのPassbookなどのモバイル財布を活用して顧客を引きつける。
  • Stratio:初のポータブル赤外線センサー。コスト1/0000以下、6桁以上の低消費電力、現テクノロジーの4倍の分解能を持ち、スマートフォンで健康状態のモニタリングを可能にする。
  • MonkeyBook:Facebookのタイムラインを簡単にeブックにして友達に配れる。ソーシャルデータからクラウドソースで作ったストーリーで人間の記億を置き換える。

イベントの報告は後報の予定。

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(翻訳:Nob Takahashi)