Spot AI、通常のセキュリティビデオからより多くの情報を得るプラットフォームの構築に約25億円調達

多くの企業がセキュリティを確保し業務を遂行していくために職場空間を監視しているわけだが、セキュリティカメラは、良くも悪くも、この監視の本質的な部分を担っている。現在、あるスタートアップが突如姿を表し、さまざまなカメラで撮影された映像をより有益なものにするテクノロジーのために資金調達を行っている。Spot AIは、使用されたカメラのタイプや品質に関わらずその映像を「読み取り」、必要とする人誰もがそれらの映像を言葉やカメラに捉えられた画像で検索できるようにするソフトウェアプラットフォームを構築した。

Spot AIは、2018年以来そのテクノロジーと顧客層を静かに構築してきた。同社は現在数百の顧客と数千のユーザーを抱えており、その中にはテクノロジーを他に先駆けて導入しているSpaceXや輸送会社のCheeseman、Mixt 、Northland Cold Storageといった会社も含まれる。

現在Spot AIは、より広い範囲に製品を出荷しており、2200万ドル(約25億円)の資金調達を開示している。このうち、2000万ドル(約23億円)のシリーズAは、Redpoint Venturesが主導しBessemer Venture Partnersが参画し、また前回の200万ドル(約2億円)のシードラウンドはエンジェル投資家のVillage GlobalおよびStanford StartX(同社の3人の創設者はここの出身である)によるものだ。その他の投資家も参画しているが、名前は公表されていない。

現在、多くの企業が現在レガシーテクノロジーを使用しており、それによってギャップが生み出されているわけだが、Spot AIは、そのギャップを埋めることに狙いを定めている。今日職場の監視には、膨大な数のセキュリティカメラ(2019年における推定では米国内だけで7000万台)が使用されており、通常は建物の入り口、オフィスビル自体、工場、その他のキャンパス環境などに設置され、人の動きだけではなく動きのない物体をも監視し、また機械、出入り口、部屋など、ビジネスで使用される場所の状態を追跡している。

問題は、それらのカメラが非常に古く、アナログ設定であることであり、またハードウェアが新しいか古いかにかかわらず、そうしたビデオで捉えられた動画は非常に基本的な性質のものだという点である。そうしたビデオは単一の目的のために設定されており、インデックス化もできず、古い映像は消去され、また必要な時に機能しないことさえある。実際、セキュリティカメラの映像というものは、日頃は無視されており、実際に必要があって映像を見てみると、その映像がひどいか、まったく役にたたないことに気づく(見たいものが映っていないことを発見する)、ということがままある。優れた機能を持ったものもあるが、それらは非常に高価で、テクノロジーに疎いアナログ企業にすぐさま広く受け入れられるとは考えにくい。

これに加え、セキュリティカメラは、ビデオ監視システムの多面的で重要な役割にも関わらず、非難を受けている。この非難は、公共の場でセキュリティカメラがどのように使用されているかや(公共の安全の名の下に、そこに設置され、人々が望むかどうかにかかわらず、人々が行うすべてのことのを静かに観察し記録している)、プライベートなセキュリティビデオ映像が記録された後、どのように流用されるかという、公私両面の理由で発生している。プライベートなセキュリティビデオ映像の流用に関しては、AmazonのRingが映像を警察を共有する、といった意図的なものもあれば、意図しないものもある(企業向けのビデオシステムを構築しているスタートアップVerkadaのビデオにハッカーがアクセスしてその映像をどこか別のところに投稿した事例を参考までに見て欲しい)。

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CEO兼共同創設者のTanuj Thapliyal(タヌジュ・タプリヤル)氏はインタビューで、Spot AIは、善良な意図を持って上記の市場に参入中であると語った。セキュリティカメラはすでに重要な役割を担っているのであり、問題となるのは、セキュリティだけではなく、健康と安全を確保し業務を正常に行えるよう、より良い、より生産的な目的のために、いかにしてセキュリティカメラを使用するかを考えることだ、というのが同社の立場だ。

「(これらのカメラで捉えられた)映像データをより有益なものにし、また職場のより多くの人がそのデータにアクセスできるようにすれば、監視というアイデアからビデオインテリジェンスというアイディアへとそれを変革できるのです。これにより、重要な判断を下せるようになります」とタプリヤル氏はいう。彼はRish Gupta(リシュ・グプタ)氏とSud Bhatija(サド。ブハチジャ)氏とともに同社を創設した。同社の基本姿勢は、すでに多くのカメラが設置されているのだから、それらのカメラをより効果的に責任ある形で使用する方法を見つける必要がある、ということのようだ。

Spot AIシステムは現在3つの部分から構成されている。最初の部分は、Spot AIがオプションとしてすべての顧客に無料で提供する カメラセット で、現在はSpot AIとの契約を終了しても顧客はこれを保持することができることになっている。これらのカメラは5MP、IPベースのデバイスで、ビデオフィードの品質をアップグレードするように作られている。ただし、タプリヤル氏によると、Spot AIのシステムは必要とあれば、あらゆるカメラの映像に対応可能である。

2つ目の部分は、配置されたすべてのカメラからの映像を記録するネットワークビデオレコーダー である。これらは映像を処理し、読み取りを開始し、分類するAIチップを搭載したエッジコンピューターで、Spot AIのシステムの3つ目の部分を通して映像を検索可能なデータに変換する。

3つ目の部分は ダッシュボードで、これによりユーザーは映像をキーワードやプロセスで検索し、また現在のストリームに対しフレームを作成しそのフレーム内で何か注意すべきことが起きた時(例えば、ドアが開いている、または誰かがある領域に入った、または期待されているようにあるものが機能していないといったことまで)、通知を受け取れるようにすることができる。

ビデオサービスのこの部分は、時間の経過とともにより洗練されていく、というのが重要なポイントである(事実、ステルスモードからGAへの移行時にさえ、機能が追加されている)。そこではインターネットに接続されたデバイスを監視するためにデザインされた数多くのIoTが役目を果たす一方、Spot AIの売りは、接続されたデバイスが関係しているかどうかに関係なく、接続されているものと接続されていないものが物理的な空間でどのように移動しているかに、より注意を向けることができる、という点である。

タプリヤル氏にVerkadaについて報告されたセキュリティ問題(2021年始めにあった悪意をもったハッカーが関与した事件、および数年前に遡るが、Verkadaの従業員がビデオシステムを悪用した件の両方)について尋ねてみた。Spot AIはVerkadaがターゲットにしているのと非常に近い市場をテーゲットにしており(さらに偶然両社はともにCiscoに買収されたWi-Fiテック企業Merakiとつながりがあり、どちらも創設者はMerakiの元社員である)、Spot AIが同様の問題をどうやって回避するのか、考えざるを得なかったのだ。Spot AIの顧客もおそらく同じ質問をするだろう。

この質問に対し、タプリヤル氏は次のように答えた。「Verkadaはハードウェアを販売している企業で、彼らのクラウドソフトウェアは Verkadaのハードウェアでしか機能しません。またそれらはとても高価で、カメラ1台で数千ドル(数十万円)します(Spot AIの場合、設置費用は2200ドル(約25万1000円)からだが、カメラは無料)。またVerkadaは、アクセスコントロール、環境センサーなど、建物のセキュリティ向けのハードウェアを多く販売しています。それらは凄いソフトウェアを備えたすごい製品です」。

しかし「当社はハードウェアビジネスをしているわけではありません。私たちは映像へのアクセスや使用を容易にすることに注力しており、カメラハードウェアはお客様が望めばすべて無料で差し上げています。当社の狙いは、当社のサービスを通してお客様に映像からより多くの価値を得ていただき、それを足がかりとして、お客様からソフトウェアサブスクリプションを通じてより多くの仕事をいただく、ということです」。

またセキュリティについては、同社のコンセプトは他社とは大きく異なり「お客様間のアクセスをサイロ化し、システムへのアクセスに多重認証を必要とする」ゼロトラストアーキテクチャを中心に構築されている。

「他のテクノロジー企業のように、私たちは常に自社のサイバーセキュリティを見直し、問い直し、改善しています。私たちのゴールは、優れたウェブダッシュボードを提供し、お客様に適した最善のものを選んでいただくことです。例えば、映像のクラウドバックアップは、追加費用を払わなくてもお客様がオプトインできるオプショナルの機能です。この製品はサブスクリプションにすでに含まれているプライベートストレージやローカルストレージで機能します。これは、HIPAA要件を満たさなければならない医療関連のお客様に特に役立ちます」。

同社がセキュリティの問題に対応するための立場を取り、それにふさわしい製品を揃えているのはすばらしいことだ。このセキュリティ対応に実効性があるかは、実際試してみなければわからないし、またこれはビデオによる監視が悪用されることなく使用できるものであるという基本的な考え方に基づいている。多くの企業にとってこれは成功の見込みのないものかもしれない。とりあえず今指摘する価値があるのは、Spot AIは公共の安全や政府向けにビジネスを行うつもりはない、ということである。同社は私企業を対象に、彼らがセキュリティカメラへの投資と使用を再考してくれるチャンスに焦点を当てている。

事実、投資家に向けての主なメッセージは、Spot AIが非技術系の顧客も含め、できるだけ広い範囲の顧客を引きつけるに十分なユーティリティを備えたテックプラットフォームをいかに作成してきたかである。

「カメラを使用して日々の意思決定を行っている新規ユーザーや企業が殺到しています。レガシーベンダーが溢れかえっているこの業界では、Spot AIのソフトウェアに焦点を当てたモデルは、お客様にしてみれば、はるかに簡単な選択なのです」とRedpoint VenturesのMDであるTomasz Tunguz(トーマス・タンガス)氏は述べた。

また、Bessemer Venture PartnersのパートナーであるByron Deeter(バイロン・データー)氏は、次のように付け加えた。「本日、専有のAIカメラシステムにアクセスできるのは世界の最大手企業だけで、ほとんどの中小企業は取り残されています。Spot AIの使いやすいテクノロジーは、多くの企業(規模の大小に関わらず)による映像データの使用を促進するでしょう」。

画像クレジット:Spot AI

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)

機械学習運用基盤(MLOps)スタートアップの話をよく聞くようになってきた

スタートアップとマーケットの週刊ニュースレター、The TechCrunch Exchangeへようこそ。

ああ、先週の金曜(米国時間11月19日)の午後はちょっと苦労していた。米国にいない人には、ちょっと説明が難しい。簡単に言えば、先週の終わりになって、私たちの警察と司法のシステムのある種の欠陥が明るみに出たのだ(訳注:警察のヘリコプターから撮影されたとみられる大量の監視映像が米国で流出した)。というわけで、今回のExchangeニュースレターは予定よりも短くなる。

DevOps(デブオプス)の市場は多忙で、資金も豊富だ。例えば先日はOpslyft(オプスリフト)の話を聞いた。インドと米国にまたがるこの企業は、ソフトウェアを作成する際のポストデプロイメント側のツールをまとめた統合DevOpsサービスを開発している。すばらしい企業なので、もし資本調達を発表したら、もっと時間をかけて記事を書くことになるだろう。最近の記憶に残る別の例を挙げるなら、先日公開されたプレデプロイメントDevOpsサービスであるGitLab(ギットラボ)がある。

つまり、大小を問わずのハイテク企業はDevOpsツールを構築しているということだ。そして、機械学習運用基盤(MLOps、エムエルオプス)の市場は、大きな兄弟(DevOps)と同じように急速に成長し始めている。TechCrunchは、MLOpsスタートアップのComet(コメット)が今週資金調達したことを記事にしたが、これを読んでThe Exchangeは、MLOpsスタートアップの別の資金調達イベントであるWeights & Biases(ウエイツ&バイアス)のラウンド、を取り上げたことを思い出した。

関連記事:企業の機械学習利用の空隙を満たすMLOpsのスタートアップCometが約57億円調達

こんな話を持ち出したのは、先日私たちがSapphire VenturesのJai Das(ジェイ・ダス)氏にインタビューを行い、AIによる資金調達のトレンドについての情報を収集したからだ。その対話の中で、私はAIOps(エーアイオプス)のアイデアを持ち出し、それが私たちが注目すべき第3の「Ops」カテゴリーになるのではないかと口にした。しかし、ダス氏によれば「MLOpsは基本的にAIOpsです」ということなので、2つの大きなカテゴリーに考え方をほぼ限定することができる。

とはいえ、AI(人工知能)とML(機械学習)は正確には同じものではない(ここであまり争うつもりはない、大まかな話なので)よって、2つの異なるタイプの仕事が、同じソフトウェアの中に収まるかどうかは興味深いところだ。

さらにAIについて

AIのテーマに沿って、今回はAI市場についてもう少し触れてみよう。Anna(アンナ)記者が、世界の人工知能投資の動向を論じた最近のエントリーを踏まえて、メモを用意した。彼女は、今日のAIファンドがどこに使われているのか、また「AI」という呼び名にふさわしいものの定義が変わることで、スタートアップ活動のための資金量がどのように増えていくのかについて考えている。

地理的な格差が私たちの注意を引いたが、AIの定義や応用が広がれば、資金はより均等に分配されると考えている。例えば第3四半期に新たにラテンアメリカのAIユニコーンに選ばれたのは、フードテックのNotCo(ノットコ)とデジタルIDを提供するUnico(ユニコ)の2社だった、またメキシコの融資会社Kueski(キュースキー)も大規模なラウンドを行った。私たちはこれをフィンテックと呼んでいたが、これもまたAIを活用したも企業だ。それがAIの新たな現実だとすれば、ラテンアメリカやアフリカなど、世界のあらゆる場所で、AIを活用して現実の問題に取り組むスタートアップに資金が集まるようになるのも不思議ではない。

来週はカナダにお住まいの方にはぜひ読んでいただきたいものがあるのだが、今回のAI記事の締めくくりとして前回のAI記事には少し遅れてしまったPoint72 VenturesのSri Chandrasekar(スリ・チャンドラセカール)氏からの回答をご紹介しよう。

AIに特化したスタートアップの経済性についての質問に答えて、投資家であるチャンドラセカール氏は以下のようなコメントを寄せてきた。

最近のAIへの関心のほとんどは、大規模なラウンドを調達している企業たちの収益の成長によってもたらされているのだと思います。しかし、その増収の背景にあるのは、商品の需要の高さと労働参加率の低さという極めてシンプルなものなのです。これは、Point72 Venturesのディープテック・ポートフォリオ全体に見られることです。AIは人間を補強して生産性を向上させ、場合によっては自動化に適した作業を人間に代わって行い、人間はより付加価値の高い戦略的な活動に専念できるようになります。これまでは、こうした自動化を導入するための労力が大きかったのですが、(人材不足によって)カスタマーサービスのリクエストに対応する人や受付を担当する人を雇うことができなくなると、自動化が俄然意味を持ち始めます。

最近私たちは、マクロ環境がスタートアップにどのような影響を与えるかについて、多くのことを学んでいる。インフレの進行でインシュアテックの利益が損なわれたり、「the Great Resignation(大退職時代)」が進んだりすることで、AIソフトウェアの需要が高まっているのだ。心に留めておきたい。

関連記事:暗号資産ゲームは短期的にどれだけの資金を吸収できるだろうか

その他のあれこれ

  • ユタ州を拠点とするPodium(ポディウム)の最近の巨額ラウンドを受けて、私たちは同州のより大きなスタートアップシーンを掘り下げたPitchBookの最新記事をご紹介する。ご想像の通り、数字は上向いている。
  • また、巨額ラウンドといえば、Faire(フェア)が今週、シリーズG調達を行った。だから?紹介したい興味深い成長の統計データがあったのだ。Faireは、自らの表現では「オンライン卸売市場」であり、かなり急速に成長しているビジネスだ。同社が「3倍」の収益成長と「年間10億ドル(約1141億円)以上のボリューム」を自己申告したことで、私たちの注目を集めた。もし非公開市場が、この会社をベンチャーキャピタルのフォアグラにしようと太らせているのでなければ、この会社はIPOの候補になるだろう。
  • さて他には?OKRスタートアップのKoan(コーアン)は、シリーズA調達に失敗した後、Gtmhub(ジーティーエムハブ)に売却されることになった。私たちは長年にわたってOKRソフトウェア市場について多くの記事を書いてきたので、この出来事を紹介しておきたいと思う(KoanのCEOは、公の場とメールの両方で、会社の終わりについてのメモを共有してくれたので、この件については、時間があれば来週お伝えすることになるかもしれない)。
  • そして、最後はBraze(ブレーズ)だ。ニューヨークを拠点とするソフトウェアのユニコーン企業であるBrazeは先週上場した。The Exchangeは上場日に同社のリーダーにインタビューを行った。すべてのIPO発表会と同様に、対象となる会社は、発言できること(あまり多くない)とできないこと(ほとんどすべて)に関して、かなり厳しい指導を受けていた。それでも、IPOの準備を始めたのは数年前で、実際に上場するためのプロセスを開始したのは約1年前であったという、準備プロセスについての情報を得ることができた。私たちは、2018年以降資金調達の必要がなかった同社が、なぜ直接上場を目指さなかったのかを知りたいと思った。BrazeのBill Magnuson(ビル・マグナソン)CEOは興味深い話をしてくれた。つまり最近の変化を踏まえれば、従来のやり方のIPOは一部の人々が考えているほど柔軟性に欠けるものではないというのだ。これから数週間、2021年の最後の公開を眺めながら、そのことを考える価値はあると思っている。なお、Brazeは、1株あたり65ドル(約7415円)で上場した後、現在は1株あたり94.16ドル(約1万700円)となっている。

画像クレジット:Nigel Sussman

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(文: Alex Wilhelm、翻訳:sako)

BNPLの成功を高騰する医療費に、金利なしの「先に治療・後払い」フィンテックPayZen

米国でヘルスケアのコストは増加の一途をたどっており、患者が自己負担しなければならない割合もそれにともない増加している。2019年のギャラップ調査によると、米国の3世帯に1世帯近くが、費用を理由に治療を遅らせたことがあるという。

ヘルスケアフィンテックのスタートアップであるPayZen(ペイゼン)は、AIを活用して患者の医療費債務を引き受け、患者が治療を受けて長期的に分割払いできるようにするソリューションを展開するため、シリーズAラウンドで1500万ドル(約17億1000万円)を調達した。

今回のラウンドはSignalFireがリードし、新規でLink Ventures7WireVentures、さらに既存投資家のViola VenturesとPicus Capitalが参加した。同社は、2021年初頭にシード資金として500万ドル(約5億7000万円)を調達しており、今回のシリーズAにより累計資金調達額は2000万ドル(約22億8000万円)に達した。

PayZenの「先に治療・後払い」ソリューションはすべての患者が利用でき、患者は手数料や金利なしで、治療費を時間をかけ分割払いすることができる。このプラットフォームの基盤となる人工知能(AI)技術により、病院は患者のデータを活用して、管理コストを抑えながら各患者に特化した支払いプランを決定することができる。

PayZenは、2019年にフィンテックのベテランであるAriel Rosenthal(アリエル・ローゼンタール)氏、およびItzik Cohen(イッツィク・コーエン)氏、Tobias Mezge(トビアス・メズガー)氏の3人によって設立された。現在PayZenのCEOを務めるコーエン氏は、消費者債務のフィンテック、Beyond FinanceでCEOを務めていた。

コーエン氏は、TechCrunchのインタビューで、患者の自己負担額は過去10年間で2倍になったが、今後10年間でさらに2倍になると予測されると語った。

「(創業チームは)フィンテック業界出身だったため、例えば、『先買い・後払い(BNPL)』を導入したeコマースでは、イノベーションと信用の拡大を受け、人々がより高額な商品を購入できるようになったのを見てきました。そこで、患者からの請求業務をますます多く担うようになっている医療機関も、苦労しているのではないかと考えました。それでは彼らも悪い状況に追いやられてしまいます」とコーエン氏はいう。

PayZenのプランを利用する患者には金利がかからないため、医療機関はこれらのコストを自分たちの帳簿に残すことができる。コーエン氏は、患者とその経済状況に合ったプランを優先的に提供することで、査定プロセスを逆転させ、支払いの遵守率を高めたと述べている。

フィラデルフィアを拠点とするGeisinger Hospital(ガイジンガー病院)では、PayZenの導入後、支払いの回収率が23%向上したという。コーエン氏は、米国のほとんどの主要な医療機関の平均営業利益率は1%と非常に低く、業界は人材不足に悩まされていると付け加えた。

「市場の状況が少しでも変化すれば、率直に言って、彼らは損失を被ることになるでしょう。彼らは今、この時間を利用して最適化を図り、多くのプロセスを自動化する技術に投資しています」とコーエン氏は語った。

設立からまだ1年も経っていないこのスタートアップは、2022年1月に大幅な製品の拡張を発表する予定だ。

ニーズの増加に対応するため、PayZenは現在35人のチームを2022年末までに約100人の従業員に成長させる予定だという。

画像クレジット:PayZen

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(文:Anita Ramaswamy、翻訳:Aya Nakazato)

東京都八王子市と町田市においてAI配車システムを用いた紙おむつの効率的回収事業が開始

白井グループは11月18日、凸版印刷が受託した東京都モデル事業「家庭用紙おむつの効果的回収と完結型リサイクル事業」に参画し、八王子市と町田市において紙おむつリサイクルの低炭素型回収コースをAI配車システムを用いて最適化すると発表した。

現在、家庭から廃棄される紙おむつは可燃ごみとして回収されている。これに対して同事業では、紙おむつの素材であるパルプとプラスチックを再生原料にリサイクルするため、従来の可燃ごみとは別の車両で回収し、再生工場まで運搬するという。八王子市と町田市は、同事業において紙おむつ回収のモデル地区をそれぞれ設定し、従来の可燃ごみと紙おむつを両市の委託企業が回収する。

白井グループは、両市において、紙おむつのみを選択的に回収した場合の最短ルートを、2014年から実用しているAI配車システムで計算。これらの結果を総合して、両市をまたぐ広域回収のシミュレーションを行うとともに、両市が各々全域に適用した場合の必要車両台数を試算する。

なお、白井グループのAI配車システムは、これまで約2000の排出事業者が回収依頼する可燃ごみ、不燃ごみ・資源物を、排出曜日ごとに異なる約150コースをAI配車システムで計算し、2014年から手作業に比べ10%以上の削減効果を出しているという。廃棄物ビジネスの革新を目指す白井グループが八王子市と町田市においてAI配車システムを用いた紙おむつの効率的回収事業を開始

一般に、全国の自治体では、リサイクル推進のため廃棄物を種類ごとに分別排出する取り組みが進められている。この実効性を高る方法としては「一括回収後に再度分別する」「種類ごとに車両を配車」の2つがあり、それぞれ実態としてはさらなる経済性の向上が重要になっているという。今回の取り組みのような「種類ごとに車両を配車」の分別回収ケースでは、最も経済的なコースで回収することで、追加の車両や重複ルートを省くことが可能となる。またこのため、移動に伴う二酸化炭素排出量を削減できるとしている。

白井グループは、1933年創業で家庭系廃棄物(東京都23区委託)と事業系廃棄物の両事業をカバーする数少ない企業。「都市の静脈インフラを再構築する」ことをミッションとして掲げ、ITやAIなどを積極的に活用し廃棄物ビジネスの革新を目指しているそうだ。具体的には、廃棄物処理を受け付ける情報プラットフォーム事業や、配車台数を削減するAI配車システムなどを事業化しており、今回は、社会として廃棄物量を削減するためのサーキュラーエコノミー事業にあたるという。

また廃棄物処理依頼の電子化、RFIDとブロックチェーンを用いたトレーサビリティ検証を進めており、それらの成果を統合して、2022年度からは静脈物流のさらなるDX化を加速するとしている。

AIオンデマンド製造ロボットで設計反復の迅速化、Machina Labsが累計約18.6億円を調達し脱ステルス

77社130工場が利用する製造業専門の現場向け工程管理SaaS「ものレボ」を手がけるものレボが1.8億円調達

ロボットとAIを活用した製造プラットフォームを提供するMachina Labsは米国時間11月17日、1400万ドル(約16億円)のシリーズAを調達したと発表した。このラウンドは、Innovation Endeavorsがリードし、Congruent VenturesとEmbark Venturesが参加したもので、ロサンゼルスにある同社の累計資金調達額は1630万ドル(約18億6000万円)となった。

今回の資金調達により、同社は、NASAおよび米国空軍とのパイロット契約に続き、事実上ステルス状態を脱したことになる。ロボットプラットフォームの初期段階では、政府(特に国防総省)との契約が重要な役割を果たしてきたが、Machina Labsもその点では特別な存在ではない。

しかし、新たなラウンドで同社はさらなる成長を目指し、商業パートナーの受け入れを開始している。パンデミックの影響でグローバルサプライチェーンの多くがきしるように停止している中、米国内の製造業がさらに苦境に立たされていることを考えると、確かにタイミングは良いと言える。

画像クレジット:Machina Labs

Machinaの最初の取り組みは、シートメタル加工を中心としたもので、戦車の部品を設計したり、NASAの宇宙空間での製造の可能性を探ったりしているが、後者の部分は、明らかな理由からまだ先の話だ。現在、同社は地元ロサンゼルスの工場で、オンデマンドのMaaS(Manufacturing as a Service)を提供している。

共同設立者兼CEOのEdward Mehr(エドワード・メア)氏は声明の中で、次のように述べた。「この競争の激しい市場の変化のスピードに対応するためには、製造業を改革しなければなりません。当社のプラットフォームは、最新のロボット工学と人工知能(AI)を組み合わせたもので、優れたアイデアを持つ誰もが、迅速に、効率的に、低コストで部品を製造できるよう、ラピッドマニュファクチャリングへのアクセスを民主化します。このようなソフトウェアで定義されたロボット設備は未来の工場であり、その実現に向けて投資家のみなさまにご協力いただけることを大変うれしく思います」。

今回の新たな資金調達は、ロサンゼルスでの人員増強と、プラットフォームのさらなる研究開発に充てられる。

画像クレジット:Machina Labs

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(文:Brian Heater、翻訳:Aya Nakazato)

AIを使ってより優れた文章を書く、Grammarlyが約1.4兆円の評価額で約228億円調達

文章の自動編集ツールとして人気のGrammarly(グラマリー)は、Baillie Gifford(バイリー・ギフォード)やBlackRock(ブラックロック)が運用するファンドアカウントなどの新規投資家から、評価額130億ドル(約1兆4800億円)で2億ドル(約228億円)の資金を調達した。同社は今回の投資を、製品のイノベーションとチームの成長を加速させるために使用する予定だ。

「今回の資金調達は、私たちのビジネスの強さを証明するものだと考えています」と、Grammarlyの製品担当グローバル代表であるRahul Roy-Chaudhury(ラフル・ロイ=チョードリー)氏は、TechCrunchのインタビューに答えている。「当社は設立当初からキャッシュフローが黒字でした。今回のラウンドは、コミュニケーションの改善を通じて生活を向上させるという当社のミッションの強さを証明するものでもあります。今回の資金調達は、製品のイノベーションと製品のスケーリングという観点から行われました」。

ラフル・ロイ=チョードリー氏によると、Grammarlyは今回の資金調達を利用して、AI技術への投資を継続する予定だ。自然言語処理と機械学習の技術を進化させて、ユーザーにパーソナライズされたコミュニケーションのフィードバックも提供していく。また、同氏は、Grammarlyがユーザーの信頼を獲得し、強化するための追加投資を行う予定であるとも述べている。

「今後のことを考えると、私は多くの可能性を感じています。なぜなら、最終的にはいつもコミュニケーションの改善という私たちのミッションに立ち返ることになるからです。遠隔地にいる世界中のチームが協力して仕事をするようになり、仕事の進め方が大きく変わりました。私たちは、このような変化の中で、人々がより効果的にコミュニケーションを図れるよう支援することが大きなチャンスだと考えています。今回の新たな資金調達は、そのための取り組みを加速させるためのものです」と述べている。

サービスの将来像について、ロイ=チョードリー氏は、Grammarlyは単に簡潔さ、一貫性、正確さを重視するだけのものではなくなると述べている。今後は、改善提案の対象となるカテゴリーを増やすとともに、ユビキタス化を進めていく予定だ。

今週初めには、Grammarly for MacとWindowsがリリースされ、Grammarlyはすでに製品の規模を拡大し、ユビキタス化の目標を達成している。この新しいデスクトップアプリケーションは、Microsoft Office、Slack、Discord、Jiraなどのアプリで使用することができる。ロイ=チョードリー氏によると、この新しいデスクトップアプリケーションは、ブラウザの拡張機能に関連する技術的な障壁を取り除くことができるようになったため、ユーザーがどこで文字を入力しようとも常にいつでも使えるライティングツールになることを目指しているとのことだ。

画像クレジット:Grammarly

「Mac版とWindows版のGrammarlyによって、私たちはすべてを結びつけ、ユーザーのコミュニケーションフロー全体をサポートすることができます。これにより、私たちはみなさんのコミュニケーションのあらゆる場所に存在し、求めている成果をより効果的に達成する手助けをすることができます」とロイ=チョードリー氏は述べている。

また、Grammarlyは先日、プログラマーがあらゆるウェブアプリケーションにGrammarlyのテキスト編集機能を組み込むことを可能にするテキストエディターSDK(ソフトウェア開発キット)を展開し「Grammarly for Developers」を発表した。このSDKのベータ版のリリースにより、開発者は数行のコードでGrammarlyの自動編集機能のフルパワーを利用できるようになった。対象となるアプリケーションのユーザーは、Grammarlyの顧客である必要はないが、もし顧客であった場合は、Grammarlyのアカウントにログインして、それに付随するすべての機能にアクセスすることができる。

今回の資金調達は、Grammarlyが2019年10月に行った前回の資金調達に続くもので、10億ドル(約1141億円)を超える評価額で9000万ドル(約102億円)を調達した。今回のラウンドは、2017年5月に1億1000万ドル(約125億円)で行われた同社の唯一のラウンドのリードにも貢献していたGeneral Catalyst(ジェネラル・カタリスト)がリードし、前回の投資家であるIVPやその他の無名の支援者が参加した。

現在、Grammarlyは、メールクライアント、企業向けソフトウェア、ワープロなど、50万以上のアプリケーションやウェブサイトで動作している。同社は、より多くの人々がより多くのオンラインプラットフォームでつながるようになった今、個人やビジネスの目標を達成するためには、コミュニケーションを正しく取ることが重要であり、それがユーザーの目標達成を支援することにつながるとしている。

Baillie Gifford(バイリー・ギフォード)の民間企業部門の責任者であるPeter Singlehurst(ピーター・シングルハースト)氏は、声明の中で「世界がデジタル化したことで、人々はこれまで以上にコミュニケーションをとるようになりました。Grammarlyは、この問題を解決することに焦点を当てた、世界でも数少ないビジネスの1つです。私たちが惹かれたのは、会社のビジョンと、より多くの環境でより多くの人がより良いコミュニケーションをとれるように製品を推進するチームの能力です。また、Grammarlyの長期的かつ野心的なアプローチは、我々の投資に対するアプローチと一致しています」と述べている。

Grammarlyはフリーミアムモデルで運営されており、有料会員になると、文法やスペルチェックだけでなく、言葉の選択、文章のリライト、トーンの調整、流暢さ、フォーマル度、盗作の検出など、より多くのツールを利用できるようになる。有料会員の価格は月額12ドル(約1370円)、20ドル(約2280円)、30ドル(約3420円)だ。

画像クレジット:Grammarly

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(文:Aisha Malik、翻訳:Akihito Mizukoshi)

IoT・AI遠隔点検のLiLzが石油化学プラントなどに対応する防爆形の低消費電力IoTカメラを開発開始

lilz

AIおよびIoT技術を活用したサービスの研究開発・提供を行うLilz(リルズ)は11月16日、巡回点検業務を効率化するサービスで使用するIoTカメラ「Lilz Cam」の防爆対応版の開発開始を発表した。石油化学プラントなどに対応するもので、製品名は「Lilz Cam 2-Ex」としている。

防爆とは、可燃性ガスに引火の恐れがある場所で、着火源にならないよう対策すること。防爆形機器は、国の防爆型式検定を受ける必要がある。Lilzでは、施設管理、上下水プラント、産業ガス・医療ガスといった分野で、設備保全のための巡回点検業務を効率化するサービス「Lilz Gauge」(リルズゲージ)を展開しているが、そこで使われているのが「Lilz Cam」だ。1日3回撮影で3年間連続動作するというLTE通信内蔵の低消費電力IoTカメラなのだが、これまで、防爆エリアには未対応だった。

そこでLilzでは、公的機関によって認証される「本質安全防爆構造」の「LiLz Cam 2-Ex」の開発に乗り出した。これにより、電源工事をすることなく、防爆エリアでの巡回点検の効率化が可能になるという。

「LiLz Cam 2-Ex」の概要

  • ガス防爆:Ex ic IIC T4 Gc
  • 粉塵防爆:Ex ic IIIC T135℃ Dc
  • 通信:LTE-M/Bluetooth Low Energy
  • 撮影解像度:5Mピクセル
  • 防水・防塵:IP65
  • 外径:149.5×123×25mm(最薄部は14.5mm)

認知症領域の課題解決を目指す医療AIスタートアップSplinkが11.2億円調達、脳ドック用AIプログラムの全国普及・拡大推進

VRリハビリ機器を提供する「mediVR」が5億円のシリーズB調達、「成果報酬型自費リハ施設」開設を計画

認知症領域の課題解決を目指す医療AIスタートアップSplinkが11.2億円調達、脳ドック用AIプログラムの全国普及・拡大を推進認知症領域の課題解決を目指す医療AIスタートアップSplinkは11月17日、総額約11億2000万円の資金調達を発表した。引受先はジャフコ グループ、東京海上日動火災保険、三菱UFJキャピタル、博報堂DYホールディングス、個人投資家。調達した資金により、引受先とのシナジーを活用するとともに製品化・事業化を加速する。

Splinkは、2017年の創業以来、認知症予防の促進を目指し、脳ドック用AIプログラムとして「Brain Life Imaging」の提供を進めてきた。都内を中心に様々な医療機関が利用しており、今後全国への普及・拡大を推進するという。また、この先行サービスで得られた知見を活用し、開発を進めてきた「脳画像解析プログラムBraineer」では、診断・治療フェーズにおける認知症見逃しを防ぐ医療機器プログラムとして2021年6月に薬事認可を取得した。

同社は、今回の増資により主力製品Brain Life ImagingおよびBraineerの製品強化を引き続き進めるという。さらに、複数アカデミアとの共同研究を通じて開発パイプラインの製品化に向けた投資も実施する。認知症という高齢化社会における課題に対し、健常段階の予防から発症後の病気と共生できる社会に寄与すべく、認知症の予防から診断まで一貫したソリューションをワンストップで提供するとしている。

Snapchatのフィルター、Lightroomの編集機能、Photoshopの柔軟性などを持つパワフルな写真編集ツール「Facet」

ひと言で言えば、Facet(ファセット)は、APIを使ってアクセスできるAI搭載の写真編集ツールを開発した。これにより、Snapchatの写真フィルター、Adobe Lightroomの編集機能、Photoshopの柔軟性、Figmaなどのコラボレーション力を合わせたような、非常にパワフルな写真編集ができるようになる。しかも、このツールは、これまでの写真編集の分野では目にしたことがないことができる。Facetは、Accel(アクセル)、Basis Set Ventures(ベイシスセットヴェンチャーズ)、Slow Ventures(スロウヴェンチャーズ)、South Park Commons(サウスパークコモンズ)の参加とともに、Two Sigma Ventures(ツーシグマヴェンチャーズ)から1300万ドル(約14億8900万円)を調達した。

私はかつてプロの写真家だったこともあり、写真に関する本を20冊ほど書いているので、私は写真に大きな興味を持っている。Facetから写真編集の分野で何か新しいものを提供すると連絡があったときは、かなり興奮したが、その後「非常に困惑した」。創業者や投資家と1時間ほど話をしても、このツールが何なのか、誰のためのものなのか、はっきりと理解できなかった。

しかし、実際にこのツールを使ってみると、すべてが明らかになった。オークランドで開催されたダンスイベントLindy by the Lake(リンディバイザレイク)で撮影したダンス写真をギャラリーにアップロードして、Facetに任せてみた。ウェブベースのエディターは、学習曲線が非常に急で、いわば学習の壁のようなものがあるが、Photoshopでは不可能ではないにしても、難しい編集をすぐに行うことができた。

私が作成したフィルターの1つは「背景を検出し、ぼかして脱色する」というものだ。画像の前景 / 背景の検出は完璧ではなかったが、うまくいった写真については、写真編集ソフトで個々の画像を開いて編集することなく、非常にすばやく写真をポップにすることができた。

左側の画像は、Facetによって背景が自動的に脱色され、ぼかされたもの。右がオリジナルの画像。結果は完璧ではないが、Facetは数分で200枚の写真にこのような処理を行うことができた。これはAI画像編集の驚くべき成果だ。Photos by Haje Kamps, editing by Facet’s AI.

Facetは、膨大な量の写真を用意してプレゼンテーションを行うような商用レベルの画像編集に特化していますが、Photoshopと同様に、画像制作者の創造性次第で何十通りもの使い方が可能だ。

「人々が画像を編集し、その変更を重ねていくとき、私たちはすべての編集を分析し、より大きなコンテンツライブラリに転送する方法を考え、自動的にプリセットを作成します。これは、キャンペーン全体でブランドの一貫性を維持し、すべての製品や写真に一貫性を持たせるために非常に有効です」、FacetのCEO兼共同設立者であるJoe Reisinger(ジョー・ライジンガー)氏は述べている。「例えば、Spotifyのような場合です。アルバムカバーで有名なデュオトーン効果を見たことがあると思います。私たちはそれを作成し、APIエンドポイントで再利用可能な画像編集パイプラインを提供することで、何千枚もの写真を非常に迅速に処理することができます」。

同社の選択・フィルタリングツールは強力で、無限の拡張性を持っている。趣味の写真家が使用できるコンシューマーグレードのプラットフォームを持っているが、同社が本当に輝くのは、クリエイティブなソフトウェア開発者がこのツールを使用してAPIを利用するときだ。

ライジンガー氏は「印刷中心の古いソフトウェアをインターネット時代に適応させようとするのではなく、コンテンツを意識した画像編集プラットフォームで、クリエイターが必要とするツールを一から構築しています」と語っている。

Facetのインターフェースの一例。このスクリーンショットでは、脱色と背景のぼかしをツールに依頼した。うまくいったときは信じられないほどすばらしく、Lightroomに何年も前からできるようになって欲しいと思っていたことだ。うまくいかないとき(中央2枚の写真のように、女性の足だけに色がついていたり、ダンサーの顔を前景として検出できなかったりしたとき)は、少し残念だ。とはいえ、Photoshopのレイヤーファイルとして画像をダウンロードすることができるので、それを整えるのは簡単だし、編集の時間も大幅に短縮されるだろう。the Facet toolのスクリーンショット。

「Facetで気に入っている点は、非同期のコラボレーションが可能なことです。写真のスタイルを定義しておけば、デザイナーはそれぞれの写真を手動で編集しなくても、たくさんの写真に同じスタイルを使うことができます。写真の見た目と感じをプログラムでエンコードし、それを画像間でコピーすることができます」今回のFacetの主な投資家であるTwo Sigma VenturesのパートナーであるDan Abelon(ダン・アベロン)氏は語った。「誰かのスタイルが気に入れば、それを自分の画像に適用することで、リアルタイムなコラボレーションの世界が広がります」。

「これは単に金儲けのためだけではありません。Facetは、クリエイティブなコミュニティやウェブの世界に大きな影響を与えようとしています。ウェブ全体に影響を与えたいという気持ちが伝わってきて、私たちもその点にとても惹かれました」とアベロン氏は語っています。

同社は、シリーズAの次のステップとして、チームの拡大、牽引力の強化、市場参入戦略の構築など、最近拡大した資金を活用していく予定だ。Facetでは、無料トライアルにサインアップして試用することができ、有料プランは、プロフェッショナルユーザーが月額24ドル(約2700円)、APIを必要とするハイエンドチームユーザーが月額50ドル(約5700円)からとなっている。

画像クレジット:Gabriella Achadinha under a CC BY 4.0 license.

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Yuta Kaminishi)

話し方・表情・言葉の内容からモテ因子「魅力的な個性」を見つけるアプリMOTESSENSEをNTTが開発・実証実験を開始

話し方・表情・仕草からモテ因子・魅力的な個性を見つけるアプリ「MOTESSENSE」をNTTが開発・実証実験を開始NTT(日本電信電話)は11月15日、人の個性をAIで診断し、その人の個性的な魅力を発見するアプリケーション「MOTESSENSE」(モテッセンス)を開発したことを発表した。多様なジャンルの個性的な人たちに使ってもらい、個性の発見に役立つかどうかを検証する実証実験も開始する。

シチュエーションに応じたロールプレイを行い、その様子をカメラとマイクが記録する。そこから、話し方、表情、仕草、言葉の内容などを総合的にAIで診断することで、「モテ因子」(魅力的な個性に関する因子)を見つけ出すという。魅力は、NTTによれば「見た目や地位などに対して、画一的に定義される」ことがあるが、このアプリケーションは、他人と比較して個性的な点にこそ魅力があると考える。この自動診断には、先日NTTが発表した、音声音響、画像映像、自然言語といったマルチメディアを統合的に扱うことで、人間に近い情報処理機構を実現する次世代メディア処理AI「MediaGnosis」(メディアノーシス)が使われている。

これは、多様性の尊重が「互いを受け入れ、個性や価値観の違いを受け入れるだけでなく、それらを融合させ、高め合うことで、社会を前進させるための鍵になる」と考えるNTTが、多様性の時代における個人の幸福の形成を目指すものとして開発したものだ。実証実験では、「診断結果について世の中の人に知ってもらうことにより、社会の多様性を再認識してもらう」ことを目指すとNTTでは話している。

学習アプリ「クァンダ」を開発した韓国のMathpressoにグーグルも出資

幼稚園児から高校生までを対象としたAIベースの学習アプリ「QANDA(クァンダ)」を開発した韓国のEdtech企業Mathpresso(マスプレッソ)は、新たな投資家としてGoogle(グーグル)が加わったことを発表した。

Googleの非公開の投資は、6月に実施されたシリーズC資金調達の一部ではないとのことで、評価額は明らかにされていない。

今回の追加投資は、5000万ドル(約57億円)のシリーズCから5カ月後のことだ。6月の時点で、同社の総資金調達額は1億500万ドル(約120億円)に達していた。同社にこれまで出資した投資家には、SoftBank Venture Asia(ソフトバンク・ベンチャー・アジア)、MiraeAsset Venture Investment(未来アセット・ベンチャー・インベストメント)、Smilegate Investment(スマイルゲート・インベストメント)、Samsung Venture Investment Corporation(サムスン・ベンチャー・インベストメント・コーポレーション)、Legend Capital(レジェンド・キャピタル)などが含まれる。

Mathpressoは、世界的な市場拡大と技術進歩の両面において、Googleとの相乗効果が生まれることを期待している。

クァンダのユーザーの85%以上は、韓国以外の日本や東南アジアに住んでいる。ソウルに本社を置くこのスタートアップ企業は、東京、ハノイ、ジャカルタ、バンコクにオフィスを構え、英語、スペイン語、韓国語、日本語、タイ語、ベトナム語、インドネシア語の7言語に対応している。

Mathpressoは、1:1のQ&Aサービスプラットフォームとしてクァンダを開発した共同CEOのRay Lee(レイ・リー)氏とJake Lee(ジェイク・リー)氏によって、2015年に設立された。同社は2016年に、詳細な数学の解き方や、各ユーザーのレベルに合わせてパーソナライズされた学習コンテンツを提供するクァンダを起ち上げた。2017年に追加されたAIベースの光学式文字認識(OCR)技術は、ユーザーがわからないテキストや数式の写真を撮影すると、それを認識してわずか数秒でユーザーが解き方を検索できるようにする。

クァンダのプラットフォーム上では、毎日約1000万枚の写真がアップロードされているとのこと。同社の主張によれば、クァンダのアプリは4500万人以上の登録ユーザーと30億の教育データポイントを蓄積しており、50カ国で1200万人以上の月間アクティブユーザーを獲得しているという。

Mathpressoは2021年初め、クァンダに新機能を追加した。それは「ひと口サイズ」の短い動画講義を無制限に提供するプレミアムサブスクリプションモデルや、オンライン学習グループのように共同学習を強化するコミュニティ機能などだ。

「Googleによる投資は、Mathpressoにエキサイティングな好機をもたらし、世界中の学生にサービスを提供する当社の能力を高めることになります」と、MathpressoのCFO(最高財務責任者)であるSoo Nahm(スー・ナム)氏は述べている。「最近のシリーズC資金調達と合わせ、今回の投資によって私たちは、グローバルな市場拡大と技術的な進歩を加速させることができるでしょう」。

クァンダはAndroid、iOSそしてウェブブラウザで利用できる。

画像クレジット:Mathpresso

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(文:Kate Park、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

業務プロセスを自動化するRPAを「自動化」するMimicaが6.8億円のシリーズA調達

RPA(ロボットによる業務プロセス自動化)導入を自動化するMimica(ミミカ)が、Khosla VenturesからシリーズAで600万ドル(約6億8000万円)を調達した。同社は今回の資金を、米国での販売チームの設立と製品の開発に使う予定だ。これまでのシード投資家には、英国のアクセラレーターEntrepreneur FirstやEpisode 1 VCなどがいた。

Mimicaの最初の製品であるMapper(マッパー)が対象とするのは「プロセス・ディスカバリー」の領域だ、すなわち「従業員のクリックやキーストロークからパターンを学習する」ことで、通常はビジネスアナリストが手作業で数カ月かけて作成する業務プロセスマップ(業務プロセスの見取り図)を生成するのだ。つまり「プロセスを自動化するための作業」を自動化するということだ。

MimicaはRPAチームを持っていて、データ入力、フォームへの入力、クレームやチケットの処理などの反復的な作業を行うソフトウェアボットを開発している。こうした市場規模は2027年までに1070億ドル(約12兆2000億円)に達すると予想されている。しかし、Mimicaによれば、UiPath(ユーアイパス)のようなRPAの巨人が提供するシステムを実際に導入することは難しく、Mimicaのシステムを使うことで導入を加速することができるという。

Mimicaのチーム

MimicaのAIは「自動化できる局面」を自動的に発見し、開発を加速できるボット用のプロセスマップを生成することで、導入のためのボトルネックを取り除くのだ。

CEOのTuhin Chakraborty(トゥヒン・チャクラボルティ)氏とCTOのRaphael Holca-Lamarre(ラファエル・ホルカ=ラマール)氏が、2017年にMimicaを共同創業した。ホルカ=ラマール氏は、計算論的神経科学と機械学習で博士号を取得た。チャクラボルティ氏は、スタンフォード大学で機械学習を学び、LinkedInで開発した教師付き学習モデルで特許を取得した。

2020年のローンチ以来、MimicaはDell(デル)、AT&T、Hexaware(ヘクサウェア)、Experis(エクペリス)、Ironbridge(アイアンブリッジ)と仕事をしてきた。

チャクラボルティ氏は次のようにいう「RPAは当社の技術を売り込むための最適な足がかりとなります、なぜならRPAを導入した企業はどこも大変な苦労を重ねているからです。手作業で自動化できる局面を探したり、プロセスマップを構築したりするのは拷問のようなものですし、不必要なものなのです」。

Khosla Venturesの創業者であるVinod Khosla(ビノッド・コースラ)氏は次のように語る「私たちがMimicaに投資したのは、彼らのチームがAIシステム構築の深い技術的専門知識を持ち、企業がプロセスを管理する際に直面する課題を十分に理解している、というすばらしい組み合わせだったからです」。

Mimicaの競合相手は、米国のFortressIQ(フォートレスIQ)やSkan(スキャン)だ。なおUiPathやCelonis(セロニス)のような他のプレイヤーも、競合するソリューションを開発している最中だ。

画像クレジット:charles taylo / Getty Images

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(文:Mike Butcher、翻訳:sako)

780社以上が利用、企業の福利厚生で使えるAI恋愛ナビAill goenが全国版・九州版に続き関西エリアでもサービス開始

企業の福利厚生で使えるAI恋愛ナビAill goenが全国版・九州版に続き関西エリアでもサービス開始Aill(エール)は11月15日、企業の福利厚生サービスとして利用可能なAI縁結びナビゲーションアプリ「Aill goen」(旧Aill)の全国版九州版に加え、同日より関西版を開始することを発表した。これにより、これまでの関東、九州、東北に加えて対象地域が拡大する。

Aillは、ウェルビーイング(=心も身体も健康な状態)が浸透する社会を目指し、幸福度の高い「ワークライフシナジー」を実現する一助として、公的・私的承認が満たされる重要性に着目。公的承認は、仕事(ワーク)などの社会活動によって得られるものの、仕事をがんばることでプライベートの時間・出会いの機会が少なくなり、パートナーシップや家族との関り(ライフ)によって得られる私的承認が満たされにくいという状況が課題となっているという。

そこで同社は、勤務先企業を通じて審査を受けた安心・安全なユーザーが集まるコミュニティを形成し、AIが出会いとコミュニケーションに伴走することで、信頼をともに育むライフパートナーの縁結びを提供している。Aill goenにより、社外の良縁とAIのテクノロジーの力で先の課題を解決すると同時に、社員の幸福度向上をアシストするという。

Aill goenは、福利厚生サービスとしてAillと提携した企業の独身社員のみが利用可能。社員の「ワーク」だけでなく「ライフ」もサポートする福利厚生サービスとして、現在780社以上の企業に利用されている。Aill goenには、生活サイクルやキャリアプランを軸に価値観が近い相手をAIが探す「紹介ナビゲーション」、AIがチャットをアシストする「会話ナビゲーション」、相手の好感度をAIが可視化する「好感度ナビゲーション」の機能を搭載。無料のトライアルプランのほか、紹介人数とチャット人数が充実した有料のスタンダードプランが用意されている。企業の福利厚生で使えるAI恋愛ナビAill goenが全国版・九州版に続き関西エリアでもサービス開始

「AIでウェルビーイングな社会をつくる」をミッションに掲げるAillは、今回のサービス地域の拡大により、利用者のさらなる良縁サポートに貢献したいという。

 

「臓器もどき」とAIで、医薬品開発のスピードアップと動物実験の削減を目指すイスラエルのQuris

創薬のプロセスに動物実験は必要悪だ。マウス(ハツカネズミ)は特に人間に近いとはいえないものの、マウスを代替するものはないようにも思える。イスラエルを拠点とするQuris(クリス)は「チップ上の患者(複数のオルガノイドをリンクさせたシステム)」のデータとAIとを組み合わせて、マウスを必要としない新開発の本格的な方法で、低コストで極めて信頼性の高い試験と自動化を実現する、と主張している。

同社は、試験運用から実際の生産に移行するために900万ドル(約10億3000万円)を資金調達した。また、錚々(そうそう)たる後援者およびアドバイザーたちも、同社のアプローチが持つ利点を示す有望な指標となっている。

ベースとなるのは非常に理にかなったアイデアだ。これまで以上に優れた人体の小規模シミュレーションを構築し、それを使って機械学習システムが解釈しやすいデータを収集する。もちろん「言うは易し、行うは難し」だが、研究者たちのそんなアイデアを受けて、Qurisはすぐさまこれを実行に移した。

Qurisのアプローチは、ハーバード大学で行われた、いわゆる「organs on a chip(生体機能チップ)」の使用に関する大規模な研究に基づいている。まだ比較的新しいが、この分野ではすでに確立されたシステムで、少量の幹細胞から作られた組織(オルガノイド、臓器もどき)を薬や治療法の実験台として使用し、例えば人間の肝臓がある物質の組み合わせに対してどのように反応するかを調べることができる。

ハーバード大学では、複数の臓器(肝臓、腎臓、心臓の細胞など)の生体機能チップをリンクさせることで、驚くほど効果的に人体のシミュレーションが可能になるということが発見された。本物(の人体)にはかなわないとはいえ、複数のオルガノイドをリンクさせたシステム=「チップ上の患者」は、マウス実験に代わる真の手段となる可能性がある。というのも、マウスでの実験に合格した分子が人での実験に合格する確率は10%未満という事実にもかかわらず、マウスでの実験は未だに行われているからである。

Qurisの共同設立者でCEOのIsaac Bentwich(アイザック・ベントウィッチ)氏は、同氏と同僚はこの研究結果が発表された直後にこの研究が持つ将来性に気づき、実験的なシステムから規模を拡大するために、エンジニアリングとAIという点で何が必要かを考え始めたという。Qurisが取り組むのは単なるマウスの代替ではない。制約のある、人を使った実験を、人を使わずに、かつマウスの不確実性を排除して(比較的)安価に行う方法である。

自動化された「チップ・オン・チップ」デバイスの全体像(画像クレジット:Quris)

ベントウィッチ氏はインタビューで次のように話す。「あなたが製薬会社だと仮定しましょう」「理論上では効果がありそうな分子があるとします。実際に効果があるかどうかを調べるのに、臨床試験を行う寸前まで待ちますか?ゲノム情報をいくら集めても、マウスの実験で失敗する確率は90%です。Qurisの手法があれば、レースに出る前にうまく機能する(しそうな)分子を選別することができるのです」。

医薬品候補が臨床段階に到達するまでに何百億円もの費用がかかることを考えると、失敗する(はずの)候補を除外するために、わずかな費用(数十億円程度)を費やす価値は十二分にある。手法が正確であれば(おそらく正確なはずだが)、リスクは実質的にゼロであり、高額を費やしながらも失敗する(はずの)医薬品候補を1つ除外するだけで元が取れる。ベントウィッチ氏によれば、要はソフトウェア産業における「Fail fast, fail cheap(損害の少ないうちにさっさと失敗しよう)」という考え方を、こういう考え方がまったく存在しなかった医薬品という領域に持ち込んだのだ。

Qurisのシステムでは、チップオンチップという技術を使用する。つまり、複数のオルガノイド(チップ)を並べて(別のチップ上に)配置するのだが、最新の研究室のシステムと比べてはるかに小さく、効率的である。ハーバード大学で行われた実験方法で100人分のオルガノイドを調査するには何億円もかかるが、Qurisのシステムでは100万円以下で済む。Qurisの自動システムには適切に訓練された機械学習モデルが採用され、使用する生体物質の量も少ないからだ。

機械学習モデルはQurisのもう1つの特徴である。実験を理解し、実験の実行と解釈をサポートするQuris独自のAIを機能させるには、同社だけのデータセットが欠かせない。同社のAIは、既存の医薬品や今後発売される医薬品の一部を学習済みで、物質の安全性にとってさまざまなセンサーからの信号がどのような意味を持つかを学習する。これにより(500匹のマウスの代わりに)一握りのチップで効果的な実験を行えるようになる。

チップ自体もすべて同じではない。幹細胞や組織を慎重に操作・選択することで、人のさまざまなタイプ、さまざまな状態や表現型を検査することができる。効果は十分だが10%の確率で副作用が起こる医薬品があり、その原因がわからないとしよう。自動化された環境で異なる遺伝的素質や複雑な要因に対するテストを行えば、どのような要素がその副作用を引き起こすのかを調べることができるかもしれない。

ラボで作業するQurisチームのメンバー(画像クレジット:Quris)

AIはこれらすべてを認識し、カタログ化しているので、比較的少数の自動テスト(数千ではなく数十のテスト、コストも数億円ではなく数十万円)で、その医薬品候補を臨床試験に持ち込めるかどうかを判断できるようになるはずだ。AIによる解釈がなければ、データの解析は(何種類もの博士号が必要なぐらいの)難しい問題になる。しかし、ベントウィッチ氏は、生物学的な側面を排除してAIだけに頼ることは決して想定できないとすぐに気づいたと言い「『AIは生物という相手と連携する必要がある』というのが、哲学、生物学という点での私たちの見解です」と話す。

科学諮問委員会に参加しているModerna(モデルナ)の共同設立者、Robert Langer(ロバート・ランガー)氏は、このTechCrunchのインタビューでベントウィッチ氏の見解に同意し、この技術はすぐに採用されるだろうが、(本質的に)保守的な大手製薬会社がどうするかはわからない、と予測している。

ランガー氏は次のように話す。「これは非常に大きなチャンスだと思います」「私は他の化学分野でも『AIを使ってこれらの予測を行うことができる』という類似のアイデアを持っています。(動物での、あるいは人での)試験に置き換わるものではありませんが、候補を絞ることで、プロセスを爆発的な速さで進めることができるだろうと思っています」。

ランガー氏やノーベル賞受賞者のAaron Ciechanover(アーロン・チカノーバー)氏のような人物を味方につけるのは良いことだが、ベントウィッチ氏は、Qurisのビジネスはランガー氏やチカノーバー氏の特許ポートフォリオとこの分野における優位性に依存している、と話す。Qurisはニューヨーク幹細胞財団と契約を締結し、財団の幹細胞ワークフローを特別に利用している。

このビジネスモデルには2つの柱がある。1つは、製薬会社に医薬品候補をスクリーニングするサービスを提供し、その結果が正確であると証明された場合(例えばQurisのシステムによって絞り込まれた医薬品が、予測通りに所定の試験をクリアした場合)に支払いを受け取るというものであり、もう1つは、自社の医薬品の開発だ。現在、同社は自閉症に関連する脆弱X症候群の治療薬を開発中で、来年には臨床試験を開始すると予定している。

ベントウィッチ氏は、AIを活用した創薬が急増し、投資が行われているにもかかわらず、自社の研究成果である分子が臨床試験に入ったといえる企業はほとんどない、と指摘する。この理由としては、たとえば企業が、特定の生物活性を持つ分子やその効率的な製造方法を公表するなどの主張を行っていないからではなく、(医薬品候補となる分子の)発見、試験、承認のプロセスには他にも時間のかかる多くのステップがあり、AIなどを利用することで以前よりは高くなったとはいえ、成功する確率はまだまだ低い、ということにある。

シードラウンドでの900万ドルの資金調達について、ベントウィッチ氏は「私たちの装置を製品化し、一層の効率化、自動化を図り、AIを訓練するために最初の100~1000種類の薬をテストするための資金として非常に有効です」と話す。プレスリリースによると、今回の資金調達ラウンドは「心血管治療のパイオニアであるJudith Richter(ジュディス・リヒター)博士とKobi Richter(コビ・リヒター)博士が主導し、データストレージの革新的技術の先駆者であるMoshe Yanai(モシェ・ヤナイ)氏と複数の戦略的エンジェル投資家が参加した」という。機関投資家からの投資が見当たらない点については読者の判断に委ねたい。

ベントウィッチ氏は、Qurisの未来を「完全にパーソナライズされた医療」という自身が持つ大まかな未来像の一部として捉えている。幹細胞のコストが下がり続ければ(数億円だったものがすでに数十万円に下がっている)、まったく新しい市場が開拓されるだろう。

「製薬会社が高価な実験をするだけという状況は変わるでしょう。5年後、10年後には、何億もの人々が創薬をしているかもしれません。考えてみれば、私たちの今の生活は、野蛮なものとも言えるのです」とベントウィッチ氏。「薬剤師は起こりうる可能性のある副作用を教えてくれますが、はっきりとしたことはわかりません。自分はモルモットだと思いませんか?私たちは全員がモルモットです。しかし、それこそがこの状況からの脱却の第一歩です」。

画像クレジット:Andrew Brookes / Getty Images

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

AIを活用しブランド・小売業者向けCRMを自動化するOmetriaが約45.5億円調達

ヤプリがノーコードの顧客管理システム「Yappli CRM」を提供開始、ポイント・電子マネーの発行やマーケ施策をワンストップで

2019年にシリーズBで2100万ドル(約23億9000万円)を調達したOmetriaは、ブランドや小売業者がマーケティングメッセージをパーソナライズできる「AIを活用した」カスタマーマーケティングプラットフォームを提供していた。

今回同社は、InfraVia GrowthがリードするシリーズCのラウンドで4000万ドル(約45億5000万円)を調達した。これには、従来からの投資家であるOctopus VenturesやSonae IM、Summit Action、Adjuvo、Columbia Lake Partners、さらに会長のLance Batchelor(ランス・バチェラー)氏ら初期の投資家も参加した。同社の資金調達額は、これで7500万ドル(約85億4000万円)になる。

同社によると、特に現在、消費者データの共有のされ方や共有先について、消費者自身がコントロールを握るようになってるため、この資金で同社のプロダクトとエンジニアリングのチームのサイズを今の3倍にするという。

新しいスタッフも雇用した。新しいチーフテクノロジーオフィサー(CTO)はSizmekのCTOだったMarkus Plattner(マーカス・プラットナー)氏、最高収益責任者は元App Annieの専務取締役Paul Barnes(ポール・バーンズ)氏、マーケティングのトップCMOは元Simon DataでTinycluesのMichelle Schroeder(ミシェル・シュローダー)氏だ。

OmetriaのCEOで創業者のIvan Mazour(イワン・マズア)氏によると「リテールのマーケターたちはみんな異口同音に個人化の重要性を主張してきましたが、消費者の1人としてインボックスを見るかぎり、マーケティングテクノロジーのベンダーはどこもそれを実現していません。その顧客体験のギャップの原因は、彼らのテクノロジースタックにある。Ometriaは、そのギャップを埋めるために創業されました」という。

InfraVia CapitalのパートナーであるGuillaume Santamaria(ギヨーム・サンタマリア)氏は「コマースの成功は、優れた顧客体験を作り出してブランドを差別化する能力にかかっています。Ometriaは、それを達成するためのソリューションを提供しています」という。

Ometriaの主な競合相手は、メールサービスのEmarsysやSailthru、Selligent、Bronto、Dotmailerなど、消費者行動マーケティングツールのCloudIQやSaleCycle、Yieldify、そしてカスタマーインサイトのMore2やAgileOneなどとなる。

同社の「共同マーケター」プラットフォームは、データサイエンスを利用して個人化されたマーケティング体験を作り最適化する。その主な顧客企業は、Steve Madden、Aden + Anais、Pepe Jeans、MADE.com、Notonthehighstreet.com、Hotel Chocolat、Feeluniqueなどだ。

さらにマズア氏は「現在、リテールのマーケターたちは、顧客の期待に沿えないという問題を抱えています。100万の人間がいて、30種類のタッチポイントがあると考えると、その多様性が膨大な数であることがわかるでしょう。それはSMSやメールだけではありません。このニーズに応える方法は、人間とマシン / コンピューターインテリジェンスのハイブリッドだけです」と付け加えた。

画像クレジット:Ometria

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(文:Mike Butcher、翻訳:Hiroshi Iwatani)

レブコム、Zoom面談のAI文字起こしとトーク分析が可能な「MiiTel for Zoom(ベータ版)」提供開始

レブコムがオンライン商談の会話をAIが解析・可視化する新サービス「MiiTel Live」開始

RevComm(レブコム)は11月10日、AIによる文字起こしとトーク分析機能によりZoom面談の可視化・社内共有を可能にする「MiiTel for Zoom(ベータ版)」の提供を開始した。音声解析AI電話「MiiTel」ブランドの新サービスにあたり、MiiTelとZoomとの連携により、電話だけではなくZoomでのオンライン会議も含めた会話を一元管理し、社内資産としてストック化できるようになる。

レブコム、Zoom面談のAI文字起こしとトーク分析が可能な「MiiTel for Zoom(ベータ版)」提供開始

MiiTel for Zoom(ベータ版)の特徴

  • 自動文字起こし・話者特定:Zoom面談の内容を自動で文字起こし可能。声紋を事前に登録すると、3人以上が参加する面談・会議でも話者を特定できる
  • 録画の共有:Zoom録画を「MiiTel」のダッシュボード上で管理することで、必要な動画を検索・再生でき、またURLをコピー&ペーストで共有できる
  • トークのスコアリング:AIが音声を解析し、「話す速度」「顧客との被り回数」「沈黙回数」などを定量評価

録画データについては、Zoomでクラウド録画した場合、会議終了時に自動的に録画データがMiiTel管理画面に保存され、録画データとともに音声認識結果、会議中のチャット履歴などが表示される。Zoomのクラウド録画を利用していない場合でも、録画ファイル(MP4形式)があれば、手動でアップロードできる。これにより、Zoom以外での録画や過去の録画データを社内共有に活用できるとしている。

MiiTel for Zoom(ベータ版)は、「MiiTel」を利用していない場合でも単体で利用可能。MiiTelとのセット価格の場合、利用料金は、月40時間までのトライアルプラン(税別1980円/ID/月)と、月100時間までのスタンダードプラン(税別3980円/ID/月)となる。単体契約の場合は別途、閲覧専用 ID利用料980円/月がかかる。また月次契約で10ID以下の契約の場合は、別途事務手数料がかかる。

MiiTelは、電話営業やコンタクトセンター業務における、会話の内容を解析し、高精度のフィードバックを行うことで商談獲得率・成約率を向上させる、日本発の音声解析AI電話サービス。顧客と担当者が「何を」「どのように」話しているか分からないというブラックボックス化問題を解消し、アナログな議事録作成も自動文字起こし機能により軽減するという。また、MiiTelにより蓄積された顧客とのリアルな音声データは、自社の教育研修、サービス開発、機能改善などに活用できるとしている。

タクシーの相乗り解禁、NearMeが街中で行きたいところまでドアツードアで移動できるnearMe.Townを12月始動

nearMeの空港送迎相乗りシャトルバス「スマートシャトル」が関西進出、関西空港・伊丹空港と京都府13地域を結ぶ

オンデマンド型シャトルサービス「スマートシャトル」(nearMe.Airport)を展開するNearMe(ニアミー)は11月12日、街中でも行きたいところまでドアツードアで移動できる「nearMe.Town」(ニアミー タウン)の12月開始を発表した。サービス提供エリアは、12月の中央区・千代田区・港区・江東区の4区を皮切りに、東京都23区内のうち想定利用者が多いエリアにおいて順次拡大する予定。サービス開始タイミングで利用を検討している方は、初期ユーザーとして案内できるよう公式サイトでユーザー登録を行うよう呼びかけている。サービスローンチ前日まで応募を受け付けているそうだ。

同サービスは、国土交通省が発表した、11月1日運用開始の一般乗用旅客自動車運送事業における相乗り旅客の運送を受けたもの。これにより、配車アプリなどを介して、目的地の近い乗客・旅客同士を運送開始前にマッチングさせて運送するという、タクシーの相乗り(シェアタク)が可能となっている。

ニアミーは、リアルタイムの位置情報を活用して地域活性化に貢献する「瞬間マッチング」プラットフォーム作りを目指し、MaaS領域において、主に空港と都市をドアツードアで結ぶスマートシャトルを2019年より展開している。独自開発AIによる効率的なルーティングを実施しており、この効率化を街中でも提供できるよう、12月からのnearMe.Townの本格始動に至ったという。

さらに同社は、相乗り解禁を見据え、乗車客と相乗り運行を行うタクシー・ハイヤーなどの運行会社のDXを鑑みた2種の特許を取得している。

  • 現在地情報に基づく相乗りマッチング機能(特許第6813926号):タクシーの相乗りの際のユーザー同士のマッチング時に、ユーザーがそのマッチング候補者の現在地の情報を画面上で確認した上で、相乗りをするかどうかを選択できる機能に関するもの。同機能により、ユーザーは、より質の高い「瞬間マッチング」プラットフォームを体験可能になるとしている
  • 1-Click相乗り配車(特許第6931446号):前日までの事前予約制のスマートシャトルにおいて、ニアミー独自AIにより、同乗者を特定した上で効率的なルーティングを実施し、タクシー・ハイヤー会社がワンクリックで受注から配車まで一気通貫でに行える機能。同機能により、相乗り予定の乗客と、タクシー・ハイヤーの車両のマッチング精度が向上し、乗客に対しては迅速な配車確定連絡を、タクシー・ハイヤー運行会社に対しては適切な業務の割り当てが可能となる

また同社は、新型コロナウイルス対策として以下を実施している。

  • 乗車中の車内換気を徹底
  • 全乗務員は運行前に検温を行い、マスクを着用
  • アルコール消毒を設置し、乗車の際には乗車客に消毒を依頼
  • 前日までに乗車客を決定し、感染者が出た場合早急に対応
  • 降車後の清掃の際、乗車客の触れる箇所にアルコール消毒を実施
  • 乗車客同士が隣接しないよう、少人数・大型車で展開
  • 乗車客にはマスクの着用を依頼

ソフトバンクがプライベート5G商用化のための研究施設「AI-on-5G Lab.」をNVIDIAと合同で開設

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ソフトバンクは11月10日、5Gの仮想化無線ネットワークvRANとMECが融合した環境でAI技術などのソリューションの実証や技術応用を行う研究施設「AI-on-5G Lab.」を、NVIDIAと合同で開設すると発表した。これより、プライベート5G向けのソリューション開発や、完全仮想化されたプライベート5Gの商用化を推進するという。

vRAN(virtualized Radio Access Network)とは、モバイル機器とインターネットとをつなぐ親局の専用ハードウェアの仕事を汎用コンピューター内のソフトウェアで仮想的に行う仕組み。MEC(Multi-access Edge Computing)は、マルチアクセス・エッジコンピューティングの略で、端末の近くにサーバーを分散配置するネットワーク技法のことをいう。これらを利用することで、事業所などが独自の5Gネットワーク、つまりプライベート5Gを構築できるようになる。「AI-on-5G Labs.」は、そうしたシステムをAIで最適化・自動化し、普及を目指そうとしている。

またvRAN普及のメリットとして、通信機器を汎用サーバー上にソフトウエアで構成することによるコストダウンをはじめ、通信以外の様々なアプリケーションを構成する役割を同時に提供可能な点を挙げている。例えばプライベート5Gを導入している工場において、通信を行っていない夜間帯に、MECに集積された情報をAI学習するための資源として活用することで、工場の生産性向上を図れるという。

この研究施設では、ソフトバンクが2018年から共同研究を行ってきたNVIDIAのGPUなどのハードウェアが使われ、それを用いてvRANとMECの機能を統合し、さまざまな検証が行われる。具体的には、ソフトバンクが提供するプライベート5G上で、NVIDIAのハードウェア、基地局の仮想化、AI処理のミドルウェア、アメリカのネットワークソフトウエアプロバイダーMavenirが提供する仮想化無線信号処理ソフトウェアとコアネットワークのソフトウェア、台湾のFoxconnの物理的アンテナを用いて完全仮想化プラットフォームを構築する。これを使って、プライベート5Gのユースケースの商用化に向けた検証を行うとのことだ。

またソフトバンクは、「6Gに向けた12の挑戦」として、ベストエフォートからの脱却、モバイルのウェブ化、電波による充電などといった目標を示しているが、その中の「AIのネットワーク」の開発検証を「AI-on-5G Labs.」で行うと話している。

NVIDIAがエッジコンピューティング向け超小型AIスーパーコンピューター「Jetson AGX Orin」を発表

NVIDIAは11月9日、ロボットや医療機器などのAIエッジコンピューティング機器に組み込める超小型の「AIスーパーコンピューター」Jetson(ジェットソン)シリーズの新世代機種「AGX Orion」(オライオン)を発表した。

前世代のAGX Xavier(ゼイビアー)とフォームファクター(100x87mm)は同じながら処理速度は6倍、200TOPS(1秒間に200兆回の命令処理が可能)という性能を誇る。NVIDIA AmpereアーキテクチャーGPUとArm Cortex-A78AE CPU、次世代の深層学習セラレーター、ビジョンアクセラレーターを搭載し、複数の並列AIアプリケーション・パイプラインにフィードできるため、高速インターフェース、高速なメモリー帯域、多彩なセンサーのサポートが可能になっている。消費電力は15W。最大でも50Wとのこと。

ソフトウェアは、NVIDIA CUDA-Xアクセラレーテッド・コンピューティング・スタック、NVIDIA JetPack SDK、クラウドネイティブな開発ワークフローを含むアプリケーション開発と最適化のための最新のNVIDIAツールが利用できる。また、トレーニング済みのNVIDIA NGCカタログもある。

またJetsonには、85万人の開発者、Jetson搭載製品を製造する6000社以上の企業からなる巨大なエコシステムがあり、センサー、キャリアボード、ハードウェア設計サービス、AIおよびシステムソフトウェア、開発者ツール、カスタムソフトウェア開発といったサービスや製品が利用できる。これにより、「かつては不可能と思われていた自律動作マシンとエッジAIアプリケーションを開発および展開できるようになる」と、NVIDIAのバイスプレジデント、ディープゥ・タッラ氏は話している。

NVIDIA Jetson AGX Orinモジュールと開発者キットの発売は、2022年第1四半期を予定している。

Jeston AGX Orionモジュール仕様

  • AI性能: 200 TOPS (INT8)
  • GPU:2048基のNVIDIA CUDAコアと64基のTensorコア搭載、NVIDIA Ampereアーキテクチャー
  • GPUの最大周波数:1GHz
  • CPU:12コア Arm Cortex A78AE v8.2 64ビットCPU 3MB L2+6MB L3
  • CPUの最大周波数:2GHz
  • DLアクセラレータ−:NVDLA v2.0×2
  • ビジョンアクセラレーター:PVA v2.0
  • メモリー:32GB 256ビットLPDDR5 204.8GB/秒
  • ストレージ:64GB eMMC 5.1
  • CSIカメラ:最大6台のカメラ(仮想チャネル経由で16台)。16レーン MIPI CSI-2。D-PHY 1.2(最大40Gbps)| C-PHY 1.1(最大164Gbps)
  • ビデオエンコード:2x 4K60 | 4x 4K30 | 8x 1080p60 | 16x 1080p30(H.265)
  • ビデオデコード:1x 8K30 | 3x 4K60 | 6x 4K30 | 12x 1080p60| 24x 1080p30(H.265)
  • UPHY:2 x8(または 1×8+2×4)、1 x4、2 x1(PCIe Gen4、ルートポート&エンドポイント)。USB 3.2×3。シングルレーンUFS
  • ネットワーキング:1GbE×1、10GbE×4
  • ディスプレイ:1x 8K60 マルチモードDP 1.4a(+MST)/eDP 1.4a/HDMI 2.1
  • その他の I/O:USB 2.0×4、4×UART、3×SPI、4×I2S、8×I2C、2×CAN、DMIC&DSPK、GPIOs
  • 消費電力:15W | 30W | 50W
  • サイズとコネクタ−:100mm×87mm、699ピンMolex Mirror Mezzコネクター、一体型熱伝導プレート

【コラム】AIのトレードオフ:強力なパワーと危険な潜在的バイアスのバランス

新たなAIツールのリリースが続く現在、有害なバイアスが存続するリスクがますます高まっている。特に、今までAIアルゴリズムのトレーニングに使用されてきた社会的・文化的規範の多くが改めて認識された2020年以降、このリスクは増大し続けると考えられる。

膨大な量のトレーニングデータを元に本質的に強力な基本モデルがいくつか開発されているが、有害なバイアスのリスクは残存している。私たちはこの事実を認識する必要がある。

認識すること自体は簡単だろう。理解すること、そして将来のリスクを軽減することははるかに困難だ。AIモデルの開発にともなうリスクをより正しく理解するためには、まずバイアスの根源を確実に知る必要がある。

バイアスの隠された原因

現在のAIモデルは、事前に学習されたオープンソースであることが多く、研究者や企業はAIをすばやく導入し、個々のニーズに合わせて調整することができる。

このアプローチではAIを商業的に利用しやすくなるが、真の弱点もここにある。つまり、業界や地域を問わず、AIアプリケーションの大半が一握りのモデルに支えられているのだ。これらのAIモデルは、検出されていないバイアス、あるいは未知のバイアスから逃れられず、これらのモデルを自分のアプリケーションに適応させることは、脆弱な基盤の上で作業することを意味する。

スタンフォード大学のCenter for Research on Foundation Models(CRFM)が最近行った研究によると、これらの基本モデルやその基礎となるデータに偏りがあると、それが使用されるアプリケーションにも引き継がれ、増幅される可能性があるという。

例えばYFCC100MはFlickrで公開されているデータセットで、一般的にモデルの学習に利用される。このデータセットの人物画像を見ると、全世界(であるはず)の画像が米国に大きく偏っていて、他の地域や文化の人々の画像が不足していることがわかる。

このように学習データに偏りがあると、AIモデルの出力に、白人や欧米の文化に偏るといった過小評価や過大評価のバイアスがかかる。複数のデータセットを組み合わせて大規模なトレーニングデータを作成すると、透明性が損なわれ、人や地域、文化がバランス良く混在しているかどうかを知ることがますます困難になる。結果として重大なバイアスが含まれたAIモデルが開発されてしまうのは当然と言えるだろう。

さらに、基本となるAIモデルが公開されても、通常、そのモデルの限界に関する情報はほとんど提供されない。潜在的な問題の検出はエンドユーザーによるテストに委ねられているが、このステップは往々にして見過ごされる。透明性と特定のデータセットの完全な理解がなければ、女性や子ども、発展途上国の出力結果が偏るといったAIモデルの限界を検出することは困難だ。

Getty Images(ゲッティイメージズ)では、さまざまなレベルの能力を持つ人、性的流動性、健康状態など、実存して生活している人物の画像を含む一連のテストで、コンピュータビジョンモデルにバイアスが存在するかどうかを評価している。すべてのバイアスを検出することはできないが、包括的な世界を表現することの重要性を認識し、存在する可能性のあるバイアスを理解し、可能な限りそれに立ち向かうことが重要だと考えている。

メタデータを活用してバイアスを軽減する

具体的にはどうすれば良いのだろうか?Getty ImagesでAIを使用する際は、まずトレーニング用データセットに含まれる人物の年齢、性別、民族などの内訳を確認することから始める。

幸いなことに、Getty Imagesがライセンスを供与するクリエイティブコンテンツでは、モデルリリース(写真の被写体による当該写真を公表することへの許諾)を要求しているので、この確認が可能である。そして、写真のメタデータ(データを記述する一連のデータ、データに関するデータ)に自己識別情報を含めることで、Getty ImagesのAIチームは何百万枚、何千万枚もの画像を自動的に検索し、データの偏りを迅速に特定できる。オープンソースのデータセットは、メタデータの不足によって制約を受けることが多い。複数のソースのデータセットを組み合わせてより大きなデータセットを作ろうとすると、メタデータの不足という問題はさらに悪化する。

しかしながら、現実としては、すべてのAIチームが膨大なメタデータにアクセスできるわけではないし、Getty Imagesも完璧ではない。より強力なモデルを構築するためにトレーニングデータセットを大きくすればするほど、そのデータに含まれる歪みやバイアスの理解は犠牲になってしまう、という本質的なトレードオフが存在するのだ。

世界中の産業や人々がデータに依存している現在、AI業界はこのトレードオフを克服する方法を見つける必要がある。鍵となるのは、データを中心としたAIモデルをもっと注視していくことであり、その動きは徐々に活発になっている

私たちができること

AIのバイアスに対処するのは簡単ではなく、今後数年間はテクノロジー業界全体で協力していく必要があるが、小さいながらも確実な変化をもたらすために、実務者が今からできる予防的な対策がある。

例えば基本となるモデルを公表する際には、その基礎となったトレーニングデータを記述したデータシートを公開し、データセットに何が含まれているかの記述統計(データの特徴を表す数値)を提供することが考えられる。そうすれば、ユーザーはモデルの長所と短所を把握することが可能で、情報に基づいた意思決定を行えるようになる。このインパクトは非常に大きいはずだ。

前述の基本モデルに関するCRFMの研究では「十分なドキュメンテーションを提供するための、コストがかかり過ぎず、入手が困難ではない適切な統計情報は何か?」という問題が提起されている。ビジュアルデータでいえば、メタデータとして年齢、性別、人種、宗教、地域、能力、性的指向、健康状態などの分布が提供されれば理想的だが、複数のソースから構成された大規模なデータセットでは、コストがかかり過ぎ、入手も困難である。

これを補完するアプローチとして、基本モデルの既知のバイアスや一般的な制約をまとめたリストにアクセスできるようにする。簡単にアクセスできるバイアステストのデータベースを開発し、そのモデルを使用するAI研究者に定期的にアクセスしてもらうこともできるだろう。

この例としては、Twitter(ツイッター)は先ごろ、AIのエキスパートにアルゴリズムのバイアスを検出してもらうというコンペを開催した。繰り返しになるが、認識と自覚はバイアスを緩和するための鍵である。このコンテストのような取り組みが、あらゆる場面でもっと必要だ。このようなクラウドソーシングを定期的に実践すれば、個々の実務者の負担も軽減することができる。

まだ答えがすべて出ているわけではないが、より強力なモデルを構築していくためには、業界として、使用しているデータをしっかりと見直す必要がある。強力なモデルではバイアスが増幅されるから、モデル構築の際に自分が果たすべき役割を受け入れなければならない。特に、AIシステムが実際の人間を表現したり、人間と対話したりするために使用される場合は、使用しているトレーニングデータをより深く理解する方法を模索することが重要だ。

このように発想を転換すれば、どのような規模でもどのような業種でも、歪みをすばやく検出し、開発段階で対策を講じてバイアスを緩和することが可能だ。

編集部注:本稿の執筆者Andrea Gagliano(アンドレア・ガリアーノ)氏は、Getty Imagesのデータサイエンス部門の責任者。

画像クレジット:Hiroshi Watanabe / Getty Images

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(文:Andrea Gagliano、翻訳:Dragonfly)