【コラム】アジャイルなスタートアップモデルに倫理観を導入する時代がきた

アイデアを得て、チームを作り、「実用最小限の製品(MVP)」を完成させてユーザーに届ける。これは誰もが知っているスタートアップの事業の進め方である。

しかし、人工知能(AI)や機械学習(ML)がハイテク製品のいたるところに導入されるようになり、意思決定プロセスにおいてAIが人間を補強、または代替することの倫理的意味を市場がますます意識するようになった現在、スタートアップはMVPモデルの再考を迫られている。

MVPモデルとは、ターゲット市場から重要なフィードバックを収集し、製品の発売に向けて必要な最小限の開発に反映させるというもので、今日の顧客主導型ビジネスを推進する強力なフィードバックループを生み出している。過去20年間で大きな成功をもたらした、スマートでアジャイルなこのモデルは、何千社ものスタートアップを成功に導き、その中には10億ドル規模に成長した企業もある。

しかし、大多数のために機能する高性能な製品やソリューションを構築するだけでは、もはや十分ではない。有色人種に偏見を持つ顔認識技術から、女性を差別する信用貸付アルゴリズムまで、ここ数年間でAIやMLを搭載した複数の製品が、その開発とマーケティングに何百万ドル(何億円)も注ぎ込まれた後に倫理的ジレンマが原因で消滅している。アイデアを市場に出すチャンスが一度しかない世界でこのリスクはあまりにも大きく、安定した企業であっても致命的なものになりかねない。

かといってリーンなビジネスモデルを捨て、よりリスク回避的な代替案を選ばなければならない訳ではない。リーンモデルの俊敏性を犠牲にすることなく、スタートアップのメンタリティに倫理性を導入できる中間領域があるのだが、そのためにはスタートアップの最初のゴールとも言える初期段階の概念実証から始めると良い。

そして企業はMVPを開発する代わりに、AI / MLシステムの開発、展開、使用時に、倫理的、道徳的、法的、文化的、持続可能、社会経済的に考慮するアプローチであるRAI(責任ある人工知能)に基づいた倫理的実行可能製品(EVP)を開発して展開すべきなのである。

これはスタートアップにとってだけでなく、AI / ML製品を構築している大手テクノロジー企業にとっても優れた常套手段である。

ここでは、特に製品に多くのAI/ML技術を取り入れているスタートアップがEVPを展開する際に利用できる、3つのステップをご紹介したい。

率先して行動する倫理担当者を見つける

スタートアップには、最高戦略責任者、最高投資責任者、さらには最高ファン責任者などが存在するが、最高倫理責任者はそれと同じくらい、またはそれ以上に重要な存在だ。さまざまなステークホルダーと連携し、自社、市場、一般の人々が設定している道徳的基準に適合する製品を開発しているかどうかを確認するのがこの人物である。

創業者、経営幹部、投資家、取締役会と開発チームとの間の連絡役として、全員が思慮深く、リスクを回避しながら、正しく倫理的な質問をするよう、とりはからうのもまたこの人物の仕事である。

機械は過去のデータに基づいて学習する。現在のビジネスプロセスにシステム的な偏りが存在する場合(人種や性別による不平等な融資など)、AIはそれを拾い上げ、今後も同じように行動するだろう。後に製品が市場の倫理基準を満たさないことが判明した場合、データを削除して新しいデータを見つけるだけでは解決しない。

これらのアルゴリズムはすでに訓練されているのである。40歳の男性が、両親や兄妹から受けてきた影響を元に戻せないのと同様に、AIが受けた影響も消すことはできない。良くも悪くも結果から逃れることはできないのだ。最高倫理責任者はAI搭載製品にそのバイアスが染み込む前に、組織全体に内在するそのバイアスを嗅ぎ分ける必要がある。

開発プロセス全体へ倫理観を統合する

責任あるAIは一度きりのものではなく、組織のAIとの関わり合いにおけるリスクとコントロールに焦点を当てた、エンド・ツー・エンドのガバナンスフレームワークである。つまり倫理とは、戦略や計画から始まり、開発、展開、運用に至るまで、開発プロセス全体を通じて統合されるべきものなのだ。

スコーピングの際、開発チームは最高倫理責任者と協力して、文化的、地理的に正当な行動原則を表す倫理的なAI原則を常に意識するべきである。特定の利用分野において道徳的な決定やジレンマに直面したとき、これらの原則はAIソリューションがどのように振る舞うべきかを示唆し、アイデアを与えてくれるだろう。

何より、リスクと被害に対する評価を実施し、身体的、精神的、経済的に誰も被害に遭っていないことを確かめる必要がある。持続可能性にも目を向け、AIソリューションが環境に与える可能性のある害を評価するべきだ。

開発段階では、AIの利用が企業の価値観と一致しているか、モデルが異なる人々を公平に扱っているか、人々のプライバシーの権利を尊重しているかなどを常に問い続ける必要がある。また、自社のAI技術が安全、安心、堅牢であるかどうか、そして説明責任と品質を確保するための運用モデルがどれだけ効果的であるかも検討する必要がある。

機械学習モデルの要素として重要なのが、モデルの学習に使用するデータである。MVPや初期にモデルがどう証明されるかだけでなく、モデルの最終的な文脈や地理的な到達範囲についても配慮しなければならない。こうすることで、将来的なデータの偏りを避け、適切なデータセットを選択することができるようになる。

継続的なAIガバナンスと規制遵守を忘れずに

社会的影響を考えると、EUや米国などの立法機関がAI/MLの利用を規制する消費者保護法を成立させるのは時間の問題だろう。一度法律が成立すれば、世界中の他の地域や市場にも広がる可能性は高い。

これには前例がある。EUで一般データ保護規則(GDPR)が成立したことをきっかけに、個人情報収集の同意を証明することを企業に求める消費者保護政策が世界各地で相次いだ。そして今、政界、財界を問わずAIに関する倫理的なガイドラインを求める声が上がっており、またここでも2021年にAIの法的枠組みに関する提案をEUが発表し、先陣を切っている。

AI/MLを搭載した製品やサービスを展開するスタートアップは、継続的なガバナンスと規制の遵守を実証する準備を整える必要がある。後から規制が課される前に、今からこれらのプロセスを構築しておくよう注意したい。製品を構築する前に、提案されている法律、ガイダンス文書、その他の関連ガイドラインを確認しておくというのは、EVPには欠かせないステップである。

さらに、ローンチ前に規制や政策の状況を再確認しておくと良いだろう。現在世界的に行われている活発な審議に精通している人物に取締役会や諮問委員会に参加してもらうことができれば、今後何が起こりそうかを把握するのに役立つだろう。規制はいつか必ず執行されるため、準備しておくに越したことはない。

AI/MLが人類に莫大な利益をもたらすというのは間違いない事実である。手作業を自動化し、ビジネスプロセスを合理化し、顧客体験を向上させる能力はあまりにも大きく、これを見過ごすわけにはいかない。しかしスタートアップは、AI/MLが顧客、市場、社会全体に与える影響を強く認識しておく必要がある。

スタートアップには通常、成功するためのチャンスが一度しかないため、市場に出てから倫理的な懸念が発覚したために、せっかくの高性能な製品が台無しになってしまうようではあまりにももったいない。スタートアップは初期段階から倫理を開発プロセスに組み込み、RAIに基づくEVPを展開し、発売後もAIガバナンスを確保し続ける必要がある。

ビジネスの未来とも言えるAIだが、イノベーションには思いやりや人間的要素が必要不可欠であるということを、我々は決して忘れてはならないのである。

編集部注:執筆者のAnand Rao(アナンド・ラオ)氏はPwCのAIグローバル責任者。

画像クレジット:I Like That One / Getty Images

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(文:Anand Rao、翻訳:Dragonfly)

メルカリが社員の博士課程進学の支援制度開始、週休4日など柔軟な働き方のもと学費を全額支給し研究活動・学び直し支援

メルカリが社員の博士課程進学の支援制度開始、週休3日・4日など柔軟な働き方のもと学費を全額支給し研究活動・学び直し支援

メルカリの研究開発組織「mercari R4D」(R4D。アールフォーディー)は1月28日、将来的に事業の発展や社会的課題の解決に貢献しうる専門領域において博士課程への進学を希望するメルカリ社員を対象に、学費や研究時間の確保を支援する新制度「mercari R4D PhD Support Program」を導入すると発表した。2022年2月より実施する。

同制度は当面の間メルカリの社内制度として運用するが、今後募集対象を社外に拡大することも検討するという。募集対象の拡大により、将来的には研究機関とのネットワークの拡大や研究能力が高い学生の就職機会の創出、新たな研究テーマ・研究領域の開拓、イノベーションの活性化につなげていきたいと考えているとしている。

社会人博士支援制度「mercari R4D PhD Support Program」概要

  • 対象
    ・応募条件:メルカリグループに2年以上在籍する社員で、直近の評価が一定の基準を満たすもの
    ・研究分野:メルカリグループのミッション達成に向けて有益であり、今後の経済発展や社会的課題の解決につながる研究テーマであれば不問。進学先は国内の大学院に限る
  • 支援内容
    ・博士課程進学時の学費支援:学費の全額支給(入学金等含む、最大年間200万円程度を想定)。原則3年間(研究内容によっては延長あり)
    ・研究と両立可能な業務時間の選択:時短なし(週5日間) / 80%稼働(週4日間程度勤務) / 60%稼働(週3日間程度勤務) / 休業(勤務なし)
    ・研究開発機関「mercari R4D」によるサポート:メルカリアプリデータなど、機密情報の研究利用手続きのフォロー。研究相談
  • 選考スケジュール:初回は2022年秋季の大学院入学を想定し、2月に社内募集開始、6月頃までに内定を予定

昨今、いったん学校を離れたあとも、生涯を通じ自身のキャリアに必要な新たな知識を学び続けていくリカレント教育への関心が高まっている。またこれら高度な専門知識の習得により、個人にとってはキャリアの新しい可能性が拓くとともに、企業にとってはイノベーションの促進や長期的な競争力がもたらされるものと期待されている。

一方、日本では他の先進国と比べて社会人による大学院での学び直しの機会は少なく、特に博士課程への進学については、学費などの金銭的な負担や、働きながら研究時間を確保することが困難であることから、高いハードルがある。

こうした現状を背景に、メルカリおよびR4Dは、既存の枠にとらわれず、メルカリグループのミッション達成に貢献し、広く経済発展と社会的課題の解決に資する研究テーマを持つ人材を育成・支援するために、社会人博士支援制度「mercari R4D PhD Support Program」を導入し、2022年2月より社内募集を開始する。

同制度では、メルカリの事業・経営に関する専門領域において博士課程への進学を希望するメルカリ社員を対象に、在学中の学費の全額支給をはじめ、研究と仕事を両立し、個々人が最適な形で研究活動を設計できるよう、週0日から週5日の間で業務時間を選べるようになる。また、R4Dが機密情報の研究利用手続きのフォローなど、研究に必要な支援も行う。

同制度を通じた学び直しの機会を提供することで、社員にとっては、メルカリに在籍しながらキャリアの再設計や新たな活躍機会の獲得が可能になる。またメルカリおよびR4Dは、これまでR4Dが扱ってきた量子情報技術、AI、ブロックチェーン、モビリティなどの研究開発領域にとらわれることのない分野に人材を派遣でき、高度な専門知識を備え、イノベーションを起こしうる多様な人材の育成を強化する。

mercari R4Dは、2017年12月に設立した、社会実装を目的とした研究開発組織。R4Dは、研究(Research)と4つのD、設計(Design)・開発(Development)・実装(Deployment)・破壊(Disruption)を意味する。「テクノロジーの力で価値交換のあり方を変えていく」をコアコンセプトに、メルカリグループのサービスや事業における将来的なイノベーション創出を目指し、AI、ブロックチェーン、HCI(ヒューマン・コンピューター・インタラクション)、量子コンピューティング、モビリティなどの研究開発を行っている。

AIが自動で動画内の顔やナンバープレートにぼかし加工し匿名化、プライバシーを保護するビデオツールのPimlocが約8.7億円調達

英国のコンピュータービジョン関連のスタートアップであるPimloc(ピムロク)は、動画の匿名化を迅速に行うAIサービスを販売するために、顔やナンバープレートのぼかしを自動化したり、その他の一連のビジュアル検索サービスを提供したりするなど、事業内容を強化してきた。同社は今回、新たに750万ドル(約8億7000万円)のシード資金を調達したと発表。このラウンドはZetta Venture Partners(ゼッタ・ベンチャー・パートナーズ)が主導し、既存投資家のAmadeus Capital Partners(アマデウス・キャピタル・パートナーズ)とSpeedinvest(スピードインベスト)が参加した。

このスタートアップ企業は、2020年10月にも180万ドル(約2億1000万円)のシード資金を調達しているが、今回の資金は欧州と米国での事業拡大と、データ法制の広がりや生体認証のプライバシーリスクに関する世論の高まりへの対応に使用されるという。後者に関しては、一例として顔認識技術のClearview AI(クリアビューAI)に対するプライバシー面からの反発などを挙げている。

Pimlocは営業、マーケティング、研究開発チームを強化するとともに、動画のプライバシーとコンプライアンスに焦点を当てた製品ロードマップの拡大のために、この資金を投じると述べている。

同社が狙うビジネスニーズは、小売業、倉庫業、工場などの業界で、安全性や効率性を高めるためにビジュアルAIの利用が拡大していることに焦点を当てている。

しかし、AIを活用した職場の監視ツールの増加は、労働者のプライバシーリスクを生み、リモートでの生体認証を導入する企業にとっては、これが法的リスクや風評被害の原因となる可能性がある。

そこでPimlocは、AIがプライバシーのために機能する第三の方法を提案している。それは「生産効率を高めるために使われるビジュアルデータを匿名化し、労働者のプライバシーを優先するために役立てる」というものだ。これについて、企業と協議しているという。

Pimlocによると、同社の「Secure Redact(セキュア・リダクト)」は、SaaSとしてまたはAPIやコンテナを介して販売されており、現地のビデオワークフローやシステムに統合することができる。この製品は、データプライバシー規制(欧州の一般データ保護規則やカリフォルニア州の消費者プライバシー法など)に準拠したビデオ証拠を提供しなければならない団体で、すでに使用されているという。

Pimlocは、顧客数を明らかにしなかったものの、CEOのSimon Randall(サイモン・ランドール)氏はTechCrunchに次のように語った。「欧州と米国を中心に輸送、製造、教育、健康、自動走行車、施設管理、法執行機関など、さまざまな分野で多くのユーザーにご利用いただいています。興味深いのは、そのすべてが同じニーズを持っているということです。つまり、CCTVでも、ダッシュボードでも、装着式カメラの映像でも、いずれもデータプライバシーやコンプライアンスのために映像の匿名化を必要としているのです」。

画像クレジット:Pimloc

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

動画を利用する本人確認サービスのVeriffがシリーズCラウンドで約115億円を調達

本人確認サービスを提供するVeriff(ベリフ)は、Tiger Global(タイガー・グローバル)とAlkeon(アルケオン)が共同主導する1億ドル(約115億円)のシリーズCラウンドを実施した。既存投資家のIVPとAccel(アクセル)もこれに参加し、Veriffがこれまでに調達した資金総額は2億ドル(約230億円)に達した。今回の資金調達により、同社の企業評価額は15億ドル(約1724億円)となっている。この新たな資金は、従業員の増強、研究開発、販売およびマーケティングに使われる予定だ。

エストニアを拠点とするこのスタートアップ企業の「特別なソース」は、AIによる動画を使って本人確認を行うことだ。これまで、この分野にはOnFido( オンフィド)やJumio(ジュミオ)などの大手スタートアップがサービスを提供してきたが、これらの企業は動画ではなく依然として静止画に依存している。

Veriffは、この動画を用いるアプローチによって、オンライン本人確認を、物理的な対面認証よりも「より正確」にし、より多くの詐欺を防ぐことができると主張している。

同社によると、2021年の確認実績は8倍以上、米国では20倍、金融サービス事業は10倍に成長し、顧客数は150%増加したという。

VeriffのCEO兼創業者であるKaarel Kotkas(カーレル・コトカス)氏は、次のように述べている。「組織や消費者は、2021年にはこれまで以上にオンラインでの本人確認を必要としていました。リモートによる従業員の研修や、メタバースのゲームで安全な空間を構築するため、そして完全にオンラインで行う事業運営においても、デジタルにおける信頼性と透明性の確立は、非常に重要になっています」。

Tiger GlobalのパートナーであるJohn Curtius(ジョン・カーティウス)氏は次のように述べている。「現代のデジタルビジネスと消費者のための信頼性の高い本人確認ソリューションは、過去2年の間に事業運営におけるすべての業務がオンラインに移行したことで、深刻化しています。Veriffは、オンラインで信頼と安全を確保するために、業界をリードする製品を開発してきました。我々の調査と顧客から声によると、Veriffの製品性能は他社を大きく引き離しており、世の中の企業にもっと広く利用されるべきです」。

筆者はコトカス氏にインタビューし、Veriffのプラットフォームの精度を高めるためには、他にどのようなことが行われているのかを訊いてみた。「ユーザーの行動を要素として計算に入れています。3枚の写真だけで本人確認の判断をするのではなく、当社では1000以上の異なるデータポイントを分析しています。これによって、自動化の利点が得られると同時に、本人確認に対する非常に正確な判断ができるようになります」と、同氏は答えた。

また、本人確認の将来性については、金融サービス企業だけでなく、今やオンライン上のほぼすべてのサービスに本人確認が必須となっていることが後押しすると考えていると、同氏は語る。例えば、新型コロナウイルス感染拡大の影響から、今では大学の遠隔試験で本人確認が必要になることもある。

「現在、50億人の人々がオンラインで生活していますが、その全員が本人確認を始めると、年間で500億件の確認作業が発生することになります。私たちは、オンラインにおける信頼性と拡張性を高める必要がある世界に向けて動いているのです」と、コトカス氏は語った。

画像クレジット:Ian Waldie / Staff / Getty Images

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(文:Mike Butcher、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

精神疾患者向けカウンセリングAI実現のための大規模対話データベース構築に関する産官学共同研究プロジェクト

精神疾患者向けカウンセリングAI実現のための大規模対話データベース構築に関する産官学共同研究プロジェクト

精神障害者や発達障害者の教育・就労支援を行うフロンティアリンクは1月26日、日本初となる実際のカウンセリングの臨床データに基づいた大規模な対話データベースを構築し、「カウンセリングAI実現に向けたカウンセラーの効果的なコミュニケーションのパターン解析」を行うプロジェクトを開始すると発表した。これは、国立精神・神経医療研究センター東京工業大学との共同研究。また、国立精神・神経医療研究センター倫理審査の承認を得たものという(承認日:2021年11月15日、承認番号:B2021-084)。

日本では、100万人を超えるひきこもり者、400万人を超える精神障害者があり、その数は糖尿病やがんの患者数を上回るという。しかし、精神疾患の専門機関への相談は敷居が高いと感じる人が多く、カウンセリングを受けたことのない人が全体の94%に上っている(中小企業基盤整備機構。2019)。「潜在的には相談ニーズがあっても実際の相談行為に至らないというケースが多い」ということだ。

そうした潜在的相談ニーズをすくいあげるツールとして、AIがある。すでに音声アシスタントやホテルの受け付けなどで利用されている会話型AIを使うことで、相談の敷居が下げられる。場所や時間の制約も受けない。また、精神疾患者には外出が不安だったり、対人交流ができない人の場合、バーチャルのほうが自己開示しやすいという研究報告もある。

ただ、カウンセリングAIの開発には基盤となるデータベースが必要となる。研究の進んだ海外では、電子学術データベースを擁する出版社「Alexander Street Press」が体系的に整理された4000ものカウンセリングセッションの逐語データをオープンソース化するなど、対話型のAIカウンセリングシステムの発展に寄与しているが、日本では先行研究に使用できるデータが少なく、学生のロールプレイによる模擬データであったりするため、ユーザーの話を傾聴し、話を「深める」システムの発達について課題がある状況という。

そこでフロンティアリンクは、産官学共同で、実際のカウンセリングの臨床データに基づく大規模な対話データベースを構築し、このプロジェクトを開始した。ここでは、経験豊富なカウンセラーのカウンセリングデータを、600セッション収集することを目指す。また、自然言語処理、言語学、情報システム、精神医学、臨床心理学の専門家が、カウンセラーの効果的な発話の分析を行うとしている。

このプロジェクトで期待される効果には、精神疾患の重篤化を防ぐ早期発見、早期介入によるメンタルヘルスの増進のみならず、専門家の雇用促進、専門機関のネットワークの拡充、気軽に相談できる風土の促進が挙げられている。カウンセリングAIにより気軽に相談できる環境が整えば、それを通してユーザーを専門機関につなげるネットワーク作りも可能になるということだ。

画像クレジット:Volodymyr Hryshchenko on Unsplash

クラウド録画のセーフィーと秘密計算・AI開発のEAGLYSが製造現場の生産ライン不具合検知に向けAI画像解析サービス開発

クラウド録画のセーフィーと秘密計算・AI開発のEAGLYSが製造現場の生産ライン不具合検知に向けAI画像解析サービスを共同開発

クラウド録画サービス「safie」を展開するセーフィーと秘密計算とAI開発でデータ利活用を推進するEAGLYS(イーグリス)は1月25日、製造現場の生産ラインの不具合検知のためのAI画像解析サービスの共同開発に着手したことを発表した。実証実験では24m先の異物を91%の精度で検知できた。

人材不足が深刻化する製造現場では、産業用ロボットやFA(ファクトリーオートメーション)の導入が叫ばれているが、工場設備のレイアウトなど空間的な事情からロボットの設置が難しい工場では、製造工程の異物や残留物の確認・判断は人手に頼らざるをえない状況が続いている。

そこで、セーフィーとEAGLYSは、撮影した映像データにAI解析を組み合わせることで、生産ラインの不具合や異物検知が行えるAI画像解析サービスの開発に着手した。このサービスを利用すれば、AI画像解析カメラで不具合や異物を容易に検知できるだけでなく、映像を通じた確認作業の記録や、遠隔からの管理・実行、振り返りにも活用できるという。

両社は、実際の製造工場で同サービスの実証実験を行ったところ、現状の生産設備や従業員の作業導線を変えることなく、目視では検知が困難な24m先のライン上の異物を91%の確率で検知できた。

本格実装に向けて、工程や製品に合わせた画角やAIアルゴリズムをチューニングすることで、さらに高い精度での検知が期待できるとのことだ。

Metaが(おそらく)民間最速のAIリサーチ用「SuperCluster」でスパコン戦争に参入

地球上で最も大きく、最もパワフルなコンピューターを構築するための世界的な競争が過熱する中、Meta(別名Facebook)は「AI Research SuperCluster(RSC、AIリサーチ・スーパークラスター)」でその混戦に飛び込もうとしている。完全に稼働すれば、世界最速のスーパーコンピュータのトップ10に入る可能性があり、言語やコンピュータビジョンのモデリングに必要な大規模な演算に使用されることになる。

OpenAIのGPT-3が最も有名であろう大型AIモデルは、ノートPCやデスクトップではまとめられるものではなく、最先端のゲーム機をも凌駕する高性能コンピューティングシステムによって、数週間から数カ月にわたって継続的に計算された最終的な成果だ。また、モデルのトレーニングプロセスが早ければ早いほど、そのモデルをテストして、より良い新しいモデルを生み出すことができる。トレーニングの時間が月単位になるというのは、とても重要なことだ。

RSCは稼働しており、同社の研究者たちはすでにそれを使って仕事をしている。ユーザー生成データを使用して、と言わなければならないが、データはトレーニング時までに暗号化されており、施設全体が外部インターネットから隔離されていることをMetaは慎重に説明した。

スーパーコンピュータは驚くほど物理的な構築物であり、熱、ケーブル配線、相互接続などの基本的な考慮事項が性能や設計に影響を与えるが、RSCを構築したチームは、ほとんどリモートでこれを成し遂げたことを当然のことながら誇りに思っている。エクサバイト級のストレージはデジタル的に十分な大きさに聞こえるが、実際にどこかに存在し、現場でマイクロ秒単位でアクセスできる必要がある(Pure Storageも、このために同社が用意したセットアップを誇りに思っている)。

RSCは現在、760台のNVIDIA DGX A100システムをコンピュートノードとして使用しており、これらのシステムには合計6080個のNVIDIA A100 GPUが搭載されている。Metaは、米ローレンス・バークレー国立研究所のPerlmutterとほぼ同等の性能を持つと主張している。これは、長年のランキングサイト「Top 500」によると、現在稼働しているスーパーコンピュータの中で5番目に強力なスーパーコンピュータとなる(ちなみに、1位は今のところダントツで日本の富岳である)。

これは、同社がシステムの構築を続けることで変わる可能性がある。最終的には約3倍の性能になる予定で、理論的には3位の座を狙えることになる。

そこに補足説明があるべきなのは間違いない。2位の米ローレンス・リバモア国立研究所のSummitのようなシステムは、精度が求められる研究目的で採用されている。地球の大気圏内の分子を、これまでにない詳細なレベルでシミュレーションする場合、すべての計算を非常にたくさんの小数点以下の桁数で行う必要がある。つまり、それらの計算はより多くの計算コストを要するということだ。

Metaは、AIアプリケーションでは結果が1000分の1パーセントに左右されるわけではないため、同様の精度は必要ないと説明する。推論演算では「90%の確率でこれは猫である」というような結果が出るが、その数字が89%でも91%でも大きな違いはない。難しいのは、100個ではなく、100万個の物体や語句に対して90%の確実性を実現することだ。

それは単純化しすぎだが、結果として、TensorFloat-32(TF32)演算モードを実行しているRSCは、他のより精度を重視したシステムよりも、コアあたりのFLOPS(1秒あたりの浮動小数点演算)を多く得ることができる。この場合、189万5000テラFLOPS(または1.9エクサFLOPS)にもなり、富岳の4倍以上になり得る。それは重要なことだろうか?もしそうであれば、誰にとって?もし誰かいるとすれば、Top 500リストの人々にとっては重要かもしれないので、何か意見があるか聞いてみた。だが、RSCが世界最速のコンピュータの1つになるという事実は変わらないし、おそらく民間企業が独自の目的で運用するものとしては最速だろう。

画像クレジット:Meta

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

東京大学・FastLabel・Human Dataware Labが自動運転用3次元アンノテーションツールAutomanをOSSとして無償提供

東京大学・FastLabel・Human Dataware Labが自動運転用3次元アンノテーションツールAutomanをOSSとして無償提供

東京大学は1月21日、自動運転AI開発に不可欠な教師データ作成のため開発した3次元アンノテーションツール「Automan」について、オープンソースソフトウェア(OSS)として公開した(GitHub)。ライセンスはApache License 2.0。これは、アンノテーションツールの開発を行うFastLabelAutowareの開発をリードするティアフォーの子会社Human Dataware Lab.との共同研究によるもの。自動運転領域でのAIの研究開発を加速させる。東京大学・FastLabel・Human Dataware Labが自動運転用3次元アンノテーションツールAutomanをOSSとして無償提供

東京大学大学院情報理工学系研究科の加藤真平准教授を中心とする研究グループは、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業「完全自動運転における危険と異常の予測」において、完全自動運転中の危険と異常について、理論と実践の両面から実用的課題に取り組んでおり、そこには、機械学習技術に人間並みの判断を求めるよりも、危険や異常を感知したらすぐに停止することのほうが社会的な価値は高いとの理念があるという。そんな彼らは、限りなく100%に近い精度で危険と異常を予測し、最小限の移動量で安全に停止できる自動運転システムのプロトタイプを完成させた。

この成果を普及させるには、第三者が研究成果を再現できることが重要だが、それには自動運転システムのAI基盤が必要、またそれを構築するには高品質な大量の教師データが欠かせない。ところが現在、そうした教師データの作成はマンパワーに頼った労働集約型で行われているため、教師データ不足や品質の問題が発生し、自動運転AIの研究はなかなか進んでいないのが現状だ。

そこで研究チームは、FastLabelが提供するアンノテーション・プラットフォームFastLabelと連携し、自動運転AIが用いる画像と点群のデータへのアンノテーションの自動化に取り組み、今回AutomanをFastlabelおよびHuman Dataware Lab.と共同で開発。OSSとして公開するに至った。

また同研究では、3次元アノテーションを自動運転システム全体のCI/CD(Continuous Integration / Continuous Delivery)に組み込めるインターフェースを設計したことで、自動運転AIの開発サイクルを改善することを可能としたという。

今後は、外部からの攻撃に備えるため、脆弱性に対する研究を進めつつ、「走れば走るほど賢くなる自動運転システム」を目指して、自動運転の実用化を加速するという。

ヨーロッパは量子システムの開発をめぐる競争で大国に伍することできるだろうか?

TechCrunch Global Affairs Projectは、テックセクターと世界の政治がますます関係を深めていっている様子を調査した。

量子情報科学はテックセクターの研究分野において長いこと低迷を続けてきた。しかし、近年の進歩はこの分野が地政学的に重要な役割を担っていることを示している。現在、数カ国が独自の量子システムの開発を強力に推進しており、量子をめぐる競争は新たな「宇宙開発」といった様相を呈している。

米国と中国が開発競争の先頭を行く中、ヨーロッパの国々はなんとか遅れを取り戻さねば、というプレッシャーを感じており、いくつかの国々、そしてEU自体も大いに力をいれてこの領域への投資を推進している。しかしヨーロッパのこうした努力は、米国と中国という2つの技術大国に太刀打ちするには、遅きに失したということはないだろうか?また断片的でありすぎるということはないだろうか?

米国と中国:量子システムの開発、そしてそれを超えた競争

量子コンピューティングは、もつれや重ね合わせといった量子物理学(つまり、原子と亜原子スケールでの物理学)の直感に反する性質を利用しようとするもので、量子コンピューターはレーザーあるいは電場と磁場を使用して粒子(イオン、電子、光子)の状態を操作する。

量子システムの開発で最も抜きん出ているのは米国と中国で、どちらも量子「超越性」(従来のコンピューターでは何百万年もかかるような数学的問題を解く能力)を達成したと主張している。

中国は2015年以降、量子システムの開発を進めているが、これはEdward Snowden(エドワード・スノーデン)氏が米国の諜報活動について暴露し、米国の諜報活動の範囲に関する不安が広がった時期と重なっている。中国では米国の諜報能力に危機感を抱き、量子通信への取り組みを強化した。中国が量子研究にどれだけの研究費を費やしているかについて、さまざまな推測がなされていて定かではないが、同国が量子通信、量子暗号、ハードウェア、ソフトウェアにおける特許を最も多く持つ国であるということははっきりしている。中国が量子コンピューターに対する取り組みを始めたのは比較的最近のことだが、その動きはすばやい。中国科学技術大学(USTC)の研究者らが2020年12月、そして2021年6月にも「量子超越性」を達成したと、信用に足る発表を行っているのだ。

米国では、中国が2016年に衛星による量子通信技術を持つことを実証したことを受け、量子技術で中国にリードを許しかねないということに気がついた。そこで、Donald Trump(ドナルド・トランプ)前大統領は2018年、12億ドル(約1370億円)を投じてNational Quantum Initiative(国家量子プロジェクト)を開始した。そして、これがおそらく最も重要なことだが、大手テック企業が独自の量子研究に莫大な研究費を注ぎ込み始めた。1990年代に2量子ビットの初代コンピューターを発表したIBMは、現在量子コンピュータ「Quantum System One」を輸出している。Googleは、IBMに比べるとこの分野では新参であるものの、2019年に超伝導体をベースにした53量子ビットの量子プロセッサーで量子超越性を達成したと発表している。

量子技術開発がもたらす地政学的影響

中国、米国、そして他の諸国を開発競争に駆り立てているのは、量子コンピューティングに遅れをとった場合に生じるサイバーセキュリティ、技術、経済的リスクへの恐れである。

まず、完全な機能を発揮できる状態になった量子コンピューターを使えば、悪意を持つ人物が現在使用されている公開暗号キーを破ることが可能だ。従来のコンピューターが2048ビットのRSA暗号化キー(オンラインでの支払いを安全に行うために使用されている)を解読するのに300兆年かかるのに対し、安定した4000量子ビットを備えた量子コンピューターなら理論上、わずか10秒で解読することができる。このようなテクノロジーが10年を待たずして実現する可能性があるのだ。

第2に、ヨーロッ諸政府は、米国と中国の量子システムの開発競争に巻き込まれることで被る被害を恐れている。その最たるものが、量子テクノロジーが輸出規制の対象になることである。これらは同盟諸国間で調整されるだろう。米国は、冷戦時代、ロシアの手にコンピューター技術が渡るのを恐れてフランスへの最新のコンピューター機器の輸出を禁止した。このことを、ヨーロッパ諸国は記憶している。この輸出禁止を受け、フランスでは国内でスーパーコンピューター業界を育成し支援することになった。

今日、米国と提携するヨーロッパ側のパートナーは、テクノロジーにまつわる冷戦の中で、第三の国々を通じた重要なテクノロジーへのアクセスや第三の国々とのテクノロジーの取り引きに苦労するようになるのではないかと懸念している。米国は、規制品目を拡大するだけでなく、ますます多くの中国企業を「企業リスト」に加え(2021年4月の中国スーパーコンピューティングセンターなど)、それらの企業へのテクノロジーの輸出を、米国以外の企業からの輸出も含め阻む構えだ。そして規制がかけられたテクノロジーが増えるなか、ヨーロッパの企業は自社の国際バリューチェーンが被っている財政上の影響を感じている。近い将来、量子コンピューターを作動させるのに必要なテクノロジー(低温保持装置など)が規制下に置かれる可能性もある

しかし中国に対する懸念もある。中国は、知的財産権や学術面での自由の問題など、諸国の技術開発に対し別の種類のリスクをもたらしており、また中国は経済的強制に精通した国である。

第3のリスクは、経済上のリスクである。量子コンピューティングのような世の中を作り変えてしまうような破壊力を持ったテクノロジーは業界に巨大な影響をもたらすだろう。「量子超越性」の実証は、科学ショーを通した一種の力の見せあいだが、ほとんどの政府、研究所、スタートアップが達成しようと取り組んでいるのは実は「量子優位性」(従来のコンピューターを実用面で上回るメリットを提供できるよう、コンピューティング能力を上げること)である。

量子コンピューティングは、複雑なシュミレーション、最適化、ディープラーニングなどでのさまざまな使い道があると考えられ、今後の数十年で大きな利益をもたらすビジネスになる可能性が高い。何社かの量子スタートアップがすでに上場され、これに伴い量子への投資フィーバーが起きつつある。ヨーロッパは21世紀の重要な領域でビジネスを成り立たせることができなくなることを恐れている。

ヨーロッパの準備体制はどうか?

ヨーロッパは、世界的量子競争においては、その他の多くのデジタルテクノロジーとは異なり、好位置に付けている。

英国、ドイツ、フランス、オランダ、オーストリア、スイスは大規模な量子研究能力を持ち、スタートアップのエコシステムも発達している。これらの国々の政府やEUは量子コンピューティングのハードウェアやソフトウェア、および量子暗号に多額の投資を行っている。実際に英国では、米国や中国よりずっと早い2013年に、National Quantum Technologies Program(国家量子テクノロジープログラム)を立ち上げている。2021年現在、ドイツとフランスは量子研究および開発への公共投資でそれぞれ約20億ユーロ(約2600億円)と18億ユーロ(約2340億円)を投じるなど、米国に追随する形となっている。Amazonは、フランスのハードウェアスタートアップAlice & Bobが開発した自己修正量子ビットテクノロジーに基づいた量子コンピューターを開発してさえいる。

では、ヨーロッパが米国や中国を本当の意味で脅かす立場になるのを妨げているものはなんだろうか?

ヨーロッパの問題として1つ挙げられるのは、 スタートアップの出現を促すのではなく、それらを保持することである。最も有望なヨーロッパのスタートアップは、ベンチャー資金が不十分なことから、ヨーロッパ大陸では伸びない傾向がある。ヨーロッパのAIの成功話には注意が必要だ。多くの人は、最も有望な英国のスタートアップであるDeepMindをGoogle(Alphabet)がいかに買収したかを覚えているだろう。これと同じことが、資金を求めてカリフォルニアに移った英国の大手スタートアップであるPsiQuantumで繰り返されている。

このリスクを解消するために、ヨーロッパ諸国政府やEUはヨーロッパの「技術的主権」を打ち立てることを目標に新興の破壊的創造性を備えたテクノロジーに関するいくつかのプロジェクトを立ち上げた。しかし、ヨーロッパはヨーロッパが生み出したテクノロジーを導入しているだろうか?ヨーロッパの調達規則は米国の「バイ・アメリカン法」と比較して、ヨーロッパのサプライヤーに必ずしも優位に働くわけではない。現在EU加盟国は、ドイツが最近IBMマシンを導入したように、より高度な、あるいは安価なオプションが存在する場合、ヨーロッパのプロバイダーを利用することに乗り気ではない。こうしたあり方は現在ブリュッセルで交渉が続いている、公的調達市場の開放性に相互主義の原則を導入するための新しい法案、International Procurement Instrument(国際調達法)が可決されれば、変わるかもしれない。

政府だけでなく、民間企業も、どのように投資し、どこと提携し、どのようにテクノロジーの導入を行っていくかの選択を通し、今後の量子業界を形作っていく上で、重要な役割を担うだろう。1960年代、70年代にIBMシステムを選択するという決定をしたことが、その後の世界的コンピューティング市場の形成に長期的な影響を及ぼした。量子コンピューティングにおいて同様の選択をすることは、今後何十年にもわたってその領域を形作ることになる可能性があるのだ。

現在、ヨーロッパは、ヨーロッパに世界的なテックファームがほとんどないことについて不満に思っているが、これは早い段階でテクノロジーをサポートし導入することが重要であることを示している。ヨーロッパが今後量子をめぐって米国や中国に対抗していくためには現在の勢いを維持するだけではなく、増強して行かなければならないのだ。

編集部注:本稿の執筆者Alice Pannier(アリス・パニエ)氏はフランス国際関係研究所(IFRI)の研究員で、Geopolitics of Techプログラムを担当。最新の報告書は、欧州における量子コンピューティングについて考察したもの。また、欧州の防衛・安全保障に関する2冊の本と多数の論文を執筆している。

画像クレジット:Olemedia / Getty Images(Image has been modified)

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(文:Alice Pannier、翻訳:Dragonfly)

流通小売・メーカーDX支援やリテールメディア運用のアドインテにグローリーとSony Innovation Fund by IGVが資本参加

流通小売・メーカーDX支援やリテールメディア運用のアドインテにグローリーとSony Innovation Fund by IGVが資本参加

IoTとAIを活用し流通小売・メーカーDX支援、リテールメディア開発・運用を行うアドインテは1月24日、グローリー、また新たにSony Innovation Fund by IGV(Sony Innovation Fund、大和キャピタル・ホールディングス)などを引受先とする28.6億円の資本参加を受けたことを発表した。これにより、総額52億円の資金調達と資本参加の実施が完了した。

今回の資本参加により、現在同社が構築しているリテールメディア事業のさらなる拡大と、流通小売・メーカー向けDXソリューション開発を強化する。

今後もアドインテは、店舗でのユーザー体験向上を目的としたリテールメディア開発・運用など販促DX支援と、流通小売企業様と連携したプロダクト開発やサービス強化を進める。また、今後控えているデータ連携の拡大や分析レポートの高度化を図り、デジタルマーケティングキャンペーンにおいて、ファーストパーティデータを活用した、精度の高いマーケティング施策の実現を目指す。

アドインテは、人・モノ・流通の変革を促し、持続可能な社会を構築すべく、様々な社会課題・経営課題を解決するソリューションサービスの提供を目指し事業を展開している。

昨今では、IoT・AIなどを活用した流通小売業のDXとともに、オフラインの消費者行動のデータ化・可視化が進展、また店頭のアナログ販促のデジタル化も進み、リアル空間データとID-POSデータなど既存のデータ資産を掛け合わせることで、店舗を起点としたリテールメディア事業が国内外で成長しているという。

また同社は、消費者ニーズの多様化・消費行動変化を捉えた購買起点でのマーケティングデータ基盤は、GoogleによるサードパーティCookie利用の段階的な制限など、ウェブ広告の活用方法が世界的に見直される方向にあることから、プライバシーに配慮した広告効果の高いマーケティングソリューションは、今後さらに重要になると考えているという。流通小売・メーカーDX支援やリテールメディア運用のアドインテにグローリーとSony Innovation Fund by IGVが資本参加

IBMが医療データ管理「Watson Health」事業の大半をFrancisco Partnersに売却

拍子抜けするような結末だが、IBMは米国時間1月21日、Watson Health事業部門のデータ資産をプライベートエクイティ企業のFrancisco Partners(フランシスコ・パートナーズ)に売却した。両社は買収額を明らかにしていないが、以前の報道では約10億ドル(約1137億円)とされていた。

今回の取引でFranciscoは、Health Insights、MarketScan、Clinical Development、Social Program Management、Micromedex、イメージングソフトウェア製品など、Watson Health部門のさまざまな資産を取得する。これによりFrancisco Partnersは、幅広い医療データを傘下に収めることになる。

IBMは2015年にWatson Healthを立ち上げた際、データ駆動型の戦略に基づいてユニットを構築することで、この分野を支配することを望んでいた。そのために、PhytelやExplorysをはじめとする医療データ企業の買収を開始した。

その後、Merge Healthcareに10億ドル(約1137億円)を投じ、翌年にはTruven Health Analyticsを26億ドル(約2955億円)で買収した。同社はWatson Healthが人工知能(AI)の推進に役立つと期待していたが、この事業部門は見込まれていた成果を上げることができず、2019年にGinni Rometty(ジニー・ロメッティ)氏に代わってArvind Krishna(アルビンド・クリシュナ)氏がCEOに就任した際には、クリシュナ氏の優先順位は異なっていた

Francisco Partnersはこれらの資産をもとに、独立した新会社を設立することを計画している。この部門が期待通りの成果を上げられなかったことを考えるとやや意外な動きではあるが、少なくとも今のところは、同じ経営陣を維持する予定だという。

Francisco PartnersのプリンシパルであるJustin Chen(ジャスティン・チェン)氏は、新会社がその潜在能力を発揮できるよう、さらなるサポートを提供する予定だという。「Francisco Partnersは、企業と提携して部門のカーブアウトを実行することを重視しています。我々は、優秀な従業員と経営陣をサポートし、スタンドアロン企業がその潜在能力を最大限に発揮できるよう、成長機会に焦点を当てて支援し、顧客やパートナーに高い価値を提供することを楽しみにしています」と同氏は声明で述べている。

IBMがこの売却を行うのは、ヘルスケア分野が盛り上がっている中でのことだ。2021年、Oracle(オラクル)は280億ドル(約3兆1825億円)で電子カルテ企業のCernerを買収し、Microsoft(マイクロソフト)は200億ドル(約2兆2733億円)近くと見積もられる取引でNuance Communicationsを買収した。どちらの取引も規制当局の承認を得ていないが、大手企業がいかに医療分野を重視しているかを示している。

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そのため、この動きはMoor Insights & Strategyの主席アナリストであるPatrick Moorhead(パトリック・ムーアヘッド)氏を驚かせたという。「傾向としてはより垂直なソリューションに移行しているので、非常に驚いています。それを考えると、いかに同部門の成績が悪かったかを潜在的に示しているともいえるでしょう」。

いずれにしても、今回の買収は規制当局の承認を待って行われ、第2四半期中に完了する予定だ。この取引には機密性の高い医療データが含まれていることから、さらに精査される可能性もある。

画像クレジット:Carolyn Cole / Getty Images

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(文:Ron Miller、翻訳:Dragonfly)

【コラム】いずれメタバースは、あなたをモニターし行動を操作する世話役AI「ELF」で埋め尽くされる

メタバースはマーケティング上の誇大広告に過ぎないという人もいれば、社会を一変させると主張する人もいる。私は後者に属するが、多くの人が提唱しているようなアバターで埋め尽くされたアニメの世界について言っているのではない。

むしろ、社会を変えるような真のメタバースは、現実世界上の拡張レイヤーであり、10年以内にショッピングや社交からビジネスや教育まで、あらゆるものに影響を与え、私たちの生活の基盤になると考えている。

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また、企業が管理するメタバースは社会にとって危険であり、積極的な規制が必要だと考えている。なぜなら、プラットフォームのプロバイダーは、SNSが古いと感じるようなやり方で消費者の操作が可能になるからだ。多くの人は、データ収集やプライバシーに関する懸念に共感しているが、メタバースで最も危険なテクノロジーであろう人工知能を見落としているのではないか。

実際、メタバースのコアテクノロジーを挙げろといわれれば、たいてい人はアイウェアを中心に、グラフィックエンジンや5G、あるいはブロックチェーンなどを挙げるだろう。しかし、それらは私たちの没入型未来の仕組みに過ぎない。メタバースにおいて糸を操り、私たちの体験を創造(操作)するテクノロジーはAIなのだ。

人工知能は、私たちのバーチャルな未来にとって、注目を集めるヘッドセットと同じくらい重要な存在になるだろう。そしてメタバースの最も危険な部分は、他のユーザーと同じような見た目で、他のユーザーと同じように行動するが、実はAIによって制御された模擬人格である課題志向の人工主体だ。彼らは私たちに「会話的操作」を行い、人工主体が本物の人間でないことに気づかないうちに、広告主に代わって私たちをターゲットにするだろう。

特に、AIアルゴリズムが表情や声の抑揚を読み取って私たちの感情状態を監視しながら、私たちの個人的な興味や信念、習慣や気質に関するデータにアクセスするようになると危険だ。

SNSにおけるターゲット広告が操作的だと思うかもしれないが、これはメタバースで私たちに関わる会話型エージェントの比ではない。彼らは人間のどんな販売員よりも巧みに私たちに売り込み、単にガジェットを売るだけでなく、最も資金を支払った人のために政治的プロパガンダやターゲットとなる誤報を押し付けてくるだろう。

そして、これらのAIエージェントは、メタバースにおける他の人と同じように見え、同じように話すので、広告に対する私たちの自然な懐疑心は働いてくれない。これらの理由から、私たちはAIによる会話エージェントを規制する必要がある。特に、AIが私たちの顔や声の情緒にアクセスでき、私たちの感情をリアルタイムで私たちに対して利用することが可能になる場合だ。

これを規制しないと、AIドリブンのアバターの形をした広告は、あなたが疑っているのを察知して、文章の途中で戦術を変え、あなた個人にインパクトを与える言葉や画像にすばやく照準を合わせてくるだろう。2016年に書いたように、AIが学習して世界最高のチェスプレイヤーや囲碁の棋士に勝てるなら、消費者を揺さぶることを学習して私たちの利益にならないものを買わせる(そして信じさせる)のは朝飯前だ。

しかし、私たちに向かってくるすべてのテクノロジーの中で、メタバースにおいて最も強力かつ精緻な強制力を持つことになるのは、私が「エルフ」と呼ぶものだ。この「デジタル生活促進者(electronic life facilitators、ELF)」は、SiriやAlexaのようなデジタルアシスタントの自然な進化形だが、メタバースでは姿なき声にはならない。消費者ごとにカスタマイズされた擬人化された人格になるだろう。

プラットフォームのプロバイダーは、これらのAIエージェントを仮想ライフのコーチとして販売し、あなたがメタバースを探索している間、1日中しつこく付きまとう。そして、メタバースは最終的に現実世界の拡張レイヤーとなるので、デジタルエルフは、あなたが買い物をしていても、仕事をしていても、ただぶらぶらしているだけでも、どこにいてもあなたと一緒にいることになる。

そして上記のマーケティングエージェントのように、これらのエルフたちは、あなたの顔の表情や声の抑揚、そしてあなたの生活の詳細なデータ履歴にアクセスし、あなたに行動や活動、製品やサービス、さらには政治的見解に至るまでをそっと促すようになる。

そして彼らは、今日のような粗雑なチャットボットではなく、身近な友人、親切なアドバイザー、気遣いのできるセラピストのような、人生において信頼できる人物として認識されるようになるキャラクターとして具現化される。しかも、友人にはできないような方法で自分のことを知り、血圧や呼吸速度に至るまで、自分の生活のあらゆる面を(信頼できるスマートウォッチを通じて)モニタリングする。

そう、これは不気味だ。だからこそプラットフォームのプロバイダーは、付きまとってくる人間サイズのアシスタントというよりも、あなた自身の「人生の冒険」の魔法のキャラクターのように見える、無邪気な特徴と物腰を持つ、かわいくて脅威を感じさせないエルフを作るのだろう。これが私が「エルフ」という言葉を使って表現した理由だ。エルフは、あなたの肩越しにいる妖精、あるいはグレムリンやエイリアンのような見た目かもしれないからだ。こうした小さな擬人化したキャラクターは、耳にささやいてきたり、私たちの前に飛び出して、こちらに注目して欲しい拡張世界のものに注意を引かせたりすることができる。

これが特に危険な点だ。規制がなければ、こうした「人生のお世話役」はお金を払った広告主に乗っ取られ、現在のSNSのどんなものよりも優れた技術と精度であなたをターゲットにすることになるだろう。そして、今日の広告とは異なり、これらの頭の良いエージェントは、かわいい笑顔やくすくすした笑いとともにあなたの周りを付きまとい、一日をガイドすることになるのだ。

このようなことが実際にどのように起こるのか、ポジティブな面もネガティブな面も伝えるために、2030年以降にAIが私たちの没入型ライフをどのように導いていくのかを描いた短いストーリー、「Metaverse 2030」を書いた。

最終的に、VR、AR、AIの技術は、私たちの生活を豊かにし、向上させる可能性がある。しかしこれらが組み合わさると、イノベーションは特に危険なものになる。これはこのような技術に共通する強力な特性、つまりコンピュータで作られたコンテンツがたとえ意図的に作られた捏造であっても、本物であると信じさせることができるという特性が理由だ。この強力なデジタル欺瞞能力こそが私たちがAIを活用したメタバースを恐れるべき理由であり、それが宣伝目的でユーザーにサードパーティアクセスを販売する強力な企業によって管理されている場合には特にそうなのだ。

メタバースの技術に問題が根付いてしまって元に戻せなくなる前に、消費者や産業のリーダーが意義のある規制を推進してくれることを期待して、私はこれらの懸念を提起したいと思う。

編集部注:本稿の執筆者Louis Rosenberg(ルイス・ローゼンバーグ)氏は、仮想現実と拡張現実のパイオニアであり、Unanimous AIのCEO。

画像クレジット:TechCrunch/Bryce Durbin

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(文:Louis Rosenberg、翻訳:Dragonfly)

Metaの研究者が画像・音声・文字を同じように学習するAIを開発

AIの領域には常に進歩が見られるが、それは1つの分野に限定される傾向がある。例えば、合成音声を生成するためのクールな新方法は、人間の顔の表情を認識するための方法とはまた別の分野だ。

かつてのFacebook(フェイスブック)から社名が変わったMeta(メタ)の研究者たちは、もう少し汎用性のあるもの、つまり話し言葉、書かれた文字、視覚的な認識を問わず、自分でうまく学習することができるAIの開発に取り組んでいる。

AIモデルに何かを正しく解釈させるための伝統的な訓練方法では、ラベル付けした例を大量(数百万単位)に与えて学習させる方法が採られてきた。猫の写真に猫とラベル付けしたものや、話し手と言葉を書き起こした会話などだ。しかし、次世代AIの学習に必要な規模のデータベースを手作業で作成することは、もはや不可能であることが研究者たちによって明らかにされたため、このアプローチはもはや流行遅れとなった。誰が5000万枚の猫の写真にラベルを付けたいと思うだろうか?まあ、中にはそんな人もいるかもしれないが、しかし、一般的な果物や野菜の写真を5000万枚もラベル付けしたい人はいるだろうか?

現在、最も有望視されているAIシステムの中に「自己教師型」と呼ばれるものがある。これは、書籍や人々が交流している様子を撮影したビデオなど、ラベルのない大量のデータを処理し、システムのルールを構造的に理解するモデルだ。例えば、1000冊の本を読めば、単語の相対的な位置関係や文法構造に関する考え方を、目的語とか冠詞とかコンマが何であるかを誰かに教えてもらうことなく、学ぶことができる。つまり、たくさんの例から推論して得るということだ。

これは直感的に人間の学習方法に似ていると感じられ、そのことが研究者が好む理由の1つになっている。しかし、このモデルも依然としてシングルモーダルになる傾向があり、音声認識用の半教師あり学習システムを構築するために行った作業は、画像解析にはまったく適用できない。両者はあまりにも違いすぎるのだ。そこで登場するのが、「data2vec(データトゥベック)」というキャッチーな名前が付けられたFacebook/Metaの最新研究だ。

data2vecのアイデアは、より抽象的な方法で学習するAIフレームワークを構築することだった。つまり、ゼロから始めて、本を読ませたり、画像をスキャンさせたり、音声を聞かせたりすると、少しの訓練で、それらのことを学習していくというものだ。それはまるで、最初は一粒の種だが、与える肥料によって、水仙やパンジー、チューリップに成長するようなものだ。

さまざまなデータ(音声、画像、テキスト)で学習させた後にdata2vecをテストしてみると、その分野のモダリティに対応した同規模の専用モデルと同等か、あるいは凌駕することさえあったという(つまり、モデルがすべて100メガバイトに制限されている場合は、data2vecの方が優れているが、専用モデルはさらに成長すればdata2vecを超えるだろう)。

「このアプローチの核となる考え方は、より総合的に学習させるということです。AIは、まったく知らないタスクも含めて、さまざまなタスクを学べるようになるべきです」と、チームはブログに書いている。「data2vecによって、コンピュータがタスクを遂行するためにラベル付きデータをほとんど必要としない世界に近づくことも、私たちは期待しています」。

Mark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)CEOはこの研究について「人は視覚、聴覚、言葉を組み合わせて世界を体験しています。このようなシステムは、いつの日か私たちと同じように、世界を理解することができるようになるでしょう」とコメントしている。

これはまだ初期段階の研究であり、突如として伝説の「総合的なAI」が出現すると期待してはいけない。

しかし、さまざまな領域やデータタイプに対応する総合的な学習構造を持つAIを実現することは、現在のような断片的なマイクロインテリジェンスの集合体よりも、より優れた、よりエレガントなソリューションであるように思われる。

data2vecのコードはオープンソースで、事前に学習されたいくつかのモデルも含めてこちらで公開されている

画像クレジット:Andriy Onufriyenko / Getty Images

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

中小企業の営業とサポートチーム向け自動化プラットフォームSaaS Labsが約48億円を調達

SaaS Labs(SaaSラボ)は、中小企業の営業およびサポートチーム向けの自動化プラットフォームを積極的に成長させるため、前回の資金調達完了から3カ月足らずで新たな資金調達ラウンドで4200万ドル(約48億490万円)を調達し、2社のスタートアップを買収した。

SaaS LabsのシリーズBラウンドは、Sequoia Capital India(セコイア・キャピタル・インディア)が主導した。このラウンドには、既存の出資者であるBase 10 Partners(ベース10パートナーズ)とEight Roads Ventures(エイト・ロード・ベンチャー)の他、起業家の Anand Chandrasekaran(アナンド・チャンドラセカラン)氏、Allison Pickens(アリソン・ピケンズ)氏、Michael Stoppelman(マイケル・ストッペルマン)氏、Amit Agarwal(アミット・アガーワル)が参加している。今回の資金調達は、カリフォルニアとノイダを本拠地とする同スタートアップが10月に行った1800万ドル(約20億5800万円)のシリーズA調達に続くものだ。

大企業やエンタープライズ向けには、営業やサポート業務の効率化をもたらすツールが数多く存在する。しかし、中小企業には同じことは当てはまらない。これが、Gaurav Sharma(ガウラブ・シャルマ)氏が米国で立ち上げたHelloSociety(ハローソサエティ)というベンチャー企業で得た学びである(この会社は、New York Timesに買収された)。

彼はTechCrunchのインタビューで「中小企業は、彼らの指先にあるソフトウェア製品を見てみると、それほど愛されておらず、十分なサービスを受けられていないことがわかる」と語っている。それに比べて大企業は「エージェントの生産性を向上させるためのすばらしいツールにアクセスできる」と彼は述べている。

SaaS Labsはこの6年間、中小企業の営業チームやサポートチームを強化するために「同じくらい強力」なAI搭載ツールを構築してきた。これらの製品はノーコードソリューションであり、導入のためにITチームを持つ必要性を排除している。

「これらのツールはまた、非常に手頃な価格で、中小企業が依存する他のビジネススタックやオンプレミスのハードウェアソリューションとシームレスに統合することができます」と同氏は語る。

現在、1500万人以上の販売・サポート担当者が直面している課題は、コールログやCRMツールを手動で更新しなければならず、そのツールは上司にリアルタイムの更新情報を提供するようには設計されていないということだ。このため、彼らのコミュニケーションチャネルにギャップが生じ、リアルタイムに介入することができないのだ。

中小企業が営業やサポートチームのためにクラウドベースのコンタクトセンターを数分で立ち上げることができるSaaS LabのJustCallのダッシュボード(画像クレジット:SaaS Labs)

「顧客とのコミュニケーションを行う5人のチームを持つと、大混乱が起こり始めるものです。例えば、JustCall.ioは100以上のビジネスツールと統合されており、これらのチームが利用することができます。JustCallは1億件以上の通話データベースを持ち、機械学習によって通話の品質やプレイブックやワークフローが守られているかどうかを確認することができます。管理者は、すべての通話をふるいにかけるのではなく、評価の低い通話だけを見ることができるのです」と同氏はいう。

このスタートアップは、全世界で6000社以上の顧客を獲得している。小規模な企業であれば、月々25ドル(約2800円)程度の支払いで利用でき、ビジネスの成長とともに年額数万ドル(数百万円)の支払いに移行していくのが一般的である。

顧客のうち70%以上が米国、10%が英国に拠点を置いている。顧客にはGrab(グラブ)、GoStudent(ゴースチューデント)、Booksy(ブックシー)、HelloFresh(ハローフレッシュ)などが含まれる。

同スタートアップは何年も黒字を続けており、2021年は売上を2.5倍に伸ばしたという。

米国時間1月20日には、2つの買収も発表した。ポーランドに拠点を置くCallPage(コールページ)は、営業チームがリードと即座につながるためのコールバック自動化ツールで、フランスに拠点を置くAtolia(アトリア)は生産性とコラボレーションツールである(彼らのチームは、正社員としてSaas Labsに参加する予定だ)。シャルマ氏は、これらの買収はSaaS Labsの製品提供の幅を広げ、さまざまな市場での足跡を深めるのに役立つと述べている。

シャルマ氏によると、今回の資金の一部は、さらに多くのスタートアップを買収するために投入される予定だという。

「当社は十分な資本を有していますが、今回の資金調達により、成功した事業をさらに強化したり、優れた人材をグローバルに採用したり、革新的な製品を発売したり、ブランドマーケティングに注力したり、戦略的M&Aを積極的に行うために必要な資金を確保することができるようになります。中小企業が営業、サポート、マーケティングなどさまざまな機能を現代化するためにソフトウェアを導入し続ける中、SaaS Labsはこの機会を捉え、今後5~7年で30倍の成長を遂げることができると確信しています」。と述べている。

彼は、今後4~5年以内にSaaS Labsを上場させることを視野に入れているという。

「SaaS Labsは、中小企業向けのマルチチャネルの顧客コミュニケーションプラットフォームを構築しています。一連の製品を通じて、デジタルの効率性とオフラインのコミュニケーションチャネルの親密性を融合させた体験を提供しています」と、Sequoia Capital IndiaのMDであるTejashwi Sharma(テジャシュウィ・シャルマ)氏は声明で述べている。

「例えば、同社の主力製品であるJustCallは、大きなインパクトを与えることができました。顧客は、平均して1人のエージェントが手作業で行う時間を週に12時間短縮したと報告し、顧客満足度は30%向上しました。Sequoia Capital Indiaは、顧客コミュニケーションの未来を築くガウラブとそのチームと提携できることをうれしく思っています」とも述べている。

画像クレジット:Getty Images

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(文:Manish Singh、翻訳:Akihito Mizukoshi)

ソフトバンクがマーケティング最適化のためのAIインフラ企業Pixisへの資金注入主導、新社名で新年度をスタート

Pixisの創業者。左からシュバム・A・ミシュラ氏、ヴルシャリー・プラサード氏、ハリ・ヴァリヤート氏

Pyxis One(現Pixis)は、シリーズCの資金調達で1億ドル(約114億円)を調達し、同社がいうところの「完全なマーケティング最適化のための、世界で唯一のコンテキストコードレスAIインフラ」の開発を続けている。

SoftBank Vision Fund 2(ソフトバンク・ビジョン・ファンド2)がこのラウンドを主導し、新たな投資家であるGeneral Atlantic(ジェネラル・アトランティック)と、既存の投資家であるCelesta Capital(セレスタ・キャピタル)、Premji Invest(プレミジ・インベスト)、Chiratae Ventures(チラタエ・ベンチャーズ)が参加した。今回の資金調達は、Pixis(ピクシス)が1700万ドル(約19億4400万円)のシリーズBを発表してからわずか4カ月で行われ、これまでの総資金調達額は1億2400万ドル(約141億円)に達した。

カリフォルニアに拠点を置く同社は、3年前にShubham A. Mishra(シュバム・A・ミシュラ)氏、Vrushali Prasade(ヴルシャリー・プラサード)氏、Hari Valiyath(ハリ・ヴァリヤート)氏の3人によって設立された。ミシュラ氏はTechCrunchに対し、このチームが一緒に立ち上げた会社はこれで2つ目で、最初の会社はゲーム分野の人工知能だったと語っている。

会社が発展するにつれ、チームはほとんどの人が「Pyxis」を「y」ではなく「i」で綴っていることに気づき、クリーンで均整をとるために会社名を変更したと、彼は述べている。

Pixisを立ち上げる前、共同創業者たちはマーケティング責任者や収益責任者に、顧客のプライバシーを尊重するために企業が独自のシステムを導入しなければならない「Cookieなき」世界で、SaaS企業を迅速に拡大する方法について話をしたそうだ。

「この準備ができている人はあまりいません。私たちは、8秒以内に導入できるノーコードAIソリューションを構築することでそれを解決しています」。とミシュラ氏はいう。

実際、同社はマーケティングキャンペーンにAI最適化を加えるための自己進化型ニューラルネットワークのAIモデルを現在50個持っており、今後6カ月で200個にスケールアップする予定だ。Pixisは、ノーコードソリューションによって人々が部分的にデータサイエンティストになるというビジョンを信じている、とミシュラ氏は語った。

そして、それは「ノーコード」というだけのただの戦略ではなく、本当にノーコードであることを強調した。AIマーケティングモデルを徹底的にいじったり、データサイエンティストのチームを集めて何かを開発したり、30分のトレーニングを受けてボタンを押すだけで製品やプラグインを導入できるようにするため、このインフラは製品群のように構築されている。

シリーズCは、2018年からの600%の収益成長を受けたものだ。Pixisは1月中に100社以上の顧客を獲得し、すべて中堅から大企業の範囲に入るとミシュラ氏は述べた。PixisのAIインフラを利用する顧客は、毎月数時間にも及ぶ手作業の業務節約時間に加え、獲得コストが20%減少したと同氏は付け加えた。

今回の資金調達は北米、欧州、APACに拡大するAIプラットフォームとプラグインの拡張に役立てられるという。

「2022年は私たちにとって新たな夜明けです」とミシュラ氏はいう。「2021年は、BTCとDTCマーケティングへのソリューションを立ち上げていましたが、2022年の第1四半期の終わりには、B2Bとソフトウェア企業へのソリューションを提供する予定です」。

一方、SoftBank Investment Advisers(ソフトバンク・インベストメント・アドバイザーズ)のパートナーPriya Saiprasad(プリヤ・サイプラサド)氏は、Pixisの特徴として「Cookieのない世界でより良い意思決定を促すために、マーケティング機能に最先端のデータサイエンス能力を装備する」デマンドジェネレーションのための真のエンド・ツー・エンドのインフラであるとメールで述べている。

マーケティングは企業にとって大きな予算項目だが、メッセージングやビジュアルのためのツールがないために、適切なタイミングで適切なチャネルを通じて適切な顧客をターゲットにできないと、その支出の多くが無駄になってしまうため、彼女は同社の製品が「ゲームチェンジャー」であると考えている。

「Pixisのプロダクトマーケットフィットの検証は、同社が立ち上げからわずか3年で達成したその目覚しい成長率と、忠実で熱心なグローバル大企業の顧客基盤に支えられています」とサイプラサド氏は付け加えた。「2021年に企業がデジタルマーケティングに費やした費用は推定4550億ドル(約52兆円)という市場規模と、さまざまな業種に対応できるPixisのプラットフォームにより、Pixisがこの勢いを持続するための大きな走路があると考えています」。

General AtlanticのマネージングディレクターであるShantanu Rastogi(シャンタヌ・ラストーギ)氏も、データ共有に関する新たな制限の結果、マーケティングエコシステムがシフトする中、Pixisはこれに対応し、予測AIモデルを活用してマーケティングの効率化を実現し、顧客に新しい投資収益率を生み出していると指摘している。

ラストーギ氏は「Pixisは、これまで時代遅れの技術に頼っていたプラットフォームを『十分である』と受け入れてきた業界に、自動化と統合をもたらそうとしています。今回の投資で、グローバルに成長・拡大しようとする有能なチームを支援できることをうれしく思います」。と語っている。

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(文:Christine Hall、翻訳:Akihito Mizukoshi)

行ったことのない都市でも環境に対応し走れる自律配送車向けAIの英Wayve、約229億円調達

アレックス・ケンダルCEO(画像クレジット:Wayve)

英国の自律走行車スタートアップ「Wayve」は、同社の技術をスケールアップし、商用フリートとのパートナーシップを拡大するために、シリーズBラウンドで2億ドル(約229億円)の資金を調達した。Wayveは、ロボデリバリーや物流の分野で主要なプレイヤーとなることを目指している。

同社は、これまでに総額2億5800万ドル(約296億円)の資金を調達している。この技術は、車両の周囲に設置された汎用ビデオカメラと車載AI駆動ソフトウェアに大きく依存しており、そのため4Gや5Gネットワークへの依存度が低くなり、環境への高い応答性を実現している。

今回のラウンドは、既存投資家であるEclipse Venturesがリードした。その他に参加した投資家には、D1 Capital Partners、Baillie Gifford、Moore Strategic Ventures、Linse Capitalのほか、Microsoft(マイクロソフト)とVirgin(ヴァージン)、アーリーステージ投資家であるCompoundとBaldton Capitalが含まれている。また、戦略的投資家であるOcado Groupや、Sir Richard Branson(リチャード・ブランソン)氏、Rosemary Leith(ローズマリー・リース)氏、Linda Levinson(リンダ・レビンソン)氏、David Richter(デイビット・リクター)氏、Pieter Abbeel(ピーテル・アッベル)氏、Yann LeCun(ヤン・ルカン)氏などのエンジェル投資家も参加している。

WayveのAlex Kendall(アレックス・ケンダル)CEOによると、Wayveのテスト車両は、ロンドンだけでなく、これまでに行ったことのない都市での走行に成功したという。英国の道路は一般的に中世のレイアウトになっているため、これは並大抵のことではない。

英国のオンライン食料品会社Ocadoは、Wayveに1360万ドル(約15億6000万円)を出資して自律走行による配送実験を開始しており、英国の大手スーパーマーケットチェーンAsdaもWayveに出資している。

Wayveによると、同社のAV2.0技術はフリートオペレーター向けに特別に設計されており、カメラファーストのアプローチと、Wayveの他のパートナーフリートから提供される運転データから継続的に学習する内蔵AIを組み合わせている。これにより、交通情報や道路地図、複雑なセンサー群など、車外のデータから多くの入力を必要とするいわゆる「AV1.0」よりも、よりスケーラブルなAVプラットフォームになるとWayveは考えている。

Eclipse VenturesのパートナーであるSeth Winterroth(セス・ウィンターロス)氏は、次のように述べている。「業界が従来のロボティクスで自動運転を解決しようと奮闘している中で、AV2.0は、商業フリート事業者が自動運転をより早く導入できるような、スケーラブルなドライビングインテリジェンスを構築するための正しい道筋であることがますます明らかになってきています」。

TechCrunchの取材に対し、ケンダル氏はこう付け加えた。「今回の資金調達は、当社がコア技術の実証から、スケールアップして商業的に展開する権利を得たという市場からのシグナルだと思います。我々が事業を開始した2017年は、自律走行車のハイプサイクルのピーク時で、すでに何十億ドル(何千億円)もの投資が行われていました。誰もが1年先の話だと思っていたのです」。

「そして、何兆ドル(何百兆円)規模のテック巨人たちに対抗するために、逆張りスタートアップを作っていくことは、少しクレイジーだったかもしれません。しかし(技術を)裏づける実例のおかげで、次のレベルのスケールに移行することができました。それは、複数の都市でテストを行えるということです。ロンドンでシステムのトレーニングを行い、マンチェスター、コベントリー、リーズ、リバプールなど、英国全土で展開したことに加え、多くの商業パートナーや、すばらしい人材をチームに引きつけることができました」。

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(文:Mike Butcher、翻訳:Aya Nakazato)

スマートカレンダーツールのClockwiseはAIを活用してリモートワークでの「燃え尽き」をなくす

時間管理とスマートカレンダーツールのClockwiseがシリーズCで4500万ドル(約51億6000万円)を調達した。このラウンドを主導したのはCoatueで、他にAtlassian Venturesとこれまでに投資していたAccel、Greylock Partners、Bain Capital Venturesも参加した。今回のラウンドでClockwiseの調達金額合計は7600万ドル(約87億1700万円)となった。ClockwiseはAIを活用して勤務中の時間の制約をなくし「燃え尽き」などリモートワークやハイブリッドワークに関連する問題の解決を目指す。

2016年にGary Lerhaupt(ゲイリー・ラーハウプト)氏、Matt Martin(マット・マーティン)氏、Mike Grinolds(マイク・グリノルズ)氏がClockwiseを創業した。この3人はRelateIQで働いているときに出会った。RelateIQは2014年にSalesforceに3億9000万ドル(約447億3000万円)で買収された。3人には共通のゴールがあった。それは人々が作業に集中する時間をもっと作れるようにしたいということだ。

ClockwiseのCEOであるマーティン氏はTechCrunchに対してメールで次のように述べた。「Clockwiseは現代の勤務時間のためのソリューションです。チームのスケジュールを最適化して、みんなの毎日にもっと時間を作ります。一緒に働いているときには存在感を得られ、1人で働いているときには集中できます。我々は、人々の時間を心から尊重し健康で持続可能な仕事の未来を作る、新しい働き方を実現します」。

Clockwiseのプラットフォームは2018年に公開され、これまでに400万件の会議を柔軟にリスケジュールしてきた。また邪魔されずに集中する「フォーカスタイム」を200万時間以上生み出してきた。フォーカスタイムはカレンダーを自動でブロックすることで作業に集中する時間の長さを可視化する機能だ。ClockwiseはNetflix、Twitter、Coinbase、Atlassian、Asana、Airtableなど1万以上の組織でカレンダーの最適化に使われている。

画像クレジット:Clockwise

現在、ClockwiseはCalendlyDoodleReclaimなどのスマートカレンダーやスケジューリングのツールと競合している。マーティン氏によれば、Clockwiseは同社が「タイムオーケストレーション」と呼んでいる新しいカテゴリーを作っている点が他のスマートカレンダープラットフォームとは違うという。タイムオーケストレーションとは、組織レベルでスケジュールをまとめる最新のやり方だ。

マーティン氏はこう説明する。「このカテゴリーは始まったばかりです。したがって我々の主な競合は、自分の時間を最適化しようとすると同僚の生産性にマイナスの影響を与えることがあると認識していない人々です。Clockwiseの優れている点は企業の勤務時間を調整することです。最大100万のカレンダーを並べ替えて、どんなチームでも全員にとってできるだけ最適なスケジュールを立てることができます」。

Clockwiseは今回の資金でAIテクノロジーを進化させ、同社プラットフォームを世界中のチームに導入することを目指す。全部門で人材採用を進め、現在は25のポジションを募集中で2022年中にさらに100のポジションを募集する予定だ。

マーティン氏は今後について、Clockwiseは勤務中の時間に関する制約をなくせるように引き続き成長し拡張していくと述べた。同氏は、Clockwiseは現在のところ社内会議の管理のみを対象に設計しているが将来的にはスケジュール機能が劇的に向上するだろうと説明した。

「我々は高度なAIと機械学習のモデルに投資して、フォーカスタイムの創出と質の高いミーティングの実施の両方に取り組んでいます。Clockwiseには、例えばMicrosoft 365を使っている何億人もの人たちに新しい働き方をもたらすような、魅力的な新しいプロダクトと機能拡張が今後たくさん予定されています」とマーティン氏はいう。

Clockwiseは2020年6月にBain Capital Venturesが主導するシリーズBで1800万ドル(約20億6500万円)を調達しており、今回はそれに続くシリーズCとなった。2019年6月にはGreylockとAccelが共同で主導した1100万ドル(約12億6000万円)のシリーズAを発表していた。

画像クレジット:Clockwise

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(文:Aisha Malik、翻訳:Kaori Koyama)

eコマースのカスタマーサービスで繰り返される作業の自動化をサポートするZowie

Zowieの共同創業者マット・シオレック氏とマヤ・シェーファー氏(画像クレジット:Zowie)

顧客サービスの内容は、ほぼ数種類に限定される。まず返品、そして返金、そして品質管理部門に対する質問だ。これらは、同じ内容が繰り返されることも多く、また、もっと複雑な話題で顧客エンゲージメントを深めるための時間はなかなか得られない。例えば情報をプロダクト部門へつないだり、顧客にとってベストのプロダクトを探す手伝いをするといったことはできていない。

Zowieを創業したMaja Schaefer(マヤ・シェーファー)氏とMatt Ciolek(マット・シオレック)氏は、繰り返されることが多いサービスは自動化できると考えている。同社を興した2019年、2人はプロダクト開発と、顧客調査の仕事をしていたeコマース企業での経験をブレンドしようと考えていた。

CEOのシェーファー氏は「顧客サービスは、既存のソリューションで解決する問題ではないということを私たちは悟りました。それらのソリューションはどれも実装がとても難しいからです。実装には数カ月も必要で、さらにその後、メンテナンスが困難になります」という。

2人は、繰り返し行われる仕事の解決策としてチャットボットをクライアントに提案し、数週間でその構築を任された後、Zowieのアイデアを思いついた。

顧客サービスにAIによるチャットボットを使うやり方は、新しいものではない。2021年1年でも、ForethoughtHeydayCognigyLandbotHeyflowなどが、この分野で資金調達を発表している。

しかし、競合他社の中には、回答などのワークフロー情報をツールに入力する必要があるものもあるとシェーファー氏はいう。その代わり、ZowieのZowie X1テクノロジーは、製品やブランドに特有のリクエストワークフローを最初から自動化する。同社は数分でデータを分析し、Zowieがサポートできるサポートチケットの割合(場合によっては50%)を顧客に伝えることができる。

シェーファー氏は、チャットボットの導入により、エージェント1人あたり1日2時間程度が解放され、チャットボットが回答しない質問を受け付けたり、より複雑な問題を解決したり、より多くのサポートを売上につなげたりすることが可能になると見積もっている。平均して、顧客は最大45%の売上増を実現することが可能だと、彼女はいう。

2020年から2021年にかけて売上が3倍になった同社は、資金調達を目指すことを決め、Gradient Venturesと10xFoundersが主導し、LatticeのCEOであるJack Altman(ジャック・オルトマン)氏、GiessweinのCEOであるMarkus Giesswein(マルクス・ジースバイン)氏、以前の投資家であったInovo Venture Partnersが参加してシードラウンドで500万ドル(約5億7000万円)を調達した。

ZowieはGiessweinを含む約100社の顧客と取引している。彼女は今回の資金を製品開発、マーケティング、販売、米国および北米全域の商業チームの成長に充てたいという。同社の従業員は現在36名で、2022年中にチームを倍増させる計画だ。

Zowieが拡大しようとしている製品機能には、ウェブサイトから電子メール、WhatsAppまで、できるだけ多くのチャネルでの自動化、および営業サイドでカスタマージャーニーをナビゲートできるような機能の実現が含まれている。

Gradient VenturesのジェネラルパートナーであるDarian Shirazi(ダリアン・シーラーズ)氏は、短期間で大きな収益を上げたことと、創業者たちが築いているビジネスに惹かれたこともあり、Zowieを選んだと語る。

「Zowieを見ていて感じた差別化の1つは、ナレッジベースを生成してくれるeコマース向けの初のAIチャットボットであることでした。他は質問に答えるためのナレッジベースを用意しなければならず、そんな時間がない企業もあります。私たちはチャットボットの期待していますが、巨大でバーティカルなeコマース向けにうまくやった人はいませんでした」とシーラーズ氏はいう。

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(文:Christine Hall、翻訳:Hiroshi Iwatani)

中国のAIチップデザイン企業Moffett AIがシリーズAラウンドで「数十億円」を調達

中国では半導体技術の独立性を高めることが求められており、それにともない投資家たちはさまざまな種類のチップスタートアップを追い求めている。深圳のファブレスチップデザイン企業であるMoffett AIは、新たにシリーズAの出資を受けた。同社は正確な金額を公表せず「数千万ドル(数十億円)」とだけ述べている。

このラウンドは、CoStone CapitalGreater Bay Area Homeland Development Fundが主導した。後者のファンドは、中国が香港、マカオ、深圳、および広東省南部のいくつかの都市を統合する壮大なプロジェクトであるGBA(大湾区)経済圏のスタートアップを支援するために設立された金融ビークルだ。

シリーズAラウンドに参加した他の投資家には、Co-PowerGrand China Capital、深圳市政府が「次のHuawei(ファーウェイ)、Tencent(テンセント)、DJIを探し出す」ために設立した戦略的ファンドであるShenzhen Angel Fund of Funds(FOF)が含まれる。2020年3月に実施されたMoffettの前回のラウンドは、1億元(約1600万ドル、約18億円)でクローズされた。

自律走行車からビデオストリーミングのレコメンデーションまで、人工知能は私たちのデジタルライフに欠かせないものとなっている。AI機能の需要が急増しているため、コンピューティングパフォーマンスに負担がかかり、MoffettやFoxconnが出資するKneron(クネロン)のようなAIアクセラレーションを提供する企業が切望されるようになっている。

Moffettは、ニューラルネットワークモデルから冗長情報を取り除き、最終的に処理の高速化につなげるプロセスである「スパース化」と呼ばれる技術を用いて、同社のAIチップを差別化することを約束している。同スタートアップは新たな資金を、同社のスパース技術を利用するパートナーやクライアントの「エコシステム」の拡大と、TSMCが製造する最初のチップ「Antoum」の量産に充てる予定だ。

同社は、このチップのスパース率は32倍で、その処理能力は「国際的なフラグシップ製品」の5~10倍になると主張している。

Moffettは深圳に本社を置き、北京、上海、そして2018年に設立されたシリコンバレーのオフィスにも研究開発チームを置いている。このスタートアップは、カーネギーメロン大学のAI研究者や、Intel(インテル)、Qualcomm(クアルコム)、Marvel(マーベル)、Oracle(オラクル)などに所属していた半導体のベテランたちによって運営されている。

関連記事:AIチップメーカーのKneronが自動運転の推進に向けて約28.4億円調達

画像クレジット:Moffett AI

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(文:Rita Liao、翻訳:Aya Nakazato)

【コラム】ヒートアイランド現象による影響を軽減するため、今、世界はAIを活用すべきだ

人類がこのまま何もしなければ、地球の温暖化はあとわずか数十年の間に少なくとも過去3400万年間前例のないレベルにまで達し、氷河が溶け、洪水がかつてないほど発生し、都市の熱波が我々に悲惨な影響を与えることになる。

米海洋大気庁によると、2021年には米国だけでもすでに18件の気候関連の異常災害が発生しており、それぞれに10億ドル(約1149億円)を超える損害が発生しているという。

世界中で起きた自然災害を結果や頻度の観点から見ると、洪水や地震は人や経済により大きな影響を与えるのものの、熱波よりも発生頻度は低い。熱波は一般的に都市ヒートアイランド現象(UHI)の形で発生し、ヒートポケットとも呼ばれているが、これは都市中心部の気温が周辺部より高くなる現象である。

都市部が急速に温暖化する中、世界各地のさらに多くの人々がヒートアイランド現象による致命的な被害を受けており、都市公衆衛生における格差が浮き彫りになっている。世界保健機関によると、2000年から2016年の間に熱波に影響を受けた人の数は1億2500万人急増し、1998年から2017年の間に16万6000人以上の命が奪われているという。

米国の市当局は現在、住民の中でも特に弱い立場にいる人々の生活レベルや状況が猛暑によって低下することを懸念しているが、影響を軽減するために活用できるようなデータは用意されていない。

デザイン主導のデータサイエンス企業で働く私は、組織のための持続可能なソリューションの構築や、ビジネス、社会、社会経済の複雑な問題は、高度な分析、人工知能(AI)技術、インタラクティブなデータ可視化を用いて解決できることを知っている。

とはいうものの、こういった新テクノロジーは、公衆衛生の専門家、企業、地方自治体、コミュニティ、非営利団体、技術パートナーの協力なくしては展開することができない。この分野横断的な介入こそが、テクノロジーを民主化し、都市ヒートアイランド現象の惨状を改善する唯一の方法なのである。それでは前述のプレイヤーは、都市ヒートアイランド現象を軽減するためにどのようにして協力しているのだろうか。

どの国が大きく貢献しているかを把握する

世界中のあらゆる企業、政府、NGOが熱波による問題の解決に取り組んでいる。

しかし、カナダでは1948年から2012年の間に平均1.6℃の上昇と、世界平均の約2倍の温暖化が進んでいるため、AIを使った熱波予測にはどこよりも力を入れている。もともとカナダの都市はテクノロジー主導で技術に精通しているため、世界中の都市はカナダの綿密な分析と革新的なアイデアから学べることが多くあるだろう。例えば、MyHeatは各建物における太陽光発電の潜在性を追跡し、熱波を持続可能なエネルギーの創出に利用している。

ヘルシンキやアムステルダムなどの欧州の都市もこの課題に積極的に取り組んでいる。EUの資金提供を受けているAI4Citiesは、カーボンニュートラルを加速させるAIソリューションを追い求めている欧州の主要都市を集結させるためのプロジェクトである。資金総額は460万ユーロ(約6億円)で、選ばれたサプライヤーに分配される予定だ。

こういったプロジェクトがAIを活用して気候変動問題を解決しようとしているが、二酸化炭素排出量の削減などのニッチな分野に集中して注目されているのが現状だ。気候変動の影響ではなく、原因の軽減に焦点が当てられているのである。

そのため、熱波の影響は依然として未解決のまま手つかずの状態だ。これは、すぐに甚大な被害をもたらす洪水など他の自然災害の方が注目されやすいからでもあるだろう。熱による不快感、エネルギー使用量の増加、停電などの問題を忍ばせたサイレントキラーとも言える熱波。最大の課題は、熱波に立ち向かうためのテクノロジーが自治体やNPOにオープンにされていないということだろう。

AIを用いたソリューションを活用

回復力のある都市を構築し、気候リスクを軽減することを目的とした非営利団体Evergreenとの協働を通じて、私たちはカナダの都市ネットワークを紹介された。調査と研究を重ねた結果、洪水や地震に対しては多くのデジタルインフラやデータ駆動の政策が存在しているが、熱波に対してはまったくと言っていいほどソリューションがないことが判明した。

依然として未解決の問題が多い熱波だが、拡張性の高いツールであるAIが都市に情報を提供し、それにより根拠に基づいた意思決定を行うことができたらどれだけ効果的だろうか。

Evergreenは地理空間解析、AI、ビッグデータを、MicrosoftのAI for Earthによる助成金で作成したデータ可視化ツールとともに使用して、あらゆる都市における都市ヒートアイランド現象を調査したさまざまなデータセットを統合・解析している。これにより自治体は、不浸透性の表面を持つエリアや植生の少ない問題地域をピンポイントで特定し、日よけの屋根や水飲み場、緑の屋根を設置することでヒートアイランドの影響を緩和することができるのである。

Microsoft Azure Stack上に構築された、AIを活用した解析・可視化ツールはさまざまな機能を備えている。マップ(地形図)を活用すれば地上30メートルブロックごとの地表温度を取得することができ、建物の数や高さ、アルベド値など、都市スプロールのパラメータを変更して将来の都市スプロールのシナリオを生成できるシナリオモデリングビューもある。

温室効果ガスをトラッキングできるこの多目的ツールは、すでにカナダ国内の気候変動に対する自治体の取り組みに良い影響を及ぼしている。今後は世界中の温室効果ガスや二酸化炭素の排出をめぐる政策転換にもプラスの影響を与えていくことだろう。

Sustainable Environment and Ecological Development Society(SEEDS)はMicrosoft Indiaと共同で、インドにおける熱波リスクを予測して費用対効果の高い介入策を提供するAIモデルの第2弾を発表した。熱波が発生した場合に、政府が市内のどの地域に対して特に支援や注意が必要かを知ることができるというものだ。SEEDSはグラウンドトゥルースデータを使用し、AIモデルは熱センサーなどのデバイスを使用して地上で検証した結果を生成する。

AIはスケーラブルな上、世界各地のどんな地域にでもすばやく採用できるため、各自治体は熱波対策への経済的な方法として積極的に活用すべきある。また、AIはデータソースを抽出するツールにパッケージ化できるため、部門や主要なステークホルダー間で知識を簡単に共有することができ、意思決定者にとっても状況が把握しやすい。

現実的なソリューションを提供し、ストーリーテリングモードで生き生きと伝えることができる一般向けアプリを作ることにより、AIがもたらすインパクトを地域社会に伝えたいというのがEvergreenのアイデアである。例えば、緑の屋根によって気温が下がるということをアプリで紹介すれば、ユーザーはデータ情報を分かりやすいストーリーとして見ることができ、彼らが取り組んでいる問題を取り巻く複雑な仕組みを理解することができるようになる。

信頼のスピードでAIの民主化とスケールアップを図る

AIや機械学習(ML)プロジェクトで複数のデータソースを扱うには、分野横断的なソリューションが欠かせない。テクノロジー関係者、企業、他の非営利団体、政府、コミュニティ、都市計画者、不動産開発業者、市長室などをつなぐパイプ役として、非営利団体やコミュニティビルダーが関与することが極めて重要である。

テクノロジーパートナーが突然AIソリューションを持って都市にやってきて、市の職員がそれにすんなり賛同してくれるというシナリオはまずない。さまざまな分野が関わり合い、ビジネスケースを作成し、すべての関係者が会話に参加しなければならないのである。

同様に、革新的なテクノロジー使うことになるステークホルダーも「ここにはヒートポケットがあるので緑の屋根を設置してください」と言われただけでは、自動的にそのツールを採用することはないだろう。

MicrosoftのAI for Earthの取り組みと連携して開発された、地理空間的ソリューションの良い例がある。ある都市の全人口をマッピングし、40メートルグリッドで100平方メートルのブロック内にリリースポイントを設け、病気を媒介する危険な蚊を退治するために遺伝子を組み換えた蚊を放つというソリューションが発案された。

これは、デング熱や黄熱病に苦しむ地域社会に解決策をもたらすことができるという、AIを活用したスケーラブルなソリューションなのだが、もし誰かが突然自分の家に来て、遺伝子組み換えの蚊を氾濫させると言ったら、ほとんどの人はノーと答えるのではないだろうか。地域が蚊で溢れかえるという発想に対しても抵抗がある上、進化するAIに対する世界的な抵抗感も反対理由の1つである。AIが進化することで個人情報の利用が拡大し、プライバシーの侵害が懸念されるからである。

成功するプロジェクトのほとんどが、コミュニティを教育した上で実行されるというのはこれが理由である。エネルギーを節約して環境にやさしいAI技術を採用することで気温を下げるというポジティブなメッセージを広めるには、地域社会とのパートナーシップが重要な鍵を握っている。

例えばカナダでは各都市が独自の気候チームと気象モデルを備えており、都市部の要所要所にセンサーを設置している。大規模なデータ会社やテクノロジー会社がこういった気象データを入手するのは難しく、都市が進んで共有する必要がある。高解像度・高品質の衛星画像で雲量を調べるのも同様だ。人口データや社会経済的な考慮事項については、データプロバイダーから情報を得る必要がある。

そのためプロジェクトには「信頼のスピード」感が不可欠だ。信頼性が確立されていれば、都市は現実的でスケーラブルなソリューションを提供できるテクノロジー企業にデータポイントを共有する傾向が強くなる。信頼関係がなければ、企業はNASAやCopernicusから入手可能な、一般的なオープンソースデータに頼らざるを得なくなる。

では、企業のプレイヤーやCEOにとってこのことは何を意味するのだろうか。都市向けのAIソリューションは自治体の気候チームやコミュニティを対象としているが、石油やガス会社はどうだろう。この業界の企業は都市の排出量の多くに貢献しているため、二酸化炭素排出量を報告するという大きな圧力がかかっている。

この分野へのAIソリューションでは、製油所や貨物が排出する二酸化炭素量をリアルタイムで追跡できるコマンドセンターが必要だ。製品ごと、従業員ごとの二酸化炭素排出量を減らすようCEOらは義務づけられているが、AIソリューションを導入することで環境への影響に対する説明責任を果たすと同時に、熱波の問題の一端を担っていると認識していることを示すことができるだろう。

熱波に注目が集まるようになったのは、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響によりオフィスで働くことよりも自宅で生活することの方が多くなったためというのもある。一般設備や快適なオフィスから離れた場所で、より顕著に不快感を感じるようになったからだ。

社会変革コミュニティのリーダーたちは企業、NGO、政府、テクノロジーパートナー、コミュニティリーダー間のコラボレーションを促進することにより、気候変動や熱波によるこうした悲惨な影響を逆転させることができるのである。もしかすると、事態が手遅れになる前に、AIとMLから生まれる潜在的なソリューションを実際に展開させることができるかもしれないのだ。

画像クレジット:instamatics / Getty Images

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(文:Shravan Kumar Alavilli、翻訳:Dragonfly)