エネルギー卸取引マーケットプレイスeSquare運営のenechainが総額20億円調達、今後3年間で10倍以上の流動性増加を目指す

エネルギー卸取引マーケットプレイスeSquare運営のenechainが総額20億円調達、今後3年間で10倍以上の流動性増加を目指す

様々なエネルギー商品を売買できる卸取引マーケットプレイス「eSquare」を運営するenechainは1月26日、シリーズAラウンドでの16億円の第三者割当増資および取引銀行からの融資により、総額で約20億円の資金調達を行なったことを発表した。引受先は、リードインベスターのDCM VenturesとMinerva Growth Partners。調達した資金により、eSquareの流動性を拡大させ、エネルギー業界全体のDXを推進させたいという。

enechainは「Building energy markets coloring your life」をミッションに掲げ、あらゆるユーザーがオンライン上のマーケットプレイスeSquareを通じ、電力やLNGといったエネルギー商品を自由に売買できる社会の実現を目指すスタートアップ。

2016年の電力自由化以降には数百社の小売事業者が電力事業に参入し、従来の電力会社よりも安価に電力の販売がされるといったメリットが生まれた。しかしその一方で、自由化当初には想定されていなかった、燃料市況や需給動向に応じた電力のスポット価格の乱高下といった課題も浮き彫りになっている。このような事業環境では、生産者にとっても小売企業にとっても価格変動に対して「収益を安定化するためのヘッジ取引」が必要となるものの、これまで日本のエネルギー業界には価格をヘッジするマーケットが存在していなかった。エネルギー卸取引マーケットプレイスeSquare運営のenechainが総額20億円調達、今後3年間で10倍以上の流動性増加を目指す

そうした背景を受けenechainは、経済産業省の認可の元、法人ユーザー向けに電力やLNGなどエネルギー商品のヘッジ取引を行うマーケットプレイスを開設、取引のマッチングサービスを提供。創業から2年半で、ユーザーは電力会社やガス会社、新電力のほかにも欧米トレーダーなど120社を超えるまでに成長している。

今回調達した資金は、採用と組織拡大、コアプロダクトであるeSquareの開発およびユーザーへの導入の加速に充てる。今後3年間で、ソフトウェアエンジニアやコーポレート人材などを中心に社員数を150名と現状の3倍規模にまで増やす予定。ユーザー獲得の加速に向けた投資も積極的に行ない、eSquare上の流動性を10倍以上とすることを目指す。

enechainは、卸電力のヘッジマーケットプレイスでの取引を活性化させることで、発電・小売事業者の収益性を安定させ、エンドユーザー向けにより競争力のある条件での安定的な電力小売に寄与したいという。

レーザー核融合商用炉の実現を目指すフルスタック核融合スタートアップEX-Fusionが1億円調達、研究・開発を始動

レーザー核融合商用炉の実現を目指すフルスタック核融合スタートアップEX-Fusionが1億円調達、研究・開発を始動

レーザー核融合商用炉の実用化を目指すEX-Fusion(エクスフュージョン)は1月26日、第三者割当増資による1億円の資金調達を実施したと発表した。引受先は、ANRIが運用する「ANRI-GREEN1号投資事業有限責任組合」。調達した資金は、将来のレーザー核融合商業炉の基盤技術の1つであるターゲット連続供給装置とレーザー照準装置の開発にあてる。ハイパワーパルスレーザーを用いたレーザープラズマ実験の高繰り返し化を実現する。

EX-Fusionは、レーザー核融合商用炉の実用化を目指す国内唯一のスタートアップ企業。2021年7月、レーザー核融合研究開発を遂行してきた大阪大学レーザー科学研究所、光産業創成大学院大学の研究者が設立した。

核融合エネルギーは、発電時に二酸化炭素の排出がなく供給可能なクリーンエネルギー源として、近年ますます注目を集めている。特にレーザー核融合は、負荷変動に対応できるため、既存のエネルギー源を代替し、2050年のカーボンニュートラル実現に大きく貢献できる可能性を秘めた技術とされる。

同社は、日本を拠点とするレーザー核融合エネルギーのスタートアップとしての地位を確立することで、民間資本を集め、高い開発リスクを受け入れながら、実用化に必要な技術開発を加速する。さらに、レーザー核融合商用炉実現を目指す過程で得られる最先端の光制御技術・知見などを活用し、エネルギー分野にとどまらず、様々な産業分野の技術開発に貢献するとしている。

レーザー核融合とEX-Fusion

レーザー核融合商用炉の実現を目指すフルスタック核融合スタートアップEX-Fusionが1億円調達、研究・開発を始動レーザー核融合は、高出力レーザーを用いて重水素と三重水素の混合物を高密度に圧縮するとともに、高温度に加熱することで核融合反応を起こし、エネルギーを得る手法。日本をはじめ、米国・仏国・英国・中国・ロシアを中心に研究が行われている。

米国では、2021年8月、ローレンス・リバモア国立研究所の国立点火施設(NIF)の実験において、レーザー投入エネルギーの7割を超える核融合出力1.35メガジュールが達成された。これは、レーザー方式で核融合燃料を点火燃焼させることが可能であることを実証したものという。

ただ商用炉の実現には、(1)核融合反応発生効率の向上、すなわちレーザー投入エネルギーを超える核融合出力の達成、(2)核融合反応を10Hz程度の繰り返しで定常的に発生させ、核融合エネルギーを回収して電気・水素などの社会が利用可能なエネルギーに変換することが必要となる。

国内では、(1)の核融合反応発生効率の向上について、高効率化が期待される高速点火方式とよばれる外部からレーザーで高密度核融合燃料を追加熱する方式に注力しており、大阪大学レーザー科学研究所に整備された激光XII号・LFEXレーザーを用いて実験が遂行されている。EX-Fusion CEOの松尾一輝氏が第一著者としてまとめた最近の成果(Petapascal Pressure Driven by Fast Isochoric Heating with a Multipicosecond Intense Laser Pulse)は、米国のエネルギー高等研究計画局(ARPA-E)が出版した世界の核融合研究サマリーでも参照されているという。

(2)の高繰り返しレーザーによる核融合発生については、同社CTOの森芳孝氏が光産業創成大学院大学の中核メンバーとして、浜松ホトニクスが開発した半導体励起ハイパワーレーザーを用いてトヨタ自動車などの連携機関と共同研究を遂行してきた(2030年以降を見据えたレーザー核融合研究開発の中長期展望)。

EX-Fusionは、国内で培われてきたレーザー核融合に関する知見を集約し、レーザー核融合商用炉を実現するために設立された。現在、光産業創成大学院大学が所有する10Hz連続ターゲット供給レーザー照射技術を同社へ技術移管中という。同技術をコア技術として研究開発を始動するとしている。

天気予報AccuWeatherが大気汚染データのスタートアップ仏Plume Labsを買収

天気予報会社のAccuWeather(アキュウェザー)がフランスのスタートアップPlume Labs(プルームラブズ)を買収する。買収条件は非公表。2014年の創業以来、Plume Labsは徐々に提供プロダクトを拡大し、大気汚染データに特化した3種類のプロダクトを展開している。

Plume Labsはまず、iOSとAndroid向けに、空気の質に関する情報を提供するモバイルアプリを立ち上げた。当初は、シンプルな都市レベルの大気汚染予測アプリだった。さまざまなソースからのデータを集約し、大気汚染が時間とともにどのように変化するかを予測していた。

その後、同社は予測能力を向上させ、現在では数日先の大気環境を予測することができる。同社は、予測にいくつかの機械学習モデルを使用している。また、通りごとの情報を含む詳細な地図も提供するようになった。これにより、自転車や原付バイクで通勤している人は、避けた方がいい特に交通量の多い通りがわかるようになった。

そしてPlume Labsは、空気質のトラッキングを視覚的かつ実用的にすることで、ユーザーが行動に移せるようにしたいと考えた。そこでBluetooth Low Energyを利用してスマートフォンに接続する、独自の大気質トラッカーを設計した。

この第2世代の装置は、粒子状物質(PM1、PM2.5、PM10)および汚染ガス(二酸化窒素、揮発性有機化合物)を追跡することができる。現在、政府が支援するモニタリングステーションよりもPlume Labsのデバイスは多く使用されており、比較的成功している。

最後に、Plume Labsは大気汚染データをAPIとして提供し始めた。同社は、世界中の何千もの環境モニタリングステーションを集約し、このデータに機械学習モデルを適用している。こうすることで、Plume Labsの顧客は、自社の製品に大気汚染データを統合したい場合に一歩先に進められる。異なるデータソースを扱い、これらのデータセットを1つのセットに統合する必要はない。同様に、大気汚染に適用する機械学習にリソースを割り当てる必要もない。

AccuWeatherは2020年1月にPlume Labsのデータを自社の天気予報プロダクトに統合した。AccuWeatherはその機会を利用してPlume Labsの株式を取得した。そして今回はさらに一歩踏み込んで、残りの株式を買収する。

「大気質は、人命救助と人々の繁栄を支援するというAccuWeatherのミッションにおいて本質的な役割を担っています。今回の買収により、ユーザーや顧客に、よりパーソナライズされた体験と、天候が健康に与える影響に関する360度理解を提供することができます」と、AccuWeather社長のSteven R. Smith(スティーブン・R・スミス)氏は声明で述べた。「2社の提携は、ユーザーが健康をこれまで以上にコントロールできるようサポートするという約束を実現し、この新しい戦略的方向性によって、目標にさらにしっかりとコミットしています」。

Plume Labsは、AccuWeatherの気候・環境データのセンターとなる。この買収は、大気汚染が多くの産業にとって重要な指標になりつつあることを証明している。

Plume Labsの共同創業者でCEOのRomain Lacombe(ロメイン・ラクーム)氏は「7年前、David Lissmyrと私は、誰もが大気質情報を利用できるようにするためにPlume Labsを設立しました。それ以来、私たちの活動は、気候変動の健康への影響を身近なものにすることで、きれいな空気を求める闘いに刺激を与えてきました。今、AccuWeatherと力を合わせることは、私たちの影響を地球規模で増幅し、世界中で15億人が大気汚染を回避するのを助ける特別な機会です」と声明で述べた。

今後、Plume Labsのチームと技術の運用は続き、山火事など他の環境リスクにも取り組む予定だ。気候リスク予測はまだ初期段階だが、今回の買収は時間の経過とともにその重要性が増していくことを裏付けている。

画像クレジット:Plume Labs

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(文:Romain Dillet、翻訳:Nariko Mizoguchi

ダブリンのExergynは形状記憶合金を使って温室効果ガスの原因となる冷媒を代替

Exergyn Ltdの共同創業者でマネージングディレクターを務めるケビン・オトゥール博士(画像クレジット:Conor McCabe Photography)

ダブリンに本社を置くExergyn(エクサージン)は、冷媒を固体素材に置き換えて、温室効果ガスの排出を削減する。この技術は、データセンターに適用できる可能性がある。

この産業用クリーンテック企業は今回、シリーズAラウンド3000万ユーロ(約39億円)の資金を調達した。この投資ラウンドはエネルギー・コモディティ企業のMercuria(マーキュリア)とファミリーオフィス系ファンドのLacerta Partners(ラセルタ・パートナーズ)が主導し、プラハを拠点とするプライベート・エクイティおよびベンチャー・キャピタルのMcWin(マックウィン)も参加した。

Exergynは固体形状記憶合金(SMA)と呼ばれる製品をてがけており、HVACRと総称される暖房、換気、空調、冷蔵や、自動車、航空宇宙などの業界で炭素排出量を削減できると主張している。HVACR産業は、世界のCO2排出量の10%以上を占めている。

同社の形状記憶合金は、熱を吸収したり放出したりしながら収縮と緩和を繰り返す。これによって冷媒が不要になる。

モントリオール議定書によれば、地球温暖化の第一の解決策は、地球温暖化係数の高いガスを除去することであるという。

競合としては、メリーランド大学やスロベニアのリュブリャナ大学がこの分野に注目しているが、同じ分野で事業を行う商業組織は少ない。磁気熱量効果はSMAの高価な従兄弟のようなものだが、一般的には高価すぎると考えられている。

今回のシリーズAの発表について、共同創業者でマネージングディレクターを務めるKevin O’Toole(ケビン・オトゥール)博士は次のように述べている。「Mercuria、Lacerta、McWinといったソートリーダーたちと力を合わせることで、当社の提供する製品を複数の新しいエキサイティングな垂直市場に拡大することができます」。

今回の投資について、MercuriaのマネージングディレクターであるDavid Haughie(デヴィッド・ホーヒー)氏は次のように言及している。「Mercuriaの目標は、これらのSMAによって冷却・冷蔵などの分野で伝統的な冷媒の必要性を排除し、さらにコスト効率の高い運用を可能にすることで、HFC(代替フロン)による環境への影響をゼロすることです」。

画像クレジット:Kevin O’Toole, PhD, CEng, MIMechE Managing Director, Exergyn Ltd. Picture Conor McCabe Photography.

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(文:Mike Butcher、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

地球温暖化が進み気温が4度上昇すると、「大気の川」による「経験したことのない大雨」が春には約3倍に増えると判明

地球温暖化が進み気温が4度上昇すると、「大気の川」による「経験したことのない大雨」が春には約3倍に増えることが判明筑波大学は1月18日、熱帯から中緯度へと大規模な水蒸気が川のように流れ込む現象「大気の川」(atmospheric river)と東アジアでの豪雨との関係を、気象庁気象研究所との共同研究で明らかにした(筑波大学生命環境系 釜江陽一助教、気象庁気象研究所 川瀬宏明主任研究官)。気温が4度上昇すると、大気の川によって生じる「経験したことのない大雨」は、春には約3倍に増えるという。

北米西岸や欧州では、大気の川が豪雨を引き起こすことはわかっていたが、それ以外の地域で大気の川が生じるメカニズムや、地球温暖化が進行したときの活動の変化に関する理解は進んでいなかった。これまでに研究グループは、東アジアにおける過去60年間の日々の大気の川の振る舞いを調査し、降雨強度のデータとの比較を行い、その発生頻度と強度を明らかにした。また、大気大循環モデルを用いた大規模アンサンブル実験で、地球温暖化が進行すると、大気の川がより頻繁に東アジアを通過するようになることも突き止めていた。

東アジアを通過する「大気の川」の例。2021年4月3日21時に北日本に接近した温帯低気圧(等値線)に伴って、大量の水蒸気が流れ込む(色と矢印)「大気の川」(赤線の範囲)が通過した際の様子

東アジアを通過する「大気の川」の例。2021年4月3日21時に北日本に接近した温帯低気圧(等値線)に伴って、大量の水蒸気が流れ込む(色と矢印)「大気の川」(赤線の範囲)が通過した際の様子

これらの成果を踏まえ、研究グループは、東アジアを対象とした高解像度(水平解像度20km)の地域気候モデルを用いた解析により、大気の川たもたらす豪雨の特性が、地球温暖化によってどう変化するかを調査した。その結果、現在よりも気温が摂氏4度上昇すると、豪雨の発生頻度が、春には約3.1倍、夏には約2.4倍に増えることがわかった。

水平解像度20kmの地域気候モデルを用いた、春季におけるシミュレーション結果例。地球温暖化時に豪雨に相当する強い雨の頻度が増え(左図)、そのうちの大部分が「大気の川」によってもたらされる(右図)

水平解像度20kmの地域気候モデルを用いた、春季におけるシミュレーション結果例。地球温暖化時に豪雨に相当する強い雨の頻度が増え(左図)、そのうちの大部分が「大気の川」によってもたらされる(右図)

大気の川は、標高の高い山地の南西斜面にぶつかり強い雨を降らせる。その際の降雨強度を検証すると、気温が4度上昇した地球温暖化時に発生する豪雨のうち、春は77%、夏は46%が大気の川によって生じるものであることもわかった。北アルプスの上空を通過する水蒸気の流れは、地球温暖化時には「経験したことのない大雨」を振らせるが、その大部分が大気の川の通過によるものとなる。特に台風の接近が少ない春においては、「経験したことのない大雨」のうち大気の川によるものの割合は89%にのぼるという。

この研究により、地球温暖化にともない「経験したことのない大雨」が増えることが予測され、そこに大気の川が重要な役割を果たすことが、世界で初めて解明された。大気の川がもたらす降水特性について、また台風や線状降水帯との相互作用について解明を進めることで、豪雨災害の予測の精度を向上させ、対策に役立てることができるということだ。

画像クレジット:Clay LeConey on Unsplash

スマートホームエナジースタートアップの独Tadoが約588億円の評価額でSPAC上場を計画

サーモスタットを専門とし、最近ではロードシフトテクノロジーに基づく柔軟な「使用時間帯別」エネルギー料金体系に移行したドイツのスマートホームスタートアップtado(タド)は現地時間1月17日、企業としての次なるステップを発表した。SPAC(特別買収目的会社)との取引による株式公開だ。

持続可能な技術に特化したドイツのSPAC企業GFJ ESG Acquisitionは、tadoと合併して新会社をフランクフルト証券取引所に上場させると発表した。GFJとtadoは現在、PIPEs(私募増資)に取り組んでおり、完了すればtadoの評価額は4億5000万ユーロ(約588億円)になると予想される。新会社は引き続きtadoとして取引される。

tadoの広報担当者は、予定している上場での調達額や、上場時期についても2022年前半になりそうだということ以外は明らかにしないと述べた。

今回の動きは、tadoにとって2つの大きな進展があった直後のものだ。同社は1月11日、aWATTar(そう、これは社名の呼び方だ……)を買収し、家庭内のエネルギー消費ハードウェアから管理ソフトウェアへと事業を拡大した。このソフトウェアは顧客のエネルギー使用方法と、エネルギーソースの変動(太陽光や風力などの再生可能エネルギーや、より従来型のチャネルも含む)に応じた価格変動に基づくエネルギー消費とコストを管理できるようにするものだ。

また、5月には4600万ドル(約52億円)を調達した。当時、同社はこれが上場前の最後のラウンドになるだろうと述べていたが、それが今、現実のものとなっている。同社はこれまでにAmazon、Siemens、Telefonicaといった豪華な投資家陣から総額1億5900万ドル(約182億円)弱の資金を調達した。PitchBookのデータによると、そうしたプライベートなラウンド時の評価額は2億5500万ドル(約292億円)で、上場時に見込まれる時価総額4億5000万ドルをかなり下回っていた。

今回の合併は、株式公開する大規模なグリーンテックスタートアップとしては欧州初のケースとなるため注目すべきものだ。tadoの大きな目標は、電力網から消費者の家庭まで、エンド・ツー・エンドのシステムでエネルギー使用を管理するサービスを構築することだ。同社はこれまで2回方向転換した。最初はスマートサーモスタットのメーカーとしてスタートし、約200万のデバイスを販売してきた。その後、tadoはエネルギー料金体系を多様化し、使用状況を管理することで、ビッグデータ、予測分析、再生可能エネルギーとエネルギーハードウェアシステムという広範かつ非常に断片的な市場の活用に基づく幅広いビジネスへと発展してきた。

同社は現在、200万台以上のスマートサーモスタットを販売し、エネルギー管理技術によって20カ国にまたがる約40万のビルや家庭をつなげ、7ギガワット以上のエネルギー容量を管理していると話す。OEM900社が提供する約1万8000のシステムと連携しており、同社の負荷分散技術を使用する顧客は年間暖房費を平均22%節約できる、としている。

気候変動への懸念がますます高まり、そして消費者が温室効果ガスの排出を削減するためのサービスをより簡単に、より手頃な価格で利用できるようになるにつれ、グリーンテックやクリーンテックの企業にとって絶好の機会が出現している。今回の上場は、そのような企業の1つが、さらなる成長を目指して株式公開に踏み切るだけの十分な牽引力を感じていることを明確に示している。

tadoのCEOであるToon Bouten(トゥーン・ボウテン)氏は「tadoのチーム全体が GFJと提携することを非常に誇りに思っています」と声明で述べている。「我々は同じ信念を持ち、環境技術への情熱を共有しています。そして、顧客のコスト削減とエコロジカルフットプリントの抑制に共同で貢献することを決意しました。より持続可能なエネルギーの未来を創造するためのすばらしい位置につけています」。

この取引が完了すると、ボウテン氏は代表を退き(現職はオフィスソリューションプロバイダーRoomの社長と記載されている)、Oliver Kaltner(オリバー・カルトナー)氏がCEOに就任する。そしてChristian Deilmann(クリスチャン・デイルマン)氏がCPO、Johannes Schwarz(ヨハネス・シュワルツ)氏がCTOに就く予定だ。Emanuel Eibach(エマニュエル・アイバッハ)氏は引き続きCFOを務める。Gisbert Rühl(ギスバート・リュール)氏は監査役会会長に就任する。また、Josef Brunner(ジョセフ・ブルナー)氏、Petr Míkovec(ピョートル・ミコヴェック)氏、ボウテン氏、Maximilian Mayer(マキシミリアン・メイヤー)氏が監査役に就く。

GFJのCEOであるGisbert Rühl(ギスベルト・リュール)氏は「GFJとtadoはともに、気候変動との戦いにスマートな方法で挑むことを決意しています。tadoはすでにグリーンテック企業のニューウェーブの精神を受け継ぐマーケットリーダーです。EUのエネルギー消費の約21%は、住宅の冷暖房に使用されています。EUとドイツが、2050年までに世界で初めて経済をクライメート・ニュートラルなものにするという約束を果たしたいのであれば、住宅分野の脱炭素化に代わるものはありません」と述べた。

tadoは上場企業として市場に対して新たなレベルの透明性を獲得することになり、広く捉えるとグリーンテック業界全体にとってもプラスだ。今のところ、同社は3年後の2025年までに年5億ユーロ(約653億円)超の収益を上げるようになると予想している。

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Nariko Mizoguchi

【コラム】ヒートアイランド現象による影響を軽減するため、今、世界はAIを活用すべきだ

人類がこのまま何もしなければ、地球の温暖化はあとわずか数十年の間に少なくとも過去3400万年間前例のないレベルにまで達し、氷河が溶け、洪水がかつてないほど発生し、都市の熱波が我々に悲惨な影響を与えることになる。

米海洋大気庁によると、2021年には米国だけでもすでに18件の気候関連の異常災害が発生しており、それぞれに10億ドル(約1149億円)を超える損害が発生しているという。

世界中で起きた自然災害を結果や頻度の観点から見ると、洪水や地震は人や経済により大きな影響を与えるのものの、熱波よりも発生頻度は低い。熱波は一般的に都市ヒートアイランド現象(UHI)の形で発生し、ヒートポケットとも呼ばれているが、これは都市中心部の気温が周辺部より高くなる現象である。

都市部が急速に温暖化する中、世界各地のさらに多くの人々がヒートアイランド現象による致命的な被害を受けており、都市公衆衛生における格差が浮き彫りになっている。世界保健機関によると、2000年から2016年の間に熱波に影響を受けた人の数は1億2500万人急増し、1998年から2017年の間に16万6000人以上の命が奪われているという。

米国の市当局は現在、住民の中でも特に弱い立場にいる人々の生活レベルや状況が猛暑によって低下することを懸念しているが、影響を軽減するために活用できるようなデータは用意されていない。

デザイン主導のデータサイエンス企業で働く私は、組織のための持続可能なソリューションの構築や、ビジネス、社会、社会経済の複雑な問題は、高度な分析、人工知能(AI)技術、インタラクティブなデータ可視化を用いて解決できることを知っている。

とはいうものの、こういった新テクノロジーは、公衆衛生の専門家、企業、地方自治体、コミュニティ、非営利団体、技術パートナーの協力なくしては展開することができない。この分野横断的な介入こそが、テクノロジーを民主化し、都市ヒートアイランド現象の惨状を改善する唯一の方法なのである。それでは前述のプレイヤーは、都市ヒートアイランド現象を軽減するためにどのようにして協力しているのだろうか。

どの国が大きく貢献しているかを把握する

世界中のあらゆる企業、政府、NGOが熱波による問題の解決に取り組んでいる。

しかし、カナダでは1948年から2012年の間に平均1.6℃の上昇と、世界平均の約2倍の温暖化が進んでいるため、AIを使った熱波予測にはどこよりも力を入れている。もともとカナダの都市はテクノロジー主導で技術に精通しているため、世界中の都市はカナダの綿密な分析と革新的なアイデアから学べることが多くあるだろう。例えば、MyHeatは各建物における太陽光発電の潜在性を追跡し、熱波を持続可能なエネルギーの創出に利用している。

ヘルシンキやアムステルダムなどの欧州の都市もこの課題に積極的に取り組んでいる。EUの資金提供を受けているAI4Citiesは、カーボンニュートラルを加速させるAIソリューションを追い求めている欧州の主要都市を集結させるためのプロジェクトである。資金総額は460万ユーロ(約6億円)で、選ばれたサプライヤーに分配される予定だ。

こういったプロジェクトがAIを活用して気候変動問題を解決しようとしているが、二酸化炭素排出量の削減などのニッチな分野に集中して注目されているのが現状だ。気候変動の影響ではなく、原因の軽減に焦点が当てられているのである。

そのため、熱波の影響は依然として未解決のまま手つかずの状態だ。これは、すぐに甚大な被害をもたらす洪水など他の自然災害の方が注目されやすいからでもあるだろう。熱による不快感、エネルギー使用量の増加、停電などの問題を忍ばせたサイレントキラーとも言える熱波。最大の課題は、熱波に立ち向かうためのテクノロジーが自治体やNPOにオープンにされていないということだろう。

AIを用いたソリューションを活用

回復力のある都市を構築し、気候リスクを軽減することを目的とした非営利団体Evergreenとの協働を通じて、私たちはカナダの都市ネットワークを紹介された。調査と研究を重ねた結果、洪水や地震に対しては多くのデジタルインフラやデータ駆動の政策が存在しているが、熱波に対してはまったくと言っていいほどソリューションがないことが判明した。

依然として未解決の問題が多い熱波だが、拡張性の高いツールであるAIが都市に情報を提供し、それにより根拠に基づいた意思決定を行うことができたらどれだけ効果的だろうか。

Evergreenは地理空間解析、AI、ビッグデータを、MicrosoftのAI for Earthによる助成金で作成したデータ可視化ツールとともに使用して、あらゆる都市における都市ヒートアイランド現象を調査したさまざまなデータセットを統合・解析している。これにより自治体は、不浸透性の表面を持つエリアや植生の少ない問題地域をピンポイントで特定し、日よけの屋根や水飲み場、緑の屋根を設置することでヒートアイランドの影響を緩和することができるのである。

Microsoft Azure Stack上に構築された、AIを活用した解析・可視化ツールはさまざまな機能を備えている。マップ(地形図)を活用すれば地上30メートルブロックごとの地表温度を取得することができ、建物の数や高さ、アルベド値など、都市スプロールのパラメータを変更して将来の都市スプロールのシナリオを生成できるシナリオモデリングビューもある。

温室効果ガスをトラッキングできるこの多目的ツールは、すでにカナダ国内の気候変動に対する自治体の取り組みに良い影響を及ぼしている。今後は世界中の温室効果ガスや二酸化炭素の排出をめぐる政策転換にもプラスの影響を与えていくことだろう。

Sustainable Environment and Ecological Development Society(SEEDS)はMicrosoft Indiaと共同で、インドにおける熱波リスクを予測して費用対効果の高い介入策を提供するAIモデルの第2弾を発表した。熱波が発生した場合に、政府が市内のどの地域に対して特に支援や注意が必要かを知ることができるというものだ。SEEDSはグラウンドトゥルースデータを使用し、AIモデルは熱センサーなどのデバイスを使用して地上で検証した結果を生成する。

AIはスケーラブルな上、世界各地のどんな地域にでもすばやく採用できるため、各自治体は熱波対策への経済的な方法として積極的に活用すべきある。また、AIはデータソースを抽出するツールにパッケージ化できるため、部門や主要なステークホルダー間で知識を簡単に共有することができ、意思決定者にとっても状況が把握しやすい。

現実的なソリューションを提供し、ストーリーテリングモードで生き生きと伝えることができる一般向けアプリを作ることにより、AIがもたらすインパクトを地域社会に伝えたいというのがEvergreenのアイデアである。例えば、緑の屋根によって気温が下がるということをアプリで紹介すれば、ユーザーはデータ情報を分かりやすいストーリーとして見ることができ、彼らが取り組んでいる問題を取り巻く複雑な仕組みを理解することができるようになる。

信頼のスピードでAIの民主化とスケールアップを図る

AIや機械学習(ML)プロジェクトで複数のデータソースを扱うには、分野横断的なソリューションが欠かせない。テクノロジー関係者、企業、他の非営利団体、政府、コミュニティ、都市計画者、不動産開発業者、市長室などをつなぐパイプ役として、非営利団体やコミュニティビルダーが関与することが極めて重要である。

テクノロジーパートナーが突然AIソリューションを持って都市にやってきて、市の職員がそれにすんなり賛同してくれるというシナリオはまずない。さまざまな分野が関わり合い、ビジネスケースを作成し、すべての関係者が会話に参加しなければならないのである。

同様に、革新的なテクノロジー使うことになるステークホルダーも「ここにはヒートポケットがあるので緑の屋根を設置してください」と言われただけでは、自動的にそのツールを採用することはないだろう。

MicrosoftのAI for Earthの取り組みと連携して開発された、地理空間的ソリューションの良い例がある。ある都市の全人口をマッピングし、40メートルグリッドで100平方メートルのブロック内にリリースポイントを設け、病気を媒介する危険な蚊を退治するために遺伝子を組み換えた蚊を放つというソリューションが発案された。

これは、デング熱や黄熱病に苦しむ地域社会に解決策をもたらすことができるという、AIを活用したスケーラブルなソリューションなのだが、もし誰かが突然自分の家に来て、遺伝子組み換えの蚊を氾濫させると言ったら、ほとんどの人はノーと答えるのではないだろうか。地域が蚊で溢れかえるという発想に対しても抵抗がある上、進化するAIに対する世界的な抵抗感も反対理由の1つである。AIが進化することで個人情報の利用が拡大し、プライバシーの侵害が懸念されるからである。

成功するプロジェクトのほとんどが、コミュニティを教育した上で実行されるというのはこれが理由である。エネルギーを節約して環境にやさしいAI技術を採用することで気温を下げるというポジティブなメッセージを広めるには、地域社会とのパートナーシップが重要な鍵を握っている。

例えばカナダでは各都市が独自の気候チームと気象モデルを備えており、都市部の要所要所にセンサーを設置している。大規模なデータ会社やテクノロジー会社がこういった気象データを入手するのは難しく、都市が進んで共有する必要がある。高解像度・高品質の衛星画像で雲量を調べるのも同様だ。人口データや社会経済的な考慮事項については、データプロバイダーから情報を得る必要がある。

そのためプロジェクトには「信頼のスピード」感が不可欠だ。信頼性が確立されていれば、都市は現実的でスケーラブルなソリューションを提供できるテクノロジー企業にデータポイントを共有する傾向が強くなる。信頼関係がなければ、企業はNASAやCopernicusから入手可能な、一般的なオープンソースデータに頼らざるを得なくなる。

では、企業のプレイヤーやCEOにとってこのことは何を意味するのだろうか。都市向けのAIソリューションは自治体の気候チームやコミュニティを対象としているが、石油やガス会社はどうだろう。この業界の企業は都市の排出量の多くに貢献しているため、二酸化炭素排出量を報告するという大きな圧力がかかっている。

この分野へのAIソリューションでは、製油所や貨物が排出する二酸化炭素量をリアルタイムで追跡できるコマンドセンターが必要だ。製品ごと、従業員ごとの二酸化炭素排出量を減らすようCEOらは義務づけられているが、AIソリューションを導入することで環境への影響に対する説明責任を果たすと同時に、熱波の問題の一端を担っていると認識していることを示すことができるだろう。

熱波に注目が集まるようになったのは、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響によりオフィスで働くことよりも自宅で生活することの方が多くなったためというのもある。一般設備や快適なオフィスから離れた場所で、より顕著に不快感を感じるようになったからだ。

社会変革コミュニティのリーダーたちは企業、NGO、政府、テクノロジーパートナー、コミュニティリーダー間のコラボレーションを促進することにより、気候変動や熱波によるこうした悲惨な影響を逆転させることができるのである。もしかすると、事態が手遅れになる前に、AIとMLから生まれる潜在的なソリューションを実際に展開させることができるかもしれないのだ。

画像クレジット:instamatics / Getty Images

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(文:Shravan Kumar Alavilli、翻訳:Dragonfly)

シェルが設立したスタートアップファンド「EEGF」、太陽光発電を提供しアフリカでクリーンエネルギーを促進

FinDev Canadaは、サハラ以南アフリカにおける初期および成長段階のエネルギー関連スタートアップに投資するファンドEnergy Entrepreneurs Growth Fund(EEGF)に1300万ドル(約14億8500万円)を出資した。資金の一部は、同地域のオフグリッド世帯や企業のクリーンエネルギーへのアクセス向上に役立てられる。

1億2000万ドル(約137億円)のEEGFは、2019年にShell Foundation(シェル財団)と英国のUKaid、そしてオランダのEntrepreneurial Development Bank FMOが共同で設立したファンドで、エネルギー分野の企業に対し、デット(触媒 / メザニン)または株式の形で融資を行っている。EEGFは、インパクト投資マネージャーであるTriple Jumpと、気候変動対策ベンチャーを支援する企業であるPersistentが運営している。

FinDev Canadaは、サハラ以南アフリカ、ラテンアメリカ、カリブ海地域の低所得者や十分な支援が行き届いていない層の経済的エンパワーメントを促進するインパクト金融ファシリティである2X Canadaを通して資金調達に参加した。

FinDev CanadaのVP兼最高投資責任者であるPaulo Martelli(パウロ・マルテリ)氏は、今回の資金提供は、新型コロナウイルスによる減速の後、クリーンエネルギー産業のイノベーションを加速するのに役立つと声明で述べている。

「パンデミックの影響で、健康危機以前から遅れていたアフリカの電化推進が遅れています。EEGFのこの分野への投資能力を高めることで、FinDev Canadaとその2X Canadaファシリティは、アフリカの家庭や企業においてクリーンで信頼できるエネルギーへのアクセスを拡大し、包括的で持続可能な成長と何百万人もの人々の生活の向上に貢献するエネルギー企業を支援します」と同氏は述べた。

このファンドの投資先は少なくとも半数が、アフリカの女性消費者や起業家のエネルギーニーズに明確に対応している企業、および企業や家庭に再生可能エネルギーのソリューションを提供している企業だ。サハラ以南アフリカは、電気を利用できない世界人口の75%を占めると言われており、そのギャップを埋めていく過程で再生可能エネルギーによるソリューションを採用できる可能性がある。

Shell FoundationのオペレーションディレクターであるGareth Zahir-Bill(ガレス・ザヒル・ビル)氏はこう述べている。「エネルギー貧困を緩和し、気候変動を軽減する、公正かつ包摂的なエネルギーシフトには、世界のエネルギーアクセス目標を達成するために頼りにされている起業家の資金ニーズを理解する必要があります」。

「FinDev Canadaによるファンドへの投資は、起業家への柔軟な融資ソリューションの提供を拡大し、アフリカの何百万人もの人々にとってクリーンで信頼できるエネルギーへのアクセスを加速するのに役立ちます」とも。

EEGFは2021年、時間をかけて支払うことが可能な太陽光発電ソリューションを提供するBaobab+とYellow、企業向けにモバイルソーラーファームの設計・設置を行うRedaviaに投資した。

ガーナ、ケニア、タンザニアに顧客を持つRedaviaは、このファンドから370万ドル(約4億2000万円)のメザニン投資を受けた。同社は、アフリカ大陸で85MWp以上の太陽光発電の設置を目標としている。2021年9月までに「90台近いソーラーユニットを設置し、7MWpのソーラー容量を確保した」とのこと。

マラウイとウガンダで事業を展開し、一般家庭や中小企業が分割払いでソーラーシステムを購入できるYellowは400万ドル(約4億5700万円)、一方Baobab+は230万ドル(約2億6300万円)を獲得した。Baobab+は、マリ、セネガル、マダガスカル、コートジボワールで事業を展開しており、ナイジェリアとコンゴ民主共和国の市場への参入を計画している。

画像クレジット:Pramote Polyamate / Getty Images

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(文:Annie Njanja、翻訳:Aya Nakazato)

東大発サンゴベンチャーの「イノカ」、国内で初めて完全人工環境下でのサンゴの抱卵実験に成功

東大発サンゴベンチャーの「イノカ」、国内で初めて完全人工環境下でのサンゴの抱卵実験に成功

東京工業大学 中村隆志研究室の顕微鏡にて撮影

環境コンサルティングなどを行う東大発の環境移送企業イノカは1月6日、人工的にサンゴ礁の海を再現した閉鎖系水槽において、サンゴの抱卵時期のコントロールに国内で初めて成功した。自然界では1年に1度と限定的なサンゴの抱卵を人為的に導くことが可能となり、20年後には70〜90%が消滅すると心配されているサンゴ礁保全に貢献することが期待される。

イノカでは、水質(30以上の微量元素の溶存濃度)をはじめ、水温・水流・照明環境・微生物を含んだ様々な生物の関係性など、多岐にわたるパラメーターのバランスを取りながら、IoTデバイスを用いて特定地域の生態系を自然に限りなく近い状態で水槽内に再現するという同社独自の「環境移送技術」により、完全人工環境下でサンゴの長期飼育を行っている。今回の実験では、沖縄県瀬底島の水温データをもとにして、自然界と時期をずらして水温を同期させることで、サンゴ(コユビミドリイシ)の抱卵時期をコントロールすることに成功した。

このサンゴは、イノカの水槽で2年以上飼育されているもので、2021年8月時点では抱卵は確認されていなかった。今回の抱卵は、黒潮流域の生態系に関する調査研究を行っている黒潮生物研究所の目崎拓真所長も画像データから確認を行った。東京工業大学 中村隆志研究室の顕微鏡にて撮影東京工業大学 中村隆志研究室の顕微鏡にて撮影

サンゴ礁は、海の表面積のわずか0.2%ながら、そこに海洋生物の25%が暮らしているという。また、護岸効果や漁場の提供、医薬品の発見など人間の社会生活に重要な役割を担っている。その経済価値は、WWFの報告によると、50年間で約8000億ドル(約92兆円)とも推定されている。この実験が進み、サンゴが、ハツカネズミやショウジョウバエのように何世代にもわたる研究調査が可能なモデル生物に加われば、サンゴの基礎研究が大きく進み、サンゴの保全に寄与することが考えられるとイノカでは話している。

今後は、完全人工環境下での今年中のサンゴの産卵に向けて、実験が継続される。

IBMが排出量データ分析Enviziを買収、企業のサステナビリティ活動を支援

IBM(アイビーエム)は米国時間1月11日朝、オーストラリアのスタートアップEnvizi(エンビジ)を買収し、サプライチェーンの上下で環境への影響を測定するためのESG(環境、持続可能性、ガバナンス)製品パッケージに追加すると発表した。

両社は買収条件を公開しなかったが、IBMはEnvizi買収によって、顧客の環境面でのサステナビリティの取り組みを測定、管理、最適化するためのプラットフォームを手に入れた。つまり、2016年にWatson Healthを構築していたときと同じように、環境問題でデータ中心のアプローチをとっている。Watson Healthについては、同社が現在売却しようとしている、と報じられている。

企業は知見を推進するためのデータを必要としており、それがEnviziによって自社にもたらされるものだとIBM AIアプリケーションのゼネラルマネージャーであるKareem Yusuf(カリーム・ユースフ)氏は話す。

「Enviziのソフトウェアは、企業が事業活動全般にわたって排出データを分析・理解するための信頼できる唯一のソースを提供し、企業がより持続可能な事業とサプライチェーンを構築するのを支援するためのIBMの成長中のAI技術という武器を劇的に加速させます」とユースフ氏は声明で述べた。

EnviziのCEOで共同創業者のDavid Solsky(デイビッド・ソルスキー)氏は、今回の買収をIBMのグローバルプレゼンスを活用することで会社を拡大する方法と見ている。これは、はるかに大きな会社に飲み込まれる会社の典型的な主張だ。「今日という日は、1つの時代の終わりでもなければ、新しい時代の始まりでもありません。むしろ、前例のない速度で規模を拡大し、顧客がサステナビリティへのコミットメントに向けて前進するのをグローバルに支援することを可能にする構造への移行です」と、ソルスキー氏は買収を発表したブログ投稿に書いている。

IBMはEnviziを、IBM Environmental Intelligence Suite、IBM Maximo資産管理ソリューション、IBM Sterlingサプライチェーンソリューションを含む既存の製品パッケージに追加するAI駆動型ソフトウェアと見なしている。後者は、サプライチェーンに沿ったソーシングとトレーサビリティのためにIBMブロックチェーンを使用しており、安全性やトレーサビリティを向上させる可能性がある。

注目すべきは、同社がAIを活用したソリューションを追求し続けているにもかかわらず、今回は6年前のヘルスケア構想のように、ESGの取り組みにWatsonという名称を付けなかったことだ。おそらくIBMは、Watsonブランドが輝きを失ったと判断し、社内のすべてのAI駆動型ソリューションにその名称を付けることから脱却したのだろう。

同社は、2030年までに温室効果ガスの排出量を正味ゼロにすることを目指しているため、同じソフトウェアツールを社内で使用して、自社のサステナビリティの取り組みを推進するとしている。

画像クレジット:Bloomberg / Getty Images

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(文:Ron Miller、翻訳:Nariko Mizoguchi

パナソニック、テスラ・ギガファクトリーのバッテリーセル生産にRedwoodの再生材を使用へ

Tesla(テスラ)と共同で運営するギガファクトリーで製造されるパナソニックのバッテリーセルは、スタートアップRedwood Materialsとの提携拡大により、2022年末までにリサイクル素材をより多く使用することになる。

米国時間1月4日、パナソニックはCES 2022の会場でRedwood Materialsは、バッテリーセルのアノード側の重要な部材であるリサイクル素材から作った銅箔の供給を開始すると語った。Redwoodは銅箔の生産を2022年の前半に開始し、パナソニックはそれを2022年の終わりごろセルの製造に使用する。

この発表は、より多くのリサイクル素材を使っていくという、パナソニックの方針表明であり、採掘された銅鉱から作る新たな原料への依存を減少させ、さらにRedwoodの事業成長にも寄与する。

現在、市販されている電気自動車には、リチウムイオンバッテリーが搭載されている。バッテリーには2つの電極があり、一方はアノードと呼ばれる負極(マイナス)と、カソードと呼ばれる正極(プラス)だ。両極の間には電解液があり、充放電の際に電極間でイオンを移動させる運び屋として働いている。負極は通常、グラファイトでコーティングされた銅箔でできている。

自動車メーカーが電気自動車の生産を増やし、究極的には内燃機関のクルマやトラックを置き換えていくにともない、バッテリーとその素材に対する需要は急上昇していく。全車種のEV化に本気で取り組んでいる大手自動車メーカーのほとんどすべてが、そのサプライチェーンを確保するために、バッテリーセルメーカーやその他のサプライヤーとのパートナーシップに依存している。

Redwood Materialsは、2017年に当時TeslaのCTOだったJ.B.Straubel(J.B.ストラウベル)氏が創業し、循環型サプライチェーンの構築を目指している。同社は、携帯電話のバッテリーやノートパソコン、電動工具、パワーバンク、スクーター、電動自転車などの家電製品だけでなく、バッテリーセル製造時のスクラップも再利用している。そして、これらの廃棄物を加工して、通常は採掘されるコバルトやニッケル、リチウムなどの材料を抽出し、それらを再びパナソニックなどの顧客に供給する(アマゾンやテネシー州のAESC Envisionとの連携も公表している)。

最終的にはバッテリーのコスト削減と採掘の必要性を相殺するクローズドループシステムを構築することが目的だ。

Redwoodが2022年初めに発表したギガファクトリーの近くに100エーカーの土地を購入したことは、このパナソニックとの提携拡大を示唆するものだった。

Panasonic Energy of North Americaの社長であるAllan Swan氏は「バッテリーの国内循環型サプライチェーンの確立に向けた我々の取り組みは、EVがより持続可能な世界を形成するための機会を最大限に実現するための重要なステップです」と発表している。

Redwoodは2021年9月に、重要なバッテリー材料を米国内で生産する計画を発表している。同社は20億ドル(約2320億円)の工場を建設し、2025年までに年間100ギガワット時(電気自動車100万台分)の正極材と負極材を生産する予定だ。

画像クレジット:Redwood Materials

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(文:Kirsten Korosec、翻訳:Hiroshi Iwatani)

時代遅れなビルの暖房システムをスマートに変えコスト削減、9カ月で元がとれるRunwise

米国では、温室効果ガスの約13%が商業ビルや住居用建物から排出されている。なぜなのかと首をかしげたくなるかもしれない。典型的なニューヨークのビルを見学すると、レンガで覆われた巨大なビルの地下深くにある技術は、まるで1960年代にタイムスリップしたかのように見え、その上ひどい匂いがすることに気づくだろう。Runwiseはすでに4000棟以上のビルに導入されているが、米国時間12月21日、さらに多くのビルに同社の技術を導入するために1100万ドル(約12億6000万円)を調達したと発表した。この会社は、家主のコストを削減し、その過程で地球をいくらか救うという、双方にメリットのあるWin-Winアプローチを実現している。

Runwiseのセールスポイントは、センサーではなくON/OFFスイッチやタイマーで作動することが多い古い技術があるところに、建物が必要以上に暖房されないようにするための十分な技術を加えるということだ。同社は、10年の電池寿命を持つ電池で動作するワイヤレスセンサーと、ビルのボイラーや暖房を管理するコントローラーコンピュータを開発した。平均して約9カ月で、暖房費の削減という形で導入費用を回収できるという。

Runwiseの共同設立者兼COOであるLee Hoffman(リー・ホフマン)氏はこう説明する。「5、6年前は誰も環境のことなど気にしていませんでしたが、私たちは『だが、将来的に大きなインパクトがあるんだよ!』と言っていました。でも彼らは収益について尋ねてきて、それについては会話が始まるのです。当社の長期的なビジョンは、建物の運営を改善すれば、世界中のほとんどの都市の二酸化炭素排出量と経済性を変えることができるということです。米国には1200万棟のビルがあり、当社は現在そのうち4000棟に入っていまが、すべてのビルに導入できない理由はありません」。

同社は10年前からブートストラッピングしており、目覚ましい成果を上げている。同社の技術は、Related、Blackstone、Lefrak、Equity Residential、Douglas Elliman、Fairsteadなど、米国で最大級の不動産事業者が所有するビルですでに利用されている。Runwiseは、同社の技術を導入した約4000棟のビルに、30万人以上の人々が住み、働いているとしている。Runwiseは、会社を超成長期に突入させる時期だと判断し、Initialized CapitalSusa VenturesNotation Capitalから1100万ドル(約12億6000万円)を調達した。今ラウンドにはNextView Venturesと複数のエンジェルも参加した。

「ニューヨークにあるほとんどのビルは、1960年代から70年代に設計された、ひと握りの企業が製造した制御装置で動いていますが、米国各地や世界のほとんどのビルもそうです。真新しいバンク・オブ・アメリカの高層ガラスタワーに入ると、そこには派手なデジタル表示のコントロールボックスがありますが、それは文字通り1960年代や70年代の同じコントロールの中にあるのと一緒です」とホフマン氏は説明しながら、信じられないでしょう、とでもいうように弾みがつく。「屋外リセットと呼ばれるもので、基本的にはExcelの表を使っています。暖房時間が何分なら暖房を入れる。外気温がこれくらいなら、これをやる。建物の中で何が起こっているのかは把握していません。すべてがハードコードされているのです。完全に狂っています。そして、これがほとんどすべての建物で、何百万ドル(何億円)ものエネルギー消費をコントロールしているのです」。

画像クレジット:Runwise

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Aya Nakazato)

気泡緩衝材をウールに置き換えることを目指すWoolaが3.2億円のシード資金を調達

毎年約550億個の小包が気泡緩衝材(いわゆる「プチプチ」「エアキャップ」etc.)とともに出荷されている。プラスチック製の気泡緩衝材は化石燃料に依存しており、プラスチック製のパッケージの98%は使い捨てにされる。こうしたプラスチックが環境へ与える悪影響は想像できるだろう。

Woola(ウーラ)の創業者は、オンラインのeコマースストアを運営していたときに、このパッケージングの問題を直接目にした。持続可能でスケーラブルな保護パッケージに選択肢がなかったことは、やがてウール(羊毛)の再発見へとつながった。これは、弾力性に富み温度と湿度を調整してくれる手つかずの資源だったのだ。

その結果、気泡緩衝材の代わりに、余った羊毛を使用する彼らのスタートアップが誕生した。彼らのウールベースのパッケージは、エンドユーザーによる再利用、転用、返送が可能だ。最終的な目的はソリューションを「閉ループ」にして廃棄されるものがないようにすることである。

Woolaはエストニアに生産施設を開設し、2020年12月に最初の製品を発売した。ウール製の封筒が、市場に出た最初の製品だった。現在製品は、英国、フランス、ドイツへ拡大している。2022年1月に発売される次の製品は、飲料会社を対象としている。

彼らはこのたび、Future Venturesが主導する250万ユーロ(約3億2000万円)のシードラウンドを行った。ラウンドにはさらに、Veriff(ベリフ)のCEOのKaarel Kotkas(カーレル・コトカス)氏、Veriffの共同創業者のJaner Gorohhov(ジェイナー・ゴロコフ)氏、VeriffのVPのKristinaLilleõis(クリスティーナ・リリワー)氏、Near Future Summit(ニア・フューチャー・サミット)の創業者のZem Joaquin(ゼム・ホアキン)氏、ブルーボトルコーヒー会長のBryan Meehan(ブライアン・ミーハン)氏が投資家として参加している。Woolaのこれまでの投資家には、Pipedrive(パイプドライブ)、Bolt(ボルト)、エンジェルファンドのLemonade Stand(レモネードスタンド)の共同創設者たちが含まれている。

WoolsのCEOで共同創業者のAnna-Liisa Palatu(アンナ=リサ・パラトゥ)氏は「気泡緩衝材は、何年もの間包装業界を支配してきましたが、その減少は避けられません」という。「この気泡緩衝材業界が駄目な理由は2つあります。1つは化石燃料への依存、そしてもう1つは使い捨てという発想です。パッケージングをより持続可能なものにするために、この両者を取り除く必要があるのです」。Jevgeni Sirai(ジェフゲニー・シライ)氏とKatrin Kabun(カトリン・カブーン)氏が共同創業者として加わっている。

Future VenturesのSteve Jurvetson(スティーブ・ジャーベンソン)氏は、次のようにコメントしている「eコマースが隆盛を誇る中で、使い捨てのプラスチックパッケージは手に負えないものになっています。Woolaは、それをすべて、これまでは燃やしたり埋めたりされていたスクラップウールを使った美しい封筒へと置き換えることができるのです。世界は、より健康的な未来のために、石油化学経済に代わる持続可能な手段を必要としているのです」。

羊毛は手つかずの資源だ。ヨーロッパでは現在年間20万トン以上の羊毛が廃棄されている。Woolaによると、これは世界の気泡緩衝材需要の120%を満たすのに十分な量だという。

スタートアップの競合相手は、Ranpak(ランパック)やS-Packaging(Sパッケージング)が提供するリサイクルペーパー製の気泡緩衝材などだ。

画像クレジット:Woola team

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(文: Mike Butcher、翻訳:sako)

ベルテクスとエコ・プランナー、年間消費電力を半分にできる高効率な地中熱冷暖房システムを製品化へ

ベルテクスとエコ・プランナー、年間消費電力を半分にできる高効率な地中熱冷暖房システムを製品化へ

実証試験システム概要図(赤字部分が今回の開発成果)

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は12月17日、「新エネルギー等のシーズ発掘・事業化に向けた技術研究開発事業」を通じ、プレキャストコンクリート・メーカーのベルテクスと、地中熱利用などの開発を行うエコ・プランナーとが、「ライニング地中熱冷暖房システム」を開発し製品化を果たしたことを発表した。

これは、地中熱を活用した冷暖房システム。従来は、地中に直径約160mm、深さ約100mの縦坑を堀り、U字に折り曲げた細い管を入れてケイ砂で埋め戻すという方式がとられていた。しかし、それには掘削コストなど膨大な経費がかかり、細い管に水を循環させて地中熱を採取するため採熱効率が低く、普及は進んでいなかった。

これに対して、ベルテクスとエコ・プランナーが、福井大学と共同で2016年から2020年の間に開発に取り組んできた地熱冷暖房システムは、縦坑の壁に樹脂製の袋(ライニング材)を密着させ貯水するという方式で、穴の深さは従来の半分の50mほどで済み、穴を掘る経費も半分で済む。地中熱冷暖房システムの経費のほとんどが、深い穴を掘ることに費やされているからだ。

この「ライニング地中熱交換器」方式なら、貯水による蓄熱効果と、穴の壁に密着させることにより採熱効果が向上する。さらに、エアコンの出力に合わせて熱源の循環水量を調整できる「熱収支制御ユニット」を組み合わせることで、熱交換効率は従来比で3割以上向上したという。またこのシステムを兵庫県加東市の事業所に実装し、消費電力を比較した結果、従来の空冷式エアコンに比べて、年間消費電力量が約50%削減できることも確認できた。

熱収支制御ユニット(プロトタイプ)

熱収支制御ユニット(プロトタイプ)

ベルテクスとエコ・プランナーは、このシステムを発展させて地中熱交換器の設置コストや省エネ性能のさらなる向上をはかり、熱収支制御ユニットを搭載した水冷式エアコンの開発を目指すとしている。

脱炭素対応に追われる大企業にCO2マネジメントを提供する仏SweepがシリーズAで約25億円を調達

企業の二酸化炭素排出量を測定するエンタープライズSaaSは今ホットな分野だ。つい最近、PlanetlyはOneTrustに非公開の条件で買収された。また、Plan A、Watershed、Emitwiseなど、この分野には多くのスタートアップが参入しており、それぞれが独自のアプローチで市場を開拓している。

FTSE500レベルの大企業を対象としたカーボンマネジメント事業を展開しているフランスのSweepは、業界をリードすることを目指し、シリーズAで2200万ドル(約25億円)を調達した。同業他社と比較しても最大級の規模となる今回のラウンドは、英国のBaldton Capitalが主導し、New Wave、La Famiglia、2050が参加した。Sweepは設立から1年足らずで、総額2700万ドル(約30億7000万円)の資金を調達したことになる。

Sweepは、明らかに満たされていないニーズに応えようとしている。11月、BCGは、90%以上の企業が排出量を正確かつ定期的に測定していないと報告した。ESGとカーボンが企業の課題として取り上げられるにつれ、企業は解決策を求めて奔走しており、特に今後のサステナブルレポーティング規制を考慮している。

Sweepの共同設立者兼CEOであるRachel Delacour(レイチェル・デラクール)氏はこう述べている。「当社のエンタープライズグレードのツールは、カーボンデータの収集、セキュリティ、分析をシームレスかつ自動化し、企業がカーボンフットプリントの削減とグローバルなネットゼロ活動への貢献に集中できるようにします」。

Sweepの取締役会に加わった、Balderton CapitalのマネージングパートナーであるBernard Liautaud(ベルナール・リアトー)氏はこう述べている。「Sweepのミッションとビジョンは、我々が掲げる『持続可能な未来への目標』と完全に一致しています。市場を調査したとき、Sweepのチームの強さと、製品の思慮深さと成熟度に非常に感銘を受けました」。

正式なB CorpとなったSweepは、英国内閣府の「Tech for Our Planet」プログラムでCOP26でのプレゼンテーションに選ばれた数少ない企業の1つだ。

またSweepは、フランスの投資銀行であるBpifranceと協力して、同行が投資している2つの企業(通信事業者のOrangeとEdTech企業のOpenclassrooms)のフットプリントを測定した。

デラクール氏は、Zendeskが4500万ドル(約51億円)で買収したBIME Analyticsの共同設立者でもある。TechCrunchの取材に対し、彼女はこう語った。「カーボンはネットワークの問題です。正しいデータを追跡・分析するだけでなく、製造材料を選択するパートナーから、夜間に機械の電源を切るスタッフまで、企業のフットプリントに貢献するすべてのステークホルダーと関わる必要があります。気候変動に関する目標を達成するためには、スコープ3に該当するものも含め、企業の炭素排出量を構成するすべての活動を継続的に追跡する必要があります。ネットワークが大きくなればなるほど、影響も大きくなります。だからこそ私たちは、バリューチェーン上のすべてのステークホルダーをつなぎ、協力して効率的に削減活動を行えるようにSweepを構築しました」。

画像クレジット:Sweep team

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(文:Mike Butcher、翻訳:Aya Nakazato)

ゴミの山からプラスチックに代わる素材を作るUBQ Materialsがインパクト投資家TPG Rise主導で約193億円調達

100%分別されていない家庭ゴミだけで作られた、プラスチックのような素材を開発したとするイスラエルのスタートアップUBQ Materials(UBQマテリアルズ)は、TPGのグローバルインパクト投資プラットフォームであるTPG Riseが主導し、同社の気候変動投資専用ファンドであるTPG Rise Climateと、マルチセクター・インパクト投資ファンドであるThe Rise Fundsを通じて、1億7000万ドル(約193億2000万円)の資金を調達した。

今回の資金調達ラウンドには、既存の投資家であるBattery Venturesをはじめ、英国を拠点とするM&GのCatalyst Strategyなどが参加した。

UBQ Materialsは、通常なら埋め立て地に送られる有機物を含む都市固形廃棄物を、石油由来のプラスチックに代わる持続可能で、かつリサイクル可能な素材に変えることができるとしている。「UBQ」の名を冠した同社の製品は、建設、自動車、物流、小売、さらには3Dプリントなどの分野で、単独または従来の石油系樹脂と組み合わせても使用することができるという。

The Rise Fundsの共同代表パートナーであるSteve Ellis(スティーブ・エリス)氏は次のように述べている。

UBQの素材ソリューションは、都市ゴミを機能的な熱可塑性プラスチックに変換するだけでなく、エネルギー効率が高く、加工過程で水を使わず排水も出さないため、産業およびコンシューマアプリケーションにおいて、幅広い用途に利用することが可能です。

UBQがどのようにこれらを実現しているかについては曖昧だが、同社の主張を興味深く見守っていきたいと思う。

画像クレジット:UBQ Materials

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(文:Mike Butcher、翻訳:Aya Nakazato)

気象データを駆使し気候変動リスク下にある小規模農家向けマイクロインシュランスを実現可能にするIBISA

農業マイクロインシュランスのスタートアップであるIBISAは、150万ユーロ(約1億9000万円)のシードラウンドを調達したと発表した。今ラウンドは、ロンドンのインシュアテック専門VCであるInsurtech Gatewayが主導し、RockstartのAgriFoodファンドなどが参加した。

マイクロインシュランス(Microinsurance)とは、一般的に、低所得者を対象に、特定クラスのリスクに対する補償を提供することを指す。IBISAの場合は、残念ながら増加傾向にある不利な気候変動によって生活に影響を受ける可能性のある小規模農家を対象としている。

ルクセンブルクを拠点とするIBISAは、新興市場に焦点を当て、パートナーシップに基づくアプローチを行っている。「当社は、相互会社、保険会社、マイクロファイナンス機関、研究機関、農家・育種家協会、政府などと協力しています」とサイトでは説明されている。

2019年に設立されて以来、同社はフィリピン、インド、ニジェールのパートナーと協力してきた。今回の資金調達により、既存市場および新規市場での雇用とプレゼンスの拡大を図る予定だという。

農作物が被害を受けたときに補償を受けることで、農業従事者が安心するのは容易に想像がつく。しかし、農業保険に加入しない理由も根強くあり、IBISAによると、ほとんどの農家が加入していないという。オプションはコストがかかりすぎるかもしれないし、保険金を請求するための事務手続きは大変そうで不可能に思えるかもしれない。

そこで登場するのがテクノロジーだ。IBISAの保険金支払いは、迅速で手間のかからないものになっている。個別に請求するのではなく、集合的なインデックスに依拠しているからだ。これはインデックスベースの保険で、パラメトリック保険とも呼ばれている。例えば壊滅的な気象現象の通知など、特定のパラメータによって支払いが発生するというものだ。

Insurtech Gatewayの共同設立者であるStephen Brittain(スティーブン・ブリテン)氏は、このアプローチは保険会社側の運営コストの削減にもつながり、より低い料金を実現すると述べている。

「これまでマイクロインシュランスは、低い保険料、高額なクレーム処理費用、困難な販売、信頼性の欠如など、多くの理由により商業的に成立していませんでした」。

何が変わったのか?繰り返しになるが、テクノロジーである。

IBISAなどの企業がインデックスに信頼を置くとしたら、それはデータに裏付けられているからだ。共同設立者でCEOのMaría Mateo Iborra(マリア・マテオ・イボラ)氏は、衛星産業で数年間働いた経験がある。このスタートアップのアプローチの重要な要素は、軌道画像を利用して被害状況を把握することだ。さらに、現地の「ウォッチャー」からのクラウドソースデータも活用している。

宇宙テックとクラウドソーシングはさておき、IBISAにはブロックチェーンの要素もあり、同社はそれをコストを低く抑えるための手段と考えている。会社の名前は実際には「Inclusive Blockchain Insurance Using Space Assets(宇宙資産を利用した包括的ブロックチェーン保険)」の略で、欧州連合のブロックチェーンに特化したプロジェクト「Block.IS」によって加速されている

同社は最近、RockstartのAgriFoodのデモデイでもプレゼンテーションを行った。2020年9月に同プログラムに参加した際、IBISAの共同設立者であるJean-Baptiste Pleynet(ジャン=バティスト・プレネ)氏は、IBISAの保険、衛星、ブロックチェーンのコンポーネントや、ポジティブなインパクトをもたらす可能性について言及した

プレネ氏は同時に、興味深いシナジー効果のポイントを強調していた。「当社のソリューションは、食品産業にとって、サプライチェーンにレジリエンスをもたらし、気候変動リスクを管理する上で大きな価値をもたらすと考えており、その観点からもこの道を加速させたいと考えました」と同氏は説明した。

画像クレジット:Santhosh Janardhanan / 500px / Getty Images

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(文:Anna Heim、翻訳:Aya Nakazato)

三菱重工、南フランスで建造中のトカマク型核融合実験炉ITERで利用されるダイバータ向け外側垂直ターゲット6基を受注

三菱重工、南フランスで建造中のトカマク型核融合実験炉ITERで利用されるダイバータ向け外側垂直ターゲット6基を受注

三菱重工業は12月13日、南フランスで建造中のトカマク型核融合実験炉「ITER」(イーター)で使われる「ダイバータ」の構成要素「外側垂直ターゲット」6基の製作を、日本国内での機器の調達活動を行う量子科学技術研究開発機構(QST)から受注したことを発表した。三菱重工が受注したのは、全54基のうち、初号機から6号機にあたる初回製作分。2024年度中に順次納品が予定されている。

ダイバータは、核融合反応で生成される炉心プラズマ内のヘリウム(He)、燃え残った燃料、不純物を排出するためのもの。プラズマを安定的に閉じ込めるための、トカマク型核融合炉の最重要部品のひとつだ。その主な構成要素は、外部垂直ターゲットの他に、内部垂直ターゲット、ドーム、カセットボディの4つ。内側垂直ターゲットとカセットボディは欧州が、ドームはロシアが製作を担当する。

ダイバータの熱負荷は、最大で20MW/m2に達するという。これは、小惑星探査機が大気圏突入の際に受ける熱負荷に匹敵し、スペースシャトルが受けるものの約30倍にものぼる。プラズマに直接接する外側垂直ターゲットは、熱負荷のほか粒子負荷にも晒されるため、複雑な形状をしており、高精度の加工技術が要求される。

三菱重工では、すでにITERのトロイダル磁場コイル(TFコイル)の全19基中5基の製作を受注し、これまでに4基を出荷している。そうした高難度製造物の量産化技術が評価されたものと同社では話している。

ITER計画は、核融合エネルギーの実現に向け、科学的・技術的な実証を行うことを目的とした大型国際プロジェクト。日本・欧州・米国・ロシア・韓国・中国・インドの7極が参加しており、2035年の核融合燃焼による本格運転開始を目標に、ITERの建設をフランスのサン・ポール・レ・デュランス市で進めている。日本は、ダイバータやTFコイルをはじめ、ITERにおける主要機器の開発・製作などの重要な役割を担っており、QSTがITER計画の日本国内機関として機器などの調達活動を推進している。

 

使用済みリチウムイオン電池から99.99%の超高純度でリチウムを回収する装置を量子科学技術研究開発機構が開発

使用済みリチウムイオン電池から99.99%の超高純度でリチウムを回収する装置を量子科学技術研究開発機構が開発

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(量研)は12月7日、使用済みのリチウムイオン電池から99.99%という超高純度でリチウムを回収できる装置を開発したことを発表した。リチウムを100%輸入に頼っている日本において、国内資源循環への展望が拓かれる。

電気自動車(EV)の普及により世界中でリチウムの需要が急増し、今後、確保が難しくなることが予想される。2027年から2030年ごろまでに国内における需要に追いつけなくなるとの試算結果もある。現状ではリチウムのリサイクルがもっとも有力な対策となるが、既存技術では高コストとなり難しい。そこで、量研量子エネルギー部門六ヶ所研究所増殖機能材料開発グループの星野毅上席研究員らからなる研究グループは、新開発の高性能イオン伝導体を20枚積層してリチウムを回収する装置を作り、リチウム回収コストの評価を行った。

同機構の方式は、使用済みリチウムイオン電池を加熱処理(焙焼)して得られたブラックパウダー(電池灰)を水に浸し、その水侵出液50リットルを原液として、表面にリチウム吸着処理を施した高性能イオン伝導体20枚を積層した装置でリチウムを回収するというもの。そこに加える電圧、溶液の温度、流速の最適条件を導き出し、さらにブラックパウダーの中のリチウムが溶け出せる限界まで水侵出液のリチウム濃度を高めて回収速度を向上させたところ、2020年度貿易統計によるリチウムの輸入平均価格(1kgあたり1287円)の半分以下にまで製造原価を下げることができた。

99.99%という超高純度でリチウムを回収できることに加え、水素が発生すること、そして二酸化炭素ガスの吹き込みで電池原料となる炭酸リチウムを生成できるという副産物があることもわかった。これらにより、環境負荷の低い技術としての可能性も示された。

この技術により、これまでコスト面から困難とされてきた車載用大型リチウムイオン電池の工業的リサイクルが可能となる。しかも、リチウムは核融合の燃料ともなるため、核融合の早期実現にも貢献する。さらに今回開発された技術は、そもそものリチウムの供給源である塩湖かん水からのリチウムの回収も可能にする。また、塩湖かん水よりリチウム濃度は下がるものの、海水からのリチウム回収も不可能ではない。同機構は、「海水からのリチウム回収技術確立、すなわち無尽蔵のリチウム資源の確保を目指して研究開発を進めてまいります」と話している。

衛星データで世界中の森林伐採の状況を可視化できるアプリGRASP EARTH ForestをRidge-iが開発

衛星データで世界中の森林伐採の状況を可視化できるアプリ「GRASP EARTH Forest」をRidge-iが開発、違法な伐採を自動検出

AI・ディープラーニング領域のコンサルティング・開発を手がけるテックイノベーションファーム、Ridge-i(リッジアイ)は12月6日、衛星データを利用した森林伐採の進行状況を可視化できるアプリケーション「GRASP EARTH Forest」を開発したことを発表した。ヨーロッパの光学衛星Sentinel-2の観測データを利用し、約1週間の周期で全地球の変化を捉えることができる。

衛星データで世界中の森林伐採の状況を可視化できるアプリ「GRASP EARTH Forest」をRidge-iが開発、違法な伐採を自動検出

Ridge-iでは、GRASP EARTH Forest利用の実例として、千葉県南部の大規模開発を検出した様子を写真で示している。下の写真では、Google Map上で赤く塗られた箇所が森林伐採された地区を示している。2018年1月から2021年1月にかけて伐採が行われたと思われる場所だ。

GRASP EARTH Forestでは、伐採状況の時間的変化もグラフで示してくれる。下の写真は、指定した伐採箇所のグラフが表示されている。グラフの縦軸が植生指数(植物の量)、横軸が時間。これを見ると、2019年の一時期に急激に植生が減少している。そのことから、この時期に森林が伐採されたものと推測できる。

このアプリケーションで、違法な森林伐採や、許可量を超えた伐採などの自動検出が可能になるとRidge-iは話している。また、関心のある地域の状況のレポートを、ウェブアプリやPDFで定期的に提供することも可能とのことだ。下記リンクからトライアル版の申し込みができる。

https://deep-space.ridge-i.com/contact