ユーチューバーを育てるインキュベーターをNext 10 Venturesが立ち上げ、クリエイターも投資の対象だ

クリエイター経済にフォーカスしているロサンゼルスの5000万ドルのファンドNext 10 Venturesが、ユーチューバーを支援するインキュベーター事業を立ち上げる。

その名もEduCreator Incubatorは、25から40の新進ビデオクリエイターたちに、その場所などに応じて25000ドルから75000ドルのシード資金を提供し、彼らを12か月の指導教育事業に入学させる。唯一の要件は、作っているビデオが子どもや青少年を対象とする教育ビデオであることだ。

Next 10が最近雇用したマーケティング担当VP Cynthia So Schroederが、このインキュベーター事業を指揮する。彼女曰く: “YouTubeで教育コンテンツを増やせることがすばらしいのは、子どもたち、とくに新興国や途上国の第一世代である彼らは、今ではスマートフォンを持っていて、コンテンツを見ていることだ。彼らはそのコンテンツから、それまで自分たちがアクセスできなかった分野や話題を発見する。たとえば海洋学や物理学の存在を知るだろうし、そのわずかな知見を契機に、未来の宇宙飛行士やエンジニアが育つかもしれない”。

それまでeBayのグローバルコミュニティ開発&エンゲージメントのトップだったSo Schroeder写真)は、YouTubeでトップ・クリエイター・パートナーシップのグローバルディレクターだったBenjamin Grubbs(Next 10のファウンダー)および、Warner Brosでハリーポッターシリーズを担当していたPaul Condoloraらと組むことになる。

インキュベーター事業の参加者は全員が、その収益を共有する。このプールに溜まった資金は、来年度のEduCreator参加者の成長資金になり、また株式発行や追加投資については、事業の終わりに議論する。

EduCreatorは参加者たちに、同好者のネットワークや、コンテンツ開発とフォーマットにフォーカスしたプログラミング、そしてデジタルストーリーテラーのJay Shetty,WeCreateEduのファウンダーJacklyn Duffなどによるメンターシップを提供する。目標は、ユーチューバーたちが持続可能でスケーラブルなオンラインビジネスを構築することだ。

Next 10とは、何なのか? 同社の仮説によると、デジタル世界に精通したモバイルファーストのコンテンツクリエイターは大金を稼ぐだろう…少なくとも10年後には。そこからファンドの名前が由来している。Z世代の人びとの60%近くが、自分の好きな学習方法としてYouTubeを挙げる。そして昨年は、ストリーミングビデオの量が前年比で倍増以上だった。

Grubbsはこう言う: “YouTubeにいる間に総試聴時間は5倍になり、商業化と、そしてまさにグローバル化が進んだ。うちの子は9歳7歳4歳だが、うちでもメディアの消費の仕方は同じだ。次の10年を展望するなら、YouTubeはエンターテインメントの主役になり、また消費者たちは真実と知識と、そして人や世界との結びつきにアクセスするだろう”。

インキュベーターへの応募は、今日(米国時間10/18)から11月17日までだ。

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女性起業家のための新しいファンドJane.VCは、起業家たちが紹介者なしで電子メールを送ることを望んでいる

ベンチャーキャピタリストにプレゼンテーションをしたいだろうか?まず「有力な紹介者」が必要だ。少なくともほとんどのビジネスがそうしたアドバイスを受ける筈だ。

そうするには、あなたが興味を持っているVCにかつて投資をさせた人物 ―― 典型的には男性だが ―― を見つけて、彼らにあなたを紹介させなさい。何故か?VCは彼らにお金を稼がせてくれた人を愛しているからだ。当然ながらあなたの側に少なくともそうした人が1人でもついていたならば、彼らはあなたの話を喜んで聞いてくれるだろう。

だがそのサイクルには大きな問題がある。全ての起業家が億万長者と仲が良いわけではなく、また特にシリコンバレーの外に拠点を置いていたり、あまり目立った背景を持たない起業家は、彼らに望ましい紹介を行ってくれるネットワークを持っていない場合が多い。

クリーブランドとロンドンに拠点を置く新しいベンチャーファンドであるJane.VCは、女性起業家たちに紹介者なしに直接電子メールを送ることを促している。彼らに直接ピッチを送ろう。裕福で成功した紹介者は不要だ。ファンドはこれまでに、産業分野を問わずアーリーステージの女性起業家の企業に、2万5000ドルから15万ドルの投資をするために、200万ドルを調達している。このファンドは、これまで女性にとって望ましいとは言えなかった、VCの不透明でアクセスできないモデルを捨て去っている。

「私たちはJane.VCを、全ての女性のためのVCと呼びたいと思っています」とTechCrunchに語るのは、ファンドの共同創業者であるJennifer Neundorferだ。

21世紀センチュリーフォックスとYouTubeに勤めた後、中西部のスタートアップのためのアクセラレーターであるFlashstartsを、創業し率いていたNeundorferは、スタンフォードビジネススクールの同級生のMaren Bannon(LittleLaneの元CEO兼共同創業者)とパートナーを組んだ。これまでのところ、彼らは保険テクノロジー企業であるProformexと、企業がモバイルならびにウェブアプリを作成配布することを簡単にする、企業向けソフトウェアのスタートアップであるHatch Appsを支援してきた。

「私たちはまっすぐにアプローチします」

次世代ベンチャーキャピタルファンドの多くの仲間たちと同様に、Jane.VCは、最高の創業者たちがシリコンバレーの中だけで見つかるという考えには強く反対している。その代わりに、同社は世界的に展開しており、根本的な透明性と正直なシステムが最終的には報われるという哲学の下で活動している。

「起業家の時間を大切にしましょう。そしてもし見込みがなければ素直にNOと言いましょう」とNeundorferは語る。「私はそうしたやりかたの対極の位置にいたのです。多くの起業家は、実際には興味を持ってくれていないVCに対して無駄な時間を使っています。起業家の時間はとても貴重なので、私たちはそれを大切にしたいのです。私たちはまっすぐにアプローチします」。

Jane.VCは世界中での投資を計画しているが、ベイエリアの創業者たちに背を向けているいるわけではない。NeundorferとBannonは、シリコンバレーのネットワークを活用して、米国全体に広がる9人の女性からなる投資委員会と協力して、取引相手を見つける。

「私たちは極めて男性偏重のこの世界で、資金を調達し、その中で多くの浮き沈みを経験してきた女性なのです」とNeundorferは付け加えた。「女性に投資することは正しいだけではなく、そのことで多くのお金を稼ぐこともできると信じています」。

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企業に健康食を配達するOh My Greenがシード資金として$20Mを調達、全米展開を目指す

Oh My Greenは、Initialized Capital, Powerplant Ventures, Backed VC, ZhenFund, Talis Capital, そしてStanford StartX Fundらによる最初の本格的な投資ラウンドで2000万ドルを調達し、アメリカ中のオフィスに健康的な食べ物を届けようとしている。

このコンシエルジュ的なサービスはアクセラレーターY Combinationを2016年に終了して、サンフランシスコやロサンゼルス、シアトル、シカゴ、オースチン、デンバー、ボストン、ニューヨーク、そしてナッシュビルの企業に、正しい栄養学に基づくおやつや食事を提供している。同社はオフィスのおやつ戸棚の在庫を満たし(テクノロジー企業にとっておやつは必須である)、イベントのケータリングをやり、(企業の)カフェを管理し、(企業の)健康事業(ダイエットなど)を手伝う。同社の目標は、企業の健康的な食生活のためのワンストップショップ(なんでもできる)になることだ。

同社は2014年にサンフランシスコでMichael Heinrichが創業した。今週初めに彼と交わした会話によると、彼は本誌TechCrunchのおやつ戸棚を認めないらしい。なにしろ、一年前のスキットルズ(フルーツキャンディー)やエムアンドエムズ(チョコ)やフルーツバイザフット(グミ)があるんだからね。

彼は語る: “自分の人生で、もっと意味のあることをしたかったんだ。難しい仕事をいろいろしてきたし、そこで出会った人びとや問題も楽しかったけど、でも日常手に入れられる食べ物を見ると、加工しすぎや砂糖の使い過ぎのものがとても多い”。

“シュガークラッシュ(sugar crash, 糖質の摂り過ぎ→禁断症状による低血糖症)で仕事の生産性がガタ落ちになったとき、文句を言わずに自分で違いを作りだすべき、と気づいたんだ”。

Oh My Greenは機械学習を利用して顧客たちに個人化された推奨おやつや推奨食事を提供している。企業顧客は今約200社で、その中にはLyft, Apple, Y Combinatorなどもいる。今回の投資は全米展開に注ぎこみ、いずれは海外進出を目指す。

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Y Combinatorが傘下の女性ファウンダーたちのセクハラ被害を調査、被害者が強く立ち直れるための道筋を試行

Y Combinatorが、同社のポートフォリオ企業Callistoと一緒に行った調査は、ベンチャーキャピタルとテクノロジー系スタートアップにおいて、セクシャルハラスメントが相当蔓延していることを浮き彫りにしている。

Callistoは、性的不正行為を報告するソフトウェアで、それを被害者が利用する。同社は、YCの2018冬季クラスを卒業した。そして今回は、YC出身の384名の女性ファウンダーのうち125名にアンケートを送り、彼女らが“エンジェルやVCの投資家から襲われたり強要されたことがあるか”、と質問した。

アンケートには、88名の女性ファウンダーが応じた。内19名は、何らかのハラスメントを経験した、と主張している。

より具体的には、18名が、“望まざる性的申し出”から成る不適切な経験を述べている。15名はそれが“性的強要”だったと述べ、4名は“望まざる性的接触”だった、と言っている。

調査結果のリリースと並行してYCは、ファウンダーが自分が受けたハラスメントや暴行を報告するための公式のプロセスを発表した。それは、ファウンダーのためのプライベートなデジタルポータルBookfaceにおける報告だ。

YCはブログ記事にこう書いている: “報告は、いつでもできる。事件があってから何年経っていてもよい。報告は、その秘密が保たれる。ほかの投資家にも、同様の報告システムをセットアップすることを、強力にお勧めしたい”。

First Round Capitalも最近、傘下のファウンダーたちに対して性的不正行為に関する調査を行った。このアーリーステージ投資家もやはり、調査対象の869名のファウンダーの半数が、自分がハラスメントを受けたり、職場でハラスメントに遭った被害者を知っている、と回答した。

結成から7年になる非営利団体Callistoは、これらの被害者を支援するためにファウンダーたち専用のCallistoを立ち上げる、と言っている。そのCallistoを使ってファウンダーは、テクノロジーおよびVC業界の加害者の実名を記録できる。同団体は情報を収集して、無料で相談に乗ってくれる弁護士を被害者に紹介したり、同じ加害者の別の被害者と情報を共有できるようにする。その後被害者は、加害者を告訴することもできる。

テクノロジー業界に蔓延しているセクシャルハラスメントの問題は、決して新しい問題ではないが、近年では#MeToo運動などに勇気づけられて、多くの女性やハラスメントの被害者が自分たちの被害を言挙げするようになっている。元Binary CapitalのJustin Caldbeckと、元SoFiのCEO Mike Cagneyは、今の#MeTooの時代において、性的不正行為の申し立てにより業界を追放されたシリコンバレーのエリートの例だ。

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Googleの1100億ドルの広告/コマース事業のトップがGreylock Partnersへ移籍

Googleの内部筋によると、15年あまり同社に在籍した同社のコマース部門の長、Sridhar Ramaswamyが去り、Greylock Partnersに加わる。Googleも、それを確認した。RamaswamyはGreylock Partnersのベンチャーパートナーになる。Googleでは、彼の職責を、これまでGoogle Cloudのアプリ担当VPだったPrabhakar Raghavanが担うことになる。

RamaswamyはGoogleで、同社の広告とコマース関連プロダクトの事実上すべてを統轄した。それは、GoogleのGoogle Cloudを除いた部分の、収益のほとんどを稼いでいた。RamaswamyはGoogleに技術者として入ったが、昇進が速かった。現職に就いたのは2014年で、それはSusan WojcickiがYouTubeへ異動した直後だった。

GreylockでRamaswamyは主に、起業家たちの初期段階のプロジェクトに注力する。

2018年7月24日にサンフランシスコで行われたCloud Next ’18でスピーチするGoogle Inc.のエンジニアリングとプロダクト担当VP Prabhakar Raghavan。

Googleの広告収入は今でも、Alphabetの年商の80%を占める。前四半期のGoogleの広告収入は280億ドルあまりで、2017年全年では1100億ドルを超えた。ただし、誰もが知っているように、強力なコマース事業の構築ではGoogleは苦戦している。他のeコマースが継続的に成長している中で、Google Expressは伸び悩んでいる。

Ramaswamyの後釜となるRaghavanは、彼自身が作ったYahoo LabsでVPを7年務めたあと、2012年にGoogleに入った。Ramaswamy同様Raghavanもプロダクトにフォーカスし、GoogleのChief Business Officerの役を続けるPhilipp Schindlerと二人三脚で職務に当たる。

Yahooの前のRaghavanはVerityのCEOで、IBM Researchにもいた。彼にはコンピューターサイエンスの著書が二つある。

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The Lobbyは求職者のためにウォール街(一流金融業界)のウォール(壁)を壊す

Y Combinatorの12週間の育成事業を半年前に卒業したThe Lobbyが、120万ドルの資金調達を発表した。

The Lobbyは、求職者をウォール街の銀行家やベンチャーキャピタリストなど金融業界の“インサイダーたち”に結びつけて、アドバイスや各人に合ったキャリア指導を提供する。以前は投資銀行にいたファウンダーのDeepak Chhuganiは、エリート社会の出身者でもなく、アイビーリーグ系の大学も出ていない人たちに、一流金融企業への就活を成功させようとする。

“彼らのこれまでのやり方では、大量の優秀な人材を見落としている”、とChhuganiは語る。“裕福な世界や一流大学を出た者にしか、機会が与えられていない”。

Chhuganiは、ベントリー大学を卒業してMerrill Lynchに入ったが、自分がウォール街に割り込むことができたのは、たまたまこの超大手証券会社のラテンアメリカのM&Aグループに空きがあり、自分がエクアドル出身だったため、と彼は信じている。

彼の、やはりアイビーリーグ出身ではない何人かの友だちも、運良くウォール街のベンチャーキャピタルやプライベート・エクイティに就職できたが、でも一般的には、名門大学を出てない者はどれだけ優秀でも、金融業界の就活に成功することはない。

シードラウンドで個人的に投資をしたSocial Capitalのスカウト投資家Matt Mirelesは、The Lobbyについてこう言う: “求人市場は本物の能力主義だといつも自分たちに言い聞かせているし、少なくともそうあるべきだが、The Lobbyはそんな本物の能力主義を作り出しつつある”。同社のシードラウンドには、Y CombinatorのほかにAtaria Ventures, 37 Angels, 元TravelocityのCEO Carl Sparks, Columbia Business Schoolのchief innovation officer(CIO) Angela Leeらが参加した。

求職者はThe Lobby経由で、プロフェッショナルたちの30分の電話相談を受けられる。また模擬面接や効果的な履歴書の書き方なども学ぶ。インサイダーたちは、ユーザーがThe Lobbyに払う料金の一部を謝礼としてもらい、金融業界の本当の内幕話や、生きた人間によるGlassdoorのようなサービスを提供する。

The Lobbyという社名についてChhuganiは、ユーザーに就職を約束することはできないけど、各会社のロビー(控室)にまでは連れていけるから、と言っている。

“能力のある人が努力すれば、上(面接室)に呼ばれるだろう”。

[Y Combinatorの2018冬季デモデー1日目に登場した64のスタートアップたち]

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センサーデータのリアルタイムデータベースを提供するModeが$3Mを調達(上田学氏談話あり)

企業が、センサーのデータに瞬時にアクセスできるためのリアルタイムデータベースを提供しているModeが、True Venturesの率いるラウンドにより300万ドルを調達した。GigaOm(テクノロジーブログの老舗)のファウンダーでTrue VenturesのパートナーOm Malikが、このラウンドの一環としてModeの取締役会に加わった。

今では多くの企業で、車や携帯電話、各種器具・機器、医療器具、そのほかの機械類などからのセンサーデータがたくさん集まってくる。しかしこれらのセンサーをデプロイしている企業に、データの意味を〔時系列や統計分析などで〕理解するためのバックエンドデータベースがない場合が多い。

サンマテオに拠を置くModeは、企業が大量のデータをクラウドに置いて、彼らのデバイスをもっとよく理解し、次にやるべきことが分かるようにする。今Modeの顧客は、ソーラー、医療、製造業などの業種が多い。

Modeの協同ファウンダーでTwitterの技術部長だったGaku Uedaは語る: “データの収集にフォーカスするのは、共通的なインフラの問題をわれわれが担当して、顧客企業はデータの有効利用に専念してもらうためだ”。

Uedaと、同じく協同ファウンダーでゲーム企業50Cubesの技術部長だったEthan Kanは、長年の友だちだ。True VenturesのMalikによると、彼が投資家として同社に惹かれた理由の一つが、それだった。

そのMalikは言う: “企業は直線ではない。上がり下がりがある。でも、良い協同ファウンダーに恵まれていたら、何でも切り抜けられる”。

今回の資金調達でModeの調達総額は500万ドルになる。Kleiner Perkins, Compound.vc, Fujitsuなども同社に投資している。今回のシリーズAの資金は、クラウドにつなぐセンサーをもっと増やし、チームを拡張するために使われる。

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VCたちはどれだけ稼いでいるか

ベンチャーキャピタルは不透明な業界と思われているので、われわれの多くが、平均的なVCの年収などを知らなくても当然だ。

しかし、ベンチャー企業の報酬に関するJ. Thelander Consultingの調査報告書を見ると、やはりVCたちは大金を稼いでいる。

では、どれだけ? そう、VCたち204名のうち(男172女32)、平均的なゼネラルパートナー(GP)の今年の予想年収は63万4000ドルだ。この中には2017年の業績に対するボーナスも含まれる。

VC企業の規模によって、平均年収に差がある。たとえば運用資産残高(AUM)が2億5000万ドル未満のVC企業のVCたちは、それより大きなVC企業のVCよりも年収が低い。

[VCたちの2018年平均総報酬]

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VC企業でランクのトップにいるGPたちは、報酬パッケージも最大だ。彼らの年額ボーナスの平均は、アソシエイトパートナーやエントリーレベルの投資家たちの平均基本給より大きい。

この調査は、Sequoias, NEAs, Kleiner Perkinsといった、AUM 数十億ドルクラスの世界的VC企業を調べていない。しかし上の結果を外挿すれば、彼らはもっと稼いでいるだろう。

注記: 実際の年収は、上記にVC企業の運用益の分け前、いわゆるcarried interestを加えた額である。

〔訳注: VCといえば個人のVC、VC firmといえばVC企業のこと。〕

[あるミーティングでVCたちの真実を垣間見た](未訳)

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誰よりも起業家に近い伴走者目指すーー元East Venturesの廣澤氏が10億円規模のファンド「THE SEED」設立へ

The Seed Capitalの廣澤太紀氏

「大学1年生の時に初めて『シード投資家になりたい』と思ってから6〜7年、その思いはずっと変わらなかった」——前職のEast Venturesから独立し、8月にシードラウンド向けのベンチャーキャピタル「The Seed Capital」(以下 THE SEED)を立ち上げた廣澤太紀氏はファンド設立への思いについてこう語る。

シード投資家を目指すようになったきっかけは、関西学院大学の1年生時にEast Venturesの松山太河氏のインタビュー記事を読んだこと。

「(記事を読んで)『若い人たちが結果を出して活躍していて、その人たちがコミュニティや次の若い世代に対してノウハウやお金を供給していく仕組み』があるということを知って。そういう環境自体に憧れがあったし、自分もその場に参加してコミュニティを作る人間でありたいなと思ったのが最初のきっかけだった」(廣澤氏)

その後少し時間を置いて、大学3年生時の2015年2月にEast Venturesへ参画。Skyland Venturesへの出向も経験し、VC2社でトータル約3年半ほど働いた後、26歳でTHE SEEDを立ち上げた。

ファーストクローズではマネックスグループ代表執行役社長CEOの松本大氏、メルペイ取締役兼CPOの松本龍祐氏、デザインワン・ジャパン代表取締役の高畠靖雄氏、ユナイテッド、日本テクノロジーベンチャーパートナーズ無限責任組合員の村口和孝氏(適格機関投資家として出資)からの出資により数億円を調達。今後も引き続き出資者の募集を継続し、最大で10億円規模のファンドを目指す。

THE SEEDという名称の通り、投資の主な対象は創業初期のスタートアップ。1回の出資額は500〜1000万円の範囲がベースになるそうで、既存投資先への追加出資(フォローオン)も積極的にやっていきたいとのこと。領域についてはEコマースやtoB向けのビジネス、ブロックチェーンなどいくつか注目しているものはあれど、特に何かに限定することはないという。

実際すでに投資契約を締結した会社が1社、現在投資を本格的に検討している会社が2社あるそうだけど、どれも創業前後のステージ。登記をするところから手伝っている会社もあるようだ。

投資を決めた1社は大阪大学に在学中のエンジニアが立ち上げたスタートアップ。なんでも小学生から父親の影響でハードの開発をはじめ、中学生の時にロボカップ世界大会で入賞。高校時代はWeb受託事業を展開していた起業家なのだという。

廣澤氏の話では「全体の20〜30%をギークなエンジニア起業家に出資したい」と考えているそう。Ethereumのヴィタリック・ブテリン、Oculusのパルマー・ラッキー、Facebookのマーク・ザッカーバーグなど、世界を変えるプロダクトは若いエンジニアによって産み出されてきた歴史がある。THE SEEDでも世界を変えるプロダクトのはじめの一歩を共にすることを目標にしている。

起業家に寄り添う伴走者へ

もう少し廣澤氏の経歴について紹介しておきたい。ベンチャーキャピタリストとしてVC2社で働いていた約3年半のうち、前半の2年ほどはSkyland Venturesへ出向して2社を兼務。コワーキングスペース「HiveShibuya」の立ち上げや80〜100本ほどのミートアップの企画・運営といったコミュニティ作りを担いつつ、500名を超える起業家予備軍とひたすら会い続けていたという。

後半の1年半はEast Venturesに戻りPopshootやフラミンゴといった投資先のサポートに力を入れた。この期間は投資先のアプリマーケティング業務に取り組んだり、CEOと一緒にファイナンスのストーリーを練ったりなど、頻繁に起業家と顔を合わせながら現場に出て働く時間が長かったそう。

「それまではシード投資家になりたいという思いは強かった一方で、どうすれば起業家に貢献できるのか、どんな投資家になりたいのかが明確ではなかった」(廣澤氏)が、この3年半の経験を通じて自身が目指すべき方向も少しずつ見えてきたと言う。

「僕自身できる限り現場に立っていたいし、プレイヤーでいたい。起業家が最初の一歩を踏み出す所、起業の入り口から共にして、一緒に泥臭いことをやったり辛い時に話を聞いたり。誰よりも起業家に寄り添う“伴走者”のような存在を目指していきたい」(廣澤氏)

THE SEEDのテーマは「起業家に伴走する」ことだ

THE SEEDでは8月から投資先や投資候補先との個別相談会「THE SEEDトーク」を実施。並行して以前から廣澤氏がやってきた、スタートアップ界隈のコミュニティ作りにも取り組んでいくようだ。

たとえば関西の学生がスタートアップや起業に触れる入り口を作るコミュニティ「スタートアップ関西」は今後も続けていく方針。廣澤氏自身が関西の大学出身だからこそ「(東京と比べると)大阪や京都ですら情報格差がある」と感じていて、この格差をミートアップや情報発信を通じて少しでも埋めていきたいという思いがあるそう。THE SEEDとして関西拠点の開設も考えているという。

「スタートアップのコミュニティに対して自分ができることがあるとすれば、それはコミュニティの外にいる優秀な同世代や若い人たちを巻き込み、起業やスタートアップ業界に定着するサポートをすること。自分がこれまでやってきたことも活かせるし、一方で他の人がそんなにやっていない領域。このコミュニティをもっと広げていきたい」(廣澤氏)

過去1年間に調達したベンチャー資金総額、出身校別ランキング

大学のランキングといえば、それが資本豊富なファウンダーの数であれ、調達資金総額であれ、ベンチャーキャピタリストの出身校であれ、リストの上位には常に同じ名前が並ぶ。唯一のサプライズ要素は、ハーバードとスタンフォードのどちらがトップにいるかくらいだ。

この2校がトップに来ないような大学・スタートアップ関連のランキングを作ることは可能だが、今日はやらない。今回注目したのは出身ファウンダーが調達したベンチャー資金総額の多い大学のランキングだ*1

それ以外はどの大学がランク入りしたのか?

幸いリストには2校以外の名前もあった。この調査では、卒業生が過去ほぼ1年の間にベンチャー資金を最も多く集めた大学トップ15に注目した。

以前本誌の記事で、卒業生の中に100万ドル以上調達したスタートアップのファウンダーがいる人数で大学をランク付けしたことがある。本稿はその追跡調査となるが、ほとんどの名前は同じで、順序が少し変わっただけだった。

下の表をご覧いただきたい。学校名、2017年8月1日以降に調達したベンチャー資金総額、および調達額の多い企業名が書かれている。

調査方法

この調査結果では、大学と系列ビジネススクールを合算している。このため、ハーバードやペンシルベニア大学(ウォートン・スクールの母体)など有名ビジネススクールを傘下に持つ大学の調達総額が大きく跳ね上がっている。

また、何人かのファウンダーはランキングにある複数の大学で学位を取得している。該当する起業家は大学毎に1回ずつ数えた。

(*1)調査対象はシードからレイトステージまでの2017年8月1日以降に発表されたベンチャー資金調達ラウンド。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

有色人種女性起業家のために、1億ドルのファンドができた

Richelieu Dennisが祖国リベリアから米国に渡りバブソン大学に入学したとき、永住する気持ちはなかった。しかし、第一次リベリア内戦のために帰国が困難になり、この国に滞在することになると、彼はパーソナルケア製品会社、 SheaMoistureを大学のルームメイトだったハーレムのNyema Tubmanと立ち上げた。後により大きな持株会社、Sundial Brandsを設立し、有色人種女性をターゲットにした一連の商品を扱っている。

商品には、SheaMoisture、NyakioNubian Heritageなどがあり、Madame C.J. Walkerは、慈善家で社会活動家、かつ極く初期の有色人種女性起業家だった人物にちなんで名付けられている(Walkerは奴隷の娘で1919年に51歳の裕福な女性として死去した。彼女は黒人女性のための化粧品とヘアケア製品郡を開発した

あらゆる懸命の努力が昨年結実し、消費者製品の巨人UnileverがSundialを金額非公開で買収した。しかもこの契約は、独特な形で有色人種起業家の未来に希望を与えようとしている。

買収の発表と合わせてUnileverとSundialは、マイノリティー女性起業家に力を与える新しい投資手段、 New Voices Fundを作ると発表し、5000万ドルの初期投資を約束した。

木曜日(米国時間7/5)にニューオリンズ州で行われた2018 Essence Festivalで、Dennisはその2倍規模——1億ドル——のファンドを正式にスタートすると発表した。そしてすでに総額の約1/3は黒人女性起業家向けに確保されている(サイトの説明によると同ファンドはシード資金からシリーズCまでをカバーする)。

Black Enterprise誌が最初にこのニュースを報じた

こうした動きは、女性、特に国内で起業家の割合が急成長している有色人種女性にとって、間違いなく歓迎すべきニュースだと、ワシントンDC拠点の創立31年のNPO、 Institute for Women’s Policy Researchは書いている。記事によると、有色人種女性——18歳以上の女性人口の約35%を占める——は1997年に米国内で92万9445社の企業を所有し、女性が経営する会社の17%に相当していた。2014年には、企業数は293万4500社、女性経営企業の32%に達した。

もちろん、そのすべてがベンチャー支援の(あるいは支援可能な)会社ではないが、その数も増えており、ファウンダーたちはNew Voiceが約束する規模の資金を必要とすることになる。

黒人およびラテン系女性IT起業家を支援する組織であるdigitalundividedによると、2017年にスタートアップに注入されたベンチャー資金840億ドルのうち、女性が経営する会社に投資されたのはわずか2.7%であり、黒人女性ファウンダーが得た資金はわずか0.2%だった。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

「生々しい失敗体験こそシェアしたい」ユーザベースのVC事業が本格始動へ

左からUB Venturesベンチャー・パートナーの麻生要一氏、代表取締役社長の岩澤脩氏、テクノロジー・パートナーの竹内秀行氏

「自分たちも時に迷いながら、苦しい時期も乗り越えて事業を成長させてきた。培ってきたノウハウはもちろん、生々しい失敗体験こそ有益だと思うので、全面的にシェアしていきたい。スタートアップのタフタイムに寄り添える存在になれれば」ーー そう話すのはUB Ventures代表取締役社長の岩澤脩氏だ。

日本でも大きくなったスタートアップが業界の活性化や次世代のスタートアップを支援する目的で、出資やノウハウ提供に取り組む事例が少しずつ増えてきている。

たとえば2018年1月にはTechCrunchでもWantedly AI/Robot Fundマネーフォワードファンドを紹介した(双方とも子会社設立やファンドの組成を伴わない、本体からの出資プロジェクト)。両社はともに2017年にマザーズへ上場を果たしたスタートアップだ。

UB Venturesの場合は2016年にマザーズへ上場したユーザベースが新たに立ち上げた、VC事業を行う子会社という位置付け。同社は本日6月29日より本格的に始動している。

デジタルメディアやB2B SaaS領域の経験を次のスタートアップへ

事業会社がVC部門(CVC : コーポレートベンチャーキャピタル)を立ち上げる場合、本体とのシナジーを重視して投資先を選定するケースも多い。一方でUB Venturesはあくまで自分たちの経験をシェアしてスタートアップを支援し、キャピタルゲインを出していく方針。その意味で「CVCではなく、純然たるVC。シナジーありきではない」(岩澤氏)という。

ユーザベース自身も2008年の設立以降、経済情報の検索プラットフォーム「SPEEDA」と経済情報メディア「NewsPicks」を軸に、VCや事業会社など複数の投資家から資金調達をしながら成長してきた。

冒頭でも触れたとおり、自分たちが実際に事業をやっている事業家という立場から次世代の起業家を支援する意義があると考え、VC事業の立ち上げに至ったのだという。そのため投資の対象となるのはユーザベースが培ってきたノウハウを提供できる「経済メディア・ディスラプター領域」と「ワークスタイル・イノベーター(B2B SaaS)領域」のスタートアップだ。

「具体的にはサブスクリプションプラットフォーム、良質なコンテンツ、熱っぽいコミュニティという3つの軸で、発展していくスタートアップに投資をしたいと考えている。自分たちがきちんと目利きできる、支援できる領域に特化していきたい」(岩澤氏)

デジタルメディアにしろ、B2B SaaSにしろ業界自体が伸びていて、変化も激しい。メディアで言えば特にアメリカ。分散型メディアがトレンドになったと思いきや、「The Information」や「TheSkimm」のように、バーティカルなコンテンツを配信する課金モデルのメディアが改めて注目を集めている。

B2B SaaSについては、近年日本のスタートアップ界隈でも特に盛り上がっている領域のひとつと言えるだろう。TechCrunchでもいわゆるバーティカルSaaSと呼ばれる、特定の業界に特化したSaaSをいくつも紹介している。

双方の領域において海外展開なども含め前線で事業を運営し続けてきたユーザベースの知見を提供してもらえるというのは、スタートアップにとっては魅力的な話だろう。

心から解決したい課題に取り組む起業家を応援したい

UB VenturesはもともとSPEEDAのアジア責任者をしていた岩澤氏のほか、ユーザベースのチーフテクノロジストである竹内秀行氏、元リクルートホールディングス新規事業開発室長で現在は起業家としても活動している麻生要一氏の3人体制でスタートする。

現時点で出資枠については未定。1社あたりの出資額も特に上限等を決めていないが、メインはシード・アーリーステージのスタートアップだ。ユーザベースが初期から海外展開に力を入れていたこともあり、海外展開を見据える企業には積極的に投資をしたいという。

すでに最初の投資案件として予算管理SaaSの「DIGGLE」へ出資しているそうだ(なおDIGGLEはTC Tokyo 2016のスタートアップバトルのファイナリスト。2018年2月にタシナレッジから社名変更している)。

投資領域はあれど、「1番は鮮明な原体験があって、心から解決したい課題にチャレンジしているかどうか。仕組み先行ではなく自分自身がひずみを感じていて、手触りがあるななかで事業に取り組んでいる起業家を全力で応援したい」と話す岩澤氏。

テーマは事業家として、事業の前線で走りながらスタートアップに伴走していくことだ。

「同じスタートアップとして、起業家が抱える悩みや課題について同じ目線からサポートできるのが特徴だと思っている。自分たちが見てきた景色やリアルな経験を徹底的にシェアしていきたい」(岩澤氏)

製薬企業のサプライチェーンからにせ薬を撃退するTraceLinkがさらに$60Mを調達

このお天気の良い金曜日(米国時間6/8)の午後、SECが処理したばかりのTraceLinkは、薬を調べて偽薬(にせぐすり)をの処方を根絶やしにしようと努力しているSaaSだ。同社はこのほど、シリーズDで6000万ドルを調達した。

SECのファイルによると、参加した投資家は18社で、そこにはたぶんGoldman Sachsもいる…同社の成長資金部門は約18か月前にTraceLinkのシリーズC 5150万ドルをリードしている。この9歳になるスタートアップの初期の投資家には、ほかにFirstMark Capital, Volition Capital, F-Prime Capitalらがいた。

本誌TechCrunchのライターJordan Crookがそのときに書いているが、TraceLinkは製薬企業のサプライチェーンを、各国のコンプライアンス要件に応じて調べる。これはとくにアメリカでは、2013年のDrug Supply Chain Security Act(薬剤サプライチェーン安全法)によって重要性を増している。この消費者保護法は、消費者を偽薬や盗品薬、汚損薬などから守ることがそのねらいだ。

この法律が施行されたときには、業界は今後10年以内に最小単位レベルのトレーサビリティを確立することが、義務化された。その期限が5年後に迫っている。

さらにTraceLinkにとって追い風になっているのは、麻薬だ。その拡大は90年代の後半以降とくに激しく、薬剤のサプライチェーンにおいてそれに対する脆弱性を摘出すべし、という圧力がますます強くなっている。

同社が今、上場に備えて四半期ごとの売上や顧客数の伸びを報告するようになったのも、不思議ではない。まさに、2週間前の同社の“成長ハイライト”によれば、同社の2018Q1の売上は前年同期比で69%も伸びたのだ。

[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

ジャーナリストから投資家への転身――元TechCrunch社員がたったひとりで立ち上げたVCファンドDream Machine

5年ほど前、Alexia Bonatsos(旧姓Tsotsis)はTechCrunchの共同編集長として働いており、スタートアップ界では名のしれた存在だった。さまざまなスタートアップやファウンダーとも顔見知りだったBonatsos。しかし彼女が本当にやりたかったのはスタートアップ投資だった。

「私はかなり早い段階でPinterestやWish(当時はまだContextLogicという名前だった)、Uber 、Instagram、WhatsAppの記事を書いていた。そのため、自分はいいタイミングにいい場所にいる(つまりラッキーだった)か、うまく自分に情報が流れるようになっているんじゃないかと感じるようになり、『もし投資したらどうなるんだろう?』と考えずにはいられなかった」と語るBonatsos。

それから彼女は複数のベンチャーキャピタル(VC)と話をしたが、それが具体的な仕事につながることはなかったため、やりたい仕事を自分で作ろうと考えた。まずBonatsosは2015年にTechCrunchを去り、スタンフォード大学ビジネススクールの1年制修士プログラムへの参加を決める(Bonatsosいわく、他の投資家と「対等に話せるくらいの知識を身につけたかった」とのこと)。そして修士課程在籍中も修了後も、Bonatsosはさまざまな起業家と面談を繰り返し、ストーリーの伝え方や情報発信のやり方、多くのフォロワーを抱える人の説得方法など、彼女がTechCrunchで培ったスキルを彼らに伝えていった。

彼女は単にネットワークを広げようとしていたわけではなく、それと同時に個人投資家から資金を集め、徐々に第一号ファンドの準備を進めていたのだ。そして昨年12月、Bonatsosは遂にサンフランシスコにDream MachineというVCを立ち上げ、2500万ドルをファンドの目標金額としSEC(証券取引委員会)への登録も完了させた。

しかしたとえ2500万ドルという調達目標に近づこうが到達しようが、(元ビジネスジャーナリストらしく)規制上のリスクを考慮して彼女は資金調達に関する情報を公にするつもりはないようだ。とは言いつつも、先日話したときに彼女はすでに7社に投資した(うち1件はトークンセールへの参加)と教えてくれた。さらに投資先の共通点については、未だに成長を続けるシェアリングエコノミー、そして最近盛り上がっている非中央集権というトレンドがヒントだと語った。

そんなDream Machineの投資先のひとつが、先週TechCrunchにも関連記事が掲載されたTruStoryだ。CoinbaseやAndreessen Horowitzでの勤務経験を持つPreethi Kasireddyが最近立ち上げたこの会社は、ブログやホワイトペーパー、ウェブサイトの情報、ソーシャルメディアの投稿などをファクトチェックできるプラットフォームを開発している。彼らは「ブロックチェーンを使い、情報のヒエラルキーを確立するシステム」を構築しようとしているのだとBonatsosは言う。なおTruStoryの株主には、True VenturesやCoinbaseの共同創業者Fred Ehrsamなども名を連ねている。

さらにDream Machineは、サンフランシスコを拠点にオンデマンドの貸し倉庫サービスを提供する、設立4年目のOmniにも投資している。倉庫に持ちものを預けるだけでなく、Omniのユーザーはプラットフォーム上で所有物を貸し借りできるため、家でホコリを被っているものを使ってお金を稼ぐことができるというのが同社のサービスの売りだ。Bonatsosも最近Omniを利用し、投資家仲間が一度着たきりクローゼットの奥にしまっていたドレスを借りたのだという。なおプラットフォームに掲載される写真はOmniが撮影し、ユーザーは知り合いだけに貸し出すか、赤の他人にも貸出を許可するか選べるようになっている。

そして3社目となる投資先がFable Studiosだ。おそらくこの企業がBonatsosの夢でもある「サイエンスフィクションを現実にするチーム」にもっとも近い。Oculus Story Studio出身者で構成されFable Studiosは、一言で言えばAR・VRコンテンツ専門のクリエイティブスタジオ。彼らは今年のサンダンス映画祭でそのベールを脱ぎ、会場では同社の初期プロジェクトのひとつである三部作構成のアニメシリーズ『Wolves in the Walls』が上映された(トレーラーはこちら)。

Fable Studiosはこれまでの調達額を公開していないが、Dream Machineの他にもShasta Venturesや起業家兼投資家のJoe Lonsdaleらが同社に投資している。

普段どのように投資先を見つけるのか尋ねたところ、Bonatsosは自分がネットワーキングをまったくためらわないタイプであることが助けになっていると答えた(実は先日ある業界イベントに参加した彼女の様子を私たちは観察していた)。

さらにBonatsosは、彼女のように唯一のジェネラル・パートナーとしてファンドを運営する人が、まだわずかではあるものの最近増えてきており、彼らとの協業や情報交換も役立っていると話す。

Product Huntの創業者Ryan Hooverもそんな“ソロVC”を立ち上げたひとりだ。現在彼はWeekend Fundという300万ドル規模のファンドを運営しており、昨年の設立以来、10社前後のスタートアップに投資している。他にもProduct Huntの初期の社員で、現在はShrug Capitalで300万ドルを運用するNiv Dror、「技術面には明るいがネットワーキングが不十分な起業家」を支援するプレシードファンドのBoom Capitalを立ち上げたCee Cee Schnugg(Boom Capital以前は、Google元CEOのエリック・シュミットが立ち上げたInnovation Endeavorsファンドで4年半勤めていた)がいる。

さらに今年に入ってからシードファンド22nd Street Venturesを設立したKatey Nilanは、ファンド立ち上げ以前、さまざまな分野でマーケティング・広報関連の仕事に6年間携わっていた。

Dream Machineをはじめとするこれらのシードファンドが、今後成長はおろか生き残れるかどうかも、もちろんまだわからない。有名なシードファンドで働くあるベンチャーキャピタリストは、シードステージ投資が「狂乱状態」にあると話す。現在、大手のシードファンドやアクセラレータープログラム、新進気鋭のファンドなどから膨大な資金が流入しており、日を追うごとに将来有望なスタートアップに投資するのが難しくなっているというのだ。

しかしBonatsosは特に心配していないようだ。ちなみにDream Machineの初回投資額は平均30万ドルほどで、投資先候補の創業者の起業経験は問わないのだという。

というのも彼女には、起業家との広大なネットワークやシード投資家の知り合いからのサポート、そしてTechCrunch時代から培ってきた直感がある。またBonatsosは、他の投資家よりもずっと早い段階での投資もいとわないと語る。

「心配するのをやめ、野心的なビジョンを持って投資に臨むだけ」とBonatsosは言う。何年間もスタートアップ界にいる彼女がよく知っている通り「不確実性が高い投資こそリターンが期待できるのだ」。

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(翻訳:Atsushi Yukutake

アシュトン・カッチャーが語るスタートアップ投資の目的と戦略

【編集部注】筆者のアシュトン・カッチャーは俳優兼投資家で、Sound Venturesの共同創業者でもある。

注:本稿の英語原文はAtriumの記事を転載したもの

これまで何度も投資先の選び方について訊かれたことがある。投資先のステージは? 収益指標は? どのセクターか? と。

しかし私は企業のステージにこだわるのではなく、難しい課題を解決しようとしている優秀な人たちに投資する気持ちでいる。

明日をより良いものにするための力を備えた、素晴らしい投資家を見つけるというシンプルなゴールに集中することこそが、私の投資戦略のキモだ。

アシュトン・カッチャー流投資の「公式」

多くのベンチャーファンドはリターンの最大化に注力している。彼らは複雑な経済モデルを使い、各投資先候補について良いケース、悪いケースの両方で最終的に株式がどれほど希薄化するかといったことを計算しているのだ。

しかし私はそんなことはしない。ただ最高に優秀な人たちに投資するだけだ。

さまざまな難しい課題に挑む、世界中の頭脳明晰な人たちと一緒に仕事をするのはとても楽しいし、往々にしてそうすることでリターンが生まれる。

なお、投資判断では以下の2つの要素を重視している。

  • リターン
  • 幸福度

まずはリミテッドパートナー(LP)のためにも、期待リターンを精査する。5年から8年、もしくは10年で6〜10倍のリターンが得られる可能性はあるか? もしもその答えがNoならば、時間とお金をかけるまでもない。

しかしこれが唯一の判断基準ではない。

もしも私たちが投資先企業を喜んでサポートしたいと感じられ、さらにLPにもある程度のリターンを提供できると自信を持って言えれば、その企業には投資する価値がある。

一見直感に反するように映るかもしれないが、実際に第一号ファンドのリターンは8〜9倍の水準にある。

ちなみに投資額すべてが無駄になったこともあるが、そうでないことの方が多かった。

100倍ものリターンを叩き出す企業はそうそうないが、5〜6倍のリターンで大事な課題を解決できた企業はいくつも存在する。だからこそ、金銭的なリターンと、問題解決までの道のりを投資先と一緒に旅することで得られる幸福感の両方を考えることで、投資結果の全体像を掴むことができるのだ。

Image: Bryce Durbin/TechCrunch

無知の知

数字の壁で自分を囲ってしまうと素晴らしい企業を見逃してしまいがちだし、数字だけに頼るのは長期的に見て良い戦略とは言えない。

というのも投資判断の時点では、どのプロダクトが「金のなる木」になるかを予測するのは難しいことがあるからだ。

しかしユーザーに十分な価値を提供できているから、そのうちマネタイズもできるだろう、と考えられるからFacebookのような企業に投資できるのだ。

もしも数字だけを見ていれば、そうはできないだろう。

8年ほど前に、メンターのひとりと話をしていたときにこんなことがあった。彼はある10社の名前をホワイトボードに列記して、私に「まずバリュエーションが高いと思う順に企業をランク付けしてみろ。そしてその次に収益額が大きいと思う順に再度ランク付けしてみろ」と言うのだ。

私はどちらのリストについても、1位と5位と7位に同じ企業の名前を書いた。

しかし実は収益額が一番小さい企業のバリュエーションが一番高く、逆に収益額が一番大きい企業のバリュエーションが一番低かったのだ。

Image: Lee Woodgate/Getty Images

創業者に求めるもの

どのスタートアップに投資するときも、私は以後5〜10年は創業者と一緒に仕事をすることになる前提で考えている。

魔法の公式とまでは到底呼べないが、私が投資を決める際の条件として設定している4つの要素が以下だ。

1. 専門知識

良い創業者というのは、自分が取り組もうとしているビジネスの分野について独自のインサイトを持っており、それがスタートアップの武器になる。そして専門知識とは以下の3つのどれかを指す場合が多い。

  1. 消費者行動に関する深い理解
  2. 時間軸に沿ったインサイト
  3. データ

通常、創業者からは何かしらの鋭い洞察をハッキリと感じることができる。だからこそ投資家はその人が課題解決に必要な専門知識を持っていると自信を持てるのだ。

2. 粘り強さ

想像できないほど辛い場面でも耐えぬける粘り強さが創業者には要される。

その証拠に、すべてが計画通りにいったという起業家の話はこれまで一度も聞いたことがない。

そのため何か予想外の事態が起きたときに、その苦難を頑張って乗り越えようという気持ちと能力があるかというのが重要なのだ。

これはなかなか判断が難しい資質でもある。普段私は創業者と面と向かって会ったときの直感を信じるようにしている。

3. 目的

3つめは、投資先候補がつくろうとしているものは、創業者が個人的に情熱を抱いているもっと大きな目的と何かしらの関係があるか、という点だ。

これはつまり、どんなプロダクトであっても、そこに創業チーム自身や彼らの考え方、信念といったものが反映されているかどうかということだ。何か問題があったときや困難な壁に立ち向かうときにこそ、創業者の信念が重要になってくる。

4. カリスマ性

素晴らしい創業者には一定のカリスマ性がある。特にCEOになろうとしている人物であればなおさらだ。

真の意味のカリスマ性を持った創業者に会うと、私は今の仕事をやめてでもその人と一緒に働きたいと感じる。そもそも投資家が今の仕事をやめてでもチームに加わりたいと思えなければ、その企業が雇おうとしている人がそう感じるわけもない。

採用はCEOの一番難しい仕事だ。

CEOは自分自身やビジョン、そして会社を売り込まなければならない。もしも私さえ説得できないほどのカリスマ性であれば、恐らく誰にも相手にはされないだろう。

Image: Boris Austin / Getty Images

私が警戒する創業者のタイプ

望ましくない創業者のタイプというのはいくらでもあるが、私が特に注意しているのは以下のような人たちだ。

1. 行動指針に問題がある

私は基本的に行動指針や主義をとても重視している。

特に男女や人種間の平等については自分なりの判断基準を持っているし、人間として尊敬できる人と働くことにしている。そのため、投資先企業やその創業者にも私と似たような行動指針を持っていてほしいのだ。

これは私が自分の会社を代表するように自分たちの会社を代表する人たちとつながっていたいと言い換えることもできる。

人は色んな数値やモデル、予測に簡単に惑わされてしまうものだが、だからといって定量的な情報の重要性が変わるわけではない。

むしろ私は数字と一緒にビジネスを構築する人間を見ている。とにかく私は人間として信頼でき、他者に敬意を払い、モラルがある人と仕事がしたいのだ。

2. 専門知識の欠如

もしも創業者が数字に関する質問に答えられなければ、すぐにその企業からは手をひいたほうがいい。

よく私は、投資先候補の分野について創業者に何度も質問をする。これまで見たこともないような、まったく新しくてディスラプティブなビジネスを実現しようとしている人はたくさんいるが、その目新しさに興奮して経済的な側面を見失ってはいけない。

業界の状況や仕組みについての理解がなければ、すぐにその人に専門知識がないということがわかる。

そしてもしも業界を理解せずに独自のインサイトを持ってるとしても、その人は特別なプロダクトを生み出すことはできないだろう。

3. 他人の時間を大切にしない

自分のプロダクトを売り込むのに必死な人は、基本的な他者の理解というとても大切なことを忘れがちだ。

賢い人はいつどのように連絡すればいいのかをよく心得ている。

実際に私は、何の紹介もなく突然送られてきたメールであっても、内容がよく練られていて、私自身や私の時間に敬意を払っているものには応えている。

エレベーターピッチに応じたこともある。

赤の他人とミーティングをしたこともある。

あなたの時間にさえ気を払わない人が、他人の時間を大切にすることはないだろう。そんな人のビジネスがうまくいくはずはないと私は考えるのだ。

創業者や企業から連絡があっても、私の時間や私が興味を持っていることに対する敬意や思いやりが感じられないと、彼らの無礼さに気付かずにはいられない。

Image: Bryce Durbin/TechCrunch

スタートアップの成長に関する投資家としての役目

資金を差し出すだけが投資家の仕事ではない。私たちの仕事は、専門知識や業界の情報、コネクションを投資先に提供することでもあるのだ。

スタートアップの成長ステージは(紙の上では)以下のようにまとめることができる

    1. 初期の仮説検証
      • ビジネスアイディアの考案
      • MVP(実用最小限のプロダクト: minimum viable product)の開発
      • MVPを顧客に届ける
    2. フィードバックループの確立
      • 顧客がプロダクトを気に入っているか確認
      • 顧客を巻き込んだフィードバックループを確立し、顧客の意見に沿ってプロダクトを改善できるようにする
    3. 会社設立
      • 必要最小限の人員を採用
      • プロダクトマーケットフィット達成
      • ターゲット全員にリーチできるようマーケティング
      • チームを作り上げる
    4. 追加の資金調達

これまでの12年間におよぶ投資活動のなかで、私は各ステージにいる企業を見てきた。それぞれのステージで求められるものは違うため、次のステージへ移るには新たな課題を解決しなければならない。

そこで創業者は、これまでに各ステージを経験して理解し、何を心得るべきか、そしてどうすれば次のステージへと移れるかといったことを知る人を仲間にすべきだと私は考えている。

そこで投資家が力を発揮するのだ。

Image: Shutterstock

例えば自己資金ですべてをまかないつつ、スケールするというのはなかなか難しいことだ。

多くのファウンダーが初期に陥る失敗として、組織に多様性や専門性をもたらす人よりも、自分に似た人を採用するというものがある。

初期の採用活動が終わった後は、スタートアップの中にスタートアップを構築するつもりで、マイクロマネジメントからマイクロマネジメントへと移行し、組織がスケールする上で必要になるさまざまな部署を充実させていく。

似たような道のりをたどった企業へ投資したことがある投資家であれば、各マイルストーンを達成する上で注意すべき点をアドバイスできるのだ。このようなアドバイスを受けられなかったために道をそれてしまったアーリーステージ企業はたくさん存在する。

成長ステージに移ってからも資金調達は一筋縄ではいかない。数々のチェックポイントを通過し、ようやく追加資金を調達した後は、その資金を使ってプランを実行していかなければいけない。

最終的に上場するか誰かに事業を売却することになったとしても、これもまた信じられないほど困難なプロセスで、ここまでの時点で心の準備ができている創業者というのは珍しい。

もちろん個々の企業の事情はそれぞれだ。

もしもあなたの会社が2、3人の小さなチームであれば、投資家を10人ほどチームに迎えることを考えてもいいかもしれない。そのときは、各投資家が異なる経験を持っていて、違う会社に属しているようにした方がいいだろう。

名の知れた企業から資金を調達しようとする創業者がたくさんいるが、本当に必要なのは自分たちのニーズや課題を理解し、適切なアドバイスをしてくれる個人であって、その人がどの企業出身なのかは関係ない。

最後はやはり目的と行動指針

誤解のないように伝えておくと、私は数値に関しても厳しい判断基準を設けている。

TAM(市場規模:Total Addressable Market)やNPV(正味現在価値:Net Present Valut)、IRR(内部収益率:Internal Rate of Return)といった指標もチェックする。

しかし大多数の投資家に比べると、私はビジネスが持つ人類への影響やCEOの能力に重きを置いている。

今後投資活動を続けるうちに、私の判断基準がもっと厳しくなる可能性もあるだろう。

しかしそれまでのあいだは、現在のように私が興味のある課題に取り組んでいる優秀な人たちと仕事をしていくつもりでいる。

結局のところ難しい課題を解決しようとしている素晴らしいチームを見つけられれば、お金は後からついてくるものなのだ。

注:本稿の英語原文はAtriumの記事を転載したもの。

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(翻訳:Atsushi Yukutake

あるVCがファンドの規模を急激に拡大しないワケ――業界の流れに逆行するEmergence Capital

テック業界への投資を強化しようとする機関投資家が増えたことで、シリコンバレーでは実績のあるベンチャーキャピタル(VC)が資金調達で困ることはない。今年の3月にはSECに提出された書類によって、General Catalyst13億7500万ドルのファンドを立ち上げたことがわかった。これは同社の18年におよぶ歴史の中でも最大規模だ。設立から35年が経つBattery Venturesも、今年に入ってから2つのファンドを組成し、合計調達額は同社史上最大だった。さらにSequoia Capitalは、複数のファンドを通して合計120億ドルを調達中だと報じられており、これは同社だけでなくアメリカ中のVCを見渡しても、これまでになかった規模だ。

設立から15年のEmergence Capitalもやろうと思えば彼らのように巨額の資金を調達できただろう。同社はエンタープライズ向けのプロダクトやSaaSに特化したアーリーステージ企業への投資を行っており、その実績には定評がある。Emergence CapitalのポートフォリオにはストレージサービスのBox(上場済み)やソーシャルネットワーキングのYammer(2012年にMicrosoftが12億ドルで買収)、生命科学や医薬業界向けのCRMで有名なVeeva Systemsなどが含まれている。Veevaにいたっては、2013年の上場でEmergenceに300倍以上ものリターンを生み出したと言われている(Emergenceは650万ドルの投資で手に入れた31%の株式をIPOまで保有し続けた上、彼らはVeevaの株主の中で唯一のVCだった)。

そんなEmergenceであれば、第5号ファンドで何十億ドルという資金を調達できたはずなのに同社はそうしなかった。カリフォルニア州サンマテオに拠点を置く彼らは、その代わりに2015年に設立された3億3500万ドルのファンドから調達額を30%だけ増やし、先週の金曜日に4億3500万ドルの投資ビークルを設立した。

先日、Emergenceの共同創業者Jason Greenと話をする機会があった。彼は4人いるジェネラル・パートナーのひとりでもあり、同社の要と言える存在だ。私たちが特に聞きたかったのは、なぜ在シリコンバレーの他のVCのように、前回のファンドから調達額を大きくひきあげなかったのかという点。この質問に対しGreenは「私たちは プロダクトマーケットフィットを目指すアーリーステージ企業のなかでも、一緒に仕事がしやすいコアメンバーがいる企業に絞って投資を行っている」と答えた。このターゲット像が変わっていないため、ファンドの規模も変える必要がないと彼は言うのだ。

とは言っても社内ではいくつかの変化があった。2016年にはKaufman FellowsからEmergenceに移って3年のJoe Floydがパートナーに昇格。なお、Kaufman Fellowsは2年間におよぶベンチャーキャピタリスト育成プログラムを運営している。またEmergence Capital共同創業者のBrian Jacobsは、このたび新設されたファンドにはタッチしないのだという。そこでGreenにJacobsは仮想通貨投資を始めようとしているのか(最近よくある動きだ)と尋ねたところ、彼は「Jacobsはそれよりも慈善活動に取り組もうとしている」とのことだった。

Emergence初の投資先はSalesforceだった。それ以外にも、2016年にServiceMaxをGEへ9億1500万ドルで売却し、昨年にはIntacctをSage Groupに8億5000万ドルで売却。新しい企業への投資は年に5〜7社といったところだ。続けて私たちはEmergenceがどうやってその5〜7社を選んでいるのかという問いを投げかけた。

するとGreenはまず、Emergenceは「テーマを重視している」のだと答えた。そして、同社は設立当初からSaaSやクラウド、ホリゾンタル(業界を問わない)なアプリケーション、そしてエンタープライズ向けプロダクトに特化してきたが、今後は関連分野の中でもう少し業界を絞っていこうとしているとのことだ。最初のターゲットは「コーチングネットワーク」とGreenが呼ぶプロダクト群で、これはエンタープライズ向けの機械学習テクノロジーと読み替えることができる。たとえば彼らの投資先でシアトル発のTextioは、AIを搭載したツールでビジネスライティングの可能性を広げようとしている。また、営業電話の音声を分析し、営業チームにリアルタイムでフィードバックを送るシステムを開発するChorusもEmergenceの投資先だ。Greenがこのようなプロダクトを総称して「コーチングネットワーク」と呼ぶのは、システムが人間を代替するのではなく、人間の仕事のパフォーマンスを上げるための手助けをしているからだという。

またEmergenceは、“デスクレス”労働者にも注目している。デスクレス労働者とは、世界の労働者の80%にあたる、オフィスの外で仕事をしている人たちのことを指す。これは決して新しいトレンドではないが、「早いイニング」だとGreenは語り、関連テクノロジーは「世界中のチームで徐々に浸透し始めている」のだという(急成長を続けるビデオカンファレンスシステム企業Zoomへの投資も恐らくこのカテゴリーに入るのだろう)。

Greenは具体的な投資額については明言しなかったが、従来のVCのようにEmergenceは投資先の株式の20%以上を保有するようにしており、「シリーズAから(イグジットまで)通して」企業をサポートしているのだという。

また最新のファンドで新たに加わった投資家がいるのかという問いに対しては、「財団法人や基金への寄付など、リターンを世のために使うだろうと私たちが信頼できる何社/人かをリミテッドパートナー(LP)に選出した」と答えた。

現在の流れとして、巨額の資金を調達しないことが「だんだんと珍しくなってきている」とGreenは語る。「今は簡単に多額の資金を調達して思いっきり投資できてしまうため、かなりの自制心がいる。そんななかEmergenceはずっと軸をブラさずにいることを誇りに感じている」

結局のところは「自分がやっていて楽しいことがすべて」だと彼は続ける。「私たちは単にお金を賭けているわけではなく、事業に直接関わるのを心から楽しんでいるのだ」

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(翻訳:Atsushi Yukutake

CVはダイバーシティーとインクルージョンを諦めるのか

今週、Backstage CapitalのArlan Hamiltonに話を聞くために会いに行った。彼女の目覚ましい出世物語は、今ではすっかり有名になった。Backstageのサイトに書かれている人物紹介のページから引用すると、彼女は「ホームレスだったころに、ベンチャーキャピタルを一から立ち上げた」とある。いろいろと面白いことを話してくれたが、まずはここから始めよう。2019年、彼女はダイバーシティー(多様性)やインクルージョン(包含性)については語らなくなるだろうというものだ。

こう聞いて、おやっと思った人は多いはずだ。彼女は過小評価されてきたマイノリティーに的を絞って資金を提供してきたからだ。その理由を、私が要点を理解して言い換えるならばこうなる。ダイバーシティーとインクルージョンは、技術系企業において人的資源となってきたが、大企業にとっては現状を守るための隠れ蓑になっており、改善を目指してはいるわけではない。

これには同意せざるを得ない。企業は、ダイバーシティーとインクルージョン(D&I)イベントや講演を開催したり、D&I副社長を雇ったり、「ダイバーシティー訓練」(これには効果がないばかりか、裏目に出ることも少なくないと多くの証拠が示している)を行ったりしている。彼らはダイバーシティーについて語る。彼らはダイバーシティーをパワポのスライドの中に加える。しかし、実際に彼らは何をしているのか? 私はNassim Talebの有名な宣言を思い出した。「何を考えているかは言わなくていい。ただポートフォリオを見せなさい

ではポートフォリオを見てみよう。Fortuneが報じたPitchBookの調査結果によれば、2017年に女性ばかりのチームがVCを受けた割合は2.2パーセント。これは2013年と変わらず、2014年に比べると明らかに低い。男性ばかりのチームは79パーセントがVC投資を獲得している。企業が「ダイバーシティーとインクルージョン」について、前例のないほどの大量のリップサービスをしていた間のことだ。

投資金額ではなく、投資件数という面で見れば、女性が率いるチームへのVC投資は、わずかながら上昇傾向にある。2007には2.42パーセントだったものが、2017年には4.44パーセントになっている。しかし、このペースで行けば、10パーセントの大台に乗るのは……2045年だ。さあ祝おう! その他の少数派の仲間たちに関するデータを探し出すのは、大変に難しい。それは、彼らへの投資状況が、ある程度の速度をもって改善されている証拠がゼロであることを示しているように見える。

しかし、大企業のダイバーシティーに関する統計データはある。再び、2014年と2017年とを比べてみよう。前回と同じ、前代未聞のリップサービスの時代だ。Googleは「黒人2パーセント、ヒスパニック4パーセント、2つ以上の種族4パーセント」から、「黒人2パーセント、ヒスパニック4パーセント、2つ以上の人種4パーセント」に改善された。これは進歩と言える。Facebookはどうだろう。2014年の技術者の割合は、ヒスパニック3パーセント、2つ以上の人種2パーセント、黒人1パーセント」だったが、2017年には、この数字は、どうも言いにくいのだが、変わっていない。

いろいろな不平がある。それはパイプラインの問題であって、文化的な問題ではないということ(MeTooムーブメントは、パイプラインがその入口から大企業のCEOまでの間がすべて汚染されていると、もっと悲痛に訴えるべきだった)。技術業界では、性別や人種で人を選ぶことは、いわゆる理想郷的能力主義に違反するということ(能力主義は、ほとんど意識することなく、システムとして始まり、そういう人たちを選んできた)。他より秀でたいと考える企業には、敷居を下げる余裕がないこと(中でももっとも下劣な不平として「ダイバーシティーがクソなハードルを上げてる!」というCindy Gallopの言葉がある。技術業界は、他の業界と同じく。平凡な白人で満員なのだ)。

なんとも異常な世界だ。彼らのポートフォリオを見ても、ベンチャーキャピタルは、意識するしないに関わらず、悪意のあるなしに関わらず、冷酷で人を馬鹿にした賭に出ることがある。ときとして、いや頻繁に、(比較的)普通の白人に賭けるのだ。同じ投資を受けられたはずの、より才能があり能力も優れた少数派よりも、白人のほうがシステムとして優位だと思うからだ。

これは、民主主義よりも君主制を選ぶようなものだ。たしかにかつては、それが機能していた。個人としての支配者は、平凡で、理論に依存するが、生まれたときから人を支配することを教えられ、権力の使い方を心得ている。だから彼らは頭角を現しやすく、才能はあるかも知れないが、無知な大衆の意志によってその地位に就く。

おそらくVCも同じだろう。ある程度、たぶん無意識に、白人のほうが彼らが最重要視する文化システムからの恩恵を多く得ていて、社会的な自信(傲慢性)があり、ネットワークが広く、生まれたときから積み重ねてきたさまざまな優位性を持っていると、彼らは考えている。外から来た少数派は、たとえ根性があって、ヤル気があって、頭が切れたとしても、同じ優位性を持っていないため、白人に賭けることになる。

君主制ではそれがうまく作用しなかったとお気づきの人もるだろう。私も、たとえばスタンフォードを卒業した白人男性やハーバードを中退した白人男性などの「パターン認識」で同様の宿命を予測した(アメリカの一流大学の不平等について話を広げるつもりはない。社会的な階層構造を保つための「縁故入学」制度はじつにあからさまだが)。

しばらくの間、そうしたやり方はVCにとって都合がよかった。なぜなら、
a)技術業界全体は、インターネット革命とスマートフォン革命という2つの潮流によって盛り上がっているため、業界の支配者からの強力な支援を受けて、たとえば独占的なシェアを誇る写真共有アプリなどで大成功を収める人間が登場することが見えていたからであり、
b)新しい技術系企業を立ち上げた白人男性たちは、今でもアウトサイダーとして活動しているからだ。

何か新しいことをやろうとすれば、アウトサイダーでいるのがよい。オリジナリティーが発揮できる。立ち直りも早い。ほとんどの人間は群れたがるが、特別な才能のある人間は、なんらかの方法で主流の社会から離れている。信じるか信じないかは別として、かつて、技術系ナードはアウトサイダーだった。少なくとも、アウトサイダーでいることの恩恵を受けていた。

それは、控えめに言っても、もう通じない。今や、主流のビジネススクールを卒業し、体制に順応した人たちが群を作り、自らをギークと称し、技術系スタートアップを立ち上げようとしている。彼らもわかっているが、どこでも同じようなことをしている。ほとんどの人間が同じ形式に載っかっている。リーンスタートアップ、MVP、シードファンディング、アクセラレーターなどなど。皮肉なことに、彼らはみな、リーンスタートアップの時代が終わりかけているときに、これを行っている。私が以前問題提起したことだが、この2年間ばかりVCに資金を提供してきた世界的なハードウエア革命による豊かな鉱脈が、もうほとんど枯渇しているのだ。

すべての人が、同じ方式でもって、同じ消えゆく資金を追い求めているとすれば、本当の報酬は、明らかに別の場所にある。どこか他に、まだ掘られていない補助的な鉱脈がある。しかしそれは、別の方法を使わなければ掘ることができない。別の人生体験からの情報に基づく別の市場、別の価値、別のネットワーク、別の考え方だ。私の友人がこんな賢言を書いていた。「違うことが常により良いとは限らないが、より良いものは常に違うものだ」。これは、今すぐにでも、あの手この手を使ってVCが採り入れるべき教訓だ。

 

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(翻訳:Tetsuo Kanai)

ソフトバンクのビッグイヤーを分析する

【本稿のライターはJoanna Glasner】
ベンチャーキャピタリストたちは、とてつもなくスケーラブルな企業に競って投資する一方で、自分たちの業界は規模に制約があると思う傾向にある。よく言われることだが、成功するスタートアップの供給が少ないと、投資に使える資金の額が異様に膨らみ資産バブルにつながる。

今年、SoftBank’のVision Fund — 巨大なベンチャーファンドのように振る舞い後期段階への投資が多い — は過去に類を見ないやり方でその仮説を検証しようとしている。1月以来、日本のモバイル・インターネット最大手の投資部門は、企業価値総額200億ドル以上のさまざまなベンチャーや成長段階企業の投資ラウンドをリードしてきた。この金額は、米国ベンチャーキャピタル市場全体の 四半期分に相当する。

ソフトバンクの大盤振る舞いの影響を最大に受けるスタートアップ分野を見極めるために、Crunchbaseでは同社の1000億ドルのVision Fundと関連投資案件を分析した。以下に、まず投資全体、ステージ、地理的分布の状況を紹介し、次にそれぞれの意味するところを検討する。

SoftBankの2017年投資総額は新記録

まず投資金額の合計。これはとてつもない数字だ。

2017年全体で、SoftBankは44の投資ラウンドに参加し、計307億ドルを投資した。Crunchbaseのデータによる。資金の大半はSoftBankがリードしたラウンドで調達されたものであり、金額のほぼすべてはSoftBankおよび同社のVision Fundが提供したとみて間違いはない。

下のグラフで、過去5年間にSoftBankが投資した会社のラウンド数および投資総額を見てみよう。同社はつい先日2017年のVison Fund、1000億ドルの投資を完了したところで、以前の投資は他の専用ファンドによる。

次のグラフでは、SoftBankがリードインベスターを務めたラウンドを見てみる。ここでも同社はVCがどれほどスケーリング可能かをテストしている。投資総額は2016年から2017年で約10倍に増えている。

成長ステージを含む複数ステージ投資

ベンチャー投資や成長ステージ投資に数十億ドルを投じようとするなら、すでに数十億ドル規模の価値を持つ会社を選ぶのが当然だろう。SoftBankもその例に漏れず、その規模は巨大だ。

Vision Fund最大の投資は、すでにかなり後期段階にあり、強力な基盤と市場へのリーチを持つ企業に対して行われている。コワーキングの巨人、WeWorkや、配車サービスのDidi ChuxingとGrab(そしてまもなくUberも)、作業コラボレーションアプリのSlackなどがその例だ。

しかしSoftBankは、初期や中期段階の投資にも力を入れており、対象のスタートアップの過去のラウンドの何倍にもなる大きいラウンドをリードすることも多い。ごく最近完了した保険スタートアップのLemonadeの1.2億ドルのシリーズCラウンドは、前年に同社が実施したシリーズBの3倍以上の金額だった。

下のグラフでは、SoftBankの非公開企業への投資をステージ別に分解してある。ステージだ明示されていない案件は除外してある。

地域別

最後に地理的要因を見てみよう。SoftBankは明らかに米国に焦点をあてている。米国に拠点を置く投資先スタートアップの数はどの国と比べても圧倒的に多い。最大級の非上場企業もやはり米国拠点で、WeWork、Fanatics、およびSoFiがある。

それでもSoftBankは様々な大陸に渡って事業を展開している。中国のDidi Chuxing、シンガポールのGrab、インドのOla、英国のImprobableを始め、アジアおよびヨーロッパの数多くの企業の大型ラウンドを支援してきた。

この地理パターンから見て取れる大きな特徴は、SoftBankと同社CEOの孫正義氏だ、シリコンバレー及びその他の米国のテクノロジーハブの革新力を強く信じていることだ。しかし、それと同時に地域の特定分野のリーダーや高い収益を見込める世界中のイノベーターらにも大きな資金を投じている。

注目ポイント

全体でみると、Vision Fund資金の大部分はSoftBankの成長投資活動に向けられている。しかし、スタートアップエコシステムがどれほどの資金を動かせるという仮説検証の面では、同社の早期ステージ投資の方が興味深く、教訓的だろう。

最近の数多くの早期ステージ投資を通じてSoftBankは、さもなければ単調な追加ラウンドをこなしていただろう企業に巨額の資金を投じてきた。

たとえば、シリコンバレーのスタートアップで屋内農場を作っているPlentyは、7月にシリーズBラウンドで2億ドルを調達した。それ以前にPlentyはシードおよびシリーズAで計2600万ドルを調達している。立ち上げには十分な額だが、寒冷地域を含め複数都市で自家栽培の新鮮なレタスを届けるために、空調完備の都市農場をつくるには不足だった。このたび2億ドルを自由にできることになった設立3年のPlentyは、はるかに成熟した企業にも対抗できる拡大戦略を追求できる。

果たしてSoftBankの賭けは賢明なのか?今それがわかる者はいない。たしかに、尚早なスケーリングはスタートアップが失敗する最大の要因とされている。しかし一方では、IT業界で最も成功した起業家の何人かは、驚くほど大胆な計画でスタートした。Plentyの初期の支援者でもある、Jeff Bezosもその一人だ。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

インキュベイトが100億円の4号ファンド組成、シード期VC輩出視野に50億円の新FoFも同時に発表

独立系VCのインキュベイトファンドは今日、100億円規模となる4号ファンドの組成中で年内にクローズすることをTechCrunch Japanへの取材で明らかにした。2015年1月に組成した110億円の3号ファンドに続くもので、3号のスタイルを踏襲して、シード投資と、それに続くフォローオン投資をしていく。4号ファンドの出資者(LP)は事業会社のほか政府系機関、金融機関を含む。

インキュベイトファンド、ジェネラル・パートナーの和田圭祐氏(左)と村田祐介氏(右)

 

3号ファンドのファンドのパフォーマンス(収益性)が良いことから、4号ファンドの投資スタイルも「既存産業の変革を支援するもの」(インキュベイトファンド、ジェネラル・パートナー和田圭祐氏)を中心としていく。ただ、これまで変革のカギがスマホだったところは「コネクテッドな産業領域に広がってくる」(和田氏)といい、これまでゲームやメディア、SaaSなどネットで完結してた事業領域が「ネットの真ん中から染み出している。その染み出し方が深くなる。そこにゼロイチにこだわってシードから投資していく」(同)という。

これまでのFintechやシェアリング、電力系スタートアップなどへの投資に加えて、現状で市場が存在しないものの、もしあれば大きな伸びが見込まれる宇宙やMR、ドローンといった研究開発先行型の領域にも踏み込む。すでに3号ファンドでも月面資源開発事業のispaceや今年LINEが買収したバーチャルホームロボットGateboxのウィンクルなどへの投資実績がある。

ファンド・オブ・ファンズの取り組みを切り出し、新ファンド「IFLP」を始動

インキュベイトファンドでは4人のジェネラル・パートナーが対等なポジションで投資・運用をしてきた。それに加えてファンド資金の一部を若手VCに任せて子ファンドとして運用する、いわゆる「ファンド・オブ・ファンズ」(FoF)の取り組みも行ってきた。TechCrunch Japanの資金調達の記事でも何度も出てきている、プライマルキャピタルIF Angelソラシード・スタートアップスなどは若手VCによるインキュベイトファンドの子ファンドだ。それぞれ元本のリクープも見えていたり、大きなリターンを出してキャリー(キャピタルゲインに比例してVCが得る成功報酬)を得ている若手VCもいる。

これまでインキュベイトファンドでは、こうしたFoFの仕組みで17本(33億円)のファンド、10人以上のVCを輩出してきたという。

このFoFの取り組みを切り出して、新たに50億円規模のファンドとする「IFLP」を年始にも開始する。IFLPには9人のジェネラル・パートナーを置き、それぞれにIFLPから5億円を出資する。各ジェネラル・パートナーは自らの裁量で外部LPから引っ張ってきた資金を足して最大10億円のファンドとして投資を行うことになる。

シード期投資ができるジェネラル・パートナーが日本には圧倒的に足りていない

ベンチャーキャピタルのファームは、戦略コンサルなどと同じでパートナーにならない限りは下積み。伝統的な組織型VCはパートナーになるまで何年もかけて組織階層の中で出世するモデルだったが、もともとインキュベイトファンドは金融系VCから独立した4人のパートナーが運営している「パートナー型」のフラットな形態。「アソシエイトには、いずれ辞めてもらう前提で入ってもらっている。最低3年、最長5年と言っている」(インキュベイトファンド、ジェネラル・パートナー村田祐介氏)というスタイルだ。一人前になったらファンドレイズ(ファンド組成のために事業会社や金融機関から出資を募ること)をやって独立しろ、ということだ。

ただ、駆け出しの若手VCにとっては、ファンドレイズはもちろん、ファンド管理業務やLP報告業務など「重たい」タスクが多い。だから、そうしたVC共通の業務についてはFoFならインフラを共有することで、より多くの若手VCが育つ土壌を用意する。初号ファンドを立ち上げるタイミングくらいの若手VCのプラットフォームを作る、というのがインキュベイトファンドがIFLPを開始する理由だという。

インキュベイトファンドの前身となるインキュベイトキャピタルパートナーズを1999年に設立した赤浦徹氏は、シード期のゼロイチのフェーズで投資ができるジェネラル・パートナーを日本に増やしたいとの思いが強く、米国などスタートアップ先進国と、VCの質でも量でも差が開くばかりだという焦りがあるという。「1人のVCがピカピカの起業家10人を送り出せるとすると、ジェネラル・パートナーを増やしたほうが経済波及効果が大きいのではないかと思っています」(村田氏)

VCの多くは、経営や事業創造の手助けをする、いわゆる「ハンズオン投資」を行うが、インキュベイトファンドではシード期や、シード以前から事業アイデアについて起業家に近い目線で強力な支援を行うスタイルで知られている。

いま日本のスタートアップ界隈では資金が集まりすぎで、スタートアップ企業の数が足りていないと言われている。ただ、起業家が足りないというのは現実である一方、その理由としてVCが起業家となるべき人に出会って事業化の構想を一緒に考えるようなシード投資が少ないという面もある。昨今数も量も増えているCVCはシード期でのリスクを取りづらい。日本でも成功した起業家たちによるエンジェル投資が増えているが、それでも人数的にも金額的にも足りてないのが現状だ。こうした中、立ち上がるIFLPの取り組みがスタートアップ・エコシステムに果たす役割に注目が集まりそうだ。

若手VCによる丁寧なハンズオン型投資でシードのディールを増やす

インキュベイトの4号ファンドも含めて、日本のVCファンドの規模が大きくなっている結果、1回あたりの投資金額、いわゆるチケットサイズが大きくなっている。このためシード期の小さな投資領域が、いまの日本でエアポケットように空いてしまっている、というのが村田氏の見立てだ。本当は2、3000万円あればプロダクトを2回くらい作り直してキャッシュフローを作るところまで行けるチームがあるのに、そこへのシード投資が足りていない。インキュベイト3号ファンドの子ファンドによる出資は、そうした領域において、新しい市場やトレンドに敏感な若手VCが素早く投資して成長させるモデルがうまく行っている。中長期の継続投資になる研究開発型へ本体ファンドが踏み出すのと対をなすかのように、IFLPによる9つの子ファンドにより小回りの効くシード投資の領域もカバーしていくことになるかっこうだ。

ファンドへ出資するLPから見ると、FoFの仕組みは「ゲートキーパー」の役割も果たすことなるかもしれない、と村田氏は指摘する。小さなファンドに対して少額出資する判断を事業会社や機関投資家が個別にやるのは困難だ。多数の子ファンドを束ねた親ファンドであれば、機関投資家が資金を入れやすい。

インキュベイトファンドは、前身となるインキュベイトキャピタルパートナーズの1999年の設立以来、累計300億円以上の資金で300社以上のスタートアップ企業へ投資している。また、創業期に近い起業家と、日本のVCを繋ぐ場としてシードアクセラレーションプログラム「Incubate Camp」を2010年から運営をしている。

ますます病的になっているインターネットの解毒を探求するEvolve Foundationが$100Mのファンドを創立

このところ悪いニュースばかりのようだが、しかし良いニュースもある。非営利団体Evolve Foundationが、テクノロジー隆盛の影で全世界的に広がっている孤独や生きがい喪失、不安や恐怖、怒りなどとたたかうためのファンドConscious Accelerator〔仮訳: 気づきの加速〕に1億ドルを調達した。

Matrix Partners Chinaの協同ファウンダーBo Shaoがこのファンドをリードし、世界の問題に対する人びとの意識を高めるようなテクノロジーを目指す起業家を、掘り出し、育成していく。

“ものすごくお金持ちの人がたくさんいるけど、彼らの多くは大きな不安にかられ意気消沈しているんだ”、と彼は語る。彼によれば、その大きな原因のひとつが現在のテクノロジーの使われ方、とくにソーシャルメディアのネットワークだ。

“多くの人に‘いいね!’される投稿をしなければならないという強迫が、不安を惹き起こす”、と彼は言う。“そして自分の投稿に、罠のように囚われてしまう。投稿して10分も経つと、何人‘いいね!’したか、コメントがいくつあったか、気になってくる。一種の、中毒症状だ”。

それをいちばん気にするのがティーンだ、と彼は指摘する。それは今では精神症状の一種とみなされ、Social Media Anxiety Disorder(SMAD)(ソーシャルメディア不安障害)という名前までついている。〔参考

“ソーシャルメディアは新しい砂糖や新しい喫煙だ”、とShaoは語る。

彼がソーシャルメディアと絶縁したのは2013年の9月だが、彼はこれまでの10年間、自分やほかの人たちの生き方をもっと良くするための方法を探求してきた。

彼の新しいファンドはMediumの記事で発表され、社会的善の最大化、テクノロジーがもたらしている問題への解を見つけることを目的とする。投資家への良いリターンが得られるものに投資するだけが、目的ではない。

Shaoは、自分がこれまで数十億ドル企業の著名なVCの一員として仕事をしてきた経歴を活かして、人びとの不安をなくし、多くの人がもっとしっかりとした人生を送れるようにするためのテクノロジーを見つけていきたい、という。

Conscious Acceleratorはすでに、瞑想アプリInside Timerに投資している。また、子どものメディア耐性や、混乱した社会への耐性を増進するための子育てアプリも企画している。

また、二人のUC Berkeley(カリフォルニア大学バークリー校)の学生が始めた、ロシアのボットや、政治的に悪質なTwitterのボットを見つけるプロジェクトにも、投資してよいと考えている。Twitterは最近、これらの問題に対する内部的無策ぶりが、批判されている。

“問題意識のある起業家に利用してもらうことが、このファンドの目的だ”、とShaoは語る。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa