Web3サイト構築デベロッパーの事実上の標準プラットフォームを目指すAlchemyの評価額が約1兆2760億円に

共同創業者ジョー・ラウ氏とニキル・ヴィスワナータン氏(画像クレジット:Alchemy)

Web3はどうやら一時的な流行ではないようだ。その証として、米国時間2月8日にブロックチェーンインフラストラクチャースタートアップAlchemy(アルケミー)が2億ドル(約232億円)のシリーズC1資金調達ラウンドをクローズした。これで同社の企業価値は110億2000万ドル(約1兆2760億円)となった。

ご存知ない方のために簡単に説明しておくと、Web3とは、ブロックチェーンを基盤とする分散型ウェブのことだ。簡単にいうと、AlchemyはAWS(Amazon Web Services)がインターネット上で実現したことを、ブロックチェーンとWeb3上で実現しようとしている。

この巨額の資金調達で驚くべきことは、Alchemyが比較的短期間で企業価値を上げることに成功した点だ。2021年10月、2億5000万ドル(約290億円)のシリーズCラウンドをクローズした時点で、同社の評価額は35億ドル(約4060億円)だった。2021年4月下旬、8000万ドル(約92億円)のシリーズBラウンドをクローズした時点の評価額は5億500万ドル(約580億円)だった。つまり、Alchemyの評価額は2021年10月から約3倍、2021年4月(9カ月ほど前)からは何と19.8倍にも跳ね上がっている。これを月当たりの上昇額に換算すると約11億ドル(約116億円)となる。この会社を5年前にアパートから始めた2人の若者にとって悪くない額だ。

Alchemyの既存投資家であるLightspeed Venture Partners(ライトスピードベンチャーパートナーズ)と新規投資家で未公開株式投資会社のSilver Lake(シルバーレイク)が今回のラウンドを共同で主導した。これでAlchemyの2017年創業時点からの総調達額は5億4550万ドル(約580億円)に達する。注目すべきは、Andreessen Horowitz(a16z、アンドリーセン・ホロウィッツ)、Coatue Management(コーチュー・マネジメント)、DFJ、Pantera(パンテラ)、Lee Fixel’s Addition(リーフィクセルズアディション)といった以前の投資家たちも全員、今回の投資ラウンドに参加した点だ。

Alchemyの目標は、ブロックチェーン上または主流のブロックチェーンアプリケーション上に製品を構築しようとしている開発者向けに開始点を用意することだ。Alchemyの開発者用プラットフォームは、インフラストラクチャを構築するための複雑な作業やコストを排除し「必須の」開発者用ツールを用いてアプリケーションを改善することを目的としている。Alchemyは2020年8月にサービスの提供を開始した。

それ以来、高収益企業Alchemyは自社のプラットフォーム上で急成長を遂げた。Alchemyの内部事情に詳しい筋によると、同社のユーザーベースは、今回のラウンドをクローズした時点を基準としても約50%拡大しているという。

「基本的に、暗号資産の領域で急成長している重要な企業はほとんど、Alchemyを導入しています。ですから、同社に投資するのは暗号資産領域全体の指数銘柄を買うようなものです」と同筋の1人はいう。「Alchemyは暗号資産業界全体を支えているのです」。

Alchemyは正確な総売上を公開していないが、同社のプラットフォーム上に構築されたチームの数は10月の資金調達ラウンド終了後から3倍以上に増えていると回答している。また、Alchemyプラットフォーム上で実行されたオンチェーントランザクションは年換算で1050億ドル(約12兆円)になるとしており、10月時点で公表された450億ドル(約5兆2000億円)の2倍以上に相当する。その一方で、同社は「無駄のないスリムな」経営を維持している。2021年の始めの時点で、同社の社員数は13人だった。現在でも50人に満たない。社員1人あたりの評価額は歴史的に見ても最大の部類に入るだろう、と共同創業者兼CEOのNikil Viswanathan(ニキル・ヴィスワナータン)氏は確信している。

暗号資産業界はこの1年、さまざまな浮き沈みを経験した。Alchemyは、そうした暗号資産業界における不安定な時代の最中に急成長を達成した。

「ターゲットとする市場が激しく変動していても、依然として成長を続けているときは、何か特別なことを見出したということだと思います。そして、それこそまさにAlchemyで起こっていることです」とライトスピードのパートナーAmy Wu(アミー・ウー)氏はいう。「当社に匹敵するような急成長を遂げた例は過去にもありません。ですが、Microsoft(マイクロソフト)のような永続的な企業の成長の軌跡を見れば、Alchemyが今度どの程度成長するのかもわかると思います」。

Alchemyの急成長は、Web3エコシステム全体が急成長していることの証だと言ってもよいだろう。

過去12カ月間だけでも、Alchemy上に構築されたNFTマーケットプレイスでアーティストに支払われたロイヤルティの額は15億ドル(約1740億円)を超えており、そのうち10億ドル(約1160億円)は過去3カ月だけの合計だという。

ヴィスワナータン氏によると、Alchemyは前回調達した資金にはほとんど手を付けていないという。だが、Web3がこのように急速に進化している状況では、それに応じて成長するために必要なランウェイを確保する必要がある。

「Web3はまだ初期段階です。dot.com時代には、生まれたばかりのベビーインターネットについてさまざまな期待や興奮がありました。今、我々は本物のインターネットを手にしています。Web3はまだベビーフェーズです」とAlchemyのCTO兼共同創業者Joe Lau(ジョー・ラウ)氏は語った。

「コンピューターを見れば分かるとおり、インターネットがコンピューターに取って代わることはありませんでした」と同氏は付け加える。「インターネットはただそれまで不可能だった機能を追加しただけです。Web3はWeb2に取って代わるものではなく、Web2の機能とエクスペリエンスを拡張するものです」。

これだけの利益を上げ急速に成長しているにもかかわらず、Alchemyは数億ドル規模の資金調達を続けている。これは基本的に、Web3の急速かつ広範な利用と成長に追随するためだ、と2人の創業者はいう。

「当社は企業やスタートアップの成長を支援できる最適なポジションに位置していたいと考えています」とラウ氏はいう。「2021年は、Alchemy上でサービスを開始したチームが10億ドル(約1160億円)企業になり、世界中の何百万人というユーザーたちをサポートするのを目の当たりにしてきました。当社はまだスタートを切ったばかりですが、今後も顧客の支援とサポートを続けられるようにしたいと思っています」。

ツイッター上ではWeb3とWeb2.0についてさまざまな議論が繰り広げられているが、ヴィスワナータン氏とラウ氏は両者間にそれほどの敵対関係があるとは思っていない。

「どのようなテクノロジーでも初期段階では、誰もがそのテクノロジーを理解し把握しようとします。90年代半ばのインターネットを見て人々は『遅すぎる。電子メールを使う理由などない』と言っていました」とラウ氏はいう。「しかし、実際にはテクノロジーが向上し今では誰もが当たり前のように使っています。ですから我々は、今から10年後、15年後にどのようになっているのかを考えるようにしています」。

確かに今、何千という新しいWeb3組織が立ち上げられ短期間でスケールしている。だがその一方で、数百の確立されたWeb 2.0企業がその戦略を転換して、Alchemyを導入してWeb3を取り込もうとしている。さらには数万のデベロッパーたちがブロックチェーンを使った新しいツールやサービスを構築している。

「今、AlchemyはデベロッパーがWeb3上で開発を行うための事実上の標準プラットフォームになっています」とヴィスワナータン氏はいう。「我々は本当にワクワクしています。2022年、状況は加速度的に変化して、Web3はマニアが使う周辺テクノロジーではなくなり、誰もがWeb3で実現された製品を無意識に使うようになると確信しているからです」。

Alchemyは、OpenSea(オープンシー)、Adobe(アドビ)Dapper Labs(ダッパーラボ)、Crypto Punks(クリプトパンクス)を始め多数の大手企業で基盤テクノロジーとして導入されている。Alchemyでは、コンピュートユニットに対して課金する。つまり、顧客は使用しているコンピュートユニットの数に応じてAlchemyに料金を支払う。

「当社はWeb3は誰もが利用できなければならないと考えています。それには、ブロックチェーンテクノロジーを介してアイデアを実現する信じられないほど創造的なデベロッパーたちを支援するのが一番です」とラウ氏はいう。

画像クレジット:Alchemy

シルバーレイクの共同創業者Egon Durban(エゴン・ダーバン)氏は「Web3はインターネット上で大きな革命をもたらす」と確信しているとTechCrunchにメールで回答してきた。

「この市場がもたらすビジネスチャンスは巨大です。Alchemyはテクノロジーの歴史上、最速で成長している企業の1つとして、この変革を推進し民主化するインフラストラクチャを構築し、AWSがインターネットで実現したことをWeb3開発の現場でも実現することでWeb3のパワーをすべての人にもたらそうとしています」とダーバン氏は付け加えた。

この3カ月間で、Alchemyは、Web3開発スキルの習得を目指す人のためのオープンな教育リソースであるWeb3 Universityの立ち上げも主導した。また「初期のWeb3ビジネスの加速度的な成長を支援する」という目的でAlchemy Ventures(Alchemyベンチャー)も創設した。現時点で、このベンチャーファンドに1000万ドル(約11億6000万円)を配分しており、この額は今後増える見通しだ。これまでにも、Royal(ロイヤル)、暗号資産取引所FTX(最近の評価額は320億ドル(約3兆7000億円))、Genies(ジーニーズ)、Matter Labs(マター・ラボ)、Arbitrum(アービトラム)など、このファンドから何件か投資を行っている。これらの企業の一部はAlchemyの顧客でもある。

「2021年はデベロッパーがWeb3を主流テクノロジーに昇格させ、数百万人に変革をもたらすビジネスが生まれた年でした」とヴィスワナータン氏はいう。「2022年は、さまざまな場所でデベロッパーのニーズを満たすために、Web3への取り組みを強化し、Web3の潜在能力が簡単に解き放たれるようにしたいと考えています」。

Alchemyは新たに調達した資金で社員数を増やし、年末までに200人ほどの規模にする予定だ。同社はこれまで、高い実績を持つ人材を採用することに重点を置いてきた。例えば10月時点の同社の社員27人のうち、22人は自身でも起業した経験のある人たちで「複数の社員が数百人規模の会社を経営した経験がある」という。

暗号資産企業に基盤テクノロジーを提供するために最近資金を調達した企業はAlchemyだけではない。1月には、暗号インフラストラクチャ企業Fireblocks(ファイアブロックス)が、6カ月でその評価額を約4倍の80億ドル(約9285億円)にまで高めている。また、2021年12月には、Coinbase Ventures(コインベース・ベンチャーズ)がチェーン横断インフラプロバイダーRouter Protocol(ルート・プロトコル)の410万ドル(約4億7000万円)のラウンドを実施している。

原文へ

(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Dragonfly)

経理アウトソーシングのメリービズ、最適配置を重視した代表者交代でチーム経営を強化

経理アウトソーシング「バーチャル経理アシスタント」を運営するメリービズ、最適配置を重視した代表者交代でチーム経営を強化

経理アウトソーシングを手がけるMerryBiz(メリービズ)は2月28日、同社代表取締役について、創業者の工藤博樹氏から、現取締役の山室佑太郎氏に同日付けで交代すると発表した。取締役陣は従来通り、経営管理・事業戦略担当の太田剛志氏を含む3名。「バーチャル経理アシスタント」のさらなる成長とサービス提供体制の強化、および新事業の研究・開発への投資を目的に、代表交代となったという。

代表後任となる山室氏は、創業期に近い2015年に同社へ参画し、2016年より取締役を務め経営を推進、2017年のオンライン経理アウトソーシングサービス「バーチャル経理アシスタント」のローンチから本事業の陣頭指揮を担当。経理アウトソーシング「バーチャル経理アシスタント」を運営するメリービズ、最適配置を重視した代表者交代でチーム経営を強化

企業フェーズの変化支える最適配置とチーム経営

工藤氏は、2011年7月にメリービズを創業。代表取締役として、レシート・領収書の入力代行サービスを主力事業としていた時代からこれまでの、いわゆる「ゼロイチ(0→1)」を牽引。創業から10年を経て、事業が成長フェーズへ移る中、組織作りや事業全体の指揮に長けた山室氏に代表を交代。工藤氏はR&D担当役員として、次なるサービスの研究・開発にも明確な投資にコミットしていくという。

これまで、元々チーム経営をしてきたMerryBiz。株主を含めてコミュニケーションを密に取ってきた。「代表者の交代というファクトはまだインパクトが大きいので、ステークホルダーを心配させないように丁寧に対話を重ねてきました。代表が誰かではなく、適材適所の配置をして事業を成長させることに主眼を置いています」と、工藤氏は明かす。「CxO自身がポジショニングに凝り固まりすぎず、事業のスケールをより優先事項に置くことで、状況によって柔軟な体制を取れるようになり攻守バランス良く成長していけると感じています」と太田氏。代表を引き継ぐ山室氏も「内部の各個人を評価するというより、MerryBizという法人がどう成長するかに合わせて各自の能力を当てはめていくことを重視しています」と述べた。経理アウトソーシング「バーチャル経理アシスタント」を運営するメリービズ、最適配置を重視した代表者交代でチーム経営を強化

カリスマのある代表者が牽引する企業が注目されることが多いが、有機的なコミュニケーションを重視したチーム経営は今の時代にフィットしてきているのかもしれない。チーム経営についての詳しい鼎談はこちら

今後は、バーチャル経理アシスタントの力強い成長の実現、および新事業の研究・開発への投資を進める。2021年は、社員数増加にともなう本社の拡大移転や、事業を支えているプロ経理リモートワーカーの登録者数が1000名を超えるなど、大きな節目となった。今回の体制変更により、顧客企業への業務支援・DX推進支援などを通じた価値提供はもちろん、全国各地の有能なリモートワーカーにさらに活躍の場をもたらすことを目指す。

【2月28日】掲載記事アクセスランキング・トップ5―ウクライナ侵攻関連記事に注目が集まる

【2月28日】掲載記事アクセスランキング・トップ5―1位は家庭用ルーターなどIoT機器のマルウェア検査サービス

掲載記事のうち、2月28日午前7時現在集計で最もアクセスのあった記事5本を紹介。

第1位:横浜国立大学とゼロゼロワン、家庭用ルーターなどIoT機器のマルウェア検査サービス「am I infected?」を無料提供開始

横浜国立大学とゼロゼロワンは2月24日、家庭用ルーターやスマート家電を始めとしたIoT機器のマルウェア検査サービス「am I infected?」(アム・アイ・インフェクテッド)の提供を開始したと発表した。費用は無料で、オプションなどによる追加料金は発生しない。

第2位:【レビュー】Angry Miao・Am Hatsu、このメカニカルキーボードは「別格」だ


ここ数年、メカニカルキーボードの市場は活況を呈していが、パンデミックの影響で、多くの人がさらに自宅の設備増強を行っている。現在は、AliExpressの20ドル(約2300円)の特売品から600ドル(約6万9000円)のカルトキーボードまで、キートップやスイッチなどがついていない状態のものも選べる。そんな中に登場したのが、価格は1600ドル(約18万3000円)のAngry MiaoのAm Hatsuだ。

第3位:ロシア、国内でのフェイスブックへのアクセスを部分的に制限すると発表

ロシアは、Facebookがテレビ局Zvezda、通信社RIA Novosti、ウェブサイトのLenta.ruとGazeta.ruのロシア国営メディア4社に対して独自の規制をかけたことを受けて、具体的には示されていないこのアクセス制限措置を実施すると主張した。

第4位:ロシアのウクライナ侵攻へのテック業界各社の対応


2月24日、ロシアは数カ月におよぶ国境での軍備増強を経て、隣国ウクライナへの侵攻を開始した。侵攻の影響は、ウクライナのテックエコシステム全体にも及んでいることは間違いない。ウクライナには、何百ものスタートアップやテック大企業だけでなく、世界最大のテクノロジーブランドの研究開発オフィスもある。

第5位:ウクライナ、ベラルーシのハッカーが同国防衛軍をターゲットにしていると発表

ウクライナのサイバーセキュリティ当局は、ベラルーシに支援されたハッカーが、ウクライナ軍関係者のプライベートな電子メールアドレスを標的にしていると警告している。

画像クレジット:
Brands&People on Unsplash
TECHCRUNCH
GETTY IMAGES
Daniel Leal / Getty Images
Pavlo Gonchar / SOPA Images / Getty Images

Dovetail、顧客調査に特化したソフトウェア事業の拡大に向けて71.6億円調達

オーストラリアの顧客調査ソフトウェア企業であるDovetail(ダブテイル)は、Accel(アクセル)が主導する6300万ドル(約71億6000万円)のシリーズAラウンドを完了したと発表した。これにより、同社は総額7000万ドル(約80億円)強の資金を調達したことになり、同社が「7億ドル(約797億円)以上」とする評価額に新たな資金を加えたことになる。

この数字からもわかるように、これは一般的なシリーズAではなく、Accelによる、いわばレイターステージ(後期段階)の投資である。Accelはこれまでも、資金調達額が少なく、自己資金で運営していたテクノロジー企業が成長して大きな収益を上げるまで、大規模な投資を行ってきた

通常のシリーズAとは異なる今回のDovetailのラウンドについて、ここでは同社の初期の歴史と、同社が作っているものから説明する。

ゼロからの起業であったDovetail

TechCrunchは、Dovetailの共同創業者でCEOであるBenjamin Humphrey(ベンジャミン・ハンフリー)氏に、今回の増資について、会社の創業当初にさかのぼって話を聞いた。ニュージーランド出身のハンフリー氏は、ベイエリアのテクノロジー企業で勤務した後、オーストラリアのAtlassian(アトラシアン)に入社して数年間在籍。その後、ベンチャーキャピタルに頼らずにDovetailを共同創業した同氏は、Buffer(バッファ)やBasecamp(ベースキャンプ)といった有名なテクノロジー企業のように、自己資金で会社を成長させていくことを計画したという。

ニッチに聞こえるかもしれない顧客調査市場向けのソフトウェア開発だが、Dovetailは創業当初から十分な支持を得て、チームを6人に拡大し、年間約50万ドル(約7000万円)の売上を自力で達成するまでに成長した。その時点でベンチャー投資家からのアプローチがあり、2019年に約500万豪ドル(約4億円)というごく小さなラウンドを完了した、と同氏は話す。

そのラウンドに参加したFelicis Ventures(フェリシスベンチャーズ)は、2020年末に向けてさらに資本を投入したいと考えていたという。ハンフリー氏によれば、資金は十分だったので、市場でのポジションを示すために1億ドル(約114億円)を超える評価額で1回目のシードラウンドを完了した(教訓:資金調達に関しては、利益を上げて成長していることが真に「おいしい」スタートアップである)。

現在もこの調子である。新しい投資家であるAccelのRich Wong(リッチ・ウォン)氏とArun Mathew(アルン・マシュー)氏によると、DovetailはAccelが投資する機会を得るまで、調達した資金総額の半分しか使っていなかったという。

市場に「ソフトウェア企業は資金を消費せずに成長できる」という傾向はない。つまり、Dovetailが作っているものを買いたいという顧客がすでに存在したということである。

Dovetailが販売しているもの

前述のAccelの2人は、Dovetailが構築しているものを「顧客調査のための記録システム」という新しいカテゴリーで表現する。

ハンフリー氏はもっと平凡な言葉で、自社の製品を「リサーチャーのための生産性向上ツール」と称し、エンジニアにはGitHubがあり、デザイナーにはFigmaがあるが、顧客のリサーチャーには独自のソフトウェアが必要だと指摘する。同氏はさらに、シリコンバレーやもっと規模の大きいスタートアップ企業は、R&Dの「開発」部分のツール開発には力を入れてきたが「研究」部分はそうではなかった、と付け加えた。

Dovetailの製品は、NPS(ネットプロモータースコア)調査、音声、動画、テキストの回答からユーザーのフィードバックデータを収集し、それをチームでタグ付けして機械で分析し、組織全体で共有することができるソフトウェアである。ハンフリー氏によると、顧客に関する組織的な知識を蓄積し、より迅速な意思決定を行えるようにするための企業向けのリレーショナルデータベースを構築することが目標だ。

例えば、プロダクトマネージャー(PM)が会社を辞めると、彼らと同時にかなりの量の知識がなくなってしまう。新しいPMは知識がないので、仕事を回すために会社中を質問して回らなければならない。Dovetailの製品を使えば、調査から得たデータや知識を永続的に保存して利用することができる。

成長

筆者はDovetailの活動について学んでいる最中なので、同社が顧客調査ソフトウェア市場を開拓していく中で、より多くのことが達成されることを期待している。現段階でいえることは、Dovetailは雑草のように成長しているということだろうか。ハンフリー氏によると、同社は2021年、収益と顧客数を3倍にしたという。すべてセルフサービスで、数カ月前に初めてアカウントエグゼクティブを採用した企業が、である。まさしく製品が主導する成長だ。

製品主導の成長とは、実際のサービスや商品が顧客を引き寄せるという考え方で、本質的にはプロダクトマーケットフィット(PMF、顧客を満足させることのできる製品が適切な市場で受け入れられている状態)の概念を再構築したものである(あるいはPMFの本来の意味をさらに純粋にしたものかもしれない)。いずれにしても、投資家によれば、Dovetailはまだ創業からそれほど時間が経っていないにもかかわらず、2022年も前年と同じ成長率を達成するか、少なくともそれに近くなるという。同社はすでにユニコーンに近い存在なのだ。

ハンフリー氏自らが、今後数カ月間に新たな資本のニュースを教えてくれることはないだろう。2022年の後半に同社の成長について彼を質問攻めにしようと思う。

画像クレジット:Vladyslav Bobuskyi / Getty Images

原文へ

(文:Alex Wilhelm、翻訳:Dragonfly)

「デスクレス」ワーカーを対象とした企業向け学習プラットフォームの拡大に向けて英EduMeが約23億円調達

B2B市場で新たなチャンスを狙うテック企業が注目を寄せる「デスクレス」ワーカー。2022年1月、この分野を対象としたeラーニングツールのスタートアップが成長を促進するための資金調達ラウンドを発表した。

ロンドン発のEduMe(エジュミー)は、急成長中のテック企業やさまざまな場所から働く従業員やパートナーを抱える企業を対象に、企業が自由に構築できるオンライントレーニングや教育を「マイクロラーニング」モジュール形式で提供するスタートアップだ。今回のシリーズBラウンドで2000万ドル(約22億9000万円)を調達した同社は、これまで一定の成長を遂げてきた米国でのさらなる事業拡大を図るためにこの資金を活用する予定だという。

今回のラウンドはWorkday(ワークデイ)の戦略的投資部門であるWorkday Ventures(ワークデイ・ベンチャーズ)とProsus(プロサス)が共同でリードしており、EduMeのシリーズAをリードしたValo Ventures(ヴァロ・ベンチャーズ)も参加している。HRプラットフォームであるWorkdayによる投資は、企業内学習やデスクレスワーカーをターゲットにした取り組みを同社が検討しているということの表れでもあるため(どちらも同社の現在のプラットフォームにとって最適な補足要素である)非常に興味深く、また将来M&Aにつながる可能性もなきにしもあらずである。一方EduMeは、IT分野でeラーニングをより使いやすくすることができれば、そこに成長のチャンスがあると踏んでいる。

EduMeのCEO兼創設者であるJacob Waern(ジェイコブ・ワーン)氏はインタビュー中で次のように話している。「デスクレスワーカーへのサービス提供方法のエコシステムが変化しています。アプリを10個持つのは邪魔なので、CRMプラットフォームなどと統合し、従業員が簡単に繋がれるコンテンツを提供したいと考えています」。

EduMeへの投資の他にもProsusは複数のEdTech企業に注力しており、同じく1月に同社は若い消費者ユーザーをターゲットとするオンライン家庭教師プラットフォーム、GoStudent(ゴースチューデント)の大規模ラウンドを主導すると発表した。

かつては敬遠されていたものの、今や主流となったデスクレスワーカー市場への着目は、EduMe自身のDNAを反映している。

もともとは新興国(現在はラテンアメリカ、当時はラテンアメリカとアフリカ)を中心に事業を展開する通信事業者、Millicom(ミリコム)により、通信事業者の顧客層にeラーニングを提供する目的で始まったのが同サービスだ。当時Millicomに在籍し、同サービスを構築したワーン氏は、同サービスが消費者や個人事業主ではなく企業に最も支持されていることを知り、先進国も含めたより広い市場でこの機会を倍増させるために事業のスピンアウトを決行した(EduMeはMillicomからの出資を受けていないとワーン氏は話している)。

急速に規模を拡大し、多様なチームとのコミュニケーション方法を必要としていたライドシェアリングや宅配業者などの業種を初期ユーザーとして見いだした同社。その後、物流、モバイルネットワーク事業者、小売、接客業、ヘルスケアなどの企業にも導入が進められ、現在では、Gopuff(ゴーパフ)、Deliveroo(デリバルー)、Deloitte(デロイト)、Uber(ウーバー)、Vodafone(ボーダフォン)など、約60社のグローバルな顧客を有している。EduMeは、総ユーザー数、使用されている学習モジュール、その他の指標を公開しておらず、評価額についても触れていない。

同社の成長の影には、B2Bのテクノロジー市場における一大トレンドが存在する。デスクレスワーカーは従来、いわゆるナレッジワーカー層に隠れ無視されてきた。1日中パソコンに向かっているナレッジワーカーは、オンライン学習ツールを購入して使用するターゲットとしてあまりにも明白だったからだ。簡単に言えば、こういったユーザーを対象に製品を開発し、販売する方がはるかに簡単だったのだ。

それがここ数年で大きく変わることになる。最も重要なのは、モバイルテクノロジーとクラウドコンピューティングの進歩によってこの進化が促進されたという事実だ。ナレッジワーカーもそうでない人も、今では誰もがスマートフォンを使って仕事をし、より高速な無線ネットワークを利用して小さな画面での利用を想定したアプリケーションを外出先で利用している。

そして最近、その変化を加速させたのが新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックだ。リモートワークが当たり前になったことで、より多くの人に向けたソリューションが民主化されるようになった。ワーン氏によると、現在世界の労働人口の約80%がデスクレスと推定されているという。

リモートワークの台頭が拍車をかけたのはそれだけでない。物理的な共通スペースでともに仕事をすることができなくなったため、オンライン学習ツールは、企業がチームとコミュニケーションをとったり、トレーニング、オンボーディングや専門的能力の開発に利用したりするための、最も重要かつ中心的な存在となった。

このトレンドの成長は非常に大きなビジネスへと変革しており、2020年の企業内学習関連の市場は、2500億ドル(約28兆6211億円)と推定されている。パンデミックの他、ビジネスや消費者の長期的な習慣の変化がもたらす成長の加速により、2026年には4580億ドル(約52兆4247億円)近くにまで膨れ上がる見込みだという。

リモートワーカーおよびデスクレスワーカーに焦点を当てているという点が、現在の市場におけるEduMe独自のセールスポイントだと同社は考えているようだが、実際はこの分野唯一のプレイヤーと呼ぶには程遠く、激しい競争に直面することになるだろう。企業内学習を促進するために多額の資金を調達したスタートアップには、360Learning(360ラーニング)LearnUpon(ラーンアポン)Go1(ゴーワン)Attensi(アテンシ)などがあり、さらにLinkedIn(リンクトイン)もこの分野に大きな関心を持っている。

「パンデミックによって私たちの働き方は、想像もつかないほどの変化を遂げました。それにともない、従来のようなデスクを持たない従業員を多く持つ急成長中の業界をサポートする必要性は高まる一方です」。Workday Ventures のマネージングディレクター兼代表の Mark Peek (マーク・ピーク)氏は声明中でこう伝えている。「EduMeの革新的なトレーニング・学習プラットフォームは、拡大し続けるデスクレスワーカーに対応しながら、組織が変化を乗り越えて成長するのを支援しており、弊社が EduMe をサポートする理由はそこにあるのです」。

画像クレジット:Smith Collection/Gado/Getty Images / Getty Images

原文へ

(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)

The.comがローコードでコラボレーション可能なウェブサイトビルダーを発表、テンプレートではなくカスタマイズ可能な「ブロック」を使用

The.comという覚えやすい名前のスタートアップ企業が、ウェブサイト構築を刷新すると同時に、ウェブクリエイターが自分の作品の功績を認められるようにする取り組みを行っている。440万ドル(約5億1000万円)のシード資金を携えてひっそりと登場した同社は、業界標準であるテンプレートベースのアプローチを捨てた「ローコードのウェブサイト構築プラットフォーム」と呼ばれるものを開発した。The.comのサイトビルダーは、テンプレートの代わりにコミュニティが作成したコンポーネントを使用している。コンポーネントは、サイトにドロップして他のユーザーと共有できる。サイト作成者は、サイト構築の過程で互いに協力し合い、直接チャットすることも可能だ。

同社は、NFXが主導し、Sound Ventures、VSC Ventures、Village Global、Harry Stebbingsが参加する440万ドルのシード資金をクローズした。

The.comのアイデアは、共同創業者であり兄弟でもあるJeff McKinnon(ジェフ・マッキノン)Clarke McKinnon(クラーク・マッキノン)から生まれた。この創業者らは、The.comを設立する前の2012年から2019年まで、ボルダーで自らウェブ開発会社を経営し、ウェブサイトの開発とデザインに携わってきた経歴の持ち主だ。この間、彼らは従来のウェブ開発で生じるフラストレーションを身をもって体験したと、クラークは語る。

「私たちは、誰かが私たちのニーズをすべて解決してくれる完璧なプラットフォームを作ってくれるのを待っていました。でも、そんなことは起きなかった」とクラークはTechCrunchに語った。「だから、自分たちで作り始めたんです」。

共同創業者、ジェフ&クラーク・マッキノン氏(画像クレジット:The.com)

当初、彼らのプラットフォームは社内ツールとなる予定だったが、現在の顧客が関心を持ち、兄弟にこの製品をもっと広く利用できるようにしてビジネスにすることを勧めた。そこで兄弟は、2019年5月に代理店事業を停止し、現在のThe.comに取り組み始めた。

クラークの説明によると、従来のウェブ開発や古いプラットフォームには速度とセキュリティの問題がある。しかし顧客からより細かいカスタマイズを求められると、ハードコーディングが必要になり、更新のための継続的な作業が必要になるという葛藤も常にある。さらに現在のウェブ構築プラットフォームの多くは、すでにサイトデザイナーである人たちを対象にしている。しかしクラークら共同設立者たちは、自分たちの経験から、ウェブサイトに貢献する人の中にはデザイナーではない人が大勢いることを理解していた。

「誰もが同じ土俵に立てるウェブサイト構築プラットフォームが必要だっただけなのです」とクラークはいう。

The.comでは「サイトを作成」ボタンを押すだけで簡単に新しいウェブサイトを立ち上げることができ、すぐにサイトのインフラを導入できる。ユーザーは他の人を共同制作者として招待でき、ボタンをクリックするとサイトの編集を開始できる。一から作ったり、テンプレートを選んだりするのではなく、クリエイターは使いたいパーツやコンポーネントを個別に選べる。つまり、The.comの1人のクリエイターからナビゲーションを、そして別のクリエイターからはフッターを、そしてヒーロー画像、ヘッダー、バナー、ボディ要素など、さまざまな要素をコミュニティのメンバーから選ぶことができる。要素を選ぶと、画面上に紙吹雪が舞い上がり、元のコンポーネントの制作者に称賛としてクレジットが与えられる。The.comは、今後クリエイターに金銭的な報酬を与える方法を展開する予定だ。

画像クレジット:The.com

クラークは「目標は、要素を使ってサイト構築している人たちが、要素を最大限に活用できるようにすることです」という。再利用可能な要素を作る動機について「私たちが代理店だった頃、すばらしいサイトをたくさん作りましたが、それらは一度使われただけで、それっきりでした。お客様にあまり気に入らないと言われたもの、合わなかったものなど、実際のサイトには登場しなかったものがたくさんあります。そのようなものから繰り返し収入を得ることができれば最高だと思います」と語った。

サイトビルダー自体もおもしろいデザインになっている。作成するウェブサイトの前面に、フローティングウィンドウが表示される。だが他のWYSIWYGデザイナーより少し高度な作りになっており、サイトのページ、ブロック、シート(基本的には自由形式のデータベース)を管理するセクションがある。個々のウェブサイト要素を追加した後、ウェブサイトのコードを書いたり編集したりするのと同じように、フォント、色、画像、テキストなどを変更して細かくカスタマイズすることができる。また、生のJavaScriptを追加したり、一から新しい要素を作成することによっても変更を加えることができる。

サイト上での作業が進むにつれて、変更した内容は画面上にライブで反映されるため、実際の見た目を確認するために「プレビュー」をクリックする必要はない。また、カスタマイズした要素は、必要に応じてコミュニティのマーケットプレイスで再度共有することもできる。

画像クレジット:The.com

The.comはこのマーケットプレイスで、クリエイターが自分の作品に対して直接報酬を得るという、クリエイターエコノミーのトレンドを利用している。創業者たちの考えでは、自分のツールを使ったサイトのカスタマイズを勧める「ウェブサイトのインフルエンサー」になるトップクリエイターもいるかもしれないということだ。

クラークは「マーケットプレイスでは、品質、優れたデザイン、印象的な構築があれば、クリエイターはどんどん人気になっていくでしょう」と指摘する。「これから人々は、自分の仕事への評判を期待するようになります」。要素が繰り返し利用されると、The.comは、コミュニティやウェブサイトを含め、元のクリエイターが称賛を得られるようにする予定だ。

The.comによると、現在のコミュニティ規模は、顧客数で数千人、日々のアクティブユーザー数で数百人であるという。

The.comのウェブサイトビルダーでもう1つ注目すべきなのは、共同作業の要素である。The.comの顧客の多くは、個人ユーザーではなく、代理店や中小企業だ。つまり、複数の人が一緒にサイトを更新することができるようになる。現在は、それぞれの人が編集しているパーツの横にプロフィールアイコンが表示されるが、将来的には、ユーザーが並んで編集できるようになる。また、チャット機能も内蔵しているので、他のサイト協力者と構築について直接話すこともできる。

画像クレジット:The.com

ひっそりと登場したこのスタートアップ企業は、最初の料金プランも発表している。まずは試してみたいという人のためのベーシックプランは無料。他の階層は、機能セット、サポートの必要性、サイズに応じて、月額36ドル(約4160円)、199ドル(約2万2990円)、1499ドル(約17万31080円)となっている。The.comの顧客は、中小企業やスタートアップ企業から大企業に至るまで幅広い。高性能なサイトでは、Shopifyの上にThe.comをヘッドレスオプションとして使用し、ウェブサイトの速度を上げ、直帰率を減少させているものもあるとのことだ。

The.comは、表向きはサンフランシスコに本社があるが、11人のフルタイム従業員から成る分散型チームを抱え、合計15人のチームで事業に取り組んでいる。今回発表されたシード資金を使ってエンジニアとコミュニティ分野で雇用し、さらなる製品開発に取り組む予定だ。

The.comという憧れのURLを獲得したことについては、創業者たちによると、彼らの親友がこの取引の力になってくれたらしい。

クラークは、このメンターが誰であるかは明かさなかったが「家族・友人割引です。この人は長い間ドメインの世界に関わっていて、たくさんのいいものにアクセスができたので、私たちは幸運でした」と述べた。

NFXのジェネラルパートナーのJames Currier(ジェームス・カリアー)は「The.comのプラットフォームには、Web1.0や2.0のウェブサイト構築システムとは異なり、ネットワーク効果とコンポーザビリティがあります」と語る。「クリエーターにオーナーシップが与えられ、クリエーターは新しいプリミティブを使ってウェブを再構築できるようになります。私たちは、このようなカテゴリー革命を待ち望んでいたのです。もしあなたがまだWordPressを使ってウェブサイトを作成しているなら、The.comに乗り換えたくなるでしょう」。

画像クレジット:The.com

原文へ

(文:Sarah Perez、翻訳:Dragonfly)

Ambient.aiはAIを活用したビルセキュリティで偏見やプライバシーによる落とし穴をふさぐ

「ちょっと、そこは入れませんよ」。建物とカメラをいくつか通過すると、セキュリティの仕事はすぐに複雑で途方もない状況になる。誰が一度にすべての場所を見張り、間に合うように人を送って問題を防ぐことができるだろうか。Ambient.aiはAIでそうできると最初に主張したわけではないが、最初に実際に大きな規模でそうしたのかもしれない。そして、成長を続けるために5200万ドル(約59億1000万円)を調達した。

昨今の業務処理問題は、誰でも指摘できる種類のものである。現代の会社や学校にある幾十幾百ものカメラからは膨大な量の映像やデータが生み出され、専門のセキュリティチームでもすべてを把握するのは困難だろう。結果として、重要な事象が発生してもそれを見逃すだけでなく、間違ったアラームや音に耳を向けてしまう可能性もある。

「犠牲者はいつも、誰かが助けに来てくれることを期待してカメラを見るが、実情はそうではない」と、Ambient.ai(アンビエント.ai)のCEO兼共同創業者、Shikhar Shrestha(シカー・シュレスタ)氏はTechCrunchに語った。「ベストの状態でも、インシデントが起きるのを待っていて、ビデオを見て、そこで仕事をするわけです。カメラはあり、センサーはあり、警備員もいる。欠けているのは、仲立ちをする頭脳です」。

明らかに、シュレスタ氏の会社は頭脳の提供を目指している。セキュリティのライブ映像の中央処理装置によって、問題が発生したら即座に適切な担当者に通知できる。そうした努力を危険にさらす先入観はない。顔認識もしない。

以前にもこの特定のアイデアに取り組む例はあったが、これまでのところ本気で採用した例はない。シュレスタ氏によれば、第1世代の自動画像認識は単純な動作検出で、画面上の画素に動きがあるかどうかを確認するにすぎず、木なのか家宅侵入者なのかも見分けられなかった。次に来たのが、深層学習を使用した物体認識だった。手に銃を持っているのか、窓が割れているのか識別できた。これは役に立つことがわかったが、限界があり、維持に少々手がかかった。状況や物に対して特別なトレーニングがたくさん必要だった。

「ビデオを理解するために人が行うことを見て、他の情報も大量に取り入れることにしました。座っているのか、立っているのか、ドアを開けているのか、歩いているのか、走っているのか、屋内にいるのか、屋外にいるのか、昼間か夜間か、といったことです。私たちは、そうしたことをすべて一緒にして状況を総合的に理解します」と、シュレスタ氏は説明した。「私たちは、コンピューターの映像インテリジェンスを使って映像の事象全体をマイニングします。あらゆるタスクを分解してそれをプリミティブと呼びます。相互作用や物体などです。その後、それらの構成要素を結びつけて「シグネチャ」を作成します」。

Ambient.aiのシステムでは、行動の要素を使用し、それらの要素を相互に結びつけて、それが問題になるかどうか示す(画像クレジット:Ambient.ai)

シグネチャは「夜間に長時間車内で座っている人物」や、誰ともやり取りせずにセキュリティチェックポイントの傍らに立っている人物」のようなもので、数は任意である。チームによって調整・追加されたものや、モデルによって独自に追加されたものがある。シュレスタ氏は「管理された半教師あり手法の一種」と説明した。

AIを使用して一度に100のビデオストリームをモニタリングすることのメリットは明らかだ。何か悪いことが起きる見当をつける点でAIの出来がたとえ人間の80%だとしてもである。注意散漫、疲労、目が2つしかないといった弱点がないAIは、時間やフィード数の制限なしに成功のレベルを上げることができる。これは、成功の機会が実際にかなり大きいということだ。

銃だけを探す初期のAIシステムでも数年前から同じことが言われていたかもしれないが、Ambient.aiが目指しているのはもっと総合的なものである。

「私たちは意図的に、プライバシーの考えを中心にしてプラットフォームを構築しました」と、シュレスタ氏は述べた。AIを活用したセキュリティというと「人はすぐに顔認識が含まれているものと考えるが、私たちの手法ではこの大量のシグネチャイベントがあり、顔認識を必要としないリスク指標を利用できます。何が起きるかを示す画像やモデルは1つだけではありません。これらのさまざまな要素をすべて活用して、システムの記述レベルを上げることができます」。

基本的にこれは、各個人の認識活動を最初から先入観のないものに保つことによって行われる。例えば誰かが座っているか立っているか、どれくらい長くドアの外で待っているか、といった行動をそれぞれ監査し、発見して、構成やグループ全体で検出できた場合、そうした推測の総和も同様に先入観のないものになる。このように、システムの構造上、先入観は削減される。

しかし、先入観は潜行的で複雑であると言わなければならず、先入観を認識して軽減する能力は最先端には後れを取っている。それでも、直感的に言って、シュレスタ氏が述べたように「先入観で見られるものに関する推測のカテゴリーがない場合、そのようにして先入観が入り込むことはない」というのは本当のように思える。そうであることを望む。

Ambient.ai共同創業者。左はCTOのVikesh Khanna(ビケシュ・カナ)氏、右はCEOのシカー・シュレスタ氏(画像クレジット:Ambient.ai)

いくつかのスタートアップが同じように登場しては消えていったのを見てきたので、こうしたアイデアを記録で実証することは重要だ。Ambient.aiは比較的静かにしてきたにもかかわらず、製品に関するその仮説の証明に役立ってきた活発な顧客が多数いる。もちろん、過去2年間は厳密には通常の業務ではなかったが、効果がないのであれば「時価総額で米国最大級のテック企業の5社」が顧客になるというのは考えにくい(しかし現にそうである)。

名前の挙げられていない「Fortune(フォーチュン)500テクノロジー企業」のテストで、認証を受けた人のすぐ後からセキュリティで保護されたエリアに入る「共連れ」を減らすことを目指していた。そんなことをする人はいないと思うだろうか。何と、最初の週に2000のインシデントが特定された。しかし、事象のGIFをほぼリアルタイムでセキュリティ担当者に送信し、セキュリティ担当者はおそらく違反者に警告したのだろう。数字は週に200まで減少した。今は週に10である。おそらく私のような人間によるのであろう。

画像クレジット:Ambient.ai

Ambient.aiがドキュメント化した別のテストケースでは、学校のセキュリティカメラが、放課後に誰かがフェンスによじ登っている様子を捉えた。即座に映像が警備責任者に送信され、警察に通報された。その男には前科があることが判明した。ここで強調したいのは、学校を封鎖する必要があるということではなく(これはそうするのに役立つだろう)、そのドキュメントの中で述べられている別のことである。それは、システムが「誰かがフェンスによじ登っている」という認識と「これは8:45の少し前によく起きる」というような他のことを結びつけることができるということだ。だから、子どもが近道しても警察に通報されることはない。またAIは、よじ登ることと、落ちることと、ぶらつくこととを区別することもできる。こうしたことは、状況によって問題になったり、ならなかったりする。

Ambient.aiの主張では、システムの柔軟性は一部こうした「プリミティブ」による。プリミティブは現場の必要に応じて簡単に再調整が可能で、例えば誰かがフェンスによじ登っても、落ちない限りかまわない。また「あっ、これは誰かがフェンスを切断しているようだ」といった新しい状況を学習することもできる。チームは現在、約100の疑わしい行動の「シグネチャ」を持っており、今後1年でそれを倍に増やすつもりだ。

既存の警備人員の電話や無線機の呼び出しが鳴る機会を制御することで、既存の警備人員の効率が向上すれば、時間の節約になり、結果も良くなる(Ambient.aiは、日常的なアラームの数が概して85~90パーセント削減されると述べている)。また、AIを活用した映像のカテゴリー分類は記録やアーカイブにも役立つ。「夜間にフェンスによじ登る人の映像をすべてダウンロードしなさい」と命令する方が、5000時間手作業でスクラブするよりずっと簡単だ。

5200万ドル(約59億1000万円)のラウンドはa16z(アンドリーセン・ホロウィッツ)が取りまとめたが、Ron Conway(ロン・コンウェイ)氏、Y Combinator(Yコンビネーター)のAli Rowghani(アリ・ローガニ)氏、Okta(オクタ)共同創業者のFrederic Kerrest(フレデリック・ケレスト)氏、CrowdStrike(クラウドストライク)CEOのGeorge Kurtz(ジョージ・カーツ)氏、Microsoft(マイクロソフト)CVPのCharles Dietrich(チャールズ・ディードリッヒ)氏、その他数名の自分が何に投資しているかわかっている個人投資家の名前もあった。

「今は異色の時代です。セキュリティに携わる者はもっと多くのことを行うように期待されています。誰かがすべてのフィードを見守っている必要はないという基本的な提案は普遍的なものになりました」と、シュレスタ氏は述べた。「私たちは1200億ドル(約13兆6000億円)という多額のお金をセキュリティに費やしています。そこに結果が出ていないのはまともではありません。私たちはインシデントを防ぐことができていません。すべての道が一点に収束しているように感じます。組織が採用できる、将来も有効に使い続けられるセキュリティを提供できるプラットフォームになりたいと思っています」。

画像クレジット:Ambient.ai

原文へ

(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

ウクライナ副首相がアップルのクックCEO宛て公開書簡、ロシアでの製品販売停止とApp Store遮断を要請

ウクライナ副首相がアップルのクックCEO宛て公開書簡、ロシアでの製品販売停止とApp Store遮断を要請

JIM WATSON via Getty Images

ロシア軍の侵攻が続くウクライナの副首相兼デジタル・トランスフォーメーション担当大臣ムィハーイロ・フョードロフ氏が、アップルのティム・クックCEOに対してロシア国内におけるアップル製品の販売停止とApp Storeへのアクセス遮断を要請しました。しかし記事執筆時点では、クックCEOはこの要請に対する反応を示していません。

フョードロフ氏は「私はあなたに要請します。あなたはこれを聴くだけでなく、ウクライナ、欧州さらには民主世界全体を血まみれの権威主義の侵略から守るべく、可能な限りのことをするものと確信しています。どうかApp Storeのアクセス遮断や、ロシア連邦へのアップルのサービスや製品の供給を停止してください」と記した書簡をTwitterで公開しました。ロシアからアップル製品の供給を引き揚げることで、ロシア国内、特に若者たちの間で反戦の機運が高まることが期待されるとの主張です。

アップルは現在、ロシアでオンラインストアを運営しており、iPhone、iPad、Mac、AirPodsといった各種製品をユーザーにダイレクト販売しています。またロシアのApp Storeは最近、ロシア国内産アプリのユーザーへの推奨を手厚くするよう変更が施されていました。

ロシアは昨年、アップル、Google、Metaなどのハイテク企業が国境内に物理的な拠点を持つことを義務付ける法律を施行しており、アップルもここ数か月の間にロシアに事業所を設置し、モスクワで求人情報を出していたとBloombergは伝えています。

ティム・クックCEOは木曜日にTwitterで「ウクライナの状況を深く懸念しています。我々は現地チームのためにできる限りのことをしており、現地の人道的支援活動にも協力していくつもりです。我々は今まさに危険にさらされている人々のことを思い、平和を求めるすべての人々とともに行動します」とコメントしてはいました。しかし今回のウクライナ副首相の要請に対する回答はまだ確認できません。

(Source:BloombergEngadget日本版より転載)

簡単にネット販売ストアを立ち上げて注文を受けられるツールを開発するCococart

2年前、起業家のDerek Low(デレク・ロウ)氏は、自身が所有するバリ島のホテルを失い、生活費を稼ぐために手作りのチーズケーキのネット販売を始めた。しかし、すぐに立ち上げて注文を受けることができる簡単なeコマースツールを見つけるのは、難しいことがわかった。

ロウ氏は、2億もの事業主が注文を取るために電話やWhatsApp(ワッツアップ)やInstagram(インスタグラム)などのメッセージングアプリに頼っており、注文の追跡が困難であることが、代金回収を難しくしていることに気づいた。また、プロフェッショナルなeコマースサイトは立ち上げに数週間かかり、新規ビジネスには高額な費用が必要になることも知った。

Cococart共同創業者兼CEOのデレク・ロウ氏(画像クレジット:Cococart)

ロウ氏はZhicong Lim(ジコン・リム)氏とパートナーを組み、シンガポールを拠点にCococart(ココカート)を設立した。同社のツールは、商品を販売する人が数分でオンラインストアを立ち上げることができ、コードもデザインもアプリのダウンロードも不要だ。このストアには、注文管理からモバイル決済ソリューションまで、あらゆる機能が搭載されている。販売者は、持続不可能な手数料を請求するアプリやマーケットプレイスを利用することなく、自分たちの販売を管理することができる、とロウ氏は付け加えた。

「率直に言って、受注管理は大変です」と、ロウ氏は語る。「ほとんどの地方事業者は、未だにWhatsAppで注文を受け、スプレッドシートを使って注文を管理しています。それでは事業を成長させるために使うべき多くの時間が吸い取られてしまいます。私たちは、地方起業家たちの新しい波の最前線にいます。キッチンで作った料理を販売するところからスタートし、今では業務用キッチンを備えた小売店を経営しているような当社の加盟店のストーリーから、私たちは日々インスピレーションを受けています。私たちのミッションは、地域の事業を変革し、ビジネスオーナーに情熱を追求する力を与えることです」。

Cococartの加盟店の多くは、まさにロウ氏と同じような人々だと、同氏はいう。新型コロナウイルス感染流行から生まれた新世代の個人事業主は、eコマースで急成長しているセグメントを代表する存在となっている。また、人々がオンラインで注文することに慣れたことも、ロウ氏はこの動きがなくならない要因と見ている。

「私のように、職を失った多くの人がネットで副業を始め、それが主な収入源になりました」と、ロウ氏は続けた。「このような起業家は、他人のために働くよりも、自分のビジネスを運営する方が収益性が高く、充実感が得られることに気づいたのです」。

Cococartは設立当初から収益性の高い会社であり、サービスの立ち上げ以来、90カ国で2万人以上の商店主が契約し、合計50万件以上の注文を受け、1500万ドル(約17億円)以上を稼ぎ出している。

例えば、同社のトップマーチャントの1つであるINDOCIN(インドシン)は、オンデマンドで職人によるインドネシア料理を提供している会社だ。ロウ氏の話によると、同社のオーナーが1年前にCococartで商売を始めた当時は、自宅のキッチンで手作りの料理を売っていたそうだ。現在では24人の従業員を雇用し、自分の店舗を経営している。

ロウ氏によると、2021年だけでCococartは契約店数を30倍、顧客数を46倍に伸ばしたという。同じ期間に、同社は創業者2人だけのチームから、12カ国にまたがる22人のチームに成長を遂げた。

この勢いを維持するため、CococartはForerunner Ventures(フォアランナー・ベンチャーズ)とSequoia(セコイア)から420万ドル(約4億8500万円)を調達した。他にも、Y Combinator(Yコンビネータ)、Uncommon Capital(アンコモン・キャピタル)、Soma Capital(ソマ・キャピタル)、Liquid 2 Ventures(リキッド・ツー・ベンチャーズ)、Fitbit(フィットビット)CEOのJames Park(ジェームズ・パーク)氏、Curated(キュレイテッド)CEOのEduardo Vivas(エデュアルド・ヴィヴァス)氏などの投資家が出資した。

ロウ氏は、この新たに調達した資金を使って、雇用と顧客獲得を継続していく意向だ。

「私たちはまだ始まったばかりです」と、同氏は続けた。「私たちの目標は、商取引の次世代を定義することです。事業を始めて運営していくには、配送からサプライチェーン、資金調達に至るまで、まだまだ私たちで解決したい課題が山積しています。私たちは目の前に大きな機会を見出しています。Cococartを世界中の2億の事業主に届けたいと思っています」。

画像クレジット:Cococart

原文へ

(文:Christine Hall、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

【コラム】創業者として成功に「大学なんて関係ない」というのはシリコンバレーの幻想だ

シリコンバレーは「ドロップアウト(中退)」を礼賛するのが大好きだ。伝統的な教育では、関連性のないことを教えられ、なかなか進歩できず、そして情報が簡単に手に入る世界では、もはやかつてのように学習リソースを提供できないため、自分には向いていないと判断した起業家が、着想を得ると考えられているからだ。

ドロップアウト礼賛の伝説的な支持者は、Thiel Fellows(ティール・フェローズ)プログラムで1年間大学を休学する学生に資金を提供するPeter Thiel(ピーター・ティール)氏から、Mark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏やBill Gates(ビル・ゲイツ)氏といった非公式のマスコットまで、大学は卒業しなかったが実際には高度な教育を精力的に擁護する人々である。

私の大学入試に対する考え方は、世界最高峰の大学への入学を目指す何千人もの野心的な学生を国際的に支援し、彼らのキャリアが次にどうなるかを見てきたことから得られたものだ。

相当な資産を持ち、恵まれたコネクションのある家庭に生まれたのでなければ(ドロップアウト礼賛の擁護者の多くはそのような立場だ)、一流大学の学位は、既存の社会経済的環境における機会で、最も強力な武器になる。

シリコンバレーを代表するスタートアップアクセラレーターといえば、言わずと知れたY Combinator(Yコンビネーター)だ。Coinbase(コインベース)、Brex(ブレックス)、DoorDash(ドアダッシュ)、Airbnb(エアビーアンドビー)など、さまざまな分野で数多くのユニコーン企業を輩出することに成功している。若くて野心に溢れた起業家は、新たなユニコーンを生み出すための支援として、シード資金、メンターシップ、ネットワーキングの機会を得たいと望み、Y Combinatorに応募する。

ドロップアウト礼賛を理解するために、私はY Combinatorで実際に成功している人たちを調べてみた。その結果、私はイスから転げ落ちそうになった。私はすでに学位取得の大推薦者だったのだが。

まず、人口統計を見てみよう。ユニコーン企業を生み出したY Combinator出身の創業者は、平均年齢28.1歳で会社を起ち上げた。しかし、消費者向けテクノロジーのユニコーン企業の場合、平均年齢は22.5歳(つまり大学を卒業したばかり)だった。このような企業の創業者は非常に若く、多くの場合未経験者である。となると「なぜ、Y Combinatorはこのような優秀な若者に自信をもって賭けることができるのか?」と疑問に思わざるを得ない。彼らの能力を見分けるシグナルは何なのだろうか?

画像クレジット:Jamie Beaton

その答えは、学位に依るところが大きい。このような共同創業者たちの中で、大学に進学していない人はわずか7.1%。中退者はわずか3.9%で、しかも全員がハーバード、スタンフォード、MITなどの有名校を中退している。つまり、入学資格を得たというだけで、学力の高さを示す強力なシグナルを発しているわけだ。これらの中退者たちは、普通の脱落者ではない。彼らは、世界で最も有名な大学への入学資格を獲得し、高校生活を極めて真剣に過ごしていたのだ。

では、大多数は?ご想像のとおり。創業者の35%がハーバード、スタンフォード、イェール、プリンストン、MIT、カリフォルニア大学バークレー校に進学し、共同創業者の45%がアイビーリーグ、オックスブリッジ、MIT、スタンフォード、カーネギーメロン、USCに進学している。25歳以前に起業した共同創業者のうち、3分の2以上がアイビーリーグ、オックスブリッジ、MIT、スタンフォード、CMU、USCのいずれかに進学している。共同創業者の出身大学はMITが最も多く、次いでスタンフォード、カリフォルニア大学バークレー校となっている。

他の人たちはどこへ進学したのか?インドのユニコーン創業者の大多数は、インドのアイビーリーグであるインド工科大学に進学している。創業者たちは学部卒に留まらない。共同創業者の35.7%が何らかの大学院を修了している。

私はこの現象を説明するために、著書の中で「シグナリング」という言葉を提唱している。これは、ノーベル経済学賞を受賞したGary Becker(ゲイリー・ベッカー)が作った造語だ。本質的に、労働力市場は競争が激しいので、すべての人に実際にどの程度の才能があるのかを把握するにはコストがかかりすぎる。そのため、ベンチャーキャピタルは誰に賭けるべきかを判断するために、簡潔な経験則を用いる必要がある。

エリート大学の学位は、若者が長期間にわたって学業、課外活動、リーダーシップの追求に何千時間も費やし、入学審査委員会から一定の水準にあると見做されたことを意味する。これは、Y Combinatorのようなアクセラレーターにとって、候補者がどれだけ有望であるかを迅速に選別するために必要なシグナルとして機能する。

スタンフォード大学の学部生なら全員がY Combinatorに受かるわけではないが、スタンフォード、MIT、ハーバード出身者の合格率は、一般的な大学やこのレベルの教育を受けずに応募した人たちを圧倒する。

私は、世界トップクラスの投資家から成長資金を調達する際、投資家たちが、ある創業者には「投資できる」、ある創業者には「投資できない」と言っているのをよく耳にした。この定義について調べてみると、創業者の学歴がどれだけ説得力があるかということに関わっていることが多いのだ。この人物は投資対象になりそうか?ファンドの機関投資家は首をかしげるだろうか、それとも支援してくれるだろうか?

ピーター・ティール氏は、おそらく中退ヒステリーの最も声が大きな擁護者の1人だ。だが、彼自身、スタンフォード大学で学士号と法学博士号を取得している。私の調査では、大学中退の道を支持する人の中で、自分自身がエリート教育機関のバッファを持っていない人を見つけることは難しい。

ピーター・ティール氏の個人的なベンチャーファンドであるFounders Fund(ファウンダーズ・ファンド)は、エリート大学教育を受けずに投資家を志す人のためのものであるかのように聞こえる。だが、よく見てみると、その逆であることがわかる。Founders Fundで働く18人の中には、スタンフォード大学学部卒6人、ハーバード大学法学博士1人、スタンフォード大学MBA2人、スタンフォード大学法学博士1人、コーネル大学学部卒、イェール大学学部卒、MIT学部卒、デューク大学学部卒など、18人のエリート学歴者がいるのだ。ある投資家はそれに近い。彼らは「最も中退しそうな学生」という賞を受賞したが、それでもちゃんとMBAを取得した。

最高のアドバイスは、それを与える人がそうやってきたということだ。もし、あなたがユニコーンの創業者になって起業家精神で世界を揺るがしたいと望むなら、最も有効な発射台は一流大学の学位である。

編集部注:本稿の執筆者Jamie Beaton(ジェイミー・ビートン)は「Accepted! Secrets to Gaining Admission to the World’s Topic Universities(合格!世界で話題の大学に入学許可を得るための秘密)」の著者であり、大学入試コンサルティング会社であるCrimson Education(クリムゾン・エデュケーション)のCEO。

画像クレジット:SEAN GLADWELL / Getty Images

原文へ

(文:Jamie Beaton、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

Amazon Musicが2022年中にPandoraを抜いて米国2位の音楽配信サービスに、調査会社が予測

かつてのeMarketer(イーマーケター)、現Insider Intelligence(インサイダー・インテリジェンス)の予測によると、Amazon Music(アマゾン・ミュージック)は2022年中にPandora(パンドラ)を抜き、米国で2番目にユーザー数の多い音楽ストリーミングサービスになる見込みだという。ただし、この調査では、有料プランのユーザーと広告付き無料プランのユーザーの両方が含まれている。Insider Intelligenceは、2022年末時点における各社音楽ストリーミングサービスのユーザー数を、Amazon Musicが5260万人、Pandoraが4910万人、そしてApple Music(アップル・ミュージック)は3820万人になると予想しているが、Apple Musicの利用者はいずれも有料ユーザーであり、広告付き無料プランのユーザーはいない(もちろん、無料トライアル中の可能性もあるが)。

Insider Intelligenceの予測によると、Amazon Musicは前年比5.3%の成長が予想されるが、Pandoraは2017年からユーザーを減らし続けており、このSiriusXM(シリウスXM)傘下のストリーマーのユーザー数は、2022年に6.7%の減少が予想されるという。Pandoraの担当者は、この新たなレポートに関するコメントを辞退したものの、Pandoraは米国における広告付き音楽ストリーミングサービスの首位であると語った。同社の最新の業績報告によると、Pandoraのユーザー数は現在5230万人で、前年の5890万人から減少している。

また、2021年のInsider Intelligenceの調査によると、有料会員数に関しては、Pandoraは競合他社に大きく遅れを取っている。

画像クレジット:eMarketer

Spotify(スポティファイ)は、全世界で1億8千万人のプレミアム会員を抱え、月間アクティブユーザーは有料・無料プラン合わせて4億600万人。他を大きく引き離し、米国のナンバー1音楽ストリーミング配信事業者として君臨している。Spotify独自の報告によると、北米のアクティブユーザーは約9338万人で、そのうち有料会員数は2880万人とされている。Spotifyの数字は国別に加入者数を分けていないため、Pandoraの聴取者とSpotifyの聴取者の規模を直接比較することはできないものの、Pandoraの市場シェアは下がり続けている。それでもPandoraは2021年、2020年から30%増となる7億4300万ドル(約859億円)の粗利益を上げた

Amazon Musicは成長を続けると同時に、その製品自体にも注目すべき改善が見られる。Amazon MusicApple Musicはいずれも2021年、ロスレスオーディオのストリーミング配信を全加入者に提供開始したが、Spotifyにこの機能はまだなく、その遅れについても説明できていない。Amazonはポッドキャストの配信も強化しようとしており、一部のポッドキャストに同期したトランスクリプト(文字起こし)機能を追加した。しかし、Spotifyのポッドキャストリスナーは、同プラットフォームのコンテンツに関する決定が物議を醸しているにもかかわらず、急速に増え続けている。ポッドキャスト業界における買収相次ぐ中、Spotifyがストリーミング業界において支配の手を緩めるつもりがないことは明らかだ。

画像クレジット:TECHCRUNCH

原文へ

(文:Amanda Silberling、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

ポケモン新作「スカーレット・バイオレット」、2022年後半に発売

ポケモンカフェ」はともかくとして、第9世代のポケモンが登場する。米国2月27日のポケモン公式YouTubeチャンネルの放送で、2019年末に発売された「ポケットモンスター ソード・シールド」に続く、メインシリーズのポケモンゲーム最新作「ポケットモンスター スカーレット・バイオレット」が発表された。Nintendo Switch用ゲームは2022年末に発売される予定だ。

非常にドラマチックな予告編はこちらで閲覧できる。

予告を見る限り、グラフィックは最近リリースされた(そしてとても楽しい)「Pokémon LEGENDS アルセウス」に似ているが、映像では実際のゲームプレイは見られなので、再び天空の世界のポケモンに遭遇するかどうかはまだわからない(「アルセウス」ではその実装がうまくいったが「ポケットモンスター Let’s Go! ピカチュウ」の二の舞はやめて欲しい)。しかし、予告編のYouTubeの説明では「ポケモンのオープンワールドへようこそ」と宣言しているので、このゲームは「アルセウス」(技術的にはオープンワールドゲームではないが、ポケモンフランチャイズが持つ「ブレス オブ ザ ワイルド」スタイルの冒険に最も近いものだ)からヒントを得ているのかもしれない。

予告編ではMagnemite(コイル)、Lucario(ルカリオ)、Hoppip(ハネッコ)、Drifloon(フワンテ)、Combee(ミツハニー)、Meowth(ニャース)、Pikachu(ピカチュウ)などおなじみの仲間たちが登場するが、新しいポケモンはまだ名前が決まっていない第9世代のスターターだけだ(更新:どうやらこの新しい仲間たちは 気まぐれで注目を集めるグラスキャットポケモンのSprigatito、マイペースでのんびりしたファイヤークロコポケモンのFuecoco、そして「真面目で几帳面なアヒルポケモン」のQuaxlyだ。これらの名称をどう発音するかは聞かないで欲しい)。

不思議な3人組だ。かわいいグラス子猫(筆者のイチ押し)、リンゴ型の炎タイプの恐竜(最終進化の可能性あり、がっかりさせないで欲しい)、そして文字通りドナルドダックに似た水のポケモンがいる。ディズニーの法務部にはいわないように。

その他のポケモンのニュースとしては、アローラ地方のポケモンが「ポケモンGo」に登場すること「ダイヤモンド・パール」と「アルセウス」のマイナーアップデート「ポケモンユナイト」と「ポケモンマスターズEX」のサイドゲームで新たにプレイできるポケモン、そして……よくわからないが「ポケモンカフェ」に何か新しいものがあると発表している。

今朝の放送をチェックして欲しい。

画像クレジット:The Pokémon Company

原文へ

(文:Amanda Silberling、翻訳:Nariko Mizoguchi

SPACがすべてゴミとは限らない、そしてチームワークの力

スタートアップとマーケットの週刊ニュースレター、The TechCrunch Exchangeへようこそ。

こんにちは!今回は2つのトピックを取り上げる。1つ目は、いつもの取材範囲にすっぽり収まるものだ。2つ目はそうでもない。では始めよう!

すべてのSPACがゴミというわけではない

2021年のSPACラッシュの中で、Alight Solutions(アライト・ソリューションズ)の公開を見逃していた。この会社は、シカゴ郊外に拠点を置き、米国内の数千万人の従業員をサポートするビジネス・プロセス・アウトソーシング企業だ。2021年初めにSPAC経由で上場する意向を表明した後、2021年7月に白紙委任のFoley Trasimene(フォーリー・トラジメン)と統合した。

今週は決算発表もあり、その後にCEOのStephan Schol(ステファン・ショル)氏と対談した。Alightのレポートには重要な点が3つあるので、一緒に眺めていきたい。以下のようなものだ。

  • すべてのSPACが滅茶苦茶なわけではない: 現在Alight Solutionsは約47億ドル(約5431億円)の価値があり、統合前の1株あたり10ドルをわずかに上回る水準で取引されている。つまり、この会社のSPAC取引はかなり高く評価され、この手法で会社を上場させても、その後の数週間、数カ月、数四半期のうちに、ダメージを受けずに済ませることが可能だということだ。これまでは、失速しなかったSPACコンボの代表例はSoFiだったが、そこにまた新たな名前を加えることができる。
  • いくつかのSPACの予測がそれを裏づけている:Alightは、1月の合併発表時の投資家向けデッキで、2021年のBPaaSの収益は億6300万ドル(約419億5000万円)になるとの見通しだったと語っている。BPaaSはBusiness Process as a Service(サービスとしてのビジネスプロセス)の略で、同社のSaaS的なサービスの中でも、最も急速に収益が伸びているセグメントだ。しかし実際には、2021年のBPaaSの売上は3億9000万ドル(約450億7000万円)に達していた。重要な指標で予想を上回った!それこそが、会社をまだ水面上にとどめているのだと思う。
  • 利益ある成長という考え方:ハイテク企業が配当を開始すると、なぜ一部の業界では悪い知らせと見なされるのか?その理由の1つは、定期的な支出を通じて株主に現金を還元するという選択は、企業が資金を投入する場所がないことを示しており、将来の成長が鈍化することを意味しているからだ。そのような理由から、私たちは巨人ではないハイテク企業が、利益を犠牲にしてでも、がむしゃらに成長する様を目にすることが多くなる。Alightは両極端の間に位置し、ショル氏がTechCrunchに語ったように、利益の出る成長に焦点を合わせているようだ。これによって、彼の会社は特定の努力に対して「過剰な回転」をすることはなく。BPaaS戦略にすべてを賭けることもしない。もし長期的にうまくいかなくても、会社は生き延びるだろうと彼は説明した。なおAlightは利益を出しているので、彼の発言は黒字の立場からなされていることは念頭に置いて欲しい。それでも、ソフトウェアの移行を経験しているテクノロジ企業と多くの点で共通している点が多い一方で、成長と利益のバランスを取るアプローチが非常に異なる企業と話をするのは興味深いことだった。本当におもしろい。

さて次は少し毛色の変わった話だ。

チームワーク

毎週のことだが私はこの原稿を金曜日(米国時間2月25日)の午後に書いている。Daily Crunchを少しばかり補足するこの原稿を書き、週末を迎える。

だが、今週の金曜日はグッタリしている。不透明な経済、パンデミック、ウクライナ侵攻などの理由だけでなく、Chris Gates(クリス・ゲイツ)がTechCrunchを辞めて別の場所で新しい仕事をすることになったからだ。これまで彼の名前をあまり取り上げてこなかったので、クリスのことは多分ご存知ないだろう。

ともあれ、彼はEquity podcastの立ち上げメンバーであり、今日が最終日となった。この記事が読まれるころには、彼はもういない。私たちは約5年間一緒に仕事をし、何百もの番組を収録し、失敗に苦しみ、勝利を祝い、総じてチームとして番組を成功させてきた。ホスト役の交代、親会社の売却など、さまざまなことがあったが、彼はいつもそこにいて、落ち着いていて、温かく、準備万端だった。もちろん、EquityはGrace(グレース)、Mary Ann(メアリー・アン)、Natasha(ナターシャ)のおかげでもあり、ときおりDanny(ダニー)、Kate(ケイト)、Matthew(マシュー)、Katie(ケイティ)、Connie(コニー)にも参加してもらえる喜びもあった。グループプロジェクトとしての意味合いが強いのだ。

クリスと一緒に仕事ができなくなるのは、とても寂しい。しかし、彼の退任は、チームワークという人間力の掛け算を思い起こさせる。

その人物、その逸話、その微笑み。これはクリスが退社を発表したときにSlackに投稿したものなので、ここで晒しても文句は言われないだろう。彼は毎日エネルギーを持ち込んでくれた。

たとえばこのニュースレターは、私自身が書いている。そして、Annie (アニー)かRichard(リチャード)に読んでもらう。Henry(ヘンリー)もよく覗いてくれる。彼は数年前、私と一緒に企画を練りこの誕生をサポートしてくれた人物だ。最後に、セールスチームが適切な広告要素を取り込むために準備しているスロットへ、メールを使って原稿を送る。その後、読者の受信トレイに配信され、サイトに掲載されるのだが、それを可能にしているのは、私たちの技術陣だ。私の名前が一番上に出ているのは、中の言葉を書いたからだ。しかし、この記事は、重要な一連のチームワークの結果なのだ。

チームに関しては、身に余る幸運に恵まれている。私がこれまで一緒に仕事をしてきた人たちは、ごく少数の例外を除いて、私の人生の中でも普通に愛せるひとたちだった。クリスと私は、結婚式や子どもの誕生、引っ越しなどを挟みつつ、一緒にEquityに取り組んだ。私たちは一緒に人生を歩んできたのだ。

そして、The Exchangeが所属しているTechCrunch+のチームはエース級であることもお伝えしておきたい。Walter (ウォルター)、アニー、Ram(ラム)、Anna(アンナ)をはじめとするチームのメンバーはすばらしい人たちばかりで、一緒に仕事をできることは本当に幸運だ。一緒に仕事をしているからこそ、私はできることがたくさんあるのだ。そして、その恩返しができればと思っている。

チームワーク。それこそが最高のものだ。だからこそ仕事の別れがより一層辛くなる。

クリス、君の次の冒険のために、幸運を祈ろう。君が次に生み出すものが何であれ、君の1番のファンでいられることを楽しみにしている。

画像クレジット:Nigel Sussman

原文へ

(文:Alex Wilhelm、翻訳:sako)

ロシア宇宙機関ロスコスモスCEO、対ロシア制裁がISS運用に深刻な影響及ぼすと脅迫的ツイート―地上への落下示唆

ロシア宇宙機関ロスコスモスCEO、対ロシア制裁がISS運用に深刻な影響及ぼすと脅迫的ツイート―地上への落下示唆

3DSculptor via Getty Images

ロシアの宇宙機関Roscosmosを率いるドミトリー・ロゴージン氏は、米国政府がロシアに対する制裁を厳しくするとの報道を受けてTwitterで激しくそれを非難、バイデン米大統領が木曜日に、制裁が「ロシアの宇宙計画を含む航空宇宙産業を衰退させる」と発言したことに対して、ロシアの宇宙産業に打撃を与えるようなことがあれば、ISSが米国、欧州、インド、中国に落下することになるかもしれないと述べています。

ロゴージン氏は「バイデン大統領は理解していないかもしれないから、ISSの軌道修正や某国のビジネスマンが軌道上にまき散らしているスベースデブリとの接近を回避するのにはロシアのプログレス補給船のエンジンで行われていると誰か説明してやってくれ」「もし我々との協力関係を損なえば、誰がISSを制御不能にして米国や欧州に落下させるのか、インドや中国に500tもある構造物を落とすのか。ISSはロシア上空を飛ばないからリスクを負うのはお前たちだけだ」とツイートを連投しました。

まるで某SFアニメにある”コロニー落とし”を地で行くようなことをするのかとも思える発言ではあるものの、これがまったくの絵空事かといえばそうでもありません。ISSは低軌道に浮かんではいるものの、地球の重力にゆっくりと引き寄せられており、定期的に軌道を押し上げる必要があります。現状ではその押し上げ操作が、ISSにドッキングしたプログレス補給船のエンジンを使って行われているため、ISSはその巨体を軌道にとどめるためにロシアに頼らざるを得ないのが実際のところです。

このことに対して、SNSではSpaceXのドラゴン宇宙船やノースロップ・グラマンのシグナス補給船を利用してプログレスと同じことができないかとの意見が出ています。現在、ISSにはシグナス補給船がドッキングしており、4月にはこれを使った軌道修正のためのテストも計画されています。ただ、そうしたオプションはあくまでオプション以上の、長期的な解決策としての機能を持つものではありません。

ただ、ロシアもロシアで、ISSでの活動はNASAに大きく依存しています。NASAはISSの電力供給を一手に引き受けており、軌道上の位置制御もNASAの協力の上で成り立っています。つまり、ISSにおいてはロシアも米国も、互いに互いの力を必要としているわけです。

もちろんどちらかが一方的にISSを放棄してしまえばそれを維持することはできなくなりますが、いまのところはバイデン大統領が発表したロシアへの制裁措置も、米露の宇宙での協力関係を崩すことがないように組まれており「RoscosmosとNASAの現場はISSの安全な運用のために各国のパートナーとともに協力を継続している」とNASA広報は述べています。

さらに、もし今後もISSに関する計画が予定どおり行われるならば、やはり米露は協力関係を維持し続ける必要があります。3月18日にはソユーズ宇宙船が3人のロシア人飛行士を乗せてISSへと向かう予定であり、現在ISSに滞在するロシア人飛行士2名、NASA飛行士4名、ESAのドイツ人飛行士1名に合流します。そして、3月30日にはNASA飛行士1名とロシア飛行士2名が地上に帰還します。

ちなみに、ISSはすでに2030年での退役を見据えた時期に入っており、最近ではISSをいかにして安全に大気圏に降下させるかという計画の概要も発表されていました。ただ、その計画はプログレス補給船の推進力を利用することを念頭に作られており、仮に一方的にロシアがISSを放棄してしまった場合は、NASAはシグナスを利用する方向に計画を練り直すことになりそうです。

バイデン大統領は、今後米露関係の「完全な断絶」もあり得ると発言しており、そうなったときはロゴージン氏もISSに関ししかるべき対応を打ち出してくると考えられます。今後しばらくはウクライナで起きていることの一方で、軌道の上にいる人たちのことも頭の片隅に覚えておく必要がありそうです。

蛇足。ロゴージン氏は米国の制裁において金融資産凍結対象とされるロシアの重要人物リストに個人として名前が掲載されているとのことです。

(Source:Via the VergeEngadget日本版より転載)

ウクライナ侵攻に対する経済制裁により、ロシア国内でApple PayやGoogle Payなどが利用停止

ウクライナ侵攻に対する経済制裁により、ロシア国内でApple PayやGoogle Payなどが利用停止ロシアのウクライナ侵攻を受けて、米国政府およびEUはロシアの大手銀行5行に対して外国為替取引の制限を含む経済制裁を実施しました。その結果、現地の主要銀行口座と紐付けられたApple PayやGoogle Payなどのデジタルウォレットがロシア国内で利用停止となったと伝えられています。

ロシア中央銀行は25日、制裁対象となった銀行の顧客は海外でカードを使用できなくなり、制裁を支持する国に登録されている企業のオンライン決済ができなくなると発表しました。

公式声明によると、影響を受ける銀行はVTBグループ、ソブコムバンク、ノビコムバンク、プロムスヴィヤズバンク、オトクリティの5つ。これら5つの銀行が発行するカードは、Apple PayやGoogle Payで使えなくなったと指摘しています。

なおロシアの顧客は、ロシア国内では物理的なカードを使って非接触決済を行うことができるとのこと。現時点では、上記の5行と紐付けられたApple PayとGoogle Payの決済は同国内で無期限で停止されており、再開のめどは立っていません。

今回のできごとは、あくまで「Apple PayとGoogle Payと取引ある地元銀行が経済制裁の対象となった」ためです。しかし米バイデン政権は追加制裁として半導体などハイテク製品の輸出規制も決定しており、その範囲がうわさ通りソフトウェアや通信プロトコルにも及べば、ロシア国内でApp StoreやGoogle Playストアが使えなくなる事態もあり得そうです。

(Source:Bank of Russia。Via BusinessInsiderEngadget日本版より転載)

画像クレジット:
Egor Lyfar on Unsplash

【コラム】私たちはソーシャル+の世界を構築しようとしているが、それをどのようにモデレートできるだろうか

ソーシャルはもはやFacebookで行われていることに留まらない。使用するすべてのアプリで行うことに相当する。Venmo(ベンモ)、Strava(ストラバ)、Duolingo(デュオリンゴ)、さらにはSephora(セフォラ)での体験を思い浮かべてみて欲しい。

ソーシャルコンポーネントをアプリやサービスに実装する「ソーシャル+企業」として知られる企業が、ユーザーとのつながりを確立し、インタラクションを実現するという強みを背景に、繁栄を続けている。

Andreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)のD’Arcy Coolican(ダーシー・クーリカン)氏は、ソーシャル+企業の魅力について次のように記している

(ソーシャル+は)ビデオゲームから音楽、ワークアウトに至るまで、あらゆる分野でコミュニティを見つけるのに役立ちます。ソーシャル+は、喜びを刺激するような実用性が、人間の本質的なつながりと思慮深く統合されているときに生じます。その力は強力です。なぜなら、究極的には、正統的かつポジティブな形でお互いにつながる方法が多ければ多いほど、より良いものになるからです。

ソーシャル+はまもなく私たちの生活のあらゆる側面に浸透し、数カ月後には猛烈な勢いで加速することが予想される。実用性を維持するアダプションが進み、すべての企業がソーシャル企業となることを、筆者は保証したい。これはとてもエキサイティングであるが、そうなるのは私たちが適切な構想を整えている場合に限られる。過去にソーシャルの支配力を私たちは目の当たりにしてきたが、その方向に向かわない限り、すばらしいものが創出されるだろう。

ソーシャルを生み出すアプリが正当なモデレーションの実践に信仰を見出さず、正しいテクノロジーとプロセスを最初から確実に構築するために必要なリソースへの投資を行わなければ、今日のユーザー体験にみられる目覚ましいほどの付加的なものが、まさに悪夢のようなものになりかねない。

Facebookからの学び

Facebookは、初代のソーシャルパイオニアとして社会の機能を再定義したが、そうすることで、いくつかの非常に痛ましい教訓に耐えることになった。注目すべきは、個人、グループ、組織に至る19億3000万人のデイリーアクティブユーザーからの投稿を監視しながら、同時に抑圧することなくコミュニティの意識を醸成し、プラットフォームアダプション、エンゲージメント、利益を促進するという重荷を背負わなければならないことだ。ソーシャル+企業は、少なくとも短期的には、この種の量を目にすることはなさそうだが、同じ問題に対処しなければならず、それが起こることを予見できない言い訳はもはや存在しない。

Facebookがモデレートに失敗したいくつかの領域を見てみよう。

  • 急成長する中で不適切なユーザー行動を見過ごしてしまう:Facebookの初期の頃、プラットフォームモデレーションは、ユーザー主導の無料スペースとみなされていたところでは必要ないと考えられていた。この会社は単なるつながりのパイプだった。Facebookは、効果的に管理するには遅すぎるという状況になるまで、ユーザーに害が及ぶ可能性を認識していなかった。最先端のソフトウェア、そして1万5000人の従業員が70言語にわたるコンテンツのレビューに専念しているワークフォースをもってしても、コンテンツモデレーションは依然として大きな問題であり、企業ユーザー、広告費、膨大な評判資本を犠牲にしている。
  • 言葉の壁の過小評価:私たちはオンラインサービスやネットワークを通じてますますグローバル化する社会に住んでいるが、議会に提出された文書によると、偽情報を特定するために割り当てられたFacebookのグローバル予算の87%が米国に充てられていた。世界のその他の地域でのモデレーションプラクティスにわずか13%しか充当されていないことになるが、北米ユーザーはデイリーユーザーの10%に過ぎないのである。Facebookはこの問題に対処するために、言語に極めて微妙な差異がある市場にAIベースのコンテンツモデレーション用ソフトウェアを適用しようとしたが、うまく機能しなかった。Facebook最大の市場(3億5000万人のユーザーを抱えるインド)では、言語不足に起因して、誤情報や暴力扇動が急増している。北アフリカや中東の多様な方言の場合はさらに深刻である。結果として、人間によるコンテンツレビューと自動化されたコンテンツレビューの両方においてヘイトスピーチが蔓延するのを誤って許容してしまい、一方で、一見テロ活動を助長しているように思われる無害な投稿が削除されるという事態に陥っている。
  • 政治的になる:米国のディープフェイクや偽情報キャンペーンにおいて武器化されてきた最も明確な言葉は正常化されているが、Facebookがそのサービス規約に照らして合法的に削除したりフラグを立てたりする投稿は、表現の権利が侵害され、自分の声が抑圧されていると感じているユーザーの怒りを招いている。これは、新しい法的手続きの断片と連動して、重大な市民の反発を引き起こした。つい最近の2021年12月1日、政治的信条に基づいてコンテンツが削除された場合に州住民がFacebookを訴えて損害賠償を求めることを可能にするテキサス州法の施行を、連邦判事が阻止した。政治的候補者、ニュースサイト、ユーザーを検閲した責任をFacebookに負わせようとしたフロリダ州の同様の法律も却下された。しかし、これらの試みは、人々が自分たちの好まない、あるいは時間の経過とともに自分たちに対抗するように変化していると感じるコンテンツモデレーションのプラクティスに、いかに憤慨しているかを示している。
  • 禁止コンテンツをどうするかの判断:コンテンツが削除された場合、そのコンテンツはどうなるかという問題や、好ましくないコンテンツを引き渡したり、違法行為の可能性について当局に警告したりする倫理的責任が企業にあるかどうかという問題もある。例えば、検察は現在、抗議者が銃撃された暴力事件に関与したグループ、ニューメキシコ州市民警備隊のメンバーを特定するのに役立つデータをFacebookに渡すよう要求している。Facebookは、禁止されていた同グループの記録は削除したため、どうすることもできないと主張している。誰が何を所有しているのか、プライバシーに対する合理的な期待は何か、企業はコンテンツを放棄できるのかという点で、法執行機関とソーシャル企業の間で緊張が高まり続けている。

これらの問題はすべて、アプリやサービスにソーシャルコンポーネントを組み込むことを計画している企業によって、慎重に検討されるべきである。

次世代のソーシャルアプリ

ソーシャルエンゲージメントは、セールスやアダプションなど多くの側面で重要な要素となっているが、人間には欠点もあることを忘れてはならない。トロール、スパム、ポルノ、フィッシング、金銭詐欺は、ブラウザやショッピングカートと同程度にインターネットの一部となっている。それらによってコミュニティが一掃され、破壊される可能性もある。

考えてみて欲しい。Facebookとその開発者、モデレーター、AIテクノロジーの部隊が悪戦苦闘しているなら、モデレーションとコミュニティガイドラインを初めから優先しない場合、どのようなことが起こるだろうか?

企業は、特にサービスがグローバル化するにつれて、企業とともに拡張できるモデレーション機能を構築するか、堅牢なソリューションを提供する企業と提携する必要がある。これはいくら強調してもしすぎることはない。プラットフォームの長期的な成功と存続性、そしてソーシャル+ムーブメントの未来にとって、それは基本的な要素である。

しかし、モデレーションツールがその役割を果たすためには、企業はコミュニティのために明確に定義された行動規範を作成しなければならない。それはグレーゾーンを最小化し、その意図をすべてのユーザーが理解できるように明確かつ簡潔に書かれたものであることが求められる。

透明性は必須である。不適切な行為をどのように扱うのか、投稿を削除したりユーザーをブロックしたりするプロセスはどのようになっているか、という観点で構造を整備することも企業は求められる。いつまでアカウントがロックアウトされ続けるのか?ユーザーは訴えることができるのか?

そして企業は、最初から一貫性を持ってこれらのルールを適用しなければならないという大きな試練が課せられる。インスタンスの間に曖昧さや対照があると、その企業は損失を被ることになる。

組織はまた、好ましくないコンテンツに関して、倫理的責任に対する姿勢を明確にしなければならない。ユーザーのプライバシーとコンテンツをどのように管理するのかについて、特に法執行機関が関心を持つ可能性があるものに留意しながら、企業は自主的に決定しておく必要がある。これは厄介な問題であるが、ソーシャル企業が不正に関与しないようにするための方策は、企業のプライバシーに関する姿勢を明確に示すことであり、そこに背を向けて、問題が発生した場合にのみそれを持ち出すようなやり方は避けるべきである。

フィンテックからヘルスケア、フードデリバリーまで、あらゆるアプリにソーシャルモデルが組み込まれ、私たちのデジタル生活をより魅力的で楽しいものにしている。同時に、企業がユーザーや顧客とのコミュニケーションのまったく新しい方法を開拓するとき、間違いは避けられないものでもある。

今重要となるのは、ソーシャル+企業がFacebookのような先駆者から学び、より安全で協力的なオンライン世界を作り出すことである。そこで求められることは、ある程度の先見性とコミットメントに他ならない。

編集部注:本稿の執筆者John S.Kim(ジョン・S・キム)氏は、モバイルアプリ内にチャット、音声、ビデオ体験を埋め込む大手APIプロバイダーのSendbirdのCEO。

画像クレジット:Artur Debat / Getty Images

原文へ

(文:John S. Kim、翻訳:Dragonfly)

Verdagyの新技術がCO2を排出しない水素製造を加速させる

水素製造の先駆者であるVerdagy(ベルダジー、Verdeは「緑」、agyは「エネルギー」を意味する)は、エネルギー分野の戦略的投資家たちから2500万ドル(約29億円)を調達した。この資金は、複雑で環境に優しいとはいえない水素製造プロセスを、空気中に有害物質を排出しない工業的に拡張可能なソリューションに置き換えるために使用される。

工業用水素を製造する最も一般的な方法(米国で製造される水素の90%以上)は、水蒸気メタン改質(SMR)だ。つまり、メタンガス(CH4)に高圧の水蒸気(H2O)を吹き付けると、化学の神様が働いて大量の水素(ナイス!)とCO2を作り出してくれる。気候変動に関する知識があれば、CO2の排出は避けるべきものであることはご存知だろう。Toyota Mirai(トヨタ・ミライ)Honda Clarity(ホンダ・クラリティ)Hyundai Nexo(ヒュンダイ・ネクソ)のようなしゃれたクルマを、テールパイプからCO2の代わりに水を滴らせながら夕日に向かって走らせれば、独善的な気分になるのも無理はない。しかし、問題はある。その水素がどこから来たのかを知らなければ、CO2はクルマのテールパイプから捨てられる代わりに、どこかの大きな工場で排出されていることに気づいていない可能性があるということだ。おっと、それは困った。もちろん、CO2を回収して再利用する方法もあるが、そもそもCO2を出さない方が望ましいはずだ。そう、やはりそう思うだろう。

もう1つの主な水素の製造方法は、水の分子を分解することだ。水、つまり、H2Oは2つの水素と1つの酸素からできている。もし、この2つの原子を説得して、酸素(高校の生物化学では、酸素は良いものと習っただろう)と水素に平和的に別れさせることができれば、すばらしいことではないだろうか?ひと言でいえば、それがベルダジーのやろうとしていることだ。大型の電解槽に太陽光や風力などの再生可能エネルギーを(理想的に)接続すれば、大量の水素を作り出すことができる。水素燃料電池車のドライバーが「ドヤ顔」をするという、前述の生物学的害悪を除けば、副産物は排出されない。よりクリーンな環境にするという名目のもとであれば、筆者はその危険性を許容してもいい。

同社のイノベーションの核心は、アルカリ水電解(AWE)とプロトン交換膜(PEM)の電気分解プロセスの長所を取り入れながら、それぞれの固有の短所を排除することにある。ベルダジーは、高電流密度と広いダイナミックレンジでの動作を可能とする非常に大きな有効面積のセルを活用した、膜ベースの新しいアプローチを生み出した。それは、セルが最大効率の動作レンジを持ち、もしも大量の電気が余った場合(例えば、ソーラーアレイの発電量が産業用途や電力網で吸収できる量を超えてしまった場合など)、電気分解セルに電気を流して大量の水素を生成し、それを使用したり貯蔵したりすることができるというものだ。

アルカリ水電解(AWE)などでは隔膜を使用しており、使用できる電流密度には物理的な限界がある。当社が行っているセルと似たような素材や構造があるかもしれないが、その場合は隔膜によって高い電流密度での動作が制限される。(プロトン交換膜)PEMは、セルが使用できる有効領域が限られている」とベルダジーのCEOである(マーティ・ニーズ)氏は同社が特許出願している技術の概要を説明する。そして「当社のセルは非常に大きく、当社の技術を再現することは非常に困難だ。セルは単一要素構造をしており、陽極と陰極、そして中央に膜がある。セルの内部構造は、特許出願中の独自のものだ。セルが実際にどのように熱を放散し、気体や液体を循環させ、どのようにセル内の循環フローを管理するか、これが他社との違いだ」と同氏は語る。

支援の申し出が殺到し、2500万ドル(約29億円)を調達した今回のラウンドは、TDK Ventures(TDKベンチャー)主導のもと、多くの投資家が参加した。その中には、2021年ベルダジーがスピンアウトしたChemetry(ケメトリー)にも出資していたKhosla Ventures(コースラ・ベンチャー)も含まれる。その他の投資家としては、石油・ガス大手のShell Ventures(シェル・ベンチャー)、エネルギー・気候変動対策投資会社のDoral Energy-Tech Ventures(ドラルエナジー・テックベンチャー)、シンガポール政府系投資会社のTemasek(テマセク)、資材商品大手のBHP(ビー・エイチ・ピー)、石油・ガス・建設・農業大手のMexichem(メキシケム)の前身であるOrbia(オルビア)などがあり、さらに多くの投資家がいるが、そのうちの何社かはTechCrunchへの掲載を控えた。

ベルダジーがスピンアウトを発表してからわずか数カ月で、これほど豪華な戦略的投資家を集めて2500万ドル(約29億円)の資金を調達できたのは、同社が行っていることの重大さとチームの質の高さを物語っている。同社の新CEOであるマーティ・ニーズ氏は、Ballard Power Systems(バラード・パワー・システムズ、PEM燃料電池を製造)の取締役、および家庭用太陽光発電のパイオニアであるSunPower(サンパワー)のCOOを9年間務め、さらにアルミニウムとシリコンのリサイクル会社であるNuvosil(ヌボシル)の創業者であるなど、すばらしい経歴を誇る。

「TDK」は元々、東京電気化学工業株式会社(Tokyo Electric Chemical Industry Co., Ltd.)の日本名の頭文字をとったものだ。TDKベンチャーズの投資ディレクター、Anil Achyuta(アニル・アチュータ)氏は「(ベルダジーのような)電気化学系の企業に投資しないで、何に投資するのか」とジョークを交えて話す。「当社のビジョンは、TDK株式会社の将来の道筋を示す企業に投資することだ。そして、電気分解、特にグリーン水素のための電気分解は、社内で戦略的に推し進めている重要な分野の1つだ。TDKは世界中に110以上の工場を持っており、それぞれの工場を脱炭素化するだけでも、当社のカーボンフットプリントを減らすことができるため、非常にエキサイティングなことだ。これらの大きな石油化学工場施設や工業用化学施設の脱炭素化を考えるということは、世界の未来に投資するということだ」と同氏は語る。

水素燃料電池車に関する筆者のつまらないジョークはさておき、同社は主に、大規模な工業団地の一部として石油精製、肥料製造、食品加工、金属合金の製造など大規模な水素アプリケーションのために、水素を産業用に使用することを重点に置いているという。水素をオンプレミスで(少なくとも短いパイプラインで供給できる距離で)製造することは、これらすべての産業にとってメリットがある。そしてベルダジーは、現在のほとんどのソリューションよりも小さなカーボンフットプリントとはるかに環境に優しいテクノロジーで水素を製造することを約束している。

画像クレジット:Verdagy

原文へ

(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Dragonfly)

LeadGeniusの共同創業者、ウェブ会議による市場調査ツールMarvinでユーザー中心設計の原点に立ち返る

Prayag Narula(プラヤグ・ナルラ)氏と彼の弟Chirag Narula(チラグ・ナルラ)氏は、GongとChorus.aiがセールスコールに対して行ったことを、製品・マーケティングリサーチの通話に対して実現しようとしている。

2020年に彼らは、企業が顧客ニーズをよりよく理解するためのユーザーリサーチプラットフォーム「Marvin」を開発した。これは部分的に、プラヤグ・ナルラ氏の経歴に由来している。彼は、マーケティングテクノロジー企業LeadGeniusを共同設立して長年にわたり経営し、3000万ドル(約34億6600万円)以上のベンチャー資金を調達し、従業員が数百人になるまで成長するよう導いた人物だ。

営業やマーケティングのバックグラウンドを持たない彼は、LeadGeniusに友人を雇うことにし、その友人がパンデミックの始まりとともに最終的にCEOに就任した。同時にプラヤグ・ナルラ氏はCEOを退いたが、取締役には残った。

「Marvinはある意味、私がユーザー中心設計のルーツに立ち返った結果です」と彼は語る。「営業チームは顧客と話をして売上を上げたいと考え、カスタマーサクセスチームはアップセルを求めています。製品チームやデザインチームの場合、唯一のアジェンダは、その製品で顧客の生活をいかに改善するかということです。これはユーザーエンゲージメントの最も純粋な形であり、我々はこれを活用したかったのです」。

ナルラ氏はさらに、LeadGeniusではそれを実現するための適切なツールがなかったと説明する。今日に至っては、ビデオ会議のおかげで、会話を録音し、情報を得ることが簡単にできるようになった。しかし、ユーザー中心であることの価値を理解しながらも、何から始めればいいのかわからないという企業が増えている。

Marvinの共同創業者プラヤグ・ナルラとチラグ・ナルラ氏(画像クレジット:Marvin)

Marvinの技術は、Zoom(ズーム)などのビデオ会議ツールにプラグインし、通話中にメモを取るインタビューおよびユーザーリサーチツールである。また、インタビューのスケジュール設定や、録音した内容をキーワードやハッシュタグで検索可能なインサイトに変換するなど、ユーザー調査のあらゆる側面を自動化することができます。

「企業は、顧客と対話し、フィードバックを得て、調査を行うことに多くの時間を費やしています」とナルラ氏はいう。「このすべてがZoomで行われているのです。当社は、このような会話をより効率的かつコラボレーティブにするお手伝いをします」。

Lattice(ラティス)やSimon-Kucher(サイモン・クチャー)など、すでに数千社の顧客がMarvinを使用しており、毎週何千分もの録音を行っている。多くのユーザーは、この技術を活用して顧客と対話し、課題を理解し、デザインや製品へのフィードバックを得ている。それらの会話からパターンを見つけ出し、各チームで共有することができる。また企業によってはこのツールを経営コンサルタントとして使い、業界の専門家に話を聞いたり、学術的な研究の参照にするのに利用している。

米国時間2月23日、同社はプライベートベータを終了し、先に行われたプレシードラウンドで380万ドル(約4億3900万円)を獲得したことを発表した。同ラウンドはSam Altman(サム・アルトマン)氏のApollo ProjectsとFuel Capitalが共同で主導し、Scrum Ventures、Hack.VC、Global Founders Capital、House Fund、Gaingelsおよびエンジェル投資家のグループが参加した。

今回の資金調達により、Marvinは、ユーザーインタビューの実施、整理、分析、共有をより効果的に行えるよう、チームと製品開発の規模を拡大することが可能になるとのこと。同社の成長の大部分は、この5カ月の間に起こった。現在の従業員数は20名で、全体的に採用活動を行っている。

プラヤグ・ナルラ氏は「2021年の第3四半期に有料ユーザー数がゼロだったのが、1000以上に達したので、今度はそれを数千の有料ユーザーに拡大する時です」と述べている。

画像クレジット:Marvin

原文へ

(文:Christine Hall、翻訳:Den Nakano)

再編の必要性に迫られるスマホ業界を牽引する見本市MWCは、また同じことの繰り返しになるのか?

いつからこうなったのか正確なところはわからないが、Mobile World Congress(モバイルワールドコングレス、MWC)はある時点でスマートフォンの展示会になった。テック見本市の世界に身を置くのはすばらしい。携帯電話のインフラの世界ではほとんど欠けている、外向きの興奮があるのは確かだ。

大手の携帯電話会社の大きなブースと派手なプレスカンファレンスは、それこそニュースを生み出すコンテンツであり、そうでなければ取引だけのイベントになってしまうかもしれないものに世界中の目を向けさせる。ハードウェアメーカーは、こうした展示会と連動した発表サイクルに組み込まれてきた。CESでは、家電製品、ウェアラブル製品、食器洗い機、そして自動車までもが発表される。しかし、MWCでは携帯電話が主役だ。

ただ、ここ数年、スマートフォン業界は大きく冷え込んでいる。斬新なものから必需品への移行は避けられないが、世界的なパンデミック以前から、スマートフォンの販売はすでに停滞傾向にあった。ユーザーが通信会社のアップグレードサイクルについていかなくなり、購入習慣が鈍化した。また、プレミアム端末の価格が1000ドル(約11万5000円)超と高騰するにつれ、アップグレード必須の機能のペースもゆるやかになった。

マーケティング部門がいくら説得しようとも、家電においては世代を超えた技術の革新が毎年起こるわけではない。このような状況では、皮肉なことに意図しない方への展開もある。スマートフォンは、各社がしのぎを削っているうちに全体的にかなり良くなってきた。500〜600ドル(約6〜7万円)以上も出せば、最近では失敗することはまずない。

もちろん、一部のデバイスは他のデバイスより優れているが(そうでなければ、筆者は仕事を失うことになる)、業界の進歩により、製品は耐久性が増し、バッテリーは長持ちし、スペックも向上している。その結果、製品の寿命を人為的に短縮するような計画的陳腐化も以前のようではない。確かに、仕様に関係なく(筆者はおそらくそうした一部の仕様について書く)、毎年アップグレードを要求する熱狂的な人たちが常に少なからずいる。しかし、全体として、携帯電話はより良くなっていて、人々は長くそれらを保持する。埋立地にとっては純粋に良いことだが、販売面では踊り場となる。

これらのことは、成熟したカテゴリーでは予想されることだ。iPhoneが登場して2022年で15年だ。Android端末も来年15年目を迎える。しかし、販売台数の減少傾向は、パンデミックによって加速した。まず、人々が家から出られなくなったという単純な事実がある。ある人は職を失い、また別の人は休業を余儀なくされ(その後の大辞職はいうに及ばない)、可処分所得が端末買い替えを促すものになった。家電製品に使っていた金を、代わりにホームオフィス改装に使うようになった。

そして、サプライチェーンが滞り、チップ不足に陥った。つまり、多くの市場で、アップグレードをしたい人がそうすることができなかった。そして当然のことながら、これらの問題は、チップメーカーや部品メーカーに対する影響力がはるかに小さい中小企業に不釣り合いな影響を与えた。

どう考えても変なMWCになる運命だった。2020年には、CESがぎりぎりで開催を終えた1カ月半後に、主要テックイベントの中で最初に開催を取りやめたものの1つになった。2021年の展示会は、かなり規模を縮小して行われた。2022年は、CESとMWCの運命が少し逆転し、MWCはオミクロン変異株による最悪の事態から逃れたようだ。一方、CESでは、開催を前にしてテック界の大手ブランドがオミクロン変異株の影響で二の足を踏むことになった。影響力の大きな他の主要グローバルイベントはいうまでもない。

筆者は2022年の展示会には参加しない。バルセロナで1週間過ごせなかったことは今も悲しいが、結局、参加はさほど理にかなうものではなかった。展示会はこの仕事の大きなやりがいの1つだった。世界有数の都市で、TechCrunchの奇妙な冒険の数々が繰り広げられるという魅力的な展示会だ。そんなことに興味を持ってくれる8人の人たちのために、いつか回顧録を書くかもしれない。

聞いたところ、数日後に迫ったこの大きな展示会は、あまり話題になっていないようだ。大規模な対面式イベントに対する一般的な違和感に加え、世界最高のスマートフォン発表の場としてのMWCの終わりの始まりを示しているような要因が重なっている。モバイルネットワークとインフラに関する主要イベントとしての命は、たとえ外見上の輝きが失われたとしても、確かに残されている。

Apple(アップル)のように、各社が独自に開催するイベントでデバイスを発表する傾向が広がっている。この動きは、やはりパンデミックによって加速した。企業は遠隔プレゼンテーションのために独自のインフラを整備することを余儀なくされたからだ。Samsung(サムスン)は今月初めにS22を発表し、まさにそれを実現した。もちろん、すべての企業がAppleやSamsung(あるいはGoogle)のような影響力を持っているわけではなく、MWCやCESのようなイベントに自社を結びつけることはまだ意味がある。

モバイル業界全般も、ここ数年で目覚ましい変貌を遂げた。LGは携帯電話の製造をやめた。HTCはまだ製造しているかもしれないが、少なくとも劇的な方法でこのカテゴリーから手を引いている。同社は前述の最初のAndroid携帯のメーカーであるため、これは注目に値する。一方、Huawei(ファーウェイ)は、Android OSとQualcomm(クアルコム)のチップの使用を禁止する制裁を科されるなど、最近多くの問題に対処している。しかし、現実のものとなったHarmonyOSの携帯電話をいくつか見ることができるかもしれない。

後者については、QualcommのSnapdragonのリリースサイクルが、展示会会場Fira de Barcelona以外のところ息づいていると言ってもよいだろう。最新のSnapdragonフラッグシップの使用は、実際には差別化要因ではないが(Qualcommは世界のモバイルチップ市場の3分の1弱を占めている)、企業はそれを使っていち早く市場に参入することで、若干のアドバンテージを得ることができる。Qualcommの大きなイベントはいま毎年12月に開催され、発売時期はどんどん早まってきている。

Lenovo(レノボ)は、Motorolaの新しい携帯電話Edge Plusを発表したばかりで、主に低価格志向のこのブランドは1000ドルの大台にのせないようにしている。つまり、Motorolaの親会社はノートパソコンに固執する可能性が高いということだ。同様に、SamsungはGalaxy S22をすでに発表しており、この展示会で新しいGalaxy Bookを発表するものと思われる。どちらも技術的には「モバイル」と言えると思うが、スマートフォン展示会としてのMWCのイメージをさほど高めはしない。

そのため、主要なプレイヤーはあまり残っていない。Huawei陣営が泥沼から抜け出そうとしていることに加え、他の中国メーカーもこの空白を埋めることができるかもしれない。Oppo(オッポ)のOnePlusブランドは、CESを前にフラッグシップ端末を発表したが、親会社は展示会の場を利用して何らかの発表を行う可能性が十分にある。

TCLも同様で、独自のブランドを確立しようと引き続き取り組んでいる。一方、Xiaomi(シャオミ)とVivo(ビボ)は、母国とインド以外の市場での地位確立に取り組んでいる。ただし、世界1位と2位のスマートフォン市場は成長の余地が十分にある。

MWCは来週開催されるが、この展示会、そして業界全般の行方を断言するのは時期尚早だ。せいぜい、ハードウェアメーカーにとって奇妙な時期の移行期間、つまり、業界が次の大きなディスラプターにぶつかることを期待して地平線に目を向けているぎこちない過渡期だ。

画像クレジット:Pau Barrena/AFP / Getty Images

原文へ

(文:Brian Heater、翻訳:Nariko Mizoguchi

英Taurはeスクーターの「所有」をクールなものにできるか?

eスクーターの話題の多くは、シェアードスクーターや、それを展開する企業、展開されている都市の話題で占められている。しかし、ロンドンを拠点とする電子スクーターブランドTaur Technologies(トア・テクノロジーズ)の共同創業者でリードデザイナーのCarson Brown(カーソン・ブラウン)氏は、スクーターシェアリングと乗り物としてのスクーターとを分ける時期に来ているという。

Taurは2019年に、走行中にライダー(乗り手)が正面を向くことができるフットデッキと、大きなタイヤを2つ搭載した、高級で洗練された白いeスクーターの事前予約キャンペーンを開始して、世間に認知された。ロンドンでの発売を予定していたが、栄子0苦ではまだ個人所有のeスクーターが合法化されていない。

そこでTaurは、未来の交通システムを専門とする、サンフランシスコのVCであるTrucks VCから、175万ドル(約2億円)を調達し、ロサンゼルスで始動することとなった。電動スクーターの市場は成熟しているとまでは言えない。新会社の参入は大注目とまではいかないまでも、それなりに注目されるに足る市場であることは確かだ。

ブラウン氏はTechCrunchに「始めたころは、シェアリングが本当に一般的だったと思います。そんな中で自信満々に勇敢で愚かな決断をして、次は所有スタイルが来るよ!と言い切ったのです」と語った。なので、このスクーターを受け入れてくれる市場でチャンスを掴もうとしていますが、LAは製品の観点からだけでなく、大きな部分を占めるブランドという観点でもすばらしい場所だと考えています。普通の人にとってのスクーターのイメージを変えていきます。それができたなら、目的を達したことになります」。

言い換えれば、スクーターをニッチなものとか「二流市民の移動手段」としてとらえるのではなく、憧れの交通手段としてとらえることのできる文化的な転換を図りたいというのが、Taurの考えなのだ。スクーター会社の多くは、あまり個性がなく、文化的にもあまり貢献できていないのは確かだ、とブラウン氏はいう。

「できるだけ安く作って、できるだけたくさん売るというのが普通でした」と彼はいう。「私たちは、本当に最先端で、最前線で、実際に人々が話題にする製品となるものを提供できるチャンスに惹かれたのです」。

Unagi (ウナギ)のスクーターは、スクーター界のiPhone(アイフォン)と呼ばれてきた。同ブランドが最近発表した次世代のModel Eleven(モデル・イレブン)は、物体検知や警告などの高度なライダー支援機能を備え、スピーカーなども内蔵したスマートスクーターだ。そのスクーターは約2860ドル(約33万円)だが、標準的なModel One(モデル・ワン)は約990ドル(約11万4000円)だ。

Unagiは、Iggy Pop(イギー・ポップ)氏のようなセレブのインフルエンサーたちをスクーターのクールなイメージとして採用してきたが、ブラウン氏はUnagiがその形状の可能性を究極まで追求できているとは考えていない。彼は、デザインの観点から考え抜かれ、セクシーに見え、プレミアム価格(1495ドル[約17万3000円])を持つTaurの戦略が、所有欲をかきたてるための文化の転換を促すのに役立つと期待している。

画像クレジット:Taur Technologies

その最たるものが正面を向く形のデッキで、両足を折りたたみ式のフットプラットフォームに乗せることで「スキー」のような搭乗姿勢を取ることになる。これは、他のスクーターのように体を斜めにして乗るのとは違い、ライダーが道路を真っ直ぐ見ることができるようにするためだとブラウン氏はいう。また、安定性にも貢献すると付け加えた。

プラウン氏はさらに「スキーをするときのことを考えれば、両足にかける体重を調整することで、ハンドルに加えて車体の進行方向を操ることができるのです」という。「ちょっと違う感じがします。これまでかたくなに 『いや、いままでのやり方がいいよ』と言った人たちに試してもらい、その結果『OK、どうしてこれがいいのかわかったよ!』と言ってもらったことが何度もあります」。

  1. C38E57E9-38DC-4487-B42A-D434C9664F04

  2. 83F4320F-E407-4602-8878-10A19DD51F3D

  3. 7C082909-7B18-451D-ACDF-7EB39E4CC3FB

Taurのスクーターは、他のeスクーターよりも50%ほど大きいコンチネンタル製の非常に大きなタイヤを装着している。また、3つのライトを装備している。照射角の広いフロントライトは、ライダーの視界を良くするだけでなく、他の通行者がライダーの側面や後方からライトを視認することができる。また、専用のブレーキライトの他、後方には上方を照らしてライダーを見えるようにするプロジェクションライトも装備されている。また、移動中の利便性と収納性を考えて、スクーターはきれいに折りたたむことができる。

今のところホワイトしかないが、それは美的な選択でもあり、機能的な選択でもあるとブラウン氏はいう。白いスクーターは市場に多く出回っている黒いスクーターや銀のスクーターに比べて個性的であるだけでなく、他の道路利用者にとっても目につきやすいと付け加えた。

市場に出ているスクーターの多くは、普通の自転車店では修理できず、顧客サービスのチャンネルも貧弱だとブラウン氏は指摘する。Taurのスクーターはモジュール式で設計されている。5つのモジュールで構成されていて、交換可能にすることでメンテナンスが容易になっている。

「『所有に適したデザイン』という前提があったのです」とブラウン氏はいう。「タイヤ交換は5分以内でできますし、もしタイヤレバーがなければスプーンを使うこともできます。このような車両のユーザーになって、自分でデザインしてみようと考えたなら、そのハードルの高さは分かるはずですし、他の誰もそこに到達できていないことに気がつくはずです」。

Taurは、夏にスクーターの予約分の出荷を開始する予定で、8月以降はLAで消費者への直接販売を行う予定だ。スクーターには30日間の返金保証と、保証書が同梱される。米国内のLA以外の居住者は、100ドル(約1万2000円)の保証金を支払うことで、Taurのウェイティングリストに登録することができる。

画像クレジット:Taur Technologies

原文へ

(文:Rebecca Bellan、翻訳:sako)