アップル製デバイス管理のKandjiがシリーズCで約114億円調達、評価額は1年で10倍の約912億円に

Apple(アップル)製デバイス管理プラットフォームを展開するスタートアップ、Kandji(カンジ)は、急速に収益を伸ばし、高額な評価額と多くの投資を引き寄せ、かなり好調に推移している。同社は米国時間11月18日、8億ドル(約912億円)の評価額で1億ドル(約114億円)のシリーズCを調達したと発表した。この評価額は、2020年10月に2100万ドル(約23億9000万円)のシリーズAを実施した際の10倍に相当する。同社はその後半年足らずで、2021年4月に6000万ドル(当時約68億4000万円)のシリーズBを発表した。

今回の投資ラウンドは、Tiger Global(タイガー・グローバル)が主導し、Definition、Frontline Ventures、既存投資家であるFirst Round Capital、Greycroft、Felicis Ventures、The Spruce House Partnership、B Capital Group、SVB Capital、Okta Venturesが参加した。Kandjiはこれまでに1億8800万ドル(約214億4000万円)以上の資金を得ており、そのうち1億8100万ドル(約206億4000万円)は2020年10月以降に調達している。

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Kandjiは、中規模から大規模の企業向けにApple製デバイスを管理する方法を提供している。創業者兼CEOのAdam Pettit(アダム・ペティット)氏は、パンデミックや在宅勤務がインバウンド顧客の関心を高めたと述べている。実際、収益はここ1年間で700%以上も伸びた。

その理由の1つは欧州での成長の結果だ。同スタートアップはロンドンにオフィスを開設し、その地域の市場が収益構成に大きく貢献しているという。「我々は欧州で事業を開始したばかりです。ロンドンにオフィスを開設し、そこでは急速に採用を進めていく予定です」とペティット氏は語った。「そのきっかけは、とても興味深いものでした。当社は海外でのマーケティングをほとんど行っていませんが、この1年間でトップライン売上の約25%が海外からのものになっています」。

また、Kandjiがこのレベルの投資を受けていることを見て、長期にわたりビジネスを行っていくと安心感を持つ大口の顧客が一般的に増えているという。「長く活動していくにつれ、より大きな顧客を増やしてきました。そしてお客様は、当社がここに居続けると感じて下さっているようです」と同氏は語る。「それらの大規模なお客様の販売前後の管理を行うには、より高度なチームが必要です。この半年間、そのための準備を進めてきました」とも。

ペティット氏によると、このプラットフォームを利用している企業は1000社を超え、年初に40人だった従業員は現在250人以上に増えたという。同氏は、2022年までにはこの人数を400人にしたいと考えている。2021年初め、シリーズBの頃に話を聞いたとき、ペティット氏は、多様性に富んだ包括的な文化を築くことがいかに重要か、そしてそれは採用活動から始まると話していた。そのコミットメントは今も変わらないという。

「当社は実際に、パイプラインを拡大するために、さまざまな工夫をしています。通常のネットワークの外に出て、そうでなければ得られないような候補者を採用するようにしています。また、当社だけでなく他の多くの企業にとっても、リモートでの雇用は特定の市場をターゲットにしないという意味で、(多様性の構築に)大きな効果があります。それも、採用パイプラインの多様性を高めるのに非常に役立っています」と同氏は語った。

Kandjiはサンディエゴとロンドンにオフィスを構えているが、ペティット氏は同社はリモートファーストの会社であり、今後もそうしていくつもりだという。

画像クレジット:Kandji

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(文:Ron Miller、翻訳:Aya Nakazato)

「ゾーンに入る」のを助けるアプリ「Centered」、仕事が30%早く終わりストレスも軽減

Centered(センタード)は、ユーザーが1日の流れを確認する手助けをし、仕事が達成できるようにカレンダーを守り、軌道修正に役立つパーソナルアシスタントを追加することができるアプリだ。このアプリでは、仕事を成し遂げるために他の人たちとバーチャルな会合をしたり、仕事に集中するように脳を働かせるための心地よいビートを流したりすることもできる。この会社はまだプロダクトを発売したばかりだが、あなたが健全に仕事に打ち込めるようにするために、390万ドル(約4億5000万円)の資金を調達した。

何かを成し遂げたり、その作業を楽しんだ人であれば、おそらく「フロー状態」(人によっては「ゾーン」と呼ぶこともある)を経験したことがあるだろう。しかし、多くのオフィス環境は、そんな状態になることができないように設定されている。仕事を終わらせるために、早朝出勤や残業、休日出勤といった馬鹿げたことをする人もいる。「朝7時に出社して、電話が鳴り始める前にオフィスで時間を過ごすのが好きだ」なんてセリフを言っている、あなたのことだ。

Centeredのアプリは、チームのメンバーがビデオフィードを介して小さなサムネイルとして表示されるバーチャルなコワーキングセッションを提供する。つまりこれは、同僚があなたの姿を見ることができれば(ただし、音や会話は聞こえない)、あなたはコードをレビューしなければならないときに、スマホをいじったり、6杯目のコーヒーを飲みに行ったりする可能性が低くなるだろうという考えに基づくものだ。また、このアプリには「フローミュージック」と呼ばれる、ゆっくりとしたテンポの環境音楽も鳴らすことができ、脳に仕事をする時間だと納得させるために役立つ。さらにパーソナルアシスタントも用意されており、同社の創業者はこれを「生産性を向上させるSiri」と表現している。

「飛行機の中でヘッドフォンをしていると、突然、気を散らすものが一切ないような感覚になることがあるでしょう? 周囲に邪魔する人がいないため、短時間に今まで書いたことがないほどたくさんの文章を書くことができたりします。これがCenteredで再現しようとしている体験です。フローセッションを開始すると、Noah(ノア)が出迎えてくれます。このボットは、あなたの作業をガイドしてくれます」と、Centeredの創業者兼CEOであるUlf Schwekendiek(ウルフ・シュエッケンディック)氏は説明する。「このアシスタントは、割り当てられた時間の半分を過ぎると知らせてくれます。あなたが気が散っていることに気づいたら、仕事に集中するよう促してくれます。親が宿題をするはずのあなたがゲームボーイに夢中になっていることに気づいて、他のことをするべきだと注意するようなものです」。

Centeredの創業者兼CEO、ウルフ・シュエッケンディック氏(画像クレジット:Centered)

Centeredは米国時間11月17日、Uncork Capital(アンコーク・キャピタル)とYes VC(イエスVC)が主導する投資ラウンドで390万ドルを調達し、JLL Spark(JLLスパーク)、Shrug Capital(シュラッグ・キャピタル)、Basement Fund(ベースメント・ファンド)、AVG Basement(AVGベースメント)、Remote First(リモート・ファースト)の他、多くのエンジェル投資家からも支援を受けたことを発表した。

「この資金調達によって、いくつかのことが可能になりました。もう、私1人ではありません。コーディングやデザインなど、すべてを業者に依頼することはなくなります」と、シュエッケンディック氏は語る。「私たちは、エンジニアリング、デザイン、コンテンツの各チームに人員を配置し始めました。より大きなコンテンツ契約を結び、より良い音楽やボイスオーバーを利用できるようになりました。しかし、本当におもしろいのは我々が持つデータです。私たちはこのデータの活用を始めたばかりです。人々がどのように働いているかを私たちは知っています。他の誰にも真似できません」。

実行中のCenteredアプリ(画像クレジット:Centered)

シュエッケンディック氏は、同社がデータを匿名で集計し、安全に取り扱っていると断言している。今回のラウンドでは、評価額は公表されていない。

「何千人もの人々が当社の製品を利用しています。初期のユーザーは、見積もっていた時間よりも平均30%早く仕事を終えられ、その結果、より幸せになり、ストレスが減ったと報告してくれました」と、シュエッケンディック氏は述べている。「トップユーザーは、Centeredを生産性向上のためのオペレーティングシステムとして1日に3〜5時間ほど使用しています。第1週目以降のユーザー維持率はほぼ100%であることもわかっています」。

画像クレジット:Centered

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

より人間的なビデオ会議の実現に向け、mmhmmがMacroを買収

mmhmm(ンーフー)は、ビデオ会議の未来について、おそらく最も口うるさい見解を持っている。バーチャル会議は、楽しくて、柔軟で、そして最近同社が行った買収を見ると、感情を表せるものになるだろう。Evernote(エバーノート)の生みの親であるPhil Libin(フィル・リービン)氏が設立したこのビデオ会議ソフトウェアのスタートアップ企業は、米国時間11月19日、Macroを買収したと発表した。Macroは、バーチャル会議のプレッシャーを軽減する(そして、人間関係を構築するエネルギーを取り戻す)ためのフィルターやリアクション、ツールを開発している企業である。

Macroとmmmhmmは9月下旬に交渉を開始し、その数週間後に合意に達した。買収条件は公開されていないものの、mmhmmが最近1億ドル(約114億円)の資金調達を実施したことを考えると、アーリーステージの同社に資金の余裕があったことは明らかだ

Macroは、2019年にAnkith Harathi(アンキス・ハラチ)氏とJohn Keck(ジョン・ケック)によって設立されると、それから間もなく、FirstMark Capital(ファーストマーク・キャピタル)、General Catalyst(ジェネラル・キャタリスト)、Underscore VC(アンダースコアVC)などの投資家から430万ドル(約4億9000万円)のベンチャー資金を調達した。

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ビデオ会議中にユーザーが配信する映像のカスタマイズに焦点を当てたmmhmmとは異なり、Macroはユーザーが実際に作業するインターフェースを変更できる。例えば、Macroの特徴的な機能であるAirtime(エアタイム)は、会議の中で誰が最も多く発言しているかを、参加者がひと目で理解するのに役立つ。参加者の映像のサイズが、各人の参加状況に応じて調整されるため、チームは会議に対する各参加者の影響力をより正確に把握することができ、誰に発言を促す必要があるかを知ることができる。

Macroには他にも、画面上で自分を「アンボックス」するためのカスタムウィンドウや、フィルター機能などが用意されている。Macroは、MacOSおよびすべてのZoomクライアントで利用でき、他のすべての参加者がMacroを使っていない場合でも使用できる。

Macroが最初の資金調達を行った後、ハラチ氏は共同設立者とともに、開発を続けるべきか、次の資金調達を行うべきか、あるいは他の会社と手を組むべきかを決めなければならなかったと説明する。他のZoomクライアントとの競争は激化しており、評価は高くても開発するには難しい需要があった。そこで彼らは、mmhmmがビデオ会議の分野で成功するために必要な機能の多くを備えていることに気づいた。

「どうすれば会議をもっと人間的なものにできるか?1人ひとりが個性と豊かな表現力を備えた参加者を、制約のある箱に押し込めるのではなく、ビデオ会議を私たちの人間性に適合させるためにはどうしたらいいか?」と、ハラチ氏はリービン氏のチームと行った初期の話し合いについて語った。「カメラを使う方法を採るか、それともクライアント側でアプローチする方法を採るか、議論を重ねていました。彼らは一方を選び、私たちはもう一方を選びました」。

「私たちは、このビデオ2.0の世界を制するのは、非同期と同期の間をシームレスに行き来する製品だと考えています」と、リービン氏は語る。「録画とライブの間をスムーズに行き来できるようにすることが、これからのビデオのあり方への近道です」。ハラチ氏は、分散型社会で人々が行うようになるコミュニケーション方法のすべてに、対応できるアプリにする必要があると付け加えた。つまり、その場でかける電話、思考を深める会合、重要なプレゼンテーションなどのすべてだ。

mmhmmの大きなビジョンは、リービン氏が最初から明確にしていたように、表現と関係構築のためのメディアとしてビデオを再定義することだ。それは文字通り、築き上げることが難しい信頼関係である。mmmhmmとMacroを使い、Zoomルームでより多くの表面積を提供することによって、話している相手を理解できる余地が増えることを、リービン氏は期待している。

「相手がどんな部屋を選んだか?どんなエフェクトをかけているか?これによって誰もがクリエイティブになり、自分の見せ方をカスタマイズできる機会が広がります」と、同氏はいう。「そしてそれは、あなたと私が実際に会って話し、お互いを知ることに少し近づきます。根幹が格段に表現豊かになります」。

Macroは、Mmhmmにとって現在までに2件目の買収となる。2020年、mmhmmはサンフランシスコを拠点とするスタートアップ企業のMemix(メミックス)を買収すると発表した。Memixは、録画済みの動画とライブ動画の両方に適用できる一連のフィルターを提供しており、照明や背景、画面全体に表示される内容などを調整することができる。リービン氏によると、Memixの技術は現在、mmhmmの製品における中核となっているという。

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Macroは11月末までに事業を終了する予定だが、7人のチームメンバー全員が、Mmhmmに参加して開発を続けることに決めている。

画像クレジット:mmhmm

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(文:Natasha Mascarenhas、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

米国防総省、中止したJEDIに代わる新たなクラウド契約を発表

米国防総省は米国時間11月19日、白紙に戻された10年間 / 100億ドル(約1兆1400億円)規模のJEDI契約に代わる、新たなクラウド契約の限定的な入札募集を発表した。以前、JEDI(ジェダイ、Joint Enterprise Defense Infrastructureの略)と名付けられた勝者総取りの入札が行われたことを覚えているだろうか?今回の契約は、Joint Warfighting Cloud Capability、略してJWCCと呼ばれる、あまり耳慣れない名前が付けられている。

RFP(提案依頼書)による条件の下、入札を求められているのは、Amazon(アマゾン)、Microsoft(マイクロソフト)、Google(グーグル)、Oracle(オラクル)の4社。JEDIのRFPでは、ベンダーに選ばれた1社のみが独占することになっていたが、今回のJWCCは複数の企業が契約を得られるマルチベンダー式であることが大きな違いだ。実際に、米国防総省はAmazonとマイクロソフトを有力視しているものの、資格のある(依頼された)ベンダーであれば、契約の一部を得られる可能性があると明言している。

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RFPによると「政府は2社、すなわちAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)およびマイクロソフトとのIDIQ(調達時期・数量未確定)契約を想定しているが、しかし国防総省の要求を満たす能力を示すすべてのクラウドサービスプロバイダー(CSP)に発注する意向である」としている。

この件に関わるベンダーの数を制限したのは、要件を調査した結果、これを満たすことができる企業の数が限られていることがわかったからだと思われる。「市場調査によると、米国防総省の要求を満たすことができるソースは限られていることがわかった。現在、米国防総省が把握している米国のハイパースケールCSP(クラウドサービスプロバイダー)は5社のみ。さらに、それらのハイパースケールCSPのうち、AWSとマイクロソフトの2社のみが、国家安全保障上のあらゆるレベルの分類でクラウドサービスを提供することを含め、現時点で国防総省のすべての要件を満たすことができると思われる」と、RFPには書かれている。

政府はこの契約の金額設定をまだ行っている最中だが、複数のベンダーが関わるため、今はなきJEDI契約の100億ドルを超える可能性も十分にある。「国防総省は今回の調達の契約上限をまだ評価中だが、数十億ドル(数千億円)の上限が必要になると予想している。契約発注額の上限は、各ベンダーに指示される募集要項に記載される予定である」とのことだ。

今回のRFPで選定された企業は、3年間の契約に加えて、1年間のオプション期間が2回設けられることも注目に値するだろう。

JEDIは、トップレベルのクラウドベンダーが競い合い、それより小規模なベンダーも参入しようとしたため、当初から論争の的となっていた。多くのドラマがあり、大統領への苦情大統領からの苦情大統領による干渉への苦情多くの公式調査、そしていくつかの訴訟があった。Amazonに決まると誰もが思っていたにもかかわらず、Amazonは受注することができなかった。結局、契約を勝ち取ったのはマイクロソフトだった

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ところが、それだけで終わらず、両社はこの決定をめぐって激しい論戦を繰り広げ、当然ながら訴訟に発展した。最終的には国防総省がすべてにうんざりして、このプロジェクトを完全に破棄することに決めたのだ。

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しかし、契約がなくなったからといって、軍のコンピューティングシステムを近代化する必要性がなくなったわけではない。だから国防総省は今回、クラウドインフラストラクチャによるテクノロジーの近代化を前面に押し出す新たな取り組みを発表したのである。

Synergy Research(シナジー・リサーチ)の調べによると第3四半期の決算発表時点では、Amazon、マイクロソフト、Googleの上位3社で、パブリッククラウド市場シェアの70%を占めていることは注目に値する。クラウドインフラストラクチャ市場では、Amazonが33%のシェアで首位、マイクロソフトが約20%で続き、Googleは10%で3位につけている。シナジー社によれば、オラクルは一桁台前半とのことだ。

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(文:Ron Miller、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

機械学習運用基盤(MLOps)スタートアップの話をよく聞くようになってきた

スタートアップとマーケットの週刊ニュースレター、The TechCrunch Exchangeへようこそ。

ああ、先週の金曜(米国時間11月19日)の午後はちょっと苦労していた。米国にいない人には、ちょっと説明が難しい。簡単に言えば、先週の終わりになって、私たちの警察と司法のシステムのある種の欠陥が明るみに出たのだ(訳注:警察のヘリコプターから撮影されたとみられる大量の監視映像が米国で流出した)。というわけで、今回のExchangeニュースレターは予定よりも短くなる。

DevOps(デブオプス)の市場は多忙で、資金も豊富だ。例えば先日はOpslyft(オプスリフト)の話を聞いた。インドと米国にまたがるこの企業は、ソフトウェアを作成する際のポストデプロイメント側のツールをまとめた統合DevOpsサービスを開発している。すばらしい企業なので、もし資本調達を発表したら、もっと時間をかけて記事を書くことになるだろう。最近の記憶に残る別の例を挙げるなら、先日公開されたプレデプロイメントDevOpsサービスであるGitLab(ギットラボ)がある。

つまり、大小を問わずのハイテク企業はDevOpsツールを構築しているということだ。そして、機械学習運用基盤(MLOps、エムエルオプス)の市場は、大きな兄弟(DevOps)と同じように急速に成長し始めている。TechCrunchは、MLOpsスタートアップのComet(コメット)が今週資金調達したことを記事にしたが、これを読んでThe Exchangeは、MLOpsスタートアップの別の資金調達イベントであるWeights & Biases(ウエイツ&バイアス)のラウンド、を取り上げたことを思い出した。

関連記事:企業の機械学習利用の空隙を満たすMLOpsのスタートアップCometが約57億円調達

こんな話を持ち出したのは、先日私たちがSapphire VenturesのJai Das(ジェイ・ダス)氏にインタビューを行い、AIによる資金調達のトレンドについての情報を収集したからだ。その対話の中で、私はAIOps(エーアイオプス)のアイデアを持ち出し、それが私たちが注目すべき第3の「Ops」カテゴリーになるのではないかと口にした。しかし、ダス氏によれば「MLOpsは基本的にAIOpsです」ということなので、2つの大きなカテゴリーに考え方をほぼ限定することができる。

とはいえ、AI(人工知能)とML(機械学習)は正確には同じものではない(ここであまり争うつもりはない、大まかな話なので)よって、2つの異なるタイプの仕事が、同じソフトウェアの中に収まるかどうかは興味深いところだ。

さらにAIについて

AIのテーマに沿って、今回はAI市場についてもう少し触れてみよう。Anna(アンナ)記者が、世界の人工知能投資の動向を論じた最近のエントリーを踏まえて、メモを用意した。彼女は、今日のAIファンドがどこに使われているのか、また「AI」という呼び名にふさわしいものの定義が変わることで、スタートアップ活動のための資金量がどのように増えていくのかについて考えている。

地理的な格差が私たちの注意を引いたが、AIの定義や応用が広がれば、資金はより均等に分配されると考えている。例えば第3四半期に新たにラテンアメリカのAIユニコーンに選ばれたのは、フードテックのNotCo(ノットコ)とデジタルIDを提供するUnico(ユニコ)の2社だった、またメキシコの融資会社Kueski(キュースキー)も大規模なラウンドを行った。私たちはこれをフィンテックと呼んでいたが、これもまたAIを活用したも企業だ。それがAIの新たな現実だとすれば、ラテンアメリカやアフリカなど、世界のあらゆる場所で、AIを活用して現実の問題に取り組むスタートアップに資金が集まるようになるのも不思議ではない。

来週はカナダにお住まいの方にはぜひ読んでいただきたいものがあるのだが、今回のAI記事の締めくくりとして前回のAI記事には少し遅れてしまったPoint72 VenturesのSri Chandrasekar(スリ・チャンドラセカール)氏からの回答をご紹介しよう。

AIに特化したスタートアップの経済性についての質問に答えて、投資家であるチャンドラセカール氏は以下のようなコメントを寄せてきた。

最近のAIへの関心のほとんどは、大規模なラウンドを調達している企業たちの収益の成長によってもたらされているのだと思います。しかし、その増収の背景にあるのは、商品の需要の高さと労働参加率の低さという極めてシンプルなものなのです。これは、Point72 Venturesのディープテック・ポートフォリオ全体に見られることです。AIは人間を補強して生産性を向上させ、場合によっては自動化に適した作業を人間に代わって行い、人間はより付加価値の高い戦略的な活動に専念できるようになります。これまでは、こうした自動化を導入するための労力が大きかったのですが、(人材不足によって)カスタマーサービスのリクエストに対応する人や受付を担当する人を雇うことができなくなると、自動化が俄然意味を持ち始めます。

最近私たちは、マクロ環境がスタートアップにどのような影響を与えるかについて、多くのことを学んでいる。インフレの進行でインシュアテックの利益が損なわれたり、「the Great Resignation(大退職時代)」が進んだりすることで、AIソフトウェアの需要が高まっているのだ。心に留めておきたい。

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その他のあれこれ

  • ユタ州を拠点とするPodium(ポディウム)の最近の巨額ラウンドを受けて、私たちは同州のより大きなスタートアップシーンを掘り下げたPitchBookの最新記事をご紹介する。ご想像の通り、数字は上向いている。
  • また、巨額ラウンドといえば、Faire(フェア)が今週、シリーズG調達を行った。だから?紹介したい興味深い成長の統計データがあったのだ。Faireは、自らの表現では「オンライン卸売市場」であり、かなり急速に成長しているビジネスだ。同社が「3倍」の収益成長と「年間10億ドル(約1141億円)以上のボリューム」を自己申告したことで、私たちの注目を集めた。もし非公開市場が、この会社をベンチャーキャピタルのフォアグラにしようと太らせているのでなければ、この会社はIPOの候補になるだろう。
  • さて他には?OKRスタートアップのKoan(コーアン)は、シリーズA調達に失敗した後、Gtmhub(ジーティーエムハブ)に売却されることになった。私たちは長年にわたってOKRソフトウェア市場について多くの記事を書いてきたので、この出来事を紹介しておきたいと思う(KoanのCEOは、公の場とメールの両方で、会社の終わりについてのメモを共有してくれたので、この件については、時間があれば来週お伝えすることになるかもしれない)。
  • そして、最後はBraze(ブレーズ)だ。ニューヨークを拠点とするソフトウェアのユニコーン企業であるBrazeは先週上場した。The Exchangeは上場日に同社のリーダーにインタビューを行った。すべてのIPO発表会と同様に、対象となる会社は、発言できること(あまり多くない)とできないこと(ほとんどすべて)に関して、かなり厳しい指導を受けていた。それでも、IPOの準備を始めたのは数年前で、実際に上場するためのプロセスを開始したのは約1年前であったという、準備プロセスについての情報を得ることができた。私たちは、2018年以降資金調達の必要がなかった同社が、なぜ直接上場を目指さなかったのかを知りたいと思った。BrazeのBill Magnuson(ビル・マグナソン)CEOは興味深い話をしてくれた。つまり最近の変化を踏まえれば、従来のやり方のIPOは一部の人々が考えているほど柔軟性に欠けるものではないというのだ。これから数週間、2021年の最後の公開を眺めながら、そのことを考える価値はあると思っている。なお、Brazeは、1株あたり65ドル(約7415円)で上場した後、現在は1株あたり94.16ドル(約1万700円)となっている。

画像クレジット:Nigel Sussman

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(文: Alex Wilhelm、翻訳:sako)

BNPLの成功を高騰する医療費に、金利なしの「先に治療・後払い」フィンテックPayZen

米国でヘルスケアのコストは増加の一途をたどっており、患者が自己負担しなければならない割合もそれにともない増加している。2019年のギャラップ調査によると、米国の3世帯に1世帯近くが、費用を理由に治療を遅らせたことがあるという。

ヘルスケアフィンテックのスタートアップであるPayZen(ペイゼン)は、AIを活用して患者の医療費債務を引き受け、患者が治療を受けて長期的に分割払いできるようにするソリューションを展開するため、シリーズAラウンドで1500万ドル(約17億1000万円)を調達した。

今回のラウンドはSignalFireがリードし、新規でLink Ventures7WireVentures、さらに既存投資家のViola VenturesとPicus Capitalが参加した。同社は、2021年初頭にシード資金として500万ドル(約5億7000万円)を調達しており、今回のシリーズAにより累計資金調達額は2000万ドル(約22億8000万円)に達した。

PayZenの「先に治療・後払い」ソリューションはすべての患者が利用でき、患者は手数料や金利なしで、治療費を時間をかけ分割払いすることができる。このプラットフォームの基盤となる人工知能(AI)技術により、病院は患者のデータを活用して、管理コストを抑えながら各患者に特化した支払いプランを決定することができる。

PayZenは、2019年にフィンテックのベテランであるAriel Rosenthal(アリエル・ローゼンタール)氏、およびItzik Cohen(イッツィク・コーエン)氏、Tobias Mezge(トビアス・メズガー)氏の3人によって設立された。現在PayZenのCEOを務めるコーエン氏は、消費者債務のフィンテック、Beyond FinanceでCEOを務めていた。

コーエン氏は、TechCrunchのインタビューで、患者の自己負担額は過去10年間で2倍になったが、今後10年間でさらに2倍になると予測されると語った。

「(創業チームは)フィンテック業界出身だったため、例えば、『先買い・後払い(BNPL)』を導入したeコマースでは、イノベーションと信用の拡大を受け、人々がより高額な商品を購入できるようになったのを見てきました。そこで、患者からの請求業務をますます多く担うようになっている医療機関も、苦労しているのではないかと考えました。それでは彼らも悪い状況に追いやられてしまいます」とコーエン氏はいう。

PayZenのプランを利用する患者には金利がかからないため、医療機関はこれらのコストを自分たちの帳簿に残すことができる。コーエン氏は、患者とその経済状況に合ったプランを優先的に提供することで、査定プロセスを逆転させ、支払いの遵守率を高めたと述べている。

フィラデルフィアを拠点とするGeisinger Hospital(ガイジンガー病院)では、PayZenの導入後、支払いの回収率が23%向上したという。コーエン氏は、米国のほとんどの主要な医療機関の平均営業利益率は1%と非常に低く、業界は人材不足に悩まされていると付け加えた。

「市場の状況が少しでも変化すれば、率直に言って、彼らは損失を被ることになるでしょう。彼らは今、この時間を利用して最適化を図り、多くのプロセスを自動化する技術に投資しています」とコーエン氏は語った。

設立からまだ1年も経っていないこのスタートアップは、2022年1月に大幅な製品の拡張を発表する予定だ。

ニーズの増加に対応するため、PayZenは現在35人のチームを2022年末までに約100人の従業員に成長させる予定だという。

画像クレジット:PayZen

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(文:Anita Ramaswamy、翻訳:Aya Nakazato)

始まる前から終わっていた6人のベストセラー作家によるNFTの世界、「廃墟の王国」の顛末

米国時間10月25日の朝「The Ruin stirs, and the Five Realms rumble(廃墟が復活し、五つの世界の争いが始まる)」というサイトがウェブで公開された(現在はアーカイブ化されている)。サイトには次のように記されている。「New York Timesのベストセラー作家であり、数々の賞を受賞しているMarie Lu(マリー・ルー)、Tahereh Mafi(タヘラ・マフィ)、Ransom Riggs(ランサム・リッグス)、Adam Silvera(アダム・シルヴェラ)、David Yoon(デビッド・ユーン)、Nicola Yoon(ニコラ・ユン)が共同制作したファンタジー大作「Realms of Ruin(廃墟の王国)」に、みなさまをご招待いたします」と。

著名なヤングアダルト作家である彼らは、この発表をソーシャルメディアで共有し、ファンのためにTwitter、Instagram、Discordサーバーを開いて、従来の出版業界をWeb3の新たな時代に押し上げる、話題の新しいプロジェクトについて話し合った。Web3とは、プライバシー、データの所有権、作品(ファンによる創作物も含むと考えられる)の報酬に焦点を当てた分散型インターネットの進化形である。

この共同幻想作品を進めるにあたり、まず6人の作家が、彼らが著作権を持つ架空の世界について元となる12の物語を投稿する。ファンは(それをベースに)二次創作物を書き、それをSolanaブロックチェーンでNFT(非代替性トークン)としてミント(作成・発行)し、「Realms of Ruinに提出する。作家たちがファンが書いた二次創作物をおもしろいと思えば、それをプロジェクトの公式な物語の一部として宣言する。

数時間後、ファンがDiscordサーバーでプロジェクトへの懸念を展開した。作家が作った世界についての二次創作物をファンが書いた場合、その二次創作物の所有権は誰が持つのか?二次創作物をNFTとしてミントすると、二次創作物の著作権はどうなるのか?さらに、作家たちがターゲットとする読者は、CoinbaseやGeminiのようなプラットフォームで暗号資産を購入するには若すぎることを考えると、懸念はさらに悪化するのではないか?

ハーバード大学ロースクール、フランク・スタントン憲法修正第1条の教授、Rebecca Tushnet(レベッカ・タシュネット)氏は、この状況を次のように的確に表現する。「人々が理解できないターダッキン(七面鳥にダックとチキンを詰めて焼いた料理、詰め込まれた状況の例え)のようなものだ」。つまり、一般的なNFTの問題に加えて、著作権の問題や、二次創作作家が商業的な環境で作品を収益化することに躊躇してきたという歴史的な問題が詰め込まれているのだ。

6人のヤングアダルト作家と9人の開発者チームは、2カ月間、昼夜を問わず休暇も取らずにRealms of Ruinの実現に向けて取り組んだが、発表から数時間後、大きな反響を呼んだこのプロジェクトは中止された。

TechCrunchは、Realms of Ruinプロジェクトに詳しい関係筋から匿名で話を聞いた。関係筋によると、開発者チームと協力してプロジェクトを進めていた作者たちは、得るものよりも失うものの方が大きいと判断してプロジェクトを終了したとのことだ。

プロジェクトはさまざまな要因が重なって最終的に破綻した。ターゲットとしていたユーザー層はNFTのミントによる環境への影響を懸念していたものの、NFTの仕組みを十分に理解していたわけではない。プロジェクトのさまざまな要素も事前に十分に検討されていなかった。また、ファンは自分の二次創作物を収益化することで生じる法的な問題を懸念していた。

新興技術のディストピア

「Realms of Ruin」に参加したマリー・ルーやタヘラ・マフィの作品のような、気候変動などの現実の問題に対する不安を反映したディストピア小説に惹かれるヤングアダルトの読者は多い。マリー・ルーの未来小説は、気候変動による大惨事が差し迫っていることを予見させるもので、それを読んだユーザーは、NFTをミントする際の環境コストに関心を持っていた。

イーサリアムやビットコインのようなブロックチェーンは「Proof of Work(PoW、プルーフオブワーク、暗号資産とブロックチェーンを紐づける仕組み)」という取引の正当性を検証するアルゴリズムで「計算」を行っている。この計算はエネルギーを大量に消費し、効率が悪い。

そのため、Twitterなどでは、自然災害の頻度が増加しているという投稿と、米国の平均的な家庭の1週間分の電力と同じだけのエネルギーを消費する暗号取引で高価なJPGを購入するユーザー、というニュースが混在し、認知的不協和が生じている。しかし、Realms of Ruinは、Solanaブロックチェーンを使用していることをアピールして、こういった懸念を軽視していた。

アーカイブされる前のプロジェクトのウェブサイトには次のように書かれていた。「Realms of Ruinは、環境への影響を最小限に抑えた低コストの取引を実現するためにSolana上に構築されています」「ここまで読んでくれたあなたは、Solanaブロックチェーンで物語からNFTをミントする際に必要なエネルギーよりも多くのカロリーを消費しています」。

現在イーサリアムでミントされるNFTとは異なり、SolanaでNFTをミントするための取引手数料は1セント以下になる。Solanaブロックチェーンの開発元、Solana Labs(ソノララボ)のコミュニケーション責任者であるAustin Federa(オースティン・フェデラ)氏は、TechCrunchの取材に応じ「SolanaでNFTをミントする際に必要なエネルギーは、30mlの(室温の)水を沸騰させるのに必要なエネルギーよりも小さい」と話す。これはSolanaが部分的に「Proof of Stake(PoS、プルーフオブステーク、PoWの代替システム)」という、PoWよりも検証に必要なエネルギーが少ないアルゴリズムを利用しているからだ。しかし、10代のファンがブロックチェーンの違いを十分に理解しているとは思えない。プロジェクト発表後のツイートの中には、NFTをミントすることをアマゾンの熱帯雨林の破壊に例えているものもあった。

このような理解の不足は、暗号化技術が解決しなければならない大きな問題、すなわち一般のユーザーにどのように理解してもらうか、という問題を象徴している。

フェデラ氏は次のように話す。「人はNFTと聞いて、クリスティーズ(老舗オークションハウス)で6900万ドル(約78億5000万円)で売買されるものか、非常に暗号化されたものかのどちらかを思い浮かべます」「私がRealms of Ruinにとても期待したのは、彼らがそのギャップを少しでも埋めようとしていたからです」。

計画性の欠如、説明不足による懸念

もう1つの問題は、NFTの、いわゆる「ガス代(手数料)」をめぐる誤解だった。

一般的にNFTをミントする際にはガス代がかかる。イーサリアムブロックチェーンでは、ミントにかかるコスト(ガス代)が高く未だに重大な参入障壁となっているが、Solanaブロックチェーンではわずか数円しかかからない(フェデラ氏は、Solanaネットワーク全体で長期的に手数料を低く抑えるように設計されていると付け加える)。Realms of Ruinの世界に創作物を提出する際は、NFTをミントするためにガス代の取引が発生するが、ファンの間では「二次創作物を書くために作者にお金を払わなければならない」という誤解が生じてしまった(実際は、ブロックチェーンでのミントの一環として手数料が発生する、が正しい)。

原作者がほとんど介入しない活発なファンコミュニティがオンラインで無料で展開される現在、こういった誤解は厄介だ。

ヤングアダルト作品を扱うエージェントであるMegan Manzano(ミーガン・マンザノ)氏は、TwitterでRealms of Ruinに対する懸念を表明している。「もっと検討できたのではないか、あるいはどこかに正しいことを説明するセクションが用意されていたのではないか……事前に説明できたはずの質問がたくさんあったように感じました」。

また、キャラクターのNFTを収集品として販売するというRealms of Ruinの計画も戸惑いの対象となった。プロジェクトのマーケティングでは、これらのデジタル収集品がストーリーの共同執筆という要素とどのように関わりあうかも不明瞭だった。

関係筋によると、キャラクターNFTの販売は、すでに暗号化技術に慣れている人を対象にすることを意図していて、利益は「Community Treasury(コミュニティトレジャリー)」に充てられ、ガス代の補助や、おもしろいストーリーに対する暗号化技術でのインセンティブの提供など、コミュニティが定めるあらゆるベネフィットのために利用されるという。しかし、キャラクターのNFTを持っていないとそのキャラクターが主人公の創作物を書くことができないと思い込むファンも存在し、プロジェクトの開発者はRealms of Ruinのウェブサイトで、それが誤りであることを適切に説明していなかった。

この関係筋は、Community Treasuryの内容についても説明が不十分だったと認めている。

ある開発者はDiscordで次のようにコメントした。「近いうちにコミュニティでいつ、どのようにTreasuryを利用するかを決定します。そのような決定をするための仕組みを作っていきたいと思っています」。

ファンからは次のような質問があった。「このコミュニティは現在、事実上このDiscordだけで成立していますが、仮に私たち全員がトレジャリーの収益をすべてユニセフに寄付すると決めたら、そうするのですか?」。

「はい、そうです(もう少し複雑ですが)」と開発者は答え「みなさんが知りたいと思っているすべての質問に対する答えが準備できていないことがわかりました。質問に答えられるように努力します」とコメントした。

ファンからは「発表時にこれらの回答がないのは無責任だ」という指摘があったが、関係筋によれば、このプロジェクトは11月8日から展開される予定となっていて、今回の発表は(ローンチではなく)ティーザー(宣伝したい商品の要素を意図的に隠して注目を集める広告)を目論んだものではないか、と話す。

二次創作物と所有権、NFT

二次創作物は著作権や所有権といった厄介な問題をはらみながらも肥沃な市場である。

トップクラスの二次創作作家であれば、オンラインでの成功を現実の出版へとつなげることもできる。オンラインで何万人もの読者を獲得することができれば、オリジナルのキャラクターとオリジナルのストーリーで、 New York Timesのベストセラーリストに名を連ねることができても不思議はない。

最近の例としては、2019年に出版されたTamsyn Muir(タムシン・ミューア)の「Gideon the Ninth(第九のギデオン)」があり、New York Timesは「過剰な宣伝をすべて実現した壊滅的なデビュー作 」と評している。ミューアは、自分が二次創作物を書いていたことを隠してはいない。また、二次創作物をはっきりと支持しているのが、マッカーサー財団の「ジーニアスグラント」受賞者であり、権威あるヒューゴ賞の最優秀小説賞を3年連続で受賞した唯一の作家でもあるN.K. Jemisin(N.K. ジェミシン)だ。収益面では「Fifty Shades of Grey(フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ)」シリーズのE.L. James(E.L. ジェイムズ)が、二次創作物をオンラインに投稿することでキャリアを構築した作家の最も良い例かもしれない。このシリーズが世界的にヒットする前、彼女は「Twilight」の二次創作物を書いていた。

しかし、オンラインプラットフォームを通じた二次創作物の収益化はもっと面倒な問題だ。例えばTumblrが有料のサブスクリプション商品「Post+」を展開すると発表した際、同社はこの商品で利益を得られるコンテンツクリエイターの例として、二次創作作家を挙げたが、これを見た作家たちからは、二次創作物を有料化することで法的な問題が発生するのではないか、という懸念の声が聞かれた。

「私が一番心配していたのは、(Realms of Ruinプロジェクトの作家たちが)ファンにたくさんの作品を書いてもらい、その中から自分たちの世界に合うものを選ぶ、という点でした。彼らがすでにこの世界を構築し、著作権を持っている、というのが厄介です」とマンザノ氏は話す。同氏は、二次創作作家たちが自分の作品を使って今後何をすることができるか、あるいは作品を認められたり報酬をもらえたりするかどうかが不明瞭だ、と話す。

このプロジェクトに近いTechCrunchの情報源は異なる意見のようだ。創立にかかわった6人の作家がRealms of Ruinの著作権を所有しているとはいえ、(少なくともウェブサイトのアーカイブによれば)二次創作作家はフランチャイズの所有権を持たずに大規模な出版プロジェクトに参加することで報酬を得ることができる。例えばスター・トレックの小説は850冊以上出版されているが、その作家たちは「スター・トレック」の権利を有しているわけではない。

前述のレベッカ・タシュネット教授(大手二次創作サイト「Archive of Our Own」を運営する「Organization for Transformative Works(変形的作品のためのNPO)」の法務チームのメンバー)は、こうした疑問(に対する回答)はRealms of Ruinと作家の間で実際にどのような契約が結ばれているかによって異なる、と話す。

タシュネット教授はTechCrunchの取材に応じ「プロジェクトが権利を認めているのであれば、著作権侵害の問題ではなく所有権の問題になります。これは契約内容で決定されます。しかし、一般的に予想されるのは、二次創作作家には限られた権利しかない、ということです」と話す。Realms of Ruinプロジェクトは正式に開始される前に閉鎖されたため、契約の詳細は不明である。

「二次創作の権利は最も面白みのない話でしょう」とタシュネット教授は続ける。「作家が『私が作った世界を利用して遊んで欲しい。収益の一部も支払います』ということは珍しくありません。Kindle Worldsもこのような試みでしたが、最終的には採算が合わなかったようでAmazonはKindle Worldsを閉鎖してしまいました」。

二次創作作家たちの多くは、Kindle Worldsのようなプロジェクトは「企業がコミュニティから利益を得るための見え透いた手段」であるとして懐疑的である。こういった疑念は、Archive of Our Ownの設立時にまで遡る。

2006年「FanLib」というプラットフォームがベンチャーキャピタル投資で300万ドル(約3億4000万円)を調達し、著作権者(「スター・トレック」を所有するViacomCBSなど)が二次創作コンテストを開催してファンと交流できるプラットフォームを立ち上げた。しかし、当時の二次創作作家たちは「FanLibはコンテストに入賞しなかった人も含めて、すべての応募者に作品の権利を放棄させ、FanLibによる商業目的での使用を許可するよう要求している」とこれを批判した。これらの二次創作作家が「スタートレック」の著作権を所有していないことは当然だが、これらの作家にとっては、自分がページに載せた実際の言葉を所有すること、そしてViacomCBSが自分の作品を商業化したい場合は、自分が許可するかどうかを決定できる、ということが重要だったのだ。

推理小説作家で、自身も二次創作作家であることを公表しているNaomi Novik(ナオミ・ノヴィク)は、2007年にインターネット上のペンネームで画期的なブログ記事を投稿し、後に「Archive of Our Own」となるプロジェクトを提案した。Archive of Our Ownは広告のない、寄付ベースの、二次創作作家が運営する二次創作作家のためのプラットフォームで、二次創作物の合法性を前面に打ち出している。なお、FanLibは2008年までにディズニーに売却され、すぐに閉鎖された。

Archive of Our Ownは現在、PatreonやKo-Fiのようなサイトにリンクしてチップを募ることを禁止して、収益化によって起こりうる著作権の問題から作家を守るための活動をしている。

「二次創作物を収益化しようとする試みは往々にして多くの論争を引き起こします」とタシュネット教授は指摘する。「これまでの経験から、ファンのコミュニティを活性化できる最も良い解決策の1つは、コミュニティに任せ、実際には交流を制限することだとわかっています。その方がファンダム(熱心なファンや彼らによる文化、世界)にとっても、ファンダムを生み出す作品を作った作者にとっても、一番健全な状況を作れるようです」。

Realms of Ruinプロジェクトを知る関係筋は「Realms of Ruinをブロックチェーン上に構築することにしたのは、ブロックチェーンの技術で、二次創作作家が、その作家自身の作品であると保証されたうえで、合法的に作品の対価を得られる新しい方法を実現できるから」だと説明する。

ブロックチェーン上では、ストーリーがどのようにお互いに影響したかを系統で簡単に追跡することが可能で、作家同士がお互いの作品に刺激を与え合ったことを確認することができる。つまり、誰かが誰かのストーリーに呼応するストーリーを書いて、そのストーリーに紐づくNFTが高額で売却された場合は、インスピレーションを与えた作家にも報酬が支払われることになる。また、原作者にとってのNFTの魅力は、従来の創作文化での販売とは異なり、NFTが売れるたびに、原作者にも還元されるという点にある。従来の創作文化では、原作者が1万円で絵を売った後、買い手が10万円で転売した場合、(販売額の何パーセントかを原作者を受け取るという権利を明記した契約書がない限り、)原作者に対するロイヤリティは発生しない。

しかし、タシュネット教授は、二次著作物が直面する法的問題を解決するには、ブロックチェーンの利用だけでは不十分だと主張する。

教授は次のように話す。「NFTに没頭している人たちは、何か新しい問題を解決したと思っていますが、実際にはそうではありません。興味深い法的な問題があったとしても、それとNFTとの関連はただの偶然以上のものではなく、著作権に関する問題は現実世界の法律が決めることです」「この件に関して新しいことは何もありません。自分の原稿を船で送り出し、どこの国の法律が適用されるのかを調べなければならないということは、太古の昔から変わっていないのです」。

廃墟

結局のところ、Realms of Ruinは、数時間だけ公開され、アーカイブされてしまったプロジェクトだった。しかしながらRealms of Ruinの事例は、Web3を世界に広める際に、既存のインターネットコミュニティのスピリッツがどのように守られるのかについて(当然)懐疑的なコミュニティを説得しようとして直面するであろう課題を示している。

興味深いことに、Web3の価値観は、Archive of Our Ownのような二次創作物のメッカとあまり変わらない。どちらも現在よく見られるモデル、すなわちユーザーの関心の収益化と引き換えに無料のアクセスを提供する、広告付きのインターネットサービスを超えようとしている。

「この技術は、まだ信じられないほど初期の段階にあります」とフェデラ氏。同氏はRealms of Ruinに対する反発の多くは、ユーザーがブロックチェーンベースのプロジェクトを誤解していることによるもので、事実に基づくものではなかったと考えている。「しかしながら、いずれのプロジェクトも、暗号化技術とは何か、なぜそれをベースにプロジェクトを構築することにしたのかを、もっと上手に説明するべきです」。

Realms of Ruinを知る関係筋は、Web3を出版の世界に持ち込むのは時期尚早だろう、と話す。暗号化技術推進の先駆者たちが耳当たりの良い言葉で、作者がコンテンツに対して正当な報酬を得られる広告のないインターネットの世界を説いていても、多くのユーザーはこのエコシステムに懐疑的だ。ともすれば詐欺っぽい男性中心の暗号化技術のコミュニティで、外部からのアクセスも難しいように感じられる現状では、ユーザーを責めることはできない。

マンザノ氏は次のように話す。「導入にはまだ早すぎると思います」「著作権や、作家に期待されること、権利、商品化などを結び付けて考える必要があります。一定のルールや期待値が示されていないと、どっちつかずのいい加減なものになってしまうのではないかと心配しています。出版業界がこの分野を把握し、取引や商品化、ファンへの露出という問題に適切に統合するには、あまりにも新しすぎるのです」。

関係筋は、プロジェクトに協力している開発者と作家たちは、その辺り、すなわち、たとえばファンがRealms of Ruinのストーリーをオリジナルの小説にして販売した場合にどうなるのか、ということを十分に検討していなかったことを認めている。暗号化技術との連携よりも、Realms of Ruinの展開の不透明さの方が、プロジェクトの命取りだったのかもしれない。

「10代の頃の自分だったら、好きな作家が自分も参加できる何かを作っているのを見たら飛びついていたかもしれませんね」とマンザノ氏はいう。「ファンを集結して盛り上げるには、もっと緻密な方法があるように思います」。

画像クレジット:Grandfailure / Getty Images

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Dragonfly)

フードテックのAmaraが約13億円を調達、栄養価の高い乳児食事業を拡大

市販のベビーフードの一部に「危険なレベル」の有害金属が含まれていることが、2021年2月に米下院の監視改革委員会の報告書で判明し、親たちは衝撃を受けた。

これを受けて、その影響や、原材料のチェックといった親ができることなどの情報がにわかにメディアに溢れることになった。そうした栄養に対する意識の高まりは、乳幼児により栄養価の高い選択肢を提供することに注力している食品企業にも恩恵をもたらした。

Amara(アマラ)はこの分野で資金調達を行った最新のスタートアップで、米国時間11月19日、シリーズAラウンドで1200万ドル(約13億円)を調達したと発表した。7歳以下の子ども向けの栄養価の高い食品の製品ラインを拡大するためだ。今回の資金調達の1年半前に同社はシードラウンドで200万ドル(約2億2800万円)を調達し、この間、取扱店舗を100店から1000店に増やしてきた。

Amaraの創業者でCEOのジェシカ・シュトゥルツェンエガー氏(画像クレジット:Amara)

今回の資金調達ラウンドは、大きな提携を結んでいる植物由来の食品会社Eat Well Groupがリードした。経営陣は現在のままで、Amaraの企業価値を1億ドル(約114億円)と評価している、と創業者でCEOのJessica Sturzenegger(ジェシカ・シュトゥルツェンエガー)氏はTechCrunchに語った。シードラウンドからの既存投資家も参加し、ここにはPharmapacksが含まれる。

シュトゥルツェンエガー氏と同氏のチームは、技術開発に3年を費やした後、2017年にWhole Foodsで初の製品を発売した。Amaraは、保存可能な新鮮なベビーフード食のパウチに味、食感、栄養素を閉じ込める独自の技術を開発した。10のSKUと、母乳や粉ミルク、水を混ぜるためのベビーフード生産ラインを展開している。

現在、食料品店の棚に並んでいるパッケージ食品の大半が果物ベースで砂糖を多く含んでいる。1食あたり3〜7ドル(約340〜800円)の価格帯で販売されていて、冷蔵あるいは冷凍で保存しなければならない、とシュトゥルツェンエガー氏は指摘する。これに対し、Amaraの食事は1食あたり1.8ドル(約200円)〜と低価格で、幅広い家庭の予算に合わせた商品を提供するという同社の使命を果たしている。

2021年、Amaraは商品を拡大し「ヨーグルトスムージーメルト」を発売した。「砂糖を一切加えていない、乳幼児向けの唯一の口溶けの良いスナック」とシュトゥルツェンエガー氏はうたう。

「研究によると、0歳から7歳までに食べたものが、その後の人生での考え方や感じ方、パフォーマンスに影響を与えると言われています」とシュトゥルツェンエガー氏は話す。「『You are what you eat(人は食によって決まる)』は決まり文句かもしれませんが、研究によるとそれは真実でもあり、親たちは注目しています」。

シリーズAの資金を獲得する前、Amaraはすでに注文で利益を上げていた。実際、口コミで前年比3倍のオーガニック成長を遂げていたが、2月にベビーフードに関するレポートが発表された後、親とベンチャーキャピタル企業の両方からますます注目を集めるようになった、とシュトゥルツェンエガー氏は語る。

Eat Well Groupの社長であるMarc Aneed(マーク・アニード)氏は声明文の中で「Amaraは、小売店での販売と卓越したeコマースを通じて事業拡大するすばらしい能力を証明してきました。Eat Well Groupが提供する資金と業界専門知識は、2022年に向けてAmaraの成長を加速させるでしょう」と述べた。

今回の資金調達によりAmaraは雇用、商品開発、ブランド認知度向上に資金を投じながら、需要に応えるために急成長することができる。同社は自社ウェブサイト、Amazon、主にカリフォルニア州の食料品店で販売しているが、全米のSproutsでも販売している。今後1年でAmaraの製品をより多くの食料品店に置くことをシュトゥルツェンエガー氏は計画している。

一方、栄養へのシフトは、多くのスタートアップにとってベビー・子ども用食品市場をディスラプトするチャンスにつながっている。そのため、2019年に673億ドル(約7兆6740億円)だった世界のベビーフード市場は、2027年には963億ドル(約10兆9800億円)に成長すると予想されていて、現在の米国市場での売上は63億ドル(約7180億円)だ。

これに目をつけたベンチャーキャピタルは、乳幼児や子どもに特化した食品企業に新たな資本を投入している。例えば、Little Spoonは7月にシリーズBで4400万ドル(約50億円)を調達し、低糖のベビーフードを提供するSerenity Kidsは6月にシリーズAで700万ドル(約8億円)を調達した。

シュトゥルツェンエガー氏は「さまざまな親や価格帯をターゲットにしている企業にとって、市場開拓余地があります」と語る。「我々が目指すのは、すべての人に良い食べ物を提供することです。将来の世代の食生活を変えようとするなら、アクセス可能でなければならないのです」。

画像クレジット:Amara

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(文:Christine Hall、翻訳:Nariko Mizoguchi

企業の機械学習利用の空隙を満たすMLOpsのスタートアップCometが約57億円調達

機械学習がビジネスを動かすための欠かせない技術になっているが、その中でモデルを構築する工程は今なお、反復と実験を必要としている。それに対しCometは、モデルをアイデアからプロダクトまで仕上げるための全体的なプラットフォームを作り、米国時間11月18日は5000万ドル(約57億円)のシリーズBを発表した。これに先立つシリーズAは、4月の1300万ドル(約15億円)だった。

OpenViewがリードしたこのBラウンドには、これまでの投資家であるScale Venture PartnersやTrilogy Equity Partners、そしてTwo Sigma Venturesが参加した。Crunchbaseのデータによると、同社の累積調達額は7000万ドル(約80億円)近くになる。

共同創業者でCEOのGideon Mendels(ギデオン・メンデルス)氏によると、プロダクトはノートパソコンでもクラウドでも、あるいはオンプレミスのクラスター上でも、どのようなプラットフォームでも使える。「Cometは実験の追跡調査からモデルのプロダクションのモニタリングまで、機械学習の全ライフサイクルを管理し最適化します。そのためデータサイエンティストに力をつけ、機械学習の技術者が開発を加速できるプラットフォームだ」とメンデルス氏はいう。

メンデルス氏によると、そのアプローチは実績を出し、同社の年間経常収益は2021年5倍になり、UberやZappos、Etsyなど150社がCometを利用している。またOpenViewのパートナーでリード投資家のMackey Craven(マッキー・クレイヴン)氏によると、彼がCometに惹かれたのは、同社が大きなチャンスを抱えた新興市場のための有効なプロダクトを作っているからだ。「私たちが今、目にしているのは、彼らを十分サポートできる大きくて永続性のある市場機会のコアとなりうるような傑出した創業チームと、そしてその市場における変化との稀なる組み合わせです。その変化の理由は、新しい市場の創造または、技術の転位によって新規参入者たちが、私たちが作り出す今後の大きな市場における価値を創造し捉えているからです」とクレイヴン氏はいう。

現在、同社の社員は50名で、4つの大陸の9カ国から来ている。計画では、2022年は100名になる予定だ。メンデルス氏によると、ダイバーシティとインクルージョンは同社の価値システムの重要部分だ。氏は「実はそれこそが、弊社の企業文化の核であり、今でも従業員の35%はマイノリティの人たちであり、今後の雇用でもそれに配慮していく」という。

同社の新製品であるArtifactsは、文書のバージョニングと同じように動作し使えるデータのバージョニングツールだ。それはデータの変更履歴を知るために、データサイエンティストたちが利用する。

メンデルス氏によると「機械学習のパイプラインで仕事をしているときCometのArtifactsがあれば、データの各回のスナップショットを自動的にバージョン化できます。変更を加えるたびに、そのバージョンができます」。そのアドバンテージはいろいろあるが、その主なものは、モデルの訓練に使っているデータがどう変わってきたか、データサイエンティストにわかることであり、訓練時のモデルのデータと最終プロダクションのデータを比べられる。

画像クレジット:yucelyilmaz/Getty Images

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(文:Ron Miller、翻訳:Hiroshi Iwatani)

タンパク質ベースの医薬品を開発するGenerate BiomedicinesがシリーズBで422億円調達

医薬品開発の分野に引き寄せられる投資が増え続けている。米国時間11月18日には、Generate Biomedicines(ジェネレート・バイオメディシンズ)が3億7000万ドル(約422億円)のシリーズBラウンドを発表した。

同社は、プラットフォームをベースとした医薬品開発のアプローチをうたっているが、独自のひねりを加え、タンパク質に取り組んでいる。

同社の仮説はシンプルだ。自然界(あるいは多くの場合、科学的なデータや文献)にすでに存在するタンパク質とターゲットを結びつけるのではなく、全体像を理解することを目指している。つまり、どのようにタンパク質が作られ、なぜそれらがそう振る舞うのか(つまり、基本的には体内のすべてのこと)についての「基礎的な原理」の理解だ。最終的な目標は、その知識を利用し、いつの日か「生命の機能の大部分」を動かせる新しいタンパク質を作ることだ、とCEOのMike Nally(マイク・ナリー)氏はTechCrunchに語った。

この3年間で、同社はそのような基本原理を実用化することができた。

「私たちは、抗体、ペプチド、酵素、細胞治療、遺伝子治療など、あらゆるタンパク質の形状で、新しいタンパク質を生成することができました」とナリー氏は話す。

Generate Biomedicinesは、Moderna(モデルナ)の投資家であるFlagship Pioneeringが育てた、優れた企業の1つだ。Generate Biomedicinesは、2020年にステルスモードから脱け出し、Flagship Pioneeringから5000万ドル(57億円)の初期投資を受けた。新たに創業したAlltrnaのような、Flagship Pioneeringが投資する他の会社と同じ事が起きた。

この最新のラウンドは、Generate Biomedicinesにとって、初めて外部から資金調達するという重要な試みだ。このラウンドでは、Alaska Permanent Fund、Altitude Life Science Ventures、ARCH Venture Partnersや、T. Rowe Price Associatesが顧問を務めるファンドや口座の他、Flagship Pioneeringも追加で投資した。

これまでのところ、Generate Biomedicinesは関心を集めることに苦労していないようだ。

一方で、同社は一般的なトレンドの追い風を受けている可能性もある。創薬に対するベンチャーキャピタルの投資額は、2019年から2020年にかけてほぼ倍増し、162億ドル(約1兆8500億円)に達した。一方、AIによる医薬品開発への投資も雪だるま式に増えている。スタンフォード大学の2020年のレポートによると、2020年には139億ドル(1兆5800億円)に達し、2019年の資金調達の4倍以上の水準になった。2021年8月には、Signify Researchのレポートによると、資金調達額は107億ドル(約1兆2200億円)に達した。

今回のラウンドは大規模だが、Insilico Medicineの2億5500万ドル(約291億円)のシリーズCや、 Cellarity(Flagship Pioneeringが投資するパイオニア企業)の1億2300万ドル(約140億円)のシリーズBなど、類似領域の企業に2021年見られた数字からそれほど遠くはない。

Generate Biomedicinesの経営陣によると、今回の規模のラウンドが達成できたのは、タンパク質生物学やタンパク質ベースの医薬品開発に新たに取り組んできたおかげだ。

治療用タンパク質、特にモノクローナル抗体は、医薬品市場で大きなシェアを占めるようになっている。2018年に最も売れた薬トップ10のうち、7つがモノクローナル抗体だった。Bioprocess Internationalの2020年のレポートによると、過去5年間、全世界でのモノクローナル抗体の売上高は、他のバイオ医薬品よりも速く成長した。

モノクローナル抗体は、おそらく腫瘍学や免疫学の領域で最もよく知られている。しかし、使用例は拡がっている。例えば、Eli Lilly(イーライリリー)が新型コロナウイルス治療のために製造しているようなモノクローナル抗体は、治療用タンパク質の一例であり、読者はすでに耳にしたことがあるかもしれない。

Generate Biomedicinesはあらゆるタンパク質を視野に入れているが、当初は抗体の開発に注力していた。ナリー氏によると、抗体はタンパク質ベースのバイオ治療薬市場の約60%を占める。

しかし、抗体の開発は青写真のほんの一部にすぎない。共同創業者であり、チーフストラテジーイノベーションオフィサーであるMolly Gibson(モリー・ギブソン)氏は、タンパク質の機能の基本原理に着目すれば、タンパク質をオーダーメイドで設計できると語る。

スケールの大きさを理解するために、生命誕生以来、自然淘汰の過程で洗練されてきたすべてのタンパク質を思い浮かべて欲しい。そうしたタンパク質は、生命の構成要素であるタンパク質のごく一部にすぎないのだ。

「生命の歴史の中で自然界に残った配列空間の量は、地球上のすべての海に含まれる水のたった一滴に相当します」とギブソン氏は語る。

Generate Biomedicinesは、現存する未利用のタンパク質を発見するのではなく、人間が作ることのできる他の機能性タンパク質を、人工知能を使って理解するアプローチをとる。

とはいえ、治療用タンパク質は簡単に作れる薬ではない。歴史的に見ても、免疫システムは新しいタンパク質を受け入れないことが多い。しかし、ギブソン氏は、同社の技術がこの障害を克服できると話す。同社は、免疫原性とタンパク質の機能を「ともに最適化」することができるという。

「そのために、免疫系がタンパク質をどのように認識するかを測定する独自の実験手法と機械学習アプローチを開発しました。それらにより、免疫系による認識を避けることができます」とギブソン氏は語る。

全体として、Generate Biomedicinesは自らを医薬品メーカーであると同時にプラットフォームでもあると考えている。同社は、前臨床段階にあるいくつかの医薬品候補を抱える(重点的に取り組んでいるのは、感染症、腫瘍学、免疫学だとナリー氏はいう)。目標は、2023年までに治験薬として認可されることだ。

しかし、同社の最大の伸びしろは、タンパク質ベースの医薬品開発プロセス全般を円滑に進めるためのプラットフォームであることだとナリー氏はいう。同氏は過去に、提携が戦略の一部になると指摘していた。これまでのところ、同社は何も公表していない。だが同氏は、同社が深い疾患領域の専門知識や、特定のターゲットに関する専門知識を持つパートナーを探していると付け加えた。

今回の資金調達により、Generate Biomedicinesは従業員を500人に増やす予定だ(現在の従業員数は80人)。また、ウェットラボ、機械学習、データ生成能力を拡張するために、2つの施設を建設中だ。

画像クレジット:JUAN GAERTNER/SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

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(文:Emma Betuel、翻訳:Nariko Mizoguchi

小型ロケット専門のAstraが前回の失敗を乗り越え初の軌道到達に成功

軌道に到達した少数の(しかし増えつつある)ロケット打ち上げ会社に、新たに数えられるようになったスタートアップがある。Astra(アストラ)だ。アラメダに拠点を置くこのロケットスタートアップは、現地時間11月19日午後9時過ぎに、アラスカ州コディアックにある発射場からロケットを離陸させ、成功を収めた。

Astraの「LV0007」ミッションは、8月に行われた試みに続くものだ。前回は、離陸直後に短いホバリングと横方向へのストゥレイフ運動という不安定なスタートを切り、軌道に到達することなく終了した。その後、同社は失敗の原因(エンジンの早期停止)を調査し、LV0007の打ち上げを2021年10月末に設定した。しかし、天候の影響で打ち上げは延期された。

今回の打上ちげと初の軌道到達の1年弱前に、同社はRocket 3.2の試験打上げで宇宙に到達した。そのミッションでは軌道の手前までいき、Astraのチームを含むすべての人を驚かせた。

迅速な対応と大量生産というAstraのロケット産業へのアプローチは、まだ満たされていないニッチな分野に適している。SpaceX(スペースエックス)のFalcon 9のような大型ロケットのライドシェアモデルに頼ったり、Rocket Lab(ロケットラボ)のElectronのようなものに比較的高い価格を支払ったりするのではなく、より多くの企業が専用のミッションで貨物を宇宙に運ぶことができるような価格設定で、小さなペイロードのロケットを製造することができる、とAstraは主張している。

AstraのチーフエンジニアであるBenjamin Lyon(ベンジャミン・ライオン)氏は、2021年のTC SessionsのSpace部門に参加する。今回のマイルストーンとなる成功について、話しが聞けるはずだ。

画像クレジット:Astra / John Kraus

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Nariko Mizoguchi

アマゾンのマーケットプレイスを使ったインドのマリファナ密輸事件で州警察が同社幹部を起訴

インドのマディヤ・プラデーシュ州の警察は現地時間11月20日、マリファナの密輸にeコマースマーケットプレイスが利用された疑いがある事件で、Amazon Indiaの上級幹部を起訴したと発表した。

警察は、何人の幹部を起訴したか明らかにしなかったが、捜査の中で事実関係が判明したため、同国の麻薬法に基づいてAmazon Indiaの幹部を被告人としたと述べた。

マディヤ・プラデーシュ州の警察は先週、20kgのマリファナを所持していた男2人を逮捕し、男たちはAmazon Indiaのウェブサイトを利用してマリファナを密輸していたと発表した。

Amazonは先週、当局の捜査に協力していると述べていた。しかし同州の内務大臣は今週、アマゾンは捜査に協力していないと話した。

Amazon Indiaの広報担当者はTechCrunchに対し「当社はコンプライアンスに関して高いハードルを設けており、契約上、当社の販売者はamazon.inで商品を販売する際、適用されるすべての法律を遵守することが求められます。当社は、インドでの販売が法律で禁止されている商品の掲載と販売を許可していません」と述べた。

「しかし、販売者がそのような商品を出品した場合、仲介者として当社は法律に基づき必要な措置を講じます。今回の問題は当社に通知され、現在調査中です。進行中の調査において、捜査当局および法執行機関への全面的な協力と支援を約束し、適用される法律を完全に遵守することを誓います」。

Amazonにとって、インドは重要な海外市場だ。同社はインドでの事業に65億ドル(約7410億円)超を投資してきた。同社は現在、インドで独占禁止法の調査を受けており、また、インド最大の小売チェーンであるFuture RetailとReliance Retailが関係する数十億ドル(数千億円)規模の取引でも争っている最中だ。

画像クレジット:NOAH SEELAM / AFP / Getty Images

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(文:Manish Singh、翻訳:Nariko Mizoguchi

米アマゾンの新型スマートバンド「Halo View」予約注文を開始、限定期間約5700円に

9月のハードウェアイベントでフィットネスバンド「Halo」の新バージョンを発表したAmazon(アマゾン)は米国時間11月19日、予約注文の受付を開始した。Amazon初のディスプレイ付きウェアラブル「Halo View」は、予約期間中は50ドル(約5700円)。通常価格は80ドル(約9100円)だ。

12月中に出荷される予定のこのデバイスには、Haloメンバーシップ1年分が付いてくる。Haloプランにはワークアウトと栄養管理ガイドが含まれており、通常は月額4ドル(約450円)で利用することができる。

Halo ViewはFitbitのChargeバンドと似たデザインで、AMOLEDカラーディスプレイには、ライブワークアウト、アクティビティ履歴、血中酸素濃度、睡眠スコアなどの詳細が表示される(これらの機能の一部は、Haloサブスクリプション限定)。テキスト通知も表示可能だ。

「水泳可能」防水レベルのデバイスには、皮膚温度センサー、心拍数モニター、加速度計が搭載されている。Amazonは、1回の充電でバッテリー持続時間は最大7日間、フル充電に2時間かかるとしている。

Halo Viewにマイクは内蔵されていないが、Alexaとの連携機能がある。Haloアプリの設定で音声アシスタントに接続すれば、Alexa対応デバイスにヘルスサマリーや睡眠の質などを教えてもらうことができる。

Amazonは、Haloを設計するにあたり、プライバシーを重要視したとのこと。「データを安全に保ち、ユーザーがコントロールできるよう、何重にも保護されています」と同社は主張している。また、ユーザーに直接リンクされている健康データを転売しないことを約束している。自分の健康データをダウンロードしたり、Haloアプリから削除したりすることも、いつでも可能だという。

編集部注:本稿の初出はEngadget。著者Kris Holt(クリス・ホルト)氏は、Engadgetの寄稿ライター。

画像クレジット:Amazon

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(文:Kris Holt、翻訳:Aya Nakazato)

フォードとリビアンがEVの共同開発計画を中止

Ford(フォード)とRivian(リビアン)が、EV(電気自動車)を共同開発する計画を断念した。Automotive Newsのインタビューで、フォードのCEOである Jim Farley(ジム・ファーリー)氏は、2023年末までに年間60万台の電気自動車を生産するという目標にフォード単独で取り組むと語っている。

フォードがRivianに5億ドル(約570億円)の投資をした2019年には、両社はRivianの「スケートボード」パワートレインを利用したフォードブランドのEVを共同で生産すると発表していた。だが2020年初頭には、パンデミックを理由にリンカーンブランドのEV開発を中止していた。当時は、Rivianの技術をベースにした「別の車両」の開発を進める予定だと語っていた。現在では、そのプロジェクトも進まないこととなった。

ファーリー氏はAutomotive Newsに対し「すでに私たちは電気自動車の分野で勝つことができるという自信を深めています」と語っている。「私たちの現在の状況と元々投資を行ったときの状況を比べてみると、私たちの能力やブランドの方向性などの多くの点で変化がありました。そし私たちにとっては取り組むべきことがはっきりとしてきたのです」。

ファーリー氏によると、フォードとRivianがプロジェクトを進めないことを決めた理由の1つは、両社のハードとソフトを組み合わせる作業が複雑だったからだという。今回の決定が両社の関係に影響を与えることはないとしている。

Rivianの広報担当者は「フォードが独自のEV戦略を拡大する一方で、Rivianの車両に対する需要も高まったため、お互いに独自のプロジェクトと出荷に集中することを決定しました」と述べている。「フォードとの関係は私たちの旅の重要な一部ですし、フォードは電動化された未来への共通の道を歩むための投資家であり味方であり続けます」。

編集部注:本記事の初出はEngadget

画像クレジット:Kirsten Korosec

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(文: Igor Bonifacic、翻訳:sako)

自動化による問題の早期発見と早期対応がセキュリティの成功の鍵と主張するExpelが早くもシリーズEの資金調達を完了

脅威の検出と対応が専門のサイバーセキュリティプラットホームExpelが今日(米国時間11/18)、Alphabet傘下で独立のグロウスファンドCapitalGの共同リードで1億4030万ドルのシリーズEを調達したことを発表した。CapitalGは2020年に、同社の5000万ドルのシリーズDをリードしている。今回の共同リードに参加したPaladin Capital Groupは2016年に、ExpelのシリーズAをリードした。新たな投資家のCisco InvestmentsとMarch Capital、および既存の投資家であるGreycroftやIndex Ventures、Scale Venture Partnersらもこのラウンドに参加した。


Expelの創業者たちYanek Korff, Dave MerkelおよびJustin Bajkoの各氏. 画像クレジット: Expel

これで同社の調達総額は2億5790万ドルになり、評価額は10億ドルを超えた。

Expelが基本的に提供するものは、クラウドアプリケーションやインフラストラクチャ、ネットワーク、およびエンドポイントのマネージドセキュリティサービスであり、同社自身のアナリストが企業のネットワークを24×7で監視し、必要なら欠陥の修復も行い、またオンプレミスとクラウドの環境に対するプリエンプティブな脅威狩りサービスも提供する。顧客先に、同社が「早めに自動化(automation-forward)」と呼ぶシステムを構築し、問題が顕在化する前に早めに対応する。

ExpelのCEO、Dave Merkel氏は次のように語る。「最近の二年間は、私たちが予期しなかったような独特の問題に遭遇した。しかしその間も私たちは、プラットホームを拡張して、1日のセキュリティイベントの82%の増加にも対応できた。この間、技術方面のパートナーは倍増し、セキュリティのための調査も倍以上に増えた。しかしオートメーションの拡充により、アナリストたちの仕事の効率は260%向上し、しかもNPSの格付けは80+を維持した」。


画像クレジット: Expel

同社の顧客は、Delta Air Lines(デルタ航空)、DoorDash、Better.com、Esri、GreenSky、そしてCDWなどだ。

CapitalGのゼネラルパートナーでExpelの取締役でもあるGene Frantz氏は、こう言っている: 「ランサムウェアやフィッシングなどの新しい脅威に対する防衛は、プロによる管理と対応を要する。今の企業はそのために、最良のMDR以上のものをますます必要としている。Expelはこの業界の革命の最先端にいて顧客を助け、オンプレミスと、ますます増えているクラウドの両環境において、セキュリティのコミュニティが脅威の検出と対応という複雑な旅路を歩めるよう努めている」。

関連記事: Expel lands $50M Series D as security operations increase in importance(未訳)

(文:Frederic Lardinois、翻訳:Hiroshi Iwatani)
画像クレジット: Colin Hawkins/Getty Images

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もっと地下へ、GreenForgesは地下農場システムで野菜を栽培

垂直型農場と聞けば、空に向かって伸びているさまを思い浮かべるのが一般的だろう。例えばAerofarms(エアロファームズ)、Plenty(プランティー)、Gotham Greens(ゴッサムグリーンズ)などの企業は、高層のプラントに栽培装置を満載して農業に革命を起こそうとしている。しかし、ある人物は地下に着目しているようだ。その人物とはPhilippe Labrie(フィリップ・ラブリー)氏。2019年に設立されたプレシード(シード以前のステージ)の地下農業スタートアップ、GreenForges(グリーンフォージズ)のCEOかつ創業者である同氏は、垂直型農場技術を地下に導入することを考えている。同氏もキャリアの初期には、屋上の温室で農業の可能性を求めて空を見ていたが、空には限界があることに気がついたという。

ラブリー氏は次のように話す。「都市部の屋上温室にはどのくらいの食料生産能力があるか、という分析を行っている論文を偶然見つけました」「2050年で2~5%、という低めの数字でした。誰も『地下で栽培できないか?』とは考えなかったようです」。

空間を利用した事業である農業には常に制約があった。農耕が始まったとされる1万2000年前、人々は森を切り開いて農地にしていた。この自然破壊的なプロセスは現在も続いている。農家がより多くの食物を育て、より多くの利益を得るためには、さらに多くの土地が必要である。従来の垂直型農場は、都市部にプラントを設置し、栽培装置を積み重ねることでこの農地転用という問題を解決しようとするものだ。しかし、それでもプラントの用地という問題が残る。そこでGreenForgesは、私たちの足元にある、使われていないスペース(地下)を利用しようとしている。

2年間の研究開発を経て、同社は農業技術のインキュベーター、Zone Agtech(ゾーンアグテック)と共同で、2022年春にモントリオール北部で最初の試験的な地下農場システムを稼働させることを計画している。GreenForgesの農業システムは、LED照明のコントロール、水耕栽培(土を使わない栽培)、湿度と温度の管理など、既存の屋内農業の管理技術の他にも、斬新なアプローチを採用している。

GreenForgesのシステムでは、大きなプラントを利用するのではなく、新たに建造される建物の下の地面に直径1メートルの穴を開け、そこに栽培装置を降ろす。メンテナンスや収穫の際は、それを機械で地表に引き上げ、人が修理や収穫を行う。今回の試験的なプログラムでは地下15メートルのシステムを利用するが、地下30メートルまでの農場システムを計画済みだ。

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    GreenForgesのシステムでは、地下の垂直型農場から栽培装置が機械で引き上げられ、利用者は地上で簡単に葉物野菜を収穫できる(画像クレジット:GreenForges)
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    画像クレジット:GreenForges
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    画像クレジット:GreenForges
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    画像クレジット:GreenForges
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    画像クレジット:GreenForges
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    画像クレジット:GreenForges

ラブリー氏によると、垂直型農場を地上から地下に移すことには多くの利点があるが、その中には、環境制御型農業が直面する最大の障害であるエネルギーコストを解決できるものもあるという。

「暑さ、寒さ、降雨、乾燥など、外の気候の変化に合わせて空調システムを常に稼働させなければならないことが、垂直型農場にとって最大のエネルギー負荷となっています。室内の環境を安定させるために、空調システムが必要なのです」とラブリー氏は話す。

このエネルギーコストという問題により、垂直型農場は従来の農法と比較して、二酸化炭素排出量と金額の両面で高くつく場合もあり、これが、多くの垂直型農場が葉物野菜のみを栽培している理由の1つだ。つまり、他の作物の栽培はエネルギーコストがかかり過ぎて割に合わないのである。しかし地下に潜ると「天気が変化しても室内で安定した環境を維持しなければならない」という課題が一気に解決される。

GreenForgesのエンジニアリングマネージャーであるJamil Madanat(ジャミル・マダナト)氏は次のように話す。「地下に潜った途端に季節に関係なく栽培できるようになります」「地下こそ が省エネの聖地です」。

マダナト氏によると、世界中どこでも、いつでもどんな環境でも、地下は温度が安定しているという。地上の温度変化に関係なく、マレーシアでは深度10メートルで温度は安定して20℃になり、カナダでは深度5メートルで温度は安定して10℃になる。

「電気やエネルギーの供給に関しては、条件が安定していれば経済的にもメリットがあります」とマダナト氏。「一度に大量のエネルギーを消費し、それをいきなり停止するのは電力網にとって良くありません。安定的な需要(供給)のほうが電力網にとっても好ましいのです」。

地下施設は外気温が安定していて、その結果エネルギーの需要も安定すれば、大規模な省エネと持続可能性につながるだろう。GreenForgesでは、植物の半分には昼間、残りの半分には夜間に照明を当てることで、照明にかかるエネルギーが常に同じになるようにして、さらなる安定化を実現している。

さらに、GreenForgesは、化石燃料の燃焼による環境への二酸化炭素排出を増やさないために、エネルギーのほとんどが太陽光や水力などの再生可能エネルギーで賄われている地域のみをターゲットにしている。

「単に、何かを燃やして屋内で食べ物を育てるのは理にかなっていないからです」とラブリー氏。

GreenForgesは、地下システムでは従来の垂直型農場に比べてエネルギー効率が30~40%向上する、と予測している。現在、同社は葉物野菜、ハーブ、ベリー類などの伝統的な屋内作物だけを扱っている。同社の計画では、地下30メートルの農場ではレタスを毎月約2400個、年間では約6400kg生産できる。しかしラブリー氏は、GreenForgesの効率が上がれば、将来的には他の野菜や作物、それも小麦のように代用肉になるような作物にも対応できるようになるだろうと期待している。

地下での栽培に障害がないわけではない。マダナト氏によると、トラックのタイヤ2本分しかないトンネルに収まる栽培装置の設計が課題だという。このような小さなスペースにシステムを収めるためには、独自のハードウェアソリューションを開発する必要がある。また、地下の湿気との戦いも残っている。

垂直型農場の先駆者であるPlentyやAerofarmsとは異なり、GreenForgesは食料品ブランドになることを望んでいない。その代わりに、高層ホテルやマンションの建設業者にアピールし、宿泊客や入居者に新鮮な野菜を提供することで、新たな収益源を生み出すことにフォーカスを当てている。

「建築物に組み込むことで、多くの可能性が見えてきました。ホテル会社や不動産開発会社にも関心を寄せてもらっています」とラブリー氏は話す。「建物の中に食料生産システムを組み込むことは、見た目ほど簡単ではありません。平米単価が非常に高い商業施設やマンションのスペースが犠牲になるからです。私たちのソリューションを利用すれば、地下の空間を収益化することが可能です」。

画像クレジット:GreenForges

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(文:Jesse Klein、翻訳:Dragonfly)

Miniの電気自動車の未来はどうなる?期待されるコンバーチブル化やさらなる小型化

1950年代後半に英国で起きた燃料危機をきっかけに生まれた、小型で意外と運転が楽しいクルマ、Mini(ミニ)がまた革命を起こしている。今回の革命の背後には、気候変動と親会社であるBMWが2030年までにすべてを電気自動車にするという計画がある。

Miniは、2008年にMini Eのパイロットプログラムを開始して以来、バッテリー駆動の電気自動車に取り組んできた。現行の電気自動車Mini SEは、2020年に発売されて以来、高い需要がある。しかし、それらは未来ではない。

「Mini EもCooper SEも基本的には、既存の内燃機関車を改造したものです。ですから、私たちはまだこの分野に本格的に参入していません」と、MINI of the Americasの副社長であるMike Peyton(マイク・ペイトン)氏はTechCrunchに語った。

ほぼすべての自動車メーカーがそうであるように、Miniも将来の自動車のために専用の電気プラットフォームに取り組んでいる。しかし、中心となるのは走行距離ではなく、その走り方だ。それはMiniらしくなければならない。

「楽しいクルマでなければならないんです。Miniのようなハンドリングでなければなりません。そして、私たちは、それが電動化の全体像にぴったりだと考えています」とペイトン氏は語っている。Miniの特徴であるゴーカートのようなフィーリングが、恐竜の死骸ではなく電子を動力源としている場合でも必要なのだ。

未来の電気自動車Miniがどのようになるかについて、ペイトン氏は次のように述べている。「それは間違いなく、人々がこれまで見てきたもの、期待していたものを、より現代的に解釈したものになるでしょう。初期の頃は、ミニマリズムとシンプルさを大切にしていました。未来の車にも、このテーマが見られると思います」。

未来のクルマには、レガシーとブランドアイデンティティを維持しつつ、テクノロジーを推進する電気自動車のコンバーチブルMiniが含まれる。同社は現在、そのような未来のブランド中心のEVがどのようなもので、今後どのように進化していくのかを検討している。

Miniはもっと小さく、もっと大きくなるかもしれない

よりエキサイティングなのは、電気自動車のSUVやクロスオーバーが急速に普及している世界で、まったく予想外のものが生まれる可能性があることだ。ペイトン氏は、将来「いかにもMiniらしい小さなフォーマットのクルマも登場するでしょう」と述べている。これらの未来の車両が、現在販売している車両よりも小さくなるのかという質問に対して、ペイトン氏は「可能性はあります」と答えた。

BMWに買収される前の、信じられないほど小さなMiniのファンにとって、電動化への移行は、米国に新しいマイクロビークル市場をもたらすかもしれない。

ペイトン氏は、現在走行しているMiniよりも大きなサイズのEV Miniを設計・販売する可能性もあると述べている。この「より大きな」Miniが何を意味するのかは不明だ。同社のコンセプト「アーバノート」への反応を見ると、このクルマはMiniというよりもVWのマイクロバスに近いかもしれない。

Miniは興味深い立場にある。小型で楽しく、都市向けの同社のクルマの特徴は、EVのパッケージに非常によく適合している。

Mini SE(ガソリン車に電気自動車のパワートレインを搭載したクルマ)は、同社の未来を示す前菜のようなものだ。200マイル(約321km)以上の走行が標準の世界で、110マイル(約177km)という笑ってしまう航続距離にもかかわらず、初年度の生産分は完売した。Miniによると、このクルマを購入する人の80%は、Miniが初めての人だという。

気候変動の危機を乗り越えるために、このブランドが成功するかどうかは、ある1つのことにかかっている。そのEVがどのように走り、どのように見えるかだ。その点についてペイトン氏は「それは常に紛れもなくMiniである」と語っている。

画像クレジット:Roberto Baldwin

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(文:Roberto Baldwin、翻訳:Yuta Kaminishi)

パスワードレス認証のAPIを提供するStytchが巨額約103億円を獲得しプラットフォームをさらに拡張

パスワードレスの認証機能をAPIで提供しているStytchが、シリーズBで9000万ドル(約103億円)を調達して、同社の評価額を10億ドル(約1140億円)以上へと押し上げた。

今回の投資はCoatue Management LLCがリードし、これまでの投資家であるBenchmark CapitalとThrive CapitalおよびIndex Venturesが参加したが、同社の評価額約2億ドル(約228億円)、の3000万ドル(約34億円)のシリーズAからわずか4カ月後のことになる。その後、同社のパスワードレス認証プラットフォームを利用する開発者が1000%近く増加し、7月の350から11月には約4000になった。

CEOのReed McGinley-Stempel(リード・マッギンレイ・ステンペル)氏は元Plaidの社員で、同社の急成長は主製品がAPIであるためだという。「パスワードレスのスタートアップは、その多くがウィジェットが中心です。私たちは、APIファーストではないプロダクトを十分に経験してきたため、それに多くの制約があることと、そしてどうすれば良いのかがわかっています」という。

「例えば私たちが見てきたよくあるユースケースの1つは、私たちがまったく予期しなかったもので、それはチェックアウトフローです。チェックアウト時にSMSのパスワードやメールの本人確認を利用して、ゲストのチェックアウトから新しいアカウントを作ろうとするものです」。

同社はまた、7月のシリーズA以降、多くの新しいプロダクトをローンチした。Appleでサインインや、GoogleやMicrosoftの認証情報によるサインイン、埋め込み可能なマジックリンク、メールによるワンタイムパスコードなどだ。今週、同社はWebAuthnのサポートを加え、StytchがYubicoのようなハードウェアベースの認証キーや、バイオメトリクスによるFace ID、指紋によるログインなどをサポートできるようにした。

Stytchによると、同社は今後の数カ月でそのプラットフォームをさらに拡張する計画だという。シリーズBの一環として同社はCotterを買収したが、ここはY Combinatorが支援するノーコードのパスワードレス認証プラットフォームで、ユーザーはウェブサイトやアプリへのワンタップログインを加えられるようになる。Stytchによると、それにより開発者がパスワードレスの技術を採用することも容易になる。

また、今度の資金で同社は、現在30名のチームを拡張し、インフラストラクチャの構築も行なう予定だ。

パスワードの廃止をミッションとするスタートアップはStytchだけではない。6月にはネイティブにパスワードのないアイデンティティとリスク管理ソリューションのTransmit Securityが5億4300万ドル(約619億円)を調達し、サイバーセキュリティに対するシリーズAの投資としては史上最高額と言われた。7月には「プラグアンドプレイ」のパスワードレス認証技術を作っているサンフランシスコのMagicが、2700万ドル(約31億円)のシリーズAの調達を発表した

関連記事:「ゼロトラストモデル」のおかげでスタートアップ企業もパスワードレスに

画像クレジット:Getty Images

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(文:Carly Page、翻訳:Hiroshi Iwatani)

短編動画アプリに一石、インタラクティブな映画体験ができる「Snax」

短編動画アプリには、TikTok(ティックトック)のような大きな成功例もあれば、Quibi(クイービ)のような大きな失敗例もある。今回「Snax(スナックス)」という新しいアプリは、人気のある縦型動画フォーマットに変化を加え、ユーザーがモバイルデバイスでミニムービーを見るだけでなく、それらとやりとりする方法を提供しようとしている。Snaxの定額制ストリーミングサービスには、拡大中の、伝統的な物語の要素とインタラクティブなゲームを組み合わせたオリジナルムービーのレパートリーを取り揃えている。ユーザーは、物語を進めるためのパズルを解いたり、殺人事件のシーンで手がかりを探したり、ゲームブック「Choose Your Own Adventure」のようなモードで登場人物の選択をしたり、360度動画の要素を利用したりと、さまざまなことができる。

この新しいタイプのインタラクティブな映画体験のアイデアは、パリを拠点とするアプリケーション開発会社であるMarmelapp(マーメラップ)から生まれた。Marmelappは、Alan Keiss(アラン・キース)氏、Stéphane Fort(ステファン・フォート)氏、Jérôme Boé(ジェローム・ボエ)氏が共同で設立した会社だ。Marmelappは、これまでに15のアプリをリリースし、そのダウンロード数は3000万を超え、アプリ全体で年間数百万ユーロ(約数億円)の収益を上げている。

Marmelappの最近のタイトルには、パーティゲームのPicolo(ピコロ)や、テキストベースのゲームブックスタイルのアプリBlaze(ブレイズ)などがある。このBlazeがSnaxの出発点になったと聞いている。

「Blazeの開発はとても楽しく、すばらしいフィードバックをいただきました。Blazeでは、75のオリジナルストーリーを開発・公開しました。枝分かれしていて複数のエンディングがあるため、実際にはかなりの数のコンテンツがありました」とSnaxのコンテンツ責任者であるJames Davies(ジェームズ・デイビス)氏は説明している。後にチームは、Blazeが単なるテキストだけでなく、ストーリーに沿ったミニフィルムなどを盛り込めば、もっと楽しいものになると気づいた。当初、彼らはそのコンセプトをBlazeに取り入れようと考えていたが、あまりにも複雑になってしまった。

「別のプロジェクトにする必要があることがはっきりしました」とデイビス氏はいう。そうして1年半ほど前にSnaxの開発が始まった。

画像クレジット:Snax

現在、このアプリは、縦長の動画として観ることができるひと口サイズのムービー(「Snax」という名前の由来)をウリにしている。各エピソードは約3〜5分で、ユーザーが何らかの形でコンテンツに関われるためのストップポイントが含まれている。ユーザーはパズルやクイズを解かなくてはいけないかもしれない。もしくは、部屋の中で何かを選択したり、隠されたアイテムを見つけたりする必要があるかもしれない。キャラクターとメッセージのやりとりをする必要があるかもしれない……などなど(困ったときには「ヒント」という選択肢もある)。

ユーザーは、選択肢をタップする以上のことをしなくてはいけないこともある。例えば、ある殺人事件のムービーでは、テキストボックスが表示され、そこに自由に答えを書き込んでいく。この機能を実現するために、Snaxは答えの候補とその誤字脱字をデータベース化し、ユーザーが正解したときに正しく判断できるように設計した。

画像クレジット:Snax

ムービー自体も、この種のエンターテインメントアプリとしては想像以上に高品質なものになっている。

Snaxでは、7人のチームが脚本の作成やインタラクティブ機能の追加を担当し、映像コンテンツの制作はプロの映像作家や提携した制作会社と協力して行っていると説明している。現在、これらの撮影には、1つのプロジェクトにつき10万ユーロ(約1280万円)の費用がかかっているが、Snaxは、同じチームが異なる脚本で複数のシリーズを連続して撮影することで、制作費の効率化を図っている。

画像クレジット:Snax

映像作家には、アプリが生み出すサブスクリプションの収入は分配されず、前払いとなっている。現在、Snaxは、週4.99ドル(約560円)、月8.49ドル(約960円)、年47.99ドル(約5450円)の定額制サービスを提供している。(試しに2、3のエピソードを無料で視聴することもできる)。

同社は、2021年初めにフランスでSnaxの提供を開始し、10月には米国、英国、カナダ、オーストラリアの英語圏の視聴者にもこのアプリを導入したばかりだ。現在のところ、このアプリには、英語に吹き替えられたフランス映画が掲載されているが、長期的な戦略として、今後は英語とスペイン語でのコンテンツ制作にも着手する予定だ。

サービス開始以来、Snaxのユーザーの約半数は英語圏の人たちだが、同社は近い将来にはこれが90%にまで増えると予想している。

画像クレジット:Snax

Snaxのユーザーは、18歳から24歳の若い世代が多く、男女の比率は均等だ。これまでのところ、特に米国のユーザーが多くアプリについて話したり、シェアしたり、アプリのコンテンツに反応を示している、とSnaxは確認している。

「私たちは、フランスのユーザーより、米国の男女のほうが、多くのコンテンツに関わろうとする傾向にあることに気づきました。エピソードを完成させたり、ストーリーを完成させたりする割合が、フランスよりもかなり高いのです」とデイビス氏はいう。「つまり、北米の視聴者に向けて作品を制作する必要があるのです」。

初期の作品には無名の俳優を起用したものもあったが、Snaxは現在、フランス第3位のYouTuberであるNorman、俳優でコメディアンのLudovik(ルドヴィック)、俳優のBastien Ughetto(バスティアン・ウゲット)など、フランスで知名度の高いスターを起用して制作を進めている。今後、米国での展開に合わせて、このような取り組みをさらに進めていく予定だ。

Snaxは現在、インタラクションのバリエーションを増やし、よりエキサイティングで、より深く楽しめるようにすることに取り組んでいる。また、スクリプトを作成するための独自のソフトウェアの開発も進めている。

Marmelappは、2022年にSnaxを独立させることを計画しており、その際には資金調達を検討する可能性がある。

画像クレジット:Snax

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(文:Sarah Perez、翻訳:Akihito Mizukoshi)

ヒトタンパク質を使い母乳に最も近い乳児用ミルクを開発するHelainaが約22億円を調達

世界初となる乳児用ミルクを製造しているHelaina(ヘライナ)は、最初の製品の製造と商業化プロセスを開始して次の成長段階へ進むため、シリーズAで2000万ドル(約22億円)を調達したと発表した。

ニューヨーク大学で食品科学を教えている食品科学者のLaura Katz(ローラ・カッツ)氏は2019年に同社を設立した。「機能性ヒトタンパク質を食品用に製造する初の企業」とうたっている。

これを実現すべくHelainaは、母乳に含まれるものとほぼ同じタンパク質を開発するために酵母細胞をプログラムして製造のハブとなるように教える精密な発酵プロセスを活用している。

「私たちがHelainaを始めたとき、多くの産業に多くのテクノロジーが導入されていましたが、赤ちゃんへの栄養補給はあまり進展していませんでした」とカッツ氏はTechCrunchに語った。「どの人々の栄養と健康を向上させるかを考えたとき、乳幼児と親が真っ先に思い浮かびました」。

2026年には1030億ドル(約11兆7300億円)の市場になると言われている乳児用粉ミルク市場が成長する一方で、幼少期の子どもたちにどのような食事を与えるべきかについては、恥ずべき部分や偏見が残っている。Helainaは、誰もが手に入れやすい価格の食品を親に提供するだけでなく、親が自分の選択を検討するのをサポートすることを目指している。

Helainaは、最初にタンパク質を作り、現在は母乳のすべての成分を1つずつ作りたいと考えている。Helainaの製品はカロリーを供給するだけでなく、真菌、細菌、ウイルスなどの病気に対する免疫力を高めるのにも役立つ。

今回の資金調達はSpark CapitalとSiam Capitalが共同でリードし、Plum Alleyと Primary Venture Partnersも参加した。今回のラウンドにより、Helainaの資金調達総額は2460万ドル(約28億円)となり、その中には2019年と2020年に行われたプレシードとシードの合計460万ドル(約5億円)が含まれているとカッツ氏は話した。

シリーズAは計画的なラウンドだったが、カッツ氏が予想外だったと指摘したのは、投資家からの同社に対する「圧倒的な関心」だった。

「資金調達をしてわかったことは、私たちがやっていることに個人的なつながりがあるということです」とカッツ氏は付け加えた。「フードテックの分野では多くのことが起こっていますが、この技術を人々の心に近い製品に使うことができるのを目にするのはすごいことです。多くの人が私たちの取り組みに興味を持ってくれています」。

今回のシリーズAでは、商品化に向けて製造パートナーとの連携を強化する。その目的は、製造能力を高め、経営陣を充実させ、市場投入計画を最終決定することにある。

同社は、米国食品医薬品局から製品の承認を得ることを目指している。その後、臨床的に証明された多数の消費者向け製品に同社のタンパク質を使用する計画で、 これは本質的に栄養の定義を免疫にまで広げ、消費者部門に新たなカテゴリーを創出するものだ。

より栄養価が高く、母乳に最も近いミルクを作ろうとしているのは、Helainaだけではない。2021年初めには、ヨーロッパのブランドをモデルにしたミルク開発のためにBobbieがシリーズAで1500万ドル(約17億円)を調達した。ByHeartもミルクを開発中で、Biomilqは「世界で初めて母乳以外の細胞培養された母乳」を製造したとしている。

カッツ氏は、自社が行っているタンパク質の製造方法や、健康面でより優れた製品を作ることに注力している点が、競合他社との違いだと話す。

「Helainaは、ヒトのタンパク質を食品に導入した最初の会社です 」とカッツ氏は付け加えた。「これまで誰もやったことがありません。育ち盛りの子どもに食べさせるための技術を親に展開することで、消費者向けの免疫学のようなこの新しいカテゴリーを創出しているのです」。

一方、同社はSita Chantramonklasri(シタ・チャントラモンクラスリ)氏が新たに設立したファンドSiam Capitalの最初の投資先の1つだ。チャントラモンクラスリ氏によると、同ファンドは持続可能性と消費者のニーズが交差するビジネスに投資しているという。

チャントラモンクラスリ氏はフードテック分野に多くの時間を費やしており、カッツ氏とつながるずいぶん前にSpark Capitalのシードラウンドを担当したKevin Thau(ケビン・タウ)氏からHelainaのことを聞いた。

当時、チャントラモンクラスリ氏は母乳の分野を深く掘り下げ、Helainaの競合他社の斬新な技術に注目していた。同氏はカッツ氏と多くの時間を過ごし、カッツ氏の背景やHelainaがこの分野で何をしているのかを理解した。実験室で過ごし、同社の酵母工学の取り組みを見て、Helainaは科学的に優れた製品を提供していると感じた、とチャントラモンクラスリ氏は話した。

「ローラはすばらしい創業者で、年齢以上に賢く(29歳!)、Helainaのミッションを見届けたいと思っています」と付け加えた。「市場の競争はますます激しくなり、顧客のロイヤリティと同様にタイミングが勝負です。Helainaは、母親や家族の擁護者となるべき立場にあります。技術的な観点からは、何が起こるかを判断するのは時期尚早です。Biomilqのような他の細胞培養技術にも革新が見られますが、Helainaは進歩の面でこの分野のリーダーとなるでしょう」と述べた。

画像クレジット:Helaina / Helaina founder Laura Katz

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(文:Christine Hall、翻訳:Nariko Mizoguchi