富士フィルムがXeroxを傘下に――人員削減は1万人規模

今週、日本の富士フィルムはXerox株式の過半数を取得することを発表した。このニュースは、長年アメリカのテクノロジーを代表してきた企業であり、写真複写機の代名詞にもなってきたXeroxがオフィスから紙が消えつつあることにより複写機でもプリンターでも苦戦を余儀なくされていることをあらためて印象づけた。今週、両社の取締役会は富士フィルムがXerox株式の50.1%を取得することを承認した。

富士フィルムとXeroxの提携がさまざまなプロダクトのブランド名に与えた影響は非常に複雑だが、ビジネスとしてみた場合、背景はだいたいこういうことだ。富士フィルムとXeroxは1962年に富士ゼロックスを合弁で設立した。この共同事業は主として日本・アジ太平洋地区で行われ、Xeroxはアメリカ、ヨーロッパででの事業に専念していた。現在の持ち分比率は富士フィルムが75、Xeroxが25だ。

今回の契約で、既存の富士ゼロックスはまずアメリカ Xeroxの子会社となる。新会社は―ここから面倒なことになるが― Fuji Xeroxという名称になる。そのFuji Xerox株の過半数を富士フィルムが保有する。混乱を避けるために新しいジョイント・ベンチャーは一時New Fuji Xeroxと呼ばれる。

下はプレスリリース中の経営統合の流れを示した図だ。これで多少わかりやすくなっただろうか? 

両社ともオフィスが急速にペーパーレス化する流れの中で利益を確保するために苦闘してきた。新会社についてひとつ確実なことは、大規模なレイオフが実行されることだ。新会社は、2020年までに主としてアジア・太平洋地区で、1万人以上の人員削減を実行する予定だ。

ではあるものの、富士フィルムは今後の見通しについて強気だ。プレスリリースによれば、「統合された新会社は2020年までに総額17億ドル(うち12億ドル分は2020年まで)のコスト削減を実現する」という。

画像: James Leynse/Corbis via Getty Images

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Dellに関する噂に真実味――再上場ないしM&Aで巨額負債解消に動く可能性あり

Dellが抜本的な組織再編を検討しているという情報はすでに耳にしているかと思う。Dellは巨額の負債を解消するために思い切った手段を採る必要に迫られている。 赤字の大きな部分は2015年にDellが670億ドルでEMCを買収したことに起因している。

Dellに関する噂は先週金曜から流れ始めた。これにはいくつかのシナリオがあり、ひとつはDellが再上場するというもの、もうひとつは VMware株式の残りの部分も買い取るというものだ。しかしVMwareの完全買収が負債の解消にどのように役立つかは不明だ。そして今日(米国時間1/29)、CNBCは3つ目のシナリオを示した。それによるとVMwareが逆にDellを買収するという。

VMwareの株価はDellが買収するという情報で小幅ながらアップした

ともあれ私は金曜にDellに連絡してみた。予想通り、Dellの回答は「われわれは噂や憶測にはコメントしない」というものだった。しかし事情に通じた知人の話によれば、実際Dellは上記のシナリオ3つのをすべて検討しているが、まだ結論は出ていないという。

報道によれば、DellはEMCとの合併で生じた赤字を現在も460億ドル抱えているという。 BloombergのKiel Porterが指摘しているとおり、この額は利子の支払だけで20億ドルの負担だ。しかし新しい税制では利子支払の減価償却への参入が一部認められなくなるため、Dellの負担額の増大は実質では20億ドルよりかなり多くなるはずだ。利子支払はDellにとって前途に立ち塞がる暗雲であり、取締役会が抜本的対策を検討し始めたというのもおそらくこのあたりに原因があるだろう。

こう聞けば問題は赤字をあちこちに移すなにやら巧みな会計上の操作が検討されていると思うが、Gold and Associatesのプリンシパル、Jack Gold, のツイートによれば、トランプ政権による新税制と過熱気味の株式市場を組み合わせた有利な解決策を探っているのだという。

「株価は記録的水準に達しているが、これが将来も続くという保証はない。上がった株価はいつか最後に下がる。Dellはこのチャンスを利用して再上場し、キャッシュをかき集めようとしているのだろう。税制改革もこれを助けそうだ」とGoldはTwitterに投稿している。

2016年にDellがEMCを買収したとき、Dellがどうやってこのとき生じた負債を返済していけるかという疑問が生じた。そこでDellはEMCの事業の一部を売却するだろうと観測された。事実、2016年にDellはソフトウェア事業を20億ドルで売却した。また傘下のコンテンツマネジメント会社、Documentumも手放した。EMCは2003年にDocumentumを17億ドルで買収していたが、Dellは2017年1月に同社をOpenTextに売却した(額は不明)。驚いたことに、DocumentumはEMCとの提携関係を大部分維持した。

当時の観測は、DellはVMwareの8割を所有しているのだから、過半数の株式を所有し続けるものの、一部を売りに出すだろうというものだった。実際VMwareは株式市場では独自の企業として上場されていたのでこれは可能だった。 しかしDellはVMware株式を売却せず、噂によれば、残りの2割の株式も買収することを検討しているという。あるいは逆に小さいVMwareが巨大なDellを飲み込むことになるかもしれない。

つまりところ、問題はなぜDellはEMCを買収する必要を認めたのかという点に戻ってくる。一部ではこの大型買収が賢明だったか疑う声が出ていたものの、Oracleの会長、ラリー・エリソンは素晴らしい決断だと賞賛した。Oracleはクラウド化の過程にあり、巨額の資金を必要としたためEMCの買収には手がでなかったのが残念だったようだ。たしかにクラウド化には非常に巨大なデータセンターが必要なる。

もちろんここで述べたシナリオは現在のところ噂に過ぎない。Dellはまったく動かない可能性もある。しかしマイケル・デルと資金係のSilver Lake Partnersは大胆な手段を採ることで知られている。Dellが抱える巨額の負債は大胆な行動が必要だと示唆している。そこで近々Dellが上で述べたような手段、あるいはまだ噂に上っていない手段を採用したとしても驚いてはなるまい。

画像: Gary Miller/Getty Images

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「Amazonの第2本社はアトランタが最有力」という新レポート

Amazonが選定を進めている第2本社の候補地のうち、どこが有力か各都市の人口動態統計と不動産等に関する情報を組み合わせたレポートが発表された。 Sperling BestPlacesは第2本社に関するレポートで過去にかなり優秀な成績を残している。同社はAmazonが発表した最終候補20都市のうち15都市を事前に予測していた。Sperlingは今回のレポートでアトランタを最有力候補に挙げている。

Amazonは第2本社建設に50億ドルを投資し、向こう10年から15年の間に平均給与10万ドルという高給の職を5万人分新たに作る計画だ。これまでの例からみて、多数の社員がAmazonを離れてスピンオフ事業を立ち上げることが予想されるので、新本社建設の影響は次第に地域全体に拡大していくはずだ。

Amazonが発表したリストはアメリカ東部に視線が向いていることを推測させるものだった。Sperling BestPlacesのCEO、Bert Sperlingは「Amazonが選定した都市の4分の1はワシントンD.C.またはニューヨーク周辺だ」と指摘した。

ランキングを改定した新しいリストではワシントンD.C.とニューヨーク大都市圏は大きく順位をアップさせた。Sperlingは「Amazonはこの地域を真剣に検討していると考えられる。バージニア、メリーランド、ニューアークを含め、候補都市の上位にワシントンD.C.とニューヨーク周辺が5件も入っていることになる」と述べた。

また20都市のうち14都市は東部標準時地域だ。「これはヨーロッパとの時差が小さくなるという利点がある。ヨーロッパはAmazonにとって今後ますます重要な地域になる」とSperlingはいう。

しかし、Sperlingが最有力候補とする都市はジョージア州アトランタだ。

まず第一にアトランタはワシントンD.C.、ボストン、ニューヨークという大都市圏に十分近いにもかかわらず不動産事情が良好で十分な敷地を確保しやすく、価格も安い。もしAmazonがアトランタを選ぶならスペースがあって交通も混雑しない郊外を選ぶだろうという。

Sperlingの新しいリストではAmazonが求めるはずの人的、物的リソースに乏しいと考えられる小都市は下位に回されている。外国の都市に本社機能を置くことはビジネス上なにかとことを複雑にするため、トロントのランクも低い。

Sperlingの新しいリストは以下のとおりだ(可能性の高い順)。

  1. アトランタ(ジョージア)
  2. ノーザン・バージニア(バージニア)
  3. ワシントンD.C.
  4. モンゴメリー・カウンティー(メリーランド)
  5. ボストン(マサチューセッツ)
  6. ニューアーク(ニュージャージー)
  7. ニューヨーク(ニューヨーク)
  8. フィラデルフィア(ペンシルベニア)
  9. シカゴ(イリノイ)
  10. デンバー(コロラド)
  11. オースティン(テキサス)
  12. ダラス(テキサス)
  13. ピッツバーグ(ペンシルベニア)
  14. ローリー(ノースカロライナ)
  15. トロント(オンタリオ、カナダ)
  16. ナッシュビル(テネシー)
  17. マイアミ(フロリダ)
  18. ロサンゼルス(カリフォルニア)
  19. インディアナポリス(インディアナ)
  20. コロンバス(オハイオ)

第2本社の場所の予想を試みて試みている会社は他にもある。.たとえば、アイルランドの有力なオンラインの賭けサイト、Paddy Powerは東部の諸都市に良いオッズを出している。ボストンが2-1、アトランタが5-1、ワシントンD.C.が8-1だ。このサイトは昨年秋、アトランタに2-1というl hきわめて高いオッズを出していた。【略】

Sperlingは「われわれは今後数週間のうちにさらに新しい分析結果を発表する予定だ」としている。

画像: Amazon

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Amazon、第2本社の候補20都市を選定――ワシントンD.C.周辺が有力?

北米第2本社を建設する計画を発表したAmazonは名乗りを上げた都市から有望な候補20都市を発表した。20都市の市長はこれからバトルロイヤルの金網デスマッチを…いや、候補地選定の次の段階に移ることになる。

この段階には各都市の利点をさらに詳しく分析した提案をAmazonに送ることが含まれる。またAmazonは各都市と直接コンタクトを取って情報を得る。

ではその20都市のリスト(ABC順)だ。 当初応募した238都市からこれらの20都市が選ばれた。

  • アトランタ(ジョージア)
  • オースティン(テキサス)
  • ボストン(マサチューセッツ)
  • シカゴ(イリノイ)
  • コロンバス(オハイオ)l
  • ダラス(テキサス)
  • デンバー(コロラド)
  • インディアナポリス(インディアナ)
  • ロサンゼルス(カリフォルニア)
  • マイアミ(フロリダ)
  • モンゴメリー・カウンティー(メリーランド)
  • ナッシュビル(テネシー)
  • ニューアーク(ニュージャージー)
  • ニューヨーク(ニューヨーク)
  • ノーザン・バージニア(バージニア)
  • フィラデルフィア(ペンシルベニア)
  • ピッツバーグ(ペンシルベニア)
  • ローリー(ノースカロライナ)
  • トロント(オンタリオ、カナダ)
  • ワシントンD.C.

Amazonによれば、最終決定は2018年中に行われるという。つまり今年いっぱい戦いが続く可能性がある。またAmazonは今回の発表で「第2本社は単なる大型支社ではなく、文字通り本社機能を備えた中枢となる」ことを確認した。Amazonが予定している投資は50億ドルで最大5万人の「高給の職」が新たに発生するという。

当初カナダとメキシコから立候補した都市が相当数あったが、アメリカ以外でリストに残ったのは唯一カナダのトロントだった。繰り返すがこのリストはABC順だ。アトランタが何か勘違いしないといいのだが。

下に掲載したのは各都市の位置を示した地図だ。ワシントンD.C.、ローリー、モンゴメリー・カウンティーが近所にあることからAmazonはアメリカ連邦政府の位置する地域に強い関心を抱いていると推測する向きもある。しかしもちろん決定的な要素ではない―もっとナイトライフが充実している都市も競争で有力となるかもしれない。

画像: Image: Amazon

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Dropbox、非公開で上場申請書を提出

Dropboxは密かに株式上場を準備しているとBloombergが報じた。

TechCrunchもこのクラウド・サービスの有力企業が2018年に株式を上場する計画だという情報は得ていた。Dropboxにコメントを求めているがまだ回答がない。

Dropboxは2007年にサンフランシスコで創立されて以後速いペースで規模を拡大してきた。何年も前から株式の上場に近づいているという噂が出ていた。しかし会社評価額が100億ドルにアップしたことで、上場へのハードルも上がった。同社はこの評価額に見合う実質を得るまで上場を見合わせていた。

Dropboxは年間売上で10億ドルを達成しキャッシュ・フローも黒字だと述べている。

Bloombergによれば、Goldman SachsとJPMorganが上場業務を扱っているという。

ライバルのBoxは2015年に上場し、それ以後株価は50%上昇している。

JOBS法の成立で上場申請を非公開で行うことができるようになった。つまり証券取引委員会に上場申請書を提出してもそれが一般公開されずにすむ。多くのテクノロジー企業はこの新しい条項を利用して秘密に上場申請を行っている。この申請書に公開義務が生じるのはロードショー(投資家に対する上場説明会)の15日前となる。

Dropboxから上場申請書が公開されれば、上場まで数週間というわけだ。

Spotifyも最近、非公開で上場申請をしている

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Samsung、Q4の利益予測は新記録――アナリストの期待には届かず

Samsung Electronicsは2017年第4四半期の利益予測を発表した。数字は同期の新記録となるもののアナリストの予測はやや下回ることとなった。
昨日(米国時間1/8)、Samsungが発表した決算ガイダンスによると、66兆ウォンの売上に対して15.1兆ウォン(141.3億ドル)の営業利益を予測している。

この利益は昨年同期に比べて 64%のアップだ。昨年の第4四半期は53.33兆ウォンの売上に対して9.22兆ウォンの利益だった。それでもThomson Reuters.による17人のアナリストに対するアンケートの平均、15.9兆ウォンには届かなかった。

Samsungの 第3四半期は好調で、14.53兆ウォンの利益を計上している。好調の原因としては、チップ、 OLED、その他のパーツをAppleを含むデバイスにメーカーに大量に供給していることが大きかった。

2017年の通年決算では、Samsungは239.6兆ウォンの売上に対して53.6兆ウォンの利益を期待している。

Featured Image: Bloomberg/Getty Images

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GoProが会社売却を決めたとの報道に株価やや戻す

GoProは会社の売却先を探しているらしい。CNBCの報道によれば、同社は買い手を探すためにJP Morganと契約したという。この記事の執筆時点で、GoProの時価総額は10億ドル弱だ。会社売却を決断したというニュースに株価はややアップした

今日のGoPro株は値動きが激しかった。市場が開く直前に GoProは「今年の売上は予想を下回る見込みであり、社員の20%をレイオフする」と発表した。GoProの市場オープン前の取引は停止され、マーケットが開くと同時に株価は33%ダウンした。しかし数時間後にやや戻した。

会社の売却先を探しているというニュースで株価は多少のジャンプを見せたが、昨日の終値を依然大きく下回っている。

今のところ、果たして売却が成功するかどうか明らかでない。同社は市場に出ている中で最良のアクション・カメラを作っているし、ブランド力も高い。にもかかわらず、そこから意味のある結果を引き出すことに失敗している。このままGoProの株価が下がり続けるなら、買収金額は10億ドルをだいぶ下回るだろう。

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Twitter株式、今年の高値をつける――JPMorganの格付け変更で好調

2017年も押し詰まったところでTwitterの株価に明るさが望が戻ってきた。もっとも今回の株高は投資家の側にややオプティミズムもあるかもしれない。いずれにせよ今日(米国時間12/18)、Twitterには2つの重要な動きがあった。

まず、TwitterはTwitterにおけるいじめやヘイトスピーチの投稿を禁止するルールを実施に移すと発表した。これは年来指摘されてきた(特に昨年から目立った問題となっている)。しかし株価の急上昇につながったのはむしろ2つ目の動き、つまりウォールストリートの有力企業、JP MorganがTwitterのレーティングをアップしたことだろう。株価の維持に苦闘しているTwitterにとってウォールストリートからの追い風は何にも増して必要な要素だ。

Twitterの株価は今朝10%近くジャンプした。時価総額に換算すれば数十億ドルのアップだ。こうなると、同様にユーザー数が頭打ちでウォールストリートにビジネスモデルを納得させることに苦闘しているソーシャル(あるいはコミュニケーション)メディア、Snapが射程範囲に入ってくる。下はTwitterの値動きだ。

この後現状のまま推移するなら、 Twitterの株価は上場後30%プラスで年を終えることができそうだ。TwitterはFacebookに比べて低調なユーザー数の拡大といじめやヘイトスピーチ問題をめぐってウォールストリートを納得させるのに苦労してきた。Snapも投資家に対してユーザー数の伸び悩みという同じ弱みを抱えている。株価の上昇は直接に利益をもたらす。ストックオプションの価値がアップするため社員や採用を希望する相手に対して有利な報酬を提供できる。また「経営の根本的な刷新」を叫ぶ「もの言う株主」を遠ざけるにも役立つ。

Twitterのような上場株式の場合、値動きは荒っぽいものになりがちだ。四半期決算の発表や有力な証券会社のレーティングの変更などなどは大幅な株価の上下の原因となり得る。Twitterはこの1年かなり大きな値動きをみせてきたが、結局のところ楽観的な方向で年末を迎えることができそうだ。Twitterのビジネスは本質的にMAU(月間ユニークユーザー数)に左右される。しかしTwitterは株式市場から好意的な評価を引き出すべくストーリーを売り込むことにやっきなっていた。

今朝の時点でSnapの時価総額は195億ドルであり、182億ドルのwitterとはほとんど差がない。Twitterのプロダクトのアップデートは小刻みなものが多い。最近のメジャーアップデートといえば最大文字数をアルファベット文字圏で140文字から280文字に倍増させたことくらいだ―この変更もまたハラスメント問題の解決に逆行するという非難を浴びた。こうした問題に対処すべく、Twitterでは(今朝発表された変更も含めて)、広汎な利用規約の改正を行っている。

画像: Yana Paskova/Bloomberg/Getty Images

〔日本版〕NASDAQによれば、JPmorgan ChaseはTwitterの格付けをholdからoverweightに変更した。JPmorgan Chaseではアナリストの分析結果をbuy(買い)、overweight(強含み)、hold(中立)、underweight(弱含み)、sell(売り)の5段階で表示している。

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たとえ倒産してもTeslaは偉大な会社だ

Teslaは会社としては皆に愛されている。しかしビジネスとしては? 数多くのトップクラスの投資家がTeslaの事業について不満を口にしている。たとえば「投資に対する利益という観点からはTeslaは破滅的だ」という主張がある。また「Teslaは毎分8000ドルの金を燃やしている(毎時48万ドル)」、あるいは 「Teslaはライバルがいないのに巨額の金を失いつつある―しかも近く巨大なライバルが登場する」などだ。

空売りで名高い投資家のJim Chanosはこうした問題をシビアにまとめて、「時価総額数百億ドルの上場企業が巨額の損失を出している。このビジネスは循環的だ。貸借対照表には目一杯レバレッジがかかっている。会計処理には疑問が多い。多くの幹部が会社を去っている。運営するCEOは事実に向き合いたがらない。これだけ悪材料が揃っていれば十分だ。ダニが詰まった箱のようなものだ」と述べている大勢の人間がTeslaには倒産が迫っていると考えている。もちろんこれは今に始まったことではなく、何年も前からTeslaの財務を疑問視する声は出ていた。しかしこれまでのところそうした意見はすべて間違いだった。しかし今後はどうだろうか?

今のところはっきりしたことは誰にも言えない。しかし(たとえば私のように)Teslaに何の財政的利害もない人間はTeslaが倒産しても困りはしない。

いや、冗談を言っているのではない。金がすべての成功の尺度である資本主義における企業の目的は投資家に利益をもたらすことにある―少なくとも倒産しないことにある、とわれわれは考えがちだ。もちろんほとんどの会社についてこれは正しい。しかしTeslaは別だと思う。経済学者のチャールズ・グッドハートは、ある指標が経済運営の目標になると、その指標は間もなく指標としての用をなさなくなると述べた。 これはまさしく金というもの性質を言い当てている。 Teslaという会社の目的は金を儲けることではない。電気自動車をマス市場に普及させ、そのインフラを形成するためのパイオニアだ。Teslaが先陣を切ったバッテリーのテクノロジーは自動車以外にもあらゆる場所に用いることができる。利潤を上げることは付随的な目的に過ぎない。

つまり、企業として儲けていようといまいと、Teslaは目的を達成することに成功している。Teslaは世界最大級の工場を作った。現に世界でもっとも大きい工場を建設中だ。まだ完成していないが、一部はすでに稼働を始めている。高級電気自動車市場を支配しているだけでなく、あらゆる電気自動車市場において大きな存在となりつつあり、バッテリー・パック市場でも重要な役割を果たしている。

イーロン・マスクはこうした事業から利益を上げることができればもちろん嬉しいだろう。細かいことを言えば、それが経営者としての信任義務だ。しかし利益を上げることに失敗したら失敗ではない。もちろこれは株主、投資家以外の話だが(またTeslaがどうなろうとイーロン・マスクが貧乏になる心配はない)。

儲けを出すことが不可能な事業であってとしても、マスクは要するに市場でだぶついていた資金をTeslaという優れた目的のために使ったというに過ぎない(興味深いのは、そこで得た技術的成果をオープンソースの特許としたことだ)。マスクは、会社としては膨大な損失を出しながら単に自動車だけでなく、われわれの明日の生活を一変させるようなテクノロジーを開発し広く社会に貢献したことになる。

Teslaの株式の価値がゼロになり、会社がデフォールトに陥って投資家は1ドルについて数セントの残余財産しか得られないことになっても、Teslaという資産、つまり工場、ソフトウェア、人材はそのまま残る。どんな破産裁判所であれ、Teslaは部分をバラ売りするより全体のほうがはるかに価値が高いことを認識するだろう。Teslaはドーバー海峡トンネルのような存在ではないだろうか。ドーバー海峡トンネルは民間資本で建設されたものの、投資家にとっては完全な失敗だった。「トンネルはわれわれ全員が恩恵を被るすばらしい施設となった。ただしその建設に資金を出した人々にとってはそうではなかった」と評される。

これはもしかするとTeslaにも当てはまるかもしれない。投資家、株主に対して不公平な意見だろうか? そうではない。これは資本主義の見本だ。誰も投資を強制されたわけではない。儲けが出ると期待して金を出したのだ。そこには当然リスクがある。しかし財政的利害関係者でないなら、Teslaのビジネスについて暗い予言を叫びたてるマスコミの意見は無視してもいいだろう。Teslaの財政がどうなろうと、われわれ一般人はすべて勝者なのだ。

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Apple、タックスヘイブンをジャージーに変更――南ドイツ新聞とICIJがリーク

昨年、EUはAppleがアイルランドで違法な租税回避を行っているとして同社に145億ドルの支払いを命じた。競争担当欧州委員会の委員、Margrethe Vestagerが2014年にこの問題に関して調査を開始したとき、Appleは不穏な空気を感じたらしい。

昨日(米国時間11/5)、ICIJl〔International Consortium of Investigative Journalists=国際調査報道ジャーナリスト連合〕がParadise Papers暴露したところによれば、調査が開始された2014年始めにAppleは租税上の登記をジャージーに移したという。

ジャージーはフランスのノルマンディー半島沖に浮かぶ人口10万人程度の小さな島国〔イギリス王室属領〕だ。もっとも重要な点はジャージーでは企業は原則として課税されないことだろう。Appleはこれまでもジャージーを経由して利益を移転していた。

Appleは長年にわたり巧妙な資金操作とアイルランドの課税優遇措置を利用してヨーロッパでの課税を免れてきた。他の多国籍企業と同様、Appleもアイルランドに複数の子会社を持っている。

Appleの海外での利益はまずApple Sales Internationalというアイルランド子会社に移される。ICIJの調査によれば、同社は2009年から2014年までの間に1200億ドル以上を受け取っていた。

2つめの子会社はApple Operations Internationalと呼ばれ、この1200億ドルの大部分を配当収入として得る。2社得る利益の大部分は本社に属するものがだが、子会社は企業に課税する地域に登記されていない。両社への課税はまったく行われず、Appleの課税基準収入を著しく下げていた。

145億ドルという巨額の支払い命令となった調査は2014年6月に開始された。EUが税制改革を計画している現在、AppleがEUの命令にしたがって支払いを行うかどうかは不明だ。

フランスのブルーノ・ルメール財務大臣は「テクノロジー企業は利益を隠す方法を必ず見つけ出してしまうので、EU諸国における現実の売上に対して課税されるべきだ」と主張している。

Appleの租税回避テクニックはテクノロジー企業の間できわめてポピュラーな方法で、ダブル・アイリッシュという名前名前までついている。EUが2014年にダブル・アイリッシュを禁じたのはヨーロッパ各国政府からの強いう働きかけがあったからだ。

EUの税務調査とダブル・アイリッシュの廃止がAppleに登記をジャージーに移転させたものらしい。オフショア法律事務所のApplebyはAppleがジャージーにペーパーカンパニーを設立する手助けをした。今回の暴露はSüddeutsche Zeitung〔南ドイツ新聞〕とICIJが入手したApplebyの内部文書によるものだ。

Apple Sales InternationalとApple Operations Internationalは双方とも2014年に課税本拠地をジャージーとして登記している。ダブル・アイリッシュ方式が禁止されても、2014
年12月31日以前にアイルランドに設立された企業は2020年まで課税待遇措置をの恩恵を受けることができる。

Appleは現在、この猶予期間にあり、溜め込んだキャッシュを好都合な場所に移転することが可能だ。Appleは現在、アメリカ国外に2528億ドルの資産を持っている。もしAppleがこの利益をアメリカ本国に戻すと35%の課税を受けることになる。2020年以後も課税を逃れたいのであればAppleは何か新たな仕組みを考える必要がある。

Appleの「課税最適化措置」はそれ自身として違法ではなさそうだが、国際的な資金操作を行っていない他のもっと小さい企業に比べてAppleに対する課税が格段に軽いことを正当化するような理由もまた思いつかない。今回のAppleがいい例だが、租税回避のテクニックは日々変化しているものの、タックスヘイブンの本質は巨大多国籍企業に利益をもたらし、不公平な競争を生む根源だ。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

死んだはずのBlackBerryがソフトウェア企業として蘇生、業績も株価も好調

死んだはずの企業がまだ生きていた、といえばBlackBerryのことかもしれないが、しかし同社はCEO John Chenのリーダーシップのもとで、ソフトウェア企業として再生しつつある。最近の四半期決算報告でも、業態転換の効果が顕著だ。

決算報告書によると、当四半期の同社の売上は2億4900万ドルで、アナリストたちが予想した2億2000万ドルを凌駕した。売上の急伸はソフトウェアの記録的な売上増によるものであり、総額9億9600万ドルの年商は前年比で26%の増となる。粗利率も記録的で76%となり、前四半期の67%と前年同期の62%を大きく上回った。

CEOのJohn Chenが当然のごとくに満足しているだけでなく、ウォール街も株価で報いた。9ドル99セントで始まった(米国時間9/28)株価は、本稿を書いている時点では10ドル44セントだ。すこし前には、10ドル79セントまで上がっていた。

BlackBerryの株価の5年間の推移。チャート提供: Yahoo Finance

同社の方向性は概(おおむ)ね正しいようで、それは、iPhoneとAndroidという新しい嵐の中で同社の携帯電話事業が破綻した5年前には、考えられなかったことだ。

ChenがCEOに就任した2013の11月には、同社がハンドセット市場で盛り返すことはありえないと思われていたから、ほとんど期待されなかった。でも同社には、これまでの人気製品で稼いだキャッシュがあった。Chenはそのキャッシュを使って戦略的買収を繰り返し、会社の姿を変えていった(下図)。

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チャート提供: Crunchbase

彼が就任したとき、BlackBerryは溺死寸前だった。同社は、昨日まで自分のものだった携帯電話市場がハックされる様子を、呆然と見守っていた。タイムマシンで2009年までさかのぼってみると、comScoreのデータ(下図)は、まさにBlackBerry(ブランド名RIM)がスマートフォン市場を支配していたことがわかる:

Screenshot 2017-09-28 14.54.31.png

チャート提供: comScore

しかしそれから4年後の2013年12月、ChenのCEO就任の翌月には、市場は激変していた(下図):

Screenshot 2017-09-28 14.58.17.png

チャート提供: comScore

今となっては、同社を携帯電話とかスマートフォンという視点から見ても意味がない。Chenは明らかに同社が進むべき新しい道を見つけ、会社の形を徐々に確実に変えつつある。今日の決算報告はひとつの四半期のスナップショットにすぎないが、回復不能と思われた企業でも持ち直すことができるのだ、ということをまざまざと示している。

ChenはCNBCの取材に対して、これからが難しい、と言っている。でも今やBlackBerryはソフトウェア企業だから、将来性は無限だ。同社は、不可能と思われていたことを、成し遂げた。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

東芝の半導体事業売却、2兆円でBainと合意――コンソーシアムにはAppleも参加、WDは反発

東芝はパソコンやスマートフォンに大量に使われているNANDメモリーの供給者として世界第2位だ。東芝はその将来を決定する重要な要素である半導体チップ事業をめぐる長い物語が終わらせるために大きな一歩を踏み出した。東芝はチップ事業を2兆円(約180億ドル)で売却することでBain Capitalをリーダーとするコンソーシアムと正式に合意した(リンク先はPDF)。 このグループにはAppleも加わっている。

今月初め、東芝の取締役会はアメリカの有力投資ファンドKKR(Kohlberg Kravis Roberts)と日本の公的ファンド2社による買収提案を拒否し、Bainグループを売却先とする基本路線が決定されていた。 今回東芝の取締役会は正式に契約締結に合意した。

Toshibaは原子力関連事業を展開していたWestinghouse事業部が破産したことによる巨額の損失をカバーするため、TMC(Toshiba Memory Corporation 東芝メモリ株式会社)の売却先を熱心に探してきた。損失の穴埋めができない場合、来年、東芝は東京証券取引所への上場を廃止されるおそれがあったからだ。

今回の決定は単に東芝にとってばかりでなく、広くテクノロジー業界一般にとって大きな意味がある。AppleはライバルのSamsungが東芝を巡る問題から利益を得ることを恐れていた。Samsungは世界のシェア40%を占め、メモリーチップでは世界最大の企業となっている。AppleはSamsungの市場支配を許さないために巨額の資金を用意した。報道によればBainはAppleに70億ドルの出資を求めたという。

TMCの売却自体は早くも今年の1月には話題となっていた。しかしGoogle、Amazon、Foxconnなどの有名企業を含む多数の応札者が現れたため、決定にはかなりの時間がかかることとなった。

東芝はBain Capitalをリーダーとするコンソーシアム、PangeaにTMCを売却するが、TMCは東芝の子会社として事業運営を続けることとなる。PangeaコンソーシアムにはBainに加えて、日本の光学機器メーカーHoya、韓国系半導体メーカーのSK Hynix、アメリカからはApple、Kingston、Seagate、Dellがそれぞれ出資する。

東芝本体も3505億円(31億ドル)を再投資する。Bain Capitalが2120億円(18億ドル)、Hoyaが270億円(2億4000万ドル)、SK Hynixが3950億円(35億ドル)、アメリカ企業が合計で4155億円(37億ドル)をそれぞれ出資する。〔PDFによればコンソーシアムはこのほか6000億円を銀行等から借り入れる〕。

コンソーシアムは東芝とHoyaに50%を超える議決権を与えることで合意した。これは日本政府による規制をクリアするための対策だ。また韓国の半導体企業であるSK HynixはTMCの競争力に影響を与える各種知財へのアクセスをファイアウォールで遮断されることになる。

ただし、東芝とコンソーシアムの間で正式な合意がなされたものの、これで売却が決着したわけではない。

まず日本の独占禁止法、証券取引法に基づく承認を得る必要があるし、東芝とWD(Western Digital)の間では訴訟が続いている。

グループのSanDisk事業部を通じてTMCと提携関係にあったWDは、ライバルの半導体メーカーおよびクライアント企業がTMCを所有することはWDの「競争力に悪影響を及ぼす」としている。当初WDはTMC事業の売却に対する拒否権を要求した。後にKKRと組んでTMCの買収を提案したが、不成功に終わっている。東芝とWDはNANDメモリーを製造する3つ合弁事業の処理を巡って法的な争いを続けているが、コンソーシアム側では(法的決着が)「どうであろうと買収は続行される」としている。

東芝では2018年3月までに買収が完了することを望んでいる。これは日本では4月から新事業年度が始まるからだ。東芝としては東京証券取引所から上場廃止の処分を受ける可能性はできる限り排除したいということだろう。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

HTC、重要情報発表のため株式取引を一時中止――Google、Android携帯事業を買収か?

台湾の有力電子機器メーカー、HTC(TWSE)は事業運営に「実質的な影響を与える情報」を公開するのに先立って、明日の株式取引を中止することを明らかにした。 このニュースはFinancial Timesが先ほど報じた。

この動きはHTCのモバイル事業売却の噂という火に油を注ぐこととなった。スマートフォン市場の激烈な競争をうけてHTCの業績はこの数年、悪化を続けている。

2013年第3四半期に最初の赤字を計上して以後、HTCの四半期決算は赤字が常態化している。 経営陣の刷新、資産の売却、VR分野への進出(Valveと提携)などが行われたものの会社の態勢を立て直すまでにはいたらなかった。

アジアのメディアはいち早くHTCのモバイル事業をGoogleの親会社、Alphabetが買収する可能性を指摘していた。 またChina Times〔中國時報〕 が「HTCはGoogleによる買収を発表するかもしれない」と報道した記事をHTCの投資家向けページが取り上げ、「対策」として「HTCは市場における噂や推測にはコメントしない」と発表したことも注目を集めた。

GoogleがHTCのスマートフォン事業を買収するとした場合、GoogleがAndroidデバイスのメーカーを救済するのはこれが初めてではない。GoogleはMotorola Mobilityを125億ドルで2011年に買収している。その後、2014年にはMotrola事業部は29億1000万ドルでLenovoに売却された。この際、Motorlaが保有していた多数の特許の大部分はGoogleが引き続き保有することとなった。

スマートフォン情報に詳しいEvan Blassは「ある情報源からHTCが9/21に開催する全社員ミーティングへの社内向け招待メールを入手した」とツイートした。テーマには「Googleによる買収」が含まれるとしている(下にツイートをエンベッド)

Blassは、同じ情報源が「GoogleとHTCは交渉を終了し、GoogleがHTCのハードウェア事業のある部分を買収することで合意した」と述べたという。HTCはブランド名を維持し、VRとViveを主力事業としていくということだ。

われわれはGoogleにコメントを求めている。新しい情報が得られしだいアップデートする。

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書評:『パラノイアだけが生き残る』――今のIntelを築いた伝説的経営者の強烈な経営書

本書『パラノイアだけが生き残る』は『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』に続くアンディー・グローブの名著復刻第二弾。Kindle版も配信している。 『インテル戦略転換』の復刊だが昨日書かれたかと思うほど内容はタイムリーだ。

現在のIntelは時価総額1700億ドル、日本最大の企業トヨタ自動車に匹敵するサイズの巨人で、モバイルチップでこそ新しいメーカーに一歩を譲るものの、サーバーやデスクトップCPU市場では圧倒的な存在だ。

Intelをこうした巨人にしたのは1979年から1998年にかけて経営を指揮したアンディー(アンドルー)・グローブだ。この時期にIntelは売上高を40倍近くに伸ばしている。ゲイツ、ジョブズ、ベゾス、ペイジ/ブリンなどの創業者経営者を別にすると、グローブは他を圧して伝説的な存在だ。グローブはなぜそのような業績を挙げることができたのだろうか?

Intelはゴードン・ムーア(ムーアの法則で知られる)らによって設立され、半導体メモリーのパイオニアとして1968年にスタートした。アンディー・グローブはIntelの社員1号だったという。シリコンバレーの発展と歩調を合わせて業績は順風満帆だったが、80年代に入ると日本メーカーがDRAM製造分野の主導権を握り、その攻勢にIntelは倒産の瀬戸際まで追い詰められた。

この本で印象的な一節は1985年半ばに会長、CEOだったゴードン・ムーアと社長だったグローブとの会話だ。

グローブ:もしわれわれが追い出され、取締役会が新しいCEOを任命したとしたら、その男は、いったいどんな策を取ると思うかい?ムーア:メモリー事業からの撤退だろうな。グローブ:(略)それをわれわれの手でやろうじゃないか。

グローブは打ち寄せる大波を押し返すような力技を発揮してDRAM生産を終了させ、IntelをCPUメーカーへと方向転換した。

その後もIntelにはペンティアムCPUの浮動小数点演算におけるバグという問題が降りかかる。この問題は本書の冒頭で扱われているがグローブの眼前で問題が爆発したのは「1994年11月22日、感謝祭2日前の火曜日だった」という。詳細に日時が書かれているところかして激しいショックを受けた事態だったのだろう。このトラブルはIntelに4億7500万ドルの損害をもたらしたものの、グローブはこの嵐も全面的な方針転換によって乗り切った。

グローブによれば、どんな企業もいずれ「戦略転換点」に遭遇するという。これは「10X(桁違いの巨大な)の変化が起き、ゲームのルールが根本的に変わる」ことによって生じる。たとえばコンピュータ業界ではデスクトップPCの登場によってこの変化が起きた。1980年ごろのコンピュータ業界は縦割りだった。つまりIBMの占める位置はハードの製造からOS、アプリケーション、さらには流通販売まで強固に垂直統合されていた。それが1995年にはチップはIntelが、コンピューターはコンパックやデルが、OSはWindowsが、というように水平分業の世界に変わる。IBMが立てこもっていた強固なサイロは消滅した。

日本製DRAMの販売攻勢によってIntelが直面したのも「メモリー製造では食っていけない」という戦略転換点だった。ペンティアム・チップのバグ問題も実は問題はバグそのものではなかったようだ。Intel Insideキャンペーンが成功したことにより、Intelがコンピューター・メーカーに部品を供給する企業ではなく、むしろコンピューター市場そのものをリードする消費材メーカーに変化していた。グローブによれば、その変化にまず自分が気づいていなかったことが失敗だったという。

本書に挙げられたさまざまな「戦略転換点」はMBAの教室で教えられるような概念ではなく、グローブの体験に基づいたものだったことが強く感じられる。グローブが世界的大企業のCEOという激務にありながら、「事業経営の勘所」を細かく伝授する本を執筆して後進の起業家、ビジネスパーソンのために非常に大きな影響を与えるようになったのはこの体験とその反省にもとづいたものだったと思う。

グローブの経営書に大きな影響を受けた1人がベン・ホロウィッツだった。ホロウィッツはマーク・アンドリーセンと共にラウドクラウドを起業したクラウドビジネスのパイオニアで、現在ではシリコンバレー最大のベンチャーキャピタル、アンドリーセン・・ホロウィッツを運営している。ホロウィッツのグローブへの傾倒ぶりは異色の経営書、『HARD THINGS』にも詳しく述べられており、『HIGHOUTPUT MANAGEMENT』の序文も寄稿している。

実はこの本の末尾に「本書を執筆している最中にネットスケープの株式が公開された」という一節があり、書かれた時代を感じさせる。世界初の商用インターネット・ブラウザ、ネットスケープの大成功はシカゴ大学を卒業したばかりのファウンダー、マーク・アンドリーセンを初の「テクノロジー起業家富豪」とした。創業直後のアンドリーセンの会社に飛び込んだのがベン・ホロウィッツで、この二人がやがてクラウド・サービスという事業分野を苦闘しつつ開発することになる。

上でも触れたように本書が書かれた1995年頃、日本経済はジャパン・アズ・ナンバーワンと囃されており、構造的な危機を乗り切るためのノウハウと哲学を述べたグローブの経営書は十分理解されたとは言えなかった。前途不透明な現在こそグローブに学ぶべき時期なのかもしれない。

今回のグローブ本の装丁も白地に黒のゴシックでPARANOID SURVIVEという原文を大きく配置してあり印象的だ。グローブの経営指揮は強烈でグローブの厳しい指摘に幹部が気絶したという伝説もある。グローブ自身はあまりに隔絶した存在なので、グローブのようになることを目指すことはベーブ・ルースになろうとするくらい非現実的だろう。しかしグローブは他の天才とは違い、自分が得た知識、ノウハウをできるかぎり後進に伝え、参考にさせようとしたように思える。その意志が伝わってくるだけでも一読の価値があるように感じた。

滑川海彦@Facebook Google+

Nestlé、Blue Bottle Coffeeの過半数株式取得――評価額7億ドル以上

シリコンバレーでも大いに愛されているコーヒーショップ、Blue Bottle Coffeeの過半数株式を食品大手のNestléが取得した。今朝(米国時間9/14)明らかになったこの準買収はコーヒーショップ市場に大きなビジネスチャンスがあることを示す何よりの証拠だろう。

NestléはBlue Bottle株式の68%を取得したが、経営陣は従来のままで変更はない。Financial Timesの記事によれば、NestleによるBlue Bottleの企業評価額は7億ドル以上で、5億ドル前後を支払ったという。この額はおおむね正しいだろう。

Blue Bottleはサンフランシスコ、ニューヨーク、東京などの大都市に店舗を設けており、Appleストアに足を踏み入れるような体験ができる。Blue BottleがStarbucksの向かいに店を出して客を奪い、すぐにもっと利益を出せるなら、市場シェアはスターバックスにははるかに及ばないだろうが、そうであっても非常に旨味のあるビジネスということになる。

Index Venturesのパートナー、Mike Volpiは声明で「現在、アメリカと日本でBlue Bottle Coffeeはスペシャルティーコーヒーのトップブランドだ。Blue Bottleの成功は、ジェイムズ〔・フリーマン、ファウンダー〕とブライアン〔・ミーハン、CEO〕の顧客を熱心なファンにするユニークな価値を生み出すセンスと能力を証拠だてるものだ。Blue Bottleというブランドの魅力はわれわれを同社に対する初期の投資家とした。 以後同社が永続性のある企業へと成長していくのを見ることはわれわれにこの上ない満足を与える経験となった」と述べた。

コーヒーショップはシリコンバレーの投資家、起業家にとってことにお気に入りのプロジェクトで、Blue Bottle、Philzを始めとする企業にはこれまでにも巨額の資金が注ぎ込まれている。言うまでもなく、Nestléがコーヒー事業に大型投資を行うのはこれが初めてではない。同社はKeurigのライバルであるNespressoコーヒーマシン事業を所有しているし、はるか以前からNescaféブランドで有名だ。Blue Bottleは生産性の高い企業であり、コーヒーショップの経営以外にも多数のコーヒー関連アイテムを製造、販売している。Starbucks同様、小さな袋に詰められたコーヒーを各種のチャンネルで販売している。

いささか皮肉なことに、TechCrunchは最近、AmazonはBlue Bottle、Philzのようなコーヒーショップ事業を買収すべきだと主張した。これはStarbucksのような既存事業に対して新しいスペシャルティーコーヒーにはAmazn Primeをさらに拡大する可能性があると考えたからだ。すでに傘下に多数のコーヒーブランドを所有しているNestléが、これほどの規模での投資を行ったとなると、もはやスペシャルティーコーヒーを実験的なビジネスと見ることはできないと同時に(Amazonや今回のNestléのような)十分な資金力あるパートナーを見つけることがStarbucksのような巨大企業と対抗していくために必要だろう。

Blue Bottleはこれまでに総額で1億ドル以上の資金を調達している。ちなみに、TechCrunchはちょうど1年前にBlue Bottleが新たな資金調達を試みてみる情報を得た。ただし同社はただちにこれを否定した。その後も資金調達に関して投資家と話し合いを行ったことはない。しかし動きの速いこのビジネスで1年というのは長い期間だ。Blue Bottleは今年中に新たに25店舗を開設しようと計画しているという。

なおBlue Bottleの広報担当者は、同社はこの取引に関して会社評価額その他の詳細を明かす予定はないという。

r画像: Kena Betancur/Getty Images

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

ソフトバンク、滴滴らUberに大型投資へ――会社評価額は700億ドル前後

日本のソフトバンク、アメリカの投資グループ、Dragoneer、中国最大のライドシェア・グループ、Didi Chuxing(滴滴出行)はジョイント・ベンチャーを通じてついにUberへの投資を実施することになるという。

情報源がTechCrunchに語ったところによれば、Uberに対する株式公開買付けの実施は今月末を目標として準備が進められており、 これにはUberへの直接投資に加えて社員、初期投資家の株式の買い上げも含まれるという。

Uberに対する大型投資の提案が取締役会で検討されていることが最初に報じられたのは1月前のNew York Timesの記事だった。TechCrunchが得た情報によれば、この投資は実施される可能性が高いだけでなく、何千人にも上る社員の売却可能な持ち株を買い上げるという株式投資の歴史上、最大となる市場外取引を含むことになりそうだ。

BloombergはUberは$20億ドルから100億ドルに上る投資を受け入れることになるだろうと報じていた。TechCrunchの得た情報では、投資額はこの数字の上限近く、80億ドルから100億ドルになるもようだ。

投資プロジェクトをリードするのはDragoneer、Didi、ソフトバンクだ。ことにソフトバンクはビジョン・ファンドの1000億ドルの資金が利用できる。しかしGeneral Atlanticも参加することになるという情報を得ている。この投資を実施するために特別の組織(special purpose vehicle)が組成されているという。

Uberはこの問題に対するコメントを避けた。

今回の投資ラウンドはきわめて重要なものとなる。投資額そのものも巨大だが、非公開企業であるUberにとってこのラウンドの会社評価額は700億ドル前後になる見込みだからだ。最近のトラブルにより、Uberの企業文化について正式の調査が行われ、その結果、共同ファウンダー、CEOのトラビス・カラニックを含む多数の幹部がUberを離れることとなった。これによりUberの企業評価額は下がるだろうという観測がなされた。しかし現実には大幅にアップしたことになる。

また今回の投資が実現すれば、初期の投資家と多くの社員が持ち株を現金化するチャンスを得る。Uberは長年にわたってこうした持ち株の売却に制限を加えており、社員はストック・オプションなどの形で得た報酬を現金化することが困難だった

Uberのポリシーが厳しい批判を浴びるようになり、今年に入って同社は株式の買い戻しを実施した。情報によれば、Uberは先週、2度目の買い戻しを完了した。対象は持ち株を最大20%まで売却する権利を得ていた数百人の社員だという。

今回報じられた投資が実現すれば、保有株式の現金化(liquidity event)についてUberが受けていた圧力を緩和するのに大いに役立つだろう。新CEOのダラ・コスロシャヒはUber社員に対して「株式上場は18ヶ月から36ヶ月先」だと発言している。

2010年以来、90億ドルを投資してきた株式保有者はこの新たな大型投資の提案を喜ぶはずだ。株式の買い上げが実施されれば紙の上の価値に過ぎなかったものが現金化され、数多くの富豪が誕生するだろう。

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Amazon、5万人規模の第2本社建設計画を発表――自治体の立候補受付け開始

Amazonはすでにeコマース、ロジスティクス、クラウドサービスの各分野で世界的な巨人だ。そのAmazonが企業としての存在をさらに一段と拡大する動きを見せている。今日(米国時間9/7)、同社は北米地区に第2の本社を建設するために適切な都市を選ぶための調査を開始したことを発表した

Amazonによればこの第2本社はワシントン州シアトルの既存の本社(上の画像)と「あらゆる点で同等の施設となる」といいう。

新本社はそのサイズもシアトル本社と同等かそれ以上となるもようだ。Amazon本社はシアトルのビジネス地区の中心的施設の一つだ。4万人の社員が75ヘクタールの土地に建てられた33棟のビルで働いており、レストランだけでも24箇所ある。Amazonによれば、HQ2と呼ばれる第2本社では5万人が働くことになり、投資額は50億ドルに上るという。

Amazonのファウンダー、CEOのジェフ・ベゾスは声明で「Amazn HQ2はあらゆる面でシアトル本社と同等のものとなる。HQ2は当初でも数十億ドルの投資先となる。この投資はその後も継続され、数万人の給与の高い職が創出される。われわれは第2の家〔に適切な場所〕を見つけようと張り切っているところだ」と述べた。

TechCrunchではHQ2建設のスケジュールについてAmazonに問い合わせ中だ。

Amazonの新本社建設の発表は興味深いタイミングで行われた。Appleはクパチーノの新キャンパスの建設をほぼ完了したところだ。来週にはメイン・ビルディングに隣接する新しいスティーブ・ジョブズ・シアターで最初のイベントを開催する。ここでは最新版のiPhoneが発表されるものとみられている。リング状の巨大建築はAppleのパワーを象徴するものとして長いあいだ話題になってきた。Appleが新キャンパスでiPhoneイベントを開催する直前にHQ2建設計画が発表されたことは、こうしたビッグプロジェクトを実施できるのはiPhone/Macの巨人だけではないと知らせるAmazon一流のやり方かもしれない。

面白いことに、Amazonは社員がどちらの本社ないしどの都市で働くことを希望するか各種調査を行う計画も明らかにしている。ここでAmazonは適切な候補地となるべき条件をいくつか挙げている。候補都市は人口が100万人以上であること、ビジネスフレンドリーな安定した都市環境であること、テクノロジーに関して才能ある人材を引き寄せる魅力がある都市ないし都市近郊であること、などだ。また都市、地域の選定にあたっては「ものごとを大きなスケールで考える創造的なコミュニティーを持つこと」も条件としている。

またAmazonは新本社は現在のシアトル本社同様、都市型の施設となり、都市中心部に建設されること、すでにデベロッパーによって開発が進められていてもよいことなどを明らかにしている。

AmazonではHQ2建設の第一歩として都市ないし州による提案の受付(RFP=Request for Proposal)を開始しており、Amazonは自治体に対し同社へのコンタクトを呼びかけている。一度HQ2の建設予定地に選定されれば都市側のメリットは巨大だ。Amazonの推計によれば、同社は2010年から2016までの期間にシアトル市の経済に寄与した額は380億ドルになるという。Amazonの投資1ドルについてシアトル市は1.40ドルの経済効果を生み出してきた。

社員38万人というのは、Amazonをテクノロジー分野における世界最大の雇用者の一つとしている。テクノロジーは現在アメリカの主要産業とみられいるものの、以前の主要産業と比較すると直接雇用者の数が目立って少ない。Amazonは例外的に巨大な雇用者だが、ロジスティクスの分野における雇用が大きいのもひとつの理由だ。事実、Amazonはアメリカでもその他の世界でもフルフィルメント・センターを開設するつど、地域の雇用と収入の増大に貢献することになると発表してきた。

Amazonはまたアメリカ国外でも急ピッチで拡大を続けている。

今年夏、AmazonはEU離脱で揺れるイギリスの首都、ロンドンの金融地区に新しい本社を開設している。

下の画像はAmazonのシアトル本社に関する詳細だ。

画像:Amazon

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

23歳のバイオVCに投資戦略を聞く――老化防止ファンドのローラ・デミングは14歳でMITに入学した天才

ローラ・デミングはありきたりのベンチャーキャピタリストではない。いや、デミング自身がいろいろな意味でありきたりの人間ではない。

現在23歳のローラ・デミングはニュージーランド生まれて家庭で教育を受けた後、数学と科学、とくに老化を防止するテクノロジーに強い興味を抱くようにんった。デミングな11歳のときに老化防止の研究で著名な分子生物学者、Cynthia Kenyonにメールし、「家族とアメリカ旅行する機会にサンフランシスコの研究室を見学できないだろうか?」と尋ねた。Kenyonは見学を承諾しただけでなく、デミングの訪問の後、この研究室で働きたいという希望にもイェスと答えた。

ローラの希望をかなえるためデミング家はアメリカに引っ越した。結局家族もこの異例の決断を後悔してはいないだろう。ローラ・デミングは14歳の若さでMITに入学し、2年後、つまり16歳で大学をドロップアウトした。それはピーター・ティールのThiel Fellowshipプログラムに参加するためだった。さまざまな面で論議を巻き起こすベンチャー・キャピタリストのティールがその前年にスタートしたのは、大学をドロップアウトして「新しい事業を始める」20歳未満の若者に10万ドルの資金を供与するというプログラムだった。

「新しい事業」というのは始めてみてから何度も方向を変えることがある。しかしデミングの場合はそうではなかった。デミングの関心は徹底してアンチエイジングだった。デミングはいくつかのスタートアップの起業を経てベンチャーキャピタリストに転じ、老化防止の研究、開発を行うスタートアップを支援するLongevity Fundを設立した。このアーリーステージ・ファンドが2200万ドルに上る2回目の組成を完了したの機にTechCrunchではローラ・デミングにインタビューを試みた。

TC: あなたのキャリヤがカリフォルニア大学サンフランシスコ校の教授への1通のメールで始まったというのは驚くべきことですね。

LD: [Cynthia Kenyon] はすばらしい人です。今まで会った人の中で最高。

TC: 彼女の研究室ではどんなことをしたのですか?

LD: 私たちは小さい透明な虫を実験に使いました。実験用のゼリーの上に置くと透けてみえるので何が起きているかわかるのです。遺伝子を操作するとその結果が分かります。寿命を延ばしたのか縮めてしまったのか? 栄養供給を減らすと虫の寿命が伸びました。その状態である遺伝子をノックアウトして取り除くとどうなるか? 私はまったくの初心者でしたが、一番寿命の長い虫を作り出そうとする熱意に燃えていました〔笑〕

TC: MITではどんなことを?

LD: 私は物理を専攻しましたが同時にいくつかのラボでの研究も続けていました。そのひとつがLenny Guarente [寿命延長の研究で知られる生物学者]のラボです。とてもおもしろかった。私は科学者になるつもりでしたが、ティール・プログラムのこと知っている院生がいて応募してみたらと勧めてくれました。そこで応募してみたのですが、最近ティール・プログラムのディレクターの一人と話す機会があって、彼は私が失敗するだろうと思っていたそうです。もちろん当時彼は熱心に手助けしてくれましたが。.私が最初のファンドの組成を完了したとき、彼は「ここまでやるとは思っていなかったよ」と言ってました。

TC: なぜでしょう?

LD: ひとつには、ほんの少し前まで、ほとんどのベンチャーキャピタリストは老化防止研究になにかビジネスチャンスがあると思っていなかったということがあります。アンチエイジングという分野は非常に若いテクノロジーなので普通のVCたちは何も知らなかったのでしょう。しかし私は小さいころからずっとこの分野に強い興味があり、研究を続けてきました。ビジネスチャンスについての見通しとは別に、知識は豊富でした。老化防止というのは[多くの有力バイオテック企業が]ガンの研究をするのと似たところがあります。ガンの研究に将来性があるならアンチエイジングにも同じくらい将来性があるはずだと私は考えました。

TC: 1号ファンドの額はどれほどでしか?

LD: 総額で400万ドルでしたが、私は大いに満足しました。実際私はティール・プログラムの10万ドルは十分な額だと思っていました。サンフランシスコに来てみると、この額で起業し2年間やっていくことは十分可能でした。私が資金集めを始めたのは17歳のときで、実際若すぎて法律的には契約にサインできる年齢に達していませんでした。それ以前にお金の管理をした経験もありませんでいた。しかし私は投資家にアンチエイジングを説明し、投資を決意させることができました。さいわい何人かの重要な投資家を確保でき、私がこれぞと考えた5社に投資することができました。

TC: その重要投資家の一人はピーター・ティール?

LD: 私たちはLP(リミッテッド・パートナー)の具体的な名前は公開しないことにしています。

TC: 「わたしたち」ということですが、あなたはこのLongevity Fundの唯一のゼネラル・パートナーでは?

LD: そのとおりです。しかしこのファンドを運営するには大勢の人々によるオフィス運営が欠かせません。Longevityという組織はさまざまな分野のトップクラスの人材の協力によって成り立っています。ですから私がゼネラル・パートナーであっても業務のすべてを取り仕切きれるわけではありません。

TC: そうしたアドバイザーはいくぶんかのファンドの持ち分も取得する?

LD: そういう場合もあります。ただ若い層、特に院生クラスではキャッシュによる報酬を受けることを選ぶ場合も多いですね。私たちはそれぞれの場合に応じてベストのインセンティブを提供できるよう努力しています。

TC: あなたファンドの投資企業の一つはUnity Biotechnologyですね。 老化を逆転させる治療法を研究しているスタートアップですが、この会社は今週1億5100万ドルのシリーズBラウンドを実施していますね?

LD: そのとおりです。ただしLongevityのポートフォリオ企業はすべて [少なくとも]シリーズAのラウンドで3000万ドルかそれ以上を調達しています。

TC: Giそうした投資額から判断すると、SPV〔特別目的事業体〕を組成したのは一部の投資先が大ブレークすると考えてのことですね?

LD: 私たちの選んだ投資先にLPがフォロー投資してくれることを期待してます。双方に利益があるようできるかぎり努力中です。Unityの場合、私たちは最初期から最大の投資をしてきました。ファウンダーのNed Davisが驚くべき人物であり、彼のアンチエイジングの研究は必ず実を結ぶと信じたからです。

TC: 今回クローズした2回目のファンドはどのように投資する計画ですか?

LD: 8社から10社に投資していくつもりです。

TC: 最近、投資家が老化防止分野に突如関心を抱き始めたようです。これはあなたのファンドの運営を難しくしませんか?

LD: いいえ、そういうことにはならないと思います。最初のファンドを組成したとき、わたしたちは投資契約を結ぶ前に候補のスタートアップを最大6ヶ月にわたって観察してきました。スタートアップが実際に資金調達を始める前から調べていたわけです。LPがわれわれのファンドに利点を見出したのはそこです。Longevityがスタートアップについて詳細に知っているため、LPは投資する際にデューディリジェンスを細々とやり直す必要がない。どんな会社に投資するのか予めわかっているというのは有利です。わたしたちは会社のあらゆる面について調べ、[この分野で]ベストの会社だという確信を持ってからポートフォリオに加えてきました。

その上でいえば、これまで困難だったのは有望なスタートアップに新規の投資家を引き込むことでした。つまりアンチエイジングは有望なビジネスとなるということを納得させるのが大変だったのです。しかし今やそういう困難はありません。これはたいへんうれしいことです。わたしたちはポートフォリオ企業に適切な投資家を探し出すことに専念できます。老化防止が有力な市場に育ってきたのは素晴らしいことだと思います。

TC: あなたはアンチエイジング関係のテクノロジーについて豊富な知識があると思いますが、 若者の血を飲んで精気を維持するというバンバイアものはHBOの『シリコンバレー』のよい題材になりそうですか?

LD: [笑] 科学的に興味がないことはありませんが、メディアはいささかバンバイア・テーマを取り上げ過ぎる気がします。5歳児の血を飲んで若返る怪物についての記事なら数多くクリックされるが、老化の過程に関与する多様な遺伝子的要素を一つずつ検討することはあまり関心を呼びそうにないとメディアとしては考えるのでしょう。

〔日本版〕ビデオはTEDで講演するローラ・デミング(19歳当時)。デミングの経歴についてはティール・フェローシップ参加者を詳しく紹介した20 under 20(アレクサンドラ・ウルフ著、滑川・高橋訳)に詳しい。

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Apple、Q3決算好調で1兆ドル企業まであと一息――株価は新高値、時価総額8000億ドル超

今日(米国時間8/1)、Appleは第3四半期の決算を発表した。圧倒的な好成績に株価は新高値をつけた。実のところ話題は次の四半期に何が起きるかに移っている

Appleの時価総額は8000億ドルを超えた。一時Googleが時価総額でAppleを上回ったことがあったが、今やAppleは着実に1位の座を守り、さらに拡大を続けている。Appleの時価総額の上昇がこのまま続けば1兆ドル企業となる日も近いかもしれない。

今期のAppleの決算は、次四半期の好調を見込むガイドラインの発表もあって、即日決済取引で株価を5%アップさせた。今年Appleの株価は着実に上げ続け、今期決算発表前に30%もアップしていた。この成長が続くなら次の四半期で1兆ドルの大台に乗せることも不可能ではなさそうだ。

Appleはこの秋、新しいiPhoneの出荷を予定している。iPhone 6でサイズの拡大に踏み切って以来の大きなアップデートになり、ユーザーの望みの多くをかなえることになるだろう。強気筋はこれによってAppleはスマートフォン市場におけるシェアをさらに伸ばすと考えている。同社のプロダクトの動向にはポジティブな兆候が多い。iPadも対前年比で着実に成長している。しかし何といっても現在(そして予見しうる将来にわたって)Appleの稼ぎ頭であり成長の原動力となってきたプロダクトはiPhoneだ。市場の興味はiPhoneが次に四半期にどうなるかに集中している。

今日の最大の収穫は来るべきiPhoneがプレビューされたことによりさらに関心が集まり、次期四半期の成績に対する期待の高まりが判明したことかもしれない。通例Appleは次期iPhoneの詳細に関する大量のリークが出回る四半期に売上が停滞する傾向があった。新製品への期待の高まりは現行iPhoneの売れ行きに悪影響を与える。しかし新iPhoneが順調に供給されるなら(なるほど膨大な需要に応えるのは困難な事業だが、不可能でない)、来年われわれはAppleが1兆ドル企業となる瞬間を目撃するかもしれない。

もちろん1兆ドルというのはたやすい目標ではない。Appleの株価は今年30%もアップしたが、1兆ドルの大台に乗せるためにはさらなる成長が必要だ。しかし十分な量の製品が出荷できれば時価総額に新たなゼロを付け足すことは可能だろう。

画像: Lam/Getty Images

〔日本版〕Appleの発表によれば今期の売上は45.4Bドル、希釈後の株式に対するEPSは1.67ドル、対前年同期比はそれぞれ7%、17%のアップなどとなっている。

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ジェフ・ベゾスの資産世界一は一瞬だけ――AmazonのQ2は平凡、株価やや下げる

今日(米国時間7/27)、Amazonは第2四半期の決算を発表した。投資家にとって平凡な内容であり、株価は3%下がった。CEOのジェフ・ベゾスは決算発表の直前に一瞬だけビル・ゲイツを抜いて資産世界一になっていたが、株価下落によってたちまち冷たい現実に直面することになった。ベゾスは依然として世界で2位の金持ちにすぎない。

冗談はさておき、今期Amazonは137億ドルで Whole Foodsスーパーマーケット・チェーンを買収しており、その決算はAmazonにとって大きな意味を持つものだった。しかしAmazonは途方もないサイズの取扱総額からごく薄い利益を絞り出すというこれまでのやり方を踏襲したようだ。しかしAmazonがWhole Foods買収を完了し全米で数百にもなる現実店舗の運営をするようになれば、この方式には市場から強い圧力を受けることになるかもしれない。

問題はAmazonの多様な事業の損益がきめて広い範囲に散らばっていることだ―4億ドルの損失もあれば3億ドルの利益もあるという具合だ。同社はこれまでアグレッシブな成長を続けながら利益も確保してきた。しかし来期にはこの路線も限界に突き当たる可能性がある。Whole Foodsの買収を境として、今後Amazonは成長するために投資すれば赤字となるモードに戻るかもしれない。

Amazonの株価は今年驚くべき急上昇をみせた。今年初めと比較して40%もアップした。この値上がりでベゾスは一瞬だがビル・ゲイツを抜いて世界一の金持ちになった。 パソコンをベースにした現実世界とインターネットをベースにしたオンライン世界との交代を象徴するものと受け取られた。AmazonはAlexaで音声認識の世界へ、Twitchでビデオ・ストリーミングの世界に進出したが、Whole Foodsで現実世界の小売業に戻って来たともいえる。

決算資料からAmazonの巨大なオペレーションを支える重要な柱はAWSだということが分かる。Amazonの営業利益は前年同期の7億1800万ドルから今期は9億1600万ドルにアップした。今期純益は1億9700万ドルで前年同期の8億5700万ドルから大きくダウンした。サーバー事業はAmazonの利益を維持する部門であり、仔細に検討するなら、AWS事業そのものだと分かる。この事業はビジネスとして軌道に乗り、年間100億ドルの売上をもたらしている。

AmazonのEPS〔1株あたり利益〕は0.4ドル、で売上は380億ドルだった。アナリストの予測はEPSが1.42ドル、売上が371億8000万ドルだった。売上は前年同期比で25%アップしている。

全体としてAWSは昨年同様のペースで成長を続けている。Amazonは今期AWSの売上は対前年比で42%%アップしたとしている。2016年第2四半期の対前年比成長率は58%だった。今年の成長率はややダウンしているものの健全な成長を続けていることはAmazonにとって重要だ。世界の多数の企業がAWSをインフラとして利用している。Amazonは毎期きわめて高い利益率を誇っている。

もちろんクラウド事業の競争は激しさを増す一方だ。ことにGoogleがクラウド事業に本格的に取り組み始めたし、 Microsoftも当然ながらライバルだ。AWSはクラウド・コンピューティングのパイオニアであり今やほとんどその代名詞ともなっているが、世界の大企業、スタートアップのニーズを満たしていくためには日々サービスを拡充していくことを怠れないだろう。

画像:Drew Angerer/Getty Images

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+