患者の治療に専念できるようになる、AI診断可視化プラットフォームLifeVoxelが約5.7億円のシード資金を調達

サンディエゴのスタートアップLifeVoxel(ライフボクセル)は、より迅速で正確な予後のためのAI診断可視化プラットフォームのデータインテリジェンスを強化するため、シードラウンドで500万ドル(約5億7000万円)を調達した。

Prescientという名称のプラットフォームは、診断、ワークフロー管理、トリアージに使用され、医師や病院はソフトウェアやハードウェア技術の管理でストレスを受けることなく、患者の治療に専念することができる。

Software-as-a-Service (SaaS) プラットフォームは、放射線科、循環器科、整形外科などのさまざまな医療分野で、医療施設が遠隔診断に使用する。Prescientには診断用の画像が保存されており、医師は携帯電話を含むあらゆるデバイスから必要に応じて画像を解析することができる。また、診断結果の注釈やレポートを作成する機能もある。

LifeVoxelの創業者でチーフアーキテクトのKovey Kovalan(コベイ・コバラン)氏は「今回のラウンドで確保した資金は、診断の効率と精度の向上のために、類似性や異常性、予測診断を識別できるデータインテリジェンスを提供できるよう、深層学習AIモデルや機械学習アルゴリズムの構築に役立てる予定です」と話す。

「つまり、当社が成長を続けることで、医療関係者が患者のどこが悪いのかをこれまでよりも迅速に把握できるようにし、より早く治療に取り掛かることができるようになるのです」とコバラン氏は述べた。

今回のラウンドには、医療や放射線の専門家、医療技術に関心のある富裕層など、さまざまな投資家が参加した。

マレーシアで生まれ育ったコバラン氏は、オハイオ州立大学でコンピュータサイエンスを学び、卒業後は人工知能を専門とするようになった。その後、研究のため、そして好奇心から、GPUを使った人工知能を医療画像の分類に応用し、その結果「インターネット上で医療画像のゼロレイテンシーのインタラクティビティを可能にする」プラットフォームの開発につながった。

このプラットフォームは、ソフトウェアを使用する病院のテクノロジーコストを約50%削減するように設計されていて、施設のニーズに応じて拡張または縮小することができる。また、医師が世界中のどこからでも患者やそのデータにアクセスできるようになり、よりスピーディーな治療が可能になる。

コバラン氏は、このプラットフォームを利用して、画像がオンプレミスで管理されているために共同作業がしづらいという医療画像の現状を変え、人工知能を活用したものにしたいと考えている。LifeVoxelはこの技術を使って、インテリジェントな可視化による診断結果の向上を目指している。

「専門家が不足している地方の人々は、どんなデバイスでも放射線技師のワークステーションにすることができるこのプラットフォームによって、都市部と同じように画像検査のレビューで専門医のネットワークにアクセスできます。最近ではパンデミックの間に、これまでにないインタラクティブな3D VRテレプレゼンスを実現するために、数千マイル離れた遠隔地のプロクターと手術室内の外科医との間でこのような技術が展開されました」。

新型コロナパンデミックをきっかけに、より多くの医療機関がリモートや遠隔医療の機能を拡大している中で、LifeVoxelの技術はタイムリーなものだ。加えて、従来のクラウドベースのシステムから脱却し、患者の予後を向上させるためにAI技術を採用する病院が増えている。

LifeVoxelの共同創業者で社長兼CEOのSekhar Puli(シェーカル・プーリー)氏は「医療用画像処理および放射線科には、従来のシステムの不備を補うダイナミックなソリューションが必要です」と話す。

「今回の資金調達により、世界中の医療用画像アプリケーションの事実上のプラットフォームになるというビジョンを加速させるだけでなく、ヘルスケアの未来のために、遠隔医療イメージングや高度な技術ベースのAIソリューションを大きく前進させることができるでしょう」。

画像クレジット:phuttaphat tipsana / Getty Images

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(文:Annie Njanja、翻訳:Nariko Mizoguchi

デジタルファースト企業のグローバル税務を支援するFonoaが約23億円調達

商品、コンテンツ、あるいはサービスをグローバルに販売すると、税務上の問題が数多く発生する。世界的にクロスボーダー取引が急増する中、デジタルファーストの企業は、国際的に成長・拡大していく中で、グローバルな税務・コンプライアンス問題を理解し、管理するという課題に直面している。

アイルランドのダブリンを拠点とするFonoa(フォノア)は、Uberの元社員であるDavor Tremac(ダボール・トレマック)氏、Filip Sturman(フィリップ・スターマン)氏、Ivan Ivankovicz(アイヴァン・イバンコビッチ)氏の3人によって創業された。設立2年の同社は、デジタル企業がインターネット販売で徴収すべき税金を決定し、計算するためのAPIを開発した。

Lime、Uber、Teachable、Zoomなどの企業の税務コンプライアンス維持をサポートしているFonoaは、オンラインで販売される商品やサービスが特に国際マーケットで増加しているのに伴い、シリーズAラウンドで2050万ドル(約23億円)を調達した。Fonoaの顧客は配車サービス、モビリティ、フードデリバリー、SaaS、eコマースなどの業界が中心で、またサブスクリプション企業も含まれる。

FonoaのAPIは顧客の既存のデータを「簡単」に統合できるため、顧客は何時間もかけて手作業で税金に関する問題を解決する必要はない、とCEOのトレマック氏は話す。自動化されたサービスへの需要の高まりを受けて、Fonoaが扱う年間税務案件は3億件を突破した。B2BのSaaS事業者として同社は「非常に健全なマージン」を確保しており、トレマック氏によると、2020年12月以降、売上高は7倍に増えた。

「デジタルの世界では、企業と顧客は世界規模で取引を行います。国の国境はもはや制限要因ではなく、テクノロジーがグローバル取引をかつてないほどのスピードで推進しています」と同氏は話す。「規制当局による監視の強化と相まって、より自動化された信頼できる方法で税務問題に対処することは、これまで以上に緊急の課題となっています」。

Fonoaによると、同社は「プラグアンドプレイ・モジュラー・プラットフォーム」を提供していて、取引が行われた後に買い手と売り手の税務上のステータスを確認して正しい税金を計算し、地域の規制に準拠した請求書を作成することができる。また、必要に応じて、その国の政府に取引内容をリアルタイムで自動報告することも可能だ。

画像クレジット:Fonoa

新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、Fonoaの成長は「著しく」加速したと、トレマック氏は語る。

「オンラインでの取引にはそれぞれ税金がかかるため、オンラインでの販売が増えるということは、我々の仕事も増えるということです」。

OMERS VenturesがFonoaのシリーズAラウンドをリードし、Index Ventures、FJ Labs、Moving Capitalが参加した。Indexは2020年11月に450万ドル(約5億円)のシードラウンドをリードしたが、これは未発表だった。その他の出資者には、OpendoorとUberでCOOとCFOを務めたGautam Gupta(ゴータム・グプタ)氏、Eventbriteの創業者であるKevin Hartz(ケビン・ハーツ)氏、DoorDashのCFOのPrabir Adarkar(プラビール・アダーカー)氏、GoCardlessの元COO、Carlos Gonzalez-Cadenas(カルロス・ゴンザレス・カデナス)氏、FastのCOOであるAllison Barr Allen(アリソン・バー・アレン)氏などが含まれる。

Uber出身の創業者たちは、税金を正しく計算して世界中の当局に報告することがいかに難しいかを身をもって体験した。そこで、インターネット経済全体のために税金を自動化する技術の開発に着手した。

Fonoaは現在、100カ国以上の国で税金計算の自動化をサポートしており、今回の資金調達により、年内に140カ国超に拡大することを目指している。また、今回の資金を雇用にも充てる予定だ。Fonoaはダブリンを拠点としているが、最近の他の多くのスタートアップと同様にリモートを基本としていて、現在60人のチームが15カ国で働いている。米国、欧州、アジア、中南米で、エンジニアリング、プロダクト、営業、人事、オペレーションなどの分野の人材をさらに60人採用する計画だ。また、今回の資金は、現在の製品のカバー範囲を広げるためにも「まったく新しい製品を作るため」にも使う、とトレマック氏は話す。

同氏は「目の前に膨大な機会があり、利用可能なすべてのリソースを使って、成長を倍増させようとしています」とTechCrunchに話した。「我々は、すべての地域で、すべての製品に関連するすべてのユースケースをカバーするまで、事業拡大します」。

Index VenturesのプリンシパルであるHanna Seal(ハナ・シール)氏は、Fonoaが国際的に事業を展開している企業の成長を解き放ち、そうでなければそうした企業は各国の複雑な税制で「身動きが取れなくなる」と考えている。

シール氏は「単なるバックオフィスの自動化ではなく、成長を可能にすることにFonoaが焦点を当てている点に惹かれました」とメールに書いた。「複数のマーケットでUberを運営してきたFonoaの経営陣は、国境を越えて事業規模を拡大する際の課題を深く理解しており、企業が新たな地域をシームレスに追加して拡大できるような製品を開発してきました」。

OMERS Venturesのマネージングパートナー、Jambu Palaniappan(ジャンブ・パラニアパン)氏は、Fonoaのプロダクトを「市場で最高かつ最も完全な製品」と評した。

「Fonoaは、検証からリアルタイムのレポート報告まで、税務の全工程に注力しており、コンサルティングではなくテクノロジーを製品の中核に据えています。世界中の政府がこれまで以上にコンプライアンスに関心を寄せている今こそ、Fonoaが世界に通用するプラットフォームを構築する絶好の機会です」。

画像クレジット:Fonoa

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(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Nariko Mizoguchi

ナイアンティック「現実世界のメタバース」構築のために約344億円調達、評価額1兆328億円に

「Pokémon GO(ポケモンGO)」などのゲームを開発する拡張現実プラットフォームのNiantic(ナイアンティック)は、Coatueから3億ドル(約344億円)を調達し、同社の価値は90億ドル(約1兆328億円)に達した。サンフランシスコを拠点とし、Googleからスピンアウトしたこのスタートアップは、この資金を使って「現実世界のメタバース」と呼ばれるものを構築する予定だ。

Nianticの創業者兼CEOであるJohn Hanke(ジョン・ハンケ)氏は、2021年8月以降、メタバース(少なくとも「レディ・プレイヤー1」のようにVRヘッドセットに拘束されるようなもの)を「ディストピアの悪夢」と呼んでいる。VR技術への投資を示すために社名を「Meta」に変更したFacebookとは違い、Nianticは人々を外の世界に近づける技術を開発したいと考えている。2021年11月初め、NianticはAR開発キット(ARDK)「Lightship」を発表した。これは、ARゲームを開発するためのツールを公開するというもので、ゲームエンジン「Unity」の基本的な知識を持っていれば誰でも無料で利用できる。

関連記事:Nianticが「現実世界のメタバース」というビジョン&AR開発者キット「Lightship」を発表、AR体験構築をよりアクセシブルに

「Nianticでは、人間はバーチャルな世界がフィジカルな世界につながるときに最も幸せだと考えています。SFのメタバースとは異なり、現実世界のメタバースは、何千年も前から知られている私たちの世界における経験を向上させるためにテクノロジーを活用します」とハンケ氏は語っている。

今回の資金調達は、Coachella、Historic Royal Palaces、Universal Pictures、SoftBank、Warner Music Group、PGA of Americaといった企業が拡張現実(AR)体験の構築に使用しているARDKの拡張に役立てられる。ARプロジェクトでは、VRヘッドセットのようなまだ多くの人がアクセスできない技術を使うのではなく、主にスマートフォンを使って、人々が外の環境を探索するように促す。例えば、毎日その前を通る壁画があるとして「ポケモンGO」では、ユーザーが作成したポケストップの説明文を見れば、その壁画が実際に何を表現しているのかがわかるかもしれない。Nianticによると、毎月何千万人もの人たちが同社のゲームをプレイしており、登場以来、ゲーム内でプレイヤーは109億マイル(約175億418万km)以上歩いているという。

CoatueのゼネラルパートナーであるMatt Mazzeo(マット・マッツェオ)氏は「Nianticは、3Dの世界地図をベースにしたARのプラットフォームを構築しており、次のコンピューティングの移行期において重要な役割を果たすと考えています。私たちは、このインフラが現実世界のメタバースを支え、インターネットの次の進化に貢献すると考えているため、Nianticとの提携に興奮しています」と述べた。

VRのメタバースはハンケ氏の目には「ディストピア」に映るかもしれない。しかし、他のテクノロジーと同様にARにも問題がないわけではない。Nianticの最新ゲーム「Pikmin Bloom(ピクミンブルーム)」は、歩くことを中心にデザインされており、高齢者や障がい者のプレイヤーに疎外感を与えかねない。ポケモンGOには障がいを持つプレイヤーのコミュニティがあるが、Nianticはゲーム内での小さな調整で、移動手段が限られている人でもゲームをより利用しやすくすることができることを主張しなければならなかった。

それでも、NianticのビジョンはMetaのヘッドセットに依存した計画に代わるものだ。アプリ分析会社のSensor Towerによると、依然として「ポケモンGO」は大成功を収めており、2020年には10億ドル(約1148億円)以上を稼ぎ出し、2021年はすでにその収益を上回る勢いだという。しかし、すべてのゲームが愛されているわけではありません。同社は最近「Harry Potter:Wizards Unite(ハリー・ポッター:魔法同盟)」は、アプリ内の消費者支出と全世界でのインストール数が前年比で57%減少したため、終了すると発表された。しかし、独立系の開発者がNianticのLightship ARDKを手に入れれば「現実世界のメタバース」というコンセプトはさらに広がっていくだろう。

画像クレジット:Steve Jennings/TechCrunch / Getty Images

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Dragonfly)

GMが船舶用電動モーターメーカーPure Watercraftの株式25%を取得

General Motors(ゼネラルモーターズ、GM)は、シアトル拠点の電動ボート会社Pure Watercraft(ピュア・ウォータークラフト)の株式25%を取得した。GMの今回の動きは、2025年までに電気自律走行テクノロジーに350億ドル(約4兆200億円)を投資するというコミットメントの一環として、ボートやその他の車両を含むあらゆる電動の乗り物へ関心を広げていることを反映している。

Pure Watercraftは、25~50馬力のガソリンエンジンを搭載したボートのドロップイン代替として使用できる、Pure Outboardと呼ばれる全電動船外モーターシステムを製造している。また、大手ボートメーカーと提携し、はしけ、釣り用ボート、硬式ゴムボート2種など、電動ボートの完成品を販売している。

Pure Watercraftによると、ガソリンエンジンと比較して電気システムはメンテナンスが不要で、化石燃料による汚染もない。また、Pure Outboardでは15%の充電量で、20マイル(約32km)を航行する4時間近い釣りクルーズができる、と同社のウェブサイトにある。

同社は2020年9月、生産を本格化させるべくL37がリードしたシリーズAで2300万ドル(約26億円)を調達した。この9年前に、CEOのAndy Rebele(アンディ・レベレ)氏が会社を設立した。今回のGMの出資により、両社はバッテリー技術の共同開発と商業化を進め「GMの技術をさまざまな用途に統合していく」とGMは声明で述べた。

今回の出資は、道路交通車両や航空機を超えて、従来のガソリン駆動に支配され続けてきた輸送やモビリティの形態に電気技術が向かい始めていることを示す最新例だ。創業10カ月の電動船舶スタートアップArcは10月、複数の新しい投資家を迎え入れるなどし、総額700万ドル(約8億円)を調達した。また、シアトルのスタートアップZin Boatsは電動スピードボートの開発を進めている。

GMは、鉄道や航空宇宙など他のモビリティ産業での自社技術の利用をすでに検討していて、今回の動きは注目に値する。2021年初め、GMはWabtecと提携して水素燃料とバッテリーを使用した電気貨物機関車を開発した。また、Liebherr-Aerospaceとの提携で航空機用の水素燃料電池実証システムを共同開発することも発表した。

画像クレジット:Pure Watercraft

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Nariko Mizoguchi

キーワード検索を超える「ニューラル検索プラットフォーム」開発のJina.aiが約34億円調達

ベルリンを拠点とするJina.ai(ジナエーアイ)は、ニューラル検索を利用して、ユーザーが非構造化データ(動画や画像を含む)から情報を見つけ出すことをサポートしているオープンソースのスタートアップだ。同社は現地時間11月22日、Canaan PartnersがリードしたシリーズAで3000万ドル(約34億円)を調達したことを発表した。このラウンドには、新規投資家のMango Capitalの他、既存投資家のGGV Capital、SAP.iO、Yunqi Partnersも参加し、Jina.aiの資金調達総額は3900万ドル(約44億円)となった。

Nan Wang(ナン・ワン)氏、Bing He(ビン・ヘ)氏とともにJina.aiを創業したCEOのHan Xiao(ハン・シャオ)氏は、深層学習ニューラルネットワークを使って、従来のキーワードベースの検索ツールを超えるというのがニューラル検索だと説明する。伝達学習表現学習などの比較的新しい機械学習テクノロジーを利用することで、同社の中核のJinaフレームワークはデベロッパーが特定のユースケースに応じた検索ツールを迅速に構築するのに役立つ。

「画像、音声、動画などの場合、まずディープニューラルネットワークを使って、このデータフォーマットを普遍的な表現に変換します」とシャオ氏は説明する。「ここでは、ほとんどが数学的なベクトル、つまり100次元のベクトルです。そして、マッチングアルゴリズムでは、一致する文字数を数えるのではなく、数学的な距離、つまり2つのベクトル間のベクトル距離を数えます。このようにして、基本的にこの種の方法論を使って、あらゆる種類のデータ検索問題や関連性の問題を解決することができるのです」。

シャオ氏は、Jinaが検索のためのTensorFlowに似ていると表現した(TensorFlowはGoogleのオープンソースの機械学習フレームワークだ)。人々がAIシステムを設計する際のデザインパターンをTensorFlowやPyTorchが定義したように、Jinaは人々がニューラル検索システムを構築する方法を定義し、その過程で事実上の標準となることを目指している。

しかしJinaは、同社が現在展開する製品の1つにすぎない。Jinaベースのニューラル検索アプリケーションの構成要素を開発者が共有・発見できるマーケットプレイスであるJina Hub、あらゆるディープニューラルネットワークを微調整するためのツールである、最近立ち上げたFinetunerなども提供している。

「この1年半、我々は巨大なニューラル検索タワーの基盤となる中核インフラの構築に多大な労力を費やしてきましたが、その作業は終えました。今、我々はこの大きな建物の1階と2階を少しずつ構築しており、エンド・ツー・エンドの開発体験を提供しようとしています」とシャオ氏は話す。

同社によると、Jina AIの開発者コミュニティには現在約1000人のユーザーがいる。ビデオゲーム開発者がゲームエディターの右クリックメニューに関連するゲームアセットを自動入力するために使用したり、リーガルテックのスタートアップがPDF文書のデータを利用したQ&A体験をチャットボットで提供できるようにするために使用したりと、さまざまな用途がある。

オープンソースのJinaフレームワークには、2020年5月の発表以来、すでに200人近くの外部貢献者が参加していて、同社はこのプロジェクトに関するSlackコミュニティもホストしている。

「我々がオープンソースを採用している大きな理由は、オープンソースの速度にあります。私は開発の速度がソフトウェアプロジェクトの成功の鍵を握ると考えています。多くのソフトウェアは、この速度がゼロになってしまうことでダメになるのです」とシャオ氏は説明する。「我々はコミュニティを構築し、高速に反復するためにコミュニティを活用してフィードバックを集めています。我々のようなインフラソフトウェアにとってこれは非常に重要なことです。すばやく改善するには、使いやすさやアクセシビリティなどについて、一流の開発者たちにフィードバックしてもらう必要があります」。

Jina.aiは、今回調達した資金でチームを倍増させ、特に北米での事業を拡大する計画だ。増強したチームで、Jinaエコシステム全体を広げるための研究開発に投資し、新しいツールやサービスを立ち上げる。

「テキストデータ用に構築された従来の検索システムは、画像や動画、その他のマルチメディアがあふれる世界では機能しません。Jina AIは、企業をモノクロからカラーに変え、高速で拡張性があり、データにとらわれない方法で非構造化データを解き放ちます」とCanaan PartnersのJoydeep Bhattacharyya氏は話す。「オープンソースのフレームワークを使った初期のアプリケーションでは、意思決定の改善や業務の改善、さらには新たな収益源の創出などの機会をニューラル検索が支えており、未来の兆しがすでに見えています」。

画像クレジット:Jina.ai

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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Nariko Mizoguchi

Clubhouse似のソーシャルオーディオプラットフォーム「Walkie-talkie」は匿名性が高く若年層に人気

Picslo Corp(ピクスロ・コープ)が開発したソーシャルオーディオプラットフォーム「Walkie-talkie(ウォーキートーキー)」は、Heroic Ventures(ヒロイック・ベンチャーズ)が主導するシードラウンドを実施し、325万ドル(約3億7000万円)の資金を調達。このラウンドには、TI Platform Ventures(TIプラットフォーム・ベンチャーズ)、LDVP、Partech(パーテック)、Diaspora Ventures(ディアスポラ・ベンチャーズ)、Breega(ブリーガ)、Kima Ventures(キマ・ベンチャーズ)が参加した。Clubhouse(クラブハウス)に似たこのアプリは、2年前にサービスを開始し、現在120万人のアクティブユーザーを抱えている。

Picslo CorpのStephane Giraudie(ステファン・ジラウディ)CEOは以前、VoIPウェブ会議ソフトウェアのVoxeet(ヴォックスィート)を設立した人物だ。Voxeetは後にDolby(ドルビー)に買収され、Dolby.ioの基礎となった。ジラウディ氏がTechCrunchに語ったところによると、Walkie-talkieは、元VoxeetのエンジニアであるCorentin Larroque(コランタン・ラロック)氏とValentin Martin(ヴァレンティン・マーティン)氏の2人がサイドプロジェクトとして制作したものだという。ラロック氏とマーティン氏がWalkie-talkieを市場に投入して、いくつかの国で有機的な成長を遂げた後、ジラウディ氏がチームに加わった。

「私たちはこれまで多くのコミュニケーションアプリを作ってきたので、それは間違いなく私たちの得意分野だったと思います。しかし、当時はポッドキャストが台頭しており、Clubhouseはまだ存在していませんでした。特にZ世代やアンチソーシャルネットワーキングの動きから、オーディオが再び注目を集めていました。Instagram(インスタグラム)では、自分のイメージや見た目が重視されるため、絵に描いたような美しさが求められます。Walkie-talkieの場合は、匿名性が高く、批判されることなく自分らしくいられるという要素があります」と、ジラウディ氏は述べている。

Walkie-talkieでは「frequencies(周波数)」と呼ばれるオーディオルームをホストすることができ、これは公開と非公開のどちらにも設定できる。非公開の周波数では友人と安全に会話ができ、公開した周波数では世界中のユーザーとさまざまなトピックについて会話ができる。同社は最近、ラジオのような周波数スキャン機能を導入した。ユーザーはボタンを押すだけで、さまざまなライブオーディオルーム(周波数)をスキャンし、自分の興味に最も合ったものを見つけられる。

Walkie-talkieとClubhouseの比較についてジラウディ氏に尋ねると、Clubhouseは年齢層の高いユーザーを対象としており、ルームの話題がより精選されているのに対し、Walkie-talkieは若年層をターゲットにしており、あまり構造化されていないフォーマットになっているとのこと。また、Walkie-talkieのユーザーの多くは、サービスを紹介するTikTokの動画を見て有機的にアプリを見つけ、それが少しだけ話題になったことを、同氏は指摘した。

ジラウディ氏によると、今回のラウンドで調達した資金は、同社のグローバルリーチを拡大するとともに、オーディオインフルエンサーが新たな発見、収益化、分析を可能にする新機能を構築するために役立てる予定であるという。同社は製品、エンジニアリング、オペレーションの各部門を拡張することも計画している。また、Walkie-talkieではドルビーと共同開発した新技術を活用して、ユーザーがアプリ上で新しいクリエイターを発見できるようにしていくと、ジラウディ氏は語っている。同社では、クリエイターがWalkie-talkie上でフォロワーとコミュニケーションを取り、交流する方法を促進したいとも考えている。

「インフルエンサーの人達には、さまざまなプログラムを提供する用意があります。また、新たな体験を提供することで、アプリ上で見られる現在のユースケースを強化していくつもりです」と、ジラウディ氏は語る。

同社のシードラウンドが行われたのは、新型コロナウイルスの影響からソーシャルオーディオのアプリや機能が人気を博していた時のことだった。Clubhouseの台頭により、Twitter(ツイッター)やFacebook(フェイスブック)などのソーシャルメディアの巨人たちは、市場シェアを獲得するために独自のライブ音声会話ルーム機能を起ち上げた。しかしながら、現在は多くの国で集会に関する規制が解除され、対面式のイベントが戻りつつあるため、ライブ音声会話ルームを提供する企業は、新機能を導入したり利便性を向上させることで、ユーザーの維持に努めている。

Twitterは最近、ユーザーが自分の音声会話ルーム「Spaces(スペース)」へのダイレクトリンクを共有できる機能を導入し、他のユーザーがTwitterにログインしなくてもウェブ上でライブ音声セッションに参加できるようにした。一方、Clubhouseは、会話の録音や共有が可能になるクリップやリプレイと呼ばれる新機能をサポートし、非リアルタイムで「後聞き」できる機能を拡充した

Walkie-talkieについては、ジラウディ氏はこのプラットフォームを、時間の経過とともにより大きなネットワークへと成長していく、これまでとは異なる種類のソーシャルオーディオアプリとして捉えている。

「Walkie-talkieは単なるコミュニケーションツールに留まらないため、私たちは非常に興味深いソーシャルネットワークの始まりを目の当たりにしています。ユーザーはどんどん友だちを増やしていき、友達が増えれば増えるほど、アプリに費やす時間も増えていきます。だから私たちは、彼らがちゃんとポジティブな体験ができるようにしていくつもりです」と、ジラウディ氏は述べている。

画像クレジット:Walkie-talkie / Picadilly Posh

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(文:Aisha Malik、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

データ活用支援のDATAFLUCTが2.5億円の資金調達、マルチモーダルデータプラットフォーム開発を強化

画像や動画、音声、文書などの異なる様式のデータを統合的に処理する「マルチモーダルデータ」の活用サービスを提供するDATAFLUCT(データフラクト)は11月22日、日本政策金融公庫の融資により2億5000万円を資金調達したことを発表。今回の資金調達は、「新株予約権付融資制度」を活用した融資により実施した。同制度は、新たな事業に取り組み株式公開を目指すベンチャー企業を対象に、融資と同時に日本政策金融公庫が新株予約権を取得することで無担保で資金を供給するというもの。これによりDATAFLUCTの資本性および負債性資金の累計調達金額は6億9000万円となった。

DATAFLUCTは2019年の創業以来、「データを商いに」というビジョンのもと、社会課題の解決を軸に各業界に特化したデータサイエンスサービスを展開。11月時点で公開したサービス数は20を超える。スタートアップの活躍が期待されるESGやSDGsの視点からも新たな課題に取り組み、7月には「脱炭素」を事業機会に変えるアイデアとして、決済データから消費のカーボンフットプリントを可視化するサービスを公開し、事業化に向けた取り組みを進めている。

企業の9割以上の企業がDXに着手できていないという現状の中(経済産業省「DXレポート2(中間取りまとめ)」)、DATAFLUCTは多数の大手企業のDXを支援してきた。今回調達した資金は、マルチモーダルデータプラットフォームサービスを中心とした新規サービス開発および既存サービスの強化、マーケティング強化にあてられる。構造化・非構造化を問わず、あらゆる種類のデータをつなげて資産化し、ノーコード、エンドツーエンドで活用できる環境を提供する「マルチモーダルデータプラットフォーム構想」の実現に向け、新規サービスの投入および既存サービスの強化に順次取り組む予定。

11月下旬には、ノーコードのエンドツーエンド機械学習プラットフォーム(マルチクラウドAutoML)「DATAFLUCT cloud terminal.」をリニューアル。12月中旬には新規サービスとして、社内に散在するデータや外部のオープンデータの集約のほか、非構造化データの構造化などの前処理をAI技術で実行しカタログ化するデータレイク/データウェアハウス「AirLake」(エアーレイク)を提供開始する予定。データ活用支援のDATAFLUCTが2.5億円の資金調達、マルチモーダルデータプラットフォーム開発を強化

今後も、SCM(サプライチェーンマネジメント)のための需要予測プラットフォームサービスやノーコード対話型BIプラットフォームサービスを投入し、オールインワンでソリューションを提供するため事業の強化を目指す。これまでに分析の材料とされていなかったデータを利用したり、データ同士を新たに組み合わせられる環境を提供することで、これまでにない洞察を獲得できる「データの資産化」を推進するサービスを継続的に開発し、専門知識や技術の有無にかかわらず利用できるUI/UXの採用によってデータ活用人材の拡張を図りたいという。

「ブロックチェーン技術拡大のためのサービス」を展開するAlchemy、半年で評価額7倍の3990億円に

共同創業者でCEOのニキル・ヴィスワナサン氏とCTOのジョー・ラウ氏(画像クレジット:Alchemy)

半年前に5億500万ドル(約575億円)の評価額で8000万ドル(約91億円)を調達したSaaS(Software as a Service、サービスとしてのソフトウェア)スタートアップ企業、「Alchemy(アルケミー)」。ブロックチェーンおよびWeb3の開発を手がける同社は、このたびシリーズC資金調達ラウンドで2億5000万ドル(約285億円)を調達し、評価額は35億ドル(約3990億円)となった。

詳細を知る関係筋によると、Andreessen Horowitz (アンドリーセン・ホロウィッツ、a16z)が主導したこの資金調達には、多数の大手ベンチャー企業がラウンドに参加するだけでなく、主導することを求めて群がり、非常に競争の激しいものとなった。

今回の資金調達は、Alchemyの評価額が半年間で7倍という驚異的な伸びを示したことの他にも、いくつかの点で注目を集めている。1つは、a16zがこれまでに実施したWeb3 / ブロックチェーン関連の投資の中でも最大規模のものであること。a16zは、2021年6月に22億ドル(約2500億円)の暗号化ファンドを発表し、この分野に本格的に取り組んでいることを示した。参考までに、Web3とはブロックチェーンを中心とした一連のプロトコルのことで、インターネットのバックエンド機能に改革を起こすことを意図するものである。

さらに興味深いのは、Alchemyが多くのスタートアップ企業にとってなかなか実現できないもの、つまり収益性を達成したことである。

AlchemyのCEOで共同設立者のNikil Viswanathan(ニキル・ヴィスワナサン)氏によると、同社は「実際に非常に収益性が高い」という。この数カ月間で、同社の提供するサービスに対する需要が爆発的に増加し、前回4月の資金調達時と比べて収益が15倍になったことで高い収益性を実現できたそうだ。CTOで共同設立者のJoe Lau(ジョー・ラウ)氏は「シリーズBラウンドで調達した8000万ドル(約91億円)には手をつけていない」と話す。

「(シリーズBの)資金はすべて銀行に残っています」とラウ氏。「資金は必要ではありませんでしたが、私たちは、ブロックチェーンの分野で深い技術的専門知識を備えたチームを所有するホロウィッツ氏のようなすばらしいパートナーと手を組むことに価値があると考えました」。

簡単に説明すると、AlchemyはAWS(Amazon Web Services)がインターネットで実現したものを、ブロックチェーン / Web3で実現したいと考えている。Alchemyの目標は、ブロックチェーン上のサービスを検討している開発者のスタート地点となること、すなわちブロックチェーンアプリケーションのメインストリームになることである。Alchemyの開発者ツールは「必須の」開発者ツールを使ってアプリケーションを改良することで、インフラ構築の複雑さを解消し、コストを下げることを目指している。Alchemyは2020年8月にサービスの提供を開始した。

現在、Alchemyは、金融機関、取引所、1000億円規模の分散型金融プロジェクト、ユニセフを含む多国籍組織など、ほぼすべての業界におけるブロックチェーンのさまざまな取引を強力にバックアップしている。同社のテクノロジーはMakersPlace(メーカーズプレイス)、OpenSea(オープンシー)、Nifty Gateway(ニフティゲートウェイ)、SuperRare(スーパーレア)、CryptoPunks(クリプトパンクス)など、あらゆる主要なNFTプラットフォームを支える技術としても急速に普及している。その他にも、Dapper Labs(ダッパーラボズ)、Axie Infinity(アクシーインフィニティ)、最近契約したAdobe(アドビ)のようなブロックチェーン上に(サービスを)構築しているフォーチュン500企業、PricewaterhouseCoopers(プライスウォーターハウスクーパース)などが顧客として名を連ね「DeFi(Decentralized Finance、分散型金融)の大部分」にもサービスを提供している。

4月の増資時は300億ドル(約3兆4100億円)であったAlchemyと世界中の企業との取引は、現在450億ドル(約5兆1200億円)以上に増加。同社がサポートするブロックチェーンの数も拡大している。

「私たちのプラットフォームは、多少なりともEthereum(イーサリアム)に絞って対象としていましたが、多くの需要に支えられ、ポリゴン、アービトラム、オプティミズム、フローにまで拡大しています」とラウ氏は話す。

画像クレジット:Alchemy

ヴィスワナサン氏は新しい開発者も増えている、と指摘する。

同氏は次のように続ける。「Alchemyに参加するチームや企業が増え、チームや企業ごとに多くの開発者が私たちのプラットフォームを利用するようになりました」「つまり、すべての方面で成長しているのです」。

爆発的な成長にもかかわらず、Alchemyはまだ小規模なチームである。現在の従業員数は37名、本社をサンフランシスコに置き、ニューヨークオフィスの他、世界各地でリモートスタッフが業務にあたっている。

Alchemyは、新たな資本のほとんどを、ブロックチェーンを中心としたコミュニティの構築への投資に利用する予定である。同社の幹部は、市場がまだ小さく、この分野が持つチャンスが不透明だった2017年という適切な時期に事業をスタートさせることができた、と考えている。

ラウ氏は次のように話す。「私たちの究極の目標は、ブロックチェーンが持つ可能性を実現することです」「リソースを増やして、開発者がこの分野に参入し、より効果的かつ迅速にブロックチェーン上のサービスを構築できるようにすることで、これを実現したいと考えています」。

ヴィスワナサン氏は「Alchemyは近年のブロックチェーンの盛り上がりと人気に重要な役割を果たしている」と考えている。

同氏はTechCrunchの取材に対し、次のように話す。「ブロックチェーンの成長とともにAlchemyが成長しただけではありません。私たちはブロックチェーンのエコシステムの成長にも貢献しています」「私たちが良いツールを提供すれば、開発者はもっとサービスを作りやすくなります。それをより多くのユーザーが利用し、さらに多くの開発者がサービスを開発し、私たちはさらにツールを改良する……好循環ですね。Alchemyはこのサイクルの回転を支援している、と考えています」。

画像クレジット:Alchemy

a16zのジェネラルパートナーであるAli Yahya(アリ・ヤヒヤ)氏は、Alchemyをブロックチェーン / Web3の成長における「重要な推進者である」と表現し、AlchemyはすでにWeb3の「事実上(デファクト)の開発者プラットフォーム」であると話す。

ヤヒヤ氏はメールに「Microsoft(マイクロソフト)やAWSがコンピューターやインターネット業界をサポートするプラットフォームを構築したように、Alchemyのプラットフォームは、世界中で何百万、何千万もの人々が利用するブロックチェーンサービスの構築を可能にします」と記し、Alchemyの成長は関連するすべての指標で「驚異的」だと付け加えた。

Alchemyの前回のラウンドに投資した、Google(グーグル)の会長であり元スタンフォード大学学長のJohn L. Hennessy(ジョン・L・ヘネシー)氏は、ヤヒヤ氏の意見に同意し、さらにもう1つ、注目すべき比較を行った。

ヘネシー氏は「Alchemyは、AWSがクラウドを実現したのと同じように、ブロックチェーン業界の成長を後押ししています」「Alchemyのテクノロジーに対する興奮を見ていると、Googleの初期の頃を思い出します」とメールに記す。

シリーズC資金調達ラウンドには、Lightspeed Venture Partners(ライトスピードベンチャーパートナーズ)とRedpoint(レッドポイント)も新たな投資家として参加した。すでに投資を行ってきたCootue(クートゥー)、Lee Fixel’s Addition(リー・フィックセルアディション)、DFJ(ディーフェフジェー)、Pantera Capital(パンテラキャピタル)は、Alchemyへの投資を倍増させた。Alchemyは2017年の設立以来、合計で約3億4500万ドル(約393億円)を調達したことになる。

Alchemyにはこれまで、Chainsmokers(チェインスモーカーズ)のMantis(マンティス)ファンド、俳優のJared Leto(ジャレッド・レト)、Glazer family(グレイザー家、タンパベイ・バッカニアーズやマンチェスター・ユナイテッドFCのオーナー)、ヤフーの共同設立者で元CEOのJerry Yang(ジェリー・ヤン)、Coinbase(コインベース)、SignalFire(シングルファイヤー)、Samsung(サムスン)、スタンフォード大学、Charles Schwab(チャールズ・シュワブ)、LinkedInの共同設立者Reid Hoffman(リード・ホフマン)などが出資を行ってきた。

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(文:Mary Ann Azevedo、翻訳:Dragonfly)

ますます活躍する時間給労働者のシフト調整などを行うメッセージアプリ「When I Work」が約226億円調達

時間給労働者は全労働人口の約55%を占めているが、仕事の世界のために構築されたテクノロジーに関しては、いわゆる知識労働者がその空間を支配している。米国時間11月1日、前者のニーズに特化して作られたアプリを提供する企業が大規模な資金調達ラウンドを発表した。ビジネスソフトウェアの進化する展望、そして時間給労働者とシフト制労働者がますます活躍していることを示すものだ。

When I Work(ウェン・アイ・ワーク)は、企業に雇用されている時間給労働者のシフトへのサインアップ、同僚とのシフト交換、シフトに入れないときの経営者や他者への通知などを可能にする、広く利用されているメッセージングプラットフォームだ。同社はこのほど2億ドル(約226億円)の資金調達ラウンドを完了した。この資金は事業開発とプロダクトの拡充に充てられる。

今回の資金は単一の投資家であるBain Capital(ベイン・キャピタル)、具体的にはそのTech Opportunities Fund(テック・オポチュニティーズ・ファンド)によるもので、両者は評価額を明らかにしていないが「過半数の成長投資」と説明しており、約4億ドル(約451億円)を示唆している。When I Workの収益性は好調で、2020年の6月から続いている、とCEOのMartin Hartshorne(マーティン・ハートショーン)氏はインタビューで語っている。パンデミック渦中の生活と経済の不確実性の深刻さを考えると注目に値するものだ。11年前に2400万ドル(約25億円)ほどの資金を調達後、同社が確保した堅調な伸びが、今回の資金調達の理由につながった。

「当社は新たなフェーズに入りました」と同氏は述べ、現在の成長率は「35%を超えて」おり、利益を生み出していることを明らかにした。「顧客はプロダクトを気に入り、企業文化は実に優れています。すばらしいものを手に入れて、新しい段階に挑戦する時を迎えました」。

これまでの投資家にはArthur Ventures(アーサー・ベンチャーズ)、Drive Capital(ドライブ・キャピタル)、Greycroft(グレイクロフト)、High Alpha(ハイ・アルファ)などが名を連ねている。

2010年にミネアポリスで創業したWhen I Workが提供するアプリは、小規模ビジネスや有名どころのフランチャイズ(Dunkin’[ダンキン]、Ace Hardware[エース・ハードウェア]、Ben&Jerry’s[ベン&ジェリーズ]、Kenneth Cole[ケネス・コール]など)を中心に、全米の約20万のビジネスで約1000万人の時間給労働者に利用されている。その成長の一部は、特に市場のニーズの変化に起因している。一部の小売業者は事業を閉鎖せざるを得なくなり、完全に閉鎖したところもある一方で、ヘルスケアなどの他のセクターは勢いを増してきた。

2021年の第2四半期に同社が「ワクチン接種オペレーションのスピンアップ」としてシフトベースのシステムを構築し、50社を超える顧客を獲得したことにハートショーン氏は言及した。同社は計画として、米国におけるオポチュニティの強化を継続し、国際的な展開で他の市場への進出を開始することを視野に入れている。

アプリ自体に関しては、主にシフト制や時間給のスタッフとのコミュニケーションを容易にするためのツールの提供において、その存在を認められてきた。こうした人々の勤務時間の特徴として、会議時間に合わせて全員が同時に仕事をしている可能性は低く、仕事中のスケジュールも変動する可能性があり、顧客のトラフィックや従業員自身の状況に応じてシフトする必要のあるスケジュールも存在する、という側面がある。

その名が示すように、When I Workの最も使用されている機能はシフト管理とチームとのコミュニケーションであり、このセグメントの労働者にとって最大かつ最も一般的な生産性の課題に対処している。しかし、時間の経過とともに、同社はオーディエンスとエンゲージメントを活用して他のサービス、例えば給与管理の促進(より特化した給与管理ソフトウェアとの相互接続)、労働レポートやアナリティクスを追加してきている。この部分は、自律的な成長としても、そしておそらく買収という形での成長としても継続していく要素として見込まれている。

仕事の世界に対応するソフトウェアは、この10〜20年の間、いわゆる知識労働者に主に焦点を当ててきた。コンピュータやスマートフォンを装備し、ソフトウェアやアプリに依存する仕事に縛られているこのセグメントは、より多くのソフトウェアツールに自然に適合してきたものの、どちらかといえば時が経つにつれて専門化されるだけであり、特定の業界やユースケースに対応するものとなっている。

しかし、デジタル変革および一般の人々の間のスマートフォン利用の増加は、職場におけるソフトウェア向けのプロダクトやユースケースの幅を広げ、より広い範囲の労働者の利用につながる新たなオポチュニティを数多く提供している。全体として、人々は日々の仕事以外の生活の中でアプリやその他のデジタルプロダクトを使用する方向にシフトしており、そうした人々はまた、自分たちの仕事をより簡単にするためのツールを求めていて、それを受け入れる準備もできている。

When I Workの場合、従業員は自分のスマートフォンにアプリをインストールする。これは、このカテゴリーの労働者の間で個人所有デバイスの持ち込みが知識労働者よりもさらに強い傾向にあることを示している(ログイン方法は他の仕事用アプリと同様で、自分が働いている会社と自分の携帯電話番号やメールの情報に基づいている)。ハートショーン氏によると、成長の大部分は口コミによるもので、以前の仕事で同社のアプリを使ったことがある従業員が、新しい雇用主にその導入を勧めているという。

しかしそのより広範なトレンドを考えると、競合他社が存在することは驚くに値しない。またそこまでの存在にはまだ至っていないものの、同じセグメントの労働者に対応していて、競合相手となるポテンシャルがある企業も存在する。その中には次のような企業が含まれている。2021年初めに7100万ドル(約80億円)を調達したHomebase(ホームベース)、ホームサービスのプロに特化したWorkiz(ワークイズ)、現在は採用およびフルタイム以下の従業員のシフトへの登録を主な目的としているFountain(ファウンテン)とWonolo(ウォノロ)、WorkWhile(ワークホワイル)、現在はフロントラインの労働者のための生産性プラットフォームとして機能しているYoobic(ヨービック)、Squareが2021年初めに買収したCrew(クルー)、現在700万の有料ユーザーを擁するWorkplace(ワークプレイス)、そして9月に上場申請を行ったJustworks(ジャストワークス)。これらの中には同じユーザー層を対象としながらも機能が異なるものもあるという事実は、When I Workのロードマップのようなものを提示しており、それがどのように拡張され得るかも示している。

Bain Capital Tech Opportunities(ベイン・キャピタル・テック・オポチュニティーズ)でマネージングディレクターを務めるPhil Meicler(フィル・メイクラー)氏は、 When I Workのエンゲージメントが、この大きなフィールドで同社のアプリをより魅力あるものにしていると語っている。When I Workは、ユーザーの85%が少なくとも週に1回ログインし、利用するアプリとなっている。

「今日の現代的なワークフォースにおいて、これほどあきらかな生産性向上と強い従業員エンゲージメントをもたらすソリューションは他に類を見ないものです」。時間給労働セクターの労働力不足が最近ますます深刻になっていることを指摘しながら、メイクラー氏は続けた。「それを大規模かつ効率的に行うことは、実行に困難をともないます。成長と収益性の組み合わせは、When I Workに私たちが大きな期待を寄せた理由の中核部分でした」。

同氏はまた、BainはHRスイートの拡大継続を目指して「マーティン(・ハートショーン)氏のビジョンを共有している」と付け加えた。「その目的は、従業員が他に何を使うのか、彼らの生活をより楽にするために私たちはどのように拡張できるのかという、従業員の目を通してプロダクトを構築することに置かれています。そしてWhen I Workにはスケジューリングのすばらしい基盤があります。自律的に、またM&Aを通じて成長していくための独自のオポチュニティを同社は有しています」。

画像クレジット:Dunkin’

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)

転職した過去の顧客に接触できるようになる、予測マーケティングと営業インテリジェンスツールのUserGemsが約23億円調達

商談に関心を示さない相手に割く時間を削減しつつ、商談が成立する可能性がある見込み顧客と接触する方法を見つけることは、営業とマーケティングの世界においていわば究極のゴールである。この度、UserGems(ユーザージェムズ)という名のスタートアップが、AIとデータマッピングを組み合わせて、B2Bの営業・マーケティングで手応えが得られそうな顧客候補を予測、特定するプラットフォームを開発、2000万ドル(約23億円)を調達したことを発表した。このプラットフォームにより、以前に取引があったが現在は別の仕事に転職している顧客と接触することが容易になる。この種の課題に取り組むセールステックに好機が訪れているようだ。

今回のシリーズAラウンドは、Craft Ventures(クラフト・ベンチャーズ)がリードし、Battery Ventures(バッテリー・ベンチャーズ)とTiger Global(タイガー・グローバル)が新たに参加した。また、以前から同社に投資しているUncork Capital(アンコーク・キャピタル)や、個人エンジェル投資家も参加しており、同ラウンドの調達額は合計2240万ドル(約25億5000万円)となった。

UserGemsは現在、Procore(プロコア)、Medallia(メダリア)、UserTesting(ユーザーテスティング)、Sisense(サイセンス)、BrightTALK(ブライトトーク)など、90社ほどの中堅企業を顧客に持つ。今回調達した資金は、製品開発と人材に投資する予定だ。

サンフランシスコに本社を置くUserGemsには、アイデアやビジネスが予期せぬ場から生まれて創業に至ったという興味深い背景がある。

UserGemsのCEO兼共同創業者であるオーストリア人のChristian Kletzl(クリスチャン・クレッツル)氏は、ノースウェスタン大学でMBAを取得してシカゴに住んでいた時、当時欧州のPwC(ピーダブリューシー)で働いていた双子の弟Stephen(スティーブン)に、米国に移住して一緒にスタートアップを立ち上げようという話を持ちかけた。

彼らは、書籍、電化製品などの中古品をより効率的に販売するeBay(イーベイ)やCraiglists(クレイグリスト)と同じ業界に参入すべく、ShelfFlip(シェルフフリップ)というeコマースソリューションを開発した。当初、彼らはこのアイデアでY Combinator(Yコンビネーター、YC)に応募し、合格したのだが、ShelfFlipのコンセプトはそれ以降、跳躍する様子はなかった。

クリスチャンは次のように語る。「私たちはShelfFlipでYCに参加したが、YC参加中にそのアイデアを捨てた。YC参加中に方向転換をした企業が数多くあることを知って力を得て、もう一度、新しいアイデアを一から考えた。数多くのYC同期企業やその他の企業と話をして、SmartHires(スマートハイヤーズ)のアイデアを生み出した」。SmartHiresは、同じ投資ポートフォリオ内のスタートアップの情報を参照できるネットワークだ。

TechCrunchは以前にこちらの記事で、2015年冬期のYCに参加した彼らのSmartHiresについて取り上げている。

クリスチャンとスティーブンのクレッツル兄弟が開発したSmartHiresには、顧客(特に、クリスチャンが「SmartHiresのメインの柱」の1つと呼ぶ顧客)が、ある企業から別の企業へと転職していくのをトラッキングできるソフトウェアが含まれている。スタートアップでは社員の入れ替わりが激しい。そのため、クレッツル兄弟がこのアイデアをYC同期に話したところ、SmartHiresに対してというより、そのアイデアに対して熱心な反応が返ってきた。

「私たちが実際に立ち上げた会社よりも、そのアイデアに関心を持った人の方が多かった。そこからUserGemsが生まれた。つまり、YC参加中に私たちは2回も方向転換をしたことになる」とクリスチャンは回想する。

UserGemsは「営業とマーケティングの動向」と「労働力の最新の動き方」という2つの基本的なアイデアに基づいて開発されている。

労働力に関しては、終身雇用の時代のみならず、同じ企業に数年務める時代もすでに終わりを迎えて久しく、今は「大退職時代」に入っている、とクリスチャンは指摘する。

UserGemsは、Google検索からニュース記事まで多岐にわたる公開された情報源から情報を収集、処理しているが、同社がトラッキングのために利用するデータベースやウェブサイトによると、最低でも20%の人が毎年転職するという。つまり、ある人が現在就いている職に翌年もとどまっているかどうかを定期的に予測するのは難しいということだ。

営業・マーケティングについては、デジタル時代の最中でデータドリブン化が飛躍的に進んだ。人々に関する情報をかつてなく大量に入手できるようになり、大人数に対して一斉にマーケティング目的の接触を図る作業を管理するソフトウェアや、それを実行するチャンネル、その成果を測定する分析ソリューションなども、かつてなく増えている。それでも、企業についてすでに知っている、あるいはその企業が売るものにすでに関心を持っている人にアプローチした方が、営業・マーケティングが成功する「命中率」は、各段にアップする。

UserGemsは基本的に、これら2つの状況を合わせたソリューションだ。営業・マーケティングツールとして、企業がすでに使用しているCRMと統合し、その企業と以前取引があった顧客をトラッキングすることにより、その顧客が別の職場に移っても取引が継続できるようにして「マーケティング対象の最有力候補」を作る。「これこそ、営業プロセスで使える宝の山だ」とクリスチャンは語る。

UserGemsが行っていることは、ある意味では新しいことではない、とクリスチャンは指摘する。優秀な営業担当者は元来、有望な営業先の記録を常に保持して定期的にチェックしている。その作業を基本的に誰でも「大規模に」行えるようにしたのがUserGemsだ。

これは、UserGemsが構築したプラットフォームの第1段階にすぎない。営業先の情報が集まると、ユーザーが誰と接触しているかを機械学習アルゴリズムが学習しはじめ、類似商品の利用状況や他のシグナルに基づいて、次にアプローチすべき営業先がレコメンドされるようになる。そのようにして、ユーザーは購買へとつながる可能性がより高い営業先を見きわめることができる。

UserGemsは、一方では、ZoomInfo(ズームインフォ)、LinkedIn(リンクトイン)など、特定の企業にいる的確な見込み顧客を探せるプラットフォームと競合している。また、もう一方では、一般的に「予測的営業」と呼ばれるセールステック分野で、急激に成長中のスタートアップであるPeople.ai(ピープルドットエーアイ、新型コロナウイルス感染症の影響で多少成長に陰りが見えたものの、持ち直して現在の評価額は10億ドル(約1140億円)を超えている)、LeadIQ(リードアイキュー)、6sense(シックスセンス、現在の評価額は20億ドル[約2280億円]以上)などと同業である。しかし、この分野は、頻繁に転職が繰り返される現在の傾向がこれからも続き、そのことが営業面での課題をさらに複雑にすることを考えると、その課題を解決するためのよりスマートなアプローチが今後も注目を集める分野だと言える。それこそ、エンタープライズ向けスタートアップの大型追加投資ラウンドにいくつも参加してきたTiger Globalのような投資会社がUserGemsに早期から投資している理由の1つだ。

Craft Venturesのパートナー兼COOであるBrian Murray(ブライアン・マレイ)氏は、声明の中で次のように語っている。「B2B営業・マーケティング担当者は現在、営業先のことを深く理解する点で困難に直面している。彼らの大半が、同じ方法で見込み案件を創出し、一般的な内容の営業用メールやそれに続くメールを何百通も送っている。多くの営業チームが目標を達成できず、顧客獲得コストが跳ね上がっていくのはそのためだ。UserGemsは、過去のユーザーが将来の商機であり、急成長中のチームにとって紛れもない価値を持つ財産となって、パイプラインを拡大し、勝率を高め、顧客離れを減らすということを理解している」。

画像クレジット:MicroStockHub / Getty Images

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)

Spot AI、通常のセキュリティビデオからより多くの情報を得るプラットフォームの構築に約25億円調達

多くの企業がセキュリティを確保し業務を遂行していくために職場空間を監視しているわけだが、セキュリティカメラは、良くも悪くも、この監視の本質的な部分を担っている。現在、あるスタートアップが突如姿を表し、さまざまなカメラで撮影された映像をより有益なものにするテクノロジーのために資金調達を行っている。Spot AIは、使用されたカメラのタイプや品質に関わらずその映像を「読み取り」、必要とする人誰もがそれらの映像を言葉やカメラに捉えられた画像で検索できるようにするソフトウェアプラットフォームを構築した。

Spot AIは、2018年以来そのテクノロジーと顧客層を静かに構築してきた。同社は現在数百の顧客と数千のユーザーを抱えており、その中にはテクノロジーを他に先駆けて導入しているSpaceXや輸送会社のCheeseman、Mixt 、Northland Cold Storageといった会社も含まれる。

現在Spot AIは、より広い範囲に製品を出荷しており、2200万ドル(約25億円)の資金調達を開示している。このうち、2000万ドル(約23億円)のシリーズAは、Redpoint Venturesが主導しBessemer Venture Partnersが参画し、また前回の200万ドル(約2億円)のシードラウンドはエンジェル投資家のVillage GlobalおよびStanford StartX(同社の3人の創設者はここの出身である)によるものだ。その他の投資家も参画しているが、名前は公表されていない。

現在、多くの企業が現在レガシーテクノロジーを使用しており、それによってギャップが生み出されているわけだが、Spot AIは、そのギャップを埋めることに狙いを定めている。今日職場の監視には、膨大な数のセキュリティカメラ(2019年における推定では米国内だけで7000万台)が使用されており、通常は建物の入り口、オフィスビル自体、工場、その他のキャンパス環境などに設置され、人の動きだけではなく動きのない物体をも監視し、また機械、出入り口、部屋など、ビジネスで使用される場所の状態を追跡している。

問題は、それらのカメラが非常に古く、アナログ設定であることであり、またハードウェアが新しいか古いかにかかわらず、そうしたビデオで捉えられた動画は非常に基本的な性質のものだという点である。そうしたビデオは単一の目的のために設定されており、インデックス化もできず、古い映像は消去され、また必要な時に機能しないことさえある。実際、セキュリティカメラの映像というものは、日頃は無視されており、実際に必要があって映像を見てみると、その映像がひどいか、まったく役にたたないことに気づく(見たいものが映っていないことを発見する)、ということがままある。優れた機能を持ったものもあるが、それらは非常に高価で、テクノロジーに疎いアナログ企業にすぐさま広く受け入れられるとは考えにくい。

これに加え、セキュリティカメラは、ビデオ監視システムの多面的で重要な役割にも関わらず、非難を受けている。この非難は、公共の場でセキュリティカメラがどのように使用されているかや(公共の安全の名の下に、そこに設置され、人々が望むかどうかにかかわらず、人々が行うすべてのことのを静かに観察し記録している)、プライベートなセキュリティビデオ映像が記録された後、どのように流用されるかという、公私両面の理由で発生している。プライベートなセキュリティビデオ映像の流用に関しては、AmazonのRingが映像を警察を共有する、といった意図的なものもあれば、意図しないものもある(企業向けのビデオシステムを構築しているスタートアップVerkadaのビデオにハッカーがアクセスしてその映像をどこか別のところに投稿した事例を参考までに見て欲しい)。

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CEO兼共同創設者のTanuj Thapliyal(タヌジュ・タプリヤル)氏はインタビューで、Spot AIは、善良な意図を持って上記の市場に参入中であると語った。セキュリティカメラはすでに重要な役割を担っているのであり、問題となるのは、セキュリティだけではなく、健康と安全を確保し業務を正常に行えるよう、より良い、より生産的な目的のために、いかにしてセキュリティカメラを使用するかを考えることだ、というのが同社の立場だ。

「(これらのカメラで捉えられた)映像データをより有益なものにし、また職場のより多くの人がそのデータにアクセスできるようにすれば、監視というアイデアからビデオインテリジェンスというアイディアへとそれを変革できるのです。これにより、重要な判断を下せるようになります」とタプリヤル氏はいう。彼はRish Gupta(リシュ・グプタ)氏とSud Bhatija(サド。ブハチジャ)氏とともに同社を創設した。同社の基本姿勢は、すでに多くのカメラが設置されているのだから、それらのカメラをより効果的に責任ある形で使用する方法を見つける必要がある、ということのようだ。

Spot AIシステムは現在3つの部分から構成されている。最初の部分は、Spot AIがオプションとしてすべての顧客に無料で提供する カメラセット で、現在はSpot AIとの契約を終了しても顧客はこれを保持することができることになっている。これらのカメラは5MP、IPベースのデバイスで、ビデオフィードの品質をアップグレードするように作られている。ただし、タプリヤル氏によると、Spot AIのシステムは必要とあれば、あらゆるカメラの映像に対応可能である。

2つ目の部分は、配置されたすべてのカメラからの映像を記録するネットワークビデオレコーダー である。これらは映像を処理し、読み取りを開始し、分類するAIチップを搭載したエッジコンピューターで、Spot AIのシステムの3つ目の部分を通して映像を検索可能なデータに変換する。

3つ目の部分は ダッシュボードで、これによりユーザーは映像をキーワードやプロセスで検索し、また現在のストリームに対しフレームを作成しそのフレーム内で何か注意すべきことが起きた時(例えば、ドアが開いている、または誰かがある領域に入った、または期待されているようにあるものが機能していないといったことまで)、通知を受け取れるようにすることができる。

ビデオサービスのこの部分は、時間の経過とともにより洗練されていく、というのが重要なポイントである(事実、ステルスモードからGAへの移行時にさえ、機能が追加されている)。そこではインターネットに接続されたデバイスを監視するためにデザインされた数多くのIoTが役目を果たす一方、Spot AIの売りは、接続されたデバイスが関係しているかどうかに関係なく、接続されているものと接続されていないものが物理的な空間でどのように移動しているかに、より注意を向けることができる、という点である。

タプリヤル氏にVerkadaについて報告されたセキュリティ問題(2021年始めにあった悪意をもったハッカーが関与した事件、および数年前に遡るが、Verkadaの従業員がビデオシステムを悪用した件の両方)について尋ねてみた。Spot AIはVerkadaがターゲットにしているのと非常に近い市場をテーゲットにしており(さらに偶然両社はともにCiscoに買収されたWi-Fiテック企業Merakiとつながりがあり、どちらも創設者はMerakiの元社員である)、Spot AIが同様の問題をどうやって回避するのか、考えざるを得なかったのだ。Spot AIの顧客もおそらく同じ質問をするだろう。

この質問に対し、タプリヤル氏は次のように答えた。「Verkadaはハードウェアを販売している企業で、彼らのクラウドソフトウェアは Verkadaのハードウェアでしか機能しません。またそれらはとても高価で、カメラ1台で数千ドル(数十万円)します(Spot AIの場合、設置費用は2200ドル(約25万1000円)からだが、カメラは無料)。またVerkadaは、アクセスコントロール、環境センサーなど、建物のセキュリティ向けのハードウェアを多く販売しています。それらは凄いソフトウェアを備えたすごい製品です」。

しかし「当社はハードウェアビジネスをしているわけではありません。私たちは映像へのアクセスや使用を容易にすることに注力しており、カメラハードウェアはお客様が望めばすべて無料で差し上げています。当社の狙いは、当社のサービスを通してお客様に映像からより多くの価値を得ていただき、それを足がかりとして、お客様からソフトウェアサブスクリプションを通じてより多くの仕事をいただく、ということです」。

またセキュリティについては、同社のコンセプトは他社とは大きく異なり「お客様間のアクセスをサイロ化し、システムへのアクセスに多重認証を必要とする」ゼロトラストアーキテクチャを中心に構築されている。

「他のテクノロジー企業のように、私たちは常に自社のサイバーセキュリティを見直し、問い直し、改善しています。私たちのゴールは、優れたウェブダッシュボードを提供し、お客様に適した最善のものを選んでいただくことです。例えば、映像のクラウドバックアップは、追加費用を払わなくてもお客様がオプトインできるオプショナルの機能です。この製品はサブスクリプションにすでに含まれているプライベートストレージやローカルストレージで機能します。これは、HIPAA要件を満たさなければならない医療関連のお客様に特に役立ちます」。

同社がセキュリティの問題に対応するための立場を取り、それにふさわしい製品を揃えているのはすばらしいことだ。このセキュリティ対応に実効性があるかは、実際試してみなければわからないし、またこれはビデオによる監視が悪用されることなく使用できるものであるという基本的な考え方に基づいている。多くの企業にとってこれは成功の見込みのないものかもしれない。とりあえず今指摘する価値があるのは、Spot AIは公共の安全や政府向けにビジネスを行うつもりはない、ということである。同社は私企業を対象に、彼らがセキュリティカメラへの投資と使用を再考してくれるチャンスに焦点を当てている。

事実、投資家に向けての主なメッセージは、Spot AIが非技術系の顧客も含め、できるだけ広い範囲の顧客を引きつけるに十分なユーティリティを備えたテックプラットフォームをいかに作成してきたかである。

「カメラを使用して日々の意思決定を行っている新規ユーザーや企業が殺到しています。レガシーベンダーが溢れかえっているこの業界では、Spot AIのソフトウェアに焦点を当てたモデルは、お客様にしてみれば、はるかに簡単な選択なのです」とRedpoint VenturesのMDであるTomasz Tunguz(トーマス・タンガス)氏は述べた。

また、Bessemer Venture PartnersのパートナーであるByron Deeter(バイロン・データー)氏は、次のように付け加えた。「本日、専有のAIカメラシステムにアクセスできるのは世界の最大手企業だけで、ほとんどの中小企業は取り残されています。Spot AIの使いやすいテクノロジーは、多くの企業(規模の大小に関わらず)による映像データの使用を促進するでしょう」。

画像クレジット:Spot AI

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)

アップル製デバイス管理のKandjiがシリーズCで約114億円調達、評価額は1年で10倍の約912億円に

Apple(アップル)製デバイス管理プラットフォームを展開するスタートアップ、Kandji(カンジ)は、急速に収益を伸ばし、高額な評価額と多くの投資を引き寄せ、かなり好調に推移している。同社は米国時間11月18日、8億ドル(約912億円)の評価額で1億ドル(約114億円)のシリーズCを調達したと発表した。この評価額は、2020年10月に2100万ドル(約23億9000万円)のシリーズAを実施した際の10倍に相当する。同社はその後半年足らずで、2021年4月に6000万ドル(当時約68億4000万円)のシリーズBを発表した。

今回の投資ラウンドは、Tiger Global(タイガー・グローバル)が主導し、Definition、Frontline Ventures、既存投資家であるFirst Round Capital、Greycroft、Felicis Ventures、The Spruce House Partnership、B Capital Group、SVB Capital、Okta Venturesが参加した。Kandjiはこれまでに1億8800万ドル(約214億4000万円)以上の資金を得ており、そのうち1億8100万ドル(約206億4000万円)は2020年10月以降に調達している。

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Kandjiは、中規模から大規模の企業向けにApple製デバイスを管理する方法を提供している。創業者兼CEOのAdam Pettit(アダム・ペティット)氏は、パンデミックや在宅勤務がインバウンド顧客の関心を高めたと述べている。実際、収益はここ1年間で700%以上も伸びた。

その理由の1つは欧州での成長の結果だ。同スタートアップはロンドンにオフィスを開設し、その地域の市場が収益構成に大きく貢献しているという。「我々は欧州で事業を開始したばかりです。ロンドンにオフィスを開設し、そこでは急速に採用を進めていく予定です」とペティット氏は語った。「そのきっかけは、とても興味深いものでした。当社は海外でのマーケティングをほとんど行っていませんが、この1年間でトップライン売上の約25%が海外からのものになっています」。

また、Kandjiがこのレベルの投資を受けていることを見て、長期にわたりビジネスを行っていくと安心感を持つ大口の顧客が一般的に増えているという。「長く活動していくにつれ、より大きな顧客を増やしてきました。そしてお客様は、当社がここに居続けると感じて下さっているようです」と同氏は語る。「それらの大規模なお客様の販売前後の管理を行うには、より高度なチームが必要です。この半年間、そのための準備を進めてきました」とも。

ペティット氏によると、このプラットフォームを利用している企業は1000社を超え、年初に40人だった従業員は現在250人以上に増えたという。同氏は、2022年までにはこの人数を400人にしたいと考えている。2021年初め、シリーズBの頃に話を聞いたとき、ペティット氏は、多様性に富んだ包括的な文化を築くことがいかに重要か、そしてそれは採用活動から始まると話していた。そのコミットメントは今も変わらないという。

「当社は実際に、パイプラインを拡大するために、さまざまな工夫をしています。通常のネットワークの外に出て、そうでなければ得られないような候補者を採用するようにしています。また、当社だけでなく他の多くの企業にとっても、リモートでの雇用は特定の市場をターゲットにしないという意味で、(多様性の構築に)大きな効果があります。それも、採用パイプラインの多様性を高めるのに非常に役立っています」と同氏は語った。

Kandjiはサンディエゴとロンドンにオフィスを構えているが、ペティット氏は同社はリモートファーストの会社であり、今後もそうしていくつもりだという。

画像クレジット:Kandji

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(文:Ron Miller、翻訳:Aya Nakazato)

「ゾーンに入る」のを助けるアプリ「Centered」、仕事が30%早く終わりストレスも軽減

Centered(センタード)は、ユーザーが1日の流れを確認する手助けをし、仕事が達成できるようにカレンダーを守り、軌道修正に役立つパーソナルアシスタントを追加することができるアプリだ。このアプリでは、仕事を成し遂げるために他の人たちとバーチャルな会合をしたり、仕事に集中するように脳を働かせるための心地よいビートを流したりすることもできる。この会社はまだプロダクトを発売したばかりだが、あなたが健全に仕事に打ち込めるようにするために、390万ドル(約4億5000万円)の資金を調達した。

何かを成し遂げたり、その作業を楽しんだ人であれば、おそらく「フロー状態」(人によっては「ゾーン」と呼ぶこともある)を経験したことがあるだろう。しかし、多くのオフィス環境は、そんな状態になることができないように設定されている。仕事を終わらせるために、早朝出勤や残業、休日出勤といった馬鹿げたことをする人もいる。「朝7時に出社して、電話が鳴り始める前にオフィスで時間を過ごすのが好きだ」なんてセリフを言っている、あなたのことだ。

Centeredのアプリは、チームのメンバーがビデオフィードを介して小さなサムネイルとして表示されるバーチャルなコワーキングセッションを提供する。つまりこれは、同僚があなたの姿を見ることができれば(ただし、音や会話は聞こえない)、あなたはコードをレビューしなければならないときに、スマホをいじったり、6杯目のコーヒーを飲みに行ったりする可能性が低くなるだろうという考えに基づくものだ。また、このアプリには「フローミュージック」と呼ばれる、ゆっくりとしたテンポの環境音楽も鳴らすことができ、脳に仕事をする時間だと納得させるために役立つ。さらにパーソナルアシスタントも用意されており、同社の創業者はこれを「生産性を向上させるSiri」と表現している。

「飛行機の中でヘッドフォンをしていると、突然、気を散らすものが一切ないような感覚になることがあるでしょう? 周囲に邪魔する人がいないため、短時間に今まで書いたことがないほどたくさんの文章を書くことができたりします。これがCenteredで再現しようとしている体験です。フローセッションを開始すると、Noah(ノア)が出迎えてくれます。このボットは、あなたの作業をガイドしてくれます」と、Centeredの創業者兼CEOであるUlf Schwekendiek(ウルフ・シュエッケンディック)氏は説明する。「このアシスタントは、割り当てられた時間の半分を過ぎると知らせてくれます。あなたが気が散っていることに気づいたら、仕事に集中するよう促してくれます。親が宿題をするはずのあなたがゲームボーイに夢中になっていることに気づいて、他のことをするべきだと注意するようなものです」。

Centeredの創業者兼CEO、ウルフ・シュエッケンディック氏(画像クレジット:Centered)

Centeredは米国時間11月17日、Uncork Capital(アンコーク・キャピタル)とYes VC(イエスVC)が主導する投資ラウンドで390万ドルを調達し、JLL Spark(JLLスパーク)、Shrug Capital(シュラッグ・キャピタル)、Basement Fund(ベースメント・ファンド)、AVG Basement(AVGベースメント)、Remote First(リモート・ファースト)の他、多くのエンジェル投資家からも支援を受けたことを発表した。

「この資金調達によって、いくつかのことが可能になりました。もう、私1人ではありません。コーディングやデザインなど、すべてを業者に依頼することはなくなります」と、シュエッケンディック氏は語る。「私たちは、エンジニアリング、デザイン、コンテンツの各チームに人員を配置し始めました。より大きなコンテンツ契約を結び、より良い音楽やボイスオーバーを利用できるようになりました。しかし、本当におもしろいのは我々が持つデータです。私たちはこのデータの活用を始めたばかりです。人々がどのように働いているかを私たちは知っています。他の誰にも真似できません」。

実行中のCenteredアプリ(画像クレジット:Centered)

シュエッケンディック氏は、同社がデータを匿名で集計し、安全に取り扱っていると断言している。今回のラウンドでは、評価額は公表されていない。

「何千人もの人々が当社の製品を利用しています。初期のユーザーは、見積もっていた時間よりも平均30%早く仕事を終えられ、その結果、より幸せになり、ストレスが減ったと報告してくれました」と、シュエッケンディック氏は述べている。「トップユーザーは、Centeredを生産性向上のためのオペレーティングシステムとして1日に3〜5時間ほど使用しています。第1週目以降のユーザー維持率はほぼ100%であることもわかっています」。

画像クレジット:Centered

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

機械学習運用基盤(MLOps)スタートアップの話をよく聞くようになってきた

スタートアップとマーケットの週刊ニュースレター、The TechCrunch Exchangeへようこそ。

ああ、先週の金曜(米国時間11月19日)の午後はちょっと苦労していた。米国にいない人には、ちょっと説明が難しい。簡単に言えば、先週の終わりになって、私たちの警察と司法のシステムのある種の欠陥が明るみに出たのだ(訳注:警察のヘリコプターから撮影されたとみられる大量の監視映像が米国で流出した)。というわけで、今回のExchangeニュースレターは予定よりも短くなる。

DevOps(デブオプス)の市場は多忙で、資金も豊富だ。例えば先日はOpslyft(オプスリフト)の話を聞いた。インドと米国にまたがるこの企業は、ソフトウェアを作成する際のポストデプロイメント側のツールをまとめた統合DevOpsサービスを開発している。すばらしい企業なので、もし資本調達を発表したら、もっと時間をかけて記事を書くことになるだろう。最近の記憶に残る別の例を挙げるなら、先日公開されたプレデプロイメントDevOpsサービスであるGitLab(ギットラボ)がある。

つまり、大小を問わずのハイテク企業はDevOpsツールを構築しているということだ。そして、機械学習運用基盤(MLOps、エムエルオプス)の市場は、大きな兄弟(DevOps)と同じように急速に成長し始めている。TechCrunchは、MLOpsスタートアップのComet(コメット)が今週資金調達したことを記事にしたが、これを読んでThe Exchangeは、MLOpsスタートアップの別の資金調達イベントであるWeights & Biases(ウエイツ&バイアス)のラウンド、を取り上げたことを思い出した。

関連記事:企業の機械学習利用の空隙を満たすMLOpsのスタートアップCometが約57億円調達

こんな話を持ち出したのは、先日私たちがSapphire VenturesのJai Das(ジェイ・ダス)氏にインタビューを行い、AIによる資金調達のトレンドについての情報を収集したからだ。その対話の中で、私はAIOps(エーアイオプス)のアイデアを持ち出し、それが私たちが注目すべき第3の「Ops」カテゴリーになるのではないかと口にした。しかし、ダス氏によれば「MLOpsは基本的にAIOpsです」ということなので、2つの大きなカテゴリーに考え方をほぼ限定することができる。

とはいえ、AI(人工知能)とML(機械学習)は正確には同じものではない(ここであまり争うつもりはない、大まかな話なので)よって、2つの異なるタイプの仕事が、同じソフトウェアの中に収まるかどうかは興味深いところだ。

さらにAIについて

AIのテーマに沿って、今回はAI市場についてもう少し触れてみよう。Anna(アンナ)記者が、世界の人工知能投資の動向を論じた最近のエントリーを踏まえて、メモを用意した。彼女は、今日のAIファンドがどこに使われているのか、また「AI」という呼び名にふさわしいものの定義が変わることで、スタートアップ活動のための資金量がどのように増えていくのかについて考えている。

地理的な格差が私たちの注意を引いたが、AIの定義や応用が広がれば、資金はより均等に分配されると考えている。例えば第3四半期に新たにラテンアメリカのAIユニコーンに選ばれたのは、フードテックのNotCo(ノットコ)とデジタルIDを提供するUnico(ユニコ)の2社だった、またメキシコの融資会社Kueski(キュースキー)も大規模なラウンドを行った。私たちはこれをフィンテックと呼んでいたが、これもまたAIを活用したも企業だ。それがAIの新たな現実だとすれば、ラテンアメリカやアフリカなど、世界のあらゆる場所で、AIを活用して現実の問題に取り組むスタートアップに資金が集まるようになるのも不思議ではない。

来週はカナダにお住まいの方にはぜひ読んでいただきたいものがあるのだが、今回のAI記事の締めくくりとして前回のAI記事には少し遅れてしまったPoint72 VenturesのSri Chandrasekar(スリ・チャンドラセカール)氏からの回答をご紹介しよう。

AIに特化したスタートアップの経済性についての質問に答えて、投資家であるチャンドラセカール氏は以下のようなコメントを寄せてきた。

最近のAIへの関心のほとんどは、大規模なラウンドを調達している企業たちの収益の成長によってもたらされているのだと思います。しかし、その増収の背景にあるのは、商品の需要の高さと労働参加率の低さという極めてシンプルなものなのです。これは、Point72 Venturesのディープテック・ポートフォリオ全体に見られることです。AIは人間を補強して生産性を向上させ、場合によっては自動化に適した作業を人間に代わって行い、人間はより付加価値の高い戦略的な活動に専念できるようになります。これまでは、こうした自動化を導入するための労力が大きかったのですが、(人材不足によって)カスタマーサービスのリクエストに対応する人や受付を担当する人を雇うことができなくなると、自動化が俄然意味を持ち始めます。

最近私たちは、マクロ環境がスタートアップにどのような影響を与えるかについて、多くのことを学んでいる。インフレの進行でインシュアテックの利益が損なわれたり、「the Great Resignation(大退職時代)」が進んだりすることで、AIソフトウェアの需要が高まっているのだ。心に留めておきたい。

関連記事:暗号資産ゲームは短期的にどれだけの資金を吸収できるだろうか

その他のあれこれ

  • ユタ州を拠点とするPodium(ポディウム)の最近の巨額ラウンドを受けて、私たちは同州のより大きなスタートアップシーンを掘り下げたPitchBookの最新記事をご紹介する。ご想像の通り、数字は上向いている。
  • また、巨額ラウンドといえば、Faire(フェア)が今週、シリーズG調達を行った。だから?紹介したい興味深い成長の統計データがあったのだ。Faireは、自らの表現では「オンライン卸売市場」であり、かなり急速に成長しているビジネスだ。同社が「3倍」の収益成長と「年間10億ドル(約1141億円)以上のボリューム」を自己申告したことで、私たちの注目を集めた。もし非公開市場が、この会社をベンチャーキャピタルのフォアグラにしようと太らせているのでなければ、この会社はIPOの候補になるだろう。
  • さて他には?OKRスタートアップのKoan(コーアン)は、シリーズA調達に失敗した後、Gtmhub(ジーティーエムハブ)に売却されることになった。私たちは長年にわたってOKRソフトウェア市場について多くの記事を書いてきたので、この出来事を紹介しておきたいと思う(KoanのCEOは、公の場とメールの両方で、会社の終わりについてのメモを共有してくれたので、この件については、時間があれば来週お伝えすることになるかもしれない)。
  • そして、最後はBraze(ブレーズ)だ。ニューヨークを拠点とするソフトウェアのユニコーン企業であるBrazeは先週上場した。The Exchangeは上場日に同社のリーダーにインタビューを行った。すべてのIPO発表会と同様に、対象となる会社は、発言できること(あまり多くない)とできないこと(ほとんどすべて)に関して、かなり厳しい指導を受けていた。それでも、IPOの準備を始めたのは数年前で、実際に上場するためのプロセスを開始したのは約1年前であったという、準備プロセスについての情報を得ることができた。私たちは、2018年以降資金調達の必要がなかった同社が、なぜ直接上場を目指さなかったのかを知りたいと思った。BrazeのBill Magnuson(ビル・マグナソン)CEOは興味深い話をしてくれた。つまり最近の変化を踏まえれば、従来のやり方のIPOは一部の人々が考えているほど柔軟性に欠けるものではないというのだ。これから数週間、2021年の最後の公開を眺めながら、そのことを考える価値はあると思っている。なお、Brazeは、1株あたり65ドル(約7415円)で上場した後、現在は1株あたり94.16ドル(約1万700円)となっている。

画像クレジット:Nigel Sussman

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(文: Alex Wilhelm、翻訳:sako)

BNPLの成功を高騰する医療費に、金利なしの「先に治療・後払い」フィンテックPayZen

米国でヘルスケアのコストは増加の一途をたどっており、患者が自己負担しなければならない割合もそれにともない増加している。2019年のギャラップ調査によると、米国の3世帯に1世帯近くが、費用を理由に治療を遅らせたことがあるという。

ヘルスケアフィンテックのスタートアップであるPayZen(ペイゼン)は、AIを活用して患者の医療費債務を引き受け、患者が治療を受けて長期的に分割払いできるようにするソリューションを展開するため、シリーズAラウンドで1500万ドル(約17億1000万円)を調達した。

今回のラウンドはSignalFireがリードし、新規でLink Ventures7WireVentures、さらに既存投資家のViola VenturesとPicus Capitalが参加した。同社は、2021年初頭にシード資金として500万ドル(約5億7000万円)を調達しており、今回のシリーズAにより累計資金調達額は2000万ドル(約22億8000万円)に達した。

PayZenの「先に治療・後払い」ソリューションはすべての患者が利用でき、患者は手数料や金利なしで、治療費を時間をかけ分割払いすることができる。このプラットフォームの基盤となる人工知能(AI)技術により、病院は患者のデータを活用して、管理コストを抑えながら各患者に特化した支払いプランを決定することができる。

PayZenは、2019年にフィンテックのベテランであるAriel Rosenthal(アリエル・ローゼンタール)氏、およびItzik Cohen(イッツィク・コーエン)氏、Tobias Mezge(トビアス・メズガー)氏の3人によって設立された。現在PayZenのCEOを務めるコーエン氏は、消費者債務のフィンテック、Beyond FinanceでCEOを務めていた。

コーエン氏は、TechCrunchのインタビューで、患者の自己負担額は過去10年間で2倍になったが、今後10年間でさらに2倍になると予測されると語った。

「(創業チームは)フィンテック業界出身だったため、例えば、『先買い・後払い(BNPL)』を導入したeコマースでは、イノベーションと信用の拡大を受け、人々がより高額な商品を購入できるようになったのを見てきました。そこで、患者からの請求業務をますます多く担うようになっている医療機関も、苦労しているのではないかと考えました。それでは彼らも悪い状況に追いやられてしまいます」とコーエン氏はいう。

PayZenのプランを利用する患者には金利がかからないため、医療機関はこれらのコストを自分たちの帳簿に残すことができる。コーエン氏は、患者とその経済状況に合ったプランを優先的に提供することで、査定プロセスを逆転させ、支払いの遵守率を高めたと述べている。

フィラデルフィアを拠点とするGeisinger Hospital(ガイジンガー病院)では、PayZenの導入後、支払いの回収率が23%向上したという。コーエン氏は、米国のほとんどの主要な医療機関の平均営業利益率は1%と非常に低く、業界は人材不足に悩まされていると付け加えた。

「市場の状況が少しでも変化すれば、率直に言って、彼らは損失を被ることになるでしょう。彼らは今、この時間を利用して最適化を図り、多くのプロセスを自動化する技術に投資しています」とコーエン氏は語った。

設立からまだ1年も経っていないこのスタートアップは、2022年1月に大幅な製品の拡張を発表する予定だ。

ニーズの増加に対応するため、PayZenは現在35人のチームを2022年末までに約100人の従業員に成長させる予定だという。

画像クレジット:PayZen

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(文:Anita Ramaswamy、翻訳:Aya Nakazato)

フードテックのAmaraが約13億円を調達、栄養価の高い乳児食事業を拡大

市販のベビーフードの一部に「危険なレベル」の有害金属が含まれていることが、2021年2月に米下院の監視改革委員会の報告書で判明し、親たちは衝撃を受けた。

これを受けて、その影響や、原材料のチェックといった親ができることなどの情報がにわかにメディアに溢れることになった。そうした栄養に対する意識の高まりは、乳幼児により栄養価の高い選択肢を提供することに注力している食品企業にも恩恵をもたらした。

Amara(アマラ)はこの分野で資金調達を行った最新のスタートアップで、米国時間11月19日、シリーズAラウンドで1200万ドル(約13億円)を調達したと発表した。7歳以下の子ども向けの栄養価の高い食品の製品ラインを拡大するためだ。今回の資金調達の1年半前に同社はシードラウンドで200万ドル(約2億2800万円)を調達し、この間、取扱店舗を100店から1000店に増やしてきた。

Amaraの創業者でCEOのジェシカ・シュトゥルツェンエガー氏(画像クレジット:Amara)

今回の資金調達ラウンドは、大きな提携を結んでいる植物由来の食品会社Eat Well Groupがリードした。経営陣は現在のままで、Amaraの企業価値を1億ドル(約114億円)と評価している、と創業者でCEOのJessica Sturzenegger(ジェシカ・シュトゥルツェンエガー)氏はTechCrunchに語った。シードラウンドからの既存投資家も参加し、ここにはPharmapacksが含まれる。

シュトゥルツェンエガー氏と同氏のチームは、技術開発に3年を費やした後、2017年にWhole Foodsで初の製品を発売した。Amaraは、保存可能な新鮮なベビーフード食のパウチに味、食感、栄養素を閉じ込める独自の技術を開発した。10のSKUと、母乳や粉ミルク、水を混ぜるためのベビーフード生産ラインを展開している。

現在、食料品店の棚に並んでいるパッケージ食品の大半が果物ベースで砂糖を多く含んでいる。1食あたり3〜7ドル(約340〜800円)の価格帯で販売されていて、冷蔵あるいは冷凍で保存しなければならない、とシュトゥルツェンエガー氏は指摘する。これに対し、Amaraの食事は1食あたり1.8ドル(約200円)〜と低価格で、幅広い家庭の予算に合わせた商品を提供するという同社の使命を果たしている。

2021年、Amaraは商品を拡大し「ヨーグルトスムージーメルト」を発売した。「砂糖を一切加えていない、乳幼児向けの唯一の口溶けの良いスナック」とシュトゥルツェンエガー氏はうたう。

「研究によると、0歳から7歳までに食べたものが、その後の人生での考え方や感じ方、パフォーマンスに影響を与えると言われています」とシュトゥルツェンエガー氏は話す。「『You are what you eat(人は食によって決まる)』は決まり文句かもしれませんが、研究によるとそれは真実でもあり、親たちは注目しています」。

シリーズAの資金を獲得する前、Amaraはすでに注文で利益を上げていた。実際、口コミで前年比3倍のオーガニック成長を遂げていたが、2月にベビーフードに関するレポートが発表された後、親とベンチャーキャピタル企業の両方からますます注目を集めるようになった、とシュトゥルツェンエガー氏は語る。

Eat Well Groupの社長であるMarc Aneed(マーク・アニード)氏は声明文の中で「Amaraは、小売店での販売と卓越したeコマースを通じて事業拡大するすばらしい能力を証明してきました。Eat Well Groupが提供する資金と業界専門知識は、2022年に向けてAmaraの成長を加速させるでしょう」と述べた。

今回の資金調達によりAmaraは雇用、商品開発、ブランド認知度向上に資金を投じながら、需要に応えるために急成長することができる。同社は自社ウェブサイト、Amazon、主にカリフォルニア州の食料品店で販売しているが、全米のSproutsでも販売している。今後1年でAmaraの製品をより多くの食料品店に置くことをシュトゥルツェンエガー氏は計画している。

一方、栄養へのシフトは、多くのスタートアップにとってベビー・子ども用食品市場をディスラプトするチャンスにつながっている。そのため、2019年に673億ドル(約7兆6740億円)だった世界のベビーフード市場は、2027年には963億ドル(約10兆9800億円)に成長すると予想されていて、現在の米国市場での売上は63億ドル(約7180億円)だ。

これに目をつけたベンチャーキャピタルは、乳幼児や子どもに特化した食品企業に新たな資本を投入している。例えば、Little Spoonは7月にシリーズBで4400万ドル(約50億円)を調達し、低糖のベビーフードを提供するSerenity Kidsは6月にシリーズAで700万ドル(約8億円)を調達した。

シュトゥルツェンエガー氏は「さまざまな親や価格帯をターゲットにしている企業にとって、市場開拓余地があります」と語る。「我々が目指すのは、すべての人に良い食べ物を提供することです。将来の世代の食生活を変えようとするなら、アクセス可能でなければならないのです」。

画像クレジット:Amara

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(文:Christine Hall、翻訳:Nariko Mizoguchi

企業の機械学習利用の空隙を満たすMLOpsのスタートアップCometが約57億円調達

機械学習がビジネスを動かすための欠かせない技術になっているが、その中でモデルを構築する工程は今なお、反復と実験を必要としている。それに対しCometは、モデルをアイデアからプロダクトまで仕上げるための全体的なプラットフォームを作り、米国時間11月18日は5000万ドル(約57億円)のシリーズBを発表した。これに先立つシリーズAは、4月の1300万ドル(約15億円)だった。

OpenViewがリードしたこのBラウンドには、これまでの投資家であるScale Venture PartnersやTrilogy Equity Partners、そしてTwo Sigma Venturesが参加した。Crunchbaseのデータによると、同社の累積調達額は7000万ドル(約80億円)近くになる。

共同創業者でCEOのGideon Mendels(ギデオン・メンデルス)氏によると、プロダクトはノートパソコンでもクラウドでも、あるいはオンプレミスのクラスター上でも、どのようなプラットフォームでも使える。「Cometは実験の追跡調査からモデルのプロダクションのモニタリングまで、機械学習の全ライフサイクルを管理し最適化します。そのためデータサイエンティストに力をつけ、機械学習の技術者が開発を加速できるプラットフォームだ」とメンデルス氏はいう。

メンデルス氏によると、そのアプローチは実績を出し、同社の年間経常収益は2021年5倍になり、UberやZappos、Etsyなど150社がCometを利用している。またOpenViewのパートナーでリード投資家のMackey Craven(マッキー・クレイヴン)氏によると、彼がCometに惹かれたのは、同社が大きなチャンスを抱えた新興市場のための有効なプロダクトを作っているからだ。「私たちが今、目にしているのは、彼らを十分サポートできる大きくて永続性のある市場機会のコアとなりうるような傑出した創業チームと、そしてその市場における変化との稀なる組み合わせです。その変化の理由は、新しい市場の創造または、技術の転位によって新規参入者たちが、私たちが作り出す今後の大きな市場における価値を創造し捉えているからです」とクレイヴン氏はいう。

現在、同社の社員は50名で、4つの大陸の9カ国から来ている。計画では、2022年は100名になる予定だ。メンデルス氏によると、ダイバーシティとインクルージョンは同社の価値システムの重要部分だ。氏は「実はそれこそが、弊社の企業文化の核であり、今でも従業員の35%はマイノリティの人たちであり、今後の雇用でもそれに配慮していく」という。

同社の新製品であるArtifactsは、文書のバージョニングと同じように動作し使えるデータのバージョニングツールだ。それはデータの変更履歴を知るために、データサイエンティストたちが利用する。

メンデルス氏によると「機械学習のパイプラインで仕事をしているときCometのArtifactsがあれば、データの各回のスナップショットを自動的にバージョン化できます。変更を加えるたびに、そのバージョンができます」。そのアドバンテージはいろいろあるが、その主なものは、モデルの訓練に使っているデータがどう変わってきたか、データサイエンティストにわかることであり、訓練時のモデルのデータと最終プロダクションのデータを比べられる。

画像クレジット:yucelyilmaz/Getty Images

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(文:Ron Miller、翻訳:Hiroshi Iwatani)

タンパク質ベースの医薬品を開発するGenerate BiomedicinesがシリーズBで422億円調達

医薬品開発の分野に引き寄せられる投資が増え続けている。米国時間11月18日には、Generate Biomedicines(ジェネレート・バイオメディシンズ)が3億7000万ドル(約422億円)のシリーズBラウンドを発表した。

同社は、プラットフォームをベースとした医薬品開発のアプローチをうたっているが、独自のひねりを加え、タンパク質に取り組んでいる。

同社の仮説はシンプルだ。自然界(あるいは多くの場合、科学的なデータや文献)にすでに存在するタンパク質とターゲットを結びつけるのではなく、全体像を理解することを目指している。つまり、どのようにタンパク質が作られ、なぜそれらがそう振る舞うのか(つまり、基本的には体内のすべてのこと)についての「基礎的な原理」の理解だ。最終的な目標は、その知識を利用し、いつの日か「生命の機能の大部分」を動かせる新しいタンパク質を作ることだ、とCEOのMike Nally(マイク・ナリー)氏はTechCrunchに語った。

この3年間で、同社はそのような基本原理を実用化することができた。

「私たちは、抗体、ペプチド、酵素、細胞治療、遺伝子治療など、あらゆるタンパク質の形状で、新しいタンパク質を生成することができました」とナリー氏は話す。

Generate Biomedicinesは、Moderna(モデルナ)の投資家であるFlagship Pioneeringが育てた、優れた企業の1つだ。Generate Biomedicinesは、2020年にステルスモードから脱け出し、Flagship Pioneeringから5000万ドル(57億円)の初期投資を受けた。新たに創業したAlltrnaのような、Flagship Pioneeringが投資する他の会社と同じ事が起きた。

この最新のラウンドは、Generate Biomedicinesにとって、初めて外部から資金調達するという重要な試みだ。このラウンドでは、Alaska Permanent Fund、Altitude Life Science Ventures、ARCH Venture Partnersや、T. Rowe Price Associatesが顧問を務めるファンドや口座の他、Flagship Pioneeringも追加で投資した。

これまでのところ、Generate Biomedicinesは関心を集めることに苦労していないようだ。

一方で、同社は一般的なトレンドの追い風を受けている可能性もある。創薬に対するベンチャーキャピタルの投資額は、2019年から2020年にかけてほぼ倍増し、162億ドル(約1兆8500億円)に達した。一方、AIによる医薬品開発への投資も雪だるま式に増えている。スタンフォード大学の2020年のレポートによると、2020年には139億ドル(1兆5800億円)に達し、2019年の資金調達の4倍以上の水準になった。2021年8月には、Signify Researchのレポートによると、資金調達額は107億ドル(約1兆2200億円)に達した。

今回のラウンドは大規模だが、Insilico Medicineの2億5500万ドル(約291億円)のシリーズCや、 Cellarity(Flagship Pioneeringが投資するパイオニア企業)の1億2300万ドル(約140億円)のシリーズBなど、類似領域の企業に2021年見られた数字からそれほど遠くはない。

Generate Biomedicinesの経営陣によると、今回の規模のラウンドが達成できたのは、タンパク質生物学やタンパク質ベースの医薬品開発に新たに取り組んできたおかげだ。

治療用タンパク質、特にモノクローナル抗体は、医薬品市場で大きなシェアを占めるようになっている。2018年に最も売れた薬トップ10のうち、7つがモノクローナル抗体だった。Bioprocess Internationalの2020年のレポートによると、過去5年間、全世界でのモノクローナル抗体の売上高は、他のバイオ医薬品よりも速く成長した。

モノクローナル抗体は、おそらく腫瘍学や免疫学の領域で最もよく知られている。しかし、使用例は拡がっている。例えば、Eli Lilly(イーライリリー)が新型コロナウイルス治療のために製造しているようなモノクローナル抗体は、治療用タンパク質の一例であり、読者はすでに耳にしたことがあるかもしれない。

Generate Biomedicinesはあらゆるタンパク質を視野に入れているが、当初は抗体の開発に注力していた。ナリー氏によると、抗体はタンパク質ベースのバイオ治療薬市場の約60%を占める。

しかし、抗体の開発は青写真のほんの一部にすぎない。共同創業者であり、チーフストラテジーイノベーションオフィサーであるMolly Gibson(モリー・ギブソン)氏は、タンパク質の機能の基本原理に着目すれば、タンパク質をオーダーメイドで設計できると語る。

スケールの大きさを理解するために、生命誕生以来、自然淘汰の過程で洗練されてきたすべてのタンパク質を思い浮かべて欲しい。そうしたタンパク質は、生命の構成要素であるタンパク質のごく一部にすぎないのだ。

「生命の歴史の中で自然界に残った配列空間の量は、地球上のすべての海に含まれる水のたった一滴に相当します」とギブソン氏は語る。

Generate Biomedicinesは、現存する未利用のタンパク質を発見するのではなく、人間が作ることのできる他の機能性タンパク質を、人工知能を使って理解するアプローチをとる。

とはいえ、治療用タンパク質は簡単に作れる薬ではない。歴史的に見ても、免疫システムは新しいタンパク質を受け入れないことが多い。しかし、ギブソン氏は、同社の技術がこの障害を克服できると話す。同社は、免疫原性とタンパク質の機能を「ともに最適化」することができるという。

「そのために、免疫系がタンパク質をどのように認識するかを測定する独自の実験手法と機械学習アプローチを開発しました。それらにより、免疫系による認識を避けることができます」とギブソン氏は語る。

全体として、Generate Biomedicinesは自らを医薬品メーカーであると同時にプラットフォームでもあると考えている。同社は、前臨床段階にあるいくつかの医薬品候補を抱える(重点的に取り組んでいるのは、感染症、腫瘍学、免疫学だとナリー氏はいう)。目標は、2023年までに治験薬として認可されることだ。

しかし、同社の最大の伸びしろは、タンパク質ベースの医薬品開発プロセス全般を円滑に進めるためのプラットフォームであることだとナリー氏はいう。同氏は過去に、提携が戦略の一部になると指摘していた。これまでのところ、同社は何も公表していない。だが同氏は、同社が深い疾患領域の専門知識や、特定のターゲットに関する専門知識を持つパートナーを探していると付け加えた。

今回の資金調達により、Generate Biomedicinesは従業員を500人に増やす予定だ(現在の従業員数は80人)。また、ウェットラボ、機械学習、データ生成能力を拡張するために、2つの施設を建設中だ。

画像クレジット:JUAN GAERTNER/SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

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(文:Emma Betuel、翻訳:Nariko Mizoguchi

パスワードレス認証のAPIを提供するStytchが巨額約103億円を獲得しプラットフォームをさらに拡張

パスワードレスの認証機能をAPIで提供しているStytchが、シリーズBで9000万ドル(約103億円)を調達して、同社の評価額を10億ドル(約1140億円)以上へと押し上げた。

今回の投資はCoatue Management LLCがリードし、これまでの投資家であるBenchmark CapitalとThrive CapitalおよびIndex Venturesが参加したが、同社の評価額約2億ドル(約228億円)、の3000万ドル(約34億円)のシリーズAからわずか4カ月後のことになる。その後、同社のパスワードレス認証プラットフォームを利用する開発者が1000%近く増加し、7月の350から11月には約4000になった。

CEOのReed McGinley-Stempel(リード・マッギンレイ・ステンペル)氏は元Plaidの社員で、同社の急成長は主製品がAPIであるためだという。「パスワードレスのスタートアップは、その多くがウィジェットが中心です。私たちは、APIファーストではないプロダクトを十分に経験してきたため、それに多くの制約があることと、そしてどうすれば良いのかがわかっています」という。

「例えば私たちが見てきたよくあるユースケースの1つは、私たちがまったく予期しなかったもので、それはチェックアウトフローです。チェックアウト時にSMSのパスワードやメールの本人確認を利用して、ゲストのチェックアウトから新しいアカウントを作ろうとするものです」。

同社はまた、7月のシリーズA以降、多くの新しいプロダクトをローンチした。Appleでサインインや、GoogleやMicrosoftの認証情報によるサインイン、埋め込み可能なマジックリンク、メールによるワンタイムパスコードなどだ。今週、同社はWebAuthnのサポートを加え、StytchがYubicoのようなハードウェアベースの認証キーや、バイオメトリクスによるFace ID、指紋によるログインなどをサポートできるようにした。

Stytchによると、同社は今後の数カ月でそのプラットフォームをさらに拡張する計画だという。シリーズBの一環として同社はCotterを買収したが、ここはY Combinatorが支援するノーコードのパスワードレス認証プラットフォームで、ユーザーはウェブサイトやアプリへのワンタップログインを加えられるようになる。Stytchによると、それにより開発者がパスワードレスの技術を採用することも容易になる。

また、今度の資金で同社は、現在30名のチームを拡張し、インフラストラクチャの構築も行なう予定だ。

パスワードの廃止をミッションとするスタートアップはStytchだけではない。6月にはネイティブにパスワードのないアイデンティティとリスク管理ソリューションのTransmit Securityが5億4300万ドル(約619億円)を調達し、サイバーセキュリティに対するシリーズAの投資としては史上最高額と言われた。7月には「プラグアンドプレイ」のパスワードレス認証技術を作っているサンフランシスコのMagicが、2700万ドル(約31億円)のシリーズAの調達を発表した

関連記事:「ゼロトラストモデル」のおかげでスタートアップ企業もパスワードレスに

画像クレジット:Getty Images

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(文:Carly Page、翻訳:Hiroshi Iwatani)

ヒトタンパク質を使い母乳に最も近い乳児用ミルクを開発するHelainaが約22億円を調達

世界初となる乳児用ミルクを製造しているHelaina(ヘライナ)は、最初の製品の製造と商業化プロセスを開始して次の成長段階へ進むため、シリーズAで2000万ドル(約22億円)を調達したと発表した。

ニューヨーク大学で食品科学を教えている食品科学者のLaura Katz(ローラ・カッツ)氏は2019年に同社を設立した。「機能性ヒトタンパク質を食品用に製造する初の企業」とうたっている。

これを実現すべくHelainaは、母乳に含まれるものとほぼ同じタンパク質を開発するために酵母細胞をプログラムして製造のハブとなるように教える精密な発酵プロセスを活用している。

「私たちがHelainaを始めたとき、多くの産業に多くのテクノロジーが導入されていましたが、赤ちゃんへの栄養補給はあまり進展していませんでした」とカッツ氏はTechCrunchに語った。「どの人々の栄養と健康を向上させるかを考えたとき、乳幼児と親が真っ先に思い浮かびました」。

2026年には1030億ドル(約11兆7300億円)の市場になると言われている乳児用粉ミルク市場が成長する一方で、幼少期の子どもたちにどのような食事を与えるべきかについては、恥ずべき部分や偏見が残っている。Helainaは、誰もが手に入れやすい価格の食品を親に提供するだけでなく、親が自分の選択を検討するのをサポートすることを目指している。

Helainaは、最初にタンパク質を作り、現在は母乳のすべての成分を1つずつ作りたいと考えている。Helainaの製品はカロリーを供給するだけでなく、真菌、細菌、ウイルスなどの病気に対する免疫力を高めるのにも役立つ。

今回の資金調達はSpark CapitalとSiam Capitalが共同でリードし、Plum Alleyと Primary Venture Partnersも参加した。今回のラウンドにより、Helainaの資金調達総額は2460万ドル(約28億円)となり、その中には2019年と2020年に行われたプレシードとシードの合計460万ドル(約5億円)が含まれているとカッツ氏は話した。

シリーズAは計画的なラウンドだったが、カッツ氏が予想外だったと指摘したのは、投資家からの同社に対する「圧倒的な関心」だった。

「資金調達をしてわかったことは、私たちがやっていることに個人的なつながりがあるということです」とカッツ氏は付け加えた。「フードテックの分野では多くのことが起こっていますが、この技術を人々の心に近い製品に使うことができるのを目にするのはすごいことです。多くの人が私たちの取り組みに興味を持ってくれています」。

今回のシリーズAでは、商品化に向けて製造パートナーとの連携を強化する。その目的は、製造能力を高め、経営陣を充実させ、市場投入計画を最終決定することにある。

同社は、米国食品医薬品局から製品の承認を得ることを目指している。その後、臨床的に証明された多数の消費者向け製品に同社のタンパク質を使用する計画で、 これは本質的に栄養の定義を免疫にまで広げ、消費者部門に新たなカテゴリーを創出するものだ。

より栄養価が高く、母乳に最も近いミルクを作ろうとしているのは、Helainaだけではない。2021年初めには、ヨーロッパのブランドをモデルにしたミルク開発のためにBobbieがシリーズAで1500万ドル(約17億円)を調達した。ByHeartもミルクを開発中で、Biomilqは「世界で初めて母乳以外の細胞培養された母乳」を製造したとしている。

カッツ氏は、自社が行っているタンパク質の製造方法や、健康面でより優れた製品を作ることに注力している点が、競合他社との違いだと話す。

「Helainaは、ヒトのタンパク質を食品に導入した最初の会社です 」とカッツ氏は付け加えた。「これまで誰もやったことがありません。育ち盛りの子どもに食べさせるための技術を親に展開することで、消費者向けの免疫学のようなこの新しいカテゴリーを創出しているのです」。

一方、同社はSita Chantramonklasri(シタ・チャントラモンクラスリ)氏が新たに設立したファンドSiam Capitalの最初の投資先の1つだ。チャントラモンクラスリ氏によると、同ファンドは持続可能性と消費者のニーズが交差するビジネスに投資しているという。

チャントラモンクラスリ氏はフードテック分野に多くの時間を費やしており、カッツ氏とつながるずいぶん前にSpark Capitalのシードラウンドを担当したKevin Thau(ケビン・タウ)氏からHelainaのことを聞いた。

当時、チャントラモンクラスリ氏は母乳の分野を深く掘り下げ、Helainaの競合他社の斬新な技術に注目していた。同氏はカッツ氏と多くの時間を過ごし、カッツ氏の背景やHelainaがこの分野で何をしているのかを理解した。実験室で過ごし、同社の酵母工学の取り組みを見て、Helainaは科学的に優れた製品を提供していると感じた、とチャントラモンクラスリ氏は話した。

「ローラはすばらしい創業者で、年齢以上に賢く(29歳!)、Helainaのミッションを見届けたいと思っています」と付け加えた。「市場の競争はますます激しくなり、顧客のロイヤリティと同様にタイミングが勝負です。Helainaは、母親や家族の擁護者となるべき立場にあります。技術的な観点からは、何が起こるかを判断するのは時期尚早です。Biomilqのような他の細胞培養技術にも革新が見られますが、Helainaは進歩の面でこの分野のリーダーとなるでしょう」と述べた。

画像クレジット:Helaina / Helaina founder Laura Katz

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(文:Christine Hall、翻訳:Nariko Mizoguchi