【コラム】米国によるテックの「中国排除」は利益より害の方が大きい

地政学的な意味よりも、成長のほうをはるかに重視するテクノロジー分野では、米中間の「分離」を推進することは、回避できない脅威をもたらす。分離という概念があいまいであるため、その危険性は増すばかりだ。

米国の中国不信、とりわけテクノロジー分野における不信は今に始まったことではない。10年ほど前のオバマ政権時代に、議会は、Huawei(ファーウェイ)とZTEを米国の通信市場から締め出す処置を取った。

しかし、ジョージ・W・ブッシュとバラク・オバマ政権時代には、中国との対話が広く推進され、2大経済大国で妥協点が見いだされた。中国がグローバル経済のリーダーとして台頭し、米国の重要な貿易相手として地位が高まると(1989年には米国輸入総額における対中国貿易量は2.5%だったが、2017年には21.6%とピークに達した)、中国を米国主導のグローバル貿易システムに組み込もうとする動きが出てきた。2005年には、国務副長官Robert Zoellick(ロバート・ゼーリック)氏が、グローバルな貿易システムへの中国の参入を受け入れることによって、このシステムは機能し続けるという仮定の下で「責任あるステークホルダー」としての中国という考えを提唱した。

その少し前、米国は中国の世界貿易機関(World Trade Organization)への2001年加盟に同意した。この時期は転換点として見られることが多いようだが、実際には単なる通過点に過ぎなかった。その年、米国の総輸入額に占める中国の割当はすでに9.0%に達していた。さらに、中国製品の輸入額の増大は、アジア貿易のリバランスに大きな影響を与えた。1989年から2017年の間に、米国総輸入額に占めるアジア諸国(中国も含む)の割当は42.3%から45.2%に増大したに過ぎなかったのだから。中国の相対的な成長は日本やマレーシアなどの国々のシェアを奪う結果となり、アジアにおける勢力バランスが書き換えられた。この変化は、標準的な貿易会計処理によって誇張もされた。中国で完成し、中国の付加価値を10%しか含まない製品でも、貿易統計では100%中国製とみなされるからだ。

製造国がどこであれ、重要なのは十分に成熟したアジアのサプライチェーンに中国が主要プレイヤーとして組み込まれたということだ。しかし、関係は深まっていたが経済システムがまったく異なるため、米中間の隔たりは蓄積していった。トランプ政権下では、新たな貿易障壁のほうが優先され,、対話は後回しにされた。米国が中国からの輸入品に数千億ドル(数十兆円)の関税を課すると、中国側も米国製品の関税を引き上げて対抗した。トランプ政権の関税政策は当初、最終的な政治目標を達成するための一時的な手段とみなされていたが、トランプ政権内部には、2国間の貿易量が減少することに価値を見いだしていた有力な政策立案者もいた。

トランプ政権で国家安全保障顧問代理を務めたMatthew Pottinger(マシュー・ポティンガー)氏は後に次のように書いている。「主要な米国機関、とりわけ財務およびテクノロジー関連の各機関は、数十年に渡る『深い関係性』(つまり、何よりもまず経済協力と貿易を優先する対中政策)によって自己破壊的な習慣に陥ってしまったのです」。そして、そこから抜け出すには「ハイテク分野で主導権を握るという中国の野心をくじくために」大胆な策を取るべきだとしている。バイデン政権は最近、長期に渡る検証の結果、トランプ政権の関税政策を維持すると発表し、議会はテクノロジー面での脱依存を支援するイニシアチブへの資金供給を後押ししている。中国への依存、とりわけテクノロジー面での依存を減らそうとするこうした動きは、広い意味で中国との「分離」になると考えられる。

米中間の分離を求める新たな声が強まっている現状を見ると、分離という言葉は明確に定義されていると思うかもしれない。だが、少し考えてみれば、この言葉は明確さに欠けることが分かる。もちろん、上記の関税障壁によって米中間の貿易量は減少する方向へと向かうだろうが、そもそもこの政策の着地点はどこなのだろう。

分離とは、米国が海外からの、および海外への直接投資を控えるということなのか。米国債の購入などポートフォリオ投資も禁止するのか。米国は中国企業によって製造された最終製品の輸入を回避するべきという意味なのか。中国で生産活動をしている欧州の企業についてはどうするのか。中国国外で製造しているものの、中国製の部品を使用している欧州や米国の企業はどうするのか。あるいは、中国市場で販売しているため、おそらく、中国の影響を受けていると思われる企業についてはどうするのか。

米中2大経済大国間の広範に渡る経済関係を考えてみれば、この2大国を完全に切り離すことなど不可能だということがわかる。中国を排除しようとしても、おそらく、勢力関係のリバランスが起こるだけで、中国がサプライチェーンから消えることなどありえない。これは、EU各国などグローバルな経済大国が、中国との分離など、たとえ漠然であっても考えてないことからも、間違いのないところだ。

このように米中の分離というものの性質が漠然としていることは、テクノロジー分野にとってとりわけ大きな脅威となっている。数十年に渡って、規模の経済性を活かし、製造コストを下げることを追い求めた結果、テクノロジー分野では製品のグローバルな製造が高度に統合されていった。特に、半導体など、最近登場した競争の熾烈な分野では、大規模な投資を事前に行う必要がある。そのため、急激なルール変更の影響を特に受けやすい。政策立案者たちは、サプライチェーンの中断という困難な時期に(分離という)疑わしい概念に実体を与えようと躍起になっている状況だ。議会が提案しているいくつかの法案のように、そうした分野に膨大な補助金を支給するという政策は魅力的に思えるが、日本などの国が同じように自国の企業に補助金を支給して対抗してくると、その効果は失われる。

米国が上記の質問に対して過激な答えを返し、中国との分離について絶対主義的な立場を取れば、米国は自国の技術力を損ない、グローバルな部品調達競争への参戦を自ら拒否し、他国に力を与えることになるだろう。現時点で政治的に実行可能な唯一の代替策として考えられるのは、米国が穏健な立場をとり、中立的な立場を模索するというものだ。そうなると、ルールは常に進化し予測不能となる可能性が高い。

いずれにしても、米中分離の支持者たちはこうした動きは非生産的であると気づくことになるだろう。その結果、戦略的政策に関する懸念を解決するどころか、米国のテクノロジー分野でのリーダーシップの翳りが真っ先にもたらされることになるだろう。

編集部注:本稿の執筆者Phil Levy(フィル・レビー)博士は、Flexportのチーフエコノミスト。それ以前は、ホワイトハウスや国務省で国際経済政策を担当していた。

画像クレジット:xPACIFICA / Getty Images

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(文:Phil Levy、翻訳:Dragonfly)

中国のコンピューター革命で徹底した改造が行われた経緯、常に「アルファベット」という限界に挑戦してきた中国の技術者たち

前回のエッセイでは、何万という中国語の漢字を、それよりはるかに小さいアルファベット記号システムを処理するために設計されたメモリシステムに収めようとするコンピューターエンジニアたちの前に立ちはだかったさまざまな奥深い問題について説明した。

今回は、漢字の出力、つまり、モニター、プリンター、および関連周辺機器に関する問題に目を向ける。欧米で製造されたパソコンやコンピューター周辺機器に中国語のテキストを表示させようとするエンジニアの前にさらなる問題が立ちはだかった。

関連記事:中国語パソコン1号機を実現した技術者魂、限られたメモリに数千の漢字を詰め込むためSinotype IIIの発明者は限界に挑む

「周辺機器」というと一種の脇役的な機能を提供するものと思われがちだが、実は中国では、周辺機器はコンピューティングの中心的な存在であり続けた。それは、1970~80年代に中国語コンピューティングが直面した厳しい制約の時代から、1990年代以降の大幅な進歩と成功の時代まで、すべての時代に当てはまる。

1980年代に消費者向けPCが普及し始めた頃には、欧米製のPC、プリンター、モニター、オペレーティングシステム、その他の周辺機器は、少なくともそのままでは、漢字での入出力を処理できなかった。それどころか、筆者が行った別の調査によると、こうしたすべての装置には、初期の頃の電信符号や機械式タイプライターなどに見られるような英語とラテン語のアルファベットを偏重する傾向があった。

その後、1980年代後半には、中国および中国語を話す地域では、徹底的にハッキングと改造が行われた。中国およびその他の地域のエンジニアたちは、欧米で製造されたコンピューティングハードウェアおよびソフトウェアを要素ごとに中国語対応に改造した。この時期は、誰かが管理するでもなく乱雑に、そして多くの場合すばらしい実験とイノベーションが行われた。

中国語コンピューティングシリーズの第2回である本稿では、広範なコンピューティング環境、すなわち、プリンター、モニター、その他コンピューティングを機能させるために必要なあらゆるモノに注目しつつ、次の2点にスポットを当てる。

1つは、アルファベットを基盤としたコンピューティング(これを「アルファベット様式」と呼ぶことにする)の優位性は、キーボードやメモリなどの問題に留まらず、極めて広範に及んでいたという点だ。コンピューターが登場する前のタイプライターと同じように、コンピューティングに使用される装置、言語、プロトコルは大体、最初に英語のコンテキストで発明され、その後、他の言語およびラテン語アルファベット以外の書記体系に「拡張」される。中国のエンジニアたちは、基本的な機能を実現する場合でさえ、市販のコンピューティング周辺機器、ハードウェア、ソフトウェアの境界を押し広げる必要があった。

次に、1970年代後半から1980年代の重要な時期に、中国のコンピューティングに関して欧米で支配的だった「模造」や「海賊行為」といったワンパターン思考(これは今でも変わらない)を解体してみる。「中国語DOS」などのプログラムに出くわすと、欧米では条件反射的にまた「中国製コピーだな」と片付けられてきた。しかし、この単純な反応は重要な事実を見落としている。それは、本稿で説明するこうした「偽造品」が存在していなかったら、欧米で設計されたどのソフトウェアスイートも漢字コンピューティングのコンテキストではまったく動作しなかっただろうという点だ。

ドットマトリックス印刷と冶金レベルで実装されていたアルファベット様式

最初に取り上げる周辺機器はプリンター、具体的には、ドットマトリックスプリンターだ。中国語コンピューティングの観点からすると、ドットマトリックスプリンターで当時支配的だった業界標準のプリンターヘッドの構成がすでに問題だった。1970年代に大量生産された事実上すべてのドットマトリックスプリンターには9ピンのプリンターヘッドが搭載されていたのだ。

これらの市販のドットマトリックスプリンターは、低解像度のラテン語アルファベットのビットマップをプリンターヘッドを1回通過させるだけで印刷できた。これはもちろん、偶然ではない。9ピンのヘッドは、低解像度のラテン語アルファベットを印刷するというニーズに合わせて「調整」されたものだった。

しかし、9ピンのプリンターヘッドでは、ヘッドを2回通過させても低解像度の漢字ビットマップさえ印刷できなかった。ヘッドを2回通過させると英語に比べて中国語の印刷スピードが著しく低下するだけでなく、印刷された文字も不正確だった。これはローラーの進み具合の不安定さ、インクの重ね合わせの不均等、紙詰まりなどが原因と考えられる。

見た目の美しさという点でも、ヘッドを2回通過させると、文字の上半分と下半分でインクの濃度が異なるという結果を招くことがあった。さらに悪いことに、欧米製プリンターを改造せずにそのまま使用すると、フォントサイズに関係なく、すべての漢字の高さが英単語の2倍以上になってしまう。このため、印刷結果は、英単語が簡素で効率的であるのに対して漢字は大き過ぎてグロテスクに感じられ、ゆがんだ滑稽なものになってしまう。このような印刷出力では多くの紙が無駄になり、すべての文書が文字の大きな児童書のような不格好な見栄えになってしまう。

これらのプリンターヘッドの動作の仕組みを説明する動画(本記事の筆者のご厚意により掲載)

ラテン語アルファベット中心主義は一般に想像されているよりも根深い、と初期の漢字コンピューティングのパイオニアであるChan Yeh(チャン・イエ)氏はその著作で述べている。漢字のデジタル化と、18×22のビットマップグリッドを基盤とするシステムの開発に乗り出したイエ氏の当初の考えは、ピンの直径サイズを小さくして、プリンターヘッドに収容できるピン数を増やすという単純なものだった。しかし、同氏は、この解決策はそう簡単ではないことに気づくことになる。

チャン・イエ氏とIdeographix Corporationによって発明されたIPXマシンのインターフェイス(画像クレジット:Thomas S. Mullaney、スタンフォード大学東アジアIT歴史コレクション)

イエ氏は、インパクト印刷におけるラテン語アルファベットへの偏重は、プリンター部品の冶金学的特性に組み込まれていることに気づいた。簡単にいうと、プリンターピンの製造に使用されている金属合金自体が、9ピンのラテン語アルファベットの印刷に合わせてキャリブレーションされていたのだ。このため、中国語に必要なサイズに合わせてピンの直径を小さくすると、ピンの変形や破損を招くことになる。

そうした影響をなくすため、エンジニアたちは欧米製プリンターに手を入れて、通常の9ドット間隔と同じ縦スペース内に18ドットが収まるように改造を施した。

この手法は独創的でシンプルなものだった。標準の2 Pass印刷に従い、1列目の各ドットはヘッドの1回目の通過時に沈着する。しかし、2列目のドットを1列目の下に沈着させるのではなく、プリンターをうまくだまして、あたかもファスナーが噛み合うように最初の9ドットの間に入れるようにしたのだ。

この効果を実現するため、エンジニアたちはプリンターのドライバーを書き換えて、プリンターの用紙送りのメカニズムをハッキングし、(1インチの216分の1という)極めて小さな間隔でローラーを回転させるよう調整した。

難しいのはピンの構成だけではなかった。市販されているドットマトリクスプリンターはASCII文字エンコード体系にも合わせて調整されていたため、漢字のテキストをテキストとして処理することができなかった。英単語を印刷する場合には、ラスターイメージをプリンターに送っているわけではなく、英語のテキストをプリンタードライバーを介してASCIIコードとして直接送っている。これにより、印刷速度が格段に速くなる。

しかし、欧米製のドットマトリクスプリンターで漢字を印刷するには、こうしたプリンターの「テキスト」モードを使うことはできない。そこで、プリンターを再度だまして、今度は、通常ラスターイメージ用に予約されているグラフィックモードを使用して漢字を印刷する必要がある。

これが、中国語を学ぶ学生たちにとって皮肉であることは明らかだ。欧米で製造された初期のドットマトリックスプリンターで漢字を処理させるには、漢字を絵または象形文字として扱う必要があったからだ。実際、欧米人は長い間、漢字を象形文字とみなしてきた。実際にはそうではないが(ただし例外はある)。しかし、ドットマトリックスプリンターのコンテキストでは、象形文字として扱うしかなかったのだ。

結局、新しいタイプのインパクトプリンターが商業市場に出回り始めた。ピンの直径が0.2ミリの24ピンドットマトリックスプリンターだ(9ピンタイプでは0.34ミリだった)。当然ながら、これらの新しいタイプのプリンターの主なメーカーの大半は、パナソニック、NEC、東芝、沖データなどの日本の企業だった。日本語に必要な文字を印刷するというニーズに応えるため、日本のエンジニアも中国のエンジニアと同じような問題を解決する必要があったのだ。

近代化されたポップアップ:漢字モニター

漢字のビットマップラスターへの変換を説明する特許文書の画像(画像クレジット:Thomas S. Mullaney、スタンフォード大学東アジアIT歴史コレクション)

中国語コンピューティング環境におけるもう1つの領域として、量産型のコンピューターモニターがある。ある意味、モニターの方向性はプリンターと似ている。特に、文字のひずみの問題はプリンターと同じだ。仕方のないことだが、漢字のビットマップは低解像度であっても縦横のサイズがラテン語文字と比較して2倍以上になる。このため、アルファベットと漢字が混在するテキストでは、漢字のサイズが大き過ぎて不格好になる(本記事の冒頭の画像をご覧いただきたい)。

標準の欧米製コンピューターモニターでは、行長(行あたりの文字数)と行高(画面あたりの行数)の両方において、ラテン文字にくらべて漢字のほうが表示可能な文字数ははるかに少なくなる。このため中国語を使う人は、一度に画面に表示できるテキストの量が非常に少なくなる。

それだけではない。漢字ディスプレイ特有の問題としてポップアップメニューがある。漢字の入力プロセスは本質的に対話型で行われるため(ユーザーが叩いたキーに応じて漢字が次々に表示される)、中国語コンピューティングにはユーザーが漢字の候補を確認するための「ウィンドウ」(ソフトウェアベースのものとハードウェアベースのものがある)が欠かせない。

ポップアップメニューは、1980年代以降、中国語コンピューティングの至るところで目にする機能となっているが、このフィードバック手法の起源は1940年代に遡る。1947年、Lin Yutang(リン・ユタン)氏によって設計された中国語タイプライターの試作機には、同氏が「マジックアイ」と呼んだ重要な部品があった。これこそ、歴史上最初の「ポップアップメニュー」だ(もちろん機械式ではあったが)。

パソコンの出現にともない、MingKwai、Sinotype、Sinowriterなどの中文タイプライターの機械式ウインドウはコンピューターのメインディスプレイに組み込まれた。別個の物理的な装置ではなく、画面上でソフトウェアによって制御される「ウィンドウ」(またはバー)となったのだ。

ところが、このポップアップメニューのせいで、ただでさえ貴重なモニター画面のスペースにさらなる制約が課されることになった。いわゆる「ポップアップメニューデザイン」は、中国語パソコンが登場したときから研究およびイノベーションの対象として極めて重要な分野となった。各社がさまざまなスタイル、形式、動作を試して、入力、画面サイズ、ユーザーの好みの各要件のバランスを取ろうと試みた。

しかし、これらの各要件はトレードオフの関係にあった。より多くの漢字候補を一度にメニューに表示すると、目的の文字が早く見つかる可能性が高くなるが、貴重な画面スペースを消費することになる。ウィンドウを小さくすると、画面スペースは節約できるが、使いたい文字が最初の候補群の中に見つからないと、文字候補ページをスクロールする必要がある。

こうした厳しい制約があるため、中国のエンジニアと企業は常に次世代モニターを求めていた。こうした動きはおそらく中国に限らずグローバルな市場でも同じだった。というのは、高解像度モニターは消費者にとって「本質的に良いこと」だからだ。それでも、高解像度を強く求める動機は中国語市場では大きく異なっていた。

結論:改造しか道はなかった

雑誌「Chinese Computing」創刊号(画像クレジット:Thomas S. Mullaney、スタンフォード大学東アジアIT歴史コレクション)

こうした改造はそれぞれにすばらしいものだったが、所詮修正に過ぎない。結局、オリジナルのシステム(つまり、後で修正する必要があるシステム)を作成する自律性と信頼性のあるところにパワーは集中した。

改造の慣習により幅広いシステムが実現される傾向はあるものの、改造によって互換性が犠牲になることが多かった。その上、改造後も常に変更に目を光らせておく必要があった。「一度設定すればそれで終わり」というソリューションは不可能だった。

新しいコンピュータープログラムがリリースされるたびに、またプログラムがバージョンアップされるたびに、中国のプログラマーは行単位のデバッグを行う必要があった。プログラム自体にコンピューターモニターのパラメーターを設定またはリセットする可能性のあるコードが含まれていたからだ。

大半の英語のワープロソフトでは、プログラムに基本的な前提として25×80の文字表示フォーマットが固定で埋め込まれていた(zifu fangshi xianshi)。このフォーマットは漢字ディスプレイでは使えなかったため、エンジニアたちはこの25×80のフォーマットが設定されているプログラム内のすべてのカ所を手動で変更する必要があった。彼らは、この作業を標準仕様の「DEBUG」ソフトウェアを使って効率的に行った。そして、経験を積み重ねるうち、主要なプログラムのアセンブリコードの中身まで着実に覚えてしまった。

また、改造したとしても、基盤となるオペレーティング・システムとプログラムは常に変更される可能性がある。例えばCCDOSやその他のシステムを開発してまもなく、IBMは新しいオペレーティング・システムPS/2への移行を発表した。「中国と中国語は混乱に陥る」と題する1987年のある記事には、台湾であれ中国本土であれ既存の中国語システムはまだ新システムに対応していないと説明し「IBMのMS/DOSと相性の良いやり方を考える開発者たちのレースが始まった」と書かれている。

歴史的観点からすると、改造者たちは間違って認識されたり、存在自体を消し去られたりしがちだ。彼らの活躍した時代と場所では、その仕事は単なる窃盗または海賊行為として認識されることが多かった。中国語非互換のマシンを中国語互換マシンにするために必要なリエンジニアリング行為とはみなされなかった。例えばPC Magazineの1987年1月号では、ある漫画家が中国化されたオペレーティング・システムを風刺している。その漫画のキャプションには「MSG-DOS上で動くんだ」とある。

欧米のメーカーは、こうした中国語対応(および日本語やその他の非欧米言語対応)の修正の多くを自社システムのアーキテクチャーのコア部分に徐々に組み込んでいった。そのため、こうした変更が実は中国や非欧米諸国のエンジニアたちの仕事に触発されたものであることは忘れ去られがちである。要するに、欧米製のコンピューターは、昔から、常に言語に依存せず、中立的で、あらゆる人たちを歓迎してきたと(その影に非ラテン語圏のエンジニアたちの苦労があったことなど忘れて)考えてしまいがちだということだ。

コンピューティングの歴史上重要なこの時期はまったく文書に残されていない。その理由は簡単だ。米国、およびより広く西側世界では、こうした改造が「実験」、ましてや「イノベーション」として理解されることは皆無だった。その代わりに彼らの仕事に対して使われたのは、今でもそうだが「コピー行為」「模倣」「海賊行為」といった言葉だった。中国のエンジニアたちが欧米製のドットマトリックスプリンターをリバースエンジニアリングして漢字を印刷できるようにしたり、欧米で設計されたオペレーティング・システムを中国語入力方式エディターが使えるように改良しても、大半の欧米人のオブザーバーの目には単なる「窃盗行為」としか映らなかった。

画像クレジット:Louis Rosenblum Papers, Stanford University Special Collections

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(文:Tom Mullaney、翻訳:Dragonfly)

Tencentとの提携でApple Musicに中国の音楽が増える

世界中のApple Musicユーザーはこれまで以上に多くの中国ミュージシャンの音楽を聴けることになりそうだ。Tencent傘下でオンラインミュージックのTencent Music Entertainment(TME)が現地時間11月8日、同社の「Music Cloud」プログラムに参加する「レコードレーベルとアーティスト」の作品が今後Apple Musicで配信されると発表した

Tencentが欧米大手のオンラインミュージックと手を組むのは、これが初めてではない。2017年に同社はSpotifyと株式交換について合意した。この合意にはコンテンツの共有は含まれていなかった。

TMEの発表は具体的ではなく、TMEもAppleも今回の計画について詳しく述べていない。この計画のポイントはTMWの「Music Cloud」とは何かということだ。これについてTMEは以下のように説明している。

TMEが公開する新しいグローバル音楽配信プラットフォームのTME Music Cloudには、コンテンツのセルフマネジメント、オンライン配信とプロモーション、利用料金の処理、音楽データのインサイトの機能もあり、幅広いパートナーレーベルやクリエイターに世界レベルでの多チャンネル配信を提供します。同時にTMEが持つ業界のリソースとTencentのソーシャルエコロジーにより、コンテンツクリエイターに対してコンテンツ制作やプロモーション、商業化に関して総合的に支援します。

この説明からすると、Music Cloudは大手レコードレーベルからの配信やマーケティングの支援がない、あまり売れていないアーティストに提供されるようだ。

この4年間、TMEはインディーズのミュージシャンを対象とするプラットフォームを構築し、作品の配信、ファンへのアピール、バーチャルコンサートの開催、そして最終的には収益化ができるようにしてきた。その代わり、TMEは作品に対してライセンスの権利を取得する。

しかしTMEにとっての本当の収入源は、台湾のJay Chou(ジェイ・チョウ)のようなトップミュージシャンの権利だ。ジェイ・チョウはユーザー確保の上で極めて価値が高い存在で、TMEは2017年にチョウの権利を侵害したとしてNetEase Musicを提訴した

TMEは長年にわたり、レコードレーベルの「ビッグ3」と呼ばれるユニバーサルミュージック、ワーナーミュージック、ソニー・ミュージックエンタテインメントから独占ライセンスを確保するために多額の資金を投じてきた。しかし中国がテック業界に対して独占的活動を取り締まり、TMEの厚い壁が壊れ始めている。2021年7月に中国の市場規制当局はTMEの「不公平な」市場活動に対して制裁を課し、オンラインミュージックの独占権を放棄するように通告した。

TMEが高額なライセンスの音楽をApple Musicと共有するとは考えにくい。もし共有すれば、この提携は代償をともなうだろう。TMEとAppleが詳細を明らかにすれば、さらに多くのことがわかるはずだ。今のところ、世界中のオーディエンスに聴いてもらえる可能性に中国の新人ミュージシャンが大きな魅力を感じることは確かだ。

画像クレジット:Chesnot / Getty Images

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(文:Rita Liao、翻訳:Kaori Koyama)

中国との関係は競争ではない、戦争だ。書評「The Wires of War: Technology and the Global Struggle for Power」

ここしばらく、自由市場経済に取り組んでいるように見えた中国だったが、2021年、その幻想は完全に打ち砕かれた。3年前、憲法から自らの任期の制限を撤廃した習近平(シュウ・キンペイ)国家主席は、自国のハイテク企業の権限を突然奪い、今までよりも厳しいメディア検閲を行うように指示した(任期制限の撤廃については、当時NPR[旧称ナショナル・パブリック・ラジオ]が指摘したように、中国はいずれにせよ「何千年もの間、絶対君主によって支配されてきた」国であり、任期制限は1980年代に初めて導入されたものも、短期間の実験的なものであった)。

ブルッキングス研究所の中国戦略イニシアチブ共同議長であり、スタンフォード大学サイバーポリシーセンターの元シニアアドバイザー、Google(グーグル)の元ニュースポリシーリード、さらには米国大統領選挙運動中に米国運輸長官のPete Buttigieg(ピート・ブティジェッジ)氏の顧問を務めたJacob Helberg(ジェイコブ・ヘルバーグ)氏は、米国、特にシリコンバレーは、習近平国家主席の権力の強化にもっと注意を払う必要があると指摘している。ヘルバーグ氏は「The Wires of War:Technology and the Global Struggle for Power(戦争への引き金:テクノロジーと世界的権力闘争)」と題された新著の中で、中国の「テクノ全体主義」体制が中国国民(本の中では「最初の犠牲者(first victims)」と表現されている)に与える影響、そしてインターネットのソフトウェア / ハードウェアをさらにコントロールしようとしている中国の取り組みが、なぜ米国やその他の民主主義諸国にとって、確かに現存し、急速に拡大する危機なのかを説明している。

ヘルバーグ氏は、米国の民間企業と米国政府が一体となって抜本的な対策を講じなければ、2020年中国政府からサイバー攻撃という脅しを受けたと推測され、2000万人規模の都市で停電が発生したインドと同じことが米国でも起こると話す。現地時間10月13日、TechCrunchはヘルバーグ氏にチャットによる取材を申し込んだ。以下は要約であるが、興味があれば詳細をこちらで確認して欲しい。

TC(TechCrunch):あなたは、2016年の米国大統領選挙の直前に、Googleでグローバルなニュースポリシーを扱う職に就いていますね。当時、ロシアとその疑惑のキャンペーンに注目が集まっていたことを考えると、米露関係についての本ではなかったことに驚きました。

JH(ジェイコブ・ヘルバーグ):この「グレー」の戦争には、実際には2つの戦線があります。まず、人々が見るものをコントロールするというフロントエンドのソフトウェアの戦線です。ここにはさまざまなプレイヤーが存在しますが、ロシアは他国への干渉という領域で最初に動きを見せた国の1つです。そして、物理的なインターネットとその物理的なインフラに焦点を当てたバックエンドのハードウェアの戦線があります。本書が主に中国に焦点を当てることになった理由の1つは、この戦争で最も決定的な要素は、物理的なインターネットインフラをコントロールすることにあるからです。インターネットのインフラを支配すれば、その上で動くあらゆるものをコントロールしたり、危害を加えたりすることができます。バックエンドをコントロールすれば、フロントエンドも併せてコントロールすることが可能です。だからこそ、私たちはバックエンドにもっと注意を払うべきなのです。

バックエンドとは、携帯電話、衛星、光ファイバーケーブル、5Gネットワーク、人工知能などですね?

人工知能もソフトウェアとハードウェアの組み合わせなので興味深いところですが、基本的には光ファイバーケーブル、5G衛星、低軌道衛星などです。

この本では、中国が2020年インドをサイバー攻撃したとされる事件が早速取り上げられています。この事件では、列車や株式市場が停止し、病院は非常用発電機に頼らざるを得なくなりました。米国にも、私たちが中国による攻撃だとは気づかなかったサイバー攻撃があったのでしょうか?

グレーゾーン戦争の特徴、つまり米国政府がこれほどまでに新たなグレーゾーン戦術に力を注いでいる理由の1つは、(攻撃者の)帰属(アトリビューション)を明らかにすることが非常に難しいという点にあります。米国では民間企業がインターネットの多くを運営しています。中国とは異なり、米国の民間企業は政府から完全に分離されています。このような民営化されたシステムにより、民間企業には、市場的にも法的にも、サイバーセキュリティ侵害を過少に報告する一定の動機が存在します。サイバーセキュリティ侵害を受けた企業は、被害者であると同時に、場合によっては過失と見做され責任を問われる可能性もあります。そのため、企業はサイバーセキュリティ侵害の報告に非常に慎重になることがあります。

また、(攻撃者の)帰属を明らかにすることが非常に難しい場合もあります。米国でもインドと同様のサイバー攻撃が行われた可能性がないわけではありません。米国もかなりの規模のサイバー攻撃を受けていることは事実であり、多くの情報機関が米国のエネルギーグリッドが無傷でいられるかどうかを懸念しています。人事管理局がハッキングされたことは明白ですが、これも重要な問題です。というのも、中国は現在、極秘情報にアクセスできる多くの政府職員のリストを持っているということになるからです。サイバー攻撃は数え上げるときりがありません。

あなたはインドのハッキングは米国への警告だったと考えていますね?

インドへのハッキングが歴史的に重要な意味をもつのは、もしこのグレーゾーン戦争が激化すれば、独立戦争以来初めて、米国が他国の攻撃者によって物理的に破壊されるような戦争になる可能性がある、という最初のシグナル(危険信号)だったからです。内戦だった南北戦争や9.11を除けば、外国勢力が実際に米国に上陸して大量破壊を行ったことはありませんでした。しかしながら、今回のインドへのサイバー攻撃を考えると、中国との関係が悪化した場合には(米国内の)原子力発電所の安全性を確認しなければならない、というシナリオも考えられますね。

こういった脅威に私たちはどのように対応すべきですか?米国政府は、米国内にインフラを構築しようとしているHuawei(ファーウェイ)に対し、非常に強い姿勢で臨んでいます。あなたは、Zoom(ズーム)のような企業には多くの中国人従業員が在籍し、中国の諜報機関に(米国の情報が)さらされる可能性があると指摘していますね。どこで線引きをすべきですか?(これらの問題に対応しながら)企業の権利を保護するには、政府はどうすれば良いでしょうか?

特に中国が台湾に侵攻するリスクが迫る中、これは私たちが現在直面している危機的局面における非常に重要な問題です。私は米国政府が対米外国投資委員会(CFIUS)の枠組みを構築することを強く支持しています。現在、米国政府には国家安全保障を理由として外国からのインバウンド投資を審査し、(危機を)阻止することができる枠組みがあります。この考え方の基本に則り、アウトバウンド投資にも同じ枠組みを適用すると良いでしょう。米国政府が国家安全保障に基づき、米国から米国外への投資、特に中国への投資を審査する手段をもつ、ということです。ここまでの話からもわかるように、米国企業が中国に何十億、何千億ドル(日本円では何千億円、何十兆円)もの資金を投入すれば、時として深刻な問題を引き起こす可能性があります。

中国に進出し続ける企業がもつ経済的なインセンティブ(動機)を考慮すると、アウトバウンド投資への枠組みはどの程度現実的だと思われますか?

私の提案に類似した、アウトバウンド投資への枠組みを目指す法案がすでに議会で検討されています。ですから、このアイデアが実現する日もそう遠くはないと思います。この問題が差し迫ったものになり、議会で優先的に審議され、大統領に署名してもらうために必要な支持を得られるのはいつなのか、という点については、実際の危機というきっかけが必要なのかもしれません。(私たちがこれまで観てきたように)残念ながら、ワシントンでは実際に危機が起こって初めて多くのことが決定されるからです。

米国の銃規制のように、イエスでもありノーでもある、ということですね。あなたが、米国vs中国の競争であるというアイデアを捨て、この問題を(戦争として)提起したことは興味深いと思います。(米国、中国間には)これまでルールがあったかのように見えたとしても、実際には相互で守るべきルールが存在しない、ということですね?

競争には負けても良いという意味が内包されます。競争には、勝つか負けるかという余裕があるからです。商業的にはドイツや日本と常に競争していますが、トヨタがゼネラルモーターズよりも多くの車を販売していても、実際にはそれほど大きな問題ではありません。それが市場であり、お互いが守るべきルールに基づいて、同じ土俵で活動しているからです。一方、現在の中国との関係において「戦争」という言葉がはるかに正確で適切な表現である理由は、これが政治的闘争であり、その結果が私たちの社会システムの政治的な存続に関わるからです。また、これは「戦争」なので、これに打ち勝つために優先順位を上げ、十分な決意と緊急性をもって対処する必要がある、ということが理解しやすくなるというのもその理由です。

もう1つの理由は、戦争であれば、結果を出すために短期的なコストを負担することもできるという点にあります。第二次世界大戦では、ゼネラルモーターズが戦車や飛行機を製造し、国中が動員されました。Apple(アップル)に空母を作れとは言いませんが、私たちはサプライチェーンを中国から中国国外に移動する際にかかる短期的コストを真剣に考え始める必要があります。多額の費用がかかり、手間もかかる難しい問題ですが、サプライチェーンが利用できなくなることで生じる潜在的なコストは莫大です。手遅れになる前に労力やエネルギー、時間を費やして移動を実現する価値があります。その方がコストもかかりません。

あなたは本の中で、このように国家安全保障を目的として経済外交を中断すれば、冷戦時代に戻ると指摘したうえで、アウトバウンド投資へのCFIUSプログラムの適用と、すべてのサプライチェーンを中国国外に移すことを提案しています。民間企業が中国を切り捨てるために、あるいは巨大な市場機会としての中国への関心を減らすために、他にどのようなインセンティブが必要だとお考えですか?

過去に成功したプログラムの多くは、要は「アメとムチ」です。私は中国への機密性の高い投資を行う投資家や企業に一定の罰則を適用する一方で、米国や民主主義にリスクを及ぼさない他国との取引などの行動にインセンティブを与えるという組み合わせであれば、おそらく成功し、経済界の共感を得ることができると思います。

米国が戦争をしているのは権威主義的な中国政府であって、中国の人々ではないという違いを指摘していますね。大変残念なことに、この指摘が伝わっていない人もいるようです。

「グレーゾーン戦争」について語るとき、さらに中国との問題について国家的な議論をするときには「これは中国国民や中国文化に対するものではなく、中国の政治体制や中国共産党に対するものだ」と繰り返す価値はあると思います。

中国との関係において、私たちが正しいことをしているとする理由の1つは、最初の犠牲者、つまり中国共産党によって最も苦しんでいる人々が中国国民であるという事実です。三等国民として扱われているウイグル人やチベット人、政治的反体制派の人々も中国国民であることを忘れてはいけません。また、中国国営のニュースメディアは「中国に対して強硬な態度をとることは中国に対する人種差別である」というストーリーを流布しようとすることが多々あります。これも覚えておく必要があります。

画像クレジット:Simon & Schuster

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(文:Connie Loizos、翻訳:Dragonfly)

自動運転ユニコーンMomentaがシリーズCに約567億円を追加、中国AD分野では今年最大のラウンドに

MomentaのCEOであるCao Xudong(カオ・シュドン)氏とGM China社長のJulian Blissett(ジュリアン・ブリセット)氏(画像クレジット:Momenta)

9月にGeneral Motors(GM、ゼネラルモーターズ)から3億ドル(約340億円)の投資を受けた中国発の自動運転ソリューションプロバイダーであるMomentaは、中国時間11月7日、シリーズC追加ラウンドで5億ドル(約567億円)を調達したと発表した。

この新たな資金調達により、同スタートアップのシリーズCの総額は10億ドル(約1134億円)を超えた。Momentaは、GMなどの自動車メーカーやBosch(ボッシュ)などのTier1サプライヤーに先進運転支援システム(ADAS)を提供する一方で、真の無人運転、すなわちレベル4走行の研究開発を行うという、同社が言うところの二足のわらじ戦略をとっている。

このスタートアップには、中国の国有企業であるSAIC Motor(上海汽車集団)、GM、トヨタ、メルセデス・ベンツ、Boschなど、ヘビー級の戦略的投資家が集まっている。機関投資家としては、シンガポールの政府系ファンドであるTemasek(テマセク)や、Jack Ma(ジャック・マー)氏のYunfeng Capital(云锋基金)などが名を連ねている。

Momentaは、自動車メーカーとの提携により、自社でロボタクシーを開発するという資金のかかるルートを選択した他社との差別化を図っている。その代わりに同社は、自社のソリューションを搭載した量産車のネットワークからデータを得ることを重要視している。Pony.ai(小馬智行)とWeRide(ウィーライド、文遠知行)は最も近いライバルだが、彼らも多額の資金を調達している。

GMとの提携の場合、Momentaのソリューションは、コンシューマーグレードのミリ波レーダーと高精細カメラを組み合わせたもので、米国ではなく中国で販売されるGMの車両に搭載される。Momentaは最近、ドイツのパートナー企業との関係強化のために初の海外オフィスをシュトゥットガルトに開設したが、これはMomentaの技術が自国の市場以外にも広がっていく可能性を示唆している。

画像クレジット:

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(文:Rita Liao、翻訳:Aya Nakazato)

ナイジェリアが中国の足跡を追ってデジタル通貨を試験的に導入

中央銀行は世界中で通貨の流通と供給を統制しているが、暗号資産の驚異的な増加により、その権威、統制、権力が脅かされている。

そのため世界各国の中央銀行は現在、独自のデジタル通貨を生み出している。現地の活動や暗号資産への関心(米国に次いで2番目に大きな暗号取引市場)に支えられたアフリカ大陸の革新的な動きとして、ナイジェリアが2021年10月下旬、そのリストに名を連ねた。

ナイジェリアの中央銀行は過去3年間の開発段階を経て、現在アフリカ初のデジタル通貨の試験運用を行っているところだ。

これまでに中国、スウェーデン、韓国など14カ国が独自の中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)の試験段階に入っており、合計81カ国がその他の段階でCBDCを模索中である。

バハマ、グレナダ、セントクリストファー・ネイビス、アンティグア・バーブーダ、セントルシアの5カ国のみが正式にローンチしている。

eNaira(eナイラ)と呼ばれるこのデジタル通貨は、ナイジェリア中央銀行(CBN:Central Bank of Nigeria)が支援・発行する。ほとんどの政府と同様、ナイジェリアがデジタル通貨を導入する理由は、物理的な現金よりもコスト効率が高く、銀行口座を持たない人々の金銭へのアクセスを容易にし、違法行為をある程度制限できることにある。

しかし、中央銀行が発行するデジタル通貨には利点がある一方で、市民に対する監督を行ってきた、あるいは監督を試みてきた実績のある政府によってそれがどのように利用されるのかという懸念が存在する。

eNairaについてこれまでにわかっていること

この試験的なローンチに向けて、CBNは8月、デジタル通貨の開発と展開のための事業者としてバルバドスを拠点とするBitt Inc.(ビット・インク)を選定した。

同社は、東カリブ海諸国通貨同盟(ECCU:Eastern Caribbean Currency Union)に協力し、デジタル通貨DCash(Dキャッシュ)の設計とローンチを支援してきた実績を持つ。DCashは独自のCBDCを完全にローンチした5カ国のうちの4カ国、アンティグア・バーブーダ、グレナダ、セントクリストファー・ネイビス、セントルシアで使用されている。

9月27日、CBNはeNairaのウェブサイトを立ち上げ、ナイジェリア人がどのように同国のデジタル通貨にアクセスし、利用できるかについて必要な情報を提供した。

ナイジェリア人は最初にeNairaモバイルアプリをApple StoreかPlay Storeでダウンロードする必要がある。サイト上のQRコードをスキャンしてサービスにアクセスすることも可能だ。

ユーザー登録後、お金の保管や送受信を行うためのSpeed Walletと呼ばれるウォレットを登録・作成する。プラットフォーム上では、銀行口座を持つ、あるいは持たない、さまざまなIDレベルのユーザーに対応するために、複数層のウォレットが用意されている。

ウェブサイトには、eNairaの4つの主要機能が掲載されている。顧客がeNairaウォレットからお金を移動できる統一決済システム、ユーザーが残高や取引履歴を確認できる銀行口座管理機能、QRコードを読み取って店頭で支払いができる非接触型決済サービス、そしてユーザー同士がリンクされた銀行口座やカードを介して送金を行うP2P決済だ。

暗号資産がCBDCに移行

ビットコインのような暗号資産は、従来のグローバルな銀行システムの枠を超えて生み出されたにもかかわらず、お金のデジタルな未来についてのポテンシャルを際立たせている。そしてその普及率の急激な上昇は、お金の将来を決定づけることにおいて、伝統的な機関との衝突につながっている。

暗号資産に対する議論は、一般的には詐欺やボラティリティに関する懸念に焦点が当てられてきた。それでも、エルサルバドルのような一部の国では、ビットコインを法定通貨として使うことをやめていない。ビットコインや暗号資産を自国の銀行や金融システムへの脅威と考える他の国々にとって、CBDCは、法定通貨以外のものへの関心の高まりに直接代わるものとして機能する。

Blockchain Nigeria User Group(ブロックチェーン・ナイジェリア・ユーザー・グループ)の創設者でコーディネーターを務めるChimezie Chuta(チメジー・チュタ)氏は、TechCrunchの取材に対して次のように述べている。「CBDCの概念は、中央銀行にとって不可欠なものとなっています。お金は人々を統制するためのツールです。ビットコインやイーサリアムのような非公開で発行された暗号資産の流入は、世界中の中央銀行の権威に対する直接的な挑戦であり、中央銀行は主要な統制ツールが損なわれるのを許容することはできないと考えています。CBDCは、弱いながらもその対抗策として浮上してきたのです」。

暗号資産はかなり独立性がある一方、デジタル通貨は紙の通貨と同じ価値を有している。ナイジェリアの場合、eNairaはナイラに連動しており、ナイラと同様に米ドルに対して変動する。

CBDCと暗号資産のもう1つの重要な違いは、前者が規制と統制にさらされていることにある。これは中国とナイジェリアの政府の核心にある共通のテーマだ。

2014年以降、中国は中央銀行である中国人民銀行(PBOC:People’s Bank of China)が支援する国家デジタル通貨(デジタル人民元)の開発に取り組んできた。その前年に、中国政府は銀行や決済企業がビットコインなどの暗号資産関連サービスを提供することを禁止している。

2017年には、中国はマイニング、イニシャル・コイン・オファリング(ICO:Initial Coin Offering)、および暗号資産取引プラットフォームが法定通貨を暗号資産に変換することを禁止した。

しかしこの禁止にもかかわらず、ビットコインや他の暗号資産はそれ以降もこのアジアの国で大きな牽引力を得てきた。そのため、2021年5月には、フィンテック企業が暗号化プラットフォームに口座開設、登録、取引、清算、決済に関するサービスを提供することを禁止する、より厳格な法律を制定した。

これまで中国は、地元の暗号資産プラットフォームのみをターゲットにしており、個人がオフショア取引所で暗号資産を保有することは禁止していなかった。

しかし2021年9月、中国政府が暗号資産取引(マイニングを含む)に関するすべての取引を違法であると宣言したことで状況は変わった。同政府はまた、Binance(バイナンス)のような海外の暗号資産取引所が中国本土の人々にサービスを提供することも違法であるとしている。

「中国は過去に何度も暗号資産にまつわる『禁止』措置を取ってきましたので、驚くに値しませんが、今回は曖昧さがありません」とPwCの暗号資産リーダー、Henri Arslanian(ヘンリ・アルスラニアン)氏はツイートした。「中国では、あらゆる種類の暗号資産取引と暗号資産関連サービスが禁止されています。議論の余地はありません。グレーの領域は存在しません」。

一部のアナリストは、中国によるこれらの禁止や制限は、2022年にこのアジアの国が完全にデジタル人民元をリリースすることを目的としていると述べているが、その見方は妥当であろう。WeChat(ウィーチャット)とAlipay(アリペイ)が5回に4回のデジタル決済を行っているこの国で、流通している現金の一部を置き換えるためにデジタル人民元をローンチしたと中国政府は主張している。

暗号資産に対するさらなる取り締まりや監督の可能性

PBOCは政府の支援を受けて、上海、成都、北京で2020年4月から試験運用が開始されたデジタル人民元により、オンライン決済の市場シェアをAlipayとWeChatによる複占から取り戻そうとしているのかもしれない。

eNairaと同様に、ユーザーは中央銀行が開発・管理するモバイルアプリをダウンロードすることによってのみ、デジタル人民元にアクセスできる。これまでのところ、700万以上の個人のデジタルウォレットと100万以上の企業のウォレットがデジタル人民元を使用している。Business Insider(ビジネスインサイダー)によると、これらのトライアルから合計53億ドル(約6050億円)の取引が行われたという。

ナイジェリアは暗号資産マイニングの国ではないものの、国民は暗号資産のヘビーユーザーだ。Paxful(パックスフル)によると、多くのナイジェリア人がナイラの下落から自身の貯蓄を守るために暗号資産を利用しており、この西アフリカの国はビットコイン取引で米国に次ぐ2位に位置している。

Chainalysis(チェイナリシス)のデータに基づくと、ナイジェリア人は5月に24億ドル(約2700億円)相当の追跡可能な暗号資産を取引している。2月にナイジェリア政府がCBN経由で暗号資産取引の禁止やそのような取引への銀行の参加を制限し、暗号資産を使用するナイジェリア人の口座を閉鎖するよう銀行に命じたことを考えると、これは驚くべき数字である。

そして、中国と同様に、ナイジェリアのその後の行動は自国のデジタル通貨を試験導入する方向に傾いた。しかし中国とは異なり、ナイジェリアは現金中心の社会だ。バハマのような小国がデジタル通貨を導入した主な理由(金融包摂性の改善の可能性を含む)の1つがここにある。こうした目的に照らしてみると、ナイジェリアでのデジタル通貨の導入は紙面上では理に適っている。

しかし、それが暗号資産を使用したい人々へのインセンティブを減らすための政府の策略であることを理解する人がいる一方で、多くのナイジェリア人はその有用性に疑問を抱いている。だが、懸念すべき微妙な要素は他にもある。同国における暗号資産活動の監督や全面的な取り締まりに対するものだ。

典型的には、政府は金融取引を監視し、疑わしい、あるいは異常な金銭活動に関する情報を収集するために、金融インテリジェンスユニットを使用する。しかし、CBDCは事態を1段階引き上げるかもしれない。

複数の出版物が、中国政府はデジタル人民元を使って国民に対する監督を進める可能性があるとほのめかしている。中央銀行であるPBOCの説明では、デジタル人民元サービスを運営している機関は「非同期伝送によって中央銀行に取引データを適時に提出」することが期待され、それにより中央銀行は「データを追跡し、マネーロンダリングと犯罪の取り締まり」ができるようになるとされている。

CBNも同様の目的を持っており、eNairaは「各eNairaの追跡可能な固有ID」により詐欺行為やマネーロンダリングを最小化する、と以前に述べている。

「銀行や通信会社はすでに検証プロセスを通じて必要な情報を持っています」とチュタ氏はいう。「しかし、CBDCは監視と監督を強化するでしょう。なぜなら、デジタル環境で実際にお金の流れを追跡することができ、配備している台帳上で各ユーザーの取引に対するフォレンジック分析を行えるからです」。

6月に現地メディアが報じたところでは、ナイジェリアはインターネットファイアウォールを構築するために中国と協議中のようだ。同報道によると、中国の「グレート・ファイアウォール」は政府のオンライン検閲と監督の中枢になっているという。ナイジェリアにはこうした監督用のファイアーウォールを構築するリソースがないが、eNairaは規模こそ小さいものの、同じ目的のために設計されたのではないかと考える向きもある。

「CBDCは追跡可能であり、政府が不当な監督を行うことを決定した場合に有用になると思います」と匿名を希望する暗号資産ユーザーはTechCrunchに語った。

また、中国のケースと同様に、eNairaの採用が計画通りに進まない場合や、政府がeNairaを国内で取引される唯一のデジタル通貨として強制する場合には、暗号資産の取り締まりがさらに強化される可能性がある。

その典型的な例が、中国の新たな命令により、世界最大の暗号取引所であるHuobi(フォビ)とBinanceの2カ所でユーザーの新規登録が停止されたことだ。Huobiは年末までに現在のアカウントを廃止することを明らかにしている。

ナイジェリア政府がこのような権限を行使できるかどうかは定かではない。それでも、ナイジェリア人に対するサービス提供や雇用をオフショア暗号プラットフォームから禁止し、成功した場合、ピア・ツー・ピアの活動(ナイジェリアで暗号資産を繁栄させてきた)は深刻な打撃を受けるだろう。

「政府は概して、暗号資産に脅威を与えています。現実世界の権力をつ人がいるような状況では、暗号資産の取引で投獄される可能性があります」とナイジェリアの暗号資産交換プラットフォームで成長リードを務める人物は述べている。「政府が本当に自国内での暗号資産の使用を禁止することを決定した場合、暗号資産は抑圧され、ある時点でそれを使用する価値がなくなる恐れがあります」。

しかし現時点では、ナイジェリアと同国の頂点にある銀行は、eNairaに対して高潔な意図を持っているようだ。CBNのGodwin Emefiele(ゴッドウィン・エメフィーレ)総裁は、eNairaはより安価で迅速な送金流入と国境を越えた貿易の増加につながると述べている。

送金に関しては、eNairaは国外にいるナイジェリア人が故郷に送金するためのより良い代替手段を提供すると思われ、長期的にはナイジェリアへの送金が増加傾向にあり、2020年は170億ドル(約1兆9400億円)に達している。

中国の銀行がナイジェリアでの業務を拡大しているとのニュースが2021年9月に広まったが、この事実は、両国間のクロスボーダー貿易の有効性に対する極めて重要な要素を示しているのかもしれない。中国はナイジェリアの最大の貿易相手国で、両国間の2021年の貿易額は200億ドル(約2兆2800億円)を超え、2020年の192億ドル(約2兆1900億円)から増加している。3年前、両国はより良い貿易を目指して通貨スワップ協定を試みたが、何も具体化しなかった。しかしチュタ氏は、両国のデジタル通貨は完全な代替物として機能できると主張する。

「両国にとって有益な相互運用性があると思います。ナイジェリアから中国に送金したい場合、少なくとも4つの異なる手続きを踏まなければなりません。それには3、4日かかります」とチュタ氏。「ですが、中国とナイジェリアのCBDCが相互運用することを想定してみましょう。中国のサプライヤーに送金したい場合、アプリ上の簡単な操作でeNairaを中国人民元に交換してサプライヤーに送信すれば、サプライヤーは従来の送金機関で通常行う手続きに比べてごくわずかな時間で支払いを受けることができます」。

ナイジェリアの中央銀行は、eNairaは「支払い効率、歳入と税徴収、そして対象を絞った社会的介入」の改善にもつながるだろうと述べている。

ナイジェリアの頂点に立つ銀行は、これらすべてを達成できるだろうか?パイロットモードでも完全にローンチされたモードでも、大規模な成功を収めた国はまだ存在しないため、断言するには時期尚早である。eNairaはポートハーコート、アブジャ、カノ、ラゴスの4都市で段階的に展開される予定だ。しかし、政府主導の同様の取り組みが過去にどのように行われてきたかを考えると、本格的な展開が実現する見込みはほんのわずかしかない。

画像クレジット:Bryce Durbin/TechCrunch

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(文:Tage Kene-Okafor、翻訳:Dragonfly)

Tencentのチップ開発進出はまったく驚くべきことではない

Tencentは今週初めて、チップ開発の進捗を公開し、その結果、同社の株価はわずかながら上昇している。ゲームやソーシャルネットワークで稼ぐ大企業であるTencentの主要分野からシリコンは遠い存在のように思えるが、観測筋によると、Tencentのこの動きは、半導体を自主開発するという中国の長期的目標に同社も一枚噛んでいることを示すものだ。しかもちょうど現在、ゲーム部門は規制当局から一連の攻撃を受けている。AlibabaやBaidu、Huaweiなどのテクノロジー大手も北京のシリコン推進に自社製チップで応えている。

その一方で、Tencentのようにデータの処理量が極めて多い企業は、もっと早く半導体の自社生産に取り組んでいてもおかしくなかった。

米国時間11月5日にTencentが発表した3つのチップはすべて自社製で、1つはAIの推論用、1つはビデオのコード変換用、そしてもう1つはネットワークインターフェース用だ。

巨大インターネット企業が自らの事業を強化するために専用のハードウェアを開発し始める例は、数え切れないほどある。2018年に、FacebookはAIチップの設計者を雇って、その途方もない量のユーザーデータを処理し、偽情報の問題を解決しようとしていた。

Tencentも、稼ぎ頭のアプリであるWeChatメッセンジャーの毎月のユーザー数は10億を超えており、処理すべきデジタルの足跡は大量だ。

しかしWeChatの管理者であるAllen Zhang(アレン・チャン)氏は、個人データを企業の私的目標に資することに消極的なことで有名だ。これまで、WeChatのユーザーフィードはただ時間順に並んでいるだけで、たまに自社広告が出るぐらいのものだ。

2020年のWeChatの年次大会でチャン氏は「ユーザーのチャットの履歴を分析すれば、巨額の広告収入が得られるだろう。しかし私たちはそれを行わず、WeChatはユーザーのプライバシーを非常に重視している」と述べている。彼が望んでいるのはWeChatが便利な使い捨てのツールであることであり、ユーザーの時間をアルゴリズムが生成する中毒性のあるリコメンデーション漬けにすることではない。

しかしチャン氏は、譲歩したようにも見える。最近のWeChatには、TikTokの最小限の機能を搭載したような短編動画もある。TikTokと同じくWeChatのビデオ機能も、ユーザーの好みを予測してコンテンツを提供している。

Tencentには、機械学習の高性能化が有利に働き、収益が増えそうな事業もたくさんある。たとえばニュースアグリゲーターのTencent Newsや、Netflixに似たTencent Videoなどだ。中国は検閲が厳しいため、コンテンツプロバイダーは、引っかかりそうなテキストやオーディオやビデオを事前に排除するためにより強力なコンピューターの力を必要としているだろう。

Tencentの上級副社長であるDowson Tong(ダウソン・トン)氏によると、同社のAI推論チップは主に、画像と動画の処理、自然言語処理、検索などに使われる。動画のコード変換用チップは、その名のとおりの仕事をしてTencentの膨大な量の動画処理に滑らかさと低レイテンシーを確保する。そしてスマートネットワークのインターフェースカード(SmartNIC)は、CPUサーバーのオフロードに利用される。

Tencentは、チップの開発だけに取り組んでいるのではない。トン氏によると、同社は今後、国内と海外のチップ企業が「深い戦略的なコラボレーション」を維持できるようなエコシステムを作っていく。たとえばTencentは4回の投資ラウンドで上海のEnflameを支援したが、同社はAIの訓練用チップを開発しており、Tencentもすでにそれを自らの事業に利用している

画像クレジット: Visual China Group / Getty Images

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(文:Rita Liao、翻訳:Hiroshi Iwatani)

人材管理を自動化する中国のHRテックスタートアップMokaが約113億円を調達

人材管理をソフトウェアで容易にしたいと考えている、中国で6年目のスタートアップのMoka(モカ)は、米国時間11月2日、1億ドル(約113億円)のシリーズCラウンドを獲得したと発表した。

本スタートアップは、採用から既存の社員の維持まで、人材管理の全プロセスを自動化することを目指している。例えば、採用候補者からの面接後のフィードバックを自動的に収集し、その情報をデータベースに保存することができる。また、社員が履歴書に変更を加えると、新しい機会を検討していることを示唆する注意を雇用主側に知らせることができる。

今回の投資は、Tiger Global(タイガー・グローバル)が主導し、Blue Lake Capital(ブルー・レイク・キャピタル)、Hillhouse Capital(ヒルハウス・キャピタル)のアーリーステージ部門であるGL Ventures(GLベンチャーズ)、GSR Ventures(GSRベンチャーズ)、GGV Capital(GGVキャピタル)が参加した。

今回のラウンドは、MokaがシリーズBラウンドで4300万ドル(約48億8300万円)を調達してからちょうど1年後に行われた。同社は「ユニコーン」の地位を獲得したと述べているが、正確な評価額については公表していない。ゲームやショートビデオなどの消費者向けインターネットサービスが規制強化に直面する中、企業の生産性向上に貢献するスタートアップ企業への投資家の関心が高まっていることを反映しているのだろう。

Mokaは、Tencent(テンセント)、Xiaomi(シャオミ)、McDonald’s(マクドナルド)、Arm China(アーム・チャイナ)など、1500社以上の有料顧客を獲得しており、年間の継続率は110%を超えているという。スタンフォード大学の卒業生であるLi Guoxing(リー・グオクシン)CEOは、以前の講演で、Mokaの製品は中国のインターネット企業の間で特に人気があると主張していた。

画像クレジット:MokaのCEO、Li Guoxing

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(文:Rita Liao、翻訳:Akihito Mizukoshi)

Epic Gamesが「フォートナイト」の中国進出を断念

米国時間11月1日、Epic Games(エピックゲームズ)はビデオゲームのメガタイトル、Fortnite(フォートナイト)の中国市場参入を中止したことを発表した

同社は、中国における長らく続いていた人気シューティング・ゲームのテストを11月15日に終了することを公式声明で発表した。今日から新規ユーザーは登録できない。

中国のインターネット巨人、Tencent(テンセント)はEpic Gamesの株を保有している他、別の米国ゲーム会社で世界的ヒット作ゲームを作っている, Riot Games(ライオット・ゲームズ)も完全所有している。

中国のゲーム業界では、最近の規制当局による審査の変更や政府による若者のゲーム時間制限の検討が起きている。中国共産党による若年層のゲーム時間を減らす動きの影響はまだ明らかではないが、この決定によって中国におけるFortniteの公開が困難になった可能性がある。

Epciは中国に特化したバージョンのFortniteを開発した。世界中でよく知られているタイトルの変種だ。ゲーマーが作っているwikiに、ゲームプレイや収益化の変更、現地法に沿うためのキャラクター・グラフィクスの変更などの詳細が載っている。同じ項目に、一定時間プレイした後はゲーム内の体験ポイントを獲得できなくなると書かれている。

EpicによるFortnite China中止の決定は、同国のゲーミング市場変更への対応と見ることができる。ゲーム時間制限のさらなる強化と、少額決済の制限による収益の低下によって、単純に計算が立たなくなった。

先月のLinkedIn(リンクトイン)の撤退によって、中国デジタル世界からもう1つ人気プロダクトが消えたことは注目に値する。2つの動きは、非中国企業がこの国で製品を提供することが、たとえ現地に支援者がいても困難であることを浮き彫りにしている。

他の文化的コンテンツの実績も芳しくない。最近のMarvel(マーベル)映画 “Eternals”(エターナルズ)は同国で公開される様子がない。おそらく、監督である北京出身のChloé Zhao(クレオ・ジャオ)氏のコメントが国家批判にあたるという意見が一部にあるからだろう。

規制の強化に加えて国際的な映画やゲームを中国に持ち込む能力、あるいは意欲の減少によって、この国はますます国際文化から隔離されていくだろう。そして、おそらくそれと同時に、中国が自国の文化的創造物を通じて「ソフトパワー」(軍事・経済力以外の政治的価値観)を獲得する機会は制限されるだろう。

いずれにせよ、中国のFortniteファンにとって、中国当局を回避するトリックを使わずにゲームをプレイする手段は失われつつある。

Epic Gamesは、中国のプレイヤーに向けて発信した以下の声明以外、中止についてコメントしていない。

Fortnite Chinaプレイヤーのみなさまへ:

Fortnite Chinaのベータテストはまもなく終了し、サーバーは閉鎖されます。詳細は以下をご参照ください。

11月1日月曜日午前11時をもって、新しいユーザー登録の入口とゲーム・ダウンロード・ポータルを閉鎖します。

11月15日月曜日午前11時、Fortniteのサーバーを停止し、プレイヤーはWeGameクライアント経由でゲームに接続できなくなります。

Fortnite Chinaプレイヤーとしてベータに参加し、私たちとともにBattle Busを苦しめてきたみなさん全員に感謝いたします。

サーバー閉鎖に関する質問あるいは提案のある方は、こちらをクリックしてフィードバックを送ってください。

画像クレジット:Kyle Grillot/Bloomberg / Getty Images

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(文:Alex Wilhelm、翻訳:Nob Takahashi / facebook

ByteDanceの社内再編でTikTokの親会社の将来が見えてきた

ByteDance(バイトダンス)は、エンジニアリングからマーケティングサポートまでのリソースを共有する強固なバックエンドを通じてアプリを生産して収益化するという実証済みのモデルにより、「アプリ工場」として長い間評価されてきた。その結果、中国ではDouyinやToutiao、その他の地域ではTikTokなどの人気アプリが誕生した。

その間、同社は自制的なプロダクトを次々と発表し、「フラット」な社内組織を誇ってきた。The Informationがまとめたデータによると、2020年9月時点で、トップのZhang(張)氏は14人の幹部を従えていた。

しかし、会社が繁栄を続けるにつれ、幹部たちは膨れ上がった会社の規模に合わせて構造的な変革が必要だと認識した。その変化が訪れた。TechCrunchが11月2日に確認した内部文書によると、ByteDanceはアプリとオペレーションを6つの新しい「事業部門」に分類する。

注目すべきは、現在TikTokの最高経営責任者であるShou Zi Chew(周受資)氏が、ByteDanceの最高財務責任者ではなくなることだ。周氏は、Xiaomi(シャオミ)でCFOを務めたこともある銀行幹部で、3月にByteDanceのCFOとして入社し、5月にTikTokのCEOに就任した。

CFOに任命された当時、周氏はByteDanceの新規株式公開のために引き抜かれたのではないかという憶測が流れた。

しかし、Ant Group(アント・グループ)が計画したIPOの失敗や、その後のDidi(ディディ)への規制締め付けにより、上場を目指す中国のインターネット企業の見通しは暗くなっている。ByteDanceにとって、もうひとつの、そしておそらくもっと難しい問題がある。それは、同社のどの部門をどこに上場させるかということだ。

ByteDanceの共同設立者であるRubo Liang(梁汝波)氏は、Zhang Yiming(張一鳴)氏の後任として同社CEOに就任した。

新たに設立された6つの事業部門は、ByteDanceの当面の戦略的焦点を示す有益な指標となる。その内容は以下の通りだ。

TikTok:動画共有アプリと、それに付随するビジネス(中国国外でのeコマース事業など)を管理する部門。

Douyin:TikTokの中国版であり、ByteDanceが中国で展開している広告付きコンテンツ事業を統括する独立した事業部門の名称として正式決定した。長時間の動画を配信するXiguaや、同社の人気ニュースアグリゲーターToutiaoもこの部門に組み込まれる予定だ。

Dali Education:Daliは、ByteDanceがオンライン学習分野に進出するために2020年に設けられた。現在は職業学習、教育用ハードウェア(多忙な親が宿題の時間に遠隔で子供の相手をすることができるランプなど)、キャンパス学習の取り組みを統括している。

Lark:職場コラボレーションソフトウェアであるLarkは、SlackとG Suiteを1つにするというByteDanceの野望であり、同社のB2Bへの賭けの一環でもある。

BytePlus:ByteDanceのB2B事業の中で、基本的にはインフラの部分。法人顧客にAIやデータツールを販売する。

Nuverse:ByteDanceのゲーム開発・出版部門で、海外向けタイトルの管理も行う。中国のゲーム会社は、規制による不確実な状況で海外での成長を求める傾向が強まっている。

TikTokのアイデンティティ

TikTokの事業部門が設立されたことは注目に値する。ByteDanceは、TikTokが中国政府と関連しているという懸念が欧米で高まって以来、TikTokを他の中国事業から切り離してきた。TikTokは、すべてのデータを米国に保存し、バックアップサーバーは親会社の本社がある北京ではなく、シンガポールに置いているという。

これらの措置は、米国の規制当局の懸念を和らげるのに十分ではない。TikTokは、米国での初の議会公聴会で厳しい質問に直面し、意味を明確にするよう何度も求められた。

Ted Cruz(テッド・クルーズ)上院議員は、Beijing ByteDance TechnologyがTikTokの「企業グループ」の「一部」であるかどうかについて明確にするよう求めた。これらの文言は、TikTokのプライバシーポリシーで使用されているもので、アプリは「収集したすべての情報を企業グループの親会社、子会社、またはその他の関連会社と共有することがある」と記載されている。

TikTokの担当者は、ByteDanceの中国法人であり、中国政府が今年出資して役員を送り込んだBeijing ByteDance Technologyと、TikTokは「無関係」であると主張した。この文言は上院議員を満足させるものではなかった。

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画像クレジット: Greg Baker / Getty Images

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(文:Rita Liao、翻訳:Nariko Mizoguchi

【コラム】中国の労働文化の未来、労働者と経営者の間で揺れ動く労働規則

2021年8月下旬、中国の最高裁判所(最高人民法院)は、中国で最も悪名高い労働慣行の1つを違法とする判決を下した。

中国には「996」という略語があり、週6日、午前9時から午後9時までの勤務時間を示す。中国で急成長しているテック企業によって広められた「996」は、ストックオプションプランを持つ都会のスマートなスタートアップ企業の従業員がIPO(新規株式公開)や資金調達で億万長者になることを目指し、がむしゃらに働く姿をよく思い起こさせる。しかし「996」については、雇用者と従業員がそれをどのように理解し、適用するか、また規制当局がどのように見ているか、徐々に改善が見られる。


実際、8月26日の最高裁判決と人的資源・社会保障部から発表されたガイドラインは、テック企業とその高学歴で高給取りの従業員に影響を与えるだろう。しかし、この訴訟自体は、デジタル経済の階層のかなり下位に位置する労働者(中国主要37都市の平均を少し下回る月給8000元[約1240ドル、約14万2000円]の物流作業員)を対象としたものだ。

中国の規制当局は、雇用者と被雇用者の双方に対し、両者の関係を定義するルールを変える必要があるというメッセージを送っているようだ。最近の中国における多くの事例からわかるように、中国の指導者は、行動だけでなく、中国社会の中核を成す理念、心理、インセンティブ構造の変化を求めている。しかし、それがどのようなものなのか、具体的にはまだ見えてきていない。

オオカミのようなハングリー精神(文化)

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多くの中国企業を特徴づけている過酷な労働文化の結果であろうと、多くの企業が模倣した先駆的な例であろうと、Huawei(ファーウェイ)ほど996の労働文化の精神、メリット、潜在的な弊害をよく表すケーススタディはないだろう。

「オオカミの文化」として知られる、深圳(シンセン)を拠点とする通信業界の巨大企業は、その猛烈ぶりを特徴としている。「オオカミの文化」の意味は、誰に聞くかによって答えは変わる。好意的な解釈をすれば、それはある種の絆であり、チームメンバーを共通の目標に向かって協力し合う「群れ」と例えていると考えられる。しかし人によっては、もっと残酷な意味を持つ場合もある。2017年のファーウェイでの取材では、同社のある元社員は「ファーウェイでは『オオカミ文化』とは『食うか食われるか』という意味だ。社内の全員が互いに激しく競い合えば、外部からの脅威との戦いや競争に強い会社になるという考え方だと思う」と説明してくれた。

従業員がどのように考えているかにかかわらず、ファーウェイの文化の中核にある猛烈ぶりは、同社の成功に寄与してきた。同社の競合企業である欧州のEricsson(エリクソン)やNokia(ノキア)が、融通の利かない官僚主義、または独善的と批判されてきたのとは対照的に、ファーウェイはどんな困難が予想されてもプロジェクトを勝ち取って実現しようとする意欲を示し、世界中の通信ネットワークプロバイダーから支持された。

中国政府からの低金利の融資や自国市場での収益性の高い事業という好条件を生かし、海外事業への資金を得ることができたが、会社の文化を支える極端な熱意には競争原理もあり、他の中国企業が「996」という形でそういった精神を模倣した理由も説明できる。

ファーウェイをはじめとする中国企業は、今では一部の分野で最先端のイノベーターとみなされているが、創業当初は海外の同業者に技術力や知識で遅れをとっており、その克服に奮闘の日々が続いた。しかしその後、独自の技術や高度な技術での優位性はないものの、コストやスピード、そして発展途上国では特に厄介なビジネス上の障害を回避する柔軟性を発揮し、競争力を獲得した。

「中国のテック企業は、製品よりも実行力に価値を見出しているようだ」と、中国とシリコンバレーの両方でスタートアップを立ち上げたドイツ人起業家のSkander Garroum(スカンダー・ガロウム)氏はいう。そして「米国を中心としたテック企業のサクセスストーリーでは、1人の天才がすばらしい製品を生み出し、オープンなインターネットとオープンな経済のおかげで、単に製品の明確な優位性が広まることで規模を拡大していくというものが多い。しかし、中国や発展途上国の市場は、障壁が多く、オープンではないため、製品の良し悪しだけでなく、チームがどれだけうまく機能し、どれだけ一生懸命働いたかが規模の拡大では重要になる」と説明する。

このような話は真実を誇張して伝えられることも多いが、ライバル企業を凌駕しようとする姿勢は、多くの中国企業において誇るべきものとして見られている。ライドシェア企業であるDidi Chuxing(ディディチューシン)は、2010年代半ばの中国市場でのUber(ウーバー)とのシェア争いで名高い勝利を収めたが、そこには多数の要因があった。しかし、多くの関係者に聞いたところ、その答えは、単にローカルレベルでより良い仕事をしただけであり、ウーバーが戦い続ける価値がないと判断するまで、より激しく戦おうとしただけだというものが多い。

多くの企業は、それぞれの労働倫理とハングリー精神に基づき、特別優れた経歴は持たなくても、自分の身分を超えて高みを目指す人材を積極的に採用している。例えばファーウェイは「四線都市」や「五線都市」(6つの階級の内下位の2級)の若くて優秀な「第一桶金(人が大金を稼いだり、中流階級になったりする最初の機会)」を狙う人材を対象に採用活動を行っていることで知られている。

中国が成長し、企業が世界的に地位を高めると、過酷な労働時間ではあるものの、手厚い報酬を得ることができ、多くの中国国民が「第一桶金」の夢を叶えることができた。ファーウェイの従業員持株制度に登録している古くからの従業員の場合、年間の配当金は数十万ドル(数千万円)から数百万ドル(数億円)に上り、多くの場合、給料を上回っていたことが知られている。がむしゃらに働き、その苦労は報われたということだ。

企業による搾取を目的としたシステム

悪名高い過酷な労働文化で知られる中国では、法律上、労働者の権利が非常に保護されているというのは、直感的には意外に感じるだろう。実際、それらの法律はほとんど効力を発揮していない。

厳密にいえば、労働時間が標準的な週5日、40時間を超えた場合には残業代が支払われることになっているが、企業は法的義務を逃れるために、公式、非公式を問わず数多くの方法を利用することが知られている。

ファーウェイの場合は「striver pledge(努力家の誓約)」と呼ばれるものがある。これは、新入社員がおそらく表向きは「自発的」に署名する契約書であり、残業代や有給休暇の権利の行使を差し控えるというものだ。ファーウェイはこのような方法で注目されているが、同様の方法は一般的に行われており、ファーウェイほどの特典や出世の道を提供していない企業では特に多いようだ。

中国の国内企業と外資系企業の両方で働いた経験を持つキャリア豊富なある人事マネージャーは「当社の[ブルーカラーの]従業員の場合、残業代はすべて毎月の給料に含まれると契約で定められている」と説明しつつも「良いことではないが、私の知る限り、中国ではかなり標準的なことだ」と述べる。

労働法を逃れるもう1つの方法は、経営者に圧倒的な力を与える業績評価基準を作ることだ。「中国の企業では、欧米にならい業績管理に『成果物』の概念を取り入れているが、その解釈を極端に拡大することがよくある」と、かつて2つの大規模な中国欧州合弁企業で人事を統括していた女性幹部は語る(なお、この女性幹部も、この記事の多くの取材協力者と同様に、デリケートな政策問題について自由に話せるようにと匿名を希望した)。また「しかし『成果物』は多くの場合、達成できないだろう。従業員の「成果」が満足できるものかどうかは、管理職の判断に委ねられているためだ」とも述べる。この女性幹部は、自分のキャリアを通じてこのような慣行を阻止してきたといい、多国籍企業よりも中国のローカル企業でよく見受けられたと付け加えた。このような社内力学が働いた状況であれば、無数の搾取が行われている可能性があることは想像に難くない。

組合の利用を選んだ人たちは、企業だけでなく、国とも対立することが多い。中国では独立した労働組合は機能上違法であるが、国営の中華全国総工会(ACFTU)は以前から労働争議における労働者への支援に一貫性がないといわれている。

2019年、ファーウェイに13年間勤務した元従業員の李洪元氏が、退職金の交渉中に同社を脅迫したという容疑で251日間拘束された。検察当局は、不正行為を示す十分な証拠は確認できなかったとし、最終的に同氏を釈放したが、同氏の長期拘留のニュースを受け、ネット上ではファーウェイに対する激しい非難の声が上がった。

名目上は社会主義国である中国では、近年、労働問題に対する国民の不満が高まりつつあるようだ。2018年、エリート校である北京大学の警備会社が、中国南部での労働運動家への弾圧に抗議していた同大学のマルクス主義団体による抗議活動を取り締まった。また、GitHub(ギットハブ)に「996.ICU」というリポジトリが作成され、テック企業の過酷な職場環境に苛立っていた従業員らが不満をぶちまけ、非道な態度をとる会社に対して注意を喚起するためのオンラインフォーラムとして人気を博した。中国全土の疲れ切った若者たちの間では、一昔前の世代に見られるプレッシャーや野心を拒否する「躺平(タンピン、寝そべる)」というトレンドが人気を集め、政府は主要新聞でこの動きを激しく非難している

シュレーディンガーの労働時間:明記された法律と暗黙の規範

少子化を食い止めるために家庭に対する抑圧を軽減する必要性が増したことから、当局は中国における労働関係を規定してきた暗黙のルールを変えようとしている。

8月26日の判決を受けて、多くの企業が公式の方針を変更するために迅速に動いた。しかし、多くの企業や業界にとって、それ以上に大きな課題として立ちはだかるのは、文化や期待の問題だ。

TikTok(ティックトック)の親会社であるByteDance(バイトダンス)は、これまで公式に週6日制をとっていたことが知られていたが、この方針に終止符を打った。しかし、これは従業員らにとって必ずしも喜んで受け入れられるものではなかった。というのも、従業員は、勤務日数が減る代わりに、それに相応する給与の削減も受けたからだ。

中国の複数のインターネット企業で働いた経験のあるZhou(周)という名の女性は「私たちの多くは、納得した上でインターネット企業で働いている」とし「一生懸命働かなければならないことはわかっているが、その代わりにもっと多くのお金を稼ぐチャンスもあるはずだ」と説明する。そして「もし違うことを望むのであれば、別の会社で働くことにしていただろう」と、バイトダンスの一部の従業員が労働時間と給与の減少に憤慨するのは理解できるという。

一部の中国の技術系従業員の目には、労働時間に関する政府の厳しい要求に従うよう企業に対する圧力が強まることは、直接的な報酬に反映されない非公式な労働時間が増えるだけではないかと映っている。「知る限りでは、自分や自分のチームには何の変化もない」と、米国に上場している中国の人気インターネット企業の従業員は語る。「週末も働いているし、休日(10月1日の国慶節)にも働く予定だ。公式な休日だからといってビジネスが止まるわけではない」といい、また、時間外労働に対する残業代は「もちろん」ないと付け加える。

「ビジネスが止まるわけではない」という考えがあるからこそ、政府の規制が技術系従業員の労働条件改善に効果があるかどうか、疑問を抱く人もいるのだ。「バイトダンスは正規の労働時間と給与を減らしているが、何も変わらなければ何も問題はない」と、周氏は率直に述べ、そして「みんな仕事を続けたいし、昇進したいと思っている。だから当然、働けるだけ働く…あるいは、もっと給料の高い会社に移るだろう」と語る。

しかし、管理職に昇進すると、最近の政府からの指令を法律の文言と精神の両面から真剣に受け止めようとする傾向が非常に強くなる。「企業はこの問題に取り組んでいることを示さなければならないし、そうしなければ当局から見せしめにされる恐れがある」と、中国欧州合弁企業の人事担当者は語る。「人事部は全社的な監査を行い、従業員の勤務時間を明確に把握すべきだ」とし「最もありそうな対応は、少なくとも短期的にでもより多くの人を雇用し、それぞれが短い時間で働くことだろう」と付け加える。

しかし、多くの人が同意しているのは、中国の全体的な傾向だろう。習近平国家主席が「共同富裕」を唱え、巨大国営企業に通告しているように、中国の高成長時代は終焉を迎えようとしているようだ。しかし、政府がどの程度の変化を求めているのかはまだわからない。中国政府は久しぶりに、国営企業コミュニティに対し、今後は労働者よりも企業を圧倒的に優遇するようなことはないというシグナルを発している。問題は、その優遇措置のバランスをどの程度まで調整するかということだ。

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(文:Elliott Zaagman、翻訳:Dragonfly)

米小売大手が中国企業の防犯カメラを店舗から撤去、人権侵害を指摘され

米国の大手小売企業であるHome Depot(ホーム・デポ)とBest Buy(ベスト・バイ)は、中国の防犯ビデオ技術メーカーであるLorex(ロレックス)とEzviz(イージービズ)の製品を、人権侵害との関連性を理由に店舗から撤去した。

Home Depotは「当社は最高水準の倫理的な調達を行うことを約束しており、この件が明るみに出たとき、直ちにLorex製品の販売を中止しました」と、TechCrunchに送られてきた声明の中で述べている。同社はまた、Ezviz社製品の販売も中止したことを広報担当者が認めた。Best Buyは、LorexおよびEzvizとの「関係を打ち切る」と発表した。

Lowe’s(ロウズ)はコメントを控えていたものの、TechCrunchや防犯ビデオ関連情報サイトのIPVMからの問い合わせを受け、Lorex社製品を店舗の棚から撤去した。

LorexはDahua Technology(浙江大華技術、ダーファ・テクノロジー)の子会社であり、EzvizはHikvision(ハイクビジョン)のセキュリティ機器ブランドだ。中国に本社を置くDahuaとHikvisionは、ウイグル族のイスラム教徒が多く住む新疆ウイグル自治区で、中国が継続的に行っている少数民族の弾圧に関係した企業として、2019年に米国政府の経済ブラックリストに追加された

関連記事:ムスリム少数民族に対する人権侵犯に加担した8つの中国企業が米商務省の禁止リストに載る

米国政府によると、中国はウイグル人を監視するための監視機器の供給を、HikvisionやDahuaなどの技術系企業に大きく依存しているという。Biden(バイデン)政権は、新疆での人権侵害を「ジェノサイド(大量虐殺)」と呼び、中国のビデオ監視機器メーカーが、「ウイグル人やカザフ人などのイスラム系少数民族に対する中国の弾圧運動、独断的な集団拘束、ハイテクを駆使した監視の実行において、人権侵害や虐待に関与している」と非難した。

国連の監視団によると、中国当局は近年、100万人以上のウイグル人を収容所に拘束しているという。中国はこの疑惑を長い間否定してきた。

しかし、この制裁措置はDahuaやHikvisionの子会社であるLorexやEzvizには及ばず、また、連邦政府以外には適用されないため、現在も一般的に消費者はこれらの技術製品を自由に購入することができる。

先週までLorexは、Home Depot、Best Buy、Lowe’s、Walmart(ウォルマート)、Costo(コストコ)を5つの国内正規販売店として自社ウェブサイトに掲載していた

コメントを求められたLorexの広報担当者は次のように答えた。「2018年の買収以来、Lorexは当社の親会社について、小売店パートナーと完全に透明性を保ってきました。また、FCC(米国連邦通信委員会)の規則制定案に関する質問への対応も含め、当社は様々な規制やコンプライアンスの問題に関して、これらの企業の代表者と定期的に連絡も取っています」。

Lorexは、同社製品が撤去された後のフォローアップメールには応じていない。Lorexは自社のウェブサイトから大手小売企業5社のロゴを削除したものの、依然としてWalmart社を除く4社を同社の販売店として掲載している。

WalmartとCostcoは、LorexとEzvizの製品を引き続き在庫しているが、コメントの要請には応じていない。

世界ウイグル会議の会長であるDolkun Isa(ドルクン・エイサ)氏は、米国政府による強制労働防止や中国企業への制裁などの「意味のある行動」を歓迎しつつも、「弾圧をさらに進めることを直接支援している米国企業がまだ存在することは受け入れられない」と述べている。

Hikvisionは、TechCrunchとIPVMのコメント要求に応じていない。

編集部注:この記事は、防犯ビデオ関連情報サイト「IPVM」との協力で取材したものとなる。

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画像クレジット:Lorex / YouTube
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(文:Zack Whittaker、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

インドのローカル向けソーシャルメディア「Lokal」が中国Tencentから約13.6億円を調達

インドのハイパーローカルソーシャルメディアプラットフォーム「Lokal(ローカル)」が、中国のインターネットコングロマリット「Tencent(テンセント)」が主導する新たな資金調達ラウンドで1200万ドル(約13億6800万円)を調達したことが、この件に詳しい関係者を通して明らかになった。

ベンガルールを拠点とするこのスタートアップ企業のシリーズAには、既存の投資家である3one4 Capital(3one4キャピタル)、Y Combinator(Yコンビネーター)、India Quotient(インディア・クオシェント)も参加しているとのことだが、関係者はこの件が非公開であることから匿名を希望している。

TencentとLokalは、コメントの要請に応じていない。

推計によると、現在オンラインに接続している非英語圏のインド人は4億人以上いると言われている。彼らにとって、インターネットで提供されるサービスは非常に限られたものであり、そのようなユーザー向けに構築されたサービスはあまり存在しない。

Lokalは、このようなユーザーにリーチし、幅広いサービスを提供しようとしている。その名を冠したハイパーローカルソーシャルメディアアプリは、英語を話さないユーザーがお互いにつながり、交流することを可能にする。

また、このアプリは、ユーザーが近くの仕事を見つける手助けをしたり、商品価格や不動産価格、地元の新聞に掲載されているような婚活広告などの最新情報を提供したりもする。また、スキルアップのためのサービスも提供している。

同社のウェブサイトによると、ダウンロード数は1000万を超え、南インドの複数の州で人気を博しているという。

インド企業が中国の投資家から資金を調達する際に、インド政府の承認を得ることを義務付ける規則をニューデリーが導入してから1年半以上が経過した中で、今回の投資が行われた。この動きは、中国企業のインドへの投資ペースを著しく低下させていた。しかし、ここ数カ月の間に、いくつかの企業がTencentから資金を調達している。

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中国TencentがインドのPocket FMの投資ラウンドをリードへ、最大27億円規模か

TechCrunchは8月、インドのPocket FM(ポケットエフエム)がTencentなどからの資金調達に向けて交渉を進めていると報じた。2016年以降、インドのスタートアップに20億ドル(約2280億円)以上を投資している中国の巨人は、2021年初めにもインドのソーシャルメディアプラットフォームShareChat(シェアチャット)に2億ドル(約228億円)以上を投資したが、同スタートアップは発表時にTencentの関与を明らかにしなかった。

インドの音楽ストリーミングサービスのGaana(ガーナ)にもさらに資金を投入した同社は、最近のインド企業への投資を、当事者間の承認の時間稼ぎと、将来的に負債を株式投資に転換する選択肢を得るために、転換社債として行っている。

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(文:Manish Singh、翻訳:Akihito Mizukoshi)

米政府が中国とロシアへのハッキングツール販売を禁止

米国商務省は、人権侵害をはじめとする悪質なサイバー活動を抑制するため、権威主義政府へのハッキングツールの輸出を禁止すると発表した。

ワシントンポスト紙が最初に報じ、その後商務省が確認したこの規則は、国家安全保障上の理由から、中国やロシアなどの懸念国へのハッキングソフトウェアや機器の輸出や転売を、同省産業安全保障局(BIS)のライセンスなしに事実上禁止するものである。

これは、バイデン政権が3月に中国とロシアへの国家安全保障上の強硬姿勢を継続するために、先進半導体や情報セキュリティのための暗号化を用いたソフトウェアなど、米国の技術の輸出を制限したことを受けた動きだ。

今回の制裁は90日後に発効する予定で、イスラエルのNSOグループが開発したスパイウェア「Pegasus」などのソフトウェアが対象となる。このスパイウェアは、いくつかの権威主義的な政府が、ジャーナリスト、活動家、政治家、企業経営者など、最も声高な批判者の携帯電話をハッキングするために使用してきた

関連記事:45カ国と契約を結ぶNSOのスパイウェアによるハッキングと現実世界における暴力の関連性がマッピングで明らかに

一方、サイバー防衛を目的としたソフトウェアについては、米国のサイバーセキュリティ研究者が海外の研究者と共同研究を行ったり、ソフトウェアメーカーに欠陥を開示したりすることを妨げるものではないため、輸出許可が免除される。BISが2015年に初めてこの規則案を発表した際には、300件近くのコメントが寄せられ、正当なサイバーセキュリティの研究やインシデント対応活動に与える影響について「大きな懸念」が示された。

この規則により、米国は、軍事的安全保障・デュアルユース(軍民両用)技術に関する自主的な輸出管理方針を定めたワッセナー・アレンジメント(Wassenaar Arrangement)に加盟する欧州の42カ国および同盟国と足並みを揃えることになる。

Gina M. Raimondo(ジーナ・M・ライモンド)商務長官は次のように述べている。「米国は、多国間パートナーと協力して、サイバーセキュリティや人権を脅かす悪意のある活動に使用される可能性のある特定の技術の拡散を抑止することに尽力しています。特定のサイバーセキュリティ品目に輸出規制を課す商務省の暫定最終規則は、悪意のあるサイバーアクターから米国の国家安全保障を守ると同時に、合法的なサイバーセキュリティ活動を確保する、適切に調整されたアプローチです」。

2020年、ロシアに起因するSolarWindsハッキングの最初の被害者の1つとなった商務省は、この規則について45日間、一般からのコメントを募集する。同省はコンプライアンスの潜在的なコストと、合法的なサイバーセキュリティ活動に与えうる影響についてのコメントを求めている。規則が最終的なものとなるまでには、それからさらに45日間の修正期間が設けられている。

画像クレジット:Jack Guez / Getty Images

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(文:Carly Page、翻訳:Aya Nakazato)

アップルが中国で人気のイスラム教コーランアプリをApp Storeから削除

BBCの報道によるとApple(アップル)は、中国政府の要請に応じて、イスラム教の聖典やその他の祈りに関連する情報を読むための人気アプリ「Quran Majeed」を中国のApp Storeから削除した。この動きは、外国のコンテンツを取り締まる、あるいは単にグレートファイアウォール内にそれらのコンテンツが存在することを困難にするという、中国における大きな規制変化の一環として行われている。ちょうど昨日(10月14日)、LinkedIn(リンクトイン)は、国家によるコンプライアンス要件の高まりを受けて、年内に中国版サイトを終了すると発表した。

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中国で最も人気のある宗教アプリの1つであるQuran Majeedは、全世界で利用可能で、約3500万人のユーザーがいる。

Quran Majeedアプリは、他の国のApp StoreやGoogle Playでは引き続き提供されているが、Google Playも厳密には中国では利用できない(ただし、VPNを介してアクセスすることは可能だ)。

Quran Majeedが最近削除されたことに最初に気づいたのは、AppleのApp Store上のアプリをモニタリングしているApple Censorship(アップル検閲)というサイトだった。

中国は公式にはイスラム教を宗教として認めているが、新疆ウイグル自治区のイスラム教徒が多数を占めるウイグル人の人口に対する人権侵害や虐殺などで批判を浴びている。

この件に関してTechCrunchは、Appleにコメントを求めている。さらに詳しい情報が得られた場合、記事を更新する。

Appleはこれまで、現地のルールをどのように遵守するかについて、多くの論争に直面してきた。批評家たちは、特定の国におけるコンテンツに焦点を当てた規制の多くは検閲に相当し、Appleはそれに簡単に従いすぎると考えている。Appleは、規制に同意するかどうかにかかわらず、事業を展開する国の法律を尊重することが最優先事項であると主張している。

Appleの人権方針にはこうある。「当社は現地の法律を遵守する必要がありますが、時には政府と意見が合わない複雑な問題もあります」。

Appleが行うことには一貫性があるようだ。5月にニューヨーク・タイムズ紙が報じたところによると、同社は中国において、天安門広場、中国の精神運動である法輪功、ダライ・ラマ、チベットや台湾の独立など、禁止されている話題を扱っているアプリを削除する予定だという。

Appleのビジネスにはさらに複雑な要素があり、それは同社が国家の規則に従い続けることを意味している。中国はAppleにとって最大の市場の1つであり、また、同社ハードウェアのサプライチェーンを維持するために、この国に大きく依存している。

Quran Majeedは、中国のApple App Storeから削除された唯一のアプリではない。Olive TreeのBible(聖書)アプリも今週、中国で削除された。Olive Treeは、Appleが積極的に削除したと主張している。

画像クレジット:Quran Majeed App

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(文:Kate Park、翻訳:Aya Nakazato)

マイクロソフトがLinkedInを中国市場から撤退

米国のテック巨人Microsoft(マイクロソフト)は米国時間10月14日、同社傘下のプロフェッショナル向けソーシャルネットワーク「LinkedIn(リンクトイン)」を年内に中国市場から撤退させると発表した。

Microsoftは2016年に260億ドル(約2兆9550億円)以上でLinkedInを買収した。

このニュースは、中国で規制の変更が相次ぎ、Microsoftと同国の間で緊張が高まっている中でのことだ。Microsoftは2週間前、中国で特定の米国人ジャーナリストのプロフィールをブロックするという決定を下したことで、厳しい批判を受けた。

中国政府の権威主義的な要求と自社のビジネス目標とのバランスを取るのが難しいと感じている米国企業は、Microsoftだけではない。Microsoftは、時間が経てば経つほど悪化する可能性の高い問題に対して、急激なアプローチを取った。中国国内のメディア環境を考えれば、ジャーナリストがブロックに悩まされるのは驚くべきことではない。同社は、中国政府が容認できないと判断した個人プロファイルへのアクセスを制限するという同国政府の要求に屈するか、あるいは撤退するかを選ぶことができた。

Microsoftは後者を選んだ。

LinkedInはこのニュースを取り上げたブログ記事の中で、同社が2014年に中国市場への参入を決定したことについて、それは「インターネットプラットフォームに関する中国政府の要求を遵守」しながらも、なおかつ「表現の自由を強く支持する」ことを意味していたと書いている。

しかしLinkedInは、現在「中国では、著しく困難な運営環境とより厳しいコンプライアンス要件に直面している」と書いている。このような市場環境の変化により、同社は「中国の人々がLinkedInのグローバル・ソーシャルメディア・プラットフォームにアクセスする手段である、現在のローカライズ版LinkedInの提供を年内に終了させるという決定を下した」としている。

Microsoftの株価は午前中の取引で約1.6%上昇しており、テクノロジーに特化したNASDAQ総合株価指数とほぼ同程度の上昇率となっている。投資家はこのニュースを肩をすくめ無視している、ということだ。

この決定が、Microsoftと中国の市場および国家との関係にどのような意味を持つかは、現時点では明らかではない。中国共産党は、例えば国内のクラウド市場において、外国企業の商業的な将来を制限するような変化をもたらしている。Microsoftの中国LinkedInの決定は、テック企業と中国のより長期的な分離の可能性というレンズを通して見ることができるかもしれない。

画像クレジット:TechCrunch

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(文:Alex Wilhelm、翻訳:Aya Nakazato)

万里の長城を歩くことができるグーグルの最新バーチャルツアー

Google(グーグル)のアート&カルチャーチームは本日、万里の長城をバーチャルで歩くことができる新しいオンライン体験を開始した。「Walk the Great Wall of China(ウォークザグレートウォールオブチャイナ)」は、万里の長城の中でも最も保存状態の良い場所の1つを360度のバーチャルツアーで見ることができ、万里の長城全体を撮影した370枚の画像と、万里の長城の建築的な詳細に迫る35のストーリーが含まれている。

「世界最大の人工建造物である万里の長城は、世界で最も象徴的で人気のある遺産の1つです。毎年1000万人以上の人々が訪れますが、誰もが万里の長城を直接見ることができるわけではありません」とGoogleアート&カルチャーチームのプログラムマネージャーのPierre Caessa(ピエール・カエッサ)氏はブログで述べている。「本日、Googleアート&カルチャーは、万里の長城の専門家であるDong Yaohui(ドン・ヤオホイ)氏と古北水鎮のキュレーターの協力を得て、万里の長城をバーチャルに訪れることができる新しいテーマページを発表しました」。

この体験により、ユーザーは万里の長城の歴史を知り、通常ではアクセスが困難な部分を体験することができる。また、万里の長城がどのように未来の世代のために保存されているかについて、ユーザーの理解を深めることも目的としている。

このバーチャル体験では、万里の長城の全景に加え、望楼や壁の各部分を360度見渡すことができる。また、万里の長城がいつ、どのようにして作られたのかを知ることもできる。

万里の長城の歴史をさらに深く知りたい人は、壁に沿って壁の詳細やレンガを解読することができる。例えば、レンガに刻まれた隠されたサインやスタンプ、神秘的な模様などをより詳しく見ることができる。

Googleは過去数年間に数多くの360度バーチャルツアーを発表し、その技術を活用し続けている。2016年には、ユーザーが米国の国立公園を探索できるバーチャル体験を展開した。それ以来、同社は同様のバーチャルツアーを展開しているが、バーチャルリアリティをさまざまな方法で利用することも検討している。例えば、Googleは2017年にバーチャルリアリティのアートギャラリーを立ち上げ、また、2018年には学生が独自のVRツアーを作成できる「Tour Creator(ツアークリエーター)」ツールをリリースした。

この新しい体験は、ウェブサイト「Walk the Great Wall of China」にアクセスするか、AndroidまたはiOS用のGoogle アート&カルチャーアプリをダウンロードすることで経験することができる。

画像クレジット:Google

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(文:Aisha Malik、翻訳:Yuta Kaminishi)

Gogoroが中国で電気二輪車用バッテリー交換ステーションを開設、サービス開始

中国の二輪車メーカー大手2社との提携を発表してから5カ月「Gogoro(ゴゴロ)」は米国時間10月11日、杭州に45カ所のバッテリー交換ステーションを開設し、サービスを正式に開始した。同社の共同設立者であり最高経営責任者であるHorace Luke(ホレス・ルーク)氏は、TechCrunchの取材に対し、年内に80カ所のステーションを開設することを目標としており、その後、パートナーであるYadea(ヤデア)とDachangjiang Group(大長江グループ-DCJ)とともに他の主要都市にも拡大していくと述べている。

中国では、Gogoroのバッテリー交換技術はGogoro、Yadea、DCJが提携するHuan Huanブランドで運営されることになる。

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YadeaとDCJは、Gogoroのバッテリー交換技術を搭載した車両の開発を進めており、Yadeaは本日、杭州を皮切りに2モデルの販売を開始した。

両社は、とりわけ電気二輪車において、鉛蓄電池ではなくリチウム電池の使用が義務づけられていることなどから、政府の規制が消費者の需要を動かしてくれることを期待している。2025年までに、この規制に対応していない2億7千万台の車両が廃車になると言われている。

Gogoroは2021年9月、Poema Global(ポエマ・グローバル)との23億5000万ドル(約2600億円)のSPAC取引(2022年第1四半期に完了予定)を経て、NASDAQに上場することを発表した。同社は、バッテリー交換ネットワークに加えて、独自のハイエンド2輪スクーターのシリーズでもよく知られているが、Yamaha(ヤマハ)、Suzuki(スズキ)、AeonMotor(イオンモーター)など、同社のバッテリーや充電ステーションを使用する車両を生産する他のメーカーとの契約を結んでいる。

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このパートナーシップは、Gogoroの技術へのアクセス性を拡大させるための重要な要素となっており、2021年はインドの二輪車市場のリーダーであるHero MotoCorp(ヒーロー・モトコープ)との契約も発表している。

「私たちは『Gogoroは高級すぎて、主要都市で本当に必要としている人たちには届かない』という目で見られてきましたが、YadeaとDCJの協力があれば、これから誰もが乗れるようになり、これまで販売されてきた大衆車よりも安価な車両を購入できるようになります」とルーク氏は語った。

画像クレジット:Gogoro

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(文:Catherine Shu、翻訳:Akihito Mizukoshi)

【コラム】データプライバシーを全世界的に標準化すれば、それは真の意味で人類の進歩となるはずだ

中国は2021年8月、初めて抜本的なデータプライバシー法を可決した。今後、中国の個人情報保護法(PIPL)の対象となる中国の住民(中国の人口は世界で最も多い)と関わるであろうグローバル企業や意欲的なスタートアップ企業は、オンラインで売買やサービスの提供を行う際に影響を受ける可能性がある。

この法律自体は2016年に導入されたEUの一般データ保護規則(GDPR)と類似し、目新しいものではない。衝撃的なのは、GDPRが導入された際は企業に2年の準備期間があったのに対し、PIPLは2021年11月1日に施行されるということである。

PIPLを受けて、関連する企業はコンプライアンスの遵守を確立するために奔走することになる。また、データプライバシーの重要性と緊急性が世界規模で高まっていることも明らかになった。中国は、GDPR類似のプライバシー法を制定した17番目の国となるが、さて、いまだにプライバシー法を制定していない世界の超大国はどこだろうか?

米国は、消費者に焦点を当てた国家レベルのデータプライバシー法をいまだに採用していない。国民はオンライン上の個人データの管理強化を望んでいるにもかかわらず、である(複数調査による)。データプライバシー法の不整備は、特にテクノロジー業界に大きな影響を及ぼす。

さまざまな事象が急速に進む現在、データプライバシーの発展は明らかに重要な分岐点に達している。私たちのとる行動によっては世界中の何十億、何千億もの消費者に影響を与える可能性があり、また、小さなスタートアップ企業から巨大なグローバル企業まで、さまざまな企業の発展にも影響が生じる。今こそ慎重な検討が必要だ。

この記事では、最初に米国におけるデータプライバシー法の進展、およびこれが世界にとって何を意味するかを検討し、次にデータの最小化(「必要」かつ「適切で、関連性があり、限定された」個人データのみを処理する原則)の取り組みでこれらの問題に対応できるかを確認して、データプライバシーという難問に挑んでみる。最後に、データプライバシーという問題の解決に欠かせないこれらの要素を比較した上で、人々が自分のデータを確実に管理できる、世界規模のデータプライバシー基準を提唱することで締めくくりたいと思う。

米国におけるデータプライバシー

米国のデータプライバシーを取り巻く状況は複雑だ。連邦レベルでは、(動きがあるものの)包括的なデータプライバシーポリシーは存在しない。その代わりに医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律(HIPAA)、消費者金融商品を対象としたグラムリーチブライリー法(GLBA)など、業界ごとのプライバシー規制がある。

13歳未満の子どもを保護するための児童オンラインプライバシー保護法(COPPA)も存在する。また、連邦取引委員会(FTC)も、FTC独自のプライバシーポリシー(連邦取引委員会法)に違反しているアプリやウェブサイトを積極的に取り締まっている。

しかしながら、米国政府は、消費者のデジタルプライバシー権を保護するための包括的な法案を可決しておらず、各州が独自に対応している(例:カリフォルニア州のCCPA、バージニア州のVCDPA、コロラド州のColoPA)のが現状だ。このため多くの米国人のプライバシー権が侵害され、企業は何をすべきかを決めることができずに混乱している。

これが本来あるべき姿だと主張し、停滞した議会では意味のある消費者プライバシー法案を可決することはできないと警告する人々もいる。彼らは、仮に国家レベルのプライバシー法が可決されたとしても、内容は骨抜きにされ、慎重に構想された各州の法律にも悪影響を及ぼすだろうと考えているらしい。

それと同時に、50の州で異なるデータプライバシー法が存在することになる可能性も否定できない。どれも類似しているものの、それぞればらばらで、異なっている……正しく法を遵守しようとする企業にとっては悪夢のようなシナリオだ。この状況を世界規模に拡大してみよう。

データの最小化は唯一の解決策ではない

データプライバシーの問題に対処するための1つの方法として、データ最小化の原則が挙げられる。これは、企業が具体的な目的のためだけに個人情報を収集・保持することを認めるものである。

データ最小化の原則では、基本的には企業が収集するデータの量を減らすことが求められる。これには、マーケティングチームが収集するデータ量を減らしたり、データ保持のスケジュールを設定して使わなくなったデータを消去したりすることが考えられる。

これにメリットを感じる人もいるだろうが、現実的ではない。消費者に強く配慮する企業であっても、マーケティング担当者に対して潜在顧客の個人情報の収集を減らすように提案することはないだろうし、データを収集する正当な理由を探し出すことは間違いないだろう。

そして、たとえ目的が純粋なものであったとしても、個人情報や嗜好を調査して製品を開発し、ビジネスを成長させているスタートアップ企業にとって、この原則は有害なものになりかねない。この点で、データの最小化は、思わぬところでイノベーションを阻害する可能性がある。

さらに率直に言えば、消費者が自分自身のデータの取得・利用方法について選択できるようにすれば、データを最小化する必要はないと思われる。パーソナライズされたオーダーメイドの体験を好む消費者は、個人情報を共有しても問題ないと考えているケースもある。たとえば「Stitch Fix(スティッチフィックス)」「Sephora(セフォラ)」のようなブランドは、よりショッピングを楽しんでもらうために事前にたくさんの個人的な好みを質問しているが、多くのユーザーがそれを問題視していない。

世界規模のデータプライバシー基準の必要性

筆者は、このような複雑で微妙な問題が表面化し、企業や消費者を悩ませてしまうのは、皆が同じ見解を持つためのグローバルスタンダードが存在しないからだと考える。グローバルスタンダードが存在しない限り、他のいかなる法律や規則、基準も一時しのぎに過ぎない。

今こそ、世界中の消費者を保護し、企業が遵守すべき要件がどの地域でも同一になるよう、各国が合意できる基本原則を策定するときだ。

国際的なデータプライバシー法が乱立し、この地域の要件は厳しく、あの地域の要件は少しだけ異なる、といった状況になれば、企業がコンプライアンスを完全に遵守するのは不可能に近い。そうなるのも時間の問題だ。私たちは事態を収拾しなければならない。

データプライバシー基準は、国境を越えた公平性の基本を確立し、あらゆる段階の企業に適用される。そして、企業の国際的なビジネス展開は飛躍的に容易になる。

筆者は、今影響を受けている企業や地域が、国際的なデータプライバシー基準に向けた変化を促進してくれることを期待している。グローバル化を目指す企業にとって、地域で異なる基準は大きなマイナスであり、膨大なコストにつながっている。そういった企業が協力すれば、共通の解決策を見出すことができるだろう。推進力はそこにある。中国の動向を見れば、他の国が追随する日もそう遠くはないはずだ。

米国内でのデータプライバシー法の制定を待たずに、米国を拠点とする業界団体でさえグローバルスタンダードへの第一歩を踏み出そうとしている。例えばConsumer Reports(コンシューマーレポーツ)は解決策を検討するためのワーキンググループを立ち上げた。これにより、企業と消費者の双方を保護するためのデータプライバシーに関する世界的な関心が急速に高まる可能性がある。

データプライバシー基準の核心

データプライバシー基準はもはや必要不可欠であるといえるが、その策定にあたって忘れてはならないのは「消費者自身が、企業による自分の情報の扱いをコントロールできる」ようにしなければならないということである。

とりわけサービスやアプリケーションが取引を促進するために利用される場合は、消費者自身が、誰が自分の情報にアクセスできるのか、それはなぜなのかを知る権利を持つ。また、要求に応じて個人情報を削除させる権利や、企業が許可なく自分の情報を販売することを防ぐ権利も必要だろう。これらは基本的かつ普遍的な権利であり、政府機関や支援団体はこれを理解しなければならない。

マーケター、マーケティング担当者は不満かもしれないが、すべての消費者が自分の情報を共有することに反対していると考える必要はないだろう。実際には、前述の例のように、企業が個人情報を収集・保持することで、パーソナライズされた体験やショッピングができることを評価する人も少なくない。

消費者の選択権は、最終的にエコシステム全体の健全性を高め、企業が信頼と透明性を築くための新たな手段となる。企業も(地域ごとに)何種類もの消費者の権利を開発・管理するためにいつまでもあたふたする状況から解放される。

筆者は、スタートアップ企業がプライバシーファーストで設立されるようになると予想している。これは企業の差別化にもつながるだろう。しかし、変化の最大の要素は、消費者が世界のどこにいようと、個人情報を含むシステムが世界のどこにあろうと、自分のデータを確実にコントロールできるようにすることだ。データプライバシー基準は消費者の権利を保護し、混乱を解消して企業が効率的にビジネスを行えるようにする。他のアプローチでは同じことを合理的に行うことはできないし、大規模に展開することもできない。

データプライバシーを全世界で標準化し、私たち全員が同じステージに立つことができれば、それは真の意味で人類の進歩となるはずだ。

画像クレジット:Kardd / Getty Images

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(文:Daniel Barber、翻訳:Dragonfly)

シリコン価格が約2カ月で4倍近くに高騰、中国での電力供給不足からくる減産がハイテク企業を直撃か

シリコン価格が約2カ月で4倍近くに高騰、中国での電力供給不足からくる減産がハイテク企業を直撃か

中国での電力供給不足からくる工場の減産により、半導体の原料である金属シリコンの価格が2ヶ月足らずで約4倍にも高騰し、アップルをはじめとする大手ハイテク企業にとって大問題となる可能性が浮上しています。

金属シリコンはテクノロジー業界で重要な役割を果たしており、チップ製造のみならずガラスやコンクリート、太陽光発電パネルやシリコン製品などの様々な産業に使われています。シリコンは地殻の28%を占めるほど豊富に存在するものの、精製された高純度なシリコン原料は生産が追いつかず原料メーカーは増産に追われていましたが、中国での減産により供給がさらにタイトになっている模様です。

これまでの世界的な半導体不足は、チップ需要の増加や水不足などが原因となっていましたが、そこにシリコン原料の生産量が減らされたことが追い打ちを掛けるかたちです。

Bloombergの報道によると、中国政府が国内の電力消費量を減らすため、金属シリコン製造の主要拠点で減産を命じているとのことです。たとえば国内第2の生産地である雲南省は、9月~12月は8月の水準より90%の減産を命じられたそうです。そのため以前は1トンあたり8,000元~1万7000元(約13万3000円~27万円)だった金属シリコンが、現在では6万7300元にまで値上がりしたと伝えられています。

すでに材料不足は太陽電池業界にも影響を与えており、太陽電池用ポリシリコンは先週水曜(9月29日)に13%も値上がりし、2011年以来の最高値を記録しています。

またシリコン価格は長期にわたって高止まりすると予想されており、上海金属市場のアナリストの見解では2022年夏まで高水準が続くとのこと。その時期になれば、同年後半にかけて生産が増やせる見通しが開けると述べられています。つまり、それまではシリコン価格の値上がりが減産による品不足や、最終的に消費者が支払う価格などに影響する可能性があると思われます。

これまでアップルは例外的に半導体や部品不足の影響を免れてきたと見られていますが、とはいえiPhone 13 Proモデルの出荷予定は11月までずれ込んでいます。もしかすると、年末までに発売が予想される新型MacBook Proなどにシリコン不足のしわ寄せが直撃するのかもしれません。

(Source:Bloomberg。Via AppleInsiderEngadget日本版より転載)