【編集部注】著者のAnirudh Panditは、
MuleSoftのCTOであり、ソリューションエンジニアリング部門の責任者である。
テクノロジーは何百年もの間、世界で経済成長の礎(いしずえ)の役割を果たしてきた。それは直近の3つの産業革命を支えており、いまや様々な分野に出現しつつあるテクノロジーによって示される、第4次産業革命の原動力になっている。
当然のことながら、人工知能はこの新しい革命を推進する重要な技術の1つだ。現代コンピューターサイエンスの父、アラン・チューリングが、1950年代に述べたように、「私たちが望むのは、経験から学ぶことができる機械である」。彼の論文”Computing Machinery and Intelligence”(計算する機械と知性について)は、ニューラルネットワークとコンピューター知性をいかに計測すべきかについての最も初期の記述である。AIのコンセプトは新しいものではないものの、私たちはAIが企業の中の実際のビジネス価値を、ようやく推進しようとしている局面に立ち会っているのだ。
今日の企業は、AIを活用して顧客、パートナー、従業員のエクスペリエンスを強化し改善しようとしている。しかし、多くの人がまだ認識していないことは、AIの良さはそれをサポートするAPIの良さに左右されるということだ。
たとえば、私たちは会話型コマースの登場を目にしている。そこでは消費者たちはAlexaやSiriのようなデジタル音声アシスタントを介して、ビジネスやサービスとの対話を行うのだ。ここでは非常に重要な2つのことが起きている。第1に、音声アシスタントは、音声コマンドを理解するためにAIと機械学習技術(別の言葉で言えば、大量の既存データを使用して訓練されたアルゴリズム)を利用する。第2に、音声アシスタントは、そうしたコマンドを実行するために、対応する仕事を行ってくれるAPIを提供しているバックエンドサービスを呼び出す。例えばそうしたバックエンドサービスには、データベースから製品情報を取り出したり、注文管理システムに注文を投入したりするものが含まれるだろう。APIたちこそがAIを本当に役に立つものにするのだ。それなしには、AIモデルの価値は企業には開放されない。
AIの課題
多くの企業がAIベースのシステムを導入し始めている。ガートナーが最近行った3000人以上のCIOに対する調査によれば、21%は既にAIへのパイロットプロジェクトや短期計画に取り組んでいると回答している。また別の25%は、中長期計画を持っていると答えている。
しかし多くの企業では、チャットボット経由のクエリや、AIや機械学習ベースのプラットフォームを通じたレコメンデーションを、顧客に提供するポイントソリューションとしてAIを採用している。だがこうしたポイントソリューションは、カスタマージャーニー全体へ影響する力を持っていない。現代のデジタルワールドにおけるカスタマージャーニーは複雑で、その対話は様々なアプリケーション、データソース、そしてデバイスの上に散らばっている。ビジネスにとって、企業の中にある全てのアプリケーションサイロ(例えばERP、CRM,メインフレーム、データベースなど)を横断して、データを開放し統合して顧客の全方位像を作り上げることは非常に困難である。
では、AIを実現するために、企業はこうした情報システムをどのように開放すればよいのだろうか?その答えはAPI戦略だ。フォーマットやソースに関係なく、システムを横断して安全にデータを共有できる能力を持つAPIは、企業の神経システムになる。適切なAPI呼び出しを行うことによって、AIモデルと対話するアプリケーションは、AIシステム(あるいは脳)が提供する洞察に基づいて、実行可能なステップを遂行することができる。
APIはAIをどのように活かすのか
成功するAIベースのプラットフォームを構築するための鍵は、組織全体の開発者たちによって容易に見つけることができて、利用することができる一貫したAPIを提供することに、投資を行うことだ。幸運なことに、APIマーケットプレイスが登場したことにより、ソフトウェア開発者がゼロからすべてを作成するために汗を流す必要はなくなっている。その代わりに、開発作業を加速するために、社内外の作業を発見して再利用することができる。
さらにAPIは、適切な情報へのアクセスを可能にすることによって、AIシステムのトレーニングを支援する。APIはまた、幅広いアプリケーション環境で、神経システムであるコミュニケーションチャネルを利用できるようにすることで、AIシステムがカスタマージャーニー全体に作用する能力を提供する。適切なAPIを呼び出すことで、開発者はAIシステムによって提供される洞察に基づいて振る舞うことができる。例えばAlexaやSiriは、バックエンドのERPシステムに対して、ブリッジなしで直接顧客の注文を行うことはできない。APIはそのためのブリッジとしての役割を果たすだけでなく、将来的にもそのERPシステムが他のアプリケーションと対話するために再利用される。
APIは、レガシーシステムからデータを開放したり、データをプロセスに組み込んだり、そしてエクスペリエンスを提供したりするといった、特定の役割を果たすために開発されている。サイロ化されたシステム内に閉じ込められたデータを開放することで、企業はデータの可用性を企業全体から手の届くものにするのだ。開発者は、データソースを選択してAIモデルをトレーニングし、AIシステムを企業の広範なアプリケーションネットワークに接続して実行することができる。
AIを使用してカスタマージャーニーを強化する
AIシステムとAPIが共に活用されて、適応性に優れた実行プラットフォームとなるにつれて、カスタマージャーニーは劇的に変化する。次のようなシナリオを考えてみよう:ある銀行が、家の売買を考えている顧客を対象としたモバイルアプリを提供しているとする。このアプリの中では、顧客は関心のある不動産を簡単に指定することが可能で、たとえば不動産の売買履歴情報や、近隣の情報、そして市場動向などの豊富な情報が、すぐにAPIを通して提供される。顧客は、アプリケーションでAI対応のデジタルアシスタントと対話して、融資の承認やローン金利を含む、ローン申請プロセスを開始することができる。モバイルアプリから取得された全てののデータは、エラーを減らし顧客に迅速で優れた体験を提供するために、住宅ローンプロセスにフィードバックされる。
企業はAIシステムの潜在的な可能性を、顧客にとって真に差別化された価値を生み出すための適応型プラットフォームを構築するといった戦略的なレベルでは、真に実現していない。ほとんどの組織では、AIを活用して大量のデータを分析し、顧客を引きつけるための洞察を取り出しているが、十分に戦略とは言えない。戦略的な価値は、こうしたAIシステムが、企業の幅広いアプリケーションネットワークに組み込まれて、パーソナライズされた1対1のカスタマージャーニーを推進できるようになったときじ実現できる。API戦略を導入することで、企業はAIが提供すべき可能性の完全な実現に向かって進み始めることができるのだ。
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(翻訳:sako)