AWSが新インスタンス用「Graviton 3」プロセッサーを発表、高速化と低電力消費を両立

米国時間11月30日、re:InventカンファレンスでAWSが、ArmベースのGravitonプロセッサーの新世代モデル、Graviton 3を発表した。この新しいチップは前世代機より25%速く、浮動小数点演算は2倍速く、機械学習のワークロードが3倍速いと約束されている。AWSはさらに、この新しいチップの電力消費量は前世代機より60%少ないと保証している。

この新しいチップは、AWSクラウドののEC2 C7gインスタンスを動かす。この新しいインスタンスはDDR5メモリーを初めて使うインスタンスでもあるため、これもこのインスタンスの電力消費量が少ない理由の1つだ。このメモリーは、前世代のGravitonチップが使っていたDDR4メモリーよりも50%高い帯域を提供する。

AWSのJeff Barr(ジェフ・バー)氏は発表で述べているように、新しいチップとインスタンスは「コンピュート集約的なHPC(high-performance computing)」「バッチ処理」「電子機器設計自動化(electronic design automation、EDA)」「メディアエンコーディング」「広告サービング」「分散アナリティクス」「CPUベースの機械学習の推論」といったさまざまなワークロードに適しているという。

現在のところ、この新チップはプレビューのみで提供される。


画像クレジット:Ron Miller

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(文:Frederic Lardinois、翻訳:Hiroshi Iwatani)

東京大学・山口県・農研機構が青色LED光を照射しリンゴ・ブドウ果皮の色を改善する「果実発色促進装置」を開発

東京大学・山口県・農研機構が青色LED光を照射しリンゴ・ブドウ果皮の色を改善する「果実発色促進装置」を開発

果実発色促進装置。山口県産業技術センター

東京大学山口県産業技術センター農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)果樹茶業研究部門は、リンゴや赤系ブドウの果実に青色LED光を照射して果皮の着色を促す装置を開発した。リンゴやブドウの生産者は、地球温暖化などの影響で果物の着色が不良になる商品価値が下がる現象に悩まされているが、この装置で改善が期待される。

「果実発色促進装置」と呼ばれるこの装置は、幅50×奥行き40×高さ15cmの箱形をしており、中に青色LEDチップを多数配置した基板が内壁と仕切りに貼り付けられている。果皮に含まれる色素アントシアニンが青色光によってさらに多く蓄積されるために、着色が進むとのこと。この中で、直径12cmまでのリンゴなら12個を同時に処理できる。また、装置内は着色促進に適した温度に保たれる。

青色LED光の照射で、色むらのあるリンゴ(上段)の果皮が赤色(下段)に改善。東京大学

青色LED光の照射で、色むらのあるリンゴ(上段)の果皮が赤色(下段)に改善。東京大学

東京大学の実験では、装置内の温度を15度に設定して、リンゴ品種「ふじ」に青色光を5日間照射したところ、赤身が少なかった部分が赤くなり、色むらが改善された。糖度が13度以上ある果実で、着色促進効果が認められたそうだ。また、農研機構果樹茶業研究部門でも、赤色系ブドウの「クイーンニーナ」「甲斐路」「赤嶺」で着色の改善が確認された。ただし、こちらも糖度が低いと効果は見られないという。

青色LED光の照射で着色が改善されたブドウ品種「クイーンニーナ」。農研機構果樹茶業研究部門

青色LED光の照射で着色が改善されたブドウ品種「クイーンニーナ」。農研機構果樹茶業研究部門

山口県産業技術センターの吉村和正専門研究員は、量産すれば、1台あたり2万6000円程度で販売できると試算している。「将来的には、海外へ輸出される果実を運搬中や貯蔵中に着色促進して商品価値を高める手段にも応用できます。流通事業者だけでなく、生産者が活用すれば農業所得の向上も見込めます」とのことだ。

クアルコムが4nmプロセス採用のスマホ向け最新SoC「Snapdragon 8 Gen1」を正式発表

クアルコムが4nmプロセス採用のスマホ向け最新SoC「Snapdragon 8 Gen1」を正式発表

クアルコムはSnapdragon Tech Summit 2021の1日目に、4nmプロセス採用のスマートフォン向け最新SoC「Snapdragon 8 Gen1」を発表しました。

「Snapdragon 8 Gen1」は、Snapdragon 888の後継となるハイエンドSoCで、今回から名称をリブランディング。ソニー・シャープ・シャオミ・OPPOなど各社から搭載端末が登場予定で、最初の商用端末は2021年内に登場します。

まず、デジタル運転免許証やデジタル自動車鍵の実用化に向けたGoogle主導のセキュリティ新規格「Android Ready SE Alliance」に世界で初めて対応します。

性能面では、新しいAdreno GPUの搭載によって、Snapdragon 888比でグラフィックレンダリング性能が30%向上。一方で消費電力は25%削減しています。

ゲーミングも強化しています。モバイル向けSoCとして初めて、視覚損失を抑えつつフレームレートを可変とするVariable Rate Shading Proに対応。また、Snapdragon 888比で同じ消費電力で2倍のフレームを生成できるなど、電力効率も高めています。

イメージング性能も強化しており、18bit ISP(画像処理プロセッサ)の内蔵によって、Snapdragon 888の約4000倍となる、毎秒32億画素の画像を撮影できる処理性能を誇ります。モバイル初となる8K HDR動画撮影に対応し、10億色を超える階調のHDR10+撮影にも対応します。

AI性能もSnapdragon 888比で強化しています。第7世代AIエンジンは共有メモリ容量とテンソルアクセラレーターの処理速度がそれぞれ2倍に向上し、トータルで4倍の性能向上をうたっています。

AIを活かした機能としては、Leica Leitz Lookフィルターを搭載し、カメラ撮影時にLeicaのボケ効果を再現可能。Hugging Face社の自然言語処理により、よりインテリジェントなパーソナルアシスタント機能も提供できるといいます。また、Sonde Health社との協業により、端末上のAIによって健康状態を見極めることを目的に、ユーザーの音声パターンを分析するモデルも高速化しています。

通信面では、第4世代目の5Gモデル「Snapdragon X65」の搭載により、下り10Gbps・上り3.5Gbpsの5G通信に対応します。最大3.6GbpsのWi-Fi 6 / 6E通信にも対応します。また、SoC内のSecure Processing Unit内においてSoC統合型のSIM「iSIM」をサポートします。

オーディオ面では、Bluetooth 5.2とCD品質ロスレスワイヤレスオーディオを提供するaptX LosslessをサポートするSnapdragon Soundに対応します。

Google Cloudと提携も発表

クアルコムはこのほか、AI分野でGoogle Cloudとの提携も発表。Google CloudのVertex AI Neural Architecture Search(NAS)を、スマートフォンやPC、オートモーティブ、IoT向けSnapdragonプロセッサに組み込みます。

Vertex AI Neural Architecture SearchはまずSnapdragon 8 Gen 1に搭載し、その後幅広いクアルコムの製品に組み込みます。また、Vertex AI Neural Architecture Searchは開発者が利用可能なQualcomm Neural Processing SDKに統合されます。

Engadget日本版より転載)

巨大な電子レンジを使って短時間かつ安価に金鋳物を製造するFoundry Lab

Easy Bake Oveenを覚えているだろうか?色のついた粉と水を混ぜて生地を作り、それを型に入れてオーブンに入れると、いつの間にか「チーン!」と鳴って気持ちの悪いお菓子ができあがる。ニュージーランドを拠点とするスタートアップ企業のFoundry Lab(ファウンドリー・ラボ)は、化学物質と「オーブン」の代わりに、金属と電子レンジを使って同じようなことをする方法を発見した。

Rocket Lab(ロケット・ラボ)のPeter Beck(ピーター・ベック)氏から支援を受けているFoundry Labは、米国時間11月29日に800万ドル(約9億900万円)のシリーズA資金を調達してステルス状態を脱した。同社は「文字通り、巨大な電子レンジ」を使って、金属の3Dプリントよりもはるかに早く金属部品を鋳造すると、創業者兼CEOのDavid Moodie(デイヴィッド・ムーディ)氏は述べている。

「ユーザーにとっては非常に簡単です。文字どおりの型を取り、冷たい金属の粉末や金属の鋳塊を投入し、電子レンジに入れてボタンを押して立ち去るだけです」と、ムーディ氏はTechCrunchに語った。「出来上がったときには、チーンと音も鳴ります。電子レンジで夕食を温めるのと同じくらい簡単です」。

(Foundryの電子レンジは、ニュージーランドの典型的なミートパイの調理にも使用されたことがある。わずか数秒で出来上がったものの、ムーディ氏によるとすばらしい味ではなかったそうだ)

インベストメント鋳造、3Dプリント、ダイキャストなどの一般的な鋳造方法では、製造に1週間から6週間かかる。Foundryによると、同社ではコンピューター支援設計(CAD)で3Dプリントした金型と巨大な電子レンジを使って、自動車用のブレーキシューを8時間足らずで完成させたことがあるそうだ。現在は亜鉛とアルミニウムに対応しているが、ステンレススチールの試作にも成功しており、将来的には銅や真鍮などの他の金属にも挑戦したいと考えているという。

Foundryの技術は、将来的には金属の3Dプリントがカバーできない製造業に適用することが考えられるものの、当面の目標は、自動車メーカーの研究開発チームが量産に入る前のテストや試作に使用できる、量産型と同じように機能する金属部品を開発するのに役立つことだ。

「私たちが交渉中のある企業では、1台の自動車が市場に出るまでに600台もの試作車を作っています。その間に変更や改良を繰り返すため、あっという間に費用がかさむことになります」と、ムーディ氏は語り「そのための工具の費用は5万ドル(約560万円)から10万ドル(1120万円)以上になることもあります」と付け加えた。

ムーディ氏は、Foundryを設立する前、工業デザインのコンサルタント業を営んでおり、大量生産のための製品を設計していた。試作品では3DプリンターやCNCマシンで製造された部品を使用しているため、量産品とは物理的な構造が違っている可能性があるという理由で、試験機関から常に申請を却下されることに、同氏は不満を感じていた。

「そこで私は、ニュージーランド人らしく物置に行き、運良く機能する方法を見つけたのです」と、ムーディ氏はいう。最近のニュージーランドでロックダウンが行われていた期間には、ムーディ氏が作業場に入れなかったため、実験の多くは一般的な電子レンジを使って行われたという。「我々が解決しようとしているのは、実際の鋳造であり、ダイキャストをシミュレートしながら、それをより速く、安く行うことです。ダイキャストを作るために工具で機械加工をすると、3~6カ月かかってしまうのが普通です」。

Foundryはまだ設立から間もない会社だ。現在はその超大型の電子レンジを数台しか所有しておらず、潜在的な顧客に試用してもらっている段階だ。今回のシリーズAラウンドは、オーストラリアで設立されたVCのBlackbird(ブラックバード)を中心に、GD1、Icehouse(アイスハウス)、K1W1、Founders Fund(ファウンダース・ファンド)、Promus(プロマス)、WNT Ventures(WNTベンチャーズ)が出資している。同社ではこの資金を使って、2023年末までに生産体制を整える予定だ。

さらに資金の一部は、スタッフの増員にも充てられる。同社はここ数カ月で急速に成長しており、資金調達を開始した当初は6人だったスタッフが、現在は17人のフルタイム社員を擁するまでになっている。さらに今後数カ月で35人に増やすことを目標としているものの、ニュージーランドでは新型コロナウイルス感染拡大の影響で国境が閉鎖されているため、難しい状況だ。

「国境が閉鎖されていることが、私たちに打撃を与え始めています」と、ムーディ氏はいう。「この国にはマイクロ波の専門家が2人いますが、2人とも仕事を持っています。これが特に大変です。だから、誰かに助けに来てもらおうとしているところです」。

ニュージーランドでは、今週オークランドがロックダウンを解除し、12月中旬には都市の境界線が国内の他の地域に開放されるなど、内部的な開放が始まっている。オミクロンの新種が事態を悪化させない限り、2022年4月30日からワクチンを接種した旅行者の受け入れを始める予定だ。そうすれば、Foundryをはじめとするニュージーランドのスタートアップ企業は、海外から人材を採用するチャンスを得ることができる。

Foundryはニュージーランドを拠点に開発を進めながらも、米国や欧州の市場をターゲットにしている。同社のロングゲームは、電子レンジの研究を続け、大量生産に必要な台数を製造できるようにすることだ。

画像クレジット:Foundry Lab

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

レーザー狙撃による害虫駆除の2025年までの実用化目指し、農研機構が害虫の飛行パターンから動きを予測する方法を開発

高出力レーザー狙撃による害虫駆除の2025年までの実用化目指し、農研機構が害虫の飛行パターンから動きを予測する方法を開発

農研機構

独立行政法人 農研機構は11月29日、害虫の飛翔パターンをモデル化し、ステレオカメラで撮影したリアルタイム画像から数ステップ先(0.03秒先)の位置を予測できる方法を開発したと発表しました。将来的には、予測された位置に高出力レーザーを照射するなどし、害虫を駆除するシステムに繋げたい考えです。

病害虫の防除と言えば、化学農薬のイメージがありますが、多額の開発コストや長期に渡る開発期間のため、新薬の開発数は減少傾向にあるとのこと。また、おなじ薬剤を使用し続けることで、害虫が耐性を獲得するなどの問題もあります。

このため、ムーンショット型農林水産研究開発事業「害虫被害ゼロコンソーシアム(先端的な物理手法と未利用の生物機能を駆使した害虫被害ゼロ農業の実現)」では、レーザー狙撃による物理的防除方法を開発しています。飛翔している害虫を検知し、レーザー光によって狙い撃ちするというものですが、害虫を検知してからレーザーで狙撃するまでに0.03秒程度のタイムラグが発生してしまうとのこと。虫は移動し続けているため、レーザーを命中させられないわけです。

高出力レーザー狙撃による害虫駆除の2025年までの実用化目指し、農研機構が害虫の飛行パターンから動きを予測する方法を開発

農研機構。レーザー狙撃による害虫防除システムの概略(イメージ)

これを解決するため、検知から0.03秒後の害虫の位置をリアルタイムで予測しようというのが、今回開発された方法です。

研究では、対象害虫としてハスモンヨトウの成虫を使用。3次元空間で不規則に飛行するハスモンヨトウをステレオカメラを用いて1秒間に55回のペースで撮影。飛行パターンをモデル化し、リアルタイムで計測される位置と組み合わせることで飛行位置を予測します。なお、ハスモンヨトウはタイムラグの0.03秒の間に、体長1個分(約2~3cm)移動するとのことです。

高出力レーザー狙撃による害虫駆除の2025年までの実用化目指し、農研機構が害虫の飛行パターンから動きを予測する方法を開発

農研機構。8匹のハスモンヨトウの位置を同時に計測した様子。1秒間に55回撮影した画像からハスモンヨトウを検出し飛行軌跡を描画した。青色は検出を開始したハスモンヨトウの位置を表し、赤色がその終点を表す。ハスモンヨトウは夜間に活発になるため、撮影は夜間を模した暗闇環境で実施。ステレオカメラの画像には壁や柱なども写り、暗闇環境で撮影するため画像中に小さい塵のようなノイズが含まれることがある。これら不要なものをリアルタイムで除去し、飛翔するハスモンヨトウだけを検出できる方法を考案した

害虫被害ゼロコンソーシアムでは、2025年までに、今回開発した手法で予測した位置にレーザーを照射して害虫を駆除する技術の実用化を目指します。将来的には、車両やドローンなどに搭載し、人的労力ゼロで害虫などによる被害を抑制するための基盤技術になることを期待しているとしています。

(Source:農研機構Engadget日本版より転載)

【コラム】量子優位性を量子「有用性」に置き換えるべき理由

量子コンピューティング業界の進化が続く中、ゴール設定もやはり進化している。

長い間追求されてきたのは、量子「超越性」を達成することだった。量子超越性とは、地球に存在する従来のコンピューターではなし得ない計算を、実際的な利益があるかどうかに関わらず、量子コンピューターが解くことができる、という意味である。

Googleは2019年、その画期的な学術論文で量子超越性を実証したと発表したが、IBMはこれに正面きって異議を唱えた。いずれにせよ、それは現実世界にはなんら実質的な関連性のないコンピューターサイエンス界での出来事だった。

Googleの発表以来、業界内では量子「優位性」を達成しようとする努力が多くなされている。これは関連するアプリケーションで最大のスーパーコンピューターの演算能力を超えることで、量子コンピューターのビジネス上または科学上の優位性を達成することである。

量子優位性は比較やベンチマークを行う上では、量子超越性よりも確実に有用であり、量子優位性が薬の開発、金融取り引き、バッテリー開発などにおける大きな進歩と関連付けられていることはよくある。

しかし、量子優位性という概念は重要な点に目を向けていないように思われる。私たちは、量子コンピューターのもたらす結果が実用性があるものかどうかわからないままに、100万量子ビットを備えた量子コンピューターがスーパーコンピューターを凌駕するのを本当に待っているべきなのだろうか?それとも、私たちは、今日使用されているコンピューターのハードウェアユニット(CPU、中央処理ユニット)、GPU(グラフィックスユニット)、FPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ))と比較してパフォーマンスがどれほど向上したかを測定することに力を入れるべきなのだろうか?

というのも、まだ新しいこの業界の目標としてより価値があると思われるのは、できるだけは早い段階で量子「有用性」を達成することだと考えられるからである。量子有用性とは、量子システムが同じ環境で比較可能なサイズ、重量、電力の従来のプロセッサーを上回るということである。

コマーシャリズムの加速

少しでも量子コンピューティングについて調べたことのある人なら、それがIT、ビジネス、経済、社会にもたらす巨大な影響力を理解している。指数関数的な高速化、エラーの修正された量子ビット、量子インターネットを備えた量子スーパーコンピューティングメインフレームがもたらす未来は、私たちが今日生きる世界とは非常に異なるものになるだろう。

とは言え、1960年代の古典的なメインフレームと同様、量子メインフレームはしばらくの間は、動作に超低温環境や複雑な制御システムが必要な、大型で壊れやすいものにとどまるだろう。完全に稼働するようになっても、世界中のスーパーコンピューティングやクラウドコンピューティング施設に、わずかな台数の量子メインフレームが設置されるに過ぎないのではないかと考えられる。

量子コンピューティング業界がすべきなのは、従来のコンピューターの成功を模倣することだろう。パソコンが1970年代の後半および80年代初頭に登場した時、IBMやその他の企業は、前年出したモデルを改善した新しいモデルを毎年市場に投入していくことができた。この市場の動きこそが、ムーアの法則を導き出した元である。

量子コンピューティングが規模を拡大し発展していくためには、似たような市場ダイナミクスが必要だ。投資家に量子コンピューターがスーパーコンピューターを凌駕するまで待ち、投資し続けてくれるよう期待することはできない。新しい、改善された、さらに「有用性の高まった」量子コンピューターを毎年リリースすることで、この技術のポテンシャルを完全に引き出すために必要となる長期的投資を促す収益保証を実現することができるだろう。

さまざまなアプリケーションに対応する有用性ある量子システムが途切れることなく供給され、既存のシステムに統合された量子プロセッサーがすぐそばにあれば、クラウドで利用可能な数少ない巨大量子メインフレームで計算処理を行うために、列に並んで順番待ちする理由はなくなるわけである。あなたのアプリケーションが「クラウドの量子コンピューター」では求められる時間内に完了することのできない瞬間的な計算が必要なものだったり、あるいはクラウドへのアクセスがない場合、オンプレミスまたはオンボードコンピューティングに頼らなければならない事があるかもしれない。

量子コンピューターの有用性のアイデアを拡大することで、次のシナリオが考えられる。

  • ロボット、無人車両、衛星のネットワークエッジでの自律的でインテリジェントなテクノロジーによる信号と画像の処理。
  • 製造施設でのデジタルツインといったインダストリー0 エンドポイントアプリケーション。
  • 戦場での防御などにおける分散型ネットワークアプリケーション。
  • ラップトップやその他の一般的デバイスを必要に応じてパワーアップする、従来型コンピューティングのアクセサリ。

今後数年でこれらの量子コンピューターアクセラレーターアプリケーションを実現するには、小型のフォームファクターと室温での量子コンピューティングを可能にすることが求められる。現在いくつかのアプローチが取られているが、最も有望なのは、いわゆるダイヤモンド窒素空孔を使って量子ビットを作ることである。

テクノロジーを実現する

室温でのダイヤモンド量子コンピューティングは、それぞれが1つの窒素空孔(NV)中心、あるいは超高純度のダイヤモンド格子中の欠陥、そして核スピンのクラスターからなるプロセッサーノードのアレイを活用することで作動する。核スピンはコンピューターの量子ビットとして、また窒素空孔中心は量子ビットとインプット/アウトプットの間の操作を仲介する量子バスとして機能する。

ダイヤモンド量子コンピューターが室温で作動する主な理由は、超硬質ダイヤモンドが量子ビットが数マイクロ秒生き残るための機械的デッドスペースのような役割を果たすからである。

ドイツ、シュトゥットガルト大学の量子科学者はアルゴリズム、シミュレーション、エラーの訂正、ハイファイオペレーションにおいて、他に先駆けて、多くのダイヤモンド量子コンピューティングを実現した。しかし、彼らは、一握りの量子ビットを超えシステムを拡張しようとした時、量子ビットの製造歩留まりと精度の問題で壁に突き当たることになった。

それ以降、オーストラリア人の量子科学者がこの問題を解決し、さらにダイヤモンド量子コンピューターの電気的、光学的、磁気的制御システムを小型化し統合する方法を見つけた。これにより、量子ビットの数をスケールアップし、同時にダイヤモンド量子システムのサイズ、重量、電力をスケールダウンすることができるようになる見通しだ。

これらの科学者たちはさらに、コンパクトで頑丈な量子アクセラレーターを、ロボット工学、自律システム、衛星のモバイルアプリケーション、および医薬品設計、化学合成、エネルギー貯蔵、ナノテクノロジーの分子ダイナミクスをシミュレートするための大規模並列アプリケーションに用いることが可能であることを実証した。

ダイヤモンドをベースとしたコンピューティングの持つ独特の利点のために、ケンブリッジ大学やハーバード大学といった一流学術機関が加わって現在世界的研究努力がなされている。オーストラリア国立大学のダイヤモンドベース量子コンピューティングの研究は初期的な商業化の段階に入った。

イオントラップ型量子コンピューターや冷却原子量子コンピューターを含め、比較的小型のフォームファクターを、室温で使用する量子コンピューティングテクノロジーも進歩している。しかし、これらは真空システムおよび/または高精度レーザシステムのいずれかが必要である。ある量子コンピューティングスタートアップが2つのサーバーラックに収まるイオントラップ型システムの開発に成功した。ただし、これらのシステムがさらに小型化するかどうかはわからない。

仮定を再調整する

業界が、量子有用性を実現する量子アクセラレーターのビジョンを達成するには、そのテクノロジーがスケーラブルな半導体製造プロセス(量子ビットが形成され、堅牢でメンテナンスをそれほど必要としない十分な長さの動作寿命のある制御システムと統合されるプロセス)に対応している必要がある。従来のコンピューターが私たちに示したように、これを行うための最善の方法は、集積量子チップを小型化し開発することである。

1960年代の従来のユビキタスコンピューティングの黎明期に登場した初期のトランジスタと同様、量子有用性を広い範囲で実現する際にテクノロジー上の問題となるのは、主に集積量子チップの製造だろう。しかし、従来のコンピューティングと同様、これが実現しさえすれば、デバイスの使用・導入は容易になるだろう。

有用な量子システムが初期段階で備えている量子ビットは量子メインフレームと比較してかなり少ないだろうが、集積チップが製造されれば、これらの量子システムは業界や市場の中心になるだろう。

室温で作動する量子システムは想像もできないほどの影響をもたらし、私たちが問題を解決する際に用いる方法をあらゆる領域で根本的に変えてしまうだろう。製品設計者、ソフトウェア開発者、市場予測者、社会を観察する人々全員へのメッセージは明確で「量子コンピューティングについて理解すべき時期がきている」ということである。

近い将来、有用な量子コンピューターはサプライチェーン、さらにはバリューチェーンをも激変させるだろう。そのインパクトに備えるためには、テクノロジーだけを理解するのではなく、それのもたらす経済的な影響についても理解する必要がある。そしてもちろん、急速に進化するテクノロジーに投資する機会も途方もない規模で存在するはずである。

量子有用性は、量子コンピューティングが将来異質もので成り立つ可能性をも示唆している。アクセラレーターとメインフレームは、それぞれが別の理由やアプリケーションで導入されるなど、並び立つことが可能である。これらのシステムは直接的に競合するのではなく共存し、量子業界のイノベーションや導入を促進していくことだろう。

編集部注:執筆者のMark Mattingley-Scott(マーク・マッティングリー-スコット)氏は、IBMに31年間勤務した後、Quantum BrillianceのEMEA(欧州・中東・アフリカ)担当ゼネラルマネージャーを務めています。Marcus Doherty(マーカス・ドハーティ)博士は、Quantum Brillianceの共同設立者であり、チーフサイエンティスト。

画像クレジット:sakkmesterke / Getty Images

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(文:Mark Mattingley-Scott、Marcus Doherty、翻訳:Dragonfly)

【レビュー】 Kobo SageとLibra 2、デザインが犠牲になっているがディスプレイは向上

Koboは最近2つのeリーダーを発売した。これらのeリーダーには、控えめではあるもののディスプレイ、スタイラス対応、そしてオーディオブックを聞くためのBluetoothなど確かな改善が見られる。しかし、すばらしかったFormaと比べると製造品質の面でやや劣っていると言わざるを得ない。ただ、新しい機能はアップグレードの価値があり、特にLibra 2は魅力的な小型のeリーダーになっている。

今回発売になったのは、FormaとLibra H2Oの後継機種である。私はお気に入りだったBoox Poke 3を壊してしまって以来、毎日Formaにお世話になってきた。2つのリーダーの主な違いはサイズであり、その他の機能はほぼ同じだ。SageLibra 2はそれぞれ260ドル(約2万9000円)と180ドル(約2万円)と安くはないが、 eリーダーを日常的に使用し、オーディオブックやPockerを好む人なら、特にLibra 2は購入を検討する価値があると思う。

最も目立つ新機能はスクリーンで、最新のCarta 1200 eインクディスプレイになっている。どちらのeリーダーも300ppiを備えており、これだけあれば文字の表示は十分シャープだ。FormaをSage(材質が非常に似ているため)と比べると、新しい画面のせいで大きな違いが生まれていることに驚きを感じるほどだ。コントラストが目に見えて向上しており、並べて見るとFormaの字はややグレーで、Sageの字はこれよりずっと濃い。誤解のないように言えば、どちらも素晴らしくはある。しかし、この新しい画面は大きな改善と言えるだろう。

操作については以前のデバイスとほとんど同じだが、内部がアップグレードされたおかげで起動、ナビゲート、デバイスを動かした時の画面の向きの変更をすばやく行うことができる。ページをめくるのにかかる時間は古いデバイスと同じで、2、3ページスキップしたとしても、ほとんど時間はかからない。しかし、本を新しく読み込む時は、古いFormaのほうが早いようだ。これは大きな問題ではないし、iPadのようなスムーズさをこれら(他のeリーダー全般に対しても)に求めるべきではないだろう。

画像クレジット:Kobo

オーディオブックはKoboにとっては新しいものである。今回出た新しいデバイスにはスピーカはないがBluetooth接続があり、オーディオブックを聞くことができるようになっている。Bluetoothを使ったデバイスの同期は他のデバイスを同期させるのと同じくらい簡単で、Koboストアの本(現在のところは、自分の本は読む込むことができない)をちょっと聞いてみたところ、ほぼ期待どおりだった。スピードアップ、スピードダウン、再生、前へのスキップ、後ろへのスキップも可能で、接続を切ったり、シャットダウンした場合でも、再度接続した時に、元いたカ所から音声を聞くことができる。加速再生で生じるごくあたりまえのわずかな問題を除けば、音声の質も良かった。

関連記事:【レビュー】大型化し手書きメモもできる電子書籍リーダー「Kobo Elipsa」

このサイズのデバイスでスタイラスを使用するのは、私には実用的に思えないが、編集者や本に印を付けるのが好きな人には、確かに役に立つかもしれない。Elipsaでの使い勝手はどうだったかというと……まあ使える感じではあった。ファンシーと言えるようなものではなく、ただ直接本や書類に印をつけるいくつかの方法というのに過ぎない。後で参照できるようメモにシンボルや注釈ベースの表記法が追加できれば便利だが(ソニーの星のように)、これはまだ始まったばかりの機能である。いずれにせよ、スタイラスは問題なく使える。しかし、しまう場所がないので、すぐに紛失してしまう恐れがある。

画像クレジット:Kobo

どちらのデバイスも、それぞれの先行デバイスより厚みが増しているが、これは、新しいハードウェアとスタイラス検出レイヤーが組み込まれているためと思われる。私の意見では、これは改善ではない。これらのデバイスはFormaよりも安っぽく、LibraH20より程度は低いと感じられる。外見も、Formaを気の利いたものにしていた思い切った角度や溝を取り払ってしまったこともあり、工夫を凝らした造形というよりは、成形プラスチックのように見える。そもそも先行デバイスも軽量機種ではなかったが、新しいリーダーは更に重くなっている。

今まで、Koboのボタンが優秀なものだったことは一度もなかったが、今回も例外ではない。特にSageのページめくりボタンは柔らかく、決定力に欠ける。その埋め込み式の電源ボタンは、Formaの側面にあったものよりは改善されているが、それでもすばらしいとは言えない。小さいLibra2の方のボタンはややクリック感があってよいが、しかし、もっとしっかりしたクリック感があってもよい。

画像クレジット:Kobo

私はこれらの変更をよいとは思わないものの、これらはすべてをぶち壊しにしてしまうようなものではない。しかし、これは明らかに後退といえる部分なので、Koboには次世代のデバイスであのプレミアム感を取り戻してもらいたいと思う。

SleepCover

画像クレジット:Devin Coldewey / TechCrunch

どちらの機種にも推奨されているのが、40ドル(約4600円)のスリープカバーまたはパワーカバーだ。これらの革のような(本当の革か合皮かはわからないが、手触りはよい)二つ折りカバーは、しっかりデバイスに取り付けることができ、他の競合他社の製品と同様、開けたり閉じたりすると、リーダーを起動したり、スリープモードにしたりできる。新しいデバイスのカバーは、折り紙のような折りたたみ式で、デバイスを斜めの角度をつけて立たせることができる。

私はそもそもeリーダーにカバーを付けないで使用する方が好きなので、これらのカバーを好きになるとは思っていなかったのだが、やはりSageの場合、すでに大きめなので、ケースに入れるとさらに大きくなってしまい、好ましいと思わなかった。ケースは少し緩すぎるように感じたし、電源ボタンを覆ってしまっていた。カバーはやや豪華なのだが、 それも良いとは思わなかった。しかし、カバーがなければ、Sageは無防備で精細を欠くように見えた。

けれども、小さめのLibra 2のカバーはかなり良いと思った 。プラスチックっぽいデバイスだがカバーを付けることで、はるかにプレミアム感が出るし、赤い色がとても魅力的である(それに電源ボタンにもアクセスできる)。それだけでなく、カバーは、eリーダーを置くにも立たせるにもとても役に立つ。立たせる時には、ちょうどペーパーバックの前半分を折り返したような形になる。スクリーンが凹型になっているので(私は平らなフラッシュ型が好きだが)汚れも付きずらい。Booxの超コンパクト、超スムーズなデザインが私の好みではあるが、場所の心配をしなくてよいなら、Libra 2のデザインが二番目のお気に入りである。

もう少し値段の高いカバーで「パワーカバー」もある。しかし、お持ちのデバイスがすでに数週間充電なしで行けているなら、なにもパワーカバーによる重さやかさばりを我慢してまで、もう数週間その期間を引き伸ばす必要もないだろう。

私が最終的にお薦めするのは、Sageとパワーカバーは購入しないことである。大型のeリーダーが欲しいなら、ElipsaかreMarkableがよいし、Koboでオーディオブックを聞きたいなら、Libra 2とスリープカバーのセットが良いだろう(これはきっと気に入っていただけるはずだ)。オーディオブックが必要ないなら、 Formaがやっぱりお薦めである。これらのデイバイスとアクセサリーは現在すべて購入できるようになっている。

画像クレジット:Kobo

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

オーディオを「パーソナライズ」するMimi、Skullcandyなどの本技術搭載ヘッドフォンを徹底検証

音声処理のスタートアップ企業Mimi(ミミ)は、個人に合わせてパーソナライズされた聴覚プロファイルを作ることができると公言している。つまり、音量を大きくすることなく音を聞こえやすくしてくれるというわけだ。難聴予防にもなる他、これによりすでに難聴になってしまった人でも聴力に新たなダメージを与えることなく、コンテンツを聞こえやすくしてくれるのだという。

科学プロジェクトとしての理論は非常にすばらしいのだが、企業としては明らかな問題点がある。その技術が私たちの普段使用する製品に搭載されなければ、単なる学術的なものとして終わってしまう。その技術が製品として普及しないことには人々を助けることはできないのである。Mimiはこの課題に飛躍的な前進をもたらすべく、複数のパートナーシップを発表した。Mimiの技術が有名オーディオ製品に搭載されれば、同社にとってもそして私たちの聴覚の健康にとっても大きな意味を持つことになるだろう。

2014年、TechCrunch Battlefieldのステージに登場したMimiのCEO兼創業者のフィリップ・スクリバノウィッツ氏

2014年にニューヨークで開催されたTechCrunch Distruptのステージに登場したMimi。7年前の当時、同社の製品が優れたアイデアだということは明確だったのだが、同社は以来長い道のりを歩んできた。そんな同社も最近では数々の成功を収める事業会社となっており、新たに発表されたSkullcandy(スカルキャンディー)、Cleer(クリア)、Beyerdynamic(ベイヤーダイナミック)とのパートナーシップにより、この技術がついに私たちの耳に届くことになる。

SkullcandyのCEOであるJason Hodell(ジェイソン・ホーデル)氏は次のように話している。「弊社のファンにとって有意義な技術を使った、手に取りやすい製品を作ることが私たちの使命です。ミミとともに、個人に合わせて調節できる健康的なリスニング習慣をサポートすることで、ファンのみなさまの楽しみと健康に、生涯にわたるポジティブな影響をもたらしたいと考えています。Mimiとのパートナーシップにより、弊社のコアミッションが最適な形で体現されました」。

Cleer Audioの社長であるPatrick Huang(パトリック・ファン)氏は「Cleer+アプリで販売している最新のイヤフォンとヘッドフォンにMimi Sound Personalizationを導入できることを大変うれしく思います。聴覚の最適化とウェルネス機能を製品に搭載することで、当社の製品とお客様に、確実に付加価値がもたらされるでしょう」とコメントしている。

その仕組みは?

Mimiの共同創設者で研究開発責任者のNick Clark(ニック・クラーク)氏による説明は次の通りだ。「聴覚システムには周波数の解像度があります。スクリーン上のピクセルのようなものだと考えてください。耳が良ければピクセル数は多いのですが、それでも2つの異なる情報が1つのピクセルに入ってしまうと、優勢な情報が支配的になってしまいます。健康な耳の解像度は限られているので、大量の情報を捨ててファイルサイズを大幅に削減するというのが、mp3の基本です。Mimiのユニークな点は個別のプロファイルにあります。例えば、聴力がやや劣っている人のピクセルは、大きくて数が少ないと例えられますが、ピクセル数はその人の実際の聴力に関係するのでMimiにはどうすることもできません。しかし、何が私たちにできるかというと、音を少しでもそれに合うように処理するのです。何かを選択的に増幅したり、何かを選択的に減少させたりすると、最多の情報を伝達することができます。これによって、人々に豊かな体験をもたらすことができるのです」。

記事に掲載する画像としてはいかにも地味だが、Mimiがとらえた筆者の聴覚データをこのようにして見るのはとても興味深い。アプリから誰でもCSV形式の出力をリクエストできる。どのくらいの音量および周波数のビープ音を聞き取れるのかといったデータが主に取得されているようだ

Mimiの技術を試すために、今回筆者が試用させてもらったのは、Skullcandyによる99ドル(約11000円)のGrind Fuel True Wireless Earbuds、Cleer Audioによる130ドル(約15000円)のAlly Plus II Wireless Earbuds、Beyerdynamicによる300ドル(約3万4000円)のLagoon ANCヘッドフォンの3つのデバイスだ。設定手順は3つのデバイスともほぼ同様で、それぞれのメーカーのアプリをダウンロードして、聴覚プロファイルを作成するプロセスを行うだけだ。

プロファイルの作成は非常に簡単で、生まれた年を伝えればすぐにテストを開始することができる。聴力検査自体は非常に奇妙で、電子コオロギの群れを箱に閉じ込めてその上からビープ音を鳴らしたような音が聞こえてくる。ビープ音は徐々に大きくなり、音が聞こえている間はボタンを押し続ける。やがてビープ音は再びフェードダウンし、ビープ音が聞こえなくなったらボタンを離すというものである。ビープ音はさまざまな周波数で発生する。入力された情報をもとに個人のプロファイルを作成し、プロファイルを作成し終えたらMimiのアカウントを作成して保存するという流れである。つまり、Mimiの技術に対応しているデバイスであれば、どのデバイスでも自分のプロファイルを使うことができるのだ。そのためありがたいことに「コオロギの箱」を繰り返し聞く必要はない。

Cleerアプリでのパーソナライズ結果(左)とSkullcandyアプリでのパーソナライズ結果(中、右)はかなり異なっていた。Skullcandyからの2つの結果はほぼ同じだったため、少なくとも測定値には一貫性があるということだろう

同製品の聴覚テストの構成要素は大成功を収め、広く使用されている。同社の聴力検査アプリはApp StoreでNo.1を獲得しており、毎月約5万人がこのアプリを使って聴力検査を行っているという。このアプリのレビューを見ると、プロによる聴覚テストと一致していると多くのユーザーが感じているようだ。

「当社の聴力検査アプリと同じ技術がSDK(ソフトウェア開発キット)として提供されており、当社のパートナーはコンパニオンアプリに組み込むことが可能です」とMimiのCEOであるPhilipp Skribanowitz(フィリップ・スクリバノウィッツ)氏は説明している。

聴覚テストの結果をパーソナライズされたプロファイルに適用し、これをユーザーの耳にできるだけ近いところでシグナルプロセッサーとして実行することにより、Mimiのマジックは開花する。

「弊社のソフトウェアは、デジタルオーディオが通過できる場所であればどこでも適用できます。聴覚IDを作成したら、耳に届く前にオーディオストリームを調整するため処理アルゴリズムに転送する必要があります。弊社には複数のコンポーネントと処理アルゴリズムがあり、ヘッドフォンの場合はBluetoothチップ上で、テレビの場合はオーディオチップ上で動作します。公共放送のテストやストリーミングアプリケーションのパートナー、科学関連のパートナーやスマートフォン関連のパートナーもいます」とスクリバノウィッツ氏は話す。

試聴体験はどうなのか?

重要なのは、実際の効果である。残念なことに効果を聴き分けるのは難しく、また試したデバイスによって大きな違いが出た。

Mimiのヒアリングテストを3つの製品で行ったところ、結果は大きく異なった。左からSkullcandyの「Grind Fuel」、Beyerdynamicの「Lagoon ANC」、Cleerの「Ally Plus II」(画像クレジット:Haje Kamps)

Cleerのイヤフォンは電源を入れて耳に入れると、音声が再生されていないときでも不思議なヒスノイズが発生していた。音楽の再生中、パーソナライズをオンにしたときとオフにしたときの音の違いはあまり分からなかった。良いニュースとしては、Cleerのイヤフォンを使ってプロファイルとMimiのアカウントを作成し、プロファイルを保存できたことくらいである。これで他のデバイスでもすぐに使用できるということだ。

Cleerの社長と話したところ、ヒスノイズや雑音は極めて異常なものだと断言してくれた。そこで2個目のイヤフォンを送ってもらったのだが、残念ながらこのイヤフォンにも同じ問題が発生した。筆者の運が驚くほど悪かった可能性もあるが、一般発売までにまだ課題が残っていると考えて間違いないだろう。

Skullcandyも不調だった。サウンド・パーソナライゼーションを設定した後、Skullcandyのアプリが毎回クラッシュして結果を保存することができなかったため、パーソナライゼーションの効果を聞くことができなかった。またなぜかSkullcandyではMimiにログインして、保存されたMimiプロファイルを使用するオプションが存在せず、新規に作成しなければならない。アプリが筆者のプロファイルを保存できなかった上、他のデバイスで作成したMimiプロファイルも使用できなかったため、結局Skullcandyのイヤフォンでパーソナライズされたオーディオを聞くことができなかった。このアプリの問題について、Skullcandyのチーフプロダクトオフィサーに話を聞いてみた。

SkullcandyのチーフプロダクトオフィサーであるJeff Hutchings(ジェフ・ハッチングス)氏の回答は次のとおりである。「Skullcandyでは、製品の品質を非常に重視しています。弊社のモバイルアプリは、当時入手可能だったあらゆるモバイルデバイスとOSの組み合わせを用いて厳密にテストされました。その結果、Android 12を搭載した新しいPixel 6/6 Proで問題が発生していることがわかりました。Skullcandyはこの問題を可能な限り早く解決するために、アップデートリリースに積極的に取り組んでおります」。

Beyerdynamicのヘッドフォン「Lagoon ANC」(画像クレジット:Haje Kamps)

Beyerdynamicのヘッドフォン、Lagoon ANCは別の話である。もちろん同ヘッドフォンはオーバーイヤー型で、価格も他2種よりかなり高価格のため当然とも言えなくないが、Beyerdynamicのヘッドフォンではパーソナライゼーションによる顕著な違いが聴き分けられた。特にアクティブ・ノイズキャンセリングをオンにすると、Mimiのパーソナライズ効果による変化が著しく感じられた。パーソナライゼーションをオフにしたときよりも音がより鮮明で、ディテールがより明確に聞こえ、なんというか…ステレオ感が増したような音と言えば良いのだろうか。説明するのは非常に難しいのだが、今後筆者のすべてのヘッドフォンにMimiの機能を付けたいと思うほどの違いである。

ただ、それが故にCleerやSkullcandyのイヤフォンには、なぜそこまで顕著な違いがないのかが気になるところである。Beyerdynamicのヘッドフォンで作ったプロファイルを、他のヘッドフォンで使ってみたら良いのではないかと思ったのだが、SkullcandyのアプリではMimiのアカウントにログインできないようなのでそれは叶わず、またCleerのアプリでは一度作成したら他のプロファイルを読み込むことはできなかった。結局、携帯電話からCleerアプリを削除し、再インストールしてからMimiのアカウントにログインし直す羽目になった。今回の筆者のような使い方をするユーザーが多くないことは承知しているが、Mimiの創業者が期待しているユースケースの1つであるにもかかわらず、Mimiのサーバーにすでにあるプロファイルをコピーできないというのはかなり残念である。

プロファイルのコピー騒動はさておき、Beyerdynamicのプロファイルを使用すると、Cleerのイヤフォンでも違いをわずかに感じることができた。ステレオチャンネルの分離が良くなったように聞こえるが、上述の「ステレオ感が増した」感覚ではなく、全体的に劇的な違いがあるとは言い難い。Beyerdynamicのヘッドフォンで感じた「すげぇ」という感動はなく、またこの分野での最も明白なライバルであるNuraphone(ヌラフォン)体験には遠く及ばない。

これらのヘッドフォンとNuraphoneのヘッドフォンを比較しないわけにはいかないだろう。Nuraphoneは399ドル(約45500円)と高価だが、聴力を測定する方法に明確な違いがある。聞こえる音と聞こえない音をユーザーに判断させるのではなく、ヘッドフォンが直接ユーザーの耳を測定するのである。このアプローチの欠点は、非常に特殊なヘッドフォンでしか機能しないことと、プロファイルがNura以外のヘッドフォンには移植できないことである。それでも効果は非常に素晴らしく、買ってから5年経った今でもNuraのNuraphoneヘッドフォンは筆者にとって音楽への没入感を高めるための必須アイテムとなっている。

全体として、こういったパートナーシップを築き、Mimiのテクノロジーを人々の手に届けるというのはMimiチームにとって非常にエキサイティングなことである。

結局のところ、パーソナライゼーション技術の評価というのは、ここでは筆者の個人的な体験に基づいてしかレビューを書くことができないため難しい。もしかしたら筆者の聴覚が人より優れていたり劣っていたりして、Mimiの技術が筆者にはあまり効果がない可能性もある。他の人はまったく違う感想を持つかもしれない。筆者にとってはハイエンドのヘッドフォンが非常に効果的なため、次に購入するハイエンドのヘッドフォンには、必ずMimiのテクノロジーが搭載できるものを選びたいと思う。イヤフォンについては、1つはまったく機能せず、もう1つも今1つだったこともあり、サンプル数としてはあまりにも少ない。筆者はあまり価値を見出せないが、Mimiテクノロジーによってヘッドフォンの価格が上がったり、オーディオ品質を低下させたりしないのであれば、あって損することはないだろう。

画像クレジット:Haje Kamps

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Dragonfly)

サムスンが約2兆円でテキサス州テイラーに先端半導体工場建設を発表

Samsung Electronics(サムスン電子)は米国時間11月23日、先端ロジックデバイスを生産する半導体ウェハー製造工場をテキサス州テイラーに新設することを決定した、と発表した。

推定170億ドル(約1兆9580億円)の今回の投資は同社にとって米国における最大の投資となり、新工場がフル稼働すれば約2000人の新規直接雇用と数千人の関連雇用が創出される見込みだ。今回の投資により、Samsungが1978年に米国で事業を開始して以来、米国での投資総額は470億ドル(約5兆4140億円)超となる。

テイラー工場は、オースティンに現在あるSamsungの製造拠点から約16マイル(約25キロ)のところにあり、韓国・平沢の最新の新生産ラインとともに、Samsungのグローバルな半導体製造能力の重要な拠点になると期待されている。

テイラー新工場では、モバイル、5G、高パフォーマンス・コンピューティング(HPC)、人工知能(AI)などの高度なプロセス技術に基づく製品を製造する。

今回のSamsungの決定は、世界的な半導体不足が自動車や電子機器といった産業を弱らせているの中でのものだ。

同社は、先端半導体製造をよりアクセスしやすいものにし、急増する半導体製品需要に応えることで、世界中の顧客をサポートすることに引き続き注力すると述べた。

同社は、500万平方メートルを超えるテイラー工場の建設を2022年の第1四半期に開始し、2024年下半期の生産開始を目指す。

Samsung Electronicsのデバイスソリューション部門の副会長兼CEOであるKinam Kim(キナム・キム)氏は「テイラーに新しい施設を設けることで、Samsungは自社の未来における新たな重要な章のための基礎を築いています」と述べた。「製造能力の向上により、顧客のニーズにより良く応えることができ、世界の半導体サプライチェーンの安定に貢献することができます。当社はまた、米国で半導体製造を開始してから25周年を迎えるにあたり、より多くの雇用をもたらし、地域社会のトレーニングや人材育成を支援できることを誇りに思っています」。

製造工場の候補地として米国内の複数の場所を検討した結果、地元の半導体エコシステム、インフラの安定性、地元政府の支援、地域開発の機会など、複数の要素を考慮してテイラーへの投資を決定した。

報道によれば、アリゾナ州、ニューヨーク州、韓国などを候補地として検討したSamsungは、税制面で有利であることを理由にテキサス州ウィリアムソン郡を選んだ。7月にテキサス州当局に提出された書類によると、Samsungはテキサス州テイラーに半導体工場を建設するために(テイラー独立学校区からの)減税措置を申請した。

「Samsungは財政およびその他のインセンティブ(例:インフラやユーティリティーの支援)を通じてプロジェクトをサポートする強力な公的パートナーを求めています。このプロジェクトに関連して、Samsungはテキサス州企業基金からチャプター380およびチャプター381の支援に基づくリベートを求めています。加えて、提案されているプロジェクトの建設と運営を支援するために、特定のインフラやユーティリティーの改善、料金の引き下げ、その他の非現金給付に関連するインセンティブも追求しています」と文書にはある。

Samsungはまた、テイラー独立学校区(ISD)に、学生が将来のキャリア・スキルを身につけるためのサムスン・スキルズ・センターを設立し、インターンシップや採用の機会を提供するための資金援助を行う。

テキサス州のWayne Abbott(ウェイン・アボット)知事は「Samsungのような企業がテキサスへの投資を続けるのは、テキサスの世界クラスのビジネス環境と卓越した労働力のためです。Samsungがテイラーに新設する半導体製造施設は、勤勉なテキサス州中央部の人々とその家族に無数の機会をもたらし、半導体産業におけるテキサス州の継続的な卓越性に大きな役割を果たすでしょう」と述べた。

「テキサス州のパートナーに加えて、最先端の半導体製造を米国で拡大しようとしているSamsungのような企業を支援する環境を整えてくれたバイデン政権に感謝しています」とキム氏は述べた。「我々はまた、米国内の半導体生産とイノベーションに対する連邦政府のインセンティブを迅速に制定するために超党派でサポートした政権と議会にも感謝しています」とも語った。

世界最大の半導体メーカーの1社であるSamsungは8月に、グローバルプレゼンスを強化すべく、今後3年間で半導体、バイオ、IT、次世代通信ネットワークなどの分野に2050億ドル(約23兆6000億円)超の投資を行う計画を明らかにした。

先週、北米を訪れたSamsung Groupの事実上のリーダーであるJay Y. Lee(ジェイ・Y・リー)氏はワシントンD.C.で米政府関係者と面会し、第2の半導体工場と半導体のサプライチェーンについて協議した。リー氏はまた、ビジネス上の結びつきを強化するため、Microsoft(マイクロソフト)CEOのSatya Nadella(サティア・ナデラ)氏、Moderna(モデルナ)やVerizon Wireless(ベライゾン・ワイヤレス)の幹部などハイテク企業のリーダーたちとも会談した。

Intel(インテル)は最近、アリゾナ州で2つの新しい半導体製造工場の建設に着手した。同時に、TSMCは120億ドル(約1兆3810億円)を投じるチップ工場の建設をアリゾナ州で開始し、10月には日本初の半導体工場の建設計画を発表した。また、Texas Instruments(テキサス・インスツルメンツ)は、テキサス州シャーマンに新たに4つの半導体製造工場を建設する投資計画を発表した。

画像クレジット:JUNG YEON-JE/AFP / Getty Images

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(文:Kate Park、翻訳:Nariko Mizoguchi

家族向けロケーターサービスのLife360がTileを227億円で買収

Apple(アップル)のAirTag(エアタグ)と競合する遺失物追跡サービスのTile(タイル)が、家族向けコミュニケーションサービスのLife360に買収される。買収額は2億500万ドル(約227億円)。Tileのブランドは継続し、現CEOのCJ Prober(シージェイ・プローバー)氏が引き続き率いる。同社によると、現在のところTileチームの変更は予定しておらず、プローバー氏はLife360の取締役会にも加わる。

Life360にとって、今回の買収は最近のハードウェア買収としては2件目となる。同社は今年初め、位置情報機器メーカーのJiobit(ジオビット)を3700万ドル(約43億円)で買収した。その際、目標は、Life360アプリが動くスマートフォンを持つ人以外、つまり、小さな子どもや特別なニーズを持つ子ども、ペットなどにも、家族の追跡機能を拡大することだと述べた。

しかし、Tileの場合は、家族を追跡するだけでなく、家族が最も大切にする「人、ペット、モノ」を見つけるための幅広いソリューションとして事業を拡大する可能性を視野に入れている。同社は、統合プラットフォームを提供するサービスを構想している。そのプラットフォームでユーザーは、連絡を取り合うために家族を追跡するだけでなく、Tileの位置情報検索機能を利用して、財布、鍵、リモコンなどのモノも追跡できる。

またTileは、ワイヤレスイヤホンからノートパソコン、犬の首輪まで、50種類以上のサードパーティ製デバイスと提携している。これらは買収の価値を高めるものだ。そして同社は「Tile Finding Network」という巨大なネットワークを運営している。Tileの所有者がTileのモバイルアプリを立ち上げると、Bluetoothの範囲外にあるモノの位置を特定できるというものだ。同社は、これまでに4000万個以上のデバイスを販売し、42万5000人超の有料顧客を抱えているが、アクティブユーザーの総数は公表していない。

Life360は、同社の3300万人のスマートフォンユーザーが加わることで、TileのFinding Networkのリーチが10倍になると見込む。

Life360の共同創業者でCEOのChris Hulls(クリス・ハルス)氏は声明で「今回の買収は、安全性と位置情報サービスの世界的なプラットフォームになるというLife360のビジョン達成に向けた重要な一歩となります。TileをLife360ファミリーに迎え入れることができ、大変嬉しく思っています」と述べた。

このニュースに先立ち、Tileは9月に4000万ドル(約46億円)の負債による資金調達を発表した。これについてプローバー氏は、「負債は株主に希薄化をもたらさないため」理にかなっており、「『負債と株式』の混合は良いことだ」と述べていた。だが、Apple AirTagの立ち上げ以来、Tileの将来が脅かされていたことは間違いない。Tileは独占禁止法の問題でAppleを断固として批判しており、Appleがビジネスに与える影響について議員らの前で証言したこともあった。

Tileは最近、競争力維持を期待して、製品ラインを刷新した。その中には、AirTagのライバルとなる超広帯域無線の製品も含まれている

Life360とTileの共通点は、プラットフォームにとらわれないアプローチであり、iOSとAndroidの両方のデバイスに対応していることだ。Androidに対応していることが、国際的な事業拡大に役立つ可能性がある。Androidは世界中の多くの市場を支配している。

Life360は、今回の買収により、Tileを販売する2万7000以上の小売店や、Tileの技術が組み込まれている100万台以上のサードパーティ製デバイスのユーザーにアクセスできるようになる。また、両社はプレミアムサービスを提供しており、Life360は有料会員数を45%増の約160万人に拡大する見込みだ。将来的には、両社のサービスを統合し、より多くの無料ユーザーが有料会員になることを期待しているようだ。

Life360は、2019年からオーストラリア証券取引所に上場しており、以前には2022年に米国での二重上場の可能性を計画していると発表していた。今回の買収により、その目標に向け、勢いがつくとLife360は述べている。

今回の買収では、Credit SuisseとCode AdvisorsがLife360の共同財務アドバイザーを務めた。また、DLA PiperとOrrick、Herrington & Sutcliffe LLPがLife360の法務アドバイザーを務めた。Tile側は、Jefferies LLCが独占的に財務アドバイザーを、Fenwick and West LLPが法務アドバイザーを務めた。

「Tile、当社の顧客、そして従業員にとって素晴らしい日です」とプローバー氏は声明で述べた。 「今回の買収は、ミッションや価値観を共有する2つの素晴らしいチームを結びつけるだけでなく、安心・安全のための世界有数のソリューションを共同で開発する道を開くものです。これは、私たちの旅における次のステップであり、引き続き素晴らしいチームを率い、Life360の取締役会に参加できることに、これ以上の喜びはありません」。

[原文へ]

(文:Sarah Perez、翻訳:Nariko Mizoguchi

【レビュー】Withings ScanWatch、Apple Watchと正反対なスマート腕時計には乗り換えるべき価値がある

Apple Watchをリリースしたとき、Appleは「デジタルクラウン」や「コンプリケーション」がいかにすばらしいものか消費者に説いて大騒ぎしていた。しかし、我々のような時計愛好家には、あの騒動は理解し難いものだった。当然だが、時計にはそんなものはすべて付いているからだ。

当時、Appleは、コンピューティング企業として既存自社製品の犠牲になっていた。要するに、Appleが作っていたのはスマートウォッチなどではなく、手首に着けることができる小さなiPhoneだったのだ。それでもAppleは「いや、これは腕時計ですよ。絶対に」と言い張りみんなを必死に説得しようとしていたが。

Withings(ウィジングス)のHealth Mateアプリは格別だ。Withingsの健康関連プロダクツを複数使っているならなおさらだ。このアプリはGoogle FitおよびApple Health Kitと統合されているため、お好みのエコシステムにデータを移植できる。(画像クレジット:Haje Kamps for TechCrunch)

これと同じような状況をクルマの世界で見たことがある。多くの従来の自動車メーカーは困惑して、こう思っていた。「一体どうすればトラック1台分のバッテリーと電気ドライブトレインを1台の車に詰め込むことができるのだろう」と。しかし、一部のメーカー、とりわけテスラはこの難題をまったく違った方向から捉えた。テスラのアプローチはこうだ。「iPhoneはソフトウェアアップデートが利用可能になると自動的に更新される。それなら、iPhoneを中心に据えて、その周りに車を構築したらどうなるだろう」と。その結果、テスラが生まれた。テスラは、外観も使い勝手も他の車とは見事に異なっていた。テスラのインテリアと所有権を取るか、メルセデスの最新世代電気自動車を取るかを決める要因はさまざまだが、筆者の考えでは、製品の全般的な哲学およびデザインと機能に対するアプローチの問題だと思う。

それらすべての要因を考慮するとScanWatchに行き着く。Withingsは常に、Appleとは異なるアプローチを取ってきた。ScanWatchはミニマリズムの外観と操作性を備えているが、Appleが解決しようとしていたのと同じ問題を抱えていた。時計の外観と操作性を持ちながら、優れた実用性を備え、そしていく分のスマートな機能も備えた時計を作るにはどうすればよいだろう、と。Withingsは、この問題をあくまで時計メーカーのやり方で解決しようとした。Steel HRはその後に登場する製品を示唆していた。WithingsのScanWatchは、Steel HRを自然な形で、より野心的にステップアップさせたものだ。

Withings独自のデザイン哲学とは要するに次のようなことだ。つまり、ScanWatchを手持ちのスマートフォンで写真を撮るためのリモートコントロールとして使うことはできない。ScanWatchに話しかけたりメールを打つこともできない。ScanWatchでメールを読んだり音楽を聴いたり、音声メモを録音することもできない。こうした機能が重要なら、ScanWatchはあなたが求めている製品ではない。あなたが求めているのはスマート腕時計ではなく、超小型スーパーコンピューターだ。

全体的な品質の高さと細部へのこだわりが光るScanWatchは本当にすばらしい製品だ。小型コンピューターというよりむしろ高級腕時計に近い(画像クレジット:Haje Kamps for TechCrunch)

筆者は、Withingsの最上位機種のスマート腕時計をしばらく使ってみたが、この時計が備えているすべての機能に、そして何より、この時計から余分な機能が取り除かれていることに、何度もうれしい気分になった。筆者がApple Watchを着けるのを止めてしまったのは、デザインが嫌いだったし(味気ない黒の四角で、むしろスマートフォンに近い)、メッセージやツイートやメールの着信音がしょっちゅうブンブンと鳴ることに辟易していたからだ。もちろん、着信音をオフにすることはできるが、そうするとApple Watchを着けている意味がほとんどなくなってしまう。わざわざ毎日充電してまで着けたいとは思わなくなってしまった。

Withings ScanWatchの文字盤サイズには、38ミリと42ミリの2種類がある(画像クレジット:Withings)

WithingsのScanWatchはApple Watchとは正反対の時計だ。第一に、見た目がシンプルでミニマリズムだ。小さなPMOLEDディスプレイをオフにすると、多くの時計メーカーが作っているハイエンドの控えめなデザインの時計だと勘違いしても無理もない。ディスプレイはしゃれたRetinaディスプレイではないが、その代わり、電池は最大1カ月は持つ。腕時計らしさもよく出ている。思ったより重いが、それもある意味安心感を与えてくれる。着けていることが分かるし、上質の時計を着けるのに慣れるのも悪くない。

ScanWatchは、健康とウェルネス機能を重視した多くの極めて高度なテクノロジーを腕時計に取り込んでいる。これらの機能は、スマートフォンの機能ではなくフィットネストラッカー機能を拡張したものだ。

WithingsのScanWatchには、多数の医療用トラッカーが組み込まれている。EKG(心電図)機能はこのスマートウォッチとアプリの組み合わせで最も重要な部分だ(画像クレジット:Withings)

ScanWatchは欧州ではリリースされてしばらく経つ。米国でのリリースが遅れている理由を聞くと、このデバイスが競合他社製デバイスと大きく異なっているがよくわかる。ScanWatchを販売するにはFDAの認可が必要なのだ。Withingsによると、ScanWatch内蔵の心電図機能(EKG)は非常に高品質であるため、心房細動(afib)を検出できるという。心房細動は、最も一般的な不整脈で、脳卒中、心臓麻痺、その他の心臓疾患の主な原因でもある。

同社によると、この心電図データをユーザーに提供するには、処方箋が必要で、最初の心電図の出力を医療専門家に分析してもらう必要があるという。同じような心電図機能を備えたスマートウォッチを提供している他のメーカーがこの承認プロセスをどのようにして回避しているのかはよく分からない。Withingsがこの機能を根本的に異なる方法で実装しているのかもしれない。

心電図の承認プロセスは無料で受けることができる。継続的な心電図機能の利用を承認されるかどうかに関係なく、料金はかからない。しばらくの間、同社は処方箋と追加費用なしでユーザーが心電図機能をフルに使えるようにするための取り組みを進めている。おそらく、Apple、サムソンなどがFDAの承認を回避するために行ったことを真似するのだろう。

FDAの承認とはやり過ぎだと感じるかもしれない。そう感じたのはあなただけではない。WithingsはScanWatchのリリース前から守りの姿勢を取っており、心電図機能に関するFAQまで公開している

ここで、健康ファーストデバイスのブランドになろうとするWithingsの野心にスポットライトを当ててみよう。Withingsは、スマートスリープトラッカー血圧測定バンドスマート体温計体脂肪測定器具などを販売している。また、すべてのWithings製デバイスで稼働している優れたHealth Mateアプリは、体の健康のセントラルハブとして人目を惹き付ける。

ScanWatchには2つのサイズがある。これは38ミリ版で「筋トレやってる?」と聞かれるくらいひ弱な手首の筆者にはちょうどよい(画像クレジット:Haje Kamps for TechCrunch)

ScanWatchは着けているのを忘れてしまうようなおしゃれなデバイスだが、その中に、心拍数、血中酸素濃度の監視、心電図機能、歩幅 / トレーニング / アクティビティトラッカー、接続されたGPS、高度計、スリープトラッカー、スマート目覚ましアラームなどの機能がすべて詰め込まれている。これらの機能がすべて揃っているのは本当にすごい技術力だ。

筆者はテクノロジーレビューワなので、これらがすべてWithingsが謳っている機能を本当に実現しているのどうかを判断できるような医療専門知識は持ち合わせていない。何人かの医療専門家に聞いたところ、病院にあるような数千ドル(数十万円)の工業医療機器と同等と言えるほどの機能は提供していないということのようだ。正直、手首に着けられる300ドル(約3万4000円)程度の消費者向けアイテムで、そこまでの機能を提供していたら理屈に合わないだろう。

体型を気にしている健康フィットネス志向の人なら、この時計を選択して間違いないはだろう。手首装着型デバイスとしては信じられないほどの大きな進歩であり、若干低酸素状態で行き詰まり始めていたこの製品カテゴリーに、新鮮で酸素を豊富に含んだ血液を流し込んでくれる、そんな製品だ。

最後に余談を少し。筆者は、数年前eBayでApple Watchを売り払ってせいせいしていたのだが、このレビューのためにお借りしたScanWatchをWithingsに返却したらすぐに、自前でScanWatchを購入するつもりだ。最近たくさんのガジェットを疑いに満ちた目で見ている筆者だが、この時計は本当にすばらしいと思う。

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Dragonfly)

米アマゾンの新型スマートバンド「Halo View」予約注文を開始、限定期間約5700円に

9月のハードウェアイベントでフィットネスバンド「Halo」の新バージョンを発表したAmazon(アマゾン)は米国時間11月19日、予約注文の受付を開始した。Amazon初のディスプレイ付きウェアラブル「Halo View」は、予約期間中は50ドル(約5700円)。通常価格は80ドル(約9100円)だ。

12月中に出荷される予定のこのデバイスには、Haloメンバーシップ1年分が付いてくる。Haloプランにはワークアウトと栄養管理ガイドが含まれており、通常は月額4ドル(約450円)で利用することができる。

Halo ViewはFitbitのChargeバンドと似たデザインで、AMOLEDカラーディスプレイには、ライブワークアウト、アクティビティ履歴、血中酸素濃度、睡眠スコアなどの詳細が表示される(これらの機能の一部は、Haloサブスクリプション限定)。テキスト通知も表示可能だ。

「水泳可能」防水レベルのデバイスには、皮膚温度センサー、心拍数モニター、加速度計が搭載されている。Amazonは、1回の充電でバッテリー持続時間は最大7日間、フル充電に2時間かかるとしている。

Halo Viewにマイクは内蔵されていないが、Alexaとの連携機能がある。Haloアプリの設定で音声アシスタントに接続すれば、Alexa対応デバイスにヘルスサマリーや睡眠の質などを教えてもらうことができる。

Amazonは、Haloを設計するにあたり、プライバシーを重要視したとのこと。「データを安全に保ち、ユーザーがコントロールできるよう、何重にも保護されています」と同社は主張している。また、ユーザーに直接リンクされている健康データを転売しないことを約束している。自分の健康データをダウンロードしたり、Haloアプリから削除したりすることも、いつでも可能だという。

編集部注:本稿の初出はEngadget。著者Kris Holt(クリス・ホルト)氏は、Engadgetの寄稿ライター。

画像クレジット:Amazon

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(文:Kris Holt、翻訳:Aya Nakazato)

ベルキンの新3in1ワイヤレス充電器は最新Apple WatchとiPhoneをすばやく充電

Belkin(ベルキン)の新しい3in1ワイヤレス充電器は、iPhoneとApple Watchユーザーにカスタマイズされており、iPhone 12と13のMagSafe 15Wの充電速度を実現し、最新のApple Watch Series 7の急速充電にも対応している。またベルキンは、USB-Cケーブルを内蔵し、Series 7に高速充電の互換性を提供するApple Watch用の新たなスタンドアロンポータブル高速充電器も発表している。

ベルキンのBOOST↑CHARGE PRO MagSafe 3-in-1 ワイヤレス充電パット(長いので以降「3in1充電器」)は、先に触れたとおりiPhone用のMagSafe 15Wワイヤレス充電器を搭載している。また、AirPodsへの給電に使える標準的なQi対応のワイヤレス充電パッドも搭載、さらに急速充電に対応した調整可能なApple Watch充電パックもある。スタンドの下にはスイッチがあり、新旧のApple WatchモデルやさまざまなApple Watchケースに合わせてスタンドの高さを調整することができる。

スタンドはゴム製のシリコンで覆われているので、夜中にぶつけてもガジェットが傷がつく心配もない。電源は付属の40W電源アダプターに差し込むコード1本だけだ。私はこの製品を1週間ほど使っているが、Appleファンのための、コード1本で最大速度を実現したベッドサイド充電ソリューションとして最高の選択肢だと自信を持ってオススメできる。

価格は149.95ドル(日本では税込1万7800円)で、Appleのウェブサイトなどで本日から販売されている。

ベルキンのBOOST↑CHARGE PRO Apple Watch用ポータブル急速充電器(これも長いので「Watch充電器」と呼ぶ)は、純正のApple Watch用の小さな充電器に代わるすばらしいプロダクトだ。ケーブルが内蔵されているため、持ち運びに便利で、さまざまなApple Watchのモデルやケースに合わせて調整でき、平置きと立て置きの両方で充電可能だ。さらに、Series 7を急速充電することもできる。Apple Watch専用の充電器としては、間違いなく最高の製品だ。

このWatch充電器は59.95ドル(日本では税込7400円)と、Appleの専用マグネット式充電ドックより安価で、Appleのウェブサイトなどで注文を受け付けている。

画像クレジット:Belkin

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(文:Darrell Etherington、翻訳:Katsuyuki Yasui)

クアルコムがSnapdragonを搭載したWindowsアプリ開発支援キットを販売開始、価格約2万5000円

クアルコムは、Snapdragon搭載Windows PC向けアプリ開発をサポートする「Snapdragon Developer Kit」の販売をMicrosoft Storeで開始しました。価格は219ドル(約2万5000円)です。

「Snapdragon Developer Kit」は、ソフトウェア・アプリケーションベンダーがSnapdragon搭載Windows PC 向けソリューションを試験・検証出来る小型デバイスです。

エントリー向けのSnapdragon 7cを搭載しており、Windows 10で出荷されますが、Windows 11へのアップグレード要件に対応しています。

クアルコムは2018年にPC向けのSnapdragonを発表。その後、アップルがAppleシリコン(M1チップ)をMac向けに搭載したことで、PC向けのよりハイエンドなArmベースのSoCへの期待が高まっています。

なお、クアルコムは2023年をめどに、Appleシリコン対抗となるハイエンドPC向けSnapdragonを投入する計画を公表しています。

あわせて、Snapdrgaon搭載Windows PCに最適化されたZoomアプリの提供が予定されていることも発表されました。

クアルコムがSnapdragonを搭載したWindowsアプリ開発支援キットを販売開始、価格約2万5000円クアルコムがSnapdragonを搭載したWindowsアプリ開発支援キットを販売開始、価格約2万5000円

(Source:Microsoft StoreクアルコムEngadget日本版より転載)

アマゾン、Echo Show 10でより自然な「会話モード」を正式提供開始

Alexa(アレクサ)は、より自然な会話ができるように学習している。Amazon(アマゾン)は米国時間11月18日、Echo Show 10(第3世代)デバイスに新機能「Conversation Mode(会話モード)」を展開することを発表した。これにより「Alexa」というウェイクワードを言わずに、バーチャルアシスタントと自由な会話をすることができる。このモードは、ユーザーが音声コマンドで有効 / 無効を切り替えることができるため、必要に応じてオンにすることが可能だ。

同社は、2020年のハードウェアイベントで、Alexa Conversations(アレクサカンバセーション)を他のA.I.と一緒に紹介した。そこでAmazonの副社長兼ヘッドサイエンティストであるRohit Prasad(ロヒト・プラサド)氏は、よりパーソナライズされた回答、明確な質問をする機能、会話の中で自然な流れを作る機能など、Alexaの新しい機能をデモした。

このようなインタラクションは、人間にとっては簡単なことだが、AIにとっては大きな課題だ。

Amazonは、そのイベントで、2人の人間がピザの注文について話しているときに、会話モードがどのように機能するかを紹介した

「Alexa、会話に参加して」と言ってこの機能を有効にした後、2人は、時にはバーチャルアシスタントと会話をしながら、ピザの注文について話し合った。Alexaが好みのトッピングを選んだところで、ひとりが「それ!」というと、Alexaは注文を調整した。また、Alexaは、例えば「Mサイズで十分だと思う?」など、2人の会話なのか、それとも自分に向けられた質問なのかを理解しているようだった。そして、ある人が、それほどお腹が空いていないので、小さいピザが欲しいというと、Alexaは自動的に注文を変更した。

同社によると、視覚的な手がかりと音響的な手がかりを組み合わせて、カスタマーの発話がデバイスに向けられているかどうか、返事が期待されているかどうかを認識しているそうだ。これはAIにとって非常に難しい問題だ。Amazonが説明したように、どの映画をみるかについての会話の中で「コメディはどう?」というように、多くの質問はデバイスと人のどちらにも向けられている可能性があるからだ。

さらに、会話モードの機能は、Alexaに向けた発話の開始をより正確に検知するために、反応が早い必要がある(普段はウェイクワードがきっかけでAlexaが話を聞くようになる)。

画像クレジット:Amazon

Amazonによると、デバイスの視界に入っている各人の頭の向きを推定することで、デバイスの指向性を把握する方法を開発したという。

「私たちは、与えられた入力画像のテンプレートの係数を推論し、画像内の頭の向きを決定するために、ディープニューラルネットワークモデルを訓練しました」と、同社は、Amazon Scienceのブログ記事の中で、高いレベルのAI技術の見解を示した。「そして、実行時間を短縮するために、モデルの重さを量子化しました。実験では、このアプローチにより、視覚デバイスの指向性検出の誤認識率(FRR)を、標準的なアプローチと比較して、約80%低減しました」。

また、Amazonは、音声ベースのデバイス音声アクティビティ検出(DVAD)モデルを使用して、Alexaが聞いている音声に反応すべきかどうかを示す音声キューを処理する。これを視覚のみのモードに追加することで、Amazonは反応にかかる時間を増やすことなく、周囲の騒音による誤作動を80%削減し、Alexa自身の応答をきっかけとした誤作動を42%削減することができたという。

会話モードを使用するには、ユーザーは「Alexa、会話に参加して」と言えば良い。有効にすると、Echo Show 10の画面の周りには青いボーダーが表示され、画面下部には水色のバーが表示され、リクエストがクラウドに送信されるタイミングを知ることができる。終了するときは「会話をやめて」と言って終了できる。

また、Alexaは、短時間に対話がなくなった場合、自動的にモードを終了する。

同社は、この会話の開発に以前から取り組んできた。

2020年7月には、人々が好みのフレーズを使って「制約の少ない方法」でAlexaに話しかけることができる、より自然な感覚の会話を可能にする音声アプリの開発を支援するためにAlexa Skillsの開発者にAlexa Conversations機能のベータ版を提示した。これに先立ち、Amazonは「毎回『Alexa』と言わずに、人々がAlexaスマートデバイスに同時に複数のコマンドを与えることができる『会話継続モード』と呼ばれる機能を開発していた

新しい会話モード技術は2020年発表されたが、AmazonはTechCrunchに本日から正式に開始され、Echo Show 10がその機能を使える最初のデバイスになると伝えている。

画像クレジット:Amazon

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(文:Sarah Perez、翻訳:Yuta Kaminishi)

名古屋大学が約1ナノミリのカーボンナノチューブ1本からなる超微小アンテナを開発、Wi-Fiにも対応

名古屋大学がカーボンナノチューブ1本からなる超微小アンテナを開発、電磁波を機械的な振動に変えてさらに電気信号に変換名古屋大学は11月17日、大規模なデジタルデータを受信可能なカーボンナノチューブ1本からなる極微小アンテナの開発を発表した。ナノスケールでありながら、安定した高精度のデータ伝送を実現できる。なおカーボンナノチューブとは、六角形の炭素ネットワークが直径約1nm(10億分の1m)の円筒状になったもの。

これは、名古屋大学未来材料・システム研究所の大野雄高教授と豊田中央研究所の舟山啓太研究員らによる共同研究。IoTやAIの利用拡大により、様々な情報を同時に高精度で検知するために、1つのシステムに多数のセンサーを設置する必要が生じてきた。そのため、センサーの小型化が求められている。それがこの研究の背景となっている。

通常のアンテナは、拾った電磁波を電気的な信号に直接変換する。だが、受信したい電波の波長によってその大きさが決まるため、どうしても数ミリから数センチの大きさになる。それに対してこの超微小アンテナは、電磁波を機械的な振動に変え、それを電気信号に変換するというもの。高い機械強度と優れた電気特性を持つカーボンナノチューブを使うことで、ナノスケールにまで小型化が可能になった。

名古屋大学がカーボンナノチューブ1本からなる超微小アンテナを開発、電磁波を機械的な振動に変えてさらに電気信号に変換

原理はこうだ。1本のカーボンナノチューブの一端を固定し、その先端からわずかに離れた場所に微小電極を配置する。ここに直流電圧をかけると、カーボンナノチューブの先端から微小電極に電子が飛び出して電流が流れる。そこに外部から信号(電磁波)が照射されると、カーボンナノチューブの中の電子に静電力が働き、信号に合わせてカーボンナノチューブが振動する。カーボンナノチューブと微小電極との間に流れる電流の大きさは、その距離によって変化するので、カーボンナノチューブが振動することで電流も増減する。これを信号として受け取る。

名古屋大学がカーボンナノチューブ1本からなる超微小アンテナを開発、電磁波を機械的な振動に変えてさらに電気信号に変換

アンテナが非常に小さく、信号から受け取るエネルギーも小さいためにノイズを受けやすいが、符号誤り訂正などのデジタル通信技術を組み合わせば、通信速度は現在主流のWi-Fi環境(80MHzの帯域幅)にも対応でき、通信速度は70Mbpsという十分な性能を発揮する。そのため、画像データやビデオ通話のような大容量データ通信への応用の可能性もあるという。また、さまざまな信号検出にも応用が可能で、生体内や大気中の情報などを直接検出できる可能性も秘めていると、同研究グループは話している。

「曲面サウンド」で高齢者などの「聞こえ」をよくする「ミライスピーカー」が無医島での遠隔診断実証実験に参加

「曲面サウンド」で高齢者などの「聞こえ」をよくする「ミライスピーカー」が無医島での遠隔診断実証実験に参加

テレビなどの音声を聞こえやすい音に変換する「ミライスピーカー」を開発・製造・販売するサウンドファンは11月16日、無医島である山形県酒田市飛島での「高臨場感な診察を可能とした遠隔診断」の実証実験に「ミライスピーカー」が参加することを発表した。

山形大学学術研究院、日本海総合病院、NTT東日本山形支店は、山形県酒田市の無医島である飛島診療所と、酒田市の日本海総合病院松山診療所とをオンラインで結び、遠隔診断の実証実験を行う。これは、既存の遠隔診療システムを現在の技術に沿わせて更新することを目指ものだ。たとえば、患者の顔を白色有機EL照明で照らし、医師側は高画質の有機ELディスプレイで見ることで、自然に近い色合いで患者の顔色や症状が観察できるようにするといった内容が含まれている。この地域の患者は高齢者が多く、医師の声を聞こえやすくするために「ミライスピーカー・ホーム」が使われることになったということだ。

ミライスピーカーは、従来の円錐形の振動板を持つスピーカーと異なり、湾曲させた平板を振動させる。これにより、広く遠くまでハッキリとした音が届くようになる。早稲田大学の協力で行った音波の解析では、高音域において広範囲にしっかりと音が届けられる音場ができていることがわかった。「ミライスピーカー・ホーム」は、JALの空港カウンターでも採用されている。

家庭の電力利用をよりスマートにすることを使命とするSpan、新しいEV充電器Span Driveをリリース

エアコンや洗濯機、乾燥機などの電化製品が家庭で主役を務めた時代は終わった。最近は、EV(電気自動車)充電器、太陽光発電パネル、蓄電ソリューションなどにより、家庭の電力利用状況はますます複雑度を増している。Spanは、そうした状況にスマートさを組み込もうとしている会社の1つだ。同社がこのたびリリースしたSpan Driveは、さまざまなルールに基づいてEVをさらにパワフルな存在にするEV充電器だ。

米国の家庭はますます電化が進み、とりわけ最新の電化製品は古い設計の家では想定されていないような大量の電力を消費する。エアコン、ヒーター、ヒートポンプ、給湯器、洗濯機、乾燥機、電気コンロ、電気オーブン、EV充電器、蓄電装置などは、多大な電力を消費する可能性がある。それに加えて、ソーラーパネルを設置する家庭が増えたため、大量の電力が家庭に入ってくるようになった。こうした状況の中、米国家庭の電力状況は複雑度を増し、電力を大量消費するようになっているが、実際には、こうした電化製品をすべて同時に使用することはまずない。これは、最近の電子設計が直面している難題である。つまり、家庭に送電網から送電されてくる電力が最大100Aで、家庭にある電化製品の消費電力の合計が180Aであっても、実際にはそれらの電化製品をすべて同時に使用することはおそらくない。問題は、一時的に、すべての電化製品の電源を同時にオンにした場合、少なくともブレーカーが上がるまでは、電力会社にとって厳しい状況になるという点だ。

Spanはこうした問題を解消してくれる。Spanは5月に、家庭用スマートブレーカーパネルをリリースし、その数カ月前に2000万ドル(約22億8000万円)の資金調達ラウンドを発表した。同社はこのたび、500ドル(約5万7000円)のEV充電器Span Driveをリリースし、それに合わせて、3500ドル(約40万円)のブレーカーパネルは、今家庭で最大の電力を消費する装置である電気自動車向けにスマート性能が強化された。

「当社は、家庭でアンペアを100から200、200から400に上げる際のコストや時間をかけることなく、電化製品を追加し続けることができるようにしたいと考えています」とSpanのCEO Arch Rao(アーチ・ラオ)氏はいう。

「ブレーカーパネルをアップグレードするというより、家庭内の電化製品の使われ方を基本的に考え直して、電源管理を改善し、クリーンエネルギーと電化製品の統合を強化したいと考えています。従来のブレーカーパネルは安全装置としては大変優れていました。家庭に入ってきた電気はこのパネルを経由して家庭内の各装置と回路に分配されます。回路の動作状況が危険なレベルに達すると、回路は遮断されます。これがブレーカーの仕事であり、その仕組みは約100年間進歩していません。つまり、受動的な安全装置として機能しているのです」とラオ氏は説明する。「ブレーカーパネルが設置されている場所こそ、まさしくイノベーションが必要な場所です。ブレーカーパネルはグリッドと家庭内のすべての電化製品の交差点に位置しています。電化製品だけではなく、ソーラーシステム、電気自動車、蓄電システムなども、ブレーカーパネルに接続されています。当社が開発した新しいパネルは、グリッドと安全に遮断または再接続するための装置であるという点で、単なる安全装置としての機能よりもはるかに多くの仕事をします」。

グリッドとの接続とグリッドからの遮断は、グリッドに依存して生活している人たちにとって重要な点だ。家庭を、少なくとも電気的には、島に変えることができるというのが、将来的な観点から見たときのSpanのシステムの興味深い点の1つだ。また、Spanのパネルを使用すれば、停電時に従来よりも長く自力で電力を供給できる。蓄電ソリューションが設置されている家庭では、このパネルはよりスマートに動作する。停電を検出すると、不要な電気製品の電源が落とされる。例えばサーモスタットをオフにして、食品が腐らないように冷蔵庫や冷凍庫をできるだけ長く稼働させる。

Span Driveはしゃれたデザインの低価格EV充電器で、Span製パネルの機能を拡張する(画像クレジット:Span)

このシステムはアプリで制御できる。このアプリで家の電気の使い方に関する「ルール」を設定できる。例えば太陽光発電でまかなえるときだけエアコンを稼働するよう選択できる。48Aを電気自動車に接続して高速充電するよう選択する場合は、他の大量に電力を消費する電化製品の電源を落として、総電力消費量を100A以下に抑えるようにする。逆のケースもある。つまり、できるだけ高アンペアで高速充電しているときに、乾燥機、エアコンが同時に稼働し、電気オーブンと電気コンロで料理を始めると、Span Driveは充電に使用する電流を下げ、子どもたちが食事を済ませ、衣類がすっかり乾いてみんなでハグできるようになったら元に戻す。

あるいは、電気自動車の充電を太陽光発電でのみまかなうようSpan Driveをプログラムすることもできる。Tesla(テスラ)のオーナーは信号待ちから静かに発信させてフェラーリを抜き去りたいといつも考えているようだが、Span Driveのこの機能でそうしたオーナーの自己満足度は何倍にもなるに違いない。

もちろん、Spanのパネル自体から回路をオン / オフすることもできるが、このパネルは各回路に分配されている電力量を把握しているため、家電製品が増えてもより細かい制御が可能になる。これにはおそらくAmazon(アマゾン)のアイデアも一部入っているのだろう。アマゾンはSpanの最近の投資ラウンドに参加し、Alexaとの互換性を実現することも発表した。

ある意味、Spanは、従来家庭内でスマートさを欠いていた部分に多くのスマートな機能を組み込んだように感じる。電力はそのままではローテクだが、電化製品のスマート性が向上し、IoTの波が日常的に使う多くの電化製品にまで押し寄せる中、Spanは家庭全体に、マイクログリッドを構築しているように思われる。それは、孤立したゾーンであり、まだ誰も使い方を知らない強力な機能を備えている。SpanのCEOもその点を認識しており、同社は家庭の未来の争奪戦の真っ只中にいることに同意する。

「ブレーカーパネルには、他のどんな製品にもない永続性があります。今後30年は、現在と変わらず壁に設置されたままでしょう。もちろん、将来を見据えた設計についても考えています。現在当社が提供している機能は、競合他社が提供するどのような機能とも一線を画すものです。未来に重点を置くことで、現行のさまざまなソリューションを基本的な部分で凌駕していると思います」とラオ氏は話す。

画像クレジット:Span

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(文:Haje Jan Kamps、翻訳:Dragonfly)

クアルコムがApple M1対抗うたうPC向けArmベース次世代SoCの開発計画、1月買収の半導体開発スタートアップNUVIAを起用

クアルコムがアップルM1対抗うたうArmベース次世代SoCの開発計画、1月買収の半導体スタートアップNuviaを起用

Qualcomm

米半導体大手クアルコムは投資家向けイベント「Invest Day」にて、アップルのMシリーズチップに対抗しうる性能を備えた、PC向けとなるArmベースの次世代SoCを開発する計画を発表しました。

クアルコムの最高技術責任者ジェームス・トンプソン氏いわく、新世代チップは「Windows PCのパフォーマンスベンチマークを設定するために設計された」ものであり、NUVIA(ヌヴィア)チームが開発を進めているとのことです。

このNUVIAチームとは、今年初めにクアルコムが14億ドルで買収した半導体スタートアップであり、元アップルのAシリーズチップ(A7~A12X)開発を主導した人物を中心とするグループです。クアルコムのCEOは今年7月、このチップ設計チームの力を借りることでM1チップを上回るプロセッサを開発できるとの趣旨を述べていましたが、ようやく実現の目処が立ったのかもしれません。

ちなみにアップルは、NUVIA設立者らが在職中に会社設立の計画を隠してiPhoneプロセッサの設計を操作し、自らの会社をアップルに買収させようと企んでいたとして裁判に訴えていた経緯もあります。

クアルコムはこの次世代SoCを、アップルのMシリーズ(M1および新型MacBook Proに搭載されたM1 ProやM1 Maxを含む)に直接対抗すると位置づけ、その上で「持続的なパフォーマンスとバッテリー持続時間」の分野でリードしたいとしています。

さらにグラフィックスに関しても、Adreno GPU(現行のSnapdragonに搭載されたGPU)をスケールアップして、将来のPC(Armベースチップ搭載のノートPC)でデスクトップクラスのゲーム機能を提供することも約束しています。

また投入時期に関しては、最初の搭載製品の発売は2023年で、それに先立ちSoCのサンプルを約9か月のうちに顧客に提供できるようにしたい、とも述べています。

今回のクアルコムの新SoCは、目標までの道のりがそう容易いとも思われませんが、もしも実現すればArm WindowsノートPCのパフォーマンスや省電力性能も底上げされ、結果としてM1シリーズチップ搭載MacBookを含めてモバイルユーザーの選択肢が広がるはず。

NUVIAチームの健闘を祈りたいところです。

(Source:The Verge。Via MacRumorsEngadget日本版より転載)

アマゾンのやたらと大きいEcho Show 15は米国で12月9日出荷開始

Amazon(アマゾン)は9月後半にEcho Show 15を発表した際、発売は2021年末としていた。どうやら実際にその時期になりそうだ。あなたがどのホリデーを祝うかによるが、ホリデーに発売ともいえるだろう。この大型壁掛けスマートスクリーンは正式に事前販売が開始され、出荷開始日は12月9日となっている(訳注:日本語版記事作成時点で、日本のAmazonでは注文は後日開始と予告され、出荷開始日は記載されていない)。

Echo Show 15はその大きさで他のスマートディスプレイと差別化している。マンガっぽいほど、本当に大きい。15.6インチ、1080pのスクリーンで壁にかけられる設計になっている。大きなデジタルピクチャーフレームのようだ。価格は250ドル(日本での価格は税込2万9980円)で、新しい顔認識機能のVisual IDを搭載しデバイスの前に立ったユーザーを識別してその人に応じたコンテンツのエクスペリエンスを提供する(Visual IDはロボットのAstroにも搭載される)。

当然のことながら、スクリーンが巨大なのでたくさんの情報をいっぺんに見るのに適している。たとえば防犯カメラやインターフォンといったスマートホーム製品からの情報の他、カレンダーの予定やTo Doリストなどさまざまなウィジェットを同時に表示できる。Amazonプライム・ビデオやNetflix、Hulu、Sling TVなどのストリーミングサービスをキッチンなどで見るテレビ画面としても利用できる。

専用スタンドは別売で、壁かけ用マウントは同梱される。

画像クレジット:Amazon

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(文:Brian Heater、翻訳:Kaori Koyama)