AIによる食事内容追跡のFoodvisorが約5億円を調達

フランスを拠点とするスタートアップのFoodvisorは、アプリの200万ダウンロードを達成した後、資金調達ラウンドで450万ドル(約4億9000万円)を獲得した。Agrinnovationがラウンドをリードしており、またさまざまなビジネスエンジェルも参加している。

Foodvisorについては先月にも記事で取り上げているが、簡単にいえばこのスタートアップは、ディープラーニングによる画像認識を利用し、ユーザーが何を食べようとしているかを検出する。そして食品の種類を検知し、また各品目の重さを推定することも可能だ。

同社は、カメラのオートフォーカスに関するデータを利用し、皿とスマートフォンとの間の距離を計算する。そして、プレート内の食品の面積を算出する。記録する前に手動での情報の修正もできる。米国時間11月28日の資金調達ラウンドで、このスタートアップはアプリを改善し、さらに15人を雇用する計画だ。アプリは最近米国でローンチされ、同社はこれをいい機会だと捉えている。


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(翻訳:塚本直樹Twitter

OCRに代わるAIによるデータ抽出・入力で事務処理をテック化するRossum

請求書など各種帳票からの毎日のデータ入力は大変骨の折れる作業だ。これを解決するには、従来の光学式文字認識(Optical Character Recognition、OCR)とそのソフトウェアを使うのをやめて、新しい形の機械学習に文書を読ませて処理をスピードアップすればいい。そう考えたRossumは、認識によるデータ捕捉(Cognitive Data Capture)と呼ばれる技術を利用して、コンピューターに人間と同じような文書理解能力を教える。同社のAIツールは、人間が読んで入力するよりも6倍も早くデータを取り出し、その部分の費用を最大80%節約する。

同社はMitonとStartupYardから100万ドル(約1億800万円)のプレシード資金を獲得し、さらに最近ではロンドンのLocalGlobeがリードするラウンドで350万ドル、合わせて450万ドルを調達した。後者のラウンドにはSeedcampも参加した。

多くのエンジェルたちもこの投資に参加した。Twitterの元戦略担当副社長でAirbnbやSquare、Pinterestなどにも投資しているElad Gil(エラド・ギル)氏、WishやLyftにも投資している元Yelpのエンジニアリング上級副社長であるMichael Stoppelman(マイケル・ストッペルマン)氏、WishとGet Roomの投資家でアドバイザーで元Twitterのエンジニアリング担当ディレクターのVijay Pandurangan(ビジェイ・パンドゥランガン)氏、FlexportとImport Geniusの創業者でCEOのRyan Petersen(ライアン・ピーターセン)氏が名を連ねる。

Rossumのソフトウェアは、いずれも元AIの博士課程の学生だった同社の3人の共同創業者、Tomas Gogar(トマス・ゴーガー)氏とPetr Baudis(ペトル・バウディス)氏、そしてTomas Tunys(トマス・タニーズ)氏が作っている。バウディス氏の仕事は、2016年のAlphaGo AI(囲碁AI)の歴史的勝利に関するGoogleの科学論文にクレジットされている。

ただしRossumの狙いは、人間を追い出すことではなく、人間の仕事をスピードアップして企業の顧客に対する柔軟性と信頼性を増すことだ。また社員の力を、複雑な仕事や創造性を要する仕事に振り向けることにある。Rossumによると、同社のソフトウェアの読み取り精度は平均95%ぐらいなので、どのデータ欄に関しても人間労働者からのフィードバックが必要だ。フィードバックをもらうたびにソフトウェアは学習して精度を高める。

Rossumのプロダクトはすでにあらゆる大陸の企業が使っており、その中にはSiemensのようなFortune 500に入る企業もある。Rossumの現在のシステムは主に請求書や納品書などの処理に利用されている。でもその技術は、会計経理やロジスティクス、保険、不動産管理などさまざまな分野の文書を処理できる。今回の投資は複数の分野向けの技術開発と米国にオフィスを開くなどグローバルな事業拡張に使っていく計画だ。

共同創業者のゴーガー氏によると、「テクノロジーはデータ入力を容易にし低コストにすべきだが、今はまだ古いシステムに依存している企業が多く、彼らのニーズは満たされていない。Rossumはこの問題を複雑で不格好な統合不要、デベロッパーチーム不要、そして高いコスト不要で解決する」という。

SeedCampのReshma Sohoni(レシュマ・ソホニ)氏は「Rossumの技術はビジネスのやり方を抜本的に変える。変革を目指す情熱と高度なスキルを持つチームが、今後もっと多くの企業にAIによるデータ抽出技術を広めて、彼らのコストと時間の節約に寄与していく様子を協力者として間近で見られることは実に素晴らしい」と語る。

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

AWSが機械学習のためのミニレースカー「DeepRacer」をアップデート

AWSは2018年に開催したデベロッパーカンファレンス「re:invent」で、超小型のレースカーと、それらがレースするリーグを作った。それは、デベロッパーたちに、機械学習を楽しく教えるための教材だ。2019年のre:Inventは来週始まるが、それに先駆けて同社は米国時間11月27日、その車とレースのスケジュールのアップデートを発表した

AWSでバイスプレジデント兼チーフエバンジェリストを務めるJeff Barr(ジェフ・バー)氏はブログで「AWSのイベントで競走する機会を増やし、またユーザー主催のさまざまなイベントのマルチカーレースでも単なる計時ではなく実際の競走で勝てるように、DeepRacerのセンサー能力を強化してアップグレードした」と書いている。

まず、DeepRacer Evoというニューモデルが登場した。2018年のオリジナルモデルの拡張バージョンで、ステレオカメラとLIDAR(ライダー)がある。バー氏によると、これらのセンサーは単なる飾りではない。

「ライダーや立体カメラを加えて、障害物の発見と対応能力を強化した。ほかのDeepRacerも見つけることができる。これによってデベロッパーは、強化学習というエキサイティングな分野を勉強できる。それは自動運転に適した機械学習の方法だ」と同氏。

すでにオリジナルのDeepRacerを持ってる人は、センサーアップグレードキットを買って改造してもいいし、新たにDeepRacer Evoを買ってもいい。どちらも発売は来年だそうだ。

このような車を提供するからには、競走の機会も必要だ。そこで、レーシングリーグがある。同社の計画では、来年はレースの回数を増やし、レースの種類も増やす。昨年はスピード競走だけだったが、強力なセンサーが加わったことを生かして、障害物を避ける能力の競争のほか、前年のように1台ずつ計測されるスピードではなく実際に複数の車による文字どおりのレースを開催する。

AWSの人工知能と機械学習担当のゼネラルマネージャーであるRyan Gavin(ライアン・ギャビン)氏が、今年の早い時期にTechCrunchのライターであるFrederic Lardinois(フレデリック・ラルディーノア)に「このミニレースカーを作ったのはデベロッパーたちに高度な技術を学んでもらうためだ」と述べている。

そのときギャビン氏は「機械学習の面白さを多くのデベロッパーに知ってもらうために何ができるか、いつも考えていた。そしてこのレースカーは、彼らの食いつきがとてもよくて、すぐにレースが始まった。そして私たちも、この楽しくて面白いやり方で強化学習をデベロッパーに学んでもらえるだろう、と気づいた。そのためには、レースをもっと競走性のある本物のレースにしなければならない。世界初の、自動運転によるレーシングリーグだ。世界中から集まったデベロッパーが、互いに自分の車を持ち込んで競走するだろう」と語っていた。

来週のre:Inventでは、DeepRacerの出番が多い。すでに持ってる人たちによる予選レースもあるし、もちろん決勝もある。初心者にはAWSが、DeepRacerの特訓コースとワークショップを提供する。

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Amazonが開発者たちに機械学習を教えるために、縮小版自動運転車を発表
Why AWS is building tiny AI race cars to teach machine learning(なぜAWSは機械学習を教えるためにAI内蔵レースカーを作ったのか、未訳)

画像クレジット: Amazon

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

MITの科学者が1年で10万回の反復実験が可能なロボットを開発

科学はエキサイティングなはずだが、実際にはおそろしく退屈なこともある。何千回も同じことを繰り返す実験もあるが、そんなものは自動化してほしいところだ。そこでMITの科学者が作ったロボットは、ある種の実験の結果を観察し、フォローアップを計画する。このロボットは、最初の1年で10万回の実験を行った。

流体力学という分野は、大量の複雑で予測不可能な力を扱い、それらを理解する最良の方法が同じことを何度も繰り返して一定のパターンを見つけることだったりする。これはあまりにも単純化した言い方だが、ここでは流体力学の詳しい説明はやめておこう。

繰り返して観察することを要する現象のひとつが、渦励振動(Vortex-Induced Vibration)だ。この一種の撹乱現象は、たとえば水上をより滑らかに効率的に航行する船を設計するときなどに重要になる。そのためには、船が水の上を進む様子を何度も何度も観察しなければならない(自動車のボディーの空気抵抗を減らすためにも、同種の実験を行う)。

でもこれは、ロボットにぴったりの仕事だ。しかもMITの科学者がIntelligent Tow Tank(インテリジェントな曳航水槽、ITT)と名付けた実験用ロボットは、水上で何かを引っ張るという物理的な仕事をするだけでなく、結果を知的に観察し、ほかの情報も得るためにセットアップを変え、価値ある報告が得られるまでそれを繰り返す。

今日Science Robotics誌に掲載された彼らの研究論文には「ITTはすでに約10万回の実験を済ませており、本質的には博士課程の学生が在学中に2週間ごと実施する実験を完了しています」と書かれている。

ロボット本体の設計よりも難しかったのは、流体系の表面の水流を観察して理解し、より有益な結果を得るためにフォローアップを実行する部分のロジックだ。通常は人間(院生など)が毎回の実行を観察してランダムに変わるパラメータを計り、次にどうするかを決める。でもその退屈でかったるい仕事は、優秀な科学者に向いているとは言えない。

だからそんな機械的な繰り返し作業はロボットにやらせて、人間は高レベルの概念や理念にフォーカスすべきだ。彼らの研究論文は、同じように実験を自動化するCMU(カーネギーメロン大学)などのロボットを紹介している。

彼らの研究論文では「これによって、実験を伴う研究にパラダイムシフトがもたらされ、ロボットとコンピューターと人間がコラボレーションして発見を加速し、これまでのやり方では無理だったような大きなパラメータ空間でも迅速かつ効果的に探索できるようになるだろう」と書かれている。インテリジェントな曳航水槽を記述している研究論文はここで読める。

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

Alexaは失望を表現するようになる

一般的な判断力の欠如は、常にスマートアシスタントの最大の魅力の1つだった。質の悪いポップソングやひどいオンラインビデオを1万回再生しても、彼らは気にしない。スマートアシスタントはただ助けるだけで判断は自由だ。

しかしAmazon(アマゾン)はAlexa(アレクサ)をよりリアルなものにするため、いくつかの機能に取り組んでいる。これには、スマートアシスタントの声にもっと感情的な響きを持たせること、つまり、さまざまなレベルの興奮と失望を表現する能力が含まれる。

「Alexaの感情」には3段階のレベルがある。下の動画は、大いなる落胆を表現している状態だ。

Amazonによると、新しい共感してくれるアシスタントにユーザーは好感触を持っているという。「初期の顧客からのフィードバックによると、Alexaが感情的を示した場合、その音声への全体的な満足度は30%上昇した」と、同社は投稿で伝えている。

この機能は本日からゲームのスキルを中心に開発者に提供される。ということは、近い将来にはアプリケーションへも展開されるだろう。このような速報ニュースが失望の声となるのかどうかは、何の情報もない。同社はまた、AlexaのスタイルをニュースキャスターやラジオDJに似たものにするため、コンテンツに合わせた配信も開始する。

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(翻訳:塚本直樹Twitter

マネーロンダリング防止ソフトウェアのTookiTakiが13億円を調達

機械学習ベースの金融コンプライアンスソフトウェアを開発するスタートアップのTookiTakiは(トゥキタキ)11月24日、シリーズA追加ラウンドでの1170万ドル(約13億円)の調達を発表した。Viola FintechとSIG Asia Investmentがリードし、野村ホールディングスのほか、既存株主からIlluminate Financial、Jungle Ventures、SEEDs Capitalも参加した。シリーズA合計(最初のシリーズAは3月に発表)調達額は1920万ドル(約21億円)になった。

同社は調達した資金で、マネーロンダリング防止(AML)および照合ソフトウェアを改善するほか、米国、シンガポール、インドのオフィスでスタッフを増員する。

記者発表で、Viola FintechのジェネラルパートナーであるTomer Michaeli(トマー・ミカエリ)氏は次のように述べた。「当社のAMLセクターでの20年にわたる経験から、Tookitakiのアプローチが非常にユニークであることがわかった。 レガシーAMLシステム上にオーバーレイを作るという実用的な方法は、金融機関にとって検出の精度を高め、運用コストを大幅に削減するのに役立つ。また、規制当局に対応した『ガラス張りの』ソリューションは、現代のAMLソリューション市場における革新的なアプローチと課題に対する深い理解を示している」。

TookiTakiは2012年に、CEOのAbhishek Chatterjee(アビシェク・チャタジー)氏とCOOのJeeta Bandopadhyay(ジータ・バンドパジェイ)氏が共同で創業した。TechCrunchが2015年にシードラウンドについて報じた時点では、同社はマーケターにアナリティクスを提供する会社だった。だが2016年後半に、コンプライアンス分野の予測分析機械学習プラットフォームに注力すると決めた。「ホリゾンタル(業種・領域横断的)なプラットフォームよりもバーティカルな(業種・領域を絞った)AIのビジネスチャンスが大きいことに気付いた」と創業者らはTechCrunchにメールで答えた。

チャタジー氏は2008年の金融危機の際、JP Morgan(JPモルガン)のアソシエイトとして、米国の規制当局と一緒に銀行商品が当時の新規制に準拠しているかチェックした。同氏が思ったのは、AMLソリューションがコンプライアンスプログラムの有効性を低下させているだけではなく、デジタルバンキングとオンライン処理の進歩に追いついていないということだった。TookiTakiの創設者らによると、レガシーAMLソフトウェアの検出率は低く、高度なマネーロンダリングを見逃していた。

TookiTakiは取引監視における検出漏れを50%削減すると主張し、削減率はデロイトのお墨付きも得ているという。同社のソフトウェアは説明可能な機械学習モデルを使う。調査に必要な詳細情報を提供しながらも、人間のコンプライアンススタッフが容易に理解できるよう意思決定の過程を分解する。またTookiTakiのプロダクトは、分散コンピューティングフレームワークを使用することでコストを最小限に抑えることができるため、クラウド・オンプレミスどちらでも展開できる。

同社のソフトウェアには2つの主要モジュールがある。異なるシステムを横断して疑わしい取引を探すモジュールと、リスクの高い個人や企業の顧客をスクリーニングするモジュールだ。その他、新しいマネーロンダリングパターンに合わせて絶えず更新され、アラートを低、中、高リスクに分割する機械学習アルゴリズムや、企業による調査の優先順位決定を支援する機能もある。

画像クレジット:Janet Kimber / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi)

Amazonの新ツールが機械学習モデルを支援、少ない画像でオブジェクトを認識

Amazon(アマゾン)は米国時間11月25日、情報が限られている場合でも機械学習モデルを訓練し一連の対象物を理解できる新機能 「Amazon Rekognition Custom Labels」 を発表した。

一般的に機械学習モデルは、犬他の動物との写真を見分けるために大規模なデータセットを処理する必要がある。一方、Amazon Rekognition Custom Labelsでは限られたデータセットを使用し、固有のオブジェクトグループにおける特定のユースケースのアルゴリズムを教えることができる。

Amazonは新機能を発表するブログ投稿にて「機械学習の専門家と、何百万もの高品質なラベル画像を必要とするモデルをゼロから訓練する代わりに、顧客はAmazon Rekognition Custom Labelsを使って画像解析の需要における最先端のパフォーマンスを達成できる」と伝えた。

例えば、特定のユースケースに大きな意味を持つエンジン部品のセットといった、限定された一連の情報を識別するようにモデルに指示できる。このような情報が少ない場合、ほとんどの機械学習モデルでは問題になるが、Amazon Rekognition Custom Labelsは特に少ないデータから学習するように設計されている。何百、何千という画像の代わりに、同機能はオブジェクトの識別を学習するために、10枚程度の画像でも利用できる。

Amazonは過去にACLU株主から、顔識別を手助けするためにAmazon Rekognitionを法執行機関に販売したとして非難を受けている。今回の機能は、同様のテクノロジーをより柔軟な形で提供する。この新機能は12月3日、ラスベガスで開催されるAmazonの顧客向けカンファレンスことAWS re:Inventに合わせて公開される。

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(翻訳:塚本直樹 Twitter

宇宙とトンネルと超音速旅客機と幻覚剤の将来性

11月13日にサンフランシスコで開催されたStrictlyVC(ストリクトリーVC)のイベントにおいて、私たちは、Future Ventures(フューチャー・ベンチャーズ)を設立した投資家であるMaryanna Saenko(マリアンナ・サエンコ)氏とSteve Jurvetson(スティーブ・ジャーベットソン)氏とともに登壇した。両名がそろって公の場に登場するのは、2億ドル(約217億円)の資金調達を公表して以来だ。まず手始めに、ジャーベットソン氏が古巣のDFJを去った話題の1件について聞いてみた。彼は「人生は、自分の仕事の転位を強要することがある。それによって私は、長い経歴の中で初めて投資家になった」と答えてくれた。

次に、2人がどのようにして出会い、他の企業よりも制約が少ない状況で、どこでショッピングをしているのかを聞いた。この話は、どちらもジャーベットソン氏が取締役会に加わっているSpaceXから、規模は小さいもののTeslaまで広範に及んだ。また私たちは、Future Venturesと利害関係のあるThe Boring Company(ボーリング・カンパニー)について、企業間(および国家間)のAI競争の深刻な危険性、さらに幻覚剤のアヤワスカ(またはそれに準ずるもの)に投資価値があるかについて語り合った。これらの中には、「見たこともない」とジャーベットソン氏が言う「最大の金儲けの機会」が潜んでいるという。

ここに、詳しい話の内容を紹介しよう。長さの都合で一部編集を加えさせていただいた。

TechCrunch(TC):お二人は投資期間が15年という新しいファンドを設立されましたが、二人の興味が大きく重なっていますね。マリアンナ、あなたはカーネギーメロン大学で学位を取得したロボット工学の専門家で、DFJに入る前はAirbus Ventures(エアバス・ベンチャーズ)に在籍して、後にKhosla Ventures(コースラ・ベンチャーズ)に移りましたね。お二人の得意分野は何ですか?

スティーブ・ジャーベットソン(SJ):「彼女はあらゆるものに長けている」というのが答えですが、私たちがペアを組むことで、より有能になれると思っています。小さなチームの利点は、一人でやるより大きな力を発揮できることです。最初からそれがわかっていたので、ひとりではやりたくないと思っていました。この20年以上の間、一緒に仕事をしてきた人たちは、私に大きな力を与えてくれました。DFJで私が実施した中で最高の投資は、その当時一緒に働いていたジュニア・パートナーに帰するところが大きいのです。一人だったら、あのような素晴らしい仕事はできなかったと思います。

貴重な意見を出してくれる尊敬できる人との弁証法的な対話であったり、意見交換話であったり、討論であったり、「あなたはこれ、私はこれ」と役割分担をするのではなく、「やりとり」が大切なのです。なので私たちは、定期会議だけでなく、常にパートナー会議を開いています。

たしかに、マリアンナはロボット工学と並んで、あらゆる航空宇宙関連分野での豊富な経歴の持ち主です。ちなみに、私が最初に彼女に面接したとき(そもそもジャーベットソン氏が彼女をDFJに雇い入れている)、彼女がすでに、量子コンピューターから人工衛星のためのフェイザーアンテナから(聞き取れなかったが宇宙関連のもの)といった特殊な分野に投資していることに仰天しました。

TC:もちろん、聞いたこともないようなものに投資するのですよね。

マリアンナ・サエンコ(MS):それはかならず意味を持ってきます。

TC:航空宇宙と言えば、お二人ともすでにSpaceXに投資されていますね。DFJもこの会社を支援していました。SpaceXは果たして公開企業になりますか?

SJ:最新の公式Twiterでは、火星への飛行が定期的に行われるようになったら株式公開すると言っていたと思います。

TC:それはいつ?

SJ:そう遠くないかも知れません。おそらく、私たちが行っている15年の投資サイクルの間でしょう。このビジネスは、今と比べてもっとずっと劇的になっているはずです。それは地平線の先の、大勢の興味を引く巨大な嵐のようなものですが、短期的にも、数十億ドル規模の収益が見込めます。利益を生むビジネスなのです。実は彼らは、私が生涯見たこともないような最大の儲けを生むビジネスを立ち上げようとしています。それは、ブローバンド衛星データ・ビジネスです(SpaceXが推進中の衛星インターネット通信を実現させる衛星コンステレーション「スターリンク計画」)。

なので、火星に着陸するまでの間にも、いいことがたくさん起きるのです。それは、あらゆる投資銀行を遠ざける手段でもあります。彼らは「いつ公開する?いつ公開する?」としつこく聞くばかりですから。

TC:SpaceXは17年目になりますが、投資家としてこれまでに利益は得られましたか?

SJ:もちろん。私たちの前の会社では、セカンダリーセールによって10億ドル(約1080億円)を超える利益に与っています。

TC:コンステレーション衛星が非常に明るいために、天文観測に支障が出るという科学者たちの心配をどう考えますか?SpaceXは色を塗ろうとしましたね。またSpaceXだけでなく、例えばAmazon(アマゾン)もコンステレーション衛星を打ち上げようとしています。しかし、あなたたちの会社はミッションドリブンですよね。これらの衛星が空を汚してしまうことは、心配しなくてもよいのでしょうか?

MS:テクノロジーに投資する際に、まず考慮すべきことの中に、今わかっている副作用と今の私たちの頭では想像ができない副作用には何があるかという問題があります。それらを全体像として考えなければなりません。

何よりも重要なのは、おっしゃるとおりSpaceXだけではないことです。今では多くの企業が、地球の低軌道や中軌道に、さらには増加傾向にある静止軌道にも、コンステレーション衛星を打ち上げようとしています。私たちはよくよく考え、科学コミュニティーとともに、こう言わなければなりません。「必要としているものは何なのか?」と。なぜなら、通信量は増加を続けていて、もし米国が打ち上げなければ、ヨーロッパやアジアの国々がやるという現実があります。なので科学コミュニティーは、「テクノロジーを宇宙に持ち込むな」と機械化反対運動的な言論に対して目を覚ます必要があると考えます。彼らは「私たちが共に前進を続ける上で、選択できる指標がこれだけあります」と提言すべきなのです。

私たち自身で、そのスペックを設定できるのが理想です。それを経ることで、明るく光り輝く道を発見し、先へ進むことができるのだと私は基本的に信じています。正直言って、楽しい未来は、低軌道を超えて月面基地の建設が始まるころにいろいろ見えてくるのだろうと私は考えています。そのとき、今日の数多くの問題が解決されるでしょう。

TC:前回のStrictlyVCのイベントでは、私たちは超音速ジェット旅客機の企業Boom(ブーム)を招いて話を聞きました。その分野で競合している企業もいくつかありますね。

MS:ええ、両手に余るほどあります。電動旅客機の企業だけでも、私は、おそらく200社から300社ある中の55社に会いました。その中で、超音速機を扱う企業は少数ですが、それでも数十社あります。

TC:そんなに?超音速旅客機の需要は再び高まっているのですか?

MS:復活組のエンジニアで科学者である私は、80年代に挑戦して断念したときよりも、今の方が理にかなったビジネスモデルに即しているかどうかを見ています。もし、「今回は頭のいいソフトウェアの申し子たちが航空宇宙関連デバイスを作るから、心配はいらない。飛行機の作り方ぐらいすぐにわかる」と言う人がいれば、そう思うようにはいかない理由を、私はいくらでも話せます。

電動飛行機の場合、バッテリーのエネルギー密度と、フライトの使命プロファイルとの比率が採算レベルになるのがいつかといった、答を出さなければならない疑問がたくさんあります。長距離の場合、私たちはSpaceXが2点間カプセルでやろうとしていることに注目できます。そこまでの段階に超音速旅客機がありますが、この領域に近いと思われるビジネスモデルに合致するエンジニアリング上の進路が、まったく見えてきません。なので、銀行がどう出るかは不明です。

SJ:それに、米連邦航空局の規制のサイクルは非常に長いのです。しかし、そうした理由の他に、このセクターに55社からおそらく200社の企業があると知った瞬間から、私たちの方針は大変に単純になりました。小型衛星の打ち上げや電動垂直離着陸航空機も同じですが、それはとても広大な領域です。このスペースに3つ以上の企業があるときは、何が起きているのかを理解できるようになるまでは、どの企業とも会いません。130位の小さな衛星打ち上げ企業に、誰が投資をするでしょうか。私たちなら、その時点で過去にない独創的な企業を探します。

TC:そう言えば、私が知る限り、地下方式の交通システム用トンネルを掘っている新興企業は、The Boring Companyひとつしかありません。そこにもフューチャー・ベンチャーズは投資してますね。それは役員の椅子とセットだったのですか?

SJ:いいえ、私たちは最初のラウンドの投資に加わっています。

TC:それって現実の企業なのですか?トンネルを1マイル掘るのに10億ドルかけていると何かで読みましたが。

SJ:どこを掘るかによります。それは最悪のケースでしょうが、それくらいの費用になることはあり得ます。The Boring Companyはラスベガスの短距離交通機関の工事を受注しましたが、競争入札では、たった1マイルで4億ドルなんてことにもなっていました。「ウソでしょ」って感じ。

SpaceXの航空宇宙全般にわたるパターン、テスラのモーターの問題、そして可能性として現在の建築、フィンテック、農業のことを思うと、長い間大きなイノベーションがなかった業界がいくつもあります。米国でトンネルを掘っている上位4社は、みな1800年代から続く企業です。The Boring Companyが違うのは、連続して掘れるようにディーゼルから電気に切り替え、ソフトウェアとシミュレーションの考え方ですべてを再構築したことで、スピードと経費削減において劇的な変化をもたらした点です。少なくとも2桁は安くなっています。

TC:スティーブ、以前あなたは、投資家人生全体を通じて行った投資のほとんどすべては、競合他社がないことが唯一のチェックポイントだったと話していました。しかし、未来にフォーカスすることを投資テーマとする企業が増えた今、他とは違う企業を探すのが難しくなっていませんか?

SJ:少し難しくなっています。複数のチェック対象があるときはいつも、新規市場の兆候を示すサインとして、それを利用しています。それがひとつのカテゴリーになっているとき、それに関するカンファレンスがあるとき、他のベンチャー企業がそのことを話しているときは、とっくに別の場所に移っているべきだったことを示す十分なサインです。

MS:また単純な事実として、業務用ソフトウェア、消費者向けインターネットなど、その業界がわずかなセクターにフォーカスしているときは、ひとつかふたつのエッジケースの投資を行っている素晴らしいファンドが存在していることがよくあります。それは良いことです。そうしたファンドは私たちも大好きで、一緒に仕事をしたいと思います。しかし、その軌跡が直線的で、基本的な主張が狭小なところでは、ファンドの数はとても少ないのです。

TC:ハイテク企業のCEOたち、ヘッジファンド、ベンチャー投資会社から2億ドルの資金を調達しましたが、他の企業と同じような制約はありますか?

MS:何に関しても特別に細かい制約があるとは思っていませんが、私たちの信念、言葉、品位については、私たち自身が制約を課しています。今回の資金調達に際して私たちが定めた制約のひとつに「人の弱みにつけ込まない」というものがあります。なので、中毒性の物質、ソーシャルメディアのインフルエンサーは扱いません。冷血なハンターにはなれないという理由だけではないのです。それは私たちの意図するところではありませんし、この世界に築きたいものでもないからです。

TC:AIにも興味をお持ちですね。それは何を意味していますか?創薬への投資をお考えで?

SJ:どこから聞いたんですか? ご明察です。

TC:何百という企業がAIを使って薬品の候補を見つけ出そうとしていますが、私が期待しているほど早くは進歩していないし、十分なレベルにも到達していないように思えます。

SJ:現在、それに関連する契約を進めているところです。面白いことに、私たちは10件の投資契約を交わしました。その他に3件が進行中で、2件が条件概要書にサインをした段階にあります。4件は、エッジインテリジェンスの分野です。

MS:私はよく、大変に重要な仕事をさせるために、このロボットをどうしたらこの世界に作り出せるかという観点から考えるのに対して、スティーブは、チップやパワーや処理に注目して、アルゴリズムをどのようにシリコンに埋め込むかという視点から考えます。その中間で、スタックを上下しながら、私たちはとても面白いテーマに辿り着くのです。そうして私たちは、エッジインテリジェンスチップの企業、Mythic(ミシック)の投資を決めたのですが、同時に、こうしたAIを世界に送り出すために、基本的にそれをエッジデバイスに焼き付けるというアイデアは最悪だと感じました。うまく機能しないからです。

問題の本質は、どこか知らない場所のクラウドの中で訓練されたAIをエッジデバイスに詰め込んで、後は知りませんというやり方にあります。しかし、次第に私たちは、リアルタイムで使用することで、それらのAIは継続的に改善されると考えるようになりました。そして、母艦のデータセンターにデータを送り返す方法に気を配るようになりました。私たちは継続的な改善と学習の加速化が可能になることを期待しています。そのスタックの上から下までの数多くの企業が、私たちのポートフォリオに入っています。私はそれに、ものすごく胸を踊らせています。

TC:大局と比較すると、それらすべてが心地よいほど平凡に聞こえます。そこでは企業の小さなグループが、AIを訓練するための豊富なデータを蓄積し、日ごとにパワーを増していく。スティーブが前に話してくれましたが、いつか企業の数が非常に少なくなって、収入の不均衡が増長されると心配していましたね。それが気候変動よりも深刻な社会問題になると。Facebook、Amazon、Googleなどの企業は解体すべきだと思いますか?

SJ:いえ、解体すべきだとは思いません。しかしそれは、企業内に、また企業間に「べき乗則」が作用するテクノロジー業界の避けられない流れです。資本主義と民主主義を保とうとすれば、自己矯正が効かず、事態は悪化の一途を辿ります。最後にこれを話した2015年当時と比較して、状況はずっと悪くなっています。データの一極集中も、その使い方も。

中国のセンスタイムを考えてみてください。現在のところ、地球上のどのアルゴリズムよりも正確に顔認証ができます。そこに、米国のべき乗則と、国家間のべき乗則が働きます。それは、AIと量子コンピューティングがエスカレートする中で生まれた新たなる価値の下落に他なりません。

そのため、テクノロジー業界のすべての人間と、そこへ投資する人間は、それが何を意味するのか、そして私たちが望む未来の起業家の道について、よくよく考える必要があります。ここからそこへ通じる道は、明確ではありません。市場は、ある程度は影響力を持つものの、そのすべてを操れるわけではありません。とても心配なことです。気候変動よりも深刻だと私が言ったのは、今後20年間に人類が存続できるか否かに、それが大きく影響するからです。気候変動は、今から200年後ぐらいには私たちの存続に影響してくるでしょうが、これは今後20年間という喫緊の問題なのです。

TC:巨大企業の分割は解決策にならないということですね。

それは、人間の知性を超えたAIを制御するという考えに近いものがあります。そんなものを、どう制御できると思いますか? 内部で何が行われているのかを想像できますか? つまり、自然独占は業界を支えるあらゆるものが作り上げたものなのに、その自然独占を規制で解体するという考えは、モグラ叩きと同じことなのです。

TC:答えはなんでしょう?身の回りにあるものでは、何に投資して人々に衝撃を与えようとしているのですか?幻覚剤のアヤワスカですか?その市場はありますか?すでにいたるところに存在しますが。

SJ:(驚いて見せて)2つの企業があります。ひとつには今朝、投資金を送金しました。もうひとつは条件概要書にサインしたところです。それらは、あなたの質問に関連しています。

MS:オフィスが盗聴されてないか、調べないとね(笑)。

SJ:たくさんのことが進められています。精神疾患の理療。代替療法など。

MS:最も大規模な世界的流行は、うつ病です。この10年間の米国での思春期の自殺者の増加率は300%です。私たちには、情報も、技能も、テクノロジーも、有資格療法士もいませんが、よく植物の蔓などから採れる医薬品化合物に、うつ病の治療抵抗性に驚くほどの価値を示しながら、中毒性も乱用の危険性もない物質があることを、私たちは知っています。その恩恵が受けられるれらのは、もっぱら社会の中の特別なグループの人たちだけであるため、いかにして心の健康のためにその利用を民主化するかです。

TC:待って、私の推測が当たってたなんて。あなたたちは、アヤワスカのスタートアップに投資するつもりですか?

SJ:惜しいけど、ちょっと違います(笑)。

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(翻訳:金井哲夫)

“PriceTech”の空が電通とのタッグでリテール業界進出へ、実証実験店舗を募集開始

ホテルの料金設定サービス「MagicPrice」を提供するは11月26日、電通と共同で、リテールAI研究会流通部会に「ダイナミックプライシング分科会」を立ち上げたことを明らかにした。小売店舗へのダイナミックプライシング適用の可能性を検討するため、同会に参加する会員企業の中から、実証実験に参加する企業の募集を開始する。

空が2016年から提供しているMagicPriceは、ホテル・旅館業を対象にしたダイナミックプライシング、すなわち動的に変動するリアルタイムな適正価格による値付けの支援サービスだ。ホテルが客室料金を検討する際に必要な予約状況などのデータを自動収集・分析し、AIが適切な販売価格を提案。ホテルの担当者は簡単な操作で客室料金設定ができ、旅行予約サイトへの料金反映も自動で行える。

実は同社は、かなり早い段階からダイナミックプライシングを、ホテル業界だけでなく他業界にも適用することを目指してきた。2017年開催のTechCrunch Tokyoスタートアップバトルで最優秀賞を受賞した際のピッチでも、空代表取締役の松村大貴氏が「あらゆる価格を最適化し、売り手も買い手も嬉しい世界を作りたい」とプレゼンを行っている。今回のリテール業界進出は、空にとっては満を持してのホテル業界外への展開となる。

リテールAI研究会には流通関連商材のメーカー、卸とその関連企業が中心に参加する「正会員」「賛助会員」と、スーパー、家電量販店、ドラッグストア、アパレルなど、小売り販売を行うさまざまな業界の流通企業が参加する「流通会員」の3組織があるが、ダイナミックプライシング分科会は流通会員が属する流通部会内に設立された。

空と電通では、分科会を通じて小売店舗におけるダイナミックプライシング導入を目的とした実証実験への参加企業を募る。空によれば、今のところ具体的に参加を表明している企業はいないそうだが、今後進める実証実験の中で、空はホテル業界支援で培った価格データ分析に関する知見を、電通は流通業界に関する知見を提供し、小売でのダイナミックプライシング適用の可能性を検討していく。

ホテルと、スーパーやドラッグストアなど多品目を扱うリテールとでは、データ収集の大変さやプライシングの難易度も違ってくるのではないかと思われる。空では、こうしたリテールならではの課題について「小売事業者とのディスカッションを通し、難易度やデータ量の差、対応しなければならない事項については明らかになっている」として、対応策についても検討、ディスカッションは行われていると説明。ただし「当社サービスを小売で実装した例はまだないため、今回の実証実験のなかでさまざまな手法の有効性を検証していく」と述べ、実証を実用化へ向けてのステップと位置付けている。

また、リアル店舗での販売が多いことから、店頭でのリアルタイムな価格変更に必要となるであろう「電子棚札」については、電通テックの支援を受けて導入することも可能にしている、とのことだった。

ヒュンダイとソウル市が共同事業で自動運転車の路上テストへ

BusinessKoreaの報道によると、Hyundai(ヒュンダイ)がソウル市と交わした覚書により、同社は来月からカンナム地区で6台の自動運転車の公道上のテストを行う。その取り決めによると、6台の車は12月に23の道路でテストを開始する。2021年には15台に増やし、水素燃料電池による電動車を公道上でテストする。

ソウル市はスマートインフラストラクチャを提供し、それらの車とコミュニケーションする。それにはインターネットに接続された交通信号なども含まれ、また交通情報などの情報を0.1秒間隔でヒュンダイの車に中継する。このようなリアルタイムの情報フローは、自動運転テスト車の安全な運転を最適化するために必要な、可視性の提供に大きく寄与するに違いない。またヒュンダイも情報を共有し、自動運転のテストに関するデータをこの技術に関心のある学校やそのほかの組織に提供して、市内における彼ら自身の自動運転技術のテストに貢献する。

ソウル市とヒュンダイともに、このパートナーシップによって世界のトップレベルの都心部における自動運転技術の展開を構築し、それを商用サービスに進化させ、同時に2024年までには自動運転車専門のメーカー企業を稼働させたいと望んでいる。

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

マイクロソフトがニュージーランド政府と協力し機械翻訳にマオリ語を加える

機械翻訳が便利なことは誰でもわかるし、誰でも体験できる。しかし、この実用アプリケーションは、テクノロジーがもたらす価値のほんの一部にすぎない。Microsoft(マイクロソフト)とニュージーランド政府は、マオリ語を保存し、できればそれに新しい命を吹き込むために、機械翻訳が役に立つことを示そうとしている。

Te reo Māori(テ・レオ・マーオリ、マオリ語)は、ニュージーランド最大の原住民コミュニティの言語だ。しかしどこでもそうだが、マオリも何世代にもわたって植民者の優勢な文化に同化していくにつれて、言葉も次第に忘れ去られようとしている。

マオリ族は人口の約15%を占めるが、マオリ語を話すのはその4分の1にすぎない。ニュージーランドの全人口の3%だ。国はマオリ語の教育を幅広く推進してこの傾向を逆転し、その適切な保存のための策を講じようとしている。

マイクロソフトとニュージーランドのマオリ語委員会であるTe Taura Whiri i te Reo Māoriが数年間協力して、同社のソフトウェアにこの消え行く言語が含まれるよう努めている。このパートナーシップの最新のイベントが、マイクロソフトの翻訳サービスへのマオリ語の導入だ。このサービスがサポートしているそのほかの60の言語とマオリ語との間で、互いに自動的な翻訳ができる。

自動翻訳は、コンテンツや仕事の理解を助け、また埋もれていたドキュメントを探究できるようにするから、インクルージョンと教育のための強力な力になる。

精確な翻訳モデルの作成は、どの言語でも難しい。そしてその鍵は、互いに比較できるコーパスをたくさん用意することだ。そこで開発の重要な、そして委員会が助けになる部分は、コーパスを集めて質のチェックを行い、正しい翻訳ができるようにすることだ。しかし、その言葉がわかる人が少ないと、フランス語とドイツ語の翻訳サービスを作ることなどに比べて作業はより困難になる。

この事業におけるマオリ語話者の一人、ワイカト大学(University of Waikato)のTe Taka Keegan(キーガン)氏は、マイクロソフトのブログ記事で以下のようにコメントしている。

このマオリ語ツールの開発は、長年共通の目標に向けて尽力した多くの人々なくしては不可能だったでしょう。私たちの仕事によって、ニュージーランドの未来の世代のためにマオリ語の再活性化と正規化がもたらされるだけでなく、マオリ語が世界中で共有され学ばれ、価値を認められるようになることを望みます。私たちが用いるテクノロジーが私たちの文化の伝統を反映強化し、そして言葉がその心になることが、極めて重要です。

今は世界の各地で、死にゆく言語が増えている。それをすべて防ぐことはできないにしても、テクノロジーがそれらの記録と使用を助けて、どんどん数が減っている現用言語と共存させていくことは可能だ。マオリ語翻訳事業は、マイクロソフトのAI for Cultural Heritage(文化の継承のためのAI)事業の一環だ。

画像クレジット: Microsoft

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G SuiteはAI搭載でより便利に、GoogleカレンダーとGoogleアシスタントが融合

Google(グーグル)は米国時間11月20日、G Suiteツールをアップデートした。Google Docsには、AIによる文法チェッカーや精度を高めたスペルチェックといった機能が加わった。さらに今後、スペルの自動修正機能も搭載される予定だ。Googleカレンダーに関しては、Googleアシスタントがスケジュールを認識できるようになったほか、イベントの作成、キャンセル、そしてスケジュールの変更ができるようになる。さらにGoogleアシスタントには、ミーティングで使える新しいアクセシビリティー機能も加わる。

米国時間11月20日の発表では、Smart Composeも近くG Suiteに加わるという。

Google Docsに正しい文法のヒントが加わるのは意外でもない。Googleも数カ月前からその話をしていた。最初に紹介されたのは2018年だ。そのほかの文法ツールと違ってGoogle Docsは、ニューラルネットワークを利用して文法上の問題と思われるものを見つける。同様のテクニックが機械翻訳のモデルの能力を高めるためにも使われている。

すでにGmailに導入されている自動修正機能が、Google Docsにも加わる。このツールはグーグルの検索を利用して新しい言葉を覚えていくが、今回の発表ではさらに新しいシステムにより、ユーザーが自分のドキュメントの特性に基づいて正しいスペルのヒントをカスタマイズできるようになる。社内で使う独特の略語などは、通常は間違いと指摘するだろう。

GoogleアシスタントがGoogleカレンダーのデータを取り込む機能は、目下ベータ段階だが詳しい説明は不要だろう。こんな簡単な機能の導入が、これだけ遅れたことのほうがむしろ不思議だ。声でGoogleカレンダーを管理するだけでなく、ミーティングの出席者たちへメッセージを送ったり、ミーティングにアシスタントを参加させたり機能も近く加わる予定だ。いつものように朝寝坊しただけでなく、渋滞につかまって朝8時のミーティングに出られないときもアシスタントが役に立つだろう。

関連記事:文書補完機能の「Smart Compose」がGoogleドキュメントで利用可能に

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デバイス側で学習・予測が完結できるエッジAI開発のエイシングが3億円を調達

エイシング代表取締役CEO 出澤純一氏

エッジデバイス組み込み型のAIアルゴリズム「ディープ・バイナリー・ツリー(以下DBT)」を提供するエイシングは11月20日、約3億円の資金調達を実施したことを明らかにした。第三者割当増資の引受先は三井住友海上キャピタル株式会社が運営するMSIVC2018V投資事業有限責任組合。2016年12月設立のエイシングは、2017年にも約2億円を調達しており、今回の調達により、累計調達金額は約5億円となる。

エイシングが開発・提供するDBTは、産業用ロボットやスマートフォン、コンピュータを搭載したクルマなどのエッジデバイスに組み込んで利用する「エッジAI」だ。画像認識などで知られる従来のディープラーニングをはじめとしたAIは、容量が大きく、クラウド側で情報処理が行われることが多い。これに対し、エッジAIは導入機器側にエンベッドして情報処理を実行し、学習と予測を完結して行う。このため、クラウドサーバーとエッジの通信による遅延が回避でき、高速なデータ処理が可能だ。

特に産業ロボット、自動運転車など、エッジデバイス上でのリアルタイムかつ高精度な制御が求められる領域では、エッジAI実装へのニーズが高まっているという。こうした背景を踏まえ、エイシングではエッジ側でリアルタイムに自律学習・予測が可能な独自のAIアルゴリズムDBTを開発・提供している。

DBTの特徴は高精度、軽量でオンライン学習ができる点だ。現在、エイシングではマイクロ秒単位での高速動作が特徴の「DBT-HT(High Speed)」と、精度を向上させた高精度型の「DBT-HQ(High Quality)」の2種をリリース。速度重視、精度重視とユーザーニーズに応じて、ソリューションを提供している。

エイシング代表取締役CEOの出澤純一氏によれば「既存アルゴリズムのDBTに加えて、新しいアルゴリズムの発明も行っており、エッジ側で逐次的にリアルタイムで学習して予測制御を行うエッジAI技術『AI in Real-time(AiiR)』として、プロダクト群を展開していく」とのこと。

エイシングでは、一時は金融工学への応用なども検討していたが、現在は、強みである機械工学の領域での開発に集中している、と出澤氏。オムロンやデンソー、JR東日本といった大手企業ともPoC実施、共同開発を進めているそうだ。技術レベルの向上により、セキュアで、データ的に軽量な実装も実現してきているという。

実証実験済みのユースケースでは、トンネルなどの掘削に使われるシールドマシンの制御において、熟練工の指示に代えて、リアルタイムでのフィードバックと予測制御をエッジAIが行うことで、掘削効率と精度の向上を図っている例や、プログラムに記述しきるのは難しいクレーンの制御を、ディープラーニングによる画像解析との組み合わせにより、エッジ側でリアルタイムに学習しながら動作に反映することで実現する、といった例などがある。

また現状ではシミュレーター上での再現だが、クルマのスリップを事前予測して、制御側にアラートするという例もあるそうだ。従来のセンシングではスリップをしてからいかに早く戻れるか、という制御を行っているのだが、エイシングのエッジAIはスリップをする状況を事前に学習させておくことで、「このままの速度、ハンドル操作では何ミリ秒後に滑る」という情報を制御側に教えて、スリップを回避することができるという。

クルマの制御ではタイヤの摩耗や気温、路面温度などの環境が大きく影響するが、全てをセンシングするわけにはいかず、条件ごとの制御をやり切るのが難しいという事情もある。そこをエイシングのエッジAIでは、センシングが簡単な加速度センサーと車速計、ステアリングの角度だけを参照して学習することができ、さらに積載量、人数による変化も追加で学習して補正し続けることも可能だという。

出澤氏はさらに「工場の機械などで、経年劣化による変化を反映して制御することや、モーターなど製品の微妙な個体差を補正すること、スマートウォッチなどのウェアラブル端末で生体情報の個人差を補正するといった、リアルタイムで学習しながら補正して出力をする、個体差補正についてはエイシングのエッジAIしかできない部分だ」と述べている。

今回の調達資金により、エイシングではDBTをはじめとするエッジAI技術、AiiRの研究開発の強化と、顧客のシステムへの実装までを技術的にカバーする体制づくりを図る。

出澤氏は「顧客からのヒアリングを重視することで、課題・ゴールを明確にしてPoCを実施してきた。現在はパートナーとしての共同開発まで進んでいるところ。今後、この技術のライセンス提供を目指している」と話しており、既に数社へのライセンス提供は見込めそうだという。また、中長期的には、DBT以外のプロダクトも含めたデバイス側AIの市場獲得を図っているとのことで、「3〜5年のタームでグローバルにも展開していき、工業製品AIのデファクトスタンダードを目指したい」と語っている。

インテルとArgonne National Labの新型スーパーコンピューターAuroraがエクサの大台に

何百もの演算ユニットが、世界で初めて「エクサ」が頭に付く桁の計算(1秒間に1000兆回)に必要な性能を獲得し、スーパーコンピューターの規模は、ほぼ理解不能なレベルにまで成長した。どうやってそれを実現できたのか?「入念な計画、そして大量の配線だ」とこのプロジェクトに深く関わる2人は言う。

Intel(インテル)とArgonne National Labは(アルゴン・ナショナル・ラボ)は、Aurora(オーロラ)という名のエクサスケールの新しいコンピューター(米国ではいくつか開発中だが)の公開を予定しているとのニュースを今年の初めに知った私は、先日、インテルのエクストリーム・コンピューティング・オーガニゼーションの代表であるTrish Damkroger(トリッシュ・ダムクロガー)氏と、Argonneでコンピューティング、環境、生命科学を担当する研究所副所長のRick Stevens(リック・スティーブンス)氏から話を聞いた。

2人は、デンバーで開かれたスーパーコンピューティングカンファレンスにおいて、おそらくこの種の研究に関して深い知識を持っていると自認する人たちの前で、同システムの技術的な詳細について話し合った。インテルの新しいXeアーキテクチャーや汎用コンピューティング・チップのPonte Vecchio(ポンテ・ベキオ)も含むシステムの詳細については、業界誌や広報資料で読むことができる。そこで私は、この2人からもう少し大きな構想を聞き出そうと考えた。

関連記事:浮動小数点演算1回は100京ぶんの1秒、インテルとCrayが超高速次世代スパコンを共同開発中

こうしたプロジェクトが長期的なものだと聞いても、驚く人はいないだろう。しかし、どれだけ長いか想像がつくだろうか。10年間だ。そこでの難題のひとつには、開発当初に存在した技術を遥かに超えたコンピューティングハードウェアを確立しなければならないという点がある。

「エクサスケールが最初に始まったのが2007年です。当時はまだペタスケールの目標すら達成できていませんでした。つまり私たちの計画のマグニチュードは、3から4ほどかけ離れていたのです」とスティーブンス氏。「その当時、もしエクサスケールを実現したならば、ギガワット級の電力を必要としたでしょう。まったく非現実的です。そのため、エクサスケールの研究では、電力消費量の削減も大きな課題になりました」。

Xeアーキテクチャーを核とするインテルのスーパーコンピューティングは、7nmプロセスが基本になっているため、ニュートン物理学のまさに限界を押し広げようとするものだ。さらに小さくすれば、量子効果の影響を受けるようになる。しかし、ゲートを小さくすれば、必要な電力も小さくて済むようになる。顕微鏡レベルの節電だが、10億、1兆と重なれば、たちまち大きくなる。

だが、それは新たな問題を引き起こす。プロセッサーの能力を1000倍にまで高めると、メモリーのボトルネックにぶち当たってしまうのだ。システムが高速に思考できても、同じ速さでデータのアクセスや保存ができなければ意味がない。

「エクサスケールのコンピューティングを実現しても、エクサバイト級のバンド幅がなければ、非常に不釣り合いなシステムになってしまいます」。

しかも、これら2つの障害をクリアできても、3つ目に突き当たる。並行性と呼ばれる問題だ。高性能なコンピューティングにとって、膨大な数のコンピューティングユニットの同期も同程度に重要になる。すべてが一体として動作しなければならない。そのためには、すべての部分が互いにコミュニケートできなければならない。スケールが大きくなるほど、その課題は難しくなる。

「こうしたシステムには、数千数万のノードがあり、各ノードには数百のコアがあり、各コアには数千のコンピューティングユニットがあります。つまり、並行性には数十億通りあるということです」とスティーブンス氏は説明してくれた。「それに対処することが、アーキテクチャーの肝なのです」。

彼らはそれをどう実現したのか。私は、目まぐるしく変化する高性能コンピューティングアーキテクチャーデザインについて、まったくの素人のため解説を試みようなどとは思わない。だが、このエクサスケールのシステムがネットで話題になっているところを見ると、どうやら彼らは実現したようだ。その解決策を、無謀を承知で解説するなら、基本的にネットワークサイドの大きな進歩とだけ言える。すべてのノードとユニットを結ぶ継続的なバンド幅のレベルは尋常ではない。

エクサスケールでアクセス可能にするために

2007年当時でも、プロセッサーの電力消費量が今ほど小さくなり、メモリーのバンド幅の改善もいずれは実現できると予測できたが、その他の傾向については、ほぼ予測不能だった。たとえば、AIと機械学習の爆発的な需要だ。あの当時、それは考えも及ばなかったが、今では部分的にでも機械学習問題に最適化されていない高性能コンピューティングシステムを作ることは愚行と思われてしまう。

「2023年までには、AIワークロードは高性能コンピューティング(HPC)サーバー市場全体の3分の1を占めるようになると私たちは考えています」とダムクロガー氏。「このAIとHPCの収斂により、その2つのワークロードが結合され、問題をより高速に解決し、より深い見識を与えてくれるようになります」

その結果、Auroraシステムのアーキテクチャーには柔軟性が持たせられ、機械学習の一部のタスクではとても重要となる行列計算のような、特定の一般的演算の高速化にも対応できるようになっている。

「しかしこれは、性能面だけの話ではないのです。プログラムのしやすさも重視しなければなりません」と彼女は続ける。「エクサスケールのマシンにおいて、最も大きな挑戦のひとつに、そのマシンを使うためのソフトウェアが簡単に書けるようにすることがあります。oneAPIは、Open Parallel C++のオープン標準をベースにしているため、統一的なプログラミングモデルになるでしょう。これが、コミュニティーでの利用を促進するための鍵になります」。

これを執筆中の時点で、世界で最もパワフルな単体のコンピューティングマシンであるSummitは、多くのシステム開発者が用いているものとは使い方がずいぶん異なっている。新しいスーパーコンピューターを広く受け入れてもらいたいと開発者が望むならば、その使い方をできる限り普通のコンピューターに近づけるべきだ。

「x86ベースのパッケージをSummitに持ち込むのは、ある意味大変なチャレンジになります」とスティーブンス氏は言う。「私たちの大きな強みは、x86ノードとインテルのGPUがシステムに使われていることです。そこでは、基本的に既存のすべてのソフトウェアを走らせることができます。標準的なソフトウェア、Linuxのソフトウェア、文字どおり数百万種類のアプリが使えます」。

私は、そこで使われた経費について尋ねてみた。こうしたシステムでは、5億ドルの予算がどのように使われたのか、その内訳については謎とされることが多いからだ。たとえばメモリーかプロセシングコアか、実際にどちらに多くの予算が費やされたのか、またはどれだけの長さの配線が使われているのかなど、私は純粋に興味があった。だが、スティーブンス氏もダムクロガー氏も話してはくれなかった。ただスティーブンス氏は「このマシンのバックリンクバンド幅は、インターネット全体の総計の何倍にも及び、大変なコストがかかっています」と教えてくれた。あとは想像にお任せする。

Auroraは、その従姉妹であるローレンス・リバーモア国立研究所のEl Capitanとは違い、兵器開発には使用されない。

関連記事:6億ドルのCrayスパコンは核兵器開発で他を圧倒する(未訳)

「Argonneは科学実験室です。そしてオープンです。科学を機密扱いにはしません」とスティーブンス氏。「私たちのマシンは、この国のユーザーの資産です。米国全土にこれを使う人たちがいます。相互評価が行われ料金が支払われたプロジェクトには、たっぷりの時間が割り当てることで、最高に面白いプロジェクトを呼び込みます。そうした利用法が全体の3分の2。残りの3分の1はエネルギー省が使いますが、その場合も機密扱いはなしです」。

最初の仕事は、気候科学、化学、データ科学になる予定だ。それらの大規模なプロジェクトをAuroraで実現する15チームが契約した。詳細は追って知らされる。

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(翻訳:金井哲夫)

機械学習のONNXフォーマットが最新のLinux Foundationプロジェクトに

Linux Foundationは米国時間11月14日、機械学習モデルをよりポータブルにするオープンフォーマットのONNXが、AI Foundation内の公開レベルのプロジェクトになったと発表した。ONNXは2017年にMicrosoft(マイクロソフト)とFacebook(フェイスブック)によって開発されオープンソース化され、現在ではAWSやAMD、ARM、Baudi(バイドゥ)、HPE、IBM、Nvidia、Qualcomm(クアルコム)などの企業がサポートするスタンダードとなっており、合計で30以上の企業がONNXのコードベースに貢献している。

ここに含まれているのはONNXフォーマットだけで、マイクロソフトが1年前にオープンソース化したONNXランタイムが含まれていないことは注目に値する。ランタイムはONNXフォーマットのモデルの推論エンジンであり、同社がいずれかの時点でそれを基礎ガイダンスにしたとしても驚かないが、今のところそうではない。

「ONNXは、企業が支持する仕様であるだけでなく、すでにその製品に積極的に実装されている」と、LF AI財団で理事長を務めるDr. Ibrahim Haddad(イブラヒム・ハダッド博士)は述べている。「これはONNXがオープンフォーマットであり、幅広いフレームワークとプラットフォームの開発とサポートに取り組んでいるためだ。LF AIに参加することは、この方針を続ける決意を示すものとなり、世界中のより広いオープンソースAIコミュニティとの技術開発とつながりを加速する助けとなるだろう」。

マイクロソフトはONNXへの注力と、PyTorchやTensorFlow、Keras、SciKit-Learnなどの人気のフレームワークからONNXモデルを生成しやすくする取り組みを発表の中で強調した。同社のAzure AI(Microsoft AIではない)担当コーポレートバイスプレジデントを務めるEric Boyd(エリック・ボイド)氏は、「我々はONNXが成し遂げた進歩を誇りに思い、ONNXコミュニティ全体からの貢献、アイデア、そして熱意を認めたい」と述べている。「我々はONNXの将来と今後に興奮している」。

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(翻訳:塚本直樹 Twitter

伝説のコーダーであるジョン・カーマックはOculusを辞職、個人的AIプロジェクトを追求

伝説のコーダー、ジョン・カーマック(John Carmack)氏は、6年過ごしたFacebookのOculusを離れ、個人プロジェクトに専念する。それは汎用人工知能(AGI:Artificial General Intelligence)、いわゆる「強いAI」(Strong AI)の作成に他ならない。彼は「コンサルティングCTO」の肩書でOculusとの関係を続けるが、おそらく全ての時間を、最終的には人類を超え破滅させるAIに注ぎ込む。

AGIまたは強いAIは、人間が行う方法とほぼ同じ方法で学習を行うAIの概念であり、現在私たちがAIと呼んでいる非常に狭い機械学習アルゴリズムのようには制限されていない。AGIとは、SFに登場するAIたちである。HAL9000、レプリカント、そしてもちろんターミネーターなどがそれに相当する。善いものもいる、たとえば、データやR2D2だ。

関連記事:WTF is AI?(未訳)

これまでのところAGIは、研究者たちによるアプローチは言うまでもなく、厳密な意味で定義されていない。それは、そもそもそのようなことが可能なのかどうか、もし可能だとして、それを達成できるのかどうか、そしてそれが達成できるとして、私たちはそれを行うべきなのかという、未解決の問題なのだ。

カーマック氏はこの行動をFacebook上で発表した。彼はそこで、そのような魅力的で刺激的なトピックの不確実性こそが、まさに彼を惹きつけたものなのだと説明した。

ゲーム、航空宇宙、そしてVRで行ってきたすべてのことを振り返ると、型破りで証明されていないことでも、少なくともソリューションに対する漠然とした「見通し線」があることを常に感じていました。時には、ソリューションが全く見通せず、どのように扱えばよいかに悩む問題もありました。歳をとり過ぎる前に、試してみることにしたのです。

彼の計画は、それを自宅で「ビクトリア朝の紳士科学者」スタイルで追求しながら、子供を育てることだ。それはまるで、ほぼ動き始めた永久機関にフルタイムで専念するために、早期退職をするようなものだ。ただし、カーマック氏が実際に素晴らしいものを生み出すチャンスはあるかもしれない。

彼は、ビジョンと創造性を併せ持つまれな技術者であり、それがこれまで彼を技術の最先端に導き、ときには様々な方向へ後押しもしてきた。

しかし、Oculusでの彼の仕事とは異なり、私たちは彼が専念した仕事の結果を買うことはできない、なので私たちは何が生み出されるのかを、ただ待つことしかできないのだ。彼の幸運を祈りたい。だが彼がそれに注意深く取り組むことも願っている。

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(翻訳:sako)

機械学習のパターンマッチングで異変を見つけるモニタリングサービスPacketAI

PacketAIへようこそ。このフランスのスタートアップは、あなたのアプリケーションやサービスに何かまずいことがあったら知らせてくれる。同社は機械学習を使って生のイベントデータを解析し、おかしい点がないか調べる。

PacketAIは、さまざまなレベルでインシデントを捕捉できる。例えば、ユーザーがあなたのデータベースにデータを書き込めないことを教えてくれるし、コンピューターのレイヤ(マシンレベル)で何かがおかしいことも知らせてくれる。

PacketAIは、車輪を再発明しない。モニタリングツールがすでに数多く存在することを、よく知っている。Datadog、Splunk、Dynatraceなどなど。

共同創業者でCEOのHardik Thakkar(ハーディク・タッカー)氏は、「それらのツールは主に、マシンから出てくる情報を人間が理解できるように設計されている」と語る。

PacketAIは、DatadogやSplunk、DynatraceなどのAPIを統合して、生のイベントデータをリアルタイムで分析する。データを何千行もスクロールするのではなく、具体的には銀行の送金がいつもより相当長く時間がかかっていると教えてくれる。

そのため、問題の修復が迅速にでき、失う収益も少ない。

現在同社は各クライアントごとに機械学習のモデルを作っている。しかし計画としては、同じ業種分野の企業が4社か5社がPacketAIを使うようになれば、すぐにその業種のモデルを作るようにしたい。銀行のモデルとか、通信企業のモデルとか、そのように。

同社はすでに、Aster CapitalやBNP Paribas Developpement、Entrepreneur First、そしてSGPAなどから230万ドル(約2億5000万円)を調達している。

PacketAIは、そのプロダクトの最初の実装ですでに数社のクライアントと提携している。2020年の早い時期に、一般的に利用できるサービスになる予定だ。料金は、PacketAIを使ってモニターしたいネットワークのノードの数による。

画像クレジット: Bloomberg

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa

顔、手振り、服装チェックまでカバーしたFacebookの最新機械学習の

Facebook(フェイスブック)の最も新しい機械学習モデルの研究は、我々からすればなんとも平凡な仕事をさせるものだが、コンピューターにとっては今でもめちゃくちゃ難しい仕事だ。このプロジェクトの目的は、顔の匿名化と、手の動きを即興で作ること、そしておそらくもっとも難しいであろう、適切な服装のアドバイスだ。

この研究は、先日、ICCV(国際コンピュータービジョン会議)にて発表された。フェイスブックからは数十件の論文が公開されたが、同社はAIに関する研究、とりわけ、コンピュータービジョンにかなり重点を置いている。

動画の顔を変更する技術は、“ディープフェイク”などの悪用例を連想してしまうが、フェイスブックの研究チームは、むしろ人道的利用法の可能性があると感じている。

ディープフェイクは、顔の特徴と目標を詳しく調べ、その人の表情や顔の動きを、まったく別の人物の顔にマッピングするというものだ。フェイスブックのチームも同じ特徴や目印を使うが、目的は別の顔と入れ替えることではなく、顔認証エンジンで識別できないまでに顔を変形させることだ。

動画には出たいが、訳あって世間に顔がバレるのは困る人、しかも、お面をつけたり顔を完全に変えるといった格好の悪いこともしたくない人の役に立つだろう。これを使えば、自分の顔に似ているものの、たとえば目の幅がわずかに広かったり、唇が薄かったり、おでこが広い顔になれる。

彼らが制作したシステムは、よくできているように見える。もちろん、製品化するまでにはいくつか洗練させなければならない部分もある。しかし、政治的弾圧を逃れるために、またはもっと平凡なプライバシー対策のためにと、便利な使い道があれこれ思いつく。

仮想空間では、人の識別が大変に難しいことがある。その理由のひとつが、現実の生活では普通に認識している言葉に依らないジェスチャーの欠如だ。そこで次の研究は、そうした身振りをキャプチャーし、カタログ化し、再現しようとしている。少なくとも、人の手の仕草だ。

奇妙なことに、人が話しをするときの手振りを正確にデータ化したものはほとんど存在ない。そこで彼らは、2人の人間が通常の会話中に見せる手振りをたっぷり50時間にわたり録画した。というか、ハイエンドのモーションキャプチャー・ギヤを装着した状態で、できるかぎり自然に会話してもらった。

そうした(比較的)自然な会話と、それに伴う身振りと手振りは機械学習モデルに統合され、たとえば、「以前は」と言うときに自分の背後を指差したり、「そこらじゅう」と言うときに泳ぐような手つきをするといった言葉と動作の関連性をAIに学ばせた。

これがどんな役に立つのだろうか? 仮想空間でのより自然に見える会話もあるだろう。また、アニメーターがキャラクターに現実に根差したリアルな動きをさせたいときに、これがあればわざわざ自分たちでモーションキャプチャーを行わずに済む。結果としてフェイスブックが統合したこのデータベースは、規模の面でもディテールの面でも他に類を見ないものとなった。それ自体に価値のあるものだ。

同様にユニークながら、やや軽薄だと論争になったこのシステムの用途に、服装を向上させるというものがある。スマートミラーが一般化すれば、服装のアドバイスぐらい、して欲しいよね?

Facebookは小売業向けコンピュータービジョンのGrokStyleを買収(未訳)

Fashion++は、身にまとった服(帽子、スカーフ、スカートなど)と全体的なファッション性(当然、主観的な尺度だが)のラベル付けされた画像の膨大なライブラリーを取り込むことで、今の服装をもとに、よりよい服装の提案をするというシステムだ。大幅な変更は提案しないが(そこまで高度ではない)、上着を脱ぐとか、シャツを中に入れるなどの細かい助言をしてくれる。

デジタル・ファッション・アシスタントと呼ぶには程遠いが、実際の人々に服装アドバイスをさせたところ、信頼できる、さらにはいいアイデアかも知れないという反応が得られたという早期の成功が論文には記されている。よくよく考えれば、かなり複雑な課題だとわかる。さらに、“ファッショナブル”という言葉がいかにいい加減に定義されていたかを考え合わせれば、これは感動的なことだ。

ICCVでのフェイスブックの研究発表は、同社とその研究チームが、コンピュータービジョンに何ができるかという疑問に対して、じつに大きな視野を持っていることが示された。写真の顔を素早く正確に認識できたり、室内に置かれた物から位置が特定できれば大変に便利だが、ちょっとしたビジュアル・インテリジェンスによって改善される、まだ知られていない、または意外なデジタルライフの側面がまだまだたくさんある。この他の論文は、こちらから読むことができる

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(翻訳:金井哲夫)

AIとムーアの法則のポスト指数関数的成長時代を迎えて

私のMacBook Proは3歳になった。そして3年使ったメインコンピューターを、すぐに何とかしなければならない危機的状況と感じないのは人生で初のことである。まあ確かに、その原因の一部はApple(アップル)がキーボードの大失敗を解決するのを待っているからだし、また別の原因の一部はいまだに個人的にはTouch Barを受け入れることができないからだ。しかし、この3年の間に行われたパフォーマンスの向上が、これまでのようなものではないというのも理由の1つなのだ。

画像クレジット: Maksim/Wikimedia Commons under a CC BY-SA 3.0 license.

過去50年間では、私たちの世界のコンピューティングパワーの、気が遠くなる程に容赦のない指数関数的成長を表している「ムーアの法則」が、世界で最も重要な力だったと言っても過言ではない。そのため、その法則の減速および、終焉は事件なのだ。単に各家庭や各自の財布の紐が固くなることが問題だというわけではない。

もちろん私たちは皆、他の分野で指数関数的な成長が起きて、別の似たような時代を迎えられることを期待して生きてきた。AI/機械学習は大きな希望だった、特にAIがAIを指数関数的なペースで何十年にもわたって改善していくという、機械学習フィードバックループというはるかなる夢があった。それは今では、とてもありそうには見えなくなっている。

実際のところ、これまではずっとそうだった。数年前、私はあるAI企業のCEOと話をしていた。彼の主張はAIの進歩は基本的にS字カーブを描くというもので、私たちは既に音声処理に関してはカーブのトップに到達し、画像と動画についてはトップに近付いていて、テキスト処理に関してはまだ道半ばだという話だった。彼の会社がどの分野を専門としていたのかは明らかだが、その主張はまったく正しかったようだ。

先週のはじめ、OpenAIはAI(技術的に言えばこれは「AI訓練実行の最大値」を測定したものだが、傾向を示唆しているように見える)によって使用される計算能力がどのように増大しているかに関する、昨年の分析公開した。その結果は「必要な計算量は3.4カ月ごとに倍増している(比較のために言うなら、ムーアの法則では2年ごとに倍増)。2012年以降、この指標は30万倍以上に成長した(もし倍増期間が2年だったとすると、わずかに7倍の増加にとどまったはずだ)」というものだった。

それはAI技術を進歩させるための多大な計算能力だが、この計算の成長が継続できないことは明らかだ。成長「しない」ではない。 できないのだ。残念なことに、AIを訓練するために必要なコンピューティングパワーの指数関数的成長は、ムーアの法則による指数関数的成長の衰退とほぼ同時に起こっている。この問題に多くの資金を投じても助けにはならない。繰り返すが、ここでは指数関数的成長率についての話をしているのであって、線形的費用調整では物事は変化しないだろう。

重要なことは、倍増の期間を縮めるために大幅な効率のブレークスルーとパフォーマンスの改善を想定したとしても、コンピューティング能力の集団的成長が鈍化し始めているために、AIの進歩は徐々に計算能力に制限されていくように見えるということだ。おそらくある種の突破口があるのかもしれないが、もしそれがなければ、AI/機械学習の進歩はそれほど遠くない近い将来に、横ばいになるのを見ることになるかもしれない。

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(翻訳:sako)

Amazonのドアベル「Ring」にWi-Fiのパスワードが盗まれる脆弱性が見つかる

セキュリティの研究者たちが、接続されているWi-Fiネットワークのパスワードを露呈するAmazonのドアベル「Ring」の脆弱性を発見した。

Bitdefenderによると、Amazonのドアベルは、それがローカルネットワークに加わったときにオーナーのWi-Fiパスワードを平文のテキストで送信する。近くにいるハッカーはそのWi-Fiパスワードを横取りしてネットワークにアクセスし、重大な攻撃や盗聴行為などを仕掛けることができるだろう。

Bitdefenderによると「デバイスを最初に構成するとき、スマートフォンのアプリはネットワークの認証情報を必ず送信する。その送信はセキュリティに守られていないし、同じく無保護のアクセスポイントを通る。そのネットワークが動き出したら、アプリはそれに自動的に接続してデバイスを調べ、その認証情報をローカルネットワークに送信する」と説明する。

しかし、これらすべてが暗号化されない接続の上で行われるから、送信されたWi-Fiパスワードはそのまま露呈する。AmazonはRingの脆弱性を9月に直したが、この脆弱性は米国時間11月7日の時点で未公開だ。

このように、スマートホームの技術には相次いでセキュリティの問題が見つかっている。スマートホームデバイスは生活を楽にして家を安全にするために作られているはずだが、研究者たちは、それらが保護するはずのものへのアクセスを許す脆弱性を、次から次と見つけている。

この前は研究者たちが、人気のスマートホームハブにドアの鍵(スマートロック)を開けさせて、その家に侵入できた。

AmazonのRingについては、法執行当局(警察)が厳しい調査を行っている。GizmodoなどのニュースサイトがRingと警察との密接な関係の詳細を、関連のメッセージングも含めて報じている。今週は、ハロウィーンで何百万ものお菓子をねだる子どもたちを追跡したとRingがInstagramで自慢していたそうだ。

関連記事:Security flaws in a popular smart home hub let hackers unlock front doors(人気のスマートホームハブはハッカーがドアの鍵を開けられる、未訳)

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa