iOS 14の新機能はスタートアップにとって脅威となる

フィットネスや壁紙、失くしたアイテムの探索機能などを提供するスタートアップは、強大な競合と新たに直面することになりそうだ。しかもそれは、すべてのiPhoneに標準装備される。

Apple(アップル)が、この6月に公開することになるiOS 14のコードのリーク情報から、多くの新機能と、新しいデバイスの登場が予想される。アップルが、そうした新たな機能をOSレベルで組み込んでくることは、スタートアップにとって脅威となるだろう。新しいiOSが登場した途端に巨大なインストールベースを獲得し、そうした新機能を無料、もしくは安価に提供できるからだ。そして、iPhoneという収益の柱の売れ行きをさらに増加させることになる。

このような新たに発見されたものが、すべて実際に6月に公式に発表されるのか、あるいはもっと後になるのかは、まだわからない。以下に示すのは、9To5MacのChance Miller(チャンス・ミラー)氏が取得したiOS 14コードの分析結果だ。そこから、どのようなビジネスにアップルが割り込み、どのスタートアップが打撃を受けることになるのか、予想できる。

フィットネス:コードネーム「Seymour」

AppleはiOS、WatchOS、Apple TVで使えるトレーニング用のガイドアプリ「Seymour」(シーモア)を準備しているようだ。これにより、ユーザーは解説ビデオクリップをダウンロードして、さまざまなエクササイズができるようになる。MacRumorsのJuli Clover(ジュリ・クローバー)氏によれば、このアプリは、「Fit)」(フィットまたは「Fitness」(フィットネス)と呼ばれる可能性が高いという。ストレッチ、コアトレーニング、筋力トレーニング、ランニング、サイクリング、ローイング、アウトドアウォーキング、ダンス、ヨガをサポートしている。Apple Watchを使えば、トレーニングルーチンの進捗を把握できるようだ。

iOS 14のコードに埋め込まれたアップルのフィットネス機能のアイコン

iOSの「ヘルスケア」アプリは、歩数やその他のフィットネス関連の目標を管理するため、かなり一般的に使われている。ヘルスケアを使って、新しいフィットネス機能をパーソナライズしたり、利用を促進することにより、アップルは簡単に巨大なユーザーベースを手に入れることができる。適切なトレーニングによって怪我や障害を避けるためには、学ぶべきことが多いので、ウェイトトレーニングや、筋力トレーニングに恐怖感を抱いている人も多い。複数のアングルから撮影されたビデオによるビジュアルなガイドによって、腕立て伏せや二頭筋カールなども、正しくできるようになる。

アップルがフィットネスに参入することで、Futureのようなスタートアップは危機にさらされる可能性がある。Futureも、個々のエクササイズのやり方をビデオで説明する、カスタマイズされたトレーニングルーチンを提供しているからだ。Futureは、これまでに1150万ドル(約12億400億円)の資金提供を受けたスタートアップ。月額150ドルで、Apple Watchを使ってトレーニングの進行を管理するサービスを提供している。これは、視覚、音声、バイブレーションを利用して、iPhoneの画面を見なくてもエクササイズを切り替えるタイミングを知らせてくれるもの。Featureの場合には、人間のパーソナルトレーナーがいて、エクササイズをサボると、テキストメッセージで小言を言ってくるが、アップルはそれがない代わり、同様の機能を無料で提供してくれるのだ。

アップル製のFitnessは、トレーニングの視覚的なガイドのみを提供するSweatやSworkit、あるいは音声のみのAaptivのような、それほど高額ではないアプリにとっては、もっとやっかいかもしれない。バイクを使わないBeyond the Rideというトレーニングを、ライブまたはオンデマンドのクラスとして提供しているPelotonや、巨大な3Dセンサーを内蔵したウェイトリフティング用の家庭用スクリーンを提供するTempoといったハードウェアメーカーも、アップルの無料、または安価なサービスに、それほどこだわりのない顧客を奪われる危険を感じているかもしれない。

支払い方法に関するコードがないので、アップルのFitnessは無料だと考えられる。とは言え、アップルがサービスを拡張して、有料のプレミアム機能を付加することも十分に考えられる。たとえば、人間の専門家によるリモートのパーソナルトレーニング補助機能や、エクササイズの種類を、有料で追加することもあるかもしれない。それによって、こうしたサービスから収益が得られるようにするわけだ。

壁紙:サードパーティによるアクセス

現在のiPhoneの壁紙セレクター

iOS 14では、アップルは新たな壁紙のカテゴリを、現在のダイナミック(ゆっくりとずれる)、静止画、Live(タッチすると動く)という3種類のオプションに追加するかもしれない。これまでアップルは、最初からあるいくつかの内蔵の壁紙に、カメラロールからだけ追加できるようにしてきた。しかしiOS 14のコードは、サードパーティが壁紙を提供することに、アップルが道を開く可能性を示している。

壁紙の「ストア」ができるとすれば、この分野の起業家にとって祝福すべきことにも、呪うべきことにもなる可能性がある。壁紙を取り揃えて閲覧させ、購入、ダウンロードできるにしているVellum、Unsplash、Clarity、WLPPR、Walliなどのサイトやアプリを危険にさらすことになるかもしれない。アップルは、同様の機能を壁紙の設定に直接組み込むことで、自ら膨大な壁紙のコレクションを提供することも可能だからだ。とはいえ美しい壁紙のクリエーターにとって、iOS 14が新たな販売方法を提供することになることも考えられる。ユーザーがiPhone画面の背景をインストールする場所で、直接サードパーティの壁紙を購入できるようになる可能性もあるのだ。

大きな疑問は、アップルは単にいくつかのプロバイダーと協力して壁紙パックを無料で追加するだけなのか、プロバイダーを財政的に支援して協力を取り付けるのか、あるいはアプリのデベロッパーのように、クリエイターが画像を販売できる本格的な壁紙市場を形成しようとしているのか、ということ。以前は無料だった機能を市場に変えることで、アップルはその売上をサービス収益の増加につなげることもできるのだ。

AirTag:探しものを見つける

アップルが、待望のAirTagを発売するのも、間近に迫っているようだ。それも、iOS 14のコードの断片から判断できる。これは、小さな追跡用のタグを、財布、鍵、ガジェット、その他の重要だったり、簡単に失くしてしまいそうなモノに取り付けると、iOSの「探す」アプリを使って見つけることができるようになるというもの。MacRumorsによると、AirTagは交換可能なコイン型のバッテリーで動作するようだ。

iOSとネイティブに統合されるので、AirTagのセットアップは非常に簡単だ。そして、アップル製のデバイスが世界中どこにでもあることで、大きなメリットが享受できる。というのも、AirTagは多くの人が持っているアップル製のスマホ、タブレット、ノートブックの通信に便乗して、失くしたアイテムの位置情報を元の持ち主に知らせることができるからだ。

ここで明らかなのは、AirTagがこの業界で長年に渡って先頭を走ってきたTileの強力なライバルになりそうだということ。このスタートアップは1億400万ドル(約108億円)の出資を受けている。追跡タグの販売価格は20〜35ドル(約2100〜3600円)で、150〜400フィート(約46〜122m)離れた場所にあるデバイスを見つけることができる。また、年間30ドル(約3100円)の会費を払えば、バッテリー交換が無料となり、30日間の位置情報の履歴も利用可能となる。この業界には、他にもChipolo、Orbit、MYNTといった会社がある。

しかし、すでにAirPodsの発売時に経験しているように、アップルならではの知見を生かした設計によるiOSとのネイティブな統合により、同社の製品は市場に出回っている製品を凌駕するものになり得る。もしAirTagが、iPhoneのBluetoothや通信ハードウェアへの独自のアクセスを可能にしセットアップが早ければ、アップルのファンならそうしたスタートアップの製品からアップル製の新しいデバイスに乗り換えるだろう。さらに、アップルも有料のサブスクリプションを設定して、バッテリーやAirTag本体の交換、あるいは特別な追跡機能をサポートする可能性さえある。

拡張現実スキャン:コードネーム「Gobi」

iOS 14には、ユーザーが現実世界の場所や、可能性としては個々のアイテムをスキャンすると、そこから有用な情報を引き出すことが可能な、新しい拡張現実機能のコードが含まれている。9To5MacのBenjamin Mayo(ベンジャミン・マヨ)氏によると、このコードは、アップルが、Apple Storeとスターバックスで、コードネームGobi(ゴビ)と呼ばれる機能をテストしていることを示すものだという。ユーザーは、製品の詳細や価格、他製品との比較情報を見ることができる。Gobiは、QRコードなどを認識して、特定のショップの位置情報を取得し、その場所に付随する拡張現実体験を開始させることもできる。

SDKを使えば、パートナー企業が独自の拡張現実を開発し、それを開始するQRコードを生成できるようになるようだ。最終的には、こうした機能は、アップル製のモバイルデバイスだけでなく、サポートするARヘッドセットにまで展開できるようになる。それにより、ユーザーが所定の場所に入るだけで、即座にヘッドアップディスプレイに情報を表示するといったことも可能となる。

アップルは、本格的なアプリを構築するためのAR Kitというインフラをデベロッパーに提供するよりも、より手軽に使えるAR体験を可能にする方向に舵を切ろうとしている。その動きが、いくつかのスタートアップや、他の大手IT企業との競合を生む可能性がある。拡張現実の本質は、現実世界の隠れた体験を探索しやすくすることにある。そこでもし、ユーザーがいろいろな場所、あるいは異なる製品ごとに、別々のアプリを探し、ダウンロードしてインストールするのを待たなければならないとしたら、そうした体験は台無しになってしまう。すぐに起動して、シンプルな体験を提供する1つのARアプリに統合すれば、普及も促進されるはずだ。

SnapchatのScan ARプラットフォーム

Blipparのようなスタートアップは、消費者向けのパッケージされた商品や、小売店で活用できることを目指し、長年ARスキャン機能に取り組んできた。しかし、上で述べたように、そのためのアプリをダウンロードしておいて、使うのを忘れないようにしなければならないこともあって、そのような体験が主流になることはなかった。SnapchatのScanプラットフォームは、特定のアイテムから、同様にAR効果​​を開始できる。こちらは、もう少し人気のあるアプリから使える。そして、FacebookやGoogleのティーザー広告が示している拡張現実のハードウェアとソフトウェアも、結局のところ日常生活をより便利にするものとなりそうだ。

もしアップルが、このテクノロジーをすべてのiPhoneカメラに組み込むことができれば、ARが抱える普及への最大の課題の1つを乗り越えることになる。それにより、デベロッパーのエコシステムを開拓し、最終的にARメガネが利用可能になるまでに、ユーザーにとってARが普通のものとなるように慣れさせることができるだろう。

原文へ

(翻訳:Fumihiko Shibata)

ロサンゼルスのWoman’s Marchは女性運動の連帯と鼓舞に最新テクノロジーを活用

今年で第3回となるWomen’s March(ウイメンズ・マーチ)におよそ30万人の参加者がロサンゼルスのダウンタウンを行進したが、彼女たちは米国を代表する有力政治家の話を聞く機会に恵まれただけではない。主催者が、この運動のために導入したテクノロジーによる新しい体験ができた。

偶然にもWomen’s Marchと同じタイミングでローンチされたSameSide(セイムサイド)と呼ばれる組織運営ツールを活用することで、選挙の投票を促す非営利団体RockTheVote(ロックザボート)とも力を合わせるWomen’s Marchの主催者は、今年の大統領選挙に向けて、この行進のエネルギーを、地方や国レベルの女性問題に対処するための、もっと大きな政治的運動に発展させたいと考えている。

同時に彼らは、公共の空間を汚すことなく、このイベントにアートやアーティストを巻き込も方法を模索していた。そこで目を付けたのが、まだローンチ前の新しいアプリケーションMark(マーク)だ。

Markは、デンマークのゲーム開発企業Sybo(シボ)と中国のモバイルゲームのパブリッシャーiDreamSky(アイドリームスカイ)とのジョイントベンチャー。拡張現実によってデジタルな形でストリートアートを恒久的に残せるというもの。設立から2年目の企業でアプリはまだベータ版だが、Women’s Marchで初めての製品テストを行うことを決めた。

同社は、最大で総額30万ドル(約3300万円)と、アプリを新規ダウンロードしたユーザー1人につき最大で100ドルを寄付することに合意している。ユーザーがアプリをダウンロードして、このイベント期間中にアカウントを開設し最初のシェアを行うと、Markから1ドルが寄付される。残りの寄付は、その後も、アプリを続けて使用し、Markから投稿を複数シェアしたときに実施されると同社は話している。60日間連続してログインしてMarkで拡張現実作品を20本投稿すると、Women’s Marchに100ドルが寄付される仕組みだ。

画像提供:Mark

「どの運動もアートを取り入れています」とWomen’s March財団ロサンゼルス事務局長Emiliana Guereca(エミリアナ・グレカ)氏は話す。「社会正義芸術とテクノロジーと社会運動が、ここでうまく融合しています。テクノロジーではありますが有機的です」。

ARCoreには、Googleの耐久性の高いクラウド・アンカーを使っているため、どこかに絵を描けば恒久的に保存され、Markを使っていつでも見たり変更したりができる。ロサンゼルスでは、同社は国際的な米国人アーティストのAmy Sol(エイミー・ソル)、Sam Kirk(サム・カーク)、 Faith XLVII(フェイス47)、Ledania(レダニア)、Fatma Al-Remaihi(ファトマ・アル・ルマイヒ)と協力して作品を制作し、行進のルート上のさまざまな場所で見られるようにした。

Women’s MarchはMarkのデビュー会場となったわけだが、同社は、政治に関連する場所は避けた。「私たちは、できるだけ政治的中立を保ちたいと思っています」とMarkの最高責任者Jeff Lyndon Ko(ジェフ・リンドン・コー)氏は言う。コー氏は中国・深圳の上場ゲームパブリッシャーiDreamSkyの創業者であり、その新しい会社は中国当局の統制が厳しいソーシャルメディア市場では活動できなかったものと広く考えられている。

「このプロジェクトには、大中華圏の外に多くの脚を伸ばせる可能性があります」とコー氏は言う。中国の株主たちにとって(iDreamSkyはMarkに投資している)、米国の女性運動は未知の領域だ。「中国のチームは、何それ?って感じです」とコー氏。

Markとの協力が人々を鼓舞することを目的としているならば、Women’s March財団ロサンゼルスがSameSideと行っている活動の目的は、行動を促すことにある。

政治に焦点を当てたアクセラレーターHigher Ground Labsを卒業したSameSideは、Nicole a’Beckett(ニコール・エイベケット)と、海軍特殊部隊出身の兄とで創設された。2人は協力して政治的関与と社会活動を結びつけ、共通のイデオロギーと目的を持つコミュニティーを育てるソーシャルネットワークを構築した。

関連記事:Higher Ground Labsはテクノロジーが2020年大統領選挙を民主党有利にすると予測(未訳)

SameSideは、重要な日の通知やリマインダー、それに社会的イベントに参加してくれそうな政治活動家のデータベースも提供する。言うなれば、政治に特化し、メンバーに重要な日を伝えたり将来の活動のための行動を呼びかける機能を追加したMeetupのようなものだ。

「Women’s Marchで、SameSideが非公式ローンチされます。プラットフォームを提供することで、ロサンゼルスのWomen’s Marchを活動の媒体にして、いたるところで人々が関連イベント、例えばプラカードを作るパーティー、行進の前の朝のミートアップお茶会、行進に参加できない人のためのハウスパーティーなどを設定できるようになります。また、SameSideでは、さまざまな関連イベントやロサンゼルスのWomen’s Marchに出欠の返事をすたすべての人に、RockTheVoteが制作した選挙人登録活動キットを配布します」とエイベケット氏はメールに書いてくれた。

Woman’s March財団ロサンゼルスの主催者は、行進の参加者にとって、政治への関与が次なる重要なステップだと考えている。「行進の後の、やることリストがあります」とグレカ氏。「SameSideを仲間にしたことで、人々がつながれるようになりました。スマートフォンを使ってどのように運動を継続させるかが、とても重要なのです」。

[原文へ]

(翻訳:金井哲夫)

アップルは新宿を含む世界の主要都市でARアートイベントを開催

Apple(アップル)は、長年にわたる2つの大きな取り組みを結合させて、新たな推進力を生み出そうとしている。1つは、AR(拡張現実)を誰にとっても親しみやすいものにすること。もう1つは、Apple Store(アップルストア)を、市民センターのように仕立てて、コミュニティの集いの場にすることだ。

今回のプロジェクトは、[AR]T Walkと名付けられた。世界中のさまざまな都市の中心地を歩き回り、現実の空間の中で、多くのアーティストのデジタルアート作品に命を吹き込もうというものだ。このツアーは、香港、ロンドン、ニューヨーク、パリ、サンフランシスコ、東京で8月中旬まで開催される。なお新宿では8月11日となる。

地理的に特定の場所でデジタルアートを展示すること自体は、新しい発想というわけではない。たとえばSnapchat(スナップチャット)は、2017年に、セントラルパークでJeff Koons(ジェフ・クーノス)との提携を発表した。ただしその際には、技術的な問題によってうまく機能しなかった。

ARウォーキングツアーに参加したい人は、Appleのサイトで参加を申し込むことができる。ただし、新宿はすでに満員だ。今回のツアーは、2時間の行程で、1.5マイル(約2.4km)を歩くようだ。作品を提供しているアーティストとしては、Nick Cave、Nathalie Djurberg、Hans Berg、Cao Fei、John Giorno、CarstenHöller、Pipilotti Ristの各氏がいる。

原文へ

(翻訳:Fumihiko Shibata)

今行動しなければ拡張現実はディストピアを招く

アクション俳優のジェット・リーが映画「マトリックス」の出演を断り、とうとう銀幕に登場しなかったのは、自分の格闘の動きを3Dキャプチャーされて他の人に所有されるのを嫌ったからだ。

もうすぐ、誰もが3D撮影機能のあるカメラを持ち歩き、AR(拡張現実、複合現実とも呼ばれる)アプリを使うようになる。そうなれば、みんなが日々の生活のさまざまな局面、つまりジェット・リーが重要な役どころを拒否し、Napsterの登場以来ミュージシャンが頭を悩ませてきたようなデジタルキャプチャー問題に対処しなければならなくなる。ARとは、誰もが現実そのものをリッピングし、ミキシングし、焼けるようになることを意味している。

アップルのティム・クックCEOは業界に対して「データ産業複合体」に関する警告を発し、人権としてのプライバシーの保護を訴えた。ARが、不愉快な視覚的雑音で世界を満たし、あらゆる目の動きや情緒的反応が監視され広告ターゲティングに利用されるというディストピアを、ハイテク業界の一部の企業が予言していたとしても不思議はない。しかしクック氏は「気味の悪い未来は避けられる」とも言っている。業界は、今日の技術的基盤を築くために、誤ったデータ収集をしてきた。それを繰り返さないことだ。

日常生活にいて、ARが何を意味するのか、(皮肉なことだが)それが現実に根ざしてることを、どうしたらわかるのだろうか?

ARを可能にしている技術スタックを見る場合、ARに固有の新しいタイプのデータ収集について知っておく必要がある。それはコンピュータービジョンによって生成され、機械が読み取り可能な世界の3Dマップだ。ARは、それを使って3D空間との(そしてARシステム同士の)同期や位置の確認を行う。このデータに基づくオペレーティングシステムのサービスは「ARクラウド」と呼ばれている。このデータは、これまで大きな規模では収集できなかったのだが、ARが大きな規模で有効に働くためには絶対に欠かせないものだ。

持続性、マルチユーザー、屋外でのオクルージョンといった基礎的な機能は、すべてがこれを必要とする。人用ではなく機械用の、Google Earthのもっとすごいやつと考えればいい。このデータセットは、ARアプリが使用するコンテンツやユーザー情報(ログインアカウントの詳細やユーザー分析、3Dアセットなど)とは完全に切り離される。

ARクラウドのサービスは、このデータを管理するための簡単なソリューションを導き出す「ポイントクラウド」だと考えることができる。データは、実際にはいくつものレイヤーにわかれていることがあり、そのすべてで利便性や使用事例の度合いが異なる。「ポイント」という言葉は、三次元空間の中の点という概念をひと言で示したものだ。そのポイントを選択し説明するためのデータ形式は、最新のARシステムでは、各社ごとに固有のものが使われている。

特に重要なのは、ARシステムを最適に運用するために、コンピュータービジョンのアルゴリズムとそのデータとを密接に結びつけ、実質的に一体化することだ。AppleのARKitアルゴリズムでは、GoogleのARCoreデータは使えない。たとえGoogleにアクセスを許可してもらったとしてもだ。HoloLensやMagic Leapなど、この分野のスタートアップもすべて同じだ。オープンソースのマッピング方式は、最新の商用システムに比べると数世代遅れている。

そのため私たちは、こうした「ARクラウド」を、しばらくの間は独自のものにしておくつもりで構築してきたのだが、具体的にどんなデータがそこにあるのか、はたしてデータを収集できるのかが心配になるところだ。

ARはあらゆるものをキャプチャーできる

保存できるデータは数多い。少なくとも、コンピュータービジョン(SLAM)マップデータは必ず含まれる。その他に、ワイヤーフレームの3Dモデル、写実的な3Dモデル、人の「ポーズ」のリアルタイムの更新データ(正確な居場所や何を見ているか)、その他たくさんのデータが対象となる。ポーズだけをとってみても、歩いた軌跡を辿ることで、商品の最良の展示場所や、店内の(または自宅での)広告の最良な掲示場所を提案するためのデータを小売業者に提供できるだろう。

このスタックの中の低層のレイヤーは機械にとってのみ有用なものだが、レイヤーを重ねてゆくほどに、それはたちまち非常にプライベートなものと化す。たとえば、自分の子どもの部屋の写実的な3Dモデルが、廊下を歩くお客さんにキャプチャーされ、ARグラスで中の様子が見られてしまうということもあり得る。

こうした問題を一発で解決する決定打はない。解決のために何度も挑戦することが必要だが、その挑戦の種類を増やすことも大切だ。

解決された技術的問題と解決が待たれるもの

ARクラウドのデータの大半は、普通のデータだ。他の普通のクラウドが行っているのと同じ方法で管理できる。強力なパスワード、強力なセキュリティー、バックアップといったGDPRの規制が有効に働く。事実、自主規制に消極的な巨大プラットフォームの行いを正すには、規制を課すしかない。この点において、欧州が一歩先を行っている。中国では、事情がまったく異なる。

ARデータに関する興味深い課題を3つほど紹介しよう。

  • マップやストリートビューのデータには「新鮮さ」が求められるが、歴史的なデータはどれほど残しておくべきか。先週、長椅子が配置された場所のマップを保存する必要はあるか。どの縮尺、どの解像度で保存するべきか。世界のマップにはセンチメートル単位のモデルは必要ないが、身の回りの環境なら必要になる。
  • 難しいが実現可能な最大の課題は、個人が特定される情報をスマートフォンから外に出さないということだ。スマートフォンのシャッターボタンを押す前に、画像が処理されてアップロードされてしまう状況を考えて欲しい。ユーザーは、何がアップロードされるのか、なぜそれをキャプチャーしても大丈夫なのかを把握している必要がある。個人が特定されるすべてのもの(3Dスキャンのカラーテクスチャーなど)は、事前の許可と、そのデータの利用目的の丁寧な説明が必須だ。デバイスから外に出るすべてのデータには、人が読める、または識別できる要素をすべて取り除くための準同型変換が適用されるべきであり、それでもデータは、ごく限定された再局在化機能のためにアルゴリズム(デバイスで実行される)が解釈できる状態にしておかなければならない。
  • 「プライベートクラウド」の問題もある。企業は従業員のプライベートで正確なARクラウドを欲しがることが考えられる。プライベートクラウドはプライベートサーバーで簡単に開設できる。厄介なのは、一般の人がARグラスを装着してその企業の近所を歩いたときに、新しいモデル(別の業者のプラットフォームに保存されている可能性がある)を取得できてしまうことだ。

AR業界が解決しなければならない技術的課題

問題であることは認識していても、その解決策がまだ見つかっていない課題がある。例を示そう。

  • 部屋の仕切り。自分のアパートのモデルをキャプチャーしたとき、中の壁の片側は自分の家だが、その裏側は他人の家だ。現在は、ほとんどのプライバシー対策は、自分のGPS位置を中心とした円形のプライベートな範囲に依存している。しかしARでは「自分の空間」をもっと正確に探知できなければならない。
  • 空間の権利を特定することは大変に難しい。幸いなことに、社会契約や既存の法律で、その問題の大半に対処できている。ARクラウドのデータも、ビデオの録画と非常によく似ている。空間には、公的な場所があり、準公的な場所(ビルのロビーなど)、準プライベートな場所(家の居間など)、プライベートな場所(寝室など)がある。問題は、ARデバイスに、自分の立場と、キャプチャーすべきものを教える方法だ(例えば、私のグラスは私の家をキャプチャーできるが、他の人のグラスでは私の家をキャプチャーできないというように)。
  • 複数の人間からの場所のキャプチャーを管理する場合、そしてそれをひとつのモデルに適用して、影になったり重複した部分を取り除いたとき、その最終的なモデルの所有権が誰にあるかは、大変に難しい問題となる。
  • ウェブにはrobots.txtファイルという概念がある。ウェブサイトの所有者は、自分のサイトでrobots.txtを使い、ウェブデータの収集エンジン(Googleなど)が読み出せるデータを、そのファイルが許可したものに限定することができる。しかし当然なことながら、それぞれのサイトに明確な所有者がいるウェブの世界で、これを徹底させるこは難しい。robots.txtのようなもので同意を取り付け、現実世界の場所に適用できたなら、素晴らしい解決策になる(非現実的ではあるが)。ウェブクローラーと同様、デバイスにこれを強制するのは難しいだろう。しかし、クッキーや数々の広告トラッキング技術で人々がそうしているように、少なくともどうして欲しいかをデバイスに告げることができれば、市場の力や未来のイノベーションによって、プラットフォームにそれを尊重するよう要求できるようになるかも知れない。この魅力的なアイデアの本当に難しい点は、「その場所に対して権限を持つのは誰のrobots.txtか」ということだ。ニューヨークのセントラルパークに私がrobots.txtを書くことはできないが、自分の家用のrobots.txtは書くべきだろう。これをどうすれば立証して実施できるだろうか?

社会契約が現れ合意されることが必要

ARのプライバシー問題を解決するにあたり、大いに役立つであろうものが、いつどこでデバイスを使うのが適切かを規定する社会契約の生成だ。2000年代の初頭、カメラ付き携帯電話が登場したとき、その乱用が心配されて、ちょっとしたパニックが起きた。例えば、トイレで盗撮されたり、公の場で知らない間に自分の写真が撮られるといった問題だ。OEM各社は、カメラを使うとシャッター音が鳴るようにして世間の不安を解消しようと考えた。その機能を追加した結果、その新技術は社会に受け入れられ、急速に浸透していった。技術を消費者の手に持たせたことで、世の中は社会契約を受け入れた。つまり、携帯電話を取りだして写真を撮影してよい場所はどこか、不適切な時間とはいつかを人々は学んだのだ。

プラットフォームはあらゆるデータを
取得する必要はない

企業も、この社会契約に参加した。Flickrなどのサイトは、プライベートな場所や物の写真を管理し、どのように公開するか(可能ならば)を定めたポリシーを打ち出した。Google GlassとSnap Spectaclesとの間でも、同様の社会学習が行われた。SnapはGlassから教訓を得て、社会問題の多くを解決した(たとえば、Spectaclesはサングラスなので屋内では外すようにするとか、録画中ははっきりとわかる表示を出すなど)。それは、広く世間に受け入れてもらうための問題解決に、プロダクトデザイナーも参加すべき分野だ。

業界が予測できない課題

ARは新しいメディアだ。新しいメディアは、およそ15年ほど待たなければ現れず、それがどのように利用されるかは、誰も想像ができない。SMSの専門家はTwitterを予想できなかったし、モバイルマッピングの専門家はUberを予測できなかった。善意に満ちたプラットフォーム企業ですら、過ちを犯す。

これは未来の世代が背負う未来の課題ではない。SFめいた理論に基づく話でもない。AR業界が製品開発において、今後12カ月から24カ月のうちに行う意志決定が、次の5年間を方向付けるのだ。

以下の仕事を立派に遂行するために、ARプラットフォーム企業が依存すべきは、そこにある。

  1. ビジネスモデルの誘因が、データを提供してくれた人々の正しい行いに沿うようにする。
  2. 企業の価値観を伝え、データを提供してくれた人々の信頼を得る。その価値観は、プロダクトデザインのより明確な側面となる。Appleは、これに関していつもうまくやっている。技術系製品がパーソナルになればなるほど、誰もがより真剣にならなければいけない。

不気味な存在にならないよう今のAR関係者がすべきこと

これは、高いレベルで行うべきことだ。ARの先駆者たちの最低限の方針を列挙する。

  1. デバイスからの個人データの持ち出し禁止。事前の許可があった場合のみ可能:サービスの提供に必要不可欠な非個人データのみデバイスの外に出られる。それ以上の個人情報の収集は、ユーザーがよりよいアプリが使えるようになる見返りとして、事前の許可により可能とするか否かをユーザー自身が決められるようにする。技術を運用する目的で、個人データをデバイスの外に持ち出す必要はない。これに異論を唱える者は技術的スキルが足りない証拠であり、ARプラットフォームを開発するべきではない。
  2. IDの暗号化。大まかなロケーションID(Wi-Fiネットワーク名など)はデバイス上で暗号化する。一般性を超えて、特定のSLAMマップファイルのGPS座標から位置を知らせることはできない。
  3. 位置を示すデータは物理的にその場にいるとき以外はアクセス不可。アプリは、本人がその物理的位置にいない場合は、その物理的位置のデータにアクセスすることができない。そこに物理的に入ることが社会契約によって許されるかどうかが、これに大きく貢献してくれる。肉眼で物理的に見ることができる光景なら、プラットフォームは、その光景がどのように見えるかを示すコンピュータービジョンのデータに自信を持ってアクセスできる。
  4. 機械が読めるデータのみ。スマートフォンから外に出るデータは、専用の準同型アルゴリズムによって解釈できるもののみとする。現状の科学では、このデータを人が読める形に逆変換できないようにする。
  5. アプリ開発者はユーザーのデータを自分たちのサーバーで管理。プラットフォームではない。ARプラットフォームを提供する企業ではなく、アプリ開発者が、アプリとエンドユーザーに固有のデータ、つまりユーザー名、ログイン、アプリの状態などを管理する。ARクラウドプラットフォームが管理できるのは現実のデジタル複製のみとする。ARクラウド・プラットフォームはアプリユーザーの個人データに触れたり見たりできないため、それを乱用することがない。
  6. データを売るのではなく利用料で利益を上げるビジネスモデル。開発者とエンドユーザーが利用の対価を支払うビジネスモデルにすることで、プラットフォームは販売目的で必要以上のデータを回収することがなくなる。第三者に販売するためのデータを集めることへの金銭的報償を生まない。
  7. 最初にプライバシー保護の価値観を。プライバシーに関する価値観を一般に伝える。方針を示すだけでなく、それに対する説明責任を持つよう求める。未知の事態には何度も遭遇することになる。人々は、過ちが起きたときの誠実な対応を見て、そのプラットフォームが信頼できるかどうかを判断する。MozillaやAppleのような価値観を原動力とする企業は、価値観が知られていない他の企業に比べて、信頼度では優位に立っている。
  8. ユーザーと開発者の所有権と管理権。デバイスが取得したデータの所有権と管理権を、どの程度ユーザーと開発者に渡すのかを明確に決めておく。とても複雑な問題だ。目標は、GDPRの標準に世界中で準拠することだ(まだ達成されていない)。
  9. 持続的な透明性と教育。市場の教育に力を注ぎ、方針と、既知の問題と未知の問題をできる限り透明にし、新しく生まれたグレーゾーン全体で、人々の意見からどこに「線引き」すべきかを考える。データをやりとりして利益を得る場合には、ユーザーと交わした契約のあらゆる面を明確にする。
  10. 常にインフォームド・コンセント。データを取得する際には、丁寧に説明して同意を得るために誠実に努力する(広告ベースのビジネスモデルを採用している企業は3倍努力する必要がある)。これはエンドユーザー向け使用許諾契約を超えるものであり、平易な言葉を使い、解説図なども含めるとよいと思う。そこまでして初めて、エンドユーザーに何が起きるかを完全に理解してもらえる。

気味が悪い要素を排除したとしても、プラットフォームが取得したデータをハックされたり、政府機関から合法的にアクセスされる可能性があることを忘れてはいけない。取得していないものを出すことはできない。そもそも取得する必要がない。そうしておけば、データが見られたところで、個人マップファイルが正確にどこを示しているかを知ることはできない(エンドユーザーが暗号化するので、プラットフォームは鍵を持たない)。もし、正確な位置情報を含むデータが見られたとしても、それは決して解読できない。

こうした問題を一発で解決する決定打はない

ブロックチェーンは、こうした問題の万能薬にはならない。とくに、基礎的なARクラウドSLAMデータセットに対しては有用ではない。そのデータは独自規格で中央集権化されているので、適正に管理されていれば、データの保護は確実に行われ、正当な人間が必要なときにだけアクセスできる状態になっているはずだ。私たちが把握してるブロックチェーンには、エンドユーザーに恩恵をもたらすものはない。だが、ARコンテンツのクリエイターには価値があると私は考える。ブロックチェーンがモバイルやウェブのために製作されたあらゆるコンテンツに価値をもたらすのと同じだ。ARコンテンツと言えども、本質的には他のコンテンツと変わらないからだ(ロケーションIDがより正確になるだけだ)。

ちなみに、W3CとMozillaのImmersive Web(没入型ウェブ)グループは、さまざまなリスクとその緩和方法を探る努力を開始している。

望みをどこに持つ?

それは難しい質問だ。ARスタートアップは、生き残るために金を稼がなければならず、Facebookが実証したように、顧客にOKをクリックするよう促しすべてを収集するビジネスモデルが有利だった。ビジネスモデルとしての広告は、データ取得に関して本質的に間違った誘因を生んだ。その一方で、取得したデータがよりよい製品を生んだ例は無数にある(WazeやGoogle検索など)。

教育と市場への圧力、そして(おそらく必須となるが)プライバシーに関する規制は助けになる。それ以外では、私たちが互いに受け入れた社会契約(適正な利用など)に準拠して行動することになる。

重要なポイントは2つ。ARはあらゆるデータの取得を可能にするということ。そして、ARのユーザーエクスペリエンスを高めるためでも、プラットフォームはあらゆるデータを取得する必要はないということだ。

どのコンピューターに、ウェブクローラーがデータを読み出せる許可を与えるかというGoogleの努力に習うなら、コンピュータービジョンを広く分布させるARでは、どのコンピューターに見る権利を与えるかを、私たちは決めなければならない。

[原文へ]

(翻訳:金井哲夫)

AsteroidはAR開発のためのインターフェースエンジンを開発中

われわれが今日のコンピュータと対話する際には、マウスを動かし、トラックパッドを撫でて、画面をタップする。しかし、マシンがそうした操作にうまく反応しないこともよくある。人間がどこを見ているのかセンスするのはどうだろう? その微妙なジェスチャーによって、ユーザーが何を考えているのかを伝えるのだ。

Asteroidは、将来のインターフェースが、生体を直接センスしたデータをはるかに多く取り込むことになる、という考えを提唱して、デベロッパーの期待を集めている。そのチームは、macOSおよびiOS用のノードベースのヒューマン・マシンインターフェースエンジンを開発した。それにより、デベロッパーはインタラクションを定義して、Swiftアプリケーションにインポートできるようになる。

「新しいヒューマン・マシン・インターフェース技術について興味深いのは、ユーザーが今日『ダウンロード』できるのと同じくらい『アップロード』できるようになるかもしれないという希望です」とAsteroidの創設者Saku PanditharatneはMediumへの投稿に書いている。

その開発環境に注目を集めるために、彼らはクラウドファンディングのキャンペーンを始めた。それにより、今日市販されているバイオセンサーによって可能となるユーザー体験の深さを確認するための材料を提供する。Asteroidは、ハードウェアのスタートアップになりたいとはまったく思っていないが、インタラクション設計の即戦力となるツールにはどのようなものがあるのかを、そのキャンペーンによってデベロッパーに広く示すことができる。

こんな開発キット、そんな開発キット、そしてあんな開発キットもある。トータルパッケージを求めて参加した開発者は、山ほどの電子部品やケースといったハードウェア素材を受け取る。それらを工夫して組み合わせ、インターフェースのソリューションを開発するのだ。450ドルのキットには、視線追跡、脳・コンピュータインターフェースのための電極、そしてモーションコントローラを組み立てるための電子部品などが含まれている。参加者は、200ドルの視線追跡キットを単独で購入することもできる。それはすべて完全に実用本位のもので、Asteroidがハードウェアを売って大儲けできるというわけではまったくない。

「長期的な目標は、できるだけ多くのARハードウェアをサポートすることです。独自のキットを作成したのは、実験室の外には適切なものが豊富にあるとは考えていないからです」と、PanditharatneはTechCrunchに語った。

これらのマニアックなハードウェアを見ると、当分はなんだか趣味の仕事のように思われるかもしれない。しかし、いくつかのAR/VRデバイスには、視線追跡機能が組み込まれていて、ほとんどの市販のVRデバイスより1世代進んでいる。それに、脳・コンピュータインターフェースシステムが組み込まれたハードウェアなど、他ではほとんど見ることはないだろう。Asteroidは、スマートフォンのカメラとマイクだけでも、彼らのエンジンは十分に機能すると言っている。とはいえ、開発キットがそれなりによく売れているのは、多くのデベロッパーが特定のハードウェアを対象に開発しているわけではないということを示している。人間が世界に対処している方法とよく絡み合うように、インターフェースがもっと成長することに期待して、実験を続けているのだ。

Panditharatneは、この会社を設立する前は、OculusとAndreessen Horowitzに勤めていた経験を持つ。そこで彼女は、ARとVRの将来に焦点を合わせて、多くの時間をつぎ込んでいた。 Panditharatneは、Asteroidは200万ドル以上の資金を調達した、と語ったが、まだその資金の出所を詳細には明らかにしていない。

同社は、彼らが始めたIndiegogoキャンペーンから2万ドルを集めることを目指しているというものの、その真の目的は明らかに売り込みであり、自社のヒューマン・マシンインタラクションのエンジンを多くの人に知ってもらうためのものだろう。Asteroidは、その製品の順番待ちリストに加わるためのサインアップを、サイト上で受け付けている。

画像クレジット:Bernhard Lang

原文へ

(翻訳:Fumihiko Shibata)

Boseのサングラス型新製品は‘オーディオAR’を提供する(ディスプレイはない)

オーディオ(スピーカー、ヘッドフォン)の名門Boseが新しいウェアラブルSDKを立ち上げて、拡張現実(augmented reality, AR)に手を染めたのは3月だった。そして近ごろやっと製品市場化のめどが立ち、最初のヘッドセットを来月発売することになった。

でも、ARという言葉に釣られるのは禁物。そのFramesと呼ばれる製品は、いかにもBoseらしく、あくまでも“オーディオによる”拡張現実だ。つまりそれはサングラスのような形はしているけど、ヘッドアップディスプレイはない。むしろそのねらいは、すごく没入的なオーディエンス体験をユーザーに提供することだ。

このハードウェアは、頭の動きを捉える9軸モーションセンサーとAndroidまたはiOSデバイス上のGPSにより、ユーザーがどこにいてどっちを向いてるかを検出する。そして位置や方向の変化に応じてオーディオを内蔵ヘッドフォンへ注ぎ込む。

このグラスには、イヤーバッドや骨伝導ではなく、小さなスピーカーグリルがある。だからユーザーには環境音も聞こえる。そのことは、良くもあり、悪くもある。耳を完全に覆うヘッドフォーンのように完璧なオーディオは楽しめないが、まわりによく注意することはできる。

さて肝心のコンテンツだが、その発表はまだない。それは来年からだ。でも同社によると、ゲームや学習、旅行情報などが提供されるらしい。ツアーガイドなんかも、あるのだろう。でももちろん、あなたはそのコンテンツが対応している場所にいなければならない。

お値段は199ドルで、まだ未知数の製品にしては高いが、もともとBoseの製品は高いから、誰も違和感を感じないかもしれない。電池は一回の充電で3.5時間、スタンバイタイムは12時間だ。

上図のようにFramesは二つのスタイルがある。アメリカでは1月に発売。そのほかの市場には春だ。

[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

General Catalystが期待する「善い行いで成功する」機会は企業向けARにある

TechCrunch Disrupt Berlin 2018にて、拡張現実(AR)技術パネルディスカッションが行われた。登壇したAR企業の創設者とその投資家は、VR分野での消費者のハイプサイクルがまたしても定石どおりの「幻滅の谷」に落ち込んだ後、企業ごとの使用事例をもとに業界を再編して成長を期するよう提言した。

モバイルARのスタートアップ6d.aiのCEO、Matt Miesnieksは、業界全体が再び落ち込んでいることを認めたが、3度目のハイプサイクルを抜けようとしている今、水平線に新しいb2bのチャンスが見えてきたと話している。

6d.aiに投資しているGeneral CatalystのNiko Bonatsosも登壇し、ARスタートアップの課題は、b2b市場が複合現実の松明を手にして前に進めるよう、企業向けの製品をいかにして作るかを考えることにあると、Miesnieksとともに提言した。

「私が思うに、Apple、Google、Microsoftがこの分野に強く関与してきたことは、長期的に大きな安心につながっています」とMiesnieksは話す。「10年前のスマートフォン業界のように、私たちも、いろいろなピースが集まってきていることを感じています。そのピースが今後数年で成熟して、iPhoneのように合体するのです」

「私は今でも前向きに考えています」と彼は続ける。「消費者に大受けする製品を目指すべきではありません。本当に大きなチャンスは、企業の垂直方向に、コア技術を実現する場所に、ツールの世界にあります」

投資家たちは消費者向けVRとARに関わるターゲットに矢を放ったが、それはコンテンツ制作の難しさを甘く見ていたからだとBonatsosは指摘する。

「私たちの誤算は、もっとたくさんのインディー系開発者がこの分野に参入して、今ごろはポケモン型の大ヒット・コンテンツが10個ほど現れていると思いこんでいたことでしょう。でも、それはまだ実現していません」と彼は言う。

「いくつかゲームがあればと思っていました。ゲームはいつでも、新技術のプラットフォームへの入り口になってくれたからです。しかし、本当にエキサイティングなものは企業の中にありました」

「確かに言えることは、iPhone現象を引き起こすためには、ずっと高性能なハードウエアが必要だということです」と彼は言い、未来を引っ張るAppleのような企業が現れることをみんなが期待していることを示唆した。嬉しいことに、今の気持ちは「1年前よりもずっとずっとずっといい」とのことだ。

(TCビデオ)

AR技術のb2bへの応用の可能性を話し合う中で、Miesnieksは、移動プラットフォームのアイデアを持ち出した。オンデマンドまたは自律走行車両の位置と利用者とを結ぶというものだ。

この他に、ハードウエア企業と共同で開発できるアイデアとして、スマートフォンやドローンの空間認識力を高めて、その機能を拡大するというものもあった。

より一般的で、大きな可能性のある分野として、技術職のトレーニング、外交販売、共同作業の使用事例も挙げている。

「医療、石油、ガスの分野への応用も楽しみです。この技術を使えば、これまで細かすぎて不可能だった、あらゆる作業が可能になります。画面ですべてのものを見ることができて、必要なすべての作業を自分の手で行えるのです」とBonatsos。「だから、ものすごくエキサイティングです」

「これらは私が目にしてきた応用例の一部です。でも、まだ初期段階です。この分野の製品はまだ数が少なく、ひとつの開発会社が、少しでも早くデモを作りたいと、ものすごく前向きな企業の最高イノベーション責任者と仕事をしているといった、そんな感じです」

「今、いくつものアーリーステージの技術系スタートアップが、この問題に取り組もうとしています。そんな彼らに多額の投資が行われているのは、良い兆候だと思います。大企業から資金を引き出せる人間は、本当の事業家精神の持ち主であり、それが望ましい形です。だから、私は大いに期待しています」

これと同時に、混合現実を現実のビジネスに組み込もうとしたとき、技術者を悩ませる複雑さと社会的課題にも話が及んだ。

スマートフォンが動くものを感知し追跡できるようになると、ドラマ『ブラック・ミラー』のようなディストピアが現実になるのではないかと不安になる。6d.aiの技術は、それを予言している。

Miesnieksは、短編のデモ動画を上映した。スマートフォンに備わった3D技術によって、動く車や人をリアルタイムで特定するというものだ。

「私たちは、この課題に取り組んでいる世界のどの企業よりも、1年早く、実現できました。素晴らしいことです。3Dをよく知る人にこれを見せると、文字どおり、椅子から飛び上がります。しかし、これには意図しない結果を招く恐れもあります」と彼は言う。

「私たちは、この使い道で葛藤しています。ポケモンがさらに楽しくなるのは確かです。目の不自由な人が、車や人にぶつからずに街を歩けるようにもなります。杖もいらなくなるかも知れない」

「しかし、反対に人にぶつかるようになるかも知れません。視界から見たくない人を排除して、見たい人だけを見られるようにすることが可能だからです。それは恐ろしい未来です」

彼は、他の技術業界も含めて広く直面している問題も指摘している。社会的な影響やプライバシーの問題だ。「これが間違った方向に進めば、社会的な問題が起こります。善意で使っているつもりでもです」

「こうした技術革新が普及すれば、これまで考えも付かなかった用途が登場し、それについて、もう少し深く考えるという責任を、私たちは負うことになります」

Bonatsosは、投資家の視点からすれば、企業向けARも、技術を取り巻く世界に対して同様に敏感であるべきだと話す。

「それは、善い行いで成功しようと考えているMattのような専門家を探し出すことより、重要です。この分野には、考えなければならない要素が山ほどあり、それを実現させるには市場の信頼を得なければなりません」と彼は言う。「むしろ、昔風の企業投資に近い」

「今は、善い行いで成功するために、この新技術を役立てる絶好の機会です」とBonatsosは話す。「プライバシーと、これが作り上げてしまいかねないフェイクなものと、私たちが目指すものと、制限すべきことに対して、最初から責任を持って行動しなければなりません。さらに、私たちは巨大な拡張現実と、世界の3D版を創造しているわけですが、それは誰が所有するのか、この富をどう分配するか、このまったく新しいエコシステムの恩恵がすべての人に行き渡るようにするにはどうしたらよいか。考え甲斐のある課題です」

プライバシーにまつわるリスクを低減させるために行った、スマートフォンからのデータの匿名化や曖昧化といったローカルな処理など、6d.aiがとった段階ごとの対策を説明した後で、Miesnieksはこう話をつなげた。
「正しいと思ったことを、そのとおりにやれたとしても、また自分は善意に基づいて行動していると確信していたとしても、あちらこちらにグレーゾーンがあり、たくさんのミスを犯すことになります」

「もしもの話ではなく、(ミスが)起きたときは、私たちが頼れるものは、企業としての価値と、これが私たちの価値であり、そのために私たちは生きていると公言してコミュニティーと共に築き上げてきた信頼だけです。その価値のために生きている私たちのことを人々は信頼し、この分野のすべてのスタートアップは私たちの価値を理解し、価値を伝え合い、この繊細で抽象的な心構えを重視するようになります。単なる製造業として起業したスタートアップは、ここで失敗しています。

「大手の企業であっても、自分たちの価値を明確に言えるところは少ないでしょう。しかし、ARとこの新興の技術分野では、人々の信頼こそが、まさに中核となるのです」

Bonatsosはまた、社会的影響力が強すぎるとして中国政府がゲーム市場の規制を決定したことを挙げ、この分野のスタートアップにとって最大の逆風となる政治的リスクについても指摘している。

「信じられないことです。そこは私たちが今まさに技術の世界を引き連れて乗り込もうとしている場所です。私たちは、本当の意味でそれを完成させました。主流になったのです。私たちには責務があります。私たちが作るものには、大きな大きな意図した結果と、意図しない結果が伴います」と彼は話す。

「ゲームの制作本数と販売本数を政府が決めるなんて、冗談じゃありません。そんなことをリスクとして予測していた企業など、ひとつもないでしょう。しかし、大勢の人が、日常的に技術製品を長時間使い、多額のお金をつぎ込むようになれば、それは(避けようのない)次の段階となります」

[原文へ]
(翻訳:金井哲夫)

あらゆるアプリとデバイスに顔認識能力を与えるBanubaが700万ドルを調達

ロンドン中心部の公園を見下ろすViktor Prokopenya(ヴィクトル・プロコペニア)のオフィスに足を踏み入れると、その質素さのあまり、そこがロンドンのビクトリア駅のすぐ南という最上の立地であることをつい忘れてしまう。巨大企業が拡張現実(AR)を「現実の産業」にするために世界で戦っている中、ベラルーシ出身のこの温和なビジネスマンは、その業界に革新的な新技術を投げ込む準備をここでしている。それは、世界最大の企業が今すぐにでも飛びつきたい技術ではあるが、キッチンに立って私にコーヒーを入れてくれたこの人は、そうした大企業の上に立ってもおかしくない人物だ。

目前の将来像が明確であるか否かは別として、十分な投資がなされれば、ARの未来は確かだ。

2016年、ARとVRの業界は、23億ドル(約2億6100億円)相当の投資を引き寄せた(2015年に比べて3倍の伸びだ)。2021年までには1080億ドル(約12兆2500億円)に達すると期待されている。その25パーセントはAR分野に向けたものとなる。しかし、数々の予測によれば、ARは5〜10年後にVRを追い抜くという。

Appleは、明らかにAR開発の先陣を切っている。先日、ARレンズの企業Akonia Holographicsを買収し、今月公開されるiOS 12からは、開発者はARKit 2を完全に使えるようになる。カメラを中心としたアプリの新しい波を起こそうという狙いがあることは、明らかだ。今年、Sequoia Capital Chinaとソフトバンクは、ARアプリ「Snow」に5000万ドル(約56億7600万円)を投資した。Samsungは、独自バージョンのARクラウドを発表し、ワコムとの提携により、Samsung製のSペンをARの魔法の杖に変えた。

IBMとUnityとの提携では、UnityのアプリケーションにWatsonのクラウドサービスを統合することで、開発者は、視覚認識、音声の文字化など、数多くの機能が使えるようになった。

こうした多額の投資やM&Aを見るに、ARの重要性が増していることは疑いようがない。

この戦場に参戦するのが、ProkopenyaのBanuba(バヌーバ)プロジェクトだ。もうすでに、App Storeから「Banuba」というSnapchatに似たアプリをダウンロードできるが、そのベースには、Prokopenyaが資金提供をしているツール一式がある。彼は、AIとARの専門家を擁する投資チームと密接に行動し、ものすごく大きなビジョンを実現しようと努力している。

Banubaの売り文句の中心にあるのは、アプリだけでなく、ハードウエアにも「視覚」を与える技術のアイデアだ。これはAIとARの完璧なマリアージュだ。たとえば、AmazonのAlexaが声を聞くだけでなく、ユーザーの表情や気分を読み取ることができたとしたらどうだろう? それが、この成長途中の企業の、人々の心を掴む強力な戦略になっている。

一般消費者向けのアプリとして名前を売ったBanubaは、去年1年をかけて、彼らのコンセプトを実際の市場で効率的に試すことができたわけだが、これからいよいよ、新しいBanuba 3.0 mobile SDKで、開発ツールの世界に本格参入する(SDKはiOS用がApp Storeで、Android用がGoogle Play Storeでダウンロードできる)。また同社は、Larnabel Ventures、ロシアの起業家Said Gutseriev、そしてProkopenyaのVP Capitalから700万ドル(約7億9500万円)の追加投資を受けた。

これにより、投資総額は1200万ドル(約13億6200万円)となる。ARの世界は、ロミュランのウォーバード戦闘艦がスタートレックの場面に登場したときのような雰囲気になっている。

Banubaは、そのSDKを使うことで、ブランドやアプリメーカーは、そのアプリに3D顔認識ARを埋め込み、ユーザーは最先端の顔の動作追跡、表情の解析、さらに肌を滑らかにしたり顔色を整えたりといった機能が利用できるようになると期待している。BanubaのSDKには、背景を除去する機能もある。映画やテレビ番組でよく使われている「グリーンスクリーン」のようなものだ。これにより、ユーザーが作り出せるARのシナリオの幅が広がる。オフィスの背景を取り除いて、代わりにバハマの海岸の風景を入れるといった魔法のような画像処理が可能になるのだ。

Banubaの技術はデバイスに「視覚」を与えるものであるため、デバイスは人間の顔を3Dで「見て」、たとえば年齢や性別といった、ニューラルネットワークに基づく有用な主題分析結果を抽出できるようになる。他のアプリでは不可能だったことを可能にするのだ。さらに、心拍数をモニターしたり、スペクトル分析で時間ごとの顔色の変化を知ることもできる。

この技術はすでに、「Facemetrix」というアプリに採用されている。これは、子どもの目の動きを追跡して、スマートフォンやタブレットに表示された文章を呼んでいるかを確かめるというものだ。この技術を使えば、人の目の動きを「追跡」するだけでなく、人の目の動きでスマートフォンの機能を操作することも可能になる。それを実現させるために、このSDKは、人の目の微細な動きをサブピクセルのレベルで、リアルタイムに感知できるようになっている。目の特定の位置を検出することもできる。Facemetrixが目指すのは「教育のゲーム化」だ。子どもが電子ブックを本当に読んだかどうかをアプリが正確に検知し、その結果を両親に報告し、子どもにはご褒美のゲームや娯楽アプリを提供する。

この話からドラマ『ブラック・ミラー』のエピソードを思い出した人もいるだろう。脳のインプラントによって特定のものを見えなくされた少女の物語だ。その心配は、そう外れてはいない。ただし、こちらは安全なバージョンだ。

BanubaのSDKには「アバターAR」も含まれている。すべてのiOSとAndroidデバイスで、アバターと会話したりカスタマイズできる機能を提供し、クリエイティブなデジタル・コミュニケーション方法を、アプリ開発者に生み出してもらおうという考えだ。

「私たちは今、既存のスマートフォンから、進化したメガネやレンズといった未来のARデバイスへと切り替わる微妙なところにいます。そのため、カメラを中心としたアプリの重要性は、これまでになく高まっています」とProkopenyaは話す。彼によれば、ARKitやARCoreでは最上位機種のスマートフォンを対象にした機能が作れるが、BanubaのSDKなら、下位機種でも使える機能を開発できるという。

このSDKには、楽しいアバターと会話したり、自分だけのアバターを作ったりできるアバターAR機能があるが、これはすべてのiOSデバイスとAndroidデバイスに対応する。アニ文字が楽しめるのはiPhone Xだけだなんて、面白くないではないか。

Facebookは、Messengerでの企業向けの商品紹介機能に続き、ニュースフィードでのAR広告のテストを開始した。この知らせも、Banubaにとっては有利なものだ。

Banubaの技術は、娯楽アプリ専用ではない。2年足らずの間に、同社は25件の特許申請をアメリカの特許商標庁に出願している。そのうち6件は、平均よりも短い期間に記録的な早さで手続きされた。ミンスクにある同社の研究開発センターには、50名のスタッフが技術ポートフォリオの作成に力を入れている。

面白いことに、ベラルーシはAIと顔認識技術で知られるようになった。

たとえば、2016年を思い出してみると、当時、App Storeで大人気だった動画フィルターアプリ「MSQRD」を開発したミンスクの企業MasqueradeをFacebookが買収している。2017年には、別のベラルーシの企業AIMatterがGoogleに買収されている。200万ドル(約2億2700万円)の資金調達をした数カ月後だ。AIMatterも、モバイル上で写真や動画のリアルタイム編集を行うプラットフォーム「Fabby」を公開し、SDK戦略をとっていた。これは、ニューラルネットワークをベースにしたAIプラットフォームの上に構築されたものだが、ProkopenyaがBanubaに抱いている計画は、もっと大胆だ。

2017年の初めに、彼とBanubaは「Technology-for-Equity」(平等のための技術)プログラムを立ち上げ、世界中のアプリ開発者やパブリッシャーに参加を呼びかけた。これには、また別のベラルーシのスタートアップが加わり、ARベースのモバイルゲームを開発することになった。

AR関連の技術は「実質的にあらゆる種類のアプリを発展させます。どのアプリも、カメラを通して、男性か女性か、年齢、人種、ストレスの度合いといったユーザーの様子を知ることができます」とProkopenyaは話す。そしてそうしたアプリは、さまざまな方法でユーザーに関わってくるという。文字通り、アプリは私たちを見張ることになるのだ。

たとえば、フィットネス・アプリなら、BanubaのSDKを使ってユーザーの顔を見るだけで、どれだけ体重が減ったかがわかるようになる。ゲームも、ユーザーの表情から手がかりを読み取り、そこから得られた情報に基づいて内容を変えるといったことが可能になる。

ロンドンのオフィスに戻り小さな公園を見下ろすと、Prokopenyaは「多様性とエネルギーとチャンスが信じられないほど集中した」ロンドンに、叙情的な気分を抱く。「でも、ひとつだけ気になるのは、イギリスのUK離脱にまつわる不透明さと、今後、イギリスでビジネスをしていく上で、それがどういう意味を持つかです」と彼は懸念する。

ロンドンは偉大な都市かも知れない(これからもそうあるだろう)、しかし彼の机の上に置かれたノートパソコンは、ミンスクに直結している。そこは、今まさに、未来の顔認識技術が生まれようとしている場所だ。

[原文へ]
(翻訳:金井哲夫)

米国セブンイレブン、レジなし店舗を導入

Amazonが最初のレジなし店舗Amazon Goを2016年末にオープンして以来、他の小売業者は未来のコンビニエンスストアと戦う方法に取り組まざるを得なくなった。

Amazonはその後もシアトルサンフランシスコなどいくつかのAmazon Goを出店し、会員制スーパーのSam’s Clubは先週、テキサス州ダラスに“Sam’s Club Now”を開店すると発表した。そして今、世界規模チェーンストアの最古参が、類似のレジなし支払いシステムを発表した。

7-Elevenは、新たなモバイルチェックアウト方式、Scan & Payのパイロットテストを行っている。7-Elevenの利用者はスマートフォンで商品のQRコードをスキャンして商品を登録し、7-Elevenモバイルアプリを使って支払いができる。現在17カ国で6万5000店舗を運営する同社は、ダラスの14店舗でScan & Payのパイロットを行っている。2019年には他の都市にも同サービスを拡大する計画だ。

ユーザーはApple Pay、Google Payあるいは従来からのデビットあるいはクレジットカードを使える。レジなしチェックアウトで禁止されている商品は、ホットフード、宝くじ、アルコール、およびタバコのみだ。

「私たちにとって、利便性をデジタル世代に継続して推進する方法を見つけることが重要だった」と7-Elevenの最高デジタル責任者で最高情報責任者のGurmeet Singhが言った。「これで消費者の行動パターンや要求の変化に対応していく準備が整った」

ダラスに拠点を置く7-Elevenは、米国人口の50%が同社店舗の1マイル以内に住んでいると言っている。

他の大規模リアル小売業者と同じく、同社はITの急速な進歩に遅れを取らないことに全力を尽くしている。今年同社は、映画『デッドプール』シリーズと提携して、店内で拡張現実(AR)体験その他の実験サービスを提供した。

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi / facebook

WalmartのiOSアプリにARスキャナーを搭載して棚の上の商品の価格や評判を比較できる

Walmartが、拡張現実を試そうとしている。今日(米国時間11/1)同社は、そのiPhoneアプリの中に、顧客の製品比較を助けるARスキャナーをローンチしたことを発表した。それはふつうのバーコードスキャナーのように品物の価格をひとつずつ比較するのではなくて、WalmartのARスキャナーはお店の商品棚をパンして、製品の下に価格と顧客の格付けに関する詳細を表示する。

この技術は最初、Walmartの社内ハッカソンで、あるチームが、AppleのARKitを使って開発した。当時のねらいは、スキャンが速くてお客が速いと感じることだった。価格以外の情報を提供することも、目的とされた。

この機能のローンチを発表する記事でWalmart LabsのシニアエンジニアリングマネージャーTim Searsはこう言っている: “Walmartのお店で買い物する人たちは、モバイルアプリのバーコードスキャナーを使って価格をチェックすることが好きだ。でも将来に向けての可能性は、今回のプロダクトの方が大きいと思う。顧客がこのスキャナーを立ち上げると、デジタルの世界(情報)とフィジカルな世界(棚の商品)が直接結びついて、画面とカメラがその結びつきを映し出す”。

そのチームはハッカソンで優勝し、アプリはその後の設計変更などを経て、今日のWalmartのアプリへとたどり着いた。

そのスキャナーを使うにはWalmartのアプリの中でスキャナー機能を立ち上げ、棚の上の比較したい製品を指す。スマホを次の品物へと移動すると、画面下の情報も更新される(製品名、価格、星の数など)。関連製品のリンクもある。

このARスキャナーはすでにスキャンした物にはドットを付けるが、小さなドットなので、狭い場所で複数の品物を一緒にスキャンしても大丈夫だ。

ARによるスキャンは単純なバーコードスキャンより便利なはずだが、消費者がどれぐらい利用してくれるか、それを今後見守らなければならない。

ARを使おうとしているリテイラーはWalmartだけではない。Amazon, Target, Wayfairなどなど多くの企業が、いろんな使い方でARを採用している。家に帰ってからでも製品を見られる、という使い方もあるし、TargetのARシステム“studio”は、自分の顔の上でいろんなメイクを試せる。

それらに比べると、WalmartのARスキャナーはARのもっと実用的な使い方だ。

このAR Scanner機能は、iOS上のWalmartアプリの18.20以降にある。iOSは、11.3以上であること。後者の条件は、ARKit 1.5を使ってるためだが、ユーザーを新しいiPhoneのオーナーに限定してしまう。

[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

TC Sessions: AR/VR 変貌する業界内部の様子を聞く

先週、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の伝統あるロイスホールにて、TechCrunch主催の1日限りのイベント『TC Sessions: AR/VR』が開催された。急激に変化し熱気に溢れる業界と、それを支える人たちの現状を知ろうと、業界のベテランから学生までが一同に介した。Disney、Snap、Oculusを始めとする企業が登壇し、座談会に参加し、最新技術を披露した。参加できなかった方は、これを読んで、私たちが学んだことを知って欲しい。登壇者の話は、リンクを開くと動画で聞くことができる。

口火を切ったのはWalt Disney ImagineeringのJon Snoddy。ご想像のとおり、この会社は「エクスペリエンス」のために大きな投資をしている。だが彼は、VR(仮想現実)もAR(拡張現実)も、まだゴールデンタイムに進出する準備が整っていないと警告している。「まだそこまで到達していないと感じています。素晴らしいものだとはわかっています。とても面白いものだとも思っています。しかし、今後どうなってゆくのか、それが響いてこないのです」

次に登場したのはSnapのEitan Pilipskiだ。Snapchatでは、自分たちが何を作るべきかを決めるよりも、ARの創造性はクリエイターに任せたいと考えている。人々が日常的に装着してもよいと思えるARヘッドセットの完成には、まだあと数年かかる。それでもSnapは、AIを使った新しいフェイスフィルターとVRエクスペリエンスの試作を行っていると話した。

次に、私がスタートアップの一団を引き連れて登壇した。それぞれ方向性は異なるが、ホログラムや投影など、ビジネスとして成立する新しいディスプレイの形を追求しているという点で共通している。VNTANAのAshley CrowderとLooking GlassのShawn Frayneは、彼らが需要を見込んだ技術の開発方法を説明した。それは、簡単にリアルに3D映像を映し出すホログラム・ディスプレイだ。LightformのBrett Jonesは、現実世界を取り込んで拡張し、孤立した形ではなく共有できるエクスペリエンスについて語った。

ちなみに、Frayneのホログラム・デスクトップ・ディスプレイはロビーに展示されていた。とても素晴らしいものだった。大きなアクリルの箱の中に、キャラクターや風景が映し出される仕組みを覗こうと、三重四重に人垣ができていた。

BaoBab StudiosのMaureen Fanは、娯楽に焦点を絞ったVR企業の経費節約の重要性について語っていた。彼女の新作フィルム『Crow』のプレビューを見せながら、Fanは、物語を新しい方式で見せるためには、ゲームと映画の要素を創造的に融合させるなど、メディアを模索する必要があると話した。

次は投資家によるパネルディスカッションだ。登壇したのはNiko Bonatsos(General Catalyst)、Jacob Mullins(Shasta Ventures)、Catherine Ulrich(FirstMark Capital)、そしてStephanie Zhan(Sequoia)という面々。活発な討論の中で、彼らに共通していた意見は、Fanが言ったとおり、今はスタートアップが節約をする時代だというものだった。ベンチャー投資家の金を湯水のように使う企業によって競争が薄められてしまった。自力で効率的に運営されている企業が、頭角を現すという。

Oculusは、VRに関してはゲーム以外のエクスペリエンスには興味がないようだ。Oculusのエグゼクティブ・プロデューサーYelena Rachitskyは、座談会の中で詳しく説明してくれたた、彼らは、VRでユーザーがより深く世界と関われるようにするハードウエアに大変に注目しているという。Oculus Questのような新しいハードウエアは、360度VRビデオを遥かに超える能力をユーザーに与えるとのことだ。

Oculusが出てくれば、その親会社も黙ってはいられない。FacebookのFicus Kirkpatrickは、叩き台として利用できる使用事例に独立系の開発者を導くための、ARエクスペリエンスの典型となる「灯台」を作るべきだと考えている。創造的なエクスペリエンスとは別に、ARの発達は遅い。それは、スマートフォンを、長時間、手で持っているのが辛いからだ。Facebookはそこも考えていて、独自のARヘッドセットの開発に、すでに投資を行っている。

6d.aiのMatt Miesnieksは、同社のAR開発プラットフォームを一般公開したことを伝え、共同開発と大勢の人たちのためのオープンなARマッピング・プラットフォームとツールキットを作るという事例を示した。

Magic LeapやHoloLensなどのARヘッドセットがスポットライトを浴びることが多いが、ほとんどの人がARを最初に体験するのはスマートフォンだ。Parham Aarabi(ModiFace)、Kirin Sinha(Illumix)、Allison Wood(Camera IQ)はみな、ヘッドセットが進化したスタンドアローンの機器が普及して、この技術が主流になるのは3年から5年先だと考えている。彼らはまた、数々の技術や革新的なアイデアは数多くあっても、ARのためのキラーアプリがないという点でも同意している。

Derek Belch(STRIVR)、Clorama Dorvilias(DebiasVR)、Morgan Mercer(Vantage Point)は、VRの商業と工業での応用の可能性に着目している。一般消費者向けの技術を業務用グレードに引き上げるには、業務でのVR利用という大きな決断が必要になると彼らは結論付けた(StarVRなどの企業は業務用専門に的を絞っているが、それが成功するかどうかは未確定だ)。

FacebookがVR番組を提供する中、小さなVRスタートアップは、どうしたらソーシャルメディアに食い込むことができるのだろう。TheWaveVR、Mindshow、SVRFのCEOたちは、ユーザー同士が関わり合うことができ、いろいろな方法で人々をひとつにまとめるエクスペリエンスを作ることが鍵になると、口を揃えて言っていた。

休憩のあと、VRボクシングゲーム『Creed: Rise to Glory』のデモが披露された。これを開発したSurviosの共同創設者Alex SilkinとJames Iliffによる対決だ。その後、彼らは私と、ソーシャルおよびマルチプレイヤーVRの難しさと可能性について話し合った。 どれほど親近感のあるエクスペリエンスを作れるか、開発者は、プレイヤーの孤立や不正使用が起きないように、どう予防措置を取るべきかといった内容だ。

誕生したばかりの業界では、アーリーステージの投資が成功の鍵となる。だがその点では、VRは減速気味だ。BetaworksのPeter RojasとAnorakのGreg Castleは、彼らの投資戦略について詳しく話してくれた。また彼らは、技術業界の最大手企業がそこへ資金を投入し続けていることから、ARの分野に成功が期待できると教えてくれた。

UCLAは、AndersonのJay Tuckerと共に司会を務め、Mariana Acuna(Opaque Studios)とGuy Primus(Virtual Reality Company)を交えて、VRでの物語の表現はまだまだ初期段階にあるが、この模索と実験の時期は大いに励みになり、経験を積むことができると話し合った。映画はNetflixやMarvelで始まったわけではない。映画館や短編無声映画から始まったのだ。VRも同じ道を辿ることになる。

しかし、史上もっとも高い人気を獲得したARゲームの開発者のいないAR/VRカンファレンスというのは、どうなんだろう。Nianticはすでに『Pokémon GO』を超える成功を目指す大きな計画を立てている。『Harry Potter: Wizards Unite』の開発に深く関わった同社は、独自の最新AR技術を使った開発プラットフォームを作っている。今回の座談会で、AR開発責任者のRoss Finmanは、将来のAR世代のプライバシーと、この分野ではAppleが挑戦者側になっていることなどを話していた。

それが今回のイベントの締めくくりとなった。TechCrunchのFlickrページに、もっと別の写真がある(あなたも写っているかもしれない)。スポンサー、UCLAの寛大なるホストのみなさん、やる気に満ちて面白い話を聞かせてくれた登壇者のみなさん、そしてなにより観客のみなさんに感謝する。また会いましょう。

[原文へ]
(翻訳:金井哲夫)

Adobe、AR構築ツールとiPadアプリを発表――MAXカンファレンス開幕

今日(米国時間10/15)、ロサンゼルスで開幕したAdobe MaxカンファレンスではCreative Cloud(CC)ベースの新しいツールがいくつも発表された。中でも注目されたのはAR体験を構築するProject AeroとiPad上でラスターとベクター双方の作画ができるProject Geminiだ。

Projectというのは初期段階のバージョンで、まだ一般ユーザー向け安定版プロダクトではないことを示すAdobe流の用語だ。しかし近くProjectが外れてCCの正式な一員となるだろう。

AdobeがARツールを発表することは十分に予想された展開だった。ARテクノロジーが業界にこれだけ大きなバズを巻き起こしているというのにAdobeがじっと傍観していることはあり得ない(VRの場合もdobeはパイオニアの一社だった)。Project AeroはAdobe DimensionやPhotoshopと統合されており、作成された資産は簡単にインポートできる。現在はプライベート・ベータだが、年明けには公開範囲がさらに拡大されるはずだ。

Project GeminiはiPad向けのスタンドアローンのグラフィックス・ツールで、Photoshopのペイント・エンジンを利用している。このアプリはPhotoshop SketchやIllustrator Drawなど既存のモバイル・アプリのテクノロジーも使っている。タイムラプス効果やPhotoshopブラシのサポートはこれらのアプリから採用されたものだ。しかし選択やマスクのツール、グリッド、ガイドなどが含まれ、ラスターとベクターの双方で画像を作成できる新しいパッケージに再構成されている。

興味深い点は、このプロジェクトにおけるKyle T. Websterの存在だ。AdobeはWebsterのPhotoshopに多数のブラシを提供するサービスをちょうど1年前に買収している。

Adobeは今日発表されたリリースにこう書いている。

あらゆるスキルレベルのアーティストを対象とした厳しいテストの結果、われわれはドローイング・ツールが効果的に働く仕組みについて理解を深めた。Project Geminiのすべての機能は ドローイングとペインティングのワークフローを効率化することを目的としている。ユーザーは水彩風、油絵風などKyle
Websterが制作した自然なタッチのデジタルブラシを全面的に利用できる。また選択、マスク、変形もサポートされている他、Adobeのリサーチ・チームが開発した買う↑アズのテクノロジーが統合sれている。

Geminiではダイナミック・ブラシを含めPhotoshopがサポートしているブラシがすべて利用できる。また作成したファイルは両プロダクトの間で自由にやり取りできるという。

Adobe Maxで発表された他のプロダクト同様、Project Geminiもまだプライベート・ベータだ。また当面、デバイスはiPadがサポートされる。ただしAdobeでは他のプラットフォームにもサポートを拡大する計画だ。AdobeとMicrosoftの緊密な関係やAndroidにはこれというほどの魅力的なタブレットが存在しないことを考えると、サポートの拡大というのはWindowsベースのタブレットを指すのだろうと思う。

原文へ

滑川海彦@Facebook Google+

ようやく登場したMagic Leapは荒削りな驚異――初のデベロッパー・カンファレンスでARゲーム公開

何年も噂と推測、ときにはライバルからの批判の的となってきた拡張現実システムの開発企業、Magic Leapのヘッドセットがついにデベロッパー、消費者向けに出荷される。最初プロダクトは荒削りだがある種の驚異だということが判明した。

Magic Leapは先月、予約の受付を開始することを正式発表していたが、いよいよ、長年謎に包まれていた魔法のタネ明かしがなされた。

現在開催中の最初のデベロッパー向けカンファレンス、L.E.A.P.のキーノートでは、23億ドルを調達したARヘッドセットの詳細が明かされただけでなく、パートナー企業からのVIPも多数登壇した(多数のプレスが招かれており、TechCrunchでもこの後、詳しく報告する)。

10年近く前からMagic Leapと協力してきた開発スタジオ、Weta WorkshopPeter Jackson創立のAR開発企業、Wingnut ARはそれぞれMagic Leap向けのARアクションゲームを発表した。Wetaのゲームはロボットを、Wingutのゲームは毒グモをそれぞれターゲットとする一人称ゲームだ。医療向けイメージング企業のBrainlab、家具を消費者に直接製品を販売するリテラー兼コンサルタントのWayfairもMagic LeapによるARユースケースを紹介する。昨日(米国時間10/9)は合計16社がデモした。

カンファレンスでWetaはARゲームのプレビュー版を披露したが、なかなか印象的な出来栄えだった。このDr. Grordbort’s Invadersというゲームではブラスター銃を撃ちまって異世界からワープしてくる無数のロボットを撃ち落とす。Magic LeapではこれらのゲームをショーケースとしてARプラットフォームの能力を強く訴えた。【略】

Magic Leapの原動力であるファウンダー、CEOのRony AbovitzやWetaスタジオのゲーム・ディレクターGreg Broadmoreによれば、AbovitzがSF的な没入的世界を構築するためにWetaに協力を求めたのは6年以上前になるという。

その最初の成果がDr. Grodbortだ。

もちろんこのプロダクトは視野が狭いことや焦点調節など明らかな欠点もある(ゲーム内でときおり感じた不具合は記者が不慣れだったせいかもしれない)が、Dr. GrordbortはMagic Leapのヘッドセットがゲームデバイスとして大きな可能性を持つことを証明できた。ただし、今回のデバイスは2295ドルと消費者向けとしては禁止的な価格だ。

ゲームをスタートさせる前に!ユーザーはヘッドセットを装着してプレイの舞台になる部屋の中を歩き回る必要がある(部屋のサイズによるが、最大で4分程度かかる)。システムが部屋を記憶した後、ナレーションが「地球はエイリアンのロボットの大群に侵略されている。きみたちが人類最後の砦だ」と世界観を説明する。プレイヤーは壁その他にワープホールを開いて次々に出現する敵ロボットを射って破壊する。

WetaのBrodmoreは「このゲームはMagic Leapプラットフォームを構築するために大いに役立った。 Dr. Grordbortという問題を解決するのがMagic Leapだ」と語った。

WetaほどMagice Leapと緊密な関係を得ていたわけではないためまだ欠点も目立つが、それでもWingnutの毒グモ退治ゲームも十分に面白い。

プレイヤーは架空の害虫駆除業者の見習いとなって奇怪な実地訓練に挑む。この会社が駆除するのはおよそグロテスクな虫だ。プレイヤーはさまざまな器具を使って自分の家のリビングに現れる害虫を退治する。マッピング・エンジンとグラフィックスは素晴らしく、Magic Leapの高度なサウンド・テクノロジーのおかげでプレイヤーにゲームを説明するナレーションも極めて効果的に聞こえる。

プレヤーが使える武器はバットから火炎放射器までさまざまだ。武器の使い方や害虫をおびき寄せるねばねばした餌の作り方はナレーションで解説される。正直私は一人称シューティングゲーム(というかゲーム全般)の熱心なファンではないが、それでもWingnutのゲームは非常に面白かった。

ただしMagic Leapはゲームだけではなく、ビジネスにもユースケースを広げようと努力している。

医療画像処理企業のBrainlabと提携し、内科、外科の医療の教育と現場でMagic Leapのツールキットが役立つことが示された。デモでは患者の脳のスキャン映像から、脳腫瘍を3Dで再現し、ヘッドセットを用いて観察するところがデモされた。これにより医師が手術に関して必要な情報を得ることを助け、術式の決定にも役立つという。

一方、通販のWayfairはヘッドセットを利用してバーチャル・ショールームから家具を選び、ユーザーが自分の家にそれを据え付けたときどう見えるか試せることをデモした。ロッキード社の秘密航空機開発工場のスカンクワークスを思わせるような開発プロジェクトでWayfairは現実のショールームなしで家具を販売するという難問に挑んできた。

こうしたデモを通じてMagic Leapに必要なのはまず優れたコンテンツだということが改めて紹介された。また小型化と使い勝手の改良も急務だったが、これについては予想以上の進歩が見られ、Magic Leapのもっとも懐疑的な人々も納得させる出来栄えとなった。

見た目はまださほど洗練されているとはいえないが、Magic Leapの装着感ははるかに向上し、能力もこうしたプロダクト中で最高クラスだろう。3時間でバッテリーが充電できるというのも大きなメリットだ。

ただし、ユーザー側である程度の作業は必要だ。目とヘッドセットの距離を適切に設定するために鼻梁にかけるノースブリッジのサイズを選ぶ必要がある。またメガネを使っている場合は別途処方箋を送り、ヘッドセット用の適切なレンズを添付してもらう必要がある。

パッケージに標準で同梱されるのはモーション・センサーを内蔵するコントローラー(ビデオゲームのコントローラーのようなタイプ)と腰に装着するコンピューティング・ユニットで、これはノート・パソコンなみの処理能力がある。

ヘッドセットはパソコンにテザー接続される必要はないが、作動は屋内のみとなる。

第一世代のハードウェアに特有な多少の欠点を別にすれば、Magic LeapはAR、VRを通じて私が体験した中で最高クラスのプロダクトだ。Magic Leapより 視野が広く軽いデバイスも発表されているが、コンテンツの質とユースケースの多様さでは遠く及ばない。当初から提携していた各社はそれぞれ十分にペイしそうだ。【略】

原文へ

滑川海彦@Facebook <A

WayRayのホログラフィックAR HUDにポルシェなど自動車メーカーが800万ドルを投資

巨大にして古い体質を引きずる自動車産業は、次世代の自動車技術を開発してもらおうと、革新的なスタートアップに望みと夢を託してきた。そのいちばん新しい物語のページが、先日(9月18日)、開かれた。チューリッヒに本社を置くホログラフィーを使った拡張現実技術(AR)とハードウエア(運転者の視界に映像を投影するヘッドアップ・ディスプレイ(HUD)に使われる)を開発する企業WayRayが、ポルシェが主導するシリーズC投資として800万ドル(約9億円)の資金を調達した。これには、現代自動車、以前から同社に投資を行っているアリババ・グループ、招商局集団、JVCケンウッド、さらに政府系ファンドも加わっている。

WayRayは、この資金の使い道として、来年を目処に自動車メーカーにディスプレイ技術をOEM供給すること、長期的には、建築用の窓のような自動車用以外のディスプレイを開発する計画を示している。

WayRayは設立から約5年になる。製品は広く紹介されているものの、まだプロトタイプの段階に留まっている。しかし、その評価額は非常に高い。WayRayに近い情報筋によると、現在の評価額は5億ドル(約560億円)にのぼる。だが、WayRayの創設者でCEOのVitaly Ponomarevは、来年に予定されている製品の出荷が始まれば、その額は2倍になるだろうとインタビューで話している。

「私たちの製品の寿命はとても長いものです」とPonomarevは言う。「私たちは今、自動車業界への部品の認定供給業者になろうとしてるところですが、それには時間がかかります。来年にはティアツーサプライヤーになることを目指しています。年が開けるとすぐに契約が結ばれ、私たちの評価額に影響してくるはずです」。さらに彼は、すでに「すべての大手自動車メーカー」と接触していると話していた。

(資金に関して付け加えるならば、同社は公式には1億1000万ドル(約124億円)を調達していることになっているが、我々の情報筋によると、非公式に1億4000万ドル(約157億円)を、今は支援していることを伏せておきたい投資家から受け取っているという)

自動車用のHUDの市場価値は、昨年の時点で5億6000万ドル(約630億円)と見積もられていたが、2023年までには10億ドル(約1120億円)を超える見通しだ。WayRayのような企業は、コンチネンタルやパナソニックといった企業と頭を付き合わせて、彼らの要求に応えるシステムを作ることになる。これには2つの役割がある。ひとつは、運転者のアシスト。もうひとつは、乗客(または自動運転車の運転席に座る人)に情報や娯楽を提供することだ。

Ponomarevは、2週間以内に、それらのケースに対応するアプリ開発用のSDKを発表すると話している。

企業としてのWayRayは、AIに強く、とくにコンピュータービジョンと車内の安全システムの技術に優れた2つの国にまたがっている。WayRayの研究開発の大部分を占め、最初の(プロトタイプ用の)工場が置かれたのはロシアのモスクワだ。もうひとつの拠点が、現在はスイスのチューリッヒにある。最近までローザンヌにあったのだが、ドイツの国境に近く、複数の自動車メーカーが拠点を置いているチューリッヒに移転した。WayRayは、製品を製造する最初の工場をドイツに構える予定もある。2番目の工場は上海に作られる。現在、上海には営業所があるだけだ。

TecCrunchでは、今年のCES会場でWayRayを見つけて、その技術について簡単な記事を紹介したが、その画像の鮮明さや広さは、HUDの可能性を信じる私たちを勇気付けるものだった。すでにいくつものHUDメーカーが製品を販売しているが、言わせてもらえば、NavdyiScoutなど残念なものが多い。 しかしWayRayは、そうした多くのメーカーとはアプローチの角度が違う。反射式画面や埋め込み型ディスプレイではなく、ホログラフィックAR技術に特化している。

それにより、同社の専門はソフトウエアのみならず、最新のレーザー技術や材料科学(新しいポリマーを開発している)にまで広がったとPonomarevは話す。ホログラフィックHUDを研究している企業はWayRayだけではないが、WayRayがもっとも進んでいると彼は信じている。「特許の面から言えば、私たちが世界でナンバーワンです」と彼は言う。このシステムは、現在作られているものに比べて、20分の1のサイズにまで小さくできる可能性がある。

WayRayは、現在、埋め込み型のHUDシステム、つまり車両に組み込むための技術とハードウエアにフォーカスしているが、それは最近になってからのことだ。今年の初めまで、ユーザーが自分で買って好きな車両に取り付けられる、後付け型のハードウエアも同時に開発していた。

後付け型ハードウエアの問題点は、基本の技術がかならずしも同じでなくても、過激な競争になることだ。「中国など、世界中の何十社もの企業が参入して、後付けHUDビジネスを破壊してしまいます」とPonomarevは言う。「理由は単純です。中身に(独自の)技術がないからです」

後付けハードウエアのもうひとつの問題点は、販売チャンネルを作らなければならないことだ。

「小売りチェーンを通ることで、大きなマージンが取られてしまいます」と彼は言う。「しかし、OEMチャンネルに競争相手がひとつもなかったなら」……これはWayRayが主張する現在の状況だが……「それは金の鉱脈です。顧客は、一緒に仕事ができる時間が作れるまで、私たちのことを列を作って待っていてくれます。敷居が高い(一から始めて新しい技術分野を切り開き自動車産業に参入する)のが難しいところですが、良い面がとても大きく広がっているので、私たちは後付け型から埋め込み型に切り替えました。私たちは、それに相応しい技術を持っています」

それでも、WayRayが成功を実感できるようになるまでには、乗り越えなければならないハードルがある。自動車の内装には物理的にさまざまな違いがあり、それによってホログラフィック・ディスプレイの挙動は変わる。それに、本体はできるだけ小さく、映像はできるだけ大きく映し出すというハードウエアの開発には、つねにその2つの駆け引きによる緊張が付きまとう。

もうひとつ、その車種に、これを受け入れる準備ができているかどうかを考慮する必要がある。高度なドライブシステムや複数のセンサーなどを備えた車種なら、WayRayのシステムから出力される映像のレンダリングが高速に処理されるだろうが、そうではない車種では、WayRayのシステム自身が必要なデータを収集する方法から考えなければならない。それには、より複雑で高価な技術が必要になる。

しかし、そうした困難な問題に取り組んだとしても、見返りは大きい。

ポルシェは、WayRayの技術を、単に運転車のアシストに使ったり、すでに高い性能を有する車のオマケにするだけでなく、いずれはもっと多くのサービスを提供したいと考えている。たとえば、アリババを使った電子商取引だ。

「私たちが手を組むことで、お客様がポルシェに期待している基準での顧客ソリューションを提供できるようになると確信しています」と広報担当者は話している。

「WayRayは、宇宙工学、ハードウエアとソフトウエア開発といったしっかりとした経歴を持つユニークな専門家集団です」と、ポルシェの取締役会副会長であり財務IT担当取締役員のLutz Meschkeは、声明の中で述べている。「彼らの革新的なアイデアと製品には、非常に大きな可能性があります。これを基に、私たちはカスタマイズされたポルシェのソリューションをお客様に提示できるようになります。だからこそ、私たちはこの戦略的な投資を決断したのです」

また、長期的にその技術の応用に対する投資も拡大している。

「WayRayは、ホログラフィックARディスプレイ・システムのハードウエア開発、ソフトウエア開発の両方において、卓越した専門性を有しています」と現代自動車グループの最高イノベーション責任者であり執行副社長の池永朝(ヨンチョウ・チ)博士は声明の中で話している。「現代とWayRayの協力により、私たちはAR技術を利用した、まったく新しいエコシステムを確立し、ナビゲーション・システムの強化だけでなく、スマートシティーやスマートビルディングのためのARプラットフォームも構築することになります。それは、現代自動車グループは新事業でもあり、将来的に、私たちの車を運転されるお客様に、革新的な顧客エクスペリエンスを提供します」

[原文へ]
(翻訳:金井哲夫)

Oculusの共同創設者が競合他社製Magic Leapヘッドセットを「悲劇の誇大広告」と痛烈批判

企業の創業者が、競合他社の新製品をこき下ろすレビュー記事を書くというのは尋常なことではないが、Oculusの共同創設者Palmer Luckeyは、ずっと尋常ではない起業家で通ってきた。

昨日(アメリカ時間8月27日)、Luckeyは、自身の個人ブログに『Magic Leapは悲劇の誇大広告』と題したMagic Leapの開発者向けキットのレビュー記事を掲載した。その中で彼は、いくつかお世辞を述べてはいるものの、大部分は、その新製品の欠点の列挙と、同社の重役たちがAR技術のたわごとを並べていながら、結局は、彼が言うところの3年前のHoloLensに毛が生えたようなものに収まってしまった理由の説明に割いている。

https://platform.twitter.com/widgets.js

「Magic Leap ML 1に関する私のレビュー。メディアでは大きく取り上げられておらず、分析もされていない、いくつかの点に焦点を当てている」
「Magic Leapは悲劇的な誇大広告:このレビューのタイトルはよく考えて付けた。軽率な言葉ではない。私はVRにとって最高のものを、そして現実-仮想連続体のための最高の技術を求めているのだ」

 

彼は、いくつもの問題点をレビューの中で掘り下げている。おそらく、もっとも深い洞察が行われているのは、ヘッドセットとコントローラーに使われているトラッキング技術に関するものだろう。それがユーザーエクスペリエンスを後退させているという。Magic Leap Oneのコントローラーには、磁気トラッキング・システムが使われている。Oculusを含むほとんどのVRメーカーが採用している光学トラッキング・システムとは大幅に違うものであり、概して複雑な仕組みになっている。クリック式のトラックパッドがないことを批判している段落を読めば、それがLuckeyの単なる個人的な好みの問題ではないことがわかる。

Magic Leap One Lightwear

 

現在、LuckeyはVRの日々を卒業して、(ほぼ)転職を果している。彼の新しい会社Anduril Industriesは、国境警備のための技術開発に特化した企業だ。しかし、彼はまだハードコアなVR愛好家としての評判が高く、VR世界では大きな発言力を持ち続けている。

彼の不満の原因は明らかだ。Magic LeapのCEO、Rony Abovitzは、この数年間、多額の資金を調達して、秘密裏に技術開発を行い、公には既存の技術をこき下ろしていた。Luckeyは、それがARやVRの分野への投資意欲を削いでしまうと心配していた。目の前に非現実的な期待をぶら下げられた投資家は、比較的保守的なアプローチで売り込みをかける既存の企業への興味を失ってしまうからだ。

https://platform.twitter.com/widgets.js

Palmer Luckey「驚き!」
Fernando Serrano「悪いけど、こうするしかなかった」

 

もっとも辛辣な言葉は、Magic Leap Oneのディスプレイ技術のために残されていた。Luckeyは、他のメーカーの視野にあるものと、まったく変わらないと指摘している。Magic Leapの開発チームは、彼らが作っているものを説明するときに、独自の専門用語を作り出すほどだったのに、自分たちで言い出した技術を完成できなかったとLuckeyは言っている。

彼らはそれを「Lightware」と呼んでいる。長年にわたり、彼らの宣伝文句の中心的な存在だった。また彼らは、「フォトニック・ライトフィールド・チップ」、「ファイバースキャンイング・レーザーディスプレイ」、「デジタル・ライトフィールドをユーザーの目の中に投影する」技術、さらには、数十年間にわたってヘッドアップディスプレイの世界を悩ませ続けている「輻輳(ふくそう)調整不調和を解決」する方法、つまり、両方の目の焦点と「ふくそう」を常に一致させるための、「恒久的神経疾患」や脳障害を予防するために必須であるとMagic Leapも訴えてきた、この世界では聖杯とも言うべき技術について、繰り返し語ってきた。ふくそう調整不調和の解消技術は、VRよりも、デジタル要素と現実の要素との整合性を保たなければならないARにおいて重要になる。

要約:「フォトニック・ライトフィールド・チップ」は、反射型シーケンシャルカラーLCOSディスプレイとLED照明とを組み合わせた、単なる導波管に過ぎない。同じ技術は、もう何年も前から広く使われている。Microsoftの最終世代のHoloLensもそうだ。Magic Leap Oneは、「ライトフィールド・プロジェクター」ではない。または、広く認知された定義によるディスプレイでもない。「2焦点ディスプレイ」なので、ひとつかふたつの焦点面にすべてのUIと環境要素を配置した怪しいデモで、ふくそう調整不調和を解決したように見せかけている。それ以外の距離では、不調和が起きる。止まった時計でも、1日かならず2回は正確な時刻を示すというのと同じだ。

彼はまた、ヘッドセットの視野の狭さも指摘している。ただ正直なところ、彼は、もっと単純な光学システムを使った他社製のARヘッドセットと比較しているので、ちょっと不公平に思える。Magic Leapのディスプレイの視野範囲は、HoloLensのものよりも40パーセント大きいと見積もられているが、それでも人によっては狭いと感じるのかも知れない。

もしこれが、鳴り物入りで登場した製品に対する誰かさんの辛口批評に聞こえたなら、そのとおりかも知れない。Luckeyは、同社の注文番号のシステムから、売り上げを試算している。

Magic Leapの注文状況は、発売から数日の間は、じつに簡単に把握できた。私は友人から注文番号を見せてもらい、注文した時間と比べてみた。そこから、私は最初の1週間の売り上げを予測できると確信した。残念ながら、彼らは私がこのことをツイートした直後に、システムを変更してしまった。私が集めた情報を元に計算すると、最初の週で2000台が売れている。しかし、それは最初の48時間に大きく集中している。そこから推測するに、現時点での販売台数は、3000台を下回る。これは残念なことだが、確かな理由がある。私はMagic Leap Oneを持っている人を100人以上知っているが、彼らの中にAR開発者はわずかしかいない。ほとんどが、技術系企業の重役か、「インフルエンサー」か、初期のころに業界にいたが、ARアプリを開発しようという気がもうない人たちだ。黎明期のVR業界にとって、これは大問題だ。何千何万という開発者がいて、何千何万という開発キットが売れているにも関わらずだ。この問題の桁数が大きくなれば、Magic Leapにはとても厳しいことになる。

Luckeyは、このレビューの続編を書くつもりはないようだが、レビュー用にしばらく遊んだ後、彼は個人で買ったMagic Leap OneをiFixitに渡して分解を依頼している。

このレビュー記事が公開されると、Magic LeapのCEO、Rony Abovitzは、アニメ『アバター 伝説の少年アン』のキャラクターとLuckeyとを比較した、じつに奇妙なツイートをしている。それに続いてもうひとつ、さらに奇妙なツイートを出している。

https://platform.twitter.com/widgets.js
「この社会は不和に満ちてる。人々を団結させよう。私たちのデジタルとフィジカルの世界を統合しよう。創造しよう。そして、アーティストとなって作って遊ぼう」

https://platform.twitter.com/widgets.js
「Magic Leapの旅もパーティーも、これから面白くてクリエイティブで物凄いものになる。目標ははっきり見えている。誰でも歓迎する。ただし、どうかお行儀よく」

[原文へ]
(翻訳:金井哲夫)

Magic Leap One、開発者版リリース――謎のスタートアップのARヘッドセットの価格はiPhone Xの2倍

なにかと批判された長い道のりだったが、この夏、ついにMagic Leapが拡張現実ヘッドセットの実物を出荷する運びとなった。

われわれはデバイスの価格に注目していたが、これも正式に発表された。Creator Edition、つまりデベロッパー向けのMagic Leap Oneヘッドセットの価格は2295ドルからとなる。

このキットはメインストリームのコンシューマーを狙ったものではない。Magic Leapの戦略はかなり変化したように思える。Magic LeapのファウンダーはVergeのインタビューで「もうすぐ誰もが普通に使えるようになる」と力説していたのだが、どうやらまずデベロッパー向けヘッドセットを出荷し、コンテンツを充実させることで将来のコンシューマーを引き入れるという方向に舵を切ったようだ。

CNETによれば、余分の接続ケーブル、本体が故障した場合の迅速な交換サービスなどを含むプロキットにはさらに495ドル必要だ。(一部のデベロッパーには必須となる)処方箋によるメガネのレンズなどのエクストラはまた別に購入する必要がある。これらを合わせると価格はiPhone Xの3台分に近い。

われわれのCrunchbaseのデータによればこの拡張現実スタートアップは過去に少なくとも23億ドルの資金を調達している。投資家にはGoogle、Alibaba、Andreessen Horowitzといった著名な名前が並んでいるが、今回のクリエーター・バージョンが発売されるのは「アラスカ、ハワイを除くアメリカの特定の都市」だそうだ。

購入者希望者はウェブサイトのフォームにまず郵便番号を入力して自分が購入可能かどうかチェックする必要がある。ただし購入可能な都市は「急速に数を増やしている」そうだ。

われわれも郵便番号を入力したが、サンフランシスコは(当たり前だが)購入可能な地域だった。

CNETの報道では、現在購入可能なのはシカゴ、ロサンゼルス、マイアミ、ニューヨーク、サンフランシスコ(シリコンバレーを含む)、シアトルの6都市だという。

Magice Leapはデバイスは「直接配送される」ことを強調している。Magic Leapの専門家がパッケージを届けるだけでなく、自らセットアップも行う。高価な最初の製品がデベロッパーの期待を裏切らないよう努力していることがうかがえる。

Magic Leapではこの製品が「現在のコンピューティングのパラダイムを大きくシフトさせる」ことを狙っているが、これには熱心なデベロッパー、クリエーターによる「スペーシャル・コンピューティング」のコンテンツの創造が不可欠だろう。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+


なにかと批判された長い道のりだったが、この夏、ついにMagic Leapが拡張現実ヘッドセットの実物を出荷する運びとなった。

われわれはデバイスの価格に注目していたが、これも正式に発表された。Creator Edition、つまりデベロッパー向けのMagic Leap Oneヘッドセットの価格は2295ドルからとなる。

巨大AI企業SenseTimeがビデオ技術のMoviebookへ$199Mの投資をリード、その戦略的意図は…

SenseTimeは、45億ドルあまりの評価額で6億2000万ドルを調達し、評価額が世界最高のAI企業として知られているようだが、同社はしかし投資家でもある。この中国企業は今週、オンラインのビデオサービスをサポートする技術を開発している北京のMoviebookへのシリーズD、13億6000万人民元(1億9900万ドル)のラウンドをリードした。

Moviebookはこの前2017年に、シリーズCで5億人民元(7500万ドル)を調達した。今回のシリーズDは、SB China Venture Capital(SBCVC)が、Qianhai Wutong, PAC Partners, Oriental Pearl, およびLang Sheng Investmentらと共に参加した。〔SB==Softbank〕

SenseTimeによると、同社は投資と共にMoviebookとのパートナーシップも契約し、二社がさまざまなAI技術で協力していく。たとえば、エンターテインメント産業におけるAIの利用増大をねらった拡張現実技術などだ。

SenseTime Group Ltd.のオブジェクト検出/追跡技術が、2018年4月4日に東京で行われたArtificial Intelligence Exhibition & Conference(人工知能エキシビション&カンファレンス)でデモされた。このAIエキスポは4月6日まで行われた。写真撮影: Kiyoshi Ota/Bloomberg

声明の中でSenseTimeの協同ファウンダーXu Bingは、両社は、放送やテレビとインターネットのストリーミングなどからの大量のビデオデータを利用して、未来の多様な商機を開拓していく、と述べている。彼はまた、AIなどの新しい技術をエンターテインメント産業に導入していくことの持つポテンシャルを、強調している。

このような戦略的投資をSenseTimeが行なうのはこれが初めてではないが、今回がいちばん重要だろう。同社はこれまで、51VR, Helian Health, そしてリテールの巨人SuningからのスピンアウトSuning Sportsなどに投資している。

SenseTime自身は投資家たちから16億ドルあまりを調達しており、その投資家はAlibaba, Tiger Global, Qualcomm, IDG Capital, Temasek, Silver Lake Partnersなど、きわめて多様だ。

[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

Magic Leap Oneがこの夏やってくる――謎のスタートアップのARヘッドセットはNvidia Tegra X2で動く

何年も待たされたが、いよいよこの夏、Magic Leapが実際にハードウェア製品を出荷する。同社は以前にMagic Leap Oneの概要を発表し2018年中に出荷されるとしていたが、その後の情報はほとんどなかった。このため本当にこのスケジュールを守って製品を出すことができるのかと疑う声も少なくなかった。

Magic Leapはこれまでに23億ドルのベンチャー資金を調達しているが、Crunchbaseによれば出資者のリストにはGoogle、Alibaba、Andreessen Horowitz他、オールスターメンバーが並ぶ。同社は今日(米国時間7/11)、AT&Tが63億ドルを投じて独占販売権を得たと発表して大きな反響を呼んでいる。

そのARヘッドセットだが、Twitchのデベロッパー向けストリームにいくつかの解説が上がっている。最初にビデオではMagic Leapを作動させるハードウェアはNvidia
Tegra X2になるという。おそらく強力なバージョンが用いられるはずだが、モバイルデバイスに用いるにはサイズが大きすぎるのでMagic Leapでは腰に下げる専用のパックを製作している。

価格などの詳細は依然不明だ。

同社の以前の説明ではMagic Leap Oneはモバイルではあるが、ホームユースを主として考えているということだった。

疑問は多数残っている。たとえば、デバイスに用いられているディスプレイのテクノロジー、デバイスが実際に用いられたときの視野角など核心的な部分はまだ明らかにされていない。ヘッドセットはハンドトラッキング、アイトラッキングに加えて物理的なコントローラーを用いる。こうした複数のトラッキング方式がどのように相互作用するのか、デベロッパーが制御できる部分はどの程度かなども大きなクエスチェンマークのままだ。またバッテリー駆動時間についても知りたい。

Magic Leapは自社の技術がいかに革命的なものであるか十分に鼓吹してきたが、製品を宣伝するビデオに登場するデモ自体はごく短く、ARを実現する際のソフトウェア上の大きなハードルがどう解決されたのか、ヘッドセットはサングラス式に着用できる洗練されたデザインだが、このハードウェアを十分なスケールで量産できるのかなどわれわれが知りたいことは多い。

CEOのRony Abovitzは「今週中にさらにアップデートがある」とTwitterで予告している。これにはMagic Leap Nextという次世代製品(Oneもまだリリースされていないわけだが)についての情報も含まれるという。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

ピカチュウが現実の物体の影に隠れるようになる――Niantic、新テクノロジーと開発中のゲームをデモ

AR〔拡張現実〕空間になんらかのオブジェクト(たとえばピカチュウ)を描写することを考えてみよう。このとき現実の空間で人間や自動車が手前を通り過ぎたとする。するとAR空間のオブジェクトは現実のオブジェクトの後ろ側になる。ここで非常に厄介な問題が生じる。

仮想オブジェクトを現実のオブジェクトによって「隠す」作業は極めて複雑だ。システムは描写中のピクセルが別のピクセルの「手前」にあるのか、「向こう側」にあるのか、中間にあるのかを判断できなければならない。自動運転車のように複数のカメラやレーザーレンジファインダーを使うのは非常に役立つがスマートフォンが通常備えるようなRGB感光素子の単一カメラで、しかもリアルタイムでこうした識別を行うのは至難の技だ。ほとんどのARアプリでオブジェクトがごく近くの空中に浮かんでいるような描写になるのはこうした理由からだ。

ピカチュウが活躍するポケモンGOのテクノロジーを支えるNianticは、まさにこの問題に取り組んできたスタートアップ、Matrix Millを買収した。

2017年にロンドンのユニバーシティー・カレッジのプロジェクトからスピンアウトして企業となったMatrix MillはMonodepthと呼ばれるテクノロジーを提供する。このツールは単一のRGBカメラから得たデータをニューラルネットで処理し、リアルタイムのゲームに利用可能な速度で距離情報を出力する。

同社は昨日(米国時間6/27)、少数のジャーナリストを招いてMonodepthのデモを行った。下にエンベッドしたサンプルではNianticの現行のARエンジンで描写したピカチュウとMatrix MillのMonodepthテクノロジーで処理したピカチュウを比較している。

2番目のバージョン(0:33から始まる)では通行人がピカチュウを隠している。またピカチュウはプランターを通り抜けるのではなくて、きちんと後ろに回り込む。レンダリングはまだ完全ではなく、ときおり不整合やノイズが出ている。しかし開発段階のこのデモでもリアルさが大きく向上していることが見てとれる。残念ながら、ポケモンGOにこのテクノロジーが導入される時期についてはまだ情報がない。買収の金額など詳細についても不明だ。

Nianticはこれ以外にもきわめて短いレイテンシーでAR体験を共有できるテクノロジーを利用したゲームのデモをいくつか行った。いずれもまだ実際のゲームには導入されていない。

たとえばNeonというコードネームで呼ばれる実験的ゲームではプレイヤーは広い場所を走り回って「弾薬」を拾い、他のプレイヤーに向けて射つ(下のビデオ)。:

このゲームではシステムが他のプレイヤーを認識して、それぞれにマーカーを付与してトラッキングしていることが注目される。ゲーム内を飛び交うARの「ロケット」はプレイヤーだけでなく、アプリを通すかぎり室内の観戦者もリアルタイムで見ることができる。プレイヤーが持つ複数のデバイスからの情報を共有することでシステムはリアルタイムでゲームマップを更新し、各プレイヤーの相互の位置関係を把握する。Niantic/Portkeyが準備中のハリー・ポッター・ゲームにおける魔法使いのバトルにこのテクノロジーが応用されることは十分予想できる。

共有ARというコンセプトは実験的な3次元ARパズルゲームのTonehengeにも使われている。Nianticはこのゲームを数日で開発したという。

これもハリー・ポッターに出てくる「魔法のチェス」を思わせる雰囲気があった。

最後にNianticはReal World Platformを紹介した。これはiOSとAndroidにまたがるクロスプラットフォームのツールとAPIのセットで、サードパーティーのデベロッパーがARゲームを開発するためのベースとなる。ポケモンGOと同様のメカニズムを備えた独自のゲームが開発できる。ユニークなコンセプトを用意すれば、マップ、スプーフィング対策ツール、世界のゲーム可能地点の巨大なデータベースなどをNianticが提供する。

Nianticでは今年中に「少数の選ばれたサードパーティー」に対してこのツールの提供を開始するという。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

サッカーのゲームをテーブルの上の拡張現実の3D映像で見る

ワールドカップのシーズンなので、機械学習の記事もフットボールを取り上げないわけにはいかない。その見事なゲームへの今日のオマージュは、試合の2Dビデオから3Dのコンテンツを作り、すでに拡張現実のセットアップのある人ならそれをコーヒーテーブルの上でも観戦できるシステムだ。まだそれほど‘リアル’ではないが、テレビよりはおもしろいだろう。

その“Soccer On Your Tabletop”(卓上サッカー)システムは、試合のビデオを入力とし、それを注意深く見ながら各選手の動きを追い、そして選手たちの像を3Dモデルへマップする。それらのモデルは、複数のサッカービデオゲームから抽出された動きを、フィールド上の3D表現に変換したものだ。基本的にそれは、PS4のFIFA 18と現実の映像を組み合わせたもので、一種のミニチュアの現実/人工ハイブリッドを作り出している。

[入力フレーム][選手分析][奥行きの推計]

ソースデータは二次元で解像度が低く、たえず動いているから、そんなものからリアルでほぼ正確な各選手の3D像を再構成するのは、たいへんな作業だ。

目下それは、完全にはほど遠い。これはまだ実用レベルではない、と感じる人もいるだろう。キャラクターの位置は推計だから、ちょっとジャンプするし、ボールはよく見えない。だから全員がフィールドで踊っているように見える。いや、フィールド上の歓喜のダンスも、今後の実装課題に含まれている。

でもそのアイデアはすごいし、まだ制約は大きいけどすでに実動システムだ。今後、複数のアングルから撮ったゲームを入力にすることができたら、それをテレビ放送のライブ中継から得るなどして、試合終了数分後には3Dのリプレイを提供できるだろう。

さらにもっと高度な技術を想像すれば、一箇所の中心的な位置からゲームを複数アングルで撮る/見ることも可能だろう。テレビのスポーツ放送でいちばんつまんないのは、必ず、ワンシーン==ワンアングルであることだ。ひとつのシーンを同時に複数のアングルから自由に見れたら、最高だろうな。

そのためには、完全なホログラムディスプレイが安く入手できるようになり、全アングルバージョンの実況中継が放送されるようになることが、必要だ。

この研究はソルトレイクシティで行われたComputer Vision and Pattern Recognitionカンファレンスでプレゼンされた、FacebookとGoogleとワシントン大学のコラボレーションだ。

[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa