【コラム】社員を逃さないよう壁で取り囲むことはできない ──離職率を下げる方法を考えてみた

私は15年間テック企業のCEOをしてきたのだが、人々がさまざまな理由で当社に入社したり退職したりするのを見てきた。しかしこの4カ月の退職者数が過去2年間の退職者数の合計を上回る事態となり、我社は50人の社員のうち20%近くを失ってしまった。このため残った社員たちには大きな負担がかかっている。

こうした事態を引き起こしている原因はなにか?昨今の労働力不足で、今多くの優秀な労働者に前例のないチャンスが到来している。彼らは他社へ移ることでより高い給料を得ることができるのだ。全国的に見て労働力が3500万人目減りしたのだが、これは1970年代以来初めてのことだ。雇用される側は、近年の中で一番と言ってよいほど強気の交渉をすることができる。

大手企業は全国規模で在宅勤務の社員を探している。彼らは、小規模な市場を主戦場とする小規模企業が従来支払ってきた給与の20~30%増しの給料をオファーすることもある。

我社では、テック業界では常である人材の引き抜きを避けるため、社風の醸成に力をいれ社員に手厚い投資をしてきた。パンデミック前でさえ、2016年に立ち上げられた社員持ち株制度を通して社員たちは会社の40%を所有していた。しかしパンデミックの期間中、私たちは給与や福利厚生が適切なものになるよう継続的にこれを調整してきた。

我社の主だった取り組みの1つは、従来社員育成のために取り置いてあった資金を、社員の学生ローンの返済に当てられるようにしたことだ。社員は今までほどには人材育成講座を取らなくなっており、多額の人材育成費が未使用のままになっていた。パンデミックが続くなか、人々は専門的な会議などに行く時間も意欲もなくし、またそもそもそういった会議も開催されていなかった。

この資金を別の用途に回すことができのは、あまり知られていない、新型コロナウイルス経済救済法 (CARES)の条項のおかげである。私たちは社員があるツイートを見たことがきっかけでこれを知ったのだが、雇用者は2020年から2025年までの間、社員の収入とはみなさない形で、一年に5,250ドル(約58万円)まで社員のために学生ローンの返済をすることができるのだ。

これが我社にとって適切なものであるかを確認するため、実施する前に社員調査を行ったところ、40~45人の社員のうち、20人がこの払い戻しプログラムで恩恵を受けることがわかった。これに自信を得て、私たちはプログラムの立ち上げに踏み切った。

まずは試験プログラムを開始し、毎年各社員に1200ドル(約13万円)を払い戻すことにした。これがうまくいったので、今度は1年間の支給額を2倍の2400ドル(約26万円)に引き上げた。このようにすることで、私たちは他の雇用者との差別化を図っている。米国人材管理協会によると、2019年時点でこうした学生ローン返済プランを実施している雇用主は全体の8%に過ぎないとのことである。

このようなプログラムを実施するにはある程度の準備が必要だ。内国歳入法の第127条に則った教育支援プログラム(EAP)を実施しなければならない。しかも、このプログラムは一握りの社員ではなく、社員全員を平等に利するものではければならない。学生ローンの無い社員が資金を利用できるようにするため、私たちは引き続き人材開発プログラムも同時に実施している。どの社員も同じ資金プールから人材開発にかかった費用の払い戻しを受けることができる。

幸いなことに、プログラムの立ち上げにはそれほど時間がかからなかった。調査を終えてから1カ月たたないうちに学生ローンに関する規則の草稿を作成し、公開して、社員に告知した。

プログラムを実施にあたっては、社員とのウィークリービデオ会議でそれを発表した。申請手続きもシンプルなものにし、社員は申請用紙1枚に記入すればよい。払い戻しを受けるには、ローンの支払い内容がわかる過去12カ月の学生ローンの請求書のコピーを提出する必要がある。その後、会社側で払い戻しの小切手を切る。

現在までのところ、このプログラムは大変好評である。私たちの業界の社員は多くが若手で、多額の学生ローンの支払いに苦労している。学生ローンの支払い免除は当社の社員が必要としているものなのだ。

このプログラムには他にも節税というメリットがある。社員は自らの連邦税と給与税の支払い分を節税でき、雇用者も給与税を節税し、提供した払い戻し額に等しい補償控除を受けることができる。

私たちは学生ローン払い戻しプログラムに大きな手応えを得ているが、これだけでは人材獲得競争に打ち勝つことはできないと思っている。社員が何を必要としているかを知るにはただ彼らの発言に耳を傾けるしかない。そこで、私たちはニーズの聞き取りに多大な時間を費やしている。

社員の生活費への懸念に応えるため、私たちは現在残留特別ボーナスと勤続10年ボーナスの支給を検討している。問題は、私たちのような小さな企業がこうしたボーナスを支払うための資金をどこから捻出するかである。当社の顧客のほとんどは1年または2年契約を結ぶので、このようなプログラムを追加するには、料金の値上げをしなければならない可能性がある。料金の値上げをしたとしても、私たちの予算にその値上げの効果が現れるまでにはしばし時間がかかるだろう。

そうではあっても、私たちはクリエイティブな解決法を模索したいと思っている。社員には、私たちが手厚い配慮をしていることを知ってもらいたい。そうした配慮をするのは、それが正しい行いだから、というだけでない。社員が出勤する際ガゾリン代が払えるだろうかと心を煩わすことなく、最大限我社のために能力を発揮できるようにするためでもある。

社員が我社に腰を落ち着けてくれたら、今度はお金や福利厚生とは関係ないもの、つまりパンデミックの間に多くの人にとってより重要になった帰属意識や目的意識といったもので最高の人材を惹きつけられるようになりたいと願っている。

ここでは仕事は、単なる仕事以上のものだ。当社のように小さな会社では、全社員が大切な役割を担う。そして当社がいるような小さな街では、すべての雇用者が地域にとって重要な存在である。優れた人材が集いアイディアを交換し、人間関係を楽しみ、きついプレッシャーのかかるシリコンバレーの外で違いを生み出せるような場所を提供することで、こうしたことを求めている人々を持続的に惹きつけられたら、と考えている。

当社の社員は他社にまさる福利厚生や給与を得るだろう。しかし最終的には、こうしたものは、私たちが会社の繁栄と成長を維持を目指してたくさんの知恵を注ぎ込んで作り上げようとしている総合的な環境の一部にすぎないのだ。

編集部注:本稿の執筆者Delcie Bean(デルシー・ビーン)氏はParagus IT.の創業者兼CEO。

画像クレジット:Tetiana5 / Getty Images

原文へ

(文:Delcie Bean、翻訳:Dragonfly)

【コラム】政策立案者や法学者は「ユニコーン恐怖症」を払拭する必要がある

かつて、成功をおさめ一定の成熟点に到達したスタートアップは「一般に公開」され、株式を一般投資家に売り、国の証券取引所に上場し、国家による証券規制の下で「上場企業」としての特権と義務を引き受けるのが常だった。

しかし時代は変わってきている。成功をおさめたスタートアップは今日、株式を上場せずとも大きく成長することが可能だ。少し前まで、民間企業で10億ドル(約1100億円)以上の評価が付けられ「ユニコーン」企業と呼ばれるにふさわしいスタートアップは稀だった。ところが今や800を超す企業がこの基準を満たしている。

法学者はこの事態を憂慮しており、学術論文の中で次のように指摘している。すなわち、ユニコーン企業が上場企業を管轄する制度や規制による制約を受けていないがために、投資家、社員、消費者、また社会全体に害を与えるリスクのある違法行為を起こしやすいのだと。

解決策として提案されているのは、当然のことながら、制度や規制による抑止力をユニコーン企業にも適用する、ということだ。具体的にいうと、学者たちは強制的 IPOs大幅に拡大された 開示義務、ユニコーン企業株の流通市場取引を大幅に増加させるための規制の変更、ユニコーン企業社員に対する 内部告発者保護の拡大、そして大規模な非公開企業に対する 証券取引委員会 による管理強化を提案している。

これらの提案は、学術界の外からも支持を得るようになっている。この動きを支持するリーダーの1人が、最近SECの企業財務部門のディレクターに使命されたところだ。近く大きな変化が起こるかもしれない。

「ユニコーン恐怖症」というタイトルの新たな論文 の中で、私は突然支配的になった、ユニコーン企業は危険な存在であり、大胆な証券規制を新たに設けることによって「飼いならす」必要がある、というこの見解に異議を唱えている。私は主に3つの反対意見を挙げた。

まず、 ユニコーン企業に上場企業のステータスを押し付けるのは有益でないだけでなく、実際には問題を悪化させる可能性があるということ。「マーケティングマイオピア」あるいは「株式市場短期主義」に関する数多くの学術文献によると、上場企業 のマネージャーこそ、過度のレバレッジやリスクを取り、法を遵守するための十分な投資をせず、製品の品質と安全性を犠牲にし、研究開発費やその他の企業投資を削減し、環境を悪化させ、会計詐欺やその他の不正に関与することに対する危険なインセンティブを持っている。

こうしたさまざまな恐ろしい結果を生み出す危険なインセンティブは、ユニコーン企業ではなく上場企業に影響を及ぼしている一連の市場、制度、文化、規制の特徴に起因していると言われている。これには、短期的な株式パフォーマンスに関連付けられた役員報酬、四半期収益予測の実現にむけた圧力(別名「四半期資本主義」)、そしてヘッジファンド活動家からの絶え間ない攻撃の脅威(そしてこの脅威は時に現実になる場合もある)が含まれる。これらの文献が正しい限り、提案されたユニコーン企業改革は、彼らに、危険とされる一連のインセンティブから別のインセンティブへと乗り換えることを強制するだけだろう。

第二に、新しいユニコーン企業規制の支持者は、言葉による巧みなごまかしに支持の根拠を置いている。これらの規制の提唱者は、その論文の中で、ユニコーン企業が独特の危険をもたらすことを示すために「悪名高い」ユニコーン企業、特にUberとTheranosのエピソードと事例研究を中心的に取り上げているのだ。しかも論文の著者は、彼らが提案する改革がこれらの企業によって引き起こされた重大な害をどのように軽減するかをほとんど、あるいはまったく示さないのである。これは、私の論文で詳細に示しているように、非常に疑わしい提案と言わざるをえない。

Theranosについて考えてみよう。Theranosの創設者兼CEOであるElizabeth Holmes(エリザベス・ホームズ)氏は現在、刑事詐欺で裁判にかけられており、有罪判決を受けた場合、連邦刑務所で最大20年の刑に処せられる可能性がある。提案された証券規制のいずれかがこの事例にプラスの違いをもたらした可能性はあっただろうか?ホームズ氏らがメディア、医師、患者、規制当局、投資家、ビジネスパートナー、さらには自らの取締役会まで、広い範囲で嘘をついたという申し立てを聞くと、証券を一部追加して開示しなければならないからといって彼らがもっと正直に振る舞ったとは考えがたい。

空売り筋やマーケットアナリストが潜在的な詐欺を嗅ぎ分けられるようユニコーン株の取引を強化する提案に関してだが、彼らはWalgreensのようなTheranosの上場企業パートナーでショートポジションをとったり、LabCorpやQuest DiagnosticsのようなTheranosの上場競合他社でロングポジションをとったりすることで、間接的にTheranosと対戦する能力とインセンティブをすでに持っていた。しかし、彼らはそうしなかった。同様に内部告発者の保護やこの領域でのSECによる管理を強化するという提案が違いを生む可能性は低いだろう。

最後に、この改革案は有益な結果をもたらすというよりむしろ害を及ぼすリスクがある。成功をおさめたユニコーン企業は今日、投資家、マネジャーだけでなく、社員、消費者、社会全体に利益をもたらしている。彼らがそのように利益をもたらすことができているのは、現行の規制の特質のためであるのだが、現在この特質が窮地に追い込まれている。多くの論文が提案するように現在の体制を変更してしまうと、これらのメリットが危険にさらされるのであり、利益よりも害を及ぼす可能性があるわけである。

近年大きな社会的利益を生み出したModernaについて考えてみよう。2018年12月に上場されるまで、Modernaは市場に1つも製品を出していない(第三相臨床試験中の製品さえない)、秘密主義で、物議を醸しがちな、誇大に宣伝されたバイオテックユニコーン企業だった。さらにModernaは、査読を受けた科学論文もほとんど発表しておらず、高位にある科学研究員の離職率が高いこと、自社のポテンシャルについて度を超えた主張をしがちなCEOがいること、そして有害な職場環境で知られる企業だった。

これらの新たな証券規制案がModernaの「企業としての成長期」に適用されていたとしたら、Modernaの成長が著しく阻害されたであろうと考えられる。事実Modernaは、COVID-19ワクチンをあれほど早く開発することはできなかっただろう。私たちがコロナウイルスパンデミックに対して講じた対策の一部は、ユニコーン企業に対する現行の証券規制アプローチの恩恵を受けているのだ。

Modernaから得られたこの教訓は、気候変動と戦うために証券規制を利用しようとする取り組みとも関連性がある。最近のある報告によると、現在43のユニコーン企業が「気候テック」分野で、世界的気候変動を軽減または対応するための製品やサービスを開発している。これらの企業はリスクを抱えている。彼らのテクノロジーは失敗するかもしれない。おそらくそのほとんどは成功しないだろう。この43社の中には、すでに立場を確立した企業(競争の脅威を排除するためには何でもしかねない強力なインセンティブを持っている)に挑戦しているユニコーン企業もある。また定着した消費者の好みや行動を変えようとがんばっているユニコーン企業もあるだろう。さらに彼らは管轄区域内外で大きく異る不安定な規制環境に直面してもいる。

他のユニコーン企業と同様、要求のきつい、無責任で救世主気取りの、強力な権限を持った創設者CEOが社を率いていることもあるだろう。彼らの中心的投資家が、製品の基礎となる科学を十分理解していない、基本的情報へのアクセスを拒否されている、天文学的結果を達成するためにリスクを取るよう企業に圧力をかける、そんな性質を持っていることもあるだろう。

しかし、これらの企業が気候変動による混乱に対処する上で、社会の重要なリソースになる可能性もある。政策立案者や学者は気候変動への対応に証券規制をどのように利用できるか検討している最中であるが、彼らには、ユニコーン企業に対する規制が果たすであろう潜在的重要性をゆめ見落とさないようにしてもらいたい。

編集部注:本稿の執筆者Alexander I. Platt(アレクサンダー・I・プラット)氏はカンザス大学ロースクールの准教授。

画像クレジット:Karolina Noring / Getty Images

原文へ

(文:Alexander I. Platt、翻訳:Dragonfly)

【コラム】大手テックの考えや政策で変化し続けるインターネットの世界で道を切り開くために

現代のインターネット事情を語るとき、まず1番に頭をよぎるのはGoogleの圧倒的な市場シェアである。

最新のレポートによると、Googleは世界の検索市場の87%近くを、Chromeは世界のブラウザ市場の67%以上を占め、全世界で26.5億人のユーザーを擁している。そのため、オンラインツールを開発するスタートアップは誰もが何らかの形でGoogleのパートナーであると考えなければならない。しかしGoogleがこのように市場を支配しているということは、ブラウザの優位性を活かして規制を好きなように変更できてしまうということでもある。

実際、Googleは過去10年間にわたり、オンラインスタートアップに対する一定の制限をChrome上に織り込んできた。数年前からGoogleは「単一目的の拡張機能」ポリシーを施行し、拡張機能を一焦点やブラウザ機能に限定するよう求めている。

近年、Googleはユーザーのセキュリティとプライバシーを向上させることを目的としたChrome拡張機能を構築するための新しい仕様であるManifest V3の計画を発表した。原則的にChromeウェブストアは、2022年1月以降従来のManifest V2ガイドラインで構築された新拡張機能を受け付けなくなり、またその翌年までにManifest V3の規制に準拠していない既存のプログラムはすべて停止されることになる。

これにより多くのスタートアップは生死を分けるシナリオに直面することになる。時間とリソースを費やして自社製品をManifest V3に適応させるか、あるいはChrome内で完全に存在しなくなるかのどちらかを迫られるということだ。実際、他の企業と同様にこの問題に直面しているのが、私の雇用主であるGhosteryである。

こういった課題に落胆している人々も多いかもしれないが、実際のところGoogleはこの障害がこの分野の個々のプレイヤーにどのような影響を与えるのか、真摯に耳を傾けてくれている。開発者らの見識を集めるため、ロールアウトのスケジュールを延長さえしてくれているのだ。スタートアップはこの延期期間を最大限に活用して、自社の移行に関する具体的な課題を伝えておくべきである。

Chromeの今回のアップデートは、オンラインでイノベーションを起こしているスタートアップが、いつ何時、不意打ちを受けてもおかしくないということを示す一例であり、これらのポリシーを常に把握し、このような細かな変更に対応できる適切なエンジニアを配置するためのリソースを常に確保する必要があるというリマインダーでもある。

何であれ、コアビジネスをインターネット上で行うというのは、自社のことを広く認知してもらうことができ、簡単にインストールでき、熱心なユーザーにアクセスできるなどの紛れもない利点がある。Googleのような大手企業がスタートアップと協力して、すべての関係者にとって最適なソリューションを見つけようとしているならば(実際にそうしているように感じられる)、このようなオープンなコミュニケーションチャネルを利用して、自社の製品をアピールできるか否かは中小企業次第なのではないだろうか。

ネットワークを活用する

幸いなことに、変化し続けるインターネットの世界でスタートアップが一社で立ち向かう必要はない。あらゆる企業が同じエコシステムの中で活動しているため、サポートやアドバイスを得るために関連企業の広大なネットワークを利用することが可能だ。オンライン分野のスタートアップは、自分たちの課題内で孤独に戦うのではなく、エコシステム内のすべての企業に影響を与える絶え間ない変化において団結すべきなのである。

例えば私たちはManifest V3に対応するため、ウェブ拡張のW3Cグループに参加した。このコミュニティで当社のユースケースを共有し、影響を受けた他の企業と協力することにより、最新のガイドラインに合わせて当社の技術を調整することができる。リソースを共有して共同作業を行うことで、適応プロセスの早い段階でトラブルシューティングを行うことができるのである。

同じようなグループを探したり、創業者やビジネスリーダーのネットワークに直接相談したりして製品や一般的なビジネスの方向性を決めるため、このような過渡期にはスタートアップコミュニティに寄り添うべきなのである。

さまざまな方法で適応できるようになる

オンラインでイノベーションを起こしているスタートアップ企業は、ヒーロー製品に適応するためのリソースを積極的に配分するだけでなく、製品のロードマップを常に見直し、提供する製品を多様化するためのユニークな機会を模索する必要がある。

インターネットの歴史において変化のない年はなく、安定しているのは、エコシステムの中で人々は常にカスタマイズのオプションを望んでいるということだけである。鋭敏なスタートアップはeコマースツールからパスワード保護システム、プライバシースイートなど、最新かつ最高のソリューションを提供する準備を整えている。

企業によっては、Chrome以外の製品開発にも時間を割き、FirefoxやSafariなどの代替ブラウザが提供する機能を研究する必要があるかもしれない。大手企業はブラウザのカスタマイズに関する独自のポリシーを持っているため、スタートアップはまったく新しいユーザー層に門戸を開き、異なるシステムに対応した独自の機能を構築することができるのである。

モバイル分野に進出し、オンライン上の革新的な技術をiOSやAndroidでどのように利用できるか試すこともできるだろう。最終的にはインブラウザからモバイルアプリケーションまで、私たちのオンライン生活を網羅する製品範囲を持つことで、企業はオンライン世界の絶え間ない変化に対応できるようになる。最初から多角化をビジネスプランの一部にしておけば、このようなレジリエンシーの構築はずっと簡単になる。

常に変化することを受け入れる

オンラインツールやプログラムを開発しているスタートアップは政策の変更、規制の変更、市場の要求などの課題に常に直面しているが、ビッグテックとのコラボレーションを恐れずに適応可能な製品戦略を追求する企業は、消費者に最高の製品と体験を提供するための道を歩み続けることができるだろう。

自社のミッションを堅持し、かつ途中でアプローチを変更することを厭わないということが、将来にわたってイノベーションを成功させることにつながるのである。

編集部注:本稿の執筆者Pete Knowlton(ピート・ノウルトン)氏は、デジタルプライバシー企業Ghosteryの運用およびコミュニティのシニアディレクター。

画像クレジット:alengo / Getty Images

原文へ

(文:Pete Knowlton、翻訳:Dragonfly)

【コラム】自分の価値観を自ら立ち上げたスタートアップの社風に織り込むための3つのアドバイス

「模範を示してリードする」というフレーズは聞いたことがあるだろう。しかし「価値観を持ってリードする」というフレーズは聞いたことがあるだろうか?

私は常に私の価値感を指針として用いつつ、模範を示して会社をリードしてきた。しかし、私自身が最初の会社を立ち上げるまでは、それらの価値観を会社に根付かせることの重要性を完全には理解していなかった。

「誠実さ」「個人」「影響力」「革新性」は私の意思決定と社員の行動を日々推進する「4つの価値観」である。これらは単に本社の壁や、リモート社員のマウスパッドに書かれている言葉というだけでなく、社員全員が実際に実行して血の通ったものにすべき価値観である。これらの4つの価値観は過去2年にわたり、私や家族、会社の責任者たちを導いてくれる指針として、ますますその重要性を増している。

多くの企業が「職場に戻る」(仕事は中断したわけではないので「仕事に戻る」ではない)計画を立てているが、私たちは、ただ単に以前の状態に戻るべきではない。そうではなく、価値観を羅針盤として、みなの成功につながる何事かを再設計することをお薦めしたい。こうすることで、社員たちは単にこの厳しい時期を乗り切ることができるだけでなく、職場で十分に能力を発揮できるようになると思うのだ。

私の経験でいうと、価値観でリードするということは、最良のリーダーシップのとり方であり、この目標を達成するためには3つの方法がある。

旧弊な職場のヒエラルキーを排除する

あなたはキャリアのどこかの時点で(卒業直後かもしれないし、卒業から数年後かもしれないし、その中間かもしれない)、下位レベルの社員を敬意に欠ける態度で扱うのが「あたりまえ」の会社を経験したのではないだろうか。「下積み」を是とするようなこうしたタイプの会社は、これらの下位レベルの社員に単調な辛い仕事をあてがう傾向が高く、結局彼らは燃え尽きて会社を離れてしまう。

あるいは、彼らがなんとかマネージメントレベルのポジションに這い上がることができた場合、彼らは新しく入ってきた社員を低く見ているためにこのサイクルが続き、健全な文化は損なわれていくことになる。

これは正しいやり方とはいえないだろう。

リーダーとして、職場に受容性、サポート、協調性、チームワークを望むなら、あなたは、今すぐにも前例を示すべきだ。つまり、職階に付随するヒエラルキーを除去し、 役職に関係なく功績に基づいて社員を評価する会社であることを明確にするのである。会社全体があなたの価値観に基づき、使命を実現するために団結する1つのチームである。このような社風を確立して全員が会社の行く末に責任を持つようになれば、誰も他の社員を粗末に扱うことはなくなるだろう。

象牙の塔的な考えにとらわれないようにしよう

私は働くようになってすぐ、可能な限りオフィスを誰かと共有するようにした。オフィスは、家具や窓からの景色も含め、人々から見栄えのよいすてきな空間と思われないものにするよう心がけた。現在はCEOであるが、社員の中には私のオフィスをクローゼットと呼ぶものもいる。しかし、仕事を成し遂げるには十分なオフィスである。

このような単純なシグナルは強力なメッセージとなる。そして、シグナルは一貫していなければならない。リムジンに乗らず、安い車を借りる。ファーストクラスに乗らずエコノミークラスに乗る。ささいなことに聞こえるかも知れないが、CEOが遭遇する最大の落とし穴の1つは、象牙の塔的考え方に陥ることだ。

経験を通して社員を知るための努力をしよう。「現場に足を運ぶマネージメント」戦略を実行しよう。一日中オフィスに座っているのを避け、部屋から出て社員の様子を見て回ろう。彼らの机に立ち寄り、話しかけよう。ランチは休憩室で取り、新人研修にも顔を出そう。

まだ物理的にオフィスに戻っていない場合はどうすればよいだろう?その場合は、SlackチャンネルやZoomミーティングを行おう。私は社員のベービーシャワー(赤ちゃん出産前の前祝パーティー)に、Zoomで突撃をしかけたことがある。参加者のお祝いの言葉に耳を傾けることができ、私にとっても彼らにとってもよい一日になった。職場にいて、そこを人間味のある空間にしよう。こうした努力は必ず報われるものだ。

職場慣行に配慮し一貫性を保つ

社風は会社のトップによる影響が大きい。あなたが思い描く社風は、あなたが社員に実行するようにと要求する慣習を彼らが納得して受け入れる場合にのみ、実現するものだ。より重要なのは、これらの取り組みや慣行を自ら全力で行わなければ、堅実な文化を育むことができないということだ。

例えば、私の会社 SailPointでは2020年、Free2Focusと呼ばれる新たな取り組みを行った。これは、1週間に2度、Free2Focusの時間帯に会議を、数時間を入れないようすることで、Zoom疲れを防ぐだけでなく、散歩するなり、子どもの勉強を助けるなり、カメラを少しの時間切るなり、個人にあった方法で一息ついてもらうための取り組みである。

1週間のうち一息つける時間を社員に取って欲しいと思うなら、私自身も同じことをする必要があると私は気づいた、つまり、Free2Focusの時間帯にはミーティングを入れず、1日中メールを送り続けるのをやめ、社員が必要な休憩を取っているからといって批判するのをやめるということである。私はほとんどの場合、社員が自分の時間に自分なりのやり方で仕事を達成していると信じている。こうして信用すれば、社員の業績は確実に上がるのだ。

CEOであるということは、ビジョン、製品、アイディアを築く以上のことが求められる。それは、士気や尊厳を損なうことのなく相互の目標を達成するために、価値観を持って人々を導くということである。仕事に付随するさまざまなことに気を取られるのは簡単なことだが、自分自身と自らの価値観を全社に浸透させる努力をしなければ、結局自分のためにならないし、会社のためにもならない。

これは一夜にして成し遂げられることではない。しかし、最も小さなことが、最も大きな影響力を持つものであることも多いということを覚えておこう。あなたがリーダーなら、模範を示してリードしよう。これこそ、年月を経ても長続きするチームを構築する唯一の方法なのである。

編集部注:本稿の執筆者Mark McClain(マーク・マクレーン)氏はクラウド・エンタープライズ・セキュリティのリーダーであるSailPointの創業者兼CEO。

画像クレジット:Getty Images under a Dimitri Otis license.

原文へ

(文:Mark McClain、翻訳:Dragonfly)

【コラム】スタートアップが口にするマーケティング策としての「インパクト」に投資家が惑わされないようにするための3つのサイン

2021年の初めに出されたEUの報告書によれば、42%の企業が自社の持続可能性のレベルを誇張していることがわかった。このような「グリーンウォッシュ」があまりにも横行するようになったため、ある団体が企業の真の環境負荷を計算し、誤解を招くようなマーケティングを避けるためのプラットフォームを立ち上げたほどだ。


現在、世界的なインパクト投資市場の規模は7150億ドル(約81兆5100億円)と言われており、成長を続けている。しかし、良いことをしているビジネスに資金を投入しようと躍起になっているベンチャーキャピタル、エンジェル、セレブリティたちは、十分なデューデリジェンスを行っていない。

創業者の中には、トレンドに乗って投資家の注目を集めるために、インパクトと自分を結びつける者もいる。自分のことを「インパクトプレナー」(impactpreneur)と呼ぶ者がいるのはそれが理由だ。

インパクトを与えることと、マーケティングのためにストーリーを押し出すこととは紙一重の差であるため、スタートアップの真正性を見誤ると投資家は資金と評判を失うことになる。多数のスタートアップ企業と仕事をする中で、私はスタートアップ企業が本当に変革を起こそうとしているのではなく、単にインパクトを利用して世間の注目を集めようとしているだけのことを示す3つの兆候を見出した。

インパクト指標を記録・追跡していない

もし企業が、自分たちが重視していると主張しているインパクトを測定していなければ、それは赤信号だ。本当にインパクトを与えようとしているスタートアップ企業なら、自分たちの目標は何か、どうやってそこに到達するのか、そしてその過程でどのような指標をモニターするのかを明確に定義している。

私の立ち上げたFounder Institute(ファウンダー・インスティテュート)では、スタートアップ企業がインパクトのステップを段階的に追跡するのに役立ついくつかの「インパクトKPI」を定義している。

例えば成功した女性創業者の数を増やすことを目的とした女性主導のアクセラレータープログラムなら、月ごと、年ごとの女性参加者数、事業を立ち上げた参加者数、それらの事業がどれだけの資金を得たかなどの評価指標を設けることができる。一夜にしてインパクトを生み出すことはできないものの、道筋を細分化することで、企業はインパクトへの道筋を切り拓き、改善していくことにコミットしていることを示せる。

また、そうしたインパクト指標を追跡することで、企業は公表しているインパクトに対して十分な説明責任を果たすことができる。実際の指標が悪くても公表を行う企業は、何が悪かったのかを深く追求し、状況を改善するための計画を立てていく姿勢を持つことが多い。

そのすばらしい例の1つが、2020年チームの多様性に関する目標を達成できなかったことを認める報告書を発表した、Duke Energy,(デューク・エナジー)だ。この指標を改善するために、同社は新たにチーフ・ダイバーシティ&インクルージョン・オフィサー(多様性並びに包含性担当責任者)を採用し、サービスを提供するコミュニティ内の平等性を推進するために400万ドル(約4億6000万円)を投じた。

私たち投資家はまた、スタートアップ企業が主張していることを実践しているのかどうかを見極めるために、そうした指標が企業全体に浸透しているかどうかを確認しなければならない。例えばより多くの人が教育を受けられるようにしたいと主張している企業なら、創業者は社内の研修プログラム、提供コース、開発計画、展開などに関する指標を提供することができるはずだ。

もし企業がこうした情報を持っていないとしたら、それはその会社のインパクトが外面的な目標のみを対象としていて、社内のオペレーションに組み込まれていないことの表れかもしれない。

CMOがインパクト戦略の責任者である

インパクトの責任は、最終的にはCEOの肩にかかっているはずだ。これは当たり前のように聞こえるかもしれないが、もしインパクトに関する会話や報告をする中心人物がマーケティング最高責任者(CMO)であるとしたら、それは極めて問題だ。

インパクトがマーケティングの立場だけから考えられていた場合、思いつきのインパクトやお手軽なインパクトが生み出されてしまう可能性は高い。インパクト戦略の直接的な成果ではなく短期的な成果を振り返って成功に満足しがちだからだ。例えばあるスタートアップ企業は、2020年にカーボン排出量を10%削減したと主張しているが、実際にはパンデミックの際に業務を停止したことによる減少だった。

同様に、スタートアップのインパクト目標があまりにも良すぎるように見える場合、それはたいてい見掛け倒しなのだ。マーケティング部門は世間に打って出ようとする際に大きく語りがちだ(Theranos[セラノス]のことを思い出そう)。しかし、インパクトを与えるためには、企業は月を目指す前に地に足をつけて行動しなければならない。

例えばExxonMobil(エクソンモービル)は、実験的に開発した藻類バイオ燃料を、輸送時の二酸化炭素排出量を削減する手段として宣伝した。だが消費者は、同社が二酸化炭素排出量を実質ゼロにできていないことを指摘した上で「よりセクシーな」インパクトのある代替品を求めた。

進捗ではなく予想である

創業者が資金調達をする際に、最も破壊的な側面を強調するのは当然のことだ。いわく、貧困をなくし、格差をなくし、気候変動の影響を減らすことができるなどなど。このような約束は投資家を驚かすかもしれないが、実現手段を担保したものでなければならない。

投資家なら誰でも、スタートアップのピッチデッキに書かれた財務予測のなかに盛り込まれた楽観的な気分を見て取ることができる。重要なのは数字ではなく、その背後にあるプロセスだ。インパクトの場合もまったく同じだ。

もしスタートアップを描き出すものが、インパクト目標の未来の数字だけならば、投資家は警戒すべきだ。数字よりも実現手段の方がはるかに多くを語ってくれる。

例えば、GSKは2030年までにネット・ゼロ・カーボンになるという野心的な計画を発表しているが、再生可能な電力、電気自動車、グリーンケミストリーへの切り替えといった主要な活動の内訳をみることで、同社が実際にそのインパクトに向かって動いているかどうかを確認できる。たとえトータル・ネット・ゼロに到達していなくても、意思は明確であり、やがて前進はしていくだろう──たとえペースは遅くとも。

Theranosの事例から学んだことがあるとすれば、企業が資金調達の際に、インパクトの魅力の嗅ぎ分けに敏感になったということだ。投資家が、真のインパクトとマーケティング上の策略とを見分けることができれば、自分自身を守ることができるだけでなく、その投資資金を実際に変化起こせる場所に投入することができる。

編集部注:著者のJonathan Greechan(ジョナサン・グリーチャン)は、世界最大のプレシードアクセラレーターであるFounder InstituteのCEOで共同創業者。

画像クレジット: alexkar08 / Getty Images

原文へ

(文:Jonathan Greechan、翻訳:sako)

【コラム】フェイスブック「怒りの絵文字」を米証券取引委員会が注視する理由

Facebook(フェイスブック)は新しい名前になったかもしれないが、ブランド名を変えても、同社が社会にとっていかに破壊的であるか、そして自社の投資家にとっていかに有害であるかを示す、最近の複数の情報開示は消えない。

Facebookの内部告発者であるFrances Haugen(フランシス・ハウゲン)氏の暴露は衝撃的だったが、驚きではなかった。大量の文章を報道機関や議員、当局に提出する以前、Facebookの選挙のセキュリティ問題を担当していたハウゲン氏によると、Facebookは、例えば、拒食症の可能性を高めるいわゆる「thin-spiration(シンスピレーション)」を10代の少女たちに押し付けるなどの非難すべき行為とともに、そのアルゴリズムが社会や弱者に害を及ぼしていることを一貫して認識していた。

Facebookの内部文書の最近の分析は、Facebookのエンジニアは、「怒り」の絵文字を含む絵文字のリアクションを「いいね!」の5倍の価値があるものとして扱い、ユーザーを惹きつけて利益を上げるために、物議を醸すような投稿を好んでいたことを示している。

これは、単に企業が公共の利益に反して行動し、自社の消費者に損害を与えているという話ではなく、その投資家に反して行動したという話でもある。ホーゲン氏によれば、同社は、安全性への取り組み方からユーザーベースの規模まで、ビジネスの基本的な事実について株主を欺いていた。

このような重要な情報を連続して投資家に伝えなかったことで、Facebookは米国の証券取引法に違反した可能性がある。また、ハウゲン氏は、Facebookが会社の内部調査に関連する重要な情報を隠していたことで法律に違反していると主張し、少なくとも8件の苦情を証券取引委員会に提出している。

一方、2人目の無名の内部告発者は、Facebookがヘイトスピーチや誤情報よりも成長と利益を優先していると主張する宣誓供述書を米国証券取引委員会に提出した。

内部告発が注目を集めているのにもかかわらず、Facebookを規制・抑制するために米国証券取引委員会が果たしうる役割が最重要視されていないのは驚きだ。Facebookはハイテク企業だが、何よりもまず上場企業であり、それゆえに米国証券取引委員会の規制と監視の対象となる。

株式公開後もMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏が会社を完全に実効支配できるような奇妙な特殊クラスの株式が含まれていたにも関わらず、2012年のFacebookの新規株式公開を承認したのは、オバマ政権下の米国証券取引委員会だった。さらに、スキャンダラスなデータ会社であるCambridge Analytica(ケンブリッジ・アナリティカ)が、約3000万人の米国人のFacebookデータにアクセスして悪用したことを知っていたにもかかわらず、それを投資家に適切に開示しなかった件について、Facebookと和解したのはトランプ時代の米国証券取引委員会だった。

過去2年半の間に証券法違反で米国証券取引委員会と和解した企業であるFacebookを詳しく調査するように求めることは、驚くことではなく、合理的なことであり、私たちが証券規制当局に期待することでもある。

バイデン政権が、Gary Gensler(ゲーリー・ゲンスラー)氏とLina Khan(リナ・カーン)氏という強力な規制官をそれぞれ米国証券取引委員会と連邦取引委員会の委員長に任命したことは、米国人にとって幸運なことだ。しかし、Facebookをはじめとするビッグテック企業が、経済、政治、日常生活のあらゆる側面に影響を及ぼすようになったように、これらの企業を適切に規制し、抑制するという課題は、1つや2つの機関では解決できない。

大規模テック企業がもたらす問題や脅威に真に取り組むために必要なのは、政府全体でのアプローチだ。バイデン政権は、競争評議会で良い第一歩を踏み出したが、これは最終的な製品ではなく、最初の切り札でなければならない。また、大規模なテック企業に、フィンテック、通貨、政府との特別契約など新しい市場へのアクセスを与えないことも重要だ。これらの企業は、中小企業や消費者を犠牲に、これらの機会を利用してさらに強力になることはほぼ間違いないからだ。

また、これらの重要な問題については、議会の関与が必要だ。ホーゲン氏が上院の小委員会で証言した同じ日に、下院金融サービス委員会は、米国証券取引委員会の監督に関する公聴会を開催した。ホーゲン氏の扇情的な主張が数日間にわたって報道されたにもかかわらず、公聴会は、Facebookの投資家に対する説明責任を果たす上での米国証券取引委員会の役割について何のコメントも質問もなく何時間も続いた。

この重要な監視の機会が失われたことは、想像力と協調性の欠如を意味している。ビッグテックの危険性に真に対処するためには、すべてのメンバーが、バイデン政権への働きかけを含め、これらの巨大企業に対処するための改善策を考える必要がある。

ホーゲン氏は、フェイスブックから生まれた最初の内部告発者でもなければ、最後の告発者でもない。米国連邦政府が、ビッグテック企業の従業員、株主、下請け業者、さらには創業者が、これらの企業が米国人にもたらす危険性を明らかにするのを黙って見ている時代ではなくなった。

企業の規模、力、そして危険性がましている今こそ、バイデン政権は、大胆に、積極的に、結束して行動すべきだ。そのためには、まず、米国証券取引委員会が、この問題を取り上げ、Facebookを徹底的に調査し、法律を完全に執行することから始める必要がある。

編集部注:本稿の執筆者Lisa Gilbert(リサ・ギルバート)氏は、Public Citizenの副社長。

画像クレジット:Serdarbayraktar / Getty Images

原文へ

(文:Lisa Gilbert、翻訳:Yuta Kaminishi)

【コラム】中国の労働文化の未来、労働者と経営者の間で揺れ動く労働規則

2021年8月下旬、中国の最高裁判所(最高人民法院)は、中国で最も悪名高い労働慣行の1つを違法とする判決を下した。

中国には「996」という略語があり、週6日、午前9時から午後9時までの勤務時間を示す。中国で急成長しているテック企業によって広められた「996」は、ストックオプションプランを持つ都会のスマートなスタートアップ企業の従業員がIPO(新規株式公開)や資金調達で億万長者になることを目指し、がむしゃらに働く姿をよく思い起こさせる。しかし「996」については、雇用者と従業員がそれをどのように理解し、適用するか、また規制当局がどのように見ているか、徐々に改善が見られる。


実際、8月26日の最高裁判決と人的資源・社会保障部から発表されたガイドラインは、テック企業とその高学歴で高給取りの従業員に影響を与えるだろう。しかし、この訴訟自体は、デジタル経済の階層のかなり下位に位置する労働者(中国主要37都市の平均を少し下回る月給8000元[約1240ドル、約14万2000円]の物流作業員)を対象としたものだ。

中国の規制当局は、雇用者と被雇用者の双方に対し、両者の関係を定義するルールを変える必要があるというメッセージを送っているようだ。最近の中国における多くの事例からわかるように、中国の指導者は、行動だけでなく、中国社会の中核を成す理念、心理、インセンティブ構造の変化を求めている。しかし、それがどのようなものなのか、具体的にはまだ見えてきていない。

オオカミのようなハングリー精神(文化)

画像クレジット:VCG/VCG / Getty Images

多くの中国企業を特徴づけている過酷な労働文化の結果であろうと、多くの企業が模倣した先駆的な例であろうと、Huawei(ファーウェイ)ほど996の労働文化の精神、メリット、潜在的な弊害をよく表すケーススタディはないだろう。

「オオカミの文化」として知られる、深圳(シンセン)を拠点とする通信業界の巨大企業は、その猛烈ぶりを特徴としている。「オオカミの文化」の意味は、誰に聞くかによって答えは変わる。好意的な解釈をすれば、それはある種の絆であり、チームメンバーを共通の目標に向かって協力し合う「群れ」と例えていると考えられる。しかし人によっては、もっと残酷な意味を持つ場合もある。2017年のファーウェイでの取材では、同社のある元社員は「ファーウェイでは『オオカミ文化』とは『食うか食われるか』という意味だ。社内の全員が互いに激しく競い合えば、外部からの脅威との戦いや競争に強い会社になるという考え方だと思う」と説明してくれた。

従業員がどのように考えているかにかかわらず、ファーウェイの文化の中核にある猛烈ぶりは、同社の成功に寄与してきた。同社の競合企業である欧州のEricsson(エリクソン)やNokia(ノキア)が、融通の利かない官僚主義、または独善的と批判されてきたのとは対照的に、ファーウェイはどんな困難が予想されてもプロジェクトを勝ち取って実現しようとする意欲を示し、世界中の通信ネットワークプロバイダーから支持された。

中国政府からの低金利の融資や自国市場での収益性の高い事業という好条件を生かし、海外事業への資金を得ることができたが、会社の文化を支える極端な熱意には競争原理もあり、他の中国企業が「996」という形でそういった精神を模倣した理由も説明できる。

ファーウェイをはじめとする中国企業は、今では一部の分野で最先端のイノベーターとみなされているが、創業当初は海外の同業者に技術力や知識で遅れをとっており、その克服に奮闘の日々が続いた。しかしその後、独自の技術や高度な技術での優位性はないものの、コストやスピード、そして発展途上国では特に厄介なビジネス上の障害を回避する柔軟性を発揮し、競争力を獲得した。

「中国のテック企業は、製品よりも実行力に価値を見出しているようだ」と、中国とシリコンバレーの両方でスタートアップを立ち上げたドイツ人起業家のSkander Garroum(スカンダー・ガロウム)氏はいう。そして「米国を中心としたテック企業のサクセスストーリーでは、1人の天才がすばらしい製品を生み出し、オープンなインターネットとオープンな経済のおかげで、単に製品の明確な優位性が広まることで規模を拡大していくというものが多い。しかし、中国や発展途上国の市場は、障壁が多く、オープンではないため、製品の良し悪しだけでなく、チームがどれだけうまく機能し、どれだけ一生懸命働いたかが規模の拡大では重要になる」と説明する。

このような話は真実を誇張して伝えられることも多いが、ライバル企業を凌駕しようとする姿勢は、多くの中国企業において誇るべきものとして見られている。ライドシェア企業であるDidi Chuxing(ディディチューシン)は、2010年代半ばの中国市場でのUber(ウーバー)とのシェア争いで名高い勝利を収めたが、そこには多数の要因があった。しかし、多くの関係者に聞いたところ、その答えは、単にローカルレベルでより良い仕事をしただけであり、ウーバーが戦い続ける価値がないと判断するまで、より激しく戦おうとしただけだというものが多い。

多くの企業は、それぞれの労働倫理とハングリー精神に基づき、特別優れた経歴は持たなくても、自分の身分を超えて高みを目指す人材を積極的に採用している。例えばファーウェイは「四線都市」や「五線都市」(6つの階級の内下位の2級)の若くて優秀な「第一桶金(人が大金を稼いだり、中流階級になったりする最初の機会)」を狙う人材を対象に採用活動を行っていることで知られている。

中国が成長し、企業が世界的に地位を高めると、過酷な労働時間ではあるものの、手厚い報酬を得ることができ、多くの中国国民が「第一桶金」の夢を叶えることができた。ファーウェイの従業員持株制度に登録している古くからの従業員の場合、年間の配当金は数十万ドル(数千万円)から数百万ドル(数億円)に上り、多くの場合、給料を上回っていたことが知られている。がむしゃらに働き、その苦労は報われたということだ。

企業による搾取を目的としたシステム

悪名高い過酷な労働文化で知られる中国では、法律上、労働者の権利が非常に保護されているというのは、直感的には意外に感じるだろう。実際、それらの法律はほとんど効力を発揮していない。

厳密にいえば、労働時間が標準的な週5日、40時間を超えた場合には残業代が支払われることになっているが、企業は法的義務を逃れるために、公式、非公式を問わず数多くの方法を利用することが知られている。

ファーウェイの場合は「striver pledge(努力家の誓約)」と呼ばれるものがある。これは、新入社員がおそらく表向きは「自発的」に署名する契約書であり、残業代や有給休暇の権利の行使を差し控えるというものだ。ファーウェイはこのような方法で注目されているが、同様の方法は一般的に行われており、ファーウェイほどの特典や出世の道を提供していない企業では特に多いようだ。

中国の国内企業と外資系企業の両方で働いた経験を持つキャリア豊富なある人事マネージャーは「当社の[ブルーカラーの]従業員の場合、残業代はすべて毎月の給料に含まれると契約で定められている」と説明しつつも「良いことではないが、私の知る限り、中国ではかなり標準的なことだ」と述べる。

労働法を逃れるもう1つの方法は、経営者に圧倒的な力を与える業績評価基準を作ることだ。「中国の企業では、欧米にならい業績管理に『成果物』の概念を取り入れているが、その解釈を極端に拡大することがよくある」と、かつて2つの大規模な中国欧州合弁企業で人事を統括していた女性幹部は語る(なお、この女性幹部も、この記事の多くの取材協力者と同様に、デリケートな政策問題について自由に話せるようにと匿名を希望した)。また「しかし『成果物』は多くの場合、達成できないだろう。従業員の「成果」が満足できるものかどうかは、管理職の判断に委ねられているためだ」とも述べる。この女性幹部は、自分のキャリアを通じてこのような慣行を阻止してきたといい、多国籍企業よりも中国のローカル企業でよく見受けられたと付け加えた。このような社内力学が働いた状況であれば、無数の搾取が行われている可能性があることは想像に難くない。

組合の利用を選んだ人たちは、企業だけでなく、国とも対立することが多い。中国では独立した労働組合は機能上違法であるが、国営の中華全国総工会(ACFTU)は以前から労働争議における労働者への支援に一貫性がないといわれている。

2019年、ファーウェイに13年間勤務した元従業員の李洪元氏が、退職金の交渉中に同社を脅迫したという容疑で251日間拘束された。検察当局は、不正行為を示す十分な証拠は確認できなかったとし、最終的に同氏を釈放したが、同氏の長期拘留のニュースを受け、ネット上ではファーウェイに対する激しい非難の声が上がった。

名目上は社会主義国である中国では、近年、労働問題に対する国民の不満が高まりつつあるようだ。2018年、エリート校である北京大学の警備会社が、中国南部での労働運動家への弾圧に抗議していた同大学のマルクス主義団体による抗議活動を取り締まった。また、GitHub(ギットハブ)に「996.ICU」というリポジトリが作成され、テック企業の過酷な職場環境に苛立っていた従業員らが不満をぶちまけ、非道な態度をとる会社に対して注意を喚起するためのオンラインフォーラムとして人気を博した。中国全土の疲れ切った若者たちの間では、一昔前の世代に見られるプレッシャーや野心を拒否する「躺平(タンピン、寝そべる)」というトレンドが人気を集め、政府は主要新聞でこの動きを激しく非難している

シュレーディンガーの労働時間:明記された法律と暗黙の規範

少子化を食い止めるために家庭に対する抑圧を軽減する必要性が増したことから、当局は中国における労働関係を規定してきた暗黙のルールを変えようとしている。

8月26日の判決を受けて、多くの企業が公式の方針を変更するために迅速に動いた。しかし、多くの企業や業界にとって、それ以上に大きな課題として立ちはだかるのは、文化や期待の問題だ。

TikTok(ティックトック)の親会社であるByteDance(バイトダンス)は、これまで公式に週6日制をとっていたことが知られていたが、この方針に終止符を打った。しかし、これは従業員らにとって必ずしも喜んで受け入れられるものではなかった。というのも、従業員は、勤務日数が減る代わりに、それに相応する給与の削減も受けたからだ。

中国の複数のインターネット企業で働いた経験のあるZhou(周)という名の女性は「私たちの多くは、納得した上でインターネット企業で働いている」とし「一生懸命働かなければならないことはわかっているが、その代わりにもっと多くのお金を稼ぐチャンスもあるはずだ」と説明する。そして「もし違うことを望むのであれば、別の会社で働くことにしていただろう」と、バイトダンスの一部の従業員が労働時間と給与の減少に憤慨するのは理解できるという。

一部の中国の技術系従業員の目には、労働時間に関する政府の厳しい要求に従うよう企業に対する圧力が強まることは、直接的な報酬に反映されない非公式な労働時間が増えるだけではないかと映っている。「知る限りでは、自分や自分のチームには何の変化もない」と、米国に上場している中国の人気インターネット企業の従業員は語る。「週末も働いているし、休日(10月1日の国慶節)にも働く予定だ。公式な休日だからといってビジネスが止まるわけではない」といい、また、時間外労働に対する残業代は「もちろん」ないと付け加える。

「ビジネスが止まるわけではない」という考えがあるからこそ、政府の規制が技術系従業員の労働条件改善に効果があるかどうか、疑問を抱く人もいるのだ。「バイトダンスは正規の労働時間と給与を減らしているが、何も変わらなければ何も問題はない」と、周氏は率直に述べ、そして「みんな仕事を続けたいし、昇進したいと思っている。だから当然、働けるだけ働く…あるいは、もっと給料の高い会社に移るだろう」と語る。

しかし、管理職に昇進すると、最近の政府からの指令を法律の文言と精神の両面から真剣に受け止めようとする傾向が非常に強くなる。「企業はこの問題に取り組んでいることを示さなければならないし、そうしなければ当局から見せしめにされる恐れがある」と、中国欧州合弁企業の人事担当者は語る。「人事部は全社的な監査を行い、従業員の勤務時間を明確に把握すべきだ」とし「最もありそうな対応は、少なくとも短期的にでもより多くの人を雇用し、それぞれが短い時間で働くことだろう」と付け加える。

しかし、多くの人が同意しているのは、中国の全体的な傾向だろう。習近平国家主席が「共同富裕」を唱え、巨大国営企業に通告しているように、中国の高成長時代は終焉を迎えようとしているようだ。しかし、政府がどの程度の変化を求めているのかはまだわからない。中国政府は久しぶりに、国営企業コミュニティに対し、今後は労働者よりも企業を圧倒的に優遇するようなことはないというシグナルを発している。問題は、その優遇措置のバランスをどの程度まで調整するかということだ。

画像クレジット:d3sign / Getty Images

原文へ

(文:Elliott Zaagman、翻訳:Dragonfly)

【コラム】未来の仕事場は従業員が自身でデザインする、ハイブリッドワークの試験運用から見えたこと

なぜ私たちはオフィスに行くのか?

これは誇張した意味での質問ではない。他の人と一緒に仕事をするために行くのだろうか?オフィスに行くのは、自分の仕事に集中できる決まった場所だからだろうか?「見られる」ことが必要だから行くのだろうか?ただ、いつもそうしてきたから、仕方なく行くのだろうか?

私たちSAP(サップ)では、これらの質問に対する答えを見つけるだけでなく、社員自身がその答えに一役買うこと、そして未来のハイブリッドな仕事場を築いていくことが重要であると考えている。

この夏、私たちはパロアルトにあるオフィスで、まったく新しいハイブリッドワークの試験運用プログラムを開始した。この数カ月間、私たちはさまざまなフロアプランやセットアップ、多様な勤務体系、最も生産的なスペースの使い方、理想的なミーティングの構成などをテストしてきた。また、この新しい現実に適応するマネージャーやリーダーシップのトレーニング、仕組みづくりなど、たくさんのことを行ってきた。

では、私たちはこれらから何を学んだのか?そして、その教訓をあなたのビジネスにどう生かすことができるのだろうか?

まずはじめに:社員からの声

試験運用プログラムの開始前や開始中に寄せられた社員からのフィードバックによると、利便性が高く、エネルギー効率の高いワークスペースが求められていることがわかった。私たちはただ、必要なときだけでなく、使いたいときに使えるような空間を作る方法を見つけなければならなかった。では、人々がオフィスに来たいと思う要因は何だろう?

調査の結果、主に4つの要因が見つかった。

同僚間の学び合い:当社の社員は自分のネットワークを構築することに情熱を持っており、多くの社員が、自分のキャリアを早く向上させ、SAPがどのように自社製品を構築し、革新を生んでいるのかを学ぶ機会として「同僚からの学び」を挙げた。

入社オリエン、トレーニング、学習の機会の大部分はまだバーチャルで行われているが、社員が希望する場合は直接会う機会を与えるために、現在はハイブリッドオプションを検討している。

コラボレーション:新型コロナの状況が許す限り、多くの人は実際に会って話をしたいと思っている。ビデオ通話は機能的ではあるが、テーブルを挟んで一緒にブレインストーミングをしたり、学んだり、成長したりする効果にはかなわない。

ハイブリッドワーク試験運用プログラムに参加した社員にとって、コラボレーションは大きな推進力となっている。さまざまな社員がホワイトボードを使い、画面を共有して複雑な問題を一緒に解決している。鍵となるのは、高品質のビデオやオーディオ機器が装備されたスペースで、物理的に離れた場所にいるチームメンバーが同じように参加できるようにすることだ。

仲間意識の構築:全員参加型のミーティングやQ&Aセッション、その他のチームビルディング系の機会は全員が同じ物理的なスペースにいることでより効果的になる。私たちが調査した多くの社員は、オフィスにいることの明確な利点として、半年に一度の懇親会を挙げている。

私たちは、オフィスでの社員イベントの開催を試み始めたばかりだが、その環境は以前とは大きく異なる。小規模かつ屋外で、新型コロナ対策が施された環境だ。最初のイベントを開催する前に、私たちは自問した。「社員は来たいと思うだろうか?」その答えは、圧倒的に「イエス」だった。

申し込みを開始すると、数分後には申し込みがいっぱいになり、その倍の人数がキャンセル待ちとなった。ミーティング当日はエネルギーがみなぎっており、社員からのフィードバックも非常にポジティブなものだった。みんな、再び一緒にいられることに感激していた。

意図:多くの人が、オフィスでの当たり前の習慣が恋しいと語っていた。朝、服を着て車で出勤し、チームメンバーと一緒に机に向かうことで、生産性や集中力が格段に向上するという人もいる。

すべての社員がチームワークや仲間意識を求めてオフィスに来ているわけではない。中にはプライベートと仕事のスペースを分けたい人もいて、自分が最も生産性を発揮できる静かな場所を探している人もいる。オフィスではオープンなコラボレーションスペースは不可欠だが、無音スペースや電話ブースも同様に必要不可欠だ。

私たちがこれらの特性を実践しようとしている1つの方法が、オフィス内の「スクラムネイバーシップ」だ。この環境では15〜20のデスクが用意されており、コラボレーションとチームワークを促進するために、美しく創造的で自由なオフィススペースが設けられている。また、このスペースを有効に活用するために、モバイルアプリを開発した。チームはこのアプリを使って、一緒にオフィスに来る時間を調整したり、スペースや電話室を予約することができる。

同時に、私たちはリーダーたちがこの新しい現実の中でメンバーを管理できるように、偏見を避け、典型的なマネージャーと部下という関係を、より人間的で共感し合えるものにするための努力をしてきた。

試験運用プログラムから得られた教訓

これらはまだ始まりに過ぎない。試験運用プログラムは順調に進んでいるが、今後もハイブリッドワークを推進し、最適化するための最良の方法を研究・検証していくつもりだ。

従業員の80%が、将来的には自宅とオフィスの両方で仕事をしたいと考えていることがわかった。また、80%の社員がオフィスの比較的近くに住みたいと考えていることもわかった。

もちろん、このタイミングで戻ることに違和感を覚える人も少なくなかった。しかし、試験運用プログラムでオフィスにきた人の多くは、オフィスでの仕事環境の平穏さと静けさ、対面でのミーティングの生産性、そして無料のコーヒー、スナック、ランチなどのアメニティを、明らかな利点として挙げている。さらに、リーダーやマネージャーは、私たちが彼らとの間で培ったコミュニティの行動指針に基づくことで、この環境で指導や管理を行う準備が整っていると感じている。

これまでの「普通」が完全に戻ることはないため、私たちは何が有効で何がそうでないかを見極めるために、継続的な実験と内省を続けなければならない。なぜなら、ハイブリッドなワークモデルは、理論的に成功するだけではなく、実践的に成功しなければならないからだ。

例えば、2020年、多くの従業員が、家庭や家族の事情に合わせて早朝や深夜に働くなど、勤務時間を大幅に変更できる環境に慣れてしまっていることに気づいた。また、通勤時間やオフィスが不要になったことで、チームの一部の者にとっては大きな時間も生まれていた。一方で、これまで対面式で行っていた施策の中には、全体的な実行力と効果を向上させ、場所を問わず従業員の体験をより包括的なものにするために、再考する必要があるものもある。

私たちが自問すべきことは明らかだ。あとは、その答えを見つけるだけだ。

では次は?「なぜ」と問いて「どうやって」を見つける

同じくして、2020年には、仕事の現実において、一時停止したり、もしくは一気に進めたりしなくてはいけない状況でもあった。これは、私たちの多くがいまだになんとか管理 / 運営しようとしている矛盾でもある。私たちは、ハイブリッドワークの試験運用プログラムで得られた教訓が、未来のオフィスのあり方や生産性の向上に役立つとともに、社員やリーダーがこの変化に対応できるようになることを願っている。2022年に向けて、試験運用プログラムで得られた私たちの知見は、グローバルなフレックスワークポリシーに反映され、世界の各地域で何が最適かを判断するための基準となるだろう。

その答えを考えるのに、今が一番いい時期だ。私たちと一緒に考えてみよう。あなたの「なぜ」を「どうやって」に変え、従業員が自ら未来の仕事場を構築する力を与えよう。

編集部注:本稿の執筆者Anamarie Huerta Franc(アナマリー・ウエルタ・フラン)氏は、米国のSAP Labsのマネージングディレクター。全米の開発部門の従業員を対象とした、企業間コラボレーション、ロケーション戦略、コミュニケーション、従業員エンゲージメントのリーダー。

画像クレジット:Shannon Fagan / Getty Images

原文へ

(文:Anamarie Huerta Franc、翻訳:Akihito Mizukoshi)

【コラム】急速に進歩するデジタルID技術、#GoodIDムーブメントの精神がそれを支える

新型コロナウイルス(COVID-19)の流行は、多くの技術的な変化を加速させた。2020年の春以前にZoomを知っていた人は何人いるだろう?急速に開発されたmRNA COVIDワクチンは、それ自体が科学技術の進歩の一例となっている。欧米では、さまざまな活動にワクチン接種の証明を求める動きが出てきているが、これはIDの進化がもたらす計り知れない可能性を予見させるものであると同時に、正しく行われない場合の落とし穴を警告するものでもある。

米国では、今のところ、接種証明は手書きした白黒の小さな紙(あるいはその写真)を使っていて、しかも個人のワクチン接種記録の詳細はしばしば手書きなのだ。まるで別の時代の遺物のように感じられる。これは欧州連合(EU)のデジタルCOVID証明書とは対照的だ。こちらの方はQRコードを読み取ることで、政府の医療システムから、ワクチン接種状況や新型コロナの検査結果、さらには感染に対する獲得免疫などのデータに瞬時にアクセスすることができる。

このデジタルCOVID証明書が、デジタルIDの一例である。各国政府は、世界で10億人が公的なIDを持っていないというグローバルな問題を解決するために、こうした技術の採用を徐々に進めている。IDを欠くことは、現代社会へ参加しようとする際の大きな障壁であり、仕事や学校へのアクセス、さらには日常生活の基本的な活動をも制限するものだ。デジタルIDは、銀行取引、投票、旅行、行政サービスの利用、ソーシャルメディアでのプロフィールや交流の保護などを、より簡単かつ安全にする。

しかし良いことばかりではない。デジタルIDは自由を制限し、監視を強化し、デジタルIDによって促進されるはずの多くのことを実際には困難にするために使用される可能性がある。例えば、ここ2、3年の間に、インドではプライバシー保護に関する懸念から、そしてケニアではマイノリティのコミュニティが必要書類から排除されていることが問題となって、国家のデジタルIDプログラムが論争の的となっている(実際、ケニアの高等裁判所は、政府がIDの導入において市民のプライバシーを適切に保護できなかったと判断し、IDを無効とした)。欧州でさえも、EUのCOVID証明書が、デジタルIDの確立に必要な厳しい「信頼のチェーン」に対応できない低所得国の人々の移動を制限することになるのではないかと批判されている。

これらは、過去10年間の大きなトレンドの一部であり、社会のあらゆるレベルの個人が、自分ではコントロールできないデジタルツールやプラットフォームへの依存度を高め、ある意味ではその虜囚となっている。このデジタルトランスフォーメーションは、新型コロナウイルスのパンデミックやバーチャルな交流への移行の中で、さらにその緊急性を増している。デジタルIDシステムの約束を実現するためには、個人の権利や自由を縮小するのではなく拡大することを確実にする、強固な政策と技術的な構造が組み合わせられなければならない。

これらのシステムが、自由と機会を、侵食するのではなく確実に拡大できるようなものにするためには、より多くの人々が声を上げる必要がある。だがデジタルID技術や政策の開発において、市民、住民、消費者のニーズ、経験、権利が考慮されないことがあまりにも多い。こうした考慮されない事柄を見逃し続けると、デジタルIDプログラムは、プライバシーを危険にさらし、セキュリティリスクをもたらし、ユーザーを排除し、疎外し、さらには危険にさらすという深刻な結果につながる可能性がある。このような欠陥のあるプログラムに依存している政府や企業は、データ漏洩、サイバー攻撃、経済的影響、そして社会的信用の喪失などのリスクを抱えている。

ここ数年、プライバシーとセキュリティを擁護する団体が、企業、政府、市民社会団体と協力して、デジタルIDの多くのメリットに対する共通の理解を深めるとともに、多くのリスクに対する懸念にも同様に対処してきた。彼らは、デジタルIDを開発するための道筋を作り上げ、Good ID(グッドID)という名の標準へとまとめ上げた。

Good IDアプローチには、人々が自由かつ安全にデジタルの世界に関わることができるようにするために、従うべきIDプログラムや政策を設計するためのプラクティスのフレームワークが示されている。デジタルIDは、プライバシーとセキュリティを優先し、個人が管理する保護された資産として扱われ、法律によって保護されなければならない。Good IDは、インクルージョン、透明性、アカウンタビリティーの重要性も高める。個人が自らのアイデンティティ管理に大きな役割を果たせるように強化するのだ。例えば、カナダのある企業は、現地の先住民コミュニティと協力して安全なデジタルIDを開発し、連邦政府によって保証されている権利をより簡単に守ることができるようにしている。

Good IDの推進は、Namati(ナマティ)やParadigm Initiative(パラダイム・イニシアチブ)などの草の根組織、ITS Rioオックスフォード大学などの研究者たち、MOSIPSmart Africa(スマートアフリカ)、Women in Identity(ウーマンインアイデンティティ)などの組織、世界銀行世界経済フォーラムなどの機関、Mozilla Foundation(モジラ財団)やBill and Melinda Gates Foundation(ビルアンドメリンダ・ゲイツ財団)などの慈善団体のリーダーたち、そして私自身の組織であるOmidyar Network(オミディア・ネットワーク)などの、世界的なムーブメントを引き起こした。#GoodIDムーブメントは、住民、政府、技術者、企業を巻き込んだ研究と推進を行いながら、対話を生み出してきた。

すでに、このグローバルな推進活動は、約40カ国の国内議論に影響を与えている。少なくとも25カ国がGood IDの要素を採用している。最も重要なことは、世界の約12億人の人々がより良いIDシステムを利用できるようになったことで、彼らがより完全にそして安全に、それぞれの社会、経済、選挙プロセスに参加できるようになったということだ。しかし、このコミュニティの活動は、デジタルIDがあらゆる場所で人々の信頼に値するものになるまで続く。

この5年間で、デジタルIDは新しい技術から徐々に一般的な技術へと進化し、その影響は広範囲におよび、さまざまな関係者から注目されている。紙の接種証明カードはあるにせよ、もう後戻りはできない。しかし、デジタルIDシステムがとても急速に導入されることで、間違った方向に進んで被害をもたらす危険性があることは明白だ。

だからこそ、洗練された最先端の技術を利用してデジタルIDシステムを構築しようとする世界的な動きには、優れた政策、透明なプロセス、説明責任に焦点を当てることが有効なのだ。テクノロジーコミュニティの精神は「すばやく動いて、破壊する」ことで知られている。私たちは#GoodIDムーブメントによって、社会をデジタル化する際のその勢いを、日々の市民のニーズ、経験、権利と調和させることができる。

編集部注:本稿の執筆者Robert Karanja(ロバート・カランジャ)氏は、Omidyar Network(オミディア・ネットワーク)のDirector of Responsible Technology and Africa Leadでケニアのナイロビを拠点に活動している。

画像クレジット:John M Lund Photography Inc / Getty Images

原文へ

(文:Robert Karanja、翻訳:sako)

【コラム】気候変動の解決に向けたスタートアップの取り組み、私がNestを設立した理由

持続可能な変革を起こす最良の方法は、正しい行動が容易な行動でもある機会を作り出すことだ。今度の気候変動国際会議COP26は、それを可能にするためのさまざまな解決策を、新たな才能が採用し展開することを動機づけるまたとない機会だ。

一瞬の判断や習慣的行動になると、平均的消費者は常に便利な方の道を選ぶ。たとえそれが「正しくないこと」であっても。テクノロジーにユーザー体験への深い共感が組み合わさると、そこに消費者と出会う機会が生まれる。そこでは問題を解決する最低限の利便性を満たすだけではなく、より多くの人にとってよりよい方法で実現するソリューションを提供できる。

これまでに私は、テクノロジー関係でもそれ以外でも、企業がこの原則を見失うところを何度も目にしてきた。

長年制度化されている事例を挙げてみよう。リサイクルだ。リサイクルが無駄を減らし、その結果、気候変動を緩和するための鍵であることは誰もが知っている。私たちが今のペースでゴミを出し続けられないことは明らかだ。リサイクルは地球上の廃棄物負荷を軽減しようとする試みの1つだ。リサイクルのコンセプトは単純、古いものを新しい方法で再利用することだ。しかし、平均的消費者が青い分別箱(ガラス・金属・プラスチック用)と黒い分別箱(紙資源)の前で瞬時の判断を求められたとき、その品目の厳密な再利用性を調べるために必要な手順を踏むよりも、黒い箱に放り込む方がずっと簡単だ。

一方、我々Nest(ネスト)では、平均的世帯がサーモスタットを1日中同じ温度に設定していると莫大なエネルギーを無駄することを知っている。また我々は、忙しい人たち(あらゆる人は忙しい!)にとって一番やりたくないのが、サーモスタットの設定を天候パターンや時刻、エネルギー消費の急激な変化に基づいて忘れずに設定することなのも知っている

サーモスタットをオフにしなさい、なぜなら地球に優しいから、と人に勧める方法が1つ。もう1つの方法は、彼らのために自動的にサーモスタットをオフにしてあげることだ。当社が温度調節を最先端と感じられるようなオートメーションやエネルギー利用データ、アプリによる制御、デザインなどを導入した時、自分たちは持続的な変化をもたらすに違いない製品を作っていることを実感した。NestのLearning Thermostat(学習型サーモスタット)は、平均して世帯当たり暖房で10~12%、冷房で15%のエネルギーを節約している(詳しいデータはこちら)。

Nestは、たしかに家庭の省エネルギーをクールなものにした。しかしそれで終わりではない。個人だけでなく地球にとっての費用と便益を意識するよう顧客を教育している。Nestは、平均的消費者がより簡単で便利に正しい行動をとれるようにしている。

Nestよりもっと大きい話をしよう。

今はテクノロジーにとって大きな問題を解決するための重要な転機だ。その中でも最大かつ最も時期に迫られているのが気候変動だ。我々には、誰もが、そう、誰もが、地球を救う行動に参加するために過去数十年間に成し遂げた進歩を利用する機会がある。健康でいることに加えて、良いことを実際に成し遂げるテクノロジーを生み出し、支援し、推進していく必要がある。

私は投資家の1人として、この原則を受け入れているテック企業と無視しているテック企業の両方を毎日見てきた。数年前、私はSpan(スパン)のファウンダー、 Arch Rao(アーチ・ラオ)氏に会い、面倒な仕事を簡単にし、その過程で変化を起こす彼のアイデアに衝撃を受けた。現在、自宅の電力をまかなうことはかなり難しい。もちろん、ソーラーパネルや地下にバッテリーを設置することはできるが、家主にとってそれがどれほど省エネに貢献しているかを知るのは容易ではない。Spanは住宅内のあらゆる回路をスマートフォンアプリから遠隔制御できる電気制御パネルだ。Spanは、家庭の電力というあまり魅力的ではない分野にユーザー中心のデザインを持ち込んだ。

ここで疑問が生じる。もし人間中心のデザインとテクノロジーとすばらしいUX(ユーザー体験)と徹底したプロダクト思考をもっと他の分野(それがどんなに「退屈」でも)にも適用できたなら、どんなソリューションを構築できるだろう? どんな大きな問題を私たちは解決できるのだろうか?

我々はソーラーと再利用についてすばらしい進歩を遂げてきたが、まだ十分ではない。あらゆる産業を横断するソリューションに向かって計画を立てリソースを投入する必要がある。この問題提起はテック業界から始まるかもしれないが、投資家や非営利団体や政策立案者からの支援が必要だ。さらには、今月英国グラスゴーで開かれるCOP26に集結するリーダーたちがロードマップとインセンティブを策定する必要がある。気候変動の解決に特効薬は存在せず、1人の人間や1つのアイデアや会社が解決することもできない。我々全員が、そして我々全員のアイデアが必要だ。

端的に言って、人は正しい行動を起こす気持ちを持っている、ただしそれがより便利である限り。実行にあたり、我々は人間の特性を課題として受け入れる必要がある。利便性の試練に耐えうるテクノロジーは、結局持続する変革を推進する時の試練にも耐えるだろう。どうすれば、正しいことを正しくないことよりも簡単にできるようになるだろうか。それを解き明かし、同じことをするよう人に教えていけば、世界を救う足固めができるはずだ。

編集部注:本稿の執筆者Matt Rogers(マット・ロジャース)氏はNestのファウンダーとして、初の機械学習型サーモスタットを開発。以前はAppleのエンジニアとして10世代のiPhoneおよび初代iPadの開発に貢献した。

画像クレジット:Westend61 / Getty Images

原文へ

(文:Matt Rogers、翻訳:Nob Takahashi / facebook

【コラム】「完全自動運転の電気自動車」という革命には「設計」の革新も必要だ

1世紀以上前、内燃機関の出現によって、私たちは馬車の時代を脱し、自動車の時代に入った。馬の撤退とともに、ドライバーの快適性と安全性を重視した車両設計が台頭し始めた。

それ以来、社会はある種のクルマの設計を受け入れるようになった。つまり、ガソリンを動力とし、歩行者や他の道路利用者への配慮が不十分で、しばしば注意散漫な人間によって運転されることがあるというものだ。今日、モビリティはまた別の大きな変化を遂げつつある。そして私たちは次なるものを構築しようとしている。それは完全自動運転の電気自動車である。

自動運転車(AV)は今や、車両の設計方法、使用方法、そして誰に役立つかを再考することを通して、変革の機会を提供している。

この変革を支援するために、私たちは、Coalition for Safe Autonomous Vehicles and Electrification(SAVE、安全な自動運転車と電化のための連合)の立ち上げを発表する。SAVEの創設メンバーであるZoox(ズークス)、Nuro(ニューロ)、Local Motors(ローカル・モーターズ)は、安全な自動運転システムの構築、完全電動プラットフォームへの自動運転車の配備、すべての人のモビリティとアクセスを向上させる新しい車両設計の採用という、3つの基本原則に沿って結束している。

従来の車両設計では十分ではない

今日、私たちは、1人乗りのクルマによって促進される渋滞、ガソリン車による汚染、不均衡なアクセス、増加する交通事故死亡者数などの問題を抱えている。SAVEは、政策立案者、業界のリーダー、そしてアドボケイトたちを団結させ、私たちのコミュニティを自律性を持って改善しようとしている。この自律性には、クルマの再考も含まれている。

クルマの設計変更なしに自動運転車を構築することは、ダイヤル式の携帯電話を構築するようなものである。

SAVEのメンバーは、誰もが利用できるモビリティの未来のためのクルマの設計を進めている。Zooxが開発した自動運転車は、共有されるように設計されており、従来の車にはない100を超える安全革新が盛り込まれている。

Nuroは、クルマの外にいる人の安全のために設計された無人配送用自動運転車を開発している。これにより、フードデザート(食の砂漠)の食料品へのアクセスを改善できる。

Local Motorsは、障害者のアクセシビリティを向上させる設計革新により、交通機関とのファーストマイルおよびラストマイルの接続を提供するシャトルバスを構築している。

AVは誰にとっても安全なクルマづくりにつながる

私たちの道路の公衆衛生危機は、2020年に推定3万8680人の死亡をもたらした。自動運転車は、ドライバーのミスや選択(飲酒運転、スピード違反、注意散漫など)が重要な要因となっている死者をともなう衝突事故の94%を減らすのに役立つ可能性がある。しかし、自動運転車と新しい車両設計を組み合わせることで、さらに大きな改善を達成できるだろう。

今日の道路は、1989年以来と比べて、歩行者にとってより危険な状態になっている。歴史的に車両は、外部の人々ではなく、ドライバーの安全と快適さのために設計されてきた。そのため、歩行者や自転車にとってより致命的な車両サイズが増え続けている。ピックアップとSUVは現在、年間新車販売台数の約70%を占めており、衝突事故で歩行者を死亡させる可能性は2倍から3倍高くなっている。

シートベルトとエアバッグが乗員の安全性を大幅に向上させたように、自動運転車は車外の人々の安全を大きく変える機会を提供する。バージニア工科大学の最近の研究によると、無人配送用自動運転車は、設計ベースだけでも、致死的な衝突事故や負傷事故を約60%減らすことができるという。加えて、Zoox車の外部照明と音響システムのような新しい安全革新は、自動運転車と、歩行者や他の道路利用者とのコミュニケーションを可能にする。

ゼロエミッションAVは、排出量を削減し、効率を向上する

輸送の未来はゼロエミッションである必要があり、それが私たちが完全電気自動車を基礎から徹底的に作り上げようとしている理由である。

U.S. Environmental Protection Agency(EPA / 米国環境保護庁)によると、輸送セクターは温室効果ガス排出量が最も多く、その汚染が生命を脅かす小児喘息の発生率を高め、特に有色人種のコミュニティに大きな影響を与えているという。

しかし、1人乗りのガソリン車で埋め尽くされた混雑する道路の状況は、電気自動車でもまったく同じことである。そのため、自動車の使い方を根本的に変える必要があるだろう。

電気自動運転車を共有フリートに幅広く導入し、交通機関や能動輸送と組み合わせることで、2050年までにCO2排出量を80%削減することにつながる可能性がある。さらに、複数の人に電気とバッチによる配送を行うことで、配送用自動運転車は2025年から2035年までに4億700万トンのCO2排出量を削減し、10年間にわたって米国の4大都市のすべての家庭に電力を供給することによる排出量を、効果的に相殺することに貢献するだろう。

AVはアクセス可能で公平な移動オプションを提供する必要がある

クルマがあれば仕事に就く可能性は4倍になり、安価な共有自動運転車サービスを利用すれば家計費を大幅に削減し、低所得層の米国人を新たな仕事の機会に結びつけることができる。

さらに、配送用自動運転車は、フードデザートで暮らす2000万人の低所得者層の米国人のうち、1400万人(70%)の生鮮食料品へのアクセスを改善するのに役立つ。

車両は伝統的に健常者を中心に設計されており、障害者や高齢者が利用できる移動手段の選択肢が限られている。自動運転車の導入は、移動を制限する障害を持つ2550万人の米国人が利用できる自動車を設計する新たな機会を私たちに与えてくれる。それは、障害を持つ人々に推定200万の新たな雇用機会をもたらす可能性がある。

規制の近代化がAVの最大のメリットを引き出す

議会は2021年に入り、切実に必要とされている補修に資金を提供し、電気自動車の消費者への普及を加速させるため、米国のインフラへの世代間再投資を検討している。しかし、新しい道路を同じように使うだけでは十分ではない。

議会は連邦政策を近代化し、道路がどのように使われているかを再考する機会を捉えなければならない。安全目的を維持しつつ、連邦車両基準を更新することは、より安全な道路、アクセスの拡大、そしてより持続可能で効率的な輸送セクターを提供する自動運転車の展開を促進するであろう。

そうでなければ、舗装されたばかりの道路でもう一度缶を蹴る(難題への対応を繰り返し先送りする)ことになるだろう。

編集部注:本稿の執筆者はMatthew Lipka(マシュー・リプカ)氏、Bob de Kruyff(ボブ・デ・クルイフ)氏、Bert Kaufman(バート・カウフマン)氏。マシュー・リプカ氏は、SAVE Coalitionの設立メンバーでNuroの政策責任者。ボブ・デ・クルイフ氏はSAVE Coalitionの設立メンバーでLocal Motorsのエンジニアリング担当副社長。バート・カウフマン氏はSAVE Coalitionの設立メンバーで、Zooxの企業および規制関連業務の責任者。

画像クレジット:Artur Debat / Getty Images

原文へ

(文:Matthew Lipka、Bob de Kruyff、Bert Kaufman、翻訳:Dragonfly)

【コラム】今こそ米国兵士は帰還後の外傷性脳障害との戦いから解放されるべきだ

戦争は終わった。米国軍は、多くの兵士が複数回の軍務を経て帰還した。帰還すると、次の段階の職務が始まる。子どもの世話や親の介護などの家族に対する奉仕や、学校に戻ったり新しい仕事を始めたりする地域社会への奉仕だ。

しかし、多くの戦士にとって戦いは続く。43万人以上の米軍兵士がイラク戦争とアフガニスタン戦争の代表的な負傷とされる外傷性脳損傷(TBI)を負っている。TBIの中で最も多いのは「軽度」TBI(mTBI、または脳震盪)というやや誤解を招きやすい名称のもので、TBIと診断された米軍兵士の82%以上が罹患している

多くの人は負傷から回復したが、何千人もの人が、負傷してから何年も経っているにもかかわらず、思考の速さ、注意力、記憶力などに影響を及ぼす持続的な認知機能の問題に悩まされており、仕事や学校、家族としての役割への復帰が困難になっている。また、TBIの既往歴がある人は、特に認知症予備軍や認知症などの他の疾患を併発するリスクが高いと言われている。

これは軍人やその家族にとって負担であると同時に、米国軍人の才能や経験が十分に生かされていないため、国にとっても負担となっている。

米国防総省は10年以上前にこの問題を認識し、この新しい種類の戦傷に対する新しい種類の治療法を見つけるために、学界や産業界の研究者に呼びかけた。多くの研究グループがこの要請に応えた。私がCEOを務めるPosit Science(ポジット・サイエンス)では、全米の軍病院や退役軍人医療センターから一流の臨床医を集めたチームを結成し、新しいタイプのコンピューターによる脳トレーニングをテストする提案をした。

TBIを罹患する軍人たちを支援するためには、2つの問題を解決しなければならないことがわかった。

まず、脳トレーニングのプログラムが機能する必要があった。幸いなことに私たちは、米国国立衛生研究所が資金提供した複数の研究により高齢者の認知機能を向上させることが示された脳トレプログラム「BrainHQ」を構築できたが、これを若い軍人にも使えるようにする必要があった。BrainHQの脳トレは、従来の認知機能トレーニングとは異なり、脳の可塑性(学習や経験によって脳が脳自身を再構築する能力)を利用して、脳の情報処理機能の基礎を向上させるように設計されている。

第二にこの脳トレプログラムは、彼らの生活圏内で実施する必要があった。現役の軍人や退役軍人の多くは、派兵を控えていたり、学校や仕事に復帰したり、一流のクリニックがある大都市以外の地域に住んでいたりするため、週に数回、数カ月にわたってクリニックに通い、対面で治療を受けることができない。そんなときに役立つのが、コンピューターを使った脳トレだ。インターネットを介して配信されるため、自宅で自分のスケジュールに合わせて、どこにいても、時間のあるときにいつでも使用できる。

この夏、Brain誌に掲載されたBRAVE研究では、5つの軍人病院と退役軍人病院で、認知障害とmTBIの既往歴があると診断された83人の患者を二重盲検法による無作為化対照試験に登録した。この研究に参加した平均的な患者は、この介入の前に、7年以上にわたって持続的な認知機能の問題を抱えていた。

BRAVE研究では、可塑性を利用したBrainHQのエクササイズの介入に対し、注意力を必要とするビデオゲームを対照した。その結果BrainHQを使用した患者は、ビデオゲームを使用した患者と比較して総合的な認知能力が大幅に向上したことがわかった。この介入によって、各患者が天才になったわけではないが、平均して約24パーセンタイルポイント(50番目のパーセンタイルから74番目のパーセンタイルへ移動するようなものだ)の改善が見られた。これは、mTBIのゴールドスタンダード研究において、スケーラブルな介入が有意な向上を達成した初めての例だ。

この結果は、ニューヨーク大学で行われた2つ目の研究でも正しいことが確認され、さらに拡張されて学術誌NeuroRehabilitationに掲載された。この研究は、軽度、中等度、重度のTBIを罹患している48人の一般人を対象としたものだ。その結果、BrainHQを使用した患者では、客観的計測値による認知機能の向上が認められた。また、認知機能の自己評価を行ったところ、患者自身が認知機能の有意な向上を実感していることがわかった。

成功を収めたのは私たちだけではない。訓練を受けた臨床医が対面で認知機能補償技術を用いて研究を行った他のいくつかの学術研究グループや軍の研究グループ(特にテキサス大学ダラス校のCenter for Brain Healthで開発されたSMARTトレーニングや、UCSDとVAサンディエゴヘルスケアシステムで開発されたCogSMARTトレーニング)が良い結果を収めた。

しかし、現在、これらの科学技術の多くは棚上げされている。議会と国防総省は、TBIの基礎科学と臨床試験に何億ドルも費やしてきたが、私が軍人病院や退役軍人医療センターを訪れると、献身的に人々を助けようとしている医療従事者がいる一方で、研究結果を実践するためのスタッフやスペース、技術などが不足していることが分かる。国防総省と退役軍人省が一丸となって、実証された科学技術を研究室から世の中に送り出し、必要としている人々を助けることが必要だ。

海外での戦争が終結しても、私たちは、自国の戦士のために、戦士に代わって行われた研究から利益を得られるようにする義務を忘れてはならない。私たちは、軍人そして米国全体が、研究が提供するすべてのものから恩恵を受けることができるように、研究の成果を解き放つ必要がある。

編集部注:本稿の著者Henry Mahncke(ヘンリー・マンケ)氏はUCSFで神経科学の博士号を取得。脳トレプログラム「BrainHQ」を開発したPosit ScienceのCEO。

画像クレジット:bubaone / Getty Images

原文へ

(文:Henry Mahncke、翻訳:Dragonfly)

【コラム】AIイノベーションの推進と規制を同時に実現するために欧州委員会はどうすればよいのか

2021年4月、欧州委員会は人工知能(AI)の利用を規制する初の法案を提案した。この提案に対しては、規制がヨーロッパ連合(EU)におけるAIのイノベーションにブレーキをかけ、米国や中国とのAI分野のリーダーシップ争いの足かせになるという批判が続出した。

例えばAndrew McAfee(アンドリュー・マカフィー、マサチューセッツ工科大学スローンマネジメントスクール主任研究員)は、Financial Timesに「EU propose to regulate AI are only going to hinder innovation(EUの規制提案はIAイノベーションを妨げる)」とする記事を寄稿している。

GDPR(EU一般データ保護規則)を振り返っても、EUの個人情報保護に関する思想的リーダーシップは、必ずしもデータ関連のイノベーションに直結しなかったが、欧州委員会(EC)はこれを念頭に批判を予期しており、規制案と同時にAIに関する新たな協調的計画を発表して、AIのイノベーションに真剣に取り組もうとしている。

AIに関する新たな協調的計画には、EUがAIテクノロジーでリーダーシップを取るための取り組みが盛り込まれている。では、規制とイノベーション促進政策のコンビネーションは、AIのリーダーシップの加速を促進するための要素として十分なのだろうか。

AIイノベーションは適切な規制によって加速する

規制とイノベーションの両方の改善を目標とした今回の組み合わせは、よく練られてはいるものの、問題もある。すなわち、イノベーション促進に関してはR&D(研究開発)のみに焦点を当てていて、規制の対象となる「高リスク」なユースケースにおけるAI利用の促進についてはカバーされていないのだ。

これは見逃せない欠落である。多くの調査研究で、特に利用促進のインセンティブと、適切に設計された法的拘束力がある規制が同時に施行されると、実際にイノベーションが加速される、という結果が出ている。ECはこの研究結果を採り入れて、AIイノベーションのリーダーとなるべきである。

高リスクなAI規制とイノベーションへの投資

今回のEC規制の主目的は「高リスク」なAIシステムに新たな要件を課すことにある。「高リスク」には、遠隔生体認証、公共インフラ管理、雇用・採用、信用度評価、教育などに使用されるAIシステムや、救急隊員の派遣などさまざまな公共部門におけるユースケースが含まれる。

この規制では、これらの高リスクなシステムの開発者に対してAI品質管理システムの導入、すなわち、高品質なデータセット、記録保持、透明性、人による監視、正確性、堅牢性、セキュリティに関する要件に対処できる管理システムの導入を要求している。また、高リスク未満のAIシステムの開発者には、同様の目標を達成するための自主的な行動規範の作成が奨励されることになる。

この提案の創案者は、明らかに規制とイノベーションのバランスを認識していたと思われる。

まず、この提案では、高リスクとされるAIシステムを限定している。なんとなく高リスクと思われがちな保険などのAIシステムは除外し、雇用や融資など、すでにある程度の規制・監視が行われているAIシステムはほとんどが網羅されている。

次に、この提案は大まかな要件を定義しているが、具体的な方法については規定していない。また、厳格な規制ではなく、自己申告に基づくコンプライアンスシステムを取り入れている。

最後に、協調的計画には、データ共有のためのスペース、試験・実験設備、研究・AIエクセレンスセンターへの投資、デジタルイノベーションハブ、教育への投資、気候変動、医療、ロボット工学、公共部門、法執行機関、持続可能な農業のためのAIといったターゲットを絞ったプログラム的な投資など、R&Dを支援する取り組みが大量に盛り込まれている。

しかし、この提案には、他の分野の規制と組み合わせてイノベーションを加速させてきた利用促進に対する配慮が欠けている。

イノベーション促進の前例:米国のEVインセンティブ

では、規制を行いながら、AIイノベーションのさらなる加速を促進するために、ECはどうすれば良いのだろうか。そのヒントとなるのが、米国のEVインセンティブだ。

米国がEV生産の先駆者となることができたのは、起業家精神と規制、そして市場創造のための優れたインセンティブの組み合わせがあったからである。

Tesla(テスラ)は「EVの先陣は魅力的で高性能なスポーツカーであるべきだ」という識見に基づいて、EV産業を活性化させた。

CAFE基準(企業別平均燃費基準:自動車の燃費規制。車種別ではなくメーカー全体で、出荷台数を加重した平均燃費を算出し、規制をかける基準)による規制は、より効率的な自動車を開発するための動機となり、EVを購入する際の手厚い税額控除は、本来あるべき競争の激しい市場力学を妨げることなく、EVの販売を直接促進した。CAFE基準による規制、税額控除、そしてTeslaのような起業家精神に富んだ企業の組み合わせで、技術革新が大きく促進され、EVのモーターは内燃機関よりも安価になると予想されている。

AIインセンティブの正しい理解:推進するべき3つの取り組み

ECでも、AIで米国のEVと同様のことを実現することができる。具体的には、ECは現行の規制に以下の3つの取り組みを追加し、組み合わせることを検討すべきであろう。

新しい規制に準拠した高リスクのAIシステムを構築または購入する企業に対して、税制上のインセンティブを設ける。ECは、経済的・社会的な目標を達成するためにAIを積極的に活用しなければならない。

例えば一部の銀行では、AIを活用し、信用情報の少ない個人の信用力をより適切に評価すると同時に、銀行業務にバイアスを発生させない取り組みを行っている。これは、行政との共通の目標であるファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)を向上させるものであり、両者の利益が一致するAIイノベーションを示すものである。

ECの法制化にともなう不確実性をもっと軽減する。これは、AIの品質管理や公正さに関する、もっと具体的な基準を策定することで、EC自体がある程度実現できる。しかし、AIテクノロジーを提供する企業やユーザーグループが連携して、これらの基準の遵守に向けた実用的なステップを構築できれば、さらに大きな価値があるだろう。

例えばシンガポール金融管理局は、Veritasという銀行、保険会社、AIテクノロジープロバイダーのための業界コンソーシアムを組織し、FEAT(Fairness, Ethics, Accountability and Transparency、公平性・倫理・説明責任・透明性)のガイドラインで同様の目標を達成している。

法が要求するAI品質管理システムの導入を加速するために、これらのシステムを構築または購入する企業に対する資金提供を検討する。この分野では、ブラックボックスモデルの説明可能性、データやアルゴリズムのバイアスによる潜在的な差別の評価、データの多大な変化に対するAIシステムの耐久性のテストとモニタリングなど、学術的にも商業的にも重要な活動がすでに行われている。

ECは、このようなテクノロジーを広く普及させるための条件を整えることで、イノベーションを加速させ、新しい規制への持続的な準拠も確保するという2つの目的を同時に達成することができるはずだ。

ECが積極的に不確実性を軽減して高リスクのAIの使用を規制しながら促進し、AIの品質管理技術の使用を奨励すれば、EU市民を確実に保護しながら、AIイノベーションの世界的なリーダーになることもできるだろう。EUが世界の模範となれるよう、成功を期待している。

編集部注:本稿の執筆者Will Uppington(ウィル・アッピントン)氏は、TruEraのCEO兼共同設立者。

画像クレジット:PhonlamaiPhoto / Getty Images

原文へ

(文:Will Uppington、翻訳:Dragonfly)

【コラム】今現在も「ストーカーウェア」の大流出で数千人の携帯電話データが危険に晒されている

何十万人もの人々の個人的な電話データが危険にさらされている。通話記録、テキストメッセージ、写真、閲覧履歴、正確な位置情報、通話録音など、広く使われている消費者向けスパイウェアにおけるセキュリティ上の問題から、人の電話からすべてのデータが引き出される可能性がある。

しかし、私たちが伝えることができるのはその程度のことなのだ。TechCrunchは、身元が明らかになっていない開発者に、判明しているメールアドレスと非公開のメールアドレスすべてを使って何度もメールを送ったが、この問題を明らかにするための糸口は見えなくなってしまった。メールが読まれたかどうかを確認するために、オープントラッカーを使ってメールを送ったが、これもうまくいかなかった。

この問題が解決されるまでは、何千人もの人々のセキュリティとプライバシーが危険にさらされていることになるため、我々はスパイウェアの開発者へ連絡を試みた。スパイウェアやその開発者の名前を出すと、悪意のある者が安全ではないデータにアクセスしやすくなるため、ここで名前を出すことはできない。

TechCrunchは、消費者向けのスパイウェアに関する広範な調査の一環として、このセキュリティ問題を発見した。これらのアプリは、子どもの追跡や監視のためのソフトウェアとして販売されていることが多いのだが、本人の同意なしに人を追跡したり監視したりすることから「ストーカーウェア」と呼ばれることもある。これらのスパイウェアアプリは、無言で継続的に人の携帯電話のコンテンツを吸い上げ、その運営者が人の居場所や通信相手を追跡できるようにしてしまう。これらのアプリは、発見されたり削除されたりしないように、ホーム画面から消えるように設計されているため、多くの人は自分の携帯電話が危険にさらされていることに気づかない。

関連記事:「システムアップデート」を装ったAndroidの新たなスパイウェアはデバイスを完全に制御する

電子フロンティア財団のサイバーセキュリティ担当ディレクターで、ストーカーウェア反対連合の立ち上げを主導したEva Galperin(エヴァ・ガルペリン)氏は、TechCrunchとの電話で「失望しましたが、少しも驚いていません。このような行為は、怠慢であると考えるのが妥当だと思います。悪用を可能にする製品を作っている企業があるだけでなく、流出した情報を保護するための対策があまりにも不十分なため、悪用された情報をさらに悪用する機会を与えてしまっているのです」と述べている。

TechCrunchは、開発者のスパイウェアのインフラににホスティングを提供しているウェブ企業のCodero(コデロ)にも連絡を取ったが、Coderoはコメント要請に応じなかった。Coderoはストーカーウェアのホスティングに精通している。このウェブホストは2019年にストーカーウェアメーカーの「Mobiispy」に対して、数千枚の写真や電話の記録を流出させていたことが発覚し「行動を起こした」という。

「あるストーカーウェア企業をホストしているウェブホストが、他のストーカーウェア企業をホストするのは当然だと思いますし、以前に反応を示さなかったのであれば、今回も反応を示さないのは当然でしょう」とガルペリン氏は述べている。

このように簡単に手に入るスパイウェアが蔓延していることから、業界全体でこれらのアプリを取り締まる取り組みが行われている。アンチウイルスメーカーは、ストーカーウェアを検出する能力の向上に努めており、また、Google(グーグル)は、スパイウェアメーカーに対して、配偶者の携帯電話を盗み見る方法として製品を宣伝することを禁止しているが、一部の開発者は、Googleの広告禁止を逃れるために新たな戦術を用いている。

関連記事:グーグルがスマホのスパイアプリを宣伝した「ストーカーウェア」広告を停止

モバイルスパイウェアは、セキュリティ上の問題として他人事ではない。ここ数年の間に「mSpy」「Mobistealth」「Flexispy」「Family Orbit」など、10社以上のストーカーウェアメーカーがハッキングされたり、データが流出したり、人々の携帯電話のデータを危険にさらしたりしたことが知られている。別のストーカーウェア「KidsGuard」では、セキュリティの不備により何千人もの人々の電話データが流出し、最近では、配偶者のデバイスをスパイできると宣伝している「pcTattleTale」が、推測されやすいウェブアドレスを使ってスクリーンショットを流出させていた。

連邦規制当局も注目し始めている。2021年9月、米連邦取引委員会は、2000人以上の電話データを流出させたストーカーウェアアプリ「SpyFone」の使用を禁止し、被害者に電話がハッキングされたことを通知するよう命じた。これは、当委員会がスパイウェアメーカーに対して行った2回目の措置で、1回目は、何度もハッキングされ、最終的に閉鎖に追い込まれたRetina-Xだ。

関連記事:米連邦取引委員会がスパイウェアSpyFoneを禁止措置に、ハッキングされた被害者に通知するよう命令

あなたやあなたの知り合いが助けを必要としている場合、日本の内閣府のDV相談+ (0120-279-889)は、家庭内の虐待や暴力の被害者に対して、24時間365日、無料で秘密厳守のサポートを提供しています。緊急事態の場合は、110に電話してください。

また、ストーカーウェア反対連合では、自分の携帯電話がスパイウェアに感染していると思われる場合に役立つ情報を提供しています。この記者の連絡先は、SignalおよびWhatsAppでは+1 646-755-8849、Eメールではzack.whittaker@techcrunch.com。

画像クレジット:Bryce Durbin / TechCrunch

原文へ

(文:Zack Whittaker、Akihito Mizukoshi)

【コラム】アップルがMacBook Proにノッチを付けてしまった

Apple(アップル)は次期MacBook Proで、長年疑問視されていたデザインを撤回し、誰からも嫌われていたTouch Barをこっそり廃止するとともに、ユーザーが切望していたポートとMagSafeを復活させた。しかしiPhoneとの奇妙なつながりに固執するあまり、同社はその「世界最良のノートブックのディスプレイ」に大きな醜いノッチを設けている。

虚勢を張っているようにも見えるが、Appleは、同社のデザイン的なイノベーションはあまりにも長い間、ユーザーに評価されていないことを認めざるを得なかった屈辱的な瞬間だっただろう。このMacBook Proを待ち望んでいた人は、そもそもなぜ自分がそうだったのかを忘れてはならない。Appleはおしゃれな宣伝を追求して合理化しよう見当違いをしていたのだ。

関連記事:アップルのMacBook Proがデザイン一新、新M1チップとMagSafeを採用した14・16インチモデル登場

Touch Barは理論的にはおもしろいが、有力なユースケースがないため結局は邪魔になり、多く人があらゆるケースで、デフォルトのキーを求めた。重要な機能を、何も手がかりのないタッチスクリーン上に廃するという点もアクセシビリティにおいて過ちだった。

USB-Cの全面的な採用もやはり、現実性を欠く理想主義の1つだった。それはドングル業界を活気づけただけに終わり、多くの人が長い間で溜まってまったさまざまなデバイスやドライブを持ち歩くために、多数の2インチケーブルを持ち歩いた。

キーボードは、バタフライスイッチの悲惨な失敗を受けて「メカニカルタッチ」に戻った。わずか1mmにこだわってタイピングがしづらくなり、頻繁に壊れるような設計のキーは歓迎されない。

あれやこれやの改良を撤回したり失敗した挙げ句、Appleはそれらをまるで新しいアイデアであるかのように復活させた。コマーシャルはM1 Pro Maxのパワーを謳っているが、断面図で見えるSDカードリーダーの組み立てはとても厚くて、一見の価値はある(皮肉)。

そしてその後、Appleの悪いクセがまた出てしまった。

ノッチをつけた

ノッチは好きじゃないが、そうではない人もいる。しかし、パソコンのようなフルスクリーンのメディアを毎日使う者には、とにかく邪魔だ。穴はもっとひどいが、ノッチならいいとはいえない。新しいiPhoneは以前ほど醜くはないが、あのノッチはSE 2からだから、私にとっては長い。ご冥福を祈るばかりの最初のSEが、また戻ってくるだろう。

何がどうなったのかというと、Appleはディスプレイを上へ広げてベゼルに狭くしたが、そのためにカメラのサイズを十分小さくすることができなかった(Face IDのようなものはない)。まり、ある意味ではスペースを確保したことになる。長年のApple擁護派である私の同僚は、そう自分を納得させている。

しかし、メニューバーのセンター部分で一体何をするのか?Appleは何と言っているのか?それはメディアの中に置かれた郵便受けか?それは16:9や2:1、21:9など、よくあるサイズよりも高い新しいアスペクトレシオか?また、フルスクリーンアプリを使ってるときはノッチのどちらかは黒くなり、せっかく増えたスペースが消える。それを画面スペースにとって純然たるプラスだと同社はいう。

しかし、それにしても醜い。

ほら、見えないでしょう?もちろん、上の4分の1インチすべてが見えない(画像クレジット:Apple)

質問は単純で、ノッチのある画面が欲しいか、ないのが欲しいかだ。答えは常に「ノッチのない方」だろう。ノッチは、スクリーンの基本的な用途、すなわちモノを見ることの邪魔になるからだ。ユーザーが求めるこの大きな矩形の邪魔をするものは、それがどのようなものであり邪魔だから邪魔物だ。スペースをフルに利用できない。画面にノッチがあるとしたら、それは表示物にとって意味のあるノッチか、要らないノッチかのどちらかだ。

気にしない人もいる。何も気にしない人は、幸せ者だ。でも世の中には、テレビのモーションスムージングを常有効にして、どんな番組でもメロドラマのような表示にしてテレビを見る人もいる。同じ部屋に冷たいLEDと温かい白熱電球の両方がある人もいる。本を、背の色で揃えない人もいる。何をいいたいかというと、人はさまざまであり、私のように美に関して神経質な人間が極端な意見をいって構わないのだ。

技術は、できるだけ目立たない方が良い。すべての産業がワイヤレス化と自動化とスマート化を求め、自分たちのプロダクトが空気のように遍在的で見えないことを目指してきた。テニスボールほどの小さな球体(今では5色ある)が、ユーザーのデジタル世界の全体を制御できる。ちっちゃなイヤーバッドが「手品」のように自分で自分を充電し、自動的に接続し、ユーザーの耳の特性に合わせて音量を調節するなどなど。

そういう意味では、ディスプレイは魔法の窓であるべきだ。鮮明なRetinaディスプレイは本当に窓みたいだし、120Hzのリフレッシュレートは遅延やぼけを防ぎ、デジタルとフィジカルの差をなくす。ベゼルが最小になれば、この2つの世界の「境界」も最小化する。つまりディスプレイの進歩はそのすべてが、魔法の窓の実現を目指してきた。だから、ノッチは進歩ではなく退歩だ。そういう単純な事実だ。それは魔法から遠く、リアルから遠く、邪魔物であり、人工的であり、フィジカルに妥協しているデジタルだ。

あなたにとっては、どうでもいいことかもしれないが、これが真実だ。そしてAppleは、可能になればすぐに、このノッチを取り去るだろう。彼らと私たちにわかっていることは、画面はノッチがない方が良いということ。それがわかっているなら、彼らは車輪を再発明したかのように振る舞うだろう。今日彼らが、誰が頼んだわけでもないのに古い機能を復活してそれを今度の新製品の新機能と謳っているように。

画像クレジット:Apple

原文へ

(文:Devin Coldewey、翻訳:Hiroshi Iwatani)

【コラム】何千年も前から続く人類と「乳がん」との戦いにAIはどう貢献するのか

この40年、毎年10月の「乳がん啓発月間」は、地球上で最も多く発生する癌であり、毎年約25万人の命を奪っている「乳がん」の認知度を高めることに貢献してきた。

乳がんは、古代エジプトにまでさかのぼる記録があるにもかかわらず、何千年もの間「口に出せない病気」と考えられてきた。女性は黙ったまま「尊厳」を持って苦しむことが求められていたのだ。

このような偏見が教育上の無知を助長し、ほんの数十年前まで乳がんは比較的研究が進んでいない病気だった。20世紀のほとんどの期間、他のがん治療が発展する一方で、乳がんを患った女性は、放射線治療や手術を受けることになるのだが、しばしば根治的な手術が行われたものの、大した効果が得られないまま、患者が傷つくことも多かった。

乳がんの死亡率は、1930年代から1970年代までほとんど変化がなかった。しかし、フェミニストや女性解放団体の努力により、乳がんの研究と治療は、男性優位の病院や研究機関の中で、正当な地位を得られるまでになった。その治療法は、一世代でがらりと変わったのだ。

1970年代には、乳がんと診断された女性が、その後10年間を生き延びられる確率は、およそ40%に過ぎなかった。それが今では、新薬や最先端の検診法、より繊細で効果的な手術のおかげで、その確率がほぼ2倍に伸びた。

このような変化に不可欠なのが、早期診断の重要性だ。乳がんの発見が早ければ早いほど、治療はしやすくなる。人工知能は、この乳がんの発見において、ますます重要な役割を果たすようになっている。2021年、英国の国民保健サービス(NHS)は、AIを用いて乳がんをスクリーニングする方法の研究を発表した。この方法は、人間の医師に代わるものではなく補完するものだが、放射線技師の不足を解消するのにも役立つ。新型コロナウイルスの影響からNHSが抱える検査の滞りを解消するためには、さらに2000人の放射線技師が必要とされているという。

いくつかのスタートアップ企業も、AIを使ってこの人手不足に取り組んでいる。英国のKheiron Medical Technologies(ケイロン・メディカル・テクノロジーズ)は、AIを使って50万人の女性の乳がんをスクリーニングすることを計画している。スペインのthe Blue Box(ザ・ブルー・ポックス)は、尿サンプルから乳がんを検出できる装置を開発中だ。インドのNiramai(ニラマイ)は、農村部や準都市部に住む多くの女性のスクリーニングに役立つ低コストのツールをてがけている。

しかし、生存率を高めるためには、再発のリスクが高い患者を特定することも同じくらい重要だ。乳がん患者の10人に1人は、初期治療後に再発し、生存率が低下すると言われている。

そのような患者を早期に特定することは、これまで難しかった。しかし、筆者のチームは、フランスのがん専門病院であるGustave Roussy(ギュスターヴ・ルシー)と協力して、再発のリスクが高い患者
の10人に8人を発見することができるAIツールを開発した。AIは、患者が必要とする治療を早期に受けられるようにすると同時に、リスクの低い患者が頻繁に不安な検診を受けなくて済むためにも役立つ。一方、製薬会社はリスクの高い患者をより早く募集することによって、乳がんの治験を加速させることができる。

だが、患者のデータのプライバシーは、迅速な研究の妨げとなる可能性がある。病院はデータを外部に送信することに慎重であり、製薬会社は貴重なデータを競合他社と共有したくない。しかし、AIはこのような問題の解決に役立ち、新しい治療法をより早く、より安全に、より安価に開発することを可能にする。

Federated learning(連合学習)は、データを病院から集約することなく、複数の機関のデータを使ってトレーニングを行う新しい形のAIで、研究者が必要不可欠でありながらこれまでアクセスできなかったデータにアクセスできるようにするために、欧州全域で使用されている。

我々はまた、最も侵攻性の高い乳がんがなぜ特定の薬剤に耐性を示すのかについて、AIを用いて理解を深め、化学療法よりも健康な細胞と腫瘍細胞との識別に優れた、新しい個別化された薬剤の開発に役立てている。

AIの影響力はますます大きくなっているものの、成果を向上させるために同じくらい重要なことは、医療は基本的に人間が行うものであるという認識である。どんなアルゴリズムでも、患者の最も暗い瞬間を慰めることはできないし、どんな機械でも、すべての患者が病気に打ち勝つために必要な回復力を植え付けて鼓舞することはできない。

私だけでなくすべての医師は、病気の治療と同じくらい患者を理解することが重要であると知っている。臨床医の共感は、患者の満足度の高さや苦痛の少なさに関係し、患者が困難な治療コースを続ける動機となり得る。ありがたいことに、乳がん治療にますます役立っているAI技術は、医師の能力を補完し、高めてくれる。

毎年、乳がんと診断される何百万人もの人々にとって、乳がんはもはや「口に出せない」病気ではない。10月の始まりを告げるピンクリボンの海は、最古の敵の1つである乳がんとの戦いにおいて、私たちがどれだけ進歩したかを示している。私たちは現在、この戦いに打ち勝ちつつあるのだ。乳がんを完全に根絶することはできないかもしれない。しかし、AIが患者の早期診断を助け、治療法の迅速な開発を可能にすることによって、数十年後には、もはや「乳がん啓発月間」の必要性がなくなるかもしれない。

編集部注:本稿を執筆したThomas Clozel(トーマス・クローゼル)医学博士は、Owkin(オウキン)の共同設立者兼CEOであり、パリのHôpital Henri-Mondr(アンリモンドール病院)の臨床非血液学の元助教授、ニューヨークのWeill Cornell Medicine(ワイル・コーネル・メディスン)のMelnick(メルニック)ラボの元研究員でもある。

画像クレジット:NYS444 / Getty Images

原文へ

(文:Thomas Clozel、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

【コラム】組込型金融ですべての企業がフィンテック企業になるわけではない

ソフトウェアが世界を席巻し始めてから10年に満たない頃、エンベデッドファイナンス(組込型金融)のビジネスモデルの革新と成長によりあらゆる企業がフィンテック企業になりつつある、という見出しが現れた。

このナラティブは、金融サービスセクターで起きている進化を単純化しすぎている。規制された環境での資金の保管・移動や信用供与は難しい。また、自社のオファリングを既存の金融機関と差別化するには、表面的な調整だけでは不十分だ。

フィンテック企業の本質は、ユーザーインターフェイスの強化や、金融サービスをエンドカスタマーに提供することを超えたところにある。それは「水面下にある重要な要素」、つまりフィンテック企業が顧客のために真に革新することを可能にするフルスタックのアプローチにある。

組込型金融は、中核的な金融セクター以外の企業やブランドによる金融サービスの提供を支援するものだ。これには多様なレベルの労力が企業に求められる。例えばStarbucksはアプリ内で統合されたウォレットと支払い機能を提供し、Lyftはドライバーにデビットカードを提供しているが、そうした取り組みに付随するものだ。しかし、それはStarbucksやLyftのフィンテック企業を作るものではない。

誇張の背後にある誤った解釈

「あらゆる企業がフィンテック企業になる」というスタンスの投資家たちは、ホワイトラベルの金融サービス(数十年前から存在する)の復活と、増え続けるバンキング、ペイメント、LaaS(Lending-as-a-Service)のプレイヤーを組み合わせた複数のアプローチを融合させることに強気の姿勢を示している。後者のアプローチでは、企業は多くの中核的な金融サービス業務をアウトソーシングしながら、金融プロダクトのエクスペリエンスをカスタマイズできる。前者は、埋め込み型デリバリーによるシンプルな流通だ。

金融サービスプロバイダーとして完全に機能する上での中核的な原則として、顧客向けプロダクト、取引インフラストラクチャ、リスク管理とコンプライアンス、顧客サービスの4つの要素が挙げられる。融資の場合は第5の原則がある。企業も資本を管理できる必要がある、というものだ。組込型金融は、企業がフィンテックであることの本質の大部分を回避することに役立つ。

ホワイトラベリング対「フィンテックになること」

組込型金融サービスは最近注目を集めているものだが、ホワイトラベルの金融サービスは何十年も前から存在している。例えば、ブランド付きクレジットカードは、ホワイトラベリングの一般的なパラダイムである。それはすぐに消費者の忠誠心を刺激する永続的な方法となったが、金融サービスにおける真の取り組みやノウハウを示すものではなかった。UnitedとAlaskaは、カード所有者である顧客に対して、信用調査、請求の設定、紛争処理を行うことはなく、また、カードにロゴを刻印することによってリスクを負うこともない。パートナーシップは航空会社にとって主要な収益源だが、リスクは金融機関側(Chase、Bank of America、Visa)にある。American Expressによると、クレジットカードローン未払い額の21%は、数年前にDeltaのクレジットカードを所有していた人々によって占められているという。

このホワイトラベルによるアプローチは、他のサービスでも一般的になりつつあり、携帯電話会社のバンキングオファリングのような形式で提供されるようになってきている。金融サービスは複雑で、規制が厳しいため、ブランドはほとんどの業務を専門家に委ねることを選択する。そのため、United、Delta、T-Mobileはそれぞれのブランドで金融サービスを提供しているが、フィンテック企業になりつつあることは決してない。

これとは対照的に、金融サービスをゼロから構築する機会を見出している企業もある。WalmartがGoldman Sachsの人材を獲得し、金融分野(Ribbitがトップ)への進出をリードするという動きは、真のフィンテック企業へのスピンアウトを約束するものだ。

コンプライアンスとリスク管理の専門知識への投資により、導入当初から詳細で関連性の高いインフラストラクチャを構築できるポテンシャルが高まる。これは小売業者の既存の多くのホワイトラベル付き金融パートナーシップの先を行く、重要なステップである。

サービスとしてのプラットフォームの制限

非金融企業が金融アプリケーションを構築するのを支援するツールやターンキーソリューションは、最近になって登場したものである。VCは、APIやバックエンドツールを介して、支払いや融資、そして最近ではバンキングプラットフォームサービス(BaaSとも呼ばれる)を構築する新しいプレイヤーに積極的だ。

支払いサービスや台帳サービスを手がけるスポンサー銀行や処理業者が直接提供する金融インフラストラクチャサービスとは対照的に、これらのプラットフォームは基盤となるインフラストラクチャを抽象化し、使いやすいAPIでラップし、リスク管理、コンプライアンス、サービスなどの中核的な金融要素をバンドルする。こうしたプラットフォームは、企業が金融サービスを提供する際にある程度の自己効力感を提供するが、その主な制限として、設計上汎用であるという点がある。

フィンテックは、従来の金融サービスでは見過ごされ、十分なサービスを受けられなかった顧客に、専門化を通じてサービスを提供する機会を見出した。伝統的な金融機関は、数百のSKUを保有し、すべてのセグメントにサービスを提供するゼネラリストモデルを長い間適用してきた。この戦略は必然的に、銀行が最も収益性の高い顧客のためのサービスにより多くの投資をし、そうした顧客のニーズに向けて最適化すること帰結した。収益性の低いセグメントには、古くて画一的なオファリングが残された。

こうした十分なサービスを受けていないセグメントにおけるフィンテックの成功は、コア顧客の固有のニーズに対応し、顧客のために設計されたプロダクトとサービスの構築に、飽くなき追求と集中力を注ぐことに基づくものだ。この約束を実現するために、フィンテックは、プロダクトのエクスペリエンスや機能セットから、インフラストラクチャやリスク管理、サービスに至るまで、スタックのすべてのレイヤーを革新する必要がある。

UIは差別化には不十分であり、全体的なユニット経済性を考慮しながら顧客のニーズに対応することが重要である。これらの問題に対するあるフィンテックの選択は、異なるセグメントを対象としている場合、他のフィンテックとはまったく異なる可能性がある。例えば、大規模な中小企業ではなくフリーランサー向けに最適化すると、どのデータソースを使用するかを決定したり、オンボーディングとトランザクションのリスクのバランスを調整したりすることに違いが生じてくる。

対照的に、サードパーティのプラットフォームプロバイダーは、幅広い企業に動力を供給し、複数のユースケースを可能にする汎用性を備えている必要がある。これらのサービスと提携している企業は、プロダクトの機能レベルでは構築とカスタマイズを行うことが可能だが、インフラストラクチャと中核的な金融サービスについてはプラットフォームパートナーに大きく依存しているため、パートナーの構成と機能に制限される。

そのため、組み込み型プラットフォームサービスは、クレジットカード処理のようなコモディティ化された単純なタスクには適しているが、エンド・ツー・エンドの最適化を必要とするバンキングのような、より複雑なオファリングで差別化する能力には限界がある。

より一般的にいうと、顧客の視点から考えると、特定のユーザーフロー内に限定された金融サービスを提供して全体的なユーザーエクスペリエンスを向上させる場合は、組み込み型フィンテックパートナーシップが最も効果的と言える。

例えば、企業は販売時点で、第三者プロバイダーを通じてクレジットを提供して購入を可能にすることができる。しかしながら、汎用的な金融サービスや独立型の金融サービスを考えると、組み込み型フィンテックのメリットははるかに小さい。

選ばれるプロダクトの構築

組込型金融の最大の支持者が主張するのは、大企業やブランドは、そのブランド認知度とインストールベースの故に、自社のプラットフォーム上の金融アドオンで成功することができるということである。

しかし、それは市場における選択の現実を見落としている。顧客が会社とのビジネスの一面に携わっているからといって、必ずしもその会社をあらゆるもののプロバイダーにしたいと思うとは限らない。特に、そのサービスが他の場所で手に入るものより劣る場合はそうだろう。

フィンテック市場が活況を呈し、レガシーブランドがこの機会に乗り続ける一方で、垂直化されたフルスタックのフィンテックは、ジェネリックプロダクトに繰り返し勝利するだろう。組込型金融やホワイトラベリングのいくつかの側面は、支払い処理や「Buy Now, Pay Later(今買って後で支払う)」サービスのように、今後も新たなものが現れたり普及したりしていくと思われる。しかし、顧客は「すべての企業はフィンテックである」という誤った見方を退けながら、顧客のために、そして顧客独自のニーズに基づいて構築された銀行やネオバンク、貸し手やツールを引き続き選定していくだろう。

画像クレジット:Busakorn Pongparnit / Getty Images

原文へ

(文:Eyal Lifshitz、翻訳:Dragonfly)

【コラム】イーロン・マスクやスティーブ・ジョブズ、「独創的」な考え方を持つ脳多様性な人たちも活かすソフト設計とは

ホモ・サピエンスは実に多様性に富んだ種である。地球上のさまざまな地域に起源を持つ私たちは、出自に基づく区別を呈する姿をしており、コミュニケーション手段には何千もの言語が存在する。そしてそれぞれの経験、伝統、文化に基づいた異なる思考パターンを持ち合わせている。私たちの脳は、そのすべてに独自性がある。このような特性をはじめとするあらゆる機能を駆使して、私たちは問題を分析し、意思決定を行う。

これらの要素はすべて、私たちがビジネスを行う方法と、職務を遂行するためにツールを使用する方法に直接影響している。ビジネスを上手く進めることは、ほとんどの人にとって課題をともなうチャレンジングなものだ。しかし、ニューロダイバース(神経学的に多様)の特性を有する人々、故Steve Jobs(スティーブ・ジョブズ)氏がかつて述べたような「think different(異なる考えを持つ)」プロフェッショナルたちは、その才能が企業内でしばしば過小評価されるか、未開拓である、独自の類型となっている。こうした企業は、標準化に価値を置き、通常のワークパターンからの逸脱は限定的であることを好む傾向にある。

ニューロダイバーシティ(神経多様性 / 脳の多様性)の役割

ニューロダイバースな資質を持つ(ニューロダイバージェント)人々は、主流派とは異なる方法で情報を処理する。自閉症スペクトラム、失読症、注意欠陥障害(ADD)を持つ人々もその例として挙げられるが、専門家は全人口の40%がニューロダイバージェントであると考えている。

優秀なセールスパーソンほど粘り強さを発揮し「独創的」な考え方をすることが多いことを勘案し、このパーセンテージはセールス専門職ではさらに高くなると思う人も少なくない。あるセールスチームの誰かがスーパースター級のセールスパーソンであっても、彼らが情報や他者とどのようにやり取りするかに影響を与える神経学的変異を持っているという可能性は低い。こうしたことから、ニューロアティピカル(神経学的に非定型)な人々をセールス組織に統合し、彼らを成功に導く知恵についての非常に興味深い議論が生じている。

例えば、セールスパーソンはCRM(Customer Relationship Managementm、顧客関係管理)ソフトウェアシステムを利用している。このシステムでは、すべての記録、ワークフロー、アナリティクスが標準化されており、ユーザーエクスペリエンスはシステムに設定された1つの方法に限定されている。

だが、このような複雑で柔軟性に欠けるシステムを誰もが最適に使用できるわけではない。特に、ユーザーインタラクションレイヤーが非常に厳しく制限されている場合はなおさらだ。ニューロダイバースな人々の多くは、特に「独断的」なアプリケーションを使うことに困難を感じる。このようなアプリケーションでは、ユーザーに特定の作業方法を押し付ける傾向があり、ときにユーザーの人間性のすべての面、つまり情報を処理し、ワークフローをナビゲートするユーザー独自の方法を考慮しないこともある。そのため、ほとんどのセールス組織において、最も高いパフォーマンスを発揮するセールス担当者は、CRMを最低限しか更新していないことが多い。ノートテイキングアプリケーション、タスク、スプレッドシートなどの基本的なツールで取引のパイプラインを管理しているセールス担当者が多いのも、こうした理由からだろう。

ニューロダイバースなプロフェッショナルは、異なる視点と強みをもたらし、しばしば現状に挑戦する。思考の多様性が、特別なやり方で組織に力を与えるのだ。

企業はニューロダイバースの人材から何を得るべきだろうか?

JP Morgan(JPモルガン)は、2015年にニューロダイバーシティのパイロットプログラム「Autism(自閉症)at Work」を立ち上げた。その結果は注目に価するものであった。このプログラムに参加した従業員は、同僚よりも48%早く仕事を完了し、92%生産性が高かった。オーストラリアのDepartment of Human Services(福祉省)の別のパイロットプログラムの結果によると、同組織のニューロダイバースなソフトウェアテストチームは、ニューロティピカル(神経学的に定型)なチームよりも30%生産性が高くなっていた。

自閉症の人の多くは細部にまで強いこだわりを持つことが知られている。例えば、自閉症スペクトラムの7歳の少年は、歴史上のあらゆる難破船の詳細を暗記している。この種の情報への集中と欲求は、適切な役割に利用されることで、驚くべきポテンシャルが生み出される。自閉症の人材は、データアナリティクス、技術サービス、ソフトウェアエンジニアリングなど、知識経済の急成長分野の一部に理想的に適していることも多い。実際、Tesla(テスラ)のCEOであるElon Musk(イーロン・マスク)氏は、自身が自閉症の一種であるアスペルガー症候群であることを最近明らかにしている

ニューロダイバーシティの別の領域として、独創的な考え方をする人は失読症であることが多い。世界を変革した失読症の人々について考えてみよう。Steve Jobs(スティーブ・ジョブズ)氏、Richard Branson(リチャード・ブランソン)氏、Bill Gates(ビル・ゲイツ)氏。これはほんの一部の例にすぎない。彼らに共通しているのは、世界を違った目で見る能力である。

ソフトウェアのジレンマ

企業はこうしたメッセージを意識し始めている。ニューロダイバージェントの従業員は才能と貢献の巨大な源泉として評価されるべきであるという認識である。同時に、2020年の出来事をきっかけに、あらゆる種類の社会的不公平に対する意識が高まり、より多くの組織がニューロダイバーシティを多様性、公平性、インクルージョンの取り組みの一環として認識するようになった。

しかしこれまでのところ、焦点が当てられているのは、雇用、トレーニング、オンボーディングプロセス、さらにはオフィス設計(私たちがオフィスに復帰した場合)がどのようにしてニューロダイバージェントの人々にとってより包括的になることができるのかということだ。例えば、SAP(エスエイピー)とMicrosoft(マイクロソフト)は、ニューロアティピカルの従業員をより多く雇用する取り組みを拡大している。

こうしたイニシアティブは重要であるが、ソフトウェア企業は一歩進んで、中核的な設計レベルでアプローチを変える必要があると私たちは考えている。

多くのソフトウェアは、ユーザーの視点からすべてのものがどのように感じられ、どのように流れるかについてほとんど、またはまったく配慮することなく、ユーザーに特定の作業方法を課している。そしてその過程で、この硬直的なシステムは、ニューロダイバースな人々を排除してしまう。その結果、ユーザーは日々の業務で課題に直面することになる。これまで提供されてきたツールは、標準化という名の下に、情報の処理方法やワークフローの操作方法に適合していないのである。そして、組織はツールやシステムの適用状況が不十分であることに悩まされている。

このようなことを意図的に行っているベンダーは存在しない。ただ、実行して良い結果を出すのは難しいということである。しかし、あらゆるユーザーを念頭に置き、すべてのユーザーが同じように効率的かつ生産的になれるような、共感できるソフトウェア設計を追求することは、すべてのソフトウェア企業にとってコアバリューとなるはずだ。それは、すべての「ユーザー」が同じではないことを認識し、尊重することから始まる。そうすることで、より多くの人々が自然に利用できる、より柔軟でアプローチしやすいソフトウェアを設計する道が開けてくるだろう。

セールス組織がニューロダイバージェントの人材を多く擁しているとしたら、間違った種類のツールがもたらす影響を想像してみて欲しい。例えば、ADHD(注意欠陥・多動性障害)を持つ人に大量の単調なデータ入力タスクを要求するCRMソフトウェアのようなものだ。熟練した、ニューロダイバースなセールスパーソンが、自分の潜在能力を十分に発揮するには不適切なツールを与えられたために、フラストレーション、潜在能力の喪失、士気の低下が生じてしまうことを想像して欲しい。

業界全体として、ソフトウェアのユーザーエクスペリエンスについての考え方を広げ、柔軟性を主要な設計原則として組み込む時期がきているといえるだろう。

編集部注:本稿の執筆者Pouyan Salehi(プーヤン・サレヒ)氏は、Scratchpadの共同設立者兼CEO。

画像クレジット:Hiroshi Watanabe / Getty Images

原文へ

(文:Pouyan Salehi、翻訳:Dragonfly)

【コラム】ESG目標達成の鍵を握るのは取締役会やCEOではなく技術チームのリーダー

スタートアップ企業のCTO(最高技術責任者)や技術チームのリーダーは、会社創立のその瞬間からESG(Environmental[環境]・Social[社会]・Governance[企業統治])を重要事項として扱う必要がある。なぜなら、投資家が、ESGを重視するスタートアップ企業を優先的に評価して、持続可能性を重視した投資を行う傾向が高まっているからだ。

あらゆる業界にこの傾向があるのはなぜだろうか?答えは簡単だ。消費者が、持続可能性を重視しない企業を支持しなくなっているからである。IBMの調査によると、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、消費者の持続可能性(サステナビリティ)への関心と、持続可能な未来のために自身が支出することを許容する意識が高まったという。また、米国がパリ協定に復帰し、最近では気候関連への取り組みに関する大統領令が出されるなど、気候変動に対する米国政府の動きも活発化している。

ここ数年、長期的なサステナビリティ目標を設定する企業が増えているが、CEOやCSO(最高サステナビリティ責任者)が設定する目標は、往々にして長期的かつ野心的なものだ。ESGプログラムの短期的、中期的な実施は運営チームや技術チームに委ねられている。

CTOは、計画プロセスにおいて重要な役割を担っており、組織がESG目標を飛躍的に向上させるための秘密兵器となり得る。ここからは、CTOと技術チームのリーダーがサステナビリティを実現し、倫理的にポジティブなインパクトをもたらすためにすぐにできることをいくつか紹介する。

環境負荷を軽減する

企業のデジタル化が進み、より多くの消費者がデバイスやクラウドサービスを利用するようになった現在、データセンターが消費するエネルギーは増加し続けている。実際、データセンターの電力使用量は全世界の電力使用量の推定1%を占めているといわれているが、International Data Corporation(インターナショナル・データ・コーポレーション)の予測によると、クラウドコンピューティングを継続的に導入することで、2021年から2024年にかけて10億トン以上の二酸化炭素の排出を防ぐことができるという。

コンピューティングワークロードの効率化を図る。まず、コンピューティング、電力消費、化石燃料による温室効果ガス排出の関連性を理解することが重要だ。アプリやコンピューティングワークロードの効率化を図ることで、コストとエネルギー消費を軽減し、ワークロードの二酸化炭素排出量が削減することができる。クラウドでは、コンピューティングインスタンスの自動スケーリングや適正サイズの推奨などのツールを利用して、需要に対してクラウドVM(バーチャルマシン)を過剰に実行したり、オーバープロビジョニングしたりしないようにすることに加え、このようなスケーリング作業の多くを自動的に行うサーバーレスコンピューティングに移行することも検討の余地がある。

コンピューティングワークロードを二酸化炭素排出原単位(Carbon Intensity、一定量の生産物をつくる過程で排出する二酸化炭素排出量)の低いリージョンに配置する。これまでクラウドのリージョンを選択する際には、コストやエンドユーザーに対する遅延などの要素が重視されていた。しかし現在は、二酸化炭素排出量も考慮すべき要素の1つである。リージョンのコンピューティング能力が同程度でも、二酸化炭素排出量は異なることが多い(他の地域よりも二酸化炭素排出量の少ないネルギー生産が可能な地域は、二酸化炭素排出原単位が低くなる)。

そのため、一般的に、二酸化炭素排出原単位の低いクラウドリージョンを選択することは、最も簡単で効果のあるステップである。クラウドインフラのスタートアップ企業、Infracost(インフラコスト)の共同創業者かつCTOのAlistair Scott(アリスター・スコット)氏は、次のように強調する。「クラウドプロバイダーは正しいことを行い、無駄を省きたいと考えるエンジニアを支援できると思います。重要なのは、ワークフローの情報を提供することです。そうすれば、インフラプロビジョニングの担当者は、デプロイする前に、二酸化炭素排出量への影響と、コストやデータレイテンシーなどの要素を比較検討することができます」。

もう1つのステップは、Cloud Carbon Footprintのようなオープンソースソフトウェアを使って、特定のワークロードのカーボンフットプリントを推定することである(このプロジェクトにはThoughtWorksが協賛している)。Etsy(エッツィー)も、クラウドの使用情報に基づいてエネルギー消費量を推定できるCloud Jewelsという同様のツールをオープンソースで提供していて、Etsy自体もこれを利用して「2025年までにエネルギー強度を25%削減する」という目標に向けた自社の進捗状況を把握している。

社会的インパクトを作り出す

CTOや技術チームのリーダーは、環境への影響を軽減するだけでなく、社会的にも直接的で意義のある、大きなインパクトをもたらすことができる。

製品の設計に社会的な利益を盛り込む:CTOや技術系の創業者であれば、製品ロードマップで社会的利益を優先させることができる。例えばフィンテック分野のCTOは、十分な金融サービスを受けられない人々が借り入れをする機会を拡大するための製品機能を盛り込むことができるが、LoanWell(ローンウェル)のようなスタートアップ企業は、主に金融システムから排除されている人々が資本を利用できるようにして、ローン組成プロセスをより効率的かつ公平にしようとしている。

製品デザインの検討にあたっては、有益で効果的なデザインにすると同時に、サステナビリティも検討する必要がある。サステナビリティと社会的インパクトを製品イノベーションの中核として捉えれば、社会的な利益に沿うかたちで差別化を図ることができる。例えばパッケージレスソリューションの先駆者であるLush(ラッシュ)は、スマートフォンのカメラとAIを利用して商品情報を見ることができるバーチャルパッケージアプリ「Lush Lens」で、美容業界で過剰に使用されている(プラスチック)パッケージに取り組んでいる。同社のプレスリリースによると、Lush Lensは200万回の利用を達成したという。

社会的な弊害を避けるためには、企業は責任あるAIプラクティスという文化を持つ必要がある:機械学習と人工知能は、製品やおすすめコンテンツの表示、さらにはスパムフィルタリング、トレンド予測、その他「スマート」な行動に至るまで、高度でパーソナライズされたデジタルエクスペリエンスの中心となり、誰もが慣れ親しむものとなった。

そのため、責任あるAIプラクティスに取り組み、機械学習や人工知能がもたらす利益をユーザー全体で実現すると同時に、不慮の事故を回避することが重要である。まずは、責任を持ってAIを利用するための明確な原則を定め、その原則をプロセスや手順に反映させることから始めよう。コードレビュー、自動テスト、UXデザインを考えるのと同じように、責任あるAIプラクティスのレビューを考えてみよう。技術系の創業者や技術チームのリーダーは、こういったプロセスを確立することができる。

企業統治へのインパクト

企業統治の推進には、取締役会やCEOだけではなく、CTOも重要な役割を担っている。

多様性、包括性を備えた技術チームを構築する:多様性のあるチームが、1人の意思決定者よりも優れた意思決定を行う確率は87%である。また、Gartner(ガートナー)の調査では、多様性のある職場では、パフォーマンスが12%向上し、離職率が20%軽減するという結果が出ている。

技術チームの中で、多様性、包括性、平等性の重要性をしっかりと示すことが重要であるが、この取り組みにデータを活用する、というのも1つの方法である。性別、人種、民族などの属性情報を収集する自主的な社内プログラムを確立できれば、このデータは、多様性のギャップを特定し、改善点を測定するためのベースラインとなる。さらに、これらの改善点を、目標と主要な成果(objectives and key results、OKR)など、従業員の評価プロセスに組み込むことも検討し、HR部門だけでなく、全社で全員が責任を担うようにする。

これらは、CTOや技術チームのリーダーが企業のESG推進に貢献する方法を示すほんの一例である。まずは、会社設立と同時に、技術チームのリーダーとして何らかのインパクトをもたらすことができるたくさんの方法を認識することが重要だ。

編集部注:本稿の執筆者Jeff Sternberg(ジェフ・スターンバーグ)氏は、Google CloudのOffice of the CTO(OCTO)のテクニカルディレクター。

画像クレジット:Maki Nakamura / Getty Images

原文へ

(文:Jeff Sternberg、翻訳:Dragonfly)

【コラム】包括的なマーケティングチャネル、ニュースレターを成長させるための実証済みの戦術

メールによるニュースレターほど包括的なマーケティングチャネルは他にはない。ニュースレターならオーディエンスとのダイレクトな通信ラインを所有できる。投資収益率は40倍(1ドルの投資で最大40ドルの利益)、拡張性はほぼ無限、コストはほぼゼロだ。

しかし、こうした利点を引き出すには、戦術が必要だ。この記事では、Demand Curveで使用している戦術を紹介する。この戦術により、Demand Curveでは、質の高い5万人を超える購読者を獲得し、開封率50%以上を維持している。

60%ルールを使用してポップアップによるコンバージョン率を上げる

ポップアップは侵襲的と考えられることが多いが、やはり機能する。平均でも、サイト訪問者の3%をコンバージョンする効果がある。戦略的で高パフォーマンスのポップアップならコンバージョン率は10%に達することもある。

コンバージョン率が高く侵襲性の低いポップアップにするには、60%ルールに従ってみるとよい。

  1. ポップアップを表示するページを選択する。コンバージョンを重視したページ(製品ページ、チェックアウト、サインアップなど)以外のページを選択するようにする。当社の調査ではコンテンツページが最適だ。コンテンツページは何か特定の情報を探しているページ訪問者にとって信号の役目を果たす。
  2. ウェブサイト分析ソフトウェアを起動して、そのページの平均滞在時間を確認する。
  3. そのページの平均滞在時間の60%が経過したらポップアップが表示されるよう設定する。

例えば平均滞在時間が50秒のページであれば、そのページに訪問者がランディングしてから30秒経過した時点でポップアップが表示されるように設定する。

なぜ60%なのか。読者は貴社のコンテンツに興味を示しているが、ページを離れるときが近づいている。そのタイミングでニュースレターを購読するよう促して、メールの代わりにより適切なコンテンツが表示されるようにすることは、適正だと受け止められるだろう。

ニュースレターのサンプルを掲載して品質の高さを示す

貴社のコンテンツを初めて見る訪問者に、ニュースレターの購読を勧めて成功すれば大きく前進する可能性はあるが、大半の新規訪問者はすぐには購読しない。新規訪問者と購読者の間のギャップを埋めるには、サインアップページにサンプルを掲載するとよい。最も魅力的なニュースレターをサンプルとして掲載して、コンテンツの質の高さを示すようにする。

最も魅力的なニュースレターを探すには、既刊号を開封率と返信でフィルタリングする。メールサービスプロバイダーにアクセスして、発行済みのニュースレターを開封率で並べ替えてみるとよい。これによりどのような件名のニュースレターが既存の読者に最も人気があるのかを特定できる。

次に、受信箱に移動して、ニュースレターに対する返信を並べ替えて、読者からの返信が最も多かったニュースレターを特定する。これは、その号が最も反響が大きく、無料サンプルとしてふさわしいことを示す良い証拠となる。

画像クレジット:Demand Curve

実在の人物からのメールのほうが開封率が高い

読者はサインアップした後のウェルカムメールを反射的に無視することが多い。しかし、ウェルカムメールを開く読み手のほうが、以降のニュースレターを毎回開く可能性が高い。

新規購読者がウェルカムメールを開くように促すには、購読に感謝するメールの配信を意識的に遅らせたり、送信者がはっきり分かるようにするなどして、ウェルカムメールのパターンを崩してみる。

ウェルカムメールの配信を45分遅らせる。これにより、サインアップ後数秒以内に配信されるメールを無視する新規購読者の反射的反応を回避できる。当社の調査によると45分が理想的だ。45分というのは従来のパターンを崩すには十分長い遅延であるが、ウェルカムメールが受信箱内に埋もれてしまうほど長くもない。

ウェルカムメールは、ビジネスアカウントからではなく、個人が送信するようにする。送信者を企業の創業者か確立されたオーディエンスを持つ人物にするととりわけ効果的だ。会社のロゴではなくその人物の写真を使うことで、メールが引き立つ。

送信者個人の受信箱があふれるのを防ぐには、メール送信専用に使用するウェブサイトのサブドメインを作成する。送信者のアカウントを作成し、以降ニュースレターの発行にはそのアカウントを使用する。これにより送信者の受信箱があふれるのを回避できるため、送信ドメインの健全性を維持できる。

画像クレジット:Demand Curve

新規購読者に特別号を送る

新規購読者は初回号の受信を楽しみにしている。新規購読者に確実に満足してもらうには、既刊号で特に良かったものを寄せ集めた初回特別号を作成するとよい。ただし、サインアップページにサンプルとして掲載したのと同じコンテンツは使わないように注意すること。

この初回特別号をウェルカムメールといっしょに送信して、新規購読者にニュースレターの価値(良さ)を分かってもらうようにする。これまでで最も良かった号を最初に送信しておけば、購読者は、以降の号も楽しみに待っていてくれる。

ウェルカムメールは長ったらしいものよりも簡潔でコンパクトにしたほうがよい。ウェルカムメッセージは簡潔にし、初回号は内容を充実させるようにする。ウェルカムメールと初回特別号が届いたら、以降は定期的な頻度で発行する。

画像クレジット:Demand Curve

発行回数を減らすことを検討する

Twitter上の2万4000人のマーケターたちを対象に「ニュースレター疲れ」で購読解除していないかというアンケートを実施したところ、

発行数が多過ぎるニュースレターは購読解除するという回答者が8割もいた。

購読者を疲れさせないためには、以下の点に注意する。

購読者がニュースレターの受信頻度を調整できるようにする:週1回の頻度で受信したい購読者もいれば、月1回で十分という購読者もいる。各号の末尾に、オプトアウト用のリンクを置いて、購読者がニュースレターの受信頻度をカスタマイズできるようにする。受信頻度は下がっても購読状態は維持されるようにすれば、その購読者とのつながりを保つことができる。完全に購読解除されるのは避けるようにしたい。

発行回数を減らす:四半期ごとの最大発行部数に制限をかけるようにすれば、必然的に、限られた部数のコンテンツを充実させようと努力するようになる。単に、購読者の受信箱に入り込むという目的のためだけに発行部数を増やしても、あなたも読み手も疲弊するだけだ。当社調査によると、発行部数とコンバージョン率の間には相関関係はないことが分かっている。

お堅い内容だけでなくおもしろい内容も含める

受信箱内の大半のメールはお堅い内容だ。目立つには、ウェブから収集した愉快なミーム、ジョーク、おもしろいリンクなどを含めるようにするとよい。

この戦術は毎号読者を楽しい気分にさせるという意味で、極めて効果的だ。毎号、すべての購読者の共感を呼ぶ内容を書くのは不可能だ。対照的に、ユーモアは何人にも通じる。おもしろい笑えるコンテンツを含めることで、すべての読者に満足感を与えることができる。

これはニュースレターを読む習慣の形成にも役立つ。毎号、少し内容が違っていれば、読者は、新しい号が届いたときに、どのような内容なのか分からない。ニュースレターの末尾に何かおもしろい内容を書くようにすると、読者にご褒美を与えることになって効果的だ。つまり、お堅いものを読んだ後に、笑えるものでご褒美を与えるというわけだ。

当社では毎号ミームを追加するようにしている。読者からはとてもおもしろかったという感想をいただいている。

画像クレジット:Demand Curve

他者への紹介をシームレスに行えるようにする

購読者が他者に紹介してくれれば、ニュースレターをコストなしで成長させることができる。購読者が他者に紹介してくれる可能性を高めるには、紹介プロセスを25秒以内に抑えるようにする。

毎号の終わりにニュースレターを他者に紹介できることを読者に知らせる。簡単なのは、興味を持ってくれそうな友人にメールを転送してもらう方法だ。ニュースレターの冒頭部分に、紹介された人が購読手続きを実行できるページへのリンクを含む短い文を含めるようにする。

もう少し高度な戦術として、紹介プログラムに対する購読者の一意なリンクを含めて、購読者が自分で紹介した人数を追跡できるようにする方法もある。メールやソーシャルメディア経由で共有するオプションも用意しておく。

毎号ウェブ版も用意して、メール以外でも簡単にコンテンツを共有できるようにしておく。大半のメールサービスプロバイダーはウェブ版を自動生成して、ソーシャルメディア等で拡散できるようにしている。また、コンテンツをコピーしてウェブサイトにブログ記事として投稿すれば、検索エンジンにも引っかかるようになる。

ニュースレターを紹介してくれた購読者に報酬を与えることを検討する。商品が紹介の動機となるのは、貴社のブランドが有名かかなり特殊な場合だけだ。当社は排他的コンテンツを使用して紹介を奨励することをお勧めしている。5人以上の友人を紹介してくれた購読者に毎月特別号をお送りする。これにより、コストを抑えながら、購読者により豊富な情報を提供できる。

紹介が効果を表すには購読者が最小必要人数を超えている必要がある。当社の調査によると、購読者約1万人がしきい値であることが分かっている。ただし、オーディエンスのエンゲージメントが非常に高いか、コミュニティがアクティブな場合は、無料の紹介プログラムを実装しても事実上不都合が生じることはない。

フォロワーを購読者に変える方法

購読者はソーシャルメディアを介して貴社のコンテンツを知るようになるかもしれないが、ソーシャルメディアのオーディエンスはそのメディアプラットフォームのものであり、貴社はそうした購読者と直接やり取りするためのチャネルを所有しているわけではない。フォロワーをニュースレターの購読者に変えることができれば、オーディエンスとダイレクトにやり取りして、関係を深めることができる。

フォロワーにニュースレターの購読を売り込むには、自分の略歴にリンクを含めるとよい。これは当たり前のように聞こえるかもしれないが、実際にそうしている人は少ない。あなたのソーシャルメディアのプロフィールを見た人に、ニュースレターにサインアップするよう呼びかけるのだ。そうしなければ、見た人は、貴社がニュースレターを運営していることさえ分からない。

ツイッターのスレッドやLinkedInの投稿を途中で切り上げて、すべてを読むにはニュースレターの購読をどうぞ、と呼びかけることもできる。

ニュースレター経由でしかアクセスできないオファーや独自のコンテンツを作成するのもよい。これにより、貴社のメーリングリストに参加して排他的なコンテンツや特殊なオファーを受け取るようフォロワーを動機づけることができる。

まとめ

新規購読者の獲得:自社のサイトで、適切なポップアップを購読の意志がある読者にのみ表示する。ニュースレターのサンプルを掲載して、貴社のニュースレターを購読すべき理由を示す。ウェルカムメールを目立たせ、初回号としてこれまでで最も良かった号を送る。

購読者の維持:購読者のもっと読みたいという気持ちを保つため、発行回数を抑える。ユーモアやおもしろいリンクを散りばめて、ニュースレターの購読を習慣にしてもらう。

ニュースレターの拡大:排他的なコンテンツやオファーを使って、貴社のソーシャルメディアのフォロワーにニュースレターを購読してもらうように仕向ける。購読者にニュースレターを他者に紹介してもらうことで購読者ベースの拡大を図る。

編集部注:本稿の執筆者Stewart Hillhouse(スチュワート・ヒルハウス)氏は、Demand Curveのシニア・コンテンツ・リードとして、実用的なグロース・マーケティングの洞察をまとめている。夜にはポッドキャスト「Top Of Mind」でマーケターやクリエイターにインタビューしている。マーケティングの世界に入る前は、セミプロの木こりだった。また、stewarthillhouse.comで執筆活動を行っている。

画像クレジット:Ihor Reshetniak / Getty Images

原文へ

(文:Stewart Hillhouse、翻訳:Dragonfly)