処方箋なしでも病院の薬が買える「零売薬局」を展開するGOOD AIDが総額2億円のシリーズB調達

処方箋なしでも病院の薬が買える「零売薬局」を展開するGOOD AIDが総額2億円のシリーズB調達

処方箋がなくても必要最低限の薬を購入できる「セルフケア薬局」(旧「SD C」)を展開するGOOD AID(グッドエイド)は8月11日、シリーズBラウンドにおいて、第三者割当増資による総額2億円の資金調達を実施したことを発表した。引受先は、JR東日本スタートアップ、三菱UFJキャピタル、SMBCベンチャーキャピタル、名古屋中小企業投資育成、その他の個人投資家数名。

医師の処方箋がなくとも、薬剤師と相談の上で一部の医療用医薬品を必要最低限購入できる「零売薬局」という制度がある。保険適用外となるため料金は実費となるが、医療機関にかかる時間を節約でき、4日間という処方箋の期限に縛られないなどのメリットがある。だが、まだ一般にはあまり馴染みがない。GOOD AIDは、その「零売」を行う「セルフケア薬局」を関東・東海・関西で展開しているが、コロナ禍で医療機関での受診が困難な人たちの需要に応えるべく、今回の投資を出店拡大・認知度向上のためのマーケティング戦略に活用するという。

GOOD AIDの子会社となる「セルフケア薬局」は、「JR東日本スタートアッププログラム2020」の共創パートナーに採択され、2021年2月にはJR西国分寺駅の「駅ナカ」にセルフケア薬局を出店する実証実験などを行ってきた。5月には、セルフケア薬局の拡大のほか、医療とヘルスケアサービスをシームレスにつなぐ「スマート健康ステーション」の実現と多拠点化を進めるために、JR東日本スタートアップと資本業務提携を結んだ。「忙しい毎日でも、もっと健康を身近に」できる社会を目指すとGOOD AIDは話している。

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カテゴリー:ヘルステック
タグ:GOOD AID(企業)JR東日本スタートアップ(企業)資金調達(用語)日本(国・地域)

Nuroがトヨタ・プリウスベースの自動運転車と自社製R2配達ロボで米大手薬局チェーンの処方薬を配達

ソフトバンク・ビジョン・ファンドやGreylock(グレイロック)などの投資企業から10億ドル(1070億円)以上を調達した自律型ロボットのスタートアップであるNuro(ニューロ)は米国時間5月28日、米国の大手薬局チェーンのCVS Pharmacy(CVSファーマシー)と提携して、処方薬の配達試験をヒューストンで実施すると発表した。この試験運用でNuroは、まずはトヨタ・プリウスをベースにした自動運転車を使い、あとで自社製R2配達ロボットに切り替えていくという。開始予定は6月となっている。

今回の提携によりNuroは、食料品を超えて医療へと範囲を拡大することになる。先月、同社はその自動配達車を使って、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミック対応として建てられたカリフォルニアの仮設病院への食料品と医療用品を配達するなど、医療分野への足がかりを作っていた。

今回の試験運用は、テキサス州ベルエアーにあるCVS Pharmacyの1店舗を中心に行われ、3つの郵便番号の地域が配達の対象となる。利用者は、CVSのウェブサイトまたは薬局アプリで処方薬を注文すると、そこで自動配達のオプションが選べるようになる。このとき、処方薬以外の商品をついでに頼むことも可能だ。自動配達車が到着したときに、利用者は自分の身元証明を行うと品物が受け取れるようになる。CVSの利用者であれば配達料金は無料。

「処方薬の配達は、次第に需要が高まっています」と、CVS Health(CVSヘルス)店舗運営担当上級副社長Ryan Rumbarger(ライアン・ランバーガー)氏は、事前に用意されていた声明の中で述べている。「私どもの薬局へ足を運んでいただくことが難しい今の時期、お客様がいち早く必要なお薬を入手できる方法を増やしたいと考えています」。

Nuroは、すでにヒューストン地区での運用を開始している。Wlamart(ウォルマート)は、昨年12月にヒューストン市場でNuroの自動運転車を使った食品の自動配達を試験的に行う計画を発表した。この試験運用では、自動配達を望むヒューストンの一部の人たちを対象に、Walmartのオンラインストアで購入した商品をNuroの車両が配達する。これには、運転者やその他の人を乗せず、品物だけを運べるNuroの自社開発配達車両R2とプリウスが使われる。

Nuroはまた、2018年、自動運手化したプリウスと、R1として知られる初代の自社開発ロボットを使った試験を、スーパーマーケット大手チェーンのKroger(クロガー)とその傘下のスーパーマーケットFry’s(フライズ)との提携で進めている。R1は、アリゾナ州フェニックスの郊外スコッツデールで、安全のための運転者を乗せない無人配達サービスにも使われていた。2019年3月には、Krogerの配達サービスをヒューストンに移し、自動運転化したプリウスで開始している。

画像クレジット:Nuro

医療用品や食料を自動配達する、人と接触しないNuroのプログラムも続いている。昨年4月に始まったこのプログラムでは、NuroのR2ロボットを使って2つの施設で実施された。ひとつはサンマテオのイベントセンター、もうひとつはサクラメントのスリープ・トレイン・アリーナだ。これらは現在、新型コロナウイルス患者のための仮設病院になっている。Nuroは、毎週、双方の施設の50人以上の医療スタッフに食事と用具を配達している。

仮設病院でのプログラムがいつまで続くかは不透明だ。先週、この2つの仮設病院に入院していた患者は25人だった。スリープ・トレイン・アリーナは、カリフォルニア州機器管理局を通じて6月30日まで患者を受け入れる。この仮設病院は、今年末まで山火事の被災者のためのシェルターとして使われる可能性もある。

画像クレジット:Nuro

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(翻訳:金井哲夫)

マーク・アンドリーセンやナイチンゲールから学ぶ「真空状態に何かを作ること」

建築工学のエンジニアを喜ばせたければ、宇宙でどんな建物が作れるかを聞いてみるといい。重力と空気力学の制約から解放されれば、一人の人間でも超高層ビルをレゴのように動かせる。地球の重力から逃れるのに必要なロケット燃料のほんの数分の一で、大量の物を動かせるようになる。真空の世界では、ダイソン球のような超現実的なものまで作れてしまう。

問題は、それを地上に持ち帰ろうとしたときに、大気圏の突入でバラバラになり、着地すれば自重で潰れてしまうことだ。

米国の名門VCであるAndreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)の共同創業者の一人、Marc Andreessen(マーク・アンドリーセン)氏が書いた、「IT’S TIME TO BUILD」(つくる時間が来た)という記事を読んで、私はそんなことを考えた。同世代で最も印象に残る起業家であり投資家であるマークは武器を手に取って、技術コミュニティーに対してクリーンエネルギー、教育、効率的な医療といった難題を何かを作ることで解決しようと訴えた。これは正しい提案だ。だがもし、2008年の経済危機の最中に銀行の重鎮が世界情勢を見渡して「今こそ金融だ!」と持論を著したとしたら、即座に笑いものにされていただろう。それと同じことをさらに強く訴えたところで、今も賛同は得られない。

ソフトウェア業界には、そうした危機には見舞われなかった。それはソフトウェアの社会基盤のおかげでもある。盤石なコードの基礎と、たゆまないエンジニアの努力により、経済が止まった中でも私たちは機能していられる。しかし今は作る好機であるのと同時に、これらの難題がなぜ今まで解決できなかったのかを聞いて理解する好機でもある。なぜなら真空状態では作ることを継続できないからだ。

間違いなく技術系企業や起業家の間には、政治家、政策団体、市民団体など、実際にユーザーや顧客になる可能性がない人たちを、商売繁盛のための仕事を邪魔するものと見なす習慣がある。今の世界で大成功を享受しているハイテク企業は、そうした真空地帯から生まれてきた。

だが、新しいエネルギーシステムを構築しようとすれば、どうしても政治や政策と深く関わることになる。終わりのない医療の課題を解決するには、あらゆる特殊ケースに対処しなければならない。教育と技能訓練を拡充しようと思えば、そもそも多くのコミュニティーがそれらのサービスを利用できないでいる社会の構造的問題を理解する必要がある。これらの課題に取り組む際には、それぞれに対応した考え方、行政と関わろうとする意欲、それを作った影響で二次的に引き起こされる物事を考える工学上の習慣、信用と法的責任を超えて社会的責任を考える取締役会が求められる。

危機の際に何かを作る方法を知りたい方は、以前から複雑な問題に取り組んできたイノベーターや起業家に学ぶといい。私の場合は、Florence Nightingale(フローレンス・ナイチンゲール)だ。

2020年5月12日はナイチンゲールの生誕200年の記念日。さまざまな功績が知られているが、中でもクリミア戦争での従軍看護に与えた影響が大きい。

最前線から帰還した負傷兵のひどい状態を見た彼女は、死因の調査に乗り出した。データの収集と活用による新しい方法を考案して実践し、当時の偉大なるイノベーターであったIsambard Kingdom Brunel(イザムバード・キングダム・ブルネル)とEdmund Alexander Parkes(エドモンド・アレクサンダー・パイクス)博士とともにまったく新しい看護方法を開発し展開した。さらに、新しいタイプの病院をレンキオイに建設した。彼女はその過程で、戦争と医療と女性としてのルールを破った。彼女は、疲労困憊した実践家としてではなく、変革に意欲を燃やす起業家として、あらゆる問題に取り組んだ。一部の調査によれば、レンキオイ病院の死亡率は9割減少したという。

だが、ナイチンゲールがもたらした最も大きな影響は、これではない。英国に帰国した彼女は、医療のいちばんの課題は、大きな技術的問題ではなく、行動と政治の問題であることに気がついた。そこで彼女は、人材を集め、看護の機構そのものの改革に取り組んだ。ナイチンゲール財団を設立して看護師を養成し、新しい看護方法を広めるために、米国、インド、日本に何度も看護師を派遣した。また彼女はさまざまな政府に掛け合って、家庭の衛生に関する法律の改定にも取り組んだ。わかりやすい言葉での執筆も数多くこなし、近代看護の基礎となる教科書も制作している。それから200年。英国政府は完全装備のICU病院をロンドンの中心部にわずか9日間で作り上げた。今そこは、ナイチンゲール病院と呼ばれている。

この危機に際して、ルールが破られようとしている。そこから生まれのは、通常のものではない。私たちが望めば、またそうすべきなのだが、私たちに強い回復力を与え、強い影響力で多くの人生を変革するものが作れる。フローレンス・ナイチンゲールが発見したように、もっとも難しい課題は、エンジニアだけで解決できる技術的な問題ではなく、社会の問題だ。

実際それがどのような形をしているかはいろいろだ。手始めに自社の企業内文化について考えてみよう。Doteveryonのconsequence scanningのようなツールを使って、最初のユーザーの先に自分が作るもののインパクトを考えてみることだ。Govtech FundPublic.ioといったファンドの活動を通して、企業内の新しい世代が政策問題とどう関わるを見ることから始めてもよいだろう。The Good Webプロジェクトなど、今回の危機で表面化したウェブの本質的な弱点への対処に取り組むプロジェクトに参加することから始めるのもよい。取締役会の運営を改善に興味があるなら、BaldertonのGood Governanceプロジェクトに参加するのもよいだろう。その場合は私たちに連絡して欲しい。

いみじくもマークが言っていたように、今は作るときだ。ただし、持続可能な形で作るときでもある。

【編集部注】著者のJames Wise(ジェームズ・ワイズ)はBalderton Capitalのパートナー、シンクタンクDemosの理事であり、元英国議会の社会的企業に関する専門家顧問。

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(翻訳:金井哲夫)

医療スタートアップLyfebinの医用画像が野ざらし状態で

医療スタートアップのLyfebin(ライフビン)は、X線写真、MRI画像、超音波画像など数千件の医用画像ファイルを、誰でもアクセスできる保護されていない場所に保管していた。

ロサンゼルスに本社を置くこの医療スタートアップは、医師や医療関係者が医用画像を「安全な環境」と同社のウェブサイトで謳っている場所に保管し、患者や医師たちがどこからでもアクセスできるようにしていた。

しかしながら、実際のところそのファイルはAmazon Web Services(AWS)のバケットに、パスワードも設定せずに保存されていた。ウェブアドレスは誰でも簡単に推測できるもので、簡単にデータにアクセスできてしまう。

保護されずに置かれていたファイルは、2018年9月から2019年10月までの日付のものだ。

我々がセキュリティー上の過失を警告した後、Lyfebinはデータの保護を実施した。

そのバケットには9万3000件以上ものファイルがあった。重複しているものが多いようだが、医療スキャンデータも含まれている。これらのファイルは、医療用画像機器の共通フォーマットであるDICOMで保存されていた。DICOMファイルを開くと、スキャン画像の他に、患者の生年月日や担当医の名前などのメタデータも確認することができる。

何人の患者に影響があるのかという我々の質問に、Lyfebinからの回答はなかったが、匿名の広報担当者は、当該バケットは「テスト用の環境であり、架空のアカウントと架空の患者のアカウントを使って新機能を試していた」と主張した。しかし、その主張を裏付ける証拠は示されていない(この広報担当者の名前を何度も尋ねたが、同社の担当者からの返信はなくなった)。

保護されないバケットの中にあったスキャン映像

「患者の情報をサーバーに取り込む際、私たちは個人が特定できる情報を削除しています」と匿名の広報担当者は言う。「患者の個人情報は漏洩していません」と彼らは補足した。

ファイルの多くは、ある程度まで匿名化されているようだが、いくつかの特定可能な情報が存在している証拠も見つかっている。ファイルのカバーシートにある患者の名前はスクランブル処理がされていたものの、担当医の名前や患者の性別と生年月日などが特定できる。

我々が調べた中には、名前が含まれているものも1つあった。そのファイルには個人を特定するのに十分な情報が含まれていて、公的な記録を使ってその人物を探し出すことができた。本人に連絡をとって聞いてみたが、スキャンを行った正確な日付は憶えていないようだった。

この件について確認をとると、匿名の広報担当者は、そのデータには「架空の患者情報」が含まれているという主張を繰り返し、法的な措置をとるとTechCrunchを脅してきた。

「これを記事にすれば、私たちの法務チームが記事を精査して不正確な記述をすべて洗い出し、あなたとTechCrunchの不法行為に対し、できるうる限り最大の訴訟を起こします」と広報担当者は言った。

Lyfebinは、バケットが野ざらし状態で、誰でもアクセス可能だった期間など、その他の質問には回答しなかった。同社にはセキュリティー上の過失を患者に知らせる予定はあるのか、また州のデータ漏洩通知法にもとづいてこの事件を地元当局に報告する予定はあるのかに関しても、何も述べていない。

画像クレジット:Getty Images

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(翻訳:金井哲夫)

微小重力環境でバイオテックの基盤を作る新種の宇宙企業Luna

トロントに拠点を置くスタートアップであるLuna Design and Innovation(ルナ・デザイン・アンド・イノベーション)は、経済状況が変化し続けるこの巨大産業に次々に生まれては優位に立とうとする宇宙スタートアップを代表する企業と言える。CEOを務めるAndrea Yip(アンドリア・イエップ)氏が創設したLunaは、商用化された宇宙での新しい機会(それは何かまだ誰にもわからないが)から多くを得る立場にあるバイオテクノロジー企業の挑戦に火をつけようと目論んでいる。

「私はこれまで、医療業界の公開企業と非公開企業で、製品やサービスのデザインと改革に専念してきました」とイエップ氏はインタビューの中で私に話してくれた。「私は数年間、製薬会社で働いていましたが、製薬と宇宙とデザインが交わるところで仕事ができる道を本気で探そうと、2017年末に製薬業界を離れました。人類の医療の未来は宇宙にあると信じたからです」。

イエップ氏はその信念を現実のものにしようと、今年の初めにLunaを設立した。宇宙にしかない研究環境を利用可能にして、バイオテクノロジー分野にチャンスを与えることが狙いだ。

「私たちは、宇宙を研究プラットフォームだととらえ、その宇宙プラットフォームが、地球での医療上の問題の解決に寄与すると信じています」とイエップ氏は説明する。「なので私にとって、バイオテクノロジー分野と製薬分野に宇宙への道を拓き、そこを研究開発と画期的な発見のための研究プラットフォームとして使えるようにすることが、きわめて重要なのです」。

国際宇宙ステーションでは、製薬とバイオテクノロジーの実験を数多く受け入れてきた

NASAの宇宙活動は、乳房生検に使われるデジタルイメージング技術、子宮内の胎児の成長をモニターするトランスミッター、脳腫瘍手術のためのLEDなど、数多くのものを生み出すきっかけを与えた。また宇宙での医薬品の研究開発は、ずっと以前からMerck(メルク)やP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)といった大手製薬会社が手を染めており、国際宇宙ステーション(ISS)で実験が行われてきた。今ではSpaceFarma(スペースファーマ)などの企業がミニ研究室をISSに設置して、クライアントの実験を代行している。しかし、利用されていない機会がまだまだ多い業界であり、イエップ氏によれば、可能性が山ほどあるという。

「残念ながらそこは、今のところ、ほとんど利用されていない研究プラットフォームだと思っています」と彼女は言う。「一部の物理学的現象と生命科学的現象は、宇宙、つまり私たちが微小重力ベースの環境呼ぶ場所では、異なる振る舞いを見せます」。

【略】

「例えばがん細胞は、微小重力下に短期間いた場合と長期間いた場合とでは、転移の仕方が変わることがわかっています。そのため、そうした種類の見識を得られるだけでも、またなぜに挑戦して理解するだけでも、たくさんの新発見が解き放たれ、がんの実際のメカニズムを理解できるようになります」。

【略】

そしてそうした見識を得ることが、新薬のよりよいデザイン、地上でのよりよい治療機会に、実際につながってゆくのです」。

Blue Originのロケット「New Shepard」 写真提供:Blue Origin

微小重力環境でのバイオテクノロジーの研究は、一部ではすでに行われているものの、「このイノベーションにおいては、私たちが最初の結論です」とイエップ氏。さらに、今後10年程度の間に旧態依然とした既存の大手製薬会社を破壊するのは、宇宙での研究開発にいち早く積極的に投資を行なった企業だと考えを述べた。

Lunaの役割は、宇宙での研究のための効果的な投資となる、最良のアプローチとバイオテクノロジー企業を引き合わせることだ。その目的のために早期に実現した成果として、Jeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏の商用宇宙ロケットを打ち上げる企業、Blue Origin(ブルー・オリジン)との間でチャンネルパートナーという役割を獲得したことがある。この契約は、LunaがBlue OriginのNew Shepard(ニュー・シェパード)ロケットのセールスパートナーになることを意味し、Amazonの創設者であるベゾス氏のこのロケット企業のために、低軌道での宇宙実験をどうしたら実施できるか、またなぜそれが必要なのかを潜在顧客と考えてゆくことになる。

それは短期的な展望であり、この地球上にもっとも強いインパクトを与える方法を模索するためのものだ。しかし、もっと先の未来が握っているバイオテクノロジーの可能性は、現在の宇宙産業の針路を考えることで開花し始める。それは、NASAの次なるステップや、スペースXなどの民間企業による他の惑星の有人探査などだ。

「私たちは、2024年の月再着陸についても話し合っています」とイエップ氏は、NASAのアルテミス計画を示唆しつつ語った。「今後数年で火星に行くことを、私たちは考えています。そこには、私たちのために発見しなければならないものが大量にあります。そしてそれは、巨大なチャンスでもあります。他の惑星で何が発見できるのか、本当にそこへ人を送り込むのかは、まだ誰にもわかりません。なので私たちは、そのための準備と、必要な能力の構築に着手するのです」

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(翻訳:金井哲夫)

元マッキンゼーの医師起業家が“次世代クリニック”で医療現場の変革へ、Linc’wellが3.5億円を調達

Linc’well(リンクウェル)のメンバー。中央が代表取締役の金子和真氏

多くの課題を抱える“レガシーな業界”は、スタートアップにとって大きなビジネスチャンスだ。

金融、人材、不動産、建設、法務などあげればキリがないけれど、従来はアナログの要素が多かった大きな市場が近年テクノロジーの台頭によってどんどんアップデートされ始めている。

今回取り上げる「医療」もまさに大きな可能性を秘めた領域。遠隔医療や電子カルテを始め様々なプレイヤーが業界の課題解決に取り組むが、未だに紙の診察券やカルテ、電話での予約などが主流で、テクノロジーの活用が十分には進んでいない。

そんな業界の現状に対して「非効率な医療現場をテクノロジーで効率化し、患者さんの利便性や医療の質自体の向上を目指したい」と自ら会社を興した“医師起業家”がいる。

2018年創業の医療スタートアップLinc’well(リンクウェル)の代表取締役、金子和真氏だ。

金子氏は臨床医として東京大学医学部附属病院を中心に医療現場で8年間働いた後、マッキンゼーに7年間勤めていたという経歴の持ち主。医療現場の課題解決に向けて、マッキンゼー時代にヘルスケア領域で共に働いていた山本遼佑氏とリンクウェルを立ち上げた。

現在はITをフル活用した“次世代クリニック”ブランドの「クリニックフォア」を展開。昨年10月に自社プロデュースの第一号店舗として田町にオープンしたクリニックには、半年間で2万人を超える患者が受診に訪れたという。

そのリンクウェルは5月27日、さらなる事業拡大に向けて第三者割当増資により総額約3.5億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

今回同社に出資したのはDCM Ventures、Sony Innovation Fund、インキュベイトファンドの3社。昨年4月にもシードラウンドでインキュベイトファンドとヤフー常務執行役員の小澤隆生氏から約7000万円を調達済みで、累計の調達額は約4.2億円となる。

リンクウェルでは調達した資金を活用してクリニックの複数店舗展開を進めるほか、クリニック内で活用するシステムの開発や、今後予定しているオンラインヘルスサポート事業への投資を強化していく計画だ。

スマホ1台で十分な次世代クリニックを社会インフラへ

「オンラインで予約ができず、実際に病院に行けば長時間待たされることも珍しくない。そもそも普段忙しいビジネスパーソンは平日の日中に行くことすら難しい。特に若い世代、働いている世代が診察を気軽に受けられない現状に大きな課題を感じていた」

金子氏がこの状況を改善するべく着手したのが、ITを徹底活用したクリニックの展開だ。

リンクウェルがプロデュースするクリニックフォアでは、オンライン予約システムやAIを取り入れた問診システムの活用、院内のオペレーションを効率化する電子カルテの導入などを通じて、患者の体験向上とクリニックの経営効率化にコミットする。

同社ではパートナーとなる医師に対して、上述したようなオペレーションシステムとともに、経営やマーケティング、スタッフの採用・教育などクリニックの運営に必要なサポートを提供。こうして立ち上がったクリニックを複数店舗展開し、社会インフラとして根付かせることが目標だ。

では実際にクリニックフォアで診断を受けるユーザーはどのようなフローをたどるのだろうか。

まず診断日程の予約は公式サイトからスマホやPCを通じてオンラインで行う。希望する診断内容を選択した後、カレンダーから空いている時間帯をチェックして希望の日時を選べば良い。

画面を見てもらうとわかるが新幹線などの予約画面にも近い感覚だ。予約時に簡単なオンライン問診も実施することで、当日の診察をよりスムーズにする。

クリニックに訪れた際は、受付で来院の声かけをした後、細かい問診票を記入する。この工程については現在自社でシステムを開発していて、今後オンライン化が進んでいくそうだ。

診察時間は15分単位で事前にスケジューリングしているため、具合の悪い人がいる場合などに多少のズレはあったとしても、長時間待たされることはほとんどない。

診察後の会計はキャッシュレス対応。クレジットカードや交通系ICカードのほか、QRコード決済サービスも使える。薬についても「全てではないものの出来るだけ院内で渡せるようにしていて、なるべく薬局に行く手間がかからないような設計をしている」(金子氏)という。

オフラインの診察券も用意しているが、受付時にスマホから予約IDを確認して伝えればいいそうなので“スマホ1台あれば”予約から当日の会計までスムーズに済ませられるのが特徴だ。

海外に目を向けると、米国ではOne Medical GroupがITを活用したクリニックチェーンを展開していたり、中国では平安好医生が医療におけるオンラインとオフラインの融合を進めている。一方で日本の場合はクリニックの95%以上が個人経営であることなども影響してか、テクノロジーがそこまで浸透していない状況だ。

クリニックフォアでは様々なITツールが絡んでくるが、リンクウェルがその全てを自社で開発しているわけではなく、他社ツールを組み合わせているのもポイント。予約システムや問診システムは自社で作りつつ、すでに複数社が取り組んでいる電子カルテなどは他社のプロダクトを活用している。

「自分たちがやっているのは検査やカルテ、処方など膨大なパッケージを用意して現場で使いやすいように最適化すること。(電子カルテシステムを)箱だけ提供しても、誰もがすぐに使えるわけではない。ExcelやWordの作業を便利にするテンプレートのように、電子カルテを使いやすくする大量のテンプレートを組み込んで提供している」(金子氏)

現場のニーズや実態に基づいてプロダクト開発ができるのは同社の強みだ。金子氏が医師として現場経験が豊富なことに加え、10月にオープンしたクリニックフォア田町はオフィスのすぐ下にあるため、すぐに現場を確認できる。

時には糖尿病の専門医である金子氏が直接現場で患者や医師とコミュニケーションを取ることもあるそうで、そこから得られたフィードバックをクリニックの運営やシステム開発に活かせるという。

週7日開院、働く世代を中心に患者の約85%が50歳以下

そのクリニックフォア田町では忙しいビジネスパーソンでも利用しやすいように、平日は9時30分から21時まで、土日祝日も9時から18時まで診療を行う。

そういった“使い勝手の良さ”が受け、設立後から半年で延べ2万人の患者が来院。そのうち8割がオンライン予約を活用する。直近ではゴールデンウィークの最終日に1日で200人以上が訪れるなど、金子氏も「(既存のクリニックではカバーできない)明確なニーズがあることが証明されてきている」と話す。

クリニックフォアの特徴は「患者の年齢層」にも現れている。平均的なクリニックでは年配の患者が大半を占め、実に75%が50歳以上なのだそう。一方クリニックフォア田町の場合、約85%が50歳以下の患者だ。

特に10代〜30代の患者が60%以上を占める(平均のクリニックは22%ほど)ことからも、来院する層に大きな違いがあることがわかるだろう。

「テクノロジーの導入については規制の問題もあるが、(高齢の患者が多いようなクリニックでは)現場に変えるメリットがないことが大きい。特に若い世代のペインを解消するには、システムを提供するのみではなく、現場一体となって変えていくしかないと思った。実際に口コミやアンケートを見ても、オンライン予約や待ち時間の少なさ、夜や土日の対応などに価値を感じてもらえている」(金子氏)

医師にとっても新しい選択肢に

クリニックフォアの仕組みは患者にだけでなく、医師にとっても新しい選択肢を提供する。

これまで医師の職業については人命に関わるという特性上、残業時間が多くなりがちで、かつそこに対する規制が一般的な労働者に比べて進んでこなかった。近年は「医師の働き方改革に関する検討会」を中心に残業時間の上限規制を始めとした議論がされているが、クリニックや病院の仕組み自体をアップデートすることも重要だ。

クリニックフォアの場合は週7日、平日に関しては朝から夜まで開院しているため、最初から複数の医師によるワークシェアを前提としている。結果的に通常の病院で働くよりも個々の状況に応じて、柔軟な働き方ができるという。

田町のクリニックにも、家庭の事情で時短勤務を選択したい医師や週3日だけ現場で働きたいという医師、大学院で研究をしながら土日や夜だけ現場に出たいという医師などがいるそうだ。

また医師のキャリアパスにおいて「開業医」という選択肢のハードルを下げる効果もある。

「今まで患者さんを診断することしか経験していない人がほとんど。経営や組織づくり、採用などのプロではなく、そこで苦戦する人は多い」と金子氏も話すように、自分でクリニックを立ち上げるには膨大なイニシャルコストのほか、診断以外の経営業務にも対応しなければならない。

クリニックフォアはシステムの提供だけでなく、経営のナレッジ共有やスタッフの採用・育成サポートを通じて「医師が患者さんを診ることに集中できる環境を整える」(金子氏)ことで、開業の後押しをするとともに、その後の経営の支援もする。

田町の店舗でも細かい月商などは非公開だが「支援の結果、半年にして平均的なクリニックの2〜3倍程度の収益を達成している」そうだ。

オンラインとオフラインの融合による次世代ヘルスケア基盤構築へ

リンクウェルは今後もクリニックフォアブランドのクリニックを各地に広げていく計画。すでに都内数カ所で新店舗を予定しているほか、将来的には都市部を中心に数百規模のクリニックのプロデュースしていく構想だという。

このオフラインの取り組みと並行して、今後はオンラインヘルスサポート事業の開発にも取り組む。軸となるのは「メディカルサプリのEC」と「オンライン診断」だ。

ECに関してはサプリやヘアケア、スキンケアといった商品をサブスクリプションモデルで提供する予定で、キーワードは「パーソナライズ」と「エビデンス」。ユーザーのデータと専門医のエビデンスに基づきパーソナライズされた商品を届けるECを目指していて、長期的にはD2Cのように製造工程から関わる可能性もある。

またクリニックでのオンライン診療や法人向けのオンライン健康診断なども準備するそう。オンラインとオフラインを融合しながら、患者のニーズや状態に合わせて「バーティカルに、エンド to エンドで最適なサポートを提供したい」という。

「最終的に目指すのは『1つの社会インフラ』。自分自身も医者をやっていて、医療は社会に不可欠なインフラだと思っているし、医者もそのために必死で働いている。ただこれから先、高齢化が進み患者さんの数が増えてくる中で、テクノロジーの活用を進めていかない限り持続的なインフラを作るのは難しい。日本の医療が破綻する前に、少しでも医療の現場を効率化しながら、質の高い医療を提供できるための仕組みを作って業界に貢献していきたい」(金子氏)

VR/MR技術で医療現場のコミュニケーションを革新するHoloEyesが2.5億円を調達

VRやMR技術を用いて医療現場のコミュニケーションを支援するHoloEyesは4月26日、SBIインベストメント、三菱UFJキャピタル、みずほキャピタルの各社が運用するファンドを引受先とした第三者割当増資により、総額約2億5千万円の資金調達を実施したことを明らかにした。

HoloEyesが手がける「HoloEyesXRサービス」は患者のCTスキャンデータやMRIデータから3次元のVR/MRアプリケーションを生成し、 医療分野におけるコミュニケーションを革新するサービスだ。

同社によると、医療現場では3次元的立体構造物である人体の状態を把握する際、CT/MRIなどによって撮像された2次元の状態にあるデータを閲覧し、医師の脳内で3次元に変換しているという。この作業は医師にとっても大きな負担となるだけでなく、医学生らが学習する際や患者が理解する際にも多くの労力がかかる原因になっていた。

この状況をXR(VR/MR)などのテクノロジーによって改善できないか、というのがHoloEyesのアプローチだ。

HoloEyesXRサービスはCT映像から作成したポリゴンファイルをアップロードすれば、最短10分でVR/MRアプリを自動生成してくれるのが特徴。価格は1ケース1万円から提供する。2018年4月の発売以降、39の医療施設が導入していて、444のケースで活用事例があるとのこと。発売以前のPoC事例も含めると50以上の医療施設が500を超えるケースで利用しているようだ。

今後HoloEyesでは医療機器対応を中心とするHoloEyesXRサービスのアップデートを進めるほか、調達した資金を活用して事業基盤の拡張や組織基盤の強化に取り組む計画。合わせて「新たな時代における知識や手技の優れた継承方法としての可能性が感じられるVR教育配信サービスの開発(主な用途)」にも着手するとしている。

骨髄移植で2人目のHIV治療成功例、遺伝子療法に新たな期待

HIVの患者が完治したと最初に診断されてから12年経って2人目の完治例が出たことが判明した。New York Timesの記事によれば、AIDSの原因となるHIVの治療には1人目の例に似た治療が施され、完治が確認されたという。この治療の詳細は明日、Natureで発表される。.

ニューヨーク・タイムズのインタビューに答えた専門家によれば、「HIVは治療可能と確認されたが、新治療が広く普及して成果を挙げるようになるには依然としていくつかの大きなハードルが残っている」という。

詳細な論文は今週シアトルで開催されるConference on Retroviruses and Opportunistic Infections(レトロウイルスと日和見感染症カンファレンス)で発表される。

今回成功した治療は骨髄移植に伴うものだった。ただし骨髄移植はガンの治療のためで、HIV治療が当初の目的ではなかった。

骨髄移植にはさまざまなリスクと副作用があるため、ただちにHIVの治療方法として用いられるようになるとは考えられていない。現在、HIV感染に対してはウィルスの活動を抑制するのに効果のある各種の薬剤が投与されている。しかし研究者は免疫機能を失った細胞を正常な細胞に置き換えることでHIVを治療する可能性が確認されたと考えている。

オランダのユトレヒト大学医療センターのAnnemarie Wensing博士はインタビューに答えて「根本的な治療が夢ではないことが確認できたことに勇気づけられます」と述べた。

Wensing博士は幹細胞移植によるHIV治療の可能性を研究するヨローッパの専門家チームの共同リーダーだ。

論文の発表に先立って、アメリカのAIDS研究組織、AMFARの支援を受けるIciStemが今回成功した治療の概要を紹介している。

これによれば、12年前に今回と同じカンファレンスでドイツの医療チームが白血病治療のために骨髄移植に伴ってHIVの治療が成功したことを発表していた。

以降、いくつかの医療グループがこの治療を繰り返したが、ほとんど、あるいはまったく効果をあげることができないでいた。つまり患者はガンで死亡したり、抗ウィルス剤の投与を止めるとウィルスの活動が再開された。

この治療法のもっとも重要な点はCCR5と呼ばれるタンパク質の一種だ。HIVが免疫機能を司る白血球T細胞に入り込むためにCCR5を利用することが知られている。このタンパク質には変異体が存在し、ウィルスがT細胞に取り付くことをブロックする。このタンパク質を持つ人々はある種のHIVに対する耐性が高い。

しかし骨髄移植による治療では最初の患者は危うく死亡するところだった。そこでそうした危険なしにHIVの完治、つまり抗ウィルス剤の投与を止めた後でもHIVの活動が再現しないような効果を得ることが大きな課題となった。

今回の患者は血液のガンであるホジキンリンパ腫の治療の一環として骨髄移植を受けた。この際、ドナーの骨髄がCCR5変異型だったため、患者のT細胞がHIVウィルスに対する耐性を獲得したものとみられる。なお患者は免疫抑制薬の投与も受けていた。

患者は2017年に抗ウィルス剤の投与を中止したが、その後HIVウィルスの再発現は見られず治療は成功した判断された。

ただし完治といっても「抗ウィルス剤の投与を止めた後もウィルスの活動が見られない」ということであり、将来にわたって確実にこれが続くという保証は今のところない。患者は引き続き各種のテストを受けており、医療チームは再発の兆候がないか慎重に見守っている。

最近、CCR5タンパク質を利用してHIV対策に役立てようとした例はこれが唯一ではない。中国の南方科技大の賀建奎(He Jiankui)副教授はDNA改変ベビーを誕生させたものの、現在は監禁状態に置かれている。賀博士はこの際、CCR5を変異させて(おそらくは)HIV耐性も高めていた。

もちろん遺伝子操作を行って女児を誕生させるのは時期尚早であるだけでなく手続きにも問題があり、厳しい国際的非難を浴びた。しかし企業の研究者はHIVを治療するために遺伝子改変テクノロジーを利用しようとしていることも事実だ。

ニューヨーク・タイムズはCCR5を利用した治療はAIDS患者のほぼ半分に発見される特定の種類(マクロファージ指向)のHIVウィルスにのみ効果があると指摘している。これ以外のHIVウィルスは免疫細胞に入り込むために別のタンパク質を利用している。X4と呼ばれるタイプのHIVウィルスはCXCR4タンパク質を使っているということだ。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

米DARPA、傷負戦士のためにスマート包帯を研究中

戦場ほど迅速で効果的な医療が重要な現場はない。DARPA(米国国防高等研究事業局)は、インテリジェント包帯を始めとする患者の要求を予測して自動的に処置するシステムを使って状況を改善しようと考えている。

通常の切り傷や擦り傷は、ちょっと保護してやるだけで、あとは人間の驚異的な免疫システムが引き受けてくれる。しかし兵士ははるかに深い傷を負うだけでなくその複雑な環境は治癒の妨げになるだけでなく予期せぬ結果を呼ぶ。

DARPAの組織再生のための生体電子工学プログラム(BETR)は、新たな治療方法と装置を開発し、「創傷の状況を細かくに追跡し、治癒過程をリアルタイムで刺激することにより組織の修復と再生を最適化する」。

「創傷は生体現象であり、細胞と組織が連携して修復を試みるにつれ条件が急速に変化する」とBETRのプログラム・マネジャー、Paul SheehanがDARPAのニュースリリースに書いた。「理想的な治療は、創傷状態の変化を感知して治療介入することで正確かつ迅速な治癒を促すことだ。たとえば、免疫反応の調節、創傷が必要とする細胞型の動員、治癒を早める幹細胞の分化などへの介入が考えられる」

どんな治療が行われるかは想像に難くない。スマートウォッチはいくつもの生体信号を監視する機能を持ち、すでにユーザーに不整脈などの警告を与えている。スマート包帯は、光学的、生化学的、生体電子的、機械的を問わず得られる信号は何でも使って患者を監視し、適切な治療を推奨し、あるいは自動的に調節する。

簡単な例を挙げると、特定の化学的信号によって創傷がある種のバクテリアに感染していること包帯が検知したとする。システムは処方を待つことなく適切な抗生物質を適切な分量投与し必要な時点で中止する。あるいは、スマート包帯がせん断応力を検知したあと心拍の上昇を検知すると、患者が移動されて痛みを感じていることがわかる。そこで鎮痛剤を投与する。もちろん、これらの情報はすべて介護者に引き継がれる。

このシステムにはある程度人工知能が必要だが、適用範囲はごく限られている。しかし生体信号にノイズが多いときには機械学習が強力なツールとなってデータ識別に活躍するだろう。

BETRは4年間のプログラムでDARPAはその間にこの分野にイノベーションを起こし、治療結果を著しく改善する「クローズドループの適応システム」を作りたいと考えている。このほかにも、戦闘中に重傷を負った多くの兵士が必要とする人工装具のオッセオインテグレーション手術に対応したシステムも求められている。

こうしたテクノロジーが普及することを期待したいが、慌ててはいけない。これはまだ大部分が理論上の話だ。しかし、さまざまな要素がつながって十分間に合うことも考えられる。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

2028年までに医療は、医師が主導し、患者が主役で、視覚技術を活用したものになる

視覚による評価はヘルスケアにとって重要である。たとえば医者が「あー」と言っているあなたの喉を覗き込んでいる場合でも、あるいは脳のMRI画像を見ている場合でも。X線が1895年に発明されて以来、医用イメージングは臨床医が体内を覗き込み評価することを可能にする、多くの形態に進化してきた。視覚センサー、コンピュータビジョン、および計算パワーに関わる最近の進歩は、(X線やMRIのような)従来のビジュアルテクノロジーに対する新しい革新の波をもたらしているし、ゲノミクスのような全く新しい医療領域を生み出している。

今後10年間で、ヘルスケアのワークフローは、収集された個人データとコンピュータビジョンと共に、大部分がデジタル化され、人工知能を使った精密ケアのための自動データ分析が利用されるようになる。ヘルスケア全体で使われるデジタルデータの多くは視覚的なものであり、それらを取り込んで分析する技術がビジュアルテクノロジーである。

これらのビジュアルテクノロジーは、診断から治療、継続的ケア、そして予防へとつながる患者の旅すべてに関係している。そこでは、画像、ビデオ、熱画像、X線、超音波、 MRI、CTスキャン、3Dなどの任意のビジュアルデータが、分析され、処理され、フィルタリングされて、そして管理される。コンピュータビジョンと人工知能が、その旅の中核である。

画像診断装置の小型化、病気の初期段階での検出を狙う次世代イメージング、遠隔医療という3つの強力なトレンドが、今後十年間で、ヘルスケア改善をビジュアルテクノロジーで改善する手法を生み出しつつある。

コンピュータビジョンとAIを伴ってハードウエアが小型化されることで、診断イメージングをモバイル化することができる

医療用イメージングは、イノベーションに対して腰が重い、既存の大企業たちに支配されている。ほとんどのイメージングデバイス(例:MRI装置)は、1980年代からそれほど変わっておらず、いまだに大きな制限を抱えている:

  • 複雑なワークフロー:操作の専門家を必要とし、互換性も限られている、大きくて高価な機械であること。

  • 患者に対する厳しい要求:身動きせずに横たわることや、息を止めること(小児科や高齢の患者などの場合に問題となる)。

  • 高価なソリューション:使えるのが大病院や画像処理機関に限られてしまう。

しかし、視覚センサーとAIアルゴリズムにおける技術革新は進んでいる。「現代の医療用イメージングはパラダイムシフトの真っ只中です。大型で慎重に調整された機械から、柔軟で自己修正可能で、複数のセンサーを備えたデバイスに変わりつつあるのです」と語るのはニューヨーク大学メディカルスクールの放射線学科のDaniel K. Sodickson博士である。

MRIの手袋型検出装置は、動く指のイメージをキャプチャすることができることが示された。©NYU Langone Health

ビジュアルデータの取得は、小型で使いやすいデバイスを利用して行われるようになり、イメージングを放射線科の施設の中から、手術室、薬局、そして居間へと移すことができる。

小型のセンサーとコンピュータビジョンに対応したイメージキャプチャは、次のような特性を持った超小型の機器として再デザインされることになる:

  • より簡単なイメージングプロセス:より速いワークフローとより低いコスト。

  • 専門知識要件の緩和:複雑さが軽減されることによって、イメージングを放射線科の施設から患者のいる場所へと移動させることができる。

  • 体内投入カメラによるライブイメージング:こうしたイノベーションには胃液を使った体内投入カメラへの電力供給、化学的検出のための細菌の利用、その他幅広い実現方法が考えられる。

ハーバード大学メディカルスクールMGH/Martinos Centerの、Matthew Rosen博士は、次のように述べている「人間の知覚学習のニューラルネットワークベースの実装を使用すると、低コストのイメージングハードウェアが可能となり、既存のテクノロジーの高速化および改善が可能になります」。

ボストンのバイオメディカルイメージングMartinos CenterセンターのMatthew Rosenとその同僚たちは、MRIを解放したいと考えている。(©Matthew Rosen)

次世代シーケンシング、表現型検査および分子イメージングは、症状が現れる前に病気を診断する

DNAのシーケンシングを行うゲノミクスは2015年以降、年間成長率200%で伸びている。これは光信号を使ってDNAを読み取る次世代シーケンシング(NGS:Next Generation Sequencing)によって推進されている。例えば私たちLDVのポートフォリオに含まれている企業であるGeniachipなどがそうしたことを行っている(同社はRocheに買収された)。こうしたテクニックは、ゲノミクスが実務家のための主流のツールになることを助けている。そして2028年までには、キャリアスクリーニングを日常的な患者ケアの一部として行うことができるようになることが期待されている。

血液、尿、または唾液を使って腫瘍のDNAまたはRNAを検査する、リキッドバイオプシーは、早期がんスクリーニングの主要な役割を果たす段階にさしかかろうとしている。例えばGRAIL社は、NGSとディープラーニングを使って、病変が特定される前に、循環している腫瘍DNAを検出するがん血液テストのために、10億ドルを調達した

遺伝子と環境の相互作用によって生み出された、観察可能な形質(表現型)の分析を行うフェノミクスも、早期の疾病検出に寄与している。表現型は生理的に表現されていて、ほとんどの場合、イメージングつかって検出ならびに分析をする必要がある。

次世代表現型検査(NGP:Next Generation Phenotyping)は、コンピュータービジョンとディープラーニングを利用して、生理的データを分析し、特定の表現型のパターンを理解し、それらのパターンを遺伝子と関連付ける。たとえば、FDNAのFace2Geneテクノロジーは、患者の顔の画像を使用して、90%以上の精度で300〜400の障害を識別することができる。(手、足、耳、目の画像またはビデオなどの)追加のデータにより、NGPはこれまでになく幅広い範囲の障害を早期に検出することができる。

分子イメージングは、DNAナノテクプローブを使用して、細胞内の化学物質を定量的に可視化する手法だ。このことによって病気の化学的特徴を測定することが可能になる。このアプローチは、アルツハイマー病、パーキンソン病などの神経変性疾患の早期発見を可能にする。

従来型の診察室での診療を、遠隔診療が追い越す

2028年までには、実際の診療所に行くよりも、電話やコンピュータを介して、スクリーン上で医師を訪問するのが一般的になるだろう。

遠隔医療により、開業医たちに、よりアクセスしやすくなり、よりコミュニケーションしやすくなる。このことは、患者毎の全てデジタル化された訪問時の健康記録を生み出し、移動のコストや特定の医療専門家の地域格差を減らすことになるだろう。例は、シリアの戦争で負傷した190万人のために提供された遠隔医療サービスだ。

遠隔医療を救急車に統合することで、脳卒中患者は2倍の速さで治療を受けられるようになった。医師たちは、リアルタイムに彼らの同僚や専門家を呼び込むようになるだろう。

スクリーニング技術は遠隔医療に統合されるため、それは単に医者をビデオで呼び出すだけにとどまらない。リモートカメラを介して、バイタルを事前にスクリーニングすることによって、より効率的になり健康上のメリットを得られることも期待できる。

「遠隔医療におけるビジュアルテクノロジーの最大のチャンスは、特定のユースケースを解決する場合にあります。脈拍、血圧、あるいは目の問題を検出しているのかどうかにかかわらず、ビジュアルテクノロジーはデータ収集の鍵となります」と語るのはTeldoc healthのJeff Nadlerだ。

遠隔患者モニタリング(RPM)は、遠隔医療の成長および全体的なケアの個人化に対する主要な要素となるだろう。私たちがApple Watchで経験しているように、RPMデバイスは、日常の健康やライフスタイルの要素を考慮に入れた、医療上の決定を下すために使用される、リアルタイム患者データの主要な情報源になるだろう。こうした個人データは患者自身が収集し所有していて、医師に提供される。

ビジュアルテクノロジーは、次の10年にわたって、ヘルスケアの変革を推進する

ビジュアルテクノロジーはパーソナライズされたヘルスケアの未来に深い影響を与える。そして世界中の人びとの健康を改善することだろう。そこにはユニークな投資機会があることを示している。私たちLDV Capitalは、BCC Research、CBInsights、Frost & Sullivan、McKinsey、WiredそしてIEEE Spectrumなどに掲載された100以上の研究論文をレビューし、私たちの2018 LDV Capital Insightsレポートとしてまとめた。このレポートは、ヘルスケアを改善する力を発揮するセクターに光を当てているが、その判断は各セクター内のテクノロジの変革的な性質や、予測される成長およびビジネスチャンスに基づいて下されている。

診断、治療、そして継続的なケアや予防にまたがる視覚技術への、多くの投資機会が存在しており、それは世界中の人々をより健康にするのに役立つことだろう。

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(翻訳:sako)

ハイテク企業は健康管理の方法を変えられるか?

[著者:Cyrus Radfar]
V1 Worldwideの創設パートナー。

2018年9月の時点で、2012年からアメリカのハイテク企業上位10社が医療関係企業の買収に費やした総額は47億ドル(約5170億円)にのぼった。これらの企業による医療関係企業の買収件数は年々増加している。これは、アメリカのハイテク企業が医療への関心を高めている証しであることに違いはないが、ここにいくつもの疑問がわく。彼らの目的はなんなのか、また、医療業界はどんな帰路に立たされるのだろうか。

もうひとつ、なぜ医療がアメリカのハイテク大手企業の最新のターゲットになったのだろうか。表面上、この2つは気の合う仲間には見えない。片方は機敏で腰が軽いが、もう片方は鈍重で思いに耽るタイプだ。片方は未来に恋い焦がれ、もう片方は過去と共に生きようと必死になっている。

にも関わらず、これが事実だ。近年は、Apple、IBM、Microsoft、Samsung、Uberが医療に浮気し、データを収集する健康アプリ医療患者がタクシー配車のデジタルサービスを受けられる機器などを出している。なかでも、このところ医療分野に深く入り込もうとしているのがAmazonとAlphabetの2社だ。この2つの企業は、とくに健康保険を視野に入れているようだ。

Alphabet、Amazon、AppleのA

CB Insightsによれば、現在、アメリカで医療分野にもっとも多く投資しているハイテク企業はAlphabetだ。Alphabetの子会社Verilyは、テクノロジーで健康への理解を深めることに専念している。これもまたAlphabetが買収したDeepMindは人工知能(AI)によるソリューションを提供しているが、AlphabetはそのAIを活用し、データ生成、データ検出、生活習慣の改善で病気と闘う方法を探っている。Alphabetはまた、Oscar、Clover、Collective Hearlthといった、どれも健康保険分野に波風を立たせようという企業に相当額の投資を行っている。

一方、Amazonは、昨年の夏、インターネット薬局のスタートアップPillPackを買収するという、医療分野への大きな動きを見せて周囲を驚かせた。そして2018年10月には、音声アシスタントAlexaが風邪を感知する機能の特許申請を行った。さらにAmazonは、Heraという内部プロジェクトに取り組んでいる。これは、電子カルテ(EMR)のデータを使い、誤診を修正するというものだ。さらに昨年の1月、Amazonは、従業員の健康管理計画でBerkshireとJP Morganと提携したことを発表した。片方の目では一般市場への拡大を見据えつつ、企業の従業員を実験台にして健康保険の研究をしようという戦略が見え隠れしている。

Appleも黙って見ているわけではない。同社は2016年からAetnaと共同で、個々の顧客に合わせた運動と健康上の助言を提供し、健康的な生活習慣の実践を促す活動を行っている。

これら3つの企業は医療分野に大きな一歩を踏み出しているが、とくに、AlphabetとAmazonにとっては、医療保険が長期戦略の柱になりそうだ。

ハイテク大手は濠を超えられるか

アメリカの医療と健康保険の市場をハイテク産業が拡大したのは、今回が初めてではない。医療業界は、長い間、座ったアヒルのように何もせず自滅を待つ存在だと見なされてきた。それは事実であり、意外な話ではない。アナログシステム、複雑な縦割り組織、時代遅れの技術。デジタル改革の筆頭候補であり、その受け入れ準備ができている分野だと誰もが思う。最新のデジタル技術は、この時代遅れながら収益性の高い産業を合理化し、効率化し、利用者中心の形に変革できる。

それが、2013年、Health Heroの共同創設者でRock Healthの顧問を務めるGeoffrey Clappによって創設された、モバイル医療サービスを提供するBetterの設立の狙いでもあった。このスタートアップは、開業初日から投資や、過剰な問題をひとつの単純な方法で解決するという途方もない作業に翻弄された。そして設立からわずか2年後、Betterは敗北を認めることになった。

「私たちは、膝間接手術や脳卒中といった、あらゆる病状、あらゆる解剖学的状況に対処するコンシェルジュ・サービスを提供しつつ、包括支払い制度やその他の多岐にわたる支払い制度への対応を行なっていました」とClappは、2016年にBetterを振り返り話している。「人は製品を気に入ってくれるかも知れませんが、どんな問題にも対応して欲しいと望むのです。私たちはよく自分たちに言い聞かせていました。これはバーティカル市場なのだと」

健康保険は、アメリカの他の医療産業分野と同じく頑固であり、参入の手前ですでに巨額の資金を必要とするため、スタートアップには魅力の薄い分野だ。

規模、資本、アイデアに関わらず
医療産業への参入はハイテク企業にとって
容易なものではない

ここ数年のケーススタディーで興味深いのは、Oscar健康保険だ(ちなみに昨年、Alphabetから3億7500万ドル(約413億円)の投資を受けた)。Oscarは、2012年、テクノロジーと顧客体験からの洞察を活かして健康保険を簡素化するという条件のもとで設立され、健康保険業界を撹乱したことでスタートアップの鑑のように見られてきた。しかし、その道のりは決して平坦ではなく、巨額の投資を受けながらも、未来は混沌としている。

同社は、個人向け医療の市場で奮闘し、事業に必要な医師や病院とのネットワーク作りにも力を入れた。設立から7年目の2018年に初めて黒字の四半期を記録したが、そこに至るまでには資金の大量出血を経験している。2016年には2億ドル(約220億円)の損失もあった。もしOscarが、アメリカの健康保険に変革をもたらしたスタートアップの成功物語だとしたら、それは、この事業がどれだけ過酷な戦いであるかを知らしめる厳格な指標ともなる。

もちろん、AmazonとAlphabetは、健康保険という長期計画において損失を心配する必要はない。それでも、数々の規制や現実主義を乗り越えなければならず、こればかりは単に資金をつぎ込めば解決できるというものではない。企業規模や資金によって、自動的に信頼を獲得できるわけでもない。それは「思っていたほど広範なインパクトを与えられなかった」として2017年にGoogle Healthのサービスを打ち切ったGoogleが経験したことだ。

AlphabetやAmazonといった企業は、自身の失敗、仲間の失敗、Betterなどのスタートアップの失敗から学んでいるようだ。Alphabetは、今回は頭から飛び込むことは控え、特定の疾病に的を絞った。病院と提携し、AIに関する膨大なノウハウを武器に大勢のアメリカ人が抱える問題に立ち向かっている。Amazonは、Berkshire、Hathaway、JP Morganと提携し、ミクロのスケールで問題点を綿密に調べながら、引っかき回すべき市場を時間をかけて研究している。

成長するか死ぬか

もしアメリカの健康保険業界が本当に征服困難であるなら、ひとつの疑問が浮かぶ。ハイテク企業はどうして再挑戦しないのだろうか。答えは簡単。利益だ。

アメリカの健康保険業界の、2017年の健康保険と生命保険の純保険料は5949億ドル(約65兆4000億円)だった。これはAmazonの2017年の利益である1780億ドル(約19億6000万円)の3倍を上回る額であり、Alphabetの1110億ドル(約12億2000万円)の何倍にもなる額だ。

まだある。

年間の事業収益が1000億ドルを超えると、有意義な成長につながる新しい道を探すのが大変に困難になる。これは、AlphabetやAmazonのような企業には厄介な問題だ。彼らには、成長と規模の拡大が生命線だからだ。それが鈍れば、エコシステムから脱落すると見込んで、ハゲタカどもが頭の上を舞い始める。そしてそれが株価に響く。

近年、ハイテク大手企業は、他分野のバーティカル市場への拡大を成功させて、こうしたリスクを回避してきた。食品宅配サービス音声アシスタント自律運転車両など、ハイテク産業は帝国拡大の機会を求めて、新鮮なバーティカル市場を探し続けている。医療業界は、単に次なる征服目標にすぎないのだ。

行く手を阻む障害物

規模、資本、アイデアに関わらず、医療産業への参入は、どんなに気をつけたところで、ハイテク企業にとって容易なものではない。業界をかき回すことには慣れている彼らにしても、医療と健康保険はまったく別の生き物だ。

まず、規制の壁がある。薬を販売したり流通させるためには、複雑で費用のかさむいくつもの輪をくぐり抜けなければならない。そこでは米食品医療局や米麻薬取締局といった規制当局が目を光らせている。

これらの企業は膨大な独自のデータを
どのように活用するのかという疑問が
常につきまとう

そして、データとプライバシーの問題がある。ハイテク大手企業は、業界に長年居座っている既存企業にテクノロジーで勝ることができると信じているが、テクノロジーを活用しようとすれば、これまた厳しい個人情報保護のための規制に守られたデータへのアクセスが必要となる。とりわけ、健康保険に参入しようとする者には、乗り越えなければならない最大の障壁だ。

そしてそれらの上に、健康保険に参入したいと考えるハイテク企業が通らなければならない州ごとの保険規制制度がある。保険規制に関しては概して寛大だとされているユタ州で通用するものが、もっとも厳しいとされるカリフォルニア州では通用しない。

プライバシー、データ、国民皆保険

健康保険業界の主力選手となるための新規事業に挑むには、反対に打って出られる勇敢な人物が必要だ。成功しようと思えば、すべての人が喜ぶのとは違う道を行く必要もある。

まずは、これらの企業は膨大な独自のデータをどのように活用するのかという疑問符が常につきまとう。ハイテク企業はこの数年、自分たちのデータで金儲けをしていることを嫌った一般ユーザーの離反に揺さぶられてきた。しかし、そのデータが、その人の保険料の計算に使われるとしたらどうだろう。たとえば、健康的な食品を買っていたり、スポーツジムの会員になっていたり、日常的に運動をしていることを追跡するデバイスがあり、その人が健康的な生活を送っているとデータが証明してくれたなら、保険料が下がる可能性がある。

反対に、あまり体を動かさない人が不健康な食品や製品を買ったことがわかれば、保険料が徐々に上がるということも考えられる。

ジョージア工科大学Scheller College of Businessに在籍するプライバシー専門家であり、ホワイトハウスではクリントン大統領のもとで医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律のプライバシーに関するルールを取りまとめたPeter Swireは、そこに危機感を覚えるという。「私の知る限りでは、AmazonのウェブサイトはAmazonが取得した利用者の情報を、提携する健康保険会社に提供できるとなっています」とSwireはViceのインタビューに応えて話している。「言い換えれば、データが医療機関の外へ流れ、健康保険会社で利用されることを阻むルールの存在を私は知らないということです」

接線:ハイテク企業が押すのは単一支払者制度かユニバーサルヘルスケアか?

ちょっと一息入れて、アルミ箔の帽子をかぶらせていただく。

つい先日の2017年、AetnaのCEO、Mark Bertoliniは単一支払者制度についてオープンに議論したいと話した。「単一支払者。国として議論しておくべきだったと思う」

単一支払者制度、いわゆる「メディケア・フォー・オール」(すべての人に医療を:国民皆保険)は、どちらもワシントンの進歩的な民主党の考え方だ。イギリスやカナダなどの国をモデルにした単一支払者制度の実現を目指す人たちは、すでに、医薬品業界と保険業界が送り込んだ強力なロビイスト団体に対抗している。ゲームの理論から言えば、世界で最も裕福な企業をロビイスト団体の味方につければ、アメリカでのユニバーサルヘルスケア(国民皆保険)の実現を遠くに追いやることができる。

これは、ハイテク企業が独自の保険方式を作り始める未来を思うときに、常に私につきまとう大きな「もしも」のシナリオだ。彼らは、政府の介入で民間の保険が奪われてしまうことを決して好まない。

さて、ここでアルミ箔の帽子を脱いで、陰謀めいた話から現実的な話に戻ろう。

現状よりはマシ

もちろん、AmazonやGoogleなど、健康保険への参入に興味を示す企業が、利用者に不利益をもたらよう、あるいはユニバーサルヘルスケアに反対するロビイスト団体のためにデータを使う可能性を示す証拠はない。実際、それらの業者が唯一わかっていることがあるとすれば、それはできるだけ多くの人を喜ばせることの重要性だ。彼らは、おもに個人的な体験から、ネガティブな評判の影響力の大きさを知っている。それは特定の製品やサービスに止まらず、事業全体にもダメージを与える。悪辣な金儲けに走れば、健康保険業界をかき回す可能性は、手を付ける前に、ことごとく失われる。

ハイテク企業は、それぞれのソリューションに特製ソースで臨んでくるだろう。

Amazonは、高度な効率性を武器にするだろう。無駄のない驚くほど高速な物流で製品を提供する。GoogleとAlphabetの子会社は、AIと予測的アプローチで挑んでくるだろう。そこでは、すべての人に、それぞれの分野の専門家に支えられた健康アシスタントが着く。Aiphabetのマシンやキオスクに立ち寄れば、簡単な健康診断ができる。Appleは、洗練された小売の経験を持ち、顧客の支配を好むことから、管理医療機構Kaiser Permanenteのようなバーティカルな方式を作り出すかも知れない。どの企業も、高品質な利便性を追求するはずだ。それらは実質的に、異なるタイプの消費者を対象にすることになる。

彼らが手の内を見せて、健康保険業界の既存企業と真っ向対決するようになれば、制度の対象となるすべての人たちのために、既存企業に置き換わる善意の企業という立ち位置で戦うことになる。それは結果的に、より良く、より安価で効率的なものを生み出す。2017年のMckinseyの調査によると、アメリカ人が求めているものを提供している保険会社は非常に少ないという。具体的には、保険料に見合った利便性、より統合された技術、健康増進のためのツールだ。

技術者が秀でることのできる分野がある。レベルの高いカスタマーケア、サービスの向上とコストの削減、これらを最新テクノロジーを取り込むことで実現する。それを健康保険に活かせれば、テクノロジーの約束を短期間に果たすことができるだろう。それは、時代遅れの業界を引っかき回すことだ。

ハイテク大手企業にとって、成長は血と同じ。そして、引っかき回す準備が整った健康分野のバーティカル市場は、奇遇にも、我々が生きてゆくために欠かせないものでもある。この戦いは見ものになる。Uberが荒っぽいスタートを切ったときのように、はたしてハイテク企業は規制を飛び越えて、議会を動かし、消費者の要求に応えさせることができるだろうか。

[原文へ]
(訳者:金井哲夫)

ABCテレビ、空前の大型ハイテク詐欺、Theranosの栄光と転落を放映へ

Theranosは一滴の血液から数多くの病気の検査ができるテクノロジーを開発したとしてアメリカでもっとも有名なスタートアップに急成長した。しかしその内実は大掛かりな詐欺だったという。

これについてはTechCrunchも何度も報じてきた。なかでも決定的だったのはピューリッツァー賞を2度受賞している調査報道のベテラン、ジョン・カレイルー記者がTheranosの内実を暴いた経緯をBad Bloodという大部のノンフィクションにまとめたことだろう。

このほど、ABCテレビのニュースショー、 NightlineがTheranosとファウンダーのエリザベス・ホームズ、二人三脚で会社を運営したサニー・バルワニについてのドキュメンタリーを製作した。同時に6回連続のポッドキャストの1回目が公開された(毎週水曜日に順次公開される予定)。

Nightlineの特集、ポッドキャストの製作者でABCのビジネス、テクノロジー、経済担当主任、Rebecca Jarvisはこの3年間、Theranos問題を精力的に調査してきた。ファウンダーのエリザベス・ホームズはホームズはスタンフォード大学のドロップアウトで、いっときみずから資産を築いた最年少の女性ビリオネとなった。スティーブ・ジョブズの再来とも称賛された。しかしすべては徐々に崩壊していった。

TechCrunchはRebecca Jarvis (RJ)にインタビューすることができた(読みやすくするために若干の編集を加えてある)ABCの番組のオンエア日程はまだ公開されていないが予告編はこちらで公開されている。

TC: あなたはこの3年間、Theranos問題を深く掘り下げてきたわけだが、いちばん責任があるのは誰だと思うか? ホームズだろうか、バルワニにだろうか? ジョン・カレイルーの本ではバルワニは強欲な催眠術師として描かれている。

RJ: これまでわれわれは主として公開ずみの情報に頼らざるを得なかった。しかしインタビューの多くはホームズを擁護しようとする環境だったり、テクノロジーについて直接尋ねることを避けていた。しかし何百時間分もの宣誓供述のビデオや録音が公開され、詳しくチェックすることができるようになった。ホームズはこれまで答えることを避けてきた質問に答えざるを得なくなっていた。

タイラー・シュルツ(シュルツ元国務長官の孫でTheranosの社員、後に内部告発者)が述べているとおり、タイラーはホームズとバルワニに会社運営に疑念を抱いいた。しかしホームズはこれを無視し、サニーは腕力係としてタイラーに「自分の身に気をつけろ」と脅してこの問題を追求させないようにした。

TC: 2人は長年恋人関係にあったといいうことだが、本人たちも認めていたのか?

RJ: イェス。この番組では2人がロマンティックな関係にあったことを認める供述をしているのが見られる。

TC: 多数の供述に目を通してきたと思うが、いちばんショッキングだったのはどういう部分だったろうか?

RJ: 「Theranosの分析装置は病院、救急ヘリ、その他さまざまな医療施設で利用されている」とホームズが繰り返した述べていたことは多くの人々が証言している。ところが今回明らかになった宣誓供述では、その答えは一貫してノーだった。Theranosの装置は使われていなかった。【略】一滴の血液で診断ができるというのは願望であり現実ではなかった。誰がも知るとおり、願望と現実の間のギャップは深い。

TC: 司法省は2人を昨年6月に刑事訴追したが、ドキュメンタリーではこれも扱っているのか?

RJ: 2人とも司法省の訴追に対して無罪を主張している。ホームズのSECとの和解には「不法行為に関して認諾するものではない」という条項が入っていた。Balwaniは依然SECと争っている。いずれにせよ2人とも司法省の訴追に対して法廷で対決せざるを得ない。現在の政府の部分閉鎖で手続きは遅れている。

【略】

TC: ホームズには人格障害があったと思うか?

RJ:精神医ではないのでそれに答えられる資格はないが、ホームズをよく知る人々は「ソシオパス」という言葉を使っていた。

ホームズ家の友人で子供の頃のエリザベスを知る人々は「非常に早熟だった」という印象を語っている。「ぜがひでも成功する」と考えるようになったのは家族の歴史が関係があったと考える人々もいる。ある種の「失楽園」の物語だ。ホームズ家はイースト酵母で巨富を築いたチャールズ・フライシュマンの子孫だ。世代を重ねるに従って資産は失われ、父親のクリスチャン・ホームズの代に至る。これがエリザベスの性格に影響を与えたと考える人は多い。

TC: 調査の期間中、身の安全に不安を感じることはなかったか? ホームズは自分に都合の悪い人間を繰り返し脅迫したことで知られている。

RJ: それは別に感じなかった。われわれは何度もTheranosを訪れててはそのつど追い返されたのは事実だ。栄光の時代から転落に至る時代のすべてについてTheranosで働いていた経験のある人々にインタビューできた。ある証言者の女性は友達の家に転がり込んで数日ソファーで眠った。この住所は母親にも告げなかったのに法的文書が送達された。そのため彼女は「尾行されている」と確信したという。

【略】

TC: Theranosには著名人を含む大勢の人々が投資した。こうした投資家に同情を感じるか? 投資にあたってはデューデリジェンスの必要性が強調されてきたが、投資家はなぜやすやすと騙されることになったのだろう?

RJ: 残念ながらアーリー・ステージのスタートアップへの投資ではあまり詳細なデューデリジェンスは行われないのが普通だ。番組では200人の投資家の代理人を務める弁護士にインタビューしている。この人物は(投資詐欺で服役中の)バーニー・マドフを訴えた原告の弁護人をしたこともある。彼によれば、どちらも「社会的親近感を利用した詐欺」だという。尊敬すべき社会的サークルに属していれば投資しても安心だと思いこんでしまう。(アムウェイ創業家の財産を継ぐ)ベッツィ・デヴォスもメディア王のルパート・マードックも巻き込まれた。プロフットボールのニューイングランド・ペイトリオッツのオーナー、ロバート、クラフト、ウォルマートのウォルトン一族もだ。しかし損失を被った投資家はそうしたビッグネームばかりではない。企業幹部の元秘書は「これが次のAppleになる」という情報を聞いて退職後の資産の大部分を投資し、すっかり失ってしまたという。

(名門ベンチャー・キャピタリスト、DFJの共同ファウンダー) ティム・ドレイパーはホームズがスタンフォードからドロップアウトした直後に100万ドルを投資した。これがホームズが調達した最初の資金だった。ドレイパーの娘、ジェシーがエリザベスの友人だったからだという。しか2011年に著名人を集めた取締役会を組織できたのはスタンフォードの工学部長だったチャニング・ロバートソンの支援を取り付けたからだ。ロバートソンは非常に尊敬されている教授だったので取締役会に加わったことがホームズへの信頼性を大きく高めることになった。しかしスタンフォードの教授の多くは 学部で2年に満たない教育しか受けていない学生が革命的な医療機器をどうやって開発できたのか不審に感じていた。

(日本版)Uberの最初期の投資家として知られるVC、ジェイソン・カラカニスは著書、エンジェル投資家でTheranosへの投資を断ったことについて触れ「医療のような困難な分野で19歳のドロップアウトが革命を起こせると思うのが間違っている」と厳しく批判している。

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滑川海彦@Facebook Google+

中国Infervision、画像によるがん検知サービスを280の病院に提供

つい最近まで、我々は医用画像から病気を診断するのに、訓練を受けた医師の目に頼っていた。

ひと握りのスタートアップが、顔認識や自動運転に使われているのと同じ技術である深層学習を通じた医用画像分析の改良を世界中で競っているが、北京拠点のInfervisionはそうしたスタートアップの一つだ。

Infervisionはこれまでに Sequoia Capital Chinaのような主要投資家から7000億ドルを調達していて、中国で多い死亡原因である肺がんの細胞を見分ける事業をまずスタートさせた。今週、シカゴで開かれた北米放射線学会の年次総会で、設立3年のこのスタートアップはコンピュータービジョンを使った分析を心石灰化のような胸部関連の病状にも広げることを発表した。

「AIを使った分析作業に、より多くのシナリオを加えることで、我々はこれまで以上に医師をサポートできる」とInfervisionの創業者でCEOのChen KuanはTechCrunchに対しこう語った。医師は1回の画像スキャンから数十の病気を見つけることができる一方、AIには1度に複数のターゲットオブジェクトをどうやって特定するかを教えなければならない。

しかしChenは、マシーンはすでに他の点で人間にまさっていると言う。その一つとして、マシーン分析が速いことが挙げられる。通常、医師が1枚の画像を分析するのに15〜20分かかる。それに対し、InfervisionのAIが分析レポートをまとめるのにかかる時間は30秒以下だ。

AIはまた、長年の課題である誤診断にも対応する。中国の医療新聞Medical Weeklyは、炭鉱夫によくみられる病気である黒肺塵症の診断の精度が、経験5年以下の医師で44%だったとレポートしている。また、1950〜2009年にあった検視を調べた浙江大学の研究では、臨床の誤診断率は平均46%だったことが明らかになった。

「医師は長時間働き、常にかなりのストレス下に置かれている。これがエラーにつながる」とChenは指摘する。

Chenは、彼の会社が診断の精度を20%高めることができる、と主張する。中国ではよくあることだが、遠隔の奥地ではヘルスケアの提供が不足していて、そうした場合にAIが医者の代わりとなる。

初のクライアントを獲得

深層学習を扱う他の企業と同様、Infervisionもさまざまなソースからのデータを使ってアルゴリズムのトレーニングを続ける必要がある。今週現在、Infervisionは280の病院ーうち20の病院は中国外にあるーと協働していて、毎週12病院が新たなパートナーとして加わっている。またInfervisionは、中国の一流の病院の70%が同社の肺に特化したAIツールを活用している、としている。

しかしInfervisionは出だしから順風満帆だったわけではない。

中国南部の町、深圳市の出身であるChenは、ノーベル賞受賞者のエコノミストJames Heckmanのもとで学んだが、シカゴ大学の博士課程を中退したのちに、Infervisionを立ち上げた。起業家として歩み始めて最初の6カ月、中国中の40もの病院に足を運んだーそれは無駄だった。

「当時医療AIはまだ新しいものだった。病院というのはもともと保守的だ。患者を守らなければならず、そのために外部の人とパートナーになるのを敬遠する」とChenは回顧した。

やがて、四川省人民医院がInfervisionにチャンスをくれた。Chenと、創業メンバー2人はわずかながらまとまったイメージデータを入手した。Chenたちは病院横の小さなアパートに引っ越し、事業を進めた。

「我々は医師の働きぶりを観察し、彼らにAIがどのように働くのかを説明し、彼らの不満に耳を傾け、プロダクトをイテレートした」とChenは語る。Infervisionのプロダクトは優れたものであることを証明し、すぐにその名は医療従事者の間で知られるようになった。

「病院はリスク回避の傾向にあるが、そのうちの誰かが我々のことを気に入ってくれたらそれが口コミで広がり、他の病院がすぐに我々にアプローチしてくる。医療業界はかなり緊密だ」とChenは話した。

AIは過去数年で二次的なインベンションからヘルスケアにおける標準へと発展し、病院はテックスタートアップのサポートを積極的に模索し始めている。

Infervisionは海外マーケットでも向かい風の中で歩を進めてきた。たとえば、米国ではInfervisionは医師訪問をアポ制に制限され、これによりプロダクトのイテレーションスピードが遅くなった。

Chenはまた、多くの西洋の病院が中国のスタートアップが最先端の技術を提供できるということを信じなかった、と認めた。しかし彼らはInfervisionは何ができるかということを知ると、Infervisionを歓迎した。これは部分的には、1日あたり画像2万6000枚という貴重なデータのおかげだ。

「技術能力に関係なく、中国のスタートアップは、他国のスタートアップが巡り会うことがない、山のようなデータへのアクセスが与えられている。これはかなりのアドバンテージだ」とChenは話す。

中国の巨大な医療産業において、競争には事欠かない。AIを監視とフィンテックにも持ち込んだ中心的な存在のYituは、今週あったシカゴ放射線学会でがん発見ツールを発表した。

AIソリューションを商品として提供することで収入を上げているInfervisionは、今後は脳血管系そして循環器系の疾患のような、社会の負担増を招く病状に特化したプロダクトを優先する、としている。

イメージクレジット: Infervision

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(翻訳:Mizoguchi)

AmazonのComprehend Medicalサービスは機械学習を利用して患者の記録から有意な医療データを取り出す

【抄訳】
Amazonが、機械学習を利用して患者の記録から重要なデータを取り出し、病院などのヘルスケアプロバイダーや研究者たちの費用節約や治療方針の決定、臨床試験(治験)の管理などを助ける新しいサービスを立ち上げた。AmazonがAmazon Comprehend Medicalとよぶこのサービスの発表は、火曜日(米国時間11/27)に、The Wall Street Journalがそれを報じた直後に行われた。

このクラウドソフトウェアはテキスト分析と機械学習を組み合わせて、処方や注記、面談の音声、検査の結果、などから成る患者の記録を読む。これらの記録がデジタイズされてComprehend Medicalにアップロードされると、診断や処置、薬の処方、そして症状などに関する情報が拾い上げられてまとめられる。

〔参考記事: Amazon Comprehendとは…「Amazon Comprehendでは機械学習の技術とは無縁なデベロッパーでも専門用語で自然言語処理モデルを訓練できる」〕

Amazonの最近のヘルスケアへの進出としては、オンラインの処方箋サービスPillPackを10億ドル近くで買収したことや、Amazonの社員のヘルスケアを改善するための、Berkshire HathawayとJP Morgan Chaseとのジョイントベンチャーが挙げられる。これらにより同社は、最近ますますヘルスケアにフォーカスしているそのほかの大手テクノロジー企業の仲間入りをしている。

たとえば今年初めにAppleは、iPhoneのユーザーが自分の病院の医療記録を見られるための機能をiPhone上に導入した。またGoogleは最近、大手医療法人Geisingerの前CEODavid Feinbergを雇用して、検索やGoogle Brain, Google Fit, Nestなど多岐にわたるGoogleの各事業部門が抱えるヘルスケア企画の、一元化と全体的な指揮を彼に委ねた。

今日の発表声明の中でAmazonはこう言っている: “これまでは、この情報を見つけるために長時間の手作業を要し、しかもそのために、高度な技能を持つ医療エキスパートによるデータ入力や、情報を自動的に取り出すためにデベロッパーのチームがカスタムのコードとルールを書く必要があった”。そして同社の主張によるとComprehend Medicalは、患者の記録の中に“医療の状態、解剖学的専門用語、医療検査の詳細、治療内容、処置”、などを正確に見つける。一方、患者は、このサービスを利用して自分の治療のさまざまな側面を管理し、通院のスケジュールや薬の処方、保険の適用の判断などを明確に把握できる。

【後略】
●データは暗号化され、どこにも保存・利用されないのでプライバシーの問題はない。
●すでにいくつかの大手製薬企業や医学研究所がComprehend Medicalを試験的に導入し、とくに治験の適正な実施に必要な膨大な量のデータ作業の省力化や迅速化などに貢献している。“これまで数時間を要したデータ作業が数秒で終わる”そうである。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

ドローンが初めて臓器移植用の腎臓を運び結果は良好

ドローンを使う配送に実用性があるのは、二つの分野だけではないだろうか: テイクアウトと臓器移植だ。どちらも、荷重が比較的軽いし、しかも時間要件がきわめて厳しい。そして確かに、冷蔵ボックスに収めた腎臓を運ぶボルチモアでの実験は、うまくいった。このぶんでは、良質な装具に収めたあなたの昼食のパッタイも、無事に早く届くだろう。

このテスト飛行を行ったのは、外科医のJoseph Scaleaが指揮するメリーランド大学の研究者たちだ。Scaleaは、空輸では十分な柔軟性が得られないことに不満を感じていた。そして、そのいわゆる‘最後の1マイル問題’の当然のようなソリューションが、ドローンだと思った。

Scaleaと彼の同僚たちはDJI M600ドローンを改造して冷蔵ボックスを運べるようにし、飛行中の臓器の状態をモニタするためのバイオセンサーを設計した。

数か月待って、彼らの研究に腎臓が与えられた。それは、テスト用には十分だが、移植用には使えない、という状態のものだ。チームは、ボルチモアに到着したそれをコンテナに収め、距離と条件がさまざまに異なる14の旅程ミッションを実行した。最長は、病院までの距離が3マイル(約5キロメートル)、最高速度は時速67.6キロメートル(42マイル)だった。

腎臓の生検は飛行の前後に行われ、また小型の航空機による参照飛行のあとにも行われた。小型航空機は、中距離の臓器輸送によく使われている。

画像クレジット: Joseph Scalea

結果は良好だった。風や、ドローンのモーターの熱などが心配されたが、モーターと回転翼が離れているドローンを選ぶなどで対応し、ボックスの温度は冷凍よりやや高い摂氏2.5度が維持された。ドローンの振動や機動によるダメージは、見受けられなかった。

ドローンにも、そして臓器の輸送方法にも規制があるので。このような配送方法が近日中に実用化されることはないだろう。しかしこのような研究が、規制の改定の契機になると思われる。リスクが定量化されれば、腎臓や肝臓、血液などの組織や、そのほかの重要な医療用品を、この方法で輸送できるようになる。多くの場合、一分一秒を争う状況で。

とくに有益なのが、災害現場だろう。航空機はもちろん、陸上車両もそこへ行けない状況がありうる。そんなとき、ドローンは必要な品物を届けられるだろう。しかしそうなる前には、飛行によって血液が凝固しないなど、実用化に向けての十分な研究が必要だ。

この研究の詳細は、IEEE Journal of Translational Engineering in Health and Medicineに載ったペーパーに書かれている。

画像クレジット: Joseph Scalea/メリーランド大学ボルチモア校

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

医療×ITの土壌作りへ、メドレーが30億円規模の出資プロジェクトーー鍵は“技術のオープン化”

「医療業界全体を良くするために、もっと業界をインターネットテクノロジー色に染めていきたい」

医療ヘルスケア分野のサービスを複数展開するメドレーで取締役CTOを担う平山宗介氏は、新たに発足したプロジェクトへの意気込みについてそう話す。

プロジェクト名は「MEDLEY DRIVE」。医療ヘルスケア分野における技術のオープン化および情報活用を推進していくことで、業界全体がインターネットテクノロジーの恩恵を十分に受けられるようにするのが目的だ。

具体的には医療ヘルスケア業界で旧来から事業を展開してきた企業や、新たな医療情報システムサービスを開発するスタートアップに出資するとともに、プロダクト開発やマーケティング、コンプライアンス面でのナレッジ共有・体制構築を支援する。当初の投資総額枠は30億円規模と大きい。

子会社設立やファンドの組成を伴うものではなく、あくまでひとつのプロジェクト。位置付けとしては過去に紹介したメルカリの「メルカリファンド」などにも近いだろう。

それにしても、自身もスタートアップであるメドレーがなぜこのようなプロジェクトを実施するに至ったのか。今回はMEDLEY DRIVEのプロジェクトオーナーであるCTOの平山氏と執行役員の加藤恭輔氏に、背景や目指している世界観について聞いた。

業界全体が“インターネットテクノロジーの恩恵”を受けられるように

メドレー取締役CTOの平山宗介氏

まずは改めてMEDLEY DRIVEの全貌を紹介したい。同プロジェクトは大きく3つのターゲットに対して、出資を始めさまざまな形のサポートを実施するものだ。

  • 医療ヘルスケア分野において長く事業を展開しており、今後インターネットテクノロジーを活用したさらなる課題解決を模索している企業
  • 医療ヘルスケア分野において、将来デファクトスタンダードとなりうるインターネットプロダクトの開発をおこなう企業
  • 医療ヘルスケア分野において、次世代標準になりうる要素技術の開発をおこなう企業

ポイントは支援の内容が資金面だけでなく、技術的な支援を中心としたプロダクト開発周りやマーケティング、コンプライアンス領域にまで及ぶこと。CTOの平山氏がプロジェクトオーナーを務めることからもわかるように、むしろ“資金面以外”のサポートを充実させたい意向もある。

メドレーではオンライン診療アプリ「CLINICS」やクラウド型電子カルテ「CLINICS カルテ」など医療とテクノロジーを掛け合わせたプロダクトを複数展開してきた。これらのプロダクトは地道に成長しているが、その一方で平山氏は「今後を見据えた時に超えなければならない大きな壁がある」と話す。

それが現在の医療業界におけるインターネットテクノロジーの浸透具合の問題だ。歴史が長い業界であるからこそ「たとえば技術的な標準化においても古い技術をベースに議論がされたりする」(平山氏)など、テクノロジーの活用がスムーズにはいかない部分も少なくない。

そういった要素はメドレーの電子カルテを普及させる上ではもちろん、テクノロジーを強みとする新規のプレイヤーがこの業界で挑戦したり、業界全体をアップデートしたりする上でもネックになりうる。

だからこそMEDLEY DRIVEではスタートアップだけではなく、すでに業界内で長期に渡って事業を展開してきた企業とも積極的にタッグを組むことを重要視しているのだという。そのような企業に「インターネットや技術に対する知見」を積極的に共有していくことが、業界のスタンダードや基幹システムのあり方、テクノロジーに対する考え方を変えていくことに繋がるからだ。

培った知見や経験を、業界に還元する

また医療ヘルスケア分野でチャレンジするスタートアップや、AIなど医療分野においても今後の基準となりうる要素技術を開発する企業には違った面からもサポートができるという。

この分野においては法規制やガイドラインとの向き合い方、多様なステークホルダーとの関係性の築き方など、業界特有の“難しさ”がある。メドレーが実際に蓄積してきた知見や経験をシェアするという点は、このプロジェクトならではの大きな特徴だ。

特にコンプライアンス体制の構築など、業界に精通していないと相応の時間と労力がかかりそうな面もサポートしてもらえることは、スタートアップにとって心強いだろう。

「CLINICSを2年間運営する中でいろいろと苦戦することも多かった。ガイドラインを考慮しながら同時に未来のプロダクトのあるべき姿を考える必要もある上に、日本の医療や医師会の考え方も踏まえて一企業としてどのように振る舞うかを常に求められる。(プロダクト開発やマーケティングだけでなく)そういった知見や経験も溜まってきたので、どんどん業界に還元していきたい」(平山氏)

現時点で決まっているのはスタート時の投資総額枠が30億円ということと、出資の対象となる企業の属性くらい。出資対象となる企業のステージや1社あたりの出資総額などは特に縛ることはなく、個々の事案ごとに柔軟に対応していく方針だ。30億円の枠にもとらわれすぎず、インパクトのある投資を実行したいという。

インターネットを前提とした議論がされるような業界へ

近年はインターネットテクノロジーの進歩が凄まじく、いろいろな業界が大きく変わり始めている。

医療分野においても、2010年2月の厚生労働省の通達により診療録等の保管場所がクラウド上に広がったことを機に変化が訪れた。今では関連ガイドラインの改訂を経て、電子カルテだけでなく、オンライン診療システムなど様々なサービスが現場で活用され始めている。

とはいえ、そこにはまだギャップがあるというのが平山氏や加藤氏の見解。特に業界を変えていく上では必須となる“人材面”で課題感を感じているようだ。

「テクノロジーに強い優秀な人材がなかなか入ってこないことには危機感を感じている。(人の生死に関わる領域なので)法律やガイドラインなど考慮するべきことや、ステークホルダーの数が多かったりすると、プロダクトの開発だけに集中できず大変なイメージを持たれて敬遠されることもある。そのイメージを変えていくためには、技術のオープン化を進めて空気作りをしていくことが大切だ」(加藤氏)

そのような背景も踏まえ、これまでメドレーでは「ORCA API」のオープンソース公開や、ブロックチェーンを活用した電子処方せん管理方式の技術公開といった活動に取り組んできた。

ただ業界内のカルチャー自体を変えていくには、メドレー1社だけではなく他のプレイヤーを巻き込んでいくことも必要だ。MEDLEY DRIVEには、共に医療×ITの土壌作りを加速させる“仲間集め”の意味合いもあるのだという。

「(今後活動を続ける中で)医療業界で挑戦したいと思うクリエイターや、そういう人材を積極的に採用しようという企業が増えたり、業界で長く事業をやっている企業の方々がよりインターネットに関心を持つように変わったりするのが理想。インターネットを駆使することで医療がどのように変わるのか、その世界観をしっかりと広げられれば、議論も当然のようにインターネットを前提としたものになるのではないか」(平山氏)

ゆくゆくは医療現場のIT化が進むことで、医療従事者が今まで以上に診療に専念できる環境が整い、患者にとっても「納得できる医療」を実現することがMEDLEY DRIVEの大きな目標。とはいえ、いきなり文化を変えると言ってもそう簡単ではないので「まずはひとつひとつ積み上げながら、業界を少しずつ変えていきたい」(加藤氏)という。

今、ブラジルのヘルステック分野が熱い

[著者:Manoel Lemos]
シリコンバレーのベンチャー企業Redpointのブラジル専門部門Redpoint eventuresの業務執行社員。

大勢の人が絡む大きな問題に取り組むことは、起業家と投資家の両方にとって絶好のチャンスとなる。たとえば近年のブラジルでは、フィンテックによる金融改革や、新しいオンデマンドのビジネスモデルに投資が集中しているが、ヘルステック関連のスタートアップも、ブラジルで爆発的な増加を見せている。全国民のうちの数千万人が、根深い不平等問題によって医療サービスが受けられず、深刻なまでに低水準な医療の質、重い負担、あらゆる面での非効率といった問題に苦しめられている。起業家の皿は、市場に届けたいヘルステックの改革案で山盛りの状態だ。

Liga Venturesの最近の調査では、現在ブラジルには健康に特化したスタートアップが250社位上あり、民間医療に年間420億ドル(約4707億円)以上を消費する世界で7番目に大きな健康市場になっているという。ただし、そのうち180億ドル(約2017億円)が効率の悪さのために浪費され、この5年間でブラジルの医療関連コストが倍に跳ね上がっているため(累積インフレ率38パーセント)、ブラジルの医療は崩壊寸前にある。ヘルステック系スタートアップは、サンパウロ南部のビラオリンピアに拠点を置く世界最大級の起業家ハブCUBOItaúでも、トップ5の業界に入っている。

昨年、中南米の民間投資を支援する非営利団体LAVCAが発表した「中南米の技術ブレークアウトの年」によると、中南米において、ヘルステックは2番目に急成長している技術分野になっている。2016年と比較して、ヘルステックの取り引きは250パーセントにまで拡大した。ブラジルに診療所を建設して安価に最高の医療を提供することを目的としたネットワークDr. Consultaへの5000万ドル(約56億円)の投資は、2017年のベンチャーキャピタルによる投資の中でも最大のものだった。

医療分野は、患者、仲介業者、診療所、代理店、サプライヤーの間で、人と仕事と製品を結びつけなければならない複雑な市場だ。そこで、技術革新を武器に、ブラジルでもっとも大きなインパクトを与え、この市場に新しいビジネスモデルをもたらす主要なカテゴリーと企業を紹介しよう。

オンデマンドの医療

公的医療機関が利用できるのは、ブラジルの人口(約1億5000万人)のうち、およそ75パーセントに限られている。しかし、そうした医療機関は運営管理が不十分で非効率だ。1回の診療や検査のために、患者が数週間から数カ月待たされることも少なくない。そこに技術力を背景にしたスタートアップが登場し、より広く、より高齢の人々にも、効率的に医療を受けやすくする機会を提供し始めた。

たとえば、低価格な診療所チェーンDr. Consaltaの施設は、この3年間で1軒から51軒にまで増えた。今では、100万人以上の患者から得た国内最大の医療データセットを持つと主張するまでになった。他の民間診療所では、診察料が少なくとも90ドル(約1万円)はするが、Dr.Consaltaは25ドルだ。同様のオンデマンド医療を提供する診療所として、ClínicaSimDr. Sem Filas、 DocwayGlobalMed.などがある。

テレヘルスとモバイル健康アプリ

医療上の助言、診断、モニタリングをより便利にするテレヘルス・サービスがブラジルで拡大している。たとえば、Brasil Telemedicinaは、医療検査、医師の診察、遠隔モニタリング、心理カウセリングなど、さまざまなサービスを24時間提供している。

患者のケアを改善するためのB2Bテレヘルス・サービスには、1日24時間年中無休で放射線画像解析を行うTelelaudo、心臓の健康状態のモニター、陰圧閉鎖療法、乳児の呼吸と健康状態のモニターのための特殊な機器を提供するVentrixなどがある。また、サンパウロに拠点を置くスタートアップNEO MEDは、心電図と脳波図の医学報告が簡単に素早く作成でき、それぞれの場所で柔軟に収入を増やしたいと考える診療所、研究所、病院、医師の協力を促すプラットフォームを開設した。

フィンテックのような急成長分野を
もうひとつ作れる重要な材料が
この国にはふんだんにある。

ブラジルでは、糖尿病と高血圧といった疾患の発生率の高さインターネットユーザーの多さから、モバイル健康アプリの人気が高まっている。たとえば、Dieta e Saude(栄養と健康)というアプリは、160万人以上のユーザーに、よりよい栄養食品を選ぶよう助言し、それを習慣づける動機を与えている。ブラジルで設立され、現在はサンフランシスコに拠点を移したYouperは、社会的不安の解消を手助けする情緒的健康のためのバーチャル・アシスタントだ。ユーザーの思考パターンを再構成して、心をより健康な状態にしてくれる。

AIとデータ解析

他の業界と同様、またブラジルに限らず、AIとデータ解析は、患者の診断のスピードアップから医療コストの管理に至るまで、医療を変革しつつある。

その中のイノベーターのひとつにGestoがある。データベースに蓄積した450万件以上の患者の情報を機械学習でふるいにかけ、有用な情報を引き出して、患者の治療を最適化すると同時にコストを管理し、企業にとって最適な保険プランの選択を助けてくれる。集中治療室の管理を専門とするブラジル最大手のIntensicareは、AIを利用して診断のための時間を短縮し、患者の滞在時間と死亡率の低減を目指している。レシフェに本拠地を置くスタートアップEpitrackは、クラウドソースのデータ、AI、予測分析を使って疫学をコンピューター化し、伝染病の大流行と戦っている。

電子カルテ

昨年、ブラジル政府は、国内4万2000箇所以上の公営診療所で扱う患者のカルテを近代化するプロジェクトを、2018年までに完了させると発表した。世界銀行によると、カルテの電子化によって、連邦政府の経費は68億ドル(約7630億円)削減できるという。昨年末の時点で、ブラジル人(2億800万人)のうち3000万人しか電子カルテを持っておらず、ブラジルの家族向け診療所の3分の2近くが、患者の電子カルテを作成する手段を持っていなかった。

SaaS電子カルテのプラットフォームであるiClinicは、医療の近代化に大きな影響を与えたブラジルでもトップクラスのスタートアップだ。医療の専門家によるカルテの分類を電子的に支援し、すべてのデータをクラウドに保管し、あらゆるデバイスで読み出せるようにする。iClinicは非常に使いやすいシステムであるため、医療の効率化、コストの削減、治療の質の向上が期待できる。現在、ブラジルの各地で利用されているが、ブラジル以外の20カ国以上にも利用者が広がっている。

処方箋のデジタル化

ブラジルでのデジタル化の遅れによるもうひとつの大きな問題として、70パーセント近くの処方箋に記述ミスの恐れがあるという点を世界保健機関(WHO)が指摘いている。そのためブラジルでは、投薬ミスの関連で年間数千人が死亡している。精査することで、かなりの人数が救えるはずだ。アメリカでは、すでに77パーセント以上の処方箋がデジタル化されている。

この生死の問題に対処するために、ブラジルの電子処方箋管理の中心的存在としてMemedが登場した。現在、ブラジルのすべての医療分野の5万5000人以上の医師がこれを利用し、アレルギーと薬物相互作用の照合を行っている。これにより、服薬コンプライアンスが容易になり、医療効果も高まる。同社は、ブラジルでもっとも充実した、信頼性の高い、最新の薬物データベースを開発している。

ブラジルのヘルステック関連のスタートアップは注視すべき分野として急成長しているのは確かだが、ヘルステック革新が解決に着手したこの国の問題は、まだまだ氷山の一角に過ぎない。フィンテックのような急成長分野をもうひとつ作れる重要な材料が、この国にはふんだんにある。ブラジルにおけるヘルステックは、今後長きにわたり、それを信じる起業家と投資家にとって、確実にホットな分野となる。

備考:Redpoint eventuresはMemedに投資しています。  

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(翻訳:金井哲夫)

この小さなロボットは濡れた胃壁を這いまわって薬を届ける


香港城市大学が作ったこの小さなロボットはまだ生まれたばかりだが、将来あなたの胃腸に送り込まれるかもしれない。

この小さくてワイルドなロボットは、電磁力を利用して泳いだり前後に倒れたりしながら過酷な環境の中を前進して行く。研究者らは体の外からロボットを遠隔操作する。

「ほとんどの動物は足の長さと足の間の距離の比率が2:1から1:1だ。そこでわれわれは比率1:1のロボットを作ることにした」と同大学バイオ医療工学部のDr. Shen Yajingは言う。

足の長さは0.65 mmで先端を尖らせて摩擦を減らしている。ロボットは「ポリジメチルシロキサン(PDMS)と呼ばれるシリコン素材で作られ、埋め込まれた磁気粒子に電磁力を作用されることで遠隔操作が可能になっている」。ロボットはほぼ90度に曲がって障害物を乗り越えることができる。

研究チームはチビロボットをいくつもの過酷な環境に送り込んだ。この濡れた胃壁モデルもそのひとつ。薬剤を持って患部に落としてくることもできる。

「人体内のでこぼこな表面やさまざまな組織の構造変化が移動を困難にしている。われわれの多足ロボットはさまざまな地形で良い成績を収めており、体内の薬物送達への幅広い応用を可能にする」とWang Zuankai教授は言った。

将来は生分解性ロボットを作りたいと研究チームは考えている。食道から入ったロボットが胃腸を通り、荷物(薬剤)を落としたあとは溶けてなくなるか排泄される。

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi / facebook

医師が患者とグローバルな医療システムに求めるデジタル療法

[著者:Meri Beckwith]
Oxford Capitalの投資家であり、イギリスでシードおよびシリーズAのベンチャー投資を行っている。デジタル医療、交通と消費者ブランドの未来に力を入れている。

デジタル製品が、最終的に私たちの健康によいインパクトを与えているかどうかは、難しい問題だ。ほとんどのものが、スロットマシンと同じようにドーパミンを放出させるよう作られている。夢中になるように設計されたゲームにはまって少年期を無駄に過ごしてしまった人の話は、みんなも聞いているとおりだ。そしてWHO(世界保健機構)は、ビデオゲーム中毒は精神疾患であると認定するに至った。

しかし、こうした中毒を生むデジタル製品のパワーは、疾病や健康障害を招く習慣を変え、病気の治療を行う方向にも利用できる。このような新しいタイプの製品は、一般に「デジタル療法」と呼ばれるようになってきた。こうしたアプリやサービスは、根拠に基づく、または個人ごとの行動療法を提供し、糖尿病や孤独、またはその中間の状態まで、幅広い疾病や体調に対応できる。

従来式の治療法の開発は大変に困難であるため、同類の次なる超大型の処置法や治療法がデジタル療法の分野から現れ、それがどんどん増えている。低コスト、汎用性、開発の早さといった特徴のおかげで、デジタル治療は、病に苦しむ無数の人たちや経営に窮する医療システムに変革をもたらす可能性があるのだ。

私はイギリスに住み働いているので、この記事ではNHS(英国国民健康保険)を何度も引き合いに出すが、個別支払い方式であっても、価値に基づく医療(バリューベース・ヘルスケア)であっても、同じように恩恵は受けられる。

患者にとってのデジタル療法

幅広いスタートアップが登場することで、デジタル療法に力が与えられ、患者や医療機関が今日直面している大きな問題が解決に向かいことが期待できる。しかも、デジタル療法は有効であるという証拠も出ている。

食事や生活習慣によって生じる2型糖尿病は、英国内科医師会が「21世紀の災難」と呼んできた。それを裏付けるように、NHSは、2型糖尿病の治療のために年間1200万ポンド(約176億円)を支出している。これはNHSの予算の1割に相当する。しかし、多くの場合、生活習慣を変えるだけでも十分な予防効果があり、治療にも役立つ。OurPathは、まさにそれを行うためのデジタルプログラムを作成した。最近の調査によれば、参加者は平均7.5キログラムの減量に成功し、2型糖尿病患者の病状改善に十分な効果があったという。

もうひとつの先駆者であるQuitGeniusは、アプリ利用者の36パーセントに完全な禁煙を成功させた。自力で禁煙できた人は、喫煙者のわずか3パーセントに過ぎない。喫煙は、社会全体の健康にとって、また世界の医療システムにとって大きな重荷だ。イギリスだけでも、喫煙はあらゆる死亡原因の16パーセントを占めている。

 

4人に1人が
精神的に病んでいる今、
精神的な健康に
気を遣うことも
私たち全体の利益になる。

 

精神状態がよくない人には、デジタル心理療法の先駆者であるlesoがある。彼らは、認知行動療法などの通常の治療法では、メッセージングアプリなどを使ったデジタルな方法のほうが、人が行うよりも効果が高いと主張している。

しかし、4人に1人が精神的に病んでいる今、精神的な健康に気を遣うことも私たち全体の利益になる。新規参入のHelloSelfは、私たち全員が、最高の自分になれるよう支援してくれる。その方法は、まずセラピストとデジタルにつながり、AI人生コーチを構築して何が自分をいちばん幸せにするかを深く理解させ、精神的健康の改善のために何をすべきかを提案するというものだ。

他にも、Soma AnalyticsUnmindSilverCloudといった企業が、もっともストレスを感じる環境である職場での精神的な健康を支えてくれている。これらの企業が提供する製品は、3つの勝利をもたらした。従業員のストレスレベルを低減し、雇用主のためには生産性を向上し、公的医療機関の負担を減らしている。

デジタル療法は、過敏性腸症候群のような複雑な症状にも最適に対処できる。この症状に悩む人は8億人おり、その60パーセントが鬱や不安を感じている。これまでは、食事制限や抗うつ剤の投与など、不完全な対策しかとられてこなかった。Bold Healthなどの企業は、データに基づく個別の治療法を用いて結果を出そうとしている。また、催眠療法を過敏性腸症候群の治療法も先進的に導入している。

私たちの医療システムはデジタル療法を求めている

従来型の療法を市場に出すまでの費用は、飛躍的に高額になっている。詳しくはEroom’ Lawに書かれているが、端的に言えば、新薬の開発費用は1950年以来、9年ごとに倍になっている。長期にわたる検査と臨床試験を行っても、その薬が予想通りの結果をもたらすとは限らない。はっきり言って、まったく効かないこともあるのだ。

 

新薬を市場に出すためには
14年間の歳月と
25億ドルの経費がかかる。

 

さらに、医療システムは人口増加と経費削減の重圧にさらされている。もちろん、イギリスにおいてもこれは事実だ。

こうした事情に対して、デジタル療法は素晴らしいソリューションとなる。開発費は比較的安い。上に掲げた企業はみな、製品開発にかけた費用は500万ドル(約5億6000万円)以下だ。従来型医療の経費とは対照的だ。現在、新薬を市場に出すためには平均して14年間の歳月と25億ドル(約2800億円)の経費がかかる。

デジタルに供給する方式なら、治療効果や有効性のデータ収集、練り直し、微調整が容易になり、人よって治療法を変えることも可能になる。結果的にどれほど節約できるかを数値化することは難しいが、医療コンサルタントのIQVIAの新しい報告によると、5つの疾病分野に現在使用可能なデジタル療法を採用した場合、NHSは1億7000万ポンド(約250億円)の節約ができるという(糖尿病だけでも1億3100万ポンド、約192億円の節約になる)。

デジタル療法の企業は、基本的に病院で支払う医療費の自己負担がないイギリスにおいてさえ、現在は消費者に直接製品を販売することで成功している。だが、その有効性が証明されたことで、NHSは、デジタル療法をどのように購入するか、どのように処方箋を書くかを「学び」始めた。このほどNHSは、App Library(現在はベータ版)を開設した。ここで消費者に、信頼できるデジタル療法のアプリを紹介している。また、医師が最良のデジタル療法を探し、患者に処方し、追跡できるプラットフォームAppScriptも開設し、イギリス全土の総合診療医に向けて展開している。

もし、彼ら自身がデジタル療法を開発していたなら、長期にわたる健康に関する独自のデータ(患者とその健康の長期にわたる状態のデータ)が蓄積されているNHSのような国の健康保険システムは、莫大な利益を得られたはずだ。

消費者たちは、デジタル療法に目を向け始めた。それにより人生がすでに変化しつつあることにも気がつき始めている。その有効性が証明されてゆくなかで、医療システム、とくにイギリスのNHSは、この新しい治療法モードに思い切って舵を切ることを、私は期待する。

[原文へ]
(翻訳:金井哲夫)

23andMeの祖先判定ツールが黒人や黄色人種に対しても詳しくなった

遺伝子検査サービスの23andMeが、これまで大まかだったアフリカ、東アジア、およびアメリカ先住民の子孫たちの祖先判別機能を、より細かくした。とくにアフリカと東アジアに関しては、12の新しい地域を加えた。私が数年前に23andMeを試したときには、71%が西アフリカと言われだけで、具体的にどの国か分からない。それが、今度から変わる。もっとも私はすでに、Ancestryにも調べてもらったんだけどね。

[2017/10月Ancestryの結果]

23andMeのシニアプロダクトマネージャーRobin Smithによると: “今回のアップデートで重要なのは、とくにアフリカとアジアではもっと詳しいデータが得られるようになったことだ。それはAfrican Genetics ProjectGlobal Genetics Projectなどの先行プロジェクトのおかげだ”、という。

これまで23andMeは、サハラ以南のアフリカをわずか三つの地域に分けていた。これからは地域が8つ増え、また東アジアも地域が4つ増えた。

以下が、今回増えた12の地域ないし人種だ:

  1. Southern East African 南東アフリカ
  2. Congolese コンゴ
  3. Coastal West African 沿岸部西アフリカ
  4. Ethiopian & Eritrean エチオピアとエルトリア
  5. Senegambian & Guinean セネガンビアとギニア
  6. Nigerian ナイジェリア
  7. Somali ソマリア
  8. Sudanese スーダン
  9. Chinese Dai 中国傣族
  10. Vietnamese ベトナム
  11. Filipino フィリピン
  12. Indonesian, Thai, Khmer & Myanmar インドネシア, タイ, クメール, ミャンマー

23andMeは2007年にローンチしたが、完全な祖先系統情報の提供までには時間を要した。TechCrunch Disrupt SF 2017で23andMeのCEO Anne Wojcickiは、顧客のほぼ75%がヨーロッパの出自だ、と言った。だからSmithによると、もっとデータが必要なことは十分承知していたのだ。

Smithによると、23andMeでこれまでご先祖チェックをやった顧客には、再テストを勧めている。今回のアップデートは、対象者が、もっとも最新のジェノタイピングチップを装着することが必要だからだ。23andMeの今のチップは第五バージョンで、“世界の多様性をよりよく反映できる”そうだ。

つまり顧客は、新しいキットを買うか、今後予定されているアップデートプログラムに参加するか、どちらかを選ぶ。それ以降は、定期的にチップのアップデートを行い、新しい地域/人種を継続的に加えていくそうだ。

アップグレード: これまで23andMeで遺伝子検査をしてもらって、Ancestry Compositionレポートをもらっている人は、無料で第五バージョンのチップによる検査にアップグレードできる(来年以降)。それ以降のさらに新しいバージョンのチップに関しては、新しい健康情報なども含まれるので、アップグレードは有料になる。

昨年の9月に23andMeはおよそ17億5000万ドルの評価額で2億5000万ドルを調達した。そのときWojcickiは、今後もっと、データの多様性を図りたい、と述べた。

今23andMeは、祖先系統の判別のほかにも各種の健康情報を提供している。2017年の初めにはFDAの許認可により、23andMeは、パーキンソン病やアルツハイマー病など10種類の遺伝子リスク検査ができることになった。また23andMeは、DNAがユーザーの容貌や好みや肉体反応に及ぼしている影響、というお楽しみ情報も教えてくれる。

私も近く23andMeのテストを再受診してみて、結果を読者にお教えしよう。なお、下図は、23andMeの研究者がくれた、私の[アップデート前]と[アップデート後]の検査データだ。

[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa