ヨーロッパ各国のAmazonの倉庫労働者が‘われわれはロボットではない’と労働条件改善要求デモを展開

【抄訳】
ヨーロッパのいくつかの国でAmazonの倉庫労働者が、彼らの主張する、人間をロボットのように扱う非人間的な労働条件に抗議している。それは今年の一連の労働者運動の中で最新のものだ。

その最新の運動は、ブラックフライデーにタイミングを合わせている。それはネットショップの1年でいちばん忙しい日で、お店は多くの商品の値引き販売を派手に宣伝して、その日から始まるその年のショッピングシーズンを盛り上げようとする。

イギリスでは、この国の代表的な労働組合のひとつGMB(Androidアプリ)が、今日(米国時間11/23)の朝と午後にルージリーなど5箇所のAmazon倉庫で“数百名”が抗議に参加する、と言っている。

私がこの記事を書いている時点〔現地時間11/23昼ごろ〕では、同労組は動員数の詳細を提供していない。

AP電によると、抗議活動は今日、スペイン, フランス, そしてイタリアでも行われている。しかしこれらのストライキについて尋ねられたAmazonは、“弊社のヨーロッパのフルフィルメントネットワークは正常に稼働しており、顧客への配送業務に引き続き専心している。これに反するいかなる報道も、まったく間違いである”、と主張している。

デモは、団体交渉を受け入れるようAmazonに圧力をかけるだけでなく、同社のWebサイトのユーザーに、大量のディスカウント商品の包装と配送は通常より(労働量も含め)経費がかさむことを、理解してもらうねらいもあるようだ。

[われわれはロボットではない。尊厳と敬意をもって扱え。ここでメッセージをシェアしよう。]

スペインの新聞El Diaroによると、労働者たちの今日の抗議は、Amazonのこの国最大のロジスティクスセンター、マドリッドのサンフェルナンドで行われ、労働条件をめぐるスペインでのストライキはこれが四度目である。

マドリッドの抗議者たちは今朝、次のようにシュプレヒコールしたという: “われわれの権利のディスカウントはお断り”。

[労働者のいないサンフェルナンドは麻痺した。]

AP電によると、スペインの抗議グループのスポークスパーソンDouglas Harperは、90%の労働者がデモに参加したので、搬入口には2名しか残らなかった、と言った。これに対しAmazonは、“90%は真っ赤な嘘だ。サンフェルナンドのフルフィルメントセンターは顧客の注文を通常どおり処理した”、と反論している。

フランスの新聞も、同国内の倉庫労働者のストライキを報じた。Amazonのロジスティクス労働者を代表する組合は、全国的なストライキを呼びかけた。

イギリスではGMB UnionがAmazonに、Amazonが労働組合を認めるよう求めた。それを認めない今のやり方は、“ヴィクトリア朝時代の因襲的な労働慣行だ”、と非難した。

また同組合は、年間の救急車呼び出し回数や、 Health and Safety Executive〔≒労働基準局〕への傷病報告件数の数字を挙げて、Amazonの労働条件は非人間的、と糾弾している。イギリス政府は政府が取り持つ労使調停を示唆したが、Amazonはこれに答えていない。

【後略】

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

200ドルするSilentmodeのPowerMaskはリラックスを誘うマスク

重慶大厦(チョンキンマンション)での2日目の夜、僕はほとんど眠れなかった。やかましい近所、香港の暑い空気、真夜中すぎのドアを叩く音。これらのどれもが安眠を妨げるもので、僕は人生で初めて、15時間超の帰途フライトで目を閉じるのが楽しみという思いを経験をした。

その夜に経験した悪名高い香港の環境は二度と経験したくないとの思いがあって、僕は頭に巻きつけるこの奇妙なものを試すのを楽しみにしていたー目を閉じて、ほんの数分間、自分自身がどこにいるのかも忘れるほどのラグジュアリーさを体験するというものだ。

僕はSilentmodeのPowerMaskを、Brincの煌々とした会議室の真ん中で試した。PowerMaskの外観はかなり奇妙だー両サイドにヘッドフォンが埋め込まれた、大きな目隠しマスク。おそらく装着しているところは誰かに見せたいというものではないが、上記写真ではLucasがすすんでモデルになってくれたーなぜなら、TechCrunch.com上では奇妙なものを装着する人の写真は十分にないからだ。

僕は家で飼われているオウムが夜カゴにブランケットをかけられるというのはこんな感じなのだろうかと思いながらこのマスクをつけたのだが、装着した1、2分間を楽しまなかったといえば、それは嘘になる。

ニューエイジ風の音楽、呼吸エクササイズ、そして何よりも重要なのが完全な真っ暗闇だ。これらでもって、このマスクでの体験は、絶え間なくある世界の恐怖からの束の間の解放となり、過剰に活発になった脳を落ち着かせるものとなる。

僕はこの手のものが大好きだ。スマホにはCalmアプリを入れていて、2週間の旅行に出る前、僕はMuseヘッドセットにかなりハマった。僕自身、瞑想が得意ではないという事実はこれまで何回も書いてきたが、そうした失敗した試みですら役に立つものとなっている。

PowerMaskのことを感覚を遮断する小型タンクのようなものと表現した人もいたが、そうかもしれない。それがどうしていけないだろう。僕はもっとひどい夜を経験したのだ。

PowerMaskの特徴をかいつまんで説明すると、正確には睡眠デバイスではない。少なくとも開発元はそのようには売り出していない。当初は“Power Nap”製品としていたが、この製品をどのように位置づけるか社内でいくらかの混乱があるようだ。もちろん開発元は、僕がテックイベント、特にアジアを旅するときに見る800万もの接続する安眠マスクとは差別化を図りたい。

驚くことに、開発元は最近のスタートアップが使う、瞑想だとかマインドフルネスといったフレーズも使わない。

「我々はリラックスの仕方を世界に教えるというより大きなミッションを持っている」と共同創業者のBradley Youngはフォローアップの電子メールでこう書いている。この会社のウェブサイトはかなり静かで、サプリメントの広告以外、音声はほとんど聞かれない。フロントページには “Reach peak state(最高の状態に)”“become a peak human(最強の人間になる”と、太字かつ大文字で書かれている。もちろん、これのどこがいけないだろう。

少し誇張された後者の方は、CVT(Cardiac Vagal Tone=心臓迷走神経の調子)と呼ばれるものにフォーカスしていることによる。このデバイスを普通の人がアスリートの心臓のような心拍に落ち着けるのに使うこともできる、とSilentmodeは言う。ここにグラフがある。

ここでは、この点を深くは掘り下げない。というのも、正直、僕はよくわかっていないからだ。しかし、頭で“心理音響と治療用音波の体験”をするための真っ暗闇カーテンを買うことが、自身を落ち着かせるのに使える手段となり得るということはわかる。このマスクは実際、宿泊先でのひどい体験で僕が必要としていた束の間の安らぎを与えてくれた。

Silentmodeが睡眠デバイスという位置付けから離れたにもかかわらず、このマスクは僕がフライト中に眠りに落ちるのにも役に立った。慰めるような音楽、そしてパッドでくるまれたヘッドセットは正確には枕ではないが、前の座席に頭をもたれかからせるよりはかなり快適だ。おそらく、頭に大きなものをつけるというぎこちなさは克服できる。もちろん、変なアクセサリーをつけていようがいまいが、飛行機で寝る姿はどれも格好いいものではない。

価格は199ドル。安くはない。そして開発元は追加のアプリ内購入でプレミアムなオーディオを提供するつもりだ。Silentmodeはまた、複数の大企業の協力を得てこのプロダクトをリラクゼーションが欠けているオフィスで試験している。

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(翻訳:Mizoguchi)

アメリカ政府の最新報告書によると気候変動の被害額は今世紀中に年間$500Bに達する

【抄訳】
気候変動の社会的影響に関するアメリカ政府の新しい報告書は、何も対策が為されなかった場合、さまざまな気候学的事象がこの国にもたらす被害額は2090年までに年間5000億ドル近くになる、と指摘している。

議会が作成している全米気候評価報告書(National Climate Assessment、NCA)は、気候変動の影響に関する報告書で、10あまりの省庁にまたがるおよそ300名の著述で構成されている。その1000ページにわたる報告書は、アメリカの農業や労働、地勢、そして健康に及ぼす気候変動の影響を取り上げている。

報告書の第二巻は、国の政策立案者に向けた、地球温暖化がアメリカに及ぼす影響を詳述している。

それが公開された現時点は、国の現在の政権が、自らの省庁が挙げている増大して止(や)まない証拠をあらゆる手段を駆使して反駁し、グローバルな気候変動の影響を抑えるべき国内的および国際的な責任から逃れようとしている

報告書は、対策が取られなかった場合のアメリカの厳しい状況を詳しく描写しており、気候変動が国にもたらす多くの変化の中には、不可逆的(回復不能)なものも多い、と述べている。

【後略】
〔以下、報告書原文と解説。報告書第I巻は2017年に公開され、ネット上の各所で共有されている。この記事が取り上げている、最近公開されたばかりの第II巻は、まだネット上で共有されていないようだ(11月24日現在)…担当部門のページ上でもcoming soonになっている。〕

〔関連記事: Y Combinatorが気候変動対策スタートアップを募集(未訳)〕

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

CV Compilerはあなたの履歴書をより魅力的に修正してくれるロボット

今では機械学習はどこにでも見ることができる。もちろん採用の世界にも。Andrew StetsenkoとAlexandra Dosiiの新製品CV Compiler(履歴書編集者という意味)を見てみよう。このWebアプリケーションは、機械学習を使用して、技術的な内容の履歴書を分析して修復し、GoogleやYahoo、そしてFacebookの求人担当者の目にとまるようにする。

創業者たちは、マーケティング担当者とHR専門家であり、合わせて15年に及ぶ人材募集をよりスマートにする経験を持っている。StetsenkoはかつてRelocate.meGlossaryTechを創業し、一方DosiiはCV Compilerに関わる前には多くのマーケティング企業で働いていた。

基本的にこのアプリは、履歴書をチェックし、何を修正して、どの企業に提出すべきかを助言する。ここまでは完全に自己資金で行われており、一般的な履歴書の修正ライブラリを保守しながら、新しく改良された機械学習アルゴリズムを開発している。

「オンライン履歴書分析ツールは沢山ありますが、それらのサービスは一般的過ぎます。つまりそれらは多くの職種に対して適用可能なもので、結果は一般的なもので、あまり魅力的なものとは言えません。フィードバックが得られた後で、ユーザーたちはしばしば追加のサービスを購入するように強いられたりします」とStetsenkoは言う。「これとは対照的に、CV Compilerはテクノロジー専門家向けにデザインされています。オンラインレビュー技術が、プログラミングの世界のキーワードをスキャンし、それらが、業界のベストプラクティスと比較して、どのように履歴書内で使われているかを調べます」。

この製品は、GlossaryTechにおけるStetsenkoの仕事から生まれたものだ。それはユーザーがテクノロジー用語を理解することを助けるChrome拡張だった。彼はその製品で、自然言語処理とキーワード分類を多用した。その結果、その一部がCVサービスの中に生かされている。

「履歴書のために、インタビューを受けることもなく不採用になっている採用申請が多いことに気が付いたのです。おそらく、1人の採用担当者が多くの候補者を10秒もかけずに切り捨てています」と彼は言う。

このサービスは現在稼働しており、チームは収集された情報が増え、時間の経過とともに改善することを期待している。それまでは機械学習ロボットに、あなたが仕事を得る際に何を間違ったかを言わせてみてはどうだろうか?つまり…ロボットがあなたを完全に置き換えてしまうまでは。

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(翻訳:sako)

中国のGeek+が倉庫と物流向けロボット開発のために1億5000万ドルを調達

ロボットならびに人工知能の一般的な応用の中で、もっとも直接的に役立っているもののひとつは、倉庫やそのほかの環境の中での無人ロボットの利用である。そこでは荷物を整理したり、物をA地点からB地点まで移動したりといった、繰り返し作業に関わる人間の作業が置き換えられている。さて、このたび北京に拠点を置くロボットスタートアップのGeek Plus(別名Geek+)が、製品開発、販売、そしてカスタマーサービスに投資して成長の機会を掴むために、1億5000万ドルを調達したことを発表した。

Geek Plusによれば、これは物流ロボットスタートアップが行った調達ラウンドの中で過去最大のものであると言う(実際、PitchBookによれば、これに先立つ最も多額の物流用ロボット向けラウンドは、ボストンから出てきたLocus Robotics向けの、2500万ドル強のものだった)。

今回のラウンド(シリーズB)はWarburg Pincusによって主導され、Volcanics VentureやVertex Venturesなどの他の株主たちが参加した。同社の評価額は公表されていないが、私たちは質問を送っているので、もし何かがわかったらお知らせする予定だ。Warburg Pincusは、2017年に行われた前回の6000万ドルのラウンドも主導した。今回でGeek Plusは、2015年の創業以来およそ2億1700万ドルを調達したことになる。

この大規模なラウンドの理由の一部は、同社によれば、事業が順調に成長していて、今年は5倍の成長が見込めること、そして海外はもちろん、中国国内の巨大な市場に資本投下を行いたいからだ。

これまで、Geek Plusは、中国香港台湾日本オーストラリアシンガポールヨーロッパ、そして米国の100以上のロボット倉庫プロジェクトに5000台以上のロボットを供給してきたと語っている。現在の顧客には、AlibabaのTmallやアジア発のVIP.comなどがある。

「Warburg Pincusや他の株主たちによる投資は、Geek Plusの成果と、Geek Plusの将来性に対する、全幅の信頼を示すものです」と発表で語るのは、Geek Plusの創業者兼CEOのYong Zhengである。「AIとロボット技術を通じて、さまざまな業界の強化に力を入れていきます。今年はビジネスを5倍以上成長させることができると思います…引き続き顧客中心であり続けます。そしてAIならびにロボットテクノロジーをサプライチェーンニーズへシームレスに統合することを通して、顧客の皆さまのために価値を創造して行きたいと考えています」。

独自の物流オペレーションを改良したり、他から使われる独立したビジネスとして構築したりするために、物流ロボットを掘り下げ続けている他の多くの企業がある。それらの企業はGeek Plusにとって、競合相手であり、潜在的なパートナーであり、あるいは買収してくる相手かもしれない。

そうしたリストのトップに位置するのはおそらくAmazonだろう。同社は2012年に自身の倉庫ロボットを開発するために、ロボットスタートアップのKivaを7億7500万ドルで買収した。それ以降、Amazonはロボットオペレーションを広いユニットに拡大してきた。それはAIとロボットを倉庫オペレーションに導入したいと考える他の企業のニーズを満たすためのロボットを、AWSやフルフィルメントのような基本サービスのやり方に従って、製品化することが可能だろう。

一方、InViaFetchは、最初から第三者に販売するための技術を構築することに集中している2社であり、それぞれサービスとしてのロボット技術とロボットそのものを扱っている。

こうしたロボットの中には、倉庫から出て、ラストマイル配送シナリオに向かっているものもある。こうしたより広い市場全体の価値を100億ドル規模と見積もる者もいる。

Geek Plusは、これまでに、ロボットを利用すると思われる様々なシナリオをカバーする製品を開発している。例えば人間によるピックアップを助けるシステム、整頓し移動するシステム、そして無人フォークリフトなどだ。

「昨年Geek+に初めて投資して以来、私たちはGeek+の急速な成長、特にそのビジネスの拡大と国際化に対して大きな感銘を受けて来ました」と語るのはWarburg PincusのエグゼクティブディレクターであるJericho Zhangだ。「テクノロジーはサプライチェーンに革命をもたらしています。Geek+は、従来のサプライチェーンで苦労していたポイントを解決するために、ロボット、ビッグデータ、AIなどの最先端技術を組み合わせることができる、先進的なテクノロジー企業の1つなのです。より多くのデータを蓄積し、アルゴリズムの最適化を続け、他の産業に拡大して行くにつれて、Geek+がさらにこの分野の革命と革新をリードし続けてきれるものと、私たちは確信しています」。

全体として、昨年ロボット業界には多額の投資が何件も見られた。製造業向けに力を入れているBrightMachinesは、10月に1億7900万ドルを調達した。これまでで最も大きかったロボットスタートアップのベンチャーラウンドは、Ubtechの8億2000万ドルである。これもまた中国の消費者ならびに教育向けロボットスタートアップであり、調達は今年の5月に行われた。

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(翻訳:sako)

Soundbrennerのウェアラブルメトロノームがアップグレードしてモジュール構造に

Soundbrenner Coreがクラウドファンディングの満額に達するのに、14分しかかからなかった。すごいね。先週、このウェアラブルのメーカーは、目標額5万ドルの10倍以上でキャンペーンを終了した。その数日後に本誌は、香港のアクセラレーターBrincの本社で彼らを取材した。

Soundbrennerは、Pulseですでにかなり名を知られるようになっていた。その、インターネットに接続された腕時計型のデバイス(下図)は、メトロノームに賢いイノベーションをもたらした。その、ピアノの上につねにあったアクセサリーは、かなり前に、楽器店の埃をかぶったコーナーに追放されていた。そのウェアラブルは皮膚感覚でビートを伝え、バンドの全員をそのビートに同期させる。Pulseは、6万台売れた。

たしかに、単純であることがその強みだったが、Soundbrennerはそれをもっと改良したいと考えた。そしてKickstarter上の2477人が、その考えに同意した。Coreと名付けられたその製品は、4-in-1(フォーインワン)のツールだ。Indiegogoのページで、予約を受け付けている。

第一に、それは振動するメトロノームだ。ふつうのスマートウォッチの7倍ぐらい強い触覚フィードバックで、最大5人のミュージシャンがビートに同期できる。画面をタップして、ビートを手作りできる。

いちばん話題になるのは、Misfitの協同ファウンダーSonny Vuの指導によるモジュール構造だろう。磁石で付け外しできるディスプレイは、外してギターのチューニングペグにつけて、振動でチューニングをテストできる。デシベル計とプッシュ通知もある。ただし後者は、スマートフォンのプッシュ通知ほど完全ではない。

Coreは、前世代のPulseより小さい。でも、決して小型ではない。同社によるとそれは意図的で、これがミュージシャンたちの間で名刺のようなものになってるからでもある。ビートで秘密の握手をするのだろうね、たぶん。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

LinkedIn、新たなプライバシー設定でメールアドレスのエクスポートを禁止

LinkedInのプライバシーにとっての大きな勝利は、つながりのある人のメールアドレスをエクスポートしたい企業やリクルーターなどにとっては大きな損失だ。LinkdInは新たなプライバシー設定を密かに導入し、ユーザーのメールアドレスを他人がエクスポートすることをデフォルトで禁止した。これで一部のスパムや、つながっていることに気づいていなかったどこかのユーザーが自分のメールアドレスをダウンロードして巨大なスプレッドシートに貼り付けるのを防ぐことができる。しかし、この新しい設定を警告もアナウンスもなく導入したことで、プロフェッショナルネットワーキングサイトに多大な投資をして、つながった相手と外部で接触しようとしていた多くのユーザーの怒りを買う可能性がある。

TechCrunchは読者からの情報で、LinkedInのアーカイブツールでデータをエクスポートしたときメールアドレスが取れなくなったことを知らされた。その後LinkedINは本誌に対してこれを認め、「これは新しい設定で、メンバーはLinkedInに登録したメールアドレスの管理を強化できるようになった。『メールアドレスの公開設定』という項目を見ると、新たに詳細設定項目が追加されて、もっとも強いプライバシーオプションがデフォルトになっていることがわかる。メンバーはこの設定を好みに合わせて変更できる。これでメンバーは自分のアドレスを誰がダウンロードできるかを管理できるようになる」

新しいオプションは、設定とプライバシー -> プライバシー -> メールアドレスの公開設定の中にある。ここの「つながりがデータをエクスポートする際にメールnobuo.takahashi@nifty.comのダウンロードを許可しますか?」の トグルがデフォルトで「いいえ」 になっている。ほとんどのユーザーはこれを知らない。なぜならLinkedInはアナウンスしていないから。 ヘルプセンターにメールアドレス公開範囲の説明が折り畳まれたセクションとして追加されただけであり、「はい」に変更する人は、そうする理由の説明がないのでほとんどいないだろう。つまり、今後LinkedInでエクスポートしたアーカイブにほとんど誰のメールアドレスもないことを意味する。つながりのあるユーザーは、プロフィール画面にくればメールアドレスを見ることができるが、まとめてダウンロードすることはできない。

Facebookは2010年にGoogleとデータポータビリティーについてき戦ったとき、メールアドレスのエクスポートに関して同じ結論に達した。Facebookはユーザーが自分のGmail連絡先をインポートすることを推奨したが、友達のメールアドレスをエクスポートすることは禁止した。同社は、ユーザーは自分のアドレスは所有しているが友達のアドレスは自分のものではないのでダウンロードできない、と主張した——しかしこのスタンスは都合よく、ライバルアプリがFacebookの友達リストをインポートしてソーシャルグラフを作ることも阻止した。私は、Facebookは友達リストをインターオペラブルにして、ユーザーが使うアプリを選べるようにすべきだと提唱した。これは、それが正しい道であると同時に規制を遅らせることにもなるからだ。

Facebookのようなソーシャルネットワークでメールアドレスのエクスポートを禁止する意味は理解できる。しかしLinkedInのようなプロフェッショナルネットワークでは、人々は知らない人たちと意図的につながっていて、エクスポートは常に許可されていたので、黙ってそれを変えることは正しいやり方とは思えない。おそらくLinkedInは、つながっている人が誰でもメールアドレスをかき集められるという事実に注目を集めたくなかったのだろう。昨今のソーシャル分野における厳しいプライバシー監視というメディア事情を踏まえるとそれも無理はない。しかし、LinkedInに依存する企業に多大な影響を与える変更を隠そうすることは、コアユーザーの信頼を失墜させる事態になりかねない。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

ドメインを限定してより有能な音声対応AIを作ろうとするWluperがシードで$1.3Mを調達

音声アシスタントなどのシステムにその知識を与える、会話型AIを作っているロンドンのWluperが、130万ドルのシード資金を獲得した。ラウンドをリードしたのは“ディープ・テック”専門のVC IQ Capitalで、これにSeedcamp, Aster, Magic Ponyの協同ファウンダーZehan Wang博士らが参加した。

2016年に創業し、最初はJaguar Land RoverのInMotion Venturesが支援していたWluperの“会話型AI(conversational AI)”は、初めはナビゲーション製品を対象にしていた。同社のAI技術は自称“目標指向の対話(goal-driven dialogue)”と呼ばれ、目標を絞ることにより、従来よりも自然な会話でナビゲーションのさまざまなタスクを支援する。

それを可能にする‘秘密のソース’は、ナビのような音声アシスタントを支えるAIは特定の、狭い、専門的分野のエキスパートになった方が良い仕事ができる、というWluper独自の信念だ。

Wluperの協同ファウンダーHami Bahraynianはこう述べる: “AlexaやSiriのようなインテリジェントなアシスタントも、本当に良いなと感じるのは、それらがユーザーの意図を正しく理解しているときだけだ。しかし実際には、理解していない場合がほとんどだ。それは、音声認識そのものの欠陥ではない。それは、フォーカス(対象、主題、テーマの特定化)を欠いていることと、その種のシステムの共通的な欠陥である論理的判断能力(‘推理’)の欠如だ。彼らはみな、いろんなことをそこそこできるけれども、どれ一つ完全ではない”。

AIが“一般的な”会話能力を持つのは15年か20年以上先と思われるが、そこへ向かうための中途的な目標は、Bahraynianによると、目的を絞った“インテリジェント・エージェント”を作ることだ。

“われわれがやっているのは、まさにそれだ”、と彼は言う。“われわれは、ドメインエキスパート(特定分野の専門家)の会話型インテリジェンスを作っている。それは、一つのことしかできないし、理解しない。でも、たとえば、輸送に関することなら何もかも完璧に知っている”。

この分野特定により、WluperのAIは、ユーザーが言ってることに関する明確な…見当はずれでない…想定ができる。そのため、複雑な質問でも自然に理解する。ひとつのクエリに複数の意図が含まれている場合や、前の質問のフォローアップ質問も理解するので、“本当の”会話ができる、とBahraynianは言う。

さらにまたWluperは、NLPパイプラインの“理解能力”の次に来るべきものとして、マシンの“知識取得能力”に関してR&Dを継続している。会話型AIというパズルが完成するための重要な必須のピースがその能力だ、と同社は考えている。

“自然言語で尋ねられたユーザーのクエリを正しく理解したとしても、適切で有益な情報を正しい場所から取り出して提供することは、それよりもさらに難しい。現在多く使われているルールベースのアプローチでは、応用性がゼロなのでまったくスケールしない”、とBahraynianは付言する。

“この問題を解決するためにわれわれは、従来の手作り的な方法に別れを告げて、マシンの知識取得を最適化するための新しい方法を探している。もっと意味のある結果を返せるためには、定型データと非定型データとの正しいバランスを見つける必要がある”。

そしてWluperのシード資金は、エンジニアとリサーチサイエンティストの増員による、同社の研究開発能力の拡張に充てられる。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

Appleのプログレードのビデオ編集ツール=Final Cut Pro X(FCPX)の大きなアップデート

今回のリリースでは、FCPXの多くの部分がより洗練されたものとなっている。中でも最も大きな変更は、さらなる進化を可能にした「ワークフロー機能拡張」だ。これらの機能拡張は、サードパーティのアプリやサービスが、直接FCPXに接続して、ネイティブなインターフェイスと機能を追加できるようにする。

Appleは、以下の3社と協力し、今回のアップデートに合わせて機能拡張を利用可能とした。

  • Frame.io:Frame.ioを使用すると、複数のビデオ制作者の間で、進行中の編集を共有できる。共同作業者は、まとまっていくプロジェクトを見ながら、コメントや、フレーム単位での注釈、思い付いたことを、関連するタイムラインの同期したセクションに書き込むことができる。Frame.ioは、かなり前から、このような機能を独自のアプリで実現していた。この新たなワークフロー機能拡張によって、そうした機能がFCPXに直接組み込まれるので、頻繁にアプリを切り替える必要がなくなる。

  • Shutterstock:撮影するつもりのなかったBロールが必要になった? Shutterstockの機能拡張機能を使えば、ウォーターマークの入った写真/ビデオ/音楽をプロジェクトにドラッグして、仮のものとして使用できる。後でそれらを、ライセンスを受けたウォーターマークのないものに入れ替えるところまで処理してくれる。
  • CatDV:チームとしてCatDVを利用してアセットを扱い、タグ付けしているなら、新しい拡張機能によって、コンテンツカタログに接続し、タグでコンテンツを検索し、プロジェクトに直接取り込むことが可能となる。

FCPXには、以前からプラグイン機能があったが、今回のワークフロー機能拡張は、アプリに組み込まれたインターフェイスと、より密接に結合できるようになっている。サードパーティの拡張機能も、Mac App Storeから直接入手できる。Appleは、新しく用意されたSDKを利用して、誰でもFCPXのワークフロー機能拡張を開発することができるとしている。ただし、今のところは関心のある開発者は直接Appleに連絡するよう求めている。

一方、FCPXには他にも以下のような変更が加えられた

  • 比較ビューアを使用すると、複数のクリップを横に並べて(またはウェブからの参照をドラッグして)色補正やグレーディングの作業が確実にできる。
  • バッチ書き出し機能を使えば、複数のクリップを(あるいは1つのクリップを複数のフォーマットで)同時に書き出すことができる。
  • 新たに開発されたビデオのノイズリダクションエフェクトは、シャープネスを維持したまま粒状感を低減することができる。
  • 想像的なタイニープラネット機能は、360°のビデオを幻想的な球状のビューに変換できる。

Appleはまた、FCPXとは別にApp Storeで販売する2つのアプリ、MotionとCompressorにも同時にアップデートを施した。Motionは、タイトルとトランジションを構築するためのApple製のツールだ。より高度なカラーマネージメントツールを備え、あらゆるグレーディングを適切に調整できるようになった。また、新たなコミックブック調のフィルタや、Final Cutに組み込まれたのと同様のタイニープラネット機能も装備した。Compressorは、ビデオをエンコードして配信するための準備を整えるためのツールとして、Appleが専用に開発したものだ。新しい64ビットエンジンに移行したものの、今のところ32ビットのファイルフォーマットでも動作するようになってる。字幕をビデオに直接焼き込む機能も搭載し、ついにSRTフォーマットの字幕ファイルもサポートした。これは、SRTしか受け付けないFacebookに、FCPXから直接アップロードしたいという人には特に便利だ。

すべてのアップデートは、既存のユーザーには無料で提供される。新規のユーザーには、Final Cut Pro Xは300ドル(訳注:日本のMac App Storeでは3万4800円)、MotionとCompressorはそれぞれ50ドル(同6000円)で販売される。

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

現実のHAL9000が開発される – その名はCASE

慌てないで! たしかに、現実は芸術を模倣するが、Cognitive Architecture for Space Exploration(宇宙探査のための認識アーキテクチャー):CASEの開発者たちは、映画『2001年宇宙の旅』から教訓を学んでいる。彼らが作るAIは人を殺さないし、人間を未知の物体に遭遇させて宇宙の涅槃の境地に導いたりはしない(たしか、そんな話だったと思うが)。
CASEは、数十年間にわたりAIやロボット工学に携わってきたPete Bonassoが行っている研究で、始まったのは、今のバーチャルアシスタントや自然言語処理が流行するずっと前のことだ。今では忘れられようとしているが、この分野の研究の発端は、1980年代1990年代のコンピューター科学とロボット工学が急速に発達してブームとなった時代に遡る。
問題は、宇宙ステーション、有人宇宙船、月や火星のコロニーといった複雑な環境を、いかにしてインテリジェントに観察し管理運営するかだ。このシンプルな問題には答えが出ているが、この数十年で変化し続けてきた。国際宇宙ステーション(20年目に入った)には、それを管理する複雑なシステムがあり、時とともにどんどん複雑化してきた。それでも、みんなが想像しているHAL9000には遠く及ばない。それを見て、Bonassoは研究を始めたのだ。

20歳を迎えた国際宇宙ステーション:重要な11の瞬間

「何をしているのかと聞かれたとき、いちばん簡単な答は『HAL9000を作ってる』というものだ」と、彼は本日(21日)公開のScience Robotics誌で語っている。現在、この研究は、ヒューストンの調査会社TRACLabsの後援のもとで進められている。
このプロジェクトには数々の難題が含まれているが、そのなかのひとつに、いくつもの認知度の層と行動の層を合体させることがある。たとえば、住環境の外にある物をロボットアームで動かすといった作業があるだろう。または、誰かが他のコロニーにビデオ通話を発信したいと思うときもある。ロボットとビデオ通話用のソフトウエアへの命令や制御を、ひとつのシステムで行わなければならない理由はないが、ある地点で、それら層の役割を知り、深く理解する包括的なエージェントが必要になる。

そのためCASEは、超越的な知能を持つ全能のAIではなく、いくつものシステムやエージェントを取りまとめるアーキテクチャーであり、それ自体がインテリジェントなエージェントという形になっている。Science Robotics誌の記事で、またその他の詳細な資料でもBonassoは解説しているが、CASEはいくつかの「層」から構成されていて、制御、ルーチン作業、計画を統括する仕組みだ。音声対応システムは、人間の言葉による質問や命令を、それぞれを担当する層が処理できるようにタスクに翻訳する。しかし、もっとも重要なのは「オントロジー」システムだ。
宇宙船やコロニーを管理するAIには、人や物、そしてうまうやっていく手段を直感的に理解することが求められる。つまり、初歩的なレベルで説明すると、たとえば部屋に人がいないときは、電力を節約するために照明を消したほうがよいが、減圧をしてはいけない、といった状況を理解することだ。または、誰かがローバーを車庫から出してソーラーパネルの近くに駐車したときは、AIは、ローバーが出払っていること、どれが今どこにあるか、ローバーの無い間のプランをどう立てるかを考えなければならない。
このような常識的な理屈は、一見簡単そうに思えるが、じつは大変に難解なものであり、今日、AI開発における最大の課題のひとつに数えられている。私たちは、原因と結果を何年もかけて学び、視覚的な手がかりをかき集めて、周囲の世界を頭の中に構築するなどしている。しかしロボットやAIの場合は、そうしたことは何も無いところから作り出さなければならない(彼らは即興的な行動が苦手だ)。その点、CASEは、いくつものピースを組み合わせることができる。

TRACLabsのもうひとつのオントロジー・システム PRONTOEの画面

Bonassoはこう書いている。「たとえば、利用者が『ローバーを車庫に戻してくれ』と言ったとする。するとCASEはこう答える。『ローバーは2台あります。ローバー1は充電中です。ローバー2を戻しますか?』と。ところが『ポッドベイのドアを開けろ』(居住区にポッドベイのドアがある場合)と言うと、HALとは違い、CASEは『わかりました、デイブ』と答える。システムに妄想をプログラムする予定ははいからだ」
なぜ彼は「ところが」と書いたのか、理由は定かではない。しかし、どんなに映画好きでも、生きたいという意欲に映画が勝ることがないのは確かだ。
もちろん、そんな問題はいずれ解決される。CASEはまだまだ発展途上なのだ。
「私たちは、シミュレーションの基地で4時間のデモンストレーションを行ったが、実際の基地で使用するまでには、やらなければならないことが山ほどある」とBonassoは書いている。「私たちは、NASAがアナログと呼ぶものと共同開発を行っている。それは、遠い他の惑星や月の環境を再現した居住空間だ。私たちは、ゆっくりと、ひとつひとつ、CASEをいろいろなアナログで活動させ、未来の宇宙探査におけるその価値を確実なものにしていきたいと考えている」
私は今、Bonassoに詳しい話を聞かせてくれるよう依頼している。返答があり次第、この記事を更新する予定だ。
CASEやHALのようなAIが宇宙基地を管理するようになることは、もはや確定した未来の姿だ。たくさんのシステムをまとめる極めて複雑なシステムになるであろうものを管理できる合理的な方法は、これしかないからだ。もちろん、言うまでもないが、それは一から作られるものであり、そこでとくに重要になるのが、安全性と信頼性、そして……正気だ。

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(翻訳:金井哲夫)

Facebook、ブラックフライデーとサイバーマンデーをの前に広告システムが「断続的」中断

広告ネットワークの大規模なダウンの翌日、オンライン広告プラットフォーム最大手のFacebookは、広告主にとってもっとも重要なこの時期に今も広告システムの「断続的」問題を起こしている

同社広報担当者によると、ほとんどのシステムは復旧したが、断続的な問題が広告主に影響を与える可能性がある。

昨日(米国時間11/20)の大部分の時間、広告主はキャンペーンの作成や編集のためにAds ManagerやAds APIツールを使うことができなかった。

同社は既存の広告は配信されたと言ったが、広告主が新しいキャンペーンを設定したり、既存のキャンペーンに変更を加えることはできなかったと複数の広告ネットワークユーザーが言った。

Facebookによると、レポーティング機能は全インターフェースで復旧しているが、コンバージョン率のデータは米国では一日中、その他の地域では夕方に遅れがでていた。

ダウンの影響を受けたキャンペーンがいくつあったのか、広告プラットフォーム休止の補償や穴埋めをするかとうかについて、Facebookはコメントしなかった。

一部の広告主は今も機能停止状態にあり、不満を表わしている。

[メディアバイヤーがブロガーに費用を払うことをからかったり笑ったりするのは簡単だ。しかし私は違う。多くの中小ビジネス、なにやり私の生活はこのしくみに依存している。Facebookには説明責任がある。アドマネージャーが28時間停止していることで仲間の会社はすでに影響を受けている。]

これはほかにいくつもの部分に問題を抱えている会社にとって残念な状況だ。しかも、いじめやヘイトスピーチやFacebookの収益に影響を与えない誤情報などの問題と異なり、広告の販売はFacebookが金を稼ぐ手段そのものだ。

1年で一番忙しい買い物シーズン(すなわち1年で一番忙しい広告シーズン)に広告の反響を見ることができず、一部のデベロッパーが未だに断続的停止を経験しているのは悪い兆候だ。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook

オーストラリアの顧客に対する門前払いをAmazonが撤回、税制への抗議よりも年末商戦が重要

Amazonは、同社が6か月前に行った、オーストラリアのユーザーにアメリカのamazon.comサイトで買い物させないという決定を、覆(くつがえ)した。ロイターはこのUターンを、顧客の反発によるもの、と報じている。

7月以降オーストラリアの買い物客は、amazon.comで買い物をしようとすると地元のサイトAmazon.com.auへリダイレクトされた。

同じ時期に、amazon.comからオーストラリアへの配送も停止された。そこで買い物客は、地元の店からしか商品を買えなくなった。

でも今日(米国時間11/22)から、そのブロックはない。

amazon.comの、特定地域に対するこのブロックは、オーストラリアの税制の変更への対抗策だ。その新しい税制では、年商75000オーストラリアドルを超える企業は消費者が輸入する低価格商品に対し10%の商品サービス税(Goods and Services Tax, GST)が課せられる。

このいわゆる‘Amazon税’は、すべての販売品目に対しGSTを払わなくてはならない地元の小売企業にとってAmazonなど海外の大きなeコマース企業が大打撃になる、という懸念に対応したものだ。

この新税制の前までは、海外のリテイラーに関しては1000オーストラリアドル〔11月下旬現在約82000円〕以上の買い物に対してのみGSTが課せられていたので、地元商業者は、それはAmazonやeBayなど海外のコンペティターに対する不当な優遇策だ、主張していた。

GSTの一般化という新税制に対してAmazonは、amazon.comの海外買い物客の締め出しで応じた。でも2017年12月にローンチされたばかりのAmazonオーストラリアのサイトは、品揃えが希薄なので顧客から敬遠された。そのことは、地元企業にとっても打撃になった。顧客はほかのリテールサイトを探すようになり、あるいは、わずかしか買い物をしなくなった。

Guardianによると、Amazonオーストラリアの品目数約8000万に対して、アメリカのサイトには5億種類の品目がある。

6か月後にAmazonは方針を変えた。10%の税金を払うことに決めたようだ。

本誌は今、同社にコメントを求めている。

Amazonのスポークスパーソンはロイターに、顧客からのフィードバックに対応して方針を変えた、と述べている。そして、同社は“低価格商品をオーストラリアに輸出できてなおかつ、地元の法律にも従えるだけの、複雑なインフラストラクチャ”を構築した、とも言っている。

今のところオーストラリアの人がamazon.comから買えるのはAmazon自身が売っている品目だけで、サードパーティの販売者は未対応だ。

このUターンのタイミングに注目しよう。明日(米国時間11/23)はブラックフライデーなのだ。

その日リテイラーたちは、その年のホリデーシーズンの買い物フィーバーに点火するために大規模な安売りを開始する。そして今ではネット上でも、派手なバーゲンが展開される。Amazonも、この爆発的な売上の機会をみすみす見逃すわけにはいかない。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

AIではなく、量子コンピュータが我々の将来を決める

「量子(quantum)」という言葉は、20世紀後半になって、他の一般的な形容詞では表せない、何かとても重要なものを識別するための表現手段となった。例えば、「Quantum Leap(量子の跳躍)」は劇的な進歩のことを意味する(Scott Bakula主演の’90年代初頭のテレビシリーズのタイトルでもあるが)。

もっとも、それは面白いとしても、不正確な定義だ。しかし、「量子」を「コンピューティング」について使うとき、我々がまさに劇的な進歩の時代に入ったことを表す。

量子コンピューティングは、原子と亜原子レベルで、エネルギーと物質の性質を説明する量子論の原理に基づいた技術だ。重ね合わせや量子もつれといった理解するのが難しい量子力学的な現象の存在によって成立する。

アーウィン・シュレディンガーの有名な1930年代の思考実験は、同時に死んでいて、かつ生きているという一匹の猫を題材にしたもので、それによって「重ね合わせ」というものの明らかな不条理を浮き彫りにすることを意図していた。重ね合わせとは、量子系は、観察、あるいは計測されるまで、同時に複数の異なる状態で存在できる、という原理だ。今日の量子コンピュータは、数十キュービット(量子ビット)を備えていて、まさにその原理を利用している。各キュービットは、計測されるまでは0と1の間の重ね合わせの中に存在している(つまり、0または1になる可能性がいずれもゼロではない)。キュービットの開発は、膨大な量のデータを処理し、以前には不可能だったレベルの計算効率を達成することを意味している。それこそが、量子コンピューティングに渇望されている潜在能力なのだ。

シュレディンガーはゾンビの猫について考えていたが、アルバート・アインシュタインは、彼が「離れた場所の奇妙な相互作用」と表現した、光速よりも速く通信しているように見える粒子を観察していた。彼が見ていたのは、もつれ合った電子の作用だった。量子もつれとは、同じ量子系に属する複数の粒子の状態は、互いに独立して描写することができない、という観測結果のことだ。かなり遠く離れていても、それらはやはり同じ系に属している。もし1つのパーティクルを計測すると、他のパーティクルの状態も直ちに判明するように見える。もつれ合った粒子の観測距離の現時点での最長記録は、1200キロメートル(745.6マイル)となっている。量子もつれは、量子システム全体が、その部分の合計よりも大きいことを意味する。

ここまでの話で、そうした現象がなんとなくしっくりこないというのであれば、シュレディンガーの言葉が、その居心地の悪さを和らげてくれるかもしれない。彼は量子理論を創出した後で「私はそれが好きではありませんが、申し訳ないことに私にはどうすることもできないのです」と言ったと伝えられている。

様々なグループが、それぞれ異なる方法で量子コンピューティングに取り組んでいる。従って、その仕組みについて1種類の説明で済ますのは現実的でないだろう。しかし、読者が従来のコンピューティングと量子コンピューティングの違いを把握するのに役立つかもしれない1つの原理がある。それは、従来のコンピュータは2進数を扱う、ということ。つまり、各ビットは0または1の2つのうちのどちらかの状態しか取れない、という事実の上に成り立っている。シュレディンガーの猫は、亜原子の粒子が同時に無数の状態を示すことができることを説明した。1つの球体を想像してみよう。その2進数的な状態は、北極では0、南極では1になると仮定する。キュービットの世界では、その球全体で無数の他の状態を保持することができる。そして、複数のキュービット間の状態を関連付けることで、ある種の相互関係が生まれる。それによって、量子コンピューティングは、従来のコンピューティングでは達成できない、さまざまな分野のタスクに適応することができるのだ。こうしたキュービットを生成し、量子コンピューティングのタスクを遂行するために十分な時間だけ存在させておくことが、現在の課題となっている。

Jon Simon/Feature Photo Service for IBM

IBM研究者で、同社のTJワトソン研究所の量子コンピューティング研究室に所属するJerry Chow

量子コンピューティングを文明化する

こうしたことは、量子力学の奇妙な世界の入り口に過ぎない。個人的には、私は量子コンピューティングに心を奪われている。技術的な奥義から人類に利益をもたらす潜在的なアプリケーションに至るまで、さまざまなレベルで私を魅了しているのだ。しかし、今のところ、量子コンピューティングの仕組みに関しては、うまく説明しようとすればするほど混乱を招くのが実情だ。そこで、より良い世界を作るために、それがどのように役立つのかを考えてみることにしよう。

量子コンピューティングの目的は、従来のコンピューティングの能力を補助し、拡張することにある。量子コンピュータは、ある種のタスクを、従来のコンピュータよりもはるかに効率的に実行する。それによって、特定の分野で我々に新しいツールを提供してくれる。量子コンピュータは、従来のコンピューターを置き換えるものではないのだ。実際、量子コンピュータが得意分野で能力を発揮するためには、たとえばシステムの最適化などについては、これまでのコンピュータの手助けを必要とする。

量子コンピュータは、エネルギー、金融、ヘルスケア、航空宇宙など、多くの異なった分野での課題の解決を促進するのに有効だ。その能力は、病気を治し、世界の金融市場を活性化し、交通をスムーズにし、気候変動に対処したりするための手助けとなる。たとえば、量子コンピューティングは、医薬品に関する発見と開発をスピードアップさせ、気候変動とその悪影響を追跡して説明するための大気モデルの精度を向上させるための潜在能力を備えている。

私をこれを、量子コンピューティングの「文明化」と呼ぶ。そのような強力な新技術は、人類に利益をもたらすために使うべきだからだ。そうでなければ、我々は船に乗り遅れてしまうだろう。

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Intelの量子コンピューティング用17キュービットの超伝導テストチップは、接続性を向上させ、電気的および熱力学的な特性を向上させるためのユニークな特徴を備えている。(クレジット:Intel Corporation)

投資、特許、スタートアップなどの上昇傾向

これは、私の内なるエヴァンジェリストの主張だ。しかし事実を見ても、投資と特許出願に関する最新の検証可能な世界規模の数字は、両分野における上昇傾向を反映している。そしてそのトレンドは今後も継続するものと思われる。エコノミスト誌によれば、2015年には、機密扱いされていない各国の量子コンピューティングへの投資の世界的な総計は、約17.5億ドルに達している。欧州連合が6億2300万ドルで全体をリードしている。国別では米国がトップで4億2100万ドル、中国がそれに続く2億5700万ドル、次がドイツの1億4000万ドル、英国の1億2300万ドル、カナダの1億1700万ドルの順だ。20の国が、少なくとも1000万ドルを量子コンピューティングの研究に投資している。

Thomson Innovation社が提供する特許検索機能によれば、同時期の量子コンピューティング関連の特許出願件数では、米国がトップで295件、次いでカナダが79件、日本が78件、英国が36件、中国が29件となっている。量子コンピューティングに関連する特許の件数は、2017年末までに430%増加すると予想された。

結局のところ、国、巨大テクノロジー企業、大学、スタートアップが、こぞって量子コンピューティングと、その潜在的な応用範囲を模索しているというわけだ。安全保障と競争上の理由で、量子コンピューティングを探求している国家、および共同体もある。量子コンピュータは現在使われている暗号化方式を破り、ブロックチェーンを殺し、他の暗黒面の目的にも有効だと言われてきた。

私はその独占的で凶暴なアプローチを否定する。オープンソースの協調的な研究開発のアプローチをとれば、量子コンピューティングには、より広範囲の善良な用途があることは明らかだ、と私には思える。この技術へのより広いアクセスが得られるようになれば、それも十分可能だろうと私は信じている。私は、クラウドソーシングによる量子コンピューティングの応用が、より大きな善のために勝利を得ることを確信している。

もし関わりを持ちたいのであれば、IBMやGoogleなどのように一般家庭にも浸透しているコンピューティングの巨人が用意している無料のツールを探してみるといい。また、大企業やスタートアップによるオープンソースの提供もある。量子コンピュータはすでに現在進行形のものであり、アクセスの機会は拡大の一途をたどっている。

独占的なソリューションは、オープンソース、協調的な研究開発、普遍的な量子コンピューティングの価値の提案に屈服するだろうという私の見立てに沿って、北米だけですでに数十社ものスタートアップが、政府や研究機関と並んで、量子コンピューティングのエコシステムに飛び込んだことを指摘させていただこう。たとえば、Rigetti Computing、D-Wave Systems、1Qbit Information Technologies、Quantum Circuits、QC Ware、Zapata Computingといった名前は、もう広く知られているかもしれないし、すでに大企業に買収されているかもしれない。このような発生期にはなんでもアリなのだ。

ibm_quantum

量子コンピューティング標準の策定

関わりを持つもう1つの方法は、量子コンピューティング関連の標準を策定する活動に参加することだ。技術的な標準は、結局は技術の開発を促進し、経済的なスケールメリットをもたらし、市場を成長させる。量子コンピュータのハードウェアとソフトウェアの開発は、共通の用語からも、結果を評価するための合意された測定基準からも、恩恵を受けるはずだ。

現在、IEEE Standards Association Quantum Computing Working Group(IEEE規格協会の量子コンピューティング作業部会)は2つの標準を策定中だ。1つは量子コンピューティングに関する定義と用語であり、それによってみんなが同じ言語で話すことができる。もう1つは、従来のコンピュータに対する量子コンピュータの性能を評価し、両者を比較するためのパフォーマンスの測定法とベンチマーキングに関するものとなっている。

さらに標準を追加する必要があれば、おいおい明らかになるはずだ。

画像のクレジット:VICTOR HABBICK VISIONS

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

これが連休中にセキュリティーを向上させる必須ポイントだ――家族、親類のデバイスをチェックしておこう

この記事を読み始めた読者の多くは

  • テクノロジーに詳しい
  • 実家に帰って感謝祭の休日を過ごしている
  • この記事を読み始めるほど退屈している

というところではないだろうか? 世界ではサンクスギビングデーが休日ではない国も多いが、アメリカでは七面鳥のローストと共に盛大に祝われてきた。ともあれこの機会に家族や親類のコンピューターのセットアップを見直し、セキュリティーを強化しておくのはいい考えだ。ある朝、伯母さんから電話がかかってきて「コンピューターがランサムウェアにやられて写真が取り出せなくなってので助けてちょうだい」などと言われるリスクをこの先何ヶ月にもわたって大いに軽減できる。

アップデート

コンピューターやスマートフォンのOSを最新の状態にしておかないかぎり、新しく発見された脆弱性を利用する攻撃の犠牲になってしまう。最新のセキュリティー・パッチを導入するためには自動アップデートをオンにしておく必要がある。最新のデバイスはデフォールトで自動アップデートが行われるようになっているが、やはりオンになっていることを確認しておこう。

  • Windows 10 画面左下隅のWindowsアイコンを右クリックしてメニュー開く。以下、「設定」→「更新とセキュリティー」→「Windows Update」と進む。Windowsの状態が「最新」になっていることを確認する。なっていなければ最新の状態に更新する。「Windows Update」から「詳細オプション」を開き、「更新の一時停止」がオフになっていることを確認する。
  • macOS App Storeを開きOSを最新版(macOS 10.14 Mojave)に更新する。「システム環境設定」から「ソフトウェア・アップデート」を開く。自動アップデートを有効にする。App Storeでも自動アップデートを有効にしておけばアプリもこの先長く最新の状態で使える。
  • iOS 「設定」アイコンをタップ、「一般」→「ソフトウェア・アップデート」と進む。iOS 12.xになっていることを確認する。なっていなければアップデートする。同じメニューで「自動アップデート」をオンにする。iTunes-App Storeでも自動アップデートを設定しておく。
  • Android メーカー、キャリヤによってコンフィグレーションが異なるのでやや複雑になる。キャリヤは独自のスケジュールでOSのアップデートを行う(行われない機種もある)。OSの状態は「設定」から確認できる。バージョンは機種ごとに異なる。この点ではユーザーができることはあまりない。Google Playを開き、設定で自動アップデートを有効にしておけばアプリをこの先長く最新の状態で使える。

バックアップ

バックアップの方法は数多くある。とてもすべて紹介する余裕がないので基本的な考え方だけ紹介する。コンピューターの場合は手頃な価格の外付HDDを買って自動バックアップを設定しておく。macOSならTime Machine、 Windows 10なら「更新とセキュリティー」→バックアップ」から設定できる。

クラウド・バックアップも数多くのサービスが提供されている。BackblazeArq Backupなどは優秀だと思う。

家族や親類のコンピューターの場合は完全に自動的にバックアップされることが必須だ。義母にハードディスクをプレゼントして「ここに毎週バックアップを取りましょう」と勧めても結局そうされないだろう。

スマートフォンの場合はまた話が違ってくる。iPhoneならiCloudに連絡先、カレンダー、パスワードなどの個人情報を保存できる。しかし無料で利用できる容量5GBと非常に低いため、iCloudを利用しているユーザーは多くない。有料プラン( 50GBが月額130円など)に加入するか、DropboxやMicrosoft OneDrive、 Googleドライブなどを利用する。これらのサービスでは画質に多少の制限はあるが写真のバックアップは無料だ。

Androidでは Googleフォトを利用しているユーザーが多い。このアプリに保存された写真は自動的にクラウドにバックアップされるので安全性が高い。連絡先その他の重要情報もバックアップされるようGoogleアカウントを設定しておこう。

ディスク暗号化

Macを使っているならOS XのFileVaultオプションをオンにしておけばよい。読者の妹や娘がMacbookを失くし、FileVaultがオンになっていなければ誰でもパソコンの中を覗くことができてしまう。FileVaultは一度オンにすればあとは完全に自動的に作動する。

Windowsの場合、BitLockerが含まれているならオンにしておく。MicrosoftはWindows 10 Home editionにBitLockerを含めていないので、その場合はVeraCryptのようなアプリをインストールするとよい。

パスコード

モバイル・デバイスには必ずパスコードを設定しておこう。パスコードは暗号化その他セキュリティー・オプションの変更にも結びついている。パスコードなしのデバイスを紛失すればありとあらゆる悪夢が待ち受けている。

6桁が望ましいが4桁でもいい。とにかくないよりあったほうがいい。

セキュリティーは常にユーザビリティーと保護の妥協だ。適切な妥協点を見つけることがカギとなる。上で述べた手段は決して家族や親類(や読者自身)のデバイスを完全に防御するものではないが、ともかく正しい方向への一歩だ。チェックがすんだら休暇を大いに楽しもう。

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滑川海彦@Facebook Google+

フィンテックInstarem、グローバル展開へ2000万ドル調達ー日本ではライセンス待ち

銀行が海外送金を安くで行えるサービスを展開しているシンガポール拠点のスタートアップInstaremは、グローバル展開へ向けシリーズCラウンドで2000万ドルを調達した。

今回のラウンドはインドネシアの通信企業TelkomのVC部隊MDI Venturesとタイの銀行Kasikornのファンド、そして既存の投資家Vertex Ventures、GSR Ventures Rocket Internet、SBI-FMO Fundによって実施された。

今回の資金により、設立4年のInstaremはこれまでに4000万ドル近くを調達したことになる。しかしながらInstaremの創業者でCEOのPrajit NanuはTechCrunchに対し、シリーズCを4500万ドルに拡大する計画だと語った。追加の投資は来年1月までにクローズされる見込みだ。Nanuは、南米の新興マーケットと欧州でビジネスを展開するのに力を貸してくれそうな戦略投資家を引っ張ってくるのに注力している。

「我々はいま、資金の意味合いが非常に大事なときにある」とNanuはインタビューで語った。「我々のビジネスに付加価値を与えてくれるような投資家を今回のラウンドに取り込めるかどうかが、今後の鍵を握る」。

Nanuはまた、可能性のあるいくつかの投資家の中で、米国の大手ファンドと現在交渉していることも付け加えた。

Instaremは海外送金のコストを削減するために銀行と協力し、“企業向けのTransferwise”サービスのようなものを提供している。しかしTransferwiseが世界中に送金するのにグローバル銀行ネットワークを使うのに対し、Instaremは海外通貨で取引を行っている中規模の銀行を活用している。以前私が記事に書いた通り、この仕組みは、今から出港するというUPSの貨物船に荷物を置くようなものだ。これにかかる費用は、船を探して自分で荷物を送るのに伴うコストよりも安い。

Instaremは主に東南アジアにフォーカスしていて、50マーケット以上への送金に対応している。一般消費者向けにもサービスを提供してはいるが、常に需要があり、扱う平均額も大きな金融機関が主なターゲットだ。

Instaremはシンガポール、ムンバイ、リトアニアにオフィスを構えていて、提携企業の拡大を見据え、間もなくシアトルにもオープンする。すでに東南アジアの銀行上位10位のうち3行と提携している。Nanuによると、Instaremはまず南米とメキシコに関係する顧客をターゲットとしているクロスボーダーの銀行、ファイナンシャルサービスとの提携を目指す。アジアにおいては、日本とインドネシアでライセンス待ちの段階で、ライセンスを取得すればこの2国で多くのサービスを展開することになる。

TechCrunchが把握している限りでは、InstaremはVisaとの交渉で微妙な時期にある。交渉の結果次第では、顧客にプリペイドカードやファイナンシャルサービスを提供できるようになる。このVisaとの交渉について、Nanuはコメントを拒否した。

TechCrunchはまた、Instaremが今年初めに東南アジアのユニコーンの1社から買収のアプローチを受けたことも把握している。Nanuは買収を持ちかけてきた企業名を明かさなかったが、このオファーは“我々にとっていいタイミングではなかった”とコメントした。しかし、彼の考えはIPOに傾いている。

昨年、InstaremがシリーズBで1300万ドルを調達した時、Instaremが2020年までに株式を公開するかもしれない、とNanuはそれとなく語った。NanuはTechCrunchに対し、適当な時期がきたら米国で株式公開するというのが最も好ましいと言っていて、目標とするその時期は2021年と後ろ倒しになっている。

イメージクレジット: Svetlana LukienkoShutterstock

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(翻訳:Mizoguchi)

PianoがTrue[x]とチームを組んで、広告とペイウォールを組み合わせる

およそ全てのオンライン出版社が、ペイウォール(有料会員限定サービス)を始めたり発表したりしている(事例1事例2)。だがもちろん、成功している者たちでも全ての読者を有料顧客にすることはできていないし、大部分の読者にサインアップさせることもできていない。さてPianoTrue[x]は、大切なサブスクリプション収入を損なうことなく、読者の大多数から収益を上げる効率的な方法を発見したと主張している。

Pianoは、ペイウォールやサブスクリプションマネジメントを含む、様々な出版社向けツールを開発している企業だ。一方True[x]は、数年前に21世紀フォックスによって買収されたアドテックの会社である。

Pianoの国際事業開発責任者であるJonas Rideoutは、このコラボレーションによって、出版社たちは様々な読者メンバーに対して様々なメッセージを送ることができると語る。これはPianoが既に取り組んできたことだが、今回True [x]と提携したことで、プレミアムビデオ広告を観ることで(一時的に)ペイウォールを迂回するオプションを読者に提供することができるようになる。

Rideoutによれば、これはPianoの”out-of-the-box segmentation”(簡単分類)機能を利用しているということだ。これは、サイトへの訪問頻度や、訪問元、そして読んだページ数に基いて読者の支持度を計測する仕掛けである。おそらく最も支持度の高い読者(最も受け容れ易い人びと)に、サブスクリプションを提案することの方が合理的だ。

一方では、コンテンツに興味を持つかもしれないが、(少なくとも今はまだ)実際に課金するつもりがない読者の集団もいる。そうした読者には広告を観るオプションが提供されるので、出版社はそこから収益を得ることができる、そして読者がサブスクリプションを選びたくなったときのために、関心を引きつけておくこともできるのだ。

「おそらく読者の1から3%の人がサブスクリプションに移行します。でも(ペイウォールを迂回する手段を提供することで)金の卵を産むガチョウを料理してしまうのではないかと心配になるでしょう」と語るのはTrue[x]の国際事業開発責任者のChris Shivelyだ。「それが今では、その他97%の読者に別の体験を提供することができるのです。大幅に広告収入を高めながら、読者には製品を楽しんで貰うことができるのです」。

広告年齢ピアノ

Shivelyは、広告収入がどれくらい優れているかを具体的に開示することは拒んだが、普通の表示やビデオ広告に比べると「はるかに高額」であることだけは語った。また彼は「ユーザーに選択肢があることは私たちにとってとても重要です」と語った。広告オプションを選んだとしても、ユーザーはいつでもサブスクリプションに切り替えることもできるのだ。

そしてはっきりしておかなければならないが、こうした広告は無限に続くフリーパスではない。これはいわば計量システムであり、読者が本当に支払いを行わなければならなくなるまでに、何回ペイウォールを迂回できるかを出版社が指定できる。

PianoとTrue[x]は既にこれをAd Ageと共にテストしている。この結果両社はビデオ広告を観ることを要求された訪問者たちは、高い確率で後に登録を行うことを発見しているのだ。広告を視聴した読者たちは、現在のコンバージョンレートに比べて17倍高い値を示した。しかも、オプションを与えられたが実際にはビデオ広告を観なかった読者の場合でも、単に登録オプションだけを提示された読者よりも3倍多い確率で登録が行われたのだ。

Rideoutはまた、Pianoを使う全ての出版社がサブスクリプションを通じてお金を稼ぐわけではないことも指摘した(実際、TechCrunchは非ペイウォールの目的でPianoを使用している出版社だ)。そのため、現在チームは「これが他のユースケースにどのように適用可能か」を議論しているのだという。例えば景品を提供してサインアップを促したり、データの提供を促したりといったケースだ。

「有料のコンテンツサイトだけではなく、その他の種類のコンテンツにもチャンスがあります」と彼は語った。

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(翻訳:sako)

甲虫の幼虫を高濃度タンパク源として収穫する体験で科学を学習するHive Explorer

Livin Farmsのオフィスの中は、体の向きを変えるのも難しい。でも香港の都心ではこれが普通で、スペースは常日変らず貴重だ。そこは、深圳のハードウェアアクセラレーターHAXが支えるこのスタートアップの、ささやかな拠点だ。デスクをいくつか置くと、もう残りのスペースはない。このスタートアップの最新のプロダクトHiveがドアの横にある。それは一見何の特徴もないトレイが、いくつか重なっているだけのものだ。

でも、ぼくがここに来たのはHive Explorerを見るためだ。その小さなトレイは、部屋の中央に置かれている。上部は開(あ)いている。ドアを開けて入ったときから、その小さな明るい色のプラスチック製品が目を引く。その中身が、奇妙なランダムなリズムでぴくぴく動いている。近づいてよく見ると、茶色く見えたのは実は白で、黒いのは生きている。ミールワームたちが小さなベッドの中で互いに上になったり下になったりしながらうごめいている。チームが置いたカラスムギの残りを、がつがつ食べている。

それらの上には、ネオンイエローのトレイの中に完全に成長した甲虫たちと、2ダースほどの蛹(さなぎ)がいる。成虫はたえず動きまわり、互いにぶつかり合い、ときにはライフサイクルの継続のためにそれ以上のこともする。蛹は横たわり、生きていないように見えるが、ときどきピクッと動いて、中に生命があることを思い出させる。

ExplorerでLivin Farmsはその地平を、STEM教育の世界へ広げようとしている。前のプロダクトはスケーラブルな持続可能性にフォーカスしていたが、この新しいKickstarterプロジェクトは若者や子どもに狙いを定めている。そしてバケツ一杯の甲虫には、学ぶことが山ほどある。たとえば、死だ。ファウンダーのKatharina Ungerは近くの瓶をつかみ、蓋をねじった。

瓶には、乾燥したミルワームがいっぱい詰まっている。彼女はその一つをつまみ、自分の口に放り込んだ。期待を込めて、ぼくの手にも渡した。ぼくも彼女の真似をした。カリッとしている。味がないことはないが、はっきりしない。たぶん、ちょっと塩気がある。でも最大の感触は、気味の悪さだ。下を見ると、今ぼくが食べているものの兄弟である小さな幼虫が、数インチ先で餌を食べ続けている。

The Mountain Goatsの歌詞を引用するなら、それは今や未来のタンパク源だ。Livin Farmsは、幼虫の無味無臭の粉末も作っている。そしてその、持続可能な高濃度タンパク質食品の、ある種の概念実証として、意外にもおいしいグラノーラを作っている。この、世界でもっとも人口密度の高い場所で、同社のミッションは家庭にも浸透している。


[彼女は少しおみやげにくれた。おなかをすかせている誰かのために。]

Explorerには、若者たちに未来の持続可能な農業を見せる意味もある。ただし食品メーカーは、昆虫を食べることに伴う消費者の嫌悪感を打破しなければならない。Explorerのユーザーである子どもたちは、過密を防ぐために幼虫の収穫を奨励される。幼虫は、唐揚げではなく乾煎り(からいり)して食べる。ボックスは、比較的臭気の少ない堆肥作り容器になる。虫たちへの給餌は、人間の食べ残しを投げ込むだけだ。小さな虫たちは、それを噛み砕いていく。下のトレイに、彼らの粉状の廃棄物がたまる。

虫たちの暖房のためのヒーターや、湿度を調節するためのファンもある。それらにより、虫たちが仕事をするための最適の環境が作られる。Livin FarmsはシステムのコントロールをSwiftのコードで公開して、プログラミングという要素も加えようとしている。

ExplorerがKickstarterに出たのは今週だ。初期の出資者はそのボックスを、113ドルで入手できる。

[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

還元率20%の衝撃──スマホ決済のPayPay、100億円バラマキでキャッシュレス市場に攻勢

eng-logo-2015ソフトバンクとヤフーが手がける決済アプリ「PayPay(ペイペイ)」は、総額100億円を還元する「100億円あげちゃうキャンペーン」を実施します。12月4日~2019年3月31日。

今回の”100億円”キャンペーンは、ユーザーの拡大に加えて、小規模加盟店の開拓を進める狙いがあります。PayPayの中山一郎CEOは「ユーザーと加盟店の獲得のために、100億円を投じる。QR決済市場のユーザー数と加盟店数、両方でナンバーワンを目指す」と宣言しました。キャンペーン原資についてはソフトバンクとヤフーの両社がPayPayに出資した金額を拠出すると説明しています。

​​​​​​100億円あげちゃうキャンペーン

1回のPayPay支払いごとに、最大20%が「PayPayボーナス」としてPayPay残高に還元されます(上限はひと月辺り5万円)。

さらに、抽選で40回に1回の確率で、支払い額の全額がキャッシュバックされます(最大10万円)。全額還元のキャンペーンでは、ソフトバンクとY!mobileのユーザーは10回に1回、Yahoo!プレミアムのユーザーには20回に1回と、確率が上がる特典も用意されます。

なお、還元金額が総額100億円に達したときは、キャンペーン期間の途中でも終了となるとしています。

また、「100億円あげちゃうキャンペーン」の開始に先立ち、11月22日より5000円をチャージすると1000円分の残高がもらえるプレキャンペーンが実施されます。

加盟店にファミマ、ビックカメラ、松屋など

PayPayは12月4日より、全国のファミリーマートで利用できるようになります。そのほか家電量販店のビックカメラグループ、ヤマダ電機や、飲食チェーンの松屋などが加盟店になることも発表されました。

強みはソフトバンクの営業力

PayPayは、ソフトバンクとYahoo! JAPANの決済サービスを統合し、誕生したスマホ決済サービス。10月5日よりQRコードを使ったサービスを開始しました。運営企業のPayPayは、ソフトバンクとヤフーの合弁会社となっています。

関連記事:スマホ決済「PayPay」サービス開始 ヤフーアプリでも利用可

PayPayにはQRコードを使った決済方法として、スマホのQRコードを見せてレジのリーダーで読み取る「ストアスキャン」と、店に設置されたQRコードをユーザーのスマホで読み取る「ユーザースキャン」という2つの決済方法が用意されています。このうち後者は小規模な加盟店でも導入しやすい方式です。

サービス開始以来、中国アリババの「Alipay(アリペイ)」との決済連携や、Yahoo! JAPANアプリでの決済対応など、機能拡充を図ってきたPayPay。11月21日には残高の個人間送金にも対応しています。

PayPayの強みはソフトバンクの営業力を利用できること。発表会に登壇したソフトバンクの榛葉副社長は「すでにPayPayには有能な営業幹部を送り込んでいる」と紹介しました。PayPayで加盟店開拓にあたる営業人員は数千人規模としており、個人店向けの営業も積極的に行っていくとみられます。

また、PayPayにはインドのQR決済事業者「Paytm」が技術協力しています。Paytmは3億人が利用するインド最大規模のQR決済事業者で、ソフトバンクグループの通称「10兆円ファンド」ことビジョン・ファンドの投資先ともなっています。

このPaytmの協力について中山氏は「Paytmの技術協力は強いアドバンテージだ。失敗例を多く知っているため、同じ轍を踏まずにすむ」とコメントしています。PayPayでは今後の機能拡張として、店舗マップの情報拡充を予定しています。

Engadget 日本版からの転載。

PayPayが考えるキャッシュレス決済浸透のロードマップ——#tctokyo 2018レポート

11月15日・16日の両日、東京・渋谷ヒカリエで開催されたTechCrunch Tokyo 2018。2日目には「モバイル決済界の“大型ルーキー”誕生、後発組のPayPayが考える勝機とは?」と題し、ソフトバンクとヤフーが6月に設立した合弁会社PayPayのキーパーソン2人を迎え、同社の展望や日本におけるスマホ決済の未来について聞いた。

登壇したのは、PayPay代表取締役社長/CEOの中山一郎氏と、取締役副社長/CTOのHarinder Takhar(ハリンダー・タカール)氏だ。聞き手はTechCrunch Japan編集部の菊池大介が務めた。

中山氏は今年6月より、PayPayの代表取締役社長に就任し、PayPayの舵取りを担う人物だ。タカール氏は、PayPayとの連携を発表したインドの電子決済・EC事業のPaytmに設立当初から参画し、2011年〜2014年まで同社のCEOを務めていた。2014年からはカナダのグループ会社Paytm LabsでCEOに就任。2018年6月からは、PayPayのCTOにも就いている。

PayPayが提供するスマホ決済サービス「PayPay」は、バーコードを活用した実店舗決済が可能。ユーザーがアプリを使って店舗のレジ付近などに提示してあるQRコードを読み取る方式(ユーザースキャン)か、アプリに表示されるバーコードを提示して店舗側がスキャンする方式(ストアスキャン)の2タイプで決済できる。ユーザーの支払はクレジットカードと電子マネーから選択できる。

会場で紹介されたデモ映像

ローンチから1カ月、PayPayの手応えは

キャッシュレスの波が日本にも寄せていることは間違いない。だが、日本での浸透はまだまだと言える。はじめに中山氏に、他国と比べたときの日本のキャッシュレス決済の状況について、考えを聞いた。

PayPay代表取締役社長/CEO 中山一郎氏

中山氏は「まずQRコードが使える店が少ない、ということが一番大きい」と述べる。「世界の人口の約3分の1を占める中国やインドでは、キャッシュレスが進んでいる。それは、使える店が圧倒的に多いから。キャッシュレス決済が進むには、使える店が増えることがとても大事」(中山氏)

そうした状況のもと、PayPayはソフトバンクとヤフーの合弁会社として誕生。ソフトバンク・ビジョン・ファンドの出資先でもあるPaytmの技術やノウハウを活用して、新しいモバイル決済サービスを構築しようとしている。

「私たちソフトバンクグループは、ご存じの通り情報革命を推進する企業。QRコード決済が世界の潮流となっている今、日本でもそれを推進したいと、グループを挙げて事業に取り組んでいる。合弁会社設立、Paytmとの連携については、それがユーザーにとって、ストアにとって一番いいサービスを提供できるだろうとの考えからだ」(中山氏)

浸透が遅れているとはいえ、LINE Pay、楽天ペイやOrigami Payなど、さまざまなモバイル決済サービスが登場している日本。この領域では後発となるPayPayだが、ほかの競合と違う点、勝負していく点はどういうところになるのか。

「QRコード決済自体が日本では、それほどまだ浸透していないので、先輩プレイヤーといっしょにやっていけばいい。後発であるということは、あまり気にしていない」と中山氏。

「狭い見方をすれば最後発かもしれないが、スマホで決済するということ自体、皆さんがそれほど使っているわけではない。競合とも仲間として(サービスの浸透を)これからやっていくのが大事だと考える」と言いつつも「ソフトバンクの営業力、ヤフーのユーザーリーチ、Paytmの技術が組み合わさっているのは、ユーザー、ストアにとって早く、良いサービスを提供するためには、アドバンテージではないか」と中山氏は自信を見せる。

10月5日にPayPayがローンチしてから、イベントの時点で約1ヶ月半。手応えはどうだったのだろうか。

中山氏は「順調に1ヶ月半、支えられてきた」と振り返り、「これからさらに使える場所を増やしたい。また、ユーザーが使いたくなるような機能を備えたい」と話す。

「我々は日常的に使える店があることが大切と考えており、12月頭にはファミリーマートで使えるようになる。日本では平均すると1日7〜8回、支払いシーンがあるという。コンビニエンスストアもそうだし、例えばコーヒーショップや自動販売機、ドラッグストア、スーパーなど、その支払いシーンの大部分にあたる店に対し、営業をがんばってかけていく」(中山氏)

また10月25日に中国で普及するモバイル決済「Alipay」と連携を開始したことについては、中山氏は「非常に良かった」と述べている。

「Alipayが使われている店には特徴がある。数字の面でも、訪日中国人のお客さんは平均数倍、日本人より使う金額が大きい。日本人のみならず、外国人も送客できるので、ストアにとっては新しいお客さんが来ることになり、PayPayの特徴になっているかと思う」(中山氏)

日本でユーザーやストアを増やすための戦略については「先月ローンチしたばかりなので、まだまだこれから」と中山氏。「僕たちがTwitterでユーザー、ストアの皆さまから、よく言われていることが3つある」として、それぞれへの対応について、このように語った。

「ひとつはPayPayという一風変わったネーミングについて。これは浸透させる努力をしなければ、と考えている。次に、使える店の数と、どこにあるのか分からない、という点。ストアの数については営業が日々開拓しているので、時間を追えば十分な数ができるだろう。店の場所の表示については、PayPayのアプリ内にある地図機能をバージョンアップしていくことで対応する。それから、PayPayを使う理由は何か、というツイートもある。これは利用で得られる直接のインセンティブ、ということだと思うのだが、これは今、どういうものにするか検討しているところだ」(中山氏)

インセンティブについては今日、PayPayでの支払いで、ユーザーに20%相当のPayPayボーナスが還元される「100億円あげちゃうキャンペーン」が12月4日からスタートすることが発表されている。

モバイルファースト選択がPaytm成長の理由

中山氏は、普段はカナダにいるタカール氏と毎日、テレビ会議でミーティングを欠かさないという。

「日本の朝、カナダでは夜の30分〜1時間ぐらい、ミーティングしている。もともと、テーマがあれば24時間以内に解決しようね、という約束があり、このミーティングで判断し、決断を行うことにしている。また、特にテーマがない日も顔を合わせて、家族のこととか昨日どこへ行った、とか、たわいもない話でもするようにしている。合弁事業、かつ国を超えてやっていく中では貴重な時間ではないかと思うし、充実感もある」(中山氏)

タカール氏も「プロジェクトを始めたとき、毎日必ず顔を合わせようと決めた。何かニュースがあればシェアし、私から何かアイデアが出ればシェアするといったことをやってきている。私たちは数多くの1対1のコミュニケーションを行うことで、この6カ月間でとてもよいビジネスパートナーとなれた。一緒に働くチームとして、(誰かの伝聞でなく)直接、共通言語で会話できていることは大切なことだ」と、毎日のミーティングの効用について述べている。

タカール氏がCEOを務めていたPaytmは、2011年に最初のサービスをローンチした。親会社のOne97は1999年創業。長年、通信業に関わってきて、その後マーケティングソリューション、電子決済、eコマース、銀行と、さまざまな産業へテクノロジーを適用し、効率化してきた会社だ。現在、Paytmはインド、カナダで事業を展開している。

PayPay取締役副社長/CTO Harinder Takhar(ハリンダー・タカール)氏

カナダ進出は2017年と最近だが「非常に調子がいい」とタカール氏は述べる。「消費者の要望やニーズがインドと異なるので、その理解が大変重要だ。何がビジネスの課題であるかを理解するために時間を取っている。例えばデジタルペイメントの受け入れ方など、インドや日本と比較しても悪くない。その地で何が実際に求められているのかを知り、解決方法を見出すことが大事だ」(タカール氏)

Paytmは現在3億人のユーザーを抱える。成長の秘訣について聞くと、タカール氏は「数多くのハードワークと幾夜もの眠れない夜によるものだ」と笑いながら答えた後、「この8年間でスマートフォンを誰もが使うようになったこと」を理由として挙げた。

「スマートフォンが100ドル、150ドル程度で買えるようになり、インターネットにも接続できる。生活がスマートフォンにどんどん最適化され、ユースケースがスマホに集まる。私たちは2011年から“モバイルファースト”と言っていたが、他社はそれをしていなかった。だからインドには我々ぐらいしかプレイヤーがいなかった。また私たちはモバイルファーストを選択したことで、非常に顧客中心のサービスになっていくだろう」(タカール氏)

日本よりキャッシュレスが進んでいるインドの決済事情について、タカール氏は「インドでは現金を持ち歩かなくても済む。銀行口座の開設もデビットカードの発行もすべてスマートフォンの中で完結できる」と説明する。

タカール氏は過去10年以上、現金を持っていないそうだ。「それによるトラブルはときどきある。特に日本では、食べ物や何かを買おうとすると現金が必要になる。そういうときは誰かに現金を出してもらって、電子マネーと替えてもらうことになるが、それでも、現金は持たないようにしている」(タカール氏)

タカール氏にとってキャッシュを持たないことは、「実はいいモチベーションでもある」とのことだ。「いろいろなトラブルも、現金なしで生活できるということには代えがたい。もうお金を無くす心配もない。それに何とかして問題を解決しようという(サービス改良の)原動力にもなっている」(タカール氏)

日本のキャッシュレス事情については、「インドに比べて遅れているが、日本にはすばらしいものもたくさんある」とタカール氏は語る。「やるべき仕事はたくさんあるが、PayPayはチャレンジング。そのポテンシャル、日本にキャッシュレスサービスをもたらすことが、仕事への大きなモチベーションになっている」(タカール氏)

PayPayに対してアドバイスはあるか、との質問に対し、タカール氏は以下のように答えている。

「ひとつは、テクノロジーは流動的で変化する、ということ。最初に使っていた技術が10日後にも使えるという保証はない。何世代もリデザインして、失敗を修正しながら進めることだ。5世代目で最適な利益をもたらしたとしても、6世代目でも同じとは限らない。次の世代、次の世代でベストになるようにPayPayでも取り組んでいく」(タカール氏)

また世界規模で仕事を進めるPaytmならではの助言として「多文化チームでの仕事の仕方」について、こう述べた。

「多文化の人材が揃うチームでは、多様なバックグラウンドを持つ人々が、異なるタイムゾーンに所属しながら働く。日本が眠りにつけばカナダが起きる、といった具合に24時間動き続け、チームで働くことでたくさんの課題が解決できる。たくさんの会話が1日の間に交わされ、チームレベルではいろいろなことが起きる。これは私たちのユニークな、スーパーパワーだ。誇りに思う」(タカール氏)

タカール氏はPayPayへPaytmが技術提供を行うことのメリットについて、「QRコード決済の仕組みは、その辺に売っているものを買ってきた、というものではない。自分たちで構築したものだ。だからこそ、既に経験してきたことをシェアし、起きた失敗は避けることができる」と述べる。

「他国で開発したソリューションのすべてを日本に持ってくる、というのは意味がない。ある国の問題は、特定のテクノロジーで解決される。だがその時に『他の国ではどうなっていたのか』をいろいろな国から来ている人たちと話せる環境があるのは、価値があることだ。違うオリジンを持ついろいろな人が1つの部屋に集まり、解決策を編み出すことには意義がある」(タカール氏)

戦略は「顧客をハッピーにすること。ほかはなくてもOKだ」

PayPayが競合に勝つための戦略についても2人に聞いた。タカール氏は、イベント前夜に中山氏と行ったミーティングの内容に触れて、こう語る。

「我々のゴールは何か、というテーマで話したのだけれども、中山さんの答えは実に明確だった。『我々の価値は、お客さまの問題を解決する、それ以外にはない』。ほかのことは重要ではない、お客さんを確実にハッピーにするんだ、と中山さんは言った。ほかのことはなくても、それでOKだ、と我々は本気で考えている」(タカール氏)

中山氏は「ありきたりだけど、自分がユーザーだったら一番快適なサービスを使いたいと思う。それを、あらゆる技術の力を使って実現していくという、地道な作業を毎日続けることじゃないか」とその意図を説明する。

「一番大切にすべきことは、ユーザー、そしてストア。これは徹底していて、そのことには2人ともブレがない。それを推進するのみ」(中山氏)

中山氏は「モバイル決済が浸透することで、現金を使うより便利な世界を作らなければ」と日本での事業展開による未来を語っている。

「繰り返しになるが、どこででもモバイル決済が使えることが一番大事。日本はキャッシュ・イズ・キングで、現金が使えないところはない。それと同じだけモバイル決済が使える店やシーンがなければ、使ってもらえない。モバイル決済で現金より便利な世界は、各国で始まっている。そんな中で使われなくなった機能なども分かってきている。我々は最短距離で便利な未来へ向かっていく」(中山氏)

タカール氏は「我々のやり方は、フラストレーションがたまる状況で『なぜ?』と自問すること」とも話している。

「例えば日本のスタンダードな取引では、なぜか、店などにお金が入ってくるまでが遅く、1カ月後になることもある。その1カ月で利子が稼げるわけでもない。お金が決済と同時に店に行く、それでいいはずだ。私たちはそれを実現しようとする。あるいは、日本のタクシーに乗れば、ステッカーで30種類ぐらいの支払い方法が表示してある。なぜそれが必要なのだろう。我々は、今のテクノロジーが実際に何を成しているのかをよく観察することで、より良いソリューションを実現するための力を得ている」(タカール氏)

PayPayがこれから備える機能についても、期待が膨らむところだ。中山氏は直近の新機能として「割り勘機能は間もなく実装できるのではないか」と明かす。また「それ以外にも都度、実装したい機能について話している。ロードマップはいっぱいあるので、それを順次作っていく。期待していてほしい」とのことだった。

AnyPayの新会社、110億円の投資対象はインドの“自動車”ーーシェアされるあらゆるモノに投資

わりかんアプリ「paymo」などを提供し、連続起業家・投資家の木村新司氏が会長を務めるAnyPay。同社は11月22日、2017年より開始した投資事業を切り離し、新しく投資会社を設立すると発表した。Habourfront Capital(以下、ハーバーフロント)と名付けられたこの新会社は、ちょっと変わった存在だ。投資対象は、Airbnbなどシェアリングエコノミー関連のスタートアップ。でも、彼らはその企業の株式ではなく、そのサービス上でシェアされる“モノ”に投資をする。

ハーバーフロントにとって初めての投資案件となったのは、インドで“クルマ版Airbnb”を提供するDrivezyだ。同サービスは、ユーザーが自身の保有する車両(クルマやバイク)をプラットフォームに掲載し、他のユーザーに貸し出すことで収益を得ることができるシェアリングエコノミー型のサービスだ。Airbnbは不動産を貸し出せるプラットフォームだが、その代わりにクルマを貸し出すと考えれば分かりやすいだろう。

Drivezyの特徴は、貸し出す車両にGPSなどを搭載した専用モジュール積むことで貸し出し中のクルマのデータを細かく取得しているという点。車両保有率が約7%と低いインドではクルマは高価な資産であり、ゆえに盗難などのリスクが付きまとう。GPSなどでそのようなリスクを軽減するとともに、ガソリンの残量など車両状態のデータも取得している。そのため、ユーザーはアプリを開くだけでどこにどんな状態のクルマがあり、それをいくらで借りれるのかが一目瞭然で分かるというわけだ。

このような特徴からDrivezyは順調に成長を続けている。2015年の創業以来、サービス利用可能都市はインド国内11箇所に拡大。累計で30万人のユーザーが同サービスを利用した。投資家からの注目も熱い。Drivezyは2018年8月にシリーズBで1430万ドルを調達。この調達ラウンドをリードしたのは韓国の自動車メーカーHyundaiだ。そのほか、Y CombinatorやGoogleなどからも資金を調達。AnyPay会長の木村新司氏の投資会社Das Capitalもシードラウンドからすべてのラウンドに参加している。

しかし一方で、プラットフォームに掲載されている車両台数はいまだ1000台程度(米国TechCrunch取材時)と、十分な水準ではないのも確かだ。車両を供給するのは一部の富裕層や元Uberドライバーなどに限られ、供給が不足している状態だという。Drivezyもそれを把握しており、Hyundaiなどと手を組むことで車両数を今後約1年間で1万〜1万2000台までに増やす計画を明かしていた。そこで登場するのが、今回の主役であるハーバーフロントというわけだ。

シェアされるあらゆるものに投資

ハーバーフロントはDrivezyに供給する車両それ自体を「投資性資産」とみなし、今後3年間で110億円を投入して車両自体を購入。それをDrivezyのプラットフォーム上に掲載する。通常のフローと同じく、Drivezyユーザーがその車両をレンタルすればハーバーフロントに収益が入る。ハーバーフロントはTechCrunch Japanの取材に対し、この投資によってどれほどの収益率を見込んでいるのかは明かさなかったが、「新しいサービスであること、インドというカントリーリスクがあることなどを考えれば、既存の国内不動産ファンドが投資可否の判断をするIRRよりも高い水準であることは間違いない」(ハーバーフロント代表の中川渉氏)と話す。

ハーバーフロントを率いる中川氏は、コールマン・サックス証券の投資銀行部門でM&A業務や資金調達業務などに携わり、不動産のシェアリングサービスなどを手がけるSQUEEZEの創業メンバーとして取締役COOを勤めたあと、AnyPayの投資部門に転籍した。そして今回、そのAnyPayの投資部門を丸ごと新会社として切り出す形でハーバーフロントが生まれた。

ハーバフロントの投資対象は技術的な強みをもつシェアリングエコノミー関連企業だということだが、今後もエクイティを通した出資は行なわず、シェアされるアセットそのものへの投資に特化していくという。これは個人的に、シェアリングエコノミーの新時代が始まったと感じる話だった。

シェアリングエコノミーはそのサービスの性質上、世界中のすべてのものを投資性資産に変える力をもつ。シェアリングエコノミー型サービスの誕生により、時計やパソコン、机、服、クルマなどの有形資産だけでなく、時間やスキルなど無形のものまでありとあらゆるものがシェア可能になった。そして、それを他人にシェアして収益を得られるのであれば、それは立派な「投資対象」となる。

これまで不動産ファンドなどが所有する物件をAirbnbなどのプラットフォームに載せて収益化するという事例があったが、僕が知る限り、あらゆるシェアリングエコノミー型サービスを横断的に投資対象とする「シェアアセット特化型ファンド」はハーバーフロントが初めてだ。彼らのような投資企業が生まれたのも、それだけシェアリングエコノミーが成熟し、人々の生活のなかに「シェアする」という概念が根付いた証拠だと言える。

シェアリングエコノミー型サービスは、ユーザーと並行して、シェアされる資産を早急に集める必要がある。登録したはいいが、利用できるケースが限られていればユーザーから見放されてしまう。「ユーザー」と「シェアアセットの供給者」は、サービスにとって欠かせない両輪なのだ。シェアリングエコノミーの世界市場規模は2025年までに約41兆円にまで膨らむという試算もあり、今後もこの分野へ大量の投資マネーが流れ込む。しかし、従来のエクイティ投資に加え、ハーバーフロントのように、さまざまなプラットフォームにアセットを直接供給するというプレイヤーが増えれば、早期に持続可能となるプラットフォームも増える。そうなれば、シェアリングエコノミー型サービスの数が増加し、さらに普及が進むという循環が生まれるのだろう。