【コラム】知られざるデザインの事実とユーザーエクスペリエンスの偏りに対処する方法

最近とある巨大テック企業と話をする機会があった。彼らが知りたがっていたのは、彼らが手がける人間中心設計は、エクスペリエンスの偏りを防ぐことができるかどうかというものだった。簡単にいうとその答えは、おそらくノーである。

エクスペリエンスの偏りといっても、何も私たち自身の認知的な偏りのことではない。デジタルインターフォースのレイヤー(デザイン、コンテンツなど)における偏りのことを指しているのだ。人々が接しているほとんどのアプリやサイトは、制作したチームの認識や能力に基づいて設計されているか、ごく数人の価値の高いユーザーのために設計されている。もしユーザーがデザインにおける慣習を知らなかったり、デジタルへの理解が足りなかったり、技術的なアクセスがなかったりすると、そのエクスペリエンスは彼らにとって不利なものになると言えるだろう。

解決策としては、多様なユーザーのニーズに合わせ、デザインやエクスペリエンスを複数バージョン作るという考え方にシフトするというのがある。

前述のテック企業の話に戻ると、共感できるデザインへの投資はどんな企業にとっても不可欠だが、デザイン機能を立ち上げ運営してきた者として、ここで知られざる事実をいくつか打ち明けておく必要があるだろう。

まず第一に、UXチームやデザインチームは、戦略やビジネス部門から非常に限定されたターゲットユーザーを指示されることが多く、エクスペリエンスの偏りはすでにそこから始まっている。事業があるユーザーを優先しなければ、デザインチームはそのユーザーのためにエクスペリエンスを作る許可も予算も得られない。つまり、企業が人間中心設計を追求したり、デザイン思考を採用したりしていたとしても、多くの場合は商業的な利益に基づいてユーザープロファイルを繰り返し作成しているだけで、文化、人種、年齢、収入レベル、能力、言語などの多様性の定義からは程遠いものとなっている。

知られざる事実の2つ目に、人間中心設計ではUX、サービス、インターフェースのすべてを人間が設計することを前提としていることが挙げられる。エクスペリエンスの偏りを解決するために、ユーザーのあらゆるニーズに基づいてカスタマイズされたバリエーションを作成する必要がある場合、特にデザインチーム内の多様性が豊かでない場合には手作りのUIモデルというだけでは十分でない。ユーザーのニーズに基づいた多様なエクスペリエンスを優先させるには、デザインプロセスを根本的に変えるか、デジタルエクスペリエンスの構築に機械学習や自動化を活用するかのどちらかが必要であり、これらはどちらもエクスペリエンスの公平性へのシフトのためにはとても重要なことである。

エクスペリエンスの偏りを診断し、対処する方法

エクスペリエンスの偏りに対処するには、どこに問題があるかを診断する方法を理解するところから始まる。下記の質問は、デジタルエクスペリエンスのどこに問題が存在するかを理解するためにはとても有用な質問だ。

コンテンツと言語:このコンテンツは個人にとってわかりやすいものか?

アプリケーションには、技術面で特別な理解を必要としたり、企業や業界に特化した専門用語を使ったり、専門知識を前提としたりするものが多い。

金融機関や保険会社のウェブサイトでは、閲覧者が用語や業界、名称を理解していることが前提となっている。代理店や銀行員が事細かに教えてくれる時代でないのなら、デジタルエクスペリエンスがそれに代わって説明してくれるべきではないだろうか。

UIの複雑さ:自分の能力に基づいたインターフェースになっていないか?

障がいがあっても支援技術を使って操作ができるだろうか。またはUIの使用方法を学ぶ必要があるか。1ユーザーがインターフェイスを操作するために必要とする力量は、その人の能力や状況に応じて大きく異なる場合がある。

例えば高齢者向けのデザインでは、視覚的効果が控えめで文字の多いものが優先される傾向にあり、逆に若者は色分けや現在のデザイン規則を好む傾向にある。新型コロナウイルス(COVID-19)のワクチン用ウェブサイトでは、操作方法や予約方法を理解するのに皆苦労したのではないだろうか。また、各銀行のウェブサイトは同じような情報でも操作方法が大きく異なっている。かつて、スタートアップ企業のUIは非常にシンプルなものだったが、機能が追加されるにつれベテランユーザーにとってさえも複雑になってきている。Instagramの過去5年間での変化がその良い例である。

エコシステムの複雑さ:複数のエクスペリエンスをシームレスに操作する責任をユーザーに負わせていないか?

私たちのデジタルライフは単一のサイトやアプリを中心としているわけではなく、オンラインで行うことすべてにおいてあらゆるツールを使用している。ほとんどのデジタルビジネスやプロダクトチームは、ユーザーを自分たちの庭に閉じ込めておきたいと考えており、ユーザーが達成しようとしていることに基づいて、ユーザーが必要とするかもしれない他のツールを考慮してくれることなどほとんどない。

病気になれば、保険、病院、医師、銀行との連携が必要になるだろう。大学の新入生の場合は学校のさまざまなシステムに加えて、ベンダー、住宅、銀行、その他の関連組織と連携しなければならない。このように、ユーザーがエコシステムの中でさまざまなエクスペリエンスをつなぎ合わせる際に困難に直面しても、結局のところユーザーの自己責任となってしまうのである。

受け継がれるバイアス:コンテンツを生成するシステム、別の目的のために作られたデザインパターン、エクスペリエンスをパーソナライズするための機械学習を使用している場合。

このような場合、これらのアプローチがユーザーにとって正しいエクスペリエンスを生み出しているかどうかをどのようにして確認しているだろうか?コンテンツ、UI、コードを他のシステムから活用する場合、それらのツールに組み込まれたバイアスを引き継いでしまうことになる。例えば、現在利用可能なAIコンテンツやコピー生成ツールはいくつも存在するが、自身のウェブサイトのためにこれらのシステムからコピーを生成した場合、そのバイアスをエクスペリエンスに取り込んでしまうことになる。

よりインクルーシブで公平なエクスペリエンスエコシステムの構築を始めるには、新しいデザインと組織的なプロセスが必要だ。よりカスタマイズされたデジタルエクスペリエンスの生成を支援するAIツールは、今後数年間でフロントエンドデザインやコンテンツへの新しいアプローチにおいて大きな役割を果たしてくれることだろう。しかし、どんな組織でも今すぐ実行できる5つのステップがある。

デジタルエクイティをDEIアジェンダの一部とするということ:多くの組織がダイバーシティ、エクイティ、インクルージョンの目標を掲げているものの、それらが顧客向けのデジタル製品に反映されることはほとんどない。筆者は大企業でデザインチームを率いたり、デジタルスタートアップで働いたりした経験があるが、問題はどこでも同じで、組織全体の多様なユーザーに対して明確な説明責任を果たしていないということなのである。

大企業でも中小企業でも、各部門が影響力の強さやどちらが顧客に近いかを競い合っている。デジタルエクスペリエンスや製品の出発点は、ビジネスレベルで多様なユーザーを定義し、優先順位をつけるところから始まるが、上級職レベルでデジタルとエクスペリエンスの公平性の定義を作成することが義務付けられているのなら、各部門はそれらの目標にどのように貢献できるかを定義すれば良い。

デザインチームやプロダクトチームは、経営陣や資金面でのサポートがなければインパクトを与えることができないため、経営幹部レベルはこの優先順位を確保するという責任を負う必要がある。

デザインチームと開発チームの多様性を優先すること:これについてはこれまでにも多くの記事が書かれてきたが、多様な視点を持たないチームというのは、自分たちの恵まれた経歴や能力だけに基づいたエクスペリエンスを生み出してしまうということを強調しておく必要がある。

さらに、多様なユーザーに向けたデザイン製作を経験したことのある人材を採用することが不可欠であるということも付け加えておきたい。デザイナーや開発者のグループを改善するため、採用プロセスをどのように変えているのか。多様な人材を確保するためにどういった企業と提携しているか。DEI目標は採用用紙上のチェックボックスに過ぎず、すでに思い描いていたデザイナーを採用していないだろうか。使用しているエージェントは明確かつ積極的なダイバーシティプログラムを持っているか。そして、彼らはインクルーシブデザインにどの程度精通しているか。

Googleの取り組みには模範的なものがいくつかある。人材パイプラインにおける代表性を向上させるための取り組みとして、機械学習コースへの資金提供を白人の多い教育機関からより包括的な学校に移し、TensorFlowコースへのアクセスを無料にし、またBIPOC(黒人、先住民、有色人種)にあたる開発者にはGoogle I/Oなどのイベントへの無料チケットを送付している。

何を、誰にテストするかを再定義する:ユーザーテストが実施される場合、収益性の高いユーザー層や特に重要なユーザー層に限定してテストが実施されることがあまりにも多い。しかし、お年寄りやデスクトップコンピュータをまったく使用しない若いユーザーに対してそのサイトはどのように機能するだろうか?

エクスペリエンスにおける公平性と平等性の重要な側面として、複数のエクスペリエンスを開発し、テストすることが挙げられる。ほとんどの場合、デザインチームは1種類のデザインをテストして、ユーザーからのフィードバックに基づいて微調整を行っている(テストを行ってさえいない場合もかなり多い)。手間はかかるものの、高齢者やモバイルしか持っていないユーザー、異なる文化的背景を持つユーザーなどのニーズを考慮したデザインバリエーションを作ることで、デザインをデジタルエクイティの目標に結びつけることができるのである。

「1つのデザインをすべてのユーザーに」届けるのではなく「複数バージョンのエクスペリエンスを立ち上げる」ということにデザイン目標を変更する:通常、最も重要なユーザーのニーズに基づいて、あらゆるエクスペリエンスを単一バージョンに絞り込むというのがデジタルデザインや製品開発の常識である。アプリやサイトのバージョンを1つではなく、多様なユーザーに合わせて複数バージョンを用意するというのは、多くのデザイン組織のリソース確保や製作の方法に反するものである。

しかし、エクスペリエンスの公平性をもたらすためにはこの転換が不可欠だ。簡単な自問をしてみると良い。そのサイト / 製品 / アプリには、高齢者向けのシンプルで大きな文字のバリエーションが用意されているだろうか?低所得世帯向けのデザインに関しては、デスクトップに切り替えて作業する人と同様に、モバイルのみ使用のユーザーでも難なく作業を完了できるだろうか?

これは、単にレスポンシブバージョンのウェブサイトを用意したり、バリエーションをテストして最適なデザインを見つけたりすることに留まらない。デザインチームは、優先されるべき多様なユーザーや十分なサービスを受けていないユーザーに直接結びつくような、複数の視点を持ったエクスペリエンスを提供するという目標を持つべきなのである。

自動化を導入し、ユーザーグループごとにコンテンツやコピーのバリエーションを作成する:デザインのバリエーションを揃えたり、幅広いユーザーでテストしたりしていたとしても、コンテンツやUIのコピーは後回しにされているということがよくある。特に組織の規模が大きくなるにつれてコンテンツが専門用語で溢れ、洗練されすぎて意味をなさなくなることがある。

既存の言葉(例えばマーケティングコピー)からコピーを取ってアプリに載せた場合、そのツールが何のためにあるのか、どうやって使うのかなどの、人々の理解を制限してしまっていないだろうか。エクスペリエンスの偏りに対するソリューションが、個々のニーズに基づいたフロントエンドデザインのバリエーションを用意することであるならば、それを劇的に加速させるスマートな方法の1つは、どこに自動化を適用すべきかを理解することである。

私たちは今、UIやコンテンツの制作方法を根本的に変えてしまうであろう新たなAIツールが、静かな爆発のように広がり続けている時代にいる。ここ1年でオンラインに登場したコピー駆動型のAIツールの量を見てみると良い。こういったツールはコンテンツ制作者が広告やブログ記事をより速く書けるようにすることを主な目的としているが、大規模なブランド内でこのようなツールをカスタム展開し、ユーザーのデータを取得してUIのコピーやコンテンツをその場で動的に生成するということも容易に想像ができる。例えば、年配のユーザーには専門用語を使わないテキストによるサービスや商品の説明が展開され、Z世代のユーザーには画像を多用したコピーが表示されるという具合だ。

ノーコードのプラットフォームでも同様のことが可能である。WebFlowからThunkableまで、すべてが動的に生成されるUIの可能性を持ち備えている。Canvaのデザインは物足りなく感じるかもしれないが、すでに何千もの企業がデザイナーを雇う代わりに、ビジュアルコンテンツ作成のため、Canvaを利用している。

多くの企業がAdobe Experience Cloudを利用しているが、その中に埋もれているエクスペリエンスの自動化機能を蔑ろにしていないだろうか。デザインの役割は最終的に、カスタムメイドのエクスペリエンスを手作りすることから、動的に生成されるUIのキュレーションへと変化していくことだろう。過去20年間にアニメーション映画が遂げた進化が良い例である。

機械学習とAIがもたらすデザインバリエーションの未来

上記のステップは、組織がエクスペリエンスの偏りに対処し、現在のテクノロジーを使って変えていくための方法を示したものである。しかし、エクスペリエンスの偏りに対処する未来が、デザインやコンテンツのバリエーション作成に根ざしているとすれば、AIツールがかなり重要な役割を果たすようになる。すでにJarvis.aiやCopy.aiなどのAI駆動型コンテンツツールの波が押し寄せており、またFigmaやAdobe XDなどのプラットフォームに組み込まれた自動化ツールも存在する。

フロントエンドデザインやコンテンツを動的に生成できるAIや機械学習の技術は、多くの点でまだ初期段階にあるものの、今後の展開を物語る興味深い事例があるため以下に紹介したい。

1つ目は、Googleが2021年初めに発表したAndroid端末向けのデザインシステムのMaterial Youである。このシステムではユーザーが高度なカスタマイズを施すことができ、また高度なアクセシビリティも内蔵している。ユーザーは色やフォント、レイアウトなどを自由にカスタマイズでき、自在にコントロールすることができるが、機械学習の機能により、場所や時間帯などユーザーの変数に応じてデザインが変化するようになっている。

パーソナライゼーションは、ユーザーが自分でカスタマイズできるようにするためのものと説明されているが、Material Youの詳細を見てみるとデザインレイヤーにおける自動化と多くの可能性が交差していることが分かる。

人々がAIを体験する際のデザイン原則やインタラクションについて、これまで各企業が取り組んできたことも忘れてはいけない。例えばMicrosoftのHuman-AI eXperienceプログラムでは、AI主導のエクスペリエンスを構築する際に使用できる、インタラクションの原則とデザインパターンのコアセットを、人間とAI間のインタラクションの失敗を予測して解決策を設計するためのプレイブックとともに提供している。

これらの例は、インタラクションやデザインがAIによって生成されることを前提とした未来の指標となるものであり、これが現実の世界でどのように機能していくかについてはまだ実例がほとんどない。重要なのは、偏りを減らすためにはフロントエンドデザインのバリエーションとパーソナライゼーションを根本的に増やすというところまで、事を進化させる必要があるということであり、またこれはAIとデザインが交差するところで生まれつつあるトレンドを物語っている。

こうしたテクノロジーと新たなデザイン手法が融合すれば、企業にとってはユーザーのためのデザインのあり方を根本的に変えるチャンスになるだろう。エクスペリエンスの偏りという課題に今目を向けなければ、フロントエンド自動化の新時代が到来したときには、その問題に対処するチャンスがなくなってしまうだろう。

編集部注:本稿の執筆者Howard Pyle(ハワード・パイル)氏は、デジタルエクスペリエンスに公平性を持たせることを目的とした非営利団体ExperienceFutures.orgの創設者であり、これまでにMetLifeやIBMでブランドサイドのデザインイニシアチブを主導してきた。

画像クレジット:naqiewei / Getty Images

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(文:Howard Pyle、翻訳:Dragonfly)

【コラム】もっと平等な社会をつくるためにテックイノベーターはこの3ステップを実行しよう

テクノロジーの分野は障がいのある人々にとって世界をより良く、よりアクセシブルな場所にする、イノベーションとコラボレーションのすばらしい事例で満ちている。

例えば補聴器によってかつては想像できなかったほどの音を多くの人々が知覚できるようになり、現在の次世代型補聴器はさらに臨場感があって効果が高くなっている。

手話を音声言語に翻訳する手袋を開発し、手話があまりできない人とリアルタイムで会話ができるようにしている科学者もいる。スマートフォンやビデオゲームといった日常的なテクノロジーもアクセシブルになり、テクノロジーのイノベーターたちにはもっと公平な社会をつくるためのインスピレーションと能力があることを証明している。

こうしたことはアクセシビリティを日々拡張する驚くべき技術革新のほんの一部だ。テクノロジーのアクセシビリティは、社会のつながり、職業の広がり、市民的関与に欠かせない。

だから私たちは歩みを止めることはできない。あらゆる人にとってのより良いテクノロジーを構築するために私たちができることを3つ紹介しよう。

コミュニティと関わりを持つ

プロダクトやサービスにはそれぞれ固有のアクセシビリティのソリューションが必要で、あるプロダクトを障がい者にとって使いやすくする方法を他のプロダクトに適用できるとは限らない。したがってテック企業はコミュニティと深く関わり、アクセシビリティの現在のペインポイントを見つけなくてはならない。

例えば障がい者にとって重要な課題であるウェブのアクセシビリティには、可能性のあるさまざまなソリューション、つまりテックイノベーターが評価し、選択し、実装しなくてはならないモデルがある。

コミュニティとの関わりは開発者に対して方向性を示すだけでなく、テックプラットフォームとそのユーザーとの間の結束を高め、プロダクトやサービスをコミュニティの人々に継続的に適応させていくことでアクセシビリティを最大化することができる。

また、コミュニティと関わって何が必要か、何が最も最適かを理解すれば、ウェブ開発者がいい加減な、あるいは無駄なソリューションを実装することを避けられる。

最も効果的な部分に集中し、ゴールを設定する

コミュニティとの関わりから得たインサイトをもとにして、最も効果を上げられる部分に集中しよう。最も切実なアクセシビリティの障壁を見きわめ、進捗の測定のために具体的なマイルストーンを決める。

デジタルアセットをもっとアクセシブルにしようとするテックイノベーターは、コンテンツクリエイターや開発者向けの内部的なゴールを設定し、既存の、あるいは開発中のデジタルコンテンツに戦略的な変更を加える必要があるかもしれない。

対象範囲や流れは企業によって異なるだろうが、最も効果を上げられる部分に集中し進捗を測定すればアクセシビリティのゴールを現実にすることにつながる。

リソースを惜しまない

アクセシビリティの向上は明らかにwin-winだ。より多くの人がデジタルプラットフォームやサービスに参加することにつながると同時に、テック企業にとってはユーザーの数やエンゲージメントのレベルが増す。

ただし前進するには投資が必要で、適切な計画がなければ全体としての成果は少なくなってしまうだろう。バックエンドのROIは極めて高いので、先行投資はユーザーベースに対するエンゲージ、コミット、強化のための頭金と考えよう。

デジタルのプロダクトは変化し進化するので、アクセシビリティの基準やベストプラクティスもそれに合わせていく必要がある。アクセシビリティの構築を一度限りのものと考え、長期的に継続可能な結果を提供できないようでは困る。そうではなく、常にコミュニティや利用者と関わっていこう。

テクノロジーは世界をもっと良くすることができる。それは、より多くの人がプラットフォームやサービスに参加できるようになったときに最も効果的に達成される。

編集部注:本記事の執筆者Ran Ronen(ラン・ロネン)氏は、Equally AIの創業者でCEO。

画像クレジット:Malte Mueller / Getty Images

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(文:Ran Ronen、翻訳:Kaori Koyama)

【コラム】Twitchのハッキング、「強奪」は新しいランサムウェアのかたちなのか

先に発生したTwitchの大規模なハッキングは、セキュリティ業界を騒然とさせた注目される侵害事件の最新例だ。誰もが「なぜこんなことが起きたのか」と疑問に思っている。大量の重要なデータ、しかもソースコードまでもが、アラームを出されることなくどうやって盗めるのか。セキュリティが充実しているはずのAmazonの企業が、4chanで噂が広まるまで被害に気づかないなんて、どういうことなのだろうか。

Threat Postによると、セキュリティ担当者たちは、ハッカーたちの「第2弾」となる暴露の内容を理解するために、不安な気持ちで待っているが、おそらくパスワードやユーザーのEメールが次にくるのではないかということが明らかになってきている。

Twitchにとって、PRの悪夢は始まったばかりだ。今や数百万のプレーンテキストによるユーザーの個人情報が、ハッキングで公開されたデータの山を利用しようと待ち構えているセキュリティの常習犯たちに広まっていくだろう。

まず、Twitchのユーザーは、すぐにパスワードを変更し、まだ変更していない場合はアカウントの多要素認証を有効にすべきだ。Twitchは、「慎重を期して」すべてのストリームキーをリセットし、危機的状況下でもプラットフォームをオンラインに保つことができた。そのこと自体が、このような大規模な事件の中では印象的であり、特筆すべきことだ。

変化を続ける犯行手口

クリエイターへの多額の支払いからAmazonのCEOであるJeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏への荒らしなど注目すべき部分もあるが、今回の攻撃の性質や、身代金を要求するのではなく強奪にシフトしたことには深刻で重要な意味がある。

自分のデータのコントロールを失った被害者企業にできることは、高額を払って解読鍵を手に入れるか、バックアップからデータを再構築するかという二択ではない。犯人の目的が単純な身代金の支払いではなく脅迫が目的となった場合、企業の危機対応も飛躍的に複雑になる。

Twitchは、この新しくて厄介な戦術の最後の被害者ではない。その勢いは増しているように見える。

先手必勝

仮に、Twitchのセキュリティ対策が今日の標準から見て成熟度が高いものだったとしても、同社も含め現在の企業は、セキュリティの運用とインシデント対策の計画化に十分な投資をしていない。そこで往々にして、対策が遅すぎたことに事後、後悔するという事態になる。

自覚すべきは、企業があらゆることを正しくやっていたとしても、100%完璧なセキュリティ対策はなく、犯人たちは、たった1つの脆弱性を見つけるだけで十分という事実だ。必要なのは、十分にテストされ、十分に文書化された計画があることと、万一のときの対応が確立していることだ。

セキュリティ事故の際、最高位の意思決定者は誰なのか?シャットダウンをするためには何をいつやるべきか?誰に何をどんな順序で命じるべきか?まだ事故も犯行もなく余裕が十分あるときに、これらを決めておくべきだ。事が起きてからでは何もできないからだ。そして実際に何かが起きたときには、対策が十分にテスト済みでなければならない。

Twitchの被害の全貌はまだ明らかでないが、そこから私たちが学ぶべきことは大きい。成熟した、リソース(物、金、人)に恵まれたシステムでも侵入されるし、最近の犯人たちはランサムウェアに固執することなく大混乱を惹き起こし、データをコントロールしようとする。

企業に必要なのは、計画を立て、正規に文書化し、そのプロセスを公式の内規として規則化して、被害を検出し最小化するために必要十分な保護対策が常時行われている状態を維持することである。元々アンフェアなゲームであり、しかもますます複雑化していることを自覚しよう。

編集部注:本稿の執筆者Ian McShane(イアン・マクシェーン)氏は、Arctic WolfのフィールドCTO。

関連記事:クリエイターの報酬データが大量流出、Twitchのストリーマーの反応は

画像クレジット:Anadolu Agency/Getty Images

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(文:Ian McShane、翻訳:Hiroshi Iwatani)

【コラム】暗号資産による送金は世界で最も弱い立場にある人々の生命線

アフガニスタンからの米国の突然の撤退により、Western Union(ウエスタンユニオン)が一時的に業務を停止し、国内の銀行も引き出しを厳しく制限するなか、暗号資産(仮想通貨)による送金がアフガニスタンの人々の生命線となっている。

米国や英国などの送金側の規制当局は暗号資産に目を向けている。彼らは、世界で最も弱い立場にある人々にとって、暗号資産がどれほど欠かせないものであるかを忘れてはならない。

アフガニスタンだけでなく他のどの国であっても、現地通貨が入手困難になり、価値の貯蔵手段としての信頼性が低下すると、暗号資産はますます不可欠なものとなる。紛争はインフレを招き、通貨の価値を下げ、時には無価値にしてしまう。

もし、国内の暗号資産タカ派をなだめるために暗号資産の送金を規制したら、この資産クラスを最も必要としている人々、つまりアフガニスタンの人々やその他多くの人々に(再び)背を向けることになる危険性がある。

タリバン占領後、アフガニスタンの金融システムも凍結されてしまった。世界銀行によると、アフガニスタンのGDPの約4割を占める海外からの援助が止まった。同様に、アフガニスタン中央銀行の外貨準備も凍結された。その額は約90億ドル(約1兆円)

さらに、タリバンによる占領と欧米諸国による対外援助停止を受け、Western UnionやMoneyGram(マネーグラム)などの国際送金会社がサービスを停止した(今のところ再開しているケースもある)。そのため、一般のアフガニスタン人は世界の金融システムにアクセスできず、そしてここが重要だが、海外の親族からの送金を受け取れなくなった。

送金とは、豊かな国から「母国」にお金を送ることで、アフガニスタンのGDPの約4%を占める。現金に大きく依存する経済において、現地の金融インフラが突然崩壊することは、多くのアフガニスタン人にとって生死を分けることになり得る。

送金が生命線であり続けるためには、迅速でなければならない。お金が必要なときは、すぐに必要になることが多い。例えば、国内で避難生活を送る人々は、資金が決済されるまで3~5日も待つことはできない。彼らは今すぐにでも食料、燃料、医薬品を必要としている。

ビットコイン「過激主義者」は、暗号資産が世界の経済システムをいかに変えるかについて、目を輝かせて主張する。彼らを信じるかどうかは別にして、私たちの前で、暗号資産は不安定で紛争が絶えない場所での送金に、すでに革命を起こしている。アフガニスタンは、破綻した国家における暗号資産の教科書的な使用例を示している。

時として、切迫する必要性が新技術導入の強力な論拠となる。アフガニスタンは、ブロックチェーンのデータプラットフォームであるChainalysisのGlobal Crypto Adoption Indexで、154カ国中20位に位置している。ピア・ツー・ピアの取引(送金を含む)を加味すると7位だ。2020年には、アフガニスタンはリストにすら入っていなかった。

アフガニスタンだけではない。レバノン、トルコ、ベネズエラでは最近、暗号資産の使用率が急増した。人々は一攫千金を狙っているわけではない。海外の親族から資金を受け取り、高インフレ時に資産消滅を防ごうとしているだけだ。

ベネズエラを拠点とする暗号資産コンサルタントのJhonnatan Morales(ジョナタン・モラレス)氏は「多くの人々は、モノを手に入れるためではなく、ハイパーインフレから身を守るために暗号資産を採掘したり取引したりしています」と見ている

インフレ率が世界で最も高いベネズエラ(3000%に向かっている)では、経済が不安定になるにつれ、暗号資産の導入が進む。

レバノンもその一例だ。リラがその価値の80%を失う中、例えばビットコインウォレット「BlueWallet」のレバノン人によるダウンロード数は、2020年に前年比1781%増加した

だがアフガニスタンは、グローバルサウス(南半球の発展途上国)が暗号資産を必要とする理由を示す、最も緊急かつ悲劇的なケースかもしれない。現金が不足し、物価が高騰し、タリバンがこれまで頼りにしていた外国からの援助を失うと、すでに崩壊しているアフガニスタンの通貨はさらに弱くなる。アフガニスタンの人々が自らの富をビットコインで受け取り、保管し、使うことができるようになれば、破綻国家の最悪の影響から自分たちを守ることができるかもしれない。

そしてこれこそが、欧米で暗号資産を規制する際に忘れてはならないことだ。規制は投機家に影響を与えるだけでなく「母国」に送金したい人にも打撃を与える。最も失うものが大きいのは送金を受け取る人々だ。

米連邦準備制度理事会(FRB)のJerome Powell(ジェローム・パウエル)議長が、暗号資産規制の次の段階に関する報告書を発表する際には、暗号資産を最も必要としている人々、つまりアフガニスタンの人々や、彼らのような世界中の何百万もの人々のことを忘れないで欲しいと思う。

欧米はアフガニスタンの人々に背を向けたのかもしれないが、私たちは自国の法律が彼らを暗闇に置き去りにしたままにすることがないようにしなければならない。暗号資産の規制は、重要な金融の生命線が失われないようにしなければならない。さもなければ、暗号資産を最も必要とする人々の希望の扉をまた1つ閉じてしまうことになる。

編集部注:本稿の執筆者Joshua Jahani(ジョシュア・ジャハニ)氏は、コーネル大学およびニューヨーク大学の講師であり、中東・アフリカを専門とする投資銀行Jahani and Associates(ジャハニ・アンド・アソシエイツ)のボードアドバイザー。

画像クレジット:EDUARD MUZHEVSKY/SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images

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(文:Joshua Jahani、翻訳:Nariko Mizoguchi

【コラム】データプライバシーを全世界的に標準化すれば、それは真の意味で人類の進歩となるはずだ

中国は2021年8月、初めて抜本的なデータプライバシー法を可決した。今後、中国の個人情報保護法(PIPL)の対象となる中国の住民(中国の人口は世界で最も多い)と関わるであろうグローバル企業や意欲的なスタートアップ企業は、オンラインで売買やサービスの提供を行う際に影響を受ける可能性がある。

この法律自体は2016年に導入されたEUの一般データ保護規則(GDPR)と類似し、目新しいものではない。衝撃的なのは、GDPRが導入された際は企業に2年の準備期間があったのに対し、PIPLは2021年11月1日に施行されるということである。

PIPLを受けて、関連する企業はコンプライアンスの遵守を確立するために奔走することになる。また、データプライバシーの重要性と緊急性が世界規模で高まっていることも明らかになった。中国は、GDPR類似のプライバシー法を制定した17番目の国となるが、さて、いまだにプライバシー法を制定していない世界の超大国はどこだろうか?

米国は、消費者に焦点を当てた国家レベルのデータプライバシー法をいまだに採用していない。国民はオンライン上の個人データの管理強化を望んでいるにもかかわらず、である(複数調査による)。データプライバシー法の不整備は、特にテクノロジー業界に大きな影響を及ぼす。

さまざまな事象が急速に進む現在、データプライバシーの発展は明らかに重要な分岐点に達している。私たちのとる行動によっては世界中の何十億、何千億もの消費者に影響を与える可能性があり、また、小さなスタートアップ企業から巨大なグローバル企業まで、さまざまな企業の発展にも影響が生じる。今こそ慎重な検討が必要だ。

この記事では、最初に米国におけるデータプライバシー法の進展、およびこれが世界にとって何を意味するかを検討し、次にデータの最小化(「必要」かつ「適切で、関連性があり、限定された」個人データのみを処理する原則)の取り組みでこれらの問題に対応できるかを確認して、データプライバシーという難問に挑んでみる。最後に、データプライバシーという問題の解決に欠かせないこれらの要素を比較した上で、人々が自分のデータを確実に管理できる、世界規模のデータプライバシー基準を提唱することで締めくくりたいと思う。

米国におけるデータプライバシー

米国のデータプライバシーを取り巻く状況は複雑だ。連邦レベルでは、(動きがあるものの)包括的なデータプライバシーポリシーは存在しない。その代わりに医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律(HIPAA)、消費者金融商品を対象としたグラムリーチブライリー法(GLBA)など、業界ごとのプライバシー規制がある。

13歳未満の子どもを保護するための児童オンラインプライバシー保護法(COPPA)も存在する。また、連邦取引委員会(FTC)も、FTC独自のプライバシーポリシー(連邦取引委員会法)に違反しているアプリやウェブサイトを積極的に取り締まっている。

しかしながら、米国政府は、消費者のデジタルプライバシー権を保護するための包括的な法案を可決しておらず、各州が独自に対応している(例:カリフォルニア州のCCPA、バージニア州のVCDPA、コロラド州のColoPA)のが現状だ。このため多くの米国人のプライバシー権が侵害され、企業は何をすべきかを決めることができずに混乱している。

これが本来あるべき姿だと主張し、停滞した議会では意味のある消費者プライバシー法案を可決することはできないと警告する人々もいる。彼らは、仮に国家レベルのプライバシー法が可決されたとしても、内容は骨抜きにされ、慎重に構想された各州の法律にも悪影響を及ぼすだろうと考えているらしい。

それと同時に、50の州で異なるデータプライバシー法が存在することになる可能性も否定できない。どれも類似しているものの、それぞればらばらで、異なっている……正しく法を遵守しようとする企業にとっては悪夢のようなシナリオだ。この状況を世界規模に拡大してみよう。

データの最小化は唯一の解決策ではない

データプライバシーの問題に対処するための1つの方法として、データ最小化の原則が挙げられる。これは、企業が具体的な目的のためだけに個人情報を収集・保持することを認めるものである。

データ最小化の原則では、基本的には企業が収集するデータの量を減らすことが求められる。これには、マーケティングチームが収集するデータ量を減らしたり、データ保持のスケジュールを設定して使わなくなったデータを消去したりすることが考えられる。

これにメリットを感じる人もいるだろうが、現実的ではない。消費者に強く配慮する企業であっても、マーケティング担当者に対して潜在顧客の個人情報の収集を減らすように提案することはないだろうし、データを収集する正当な理由を探し出すことは間違いないだろう。

そして、たとえ目的が純粋なものであったとしても、個人情報や嗜好を調査して製品を開発し、ビジネスを成長させているスタートアップ企業にとって、この原則は有害なものになりかねない。この点で、データの最小化は、思わぬところでイノベーションを阻害する可能性がある。

さらに率直に言えば、消費者が自分自身のデータの取得・利用方法について選択できるようにすれば、データを最小化する必要はないと思われる。パーソナライズされたオーダーメイドの体験を好む消費者は、個人情報を共有しても問題ないと考えているケースもある。たとえば「Stitch Fix(スティッチフィックス)」「Sephora(セフォラ)」のようなブランドは、よりショッピングを楽しんでもらうために事前にたくさんの個人的な好みを質問しているが、多くのユーザーがそれを問題視していない。

世界規模のデータプライバシー基準の必要性

筆者は、このような複雑で微妙な問題が表面化し、企業や消費者を悩ませてしまうのは、皆が同じ見解を持つためのグローバルスタンダードが存在しないからだと考える。グローバルスタンダードが存在しない限り、他のいかなる法律や規則、基準も一時しのぎに過ぎない。

今こそ、世界中の消費者を保護し、企業が遵守すべき要件がどの地域でも同一になるよう、各国が合意できる基本原則を策定するときだ。

国際的なデータプライバシー法が乱立し、この地域の要件は厳しく、あの地域の要件は少しだけ異なる、といった状況になれば、企業がコンプライアンスを完全に遵守するのは不可能に近い。そうなるのも時間の問題だ。私たちは事態を収拾しなければならない。

データプライバシー基準は、国境を越えた公平性の基本を確立し、あらゆる段階の企業に適用される。そして、企業の国際的なビジネス展開は飛躍的に容易になる。

筆者は、今影響を受けている企業や地域が、国際的なデータプライバシー基準に向けた変化を促進してくれることを期待している。グローバル化を目指す企業にとって、地域で異なる基準は大きなマイナスであり、膨大なコストにつながっている。そういった企業が協力すれば、共通の解決策を見出すことができるだろう。推進力はそこにある。中国の動向を見れば、他の国が追随する日もそう遠くはないはずだ。

米国内でのデータプライバシー法の制定を待たずに、米国を拠点とする業界団体でさえグローバルスタンダードへの第一歩を踏み出そうとしている。例えばConsumer Reports(コンシューマーレポーツ)は解決策を検討するためのワーキンググループを立ち上げた。これにより、企業と消費者の双方を保護するためのデータプライバシーに関する世界的な関心が急速に高まる可能性がある。

データプライバシー基準の核心

データプライバシー基準はもはや必要不可欠であるといえるが、その策定にあたって忘れてはならないのは「消費者自身が、企業による自分の情報の扱いをコントロールできる」ようにしなければならないということである。

とりわけサービスやアプリケーションが取引を促進するために利用される場合は、消費者自身が、誰が自分の情報にアクセスできるのか、それはなぜなのかを知る権利を持つ。また、要求に応じて個人情報を削除させる権利や、企業が許可なく自分の情報を販売することを防ぐ権利も必要だろう。これらは基本的かつ普遍的な権利であり、政府機関や支援団体はこれを理解しなければならない。

マーケター、マーケティング担当者は不満かもしれないが、すべての消費者が自分の情報を共有することに反対していると考える必要はないだろう。実際には、前述の例のように、企業が個人情報を収集・保持することで、パーソナライズされた体験やショッピングができることを評価する人も少なくない。

消費者の選択権は、最終的にエコシステム全体の健全性を高め、企業が信頼と透明性を築くための新たな手段となる。企業も(地域ごとに)何種類もの消費者の権利を開発・管理するためにいつまでもあたふたする状況から解放される。

筆者は、スタートアップ企業がプライバシーファーストで設立されるようになると予想している。これは企業の差別化にもつながるだろう。しかし、変化の最大の要素は、消費者が世界のどこにいようと、個人情報を含むシステムが世界のどこにあろうと、自分のデータを確実にコントロールできるようにすることだ。データプライバシー基準は消費者の権利を保護し、混乱を解消して企業が効率的にビジネスを行えるようにする。他のアプローチでは同じことを合理的に行うことはできないし、大規模に展開することもできない。

データプライバシーを全世界で標準化し、私たち全員が同じステージに立つことができれば、それは真の意味で人類の進歩となるはずだ。

画像クレジット:Kardd / Getty Images

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(文:Daniel Barber、翻訳:Dragonfly)

【コラム】ハイテクとハイタッチのハイブリッドがパンデミック後の教育新時代を築く

パンデミック渦の教育におけるテクノロジーの役割について、これまで多くの議論が繰り広げられてきた。それもそのはずである。デジタルソリューションは、不確実な状況下や休校のような事態にも、学校コミュニティが学習を継続することを可能にしたからだ。

しかしEdTechの台頭は大きな課題と向かい合わせの状態でもある。2020年3月にパンデミックで学校が閉鎖されて以来、教育機関は生徒がコンピューティングデバイスやインターネットにアクセスできるようにするための投資を行ってきた。

テクノロジーに不慣れな教師たちが即席の仮想教室でリモート授業を行う方法を学び、テクノロジーに精通するようになった。しかし、デジタル学習がここまで進展したにもかかわらず、教室での対面式授業という社会的側面が中断された結果、2020年から2021年の学校年度を終えた生徒の読解力と数学の成績は平均で4〜5カ月遅れていることがMcKinsey & Companyの最近の調査で明らかになった。

教師がソフトウェアを使って、指導を差別化したり個人に合わせて行ったりすることができるようになり、デジタル学習の可能性は見えてきた。しかしここで終わらせてはいけないのである。この1年半の間に「テクノロジー」は「バーチャル」とほぼ同義語になり、多くの子どもたちはデバイスの向こう側で孤独を感じ、仲間や教師とのつながりを求めていたのである。

私たちは今、これまでに学んだことを活かして教育の新時代の到来を告げるべきなのである。それは、テクノロジーを有意義に活用しながらも、人とのつながりを中心とした教育であり、魅力的なソフトウェアとすばらしい教師のどちらか1つを選ばなくて良い教育である。この秋新学期が始まるが、これからは最高のテクノロジーと最高の教室体験を融合させていくことが重要なのである。

HMHは先に、毎年恒例のEducator Confidence Reportの結果を発表した。今回の結果はパンデミック後の教室の特徴を示す重要な洞察を描き出している。

全米各地の第一線で働く1200人以上の教育者が回答したこの調査。楽観的な見方は減少しているものの(自分の職業の状況について、やや肯定的または肯定的な見方をしていると回答した教育者はわずか38%)、学習テクノロジーの習得と恩恵に対する自信は上昇しているようだ。

私たちは今、デジタルに関して見通しの段階から証明する段階へと移行しているのである。

激動の1年ではあったものの、テクノロジーに対する教師の現状への見解は、デジタルソリューションをより目的を持って利用するための道を開く明るい材料となった。

教育関係者のEdTech活用に対する自信は、7年前にこの調査を開始して以来過去最高となっており、66%の教員が自分の能力に非常に大きな自信を持っていると答えている。多くの教育関係者がその理由として、2020年3月に「窮地に追い込まれた」経験があったからこそだと答えている。現在ではほぼ満場一致で95%の教師がEdTechの効果を実感しており、77%がパンデミック後もより効果的に教育するためにテクノロジーを活用したいと考えている。

重要なのは、教師がどのようなメリットを感じているかということだ。81%の教師が、生徒のエンゲージメントの向上、差別化された個別指導、教育コンテンツへの柔軟なアクセスの3つの利点のうち少なくとも1つを報告しており、これらはいずれも生徒を中心としたものである。

テクノロジーがより大きな役割を果たし、より効果的になっているにもかかわらず、教育者たちはデバイスやインターネットへのアクセス不足など、アクセスや効果を妨げる重大な障壁が依然として存在すると報告している。57%の教育者が、生徒がテクノロジーに積極的に関与していないことが大きな障壁になっていると指摘しており、また半数以上の教育者が、デジタルリソースを授業に組み込む計画を立てる時間がないことが最重要課題であると答えている。

生徒の心の健康が教育関係者の最大の関心

教育と学習の中心にあるのは、教師と生徒の間に築かれ育まれる強い結びつきであり、それが学業や社会性の成長の基盤となり学習意欲を高めるということは、誰もが認識していることだ。私たちはこのつながりを断ち切り生徒を孤立させるようなテクノロジーによって、この重要な関係を曖昧にさせてはならず、今回の調査データはそれをしっかりと証言している。

教育関係者の58%がパンデミック後に生徒の社会性と情動のニーズが高まることを懸念しており、そのニーズには2021年も引き続き高い関心が寄せられている(これは教師自身の給与や生徒が遅れをとることへの懸念を上回る数字である)。そして82%の教育関係者が、工夫凝らし、完全に統合された社会性と情動の学習(SEL)プログラムが効果を表すだろうと考えている。

「パンデミック後の教育モデル」への移行を開始するためには、テクノロジーの力と従来通りの教室での学習を融合させた、ハイテクとハイタッチ、つまり人間らしい触れ合いが互いに補強し合う、両世界の長所を活かしたアプローチが有効になるだろう。

教育者たちのユニークな経験から見えてくる、未来の教室の姿

テクノロジーだけでは教育の新時代を切り開くことはできない。コミュニティ志向かつ人間のつながりを重視したマインドで、デジタルソリューションを活用していくことが重要だ。

HMHでは、孤立ではなくエンゲージメントを促すEdTech・エコシステムを目指している。単なる「ガラス画面の下の1ページ」ではなく、教師が指導を差別化できるような実用的なデータや洞察を提供するソリューションを提供し、教育者の負担を増やすのではなく、むしろその能力を拡張して、生徒の社会性と情動のニーズに集中する時間を与えるイノベーションを目指している。

教育関係者らが、こういった目標を達成するためのテクノロジーの潜在性を信じているということは、はっきりとわかった。82%の教育関係者が生徒1人ひとりに合わせた学習が将来の学習と教育を変えると考えており、75%の教育関係者が、指導と評価を1つのプラットフォームで行える技術ソリューションが、この変革に不可欠であると考えている。

この1年でEdTechの可能性は飛躍的に高まっているが、教室の未来は単にハイテクだけではなく、ハイタッチでもあるのだ。

教育関係者にパンデミック後に最も楽しみにしていることを尋ねたところ、その答えは明らかで「学生コミュニティと一緒にいられること」だった。80%が学生と直接交流できることを、74%が学生のエンゲージメントが高まることを、63%が学生間のコラボレーション機会があることを心待ちにしている。

対面式学習とデジタル学習をめぐる熱い議論は、デジタルかアナログかという極端な対立を生み出す短絡的なものになりがちだ。しかしこれが対極にあるものという考えをやめ、相互に補完し合うものだという考えを受け入れることができたら、私たちは最大の成功を手に入れることができるだろう。

2020年私たちは多くのものを失ったが、同時に重要なものも手に入れた。そしてこの勢いを継続することは可能である。私たちは社会として、目の前の健康リスクを評価し、職場や地域、そしてもちろん学校も含め、ますますハイブリッドな世界を進んでいく必要がある。

私たちが本格的に校舎に戻るとき、テクノロジーとイノベーションを駆使しながらも、その中心にある教師と生徒のコミュニティによって永遠に定義される、新しい学習の時代の到来を告げる準備ができていると私は信じている。

編集部注:本稿の執筆者Jack Lynch(ジャック・リンチ)氏は、Edtechのベテラン。学習テクノロジー企業HMHのCEO。

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(文:Jack Lynch、翻訳:Dragonfly)

【コラム】暗号資産の流動性はクロスボーダー決済というランチを食べる準備ができている

伝統的な金融機関が暗号化戦略の策定を急ぐのを日常的に目にするが、その理由は明白だ。暗号は主流意識の転換点を過ぎており、クロスボーダー決済のようなユースケースは、サンドボックスの段階の域を確実に脱している。

クロスボーダー決済は、明らかな理由から、暗号資産の最も初期のユースケースの1つと言える。公的なブロックチェーンとそのネイティブな暗号資産は、本質的にグローバルであり、安全で検閲に強く、安価に取引できるように構築されている(トークンにもよるが)。そして(おそらく最も重要な点として)24時間365日即時決済が可能だ。

しかし、送金関連企業や大手銀行などの既存企業が独占してきた年間130兆ドル(約1京4430兆円)規模のこの業界で、暗号資産が大きな影響力を発揮するまでには数年を要した。例を挙げると、Western Union(ウエスタンユニオン)の収益の大部分は、クロスボーダー決済による個人取引手数料から来ている。

結局のところ、フィアット(法定通貨)やすぐに利用可能なオン / オフランプ(法定通貨との交換サービスを提供する場)と同じかそれ以上のレベルの世界的な流動性を、暗号資産が持つことが決め手となる。朗報として、どちらのラインもポジティブなトレンドを示している。

大手銀行を優遇する時代遅れのシステム

伝統的な外国為替(FX)の世界は何年もの間、かなり停滞している。決済は通常の銀行取引時間内にしか行われず、メッセージはSWIFT経由で送信されるが、実際には数日後まで決済されない。

この時代遅れのコルレス銀行システムでは、少なくとも2つの異なる段階を経なければならない。誰もが痛感しているように、取引は遅く、間違いを起こしやすく、コストがかかり、非効率的である。米国やメキシコなどの回廊ではより大きな決済の流れがあるが、消費者へのコストは依然として存在している。

G20以外の通貨に移行する際には、ある国から次の国へいつ送金されるかは誰にもわからないし、5%から10%の手数料を支払うことになる。このシステムは、長年にわたり数兆ドル(数百兆円)規模で流動性へのアクセスを独占してきたビッグマネー中心の銀行に、長らく貢献してきた。

2017年以前の数年間は、暗号資産の流動性はひと握りの取引所に限られており、全資産の取引高は数百万ドル(数億円)だった。それがここ数年で大きな変貌を遂げている。

画像クレジット:Asheesh Birla

Ripple(リップル)は早くから次のような主張に焦点を当てていた。1. 暗号資産が世界中で量的に成長し(取引所の流動性のレベルで測定)、2.それを使ってより多くの決済が可能になれば(オーダーブックのサイズで測定)、伝統的な法定通貨よりも暗号資産を使ったクロスボーダー決済のための流動性を調達する方が安くなる。2015年に崇高なビジョンであったものが、今では現実となっている。

暗号資産の流動性へのアクセスに必要なオンランプとオフランプ

クロスボーダー決済に暗号資産を使用するために必要なキーファクターは、法定通貨から暗号資産への移行とその逆の移行を提供し、暗号資産の流動性へのアクセスが得られる、スムーズなオンランプとオフランプだ。筆者はかつて、利用可能な方法を片手に数えることができたが、今日では、ステーブルコインや取引所など、暗号資産の出し入れを行うさまざまな場所が急速に拡大している。主要な送金会社やカードネットワークからグローバルな暗号資産取引所まで、あらゆる組織がトークン化を利用してこの最初のハードルに対処している。

法定通貨の裏づけのあるステーブルコインは、最もポピュラーなオン / オフランプの1つとして台頭してきた。決済の際の法定通貨への即時の換金を必要とせずに暗号資産へのアクセスを得る比較的簡単な方法を確保し、変換税の問題や暗号資産の高いボラティリティを排除するものとなっている。

このことは、ステーブルコインの時価総額が増加していることにも表れており、2019年の40億ドル(約4440億円)から2021年7月には1000億ドル(約11兆円)を大きく上回った。ステーブルコインは、暗号資産取引所、分散型金融プラットフォーム、流動性の低いフィアット・ツー・フィアットの回廊へのアクセスと流動性を提供しており、トークン化された資産ができることの力を示している。世界があらゆる種類の価値(フィアット、暗号資産、アイデンティティ、ローン、NFTなど)をトークン化しつつある中、1つの資産から次の資産への移行をサポートするシステム内の流動性が高まっている。

データを見る

ここで定量的な理由に目を向けると、暗号資産から流動性を調達する方が、時間の経過とともに費用対効果が高くなることがデータで示されている。根本的な疑問は、暗号資産からの調達が伝統的なフィアット外国為替(FX)よりも一貫して安くなるデータポイントはどこかという点だ。

下のグラフを見ると、より大規模な暗号資産市場のプロキシとなるBitstamp上の時価総額上位5つの暗号資産(ビットコイン、イーサリアム、リップル、ライトコイン、ビットコインキャッシュ)を使用することで、流動性の指標である暗号資産のボリュームが過去5年間でどのように増加したかが確認できる。これらの資産の組み合わせは、2016年から2021年まで一貫してすべての暗号資産ボリューム(ステーブルコイン以外)の約85%を占めている。

画像クレジット:Asheesh Birla

具体的には、2016年4月から2021年6月までのUSDとEURのスポットとインプライドのFXレートの平均差、およびUSDとEURのオーダーブックのサイズと比較した、5つのトークンのUSDとEURの月次ボリュームが示されている。スポットレートは、その特定の時点における即時為替レートを示し、インプライドレートは、仲介者(暗号資産をブリッジとして使用するなど)を使用して、送信通貨から宛先通貨へのブリッジから達成されたFXレートを表す。

年数が経つにつれて、スポットレートとインプライドレートの差はゼロに近くなり、平均的なトレンドラインから明らかなように、暗号資産を介して決済の流れを行う方が、法定通貨を使用した場合よりも同等または安くなっている。

トレンドラインをさらに推定すると、今後2年間でトレンドラインが0を超えて負の差になることを予測できる(現在のレートで暗号ボリュームが2倍になり続ける場合)。PayPal(ペイパル)やWestern Unionのような決済プロバイダーは、法定通貨取引ごとに手数料を請求する(0.2%から1%のマージン)など、他のファクターが作用していることも注目に値する。

画像クレジット:Asheesh Birla

同じ期間で、上のグラフはオーダーブックのサイズが急速に増加していることを示している。つまり、2021年にこれら5つの暗号資産で合計400万ドル(約4億円)もの決済をサポートするのに十分な流動性があるということだ。

伝統的な取引ベースの決済収益は廃れていく

FX取引手数料から収益の大部分を得ているすべての送金関連企業にとって、このデータは警鐘を鳴らすものになるだろう。

企業がクロスボーダー決済に暗号資産を利用しようとしている理由はここにある。もはやブロックチェーンと暗号の特性だけではなく、グローバルな流動性が本当の意味で大規模な決済を支えている。消費者がより多くの選択肢を利用できるようになれば、従来型の企業は市場シェアを維持するために取引手数料を引き下げなければならなくなる。これにより問題はある程度は緩和されるだろう。

これまでPayPalなどを利用してクロスボーダー決済を行ってきたすべての消費者に向けて問いかけたい。暗号資産を利用することが、より安く、より迅速で、より安全ではないにしても、同等であるなら、それにこだわる必要があるだろうか?

これらの企業は、現在取引手数料に大きく依存している収益モデルを変更するか、さもなければ時代遅れになるリスクを負うことになる。一部は反対方向に向かっているが(例えば、PayPalはすでに欧州でのクロスボーダーのマーチャント決済の取引手数料を引き上げており、Western Unionは競合他社を回避するためにデジタル決済にさらに力を入れている)、この周知の波はすでに崩壊しつつある。これらの企業が提供する他のサービス(コンプライアンス、アドレッシングなど)は、いずれも企業を救うことにはつながらないだろう。多くの暗号資産企業はすでに、強力なマネーロンダリング対策を実装しており、顧客(AML/KYC)を把握している。

少数の回廊におけるBTC(ビットコイン)、ETH(イーサリアム)、XRP(リップル)、LTC(ライトコイン)、BCH(ビットコインキャッシュ)使用のデータは、市場全体のプロキシではあるが、トレンドラインは方向的に明らかである。今日の暗号資産の時価総額は2兆ドル(約220兆円)を超えている。5兆ドル(約550兆円)から10兆ドル(約1100兆円)になれば何が可能になるか想像して欲しい。

暗号流動性は、ゲームを変えつつある。「もしも」の段階を過ぎ、今や「いつ」の領域に入っている。

編集部注:本稿の執筆者Asheesh Birla(アッシュ・バーラ)氏は、RippleでRippleNetのGMを務める。

画像クレジット:Jonathan Knowles / Getty Images

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(文:Asheesh Birla、翻訳:Dragonfly)

【コラム】ウクライナの暗号資産法は正しい方向への第一歩である

現地時間9月8日にウクライナ議会が可決した法案にVolodymyr Zelensky(ウォロディミル・ゼレンスキー)大統領が署名することで、暗号資産がまもなくウクライナで合法的に使用されるようになる見通しだ。

この法律は仮想資産の所有者や取引のためのプラットフォームを詐欺から保護するためのものであり、ウクライナが完全デジタル化経済への移行に向け、ビットコインを法定通貨とみなす準備を進めているという噂が飛び交っている。この法律からウクライナがどのように今後暗号資産市場を規制しようとしているかを判断することができる。またこの法律によりウクライナでビットコイン事業を行うことが正式に許可される。

2009年にBitcoin(ビットコイン)が作られた当初、暗号資産は取るに足らないものという扱いであり、ほとんど注目されることのないテクノロジーであったが、現在では富を生み出す金融商品として人々を刺激し、グルーバル経済の変革に大きな役割を担うまでに成長した。暗号資産経済は次なる1兆ドル産業と目されているが、そのイノベーションは始まったばかりの段階である。

ウクライナ政府、またはそれ以上にウクライナ国民はこのことを理解しており、この法律により、経済成長に参加するために必要な措置を講じられるよう社会の進歩を促している。ウクライナの代表者たちは、エルサルバドルがビットコインを法定通貨にした後、その導入の詳細を知るため同国の担当官に会いに赴いたとされている

暗号資産はデジタルワールド内でのみ取引される通貨の形態で、本来政府からは完全に切り離された存在だ。ユーザーはブロックチェーン(分散型の公的台帳の役割を果たすリストのことで、記録は増え続け、変更することができない)で取引を監視したり承認したりすることが可能である。オンライン上で公開された台帳があることから、取引に銀行などの金融機関の介在を必要としない。

暗号資産経済が活況を呈しているのはウクライナ国民の民意を反映したもので、暗号資産を支持する法律の起草は、この産業にとって重要なステップである。暗号資産はウクライナ国内で人気があり、支払いプラットフォームTriple Aによると、総人口の12.7%にあたる550万人強が現在何らかの形で暗号資産を所持していると推定されている。  ブロックチェーンデータ会社Chainalysisは、2020年9月にウクライナを世界で最も暗号資産の受け入れに積極的な国の1つとするランク付け を行った。

ウクライナでは、電力の半分近くが15基の原子炉によって発電されているのだが、暗号資産のマイニングスペースはウクライナのエネルギー業界に興味深い影響を及ぼしている。ウクライナのエネルギー相は「暗号資産マイニングは余剰エネルギーを消費するための現代的で効率のよい方法だ」と述べた。エネルギー相はこれまでエネルギー浪費の問題を解決し、効率を改善するための革新的な解決策を探し求めてきた。

ビットコインマイニング業界は、余剰電力を引き取り、それを暗号資産マイニングに使用することで原子炉からの余剰電力を利用する理想的なパートナーになっている。これは、エネルギー生産要件を維持しながら、ウクライナの原子力発電所への新しい投資資金を引き付けるのに役立つはずだ。

これにより、ウクライナ政府はマイニングネットワーク全体の強力なサポートノードとなっている。このことは、クリーンで持続可能なビットコインマイニングを提供し、同時にエネルギー部門の非効率性に対し自由市場的解決策を提供するのに役立つだろう。

経済的影響は非常に大きい。ウクライナの原子力発電所の運営にあたっている国営企業NAEC Energoatomは、2020年、1億7000万米ドル(約189億円)を超える損失を計上した。これがウクライナのエネルギー部門がブラックホールから浮上する契機となった。Energoatomが「電力をBitfuryの暗号マイニング部門のマイニングオペレーターに供給する契約に合意した」ことにより、そのプロジェクトがすでに始まっている。ウクライナ政府はビットコインをマイニングし、それを手元に保管しておくことも、マイニングされたビットコインを市民の口座に振り込むことも、または国民総生産を高めるためにビットコインを売却することもできる。

さらに、ウクライナは2019年7月から2020年6月までに80億ドル以上(約8886億円)の暗号資産を受信した。ウクライナはWeld Money、Hacken、Propyなど、暗号資産スタートアップの発祥地であり、また堅牢な暗号資産やブロックチェーン業界も有している。ウクライナには暗号資産分野にすでに100を優に超す数の企業が存在しているのだ。

ウクライナは2020年ビットコインへの投資から約4億ドル(約444億円)を稼ぎ、ウクライナの暗号資産投資家は世界でも有数の金持ちになっている。ウクライナの暗号資産は、市民の間だけではなく、公務員や政府の広い範囲で流行している。2021年初頭、ウクライナの公務員全体で26億ドル(約2888億円)を超えるビットコインを所有していると公表し、その報告書の中で「これまでで最大数の暗号資産所有者が市議会、国防省、国家警察で働いている」と述べた。

世界銀行によると、ウクライナのGDPの10%近くがウクライナへ送られた個人送金によるものだ。多くのウクライナ人は他国へ移民した後もウクライナに残してきた家族に送金するのだが、従来の銀行を通した送金に法外な料金を支払い続けてきた。しかし暗号資産がすべてを変えた。暗号資産により、ウクライナの人々は銀行や金融サービス業者が介在しない形で迅速で安く国際送金することが可能になったのだ。

ビットコイン以前、銀行や金融サービス業者はお金を変換し、受取人の国にそれを送金し、さらに現地通貨に変換し直すということをしていた。しかし、世界銀行の調査によると、平均の送金料は送金額の約6.38%にのぼるという。

この送金料よりさらに悪いのが、ウクライナ国民は深刻な汚職のため銀行システムをほとんど信用していないことである。いくつかの大手銀行が崩壊し、ウクライナ政府は90以上の銀行が破産したことを宣言した。また多くの人が打ち続く銀行スキャンダルによりお金を失った。2016年、ウクライナの銀行部門の20%を占めるPrivatBankの元帳から50億ドル以上(約5554億ドル)が紛失したことが明らかになり、政府が介入してPrivatBankを国営化する事態となった。銀行部門は機能しておらず、腐敗した財閥に支配されていると多くの人が信じている。

2014年にロシアがウクライナに侵攻して以降、ウクライナ経済は急激に落ち込み、ウクライナの通貨であるフリヴニャのドルに対する価値は70%下落した。これが国民の貯金能力や購買能力をさらに弱体化させた。蓄えが少額の人の場合、家にお金を隠す事が多く、敢えて銀行に預け入れることはない。

ソ連崩壊以後ウクライナの銀行業界は、不埒な習慣が横行するようになる以前でさえ、西側諸国と同じようには発展することができなかった。送金プロセスはインフラの不備のため問題が多く、そのためバウチャーや両替といった金融商品を通し悪辣な方法が開発され、大規模なマネーロンダリングや胡乱な商習慣の素地となった。

政府、企業、銀行部門に深く根付いた腐敗、悪徳政治家に摂取された不法な資産、ウクライナのいくつかの著名な銀行の崩壊のため、分散化された性質を持ったビットコインが国民に受け入れられたのはうなづける。ウクライナ人は自らの資産を守るために暗号資産を受け入れ、若く革新的な世代の人々は将来に熱心に目を向け、崩壊したスキャンダルにまみれたシステムとおさらばしようとしている。ウクライナ人が変化を望む気持ちは大きく、彼らが暗号資産に寄せる期待は大きい。

暗号資産の受容率は高まるばかりであり、政府がサポートする枠組みにより、この領域で成長する企業が増え、国家に税金を納め、さらなるイノベーションを促進することが可能になるだろう。暗号資産の受容率が高いという事実や、国が推進する暗号資産に有利な法律の存在を通し、ウクライナは暗号資産の世界的中心地の1つになるチャンスを手にしているのであり、この機会を無駄にしてはならないのである。

編集部注:本稿の執筆者David Kirichenko(デビッド・キリチェンコ)氏はEuromaidan Pressの編集者。サイバースペース、デジタル通貨、経済、テクノロジーについて執筆している。

画像クレジット:SOPA Images / Getty Images

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(文:David Kirichenko、翻訳:Dragonfly)

【コラム】金利が上昇するとスタートアップブームは下火になるのか?答えはノー(少なくとも大きな影響はない)

Storm Ventures(ストームベンチャーズ)の前パートナーで現在はプライバシー関連企業SkyFlow(スカイフロー)のCEOである投資家兼企業家のAnshu Sharm(アンシュ・シャルマ)氏がツイッターで、利子率とテクノロジー評価の関係について質問している

お世辞は無視していただきたい。シャルマ氏はジェフと私を引っかけて彼の質問に答えさせようとしているだけだ。こうして記事にしているのだから、その企みは成功したわけだが。

シャルマ氏はテクノロジーサイクルと資本の流れ、そのどちらにも豊富な経験がある人なので、上の質問を一般的な質問と考えてはいけない。彼はもっと深い話がしたいのだ。そこで、利子率とテック企業の評価額について深く探ってみよう。

履歴

スタートアップが必要なだけ資金を調達できる(調達資金総額は史上最高に達している)理由の1つとして、今日の低金利がある。

今は世界的に利子率が低い。つまりお金の価値が低いのだ。お金の価値が低いということは、あまりコストをかけずに資金を調達できるということだ。例えばCoinbase(コインベース)は現時点で負債によって20億ドル(約2244億円)を調達しており、2回分割返済となっている。1回めの返済期限は2028年で利子率は3.375%、2回めは2031年で利子率は3.625%だ。コインベースは、投資側の低利子率のおかげで目標調達額を15億ドル(約1683億円)から20億ドルに引き上げた。お金の価値が低いので、コインベースは、低リスクで高利子率の投資先を見つけることができない投資家から何回にも渡って資金を調達している。

お金が価値が低いということは、ファンドを形成してお金を貸し付けても多くの利益を期待できないということだ。このため現在の債権利回りは極めて低い。これはコインベースなどの企業にとっては有利だが、高利回りを求めるキャピタル・プールにとっては不利だ。こうしてだぶついた資本が、ベンチャーキャピタル市場など他の領域でより高い収益率を求めて、投資先を探している。資金が豊富にあるため、VCは従来よりも大規模なファンドを形成し短期間で資金を調達できる。また、これまで見られなかった投資家たちがスタートアップ市場に参入できるようになっている。

昨今のユニコーンブームは、このような調達コストの安い資金を前提としている部分がかなり大きい。

しかし、何事も永久には続かない。米国政府は市場刺激策としての債権購入量の削減開始を準備している。結果として、FF金利の目標範囲が上がり米国内の資金調達コストが上昇しており、一部の資産が輝きを失い始めるという予想もある。

資金調達コストが上がれば、資本家は貸付によってより多くの利益を生むことができるため、ベンチャー投資はリスク / リワード比という点であまり魅力的ではなくなる。あくまで理論上はそうだ。と同時に、株価も変わってくる。最低レベルの利子率により、投資家たちは、成長志向の会社の株を買い占めるようになる。そうした会社のほうが評価が高くなるため、同額の投資を低成長の会社に対して行うよりも有利になるからだ。

こうした傾向が2020年夏に最高潮に達した頃、多くの業界が新型コロナウイルス感染症の早期感染防止のため大打撃を受けたが、ソフトウェア関連株は、企業収益の増大という見地から依然として高利回りを追求する方法を提供していた。これは、定期クーポンの支払いではなく市場価格の向上によって支払われるものだ。

悪くない。

非常に広い意味では、利子率の上昇によって、競合資産分配の魅力が増し、ベンチャーキャピタルファンドへの資本の注入があまり魅力的でなくなるはずだ。また、利子率が上昇すると、成長による評価価値の向上に基づいて公開株を取引する魅力が薄れる。成長企業株以外の株が再度注目されるようになるからだ。

上記の議論の後半部分は技術的に説明できる。以下にシャルマ氏のツイッターのスレッドから一部を引用する。

しかし、シャルマ氏は上記のような答えを求めているのではない。そうではなく、従来的な考え方に疑問を抱いているのだ。本当にそうなのだろうか、と彼は問いかける。Amazon(アマゾン)やSalesforce(セールスフォース)といったテック関連株は利子率が上昇すると本当に価値が下がるのだろうか、と。シャルマ氏の見方では、ソフトウェアやeコマースのTAM(獲得可能な最大市場規模)が拡大したために、上記2社の価値が以前よりも上昇したわけだが、資本調達コストが上がったからといって、その上昇分が消えてなくなることなどあるだろうか。

ここで議論を行うには、絶対額ではなくベーシスポイントで考える必要がある。利子率はゆっくり変化する。お金の価値を急に変化させるような政府が存在するとは思えない。変化は徐々に、かつ慎重にやってくる。

地合いが変わって関連資産の価格が変動したり、構造的な変革よりも極端な結果に終わる場合はともかく、利子率が上昇し始めたときに今日の市場の基本的なダイナミクスが大きく変わると思うべきではない。もう少し簡単にいうと、連邦目標金利が25ベーシス・ポイント変わったくらいでは、規則的かつ急速にさらなる上昇が予想されないかぎり、大した意味はない。

アマゾンとセールスフォースの価値は、お金の価値が徐々に上がり始めても、おそらく大きく変動しないはずだ。利子率が5%に達するとアマゾンの時価総額は他の資産の価値との関連でおそらく低下するだろう。だが、それはセールスフォース等の価値低下需要というより、どちらかというと相対的な変化だ。

シャルマ氏は基本的なケースについては納得している。彼はソフトウェア関連株を買っている。しかし、彼の質問は良い点を突いており、よく検討してみる価値がある。ソフトウェアの価値とソフトウェア投資ブームを実現している基本的な要因が本当に変化したら、ソフトウェア企業の時価総額にどのくらい迅速に反映されるのだろうか(別の言い方をすると、成長志向型収益を他の資産や現金と比較したときの相対的な価値とSaaSへの資金注入を促進している要因が変化した場合、そうした要因の変化はどのくらい迅速に結果に反映されるのだろうか)。

お金の価値に対する初期の増分変化によってテック関連企業の評価総額が劇的に変化すると考えている人たちは、そうした変化を大げさに受け取っているのではないかと思う。

現在のスタートアップブームとその継続可能性について、The Exchangeが数週間前に次のような記事を掲載した理由もそこにある。

大規模な経済圏で資本の再分配が起こる可能性よりも、ある程度確実に言えると思うのは、現在のスタートアップブームを終わらせるにはかなり大きな衝撃が必要になるということだ。製品需要とファンド形成への関心の組み合わせは投資の意思決定を促す最強の組み合わせだ。収益を追い求める資本と資本を必要とする高成長企業というまさに最高の組み合わせだ。

また、この記事のために話を聞いた多くの投資家たちは、創業者と投資先であるスタートアップの質について強気だった。市場の需要と資本が存在していたというだけでなく、資本の助けを借りて市場の需要に答えるために構築されているものが、少なくともスタートアップに対して数百万ドル(数億円)から数億ドル(数百億円)の小切手を切る投資家たちの観点からすると、極めて質が高いのだ。

すべてのビジネスサイクルは循環する。上昇したものはいつかは下降する。スタートアップ関連株やテック関連株をより広範に買い求める動きは元通りというわけにはいかず、少し弱くなる可能性が高いだろう。もちろん、何か新しいテクノロジーが登場すれば、話は別だ。

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(文:Alex Wilhelm、翻訳:Dragonfly)

【コラム】NFT、メタバース、ゲームの親和性が持つ魅力と高まる関心における間違い

ゲームが普及するスピードは、そのエコシステムにあふれる新しいバズワードのペースに並び他に類を見ない。マーケターやディシジョンメーカーは、ゲーム業界でのビジネスチャンスについて、すでにFOMO(Fear Of Missing Out、取り残されることへの恐れ)に陥っており、常にキャッチアップしているだけでは事足りず、ゲームにおけるブロックチェーンの活用や「メタバース(インターネット上の仮想世界)」などの話題性のあるトレンドに食いつき、さらに先取りをしようとしている。

ブロックチェーン、メタバース、ゲームの親和性が持つ魅力は明らかだ。ゲームは常にデジタル所有権(ゲームプラットフォームであるSteamの功績により、ゲームや、おそらく映画などの他のメディアにおけるこの概念が標準化されたといえる)の最前線にある。また、メタバースのビジョンが、分散化されたデジタル所有権を有するゲームに共通する仮想環境に依存していることも多くが認めるところだ。

デジタル所有権とメタバースのそれぞれをどう見るかはさておき、筆者はこの2つがゲームの未来に相互作用を発揮すると考えている。しかし、この流行りの話題が成功するかどうかは、現時点では見過ごされている重要なステップにかかっている。

まず、ブロックチェーン、もっと具体的にはNFT(非代替トークン)の例を見てみよう。多くのゲームでは、希少性が高く、多くの場合あちこちに隠された、さまざまなアイテムを集めることで、モンスターを倒し、強力な武器を手に入れ、さらに強いモンスターを倒し、もっと強力な武器を手に入れたりといった中核となる「ループ」が形成されている。また「スキン」(ゲームキャラクターのさまざまな衣装やアバターアイテム)を集めることは、ゲームにおけるマイクロトランザクションの定番の1つだ。

現在、NFTは、不変で追跡可能でありオープンな価値を持つさまざまなレアアイテムと自然に調和するものとして位置づけられている。最近発売された「Loot(for Adventurers)」では、NFTをファンタジーを呼び起こすための仕かけと簡単に説明し、他のクリエイターが世界を構築するためのツールとして提供するという斬新なアプローチをとっている。Lootのように、NFTアイテムを中心としたゲームが開発されることは想像に難くない。

関連記事:NFTを使った新プロジェクト、まだルールも存在しないが価値を生み出す「Loot」に熱中するのか?

同様のことは以前にも行われたことがある。上記のような「Loot式のループ」を持つゲームの開発者は、ゲームの利用規約に反しゲーム通貨やアイテムを取得して他のプレイヤーにリアルマネーで販売する「ゴールドファーマー」の問題を長年抱えてきた。そして、その解決策として、ゲーム内に「オークションハウス」を導入することで、プレイヤー同士がリアルマネーでアイテムを購入できるようにしたのだ。

ところが、これには望ましくない副作用があった。著名なゲーム心理学者であるJamie Madigan(ジェイミー・マディガン)氏によると、人の脳は、思いがけない有益な報酬に特別な注意を払うように進化しているという。ゲームの楽しさの多くは、予想外の報酬をランダムに獲得できることにあるが、あけすけな報酬がリアルマネーで簡単に手に入ることになると、ゲームのそういった楽しさが奪われてしまうことになる。

ゲームに関連して、現在議論されているNFTの用法は、ゲームの核となるループを経済的な近道によって潰してしまうといった罠に陥る危険性が高いといえる。この現象の最も極端な例では、ゲームにおける最大の罪を犯している。つまり「Pay to Win(金を払って勝つ)」という類のゲームでは、大きな資金を持つプレイヤーが、対戦ゲームの用具における優位性を獲得できるのだ。

Axie Infinity(アクシー・インフィニティ)のようなブロックチェーンゲームは「Play to Earn(遊んで稼ぐ)」というコンセプトのもとで急速に熱を帯びている。これはブロックチェーンゲームの環境でトークン化したリソースやキャラクターを獲得し、それを売却することで、プレイヤーが収益を得られるというものだ。これが「金を払って勝つ」とほとんど同じシナリオじゃないかといわれれば、それはその通りだろう。

それが今の状況下で重要であるかどうかは、あまりはっきりしていない。NFTの潜在的な市場価値やプレイによる収入の可能性ではなく、ゲームのコアそのものに関心を持つ人はいるのだろうか。より本質的にいえば、実世界での収益がポイントである場合、それは本当にゲームなのだろうか、それとも、上記のような「ゴールドファーミング」が不正な行為ではなく、むしろゲームの中核的メカニズムであるような、ゲーム化されたミクロ経済に過ぎないのだろうか。

ブロックチェーンを中心とするテクノロジーや文化は、ごく少数の人が関心を持つような非常に難しい問題を解決する力を高めてきた。テクノロジーにおける多くの問題と同様、そのソリューションには、より人道的なアプローチからの再評価が必要だ。ゲームの場合、これらのテクノロジーが主流の推進力になる前に、根本的なゲームの楽しさやゲーム心理の問題に取り組む必要がある。

これに関連する例として、メタバースに目を向けてみよう。ゲームに興味がない人でも、Mark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏がFacebook(フェイスブック)の将来を賭けたこのコンセプトについては、耳にした人もいるだろう。しかし、盛り上がってはいるものの、根本的な問題は、それが単に存在しないということだ。最も近いものとしては、「Fortnite(フォートナイト)」のような巨大なデジタルゲーム空間かRoblox(ロブロックス)のようなサンドボックスだ。また、多くのブランドやマーケターは、ゲームを理解することに取り組まずに、いつまで経っても実現しない可能性のあるチャンスをつかもうと近道を探している。

ゲームは、メタバースの補助輪と見ることができる。仮想空間についてのコミュニケーション、ナビゲート、思考の方法は、すべてゲームを基盤とするメカニズムやシステムに基づいている。極言すれば「メタバース」を最初に実現するのは、こうしたスキルに磨きをかけ、バーチャルな環境に身を寄せることを楽しんでいるゲーマーたちかもしれない。

そろそろパターンが見えてきたのではないだろうか。ゲームの「今」という視点をあまり持たずに、ゲームの「未来」のアプリケーションに対する関心が高まっている。社会学から医学に至る広い分野でゲームが思考に与える影響について認識されたため、学術の世界では2000年代初頭からゲームの研究が急速に盛んになったが、ビジネスの世界では最近まであまり感心が持たれていなかった。

その結果、マーケターやディシジョンメーカーは、なぜそのようなものが重要なのか、そのようなものを手に入れたときに何をすべきなのかといった当たり前の背景を知らずに、新しい大きな話題を追いかけることに全力を尽くしているのだ。ゲームの発展は大きな可能性を生み出しているが、その可能性をめぐる議論は、関心の方向性が間違っていることもあって、まだ十分に洗練されていない。

この死角から抜け出すためには「金を払って勝つ」のような近道はない。勝つためには労力を惜しんではならない。

編集部注:Jonathan Stringfield(ジョナサン・ストリングフィールド)博士は、Activision Blizzard Media and Esportsのビジネスマーケティング、計測、インサイト部門のVP兼グローバルヘッド。

画像クレジット:Gunes Ozcan / Getty Images

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(文:Jonathan Stringfield、翻訳:Dragonfly)

【コラム】フェイスブック、Instagram、WhatsAppはなぜダウンしたのか?

Facebookの1日にわたるサービス停止は、ここ数年で最も長く、最も極端なものだった。ソーシャルジャイアントの本社がある米国西海岸では、現地午前9時頃、Facebook、WhatsApp、Instagram、Facebook Messengerがインターネット上から消えたように見えた。

この障害は市場終了まで続き、同社の株価は米国時間10月4日の初値から約5%下落した。Facebookがサンタクララのデータセンターにチームを派遣し、同社のサーバーを「手動でリセット」したことが報じられた後、午後の初めにはサービスが再開された。

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今回の障害の特徴は、Facebookが非常に長い時間オフライン状態にあったということだ。

午前中、Facebookは「一部のユーザーが、当社アプリやプロダクトへのアクセスに支障がある」ことを謝罪するツイートをした。その後、この障害がユーザーだけでなく、同社自体にも影響を与えていることが報告された。従業員はオフィスビルに入ることができず、スタッフは「スノーデイ」と呼んでいたが、この障害は社内のコラボレーションアプリにも影響を与えたため、仕事をすることができなかった

Facebookは、障害の原因についてコメントしていないが、セキュリティの専門家によると、同社のネットワークに問題があり、インターネットとFacebook全体が遮断されたことを示す証拠があるとのことだ。

ネットワーク大手CloudflareのCTOであるJohn Graham-Cumming(ジョン・グラハム-カミング)氏によると、最初の兆候が観測されたのはカリフォルニア州では午前8時50分頃で、Facebookは2分間に渡って「BGPのアップデートが嵐のように続く中、インターネットから消えた」という。BGP(Border Gateway Protocol)とは、ネットワークがインターネット上のデータを他のネットワークに送信する際の最速方法を決定するために使用するシステムのことだ。

具体的には、アップデートはBGPルートの取り消しだった。つまり、Facebookは、城の橋を閉鎖するように「ビジネスを終了する」というメッセージをインターネットに送ったのだ。その構造上、FacebookのネットワークはWhatsApp、Instagram、Facebook Messengerなど、デジタルの壁の内側にあるすべてのものが閉鎖されることになった。

BGPルートが取り消しから数分後、ユーザーは問題に気づき始めた。Errata Securityの創業者であるRob Graham(ロブ・グラハム)氏は「Facebookに送られるべきインターネットトラフィックが、インターネット上で迷子になり、どこにも行かなくなってしまったのです」とツイートしている。

ユーザーは、Facebookアプリが動かなくなったことやウェブサイトが読み込まれないことに気づき始め、インターネットの仕組みのもう1つの重要な部分であるDNS(Domain Name System)に問題が生じたことを報告した。DNSは、人間が読めるウェブアドレスを機械が読めるIPアドレスに変換し、ウェブページがインターネット上のどこにあるのかを見つけ出す。Facebookのサーバーにアクセスする手段がなければ、アプリやブラウザはDNSエラーのようなものを返し続けることになる。

BGPルートが取り消された理由は、はっきりとはわかっていません。インターネットが登場したときから存在しているBGPが、悪意を持って操作され、大規模な障害につながった可能性がある。

それよりも可能性が高いのは、Facebookの設定更新がひどい失敗をし、その失敗がインターネット全体に連鎖したということだ。現在は削除されているが、Facebookのエンジニアが投稿したRedditのスレッドには、広く知られるようになるずっと前に、BGPの設定ミスについて書かれていた。

修正は簡単かもしれないが、インターネットの仕組み上、復旧には数時間から数日かかる可能性がある。インターネットプロバイダーは通常、数時間ごとにDNSレコードを更新するが、完全に伝搬するまでには数日かかることがある。

Facebookは、現地時間午後3時30分頃「私たちを頼りにしてくれている世界中の人々や企業の巨大なコミュニティへ:申し訳ありません」とツイートした。「アプリやサービスへのアクセスを回復するために懸命に取り組んできましたが、現在はオンラインに戻っていることを報告します。ご理解いただきありがとうございます」。

画像クレジット:TechCrunch

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(文:Zack Whittaker、翻訳:Katsuyuki Yasui)

【コラム】山火事が日常になりつつある今、植生管理にもっとITを活用すべきだ

山火事はギリシャ、トルコからオーストラリアそしてカリフォルニアと、世界中で日常の出来事になりつつある。

火災の原因は、タバコの吸い殻、キャンプファイヤーの消し忘れから落雷までさまざまあり、カリフォルニア州で特に多いのが送電線の破損によるものだ。

Dixie Fire(ディキシー・ファイア)は現地時間7月13日、Pacific Gas and Electric Company(PG&E、パシフィック・ガス・アンド・エレクトリック)の送電線に木が倒れたことで発火し、カリフォルニア州史上最大の単一火災となった。

PG&Eは、2015年、2017年の山火事、および2018年にバラダイスの町全体を破壊した山火事、通称Camp Fire(キャンプファイヤー)を巡る数々の訴訟によって増え続ける負債に直面し、チャプター・イレブン(連邦破産法第11章)を申請し、数百億ドル(数兆円)にのぼる追加の火災補償を免れようとした。

PG&Eは、山火事のすべての主要被害者グループと255億ドル(約2兆8327億円)の示談、および取締役の入れ替えを約束して倒産を免れた。

現在、PG&Eの植生管理プロトコルは、年間を通じた従来手法による樹木伐採を行っている。土地・住宅の所有者が検査の予告を受けた後、検査員が枝切りあるいは撤去が必要な樹木に手作業で印をつける。印をつけられた木々が適切な処置を受けるまでには4~6週間かかる。

破産にともなう組織再編計画の一環として、California Public Utilities Commission(カリフォルニア州公共事業委員会)はPG&Eの統治と運営を強化するための対策を複数制定した。その1つが、山火事のリスクを減らすためのEnhanced Vegetation Management(EVM / 拡張植生管理)プログラムだ。

これは、PG&Eが植生管理計画を継続するだけではなく、枯れたり枯れそうな樹木、張り出した枝、あるいは高く伸びすぎた樹木による潜在リスクの責任を負うことを意味している。同社の主要目標は、2021年末までに2400マイル(約3860km)分のEVMのうち1800マイル(約2900km)を完了することだ。

委員会は山火事リスクの高い上位20%の地域に焦点を絞り、Circuit Protection Zones(サーキット・プロテクション・ゾーン)を設定した。この上位20%をリスクが1~3%、4~10%、および11~20%の区域に分け、トップの1~3%が1800 EVMマイルの中心に位置づけられる。この1~3%だけで推定2422マイル(約3900km)を占めている。

ディキシー・ファイアーの出火元をSan Francisco Chronicle(サンフランシスコ・クロニクル)紙やGoogleマップ、PG&E提供の地図などの情報源を元に比較してみると、ディキシー・ファイアーの近くにはCPZのリスク11~20%の地域しかなかったことがわかる。2021年PG&Eがディキシー・ファイアー地域でEVMプログラムを実施する可能性は非常に低い。

カリフォルニア州の干ばつは以前にも増して厳しく長期に渡っている。どれが最大のリスク要因であるかに賭けている余裕はない。この場合、情報へのアクセスと一連の作業のスピードが規模と一致している必要がある。

我々が所属するSpacept(スペースプト)では、ディキシー・ファイアーの原因となった植生危険要因を突き止めるために当社のツールを使用できるかどうかを検討している。植生の異常増殖を発見できれば将来の山火事防止に役立つとともに公共事業の信頼性を高めることができる。

これを確かめるために、我々はSPOT(スポット)衛星の6月15日のデータを元に、San Francisco Chronicleが特定した地域を可能性の高い出火元として集中的に調べた。この山火事はDixie Road(ディキシー・ロード)のFeather River Canyon(フェザー川渓谷)付近から始まったことが報告されている。

画像クレジット:Spacept

次に当社のTree Detector(ツリー・ディテクター)を衛星写真に適用し、PG&Eが送電線周辺で伐採した道筋に木や植生の侵入がないかを調べた。

画像クレジット:Spacept

Tree Detectorはその送電線経路における一定レベルの異常増殖を検出した。その一部を拡大し、送電線の経路と植生を示すマスクを設定することで、危険増殖地帯の画像を生成した。

画像クレジット:Spacept

画像の青で示された部分は送電線経路の伐採された区域を表し、赤は高い木と植生の密度を、オレンジ色は中程度の植生密度を表わしている。

高さ40フィート(12メートル)以下の樹木境界線は送電線から15フィート(4.5メートル)以内にあってはならないというPG&Eの推奨を踏まえると、この地域にはその規則が守られていない高懸念地帯がいくつかあることがわかる。将来、PG&Eや他の電力会社は、このような異常増殖を事前に察知し、該当する地域に植生管理リソースを割り当てるためにSpaceptのような衛星に基づくソリューションを使うことができるだろう。

カリフォルニア州のように特に山火事の頻度が高く破壊的な場所では、山火事の数が少しでも減ることが、重要エコシステムとインフラストラクチャーの破壊防止につながる。そして関連する企業を数十億ドルの訴訟から救う。

点検を実施するためのスケーラビリティーと運用の障壁を越えるためには、経営における洞察力の改善が必要だ。衛星分析は実行可能な先見的取り組みであり、植生管理のための結果を取得するまでの時間を短縮する。

編集部注:本稿の執筆者Elijah Priwer(エリジャー・プライワー)氏はカリフォルニア大学バークレー校の機械工学科学生で、航空工学、人工知能、および宇宙物理学に興味を持っている。

Rita Rosiek(リタ・ロジーク)氏はニューヨーク拠点のコピーライター / マーケターで、業務範囲はスタートアップや新興技術にわたる。

画像クレジット:Justin Sullivan / Getty Images

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(文:Elijah Priwer、Rita Rosiek、翻訳:Nob Takahashi / facebook

【コラム】クリエイティブがグロースマーケティングの決定的なXファクター

今後、グロースマーケティングがプライバシー保護を重視した、ターゲットの曖昧なものに移行するとき、Facebook(フェイスブック)などの有料ソーシャルチャネル上のクリエイティブが最も強力な手段になるだろう。重宝しているiOS 14.5で特定機能が利用できなくなってこの傾向は加速されたが、さまざまなチャネルで広告プラットフォームの自動化に向けた取り組みが強化されている。

それで筆者は、シードステージのスタートアップであれ、Google(グーグル)のような巨大企業であれ、グロースマーケティングを推進する場合は常に、クリエイティブをテストする適切なフレームワークの準備を整えるべきだと思う。

筆者は、Postmates(ポストメイツ)で3年間働き、さまざまなスタートアップのためにコンサルティングをし、直近ではUber(ウーバー)で仕事をして、多くの点でマーケティングが変化する様子を見てきた。しかし、我々が今目にしているものは我々の制御を超えたファクターによって動いており、今まで見てきたどんなものとも異なる変化が始まっている。続いて、有料のソーシャルアカウントでクリエイティブが最も強力な手段として登場した。

基本

クリエイティブの力を活用し、有料のソーシャルマーケティングで成功を収めようと考えているなら、その考え方は正しい。必要なのは、クリエイティブをテストするフレームワーク、つまり新しいクリエイティブアセットをテストする構造化された一貫性のある方法である。

次に、クリエイティブをテストするフレームワークを成功させるために必要な基本要素を示す。

  • 決められたテストスケジュール
  • テーマを構造化したアプローチ
  • チャネルに特化した戦略

クリエイティブのテストは、決められたテストスケジュールに従った、持続的で反復的なプロセスにする。目標と構造は、毎週5つの新しいクリエイティブアセットをテストするシンプルなものにできる。逆に、複数のテーマとコピーバリエーションから成る60の新しいアセットをテストする複雑なものにもできる。

出費があまり多くないアカウントの場合、イベントシグナルが限られているのでクリエイティブのテストは比較的限定的なものにする。出費の多いアカウントの場合はその逆にする。最も重要なことは、次の「優れた」アセットを探す際、テストを継続して目ぼしいものを見つけることである。

4つのテーマ×テーマごとに3つの変化形×5つのコピーバリエーション=60のアセット(画像クレジット:Jonathan Martinez)

テストのスケジュールを設定したら、思いつきのアイデアを大量にテストするのではなく、ビジネスとバーティカル市場の主要なテーマを定義する。これは、コピーや、製品とサービスの主要な価値提案と同様に、クリエイティブアセットにも当てはまる。クリエイティブのデータ分析を始めると、この構造を活用してテストすることで、何を強化し、何をカットするか、簡単に決定できることがわかるだろう。これは、テストの過程を通じて拡張または縮小するワイヤーフレームと考えることができる。

MyFitnessPal(マイフィットネスパル)のようなフィットネスアプリの場合、次のように構造化できる。

  • テーマ(製品のスクリーンショット、製品を使っている人の画像、UGCのユーザーの声、事前・事後の画像)
  • メッセージ(セグメント化された価値提案、宣伝広告、FUD)

チャネルは、クリエイティブのベストプラクティスやテストの機能がそれぞれ異なるので、チャネルに特化したアプローチになっていることを確認することは非常に重要である。フェイスブックでうまくいくことが、Snapchat(スナップチャット)やその他多くの有料ソーシャルチャネルでもうまくいくとは限らない。クリエイティブのパフォーマンスがチャネルによって異なるとしてもがっかりすることはないが、筆者は等価性テストを推奨する。あるチャネル向けのクリエイティブアセットがすでにある場合、残りのチャネル向けにサイズ変更して体裁を整えても問題はない。

何が成功かを判断する

適切なイベント選択と、テスト全体を通じて守る統計的に有意なしきい値は、クリエイティブにとって等しく重要である。クリエイティブのテストに使うイベントを選択する際、CACのレベルによっては、必ずしも自社のノーススターメトリックを使えるとは限らない。例えば百単位のCACで高額のアイテムを売る場合、各クリエイティブアセットで統計的に有意な値に達するには、多額の出費が必要になるだろう。代わりに、ファネル上部寄りのイベントと、ユーザーの転換の可能性を示す信頼性の高い指標を選ぶことができる。

ファネル上部寄りのイベントを使うと、学習の迅速化につながる(画像クレジット:Jonathan Martinez)

使用する統計的に有意な割合を決める際、クリエイティブのテスト全体にわたって一貫した割合を選択することは重要である。経験上、筆者は80%以上の確実性を好む。それによって、十分な確認と決定の迅速化が可能になるからだ。Neil Patel(ネール・パテル)氏のA/Bテスト向け有意性計算ツールは、便利な(無料の)オンライン計算ツールである。

成否を分けるもの

ソーシャルフィードをスクロールしていて、光沢のあるゴールドのペンダントに目が留まったとしよう。しかし、メッセージはブランド名と製品の仕様だけである。注意を引かれはしたが、引き寄せられるものが何かあっただろうか。考えてみて欲しい。人の注意を引くだけでなく「クリエイティブ」、つまり有料のソーシャルグロースマーケティングで成否を分けるファクターを使って、引き寄せているだろうか。

iOS 14.5のデータロスを迂回する

iOS 14.5でユーザーデータがわかりにくくなり、モバイルキャンペーンにおいてクリエイティブのテストは厳しくなる一方だが、不可能というわけではなく、ただもっと賢くなる必要があるということである。クリエイティブのパフォーマンスに関する明瞭なインサイトを得るのに役立つアイデアはいろいろあり、長続きしないものもあれば、ずっと残るものもあるだろう。

プライバシー保護のための制限はたくさんあるが、膨大な数のAndroid(アンドロイド)ユーザーには依然としてアクセス可能であり、これを活用しない手はない。クリエイティブのテストをすべてiOSで実施する代わりに、インサイトを収集する明瞭な方法としてアンドロイドを使うことができる。プライバシー保護のための制限はまだアンドロイドデバイスに課されていないのだ。アンドロイドでのテストで収集されたデータは、次にiOSでのキャンペーンに適用できる。アンドロイドでのデータにも制限が課されるのは時間の問題でしかないので、iOSでのキャンペーンに情報を提供できるこの回避策を活用するのは今である。

アンドロイドでのキャンペーンが実行可能なオプションでない場合、手早く簡単な別のソリューションは、Webサイトのリードフォームを断念し、クリエイティブアセットから記入済みフォームへの転換率を測定することである。ユーザーエクスペリエンスは確かにエバーグリーンコンテンツと比べればまったく驚くほどのものではないが、これを使えば短期間でインサイトを得ることができる(しかも、予算のほんの一部で)。

リードフォームを作成する場合は、エバーグリーンエクスペリエンスの重要な指標となるイベントを完成させるユーザーを見極めて明らかにする質問を考えよう。ユーザーがリードフォームに記入し終えたら、コミュニケーションを取ってユーザーの転換を図り、広告費を有効に使うことができる。

アカウントステージに基づいて取り組む

クリエイティブアセットのタイプに応じたテストの取り組みはアカウントステージアカウントステージによって大きく異なり、模倣、反復、イノベーションの3つに分けることができる。

クリエイティブのテストのタイプは時間とともに変化する(画像クレジット:Jonathan Martinez)

アカウントステージが初期であればあるほど、クリエイティブの方向性が他の広告主によって有効であることが証明されたものに依存する度合いは大きくなる。それらの広告主は、アセットのパフォーマンスの証明に多くの出費をしてきており、そこから強力なインサイトを得ることができる。時間の経過とともに、他の広告主から導き出す速度をわずかに落とし、ベストパフォーマンスの反復に重点を置くことができる。筆者が割合を決めるとすれば、初期段階では取り組みの80%を模倣に置く。成功事例が明らかになるにつれて自然と反復の勢いが増し、イノベーションが大きく遅れて最後の柱になる。

これは、すばらしいアイデアがある場合でも初期段階ではイノベーションを試すことはできないということではが、一般に、十分に成長した企業の方が革新的なアイデアの検証に多額の出費をする余裕がある。また、社内にデザインチームがあるにしても、フリーランスのデザイナーと一緒に取り組むにしても、50の異なる革新的なアセットを考えてデザインするより、50のバリエーションを考える方がはるかに簡単である。模倣と反復により、初期のテストは大幅に効率的になる。

競合他社のインサイトを活用する

ブレインストーミングをして、最高に美しく、目を引いて、人を引き付けるクリエイティブを思い描くことは、必ずしも数秒でできることではなく、数分でも、数時間でもできるとは限らない。ここで、競合他社のインサイトを利用することが関係してくる。

最も充実したリソースはフェイスブックの広告ライブラリである。そこには、プラットフォーム全体であらゆる広告主が使っているすべてのクリエイティブアセットがある。実際のところ、この無料の強力なツールのことを知っている人がほとんどいないことに、筆者はいつも驚かされる。

このライブラリで競合他社やクラス最高の広告主を参照すると、広告主が長く使ってきた具体的なアセットに、優れたパフォーマンスのクリエイティブの証拠を見ることができる。どうしてそれがわかるかというと、便利なことに、広告主がクリエイティブを使い始めた日付のスタンプが各アセットにあるのだ。これは非常に役に立つ。筆者は、何時間でもクリエイティブアセットを調べていられる。それぞれの広告主が、情報とひらめきをさらに提供してくれる。

有料のソーシャルグロースマーケティングで努力を傾ける分野を考えるときは、クリエイティブをリストのトップに置く必要がある。データがますますわかりにくくなるにつれ、アイデアに富んだ考え方をする必要がある。そうした考え方が、成功と失敗の分かれ目になる。実行する戦略のタイプは時間とともに変わるが、変わらないのは、強力なクリエイティブ、つまり成功を左右するファクターの重要性である。

編集部注:本稿の執筆者Jonathan Martinez(ジョナサン・マルティネス)氏は、元YouTuberで、カリフォルニア大学バークレー校の卒業生であり、Uber、Postmates、Chimeをはじめとするさまざまなスタートアップ企業の成長を支援してきた成長マーケティングのオタク。

画像クレジット:MirageC / Getty Images

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(文:Jonathan Martinez、翻訳:Dragonfly)

【コラム】プライバシーを侵害しないモビリティデータの共有

近年、米国の各都市では、歩道に電動スクーターや自転車が並んでいるのがよく見られるようになった。

電動スクーターの市場規模は、2025年には400億ドル(約4兆4500億円)を超えると予想されており、米国人は2010年以降、3億4200万回以上もシェアサイクルや電動スクーターで移動している。

マイクロモビリティサービスは、潜在的に機密性の高いユーザーの正確な位置情報を含む大量のモビリティデータを生成する。モビリティサービスから得られるデータは、交通政策やインフラ政策の指針となる貴重でタイムリーな情報を提供するが、企業間や政府機関との間で機密性の高いモビリティデータを共有するには、まずプライバシーや社会的信用の問題が解決されなければ正当化することはできない。

革新的なモビリティオプションは、交通機関の隙間の移動に関するラストマイル交通問題を解決する機会を都市に提供しており、これらのサービスから得られるデータはさまざまな生産的な用途がある。

これらのサービスから得られるデータは、都市計画者が利用者の安全を確保するために、保護された自転車レーンなどの交通改善を設計するのに役立つ。また、モビリティデータにアクセスすることで、地域の支援者や政府関係者は、特定の地域にどれだけのモビリティデバイスがあるかをほぼリアルタイムで知ることができ、その地域が過密状態やサービス不足にならないように制限を設けることができる。また、これらのデータは、企業と市政府間のコミュニケーションを効率化し、モビリティサービスが都市のイベントや緊急事態に迅速に対応することを可能にする。

しかし、デジタル化されたモビリティサービスが収集し、政府との共有を要求できるデータの粒度と量については、プライバシーに関する確かな懸念がある。

例えば、ロサンゼルス市交通局とロサンゼルス市を相手取った最近の訴訟では、市がMobility Data Specificationを通じて電動スクーターの走行データを収集していることが、米国憲法修正第4条とカリフォルニア州電子通信プライバシー法に違反していると主張している。下級裁判所はこの訴訟を棄却したが、電子フロンティア財団と北カリフォルニアおよび南カリフォルニアのアメリカ自由人権協会(ACLU)は最近、連邦控訴裁判所にこの訴訟の復活を求めている。

さらに、最近カリフォルニア州議会に提出された法案では、モビリティデータを公的機関や契約者と共有する前に、特定の条件を満たすことが求められている。この法案では、データを共有できるのは、交通計画を支援するため、または利用者の安全を守るために限られている。また、この法案では、共有できる移動データは24時間以上経ったものでなければならないとしている。

ほぼリアルタイムの位置情報データは、安全性や規制強化の目的を果たすために必要とされることが多いが、このデータは個人の生活の親密な部分を明らかにする可能性があるため、非常にセンシティブなものである。位置情報データのパターンは、個人の習慣、対人関係、宗教上の慣習などを示す可能性があるからだ。

特定の個人やデバイスに関連付けられた位置情報データを「非識別化」することが可能な場合もあるが、正確な位置情報の履歴を持つデータセットを完全に匿名化することは非常に困難だ。大人数のパターンを高度に集約した位置情報データであっても、意図せずにセンシティブな情報が漏えいする可能性はある。

2017年には、フィットネスアプリ「Strava」のユーザーの動きを示す「グローバルヒートマップ」によって、機密扱いの場所に配置されている軍人の位置情報が誤って公開された。位置情報データは、たとえ非識別化または集計されたものであっても、データが保護され、非公開であることを保証するために、チェックとコントロールの対象であるべきだ。

地方自治体やモビリティ企業は、ユーザーのプライバシーに関するこうした問題に真剣に取り組んでいる。この数カ月間、Future of Privacy Forumは米国自動車技術者協会(SAE)のMobility Data Collaborativeや官民の関係者と協力して、プライバシーに配慮した方法でモビリティデータを共有したいと考えている組織が考慮すべき点に焦点を当てた、交通機関に合わせたプライバシー評価ツールを作成した。

モビリティデータ共有アセスメント(MDSA)は、官民を問わず、組織がデータ共有のプロセスにおいて、慎重かつ綿密な法律とプライバシーの検討を行うための運用ガイダンスを提供する。このツールを使ってモビリティデータを共有する組織は、モビリティデータ共有契約の設計に、プライバシーと公平性への配慮を組み込むことができる。

MDSAの目的は、個人のプライバシーを保護し、地域社会の利益と公平性を尊重し、一般市民への透明性を促進する責任あるデータ共有を可能にすることだ。オープンソースで、相互運用性があり、カスタマイズ可能で、ガイダンスを含む自主的なフレームワークを組織に提供することで、モビリティデータの共有に対する障壁を減らすことができる。

これはMDSAツールの最初のバージョンであり、特に地上のモビリティデバイスと位置情報に焦点を当てている。電動スクーターなどのモビリティ・ビークルには車載カメラが搭載されていて、将来的には、MDSAがモビリティデバイスによって集められたイメージやビデオについてのガイダンスを追加することも可能だ。

MDSAツールはオープンソースでカスタマイズ可能なので、この種のモビリティデータを共有する組織は、画像を含むセンサーやカメラのデータを共有する際のリスクとメリットを考慮して編集することができる。

マイクロモビリティサービスは、仕事、食料、医療へのアクセスを向上させる上で重要な役割を果たす。しかし、企業や政府機関がモビリティデータを他の組織と共有する際には、共有するデータの精度、即時性、種類など、考慮すべき複数の要素がある。企業は、バイアスの可能性を考慮した上で、これらの要素を、慎重かつ構造的に評価しなければならない。

それが、都市をより安全かつ迅速に移動できるよう、短期的にはサービスのメリットを最大化し、長期的にはインフラを構築する、モビリティデータの活用の鍵となる。

編集部注:執筆者のChelsey Colbert(チェルシー・コルベール)氏はFuture of Privacy Forum(FPF)のポリシーカウンセル。自動運転車、ライドシェアリング、マイクロモビリティ、ドローン、配送ロボット、モビリティデータ共有などを含むモビリティと位置情報に関するFPFのポートフォリオを担当している。

画像クレジット:Anna Lukina / Getty Images

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(文:Chelsey Colbert、翻訳:Yuta Kaminishi)

【コラム】フェイスブックのスマートグラスはGoogleのミスを乗り越える可能性が高い

Facebook(フェイスブック)は先日、ユーザー視点の動画を撮影できる待望のウェアラブルサングラスを発表した。この新製品に対して、多くの人たちから嫌悪的反応が寄せられているのはもっともだが、それにもかかわらず今回のローンチでFacebookが下した決断の1つにより、Google Glass(グーグル・グラス)が失敗した点を乗り越える可能性が高い。

Facebookは、ビジネススクールのカリキュラムを参考にしてRay-Ban(レイバン)と提携することで、効果的なアプローチを行った。新人のプロダクトマネジャーは、この教訓を忘れてはならない。

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このことをよく理解するためには、まず、Google Glassを見直す必要がある。それは2011年に、一部のユーザーのみを対象としたプロトタイプとして発売された。ベータ版を発表する際の当時のGoogleのアプローチと同様に、ユーザーは1500ドル(約16万6000円)を支払って、この未来のように見え、そして感じさせるデバイスで、遊んだり試したりした。

Google Glassは、Time Magazine(タイム・マガジン)のその年のベスト発明品に選ばれたにもかかわらず、問題が山積みで、まさに未完成の製品だった。これまでに多くの人が、Google Glassの主な失敗は、明確なユースケースを持たずに新しい技術を発表した典型例だとコメントしている。Google Glassで人は一体何をするのだろうか?

またデザインは自社で行い、マーケティングは共同創業者であるSergey Brin(セルゲイ・ブリン)氏が、シリコンバレーからファッションウィークまで、あらゆる場所で着用している姿を見せながら、意図せずして広報活動を行った点も、Google Glassのローンチのまた別の重要な側面だ。実際、Googleは成功の波に乗って、予想されていた新しいおもちゃを提供したものの、結局明確な用途は示せていなかった。

さて2021年9月初旬に時間を進めよう。Facebookは新しいウェアラブルサングラスを発表したが、すぐにそして繰り返しGoogle Glassと比較され続けている。誰もが気になっているのは(隣の人が勝手に私を録画していないかということ以外に)、Facebookの試みがGoogle Glassのように大失敗してしまうのではないかということだ。しかし、サングラスのトップメーカーであるRay-Banと提携し、最も認知度の高いブランドの1つであるWayfarer(ウェイファーラー)を実際のウェアラブルとして採用したことが、Facebook版の成功につながる可能性がある。

Facebookは起業から10年以上が経過しているが、多くの大規模テクノロジー企業と同様に、自社のプラットフォームを時代遅れにしないためには、必然的に製品やサービスにおけるイノベーションの先端を探らなければならない。つまり、Facebookが検討する製品の立ち上げの多くは、リスクがあったり未知の状況というだけではなく、そもそもあらかじめ知り得ない世界へ進む必要があるのだ。何が違うのか?

Facebookをはじめとする多くのテクノロジー予測者が直面している問題は「Knightian uncertainty」(ナイトの不確実性)と呼ばれるものだ。1921年、Frank Knight(フランク・ナイト)博士が、リスクと不確実性の重要な違いを強調する研究を発表した。たとえばリスクとは、Facebookが2022年の広告収入の市場シェアもGoogleより高く保ち続けるために収益をいかに管理できるかなどだ。

両社ともに収益の成長は記録しているので、過去のデータを活用して、将来をかなり正確に予測することができる。ここで重要なのは、そうした予測のツールには強みがあり、それが意思決定に活かされているということだ。

だがこの状況と、Facebookのグラスが成功するかどうかを比べようとしても、これらはまったく違う状況なのだ。どのような歴史的記録を探すことができるだろう。1年目のApple Watch(アップル・ウォッチ)のような需要があるのだろうか?それとも、MicrosoftがiPod(アイポッド)に対抗しようとしたZune(ズーン)のようになるのだろうか?要するに、この製品の需要は不可知なのだ。そして不可知の状況に対する予測にはほとんど価値がないということだ(これがナイトの不確実性と呼ばれているものでもある)。

では、なぜFacebookには成功する可能性が残されているのだろうか。なぜなら、Facebookはもはやスタートアップではないものの、そのチャンスを広げるために起業家としての重要な手法を活用したからだ。つまり、Facebookグラスのローンチに際して、Ray-Banと提携するという効果的なアプローチを行ったことだ。

Googleが人々が求めているものは何かに想像力を巡らせて、新しいメガネのデザインを発明しようとしたのに対し、Facebookはすでにある程度定着しているデザインを活用した。企業や起業家が新しい製品やサービスを立ち上げようとして、予測ツールが上手く働かないときに、結果をコントロールするためには共同作業が重要になる。起業家が自分でコントロールできる、あるいはコントロールできる側面を活用することを促すこうした起業家の手法は、エフェクチュエーション(Effectuation)と呼ばれる。

そのためには、自分が何者であるか、何を知っているか、誰を知っているかから始める必要がある。Facebookは、人々がどんなメガネを好むかを予測したり、そうしたメガネのマーケティングを自ら学ぶのではなく、市場最大手であるRay-Banのノウハウを活用することを選んだ。

Facebookは、新製品の重要な不確実性を回避する手助けのできるパートナーを見つけて、不可知の世界へと踏み出したのだ。それだけでも、成功の可能性は高くなる。

結局のところ、新しい消費者製品のイノベーションは、信じられないほど不確実(リスクではない)で、ほとんどのものが失敗するだろう。つまり、たとえRay-Banとパートナーシップがあったとしても、他の多くのパラメータによって簡単に失敗する可能性があるということだ。しかしFacebookは、優れた起業家のように、今回の製品のローンチに際して重要な起業家的アプローチを活用することで、成功の可能性を高めようとしているのだ。

編集部注:本稿の執筆者Ashish Bhatia(アシシュ・バティア)氏は、ニューヨーク大学スターン校の経営学と起業家学の特任准教授であり、ビジネス、テクノロジー、起業家学の学士課程のアカデミックディレクター

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画像クレジット:Lucas Matney/TechCrunch

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(文:Ashish Bhatia、翻訳:sako)

【コラム】MPG(1ガロンあたり走行マイル)が電気自動車でも重要な理由

もし環境保護が単なるライフスタイルの選択肢の1つなら、自動車メーカーと彼らが作る最新電動自動車は役目を果たしている。Tesla(テスラ)のPlaid(プレイド)は性能が自慢だ。Leaf(リーフ)やPrius(プリウス)、Volt(ボルト)は謙虚さを説き、勧める。そしてFord(フォード)は電動Mustang(マスタング)とF-150を発売して力を見せつける。

しかし、もし消費者の選択がもっとグリーンな未来に向かっているなら、見せびらかしよりもエネルギー効率を重視するのなら、彼らには賢明な購入判断をできる能力が必要になる。そのために、昔ながらのガソリン時代の測定基準が役に立つ。MPG(ガロン当たりのマイル数)のコンセプトだ。

電気自動車(EV)時代になり、クルマの購入はMPGの高いクルマと安いガソリンを探すだけの簡単なものではなくなった。電気のコストはややこしい。価格と効率情報は見つけづらく、理解するのはもっと困難だ。そして最終的には、自分で計算しなくてはならない。

そのためにまず電気エネルギー単位を知る必要がある。「kWh」すなわち「キロワット時」、どちらかというとエンジニアリングの教科書の方が似合う単語だ。コストと炭素排出量を知るために、ドライバーはkWhをドルとマイルに変換する難問を解く必要がある。

それをしないのであれば、あなたは自動車メーカーがあなたと環境のために正しいことをすると信じることになる。

政府はこの問題を先導することができる。実際やってきたし、現在もやっている。ガソリンスタンドはガロン当たりの価格と給油したガロン数と総金額を表示することをが長年義務付けられている。クルマのEPA燃費(ダッシュボードとすべての新車のMPGステッカーに表示されている)はすべてを結びつけてくれる。

つまり、たぶん我々には、EV時代の共通単位がすでにある。コスト、効率、大気汚染について同じ土俵で比較できる親しみやすくて具体的なエネルギー単位だ。

わが同胞なる米国民のみなさん、もう一度、ガロンに「こんにちは」と言おう。たとえガソリン動力車を置き去りにしたとしても、そのエネルギー単位は使い続けることができる。それは具体的であり、ガソリンに含まれているエネルギーで使えるなら、電気にも使えるようにできる。

環境保護庁によれば、1ガロンの無鉛ガソリンにはおよそ34kWhのエネルギーが含まれている。それがわかれば、エネルギーの購入価格がいくらで、それがどこまで遠くへ自分を運んでくれるのかを簡単に計算できる。ガロンは他の電気使用量を理解するためにも役立つので、家庭のエネルギーコストを自動車のエネルギーコストと同列に比較できるようになる。

8月の光熱費をガロン化した結果、次のことがわかった。

  • わが家は56ガロン(212L/1888kWh)分の電気を使用した。
  • わが家の平均電気料金は6.34ドル/ガロン(185円/L)である。
  • Teslaの充電ステーションで、私は8.43ドル/ガロン(25セント[28円]/kWh)払った。

政府はすでに、電気自動車とハイブリッド車のMPG相当値を公開している。MPGを使うことで電気自動車が効率的であの高いガロン当たりコストを埋め合わせていることがはっきりする。中には100 MPG(42.5 km/L)を超えるものもある。

すでにMPGは自動車購入以外にも役立っている。ニューヨーク市のMPG基準は、タクシー燃費を2009年の2倍にすることを義務付けている(さらに同市は、タクシーライセンスの一部をハイブリッド車のために確保している)。Uber(ウーバー)とLyft(リフト)はグリーン政策を打ち出したが、規制状態の緩い彼らはMPG標準を回避することが可能だ。

スマートなエネルギーショッピングだけでは気候変動を解決できない。エネルギー監視団体も、業界の炭素排出への影響を、発電とEV関連ハードウェア生産の両面で監視する必要がある。

しかし、他の条件が同じなら、使用エネルギーが少ないことは大気汚染が少ないことを意味する。そして、共通する単位は、車だけでなはく、はるかに多くを網羅するスマートな選択肢へと我々を誘ってくれる。安いときに電気を貯めるためにバッテリーを買うべきか?ソーラーパネルに意味はあるのか? 断熱や効率のよい暖房器具はどうなのか?

MPGの高い自動車と、1ガロンがとても役立つ住宅。合わせれば確かなライフスタイルの選択肢になるだろう。

編集部注:本稿の執筆者Tom Rutledge(トム・ルトレッジ)氏は、タクシーとライドシェア業界における都市主導のイノベーション実現に特化したスタートアップWapanda(ワパンダ)の共同ファウンダー。

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(文:Tom Rutledge、翻訳:Nob Takahashi / facebook

【コラム】宇宙探査には助成金の支給と規制が必要だ

1989年、Tim Berners-Lee(ティム・バーナーズ=リー)氏は今日のインターネットが普及を促進したWorld Wide Webを発明した。しかし彼は、多くの人々がこの技術によるメリットを享受することを望んだために、この技術を保護することをよしとしなかった。30年後、インターネットのほとんどの力と多大な利益は、少数のテックビリオネアに独占され、インターネットが生まれた当初約束されていたことのほとんどは実現されていない。

宇宙に関して同じ轍を踏まないためにも、私たちは競争を生み出し、コストの削減を実現するために新規参入者に助成金を支給すべきである。また、宇宙への旅を安全なものにするための規制も必要である。

宇宙は重要である。宇宙は数え切れないほどの仕事と燃料経済を生み出し、また気候変動に対する解決策をもたらす可能性さえある。投資家たちはすでにこの可能性に目を付けている。宇宙産業は、2030年までに 1.4兆ドル(約154兆円)の市場価値を生み出す可能性があるとされているが、彼らはこの宇宙業界の企業に何億ドルもの資金を注ぎ込んでいるのだ。

宇宙は広大で、とても少数のテックビリオネアに独占されるとは思えない。しかし、1989年にはインターネットもそのように考えられていたのだ。私たちはこれをしっかり理解する必要がある。宇宙産業は機械工から宇宙航空エンジニア、マーケティング、情報、物流の労働者まで、世界規模で雇用を生み出し、経済成長を促進する可能性があるためだ。

そのためには競争が必要である。しかし現在は、少数の企業が、世界のためというよりは、その企業の創設者の利益のために事業活動しているという状況だ。

私たちはインターネットで犯した過ちを繰り返してはならないし、介入が必要なほどテクノロジーが乱用されるようになるのを座して待っていてはならない。例えば、ケンブリッジアナリティカのスキャンダルでは、民間のテクノロジー企業が、社会に害を与えること(これは規制当局が保護すべき分野である)をいとわずに自らの利益(これは彼らの株主に対する義務である)のために、非常に危険なソーシャルメディア操作を行った。

宇宙では利害はさらに大きくなるだろう。またそれらは少数の国というのではなく、人類全体に影響を及ぼす。環境に関わる危険があるし(私たちが徹底的な調査を行っているのは「地球」での飛行による二酸化炭素の負荷であって、宇宙飛行ではない)、また宇宙での事故は人命が奪われると同時に、危険な破片が地上に降ってくることにもつながる。

これらの危険は予期できないものではない。Virgin Galacticが初めて死者を出したのは2014年のことだった。Space X の発射は約300人の乗客を乗せた飛行機が 大西洋を横断するのに相当する 二酸化炭素を排出しる。また、2021年始め、中国のロケットからのスペースデブリが無制御の状態でモルジブに 落下したこともあった。

私たちは、こうした事故が、より大規模な形で再び引き起こされる前に行動を開始しなければならない。

宇宙旅行は、1%のごく限られた人々にインスタ映えする瞬間を与えたり、サービスを提供するビリオネアの富を増やす以上のものであることが可能であるし、またそうでなければなるまい。

宇宙産業は、最良のものを最大限の人々に届けられるよう運営されるべきである。これは助成金の支給から始まる。

つまり、私たちは宇宙旅行を他の交通手段と同じように取り扱うべきなのだ。宇宙旅行を経済的に持続可能なものにするには、政府によるある種の介入がほぼ絶対的に必要である。

こうした状況は以前にもあった。飛行機による旅行や高速道路の発達、人件費の上昇で米国の2大鉄道会社が破産に至った時、ニクソン政権が介入しアムトラックを発足させたのだ。

これは、思想的な側面から推進されたものではなく(それとは正反対である)、米国が州間移動による経済的恩恵を得るための決定だった。創設から50年たってもアムトラックは採算が取れていない状態が続くが、それでも他の多くの産業や何百万もの個人や家族が依存する重要な経済的インフラの一部である。

これと同様のやり方を宇宙旅行にも適用する必要がある。Virgin Galacticのチケットは25万ドル(約2750万円)と予測されており、このような超豪華な旅行市場から恩恵を得る個人はほとんどいないだろう(これはごく初歩的な宇宙旅行商品の値段で、Virginの競合他社はこの額の数倍の値段を付けている)。

今宇宙産業に助成金を支給したなら、宇宙産業における競争を促進しながら、宇宙産業の広範な利益をすべて実現することのできるクリティカルマスに到達することができるだろう。

今のうちにこの問題に取り組めば、寡占企業が出現してからなんとかしようと戦うより(これは今米国連邦取引委員会が何十年も遅れてビックテックに行おうとしていることである)ずっと楽に物事が進むだろう

宇宙旅行はビリオネアだけの興奮剤やおもちゃではない。これは物理的にも経済的にも私たちにとって最後のフロンティアなのだ。

これを成功させたいなら、地球上での成功や失敗から学び、それらを宇宙に適用しなければならない。

それは、助成金、支援、規制と安全を意味する。これらは地球上でも重要だが、宇宙では絶対に不可欠なものなのである。

編集部注:執筆者のJoshua Jahani(ジョシュア・ジャハニ)氏は、コーネル大学およびニューヨーク大学の講師。中東・アフリカを専門とする投資銀行ahani and Associatesのボードアドバイザー。

画像クレジット:Vertigo3d / Getty Images

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(文:Joshua Jahani、翻訳:Dragonfly)

【コラム】2008年、AnimotoがAWSを追い詰めた日

現在、Amazon Web Services(アマゾンウェブサービス、AWS)は、クラウドインフラストラクチャサービス市場を牽引する企業であり、600億ドル(約6兆6000億円)と圧倒的なビジネス規模を誇る。しかし、2008年当時のAWSはまだ日が浅く、クラウドサーバーの需要拡大に対応するために奮闘していた。実際、AWSがAmazon EC2(アマゾンEC2)のベータ版を発表したのは、15年前、2006年8月25日のことだ。それ以来、AWSはスタートアップに無制限のコンピューティングパワーを提供し、当時、主力のセールスポイントとなった。

EC2は、大規模なエラスティックコンピューティング(必要に応じてスケールアップし、不要になったら削除するサーバーリソース)を販売するための、最初の本格的な試みの1つだった。2008年、Jeff Bezos(ジェフ・ベゾス)氏がスタートアップを対象とした初期のセールスプレゼンテーションで「雷が落ちても大丈夫なように準備をしておかないと、大いに後悔することになるだろう。もし雷が落ちたときに準備ができていなかったら、その状況に対処するのは難しい。だからといって、雷が落ちなかったときのことを考えると、非現実的に冗長な物理的インフラを準備するわけにもいかない。だから、(AWSは)その難しい状況を手助けする」と語っている。

2008年、この価値提案に試練が訪れた。AWSの顧客であるスタートアップAnimoto(アニモト)が、South by Southwest(サウス・バイ・サウスウエスト)でFacebook(フェイスブック)アプリを発表した直後、ユーザーが4日間で2万5000人から25万人に膨れ上がった時のことだ。

当時のアニモトは、ユーザーが写真をアップロードして、それをBGM付きの動画にできるという、一般消費者向けのアプリを提供していた。今となっては大したことのないサービスに聞こえるかもしれないが、当時としては最先端の技術であり、1つの動画を作るのにかなりのコンピューティングリソースを使用していた。Web 2.0のユーザー生成コンテンツというだけでなく、モバイルコンピューティングとクラウドの融合という、今日では当たり前のことをいち早く実現していたのだ。

2006年に設立されたアニモトにとって、AWSを選択することはリスクの高い提案だったが、サービスへの需要がダイナミックに変化することから、自社でインフラを運営することは、それ以上のリスクをともなうことに気づいた。自社でサーバーを立ち上げるには、莫大な設備投資が必要だったのだ。アニモトは当初、最初の資金を集める前にサーバーを構築していたため、AWSに注意を向ける前はそのような方法を取っていたと、同社の共同創業者兼CEOのBrad Jefferson(ブラッド・ジェファーソン)氏は説明する。

「当社では、何らかの方法でコンセプトを証明する必要があると考え、自分たちでサーバーを構築し始めた。その結果、概念実証の段階でさらに弾みが付き、ある程度のユーザーにサービスを利用してもらえるようになった。そのため、一旦一歩下がって、失敗に備えるだけでなく、成功に備えるには何が必要なのか、考えてみることにした」と同氏はいう。

AWSの採用を決断することは、現在の状況を考えれば簡単なことのように思えるかもしれないが、2007年当時としては、ほとんど実績のないコンセプトに、会社の命運を託すことを意味した。

「AWSとEC2の躍進には眼を見張るものがあるが、当時としては本当にギャンブルだった。何しろ、eコマース企業と『インフラの運営について』話していたのだ。Amazonは、自分たちがそういったサーバーを持っていて、それが完全に動的に利用できるということを納得させようとしていた。今にして思えば明らかなことだが、当時、当社のような会社がAWSに賭けるのはリスクがあった」とジェファーソン氏は話す。

アニモトは、AWSが謳っていることの実現を信じるだけでなく、自社のソフトウェアをAmazonのクラウド上で動作するように半年間かけて再設計する必要があった。しかし、ジェファーソン氏が収支を計算してみると、この選択は理に適っていることがわかった。当時のアニモトのビジネスモデルは、30秒の動画は無料、それ以上の動画は5ドル(当時約600円)もしくは1年あたり30ドル(同約3600円)というものだった。このモデルを実現するために必要なリソースレベルをモデル化しようとしたところ非常に難しかったため、同氏と共同創業者たちは、利用者が急増したときでも対処できることを期待し、AWSに賭けるという決断を下した。

そのテストは、翌年のサウス・バイ・サウスウエストで行われたが、アニモトがFacebookアプリを発表したことで需要が急増し、結果として当時のAWSの能力の限界を押し上げることになった。同社が新しいアプリを発表した数週間後には、関心が爆発的に高まり、Amazonは同社のサービスを継続的に運営するために必要なリソースの確保に奔走することになったのだ。

現在、AmazonのEC2担当副社長を務めるDave Brown(デイブ・ブラウン)氏は、2008年当時、エンジニアとしてチームに参加していたが「(アニモトの)すべての動画は、個別のEC2インスタンスを起動し、処理し、終了させることで対応していた。ところが、前の月は、1日あたり50~100インスタンスを使用していたのに、火曜日のピーク時には約400、水曜日には900、そして金曜日の朝には3400インスタンスが使われるといったことが起きていた」と語る。AWSが急増した需要に必要なリソースを提供できたため、アニモトはその需要に対応することができた。アニモトの使用量は最終的に5000インスタンスに達したが、その後落ち着き、エラスティックコンピューティングが実際に有益であることを証明した。

しかし、ジェファーソン氏によると、その時点でアニモトは単にEC2のマーケティングを信用していただけではなく、AWSの幹部と定期的に電話で話し、需要が増えてもサービスが破綻しないことを確認していたという。「話の要点は、もっとサーバーを用意してくれ、もっとサーバーが必要だ、ということだった。AWSが自分たちのウェブサイトや他のサイトから処理能力を奪ったのかどうかはわからないが、AWSのおかげで、当社が必要としていた処理能力を確保することができた。そして、その急上昇を乗り越えることができ、その後は自然と落ち着いていった」と同氏は語る。

アニモトをオンラインにしておくというコンセプトは、同社の最大のセールスポイントとなり、友人や家族以外でこのスタートアップに投資したのは、実はアマゾンが最初の企業だった。その後同社は、2011年に最後の資金調達を行い、合計3000万ドル(当時約24億円)を調達した。現在、同社はどちらかというとB2Bの事業を中心としており、マーケティング部門が簡単に動画を作成できるよう支援している。

ジェファーソン氏は、具体的なコストについては言及しなかったが、多くの時間休眠しているサーバーの維持にコストをかけることは、同社にとって許容できる方法ではないと明言する。クラウドコンピューティングが最適なモデルであるとわかり、同社は今もAWSを利用していると同氏はいう。

クラウドコンピューティングは、必要なときに必要なだけのコンピューティングを提供することを目的としているが、当時の特殊な状況において、その概念が大々的に試されることとなった。

現在、Amazonでは毎日6000万インスタンスを処理していることを考えると、3400インスタンスの生成に苦労したというエピソードは古臭いものに思えるが、当時としては大きな挑戦であり、エラスティックコンピューティングの考え方が単に理論に留まらないものであることをスタートアップに示した功績は大きい。

画像クレジット:EThamPhoto / Getty Images

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(文:Ron Miller、翻訳:Dragonfly)

【コラム】増えてきたTikTokきっかけの就職、そこに潜むバイアスに注意

ソーシャルメディアは、その登場以来、成功への足がかりとなってきた。自作のYouTube(ユーチューブ)動画が話題を呼び、レコード会社との契約に至ったというストーリーは、ソーシャルメディアプラットフォームの神話となっている。それ以来、ソーシャルメディアは、テキストベースのフォーマットから動画共有のようなビジュアルメディアへと一貫して推移してきた。

ほとんどの人にとっては、ソーシャルメディア上の動画がスターダムに上がるためのチケットになるわけではないが、ここ数カ月、TikTok(ティックトック)に投稿した動画がきっかけとなって職に就いたという話が増えてきている。LinkedIn(リンクトイン)でさえ、最近「Cover Story(カバーストーリー)」という機能を追加し、ユーザープロフィールに動画を取り込めるようにした。これにより求職者は自身のプロフィールを動画で補強できるようになった。

テクノロジーが進化し続けると、正規の履歴書がTikTokの動画だというような世界も来るのだろうか。もしそうなった場合、労働力に及ぼすマイナスの結果や影響として、どのようなことが想定されるだろうか。

なぜTikTokが求職分野に向かっているのか

ここ数カ月、米国の求人数は1010万人と史上最高を記録している。パンデミックが始まって以来、求人数が労働者数を上回ったのは初めてのことだ。雇用側は、空いたポジションに見合った優秀な候補者を集めるのに苦労している。その点から見れば、多くの採用担当者が人材を見つけるためにTikTokのようなソーシャルプラットフォームや動画の履歴書に頼っているのもうなずける。

しかし、労働者が不足しているからといって、その職務に適した人材を見つけることの重要性を疎かにしてよいわけではない。採用担当者にとって特に重要なことは、ビジネスの目標や戦略に合致したスキルを持つ候補者を見つけることだ。例えば、ビジネスを遂行するうえでデータ駆動型のアプローチを採用する企業が増えると、収集したデータの意味を理解するために、アナリティクスや機械学習のスキルを持つ人材がより多く求められる。

採用担当者は、このような新しい候補者を見つけるのに役立つイノベーションに前向きであることがわかっている。採用活動は、以前のように人事チームが紙の履歴書や正式なカバーレターの束をより分けて、適格な候補者を見つけ出すような手作業ではなくなった。また、LinkedInの台頭にともない、オンラインでのつながりを活用するようになり、GlassDoor(グラスドア)のようなサードパーティの求人サイトを利用して有望な求職者を引き寄せることもできるようになった。バックエンドでは、多くの採用担当者が高度なクラウドソフトウェアを使って、受け付けた履歴書を精査し、職務内容に最も適した候補者を見つけ出している。しかし、これらの方法はいずれも、依然として従来のテキストベースの履歴書やプロフィールをアプリケーションの中核としている。

ソーシャルメディア上の動画では、候補者の口頭でのコミュニケーション能力やプレゼンテーション能力など、書面では簡単に伝わらないソフトスキルをアピールすることができる。また、採用担当者が候補者の個性をより詳しく知り、自社の文化にどのように適合するか判断する手段にもなる。このようなことは多くの人にとって魅力的なことかもしれないが、その結果に対する準備はできているだろうか。

クローズアップに対する準備不足

採用活動におけるイノベーションは、仕事の未来にとって重要な位置を占めるが、TikTokや動画の履歴書による過剰なアピールは、採用環境を後退させる可能性がある。求職者が企業に自分を売り込むための新しい手段を提供する一方で、求職者、採用担当者、ビジネスリーダーが注意すべき潜在的な落とし穴があるのだ。

動画履歴書の可能性を広げる最大の要素は、同時に最大の問題点でもある。動画は、スキルや実績よりも人物そのものを必然的に強調してしまうのだ。採用担当者が候補者について最初の評価をまとめるとき、候補者が人種、障害、性別などに基づき保護されたクラスに属しているかどうかなど、通常であれば評価プロセスのかなり後にならないと目にすることのない情報に直面することになる。

ここ数年、雇用主が職場の多様性をどのように優先しているか、あるいは優先していないかに対する意識や監視の高まりとともに、多様性、公平性、インクルージョン(DEI)への関心が急速に高まってきている。

しかし、動画によって候補者を評価することは、無意識、あるいは意識的なバイアスがかかる機会を増やすことにつながり、これまでのDEIにおける成果を台無しにしてしまう可能性がある。慎重に対処しないと、企業イメージに傷をつけたり、差別訴訟のような深刻な事態を招いたりする可能性があり、企業にとっては危険な状況となる。

多様性に対する実績が乏しい企業では、候補者の動画を観たという事実が訴訟で不利に働く可能性がある。動画を見ている採用担当者は、候補者の人種や性別が自分の判断にどのような影響を与えているか気づいてさえいないかもしれない。そういった理由から、筆者が見てきた多くの企業では、採用フローに動画のオプションを導入しても、採用担当者は採用プロセスの後半まで動画を見ることはできない。

しかし、たとえ企業が保護されたクラスに対する偏見を管理しDEIの差し迫った問題に対処したとしても、採用活動に動画を利用することで、神経多様性や社会経済的地位など、十分に保護されていないクラスでは問題が残る。優れたスキルと豊富な実績を持つ候補者が、動画では自分をうまく表現できず、動画を観る採用担当者には頼りない印象を与えるかもしれない。その印象は、たとえ仕事とは関係なくても、採用担当者の意識に影響を及ぼす可能性がある。

また、裕福な環境にある候補者は、優れた機材やソフトウェアを利用して魅力的な動画履歴書の録画や編集ができるだろう。そのような環境にない他の候補者の動画は、採用担当者の目には、洗練されたプロフェッショナルなものとは映らないかもしれない。しかしそれでは、チャンスを得るうえで新たな障壁となってしまう。

職場でのDEIの対処について重要な岐路に立たされている今、雇用主と採用担当者は、候補者を見つけて採用するプロセスにおいて、バイアスを低減する方法を確立することが急務だ。業界を前進させるにはイノベーションが重要だが、最優先事項が損なわれてはいけない。

ボツにされないために

このような懸念にもかかわらず、ソーシャルメディア、特に動画ベースのプラットフォームは、ユーザーがパーソナルブランドを拡大し、雇用の可能性につながる新たな機会を生み出している。これらの新しいシステムは、求職者と雇用者の両方にメリットをもたらす可能性がある。

まず、採用活動で使う従来のテキストベースの履歴書やプロフィールを置いておく場所を常に確保する必要がある。たとえ採用担当者が候補者の能力に関する情報をすべて動画から得られたとしても、カメラに映らない方が自然と安心できる人もいる。採用プロセスでは、書面であれ、ビデオであれ、できるだけ良い印象を与えようとする気持ちが重要だ。それは、自分以外の力を借りても構わない。

その代わりに、候補者や企業は、過去の同僚や上司が候補者を推薦する場として動画を利用することを検討すべきだ。他者による推薦は、単に自分自身で長所をアピールするよりも、応募者の能力に信頼を置いている人がいることも示すため、応募において大きな効果がある。

企業が優秀な人材を獲得しようと躍起になっている昨今、動画の履歴書は、これまで以上に簡単に作成や共有できるため注目を集めている。しかし、この目新しい履歴書の共有方法に飛びつく前に、成功のための準備を確実に整えておく必要がある。

新しい採用活動のテクノロジーの目標は、新たな障壁を作ることなく、求職者が自分自身を輝かせる機会をより簡単に見つけられるようにすることだ。動画の履歴書がそれを実現するには、いくつかの対処すべき重大な懸念があり、雇用主は、今までのDEIへの取り組みの成果を損なう前に、動画履歴書の弊害について考慮することが重要だ。

編集部注:本稿の執筆者Nagaraj Nadendla(ナガラジ・ナデンドラ)氏は、Oracle Cloud HCMの開発担当SVPで、Oracle RecruitingやTaleoなどのクラウド採用ソリューションの開発を担当している。

画像クレジット:C.J. Burton / Getty Images

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(文:Nagaraj Nadendla、翻訳:Dragonfly)

【コラム】ネットワーク効果とは本質的に反競争的なものである

Appleは、アプリ開発者に対し、App Storeを通さずに直接消費者にアプリを販売することを制限する規則を課している。米国連邦判事は先に、この規則を無効とした。

このニュースを受け、Appleの株価は3%下落した。これは、中小規模のアプリ開発者にとって、顧客に直接使用料を請求できる関係を構築できることを意味するため、朗報である。しかしAppleはこの分野を支配するビックテックの1つに過ぎない。

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Amazon、Facebook、Grubhubといったテックジャイアントは、リセラーに厳格な利用規約を適用して服従を強いている。判事によるこの判断がこれらのテックジャイアントにどういった影響を及ぼすかのほうが、Appleと中小規模のアプリ開発業者との小競り合いより大きな問題である。Appleとアプリ開発業者の戦いは、より規模の大きい戦いの中の小さな争いに過ぎない。

アプリ開発業者はAppleのApp Storeでアプリを売るごとに最大30%を支払う。Amazonのリセラーの場合は、毎月のサブスクリプション料金の他に、8%から15%の販売手数料、出荷手数料、その他の雑費を支払っている。またGrubhubはレストランに対し、注文ごとに15%、クレジットカード決済費、注文処理費、そして10%の配達手数料を課している。

アプリ開発業者と同じく、オンラインリセラーやソーシャルメディアのインフルエンサーはすべて「よその誰かが所有するプラットフォームを利用して、健全なマージンを稼げる持続可能なビジネスを構築できる」という大きな嘘にだまされている。実際には、市場を独占するApp Store、オンラインマーケットプレイス、ソーシャルネットワークがユーザーを一方的に排除したり搾取する力を持っているのが現実で、人々はこれに対してどうすることもできないでいる。

App Store内、マーケットプレイスのリセラー、ソーシャルメディアのインフルエンサーの間には、健全な競争が存在している。しかし、本当の問題は、ソーシャルネットワークやオンラインマーケットプレイスプロバイダー自体であるということを誰も正視していないように思われる。ある意味で、彼らは自らの領域を完全に支配するデジタル独裁者のようになっている。

これは、自分たちの業界に届けられる新しいオンラインサービスに興奮している中小企業が認識しておくべきことである。というのも、そうしたサービスが、安定したビジネスを育てる自らの能力に直接的な影響を及ぼすからである。連邦判事のこの度の決定は、デジタルビジネスにおける本当の目標とは、エンドユーザーと直接的な関係を築くことである、ということを示唆しているのだ。

インターネット上ではUber、Airbnb、Udemyといったデジタルマーケットプレイス運営者が囲い込んだ庭の外で、馬を水辺につれて行き、さらに水を飲ませることができ企業こそが、本当の競争力を持った企業なのである。コンテンツや電子商取引においてほとんどの中小企業が認識していないのはこの点である。自らが所有するウェブサイトやメディアだけが他からの拘束を受けずにエンドユーザーに直接製品を販売することのできる自由な場なのだ。

AppleのApp Storeを利用するモバイルアプリ開発業者、Amazonのリセラー、Instagram、YouTube、TikTokにコンテンツを投稿する意欲的なクリエイターたちは、みなデジタル界の巨人の絶対的な管理下にある。デジタル界の巨人は絶対的権力に裏打ちされた独自のルールで欲しいままにその領域を支配しているのだ。

オンラインマーケットプレイスやソーシャルネットワークを利用することと引き換えに、私たちは不当な扱いを受けている。私たちはいわばデジタルな世界でテックジャイアントの畑を耕す小作人のようである。Amazonのリセラーは粗利益の一部を上限を設けずに搾取する地主と収穫を分割することを余儀なくされている。TikTokの熱心なフォロワーは、TikTokが囲い込むことになる視聴者の増員に結びつく。

これらのテックジャイアント(彼らはすべてもともとは、一からユーザーを増やしたスタートアップだった)は今や自由にそして恣意的に抑圧的な規則を押し付け実施する。テックジャイアント は、小さなスタートアップに対し、ユーザーのメールアドレスをリクエストすることさえ禁じているし、都合が悪ければ彼らをプラットフォームから排除することもある。しかしSpotifyやNew York Timesが同様に振る舞えばどうなるかを考えるべきである。両者とも判決が出される前から、すでに直接的な販売とApp Storeを通した販売を行っていた。

これをどのようにみれば競争的といえるだろうか?この判決が出て以降も、ビックテックは依然として誰が利用規約に違反したか、プラットフォームから誰を削除するかを判断する役割を担っている。これは彼らのユーザーだけのことではない。これは彼らの宇宙、彼らの支配、彼らの規則、彼らによる規則の執行なのである。

1948年の米国対パラマウント・ピクチャーズの訴訟では、最高裁判所は、映画スタジオは、どの映画を上演するかを排他的に決定することができるため、自ら映画館を所有することはできないという判決を下した。パラマウント・ピクチャーズがどの映画を上映するかをコントロールすることで競争を抑圧したために、最高裁がそれを禁じたというわけだ。

今日、ソーシャルネットワークはプラットフォームでエンドユーザーが視聴する内容をコントロールし、ボタンを押すだけで、誰でもいつでも、自由に締め出すことができる。資本主義にインターネットが突きつけている大きな課題は、ネットワーク効果が本質的に反競争的であるということだ。テックジャイアントという勝者がすべてを支配する市場は、自由市場経済というよりは国家による管理経済を彷彿とさせる。

私達はウェブのおかげで、ものを売り買いするための世界規模のマーケットプレイスへアクセスすることができる。その一方で、競争力のあるウェブサイトを立ち上げるための知識やリソースを持っていないために大半の人がビジネスに利用するサービスを、少数の主要プロバイダーがコントロールしている。利用者は独自のドメインと優れた検索ビジビリティを持たない限り、実質的な保護なくプラットフォームから排除され、エンドユーザーや視聴者へのアクセスを失う危険に常にさらされているのである。

ネットワーク効果とは、あるオンラインマーケットプレイスが支配的になると、よい取引をするためにみなが支配的なサービスに引き寄せられ、他の競合するマーケットを無力化してしまう状態をいう。勝者がすべてを手にするテック企業のゴールと自由市場のゴールとの間にはそもそも本質的な対立があるのである。

支配的なオンラインマーケットプレイスにおいては、競争は、そのユーザー同士の間にのみ存在する。一方、マーケットプレイスプロバイダーが責任を問われることがない。彼らが利用規約を監視するのに不完全なAIや海外の請負業者を使うことを決定したところで、ユーザーがこれに抗う実質的な方法はない。約6万人しか社員がいないFacebookがどうやって30億人近いユーザーを適切に管理できるというのだろう?私達が目にしてきたように、それは不可能である。

アプリ開発業者、オンラインレセラー、クリエイターにとって唯一の賢い選択肢は、オープンウェブ上のオープンソースである。テックジャイアントのエンドユーザー(またはソフトウェア)に依存するのではなく、WordPressあるいはDiscordといったソフトウェアにより駆動される自分自身のオンライン領域を持てば、創設者が自社を上場したからといって、または貪欲な投資銀行がそのプラットフォームを買収したからといって、絞り上げられるのではないかと心配する必要がなくなるのだ。そうして初めて自らの利鞘を守ることができるのであり、利用規約も実質的な有効性を持つものになるだろう。

政治的な意味合いはさておき、Donald Trump(ドナルド・トランプ)前大統領がプラットフォームから追放された際に私たちが目にしたように、FacebookやTwitterの利用を禁止されてしまうと、実質上どこへも行き場がない。彼らがあなたを追放すると決定したなら、それまでである。共和党が上院の多数派でなくなったのと同じ日にトランプ前大統領がFacebookとTwitterのアカウントを失ったのは偶然ではない。共和党が上院の多数派に返り咲いたら、トランプ前大統領はソーシャルメディアのアカウントを取り戻すだろう。ソーシャルネットワークは、立法府の多数派に譲歩することよって規制当局の矛先をうまく回避しているのだ。

従って、新たに導入されたアマゾンインフルエンサープログラムにそんなに興奮しないことだ。持続可能なデジタルビジネスを築き上げたいなら、手数料を取らないソフトウェアによって自分自身のメディアプレゼンスを確立する必要があるし、顧客の連絡先情報へアクセスできること、またアルゴリズムの調整に影響を受けない顧客を持つことが大切なのである。

編集部注:本稿の執筆者Eric Schwartzman(エリック・シュワルツマン)氏は、個人や組織のデジタルマーケティングへの移行を支援するための体系的なプログラムを有するデジタルマーケティングコンサルタントで「The Digital Pivot:Secrets of Online Marketing」著者。

画像クレジット:skegbydave / Getty Images

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(文:Eric Schwartzman、翻訳:Dragonfly)