MITのSolveは本当に実効性のある社会改革コンテストの新しい形を示す

[著者:Ziad Reslan]

10年ほど前に、McKinsey&Companyが革新を促すためのコンテストの上手な活用方法を記事にして以来、業界全体が社会革新コンテストを中心に成長してきた。そうした「世界の救済」をテーマとしたコンテストも、形式化が進んだ。ドラムを鳴らして賞に話題を集め、大手企業と提携して資金を集め、著名人の審査員を並べる。世界中からできるだけ多くのアイデアを募り、そこから多くのメディアが注目するきらびやかなイベントで、ピッチを行うファイナリストを絞り込む。

最終選考のステージでは、ほんの数分間のピッチをもとに勝者が決まり、数百万ドルもの賞金が渡される。そんなコンテストを行うソフトウエア・プラットフォームをお持ちではない? 大丈夫。こうした作業を10ドルから数十万ドル程度の予算で代行してくれる業者がたくさん現れている。そんな業者は加速度的に成長し、賞金の額も1970年には2000万ドル(現在の相場で約22億7000万円)に及ばなかったものが、わずか40年後には3億7500万ドル(約426億円)にまで跳ね上がっている。

しかし、この賞金は世界を救済する目的のために、本当に役立っているのだろうか? それを示する証拠はあまりにも少ない。慈善活動のリーダーの中には、大きな疑念を抱いている人もいる。

その一方で、マサチューセッツ工科大学(MIT)は、Solveという、別のアプローチによる社会革新コンテストを実施している。コンテストで有効と思われるアイデアを選び、技術系アクセラレーター・プログラムを融合させるのだ。それには、結果を重視した受賞後の教育も含まれている。

Solveは、すでに過密状態にある社会革新コンテストの世界に参入を試みている。内容がかぶっている賞も少なくないが、どれもこの分野の「ノーベル賞」になろうと競い合っている。賞が増えれば騒ぎも大きくなる。注目を集めるために、賞金の額はどんどん吊り上げられる。

しかし、民間の裕福な企業は、賞金が革新的な良い結果に活用されるかどうかまでは保証していない。2004年、Bigelow Aerospaceは、有人宇宙飛行カプセルのアイデアを募る賞金5000万ドル(約56億9000万円)のSpace Prizeコンテストを開催したが、宇宙研究者たちの想像力を掻き立てるものを得ることができず、結局は勝者のないまま終わってしまった。2009年にはNetflixが、映画のお薦めを行うアルゴリズムを10パーセント効率化するアイデアに100万ドル(約1億1400万円)の賞金を出すNetflix Prizeコンテストを実施した。これは、プログラマーたちの競争を煽ったが、結局のところ、Netflixは社内でよりよい方法が開発されたために、計画自体が中止されてしまった。

全体的に社会革新コンテストは、派手でカリスマ性のあるプレゼンテーションに賞を贈るもので、英語が下手だったり、内気だったり、美しいスライドを作れない者には辛い場所になっている。

しかし、9月23日の日曜日、ニューヨークにて3年目の最終選考会を開催したSolveは、独自の方向性を示している。

あらかじめ内部で課題を決めている他のコンテストとは違い、Solveはまず、クラウドソーシングで課題を探るところから始める。Solveのスタッフは、何カ月もかけて世界中でハッカソンやワークショップを開催し、その年のコンテストの課題に相応しい、もっとも差し迫った問題を4つ選び出す。今年の課題は、教師と教育者、未来の労働力、健康の最前線、海沿いの街だ。

その課題が、世界中の参加者に公開される。申し込みの基準は低く設定してあるため、最終的に110カ国から1150件の応募があった(世界の60パーセントの国から少なくとも1件の申し込みがあったことになる)。

先進技術のためのGM賞の受賞者たち(写真:Adam Schultz | MIT Solve)

ただし、アイデアだけでは参加できない。実際に稼働するプロトタイプが必要だ。それは、成長、パイロット、スケールのどの段階でも構わないが、技術主体でなければならない。応募アイデアは、さまざまな業界、政府間組織、学界から選ばれた審査員によって吟味され、4つの課題ごとに15チームが決勝に進む。決勝では、合計60チームが丸一日をかけて細かな質問に答える。その後、アイデアが評価される。

翌日、最終選考に残ったすべてのチームは、それぞれ3分間のプレゼンテーションをステージ上で行う。重要なのは、勝者は1チームだけでなく、各課題ごとに8チームが選ばれることだ。

それぞれの勝者には、まず1万ドル(約114万円)の賞金が贈られ、さらに、General Motors、Patrick J. McGovern Foundation、Consensys、RISEといった協賛団体や企業から、何十万ドルという共同出資金が用意される。

たとえば今年、ウガンダの医療系スタートアップNeopendaは、Solveを通して3万ドル(約341万円)の追加資金を受け取った。これは、Citiがスポンサーを務める国連プログラムからの出資だ。また、親と教育者の個別指導技術の開発費用として、インテリジェント・メッセージ・アプリTalkingPointが、GMとセーブ・ザ・チルドレンの支援を受けた(今年の受賞者に関する詳細はこちらでご覧いただける)。

賞金をもらって終わりという「一度きりのコンテスト」と違うのは、参加者が「Solver」に選出されたときから本当の仕事が始まるといいう点だと、コミュニティー担当責任者Hala Hannaは私に話してくれた。Solveで優勝してSolverになると、12カ月間にわたりMITとのつながりが持て、支援が受けられる。「MITを始めとするネットワークを提供し、協力関係を仲介するところに、私たちの付加価値があります」と彼女は説明している。

Solveの方法が注目を集める最大の理由は、出資者が、支援のための追加資金を拠出する点にあるだろう。日曜日の閉会イベントでは、Solveの国際プログラム責任者Matthew Minorが、Solveの名前入り靴下を履いて上機嫌でステージに上り、大きな笑みを見せていた。彼は優勝者の名前を伝え、さらに追加出資の機会についても話をした。もともとのSolveの支援者のうち、Atlassian Foundationとオーストラリア政府の2つは、計画に取り組む企業に260万ドル(約2億9600万円)もの出資の継続を決めた。沿岸地域の復興を助ける非営利団体RISE Resilience Innovationsは、これまでも投資の見通しを見極めるためにSolveを密接に支援してきたが、沿岸地区復興に焦点を当てた企業に最大100万ドル(約1億1400万円)の出資を行っている。

オーストラリアは、過去の勝者に対してプログラム終了後の規模拡大のために出資を行っている。そのうちのひとつに、落ちこぼれた子どもたちが卒業証明書を受け取れるように必要な援助を行うインドネシアのデジタル・ブートキャンプRua​​ngguruがある。Solveに参加する以前、このスタートアップは、すでに100万人の子どもたちに支援を行っていた。今回のプログラムを通して資金を得たことで、昨年末までに300万人のインドネシアの子どもたちを支援できるようになった。Ruangguruの創設者の一人Iman Usmanは、Solveとパートナーシップを組むことで、単独では不可能だったインドネシア全土への拡大が実現したと私に話してくれた。

明らかにSolveは、多様性を重んじている。Solveのスタッフしかり、(おそらくそうした理由もあってか)勝者に選ばれた人たちもそうだ。Solveには20名の正規従業員がいるが、そのうち14名が女性だ。7つあるチームのなかで女性がリーダーを務めるのは6つ。そして(私が数えたところでは)、少なくとも4つの大陸から7カ国の人たちがスタッフに加わっている。

今年の最終選考に勝ち残った33のSolverチームは、15の異なる国からやって来た。その61パーセントは女性がリーダーだ。技術業界が多様性の拡大に苦労している中で、Solveの挑戦的なデザインと宣伝に見られる多様性を重視する態度が、参加者と優勝者にも通じている。それは、Solveが支援を目指す世界の映しでもある。

Hannaは、多様性の拡大は自然なことなので、難しくはないと言う。「正直言って、私たちは、そんなに頑張っているわけではありません」と彼女は話す。「技術界に女がいないなんて言う人がいたら、馬鹿らしい、と私は言い返します」

9月23日、Solve最終選考の日、ニューヨークのイベント会場Apellaからの眺め(写真:Adam Schulz | MIT Solve)

しかしSolveにも、ちょっとした問題はある。大きな問題を扱うため、コンテストの焦点がボケてしまうことがあるのだ。特別に難しい質問をされると、見当違いな答えを返してしまったりする。それを公正に比較するのは難しい。

また、賞金が1つのチームに集中しないのは良いことだが、出資者がどのチームを支援するかを決める方法は不透明だ。今年は優勝賞金を受け取ったチームが15組あったが、複数の賞金を受け取ったチームもあれば、残りの18のチームは最低限の賞金だけを持って家に帰ることになった。それは、最終選考でどのチームが勝ち残り、それに相応しい賞金を獲得するかを、出資者が決めているからだ。もちろん、最後に残った33のチームは、みな平等にSolveクラスのメンバーとして支援と教育を受けられることにはなっている。

もうひとつの問題は、オーディエンス・チョイス賞だ。最終選考の前にインターネットで行われる公開投票なのだが、それには具体的にどのような利点があるのか、はっきりしない。ひとつの例を示そう。メキシコに拠点を置くスタートアップScience for Sharing(Sci4S)の場合だ。彼らは、STEM(科学、技術、工学、数学)教育を専門とする教師を育成していて、すでに南アメリカで100万人の子どもたちを支援している。教育部門では他のチームを上回る419票を獲得し、オーディエンス・チョイス賞を単独で受賞した。しかしSci4Sは、最終的にSolverには選ばれなかった。ケニアから来た別の教育系スタートアップMoringa Schoolが、得票数は2票だったにも関わらず、Solverに選ばれた。Moringa Schoolも他のチームも、それなりに実力があり自力で勝ち残ったわけだが、Sci4Sも、一般聴衆からの得票数は忘れて、もっとプレゼンテーションに力を入れるべきだったと思うと悔やまれる。

つまりSolveは、他の社会革新コンテストが失敗したその場所から、多くのものを得ているわけだ。コンテストでたった1名の優勝者に聖なる油を注ぐのではなく、数十名のクラスを選び出す。それは、ひとつの単純な事実を映し出している。世界のもっとも強固な問題は、たったひとつのアイデアだけで解決できるものではない、というものだ。

教育機関によって開催され、参加できるのはそこの学生だけと決めているコンテストが多いが、Solveはオープンだ。決勝を勝ち抜いたら、そこでMITとの縁が終わるのではなく、そこから始まる。勝者は、1年間の個人的な支援、教育、指導が受けられるのだ。

正しく行えば、コンテストには喫緊の社会的問題に取り組む動機をスタートアップに与える効果があり、技術を主体とする解決策によって社会は本当の恩恵を受ける。しかし、コンテストのためのコンテストでは、騒ぎが大きくなるだけで、乏しい社会的資源が浪費され、起業家の関心も離れる。世界を変えると豪語する社会革新コンテストがますます増える中で、MITのSolveはそうした馬鹿騒ぎから一歩前に出て、効果的なコンテストに向かっている。

[原文へ]
(翻訳:金井哲夫)

RelikeでFacebookページから簡単にニュースレターを作れる

フランスのスタートアップ、Ownpageは最近、Relikeという新しいプロダクトをリリースした。 Relikeはメールによるニュースレターを簡単につくれるツールで、自分のFacebookのアドレスを入力すれば設定はそれでほぼ完了というシンプルさだ。

RelikeはFacebookページをスキャンして自動的に最近の投稿を収集する。ユーザーは一番人気があった投稿だけ使うこともできるし、マニュアルで投稿をピックアップすることもできる。

他のニュースレター・サービス同様、ユーザーはいくつかのテンプレートから好みのスタイルを選べる。発行の曜日や時間を指定し、連絡先からメールアドレスをインポートする。マニュアルでアドレスを追加することもできる。Mailchimpを使ったころがあるならこの手順には馴染みがあるだろう。

ただしRelikeは他のニュースレター・サービスを直接のライバルとするものではない。多くのメディア、企業のソーシャルメディア担当者、NPO、スポーツチームなどはすでにFacebookページを作成しているが、そのコンテンツはメールには結びついていなかった。

メールが月2000通以下で高度な機能を使わないならRelikeは無料だ。有料版は「料金と他の機能」のオプションからアクセスできる。料金は月額5ユーロ、プラス1000通ごとこに0.5ユーロだ。

Owonpage社の別のプロダクト、Ownpageはやはりニュースレター・サービスだが仕組みが異なる。 Ownpageはメディア企業がメールによるニュースレターを最適化するのに適したツールだ。同社はニュースサイトにおける閲覧履歴をモニターし、これをベースに読者の好みに応じた記事をピックアップしてメールによるニュースレターを作成する。

読者は自分の関心に合わせたテーラーメードのニュースレターを受け取ることになり、ニュースサイトそのものを再訪する可能性もアップする。。Les Echos、L’Express、20 Minutes、BFM TV、Le Parisienなどフランスの有力ニュースサイトにはOwnpageを利用しているところが多数ある。

Ownpageのファウンダー、CEOのStéphane Cambonは私の取材に対して、「RelikeはOwnpageから発展したプロダクトだ。Ownpageは読者がニュースサイトをブラウズしたデータからニュースレターを作成するものだったが、(ニュースサイトでなくとも)有能なソーシャルメディア担当者はクリック率を最大化するような魅力的な記事の書き方を知っている」と述べた(記事がページビュー稼ぎのクリックベイトになってしまう場合もあるかもしれないが)。

Ownpageではこの点に注目してRelikeを作ったのだという。これはメディア企業以外の小規模、非専門的なサイトを念頭に置いたものだ。現在Ownpageは両方のプロダクトを平行して運営している。将来はTwitter、Instagramもカバーし、ユーザーがニュースレターを受け取るための手順をさらに改善していくという。

原文へ

滑川海彦@Facebook Google+

The Lobbyは求職者のためにウォール街(一流金融業界)のウォール(壁)を壊す

Y Combinatorの12週間の育成事業を半年前に卒業したThe Lobbyが、120万ドルの資金調達を発表した。

The Lobbyは、求職者をウォール街の銀行家やベンチャーキャピタリストなど金融業界の“インサイダーたち”に結びつけて、アドバイスや各人に合ったキャリア指導を提供する。以前は投資銀行にいたファウンダーのDeepak Chhuganiは、エリート社会の出身者でもなく、アイビーリーグ系の大学も出ていない人たちに、一流金融企業への就活を成功させようとする。

“彼らのこれまでのやり方では、大量の優秀な人材を見落としている”、とChhuganiは語る。“裕福な世界や一流大学を出た者にしか、機会が与えられていない”。

Chhuganiは、ベントリー大学を卒業してMerrill Lynchに入ったが、自分がウォール街に割り込むことができたのは、たまたまこの超大手証券会社のラテンアメリカのM&Aグループに空きがあり、自分がエクアドル出身だったため、と彼は信じている。

彼の、やはりアイビーリーグ出身ではない何人かの友だちも、運良くウォール街のベンチャーキャピタルやプライベート・エクイティに就職できたが、でも一般的には、名門大学を出てない者はどれだけ優秀でも、金融業界の就活に成功することはない。

シードラウンドで個人的に投資をしたSocial Capitalのスカウト投資家Matt Mirelesは、The Lobbyについてこう言う: “求人市場は本物の能力主義だといつも自分たちに言い聞かせているし、少なくともそうあるべきだが、The Lobbyはそんな本物の能力主義を作り出しつつある”。同社のシードラウンドには、Y CombinatorのほかにAtaria Ventures, 37 Angels, 元TravelocityのCEO Carl Sparks, Columbia Business Schoolのchief innovation officer(CIO) Angela Leeらが参加した。

求職者はThe Lobby経由で、プロフェッショナルたちの30分の電話相談を受けられる。また模擬面接や効果的な履歴書の書き方なども学ぶ。インサイダーたちは、ユーザーがThe Lobbyに払う料金の一部を謝礼としてもらい、金融業界の本当の内幕話や、生きた人間によるGlassdoorのようなサービスを提供する。

The Lobbyという社名についてChhuganiは、ユーザーに就職を約束することはできないけど、各会社のロビー(控室)にまでは連れていけるから、と言っている。

“能力のある人が努力すれば、上(面接室)に呼ばれるだろう”。

[Y Combinatorの2018冬季デモデー1日目に登場した64のスタートアップたち]

[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

センサーデータのリアルタイムデータベースを提供するModeが$3Mを調達(上田学氏談話あり)

企業が、センサーのデータに瞬時にアクセスできるためのリアルタイムデータベースを提供しているModeが、True Venturesの率いるラウンドにより300万ドルを調達した。GigaOm(テクノロジーブログの老舗)のファウンダーでTrue VenturesのパートナーOm Malikが、このラウンドの一環としてModeの取締役会に加わった。

今では多くの企業で、車や携帯電話、各種器具・機器、医療器具、そのほかの機械類などからのセンサーデータがたくさん集まってくる。しかしこれらのセンサーをデプロイしている企業に、データの意味を〔時系列や統計分析などで〕理解するためのバックエンドデータベースがない場合が多い。

サンマテオに拠を置くModeは、企業が大量のデータをクラウドに置いて、彼らのデバイスをもっとよく理解し、次にやるべきことが分かるようにする。今Modeの顧客は、ソーラー、医療、製造業などの業種が多い。

Modeの協同ファウンダーでTwitterの技術部長だったGaku Uedaは語る: “データの収集にフォーカスするのは、共通的なインフラの問題をわれわれが担当して、顧客企業はデータの有効利用に専念してもらうためだ”。

Uedaと、同じく協同ファウンダーでゲーム企業50Cubesの技術部長だったEthan Kanは、長年の友だちだ。True VenturesのMalikによると、彼が投資家として同社に惹かれた理由の一つが、それだった。

そのMalikは言う: “企業は直線ではない。上がり下がりがある。でも、良い協同ファウンダーに恵まれていたら、何でも切り抜けられる”。

今回の資金調達でModeの調達総額は500万ドルになる。Kleiner Perkins, Compound.vc, Fujitsuなども同社に投資している。今回のシリーズAの資金は、クラウドにつなぐセンサーをもっと増やし、チームを拡張するために使われる。

[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

Airbnb、ホストに株式付与を計画――SECに規則701改正のパブコメ提出

評価額310億ドルの巨大企業、Airbnbは宿泊施設を提供している契約ホストに会社のビジネスに参加する道を開こうとしている。Axiosの報道によれば、AirbnbはSEC(証券取引委員会)に株式の所有に関する規則の変更を求める要望書を提出した。

Airbnbが変更を求めているのは、SECが企業の株式保有に関する条件を定めた規則701だ。Airbnbでは共有経済に対応する新たな株式保有者の分類を設ける必要があるとしている。Uberは同様の措置を求めてSECと会談しているが、Airbnbの場合は要望を文書として明確化して提出した点が異なる。こちらから全文が読める(Axiosが発見した)。要望書には次のように書かれている。

共有経済市場におけるAirbnbの成功はホストの成功にかかっている。 われわれは ホストその他 早い段階から非公開企業の共有経済に参加している関係者がその企業の株式を得られるよう規則を改正することは共有経済における企業と参加者に成功へのインセンティブをもたらし、双方の利益になるものと信じる。 

Airbnbは早ければ来年にも株式を上場するもの.と見られている。

ホストやUberやLyftのドライバーに対する株式付与の仕組みの詳細はまだ明らかでないが、実現のためにはSEC規則の改正が必要だ。現在のSECの規則では非公開企業の株主が2000人を超えるか、非適格投資家株主が500人を超える場合、所有の登録や審査などの手続きが必要となる。

2008年の創立以来急拡大を続けてきたAirbnbは現在500万件以上の宿泊先をリストするようになっている。SECの株式保有に関する規則が同社にとって大きな障害となっていることははっきりしている。ただ規則が改正されたとしも、ホストのうちどれくらいの部分が株式を得られるようになるかはまだ分からない。またSECの規則に抵触するような人数の契約者に対して株式による報酬を与えようと考える共有経済のスタートアップがどれほどあるのかも不明だ。

いま一つの問題はAirbinbのビジネスの国際化が進んでいる点。Airbnbの宿泊先の大部分はアメリカ国外に所在している。Airbnbでは世界190カ国の8万1000都市でビジネスを展開していると主張している。このような状態の場合、ホストがアメリカ企業の株式を受け取ることからは複雑な問題が生じる可能性がある。

そうであっても、Airbnbが同社の成功にホストの役割が決定的であると公式に文書で認めたことは積極的な方向への一歩だ。共有経済企業がこのような形で参加者との関係をポジティブな文脈で論じるのは珍しい。

現在メディアで取り上げられる議論はほとんどが共有経済の運営企業と参加者との対立だ。たとえばUberの場合が典型だが、契約ドライバーは社員ではないという連邦地裁の決定が出ている。これにより、契約ドライバーは公正労働基準法を受けないとされた。

共有経済の参加者は柔軟な働き方ができる一方で、同様の仕事をしている常勤社員が受けるような、有給休暇、超過勤務手当、健康保険など、各種の福利厚生から取り残されるという問題を生じている。こうした問題をカバーしようとするスタートアップも多数生れていいる。しかし多くの場合、福利厚生のコストは労働者が負担することになる。共有経済に参加する労働者は当初から経済的に余裕がない場合が多く、問題を複雑化させている。

〔日本版〕SECは規則701の改正を検討しており、これに関してパブリックコメントを求めていた。Airbnbの文書はこれに応えたもの。連邦証券法によれば未公開企業の株式の売買、保有には各種の制限が課せられるが、SEC規則701はその例外を定めている。未公開企業がストックオプションなどにより報酬の一部として社員に株式を付与する場合はこの条項によっている。Airbnbは契約ホストのような共有経済参加者にも適用されるよう規則の改正を求めている。

原文へ

滑川海彦@Facebook Google+

無名の作家や映画監督を発掘してハリウッドに送り込むスタートアップたちのエンターテインメント改革

5月11日、Netflixはアメリカ全国で学年末を迎える十代の若者向けに、コメディードラマ『The Kissing Booth』を公開した。

6月までに、このドラマは若い十代から思春期層の若者の間で大ヒットとなったのだが、その権利を所有する企業Wattpadは、世界初の画期的なシステムを備えていた。Wattpadの出版プラットフォームにBeth Reeklesが書き下ろしたこのドラマによって、同社の宣伝文句のとおり、このプラットフォームが、エンターテインメント業界のシナリオや才能を発掘する方法に新たな方向性を与えるものであることが実証されたのだ。

Netflix’s latest hit ‘The Kissing Booth’ is a Wattpad success story


Netflixの最新ヒットドラマ『The Kissing Booth』はWattpadのサクセスストーリー(本文は英語)

この映画の成功の陰には、夢の工場ハリウッドの扉を開こうとする、いくつもの若いスタートアップによる動きがあった。創作活動を行う大勢のプロたちを、二次創作やユーザーが制作したコンテンツの波に乗せて、パラマウントの撮影所(またはディズニーの撮影所やソニースタジオ)まで運ぼうというものだ。

「エンターテインメント業界が明らかに行き詰まっているこの時期に、物語を探し出す方法が進化しているのです」とWattpad Studioの責任者、Aron Levitzは話す。

YouTubeも(Vineアプリは短命に終わったが)Instagramも、潜在的な才能発掘のためのプラットフォームを開発した。AmazonAppleFacebook、(ここでも)Instagram、Netflix、(そしてまた)YouTubeは、テレビと映画の配給システムを粉砕したが、トップを狙うこれらのプラットフォームも従来型のスタジオも、シナリオの不足に苦しんでいる。だが(その多くは)、ヒットする確証が持てない作品に何百万ドルもの予算をつぎ込む勇気がない。

ハリウッドは、大衆を楽しませようと、他のメディアからアイデアを拝借(または盗用)してきたが、その新しい話を採取しにゆく場所は、連続物の畑に限定されている。つまり、漫画、昔のテレビ番組や映画、大ヒットした若年成人向けの物語などだ。

たしかに、そこには無数の花が咲いているが、新しい技術を有する企業は、別の畑にも新しい才能が花開いていることを知っている。それを活用すれば、企業は潤い、観客も喜ぶはずだ。

WattpadやTongal(監督とカメラマン向け)や、Legion Mのような制作向けの資金調達プラットフォームは、新しい才能を引っ張り上げて、NetflixやAppleといった成功した新しいプログラムやプラットフォーム、さらには、ますます細分化するメディアの世界で注目を集めたい何百ものネットワークに固定客を増やすため、企業が望むものを与えようとしている。

しかし、これまではなかなかうまく運ばなかった。およそ10年前、Tongalが創設されたころ、エンターテインメント業界は、今とはまったく違っていた。

10年前、Netflixは、DVDの購読者がストリーミング動画も見られるようにした。そのほとんどは、制作会社やスタジオがすでに大儲けした古い映画や全国配信されたテレビ番組だ。これが、競争が激化しつつあったクリエイティブな業界での、才能の囲い込みと観客争奪のレースの火蓋を切った。新規参入者は、毎回、新しいレースに参加することとなった。

その当時、Tongalは新しい才能を発掘するためのメカニズムであり、ユーザーが制作したコンテンツの中で気に入ったものを有名ブランドに有料で提供していた。そして同社は、Insight Venture Partnersから1500万ドル(約16億8000万円)を調達し、ソーシャルメディアの人気の高まりを利用して、口コミで話題になりそうな動画を有名ブランド向けに制作するようになった。

Tongal Raises $15M For Platform That Lets Anyone Compete To Make Branded Video Campaigns


誰もが有名ブランドのキャンペーン動画を作れるプラットフォームにTongalが1500万ドルを調達(本文は英語)

Tongalは今でもユーザーが制作したコンテンツを元に制作を行なっているが、昔と違うのは、そうした動画や作家が何百万ドルも稼げるようになったことだ。そして、ファンに力を与え、刺激し、新しいタイトルに、より直接的に、より頻繁に関われるようにする能力を備えたことだ。同時にTongalは、制作スタジオに幅広い才能を紹介するショーウインドウの役割も果たしている。

このプラットフォームで作品を作ったTucker Barrieは、アイムスのためのソーシャルメディア用短編動画などを作っていたが、映画『犬ヶ島』のようなプロジェクトのアニメーターとして活躍するまでになった。「Tongalは、経験の少ない人たちが経験を積んで、名前を売るためのいい場所です」とBarrieは話している。

昨年、Tongalは、『WILD After Dark』という番組の制作でナショナル ジオグラフィックと契約を結んだ。これは、ナショナル ジオグラフィックWILDシリーズでは初めての深夜帯の番組で、Tongalプラットフォームのメンバーが制作した動物に関する短編作品が放映されることになっている。作品公募は2月から始まった。

最近では、TongalはWattpadと提携し、そのクリエイターのネットワークを通じて、WattpadがヒットさせたSFスリラー『Expiration Date』のトリートメントの募集を開始した。7月、Tongalは映像作家に募集をかけ、そこから3組をWattpadが選出する。それらの作家には予算が与えられ、概念実証のためのシリーズのトレーラーを制作することになる。

その後、WattpadとTongal、そして配信パートナーであるSYSYとで最優秀者を選び、デジタルでパイロット・エピソードを制作する予算を提供する。それには、SYFY.comが、「ファン・クリエイターズ・プログラム」の一貫として、全シリーズを制作するチャンスも含まれている。

「TongalとWattpadとの提携は、私たちの才能ある人たちのためのオープンなプラットフォームを通じて、どのように、誰がコンテンツを作るのかを変革することで、ハリウッドの脚本のページをめくることになります」と、Tongalの共同創設者で社長のJames DeJulioは、当時の声明で語っていた。「これらの新しい世界的なコミュニティーは、多様で情熱的な作家たちによって構成されています。実際に今、彼らは自分が見たい番組を作っています。この革新的で、ファンによるファンのための転換のために、SYFY.comが扉を開いてくれたことを、本当に嬉しく思います」

これは、ひとつのネットワークのためのプロジェクトでの、TongalとWattpadとの2回目のコラボとなる。どちらの企業も、片や映像面に、片やストーリー面にフォーカスした番組制作のためのクリエイティブなプラットフォームを提供していることで親和性がある。また同様にCW Seedでの放映を巡って競い合い、Wattpadのもうひとつの人気ドラマ『Cupid’s Match』(ネタバレ情報:あんまり面白くない)の制作でも競い合っていた。

 

「これは、WattpadとWattpad Studioの偉大なるひとつの証です」とWattpad Studioの責任者、Levitzは2月のインタビューで話していた。「私たちが、公に、力強く話すことができたのは、これが初めてだと思います」

Wattpadでは、『Cupid’s Match』が320万readを記録し、その口コミによる人気の広がりにCW Networkが興味を示した。「私たちは視聴者の力を活かして、CWのような企業に放映したいと思わせることができました」とLevitzは言う。「私たちのプラットフォームには4億本の話があります。私たちは、私たちのデータ、私たちの視聴者、そして私たちの話を見て、そのデータを使って、適切なパートナーに適切な物語を提供できるのです」

パートナーも揃いつつある。Sony Pictures TelevisionはWattpadの『Death is my BFF』の権利を購入した。Huluは『Light as a Feather』の発注契約にサインした。TurnerUniversal Cable Productions(NBCUniversalの一部門)、eOneParamount Picturesといったスタジオやネットワークも、Wattpadとの共同制作の契約を結んでいる。

Tongalと同様、Wattpadもまた、ハリウッドのプレイヤーになるための回り道をしている。Wattpadは、に二次創作や古典作品の電子書籍コミュニティーの運営者としてスタートした。やがて、二次創作の市場が大きく成長し、エンジェル投資家のコンソーシアムから資金を調達してトロントに本拠地を構えた同社は、今年の初めには、中国のインターネット大手Tencentを含む投資家コンソーシアムから5100万ドル(約57億円)の資金を得るまでになった。Tencent(とそのパートナーであるスタジオ)は、Wattpadの月間6000万人というユーザー数に惹かれたようだ。

Wattpad’s storytelling app, now with 60M monthly users, adds a subscription service


Wattpadの物語制作アプリは6000万ユーザーを獲得し、購読サービスを追加(本文は英語)

二次創作が映画業界にもたらす影響力は数億ドル規模になるという信念は、『フィフティー・シェイズ』の成功が根拠になっている。Twilightの二次創作から派生したこのベストセラー本は、1億5000万ドル(約168億円)という驚異的な価格で3部作の映画化権が売られた。

シリーズ最終作品が公開された時点で、興行成績はすでに10億ドル(約1120億円)を超える勢いだった。

この10年間、ハリウッドは巨額な権利の購入とファン主導による原作の提供に依存して、劇場やインターネットで大きな数字を生み出してきたとDeJulioは言う。

「ファンは、そうした権利の購入に必要不可欠なものです」とDeJulioは話す。「今は非常に奇妙な時代です。……マーケティングに多額の資金がかかり、それがいろいろな意味でエンターテインメントの自由を奪っています」

DeJulioは、Tongalを、一人の人間が他の人に影響を与え支援できるプラットフォームだと見ている。

「スタジオは、一度ヒットを出すと、ファンのコミュニティーを通して、また彼らと関わることで、宣伝ができるだけでなく、仕事(新しいコンテンツの制作)もできることに気がつくのです」とDeJulioは話す。

米カリフォルニア州ロサンゼルス、マウント・リーのハリウッドヒルズ

もしWattpadとTongalが、彼らのユーザーのネットワークを使って才能を発掘し伸ばすことができるなら、Legion Mは、そのジャンル化されたコンテンツのユーザー・ネットワークを利用して、新しい作品制作に資金を出したいと考えている。

この制作スタジオのスタートアップは、2回にわたる株式投資型クラウドファンディングで300万ドル(約3億3600万円)を調達し、『シンクロナイズドモンスター』アン・ハサウェー、ジェイソン・サダイキス主演)とニコラス・ケイジの新作で、すでにカルトの名作と謳われている『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』といった人気のインディー映画で大きな報酬を手にしてる。同社の資金調達キャンペーンを支援した株主に配当がある限りは、その行き先は不透明だ。とくに、同社のプロジェクト『バッド・サマリタン』(新バージョンの『ドクター・フー』で人気のデイビッド・テナント主演)が酷評されて以来、わからなくなっている。

インターネット企業をいくつも立ち上げたPaul ScanlanとJeff Annisonが創設し、オースティンに本社を置く劇場チェーンAlamo Drafthouseなどのパートナーの援助を受けているLegion Mの目標は、制作プロジェクトに投資してくれるファンを100万人集めることだ。

セールスとマーケティングにファンの力を借りて、すでに十分な固定客がある作品を世に送り出すことで利益を得る、というのが彼らの考えだ。

「エンターテインメント企業はファンが所有するほうが、ウォール・ストリートに所有されるよりいいと私たちは信じています」と、Legion Mの新しいクラウドファンディング・キャンペーンの発表声明の中で、共同創設者でCEOのPaul Scanlanは話している。

Legion Mが提携するプロジェクトには、実際の投資よりも、ファンとの関わり合いを基本にした活動が多いものがある。事実、同社は大ヒットした『シンクロナイズドモンスター』の制作会社とはなっておらず、ファンのネットワークを使ってマーケティングを支援していると、インタビューの中で監督が話していた。

ScanlanとAnnisonは、モバイル機器向けの初期のストリーム配信技術を開発したMobiTVを創設している。その後、New York Rock Exchangeを立ち上げた。好きな歌の流動性のない株式をファンが購入できるようにする企業だ。これは投げ銭のようなものだ。購入したものに実際の価値はないため、相場の上昇もなければ、法律的に面倒なこともない。

Rock Exchangeとは違い、平均的な投資家は、この2人の共同創設者が米証券取引委員会の新しいクラウドファンディングに関する規制に従って、クラウドファンディングで提供する実株を買っている。そして彼らは、商業的に競争力のあるコンテンツを作り出す力が、これまでになくファンや消費者に備わっているという説に頼ろうとしている。

こうした努力を行なっているのは、Wattpad、Tongal、Legion Mだけではない。Seed&SparkCoverflyThe Black Listといった企業も、新しいアーティストやクリエイターを掘り出して、エンターテインメント業界の発展に貢献しようと頑張っている。資金面においては、MovieCoin(新しい映画を制作するためのトークン化された資金提供手段の先行販売を始めたところ)やTaTaTuのような新しい暗号化通貨が、映画好きの人々に、もうひとつの(理想的にはより透明化された)映画への資金提供の方法を与えたいと考えている。

「ハリウッドは、エンターテインメント業界に参入しよとする者には難しい場所です。コンテンツ制作と投資のプロセスを通して知ったことは、どのプロジェクトも観客を求めているということです」と、AnnisonはThe Niner Times(ノースカロライナ大学シャーロット校の校内新聞)のインタビューに応えて話していた。

「ハリウッドは、踏み込もうとするにはあまりにも大きな世界です。巨大な企業と一緒にやっていくには制約があります。本質的に、ウケ狙いなのです。映画作りの芸術面と、エンターテインメントのビジネス面との間には、はっきりと線が引かれています。そのため、とっても歩きにくい街になっています」

[原文へ]
(翻訳:金井哲夫)

 

GoogleやFacebookも使っているデザインツールFramer Xの魅力は開発工程の上流下流への柔軟な対応

デザインツールはどの企業にとっても、ますます重要になっている。今日はそのレースに、新人が入ってきた。

新人とは言ったが、Framer Xは三年前にできたFramerの改造バージョンであり、ファウンダーのKoen BokとJorn van Dijkはさらにその前の2011年に、デザインソフトのSofaをFacebookに売っている。そしてFramer Xは、Reactベースのリッチなデザインツールで、どんなデザイナーでもインタフェイス成分を描けて、それらを技術者のコラボレーションチームに送れる。

その鍵は、再利用性と忠実な再現性だ。Framer Xでは、技術者たちが今本番開発に使っている成分を送って、デザイナーたちはそこから仕事を始められる。逆にデザイナーはボタンやアイコンをデベロッパーにファックスで送るのではなく、その成分のSVGコードをデロッパーに送れる。

[Framer Xはベクターツール]

Framer Xではまた、ユーザーがFramer Xのストアで成分やそのほかのデザインアイテムをパッケージとして集め、デザインの過程でそれらに容易にアクセスできる。Framer XのFramer X Storeは一般公開されているので、たまにデザインをするような人が経験豊富なプロのデザイナーの作品をベースに仕事を始められる。

また、企業がその社内だけで使うプライベートなストアを、Framer Xの上に開ける。

Framer Xの使用料はユーザー一人あたり月額15ドルだが、企業のプライベートなFramer Xストアは、企業の規模などに応じて適宜課金される。

Framer Xの強敵といえば、InVision, Adobe, Sketchなどだ。

同社によると、現在の月間アクティブユーザーは約5万、企業ユーザーは200社だ。その中には、Google, Facebook, Dropboxなどもいる。資金はこれまで、Greylock, Foundation Capital, Designer Fund, Accel Europeなどから900万ドルを調達している。

[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

インタビュー:ジェイソン・カラカニスがエンジェル投資を勧める理由

 Uberの投資家として大成功を収めたジェイソン・カラカニスが著書『エンジェル投資家』の邦訳出版を機に来日している。カラカニスにインタビューする機会があったので紹介してみたい(写真はジェイソン・カラカニスと企画から編集まで出版を担当した日経BPの中川ヒロミ部長)

カラカニスは無名のスタートアップだったUberにシード資金を投資した。その後Uberは世界的大企業に成長した。カラカニスは他にもいくつかのホームランを打ちポートフォリオの価値は数億ドルとなり、アメリカでもトップ5に入るエンジェル投資家となった。その経験をベースにエンジェル投資の秘訣を率直に書いた『エンジェル投資家』をTechCrunchの同僚、高橋氏と共訳する機会があった(7月にTechCrunchでも書評かたがた紹介している)。

ジェイソン・カラカニスは2003年というインターネット普及の最初期にWeblogs, Incを立ち上げ、AOL(TechCrunchの親会社であるOathの前身)に売却することに成功して一躍シリコンバレーの著名人になった。インターネットで記事を発表することは当時ウェブ・ログと呼ばれており、その短縮形がブログとなったという経緯がある。つまりカラカニスは現在のブログ文化のパイオニアの一人だ。また2007年にはTechCrunchのファウンダー、マイケル・アリントンと共同でDisruptの前身となるカンファレンスを立ち上げている。

『エンジェル投資家』はデイブ・ゴールドバーグに捧げられている。ゴールドバーグがSurvey MonkyのCEOとして来日したときTechCrunchでインタビューしたことがあり、急死したと聞いて残念に思っていた。カラカニスはゴールドバーグとは親しく、夜遅くまでテーブルを囲むポーカー仲間だったという。「自分を差し置いてまずみんなのこと、世の中に役立つことを考える人間だった。本当に惜しい」と語った。

カラカニスによればファウンダーに求められるもっとも重要な資質は「目的意識」だという。自分がやり遂げたい明確な目的を持っているのでなければスタートアップというつらい仕事を続けることはできない。「金儲けが目的ならもっと割のいい仕事がいくらでもある。だから金が目的のファウンダーは途中で投げ出してしまう。私はそういう相手には投資しない」という。

 

「やり遂げたい目的があるのとないのではこれほどの差が出る」

女性として初めて名門ベンチャーキャピタルのパートナーとなったサイアン・バニスターの記事を翻訳したところだったのでその話になった。「サイアンとはいつ会ったか忘れてしまった。そのぐらい昔からの知り合いだ」という。バニスターは高校中退の女性で大学に行ったことがない。「学歴はある程度重要だ。スタンフォードとかハーバードとかに入ったと聞けばそれだけの努力ができたのだとわかる。しかし学歴や職歴など経歴の重要性は薄れている。どんな経歴かより何をやったかが重要だ」という。

2010年にカラカニスが主催した小さなフォーラムでトラビス・カラニックを紹介され、カラカニスとともにトラビスのスタートアップにエンジェル投資したのがバニスターの投資家としての地位を築いたという。その後も着実に投資を続け、現在では独立のエンジェル投資家から名門ベンチャーキャピタルのパートナーに転じている。一方、カラカニスがエンジェル投資家を続けている理由は「自分で全部決められるからだ」という。

最近シリコンバレーでは「指先から取った一滴の血でたくさんの病気が検査できる」という触れ込みで大企業になったもののすべて捏造だと判明したTheranosとそのファウンダーのエリザベス・ホームズが話題になっている。カラカニスは「テクノロジーの中身を見せずに投資しろなんていう話はまっぴらだ」という。

さきほどの学歴の話と関係してくるが、同じスタートアップでもプログラミングで作れるアプリやサービスとハードウェアではだいぶ違う。ましてバイオや医療はまったく別の話だ。ビル・ゲイツもマーク・ザッカーバーグもハーバードのドロップアウトですばらしいプログラムを書き成功の一歩を踏み出した。しかしバイオ、医療となると長期にわたる専門教育と研究開発に携わる期間がどうしても必要だ。大学を1年でドロップアウトして医療機器なんか作れるものではない。投資家はファウンダーが何を作ろうとしているのか十分注意を払う必要がある。 

著名なベンチャーキャピタリストでDFJのファウンディング・パートナーのティム・ドレイパーがシード資金を提供したことでエリザベス・ホームズは信用を得て大がかりな詐欺が可能になった。その点について責任があるのではないかと尋ねると―

ベンチャー投資家は投資先のファウンダーを大切にしなければならない。それに家族や友達を大切にする必要がある。ドレイパーはエリザベス・ホームズの父親と友だちで娘同士も親友だった。ドレイパーは両方の理由でエリザベス・ホームズをかばおうとしたのだと思う。結果として難しい立場になったが。

と答えた。カラカニスはまだクレイモデルもろくにできてに最初のTeslaを買ってイーロン・マスクを助けたことで有名だが、最近マスクが苦境に陥っていても「必ず切り抜ける。そういう男だ」という。ドライなニューヨーカーのようにみえて日本人的な義理人情を重んじる男のようだ。最後にTechCrunchの読者に一言求めると、こう語った。

世界を良い方に変えていくのは国家でもNPOでも口先だけの評論家でもない。資本主義はとかく非難される。ゲイツ、ベゾス、マスクらが金を儲けすぎだというのだ。しかし私はそうは思わない。 彼らは病気や貧困の追放、宇宙旅行の実現など人類に役立つ目的に向けて儲けた金を賢明に使っている。資本主義は人間の創造性を最大限に発揮させる場だと思う。起業家には世界を良い方向に変えるという強い目的意識とビジネスを成功させるインセンティブがあるからだ。しかしスタートアップを立ち上げるのは簡単ではない。たいへんな仕事だ。ファウンダーは支援を必要とする。いくら良いアイディアがあっても最初のひと押しとなる資金がなければ埋もれてしまう。だからぜひともリスクを取って彼らをサポートして欲しい。

カラカニスは「エンジェル投資家」で「たとえ自分にまとまった資金がなくてもエンジェル投資家になる方法ある」としていくつもの方法を詳しく説明していた。このあたりはぜひ本で読んでいただきたい。余談だが、日本茶の喫茶店の奥にある個室という一方変わった場所がインタビュー会場だったが、カラカニスは「きみは何がいい? グリーンティーか? アイスかホットか? ではアイス・グリーンティーを3つだ」とたちまち場を仕切ってしまった。なるほど大型ベンチャーキャピタルのような整然とした組織のパートナーになって会議で同僚に投資先についてプレゼンしたりするのは向かないのかもしれないと納得した。

なお、カラカニスは今週木曜(9月20日)に渋谷ヒカリエで開催されるTech In Asiaカンファレンスに登壇する予定。

滑川海彦@Facebook Google+

書評:Bad Blood――地道な調査報道が暴いたシリコンバレー最大の嘘

シリコンバレーでは毎年千の単位でスタートアップが生まれている。その中で全国で名前を知られた会社になるというのはそれだけで大変なことだ。

指から一滴の血を絞り出すだけで多数の病気が検査できると主張したTheranosはそうした稀有なスタートアップとなり、続いて真っ逆さまに転落した。

Wall Street Journalの記者、ジョン・カレイルーの忍耐強く勇気ある調査報道が起業家、ファウンダーのエリザベス・ホームズとそのスタートアップの実態を暴露した。これによりバイオテクノロジーの新星は、嘘で塗り固められた急上昇の後、あっというまに空中分解した。Theranosはシリコンバレーの歴史上前例のない大規模な詐欺だった。

Bad Bloodは調査報道報道の金字塔だ。Theranosが崩壊し、弁護士たちという盾を失ったことはこの本に大いに役立った。WSJの記事ではカレイルーが匿名にせざるを得なかった多数の取材源が実名で登場することができた。これにより、過去の多数の記事を総合し、完全なストーリーとすることが可能になった。

しかしこの本は決してスリル満点でもなければショッキングな暴露でもない。地道でストレートなジャーナリズムだった。

ひとつにはカレイルーのいかにもWSJ的な「事実を伝える」という態度と文体にあるだろう。登場人物の動機や心理の考察はごくたまに挟まれるだけだ。もちろんこのスタイルはWSJを毎日読む読者には適切だろうが、一冊の本の長さになるとややカリスマ性を欠くともいえる。

エリザベス・ホームズとナンバー2だったラメシュ・”サニー”・バルワニが連邦検事により起訴されたのだから、公判でさらに事実が明らかになってから本にすべきだったという意見もある。しかし私はそうは考えない。というのも詐欺の手口自体は比較的単純なだったからだ。

事件の核心にあるのは投資家も消費者も重大な判断をするにあたって過去の経験や評判を頼りにしがちだという点だ。またTheranosは小さな雪玉が転がっていくうちに大雪崩を引き起こす現象の例でもある。引退した有名なベンチャーキャピタリストがシード資金を提供した。その実績がTheranosを有名にし、他の投資家を呼び込んだ。10年の間にTheranosの取締役会には現国防長官のジェームズ・マティスやヘンリー・キッシンジャーを始め大勢の有名人が集まった。

その中にはNews Corporationを通じてWall Street Journalの所有者でもあったルパート・マードックがいた。この大富豪は1億2500万ドルをTheranosに投資していたことが本の最後で明かされる。マードックはシリコンバレーのあるディナーでホームズにに会った。

ディナーの席上でホームズはマードックのテーブルにやって来て自己紹介し、少しおしゃべりした。 ホームズはマードックに強い印象を与えた。後日マードックは(投資家の)ユリ・ミルナーに話したところ、ホームズを大いに称賛したので印象はさらに強められた。

しかし他の有力ベンチャーキャピタル会社とは異なり、マードックはなんのデューディリジェンス(適正な調査)をしないまま多額の投資を決めた。84歳になるマードックはデータより直感に頼って行動するほうであり、これまではそれでうまく行っていた。

マードックは電話を一回かけただけで1億2500万ドルを投資した。普通の人間には息をのむような額でもMurdochにとってははした金だったようだ。報道によればマードックの資産は170億ドルだという

マードックにとって経験則に従って行動したことは資産の1%以下の損失だった。しかも損金処理によって税金が安くなったはずだ。つまり誤った投資をしたといってさしたる痛手を受けたわけではない。

このあたりがこの本の弱点かもしれない。2008年の金融危機では抵当証券の破綻によって普通の人々が何百万人も家を失ったのに対し、Theranosの詐欺で被害を受けたのは大富豪ばかりだった。

しかしちょっとした手間が愚かな投資を防止できた可能性はある。たとえばLinkedInを少し検索するだけでTheranosでは人員の出入りが異常に激しいことがわかったはずだ。これは企業文化と経営陣になにか根本的な問題があることを示す可能性が高い。質問する気さえあれば答えは手近なところにいくらでも転がっていた。

血液検査を受けた消費者の被害を跡づけるのは投資家、社員の場合以上に難しい。Theranosの詐欺が深刻な被害を及ぼしたのはこうした血液検査を受けた人々のはずだ。Edisonと呼ばれたTheranos独自の機械による検査結果はきわめて信頼性が低く、ときにはあからさまな捏造さえ行われた。カレイルーの著書では
Theranosの検査が死亡率を上昇させたというはっきりした証拠は示されていない。【略】

Bad Bloodは〔映画キリング・フィールドと〕似ている。地味で、スリルを盛り上げようとはしない。しかしそこが優れている点だ。この本はわれわれのシリコンバレーに対するステロタイプにいわば針を刺して血を一滴絞り取る。シリコンバレーの投資家やファウンダーは優れた人々であり愚行とは無縁だという通念だ。もちろんそんなことはない。Theranosはそれを思い出させるためのかっこうのキーワードとなるだろう。

画像: Michael Loccisano / Getty Images

原文へ

滑川海彦@Facebook Google+

スタートアップは国際投資をいかに確保できるか

【編集部注】Jose DeustuaはペルーのアクセラレーターUTEC Venturesのマネージングディレクター。UTEC Venturesはペルー最大の投資イベントPeru Venture Capital Conferenceを開催している。

中南米でスタートアップが資金を調達するのは、砂漠のど真ん中で水飲み場を探すようなものだ。どこかにあるはずだ、というのは分かっているが、タイミングよく見つけるのは死活問題だ。

そうした状況であっても、この地域におけるベンチャーキャピタル投資はこれまでになく活発になっている。Andreessen HorowitzやSequoia Capital、そしてAccel Partnersなど主要各社がコロンビア、ブラジル、メキシコといったマーケットで創業への投資を行なっている。しかし同時に、スタートアップ創業者たちは彼らの周りで起こっている巨額投資のニュースにじれったい思いでいるかもしれない。というのもスタートアップ創業者のほとんどが投資ステージに近づくのだが、往々にしてそれは蜃気楼以外の何物でもないと認識する。

これは中南米だけの問題ではないだろう。世界中どこでもスタートアップは投資家探しに苦労している。ベンチャーキャピタルは次のユニコーンを探し出そうと果てしない追求を続け、これまでより少ない案件により多くの資金をつぎ込んでいる。米国欧州においてベンチャーキャピタルの案件数は減少していて、確立されたエコシステムに身を置く起業家ですら、ビジネスを展開するための材料を探そうと遠くに目を向け、起業家の多くは中南米などの新興マーケットに向かっている。

スタートアップ創業者が新興マーケットの人間であれ、外国人であれ、幸いにも会社を大きくするために必要な投資を海外から探し出す方策はある。以下、我々がペルーで展開しているUTEC Venturesアクセラレータープログラムに参加しているスタートアップに勧めていることを紹介しよう。これはあなたにも勧めたいことだ。

シード期の資金調達はまずローカルで

新興マーケットのスタートアップとして、ローカルからの投資を見つけ出すのは簡単なことではない。事実、だからこそまず海外からの投資をあたるのだろう。しかし、手始めにローカルからのシード投資を探すというのは、その後に控える海外からの投資確保にまず必要なことだ。

たとえば、ペルーでは昨年、スタートアップにシード資金として720万ドルが投じられた。そのうち100万ドルが海外ファンドからのものだった。これは、新興マーケットに関心のある海外投資家は、シードラウンドにおいてはそれほど活発ではなく、企業がそれなりの価値を示してからのラウンドに関心を持っていることを示している。

海外投資家の関心を集めたければ国際的なスタートアップであるべき

そのため、我々は全てのスタートアップにシード期における1回目、2回目の資金調達はペルーで行い、その後海外からの投資を模索するようアドバイスしている。これは他の新興マーケットにおいても言えることだ。

最初のラウンドで資金を調達するために最も重要なことは、確固としたチームを有していること、そして客を引きつけ、また地元の競争相手より優れたビジネスアイデアを持っていることを示すことだ。これらを満たせば、ローカルでシード資金を調達するのはそう難しいことではないだろう。ローカルのエンジェル投資グループとネットワーキングをする時や投資イベントの時に必要なのは、良い売り込み資料といくらかの忍耐力だ。

さらに大きく競争の激しいマーケットで成功するためには

もし海外の投資家をひきつけたいのなら、国際的なスタートアップでなければならない。言い換えると、国際的な投資機関のトップに向き合う前に、より大きく競争の激しいマーケットでプロダクトを売ることができると示す必要がある。ペルーと中南米における新興マーケットのスタートアップにとって、これは中南米で最も発展しているメキシコ、ブラジル、アルゼンチンのマーケットに進出することを意味する。

例として、コロンビアの配達サービスRappiを挙げる。Andreessen Horowitzが主導した、初の大きな国際投資で2016年初めに資金を調達したのち、Rappiはメキシコへと事業を拡大した。その1カ月後にシリーズBラウンドを実施。今年初めには、ドイツの食料配達会社主導のラウンドを実施し、そこにはたくさんの米国投資家も加わって1億3000万ドルを調達した。

同じことが、中南米以外の新興マーケットでもいえる。ベンチャーキャピタル投資で西欧諸国に遅れをとっている東欧では、多くの起業家が自国で商売を成功させるとすぐさま西欧に進出し、ビジネスを最初から立ち上げたりそこで拡大させたりする。成熟したマーケットからの資金調達をしたいと考えているなら、そうしたマーケット、少なくとも同規模のマーケットに拠点を置くべきというのはこれで明らかだろう。すなわち、国際投資を模索する際に最初にフォーカスすべきは、現地マーケットでローカル企業になることだ。それから、成熟したマーケットー米国やメキシコ、西欧または別のところーでそれまでに収めた成功を再現させればいい。

国際投資の全てが国際VCによるものとは限らない

国際ベンチャーキャピタルから目がくらむような投資を確保するというのに注意がいきがちだが、思いのままに国際投資を確保するには他にもたくさんの方法がある。

新興マーケットの政府は、経済成長のエンジンとなる自国のスタートアップエコシステムを活性化させるようなプログラムを急激に増やしている。国内でビジネスを立ち上げると決めた起業家に対しエクイティフリーの資金を提供するという形でサポートするなど、政府による多くのプログラムが展開されるようになっている。

中南米のような新興マーケットでは大企業による投資が重要

中南米だけでも例はたくさんある。たとえば、Start-Up Chileはチリから世界に進出するようなビジネスを立ち上げようとする起業家に最大8万ドルを提供する。プエルトリコのParallel18は同様の趣旨で7万5000ドルをあてる。ペルー政府も、スタートアップがペルーでソフトローンチするのを最大4万ドルの提供でサポートするプログラムを、きたるPeru Venture Capital Conferenceで発表する計画だ。

他にも手段はある。中南米のような多くの新興マーケットでは、コーポレートキャピタル、または大企業のスタートアップ投資が非常に大きな役割を果たす。事実、米国のテック大企業Qualcommの投資部隊、Qualcomm Venturesは中南米において最も活発なグローバル企業投資家となっている。 NaspersやAmerican Express Ventures、他企業のファンドもこの地域のスタートアップに盛んに関心を寄せている。

外国政府によるサポートの増加、そしてグローバル展開する大企業の関心も併せて、国際投資を確保することは実際に可能であり、あなたが思うほど難しいことではない。国際ベンチャーキャピタルから資金を調達するにはいくつかオプションがあるが、これから打って出ようとしているマーケットでどういう選択肢があるのか、時間をかけて検討した方がいい。

だから、新興マーケットでローカルの起業家なのかそれとも外国人の起業家なのかに関係なく、国際投資を模索しない手はない。鍵となるのは、グローバル視点で考えることと、直面している問題の解決にテクノロジーを使うことだ。その上で、まずは自国でそれなりの成果を出し、それを今度はさらに大きなマーケットで再現させる。一歩踏み出すと打開するための手段がある。それをうまくつかめれば、投資の井戸は結局枯渇しているわけではなかった、ということに気づくだろう。

イメージクレジット: Loskutnikov / Shutterstock

[原文へ]

(翻訳:Mizoguchi)

Microsoft、ドラグ&ドロップでAIアプリを作るLobeを買収――Azure ML Studioの強化へ

今日(米国時間9/13)、MicrosoftはAIスタートアップのLobeを買収したことを発表した。 Lobeは簡単なドラグ&ドロップによって高度な機械学習モデルが制作できるシステムだ。今年に入ってベータ版がリリースされたLobeをMicrosoftは独自のAIモデル開発に利用する計画だ。ただし当面、Lobeは従来どおりの運営を続ける。Lobeチームは次のように述べている

Microsoftの一員となったことで、Lobeは世界でもトップクラスのAI研究の成果とインフラを活用できるようになった。またMicrosoftは数十年にわたってデベロッパー・ツールを開発してきた。われわれは今後ともオープンソースの標準に従い、Lobeをスタンドアロンでマルチプラットフォームのサービスとして発展させていく計画だ。

Lobeの共同ファウンダー、Mike Matasこれまで携わった開発にはiPhoneとiPad、FacebookのPaperとInstant Articlesなどのプロダクトがある。共同ファウンダーにはAdam Menges、Markus Beissingerが加わっている。

MicrosofはLobeに先立っては深層強化学習(deep reinforcement learning)のプラットフォーム、Bonsai.aiと会話形AIのプラットフォーム、Semantic Machinesを買収している。また昨年、2012年のTechCrunch Disrupt BattlefieldでデビューしたMaluubaを買収したことも記憶に新しい。機械学習のエクスパートをスカウトするのが非常に難しいことはよく知られている。そこで有力テクノロジー企業は人材とテクノロジーの獲得を念頭に置いてスタートアップの買収に全力を挙げている。Microsoftのエグゼクティブ・バイスプレジデント、CTOのKevin Scottは今日の声明に次のように書いている。

いろいろな意味でわれわれはAIがもたらす可能性の入り口に立っているに過ぎない。経験を積んだデータサイエンティストやデベロッパーにとってさえ機械学習モデルやAIソフトウェアの開発は時間がかかるタスクだ。多くの人々がAIへのアクセスに高いハードルを感じている。われわれはこれを変えていこうと決意している。

重要なのはLobeのアプローチがMicrosoftの既存Azure ML Studioプラットフォームと親和性が高いことだ。このプラットフォームは機械学習モデルの生成にあたってドラグ&ドロップによる直感的なインターフェイスをすでに提供している。ただし実用本位のデザインであり、Lobeチームのシステムのインターフェイスのほうが洗練されている。

LobeとAzure ML Studioはどちらも機械学習の普及を狙っており、TensorFlow、Keras、PyTorchなどの詳細な知識なしに誰でも機械学習を利用してアプリが開発できるようにするのが目標だ。もちろんこうしたアプローチにはそれなりの限界があるのは事実だが、「大量のコードを書かずにすむ」各種ツールは多くのユースケースで有用であり、十分に役割を果たすことが示されている。

原文へ

滑川海彦@Facebook Google+

バッテリー満載ドローンのImpossible Aerospaceが940万ドルを調達

スマートフォンメーカーと同じく、ここ数年ドローンメーカーは山ほどの機能を追加しながら、バッテリー寿命に関してはほとんど改善できていない。そして、スマートフォンが「1日中」使えることを謳っているのに対して、有名ドローンの飛行時間は20~35分にすぎない。

Impossible Aerospaceは、少なくとも商用ドローンについては、ほぼバッテリーのみの高密度設計によってこの公式を変えようとしている。本日(米国時間9/10)同社は、新しいドローン、US-1発売の詳細を公表し、さらにシリーズAラウンドで、Bessemer Venture Partners、Eclipse Ventures、およびAirbus Venturesから940万ドルの資金調達を完了したことを発表した。

同社初の製品は、最適な条件で120分間飛行できるのが特徴のドローンだ。飛行範囲は直線距離75 kmにわたる。荷物は1.3 kgまで積載できるが飛行時間は78分に減少する。

商用ユーザーにとって、飛行時間の延長によって利用場面は劇的に広がり、ミッションベースから、より探索的なものへと発想が変わってくる。

同社のウェブサイトには、コミカルともいえるUS-1のバッテリーのX線写真が掲載されていて、バッテリーセルは大きな”X”の文字のように見える。6.8 kgあるドローン重量の70%程度がリチウムイオン電池だと同社が私に言った。

これは、従来型ドローンのパイロット向きのデザインだ。長い飛行時間を実現するためにはいくつか部品を取り除く必要がある。もっとも賛否の分かれる選択は、障害物回避センサーを持っていないことだろう。「あらゆる航空機のデザインは妥協の産物」とImpossible Aerospace CEOのSpencer Goreが本誌のインタビューで語った。「一部のユーザーのために、他のユーザーが使うことがないのに性能を損なう機能を追加するほど悩ましいことはない」

US-1の価格は7500ドルから、今年のQ4に発売予定。

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi / facebook

人気瞑想アプリHeadspaceがAlpine.AIの買収でAIを装備へ

3100万人のユーザーを擁し、評価額3億2000万ドル(約356億円)の瞑想アプリHeadspaceは、他の健康関連商品と差をつけようと、音声認識とAIの技術を倍掛けしようと考えている。同社は本日(米国時間9月4日)、デジタル・アシスタント市場の黎明期から活躍していた企業Alpine.AI(元VoiceLabs)を買収したと発表した。それには、Headspaceの主要アプリの音声による操作を高度化する狙いがある。

「現在、瞑想アプリはいくつかありますが、自分が今どの段階にあるかを的確な音声ガイドで教えてくれるものができれば、他社製品を大きく引き離すことができます」と、Headspaceの新CTO、Paddy Hannonは話している。彼は、Alpineから来た4人を率いて、Headspaceのサンフランシスコのオフィスに加わることになっている。

買収の条件は公表されていないが、Headspaceによると、その人材と技術の両方を引き継ぐとのこと。その中には、Alpine.AIの共同創設者でCTOのAlexandre Linaresと3人の技術者が含まれている。Alpine.AIのCEO、Adam Marchickは、今後は顧問として残る予定だ。

VoiceLabsは、長年にわたり、音声をベースにしたさまざまな製品を試してきた。その中には、Amazonに潰された音声を使った広告製品、音声アプリ開発者のための分析サービス、そして最近では、小売業者のカタログを読み込み、AIで顧客の製品に関する質問に答えるという、音声による買い物アプリを構築するためのソリューションもあった。

後にAlpine.AIと社名を変更したこの会社に、Headspaceは強い興味を示した。

Alpine.AIは、小売業者のためのソリューションを開発してきた。それは、顧客がボイス・アシスタントと自然に会話ができるようにするものだ。たとえば、マスカラについて尋ねると、ボイス・アシスタントは「何色にしますか?」とか「防水にしますか?」と聞いてくれる。

Headspaceは化粧品を売るつもりではないが、Alpine.AIの機械学習技術を自分たちの分野に応用する可能性に期待を寄せている。

現在、Headspaceの主要なインターフェイスには音声が使われている。瞑想セッションでは、心地よい、穏やかで、特徴ある声がユーザーをガイドする。この声は、共同創設者で、元チベット仏教僧のAndy Puddicombeのものだ。

これを基礎にして、Alpine.AIの技術を導入することで、ユーザーは音声によるインタラクティブな操作が可能になり、Headspaceの別の瞑想セッションを開拓したり、より丁寧な個別の指導を受けられるようにするという計画だ。

たとえば、ユーザーが「ストレスで参っている」と言えば、アプリは、その人のアプリ内の履歴を参考に、適切な瞑想法を推薦してくれる。

Alpine.AIの技術を追加することで、Headspaceは、参入企業が多くひしめき成長過程のこのセルフケア・アプリの世界で、大きな競争力を持つことになるだろう。Headspaceは、いちばんのライバルであるCalm.comに、評価額の面でわずかに優位に立っている。PitchBookのデータによれば、Calm.comの評価額は、およそ2億2700万ドル(約253億円)だ。

Headspaceの音声アプリを改良するという、第一の利点のほかにも、Apline.AIの技術には別の使い道がある。iOSとAndroidのアプリでは、ユーザーのアクションによって(音声コマンドではなく)、個別の助言を提示するという機能も考えられる。

Hannonによると、Alpine.AIには、その成り立ちによる魅力もあると言う。

「彼らはすべてをAmazonの上で作りました。Dockerを使用しています。大変に魅力的な買収だった理由には、それもあります」とHannonは説明している。「彼らは、私たちが内部で作っていたのと同じパターンでソフトウエアを作っていたのです。私たちが使っているのとほとんど同じデータベース技術も利用していました。彼らも私たちと同じ、RESTサービスを使ってます。なので、インフラの観点からすると、とてもわかりやすいのです」

「いつ面白くなるかと言えば、私たちの音声コンテンツを、彼らのテキストベースのシステムに加えたときです。しかし、AmazonがLexのようなサービスで提供しているのを見てわかるとおり、テキストから音声へ、または音声からテキストへ変換するシステムは数多くあります。そうしたものを使えば、実装は可能だと私は考えています」と彼は言っている。

今回の買収には、ボイス・コンピューティングの未来に賭けるという意味もある。音声で操作するデジタル・アシスタント機器の数は、この2年半の間に、世界中で10億台を超えるまでになっている。アメリカの家庭の20パーセントが専用のスマートスピーカーを所有していて、その数は増加すると見られている。

収益性の高いセルフケア・アプリ市場での人気アプリのひとつとして、Headspaceのユーザー数は、現在のところ3100万人に達している。そのうち、190各国にわたる100万人が有料加入者だ。また、同社は大企業とその従業員に瞑想エクササイズを提供するB2Bビジネスにも力を入れていて、250社以上の企業が契約をしている。

買収の時点で、Alpine.AIは、The Chernin Group、Javelin Venture Partners、Betaworksといった投資会社から「数百万ドル」を調達したシードステージの企業だった。しかし、音声で使えるスマートスピーカーの人気が確かなものになってはいるが、音声ベースのインターフェイスを開発する数あるスタートアップの中で、規模を拡大し、Nuanceや、Apple、Google、Amazonといったその他のプラットフォーム大手と肩を並べるようになったものは、まだない。それもまた、Alpine.AIの買収が魅力的だった理由だ(しかもイグジットに対してもオープンだった)。

Alpine.AIは、その製品を利用していたPetcoなどの少数の小売店との関係を縮小し、個別の移行プランを提示している。

「私たちのこれまでの努力が、ユーザーの健康的な習慣を指導したりガイドすることに特化できることを、とても嬉しく思っています」とAlpine.AIのCEO、Adam Marchickは、買収について話している。「Alpineの機械学習能力は、Headspaceの取り組みを加速し、新しい会話エクスペリエンスを市場にもたらすでしょう」

[原文へ]
(翻訳:金井哲夫)

ディープリンクのマーケットリーダーBranchがシリーズDで$100Mあまりを調達、ユニコーンの仲間入り

Androidオペレーティングシステムの作者Andy RubinのPlayground Venturesが支援するディープリンク制作のスタートアップBranchが、今度の資金調達ラウンドで評価額が10億ドルになり、ユニコーンクラブのメンバーになりそうだ。

この4歳の企業は、企業のためにWebサイトとモバイルアプリとの間のリンクを作る。同社は、PitchBookの情報と確認によると、シリーズDの資金調達で1億2900万ドル相当の株式を売れることになり、そこに注入される資本は同社の価値をおよそ10億ドルと評価している。

今朝(米国時間9/7)のメールでBranchのCEO Alex Austinは、コメントを拒否した。

レッドウッドシティに本社のある同社は、2017年4月にPlayground率いる6000万ドルのシリーズCを完了し、調達総額が1億1300万ドルになった。そのほかの投資家は、NEA, Pear Ventures, Cowboy Ventures, Madrona Venturesなどだ。一方RubinはAndroidの協同ファウンダーであり、Essentialのファウンダーでもある。後者はスマートフォンメーカーだが、高く評価されたわりには、あまり売れなかった

Branchのディープリンクプラットホームは、企業のアプリの成長とコンバージョン(実買)とユーザーのエンゲージメント(積極関与)とリテンション(固定客化)を助ける。

ディープリンクは、Webサイトのページではなく、特定のコンテンツへユーザーを連れて行くリンクだ。たとえば、これはディープリンク、そしてこれはディープリンクでない。

[ディープリンク略史](未訳)

ディープリンクはWebやメールのコンテンツをアプリに結びつける。たとえばスマートフォンで買い物をしていてJet.com上のアイテムへのリンクをクリックすると、ユーザーのスマートフォンにインストールされているJetのアプリに連れて行かれる。従来のリンクのように、JetのWebページへ、ではない。モバイル上で見るWebページは、かなり貧弱なユーザー体験だ。

Branchを使っているアプリはほぼ40000あり、全体の月間ユーザーは30億に達する。Airbnb, Amazon, Bing, Pinterest, Reddit, Slack, TinderなどもBranchを使っている。

Austinによると、この前のラウンド以来同社は“ものすごく成長し”、次のラウンドを迎えることになった。

彼曰く、“だんとつのマーケットリーダーになれて幸運だった。ディープリンクに関してはまだまだやることがいっぱいあり、今回の資金もBranchのプラットホームの継続的な成長を支えるために使われる”。

[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

AI車両管理プラットフォームで2年後のモーダルシフトに備えるAvrios

スイスのスタートアップAvriosは、企業が一人の人間に一台の車という従来の考えにとらわれず、状況に応じた移動方法を受け入れることにより、業務上の移動手段がもっと面白くなるはずだと考えている。

また、内燃機関からグリーンな代替動力への切り替えを加速することで、進歩的という評価を得たいと企業が考えるようになると同時に、新しい都市型移動手段が数多く生まれ、個人輸送のための幅広いマルチモーダルな選択肢として顧客に提示できるようになった。したがって、従業員が使える車種の選択肢が少ない企業は、もう長くは存続できない、というのが彼らの主張だ。

しかし、バランスをとりながら選択肢を増やすことは、車両管理の業務をさらに難しいものにする恐れがある。なぜなら、供給業者(全体の数が増えて、小さな業者も多くなる)との交渉、コストと有用性の把握、輸送ソリューションを業務の目的や従業員の要求に合理的にマッチさせるといった作業が重なるからだと、Avriosは話している。そこで、ますます多様化する複雑な車両の管理作業においては、AIが鍵になる。

現段階では乗客輸送用車両と小型トラックに焦点を絞ったAvriosのプラットフォームは、ヨーロッパを中心とした、7万台ほどの車両を運用する700あまりの企業に採用されているが、すでに機械学習技術を導入し、車両のリース費用に関する情報を把握しつつ、車両管理業務を助けている。

しかしAvriosにとって、これはまだ基礎作りの段階だ。電気自動車の技術に人気が集まり、業務用車両にも電気自動車が導入され始めている今、同社はそのプラットフォームを、近く起きると想定される大転換に対応するものとして位置づけている。

都市圏における個人の移動手段が豊かに多様化する兆しは、配車サービスの大手Uberが電動バイクや電動スクーターに目をつけるといった行動から、すでに消費者サイドで見え始めている。

もちろんビジネスの側も、立ち遅れまいと考えている。そのため車両管理プラットフォームは、そうした新しい、きめ細かい移動手段に対応するべく挑戦を続けてゆく必要があると、AvriosのCEO、Andreas Brennerは話している。

2015年に設立されたスタートアップAvriosは、昨年、自社の顧客を対象に調査を行った結果、現在、ヨーロッパの企業がエンジン車両に費やしている年間予算は600億ユーロ(約7兆7300億円)あり、今後5年間で別の動力を利用した車両に移行すると見積もった。

この調査では、大半の企業(80パーセント)が、現在、スプレッドシートとAccessデータベースで、迫り来る移行に対処しようとしていることもわかった。そこでAvriosは、市場の大改革に適応できるよう、援助の機会を伺っている(主な競合相手はスプレッドシートになると同社は話している)。

車両管理プラットフォームSaaSの最初の役割も(立ち上げ当初はダッシュボードと呼ばれていたが、2017年秋からプラットフォームと呼ばれるようになった)、業務の支援だった。彼らは、送り状や車両リースの書類を、車両管理者のために取り込んで処理をするシステムを構築した。それが今では、ほぼ完全に自動化されているとBrennerは言う。

「信じられないでしょうが、たとえば、大手のリース企業で、送り状やリースのデータの読み込みを行うAPIを持っているところは、ほとんどありません。そのため、そうした契約書や送り状を処理できるシステムを、根本から作らなければなりませんでした」と彼は言う。

「初期のころは、すべて手作業から始めました。しかし今では99パーセントの書類を完全に自動処理できています。これは、通常の構造化フォーム認識だけでは実現できません。本格的なAIシステムが貢献しています。魔法は、そのAIの中で起きているのです」

「私たちの仕事の特徴は、顧客の複数の言語による構造化されていないデータを、すべて読み込める点にあります。それには、車両管理には欠かせない非常に多くの情報が含まれていて、時間を大幅に節約できます」と彼は付け加えている。

彼が見据えている将来は、フランス語のPDF形式の送り状を自動的に処理するといった程度の技術ではない(それはそれで便利だが)。より豊富できめ細かい移動手段を取り混ぜて利用する方針に業界が移行するという、もっとエキサイティングなものだ。

もうひとつ、彼らは調査を行なった。顧客のデータから、走行距離と車両の種類をもとに、車両がどのように使われているかを調べ「車両の使用事例を推論」したとBrennerは話している。

「私たちは、動いていない車両や荷物を運んでいない車両は、経済的な視点からは、なんの意味もないという前提に立っています。そこが、他のオプションに入れ替えるべき第一候補でした。少なくとも電気自動車の場合、街中で1日に10キロから20キロしか走らなかったとしたら、内燃機関の車に比べて、経済的な意味がまったくありません」と彼は指摘する。

そこから彼らは、今後5年以内に、内燃機関の車の30パー円とがシフトすると予測した。

彼らは、顧客がすでに電気自動車を加えた車両の運用方針を実施していることを知った(「進歩的な企業は、2019年には特定の割合を電気自動車に切り替えるという方針を実行しています」と彼は話している)。

彼らはまた、社内カーシェアリングの「大きな需要」があることも発見した。そこで彼らのプラットフォームには、カーシェアリングを管理する予約モジュールも組み込まれた。

さらに面白いことに、一部の顧客は、従業員に電動バイクを提供するといった、非常に柔軟性の高い実験を行なっていることもわかった。

「ドラバーの働く意欲と定着率を高めるために、新しい可能性をどのように利用したらよいかを、みんなは真剣に考えています」とBrennerは言い、移動手段のマルチモーダルな選択肢を従業員に与えることが魅力的な企業としての利益につながると提言している。「しかも、こうした車両運用方針は、より多くのグループに広がります」

「見習い従業員が電動自転車に乗れるとしたら、それは大きな意欲につながります」と彼は続ける。「私たちのお客様も、このことはよく理解されています」

とは言うものの、この程度の柔軟性も、今のヨーロッパではまだ試験段階に過ぎない。

しかし、ヨーロッパの運送業界が、来年、車両運用方針に電気自動車を組み入れるのは「確かなこと」と彼は見ている。さらに、あらゆる種類の移動手段の変化が、あと7年以内に起きる可能性があるという。

「2019年には、もっとクリエイティブで、もっと進んだ選択肢の実験が行われるでしょう。そしてその結果によって、2020年にはさらに大変革が起こると、私たちは見ています」と彼は断言し、それにより生み出される車両管理業務の課題を具体化している。

「車両管理担当者の立場に立ってみましょう。これまでにやり方は、だいたい2社か3社の馴染みの大手リース会社を持ち、彼らと条件を話し合い、だいたい15車種ほどのモデルと、いくつかの装備のオプションから、従業員が車両を選べるようにします。それが従来の方法であり、これにメンテナンスのオプションや、資金繰りなどを加えれば、それだけでもう十分に難しい仕事です。私たちが第一に取り組むべき課題は、それです。彼らの車両運用方針を理解することです」

「しかし、より専門的で小規模な供給業者を加えると、途端に細かい交渉が始まります。諸経費はかさみます。さらに供給業者の数が増える、というのが今起きていることです。レンタカー会社は、もっと個人の利用事例に沿った提案をしてくれます。カーシェアの場合は、さらに絞り込んだ使用事例に適応した、特別な提案をしてくれます。車両管理担当者として、そこまで従業員の要求に応えようとすれば、管理すべき契約の数、車両運用方針に加える項目数、意思決定や従業員への引き渡し方法の複雑さが爆発的に増加してしまいます」

「車両管理担当者の仕事とは、そういうものです。そこを私たちが手助けしたいと思っているのです。コストの管理と、従業員が私たちのプラットフォームを使って、直接、車両の予約ができるようにすることです。私たちのプラットフォームを通じて、レンタカーやリース車両を、直接、注文できるのです。そうして、すべてが自動的に車両運用方針に整合するようになります」

同社は、そのプラットフォームを利用することで、現時点で、車両管理費用が最大30パーセント、車両コストが最大10パーセント削減できると主張している。さらに、データ機密性は向上し、環境や所有者の責任に関する法律にも準拠できる。

未来予測が示すとおり、移動手段の種類や数が大幅に増え、選択肢が、微妙な差異の特定分野に細分化されるようになると、コスト管理、コンプライアンス、複雑化する運用方針に対処するプラットフォームの重要性が際立ってくる。多くの従業員と車両を抱える企業においては、なおさらだ。

Avriosは、現在、おもにヨーロッパで事業を展開している。顧客には、保険会社、小売業者、ファッション系企業、機械製造業者、専門のサービスを提供する企業などがある。

Brennerによれば、数は少ないものの、アメリカ、中東、アフリカの顧客もあるという(その多くは世界的な輸送網を有しているとのこと)。

競争力としては、「本当の車両管理プラットフォーム」を提供していると彼は強調する。Avriosは、こうしたプラットフォームを提供する最初の企業であり、長年のライバルは、車両管理ソフトや車両運用サービスを提供しているに過ぎないと彼は話している(AFleetLogistics、Leaseplan、Arvalといった既存のインターネット・ポータルは、彼によれば「透明化を提案しているが、本当の意味での透明化はなされていない顧客囲い込みツール」だとのこと)。

「私たちは、プラットフォームという形でアプローチしています。そこには、ソフトウエア提供業者の要素(データの構造化や報告など)も含まれますが、FleetLogisticsのような車両管理サービス提供業者の要素(調達の自動化、他の車両と比較した標準コストの算出、新しい車両の調達やリースにおける入札プロセスの最適化)もあります」と彼は話す。「私たちは中立の立場で、どこで本当に損をしているかをお客様に理解してもらう手助けをしています」

TechCrunchに明かされた資金調達の情報によれば、2015年12月にシード投資、2017年7月にシリーズA投資、2018年7月には400万ドル(約4億4600万円)の拡大/加速ファンドを獲得している。これらはすべて、非公開だった。今日までの投資総額は1400万ドル(約15億6000万円)にのぼる。投資家には、Lakestar、Notion、Siraj Khaliq(Atomico)、Andrew Flett(Fleetmatics)などの名前があがっている。

Brennerによれば、シリーズAの拡大ファンドは製品開発に使われ、「車両管理ダッシュボードから、より多くの移動オプションを追加したものへの移行の加速」を目指すとのことだ。

また、最初に計画していたよりも早く事業規模を拡大するためにも使われる。「今は成長ステージに入ったと思っています。なので、成長ステージのスタートアップとして定石どおり、製品と売り込みとマーケティングです」と彼は語っている。

「今、私たちは、自分たちの筋道を理解できるようになりました。長期的にこの会社をどの方向に進めたいか、誰が顧客なのか、市場での我々の立ち位置はどうかなども理解できるようになりました。なので、市場に対して、もっと公的に話をするいい時期が来たと感じたのです」と、これまで投資について公にせず力を貯めてきた理由を、彼は説明している。

「とにかく、何よりも顧客と製品開発に集中したかったのです」

[原文へ]
(翻訳:金井哲夫)

Disrupt SF 2018 Startup Battlefieldの優勝は企業用検索エンジンForethoughtに決定

初めに21のスタートアップありき。そして激しい戦いの三日後の今日(米国時間9/7)、1社の優勝者が残った。

Startup Battlefieldに参加したスタートアップは、最初に厳しく選別された21社だった。彼らはVCたちとテクノロジー業界のリーダーから成る審査員たちの前でプレゼンを行い、50000ドルの賞金と優勝カップDisrupt Cupを争った。

数時間の審議を経て、本誌TechCrunchの編集者たちが審査員のメモを集め、5社のファイナリストを決定した。それらは、CB Therapeutics, Forethought, Mira, Origami Labs, そしてUnboundだ。

5社は決勝のステージで、新たな審査員団を前に再びプレゼンを行った。今度の審査員は、Cyan Banister(Founders Fund), Roelof Botha(Sequoia Capital), Jeff Clavier(Uncork Capital), Kirsten Green(Forerunner Ventures), Aileen Lee(Cowboy Ventures), そしてMatthew Panzarino(TechCrunch)の面々だ。

それでは、TechCrunch Disrupt SF 2018 Startup Battlefieldの優勝チームをご紹介しよう。

優勝: Forethought


Forethoughtは、AIを利用する新しい考え方のエンタープライズ検索により、仕事のコンテキストによく合ったコンテンツを取り出す。当面のユースケースはカスタマサービスだが、企業の至るところで使える、と今後に向けての意欲を示している。

Forethoughtの紹介記事

準優勝: Unbound


Unboundは、ファッション志向のバイブレーターを作っている。最新製品Palmaはリングの形をしていて、スピードは可変、完全防水だ。今後、加速度計を加える予定がある。

Unboundの紹介記事

[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

Miraは最も妊娠しやすい日を正確に知るための家庭用デバイス

TechCrunch Disrupt SF 2018で今日(米国時間9月6日)発表されたMiraは、不妊に悩む女性を手助けするためのデバイスだ。Miraのシステムは、尿に含まれるホルモンの濃度を測定して個人のサイクルを予測するというもので、どの日が妊娠しやすいかがわかる。開発元は、すでに市場に出回っている在宅用キットは結果を判別するのが難しかったり個人に合わせられていなかったりするが、Miraはそれらより高度で精度も高い、としている。

Miraの開発を手がけたQuanovateは、家で検査できる高度なテストキットがないという問題を解決しようと、科学者、エンジニア、産婦人科医師、そして会社役員のグループにより2015年に設立された。

「私には、私のようにキャリアや高学歴を[優先]した友達がたくさんいるが、そうした人たちは結婚時期を後ろにずらしがちだ」とMiraの創設者でCEOでもあるSylvia Kangは語る。「しかし、いつ子供を持てばいいのか、については教えられておらず、不妊についても注意を向けていない」と話す。

コーネルジョンソンでMBAを取得しているKangは、ビジネスディレクターとしてコーニング社で働く前に、コロンビア大学で修士(バイオメディカルエンジニアリング)を、そしてピッツバーグ大学でPhD(生物理学)を取っている。コーニング社ではグローバルP&L1億ドルのビジネスを担当したが、そこを去りMiraを立ち上げた。

Kangによると、女性のホルモンは毎日変動している。それは、ライフスタイルやストレスレベル、その他の因子により人それぞれなのだという。そのため、どの日が妊娠しやすいのかを正確に知る唯一の方法は、テストを続けることだ。それを家庭で行うというのは難しいことだった。

こうした問題を解決しようと、チームはMiraシステムを開発した。このシステムには家庭用の小さな分析器、尿テストストリップ、専用モバイルアプリが含まれる。分析器は、家庭でも使えるようにしたラボで使われる機器のミニチュアで、これによりコストを下げることができる。

このシステムでは、テストストリップをデバイスに差し込み、免疫蛍光テクノロジーで結果を読む。現段階では、このデバイスは排卵の指標となる黄体ホルモン(LH)の有無を調べる。しかしながら近い将来、他のホルモンも調べられるようデバイスをアップデートする計画だ。(たとえば、すでにエストロゲン検出でFDAをクリアしているが、商品発売開始には間に合わない)。

このシステムは、10枚のテストストリップ付きで199ドルだ。ストリップの分析が終わるとホルモンレベルのデータはデバイスのスクリーンに表示され、それからBluetoothを介してMiraのアプリに送られる。

  1. Mira1

  2. Mira2

  3. Mira3

  4. Mira4

  5. Mira5

  6. Mira6

  7. Mira7

  8. Mira8

 

アプリではそうしたデータが何を意味するのか、より詳細に教えてくれる。今日妊娠しやすいのか、それとももう少し先なのか、といったことだ。定額サービスではユーザーが医師に相談できる。このサービスは開始時には無料で展開される見込みだ。

「Miraで使われているテクノロジーは、今マーケットに出回っているどのテストストリップとも完全に異なる。より精度が高く、そしてさらに重要なのが量を使えることだ。これが何を意味するかというと、真剣に妊娠に取り組むことができる」とKangは話す。「(既存の)テストストリップは、ポジティブなのか、ネガティブなのかを知らせるだけ。我々のものは、ユーザーの周期をもとにAIがパターン認識し、そしてアルゴリズムによる予測は、全体の平均ではなくユーザーの具体的なパターンに基づいている」。

実際問題としてこれが何を意味するかというと、不妊に悩む女性が、より正確で、次の行動に移しやすく、そして個人に合わせた結果を入手することができるということだ。患者400人のサンプルを使った臨床実験では、ラボ施設に比べ99%の精度だったという。またMiraは、18のIPカバリングハードウェア、ソフトウェア、データベース管理、そして現物の特許やモデル、デザイン特許、商標、コピーライトを所有する。

開発チームはいま、さらなる分析のために医師が患者のデータにアクセスできるようにするためのポータルに取り組んでいる。Miraではまた、今後匿名化された患者のデータを集め、研究者に提供するかもしれない。しかしこの点についてはまだ正式な決定はしていない、とKangは話している。

長期的には、同じシステムを妊娠や更年期の管理に応用することができ、そして最終的に同様のテクノロジーを腎臓や甲状腺などに関連する症状の分析に使うことができる、とKangは説明する。

カリフォルニア・プレザントンに拠点を置くこの会社の従業員は現在36人で、これまでにGopher Venturesや2つの海外投資家(Miraが非公開を希望)を含む投資家から450万ドルの資金を調達した。

Disruptでは、Miraデバイスのプレオーダー受け付けが始まり、今年10月に出荷が始まると発表された。

デバイスはMiraのウェブサイトで販売されているが、販路を広げるために医師や小売店と協議を進めている。

[原文へ]

(翻訳:Mizoguchi)

Disrupt SF 2018 Startup Battlefieldの決勝出場5社が決定

2日間で21社が、Disrupt SF 2018 Startup Battlefieldのステージに上がった。そして、エキスパートたちの審査員団により、5社の決勝出場チームが決まった。

これらのチームは明日(米国時間9/7)の午後、新しい審査員団の前でプレゼンを行い、より突っ込んだ質問に答える。そして最後に選ばれた1社が、Battlefield Cupと優勝賞金10万ドルを手にする。

では、ファイナリストをご紹介しよう。決勝は金曜日の午後1時35分からTechCrunchでライブストリーミングされる〔日本時間9月8日午前5時35分〕。

CB Therapeutics


CB Therapeuticsは、カンナビノイドを人工的に清潔に安く作るバイオテク企業だ。微生物、具体的にはイースト菌を生物工学して、単なる砂糖からカンナビノイドを作る。

CB Therapeuticsの紹介記事

Forethought


Forethoughtの現代的なエンタープライズ検索技術は、AIを利用して仕事のコンテキストに合ったコンテンツを拾い出す。最初のユースケースはカスタマーサービスだが、企業の至るところで利用できる、と意欲満々だ。

Forethoughtの紹介記事

Mira


Miraは、女性が確実に妊娠できるためのデバイスを提供する。そのMira Fertilityシステムは、尿検査により生殖ホルモンの濃度を測定し、個人のサイクルを予測して受精可能日を教える。

Miraの紹介記事

Origami Labs


Origami Labsはヘッドセットやスピーカーなどのデバイスを要さずに、指にはめたリングから骨伝導でスマートフォンの音声アシスタントアプリからメッセージを伝える。アプリはGoogle AssistantやSiriなどでよい。

Origami Labsの紹介記事

Unbound


Unboundはファッション志向のバイブレーターを作っていて、その最新製品がPalmaだ。新製品はリングの形をしていて、スピードは可変、完全防水だ。今後、加速度計を加える予定がある。

Unboundの紹介記事

[原文へ]
(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa

元サイバー西條晋一氏が代表を務めるXTech、エキサイトにTOBを実施

元サイバーエージェント役員の西條晋一氏が代表を務めるXTechは9月7日、子会社のXTech HPを通じてエキサイトの普通株式を公開買付け(TOB)により取得すると発表した。取得価格は1株あたり875円。最終的には、エキサイトの全株式を取得し完全子会社化することが目的のようだ。期間は2018年9月10日から10月24日まで。決済の開始日は10月31日。

XTechは既存産業×テクノロジーで新規事業を創出するコンセプトの会社で、今年の1月に設立されたばかり。XTechの子会社でベンチャーキャピタル事業を手掛けるXTech Venturesは9月3日、元ユナイテッド取締役の手嶋浩己氏を共同創業者兼ジェネラルパートナーとして迎えたことを発表していた。

Disrup SF:サイアン・バニスターが高校中退からエンジェル投資家への道を語る

今日(米国時間9/5)、サンフランシスコで開催中のTechCrunch SF 2018でFounders Fundのパートナー、サイアン・バニスターが15歳のホームレスのティーンエージャーからトップクラスのエンジェル投資家になった驚くべき道筋を語った。バニスターはUber、Thumbtack、SpaceX、Postmates、EShares、Affirm、Nianticといった著名なスタートアップへの投資家だ。

バニスターは今朝のTC Disruptでストリートチルドレンの一人がベンチャーキャピタリストに転身することを可能にするカギとなったいくつかの重要なポイントを説明した。その一つは「次のステップ」に集中する漸進主義だ。。バニスターはティーンエージャーの頃、いつも次の食事、次のシャワーを得るために必死だった。そして個人主義、良いメンターを得ること、テクノロジー、飽くなき好奇心も大きな役割を果たした。

バニスターは「金を稼ぐこと」―つまり資本主義に夢中だった。それが結局自分の人生を救ったのだという。バニスターの「次の一歩」は食事やシャワーを得ることから始まったが、やがて職を得ること、新たなスキルを身につけることへ階段と上っていった。

バニスターはこうしたステップを「ゲームのレベルをアップしていくこと」と考えていた。

良きメンターに恵まれてテクノロジーに目を開くことができたのが次の大きな幸運だったとバニスターは言う。

バニスターはコンピューターの使い方を習い、やがてオンラインの世界に入り、プログラミングができるようになるとハッカー文化を知り、テクノロジー企業で初級の職を得ることができた。

「突然、生まれて初めて、私の頭脳はフル回転し始めました」とバニスターは言う。

こうして異例のコースをたどってテクノロジーの職を得たが、幸運なことに「決まりきったルール」を守らないことでクビになることはなかった。それどころか創造性を自由に伸ばすよう励まされた。彼女は昇進し、その結果LinuxやBSDを習うことができた。その後の2年でバニスターはインターネットの仕組みを学び、ルーター、DNSサーバー、メールサーバーのセットアップができるようになった。

バニスターは高校のドロップアウトであり、大学には一度も行ったことがない。

サンフランシスコに移ってスタートアップで働き始めたところ、折よくその会社がCiscoに買収され、バニスターも多少の恩恵を受けた。これを資金として彼女は有望そうなスタートアップへの投資を始めた。

「私の最初のエンジェル投資先はイーロン・マスクのSpaceXでした。とても怖かったんですが同時にエキサイティングな経験でした…以来、いってみれば、中毒してしまったといえるでしょう」とバニスターは言う。

賢明な投資が続き、バニスターはFounders Fundにパートナーとして迎えられた

「私はまったく新しい分野に飛び込み、知的にも全力を尽くして働くことができるようになりました」とバニスターは語った。

どうやってそんな成果を収めることができたのかと尋ねられて、バニスターは、「言えるのは私はいつも好奇心の塊だったということです。私は私より頭がよくて、もっと能力のある人達に囲まれて過ごすようにしました。これが私がプレイしてきたゲームです。今でもこのゲームを続けています」と答えた。

原文へ

滑川海彦@Facebook
Google+