フォーミュラEが「地球上で最も効率的なレースカー」となる第3世代のマシンを発表

電動フォーミュラカーによるレースシリーズを展開しているFormula E(フォーミュラE)が、地球上で最も効率的なレースカーを発表した。各チームはこの新しい第3世代(Gen3)のマシンを2022-23年シーズンで使用することになっており、2022年春に納車された後、テストを開始できるようになる予定だ。

Gen3は、第2世代のマシンよりも軽量・小型化されているだけでなく、レースで使用するエネルギーの少なくとも40%は回生ブレーキによって生成されると、フォーミュラEと国際自動車連盟(FIA)は述べている。そのため、Gen3は、リアに油圧ブレーキを持たない初のフォーミュラカーとなる。

また、Gen3は車体の前後両方にパワートレインを搭載した初のフォーミュラカーでもある。フロントに250kW、リアに350kWのパワートレインを搭載しており、合計でGen2の2倍以上に相当する600kWの回生能力を備える。

さらに、電気モーターは最大で350kW(470bhp)の出力を発揮し、最高速度は320km/hに達する。フォーミュラEとFIAによれば、そのパワーウェイトレシオは、同等の最高出力を発生する内燃機関の2倍の効率になるという。

画像クレジット:Formula E

Gen3は持続可能性を念頭に置いて設計されたマシンだ。ネット・ゼロ・カーボンとなり、壊れた炭素繊維製部品はすべてリサイクルされる。タイヤには26%の持続可能素材が使用されている。

「第3世代のマシンを設計するにあたり、私たちは高性能、効率性、持続可能性が妥協せずに共存できると実証することを目指しました」と、フォーミュラEのJamie Reigle(ジェイミー・ライグル)CEOは、声明の中で述べている。「FIAと協力して、私たちは世界で最も効率的で持続可能な高性能レーシングカーを開発しました。Gen3は、これまでで最も速く、軽く、パワフルで、効率的なレーシングカーです」。

フォーミュラEは、まだGen3のデザインを完全に披露しているわけではない。いくつかのティーザー画像が公開されただけだ。しかし、数カ月後には各チームがテスト走行を開始する予定であるため、我々がこのマシンの全貌を目にする日もそれほど先のことではないはずだ。

編集部注:この記事はEngadgetに掲載されている。本稿を執筆したKris Holtは、Engadgetの寄稿ライター。

画像クレジット:Formula E

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(文:Kris Holt、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

AWS、エネルギー業界対象の「AWS Energy Competency Program」を発表、持続可能なエネルギーの未来への移行をナビゲート

Amazon(アマゾン)は米国時間11月30日、エネルギー業界に向けた専門的なソリューションを開発するAWSパートナーを正式に認定する新しいプログラムを発表した。この新しいAWS Energy Competency Program(AWSエナジーコンピテンシープログラム)は、より持続可能なエネルギーの未来への移行をナビゲートしながら、世界中のエネルギー生産者が最新の技術を用いてAWSを搭載したソリューションを構築・実装することを助けることができる技術的専門知識と顧客の成功をすでに実証している専門パートナーを特定するものだ。

現在、多くのAWSパートナーがエネルギー業界と連携し、石油・ガス資産の探査段階から集荷・加工・輸送・管理・保守に至るまでの運用管理や、再生可能・持続可能な分野での運用管理など、AWSテクノロジーの活用を支援している。これらの業界では現在、クラウドコンピューティング、モノのインターネット(IoT)、人工知能(AI)、機械学習(ML)などのソリューションの導入が加速しているとAmazonはいう。

新しいAWSエネルギーコンピテンシープログラムは、持続可能な再生可能エネルギー資産を含むポートフォリオの開発を支援できるパートナーを含め、世界のエネルギー生産者との連携に関して、特定の専門知識を持つAWSパートナーを業界がよりよく識別できるようにする。

このプログラムは、エネルギー生産者向けの新しいプログラムの開発を支援するためにAWSと協力した32のグローバルパートナーを含んでいる。このグループには、特化したソリューション分野、業界の垂直構造、またはワークロードを支援できるパートナーが含まれている。パートナーは、エネルギー業界特有のベストプラクティスに関連した厳格な技術検証を受けなければならないため、これは現在、AWSパートナーが達成できる最も厳しい指定の1つであると、Amazonは指摘している。

画像クレジット:Amazon

パートナーの1つであるSlalom(スラロム)は、北米のエネルギー企業であるTC Energy(TCエナジー)の4万4000kmにおよぶ天然ガスパイプラインの管理を支援している。TC EnergyはSlalomと協力して、顧客がガスのスケジューリングを最適化できるよう機械学習を利用したビジネスインテリジェンスアプリケーションを開発した。別のパートナーであるAIビデオ分析プロバイダーのUnleash Live(アンリーシュ・ライブ)は、風力発電所、ソーラーパーク、水力発電、天然ガスプロジェクトなどを運営するインダストリアル・エンジニアリング・ソリューション・プロバイダーのWorsley(ウォーズリー)を支援した。Worsleyは、Unleash Liveを利用して、ドローンとコンピュータビジョンを活用して検査を行っている。

その他のパートナーは上流、中流、下流、新エネルギー、基幹業務アプリケーション、ヘルス、安全、環境、データアナリティクスなどのソリューションの提供を支援できるとAmazonは述べている。現在、プログラムへの参加に関心のあるAWSパートナーは、AWS Service Partners(AWSサービスパートナー)とAWS Software Partners(AWSソフトウェアパートナー)の両方の検証チェックリストを見ることができる。

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(文:Sarah Perez、翻訳:Yuta Kaminishi)

CO2排出量も抑えた自律走行ポッドとEVによる貨物輸送サービスのスウェーデンEinrideが米国進出

スウェーデンの運送テクノロジー企業Einride(アインライド)が米国での事業展開を開始すると発表した。同社は正式に、GE Appliances (GEアプライアンス)、ブリヂストン、Oatly(オートリー)などのパートナーと協力して、同社の輸送ソリューション(自律「ポッド」、電気トラック「Saga」オペレーティングシステムなど)のテストを開始する。

Einrideはまた、米国の道路事情と規制に対応した同社ポッドの米国版を導入することも発表した。さらには、造船所からのコンテナ輸送など、広範な運搬ニーズに対応するよう設計されたモジュール車両である平台型ポッドの導入も発表した。

Einrideは欧州で最大の電気トラック保有台数を誇る運送会社だ。運転席がなく、安全管理者用のスペースもない同社の自律走行ポッドも電気自動車だ。Kodiak Robotics(コディアクロボティクス)TuSimple(ツーシンプル)Waymo(ウェイモ)など、自律輸送分野の他の大手企業は、必ずしも電気自動車のみによるアプローチを追求していない。

「世界のCO2排出量の7~8%は陸上重量貨物輸送によるものです」とEinrideのCEO兼創業者のRobert Falck(ロバート・フラック)氏はいう。「Einrideを起業したのは、陸上貨物輸送の最適化と自律化をディーゼル車ベースで進めることで、却ってCO2排出量が増えるのではないかと心配したからです。ディーゼル車のほうがずっと安価に最適化と自律化を実現できますから」。

Einrideは、GEアプライアンスとの提携により、7台の自律走行電気トラックを配備し、ケンタッキー州ルーイビルにあるGEAの約3平方kmのキャンパス、およびテネシー州、ジョージア州にあるその他のロケーションを走行させる予定だ。これにより、GEAは今後5年以内にCO2排出量を870トン削減する予定だ。EinrideはGEAとの提携を今後数年で急速に拡大して電気トラックの配備台数を増やしていくという。

ブリヂストンとの提携はどちらかというと技術寄りの提携で、持続可能モビリティソリューションを共同開発し、クラス8の電気自律運転車両の実現を目指す。

「ブリヂストンとの協力により、Einrideは、ブリヂストンのスマートセンシングタイヤから安全性と効率性に関する新たなデータを収集できるようになります。ブリヂストン側も同社の先進のモビリティテクノロジーをEinrideに搭載されているオンボード車両プラットフォームに組み込むことができます」とEinrideの広報担当者はいう。「当社はブリヂストンとのサブスクリプション契約の下で、同社の米国輸送物流ネットワーク向けに、接続された電気トラックとデジタルサービスを提供することで、2025年までにブリヂストンの陸上輸送ニーズの大半を電化することを目指しています」。

オーツミルク企業であるOatly(オートリー)は、すでに欧州でEinrideと提携しており、その提携関係を米国にも拡大しようとしている。Einrideは米国への進出について詳細を明らかにしていないが、フラック氏によると、2020年からオートリーの欧州の輸送のデジタル化と電化を進めたのと同じような形で事業展開していくつもりだという。Einrideは欧州で、オートリーに電気トラックとSagaプラットフォームを提供することで、電化を迅速に推進し、特定経路におけるCO2排出量を87%削減したという。米国でも同様にしてオートリーの電化を進めていくことになるだろう。

Einrideの米国進出と同時に、Sagaプラットフォームのアップデートも実施される。Saga(ノルウェー語で「すべてを知っている」という意味)は、Einrideの電気トラックおよびポッド全体で稼働するIoTシステムだ。同社はこのシステムによって経路を最適化し、大規模電気トラック集団を稼働している。Einrideは、Sagaを、重量輸送産業に変革をもたらし、企業の保有車両の電化を推進する普遍的なオペレーティングシステムしたいと考えている。

「現在のトラック輸送産業は極度に分断化されていおり、連係が進んでいません」とフラック氏はいう。「電動化を進めるのは簡単ではありません。電動化の範囲とか実際の導入度といったことが目的ではないのです。当社のSagaプラットフォームとオペレーティングシステムを使えば、既存のテクノロジーを利用して、競争の激しいビジネスケースにおける米国の陸上貨物輸送システムの最大40%を電動化できます。どちらかというと、ハードウェアを改善するというよりも、新しい考え方を導入するといったほうが近いと思います」。

Einrideのポッドは安全管理責任者が同乗しないため、レベル4の自律性の達成方法について新しい考え方を取り入れている(米国自動車技術者協会によると、レベル4とは、車両が、特定の条件の下で人間の介入なしに運転のあらゆる側面を処理できることを意味する)。

Einrideの全システムは、安全管理ドライバーが存在しないため、異なる方法で構築する必要がある、とフラック氏はいう。他の運送会社は前の座席に人間のオペレーターを同乗させて距離を稼いでいるが、Einrideはフラック氏が「よちよち歩き式アプローチ」と呼ぶ方式を採用している。この方式では、ハイハイ、ゆっくり歩きという具合に車両に運転を教えていき、徐々に機能を高めていく。

「当社は従来のレベル4から開始し、自律運転とリモート運転機能を組み合わせてアプリケーションの使い勝手を向上させました。その結果、柔軟性、および自律運転、人間のアジリティ、意思決定の利点の両方を獲得できました」とフラック氏はいう。

Einrideは2019年から欧州で公道での自動運転システムの試験走行を開始しているが、米国での試験開始日はまだ決まっていない。

「車両に安全管理ドライバーを同乗させず、ドライバーの席もないため、規制を通過するには異なるアプローチを取る必要があります」とフラック氏はいう。「規制は国や州によって異なりますが、基本的には、アプリケーション自体の安全性が保証されているかどうかという問題です。当社も創業以来、ドライバーを同乗させずにすべてのアプリケーションで安全性を確認できるようにするというアプローチを取ってきました」。

リモートトラックドライバー、すなわち「ポッドオペレーター」は、Einrideのポッドを監視し、状況によっては運転を引き受ける。フラック氏によると、Einrideではレベル5の自律性(基本的に自動運転車のほうが人より運転能力も思考能力も優れているとするレベル)を信用しておらず、アジリティと意思決定能力を高められるように、いつでも人間がシステムに介入できるようにすることを目指しているという。

「マシンはまだ人のために働いています」とフラック氏はいう。「業界はレベル5の自律性を備えたAIを15年以上追求してきましたが、まだそのレベルには程遠い状態です。運送業界においては、自律運転の利点が活かされる場面も数多くありますが、人が介入することによる利点もあります。例えば別のゲートに戻ったり、周辺のドライバーとやり取りしたい場合などです。人間の意思決定を介入させられるのは大きな利点であり、ビジネスへの影響も最小限で済みます」。

Einrideは、トラック業界での経験があり、トラック運転免許を持っている最初のポッドオペレーターを採用した。詳細は、2021年後半のイベントで明らかにするという。

Einrideは米国に進出するだけでなく、ニューヨークに正式に米国本社を設立する予定で、一部の経営幹部がニューヨークを本拠に活動することになる。また、オースティン、サンフランシスコ、東南アジアにも支社を設置する予定だ。米国での工場建設予定は今のところはない。

画像クレジット:Einride

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Dragonfly)

現実世界への影響とポジティブな変化に焦点を当てたソーシャルアプリ「Alms」

多くのスタートアップが、より良いソーシャルアプリとはどのようなものかを試行錯誤している。Alms(アルムス)というスタートアップの場合、その答えは、個人の成長や持続可能性など、ポジティブな影響を与えるクリエイター主導のチャレンジに参加することで、ユーザーのウェルビーイングに焦点を当てるソーシャルネットワークだ。他のソーシャルアプリのように「いいね!」を集めるのではなく、Almsはチャレンジと、それにともなう具体的なステップや行動を通じて、現実世界での活動を促すことを目指している。

Almsの創業者、Alexander Nevedovsky(アレクサンダー・ネヴェドフスキー)氏は、アプリを利用するとき、ユーザーがより幸せで有意義な人生を送れるようなものにすることを目指している。それは、現代のソーシャルプラットフォームでは約束できないことだ。

このプロジェクトは、2020年のパンデミック初期に始まったとネヴェドフスキー氏は話す。

「私たちの多くは、友人や家族にあまり会えず、家で落ち込んだり悲しんだりしていました。世界は、単なる瞑想や日記、気分のトラッキングを超えた何かを本当に必要としていると感じました。そうしたアプリやテクニックはどれもすばらしいものですが、現実の世界でやり取りしながら日々の生活を改善するためのものではありません」。

しかし、2020年リリースされたAlmsのオリジナルバージョンには、アプリを「粘着質なもの」にするための何かが欠けていた。ユーザーは、コンセプトが気に入って登録しても、ある時点で脱落し、アクティビティに参加しなくなってしまう。Almsは、ユーザーを自分の旅に結びつけるための何かが必要だと考え、現在ではよりソーシャルなコミュニティへと移行している。

画像クレジット Alms

まず、新デザインのAlmsアプリを起動すると、簡単なオンボーディングプロセスを経て「個人の成長」「持続可能性」「インパクト」という3つの主要なトピックエリアから興味のあるものを選択する。例えば「個人の成長」には、メンタルヘルス、ウェルネス、スピリチュアリティ、人間関係などが含まれている。「持続可能性」では、環境や自然に関連した関心事を取り上げる。そして「インパクト」には、アクティビズム、ボランティア活動、地域コミュニティなどが含まれる。

設定が完了したら、チャレンジを投稿しているクリエイターをフォローしたり、個々のチャレンジに参加することができる。それぞれのチャレンジには、完全にクリアするために必要な一連のステップが設定されている。例えば、在宅ワークのライフスタイルを改善するためのチャレンジでは、ワークスペースやワークライフバランスを改善するためのステップ(休憩時間を設けたり、休みを挟んだりするなど)や、日常のルーティーンに身体活動を取り入れることなど、具体的な行動が示される。

チャレンジに参加して各ステップをクリアしてチェックを入れると、そのステップに関するストーリーをそのチャレンジのフィードに投稿するよう促される。他の人に刺激を与えることができ、励ましのコメントが付けられることもある。しかし「いいね!」やコメントを集めることがAlmsの目的ではないとネヴェドフスキー氏はいう。

「私たちは、個人の成長、持続可能性、さまざまな種類のインパクトなど、これらのテーマに精通した多くの人々が、基本的に私たちと一緒にそのインパクトを拡大しようとすることに大きな可能性を感じています。私たちは、彼らの知識やコンテンツをすべて拡張可能な方法で提供し、人々がそれを気に入ったり、コメントしたりするのではなく、実際にそれを繰り返してみることができるようにしています」。

Almsでは現在、約30人のクリエイターがアプリ上でチャレンジ形式でコンテンツを共有しており、さらに15人のクリエイターが参加を予定している。今後数カ月のうちに数百人に拡大したいと同社は考えている。これまでのところ、アプリの新バージョンは数千人のユーザーを引きつけている。

画像クレジット:Alms

このアプリでの多くのチャレンジには数百人のユーザーが参加し、クリックして参加すると、より大きなイベントに参加しているという感覚がある。ただし、筆者は個人的には、ストーリーの投稿とフィードへの共有が任意であることが望ましいと考える。すべてのステップが独自の投稿に値するわけではないと感じているからだ(また、完了した些細なステップについて何もいうことがない場合もあり、あまり役に立たない投稿でフィードを混乱させてしまったように感じることもある)。

Almsは、Flo.Health、Simple Fasting、Zing Fitness Coachなどのアプリを提供するスタートアップスタジオPaltaと共同で設立された。PaltaはAlmsの株式の過半数を所有しており、その他外部からの投資はない。14人のチームが遠隔地に分散してAlmsのアプリを開発しているが、現在は収益をあげていない。

ネヴェドフスキー氏によると、チームは何らかのトークンベースの経済や、現実世界の報酬を伝えるDAOを追加することを検討しているという。例えば、Almsのガバナンスに参加できたり、クリエイターファンドに参加できたりといったものだ。このトークンは、少なくとも短期的には取引できない。同社は、アプリ内チップのような、よりシンプルなアイデアも検討するかもしれない。しかし、Almsは現時点では製品と市場の適合性や、ユーザーベースの拡大に取り組んでいるため、まだ何も決まっていない。

全体的に、Almsはソーシャルアプリでの時間の使い方にもっと気を配り、影響を与えたいと思っている人や、より具体的な方向性を持ったインスピレーションを求めている人にアピールできそうだ。

「人は多くの場合、実際に影響を与えることなく、将来起こることに期待を寄せていると思います。ですので、自分が何を共有し、何を推奨しているかを知っている人たちから、アイデアやインスピレーションを得られるアプリがあると、とても助かると思います。特にサポートに関してはそうです」とネヴェドフスキー氏は指摘する。「(Almsの人々は)実際に気にかけてくれています」。

このアプリはよくできており、魅力的なデザインだ。しかし、今日のモバイルデバイスにおけるスクリーンタイムの競争を考えると、新しいソーシャル要素にもかかわらず、ユーザーが脱落してしまうという当初の問題に直面する可能性がある。

Almsは当面、iOS版のみの展開で、無料でダウンロードできる。

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(文:Sarah Perez、翻訳:Nariko Mizoguchi

気候変動に配慮する企業の水に関するリスクと持続可能なソリューションを追跡するWaterplan

新鮮な水は、気候変動の影響をますます受けている多くの資源の1つである。そしてその影響は、この豊富だが限りある天然資源に依存している企業にも及んでいる。シードラウンドで260万ドル(約2億9000万円)を調達したWaterplan(ウォータープラン)は、企業の水使用が地域の環境にどのような影響を与えるかということだけではなく、避けられないと思われる危機が到来したときに事態を沈ませておくのに役立つ緩和策を分析し、追跡することを目指している。

Jose Galindo(ホセ・ガリンド)氏とNicolas Wertheimer(ニコラス・ヴェルトハイマー)氏、そしてその同僚であるMatias Comercio(マティアス・コメルシオ)氏とOlivia Cesio(オリビア・セシオ)氏は、環境セクターとその周辺で長年働いた後にWaterplanを設立した。同氏らは水にまつわる現状を意識していた。二酸化炭素排出に関する多くの行動、データ、計画が存在するにもかかわらず、水のリスクに関しては、それが脅威として認識されるに至っていないため、比較的ほとんど行われていない。4人は会社を立ち上げ、Y Combinator(Yコンビネーター)の2021年夏のコホートに参加した。

「より多くの企業が水の安全性や水に関するその他の考慮すべき事柄を開示し、行動していますが、水のリスクの定量化とメディエーションを担うSaaSプラットフォームが必要です」とガリンド氏は語る。「企業は事後対応型のアプローチを取ってきましたが、そうした(気候関連の)弊害が頻繁に起こるようになってきているため、事態の予測と先手を打つ行動のオポチュニティが生じています。気候変動はすでにこの分野に及んでおり、今後さらに加速していくでしょう」。

もちろん、これは「水道水を出しっぱなしにしない」というような単純なアドバイスではなく、雨押さえの補充や主要な自治体の工事など、産業規模の取り組みである。Waterplanはまず衛星画像からデータを抽出する。そして林冠、水域、その他の重要な指標を、客観的な測定値としてさまざまなコンテクストとともに示す。何年にもわたる画像と分析の結果から立証された明確な傾向に基づくものだ。この測定値は、これらの資源を綿密に監視する水や環境関連の当局による直接測定値と組み合わされる。

一例を挙げると、コーヒー豆を加工する工場では、近くの川の水を1時間に1万ガロン(約3万8000リットル)も使うことがある。工場の影響を示す過去のデータと将来的なデータを分析することで、5~10年後には持続可能な比率ではなくなり、下流で問題が発生することが示されるかもしれない。これらの問題により、会社はその時期に4000万ドル(約45億円)の損失を被ることにもなり得る。しかし、1000万ドル(約11億円)ほどのコストで、森林を再生して樹木の樹冠を拡大する現地の取り組みを倍増させれば、保水力が高まり浸食が緩やかになっていく。水の利用可能性が正味で増加し、4000万ドルのリスクを回避することにつながるだろう。

実際のレポートは明らかにより詳細で、特定の場所や企業に高度に特化している。それらがどのような規模で運用されているのか、どのような種類のデータを追跡しているのかを以下に示したい。

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この種の分析とアドバイスは決して前例がないわけではないが、環境コンサルタントが年に1回か数回(もしあれば)行うようなものである。Waterplanのアプローチは、これを可能な限り自動化し、ビッグデータの問題として扱う。そこにはさまざまな因子が含まれており、リスクや緩和戦略のような要素が対極から浮かび上がってくる。もちろん、これはそれほど単純なことではないが、市場と自然現象の両方の変化が加速している現状では、より迅速に、よりターゲットを絞った実行可能な方法でこれを行う必要がある、と創業者たちは説明する。

「事前対応型よりも事後対応型の方がコストがかかります」とヴェルトハイマー氏。「私たちはこれを意識的な取り組みにする必要があります」。

ガリンド氏は、地元の水供給、復旧作業、その他の要因に関するデータの多くが断片化しており、互換性がないことを強調した。これらの異種の情報源を調整し、そのデータを統合されたマップと予測にまとめるには、多くの作業が必要となる。

ステージ上でイスに座る創業者たち。左からホセ・ガリンド氏、ニコラス・ヴェルトハイマー氏、マティアス・コメルシオ氏、オリビア・セシオ氏(画像クレジット:Waterplan)

「企業にとって重要なのは、さまざまな気候シナリオや場所で何が起きるのかを理解し、継続的にアップデートされた詳細な方法でそれを確認できることです」とガリンド氏は語っている。「現時点では水は安くて豊富ですが、常にそうであるとは限りません。2030年には需要と供給の間に30%のギャップが生じるでしょう。今後10年の間に圧力が生まれると考えています」。

より優れたデータを持ち、積極的に対策を講じてきた実績のある企業は、資源が減少したり、ウォータークレジットのようなものをめぐる競争が激化したりする中で、より有利な立場に立つことになる。現在でも、カーボンクレジットをはじめとする資源や投資が深刻に不足しており、何億ドル(何百億円)もの資金を投じたいと考える企業でさえ、そのオポチュニティを得られていない可能性がある(カーボン先物はこの問題を解決するポテンシャルがあり、清水などの資源についても同様の市場が出現することも考えられる)。

今後10年で気候監視エコシステムの大部分を占めることになるかもしれない分野に早期に参入することは、Waterplanの最初の投資家たち(Y Combinatorに続く)にかなり良い賭けだと判断されたようだ。260万ドルのラウンドをリードしたのはGiant Venturesで、参加者のリストには次のような著名な投資家が名を連ねている。Sir Richard Branson(サー・リチャード・ブランソン)氏一家、Monzo(モンゾ)の創業者Tom Blomfield(トム・ブロムフィールド)氏、Unity(ユニティ)の創業者David Helgason(デイビッド・ヘルガソン)氏とNicholas Francis(ニコラス・フランシス)氏、NFLのレジェンドJoe Montana(ジョー・モンタナ)氏、Microsoft(マイクロソフト)の元グローバルウォータープログラムマネージャーPaul Fleming(ポール・フレミング)氏、MCJ collective(MCJコレクティブ )、Climate Capital(クライメート・キャピタル)、Newtopia(ニュートピア)、Jetstream(ジェットストリーム)、Mixpanel(ミックスパネル)の創業者Tim Treffen(ティム・トレフェン)氏。

ヴェルトハイマー氏とガリンド氏によると、当面の計画は、主に開発を強化することに置かれているという。プラットフォームを構築するという複雑な作業を処理して、さまざまな業界や環境が望むような洞察を生み出し続けるためには、エンジニアや水文学者が必要だ。

同社が作成したデータや分析は政府やNGOに歓迎される可能性が高いが、変化をもたらす可能性が最も高いステークホルダー(そして、いわなければならないが、そのサービスのためにお金を払っている)は、リスクの削減や現地での地位の向上を目指す民間企業である。ただし創業者たち(以前は水へのアクセスやNGOとの関わりを強調していた)は、ひとたび牽引力が発揮され、プロダクトや手法が確立されれば、もっと広く利用できるようにしたいと考えている。

画像クレジット:dan tarradellas / Getty Images

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

持続可能性の高い携帯電話「Fairphone」、6年前の機種でAndroid 10へのアップデートを実現

オランダのソーシャル企業であるFairphone(フェアフォン)は、ユーザーがハードウェアをより長く使えるように、自分でパーツを交換して修理可能な設計にするなど、家電製品を(より)持続可能で倫理的なものにすることを目指している。同社は今回、6年前に発売された「Fairphone 2」で、Android 10へのアップデートを実施すると発表した。

2015年に発売されたFairphone 2は、当時Android 5が搭載されていた。このモジュール式携帯電話を今でも使っている人は、2022年初頭にAndroid 10(2019年リリース)へとアップグレードできるようになるという。これに先駆け、Fairphoneは米国時間11月23日、このアップグレードのベータテストを開始した。

Fairphoneは、2018年にFairphone 2の製造を終了(サポートは継続)した後、2019年に「Fairphone 3」、2020年に「Fairphone 3+」(3にモジュール式アップグレードを施して3+にすることも可能)をリリース。そして2021年の秋口には、同社初の5G端末である「Fairphone 4」を発売した。同社では、このFairphone 4のサポートを、少なくとも2025年まで続けるとしている。

Fairphone 2のAndroid 10へのアップデートが2022年に行われることを考えると、Fairphone 4のユーザーがソフトウェアのサポートを受けられる期間が2025年までというのは、控えめな見積もりだと思われる。

Fairphoneによると、このAndroid 10へのアップグレードプロジェクトでは、ユーザーコミュニティと協力し、さらにインドのソフトウェア開発者であるBharath Ravi Prakash(バラス・ラビ・プラカシュ)氏がボランティアでオープンソース開発を行ったとのこと。その結果、アップグレードのプロセスを能率化でき、所要時間を短縮することができたとしている。

これによって、前回のFairphone 2のOSアップデート(Android 9へのアップグレード)には18カ月かかったところ、今回は10カ月に短縮された。

その一方で、Google(グーグル)はすでにAndroid 11を2020年に、Android 12を2021年10月に配信している。Fairphone 2のアップグレードが、最新OSのリリースからどれほど遅れているかがわかるだろう。

「当社はAndroid 9のアップグレードから多くのことを学びました。複雑であることに変わりはないものの、Android 10はAndroid 9よりも予測可能でした」と、Fairphoneはプレスリリースに記している。また、同社のソフトウェア寿命&IT部門の責任者であるAgnes Crepet,(アグネス・クレペット)氏の言葉を引用して、次のように書いている。「当社のソフトウェアに対する独自のアプローチは、ユーザーのみなさまにできるだけ長く端末を使っていただくことを可能にします。今回は、Fairphone 2のコミュニティにソフトウェアのアップグレードを提供できることをうれしく思います。このAndroid 10へのアップグレードにより、発売から少なくとも5年間のサポートを提供するという目標を達成するだけでなく、それを上回る7年間のサポートを提供することになります。私たちは常に自分自身と業界の基準を引き上げ、ソフトウェアでさらなる持続可能性に取り組むことが可能であると示していきます」。

Fairphoneの7年というサポート期間は、Apple(アップル)によるiPhoneのソフトウェアサポート期間に匹敵する。しかし、当然ながら、平均的なAndroidベースの携帯電話で期待できるソフトウェアのサポート期間はかなり短く、標準的なAndroidスマートフォンでは、3年程度しかサポートを受けられない。だからこそ、Fairphoneのそれは大きな功績と言えるのだ。

Fairphoneは、ソフトウェア面の寿命という点ではようやくアップルに追いついたところかもしれない。だが、別の点ではすでにクパチーノよりずっと先を行っている。それは、モジュール構造による修理可能性と、消費者に直接スペアパーツを提供することによるハードウェアの持続可能性だ。

米国時間2021年11月17日、アップルは2022年から「Self Service Repair(セルフサービスリペア)」プログラムを開始すると発表した。これは、iPhoneやMacのユーザーにスペアパーツや修理ツールを提供し、自宅で基本的な修理をしてもらうというものだ。

完全なモジュール化を採用するというわけではないものの、これは歴史的に、密閉されて、ばかげているほど薄く、文字どおり糊づけされた箱を好んできたアップルにとって、より持続可能な方向へ踏み出す小さな一歩と言えるだろう。そしてそれは、Fairphoneが長い時間をかけて開拓してきた道である。

画像クレジット:Matt Burns/TechCrunch

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

日本の精神を体現した持続可能で高品質な製品やブランドの成長と海外進出を支援するForest

COOの西澤正文氏、CEOの湯原 伸悟、投資家のMichael Takahashi(マイケル・タカハシ)氏(画像クレジット:Forest)

日本は、古来より伝統的な美術工芸品の発祥の地だ。熟練したの職人技、細部に至る細心の注意、デザインと機能のバランスがあいまって、陶磁器、伝統的織物、和紙、木工、ガラス、弁当箱など日本独特のさまざまな製品を生み出してきた。

こうした職人技は世代を超えて受け継がれ、現代の日本に生きている。しかし、販売に成功するためのスキルとツールを持たない職人たちは、目まぐるしく変わる21世紀のビジネス環境から置き去りにされている。

近年、安い量産品から個人のニーズやライフスタイルに合う多様化した製品へとシフトする消費者需要に答えるために、数多くのeコマース起業家が独自の製品やブランドを立ち上げ始めた。

日本のeコマースアグリゲーターであるForest(フォレスト)は、日本の精神を生かした持続可能で高品質な製品とブランドを見出し、テクノロジーの力を使って、その成長と国際市場への参入を支援することを目指している。

米国時間11月24日、Forestは9億円のシードラウンドをThe University of Tokyo Edge Capital Partners(UTEC、東京大学エッジキャピタルパートナーズ)およびNordstar Partners(ノードスター・パートナーズ)のリードで完了したことを発表した。

同社は新たな資金を用いて、起業家たちによって注意深く育まれ、集められてきた日本の300以上のeコマースブランドを買収する計画だ。Forestは、デジタルマーケティング戦略を大規模に適用することで、データ分析を通じて販売を最適化し、在庫計画を強化するとともに、eコマースの国境を超えた拡大を支援する。

現在Forestは最初の買収案件をまとめているところだ。今後も、売上100万ドル(約1億2000万円)から500万ドル(約5億8000万円)のブランドを探し続け、2022年には売上1000万ドル(約11億5000万ね)以上の企業を買収する目標だと、ForestのCEO湯原伸悟氏がTechCrunchに話した。

同社はさらに、2000~3000万ドル(約23億1000万〜34億6000万円)のエクイティおよびデットプロバイダーからの資金調達を2022年前半に行う予定だと湯原氏はいう。

Forestは、Amazon(アマゾン)、Rakuten(楽天)、ZOZOTOWN、Yahoo Japan(ヤフー・ジャパン)、Shopify(ショッピファイ)などのマーケットプレイスに着目している。

関連記事:アジア太平洋のAmazonマーケットプレイスのブランド統合を狙うRainforestが39.4億円調達

2021年7月に湯原氏とCOOの西澤正文が共同設立したForestは、国際市場ではRainforest(レインフォレスト)、Una Brands(ウナ・ブランズ)、Thrasio(スラシオ)などのeコマースアグリゲーターと競合する。Forestは、初めての日本市場に特化したアグリゲーターだと主張する。同社は当初日本市場に焦点を合わせていることから、RainforestやThrasioを純粋なライバルとは見ていない、と湯原氏はいう。

Thrasioは3月に、Amazon Japanなどのeコマースプラットフォームで販売されている日本のブランドや製品を買収するために、日本支社を立ち上げた

日本の2020年のeコマース市場規模は1650億ドル(約19兆円)になると日本の経済産業省の報告書は推計している。

「Forestへの投資は当社のITセクターへのシードラウンド投資の中で最大規模です。かつて私は家族経営のアパレル事業を経営し、中小企業の苦悩と限界を実体験してきました。Forestならこうした問題を解決し、テクノロジーの力を通じてそれらの企業の可能性を引き出すことができると固く信じています」とUTECのパートナー、坂本教晃取締役が語った。「この魅力的な市場機会に挑戦する経験豊富の創業者たちと仕事をすることは楽しみであり、リードインベスターの1社として参加できることを光栄に思います」。

「Forestという、日本のニッチなブランドを買収してスケーリングする大きなチャンスを利用する優位な位置にいる企業に投資できることを大変喜んでいます」とNordstarのマネージングパートナー、Ole Ruch(オレ・ルッチ)氏はいう。

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(文:Kate Park、翻訳:Nob Takahashi / facebook

LAオートショー2021の高揚感としらけムード

LAオートショーは、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミック下で初めて戻ってきた室内自動車ショーだ。ニュースに乏しく、いつも以上にベーパーウェアが多い中、それでも、いくつかのクルマやテクノロジーや企業が、イベントに先立って行われた2日間のプレスデーで目立っていた。

以下に、2021年のロサンゼルスで良くも悪くもTechCrunchの目に止まったクルマとテーマを紹介する。

グリーン&クリーンへと変わるストーリー

画像クレジット:Kirsten Korosec

米国時間11月17日正午前に行われた少数の主要なニュースカンファレンスでは、持続可能性と気候変動が中心テーマだった。そこには企業の偽善的環境配慮と実際の行動が入り混じっていた。

Hyundai(ヒョンデ)とKia(キア)は、環境の認識がいかに大切かを訴える短編動画を流したあと、全電動コンセプトカーとプラグインハイブリッド車を披露した。Fisker(フィスカー)は海洋保護について話した。長年グリーン化に取り組み、国立公園から動物保護まであらゆる活動の支援に多額の資金を投入してきたSubaru(スバル)も、環境保護の支援を継続していくことを強調した。

これは過去においても珍しくなかったことだが、自動車業界全体が二酸化炭素排出量低下に重い腰を上げ、持続可能な生産と調達に革新を起こし、有効な寿命を終えた部品や車両リサイクルと再利用の方法を探求していることは銘記しておくべきだろう。人類の気候変動への影響を減せる時間はあと10年しかないという恐怖の警告は、ショーで行われた複数のプレス会見で言及されていた。

ハリウッドモード

画像クレジット:Kirsten Korosec

2021年特に目立った発表の1つが、Fisker Ocean(フィスカー・オーシャン)の量産間近なバージョンだ。全電動SUVが備える17.1インチ巨大スクリーンは、180度回転可能で、同社が「ハリウッドモード」と呼ぶ横位置のランドスケープモードから縦位置のポートレートモードへ回転できる。

横位置モードでは、Oceanが駐車あるいは充電中に、ゲームをプレイしたりビデオを見たりできる。Fiskerは、このスクリーン回転技術の特許を取得していると述べた。

画像クレジット:Kirsten Korosec

電化、電化、電化

画像クレジット:Kirsten Korosec

2021年のLAオートショー全体のテーマは、(驚くに当たらないが)あらゆるものの電化だ。展示場にはICE(内燃エンジン)駆動の車両が数多く見られたものの、バッテリー電力の世界にいくつもビッグニュースがやってきた。

Nissan(日産)の全電動SUV、Ariya(アリヤ)、Toyota(トヨタ)bz4xと双子車Subaru Solterra(ソルテラ)から、TechCrunchのお気に入りである全電動Porsche(ポルシェ)Sport Turismo(スポーツ・ツーリズモ)セダンの最新モデルとマジックルーフ付きワゴンまで話題は尽きない。

健康被害からあなたを守るテクノロジー

画像クレジット:Kirsten Korosec

現行パンデミックが3年目を迎える中、自動車メーカーは利用者を病気から守る方法を考え始めている。HyundaiがLAオートショーで披露した SUVコンセプトカーSEVEN は、垂直空気循環、抗菌性の銅、紫外線殺菌装置などの機能を提供している。

電動化レストモッドがやってくる

画像クレジット:Kirsten Korosec

2021年のLAオートショーで目についたトレンドの1つが、何台かの古い車体に電動パワートレインを積んだレストモッド(レジストレーション&モディフィケーション)モデルだ。内燃エンジンのような直感的体験を与えることはないかもしれないが、クラシックカーの新しい楽しみ方を提供するものだ。

自動車製造のスタートアップ、Cobera(コベラ)が展示していたC300は、懐かしいShelby Cobraとよく似た外観だ。しかし、ボンネットの中にはV8エンジンに代わってC300を時速0〜62マイル(0〜約99.8km)まで2.7秒で加速すると同社がいう全電動パワートレインが入っている。Cobera C300は、ハンガリーの乗用車とキャンピングカーの製造に特化した会社Composite-Projects(コンポジット・プロジェクト)が設計・製造した。車両のスイッチを入れると、合成されたサウンドが出て、昔のV8に少しだけ似た音が聞こえる。

Electra Meccanica(エレクトラ・メカニカ)は、LAオートショーで三輪自動車Solo(ソロ)(詳しくは下で解説)も発表している会社だが、もう1台、Porsche 356 Speedsterに似た電動車、eRoadsterを披露した。エアコンディショニング、パワーウィンドウ&ロック、最新インフォテイメントシステムなどを備える。

画像クレジット:Kirsten Korosec

新たなパワートレインを搭載したレストモッドを披露したのは比較的無名で小さなメーカーだけではない。Ford(フォード)は11月初旬のSEMAショーに登場した電動化したF-100を持ちこんだ。1978 F-100 Ford Eluminator(フォード・エルミネーター)はFordの電動モーター、E-crate(イークレート)を備えたレストモッド機能で、ユーザーはこれを購入して自分の車両に取りつけられる。

F-100は前輪と後輪に1台ずつモーターを備え、最高出力480馬力、最大トルク634lb-ft(860Nm)を誇る。室内には新型インフォテイメントシステムのスクリーンとデジタル・ダッシュボードがある。

画像クレジット:Kirsten Korosec

三輪車

画像クレジット:Kirsten Korosec

例年、会場には少なくとも数台の三輪自動車が登場するが、2021年はいつもより多かった。Biliti Electric(ビリティ・エレクトリック)が持ってきた電動&ソーラー駆動トゥクトゥクは、Amazon(アマゾン)やWalmart(ウォルマート)が世界の人口密集都市のラストワンマイル配達に使える、と同社は言っている。

同社のGMW Taskmanは、すでにヨーロッパ、アジアの各所で使われていて、これまでに1200万個の荷物を配達し、延べ2000万マイル(3200万km)を走ったとファンダーが言っていた。

画像クレジット:Kirsten Korosec

Electra Meccanica のもう1台、Soloは同社が2016年のこのショーでも披露したsharyou

で、プレスデーにテスト乗車を提供していた。同社によるとSoloは1回の充電で最長100マイル(約161 km)走行可能で、最大出力82馬力、最大トルク140lb-ft(約190N-m)、最高速度は80mph(約128 km/h)。定員1名で荷物スペースを備え、近距離の移動や都市圏での通勤のために作られている。Soloの価格は1万8500ドル(約211万円)で、アリゾナ州メサで製造されている。

Sondors(ソンダーズ)の三輪電気自動車は、3人乗りで航行可能距離は約100マイル(約160km)と同社はいう。このクルマは、100万ドル(約1億1400万円)以上を集めて成功したクラウドファンディングの後に開発されたもので、33 kWhのバッテリーパックを備え、最大出力170馬力、最大トルク323 lb-ft(約438N-m)を発揮する。

Imperium (インペリウム)も三輪電気自動車、Sagitta(サギッタ)を披露した。ショーに登場した三輪乗用車の中では最大で、4人まで乗ることができるスペースをもつ。Sagittaは車両のスペックを発表していないが、2022年中頃から予約を開始すると同社は述べた。

バービー

画像クレジット:Abigail Bassett

ことしのLAオートはには、バービーまで登場した。Mattel(マテル)はBarbie Exra(バービー・エクストラ)カーの実物大バージョンを公開した。2021年式Fiat(フィアット)500のシャシーに載せたファイバーグラスのボディーはキラキラの白い塗装で飾られ、ウィング式ドアと後部にはペット用プールもある。

ソーラーパワー

画像クレジット:Kirsten Korosec

2021年のショーには、興味深いソーラー充電オプションを備えたクルマがいくつかあった。中国のエネルギー会社、SPI参加のPhoenix Motor Inc.(フェニックス・モーター)が発表したピックアップトラック、EF1-Tの収納可能なソーラーピックアップベッカバーは、最大25〜35マイル(約40〜56km)の走行距離を追加できると同社はいう。EF1-TおよびバンバージョンのEF1-Vは、いずれも巨大な車両で、明らかにまだプロトタイプであり、機能や利用形態について顧客の意見を聞いているところだと会社は述べた。

大きな虫のような外観のEF1-Tは、1回の充電で380〜450マイル(約612〜724 km)走行可能で、2025年の発売に向けて予約を受け付けているという。ずいぶんと遠い話だ。

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(文:Abigail Bassett、翻訳:Nob Takahashi / facebook

電動キックスクーター独TierがNextbikeを買収、マイクロモビリティ業界統一を予見させる大型買収

ドイツ・ベルリンを拠点とするヨーロッパ最大級の電動キックスクーター運営会社Tier Mobility(ティア・モビリティー)は、ドイツの自転車シェアプラットフォームNextbike(ネクストバイク)を買収した。この動きは、TierがライバルのLime(ライム)やVoi(ボイ)などと同じく既存の市場シェアを利用する複合アプローチの採用を示唆するものだ。またこれは、将来マイクロモビリティ業界がさらに統一されることを予見させる大型買収でもある。

2020年、LimeはUber(ウーバー)のマイクロモビリティ子会社であるJump(ジャンプ)を、UberのLimeへの1億7000万ドル(約194億1000万円)の投資の一環として、Jumpが所有するすべての電動自転車、電動キックボードとともに獲得した。そして2021年11月、Limeは5億2300万ドル(約597億3000万円)を調達し、上場を控えた最後のラウンドになるだろうと語った。

TierとNextbikeは契約条件を明らかにしていないが、Tierはこの買収に、2021年10月、同社が世界で複合市場企業としての存在感を高め、戦略的投資と買収を追究するためにSoftbank Vision Fund 2のリードで実施した2億ドル(約228億4000万円)のシリーズDラウンドで得た資金を充てたかもしれない。シリーズDの前には、2021年夏の6000万ドル(約68億5000万円)の債券による調達と2020年11月にやはりSoftbankがリードした2億5000万ドル(約285億5000万円)のシリーズCを実施している。

Tierは他にe-moped(電動スクーター)の車両も所有しており、6カ国への事業拡張の一環としてロンドンとストックホルムでサービスを開始するなど、ここ数カ月間電動バイクに大きく力を入れている。最近Nextbikeは、所有する車両の半数以上が盗難と破壊の被害に遭い、ウェールズのカーディフおよびヴェール・オブ・グラモーガンの運営を中止せざるを得なかった。現在の公共バイクシェア事業を2004年から運営している同社は、破壊された車両を修理、交換する必要に迫られており、状況が改善しなければ当地での事業を恒久的に中止するかもしれない。しかしこの問題は明らかにTierの手に余っている。

ヨーロッパと中東16カ国、160以上の都市で運営しているTierは、ウェールズにはまだ進出していない。Netbikeと合わせると、Tierは400以上の都市で25万台以上の車両を展開することになる。同社の車両には自転車、電動自転車、貨物自転車、電動キックボード、電動スクーターがあり、シェア方法はフリーフロート型、ステーション型、およびハイブリッド型があると同社は言っている。

「Netbikeと同社の数百都市にわたる類を見ない経験と関係性を獲得したことは、当社がバイクシェア事業を次の段階へと進め、より多くの人たちをクルマから降ろし、最も持続可能なモビリティソリューションを提供するまたとない機会です」とTierのCEOで共同ファンダーのLawrence Leushner(ローレンス・ルーシュナー)氏が声明で語った。「2組の強力な経営チームに共通する持続可能性と都市への敬意とTierの財務基盤と資本効率に支えられ、モビリティを永遠に変えるための飽くなき合同ミッションを追究していきます」。

画像クレジット:Tier Mobility

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Nob Takahashi / facebook

【コラム】持続的な宇宙開発のために、宇宙ゴミ問題に今すぐ取り組まなければならない

英国宇宙庁が不要な衛星2機の除去プログラムに軌道上サービスに取り組むアストロスケールを選定

億万長者を宇宙に送り込む競争は、ブランソン対ベゾス、ロケット対ロケットだった。

Blue Origin(ブルーオリジン)は6月7日に、7月20日に予定されている同社初の有人飛行に、創業者のJeff Bezos(ジェフ・ベゾス)が搭乗することを発表した。同日、Parabolic Arcは、Virgin Galacticが7月11日にRichard Branson(リチャード・ブランソン)を弾道飛行に送る予定であると報じた。そしてどちらも、宇宙飛行を行う3人目の億万長者であるElon Musk(イーロン・マスク)を打ち負かすことを目指していた。

アポロ11号の月面着陸から半世紀以上が経過し、宇宙開発は明らかに再び盛り上がりを見せている。しかし、今日のミッションには、億万長者の野望以上のものが反映されている。たとえ、マスク、ベゾス、ブランソンが個人的な宇宙計画で最も大きな見出しを躍らせていたとしてもだ。

真の宇宙経済が出現している。この新しい分野は指数関数的な成長段階にあり、現在の商業プロジェクトに共通しているのは、新しい技術とインフラへの投資の到来だ。

今日の探検家たちは、他の惑星への旅行や火星の植民地化といった私たちの想像力の限界を超えた拡張計画に始まり、何千もの通信衛星、全地球航法衛星システム、地球観測衛星の打ち上げに至るまで、巨額の投資を行っている。

衛星サービスと地上設備、政府の宇宙予算、全球測位衛星システムの設備を合わせた世界の宇宙経済の規模は、約3450億ドル(約39兆4250億4700万円)と推定されている。2019年のスタートアップの宇宙ベンチャー企業の収益は57億ドル(約6513億5600万円)で、2018年の35億ドル(約4000億3075万円)の記録を簡単に更新した。2040年までに、世界の宇宙産業は1兆ドル(約114兆3575億円)以上の収益を上げることができるとモルガン・スタンレーは推定する。

つまり、宇宙でのゴールド・ラッシュが始まっているのだが、ゴールドラッシュにおける環境の持続的な発展という点では、これまであまり目立った実績は見受けられない。

宇宙空間での壊滅的な衝突の脅威が高まっている

私たちは、宇宙における新たなビジネスチャンスを安全かつ持続的に発展させるための重要な転換点に立っている。これらの活動の多くは、地球の軌道と同じ領域を利用しており、これは無限の空間ではない。NASAによれば、約1mm以上の宇宙ゴミ(デブリ)が1億個以上、国防総省のグローバルな宇宙監視ネットワーク(SSN)のセンサーによって追跡されている。地球近傍の宇宙環境には、小さすぎて追跡できないものの、有人宇宙飛行やロボットミッションを脅かすほどの大きさの宇宙ゴミがもっとたくさん存在している。

地球低軌道上では、宇宙ゴミと宇宙船の両方が時速約25,266kmを超える速度で移動しているため、たとえ5mmのナッツでも太陽電池パネルを紙のように切り刻むことができる。実際、NASAの報告によると、地球低軌道で運用されているほとんどの宇宙ロボットにとって、ミリサイズの宇宙ゴミはミッション終了に対する最も高いリスクとなっている。宇宙空間がますます混雑していく中で、誰か1人でも安全でない、あるいは無責任な行動をとれば、壊滅的な結果を招く可能性がある。

再利用可能なロケットの開発により、1kgの衛星を軌道に乗せるためのコストが下がったことや、人工衛星の小型化が進んだことで、地球の軌道上に渋滞が発生する恐れが出てきた。現在、地球上の軌道上には約3000個の能動衛星があるが、この数は今後数年間で急増すると考えられている。MarketWatchによると、2025年までに年間の衛星打ち上げ数は230%増加すると予想されており、現在2万4000機の衛星打ち上げが計画されている。しかもこの数字には、SpaceXやOneWeb、Kuiperによる打ち上げは含まれていない。SpaceXのStarlinkだけでも4万個の衛星の打ち上げを申請している。

再使用型ロケットのおかげで、地球低軌道に22トンの衛星を打ち上げるコストは、2億ドル(約228億7200万円)から約6千万ドル(約68億6100万円)に下がった。かつては数億ドル(数百億円)のコストがかかる巨大な高性能衛星を1機必要とした衛星アプリケーションも、今では100万ドル(約1億1400万円)の安価・小型の低性能衛星コンステレーションが登場し、グローバルなサービスを提供できるようになった。

小型の衛星1基では、大型の衛星1基に比べると性能が劣るが、複数の衛星のデータを利用することで同等の結果が得られることが多い。さらに、衛星コンステレーションのアーキテクチャは拡張性が高いため、新しい世代の衛星が打ち上げられるようになれば、インフラ全体のパフォーマンスが飛躍的に向上する。

持続可能な開発には、新しい技術とより良いガバナンスが必要

持続的な経済発展のためには、ミッションの要件を慎重に分析するところから寿命が尽きるまでの宇宙ミッションのライフサイクルの間中、従来の顧客と新しい顧客をサポートできる革新的なソリューションが必要となる。

これらのソリューションの中には、打ち上げ、運用、廃棄を効率化できるようなまったく新しい宇宙ベースのインフラが必要になるものもある。例えば、D-OrbitのION Satellite Carrierは、複数の衛星を搭載して軌道上まで輸送し、それぞれの衛星を別々の軌道に投入することができる宇宙輸送機だ。この展開サービスは、最も戦略的な軌道のみを対象とする打上げ業者が提供するサービスを補完するもので、衛星運用事業者はラストマイルを大幅に短縮し、宇宙船のあらゆるリソースを活用してミッション自体の期間を延長することができる。

これは、宇宙船をある軌道から別の軌道に移動させたり、古い機体の寿命を延ばしたり、修理を行ったり、難破した衛星や残骸などを回収したりできる恒久的な宇宙物流インフラの構築に向けた第一歩だ。

宇宙経済の持続的な成長をめぐる問題は、一企業や一国に任せておくにはあまりにも重要・重大なものだ。

国際協力を強化し、基本的なルールを確立するためには、各国の合意に基づき、共通の基準を持つ新しい宇宙統治モデルが必要だ。例えば、デブリを捕獲する宇宙船の技術はすでに実現しているが、ある国に拠点を置く事業者が、他の国が打ち上げた宇宙物体に接近・捕獲して除去することを認めるには法的な課題がある。このような運用に対応するためのグローバルな規制の策定は、新しい市場とビジネスチャンスを開くために不可欠なステップだ。

D-Orbitを含む48の団体およびその他の政府や業界の関係者は、2019年にSpace Safety Coalition(宇宙安全連合、SSC)を結成し、宇宙事業の長期的な持続可能性のためのベストプラクティスを積極的に推進している。SSCは、宇宙事業全体の長期的な持続可能性のためのベストプラクティスとして、打ち上げ時や軌道上での衝突の回避、宇宙船やデブリの再突入による人的被害の最小化、無線周波数妨害(RFI)イベントの影響の最小化などのガイドラインを策定した。

この業界主導の持続可能性への取り組みは、すべての宇宙関係者が採用する必要がある。宇宙経済の発展や規制の方法は、長期的な影響を及ぼすことになり、失敗を避けるためのタイムリミットは急速に迫っている。

人類の宇宙での活動能力を向上させ、私たち全員にまだ想像もつかない機会をもたらすためには、インフラ、ベストプラクティス、ガバナンスの整備を早急に進める必要がある。

編集部注:本稿の執筆者Luca Rossettini(ルカ・ロッセッティーニ)氏は、D-Orbitの創業者兼CEO。

画像クレジット:Bernt Ove Moss / EyeEm / Getty Images

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(文:Luca Rossettini、翻訳:Dragonfly)

衣服の素材イノベーション企業Allbirdsが新規上場、次代を制する企業を見極める鍵は「持続可能性」

Allbirds(オールバーズ)は米国時間11月3日、NASDAQに新規上場し、それにふさわしいティッカーを選んだ。「BIRD」だ。

天然ウールを使用した控えめなデザインの(そして大変履き心地の良い)靴から始まったAllbirdsだが、現在は単なるアパレル企業ではない。今や衣服の製造方法に革新をもたらす素材イノベーション企業となっている。素材をオープンソース化して他者に提供することで業界に変化をもたらし、それによって持続可能性を実践する業界の旗手だ。

ファッション業界では、毎年21億トンもの二酸化炭素を大気中に排出している。これは、現在米国で使用されているすべての自動車から排出される量の2倍に相当する。現在、私たちが身体に身につけているもののほとんどは合成樹脂でできている。その合成樹脂は、化石燃料である石油から作られる。

この状況は変える必要がある。そしてそれは変わるだろう。

Allbirdsは、単に顧客に服を着せるだけではない。人々が自分の子どもたちも自分がしてきたような生活を楽しめるようにする可能性に貢献できるように、しかもそれを製品の快適さ、スタイル、性能を通じて、気持ちよく行えるようにすることで、人々が賛同するだけでなく、人々に愛されるブランドを作ろうとしている。

このようなビジョンやイノベーションは、Allbirdsだけのものではない。例えばTesla(テスラ)の仕事は、単にドライバーをある場所から別の場所に移動させるだけではなく、Impossible Meats(インポッシブル・ミート)の仕事は、空腹の客に食事を提供するだけではない。これらの企業の仕事は、我々の住む地球が数十年後も確実に生き残るだけでなく繁栄できるようにすることであり、同時に消費者がライフスタイルの質を落とさずに、積極的にそれに参加できる選択肢を提供することでもあるのだ。

持続可能性に取り組む企業が次世代をリードする

「サステイナブル(持続可能)」になることの重要性は認識されているものの、「サステイナビリティ(持続可能性)」を実現するためには何年もの時間が必要になる。このような一般的な見方は、レースが始まってから単に追いつくことが、どれほど難しいかを過小評価している。逆に起業家にとっては、社会に世代を超えて影響を与える「目的ネイティブ」な企業を構築する大きなチャンスとなる。従業員や投資家にとっても同様だ。

持続可能性というテーマは、消費財に限らず、あらゆるビジネスに当てはまる。ある日突然、町外れにある小さなサステイナブル・テクノロジーの会社に、巨額の資金提供が行われたというニュース(大手ベンチャーキャピタルはすべて、少なくとも1社の代替食肉会社を投資先に入れている)や、大企業のESG(環境・社会・企業統治)責任についてのニュースを見つけることは珍しくない。

The Economistによると、2021年に投資家が「エネルギー移行(エネルギーや輸送から産業、農業まで、あらゆるものを脱炭素化すること)」に注ぎ込む金額は5000億ドル(約57兆円)を超え、2010年の2倍になるという。地球の脱炭素化に必要な投資額は30兆ドル(約3400兆円)以上と推定されており、人々は炭素排出量のネットゼロを目指すレースに参加する企業に投資できる貴重な機会を得ている。気候変動は投資家にとって、今世紀最大の追い風だ。

EV(企業事業価値) / NTM(今後12カ月)の収益が、約16倍というテスラのような企業の現在の評価は、収益の7倍から10倍の間で取引されている他の自動車メーカーや、フォワード収益の約10倍で取引されているBeyond Meat(ビヨンド・ミート)と比較すると、非常に高額であるという認識がある。

このようなビジネスに投資するには、単に「持続可能」という変化だけでなく、長期的に劇的な変化があり、そこでは持続可能な活動をすべての意思決定の中心に据えることができる企業が長期的な勝者となると信じる必要がある。

今、会社を設立するのであれば、それは「目的ネイティブ」でなければならない。こうした企業にとって、現在の採用率と成長率は、この優位性のおかげで、同業他社よりも長く継続することが可能であり、おそらく実際にそうなるだろう。サステイナブル・ファーストの企業は、次世代の勝者となる可能性が最も高いのだ。

Allbirdsは次のNike(ナイキ)のような企業となり、数十年にわたって最大25%という成長率を記録できるだろうか?私にはわからないが、他のどのアーリーステージの挑戦者よりも、その可能性が高いことは確かだ。持続可能性がCO2を噛み砕く前に、世界が自分自身を食べてしまわないことを祈ろう。

TDM Growth Partners(TDMグロース・パートナーズ)は、Allbirdsに出資している。

編集部注:本稿を執筆したEd Cowanは、国際的投資会社TDM Growth Partnersの投資チームメンバー。

画像クレジット:Spencer Platt / Getty Images

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(文:Ed Cowan、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

KOLテクノロジーズが約1億円のプレシリーズA調達、サステナブルECサイトやインフルエンサーマッチング事業強化

KOLテクノロジーズが約1億円のプレシリーズA調達、サステナブルECサイトやインフルエンサーマッチング事業強化

サステナブルECサイト「サステナモール」およびインフルエンサーマッチングサービス「Beee」(ビー)を運営するKOLテクノロジーズは11月2日、シリーズAラウンドとして、第三者割当増資による総額約1億円の資金調達を発表した。引受先は新規投資家。これにより、シードラウンドと合わせ累計調達額は約2億円となった。

調達した資金は、「サステナモールとBeeeのサービス改善」「同2事業への加盟店舗とインフルエンサーを含む新規ユーザーの獲得、既存ユーザーのリピート醸成のためのマーケティング強化」にあてる予定。内部人材の採用強化も行なう。

サステナモールは、余剰在庫をリーズナブルな価格で販売するECサイト。捨てられていくモノは、誰かにとって価値のあるものになるという思いから衣類、雑貨、化粧品、ペット用品など幅広い商品を扱っている。単に販売するだけでなく、発信力のあるインフルエンサーがセレクトショップを作成し、良いと思った商品をフォロワーへ紹介できるサービスも提供している。今後は余剰在庫のほか、B級品やリユース品の販売、買うだけで選んだ団体に寄付できる「Kifu Movement」を実施予定。

Beeeは、花と花をつなぐミツバチのようにインフルエンサーと企業を結ぶパートナーとなるという考えから2021年8月にローンチしたプラットフォーム。在庫商品を持つ店のみならず、コロナ禍により集客に悩む飲食店や美容サロンなどへ「AIマッチングで理想のインフルエンサーに出会える」サービスを提供している。

透明性が高く持続可能なサプライチェーンを作るためにPortcastが約3.5億円調達

Portcastの創業者であるシャ・リンシャオ博士とニディ・グプタ氏(画像クレジット:Portcast)

多くの製造業者や運送業者にとって、物流管理は未だに手作業ばかりのプロセスである。電話やオンライン照会での出荷追跡に、エクセルのスプレッドシートへのデータ入力。自社を「次世代の物流運営システム」と称するPortcast(ポートキャスト)は、無数の情報源からデータを集め、リアルタイムで出荷物を追跡するだけでなく大きな天候の変化、潮流やパンデック関連の問題など何がその進行に影響を与えるか予測することにより、プロセスを効率化する。

同社は2021年9月上旬、Imperial Venture Fund(インペリアル・ベンチャー・ファンド)を通じたNewtown Partners(ニュートン・パートナーズ)率いるプレシリーズA 資金調達で320万ドル(約3億5000万円)を集めたと発表した。参加したのはWavemaker Partners(ウェーブメーカー・パートナーズ)、TMV、Innoport(イノポート)、SGInnovate(SGイノベート)。シンガポールに拠点を置くPortcastは、アジアとヨーロッパの顧客にサービスを提供し、調達資金の一部はさらなる市場への拡大に充てる。

共同創設者のNidhi Gupta(ニディ・グプタ)とLingxiao Xia(シャ・リンシャオ)博士は、シンガポールのEntrepreneur First(アントレプレナー・ファースト)で出会った。Portcastを立ち上げる前、最高経営責任者  のグプタ氏はDHLのアジア全域でリーダー職に就いてきた。その間に、彼女は物流部門の「非効率は実際にはこの分野において何かを作り出す機会である」ことに気づいた。機械学習の博士号を持ち、製品開発とクラウドコンピューティングの背景を有するシャ博士は「すばらしく補完的に合っていた」ことから、現在Portcastの最高技術責任者を務めている。

Portcastは、外洋貨物船を使用した世界の取引額の90%以上、航空貨物の35%を追跡し、3万本の通商路への需要を予測できるという。情報源は船の場所、進行速度と方向、向かっている港、風速、波高を示す衛星データなどの地理空間データなどがある。また、Portcastは経済様式(例えば、Brexit(ブレグジット)の英国中の港への影響、世界中のワクチン接種の開始により航空機や船の定員がどれくらい変わるか)、台風など気象事項、スエズ運河が航路をふさいだ時のような混乱にも目を向ける。

他には大規模な船会社や運送業者を含む顧客の独占的な取引データなどのデータ源がある。

「私達の挑戦は、いかにこのすべてのデータに同じ言語をしゃべらせるかです」。グプタ氏はTechCrunchに話した。「このデータはさまざまな頻度、詳細度で入ってくるため、いかにそれを組み合わせて機械がそれを理解、解釈し始めるようにするか」。

Portcastの主な解決策は、現在リアルタイムで輸送コンテナを追跡するIntelligent Container Visibility(インテリジェント・コンテナ・ビジビリティ)と、予約形態を追跡するForecasting and Demand Management(フォーキャスティング・アンド・デマンド・マネジメント)の2つである。Portcastはコンテナの追跡にIoTを利用しない。1つ1つに装置を取り付けると桁違いの費用がかかるからである。しかしハイブリッドな解決策のためにIoTプロバイダと連携している。例えば、追跡装置を1つのコンテナに設置し、その後そのデータを使用して残りの出荷物の管理に役立てているのである。

このスタートアップ企業の目標は、企業が運営効率を向上させるのに役立つ予測を行い、手作業のプロセスへの依存を減らすことである。「毎週何百個もの貨物が到着する物流業者がいます。そこでは毎日手作業でそれを確認しているのです。情報はエクセルシートに入力され、それに基づいて下流業務の計画を立てます」。と、グプタ氏はいう。

しかし新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックは「緊急のデジタル化ニーズ」を生み出し「それはサプライチェーンを費用関数から時間通りに製品を入手することの中核へと形を変えました。そのため私達はいくつかの大規模な製造業者や運送業者と連携しています」。と、彼女は付け加えた。例えば、ヨーロッパのある食品および飲料会社は台北に輸送したが、通常は輸送に70日かかる。しかし到着まで3カ月以上もかかった。Portcastはさまざまな港や船を渡り歩く積荷を追跡し、顧客が遅延の原因を理解するのを助けた。

「中断が起きそうな時を予測するだけでなく、ピンポイントで、台風や積み替えが発生しそうだからX日遅れると伝えます。そうすればトラックや倉庫チームに何台のコンテナが到着するか知らせられるため力になれるのです」。と、グプタ氏はいう。「これにより港費、コンテナの延滞料金、手作業でさまざまな会社のウェブサイトを確認しサプライチェーンに何が起こったかを見つけ出そうとするのに要する時間を削減することができます」。

Portcastがサプライチェーンの可視性を正したい他の物流テックスタートアップ企業より勝る点は、船が通常複数の港を通り、熱帯暴風雨や台風などの気象事象を頻繁に回避しなければならないアジア太平洋地域で発売したことにある。シンガポールとマレーシア間(例えば)の航海を短くするためにPortcastが開発した技術は、アジアとヨーロッパ、またはアジアと米国などを結ぶ大陸間航路にも適用される。

「当社の技術は世界規模で、この市場の他のプレイヤーとの競争力を持ちます」。とグプタ氏は語った。「他に当社を差別化しているのは、製造業者とだけでなく、船会社、物流会社、貨物航空会社とも提携し、それによりネットワーク効果を作り出している点です。海上運送と航空運送で起きていることは非常に強い相乗効果があり、それを基に私達はその業界の型を理解することができ、当社のプラットフォームに移ってくる他社のためのレバレッジを生んでいる。

Portcastには予測型AIから処方型AIを含むよう移行する計画がある。現在、このプラットフォームは企業に遅延の原因を伝えることができているが、処方型AIは自動提案を行うこともできる。例えば、顧客にどの港が速いか、中断を回避するのに役立つ他の船や輸送方法、どうやって対応量を最適化するかを伝えることができる。

また、同社は年末までにOrder Visiblity(オーダー・ビジビリティ)を発売することも計画している。これは特定の品目を入れたコンテナを追跡する機能である。疲弊したサプライチェーンにより多くのさまざまな製品の消費者価格は上昇している。企業が特定のSKUをリアルタイムで追跡できるようにすることで、Portcastは物がもっと早く届くのを助けるだけでなく、各輸送で排出されるCO2量も可視化させることができる。

「カーボンオフセットやカーボントレードは、自分が実際にいくら支出しているか可視化できる場合にのみ生じます。そこに私達は関与することができます」とグプタ氏はいう。「例えば、早く到着すれば、船会社が船を減速させバンカー重油のような燃料費用を節約する機会となり、膨大な費用節約となるだけでなく、CO2排出量も削減することになります」。

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(文:Catherine Shu、翻訳:Dragonfly)

【コラム】スタートアップが口にするマーケティング策としての「インパクト」に投資家が惑わされないようにするための3つのサイン

2021年の初めに出されたEUの報告書によれば、42%の企業が自社の持続可能性のレベルを誇張していることがわかった。このような「グリーンウォッシュ」があまりにも横行するようになったため、ある団体が企業の真の環境負荷を計算し、誤解を招くようなマーケティングを避けるためのプラットフォームを立ち上げたほどだ。


現在、世界的なインパクト投資市場の規模は7150億ドル(約81兆5100億円)と言われており、成長を続けている。しかし、良いことをしているビジネスに資金を投入しようと躍起になっているベンチャーキャピタル、エンジェル、セレブリティたちは、十分なデューデリジェンスを行っていない。

創業者の中には、トレンドに乗って投資家の注目を集めるために、インパクトと自分を結びつける者もいる。自分のことを「インパクトプレナー」(impactpreneur)と呼ぶ者がいるのはそれが理由だ。

インパクトを与えることと、マーケティングのためにストーリーを押し出すこととは紙一重の差であるため、スタートアップの真正性を見誤ると投資家は資金と評判を失うことになる。多数のスタートアップ企業と仕事をする中で、私はスタートアップ企業が本当に変革を起こそうとしているのではなく、単にインパクトを利用して世間の注目を集めようとしているだけのことを示す3つの兆候を見出した。

インパクト指標を記録・追跡していない

もし企業が、自分たちが重視していると主張しているインパクトを測定していなければ、それは赤信号だ。本当にインパクトを与えようとしているスタートアップ企業なら、自分たちの目標は何か、どうやってそこに到達するのか、そしてその過程でどのような指標をモニターするのかを明確に定義している。

私の立ち上げたFounder Institute(ファウンダー・インスティテュート)では、スタートアップ企業がインパクトのステップを段階的に追跡するのに役立ついくつかの「インパクトKPI」を定義している。

例えば成功した女性創業者の数を増やすことを目的とした女性主導のアクセラレータープログラムなら、月ごと、年ごとの女性参加者数、事業を立ち上げた参加者数、それらの事業がどれだけの資金を得たかなどの評価指標を設けることができる。一夜にしてインパクトを生み出すことはできないものの、道筋を細分化することで、企業はインパクトへの道筋を切り拓き、改善していくことにコミットしていることを示せる。

また、そうしたインパクト指標を追跡することで、企業は公表しているインパクトに対して十分な説明責任を果たすことができる。実際の指標が悪くても公表を行う企業は、何が悪かったのかを深く追求し、状況を改善するための計画を立てていく姿勢を持つことが多い。

そのすばらしい例の1つが、2020年チームの多様性に関する目標を達成できなかったことを認める報告書を発表した、Duke Energy,(デューク・エナジー)だ。この指標を改善するために、同社は新たにチーフ・ダイバーシティ&インクルージョン・オフィサー(多様性並びに包含性担当責任者)を採用し、サービスを提供するコミュニティ内の平等性を推進するために400万ドル(約4億6000万円)を投じた。

私たち投資家はまた、スタートアップ企業が主張していることを実践しているのかどうかを見極めるために、そうした指標が企業全体に浸透しているかどうかを確認しなければならない。例えばより多くの人が教育を受けられるようにしたいと主張している企業なら、創業者は社内の研修プログラム、提供コース、開発計画、展開などに関する指標を提供することができるはずだ。

もし企業がこうした情報を持っていないとしたら、それはその会社のインパクトが外面的な目標のみを対象としていて、社内のオペレーションに組み込まれていないことの表れかもしれない。

CMOがインパクト戦略の責任者である

インパクトの責任は、最終的にはCEOの肩にかかっているはずだ。これは当たり前のように聞こえるかもしれないが、もしインパクトに関する会話や報告をする中心人物がマーケティング最高責任者(CMO)であるとしたら、それは極めて問題だ。

インパクトがマーケティングの立場だけから考えられていた場合、思いつきのインパクトやお手軽なインパクトが生み出されてしまう可能性は高い。インパクト戦略の直接的な成果ではなく短期的な成果を振り返って成功に満足しがちだからだ。例えばあるスタートアップ企業は、2020年にカーボン排出量を10%削減したと主張しているが、実際にはパンデミックの際に業務を停止したことによる減少だった。

同様に、スタートアップのインパクト目標があまりにも良すぎるように見える場合、それはたいてい見掛け倒しなのだ。マーケティング部門は世間に打って出ようとする際に大きく語りがちだ(Theranos[セラノス]のことを思い出そう)。しかし、インパクトを与えるためには、企業は月を目指す前に地に足をつけて行動しなければならない。

例えばExxonMobil(エクソンモービル)は、実験的に開発した藻類バイオ燃料を、輸送時の二酸化炭素排出量を削減する手段として宣伝した。だが消費者は、同社が二酸化炭素排出量を実質ゼロにできていないことを指摘した上で「よりセクシーな」インパクトのある代替品を求めた。

進捗ではなく予想である

創業者が資金調達をする際に、最も破壊的な側面を強調するのは当然のことだ。いわく、貧困をなくし、格差をなくし、気候変動の影響を減らすことができるなどなど。このような約束は投資家を驚かすかもしれないが、実現手段を担保したものでなければならない。

投資家なら誰でも、スタートアップのピッチデッキに書かれた財務予測のなかに盛り込まれた楽観的な気分を見て取ることができる。重要なのは数字ではなく、その背後にあるプロセスだ。インパクトの場合もまったく同じだ。

もしスタートアップを描き出すものが、インパクト目標の未来の数字だけならば、投資家は警戒すべきだ。数字よりも実現手段の方がはるかに多くを語ってくれる。

例えば、GSKは2030年までにネット・ゼロ・カーボンになるという野心的な計画を発表しているが、再生可能な電力、電気自動車、グリーンケミストリーへの切り替えといった主要な活動の内訳をみることで、同社が実際にそのインパクトに向かって動いているかどうかを確認できる。たとえトータル・ネット・ゼロに到達していなくても、意思は明確であり、やがて前進はしていくだろう──たとえペースは遅くとも。

Theranosの事例から学んだことがあるとすれば、企業が資金調達の際に、インパクトの魅力の嗅ぎ分けに敏感になったということだ。投資家が、真のインパクトとマーケティング上の策略とを見分けることができれば、自分自身を守ることができるだけでなく、その投資資金を実際に変化起こせる場所に投入することができる。

編集部注:著者のJonathan Greechan(ジョナサン・グリーチャン)は、世界最大のプレシードアクセラレーターであるFounder InstituteのCEOで共同創業者。

画像クレジット: alexkar08 / Getty Images

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(文:Jonathan Greechan、翻訳:sako)

食品廃棄物を利用して持続可能な軟木を堅木のように扱えるようにするKebonyが約40億円調達

これはごくシンプルなことだ。針葉樹(軟材)は「持続可能」な森林で、広葉樹(硬材)よりも早く成長する。広葉樹は、アマゾンのような生物多様性に富んだ原生林に多く見られる。つまり、もし軟材を硬材のように使うことができれば、より持続可能な建築用木材を入手できるだけでなく、広葉樹の森林を破壊から守ることができる。さらに、温室効果ガスの排出量も大幅に削減できる。


これが、Kebonyが開発した製品の背景にある理由だ。Kebonyは、自らを「木材改質技術会社」と位置付け、Jolt CapitalとLightrockが主導して、3000万ユーロ(約39億8000万円)の資金調達を実施した。その木材特性をコントロールする方法はとても興味深いものだ。

Kebonyは、持続可能な方法で伐採された木材に、サトウキビやトウモロコシなどの食品製造過程で発生する廃棄物を加えている。これにより、熱帯広葉樹の挙動や特性を実際に反映した、長持ちする特性を木材に与えることができるという。

もちろん、建設業界がよりグリーンな建設資材を求めている中で、このような素材を使用することは非常に理に適っているし、熱帯林の伐採を減らすことにもつながる。

Kebonyは、この処理によってパイン材のような木材を「貴重な熱帯広葉樹に匹敵し、場合によってはそれを上回る」特徴を持つ木材に変えることができるとしている。また、このプロセスは、木材防腐剤を含浸させる従来の木材処理よりも優れているという。

Kebonyの資金調達は、Jolt CapitalとLightrockがリードした。Jolt CapitalとLightrockは、以前からの株主であるGoran、MVP、FPIM、PMV、Investinorとともに参加し、後者2社は引き続き取締役会に参加する。

Kebonyのコア市場は欧州と米国で、今後も拡大を計画している。欧州の木材市場は、住宅・非住宅建築業界で30億ユーロ(約3980億円)規模の市場となっている。

KebonyのNorman Willemsen(ノーマン・ウィレムセン)CEOは次のように述べている。「Kebonyは市場で最も美しくエコロジカルな木材を生産しており、環境に優しく費用対効果の高い優れた品質を誇っています」。

Kebonyの創業者たち。ノーマン・ウィレムセンCEOとThomas Vanholme(トーマス・ヴァンホルム)CFO(画像クレジット:Kebony)

Jolt CapitalのマネージングパートナーであるAntoine Trannoy(アントワーヌ・トランノワ)氏は次のようにコメントしている。「Jolt Capitalでは、特許技術を活用して持続可能な製品を提供するマテリアルサイエンス企業に強い関心を持っています。ウッドテックにおける20年以上の研究開発と、栽培された針葉樹にハードな熱帯広葉樹の望ましい特性を与える実証済みのプロセスを持つKebonyは、そのうちの1つです」。

LightrockのパートナーであるKevin Bone(ケビン・ボーン)氏は、こう付け加えた。「Kebonyは、脱炭素社会に向けた競争の中で、木材改質技術のリーダーになるという野心を持っており、絶好の立場にあります」。

Kebonyによると、2021年上半期の売上高は2020年の同時期と比べて23%の成長を遂げ、EBITDAも大きくプラスとなっているという。

ウィレムセン氏は次のように説明してくれた。「私たちが実際に行っているのは、木材に含浸させてオートクレーブに入れることです。これにより、木材構造の細胞壁が恒久的に変化し、恒久的に変化した特性が得られ、実質的に木材の寿命を延ばすことができるのです」。

それは何よりだが、スケーラビリティはどれほどのものなのか、と尋ねてみた。

「実際、非常にスケーラブルです。現在、2つのオペレーションが稼動しています。さらにスケールアップするための基本的な青写真を持っています」。

コンクリートやスチールなどの伝統的な素材と比較して、カーボンフットプリントは「大幅に削減されます」と同氏は語った。「立方メートルあたりのCO2排出量は約350キロです。例えば、スチールや従来の広葉樹と比較すると、それらは約1万キロです。つまり、他の素材に比べて非常にわずかです」。

画像クレジット:Kristian Alveo / Kebony

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(文:Mike Butcher、翻訳:Aya Nakazato)

バイオテックのスタートアップShiruが新規資金で植物由来原料の「発酵」を促進

タンパク質生化学者のJasmin Hume(ジャスミン・ヒューム)博士は、代替食料分野に取り組んでいる。テクノロジーを進化させることで、世界の食品産業が動物への依存を減らせる機会があると考えたからだ。


同氏は2019年にShiru(シル)を設立し、その会社では「精密発酵」プロセスを利用してし食品会社向けに植物由来原料を作り出している。その結果は味、食感、多用途性、量産した場合のコスト、いずれにおいても動物由来と同等だとヒューム氏はTechCrunchに語った。

「私が発見し、学んだのは、動物から得ている原料である卵のタンパク質や乳タンパク質が、食品ラベルのおかしな場所に現れているということでした」と彼女は語った。「例えば白い、ふわふわのパンには乳タンパク質が入っています。私たちは多くの食品部門を対象に、それらを持続可能で栄養のある原料に置き換えることが目標です。

食品原料市場と植物由来タンパク質市場は、いずれも安定した成長態勢にある。世界食品原料市場の規模は2022年に4000億ドル(約45兆4136億円)と予測されており、植物由来食品は2030年までに1620億ドル(約18兆3925億円)市場になると考えられている。

関連記事:Beyond Meatの植物由来「チキン」テンダーが食料品店に登場

現在、Shiruの商品カタログには、パッケージされた焼き菓子、ソース、バーガー、ヨーグルトなどさまざまな食料製品に添加できる無味無色の材料が6種類載っている。

ヒューム氏らが置き換えを狙っている食料の1つがメチルセルロースで、これは植物タンパク質ベース食品などに使用されているデンプンだ。

「メチルセルロースには植物由来のバーガーとソースにはない結合作用がありますが、ラベルには載せたくない成分です」とヒューム氏は付け加えた。「食品会社はメチルセルロースの問題を抱えていますが、誰も口にしません。この種の成分は置き換えを余儀なくされていて、私たちには置き換えるための原料があります」。

産業界からの需要を見越して、2022年の早くにこれらの原料を企業に提供するために、カリフォルニア州エメリービルのスタートアップは米国時間10月27日、1700万ドル(約19億3000万円)のシリーズAラウンドをS2G Venturesのリードで完了したことを発表した。

ラウンドには、既存出資者のLux Capital、CPT Capital、Y Combinator、およびEmles Venture Partner、新規出資者のThe W Fund、SALT、およびVeronorteが参加した。新たな資金を得て、Shiruのこれまでの総調達額は2000万ドルをわずかに超えた、とヒューム氏は語った。

投資の一環として、S2GのマネージングディレクターであるChuck Templeton(チャック・テンプルトン)氏がShiruの取締役会に加わった。S2Gは、健康食品と持続可能農業に焦点を当てた投資ファンドで、これまでに影響力があり、動物由来製品を置き換える製品をもつ会社に何度も投資してきた。

植物由来食品は進化中であり、新しいバージョンは常に良い味を目指しているが、まだ十分健康的ではない、と彼は言った。その点、Shiruの原料は「味がよい」だけでなく、置き換えようとする対象をしっかりと再現し、かつ健康的だとテンプルトン氏は付け加えた。

さらにテンプルトンは、同社はコスト構造と栄養成分、そして「顧客を喜ばせる」正しいラベリングを理解していると信じていると語った。

「あの会社は製品とタンパク質をすばやく発見し、多用途の原料を市場に提供する方法を知っています」と彼は付け加えた。「これによって彼らは、コスト構造の改善などを精査、継続していく機会を得られます。ヒューム氏のチームは、食品業界が制約を受けないように、そしてラベルと環境をきれいにする最高の原料を見つけられるようにしています」。

2022年までに材料を顧客に提供する計画を踏まえ、Shiruの成分を含む最初の商品が食料品店の並ぶのは、早ければ2023年だろうとヒューム氏は予想している。

同社はまずテクノロジーに集中して取り組み、それが検証されるとヒューム氏は、Shiruのスケーリングと基盤整備を次のフェーズに進めるために、次期ラウンドのベンチャーキャピタルを探し始めた。

彼女は新しい資金を、Shiruの22名の従業員を1年以内に2倍にし、科学、発酵、マーケティング、事業開発の人員を雇用するために使うつもりだ。また同社は、2022年にカリフォルニア州アラメダへ本社を移転し、生産規模の拡大を開始する。

「私たちがやるべき最大の仕事は、食品原料をたくさんつくることです」とヒューム氏はいう。「スケーリングへの挑戦には困難がともなうでしょうが、提携あるいは自社施設の建設によって発酵を工業規模で行うことを目指しています。そうすることで、食品会社がテストするために必要なサンプルを配れるところまで進むことができます。

画像クレジット:Getty Images under a metamorworks license.

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(文:Christine Hall、翻訳:Nob Takahashi / facebook

より持続可能な、カカオをまったく含まないチョコレートを作る独QOAが約6.8億円のシード調達

ミュンヘンを拠点とするQOAは、100%カカオフリーのチョコレート製品をいち早く市場に投入するための準備を進めている。


QOAはこのたび、Cherry Venturesがリードし、Fifty Years、World Fund、Nucleus Capital、Trellis Road、Pioneer Fund、Tet Venturesが参加した投資ラウンドで、600万ドル(約6億8000万円)のシード資金を調達した。

同社は2021年、Sara Marquart(サラ・マルカート)博士とMaximilian Marquart(マクシミリアン・マルカート)博士の姉弟チームによって設立された。サラ・マルカート博士は風味形成を専門とする食品化学者であり、マックス・マルカート博士は材料科学者で、これまで3度の起業を経験している。

QOAの製品テストキット(画像クレジット:QOA)

世界のチョコレート菓子業界は、2020年には2080億ドル(約23兆6700億円)を超える規模になっており、米国の製菓業界では最大の部類に入る。世界のカカオ供給の3分の2は西アフリカ産だが、危機に瀕しており、これが2人のマルカート博士が同業界に注力することにした理由の1つだ。現在、病原菌や気候変動により、カカオ供給の最大50%が危険にさらされており、カカオは森林破壊強制的な児童労働の一因となっている。

マックス博士は、TechCrunchにこう語った。「我々の食生活によって、食料供給が脅かされています。私たちはチョコレートが大好きですが、持続可能性のリスクがあることに気づき、将来も食べられるように何とかしたいと思ったのです」。

California CulturedVoyager Foodsなどの企業も、さまざまなアプローチでカカオを使わないチョコレートを作っている。一方、QOAは、他の食品製造プロセスで発生する天然の副産物を基材とする発酵プロセスを開発した。酵母やその他の微生物、独自のフレーバー形成を使って、人工添加物を一切使用せずに、チョコレートの食感と風味を再現するヴィーガン製品を開発したとのこと。

この発酵プロセスにより、2035年までに生産規模を拡大し、従来のチョコレートと同じかそれ以下の価格で製品を提供できるようになるという。実際、マックス博士は、将来のチョコレート市場は、通常のカカオを使った高級で高価な製品と、QOAの製品の2本柱になるだろうと予測している。

QOAは、2021年のY Combinator(Yコンビネータ)に参加し、製品テストキットを稼動させて、9つのオプションを試せるようにした。マックス博士は2022年にQOAの最初の製品を市場に投入することを期待しており、今回の資金調達は、スイスでスタッフ採用中の施設に加え、ミュンヘンに最初のパイロット生産施設を建設するために使用される。

現在、最初の企業間取引の顧客と交渉中で、近々小規模な契約を締結する予定だとマックス博士は述べている。

「その後、より大規模な生産ラインを構築するために、シリーズAの獲得を目指します」と同氏は付け加えた。

関連記事:ガン治療の改良からミツバチの保護、髪に似た植物由来の繊維までIndieBio最新クラスの参加企業を紹介

画像クレジット:

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(文:Christine Hall、翻訳:Aya Nakazato)

【コラム】気候変動の解決に向けたスタートアップの取り組み、私がNestを設立した理由

持続可能な変革を起こす最良の方法は、正しい行動が容易な行動でもある機会を作り出すことだ。今度の気候変動国際会議COP26は、それを可能にするためのさまざまな解決策を、新たな才能が採用し展開することを動機づけるまたとない機会だ。

一瞬の判断や習慣的行動になると、平均的消費者は常に便利な方の道を選ぶ。たとえそれが「正しくないこと」であっても。テクノロジーにユーザー体験への深い共感が組み合わさると、そこに消費者と出会う機会が生まれる。そこでは問題を解決する最低限の利便性を満たすだけではなく、より多くの人にとってよりよい方法で実現するソリューションを提供できる。

これまでに私は、テクノロジー関係でもそれ以外でも、企業がこの原則を見失うところを何度も目にしてきた。

長年制度化されている事例を挙げてみよう。リサイクルだ。リサイクルが無駄を減らし、その結果、気候変動を緩和するための鍵であることは誰もが知っている。私たちが今のペースでゴミを出し続けられないことは明らかだ。リサイクルは地球上の廃棄物負荷を軽減しようとする試みの1つだ。リサイクルのコンセプトは単純、古いものを新しい方法で再利用することだ。しかし、平均的消費者が青い分別箱(ガラス・金属・プラスチック用)と黒い分別箱(紙資源)の前で瞬時の判断を求められたとき、その品目の厳密な再利用性を調べるために必要な手順を踏むよりも、黒い箱に放り込む方がずっと簡単だ。

一方、我々Nest(ネスト)では、平均的世帯がサーモスタットを1日中同じ温度に設定していると莫大なエネルギーを無駄することを知っている。また我々は、忙しい人たち(あらゆる人は忙しい!)にとって一番やりたくないのが、サーモスタットの設定を天候パターンや時刻、エネルギー消費の急激な変化に基づいて忘れずに設定することなのも知っている

サーモスタットをオフにしなさい、なぜなら地球に優しいから、と人に勧める方法が1つ。もう1つの方法は、彼らのために自動的にサーモスタットをオフにしてあげることだ。当社が温度調節を最先端と感じられるようなオートメーションやエネルギー利用データ、アプリによる制御、デザインなどを導入した時、自分たちは持続的な変化をもたらすに違いない製品を作っていることを実感した。NestのLearning Thermostat(学習型サーモスタット)は、平均して世帯当たり暖房で10~12%、冷房で15%のエネルギーを節約している(詳しいデータはこちら)。

Nestは、たしかに家庭の省エネルギーをクールなものにした。しかしそれで終わりではない。個人だけでなく地球にとっての費用と便益を意識するよう顧客を教育している。Nestは、平均的消費者がより簡単で便利に正しい行動をとれるようにしている。

Nestよりもっと大きい話をしよう。

今はテクノロジーにとって大きな問題を解決するための重要な転機だ。その中でも最大かつ最も時期に迫られているのが気候変動だ。我々には、誰もが、そう、誰もが、地球を救う行動に参加するために過去数十年間に成し遂げた進歩を利用する機会がある。健康でいることに加えて、良いことを実際に成し遂げるテクノロジーを生み出し、支援し、推進していく必要がある。

私は投資家の1人として、この原則を受け入れているテック企業と無視しているテック企業の両方を毎日見てきた。数年前、私はSpan(スパン)のファウンダー、 Arch Rao(アーチ・ラオ)氏に会い、面倒な仕事を簡単にし、その過程で変化を起こす彼のアイデアに衝撃を受けた。現在、自宅の電力をまかなうことはかなり難しい。もちろん、ソーラーパネルや地下にバッテリーを設置することはできるが、家主にとってそれがどれほど省エネに貢献しているかを知るのは容易ではない。Spanは住宅内のあらゆる回路をスマートフォンアプリから遠隔制御できる電気制御パネルだ。Spanは、家庭の電力というあまり魅力的ではない分野にユーザー中心のデザインを持ち込んだ。

ここで疑問が生じる。もし人間中心のデザインとテクノロジーとすばらしいUX(ユーザー体験)と徹底したプロダクト思考をもっと他の分野(それがどんなに「退屈」でも)にも適用できたなら、どんなソリューションを構築できるだろう? どんな大きな問題を私たちは解決できるのだろうか?

我々はソーラーと再利用についてすばらしい進歩を遂げてきたが、まだ十分ではない。あらゆる産業を横断するソリューションに向かって計画を立てリソースを投入する必要がある。この問題提起はテック業界から始まるかもしれないが、投資家や非営利団体や政策立案者からの支援が必要だ。さらには、今月英国グラスゴーで開かれるCOP26に集結するリーダーたちがロードマップとインセンティブを策定する必要がある。気候変動の解決に特効薬は存在せず、1人の人間や1つのアイデアや会社が解決することもできない。我々全員が、そして我々全員のアイデアが必要だ。

端的に言って、人は正しい行動を起こす気持ちを持っている、ただしそれがより便利である限り。実行にあたり、我々は人間の特性を課題として受け入れる必要がある。利便性の試練に耐えうるテクノロジーは、結局持続する変革を推進する時の試練にも耐えるだろう。どうすれば、正しいことを正しくないことよりも簡単にできるようになるだろうか。それを解き明かし、同じことをするよう人に教えていけば、世界を救う足固めができるはずだ。

編集部注:本稿の執筆者Matt Rogers(マット・ロジャース)氏はNestのファウンダーとして、初の機械学習型サーモスタットを開発。以前はAppleのエンジニアとして10世代のiPhoneおよび初代iPadの開発に貢献した。

画像クレジット:Westend61 / Getty Images

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(文:Matt Rogers、翻訳:Nob Takahashi / facebook

エビの養殖を市街地のビル内に設置した「アクアタワー」で行うVertical Oceans

John Diener(ジョン・ディーナー)氏は、水産養殖による栄養学・遺伝子学会社CEOの仕事の一環として、何百というエビ養殖場を訪れてきた。しかし彼は、多くの施設で環境的に持続可能でない手法が使われていることにいら立ちを感じてきた。ある晩、妻が夕食の材料に冷凍エビを買ってきたとき、彼は自分が関わっている産業が自分たち家族の健康に悪影響を及ぼしていることに気がついた。なぜか?そのエビが養殖場で抗生物質を使っていることで知られている国から来たものだったからだ。ディーナー氏は我慢の限界に達し、海産物のための新しいモデルの構築に着手した。

その結果がVertical Oceans(バーティカル・オーシャンズ)だ。このスタートアップが持続可能なエビを養殖する巨大な「aqua towers」(アクアタワー)は、市街地のビルなどの施設の中にも設置することができる。タワーの中では化学物質や抗生物質を使うことなく季節に関わらずエビを養殖できる。ここで思い出して欲しい、エビは全世界で年間500億ドル(約5兆7000億円)の市場であることを。

バイオテック専門のアクセラレーターであるIndieBio(インディーバイオ)出身のVertical Oceansは、最近350万ドル(約4億円)のシードラウンドをKhosla Venturesのリードで完了した。これは(私の知る限り)、シリコンバレーのファンドが水産養殖のスタートアップに投資した初めての事例だろう。Khoslaは300万ドル(約3億4000万円)を出資、SOSVが残りの50万ドル(約6000万円)をプロラタ方式で引き受けた。

これまでに同社は、核となる生化学的コンセプトが有効で優れた商品を生み出すことを見せるために、シンガポールの小さな概念実証用施設で、最近6カ月に10回の収穫を行った。

競合面では、シンガポールにはバーティカル(垂直型)水産養殖システムを使用しているUniiversal AquacultureとApollo Aquacultureの2社がある。米国にはTru Shrimpという屋内システムがあり、垂直型養殖に限らず、スケーラブルな屋内養殖技術を開発している。

Vertical Oceansの水槽(画像クレジット:Vertical Oceans)

ディーナー氏はこう話している。「私たちの製品は海でとれた新鮮なエビのような味で、これを再循環型水産養殖システムで継続的に実現することは非常に困難です。当社の製品は非常に品質がよく新鮮なので、養殖冷凍エビではなく、天然エビと対等に販売できます。価格の高さは、市街地で垂直型システムを使って養殖するコストを補って余りあります」。

システムは「場所無依存」な都市型垂直養殖に特化して作られており、シカゴなどの厳冬都市でも使用できる。現在同社はシンガポール中心部に隣接した新しい施設を建設中で、そこでは同社のテクノロジーをフルスケールで開発する予定だ。

ディーナー氏と共同ファウンダーのEnzo Acerbi(エンゾー・エイサービ)氏は、以前昆虫タンパクの会社で一緒に働いたことがあり、その会社のテクノロジー開発とスケールアップを手がけていたので、農業テックのスケーリングの経験をもっている。

画像クレジット:Vertical Oceans

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(文:Mike Butcher、翻訳:Nob Takahashi / facebook

【コラム】ESG目標達成の鍵を握るのは取締役会やCEOではなく技術チームのリーダー

スタートアップ企業のCTO(最高技術責任者)や技術チームのリーダーは、会社創立のその瞬間からESG(Environmental[環境]・Social[社会]・Governance[企業統治])を重要事項として扱う必要がある。なぜなら、投資家が、ESGを重視するスタートアップ企業を優先的に評価して、持続可能性を重視した投資を行う傾向が高まっているからだ。

あらゆる業界にこの傾向があるのはなぜだろうか?答えは簡単だ。消費者が、持続可能性を重視しない企業を支持しなくなっているからである。IBMの調査によると、新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、消費者の持続可能性(サステナビリティ)への関心と、持続可能な未来のために自身が支出することを許容する意識が高まったという。また、米国がパリ協定に復帰し、最近では気候関連への取り組みに関する大統領令が出されるなど、気候変動に対する米国政府の動きも活発化している。

ここ数年、長期的なサステナビリティ目標を設定する企業が増えているが、CEOやCSO(最高サステナビリティ責任者)が設定する目標は、往々にして長期的かつ野心的なものだ。ESGプログラムの短期的、中期的な実施は運営チームや技術チームに委ねられている。

CTOは、計画プロセスにおいて重要な役割を担っており、組織がESG目標を飛躍的に向上させるための秘密兵器となり得る。ここからは、CTOと技術チームのリーダーがサステナビリティを実現し、倫理的にポジティブなインパクトをもたらすためにすぐにできることをいくつか紹介する。

環境負荷を軽減する

企業のデジタル化が進み、より多くの消費者がデバイスやクラウドサービスを利用するようになった現在、データセンターが消費するエネルギーは増加し続けている。実際、データセンターの電力使用量は全世界の電力使用量の推定1%を占めているといわれているが、International Data Corporation(インターナショナル・データ・コーポレーション)の予測によると、クラウドコンピューティングを継続的に導入することで、2021年から2024年にかけて10億トン以上の二酸化炭素の排出を防ぐことができるという。

コンピューティングワークロードの効率化を図る。まず、コンピューティング、電力消費、化石燃料による温室効果ガス排出の関連性を理解することが重要だ。アプリやコンピューティングワークロードの効率化を図ることで、コストとエネルギー消費を軽減し、ワークロードの二酸化炭素排出量が削減することができる。クラウドでは、コンピューティングインスタンスの自動スケーリングや適正サイズの推奨などのツールを利用して、需要に対してクラウドVM(バーチャルマシン)を過剰に実行したり、オーバープロビジョニングしたりしないようにすることに加え、このようなスケーリング作業の多くを自動的に行うサーバーレスコンピューティングに移行することも検討の余地がある。

コンピューティングワークロードを二酸化炭素排出原単位(Carbon Intensity、一定量の生産物をつくる過程で排出する二酸化炭素排出量)の低いリージョンに配置する。これまでクラウドのリージョンを選択する際には、コストやエンドユーザーに対する遅延などの要素が重視されていた。しかし現在は、二酸化炭素排出量も考慮すべき要素の1つである。リージョンのコンピューティング能力が同程度でも、二酸化炭素排出量は異なることが多い(他の地域よりも二酸化炭素排出量の少ないネルギー生産が可能な地域は、二酸化炭素排出原単位が低くなる)。

そのため、一般的に、二酸化炭素排出原単位の低いクラウドリージョンを選択することは、最も簡単で効果のあるステップである。クラウドインフラのスタートアップ企業、Infracost(インフラコスト)の共同創業者かつCTOのAlistair Scott(アリスター・スコット)氏は、次のように強調する。「クラウドプロバイダーは正しいことを行い、無駄を省きたいと考えるエンジニアを支援できると思います。重要なのは、ワークフローの情報を提供することです。そうすれば、インフラプロビジョニングの担当者は、デプロイする前に、二酸化炭素排出量への影響と、コストやデータレイテンシーなどの要素を比較検討することができます」。

もう1つのステップは、Cloud Carbon Footprintのようなオープンソースソフトウェアを使って、特定のワークロードのカーボンフットプリントを推定することである(このプロジェクトにはThoughtWorksが協賛している)。Etsy(エッツィー)も、クラウドの使用情報に基づいてエネルギー消費量を推定できるCloud Jewelsという同様のツールをオープンソースで提供していて、Etsy自体もこれを利用して「2025年までにエネルギー強度を25%削減する」という目標に向けた自社の進捗状況を把握している。

社会的インパクトを作り出す

CTOや技術チームのリーダーは、環境への影響を軽減するだけでなく、社会的にも直接的で意義のある、大きなインパクトをもたらすことができる。

製品の設計に社会的な利益を盛り込む:CTOや技術系の創業者であれば、製品ロードマップで社会的利益を優先させることができる。例えばフィンテック分野のCTOは、十分な金融サービスを受けられない人々が借り入れをする機会を拡大するための製品機能を盛り込むことができるが、LoanWell(ローンウェル)のようなスタートアップ企業は、主に金融システムから排除されている人々が資本を利用できるようにして、ローン組成プロセスをより効率的かつ公平にしようとしている。

製品デザインの検討にあたっては、有益で効果的なデザインにすると同時に、サステナビリティも検討する必要がある。サステナビリティと社会的インパクトを製品イノベーションの中核として捉えれば、社会的な利益に沿うかたちで差別化を図ることができる。例えばパッケージレスソリューションの先駆者であるLush(ラッシュ)は、スマートフォンのカメラとAIを利用して商品情報を見ることができるバーチャルパッケージアプリ「Lush Lens」で、美容業界で過剰に使用されている(プラスチック)パッケージに取り組んでいる。同社のプレスリリースによると、Lush Lensは200万回の利用を達成したという。

社会的な弊害を避けるためには、企業は責任あるAIプラクティスという文化を持つ必要がある:機械学習と人工知能は、製品やおすすめコンテンツの表示、さらにはスパムフィルタリング、トレンド予測、その他「スマート」な行動に至るまで、高度でパーソナライズされたデジタルエクスペリエンスの中心となり、誰もが慣れ親しむものとなった。

そのため、責任あるAIプラクティスに取り組み、機械学習や人工知能がもたらす利益をユーザー全体で実現すると同時に、不慮の事故を回避することが重要である。まずは、責任を持ってAIを利用するための明確な原則を定め、その原則をプロセスや手順に反映させることから始めよう。コードレビュー、自動テスト、UXデザインを考えるのと同じように、責任あるAIプラクティスのレビューを考えてみよう。技術系の創業者や技術チームのリーダーは、こういったプロセスを確立することができる。

企業統治へのインパクト

企業統治の推進には、取締役会やCEOだけではなく、CTOも重要な役割を担っている。

多様性、包括性を備えた技術チームを構築する:多様性のあるチームが、1人の意思決定者よりも優れた意思決定を行う確率は87%である。また、Gartner(ガートナー)の調査では、多様性のある職場では、パフォーマンスが12%向上し、離職率が20%軽減するという結果が出ている。

技術チームの中で、多様性、包括性、平等性の重要性をしっかりと示すことが重要であるが、この取り組みにデータを活用する、というのも1つの方法である。性別、人種、民族などの属性情報を収集する自主的な社内プログラムを確立できれば、このデータは、多様性のギャップを特定し、改善点を測定するためのベースラインとなる。さらに、これらの改善点を、目標と主要な成果(objectives and key results、OKR)など、従業員の評価プロセスに組み込むことも検討し、HR部門だけでなく、全社で全員が責任を担うようにする。

これらは、CTOや技術チームのリーダーが企業のESG推進に貢献する方法を示すほんの一例である。まずは、会社設立と同時に、技術チームのリーダーとして何らかのインパクトをもたらすことができるたくさんの方法を認識することが重要だ。

編集部注:本稿の執筆者Jeff Sternberg(ジェフ・スターンバーグ)氏は、Google CloudのOffice of the CTO(OCTO)のテクニカルディレクター。

画像クレジット:Maki Nakamura / Getty Images

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(文:Jeff Sternberg、翻訳:Dragonfly)